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2009年度数学I演習第2回
2009 年度数学 I 演習第 2 回 理 II・III 14, 15, 16 組 4 月 30 日 清野和彦 問題 1. 0 でない相異なる二つの複素数 α と β に対し、複素平面上で α と β を 通る直線を l、0 を通り l に直交する直線を l′ 、l と l′ の交点を γ とする。次の二 つは同値であることを証明せよ。 (1) γ = αβ である。 (2) α と β がどちらも中心 1 1 、半径 の円周上にある。 2 2 問題 2. n を自然数とする。 n ∑ 2k cos π n k=1 と n ∑ k=1 sin 2k π n を計算せよ。 問題 3. a0 , a1 , . . . , an を実数とする。複素数 α が方程式 a0 + a1 x + a2 x2 + · · · + an xn = 0 の解ならば、共役複素数 ᾱ も同じ方程式の解であることを示せ。 問題 4. 有界閉区間 [a, b] を定義域とする連続関数 f で、 「値域に属する任意の y に対し f (x) = y を満たす x がちょうど 2 個ある」 という性質を持つものは存在しないことを示せ。 問題 5. 次の値を計算せよ。 1 (1) Arcsin 2 ( ) 1 (4) Arccos − √ 2 √ 3 2 (2) Arcsin(−1) (3) Arccos 1 (5) Arctan √ 3 ( √ ) (6) Arctan − 3 問題 6. n を整数とする。 (1) tan x の定義域を (nπ − π/2, nπ + π/2) に制限したものを fn (x) と書くことに する。fn (x) の逆関数 fn−1 (x) を Arctan x を用いて表せ。 (2) sin x の定義域を [nπ − π/2, nπ + π/2] に制限したものを gn (x)、cos x の定義 域を [nπ, (n + 1)π] に制限したものを hn (x) と書くことにする。gn (x) の逆関数 gn−1 (x) と hn (x) の逆関数 h−1 n (x) を Arcsin x を用いて表せ。 問題 7. 次の関数を三角関数も逆三角関数も使わずに表せ。 (1) cos (Arcsin x) (2) tan (Arcsin x) (3) sin (Arctan x) (4) sin (2 Arctan x) (−1 < x < 1) 問題 8. 関数の間の等式 ( ) π Arctan tan2 x = − Arctan(cos 2x) 4 を、 (1) 微分を使わずに証明せよ。 (2) 微分を使って証明せよ。 問題 9. 次の等式を示せ。 (1) cosh2 x − sinh2 x = 1 1 (2) 1 − tanh2 x = cosh2 x (3) sinh(x + y) = sinh x cosh y + cosh x sinh y (4) cosh(x + y) = cosh x cosh y + sinh x sinh y tanh x + tanh y (5) tanh(x + y) = 1 + tanh x tanh y 問題 10. (1) 双曲線関数 cosh x, sinh x, tanh x の逆関数を求めよ。ただし、cosh x の定義 域は x ≤ 0 に狭めた場合と x ≥ 0 に狭めた場合の両方を考えよ。(これは講義で も求めていますが、復習のために出題しまし。) (2) (1) で求めた逆関数を直接微分した結果と双曲線関数に逆関数の微分法を適用 した結果が一致することを確認せよ。 問題 11. 次の関数の導関数を計算せよ。 (1) √ tanh x x (2) (tan x) (3) Arcsin(cos x) √ (4) Arctan 1−x 1+x (各関数の定義域は式が意味を持ち、しかも微分可能な範囲に限定しているものと 考えてください。) 2009 年度数学 I 演習第 2 回解答 理 II・III 14, 15, 16 組 4 月 30 日 清野和彦 問題 1 の解答 三つの複素数 0, 1, α に β を掛けると、それぞれ 0, β, αβ に写ります。しかも、β を掛けるこ とは、複素平面上では長さを |β| 倍し原点のまわりに β の偏角分だけ回転させる操作になります。 よって、0, 1, α を頂点とする三角形と、0, β, αβ を頂点とする三角形は相似です。同様に、0, 1, β を頂点とする三角形と、0, α, αβ を頂点とする三角形も相似です。(図 1 参照。) 虚 α 0 1 実 αβ β γ 図 1: △ 01α と △ 0β(αβ) が相似で、△ 01β と △ 0α(αβ) が相似になる。 さて、γ = αβ という条件は、0, β, αβ を頂点とする三角形と 0, α, αβ を頂点とする三角形が 両方とも頂点 αβ を直角とする直角三角形であることと同値です。このことは、前段落で示した相 似により、0, 1, α を頂点とする三角形が頂点 α を直角とする直角三角形であり, かつ 0, 1, β を頂 点とする三角形が頂点 β を直角とする直角三角形であることと同値になります。さらに、このこ とは、α と β がともに [0, 1] を直径とする円の周上にあることと同値です。(なぜなら、直角三角 形であることと、斜辺を直径とする円に内接することは同値だからです。)この円は中心 1/2、半 径 1/2 ですので、これで証明できました。 □ コメント ポイントは、複素数 α を極形式で α = r(cos θ + i sin θ) と表したとき、α を掛けるという操作 が、複素平面上では 長さを r 倍し、原点を中心に反時計回りに θ 回転する 2 第 2 回解答 という操作になることです。 なお、この問題は 2000 年度の東大の入試問題から取りました。 問題 2 の解答 複素数の極形式による表示(とオイラーの記号)を利用して両方いっぺんに計算しましょう。オ イラーの記号とは 2k e n πi = cos 2k 2k π + i sin π n n のことでした。これを使うと、 n ∑ k=1 cos ) ∑ n n ( n ∑ ∑ 2k 2k 2k 2k 2k π+i sin π = cos π + i sin π = e n πi n n n n k=1 k=1 k=1 となります。一方、cos と sin の加法定理により、 ( 2 )k 2k e n πi = e n πi が成り立ちます。よって、ζ = e2πi/n とおくと、 n ∑ k=1 となります。ところが、 2k e n πi = n ∑ ζk = ζ + ζ2 + · · · + ζn = ζ k=1 1 − ζn 1−ζ ( 2 )n 2n ζ n = e n πi = e n πi = e2πi = 1 より、 ζ 1−1 1 − ζn =ζ =0 1−ζ 1−ζ です。これは「求める和は複素数 0 の実部と虚部である」ということを意味しますので、どちらも 0 です。つまり、 n ∑ k=1 ∑ 2k 2k π= sin π = 0 n n n cos k=1 となります。 □ コメント 複素平面上で考えると、e2kπi/n = cos(2kπ/n) + i sin(2kπ/n) という複素数は実軸とのなす角が 2kπ/n で長さが 1 のベクトルです。それを k = 1 から k = n までベクトルとして足すわけですか ら、ひとつ足すごとに一辺の長さが 1 の正 n 角形を描きながら最後のベクトルの終点は最初のベ クトルに戻ってきます(図 2)。 すなわちこの和は 0 ベクトル(複素数として 0)になる、という わけです。 指数法則 eiθ eiφ = ei(θ+φ) が「sin と cos の加法定理から導かれる」ことを確認しておきましょう。 ei(θ+φ) = cos(θ + φ) + i sin(θ + φ) = cos θ cos φ − sin θ sin φ + i sin θ cos φ + i cos θ sin φ = (cos θ + i sin θ)(cos φ + i sin φ) = eiθ eiφ となります。 3 第 2 回解答 虚 e2πi/5 e4πi/5 実 e10πi/5 = 1 O e6πi/5 e8πi/5 図 2: ベクトルと見ると、複素数 cos(2kπ/n) + i sin(2kπ/n) は複素平面上の正 n 角形の各辺 である。 問題 3 の解答 α が解であるということは a0 + a1 α + a2 α2 + · · · + an αn = 0 が成り立っているということです。この等式で両辺の複素共役をとりましょう。右辺は 0 の複素共 役なので 0 のままです。一方、左辺は a0 + a1 α + a2 α2 + · · · + an αn = a0 + a1 α + a2 α2 + · · · + an αn = a0 + a1 ᾱ + a2 ᾱ2 + · · · + an ᾱn = a0 + a1 ᾱ + a2 ᾱ2 + · · · + an ᾱn となります。すなわち a0 + a1 ᾱ + a2 ᾱ2 + · · · + an ᾱn = 0 が成り立っています。これは ᾱ も解であることを意味します。 □ コメント もちろん、このことは係数が全て実数だからこそ成り立つことです。係数に(実数でない)複素 数を含む方程式については成り立ちません。例えば、 x2 − 3x + 3 + i = 0 の解は 1 + i と 2 − i であって、それらの共役複素数はどちらも解ではありません。 問題 4 の解答 背理法で示しましょう。 4 第 2 回解答 定義域が有界閉区間である連続関数なので、最大値 M と最小値 m があり、値域は [m, M ] と いう有界閉区間になります。 [m, M ] に属する任意の y に対して f (x) = y となる x がちょうど 2 個あると仮定しているので、 f (x) = m となる x も f (x) = M となる x もちょうど 2 個ずつあります。そこで、 f (a1 ) = f (a2 ) = m, (a1 < a2 ) f (b1 ) = f (b2 ) = M, (b1 < b2 ) としましょう。 CASE 1 : a1 < a2 < b1 < b2 の場合 f (a2 ) = m, f (b1 ) = M ですので、中間値の定理により、[m, M ] に属する任意の y に対して f (x) = y となる x が [a2 , b1 ] に少なくとも一つ存在します。a1 < c < a2 を満たす c を任意に取っ たとき、もし f (c) = m なら f (x) = m となる x が三つ以上存在することになり仮定に反するの で、f (c) > m です。よって、m < y0 < f (c) を満たす y0 が取れます。この y0 に対し、中間値の 定理により、a1 < c1 < c で f (c1 ) = y0 となる c1 と c < c2 < a2 で f (c2 ) = y0 となる c2 が存在 します。ということは、[a2 , b1 ] 内に存在するものと合わせて f (x) = y0 となる x が三つ以上存在 することになってしまい、結局矛盾です(図 3)。 M y0 m a1 a2 b1 b2 図 3: CASE 1 の場合の y = f (x) のグラフの例。 CASE 2 : a1 < b1 < a2 < b2 の場合 中間値の定理により、m < y0 < M を満たす任意の y0 に対し、f (x) = y0 となる x が (a1 , b1 )、 (b1 , a2 )、(a2 , b2 ) にそれぞれ少なくとも一つ存在するので、全体で少なくとも三つ存在することに なり矛盾です。 CASE 3 : b1 < a1 < a2 < b2 の場合 a1 < c < a2 を満たす c を一つ取ります。すると、中間値の定理により、f (x) = f (c) を満たす x が [b1 , a1 ] と [a2 , b2 ] にそれぞれ少なくとも一つずつ存在します。よって、f (x) = f (c) を満たす x が少なくとも三つ存在することになり矛盾です。 5 第 2 回解答 CASE 4 : a1 < b1 < b2 < a2 の場合 CASE 3 で m と M の役割が入れ替わった場合ですので、やはり矛盾です。 CASE 5 : b1 < a1 < b2 < a2 の場合 CASE 2 で m と M の役割が入れ替わった場合ですので、やはり矛盾です。 CASE 6 : b1 < b2 < a1 < a2 の場合 CASE 1 で m と M の役割が入れ替わった場合ですので、やはり矛盾です。 以上で、あり得るすべての場合で矛盾が導けたので、元々の仮定が間違っていることが導けま した。 □ コメント 時間がなくて CASE 1 以外のグラフの例を描くことができませんでした。是非自分で書きなが ら読んでください。また、図で明らかだからといって上のような証明をしなくてよいというわけ ではありません。図は一例に過ぎず、実際の連続関数は思いも寄らないほど複雑なものがあり得ま す。だから、図を参考に証明を作るのはよいですが、その証明があらゆる場合に適用できること、 つまり、問題の仮定以外何も使っていないことを確認する必要があります。そのために、このよう な明らかっぽい命題でも上のような面倒な証明の手続きは欠かせません。 なお、もっと簡潔に証明する方法もあるのですが、それを述べるためには最大値の原理や中間値 の定理の根拠でもある「実数の連続性」(第 1 回解答プリントの最後に少し触れたものです)をあ らわに使わなければならないので、ここでは省略します。 問題 5 の解答 (1) π , 6 (2) − π , 2 (3) π , 6 (4) 3 π, 4 (5) π , 6 (6) − π 3 となります。 □ コメント 1 とは 2 π π 1 sin θ = かつ − ≤ θ ≤ を満たす θ のこと 2 2 2 例えば (1) では、「Arcsin なので Arcsin 1 π = 2 6 だ。」と考えます。つまり、逆関数の定義に戻って考えているわけです。(2) 以降もすべて同様です。 6 第 2 回解答 問題 6 の解答 (1) 任意の実数 y0 を一つ固定すると、tan x = y0 となるすべての x は tan x0 = y0 となる x0 を ひとつ選ぶことにより x = x0 + mπ m は整数 と表せます。Arctan y0 とは tan x = y0 を満たす x のうち −π/2 < x < π/2 を満たすもののこと ですので、tan x = y0 を満たすすべての x は Arctan y0 を使って x = Arctan y0 + mπ m は整数 と表せます。一方、fn (x) の定義域は (nπ − π/2, nπ + π/2) ですので、 π π nπ − < fn−1 (y0 ) < nπ + 2 2 という不等式が成り立っています。よって、 fn−1 (y0 ) = xn = x0 + nπ = Arctan y0 + nπ となります。y0 は任意の実数でしたから、この等式は関数として成り立っています。以上より、求 める表示は fn−1 (x) = Arctan x + nπ です。 □ (2) −1 ≤ y0 ≤ 1 を満たす y0 を任意にひとつ選びます。すると、sin x = y0 を満たすすべての x は、sin x0 = y0 , −π/2 ≤ x0 ≤ π/2 を満たす x0 によって、 x = mπ + (−1)m x0 m は整数 と表せます。また、cos x = sin (x + π/2) が成り立っているので、 ( π) = y0 cos x = y0 ⇐⇒ sin x + 2 です。よって cos x′ = y0 を満たすすべての x′ は、上と同じ x0 を使って π 2m − 1 = π + (−1)m x0 m は整数 2 2 と表せます。ここで、sin x = y0 を満たす x のうち −π/2 ≤ x ≤ π/2 を満たすものが Arcsin y0 で あることを思い出しましょう。よって、上の x と x′ はそれぞれ 2m − 1 + (−1)m Arcsin y0 m は整数 x = mπ + (−1)m Arcsin y0 , x′ = 2 というように Arcsin y0 を使って表せます。一方、 π π nπ − ≤ gn−1 (y0 ) ≤ nπ + , nπ ≤ h−1 n は整数 n (y0 ) ≤ (n + 1)π 2 2 ′ ですので、gn−1 (y0 ) は上の x のうち m = n のもの、h−1 n (y0 ) は上の x のうち m = n + 1 のもの です。つまり、 2n + 1 π + (−1)n+1 Arcsin y0 gn−1 (y0 ) = nπ + (−1)n Arcsin y0 , h−1 n (y0 ) = 2 となります。以上と y0 が [−1, 1] 内の任意実数だったことから、関数として x′ = mπ + (−1)m x0 − gn−1 (x) = (−1)n Arcsin x + nπ, と表示できることが分かりました。 □ n+1 h−1 Arcsin x + n (x) = (−1) 2n + 1 π 2 7 第 2 回解答 コメント これも「定義に戻って」考えるだけの問題です。 なお、h−1 0 (x) = Arccos x ですので、 Arccos x = − Arcsin x + π 2 が得られていることに注意してください。 また、逆関数のグラフは元の関数のグラフを y = x を軸に 180 度回転したものですので、この 問題の結果はグラフで考えるとすぐ納得できると思います(図 4)。 y f2−2 π f1−1 x O Arctan x = f0−1 −1 f−2 −1 f−2 y y g2−1 g1−1 h−1 1 h−1 0 = Arccos x Arcsin x = g0−1 O −1 g−1 x h−1 −1 O x h−1 −2 −1 g−2 図 4: fn−1 , gn−1 , h−1 n のグラフ。 問題 7 の解答 (1) sin(Arcsin x) = x ですので、cos θ を sin θ で表せれば三角関数と逆三角関数を消すことがで きます。cos θ は −π/2 ≤ θ ≤ π/2 の範囲で 0 以上なので、 √ π π cos θ = 1 − sin2 θ − ≤θ≤ 2 2 8 第 2 回解答 であり、−π/2 ≤ Arcsin x ≤ π2 なので、この θ に Arcsin x を代入することができます。すると、 √ √ cos (Arcsin x) = 1 − sin2 (Arcsin x) = 1 − x2 となります。 □ (2) (1) と同様に、 tan θ = sin θ sin θ =√ cos θ 1 − sin2 θ − π π ≤θ≤ 2 2 と変形してから θ = Arcsin x を代入して計算しましょう。 tan (Arcsin x) = √ sin (Arcsin x) 1 − sin (Arcsin x) 2 =√ x 1 − x2 となります。 □ (3) 今度は tan (Arctan x) = x を使うために sin θ を tan θ で表しましょう。−π/2 ≤ θ ≤ π/2 の 範囲では cos θ ≥ 0 であることから √ cos θ = cos2 θ です。一方、 1 sin2 θ + cos2 θ = = tan2 θ + 1 2 cos θ cos2 θ という関係があります。よって、 sin θ = tan θ cos θ = √ tan θ tan2 θ + 1 となります。これに θ = Arctan x を代入して、 sin (Arctan x) = √ tan (Arctan x) 2 tan (Arctan x) + 1 =√ x x2 +1 となります。 □ (4) 倍角の公式により sin (2 Arctan x) = 2 sin (Arctan x) cos (Arctan x) となります。sin (Arctan x) の方は (3) で三角関数と逆三角関数を使わない表示を得てありますの で、cos (Arctan x) の同じような表示を得られればよいことになります。(3) で利用した式 cos θ = √ 1 − 2 1 + tan θ π π <θ< 2 2 に θ = Arctan x を代入することにより、 cos (Arctan x) = √ 1 x2 + 1 と分かります。これらを合わせて、 sin (2 Arctan x) = 2 √ が得られます。 □ x x2 +1 √ 1 2x = 2 2 x +1 1+x 9 第 2 回解答 コメント 申し訳ないのですが、時間がなくてここに図を書くことができませんでした。是非三角形の図を 書いて上の問題を図形で確認してください。 問題 8 の解答 (1) tan θ の θ のところに左辺を代入すると、tan (Arctan y) = y であることから、 ( ( )) tan Arctan tan2 x = tan2 x となります。 一方、右辺を代入すると、加法定理 tan(θ + φ) = tan θ + tan φ 1 − (tan θ)(tan φ) と tan(−θ) = − tan θ から、 tan (π 4 ) − Arctan (cos 2x) = = tan π4 − tan (Arctan (cos 2x)) ( ) 1 + tan π4 (tan (Arctan (cos 2x))) 1 − cos 2x 2 sin2 x = = tan2 x 1 + cos 2x 2 cos2 x となります。 両辺を tan に入れた値が一致したので、両辺の値の違いは π の整数倍です。すなわち、 Arctan(tan2 x) = π − Arctan (cos 2x) + nπ 4 となる n が存在します。n を決めるために x = 0 を代入してみると、 0= π − Arctan 1 + nπ 4 となります。Arctan 1 = π/4 ですので、結局 n = 0 となり、問題の等式が得られました。 □ (2) 問題を Arctan(tan2 x) + Arctan(cos 2x) = π 4 を示す問題と読み替えましょう。 左辺の関数が定数関数であることは導関数が恒等的に 0 であることと同値なので、微分して 0 に なることを確認しましょう。 ′ (Arctan x) = 1 1 + x2 10 第 2 回解答 ですので、合成関数の微分法により、 ( )′ Arctan(tan2 x) = ( 2 )′ 1 2 tan x 1 tan x = 2 4 2 1 + (tan x) 1 + tan x cos2 x 4 cos x 2 sin x 2 sin x cos x = = 4 3 4 cos x + sin x cos x cos4 x + sin4 x および、 ′ 1 1 (cos 2x)′ = (−2 sin 2x) 2 1 + cos2 2x sin 2x + 2 cos2 2x 4 sin x cos x =− 2 2 4 sin x cos x + 2(cos2 x − sin2 x)2 4 sin x cos x =− 2 2 4 sin x cos x + 2 cos4 x − 4 cos2 x sin2 x + 2 sin4 x 2 sin x cos x =− 4 cos x + sin4 x (Arctan(cos 2x)) = となります。よって、 ( Arctan(tan2 x) + Arctan(cos 2x) )′ ( )′ ′ = Arctan(tan2 x) + (Arctan(cos 2x)) = 0 ですから、Arctan(tan2 x) + Arctan(cos 2x) は定数関数です。 関数の値を決めるために、例えば x = 0 を入れてみましょう。すると、 ( ) π π Arctan(tan2 0) + Arctan cos(2 · 0) = Arctan 0 + Arctan 1 = 0 + = 4 4 となります。これで示せました。 □ コメント 問題 7 のような「三角関数に逆三角関数を入れたもの」に比べて、この問題のような「逆三角関 数に三角関数を入れたもの」が扱いにくいのは何故か、図を書いて考えてみるとよいと思います。 問題 9 の解答 (1) cosh x と sinh x の定義を代入し計算するだけです。 ( cosh2 x − sinh2 x = = ex + e−x 2 )2 ( − ex − e−x 2 )2 = e2x − 2 + e−2x e2x + 2 + e−2x − 4 4 4 =1 4 となります。 (もちろん、微分を利用することも可能です。 ( )′ cosh2 x − sinh2 x = 2 cosh x sinh x − 2 sinh x cosh x = 0 なので、定数関数であり、x = 0 を代入すると、 cosh2 0 − sinh2 0 = 12 − 02 = 1 11 第 2 回解答 となりますので、示せました。) □ (2) tanh x の定義式を代入して (1) で示した式を使います。 1 − tanh2 x = 1 − sinh2 x cosh2 x − sinh2 x 1 = = 2 2 cosh x cosh x cosh2 x となります。 ((1) のように微分を使ってもできます。) □ (3) 右辺を変形していって左辺にしましょう。 sinh x cosh y + cosh x sinh y ex − e−x ey + e−y ex + e−x ey − e−y + 2 2 2 2 ex ey + ex e−y − e−x ey − e−x e−y ex ey − ex e−y + e−x et + e−x e−y = + 4 4 x y −x −y x+y −(x+y) e e −e e e −e = = = sinh(x + y) 2 2 = となります。 (微分でもできます。) □ (4) (3) と同様です。 cosh x cosh y + sinh x sinh y ex + e−x ey + e−y ex − e−x ey − e−y + 2 2 2 2 ex ey + ex e−y + e−x ey + e−x e−y ex ey − ex e−y − e−x ey + e−x e−y = + 4 4 ex ey + e−x e−y e(x+y) + e−(x+y) = = = cosh(x + y) 2 2 = となります。 (微分でもできます。) □ (5) 右辺の分子と分母をそれぞれ計算してみましょう。分子は上の (3) を使って sinh y sinh x + cosh x cosh y sinh x cosh y + sinh y cosh x sinh(x + y) = = cosh x cosh y cosh x cosh y tanh x + tanh y = となります。一方、分母は (4) を使って sinh x sinh y cosh x cosh y cosh(x + y) cosh x cosh y + sinh x sinh y = = cosh x cosh y cosh x cosh y 1 + tanh x tanh y = 1 + となります。よって、 tanh x + tanh y = tanh(x + y) 1 + tanh x tanh y 12 第 2 回解答 です。 (微分でもできますが、その場合は分母を払った式を示した方がよいでしょう。) □ コメント 講義でも学びましたが、全く初めて出会う新しい関数ですのでここにも定義とグラフの概形を記 しておくことにします。 定義は cosh x := ex + e−x , 2 sinh x := ex − e−x , 2 tanh x := sinh x ex − e−x = x cosh x e + e−x でした。cosh を双曲余弦関数またはハイパボリックコサイン、sinh を双曲正弦関数またはハイパ ボリックサイン、tanh を双曲正接関数またはハイパボリックタンジェントと呼びます。 cosh x e−x ex y sinh x tanh x O x tanh x sinh x −e−x 図 5: 双曲三角関数のグラフ 指数関数の和でできている関数なので、本当は完全に新しい関数というわけでもないはずなので すが、なぜか、双曲線と関係がありそうな上に三角関数とも関係が深そうな名前が付いています。 もちろんそれには理由があります。三角関数が円を自然にパラメタ付けする関数であるように、双 曲線関数は双曲線を自然にパラメタ付けする関数であることです。 三角関数の満たす公式 cos2 θ + sin2 θ = 1 から座標 (cos θ, sin θ) を持つ点が単位円 x2 + y 2 = 1 に乗っていることがわかるように、双曲線関 数の満たす上の (1) の公式 cosh2 t − sinh2 t = 1 13 第 2 回解答 から座標 (cosh t, sinh t) を持つ点は双曲線 x2 − y 2 = 1 に乗っていることがわかります。さらに、sinh t は R 全体から R 全体への単調増加な関数であり、 cosh t は常に正なので、(cosh t, sinh t) は双曲線 x2 − y 2 = 1 の x > 0 の方の全体のパラメタ付け になっているわけです。 更に、問題 9 の (2) から (5) までの公式は、三角関数の満たす公式によく似ています。 これでだいぶ三角関数との類似が自然に感じられるようになったと思いますが、一つ大きな違 いがあります。三角関数の θ は原点 (0, 0) と点 (cos θ, sin θ) を結ぶ直線が x 軸となす角だったの に、双曲線関数の t はそのような角度ではないということです。なぜなら t は実数全体を動くの に、(0, 0) と (cosh t, sinh t) を結ぶ直線と x 軸とのなす角は、双曲線 x2 − y 2 = 1 の漸近線と x 軸 とのなす角 ±π/4 の間に入ってしまうからです。 実は、(cosh t, sinh t) の t は 原点と (cos t, sinh t) を結ぶ直線と双曲線 x2 − y 2 = 1 の x > 0 の部分と x 軸の三つ で囲まれた部分の面積の 2 倍 なのです。(x 軸の下側の面積は負と考えます。) y y x2 − y 2 = 1 sinh t sin t 面積 x2 + y 2 = 1 t 2 cos t O 1 x cosh t 一方、普通の三角関数においても、角 θ は O t ラジアン 1 x 原点と (cos θ, sin θ) を結ぶ直線と単位円 x2 + y 2 = 1 と x 軸の三つで囲まれた部分の 面積の 2 倍 になっています。このように、普通の三角関数と双曲線関数はパラメタの取り方も同じだと解釈で きるのです。 注意. 皆さんの中には「非ユークリッド幾何学」とか「ロバチェフスキー平面」という言葉を聞いたことがあ る人もいるかも知れません。ロバチェフスキー平面における幾何学は非ユークリッド幾何学の一種で、ユー クリッド幾何学における平行線の公理 与えられた直線と一点に対して、その点を通ってその直線に平行な直線がただ一本だけある を 与えられた直線と一点に対して、その点を通ってその直線に平行な直線が少なくとも二本ある に置き換えたものになっています。双曲線関数は、ロバチェフスキー平面における「三角法」において普通の 三角関数と組になって出てくる関数なのです。たとえば、三角形 ABC において辺 BC, CA, AB の長さをそ れぞれ a, b, c としたとき、普通のユークリッド平面での正弦定理 sin A sin B sin C = = a b c 14 第 2 回解答 は、ロバチェフスキー平面においては sin A sin B sin C = = sinh a sinh b sinh c となるなどという対応があります。 また、特殊相対性理論における速度の合成則が tanh t の加法定理 (5) と同じ形をしていることも、双曲線 関数が「非ユークリッド幾何学における三角関数である」ということと大いに関係があります。 以上は三角関数と双曲線関数の幾何学的な対応でしたが、三角関数を「オイラーの記号」によって表すと、 三角関数も双曲線関数の定義式のように表せることがわかります。 cos t = eit + e−it , 2 sin t = eit − e−it 2i となるからです。これは双曲線関数の定義式 cosh t = et + e−t , 2 et − e−t 2 sinh t = の「虚数バージョン」という感じの式です。実際には三角関数こそ「実世界」の関数なわけですから、双曲線 関数とは「虚世界」の三角関数なのかも知れません。もちろん、現時点では「オイラーの記号」は便利だか ら使っているだけの無意味な記号に過ぎないので、このような見た目の関係はナンセンスに見えるかも知れ ません。それについて追求するのはテイラー展開を学ぶまでお待ち下さい。★ 問題 10 の解答 (1) y = cosh x を x について解いてみましょう。 (ex ) + 1 ex + e−x = 2 2ex 2 y = cosh x = なので、 2 (ex ) − 2ex y + 1 = 0 となり、 ex = y ± √ y2 − 1 となります。対数をとって、 ( ) √ x = log y ± y 2 − 1 です。 複合によって x の値がどう変わるかを見るために、y ± √ y 2 − 1 と 1 の大小関係を調べましょ う。y は cosh x の値域に入っているので、y ≥ 1 です。よって、 √ y + y2 − 1 ≥ 1 です。一方、y − 1 ≥ 0 であることから、y − 1 と √ y 2 − 1 の大小関係を調べるには自乗して比較 すればよく、 (y − 1)2 − (y 2 − 1) = −2y + 2 ≤ 0 ですので、 y− √ y2 − 1 ≤ 1 15 第 2 回解答 です。 以上より、 ( ) √ x = log y + y 2 − 1 ≥ 0, ( ) √ x = log y − y 2 − 1 ≤ 0 となります。独立変数を x で表すために y を x と書き直すと、 cosh x (x ≥ 0) の逆関数は ) ( √ cosh−1 x = log x + x2 − 1 であり、定義域は [1, ∞)、値域は [0, ∞) および、 cosh x (x ≤ 0) の逆関数は ( ) √ cosh−1 x = log x − x2 − 1 であり、定義域は [1, ∞)、値域は (−∞, 0] となります。 次に、y = sinh x を上と同様に解きましょう。 ex − e−x (ex ) − 1 = 2 2ex 2 y = sinh x = なので、 2 (ex ) − 2yex − 1 = 0 となり、 ex = y ± です。しかし、ex ≥ 0 なのに y − √ y2 + 1 √ y 2 + 1 ≤ 0 なので複合は + しかあり得ず、対数をとって ( ) √ x = log y + y 2 + 1 となります。独立変数を x で表したいなら、 sinh x の逆関数は ( ) √ sinh−1 x = log x + x2 + 1 であり、定義域も値域も実数全体 となります。 最後に、y = tanh x を x について解きましょう。 (ex ) − 1 ex − e−x = 2 x −x e +e (ex ) + 1 2 y = tanh x = 16 第 2 回解答 なので、 2 (1 − y) (ex ) = 1 + y となり、ex ≥ 0 であることを考慮して、 √ x e = 1+y 1−y となります。(tanh x の値域は (−1, 1) なので、根号の中は常に正です。)対数をとって、 √ 1+y 1 1+y x = log = log 1−y 2 1−y となります。独立変数を x と書き直して、 tanh x の逆関数は tanh−1 x = 1 1+x log 2 1−x であり、定義域は (−1, 1)、値域は実数全体 となります。 (2) (1) で求めた cosh x (x ≥ 0) の逆関数 cosh−1 x を微分すると、 √ ( )′ ))′ √ ( )′ ( ( x + x2 − 1 −1 2 √ cosh x = log x + x − 1 = x + x2 − 1 √ 1 + √xx2 −1 x2 − 1 + x 1 1 √ √ √ = =√ = 2 2 2 2 x+ x −1 x+ x −1 x −1 x −1 となります。一方、逆関数の微分法により、y = cosh−1 x の微分は ( )′ cosh−1 x = 1 1 = ′ sinh y cosh y となります。ここで問題 9(1) の関係式 cosh2 y − sinh2 y = 1 と y ≥ 0 のとき sinh y ≥ 0 であることから、 √ √ sinh y = cosh2 y − 1 = x2 − 1 となるので、 ( )′ 1 cosh−1 x = √ x2 − 1 となります。これは直接計算と一致します。 次に、cosh x (x ≤ 0) の逆関数を微分しましょう。(1) で求めた関数を微分すると、 √ ( )′ ))′ √ ( )′ ( ( x − x2 − 1 −1 2 √ = cosh x = log x − x − 1 x − x2 − 1 √ 1 − √xx2 −1 x2 − 1 − x 1 1 √ √ √ = = = −√ x − x2 − 1 x − x2 − 1 x2 − 1 x2 − 1 17 第 2 回解答 となります。一方、逆関数の微分法により、y = cosh−1 x の微分は ( )′ cosh−1 x = 1 1 = sinh y cosh′ y となります。ここで、関係式 cosh2 y − sinh2 y = 1 と y ≤ 0 のとき sinh y ≤ 0 であることから、 √ √ sinh y = − cosh2 y − 1 = − x2 − 1 となるので、 ( )′ 1 cosh−1 x = − √ 2 x −1 となります。これは直接計算と一致します。 次に、sinh−1 x を微分しましょう。(1) で求めた関数を微分すると、 √ ( )′ ))′ √ ( )′ ( ( x + x2 + 1 −1 2 √ sinh x = log x + x + 1 = x + x2 + 1 √ 1 + √xx2 +1 x2 + 1 + x 1 1 √ √ √ = = =√ 2 2 2 2 x+ x +1 x+ x +1 x +1 x +1 となります。一方、逆関数の微分法により、y = sinh−1 x の微分は ( )′ sinh−1 x = 1 1 = ′ cosh y sinh y となります。ここで、関係式 cosh2 y − sinh2 y = 1 と cosh y > 0 であることから、 √ cosh y = sinh2 y + 1 = √ x2 + 1 となるので、 ( sinh−1 x )′ =√ 1 x2 +1 となります。これは直接計算と一致します。 最後に、tanh−1 x を微分しましょう。(1) で求めた関数を微分すると、 ( )′ ( )′ ( )′ 1 1+x 1 1 1+x −1 tanh x = log = 1+x 2 1−x 2 1−x 1 − x = 1 1 1 − x (1 − x) − (−1)(1 + x) = 21+x (1 − x)2 1 − x2 となります。一方、逆関数の微分法により、y = tanh−1 x の微分は、 ( )′ tanh−1 x = 1 = tanh′ y 1 1 cosh2 y 18 第 2 回解答 となります。ここで、問題 9 の (2) で求めた関係式 1 − tanh2 y = 1 cosh2 y を使うと、 ( )′ tanh−1 x = 1 1 = 2 1 − x2 1 − tanh y となります。これは直接計算と一致します。 □ コメント 双曲線関数は事実上指数関数なので、逆関数は対数関数を使って書けてしまいます。逆三角関数 のように新しい関数を定義する必要はありません。 問題 11 の解答 (1) まず中身の tanh x の微分を計算しておきましょう。 ′ ( tanh x = sinh x cosh x )′ = 1 cosh2 x − sinh2 x = 2 cosh x cosh2 x となります。よって、 √ √ 1 tanh′ x 1 cosh x 1 1 √ tanh x = √ = = √ 2 3 2 tanh x 2 cosh x sinh x 2 cosh x sinh x ′ と計算できます。 あるいは、 (log |f (x)|)′ = f ′ (x) f (x) の両辺に f (x) を掛けると f ′ (x) = f (x)(log |f (x)|)′ となることを利用する、いわゆる対数微分法を使う方法もあります。 √ 1 1 sinh x log = log (sinh x) − log (cosh x) cosh x 2 2 を微分すると、 1 cosh x 1 sinh x 1 1 − = 2 sinh x 2 cosh x 2 cosh x sinh x となるので、 (√ )′ √ sinh x 1 1 1 = √ tanh x = 3 cosh x 2 cosh x sinh x 2 cosh x sinh x 19 第 2 回解答 となります。 (2) ( ) ( )′ 1/ cos2 x ′ ′ ((tan x)x ) = ex log(tan x) = (x log(tan x)) ex log(tan x) = log(tan x) + x (tan x)x tan x ( ) 2x = log(tan x) + (tan x)x sin 2x となります。これは対数微分法を使ったのと実質的に同じ計算です。 (3) 合成関数の微分法により、 ′ (Arcsin(cos x)) = √ cos′ x sin x =− 2 | sin x| 1 − cos x となります。 (4) これも合成関数の微分法により、 ( Arctan √ 1−x 1+x )′ 1 √ = 1+ (√ 1−x 1+x 2 1−x 1+x )′ ( )− 21 1 −(1 + x) − (1 − x) 1 1−x = 1−x 2 1 + x (1 + x)2 1 + 1+x 1 =− √ 2 1 − x2 となります。