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積雪地帯におけるリンゴ園地の施肥方法とその検証

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積雪地帯におけるリンゴ園地の施肥方法とその検証
積雪地帯におけるリンゴ園地の施肥方法とその検証 Verification of Fertilizer Management in Apple Orchard in Snowfall Area 加藤幸 1,伊藤哲 2,三石正一 3,溝口勝 4
1
2
弘前大学農学生命科学部, (株)クロスアビリティ, 3 アイネクス(株),4 東京大学大学院農学生命科学研究科
Abstract
青森県などの積雪地帯におけるリンゴ栽培では,雪解け後の施肥(春肥)を中心とした施肥管理が推奨さ
れる傾向にある.一方,積雪前の秋の段階での施肥(秋肥)の有効性を指摘する研究例もある.本研究では,
青森県津軽地方のリンゴ園地でフィールドモニタリングシステム(FMS)を活用し,園地の施肥方法とその効果
を検証した.その結果,肥料分の動態が秋肥では気温と融雪水,春肥では降水との関連性が高いことが分か
った.さらに,秋肥で心配される溶脱の影響や融雪期のリンゴ樹による養分吸収の状況を明らかにした. キーワード:リンゴ園,フィールドモニタリングシステム,EC, 施肥管理 Apple orchard, Field monitoring system(FMS), Electric conductivity,Fertilizer management
1.はじめに 青森県などの多雪地帯では,冬期間,リンゴ園地が雪
に閉ざされる.そのため,施肥後の溶脱を避ける目的で
春肥を推奨する傾向にある.一方で,落葉果樹類では,
秋の収穫後から落葉時期に光合成を盛んに行い,翌年の
花芽を形成させる.よって,施肥管理は秋肥を中心に検
討されることが多い.有機系肥料の利用で多雪地帯のリ
ンゴ園でも秋肥の効果が高いとする例(坂本 2006)も見
られ,園地の施肥管理は,地域や個人の判断に依存して
いる面が大きい.本研究では,施肥方法が園地の EC 分
布に及ぼす影響を検討することで,多雪地帯のリンゴ園
地の施肥管理のあり方を検証した.
2.方法 青森県弘前市近郊のリンゴ園地に,気象計(Davis
Vantege Pro2)と土壌センサー(Decagon 5TE)を設置し,
FMS(溝口 2012)により,気象データと土壌データをモ
ニタリングした.土壌センサは,地表から 4, 8, 16, 32,
Fig.1 秋肥後の土壌環境の変化
(上から,Solution EC,VWC,降水量,気温)
64cm 深に埋設した.なお,園地土壌は一層クロボク土で,
土壌水分量θと Solution EC は以下の式より求めた
3.結果と考察 (Decagon Devices 2009, Hilhorst 2000)
.
(1)秋肥後の園地土壌の EC 変化(2010/12〜2011/4) 3
3
θ (m / m ) = 3.44 ×10
−11
3
−7
× Serial − 2.20 ×10 × Serial
2
調査園地における秋肥後の土壌環境の変化を Fig.1 に
+5.84 ×10 −4 × Serial − 5.3×10 −2
示した.施肥(12/10)直後の園地では,降雪と融雪が繰り
ε Pσ b
σP =
ε b − εσ b=0
返され,根雪(12/29)までの期間 EC の変動が激しい.そ
SolutionEC =
σ Pθ + σ d (φ − θ )
φ
ここで,Serial はセンサの RAW 値,εP,εb は土壌液相
および Bulk の比誘電率,σb,σp,σd は Bulk,土壌液
相および蒸留水の EC 値を示す(ここではσd=0 と仮定)
。
εσb=0 は,σb=0 となるときの比誘電率で,実験的に求め
る必要があるが,ここではεσb=0=6 を用いた.また,サ
れ以降,降水(降雪)は見られるものの,積雪によって
EC への影響はほとんど見られない.その後,2/24,3/13
に大きな変動が見られた.両日の降水量は 6.5mm, 0mm
であった.気温は 12.6℃,11.4℃とこの時期の青森では
きわめて高かった.そのため,高温に伴う融雪水の浸透
が肥料分の移動を促進したことが考えられる.また,3
月末〜4 月初旬の融雪期には土壌水分量が増加すること
ンプリング値をもとに,間隙率φ=0.483 とした.
で深部の EC が増加し,64cm では 0.12dS/m から 0.35dS/m
この園地では,2010/12/10 と 2012/6/2 に有機肥料を散
と約 3 倍に増加した.融雪水が肥料分を降下浸透させて
布している.2つの時期における Solution EC(以下 EC
いることが分かる.
と略)を追跡することで,この園地における秋肥と春肥
したがって,積雪地帯における秋肥後の肥料分の動態
の動態を把握することができる.
を考えるには,降水だけではなく,気温変化とそれに伴
う融雪水との関連付けが必要といえる.また,溶脱につ
いて,積雪期間中は土壌中の水分移動が少ないため,調
査園地では,極端な影響は起こらないといえる.
Fig.3 施肥後の EC の鉛直分布変化
(左:秋肥(2010/12/10)施肥 右:春肥(2012/6/2)施肥)
また, 80 日後(Day80)の状況を用いて比較すると,
秋肥
(Fig.3 左)
では 4cm 深で 1.8dS/m,
32cm 深でも 1dS/m
を超える EC 値を示している.それに対し,春肥(Fig.3
右)では 80 日後には,施肥前とほとんど差の無い状況に
なっている.樹による吸収や土壌の吸着の影響も考えら
れるが,7/16 の 100mm を超える降水による溶脱が主な要
因であると推察される.一方,秋肥の場合,100 日後の
Fig.2 春肥後の土壌環境の変化
(上から,Solution EC,VWC,降水量,気温)
EC 分布を見ると,
80 日後の時点から 32cm 深の値が約 1.0
(2)春肥後の園地土壌の EC 変化(2012/6〜2012/8) さ 4,8,16,64cm 深の値に極端な変化は見られない.
もし,
調査園地における春肥後の土壌環境の変化を Fig.2 に
融雪水の浸透により溶脱が進んだのであれば,全層的に
示した.施肥直後は,降水がなかったため EC の変化は認
EC 値が低下するか,地表近傍で低下,深部での増加が起
められない.6/9 の 12mm の降水を期に 4cm 深の値が大き
こるはずである.したがって,溶脱が要因とは考えにく
く上昇し,この時点で肥料分の移動が始まったと思われ
く,3 月中旬よりリンゴ樹の休眠が明け積極的な養分吸
る.さらに 6/20 の 9mm の降水時に,8,16cm 深でも EC 値
収が始まっている可能性が高いといえる. の上昇が見られ,降水の浸透に伴う肥料分の動態を確認
この時期の園地は積雪下にあり,肥料分を十分供給す
できた.一方で,7/5,7/16 にあった 34mm,116mm の強
るには,秋の段階での施肥が有効と考えられる. い降水に伴い,4,8cm 深では EC 値が大きく低下した.そ
の結果,16,32cm 深ではそれぞれ約 0.4,0.3dS/m と施肥
から 0.4dS/m に低下している.これに対し,その他の深
4.結論 前に比べ 0.1dS/m 程度増加した.しかし,秋肥で見られ
本研究では,積雪地帯におけるリンゴ園地での秋肥と
たような深部での明確な濃度上昇はみられず,強い降水
春肥の有効性について検証した.その結果,秋肥では高
により溶脱,流亡してしまった可能性が高い.
温時の融雪水の浸透,春肥では降雨強度が肥料の動態に
したがって,春肥後の肥料分の動態を考える場合,降
関連していることが分かった.また,秋肥では冬期間に
水の影響がきわめて大きいといえる.適度の降雨があっ
極端な溶脱は生じておらず,3 月中旬以降,樹体の吸収
た場合,肥料分が迅速に地表付近から浸透する.一方,
と思われる現象が確認された.今後も継続的なモニタリ
7/16 のような降水(116mm)があった場合,一気に溶脱,
ングにより施肥の方法とその効果について検証していく.
流亡してしまう可能性がある.特に,2012 年は弘前周辺
でも短時間の集中豪雨が多く,春肥を行う場合には,園
地の下草の管理などにも十分留意する必要がある.
(3)施肥後の EC の鉛直分布変化 秋肥と春肥について,
施肥後約 3 ヶ月間の EC の鉛直分
布を Fig.3 に示した. 両者の特徴を検討すると,秋肥で
は明確な濃度ピークの移動が確認できるが,春肥では不
明確である.これは,秋肥では積雪下での土壌水分量の
変動が小さく降下浸透が少ないのに対し,春肥では降水
の影響が直接的に影響した結果と思われる. 参考・引用文献 坂本清.
(2006)
:リンゴ樹に対する肥効調節型肥料などの秋施
用の影響,東北農業研究,51,149-150.
Decagon Devices(2009):SOIL MOISTURE SENSOR CUSTOM
CALIBRATION,http://www.decagon.com/education
Hilhorst, M.A. (2000): A pore water conductivity sensor. Soil S
cience Society of America Journal,64-6,1922-1925
溝口勝(2012):フィールドモニタリングシステム,水土の知(農
業農村工学会誌)
,80-9,50.
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