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グローバルビジネスパーソンのための財務塾 「2014年のファイナンスを振り返る」 第2回「日本企業が選択すべきファイナンス戦略とは」 2015年1月28日 インサイトフィナンシャル株式会社 代表取締役 手島直樹 1 前回のテーマ 企業価値創造経営への違和感 2014年のファイナンス戦略を振り返る ROE包囲網 2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論 2 企業価値創造経営の一般的なイメージ 投資家が求める企業価値創造のための6つの方針 ROE 改善 ファイナンスの要素が多い 株主還元 成長 戦略 IR活動 社外 取締役 ガバナンスの要素が多い 報酬制度 伊藤レポートはまさにこのイメージで書かれています。 3 私の企業価値創造経営のイメージ 企業価値創造のための6つ柱 優秀な 経営者 優秀な 社員 優れた商品 ・サービス 管理会計 パートナーと しての株主 企業価値創造の主役 (キャッシュフローの源泉) 企業価値創造の黒子 Market Intelligence 人材と彼らが生み出す商品・サービスこそが企業価値創造の源泉であり、IRを含むファイナ ンス機能は彼らが能力を出せる環境を築くことが役割だと考えます。 4 本日のテーマ 2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論 ケーススタディ 私が最後にお伝えしたいこと 5 ROICとROEの比較(1/2):ROEとは 株主資本と株主の持ち分となる当期純利益の比率がROEであり、株主にとって極めて重要な指標 です。 BSの右側 PL 売上 売上原価 SG&A 営業利益 負債 営業外損益 経常利益 特別損益 株主資本 ROE 法人税 当期純利益 ・ROE= 当期純利益/株主資本 ・(ROE-株主資本コスト)のスプレッドが企業価値創造の判断基準 ・(ROE-株主資本コスト)*期首株主資本=残余利益 6 ROICとROEの比較(2/2):ROICとは 資産と本業の利益(税引後)の比率であり、資産効率性を判断するのに有効であり、企業としては ROICにフォーカスを当てる方が適切です。 BSの左側 事業資産(投下資本) (工場、機械、売掛金、 在庫など) PL 売上 売上原価 SG&A 営業利益→税引後にしたものがNOPLAT (Net Operating Profit Less Adjusted Taxes) ROIC ROA 非事業資産 (遊休資産、余剰現金等) ・ROIC= NOPLAT/投下資本 ・ (ROIC-加重平均資本コスト)のスプレッドが企業価値創造の判断基準 ・ (ROIC-加重平均資本コスト)*投下資本=Economic profit 7 残余利益:エクイティスプレッドだけが勝負ではない 自己資本だけを減らしてエクイティスプレッドを拡大しても、残余利益が伸びない縮小均衡に陥る 可能性もあります。 残余利益 = 期首自己資本*(ROE-株主資本コスト) = 期首自己資本↓*(当期純利益/期首自己資本↓-株主資本コスト) 期首自己資本 期首自己資本 エクイティ スプレッド 資本の厚い企業が目指すべき姿 (ROEが株主資本コストを少しでも上回ればOK) エクイティ スプレッド ネット系 (収益性勝負) 8 CAPM 株式資本コストを算出するのに広く利用されるモデルです。以下のようなパラメータによって構成さ れます。 株主資本コスト = β(市場期待リターン-リスクフリーレート)+ リスクフリーレート 市場リスクプレミアム β(ベータ) 個別銘柄とTOPIXなどの市場指数の価格変動の連動性を示す市場感応度。個別銘柄のリターンと市場 指数のリターンを回帰分析して算出。1が市場指数と同等の感応度となる。 市場リスクプレミアム 投資家がリスクのない安全資産に要求するリターンとリスク資産に要求するリターンの差。4%~6%が利 用されることが多い。 リスクフリーレート 10年物などの長期国債の利回りを利用することが多い。 9 CAPMの背景:証券市場線 CAPMは、投資家がある銘柄を分散ポートフォリオに追加するという前提となっています。よって、 分散ポートフォリオ(TOPIX)と銘柄のリターンの相関(それがベータ)が重要になります。 証券市場線(SML) E( Ri )=rf+ [ E( RM ) -rf] i (1.2.2) Co v ( Ri , RM ) ただし、 i = M2 E[Ri ] SML E[RM ] M rf 0 M=1.0 i 10 CAPMの背景:リスクのタイプ リスクには分散可能なリスク(アンシステマティックリスク)とそうでないリスク(システマティックリス ク)があります。分散投資家にとっては、個別企業の倒産などのイベントは影響がありません。 リスク 分散可能 アンシステマティック・リスク システマティック・リスク 分散不可能 n(銘柄数) 11 βを求める:伊藤忠商事のケース(5年月次ベース) X軸にTOPIXのリターン、Y軸に伊藤忠商事のリターンを取りプロットしたものが下のチャートです。 近似曲線を引き、その傾きがβとなります。 12 βを求める:伊藤忠商事のケース(5年月次ベース) TOPIXのリターンを説明変数、伊藤忠商事のリターンを被説明変数として、回帰分析した結果が下 の表です。「係数」がβとなります。もちろん前ページと同じ結果となります。 13 βを求める:伊藤忠商事のケース(3年週次ベース) 3年週次ベースとすると、βが大幅に上昇します。商社のように持続的に利益を伸ばしている業種で あれば、5年月次が適切かと思います(正解はないので、評価者が決めることになります)。 14 株式資本コストを求める:伊藤忠商事のケース パラメータ ・β:0.8169 ・市場リスクプレミアム:5%とする ・リスクフリーレート:2%とする 株式資本コスト = 0.8169 *5%+2.0% = 6.1% 15 エクイティスプレッド:伊藤忠商事のケース ROEは株主資本コストを大幅に上回っているため、残余利益はプラスであり、企業価値を創造して いると言えます。これが好調な株価パフォーマンスにつながっていると思われます。 残余利益 = 期首自己資本*(ROE-株主資本コスト) 16 負債コストを求める:伊藤忠商事のケース 負債コストの算出には以下の3つのアプローチがあります。Valuationでは、①の格付けをベースと するアプローチを推奨しています(forward-lookingな数値であるため)。 ①格付けをベースに推定するアプローチ 債券利回りを負債コストとする。格付け水準ごとの債券利回りは、日本証券業協会のHPから入手可能。 http://market.jsda.or.jp/html/saiken/kehai/downloadInput.php ②有価証券報告書に記載される上方から推定するアプローチ 負債に関する注記情報(明細表など)から負債コストを算出する。 ③支払利息と有利子負債の期中残高から推定するアプローチ 支払利息÷有利子負債の期中残高で算出する。 17 負債コストを求める(①):伊藤忠商事のケース 負債コストは格付けをベースに行います。日本証券業協会のHPから同等の格付け(BBB)で残存 期間10年の複利利回りをピックアップする。 2014年9月16日のデータによると、BBB格付けで残存期間10年の債券は存在しないが、A格付けでは11銘柄が 存在し、平均利回りは0.939%であった。大雑把に格付けの差を調整して負債コストを1%とする。 18 負債コストを求める(③):伊藤忠商事のケース FY13の支払利息と有利子負債の期中平均から負債コストを算出すると、0.9%となり、格付けベー スのアプローチとほぼ合致します。 データ FY13支払金利:24,945百万円 FY13有利子負債:2,823,900百万円 負債コスト: 24,945百万円÷ 2,823,900百万円 = 0.9% 19 WACCを求める:伊藤忠商事のケース 高いレバレッジにより、WACCは2.97%と低くなっています。 負債 2,898,200百万円 wd:57.0% 資産 (時価ベース) 株主資本 株価*株式総数 = 1381.5 *1585百万株 =2,189,525百万円 we:43.0% WACC = 57.0%*1.0%* (1-40%)+ 43.0%*6.1% =2.97% (税率は40%と想定) 20 ROICとWACCの関係:DCFモデルの前提 経済学では、ROICとWACCとのスプレッド(アブノーマルリターン)は最終的にゼロになると想定し ます。実際はコカコーラのように長期的にアブノーマルリターンを生む企業もあります。 ROIC イメージ 既存の資本からのROIC 総資本からのROIC WACC 新規の資本からのROIC(RONIC) 年数 21 ROEの呪い:イノベーション無しに高ROEは維持できない ROEの呪い 破れるか 独自サービス・製品カギ (2014/7/4) (省略) 「ROEの呪い」。こんなタイトルのリポートが話題を呼んでいる。岡三証券の栗田昌孝氏が、過去20年間の東 証1部企業のROEを分析、ある1つの傾向を見いだした。高ROE企業のROEは期間を経るごとに下がりやすく、 逆に低ROE企業のROEは上がっていくという現象だ。つまり、企業のROEは平均値へと回帰していくのだ。 日本だけではない。米国では1982年にニューヨーク大のオールソン教授が米企業で同じ現象を指摘した。もう かる事業には新規参入が増えて利益率が下がり、逆にもうからない事業は他社が退出して残存者の利益率が 上がっていく――。こうした企業間の競争原理が、ROEの平均回帰性が生じる原因という。 だが、少数ながら高ROEを維持し続ける企業もある。カカクコム、大東建託、良品計画、JR東海、クボタ、大 塚商会――。いずれも他社にない独自のサービスや製品を持ち、高いシェアを維持している。 (省略) 22 資本コストに対するROE水準の見方 投資家の回答 高めの資本コスト 企業の回答 低めの資本コスト 出所:生命保険協会調査 23 資本コストへの意識 資本コストを意識していますか? そう悪くは無い 投資家に対して積極的に開示していますか? もったいない 出所:持続的な企業価値の創造のためのIR/コミュニケーション戦略に関する実態調査 24 資本コストのサマリー ・資本コストの計算はコンサバティブに(投資家も安心)! ・資本コストを開示し、資本コストを意識した経営をしている、と言うだけで投資 家の信頼アップ(資本コスト減少)! ・エクイティスプレッドよりも、残余利益に注目! ・ディスクロージャーやマーケット・インテリジェンスでも資本コストは下がる! 25 本日のテーマ 2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論 ケーススタディ 私が最後にお伝えしたいこと 26 株主還元政策 27 日米比較:配当性向 配当性向に関しては、日米間の差はありません。つまり、利益からアメリカ企業と同等な配当とし て支払っている、ということです。 出所)生命保険協会調べ 28 配当性向 (スクランブル)「アマダ型」配分の死角 市場、成長投資を重視 2014/7/11付 (省略) アマダをきっかけに株主配分は市場の一大テーマに浮上した。それでも、長期投資家の間では「手元資金の使い 道で最優先すべきは成長投資」(農中信託銀行の奥野一成企業投資部長)との声は強い。 気がかりなのは時流に乗る企業の多さだ。相次ぐリキャップCBはそのひとつだ。30%に集中する日本企業の配 当性向を疑問視する投資家もいる。 「なぜゼロや20%ではないのか」。フィデリティ投信の三瓶裕喜調査部長は企業に、こう尋ねる。中長期の成長を 考慮した上で判断したのかを問うためだ。 (省略) 29 配当政策 利益の大半、株主配分 カシオ9割、アマダ全額 上場企業全体で10兆円 2014/11/21付 情報元 日本経済新聞 朝刊 上場企業が配当と自社株買いによる株主への利益配分を一段と増やす。カシオ計算機や金属加工機械の アマダは利益の大半を株主配分に充てる。2015年3月期は約600社が増復配し、全体の株主配分額は10兆 円に迫る。業績回復と資本効率改善への意識の高まりが背景にある。今後、配分拡大の流れが賃上げなど に広がっていくかが焦点だ。 (省略) 30 日米比較:自社株買い 自社株買いの当期純利益に対する比率(自社株買い総額÷当期純利益)はアメリカ企業を大幅に 下回っています。これが内部留保が高水準である要因の一つとなっています。 (H20年は異常値なので削除) 出所)生命保険協会調査のデータを加工・修正 31 日本企業の今後の自社株買いへのスタンス 自社株買いに消極的な日本企業の割合が非常に高くなっています。 出所)生命保険協会調べ H25:575、H24:571、H23:613(複数回答可) 32 日本企業が自社株買いに消極的な理由 配当による還元をメインに考えていることが自社株買いに消極的であることの主な要因です。一方 で、株価水準は自社株買いには影響はほとんどないようです。 a. 自己資本が十分でない b. 手元資金を確保する必要がある c. 株価の水準が条件に満たない d. 自己株式取得より配当還元を重視 e. 市場での流動性が不足してしまう恐れ f. その他 H25:368、H24:360(複数回答可) 出所)生命保険協会調べ 33 ゴールドマンサックス証券による調査 今後自社株買いの金額が増加する見込みとなっています。日本企業の自社株買いに対する姿勢 が変わりつつあるようです。 (日経新聞朝刊 2014年11月13日) 34 自社株買い 株主配分重視 鮮明に 自社株買い・増配銘柄上昇 オムロン、一時9%高 2014/10/30付 情報元 日本経済新聞 朝刊 上場企業の2014年4~9月期の決算発表が本格化する中、決算と同時に株主配分の増額を発表した企業の株 価上昇が目立っている。29日は前日に自社株買いと配当増額を発表したオムロンの株価は一時、前日比9%高と なった。株主に報いる姿勢を評価するだけでなく、経営者の業績先行きに対する自信の表れと受け止める投資家 も多いようだ。 (省略) 自社株買いや増配の発表から、経営者のメッセージを読み取る投資家も多い。経営者が実態に比べ株価が割安 と考えており、株主配分の原資となる利益確保にも自信があるとみなされる。「業績予想に追加して、銘柄選別す る上での切り口になりやすい」(アバディーン投信投資顧問の窪田慶太インベストメント・マネジャー)という。 35 自社株買い 自社株買い、規模が拡大 今年 1社平均、最高の90億円 株主配分・ROE向上へ 上場企業の自社株買いの規模が拡大している。2014年の1社あたり平均金額(取得枠ベース)は約90億円と昨年 より8割増え06年の水準を抜いて過去最高になった。トヨタ自動車など主要企業による大型の自社株買いが相次い だことが背景。増配に自社株買いを組み合わせた株主配分強化が、この1年の株高の原動力にもなっている。 アイ・エヌ情報センターの集計によると、上場企業の自社株買い総額(取得枠ベース)は3兆9000億円と2年連続で 増えた。08年(4兆8300億円)以来6年ぶりの高水準だった。1社あたりの金額でみると、データでさかのぼれる02年 以降で最高になった。 (省略) 積水ハウスはROE10%(前期実績は9.2%)の中期目標を設定したが、本業の利益成長だけでROEを引き上げる には限界があるとして「自社株買いを組み合わせて目標達成を目指す」(阿部俊則社長)。 (省略) (日経新聞朝刊 2014年12月13日) 36 自社株買い 自社株買い、規模が拡大 今年 1社平均、最高の90億円 株主配分・ROE向上へ (日経新聞朝刊 2014年12月13日) 37 自社株買い 日通、上限150億円の自社株取得枠 資本効率改善狙う 2014/11/22付 情報元 日本経済新聞 朝刊 日本通運は21日、150億円(株式数は4000万株)を上限とする自社株取得枠を設けたと発表した。発行済み株式数 (すでに保有する自社株を除く)の3.9%にあたり、全額を自己資金でまかなう。取得期間は今月25日~2015年5月 29日まで。自社株買いは自己資本を計算上減らす効果があり、資本効率の改善を狙う。 13年1~6月に200億円の自社株買いを実施して以来だ。買い入れた株式は「消却の可能性を含めて活用を検討 する」(広報部)。日通は中期経営計画で、16年3月期をめどに総資産利益率(ROA)を2.5%に引き上げる目標を 掲げている。 陸運業界では、ヤマトホールディングスが10月に300億円、セイノーホールディングスが今月11日に50億円をそれ ぞれ上限とする自社株買いを発表するなど、資本効率を意識した動きが業界内で広がっている。 ノエビアHD、自社株買い上限250万株 2014/11/19付 情報元 日本経済新聞 朝刊 化粧品のノエビアホールディングスは18日、250万株を上限に自社株買いを実施すると発表した。自己株式を除く 発行済み株式数の6.68%にあたる。取得額の上限は49億7750万円とする。 自社株買いは3年ぶりで、取得した株式は消却し資本効率を高める。14年9月期に8%だった自己資本利益率 (ROE)を2019年9月期までに10%へ引き上げる目標だ。 38 自社株買い 日通、上限150億円のニチイ学館、850万株上限に自社株買い 発行済み株式の12% 2014/11/13付 情報元 日本経済新聞 朝刊 ニチイ学館は12日、850万株を上限に自社株買いをすると発表した。自己株式を除く発行済み株式数の12.16%に 相当する。取得金額の上限は60億円。同社の自社株買いは6年ぶりになる。株主配分を強化すると同時に将来の M&A(合併・買収)に備えて金庫株を厚くする。 13日から2015年5月31日までの間に市場で取得する。介護事業や医療関連事業の伸びで、15年3月期の連結純 利益は3期ぶりの増益を見込んでいる。 ニチイ学館は中国事業の拡大を進めており、今回取得する自社株を株式交換によるM&Aに使うことも検討して いる。 車10社、配当9000億円超 今期、トヨタ自社株買い3600億円 2014/3/27付 (省略) トヨタは26日、6年ぶりに自社株買いを実施すると発表した。自社株買いは企業自身が株式を買い取り、市場で流 通する株数を減らして株式の価値を高める株主配分策。金融危機で買い取りをやめていたが、収益力が回復し、 再開を決めた。 今回の取得額の上限は3600億円。買い取り規模で11年ぶりの大きさだ。株数では上限6000万株で、発行済み株 式数の1.89%にあたる。 また、3000万株の自社株を6月に消却することも発表。新興国の交通システムの発展などを目的に「トヨタ・モビリ ティ基金」を8月に設立する予定で、同基金に自社株を1株1円で売り出すことに伴うものだ。 (省略) 39 自社株消却 自社株消却銘柄が堅調 再放出懸念消え 買い安心感 東ガス・長谷工など上昇 2014/7/1付 情報元 日本経済新聞 朝刊 株式市場で自社株の消却を発表した企業の株価が堅調だ。金庫株として保有する自社株を消却すると、 市場への再放出の懸念が和らぎ、買い安心感が出やすい。自社株買いのみを実施する場合より評価されて いる例も目立つ。自己資本利益率(ROE)を重視する指数の普及などを背景に、資本効率を高める企業の 動きに株価が反応しやすくなったとの指摘がある。 (省略) 消却銘柄の株価は、自社株買いだけを行う銘柄と比較しても底堅い。東証株価指数500採用銘柄のうち、4 月以降に消却を発表した企業と、自社株買いのみを発表した企業の4~6月の平均株価上昇率を比べたと ころ、14%弱と8%弱だった。「再放出懸念が払拭される分、消却した方が買い安心感がある」(アストマック ス投信投資顧問の山田拓也氏)という。 消却に踏み切る企業は増えている。野村証券によると、上場企業の今年4~6月の自社株消却額は約 4000億円(消却のみも含む)と、自社株買い実施額の75%程度。年度末に偏りがちな例年と異なり、「今年は 消却を実施するペースが速い」(西山賢吾氏)。 資本効率の改善を意識する企業が増え、自社株買いや消却が材料視されやすくなっている。「株価への効 果が長続きしやすくなっている」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鮎貝正弘氏)との指摘も出ていた。 40 自社株消却 ぐるなび、自社株62万4900株を消却 2014/11/22付 情報元 日本経済新聞 朝刊 ぐるなびは21日、発行済み株式総数の1.27%にあたる62万4900株の自社株(金庫株)を12月10日付で消 却すると発表した。11月に市場で約10億円で買い入れていた株のすべてを消却する。資本効率を高めて、 あわせて市場への再放出懸念をなくす。 今回の消却後に残る金庫株約30万株は、ストックオプション(株式購入権)の行使に備える。 花王、自社株1200万株消却 発行済みの2.3% 2014/11/21付 情報元 日本経済新聞 朝刊 花王は20日、発行済み株式数の2.3%に当たる1200万株の自社株を、12月10日付で消却すると発表した。 金庫株として保有するのでなく、消却することで株主配分の姿勢をより明確にし、資本効率の向上にもつな げる。消却後、手元に残る自社株は約134万株まで減る。 同社は7月30日から10月9日までに、総額約500億円を投じて自社株を1200万株取得した。2014年12月期 の年間配当を前期比4円増の68円とすることと併せて、株主への利益配分を鮮明にする。前期は10.7%だっ た自己資本利益率(ROE)を継続的に高める狙いもある。 花王は外国人投資家の持ち株比率が6月末時点で約5割と高い。今回、消却に踏み切った背景には、外 国人投資家が資本の効率性を重視している点もあるとみられる。 41 アマダ アマダ「全て株主配分」の衝撃 投資家はインカム重視 16日の東京株式市場は、金属加工機械大手のアマダが話題をさらった。利益をすべて株主に配分する方針 を掲げた結果、前日比16%高と急騰を演じたからだ。自己資本利益率(ROE)を高める経営姿勢を市場は 評価した。日経平均株価が201円下げたなかでの逆行高。投資マネーが配当など「インカム」収入を重視す る傾向を改めて印象付けたともいえる。 アマダの16日の売買代金は415億円と、最近の1日売買代金の20倍以上に膨らんだ。トヨタ自動車をも上 回り、東証1部で4番目の多さだった。アマダは15日午後の取引時間中に、純利益の半分を配当に回し、残 り半分も自社株買いに充てる方針を公表した。15日も株価は8%上がったが、その動きに弾みがついた。 アナリストの間からは「新たな資本政策は衝撃だった」(バークレイズ証券の佐野友彦氏)など驚きの声が 相次いだ。アマダは実質無借金で、手元資金が1000億円を超えるなど、余分な現金を抱える典型的な キャッシュリッチ企業だ。過去10年間のROEも平均3%と低迷した。 アマダの岡本満夫社長は15日夕、アナリスト向け説明会で強いメッセージを出した。株価や資本効率の低 さを認め、企業価値を高める経営への転換を明確に語ったという。ROEなどを基準に構成銘柄を決めるJP X日経インデックス400に選ばれなかったことも課題として明示した。出席したアナリストの一人は「経営改革 への本気度が伝わった」と感想を話す。 (以下略) (日経新聞朝刊 2014年5月17日) 42 アマダ(その後) 次のアマダを探せ 意思持つマネーが競争刺激 証券部 川上穣 2014/6/24 (省略) マネーの質的な変化が、日本の資本市場の風景を変えつつある。この変化そのものは評価されるべきだろ うが、株主配分だけが唯一の解ではないことには留意しておきたい。 23日には「優等生」のアマダが大幅続落した。下げ幅は一時6%強。前週末に自社株買いが完了したと発表 し、材料出尽くしから利益確定売りに押された。 「自社株買いを手がかりにした短期マネーは逃げ足も速い」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則 弘氏は指摘する。ROEが低い最大の理由は、利益率の低さにある。マネーの定着には、本業の収益性に切 り込む経営者の覚悟も必要になる。日本市場の魅力を高めるにはまだ残された宿題がある。 43 アマダ(その後) アマダ、利益の全額還元だけでは上がらぬ市場評価 今年5月、利益の全額を株主還元に充てると発表して話題を集めたアマダ。直後の1カ月間に株価は5割近 く急騰し、6月18日には年初来高値となる1143円を付けた。だが、市場が好反応を見せたのはそこまでだっ た。11月21日終値は1078円にとどまり、PBR(株価純資産倍率)は1.04倍とかろうじて「解散価値」の1倍を 上回るレベルだ。株主還元だけでは本質的な企業価値は高まらない。株主還元競争に火を付けたアマダに 市場が求めるのは、持続的な株価上昇につながる成長ストーリーだ。 (省略) アマダは2016年3月期までの2年間、利益の全額を配当と自社株買いに回す予定だ。使い道の乏しい キャッシュを株主に返すことは評価されたが、もう一つの柱としていたM&Aによる成長戦略の具体策がなか なか出てこない。前期末の自己資本は4142億円。連結売上高の1.6倍に達し、自己資本比率も75%と高い。 この手厚すぎる自己資本がM&Aの余力となる。磯部取締役は「(向こう3年で)400億円をM&Aに投じた い」と述べる。 (以下略) (日経新聞朝刊 2014年11月25日) 44 アマダ:社長インタビュー アマダ、100%の株主還元 資本効率重視で株価動く 「ここまで驚き与えるとは」 アマダは今後2年間の利益を全て配当や自社株買いなどの株主還元に充てるとの方針を打ち出して資本効 率を重視する流れをつくるきっかけになった。岡本満夫社長=写真=はこの決断を振り返り、「資本効率を 高めようと考えたが、ここまで驚きを与えるとは思わなかった」と話した。 ――どうして利益を全て還元しようと考えたのですか。 「2003年の社長就任から会社の規模は2倍近くになったが、課題は株価の低迷だった。その原因を探ると、 お金のため込み過ぎによる資本効率の悪さが影響しているとの分析が出た」 「ちょうど国内外での大型投資も一巡した。資本効率を高めるために自己資本をこれ以上増やさないように しようと、2年限定での100%株主還元を考えた」 ――株主還元が株式市場のテーマになりました。 「正直に言って、ここまで驚きを与えるとは思っていなかった。結果的にアマダの株価は上がり、多くの企業 に非効率にため込んだお金の使い道を考えさせるきっかけになった。自己資本利益率(ROE)に代表される 資本効率を重視する外国人投資家は、アマダに『よくぞやった』と思っているだろう」 (日経新聞朝刊 2014年12月30日) 45 アマダ:過去1年間の株価パフォーマンス 株主還元のニュースの影響もあり、過去1年の株価パフォーマンスはTOPIXをオーバーパフォーム しています。 46 アマダ:過去6カ月間の株価パフォーマンス 株主還元のニュース以降、株価はTOPIXをアンダーパフォームしており、PBRは0.95で1割れです。 株主還元政策が変更になっても、会社の稼ぐ力は変わらないので当然といえば当然です。 47 サンゲツ サンゲツ株がストップ高 「株主配分100%以上」好感 インテリア大手のサンゲツの株価が10日、急騰した。朝方から買い注文を集め値段がつかず、大引けで制 限値幅の上限(ストップ高)である前週末比19%高の3205円で取引が成立した。7日に2017年3月期までの 3年間に、純利益の100%以上を配当や自社株買いなどで株主に配分すると発表したことが材料視された。 金属加工機のアマダが利益の「100%還元」で市場の話題をさらったが、サンゲツはそれを上回る還元方 針を明らかにしたことで市場が敏感に反応した。 サンゲツの14年3月期の自己資本利益率(ROE)は4%台と東証1部平均(約8%)を下回り、20年3月期 に8~10%に引き上げる目標を掲げる。安田正介社長は「17年3月期までは大規模投資を予定しておらず、 手元資金をこのままにしておく理由を株主に説明できない」と話す。東海東京調査センターの細井克己シニ アアナリストは「壁紙や床材のシェアをさらに高めるためにはM&A(合併・買収)も1つの選択肢」と手元資 金の使途に注目している。 (日経新聞朝刊 2014年11月11日) 48 サンゲツ(その後) サンゲツ、「100%超配分」でも立ちはだかる壁 今後3年間で稼ぐ利益以上を配当や自社株買いを通じ株主に配分すると11月に表明したのがインテリア大 手のサンゲツだ。5月に利益を全額配分すると発表し話題を集めた金属加工機械大手のアマダを超える配 分方針に株価は敏感に反応し、発表の翌営業日は制限値幅の上限(ストップ高水準)に急伸した。だが、そ の後も株高基調を続けているとは言い難い。株価には、解散価値であるPBR(株価純資産倍率)1倍という 壁が立ちはだかり、なかなか超えることができない。 「猶予期間をもらうための措置」。サンゲツの安田正介社長は100%超の株主配分をこう説明する。2014年 3月期末の自己資本は1198億円で、自己資本比率は82.2%だ。豊富な手元資金を活用し、17年3月期まで の3年間は高水準の配分を続け、遅くとも5年後には自己資本を100億~200億円減らす。資本効率を測る 自己資本利益率(ROE)は4.6%だった前期実績から8~10%へ高める。同時に次の成長に向けた投資を検 討するが、今後3年間はその「仕込みの期間」とし、その間は余剰資金を株主配分に振り向ける方針だ。 PBRは発表直後こそ07年5月以来、7年6カ月ぶりに1倍台に回復したが、その後再び割り込んでいる。現 預金と短期有価証券を合わせた手元資金は9月末時点で464億円で、わずか1億円程度の有利子負債を差 し引いた「ネットキャッシュ(純現金)」は株式時価総額の4割を超える。積み上げすぎた手元資金を株主配分 に回すのは評価できても、その後の持続的なROE上昇に結びつく収益性向上を実現できる成長戦略の具 体像がまだみえない。これがサンゲツ株の上値を抑えている。 (省略) (日経新聞朝刊 2014年12月25日) 49 サンゲツ:株価パフォーマンス 株主還元のニュースで株価は急上昇しましたが、その後反落し元のトレンドに戻っています。PBR は0.92で1割れです。 50 キーエンスなど 電撃緩和より株主配分 変身キーエンス、株高呼ぶ (省略)12日は前日に3年間で2000億円強を株主配分すると発表した富士フイルムが急伸したほか、前日に自社 株買いを発表したセイノーホールディングスが13%高、同じく増配を発表した東京精密が11%高でそれぞれ取引を 終えた。 (省略)中でも国際的に注目を集めたのがキーエンスだ。2015年3月期の年間配当を1株当たり200円と、前期実 績60円の3倍超に増やすと先月29日に発表した。キーエンスの株価は12日終値で発表前に比べ15%上昇してい る。 キーエンスといえば手元資金が豊富なキャッシュリッチ企業だ。自己資本比率は90%を超える。3月期末で現預 金が約800億円あり、日本国債を中心に6000億円を超える有価証券も保有する。余剰資金が積み上がる半面、前 期の配当性向は4%と平均的な水準の30%を下回った。株主配分に前向きではないとみられていただけに、大幅 な増配に市場は驚いた。 (省略)ゴールドマン・サックス証券のキャシー・松井氏は「日銀とGPIFを上回るインパクトとも言えるのが『キーエ ンス・ショック』だろう」と市場への好影響を評価する。 6日午前には日清紡ホールディングスが2000万株(発行済みの11.45%)を上限に自社株買いすると発表し、株 価は同日終値で前日比14%上がった。ヤマトホールディングスも30日に300億円を上限に自社株買いすると発表 した。配当も合わせると今期の純利益をほぼすべて株主配分に回す計算になる。 「経営者は資本効率の向上を強く意識している」。企業に自社株買いや資産流動化など財務戦略を提案するシ ティグループ証券の兼子健雄マネジングディレクターも最近、企業の変化に手応えを感じる。企業が投資対象とし ての魅力を増す努力を続けることが、株高の持続性を高める。 (日経新聞朝刊 2014年11月13日) 51 リキャップCB 52 リキャップCB (真相深層)財務組み替え 株高狙う 金利ゼロで転換社債、自社株買いに充当 効果に限り、問われる成長 公開日時 2014/7/24 「リキャップCBは見かけ上のROEを高める財務テクニックにすぎない」(クレディ・スイス証券の山手 剛人氏)。分母を一時的に減らしても、分子の利益が増え続けなければ、長期的な市場の評価は高ま らない。 53 リキャップCB 14年のリキャップCB、案件数が前年の2倍超に 調査会社調べ 2015/1/9 16:56 新株予約権付社債(転換社債=CB)発行と自社株買いを組み合わせた「リキャップCB」が日本企業の間で流行 している。調査会社ディール・ロジックによると、2014年の案件数は14件と前年(6件)の2倍超に拡大した。 リキャップCBは低コストのCBで資金を調達する一方、自社株買いにより自己資本利益率(ROE)など資本効率 の向上も狙う。14年には額面1000億円のヤマダ電機など小売業の発行が目立ったほか、東レも1000億円調達し た。〔日経QUICKニュース(NQN)〕 54 リキャップCB ケーズHD、CBで300億円調達 自社株買いも 2014/12/5付 情報元 日本経済新聞 朝刊 ケーズホールディングスは4日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、300億円を調達 すると発表した。新規出店資金に200億円を充て、残る100億円を自社株買いの原資とする。CB発行と自社株買 いを組み合わせた「リキャップCB」で、株式価値の希薄化を抑えながら成長資金を確保する。 ケーズHDは19年3月期を最終年度とする中期経営計画で、連結売上高1兆円、経常利益520億円を目指すとし ている。CBの発行は1996年以来18年ぶり。2019年満期のゼロクーポン債で転換価格は3670円と4日のケーズH D株の終値より25%高い水準。自社株取得の上限は360万株で、発行済み株式数の6.84%にあたる。 55 リキャップCB 塩野義、CB200億円 25年ぶり発行 自社株買い300億円実施へ ROE向上狙う 2014/12/2付 情報元 日本経済新聞 朝刊 塩野義製薬は1日、ユーロ円建ての新株予約権付社債(転換社債=CB)を発行し、200億円を調達すると発表し た。CB発行は1989年12月以来25年ぶり。調達資金と手元資金を合わせた300億円を上限に自社株買いも実施す る。 CB発行と自社株買いを組み合わせる「リキャップCB」と呼ばれる手法で、資本効率を示す自己資本利益率 (ROE)を引き上げる。 CBは2019年満期のゼロクーポン債。普通社債(SB)よりも発行コストが低いことから、CBでの資金調達を選ん だ。払込日は12月17日(ロンドン時間)で転換価格は4180円。自社株取得の上限は1000万株で、発行済み株式総 数(自己株式を除く)の2.99%に相当する。 手元資金は直近で1000億円強、自己資本比率も8割超と財務に余裕がある。買収など成長のための資金を確 保しながら株主配分も強化する狙いで、リキャップ手法を決めた。 現在取り組んでいる中期経営計画では、ROEを16年度に11%、20年度に15%に引き上げる。9月に過年度税金 費用などを処理し、ROEは前期末の約9%から6%台へ低下する見込みだった。今回の自社株買いでROEは 9%台半ばにまで再び上昇する見通しだ。 56 リキャップCB 「リキャップCB」相次ぐ アデランス、100億円調達 2014/9/17付 情報元 日本経済新聞 朝刊 新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行と自社株買いを組み合わせた「リキャップCB」が相次いでいる。調 達した資金を投資だけでなく、自己資本の圧縮にも回すことで自己資本利益率(ROE)が向上し、株価上昇につな がる可能性もあるとして発行が増えている。 アデランスは17日、CBの発行と自社株の取得を発表した。100億円を調達、うち52億円を米かつら大手ヘアクラ ブの買収にかかった長期借入金の返済に充てる。国内のかつら事業向け設備資金にも振り向けるが、残り30億円 は自社株の取得用とする。 CBは5年物のゼロクーポン債で10月7日に発行する。1株利益の希薄化を抑えるため、株価が一定期間、転換 価格を3割上回らないと転換できない条項を盛り込んだ。 自社株取得の上限は210万株で発行済み株式総数(自己株式を除く)の5.69%に相当する。主に東京証券取引 所の立会外取引で買い付ける。18日の取引時間前、196万8500株を17日終値の1524円で取得する。 同社株式の約28%を保有する筆頭株主、米投資ファンドのスティール・パートナーズが、立会外取引により保有 するアデランス株の売却に応じる可能性もある。 家電量販大手のエディオンも同日、ユーロ円建てCBを発行し約150億円を調達すると発表した。払込日はロンド ン時間の10月3日で償還期限は2021年10月。表面利率が付かないゼロクーポン債として発行する。 調達した資金のうち80億円は西日本地域に出す新店や、既存店に併設する住宅リフォームの展示スペースなど に充当、20億円は通販サイトのシステム整備に充てる。残りの50億円で自社株を取得し、自己資本を圧縮する。 57 ヤマダ電機:過去1年間の株価パフォーマンス 昨年の5月27日にリキャップCBを発表しましたが、その後株価はTOPIXを大幅にアンダーパフォー ムしています。 58 東レ:過去1年間の株価パフォーマンス 昨年の5月22日にリキャップCBを発表しましたが、その後年末から株価はTOPIXを大幅にオー バーパフォームしています。 59 日本ハム:過去1年間の株価パフォーマンス 昨年の3月7日にリキャップCBを発表しましたが、その後株価はTOPIXを大幅にオーバーパフォー ムしています。 60 カシオ計算機:過去1年間の株価パフォーマンス 昨年の7月7日にリキャップCBを発表しましたが、株価はTOPIXを大幅にオーバーパフォームして います。 61 本日のテーマ 2014年のファイナンス戦略を理解するためのファイナンス理論 ケーススタディ 私が最後にお伝えしたいこと 62 ファイナンス戦略より経営哲学 63 ファイナンスの悲劇は必然的に生まれる ファイナンスの悲劇を生むメカニズム 経営者の無知 番頭の不在 経営哲学の風化 金融機関の利害 財務のエゴ ファイナンスの暴走による企業価値の破壊 64 経営哲学の風化 創業者の素晴らしい経営哲学も簡単に風化してしまいます。経営哲学なき企業がファイナンス戦 略に手を出すと大やけどを負うことになります。 パナソニック ・自主経営 資金については、原則として蓄積による自己資本を中心にしていくことが大事である ・ダム経営 余裕、ゆとりをもった経営 ・適正経営 無理をせず、自分の力の範囲で経営を伸ばしていく ・かつての松下銀行も今では多額な有利子負債を抱え、格下げされる始末 ・「規律が緩んだ面は否めない」(河井常務) オリンパス 「昔から何事にも慎重な会社で、よいものをつくって売ることが全てだった。業界で『ケチンパス』と バカにされるくらいだった」(同社元幹部) 財テクの損失隠しにより、上場廃止の危機に陥る 65 経営哲学が定着する企業 創業者の経営哲学が定着する企業では、保守的な財務戦略が選択される傾向があります。勝負 すべき土俵を理解し、そこから離れることはありません。 本田技研工業 ・本業以外に手を出すな ・生産企業は為替差益なんかで金儲けをしちゃいけない 日本電産 ・一意専心の精神:「回るもの、動くもの」へのこだわり ・三つの原理原則「楽をして儲かることはない」「うまい話には必ず落とし穴がある」「理屈よりも行動することが大切」 ・財務戦略に関しても、安全第一が鉄則で、目先の損得やわずかな利息の差に目を奪われてはいけない 京セラ ・土俵の真ん中で相撲をとる ・つねにお金のことについて心配しなくても、安心して仕事ができるようにすべき→無借金経営 ・自分で額に汗して稼いだものしか利益ではない ・もし投機的な利益を得たとしても、それは世の中に対して新たに価値を作り出したことにはならない(ゼロサムゲーム) ヤマト運輸 ・もっとも、現金収入があるからといって、さらに欲をかいて、金融市場でデリバティブなどのリスクの高い資金運用に 走るようなことがあれば、そこに大きな問題が生ずることがある 66 金融機関の利害 金融機関は顧客の利害よりも自社の利害を優先する特殊な経済組織です。契約の前には、取引 においてリスクなく最も利益を得るのは誰なのかをよく考えましょう(答え:金融機関)。 ゴールドマンサックスで手っ取り早く出世する方法 ・利益が上がりそうにない株式やその他の商品を処分するために、顧客に投資を薦める ・会社に最大の利益をもたらすものであれば例外なく顧客に取引させる ・3文字の頭文字を付けて流動性の低い、不透明な商品を売買する 最近の日本での金融機関の儲け方 ・「豊富な手元資金」「これからはアジア」というプロパガンダで海外企業に対するM&A件数が急増 ・かつては大幅な希薄化を伴う増資ですら引き受け、しかもインサイダー情報を機関投資家に流しポイント獲得 ・MBO (訴訟相次ぐ) ・年金資産のオルタナティブ投資へのアロケーション(AIJ事件もこの一種) 金融機関の利害の背景 ・金融機関も上場しているケースが多く、利益の追求が求められる ・社員の社内競争が激しい ・報酬は業績連動型である ・結果として、自分のことと自社のことしか考えない 金融機関は疑ってかかるぐらいがちょうどいいのですが、企業側にも彼らと戦える知識武装を した人材が必要です。それがまさに番頭です。 67 番頭が最後の砦 番頭は、経営者が無知であり、財務部門がエゴを持つという前提に立ち、コンサバティブなファイナ ンス戦略を貫き、また金融機関を一業者として使いこなせなければなりません。 経営者の無知 ・成長のためにはM&Aが不可欠である ・株主は株主還元を望んでおり、増配・自社株買いにより株価は上がる ・株主還元は競合他社に負けたくない ・市場コンセンサスを死守しなければならない ・株式市場は短期的であるとか、自社株が割安であると公言する 財務のエゴ ・為替で儲けたい ・年金の積み立て不足をリスクの高い投資で挽回したい ・資本コスト(WACC)を下げて、株価を上げたい ・自社株を割安で買い戻したい ・資本を減らしてROEを上げたい ・M&A投資枠を使い切り、M&Aの実績を作りたい 最後の砦が存在しない場合、悲劇が生まれます。 68 経理部は経営の羅針盤 プラズマテレビへの巨額投資や三洋電機の買収など失敗に終わった前体制の経営。当時の経理担当役員が有 力OBから「何をやっとったんじゃ」と痛烈な批判を浴びせられたのを河井(注:現専務)ら経理幹部たちは目の当 たりにした。旧松下電器産業時代から「経理部は経営の羅針盤」といわれてきた。無謀な投資には体を張って止 める。それが「堅実経営」を誇った松下の金庫を預かる経理マンの自負だった。 (2014年4月24日日本経済新聞朝刊 「パナソニック 復活は本物か(3) 経理のトラウマ」より一部引用 ) 最後の砦である番頭の不在がパナソニックの悲劇を生んだのだと考えられます 69 ROE経営が企業価値を破壊する 70 ROEに関する私の見解 私の見解 ・ここまでROEが注目されるのは異常 ・ROEは、所詮会計数値に過ぎない ・分母の資本も分子の当期純利益も操作(不正ではないしても)が可能 ・投資家は、本物の高ROE企業と偽物の高ROE企業を見分けなければならない 理論 ・株主の出資額(資本)に対する株主に帰属する利益(当期純利益)の比率 ・高ROEとは、資本から効率的に利益を生み出すことを意味する ・ROEが株主資本コストを上回れば(エクイティスプレッドがプラスであれば)企業価値が創造される 現実 ・長期的な投資を抑制して当期純利益(ROEの分子)を高めるインセンティブが生じる(短期主義) ・株主還元(ROEの分母)を過度に強化するインセンティブが生じる ・企業価値の創造を伴わないROEの改善もある(本末転倒) ・日本企業のROEが低いのは、単に儲かっていないから ・投資家受けの良い会社(積極的な財務戦略)よりも、経営の質の高い会社(商品力、ブランド力、独創性など)の ROEの方が高い ・当期純利益には一過性の要因が含まれており、ノイズが多い ・当期純利益を減らすリストラはやりにくい(利益率が低いが赤字ではない事業は存続される) あるべきアプローチ ・企業価値を持続的に創造する経営を行った結果として自然とROEを改善させるのがあるべき姿 ・ROEよりもあえてROICを業績指標とすることにより、質の高い投資家を引き付けるべき ・イノベーションを持続的に生み出せばROEは勝手に上がる 71 盤石な財務状況+積極投資のコンビネーションが理想 内部留保は全方位型保険である 内部留保はROEの分母を増やすため最近悪者扱いですが、究極のリスクマネジメントツールと考えることができ ます。保険で言えば、全方位型保険です。為替リスク、災害リスクなどさまざまなリスクに対するクッションとなり ます。もちろんそれだけ高コストになりますが、積極的な投資を支えるには一定水準の内部留保は必要です。 投資を成功させて内部留保を正当化させる必要がある 内部留保は投資の原資です。投資をし、十分なリターンを生み出し続ける必要があります。その気が無いのなら、 株主に還元するしかありません。 当期純利益が減少しようとも、脈のある案件には投資する 投資は将来的にリターンを生むとしても、短期的には利益を減少させます。よって、目先のROEを意識すると、 投資家できなくなります。一方、投資をしなければ、差別化は困難であり、また場合によっては現状維持すら難し くなりかねません。 「短期の業績を犠牲にせざるをえなくても、当社の株主にとって最大の利益になるチャンスがあ れば、当社はそのチャンスをつかむ。我々は勇気を持ってそのように行動する。当社の株主に は長期的な視点を持っていただきたい」(ラリー・ペイジ、GoogleのCEO) 72 ファイナンスは横綱相撲 73 ファイナンスのベストプラクティスは存在しない! 良いファイナンス戦略があるのではなく、良い会社のファイナンス戦略が正解なのです。 74 ファイナンス戦略より財務分析 75 企業価値フォーカス型の財務分析スキル 株価・マルティプル分析 成長性・収益性分析 効率性分析 ROIC/WACC分析 安全性分析 総合分析 ・短期、中期、長期株価パフォーマンス ・マルティプル分析(PER、PBR、EV/EBITDAなど) ・営業利益、CFO成長率 ・ROA、CFO/総資産比率 ・BS項目の対売上高比率 -運転資金項目 -有形固定資産など ・ROIC ・WACC ・Economic Profit ・自己資本比率 ・インタレストカバレッジレシオなど 上記の分析に定性的な分析を加え、将来の業績を予測 76 アクティビスト・インサイド 外部目線で経営を客観的に見直すためには、徹底的にベンチマーク分析をする必要があります。 競合に劣る点を是正することにより、企業価値を創造する可能性が高まります。 77 マーケット・インテリジェンスのイメージ 株価から株式市場の声なき声を聞き分け、経営陣にフィードバックし、企業価値創造に向けた提言 をすることがIR機能のあるべき姿だと考えます。 未開拓 かなりの進化 社内での経営・財務 戦略の議論 経営陣 市場目線での フィードバック 分析に基づき フィードバック 経営・財務戦略の コミュニケーション マーケット IR部門 フィードバック (ノイズを含む) 危険な予感 マネジメントコンサルタントのスキル (経営者目線) アナリストのスキル (マーケット目線) 知識武装が不十分な場合、自分で考えることができないため、ノイズに振り回されます。都合の 悪いことに、上場企業(IR部門)は、声の大きい人間が生み出すノイズに取り囲まれています。 78 ファイナンス戦略よりキャッシュフロー 79 キャッシュフローの改善に努める 運転資金の改善は、全額がFCFの改善につながるので、積極的に行うべきです。特に在庫と売掛 金の削減に注力しましょう。 フリーキャッシュフローの計算式 FCF = 営業利益(1-実効税率)+減価償却費-設備投資額-運転資金増減額 明日からでも実行できる企業価値創造活動 運転資金管理には投資が必要なわけでもなく、社員の知恵と努力で対応できます。明日からでも実行に移しましょう。 ROIC 事業バリュー ドライバー 他のバリュー 決定要因 売上成長率 現金ベース の税率 営業利益率 WACC 追加投資率 資本コスト 予測期間 フリーキャッシュフロー 株主価値 営業利益 -現金ベースの税金 NOPAT -投資額 FCF 事業価値 +非事業資産 -負債 株主価値 出所:Expectations Investing 80 最後にもう一度 企業価値創造のための6つ柱 優秀な 経営者 優秀な 社員 優れた商品 ・サービス 管理会計 パートナーと しての株主 Market Intelligence ファイナンスは経営の“余事”にすぎない 81 「月刊手島のコラム」をご希望の方は、 [email protected]までご連絡をお願い いたします。 82