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所得税の経済効果
5-1.個別消費税・一般消費税・所得税の経済効果 2014年度 秋学期 金曜5限 財政学 2 所得税の経済効果(1) 労働供給に対する誘因効果 担 当: 石 川 達 哉 個別消費税: 課税される財・サービスが課税されない財・サービスに比べて割高になる ⇒ 課税される商品の相対価格が上昇する 課税されない状況と比較すると、課税される商品を相対的に少なく、課税さ れない商品を相対的に多く選択する ⇒ 割高になった財・サービスを他の財・サービスで代替する ⇒ 課税される財・サービスとされない財・サービスの間で代替効果が生じる 消費の対象となる商品のうち課税されるのはごく一部であるため、手持ち資 金や潜在的な所得の購買力はほとんど変化しない ⇒ 所得効果はほとんど発生しない 一般消費税: すべての財・サービスに課税されるため、財・サービス間の相対価格は変化 しない。唯一の例外は余暇で、一般の財・サービスに比べて割安になる 当講義用ホームページはhttp://www1.meijigakuin.ac.jp/~ishikawa 明治学院大学 2014年度 秋学期 一般消費税(続き): 一般の商品の間では代替効果は発生しない。課税される一般商品と課税さ れない余暇との間でのみ代替効果が生じる (注)個別消費税も、課税される財・サービスと余暇の間で代替効果が生じる 消費対象となる商品がすべて課税されるため、手持ち資金や潜在的な所得 の購買力は低下 ⇒ 価格が変化せずに所得が減少した場合と同様に、消費量が減少 ⇒ 負の所得効果が発生 5-2.労働供給に対する所得税の誘因効果 所得税: 相対価格は変化させない。労働の対価である賃金が課税によって減少する ため、労働しないこと、すなわち、余暇が一般の商品に比べて割安になる 一般商品と余暇との間でのみ代替効果が生じる 明治学院大学 2014年度 秋学期 課税に伴う勤労意欲阻害の可能性:労働供給に対する攪乱効果(賃金課税に伴っ て直接の税負担だけでなく、超過負担が発生) 消費(←所得・賃金←労働供給)と余暇の組み合わせによって得られる効用(経済的満 足度)が最大になるように家計は選択を行う 労働時間に応じて賃金が得られるが、労働時間の分だけ余暇の時間が少なくなるとい う制約の下で、家計は適切な労働時間を選択する(労働の対価としての賃金は余暇の 犠牲の下で獲得 ⇔ 余暇は労働したら得られるであろう賃金を放棄の上に成り立つ ) 時間当たり賃金率が変われば、家計の選択(1日24時間における労働と余暇の時間配 分)も変わる 賃金に対する課税は可処分所得を減少させるので、家計にとっては、税がない状況で 時間当たり賃金が低下するのと同じ効果 賃金課税に対する家計の選択行動の結果として、労働供給が増えるケースと減るケー スとがあり得る: 労働供給が増えるか減るかは、所得効果(+)と代替効果(-)の大小 関係に依存 課税後は所得が減少するため、購買力は低下 ⇒ 課税されずに所得が減少した場合と同様に、消費量が減少 ⇒ 負の所得効果が発生 106 105 明治学院大学 2014年度 秋学期 107 [参考:消費と余暇の組み合わせの選択] [参考:りんご消費とみかん消費の組み合わせの選択] 所得は一定で、家計はりんごの消費とみかんの消費によって効用を得る 効用が最大になるようなりんご消費量とみかん消費量の組み合わせは? ~家計にとって所得・りんごの価格・みかんの価格は与件、選択するのはりんごとみかんの量 ⇒ りんごの数量 ×りんごの価格+みかんの数量 ×みかんの価格=総予算 14 りんご1個:50円、みかん1個:100円、所持金 600円の場合における購入可能な組み合わせ 12 [無差別曲線] ・同じ効用水準(満足 度)をもたらすみかんと りんごの消費数量の組 み合わせの軌跡 無差別曲線U1 10 り ん ご 8 の 量 6 りんご数量×50+みかん数量×100=600 2,8 ⇒ りんご数量=12-みかん数量×2 まず、課税が存在せず、家計は労働の対価として得た賃金を全額消費する状況を想定 ⇒ 消費総額=賃金総額=時間当たり賃金×(24時間-余暇時間) ⇒ 消費総額+余暇時間×時間当たり賃金= 24時間×時間当たり賃金 ⇒ 消費数量 ×単価+余暇時間 ×時間当たり賃金= 24時間×時間当たり賃金 家計は消費と余暇の組み合わせによって得られる効用を最大にするように両者の最適 な組み合わせを選択 ⇒ 消費の原資となる所得が労働によって得られること、労働す ることで余暇が犠牲にされることを考慮して、労働と余暇の時間を配分 C 消費の量 24w/p C=24w/p-w/p L 無差別曲線 ・家計の嗜好や価値観 を反映したもの 2,4 無差別曲線U2 L:余暇時間,C:消費量,p:消費財価格(一般物価),w:時間当たり賃金 ・原点から遠い(右上) 無差別曲線における 効用水準の方が高い 無差別曲線U3 2 角度はみかんの価格とりんごの価格の比に対応 2 4 6 みかんの量 8 10 12 14 明治学院大学 2014年度 秋学期 ・どの点が選択されるかは家計の嗜好(効用関数)に依存 L 余暇の時間 24 労働時間 余暇時間 108 5-4.比例所得税における所得効果と代替効果 -課税前賃金と課税後賃金に着目- 比例所得税 代替効果:課税前賃金率と比べた課税後賃金率の低下 → 余暇の機会費用(労働し たならば得られる賃金の喪失)が低下 → 一般の財・サービスと比べて割安になった 余暇に対する需要が増大=労働供給の減少 所得効果:課税によって手取り所得が減少 → 余暇に対する需要が減少=労働供給 の増加 労働供給に対する総合効果=代替効果(-)と所得効果(+)の和 累進所得税:代替効果が比例所得税より大~労働供給は比例所得税より小 定額税:所得効果のみ~比例所得税の場合よりも労働供給は大 角度はw/p (消費財価格pを1とした場合の時間当たり賃金)に対応 109 明治学院大学 2014年度 秋学期 [参考:消費と余暇の選択における賃金課税の効果] 「みかんとりんごの消費量の選択」においてみかんとりんごの価格の相対比(相 対価格)が影響するように、「消費全般と余暇の選択」に対しては課税後賃金率 が課税前より低下(余暇が割安化)することが影響 ⇒ 代替効果(余暇に+) 「みかんとりんごの消費量の選択」には所得水準が影響するように、「消費全般と 余暇の選択」には、余暇と労働時間の選択の結果として決まる賃金総額(所得) のう手取り額が課税によって減少することが影響 ⇒ 所得効果(余暇に-) 労働供給 が増える か減るか [賃金課税で余暇が増える(労働供給が減る)事例] [賃金課税で余暇が減る(労働供給が増える)事例] は、両者 消費の量 消費の量 の大小関 無差別曲線 係に依存 当初の最適点 無差別曲線 (課税前) 消費1単位当たり価格×消費数量+賃金率×余暇時間=賃金率×24時間 ⇒ (比例所得税課税後) 消費1単位当たり価格×消費数量+(1-所得税率)×賃金率×余暇時間 =(1-所得税率)×賃金率×24時間 明治学院大学 2014年度 秋学期 ・LとCの最適な組み合わせは(0,24w/p)と(24,0)を結ぶ線分上のどこかの点 選択可能な組み 合わせの領域 0 0 0 ⇒ 消費1単位当たりの価格 × 消費数量 + 賃金率 × 余暇時間 = 賃金率 × 24時間 ⇒ pC + wL = 24w (p、wは定数;C、Lのみ家計が量を選ぶ変数) ・無差別曲線同士は交 差しない (4, 4) 4 最適点 消費1単位当たりの価格×消費数量=消費総額=所得=労働時間 ×時間当たり賃金率=(24時間-余暇時間)×時間当たり賃金 110 課税後(賃金低 下後)の最適点 課税後(賃金低 下後)の最適点 当初の最適点 無差別曲線 無差別曲線 余暇時間 明治学院大学 2014年度 秋学期 余暇時間 111 [参考:賃金と労働供給の関係] 5-5.超過負担の大きさ 賃金率が高まると当初は労働供給が増えるが、ある水準を [課税と納税義務者] ○個別消費税 手取り 超えると、賃金率が高まると労働供給は減る(賃金率が低下 ・生産者納税か消費者納税か 賃金率 すると労働供給は増える) という納税義務者の違いは、租 賃金課税は上記における賃金率低下のケースに読み替え 税の帰着と超過負担に関して 本質な違いをもたらさない られる ○賃金課税 ・所得税⇒納税義務者は労働 の供給者(家計)だが、源泉徴 課税前の 収しているので、企業(労働の D 労働需要 需要者)が所得税相当を納税 (企業が需要者) 税 し、従業員には手取り賃金を通 知していると見ることも可能。 ・社会保険料(の企業負担分) D ‘ 課税後 ⇒労働の需要者(企業)が納税 の労働需要 義務者 ・転嫁と帰着については、個別 消費税の場合と本質的に同じ ・超過負担の発生も個別消費 税の場合と本質的に同じ ⇒需要側(企業)の価格(賃金率) S 労働供給(家計が供給者) 弾力性は高く、供給側(家計)の弾 課税後の 課税前の 力性は低いとすれば、企業負担 労働量 労働量 分の社会保険料分も実態的には 量 家計が負担している 限界税率が高いほど、また、労働供給の賃 金弾力性が高いほど、課税に伴う超過負担 は大きい 実証研究における労働供給の賃金弾力性: 男性低く、既婚女性高い 112 明治学院大学 2014年度 秋学期 [参考:賃金課税による超過負担] 消費の量 [賃金課税の意味] 個別消費税により超過負担が生じるように、賃金課税におい ても超過負担が発生 超過負担の大きさは「代替効果を伴わない税制(定額税)によ る税収と所得税課税による税収の差」として捉えることも可能 課税前賃金: 所得税課税後の手取り賃金: (1-実効平均所得税率)×賃金率×労働時間 当初の均衡点 E1 ・E1→ E3:所得効果 余暇に-(労働供給に+) ・E3→ E2:代替効果 余暇に+(労働供給に-) taxL E2 と同じ効用水準を 実現する定額税課税 (課税後も賃金率不変) taxY E3 賃金率×労働時間 “ 課税前賃金率が低下することと同じ ” ・一切非課税 pC = w(24-L) ・所得税課税 pC = w(24-L)(1-a) ⇒ ⇒ ・消費税課税 (1+b)pC = w(24-L) taxL > taxY ・定額税課税 pC 所得税課税後の均衡点 E2 ・一切非課税 C = = w (24-L)-T 24w/p ・所得税課税 C =(1-a) 24w/p 課税前の賃金率 課税後の賃金率 余暇の時間 明治学院大学 2014年度 秋学期 113 明治学院大学 2014年度 秋学期 114 - pC + wL = 24w pC + wL(1-a) = 24w (1-a) ⇒ (1+b)pC + wL = 24w ⇒ = 24w-T pC + wL wL/p - (1-a) wL/p ・消費税課税 C = 24w/{p(1+b)} - wL/ {p(1+b)} ・定額税課税 C = 24w/p wL/p - - T/p C:消費量、p:消費財価格、 L:余暇時間、 w:時間当たり賃金率、a:平均所得税率、b:消費税率、T:定額税(人頭税額) 明治学院大学 2014年度 秋学期 115