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伊賀市中心部における観光事業の現状と課題

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伊賀市中心部における観光事業の現状と課題
岡山大学大学院教育学研究科研究集録
第1
4
7号 (
2
01
1
)3
5-4
4
伊賀市中心部における観光事業の現状 と課題
川田
力
・ 木本
勝士 *
伊賀市中心部は,伊賀上野 として知 られ,上野城 とその城下町の町並み,伊賀忍者,松尾
芭蕉生誕地,伊賀焼や組み紐 などの伝統工芸品 といった歴 史 ・文化的観光資源を活用 し,観
光事業 を展開 して きた。 しか しなが ら,近年,当該地域の主要観光施設や観光 イベ ン トの入
込客数は漸減 してお り,伊賀市中心部の観光は停滞期にある といえる。
こうした,伊賀市中心部の観光地域 を再構築するためには,季節変化や交通利用状況に起
因する観光入込客数の変動 に関する課題,観光地域の魅力向上に関わる観光施設の更新や駐
車場整備,景観整備 などのハー ド面の課題.観光事業 に携わる諸アクターの連携協力の推進
といったソフ ト面の課題 を解決す る必要がある。 これ らの課題解決のためには,多様なアク
ターが関わっているという伊賀市中心部における観光事業の特徴 を活か し,諸アクター間の
多様なネッ トワークを活用 した魅力的な活動を引 き出す ことが鍵 となる。
Key
wor
ds:伊賀市,観光,城下町, まちづ くり,持続可能性
Ⅰ. はじめに
然 と人間,産業 と生活,歴史 と文化 といった地域の
1.問題の所在
つなが りを再構築す ることが重要 とな り,そのため
経済基盤の脆弱 なわが国の地方都市では,交流人
口の増大による経済効果および地域 イメージの向上
には.地域 の歴史資源 を尊重 し,地域の生態系や循
環 システムに配慮 したコ ミュニテ ィを主体 とした社
などの社会効果 1)が相乗効果 を発揮す ると考えられ
る観光振興に積極的取組んで きた都市 も少な くない。
会経済 システムの構築が必要不可欠 となるとい う指
摘がある (
風見,2009,p.
34)
。観光振興 に成功 し
て きた都市では, これ まで 自然 ・産業 ・歴史 ・文化
と関わる観光資源 を有効 に活用 して きたと考 えられ
しか し,観光地城がい くつかの段 階をた どって発
達 し2)
,熟成 ・停滞 した後,衰退 ・安定 ・再生の 3
方 向に展 開す るとす るBut
l
er (
1
980) の観光地域
るが,観光地域の再構築段階に直面 した際, こうし
サ イクル論 3)をふ まえる と, フ ンク (
2009) の指
た持続可能性 についていかなる検討がなされるべ き
摘するように,観光振興に成功 した場合で も観光地
なのか とい う課題が顕在化す る。
域はいずれ様々な再構築戦略に取 り組 まざるを得な
くなるもの と考えられる。そ うした場合 に当該地域
においては,地域が抱 える問題 を具体的に認識 し,
2.研究の 目的 と方法
観光産業,行政,住民が危機意識 を共有 し,それぞ
れの立場,役割 に応 じて地域活性化 にどのように関
におかれていると考えられる地方都市の観光地城の
現状 と課題 を明 らかにし,観光地域の再構築の方向
わ り実現 してい くかを考えることが重要 となる (
棉
性 について検討す ることを目的 とする。
以上の ような問題意識 にたち,本研究では停滞期
0
本,2004)
一万,21世紀 にふ さわ しい持続可能 な社会の実
研究対象地城 としては三重県伊賀市中心部を選定
した。伊賀市中心部は,一般には伊賀上野 として知
られ,上野城 とその城下町の町並み,伊賀忍者,松
現 には, これ までの地域発展の中で失われて きた自
岡山大学教育学研究科社会 ・言語教育系 7
00-85
30 岡山市北区津島中 3-1-1
*両備ホールデ ィングス株式会社 7
0
0-851
8 岡山市北区錦町 6-1
Tour
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*
-
35
-
川田
力
尾芭蕉生誕地,伊賀焼や組み紐 な どの伝統工芸品 と
いった歴史 ・文化的観光資源 を活用 し,観光事業 を
・ 木本
勝士
Ⅱ. 伊賀市中心部 にお ける観光事業の現状
1.伊賀市の概要
展 開 して きた。 しか しなが ら,近年,当該地域の主
三重県 中 西部 に位置す る伊賀 l
机ま,2
004年 11月
要観 光施設や観光 イベ ン トの入込客数は漸減 してい
に上野市及び 上野市 に隣接す る伊賀町,阿山町.大
る。 この ことか ら伊賀 市中心部の観光 は停滞期 にあ
山田村,島 ヶ原村 ,青 山町の 1市 3町 2村 が 合併 し
0
て誕生 した 6)
ると考 え られることに加 え,伊賀 市を中心 に観光振
興 策を検 討 ・実施 しているなど観光地域 の再構築段
階にあると考えられ ることが研 究対象地域 の選定理
由である。
研 究方法 としては, まず,当該地域 の現状 と課題
970年代 まで人目減少が進 んでいたが,
伊賀市 は 1
1
980年代 に 入る と,大 阪都市 圏 と名古屋都 市圏 と
の中間地点 として工業 団地が整備 され,一般機械 ・
輸送用機械 ・医薬品製造業 を中心 とした1二
場進 出が
を確 認す るため.伊賀市 中心部の観光事業の現状 に
なされた ことや,大阪都市 圏通勤者向けの住宅地 開
ついて現地観察調査 を実施 した4)o また. 当該地域
980年 の 人目約 96000人か ら
発 が行 われ た結 果 .1
で観光事業 に携 わ る伊 賀 市商 工観光課観 光振興係,
料収集お よび聞 き取 り調香 を実施 した。 その後,以
1
990年 に約 98000人,2000年 に約 1
02000人 と人
口増加 に転 じた。 しか し,2
000年代 に入 る と景気
01
0
の低 迷等 の影響 もあ り再び人 [j
減少 に転 じ 2
年の人口は約 97
000人 となっている7)
0
上 によって得 られた資料及び聞 き取 り調査 の結果 を
伊賀市 の産 業構 造 を産 業別就業者数か らみ る と,
伊賀上野観光協会,芭蕉翁顕彰会,伊賀文化産業協
会,伊賀 SGGクラブ,お よび.主要観光施設で資
ふ まえて,観光地域の再構 築の方向性 につ いて検討
2000年以降,第 二次産業就業者数が減少 に転 じた
した。 その際,観光 まちづ くり5)の 方向性 と地域
一方で,第三次産業就業 者数 は微増 してお り,伊那
の持続可能性 について も吟味 した。
市にお け る第 =+
次産 業の役 割 が 高 まってい る とい
なお.本研究で研究対象 とす る伊那 市中心 部 とは,
図 1に示す とお り, ヒ野公 園 を北 限 と し, l
il
道2
5
号線 ,1
6
3号線 ,422号線,県道 56号線 で閉 まれた.
え,
観光関連産業の活性化が期待 されている(
図2)
.
伊 賀市 の観光入 込客 数 は図 3の とお りで.2
000年
以降横 ばいの傾 向を示 している
。
観光施設が集積 立地す る地域 とした。 ただ し, 巨要
な観光施設 の愛染 院 と伊 賀越 汽料館 を含 め るため
に,上記の範囲にそれ らの周辺地域 を加 えている‖
0
1
0
000 2
000030
0004
0
00
05
0
0
00 60
0
00
(
人)
図 2 伊賀市 における産業別就業者数
図 1 研究対象地域の概要
(
資料 :国勢調査報告各年度版 によ る)
-
3
6-
伊賀市中心部における観光事業の現状 と課題
(
万人)
963年 に伊賀上野の知名度 をあげる
観光協会 1
0
)が 1
ため に始 め た忍術 まつ り1
1
)に端 を発 してお り,忍
者体験 な ど多 くの催 しが開催 される。 このイベ ン ト
3
5
0
3
0
0
25
0
は伊賀市 中心部内で分散 開催 されてお り. まちか ど
20
0
忍者道場や忍者変 身処が各所 に設置 される (
図 4)
。
この イベ ン トは開催期 間が長 く,その間に市民 向け
1
5
0
企画 も多 く開催 されることか ら,観光入込み客数は
1
0
0
十分 に把握 されていないが,聞 き取 り調査 によると
観光入込客数は 1万人を超 える と見積 られている。
2)観光事業の発展 と交通アクセス
5
0
0
1
99
9 2000 2001 2002 2003 2004 2005(
年)
伊賀市 は,図 5で示す ように多様 な交通 アクセス
を有す る地域で,伊賀市 中心部 における観光事業の
図 3 伊賀市の観光入込客数の推移
発展要因 として もこの交通アクセスの利便性が大 き
い と考え られる。
(
資料 二観光レクリエーション入込客数推移統計書 三重県 平成 1
7午)
1
965年 に開通 した名 阪国道 は,東 は東名 阪 自動
2.伊賀市中心部にお ける観光事業
車道 に.西 は西 名阪 自動車道 に接続す る国道 25号
1)観光資源の概要
バ イパスであ り.通行料金は無料である。これによっ
伊賀市中心部 は上野城 を中心 とす る城下町の町並
て大阪や名古屋 方面- のアクセスが容易 とな り. 自
みに加 えて,忍者発祥の地であることや,松尾芭蕉
動車 を利用 す れ ば大 阪,名古屋 とも約 90分 で到達
生誕の地であることか ら,それ らにちなんだ豊富 な
可能 となった。 聞 き取 り調査 による と名阪国道の開
観光資源 を有 してい る。 なかで も上野公 園内には,
通 によ り伊賀市中心部の観光入込み客数 は急増 した
上野城 をは じめ,伊賀流忍者博物館,芭蕉翁記念館,
とい う。
俳聖殿,上野歴 史民俗 資料館 な どの観光施設が集積
立地 している。 また,上野公園南側 の市街地は旧城
1
0分 と自動車での所要時間 とさほ ど
名古屋か ら約 1
下町地区にあた り,武家屋敷や寺町通 りな ど城下町
変わ らないo Lか し,モー タリゼー シ ョン進行 とと
00分,
また,鉄 道 で は上野市駅 まで大阪か ら約 1
歴史的景観を感 じさせ る観光スポットが立地 している。
I
繋
伊賀市 中心部の これ らの観光資源 は,文化や町並
I
d
さ らに,伊賀市 の名産 品 8)であ る組 み紐 や,伊
賀焼の販売所や見学施設が立地 してお り,それ らを
目的に来訪す る観光客 もいる。加 えて,伊賀肉や豆
ロ
客 を集める魅力 を有 しているといえる。
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1
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観光 を楽 しむ若年層や子 どもな ど幅広 い年齢の観光
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みを楽 しむ中高年層 に加 え,忍者 にまつわる体験型
を販売 ・
提供す る飲食店や菓子店等 も立地 している。
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□●
●
L
.
ヽ●
腐 でん らくな どの郷土料理や,伊賀銘菓のかたや き
O
。
伊賀市 中心部で開催 されるイベ ン トの うち,多 く
の観光客が集 まる もの としては,上野天神祭がある。
鬼行列 ・
る。 とくに 3日目は本祭 りで,終 日,神輿 ・
L
だん じりが伊賀市 中心部 を巡行す る。 これは国の重
5
0
0m
祭 りの様子やだん じり等は,だん じり会館で一年 中
体験す ることが可能 となっている
●まちかど忍者道場
。
このほか,観光入込客数の増加 に寄与 しているイ
ベ ン トと しては,4月上旬か ら5月上旬 に開催 され
\
\
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一
一
一
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0
要無形民俗文化財 に指定 されてお り, この期 間の観
光入込客数は 1
0万人 (
2009年度)9)を数 える。 また,
■
し」■
○ 忍者変身処
、 \
□その他の催事
図 4 伊賀 NI
NJAフェスタ会場概要
(
資料 :いが ぐり2
0
0
8春号 伊賀上野観光協会発 行)
NJ
Aフェス タがあ る。 これ は上野市
る伊賀上野 NI
-
で
「 r
0月の後半 に 3日間伊 賀市 中心
上野天神祭 は毎年 1
部で行われる祭事で 400年余 りの歴 史がある とされ
37
-
川田
力
・ 木本 勝士
ンケ- ト」では,市の観光振興に対す る市民の満足
度は低いとい う結果が報告 されている。
伊賀市はこのことをふ まえて,観光資源の魅力充
実,情報発信 ・提供 を含めた観光推進体制の確立,
観光行動 に対応 した受入れ環境の整備 ・充実の 3点
の課題 を設定 し, これ らの課題 を解決す るために,
観光 テーマお よび地域毎の魅力の充実,情報提侯
システムを充実 し誘客 ともてな しの風土を醸成する
こと,観光 と他産業 との連携構築の実施 を計画 して
いる。
また, これ らは,伊賀市総合基本計画の枠 内で,
伊賀市地域 まちづ くり計画.地域活性化計画,中心
市街地活性化基本計画 といった諸計画 と連携 ・調整
しなが ら実施 されるもの とされている
。
名
2. 民間ア クターの活動
1)伊賀上野観光協会
伊賀上野観光協 会は上野市観光協会 として 1
95
8
年 に設立 された。設立当初 は任意団体 であ った も
のの市 長が 会長 を務 め,事務所 も市役所 内に置か
れているなど公的な意味合いが強かったo Lか し,
1
9
98年以降は社 団法人化 し,会長 を民 間か ら選出
するなど独立性の強い事業展開を行っている。
図 5 伊賀地域の交通網
伊賀上野観光協会では直営施設 として伊賀流忍者
もに鉄道の利用者数 は年 々減少 してお り,1
4駅 を
有 し伊賀市内の多様な地域-のアクセスを可能 とし
博物館 を運営 してお り,その入場料等が主たる運営
資金 となっている。 このほか伊賀市か ら指定管理者
ている伊賀鉄道 も赤字路線 となっている。
として.だん じり会館,だん じり会館駐車場.伊賀
その他,高速バ スも名古屋,大阪,東京 などを結
ぶ路線 を有 し,バスによる長距離 アクセ スの利便性
信楽古陶館,伊賀越資料館の管理運営 を委任 されて
いる。
にも優れている。
2008年 には,隣接す る滋賀県 甲賀市 を通 る新名
伊賀流忍者博物館 は 1
964年 に伊賀流忍者発祥地
にふ さわ しい忍術文化 を継承 ・啓発す るための施設
神高速道路が開通 し,アクセス手段が増加 したこと
として建設 された。伊賀市中心部で最 も観光客 を集
か ら,観光客増が期待 されていたが,逆 に名阪国道
め る人気観光施設 で 2008年度 は約 20万 人 12'の観
の利用者の減少傾向が確認 され観光-の悪影響が懸
光客が来訪 した 1
3
)
。 また,外国人観光客 も多 く,外
念 される状況 となっている。
の整備 も行っている。しか し,
国語パ ンフレッ ト等 14)
Ⅲ.観光に関わる諸アクターの活動
年間を通 してみる と来館者数の季節変動が大 きく.
最 も来館者が多い 5月な どにはアルバ イ トを雇用 し
1.行政による観光振興
ている一方,閑散期 となる冬季には職員は忍者文化
現在 の伊賀市の観光振興 は,2007年 4月か ら 5
や英語の研修会を開催 した り,展示品等の作成にあ
カ年計画で実施 されている 「
伊賀市観光振興計 画」
に拠っている。これによると,伊賀市の観光は,伊賀
たっている。当該施設は伊賀上野観光協会が直営 し
てい るため広報活動 は容易で 2008年 に博物館登録
をしてか らは,館内展示や体験部門の充実 を図って
いる。
市中心部の上野城,伊賀流忍者博物館,松尾芭蕉関
連施設のほか,青山高原や余野公園などの 自然資源,
農林業 などに係 る様 々な交流資源,温泉や リゾー ト
施設な ど多 くの地域資源があ り,近年の観光入込客
数の動向は微増傾向にある。 しか し,その大部分は,
日帰 り ・通過型の観光 となってお り,2006年度に
実施 された 「
伊賀市地域活性化計画のための市民ア
I
だん じり会館は,上述の上野天神祭で用い られる
だん じりを常時 3基展示 してお り,大型スクリー ン
で伊賀の四季の映像 を楽 しむことがで きる。 また,
人形による鬼行列の再現展示 もあ り.祭 りの期間中
でな くて もその様子 を見学で きる。観光入込客数は
38 -
伊賀市中心部における観光事業の現状と課題
000年の開館で施設
年間約 5万人前後 15、であ り,2
も新 しい。
伊賀信楽古陶館は,個人が収集 した古伊賀 ・古信
楽 とその展示施設が旧上野市への寄贈 されたことを
受けて開館 した施設である。施設の 1階は現代の伊
賀焼陶芸作家の作品の展示 ・販売スペース となって
いる。来館者 は年 間約 3000人前後 であるが,建物
の老朽化 もあ り減少傾向であるとい う。
伊賀越 資料館 は,講談や時代小説 の題材 と して
表 1 松尾芭蕉翁顕彰会運営施設観光入込客数の推移
(
単位 :人)
年度
2000
2001
2002
2003
2004
2005
芭蕉翁生家
1
0685
1
031
0
1
1
291
1
1
906
1
8530
1
2640
蓑 虫庵
781
6
7440
91
75
9024
1
2798
81
39
(
賃料 :
観光 レクリエーション入込客数推計書
芭蕉翁記念館
1
6495
1
4078
1
3454
1
4922
21
769
1
41
99
三重県 平成 1
7年)
有 名な荒木 叉右衛 門の遺 品な ど伊 賀越仇討 に関す
る資料 を展示する施設である。観光入込客数は年間
6000人前後 16)であ り,施設の老朽化が進んでいる
だん じり会館,伊賀信楽古陶館,伊賀越資料館の
管理運営のために伊賀市か ら伊賀上野観光協会に年
間事業費約 1
500万 円が支給 されているが,伊賀信
楽古陶館 と伊賀越資料館では,施設の老朽化 と来館
者の減少により維持管理 コス トが増加 している 17)0
このほか,伊賀上野観光協会は伊賀市か ら年間約
3000万円の事業委託経費 18) を受け,観光客誘致活
動の中心的役割 も担 ってお り,国内での広報活動 と
は別 に,2006年以降は,台湾,韓 国.ハ ワイな ど
海外で も忍者 ショーを開催す るなど観光客誘致活動
を行っているoまた,インターネッ トでの広報活動 も
ホームペー ジの開設は もとよ り,3D インターネ ッ
トで伊賀市の魅力を発信する取 り組みや.動画配信
サ イ トで忍者 シ ョーの様子 を配信す るなど情報化社
会に対応 した活動 を積極的に展開 している。
さらに,伊賀市中心部での観光客の回遊性 を高め
るためのソフ ト事業 として, まちか ど観光案内所事
業を推進 している。これは,実際の実施は商店主等
のボランティアによってなされてお り.観光客 と住
民の交流の契機 を創出 し,観光客のニーズに合わせ
て道案内,町の情報の提供, トイレの開放 などを行
う取 り組み となっている。
2)芭蕉翁顕彰会
芭蕉翁顕彰会 は,伊賀市か ら松尾芭蕉翁記念館,
蓑虫庵.芭蕉翁生家の指定管理者 とされている財団
法人である。
松尾芭蕉翁記念館 は 1
959年 に松尾芭蕉 を顕彰す
る事業のひとつ として芭蕉文庫 を保存す るために建
設 された施設である。施設の 目的が学術資料の保管
と公開であることか ら.観光客-の対応 は十分にな
959年の建設当
されていない。 また,施設はほぼ 1
初のままで老朽化が進んでお り,バ リアフリー設備
等は備えていない。
芭蕉翁顕彰会が管理する観光施設の観光入込客数
は表 1の とお りである。 これをみると安定 して観光
客が来訪 しているものの,上野公園内にある伊賀流
O
忍者博物館や上野城 と比較すると観光入込客数は大
幅に少ない 190
伊賀市 においては松尾芭蕉は芭蕉翁 または俳聖 と
呼ばれ住民か ら強 く崇め られている。そのため,松
尾芭蕉 を観光 目的では利用 しに くく,松尾芭蕉関係
施設の管理運営 は伊賀市文化国際課が担当 している
ことか ら,観光振興 とは独立 した施策対象 とされて
いるとみることもで きる。
3)伊賀文化産業協会
伊賀文化産業協会は上野城 を管理運営する財団法
585年の筒井走辻 に
人であ る。上野城 の歴 史は,1
よる築城 に さかのぼ る とされ るが,1
61
2年の暴風
被害以降,昭和初期にいたるまで天守閣は再建 され
935年 に建設 された木
なかった。現在の天守 閣は 1
造 建 築 で, 伊 賀 文 化 産 業 城 と称 され る。城 跡 は
1
967年 に国史跡 に,天守は 1
985年に伊賀市の文化
財に指定 されている。
この ように,上野城天守閣は江戸時代の歴史を受
け継 ぐ建造物ではな く,当初は伊賀の産業陳列館 と
しての役割 を果たす ものであった。 しか しなが ら,
0万 人の観
現在 は,伊賀 の シ ンボル として年間約 1
935年の建設であるた
光客が来訪す る。上野城 は 1
め,バ リアフリー設備等 はな く施設の老朽化 も見 ら
れるが,施設内で上野城 スケ ッチ展,学童書道展.
伊賀陶芸会陶芸展, 史跡情景写真展などを開催 した
り,本丸広場 で剣道大会,弓道大会,薪能,太鼓 フ
ェステ ィバ ルな どのイベ ン トを実施す るなど地域密
着型の活動 を展開 している。
4)上野商工会議所
上野商工会議所 は,観光振興 に関わるソフ ト事業
として 2005年 度か ら伊賀学検 定 を実施 してい る
この検定は伊賀の歴史や文化の伝承 と地域への愛着
。
の醸成,観光事業従事者の資質向上などが 目的 とさ
れ年 1回行われている。受験資格等はな く,3段階
に難易度が分かれてお り,受験者の年齢層 も 1
060歳 代 まで多様 であ る。受験 者数 は 2005- 2008
年の 4年間で 目標 の 1
000人 20) を達成 した。 しか し
なが ら,受験者は漸減傾 向にあ り,受験意欲 を喚起
-3
9-
川田
力
・ 木本 勝士
する工夫が求め られている。
3.市民アクターの活動
一方,上野商工会議所青年部は,ハー ド事業 とし
て忍 者 体 験 が 出来 る娯 楽 施設 と して忍 びの館 を
伊賀市中心部において市民アクターが中心 となっ
て実施 している観光事業 としては,いが うえの語 り
2
0
0
9年 に城下 町地 区に開設 した。忍 びの館 は銭湯
部の会 と伊賀 S
GGクラブがある。いずれ も, ボラ
ンテ ィアとして観光 ガイ ド活動 を行っている。
を改修 した もので,大型スクリー ンを用いた忍者ア
クションゲームを体験で きた り,手裏剣や吹 き矢な
いが うえの語 り部の会では,伊賀市中心部の観光
どの忍具 を使 ったゲームに参加 し,忍者体験がで き
る
施設や伊賀の文化 ・習慣 を観光客 に説明 ・紹介 して
。
いる。対象 とす る観光客は以前は団体客が多かった
この ように.城下町地区の空店舗 を利用 したこと
が,近年は小 グループで特定の 目的を持 った観光客
で,観光客の回遊性 を高め中心市街地活性化への貢
が増 えてお り,そのニーズにあった対応 を行ってい
献 も期待 されるが,施設に駐車場 を併設 していない
ことや, 土 日祝 日のみの官業であるとい う弱点があ
るという。
る。 また,来館者数の季節変動の大 きさとリピー タ
後である。後継者不足の懸念 と,活動の活発化のた
ーの確保が課題 となっている。
めに増員 を計画 しているが,難航 しているとい うO
5)三重県菓子工業組合上野支部
近年 は積極 的に研 修会 を開 き,知識や技 能の向上
三重県菓子工業組合上野支部は,城下町お菓子街
道 という,観光振興 に関わるソフ ト事業 を実施 して
いる。 これは,主に城下町地区に立地す る和菓子店
構成員は定年退職者が中心で平均年齢 は6
5歳前
につ とめている。 この研修会の実施 にあたっては,
5万 円の支援 を受 けてい る22'。
伊賀市 か ら年 間約 1
に呼 びかけて実施 しているもので,観光客が まず,
2
0
0
7年度 には 1
2
9件 の協 力要請 を受 け,案 内人数
9
9
0人にのぼ り,伊賀市 中心部 にお ける観光事
は2
加盟店 または観光案内所等で 5枚綴 りのクーポ ン券
業の重要な役割 を担 っているといえる。
一方,伊賀 S
GGクラブは外国人のための通訳ボ
を購入 し.加盟店を巡回 してクーポ ン券で指定 され
た和菓子 と交換 しなが ら食べ歩 きを楽 しんで もらお
うとい う企画である。加盟店は図 6に示す ように,
城下町地 区に 1
3膚 21
1立地 してお り,城下町地区へ
ラ ンテ ィア組織であ る2
3
'
O会員は2
0
0
9年 8月現在
で2
8名で,その 8割は女性である。 また,2
0-3
0
観光客 を誘導 し,町並みを楽 しみなが ら回遊性 を高
歳代が多 く.学生や教員,主婦,会社員等が活動 し
ている。聞 き取 り調査の結果,伊賀市中心部に来訪
めることにより,城下町地区の活性化に寄与 している。
する外国人観光客の多 くは,仕事や学業等のため 日
本に長期滞在 している外国人で. 日帰 りもしくは通
過型観光客であるという。そのため,観光の主たる
目的地は伊賀流忍者博物館 または上野城 など上野公
園内で完結す る場合が大部分である。ただ し,松尾
_㌔
′
芭蕉翁記念館 は,施設が老朽化 していること,外国
人への対応が不十分であることなどか ら.来訪者す
る外国人は少ない という。
Ⅳ.伊賀市中心部における観光振興の課題
1.観光入込客数の変動に関する課題
伊賀市中心部における観光振興 にとって,観光入
込客数の季節変動 は大 きな課題である。 とくに 4-
図 6 城下町お菓子街道加盟店の分布
(
資料 :城下町お菓子街道案内マ ップ)
5月の伊賀上野 NI
NJAフェスタ開催期間中 と 8月
の夏休み期 間,1
0月後半の上野天神祭 には多 くの
観光客が訪れる。一方.冬季は観光入込客が少ない
閑散期 となっている。
こうした状況に対 して,主要な観光施設において
は,繁忙期にはアルバ イ ト等を雇って対応 している。
しか しなが ら, この ような観光入込客数の変動 は,
安定 して顧客獲得が求め られる観光客向け飲食店や
宿泊施設などの安定経営 を阻害 しているもの と考え
られる。 とくに,宿泊施設については伊賀市の観光
-4
0-
伊賀市中心部における観光事業の現状 と課題
では 日帰 り客が多い ことも阻害要 因 となってい る。
こうしたことか ら,研 究対象地域 内には宿泊施設が
6軒 しか立地 してお らず, その うち収容 人数が 5
0
人 を超 える施設は 1軒のみである。
また,交通利用の状況 によって も観光入込客数が
変動す る。上述の とお り伊賀市中心部の観光事業が
名阪国道 開通によって発展 したことか らもわか るよ
うに. 近 年で は 自家用車 を利用 す る観光客 の行動
パ ター ンが観光入込客数の動 向を大 きく左右す る。
これ まで,大阪都市圏か ら伊勢方面や,名古屋方
面 を訪れる際の中継点の役割 を していた ことや,大
阪 ・名古屋両都市圏か らの良好なアクセスが伊賀市
中心部の観光事業 にプラスの効果を与 えて きた こと
を考える と,2008年 に新 名神高速道路 の亀 山∼草
津間が開通 した ことによ り観光 目的地の選択肢が増
えたこと, また,それに ともない名阪国道の利用率
が低下 した こと,高速道路 のETC割引が 2009年 3
月か ら始 まった ことによ り遠方への観光行動が増加
したことな どが,伊賀市 中心部の観光事業 にマ イナ
スの影響 を与 える可能性がある。
図 7 伊賀市 中心部における駐車場の分布
(
資料 :Gul
det
ol
ga)
上述の ように,伊賀市中心部へのアクセスは多様
な方法がある。 しか しなが ら,モー タリゼー ション
の進展 によ り,鉄道利用者数は減少 した。 また,午
中心部の観光 においては,閑散期は駐車場数が足 り
間を通 じて安定 した観光入込客数が得 られないこと
か ら,朝夕の通勤通学時間帯 を除いては乗降客数の
減少が進 む24'
。す ると経費削減のため運行本数の削
る ものの.繁忙 期 には駐車場 数が不足す る。 また,
バ ス駐 車場 は上 野 公 園周辺 のみ に立地 してい るた
減がなされ観光客の鉄道利用の利便性が低下 し,メ
め,団体客は城下町地区を訪問 しに くくなっている。
一方,城下町地 区内にある駐車場 は観光客向けの
層鉄道離れが進む とい う悪循環が生 じる。 同様 に路
ものばか りではな く.伊賀市住民 も買い物等のため
線バス も運行本数が少 な く,観光利用 には適 さな く
なっている。
に利用す るため,休 日には空車待 ち時間が長 くなる
駐車場 もあ る。 また,上野公園か ら離れた位置にあ
る芭蕉翁生家や蓑 虫庵 は駐車場 を併設 している もの
2.ハー ド面の課題
4台であ り,観光
の,それぞれ乗用 車のみ 3台 と 1
伊賀市 中心部には多 くの観光施設が立地 している
が,施設 ごとの観光入込客数 にはか な りの差がある。
入込客の多い施設は,伊賀流忍者博物館,伊賀上野
客が訪れに くくなっている。 このほか,研究対象地
域の北端 の大規模 な市営城北駐車場 は平 日は無料で
ある ものの,主要観光施設 とやや距離があるため利
城,だん じり会館,松尾芭蕉翁記念館であるが, こ
用 しに くい とい う問題点 もある。
れ らはいずれ も上野公園内, もしくはその周辺 に立
地 している。そのため,観光客 は 自家用車 を利用 し
て来訪 し,上野公園周辺の駐車場 に駐車 して,上野
上述の ように伊賀市中心部では観光客が集 まる観
光施設が上野公園に集中 しているが.上野公園内の
公園周辺 を観光 し,その まま帰宅す るとい う行動パ
規模拡大等が困難であるとい う課題がある。これは,
ター ンが大部分 を占めてい る。 こう した こ とか ら,
上野公園内が上野城跡 として史跡名勝天然記念物 に
指定 されてお り,文化財保護法が適用 され,現状変
更が容易にで きない ことによる。
施設は,老朽化 による建物の更新,バ リアフリー化,
上野公園の南 に広が る城下町地区-の来訪者は多 く
ないO城下町地 区の主な観光資源 は城下町の歴 史的
町並みで,魅力的な観光施設が少ないこともその理
由の一つ とされ,観光客の城下町へ の回遊性 を高め,
誘導 を促す取 り組みが課題 となっているが, これに
は,駐車場の立地の問題 も影響 している (
図 7)。
繁忙期 と閑散期で人込み客数の差が大 きい伊賀市
-
01
4年 を 目途 に
例 えば,松 尾芭 蕉翁記 念館 で は2
新 しい記念館 の建設 を計画 しているが,現在の位置
での更新 は困難で,上野公 園外の中学校跡地への移
転が決定 した。当該施設 を訪問す る観光客 は高齢者
が多い ことか ら,高台 に立地す ることになる新 しい
41
-
川田
力
記念館 で は移動負担が増 えることが問題視 されてい
る
・ 木本
勝士
実施で きることも一因 といえる
。
現地での聞 き取 り調査 で明 らか になった課題は,
。
同様 の理 由によ り,上野公園内のバ リアフリー化
各 ア クターが相互 に どの ような取 り組 み を行 って
伊賀流忍者博物館 の規模拡大等は難 しく.観光事業
いるのか を把捉で きていない ことで,相互の協力な
推進の阻害要 因 となっている。
しに個 別 に事業 を実施す るこ と も少 な くない とい
一万,城下町地区においては.硯私
石畳を整備 し,
う。
ウオーキ ング トレイルを設置 し,マ ンホールの蓋 に
その原因はアクターの多様性 にあ り,それぞれの
忍者のキ ャラクターをあ しらうな ど,観光客の回遊
設立の 目的や特色 も異 なるだけでな く,協力 して観
性 を高め る事業が実施 されているが,観光客 に とっ
光振興 を実施す る中核 的組織 も現時点では存在 して
て魅力 となる城 下 町の町並 みの整備 は十分 で はな
いない。例 えば,市民が中心 となっているボランテ
い。一部には歴 史的町並み を復元 した街路 はあるも
ィア ・観光 ガイ ドの両ア クターは,使用言語 は異 な
のの,建築物の外観等 に一定の基準が定め られてお
る ものの類似 の活動 を実施 しているに も関わ らず,
らず,歴 史的町並みの一角 に西洋風建築が混在す る
協力 ・交流 はあ ま りない とい うO
アクター間の協力 とい う面でその可能性 を有 して
な ど町並みの統一感 も乏 しい251.
現地調査時に当該地区で空店舗や空家が散見 され
い るのが実行 委員会方式 であ る。 と くに伊 賀上野
たが,町並みの整備が遅れている原 岡の一つ に中心
NI
NJ
Aフェス タで は主催者 は伊賀市 であ るが,逮
市街地の空洞化 も挙げ られる。上述 の とお り,伊賀
営は諸アクターか ら代表者が参加する実行委員会方
市 中心部では観光客が集 まる観光施設が上野公園に
式で行われている。 こうした活動 を基盤 として,定
集中 している一方, これ まで城下町地区に観光客が
期的な会合 を開 き,各アクターが協力 し,一体感 を
訪れることはさほど多 くはなかったため,観光の小
売業へ の波及効果は限定的だった と考 え られる。 ま
持 って観光振興 に取 り組 んでい く必要がある もの と
考える。
た,城下町地区では.建物が密集 し大規模 開発がで
しか し, さらに, この間題 を複雑 に しているのが
きなか った一方で,城下町地区の縁辺部 にロー ドサ
指定管理者制度である。松尾芭蕉翁記念館 は,現在,
イ ド型の飲食店, シ ョッピングセ ンター,娯楽施設
の立地が進んだ。 ジャスコや ジ ョイシテ ィをは じめ
芭蕉 翁顕彰 会が伊 賀市か ら管理者 に指 定 されてい
とす るそれ らの施設は大規模 な駐車場 を有 し,買い
展示 している芭蕉文庫 は芭蕉翁顕彰会の所有物であ
物 の利便性 も高い。そのため,旧来の中心市街地で
るこ とか ら.芭蕉翁顕彰会が管理者 に指定 されたO
あ る城下町地 区では顧客が奪 われ小売業が衰退 し,
空 き店舗 も散見 されるようになって きた。
継続的に管理 を担 当で きる保証 はない。芭蕉翁顕彰
る。記念館 自体 は伊賀市の所有であるが,記念館で
しか し, これは 5年毎の更新制で,芭蕉翁顕彰会が
以上の ことか ら,観光客の回遊性 の向上のために
会側か らす ると,市か ら管理料 を受け取 り運営 を担
は,町並みの整備 は もとよ り,駐車場 の整備, 当該
当 しているため,文化財保存のみな らず,収益 も求
地区での小売機能の回復 な ど,観光客 に とってのみ
な らず,住民 に とって も魅力的な中心市街地形成が
め られる。 しか し,芭蕉翁顕彰会側 は崇拝の対象 と
なっている松尾芭蕉 を利用 して収益 を上げることに
重要であると思われる。
違和感 を感 じている とい う。一方で,伊賀市側 には,
記念館の運営方針が来訪者のニーズに適合 していな
3. ソフ ト面の課題
い とい う意見 もあ り,対立が顕在化す る可能性があ
前章で伊賀市 中心部 における観光 に関わる諸 アク
るo この ように,観光振興 において もアクター間で
ターの活動 について詳述 したが,伊賀市の観光振興
利害対立が発生す る場合があ り,利害の調整が難航
計画 に も記 されているとお り各ア クターが協力す る
す ることも考 え られる。
観光推進体制の構築が不可欠 となる。しか しなが ら,
アクター間の協力はまだわずか しか行われていない。
V.おわ りに
その理由のひ とつ に観光振興の中心 的役割 を果た
本研究 では伊賀市 中心部 を研究対象地域 として,
している商工労働観光課では,5か年計画 を開始 し
停滞期 におかれている観光地域の現状 と課題 を明 ら
た ものの,数年で課 内の担 当者が異動 とな り継続 し
かに し,その再構 築の方向性 について検討 した。そ
れ らをまとめる と以下の とお りである。
た施策の実行 に支障を きた してい ることがあるとい
伊賀市中心部の観光事業は様 々な課題 に直面 して
う。 また,伊賀上野観光協会 自体が観光施設 を所有 ・
運営 していた り,ボランテ ィア団体 の窓口 となって
いた りす るなど,行政 を介 さな くて も多様 な事業が
いる。伊賀市の観光地域 の発展 に大 きく寄与 して き
たモー タリゼー シ ョンの進行は,一方で公共交通利
- 42 -
伊賀市中心部における観光事業の現状と課題
いて も,合 意形成が容易 になる ことが予測 され る
用者の減少 をもた らし,伊賀市中心部の観光施設へ
の 自動車以外 でのアクセス を困難 に させ た。 また,
住民 間にあ る程度の合意が進む と,一定の拘束力 を
近年の新たな高速道路建設や割引制度実施 によって
持 って歴史的町並 みの整備 を進めることので きる景
自家用車 を利用 した観光行動が変化 し,当該地域へ
観条例 な ども制定 しやす くなる。 また,新規 にハー
の観光客の減少-繋が るのではないか という懸念 も
生 じている。
ド整備 を進め るだけでな く,伊賀市商工会議所が行
伊賀市 中心部 は,忍者や松尾芭蕉 といった国内外
に知名度の高い観光資源 を有 している。伊賀市では
。
っている忍 びの館 の ように,空家や空店舗 を有効利
用 して観光事業 を進める例 は大 きな可能性 を持 って
いるもの と思われ る。
これ らに加 えて上野城やその城下町の町並み を生か
して観光事業 を展開 して きた。 しか し,それが一方
[
付記]
で課題 とも関連 している。観光施設が集積 し,観光
本研 究 にお け る現 地 調 査 に ご協 力 い た だい た,
入込客数の卓越す る上野公園では,国史跡 に指定 さ
伊賀市商工 観光課観光振興係,伊賀上野観光協 会,
れために再開発が困難 とな り,観光客のニーズに対
芭蕉翁顕彰会,伊賀文化産業協会,伊賀 S
GGクラブ,
応す ることが難 しくなっている。 また,城下町地 区
主要観光施設の担 当者の皆様 に深 く感謝いた します。
では,城下町特有の狭隆な街路や細分化 された土地
区画 な どに起 因 して駐車場不足が生 じた り,大規模
な商業施設 ・観光施設の建設が困難であることが中
注
心市街地の空洞化 を引 き起 こしている
2003)pp.
2429を参照の こと。
尾 (
2)観光地域 の形 成過程 につ いての地理学 的研 究
。
観光振興か らすると,上野公園に来訪す る観光客
1)観光 に よる経 済効 果,社 会効 果 につ いて は溝
を城下町地区に誘導 し回遊性 を高める施策が求め ら
2004)0
れるが,一方で住民生活 との共存が課題 となる。 こ
うしたことは,観光客 にとってのみ な らず,住民 に
とって も魅力的な中心市街地形成が重要であること
を示唆 している。
3)But
l
erの観光 地域 サ イクル論 について は中崎
(
2002) が詳 しい。
4)現地調査は 2009年 8月に実施 した。
鳴海 (
2008)は,魅力あ る環境 は,大型 プロジェ
ク トや行政主導の公共的プロジェク トによってのみ
形成 され るので はな く,す で にあ る環境 の中か ら,
5)観光 まちづ くりについての地理学か らの研究は
少 な く,管見の ところ,
大橋 (
1
998),
山口 (
2005),
石川 (
2007),捕 (
2007)の研究が散見 されたのみ
魅力 を育 む こ とによって生 まれ る と指摘 している。
であった。 これ に対 して,都市計画や地域政策の
この指摘 をふ まえると,多様 なアクターが関わって
分野ではか な りの研究蓄積がある
。
多 く,全体 として足並みがそろった観光振興 につ な
6)名張市 も含め伊賀地域 と呼ばれる
7)国勢調査各年度版 による0
8)生産地は伊賀市 中心部に位 置 していない 。
9)伊賀市商工労働観光課資料 による。
が っていないことが確認 されたが,多様なアクター
1
0) 硯伊賀 上野観光協会。
が関わっていることは多様 なネ ッ トワー クを構築で
ll) 当初 は 1日のみ の開催 であ った。 主催 者 は各
き,それ らを活用 した魅力的な活動が創成 され る可
団体 の代表者か らなる伊賀上野 NI
NJ
Aフェス タ
能性 を有 しているといえる。
実行委員会である
い る伊賀市 中心 部 にお け る観光事 業の特徴 が長所
とな り得 る。本研究では,現時点では,各アクター
間の協力が少な く,個 別に事業 を展 開 している例が
。
。
各ア クターが 自由に意見交換 で きる場 を設定 し,
協力意識 を醸成す ることと.多様 なルー トか ら住民
12)伊賀上野観光協 会資料 による。
1
3) 聞 き取 り調査 に よる と,入館料だけで も約 1億
円の収入 を得た との ことであ る。
- の働 きかけを行 うことによ り観光客 と住民が共存
し,魅力 的 な中心市街地形 成- の気運が 高 まる可
1
4) 英語 をは じめ と して韓 国語, 中国語, 台湾語
能性がある。その際,住民 も都市の魅力 を享受 しな
が ら自分の ライフス タイルを発信す ることで, 自ら
15) 伊賀上野観光協 会資料 による。
の生活が都市 の魅力的 ソフ トの一部 とな り (
森 山,
1
6) 伊賀上野観光協 会資料 による。
2008),観光振興 に直接寄与で きると考 える
17) 伊賀市資料 に よる
のパ ンフ レッ トが用 意 されている。
。
。
本研究では十分 に言及で きなかったが,以上の よ
うな, ソフ ト面の改善が進む と駐車場整備や,城下
町の町並 み ・景観整備 といったハー ド面の問題 につ
-
1
8)伊賀 市資料 による。
19) 平成 17年度の観光入込客数 を比較す る と上野
城は1
02,
1
20人,伊 賀流 忍者博物館 は 21
4,
729人
43 -
川田
力
であ るが. 芭蕉 翁記 念館 は 1
4,
1
99人 となって い
る (
伊賀市商工労働観光課資料 に よる)
0
20)上野 商工会議所資料 による。
21)このほか,研究対象地域外 に 7店立地 してお り,
計2
0店が加盟 している。
・ 木本
勝士
会的事業』学芸出版社 p
p.
ll
47
.
淡野明彦 (
1
9
98):『
観光地域 の形成 と現代的課題』
6
9
p.
古今書院,1
淡野 明彦 (
2004):『アーバ ンツー リズム一 都市観
2
2)伊賀市 資料 による。
40
p.
光論- 』古今書 院,1
中崎 茂 (
2002):『
観光の経済地理学入門一 観光 ・
23)SGGとは,Sys
t
e
ma
t
i
z
e
dGoodwi
l
lGui
de (善
意通訳 )の略称 であ る。伊 賀 SGGクラブは, 読
39
p.
環境 ・交通 と経済の関わ り-』古今書院,2
鳴海邦碩 (
20
08):いってみたい都市 とは.鳴海邦
立当初 は外 国人住民の支援 を 目的 としていた0
碩編著 『
都市の魅力ア ップ』学芸出版社
2
4)赤字が続 いた近畿 日本鉄道伊 賀線が 20
07年 に
伊賀市が共同出資 して設立 した伊賀鉄道株式会社
橋本文雄 (
20
0
4):ユ ニバ ーサ ルデザ イ ンによるま
によって引 き継がれたのはこうした背景がある0
ちお こ し一 観光地の まちづ くりへ の取 り組 み-.
25) こう した こ とは,景観- の意識 の低 さに起 因
す るもの といえるが.住民や土地所有者の権利 を
優先 している もの とも解釈 で きる。
文
神野直彦 ほか編 『自立 した地域経済のデザ イン
生産 と生活 の公共空間』 有斐閣,pp.
1
81
207
.
フ ンク ・カロリン (
20
09):マス ・ツー リズム型観
43,pp.
1
5.
光地域の再構築.地理科学 ,6
基本 と実践」
】古今書院,
溝尾 良隆 (
200
3):
『
観光学
献
石川雄一 (
2
007):長崎 県の港湾 一長崎 と佐世 保,
浦
21
0,p
p.
4
6
5
3.
まちづ くりと観光の視点 地理 ,5
達雄 (
20
07):温泉観光地の まちづ くり.地理.
52
6,pp.
36
43.
大橋 幸文 (
1
998):野 沢温 泉村 :
特 色 あ る観光 開発
32,pp.
5
055
.
とまちづ くり.地理.4
風 見正三 (
2009):持続 可能 な社 会 を築 くコ ミュニ
テ ィー ビジネスの可能性.風見正三 ・山口浩平編
著 『コ ミュニテ ィー ビジネス入門
pp.
1
2
-
6
8.
地域市民の社
1
49
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森 山秀 二 (
2008):め くるめ く都心居住.鳴海邦碩
7
0
92.
編著 『
都市の魅力 ア ップ」
】学芸出版社 ,pp.
山口不 二雄 (
2005):「花観光」 と町お こ し.地理.
5
0
9.pp.
5
265.
But
l
er
,
R.
W.
(
1
980)
:Theconceptofat
our
i
s
t
ar
eacycl
eofevol
ut
i
on:I
mpl
i
cat
i
onf
or
managementofresources.Canadian
Ge
o
gr
a
phe
r
,
2
4,
pp.
5
1
1
2.
-4
4-
Fly UP