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グローバルビジネスパーソンのための財務塾 「2014年のファイナンスを
グローバルビジネスパーソンのための財務塾
「2014年のファイナンスを振り返る」
第1回「2014年のファイナンス戦略のケーススタディ」
2015年1月14日
インサイトフィナンシャル株式会社
代表取締役 手島直樹
1
自己紹介
手島直樹(てじまなおき)
インサイトフィナンシャル株式会社代表取締役
株式会社マネジメントソリューションズ及び株式会社トライアンフコーポレーション監査役
資格:
CFA協会認定証券アナリスト(CFA)
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員
TOEIC:985
学歴:
慶應義塾大学商学部卒業、ピッツバーグ大学経営大学院MBA取得(管理会計専攻)
職歴:
1996年-2001年:アクセンチュア株式会社
官公庁グループにてシステム構築、製造業グループにてCRM等のシステム設計や戦略コンサルに従事。
2001年-2008年:日産自動車株式会社
財務部及びIR部にて企業価値分析を中心としてコーポレートアナリスト(企業内財務アナリスト)業務に携わる。財
務部にてCFO(ティエリー・ムロンゲ氏)のアドバイザーとして財務戦略策定に従事し、IR部ではCEO(カルロス・
ゴーン氏)のアドバイザーとして、企業価値分析、財務戦略策定に留まらず、CEOの投資家コミュニケーション戦略
の策定も行い、スピーチライターも務めた。
2009年-:インサイトフィナンシャル株式会社
日産自動車にて携わったマーケット・インテリジェンス業務をより多くの企業に広めるためにインサイトフィナンシャ
ル株式会社を設立。主に経営企画、財務、IR部門に対するアウトソーシングサービスやトレーニングを行っている。
著書:
『まだ「ファイナンス理論」を使いますか?-MBA依存症が企業価値を壊す』(日本経済新聞出版社)、『グロービッ
シュ実践勉強法』(日本実業出版社)がある。
2
私のファイナンスに対する姿勢
・金融機関出身でないため、ファイナンスに対する姿勢は冷静(バフェットと同じくコンサバティブを好む)
・事業会社の視点でファイナンスを考える
・管理会計専攻であり、情報を活かして経営に役立てることが重要と考える(後述のマーケット・インテリジェンス)
・ファイナンス自体は価値を生まないが、価値を生むためにいかにファイナンスを利用するのかがテーマ
・ファイナンスによって企業価値を破壊することはあってはならないと考える
・株価があること自体が上場企業の資産。株価を経営に活かさない手はない(マーケット・インテリジェンス)。
・伊藤レポートに非常に否定的である
・投資に関して知識を持つが、投資は一切しない(日産とアクセンチュアの株主ではある)
3
私の地図
「経営」と「ファイナンス」が逆になり、「ファイナンス」が目的化すると企業価値は破壊される恐れが
あります。
経営
ファイナンス
4
弊社のミッション
ファイナンス理論と経営を繋ぐ
5
弊社の提供サービス
市場分析アウトソーシング
株価分析や競合他社(海外企業を含む)の財務分析などを代行するサービスです。経営企画部、
IR部、財務経理部門に十分なリソースをお持ちでないクライアントにご利用いただいております。
ファイナンス企業研修
クライアントをケーススタディとして利用しながら、ファイナンス理論や株価分析などを学びます。既
存のファイナンス関連業務をファイナンス理論の視点から変革することを目的としており、これまで
経営企画、財務、経理、IRに対する企業研修の実績があります。
監査役業務
現在、IPOを目指すベンチャー企業の監査役を務めています。
講演活動
M&A、IPO、企業再生などコーポレートファイナンス全般に関する講演を行っています。
6
本日のテーマ
企業価値創造経営への違和感
2014年のファイナンス戦略を振り返る
ROE包囲網
2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論
ケーススタディ
7
企業価値創造経営の一般的なイメージ
投資家が求める企業価値創造のための6つの方針
ROE
改善
ファイナンスの要素が多い
株主還元
成長
戦略
IR活動
社外
取締役
ガバナンスの要素が多い
報酬制度
伊藤レポートはまさにこのイメージで書かれています。
8
企業価値の創造はカンタン
松下幸之助に聞いてみましょう。
「いい製品を作って、それを適正な利益を取って販売し、集金を厳格にやる。」
「なすべきことをキチンとなしていれば、経営というものは必ずうまくいくものである。その意味では、経営
はきわめて簡単なのである」
拙著「はじめに」より
「私が理想とする経営像は、株価や株主、短期的な業績などは気にせずモノづくりに勤しんだかつての日本企業
なのです」
ファイナンスもガバナンスも少なくとも企業価値創造の主役だとは思えません。伊藤レポートが注目さ
れる近頃はあまりにも意識が強過ぎるのではないかと思います。
9
私の見解(1/3)
企業価値創造経営
・企業価値の創造は目的ではなく、結果に過ぎない(トヨタが企業価値創造を目標として今日まで来たとは思え
ない)
・企業が利益を上げるのは当たり前の話であり、利益を上げれば企業価値は自然に向上する(松下幸之助)
・利益は、株主の存在や企業価値創造経営のコンセプトとは無関係に追求すべきものである
・期待FCFの現在価値が企業価値であることがわかっていれば十分(正確に評価することは不要かつ無理)
株主の存在
・株式の保有期間が短期化しており、今や株主は「株券の所有者」に過ぎない(変化の兆候もある)
・ほとんどがファンドであり、投資代理業として株式を売買している(長期的な視点を持ちにくい)
・株価の最大化は企業価値創造経営の目的ではない。経営が短期的になり、経営を悪化させる。
・キャッシュフローを支払う顧客、生み出す従業員の方が大事なステークホルダーである
・ファンドは分散投資により各“銘柄”にまで注意を払わないため、ガバナンスの役に立たない(変化の兆候もあ
る)
ファイナンス戦略・理論
・ファイナンス理論は非常におもしろいが、実務では教科書通りにはいかない
・ファイナンス戦略はコンサバティブに必要最低限にとどめるべき(創業経営者はコンサバティブ)
・投資家も大してファイナンス戦略を気にしていない(せいぜい株主還元政策)ため、最小限の知識で十分
・複雑なファイナンス理論が必要になるほど商売は難しくない(ギリシャ文字は疑え、とバフェットは言う)
・ファイナンス戦略は本業をサポートする黒子である
10
私の見解(2/3)
ROE目標
・効率良く利益を生むことができれば自然とROEは改善する。ROEは目的ではなく結果である。
・レバレッジや株主還元により分母を縮小しようとするインセンティブが生じやすく、リスクが高まる
・分母を縮小するのではなく、分子の利益を高める努力をすべきである(ローソンの戦略)
・会計上の利益よりもキャッシュフローを重視すべきである(フリーキャッシュフローの現在価値=企業価値)
株主還元
・株主還元とは単に余剰現金を還元すべきものであり、目標設定は不要(総還元性向の目標設定は危険 )
・株主還元の“ばら撒き” により投資家を引き付けると、株主の質が悪化する(企業を理解しない株主が増える)
・株主還元よりも、高いリターンを生む再投資の機会を生み出し続ける努力をすべきである
・手元現金はとりあえずは多めに持っておくこと。明らかに成長が鈍化したら株主還元に回す。
成長戦略
・持続的な利益のある成長でなければ企業価値を生まない(内部成長が基本)
・M&Aでは高いプレミアムを支払い(NPVの計算ミス)、PMIにてこずるため企業価値を破壊することが多い
・高いプレミアムを乗せて事業を売却して売り手になる方が企業価値を高める
ストックオプション
・ストックオプションをもらったタイミングとその時の経営状況によって報酬が変わる“宝くじ” のような制度
・株価を意識し過ぎて社員ですら短期的になりかねない
・株価に影響を与えられるのは経営陣に限られる(経営者がイマイチだと、現場が頑張っても株価は上がらない)
11
私の見解(3/3)
社外取締役
・社外の視点を持つ専門家が社内に入れば同じこと
・CEOが優秀でなければ、どんなに優秀な人間が周りにいようが意味が無い(ソニーの歴代社外取締役は豪華)
・株主の視点を理解している社外取締役がどれほどいるのか?(極めて少ないはず)
IR活動
・日本企業の情報開示は世界トップクラスであり、さらなる情報開示のベネフィット(資本コスト減少)は小さい
・情報開示機能から戦略機能(マーケット・インテリジェンス機能)への変身が求められる(金融機関からのIR部
門へのヘッドハント増加はこの影響)
12
私の企業価値創造経営のイメージ
企業価値創造のための6つ柱
優秀な
経営者
優秀な
社員
優れた商品
・サービス
管理会計
パートナーと
しての株主
企業価値創造の主役
(キャッシュフローの源泉)
企業価値創造の黒子
Market
Intelligence
人材と彼らが生み出す商品・サービスこそが企業価値創造の源泉であり、IRを含むファイナ
ンス機能は彼らが能力を出せる環境を築くことが役割だと考えます。
13
私の見解
管理会計
・財務会計では、会計ルールに合わせる必要があり、経営の状況が把握しにくい
・経営の改善ポイントがわかる
・データに基づく事業部門の撤退や売却の判断がしやすい
マーケット・インテリジェンス(企業価値創造の視点)
・企業価値創造の視点から提言をし、経営に反映させる(資本効率性など)
・価値評価や資本効率性向上のための手段に関する高い知識を持つ(株主還元、資本構成など)
・M&Aを含む案件に対する高い投資判断力
・経営を投資家視点(アクティビスト・インサイド)でチェックできる能力(社外取締役と同じ役割)
パートナーとしての株主
・対話をする価値のある投資家を株主にする活動をすべき(B2Bマーケティング)
・株主に長期保有してもらうためには、持続的に企業価値を創造できる企業であることを示さなければならない
・短期的な経営をしていれば、短期的な投資家しか株主にならない(自業自得)
14
本日のテーマ
企業価値創造経営への違和感
2014年のファイナンス戦略を振り返る
ROE包囲網
2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論
ケーススタディ
15
株式市場関係者が選ぶ企業10大ニュースランキング
1位 アマダが利益をすべて株主に還元すると発表
2位 住友商事がシェール開発の失敗などで2700億円の減損損失を計上すると発表
トヨタ自動車が2015年3月期の連結純利益が初の2兆円になると発表
4位 三井物産が初の自社株買いを実施
春の労使交渉でトヨタなど主要企業がベア実施を一斉回答
6位 ファーストリテイリングが「ユニクロ」で初の一斉値上げ
7位 ベネッセホールディングスが顧客情報を大量流出
トヨタが世界で初めて燃料電池車を一般向けに発売
9位 サントリーHDが新浪氏を社長に迎える
ソフトバンク傘下の米スプリントによるTモバイルUS買収が白紙に
横浜銀行と東日本銀行が経営統合の方針
12位 第一三共が印ランバクシー・ラボラトリーズの実質売却を発表
ソフトバンクがロボット事業への参入を発表
深夜一人勤務が問題視されたゼンショーが上場来初の最終赤字見通しを発表
ソニーがスマホ損失などで2300億円の最終赤字見通し・初の無配を発表
日本マクドナルドHDが上場来初の営業赤字見通しを発表
肥後銀行と鹿児島銀行が経営統合の方針
18位 サントリーHDが米ビームを総額160億ドルで買収
鹿児島県知事が九州電力川内原発1、2号機の再稼働に同意
20位 タカタのエアバックリコール問題が世界で拡大
リクルートHDがIPO
16
2014年のファイナンス戦略の特徴
ROE一色
17
さまざまなROEランキング(1/3)
今年度の予想ROE改善幅、ブラザーやカシオ上位に 自社株買いで押し上げ
2014/12/30付 情報元 日本経済新聞
18
さまざまなROEランキング(2/3)
財務健全な「高ROE」ネット・外需関連が上位
2015/1/5付 情報元 日本経済新聞
19
さまざまなROEランキング(3/3)
発掘長期保有株(3)ROE改善度 人員、資金を最適配分 上位20社、半数が上場来高値
2014/10/24付 情報元 日本経済新聞 朝刊
20
高ROE企業には資金が流入
ROEと株式市場(1) 機関投資家の関心強まる
2014/11/25付 情報元 日本経済新聞 夕刊
21
JPX日経400インデックスには資金が流入
JPX日経400が年初来高値 高ROE銘柄に選別買い 個人資金、投信経由で流入
2014/9/4付
今年1月に算出を始めた株価指数「JPX日経インデックス400」が3日、年初来高値を約8カ月ぶりに更新した。安
倍改造内閣が発足し、株式市場に政策期待が広がる中、資本効率の高い銘柄への選別物色が目立っている。関
連する投資信託の運用残高も2400億円超に達しており、個人を中心に中長期のマネーが流入している。
(省略)
22
ROEのグローバル比較
ROEと株式市場(2) 資本効率は着実に改善へ
2014/11/26付 情報元 日本経済新聞 夕刊
23
投資家が重視する経営指標
投資家は、企業価値創造に向け企業が重視すべき経営指標として以下のものをあげています。
(回答数:87。複数回答可)
出所:生命保険協会調査のデータを加工・修正
一方、企業は、売上高や営業利益などのPL指標の改善をROEや配当性向よりも重視をしています。
24
ROEを意識する企業:ヤマトHD
ヤマトHD、ROE9%へ「できることは何でもやる」
2014/11/21 6:00 [有料会員限定]
(省略)
ヤマトホールディングス。1919年に「日本一」の志を胸に車両4台で興した「大和運輸」は2019年に創業100周年
を迎える。米国のフェデックスやUPS、ドイツポストといったグローバルプレーヤーを意識する立場になった今、
掲げるのが「2016年度に自己資本利益率(ROE)9%超」という目標だ。それでも10%を超える欧米のライバル
には及ばないが、達成のためには「あらゆる手段を尽くす」。経営陣はそう公言する。
その1つが、10月30日に2014年4~9月期決算発表に併せて打ち出した300億円の自社株買いだ。ヤマトHD
は13年2月、14年1月にそれぞれ100億円の自社株買いを発表した。この流れからして「15年初頭に100億円程
度の自社株買いを発表する」というのが市場の見立てだった。ところが発表された額は3倍の300億円。上場投
資信託(ETF)の買い入れ量を3倍増とした日銀同様、「いい意味で裏切られた」(国内運用会社)と市場にポジ
ティブサプライズを与えた。金融緩和のタイミングも相まって、翌日のヤマトHD株は10%高と急騰した。
ヤマトHDが「3倍買い入れ」に踏み切った理由は2つ。1つは2011年に発行した総額200億円の新株予約権付
社債(転換社債=CB)だ。株式への転換価格(1850円)を足元の株価は大幅に上回っており、このままでいけば
ほぼ全額の転換が予想される。16年3月にCBの満期が迫るなか、株式の希薄化懸念をあらかじめつぶす狙い
があった。
(省略)
25
ROEを意識する企業:三井物産
(CFO 投資家に語る)(5)三井物産 ROE、10~12%に引き上げ 岡田譲治CFO
2014/9/18付
(省略)
「財務で意識しているDEレシオ(負債資本倍率)とROEは矛盾する面もあり、それぞれで最適なところに持っ
て行きたい。社債格付けも意識して、DEレシオで0.8~1倍を維持しつつ、ROEを10~12%に引き上げる」
――2月に初めて自社株買いを実施しました。株主への利益配分の考え方は。
「株主還元は配当が基本だ。配当性向を25%から30%に見直した。残りの利益は新規投資とのバランスを考え
て使う。新規投資は資源だけでなく、生活関連や医療など成長が見込める分野にも振り向ける。こうした状況を
勘案しながら自社株買いについては機動的に考える。FCFの黒字化とROEの10~12%は中期計画最終年度
の目標だが、今期から単年度でも達成を意識していく」
26
本日のテーマ
企業価値創造経営への違和感
2014年のファイナンス戦略を振り返る
ROE包囲網
2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論
ケーススタディ
27
ROE包囲網
上場企業には、ROE改善を中心に「経営の標準化」が求められているように思われます。
外国人投資家の増加
議決権行使
助言会社
伊藤レポート
JPX日経インデックス
400
コーポレート
ガバナンスコード
スチュワードシップ
コード
28
主要投資部門別株式保有比率の推移
株式持合比率が減少し続け(都銀・地銀の保有率の大幅な減少がその証拠)、外国人投資家の保
有比率が上昇を続けています。
アメリカにおいてもかつては個人株主が大多数でしたが、現在では個人の保有率が下落し、機関投資
家の保有率が個人を大幅に上回っています。日本における投資期間については、機関投資家は1年未
満、個人はそれより短期となっています(銀行、保険、事業法人は長期)。
29
ヘッジファンドアクティビストの運用資産額推移
2014/6/26付 [日経新聞]
30
外国人投資家の日本における動向
英運用会社、ローム株の保有比率5.02%に
英運用会社のベイリー・ギフォード・アンド・カンパニーは4日、大量保有報告書を提出し、ローム株の保有比率
が11月28日時点で5.02%になったことを明らかにした。ベイリー・ギフォードは2012年にもローム株を5%取得し
たが、12年11月時点では3.84%まで低下していた。
(日本経済新聞朝刊2014年12月5日)
ソニー株 全て売却 米ファンドのサード・ポイント
米有力ファンドのサード・ポイントは保有していたソニー株を売却した。サード・ポイントが21日に投資家に送っ
た四半期ごとの書簡で明らかにした。売却時期や手法は不明だが「20%近い利益を得られた」という。同ファン
ドはソニーにエンターテインメント事業の分離を求めていた。
サード・ポイントを率いるダニエル・ローブ氏は書簡で「提案していた事業の一部分離は残念だが拒否された。
ただコスト削減など我々の目標にかなった一定の改革がされた」と指摘した。
サード・ポイントは2013年5月にソニー株を保有したことを明らかにした。ピーク時は7%程度保有していたとさ
れる。ローブ氏はソニーに対し映画や音楽などの事業を分離し、米国で上場するよう提案した。
ソニーは「エレクトロニクス事業とエンタメ事業は一体運営すべきだ」として提案を拒否した。ただエンタメ事業
の情報開示を拡大したほか、コスト削減などによる収益向上策を打ち出した。
ソニーは今年に入り、パソコン事業の撤退やテレビ事業の分社化など赤字が続くエレキ事業の構造改革を加
速している。9月にはスマートフォン(スマホ)事業で約1800億円の損失も計上した。「物言う株主」がソニー株を
手放したものの、ソニーに対する投資家や市場関係者の目は厳しくなっている。
(日本経済新聞朝刊2014年10月23日)
31
外国人投資家の日本における動向
2014/6/21付 [日経新聞]
2014/12/13付 [日経新聞]
32
外国人投資家とROE
(スクランブル)イベント頼みの日本株 上昇持続へROE向上カギ
2014/7/24付
(省略)
早稲田大学大学院で兼任講師を務める柳良平氏はUBS証券の協力を得て、内外の110の機関投資家に日本
企業と対話する場合、最大のテーマは何かを聞き取りした。全体の55%の投資家が「ROEの向上策」と答えた。
日米の主要500社をそれぞれ分析した柳氏によると、平均のROEは日本が約8%と米国の約20%に比べて見
劣りする。「過剰資本か過小資本の両極端の企業が多い」と柳氏は日本企業の問題点を指摘する。特に、手元
資金を積み上げて過剰資本になりROEが低い会社が日本では目立つ。柳氏はエーザイで財務などを担当する
執行役も務め、研究成果を生かしながら最適な資本政策を模索する。
(省略)
(IR新潮流(4)専門家に聞く)株主重視の意識、不十分 フランクリン・テンプルトン・インベストメンツのアラン・
チュア氏
2014/7/19付 情報元 日本経済新聞 朝刊
(省略)
企業はIR強化や自己資本利益率(ROE)の向上を目標に掲げるが、実際には目標達成に必要な不採算事業の
整理などに踏み切れない例が多い。企業再編も動きは緩慢だ。資本効率やコストを考えないまま、規模拡大の
ためにM&A(合併・買収)をしても失敗に終わる。
(省略)
33
伊藤レポート:経営視点で注目すべき点
伊藤レポートには12のテーマがありますが、経営の視点から注目すべきなのは、4つです。ただし
本気にしてはいけません。
1.持続的成長と企業価値創造
2.持続的成長のすがた
3.ROEと資本コスト、資本規律
4.マネジメントシステムと経営者のインセンティブ
5.中長期投資の促進
6.アセット・マネージャーのインセンティブ構造
7.アセット・オーナーの体制等
8.セルサイド・アナリストの役割とインセンティブ構造
9.投資家の短期志向(ショートターミズム)化
10 .経営の短期志向化
11.持続的成長に向けた企業開示の在り方
12.対話・エンゲージメント
34
日経新聞「大機小機」:伊藤リポートが示唆するもの(9月19日)
8月に経済産業省から公表された「伊藤リポート」が資本市場関係者の注目を集めている。「企業と投資家の望まし
い関係構築プロジェクト」と銘打ち、一橋大大学院の伊藤邦雄教授を座長に経営者や市場関係者が議論してまとめ
た報告書だ。持続的な成長に向けて企業と投資家による質の高い対話を要請し、その条件整備を企業と投資家の
双方に求めている。
グローバル企業と比べると、日本企業の収益力は長期にわたって見劣りしてきた。それは株式市場の評価に端的
に示されている。トヨタ自動車など一部の例外を除けば、日本で業界首位の企業でも株式の時価総額は世界トップ
企業の1割にも満たない。市場の厳しい評価は失われた20年を象徴しているかのようだ。
今年度の日本再興戦略で日本企業の「稼ぐ力」が最重要課題として取り上げられたのは、こうした問題意識からだ
ろう。日本再興戦略では持続的成長に向けた企業の自律的な取り組みを促すため、行動規範となる「コーポレート
ガバナンス・コード」の策定が取り上げられ、8月に有識者会議がスタートした。
日本企業のガバナンスは収益力より、規模の拡大や雇用の安定を重視してきたきらいがある。長年続いてきた間
接金融中心のシステムが、企業のガバナンスに影響を与えてきた可能性は否定できない。高度成長期には見事に
機能した仕組みだが、グローバル競争が一段と激しくなる中で、成長力の劣後を市場は厳しく評価し始めている。
市場の評価を高めるには投資家との質の高い対話が欠かせない。伊藤リポートは企業と投資家の対話の不足や
対話のレベルを厳しく問うている。投資家は緊張と協調の精神で企業の価値創造に厳しく向き合ってきたか。そして、
多くの年金基金がインデックス運用に偏重し、企業と真正面から向き合う機会を減少させてきたのではないか。
一方で、企業も投資家に対して消費者と同じ姿勢で向き合ってきただろうか。持続的に価値を創造するプロセスを
投資家にしっかりと情報開示し、その実現に向けたシナリオを投資家と共有してきたか。検証すべき課題は多い。
伊藤リポートは持続的な成長を実現するために欠かせない課題を具体的に提示している。企業と投資家にとって
示唆するものは多い。
35
伊藤レポートの問題点:誰のために書かれたのか?
金融機関の意向が強く反映されていると思われる
投資家、証券会社、企業、学者などさまざまな人材が集まって知恵を出したのは良いが、それぞれの立場の利
害が調整された結果としてレポートが作成されており、経営の視点を重視する私のような立場からすると、金融
機関のエゴが強過ぎると思われる。企業が本気にすると将来的にとんでもないことになるのではないか、と大変
危惧しているというのが私の正直な感想。
企業はROEを高めて資本コストを下げるために存在するのではない
伊藤レポートではROEと資本コストの重要性が訴えられているが、これを真に受けるサラリーマン社長が続出す
ると思われる。金融機関も伊藤レポートを武器に、リキャップCBなど自社の利益になる商品の営業に勤しんでい
る。良いもの(サービス)を提供し、お金を回収できれば、ROEも資本コストも改善することを経営者は理解すべ
き。
イノベーションの機会を根絶させてしまいかねない
イノベーションが少なくなってきたがゆえに、日本企業は企業価値を創造できていないと思われるが、伊藤レ
ポートにあるような定量分析を主とする経営を行うと、さらにイノベーションの機会が減り、企業価値は破壊され
るのではないか。
36
伊藤レポートに物申す(1/2)
資本コスト削減による企業価値の向上は、企業価値の創造ではなく、企業価値の捻り出しに過ぎない
企業価値の創造は、利益、より正確にはキャッシュフローの改善によって目指すのが企業の有るべき姿。資本
コスト削減にフォーカスを当てる経営はつまらない。
エクイティスプレッド(ROE-資本コスト)の改善で経営を誤る
企業価値の創造は絶対値で測定すべきものであり、%ベースの数値の改善に躍起になると縮小均衡のリスクが
高まる(レバレッジを高めて、分母を小さくするインセンティブが働く)。
投資家との対話は芝居に過ぎない
投資家目線で客観的に自社の経営を見ることができれば、投資家から学ぶことはない。投資家との対話で新た
な視点を得たり、勉強になったりしているようでは、経営者に隙がある証拠。
二枚舌経営(ダブルスタンダード)が正解
株価や企業価値は経営陣とIRだけが考えていればよい。ROEの発送が落とし込まれている現場とそうでない現
場では、後者の方が価値を創造する可能性が高い。
情報開示による効用はすでに限界に近付いている
日本企業の情報開示は世界でも高水準。投資家は豊富な情報を活用して自分で宿題をやるべき。また、企業
価値の源泉は、中期経営計画のような情報ではなく、結果であることを認識する必要がある。加えて、今後企業
はインサイドアウトの情報開示ではなく、アウトサイドインのマーケットインテリジェンスに注力すべき。
企業価値向上の観点から資本政策を語ることはやってはいけないこと
株主還元などの資本政策を検討する際に企業価値の向上を意識すると、過度な増配など企業価値を破壊する
可能性があり、また株主の質が悪化する可能性も考えられる。
37
伊藤レポートに物申す(2/2)
短期主義は、投資家ではなく経営者の責任
投資家に短期的な投資を止めるように言うのはムダ。投資家の声にNOと言い、持続的な企業価値創造を目標
に長期的な経営を行うのが経営者の義務である。
他律による経営は経営とはいえない
優秀な経営者であれば、他律的なガバナンスではなく、自律的なガバナンスの方が結果が出るはず。そもそも
他律が必要な時点で甘えがあり、経営者に向かない。
欧米流のCFOが企業価値を破壊する
M&A、財務エンジニアリングなどCFOが活躍する分野は多いが、本業でしっかりと利益を上げ、成長していれ
ば、CFOが活躍する場面はない。CFOがフル回転の企業は、企業価値は破壊されているのでないか(ソニー等)。
業績連動型の報酬で短期的な経営に走る
固定給だと働かないという印象があるのかもしれないが、内部昇進が基本の日本企業で、怠け者が経営者にな
るとは思えない。ドラッカーが言うように固定給でいいのではないか。
外人ではなく、先人に学べ
持ち合い、親子上場など外人が理解をしめさないものに否定的だが、これらは上場企業が株式市場の脅威を抑
えたり、株式市場のメリットを生かしたりするための先人の知恵である。申し訳ないという気持ちを持って投資家
に釈明すべきものではない。
38
JPX日経インデックス400
■JPX日経インデックス400の狙い
資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした、
「投資者にとって投資魅力の高い会社」で構成される新しい株価指数を創生します。これにより、日本企業の魅力を
内外にアピールするとともに、その持続的な企業価値向上を促し、株式市場の活性化を図ります。
■選定基準(の一部)
(2)定量的な指標によるスコアリング
以下の各3項目にかかる順位に応じたスコアを付与します(1位:1000点~1000位:1点)。その後、各3項目のウェイ
トを加味した合計点によって総合スコア付けを行います。(ROEと営業利益はスコア付けに際しての取扱いあり)
・3年平均ROE:40%
・3年累積営業利益:40%
・選定基準日時点における時価総額:20%
(3)定性的な要素による加点
(2)のスコア付けの後、以下の3項目を勘案してスコアの加点を行います。
この加点は、(2)の定量的な指標によるスコアリングに対する補完的な位置づけです※。
・独立した社外取締役の選任(2人以上)
・IFRS採用(ピュアIFRSを想定)または採用を決定。
・決算情報英文資料のTDnet(英文資料配信サービス)を通じた開示
※(2)の総合スコアのみによって選定を行った場合との差異が最大でも10銘柄程度となるような加点規模です。
(4)構成銘柄の決定
(3)の加点の後、スコアが高い順に400銘柄を選定し、構成銘柄とします。
(出所)東京証券取引所HP
39
JPX日経インデックス400
次のアマダを探せ 意思持つマネーが競争刺激 証券部 川上穣
2014/6/24
(省略)
約130兆円の資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は運用成績を上げるには、企業統治の
向上が必要だと判断。自己資本利益率(ROE)や営業利益に着目した「JPX日経インデックス400」に沿った運用を
4月から始めた。
これに海外勢も追随する動きを見せる。「最近は日経平均株価の代わりに、JPXの採用銘柄をまとめて買い持ち
するヘッジファンドが増えている」。ゴールドマン・サックス証券の宇根尚秀氏はこう証言する。
日本株に戻りつつある海外ヘッジファンドの資金。ただし、幅広い銘柄が底上げされた昨年までとは一線を画すも
のだ。ROEなどで優位な企業群を狙って選んでいる。
日経平均株価とJPX400の値動きの違いが、何よりの証拠だろう。特に4月以降、「JPX400優位」が鮮明になって
いる。
(省略)
40
JPX日経インデックス400に物申す
定量的な指標と定性的な要素を考慮した画期的なインデックスとして注目されていますが、1年毎
の銘柄入れ替えは思わぬ副作用を引き起こしかねません。
【バッファルール】
前年度採用銘柄に優先採用ルールを設けます。
前年度採用銘柄については、スコアが440位以内であれば、継続採用されます。
【銘柄入替】
毎年6月最終営業日を選定基準日とし、毎年8月第5営業日に入替銘柄を公表のうえ、毎年8月最終営業日に銘
柄定期入替を実施します。
インデックス当落線上の企業は、なりふり構わない短期的な行動(投資の中止、不正会計など)に出る
可能性があります。ROEは後先考えなければ、簡単に改善が可能なのが怖いところです。自らインデッ
クスへの採用を辞退するのもありかもしれません(前代未聞でしょうが)。
41
インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)
ISS、ROE改善促す
2014/10/17付 情報元 日本経済新聞 朝刊
議決権行使助言大手のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は16日、5年連続で自己
資本利益率(ROE)が5%を下回る企業の取締役選任議案に反対を推奨する方針を明らかにした。28日まで投
資家などから意見を募集し、それを踏まえて最終決定する。欧米企業に比べ低いROEの改善を促したい考えだ。
ROE5年平均5%未満なら「トップ選任に反対を」 議決権行使助言のISS
2014/11/8付 情報元 日本経済新聞 朝刊
議決権行使助言大手の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は6日、2015年度の
議決権行使の助言方針を発表した。過去5年間の自己資本利益率(ROE)の平均値が5%を下回る企業につ
いて、株主に経営トップの取締役選任議案に反対するよう勧告する。欧米企業に比べて低い日本企業の資本
効率を改善させる狙いだ。
当初は5年連続でROEが5%未満の企業を対象とする方針だった。1期でも5%以上になると基準を満たして
しまうため、「資産売却などによる一時的な収益回復は、資本効率の改善につながらない」などの意見を踏まえ
て修正した。
基準を満たさない場合でも、直近決算期のR0Eが5%以上の企業は資本効率が改善傾向にあると見なして
反対の推奨はしない。新方針は15年2月から適用する。
16年2月以降は複数の社外取締役がいない企業についても経営トップの選任に反対を推奨する方針だ。
42
スチュワードシップコード
スチュワードシップコードは、簡単に言えば、機関投資家は株券の持ち主ではだめ、ということです。
スチュワードシップの定義
企業が長期的に持続的な成長を目指すことができるよう、株主・取締役・他の利害関係者が企業に対して働き
かけ、影響を及ぼすプロセス
スチュワードシップコードの狙い
・機関投資家に対してスチュワードシップ責任を果たすため、方針の策定と公表を促す(160社が受入れ表明)
・日本企業の価値向上と、持続的な成長を実現し、機関投資家の顧客や受益者に対して中長期的な投資リター
ンの拡大を図る
http://www.fsa.go.jp/singi/stewardship/siryou/20140227/04.pdf
43
機関投資家はエンゲージメントができるのか
スチュワードシップコードの原則7は英国のコードには入っていません。要するに、エンゲージメント
はできない、と考えた方が良いでしょう。
原則7
機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基
づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである
海外においても、機関投資家がアクティビスト(ヘッジファンド)をエージェントとしてモニタリングやエン
ゲージメント活動を行うケースがあります。英国では、約3割の機関投資家がこうした活動を外部委託し
ています。
仮説(野村総研 堀江貞行上席研究員)
機関投資家は、過去20年間、市場全体として企業価値を高めることができなかった日本企業の中で、真に企業
価値を高める企業を選別する努力を怠った。TOPIXをアウトパフォームすることを目標とするならば、株価の上
下のタイミングを見ながら短期的に売買を繰り返す方法が得策だったかもしれない。必要なスキルセットは、中
長期で企業価値を上げるような企業を選別する能力ではなかったのである。
過去にやったことが無いことが急にできるようになるはずはありません。
44
日経新聞「大機小機」:投資家の行動規範への誤解 (11月26日)
日本でもスチュワードシップ・コードが制定された。スチュワードシップ・コードは、投資家が適切な企業統治を行えるよ
う、投資家に課せられた行動規範である。
英国では投資家の短期的な視野の圧力が、企業経営に悪影響を及ぼしているという認識が広まっている。その典
型は、英国の証券市場が英国企業の国際競争力強化に役立っているかを政府から諮問された、経済学者のジョー
ン・ケイが答申したケイ・レビューである。
これについては以前、このコラムでも取り上げた。投資家の短期主義が企業を毒しているという趣旨の報告書だった。
こうした認識の広がりを受けて投資家の行動に節度を求めようとしたのが、スチュワードシップ・コードである。
ところが日本では、投資家による企業統治の強化を促すための行動規範であるとの誤解が広まっている。これでは
コード制定の狙いが実現しない。投資家の節度を求めようとする行動規範が、投資家の無理難題を正当化する手段
として使われてしまっている。
なかにはこのコードを盾に取り、企業への自らの経営干渉を正当化しようとするアクティビストもどきの投資家すら出
てきている。
混乱の始まりは米国で制定された「フィデュシアリー・ルール(受託者責任原則)」にある。機関投資家に対し、資金
拠出者の利益になるような議決権の行使を義務付けた。世界中の多数の銘柄に分散投資している機関投資家に、適
切な議決権行使を要求するのは本来、無理な話である。
無理に形式的な正当性を与えるために作られたのが、議決権行使助言会社である。過度な分散投資を控え、投資
先企業の個別の事情に応じた企業統治ができる程度にまで、ポートフォリオを集中する。スチュワードシップ・コードで
はこれが投資家に期待される。
こうした制約で困るのは、市場全体に投資をしているパッシブ運用の投資家である。投資家が議決権を行使するこ
とが本当に世のため人のためになるのか、よく議論されなければならない。この議論を避けてスチュワードシップ・コー
ドに従うのは本末転倒である。
忘れてはならないのは、このコードが投資家に課せられたコードであって、企業経営者に課せられたものではないと
いう基本である。
45
コーポレートガバナンスコード
企業統治コードとは
2014/12/8付 情報元 日本経済新聞 朝刊
▼企業統治コード 取締役会の責務など上場企業のあるべき姿を定めた規範。企業は各原則に従うか、従わない
理由を説明する必要がある。年内に案への意見公募を始め、来年6月までに東京証券取引所がルール化する予
定。順守も説明もしない企業には、社名公表や改善報告書の提出要求を検討している。
46
コーポレートガバナンスコード
統治コードが促す二極化 編集委員 北沢千秋
2014/12/23付 情報元 日本経済新聞 朝刊
(省略)
コードの求めるハードルは高く、上場企業の負担は重い。だが、その分だけ企業や市場のあり方を変える力も大
きくなりそうだ。
例えば持ち合い株。企業は毎年、持ち合い先との取引の利益率などの検証が求められ、議決権行使の方針
も定めなければならない。合理的に説明できない株式持ち合いは解消に向かい、「日本株の支配証券としての
価値を高める」(堀江貞之・野村総合研究所上席研究員)との見方がある。
取締役改革も加速しそうだ。コードは独立社外取締役の役割を経営への助言、監督、少数株主などの意見反
映としたうえで、どんな人にどんな働きをしてもらえれば企業価値が高まるかを示している。コードに忠実に取締
役会を構成・運営すれば、意思決定の過程や速度はおのずと変わる。
忘れてならないのは、コード導入の狙いが経営者のリスクテークを促す点に重心を置いていることだ。ガバナ
ンス体制を整えたうえで下した経営判断なら、結果が悪くても経営者に責任を問うのは適切ではない――。コー
ドの底流には、そんな米欧流の「ビジネス・ジャッジメント・ルール」の考え方が流れている。
ガバナンス改革の先頭を走る企業からは「仕組み作りは大変でも、克服するとそれが自社のためだったのが
実感できる」(安藤聡・オムロン執行役員)という声が聞かれる。企業はコード導入を押しつけられる義務と考え
ず、経営改革の好機ととらえた方がいい。
金融庁の幹部は「これでガバナンスの弱さという、海外投資家が日本株に投資しない理由はなくなる」と期待す
る。本当にそうなるかは企業の取り組み次第だ。今後、投資家はコードへの対応をみて、どの企業が株主価値
を高めてくれそうか、ふるいにかける。市場評価の二極化は急速に進む可能性がある。
47
コーポレートガバナンスに対する私の姿勢
会社は誰のものでもよい
会社は株主のものである、経営者のものである、従業員のものである、社会のものである、などさまざまな考え方
があるが、会社が誰のものであっても、会社が生み出す物やサービスを消費者が受け入れ続け、利益が持続的
に成長し、企業価値が高まればそれでよい。
究極の経営指標は企業価値である
ROE、EPSといった定量指標や従業員満足度、顧客満足度といった定性的指標が存在するが、それらは「中間成
果物」に過ぎず、企業は企業価値をどれだけ高めることができたかで評価されるべきである。たしかに企業価値
は株主視点ではあるが、企業価値が高まれば他のステークホルダーの満足度も高まるはずである。
監視されなければ働かない経営者、外部のサポートが無ければ働けない経営者は退出すべきである
バフェットが言うように、おいぼれの馬にどんなジョッキーが騎乗しても、大した結果は出ない。外部からの監視が
無ければ自分の能力も判断できない自律なき経営者が企業価値を創造できるはずもない。ガバナンス以前に社
内の人材評価制度を改めるべきである。
48
本日のテーマ
企業価値創造経営への違和感
2014年のファイナンス戦略を振り返る
ROE包囲網
2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論
ケーススタディ
49
資本コストとROE
50
ROEに関する私の見解
私の見解
・ここまでROEが注目されるのは異常
・ROEは、所詮会計数値に過ぎない
・分母の資本も分子の当期純利益も操作(不正ではないしても)が可能
・投資家は、本物の高ROE企業と偽物の高ROE企業を見分けなければならない
理論
・株主の出資額(資本)に対する株主に帰属する利益(当期純利益)の比率
・高ROEとは、資本から効率的に利益を生み出すことを意味する
・ROEが株主資本コストを上回れば(エクイティスプレッドがプラスであれば)企業価値が創造される
現実
・長期的な投資を抑制して当期純利益(ROEの分子)を高めるインセンティブが生じる(短期主義)
・株主還元(ROEの分母)を過度に強化するインセンティブが生じる
・企業価値の創造を伴わないROEの改善もある(本末転倒)
・日本企業のROEが低いのは、単に儲かっていないから
・投資家受けの良い会社(積極的な財務戦略)よりも、経営の質の高い会社(商品力、ブランド力、独創性など)の
ROEの方が高い
・当期純利益には一過性の要因が含まれており、ノイズが多い
・当期純利益を減らすリストラはやりにくい(利益率が低いが赤字ではない事業は存続される)
あるべきアプローチ
・企業価値を持続的に創造する経営を行った結果として自然とROEを改善させるのがあるべき姿
・ROEよりもあえてROICを業績指標とすることにより、質の高い投資家を引き付けるべき
・イノベーションを持続的に生み出せばROEは勝手に上がる
51
ROEのブレークダウン:デュポンの公式
ROEは当期純利益を株主資本で割って求めますが、以下の3つの要素にブレークダウン可能です。
■本業の要素
①売上高当期純利益率(当期純利益/売上高):利益率を改善する
②総資産回転率(売上高/総資産):資産効率性を改善する
→本業に関連するため、会社の総合力が求められる(簡単ではない)
■財務戦略の要素
③財務レバレッジ(総資産/株主資本):負債を増やす、株主資本を減らす
→株主還元の強化(大幅増配、自社株買い)、リキャップCBで簡単に改善
日米ROE比較
出所:生命保険協会調査
52
ROEのブレークダウン:2013年実績
ROE8.6%に上昇、東証1部企業 13年度
2014/5/31 2:00 [有料会員限定]
日本企業の資本効率が改善している。東証1部上場企業の2013年度の自己資本利益率(ROE)は8.6%と前年
度に比べ3ポイント強上昇し、6年ぶりの高水準となった。円安や構造改革による利益拡大が寄与した。一方、自
己資本の増大が一段の上昇を抑えている面がある。今後は自社株買いや増配での株主配分の強化など資本の
有効活用もカギとなりそうだ。
ROEは、売上高に対する純利益の比率である売上高純利益率や、自己資本に対し総資産が何倍かを示す財
務レバレッジなどに分解できる。財務レバレッジが低すぎると自己資本の使い方は非効率的とされる。
13年度は売上高純利益率が3.71%と1.4ポイント上昇し、過去30年で最も高かった07年度に迫る。収益体質を
強化するなかで、円安の追い風が吹いた製造業などが目立ち、これがROE全体の改善につながった。
一方で、財務レバレッジがまだ低水準で、ROEは直近で最も高かった05年度の9.5%には及ばない。財務レバ
レッジは05年度の2.83倍に対し、13年度は2.67倍にとどまる。
市場では「投資家は企業が持つ潤沢な資金の使い道に目を光らせている」(野村証券の西山賢吾シニアストラ
テジスト)との指摘がある。三菱商事は7年ぶりの自社株買いを決め、NTTのように増配と自社株買いを発表し
た企業もある。資本の有効活用を意識する企業が増えれば、さらなるROE向上につながりそうだ。
53
一橋大学伊藤邦雄教授(ROE推進派)
ROE重視と日本経済 企業価値高め成長促す 一橋大学大学院教授 伊藤邦雄氏
2014/12/14付 情報元 日本経済新聞 朝刊
(省略)
――企業経営者や市場関係者を集めて議論した経済産業省のプロジェクトで座長を務め、「日本企業は最低8%
以上のROEを目指すべき」という報告書をまとめました。
「投資家からは歓迎の声ばかりだが、意外なことに企業からも今のところ反発するような声は聞こえてこない。以
前はROEというと特に企業側から米国型経営の直輸入と批判されたものだが、今回はそういう反論はなかった。
日本もROEという考え方を本当に受け入れる雰囲気が醸成されていたのだろう」
(省略)
――ROEは純利益を自己資本で割った値だから、自己資本を削れば改善します。これは企業の健全な成長を
阻害するのではないですか。
「最後の計算式だけを見ればそういう誤った行動を誘発するわけで、ROEに対する皮相的な理解だ。ROEは売
上高純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ(負債比率)の3つの指標のかけ算。経営にとってそれぞれ重要な
3つの要素を1つに凝縮した指標と考えるべきだ。この3つの指標を改善に取り組んだ結果としてROEが上昇する
というのが正しい使い方。ROEを分解することで企業の現場に浸透する効果もある」
「負債比率を高めてROEを引き上げている一部の米国企業の例を挙げ、日本にはROE経営はなじまないとする
批判があるのも確か。だが、ROE経営で日本は米国に比べて1~2周は周回遅れの状況だ。大きく遅れているう
えに米国の極端な例を出してROEを批判しても意味はない。投資家やアナリストも、たとえ負債比率を高めて一時
的にROEを上げたとしても、そういう経営に持続性はないことを見抜くはずだ」
54
一橋大学伊藤邦雄教授(ROE推進派)
ROE重視と日本経済 企業価値高め成長促す 一橋大学大学院教授 伊藤邦雄氏
2014/12/14付 情報元 日本経済新聞 朝刊
――個々の企業がROEを正しく使っていけば、マクロの経済全体も縮小均衡には陥らないということですか。
「ROEは日本経済全体の成長のためにこそ重要だ。分母の自己資本を削るのではなく、企業が正しくROEを使
いながら自己資本を積み上げていけば、新たなイノベーションを生むための原資も生まれる。実際にROEが高い
企業は持続的に成長しているという事実もある。ROEを正しく使って個々の企業が成長していけば、マクロ的には
金融資産を含めた国富が積み上がっていくと考えている」
55
バークレイズ証券ストラテジスト北野一氏(ROE反対派)
過大な目標要求控えよ バークレイズ証券チーフ・ストラテジスト 北野一氏
2014/12/14付 情報元 日本経済新聞 朝刊
――企業のROE重視の経営姿勢が、経済全体にはマイナスに働くと主張されています。
「経営の結果としてROEが高くなることには全く異存はないが、ROEを経営の目標にすると様々な不都合が生じ
ると考えている。目標の実現のために、その妨げになるものが排除されるからだ。たとえば、ROEを上げるために
賃下げやコストカットが常態化してしまう。結果として従業員の所得や取引先の売上高の減少を招き、その合計額
である付加価値額(営業利益に人件費と減価償却費を足した額)が減少してしまう」
「これまで年間でROEという言葉が使われた新聞記事の本数が最も多かったのは、今ではなく1997年だ。90年
代半ば以降、日本企業の間でROEが最も重要な経営指標になったとみており、ROEを目標にした企業の行動が
日本のデフレ経済の大きな原因になったと考えている」
――日本企業が重視すべき経営指標は何でしょうか。
「ROEを否定するわけではないが、重要なのはROEはあくまで道具であり、手段であるということだ。間違っても
目標にしてはいけない。ROEは道具であるという理解抜きには、それを使うという発想も生まれてこないだろう」
「『日本企業』という言葉でひとくくりにされて全部の会社が同じ経営指標を重視していけば、個々の企業から個
性が消え、消費者や株主からみてつまらない存在になってしまう恐れがある。つまらない企業は淘汰され、企業価
値が増大することもない。そしてその集合である日本経済が成長することもないだろう」
56
資本コストに関する私の見解
私の見解
資本コストを正確することは不可能なので、大雑把な数値で良しとする。資本コストを意識していることが重要。
理論
・負債だけでなく株主資本にもコストはかかる
・株主資本コストはCAPMにより算出される
・負債コストと株主資本コストの加重平均がWACC(加重平均資本コスト)である
・ROIC(投下資本利益率) がWACCを上回れば企業価値が創造される
・ROEが株主資本コストを上回れば企業価値が創造される(エクイティスプレッドがプラス)
現実
・CAPMのパラメータ(ベータなど)が人によって異なるため、資本コストも人によって異なる
・ベータは過去のデータに基づくが、経営に変更があれば、将来的には変わるはず
・投資案件のリスク水準に合わせて、任意に資本コストを調整する企業が多い
・大企業が部門ごとの資本コストを算出することがあるが、理論的には可能とはいえ、無理がある
・投資家の算出する資本コストよりも会社の算出する資本コストの方が低い傾向がある(後述)
あるべきアプローチ
・株主資本コストは、精緻に計算してもそれが本当に正しいのかはわからないので、複数の投資家に聞き平均値
を使えば良い
・「伊藤レポート」によれば、国内機関投資家の平均値が6.3%、海外機関投資家の平均値が7.2%であり、どちらも
8%を利用する投資家が最多であった(おそらくベータが1、マーケットリスクプレミアムが6%、リスクフリーが2%)。
・資本コストを意識していることを投資家に伝えるべき(後述)
・資本コストの縮小は資本構成(後述)の調整以外の手法でも可能
57
一橋大学伊藤邦雄教授(ROE推進派)
ROE重視と日本経済 企業価値高め成長促す 一橋大学大学院教授 伊藤邦雄氏
2014/12/14付 情報元 日本経済新聞 朝刊
(省略)
――なぜ8%の数値目標を盛り込んだのでしょうか。
「国内外の機関投資家に日本企業の資本コスト(株式の期待収益率)はどのくらいを想定しているのかを聞いた
ところ、国内が6.3%、海外が7.2%だった。資本コストを上回るROEを上げれば企業価値を創造できるわけだから、
目標を8%以上とした。プロジェクトの議論では数字の一人歩きを心配する声もあったが、日本の不退転の決意を
国際的に示すためにも数値目標を入れることにした」
――機械メーカーのアマダのように、ROEを引き上げるために増配や自社株買いで余った資本を株主に返す動き
が広がっています。
「安易に内部留保をため込むのは論外だ。(純利益に対する配当と自社株買いの合計額の比率である)総還元
性向を100%にするアマダの姿勢は結構なことだ。市場も株主を重視するアマダの経営のメッセージを歓迎したの
だろう。ただすべての利益を株主に返すということは、企業自身が事業努力では資本コストを上回るROEを上げに
くいと認めているともとれる。内部留保を使った事業投資で資本コストを上回るROEを実現し、企業価値を持続的
に高めていくのが経営の本道だ」
58
8%のROE目標は結構的を得ている
「8%」は魔法の数字
ROE上昇で評価一変 (日本経済新聞2014/8/26)
株価指数の上値の重さとは裏腹に、東京市場では個別銘柄の物色意欲が旺盛だ。25日は東証全体の6%に
当たる220銘柄が年初来高値を更新した。そこで投資家が注目し始めた投資の判断基準がある。企業のROE
(自己資本利益率)がこれから8%を超えるかどうかだ。この8%はまるで「魔法の数字」のように日本株市場を
一変させる力も秘める。
(省略)
なぜ8%なのか。理由は投資家がリスクの見返りとして上場企業に求める期待リターンを示す「株主資本コスト」
に隠されている。 株主資本コストの算出法には諸説ある。そこで実際に機関投資家に聞いたのがエーザイの
柳良平執行役だ。昨年発表した調査では、国内外の機関投資家が日本株に求める株主資本コストは8%という
回答が約3割で最多だった。ROE8%を達成すれば9割超の投資家の要求を満たすという。
逆に株主から預かったお金を年率8%以上で増やすことができない、つまりROEが8%未満の企業は、最低
限の義務を果たしていないという評価になる。その「上場失格」の水準から8%というハードルを越えれば評価が
一変し、株価が大きく上昇するわけだ。(省略)
59
残余利益モデルとPBR
残余利益(当期純利益-株主資本コストの絶対額)がプラスであれば、ROE>株主資本コストであ
り、PBR>1となります。
時価総額 = 期首株主資本 +
(ROE-株主資本コスト)*期首株主資本
株主資本コスト-成長率
両辺を期首株主資本 でわると、
PBR = 1 +
ROE-株主資本コスト
株主資本コスト-成長率
60
日本企業の内部留保
日本企業の内部留保が一貫して拡大しており、内部留保の使い道が企業価値の創造もしくは破壊
につながることになります。
(兆円)
出所)生命保険協会調べ
61
バークレイズ証券ストラテジスト北野一氏(ROE反対派)
過大な目標要求控えよ バークレイズ証券チーフ・ストラテジスト 北野一氏
2014/12/14付 情報元 日本経済新聞 朝刊
(省略)
――なぜROEは企業経営の目標として適切に働かないのでしょうか。
「企業が資本コストを上回るROEをめざすのは当然の話。問題なのは、適切な資本コストの水準がきちんと議論
されていないことだ。資本コストは投資家が期待する株式の期待収益率だが、その水準についての絶対的な定義
はない。海外投資家に聞くと約8%と答えるということだが、これは米国株式市場の過去の長期的な収益率に基づ
く水準でそうなっているだけだ」
(省略)
62
企業が重視する経営指標
投資家は、企業価値創造に向け企業が重視すべき経営指標として以下のものをあげています。
(回答数:408。複数回答可)
出所:生命保険協会調査のデータを加工・修正
一方、企業は、売上高や営業利益などのPL指標の改善をROEや配当性向よりも重視をしています。
63
WACC
株主の要求リターンと債権者の要求リターンを時価ベースで加重平均したものが、加重平均資本
コスト、すなわちWACCです。
投資
運用
債権者
wd:負債比率
資産
(時価ベース)
リターン
低コスト
リターン(kd:負債コスト)
we:株主資本
比率
株主資本
(時価ベース)
投資
高コスト
株主
リターン(ke:株主資本コスト)
64
レバレッジを高める:リキャップCB
資本を負債(転換社債)にスワップすることにより、総資産額は維持したまま、資金調達(バランス
シートの右側)の比率を変更します。
バランスシート(Before)
バランスシート(After)
負債(低コスト)
負債(低コスト)
資産
資産
資本(高コスト)
資本(高コスト)
・高コストの資本の比率が高く、WACCは高め
・ROEに不利
・低コストの負債の比率が高く、WACCは低め
・ROEに有利
65
資本コストと企業価値
割引率となる資本コストが下がり、分子に変化が無ければ、企業価値は自動的に上昇します。
企業価値 =
FCF2
FCF3
FCF1
+
+
(1+WACC)^1
(1+WACC)^2
(1+WACC)^3
・・・・・・ +
FCFn
(1+WACC)^n
WACC↓⇒企業価値↑
時価総額 = 期首株主資本 +
(ROE-株主資本コスト)*期首株主資本
株主資本コスト-成長率
株主資本コスト↓⇒企業価値↑
66
ROICとROEの比較(1/2):ROEとは
株主資本と株主の持ち分となる当期純利益の比率がROEであり、株主にとって極めて重要な指標
です。
BSの右側
PL
売上
売上原価
SG&A
営業利益
負債
営業外損益
経常利益
特別損益
株主資本
ROE
法人税
当期純利益
・ROE= 当期純利益/株主資本
・(ROE-株主資本コスト)のスプレッドが企業価値創造の判断基準
・(ROE-株主資本コスト)*期首株主資本=残余利益
67
ROICとROEの比較(2/2):ROICとは
資産と本業の利益(税引後)の比率であり、資産効率性を判断するのに有効であり、企業としては
ROICにフォーカスを当てる方が適切です。
BSの左側
事業資産(投下資本)
(工場、機械、売掛金、
在庫など)
PL
売上
売上原価
SG&A
営業利益→税引後にしたものがNOPLAT
(Net Operating Profit Less Adjusted Taxes)
ROIC
ROA
非事業資産
(遊休資産、余剰現金等)
・ROIC= NOPLAT/投下資本
・ (ROIC-加重平均資本コスト)のスプレッドが企業価値創造の判断基準
・ (ROIC-加重平均資本コスト)*投下資本=Economic profit
68
残余利益:エクイティスプレッドだけが勝負ではない
自己資本だけを減らしてエクイティスプレッドを拡大しても、残余利益が伸びない縮小均衡に陥る
可能性もあります。
残余利益 = 期首自己資本*(ROE-株主資本コスト)
= 期首自己資本↓*(当期純利益/期首自己資本↓-株主資本コスト)
期首自己資本
期首自己資本
エクイティ
スプレッド
資本の厚い企業が目指すべき姿
(ROEが株主資本コストを少しでも上回ればOK)
エクイティ
スプレッド
ネット系
(収益性勝負)
69
CAPM
株式資本コストを算出するのに広く利用されるモデルです。以下のようなパラメータによって構成さ
れます。
株主資本コスト = β(市場期待リターン-リスクフリーレート)+ リスクフリーレート
市場リスクプレミアム
β(ベータ)
個別銘柄とTOPIXなどの市場指数の価格変動の連動性を示す市場感応度。個別銘柄のリターンと市場
指数のリターンを回帰分析して算出。1が市場指数と同等の感応度となる。
市場リスクプレミアム
投資家がリスクのない安全資産に要求するリターンとリスク資産に要求するリターンの差。4%~6%が利
用されることが多い。
リスクフリーレート
10年物などの長期国債の利回りを利用することが多い。
70
CAPMの背景:証券市場線
CAPMは、投資家がある銘柄を分散ポートフォリオに追加するという前提となっています。よって、
分散ポートフォリオ(TOPIX)と銘柄のリターンの相関(それがベータ)が重要になります。
証券市場線(SML)
E( Ri )=rf+ [ E( RM ) -rf]  i
(1.2.2)
Co v ( Ri , RM )
ただし、  i =
M2
E[Ri ]
SML
E[RM ]
M
rf
0
 M=1.0
i
71
CAPMの背景:リスクのタイプ
リスクには分散可能なリスク(アンシステマティックリスク)とそうでないリスク(システマティックリス
ク)があります。分散投資家にとっては、個別企業の倒産などのイベントは影響がありません。

リスク
分散可能
アンシステマティック・リスク
システマティック・リスク
分散不可能
n(銘柄数)
72
βを求める:伊藤忠商事のケース(5年月次ベース)
X軸にTOPIXのリターン、Y軸に伊藤忠商事のリターンを取りプロットしたものが下のチャートです。
近似曲線を引き、その傾きがβとなります。
73
βを求める:伊藤忠商事のケース(5年月次ベース)
TOPIXのリターンを説明変数、伊藤忠商事のリターンを被説明変数として、回帰分析した結果が下
の表です。「係数」がβとなります。もちろん前ページと同じ結果となります。
74
βを求める:伊藤忠商事のケース(3年週次ベース)
3年週次ベースとすると、βが大幅に上昇します。商社のように持続的に利益を伸ばしている業種で
あれば、5年月次が適切かと思います(正解はないので、評価者が決めることになります)。
75
株式資本コストを求める:伊藤忠商事のケース
パラメータ
・β:0.8169
・市場リスクプレミアム:5%とする
・リスクフリーレート:2%とする
株式資本コスト = 0.8169 *5%+2.0% = 6.1%
76
エクイティスプレッド:伊藤忠商事のケース
ROEは株主資本コストを大幅に上回っているため、残余利益はプラスであり、企業価値を創造して
いると言えます。これが好調な株価パフォーマンスにつながっていると思われます。
残余利益 = 期首自己資本*(ROE-株主資本コスト)
77
負債コストを求める:伊藤忠商事のケース
負債コストの算出には以下の3つのアプローチがあります。Valuationでは、①の格付けをベースと
するアプローチを推奨しています(forward-lookingな数値であるため)。
①格付けをベースに推定するアプローチ
債券利回りを負債コストとする。格付け水準ごとの債券利回りは、日本証券業協会のHPから入手可能。
http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php
②有価証券報告書に記載される上方から推定するアプローチ
負債に関する注記情報(明細表など)から負債コストを算出する。
③支払利息と有利子負債の期中残高から推定するアプローチ
支払利息÷有利子負債の期中残高で算出する。
78
負債コストを求める(①):伊藤忠商事のケース
負債コストは格付けをベースに行います。日本証券業協会のHPから同等の格付け(BBB)で残存
期間10年の複利利回りをピックアップする。
2014年9月16日のデータによると、BBB格付けで残存期間10年の債券は存在しないが、A格付けでは11銘柄が
存在し、平均利回りは0.939%であった。大雑把に格付けの差を調整して負債コストを1%とする。
79
負債コストを求める(③):伊藤忠商事のケース
FY13の支払利息と有利子負債の期中平均から負債コストを算出すると、0.9%となり、格付けベー
スのアプローチとほぼ合致します。
データ
FY13支払金利:24,945百万円
FY13有利子負債:2,823,900百万円
負債コスト: 24,945百万円÷ 2,823,900百万円 = 0.9%
80
WACCを求める:伊藤忠商事のケース
高いレバレッジにより、WACCは2.97%と低くなっています。
負債
2,898,200百万円
wd:57.0%
資産
(時価ベース)
株主資本
株価*株式総数
= 1381.5 *1585百万株
=2,189,525百万円
we:43.0%
WACC = 57.0%*1.0%* (1-40%)+ 43.0%*6.1% =2.97%
(税率は40%と想定)
81
ROICとWACCの関係:DCFモデルの前提
経済学では、ROICとWACCとのスプレッド(アブノーマルリターン)は最終的にゼロになると想定し
ます。実際はコカコーラのように長期的にアブノーマルリターンを生む企業もあります。
ROIC
イメージ
既存の資本からのROIC
総資本からのROIC
WACC
新規の資本からのROIC(RONIC)
年数
82
ROEの呪い:イノベーション無しに高ROEは維持できない
ROEの呪い 破れるか
独自サービス・製品カギ (2014/7/4)
(省略)
「ROEの呪い」。こんなタイトルのリポートが話題を呼んでいる。岡三証券の栗田昌孝氏が、過去20年間の東
証1部企業のROEを分析、ある1つの傾向を見いだした。高ROE企業のROEは期間を経るごとに下がりやすく、
逆に低ROE企業のROEは上がっていくという現象だ。つまり、企業のROEは平均値へと回帰していくのだ。
日本だけではない。米国では1982年にニューヨーク大のオールソン教授が米企業で同じ現象を指摘した。もう
かる事業には新規参入が増えて利益率が下がり、逆にもうからない事業は他社が退出して残存者の利益率が
上がっていく――。こうした企業間の競争原理が、ROEの平均回帰性が生じる原因という。
だが、少数ながら高ROEを維持し続ける企業もある。カカクコム、大東建託、良品計画、JR東海、クボタ、大
塚商会――。いずれも他社にない独自のサービスや製品を持ち、高いシェアを維持している。
(省略)
83
資本コストに対するROE水準の見方
投資家の回答
高めの資本コスト
企業の回答
低めの資本コスト
出所:生命保険協会調査
84
資本コストへの意識
資本コストを意識していますか?
そう悪くは無い
投資家に対して積極的に開示していますか?
もったいない
出所:持続的な企業価値の創造のためのIR/コミュニケーション戦略に関する実態調査
85
資本コストのサマリー
・資本コストの計算はコンサバティブに(投資家も安心)!
・資本コストを開示し、資本コストを意識した経営をしている、と言うだけで投資
家の信頼アップ(資本コスト減少)!
・エクイティスプレッドよりも、残余利益に注目!
・ディスクロージャーやマーケット・インテリジェンスでも資本コストは下がる!
86
本日のテーマ
企業価値創造経営への違和感
2014年のファイナンス戦略を振り返る
ROE包囲網
2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論
ケーススタディ
87
株主還元政策
88
日米比較:配当性向
配当性向に関しては、日米間の差はありません。つまり、利益からアメリカ企業と同等な配当とし
て支払っている、ということです。
出所)生命保険協会調べ
89
配当性向
(スクランブル)「アマダ型」配分の死角 市場、成長投資を重視
2014/7/11付
(省略)
アマダをきっかけに株主配分は市場の一大テーマに浮上した。それでも、長期投資家の間では「手元資金の使い
道で最優先すべきは成長投資」(農中信託銀行の奥野一成企業投資部長)との声は強い。
気がかりなのは時流に乗る企業の多さだ。相次ぐリキャップCBはそのひとつだ。30%に集中する日本企業の配
当性向を疑問視する投資家もいる。
「なぜゼロや20%ではないのか」。フィデリティ投信の三瓶裕喜調査部長は企業に、こう尋ねる。中長期の成長を
考慮した上で判断したのかを問うためだ。
(省略)
90
配当政策
利益の大半、株主配分 カシオ9割、アマダ全額 上場企業全体で10兆円
2014/11/21付 情報元 日本経済新聞 朝刊
上場企業が配当と自社株買いによる株主への利益配分を一段と増やす。カシオ計算機や金属加工機械の
アマダは利益の大半を株主配分に充てる。2015年3月期は約600社が増復配し、全体の株主配分額は10兆
円に迫る。業績回復と資本効率改善への意識の高まりが背景にある。今後、配分拡大の流れが賃上げなど
に広がっていくかが焦点だ。
(省略)
91
日米比較:自社株買い
自社株買いの当期純利益に対する比率(自社株買い総額÷当期純利益)はアメリカ企業を大幅に
下回っています。これが内部留保が高水準である要因の一つとなっています。
(H20年は異常値なので削除)
出所)生命保険協会調査のデータを加工・修正
92
日本企業の今後の自社株買いへのスタンス
自社株買いに消極的な日本企業の割合が非常に高くなっています。
出所)生命保険協会調べ
H25:575、H24:571、H23:613(複数回答可)
93
日本企業が自社株買いに消極的な理由
配当による還元をメインに考えていることが自社株買いに消極的であることの主な要因です。一方
で、株価水準は自社株買いには影響はほとんどないようです。
a. 自己資本が十分でない
b. 手元資金を確保する必要がある
c. 株価の水準が条件に満たない
d. 自己株式取得より配当還元を重視
e. 市場での流動性が不足してしまう恐れ
f. その他
H25:368、H24:360(複数回答可)
出所)生命保険協会調べ
94
ゴールドマンサックス証券による調査
今後自社株買いの金額が増加する見込みとなっています。日本企業の自社株買いに対する姿勢
が変わりつつあるようです。
(日経新聞朝刊 2014年11月13日)
95
自社株買い
株主配分重視 鮮明に 自社株買い・増配銘柄上昇 オムロン、一時9%高
2014/10/30付 情報元 日本経済新聞 朝刊
上場企業の2014年4~9月期の決算発表が本格化する中、決算と同時に株主配分の増額を発表した企業の株
価上昇が目立っている。29日は前日に自社株買いと配当増額を発表したオムロンの株価は一時、前日比9%高と
なった。株主に報いる姿勢を評価するだけでなく、経営者の業績先行きに対する自信の表れと受け止める投資家
も多いようだ。
(省略)
自社株買いや増配の発表から、経営者のメッセージを読み取る投資家も多い。経営者が実態に比べ株価が割安
と考えており、株主配分の原資となる利益確保にも自信があるとみなされる。「業績予想に追加して、銘柄選別す
る上での切り口になりやすい」(アバディーン投信投資顧問の窪田慶太インベストメント・マネジャー)という。
96
自社株買い
自社株買い、規模が拡大 今年 1社平均、最高の90億円 株主配分・ROE向上へ
上場企業の自社株買いの規模が拡大している。2014年の1社あたり平均金額(取得枠ベース)は約90億円と昨年
より8割増え06年の水準を抜いて過去最高になった。トヨタ自動車など主要企業による大型の自社株買いが相次い
だことが背景。増配に自社株買いを組み合わせた株主配分強化が、この1年の株高の原動力にもなっている。
アイ・エヌ情報センターの集計によると、上場企業の自社株買い総額(取得枠ベース)は3兆9000億円と2年連続で
増えた。08年(4兆8300億円)以来6年ぶりの高水準だった。1社あたりの金額でみると、データでさかのぼれる02年
以降で最高になった。
(省略)
積水ハウスはROE10%(前期実績は9.2%)の中期目標を設定したが、本業の利益成長だけでROEを引き上げる
には限界があるとして「自社株買いを組み合わせて目標達成を目指す」(阿部俊則社長)。
(省略)
(日経新聞朝刊 2014年12月13日)
97
自社株買い
自社株買い、規模が拡大 今年 1社平均、最高の90億円 株主配分・ROE向上へ
(日経新聞朝刊 2014年12月13日)
98
自社株買い
日通、上限150億円の自社株取得枠 資本効率改善狙う
2014/11/22付 情報元 日本経済新聞 朝刊
日本通運は21日、150億円(株式数は4000万株)を上限とする自社株取得枠を設けたと発表した。発行済み株式数
(すでに保有する自社株を除く)の3.9%にあたり、全額を自己資金でまかなう。取得期間は今月25日~2015年5月
29日まで。自社株買いは自己資本を計算上減らす効果があり、資本効率の改善を狙う。
13年1~6月に200億円の自社株買いを実施して以来だ。買い入れた株式は「消却の可能性を含めて活用を検討
する」(広報部)。日通は中期経営計画で、16年3月期をめどに総資産利益率(ROA)を2.5%に引き上げる目標を
掲げている。
陸運業界では、ヤマトホールディングスが10月に300億円、セイノーホールディングスが今月11日に50億円をそれ
ぞれ上限とする自社株買いを発表するなど、資本効率を意識した動きが業界内で広がっている。
ノエビアHD、自社株買い上限250万株
2014/11/19付 情報元 日本経済新聞 朝刊
化粧品のノエビアホールディングスは18日、250万株を上限に自社株買いを実施すると発表した。自己株式を除く
発行済み株式数の6.68%にあたる。取得額の上限は49億7750万円とする。
自社株買いは3年ぶりで、取得した株式は消却し資本効率を高める。14年9月期に8%だった自己資本利益率
(ROE)を2019年9月期までに10%へ引き上げる目標だ。
99
自社株買い
日通、上限150億円のニチイ学館、850万株上限に自社株買い 発行済み株式の12%
2014/11/13付 情報元 日本経済新聞 朝刊
ニチイ学館は12日、850万株を上限に自社株買いをすると発表した。自己株式を除く発行済み株式数の12.16%に
相当する。取得金額の上限は60億円。同社の自社株買いは6年ぶりになる。株主配分を強化すると同時に将来の
M&A(合併・買収)に備えて金庫株を厚くする。
13日から2015年5月31日までの間に市場で取得する。介護事業や医療関連事業の伸びで、15年3月期の連結純
利益は3期ぶりの増益を見込んでいる。
ニチイ学館は中国事業の拡大を進めており、今回取得する自社株を株式交換によるM&Aに使うことも検討して
いる。
車10社、配当9000億円超 今期、トヨタ自社株買い3600億円
2014/3/27付
(省略)
トヨタは26日、6年ぶりに自社株買いを実施すると発表した。自社株買いは企業自身が株式を買い取り、市場で流
通する株数を減らして株式の価値を高める株主配分策。金融危機で買い取りをやめていたが、収益力が回復し、
再開を決めた。
今回の取得額の上限は3600億円。買い取り規模で11年ぶりの大きさだ。株数では上限6000万株で、発行済み株
式数の1.89%にあたる。
また、3000万株の自社株を6月に消却することも発表。新興国の交通システムの発展などを目的に「トヨタ・モビリ
ティ基金」を8月に設立する予定で、同基金に自社株を1株1円で売り出すことに伴うものだ。
(省略)
100
自社株消却
自社株消却銘柄が堅調 再放出懸念消え 買い安心感 東ガス・長谷工など上昇
2014/7/1付 情報元 日本経済新聞 朝刊
株式市場で自社株の消却を発表した企業の株価が堅調だ。金庫株として保有する自社株を消却すると、
市場への再放出の懸念が和らぎ、買い安心感が出やすい。自社株買いのみを実施する場合より評価されて
いる例も目立つ。自己資本利益率(ROE)を重視する指数の普及などを背景に、資本効率を高める企業の
動きに株価が反応しやすくなったとの指摘がある。
(省略)
消却銘柄の株価は、自社株買いだけを行う銘柄と比較しても底堅い。東証株価指数500採用銘柄のうち、4
月以降に消却を発表した企業と、自社株買いのみを発表した企業の4~6月の平均株価上昇率を比べたと
ころ、14%弱と8%弱だった。「再放出懸念が払拭される分、消却した方が買い安心感がある」(アストマック
ス投信投資顧問の山田拓也氏)という。
消却に踏み切る企業は増えている。野村証券によると、上場企業の今年4~6月の自社株消却額は約
4000億円(消却のみも含む)と、自社株買い実施額の75%程度。年度末に偏りがちな例年と異なり、「今年は
消却を実施するペースが速い」(西山賢吾氏)。
資本効率の改善を意識する企業が増え、自社株買いや消却が材料視されやすくなっている。「株価への効
果が長続きしやすくなっている」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鮎貝正弘氏)との指摘も出ていた。
101
自社株消却
ぐるなび、自社株62万4900株を消却
2014/11/22付 情報元 日本経済新聞 朝刊
ぐるなびは21日、発行済み株式総数の1.27%にあたる62万4900株の自社株(金庫株)を12月10日付で消
却すると発表した。11月に市場で約10億円で買い入れていた株のすべてを消却する。資本効率を高めて、
あわせて市場への再放出懸念をなくす。
今回の消却後に残る金庫株約30万株は、ストックオプション(株式購入権)の行使に備える。
花王、自社株1200万株消却 発行済みの2.3%
2014/11/21付 情報元 日本経済新聞 朝刊
花王は20日、発行済み株式数の2.3%に当たる1200万株の自社株を、12月10日付で消却すると発表した。
金庫株として保有するのでなく、消却することで株主配分の姿勢をより明確にし、資本効率の向上にもつな
げる。消却後、手元に残る自社株は約134万株まで減る。
同社は7月30日から10月9日までに、総額約500億円を投じて自社株を1200万株取得した。2014年12月期
の年間配当を前期比4円増の68円とすることと併せて、株主への利益配分を鮮明にする。前期は10.7%だっ
た自己資本利益率(ROE)を継続的に高める狙いもある。
花王は外国人投資家の持ち株比率が6月末時点で約5割と高い。今回、消却に踏み切った背景には、外
国人投資家が資本の効率性を重視している点もあるとみられる。
102
アマダ
アマダ「全て株主配分」の衝撃 投資家はインカム重視
16日の東京株式市場は、金属加工機械大手のアマダが話題をさらった。利益をすべて株主に配分する方針
を掲げた結果、前日比16%高と急騰を演じたからだ。自己資本利益率(ROE)を高める経営姿勢を市場は
評価した。日経平均株価が201円下げたなかでの逆行高。投資マネーが配当など「インカム」収入を重視す
る傾向を改めて印象付けたともいえる。
アマダの16日の売買代金は415億円と、最近の1日売買代金の20倍以上に膨らんだ。トヨタ自動車をも上
回り、東証1部で4番目の多さだった。アマダは15日午後の取引時間中に、純利益の半分を配当に回し、残
り半分も自社株買いに充てる方針を公表した。15日も株価は8%上がったが、その動きに弾みがついた。
アナリストの間からは「新たな資本政策は衝撃だった」(バークレイズ証券の佐野友彦氏)など驚きの声が
相次いだ。アマダは実質無借金で、手元資金が1000億円を超えるなど、余分な現金を抱える典型的な
キャッシュリッチ企業だ。過去10年間のROEも平均3%と低迷した。
アマダの岡本満夫社長は15日夕、アナリスト向け説明会で強いメッセージを出した。株価や資本効率の低
さを認め、企業価値を高める経営への転換を明確に語ったという。ROEなどを基準に構成銘柄を決めるJP
X日経インデックス400に選ばれなかったことも課題として明示した。出席したアナリストの一人は「経営改革
への本気度が伝わった」と感想を話す。
(以下略)
(日経新聞朝刊 2014年5月17日)
103
アマダ(その後)
次のアマダを探せ 意思持つマネーが競争刺激 証券部 川上穣
2014/6/24
(省略)
マネーの質的な変化が、日本の資本市場の風景を変えつつある。この変化そのものは評価されるべきだろ
うが、株主配分だけが唯一の解ではないことには留意しておきたい。
23日には「優等生」のアマダが大幅続落した。下げ幅は一時6%強。前週末に自社株買いが完了したと発表
し、材料出尽くしから利益確定売りに押された。
「自社株買いを手がかりにした短期マネーは逃げ足も速い」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則
弘氏は指摘する。ROEが低い最大の理由は、利益率の低さにある。マネーの定着には、本業の収益性に切
り込む経営者の覚悟も必要になる。日本市場の魅力を高めるにはまだ残された宿題がある。
104
アマダ(その後)
アマダ、利益の全額還元だけでは上がらぬ市場評価
今年5月、利益の全額を株主還元に充てると発表して話題を集めたアマダ。直後の1カ月間に株価は5割近
く急騰し、6月18日には年初来高値となる1143円を付けた。だが、市場が好反応を見せたのはそこまでだっ
た。11月21日終値は1078円にとどまり、PBR(株価純資産倍率)は1.04倍とかろうじて「解散価値」の1倍を
上回るレベルだ。株主還元だけでは本質的な企業価値は高まらない。株主還元競争に火を付けたアマダに
市場が求めるのは、持続的な株価上昇につながる成長ストーリーだ。
(省略)
アマダは2016年3月期までの2年間、利益の全額を配当と自社株買いに回す予定だ。使い道の乏しい
キャッシュを株主に返すことは評価されたが、もう一つの柱としていたM&Aによる成長戦略の具体策がなか
なか出てこない。前期末の自己資本は4142億円。連結売上高の1.6倍に達し、自己資本比率も75%と高い。
この手厚すぎる自己資本がM&Aの余力となる。磯部取締役は「(向こう3年で)400億円をM&Aに投じた
い」と述べる。
(以下略)
(日経新聞朝刊 2014年11月25日)
105
アマダ:社長インタビュー
アマダ、100%の株主還元 資本効率重視で株価動く 「ここまで驚き与えるとは」
アマダは今後2年間の利益を全て配当や自社株買いなどの株主還元に充てるとの方針を打ち出して資本効
率を重視する流れをつくるきっかけになった。岡本満夫社長=写真=はこの決断を振り返り、「資本効率を
高めようと考えたが、ここまで驚きを与えるとは思わなかった」と話した。
――どうして利益を全て還元しようと考えたのですか。
「2003年の社長就任から会社の規模は2倍近くになったが、課題は株価の低迷だった。その原因を探ると、
お金のため込み過ぎによる資本効率の悪さが影響しているとの分析が出た」
「ちょうど国内外での大型投資も一巡した。資本効率を高めるために自己資本をこれ以上増やさないように
しようと、2年限定での100%株主還元を考えた」
――株主還元が株式市場のテーマになりました。
「正直に言って、ここまで驚きを与えるとは思っていなかった。結果的にアマダの株価は上がり、多くの企業
に非効率にため込んだお金の使い道を考えさせるきっかけになった。自己資本利益率(ROE)に代表される
資本効率を重視する外国人投資家は、アマダに『よくぞやった』と思っているだろう」
(日経新聞朝刊 2014年12月30日)
106
アマダ:過去1年間の株価パフォーマンス
株主還元のニュースの影響もあり、過去1年の株価パフォーマンスはTOPIXをオーバーパフォーム
しています。
107
アマダ:過去6カ月間の株価パフォーマンス
株主還元のニュース以降、株価はTOPIXをアンダーパフォームしており、PBRは0.95で1割れです。
株主還元政策が変更になっても、会社の稼ぐ力は変わらないので当然といえば当然です。
108
サンゲツ
サンゲツ株がストップ高 「株主配分100%以上」好感
インテリア大手のサンゲツの株価が10日、急騰した。朝方から買い注文を集め値段がつかず、大引けで制
限値幅の上限(ストップ高)である前週末比19%高の3205円で取引が成立した。7日に2017年3月期までの
3年間に、純利益の100%以上を配当や自社株買いなどで株主に配分すると発表したことが材料視された。
金属加工機のアマダが利益の「100%還元」で市場の話題をさらったが、サンゲツはそれを上回る還元方
針を明らかにしたことで市場が敏感に反応した。
サンゲツの14年3月期の自己資本利益率(ROE)は4%台と東証1部平均(約8%)を下回り、20年3月期
に8~10%に引き上げる目標を掲げる。安田正介社長は「17年3月期までは大規模投資を予定しておらず、
手元資金をこのままにしておく理由を株主に説明できない」と話す。東海東京調査センターの細井克己シニ
アアナリストは「壁紙や床材のシェアをさらに高めるためにはM&A(合併・買収)も1つの選択肢」と手元資
金の使途に注目している。
(日経新聞朝刊 2014年11月11日)
109
サンゲツ(その後)
サンゲツ、「100%超配分」でも立ちはだかる壁
今後3年間で稼ぐ利益以上を配当や自社株買いを通じ株主に配分すると11月に表明したのがインテリア大
手のサンゲツだ。5月に利益を全額配分すると発表し話題を集めた金属加工機械大手のアマダを超える配
分方針に株価は敏感に反応し、発表の翌営業日は制限値幅の上限(ストップ高水準)に急伸した。だが、そ
の後も株高基調を続けているとは言い難い。株価には、解散価値であるPBR(株価純資産倍率)1倍という
壁が立ちはだかり、なかなか超えることができない。
「猶予期間をもらうための措置」。サンゲツの安田正介社長は100%超の株主配分をこう説明する。2014年
3月期末の自己資本は1198億円で、自己資本比率は82.2%だ。豊富な手元資金を活用し、17年3月期まで
の3年間は高水準の配分を続け、遅くとも5年後には自己資本を100億~200億円減らす。資本効率を測る
自己資本利益率(ROE)は4.6%だった前期実績から8~10%へ高める。同時に次の成長に向けた投資を検
討するが、今後3年間はその「仕込みの期間」とし、その間は余剰資金を株主配分に振り向ける方針だ。
PBRは発表直後こそ07年5月以来、7年6カ月ぶりに1倍台に回復したが、その後再び割り込んでいる。現
預金と短期有価証券を合わせた手元資金は9月末時点で464億円で、わずか1億円程度の有利子負債を差
し引いた「ネットキャッシュ(純現金)」は株式時価総額の4割を超える。積み上げすぎた手元資金を株主配分
に回すのは評価できても、その後の持続的なROE上昇に結びつく収益性向上を実現できる成長戦略の具
体像がまだみえない。これがサンゲツ株の上値を抑えている。
(省略)
(日経新聞朝刊 2014年12月25日)
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サンゲツ:株価パフォーマンス
株主還元のニュースで株価は急上昇しましたが、その後反落し元のトレンドに戻っています。PBR
は0.92で1割れです。
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キーエンスなど
電撃緩和より株主配分
変身キーエンス、株高呼ぶ
(省略)12日は前日に3年間で2000億円強を株主配分すると発表した富士フイルムが急伸したほか、前日に自社
株買いを発表したセイノーホールディングスが13%高、同じく増配を発表した東京精密が11%高でそれぞれ取引を
終えた。
(省略)中でも国際的に注目を集めたのがキーエンスだ。2015年3月期の年間配当を1株当たり200円と、前期実
績60円の3倍超に増やすと先月29日に発表した。キーエンスの株価は12日終値で発表前に比べ15%上昇してい
る。
キーエンスといえば手元資金が豊富なキャッシュリッチ企業だ。自己資本比率は90%を超える。3月期末で現預
金が約800億円あり、日本国債を中心に6000億円を超える有価証券も保有する。余剰資金が積み上がる半面、前
期の配当性向は4%と平均的な水準の30%を下回った。株主配分に前向きではないとみられていただけに、大幅
な増配に市場は驚いた。
(省略)ゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井氏は「日銀とGPIFを上回るインパクトとも言えるのが『キーエ
ンス・ショック』だろう」と市場への好影響を評価する。
6日午前には日清紡ホールディングスが2000万株(発行済みの11.45%)を上限に自社株買いすると発表し、株
価は同日終値で前日比14%上がった。ヤマトホールディングスも30日に300億円を上限に自社株買いすると発表
した。配当も合わせると今期の純利益をほぼすべて株主配分に回す計算になる。
「経営者は資本効率の向上を強く意識している」。企業に自社株買いや資産流動化など財務戦略を提案するシ
ティグループ証券の兼子健雄マネジングディレクターも最近、企業の変化に手応えを感じる。企業が投資対象とし
ての魅力を増す努力を続けることが、株高の持続性を高める。
(日経新聞朝刊 2014年11月13日)
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リキャップCB
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リキャップCB
(真相深層)財務組み替え 株高狙う 金利ゼロで転換社債、自社株買いに充当 効果に限り、問われる成長
公開日時 2014/7/24
「リキャップCBは見かけ上のROEを高める財務テクニックにすぎない」(クレディ・スイス証券の山手
剛人氏)。分母を一時的に減らしても、分子の利益が増え続けなければ、長期的な市場の評価は高ま
らない。
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リキャップCB
14年のリキャップCB、案件数が前年の2倍超に 調査会社調べ
2015/1/9 16:56
新株予約権付社債(転換社債=CB)発行と自社株買いを組み合わせた「リキャップCB」が日本企業の間で流行
している。調査会社ディール・ロジックによると、2014年の案件数は14件と前年(6件)の2倍超に拡大した。
リキャップCBは低コストのCBで資金を調達する一方、自社株買いにより自己資本利益率(ROE)など資本効率
の向上も狙う。14年には額面1000億円のヤマダ電機など小売業の発行が目立ったほか、東レも1000億円調達し
た。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
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リキャップCB
ケーズHD、CBで300億円調達 自社株買いも
2014/12/5付 情報元 日本経済新聞 朝刊
ケーズホールディングスは4日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、300億円を調達
すると発表した。新規出店資金に200億円を充て、残る100億円を自社株買いの原資とする。CB発行と自社株買
いを組み合わせた「リキャップCB」で、株式価値の希薄化を抑えながら成長資金を確保する。
ケーズHDは19年3月期を最終年度とする中期経営計画で、連結売上高1兆円、経常利益520億円を目指すとし
ている。CBの発行は1996年以来18年ぶり。2019年満期のゼロクーポン債で転換価格は3670円と4日のケーズH
D株の終値より25%高い水準。自社株取得の上限は360万株で、発行済み株式数の6.84%にあたる。
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リキャップCB
塩野義、CB200億円 25年ぶり発行 自社株買い300億円実施へ ROE向上狙う
2014/12/2付 情報元 日本経済新聞 朝刊
塩野義製薬は1日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、200億円を調達すると発表し
た。CB発行は1989年12月以来25年ぶり。調達資金と手元資金を合わせた300億円を上限に自社株買いも実施す
る。 CB発行と自社株買いを組み合わせる「リキャップCB」と呼ばれる手法で、資本効率を示す自己資本利益率
(ROE)を引き上げる。
CBは2019年満期のゼロクーポン債。普通社債(SB)よりも発行コストが低いことから、CBでの資金調達を選ん
だ。払込日は12月17日(ロンドン時間)で転換価格は4180円。自社株取得の上限は1000万株で、発行済み株式総
数(自己株式を除く)の2.99%に相当する。
手元資金は直近で1000億円強、自己資本比率も8割超と財務に余裕がある。買収など成長のための資金を確
保しながら株主配分も強化する狙いで、リキャップ手法を決めた。
現在取り組んでいる中期経営計画では、ROEを16年度に11%、20年度に15%に引き上げる。9月に過年度税金
費用などを処理し、ROEは前期末の約9%から6%台へ低下する見込みだった。今回の自社株買いでROEは
9%台半ばにまで再び上昇する見通しだ。
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リキャップCB
「リキャップCB」相次ぐ アデランス、100億円調達
2014/9/17付 情報元 日本経済新聞 朝刊
新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行と自社株買いを組み合わせた「リキャップCB」が相次いでいる。調
達した資金を投資だけでなく、自己資本の圧縮にも回すことで自己資本利益率(ROE)が向上し、株価上昇につな
がる可能性もあるとして発行が増えている。
アデランスは17日、CBの発行と自社株の取得を発表した。100億円を調達、うち52億円を米かつら大手ヘアクラ
ブの買収にかかった長期借入金の返済に充てる。国内のかつら事業向け設備資金にも振り向けるが、残り30億円
は自社株の取得用とする。
CBは5年物のゼロクーポン債で10月7日に発行する。1株利益の希薄化を抑えるため、株価が一定期間、転換
価格を3割上回らないと転換できない条項を盛り込んだ。
自社株取得の上限は210万株で発行済み株式総数(自己株式を除く)の5.69%に相当する。主に東京証券取引
所の立会外取引で買い付ける。18日の取引時間前、196万8500株を17日終値の1524円で取得する。
同社株式の約28%を保有する筆頭株主、米投資ファンドのスティール・パートナーズが、立会外取引により保有
するアデランス株の売却に応じる可能性もある。
家電量販大手のエディオンも同日、ユーロ円建てCBを発行し約150億円を調達すると発表した。払込日はロンド
ン時間の10月3日で償還期限は2021年10月。表面利率が付かないゼロクーポン債として発行する。
調達した資金のうち80億円は西日本地域に出す新店や、既存店に併設する住宅リフォームの展示スペースなど
に充当、20億円は通販サイトのシステム整備に充てる。残りの50億円で自社株を取得し、自己資本を圧縮する。
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ヤマダ電機:過去1年間の株価パフォーマンス
昨年の5月27日にリキャップCBを発表しましたが、その後株価はTOPIXを大幅にアンダーパフォー
ムしています。
119
東レ:過去1年間の株価パフォーマンス
昨年の5月22日にリキャップCBを発表しましたが、その後年末から株価はTOPIXを大幅にオー
バーパフォームしています。
120
日本ハム:過去1年間の株価パフォーマンス
昨年の3月7日にリキャップCBを発表しましたが、その後株価はTOPIXを大幅にオーバーパフォー
ムしています。
121
カシオ計算機:過去1年間の株価パフォーマンス
昨年の7月7日にリキャップCBを発表しましたが、株価はTOPIXを大幅にオーバーパフォームして
います。
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ご清聴ありがとうございました!
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