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数と方程式のお話

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数と方程式のお話
数と方程式のお話
酒井文雄
川越女子高等学校 10 月 23 日(金)
1
?? 考えてみましょう ??
• x2 + 2x − 3 のような記号はいつ頃からあったのでしょうか?
• 3 次曲線がどんな形をしているか知っていますか?
• 今年の 10 月 1 日は木曜日です.4 月 1 日が何曜日だったかわ
かりますか?
• 48765321 が 11 で割れるというのは本当でしょうか?
• 200 以下の自然数で,3 で割れば 2 余り,4 で割れば 1 余り,5
で割れば 3 余る数を当ててください.
• 誕生日を x とし,x3 を 33 で割った余りを y とします. このと
き,y 7 を 33 で割ると余りは x に戻ります.不思議でしょう.
√
√
• 3 4 − 3 2 が方程式 3 次方程式 x3 + 6x − 2 = 0 の解になるこ
とを確かめてみましょう.
2
目次
1.
記号代数
(デカルト,インド・アラビア数字,代数記号の変遷,和算,数学用語)
2.
座標幾何
(2次曲線,3次曲線,ベジェ曲線)
3.
初等整数論
(最大公約数,素数,合同式,中国剰余定理,フェルマーの小定理,RSA 暗号)
4.
方程式論
(2次方程式,3次方程式物語,3乗根,3次方程式の解法,ガロア理論)
3
1
記号代数
現在,世界中で普通に用いられている数学記号への道のりをたどって
みたいと思います.
1.1
デカルト
デカルト の「幾何学」(方法序説の付録,1637)には
x4 + 4x3 − 19xx − 106x − 120 ∝ 0
y 3 − byy − cdy + bcd + dxy ∝ 0
√
1
1
y ∝ − a+
aa + bb
2
4
などの記号が登場しています.
4
等号の記号 ∝ と 2 乗の記号 (x2 の意味)xx を除けば,現代と
まったく同じ記号です.
未知数(変数)に x や y を用い,既知数(定数)に a, b などを用
いています.また,x3 , x4 などの 指数記号 も使われています.
実は,この本で初めて,このような現代の記号が揃ったので
す.逆に言えば,デカルトの記号がその後普及したというこ
とになります.
5
1.2
インド・アラビア数字
記号代数学の背景には,インド・アラビア数字(算用数字)とその計
算法の普及があります.算用数字
1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9
の起源は古代インドのバラモン数字であり.零 0 と位取り記数法が
初めて登場した時期は 6∼7 世紀頃と考えられています.このインド
数字はイスラム勢力の東進で,インドと接触した アラビア諸国 に伝
わりました.
ただ,数字の字体は時代と共に変化し,東アラビアと西アラビア(ス
ペイン)ではかなり異なった字体になりました.現在私たちが使って
いる数字は西アラビアの数字に近いものですが,一方,東アラビアの
字体は現在もエジプトなど多くの中東国で用いられています.
6
1.3
代数記号の変遷
古代ギリシャ時代,中世アラブ世界の代数学は 言葉 による代
数学で,代数記号は開発されませんでした.
アル・フアリズミー(9 世紀)の代数学書(アラビア語)では未知
数のことは「根」あるいは「もの」とよばれました.
日本語訳
ラテン語
イタリア語
英語
根
radix
radice
root
もの
causa
cosa
thing
未知数の平方
census
censo
square
未知数の立法
cubus
cubo
cubic
7
1)パチオリ(イタリア,1494) は,x, x2 , x3 を cosa, censo, cubo
の略号 co, ce, cu で表しました.
また,加法減法は p̃, m̃ で表しました.タルターリア(イタリア,
1560)もこの記号を踏襲しています.
彼らの記号では
x + 2x2 − 3x3 は 1.co.p̃.2.ce.m̃.3.cu
となってしまいます.
ドイツ,イギリスでは,ウィドマンの +, − とこのパチオリの記号
co, ce, cu のドイツ字版を組み合わせたものが用いられました.
ルドルフ(ドイツ,1525),レコード(イギリス,1557),
シュティフェル(ドイツ,1544)など.
8
算額をテーマにした小説に遠藤寛子著「算法少女」があります.
あらすじ
父に算法を教わった町娘あきは、ある日,観音さまに奉納さ
れた算額に誤りを見つけた.そのことを聞いた和算好きの久
留米藩主・有馬侯(よりゆき)は,あきを姫君の算法指南役
にしようとした.有馬家の家臣で関流の和算家,藤田貞資
(さだすけ)が,体面を保つため,あきと同じ年頃の,関流
を学ぶ娘と競わせることを画策した ….
9
1.4
数学用語
英語等のヨーロッパ語で用いられている数学用語には ギリシャ語に
起源を持つものがたくさんあります.
mathematics 数学 geometry 幾何学 arithmetic 算術
等が代表例です.ここで,語源であるギリシャ語の µαθηµατ α (マ
テマータ)は「教育課程を経なければ習得できないもの」です.また,
geo は地球,土地の意味をもち,metry には測定の意味があります.
topology ( トポロジー )は場所を意味するギリシャ語の topos
に由来します.
微分積分学 を意味する calculus は元々小石を意味するラテン語で
す.古代ローマ人の計算法は小石を並べるものでした.英語の計
算するという動詞 calculate も同じ語源です.
10
現在日本で使われている数学用語には3通りのルーツがあります.
(i)
古代中国および 和算で使用されたことば
例 算数の算は古代中国で用いられた計算用の小さい棒.
例 商,法,和,差,積,比,方程,円周率等.
(ii)
中国で考案された翻訳語(17 世紀–19 世紀)
例 幾何は geometry の音訳語.中国語の発音ではジオ.
例 代数は algebra の意訳語.
例 積分,微分,未知数,虚数等
日本製 の翻訳語
(iii)
例 座標,公理,単位,複素数,確率等.
例 数学は mathematics の訳語として考案されました.
11
現代中国では日本と異なる数学用語も用いられています.例えば,
映射( 写像 ), 満射( 全射 )
向量( ベクトル ), 常量( スカラー ),同余( 合同 )
などです.
参考文献
[1] 遠藤寛子:算法少女.筑摩書房,2006 (岩崎書店,1974)
[2] カジョリ(小倉金之助訳)
:初等数学史(新版).共立出版,1997
[3] 片野善 一郎:数学用語と記号ものがたり.裳華房,2003
[4] デカルト(原亮吉訳)
:幾何学(デカルト著作集1). 白水社,
1973
[5] Cajori,F.:A History of Mathematical Notations. Dover, 1993
12
2
座標幾何
曲線は身近な存在です.もちろん,古代人も直線や円を知っていまし
た.ユークリッドの原論は直線と円の幾何学です.
古代ギリシャ時代,放物線,楕円,双曲線は円錐の切り口として研
究され, 円錐曲線とよばれました.アポロニウス(B.C. 250 – 175)
による円錐曲線の研究は有名です.
13
17 世紀前半に 座標幾何がデカルトおよびフェルマーによって考え出
され,円錐曲線は 2 次曲線として理解されるようになりました.
14
2.1
3次曲線
デカルトの著作を熟読したニュートンは実 3 次曲線の分類を実行し
ました.
15
一般の 2 変数 3 次多項式は 10 個の項を持ち,
f (x, y) = Ax3 +Bx2 y+Cxy 2 +Dy 3 +Ex2 +F xy+Gy 2 +Hx+Iy+J
という形をしています.
座標変換により,次の4種類に分類されます.
I型
xy 2 + ey = ax3 + bx2 + cx + d
II 型
xy = ax3 + bx2 + cx + d
III 型
y 2 = ax3 + bx2 + cx + d
IV 型
y = ax3 + bx2 + cx + d
ニュートンはさらに細分して全部で 72 通りに分類したので
すが(現在では,78 種類に修正されています),ここでは,
典型的な 3 次曲線の形状を観察してみたいと思います.
16
III 型を見てみましょう.まず,右辺が 3 個の実根を持つ場合です.
Figure 1: y 2 = (x − 1)(x − 2)(x − 3)
その他の場合は,どこかが退化した形になります.
17
いよいよ,I 型:xy 2 + ey = ax3 + bx2 + cx + d を考えます.
場合 (i): a > 0.この場合,漸近線が 3 本現れます.
x = 0,
√
2ax − 2 ay + b = 0,
√
2ax + 2 ay + b = 0
ここでは,右辺は (x − 1)(x − 2)(x − 3) とします. e の値によ
り,形が変化します.まず,e = 1 の場合は次のようになります.
Figure 2:
xy 2 + y = (x − 1)(x − 2)(x − 3)
18
2.2
ベジェ曲線
これからお話しするベジェ曲線という曲線は車体をデザインするため
に開発された 20 世紀の曲線です.考案した Bézier(1910–1999) は
ルノーの技術者でした.
まず,平面上の 4 点 Pi = (ai , bi ), i = 0, 1, 2, 3 を決めます.
P2
y
P1
P0
P3
x
19
そこで,パラメータ(媒介変数)表示

 x = a0 (1 − t)3 + 3a1 (1 − t)2 t + 3a2 (1 − t)t2 + a3 t3
 y = b0 (1 − t)3 + 3b1 (1 − t)2 t + 3b2 (1 − t)t2 + b3 t3
t ∈ [0, 1]
で曲線を定義します.この曲線は P0 を出発して P3 に到達します.
20
3
初等整数論
自然数
{1, 2, 3, 4, · · · }
に 0 および負の数
{−1, −2, −3, −4, · · · }
を加えて整数が構成されます.整数全体の集合 Z においては,足し
算,引き算,かけ算が自由にできます.
21
整数 a, b について,ある整数 c が存在して,
a = bc
となるとき,a は b の倍数である,あるいは b は a の約数(または
因数)であるなどといい,
b|a
で表します.整数 a ̸= 0 に対し,±1, ±a は a の約数です.これら
を a の 自明な約数といいます.
定理 3.1 ( 割り算原理 ). 自然数 a, b に対して,
a = bq + r,
0≤r<b
を満たす商 q ,余り r が一意的に存在する.
22
3.1
最大公約数
整数 a, b 共通の約数を a, b の公約数といいます.さらに,最大の公
約数を最大公約数といい,
GCD(a, b)
という記号で表します.特別に,GCD(0, 0) = 0 と定めておきます.
2 つの整数 a, b について,GCD(a, b) = 1 のとき,a と b は互
いに素であるといいます.
補題 3.2. 整数 a, b に,
a = bq + r
という関係式があれば,次の2つの最大公約数は一致する.
GCD(a, b) = GCD(b, r)
23
割り算をくり返えすことにより,最大公約数を求めることができま
す. ユークリッドの互除法 です.


a






b







 r1




ri−1










 r
n−1
=
q0 b + r1
=
q1 r1 + r2
=
q2 r2 + r3
...
=
qi ri + ri+1
...
=
qn rn
このとき,rn が求める最大公約数になります.
余りに関する不等式 r1 > r2 > · · · > rk がありますので,上記
の割り算は必ず有限回で終了します. 補題 3.2 により,次は等式.
GCD(a, b) = GCD(b, r1 ) = · · · = GCD(rn−1 , rn ) = rn
24
3.2
素数
2 以上の自然数 n が自明な約数しかもたないとき,n を素数といい
ます.小さい方から並べると,素数は
2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43, 47, · · ·
のように続きます.素数以外の自然数(≥ 2)は 合成数 とよびます.
素数を求める方法に,エラトステネスのふるいがあります.
たとえば,100 以下の素数を求めるときには,まず,2 以外
の 2 の倍数を消します.このとき,残っている 2 より大き
い数の中で最も小さい数は 3 になりますので,3 以外の 3
の倍数を消します.以下同様に,残っている数の中で最も小
さい数は素数になりますので,その素数を残して,その他の
倍数をすべて消すという操作を続けます.この操作で最後ま
で残った数が素数ということになります.
25
エラトステネスのふるいを実行してみましょう.
26
定理 3.3 (算術の基本定理). 任意の自然数 n (≥ 2)は有限個の素
数 p1 , . . . , pk の積
n = p1 · · · pk
に分解され,その分解は素数の順序を除いて 一意的である.このよ
うな分解を素因数分解とよぶ.
例
注意 3.4. 大きい数の素因数分解は大変困難です.もし,n が合成数
√
であるとして,その最小の素因数を p とすると p ≤ n です.した
√
がって, n 個の数の中から素因数を探すという作業になります.
27
素数に関する話題をいくつか紹介しておきます.
ゴールドバッハ予想. すべての偶数は2個の素数の和で表される.
4 = 2 + 2,
6 = 3 + 3,
8 = 3 + 5,
10 = 3 + 7, . . .
100 = 3 + 97, 102 = 5 + 97, 104 = 37 + 67, . . .
双子素数予想. 双子素数 (p, p + 2) は無限個存在する.
(3, 5),
(41, 43),
(5, 7),
(11, 13),
(59, 61),
(17, 19),
(71, 73),
(29, 31)
(101, 103),
...
定理 3.5 (素数定理 Hadamard, de la Vallée Poussin 1896).
π(x) で x 以下の素数の数を表すとき,x が大きければ,近似式
π(x)
x
∼
が成立する.
28
1
log(x)
3.3
合同式
整数全体を自然数 m で割った余りで分類すると,m 種類です.例
えば,曜日は 7 による割り算の余りで計算されます.
2つの整数 a, b の差 a − b が m で割り切れるとき,a と b とは m
を法として合同であるといい,記号では,
a≡b
(mod m)
で表します(ガウスの記号).この式を合同式といいます.
29
合同式の 応用 に,数が 3 で割れるかどうかの判定法があります.自
然数 a を 10 進法で
an an−1 · · · a0
と表したとき, an + · · · + a0 ≡ 0 (mod 3) であれば,
a≡0
(mod 3)
がわかるという判定法です.
∵ このとき,
a = an × 10n + · · · + a1 × 10 + a0
と表されます.一方,10k ≡ 1 (mod 3) です.したがって,
a ≡ an + · · · + a0
となるという理屈です.
30
(mod 3)
3.4
中国剰余定理
4世紀頃の中国の数学書「孫子算経」には次のような問題とその解法
が記されているそうです.
個数のわからない「もの」があり,3 で割ると 2 余り,5
で割ると 3 余り,7 で割ると 2 余るとき,個数を求めよ.
素朴に 考えてみましょう.
3 で割ると 2 余る数は · · · , 2, 5, 8, 11, 14, 17, 20, 23, · · · ,
5 で割ると 3 余る数は · · · , 3, 8, 13, 18, 23, · · · ,
7 で割ると 2 余る数は · · · , 2, 9, 16, 23, · · · , になります.
したがって,23 が1つの解であることがわかります.
31
上の問題は次の連立1次合同式の解を求める問題です.
x≡2
(mod 3),
x≡3
(mod 5),
x≡2
(mod 7)
一般的な問題と解法は次のようになります.
定理 3.6 (中国剰余定理). どの2つも互いに素な自然数
m1 , . . . , mr が与えられたとき,連立1次合同式


x ≡ b1




 x ≡ b2


···




x ≡ br
(mod m1 )
(mod m2 )
(mod mr )
には解が存在し,1つの解を x0 とすれば,解全体の集合は
{
}
x0 + nm | n ∈ Z
で与えられる.ここで,m = m1 · · · mr である.
32
フェルマーの小定理
3.5
ak (mod 5) と ak (mod 7) を計算してみると,次のような表にな
ります.何か法則がありそうです.
a
a2
a3
a4
a5
a6
a7
a
a2
a3
a4
a5
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
4
1
2
4
1
2
2
4
3
1
2
3
2
6
4
5
1
3
3
4
2
1
3
4
2
1
4
2
1
4
4
1
4
1
4
5
4
6
2
3
1
5
6
1
6
1
6
1
6
ak
ak
(mod 5)
(mod 7)
33
定理 3.7 (フェルマーの小定理). 素数 p が与えられたとき,p で割
れない自然数 a に対して,合同式
ap−1 ≡ 1
(mod p)
が成立する.
証明 (mod p) で考えると,集合
{a, 2a, . . . , (p − 1)a}
と集合
{1, 2, . . . , (p − 1)}
は一致します.したがって,等式
ap−1 (p − 1)! ≡ (p − 1)!
(mod p)
が成立し,(p − 1)! は p と互いに素ということに注意する
と,ap−1 ≡ 1 (mod p) がわかります.
34
3.6
RSA 暗号
RSA 暗号という暗号があります.名前は発案者 Rivest, Shamir,
Adleman の頭文字に由来します(1977 年).桁数が大きい合成数の
素因数分解が非常に困難であることを用いた公開鍵暗号の一つです.
暗号の受信者は,異なる素数 p, q を定め,適当な r について,
M N = 1 + (p − 1)(q − 1)r を満たす M, N を計算し,
積 n = pq と M を公開します.
暗号の送信者は,
送る数 x から,y = xM (mod n) を受信者に送ります.
暗号の受信者は
y N (mod n) を計算して,x を得る.
35
このとき,
y N = xM N ≡ x · (x(p−1)(q−1) )r ≡ x
となり,x (mod n) が復元できます.
36
(mod n)
4
方程式論
2 次方程式 ax2 + bx + c = 0 (a ̸= 0) の根(解)の公式
√
−b ± b2 − 4ac
2a
の歴史は BC1700 年頃のバビロニアにまでさかのぼるそうです.
37
4.1
3 次方程式物語
最初,ボローニャ大学のフェッロ教授が x3 + bx = c (b, c は正数)
という型の解法を発見しましたが未公開でした(1515 年頃).
次に,タルターリアがその解法を再発見し,もう一つの型
x3 + bx2 = c (b, c は正数)も解きました.当時,ベニス在住.
そして,タルターリアに示唆を受けたカルダーノが一般的な解法を
証明して著書「Ars Magna」で公表しました(1545 年).ミラノなど
で活躍,医者,賭博師としても有名.
以上が,物語の骨格です.ただし,根の公式に複素数が現れる場合
の理解はもう少し後のボムべッリ等に持ち越されました.
4 次方程式は,カルダーノの弟子のフェラーリが補助 3 次
方程式に帰着して解きました.その解法はカルダーノの著書
の中に記されています.
38
4.2
3乗根
まず,3 次方程式 x3 − 1 = 0 を解いてみましょう.
x3 − 1 = (x − 1)(x2 + x + 1) という分解がありますので,3 根は
√
√
−1 + 3i
−1
−
3i
1,
ω=
,
ω2 =
2
2
になります.複素平面上の位置を確認しておきましょう.
39
4.3
3次方程式の解法
いよいよ,3次方程式
ax3 + bx2 + cx + d = 0 (a ̸= 0)
の解法です(a, b, c, d ∈ R).
まず,x2 の項を消去します.
x=y−
b
3a
とおいて代入し,全体を a で割ると,方程式は y 3 + py + q = 0 の
形に整理されます.この方程式が y について解ければ,元の方程式
が x について解けることは明らかです.
したがって, 最初から ,方程式は x2 の項を含まない形
x3 + px + q = 0
を仮定してもよいことになります.
40
○
x3 + px + q = 0
解法の アイデアは
x=u+v
とおくことにあります.方程式に代入して整理すると,
u3 + v 3 + (3uv + p)(u + v) + q = 0
となります.
このとき,もし,連立方程式
u3 + v 3 + q = 0,
3uv + p = 0
が成立していれば,和
u+v
が根 (解) になります.
41
○
u3 + v 3 + q = 0,
3uv + p = 0
このとき,
u + v = −q,
3
u v =−
3
3 3
となります.
したがって,u3 , v 3 は,補助 2 次方程式
t + qt −
2
( p )3
の根 (解) になります.
42
3
=0
( p )3
3
t2 + qt −
○
( )3
p
3
=0
この 2 次方程式の根(解) u3 ,v 3 は
√
( q )2 ( p )3
q
− ±
+
2
2
3
です.
このとき,(uv)3 = −(p/3)3 で,(uv)3 の 3 乗根 uv は 3 通り
可能です.その中で,uv = −p/3 となる u, v の組み合わせをとり,
√
u=
3
−
√
v=
3
−
q
2
q
2
+
−
√
( q )2
2
√
( q )2
2
+
+
( p )3
3
( p )3
3
と表しておきます.
43
x3 + px + q = 0
○
以上の考察から,求める 3 根は
u + v,
ωu + ω 2 v,
ω 2 u + ωv
になります.これが カルダーノの公式 とよばれている公式です.
実際,
uv = (ωu)(ω 2 v) = (ω 2 u)(ωv) = −
p
3
が確認できます.念のため,もう一度,u, v を書いておきます.
√
u=
3
√
( q )2
( p )3
q
− +
+
,
2
2
3
44
√
v=
3
q
− −
2
√
( q )2
( p )3
+
2
3
4.4
ガロア理論(方程式論その後)
5 次方程式の解法を求めて
17 世紀,前半にはデカルトの著述などで 記号代数学が定着し,後
半にはニュートン,ライプニッツが微分積分学を創始しました.
18 世紀,5 次以上の方程式の解法に対するオイラー,ラグラン
ジュ等の懸命な追求も結実しませんでしたが,ラグランジュは根の置
換の概念に到達しました.
45
1826 年,5 次以上の方程式は一般には(べき根によって)解けな
いことが,ノルウェーのアーベルによって証明されました.
1832 年,フランスのガロアは ガロア理論の構想を書き残しまし
た.方程式が解けるかどうかは,方程式に隠されている群(ガロア
群)の言葉で記述可能であるという画期的な理論でした.
1539 年に 3 次,4 次方程式の解法がカルダーノによって公
表されてから,おおよそ 300 年後の出来事でした.
46
参考文献
[1] 安倍 齊: 代数ことはじめ,森北出版,1993
[2] 彌永昌吉: ガロアの時代 ガロアの数学(第 1 部,第 2 部),共立
出版,1999, 2002
[3] G. Cardano (R.Witmer 英訳): Ars Magna or the rules of
algebra, Dover, 1993
[4] 木村俊一:天才数学者はこう解いた、こう生きた―方程式四千年
の歴史,講談社,2001
[5] 酒井文雄: 環と体の理論,共立出版,1997
[6] シルヴァーマン(鈴木治郎訳)
:はじめての数論 原著第 3 版―発
見と証明の大航海‐ピタゴラスの定理から楕円曲線まで ,ピア
ソンエデュケーション,2007
47
[7] 高木貞治: 代数学講義 改訂新版,共立出版,1965
[8] 原田耕一郎 :群の発見,岩波書店,2001
[9] 矢ケ部 巌:数 III 方式ガロアの理論―アイデアの変遷を追って,
現代数学社,1976
[10] リヴィオ(斉藤隆央訳): なぜこの方程式は解けないか?,早川
出版,2007
48
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