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共鳴現象を利用して音の本質を理解させる工夫

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共鳴現象を利用して音の本質を理解させる工夫
中学第一分野
共鳴現象を利用して音の本質を理解させる工夫
青森県弘前市立第四中学校
神 田 昌 彦*
工 藤 貴 正**
(業績分担者)青森県立五所川原農林高等学校
目
的
理科で学習した内容を普段の生活の中で生かすこと
ができない生徒に出会うたびに、授業のあり方につい
て考えさせられる。
それは、科学的な概念や法則は、しっかりと実感を
持って理解しなければ、その語句だけを覚えてもほと
んど意味をなさないということである。また、自然現
象は決して理科室の中だけで起こるのではなく、日常
生活を含めてどこにでも起こっていることを認識させ
なければならない。
そのためには、理科室だけにある特殊な装置を用い
た実験より、生徒たちに身近なものを利用した実験を
させることが大切になるのではないか。
とりわけ、小中学校の段階では、身の回りのものを
使い日常生活に潜む不思議な自然現象に目を向けさせ
ることの必要性を強く感じる。
そこで、本稿では、中学校第一分野「音の伝わり方」
で、子どもたちが親しみやすい身の回りのものを使い
「音に関わる現象」の本質を実感させることを目指し
た取り組みについて報告する。
概 要
「おんさ」は、「音の伝わり方」の学習で頻繁に用
いられる実験装置である。しかし、子どもたちにとっ
て「おんさ」は特殊な装置という印象が強い。なぜな
ら、ギター等のチューニングで使う生徒を除いては、
理科室の外では見かけることがないからである。
そこで、「おんさ」以外の身近なものを利用して、
「音源の振動」や「共鳴の現象」の再現をできないか
と考え、工夫をこらしてみた。
試行錯誤を繰り返した結果、実験道具として清涼飲
料水のビンが適していることがわかった。
3 種類のビンを用い「共鳴の現象」を科学マジック
風に提示すれば、生徒たちの知的好奇心をゆさぶり、
「どうして?」「自分も試してみたい」「理由を調べた
い」といった本音の問題意識を持たせることができる
のではないか、と考えた。
さらに、生徒一人一人に「音源の振動」を実感させ
るために「おどるヘビ」の工作と組み合わせて授業を
展開した。これには、実験道具を生徒一人一人の手で
自作させることにより、学習の成就感や達成感を味わ
わせたいというねらいがあった。
教材・教具の製作および実験方法
蠢.ビンの共鳴
1.清涼飲料水の空きビンを 3 種類(2 組)準備
今回使用したビンは、チオビタドリンク(茶色:大
鵬薬品)、C1000 タケダ(透明:武田食品工業)、ペリ
エ(緑色:サントリーフーズ 330m褄)の 3 種類である。
ビン表面のラベルを剥がし丁寧に洗浄した。あらかじ
め、それぞれに A、B、C の目印をつけておく。
筆者らが調べたところでは、ビンの大きさはドリン
ク剤のものぐらいが適当であることがわかった。ビー
ルビン等、大きめのビンはこの現象の演示には適して
いない。
2.ビンにかぶせるフタを作る
アルミ箔をカッターナイフで 6cm 四方に切り、山型
に折っておく。
6cm
6cm
6cm
折り目
をつける
3cm
(注)神田昌彦教諭は平成 20 年 4 月 1 日付で青森県黒石市教育委員会に転任された。
*
かんだ まさひこ
青森県黒石市教育委員会 指導課 指導主事 〒 036-0307 青森県黒石市市ノ町 5-2
蕁
(0172)
52-2111 E-mail [email protected]
**
くどう たかまさ
青森県立五所川原農林高等学校 教諭 〒 037-0093 青森県五所川原市一野坪字朝日田 12-37
蕁
(0173)
37-2121
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3.ビンの設置
3 種類のビンを互いに 15cm 以上離して並べ、アル
ミ箔のフタを静かに載せる。風の影響を受けやすいの
で無風のコンデションで行うのが望ましい。空調等の
影響で、どうしても無風の状態が作れないときは、プ
ラスチック水槽等を逆さにしてビン全体を覆って行う
ことも可能である。
写真 2 紙コップに切り込みを入れる
写真 1 ビンをこのように設置した
4.生徒が選んだビンのフタだけを落として見せる
まず、生徒に任意のビンを選択させる。教師は 2 ∼
3m 以上離れた場所に立ち、生徒が選んだビンと同じ
種類のビンを他の場所から取り出し、口で吹いて音を
出す。すると、生徒が選択したビンのフタだけが落下
するのである。これはビンを口で吹いたことによる振
動が、同じ種類のビンを共鳴させることにより起こる
現象である。
ビンを口で吹くときは、一定の振動数の音が 2 ∼ 3 秒
続くようにゆっくりと吹く。その際の留意点としてビン
の持ち方がある。ビンを手のひらに乗せ、ビンの下部
を指で押さえて吹くようにすればよい。ビンをわしづ
かみにしたり、ビンの上部に指が触れた場合には、音
質が変化してしまい共鳴しにくくなる。
写真 3 真剣な表情で取り組む生徒たち
蠡.「おどるヘビ」の工作
1.紙コップ 2 種とモールを準備
205m褄と 90m褄の紙コップ(大創産業)を生徒の人
数分用意した。モールは長さ 10cm に切ったものを生
徒の人数分準備。いずれも百円ショップで容易に購入
できる。
2.2 種の紙コップを組み合わせる
大きい方の紙コップの側面をカッターナイフで×印
に切り込む。小さい方の紙コップは、底を切り取って
おく。
次に、紙コップ(大)の切り込みを外側に折って紙
コップ(小)を差し込み、セロテープで固定する。
写真 4 セロテープで貼り付ける
写真 5 完成作品
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3.モールでヘビを作る
10cm に切ったモールを指に巻き付け、ヘビがとぐ
ろを巻いたような形にする。ヘビのしっぽの先を少し
上に曲げると回転しやすくなる。
4.声を出してヘビをおどらせる
写真のように手のひらを開いて紙コップ(大)を持
ち、紙コップ(小)に口をあててアーと声を出すと、
ヘビが回転する。より高い声を出すとヘビの回転が速
くなる。「音源の振動」を実感できるとともに振動数
の違いを体感できる。
図 1 授業の展開例
写真 6 声を出すとモールのヘビが回転する
学習指導方法
本作品では、ビンの共鳴現象を科学マジック風に提
示した。選んだビンのフタだけが落下した理由を考え
させ、授業を展開した。
本教材を使用した授業の実践例を図 1 に示す。
写真 7 授業で提示した課題
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実践効果
3 種類のビンを使い「共鳴の現象」を科学マジック
風に提示したことは、子どもたちの興味・関心を喚起
するうえで極めて効果的であった。授業後のアンケー
トには「音の学習に興味を持てた」「面白く勉強でき
た」「家でも実験してみたい」といった回答が寄せら
れている。
また、今回の実践が、「音」の単元で最初の時間で
あったにもかかわらず、子どもたちの口から「振動」
という言葉や「音が波である」という発言が出てきた
のには驚かされた。「音が空気中を伝わったことがよ
くわかった」という感想もあった。これらのことは、
この教材が「音の振動」や「共鳴の現象」をひと目で
直感的に理解させるうえで、非常に有効であることを
示唆している。さらに、これまでは聴覚に頼って「共
鳴の現象」を確認していたが、視覚にも訴えることで
一層確かなものとして実感させることができたと自負
している。
「おどるヘビ」の工作は、すでに方々の科学館のワー
クショップ等で実施され普及しているが、授業に取り
込むことで改めてその魅力を確認できた。最大の利点
は、簡単な道具で安価に短時間で作れることにある。
子どもたち一人一人に個別の実験器具を自作させるこ
とで、授業の中での自分の存在感を確実に感じさせる
ことができる。工作が完成し、自分の声と体でその
「振動」を実感できたときの喜びや達成感には大きな
教育的効果がある。
〈生徒達の感想から(抜粋)〉
・面白いのにすごくわかりやすかった。楽しかったです。
・音を使ったテクニック?みたいなのがすごいなーと
思いました。
・今日の授業で一番面白かったのは、紙コップの実験
と音でアルミ箔を落ちた理由を考えるときです。わ
からなかったところがわかるようになりました。
・音について興味を持つことができました。音につい
てもう少し詳しく教えて欲しいです。
・今日の実験は、ちょー不思議でした。でも理屈がわ
かって「あー」となっとくできるものでした。
・最初は科学マジックみたいなことをして少し驚きま
した。ビンのふたを落とすことでは、音の振動など
で落ちることがよくわかりました。遊び感覚で勉強
したような感じで楽しかったです。
・とてもわかりやすく楽しい授業でした。なんとなく
考えさせられる不思議な授業でした。
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