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議事録 - ライフサイエンスの広場

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議事録 - ライフサイエンスの広場
科学技術・学術審議会
ライフサイエンス委員会
研究計画・評価分科会
がん研究戦略作業部会(第 2 回)
議事録
1.
日時
平成 21 年 11 月 30 日(月曜日)13 時 00 分~15 時 21 分
2.
場所
文部科学省 16 階 特別会議室
3. 出席者
(委
員)垣添主査、江角委員、田島委員、谷口委員、月田委員、中村委員
野田委員、垣生委員、深見委員、宮園委員、若林委員
(事務局)磯田研究振興局長、倉持大臣官房審議官、石井ライフサイエンス課長
山脇振興企画課長、山口学術研究助成課長、渡辺研究振興戦略官
山内先端医科学研究企画官、国分研究振興戦略官付補佐
(説明者)日経 BP 社医療局主任編集委員 宮田満氏
千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授
宮崎勝氏
京都大学大学院医学研究科
放射線腫瘍学・画像応用治療学教授
平岡真寛氏
放射線医学総合研究所重粒子医科学センター
センター長
鎌田正氏
4. 議事
(1)今後のがん研究について
1 「文部科学省がん研究にかかわる特定領域研究」の主な研究成果
がん研究戦略作業部会
宮園浩平委員
2 「次世代がん研究への期待」
日経 BP 社医療局主任編集委員
宮田満氏
3 「がん基礎研究の外科領域における臨床的意義」
千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授
4 「今後のがん研究
宮崎勝氏
放射線腫瘍学の観点から」
京都大学大学院医学研究科
放射線腫瘍学・画像応用治療学教授
- 1 -
平岡真寛氏
「重粒子線がん治療研究の展開」
放射線医学総合研究所重粒子医科学センター
センター長
鎌田正氏
(2)その他
5.
配付資料
資料 1
今後の検討の進め方(イメージ)
資料 2
「文部科学省がん研究にかかわる特定領域研究」の主な研究成果
資料 3
「次世代がん研究への期待」
資料 4
「がん基礎研究の外科領域における臨床的意義」
資料 5
「今後のがん研究 放射線腫瘍学の観点から」
「重粒子線がん治療研究の展開」
- 2 -
6.議事
【垣添主査】
定刻となりましたので、第 2 回のがん研究戦略作業部会を始めたいと思
います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
本日は、上田委員、西川委員、廣橋委員、門田委員から、欠席の連絡をいただいており
ます。
それではまず、11 月 24 日付で文部科学省の人事異動がございましたので、一言ごあい
さつをお願い申し上げます。
【山内先端医科学研究企画官】
研究振興戦略官付先端医科学研究企画官として着任し
てまいりました山内と申します。どうぞよろしくお願いします。
【垣添主査】
よろしくお願いします。
それでは、事務局より配付資料の確認をお願いいたします。
【山内先端医科学研究企画官】
それでは、お手元の資料をごらんください。表紙がご
ざいます。議事次第でございます。1 枚めくっていただきます。座席表です。また 1 枚め
くっていただきますと、右上に資料 1 とございます「今後の検討の進め方」という紙がご
ざいます。ホッチキスどめで 2 枚ございます。それをめくっていただきますと、その下、
ホッチキスどめの束がございまして、右上に資料 2 とございます。「文部科学省『がん研
究にかかわる特定領域研究』の主な研究成果」と、題がついてございます。それを取り除
いていただきますと、その下、資料 3 でございます。「次世代がん研究への期待」という
タイトルがついてございます。1 枚です。これを 1 つめくっていただきますと、その下に
資料 4 がございます。カラーのもので、「がん基礎研究の外科領域における臨床的意義」
とございます。さらにその下、右上に資料 5 と書いてございます、「今後のがん研究
放
射線腫瘍学の観点から」という資料でございます。
資料は以上でございます。過不足等ございましたら、お知らせいただければと思います。
【垣添主査】
よろしいですね。
それでは、次に事務局から、本日行うヒアリングの位置づけ及び前回の作業部会での主
な意見について、説明をお願いいたします。
【渡辺研究振興戦略官】
それでは、お手元の資料 1 に基づきまして、ご説明をさせて
いただきます。
資料 1、1 枚目でございますが、これは本作業部会の現在及び今後の検討の具体的なイメ
ージとして示しております。一番上、3 つに分けておりますが、がん研究の現状及び治療
- 3 -
の現状、それから、企業、がん患者等からの意見ということで、前回、今回、そして第 3
回、3 回に分けまして外部の方々のご意見を伺う場を設けております。こうした外部の意
見等を踏まえながら、第 4 回で、12 月 22 日に開催を予定しておりますけれども、今後の
検討課題の抽出、それから論点の整理を行っていきたいと考えております。具体的な検討
課題の例としましては、そこに書いておりますが、これまでの国の総合的ながん対策にお
ける、がん研究に期待される役割でありますとか果たすべき機能、そして、がん研究にお
いて文部科学省がこれまで果たしてきた成果、今後担うべき機能、そして厚生労働省及び
他府省との連携のあり方、そして、文科省におけるこれまでのがん研究推進体制の評価で
ありますとか、今後の研究推進体制を一層強化するために行うべき方策の検討、そして、
短期的に取り組むべき課題、それから中長期的に取り組むことが求められる課題の抽出、
そして、こうしたことについての具体的な取り組み方策に係るロードマップ作成、こうい
ったことについてまず論点を抽出し、そして、平成 22 年に入りまして、1 月からおおむね
5 月ごろにかけまして数回の会議でがん研究戦略取りまとめに向けた審議を行っていただ
き、6 月ごろを目途に取りまとめをしていただきたいというふうに考えております。
2 枚目は、前回のヒアリングにおいてご指摘のありました主な事項についてまとめてお
ります。本日及び次回につきましても同様な取りまとめを行いまして、各意見を参考にし
てそれぞれの論点ごとに整理をして、今後の検討に役立てたいというふうに考えておりま
す。
以上です。
【垣添主査】
ありがとうございました。
ただいまの説明に何か、ご質問、ご発言がありましたらお受けしたいと思いますが、い
かがでしょうか。
よろしいでしょうか。
では、本日が第 2 回で、第 3 回まで一応、いろんな方々のヒアリングを行い、かつ、こ
れまでいわゆるがん特別研究に携わってきた方からのご発表もいただいて、それを第 4 回、
12 月 22 日に今後検討する課題を取りまとめて、そして次年度以降、6 月をめどに取りまと
めをしていくということで進めたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
よろしゅうございましょうか。
では、本日のヒアリングに入りたいと思います。本日は、宮園委員より、基礎研究の現
状、特にこれまでのがん特定領域の研究活動について、お話しいただきます。発表は 15
- 4 -
分でお願いいたします。この発表に対する質疑は総合討論のときにまとめて行います。発
表終了時にベルを 1 回鳴らしますので、よろしくお願い申し上げます。
【宮園委員】
それでは、私のほうから、文部科学省のがん研究にかかわる特定領域の
主な成果について、ご紹介させていただきます。
いわゆるがんの特定研究といいますのは、ここの 2 枚目にありますように 5 つの領域に
分かれておりまして、領域 1 は、統合総括班があるほかに、研究の面では、がん科学のニ
ューフロンティアというのがあります。がん科学のニューフロンティアでは、新しく革新
的な研究を進めるということでやっておられるのと同時に、支援班を中心に、がん特定研
究全体を支援するということをやっておられるわけです。そのほか、お手元の資料にあり
ますけれども、領域 2 が発がんの研究、領域 3 が、がん細胞の特性と組織システム、いわ
ゆるがん特性と呼んでおりますが、こういう研究班があります。領域 4 ががんの診断と疫
学、領域 5 ががんの治療に関する研究ということで、5 つの班で研究をしております。例
えば領域 5 ですと、計画案が約 50 件、それから公募研究が 50 件でありまして、領域 2 と
3 は領域 5 とほぼ同じ人数ですが、領域 1 と 4 は少し数が少ないというようなところで研
究をしております。
まず領域 1 からご紹介いたしますが、領域 1 は谷口先生が代表で、谷口先生の核酸を認
識する免疫機構、がん免疫の機構のほか、例えば、細胞内のイメージングのシステムを松
田先生が、あるいは結晶構造の解析を濡木先生、そのほかこういった比較的新しい研究を
やろうというのが、領域 1 の仕事であります。
谷口先生のお仕事を紹介いたしますと、ここにありますように、例えば免疫性の核酸を
認識するシステムには 2 つのスケールがあって、最初の HMGB による免疫性核酸は、ブロー
ドに核酸を認識し、さらにその下流に高識別性の DNA センサーがあるということで、DAI
をはじめとした幾つかの新しい分子を発見し、これはがんの自然免疫による排除に関する
研究を行っておられます。それからもう 1 つは、トールライクリセプターのシグナル伝達
の研究の際に、右側にありますが、IMF-001 という新しい化合物を発見されまして、これ
を用いますと、右下にございますが、これはメラノーマを使った実験ですけれども、こう
いった化合物を使いますとがんの転移を抑制することが可能であるということで、これか
らの研究の発展が期待されるところであります。
次は、申しわけございません、動画がうまくいきませんのでこれでご紹介いたしますが、
京都大学の松田先生のグループは、上皮細胞増殖因子の受容体のシグナル伝達システムに
- 5 -
おきまして、この緑で示しました遺伝子に関しまして、イメージングによってシグナルを
解析するシステムを既に確認しておられます。1 つの例といたしまして、Rab5 という EGF
のリセプターの内在化に関しまして重要な役割を持っている分子に関しまして、これは彼
がやった仕事ですけれども、アポトーシスが起こっている細胞を取り込む際に Rab5 が活性
化されるというのをこのように可視化することができるということであります。このよう
に松田先生のグループはこういったシグナルを可視化するシステムに関しまして非常に多
くの情報を持っておられまして、これが将来的には、右上にありますけれども、がん遺伝
子のネットワークのシミュレーションモデルをつくる際に非常に有効であるのではないか
ということで、研究を進めておられます。
それから次は、発がんの分子メカニズムに関します野田先生の領域 2 のグループですけ
れども、ここでは、遺伝子や染色体の不安定化に関するさまざまな研究、あるいは、ヘリ
コバクター・ピロリの感染による発がんのメカニズムなど、さまざまな観点から発がんの
メカニズムに関する研究を行っておられます。
一例といたしまして、石川冬木先生のグループは、左上にありますが、テロメレースが
活性化していない状態では細胞が分裂を起こすに従って細胞死または増殖の停止に至りま
すけれども、テロメレースがあることによって細胞はずっと分裂を続けるということで、
ことしのノーベル賞でテロメレースが受賞いたしましたが、テロメレースを標的とした薬
剤の開発が非常に強く望まれていますが、実際にはいろいろな障害があって、現在まで新
しい薬剤はできておりません。石川先生のグループは、テロメレース自身を標的とするの
ではなくて、ここの B にありますけれども、テロメレースをリクルートするようなメカニ
ズムがあって、特に Ccq1 というのを石川先生が同定して、その機能を解析しておられます。
右側の C をごらんいただきますと、Ccq1 を持った複合体というのはオンとオフが非常に積
極的に制御されているようでありまして、Ccq1 が表面に出てくるとテロメレースがリクル
ートされるということで、こういった分子が新しい治療の標的となるのではないかという
ことで、研究を進めておられます。
それからもう 1 つ、一番右下にありますけれども、テロメアには実はいろんなタンパク
質が結合しておりまして、石川先生は CST の複合体というのを発見しておられます。これ
も新たな重要な分子標的になるのではないかということで、これは「Molecular Cell」に
ことし発表されましたけれども、研究を続けておられるところです。
それから、東京大学の畠山先生のグループは、ヘリコバクター・ピロリによる発がんの
- 6 -
メカニズムの研究を行われまして、左上にありますけれども、これはピロリ菌が針を出し
て胃の上皮細胞へタンパク質を注入している絵であります。左下にありますが、畠山先生
のグループは、ピロリ菌が出している CagA というタンパク質が、例えば右側にありますけ
れども、PAR1 キナーゼというのに作用いたしまして、細胞の極性を喪失させる。あるいは、
左側にありますけれども、Src のリン酸化を受けて SHP-2 というチロシンフォスターゼが
活性化されることによって細胞の異常増殖が起こるということを「Nature」に発表してお
られます。
さらに、最近になりまして CagA のトランスジェニックマウスをつくられましたところ、
胃がんだけではなくて、小腸のがんとか白血病をはじめとしたいろいろながんができると
いうことで、ピロリ菌による発がんのメカニズムということで世界最先端の仕事をしてお
られます。
それから、領域 3、高井先生のグループは、細胞ががん化する際の細胞の特性というこ
とと、それから細胞の組織ががん化に伴ってどういうふうに変わっていくかということで、
研究を続けておられます。
高井先生のグループは、左上に正常な上皮細胞、右上にがん細胞がありますけれども、
正常な上皮細胞というのはがん化すると細胞の接着がなくなってこのように繊維芽細胞様
の紡錘形の形態になるという、このメカニズムに関しまして、特に彼が発見しました接着
分子のネクチンと Necl というタンパク質の機能を研究しておられます。例えば、ネクチン
というのはインテグリンと相互作用して細胞接着の形成を促進するとか、あるいは、ネク
チンの下流にあるアファディンというタンパク質と増殖因子の PDGF の作用について、研究
を進められております。それから、Necl に関しましては、Necl-2 というのが正常の上皮細
胞で極性を維持するのに重要であるということ。逆に、がん化した細胞では Necl-5 という
のがふえて、これが細胞の増殖に重要な役割を果たしているということを報告しておられ
ます。
それから、これは大阪大学の微生物学研究所の高倉先生の研究ですけれども、腫瘍内血
管の新生というのは、最近、例えば VEGF に対する抗体ですとか VEGF のキナーゼのインヒ
ビターが臨床に使われておりますが、ある程度の効果はありますけれども、もっと血管新
生に関する新たな分子標的の治療が望まれるところであります。彼は、血管の研究と同時
に、血管の内皮細胞、壁細胞が造血幹細胞とかがん細胞と非常にいろんな形でインタラク
ションして、血管ががん細胞のニッチになるということを報告しております。例えばこの
- 7 -
実験ですけれども、血管新生抑制因子を加えまして血管がなくなりますと腫瘍の周辺に血
管が残りまして、ここをよく調べてみるとがんの幹細胞と思われる細胞が残っているとい
うことで、血管新生の抑制とがんの幹細胞のかかわりということで非常に先駆的な仕事を
しておられます。
続きまして、がんの診断と疫学ですけれども、これは中村祐輔先生のグループを中心に
いろいろな研究が行われていまして、JCO とか JNCI、あるいは「Cancer Cell」をはじめと
した、この分野のトップの雑誌に幾つか報告がございます。
1 つの例といたしまして、がんの診断の分野ですが、千葉県がんセンターの中川原先生
のグループはニューロブラストーマに関しまして日本でリーダー的存在でありますけれど
も、ゲノムの異常パターンの新規のリスク分類を行われたということ。それから、神経芽
腫の予後を診断するミニチップを開発されまして、これによりまして神経芽腫の個別化診
断を実現しようということで、精力的に研究を行っておられます。
それから、東京医科歯科大学の稲澤先生のグループは、高精度のゲノムアレイを使いま
して既に 25 種類のがんで 1,700 例以上の症例でいろいろながん関連遺伝子の研究を行って
おられまして、既に 60 種類以上のがん関連遺伝子を見つけておられます。1 つの例といた
しまして、食道がんの染色体 1 番であります SMYD2 という遺伝子がございまして、これが
発現していると食道がんの予後が悪くて、発現していない場合には予後がよいということ
で、これを診断に用いると同時に、新しい標的として使うことを考えておられます。
それからもう 1 つは、DNA のメチル化スクリーニングによりまして、LAPTM5 という遺伝
子を発見されました。これは、神経芽腫が自然退縮する際にどうもこのタンパク質が機能
してリソゾーム依存性の細胞死を誘導するということで、新たながん関連遺伝子として注
目されております。
それから、がんの疫学の分野ですけれども、これは田島先生のグループが日本・中国・
韓国の 3 カ国で増加するがんの環境と宿主要因に関する民族疫学的研究を行っておられま
す。アジアにおきましても、欧米型の生活習慣が広がってまいりまして、乳がんとか大腸
がんが増加しております。この 3 カ国で環境及び宿主要因の解明、症例対照研究を実施す
るということで、既に、乳がんに対しましては各国で症例 3,000 人と対照 6,000 人の収集
を完了しておられます。我が国では愛知県がんセンターで疫学研究を開始しておられまし
て、これは HARPACC Study と読むんでしょうか、1988 年から全初診患者を対象としてこの
疫学研究が開始されまして、2000 年からは血液を収集して、現在まで、2000 年からだけで
- 8 -
も 4 万人の症例をこの研究にエントリーしておられます。
1 つの成果といたしまして、遺伝的背景と環境要因の交互作用の検索ということで、FGF
のリセプターの 2 番の intron2 の多型が欧米におきまして乳がんと関連しているというこ
とが報告されているんですけれども、日本人の乳がんでも 18%に関与していて、かつ肥満
が閉経後の乳がんの要因にこの遺伝子の多型が関与しているということを明らかにしてお
られます。今後、中国や韓国の症例と比較することによって、新たな知見が出てくるんじ
ゃないかということが期待されます。
最後ががんの診断と治療でございますが、ここにございますように、モノクローナル抗
体を使った治療、あるいは新たな分子標的に対する治療、それから遺伝子治療とか、ある
いは放射線、それからドラッグデリバリーに関する研究をこの領域 5 で行っております。
まず最初に名古屋市立大学の上田先生の成果ですけれども、ケモカインのリセプターで
ある CCR4 に対する研究を続けてこられまして、実は CCR4 というのが成人 T 細胞性白血病
あるいは予後の不良の T 細胞リンパ腫に発現しているということに注目されまして、これ
に対する抗体をつくってこられました。これは国内の協和発酵との共同研究で、現在、フ
ェーズ 1/2a のトライアルが進行しております。ごらんのように、がんの抗体薬としてこ
れを使いますと皮膚にございます白血病細胞の浸潤がこのように非常にきれいに抑えるこ
とができると、完全寛解例もあるということで、最近、「Journal of Clinical Oncology」
に発表されたところで、今後の成果が大いに期待されるところであります。
最後は、私どもの研究ですけれども、がんの幹細胞というのは、ここから子孫の細胞が
できてくることによって、がんがふえてくるわけであります。がんの幹細胞というのは抗
がん剤や放射線に耐性でありまして、一たん腫瘍が小さくなったように見えても、がんの
幹細胞から新たにがんができてくるということで、がんの幹細胞に対する治療というのは
これから非常に注目されるところであります。私どもは脳腫瘍の幹細胞の研究を行いまし
て、これは培養しますとごらんのように細胞が塊をつくるんですけれども、TGF-βのシグ
ナルを遮断しますとごらんのようにグリオーマの幹細胞が分化を開始すると。そのシグナ
ル経路には、TGF-βから Sox4、Sox2 のシグナルが重要であるということがわかりまして、
TGF-βの阻害剤を加えますと、がんの幹細胞を標的としてがんの縮小を期待できるのでは
ないかということで、研究を行っております。
駆け足になりましたけれども、以上です。
【垣添主査】
ありがとうございました。宮園先生には、これまでのがん特別研究で行
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われてきた、いわゆる文部科学省の基礎研究の代表的な部分をご紹介いただきましたが、
この討論は総合討論のところでまとめてお願いしたいと思いますので、交代してください。
ありがとうございました。
続きまして、日経 BP 社の医療局主任編集委員の宮田様にお越しいただいておりますので、
マスコミニュケーションといった広い視点からご意見をいただきたいと思います。ヒアリ
ングは、発表 20 分、質疑 10 分、計 30 分で行います。やはり発表終了時と質疑終了時、そ
れぞれベル 1 回を鳴らしますので、よろしくお願い申し上げます。
【宮田主任編集委員】
日経 BP 社の宮田と申します。きょうは、お招きいただいて、あ
りがとうございます。がんというのはまだ撲滅途上にある病気でございまして、皆さんの
基礎研究、あるいは臨床研究に至るご努力というのは今後も継続されていかなければいけ
ないだろうと、私は強く思っています。
きょうは、ジャーナリストでございますからあまり学問的精密性は期待しないでいただ
いて、世の中がどういうふうに動いているかということも含めて、皆さんにお話をしたい
というふうに思っています。時間の制約で最後まで話せるかどうかわかりませんので論点
だけ申し上げておきますと、まず、ヒトの生物学というのは 2003 年 4 月にヒトゲノムが解
読されてから可能になっていますので、マウスに閉じこもることなく、まずヒトの生物学
に基づいた基礎研究というものを皆さんに深堀りしていただきたいというふうに考えてい
ます。そういたしますと、病院もしくは治療応答による、がんの再定義といったようなこ
とがとても重要な課題になります。つまり、どういうようなパスウエーに今異常を生じて
いるのかとか、あるいはどのようなサイトカイン、あるいはグロースファクターが重要な
のか、そういったコーザティブなことによってぜひがんを再分類していただくと、治療に
近づくのではないかと考えています。
それから、2 番目に申し上げたいのは、がんの根治をねらう努力をぜひ続けていただき
たいというふうに考えています。後ほどお話し申し上げますけど、標的医薬が随分出てき
ましたが、先ほど CCR の抗体医薬で一部完治というのが出ておりましたけれども、そうじ
ゃなくてこれは単に慢性疾患化したことになりますと、実は相当な医療費負担というのが
今後出てまいりますので、新たな集学的な研究によって根治というものをぜひとも目指し
ていただきたいというふうに考えています。
それから、2 番目。したがって、より重点は予防とか早期治療の拡充というところにも
ぜひ置いていただきたいと考えております。
- 10 -
それから、3 番目。徹底した個の医療というものがどうも重要になりそうです。しかも
これは、遺伝的なバックグラウンドだけではなくて、獲得するがんのゲノムのインスタビ
リティーやエピジェネティックスのような問題も含めております。
それから、4 番目。がん撲滅・予防戦略を策定するということがやっぱり重要になるだ
ろうと考えています。この基礎研究の支援によって一体どういうようながん治療が変わっ
ていくのかというイメージをぜひ国民にも提示するような形で、研究のマネジメントをし
ていただきたいと考えています。
そのために重要なのは、研究成果の検証のためのインフラというものの整備も忘れては
いけないだろうと考えています。単に論文が発表されたということも非常に重要ですけれ
ども、昨今の新政権の事業仕分けなどを考えておりますと、国民にとってこの研究はどう
いうふうな意味があるのかということを、私どもはより皆さんに説明をしていただきたい
と考えております。そのためには、がん登録みたいなことをやっていただいて、日本のが
んというのは一体どういうふうになっているのか、今回の基礎研究の投資によってどうい
うふうに変わっていったのかというようなことを、ぜひ私どもに教えていただきたい。そ
の背景には疫学研究の拡充とそのデータの公開というのを、個人情報の保護を実現しつつ、
やっていただきたいと考えております。
それから、6 番目。基礎研究から臨床応用までのシームレスな支援体制というものを構
築すべきだろうと考えています。基礎も、応用も、今、区別する必要はないのではないか
と考えています。いかに基礎で発見された知見を臨床研究のほうに持っていくかという仕
組みというのがすごく重要です。ここの作業部会のテーマではないと思いますけれども、
今、文科と厚労のまた割き状態の国家研究を一本化するということは、国民にとっては大
きな期待になるだろうと考えています。それからもう 1 つ重要なのは、国家による国民の
ための臨床試験というものをやるための予算をぜひ確保していただきたい。アメリカには
CTEP というような仕組みもあります。私どもは、製薬企業ができない、例えば A という薬
と B という薬をヘッド・ツー・ヘッドでやるような臨床試験を国家が支援するということ
も重要だ、こうしたことも非常に重要な基礎研究ではないかと考えております。
7 番目、患者との共闘関係の構築。これは、ぜひ皆さんのすばらしい研究の情報発信を
していただきたい。ただし、先ほどご説明いただいたような情報は非常に詳しくて、私に
とってはおもしろく、また取材しようと思ったんですけれども、患者さんに対するコンセ
ンサスギャップというかナレッジギャップがありますので、そのギャップをどうやって埋
- 11 -
めて、情報を翻訳してお伝えするのか、また、患者さんとどうやって皆さんがコミュニケ
ーションをするのかという工夫も、必要だと考えています。それから、がん研究へ患者さ
んが参加するということがやはり重要でありまして、具体的に申し上げますと、コホート
研究というものを皆さんが拡大・成功させることによって、国民の意識も変わってくるだ
ろうと考えています。今までのように基礎研究とかお医者さんがこういったがん研究をや
ればいいやという冷たい隣人のような関係ではなくて、ほんとうに患者さんと手と手をと
りながら、一緒に悩みながら研究するという体制をぜひ構築していただきたいと思ってお
ります。
皆さんもご存じのとおり、医療・医薬に革命が今起きています。このアトリンというの
は、ヒトのアンチトロンビンαでございますけれども、これはヤギのミルクの中で製造さ
れています。つまり、組みかえヤギみたいなものがもう実際に欧州とアメリカで医薬品の
製造技術として認められるぐらいの量子的な変化というものが起こっています。
もう 1 つ大きな変化は、ヒトゲノムの完了というのがやはり大きかった。これによって
ヒトの生物学というものが可能になっただろうと考えています。私どもの同僚に外人の記
者がいるんですが、日本癌学会はつまらないと。それはなぜかというと、マウスのがんの
話しかないと。むしろヒトのがんの話を聞きたいんだというようなことをおっしゃってい
ましたが、基礎研究の制約上そういった制約はあると思いますけれども、今、どうやった
らヒトの生物学ができるか、ヒトの生物学に外挿できるようなモデルをつくるのかという
のが、一つ大きな焦点になると思います。
例えば、これは鎌谷先生からお借りしたスライドですけれども、中村先生などもやって
いる SNPs を使った疾患関連遺伝子の探索というのは、まさにがんの背景というか、がんの
発症のメカニズムの一つの重要な手がかりを出すだろうと考えています。
そのほか、オミックスというものが随分わかってまいりまして、先ほどの宮園先生の説
明でも幾つかありましたが、ヒトのがんに対する知識というのは猛烈に爆発しております。
私たちはこれをどうやって使って、つまり、発見も重要なんですけど、発見をどうやって
治癒に結びつけるか、あるいは個の医療のようなものに結びつけるかというところも、ぜ
ひしっかり研究をしていただきたいというふうに考えております。
最近では次世代シーケンサーというのが出てまいりまして、多分来月にはヒトのゲノム
の解読コストが 100 万円を切ります。あと 2 年後には 10 万円になるだろう。つまり、カル
テにヒトゲノムの情報が載る可能性も数年後ぐらいには現実のものになるような状況もあ
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ります。ですから、これだけ私たちが知識としてきたオミックスをそろそろ患者さんにお
返しする筋道をつくる、考えるという研究も重要だと考えています。
皆さんご存じのとおり Internationa Cancer Genome Consortium というのがありまして、
遺伝的なゲノムだけではなくて、獲得的ながんゲノムの変化というものも、これからカタ
ログ化されてまいります。私たちが今まで考えていたスタティックなゲノム像というのは
随分変わっておりまして、相当大きな変化がある。この大きな変化が実はがんのメカニズ
ム 解 明 の 手 が か り に も な る だ ろ う と 考 え ら れ て い ま す 。 現 実 に loss of
hetrozygosity(LOH)のところから続々と重要ながん抑制遺伝子というものが見つかってき
ております。
例えば乳がんというのは、オミックスとかヒトの生物学の先端に近いと思います。先ほ
どご指摘もありましたけれども、標的を見つけて、それに対する抗体医薬とか、あるいは
低分子の標的治療薬というものを続々とこの分野で投入されています。一番最初に投入さ
れたのは、ご存じのとおりハーセプチンという、HER2、あるいは erbB-2 と言う抗原陽性の
乳がんに対する抗体医薬です。このハーセプチンが出るまでは、HER2 陽性の乳がんという
のは難治性の乳がんで、患者さんにとっては非常につらい病気でしたけれども、今は治癒
可能な乳がんに変わってきたわけであります。また、最近では、オミックスを使って 21
種類の遺伝子の発現プロファイリングを見ることによって治療の予後を観測する、これは
まだ日本では保険適用になっていませんけれども、そうした診断技術というものも普及し
てまいりました。
今一番問題なのはトリプルネガティブの乳がんというものでございまして、エストロゲ
ンもプロゲステロンの受容体もない、HER2 も陰性であるというものに対して、どうしたら
いいのか。このがんをエクスプレッション・プロファイリングをするとどうやら共通の特
徴を持つがんであるということがわかってまいりました。多分一番進んでおりますのは、
PARP-1 というゲノムの一本鎖断裂の修復に関係する酵素が増加していることがわかって
まいりまして、サノフィ・アベンティスなどさまざまな企業が、PARP-1 阻害剤の臨床試験
に入ってきているわけです。このような、初期的な結果でございますけれども、かなり有
望な結果が出てきています。つまり、どういうことかというと、オミックスを駆使してそ
のがんに共通なメカニズムというのを見つけてまいりますと、私どもの今の技術でありま
すと標的医薬とか抗体医薬というものをつくれるようになってきたということであります。
もう 1 つ、厚労省の難治性肝炎班会議がことし非常に重要な発表をしていますけれども、
- 13 -
今、ペグインターフェロンとリバビリンの併用が C 型肝炎の標準治療になっていますが、
それでも効果のない患者さんというのが大体 3 割とか 4 割いらっしゃいます。その人の遺
伝的な背景を解析した結果、インターロイキン 28B の遺伝子の上か、あるいはその制御領
域中に変異が見つかってきています。これはひょっとしたらこういう可能性がある。つま
り、インターフェロンのシグナルとインターロイキン 28Bのシグナル両方を入れることに
よって、C 型肝炎というものが治療可能ではないかというような期待ができます。そこま
ではちょっと先走りですけれども、少なくともペグインターフェロンとリバビリンの併用
療法は効果がない患者さんをこの変異のマーカーを使ってえり分けることができるように
なるだろうと考えています。
今年、第二世代 GWAS というのが出てきて、1 万 6,000 人ぐらいの規模で解析が進んでま
いりますと、今まで見つからなかった、非常にまれなんですけれども、疾患の浸透度の高
いような遺伝子が見つかってきています。アルツハイマーも、今年、15 種類のアルツハイ
マーの関連遺伝子が見つかってきたところであります。大体こんなような遺伝子疾患の頻
度と遺伝子の関係というものが見えてまいりました。こうしたことから、さまざまな疾患
関連遺伝子というものが今後見つかってくるだろうと考えています。私どもちょっと心配
しておりますのは、GWAS というのはご存じのとおり日本の中村先生を中心とした研究者が
開発した、確立した手法と言っていいと思いますけれども、日本でも第二世代 GWAS の大型
の研究を可能とするような体制というのも今後必要になってくると考えております。
今後、疾患標的がどんどん出てまいりまして、現在、私どもが使っている 2 万点の医科
向けの医薬品の主な結合標的というのは 300 ぐらいだろうと言われていたのが、ヒトの生
物学の進展で siRNA のような細胞内の標的まで入れると 3,000 種類ぐらい見つかってくる
ことになるだろう。皆さん研究が相当忙しくなるし、その標的の中での競争というものも
始まってくるだろうと考えています。
現実に低分子の標的薬というのは、これは最近のデータですけれども、2001 年にグリベ
ックという慢性骨髄性の白血病に対する低分子標的薬が出ましたが、現在までに 11 種類の
医薬品が世界のどこかで上市されておりまして、現在、ビッグファーマ、世界の製薬企業
の研究開発投資の 30%がこのキナーゼの阻害剤の開発に投入されています。ですから、ち
ょっとここはピークアウトしたところでありまして、皆さんには次の、この場合、MRC の
研究者はユビキチン化阻害剤だと言っていましたけど、私は必ずしもそうだとは思ってい
ないので、新しい標的をぜひ見つけていただきたいと考えております。現在、世界で 27
- 14 -
プラス 6 種類の抗体医薬が上市されておりまして、アメリカで臨床試験をしている 3 割か
4 割が抗体医薬というような状況になってきております。
これが最も新しい治療コンセプトでありますけれども、デンマークのサンタリスという
会社がやっている miRNA に対する抑制剤でございます。これは、C 型肝炎の肝臓での増殖
に関与している miRNA を抑止することによって、C 型肝炎の治療を目指しております。マ
ウスの実験では有効性が示されました。ヒトではまだフェーズ 1 ですので、何ともしがた
い。ただし、今のところ申し上げたいのは、今まで私たちは、標的というと、タンパク質
にこだわってまいりましたけれども、今や標的というのは、ゲノムにもありますし、機能
性 RNA にもあるということになったということになります。
ここでちょっと考えていただきたいのは、人工透析の歴史から学んでいただきたいと思
います。現在、28 万人強の患者さんが人工透析で生きていらっしゃいます。これは、いい
のか悪いのかということではなくて、必ず、先端医療が実用化すると、その恩恵に預かる
人たちがどんどんふえてくる。それは私どもにとっていいことなんですけれども、しかし
国の予算には限界があるということでありまして、私が今心配しておりますのは、昨今、
標的治療薬のグリベックは、韓国で大きな騒ぎがありまして、薬価が引き下げられる騒動
が起こっております。要するに、慢性骨髄性白血病の患者さんがグリベックで慢性化する。
命は助かるのですけれども、飲み続けなくてはならない。これの医療費負担に耐えられな
くなってくる。先ほど申し上げましたけれども、標的医療というのはこれからずっと進み
ます。そうなったときに、私たちの医療費負担をどう考えるべきかというものにサジェス
チョンを与えるような基礎研究もぜひやっていただきたいと考えています。
実際に今、日本は猛烈なデフレでありまして、日本でも患者さんの負担増というのは顕
在化しつつあります。慢性骨髄性白血病の患者さんの世帯総所得というのは 2005 年に 508
万あったのが 2008 年には 108 万円も減っておりますが、グリベックの自己負担というのは
2000 年に 59 万円だったものが 2008 年に 58 万円と高どまりしています。つまり、今、400
万円の所得の 8 分の 1 以上をがんの治療に投入しなければ、彼らは生きていけないという
状況になってきているわけです。
一番重要なのは、皆さんの研究が進めば進むほど医療費が高騰するだろうと、このリニ
アな関係をどうやって断ち切るかということをぜひ皆さんも考えなければいけない。ある
いは、そういうことを考えるような研究も基礎研究として入れていかなければいけないと
思っています。
- 15 -
これは、NIH の所長が米国上院に呼ばれて、NIH の予算を投入したことはいいけど、医療
費はこんなに伸びているんだ、どうするんだと問われた時に、NIH の当時の研究所長が、
治療から予防に、あるいはプリエンプティブと彼らは言っています。待ち受けて治療する
ような治療法の開発の方向に大きくかじを切るん、それによって投資効率が上がってくる
ということを説明したスライドであります。我が国でもこれは避けられない方向になるだ
ろうと考えています。
もう 1 つは、徹底した個の医療です。副作用ほどむだな治療はありません。それから、
効果が期待できないのに高い医療費を負担するということはやはり一番の、患者さんにと
っても不幸だと考えています。今年 8 月にアメリカのオバマ大統領は、ヒトゲノム計画の
牽引者だった Francis Collins 博士を NIH の研究所長に任命しました。我が国で言えばナ
ショナルセンターを全部統括するような所長として、個の医療の推進者を任命したという
ことであります。
ご存じのとおり K-RAS と「アービタックス」のことは、我が国でもやっと先進医療でこ
の K-RAS の検査というのができるようになりましたけれども、できれば認可のときに K-RAS
の野生型の患者に有効性が高いといったような添付文書の記述が必要だったと、私は思っ
ております。
日本でも続々と、やっと個の医療の診断薬などの実用化が進み始めたところであります。
今、ちょうどいい時期じゃないでしょうか。日本の製造業の基盤と、例えばこれは DNA チ
ップですけど、東芝がつくった電流計測型で、非常に安いものであります。そういったも
のとの融合がやっと可能になってきたと、考えています。
ここでもう 1 つ強調したいことは、戦略的な目標と、それを計測するということをぜひ
皆さんにお考えいただきたいと思います。これは先ほどの NIH の所長のスライドから借り
てきたんですけれども、過去 30 年間、1 国民当たり毎年 44 ドル投入した結果、どうなっ
たか。2003 年、2004 年に男女ともがんの死亡率は下がってきたわけです。これは非常に、
アメリカは人口がふえているということも勘案しなければいけないんですけど、説得性の
あるデータだと考えております。
明確でわかりやすい国家戦略、国家目標を設定していただきたい。国民が喜んで税金投
入を是とする説明をいただきたい。がん撲滅予防国家戦略の進展を客観的に検証するシス
テムの構築が求められます。疫学と医療経済研究の拡充、人材育成というものが重要です。
加えて、データを公開、国民に翻訳して伝えていただきたいと考えています。基礎研究か
- 16 -
ら臨床研究までシームレスな支援体制というものが重要です。はたから見ておりますと、
細切れの資金供給というのは非効率で、研究の妨げだろうと考えています。MRC をつくる
か、NIH をつくるかという議論はここでは大き過ぎるかもしれませんけど、もうそろそろ
そういうような議論をしなければ、皆さんの基礎研究というのはなかなか進展しにくいよ
うな状況にもあると思います。
もう 1 つお願いしたいのは、国による国民のための臨床試験を支援していただきたいと
思います。公正で中立な臨床評価を得たいと考えています。今、企業がやっている臨床試
験も公正性が担保されていますけれども、それでも、A というお薬と B というお薬のヘッ
ド・ツー・ヘッドのような、実際に患者が求めているような臨床研究というのは、比較試
験というのは、なかなか行われない。それから、革新的なプロトコルの開発にも、臨床試
験として国が資金を投与すべきだと思います。ベンチャーなど創造的な研究支援に関して
も、彼らがやる臨床試験に対する費用負担というのをぜひ私どもも考えていきたいと考え
ています。
皆さんに、もうわかっていると思いますけど、CTEP というアメリカの NCI のプログラム
というのは、非常に大きな参考になります。ことし CTEP が日本でクローズドのセミナーを
開いて日本のベンチャーにアメリカで臨床試験をやりませんかというセールスプロモーシ
ョンを行っているという事態を、私は非常に危機感を持って考えております。日本でもそ
ういった資金を提供すべきだと考えています。
皆さん、今、大変な時期にあると思いますけれども、アメリカでも大変な医療の変革期
を迎えています。彼らは何を大きくやろうとしているかというと、IT に年間 1 兆円ぐらい
投入して、医療記録と会計のデータベースをつくる。医療の最先端の情報を医療関係者と
ともに患者さんに伝えるという、情報の武装というのを始めてきているわけです。我が国
でもこういった努力がどうしても必要になってくるだろうと思います。
最後に、患者さんががんの研究に参加する機会をぜひふやしていただきたいというふう
に思っています。これは今年発表された、これは非常に立派な研究ですけれども、国立病
院の久里浜のアルコール症センターとの国際共同研究ですが、ここのコホートによって
ALDH2 の突然変異が食道がんのリスクを 27 倍ふやすということがわかっています。これは
ヘテロザイゴートですけど、ヘテロザイゴートに無理やりお酒を飲ませると、こういうよ
うな結果になるということが明瞭に出てきています。皆さんに、基礎研究で出たオミック
スの成果というものがコホートによってやっと臨床的な意味というものを与えられるとい
- 17 -
うことをぜひご理解いただきたいというふうに思っています。
以上、雑駁な議論でしたけれども、これにて終わりたいと思います。どうもありがとう
ございました。
【垣添主査】
宮田さん、ありがとうございました。マスコミの立場で非常に広範な情
報を収集しておられますけれども、そこに根差して、がんの基礎研究の重要性と今後の発
展性まで含めて、かなり大胆なご提言をいただきました。ありがとうございました。
何か、ただいまの宮田さんのご発表に対して、質問、あるいはご発言があったら、お受
けしたいと思います。どうぞ、野田委員。
【野田委員】
広範で、すばらしいお話で、ただ、その中で宮田さんもちょっと気を使
っておられたように、これ以上の話はここでするべきではないのかなというような、トー
タルの部分を少し避けられた感じがちょっとするんですが、ほんとうにそこはデータに基
づくというよりは宮田さんの感覚でよろしいですが、結局、仕分けの論理と同じことで、
透明性を高くして、さらに説明性を持たせて、オーバーラップをなくして、将来へのもの
を見させると同時に、物差しをきちっと置くという、それはよろしいんですけれども、そ
れを今ある医療費の中のこの研究費のバックフローの中でやれるものなのか。それとも、
先ほど最後に出てきた、いきなりアメリカに飛びつくわけではありませんが、初めから非
常に大きい器の中でそういう仕分けが行われている場所とどう比較していくのか、その辺
はどうお考えですか。
【宮田主任編集委員】
だから、まさにそこは皆さんが難しい問題で、今、日本が一種
分裂しているような状況になっちゃっているところですので、今の新政権の皆様もまだ整
合性がとれたような主張にはなっていません。ですから、仕分けというのはあくまでもデ
モンストレーションだったと思うんですけれども、それ以降、どこに軟着陸させるか、そ
れをいつやるかというのが、皆さんにとっても重要なことだと思います。私はことし中に
は無理だと思うので、せっかく「戦略」と名前がついているここの作業部会で、結論は出
せないでしょうけれども、こういう大きな戦略を国として定めたことが基礎研究を加速さ
せる一つの仕組みであるということは明示すべきだというふうに考えています。総合科学
技術会議とか、どこら辺で話せばいいのか私もよくわかりませんが、もうちょっと国家レ
ベルのところで議論してもらって大綱をつくるというようなところの努力も同時になさる
必要があるんですけれども、ここでずっとそういうのを千年河清を待つようにやっている
と皆さんの日々の糧がなくなってしまうので、ここはぜひ二番底として考えていただいて、
- 18 -
多分、小さなことだけやっていると予算はどんどん削られる方向に行きますので、ぜひこ
の 2 つの視点から議論をした上で現実的な着地というのをここできちっとやってもらいた
いなというふうに思っています。しようがないですよ。今は二正面作戦で行くしかないと
思います。
【垣添主査】
ほか、いかがでしょう。どうぞ、江角委員。
【江角委員】
今のことにもちょっと関係するんですが、例えば杉村先生たちが PARP
を見つけてから、実際に今、宮田さんが話題にされるまでには 45 年ぐらいかかっているわ
けですね。40 年前に同じ話をしても、だれも振り向きもしなかったわけです。それから、
宮田さんと同じシンポジウムに何度か出たことあるからよくご存じだと思いますが、例え
ばメタボローム一つにしたって、ピークは 2,000 個とか 3,000 個出るけれども、わかって
いるのは 800 ぐらいしかない。まだまだ発見ベースの学問というのは、依然としてうんと
必要であると。それは全くそのとおりだと思っていらっしゃるんだろうと思うんですが、
ただ、お話を伺うと、出口の製品化のところを急ぐと何物かわからないものを何となく抑
圧してしまうようなところがあるので、さっきの研究費一本化というのは、論理的には確
かにそのほうがきれいではあるんですが、歴史ってそんなにきれいにいかないもので、二
重、三重に安全弁をつくっておいたほうがいいこともあるんですね。ただ、国家としての
大きな戦略をつくるべきだというのは僕も全く賛成なんですが……。
【宮田主任編集委員】
江角先生のおっしゃるところは、皆さんそうだと思うんですね。
マルチファンディングがいいと思っているんですけれども、もうちょっと目を広くしてい
ただいて、例えばヒトゲノム研究の早暁期のときに科研費でお金が出なかったんですよ。
アメリカでも NIH では出ませんでした。ヨーロッパでもそうです。じゃあどこが出したか。
チャリタブルファンドです。ウェルカム・トラストとか、ジーンデューセット財団、それ
から、日本ですと日本財団が出したわけです。だから、今おっしゃったマルチファンディ
ングも私は絶対重要だと思うんですけれども、国のファンディングって、今みたいな時世
になると、国民ってわりと早急に結果を見れるような、ストーリーでいいと思うんですけ
ど、ストーリーを求めるんですね。それはそれでそういうものだと思って、きょうは書き
ませんでしたけれども、チャリタブルファンドみたいなもうちょっと自由なファンドとい
うのをつくっていかないと、ほんとうの意味で競争力のある基礎研究というのを支援でき
ないんじゃないかと思っています。何もかも国に頼るというのは必ずしも基礎研究のため
ではありません。ただし、例えば山中先生が iPS 細胞のためのチャリタブルファンドを今
- 19 -
つくっているんですが、どれぐらいそれが集まるかとか、そういうのをモニタリングして
いますが、まだまだ日本は弱いので英国のインペリアル・キャンサー・キャンペーンみた
いなものが日本ですぐできるとは思いませんけれども、さっき言った患者さんの参画みた
いなことは、ファンディングとか臨床試験を加速するために必要なんじゃないかなという
ふうに思っています。
【江角委員】
ぜひついでに、税制改革のところまで踏み込んでいただくとありがたい
んですが。
【宮田主任編集委員】
もちろんそのとおりです。そういうファンディングができない
のは、税控除の問題が相当大きいと思います。ハワード・ヒューズ財団ってありますね。
メディカル財団。あれはハワード・ヒューズの遺産相続のときに 1 ドルしか払わないため
につくったものでありますので、動機は不純でもいいものができるという可能性がありま
すので、税制の問題は非常に重要だと思います。
【垣添主査】
中村委員。
【中村委員】
ナレッジギャップというのはすごく大事で、我々も患者さんと共同しな
がら新しいものをつくり上げていくというのは大事ですし、わかりやすい目標設定という
のは大事なんですけれども、ミレニアムプロジェクトのときも、やっぱりわかりやすいと
いうことで数値目標をつくったと。確かに、わかりやすくするのはいいんですけれども、
ほんとうは心の中で 10 年、20 年かかると思っているものを安易に目標設定してしまうと
自分で自分の首を絞めるというようなことが起こりかねないわけで、実際、薬というのは
最後まで行き着くかどうかというのは非常にリスクが高いものをやっていくわけですし、
診断一つとってみてもかなり時間がかかるので、その辺のバランス。例えば、かつてポリ
ポーシの遺伝子を見つけたときに、がん抑制遺伝子が見つかったから、新聞の見出しでは
「大腸がんが治る」とかという見出しになってしまうわけですね。どうすればギャップを
埋められるのかということを考えていかないと、今のままナレッジギャップが多分どんど
ん開いてくると。そうすると、わかりやすい言葉を言うと、最終的にはいいかげんなこと
を言ったというような形で自分たちにはね返ってくるということもあるわけで、いろんな
問題はあるにしても、私自身感じているのは、日本のジャーナリズム、科学ジャーナリズ
ムというのは、日経新聞でも科学部はころころ人がかわるというような形で、要するに科
学専門のジャーナリストがいないので、いつまでも安易に平易にしているうちに、あいま
いな表現になってしまうと。ここには挙げておられませんでしたが、わかりやすくナレッ
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ジギャップを埋めていかない限り患者さんと共闘するのはなかなか難しいと思うんですけ
れども、そのあたりについては、逆にジャーナリズムから見て、私はこの問題というのは
ものすごく大きな問題だと思うんですが……。
【宮田主任編集委員】
ものすごく大きいです。ものすごく大きくて、こういう会だと
必ず 1 回はざんげしなきゃいけない。(笑)私どもの力不足というのは明白でありますけ
れども、僕らが謝って改善するだけじゃないです。相互に努力しなきゃいけない。実を言
うと、日本では科学雑誌が売れないんです。何でこんなになっちゃったんだろうと。かつ
て僕らが『鉄腕アトム』を読んで科学を志したときとシチュエーションが違っているんで
すね。多分、短期、中期、長期の対策が必要で、長期のほうで言えば、初等中等教育の理
科教育をもっとエキサイティングにして、実験や実習などをしていただいて、自然のすご
さというのを実感してほしいと思います。中期は、ジャーナリズムも含めて、科学的な情
報提供に対して関心を持っていただくようなメディアをつくっていく。この場合、紙メデ
ィアはコストが高いので、ウェブに大きく期待したいというふうに、一つは思っています。
短期的にはどうしたらいいかというと、目標を設定します。例えば、僕が iPS で懸念して
いるのは、5 年以内に臨床研究やるって約束しちゃいましたよね。あれはちょっとかわい
そうだなと、皆さんが受けているプレッシャーは非常に考えていますけれども。そういう
のを言ってもいいんですが、なぜ 5 年以内に可能なのかということをきちっと明確にして
いくべきじゃないですか。それで、条件が変わったんだから 6 年後になるとか 8 年後にな
るというような説明があれば、我々は皆さんのことをオオカミ少年だとは言わないんです。
だから、今回のマニフェストでもそうですけれども、プロセスを明示する、あるいはロー
ドマップみたいなものをきちっと私たちに提示していただいて、毎年そういうレビューを
していただいて我々を訓練していただければ、多分、どの研究のブレークスルーが重要な
のかというのを我々も勉強できるので、きちっとした報道になるんじゃないかなというふ
うに思います。
【野田委員】
そこにちょっとだけ疑問があるんですが、ボトムアップとトップダウン
だ、あるいは患者さんと一緒だ、あるいは政府主導だと、こうあると思うんですけど、今
のようにロードマップがかきやすいものというものに集中していったときに、今、それが
その陰にある将来につながるものを一緒に持っていけるような体制ならばいいんですけれ
ども、全体が縮小しているというこの時期、人材育成まですべて縮小していくわけですね。
縮小していくときに、かきやすいもの、おまけにジャーナリズムがみんなを興奮させやす
- 21 -
いものに集中することで、ここの仕分けのちょっと手前を見ても、それを保つためによそ
のものが逆に吸われるような、非常にアンバランスな状況ができている。そうなるとやっ
ぱり、政治主導もいいし、国民主導も絶対必要なんだけれども、国民を介さないでも、ス
タディーセクションなのか、ナレッジをきちんとトランスファー続けられるようなボディ
ーがどこかに必要で、そのサイエンティストとジャーナリストがきちっと物を交換続けら
れるようなシステムが必要なのではないかと。政治主導で大きいものが何か落ちそうだ、
落ちるところに両側から入っていく、そして国民に説明をどうしようかという、そのシス
テムが、何年かごとにブツンブツンと切れるこの理由なのではないかというふうに思うん
です。
【宮田主任編集委員】
全くそのとおりです。ただ、さっきも申し上げたとおり、マル
チファンディングの仕組みとして国の中のマルチファンディングとさっきのチャリタブル
ファンドも入れたマルチファンディングを考えなきゃいけなくて、国の中のマルチファン
ディングを考えると、例えば NIH と NSF の関係。つまり、NSF は基礎的なところに入れま
すよね、どっちかというとキュリオシティドリブンに。だから、そういうような枠と今こ
こで議論されている枠は何が違うのかというのを明確にして、同じだったらそういうよう
な形でやればいいし、そうじゃなくて戦略的な研究、NIH 的なものと NSF 的なものを例え
ば 8 対 2 にするとか、そういうことを分ければいいんじゃないかと考えていますが、逆に
言えば、ここはどっちかというと、さっき僕が言いましたとおり、将来、僕ががんになっ
たときに皆さんに治してもらうような研究のほうが、国民はわかりやすいのかな。今、野
田先生がおっしゃったようなことに関しては、別の仕組みがあるのかなと。ほんとうは、
公費をもうちょっとふやして、大学が自由にやる、あるいは公的研究機関がもっと自由に
自主判断をするという多様性のほうが重要だと思います。
【垣添主査】
この議論は大変重要だと思いますので、今、ベルが鳴りましたけど、私
の判断で 10 分延長して、もう 1 回ベルを鳴らしてください。で、もう少し質疑を受けたい
と思います。
若林委員。
【若林委員】
最後のほうのスライドで対費用効果というのが出ていたと思いますが、
算出が非常に難しいだろうなと思っています。例えば結核一つとってみても、ずっと年代
を追っていきますと、抗生剤ですとかいうようなものが発明されたのは近代なんですね。
胃がんについても、日本での死亡率は 50 年間で半分ぐらいになりましたけれども、胃がん
- 22 -
の対策とは別に、何かわからないファクターが関与しているように思います。投資した額
だけで割ってしまうと、ほんとうの値が出てくるか心配します。
【宮田主任編集委員】
おっしゃったとおり。だかち、私が申し上げたのは、基礎研究
としてそういうようなことを可能にするような研究をやってほしいんです。公衆衛生の強
化をしっかりやって、それからデータもしっかり集められるような体制にして、統計学者
もしっかりいて、国際的な議論に耐えられるような体制にしましょう。だって、臨床統計
学者が名前が覚えられるぐらいしかいない国というのは、おかしいと思います。
【野田委員】
今の議論のスタートのところ、ちょっと誤解されると困るのでもう 1 回
言い直しますが、それは今までの話で、要するに、盛り上がっているものに追いついたと
きに、それは違う理由で消えている。そうなると、最初から追う必要ないじゃないかとい
う話になる。だからこそ私たちはおととい声明を出したんですけれども、その距離は短く
なっているんですよ、明らかに。つまり、今までは時間がかかったからトレンドに追いつ
けなかったけれども、今は今おっしゃったようにこれからのシステムをつくっていくこと
でトレンドを追い越すようにできるんだから科学技術を絶つべきじゃないというのが今の
主張だし、そうすると、さっきのナレッジトランスファーからすれば、ほんとうに追いつ
いているのを見せてくださいよと。でも、例を見せれば、幾らでもあるんですよ、今。例
えばキナーゼインヒビターが横に広がって死にそうになっているキナーゼインヒビターの
ときに、新しいフュージョンが見つかっただけで、レトロスペクティブ、プロスペクティ
ブじゃない、レトロスペクティブな TR で 2 年で患者にやれるようになるというのがあるわ
けだから、そこのところ、今の議論はちょっと気をつけなきゃいけないのは、そんなこと
ないんですね。今は追いつけるようになっているし、追いつくのをもっと速く、そして効
率的に。一番説得するためには、エビデンスに基づいて物を追いかけましょうということ
ですね。
【宮田主任編集委員】
【田島委員】
全く同感です。
非常に興味深くお聞きしていました。疫学の立場からがん全体を見てい
きますと、患者の罹患数は非常にふえています。年齢の要素もあります。しかし、死亡に
関してはかなりコントロールされつつあり、要するに生存するがんの患者がこれからどん
どんふえてくるわけで、やはり医療費の加算となります。そして、がんと闘いながら、共
存しながらという時代がこれからずっと続くと思いますが、こういう中でがん研究という
ものをどう進めていくかというのを考えていく必要があると思うんです。
- 23 -
先ほど来議論されている中で、アウトカムがはっきりしているような研究と、非常に重
要だけれどもまだ混沌としているような研究というのがあると思うんです。その混沌とし
た研究に対する国あるいは国民の理解を得るため、我々はナレッジトランスファーに努力
しなければいけません。その辺に対する国民の参加や、理解が得られるように研究者は努
力する必要があるし、国もそういう方向で考えていただかないと、がんだけじゃないと思
いますが、研究というのは先細りしていくと思います。
国際対がん連合なんかで国際活動を見ておりますと、日本の特性というのは、さっきお
っしゃったチャリティーファンディングが弱いんです。これは疫学のコホート研究なんか
もそうなんですが、みんなで参加する分には抵抗ないんですが、1 人 1 人が判断して参加
していくという感覚が乏しいんです。例えばワンダラー・ドネーションとかというのがア
メリカでは走っていて、それで寄付金が多く集まるんですね。だけど、日本で 100 円ドネ
ーションをやってもそんなに集まらない。そういった国民性も今こそこういうターニング
ポイントで変えていかなきゃいけないのかなと思います。そのときにジャーナリズムの世
界の力はものすごく大きいと思いますので、期待したいと思います。
【宮田主任編集委員】
どうもありがとうございました。それで、2 つ申し上げたいと
思います。ドネーションは、実際に赤い羽根や何かを我々やって、結局何なんだというこ
とがもう少しわかるといいですね。だから、何か成功したドネーションを科学研究でひと
つ皆さんに頑張っていただきたいなと、実は思っています。そうすると制度も後からつい
てくるというのが、大体日本のやり方だろうなというふうに思います。
それからもう 1 つ、混沌としたカオスというのがサイエンスとしては一番おもしろいと
ころですよね。だけど、皆さんにお願いしたいのは、その混沌というのは科学によってい
つか説明可能になるんだという確信を示していただきたいんです。だったら投資してもい
いんじゃないかと僕らは思うんですけど、わりと混沌を大切にする科学者というのがいて、
それはちょっと違うんじゃないか、それは自分たちのファンドでやってもらいたいなとい
うふうに思っております。
【垣添主査】
私も 1 つ。ナレッジトランスファーの話が先ほど来幾つか出ていました
が、研究者が情報を提供するというのはもちろん極めて重要ですけれど、広く国民のほう
が寄ってくる、向こう側も近づいてくるという双方の努力が必要だと思うんですが、後者
のほうに関してはどんなふうに、ジャーナリストとしてお考えですか。
【宮田主任編集委員】
多分、皆さんはいろいろな『患者団体』にお会いになっている
- 24 -
と思うんですけれども、10 年か 15 年ぐらい前だったら議論がかみ合うような患者団体っ
てほどんどなかったと思うんですが、今ではほんとうに同じ土俵で議論できるような患者
団体が日本では成長しつつあると思います。日本のパブリックナレッジはほかの先進国と
比べて高いので、今、貧富の差はつき始めましたけど、ナレッジというか教育においては
非常に均質な国なので、私は、継続的な努力をすれば、10 年後には随分変わるんじゃない
か、あるいは 5 年後にも随分変わるんじゃないかというふうに思っています。
【垣添主査】
深見委員、どうぞ。
【深見委員】
大変おもしろく聞かせていただきました。オミックス等の情報というも
のによっていろんな標的治療薬の可能性が広がるということなんですけれども、実際にそ
ういった情報を日本の国策として、日本が共通として持っていくところでは、どの程度の
組織というものを考えていったらいいのかということと、それからもう 1 つ、先ほど癌学
会のところではマウスのお話ばかりでおもしろくないということがあったんですけれども
……。
【宮田主任編集委員】
【深見委員】
それは外人の記者が言っていたんです。僕じゃないです。(笑)
個人情報の問題等もありまして、ヒトのサンプルというのがなかなか使
いにくいというところもあると思うんですね。そういった臨床のサンプルの供給というの
を公の機関がどういうような形でやるのか、公の機関はどういうふうなあり方がいいのか
という、そのあたりについてのご意見等があったら、お聞かせ願いたいんですが。
【宮田主任編集委員】
結構そこは重要な問題だと思います。特にヒトのサンプルをど
うやって日本で公明正大に供給して、特にベンチャーや何かが使うかというのは、非常に
大きな壁がありますね。じゃあその壁というのは日本人独自の壁かというと、心理的な壁
だけだと思っているんです。さっき言ったナレッジギャップみたいなものが実はその背景
にありますので、きちっとこういうような手続で利害相反もマネジメントしながらやって
いるということを死ぬほど言うというのが一つだというふうに思いますし、それからやっ
ぱり、どう考えたって初等中等教育をもう少ししっかりしていただいて、現実に小学生・
中学生に、がんセンターで皆さんが寝ないで仕事をしているところを見せる、実際の治療
で患者さんが治って歩いて帰るようなところを見せるというような感動的な体験が今は少
ないですよね。だから、さっき言ったがんの患者さんを治療に参加させろということの次
は、多分、国民の関心を、いつかおまえもがんになるという恐怖心だけじゃなくて、国の
中でこんなに一生懸命いい仕事をしている人たちがいるんだということをナレッジギャッ
- 25 -
プとして知ってもらうというような機会をつくらないとだめだと思います。それが 1 番で、
そういうことは余計なことだと思わないでください。自分たちの研究費としては一銭も返
ってこないと思いますけど、10 年後の後進のために貯金をするために、ぜひそういうこと
をやってほしいというふうに思います。
【垣添主査】
ありがとうございました。まだいろいろご議論あろうかと思いますが、
一応時間ですので、これで終わらせていただきます。大変活発なご議論、どうもありがと
うございました。
続きまして、臨床、特に外科療法の専門家のお立場でお越しいただいております、千葉
大学大学院の医学研究院臓器制御外科学教授の宮崎様にお願いいたしたいと思います。ヒ
アリングは 20 分、質疑 5 分、計 25 分でお願いします。
よろしくお願いします。
【宮崎教授】
千葉大の宮崎と申します。私自身は外科の臨床医ですから、毎日毎日、
がんの患者さんを手術しております。そういうような観点から、外科臨床においてどのよ
うな基礎研究というのが役立っているか。おそらく基礎研究とは一番ほど遠い臨床家とい
うふうに思われている方が多いかと思いますけど、外科というのは、診療報酬が非常に安
いのですが、現在、最も効率的にがんを治すチャンピオンだと、私自身は思っています。
そういう観点でお聞き願いたいと思います。
先ほどもちょっと話が出ましたけど、がんの罹患率と死亡率というのはギャップがあり
ます。罹患率に関してはこのような統計が出されておりますけれども、罹患率が必ずしも
死亡率につながらない。つまり、罹患するがん種によっては非常によく治ってきて、これ
は過去の努力で治ってきたわけですけれども、そうかと思うと、いまだがんの罹患率と死
亡率がイコールというような部分もあります。例えば、これは私が特に専門としている領
域なんですけれども、肝・胆・膵領域は特にこれがひどうございます。例えば膵臓のがん
を見ていただきますと、左側の罹患率、これは男女になっています。右側の死亡率、これ
も男女になっています。ほとんど直線が右肩上がりで上がっていますけれども、死亡率も
一緒に同様なカーブで上がっているという、こういうようながん、同じがんでも全く違う
ことがおわかりになると思います。
こういうようながんを私ども臨床家は患者さんとしてまず対峙するわけですけれども、
縦軸にステージというものを並べてみました。右側に時間軸を並べてみました。ステージ
1 で見つかったからといって、ステージ 4 で見つかったからといって、そのがんはすべて
- 26 -
末期の状態のものではない、また、すべて早いわけでもないということも、よくおわかり
になると思います。ステージ 4 で見つかっても、治療によって長生きできるステージ 4 も
居れば、ステージ 4 で見つかったらすぐアウトやというようながん種もあります。がん種
にこのような性格の違いがあります。
そういうがんの臨床成績を発展させるため外科医から見た研究というのには、きょう討
議されている基礎研究、臨床研究、それから、私ども実地臨床における試みとして、高度
先進医療とか、難治がんへの医療というのが、研究のテーマとして大きく分けられます。
このがん研究のさまざまなアプローチにおいては、臨床的研究と基礎的研究があります。
きょうは、臨床的研究はさておいて、基礎的研究のみにターゲットを当てて外科医の考え
を述べさせていただきますと、生物学から見たがんの基礎研究、きょう前半であった研究
というのはほとんどこれに当たるかと思います。実地臨床から見たがんの基礎研究という
のも、先ほども距離があるという話がちょっと出ていましたけど、私どもはどっちかとい
うと、実地臨床からいくと、トランスレーショナル・リサーチとしてこういうものを中心
にとらえています。実地臨床からはやはり何といってもクリニカル・オリエンテッド・リ
サーチに興味があり、先ほどナレッジギャップという話が出ましたけど、外科医から見て
もベーシック・リサーチャーとのナレッジギャップというか目的とする研究の方向性の違
いというのを時々感じざるを得ないところがあります。しかしながら、よく吟味していく
と、基礎研究者の行う研究の中にこれは将来必ず臨床につながってくるというような例を
実感する事もあります。
クリニカルなオリエンテッド・リサーチの方向性としては、私ども外科医ですから、ま
ずは手術方法・術式の開発とかがあります。これもがんには直接かかわることですけれど
も、きょうはちょっとテーマが違うのかな思って、外させていただきました。それから、
がんの手術適応、これはテーラーメードにつながる話です。それから、がんの外科切除プ
ラス多角的治療戦略、これもテーラーメードに結びつく戦略です。現在、分子標的とか、
いろんな治療でがんの治療が試みられてきていますが、相変わらず実地臨床では、これを
強調しておきたいんですけど、外科切除が唯一の治癒の可能性を持った治療法であるとい
う大きな現実があります。多くのがんにおいてそうです。例えば、ここに挙げた、胃がん、
大腸がん、胆管がん、胆嚢がん、膵臓がん、肺がんというのが全てそうです。
これは一つの例ですけれども、胆道がんの話をさせていただきます。ここにありますけ
れども、この黄色い線は切除例の根治手術ができた人です。もちろん十分ではありません
- 27 -
けど、40%以上の患者さんが生き長らえる可能性を持っています。非治癒切除ですと、ち
ょっと悪くなります。非切除ですと、青い線で、こんなに悪いんですね。これは胆道がん
の現状です。ことし、アメリカの ASCO で化学療法、分子標的の話のところへ行きますと、
こういう成績が出ていました。これは私どもも含めて国立がんセンターの化学療法部と共
同研究をしたものですけれども、この線をよく見てください。これは 2 年なんですね。こ
こですと、この青い線のレベルでちょっと上がった下がったというのが、現実の化学療法
とか分子標的の世界です。それに比べて、非切除が切除に変わるとこれだけ治療成績が上
がるというのがよくおわかりになるという比較のためにつくらせていただきました。
ちょっと話を変えますが、アメリカの話が出ましたけれども、NIH のグラントで外科全
体のグラントは、157 件が 222 件に上がりました。1982 年から 2004 年の間に、全体ではこ
のグラントは随分ふえています。79%、1.8 倍になっていますけれども、外科は 1.4 倍。
ふえていますけれども、不十分。なぜこういうことが起こるのかなということを、私自身
はアメリカでもこういうことが起こるというのを非常に不思議に思って見ています。
ちょっと、実地臨床でどういうことが基礎研究から私どもが学ばせていただくかという
ことを、実例を挙げながらお話しさせていただきます。
これは膵がんの患者です。こういうような小さながんがありました。これを外科の普通
の切除で取りました。2 センチ足らずの膵がんが見つかって、よかった、よかったという
ふうな話を患者さんにはするわけです。ところが、外科切除後約 4 カ月でこのような肝転
移を起こしてしまう。2 センチといっても、こんなことが起こるわけです。そうかと思い
ますと、このがんは東京のある施設から私どものところに送られた症例ですけれども、大
変しんどいがんで、切除不能であろうと。先ほどのがんに比べると、ずっと大きいがんで
す。こういうがんを取れるとなったら、外科医ですから頑張って取ったわけですね。そう
いう患者さんは、さっきのがん種と違って、何とけろりと 6 年 8 カ月無再発生存。こうい
うようにがんの種類によって現在の画像診断でも全く異なるビヘイビアを示すということ
が、実地臨床ではしばしば明らかになっています。第 1 例目の症例は、先ほどの医療のむ
だ遣いから言えば、外科医も労力のむだ遣いだったかもしれない。2 例目は、あきらめる
ことが患者さんにとって大変不幸な結果招く。これはやって正解だったと当然思うわけで
す。こういうものを分けていく必要があるだろうという気がします。
そういう観点からこういうがんを、先ほど臨床サンプルの話が出ましたけど、私どもの
医学部の基礎研究とタイアップして、いろんな研究を行うわけです。そうすると、がんの
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組織からいろんなものが抽出されてきて、これはあるタンパクですけれども、ターゲット
プロテインが出てきて、プロテインチップで確認しますと、これは ApoC-1 であるというこ
とがわかってきて、現在、こういうものを臨床的に活かしていって、患者さんの症例選択
をしていく。この患者さんはゆっくり発育するがんであるということがわかってきました。
これは定量的にメッセージでもってそれを、膵がん組織、臨床サンプルですけれども、調
べていくと、同様に ApoC-1 が発現していることがわかる。これをさらにセルラインで同じ
ように確認をしていきます。この ApoC-1 というタンパクがどういう発現をしているか。ブ
ロックすると細胞増殖が抑えられるということを確認して、これは siRNA を使った実験で
すけれども、細胞増殖に関して重要な役割を担う。こういうように臨床の結果からサンプ
ルを使って基礎にフィードバックして、こういう研究をしてもらいたいということをお願
いして共同研究をすると、こういう結果が得られた。こういう研究は、臨床家から、外科
医から見ると非常に目に見えてわかりやすいものだなという感じがいたします。そういう
意味でも、こういう基礎研究も大いに今後やっていかなきゃならない研究だと思います。
一方、これも膵がんですけれども、膵臓にがんができて、肝転移もあって、いろんな周
囲にがん浸潤があって、これもステージ 4b ということで、切除不能ということになります。
こういう患者さんを昨今のいろんな化学療法の進歩で治療をします。当時はこの患者さん
は 1 年生きられればいいなというようなデータになってくるわけですけど、こういうこと
で今は変わってきたことがあります。新たな化学療法によって、中にはえらく効いている
人もいます。先ほどのがんの特異性が症例によって異なりますから。2 年から 3 年にかけ
てこの患者さんは化学療法をやったんですけれども、化学療法で全くお元気。そこで、思
い切って外科医としてイメージを変えるわけですね。この患者さんはひょっとして手術が
できるかもしれないということで、手術を。これは後になって聞いてみると非常に簡単な
んですけど、臨床医としては、そういうスタンスから切除不能のものが切除可能になると
いうのは、非常なインパクトです。これをやって、手術に持っていったんです。がんがこ
のように小さくなっていますけど、こういう症例を出すと必ず、化学療法をやり続ければ、
このほうが正解だろうということをよく言われるんですけれども、一番右下はがんが小さ
くなったところ。この患者さんはもちろん、抗がん剤で生き長らえたからこのままでいい
といって抗がん剤をやめると、たちまちのうちにがんは大きくなりました。そこで手術を
しました。この患者さんは、その後 3 年 8 カ月、現在も外来通院という、こういうような
症例が臨床からわかってきます。
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こういう症例の耐性株を見出してみると、現在、ジェムシタビンという抗がん剤は大変
よく使われる薬ですけれども、細胞培養して調べていきますと、色々な事がよくわかって
きます。このようにがん種によってさまざまなものがあると。そうしたらば、こういう新
しい抗がん剤を使った、がん種に対応できるがんの特異性を見出していくこと、もしくは
この耐性因子をブロックすることをやってくれないかということをこちらから基礎にお願
いして共同研究をしていくというようなことをやっているわけです。
このようなことでやってみると、実際に膵がんの患者さんでも予後が着実によくなって
きたというのがおわかりになってくださるかと思いますけれども、最初のオペから組織が
取れます。1 回目のオペで化学療法を使いますと、再発した症例でもう 1 回手術をします。
そのときに、先ほど示した抗がん剤で誘導されるアネキシン 2 という発現が免疫組織染色
で臨床実地の症例で確認をすることができます。
同様に別の症例です。無再発期間が 24 カ月ですけれども、やはり再発が出てきまして、
2 年後に再切除をしました。したがって、このときには、1 度目には耐性因子が出てきませ
ん。こういう抗がん剤の耐性因子というのは、現在ではマルチドライブレジスタンスとし
てほかのがん種でも、ほかの抗がん剤にも効かないということが予想されるようなデータ
になってきました。実際の症例でこういうものが実地証明されると大変心強くて、現在で
は最初のオペのときに切除できた標本をもとに抗がん剤の種類を決めるということももち
ろん可能ですし、再発したときの対応を症例によって考える。場合によっては、残念なが
らあなたは多分そこまで行かないだろうということを患者さんにインフォームして、予後
をより明確にして QOL を保つような生活を営んでいただくというような試みをしておりま
す。
これが実際の生存率ですけれども、そういう因子から見てテーラーメードが確実にこう
いう症例を選んで、膵がんといえども 40%以上の成績が得られる群を、セレクションでき
るようになる。こういうことは、患者さんにとっては大きな貢献になるだろうし、外科と
いう労力のむだ遣いも、医療資源のむだ遣いもなくせるだろうというふうに考えて、基礎
の研究を臨床応用しているというのが現実です。こういうことをしていくと、ペイシェン
ト・セレクション、これはうちのある一施設と思ってごらんになっていただければ結構で
す。オレンジ色の線が生存率ですけれども、年ごとによくなっています。これは、手術が
うまくなったとか、別にそういう問題ではなくて、いろんな総合力、ここでは簡単には解
析できないと思います。いろんな基礎の先ほど示したようなデータを集約することによっ
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て、はっきり言えばテーラーメード治療ができるようになったこと。それによってペイシ
ェント・セレクションができている。これの医療のコストベネフィットに関する試算をす
ることはちょっと難しいので行っていませんけれども、こういうことはきっとコストベネ
フィットからいっても役に立っているのではないかと期待しています。
もう 1 つ、同様な研究の方向性をお話しします。肝臓がんでの生体肝移植というのは、
末期肝硬変の早期の肝がんに対する治療として、現在、保険適用にも認められています。
それは、ミラノの分類というのがあって、ミラノクライテリアということでやっています
が、これは単に数とか大きさでもって決めているんですけれども、ミラノ外、つまり、通
常は適用と言われてないような症例でも長生きする症例があるというのがわかっています。
そういう症例を新たに拾い上げる。本来は、先ほどのがんの場合と同じで、見逃して、そ
のままだめと言わないで、その中にもいい症例がある。患者さんにとっては長生きするチ
ャンスがあり得る訳です。そういう症例を個々選び出していくというような研究は絶対必
要ですし、それこそまさにインディビジュアルな治療かと思います。そういうものを研究
するために肝がんの臨床サンプルからいろんな予後因子を解析して、これは基礎研究にゆ
だねなければできない仕事ですけれども、基礎研究にゆだねて、いろいろ調べさせてもら
っています。こういうことをしていくことで、この臨床成績がそのまま肝がんの肝移植適
用の拡大および移植後の治療成績の向上等々につながっていくであろうというふうに考え
ています。
同様な研究を、これは臨床の肝静脈サンプルといって、がんからすぐ出るところで採血
をして、これを見て、先ほど血管新生因子の話が特定領域研究でされていましたけど、ア
ンギオポイエチン-2 と CD34 の発現から見た血管新生のコリレーションを見ると非常によ
く相関するというようなデータを出してみたわけです。これが予後から見てグリーンの非
常にいいやつと悪いが選び出せるということになってくると、こういうものを当然ペイシ
ェント・セレクションとして使っていくことができて、がんの外科治療の、移植治療も含
めてですけれども、適応のより明確な方向性に行くだろうというふうに期待しております。
まとめさせていただきます。外科切除というのが唯一の根治治療法である多くのがんの
成績向上に新たな基礎研究で得られた情報を活用していかに効率的に外科治療を行って成
績を上げるかというのが、現実では最大の有効な方法であろうと考えています。したがっ
て、がんの基礎研究においてもぜひこの観点よりクリニカル・オリエンテッドなリサーチ
を念頭に置いていただいて、そういう研究にも多くのエネルギーを注いでいただきたいし、
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お金も注いでいただきたいというふうに考えています。特に、きょう臨床例から例示をさ
せていただきましたけど、がんの早期診断によって切除不能例から切除可能例を増加させ
るということは大きな、トータルの成績をよくする意味では大事かと思います。それから
もう 1 つは、がんの悪性度評価より見た切除適応の適正化。非常に悪性度の高いものは、
やはり外科治療には向いていません。それから、新規抗がん剤、放射線、これから放射線
の先生が話をされると思いますけれども、こういう補助療法の開発により外科切除の適応
例はさらに増加すると、私は期待しています。それから、きょうは述べませんでしたけど、
手術侵襲というものも外科治療において非常に大きな問題です。これをどうコントロール
していくかということも、治療成績の向上には実際には大きな意味を持ってきています。
このように外科医は単に鉢巻きを巻いてがんと闘っているというふうに思われる方が多
いかと思いますけど、そこにサイエンティフィックなナレッジをいかに生かして外科切除
の有効な活用をしていくことが、がんの患者の治療成績を上げる最も近道な方法かなとい
うふうに私自身は考えて、今後の基礎の臨床的なオリエンテッドの研究の発展に期待した
いと思います。
以上です。どうもありがとうございました。
【垣添主査】
どうもありがとうございました。
ただいまのご発表に対して何か、ご質問、ご発言がありましたら、お受けしたいと思い
ます。
野田委員。
【野田委員】
宮崎先生、ありがとうございました。先生が今回非常に力を入れて示さ
れたのは、いわゆる科学技術が医療を進歩させるときにリバース TR がないと有効なものは
起きないと。つまり、治療のその段階、その段階を見つめないと先へ進めないということ
だと思うんですが、きょう先生が言われたリバース TR が行われている大学病院を中心に、
いわゆる運営費交付金の問題であったり、医療費の問題であったり、経営効率の問題でそ
この場のリサーチャーの数が減っているというのは事実なんだと思いますが、そのときに、
そういう機構の中におられる先生たちにこういう文科省のシステマチックなファンディン
グというのは、そこを支えたり、広げたりすることに役に立つものでしょうか。要するに
科研費ですね。そういうリバース TR のシーズ探索から基礎と一緒にやっていくなんていう
ところの科研費が充実すれば、臨床系の先生たちを支えられるんでしょうか。
【宮崎教授】
それは各施設のシステムにもよるかとも思います。私は今たまたま大学
- 32 -
におって、臨床の講座として仕事をして、主たるものは診療です。それからもちろん研究
分野では基礎といかに効率的にコラボして、これは大学を超えてやっているわけですが、
現在の文科省の科研費というのはそういう意味では、私のところも大変いろいろいただい
ていますけれども、有効に利用させていただいています。ただ、私が、基礎との研究、リ
サーチャー、専門のプロとディスカッションして持っていくときに、はっきり言えば基礎
の先生が興味を持っているリサーチ、それは、先にある、もっと大きな影響力を持つ研究
テーマだと思います。その重要性はよくわかるんですけれども、そういうものだけでなく、
クリニカルにオリエンテッドなリサーチでもやっていただける基礎医学者というのが、臨
床医から見たら非常に欲しいです。それは、外科の現場から言うと、現在では外科の大学
院生を派遣して、そういう研究を一緒にやってくれるリサーチャーを探して、指導者を探
してやっているというのが現実。ただ、そこでのファンディングに関しては、科研費をい
ただいて使うことは十分できます。
【野田委員】
そうすると、ちょっとこれから話が外れちゃいますが、例えば 10 年する
と基礎に MD のリサーチャーはいなくなるんじゃないか。このまま臨床研修制度が続いて、
こういうファンディングのシステムが続いて、それから大学病院の経営効率を求められれ
ば、基礎の MD はいなくなるんじゃないかという流れがありますが、それはどうお考えです
か。それに対して、今の先生は。
【宮崎教授】
そういう危惧を基礎の先生が抱いているというのは、よく理解していま
す。ただ、多くの者が臨床に入ってきますね、MD を卒業した人が。多くの者が臨床に入っ
てきて、現場の臨床の現実を見せますと、こういうふうな基礎はこういうふうに役立って
いる、現実にここまで課題があるんだということを見せて、それから基礎に行かせますと、
先ほどちょっと宮田さんもおっしゃったように、要するにもともとナレッジが高ければ、
知的好奇心が高ければ始まってくれると思って、現在はそういう形で私どもは大勢の大学
院生を研究に従事させていく方向性をとって教育をしている。本来はもっと早いレベルで
そういう知的好奇心を持たせればいいんでしょうけど、医学というか、医療から見た基礎
医学の大事さを残念ながら学生のうちには十分認識してくれてないで卒業しているように、
私には感じます。ですから、卒業した上で現場の医療を見せて、いかに今後の医療の発展
のために基礎医学研究が大事であるかということを感じさせてから研究生活をさせるとい
うふうにしていくことで何とか賄っているというのが、本音です。
【中村委員】
先生はいろいろ臨床応用につながるような成果をお話しされましたが、
- 33 -
がん特定研究で見ていても、類似のシーズというのか、これをもっと全国レベルで評価し
て応用すれば患者さんの QOL をよくすることができるのになと思うことがあるんですけれ
ども、そこの壁、研究レベルでは検討しているのに、実際、臨床応用するところまで至ら
ない壁というのは、先生、外科の立場からごらんになってどういうふうに思われますか。
【宮崎教授】
先ほどもちょっとお話しさせていただきましたが、やはり基礎の先生方
のリサーチの興味というものと私どもが問題重視しているところが必ずしもいつも一致す
るわけではないと。基礎の先生の中でもいろいろと臨床の、刹那的といいましょうか、早
い段階で答えが出る研究目的に対して理解を示してくださる先生もいます。そういう先生
と共同研究を張っていくことによってこういう問題は解決できると思うんですけれども、
ただ、私ら臨床家から見た答えの出し方と、基礎の先生から見た答えの出し方は多分違う
んだろうというふうに思います。それはそれで討議していっていいんじゃないかと思いま
す。ただ、こちらの課題というものを基礎の先生が真っ正面からとらえていただいてアプ
ローチを下していただければ、全く問題ないと。ところが、現在それがなかなかうまくい
かないというのが問題かもしれません。
【中村委員】
多分、共通するところがあって、基礎の研究者でもやろうとしている人
がいますけれども、例えば千葉大学の関連の病院だけでは、世界的なレベルでの評価とい
うか、科学的なエビデンスを出すのには難しいと思うんです。そういう意味で臨床のネッ
トワークというのが日本は非常に弱いと思うんですけれども、そこに対しては、臨床側、
例えば外科から見て、こういうものを応用しようというような、例えば外科学会とか癌治
療学会でのネットワークというのは、そういう動きはあるんでしょうか。
【宮崎教授】
私も外科学会の理事をさせていただいて、いろんな仕事でそういう外科
の研究のあり方をディスカッションしていますけど、残念ながら先生のおっしゃるとおり
非常に個々の壁というのは大きくて、こういう研究も共通のものというのはしにくいのが
現実です。ただ、専門性の高いフィールドの学会、そちらのほうでは割合に専門医同志が
同じ課題を持ち合わせていますから、例えば膵臓がんについてなら膵臓がん、乳がんなら
乳がん、そういうところでは全国共通の、それこそサンプルを共通に利用して、臨床研究
を共同でやるという姿勢は、日本では今生まれつつあるというふうに思っています。
【垣添主査】
じゃ、時間ですので終わります。ありがとうございました。
続きまして、臨床の、今度は放射線療法の専門家のお立場でお越しいただいております、
京都大学大学院の医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学の教授の平岡先生と、それか
- 34 -
ら、放射線医学研究所重粒子医科学センターのセンター長の鎌田先生のお二人にお願いを
したいと思います。ヒアリングは、おのおの発表 10 分、質疑 5 分、ですからトータルで
25 分ということで、よろしくお願いします。
【平岡教授】
京都大学の放射線治療学の平岡と申します。私は、今後のがん研究とい
うことを放射線腫瘍学の立場から話をさせていただきたいと思います。少し早口になるか
と思いますが、お許しください。
まず認識していただきたいのは、放射線治療を受ける患者さんというのは近年非常に急
増しているということであります。2005 年におきまして、その年にあなたはがんですよと
新規に診断を受けた患者さんの 25%の方が放射線治療を受けております。これは、その 10
年前に比べますと、15%から 25%、10%ふえております。それがさらに 2015 年には 40%
の患者さん、数にしますと 36 万人の方が放射線治療を受けるということで、再発した人を
含めますと、40 万人以上の方が放射線治療を受ける、これだけ多くの人が放射線治療を受
けるということは、非常に重要な事実でございます。
ところが一方、欧米を見ますと、がんの新規患者の大体 6 割の方が放射線治療を受ける
というのが、グローバルスタンダードでございます。それを考えますと、日本ではもっと
放射線治療を受ける患者がふえるだろうというふうに言えるかと思います。
なぜ日本でふえているかといいますと、最も大きいのは高齢化社会の急速な到来という
ことで、手術できないとか、あるいは手術よりも放射線治療が適している患者さんなど、
絶対数がふえているということが一つございますし、それと、IT、あるいは画像技術等の
新しい技術によって放射線治療が高度化している、治らないのが治るようになったと、そ
ういうふうなことがあるかと思います。
放射線治療でなぜがんが死ぬかということですけれども、放射線のターゲットというの
は、細胞の核内に存在する DNA でございます。いかに放射線が効率よく細胞を殺せるかと
いうことをそこに示しておりますけれども、問題はがん細胞にも正常細胞にもターゲット
が存在するということでございます。したがいまして、放射線治療が目指すものというこ
とは、がんに対していかに選択的な損傷を起こすかということでございまして、そのアプ
ローチといたしましては、生物学的な方法と物理工学的な方法がございます。生物学的な
アプローチというのは同じ線量が当たってもがんだけがばたばた死んでいくという方法で
ございますし、物理工学的なアプローチというのは、後でお話ししますけれども、がんに
放射線を集中するというテクノロジーを用いた方法でございます。それと同時に、放射線
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治療の有効性をあらかじめ予測するということも、非常に大事であると。これは、ゲノム
解析が当然大事ですけれども、それに加えて分子イメージングの技術が非常に重要になっ
てくると考えております。
生物学的アプローチでございますが、現在行われている最も代表的なものは抗がん剤と
放射線治療を併用するというものでありまして、これは臨床的には非常に大きなインパク
トを与えていると考えております。多くのがんにおきまして手術と並ぶ――宮崎先生、す
みません。私は手術と並ぶ成績が得られていると思うんですけれども、そういう局所進行
がんの標準治療を化学放射線治療が担いつつあるというふうに実感しております。その次
のステップといたしましては、ジェネラルな薬じゃなくて、より分子をターゲットとした
薬剤と放射線との併用というのが非常に重要になってくると思います。あと、きょうは時
間の関係で述べませんけれども、腫瘍に特異的な環境というものでございます。特に低酸
素ということが近年注目されております。これは治療抵抗性、放射線抵抗性、抗がん剤抵
抗性を起こします。あるいは、低酸素そのものががんにとってすごくストレスになるとい
うことで、がんの性格そのものを悪くするということも言われておりますし、昨今はがん
の幹細胞とも深く関係するということで、これはぜひ大きなテーマとして考えるべきじゃ
ないかと思います。
EGFR の受容体を介したシグナル伝達というのは、がんの基礎研究で非常に進みました。
そのおかげで多くの阻害剤ができたということがございます。その中で、先ほどお話しし
ました抗体、セツキシマブですけれども、それと放射線を併用いたしますと、こちらは細
胞レベル、こちらは動物レベルですが、非常に放射線増感効果が強いということで、大き
な臨床試験が局所進行の頭頸部がんにおいて行われました。「New England Journal of
Medicine」に載った、有名な論文でございます。結果としては、局所の効果も生存率も上
げた。がんの治療で大事なのは、最終的に生存率を上げるということが大事です。ただ単
に生存期間を延ばすだけでは、言い方は悪いですけれども、結局、医療費の高騰につなが
るということもございますので、多くの放射線と薬の併用というのはここのボトムアップ
につながるということで、これは結果的に医療経済的にプラスに働くし、当然、患者さん
は治らなかったものが治るということで満足度が高いということでございます。
そういうサクセスストーリーがありましたけれども、放射線治療の最も大きなターゲッ
トというのは、DNA の損傷と修復、あるいはそれに基づくセルサイクルの周辺のところで
あります。近年、それに対する数多くの分子であるとか遺伝子、そこに登場するものがわ
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かってまいりましたし、わかってくれば、それに対応する薬剤が出てまいりました。その
一部を示しておりますけれども、ここに示すように、DNA 修復分子として、PARP とか、DNA-PK
とか、MGMT とかございますし、DNA の一本鎖とか二本鎖切断、あるいは塩基修飾、架橋と
か、そういうふうな干渉がございます。そういうものをほうっておくともとに戻るわけで
すけれども、そこにこういうものの阻害剤を入れると放射線効果が分子レベルで変わって
くるということがわかってまいりました。
そうなりますと、そういうものと放射線を併用すると分子レベルの増感剤になるんじゃ
ないかというふうな研究が当然起こってくるわけでございます。その中で今最も先行して
おりますのは、先ほどの話にありました PARP インヒビターでございます。実際、動物レベ
ルではこういうがんで効果があらわれておりますし、アメリカでは脳転移症例に臨床試験
も始まっています。今まではたまたま見つかった分子標的剤の多くで放射線の増感効果が
あるんですが、これからは、放射線損傷・修復のメカニズムに立脚した増感ということを
前向きに検討する、そういうフェーズに来ているんじゃないかというふうに考えておりま
す。
あと、少し物理工学的な進歩をお話ししたいと思います。昨今、いろんな分野で非常に
科学技術が進歩しておりますので、がんの治療成績、がんの研究において、最終的に患者
さんの生存率を向上する、あるいは社会復帰のできる非常に QOL の高い治療を提供すると
いうことをエンドポイントと考えますと、必ずしもバイオだけにこだわらずに、いろんな
新しい技術をどんどん医療に用いるということは、ある意味で非常に健全な姿じゃないか
というふうに考えております。そういう中で放射線治療というのは、そういう異分野をう
まく取り込んでいっている領域じゃないかと思います。
これは早期の肺がんに対しまして、ペンシルビームと言うんですけれども、非常に細く
したビームを多方向から照射しますと、そこに非常に高線量を与えることができます。そ
うしますと、こういう比較的小さながんをうまく治すことができます。昔、こういうスラ
イドを出しますと、こんなのは 100 例のうち 1 例しかないよとよく言われたんですけれど
も、これは、普通に行うと、普通にこのような効果が出ます。チャンピオンデータではな
くて、これはティピカルなケースでございます。
それと、もう 1 つ新しい技術として、強度変調放射線治療というのがあります。これは
マスコミを通じて患者さんもよく知っておりまして、今、これができる病院に患者さんが
集中しております。これは前立腺がんを例にしておりますけれども、白いのが前立腺、草
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色が膀胱です。そして、後ろにあるのが直腸。要するに、直腸、膀胱の線量を下げて、い
かに放射線を集中させるかということがポイントであります。まず行われたのは、この照
射野の形をなるべくターゲットに合わせることによって放射線を抽出させるという、いわ
ゆる三次元治療でございます。IMRT になりますと、それを一歩進めて、その照射野の中の
線量強度を変える。それによってさらに選択性を高めたというのが、この新しい技術でご
ざいます。IT が医療への応用に最もうまくいった例というふうに言われております。こう
いうふうな技術を用いますと、直腸線量を気にせずに線量アップができるということで、
こういうデータから、前立腺がんに対する治療としては、手術治療も放射線治療も同等で
あるということが国際的には認知されているというふうに私は考えております。
あと、この技術のすばらしいところは、この方は、たまたまですけれども、骨盤内のリ
ンパ節が腫れているということで、前立腺のところにも線量を入れているんですけれども、
それに加えてリンパ節転移、さらにはその周辺のリンパ節領域に予防照射も行う。その一
方で、骨盤内の中で最も放射線に弱い組織は小腸でございますが、その小腸のところを避
けているということで、ここに書いておりますように、必要なところに必要な線量をする
ということがこの治療法によって初めて可能になりました。
これから大きな問題になると言われております悪性中皮腫というのは、手術だけでも、
抗がん剤だけでも、まず治りません。放射線治療が必ず必要になってまいります。と申し
ますのは、病気そのものの進展によりまして、胸膜全体に広がるとともに、おなかの中ま
で入っていくと。そういうものを全部カバーできる放射線治療というのはこの IMRT しかな
いということで、今後、膵がんも我々やっておりますけれども、そういう難治がんに対し
てどのようにアプローチしていくかといったときに、この治療法を使わないと展開できな
いというふうに考えております。
また、さっき低酸素の話をいたしましたけれども、分子イメージングの進歩によりまし
て、こういうふうな低酸素領域だけを見つけるということが可能になってまいりました。
そうなりますと、当然、低酸素領域というのは放射線治療感受性が低いですから、そこに
高線量域を与えるというふうなことができます。そういうふうなイメージングと治療との
インテグレーションということができます。
ただ、問題といたしまして、こういうふうなすばらしい技術には呼吸移動などの動きに
弱いのです。動きがあると対応できないという問題があります。昨今の放射線治療という
のはすごく進歩しておりまして、ミリオーダーです。脳の転移照射は 0.5 ミリの精度でや
- 38 -
りますから、こういうミリのオーダーまで追求しなければいけないと。そうなりますと、
多くの体幹部のがんというのは、5 ミリとか、1 センチとか、そういうオーダーで動いてお
ります。そういう動きに対応できる技術というのが非常に大事になってきます。そういう
中で、ここに書いておりますけれども、腫瘍を追っかける技術、そういうふうな技術が国
産技術として初めて成功したということで、そういうふうな技術も大事にしなければいけ
ないんじゃないかというふうに考えております。実際、こういうふうな装置ができてまい
りました。ただ、こういう新しいコンセプトの機器がができても、それがすぐに臨床に使
えるわけじゃないわけです。そこが臨床研究の重要性であります。それを動かすためには、
実際にヒトで研究を行って、その中で新しいソフトの開発とか機器の開発をやっていく。
だから、こういう装置ができても、これが実地医療として、例えば動く腫瘍を追いかけて
いくとか、停止をさせるとか、動いていって IMRT するというのは、多分 5 年ぐらいかかる
わけですね。このような研究のサポートも、実際の患者さんにこういう新しい治療を展開
するためには非常に重要であるというふうに考えております。
あと、放射線治療には、放射線生物学、医学物理学という学問体系があります。ただ、
残念ながら日本は、広島、長崎という不幸な歴史がありまして、放射線生物学の先生方は
ほとんど発がん生物学のほうに関与しているというふうなことがございます。だから、ぜ
ひその先生たちに治療生物学にシフトしていただきたい。その最も大きなモチベーション
はグラントでございます。そのあたりは、ぜひ放射線治療生物学をサポートするような研
究の支援をお願いしたいというふうに思っております。
これは最後ですけれども、医学物理学、放射線生物学の進歩によって放射線治療という
のは、それまでは正常組織の耐容線量の制約を受けているという腫瘍制御という意味では、
サブオプティマルなトリートメントしかできなかったと。それがやっと腫瘍を制御するた
めに必要な線量を投与できるというオプティマル・トリートメントというフェーズに来た
というところであります。
そういう中で、これからどういうふうなことを目指さなければいけないかということで
すけれども、先ほど申し上げましたように、分子レベルで放射線の増感効果をマニュピレ
ーションするような、そういう手法の開発ですね。さらには、私は分子イメージングとい
うのは非常に大事だと思います。生体情報を可視化して、それに基づいて治療行為を行う。
これは、放射線治療にとどまらず、手術療法、その他の局所療法にとっては必須な技術だ
というふうに考えております。さらには、動きに対応できる治療の開発。こういうのを結
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集していきますと、最終的には個々の人のがんに合った放射線治療が実現できる。そうい
うのをぜひがん研究で推進していただくことをお願いする次第でございます。
ご清聴、どうもありがとうございました。
【垣添主査】
平岡先生、ありがとうございました。
続きまして、放医研の鎌田先生、お願いいたします。
【鎌田センター長】
放射線医学総合研究所の鎌田でございます。きょうは、このよう
な機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。重粒子線治療も放射線治療
の一部でございますので、今、平岡先生からお話ありました分、大部分は私どもの話にも
共通しているのかなと思います。ここにお見えの先生方の大体は重粒子線のことはご存じ
だと思うんですけれども、少し、復習といいますか、申しわけないんですが、重粒子のこ
とを説明させていただいて、最後に私どもが基礎的研究についてどう考えているかという
ことをご説明したいと思います。宮崎先生は臨床外科医というふうにおっしゃったんです
が、私も全く、放射線治療といいますか、基礎のほうはわかりませんので、話としては若
干臨床に偏るということをお断りしたいと思います。
もうこれは皆さんご存じのとおりでございますけれども、重粒子線というのは、線量を
集中できる空間的な線量分布というものが非常に重要であって、先ほど平岡先生のお話の
中に物理学的アプローチと生物学的アプローチという話があったんですが、本来的に重粒
子線というのはこの 2 つを同時に兼ね備えているものというふうに考えております。線量
の集中性はここにお示ししているとおりでございますけれども、とまってくれる、これは
普通の放射線にはないことでございますし、もう 1 つの強い生物効果というのは、こちら
でお示ししておりますように、こちらでお示ししておりますように非常に電離密度が高い
ということで、トラップに沿って非常に強い DNA 損傷を起こしてしまう。幸いなことに、
この DNA 損傷というのは、線量がとまる付近、ちょうど腫瘍の中でそういうことが起きる
ということでございまして、通り道、がんに至るまでのところではこの生物効果は相当少
ないということがわかっております。
あと、先ほど平岡先生のお話の中で、酸素効果、低酸素の細胞というのががんの中にあ
って非常に効きづらいということがあったんですが、炭素線というのは、重粒子というの
は本来、そういうほかの助けを借りなくても低酸素の細胞にも非常によく効いてくれると
いうことで、通常の放射線治療の限界というものをある程度超えてくれる可能性があると
いうビームでございます。
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私どもは 1994 年から臨床試験を行っているわけでございますけれども、このすぐれた線
量分布と高い生物効果というのを倫理的かつ科学的な臨床試験の推進ということでこれま
で行っておりました。1 つは技術の確立、きょうはあまりお話ししませんけれども、呼吸
同期照射、これは 1994 年から行っております。もう 1,000 例以上の経験を持っております。
さらに、当初、どれぐらいの線量がよいかというのがわかりませんでしたので、いわゆる
線量増加試験を行って、現在、大部分のものが第 2 相臨床試験、線量固定の臨床試験とい
う形で先進医療も実施しているという状況でございます。2 つ、私どもとしては、がんを
治療する上でターゲットを設定しております。1 つは、従来の方法では治らないような難
治のがんをこの重粒子を使って克服したい。もう 1 つは、コモンキャンサーにおいては通
常の放射線よりもより短期間に効率よく治療したい。この 2 つが私どもの実際の臨床面で
のターゲットになっております。
ここにお示ししているのはこれまでの症例の推移でございますけれども、昨年度には年
間約 750 名ほど治療しております。トータルでいきますと、この 10 月までに 5,300 件ほど
の治療を終了しているというところでございます。約 75%ぐらいの患者さんが先進医療と
いうことで実施しております。残りの 25%の方はまだ、フェーズ 1、線量増加試験という
ような形で研究を行っているところでございます。疾患別でいきますと、前立腺、骨軟部、
頭頸部、肺がん、肝臓がん、直腸がん術後というようなところが大半を占めているところ
でございます。
実際に、前立腺がんでございますけれども、最初は 5 週間 20 回。これは、通常 40 回ぐ
らいかけておりますので、その半分の期間ということで研究を開始しております。最初は
低い量から高い量までかけまして、その中で 66 グレイ前後がよかろうということで、第 2
相試験に入っております。さらにその中で長期的な障害を検討した結果、63 グレイのほう
がよかろうということで少し線量を下げて、現在、さらに短い 4 週間 16 回、そういう先進
医療を行っているところでございます。これは非常に限られたソースでございますので、
できるだけ短期間に治療するということによって、よりたくさんの患者さんを治療できる
ということでございます。これも非常に安全にできておりますので、2008 年、今年度から
は 3 週間 12 回ということでさらに短い臨床試験を開始しているところでございます。
その治療結果についてはまだ出ておりませんけれども、5 週ないし 4 週の治療というの
は現在のところ相当数行っておりますが、その結果は世界的に見ても最もよい成績の一つ
になっているかと思います。そのあたりは、お手元のハンドアウトの中に詳細をお示しし
- 41 -
ております。
それから、肺がんについては、1 回照射というのを現在行っております。これも、当初
は 18 回/6 週間という治療を行っていたんですけれども、どんどん短くしておりまして、
現在、1 期の肺がんについては 1 日で治療を全部終了してしまうというような短期照射の
臨床試験を行っているところでございます。1A、1B というのはサイズによって変わるわけ
でありますけれども、8 割から 9 割ぐらいの局所制御が現在得られているところでござい
ます。
膵臓がんでございますけれども、膵臓がんについても、3 週間 12 回という短期間の照射
を行っております。この方はもう 4 年近く生存されております。この方は全く単独の治療
の方でございます。外科の切除だけで治る方がいらっしゃるということでございますけれ
ども、重粒子でもそういう方がいるようでございます。
これは、現在、ジェムシタビンと重粒子線の併用療法というのを行っておりますけれど
も、重粒子は非常に線量を集中できるということでございまして、赤いラインにつきまし
ては 1,000 ミリ、同時併用を行っております。ですけれども、ドースミューティングの副
作用はほとんど起きないということで、線量を集中できる分、骨髄抑制も少なく、副作用
も少なくできているということは、ここでお示しできているかと思います。手術との併用
でも、ハンドアウトにはお示ししておりますけれども、手術できた方について言いますと、
ほぼ 5 割に近いような成績が出つつあるところでございます。
それから、直腸がんの術後再発、これについても非常に治療に難渋するわけであります
が、重粒子を使うことによって非常によく治療ができております。その治療結果について
は、お手元にお示ししておりますけれども、現在、5 年生存で約 40%ぐらいになっており
ます。従来、手術ですとそれぐらいなんですが、我々のところでは手術ができない方とい
うことで行っておりますので、通常の放射線との比較でいきますと、多分、3 割から 4 割
ぐらいのゲインが出ているということでございます。
あと、骨肉腫等も非常によく治っております。手術できない方ですとほとんど生存され
ることはないわけでありますけれども、現在、大体 3 割ぐらいの生存率が得られておりま
す。遠隔転移の問題というのがございますのでなかなか高い生存率にはつながりませんけ
れども、従来ゼロだったものが 3 割ぐらいまでには来ているというところでございます。
この症例は 13 年生存中でございます。実際は動画で動くんですけれども、Mac でつくった
ものですから、Windows では動きません。
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世界の重粒子線治療施設、このような成績が出てまいりまして、これまで世界で 4 カ所
ほど治療を行っていたわけでございますけれども、欧州を中心でございますが、建設中の
ところが 6 カ所、さらに建設を予定しているところが 6 カ所ということでございます。我々
のほうの治療数が現在 5,000 例を超えているわけでございますけれども、全世界の 8 割か
ら 9 割ぐらいを私どもが治療しております。これらのデータをもとに、世界の中で一つの
トレンドといいますか、重粒子を行うというトレンドが生まれてきているのかなというふ
うに思っております。
次のステップとしまして、重粒子線がん治療というのは基本的に、先ほど生物効果と物
理的な線量の集中性ということがございましたけれども、さらに臨床的なものという、こ
の 3 つの組み合わせでないと成立しない治療でございます。そういう中で次のステップに
進む予定しておりますけれども、その中で、次のスライドが最後になりますけれども、こ
れはこれまでの放射線治療の進歩というものを見たものでございます。これは基本的には、
黄色い部分というのは空間的な線量分布の改善ということでございます。1960 年代にリニ
アックが導入されております。さらに、1970 年代には CT が入ってきて、CT のデータを治
療計画に使う。さらに、定位照射、あるいは三次元の原体照射、先ほど平岡先生のお話に
ありました強度変調照射、こういうものはいずれもいわゆる空間的な線量分布の改善とい
うことを目指したものでございます。放射線治療の進歩というのは、これに非常に大きく
依存してきたわけでございます。ただ、最近ではさらに時間のファクター、あるいはさら
に言いますと、最近では生物学的な因子を加えてドースペインティングというようなこと
も、腫瘍の中の低酸素の状態、あるいは悪性度の高い部分を集中的にかけるというような
ことを行えるような時代になってきております。このように、最初は空間だけだったもの
が、時間、さらに生物というようなファクターも入ってきて、重粒子線治療というのは本
来的にそういうものであるということかと思っております。
物理研究と生物研究がちょうどこの臨床研究というようなところでマージするという形
で重粒子線治療は行われてきているかと思います。ここに細かくいろいろ書いてございま
すけれども、例えば、低線量影響、臓器の障害、これは発がんも含まれるわけでございま
すが、そういうものを地道に研究しながら次のステップに進んでいくということが非常に
重要かと思っております。さらに、トラップ構造というのはミクロのレベルでも、物理的
な線量といいますか、電離現象をきちっととらえながら、DNA とそれがどういう関係にあ
るかということを調べていくというようなことも非常に重要なファクターでございます。
- 43 -
言ってみれば、物理研究と生物研究がお互い 1 つのグループになって、生物屋さんと物理
屋さんが 1 つのグループを形成して研究を進める。それが人材の育成にもつながって、さ
らに臨床研究の発展につながっていくというのが、私どもの重粒子線治療のあり方という
ふうに思っているところでございます。
私の話は、以上でございます。ご清聴ありがとうございました。
【垣添主査】
ありがとうございました。
では、ただいまの平岡先生と鎌田先生のご発表に対して何か、ご質問、ご発言がありま
したら、どうぞ。
江角委員。
【江角委員】
鎌田先生、すばらしい成果だと思うんですが、今のお話だと今後の課題
というのがわかりにくかったんですが。
【鎌田センター長】
【江角委員】
きょうは……。
放医研では、せっかく HIMAC を使っても、まだカーボンしかやっていら
っしゃいませんよね。
【鎌田センター長】
はい。最後のスライドにちょっとお示ししたんですけれども、世
界の動きの中で、若干軽い粒子を使うという動きも出ております。それから、ドイツのほ
うでも、ちょっと重いところといいますか。ただ、この粒子の選択というのは非常に重要
でございますけれども、重過ぎると多分、入り口のところの生物効果が非常に強くなって
きて、線量の集中性という利点が失われます。低くなってきますと今度は普通のエックス
線とあまり変わらなくなってくるということで、軽過ぎず、重過ぎずというところで炭素
を選んだというのは、非常にいい選択だったと思います。ただ、それからちょっと軽いと
ころとか、ちょっと重いところというのは実際どうなっているかというのは非常に興味が
あるところで、私どものセンターの中ではそういうところを次に、生物グループとかは基
礎的な研究を進めたいという話は少し出ております。
【垣添主査】
ほかにいかがでしょう。田島委員。
【田島委員】
平岡先生、ご説明ありがとうございました。先ほど宮崎先生のお話で、
外科治療はいかに侵襲を少なくして根治性を高めるかが重要となりました。もちろん早期
発見・早期治療は大事ですが、それに匹敵するように放射線治療とか薬物療法を補完した
外科治療の方向に持っていくという状況になっているんじゃないかと思います。江角先生
のご指摘もあるんですが、重粒子線や陽子線治療と、平岡先生の従来の放射線治療、この
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辺のすみ分けは今後どういうふうになるでんしょうか。といいますのは、分子標的治療な
んかもそうなんですが、今、開発途上国で非常に大きな問題になっているのは、患者が激
増しているんですが、治療費がものすごく高いことです。それにどう対応するかというの
は国際的問題になっています。重粒子線にしても、従来の放射線にしても、この辺の治療
コストの問題も含めて、すみ分けの見通しというか、その辺のところをちょっとお聞きし
たい。
【鎌田センター長】
先ほど平岡先生のお話にもありましたけれども、多分、これから
放射線治療を受けられる患者さんはどんどんふえていって、20 万人とか 30 万人というの
はごく普通になるんじゃないかと思うんですね。私どものほうで治療できるのは、今の施
設でいきますと、1 施設当たり多分 1,000 人前後というのが一つの目安かなというふうに
思っています。そう考えますと、それを全部、普通の放射線をすべて重粒子で置きかえる
ということは、最初から私どもは考えておりません。重粒子が一番メリットを出せる疾患、
これをまず治療するべきだというふうに考えております。
さらに言いますと、エックス線の中で効かない部分、これについてもきちっと明示して
いただく。そうすると、私どもはそこの部分をカバーしていくというような形で話が進ん
でいくのが一番ベストかなというふうに思っております。ですから、メーンストリームと
いいますか、そういうものについては、やはり通常の放射線治療というのが全体の 8 割か
ら 9 割ぐらいを治療するのがごく普通かなというふうに思っています。
【田島委員】
ありがとうございました。
【平岡教授】
やはり一番大きなのは、すごく多くの患者さんが放射線治療を受けたが
っているということです。首都圏の大きな病院ではほとんど、毎日 100 人規模で治療して
いますね。それを 2 とか 3 人の放射線治療医が朝から晩までやっているという、その現実
をまず直視しなければいけないというところがあります。だから、そういうところの人材
育成にもぜひ支援してほしいというふうに思います。
あと、粒子線の話で言えば、一番大きなポイントは、やはりこういう貴重なものですよ
ね。道路の話が問題になっていますけれども、すべての道路を高速道路にする必要はない
わけですね。だから、どの部分に粒子線がほんとうに役に立つかと。コストパフォーマン
スを考えますと、これでなくちゃいけないがんをいかに導き出すかというのがポイントだ
と思うんですね。1 つは、いろんな疾患を経験してみて、そういう中で導き出すと。きょ
うのお話の骨肉腫とか、あるいは再発性の直腸がんなんかは多分いいんだろうというふう
- 45 -
に、みんな思ってきていますよね。でも、そういう形でやるのは時間がかかるわけです。
最も大事なのは、肺がんとか前立腺がんといったコモンディジーズの中で粒子線はどのぐ
らいの役割を担うかということであり、最終的には臨床試験をしないとわからないと思う
んです。だから、先ほどの CTEP ですか、もしそういうふうなものができるのであれば、国
のレベルでそういうふうな臨床試験をやると。私、粒子線の一番大きなハードルは、やっ
ぱり予算だと思うんですね。そういう中で粒子線でなければ治らない患者さんがこれだけ
いるということがエビデンスの高いレベルで証明できれば、だれも反対しないと思うんで
すね。そうしない限り、私は粒子線の普及はあり得ないのではないかというふうに思って
います。
【垣添主査】
ありがとうございました。じゃあ、これで終わらせていただきます。両
先生、どうもありがとうございました。
申しわけありません、司会の不手際で時間をちょっとオーバーしておりますが、あと 10
分ほどいただいて、総合討論をさせていただきたいと思います。本日は、宮園、宮田、宮
崎、平岡、鎌田、5 人の皆さんにお話をいただきましたが、これまでの文部科学省のがん
特定領域研究の総括、それから、マスコミの立場、局所治療としての外科治療の話、放射
線治療の話を伺いましたが、全体を通じて何かご発言いただくことがありましたら、お受
けしたいと思います。
江角委員。
【江角委員】
宮田さんがおっしゃっていたんですが、完治を目指さないといけないと
いうのは、僕も今、現場にいるものですから、現場にいてまさにそのとおりだと思うんで
すね。分子標的薬はいくら効いても、10%か 20%サバイバルが延びると、患者がふえる一
方であると。ほんとうにそれは実感して、そう思います。入院患者が変わっていきますか
ら。ただ片側で、言ってみれば再発してしまってからの治療だけではなくて、完治を目指
すというのはもともと、死なないようにすればいいというだけのことでありますから、が
んにならなければいいし、それから、早いこと見つけて治療をするようにすればこれは完
治をするわけであります。だから、おそらくがん対策全体のことを考えると、もうちょっ
と幅の広いものかなという気はするんですね。予防とか、検診とかというものを含めてで
すね。厚労省、文科省って別に区別する必要はありませんけれども、がん対策でがんの予
防のところがいま一つこの国では重点が置かれてなくて、特にそれが臨床のところまで行
くのが必ずしも行っていないので、これに資するような基礎研究の強化というのが僕はも
- 46 -
っともっと必要なんじゃないかという気がするんですが、諸外国ではどのようになってお
りますでしょうか。
【宮田主任編集委員】
諸外国を必ずしも知っているわけではないんですけれども、や
っぱりゲノムコホートというのが一つ機軸になるだろうというふうに思います。というの
は、ゲノム決定論者ではございませんけれども、あくまでもまずそのベースがあって、ポ
ピュレーションはどのぐらいのヘテロジェネイティーがあってライフスタイルがどう出て
いるかというのをつかんだ上でプライオリティーをつけていって、予防していく。いきな
り 100%予防は無理なので、高発集団を見つけていって、その高発集団に対する最も最適
なプリエンプティブな治療法とか、あるいは早期検診みたいなものを確かめていくという
のが妥当なんじゃないかと。そのためにもぜひ、日本は結構ちゃんとがん登録をやってい
たりする場合もあるんですけれども、臨床の指針というか、厚労省の指針もあるんですが、
DNA の問題で一度マスメディアがたたいたことがあり、あつものに懲りてなますを吹いて
いるところがあるので、もう一度そこら辺をきちっと環境を整えてほしいんですね。とい
うのは、去年から GCP レベルではどの遺伝子を調べるか明示しなくてもインフォームド・
コンセントはとれるのに、皆さんの基礎研究ではそれを明示しないとだめと、要するに DNA
の臨床指針の改訂がおくれているので、そういう矛盾が少しありますので、そこをもうち
ょっと迅速に、やりたい研究も含めて環境整備が必要だというふうに思います。
それともう 1 つ、栄養学とか、そこまでこのプログラムで入れるかどうかわからないで
すが、スコープを広げないと、どうも我々、分子レベル、それだけでがんは撲滅できない
ので、もうちょっとスコープを広げた研究が必要かもしれません。
【垣添主査】
野田委員。
【野田委員】
全くもってそうだと思うんですけど、今、江角先生のポイントで非常に
明確になったと思うのは、臨床のところの効果の判定や何かは、平岡先生があれだけはっ
きりおっしゃたように、CTEP、つまり人を集めれば、組織をつくれば、今、エビデンスが
つくれるのに対して、発がんをやっている人間から出てきているデータとポピュレーショ
ンスタディーを見ると、今のランダマイズドコントロールスタディー玉条主義の認可では、
スタディーを組むこと自体がお金的に無理なんです。ですから、今、宮田さんが言われた
ように、いわゆるサロゲートマーカーというのは変ですけれども、要するにハイリスクグ
ループをきちっと絞り込んで、スタディー対象になって、今のお金の中できちんとやれる
ようなグループをつくって、介入があってもいいと思いますけれども、今の予防研究をや
- 47 -
ると。そうでない限りは、予防のほうは予算の面で 2 けた違ってきちゃうので、おまけに
治験のような経済的効果をねらってお金が入ってくるということももともとないですから、
そこの部分をこういう研究でエビデンスを出して、それをサロゲートマーカーとしてさら
にグループを絞り込んで、どうにか国民に予防のエビデンスを見せられるようなスタディ
ーをつくると。この辺は田島先生がいらっしゃるところで僕が言うのもあれですけど、そ
う思います。
【宮田主任編集委員】
確かにそのとおりなんですけれども、1 つ、ロッシュの動きを
見ていると、最近、アンダルシア・ゲノムプロジェクトにロッシュが出資したり、あるい
は、今、倒産しているデコード社の研究にロッシュが出したり、製薬企業のほうも大分考
え始めたんじゃないかと、実は思っているんですね。
もう 1 つの機軸として、地方自治体が地域医療の負担というものを軽減するために、こ
れはがんとは限らないんですけれども、住民の人たちの健康情報というか検診情報みたい
なものをきちっとパイルアップして、なおかつ DNA までというような関心を持っている自
治体が幾つか出てきているんです。だから、そういうようなところをご支援なさるという
のも、一つアイデアかなと思います。
【田島委員】
一言だけよろしいですか。
【垣添主査】
短く。どうぞ。
【田島委員】
やはり、効率的に予防するためには、高危険群をきめて検診もやってい
かなきゃいけません。そのときの高危険群の決定の仕方は、一般的に我々が把握している
いわゆるリスク要因と、ゲノムサイドから見た、感受性の高い群となります。その観点か
ら国際的にも効率性を図る研究は進んでいくと思います。例えば長野県なんかは比較的よ
く進んでいるほうだと思ういます。やはり予防を強化したほうが医療費は安くつくという
例が、日本でもちゃんとあると思います。
【垣添主査】
宮園委員、最初にこれまでの文科省のがん特の代表的な研究をサーベイ
していただきましたけど、がんの基礎研究の重要性という観点から何か言い残したことが
おありでしたら、どうぞ。
【宮園委員】
今回この 5 年間の研究をまとめさせていただきましたけれども、がん特
定研究の特徴というのは非常にいいチームができていたということでありまして、例えば、
もし 1 人でがん研究をやれと言ったら、どんなにすばらしい人でもできることは非常に限
られているんですが、これだけの業績、今回、私、実際に皆さんにアンケートをとって、1
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週間の間でデータを見ても、私自身もちょっとびっくりしたんですけれども、非常に広範
に細かいところまですごくいい仕事が出ているなと、自画自賛で申しわけございませんが、
そういう印象がありまして、それは多分、皆さん方もそうだと思いますし、今回、各領域
5 つしか挙げませんでしたが、それ以外にも非常にいい仕事が出ているし、やはりがん研
究というのは前にも言いましたけどチームワークが必要で、それから、共同研究というの
は学会だけではどうしてもできないようなものががん特定研究ではぐくまれてきたという
ふうな気がしますので、ぜひ今後もご支援をと思います。
【垣添主査】
ありがとうございました。
それでは、時間を大分オーバーしてしまいましたので、これで第 2 回のがん研究戦略作
業部会を終了させていただきます。
最後に、事務局からご連絡をお願いします。
【山内先端医科学研究企画官】
資料 5 について一部更新されていてお手元にはない部
分もございましたので、それについては事務局のほうから何らかの形で差しかえをさせて
いただきたいと思います。
本日の議事録につきましては、事務局のほうで案を作成しまして、委員の皆様にお諮り
し、主査の確認を得た上、ホームページで公開させていただきますので、ご了承ください。
次回は 12 月 14 日でございます。研究者代表として中村先生、また、患者さんの代表、
若手のがん研究者、さらに臨床の専門家として東北大学の石岡先生ということでヒアリン
グを予定しております。どうぞよろしくお願いします。
なお、冒頭でご説明いたしましたが、12 月 22 日、予備日としておりましたが、これを
第 3 回の議論を得た論点整理の日とさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしく
お願いしたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
――
- 49 -
了
――
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