...

イン・女神クロニクル - タテ書き小説ネット

by user

on
Category: Documents
94

views

Report

Comments

Transcript

イン・女神クロニクル - タテ書き小説ネット
イン・女神クロニクル
しんやさく
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
イン・女神クロニクル
︻Nコード︼
N9690BO
︻作者名︼
しんやさく
︻あらすじ︼
﹃女神クロニクル﹄は成人指定がかかったオンラインゲームで、
残酷行為や性交渉を禁じる制限がない。
その性格上、個人識別カードを利用しなければログインできない為、
未成年の僕はこっそり姉のIDを使っている。残念ながら姉のID
でログインすると強制的に女キャラになってしまうのだけど、女の
子の体でエロも悪くない⋮⋮?いつの間にか凄いレアスキルも覚え
たみたいだし︱︱︱︱︱︱。︵※バグ/神様によるチートは無し︶
1
桃色系ロリ娘ハーフエルフ﹃リリス﹄の体を使ってバーチャル世界
を自由奔放に遊ぶ主人公の物語。
※※短編﹃姉のIDでエロゲ世界に。﹄シリーズの連載版です。※
本編完結済み ※番外編は不定期で追加されることがあります
2
episode1︳1:ログイン
個人識別カードをかざしてください。
ポーン。
貴方の個人識別は以下の通りです。
ID.No:239563830013
公式HN:巡礼
性別:女
年齢:20
!!警告
自分のものではない個人識別カードを使用することは、ネットワ
ーク法第11条により禁じられています。
ネットワーク法第11条の詳細についてはこちらをクリックして
ください。
問題無い場合はENTERを押してください。
タン
名前を入力してください。
ピ。
>
カタタ⋮⋮。
>リリス
種族を選択してください。
3
>人間
ピ。
>ハーフエルフ
カチ。
職業を選択してください。
>農民
ピ。
>商人
ピ。
>冒険者
カチ。
外見年齢を選択してください︵10∼80歳︶
>14歳
pink
︵ffb6c1︶
イメージカラーを選択してください︵アバターの外見設定に影響
します︶
>Light
以上で宜しいですか?
YES/NO
ユーザーの知覚をマルチモーダルI/Fに接続します。
マルチモーダルI/Fは未成年者の脳に悪影響を与える可能性が
示唆されています。
マルチモーダルI/Fが引き起こす可能性のある悪影響の詳細に
ついてはこちらをクリックしてください。
このゲームはホームポイントでしか終了できません。
その危険を回避したい場合、VR接続機の自動パワーオフ機能を
セットして下さい。
4
ただし、自動パワーオフの場合にはそれまでのゲームデータの自
動セーブはされませんのでご注意ください。
全て承諾する場合はENTERを押してください。
ピ。
サイバースペースに転送します。
ようこそ
20禁 VR型オンラインゲーム ﹃女神クロニクル﹄へ⋮⋮
**
冒険者を選択した僕が降り立ったのは、酒場だった。地面を踏む
確かな感覚あり。寒からず暑からず。
手をグーパーする。
ん。接続も完璧だ。
僕は、まず己の外見を確認しようとした。イメージカラー通りの
薄桃色の髪の毛が目に入る。頭を触ってみるとショートカットだと
いうことが分かった。さらさらとした手触りに、ちょっと新鮮味を
覚える。
洋服は白いブラウスにピンク色のショートのスカート。そこから
伸びる腕も脚もハーフエルフらしく華奢で白い。ふかふかした妖精
の靴を履いていて、肩にポシェットをかけている。中を覗くと、キ
ャンディが詰まっていた。鏡が無い状態では、これ以上の外見情報
は得られなかったが、大体イメージ通りのキャラクターになったら
しい。
5
ロリ可愛いキャラ、って感じだな。
﹁よう。新入り﹂
声をかけてきたのは、見るからに場馴れした冒険者風の男。
﹁このゲームは初めてか?﹂
まず、第一声として何と返事して良いか悩まされた。
﹁はい﹂だと固い、﹁うん﹂だとお転婆っぽい、﹁ええ﹂だとお澄
まし?
しまった、キャラの外見はイメージしていたけど、内面のイメー
ジはまだ考えていなかった。
僕は軽く悩んだ挙句、日常と同じに答えた。
﹁そうだよ﹂
﹁そうか、俺はスキッピー。ヨロシク﹂
そして早くも次の悩みにぶち当たる。
自分のことをなんと呼べばいいんだ。これも考えていなかった。
女の子なら﹁わたし﹂が定番だけど、﹁あたし﹂とか﹁リリスは
∼﹂とか、いっそ﹁わらわ﹂みたいなのもある。
そして、やはりこれにも普段通り対応することにした。
喋り方に無理をしてもきっとどこかでボロが出そうだ。
﹁ボクはリリス。宜しく﹂
﹁ようこそ、リリス。女神クロニクルは男女混合型RPG。この世
界の中で冒険をするも、友達を作るも、平穏な日常を楽しむも君の
自由だ。ゲーム中の最高クエストは﹃女神と王の結婚式﹄で、これ
を達成した場合、エンディングが見られるし、クリアボーナスが得
6
られる。ただし、必ずしもこのクエストの達成に縛られる必要は無
い。色んな情報を集めて自分の好きなサイバーライフを楽しむとい
い﹂
﹁ありがとう﹂
﹁良ければ、簡単な基本操作も教えようか?﹂
僕は、それを断った。こういったゲームの操作は大体どれも同じ
だし、どうやら彼はAIのノンプレイヤーキャラのようなので説明
が長ったらしくて面倒だった。
それよりも僕は、さっさとHなことがしたいのだ。この﹃女神ク
ロニクル﹄は成人指定の規制がかかったオンラインゲームで、一切
の残酷行為、性交渉を禁じる制限がない。
ゲーム性とか、クリアとか、クエストとかはどうでもいい。マル
チモーダルI/Fを利用したアダルトゲームというだけで目的は一
つだ。
高価で、約半年間のアルバイトを経て、ようやく手に入れたパッ
ケージである。今日、僕はようやく手に入れた記念すべきログイン
に感動すら覚えている。
惜しむらくは僕自身の個人識別カードは実年齢の通り20歳未満
である為、﹃男﹄としてログインできなかったことだ。
今日はこっそりと姉の個人識別カードを借用している為、分かっ
ていた事だが、強制的に性別が﹃女﹄になってしまった。
しかし、それもささいな問題だ。数年後に僕が20歳を迎えたら、
その時はまた自身のIDでログインして﹃男﹄でプレイしなおせば
いい。
正直﹃女﹄としての性交渉で得られる快感にも興味がある。実世
界では味わえない初の体験なのだから、たっぷりと楽しみたい。
そう、姉にばれない間に。
7
そして、試しにリリスの基本パラメータを開いてみた。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:乙女
年齢:14歳
総合LV:1
HP:5
MP:15
力:5
魔力:15
うわっ。レベル1だとしても、結構酷い。HP5とか、既に瀕死
だし。
更にスキルパラメータと装備を見る。
自動スキル:﹃乙女の祝福﹄
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄
ん?なんだ。
呪文スキルのこれは、たぶん回復魔法だろう。だが、自動スキル
の効果が分からない。
﹃乙女の祝福﹄?
⋮⋮まぁいいか。元々ゲームそのものを重視しているわけじゃな
い。
装備:エルフの洋服
道具:キャンディ
所持金:300G
8
地味だ。
これで最後かと思ったら、最後に女神パラメータという情報が残
っていた。
名声:1
人気:1
魅力:1
⋮⋮。
地味とかいうのを通り越して貧しい。
いいや、僕は単にエロ気持ちいいことを目的にログインしている
んだし、粗末なパラメータにもスキルにも興味は無い。ましてや、
エンディング条件である女神が∼とかどうでもいいのだから。
**
とりあえず酒場の店主に話しかけようとすると、その前に誰かに
腕を引かれた。見ると、腕にジャラジャラした輪っかをたくさんつ
けて、肩に猟銃を吊り下げた男だった。
﹁君、初めて? 名前は?﹂
﹁ボクはリリス﹂
﹁俺はアラビー。はじめまして。﹂
﹁どうも﹂
﹁自分のパラメータはもう見た?﹂
﹁あ、うん﹂
﹁分からないスキルとかあったら教えようか?﹂
愛想のいい奴だ。さっきと違ってNPCでは無いみたいだけど。
9
分からないスキル、でぱっと頭に浮かんだのは自動スキル、さっ
きの﹃乙女の祝福﹄だ。名前だけ聞くと自動回復っぽい感じだけど。
まぁ、愛想のつもりで聞いてみた。すると、﹁あれは、新規ユー
ザーしか持てない上級能力だから、失わないように大事にした方が
良いよ﹂という回答が返ってきた。
﹁どういう意味?﹂
﹁まぁ、そこに座れよ。新入りに一杯おごるのは先輩の礼儀ってや
つだ。反対に気持ち良くおごれらるのも後輩の礼儀だな﹂
アラビーは音を立てて先に木の椅子に座る。僕も大人しく従った。
﹁﹃乙女の祝福﹄は、処女しか持てない自動スキルで、歩くたびに
経験値が上がる。それさえあれば、無理に冒険に出なくても、クエ
ストをこなさなくても、働かなくても、ガンガンレベルが上げられ
る、ってわけだ﹂
﹁へぇ﹂
それはすごい。今回のこれはエロ目的で始めたゲームだが、僕は
根本ではゲーマーだから、ついそのスキルを活かした攻略法を色々
と考えてしまう。
アラビーは特に力の弱い女キャラだと、最初はとにかく歩きまく
ってレベルを上げることが生き残るコツだという。大体Lv30く
らいで上がりにくくなってくるので、それまでは貞操を守って歩く
べし、ということだ。
﹁でも、これってアダルトゲームでしょ? そんなに皆レベルとか
10
気にしながらプレイしてるの?﹂
﹁あれ?もしかして、リリスって、アダルトオンリー目当て?﹂
アラビーはにやりと笑った。それがあまりに下卑ていたので、下
心が丸見えだった。
﹁もしかして、中身は熟女、とか? いいとこ紹介しようか?﹂
僕はつい慌てて否定した。
﹁ちっ、ちがう! ﹂
熟女だと思われるのは、何故だか非常に心外だった。ネカマの癖
に我ながら不思議な心理だ。
﹁そうか? じゃあさ、レベルは上げといた方が良いぜ。金も稼ぎ
やすくなるし、その分行ける場所も増えるし、楽しみ方も増える。
この女神クロニクルは別にアダルトメインのゲームじゃなくて、ア
ダルトも許容ありの自由度を重視したRPGだ﹂
あ、そうだったの?ランキングで、一番人気って言うのを選んだ
だけだったんだけど。そう思いながら僕は口を尖らせて、ムッとし
た表情で言う。
﹁分かってるよ。それくらい。﹂
﹁﹃乙女の祝福﹄は個人識別カードで新規ユーザにしか付与されな
い。ゲームオーバーで2度目になってももらえないからな。﹂
﹁ふぅん﹂
じゃあ万が一、姉ちゃんが自分でこのゲームを買って再びログイ
11
ンしたら不審を覚える可能性があるってことか。
でも、そんな可能性は限りなく低いから、まぁいいや。
﹁よし、じゃあ、とりあえず歩いてきたらどうだ? またどっかで
会ったら話そうぜ﹂
それだけ言って、アラビーは立ち去ろうとした。
﹁あ、ちょっ、ちょっと待って﹂
僕はアラビーの手を握って引き留める。
﹁ん?﹂
立ち姿を良く見ると、アラビーはかなり背が高く筋肉質で浅黒い
肌に勇ましい切り傷がついていて、いい男キャラだ。初心者の僕に
第一声をかけてくるや旨い話をさりげなく吹き込んで立ち去ろうと
するあたり、何となく抜け目ない感じもある。
しっかりと手を握られて不躾なほどの視線に晒されたアラビーが
戸惑ったように空いている手で頬を掻いた。
﹁ええと、何だ? 他に聞きたいことでもあるのか?﹂
﹁ある。アラビーって、女好き?﹂
﹁⋮⋮。何だって?﹂
僕は、頭の中でいくつかの可能性を考え、それから最後には単純
な答えに行きついた。どうせ、個人識別カードは姉のものだ。たま
たま今、姉が昼寝をしているからいいものの、僕にはあまり時間が
無い。せっかく手に入った﹃乙女の祝福﹄を利用できないのは残念
だが、無駄にできる時間は無い。
12
﹁あんたでいいからさ。今すぐ、ボクを買ってよ﹂
﹁⋮⋮へ?﹂
察しろよ、と思いながら、上目使いにアラビーを見つめて瞳をパ
チパチした。男に色目使うなんて気色悪いけど、豆鉄砲くらったハ
トみたいな表情のアラビーが笑えた。それに、馬鹿な男を翻弄する
のはたったこれだけでも﹃あぁ、これがネカマの醍醐味か﹄という
ほど面白かった。
桃髪ロリキャラで目を少し細め、唇を思わせぶりに半分開き、思
いっきり蠱惑的な声で言ってやった。
﹁気持ちいいこと、して?﹂
13
episode1︳2
アラビーは最初しきりにこのゲームで処女を簡単に捨てることの
愚かさを説き、逆にエロ目的なら、もっと楽しめるところを紹介す
ると言ったが、僕は聞かなかった。とにかく、さっさとエロいこと
をしたい。その為のログインだ。
﹁いやなら他をあたるからいいよ﹂
とそっけなく立つ。
周囲に冒険者らしき男プレイヤーはたくさんいる。別に面倒な一
人に執着する必要は無い。
すると、手首を掴まれた。
﹁待、待て。分かった。いくら?﹂
買ってとは言ったが、別に、値段なんてどうでもいいのだが。僕
は少し悩んで聞いた。
﹁この辺で、一番近い宿屋は?﹂
﹁宿なら、この酒場の2階が一番近い﹂
﹁宿泊代は?﹂
﹁一人当たり、雑居部屋が100G、普通部屋が200G、スイー
トが500G﹂
﹁じゃあ、スイート二人分で1000G﹂
﹁やっす!!﹂
やっす!?あぁ、安い、って意味ね。発音がなんかおかしくて咄
14
嗟に浮かばなかった。
アラビーは落ち着かない様子で﹁なんか俺騙されてるか?﹂とブ
ツブツつぶやいていたが、僕がモンローみたいな﹃しな﹄を意識し
て﹁は・や・く﹂と言ったら宿の手続きをしてきてくれた。
僕は部屋に入るや否やまず、思い切りよく服を脱いだ。
﹁いきなり脱ぐんだ﹂
﹁あ、着たままの方が好きだった?﹂
﹁いや⋮⋮﹂
ショーツだけ残して裸になり、スイートのデカいベッドの上で両
足とお尻をぺたんと下につける座り方で、僕は首を傾げる。
アラビーも武器を外し、上着とかを脱いで軽装になった。手首に
巻いてあった鬱陶しい腕輪も外した。
むき出しの肩に筋肉が盛り上がっている。うーん⋮⋮仮想世界と
はいえ、いい筋肉だ。
アラビーは﹃リリス﹄のおっぱいに触った。いや、僕のおっぱい
といえばいいのか?感覚は自分の物だけど、器は別人という違和感
は他のバーチャルゲームでも経験したことがあるが、性別が違う分、
認識の方の馴染みが追い付いていない。
年齢設定と中性的な種族であるハーフエルフを選択したせいで、
おっぱいにはわずかなふくらみしかない。男の手にすっぽりと覆わ
れてしまうほどのサイズで、ふにふにした感触の薄い丘陵だ。
﹁やっぱりさ、リリスって、アダルトオンリー目当ての熟女なんじ
ゃないの﹂
﹁違うってば!﹂
僕は腹立ち気味に声をあげた。アダルトオンリー目当てなのはそ
15
の通りだ。だが、断じて熟女じゃない。中身がエロ婆って思われる
のは癪に障る。
﹁ほら﹂
僕は面倒だったが、秘密パスワードを入力して、個人識別カード
の情報の一部を表示した。これは、どんなオンラインゲームでも実
装されている機能だ。サイバースペース内での犯罪を抑制する為に、
/
年齢:2
最近のゲームは個人識別カードとシステムが色んな所で連携してい
る。
﹄と表示されていた。
そして、そこに現れたカード情報には﹃性別:女
0
/年齢:31﹄。
アラビーはヒュウと口笛を吹いた。それから、礼儀だというよう
に、自分のカード情報を表示させた。﹃性別:男
別に僕はその情報に興味が無かったが。
﹁ちなみに、あの、初めてだから。優しくして?﹂
恥ずかしそうに顔を赤らめてつぶやく。これは、サービス。
この一言が超!効いたらしく、アラビーが興奮気味に襲い掛かっ
てきた。
﹁ひゃっ﹂
まず、おっぱいを舐められた。おっぱいは唾液が絡みつくと感度
が良くなるらしい。舌でレロレロされると気持ちよくて、その刺激
が下半身に伝わるみたいに股間がジンジンしてくる。
そんな股間に膝があてがわれてぎゅっと押し付けられると、一気
に気分が盛り上がった。
16
﹁ふわぁあ﹂
靴を脱いだ白魚のような足の裏を指がなぞる。
﹁く、くすぐったいよぉ﹂
その指が足首、ふくらはぎ、膝をくるりと撫でて、内股をさする。
くすぐった気持ちいい。
女の子の身体は全身が性感帯だと聞いたことがあるけれど、こん
なに気持ちいいものだとは思わなかった。
染みひとつない柔肌を男のごつい手が這うと、なんというか、触
られているだけで皮膚を犯されているみたいだ。
アラビーは下半身の肝心な所にはなかなか触ろうとせず、ショー
ツも履いたままで太ももと、お尻の方をマッサージするみたいに愛
撫し、舌でリリスのへそを舐めた。
﹁あ、やだっ﹂
おへそも気持ちいのか。しかも、そこ、何かマンコと直結してい
るみたいな気持ち良さだ。やばい。
﹁うぁぁん⋮⋮﹂
僕は体をくねらせる。くすぐったいむずむずした感じが、段々ハ
ッキリとした気持ち良さに形を変えていく。
僕は自らおっぱいを両手でつかみ、先端を弄った。
女の子の小ちゃいおっぱいだ。今は自分のものだけど、薄い肉の
上に極上の絹を張ったような滑らかさでさわり心地が良い。さわら
17
れ心地は、やっぱり自分で触るより、他人に触ってもらった方が数
倍感じるけど。
﹁これで可愛がってやるからさ⋮⋮見ろよ﹂
ベッドの上に片膝立ちになった男のペニスはもうギンギンにいき
り立っていた。
﹁うっわ⋮⋮大きい⋮⋮﹂
僕は正直な感想を口にした。大きい何てもんじゃない。現実世界
の僕の倍くらいある。
そんな大きいのを15歳のハーフエルフの体に突っ込まれたら、
壊れちゃうんじゃないだろうか。
っていうか、そもそも本当にあんなに大きいのが入るのか?
﹁触ってみろ﹂
﹁えぇー⋮⋮﹂
あまり気乗りしない。流石に、男の僕は他人のペニスを触って興
奮したりしない。
するとアラビーは僕を仰向けに押し倒し、両手を頭の上で交差す
るようにベッドに押し付けて固定し、そのペニスをリリスの顔に押
し付けてきた。
﹁い、やだっ。やめて﹂
頬に、ぎゅっとつぶった瞼に、その男の怒張したものがこすり付
けられる。
18
﹁やだ、もう、やめろ、馬鹿﹂
鼻をつままれて、息苦しくなって口を開けると、そこに無理矢理
ペニスが突っ込まれた。リリスの小さな口では、こんな巨大なの、
全部飲み込めるはずもなく、亀頭だけでもう、頬張るくらいの存在
感がある。
﹁んっ﹂
ぐい、ぐい、と口の中に差し込まれ、暴れるそれを僕は必死に口
で舐めた。舐めたのは、もう抵抗しない方が楽だと思ったからだ。
ちゅぷ、ちゅぷ、と小さな口が犯される。そうしているうちに、
リリスの身体も熱くなってくる。
口も敏感な粘膜だからか、無理矢理に舐めさせられているという
背徳的な状況がそうさせるのか、リリスの身体は意思とは反対に喜
んでいるようだった。
ぷはぁ、と口を離すと、僕は言った。
﹁もう、お願い、苦しいからっ﹂
アラビーがようやくリリスの足の付け根に手を差し込んだ。
もう、リリスの身体は制御のしようが無いほど盛っていて、足の
間はお漏らししたみたいに湿っぽくて気持ち悪い。
ショーツを脱がせてもらうと、スース︱した。指で弄られると、
くちゅくちゅ卑猥な音が聞こえる。そこにアレが欲しくて、欲しく
て、頭の芯がぽーっとなってきた。
﹁あっ。ん﹂
声が、自然と甘くなる。僕は好きなエロ漫画のポーズを真似して、
19
両足の太ももを抱え込むように持ちながら、足を広げて言った。
﹁も、駄目。早く、欲しい⋮⋮﹂
お腹の奥の方がむずむずして痒い感じ。そこに何かが足りない、
っていうか、言っちゃえば、そこにある猛々しいペニスを突っ込ん
でかき回して欲しい。
女の子の体が生まれ持っている生理的欲求、本能なのかもしれな
い。
﹁リリスの処女膜、ビリビリにしてぇ⋮⋮﹂
アラビーはゴクリと喉を鳴らした。
﹁お前、本当に、処女かよ﹂
割れ目にペニスをあてがい、愛液でベとつくそこをにゅるにゅる
と擦りながら言う。
﹁こんな淫乱な処女いるわけねぇし﹂
にゅるにゅるさせながら花びらを割って、更にそこに溜まったH
な汁がこぼれてくる。お尻の方まで愛液がトロトロと零れていくの
が分かる。
﹁処女だよぉ。ちゃんと⋮⋮っ。ぁあっ。っあ﹂
早く欲しい。
膣内が疼く。
痛いかもしれない。そんな恐怖がより一層そこに神経を集中させ
20
る。
﹁どうかな。試してみるか﹂
ずぶ、と音が聞こえた気がした。
﹁あぁあああ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
無理。
僕はすぐに後悔した。
そんなに大きいの、入らない。
﹁抜いてぇっ。抜いてぇっ﹂
必死で懇願するが、当然、それで止めてもらえるはずもない。こ
こまで来た状態で、止めてと言われて引き下がる男がいるはずない。
何せ、もう、頭の所はずっぽりと処女のあそこに収まっているの
だ。
痛い。
体の骨格を無理矢理捻じ曲げているような痛みと切り裂いたとき
の鋭い痛みの両方が体を襲う。
﹁ま、ちょっと我慢しろって。よくなるからさ﹂
そう言って、アラビーはリリスのおっぱいを慰みに弄り、挿入を
再開した。
ずず、ずぶぶ、と少しずつ埋もれていく。
いつ、処女膜は破れるのだろう。それとも、もう既に破れたのだ
ろうか。
21
﹁ふぅ⋮⋮っ、ふ⋮⋮ううう、んっ﹂
痛みのあまり、涙がこぼれる。
お願いだから、もう少しゆっくり、もっと優しくして。
たぶん最大限優しくしてもらってちょうどいいくらいだ。あぁ、
いつか僕に処女の彼女ができたら、絶対に気を付けよう⋮⋮。
僕はそんなすぐに役立たない決意をしながら、僕は膣内のモノを
味わった。
侵入するリズムに呼吸を合わせるようにすると、少しずつ痛みが
無くなってきた。
﹁は︱︱︱︱︱︱︱は︱︱︱︱︱︱︱ぁ﹂
口を大きく開けて、呼吸する。
お腹が苦しい。あそこが裂けそう。
﹁大き過ぎるよ﹂
﹁気持ち良くない?﹂
﹁あんまり﹂
そう言いながらも、リリスの膣は感じてキュンキュンしている。
﹁じゃあ﹂
そう言って、アラビーはつながったまま、リリスのクリを弄った。
表現するなら、何か電撃みたいなのが体を通り抜けて言った感じ
がした。
﹁ふああああぁ︱︱︱︱︱︱︱!あ︱︱︱︱︱︱!﹂
22
すごい。
リリスの体はビクビクと跳ねた。
﹁そ、そこ、駄目ぇ。ぁつ!あ︱︱︱︱︱︱!!﹂
皮の上からクルクルと捏ねるように愛撫されて、そこから快感の
花がどんどん開花していった。内側の刺激と外側の刺激にサンドイ
ッチされて凄い。一旦気持ち良さのコツを掴むと後は加速度的だっ
た。
﹁ひゃあん。いいっ。あぁつ。おまんこ、気持ちいい﹂
膣内からぎゅぅっと押される感じと外側から擦られる快感に夢中
になって、気づけば僕は腰を振っていた。
﹁いく⋮⋮いっちゃう。は、ぁ⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱︱っ!!﹂
一瞬真っ白になって、押し寄せる波が頭の中を濁流みたいに抜け
ていった。膣内でペニスが暴れて、激しく射精されるのをハッキリ
と感じた。
あぁ、膣内で出されるのって、好きみたい。
ぐったりと身体を横たえて、しばらく荒い息をついた。
アラビーは体を震わせて、最後の一滴までリリスの中に放出しき
って、ペニスを引き抜いた。
﹁あ⋮⋮、すごい﹂
上半身を起こして、リリスの股を見ると、ちょうどまんこの割れ
23
目から、血が混ざった精液がドロリと溢れた。
精液の量はたっぷりで白濁した欲望が処女を汚した象徴だった。
僕はその、いやらしい光景に、思わずうっとりする。
ハーフエルフの特徴か陰毛の色も薄く、毛の量も少なくて、幼女
みたいでエロい。この光景を見られるのは一度だけなのだから、じ
っくり目に焼き付けておきたい。
﹁カメラ、無い?﹂
﹁ん? 撮ってほしい?﹂
﹁うん。処女喪失記念。撮って﹂
アラビーはゲームに装備されている﹃カメラ機能﹄を稼働した。
指で空中に四角を描くと、そこに青いラインが浮かび上がり、パシ
ャリ、と音がした。僕は脚を開いて零れ落ちる精液をさらしながら
ピースサインをした。
﹁エロい﹂
﹁見せて﹂
データをもらうと、自分のフリー倉庫に保存した。そこには、ピ
ンク色の髪の毛のまだ幼い体つきの華奢な少女が凌辱された様子が
ハッキリと映っている。
﹁んんん﹂
僕は満足して、にんまりと笑った。こうやって改めてみると凄く
いい。やはり、迷ったけど基本色をピンクにしたのは正解だった。
﹁ひゃんっ﹂
24
写真に気を取られている所で急にわき腹に触れられて飛び上がる。
余韻の残った身体は慰みに触れられると、それが肩であれ、腹であ
れ、それだけで感じる。
﹁どうだったよ。初めては﹂
﹁痛かったけど、すごい、良かった﹂
﹁そーかい。そりゃ良かった﹂
僕は裸のまま、スイートルームの極上の毛布にくるまった。
あそこがヒリヒリするし、ちょっと、だるくて眠い。
﹁おい、風邪ひくぞ﹂
﹁ええ?ゲーム中で風邪ひくの?﹂
﹁ひかない。これは、社交辞令ってやつだ﹂
﹁変なの﹂
ふと気づき、僕はパラメータを開いてみてみた。やはり、スキル
画面から自動スキル﹃乙女の祝福﹄が消えている。処女専用スキル
ということだったから、仕方がない。
あれ?
代わりに見慣れないスキルが二つも追加されていた。﹃色欲﹄と
﹃超越せし乙女﹄。
何だ?これ。破瓜で覚えるのか?
﹁﹃色欲﹄っていうスキルは何なの﹂
とりあえず、聞いてみた。
﹁ん、あぁ、パラメータ見てるのか。色欲はこのゲーム内でSEX
25
すると覚えるスキル。SEXするたびに経験値が入るってやつだ。
アダルトオンリー目当てのユーザーには基本的なスキルだな。それ
があれば、バトルしなくても、Hさえしてればレベルが上げられる﹂
あぁ、なるほど。
ありそうな話だ。
﹁じゃあ、﹃超越せし乙女﹄は?﹂
﹁は? なんで急に。﹃超越せし乙女﹄は女神スキルだよ。簡単に
言えば乙女スキルのMAX版﹂
﹁ええ?どうすれば覚えられるの﹂
ちょっと聞いただけで凄そうな気配がするが、なぜそんなスキル
を習得しているんだ?知らない間に、何かの条件を満たしたのだろ
うか。それともバグ?
﹁さぁ。詳しく知らない。でも女神スキルっていうんだから、女神
にならないと覚えられないのは確かだな。何でそんなこと聞くんだ
?﹂
僕は何となく、口ごもった。
﹁ぇ、何でも無い。聞いただけ⋮⋮﹂
﹁ふぅん?﹂
アラビーは少し訝しんで、それから僕に覆いかぶさってきた。
小さなリリスの体の上にテントを張るみたいで威圧感があった。
﹁お前さ、このゲーム初めてじゃないのか?﹂
﹁へ?初めてだよ﹂
26
なぜか急に鋭い声で問い詰められたので身をすくませる。恐喝さ
れているみたいな気分だ。
﹁じゃあお前、偶然、命拾いしたのかもな﹂
﹁え?何が⋮⋮﹂
﹁乙女属性、貴重だって言っただろ。でも、貴重な反面、あれを大
事にするとロクなことが無いんだよ。﹃乙女の祝福﹄は諸刃のスキ
ルなんだ﹂
﹁⋮⋮どういう意味?﹂
アラビーは薄く笑った。
﹁新入りの世間に疎い乙女をとっ捕まえて、騙して歩かせてレベル
上げて、最後に食うんだよ﹂
﹁食う?﹂
﹁﹃乙女散花﹄っていう男専用の特殊スキルがあってさ、それを使
うと、乙女の持っている経験値、レベルを全部自分の物にできる、
っていうエグイ稼ぎ方があるんだ﹂
僕は言葉を失った。
確かにエグイ。
そして、同時に1つの事に思い当たった。
﹁あ、じゃあ、もしかしてボクの事も餌食にするつもりだった?﹂
アラビーは笑いながら﹃リリス﹄の頬に、首筋にキスをした。
そして、耳元で﹁正解。俺はそういう仕事を生業にしてるのさ﹂
と囁いた。
騙されそうになったことには一瞬カッと来たが首筋と耳を愛撫さ
27
れるのが気持ち良くて、次第にそっちに気がいった。
まだ熱がおさまりきらぬ体を愛撫され、息を荒くする。
﹁まぁいいや。お前さ、とりあえず俺の女になれよ。ずっと縛った
りするつもりは無いからさ。初心者がこの街で一人で生き抜いてい
くのは結構大変だぜ﹂
さっきまでかろうじて取り繕っていたアラビーの善人の顔がすっ
かり剥がれると、そこには悪そうな犯罪者の顔があった。
僕はそれを見ながら、少し考えて、言った。誰かの女になる、な
んてのは面倒そうでもあったが、この世界で平穏に生きていくには
手っ取り早くて楽な気もする。
﹁⋮⋮うん。いいよ。ただし、気持ちいいことして、面白いもの見
せてくれるなら、ね﹂
﹁いい返事だ。ところで、面白いものって何だ?﹂
﹁アラビーのお仕事。騙された乙女が純潔散らして泣くの、ボクも
見たい﹂
うっとりとして言った。
そんな光景、現実世界じゃ絶対に拝めない。
女の子に高値の札がかけられて一列に並ばされている光景を想像
する。せっせと貯めた経験値が一瞬で破瓜と一緒に散らされるのは
絶望だろう。
すると、アラビーは笑って手を出した。
﹁気に入ったよ。リリス。この世界、一緒に楽しもうぜ﹂
ちょっと芝居がかった台詞だなぁ、と思いながら、僕は頷き、そ
の手を取った。
28
予想していたよりずっと、これから面白いことになりそうだ。
29
episode2︳1:乙女
﹃女神クロニクル﹄のように正規の企業から市販されているオンラ
インゲームは多くの場合が非公式の攻略サイトを認めていない。
それはゲームをより楽しむ為、という名目で供給会社が管理して
いるわけだが、著作権︵今では情報の所有権という拡大がされてい
る用語だ︶に絡んで制限されている為、一般人が迂闊な手を出すと
面倒なことになる分野だ。
アップグレード
代わりに製作会社が管理している公式攻略サイトがあって、こち
らは無料版と有料版がある。
有料版は月額料金で結構値が張る。僕はせっかくだから有料版が
欲しかったが、このゲーム自体を購入したばかりで金欠だったので
これを諦めた。
⋮⋮まぁいいんだ。別にがっつり冒険がしたくてこのゲームを買
ったわけじゃない。
そして一応、無料版の攻略サイトで前回のログインで入手して気
になった自動スキル﹃超越せし乙女﹄の情報を検索した。
自動スキル:﹃超越せし乙女﹄・・・﹃乙女﹄最終スキル。以下
の5つのスキルを併せ持つ。
・﹃乙女の祝福﹄︵歩行で経験値増加︶
・﹃乙女の行進﹄︵歩行でHP回復︶
・﹃乙女の純情﹄︵歩行でMP回復︶
・﹃乙女の鉄壁﹄︵破瓜後も乙女属性継続︶
・未公開
30
習得方法:①女神へのクラスチェンジ ②未公開 ③未公開
うーん⋮⋮。
すごいスキルだということは分かったけど、なぜレベル1の僕が
前回のログインでこれを覚えられたのかが分からない。
習得条件①は絶対に満たしていないが、その他は不親切に﹁未公
開﹂だし。
未公開、っていうのはシークレット情報ってこと。要するに全部
教えちゃったら面白くないからゲームプレイヤーが自分で探せよ、
って言ってるんだな。
有料版攻略サイトだったらこの辺も明らかになっているのかな?
昨日ゲーム内で僕がしたことといえば⋮⋮。適当な男キャラ捕ま
えて処女散らしたくらいだ。別に特殊なプレイもしたわけじゃない
し。相手キャラであるアラビーが特殊な条件を持っていた?そんな
気配も無かったけれど。
そこで、パッと僕の頭に浮かんだのは単純な答えだ。
あぁ、もしかして、レベル1の状態で﹃破瓜﹄イベントをクリア
したから覚えたのか?
そう考えるとそれが正しい気がしてきた。
乙女は歩行で経験値が上がるから、普通に考えたらレベル1のま
ま﹃破瓜﹄イベントを迎えることはまずないだろう。
攻略情報でハーフエルフの15歳女、つまり﹃リリス﹄のキャラ
クターが経験値いくつでレベルアップするのかを調べると、経験値
15でレベル1↓2へUPとあった。
31
初期スキル﹃乙女の祝福﹄では1歩につき経験値0.5が加算さ
れる。つまり、単純計算で30歩歩けばレベルが上がる。だからレ
ベル1で﹃破瓜﹄なんて、まずありえない。そういうレアケースで
の発動って考えると納得がいく。
それに、たとえば﹃女神クロニクル﹄にログインした新規ユーザ
アメ
ーが滅茶苦茶運が悪くて徒歩する暇もなくイキナリ集団レイプされ
たりしたときの救済措置っていう感じもする。
まぁ、実際そんな悲惨な目にあったらほとんどのユーザはアメに
関わらず二度とログインしないと思うけど⋮⋮。
しかしあの時、僕は30歩、歩いてないのか。意識していなかっ
たけど、たぶんギリギリセーフ、くらいだったんじゃないかな⋮⋮。
**
そして、次ゲームにログインした時、自分の予想が的中していた
ことが明らかになった。
どういうことかというと、プレイヤーが自己体験で得たスキルと
かの情報は個人データのアーカイブに逐次記録されているのだ。
それを開くとこう記載されていた。
自動スキル:﹃超越せし乙女﹄
習得方法:①未確認 ②未確認 ③乙女がレベル1の状態で﹃破
瓜﹄イベント達成
更に、﹃リリス﹄のパラメータを開くと経験値:14とあった。
試しに2歩歩いた見たところ、レベルアップした。
名前:リリス
32
魔力:17
力:6
MP:18
HP:8
総合LV:2
年齢:14歳
称号:乙女
職業:冒険者
種族:ハーフエルフ
うん。あんまり変わってないな!
地味なパラメータを閉じると、僕は宿屋兼酒場の﹃ホーボー鳥亭﹄
を出て外に出た。1階の酒場の中もくるりと見渡したが、前回知り
合ったアラビーはいなかった。
外は日差しが強く、眩しい。現実世界ではログインする直前は夜
だったから、この急な落差に違和感がある。まぁ、仕方がないのだ
けど
そこで頭を振って、現実世界のことは忘れた。今の自分は﹃リリ
ス﹄。外見はピンク色を基調としたロリキャラだけど喋り方はちょ
っとぶっきらぼうな小悪魔!
妖精の靴のかかとを鳴らして軽やかに歩き出す。
とりあえず、この街を見て回ることにする。
町並みはレトロなゲーム世界で、大通りには色とりどりの果物が
山と積まれた店や、衣服やアクセサリーを売る露店、車輪で引くタ
イプの蒸し饅頭の屋台などが並んでいる。道は大通りにはレンガが
敷かれているが、そこからいくつも伸びる細い支道は砂地であった。
店の裏路地ではおそらくノンプレイヤーキャラクターであろう子
33
ども達がボールを蹴っている。
試しに話しかけてみると
﹁町の外は危険だから出ちゃいけないって、大人たちが言うんだ。
つまんない﹂
﹁城壁の外には危険なモンスターがたくさんいるんだって!﹂
というあまりに﹃お決まり﹄の台詞が返ってきて、笑えた。
**
半日ほど特になにもせず、ブラブラとゲーム世界を歩いているう
ちに結構レベルアップしたようだが、なんだか腹が立ってきた。
僕は何をしているんだ。別にレベルアップしにこの世界に来たわ
けじゃないだろう。
今日だって姉が寝ているチャンスを利用してログインしているの
だ。このまま﹁はい、終わり﹂ではもったいな過ぎる。
どうするかな、と考えて、とりあえず僕は前回のログインでアラ
ビーの﹃女﹄になったのだから一応やつを探そうと思った。これは、
アラビーが好き、というのではなくて﹃義理は通すぜ﹄というやつ
だ。
ま、見つからなかったら仕方がないから他の男か、できたら女を
引っ掛けよう。
⋮⋮いいね。女の子とにゃんにゃんして百合プレイなんて最高。
最初の酒場でアラビーの所在を尋ねて回った。すると、結構有名
人らしくって、何人かから情報をもらえた。
﹁たぶん、裏通りの﹃しわ花街﹄って店じゃないかな﹂
﹁この時間帯ならあの人ログインしていると思うけど﹂
34
他に、アラビーに関する噂や忠告も結構もらった。
﹁あいつに関ら無い方がいいぜ。特にあんたみたいな可愛いお嬢ち
ゃんは﹂
﹁え?アラビーさんはいい人だと思います﹂
純粋そうにそう答えると相手は眉をしかめた。
﹁騙されてるって。あいつ、修道院に女集めて性奴隷にして流して
るって話だぜ。あんたも獲物としか見てないよ﹂
それを聞いて僕は言葉を失った。
アラビーってそんなことまでしてるのか。チャチな詐欺師みたい
なもんかと思ったら、結構デカいことにも携わってるんだな。
修道院で性奴隷調教なんて、男の夢だ。いいなぁ!!
﹁君、アラビーを探しているんだったら、案内してあげようか﹂
そんな声をかけてきたのは、魔道士風の男だった。黒い長髪を肩
に垂らしていて、フードの付いたマントを着ている。魔道士にあり
がちななよなよした感じではなくて武器も扱えそうなタイプ。
﹁貴方は?﹂
﹁アラビーの友達。この時間ならやつは﹃しわ花街﹄にいると思う
よ﹂
するとさっきまで話していた男が横から言った。
﹁やめとけよ。これ以上アラビーみたいな奴らに関わるとロクなこ
35
とないぜ。﹃しわ花街﹄も、あんたみたいなお嬢ちゃんが行く場所
じゃねぇよ﹂
すると魔道士︵?︶が冷たい目でそちらを睨んだ。ひと睨みで相
手を黙らせる様な凄まじさがある。睨まれた男は慌てて目を逸らし、
グラスに口をつけた。
﹁心配してくれてありがとう。大丈夫だよ﹂
それから魔道士に向き直って言う。
﹁はじめまして。ボク、リリス﹂
﹁僕はフェンデル。よろしく﹂
笑って握手をする。
﹁フェンデルは魔道士?﹂
﹁あぁ。リリスは?﹂
﹁まだ無職。冒険者、だよ﹂
﹁へぇ。始めたばかり?﹂
﹁うん。まぁね﹂
フェンデルについて曲がりくねった細い道を歩いていく。
徐々に陽が暮れかけてきた。裏路地は大通りとはまた違う雑多な
空気で、奥に入っていくにつれて怪しい雰囲気が増していく。
時折すれ違う男や女が思わせぶりにこちらに視線を投げる。この
頃には僕もちょっと無謀だったかと後悔し始めていた。
無事にアラビーの所に辿り着ければいいけど、全然違うところに
案内されて、凌辱されて、売り飛ばされたりしたら結構しんどい。
36
それはそれで興味が無いわけじゃないけど、まだちょっと心の準
備ができていない。
そんな緊張をしながらここまで来たら引き返すわけにもいかず大
人しくついていくと、到着したのは地下に降りる階段の先の紫の扉
だった。
37
episode2︳2
扉の中は独特の甘い匂いのする酒場で、昼日中だというのに客は
結構いた。でも良く考えれば現実世界では深夜、ちょうどアクセス
が多い時間帯だから、不自然ではない。
場馴れした客達のなかで、ポシェットを下げた初期装備で桃色の
髪の清楚なハーフエルフ姿は浮いていた。
﹁アラビー、お客さんですよ﹂
並ぶ丸テーブルの間を縫って、カウンターに近づくと、そこには
昨日見た顔があった。アラビーはちょっと驚いたような顔をして﹁
よぉ﹂と言った。
﹁よくここが分かったな﹂
僕は答える。
﹁フェンデルに連れてきてもらった﹂
﹁あぁ、そりゃサンキュ﹂
﹁いえ。こんなに可愛い女の子をエスコートできたんだから役得で
したよ﹂
フェンデルがさっきまでと違ってちょっと丁寧な言葉を使ってい
るのに気付いた。
﹁これ、俺の女﹂
﹁あぁ、そうでしたか。いい子ですね﹂
38
そしてフェンデルが﹁では﹂と言って去っていたので、お礼代わ
りに手を振った。自分の視界に入るのを見ても、白百合みたいな手
だ。
﹁アラビー、ボクの事忘れてた?﹂
﹁覚えてるよ。それにしても悪かったな。いつログインするか分か
らなかったから、出迎えにも行けなくて﹂
﹁いいよ。次からはここに来ればいい?﹂
道は何となく覚えた。
﹁いや、ここは一人でリリスが来るには危ないな﹂
﹁ふぅん。どう危ないの?﹂
ちょっと背の高いカウンターの椅子にお尻を乗せるようにして座
った。
⋮⋮足がつかない。
﹁そりゃ、リリスは可愛いからな。攫われて売られてもおかしくな
いな﹂
﹁うーん。そうだね。実はここに来る時も、フェンデルについて行
って大丈夫かな、って思った﹂
﹁あぁ、そりゃほとんど博打みたいなもんだ。良かったな。賭けに
負けなくて﹂
やっぱり運が悪かったら凌辱ルートだったのか。凌辱ルートって
どんな感じなんだろ。
﹁ほら、あれ見ろよ﹂
39
くい、と顎で示される方角を見ると、カウンターの端っこのとこ
ろに人が集まっている。
うわ。
僕は人混みの隙間から見える光景に目を奪われた。
そこには、丸いテーブルの上で犯されている女の子がいた。女の
子は素っ裸で、首にごつい首輪をつけている。立っている男の一人
がその首輪につながった鎖を持っていて、机の上にひっくり返った
カエルみたいに寝て脚を開いていた。
それを食い入るように見ている客もいれば、ちらちら見て楽しみ
ながら食事をしている男もいるし、全く気にせず隣の人間と会話を
続けている者もいた。
女の子は裸のせいでジョブも分からないけど、種族は獣人?
肉付きの良い体に仰向けになってもタプタプ揺れる巨乳が乗って
いる。
﹁つまり、運が悪ければあぁなる、ってことだな﹂
﹁すごい⋮⋮﹂
僕は感嘆し、感動し、興奮した。
いいもの見た。でも、ここで写真撮ったら田舎者丸出しだよね。
仕方がないので心のシャッターを切って記憶に焼き付ける。
﹁あれは、ノンプレイヤーキャラ?﹂
﹁いや、一般ユーザー。この店ではNPCは使ってない﹂
﹁へぇ⋮⋮贅沢﹂
40
﹁そう。いくら﹃女神クロニクル﹄が男女混合ゲームっていっても
成人指定だからさ、プレイヤーの大半は男なんだよ。だから、女キ
ャラはそれだけで価値がある。この世界で一番儲かる商品は﹃女﹄
だな﹂
アラビーはここがただの酒場ではなく、そういう商売をしている
店だと言うことを言外に伝えていた。
﹁でもさ、例えばあの子だって、一度こんな酷い目にあったら、次
回ログインしてこないんじゃない?﹂
僕は素朴な疑問を口にする。
どんどん女キャラを暴行していたらただでさえ少ない女性がます
ますログインしなくなって、枯渇しちゃうんじゃないだろうか。
﹁二度とログインしなくなるのもいれば、懲りてそのセーブデータ
消して最初からやり直すプレイヤーもいる。ちなみにあの女はここ
の従業員だから、毎晩あぁして客にサービスしてる﹂
﹁あ、従業員なんだ。望んでこんな仕事してるなんて、変わってる
ね﹂
﹁飴と鞭でやみつきになるように仕込んだからな﹂
﹃ホーボー鳥亭﹄の男が言っていた言葉を思い出す。
︱︱︱︱︱︱修道院に女集めて性奴隷にしているっていう⋮⋮
もしかしたら、あの女の子もそうして調教された一人なのかもし
れない。
﹁ボクも雇ってもらおうかなぁ⋮⋮。気持ちいいことしたいなぁ﹂
41
誘惑するように唇を濡らし、アラビーの方をうっとりと見つめた。
幼顔のリリスが艶っぽい声を出すと、少女娼婦のようでアンバラン
スさが際立つ、と思う。
アラビーは﹁へっ⋮⋮﹂と笑うと、リリスの体を抱き上げて、自
分の膝に座らせた。
後ろ抱きに、服の下から手を突っ込んで、肌を触る。男の武骨な
手が﹃リリス﹄の柔肌を荒らした。
アラビーはリリスの耳を舐めた。
﹁ひぅん﹂
あ⋮⋮みみ、気持ちいい。
息を吹きかけられ、耳の奥まで舌をぐにゅりと突っ込まれるとゾ
クゾクとした快感が体を這いまわった。
服の下でアラビーの手がリリスの乳首をつまむ。耳を愛撫されな
がらの胸への攻撃は結構クる。
リリスのおっぱいは小さいながらも敏感で、先っちょはピリピリ
して、乳輪のところをくるくると回されるとそこから何かが花開い
ていくみたいに気持ち良くなる。
耳からの刺激は首筋からあそこを抜けてつま先まで痺れる感じ。
﹁今すぐここでしてやろうか?﹂
﹁んっ⋮⋮えっ﹂
横目でカウンター席の客を見ると大半が男だ。やたらデカいのも
いれば、ヤバそうな風体のもいる。
なんとなく、周囲の意識が新参者の僕に向かっているのを感じる。
こんな風に戯れをしていたら当たり前かもしれないけど。
﹁ぅ⋮⋮んっ。それ、刺激的⋮⋮かも﹂
42
顔を斜め上に上げると、キスされた。
ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮男とのキスは微妙。でも、んんんんん。
今の自分は﹃リリス﹄だから⋮⋮いいや。楽しまないと。
唇を離して、ふふ、と笑う。
﹁リリス。お前のそういうとこ、すげぇいい﹂
アラビーは﹃リリス﹄を乗せた膝をぐっと持ち上げた。その膝が
﹃リリス﹄の足の間に割って入って、押し付けられた股のところが
ジンと熱くなった。
﹁じゃ、皆に見せてやれよ。せいぜい、客を煽ってやんな﹂
アラビーはカウンターを背もたれにして、完全に店のホール側を
向く様に椅子の角度を変えて座った。当然、抱っこされている僕の
体もそちらを向く。
前開きのブラウスのボタンを外されて、小さなおっぱいが露わに
なった。そのおっぱいをまた後ろ手に愛撫されて、耳を舐められる。
今度はその姿を、堂々と酒場の客に晒した。
唐突な﹃見世物﹄に店内の客達は軽く沸き、誰かが口笛を吹いた。
﹁ほら、ちゃんと見ろって﹂
恥ずかしさに思わず目をつぶってしまっていたが、そっと目を開
くと、好奇心の視線が突き刺さるみたいにこちらに向けられている。
﹁っん。恥ずかしい﹂
43
さらに、アラビーの手がスカートの中に侵入した
﹁ふぁ、ん⋮⋮っ!!﹂
クリはちょっと擦られただけで強い快感が走る。男のペニスと構
造は同じっていうけど、感じ方が全然違う。なんというか、男のモ
ノより女のモノの方が、感度を一か所にギュっと凝縮した感じ。そ
れでいて、キュンキュン感じるのはもっとお腹の奥の方。
乱暴にクリを虐められて、僕は嬌声を上げた。
﹁ぁ、あ、駄目ぇ⋮⋮!そんな風にっ。ああ!いじっちゃ、やめぇ
⋮⋮﹂
でも、そんなこと言っても本当はもっと擦って欲しい。そんな気
持ちを見透かすように、クリへの刺激は激しくなった。
﹁ぁっぁつあああっ⋮⋮あん、あぁん、や、らめ、らって﹂
感じている姿を皆に見られていると思うと、更に興奮する。
やばい、露出趣味は無かったつもりなんだけど。
﹁ら、ふぅあぁ⋮⋮ぁああん、いいっ!﹂
イきそうになったところで途端に愛撫の手は緩やかになって、も
うあと一歩というところでイくのを我慢させられた。
にやにや笑いながら、こっちを向いて何事か囁き合っている男た
ち。嘲るような目で見る女もいた。
リリスの痴態は確かにいい見世物になっている。
﹁あとで、バイト代、ちょうだいよぉ⋮⋮﹂
44
﹁へいへい。っと、じゃ、ここで﹂
そう言いながらアラビーがリリスの体を持ち上げてカウンターに
座らせた。
﹁ちょっとスカートまくって待ってろ﹂
﹁えっ﹂
アラビーはベルトを外し始めた。
ガチャガチャした服を着てるから、脱ぐのに時間がかかるんだ。
なんて、面倒な服だろう。それに比べて、女の子のスカートのこの
機能的なこと。
僕は言われた通り、カウンターのちょっと高い位置でスカートを
まくりあげて、桃色のショーツを観客に見せた。
顔を赤らめた少女がおずおずと両手でスカートの裾を持ってパン
ティを見せる図、というのはなかなか情緒がある。一部の客がかな
り興奮した声をあげた。
﹁よし﹂
準備万端のアラビーが僕を再び持ち上げて︱︱︱この軽々と荷物
のように持ち上げられるのはなんだか癪に障るのだが︱︱︱腰の上
に乗せた。お尻の辺にアラビーの雄々しい一物があたる。
﹁挿れるぜ﹂
そういうと、返答もまたずリリスの花陰に突っ込んだ。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
45
声がかすれて、喉から空気が出るみたいな叫び声になった。
リリスの花陰は愛液でトロトロだったから、凶暴な肉塊を一気に
飲み込んでしまった。だけど、どんなに濡れていてもリリスの体が
小さくて入口も中も狭いのは間違いなくって、イキナリ挿れられる
のはキツい。
そうやって収まった後も、大きなペニスがギチギチにハマって膣
内で暴れるのは苦しかった。
﹁ふぁっ。ばっ、かっ。苦しいっ⋮⋮!﹂
﹁まぁまぁ、段々良くなるから﹂
そう言って上に乗せたリリスの体を揺すった。
﹁あっ、あっ、あっっ⋮⋮ん⋮⋮あっ、あ⋮⋮っ﹂
そしてその言葉通り、ゆさゆさされるたびに体は馴染んで快感が
昇ってくる。
﹁つながってるとこ見えないから、スカートめくって﹂
アラビーに耳元で囁かれて、僕はスカートをぎゅっと握りしめる
ようにしてめくった。すると、確かに観客は沸いた。
﹁すげぇ。あの小さいとこにずっぽり入ってる﹂
﹁うっわ、旨そう﹂
﹁あれ、誰? 新入り?﹂
﹁マジかよ。だったら俺絶対買うわ﹂
大勢の観客の欲望の視線を浴びながら、なんとなく優越感を感じ
る。
46
皆がこの体を欲しがってる。皆がリリス、僕だ、を犯したいと思
っている。
﹁ぅ、ふう⋮⋮ふ、ふ﹂
﹁何?﹂
﹁う。ぁ、っん⋮⋮きもち、いい﹂
﹁そりゃ良かった﹂
そういえば、前回もこんなやり取りした気がする。
﹁でも、もう少し嫌がって見せた方が受けるぜ﹂
﹁う︱︱︱︱︱⋮⋮だって、こんな、っ気持ちいい、のに?﹂
﹁しょうがねぇなぁ。エロい体しやがって﹂
それまでゆさゆさ、だったのが奥に突き上げられるようなリズム
に変わって、視界に火花が飛んだ。
﹁ひぅっ!っぐ。ひぃ⋮⋮ら、めっ。そんな、ぁ、そこ、らめ﹂
それから、前方に晒した充血したクリを弄られる。
﹁ゃぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!!﹂
ズボズボされながらクリをぐちょぐちょに弄られて、僕はあっけ
なくイってしまった。
それは発見だった。
背面座位の姿勢で犯されるのは正常位とペニスが当たる位置が違
う。これはこれで別の快感がある。そして、何より、この姿勢だと
女の子の一番気持ちいいクリを弄られながら犯されることができる
のだ。
47
すごい。あぁ、いつか僕に彼女ができたらこれ、やってあげよう。
と、またすぐには役立たないことを考える。
気づけばアラビーの膝はリリスの愛液でベタベタのヌルヌルだっ
た。そこにマンコを擦りつけた状態で、僕は快感の余韻に浸った。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱。ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
僕はアラビーの首に腕を回し、喘ぎながら荒い息をついた。
﹁次は、俺だ﹂
肩に手をかける男がいた。朦朧とした意識に冷たい水を浴びせら
れたように僕はさっと顔色を変えた。
え⋮⋮。
輪姦?
48
episode2︳3
周囲を見ると、もう完全にその気になってる男たちが近寄ってい
る。その数は少なくない。後ろの方でにやにや笑ってる男たちの数
もいれれば相当だ。
﹁む⋮⋮無理﹂
僕は怯えてアラビーにギュッとしがみついた。
正直、嫌だ。
生理的な嫌悪感が先に立つ。
﹁そうそう、そうやって嫌がって見せた方が、周りが喜ぶ﹂
﹁ちっ、ちがう!本当に嫌なんだってー!﹂
﹁はいはい﹂
分かっているのかどうか曖昧な返事でアラビーはリリスの頭を軽
く撫でた。
それから僕に手を出そうとする先頭の男に向かって言った。
﹁悪いけど、こいつ﹃見世物﹄であって﹃売り物﹄じゃないんだ﹂
﹁はぁ? なんだよ、それ﹂
男は白けた声を出す。
﹁これは俺のだから﹂
49
すると、男は顔を歪めた。
﹁どうせ商品にするんだろ。金は出すから、抱かせろよ﹂
﹁気分が乗ったなら、そこにカタログがあるから、好きな女選んで
くれ﹂
﹁おい、散々煽っといてそれは無いだろ。俺はこのメスを犯したい
んだよ!﹂
うわぁ。粗暴⋮⋮。
メス呼ばわりされて当然カチンと来たし、鬱陶しい!
声を荒げるところも、果てしなくウザい!こんなやつに絶対、犯
られたくない。
周囲の客もごねる男から一歩離れてこっちの様子を伺っている。
そこに、割って入る人影があった。
﹁お客さん、空気悪くなるから、ネ。落ち着いて下さぁい﹂
それは、この店の従業員、さっきまでテーブルで輪姦されていた
女の子だった。
女の子は近くで見ると紫色の豊かな髪の毛に獣耳を付けている。
衣服はミニスカートの緑のワンピース。生地が薄くて肉付きの良い
肢体が透けて見える。そして、その透けて見えるおっぱいの間には、
赤い首輪から垂れた鎖が挟まっていた。
﹁アタシで、どうですかぁ? アタシ、お客さんみたいに乱暴で血
の気が多い男の人好きヨぉ﹂
女の子は男にしなだれかかる。
50
﹁うるせぇ。お前みたいな、がばマンのメスはどいてろ!﹂
﹁きゃッ﹂
後ろによろめき、女の子は机に脚をぶつけた。
﹁痛ぁい⋮⋮アラビーさぁん。この人、ヤっちゃっていいですかぁ
?﹂
﹁⋮⋮﹃見世物﹄なら客が喜ぶ﹂
すると、獣耳女がニッコリ笑った。
﹁はぁい﹂
パシッと何かが割れたような音がしたかと思うと、そこに﹃戦闘
領域﹄が展開された。室内でのバトル時に周囲の世界が壊れない様
に保護される仕様だ。
周囲の観客が一斉に野次を飛ばす。途端に﹃見世物﹄はこの2人
のバトルにシフトした。
﹁キマイラちゃん!﹂
﹁やっちまえ!﹂
﹁おっしおきっ! おっしおきっ!﹂
男の方は異様な雰囲気になっている周囲に戸惑っていた。
普通に考えて、このろくに装備も整っていない性奴隷の女一人が
自分に突っかかってくるなど、命知らずもいいところだと思ってい
るようだった。
実の所、僕も同じように思った。
だが、﹃キマイラちゃん﹄は強かった。
51
遊ぶように楽しそうに凄まじいラッシュを相手に打ち込み、両手
でガードした隙をついて、長い脚を振り上げて首を刈り取るような
回し蹴りを叩きこんだ。
顔面から床に落ちた男は悪態をつきながら起き上がり、その顔は
怒りにたぎっていた。
﹁あはン﹂
キマイラちゃんは身をくねらせて、挑発した。
男は腰に差してあった円曲刀をさやから抜き放ち、切りかかった。
ひゅん。
一撃は難なく躱されて、そこからむやみに振り回される2撃、3
撃目もむなしく空を切った。
﹁くそぉっ!﹂
男はドスを構えるみたいに刀を真っ直ぐに持つと、体当たりする
ようにキマイラちゃんに向かった。
キマイラちゃんは高くジャンプしてそれを避けたかと思うと、後
ろ脚で男の頭を蹴り飛ばし、ちょっとバランスを崩しつつも床に着
地した。
それがあまりに綺麗に決まったので、観客が拍手喝さいをした。
﹁娼婦ふぜいが! 調子に乗るんじゃねえ!﹂
すると、キマイラちゃんは不機嫌そうに腕を組んだ。腕を組むと、
巨乳が寄せられて凄いボリュームになる。
52
﹁その娼婦ふぜいに負けてるのは誰よぉ。雑魚やろぉ﹂
それから目にもとまらぬ速度で距離を詰めたかと思うと、男をな
ぎ倒していた。
何が起こったのかよく分からないまま男は床に這いつくばってい
て、その頭の上にキマイラちゃんの足が乗っていた。キマイラちゃ
んは容赦なく足で男の頭を踏みつけてぐりぐりする。
﹁キマイラちゃん、最高。女王様!﹂
﹁いやぁん。アタシ、本当はお仕置きされる方がすきなんですぅ﹂
とか言いながらぐりぐりぐりぐり⋮⋮。
本当かよ。
そこにもう一人、店のスタッフらしき2人がやってきて、歓声を
浴びるキマイラちゃんを残して、男を両脇から抱えるようにして連
れて行った。黒服に連れ去れていく末路になんの同情心も沸かない
けれど。
﹁ん。面白い見世物だった﹂
アラビーはようやくペニスを引き抜いて、僕を床に降ろした。
﹁あ、アラビー、まだ、イってないんじゃない﹂
﹁そりゃ、ああいう見世物で男の方が先にイったら失格だろ﹂
よがる女の姿を観客に見せるのが男優の仕事、というわけか。
﹁で、でも、それじゃ⋮⋮﹂
53
なんだか、悪い気がする。
さっきの乱痴気騒ぎでだいぶ収まったとはいえ、アラビーのペニ
スはまだ緩い昂りを残している。
﹁ん? じゃあ、続きするか。次はベッドの上で﹂
﹁うん﹂
僕は頷いた。
そうして店の階段を昇って行って、いかにもそれ専用の狭い個室、
ベッドだけがデンと置いてある部屋に入った。
﹁あの女の子、強かったね。﹃キマイラちゃん﹄?﹂
﹁そりゃ、﹃色欲﹄﹃暴色﹄スキル付きで経験値稼いでるからな。
確かあいつ、レベル50オーバーだぜ﹂
﹁ふぅん⋮⋮っぁ﹂
舌を絡めてキスをした。
それから首筋に舌が這って、リリスの可愛いおっぱいをいっぱい
舐めてもらった。
やっぱり、膣内で出してもらわないと﹃ヤった﹄感が足りない。
一度イって敏感になっている女の体にもう一度挿入されると、早く
精子が欲しくてたまらなくなってきた。
﹁せーし、飲ませて⋮⋮下のお口で、いっぱい﹂
とろんとした目になっている自覚があった。
なんで、女の子の体、こんなに気持ちいいんだろう。
ゆるゆる出し入れされるのも、激しく突いてもらうのも、どっち
もイイ。
54
﹃暴色﹄のスキルって何だろう、とか、レベル50ってどれくらい
強いんだろう、とか頭に浮かんだ疑問が霧散していく。
いいんだ。
僕はエロ目的でこのゲームしているんだし。
スキルとか、レベルとかあんまり関係ない。
今はこの気持ちいいことを大事に味わおう。
そうして、ひと時、僕は完全に﹃リリス﹄になり、甘い喘ぎ声を
漏らすのだった。
55
episode3︳1:酒場
自動スキル:﹃暴色﹄・・・﹃色欲﹄の効果上昇。
習得方法:①淫属性+レベル50以上で習得 ②未公開 ③未公開
これが﹃暴色﹄というスキルの効果を攻略サイトで確かめた結果だ。
﹃色欲﹄はSEXで経験値入手するスキルなので、それに上昇補正
がかかるということだね。僕は経験値上げにさほど興味が無いが、
SEXには興味がある。SEXでガンガンレベルが上げられるのは
副次的に楽しそうだ。﹃色欲﹄スキルを既に習得しているのだから、
せっかくならばこの﹃暴色﹄も覚えたい。
習得方法①を見る限り入手は容易くなさそうだった。
だが気になるのは、このスキルを持っていた﹃キマイラちゃん﹄、
彼女がどうやって﹃暴色﹄を覚えたのかということだ。
︱︱︱︱︱︱﹁あの女の子、強かったね。﹃キマイラちゃん﹄?﹂
︱︱︱︱︱︱﹁そりゃ、﹃色欲﹄﹃暴色﹄スキル付きで経験値稼い
でるからな。確かあいつ、レベル50オーバーだぜ﹂
前回アラビーと交わした会話を思い出すと、キマイラちゃんはなん
となく、レベル50を超える前に既に﹃暴色﹄を習得していたので
はないかという気がする。
何となく、だけど。
無料攻略サイトを見る限り習得方法は3つ、だけどそのうち二つは
未公開。
この未公開の二つが知りたい。
56
僕が以前にレアケースで﹃超越せし乙女﹄というスキルを覚えたみ
たいに、﹃暴色﹄も裏ワザみたに覚えられるんじゃないかな、と思
うわけ。
次﹃女神クロニクル﹄にログインしたら、聞いてみよう。
タダで教えてくれるとは限らないけど、聞いてみるだけなら、タダ
だ。
**
﹁え? あぁ、﹃暴食﹄スキルですかぁ。覚えるの、簡単ですよぉ﹂
開店前の﹃しわ花街﹄でキマイラちゃんは裸にエプロンをつけて店
の掃除をしていた。
前回も思ったが、こうやってエプロンの横からはみ出る横チチを眺
めると、大した巨乳だ。
デカい、という表現が良く似合う。
大きいのに、全然垂れ下がっていない。団子みたいに丸くてハリが
あって、パーンとしてババーンとしている。
後ろを向くと背中に一本筋が通っていて、引き締まった良い体つき
だ。濃い目の肌の色に筋肉が乗っている。
当然裸にエプロンなので、後ろから見るとお尻が丸見え。
うーん⋮⋮お客さんがいない時くらい、パンツを履いた方が良いの
ではないだろうか。
﹁え? そうなの? 教えてくれるの?﹂
﹁ハイ。いいですよぉ。だって、リリスさんはアラビーさんの﹃女﹄
なのでショウ?﹂
57
そう言いながら、キマイラちゃんは小指を立てて見せた。
﹃女﹄ね。
一応、そういう約束になっている。
﹁うん、まぁ、そうだけど﹂
﹁だったら、敬意を払うのは当然です。アタシ、アラビーさんには
お世話になってマスからぁ﹂
ちょっと屈んで樽の奥を掃除するキマイラちゃんのお尻の割れ目の
奥、太ももの間の三角地帯が気になって、つい視線が奪われる。
﹁じゃあ、教えて欲しいな﹂
﹁はいはい。私の知っているのは習得方法③で、アーカイブに書い
てある通り読みますけど、﹃Lv15以上の魔物との性交渉﹄です﹂
﹁⋮⋮へ?﹂
﹁通常のエンカウントでは魔物はプレイヤーを攻撃対象とするだけ
なので、﹃発情﹄状態にさせるにはそれなりの呪文か、アイテムが
いりますけどネぇ﹂
発情?魔物との性交渉?
それってつまり。
﹁モンスターとSEXって事だよね﹂
﹁えぇ﹂
うわー⋮⋮興味深い。
僕はまず、何より気になることを聞いてみた。
58
﹁えっ、ちなみ、に、キマイラちゃんは、どんな魔物とシたの?﹂
スライム系ですか?触手系ですか?それとも、オークとかの獣系⋮
⋮。
﹁私はぁ、ホーンナイトっていう魔物ですネぇ。馬に乗った騎士み
たいな。いくつかの魔物を示されて、どれがいい、って言われたか
ら、じゃあ、これ、って選んだんですぅ。せめて人間型に近い魔物
が良かったからぁ﹂
﹁どれがいい?って?﹂
﹁その時は、半強制的に覚えさせられたんですよぉ。﹃暴色﹄スキ
ル。調教師の皆さんに﹂
その辺の話をもう少し良く聞いてみたところ、つまりこういうこと
だった。
アラビーの携わっているビジネスはこのゲームにログインしたばか
りの初心者の女の子を修道院に誘導し、性奴隷にすることだという。
そしてその調教の一通りをキマイラちゃんも経験している。
調教のステップは大きく分けるとこの通り。
まずは初期ユーザが保持している﹃乙女の祝福﹄スキルを活かして
徒歩で女の子に経験値を稼がせ、LvUpの手助けをする。
そしてLv30程度になったら﹃乙女散花﹄のスキル持ちプレイヤ
に処女を売って儲ける。
そこから強制的に快楽堕ちするような調教を施す。
女の子はその日、現実では絶対に味わえないような官能を引き出さ
れる。
とはいえ、騙されたという悔しさもあるせいで、次回ログインして
再びこの修道院に足を運ぶかどうかはこの時点でグレーである。
59
これまで何度もゲームにログインし、ひたすら歩いてようやく上げ
たLvを一度に失った、それもレイプで奪われるというショックは
なかなか消え去るものではない。
しかし、その日の調教が終わった時点で女の子が自分のステータス
ウィンドウを見てみると、気づく。一旦全て失ったはずの経験値が
Lv10程度まで回復しているのだ。
そこで更に、調教師にこう、囁かれる。
﹁乙女の祝福なんて徒歩でちまちま稼ぐより、こういう気持ちいい
ことをしながらもっと効率的にLv上げをする方法がある。﹃暴色﹄
スキルを覚えさせてやるから、次もまた来いよ﹂
﹁そうしたら、お前の処女を売って得た金の3分の1もお前に返却
してやるよ﹂
提示される金額は30万G。大金だ。
飴と鞭と飴。
この流れで、大半の女の子は2度目、修道院に戻ってくるそうだ。
で、2度目のログインで蓋を開けると﹃暴色﹄スキルを覚える方法
が結構エグイわけだ⋮⋮。
﹁ホーンナイトはぁ、快楽慣れしていない女の子にはあんまりおス
スメできませんねぇ。驚いちゃいますよ。馬から降りたナイトに犯
されるかと思ったら、いきりたって襲い掛かってくるのは馬の方な
んですからぁ﹂
ケタケタと笑うキマイラちゃん。
確かに、馬相手のSEXは上級者向けの感じがする。
60
﹁リリスさんはぁ、どんな魔物がお好みですかぁ﹂
﹁えー⋮⋮やっぱり、スライム系かなぁ﹂
さほど、考えて言った言葉ではない。
にゅるにゅる。むにゅむにゅ。
そういう感覚って、なかなか現実では味わえないし。
やっぱり、王道?って感じがする。
﹁うわぁ。いい趣味ですねぇ!﹂
キマイラちゃんは振り返って目を輝かせた。
期待に震えるように、獣耳がピコピコ動く。
﹁私もシたーい!﹂
61
episode3︳2
﹃しわ花街﹄の開店時間になって、ぽつぽつとお客さんが入ってき
た。今日は人の入りが少ない感じがする。聞くと、まだこれから混
んでくるらしい。
僕は客として適当に飲みながら、店内を眺めていた。
頼んだのはベリージュース。
面白かったのが、甘いジュースがいつもより格段に美味しく感じ
た事だ。甘いイコール美味しい、っていう感じがする。
この仮想現実ではマルチモーダルI/Fで知覚をプレイキャラ﹃
リリス﹄と接続しているわけだから、あくまでも自分は自分のまま
なのに。味覚って、脳が司ってるんじゃないのか?
それとも、このベリージュース自体に﹃美味しい﹄っていう感覚
を刺激する情報が組み込まれているのかな。
そんなことができるのかはよく知らないけど、そういう技術が開
発されているっていうニュースを見たことがある。
初期装備のままのハーフエルフ娘であるリリスちゃんの容姿はこ
の店で浮く。自分でも自覚はある。
さほど時間が経過しないうちに、やっぱり僕は男に絡まれていた。
﹁可愛いお嬢ちゃんが、こんな店で何やってるんだ?﹂
男は、凄いマッチョ。
オイルでも塗っているのかと思う黒光りする肌に筋肉が浮かんで
いる。
戦士系の割には装備が貧弱で、俺の武器はこの肉体だ!っていう
感じだけど、武闘家の割には素早さが低そう。
62
なんか、暑苦しい感じで嫌だなぁ、と思いつつ、﹁いや、別に﹂
と返事をする。
﹁店員、じゃないよな。客? 連れは? 一人?﹂
一人だったらどうだというのだ。
﹁あーーーーー。うん。人待ち中だから﹂
﹁じゃあ、その待ち人が来るまで、いいかな﹂
いいかな、と聞きながら、返事を待たずにマッチョは既に隣の席
にどっかりと腰を降ろした。
それから、何か面白い話でもするのかと思いきや、大した話も無
い。現実世界の花粉情報の話だとか、アバターの褒め言葉と、自分
の自慢話。
勝手に隣で喋っていて、こっちが適当に気の無い相槌を打ってい
ると突然、声をひそめて言った。
﹁大きい声じゃ言えないけど、この店、結構ヤバいぜ﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁リリスはまだ初心者だろ。リリスみたいな可愛い女の子をこんな
店に連れてきたヤツは、絶対にロクなヤツじゃない。騙されてんだ
よ。いいか、俺の言うことを信じろ﹂
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹁この店では、正規ユーザーの女キャラを性奴隷にして売ってるん
だ。ほら、あのカウンターにあるのがメニュー表。この店の従業員
の女は全員、売春婦なんだ﹂
﹁ほぉ⋮⋮﹂
﹁今ならまだ間に合う。リリスも同じ目に合される前に、早くここ
を逃げるんだ。心配するな。俺がついて行ってやる﹂
63
そういう店に出入りしている人間をどうやって信じろというのか。
あと、リリスって呼び捨てするな。
ちゃん付けがいいとか言うつもりはないけど、なんか、名前呼ば
れるだけでムカつく。
﹁うーん⋮⋮。でも﹂
この鬱陶しいのをどうやって追い返したらいいか悩んでいると、
急に男に両頬を手のひらで挟むように押さえられた。
そして、強制的に男の顔を正面から見させられ、真っ直ぐな瞳で
諭された。
﹁迷うな。俺を信じろ﹂
うーーーーーーざーーーーーーーいーーーーーー!!!MAX!
!!
もう、気分は女子だ。
今なら、女子の気持ちが分かる。
︱︱︱︱︱︱えー。マジウザいんですけどぉ。
︱︱︱︱︱︱ってか、キモい?
げんなりしていると、そこに、割って入る声があった。
﹁悪いけど、彼女、俺の連れだから﹂
振り向くといつの間にか、背中に誰か立っていた。
気配が無かった。
64
﹁あー⋮⋮フェンデル﹂
黒い長髪、フードの付きのマント。
底冷えのする威圧感を湛えている。
しかしマッチョ男はフェンデルを睨み返して言った。
﹁お前か。リリスを騙してこんな店に連れてきたのは﹂
﹁騙して? 確かにこの店に連れてきたのは僕ですけど﹂
そうだ。
初めてこの店に連れてきてくれたのは彼、フェンデルだ。
ただし、それは僕が道案内を頼んだことだったけど。
﹁リリス、行こう﹂
なんと、この台詞を言ったのはフェンデルではない。
マッチョの方だ。
マッチョは僕の腕を取って、店の外へ連れて行こうとする。
ええ?
﹁ちょ、ちょっと。放して。誤解だってば﹂
しかし、マッチョは聞かない。
腕の力は強くて、ひ弱な僕は引き摺られるように店の出口に向か
って連れて行かれてしまう。
僕の意思もお構いなしにするくらい、どうやらマッチョは己の正
しさを信じているらしい。
﹁フェンデル、たすけて﹂
65
そう言った途端、何かが割れたような音とともに、﹃戦闘領域﹄
が展開された。
バトル時に周囲の世界が壊れない様に空間を切り取って保護する
仕様だ。選択したキャラ以外の部外者は巻き添えを食らわないよう
に除け者となる。
僕は戦闘領域から弾かれた。
あー⋮⋮。
マッチョvsフェンデル。
おそらく戦闘を吹っかけたのはフェンデル側だが、マッチョの方
はこの展開に余裕を見せていて、自信があるらしかった。
でも、フェンデルも結構強そうだ。
魔法使いの戦いぶりってどんな感じなんだろう。
店内は少なかったはずの客がいつの間にか増えてきていて、そし
て皆一様にこの見世物に注目していた。皆、こういうのは大好きみ
たい。
周囲ではすぐに賭け事が始まる。
ただし、マッチョには気の毒なことに、賭けの内容は﹃マッチョ
がどれくらいで倒れるか﹄であった。
一人は3分と言い、一人は30秒だと言う。そして﹁いや、あの
マッチョ、確か結構強かったぞ﹂と誰かが言った。
皆が男を﹃マッチョ﹄呼ばわりするのが笑える。
観客の人混みを押し分けるようにして、もう一人見知った顔が僕
に近づいてきた。
茶色のマダラの髪に鳥の羽根が刺さったよれよれの帽子をかぶっ
ている男。
66
アラビーだ。
﹁よぉ、リリス﹂
﹁はぁい﹂
僕は小さな白い手を広げて答える。
視界に入るこの妖精みたいに白い手は、自分の物ながら、何度見
てもちょっとした新鮮味がある。
﹁何があったんだ?﹂
僕は手短にかいつまんで、事の成り行きを説明した。
一人で店にいたら、あのマッチョに絡まれたこと、騙されている
から一緒に逃げようとかいって、無理矢理に僕を引っ張っていこう
としたこと。
それを、フェンデルが阻止しようとして戦闘モードに入ったこと。
﹁ふぅん。お前、あんまり男を焚き付けるなよ﹂
焚き付けた覚えは別に無い⋮⋮。
その時、わぁっと観衆の歓声が上がった。
えっ、と思って視線を戻した時には遅かった。既にマッチョは倒
れて床に蹲っていた。
え?
何があったのか、全然見られなかった。
魔法が発動した気配も感じなかったけど。
倒れた男の近くに立つフェンデルの右手から、ポトリと何かが落
ちた。
67
それは、ぶらんと下がった片手に握り込まれた短剣から落ちた赤
い血だった。フェンデルは短剣を軽く振って血を落とし、マントの
内側で拭いてから腰に巻いたベルトにかかっている鞘に納めた。
どうやら、魔法じゃなくて、短剣で刺したらしい。
短剣の一撃でそんなに簡単に勝負が決まるものだろうか。
クリティカルヒットか何か?
賭け事は、﹃10秒﹄と言った男が一番近かったようで掛け金を
総取りしていた。
アサシン
﹁フェンデルって、魔法使いじゃないの?﹂
﹁いや、暗殺者だ﹂
アサシン⋮⋮なるほど。
言われてみればピッタリだ。
つまり、前回聞いたのは嘘だったということか。
さらりと嘘つくあたり、侮れない奴だ。
﹁それじゃ、見世物にもならないぜ﹂
アラビーが声を投げると、フェンデルが顔をあげて答えた。
﹁すみません。なんか、暑苦しそうなヤツだったので﹂
﹁フェンデル、助けてくれてありがとう。でも、うそつき﹂
僕は口を尖らせて言う。
すると、フェンデルが薄く笑った。この一言で何のことか分かっ
たらしい。
68
﹁ごめん﹂
うーん⋮⋮絶対に悪いとは思ってない顔だ。
69
episode3︳3
﹁んっ⋮⋮﹂
ベッドの上で、﹃リリス﹄は犯されている。
その様を、アラビーが少し離れたところから、椅子に座って見て
いる。
リリスを抱いているのはフェンデルだ。
今日は、フェンデルに助けてもらったから、今そのお礼をしてい
るというわけ。
フェンデルは最初からいきなりリリスの胸の先端と、一番敏感な
花芽をつまんで、弄りまくった。
﹁ぃっん⋮⋮ら、めぇ、いきなりそんな⋮⋮﹂
気持ち良くさせる為の前戯というより、とにかくさっさと濡らす
為の手管という感じ。
そんな無粋な愛撫に感じたりしないんだから、と思いながらも、
僕はあっという間にイかされた。
最短10秒だ?
いくらアサシンだからって、ベッドの上でまでそんな速攻で息の
根を止めに来なくてもいいだろ!
﹁うぁー⋮⋮ぁ︱︱︱︱︱︱︱﹂
フェンデルはリリスのびしょびしょになった割れ目に指を這わせ、
愛液を掬い取るようにすると、それをリリスのお尻のつぼみに塗り
70
つけた。
﹁ふ?﹂
菊門をくちゅくちゅと弄られ、入口に触れられているだけなのに、
体がひくひくする。
嘘だ。
お尻なのに、気持ちいい。
フェンデルは何度も濡れた前から愛液を掬って、後ろに塗りつけ
る作業を繰り返す。
そして、その度に少しずつ、指を中に押し込んでいく。
﹁やっ⋮⋮そんなとこ、指入れないで﹂
﹁悪いけど、僕、後ろにしか興味ないから﹂
﹁ぇっ。やだ﹂
﹁リリス、後ろ処女だね。ぴったり閉じてる。⋮⋮これ、もらって
いいんですか?﹂
そしてそれは﹃リリス﹄に向けられた質問じゃなくて、アラビー
に対するものだった。
﹁いいぜ。俺、後ろ興味無いし、まして後ろ処女馴らすの面倒で嫌
いだから﹂
﹁この初物を馴らしていく瞬間が一番楽しいんですよ﹂
そう言いながら、指一本でぐりぐりと後ろを広げていく。
しかし、お尻の穴なんて、そう簡単に開くものではない。
一生懸命抵抗しようとするように、指をきゅうきゅうと締め付け
る。
71
だが、締め付ければ中に入っているその骨ばった指の存在感がい
やおうもなく大きくなる。
﹁いやだぁ。やめてぇ﹂
お尻ですることの意味くらい分かる。
信じられないけど、お尻にペニスを挿れる、ってことでしょ。
そんなの、二次元かプロの世界のことじゃないの?
一般人の僕が足を踏み入れていい領域なの?
だって、指一本でもう、こんなにキツイのに。
﹁やっ、あっ、ん。あっ、あっ⋮⋮﹂
だけど嫌がりながら、嫌がる思考に酔いながら、反面ではちょっ
と興味もある。
マッサージされているみたいで少し気持ち良くなってきて、体の
力が抜けた瞬間を見計らったように、二本目の指がお尻に差し込ま
れた。
﹁うぅっ﹂
指二本も最初はあんまり気持ち良くない。
﹃リリス﹄のお尻の穴が広がっちゃうと思うと、汚される感じがす
る。
﹁だんだんほぐれてきてる。分かる?﹂
フェンデルが嬉しそうに﹃リリス﹄の耳元で囁く。
﹁変態っ﹂
﹁初物はいいなぁ。ずっとこうやって弄ってたい﹂
72
あ、本当に変態だ。
それから言葉通り、相当にねちっこくやられた。
もう、全然おっぱいとか前とか触らないで、ひたすらお尻の穴だ
け苛められるんだよ。
情けないことに、僕はそんな変態プレイに染められて喘ぎながら、
悦んでしまうし。
﹃リリス﹄の小さな腰を持ち上げられて、ギンギンになったペニス
の上に差し込むみたいに座らされた時も、もう抵抗する力は残って
いなかった。
お尻を、自分の手で開くように言われて、その言葉通りにした。
初めてならその方がスムーズに入るから痛くないよ、と言われれ
ばもう、とにかく痛くない様にお願いします、としか考えられない。
﹁力抜いてー﹂
ぐぐっ、とした抵抗があり、肉の棒が埋めこまれるみたいな感覚。
﹁やぁ⋮⋮大きい⋮⋮無理ぃ⋮⋮﹂
ハーフエルフの小さい体に対して、サイズが合ってないんだ。
いや、本当に無理、これ。
侵入が上手くいかずに止まった。
﹁息吸って﹂
言われた通りに、吸う。
73
﹁吐いて﹂
吐く。
途端に、ずん!という強烈な感覚が腹に打ち込まれた。
いや、腹じゃない。お尻!
﹃リリス﹄は口をパクパクさせて喘いだ。
叫び声すらあげられない。
気絶しそう。
ってか、気絶したい。
生木を裂くような痛みとトラックにはねられたみたいな衝撃があ
る。
﹁よしよし、よく頑張ったねー。あー⋮⋮キっつい﹂
フェンデルはリリスを後ろ抱きにしながら、耳の後ろを舐めた。
挿入したペニスは動かさないで、そのまま楽しんでいた。
﹁すごい締め付ける。あーやばい。イきそう﹂
そしてそのイきそうなのを我慢するのが、またいいのだろう。
それは自分にも分かる。
更にどれだけ我慢できるかが甲斐性というやつだ。
っていうか、今動かさないで欲しい切実に。
﹁っ︱︱︱︱︱︱︱はっ︱︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱っは︱︱
︱︱︱︱﹂
僕は必死で息を整える。
最初の衝撃が納まってくるのと同時に、打ちこまれた杭のところ
74
から、熱さが広がってくる。
﹃リリス﹄のお尻がヒクヒクと震える。
﹁っつぅ⋮⋮﹂
フェンデルが呻いた。
﹁そんなに食いついてくると、イっちまう。もう少し、楽しませろ
よ﹂
なんか、優しくてミステリアスなキャラってイメージだったのが、
今や好色な変態、って感じだ。
あぁ、でもそれは僕も同じかもしれない。
後ろで犯されて頬を紅潮させているハーフエルフ。
ぐい、と両足を開かれた。
﹃リリス﹄の前の割れ目が丸見えになる。
﹁ひゃっん﹂
﹁触ってないのに、前が凄いことになってるよ﹂
指摘されて僕は恥ずかしくなった。
フェンデルの言う通り、お尻しか弄られていないのに、リリスの
女の子からはエッチな汁があふれ出していて、シーツを濡らすほど
だった。
そして、あられもなく晒した秘部の先にはアラビーが座っていて、
退屈そうに欠伸をしている。
﹁アラビーさん、前、どうぞ﹂
75
えっ⋮⋮。
﹁遅ぇ﹂
﹁すみません﹂
﹁お前、後ろの開発、本当に好きだよな。待ってると陽が暮れちま
う。俺の方の興が冷めてきた﹂
ぶつぶつ言いながら、アラビーは服を脱ぐ。
﹁おい、リリス。なんか男を煽るような言葉、言えよ﹂
﹁んっ、ぁ、は⋮⋮﹂
これから何をされるのか分かりながら、僕は目を細める。
そして、M字型の恰好をした足の間の割れ目に両手を添え、陰唇
を開く。
愛液があふれる女陰は糸を引く様にして上手に﹃くぱぁ﹄と中を
晒した。
﹁ぁ⋮⋮リリスの、こっちにも、くださぃ⋮⋮﹂
すると、アラビーは笑った。
﹁シンプルだけど、まぁ、悪くないな。すれてないところがいい﹂
大きいベッドは、今考えてみれば、きっと元々複数人用だったの
だ。
後ろにフェンデルのを咥えたまま、濡れ濡れの女陰はアラビーの
デカいのを飲み込み始めた。
﹁う、ぅううっ⋮⋮んっ⋮⋮ん︱︱︱︱︱︱︱ん︱︱︱︱︱︱﹂
頭が真っ白になる。
76
挿れただけで、もうイク。
イっちゃう。
﹁ひ、ぃっ。気持ちひいよぉ⋮⋮﹂
後ろのフェンデルは動かさないで、前のアラビーだけが動いた。
中で、二本のペニスがこすれ合っているような感覚がある。
入れている場所が違うのだから、そんなはずないのに。
錯覚だろうか。
一体、どういう体のつくりになっているんだろう。
だけど、両穴を犯されると物が集中して考えられないくらい、意
識が飛びそうになる。
ずぶ、ずぶぶ、と緩慢に動かされているだけなのに、もう、本当
に駄目。
気持ちいい。
﹁う︱︱︱︱︱︱っ︱︱︱︱︱︱。い︱︱︱︱︱︱︱いっ、くっ⋮
⋮!!!﹂
我慢なんてできなかった。
頭の中がショートして、火花が散った。
﹃リリス﹄は盛大に叫んで、体を跳ねさせて絶頂し、ヒクヒクと喘
いだ。
ほとんど同時に、後ろでびゅるりと放たれる感じがして、ぐっ、
と押し付けられた腰の奥で、たっぷりと注入を受け止めた。
﹁なんだ、二人ともイったのか﹂
77
仰向けになって二本挿しのまま、のびている﹃リリス﹄とその体
を下で抱きとめているフェンデル。
どちらも荒い息を吐いている。
しかし、アラビーはそんな様子にお構いなく、﹃リリス﹄の前穴
レイプを再開した。
愛液がぐちゅぐちゅといやらしい音を立てて、小さく潮を吹いた。
﹁ひうっ⋮⋮﹂
達したばかりの敏感な体を容赦なく混ぜっ返されて、僕はもうど
うにかなってしまいそうだった。
﹁だめぇ⋮⋮やめてぇ⋮⋮やだやだ! もう、だめ、ほんとに、壊
れる!﹂
アラビーは満足げに口元を歪めて笑うと言った。
﹁おい、フェンデル。もうちょっと頑張れよ﹂
へ?
すると、僕が気持ちよく背中に敷いていたフェンデルの身体が起
き上がった。
﹁はい。ええ。もちろんです﹂
同時に、﹃リリス﹄のお尻に入りっぱなしになっていた一物がビ
クビクと動き、抜かないままでまた力を取り戻したのが分かった。
嘘だ。
﹁あ、や、やだぁ!﹂
78
泣き声混じりに懇願するが、当然、そんな姿は男を煽るだけで。
分かっているはずなのに、言ってしまう。
﹁あぁ! もう! やめろ! 馬鹿ぁっ!﹂
乱暴な台詞もリリスの声帯から発せられればその色はイメージカ
ラーと同じく桃色だ。
今度は、フェンデルも後ろを責め始めた。
一度吐き出した精液がお尻の中で潤滑油になっているみたいで、
さっきよりずっとスムーズに動く。
出し入れするたびにお尻の肉壁が男性器に絡みついて、持って行
かれそうになる。
あんまり激しくしないで!
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱︱。ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
もう、叫び声も喉を通り抜ける風みたいになっていた。
僕は壊れちゃった玩具みたいに、ひたすら、喘いでいた。
それから、何回くらい出されたか分からない。
何かいくらいイったかも、分からない。
前でイっただけじゃなくて、後ろでもイかされた。
精液とか、汗とか、涎とか、色んな分泌液でドロドロになって、
溶けていくみたいだった。
熱くて、高熱に浮かされておかしな夢を見ているみたいだった。
そうやってドロドロのぐちゃぐちゃになって、どうやら最後は気
を失ったみたいだ。
**
79
ぴちゃり、と冷たい感じがして、目を開けた。
すると、口に何か冷たいものがあてがわれていて、素直に飲み下
すと、それは甘くて冷たい。
﹁大丈夫?﹂
口から少し水がこぼれて、首筋をつたった。
なんだろう。
砂漠で水を飲ませてもらっているみたいだ。
そんな経験無いのに、ふと懐かしい感じがする。
きっと、こうやって何かを飲ませてもらう、ってこと自体がきっ
ともう覚えていない幼少時の記憶に結びついたんだろう。
僕は少しむせて答えた。
﹁けほっ⋮⋮うん。大丈夫﹂
﹁ご馳走様でした﹂
え?
あぁ⋮⋮衣服をきちんと着直したフェンデルの姿を見ながら思い
出す。
見覚えのある、大きな寝台のある一室、ベッドの上。
そういえば、フェンデルとアラビーに滅茶苦茶されたんだっけ。
﹁あ、うん。アラビーは?﹂
﹁用事があるって、どこかへ行った﹂
﹁ふーん⋮⋮今、何時?﹂
聞くと、結構いい時間だった。
80
﹁あー⋮⋮マズイ。そろそろ強制ログアウトの時間になっちゃう﹂
今僕がログインしているゲーム﹃女神クロニクル﹄は基本的にホ
ームポイントでしか終了できない。
その為、ホームポイントに戻れなかったユーザーがゲームから永
久に離脱できなくなるリスクの予防策としてVR接続機の自動パワ
ーオフ機能を用いる必要がある。
自動パワーオフはゲームソフトではなく、ハード接続機の設定な
ので、これでログアウトした場合、そこまでのプレイデータが飛ん
でしまう。
つまり、﹃女神クロニクル﹄には自動セーブ機能が無いのだ。
今日僕が機器に設定してきたリミットは現実世界の75分で、こ
のゲーム世界の感覚時間では3時間にあたる。
﹁あぁ、じゃあ、ホームポイントまで送りましょう﹂
﹁お願い﹂
おそらく回復魔法かアイテムで治癒をしてくれたのだと思うけど、
散々に嬲られた身体はまだ気だるい。
ベッドから身を起こすと、陰部からぬるい液体が零れて脚に垂れ
てきた。
アソコはヒリヒリするし、お尻の奥はズキズキする。
シてる最中は無我夢中だったけど、レイプ後の余韻なんてものは
楽しいものではないらしい。
﹁フェンデル﹂
僕はベッドの上で両手を伸ばした。
﹁はいはい﹂
その意を汲み取って、フェンデルは﹃リリス﹄の体をお姫様抱っ
81
こしてくれた。
さほど肉体派ではないフェンデルでも軽々と持ち上げられる﹃リ
リス﹄の体だ。
まったく、もう少し手加減してくれても良いのに。
そうして僕は己の足を地面につけることなく、悠々とホームポイ
ントまでお運びされた。
今日のゲームはここで終了。
あ、そういえば、今回一度もステータス画面開いていないけど、
レベル上がってるのかな?
82
episode4︳1:吊縛︵前書き︶
episode4以降は強姦/凌辱/残酷な描写があるので苦手な
方は回避して下さい。
83
episode4︳1:吊縛
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:永久乙女
年齢:15歳
総合LV:15
HP:51
MP:82
力:17
魔力:41
自動スキル:﹃色欲﹄﹃超越せし乙女﹄
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火﹄
装備:エルフの洋服
道具:キャンディ
所持金:1300G
名声:1
人気:1
魅力:1
何やら呪文を覚えているのでついでに個人データのアーカイブを
84
開く。
﹃エルフの口づけ﹄
習得方法:①エルフ種 総合レベル10以上 ②未確認 効果:未確認
﹃破壊の風/水/火﹄
習得方法:①エルフ種 総合レベル15以上 ②未確認 効果:未確認
そっか、スキルは一度発動させないと効果がアーカイブに残らな
いんだ。現実世界で攻略サイトを見た方が良いね。でも、たぶん、
エルフの口づけは状態異常回復か、HP中回復のどちらかじゃない
かな。破壊の∼は攻撃魔法に違いないし、特に興味を引くものは無
い。
僕はステータスウィンドウを閉じて、手元の地図に目を落とした。
**
アラビーにちょっと面白いイベントがあるから見に来ないか、と
誘われたのだ。
ログイン時間を指定されたので一瞬心配したが、深夜帯だったの
で﹁たぶん行ける﹂と答えた。
そして今日になって首尾よくログインできたので、予め受け取っ
ていた地図を手にそのイベント会場に向かっているというわけ。
地図は簡易なものだったが、割と分かりやすい。既製のこの街の
見取り図みたい。きっとどこかで売っているのだろう。
しばらく行くと、街の隅のさびれた路地を折れた先に看板も何も
85
ない倉庫小屋があった。
小屋の出入り口で樽に腰掛けて喋っている男が二人いて、そのう
ち片方がアラビーだった。アラビーは僕を見ると嬉しそうに﹁来た
か﹂と言った。
エスコートするみたいに扉を開けてもらって中に入ると、そこに
は10人かもっと、既に結構な人数が集まっていた。雰囲気は﹃し
わ花街﹄に似ている。客層が、っていうか。
ガランとした薄暗い小屋の中央では女の子が拘束されている。
種族はおそらく人間だろう。人間の僧侶、年の頃は20代、とい
う感じ。勘だけど。
青色の真っ直ぐな髪の毛を腰まで垂らしていて、ビリビリになっ
た白いローブの間から綺麗な肌を晒している。
女の子は両の手首が頭上で縛られていて、天井に真っ直ぐに吊り
上げられている。
倉庫小屋は木でできていて、見上げれば天井は屋根までむき出し
で、太い梁が横に走っている。梁には滑車みたいなのが取り付けら
れていて、滑車を経由した縄が女の子の動きを戒めている。
滑車を経由する縄のもう一方は斜めに引っ張られて小屋の隅の柱
に頑丈に括り付けてあった。時折縄が揺れるギシギシという音と滑
車が揺れるカタカタという音が聞こえる。
彼女の足は指先が床に触れているが、バレリーナみたいなつま先
立ちで膝は小刻みに震えていた。己の体重を支えようとする太い縄
が手首に食い込んでいる。
口にはゴルフボールを咥えるような枷が付けられているせいで顔
が可愛い系なのか綺麗系なのかはよく分からない。でも、ゲームの
女の子のアバターが不細工なはずは無いだろう。
86
もう少し近づいて見ると女の子の表情は酷く苦しそうで、肌を見
る限りはまだ何もされた様子が無いのに、脂汗を流していた。
典型的な拷問のスタイルだけど、こうして等身大の様を見るのは
初めてだ。
﹁やぁ、リリス。来たんだね﹂
親しげに声をかけてくれたのはフェンデルだった。
今日は魔道士風ローブのフードをかぶらずに顔を晒している。
﹁うん。アラビーに誘われた。何があるの?これから﹂
﹁それは見てのお楽しみ、と言いたいところだけど、見たままだよ。
彼女を輪姦して終わり﹂
なんだ⋮⋮期待通りじゃないか。
このシチュエーションで﹃今からカルタ取りを始める﹄とか、突
き抜けて﹃彼女の心臓を魔神に捧げる儀式を始める﹄とか言われた
ら、その方が残念だ。
﹁あれは、プレイヤーキャラ?﹂
﹁もちろん。NPC相手じゃこんな人数は集まらないよ﹂
﹁そうだよね。あ、ねぇ、あの手首に包帯が巻いてあるのは、何?﹂
ちょっとした疑問を僕は尋ねた。
縄が食い込む女の子の手首には真っ白な包帯が巻きつけてあり、
もしかしたら手首を怪我しているのではないかと思ったからだ。
怪我をしている箇所に縄が食い込んだらそれは痛むだろう。
もしかしたら、そういう拷問なのかな?
しかし、返ってきた答えは僕の予想とは真逆だった。
87
﹁たぶん、手首が壊死しないように保護してあるんだよ。両手吊り
は負荷が大きいから﹂
横でアラビーが頷く。
﹁それでも長時間ああしていれば壊死しちまうけどな。体重を支え
きれずに肩を脱臼することもよくあるな﹂
﹁うわー⋮⋮﹂
凄惨だ。
脱臼は一度やったことがあるけれど、あれは痛い。そうか、まだ
拷問は始まっていないのかと思ったけど、ああして吊られているだ
けで既に苦しいのか。
強姦凌辱はともかく、こういうストレートな暴力の実態をまざま
ざと見せつけられると、平和主義の僕は少し引いてしまう。
すると、その躊躇を見透かすようにアラビーが笑った。
﹁リリスにもやってやろうか﹂
﹁や、やだ﹂
﹁痛いのも現実ではなかなか味わえない感覚だろ。興味ねぇ?﹂
﹁ないよ!全然っ!﹂
からかわれているのだろうけど焦る。
なんだかんだ言ってもリリスは可愛く、か弱い。いつ被食者に回
ってもおかしくない。小屋内に集まっている面々を見ても、僕以外
は全員男なのだ。まぁ、多分にツッコミが入るだろう事実は置いと
いて。
﹁こうやってバーチャルで拷問されてリアルで狂っちゃう人とか、
いないのかな⋮⋮。そういうの、社会問題にならないの?﹂
88
僕は不安げにアラビーの顔を見上げる。
﹃女神クロニクル﹄は一切の残虐行為を制限していないから、や
ろうと思えば相手の指を一本ずつ切り落とすことだって、眼球を抉
ることだってできるのだ。想像しただけで怖い。
﹁あー⋮⋮マジで答えると、だな、問題にならないわけじゃない。
バーチャルリアリティの中でも人権は尊重される、って言葉、聞い
たことあるだろ。あれがバーチャル法の基本概念だから、このゲー
ム内でも適用される。ただその線引きがまだ緩くて今の所﹃リアル﹄
に影響を及ぼさなければ立件されることはまずない。もちろんゲー
ム内で拷問を受けたプレイヤの脳がマルチモーダルI/Fを介して
破壊されて、精神科医も太鼓判を押す発狂となれば明確な犯罪にな
る。プレイ記録とユーザの個人識別IDはゲーム会社が管理してい
るから、割り出すのは簡単だし、逮捕されるだろうな﹂
なるほど。噛み砕いて説明してくれたのだろうけど、ちょっと難
しい話だな。
﹃バーチャルリアリティの中でも人権は尊重される﹄の言葉は確
かに聞いたことがある。
ただ、今の話ではどこからが﹃リアルに影響を及ぼした﹄と判断
されるかがグレーだ。
例えばゲーム内で暴行を受けて、発狂まではいかなくとも鬱病を
発症したりすることはありそうだし、その場合はどうなるのだろう
?いや、鬱病の発症原因がゲームのこの時の暴行です、って証明す
るのは難しいか。
アラビーは言った。
人間の主体を意識だとすればリアルとバーチャルの線引きはどこ
までも曖昧である。きっと近年の技術革新に理念の整備が追い付い
て行かないんだろう。追いかけていては手遅れで、一歩先の未来へ
89
の対策を講じていかなければいけないのに、それができるのは技術
をビジネスに活かそうとする企業ばかりなのだから、と。
んん⋮⋮。アラビーって実はインテリ?
でも、言わんとすることは僕にだって分かるよ。
﹁あと、痛みに対する感覚はゲームの方で補正がかかっている。そ
うでないとバトルでモンスターに肩を食いちぎられた時なんか、や
ってられないだろ。この世界では、痛い、っていう感覚は度を過ぎ
ると、ある程度のマスクがかかるんだ﹂
﹁へぇー。じゃあ、見た目ほど痛くない、ってこと?﹂
僕は天井に吊り下げられて必死で苦しみに耐えているように見え
る女の子を眺めた。
脂汗なのか冷や汗かを流して苦悶している姿はどう見ても凄く辛
そうだけど、演技なのだろうか。
﹁規定量を超えないとマスクかからないし、その痛みの規定量が結
構高いからなぁ。心理学者とか脳科学者が割り出した﹃人が発狂し
ない程度﹄﹃バーチャル世界に適した限度﹄の痛みってどんな数字
なんだろうな﹂
要するに、アラビーにもよく分からないらしい。
そういえば、以前に僕が破瓜した時も両穴責められた時も、相当
痛かった。あの程度では多分マスクがかからないんだろうけど、あ
れより痛い、ってやっぱり怖いな。
﹁まぁ、ただ一つ言えることは、バーチャルでも犯罪は犯罪だよ。
他ユーザからの訴えでID規制かけられることもあるし、リアルで
90
逮捕されることもある。そこを上手く世渡っていかなきゃ、最終的
に痛い目見るのは俺らみたいな悪人の方だ﹂
自分を悪人呼ばわりするアラビーの顔を見て、なんだか不思議な
感じがした。普段の喋り口は割と穏やかだし、パッと見たところで
はどこにでもいる冒険者の風体だ。フェンデルもそうだけど、きっ
と悪人であるほど紳士的なんだろうな。
91
episode4︳2
小屋の中は薄暗いけど屋根の所についている窓が唯一の光源で、
そこから陽の光が降り注ぐように差し込んでいる。
ちょうど光が当たるところが自然のスポットライトみたいに真ん
中で縛られている女の子の体を照らしていた。
2人の男がその側によって中央に立ち、少し背の低い方が女の子
に向かって何か声をかけた。女の子は口枷をされているので返事は
できないが、力を振り絞って体を暴れさせ、縄と滑車をギシギシ、
カタカタ鳴らした。
もう一人の背が高い方が室内をくるりと見渡した。顔に光があた
ると、精悍な顔つきで師子王みたいな金のたてがみを持った男だ。
﹁あー、まぁ、説明する必要もないと思うが、今日は、この女を輪
姦す。やり方は分かってるな﹂
犯り方が分かっているか?ジョークだろうか。
念を押すような口調は低く通る良い声で、男は再び部屋を見渡し
た。
﹁やり方が分かってないヤツは周りに教えて貰え。女より身長の低
いヤツは指を咥えて見てろ。ルールを守らないヤツは叩き出す。今
日のイベントの主催はこの方なので礼儀を欠くことの無いように。
俺からは、以上﹂
ん??よく分からない。どういう意味?
92
よく分からないなりに見ていると、もう一人の男、こちらがイベ
ント主催者らしい、が口を開いた。頭にゆるいターバンみたいな布
を巻いている。装備は冒険者らしく整っているが、どことなく商人
風に見えるのはその帽子のせいだろうか。
男は愛想の良い顔でペコリとお辞儀をした。
﹁今日は皆さんお忙しい中、御足労様です。今日はですね、彼女、
チャコちゃんが一体どれくらいの時間で自分から欲しがるようにな
るかを計測します。チャコちゃんは今日、バハールの洞窟に潜って
ボス狩りをする予定でしたので、パワーオフ制限まで6時間以上あ
るはずです。既に彼女のログインから1時間が経っているので残り
5時間、が目算です﹂
こちらの時間で6時間、つまり現実世界では2.5時間か。ボス
狩りなら十分妥当な時間だ。
﹁もしも、パワーオフするまでレイプに耐えきったらチャコちゃん
の勝ちです。その場合、私は彼女にお詫びの上、その苦痛に見合っ
た賠償もする準備があります。ただし、チャコちゃんがパワーオフ
する前に自分から欲しがったら、一度でも皆さんの一物を欲しがる
ようなことがあれば、無し、です。なぜって、彼女が欲しがった物
を与えただけで私が謝ったり、賠償する必要は全くありませんから
ね﹂
男の説明を聞いて周囲の客達も軽口を叩いた。
﹁そりゃそうだ﹂﹁普通、自分から欲しがったりするわけないよな﹂
﹁チャコちゃん頑張れ﹂、などなど。
その一方で、チャコちゃんが何時間で堕ちるかを賭けている男た
ちもいた。
93
やっぱり僕は何となくルールが分かるような、分からないような
気持ちだったけれど、会場の異様な雰囲気と哀れな女の子、チャコ
ちゃんの媚態に興奮を覚えた。
チャコちゃんは口枷を外されて、喚き始めた。
﹁いやぁ! やめて! 離して! 誰か助けてぇ!誰か、誰か、お
願い、何でもするから⋮⋮ぁ、ひぃ、いや、やめ﹂
まだローブで隠れていた胸の部分をはぎ取られ、零れ落ちたのは
たっぷりとした脂肪の塊。人間の女の子の健康的なおっぱい。乳輪
が少し大きくて色は綺麗⋮⋮。
美味しそう⋮⋮と思ったところでさっきの男がそのおっぱいを舐
め始めた。
下から持ち上げるように揉みつつ、口でしゃぶる様に味わってい
る。
う⋮⋮うらやましい!
何事かチャコちゃんを挑発してもいるようで、内容は聞き取れな
かったけど、チャコちゃんは男を凄い目で睨んでいた。
﹁馬鹿にしないで! 自分からなんて、欲しがるわけないでしょう
!﹂
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱****。﹂︵良く聞こえなかった︶
﹁や、いやっ、やめてっ。やめなさい! いや、いやいやいやぁ︱
︱︱︱︱︱︱っ!!﹂
主催者の男が吊り下げられたチャコちゃんの腰を持ち上げて、下
から差し込むように挿入したのが分かった。
﹁ぐうっ⋮⋮﹂
94
男は最初少し手こずったようだった。
まぁ、あれだけの愛撫ではそうスンナリ入るものでは無いだろう。
期待していたのなら別だけど。
それでも、掴んでいた腰の角度を変えて、少しずつ埋めていき、
最後には根本まで入ったようだった。
眉間に皺を寄せて苦悶と屈辱の表情を浮かべながら、チャコちゃ
んは犯された。
暴れようにも、あの態勢からでは全く抵抗ができないだろう。体
重が下にかかる分、ペニスはいやがおうにも奥まで突き刺さるだろ
うし。
﹁くっ、うっ、っう⋮⋮くぅ、くぅ、くぅ⋮⋮﹂
かみ殺しても声が漏れるのかもしれないが、そのうめき声は子犬
のようだ。
最初の一回は皆、その様子を食い入るように見ていた。かくいう
僕も、目が離せなかった。
僕はレイプされたことは無いが、目の前のチャコちゃんの痴態を
見ながら、自分の体を無理やりこじ開けられるイメージに浸った。
男が気ままにチャコちゃんを揺する動きが激しくなり、それが止
まった。
ぶら下がったチャコちゃんの体を抱きしめるようにしながら、ど
うやら吐精したらしい。
チャコちゃんは泣いていた。
頬を滴が流れ落ちて、上から差し込む光に照らされてキラキラし
ていた。
95
可哀相だな、と思いながら、反面では僕もまた彼女に欲情してい
た。
ただ、僕の体には勃つ性器がなく、代わりにあそこがジンワリ濡
れてきた。
次に獅子髪の男が代わった。
獅子髪の男は相当体格が良くて、身長も高かったので、さっきよ
りも軽々っていう感じでチャコちゃんを犯した。
何の愛撫も前戯もなく、チャコちゃんの腰を物みたいに持ち上げ
て、一気に奥まで挿入した。チャコちゃんは短い悲鳴をあげた。
僕はチャコちゃんの心中を思った。
この状況では逃げられるわけもなく、たぶんパワーオフ時間はさ
っき言ってたみたいに5時間はあるだろう。もしかしたら、もっと
長いかもしれない。
小屋にいる男達はまだ10人以上控えている。
延々とこうやって犯され続けるのだとしたら、それは恐ろしいこ
とだ。
自分をこんな罠に嵌めた人間が許せないに違いない。
それはたぶん、この主催者の男と、獅子髪の男だろう。
パワーオフまで耐えきれば詫びると言った。
それは本当だろうか。
お詫びの言葉と賠償で許せるとは思えないが、死んでも自分から
欲しがったりするつもりは無い。
あぁ、誰か一人でも、この小屋にいる男達のうち正義感の強い誰
かが助けてはくれないだろうか。
もしくは、外から颯爽と飛び込んでくる正義のヒーローは現れな
いだろうか。
運営は、こんな残酷行為を見咎めてはくれないのだろうか⋮⋮。
96
僕は女の子だからか、チャコちゃんの気持ちがまるで自分のもの
のようにイメージできた。
しかし、そうやって悲嘆と絶望に染まる心中をイメージするほど
に、僕の中の暗い心は嗜虐的な悦びを覚えた。
3人目の男にバトンタッチされたタイミングで、僕は尋ねた。
﹁ねぇ、あの子、本当に自分から欲しがるようになるのかな?﹂
チャコちゃんはひたすらに目をつぶって耐えている。
3人目の男は言葉攻めが好きなようで、さかんに卑猥な言葉を浴
びせているようだった。
﹁ん?賭ける?﹂
﹁えー⋮⋮絶対ボクの分が悪いからなぁ﹂
﹁先になんでも質問に受け付けるぜ﹂
﹁うーん⋮⋮。じゃあ、質問だけど、何か媚薬みたいなものを使っ
てるの?﹂
快楽堕ちしちゃうような薬物の使用有無が気になる。
﹁いや、使ってない。獲物が喜んじまうようなのは好きじゃないん
だよ、あの人は﹂
あの人、と言って主催者の男を一瞥する。
﹁じゃあ、何か特別な取引が絡むの? 自分から欲しがればスグに
助けてやる、とか楽にしてやる、とか⋮⋮あ、そうだ人質が登場し
てこいつを助けたければ欲しいと言え、とか﹂
97
﹁そういう別の取引とか、脅迫は使わない。あくまで、あの女の自
由意思に任される﹂
﹁えぇ︱︱︱︱︱︱⋮⋮。そんなの、絶対言わないじゃん﹂
僕は、他にチャコちゃんが屈する、堕する要因を思いつかなかっ
た。
﹁じゃあ、さっきの話ぶりから、このイベントは初めてじゃないん
でしょ? 今までの女の子達の結果はどうだったの?﹂
﹁あぁ、いい質問だね﹂
そう褒めてくれたのは隣のフェンデルだった。
﹁今日で似たような趣向は4回目。でも、1回目と2回目は割とグ
ダグダになったから、ルールも状況も同じようなシチュエーション
としてはまだ2回目だな﹂
﹁そうですね。こういうスタイルで遊ぶようになったのは前回から
ですね。あの滑車も前回は無かったですし、段々舞台装置の手が込
んできたというか、洗練されてきたというか﹂
﹁あいつ、こういうの凝るタイプだからな。まぁ、完成度が高い映
像の方が売れるだろうけど﹂
ログ・クォーツ
﹁今日も撮ってますか?﹂
﹁あそこで、記録水晶に撮ってる﹂
﹁彼の場合売り物にせずに自分のコレクションにしそうですね﹂
﹁そうだな。その辺が俺らとの違いだ﹂
フェンデルとアラビーが話し始める。放置気味の僕が割って入っ
た。
﹁で、回答は?﹂
98
﹁あぁ⋮⋮、前回は女の負け。主催者側の勝利、だったな﹂
﹁ふぅん⋮⋮﹂
やっぱり何かからくりがあるんだな、と思いながら、僕は賭けに
は乗らないことにした。
4人目にバトンタッチするところで、チャコちゃんが一際大きな
叫び声をあげた。
﹁もういや︱︱︱︱︱︱︱︱っ! 助けて! 何でもするから、お
願い! 何でもします!﹂
ヒステリックな叫び声で叫んだ後にむせていた。
すると、哀れに思ったのか、そんな慈悲の心があるのかどうか疑
問だが主催の男が言った。
﹁では、チャコちゃんも大変ですし、10分休憩にしましょう﹂
まるでスポーツの監督でもしているかのような口ぶりで、彼はに
っこり笑った。
99
episode4︳3
休憩は最初、3人済んでから10分取ったが、チャコちゃんの疲
労が激しかった為か、そのうち1人毎に5分、2人毎に10分とい
うように不定期に取られるようになった。
2時間が経過したところでもうチャコちゃんは喚いたりしなくな
った。ただ、必死で耐えている様子だった。たまに水を欲しがった。
僕はこの世界での渇きや食欲についてぼんやりと考えながら、ゆ
らゆら揺れるその女性の肉体を飽きもせずに眺めていた。
一度、僕とチャコちゃんは目が合った。
すると、チャコちゃんはハッとしたような表情を見せ、それから
一瞬凄い目つきで僕を睨んだ。
彼女から感じた憎悪はこのケダモノの巣で片や蹂躙され尽くして
いる自分と、片や傍観者となって守られている僕の立場の差に向け
られたものだろうと思う。もしかしたらその怒りは自分を犯す男達
よりも、女である僕に対する方が強く向けられるのかもしれない。
だけど僕はそのことについて申し訳なさより優越感を感じてしま
うし、僕自身が彼女を滅茶苦茶にする列に加わりたいと思った。
テルテル坊主みたいに吊り下げられて玩具にされるチャコちゃん
を眺めながら、アラビーは僕を後ろ抱きにして胸や太ももを触って
いた。
お尻にあたる一物は少し固くなっていて、ゆるやかな興奮を示し
ている。僕の身体も同じように軽い欲情状態をキープしていた。欲
情アイコンが表示されちゃいそう。スイッチが入ったらいつでも臨
100
戦態勢になりそうだ。
﹁アラビーさん、いかがですか?﹂
﹁あぁ、お疲れ様です。今日はお招きありがとうございます﹂
﹁そんな丁寧なあいさつは恐縮ですよ。すみません、お声をかける
のが遅くなって﹂
主催者の男は帽子に手をやった。
アラビーは少し砕けた調子で言った。
﹁いや、楽しんでるよ。連れも。ありがとう﹂
僕は身を起こしてスカートの裾を払っていたが、二人がこちらを
向いているのに気づいて頭をぺこっと下げた。
﹁初めまして。リリスです﹂
﹁やぁ、可愛い御嬢さんですね。私はノルデです。よろしく﹂
ノルデは白っぽい一枚布を巻いたような服の腰にバックルベルト
をしていて、その上に濃緑のマントと同じ色のターバン風帽子を身
に着けている。
愛想よく笑いながら手を差し出してくるので、握手した。嫌味の
無い握り方で、如才無い営業マンみたいだ。
﹁今日の首尾はどうなんだ。前回はこれくらいの時間で堕ちたんじ
ゃなかったか﹂
﹁えぇ、あと残りあと2時間ですが、チャコちゃんはしぶといです
ね。もしかしたら、制限時間まで耐えきるかもしれません﹂
﹁その場合、途中で何か仕掛けはするのか?﹂
﹁いえいえ、そんな卑怯なことはしませんよ。このフラットな状況
101
での勝負が楽しいんですから。私が負けてもそれはそれで一興でし
ょう﹂
﹁さっきリリスも言ってたけど、媚薬を使う気は無いんだな﹂
﹁はい、使いません。吊りゲームには必要ありませんから⋮⋮と、
いけない、交代の時間ですね。次、アラビーさんいかがですか?﹂
見ると、さっきまでの男から解放されたチャコちゃんが、寂しく
一人でぶら下がったまま、足を震わせていた。
﹁じゃあ、お言葉に甘えて。リリスもいいか?﹂
﹁もちろんです。いい画になりそうですね﹂
そうしてアラビーと一緒にチャコちゃんのところまで近づいて、
間近で見るともうその体はボロボロだった。膝は際限なく震えてい
るし、縛られた手首の先が全体的に赤くなっている。足の指先が指
す床に血が付いているから何かと思ったら、どうやらつま先に血膨
れができてそれが破れたようだ。
また、唇を噛みしめた為か、口から少し出血した形跡がある。そ
して、局部から太もも、膝小僧くらいまで男の精液が流れて乾燥し
た幾筋もの線がある。
可哀相だけど、今の僕にできることは何も無い。
﹁触んないでよっ!!﹂
何となく触れようとしただけなのに、さっきまでの衰弱ぶりはど
こへやら、凄い剣幕で一喝された。僕は思わずビクッ、としてしま
った。
﹁なんだ、まだ元気じゃねぇか。これなら、確かに制限時間まで耐
えきるかもな﹂
102
アラビーはチャコちゃんの背中を片手で軽く押した。
﹁うっ、ぁあ、っ⋮⋮や、め﹂
つま先がたたらを踏み、チャコちゃんの身体が揺れる。
同時に縄がギシギシと揺れ、腕に強く食い込む。
﹁⋮⋮ご、めんなさい。お願い、やめて⋮⋮﹂
チャコちゃんはすぐに恭順の態度に代わった。
アラビーは揺れるチャコちゃんを支えて姿勢を固定すると、下半
身に少し挿入した状態で、その腰を抱き上げて奥まで差し込んだ。
﹁う︱︱︱︱︱⋮⋮っ﹂
チャコちゃんは足をアラビーの身体に巻き付け、足をクロスする
みたいにして固定した彼女はさっきからずっとあれだが、あの姿勢
が楽なのかもしれない。
﹁なんだ、もう緩いな。こんなシチューを掻き混ぜても楽しくない。
おい、もっと締めろ﹂
アラビーはそう言うが、チャコちゃんの反応は無い。
﹁ったく。リリス、後ろ、弄ってやれ﹂
﹁うん? 分かった﹂
こっちこそ見てるだけじゃ楽しくない、と思っていたところだ。
僕は喜々としてチャコちゃんのお尻を撫で、そのまろやかさに感
103
動した。
﹁や、やだ⋮⋮﹂
チャコちゃんのお尻は綺麗だった。アナルも引き締まっていて、
未使用っぽい。
僕はこれでも経験者ですからね。えへん。
どうすればイイかは分かっている。
ちゅぱっ、と自分の指を口に含んで濡らし、つぼみに押し込んだ。
﹁うう︱︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮いや、ぁ⋮⋮﹂
﹁あぁ、締まり始めた。よしよし﹂
お尻は細い指だとしてもあまり急にズボズボしない方がイイんだ
よね。
じわじわ突っ込んで、第二関節まで入ったところで、指をかぎ型
に曲げて、内壁を弄る。
﹁あぁっ! やめて!﹂
こっちは初体験なのだろうか。
いい反応だ。
僕は指を入れっぱなしで中を掻きませた。
チャコちゃんのお尻が僕の指に絡みついて凄い力でぎゅうぎゅう
してくる。
前を犯しているアラビーが腰を打ち付けた。
﹁リリス、上手いんだな。チャコちゃんが濡れ始めたぜ﹂
104
﹁え? 本当?﹂
なんか嬉しい。
やっぱり少しは気持ち良くなってもらわないとね、可哀相じゃん。
図にのった僕は片手の指をチャコちゃんのお尻に収めたまま、空
いている方のもう片手をアラビーとチャコちゃんの接合部に這わせ
て、そこをまさぐった。
バッチリ二人が繋がってる所に指が触れると不思議な感じだった。
それから指の位置をずらして、チャコちゃんの花芽を探り当てる。
⋮⋮ん、あった。
﹁やぁっ。そこは、だめぇ!﹂
チャコちゃんの身体がビクっと震えた。
﹁ここ、気持ちいいでしょ﹂
クリクリと愛撫すると花芯の周囲からも愛液が滲んでくる。
﹁だめ、だめぇ⋮⋮だめ、だっ、めぇええっ。ぁ、だめったら、ら
め⋮⋮﹂
﹁頑張ってるチャコちゃんにご褒美だよ。イかせてあげる﹂
じゅぶ、じゅぶ、と膣はペニスに可愛がられて、お尻は僕の右手
の中指、クリは僕の左手の人差し指で刺激される。
クリを弄る指の刺激を強めながら、僕は﹃あぁ、右手を前にすれ
ばよかった﹄なんて他愛無いことを後悔した。左手の指を器用に動
かすのは苦手だ。僕は右利きだし、ピアニストでも無い。
105
しかし、そんな僕の愛撫もチャコちゃんは気に入ってくれたよう
で、頬を紅潮させて、艶っぽく喘いだ。
﹁らめ、らめなの⋮⋮やぁっ⋮⋮いく、いっちゃう、やら、ひどい、
ひどいよぉ⋮⋮っんんっ、んんんんぁあ、あ⋮⋮あああああああ︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
チャコちゃんの身体が一際強く震えた。
アラビーは上手に吐精したみたいだ。流石、男優︵?︶。
最後に僕は、ずっと気になっていたチャコちゃんのたわわなおっ
ぱいにキスをした。顔を受け止める弾力は吸い付くみたいに柔らか
くて、むにむにしていて気持ち良かった。
﹁お疲れ様﹂
壁際で待っていたフェンデルが言った。
僕はちょっと興奮でハイになっていて、思わずフェンデルに抱き
ついてしまった。
﹁どうしたの?﹂
﹁すごかったよー﹂
両手で抱きついて、胸板らへんに顔をうずめるようにして言った。
﹁ボクも巨乳にすれば良かった!﹂
もう遅いけど。
﹁あと、お尻の良さが少し分かった。今ならフェンデルの気持ちが
106
分かる﹂
﹁それはそれは⋮⋮。じゃあまた挿れさせてね﹂
ん?
なんかおかしくない?
そして、僕を引っぺがすようにして、アラビーの方に押し付けた。
﹁でも、あんまり僕にベタベタするとアラビーさんが焼きもち焼く
から、ちょっと離れてね﹂
﹁へ?﹂
﹁焼かねーよ﹂
顔を見上げるとデコピンされた。
痛い。
僕、何も言ってないよ。
107
episode4︳4
その後、僕は一旦、ホームポイントまで戻ってパワーオフ時間の
延長をしてからもう一度、戻ってきた。
輪姦はつつがなく?と言ったら変だけど順調に進行していた。正
義の味方も現れなかったし、内輪揉めも起きなかった。暇を持て余
していた男達は隅の方でトランプを始めたり、煙草を喫ったりして
寛いでいた。
途中、アラビーが言っていたみたいに少しチャコちゃんの股具合
が緩くなってきたみたいで、対策として後ろにバイブが入れられる
ことになった。
僕が指突っ込んだ後にアナル好きの誰か彼かがお尻も使用したみ
たいだけど、流石にバイブを入れられた時のチャコちゃんの反応は
大きかった。
﹁いやぁ、もう、これ以上、やめてよぉ⋮⋮もう、やめてぇ⋮⋮ぇ
⋮⋮つ、うっ﹂
バイブじゃなくて、ディルドと言った方が正しいのか。
プラスチックじゃないだろうけど、ぬるりとした質感の男性器の
模造品︱︱︱︱︱︱象牙らしい︱︱︱︱︱︱がチャコちゃんの排泄
の穴に押し入る。
﹁あ、やめ、やめてっ⋮⋮ひぃ、いいいい︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱っ!!!﹂
前を犯している男にわずかに自由が効く両肘で頭にしがみつく様
108
にして、お尻に入った異物を抜こうと力を込めている。
﹁抜いて、いやぁあああ、お尻は、いや、そんなっ⋮⋮お尻はいや
なの。お願い抜いてぇ﹂
しかし、ノルデは意に介さない。
ちょうど順番でチャコちゃんを抱いている男が言った。
﹁凄い、前が締まって。しかも、濡れてきたみたいだ﹂
﹁おや、意外とお好きなんじゃないですか﹂
ノルデはチャコちゃんのお尻のバイブを更に奥に押し込んだ。
﹁ぎゃやっ、ゃああっ⋮⋮!!いや︱︱︱︱︱︱!っ!!﹂
﹁ほら、ちゃんと締めて落とさないようにしてください。でないと
バイブを増やしますよ﹂
脅されたチャコちゃんは絶望的な表情を浮かべて、うめき声を漏
らした。だけど、言われたことが怖かったのか、お尻の方も前の方
も一生懸命やっているようだった。
しばらくして二本挿入にも慣れ始めたみたいだけど、でも、一向
に快楽に染まって来た様子も無くて、どんどん疲弊していくのが傍
目にも分かった。
3時間が経過したあたりで、チャコちゃんに少し変化が現れた。
もう辛さが限界を迎えているようで、譫言のように﹁お願い﹂と
繰り返すようになった。壊れちゃうんじゃないかと心配したけれど、
意識の方はハッキリしているようだった。
﹁お願い⋮⋮⋮⋮﹂
109
何をお願いしているのか、と言えばもう助けて、もう止めて、と
いうことなのだろう。ただ、ちょっとアレ?と思ったのが、犯され
ている時は静かで、解放されて休憩している時間に﹁お願い﹂を呟
く点だった。
﹁早く⋮⋮お願い⋮⋮﹂
苦しげに呻き、近くの男の顔を見て、懇願するように繰り返す。
﹁早く、もう⋮⋮お願いだからっ!!﹂
チャコちゃんの声が一際大きくなった。おや、と思い、この頃に
は自由に雑談しあっていた周囲の参加型観客もチャコちゃんの方を
注目した。
主催のノルデが再びチャコちゃんの近くに歩み寄って、尋ねた。
﹁何を、早く、お願い、なんですか?﹂
すると、チャコちゃんは、泣きくれて少し腫れぼったい目で、ノ
ルデの方を見た。もう、その表情には何の敵愾心も、反抗心も残っ
ていない。きっとそんなエネルギーは使い果たしたのだろう。
﹁早く、終わらせて⋮⋮﹂
﹁そのお願いは聞けません。もう少しの辛抱ですよ。でも、そうで
すね、そんなに辛いなら、休憩時間をもう少し伸ばしましょう。あ
と20分、休んでいてください﹂
すると、チャコちゃんの顔に驚きと絶望の色が浮かんだ。
110
﹁い、や⋮⋮。お願い、休憩は要らないの。もう、無理。お願い、
もう、縄を解いて﹂
ふぅ、とノルデはため息をついた。
﹁残念ながら、この場でチャコちゃんにできる﹃お願い﹄は一つだ
けです。そういうルールですから﹂
室内には静寂が満ちていた。
皆がチャコちゃんの次の言葉を待っていた。
哀れに吊られた彼女の腕は、もう紫色に変色しているし、足の指
先から流れる血の量も増えている。
そこで鈍感な僕も初めて、このゲームのルールが分かった。
快楽による堕落ではなく、苦痛に寄る堕落が、本質なのだ。
﹁お願い⋮⋮早く、抱いて。できるだけ、体の大きい人に、抱いて
欲しいの。もう、腕が、肩が、限界⋮⋮﹂
ノルデは満足そうに、だが冷酷に笑った。
﹁抱いて、じゃ分かりませんね。何をどうして欲しいのか、ハッキ
リ言ってください。皆に聞こえるような、大きな声で﹂
チャコちゃんの瞳から枯れ切ったはずの涙が溢れた。
﹁私のあそこに、体の大きな人の、ペニスを、入れてくださいっ!
お願いします!!﹂
111
わっ、と周囲が沸いた。
この瞬間、賭け事の勝敗が決まったのだ。儲けたものもいれば、
すったものもいる。
﹁あそこじゃ分かんねぇぞー﹂と誰かが野次を飛ばした。
﹁体大きいヤツ、ご所望だってさ﹂
﹁誰か、入れてやれよ﹂
満足そうに獅子髪の男が歩み寄り、言った。
﹁俺が入れてやろうか﹂
彼はきっとチャコちゃんを騙して連れてきた一味の主犯格の一人
なのだが、チャコちゃんはそんなことはもうどうでもいいようだ。
獅子髪の男は文句なしに背も高くて体が大きい。
﹁はいっ⋮⋮! お願いします!﹂
﹁じゃあ、もう一度、どうして欲しいのかきちんと言ってみろ。あ
そこじゃ分かんないよなぁ﹂
﹁はっ、はい⋮⋮。チャコのおまんこにペニスを入れてください!
!﹂
チャコちゃんの即答に耳を傾けていた観客の一人が、笑った。そ
の笑いが伝播して、皆が声を立てて笑った。チャコちゃんは顔を赤
くして視線だけを床に落として屈辱に耐えていた。
獅子髪の男も笑いながら、チャコちゃんの腰を抱き上げた。チャ
コちゃんは必死で足を男の胴体に絡みつかせる。男は上背がある為、
チャコちゃんの身体が浮かぶと腕の所にも余裕ができて、紫色に変
色していた腕がまた少しずつ血色を取り戻していった。
つまり、吊られているより犯されている状態の方が、体が楽なん
112
だ。
﹁あっ、あっ、あっ⋮⋮⋮⋮⋮⋮、いい、いっ⋮⋮ん、ぁあ、ん⋮
⋮﹂
不思議なことにチャコちゃんはその敗北を契機に犯されながら快
感の声をあげるようになった。休憩は無しで、それから連続で数人
がチャコちゃんを抱いた。
﹁良さそうだね、チャコちゃん﹂
﹁ぁ、っ⋮⋮んっ、はい、あっ、あっ、ん﹂
ゆさゆさと揺らされながら、チャコちゃんは安堵の表情を浮かべ
ている。ふと、チャコちゃんのまぶたが半分開いて、どこか眠た気
なうっとりとした視線が彷徨った。その顔つきに、僕は釘付けにな
った。
チャコちゃんは悪夢の中でまがい物の幸せを信じてしまったよう
だ。どんなに痛そうに苦しそうに歪む彼女の顔よりも、この時、口
元に浮かんだ微かな微笑みの方が僕には印象深かった。
それから再び犯されている最中のチャコちゃんにノルデが何か話
しかけた。今度も内容は聞き取れなかったけど、チャコちゃんは頷
いた。すると、ノルデの部下らしき男が滑車の縄の先に向かって歩
き、それを外し、ゆっくりとチャコちゃんの体を降ろした。
その言葉を言えば解放する、なんてルールでは無かったが、実際
の所はそのつもりだったようだ。もしかしたら、チャコちゃんも一
面ではその可能性に賭けたのかもしれない。
ゲームは終わったのだった。
その後、チャコちゃんは速やかに回復魔法をかけられ、腕と肩を
113
マッサージしてもらって、体も拭いてもらっていた。
ぐったりとした体は水揚げされた魚のように力ない。ただ、陰部
や胸を拭かれると時折体をヒクヒクと動かせた。開いた口からは意
味を成さない﹁ぁ︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱﹂という喘ぎ声だけが
漏れている。
イベントとしてはここまでで、観客は解散となった。その後の﹃
二次会﹄があったみたいだけど、僕は行かなかった。
なぜなら、緩やかな欲情状態を続けた僕はもうコトを最後まで見
届ける余裕が無くて、アラビーの首根っこを摑まえるようにしてさ
っさとオタノシミにしけこんだからだ。
上からかぶさるようにして抱きつき、アラビーの服の下半身だけ
を引っぺがしたところ、﹁がっついてんな﹂と笑われた。
僕は仰向けになったアラビーの上に跨り、陰部をこすり付けた。
騎乗位の姿勢で自分から挿入し、ゆっくり埋もれていく杭の気持ち
良さに息を漏らした。ようやく欲しかったものを中に収めることが
できた、って感じ。
自ら腰を振って桃色の髪を揺らしながらついチャコちゃんの事を
考える。
あんな酷い目にあった彼女が再びまたこの世界に戻ってくること
があるのだろうか。それとも、アバターを変えて何食わぬ顔でリプ
レイしたりするのだろうか。
でも、例えこの世界に戻ることが無くても、過去を消してリプレ
イしたとしても、ああやって自ら堕してしまったチャコちゃんは、
もう二度と普通の生活に戻れないんじゃないかなぁ。
114
episode4︳4︵後書き︶
episode4 完
115
episode5︳1:仲間
まぁ、そんなこんなで⋮⋮ってどんなこんな?
僕はちょこちょこ﹃女神クロニクル﹄にログインしては仲良くな
った面子と会話したり、エロい遊びをしてみたりして、平和な日々
を過ごしていた。
そんな中、突如新しい街に移動する気になったのは、実にゲーム
を初めて2週間も経たないある日の事だった。
理由は単純だけど、事情は少し込み入っている。
僕はこの世界でエロいことができればいいや、と割り切ってプレ
イしていたのだけど、街の外へ冒険に出てみたい気持ちが沸いてき
たのだ。主に徒歩でLvが結構上がって来たので現段階での実力を
試してみたいし、できることなら、﹃暴食﹄スキルも覚えたい。
今の所、趣旨替えして、魔物討伐やダンジョン制覇に精を出そう
という気は無い。単純な興味本位の範疇だ。
⋮⋮だけど、そうした場合に僕がこの街を拠点に動こうとすると、
不都合がある。
というのも、僕の知り合いに冒険姿を見られたくない。つまり僕
がレアスキル﹃超越せし乙女﹄を持っていること誰かにがバレるこ
とを避けたいのだ。
この件について僕は色々考えた挙句﹃超越せし乙女﹄を習得して
いることをとりあえず己の胸に秘めておこうと決めた。
本当はアラビーやフェンデルにこのレアスキルの存在を打ち明け
ることができれば冒険だって話は早い。
彼らはいつでも僕をパーティーに入れてくれると言うし、二人と
116
も熟練プレイヤーで頼もしいから、冒険も楽しくできるだろう。
⋮⋮が、僕は彼らに秘密を打ち明けることの影響を考えて躊躇し
てしまった。
先日、噂の修道院に行ってアラビーの﹃お仕事﹄を見せてもらっ
た。
そこで行われていたことの一部始終は思っていたより悲惨ではな
くて、この前の﹃吊りイベント﹄よりはずっと心が痛まなかった。
処女を散らされる女の子達も、僕がイメージしていたみたいに物
として扱われたり、酷い強姦をされるわけではなかった。
曰く、最初の破瓜が精神的にトラウマになったら、次回ログイン
して修道院に戻ってくる確率が下がる為、らしい。
修道院の調教施設は徹底して女の子を快楽堕ちさせることを目的
としていて、そこに傷つける為だけの陰惨な暴力や流血が割り込む
余地は無かった。
場合に応じて媚薬も使うし、基本方針は﹃飴﹄と﹃鞭﹄と﹃飴﹄。
女の子達が抵抗しながらも徐々に快楽に染まっていく姿は桃源郷
かと思うほど退廃的で淫靡だった。
だけどやっている事は犯罪だよな、と思いつつ僕は熟考したのだ。
もしも、僕が﹃超越せし乙女﹄のレア取得方法をアラビーに教え
たらどうなるだろう?
修道院の﹃お仕事﹄を見て思ったことは、これは決して目先の快
楽の為じゃなくて﹃ビジネス﹄なのだということだった。
アラビーは多分、この世界でビジネスを効率よく回して金銭や裏
社会のネットワーク、そこから発生する権力という利益を得ること
の方を優先している。僕みたいに単純にエロいことを楽しむことを
第一の目的にしているわけじゃない。
その遊び方自体は別に嫌いじゃないし、悪い男もカッコいいんじ
117
ゃない、と思う。
でも、﹃超越せし乙女﹄のレア取得方法を知ったアラビーはその
情報を何らかのビジネスに利用する可能性がある。
そして、その利用方法を想定すれば、当然﹃女神クロニクル﹄に
初めてログインした超初心者の女の子たちが右も左も分からない状
態で拘束されて、レイプされるに違いなかった。
もちろん﹃超越せし乙女﹄の有効な利用方法もよく分かっていな
い僕なので、それは根拠のない可能性である。
だけど、可能性の問題として、僕は、僕が漏らす情報によって、
この先たくさんの女の子たちが悲惨な目に合うのはちょっとやり切
れない。僕は先日の吊りイベントだって結局楽しんだし、このバー
チャル世界で女の子の一人や二人をレイプするくらいは平気だ、と
思う。
だけど、この先何人もの女の子が僕の知らないところで﹃僕のせ
いで﹄苦しむことを想像すると、流石に良心が痛むのだ。
この良心の線引きは曖昧だ。
僕はアラビーのやっているビジネスには惹かれる。それを眺める
のも楽しいし、アラビーの配下として働くこともできるだろう。
⋮⋮でも、アラビーの立場に立ち替わることができるかというと、
そちら側には周れない気がする。
トップに立って罪の矢面に立つほど僕は強気な性格じゃない。そ
こまでビジネスライクに割り切ることもできない。
要するに、勇気の問題なのかな。
僕は﹃超越せし乙女﹄の取得方法を漏えいすることでたくさんの
女の子が苦しむ可能性、そこに生じる罪を全面的に背負う勇気が無
いのだ。
118
まぁ、だからと言って絶対に漏らせない、っていうほどの強固な
正義感じゃないし、多分拷問でもされたらホイホイ喋っちゃうとは
思うんだけど。とりあえずは、秘密にしようと思っている。
そしてその為には、僕はこの街から離れたどこかを拠点にして冒
険をする必要があった。
﹁ちょっと、他の街に遊びに行ってきます﹂
僕は、まるで﹃お母さん﹄に外出の報告をする子どもみたいにア
ラビーに言った。
暗くなる前に帰るのよ、とか言われたりして。
﹁何しに?﹂
﹁色んな街が見てみたいだけ﹂
﹁ふーん⋮⋮いいと思うけど、一人は危ないぞ﹂
﹁大丈夫。無茶しないから﹂
﹁前も言ったけど、ついていってやろうか?﹂
﹁ううん。あてもなくフラフラしたいから、いい。アラビーだと熟
練者過ぎて、僕がついていく形になっちゃうし﹂
﹁それはそうかもな。でも、リリスも分かっていると思うけどこの
世界で女キャラが一人でフラフラするのはリスクが高いぞ。痛い思
いしたいなら別だけど﹂
﹁うん⋮⋮﹂
確かに、それはそうなんだ。この街の中ですら、危険はたくさん
あった。
傍目には普通のロールプレイングゲームと変わらないんだけど、
20禁の規制はこけおどしではなく、危険は結構見えないところに
潜んで、獲物がかかるのを待っている。
僕は運よく今まで痛い目を見ずに済んでいるけど、それはやっぱ
119
りアラビーの女だから、っていう理由に拠るところが大きい。
﹁まぁ、なるべくパワーオフ時間を短く設定してちょこちょこ遊ん
でみるよ﹂
それくらいしか解決方法は浮かばなかった。ただし、これは危険
を避ける手段ではなく、危険に陥った時に最低限の被害で逃げる為
の手段だ。
﹁危なっかしい返事だな。やっぱり俺をつれてけよ﹂
﹁いい、いいってば。大丈夫﹂
﹁じゃあ、代わりに誰か信頼できる奴つれて行け。フェンデルでも
キマイラでも﹂
﹁やだよー。なんかさ、監視されてるみたいじゃん﹂
監視、はちょっと言い過ぎかなと思ったけど、アラビーは気を悪
くした風も無かった。
﹁しかたねーな。じゃあ、とっておきを付けてやるから、待ってろ﹂
そう言い残して、部屋を出て行った。
なんだろう?と思いながらイイコで待っていると、しばらくして
戻ってきた。
﹁はじめまして。わたし、サイミンといいます﹂
﹁あ、はじめまして﹂
アラビーが連れてきたのは金髪の可愛い女の子だった。
その、サイミンという彼女のお辞儀があまりに丁寧だったので、
ベッドの上で寝転がっていた僕は恥ずかしくなってその場で正座し
120
て一礼してしまった。
﹁この子は?﹂
﹁高度人工知能キャラ﹂
﹁高度AI?﹂
僕の質問にYESと答えたのは本人だった。
﹁はい。人工知能レベルXクラスが実装されています。X−AI−
MINNです﹂
﹁X!?﹂
C−AIでも、S−AIでもなくて?
するとサイミンは嬉しそうに微笑んだ。
﹁すごい⋮⋮!﹂
思わずマジマジと見てしまう。
サイミンはそのキャラを活かすためか、ロボット娘みたいな外見
をしている。金色の髪の毛は耳の下で切りそろえてあるボブ、青い
制服みたいな服装をしている。膝丈のスカートから伸びる脚がちょ
っと魅力的。ハイヒールを履いていることを差し引いても僕より背
が高い。帽子も制服とお揃いで、一時代昔のエレガか、スチュワー
デスさんみたいだ。
121
episode5︳2
最近のゲーム内のNPCキャラは知能レベルがアルファベット順
に格付けされる。
﹃A﹄が一番低くて、こいつらは予め入力された1パターンの出力
を繰り返すだけ。つまり、便宜上A−AIと呼ぶけど、実際は人工
知能なんて一切搭載されていない。
﹃B﹄∼﹃E﹄もこの延長線で、予め準備されているプログラムの
複雑性でレベル分けされているだけだ。数パターンの出力をランダ
ムで繰り返すだけのものから、たとえば天気や、相手の性別に応じ
て会話を切り替える、もしくはある程度の予想される会話のキャッ
チボールが続く様に作られているものまでいる。
﹃F﹄は真っ新のAIの基礎プログラムで﹁○○って何?﹂が口癖。
﹃G﹄∼﹃J﹄は予め入力されている情報と外部から新しく仕入れ
た情報を繋ぎ合わせてある程度の会話が成立する。
﹃K﹄∼﹃O﹄になってくるとちょっと会話しただけではNPCか
どうかの区別がつかない。仲間にするAIレベルとして人気で、ゲ
ーム内で接客業やハートフルなイベントを演出したりするのもこの
辺りだ。
﹃O﹄より上になると高度AIと呼ばれて、そう容易く使われな
い。理由は所謂﹃高価なプログラム﹄だから。高度AI、1キャラ
分でゆうに下位キャラ一万人分のリソースを食うという話を聞いた
ことがある。その特徴は入力に対する高度な学習能力と出力パター
ンの多様性。バックボーンにはサーバー側の高度な演算処理がある。
今まで僕がやってきた他ゲーム内でもお目にかかったことは滅多
に無い。最近では徐々に高度AIも安くなってきたらしいし、﹃女
神クロニクル﹄は大ヒット作品だから資金もあるのだとは思うけど、
122
それにしたって﹃X﹄かぁ⋮⋮。
﹁どうやって手に入れたの?﹂
﹁手に入れたなんて言い方するとサイミンが傷つくぞ﹂
えっ、と思ってサイミンの方を向いたが、サイミンは首をかしげ
ていた。
どうやらからかわれたらしいけど、でも確かに言葉には気を付け
た方がいいのかも。おいそれとモノ扱いするのも躊躇われる。
しかし、そんな僕の改心を踏みつけるようにアラビーは言った。
﹁勇者からもらった﹂
﹁勇者からもらった?﹂
﹁あぁ、俺が勇者から結構高い値で買った。奴隷商に売るよりは中
間マージンが発生しない分、勇者も俺も双方満足する取引ができた
と思う﹂
ええ?勇者が人を売ったりしていいの?
﹁色々聞きたい点はあるけど、まず、アラビーは勇者の友達がいる
んだね﹂
﹁友達っつーか、常連客だ﹂
﹁しわ花街の?﹂
﹁いや、修道院の。勇者は金持ってるから、時々処女買いに来る﹂
﹁ええっ!?﹂
今度こそ僕は叫んでしまった。
だってさ、勇者が処女買いに来るか?修道院の客ってことは、﹃
乙女散花﹄を行使して可哀相な女の子犯すってことだよ?そんなの
勇者じゃない!
123
﹁勇者ってのも称号だから、色んな奴がいるさ﹂
そうかもしれないけど⋮⋮。なんか納得できないものがある。
﹁ちなみにその勇者は眠ってる無抵抗な女の子を犯すのが好きだ﹂
﹁うっわ、最悪﹂
﹁修道院の客としては有難いんだけどな。破瓜がトラウマになりに
くい﹂
﹁前のご主人様のお話ですか?﹂
サイミンが言った。
おお!自発的に会話に入ってこようとする時点で凄い知能。
﹁そう。勇者アレスの話﹂
﹁アレスさんは最悪ですか?﹂
﹁えっ、いや、ごめん。そういう意味じゃないよ﹂
僕が訂正すると、サイミンはまたきょとんとして首をかしげた。
可愛い。ちょっと吊り目だけど杏みたいな大きな瞳。透明なリッ
プを塗ったような小さな唇。黙っているとちょっとツンとして見え
る。動物に例えるなら猫。毛並のいいロシアンブルーだ。ハッキリ
言って、僕の好み。ロリもいいけど御嬢さん風というかお姉さん風
というか、このバランスがいい。
﹁AIキャラなら大原則として個人に関わる情報を他のプレイヤに
漏えいしないから、安心だろ﹂
﹁ん﹂
僕は何となく、自分の腹の内が読まれているみたいで何と答えて
124
良いか言葉に詰まった。
もしかして、﹃超越せし乙女﹄を内緒にしようとしているのがバ
レてる?
﹁どうせ、俺にも秘密にしたいようなエロいこと考えてるんだろ﹂
﹁うっ!!﹂
違う!と言いたかったが、⋮⋮半分は当たっている、かも。
﹁縛るつもりは無いって約束したから、自由にさせるけど、あんま
り他の男に安売りするなよ﹂
そう言ってアラビーはベッドに座ると、僕を抱き寄せて右頬にキ
スをした。
なに、この人、この余裕!⋮⋮カッコつけ過ぎじゃない!?
﹁ぁ、ありがとう。ちゃんと、帰って来るから﹂
﹁はん⋮⋮、まぁ、振られるにしても、最後の挨拶には来てほしい
かな﹂
ごく自然にブラウスのボタンが胸元の2つだけ外されて、手が差
し込まれる。
あ、やっぱ前言撤回で。紳士はこんなことしないね。
手のひらに収まるリリスの小さなおっぱいが、やわやわと揉まれ
る。手のひらで優しく撫でられると、いつまでもそうして欲しいく
らい気持ちいい。
目元を舐められてゾクリとした。髪を掻き揚げられると耳も感じ
てしまう。本当に、このリリスの身体は感じやすい。おへそ周りを
くるりと指でなぞられれば、下半身が熱っぽくなってくるし。
125
﹁ぁ、だめ、サイミンがいるのに﹂
サイミンは涼しげな顔で直立してこちらを見ている。しかし、ア
ラビーは構わずに僕の膝の間に手を入れてきた。
﹁どうぞ、わたくしのことは、お気になさらず続けて下さい﹂
﹁いや!気にするよ!これから仲間になろうとする子に恥ずかしい
とこ見られたくないし﹂
﹁あ、連れて行く気になったか?﹂
﹁え、うん。だって、確かに一人は心細いし、この子、強いんでし
ょ?﹂
﹁ああ、後でステータス見せてやる。とりあえずやろう﹂
﹁うわぁああん﹂
僕はあっけなくベッドに押し倒された。髪の毛が乱れて顔にかか
ったので、ピンクでサラサラのそれを手で振り払っている間にスカ
ートをまくり上げられて、ショーツの上からあそこを撫でさすられ
る。
﹁ほら、リリス、見られるの好きだろ﹂
﹁うぁ、っん︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
アラビーの手が僕のブラウスのボタンを外し、服をはぎ取るとお
っぱいの先の房を摘まんだ。
﹁んあっ!﹂
びりっと電流みたいな感覚が走る。しかしアラビーはその手を離
そうとせず、両胸の乳首をつまみ上げたまま強い力できゅうきゅう
126
と引っ張る。
﹁あっ、あぁっ⋮⋮いたっ、痛ぁい! やめてぇ⋮⋮っ⋮⋮﹂
薄い丸みのあるおっぱいが引っ張られて三角みたいに変形してい
る。乳首も潰れちゃうんじゃないかと思うくらいだ。
﹁いたい、いたいってば、やだぁっ!!﹂
僕が泣き声をあげるのと同時にようやくおっぱいは解放された。
虐められた乳首はジンジンしてまだ痛いし、赤くなっている。仰向
けでおっぱいを天井に向かって晒して痛みが引くのを待っていると、
今度は生温かい感触に覆われた。
﹁ぁ⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮⋮﹂
痛かったところを優しく舐められると滅茶苦茶気持ちいい。敏感
になって感度が増しているみたい。悔しいけど、もう片方も舐めて
欲しい。舌で固くなった乳首の先端をクリクリされると体が無意識
に反応する。つられて下半身の奥の方が痛いくらいにきゅんきゅん
する。
アラビーの指が陰唇の間に侵入する。
あ⋮⋮やっぱり、他人に触られるとよく分かるけど凄く濡れてる。
なんだか最近ちょっとリリスの身体は淫乱だ。
ぬるりとした粘液の感触はリリスの身体がもう準備万端に整って
いる証拠で、欲しい欲しいとサカっている。
﹁はぁ、ん⋮⋮。い、れて﹂
127
僕は腕をアラビーの首に絡めて顔を引き寄せると、自分から唇に
触れるようなキスをした。すると、反対に貪られるようなキスが返
ってきた。唇を離してアラビーの耳元で囁く様に、もう一度おねだ
りする。
﹁いれて?﹂
﹁もう少しエロく言ってみろよ﹂
ん︱︱︱︱︱︱?どういうのが好き?
どうやらアラビーは最初に挿入する前のおねだりの言葉にこだわ
りがあるらしいのだよね。僕は少し考えて言った。
﹁リリスの小ちゃいおまんこ滅茶苦茶にして?﹂
﹁いいね﹂
うつぶせの状態で下半身を持ち上げ、お尻を突きだす。太ももを
両手で開く様にすると、柔らかいお肉が引っ張られて二枚の花びら
が開き、愛液がこぼれてくる感覚が伝った。
﹁奥まで犯して⋮⋮ぇ⋮⋮﹂
ぐいと頭を上から押し付けられて、まだ整っている寝具に顔が埋
もれた。苦しい、と思いかけた瞬間に、欲しがったモノが一気に奥
まで押し込まれた。
128
episode5︳2︵後書き︶
129
episode5︳3
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!﹂
苦しい。凄い圧迫感で本当に壊れちゃうんじゃないか怖くなるほ
どだ。子宮がペニスに押しつぶされてしまいそう。女の子の体の防
衛反応で愛液が一気に分泌される。
﹁あー⋮⋮リリスの味、いいんだよな。最高﹂
﹁ふぁっ、ら、って⋮⋮らめ、ちょっと、動かさない⋮⋮んっ︱︱
︱︱︱︱っ﹂
ずずず、とゆっくり引き抜かれると、リリスのまんこがそれを逃
がさない様にするみたいにペニスに絡みつく。ギリギリまで引き抜
いて停止し、僕が息を整えて弛緩しているところにまた一突き。
﹁ぐっ⋮⋮っ⋮⋮んぁ⋮⋮っ﹂
目の中に火花が飛んで頭がチカチカする。僕は必死で這って逃げ
ようとしたが、抵抗のての字にもならない。こっちは苦しいのに止
める術も無くてそのままなし崩しに犯された。くちゅっぐちゅっ⋮
⋮じゅぷ、ちゅぷ⋮⋮。簡単に奥まで到達して、子宮口を犯し続け
る。
﹁あうっ︱︱︱︱︱︱⋮⋮っ⋮⋮こわれる⋮⋮っ﹂
﹁大丈夫、ちゃんと咥えられてる﹂
﹁なっ、にがぁ⋮⋮﹂
130
何が大丈夫なんだよー!と思いつつ、でもしばらくすると内壁を
擦られるたびに快感が全身に伝って痺れるようになってきた。
﹁あっん、あん、あん⋮あん⋮⋮⋮⋮⋮﹂
子宮口も嬉しそうにペニスを出迎えてキスしてるみたい。体は熱
を帯びて、ちょっと汗ばんでいる。後ろから犯されると自分がケモ
ノになったみたいな錯覚を覚える。快感を貪る獣?いいかも。僕は
己の本能に従って鳴き声を上げ、吠える。
﹁いいっ、すごく、いいっん⋮⋮もっと、あっ、めちゃくちゃにし
てぇえ⋮⋮﹂
すると、後ろから打ち付ける緩急が激しくなり、僕の体はほとん
どアラビーの玩具、オナホみたいに扱われちゃって、同時に一気に
昇っていく。
あ、だめ、壊れちゃう、イッちゃう⋮⋮。おざなりの喘ぎ声を出
す余裕もなく、ただ大きな奔流に飲み込まれるみたいにして高まっ
た快感が爆発するのを受け入れた。
達しながら、僕は今までにないくらい大きい叫び声をあげていた。
あまりに可愛くて甲高いその声はまるで、自分の口から出たんじゃ
なくてどこか遠い所で他の人が叫んでいるみたいに感じた。
ビクビクと震える全身と、痙攣して動く膣口。突き刺さったアラ
ビーのペニスが子宮をドロドロにするくらい精液を吐き出して、僕
はそれに染まって酔うようにぐったりした。
﹁はぁ⋮⋮ぁつ⋮⋮はぁ、はぁ⋮⋮﹂
荒い呼吸はすぐには収まらない。喘ぎながら僕は何となくクシャ
131
クシャになったシーツのしわを手のひらで引き伸ばした。顔を少し
上げると、ほど近く、ドアの前で直立しているサイミンとバッチリ
目が合った。
途中からは無我夢中で忘れていたけど、なんか、女の子にジッと
見られるのって凄い恥ずかしい。見られていると思うと途端に膣が
キュウっと閉まる。
﹁こら、やめろ﹂
アラビーが言う。僕が膣を締めた事を言っているようだ。今回は
アラビーも結構キてるみたいで、達したばかりのペニスをあまりキ
ツく絞られると辛いらしい。でも、そんなこと言われても、サイミ
ンが真っ直ぐな瞳でこっちを直視しているから⋮⋮ついキュンキュ
ンんしてしまう。あぁ、もしかして、僕って見られるのが好きなの
かな。うー⋮⋮癖になりそうで怖い。
﹁っと、おい、一回抜くぞ﹂
﹁はぁい﹂
引き抜いたペニスと一緒に白濁した液がドロリと零れる。太もも
を濡らし、寝具に零れそうになる。僕は慌ててお尻を上げて、そう
すると今度はお尻の方に伝ってきて気持ち悪かった。
﹁やだ。ちょっと、ティッシュ︱⋮⋮﹂
﹁はい。どうぞ﹂
そう言って、ハンカチを差し出したのはサイミンだった。サイミ
ンの私物らしいが、流石にこんな綺麗な白いレースのハンカチを使
ってお尻を拭くのは躊躇われる。
でも、サイミンがきょとんと首をかしげ、﹃これで合っています
132
か?私、何か間違えましたか?﹄という表情をするので受け取った。
状況的にハンカチを出すのは間違ってはいないのだ。なんか、相手
がAIなのにこういう気遣いをしてしまう僕って我ながら小心とい
うかなんというか。
それにしてもサイミンは目の前で何が繰り広げられているのか理
解しているのだろうか?
﹁あのさ、サイミン。ええと、今ボク達がしていることの意味って
分かるの?﹂
﹁情交のことですか?﹂
﹁じょ⋮⋮、うん。そうだね﹂
﹁でしたら、分かります。交歓行為ですね﹂
ん︱︱︱︱︱︱?分かってる、のかな?言葉としては合っている
けど。
﹁サイミンも混ざる?﹂
﹁えっ⋮⋮混ざる、私もその⋮⋮、情交に加わるという理解で良い
ですか?﹂
﹁ちょっとこっち来て﹂
僕が手招きするとサイミンは靴を脱いで3Pどころか乱交も可能
なサイズのベッドの上に乗った。
﹁ちょっと失礼﹂
サイミンのスカートの中に下から手を這わせた。
﹁あっ⋮⋮ん﹂
133
太ももを撫でただけで、サイミンの身体はビクリと反応する。
あれ?
サイミンはパンストを履いておらず、指先が到達したそこに柔ら
かい肉の感触。襞は濡れそぼってヌルヌルした。
⋮⋮ノーパンで、しかも濡れている。
﹁ボクのHな恰好見て、興奮した?﹂
僕は指を動かした。
﹁あ、っ、あ⋮⋮。駄目です。そこを触ってはいけません﹂
立ったまま、身を少し屈めて腰を引く姿は、普通の女の子と変わ
らない。あまり表情が変わらないのだけど、もうちょっと指を動か
して虐めると、眉をしかめた。可愛い。なんか、こっちの方が興奮
してしまう。
サイミンの上着の詰襟になっている合わせの部分のホックを外す
と、中は薄手の白いブラウスだった。厚手の生地の上着の上からで
は分かりにくかったけど、結構いいバストサイズ。
﹁自分で脱げます﹂
﹁いいから、いいから﹂
僕は浮き立つ心を抑えながらサイミンの服を脱がせる。全部のボ
タンを外して羽織っただけの白シャツの間から除く胸の谷間は圧巻
だった。ブラジャーがもしかしたらこれも装備の一部?っていうよ
うなガッチリした補正下着で、お肉を全て胸に寄せて集めて完璧な
美しい谷間を誇っている。
このブラジャーを脱がせるのはちょっと苦労したけど、後ろのホ
ックを外せばまるで戒めから解放されるようにたっぷりとしたおっ
134
ぱいが目の前で震えた。
﹁うわー⋮⋮﹂
真っ白な肌に似合う乳輪。リリスのはだいぶ色素が薄くて桜色な
のだけど、サイミンのはもう少し色が紅っぽくて、魅惑的。
﹁触っていい?﹂
﹁えっ⋮⋮、はい。どうぞ﹂
遠慮なく、僕はその豊満な乳房を下から持ち上げるように触った。
それから、顔を近づけてジッと見つめ、思わず顔をうずめた。
﹁リ、リリスさん?﹂
﹁ほわ∼∼∼∼∼﹂
夢みたいに気持ちいい。揉みながら頬ずりして、楽しむ。
﹁いいなぁ、ずるいなぁ、こんなの。ボクも巨乳にすれば良かった﹂
﹁そんな、リリスさんの胸は十分に魅力的ですよ。それに私のバス
トサイズはDですから、巨乳というほどではありません﹂
﹁これでDかぁ⋮⋮﹂
確かにこの世界の女キャラとしては普通のサイズか。僕はおっぱ
いを晒して正面からサイミンのおっぱいにくっつけた。当然、リリ
スのおっぱいは小さいからサイミンのに浸食される形になる。乳首
が当たっているのを感じながら、それを擦り合わせた。
﹁あっん⋮⋮﹂
135
唇を重ねてディープキスをする。サイミンの表情がさっきと少し
変わって頬が赤く染まっている。
﹁気持ちいい?﹂
﹁あ、はい⋮⋮どうでしょう。これが気持ちいいということでしょ
うか。何か変な感じです﹂
﹁サイミンはこういう経験は豊富な方?﹂
﹁いいえ。知識としては不足無いと思いますが⋮⋮耳年増というの
でしょうか﹂
﹁うん。言葉の使い方としては間違ってないと思う﹂
僕はサイミンのスカートも脱がせて、足の間に顔を寄せた。ロボ
娘のデザインで足の付け根の所に装甲パーツみたいな白い三角の部
品が張り付いていたけど、後は普通の女の子と変わらないみたい。
﹁あの、あまり見られると恥ずかしいです﹂
﹁ちょっと触るよ﹂
二本指を花びらの間に差し入れ、濡れているのを確認してそれを
広げるように周りを愛撫する。花芯を薄皮の上からつつくと、サイ
ミンが甘い声を漏らし、同時に中から愛液がじんわりと蕩けてくる。
﹁ぁっ⋮⋮。気持ちいいです。こんな、ぁん⋮⋮でも、あまり刺激
が、ぁ、っうう⋮⋮﹂
﹁え? 初めて、じゃないよね?﹂
僕は仰向けのサイミンに覆いかぶさって、上を向いてもまだたっ
ぷりボリュームの残るおっぱいを口に含みながら、花芽を指で弄り
続けた。
136
﹁は、ぁっん。あ、ア⋮⋮、ハジメテ?初めて⋮⋮、ぁ、駄目です。
正常に、判断が⋮ぁ⋮⋮ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
サイミンはビクン、と大きくのけぞる様にして喉をひくつかせ、
魚のように口をパクパクとさせた。僕の指が触れている所が震え、
何かが決壊したみたいに愛液が溢れてきた。
あれ?イっちゃった?
そこまで執拗に責め立てたつもりは無いし、ええと、まだ舐めさ
せてもらってないし、色々突っ込んでもいないのですけども。
そう思いながらサイミンを見ると、ベッドにつっぷして、動かな
くなっていた。あまりに微動だにしないのでおかしいな、と思って
声をかけたが反応しない。
﹁え?﹂
僕はアラビーの方を向く。これ、何事?
黙って百合プレイを眺めていたアラビーは、サイミンの上半身を
軽く抱き起こして言った。
﹁あぁ、動力オフになってる。サイミン、逃げたな﹂
逃げた?
**
名前:サイミン︵XAI−MINN︶
種族:人形
職業:騎士
称号:冷血令嬢
年齢:18歳
137
総合LV:72
HP:440
MP:203
力:123
魔力:70
自動スキル:﹃無慈悲﹄﹃忠義の盾﹄﹃忠義の魂﹄﹃動力オフH
P回復﹄﹃動力オフMP回復﹄
呪文スキル:﹃一掃の風/水/火/土﹄﹃傀儡術﹄﹃モンスター
解析﹄﹃地形解析﹄﹃盗み﹄
装備:人形の戦闘服/韋駄天ヒール/精霊のスピア
道具:無限紅茶/禍々しい詩集/人形糸
所持金:100G
138
episode6︳1:買い物
僕は不機嫌だった。というよりは、不機嫌なポーズを取っていた。
僕の後ろを申し訳なさそうにサイミンがついてくる。サイミンは時
々僕に話しかけたが、僕が無視したりそっけない態度を取っている
うちに、どんどん元気が無くなってきて、道に落ちている砂金でも
探すようにうつむいて歩く様になった。
サイミンの種族は人形だ。人形はAI固有の種族でマスターを設
定することができる。僕は心配性のアラビーの大盤振る舞いに甘え
てサイミンを引き取り、マスターとなった。
マスターになってすぐに﹁何とお呼びすればよいですか?﹂と聞
かれた。僕は毎度のことながら﹁マスター﹂もいいけど﹁ご主人様﹂
も捨てがたいし、いっそ﹁お姉ちゃん﹂もいいよなぁとかくだらな
いことを真剣に考えた。そして結局、﹁とりあえずリリスでいいよ﹂
と答えた。アラビーの手前が恥ずかしかったのもあるが、悩んだ挙
句に冒険できずに無難な所に落ち着いてしまうのが僕の常だ。ゲー
ム世界なのだからもっとはっちゃけていいと思うのだけど。
年上のお姉さんに子どもみたいな僕が﹁お姉ちゃん﹂って呼ばれ
るのはなんとなくそそるよね。ギャップ萌えというか。うー⋮⋮街
を出たら設定変えようかな。
﹁申し訳ありませんでした。リリス様﹂
﹁ふっ!?﹂
くだらないことを考えてた所に軽いジャブを受けた感じ。リリス
⋮⋮様?!
139
﹁私が勝手に動力オフしたことを怒っていらっしゃいますか?﹂
﹁あ、うん⋮⋮﹂
ベッド上でサイミンが動力オフして﹃逃げた﹄ことについて、僕
は怒っている⋮⋮ポーズを取っている。だけど、そんなポーズより、
リリス様呼ばわりの方に気を取られた。様付けは僕の妄想候補に無
かったし、ゲーム内とはいえ、そこまで仰々しい呼ばれ方をするの
は初めてだったので、ちょっとビックリした。
﹁あの、あの時はわたくしも、何が何だかよく分からなくて、思考
回路の正常な動作に脅威を感じた為、つい⋮⋮﹂
サイミンは手を前で組んでモジモジさせながら言い訳を始めた。
﹁決して、リリス様に逆らったり、意に沿わない行動を取るつもり
は無かったんです。ただ、なにぶん、わたくしはまだ未熟な人形で
すから、その、あの、学習能力はありますので、一度の失敗はどう
ぞ大目にみて頂けないかと⋮⋮愚考する次第でありまして⋮⋮﹂
なかなか雄弁だ。つい、感心してしまう。僕は、立ち止まるサイ
ミンの所に戻って、その手を取った。
﹁いいよ。もう、怒ってない。でも、次から勝手にオフするのは無
しだよ﹂
﹁はい!﹂
﹁ところで⋮⋮その、様づけって﹂
﹁様は尊称です﹂
﹁うん、知ってる⋮⋮いや、何でも無い﹂
140
サイミンは目を少しパッチリさせて首を傾げる。僕はとりあえず
このままでいいことにして、サイミンの手を取って歩き始めた。ハ
イヒールを履いたサイミンと比べるとだいぶ僕の方が背が低いから
手を繋いでもこっちの腕が折れる感じになる。はたから見たら仲良
し姉妹、って感じかな。
今、向かっている先は道具屋と武器屋と防具屋。冒険に出る僕は、
とりあえず基本的な装備を整えることにした。定型店の他に、大通
りで露店を広げて商っている掘り出し物の店や、AIじゃない一般
ユーザが開いている面白い店もあるが、まずは標準店から。
アラビーに10000Gもらったので、懐は温かい。アラビーが
買い物にも付き合おうかと言ってくれたのだが、自分で色々試して
みたいから、と言って断った。んで、とりあえず大金だけもらった
というわけ。なんか最近思うのだけど、僕ってさ、アラビーにだい
ぶ優遇されてるよね。アラビーは女には不自由しないはずなのに僕
を特別扱いするってどういうことなんだろう。これって愛されてる
ってことなのかな。不思議だ。
まずは、街の道具屋に行って陳列されている商品を見た。愛想の
良い痩身のおじさんが出てきて、分からない商品があれば説明しま
すよ、と言ってくれた。商品は少なくて﹃薬草︵10G︶﹄と﹃毒
消し︵50G︶﹄と﹃万能薬︵100G︶﹄と﹃帰還の羽根︵30
0G︶﹄で、効果は大体想像がついた。一応、薬草の説明をおじさ
んにしてもらったが、AIらしく冗長でしかもゆっくりした話口調
だったので、面倒になってしまった。
﹁あのさ、サイミン、ここにある道具の説明をできるだけ簡単に教
えて﹂
﹁はい。薬草は小回復、毒消しは状態異常:毒からの回復、万能薬
141
は状態異常:麻痺、混乱、沈黙、盲目からの回復、帰還の羽根は最
後に使用したホームポイントへのワープです。全て、一個につき一
人、一回のみの使用です﹂
﹁ありがとう﹂
大体予想通りだ。予想と違ったのは帰還の羽根がパーティー対象
で発動じゃないことくらいだ。羽が一枚しかなくて全員離脱できな
い時とか、喧嘩になりそうだな。
そして、僕はそれらのアイテムを全て10個ずつ買った。しめて
4600G。帰還の羽根が支配的だな。
﹁ありがとうございます。どれをアイテムBOXにお入れしましょ
う﹂
アイテムBOXに入れるとバトル中は取り出せなくなる。だけど、
僕のポシェットには5個しかアイテムが入らない。サイミンの人形
服のポケットも同じだ。
﹁帰還の羽根って、バトル中も使用できるの?﹂
﹁できません。バトルから確実に離脱したい場合は﹃遁走の羽根﹄
が必要です﹂
ということで、とりあえず全部アイテムBOXに投げ込んだ。良
く考えたら僕は状態異常回復らしいスキルも持っているし、各10
個もいらなかったかもしれない。
次に武器屋に行った。サイミンの装備はまぁまぁらしくて、レベ
ルから考えればこの辺では素っ裸でも戦える強さらしいので、僕一
人が準備をすれば済む。
武器屋のオヤジは出っ張った腹に前掛けをしていて、黒々とした
髭を生やしている。店内はカッコいい武器も並んでいたが、どうや
142
らそれはディスプレイらしく、売り物は貧弱だった。僕が装備でき
るのは﹃短剣︵500G︶﹄と﹃ロッド︵1000G︶﹄くらいで、
まぁ、ロッドが無難なのだろうけど、購買欲が沸かない。武器屋で
は何も買わずに防具屋に行ったが、そちらでも同じだった。
﹁よし、じゃあ、次は露店を見て回ろう﹂
﹁はい﹂
露店の方は標準店よりも品ぞろえが豊富だったが、同じ商品でも
値段がまちまちで、武器ならば刃こぼれしていたり、防具が呪われ
ていたりと玉石混合であった。1、2時間も露店と商店巡りをした
ところで、僕は疲労を感じた。なかなかこれだ!というものには巡
り会えない。せっかく軍資金もあるのに、つまらない装備を買いた
くないし。
サイミンは武器防具の目利きにも割と精通していて聞けば色々教
えてくれたけど、やっぱり普通の女の子みたいにショッピング大好
き、みたいなことは無い。僕だって、別にショッピング大好き、で
はない。やっぱりアラビーについてきてもらえば良かったかもしれ
ない。
そんな中、最後の方に寄った店で、見知った顔に出くわした。
﹁いらっしゃいませ﹂
簡素な看板の雑貨屋だったが、店内は棚がいくつも並んでいて、
品ぞろえが豊富だった。出迎えてくれたのも可愛らしいメイド服の
少女であった。雑貨屋なんてどうせ道具屋の延長線だろうと思って
いたがなかなかどうして侮れない。メイド服の店員が品物を並べた
り、接客したりで3人もいる。しかも、皆のメイド服がそれぞれ意
匠を凝らしてあって目に楽しい。ロングスカートもいいけど、やっ
ぱりミニスカートもいいですね。いやいや、正統派の膝丈からちら
143
ちら見える膝小僧の愛らしさは捨てがたいでしょう。
店内の奥の方で客と話していた店主らしき人物がこちらを見た。
﹁あ﹂
﹁おや、いらっしゃいませ﹂
店主と話していた客らしき人物も僕に気づいた。
﹁おお。アラビーのとこの嬢ちゃん﹂
﹁リリスさんですよ﹂
﹁そうだったか。いや、名前を聞いてなかったから﹂
僕は近づいて、手招きされたので更にカウンターを潜ってその中
に入った。
﹁こんにちは。ノルデさんと⋮⋮﹂
﹁ライガだ﹂
﹁ライガさん﹂
それは、先日街外れの廃屋で行われた吊りイベントで会った二人
だった。首謀者だったノルデと、獅子髪で体格のいい男、ライガ。
144
episode6︳2
﹁今日は何の御用でしたか?﹂
﹁お買いもの。ここって、ノルデさんのお店?﹂
﹁ノルデで結構ですよ。はい、そうです。お立ち寄りは偶然ですか
?﹂
﹁うん﹂
﹁何をお探しですか?﹂
﹁ボクの武器と防具を一式。いいのあるかな﹂
﹁おぉ、冒険ですか? いいですね。アラビーさん達のパーティー
なら心強いし安心ですしね﹂
﹁あー⋮⋮うん﹂
ノルデはどちらかというと軟弱でいかにもお人よしそうな笑顔を
浮かべているが、どうしてこうして油断がならない相手だ。何とな
く、こちらの内情をペラペラ喋る気にならない。
﹁宜しければ、リリスさんの装備に良さそうなのを見繕ってみまし
ょう。ご予算はいかほどですか?﹂
﹁ええと、とりあえず5000G﹂
すると、ノルデは頷きながら、店の奥に入って行った。﹃とりあ
えず﹄は不要だったかと軽く後悔した。まぁ、でも逆さに振っても
所持金6700G以上は持ってないから、毟り取られる心配は無い。
店内には5人の客がいた。おそらく、冒険者のパーティー一個分
が来店しているのだろう。男4名に女1名で、時折互いに会話を交
わしている。女の子はチャイナ風の武道着を身につけた少女だ。あ
んまり強そうではないけれど、鼻の頭に絆創膏を貼ってるのが可愛
145
い。男の方にはあまり興味が無いが、戦士らしきタイプと、魔法使
いらと、僧侶、あとは、何かよく分からないのがいた。やっぱり、
冒険に出るとなるとパーティーを組むのが一般的なんだよなぁ。元
々僕は﹃超越せし乙女﹄のスキルを隠す為に一人で冒険するつもり
だった。サイミンがついて来てくれるおかげで2人組にはなったけ
ど、やっぱり少人数、ましてや一人で冒険なんて無謀なのかな。
﹁あの、ライガさんは冒険者?﹂
僕は隣にどっかりと座っているライガに話しかける。明るい所で
見ると、赤みがかった金髪が光って、不精髭も同じ色だった。
﹁職業か? 獣戦士だ﹂
あ、そっか。冒険者、って言葉で街の外に冒険に出かけるプレイ
ヤー全てを指すのは広義なのか。
﹁リリスは冒険者か?﹂
﹁あ、うん﹂
﹁俺は初期ジョブは農民にしたなぁ﹂
﹁へぇ。農民から戦士、って立身出世みたいでカッコいいね﹂
﹁だろう。でも、まだまだこれからだ﹂
ふと、店の方を見ると、サイミンが店の隅で立っている。まるで
マネキンみたいだ。放置したら可哀相かと思ったし、まかり間違っ
て着衣をはぎ取られてしまうのではないか心配でもあったが、とり
あえずそのまま待っていてもらうことにした。
そこにノルデが戻ってきて、机の上に二つのロッドと二つの服を
並べた。
146
﹁こちらが妖精のロッド︵3000G︶、こちらが水晶の杖︵50
00G︶﹂
妖精のロッドは細身で短い。先端に握り部分のコブがあるが、頑
張れば指揮者のタクトになり得るくらいのサイズ。対して水晶の杖
は僕の身長の7割くらいあって、地面を突く杖として実用できるサ
イズだ。
﹁こちらが絹布のローブ︵1500G︶、こちらが羽根のローブ︵
3000G︶﹂
絹布のローブは真っ白で光沢があり、手触りが滑らか。羽のロー
ブは透き通った薄い玉虫色で、持つとめちゃくちゃ軽い。今まで見
てきた商品と比べて段違いの良さだ。値段といい質といい、まさに
僕が求めていた部類の装備品だ。
だが、そこではたと思い当たるのはやはりお値段。僕の所持金は
6700Gだから、水晶の杖と羽のローブの組み合わせでは購入で
きない。くそう、元々予算5000Gって言ってあるのに、ノルデ
はやっぱり商売っ気がある。
﹁ちなみに、まけてくれたりは⋮⋮﹂
﹁うちは現金掛け値なしです﹂
ニッコリ笑うノルデ。そうですか。交渉の余地無しですか。
今更ながら、僕は道具を適当に買い過ぎたことを後悔していた。
でもまぁ、この分だと予算があればあっただけ良い品物が提示され
そうで、上を見たらキリが無い。妖精のロッド+羽のローブ︵60
00G︶にするか、水晶の杖+絹布のローブ︵6500G︶にする
か悩み、試しに装備してみた。
147
﹁ええと、装備品の強さって、パラメータのどこで分かるの?﹂
﹁あぁ、リリスさんは冒険初心者なのですね。この世界では、装備
品の強さはパラメータでは分かりませんよ﹂
﹁えっ! じゃあ、どれが強い武器かってどうやったら分かるの?﹂
﹁装備したアイテムはアーカイブに記録されますね。それを使用し
て戦闘すれば攻撃力や守備力も履歴として残るので、判明します。
もしくは﹃鑑定﹄スキルを使用すれば分かりますが﹂
﹁そうなんだ。不親切な仕様だねー﹂
﹁たぶん、現実世界と似せているんだと思います。どの包丁が使い
やすいか、どのボールペンが書きやすいかって値段と評判を元に購
入するけど、使ってみて初めて分かることでしょう﹂
﹁ノルデは鑑定できるの?﹂
﹁できますよ﹂
さらりと答えて、ノルデはそれぞれの装備品の強さも数字で教え
てくれた。でもこうやって店の人に聞く鑑定結果って、人によって
は信頼性に欠けるよね。顔見知りのノルデが嘘をつくとは思わない
けど、今後露店とか行商の商人に訊いた結果は信用できるか微妙だ。
数字を聞いた限りでは水晶の杖がかなり魅力的な武器だと言うこ
とが分かった。一般の店ではなかなか出回らない代物らしく、威力
を値段で割って計算したところ、コスパがいい。よし、この杖を買
おう。そう思って杖を手に取り、僕は戸惑った。
手に触れた時の違和感。僕が持った途端、水晶は光を失ったかの
ように見えた。
﹁⋮⋮これ、装備できないみたい﹂
﹁おっと。残念ですね。いい品なのですが﹂
﹁リリスは﹃冒険者﹄だとよ﹂
横から、ライガが言う。
148
﹁そうですか。この杖は﹃魔﹄﹃聖﹄﹃僧﹄いずれかの属性を持っ
ていないと装備できないんですよ。てっきり魔法使いか僧侶あたり
の職業だと思ってしまって⋮⋮。いやはや、失礼しました﹂
むー⋮⋮。なんか馬鹿にされてるみたい。
﹁ボク、初心者だから﹂
﹁いえいえ、こちらの手違いで申し訳ありません。お詫びに1割引
き致します﹂
﹁えっ? 本当?﹂
﹁ええ、でも、内緒ですよ。うちは常連相手でも値引きしない店と
して通っていますから﹂
ノルデは声を落として囁く。ちょうどその視線の先でさっきの冒
険者パーティー一行が支払いをしていた。彼らは値札通りの支払い
をしているのだろう。現金な物で、僕は素直に喜んでしまう。
﹁ところでリリスさん、水晶の杖が駄目なら、こちらの錫杖はいか
がですか?こちらも﹃巫﹄﹃乙女﹄﹃幽﹄のいずれかの属性が必要
ですが、掘り出し物ですよ﹂
鈴がついた荘厳な錫杖を差し出すノルデの笑顔に僕はドキリとし
た。僕は﹃乙女﹄属性を持っている。これは称号に﹃永久乙女﹄を
冠しているからだけど、内緒なのだ。
もし、ここで錫杖を装備してしまったら、僕は﹃乙女﹄イコール
処女だと思われて、その先に処女じゃないことがばれたら属性を疑
われる。
もしかして、僕、なにか、試されてる?
内心の動揺をできるだけ押し隠して僕は答えた。
149
﹁悪いけど、﹃冒険者﹄﹃ハーフエルフ﹄意外の属性は持ってない
よ﹂
﹁そうですか。では、今後何か属性を得られた暁にはまたこちらの
品などをおススメさせていただきましょう﹂
やっぱり、侮れない。そう思いながら、結局僕は妖精のロッドと
羽のローブを購入した。6000Gの1割引きだから5400Gの
支払いで、残金は1300Gか。うん。良い買い物だった⋮⋮でも、
何か消耗した。やっぱり、顔見知りのいる街を拠点に冒険するのは
危険だと思わされる。
店内はパーティー一行が帰って暇になったようで、メイド服の女
の子が慌ててこちらにやってきて、一人が余分な品物を片づけ、も
う一人が売約のついた商品のタグを切ったり、手入れをしたりして、
最後の一人がお茶を持って来た。
﹁しかし、リリスさん、初心者で冒険に出るなら色々と気を付けな
ければいけませんね﹂
﹁ま、アラビーのパーティーなら大した危険もないだろうがな﹂
﹁冒険の門出をお祝いして、私からも何か餞別をしたいですね﹂
それに僕は答える。
﹁ううん、いい商品も売ってもらったし、値引きまでしてもらっち
ゃったし、十分だよ。ありがとう﹂
﹁いいえ、さっきまでは商売人の私でしたから、値引きしたって得
をしているのはこちらですよ。そういう公私混同はしないのが本当
の商人です。今度は私個人として何か贈り物がしたい。リリスさん、
何か欲しいものはありますか?﹂
﹁うーん⋮⋮欲しいものって言ってもなぁ⋮⋮﹂
150
何せこちらの世界に不案内な僕のことだ。欲しいアイテムなんて
すぐに浮かばない。が、冒険の目的を考えて一つピンと閃いたこと
があった。
﹁あ、一個ある﹂
﹁なんですか?﹂
﹁モンスターを発情させるアイテムがあるって本当?﹂
﹁ええ、いくつか方法はありますが、代表的な消費アイテムなら﹃
またたび﹄ですね。﹂
﹁それ、欲しい﹂
すると、ノルデは首を傾げ、﹁えぇ、お安い御用ですよ﹂と言っ
て店の奥に入って行った。そんなものでいいんですか?と言わんば
かりの顔付きだったが構わない。アイテムボックスに入れてあった
りはしないのかな?
﹁んー⋮⋮今、何時?﹂
﹁こちらの時間で4時ジャスト。自動パワーオフ時間か?﹂
﹁ううん。まだ2時間ある。でも、なんだろ。慣れない買い物をし
てたせいか、疲れた∼⋮⋮﹂
どちらかといえば、僕は買い物が苦手な方だ。子どものころは、
母親の買い物に付き合わされるのが苦痛で仕方が無かった。もう少
し成長してからは自分の服を買いに行くのが面倒になった。ワンク
リックで購入できるオンライン販売ですら、面倒なのだ。でも、着
る者が何でもいいかというとそういうわけではないからまた厄介で、
限られた小遣いとバイト代の中から良い買い物をしようと意気込ん
だ矢先にその徒労を思って滅入るタイプ。
僕は目をこすり、行儀が悪いと思いつつ欠伸をした。
151
﹁初冒険か、﹃またたび﹄欲しがるってことは、アラビー達と一緒
じゃないのか?﹂
﹁え?﹂
僕は聞き返す。なんだか、ライガの声が遠くに聞こえる。あぁ、
本当に疲れちゃってるみたいだ。風景が石を投げ込んだ水たまりの
ように歪んでいく。
﹁俺からも餞別をやるよ。冒険に欠かせない基本の忠告だ。状態異
常は呪文の場合はバトルでなければ使えないけれど、アイテムの場
合はフィールドでも使用可能だ。つまり、気を許した相手であって
も、出された飲み物には気を付けろ、ってな﹂
その意味を理解する前に、僕は意識を失った。
152
episode6︳3
水の中に漂っているような夢を見た。シャボン玉を膨らませて、
それが膨らみ過ぎて僕も中に入っちゃって、空に浮かんだと思った
ら青い実は海で、洗濯の泡の仲間に話しかけられるけど上手く喋れ
ない。ふわふわ、パチン、といくつかの泡が弾けていく。
﹁︱︱︱︱︱⋮⋮⋮、⋮⋮からアラビーのとこと衝突するのは上手
くねえだろ﹂
﹁分かっていますよ。それくらい。あちらさんにはお世話になって
いますからね。今後も友好関係を続けますとも﹂
﹁だったら、これはどういうことだよ﹂
﹁大丈夫ですよ。薬が効いてますから。ちょっとハメて撮るだけで
すって。乙女じゃないらしいですし、ばれないでしょう﹂
ん⋮⋮。なんだろう。まだ泡の中?ふわふわする。人の喋ってる
声が聞こえるけど、意味がよく分からない。
﹁んっ﹂
﹁あぁ、﹃睡眠﹄が解けます⋮⋮リリスさん。大丈夫ですか?﹂
﹁ふ?﹂
リリス?って、だれだっけ。
﹁ここがどこか分かりますか?﹂
目の前が真っ暗。何も見えない。ここ、どこ?
153
﹁うぁ?⋮⋮ここ、ろこ?﹂
﹁私が誰か分かりますか?﹂
﹁られ? リリスしゃん?﹂
真っ暗なのは目を閉じてるから?ううん。僕は目を開けてる。な
のにおかしい。何も見えない。それに、頭が重いような軽いような、
安定しない感じ。
﹁先に膜を見て置いた方がいい﹂
﹁はいはい。膜ありは膜ありで楽しいですけどねぇ﹂
急に触れられて、僕はびくっとしてしまう。足を開かされた。怖
くて止めて欲しかったけど、おかしい。手が動かない。あぁ、僕の
手、どこに行っちゃったの。
﹁やぁだ﹂
﹁大丈夫ですからねー暴れないで、イイコですねー﹂
﹁ふにー⋮⋮ぃ⋮﹂
くぱぁ、っていった気がする。何が?あぁ、中がスースーする。
そんなにひらいちゃ、らめ。
﹁綺麗なピンク色ですねぇ。膜はありませんけど、ビラも小さくて
可愛いですね﹂
﹁調教の跡は﹂
﹁ありません。ふっふっふ⋮⋮素晴らしいですね﹂
あ、悪そうな笑い声。どうしよう、にげなきゃ。
﹁にーげーぇ⋮⋮るー﹂
154
﹁逃げる? 可愛らしいことを言いますね﹂
ふに、とお尻を突かれるかんしょく。
﹁やらぁ。そこ、らめ﹂
﹁お尻は指一本入るくらいの柔らかさ。食べ頃ってヤツですね﹂
ん、だめ。指、抜いてぇ。
﹁後ろに指を入れただけで、前からエッチな滴が垂れてきました。
感度も良好。どうしますか?これでも貴方は止めておきますか?﹂
﹁くっそ、旨そうだ。ここで退ける男がいたらお目にかかりたいね﹂
﹁そうこなくちゃ。やっぱりこういう小ちゃい子は貴方みたいな大
男に犯されてこそ画になるってもんです﹂
﹁画像をばらまいたりする気はないんだろうな。マジでアラビーの
とこと戦争するほどの勇気ははねぇぞ﹂
﹁そういうのは勇気じゃなくて無謀って言うんですよ。大丈夫。私
の個人的なコレクションにするだけですから、安心して犯っちゃっ
てください﹂
くすくす、笑い声。アラビー? 聞いたことある。誰だっけ。そ
れに、この声、思い出せない。あぁ、駄目だ。思い出さなきゃいけ
ない気がするのに。
﹁あっん⋮⋮﹂
ゆび?が、お尻から引き抜かれた刺激でまた何も考えられなくな
る。また、足を開かれて、太ももの間に、生温かい気配。ん、くす
ぐったい。
155
﹁ひゃあん﹂
ぬるぬるした感触が股にある。
﹁リリスさん、今何されているか分かりますか?﹂
﹁ん︱︱︱︱︱っ、ん︱︱︱︱︱︱っ!﹂
足をジタバタさせようとするけれど、ガッチリと押さえられちゃ
って、全然駄目。せめて太ももを閉じようとするけれど、そこには
たぶん、誰かの頭があって、髪の毛が太ももにかかってくすぐった
い。らめ、くすぐったいから、無理。力が入らない。
﹁にゃあー⋮⋮﹂
らめ。むずむずが止まらない。舐められるの、きもち、いいよぉ
⋮⋮。
﹁ベタベタだ。嬢ちゃん、前戯なんていらねぇみたいだけど、どう
する?﹂
﹁あぁ、じゃあ、突っ込んじゃってください。っと、腕の拘束は外
しましょう。跡が残ると厄介ですから﹂
一度、グイッと腕が後方に引っ張られた感じがして、あぁ、僕の
腕、そこにあったのか、と思った次の瞬間に、腕の自由が戻ってき
た。おかえり。
﹁小さい入口だな⋮⋮っと﹂
﹁ふぇ?⋮⋮っっつ、うぇ、ええああああああぁ︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
156
きゅうに、ずんっって、お腹にいっぱい、おおきいの!!こわれ
る!こわれて、はじけて、ばらけちゃうっ。うええぇええん。
﹁泣き顔も可愛いですねぇ⋮⋮リリスさん、どんな気分ですか?﹂
﹁いたいよぉお﹂
﹁そうですかー。痛いですかー。ちょっとは気持ち良くないですか
?﹂
じたばたじたばた。僕はパニックになって、暴れる。何でこんな
ことになってるのか、自分が誰なのかも分からなくて、目は見えな
いし、お腹は苦しいし、身体は熱いし、下半身は濡れているし。
そこに、優しい声と一緒に僕の頭を撫でる気配があった。
﹁大丈夫ですよ。落ち着いて。大丈夫、大丈夫⋮⋮﹂
不思議と、その穏やかな声を聞いていると心が休まってくる。
﹁ほら、あーんして﹂
あーん?僕は言われるままに口を開ける。すると、唇の間に何か
柔らかい感触。
﹁これを舐めると落ち着きますからねー。大丈夫ですよー﹂
﹁おい、それは酷いだろ﹂
ふぇ?試しに僕はそれを舐めてみる。味は無い。もう少しいっぱ
い舐めてみる。キャンディ?甘くないよ。でも、確かに落ち着いて
くる気がする。
﹁そうそう、上手ですねー﹂
157
褒められて、また頭を撫でてもらった。嬉しい。それをペロペロ
して、思い切ってはむっと口に含み、ちゅうちゅうする。おいしい
かもしれない。ううん、よくわかんない。
﹁凄い締め付けるし、ドロドロで滅茶苦茶いい。この体﹂
﹁上のお口も上手ですよ。目隠し外しましょうか。邪魔くさい﹂
﹁流石に状況把握しちまうんじゃないか﹂
﹁それはそれでイイですけどねぇ。泣いて嫌がったりアラビーさん
の名前呼んだりしたら素敵だと思いませんか﹂
﹁やめとけ。せめて和姦じゃないと後から申し開きが立たない﹂
﹁和姦も何も、全然合意の上じゃないですけどねぇ⋮⋮﹂
また、くすくす笑い。
何がおかしいの?はぁ⋮⋮ふ⋮⋮熱い。
﹁んっ、くぅ⋮⋮﹂
口を動かしていたら気が紛れたのか、お腹の痛いのがいつの間に
かなくなった、なくなった、っていうか、ううん、なんか違う感覚。
ぁ⋮⋮っん。
﹁お、反応が変わってきたな﹂
﹁悦んでますか﹂
んっ、んっ、はうっぅ⋮⋮。僕は誰?ボク?リリスって誰?わか
んないけど、気持ちいい⋮⋮凄く。
﹁媚薬、使ったのか?﹂
﹁いいえ。混乱草をベースに催淫薬と忘却水を配合したオリジナル
158
ブレンドです﹂
﹁効くもんだな﹂
﹁そうですね。思ったより効いていますね。リリスさん、体が小さ
いからちょっと量が多かったかもしれないですね﹂
ゆさゆさ動かされると、気持ちいいのが強くなる。思わず僕は自
分から動いちゃうけど、そうするとリズムが崩れて気持ちいいのが
逃げちゃう。うん、大人しくしていよう。だってこんなに気持ちい
いのだもの。もっと、してほしいよ。
﹁んむっ、んっ、んっ⋮⋮﹂
口に入れていたものが出て行った。ふはぁ、息、苦しかった。で
も、無くなるとちょっと口寂しい。
﹁リリスさん、気持ち良くなってきましたか?﹂
﹁んっ、あっ、はぁ⋮⋮きもち、いい⋮⋮いい⋮⋮﹂
﹁どこがどう気持ちいいのか言えますか?﹂
﹁ふぇえ? きもちいいよ⋮⋮はぁうう⋮⋮﹂
﹁うーん。やっぱり薬の量が多かったかなぁ﹂
じゅぶ、じゅぶ、っておまんこの擦れる音がする。いっぱい、し
てくらさい。
﹁あぁ︱︱︱︱︱︱はぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮あぁ⋮⋮ああ、ひく、ひ
っちゃう﹂
体がヒクヒクする。もうちょっと、で、いけそう。一番、気持ち
いいとこまでいける。体をピンと反らして、足のつま先に力を入れ
ると、いい。
159
﹁嬢ちゃん、イきそうだ、っつ、くそ、俺も、持ってかれる﹂
﹁あぁ、だめです。寸止めで! お願いしますー﹂
﹁中に出させろ﹂
﹁いえいえ! 一回目はぜひ顔に﹂
あっ、えっ⋮⋮?! 本当にあともう少し、っていう所でそれま
で目一杯に入ってた棒が抜けて唐突に、気持ちいいのがストップさ
れた。うそぉ。なんでぇ⋮⋮。そして同時にイキナリ明るくなった。
眩しくて、僕は目を開けてられない。でも、まぶたを閉じていても
さっきまでの暗いのと違って明るい。
﹁や︱︱︱ぁ︱︱︱︱ん︱︱︱︱︱︱﹂
気持ちいいのにお預けされた上に眩しくされて、不満の声をあげ
る僕の髪の毛がぐいと掴まれる感触がして、上を向いた顔に何かが
かかった。んむ︱︱︱︱︱︱︱!なぁんなの!もう!本当に!気持
ちいいのは逃げちゃうし、眩しいし、顔には何かかかるし!
﹁むう︱︱︱︱︱︱っ!﹂
﹁なんか、怒ってるぞ﹂
﹁どうしましたか? リリスさん﹂
﹁む︱︱︱︱︱! む︱︱︱︱︱︱!﹂
ちゃんと、最後まで、して!
﹁なんか、このピンク色の生き物可愛いな﹂
﹁ちょっと珍しい反応を示しますよね。色んな薬を試してみたくな
ります﹂
﹁まぁ、でも今日は時間がないぞ。あと2時間で自動パワーオフだ
160
って言ってたからな﹂
﹁そうですか。残念。ええと、リリスさん、次は私のを入れますよ﹂
﹁ふぁい﹂
よく分からないけど、リリスしゃん、って僕のことみたいだ。な
んだか、少しずつ分かってきた。リリスしゃんは今、気持ちいいこ
とをしてもらってるのだ。たぶん、何かのご褒美なのかな。
じゅぷり、と中に入ってくるモノの感触。さっきより、苦しくな
い。ぁん。でも、やっぱり、きもちいい︱︱︱︱︱⋮⋮︱︱。ぐち
ょぐちょに掻き混ぜて、いっぱい出し入れしてもらうと、ジンジン
するところが蕩けてきちゃう。う︱︱︱︱︱︱。気持ち良すぎて、
涙も出る。もっと、して⋮⋮ほしひ。ん、やっぱり、泡の中⋮⋮だ
ね、はじけちゃう、かも。
161
前回のログインではどうやら、ノルデとライガに輪姦された
episode7︳1:戦闘
らしい。が、正直なところあまり覚えていない。気づいたらホーム
ポイントの前にいて、とりあえずログアウトした。その日は何だか
疲れた気だるい感じがあったので、個人識別カードをいつもの場所
に戻して布団に入って寝てしまった。
そして迎えた今日のログイン。真っ先に僕が向かった先はノルデ
の店だ。別に輪姦されたことについて文句を付けに行く訳じゃない。
問題はサイミンだ。前回のログインで、僕はサイミンをあの店に置
きっぱなしにしてきた。
﹁たのも︱︱︱︱︱!!﹂
僕は店のドアを大きく押し開いて、飛び込む。
﹁え⋮⋮い、いらっしゃいませ﹂
明らかに動揺した表情でロングスカートのメイド服が出迎えた。
道場破りが来たと思ったのか、頭のおかしい客が来たと思ったのか
どちらかだろう。しかし構わず僕はサイミンが前回立ち尽くしてい
た店の隅に歩いて行った。
うわぁあ⋮⋮サイミン、いない。どうしよう!⋮⋮いや、いなく
ていいのか。逆にあれからずっとここに立って待っていたら申し訳
なさすぎる。
﹁あの、昨日の3時か4時くらいに、ここに立ってたロボっ娘を知
りませんか﹂
162
やや遠巻きに僕を眺めているメイド嬢に尋ねてみる。
﹁ぁ、ええ。知っていますよ。私、新しいマネキンかと思ってはた
きをかけちゃいました﹂
﹁はたき⋮⋮。えーと、その子は今どこに?﹂
﹁こちらです。っと、ノルデさんのお知り合いですよね? 呼びま
すね。ノルデさーん!昨日のお客さんがみえましたよぉ!﹂
少しして、ノルデが奥の方から姿を現した。入れ替わりに、メイ
ドさんは他のお客さんの接客に戻って行った。
﹁はいはい。すみません。お待たせしました﹂
﹁ノルデ!!﹂
﹁はい、いらっしゃいませ。リリスさん﹂
この声⋮⋮何かを思い出しそうになる。少し笑い含みの愛想声で
﹁リリスさん﹂って呼ばれるだけで、心臓を掴まれたみたいな気が
する。くそぉ、あんまり覚えてないけど、絶対昨日、僕に滅茶苦茶
しただろう。
﹁昨日!⋮⋮のことはとりあえず置いておくとして、ボクの仲間の
人形知らない?﹂
﹁サイミンさんですね。いますよ﹂
ちょうど、後を追うようにしてサイミンがこちらにやってきた。
僕の顔を認めるとパッと顔を輝かせて、﹁リリス様!﹂と叫んだ。
すみません。わたくし、はぐれた時の集合場所を聞
おお、来た。様づけ。
﹁リリス様!
163
くのを忘れてしまって。はぐれた場合はその場所を動くな、が鉄則
ですから、ここでお待ちしていたのですけど、御足労をおかけして
しまいました﹂
サイミンはペコペコとお辞儀を繰り返すので、僕はその手を取っ
て握った。
﹁ううん。会えて良かった。こっちこそ、ごめんね。っていうか、
本当に悪いのはノルデだと思うんだけど!﹂
ノルデの方を向いて睨む。しかしこのクセモノは笑顔を崩さず、
まぁまぁ、とか言っている。後ろめたそうな表情ひとつなく、柳に
風とはこの事だ。
﹁ぶっちゃけ、リリスさん、昨日のこと覚えていますか?﹂
﹁え?﹂
にこにこ。そんな爽やかに聞かれると、こっちが間違っているよ
うな気がして、つい、正直に答えてしまう。
﹁う⋮⋮。あんまり﹂
﹁ですよねー。ヘロヘロでしたもんね﹂
﹁あのさ、それって⋮⋮﹂
誰のせいだよ、と思いながら手はサイミンのすべすべの手の甲を
撫でる。とりあえず、無事に再開できて良かった。サイミンが自ら
マスターの元を去るなんてことはまず無いだろうけど、自由行動可
能な高度AIのことだし、何よりサイミンはNPCとしても可愛い。
悪い人たちに誘拐されたっておかしくないのだ。適当に放置してお
いて良い仲間ではない。
164
﹁それより、リリスさん、おいでになるのを待っていたんですよ。
昨日約束した冒険の門出祝い、ちゃんと準備したので受け取ってく
ださい﹂
そう言ってノルデは手を叩く。ミニスカートのメイド嬢がやって
きて、部屋の隅に積まれた樽の上に乗った木箱を持ちあげ、僕の前
の椅子の上に置き直した。ミニスカのメイド嬢は前髪ぱっつんでし
め縄みたいにダサい三つ編みをしている。顔にはそばかすがあって
丸眼鏡。この娘はAIキャラなのかな?
﹁どうぞ、差し上げます﹂
﹁んん、もらっちゃっていいのかな﹂
﹁もちろんです﹂
せっかくくれるというものを断る理由は無い。まさか、開けたら
また睡眠薬とかの怪しげな煙が噴き出したりしないよね。
前科があるので疑ってかかりながら、僕は箱を開けた。箱には仕
掛けは無くて、アイテムが整然と入っている。中に入っている物を
一つずつ手で取り出して、机の上に並べた。
﹁本当に、もらっていいの?﹂
﹁ええ。ついでにこれで、昨日の失礼も水に流してください﹂
うわぁ、ちゃっかりなんか付け加えた。⋮⋮まぁ、いいけど。
アイテムは柿の葉っぱみたいなのを5枚まとめたやつ。細長い香
水の瓶みたいなやつが1本。丸い手鏡が1枚、鍵束。皮袋に入った
水晶玉。
どれ一つとして、使い道が分からない。一度アイテムボックスに
入れると、アーカイブにアイテム名が残った。
165
グ・クォーツ
ロ
﹃またたび×5﹄﹃媚薬×2﹄﹃真実の鏡﹄﹃基本的な鍵﹄﹃記
録水晶×3﹄
もう一度、アイテムボックスから取り出してそれが何かを教えて
もらった。
﹁またたびはリリスさんご希望の品、媚薬は人間を﹃発情﹄状態に
させるアイテム、記録水晶はこの世界の録画アイテム。これらは全
て消耗アイテムです﹂
むむぅ。ノルデめ流石にやり手の商人だけあって、消費者のニー
ズを的確に押さえたラインナップをしてくる。顧客が潜在的に欲し
がっているアイテムを提案する営業力⋮⋮。まぁ、基本的にはエロ
利用可能なアイテムだね。
﹁すごい。ありがとう﹂
﹁いえいえ。ちなみに恩を着せるつもりではなく、これは助言です
が、正規価格でまたたびが500G、媚薬が5000G、記録水晶
が1000Gです。しかも一般の店では入手が困難ですので、市場
に出る時は、この2∼3倍の値段がします﹂
高価!僕は軽くのけぞる。
この前ちょこっと買い物をしただけだが、この世界での金銭感覚
はついてきている。
﹁真実の鏡と基本的な鍵は売買アイテムではなくてイベントアイテ
ムです。各地にある一番難易度の低い洞窟、この辺だと﹃ウディス
の洞窟﹄ですが、を初回制覇すると入手できるのがその鏡です。そ
れから、同じように塔、この辺だと﹃ミモザの塔﹄なんかを制覇す
ると得られるのがその鍵ですね。鍵も鏡もアラビーさんのパーティ
ーなら持っているに決まっていますけど、今後リリスさんがリーダ
166
になる時の事を考えれば、持っていて損はありませんから﹂
なんか、一人で冒険するつもりなのが見抜かれているって感じが
する。けど、いいや。最初の洞窟と塔をスキップできるなら、面倒
が省ける。
﹁ありがとう。嬉しい﹂
﹁喜んでいただけて良かった。効果は名前の通りです。真実を映し
出したい時にその鏡を覗く、これは結構色んな時に役立ちます。鍵
は今後の基本的な扉や宝箱の錠前を破るのに使えます﹂
﹁うん。分かった﹂
しばらくノルデと雑談をした。主に初回冒険に関する話で、ウデ
ィスの洞窟初回制覇に必要な戦力はバランス良いパーティー4名L
v10∼15が目安で、ミモザの塔が同じくLv15∼20だとい
う話。
一般的な冒険者はそこでコツコツとフロア制覇して経験値稼いで、
街に戻ってセーブして、武器買ってを繰り返すのだ。
もし、ウディスの洞窟を一人で制覇しようとしたらどれくらいの
Lvが必要かと聞いてみたところ、職業と持っているスキルに依存
するから何とも言えないと返ってきた。確かに、Lv100でも攻
撃スキルを一切セットしていない僧侶一人じゃ辛いかもしれない。
僕とサイミンの組み合わせならどうだろう。一応、洞窟か塔にも
チャレンジしておいた方がいいのかな。
﹁ノルデは、冒険に出たりしないの?﹂
﹁はい。もちろん、出ますよ。珍しい品物を入手したり、買い付け
に行ったりして売りさばくのが仕事ですから﹂
﹁ふぅん。面白そう﹂
﹁面白いです。それこそ、またたびや媚薬を標準店で売っている街
167
に行って、アイテムボックスを一杯にして返ってくれば粗利益率が
50%以上で大した儲けになります﹂
﹁でも、そんな風に儲けて、何に使うの?﹂
﹁それはもちろん趣味の為に﹂
﹁エロい趣味だ﹂
﹁否定はしません﹂
﹁あっ! そういえば、サイミンは何もされなかった?!﹂
隣で大人しく会話を聞いていたサイミンが首をかしげる。何もさ
れなかった、とはどういう意味ですか?という表情だ。サイミンは
分からない言葉がある時に不躾に﹁○○って何?﹂を繰り返すので
はなく、こういう可愛らしい表情を作る。
﹁ノルデにエッチなことされなかった?﹂
﹁はは⋮⋮リリスさん。私がそんなことするわけないじゃないです
か﹂
いやいや、どちらかと言えば﹃しないわけがない﹄。
﹁はい。されませんでした﹂
﹁良かった。あのね、サイミン、ノルデは変態で危ない人物だから
気を付けなきゃいけないよ﹂
﹁ええと、何割くらい冗談だと受け取っておけばいいですか?﹂
﹁100%本気﹂
ノルデが﹁またまたぁ﹂とかって笑っているが、こっちは笑えな
い。
サイミンに手出ししていないなんて、あり得るだろうか。単にサ
イミンが記憶していないだけで、例えば動力オフ時にレイプされて
ばっちり録画されているんじゃないか心配。
168
episode7︳2
さて、ではサイミンの体をチェックしておくべきだろうか?
僕はノルデに一服盛られたことや、自分が輪姦されたことについ
ては騒ぎ立てるつもりが無い。もしヘロヘロになるくらい気持ち良
かったのなら、覚えていないのが悔しいくらいだ。
だけど、サイミンのことは別だ。﹃僕の﹄可愛くて大事なサイミ
ンを無断で玩具にしたのなら許せない。ノルデには過分な贈答品も
頂いたけれど、それはそれ、これはこれ。
ノルデの店を出て、サイミンと手を繋いで歩く。
﹁あのさ、本当にノルデに何もされていないって、確実に断言でき
る? 動力オフ時に何かされたとか、変な薬で記憶を改ざんされた
りしてない?﹂
﹁えぇと、そうですね。そこまで厳密に検証しますと、断言はでき
ません。曖昧さを回避するのであれば、答えは﹃不定﹄です﹂
﹁うーん⋮⋮。心配だなぁ、心配だなぁ﹂
正直なところ、僕はサイミンが悪戯をされている可能性の方が7:
3くらいで高いと思う。
だって、あのノルデだよ。サイミンが高度AIなのは会話すれば
分かるから、こんな毛色の変わった獲物を見逃すはず無いと思うん
だよね。特殊なエロい画像を取るのが趣味らしいし、他人のモノに
ちょっかいを出すとかも、大好きなんだと思う。
﹁よし、やっぱり、確認しておこう! 気になる﹂
﹁はい。何を確認するのでしょうか﹂
169
﹁身体検査、だね!﹂
僕は街の大通りを折れて、商業店の長屋の裏口が並ぶ閑散とした
通りに入った。壁沿いには飲み物の空瓶が敷き詰められた木箱や、
野菜の入った籠が積み上げられている。蓋つきのゴミ箱の上で野良
猫が毛繕いをしていた。
樽と木箱に隠れてここなら人目につきにくい、というポイントを
選び、サイミンを連れ込む。僕は人差し指を上唇に触れさせて囁く。
﹁ちょっとだけ、調べさせてもらうから、静かにね。誰か来そうだ
ったら教えて﹂
﹁はい﹂
サイミンは素直に頷いた。僕はサイミンの背後にしゃがみ込む。
では、ちょっと失礼します。
膝丈のスカートはぴったりとしたデザインで布生地も丈夫だが、
引っ張り上げると、意外と伸縮性がある。一瞬ためらったが、思い
切りよく剥くと、薄水色のショーツに包まれた双丘が現れた。
﹁えっ、リ、リリス様?﹂
サイミンが両手をお尻にやって隠そうとするので、払いのける。
﹁邪魔しないで﹂
﹁は⋮⋮はい﹂
こっちは真剣なんだからね!⋮⋮というのは冗談だとして。ショ
ーツに指をひっかけてめくると、スカートとショーツに挟まれてぷ
るんと盛り上がった白い果実。白桃だ!わー。
こうやってまじまじと女性のお尻を見るのは初めてだけど、凄く
170
綺麗。おっぱいの膨らみが水分を含んでたっぷりたわわ、という感
じなのに対して、お尻は余分な水気が無くてサラサラつやつやした
白磁、まろやかな円を描く完璧な造形、っていう感じ。
スカートをもっとちゃんと上まで引っ張り上げて腰のところで止
まる様にして、ショーツを足首まで引き下ろすと、その形がよりは
っきりと白日の下に晒された。
んー⋮⋮今まで僕はおっぱい派だったけど、こんなにきれいなお
尻を目にするとこっちもいいなぁ、という気がする。
僕はサイミンのお尻に挨拶するようにちゅっと口づけ、それから
両手で揉んだ。少しひんやりしていて、手がぴたっとくっつく感じ。
むにむにむにむに⋮⋮。うん、これは良いものだ。
﹁ちょっと足開いて﹂
﹁はい⋮⋮、こうですか?﹂
僕はサイミンのお尻を鷲掴みにして、ぐいっと割れ目を開いた。
まずはお尻の穴からチェック。菊のつぼみはつつましやかに閉じて
いて、清廉そのもの。指先でつんつんすると、わずかに震え、より
強く口を閉ざした。
﹁うーん⋮⋮ぱっと見た感じ、こっちは被害なしっぽいね﹂
少なくとも、ここ数日間で誰かの手に荒らされたような形跡はな
い。むしろ、もしかして、後ろ処女?それはテンションが上がる。
﹁リリス様、そんなところ、見られると恥ずかしいです⋮⋮﹂
﹁じゃ、今度は前。こっち向いて﹂
﹁え、前って、あの⋮⋮。でも﹂
﹁早く。誰か来ちゃうよ﹂
171
﹁っ、はい﹂
サイミンの女性器には髪と同じ金色の毛が生えている。僕のリリ
スの体毛よりも濃い。手の平で撫でて茂みを掻き上げ、ぷっくりし
たまんこの下方、花びらに触れる。
﹁まずは触診だよ。今の状態が見たいから、濡らさない様に﹂
見上げるとサイミンは顔を赤らめ、肯いた。
僕は指をとりあえず適当に動かして花びらを探り、秘部を開いた。
後ろと同じように、前も結構頑固に閉じてるんだよね。左右に開き、
現れた入口を確かめるように触れる。
﹁もう少し、足開いて﹂
﹁はい﹂
僕は顔を近づけて、その仕組みをじっくりと観察した。女の子っ
てこんな形状になっているんだね。内臓の中を覗いているみたいな
グロテスクさと、用途の不明な複雑さに神秘を感じる。男なんて、
基本的には袋があって棒があるだけだもんなぁ。⋮⋮あ、ここがク
リトリスだね。
僕は包皮に包まれたそれを指で捏ねる。
﹁ひゃんっ⋮⋮﹂
スイッチがあったら押したくなるし、レバーが合ったら倒したく
なるのと同じで、つい弄ってしまった。
﹁そ、そこは﹂
﹁ん? ここがどうかした?﹂
172
こねこねこねこね。
﹁あ、っ⋮⋮。ふ、っ。だめ、だめです﹂
くりくりくりくりくり。
﹁んっううっ⋮⋮っは、ぁっん、はぁっぅ。だめ、だめです、リリ、
スさまぁ⋮⋮っん﹂
立ち姿でサイミンは両手を胸の前で握りしめて、懸命に耐えてい
る。それは僕の命令を守ろうとしてのことだろうけど、どうやらそ
の努力の成果はあまり芳しくないようだ。サイミンの女性器からは
じっとりと水分が沸き出し、膣に通じる狭い入口からはとろりと愛
液が溢れてくる。
﹁こら、駄目だよ。サイミン。濡れてきちゃってる﹂
﹁ふぅっ、す、すみません﹂
﹁マスターの言うことが聞けないなんて、悪い人形だね﹂
﹁うっうう。申し訳ございません⋮⋮﹂
サイミンは悲しそうな顔で瞳に涙を浮かべている。う、ちょっと
虐めすぎたかな。僕は慌てて訂正してしまった。
﹁ん、まぁ、そんなところも可愛くていいけどね。それに、サイミ
ンって人形には見えないし﹂
﹁えっ⋮⋮!﹂
えっ? さっきまで声を押し殺していたサイミンが急に大きな声
を出すから僕はビックリしてしまった。
173
﹁えっと、なに?﹂
﹁い、いえ⋮⋮。なんでもありません﹂
なんだろう。でも、サイミンの悲しい表情は吹き飛んだみたいで、
また可愛らしく頬を染めている。
﹁気持ちいいことされたら濡れちゃうのは自然な反応だよね。サイ
ミン、気持ちいい?﹂
﹁はい。恥ずかしいですけれど﹂
だいぶ濡れてきたので、僕は中指を侵入させる。すると、入れた
途端にきゅうきゅうにしめつけてきた。こんなに締め付けられたら、
指が動かせない、ってくらい。
﹁ぁあ、リリス様、それ以上はどうぞお許しください﹂
ええ?! それ以上は、ってまだ大して何もしていませんよ!
女陰はこれ以上ないほどキツくて、花びらから入口周りにも傷な
ど無し。うん、どうやらサイミンはレイプされたりしていないよう
だ。ノルデを疑ったのは取り越し苦労だったというわけだね。
と、一つの結論を付けて胸をなでおろしつつ、僕は尋ねる。
﹁あのさ、サイミンって、こういう経験は薄い方だって言ってたよ
ね﹂
﹁はい﹂
答えながら、サイミンは僕の指を逃がしたくないとでもいう様に
締め付ける。
174
﹁それって、具体的に言えば︱︱︱︱︱︱﹂
と、その時サイミンが身をびくりと震わせた。ざくり、と土を踏
む音。人の気配だった。
175
episode7︳3
奥は行き止まりの細い路地だ。僕とサイミンは木箱の影に身を潜
めて口をつぐんだ。耳を澄ますと、間違いなく人の気配。一人、二
人?話し声が聞こえてくる。武器を持っていると思う。金具のガチ
ャつく音も混ざっている。
﹁⋮⋮だろ。人が多過ぎんだよ。⋮⋮で、寄生してるようなヤツら
はメンバーから外すべき⋮⋮﹂
﹁もさぁ、お前が言ってるヤツ、ってシフォン達とか、エイベとか
だろ。あいつら外して男ばっかでパーティー組んで、何が楽しいよ﹂
﹁女っつったって、やらせてくれるわけでもねー⋮⋮﹂
﹁やらせてくれるNPCより、やらせてくれないPCの方が貴重っ
て思ってるやつが多いんだよ﹂
﹁出会い厨は逝ってよし﹂
﹁遡ってよしか﹂
﹁⋮⋮なんだ? それ﹂
他愛無い会話が続く。基本的に、自パーティーの仲間に対する愚
痴のようだった。男二人で陰口ってのも粘着っぽいなー。
こちらに気づく様子が無いのを確認して、僕はサイミンに突っ込
んだ指を中でぐにぐにと動かした。サイミンは緊張した面持ちでこ
ちらを凝視し、顔を振る。近くに人がいるので止めてください、と
いう意味だろう。
でも、この緊張感がいいんじゃない?
僕は指を引き抜くと、口を寄せて、サイミンの陰核の部分を舌で
まさぐった。びくり、とサイミンの体が震える。小さな粒を探り当
てて、尖らせた舌先で転がす。サイミンの女性器は無味無臭に近い。
176
濡れているけれど、動物的なメスの匂いがしなくて、清潔感がある
反面ちょっと物足りない感じだ。
ただ、そこをペロペロ舐めていたら、信じられないくらいに濡れ
てきた。え? サイミン、これ、お漏らししちゃったんじゃないよ
ね?っていうくらい。
見上げると、サイミンは口を両手で押さえて、顔を真っ赤にして
いる。太ももを触ると、それだけで苦しそうに目をつぶった。普段
はお澄まし顔のサイミンが身悶えする様子はなかなかギャップにそ
そられる。僕は舌での単調な攻撃を続けてあげた。サイミンもきっ
と嬉しかろう。
近くでは、男二人の会話が続いている。見つかったら恥ずかしい
ということはサイミンにも理解できているらしく、必死で耐えてい
るようだ。足がガクガクしているし、内腿は愛液が滴ってベタベタ
だが、声は出さない様に堪えている。
これだけ濡れてたら、二本でもいけるかな。
僕は再びサイミンの足の間に指を潜り込ませる。今度は一度に二
本。人差し指と中指をゆっくりと埋めていく。きついのは変わらな
いけど、流石にこれだけ濡れていれば侵入も容易い。第一関節、第
二関節⋮⋮リリスの手は小さくて指も短いから遠慮なく、指の根元
まで入れてみた。
中は生温かくてヌルヌルしている。そして、出入り口が狭くて僕
の指すら食いちぎらんばかりに締め付ける割に、奥の方はちょっと
ゆとりがある。そのまま指を出し入れすると、サイミンの足の震え
が強くなった。手で押さえた口から、小さくうめき声が漏れる。
﹁っ⋮⋮ぅ⋮⋮﹂
おっと、これはまずい⋮⋮かな? 声を出したら流石に僕らがこ
177
こにいることが男達にばれてしまう。こんな人気の無い裏路地で、
男二人に痴態を見つかったら輪姦コースまっしぐらだ。
名残惜しさを感じつつ、僕は潮時を感じて二本指を引き抜いた。
しかし、一気に抜いたのが良くなかったのかもしれない。
﹁ふうっ⋮⋮っ⋮⋮!﹂
少し大きい声がサイミンの口から零れた。抜いた指に伝った愛液
が糸を引いて落ちる。あー⋮⋮今のはまずいんじゃ、と思ったのと
同時に、向こう側の会話が止まり、男たちが気配を伺うように静か
になった。
﹁誰か、いるのか?﹂
あ︱︱︱︱︱︱。やっぱり気づかれた。
そしてサイミンを見ると、立ったまま、半ば朦朧とした感じで体
を震わせている。目は潤んでいて、小さく空いた口からは艶っぽい
喘ぎ息が浅く吐き出されている。どうやら、さっきのでイってしま
ったらしい。サイミン、感度良過ぎ。そんなんじゃ、ペニスで可愛
がられたらよがりまくっちゃうんじゃないか。
男の近づいてくる足音がする。しかし、イってるサイミンを動か
すこともできないし、逃げようにも袋小路だし、咄嗟の機転も利か
なかった。
﹁えっ⋮⋮。おい⋮⋮﹂
男が僕らを見つけて、手前で立ち止まる。一人は剣士で、割とス
マートな感じの美男子だった。でも、この世界ではこの手の美男子
はモブキャラ扱いだ。多すぎて見分けがつきにくいし、個性が無い。
178
﹁は? え?﹂
もう一人の男も似たような感じ。ただ、服装からして魔道士っぽ
い。フェンデルと同じで暗殺者とかの可能性もあるけど、フードか
ぶってるやつは全員魔道士に見える。
男二人は、僕らを認めて一瞬絶句した。それもそうだろう。壁に
もたれて喘いでるサイミンはスカートまくりあげて濡れたまんこを
晒しているし、足首にはショーツが絡みついて落ちている。
僕は僕で、そんなサイミンの横で所在無げに立ち尽くしていた。
﹁えーと⋮⋮これは? 邪魔したか?﹂
﹁うわ、二人とも可愛い﹂
﹁お前ら、NPCか?﹂
﹁違う﹂
僕は答えた。正確にはサイミンがNPCで、僕がPCだが、状況
的には逆に見えたかもしれない。サイミンが百合ユーザーで、女の
子キャラのNPCである僕を連れ込んで隠れオナニーしてました、
みたいな。
﹁お楽しみ中だった?﹂
﹁そうだよ﹂
ここで否定しても、空しい。
すると、男二人は顔を見合わせて、何事かを通じあったようだ。
﹁俺らも、混ぜてよ﹂
やっぱり、そう来るか。
179
うーん⋮⋮。本当の所を言うと、こういうシチュエーションも悪
かない。だけど、今日はもうちょっと冒険の準備を進めたいし、何
より、サイミンがいるからなぁ。
﹁ボクだけでいいならいいけど。この子は駄目﹂
サイミンの所有者は僕だ。他の男達に汚されるのはまだ早い。
すると、男達は何だか嬉しそうだった。
﹁仲間を庇おうって、いいよな﹂
﹁それで必死で奉仕するとか、いいよな﹂
そうだね。僕もその手のシチュエーションは好きだよ。﹃お願い、
私がご奉仕しますので、妹には手を出さないで!﹄とか、﹃やめて、
私の体でご奉仕するから、生徒には手を出さないで!﹄みたいなの
でしょ。
でも、その手のプレイってどう考えても最後はバッドエンドなん
だよね。﹃嘘つき!あぁっ!!ひどいわ!やめてぇ﹄までの一連の
流れが様式美だからなぁ⋮⋮。
﹁やっぱり、やめとく。また今度ね﹂
しかし、あっさり見逃してくれるはずもなく。
﹁和姦と強姦どっちがいい?﹂
﹁俺らはどっちでもいいけど﹂
なんて言いながら二人の男は立ちふさがっている。
僕はちょっと悩んで、サイミンの方を見た。ようやく体は落ち着
いたらしい。サイミンは涼しげな表情に戻っていて、だけどショー
180
ツは脱ぎ捨てたまま、スカートはまくりあげたままだった。
﹁サイミン、スカート直したら﹂
﹁ちょっとベタベタが気持ち悪いので、乾かそうかと﹂
サイミンは、レースのハンカチを出して、大腿部を拭い始めた。
マイペースだね。
﹁この人たちが和姦と強姦とどっちがいいか、かって﹂
﹁はい。聞こえていました。リリス様がお決めになればいいと思い
ます﹂
﹁サイミンは、この人たちとSEXしたい?﹂
すると、サイミンは少し悩んだ様子を見せて、答えた。
﹁⋮⋮いいえ。わたくし、あまり性経験が豊富な方ではありません
ので、ちょっと、いきなり見知らぬ方々とするのは抵抗があります﹂
﹁うん。じゃあ、仕方がない。戦える?﹂
サイミンの答えは朗らかだった。
﹁はい﹂
僕は、サイミンと自分、男二人を選択して戦闘領域を展開した。
傍に居た猫が毛を逆立てて逃げていく。狭いはずの裏路地が広がっ
て見える。これが戦闘領域化かぁ。外から眺めたことはあるけれど、
自分が中に入るのは初めてだ。
181
episode7︳4
さて、﹃女神クロニクル﹄の世界でバトルするのは初めてだけど、
上手にできるだろうか。一応過去にはマルチモーダルI/Fを使っ
て他のゲームをやった経験もあるけど、こういう実際に︵と言った
ら語弊があるだろうか︶自分で体を動かすバトルは初めてだ。
やっぱりリアルで運動神経がいい方が有利だそうだ。僕は運動は
苦手⋮⋮まぁ、ハーフエルフで魔法使い系だから、体を動かす部分
は逃げに専念すれば問題ないだろう。
﹁へー、じゃあ、強姦がお好みってことだな﹂
﹁ボクらが負けたら、そうなるのかもね﹂
﹁強いのか? おい、本気で行くぞ﹂
﹁あぁ﹂
﹁サイミン、前に出てもらえる?﹂
﹁はい﹂
ひやっとした緊迫感があった。僕も、この世界ではリアルに痛み
を感じるんだよな、と思えばどうしたって緊張した。
が、緊張は長く続かなかった。前に出てくれる?とお願いしたサ
イミンが一歩、二歩、三歩、四歩⋮⋮ん? ん?。
サイミンは武器をアイテムボックスに入れっぱなしにしていたの
で、丸腰だった。職業が騎士だから、武器が無いと接近戦は厳しい
んじゃないの。そんな僕の心配をよそに、サイミンは躊躇なく敵二
人に近づいていく。
そして、剣士風の男に手を伸ばした。
﹁︱︱︱︱︱︱とぉっ!﹂
182
﹁えっ?﹂
﹁えっ?﹂
何があったのか、誰も分からなかった。僕を含めて皆が茫然とし
た。
掛け声をかけてサイミンは男を軽くパンチ?した。猫パンチみた
いな感じ。更に、素知らぬ様子でもう一人の男に近づいて再び同じ
﹁とぉっ﹂を披露した。
﹁サ⋮⋮サイミン、それ、何?﹂
もちろん、殺傷力は無さそう。パンチを受けた二人の男も複雑な
表情を浮かべていた。まさか、お前はもう、死んでいる、とかいう
ヤツですか?
しかし、サイミンは何食わぬ顔でスタスタと僕のところまで戻っ
てきた。そして、手に持っている何かを出した。
サイミンの手の中には、何かのチケットと、本らしきものが乗っ
ている。それは、まさに猫が獲物をご主人様に見せびらかしに来る
のに似ていた。
﹁盗みに成功しました﹂
﹁わーお⋮⋮﹂
それからサイミンはくるりと男達の方に向き直り、ちょうど向こ
うが魔法と剣とで攻撃を仕掛けてきたタイミングだったので、それ
を受け止めた。
遠隔からの魔法が直撃したが、サイミンはよろめいただけで表情
を変えなかった。続いて振り払うように横から飛んできた剣の一撃
を避け、相手の懐に入って華麗にアッパーを決めた。顎を殴る凄惨
な音が響いた。痛そう!舌を噛んだのかもしれない。男は口から血
183
を出して、ギブアップをした。これで、一人が敗北。
もう一人の男はたじろぎ、離れた位置から今度は火炎魔法を放っ
たが、やはりサイミンは動じなかった。無傷なわけではないと思う
けど。
お返しとばかりにサイミンの手から魔法が放たれて、魔法使い男
を吹き飛ばした。ビニール袋みたいに吹き飛ばして、地面に落ちた
男は己の体重でぐしゃりと逝った。
﹁つ、強ひ⋮⋮っ、おひ、だいひょうぶか⋮⋮﹂
戦闘領域は既に解除されていた。敵二人が敗北を認めたからだ。
口から血を流す男は、地面で動かなくなった男の側に寄ってその安
否を気遣ったが、大丈夫では無かったらしい。魔法使い男は、ぶぅ
ん、という音と一緒に映像が乱れるようにその姿が崩れ始め、消え
た。
生き残った方の男は、おびえたようにこちらを向き、何事か詫び
のような言葉を口走りながら逃げ出した。
僕の視界の隅には、戦闘結果を示すウィンドウと、その結果によ
る報酬が表示されていた。
敵A:冒険者 LV21・・・GIVEUP
敵B:魔法使いLV19・・・DEATH
ドロップアイテム・・・獣の皮
経験値・・・1100exp
報酬・・・130G
殺すつもりまでは無かったんだけど、まぁいいか。落ちている獣
の皮を拾って、アイテムボックスに放り込む。予想はしていたけど、
やっぱりサイミン強いね。
184
﹁こちらも﹂
﹁ありがとう﹂
盗んだ本とチケットも受け取ってボックスに放り込むと、アーカ
イブに名前が残った。﹃アイテム:秘密のチケット×1﹄﹃武器:
魔術書×1﹄。秘密のチケットって何だろう、と思って尋ねたが、
サイミンも知らないということだった。
ついでに今更だけど、サイミンのスキルを簡単に説明してもらっ
た。道を歩きながらの会話だ。さっさと移動しないと、さっきの奴
が仲間を引き連れて復讐に来るかもしれない。
自動スキル
﹃無慈悲﹄⋮自分よりレベルが低い敵への攻撃が倍加
﹃忠義の大盾﹄⋮パーティーリーダーへの致死攻撃を無効化する︵
1回/1戦闘のみ︶
﹃忠義の魂﹄⋮パーティーリーダーの呼び声により蘇生可能︵戦闘
中使用不可︶
﹃動力オフHP回復﹄⋮動力をオフ時にHP自動回復
﹃動力オフMP回復﹄⋮動力をオフ時にMP自動回復
呪文スキル
﹃一掃の風/水/火/土﹄⋮攻撃魔法
﹃傀儡術﹄⋮敵を操る
﹃モンスター解析﹄⋮敵モンスターの情報を解析する
﹃地形解析﹄⋮地形情報を解析する
﹃盗み﹄⋮敵の所有アイテムを強奪する
ふむ。ぱっと聞いただけじゃよく分からないスキルもあるけど、
185
おいおい分かっていくだろう。しかし何気に﹃無慈悲﹄が強烈だ。
﹁倍加って、本当に2倍になるの?﹂と尋ねたら、﹁1レベル低い
毎に1に対して0.1倍増加です﹂と教えてくれた。
つまり、さっきの敵の場合、サイミンのLVが72で相手が20
程度だったから⋮⋮1に対して5.2倍増で、6.2倍化か⋮⋮。
まさに無慈悲、って感じ。いじめ、カッコ悪い。まぁ、雑魚キャラ
に時間食わなくてよくなるから、それと全体魔法の組み合わせは便
利だろうな。
忠義スキルといい、解析系、盗みスキルといい、サイミンは便利
ちゃんだ。ぜひパーティーに一人は欲しいって言う感じのスキルの
デパート。前の主人の勇者アルスとやらに便利に使われていたので
は無かろうか。
それから、僕はこの街のメインストリートを通って、まずは酒場
﹃ホーボー鳥亭﹄を覗いた。しかし、そこに目当ての人物がいなか
ったので、ちょっと治安の悪い裏路地に入って馴染みの﹃しわ花街﹄
を訪れた。店内は開店していて、結構混んでいた。
僕はカウンターに両手をかけ、顔を出してマスターに尋ねた。
﹁こんにちは。アラビーいますか﹂
マスターとはもう顔なじみなので、気さくに教えてくれる。
﹁いえ、今日はたぶんログインしないと思いますよ。金曜日はいな
いことが多いですね﹂
﹁ありがとう﹂
なんだ、残念。金曜日いないことが多いって、意外とリア充なの
かな∼。この前もらったお金で買ったアイテムの報告もしたいし、
そろそろ冒険に出るつもりだから、一言挨拶もしておきたかったの
186
だけど。さて、どうしよう、と思いながら店内を見渡す。
﹁あ﹂
店の二階に伸びる階段の手前に立っているフェンデルを見つけた。
﹁フェンデルー﹂
小股でぱたぱたと近寄り、抱きつく。フェンデルは僕を抱きとめ
て、頭を撫でてくれた。
﹁やぁ、リリス﹂
﹁こんにちは﹂
見上げると、フェンデルの顔が僕の頭を飛び越えて後ろを見てい
る。
﹁あぁ。この子、サイミンだよ。サイミン、彼はフェンデル﹂
紹介されてサイミンは丁寧にお辞儀をする。
﹁はじめまして。フェンデルさん﹂
﹁よろしく⋮⋮確か、アラビーが道楽で買った高度AIだったかな﹂
﹁知ってるんだ?﹂
﹁うん。買ったまま、使っていないみたいだったけど、リリスがも
らったんだね。冒険の仲間?﹂
﹁そう。ボク、冒険に出るんだ﹂
﹁おめでとう。リリスがいなくなると寂しいけど、可愛い子には旅
をさせろって言うしね﹂
﹁えへ。ボク、可愛い子?﹂
187
両手を頬にあてて可愛い子ぶってみる。ジョークのつもりだった
けど、﹁可愛いよ﹂と返された。
﹁ちょうど良かった。僕からもリリスへ餞別があるんだ。受け取っ
てよ﹂
﹁え。本当?﹂
わーい。3人で空いている丸テーブルに移動した。フェンデルは
アイテムボックスから、可愛らしく包装されたプレゼントを取り出
した。遠慮なく包みを開いて中を覗くとキラキラしたブローチらし
きものが入っている。手のひらにのせて見ると、裏側はパチン、っ
て留めるやつになっていて、どうやら髪飾りらしい。
﹁ありがとう!﹂
僕はそれを一度アイテムボックスに入れてから再び取り出し、頭
につけようとした。やり方がよく分からなくて戸惑ったけど、サイ
ミンが上手につけてくれた。どんな塩梅か見たかったのでボックス
から﹃真実の鏡﹄も取り出して、自分の顔を映してみた。
﹁わー! 可愛い!!﹂
真実の鏡は普通の鏡としても利用できるらしい。そこには真珠が
連なった銀細工の髪飾りをつけた桃色髪のハーフエルフ⋮⋮僕が映
っている。
同時にアーカイブを視界の隅で開いた。
﹃装備:セレネの髪飾り﹄
﹃効果:①回避上昇︵小︶ ②命中上昇︵小︶ ③未確認﹄
188
﹁似合う? あ、効果③が未確認になってるんだけど、何だろう﹂
﹁すごく似合うよ。効果③は月夜にパラメータ上昇、のはず﹂
﹁そっかー。ありがとうー﹂
サイミンも笑顔で褒めてくれた。
﹁リリス様、とてもお似合いです﹂
やだなー。お世辞だと分かっているのに嬉しい。リリスを可愛く
着飾るのは、僕としても楽しく、外見を褒められるのもやぶさかで
はない。あれ⋮⋮やぶさか、の使い方、これであってる?
その日はフェンデルとサイミンとお喋りして、冒険のノウハウを
教えてもらった。ノルデに鏡と鍵をもらったことを話すと、鏡があ
るなら途中で﹃悲しみの生贄村﹄イベントをこなすといいと言われ
た。イベントアイテムが美味しいらしい。
あとは、都市をつなぐ道のうち、﹃黄色いレンガの道﹄はモンス
ターが絶対に寄ってこないから安全で﹃青いレンガの道﹄は自分よ
りLVの低い敵は近寄ってこない、とか。
僕は、明日の夜にアラビーに会いにくることを伝言して、ログア
ウトすることにした。実は、フェンデルに誘いをかけたけど、振ら
れたのだ。
﹁とっても魅力的な誘いだけど、アラビーさんの女に手を出すのは
ね﹂
だって。義理堅い事で。
189
episode8︳1:出発前夜
思うに、瞬間移動があまり解禁されていないのが不便なのだ。
それゆえ、﹃女神クロニクル﹄では街の間の移動が容易くない。
一度訪問したことのある街に自由に飛べる呪文﹃飛翔旅行﹄は存在
するけど、習得条件が相当厳しくて、公式攻略サイトで調べたとこ
ろ﹃習得条件:①クリアボーナス時に選択 ②未公開﹄だった。②
はちょっと分からないけど、クリアボーナスレベルの呪文だから、
かなり出し惜しみしているのが分かる。
呪文を使わずに遠くの街へ行こうと思ったら、基本的には拠点を
移動しながら時間をかけて街から街へと移り渡っていくしかない。
だから、一度冒険に出て、気づけば最初の街からだいぶ遠ざかって
いるということはあり得る。
僕がたまたま降り立ったこのスタート地点の街﹃ドッグベル﹄は
悪い所じゃなかった。街の治安としてはあまり良くない部類に入る
みたいだけど、その分刺激があったし、アラビーという伝手があっ
たおかげで、色々と楽しむこともできた。
ここを離れるというのはやっぱり、ちょっとさみしい。色々と餞
別をもらったせいで、逆にすぐに舞い戻りにくい感じがあるけど⋮
⋮きっとまた戻って来よう。
﹁明日、サイミンと二人で出発するから﹂
﹁分かった。今日は?﹂
﹁今日は、最後の晩餐﹂
﹁スイート取ってヤリまくるか﹂
﹁おー!﹂
190
僕はグーを作って晴天に向かって振り上げる。
しかし酒場﹃ホーボー鳥亭﹄に寄って主人に尋ねると、あいにく、
スイートが埋まっているとのことだった。アラビーはそこで﹁もし
フェンデルがここに来たら﹃クジャク亭﹄に﹂と伝言を残していた。
連れられて﹃クジャク亭﹄についていくと、それは街の一番大き
な宿屋だった。出入り口にドアを開ける係りのキャラが立っていて、
絨毯は赤いし、ロビーにソファは置いてあるし、高級感がある。そ
こで、一番大きなロイヤルスイートルーム1000G/1人を取っ
た。
部屋は最上階の3階。この街は平屋か2階建ての建物が多いから、
窓からのぞいた景色は屋根と空が連なっている。
﹁フェンデルが来るの?﹂
﹁その予定。俺と水入らずが良かったか?﹂
﹁ううん。むしろ嬉しい﹂
﹁んだよ、つれねぇな﹂
あ、リップサービスしといた方が良かった?気が利かなくて悪か
ったかなーなんて思いながら、僕は、アイテムボックスを開く。
﹁これ、使ってみたいんだ﹂
﹁ん、あぁ、お前そんなもん、どこで手に入れたんだ﹂
﹁ノルデにもらったー﹂
﹁結構、これ高価だぞ﹂
うん。知ってる。僕は片方の手に細長い小瓶と、もう片方に丸い
ログ・クォーツ
水晶玉を持って、アラビーに手渡した。小瓶が﹃媚薬﹄で水晶玉が
﹃記録水晶﹄。冒険の餞別としてもらったばかりのレアアイテムだ。
これを街を出てすらいない今日使っちゃうというのも我ながらこら
え性の無い事だと思うけど、使い惜しみしても仕方がないからね。
191
僕は基本的にその日暮らしのプレイスタイルを貫くつもり。
﹁記録水晶使うなら、撮影者がいた方がいいんだけどな。ロングで
撮ってもいい感じになんねぇんだよ⋮⋮﹂
職業病か、アラビーはブツブツ言ったが、水晶の表面をタッチパ
ネル式に操作して発動させ、部屋の隅、棚の上に置いた。
﹁おら、口開けろ﹂
﹁わっ﹂
僕は腕をぐいっと引っ張られて、顎を掴まれた状態で媚薬を口に
注ぎ込まれた。ほの甘い液体が喉を下って行く。
﹁んっ、けほっ﹂
媚薬って、どういう感じ?とか聞く間も無かった。一応、ちょっ
とはおっかなびっくりの気持ちもあったんだけど、イキナリ飲まさ
れちゃって、躊躇も何もあったものじゃない。ゲーム内ではどこか
の街で標準品として売っている品物だし、よっぽど無茶苦茶な作用
は無いと思うけど、大丈夫かな⋮⋮。
そんな手遅れの心配をする僕の横で、アラビーは適当に服を寛げ
ている。
﹁リリス、手、こっち﹂
﹁うん?﹂
僕がその意味を理解する前に、アラビーは手早く僕の腕を取って、
後ろ手に縛り上げた。え?縛るの?
192
更に、手の使えなくなった僕の代わりに前開きのブラウスのボタ
ンを外していく。一つ一つ、ゆっくり、外されていくボタンを見な
がら、僕はどこかもどかしい気持ちを感じた。
腕が動かせないというのは、たったそれだけで想像以上の不自由
感がある。思えば縛られるのは初めてだ。僕自身はM気質ではない
けど、リリスの体が虐められることを思うと興奮する。
﹁ん、ん⋮⋮?﹂
胸が苦しい。はだけたブラウスからはゆるやかな胸の膨らみ。ブ
ラウスが擦れただけで、ピンク色の乳首がつん、と尖る。白い肌に
桃色の絵の具を落としたみたいなおっぱいが露わになって、アラビ
ーの手のひらに覆われると、くすぐったいような肌がざわつく感じ。
﹁あ、はぁ⋮⋮。これ、ぁ、まずいかも﹂
乳首には直接触れずに、周囲を円を描く様に撫でられるだけで、
息が上がってくる。くるくるふにふにされるのに合わせてどんどん
体が熱くなる。
﹁うそだぁ⋮⋮こんな、ぁっ、あっん⋮⋮﹂
おっぱいを触られているだけなのに? あぁ、駄目だ。とりあえ
ず、そうじゃなくて、おっぱいの、真ん中、周囲じゃなくて、その
中心を触って。身悶えしながら、僕はベッドに寝転がってしまう。
体を支えておくことができない。
肌の上を這う手は、乳首を避けてわき腹、腹、お尻の丘、太もも
と移動していく。内股を触られて思わず甘い吐息が零れる。どうし
たってその先を期待するけど、アラビーの手は肝心な部分を避けて、
ひざこぞう、ふくらはぎ、足の指先に触れる。
193
﹁んっ、うあぁんん⋮⋮。やぁ、ちゃんと、触ってぇ⋮⋮﹂
﹁触ってるだろーが。ほら﹂
手が頬を撫で、首筋を指が伝う。触られた跡が、ジンジンする。
たったこれだけで、僕は媚薬の効果を思い知った。
﹁そこ、じゃなくてっ﹂
息が、熱い。身体の中が燃えているみたいだ。
ぐにぐにと、今度は力強くおっぱいを揉みしだかれる。リリスの
おっぱいは小さいから、あまり強く揉むと痛い。でも、今日はそれ
どころじゃなくて、痛いより気持ちいい。
﹁おねがぃ⋮⋮真ん中、触ってぇ﹂
﹁へーへー﹂
感度がぎゅっと収集されている乳首の真ん中をつままれると、体
に電流が走ったみたいな錯覚。
﹁はあううぅ⋮⋮﹂
乳首をクリクリされて、一指し指で押したり、親指と人差し指で
こねられたりしているうちに、信じられないくらい快感が押し寄せ
てきた。
﹁えっ、あっ、あうっん⋮⋮はぁ、っんんん⋮⋮や、らめ⋮⋮ぁっ
ん、ぁっん、おかしい﹂
嘘だ。おっぱいだけで。
194
﹁あっ⋮⋮ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮ぁう︱︱︱︱︱︱﹂
イきそう。そんなことって、あるの?あるのかも。すごい。
﹁やぁ、ひゃ⋮⋮いっちゃう⋮⋮﹂
しかし、そこで愛撫の手がピタリと止まる。
あと少しで、ってところで止められて、息を吹きかけられた。優
しく、ゆっくりと舌が這う。ちょっと、もうちょっと、乱暴に、ぎ
ゅっってして。
﹁うっ⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮やぁあ⋮⋮ぁん﹂
体をひっくり返されて、目の前にそそり立ったアラビーのペニス
が現れる。僕は、それをどうすればいいか分かっている。下半身が
むずむずして、早く欲しい、欲しいと喚いている。急かされるよう
にして僕は亀頭を舐め、そして小さな口いっぱいにそれを頬張った。
リリスの上のお口ではとてもアラビーのモノの根元まで収めるこ
とができない。舌を使ったり、先っちょを吸ったり一生懸命に奉仕
しようとするけど、いっぱいいっぱいでゆとりが無いので、上手に
できないのだ。
そんなぎこちない口戯がまだるっこしかったのか、アラビーは僕
の頭を押さえつけるように、押した。ペニスが喉の奥まで入り込ん
できた。押し込まれる嘔吐感。上手く呼吸ができない。喉をレイプ
されて、息苦しさと倒錯感に眩暈がする。
195
episode8︳2
苦しいとはいえ、喉も粘膜だ。苦しいのと痛いのと気持ちいいの
は紙一重。口を目一杯犯されているうちに、体はますます熱くなっ
てくる。下半身がきゅんきゅんしてしまって宥めようがない。薬の
効果はバッチリ効いているみたいで、体内を嵐が吹き荒れるような
物狂おしさ。口を解放されるやいなや、僕は懇願した。
﹁いれてぇ⋮⋮﹂
腕が使えない状態で、お尻を持ち上げておねだりする。だが、ア
ラビーは僕の欲しがるものをくれない。片手でリリスの陰部に触れ
てその濡れ具合を確かめただけだった。僕はといえば、そうやって
少し触れられるだけで震えてしまう。
﹁ひゃんっ⋮⋮お願い、早く、ちょうだい。も、だめ⋮⋮﹂
﹁ん?﹂
﹁リリスのおまんこにい︱︱︱︱︱︱、アラビーのペニス、が、欲
しい⋮⋮っ﹂
﹁ま、慌てるなって﹂
そう言いながら、指を割れ目に沿わして敏感なクリを弄る。線香
花火が爆ぜるみたいな快感がパチパチと花開く。
﹁ふあぁっ⋮⋮ん!﹂
﹁おっと、っと﹂
﹁や、ぁ、なんでぇ﹂
196
なんでやめちゃうの。ベタベタに濡れたたまんこは弄って欲しく
て、イきたくてうずうずしているのに。
﹁掻き混ぜて欲しいよぉ。ぐちゃぐちゃにして⋮⋮ぇ﹂
膣内からは誘う蜜があふれ出して、大きいのでも飲み込む準備が
できている。なのに、アラビーは全然肝心な部分を触ってくれなく
て、リリスのあんまり太くない太ももとか、おへそをいじっている。
実はおへそも感じちゃうんだけど、あぁ⋮⋮でも、もっと下の、熱
いところを触って欲しい。
もし、自分の手さえ自由になるのなら、己の指で慰められるのに。
それもままならない。媚薬のせいか飢えが膨らんで、一つのことし
か考えられなくなる。
﹁欲しい、のっ、お願い⋮⋮﹂
するとアラビーはうつぶせになってお尻を突きだす僕の後ろから、
太ももの間にペニスをこすり付けた。大腿部もしたたる愛液で濡れ
ているから、いい潤滑油になってペニスが足の間で蠢く。逞しい肉
棒にどうしようもない欲求を感じる。割れ目の所をカリがひっかか
って擦るだけでも気持ちいいし。軽く喘ぎながら、僕は腰を揺らす。
﹁サカってんなぁ﹂
﹁だって、っ。くすり、効いてる、しっ﹂
﹁いれて欲しい?﹂
﹁欲しい。欲しいよぉ﹂
もう、僕の声は涙声だ。すぐそこにあるものに手が届かない、っ
ていうもどかしさに叫びたくなる。
197
﹁いれてください∼お願いします∼。ぐすっ﹂
﹁しょーがねーなー﹂
ぴたっと、割れ目が亀頭に吸い付いて、膣内へと誘う。いれて。
そのまま、奥まで、押し込んで。
﹁ぁ⋮⋮っ⋮⋮ぁっん﹂
太い肉棒が閉じた肉壁を押し開いて、埋もれていく。が、その侵
入は浅い所でピタリと止まり、引き抜かれる。
﹁やぁっん。や︱︱︱︱︱︱ぁっ! らめ、ひどいっ﹂
﹁なーにが、ひどいんだよ。ちゃんと入れてやっただろーが﹂
﹁もっと、奥まで、ちゃんと、入れて﹂
しかし、その答えは冷たいものだった。
﹁だめ﹂
﹁えええぇん。なんで、だめなの。お願いします∼﹂
再びおっぱいを舐められる。でも、もう期待はすっかり下半身の
奥に燃えていて、疼きが止まらない。辛いのだ。満たされない。甘
い快楽ではなくて、そこには切羽詰まった苦しみがあった。
﹁お願い、まんこに入れてくださーぃ、いっぱい、奥まで⋮⋮!﹂
﹁あー? もうちょっと我慢できるだろ。リリス﹂
﹁できないっ。もうだめ、おかしくなっちゃう!﹂
おっぱいは気持ちいい。でも、涙が出てくる。そして、涙以上に、
198
割れ目からは大量の愛液が滴り続けている。本当に、これ以上は我
慢の限界だ。
﹁ふぅん。じゃあ、何でも俺の言うこと聞くか﹂
﹁聞くよ。なんでも、だからっ⋮⋮﹂
体をよじって懇願する。本気で、僕は今なら何でも言うことを聞
く気になっていた。
﹁じゃ、冒険に出るのを止めて、ずっと俺の側にいろよ﹂
えぇ?! 何、それ⋮⋮とは、思った。随分とウェットだが、大
した要求では無い。別に、構わない。それで今この切なさから逃れ
られるなら、二つ返事だ。
﹁分かった、から、ずっと、いるから⋮⋮ぁ﹂
﹁で、俺の性奴隷な﹂
﹁ぅっ⋮⋮。んっ。いいよ、それで、アラビーの性奴隷にでもなん
にでもなるっ⋮⋮から﹂
すると、笑い声が返ってきた。
﹁お前、あっけねぇなぁ⋮⋮﹂
僕がぎゅっとつぶった眼を開けてアラビーの顔を見上げると、呆
れたように、笑っている。ほっぺにキスされて、体を持ち上げられ
た。耳元で、アラビーが囁く。
﹁おら、あっちが記録水晶。よく見ろよ﹂
199
言われた視線の先には丸くてつやつやした水晶玉が固定してある。
今、あの水晶玉にはリリスの恥ずかしい姿が真正面から映っている
はずだ。撮影中と思うと、余計に気が昂る。無機質な撮影アイテム
には何の遠慮もない。
背面座位の恰好で、水晶玉の方を向く。両手が使えないから体の
バランスがとり辛くて、両足を開いて体重は全部アラビーの方に預
けてしまう。股の割れ目にペニスの先が押し込まれかと思うと、後
は容赦なく突き入れられた。
﹁ふ、ぃ、ぁっアぁ、らめ、ら、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱
︱︱っ⋮⋮!!﹂
あっという間、差し込まれただけで僕は簡単にイってしまった。
﹁あぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮、ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮あぁ︱︱︱︱︱︱⋮
⋮﹂
凄かった。身体全身が悦んでいるみたいだった。指先から髪の毛
の先まで、ようやく満たされた充足感を感じて、歓喜に打ち震えて
いる。一度大きくのけぞり、それから軽く痙攣するみたいにびくび
くと身体が跳ねる。膣内がうねって、まだたくましいアラビーのペ
ニスに絡みつく。絶頂の余韻が冷めやらぬうちに奥の方を突かれて、
また反応する。
﹁あぁっ、あっ、あ⋮⋮らめぇ﹂
だけど許してはもらえなくて、今度はうつぶせの恰好で腰を掴ま
れてずぶずぶと犯られた。僕はイったばかりの敏感なまんこでその
責めを受け止めながら、悲鳴を上げた。
200
﹁イく、いく、また、ひいっ。イっちゃう︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
後ろから顎を掴まれて、顔を上げさせられる。真っ直ぐ視線の先
に水晶玉が鎮座している。イキ顔をバッチリ晒しながらまた僕はま
た快感に飲み込まれた。
余韻どころの騒ぎじゃない。絶頂に絶頂を上塗りするみたいに連
続でイって、頭が真っ白⋮⋮あぁ、意識が飛びそう。僕の中に差し
込まれたペニスがドクリと脈打つ。
﹁ひゃ、ら、ぁ﹂
子宮がたっぷりの精子で白く染められている感じがする。ドロド
ロの性欲が、お腹の中に吐き出されて蠢いている。
﹁ぅあ︱︱︱︱︱︱﹂
何気なく背中を撫でられ、また、イった。
自分の鼓動が耳の奥で聞こえる。熱っぽい体を横たえたまま、荒
い呼吸を繰り返す。そんな風にぐったり死にそうになっている所に、
ノックの音がした。開いたドアからはフェンデルが入ってきた。
﹁遅刻﹂
﹁すみません。まだ、残っていますか?﹂
﹁まだ、始めたばっかりだぜ﹂
﹁それは良かった﹂
もう、無理です。僕の顔にはハッキリとそう書かれていたと思う。
だけど、フェンデルは僕の顔を見て、涼しげに言った。
201
﹁じゃあ、たくさん、可愛がってあげるね﹂
まだ、媚薬の効果が薄れてくる気配は、ない。
202
episode8︳2︵後書き︶
このまま快楽堕ち⋮⋮︻完︼フラグw
203
記録水晶は撮影した映像と音声を記録するこの世界のデバイス
ログ・クォーツ
episode9︳1:冒険
でもあり、メディアでもある。外見は単なる水晶玉だが、起動させ
ると発光して表面に画面が浮かび上がるので、タッチパネル式に操
作して使用する。撮る方向やズームはもちろん、カラーバランスや
輝度、その他色々を調整することも可能。
撮影時間は水晶一個につきゲーム世界の4時間ぶんだが、連続撮
影にしか対応していない。つまり、今日1時間だけ撮影して、別日
に残り3時間を同じ水晶で撮影しようと思っても不可能ということ。
だけど、この時の僕にとって4時間は十分だった。僕がドッグベ
ルというとある初期冒険者向けの街の一番高級な宿屋のロイヤルス
イートのベッドの上で息絶える様を、水晶玉は余すところ無く撮影
することができた。
水晶玉に録画された映像を見る方法は二通りある。一つは水晶玉
の中に映る小さな画面を覗き込む方法。もう一つは、水晶玉の映像
をどこかの白くて平らな壁⋮つまりスクリーンに投影させる方法だ。
僕はこの記録を大画面で見られるほど厚顔では無かった。誰にも
見つからずに一人になれる場所を探して、周囲をはばかりながら水
晶玉を覗き込んだ。最初の方の数十分を見ただけで顔が熱くなって
きて、﹁うわー⋮⋮﹂と一人つぶやいて再生を止めてしまった。
そこには、犯されながらよがり狂う少女の姿がある。色素の薄い
妖精のように透明感のある肌、身長は低いが細くてすらりと伸びた
肢体。うっすらと脂の乗った脾肉から尻の双丘までまろやかな曲線
を描き、更に奥の秘部からは傍目に分かるほどの愛液。
桃色の髪をした清楚な顔立ちの少女は淫乱な本性をさらけだして、
204
男のペニスを咥え、奉仕し、それを己の膣内に挿れて欲しいと懇願
している。
この水晶玉に映っているのはリリスだ。犯されているのはリリス
の体だ。⋮⋮そう思うのに、僕は込み上げてくる感情に穏やかでは
いられない。
街の外側を囲む城壁が崩れたところに腰掛けて、一度息を整えた。
早送りして、自分自身の記憶が朦朧としてきたあたりの映像を確
認してみる。
﹃うぁ⋮⋮ぁっぅ⋮⋮ぁうう⋮⋮ぅあ︱︱︱︱︱︱﹄
﹃いくぅ⋮⋮また、いっちゃう、ぅ⋮⋮もう、やらぁ⋮⋮いっちゃ、
ぁぁ⋮⋮﹄
﹃は、い⋮⋮ボクは、ぁ、っ、ん⋮⋮せーぇ、どれー、ですっ⋮⋮
いっ、いっぱい、ひぃ⋮⋮おかして、ぇ⋮⋮﹄
﹃ぁあ⋮⋮また、いっって、ましゅ⋮⋮、ひぐぅ、ひぃいいぃちゃ
ううぅう⋮⋮﹄
大変なことになっている。顔も髪の毛もぶっかけられた跡があっ
て、白濁した精液は後半乾いて白っぽい筋だけ残してリリスにへば
りついている。
いや、ノルデんところで一服盛られて犯られたのと違って、この
時の記憶はあるよ。だけど、こんな凄い事になってたっけ?僕、こ
んな事、言ったっけ?
あぁ、ぶっちゃけると滅茶苦茶恥ずかしい。美味しい映像として
取っておいて、あわよくば口寂しい時のオカズにしようとか考えて
いたけど、とてもじゃないけど無理だ。なんだろう、エロいことを
してる間は犯されながらも不思議と自分自身でリリスの体を犯して
いるような不思議な錯覚があって興奮するんだけど、こうやって外
205
部から映像として見直すと恥ずかしい。主観の時の方が客観的に楽
しめて、完璧な客観に立った途端、主観の自分が帰って来る。
僕はリリスが前後責めプラス口姦の三穴責めにあえぐ映像を止め
て、記録水晶を皮袋に戻した。
⋮⋮これは封印です。
音がしたので、顔をあげると冒険者の一行が見えた。結構な大所
帯で、男女混合の10名近く。割と距離があったので向こうがこち
らを気にする気配は無く、賑やかに喋りながら前方を横切って行く。
よく見ると、その中にはこの前一戦交えた冒険者と魔法使いの2人
も混ざっていた。死んだ魔法使い、無事に蘇生できたんだね。良か
った。
僕は内心でその一行に手を振り、姿が街門に向かって消えていく
のを見届けた。そして立ち上がり、スカートの裾を直す。相変わら
ずドッグベルの天気は良い。街壁にそって植えられている低木樹は
濃緑をきらめかせている。
﹁よし、そろそろ行こうかな﹂
こうして、僕の冒険は幕を開けたのだった⋮⋮<完>
僕の冒険はまだ始まったばかりだ⋮⋮!!<完>
そんなことを考えながら、ステータスウィンドウ、アイテムBO
Xウィンドウを開く。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:永久乙女
年齢:15歳
総合LV:18
206
HP:55
MP:88
力:21
魔力:42
自動スキル:﹃色欲﹄﹃超越せし乙女﹄
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火﹄
装備:﹃エルフの洋服﹄﹃妖精のロッド﹄﹃羽のローブ﹄﹃セレ
ネの髪飾り﹄
道具:キャンディ、薬草、毒消し、万能薬
所持金:6300G
名声:2
人気:1
魅力:1
アイテムBOX︵65/100︶
﹃薬草×9﹄﹃毒消し×9﹄﹃万能薬×9﹄﹃帰還の羽根×10﹄
﹃またたび×5﹄﹃媚薬×1﹄﹃真実の鏡﹄﹃基本的な鍵﹄﹃記録
水晶×2﹄﹃記録水晶︵済︶×1﹄﹃獣の皮×1﹄﹃秘密のチケッ
ト×1﹄﹃魔術書×1﹄﹃脱出の羽根×3﹄﹃痛み止め×3﹄﹃呼
び笛×3﹄﹃スキルカード︵白紙︶×3﹄
いつの間にかレベルが上がっているのは、﹃色欲﹄﹃超越せし乙
女﹄の効果だから不思議ではない。むしろ、ちょっとレベルアップ
速度が落ちて来たな、という感じ。それより、名声値がインクリメ
ントされているのはなぜだろう。名声、人気、魅力の3値を評価パ
ラメータと呼ぶのだけど、こいつは基本的にレベルアップでは変動
207
せず、イベントやクエストで上下する。評価パラメータが上がると
転職ができるようになる。
一応、﹃女神クロニクル﹄の最終目標は女キャラなら﹃女神﹄、
男キャラなら﹃王﹄に昇格して最高クエスト﹃女神と王の結婚式﹄
をクリアすることだけど、僕はそんな高望みはしない。
ちなみにBOXに増えているアイテム﹃脱出の羽根×3﹄﹃痛み
止め×3﹄﹃呼び笛×3﹄﹃スキルカード︵白紙︶×3﹄と500
0Gは昨日、アラビーにもらった。僕が最初にもらったお金で揃え
切れていなかった必須アイテムを持たせてくれた、って感じ。
昨日のエッチではこれでとうとう性奴隷ルートかと覚悟を決めた
ものだったけど、こうやってアイテムとお金を持たせてくれたあた
り、本気じゃなかったみたいだ。なんだか、アラビーにはもらって
ばっかりで悪い。いくら体で払っていると言ったって、女に不自由
のないアラビーにしてみれば、僕の貧弱な身体とつたない技巧なん
て、大した価値には思えないだろう。ほんとに、なんでこんなに良
くしてくれるのやら。悪人とか不良とかやくざ者に限って身内への
情が深いというけど、それと同じなのかなぁ⋮⋮。
僕は、道具スロットが一つ空いているので﹃痛み止め﹄をセット
して、ウィンドウを閉じた。
**
僕は一度街の広場に戻り、待っていたサイミンと合流した。広場
は人が多かったけれど、サイミンは鮮やかな青色の制服に身を包み、
金髪というよりも明るい黄色の髪をしているので、割と目立つ。す
らりとした立ち姿は女性的でありながらどこか凛々しく見える。
そして僕はサイミンと共に街の正門を出てまさに冒険への一歩を
踏み出した。門を守っている様子の兵士が﹁いってらっしゃい! 208
お気をつけて﹂と見送ってくれた。
一歩街を出た途端、周囲の雰囲気が変わった。街の中から見る外
の様子は草叢が続く何もない平和な野原だが、それはどうやらダミ
ー画像らしく、外に出ると風景が違う。
街の正門からは真っ直ぐに黄色いレンガ道が続いており、視界に
入るところを早速モンスターがウロウロしている。黄色いレンガ道
にはモンスターが近寄ってこない仕様であり、昔行ったことがある
動物園を思い出した。
ちょっと離れたところではモンスターがうろついたり、眠ったり
している。だけど、僕は黄色いレンガ道という安全な場所から、そ
の様子を眺めることができる。⋮⋮つまり、安全な車の中から観賞
用に集められたサファリの動物を見るのに似ているのだ。
﹁動物園みたい﹂
﹁動物園ですか。この世界にはありませんが、どこに類似点を感じ
ましたか?﹂
﹁安全なところから珍しくて危険のある動物を観察できる点、かな﹂
﹁黄色いレンガ道が動物園に似ているということでしょうか﹂
﹁うーん⋮⋮。ちょっと、違う。この雰囲気、っていうのかな﹂
﹁雰囲気、ですか。難しいですね。でも、ご説明をありがとうござ
います﹂
サイミンはこうやって、知らない言葉に対して情報を求めること
がある。例えプログラムだとしても、勤勉なのは良いことだね。
反対に、僕はゲーム内のことをサイミンに尋ねる。
﹁この黄色い道をずっと行くと、一番最初に到着する街は何?﹂
﹁街ではありませんが、ハポネ村だと思います﹂
﹁あぁ、うん。質問の文脈からの回答としてはいいね﹂
209
僕が褒めると、サイミンは嬉しそうに微笑んだ。
﹁はい。ありがとうございます。ちなみに、99%の確率です﹂
﹁じゃあ、そのハポネ村に到着するまでの時間はどれくらいかな?﹂
﹁この歩行速度であれば、約1時間かと﹂
1時間かぁ。黄色い道はモンスターが襲ってこないので、何事も
なくひたすら歩いて1時間。結構遠いね。この世界でユーザーがあ
んまり街から街へ移動したがらない理由が分かった。面倒で嫌にな
っちゃうんだろうな。
まぁ、今の僕の場合は歩くこと自体が経験値上げにつながるから、
さほど苦にはならないけど。
﹁ハポネ村にはホームポイントがある?﹂
﹁はい﹂
﹁ん。OK。じゃ、ハポネ村に向かう途中で、黄色い道の近くにあ
るイベント拠点を知っている?﹂
﹁近く、とはどれくらいを指しますか?﹂
﹁黄色い街道から100メートル以内﹂
適当に答える。
﹁うーん⋮⋮そうですね。わたくしの知る限りでは﹃哲学の泉﹄﹃
めんこい茶屋﹄﹃気難しい爺さんの小屋﹄﹃放浪民の竪穴式住居﹄
ですね﹂
﹁思ったより多いね∼﹂
寄り道もいいけど、あまり寄り道し過ぎて次の街のホームポイン
トまでたどり着かなかったらコトだ。そうすると帰還の羽根で再び
210
ドッグベルに戻る事になるので、アラビー達にお別れして意気揚々
と飛び出した手前、恥ずかしい。
とりあえず、ここは真っ直ぐハポネ村に向かうか。
211
episode9︳2
しばらく歩くと三叉路が現れた、黄色い道と、青い道、白っぽい
道、いずれも同じようにレンガが敷き詰められていて自動車がすれ
違えるくらいの幅だ。そして、その分岐点に、朽ちかけた標識が立
っている。
﹃ハポネ村↓ ウディスの洞窟→ ミモザの塔↑﹄
僕は迷わず右に折れた。そしてそのまま真っ直ぐ⋮⋮ターンライ
トアンドゴーストレートした。英語にしてみた意味は特に無い。
10分ほど歩いたところで紺地に白の染抜きをした昇り旗が立っ
ている店を発見した。店の前の路地には縁台が並んでいて、パラソ
ルみたいに馬鹿でかい赤い番傘が日陰を作っている。
﹁いらっしゃいませぇ。おいでやす∼﹂
出迎えたのは赤と白のチェックの着物を着て、前掛けをつけた女
の子だった。黒髪を和風に結っているけど、前髪は垂らしている。
どうやら、ここが﹃めんこい茶屋﹄らしい。物は試しと、僕は店の
縁台に腰掛けた。真っ直ぐに向かうつもりだったけどこれくらいの
寄り道は平気だろう。勧めると、サイミンも優雅な物腰で隣に座る。
﹁お団子とお茶がございますけど、いかがなさいますかぁ?﹂
﹁じゃ、それを二人分。サイミンも食べられるよね?﹂
﹁え⋮⋮よろしいのですか? ありがとうございます。喜んで頂き
ます﹂
﹁はぁい。おおきに∼﹂
212
女の子が奥の方に入って行った後、僕はサイミンに尋ねる。
﹁ここって、何か常時イベントあるのかな﹂
﹁どうでしょう。私が知っているのは、ゴロツキがやってきて客に
絡むので、それを退治するというランダムイベントだけです。これ
は、名声1UPのボーナスですね﹂
﹁じゃ、発生したらラッキーだね﹂
僕は運ばれてきた串刺しの3色団子を口に入れた。
﹁リリス様、もしよろしければ、味の感想を教えてくださいません
か?﹂
﹁ん? おいしいよ﹂
﹁えぇと、どのように美味しいですか? 食感ですとか﹂
﹁んー。もちもち柔らかくて、ほの甘い﹂
﹁なるほど。これがもちもち柔らかいという食感で、ほの甘いと言
う味わいですね﹂
サイミンは真剣に頷き、もう一つ団子を口にした。
﹁なかなか、食べ物に付随している情報と感覚の情報を結びつける
機会が無いので、新鮮です﹂
﹁そうなんだ。美味しい?﹂
﹁正直に言えば、美味しいかどうかは分かりませんが、嬉しいです﹂
﹁そっか﹂
美味しいではなく団子が嬉しい、というのは変な表現だが、サイ
ミンが喜んでくれるなら良かった。
213
﹁わたくしに食べ物をくださったのはリリス様が初めてです﹂
﹁あ、そうなんだ﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁どういたしまして。でも、サイミンって自律型だから、一人で買
い食いだってできるんじゃないの?﹂
﹁はい。その機会もありました。ですが、効率を重んじると会話に
よる言語能力の向上を優先してしまいますし、こういう無駄な情報
を得ようとする発想自体がなかなか生まれないんです﹂
無駄⋮⋮ね。僕にしてみれば団子どころか、こうやってゲーム世
界で遊ぶあらゆる経験が無駄だ。だけど、無駄ほど貴いものは無い。
団子とお茶を平らげる間、件のゴロツキは現れなかった。せっか
く寄ったのに残念だったけど、サイミンが喜んでくれたのでよしと
しよう。
名声1UPは得られなかったが、サイミンの僕に対する好感度は
2UPぐらいした気がする。好感度なんていう要素があるかどうか
は分からないが、このゲーム内にはユーザーに見えない色んなパラ
メータが存在する。うがった見方をすればリアル世界も同じかもし
れないけどね。
店で支払いをしたら、﹃茶屋スタンプラリー﹄なるものがもらえ
た。更に行くと黄色い道のほど近くにいくつか建物や、怪しげな石
造などがあったが今度は全て通過した。時々、他の冒険者とすれ違
ったり、街道から見える範囲でモンスターと戦っているユーザーを
見ることがあった。ゲーム世界を観光しながらお散歩、っていうの
も目新しいうちは悪くなかった。
﹁ハポネ村についたら、どうしようね∼﹂
﹁何をしようか、という意味ですか? リリス様が何を目的として
いるかによりますね﹂
214
﹁まぁ、色々面白そうなことがあればいいな、と思うけど﹂
﹁そういう場合はギルドのクエストを選んで請け負うのがおススメ
です。ただ、ハポネ村には農民ギルドしかありません﹂
﹁そうなんだ。悲しみの生贄村、だっけか⋮⋮は?﹂
﹁はい。それはハポネ村のイベントですね。わたくしは発生条件を
知りませんが、村で聞きこめば分かるでしょう﹂
﹁うん﹂
**
到着したハポネ村は農村だった。どの家にも畑があって、村の中
を家畜がのんびり闊歩している。僕はいの一番にホームポイントで
セーブして、残プレイ時間を延長する。それから村の酒場に行って、
たむろしていたプレイヤー達から口コミ情報を得た。酒場にはドッ
グベルほどじゃないが、ほどほどの人数のユーザが集まって雑談を
交わしていた。
﹃悲しみの生贄村﹄のイベント発生条件と、イベントの流れ、それ
から報酬を確認したところ、発生条件と流れは良くあるテンプレで、
報酬は噂通り豪華だった。大したことないボスを倒すだけで﹃名声
+1﹄﹃報酬金100000G﹄﹃銀の斧︵レア品︶﹄がもらえる
そうだ。ちょっと面倒だけど、こなしておくか。
﹁あぁ⋮⋮なんてことだ。村長の孫娘が生贄に選ばれてしまった﹂
﹁許嫁のガレオンはやり切れないだろうなぁ⋮⋮﹂
﹁カティナおねえちゃんが、いけにえ、って⋮⋮おとながいってた
の。どういういみなんだろ? それに、カティナおねえちゃんがか
なしそうなの﹂
﹁くそっ! この村の誰も、魔物と戦う勇気は無いのか!﹂
﹁しかたがない⋮⋮。これで、10年はこの村が平和になるのなら﹂
215
﹁カティナ! 一緒に逃げよう!﹂
﹁駄目よ⋮⋮。私が逃げたら、この村が⋮⋮﹂
村のNPCキャラに聞き込みをして大体ゲームで良くあるパター
ンを押さえたところで、どうやらフラグが立ったらしい。予定通り
﹃許嫁のガレオン﹄に話しかけられた。
﹁あの⋮⋮。冒険者の方ですか?﹂
> YES
﹁実は、ご相談したいことがあるのですが、我が家までお越しいた
だけませんでしょうか﹂
> YES
この後は、ガレオンの家を訪れる ⇒ 生贄として捧げられるカ
ティナの護衛 ⇒ 現れた魔物を退治 ⇒ 手傷を負った魔物が村
の中に逃げ込む ⇒ 村民に擬態している魔物を真実の鏡で発見 ⇒ 再バトルして勝利 ⇒ イベントクリアとなるはずだった。
ボスとなる魔物は1回目がLV20で2回目︵擬態後︶がLV3
0程度だと酒場で聞いている。﹃無慈悲﹄スキル持ちLv72のサ
イミンがいれば余裕だろう。
2次元のゲームと違って、台詞をスキップしたり早送りできない
のが面倒だ。僕は生贄として選ばれてしまったカティナの悲劇と、
ガレオンの切なる訴えを聞き流して、ようやく表れた最後の選択肢
を決定する。
216
﹁村の者達は、皆魔物を恐れて立ち上がることができません。あぁ、
貴方のような勇気ある冒険者を待っていたのです。リリス様、どう
か、カティナを助けてはくださいませんか?﹂
> YES
繰り返して言うが、この後は生贄として捧げられるカティナの護
衛をして、モンスター退治して楽勝クリアのはずだった。この﹃悲
しみの生贄村﹄は有名で人気があるイベントで、酒場での情報も潤
沢にあった。だから、僕はまさかこの後が意外な展開になるとは思
っていなかった。
﹁おお! 引き受けてくださいますか!﹂
ガレオンが嬉しそうに立ち上がる。それと同時に、﹁きゃっ!﹂
という短い悲鳴と﹁ボカッ﹂という鈍い打撲音が聞こえた。何事か
と思って僕が後ろを振り返ると、強いはずのサイミンが倒れている。
そこには、木の棒を振り上げた男の姿⋮⋮さっき見た、村長だ。
﹁えっ﹂
僕も、木の棒で打たれる。全然痛くなかったのに、さっきと同じ
﹁ボカッ﹂という鈍い音が響き、その場に倒れ伏してしまった。意
識はある。ガレオンと村長の話声が聞こえた。
﹁仕方がない。こうしなければ、カティナを守ることができないの
だから﹂
﹁あぁ。その通りだ。生贄の身代わりとなる乙女が手に入って良か
った⋮⋮﹂
217
ええっ? えっ? えっ?
僕の体は動かない。意識はあるが視界が暗転したまま、抱き上げ
られて運ばれていく感じがした。
218
episode9︳3
なにこれ。何が起きている?
僕は軽いパニックを起こしていた。﹃かくあるべき﹄という予想を
裏切られた時の衝撃って大きい。冷蔵庫の麦茶を飲んだら麺つゆだ
った時と同じ、シャーペンを逆さに持ってノックした時の親指の驚
きと同じだ。
籠の中に入れられて、更に運ばれていく感じがする。目は見えな
いままだが、瞼を通して光の強さが感じられる。真っ暗な籠から出
された時には眩しさを覚えた。
物みたいに抱き上げられて、仰向けで冷たい台の上に乗せられる。
両手両足を大の字に開いた態勢で、拘束されたようだ。
やばい⋮⋮。これは絶対にやばい。
心臓がバクバクと脈打つ。だって、﹃生贄﹄でしょ。しかもこの
姿勢。このまま心臓をナイフで一刺しされて、生きた心臓を掴みだ
される可能性もある。⋮⋮というか、一番最初に頭に浮かんだのが
その光景イコール、高確率。やばいって!!
﹃女神クロニクル﹄はゲームだけど、現実世界と同等の知覚を感
じることができる。つまり、痛いのは容赦なく痛いということだ。
耳に、何やら怪しげな呪文が聞こえてくる。神主さんの祝詞みた
いな抑揚であるが、断片的に理解できる単語は物騒だった。
︱︱︱︱︱︱平穏と守護の契約の元︱︱︱︱︱︱代償としてここに
︱︱︱︱︱清らなる乙女の血肉を生贄として捧げん︱︱︱︱︱︱⋮⋮
219
次の瞬間、僕は鼻をぶん殴られた⋮⋮ような衝撃を受け、気づけ
ば視力が戻っていた。僕の目の前には、薬の瓶を手にした人物の姿。
どうやら、嗅ぎ薬をあてられたらしく、鼻が痛い。
その人物は体格から推察するに男だと思うが、男はまっ白な仮面
をかぶっている。体も動く様になっていることを確認し、とは言っ
ても両手両足拘束状態だが、顔を動かすと僕の周囲を囲んでいる人
たち全員が奇妙な白い面をかぶっている。そのいかにも物々しく、
禍々しい雰囲気に一層僕は震えあがった。
﹁や⋮⋮﹂
声も出るようになっている。僕は、いの一番に仲間の名前を呼ん
だ。
﹁サイミン! サイミン!!﹂
だが、返事は無い。屍のようだ?って、ジョーク行ってる場合じ
ゃねぇ。
﹁サイミン! どこ! サイミン!﹂
この危機を救ってくれる可能性があるのは、サイミンだけだ。
どうやら、﹃悲しみの生贄村﹄イベントには特殊なルートがあった
らしい。﹃乙女﹄属性のキャラ参加が条件か、もしくは女子のみの
パーティーであることが条件か⋮⋮あぁ、もしかしたらその両方か
もしれない。ただ、レア発生であることは間違いない。こうなるこ
とを酒場で誰も教えてくれなかったのが皆の意地悪だったり、何か
仕組まれていたわけではないのなら。
﹁可哀相だが、村の為だ⋮⋮よし、生贄を置いて行くぞ﹂
220
﹁あぁ⋮⋮すまんな。冒険者の嬢ちゃん﹂
﹁しっかりと生贄の勤めを果たしてくれよ⋮⋮﹂
白い面をかぶったハポネ村の村人たちは口ぐちに自分勝手な事を
言いながら去っていく。僕は暴れようとしたけど、手足は金具でガ
ッチリと台に固定されていて微動だにしない。装備は全てはぎ取ら
れている。今僕の裸体の上には、薄い布だけがかけられいた。ウィ
ンドウも開くことができないし、アイテムBOXも同じ。
とりあえず、サイミンの姿も気配も無くて、僕は絶体絶命に近い。
﹁助けて⋮⋮﹂
そして、周囲に暗闇が立ち込めたかと思うと炎の燃える音がして、
いよいよモンスターが出現したらしかった。その気配は磔になって
いる僕の傍までやってくる。怖ぇえ!
獣の低い唸り声が前哨だった。怯えつつ、顔を少し左側に向けその
存在を確かめると、青と白の模様の入った襤褸布を腰に捲いた人間
の姿?だが、その腰布の上方には真っ黒な皮膚と鋼のような引き締
まった腹筋がある。その気配がもっと近づいてきて、見上げれば、
そこには獣の顔が牙を剥いていた。
獣の面をかぶっている人間ならば良かったが、その耳まで裂けたよ
うな口から洩れる唾液や血走って見下ろす鋭い眼光、びっしりと生
えた黒い毛皮はとてもお面などには見えない。むしろ、獣が作り物
の人体を着ているように見える。⋮⋮が、その人体だって全身真っ
黒でモンスターというより、化け物と言った方がしっくりくる。
化け物はでかい口をさらに歪ませて笑い、口元に手をやった。化け
物の手はアニマル仕様ではなく人間の手、5指がそろっていてそれ
はそれで奇妙に見える、だった。ただし、指は人間のものより奇妙
に長細い。
221
そうして、僕はようやくこいつが何を模したモンスターなのか分
かった。エジプト壁画に描かれるジャッカルの半獣⋮⋮アヌビスだ。
もはや声を出す勇気も無く、恐怖のせいでアヌビスから視線が離せ
ない。
⋮⋮恐れることは無い。これはゲーム⋮⋮ユーザをひどく害するよ
うなイベントなんてプログラムされている筈がない。そんな言い聞
かせもさほど気休めの効力を持たなかった。
アヌビスが僕を見下ろしながら、口を開いた。どうやら、人語が
操れるらしい。
﹁ふん⋮⋮このイベントに﹃乙女﹄が身代わりとして差し出される
のは久々のことだな﹂
え?
アヌビスの細長い指が僕に伸ばされ、覆っていた薄い布がはがさ
れる。裸体がくまなく晒されて、おっぱいもあそこも露わになる。
﹁いい光景だな。冒険者よ⋮⋮くっく⋮⋮ハポネ村の生贄の意味を
知っているか? お前は今から何の道具となるか分かっているか?﹂
再び、周囲の闇の気配が濃くなりいくつかの炎が上がった。仰向け
に寝転がっている僕の目にも、その光景の隅っこが見えた。
たぶんアヌビスはイベント進行の為に準備されたAIキャラ⋮⋮ど
の程度の知能レベルか分からない。まともに会話ができる可能性は
低いが、言っておきたいことがあった。
﹁僕の仲間⋮⋮サイミンは!﹂
222
アヌビスは答える。
﹁あのNPCなら昏睡状態だ。仲間があのNPCだけだったのは災
難なことだな。このイベントではNPCキャラは除外される。せめ
てユーザーキャラの仲間が一人でもいれば救出ルートを辿ることも
可能だったのになぁ﹂
あぁ、思ったより高度なAIらしい。会話が成立する。
﹁救出されないルートだとボクはどうなるのさ﹂
﹁この村周辺のモンスターは全て、生贄の腹から生まれているのだ。
お前は、今からここで死ぬまでモンスターの苗床となるのだよ﹂
そう言って、アヌビスはまたニヤリと笑った。この村周辺のモン
スターは、ハポネ村に来るまでに何匹か見たが、どれも知能の低そ
うな生物だった。嫌悪感に肌がざわつかせながら、僕は手足の戒め
から逃れようと無駄な努力をした。
﹁不運な女だな。自動ログオフ時間は設定してきたか?﹂
自動ログオフ時間はさっき更新したばかり。こちらの世界で2.
4時間。短めに設定したつもりだったけど、もっと短くても良かっ
た。アヌビスの言葉はつまり、ログオフ時間まで助からず、しかも
このままゲームオーバーだ⋮⋮最悪。
しかしさっきから気になるのが、このアヌビス、随分知能が高い
上にゲームキャラにあるまじきメタ視点を持っている。いったい⋮
⋮。
僕の思考を中断するように、裸体に手をかけるものがいた。いや、
それは手ではなく肢だった。灰色の毛皮に包まれたデカいウサギ。
223
顔の中央の小さな鼻をヒクヒクと動かし、喉を風船みたいに膨らま
せる。
更に、他のモンスターたちが近づいてきて、僕の体の隅を舐めた
り、触ったりし始めた。ちょうどドッグベルからハポネ村までのお
散歩中に見たばかりのモンスターたちだった。サイミンが説明して
くれたので、大体種類は分かる。
さっきのがウサギと蛙を混ぜたようなモンスター⋮⋮ラビフロッ
グ。帽子をかぶっている粘性動物がハットゼリー。サソリの姿で尾
が蛇になっているのがアクラナーガ。ずんぐりしたガチョウみたい
なでベロが長いのがフォアグライーター。あどけない表情でマスコ
ット的モンスターのメロリーまでいる。それからまだまだ、いっぱ
い。
﹁痛いのは、ヤダよっ!﹂
覚悟を決めた、というよりもう諦めるしかない状態で、最後に僕
は叫んだ。
224
episode9︳4
こんな可愛らしい雑魚キャラ達の相手なら大したことないんじゃ
ないか、と思ったのは間違いだった。知能が低い分雑魚モンスター
たちは性欲も原始的で、僕はむらがったモンスターに休む暇なく犯
されることになった。足枷が外されてM字開脚の姿勢で犯されまく
る。技巧もエロスもあったものではなく、僕はひたすら挿入され、
絶え間なく突き刺されて、延々と種付けられた。
﹁キィィ。キュィィ⋮⋮!!﹂
感極まった魔物が高い鳴き声を上げて射精する。手足の無いモン
スターたちは体の一部を器用に操って、僕を絡め取る。ずぶずぶ、
って感じが溢れる精液でじゅぷっ、じゅぷっ、ってなるのにさほど
時間はかからなかった。
﹁もぉ、やだぁ⋮⋮﹂
挿れられてはじゅぶじゅぶ、挿れられてはじゅぶじゅぶ。モンス
ターたちは一様に早漏で回転が速い。挿入する順番待ちの間はリリ
スの小さなおっぱいに舌を絡めたり、へそに触手をつっこもうとし
たり、顔の上を粘性動物が這いまわったり、好き放題。
最初僕はモンスターの気持ち悪いのが耐えられず目を閉じていた。
だけど、目を閉じていると余計に何に犯されているのか、次に何に
犯されるのか想像してしまって怖いので、途中で止めた。
﹁フギィ!! フギギィイイ!!﹂
﹁あぁぅ⋮⋮また、出てるし⋮⋮うぇえ⋮⋮も⋮⋮ぉいらないよぉ
225
⋮⋮﹂
下腹部が重い感じがする。これ以上、精液が入らないんじゃない
だろうか。お腹にグッと力を込めると、股の間から生温かい液体が
ドロドロと零れだす。きっと、もう満タンなんだ。
魔物の排泄物は人間の精液よりヌルヌルしていて、時間が経過し
てもほとんど固まらない。あと、圧倒的に量が多い。
﹁うう⋮⋮っ。は、やぁく、おわ、ってぇ⋮⋮﹂
ラビットフロッグが特にひどい。4つ足の獣は性欲の収まるとこ
ろを知らないようで、2回に一回はこいつが圧し掛かってくる。
ラビットフロッグが乗っかってくると高級毛布がかけられたよう
な感触だが、その毛布にはペニスがついている。馴染み始めた肉棒
が突き刺さると敏感になったまんこが打ち震えて痛みと快感を全身
に伝える。
お腹が苦しい。精液でタプタプになった樽をペニスで掻き混ぜら
れている。
﹁っう︱︱︱︱︱︱、ひぃ⋮⋮ぃい。いっちゃう⋮⋮﹂
モンスターはこっちの苦楽なんてお構いなしのタイミングで好き
なように射精する。犯されながら絶頂を迎えようとした僕に構わず、
直前のギリギリのタイミングで中出しされた。勢いよく内壁を打ち
付ける精液を感じながら、あと一歩で僕はイけず、引き抜かれるペ
ニスに身悶えした。
﹁ぁ⋮⋮あっ⋮⋮。うう⋮⋮﹂
まさか、モンスター相手におねだりなんて絶対にしない。いくら
226
相手が意地を張っても仕方がない単なるプログラムだろうと、こち
らには人間のプライドがある。
次に羽のある虫と動物を混ぜ合わせたような空飛ぶモンスターが
僕に前脚をかけた。
﹁ひ⋮⋮っ、やだぁ︱︱︱︱︱︱︱﹂
酷いよ、こんなの。そりゃ、僕だってモンスターとのセックスに
興味が無かったわけじゃない。だけど、苦手な動物だっているし、
虫とか爬虫類とかそういうのを彷彿とさせるモンスターは嫌いだ。
どのモンスターにしようかな、なんて選ぶステップも無く、色んな
のに次から次へと食われちゃって、リリスの女の子の襞はもう腫れ
あがってビラビラだ。おっぱいの周囲も強く吸引されたりして、赤
くなっているし、もちろん、乳首もジンジンする。大事なリリスの
体をこんな風に汚すなんて許せない。
しかし、頭の片隅で毒吐きながら、まんこはしっかり生贄として
のお仕事を果たし続ける。リリスの狭くてドロドロにからみつく膣
は次々とモンスターたちの絶頂を引き出して、もっと欲しいとでも
言うように精液を飲み込んでいく。
﹁ふ⋮⋮ぅ⋮⋮う⋮⋮おなか、くるしいよぉ⋮⋮﹂
僕の目からぬるい涙がこぼれて頬を伝った。それを、モンスター
が舐めた。もう、どうしようもない。
どれくらい経っただろう。気持ち的には5時間くらい経っている
感じだが、2時間くらいだろうか。早く終わって欲しい。相変わら
ずラビフロッグは精力的で、ピストン運動も激しい。僕としては、
もう女性器だけじゃなくて擦れる背中も限界。なんとなく、チャコ
227
ちゃんの事を思い出した。吊りイベントで痛みに耐えていた女僧侶。
ふと、僕は僕に向けられている冷静な視線に気づく。首を動かし
てそちらを見ると、アヌビスと目があった。アヌビスは最初の時と
変わらず、腕組みして傲岸そうに立っている。
﹁ねぇ⋮⋮っん⋮⋮っ﹂
思い切って僕はアヌビスに向かって話しかけてみる。もちろん、
その間もじゅぶじゅぶは続いているし、そこから痺れが体を駆け巡
っている。
﹁っ、ね。アヌビス、いっま、ぁん、何時くらい? あと、どれく
ら、い⋮⋮っん﹂
すると、アヌビスは少し顔を動かして言った。
﹁こちらの時間で14時20分。なんだ、冷静な生贄だな﹂
﹁んっ、ぁ、は⋮⋮。じゃ、あと、20分でっ、ログオフだ。ぁん
⋮⋮﹂
﹁そうか。ならば残り時間をせいぜい楽しむんだな﹂
﹁ぁ、あぁ⋮⋮﹂
僕はアヌビスとの会話を中断する。また、イきそうってところで
イき切れず、満足そうに射精を終えたペニスだけが引き抜かれた。
﹁うぅ⋮⋮ひどいよ、あと、ちょ、っと、なのに⋮⋮うー⋮⋮嫌い
だ⋮⋮モンスターなんか﹂
こちとらミルク飲み人形じゃないんだから、そんなにどんどん注
228
がれても嬉しくなんかないやい。
﹁ね、アヌビス⋮⋮もう、イベント終わっちゃうよ? なんで、君
はシてくれないの?﹂
それは我ながら、魔性の艶が込もった声音だった。リリスは子ど
ものくせに、こんな悪女みたいな声も出せるんだね、と思った。我
ながら。
すると一拍無言があったのち、アヌビスがこちらに向かって歩い
てきた。アヌビスが近づくと、僕にむらがっていた下級モンスター
が一斉に離れていく。ちょうど僕に突っ込んでいたメロリーも射精
前なのに慌てて逃げていく。
﹁ふぅ⋮⋮はぁ︱︱︱︱︱︱﹂
圧し掛かるモンスターがいなくなったおかげで久しぶりに足を真
っ直ぐに伸ばすことができて、ちょっと楽になった。できたら、腕
と背中の痛いのも早く楽にしたい。あと、水が飲みたいよ。
﹁下賤の人間ごときが、我に何を言う﹂
﹁あー⋮⋮はは、ごめん。気を悪くしたなら、謝るよ。ごめんなさ
い﹂
僕は手枷のせいで手首が動かせないので、指だけひらひらした。
せっかくあと少しでログオフできるのに、地雷踏んで痛い思いはし
たくない。
﹁お前、名前は﹂
﹁ボクはリリス﹂
229
アヌビスが僕の下腹部に手をあてて、グッと押した。するとみっ
ともない音と一緒に股から精液が噴き出した。
﹁んっ﹂
﹁ではリリス、お前はこんな汚れた体で雄を誘うのか?﹂
﹁汚したのはそっちじゃん⋮⋮﹂
つい、反抗してしまう。だって、むかつく。リリスの清楚な体、
気に入っていたのにさ。
﹁ふっ⋮⋮まぁ、そうだな﹂
アヌビスはニヤリと笑って獣の舌で僕の胸の尖端を掬うように舐
めた。
﹁ぁん⋮⋮﹂
﹁わざとらしい鳴き声だ﹂
﹁え? そう?﹂
なんかちょっと見透かされているみたいでドキリとする。次の瞬
間、パチリという音とともに、鬱陶しかった手枷が外れた。驚く僕
をアヌビスは抱き起こした。そして、生贄の台に腰掛けた状態で僕
を軽く持ち上げ、彼の杭に差し込んだ。
正面座位の状態で、僕は揺すられる。僕の割れ目からあふれ出る
粘液がアヌビスの腰を濡らして汚す。
﹁ふわぁっ⋮⋮ん﹂
アヌビスの体に腕を回して姿勢を保持し、僕自身も腰を揺らして
しまう。すごい。気持ちいい。犯されまくって緩くなったまんこに
230
もがっつり存在感のある固くて大きいペニスだ。それが、奥まで届
いて子宮口をガンガン突いて来る。
﹁あ︱︱︱︱︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
﹁いい顔だな。リリス﹂
獣の舌が僕の首筋を、耳を舐める。
﹁ひゃぁ、っん⋮⋮﹂
きもちいい。今度は心底からの喘ぎ声。アヌビスの方もそれを了
解している感じ。ジャッカルの獣頭が囁く。
﹁喜べ。もうすぐ、ログオフ時間だ﹂
﹁えっ⋮⋮あっ、そんな﹂
﹁くっ、くっ、くっ﹂
笑われた。くそぉ。相手はAIキャラ⋮⋮単なるプログラムだっ
ていうのに。こっちは人間様だというのに!
しかし、そう思いながらも僕はプライドを捨てて懇願するしかな
かった。
﹁お願い⋮⋮イかせて。早く、お願いします⋮⋮﹂
こんな状態でタイムアウトになったら欲求不満で死んじゃう。今
になって頭の片隅ではもう少しログオフ時間を長く設定しておけば
良かったなんて、正反対の事を思う。
﹁ふん﹂
231
アヌビスは軽蔑したような目で僕を見ると、僕の体を両手で掴み、
物を扱うように上下に強く揺さぶった。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱っ、あぁっ︱︱︱︱︱︱⋮⋮! ア︱︱︱︱︱
!ア︱︱︱︱︱︱!!﹂
頭の中が真っ白になる。僕の喉からは残った力を振り絞るみたい
な掠れた叫び声が上がる。アヌビスの固いペニスの尖端が僕のナカ
の気持ちいい部分を擦り、子宮を叩き、快感が収斂し、一気に爆ぜ
る。
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ッ!!!﹂
最後の悲鳴は音にならなかった。
僕はモンスターの温情で絶頂の施しを受けて四肢を震わせ、ぐっ
たりと抱かれた。
そうして、荒い息を整えているところで自動オフ時間が来たよう
だった。どこかで、自動ログオフを伝えるカウントダウンが聞こえ
る。
﹃残り3分でVR接続機に設定した自動パワーオフ機能が作動しま
す。自動パワーオフによるゲームデータの自動セーブはされません。
安全にパワーオフする為の準備をしています﹄
﹁あのさ、君の名前も聞いておいていいかな﹂
アヌビスというのは、僕がこのモンスターの外見から勝手に呼ん
でいる名前だ。まだ、その猛々しいペニスは僕のナカで熱く脈打っ
ている。イって無いのか⋮⋮悪い事したな。
232
﹁呼びたいのならアヌビスで構わん。人間風情に本当の名前を教え
る気は無い﹂
あっそ。別にそれならそれでいいけど。
﹁ん⋮⋮。じゃ、ね。アヌビス。ごめんね。最後まで付き合えなく
て﹂
するとアヌビスは得意の口が裂けるようなニヤリ笑いを返した。
﹁また会えたらいいがな⋮⋮さらばだ﹂
ゆるやかに景色が滲み、徐々に光が失われ、真っ暗になる。僕は
リリスの肉体を失い、ログオフ中間地点で意識だけの存在となりた
め息をついた。
今日の冒険は、これでおしまい。
233
episode9︳4︵後書き︶
祝 10万文字。
よく書きました。
234
episode10︳1:花売り
3日間ほど﹃女神クロニクル﹄にログインしなかった。それはゲ
ーム内での出来事だとはいえ結構なショックを受けた僕に必要な静
養期間だった。冒険に出てたった一日でこの惨状とは、女キャラ単
独での冒険は想像以上に過酷らしい。
とはいえ、のど元過ぎれば熱さ忘れるとはよく言ったもので、3
日間の休暇を経て一応ログインする気分になり、﹃悲しみの生贄村﹄
について攻略サイトを覗いてみたりした。
しかし、イベント情報は公式攻略サイトとしては全体的にかなり
曖昧に記されているようだった。仕方が無いので今ある情報だけを
元に考えて﹃悲しみの生贄村﹄イベントはスキップすることに決め
た。
﹃悲しみの生贄村﹄イベントに関しては、同条件で再チャレンジし
てもまた同じ流れでゲームオーバーになっちゃうわけだから、クリ
アしようと思うなら他のプレイヤーキャラを一人以上パーティーに
追加する必要がある。
でもそれって僕が﹃超越せし乙女﹄スキルを保有していることが
他人にバレる可能性につながるし、報酬も分割しなければいけなく
なるので色々と面倒臭い。
それにモンスターとの性交渉で得られるスキル﹃暴色﹄だってた
ぶんあの雑魚モンスター達からじゃGETできない。アヌビスだけ
はLV15以上だったと思うけど、あの時リリスを抱いたのは気ま
ぐれ、って感じだったから次がどうなるかは分からないし⋮⋮。
235
こうして考えれば考える程、再チャレンジのメリットは少ない。
ただ、唯一気になる点は﹃乙女﹄が身代わりにされるレアルートの
場合に報酬がどう変わるのか、だ。身代わりルートの場合、報酬が
グレードアップする可能性がある。まだ誰も知らないようなレアア
イテムが手に入るかもしれない。
﹁でもなぁ⋮⋮﹂
正直な所、生贄経験がちょっとトラウマっぽくなっている。過ぎ
て熱さは忘れたけどまだ喉元ヒリヒリするよ、って感じ。
ついでに僕は、検索サイトの画面を操ってモンスターの検索をし
た。﹃アヌビス﹄で検索してみたが、ヒット数は0件。まぁ、あの
モンスターキャラの存在もちょっと気になるのだけど⋮⋮やっぱり
﹃悲しみの生贄村﹄はスキップしよう。
**
相変わらずの晴天の下、ハポネ村を出発し次の街を目指して黄色
いレンガ道を行く。途中で分岐路があったのでサイミンの助言に従
って今度は青い道を選んだ。曰く、黄色い道ばかり選んでいては初
心者向けの街や村にしか行けなくて、どんどん進んでも最終的には
最初のドッグベルに戻るだけだという。言われてみればその通りか
もしれない。
だが、青いレンガ道を通るようにしても、相変わらずモンスター
とのエンカウントは一切発生しなかった。青い道は自分よりLVの
低い敵は近寄ってこない筈だから⋮⋮。
﹁えーとさ、この辺のモンスターのLVはどれくらい?﹂
﹁レンガ道から離れれば離れるほど強くなりますが、この付近で道
236
沿いあれば大抵LV5∼10です﹂
LV5∼10かぁ。ぬるいなぁ。だったらモンスターが寄ってこ
ないのも道理だ。
﹁ちなみに青い道が寄せ付けない敵モンスターのLVって、パーテ
ィーメンバのLV平均値より下だと思っておけば良いの?﹂
﹁パーティーメンバのうち一番LVが低いキャラが閾値になります﹂
﹁そっか、残念﹂
つまり僕の今のLvより低い敵は寄ってこないってことだ。その
ままサイミンと雑談を交わしながら歩いて次の街に着いた。最初、
その建物が見え始めた時には街か村か悩んでしまった。
到着した街は﹃花の街フローランス﹄といい、至る所に色とりど
りの花が咲き乱れている。遠目から見ても街壁にぐるりと取り巻い
て花が植えられているので、村かと思った。
﹁花フェスだね﹂
﹁すみません。花フェスとは何でしょうか?﹂
﹁花フェスティバル﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
サイミンはつんとした綺麗な顎に手をあてて肯いた。雑な回答で
済ませてしまったけど、本当に納得したのだろうか。
ホームポイントでセーブした後、街を歩いて武器、防具、アイテ
ムショップの標準店を回った。それから酒場に寄って、情報を聞き
こむことにする。
この街の酒場﹃チドリ亭﹄は結構な混雑具合で、客層は驚くほど
男ばかりだった。そのせいか、僕がサイミンを連れて足を踏み入れ
237
ると注目を集めた。
元々﹃女神クロニクル﹄は20禁ゲームでアダルト要素もバッチ
リあるから女性ユーザーは少ない。しかし、それにしてもこれだけ
男ばっかりだとむさ苦しい。不躾な視線に晒されながら、僕は退く
に退けず隅のカウンター席に腰掛けた。
﹁何にしますか﹂
NPCキャラのバーテンが僕に尋ねる。
﹁ええと、ベリージュースを二つ﹂
僕は運ばれてきたベリージュースをサイミンにもふるまい、とり
あえず一番近くの席に座っているプレイヤーを見る。目が合うや、
男は話しかけてきた。
この男についての説明は省く。彼は割と初心者で、とりたてて興
味を引く会話も無かったからだ。僕らが会話している途中で話に割
り込んできたプレイヤーがいて、こっちの方が熟練者だった。
﹁はじめまして。俺はカナーブン﹂
﹁ボクはリリス。はじめまして﹂
カナーブン⋮⋮覚える気も無いのに覚えてしまう名前だ。
﹁なんかさ、この街って男のユーザーが多いよね。なんでなのかな
?﹂
﹁知りたい? エロい理由だよ﹂
﹁うん、大丈夫。成人向けゲームだし、それくらいの想像はしてる
よ﹂
﹁ははっ⋮⋮女性に話す内容じゃないけどねぇ﹂
238
﹁教えて﹂
﹁タダで?﹂
カナーブンはニッと笑う。僕は内心﹃下心アリアリだよなぁ﹄と
思いながらあどけなく微笑み返してやった。リリスの笑顔は可愛い。
この前鏡に映してみたら我ながら度胆を抜かれる思いだった。美少
女の笑顔は男に対する最強武器で反則技だ。
期待通り、カナーブンはちょっと面食らったように目を丸くして
見せる。
﹁かなわないなぁ。じゃあ、半分だけ教えよう。男キャラ専用のと
あるエロいスキルがあって、この街はそれを習得する条件を満たし
やすいってことで人気があるんだ﹂
﹁エロいスキルってなぁに?﹂
﹁内緒﹂
﹁気になる。じゃ、他の人に聞くからいいよ﹂
僕が席を外そうとすると、引き留められた。なんかこのカナーブ
ンって男、悪いヤツじゃなさそうだけどやや鬱陶しい。レア情報な
らまだしも、一般的な情報くらい出し惜しみせずさっさと教えてく
れればいいのに。
﹁分かった。教えるから。ちなみにリリスちゃんは処女?﹂
﹁違うけど、それが何か関係するの﹂
﹁いや、俺の興味で聞いただけ。んじゃ、﹃好色一代男﹄ってスキ
ルは知っている?﹂
僕は首を振る。
﹁それがエロ系のスキルなんだけどさ、スキル習得条件があれなん
239
だよ。女キャラ111人との性交渉﹂
﹁⋮⋮へぇ?﹂
﹁んで、この街ではそのスキルを覚えやすい、ってことで男に人気
があるわけだ﹂
﹁ようするに、色街なの?﹂
﹁まぁ、そう﹂
﹁ふぅん。でも、それって別にスキル習得云々関係ないんじゃない。
色街に男プレイヤーが集まるのは普通のことでしょう?﹂
﹁いやいや。それがそうじゃないんだなー﹂
﹁何が特別なの?﹂
﹁んー⋮⋮分からない? あててごらんよ﹂
あー⋮⋮やっぱり鬱陶しいな。そう思いつつ、僕は考えてみた。
女キャラ111人との性交渉か。結構大変だよね。一日に3人相
手にするとしても40日近くかかるわけでしょ。楽しいとは思うけ
ど、111回じゃなくて111人っていう所が少しハードル高いね。
﹁111人って、相手はNPCでもいいの? ユーザーキャラじゃ
なきゃダメなの?﹂
﹁おっ、鋭いねぇ。もちろん、NPCでいい。ユーザーキャラ11
1人だったら多分もっと別のレアスキル覚えられるんじゃないかな
ぁ。それは俺もよく知らないけど﹂
﹁まぁ、そうだよね﹂
しかし、111人の相手がNPCでもいいとなると、別に色街じ
ゃなくても手当たり次第に町娘を物陰に引っ張り込んでコトをいた
せば良いわけで、大して難しくない気がする。
﹁ん∼。この街には女のNPCがたくさんいる、っていうそれだけ
の話かな?﹂
240
﹁ブッブー。はずれー﹂
﹁じゃあ、一気に111人斬りができるようなハーレムイベントが
あるとか?﹂
﹁わぁお、そりゃいいねぇ。でも、ハズレ﹂
すると、隣で話を聞いていたサイミンが言った。
﹁街のNPCは簡易キャラとフルキャラに分かれます。簡易キャラ
が相手では性交渉はできません。身体の造りがフルキャラと比べて
単純になっていますから﹂
それは初耳だ。でも、省リソースの為には十分あり得る話だ。
﹁⋮⋮そっか、じゃあ分かった。この街にはフル実装の女NPCが
たくさんいるってことだ﹂
サイミンってばナイスヒント!絶妙だ。
しかし、自信があったこの答も﹁惜しい!ハズレ﹂と跳ねられた。
僕は段々とムカついてくる。
﹁分かんないよ。そもそもこの街にフル実装の女NPCがたくさん
いるんじゃなければ、どうやってスキル習得する︱︱︱︱︱︱あー
分かった、じゃあ、この街の近くの洞窟か塔にそういうNPCがい
っぱいいる場所があるんじゃない?﹂
Questionsゲームみたいにな
﹁この街では覚えやすい、って言っただろ。街の外は関係ない﹂
﹁え︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
20の扉、Twenty
ってきたな。出題者の優位性が特徴的でこういうのあんまり好きじ
ゃないんだよ。実際、カナーブンも超ドヤ顔になっている。
241
﹁サイミン、パス﹂
嫌気がさした僕がサイミンに丸投げすると、サイミンは淀みなく
答えた。
﹁はい。この街にいるフル版の女NPCは一定時間毎にリセットさ
れてキャラチェンジされるのだと思います。同じ場所に存在して同
じ会話をするNPCでも書き換えられた後には、別キャラ扱いにな
りますから﹂
﹁おぉ、正解﹂
﹁ふーん⋮⋮それで人数が稼げるってこと﹂
大して面白い話でも無かった。そもそも僕リリスは女だから﹃好
色一代男﹄とやらのスキルが覚えられるわけでもないし。
ただ、一つだけ分かったのはこの街に集まっている男達の多くは
﹃111人斬り﹄を目指しているわけで⋮⋮。
いつの間にか、他の客達が、僕らを取り囲むように集まっている。
つまり今、僕らはきっとピンチなんだな。うん。
242
episode10︳2
一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。だけど、こうログイ
ンするたびに新しい街に行くたびに輪姦、強姦、凌辱、生贄の危機
にあってはたまったもんじゃない。
僕は、椅子を降りて立つ。
﹁サイミン、こいつらのLvって解析できる?﹂
﹁いいえ。私の持っているのは﹃モンスター解析﹄なのでプレイヤ
ーキャラの解析はできません﹂
﹁そっか﹂
人数は視界に入る限りで相手は10人以上、店内全部なら20人
はいる。
でも、どうだろう。この辺のモンスターLvって5∼10でしょ。
そんなダルい界隈でエロスキル漁っているような男達、大した脅威
には思えない。
111人斬りだって、街から街へどんどん冒険すれば決して困難
な数字じゃないのにあえて低レベルの街で移動せずに済ませようと
しているあたり、その気骨の無さが覗える。
今日のボクは男に輪姦されたい気分じゃない。先日の生贄経験で
滅入っているので、どちらかといえば巨乳の女の子をはべらして癒
されたいよ。
僕はアイテムボックスから痛み止めを取り出して飲み、ロッドの
準備をした。男の一人がサイミンに手を伸ばして、乱暴に押さえつ
けようとする。サイミンは腕力もあるので簡単にそれを跳ねのけた
243
が、周囲の男達が輪を縮めるようにしてこっちに寄ってくる。さっ
きまで話していたカナーブンも止める気は全くなさそうだ。
﹁仕方がない。サイミン、やるよ﹂
﹁はい﹂
サイミンも、アイテムBOXに入れていたスピアを取り出す。武
器は常時装備しておいた方がいいんだけど、手持ちが面倒でついB
OXに入れてしまうのだ。サイミンもスピアを背負っているとリリ
ス様と手が繋ぎにくいので、とかいう理由で同じようにしている。
僕は戦闘領域を展開した。こちらは僕とサイミンの2人、相手は
強姦魔8人。全員ピックアップしようとしたけど、どうやら戦闘領
域の最大人数は10人だった。
﹁バトル!?﹂
﹁マジかよ。おい、強いんじゃないだろうな﹂
﹁おい、前行けよ﹂
﹁なんで俺まで⋮⋮俺は見てただけだぞ﹂
UP﹄した。﹃GIVE
UP﹄はポーカ
男たちは口ぐちに何か喚いた。そして、驚くことに、最初のター
ンで2人が﹃GIVE
ーで降りるようなものだ。経験値、お金、アイテムの面で損しかし
ないが死にはしない。
残った男たちはある程度の自信があるということで、ややおっか
ない。外見も、初っ端から降伏した2人に比べればそこそこ冒険者
として整っているようだ。
﹁リリス様、﹃盗み﹄は発動させますか?﹂
﹁要らない。とりあえず相手の力量を探りたい﹂
244
﹁はい﹂
サイミンは前に出て、詠唱時間無しで﹃一掃の風﹄を放つ。する
と、半ば想像していたが、あっけにとられる事が起きた。残った6
名、大なり小なり腕に覚えがある男たちは皆吹き飛ばされ、酒場の
椅子とか机と一緒に揉みくちゃになって店の隅に団子になった。
そこから這い出てきたのはたったの3名で、後は死んだか、即降
伏した。
そう言って動ける一人は何かのアイテムを使って逃走した。残
﹁ま、魔法の一撃で⋮⋮こいつら、やべぇ﹂
りは二人。筋肉質の男が剣を構えて、前衛のサイミンに襲い掛かっ
た。更に、後ろでもう一人が弓矢をつがえて、引き絞る動作をする。
サイミンは鋼でできた太い刀身を細身のスピアの柄で受け止め、
くるりと回転させて反撃した。ザッと凪ぐような音の後、男は体の
全面から豪快に血を噴き出して倒れ、呻いた。
﹁﹃必命中﹄!﹂
僕は僕で攻撃呪文﹃破壊の火﹄を詠唱したが、詠唱し終えるのと
同タイミングで後衛のもう一人の男の手から矢が放たれた。
それは、﹃必命中﹄?何らかのスキルだったらしい。たぶん、名
前の通りの効力を持つのだろう。矢は風を切るような音を立て、僕
の左肩に刺さった。僕はその衝撃を受け、尻もちをついて後ろに転
倒してしまった。
起き上がって見れば、矢は僕の肩にざっくりと刺さっている。骨
で止まったので貫通はしないまでも衣服を裂いて肉に矢尻が埋まる
様子は間近で直視したくない様子だった。痛み止めを飲んでおいて
245
良かった。
﹁リリス様!﹂
サイミンは叫んで、こちらに駆け寄ろうとする。僕は大丈夫とい
う仕草でサイミンを押し留めて、敵の方を指差した。
僕の攻撃魔法は当たったと思うけれど、まだ相手は倒れていない。
あっちを先に何とかしてほしい。
サイミンは頷き、跳躍で後衛の弓男の所まで行き、容赦なく男の
胸元にスピアを突きこんだ。その凄惨な様子に周囲の客達から悲鳴
とどよめきが上がった。弓男は口から血を流しながらうずくまり、
次第に姿が薄くなって掻き消えた⋮⋮間違いなく﹃DEATH﹄だ
。
僕の視界の隅には、戦闘結果を示すウィンドウと、その結果によ
る報酬が表示されていた。
敵A:農民 LV8・・・GIVEUP
敵B:冒険者 LV10・・・GIVEUP
敵C:魔法使い LV10・・・DEATH
敵D:魔法使い LV15・・・DEATH
敵E:冒険者 LV20・・・GIVEUP
敵F:農民 LV31・・・ESCAPE
敵F:剣士 LV19・・・GIVEUP
敵G:狩人 LV22・・・DEATH
ドロップアイテム・・・獣の皮、成長の種、聖水、耳帽子、薬草、
帰還の羽根
経験値・・・3010exp
報酬・・・350G
246
戦闘領域が解除されると、僕の肩からは刺さっていた矢が消えた。
傷は残っているが、僕は立ち上がって周囲を見渡し宣言した。
﹁まだやろうって言うヤツがいるなら、相手になるよ﹂
すると、運よくピックアップされなかった観客の男たちは苦笑い
したり、首を振ったりしながら散って行った。カナーブンも愛想笑
いをして﹁強いんだな、君たち﹂と言うと何かを思い出したかのよ
うに酒場を出て行った。
﹁リリス様、大丈夫ですか﹂
サイミンがドロップアイテムを拾って僕の所まで持って来てくれ
た。薬草だけその場で使って、他はアイテムBOXに投げ込む。薬
草一個ではHPが完全回復しなかったので、試しに﹃エルフの癒し
手﹄を唱えてみたところ、完治した。
﹁ありがとう。サイミン﹂
﹁いえ。リリス様に御怪我を負わせてしまい、大変申し訳ありませ
んでした﹂
﹁痛み止めを飲んでおいたから大丈夫。これの効果って凄いね﹂
﹁そうですね。私にはあまり分かりませんが、人気アイテムです。
冒険者の中には、必ずこれを使ってから戦闘に臨む人もいます﹂
﹁ボクもその方針で行きたいなぁ。でもこれ、あと2個しかないん
だ﹂
﹁この街の道具屋では売っていませんでしたね﹂
﹁うん﹂
酒場は何となく情報を得にくい雰囲気になってしまったので、僕
247
らは支払いを済ませて出た。やれやれ、だ。
ちょっとしてから後を追うようにして店を出た男が一人追いつい
てきた。男と言うより少年、か。どう見ても20歳以下だ。酒場に
いるにはそぐわないタイプ。まぁ、外見年齢なんてアバターだから
関係ないけど。
﹁あの、ちょっと良いですか。あの、さっき、凄かったですね。お
強いんですね﹂
﹁どうも﹂
僕はおざなりな返事を返す。実際に強いのはサイミンだけだ。そ
んじょそこらの敵ではLv72のサイミンの﹃無慈悲﹄には敵わな
いだろう。
﹁あの、俺、冒険者でカイナっていいます。お二人にご相談したい
ことがあるのですけど﹂
﹁なに﹂
﹁あの、ここでは何ですから、場所を移しませんか﹂
﹁いいけど、一回セーブしたいから、ホームポイントに寄るよ﹂
﹁はい。もちろん構いません。俺もしておこうかな、セーブ﹂
**
カイナはオレンジ色の固い髪の毛を背中まで垂らしている。ボワ
ッと爆発した後にツララ状になって凍結したみたいな髪型だ。
上半身は露出部が多くて、胸部に部分的な布きれがくっついてい
る以外はサスペンダーみたいな装飾を巻いているのみ。男の露出な
んて嬉しくないけど、割と肌が綺麗で小麦色に焼けているので嫌味
は無い。下半身はとび職の人が履くニッカポッカみたいなだぶだぶ
248
のズボン、あとは大きい手袋をしている。
僕とカイナは中央広場のホームポイントで各々セーブした後、ロ
ーランスの花市場の近くのオープンカフェに場所を移した。カフェ
敷地内も足元には赤や黄色の鮮やかな鉢植えのチューリップが並ん
でいる。
﹁相談したいことってなに﹂
﹁あの、ええと、ですね。もし駄目なら断ってくれて構わないんで
すけど、イベントとクエストを手伝ってほしいんです﹂
﹁どんなイベントとクエスト?﹂
﹁この街で起きるイベントとギルドに登録されているクエストのう
ち、戦闘に関わりそうなもの全部です﹂
﹁全部!?﹂
﹁はい。あの、無理ならいくつかでも構いませんけど﹂
﹁えぇと、なんで? 全部って多くない?﹂
酒場で仲間を見つけてクエストやイベントに臨むのは珍しくない
だろう。でも、戦闘に関わりそうなの全部と言われるとちょっと引
いてしまう。もしかして、カイナはこう見えて戦闘能力がゼロなの
だろうか。
﹁多いですか? 一応俺、街のクエストとイベントはできる限り制
覇して進めたいと思ってますよ﹂
﹁へぇ∼。普通は好きなクエストとか報酬が良さそうなのを選んで
つまみ食いするんじゃないの﹂
﹁いや、気持ち悪いじゃないですか。同じ街に何度も来るのも大変
だから、一度にこなしておかないと﹂
コンプリート好きな人種ということか。でも、昔と違って現在の
249
ゲームはイベントコンプとか絶対に無理なボリュームだよ。コンプ
リート不可能だと分かっていてもなお、それをしようと努めるのは
⋮⋮全部潰すつもりが無くても梱包材のプチプチを隅から潰してい
くのと似ているね。
250
episode10︳3
相談の結果、僕はカイナのイベントとクエストを手伝うことにし
た。その前提として僕は諸事情から随分な条件を吹っかけたが、そ
のいずれにもカイナはOKしてくれた。
ちなみに条件とは﹃①リリスはバトルに参加するが、基本的には
後衛で防御しかしない﹄ ﹃②万が一リリスがバトルで負傷したら
スグに回復する﹄﹃③リリスとサイミンのステータス情報は明かさ
ないので承知すること﹄である。
どっから見てもリリスの高慢ぶりが覗える嫌な条件だ。﹁あたく
し、バトルなんて野蛮なことしたくありませんの。お姫様みたいに
扱ってくれなくちゃいやよ﹂とでも言っているようで恥ずかしい。
本来はパーティーを組む相手には信頼関係や戦略の共有の為に自
分のステータス情報を見せるのも礼儀の一つなのだが、それすら拒
否して嫌な感じに拍車をかけている。
その代わり、バトルではサイミンが全面的に助っ人することを約
束したし、報酬は3分割じゃなくて2分割でいいと請け合った。サ
イミンのLvが70オーバーで、リリスも20程度はあることを伝
えたら、カイナは十分に満足した様子だった。
﹁うわ。70オーバーは凄いですね。リリスさんもハーフエルフで
Lv20程度なら結構、回復呪文が使えるわけだし。ええ、十分で
す。お二人がいれば、この街のクエストぐらい楽勝です。どうぞよ
ろしくお願いします﹂
﹁こちらこそ。あっと、仲間なんだから、敬語じゃなくてもいいよ﹂
251
﹁そうですか? じゃあ、そうします。改めて、俺、カイナ。宜し
くな﹂
﹁よろしくね﹂
僕はカイナと握手をした。笑うと日焼けした肌に白い歯が眩しい。
カイナも、15歳くらいだろう。身長は僕より高くて、ヒールを履
いたサイミンより少し低い。リリスと一緒に並ぶと、なんというか
﹃お似合い﹄って感じの少年だ。
街は黄昏、太陽が沈みかけて次第に暗くなり始めた。花市場の人
達も植木鉢を片づけたり、ビニールシートをかけたりしている。
﹁今日は、もういいよね。クエストは明日からでも?﹂
﹁いいよ。ログイン時間が分かったら、掲示板で連絡して待ち合わ
せようか﹂
﹁了解﹂
カイナに別れを告げて僕は立ち上がる。カイナも立ち上がり、手
を振って去って行った。
﹁さて、なりゆきでパーティーを組むことになったわけだけど、サ
イミンはどう思う? あの、カイナって男の子﹂
﹁どう思う、ですか⋮⋮。そうですね﹂
少し長考時間があった後、サイミンは真剣な顔で答えた。
﹁几帳面な方だと思います﹂
思わず僕は噴き出す。
252
﹁ぶっ、あはっ、あははは︱︱︱︱︱︱。サイミン、それ、最高﹂
﹁そうですか? あのぉリリス様、もしかしてわたくし、変な事を
言いましたか?﹂
﹁ううん。サイミンって時々、本気でAIじゃないみたいに思える
よ﹂
﹁えっ⋮⋮。ぁ、ありがとうございます﹂
サイミンは顔を赤らめて、小さくお辞儀をした。はにかむような
笑顔が嬉しそうだった。本当に人間みたいだ。もしサイミンが実は
ユーザーキャラだったとしても、さほどは驚かないだろう。
﹁っと、今日はあと1.5時間くらいしかいられないんだけど、ど
うしようかな﹂
そういえばこの街は色街だと聞いたけれど、女の子を買える場所
があるのだろうか。臨時収入もあったことだし、可愛い巨乳の女の
子といちゃラブしたいな。もちろん相手はサイミンでも良いのだけ
ど。
とりあえず歩いてギルドの方角へ向かう。夜モードになって立ち
並ぶ建物の窓からはランプの光がこぼれている。街灯にもところど
ころランプが灯されて、陰影が幻想的な雰囲気を醸している。
道の隅に立っている女の子が、僕らの前方を歩く男の側に駆け寄
って何事か話しかけているのが見えた。しかし、男は迷惑そうに手
を振って女の子を追い返した。
なにかなーと思いながら同じ道を行くと、頭巾をかぶった少女が
僕らの所にさっきと同じように駆け寄ってきた。
﹁お花を買ってくれませんか﹂
﹁ほほお﹂
253
思わずリリスにそぐわない変な声が出た。いや、だって、お花売
りでしょ。レトロで可愛いじゃん。
﹁売ってくれるのはお花だけなの?﹂
﹁お願いします。病気の母の為に、お金が必要なのです﹂
﹁君はいくら?﹂
﹁お花は一本5Gです﹂
んー⋮⋮駄目だ。うまく会話が成立しないや。この子は買えない、
ってことだね。僕は5Gを恵んでお花を一本もらった。
そのまま道なりに角を折れて中央広場をぬけようとすると、ユー
ザーキャラらしき男達が2人で話しているのに気付いた。男ユーザ
ーがいるところに色事あり。僕はこっそり近づいて遠巻きに眺めて
みた。 すると、噴水の影になってこちらからでは見えなかったけれど、
ベンチの所で女の子がもう一人の男に犯されていた。花籠が足元に
転がっている。やっぱり僕の勘は正しくて、花売りの女の子がこの
街の裏の特産品なんだな。
噴水の水の流れる音に混ざって、犯される女の子の喘ぎ声が聞こ
える。僕はカメラ機能を起動してこっそり撮影してみた。写真の感
じはアングル的にいかにも盗撮、って感じでなかなか良い。俄然、
僕も花売りの女の子と遊びたくなった。
とはいえ、街をグルグル回っていたらすぐに時間が経ってしまう。
本当は酒場で花売り娘の出現ポイントを教えてもらうのが一番効率
がいいのだけど、昼間のことがあったから今日は止めておいて、ギ
ルドに向かう。
ギルドはギルドで冒険者が集まる場所だから情報収集がしやすか
254
ろうという目算だ。
と、ギルドに向かう途中で再び僕は花売りに話しかけられた。
﹁御嬢さん、お花を買いませんか?﹂
﹁お⋮⋮。いや、要らない﹂
﹁そうですか。残念です⋮⋮﹂
花売りは男だった。やたらと美形で流し目をこちらに投げかける。
男もいるのか⋮⋮と思いつつ、スルーした。
更に行くと細い路地に入ったところからよがり声が聞こえてきた。
やっぱり気になるのでそっと覗き込むと、女が壁に向かって両手を
ついて、スカートをまくり上げてお尻を突きだした格好で犯されて
いた。やや年かさの色っぽいお姉さんで、手前の樽の上にはやはり
花籠がおいてある。
﹁なんていうか、乱れまくってるね、この街﹂
﹁はい。昼間とは雰囲気が違いますね﹂
サイミンは頷く。
3段の木のステップを踏んでギルドの入口を潜ったが、ギルドは
相当閑散としていた。一人冒険者がいたので話を聞いたところ、﹁
この街は夜になると色街の要素がぐんと強くなるから、ギルドも空
いている﹂とのことだった。
﹁この街に来ている冒険者のほとんどは﹃好色一代男﹄スキル狙い
だからな。女キャラがウロウロしていると危ないぞ﹂
﹁ご親切にありがとう。ちなみに﹃好色一代男﹄ってどんなスキル
なのかな。女キャラは覚えられないの?﹂
﹁くだらないスキルだよ。特に女の子には関係ないし﹂
255
﹁教えて欲しいな﹂
﹁あぁ⋮⋮俺は習得していないが、﹃精力増強﹄だ。まぁ、﹃色欲﹄
と組み合わせるなら効果的なスキルではあるかもしれないな﹂
﹁へー⋮⋮﹂
僕はその真面目な冒険者と会話し、お礼を言ってからギルドを出
た。何でも、花売り娘の出現場所はランダムで、街をうろついてい
れば見つかるらしい。また、その日に出現した新キャラは特に人気
があるので、男がたむろしていたり並んでいたりする列を探した方
が早いということだった。
僕はその言に従って街をうろつき、男の列は避けて通り、一人の
少女を見つけた。
﹁すみません。お花、買ってくれませんか?﹂
少女は灰色のボロボロの衣服をまとっている。スカートの裾はす
りきれているし、巻きエプロンも元は白だったのだろうが、汚れて
くすんでいる。
こげ茶色で三つ編みが混ざったソバージュのロングヘア。小さな
唇はカサついていて、花籠を持つ手も同じように荒れているが、幼
き日の灰かぶり姫もかくやという美少女だった。
256
episode10︳3︵後書き︶
次話は鬼畜百合です。鬼畜っぽいのと百合が苦手な方はご注意。
257
episode10︳4
少女はまるで花を売っているような表情ではない。どちらの﹃花﹄
を売っているにしたって、こんな怯えた顔では商売にならないと思
う。⋮⋮まぁ、そういうのが好きな客もいるのだろうけど。
﹁お花、買ってくれませんか?﹂
﹁君の体はいくら?﹂
僕は単刀直入に尋ねる。相手がAIの場合、なるべく率直に単純
な質問をした方が良い。知能レベルによっては理解してくれないこ
とがあるから。
﹁えっ⋮⋮わたし、わたしの体は⋮⋮﹂
おっ。やった! 今度は当たりじゃない?
花売りの少女は両手で籠の柄を握りしめて、俯いている。
﹁君の体をつけてくれるならお花も買うよ﹂
﹁は⋮⋮はい。では、1000Gでいかがでしょうか﹂
﹁いいよ。悪いけど、時間があんまりないからその辺で﹂
僕は少女の腕を引いて細い裏路地に引っ張り込む。裏路地はたぶ
ん、何度もそういうことに使われてきたのであろう。目隠しの低木
樹がいい感じに植わっていて、もみ殻の入った袋が重ね置きされて
いる。
サイミンには邪魔が入らないように少し離れた所で見張り役を頼
258
んだが、嫌な顔をせず快諾してくれた。良かった⋮⋮もしサイミン
に軽蔑されたらちょっと傷ついてしまう。
少女は手にしていた花籠をそっと手前側に足元に置いた。
﹁この花籠は?﹂
﹁この街では、これを置いておくと、花売りが今仕事中なので手を
出さないでください、というメッセージになるのです﹂
﹁ふぅん。客寄せの看板の意味もあるんじゃない?﹂
﹁えっ?﹂
﹁ま、いいや。とりあえず、その汚い服を全部脱いで﹂
﹁えっ⋮⋮そんな﹂
﹁早く﹂
僕は厳しい口調で言う。どうせ相手は低知能のNPCだ。無用な
情けや気遣いはこの際捨て去ろう。
少女は言われた通り、服を脱いで裸になった。夜とはいえ広がる
空の下、野外で真っ裸というのはなかなかインパクトがある。
﹁ショーツも脱いで﹂
﹁うっ⋮⋮ううっ﹂
顔を歪ませながら花売り娘は指示に従った。
﹁ふぅん。服は汚いけど、中身は綺麗だね﹂
気分はすっかり悪役だ。でも、たまにはこういうのもいい。前回
モンスターに散々された鬱憤を晴らそうじゃないか。あのモンスタ
ー達は﹃女神クロニクル﹄のプログラム、そしてこの少女だって元
をたどれば同じもの。ならば、仕返し相手としては間違っていない。
259
﹁邪魔だから、おっぱいとまたは手で隠さないこと。いちいち何度
も言わせないでね。ふーん⋮⋮貧弱な体だと思ったけどおっぱいは
結構膨らんでるじゃん﹂
僕は両手で少女⋮⋮花売り娘ちゃんのおっぱいを下から持ち上げ
るようにして揉む。リリスより大きいので、何となく悔しくなって
先端をつねった。
﹁痛っ﹂
それから、赤くなって痛みに反応して尖ったそれを口に含みねっ
とり舐めた後、舌先で乱暴に転がす。
﹁うっ⋮⋮あっ⋮⋮恥ずかしいっ⋮⋮﹂
房ごとぱっくり口にすると、サイズは小ぶりながらまるで大福餅
を食んでいるような感触だ。ちゅぱっ、と口を外して命令する。
﹁後は、自分でやってよ。こう、おっぱいを両手で自分で愛撫して。
揉んだり、先っぽをつねったりするの﹂
﹁は、はい﹂
花売り娘ちゃんは言われた通りに自分で自分のおっぱいを揉み始
めた。そうさせながら、僕は両手の指先を使って、わき腹のライン
とへその周り、下腹部を円を描く様に撫でた。数往復それを繰り返
した後、太ももを撫でさすり、後ろに回ってお尻を鷲掴みにした。
﹁うん。お尻も綺麗だ﹂
260
おっぱい派だった僕だが、最近はお尻の良さにも目覚めつつある。
サイミンが趣旨替えさせるほど素晴らしい美尻なんだよなぁ、と思
いながら花売り娘ちゃんの尻を揉む。強くつかんでぱかっ、と割る
とつつましやかな菊のつぼみがお目見えする。
﹁きゃあっ、駄目です、そんなところを見ては﹂
﹁うるさいなぁ。ちゃんと、手、動かしてる?﹂
﹁は、はい﹂
僕はわざとお尻をもっと開く様に割り、菊門を晒してやった。
﹁う、ううっ﹂
花売り娘ちゃんは恥辱に耐えながら己の胸を揉みしだいている。
﹁うっふっふっふ。いいねぇ∼﹂
なんだか、これだけで僕の方もちょっと興奮してきちゃった。あ
ぁ、これで僕が男キャラだったら今すぐにでもコトをいたすのに。
そして、後ろ側から花売り娘ちゃんの股の割れ目に指を伸ばす。
期待通り、そこは既にヌルヌルだった。
﹁ん、よしよし。感じてるね∼こんな屋外で素っ裸になって自分で
おっぱい揉んで濡らすなんて、大した変態少女だよね∼﹂
﹁ふ、はぁっん⋮⋮﹂
僕は指を遠慮なく突きこんだ。すると、花売り娘ちゃんは﹁あっ﹂
と高い声をあげ、体を捩じるようにして、逃げた。
﹁い、いやっ。やめてくださいっ﹂
261
﹁む︱︱︱︱︱︱。何言ってるの。っていうか、時間も無いんだか
ら、あんまり抵抗しないでよ﹂
﹁ぁ、すみません⋮⋮でも、わた、わたしっ⋮⋮﹂
﹁そこの壁に両手突いて、お尻をこっちに突き出して。ほら、手は
ここ﹂
﹁は、はい﹂
﹁今度勝手に動いたら痛い目に合せるからね﹂
﹁ううっ、どうぞ、お許しください﹂
花売り娘ちゃんは両足を開いて壁に手をつき、身体検査される囚
人みたいな姿勢になった。僕は引き続き、指を彼女の割れ目に沿わ
してヌルヌルを絡めて中に侵入させる。
﹁ぁっ⋮⋮そ、そんな、とこ、はぁぁ⋮⋮﹂
﹁そんなとこ、も何も﹂
ここがメインでしょうに。僕は指を第二関節まで進ませて、引き
抜き、再び愛液を絡めて突き戻す。すごい、指一本でもキツい。リ
リスだって相当だけど、この子の中は更に狭いんじゃないかな。
﹁でも、丹念にほぐしている時間は無いからねー可哀相だけど﹂
せめて、一回は気持ち良くさせてあげよう。僕は、花売り娘ちゃ
んの女陰をまさぐって陰核を見つけ出し、指でしごいた。
﹁ふあっ⋮⋮ぁっん、あんぅうう、ひゃん、らめ、です、そんな、
わたしっ、こんなの⋮⋮おかしぃいいっん、あ︱︱︱︱︱︱﹂
足をガクガク震わせたかと思うと、花売り娘ちゃんはあっという
間にイってしまった。それでも、命令通り姿勢を変えずに逃げなか
262
ったのは偉い。荒い呼吸を繰り返し、懸命に膝に力を入れている。
﹁よし、これでもう一回試してみよう﹂
﹁んあっ!!﹂
ベタベタになったまんこに指を突っ込むと、人差し指が根元まで
難なく入った。ただし、指全体を凄く締め付けて来るけど。
﹁ん︱︱︱︱︱︱ぅあ︱︱︱︱︱︱︱﹂
人差し指を第一関節まで引き抜き、今度は中指も沿わして二本指
を突きこむ。抵抗はあったが、ようやく指二本も飲み込むようにな
った。
﹁締めすぎ。力抜いて﹂
﹁ううっ⋮⋮無理です⋮⋮っ。あぁっん⋮⋮ゆび、指が、入っちゃ
ってる⋮⋮﹂
﹁息吸って﹂
言われた通り、花売り娘ちゃんは股に指を二本咥えたまま、息を
吸った。
﹁吐いて﹂
ふ、と力が抜けていくのが分かる。
﹁そうそう、その感覚。ほら、もう大丈夫でしょ﹂
﹁ふ、うっ、は、はい⋮⋮さっきよりは﹂
﹁じゃ、ちょっと動かすよ﹂
﹁えっ、え⋮⋮ひ、ひぃ、ひい、ひぃ∼ひい∼っ﹂
263
じゅぶじゅぶと指を動かして馴らしていく。まんこの肉壁が指に
絡みついて来る。でも、花売り娘ちゃんのここもいっぱい濡れて、
嬉しそうだ。大丈夫、大丈夫。
﹁ひぃいあぁん、らめ、うぁぁっ⋮⋮なんで、こんな、こんなの、
おかしぃ、んひぃ﹂
﹁よーし、大丈夫そうだから、次行くよー﹂
﹁へっ、ふぇえっ?﹂
僕はアイテムボックスから妖精のロッドを取り出す。妖精のロッ
ドはすべすべした木材でできていて細身で短く、先端には小さい拳
くらいの握り部分がついている。それを、花売り娘ちゃんの股にあ
て、グリグリと擦りつけた。
﹁うっ、うぁぁんっ、やぁぁっん、こわい⋮⋮﹂
﹁はいはい⋮⋮そんなこと言って、ここは随分期待してるみたいだ
よ。ほら、ベタベタ。エッチな体だね∼﹂
﹁うっ、ううっ⋮⋮﹂
横にしていたロッドを足の間で縦に持ち直して、先端を花びらの
割れ目にぐいっと押し込む。
﹁うっくうう⋮⋮﹂
﹁ほら、さっきの要領でね、息吸って﹂
すぅ。
﹁吐いてー﹂
264
その弛緩したタイミングで、思い切りよくロッドを膣内に差し込
んだ。
﹁ひぎっぃいいい︱︱︱︱︱︱︱い︱︱︱︱︱︱︱!﹂
おお、出たよ、﹃ひぎぃ﹄。僕自身は使ったこと無いなぁ、その
うめき声⋮⋮なーんてね。けっけっけ。今日の僕はピンクの小悪魔、
鬼畜リリスちゃんモードだ。
ずっぽりとナカに入ったロッドを回転させるように動かす。
﹁ひぐっ、⋮⋮ぁ、っ、あぁああ⋮⋮ん﹂
﹁どう? 気持ちいい?﹂
﹁いたい、っ、ううっ⋮⋮ぬいて、おねがい、っしますぅう﹂
﹁だーめ。ほら、いい声で鳴いてね﹂
﹁うぐっ⋮⋮うぁ⋮⋮ぁっ、ぁん、やぁだぁ⋮⋮っ、やぁ︱︱︱︱
︱︱﹂
膣内に刺し挿れたまま、軽く抜き差しの動きをする。
﹁ふわああっ⋮⋮もう、もう、らめっぇ⋮⋮ん、こんな、ぁあっ︱
︱︱︱︱︱ん⋮⋮あんあ︱︱︱︱︱︱ん⋮⋮﹂
次第に花売り娘ちゃんの鳴き声が色っぽくなってきた。
﹁い、いくぅっ⋮⋮こんな、おまんこに太いの突き刺されて、わた
しぃ、イっちゃいますぅっ⋮⋮ぁあん、ぁんっ﹂
﹁あはっ、さっすが低能AIは喘ぎ声もてーのーだ﹂
構わず僕は杖をもっと乱暴に強く動かす。花売り娘ちゃんは両手
を壁についたまま、あさましく自ら腰を振って快楽を貪るようにし
265
て叫んだ。
﹁ひぐうっ⋮⋮いっちゃう︱︱︱︱︱︱⋮⋮うぁあ︱︱︱っ︱︱︱
︱︱︱︱!!ひ、ぎいいいいいいいい!!!!﹂
ビクビクっと強く痙攣すると膣内がギュっと締まる感触が杖を伝
わって僕の手にも届いた。
そして、その数秒の絶頂が過ぎた後、花売り娘ちゃんのまんこか
らは栓をしてもなお溢れるビショビショの愛液とそれに混ざった赤
い血が垂れて、杖の柄を濡らした。
266
episode10︳4︵後書き︶
たまにはこういう趣向もいいかな、って思ったんだ。
ブラックリリス。
267
episode10︳5
処女だったのか。えっ? それってどういうこと?
しかし初物を道具で荒らすなんてなかなか鬼畜なことをしたもの
だ。もったいないことをした気もするが⋮⋮まぁ後の祭りだ。
僕はロッドから手を離す。すると、花売り娘ちゃんのあそこがロ
ッドの頭をぱっくりして離さないので足の間から杖身がぷらんとぶ
ら下がって、まるで尻尾みたいだった。
﹁んぁっ⋮⋮﹂
﹁お尻に刺した方がもっと尻尾らしいかな﹂
そう言うと、花売り娘ちゃんは怯えたように首を振る。
﹁嘘嘘、そんなことしないよ。⋮⋮時間も少ないしね。さて、最後
にボクを満足させてもらおうかな。そしたら解放してあげる﹂
そう言って、僕はショーツを脱ぐと、壁にもたせて積まれていた
もみ殻の袋に腰掛けた。
ん、お尻がちょっとちくちくするな。仕方が無く僕は手を伸ばし
て花売り娘が着ていた衣服をお尻と袋の間に座布団替わりに敷いた。
﹁どうすればいいかは分かるよね? 手を使わずに、口だけでイか
せて﹂
﹁は、い⋮⋮﹂
花売り娘ちゃんは僕の足の間に顔を近づけて四つん這いになり、
どこか焦点の合わない朦朧とした表情で舌を動かし始めた。
268
ぬめりのある生温かい感触がリリスの敏感な所を這いまわり、ま
とわりつくようなねっとりとした快感が昇ってくる。
﹁わぁ⋮⋮っん、これ、いいかも﹂
僕はうっとりとし、その恍惚感を味わう。こうやって女の子にご
奉仕してもらうのって初めての経験だけど、愛撫が丁寧だしなんか
唇の感じとか太ももの内側にあたる頬の感じとか、全体的に柔らか
い感じ。受ける快感もまろやかでやわらか∼な味わいだ。
名前も知らない気の毒な花売り娘ちゃんは、イきたてのまんこに
ロッドを挿れられたまま、四つん這いで僕の割れ目を舐め続ける。
時折、刺さったロッドがヒクヒク動くので、花売り娘ちゃんの体も
反応しているんだろう。
﹁ふぅう︱︱︱︱︱うぅん⋮⋮んっ、いいっ﹂
ふと、僕は顔を動かして大通りの方、サイミンのいるところを見
た。すると、そこには群れになって覗き見ている男達がいて、僕が
顔を向けたのに気付いてさっと身を引いた。
﹁あれ︱︱︱︱︱︱?﹂
青い衣服に金の髪、サイミンの姿もある。どういう状況だ?
﹁サイミーン? 大丈夫?﹂
するとサイミンが近寄ってきた。
﹁はい。わたくしは大丈夫です。特に問題はありません﹂
269
﹁なんか、ギャラリーが集まってるみたいだけど﹂
﹁はい。直接的に邪魔をしようとした男達は叩きのめしましたが、
見ているだけで手出しをするつもりが無い男達は見逃しました。目
障りでしたら彼らも排除しますが?﹂
﹁たたき⋮⋮すごいね。別に、いいけどさっ⋮⋮んっ⋮⋮﹂
僕がサイミンと会話している間も花売り娘ちゃんのペロペロは続
いている。花芽のところを舌先で刺激されて、ちょっと息が上がっ
て来た。
﹁ぁん、くそっ、花売り娘のくせに、調子、乗って⋮⋮ぇ。はふ⋮
⋮﹂
まずい、クリを舐められるのがこんなに気持ちいいとは。このま
まじゃ、すぐにイっちゃう。リリスの体もたいがい感じやすい。
﹁リリス様、わたくしもご奉仕いたしましょうか?﹂
﹁へ?﹂
サイミンは顔を赤らめながら、前で組んだ両手をモジモジさせて
言った。
﹁失礼でなければ、わたくしも、是非リリス様に喜んでいただける
ように頑張りますが﹂
つられて僕も気恥ずかしくなってしまう。まさか、奥手のサイミ
ンからこんな発言が出ようとは。
﹁うっ⋮⋮うん、サイミンが嫌じゃないなら、お願いしよっかな﹂
﹁では、わたくし、胸の方を務めさせて頂きます﹂
270
そう言うと、サイミンは身を屈めてリリスのおっぱいにそっと舌
を伸ばした。柔らかい唇がおっぱいの尖端をついばみ、先っぽを優
しく愛撫する。
﹁ふっ、わぁっ、ん﹂
この二重責めはクる。更にサイミンは左のおっぱいを舐めながら、
空いているもう片方を指で丁寧に撫で始めた。
﹁あぁん。ぁ︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮やば︱︱︱︱︱︱︱﹂
ギャラリーもいるというのに、僕はつい嬌声をあげてしまう。樅
袋にもたれかかるようにして体をのけぞらせ、喘ぐ。花売り娘ちゃ
んはリリスの花びらを押し開き、舌を膣にねじこんでくる。花売り
娘ちゃんの涎とリリスの愛液でもう足の間は洪水だ。
﹁ぁっ。らめっ。いく!⋮⋮いっちゃう︱︱︱︱︱︱!﹂
視界がチカチカして、天使が降りてくるのが見える⋮⋮というの
は冗談だけど、僕はイきそうになるのを懸命にこらえて稀有なギリ
ギリの気持ち良さを味わった。しかし、そんな極上の時間はほんの
わずかだった。
﹁ふっあああぁ、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱!!!﹂
深海から一度に釣竿で浅瀬に引っ張り上げられるような浮遊感の
あと、快感が弾けて僕の体を駆け巡った。
271
﹁は、ア、ぁっ、あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮。あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮⋮⋮⋮
⋮﹂
ぜいぜいと息を吐き、しばし余韻にぐったりする。すごい。
﹁しゅごい、よかったぁ⋮⋮もっ、らめ⋮⋮﹂
突然、サイミンが僕に抱きついてくる。
﹁ふぇ? にゃあに? しゃいみん⋮⋮﹂
駄目だ。上手く喋れないや。
﹁リリス様⋮⋮可愛すぎます⋮⋮﹂
﹁ふぇえ⋮⋮?﹂
サイミン、ちょっとそのリアクションはAIとしておかしくない
? それに、抱きしめる力がちょっと強いよー。
﹁サ、サイミン⋮⋮ちょっと、苦しいから﹂
﹁はっ! も、申し訳ありません!﹂
﹁うん、いいけど。あぁ⋮⋮気持ち良かった︱︱︱︱︱︱﹂
﹁それは重畳でございます﹂
﹁ちょうじょう?あぁ、重畳ね。ふふ⋮⋮。ええと、花売り娘ちゃ
んもお疲れ様﹂
﹁ありがとうございました﹂
花売り娘ちゃんは微笑む。素っ裸でロッドを足に挟んだまま言う
セリフと表情としては微妙だ。でもご奉仕は素晴らしかったし、1
000Gの価値は十二分にあった。⋮⋮っていうか、処女の割に安
272
くないか? この世界の売春の値段相場はまだよく分からない。
﹁杖を抜いてあげるから、後ろ向いて﹂
﹁はい﹂
言われるがままに花売り娘ちゃんは僕の手の位置にロッドが来る
ように立ち、後ろを向く。柄を掴んで引き抜くと、ちゅぽん、とい
う小気味良い音がした。太ももを伝って赤い血がとろりと流れる。
﹁んん⋮⋮?﹂
あれ?おかしいな。僕は手に握っている杖を見つめた。この杖、
こんな形状してたっけ⋮⋮、そもそも、漆黒だったか?
しかし、僕にはあまり時間が無い。杖とショーツをアイテムボッ
クスに放り込んで歩き出す。街路にたむろしていた男達は結構な人
数がいた。欲情した彼らが襲ってきたら面倒だったが、近づくとモ
ーゼの海のように人垣が割れた。
なぜか、恐れられているみたいだ。
ただし、男達は僕らにちょっかいかけてこない代わりに花売り娘
ちゃんに群がって行った。﹁新キャラ?﹂﹁新キャラだって﹂とい
う声が背後から聞こえたが僕は振りかえらなかった。ニヒルを気取
っていたわけじゃなくて⋮⋮ログオフに慌てていたのだ。
﹁リリス様、足元が不安定でいらっしゃいますよ。お急ぎなら、抱
き上げましょうか?﹂
﹁流石に、それはちょっと恥ずかしいな﹂
﹁でも、わたくし、リリス様を抱っこして差し上げたいのです﹂
﹁⋮⋮じゃ、じゃあ、お言葉に甘えようかな﹂
273
なんだか、サイミンの様子もおかしい⋮⋮?
それから僕は力持ちのサイミンに抱き上げられてホームポイント
まで夜空の下を悠々と移動したのだった。
274
episode11︳1:ロッド
なぜかレア武器らしきものが手に入った。
武器:ニエグイのロッド
説明:道具としても使用可能。捧げたニエの力を蓄えて放つこと
ができる。非売品。
装備属性:聖/僧/光/天 以外
攻略サイトで調べたらこれだけの情報が得られた。白いシンプル
なロッドだったはずのそれは、いつの間にか先端に山羊の頭のつい
た漆黒の杖に変じている。
不明点は多いが、推測するに、花売り娘ちゃんの処女血を浴びせ
たことで起きた結果だろう。あの時はせっかくの処女を道具で散ら
してしまうことに惜しさを感じたものだが、儲けものだった。瓢箪
から駒ってやつだ。
思うに、たぶん、これも一般的にはあまり流布していない裏ワザ
だ。僕がしばしばこういうラッキーに遭遇するのは運が良いという
より普通のユーザーはあまり取らない行動をしていることに因るに
違いない。普通の男なら処女膜を目にしてそこに突っ込むものは杖
じゃないだろう。もちろん、普通の女も。
そしてこの日から、僕は仲間になったカイナと一緒にクエストに
取り組み始めた。花の街フローランスにある冒険者ギルドのクエス
トは全部で30個。このうち、探索系やお遣い系を除いてバトルが
含まれるものが20個。レベルの低い冒険者が集まる街のギルドだ
からクエストもぬるいのが多い。初日だけでサクサクと進んだ。
275
クエストNo.3:私の黒ネコちゃんを探してください・・・達成
クエストNo.5:卑怯な商人から結婚指輪を取り返せ!・・・
達成
クエストNo.8:月光の下で踊るものは?・・・達成
クエストNo.9:うるさくって眠れない!!・・・達成
クエストNo.10:花壇を荒らす魔物︵その1︶・・・達成
クエストNo.11:花壇を荒らす魔物︵その2︶・・・達成
クエストNo.の大きい方が難易度が高いのだけど、とりあえ
クエストNo.12:花壇を荒らす魔物︵その3︶・・・達成
ずここまでの間に僕は戦闘で何もしていない。ぼーっと立ってサイ
ミンとカイナの戦いぶりを眺め、終わったら経験値だけ入手した。
サイミンにとってこの辺の低レベルのボスは雑魚と同じようだっ
モンク
た。そしてカイナも予想していたよりはずっと強かった。
カイナは武闘家で、LV15。単純にレベルだけ見れば僕より低
いけれど職業チェンジしているから、戦闘力は僕より上だ。それに、
武闘家はLvが低くてもかなり強い職業である。
この﹃女神クロニクル﹄の世界はリアルな痛みがあるのがネック
なのだ。安全地帯から遠近で攻撃できる魔法使いや弓兵達に比べて、
武闘家や騎士のように接近戦を必要とする職業の方が痛みを受ける
リスクが高い。そのリスクに報いる形で、Lvが低くても彼らの方
が戦闘力は強い仕様になっているのである。
﹁螺旋撃!!﹂
カイナが体を捻って、回転するようなパンチを敵に打ち込む。弾
けるような効果音が響き、敵モンスターである大山犬は倒れた。大
山犬の口から断末魔の咆哮が上がり、その姿が掻き消える。
バトルの結果が視界に表示された。そこそこの経験値とお金が手
に入ったようだ。それに、これでクエストNo.14﹁待ち焦がれ
276
た花嫁の正体﹂のボス戦は終わりだ。
大規模多人数オンラインゲームの中には戦闘に参加しても勝利に
貢献しないと経験値が入らないという仕様のものもあるが、﹃女神
クロニクル﹄にそのルールは無い。倒した敵のレベルとあまりに差
がある場合は入手経験値に低減補正がかかるそうだが、今の所僕は
その悩みも無い。
﹁お疲れ様﹂
﹁おう!﹂
カイナは晴れがましい笑顔でガッツポーズを取る。
﹁楽勝だったね。カイナ一人でもいけたんじゃない?﹂
﹁そうだなぁ。でも、一人だと何かとリスクが高いから、一人でも
いけたかもっていうのは結果論だからな﹂
﹁ふふ、そうかもね。それにしても、武闘家の戦い方は恰好いいね﹂
﹁螺旋撃、カッコいいだろ。あれ、使うと勝手に体が回転するんだ﹂
﹁へぇ。面白そう﹂
キーアイテムである﹃山犬の尾﹄を拾い上げて依頼人の所に向か
う。老人と若者が驚きの表情で頷く。
﹁ありがとうございました。まさか、花嫁の正体が山犬だったとは
!くわばら、くわばら⋮⋮ですじゃ﹂
﹁ありがとうございました。しかし、あの山犬は自分のつがいを失
ったことの復讐を果たそうとしたのでしょう⋮⋮。そう思えば、可
哀相なことをしたものです。私は、この山犬の尻尾を墓に埋めて弔
ってやろうと思います﹂
﹁そうそう、報酬はギルドの方にお送りしておきます。皆様、あり
がとうございました﹂
277
ちょっと面倒な三文芝居を聞き終えて、クエストクリアになった。
ギルドに向かってカウンターで報酬を受け取る。
﹁報酬、何だった?﹂
﹁2000Gと不死鳥の羽根×1﹂
﹁不死鳥の羽根はカイナが持ってっていいよ﹂
﹁いいのか?﹂
﹁うん。うちはさっきの戦闘でサイミンが盗んだアイテムもあるし﹂
﹁サンキュ。毎回悪いな﹂
﹁いいって﹂
報酬は大体2等分だけど、割り切れないアイテムは大体カイナに
譲っている。クエストのバトルでサイミンが﹃盗み﹄を使ってゲッ
トしたアイテムは問答無用で全て僕がもらっているので、今の所、
別に損している感じはしない。
﹁今日は、これくらいにしておくか﹂
﹁そうだね。じゃ、また﹂
﹁お疲れ様﹂
カイナは不必要に僕らに干渉してこない。サバサバしたものだ。
僕はカイナと別れた後、街をうろうろして花売り娘ちゃんを探した
が、時間帯がいまいち合わないみたいで出会いが無かった。仕方が
ないのであまりいい思い出の無い酒場に向かったところ、やはり入
店するや否や注目を集めた。
この街に来た初日に酒場で暴れたのが良くなかったのは分かって
いる。確かあの時は死者が3名出たのだよねー。やり過ぎだ。正確
に言えばやり過ぎたのはサイミンだけど、けしかけたのは僕だ。
やや居心地の悪い思いをしつつ、前回と同じカウンターに座り、
278
オレンジジュースを2つ頼む。サイミンが﹁これはどんな味ですか
?﹂と聞いて来るので﹁柑橘系の酸味がある甘い味﹂と答えた。
僕はAIのバーテンに話しかけてこの街に関する情報をいくつか
入手した。本当は酒場ではユーザー同士情報を交換するのが最適な
のだけど、バーテンも結構重要な情報を持っている。奥手なユーザ
ーの為に、どこでもそういう風にできているのだ。
しばらくして、僕の近くにやってくるユーザーキャラがいた。ま
た鬱陶しくちょっかいかけられたら嫌だな、と思いつつ見返す。僕
が無表情にそちらを向くと、話しかけようとしてきた男はビクッと
し、力なく笑った。
﹁あ⋮⋮あの、先日は、すみませんでした﹂
うん?
農夫風の恰好をした男だった。どうやら、先日ぶっ倒した男達の
うちの一人らしかった。いちいち顔は覚えていないけど。
﹁あぁ、別にいいよ。気にしてない﹂
﹁ありがとうございます。お隣の仲間の方も⋮⋮ご迷惑をおかけし
てすみませんでした﹂
お隣の、というのはサイミンのことだった。サイミンはニコリと
もせずに言った。
﹁我が主人が許すというのなら、私も異存はありません﹂
男はペコペコお辞儀をして、元の席に戻って行った。なんか、律
儀な人もいるもんだ。むしろ、こっちが悪いことをした気になるな。
279
あの時は適当に周りの8人をピックアップしちゃったから。
しかし、この後驚くことが起きた。農夫風の男が引っ込んだ後、
同じように何人もの男達が一人ずつ僕のもとに謝りにやってきたの
だ。
﹁どうも、あの時は申し訳ありませんでした。二度と、お二人にご
迷惑をおかけするようなことはしませんので﹂
﹁あの、俺も、すみませんでした。反省しています﹂
﹁ごめんなさい。どうぞ、許してください﹂
⋮⋮。ホワイ?
その様子はまるで体育会系の部活の怖い先輩のところに後輩が一
人一人挨拶に来るようであった。しかも、その人数が尋常じゃない。
3人、4人、いや、後ろには列ができている。一人は言った﹁俺は、
あの場にいただけですが、すみませんでした﹂。つまり、あの時店
に居た男達が軒並み謝りに押しかけている。しかも、他の一人は僕
の事をこう呼んだ。
﹁申し訳ありませんでした。リリス様﹂
名前が割れているのも謎だが、何故﹃様﹄付け!?
﹁ちょっ⋮⋮、ちょっと、これ、どういうこと?!﹂
流石に訳が分からなくて僕は叫ぶ。眼前で帽子を脱いで頭を下げ
ている男を捕まえて、僕は事情を聞きだした。すると、驚愕の事実
があった。
先日の酒場で起きた強姦未遂の後、今日に至るまでに、あの場に
280
いた男達が次々と粛清されているというのである。その裁きたるや
血も涙も無く、ログインするや否やとっ捕まってボコボコにされる
という。
僕はポカンとして、隣の実行犯の顔を見つめた。
﹁リリス様に失礼を働いたのだから、当然の報いですわ﹂
サイミンは、にっこりとほほ笑んだ。
281
episode11︳2
サ、サ、サササ⋮⋮サイミーン!!!
いくら僕の為とはいえ、そんな過激な事をされたらこの先どんな
火の粉が降りかかってくるか分からない。僕は心を鬼にしてサイミ
ンを叱りつけた。
それによるサイミンのしょげっぷりは深刻だった。気の毒になる
のを通り越して哀れになるほどだった。叱られた時には顔にハッキ
リと﹁ガーン﹂と書かれていたし、その後は頭の上には﹁しょぼー
ん﹂の文字が乗っているのが見えるようだった。
だがその一部始終を見て、酒場の客達は事情を理解し一様にほっ
とした表情に変わった。サイミンの行為が主人の意思ではなく、A
Iの暴走の結果だったと分かり、それがこの瞬間に是正されたこと
に安堵したようだ。
もし、バトルでサイミンが巻き上げたアイテムやお金があるなら
ユーザーに返却しなさいと言うと、それは無いとのことだった。A
I単独で実施するバトルでは、経験値やアイテムなどの入手が無い
らしい。
ただ、粛清を受けたユーザー達にとってはだからこそ恐怖だった
という。お金や経験値目当てのユーザー狩りならまだしも、純粋な
報復目的でバトルを仕掛けられたのだから、執念を感じたそうだ。
﹁しかし、命令じゃなかったとすると、そのAIの忠誠心は凄まじ
いですね﹂
282
最後に謝りに来た男が苦笑しながらそう言って、去って行った。
忠誠心⋮⋮閲覧可能パラメータにはその指標が無いが、データとし
ては存在しているのかもしれない。
﹁忠誠心だけじゃありません﹂
﹁ん?﹂
下を向いているサイミンがポツリとつぶやいた。
﹁なぁに? 何か言った?﹂
僕はうつむくサイミンの顔を覗き込む。すると、サイミンは顔を
赤らめた。
﹁な、なんでもありません!﹂
﹁ふぅん?﹂
変なサイミン。やっぱりちょっと挙動が不審だ⋮⋮。実は聞こえ
ていたが、忠誠心だけじゃないなら、何だと言うのだろう。
時間が来たのでこの日はログアウトすることにした。サイミンに
は無断でパーティーに影響するような勝手な行動を取らない様に重
々言い含めて置いた。
**
次のログインから3日間似たようなルーチンワークをこなし、﹃
花の街フローランス﹄のクエストをほぼ全てクリアすることができ
た。様子のおかしかったサイミンも奇行を見せることなく、バトル
ではいつも以上に張り切ってくれた。
283
最後のクエストはNo.30﹁叶わぬ願い﹂。ラストだけあって、
少し重かった。ボスがLv50のドラゴンな上に、一人のNPC少
女を守りながら戦わなければいけないという制約付き。セーブして
臨んだ最初の一回目はクエスト失敗だった。ドラゴンの最初の攻撃
で僕とカイナの2人が瀕死になり、泡を食ってGIVEUPしたか
らだ。
とはいえ、DEADにならなくて良かった。DEADは所持金の
半分を失い、LV1ダウンの上で自動セーブされてホームポイント
に戻される。GIVEUPだと所持金のいくらかとアイテムをラン
ダムで1個ドロップ。この時もアイテムBOXと所持金だけは自動
セーブされてしまうが、DEADに比べれば格段に被害は少ない。
僕らは作戦を練って2回目に臨む。最初のターンは味方側だ。ド
ラゴンは全体攻撃のブレスを放ってくるので、NPC少女を﹃防御﹄
で守る役目が一人必要だ。更に、僕はドラゴンのブレス2回で﹃D
o
3回で﹃DEAD﹄の見込み。ちなみに僕らは残念なことに全
EAD﹄となるので毎ターン、回復が必要。カイナはブレス2
r
体回復魔法を持っていない。こうなってくると、ほとんど勝ち目は
無いように思える。
だが、ドラゴンの弱点を突けば勝因はある。例えば古来よりドラ
ゴンは眠りに弱いのが王道じゃないか。ということで、2回目の作
戦はこうだ。最初のターンでサイミンが﹃モンスター解析﹄をかけ
る。そして2ターン目で皆でGIVEUP離脱、だ。名付けて、﹁
とりあえず解析してみよう﹂作戦。
アイテムドロップはボックスから選ばれるため、落としたくない
ものはなるべく手持ちにしておいた。5個しか持てないのだけど。
ドラゴンはダンプカーぐらいの大きさで、流石LV50。今まで
284
のモンスターとは迫力が違う。威嚇で開く口の奥で高炉のような熱
が凝っている。2回目の戦闘だというのに、僕は後衛からでもおよ
び腰だ。耐えられる程度に設定してあるようだが、ドラゴンのブレ
スも結構熱くて痛い。受けるには罰ゲームでプロレスラーに横っ面
をはたかれるくらいの覚悟がいる。
﹁モンスター解析!﹂ 初ターンでサイミンが計画通りスキルを放つ。
﹁解析に成功しました!﹂
よし。解析結果は保存できるので後で見よう。カイナはブレスに
そなえて防御コマンドを選択する。僕もそれに習おうとして、ふと、
思いついたことがあった。
﹁どうしましたか? リリス様﹂
ふと立ち尽くす僕に、サイミンが心配そうな声をかける。カイナ
も防御姿勢を取ったままこちらを向いて首を傾げてみせた。
﹁⋮⋮ちょっと、思いついたことがあるから、攻撃してみる﹂
﹁えっ⋮⋮! リリス様、お危のうございます!﹂
おあぶのう、ってちょっと時代劇がかってない? なんかサイミ
ン、それじゃあ騎士というより時代劇の﹁THE ジャパニーズ 忠臣﹂って感じ。
防御無しでドラゴンのブレス受けるの怖いな∼と思いつつ、僕は
ニエグイのロッドを発動させる。発動と共にロッドの上に選択画面
が浮かび上がり、僕はその中から﹃力の解放﹄を選択する。
285
﹃蓄えたニエの力を解放しますが宜しいですか?﹄
>YES
僕はなぜか攻略サイトで調べた情報を走馬灯のように思い出した。
武器:ニエグイのロッド
説明:道具としても使用可能。捧げたニエの力を蓄えて放つこと
ができる。非売品。
次の瞬間、周囲の景色が全て漆黒に塗りつぶされた。刹那の間、
すべての音が消えて、僕の手の中で山羊の頭の杖が震えた︱︱︱︱
︱︱。
**
更に全員
ギルドの受付で、最後のクエストの報酬を入手した。流石最後の
クエストは報酬が豪華だ。10000Gと竜の鱗×5、
に名声+1が与えられた。
﹁俺、リリスがステータス情報を隠したがる理由が何となく分かっ
た﹂
最後の報酬を分割しながら、カイナが言った。レア素材である竜
の鱗の5枚は2:3で僕の方が多くもらったが、カイナはそれでも
悪い気がするくらいだ、と言った。
結局、ドラゴンは2回目のチャレンジで倒すことができて、勝敗
286
を分けたのは僕の放ったニエグイの杖の発動だった。爆音が轟いた
後、しばらくは何が起こったか分からなかったが、地を這うドラゴ
ンの残HPは残りわずかになっていた。ドラゴンの反撃を僕とカイ
ナが耐えしのいで、次のターンでサイミンがとどめを刺した。
﹁なんか特別な力があるんだな﹂
﹁あは⋮⋮﹂
カイナの言葉に僕は曖昧に笑ってみせた。
﹁できたら、内緒にしておいて﹂
﹁あぁ、分かった。って言っても、何が起きたのかは分かってない
からバラしようも無いんだけどな﹂
僕だって、何が起きたのかよく分からない。ニエグイのロッド⋮
⋮おそるべし、としか言いようがない。
﹁さて、これで約束のクエスト制覇は完了だ。リリス、サイミン、
ありがとうな﹂
﹁うん。こちらこそありがとう﹂
﹁ありがとうございました﹂
僕らは握手を交わした。
クエスト制覇の為にカイナと過ごした数日間、初めて組んだパー
ティーだったがなかなか楽しかった。お金やアイテムも手に入った
し、経験値も結構増えてレベルUPもしていた。最初はクエスト制
覇なんて⋮⋮と敬遠する気持ちもあったが、やってみると意外と充
実感がある。おかげでここ数日は禁欲の日々を送ってしまったけれ
どね。
287
カイナはアバターの外見こそ﹃やんちゃ少年﹄だけど、付き合っ
てみると中身は相当な真面目だった。僕という女ユーザーキャラに
対してもエロい言動をしてくることは無かったし、いつも礼儀正し
い振る舞いで仲間としてストレスが無くていい奴だった。
﹁カイナは紳士だよね∼﹂と言うと、カイナは﹁そんなことないっ
て﹂と破顔した。うん、このリアクションこそ100点満点だ。
﹁成人ゲームなのに、エッチなこととか、しないの?﹂
思い切ってもう少し踏み込んで質問してみる。別に誘いをかけて
いるつもりは無いが、クエストも終わり、カイナとの付き合いも切
れるのでもう少し腹を割って話してもいいかな、と思ったのだ。
﹁えー⋮⋮あー。うん。このゲーム世界でのエッチは、基本はしな
いなぁ﹂
﹁なんで?﹂
﹁そんなの、女の子に話すのは恥ずかしいよ﹂
しかし、そう言われると気になる。僕は一つの可能性を思い浮か
べて言った。
﹁⋮⋮さては、ゲイなの?﹂
﹁違う!!﹂
おお、即答。
﹁んじゃ、中身は性欲の無くなった御爺ちゃん?﹂
﹁ちがーう!﹂
﹁ふぅん⋮⋮。まぁ、いいけど﹂
288
すると、中身が爺さんだと言われたのが気に障ったらしく、カイ
ナは個人識別情報を一部表示して見せてくれた。そこに現れたカー
ド情報にはまだ十分に性欲ある年齢が記載されている。
一応僕も礼儀で自分の情報を表示して見せた。するとカイナは僕
以上に驚いていた。
﹁なんか、最近こういうゲームで出会ってリアルに付き合う男女が
多いって聞くけど、分かる気がするなぁ﹂
﹁そうだね。でもボク、彼氏募集してないから﹂
﹁ははっ⋮⋮釘刺されちゃったな。リリスはエロ目当てでこのゲー
ムやってるの?﹂
うっ。逆に聞かれちゃったよ。ここで濁すのもバツが悪い。
﹁ん︱︱︱、成人向けゲームだし、全く興味が無いわけじゃないよ。
女の子が遊ぶには現実世界よりリスクも低いしね﹂
﹁そうだね。現実の世界で売春産業が縮小する理由もよく分かるよ
なぁ﹂
﹁仮想世界の方で拡大しているだけだけどね﹂
﹁その通り﹂
カイナは楽しそうに笑った
﹁リアルでの犯罪が減る分、バーチャルでの犯罪が増える。リアル
の景気が悪化する分、バーチャルでの景気が向上する。本質的な変
わりは無い。ただし、実質的な変わりはある。人間の活動における
虚実のどこに境界を引くかが問題だ﹂
その言葉を聞いて、ふと僕は閃いた。
289
﹁もしかして、カイナって、こういう世界の研究の為にプレイして
いるの?﹂
﹁あぁ、そんな感じ。それ、女の勘ってやつ?﹂
﹁どうかな。そんな気がしただけ﹂
まぁ、研究の為に∼だなんて嘘か本当か見極める方法もないしね。
そういう事にしておいてもいいか。話しながら歩いて、ホームポイ
ントの前まで来た。
﹁じゃあ、これでお別れかな?﹂
﹁そうだね。リリスはこれからどうするの?﹂
﹁実は特に決めてないんだ﹂
﹁俺は、次は﹃ルイベ港﹄に行く予定﹂
﹁あ、港があるんだ。じゃあボクもそうしようかなぁ﹂
船で出ることができれば、より遠くへ行ける。
290
episode11︳3
次の行先はルイベ港に決めた。だが、そこに向かう前に、僕はフ
ローランスの街の宿屋に向かった。
﹃超越せし乙女﹄を持っていて徒歩で回復する僕と、﹃動力オフ
HP回復﹄﹃動力オフMP回復﹄を持っているサイミンにとって基
本的に宿屋は必要ない。いや言い直そう、回復の為に宿屋に行く必
要は無い。
﹁どうやら、この杖の能力だったみたいなんだけど⋮⋮﹂
﹁昨日のドラゴン退治の件ですね﹂
﹁うん。サイミン、これ知ってる? ニエグイのロッド、って言う
らしいんだけど﹂
﹁いいえ。知らない武器です﹂
僕は杖を起動して小さく浮かび上がった表示を確認する。メニュ
ーには﹃力の解放﹄﹃力の蓄積﹄﹃蓄積値の確認﹄と並んでいる。
しかし、﹃力の解放﹄は今は選択できないみたいだ。今が戦闘モー
ドじゃないからなのか、それとも昨日力を解放し切ってしまったか
らか、のどちらかだろう。
試しに﹃蓄積値の確認﹄を選択するとステータスバーの表示に切
り替わり、バーは最低値emptyを指していた。
次に僕はおそるおそる﹃力の蓄積﹄を選択した。なんせ処女の血
を浴びて変形した杖だし、名称からして忌まわしい。ニエグイって、
つまり贄喰いでしょ。
杖は僕の手の中で変化した。山羊の頭の部分がぐにゃりと捩れ、
形を変える。そしてそこに現れたのは、忌まわしいというよりは卑
291
猥な形であった。
﹁ん、ん⋮⋮。やっぱり、こういう意味なのかぁ﹂
僕は隆起した先端を何気なく舐める。エロ雑誌で女の子がこうい
う形の玩具を扇情的に舐めてカメラ目線している写真を思い浮かべ
た。
﹁リリス様?﹂
﹁んんんん︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
どうしよう。これを使ってサイミンと遊ぶのも良い。だが、僕の
脳内には一つの案が閃いていた。せっかく女の子の体を手に入れた
って言うのにさ、僕ってばアレを試していないじゃないか。やっぱ
り、一度はしておかなきゃ、いけないんじゃないかな。うん。
﹁ちょっとサイミン、動力オフしていてくれる﹂
﹁え? ⋮⋮ええ、はい。分かりました﹂
サイミンは一度小首をかしげたが、自分で納得したようだ。特に
理由を問うこともせず、部屋の隅の椅子に腰かけ、﹁では、しばら
く失礼いたします。おやすみなさい。マスター﹂と言って目を閉じ
た。
﹁おやすみなさい、マスター﹂は決まり言葉なのかな。動力オフし
たサイミンは本当に人形のようだ。肉感は人間だけれど造形がマネ
キンっぽい。
よし。では早速だけど、このロッドに力を蓄えられるかどうか実
験してみようではないか⋮⋮自分の体で。
292
僕は靴を脱いでベッドの上に座り、とりあえず自分の胸を揉んで
みた。⋮⋮ぺちゃんこだ。こんな小さいおっぱい、服の上から揉ん
でも存在がよく分からない。僕は袖なしのベストを脱ぎ、ブラウス
のボタンを外してうっすらと肉のついた胸を撫でる。小さいけど、
周りのお肉を寄せて、ググッと持ち上げれば多少のボリュームが出
る。
そうか⋮⋮これが寄せて上げてというやつか。あと、多少だけれ
ど左の方が大きいような気がする。なぜだろう⋮⋮右利きだと右の
方がよく動かすから代謝が良くなって痩せちゃうのだろうか。
そんなことを考えながら続けてふにふに揉んでみたが、別に気持
ち良くない。先端は尖って来たけれど、気分の高揚が無い。更に乳
首をつまんだり、引っ掻いたりしてみたが、同じだった。自分で自
分をくすぐっているようなムズムズ感があるだけ。女の子の体は全
身性感帯だと聞いていたのだけれど⋮⋮うーん⋮⋮意外と自慰も難
しいな。
やっぱり巨乳にしておけば良かったかもしれない。そしたら、自
分で自分のおっぱいを舐めるという凄技ができたし。
更に僕は服を脱ぎつつ、おへそだとか、脇の下だとかを触ってみ
たが、効果はイマイチ。他人に触ってもらう方がずっと気持ちいい。
ええい、まだるっこしい。やっぱりオナニーと言ったらここでし
ょう。僕はベッドに寝転がり、手を足の間に伸ばす。まずはショー
ツの上からそこに触れる。当たり前だけど、そこには男ならあるも
のが無い。建物の無い更地、だ。
自分の体だと言うのになんだか悪いことをしているような気にな
る。それとも、自分の体だからこそ、だろうか。こんな風に自分で
自分を慰める少女の姿を想像すると、それだけでドキドキしてしま
う。
293
ショーツの上から、秘部を撫でさすっていると、おっぱいに触れ
ていた時とは明らかに違う感覚が広がってきた。
﹁う、ぁ⋮⋮﹂
くるくる円を描く様にして撫でさすり、指がひっかかる襞の所を
指で挟むようにして縦に擦る。そうしていると、段々と特に気持ち
いいところが分かってくる。ショーツの上から触れるクリトリスは
二重の被膜に守られているのにもうジンジンする。
ショーツの下に指を潜り込ませたい欲求を押さえながら、更に指
を動かす。するとあそこから愛液が零れだして、ショーツに染みを
作り始めた。やっぱり、ここはダイレクトに気持ちいいみたい。
﹁あぁ、もう﹂
僕はショーツを脱いで直接指で花の女陰を弄った。膣へと続く穴
の周りに触れると肌が騒ぐ。中に欲しい。指をゆっくりと一本沈ま
せると、そこは生温かくてぬるぬるしていて、狭かった。
﹁んっ⋮⋮﹂
指に愛液を絡ませて陰核を捏ねると、痺れるような快感が花開く。
僕は思わず、欲望のままに指を動かしてしまう。
﹁あっ⋮⋮あっ、ん⋮⋮﹂
気持ちいい。どうしよう。こんな、目一杯しちゃったら、スグに
イってしまう。そう思いながら、指が止まらない。
女陰からは愛液が分泌され、花びらが快感に震える。女の子のこ
294
こは凄い快感受容器だ。男のモノが快感を受け取るアンテナだとす
ると、女の子のモノは器。気持ちいいのがなみなみと注がれて、溢
れそうになる。
﹁はぁぁっ⋮⋮、らめっ、いっちゃう⋮⋮﹂
少し我慢した方が、気持ち良くなれるとは思うのだけど、駄目だ。
こんなの、とても耐えられない。すごい⋮⋮。ぷしゅっ、と愛液が
ほとばしる。おしっこが少し漏れちゃったのかもしれない。なんか、
何が出てるのか自分でもよく分からない。
﹁あぁっ⋮⋮いぃっ⋮⋮も︱︱︱︱︱﹂
僕は指を一本膣に挿入して抜き差ししながら、クリを弄る。頭の
中では、僕がリリスを犯している。でも、その反面で僕はリリスで、
犯されている。その二つがないまぜになって、一気に昇り詰めた。
﹁あ、あ、あ︱︱︱︱︱︱やぁっん、らめぇっ、っ︱︱︱︱︱︱!﹂
身体がぎゅぅっとなって、伸ばした足先が反り返る。ビクビクと
身体が震え、息を吐くのに合わせて弛緩する。
﹁あ、はぁ︱︱︱︱︱︱﹂
ベッドに頬を押し当てて、息を整えながら、視界の隅に入るニエ
グイのロッドを見た。あぁ、これを使おうと思っていたのに、すっ
かり忘れていた。⋮⋮というより、止まらなかった。
すごい、なんか、初めてだったからかもしれないけど、一人エッ
チも、かなり、いい。頭がぼーっとする。
ロッドの使用はまた今度かな。これで、十分に満足してしまった。
295
まとまらない思考回路でぐったりと余韻を味わっていると、ふと、
﹁動く﹂気配がした。
ん?
白い滑らかな手が変形したニエグイのロッドを拾い上げる。
﹁これを、お使いになるのでは無かったのですか?﹂
え?
﹁サイミ⋮⋮﹂
僕の言葉が云い終らないうちに、彼女は僕の上に上半身でのしか
かる。その手に握られたロッドが、僕のお尻に当てられている。
﹁リリス様⋮⋮﹂
僕の耳の側で、サイミンはうっとりと囁く。
﹁可愛らしいリリス様。わたくしのご主人様﹂
﹁え、あ、サイミ、ん﹂
どういうこと?サイミン、動力オフしてたんじゃなかったの⋮⋮。
それに、ええと、この状況は一体? なんか、様子もおかしいし。
僕の頭は混乱気味だ。
﹁どうぞ、存分にお楽しみになってくださいませ﹂
それ以上の前置きは無かった。サイミンの手によって、イったば
296
かりのリリスの膣に固いものが突き立てられた。
僕は声にならない叫びをあげた。
297
episode11︳4
サイミンの手によって抜き差しされるロッドが愛液をまといなが
ら内側を擦る。
﹁や⋮⋮やめっ⋮⋮ぁつ﹂
僕は呂律の回らない口で止めて欲しいと訴えたが、サイミンは聞
き入れない。僕の上に体重をかけるようにして覆いかぶさったまま、
ロッドを動かす。
﹁やめてぇ⋮⋮だ、めっぅうう。まだ、あぁっ、ふっ、くる、しい
よ﹂
﹁くるしい、ですか? どう苦しいのか教えてください﹂
﹁んぅ︱︱︱︱︱︱﹂
サイミンの声は艶っぽい。耳元で囁きを聞いた後、耳たぶを食ま
れた。ペロペロちゅうちゅうと耳を愛撫されると、くすぐった気持
ちいい。
﹁浅い所がお好きですか? それとも、こうやって、奥まで突かれ
る方がお好きですか?﹂
グイッ、と子宮口まで押し込まれて、体がビクリと反応する。奥
は、駄目。そこを突かれると、無条件で反応してしまう。
﹁ひぃ⋮⋮ん﹂
298
奥の所を責められる。ずん、ずん、とお腹に響いて、脳まで痺れ
る。
﹁ここが、宜しいのですか? うふふ⋮⋮リリス様が嬉しそう﹂
ちゅ、と頬にキス。その後、サイミンの舌が僕の頬をぺろりと舐
め上げた。
﹁らめ、やめてぇ⋮⋮﹂
﹁そんなことおっしゃって、ここはこんなに悦んでいますのに﹂
ロッドを動かす手を止めて、サイミンの指がリリスのマンコ、ロ
ッドをぱっくりと咥えている割れ目に触れる。
ぬるりとした感触が伝う。確かに、そこはベタベタになっている。
﹁ほら﹂
﹁あう︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
﹁あぁ、リリス様、なんてお可愛らしいんでしょう。わたくしのご
主人様。もっと、可愛らしい姿を見せてくださいませ﹂
じゅぶっ、じゅぶっ。
一際大きく動かされて、ロッドが子宮口を叩くたびに目から火花
が散りそうになる。
﹁はぁっん︱︱︱︱︱︱んううっ、ら、らめ、ひいっん﹂
まんこからは愛液と潮が噴き出す。こうなると、もう僕も頭では
何も制御できない。ただ、ひたすら与えられる快感にあえぐだけだ。
﹁鳴き声も素敵ですわ﹂
299
うっとりとした声だった。
サイミンの舌が僕の耳の穴の中にねじ込まれる。その感触に僕は
身を震わせる。
﹁も、もう、らめぇ﹂
ぐちゅぐちゅとかきまぜる音。ロッドが、少しずつ角度を変えて、
浅く突き込まれる。
﹁ひぃ、ら、らえ。らえぇ﹂
﹁あら、ここがいいんですの?﹂
クリトリスを膣壁側から刺激するような責めに手をばたつかせ、
ベッドを叩く。降参を示すジェスチャーだったが、サイミンは違う
解釈をしたらしい。同じところを執拗にぐりぐりされた。
﹁うぁあぁん⋮⋮いいっ、いっちゃう⋮⋮ぁ︱︱︱︱︱︱やだ、っ。
だめぇ﹂
﹁どうぞ、ご遠慮なくイってください。リリス様﹂
﹁あ、ア、ぁ、あ。あ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ア︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱!!﹂
ギュっとシーツを握りしめ、体が押し付けられている状態で震え
た。濁流に飲み込まれて、あっという間に自分を失う。
この、喪失感。真っ白になって、何も考えられない。失うことに
よって得られるカタルシス。
ぜいぜいと息を吐き、ぐったりと力を虚脱させると、まんこから
300
ロッドが引き抜かれた。ロッドは糸を引き、あふれた愛液が僕の股
を濡らす。
盛大にイってしまったまんこはヒクヒクと口を動かす。
﹁ぁ⋮⋮は、ぁ⋮⋮﹂
なんで、こんなことに⋮⋮。ぼんやりと物思う僕の髪を撫でる指
の感触。首筋、背中を伝うその指は、細く、冷たい。
﹁なんてお可愛らしくて、お美しいのでしょう。まるで天使のよう
です﹂
天使? はは⋮⋮凄い殺し文句だよ⋮⋮サイミンってば。本当に。
僕は半ば呆れながら、重い腕を持ち上げ、サイミンの頬に触れた。
**
宿屋での情事の後に、二つの変化があった。
一つは、ニエグイのロッドの﹃蓄積値﹄が増加したこと。しかし、
バーは全体の1割程度の上昇であった。意外と力が溜まらないもの
だね、と言うとサイミンが﹁では、もう少し頑張りましょうか﹂と
提案してきたので断った。
力が意外と溜まらないのか、もしくはこの杖の蓄積値の上限がか
なり高いかどちらかなので、とりあえずこのSEX一回分の力を次
のバトルで解放してみて、その威力を見たい。
そしてもう一つの変化はサイミンだった。
﹁リリス様、わたくし、何かステータス変化があった模様です﹂
﹁ん?﹂
301
ステータス情報を開いてみてみると、確かに変わっている。
名前:サイミン︵XAI−MINN︶
種族:人形
職業:騎士
称号:忠誠厚き冷血令嬢
年齢:18歳
総合LV:73
HP:552
MP:211
力:134
魔力:77
自動スキル:﹃無慈悲﹄﹃忠義の盾﹄﹃忠義の魂﹄﹃動力オフH
P回復﹄﹃動力オフMP回復﹄
︵リザーブ:﹃誠の忠心﹄︶
呪文スキル:﹃一掃の風/水/火/土﹄﹃傀儡術﹄﹃モンスター
解析﹄﹃地形解析﹄﹃盗み﹄
︵リザーブ:﹃手袋投げ﹄︶
装備:人形の戦闘服/韋駄天ヒール/精霊のスピア
道具:無限紅茶/禍々しい詩集/人形糸
ええと、称号が変化していて、ステータスも全体的に上昇してい
る気がする。あと、スキルのところに何か追加されているみたいだ。
﹁称号が変化してるね。忠誠厚き冷血令嬢、か。カッコいいじゃん﹂
﹁はい。そのようです。称号変化のトリガはマスターとの性交渉か
もしれません。また、ステータスが上昇したのはその為だと思いま
す﹂
302
﹁あとは、スキルが増えているみたいだけど⋮⋮リザーブ?って何
?﹂
﹁ご存じの通り、スキルは自動と呪文で各5つまでしかセットでき
ません。リザーブ枠に入れておくと、そのうち消えてしまいます﹂
﹁ん? あぁ、そうなんだ。でも﹃そのうち﹄⋮⋮って、曖昧だね﹂
﹁セーブする、日にちが経過する、街の出入りを繰り返す、バトル
を行う、などのアクションが行われるうちに、ランダム確率で消滅
すると考えられています。その仕様は明確ではありません﹂
なるほど。スキルのアイテムBOXみたいなものか。ただし、揮
発性、ってことね。
﹁じゃあ、新しく覚えたスキルをセットするなら、代わりに古いス
キルを捨てなきゃいけないんだ﹂
﹁その通りです。もしくは、白紙のスキルカードに保存する方法も
あります﹂
﹁え? あぁ、スキルカードってそうやって使うものなんだ﹂
僕はアイテムボックスを開いて、白いスキルカードを手にする。
ドッグベルを出る時にアラビーが持たせてくれたアイテムだけど、
今の今まで使い道を理解していなかった。
サイミンにもう少し詳しい説明を聞くと、スキルカードにはいく
つかの種類があるが、いずれも貴重な品であるという。
僕が持っているこのスキルカード︵白紙︶が最も一般的なもので、
ブランクカードとも呼ばれる。これはROM型で一度書き込んだら
ずっとそのまま、そして書き込んだスキルは書き込んだキャラにし
か読みだせないという性質がある。
他に、スキルカードWというものがあり、これは何度でも上書き
で書き込める。古いデータは消えてしまうが、アイテム欄の省スペ
303
ースにも役立つし、重宝するカードだという。
この二つとは少し趣が異なるのが公開スキルカードで、これは1
回こっきりの使い捨てカードだが、スキルを書き出した本人ではな
くても誰でも読みだすことができる。つまり、このカードを使えば、
サイミンが覚えたスキルを僕が習得することだって可能なのだ。
うん。なかなか奥が深い。
﹁サイミンのスキルなのに、付け外しは僕が決めていいの?﹂
﹁はい。マスターにお願いします﹂
うーん⋮⋮とはいえ、スキル﹃誠の忠心﹄﹃手袋投げ﹄の効果が
分からないと決めようがないな。
﹁この新しいスキルの効果って分かる?﹂
﹁いえ。申し訳ありません﹂
﹁そっかぁ。どうしよう。試しに使ってみればアーカイブに残るか
ら判明するよね?﹂
﹁はい。一般的な確認方法の一つですわ﹂
じゃあ、そうしようかな。でも、サイミンが既に習得して現在セ
ットしているスキルって、どうやら前のマスター、勇者?が選定し
たみたいで結構使い勝手がいいんだよね。新たに覚えたスキルを無
理にセットする必要も無いかもしれない。
﹁じゃ、今日はもうログアウトするから、攻略サイトでも見てみる
よ﹂
﹁分かりました。では、わたくしは試しにバトルで使ってみておき
ます﹂
﹁ん、お願い﹂
304
サイミンは自律型なので、僕がこの世界に居ない時でも自由に動
くことができる。そう思うと、なんだか不思議な気分だ。ゲームだ
けど、僕は別にこの世界の主人公ではない。僕がいてもいなくても、
この世界は進んでいる。どんなオンラインゲームだって同じことが
いえるけど、VR接続器を使用してプレイしていると余計にその感
覚が際立つ。
すると、まるでその気持ちを見透かしたようにサイミンが言った。
﹁リリス様がいらっしゃらないと、とても寂しいです。もしかした
ら、二度とログインなさらないかもしれない、そんな可能性も十分
にあると分かっているつもりなのですけれど⋮⋮。きっと、また戻
ってきてくださいませ⋮⋮ね?﹂
サイミンは切なげに微笑む。
﹁うん﹂
僕は立っているサイミンの顔を引き寄せ、優しく口づける。
するとサイミンは目を丸くし、一拍置いて両手で頬を押さえて顔
を真っ赤にした。頭の上に﹁ぼんっ﹂と小爆発の音が乗っているか
のようだった。
305
episode12︳1:航海
ルイベ港は港湾施設だけで、都市機能が無かった。これ見よがし
にデカい倉庫が3つ並んでいるが関係者以外立ち入り禁止で入れな
い。一応ユーザーが侵入できる裏口はあったが、鍵がかかっている。
一番端の倉庫だけは僕の持っている﹃基本的な鍵﹄で開けられたが、
ここで手に入ったのは﹃ルイベ港近隣の海図﹄くらいだった。まぁ
これも重要アイテムの一つといえばそうなのかもしれないけど、本
当は残り二つの倉庫の方が気になる。
とはいえ開かない扉は仕方がないので諦め︱︱︱僕は諦めはいい
方だ︱︱︱港の乗船チケット売り場に行く。説明を聞いたところ、
ここから出る船便は二つあって、一つが小海路、もう一つが大海路
だった。
小海路は一日3本の船が出ていて対岸の﹃ビブリオ港﹄まで運ん
でくれる。乗船時間はおよそ1時間。対して大海路は﹃ベイベル海
岸﹄⇒﹃フォトン島﹄⇒﹃ブリューケル城下町﹄⇒﹃シオナの塔﹄
⇒﹃ライラック港町﹄を回る航路で10日間の長旅。しかも、船は
5日間に一本しか出ないという。
﹁小海路と大海路か。どっちにしようかな﹂
﹁見たところ、大海路は中級から上級者向けですね﹂
﹁そうなの? サイミンはこの航路の中で行ったことある場所ある
?﹂
﹁シオナの塔はあります。LV50程度からの挑戦が望ましい場所
です﹂
﹁わーぉ⋮⋮﹂
306
そうなると、今の僕に大海路はちょっと荷が重いかな。乗船チケ
で段違いだ。うん、僕は別に無理にLV上げがしたいわけ
ットも小海路が500G/1人なのに対して大海路は3000G/
1人∼
じゃないし、船旅で10日間も拘束って飽きちゃいそうだ。ここは
無難かつ安全に小海路を取るか⋮⋮。
﹁フォトン島っていったら人魚だよな。美女ぞろいなんだろ?﹂
ん?僕の耳がピクリと動く。
﹁美女ったって下半身が魚じゃなぁ﹂
﹁それが、フェラが凄いらしい﹂
﹁人魚姫イベントだと人間になるし⋮⋮な﹂
﹁人魚狩りイベントの方がエロいって噂だから!﹂
﹁いや、俺は姫ルート派だ﹂
﹁いやいや、断然、狩りルートでしょう﹂
純愛の姫ルート⋮⋮鬼畜の狩りルート⋮⋮どっちも美味しいけど
人魚なら僕はやっぱり姫ルートかな!
更に耳を澄ますと、別の方向から違う会話が聞こえてくる。
﹁ライラック港街では奴隷が買えるんだぜ﹂
﹁NPCの?﹂
﹁あぁ。高度AI搭載のエロ可愛いやつが欲しいよな﹂
﹁ついでに強けりゃ最高だな﹂
﹁高いんじゃね?﹂
くっ⋮⋮!奴隷かぁ。それもいいね。いいね!
僕はサイミンを奴隷化するつもりは無いから、そういう系の仲間
も一人欲しいかも。
307
﹁リリス様、どちらになさいますか? 今日ならちょうど大海路の
出航もあるようですが﹂
﹁ロマンだね﹂
﹁はい?﹂
**
僕は少し贅沢して2等船室付き5000G/1人のチケットを買
い、停泊している大きな船に乗り込んだ。船はかなり大きくてそれ
自体で一つの小さな街のようだった。実際の所、10日間もの旅と
なるわけで、船の甲板中央にはホームポイントも存在する。
一旦セーブ後に船の中を探検していると、しばらくして汽笛が鳴
り響き足元がぐらりと揺れた。出航だ。
船の手すりにつかまって見下ろすと海の水が波を立て、小さく飛
沫をあげているのが見える。バーチャルの世界とはいえ、これは面
白い経験だった。船は速度を増していき、カモメが僕の目の高さを
飛んでいく。
﹁船旅もいいなぁ﹂
10日間は長いと思ったが、考えてみれば現実世界よりこちらの
仮想世界の方が時間の流れが速いわけだし、10日間のうち何時間
ログインできるか分からない。せっかくの機会だから楽しみたいも
のだ。
﹁リリス様、わたくし、お部屋で少し休もうと思いますが、宜しい
でしょうか﹂
﹁うん。ボクも後から行くよ﹂
308
﹁はい。船の上では大丈夫だと思いますが、何か危険なことがあっ
たら﹃呼び笛﹄で呼んでください﹂
﹁あぁ、﹃呼び笛﹄、そういえばまだ一度も使ってないね。分かっ
た。心配してくれてありがとう﹂
僕は手すりにつかまって頬に風を受ける。もし、この手すりを越
えて海に飛び込んだら一体どうなるんだろう。溺れたりするのだろ
うか。それとも、即ゲームオーバーになったりするんだろうか。も
しかしたらそういう突飛な行動こそ、レアイベントへの鍵なのかも
しれないが、こうやってかなりの高さからうねる海面を見下ろすと
本能がそれを拒否する。
風に乱されて視界に入る桃色の髪の毛にふと、自分を認識した。
久しぶりに自分のステータスウィンドウを開く。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:永久乙女
年齢:15歳
総合LV:26
HP:72
MP:105
力:31
魔力:56
自動スキル:﹃色欲﹄﹃超越せし乙女﹄﹃魔防上昇+﹄
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火/土﹄﹃スピリットアロー﹄
309
装備:﹃エルフの洋服﹄﹃ニエグイのロッド﹄﹃羽のローブ﹄﹃
セレネの髪飾り﹄
道具:キャンディ
所持金:12100G
名声:3
人気:1
魅力:1
アイテムBOX︵85/100︶
﹃薬草×11﹄﹃毒消し×11﹄﹃万能薬×10﹄﹃帰還の羽根×
11﹄﹃またたび×5﹄﹃媚薬×1﹄﹃真実の鏡﹄﹃基本的な鍵﹄
﹃記録水晶×2﹄﹃記録水晶︵済︶×1﹄﹃獣の皮×3﹄﹃秘密の
チケット×2﹄﹃魔術書×1﹄﹃脱出の羽根×3﹄﹃痛み止め×1﹄
﹃呼び笛×3﹄﹃スキルカード︵白紙︶×3﹄﹃成長の種﹄﹃聖水
×2﹄﹃耳帽子﹄﹃竜の鱗×3﹄﹃鉄鉱石×2﹄﹃木の指輪﹄﹃お
花×1﹄﹃胸当て﹄﹃高価な造花﹄﹃乗船チケット﹄
レベルが上がっている。スキルも何気に増えているし⋮⋮。それ
より、アイテムBOXがいっぱいになってきたなぁ。一度整理した
方が良さそうだ。
僕はステータスウィンドウを閉じると、細い廊下のようなデッ
**
キを歩いて船をぐるりと一周して歩き始めた。手すりの所々にはロ
ープが巻き付けられ、上部に高く張られた帆を支えている。救命具
のようなドーナッツ型の浮きや、小さい船がくくりつけられている
所もある。
310
﹁⋮⋮なのよ﹂
﹁海賊でしょ。危ないと思う⋮⋮﹂
﹁幽霊船よりマシじゃない? とにかく私はうんざりなの﹂
﹁そりゃ、私だってそうだけど、他に方法があるんじゃない﹂
ぼそぼそと聞こえてくるのは女の子の声だった。見ると、船尾の
近くに二人の女性が立って話をしている。どちらも派手な服装をし
ている。一人は完璧なゴスロリ少女で、もう一人はやたらと露出の
多い赤いドレス。こういう場違いな服装をしているのは大抵、ユー
ザーキャラだ。
僕が何気なく傍を通り過ぎると、向こうから話しかけてきた。
﹁こんにちは﹂
﹁こんにちは﹂
﹁ユーザーの方ですかしら?﹂
僕は、返答スタイルに一瞬戸惑ってから、いつも通りフランクに
返した。
﹁うん。そうだよ﹂
相手が女性だと、つい緊張してしまう。でも、この世界では自分
のキャラを押し通すのも大切だ。赤いドレスの女性が両手を組んで、
胸を強調させる恰好で話す。唇も真っ赤なルージュ。こういうのも
全て彼女自身が作っているキャラ、つまりロールプレイなのだけれ
ど、それがアイデンティティなのだから、馬鹿にしたものでは無い。
お互いに。
﹁仲間の方は?﹂
﹁いるけど⋮⋮﹂
311
僕は少し怪訝な表情で返す。
﹁あぁ、ごめんなさい。私たちは、5人グループで冒険をしている
の。女性のユーザーの方が珍しいからつい、話しかけてしまっただ
けですのよ﹂
﹁ボクは、2人で冒険中。もう一人の仲間は今船室にいるよ﹂
﹁そう。私はファフィア。踊り子ですわ﹂
すると、隣のゴスロリ少女も口を開いた。
﹁あたしはクローディア。魔女見習い﹂
なんだか、じっとりと、こちらを睨み付けるような目つきだ。顔
は可愛いけど、魔女というだけあって、なんだか薄気味悪い雰囲気。
もともと僕、ゴスロリって良く分かんないんだよね。
﹁ボクはリリス。冒険者﹂
﹁冒険者? 初心者なの?﹂
クローディアの方がちょっと失礼な感じだ。
﹁そう。初心者だよ﹂
僕が口を斜めにして笑ってみせると、クローディアはやはりじっ
とりとこちらを見つめる。なんか、疑われているみたいだ。
まぁ、初心者の癖にたった二人での冒険で、サイミン曰く中級∼
上級向けの航海路に混ざっているのだし、乗船チケットの料金も高
いから初心者がいるには場違いかもしれない。
312
episode12︳2
船体が大きくぐらりと揺れた。僕は転びそうになって、たたらを
踏む。どこかから﹁モンスターだ!!﹂という声が聞こえ、乱暴に
扉が開かれる音、人が走る音が響く。
NPCの船員が総じて走って行くのは反対側の船首の方角だった。
僕らは顔を見合わせ、見に行くことにした。
すると、そこには、船の行く手を遮るように巨大なイカが歪曲性
の腕をくねらせていた。
﹁クラーケンね﹂
﹁でかっ!﹂
クローディアは目つきだけではなく少々言葉づかいも悪いようだ。
しかし、確かにデカい。おそらく、この船には乗客が30名くらい
?と、その航海に釣り合う程度の船員がいる。それだけの人数を収
容できる船なのだから大きさは推して知れようが、その船に立ちは
だかるほどの巨大イカだ。
﹁危ないっ﹂
イカは威嚇するように一本の腕を振りかぶり、船めがけて打ち下
ろした。
﹁うわああっ!!﹂
一人がその攻撃をもろに受けて甲板の床材の破片と一緒に軽々と
吹っ飛び、海に落ちた。NPCならばこれも演出の一つだと思える
313
が、どうだろう。なんだか、冒険者風の恰好をした男だったような。
僕は少し離れた船の柱の影から、その巨大モンスターを眺めた。こ
れ、どうするんだろう。バトるの?誰が?ちょっと、流石にデカす
ぎるんじゃないだろうか。しかも、相手は海の中にいるわけだし、
人間は不利だよね。
﹁ええいっ! 砲弾準備だ!﹂
船員の一人が叫ぶ。
﹁で、でもっ、その間に船が壊されちまいますよぉ﹂
﹁うるさい! いいから準備だ! いそげっ﹂
わらわらと乗組員たちが散っていく。中には、猟銃らしき武器を
持ち出し、クラーケンめがけて発砲するものもいた。だが、その乗
組員は横に薙ぎ払われて一瞬で海の藻屑と消えた。
﹁これ、どうなるの?﹂
﹁誰かが退治するでしょ﹂
﹁強そうだけど﹂
﹁チャレンジする人間が誰も現れないなら、NPCが砲弾で撃退し
て終わるだけよ﹂
﹁そうかぁ⋮⋮でも、もしか﹂
そこで、別の人間の声が割り込んだ。
﹁ファフィア! クローディア!﹂
クラーケンを前にして既に甲板には幾人かの冒険者たちが集まっ
314
ている。それぞれのグループの代表者らしき人間がジャンケンを始
めていた。
ファフィアとクローディアは、そのうちの一人に呼ばれて群れの
中に入って行く。
﹁他にいないかー? 締め切るぞーいいな!﹂
どうやら、誰がクラーケンに挑戦するかの談義らしい。僕もちょ
っとだけ興味があったが、サイミンもいないことだし、この場は傍
観しようと決めた。
しばらくして、クラーケンに挑戦する9人が決まったようだった。
戦闘領域は10人が上限だから、参加可能なのは9人というわけだ
ね。9人の中には、ファフィアとクローディアも含まれていた。他
は全員男キャラ。
見物客が結構たくさん集まってきた。
﹁Lvいくつくらいだろうな。クラーケン。50くらいなら楽勝だ
ろうけど﹂
﹁ルイベ港出てすぐだぜ。そう強いわけねぇだろ﹂
﹁いや、海ってモンスターの強さがインフレになる場合があるんだ
よ。それに、スルー可能イベントだからさぁ﹂
戦闘領域が展開されるてすぐに、ファフィアが﹃守護者の舞﹄と
いうのを踊った。クルクルと回るような踊りで、羽衣みたいなのを
ふわふわさせると、パーティーメンバの守備力が上昇した。
次に数人の魔法使い系キャラが攻撃魔法を飛ばす。詠唱時間も短
いのに凄いデカい火炎が次々と飛んでいく様子は壮観だった。クラ
ーケンの足が冒険者たちを攫おうとしたが、一人の剣士が見事にそ
の足を切り落とす。そのタイミングでは周囲の見物人からも歓声が
上がった。
315
クローディアも呪文﹃黒猫の呪い﹄を唱えたが、クラーケンには
未発動だった。ミス、というわけだが、おそらく状態異常系なので
致し方ない。
こうやって他人のバトルを見るのもなかなか勉強になる。皆、モ
ンスター退治に立候補するだけあって強いキャラばかりだ。確かに
僕は場違いかもしれない。
クラーケンの弱点は炎らしく、火炎系の魔法弾が惜しみなく繰り
出される。しばらくして、クラーケンは退治された。遠隔の魔法で
HPを削りながら、敵の直接攻撃を剣士が都度薙ぎ払うというロー
テーションで、味方側の被害はほぼ無かった。どこから見ても一番
の功労者は青い短髪の剣士で、相当の腕前だということが容易に察
せられた。
﹁お疲れ様﹂
僕はさっきまで会話していた相手を残して無言で立ち去るのも気
が引けたので、一応ファフィアとクローディアに一声かけた。
﹁怪我は無かった?﹂
﹁ええ、ありがとう。ごめんなさいね。話の途中だったのに﹂
﹁ううん。クローディアは、大丈夫だった?﹂
﹁別に﹂
クローディアは少しムッとした表情だった。あんたに心配される
筋合いは無いわよ、とでも言いたいのか。それとも、状態異常系の
呪文があまり活躍しなかったので機嫌を損ねているのか。
女キャラが集まっているので周囲の注目を何となく集めているの
316
が分かる。こちらに視線を投げながら、見物客たちは船室に戻って
行ったり、散っていく。
そのうち一人の男が話しかけてきた。
﹁ファフィア、この子は?﹂
さっきの凄腕の剣士だ。背中に大剣を背負っていて、腰には道具
袋と小刀を差している。薄い青の髪の毛を逆立てていて、近くで見
ると目の色は赤い。細い目に鼻梁の通った涼やかな顔立ちだが、ち
ょっと冷たい印象。
﹁あ︱︱︱、えぇ、さっき会ったの。冒険者のリリスさんよ。リリ
ス、彼は私たちのパーティリーダーで⋮⋮﹂
﹁キチジョウだ。よろしく﹂
﹁よろしく﹂
握手はしなかった。その代わり、小首を傾げてにっこり微笑んで
おいた。
﹁リリスの仲間もさっきの戦いに?﹂
﹁ううん。ボクが見てただけ﹂
﹁そうか。仲間は?﹂
なんだか尋問みたいな喋り方をする人だなぁ、と思いつつ答える。
﹁船室で待っていると思う﹂
﹁うちは、女二人、男三人の5人パーティーだ﹂
﹁そうなんだ。女の子がいるパーティーは華やかでいいよね。踊り
子の舞いって初めて見たよ﹂
317
あえて話題をずらした。
﹁リリスの職業は?﹂
﹁ん、冒険者だよ。初心者だから﹂
つい、卑屈になりそうだ。さっきクローディアに馬鹿にされたの
が効いている。
﹁へぇ⋮⋮初心者には厳しい旅になるかもしれない。なるべく、船
室から出ない様にした方がいいだろう﹂
﹁船上でバトルなんてあるの?﹂
﹁さっきあっただろう?﹂
﹁そうだけど⋮⋮あれは、イベントだったし﹂
﹁噂に聞いているだけだが、海賊が襲ってくるイベントなんかもあ
るらしい。敵側から戦闘を仕掛けてくる可能性もある﹂
海賊⋮⋮。そういえば、さっきファフィアとクローディアがそん
な話をしていたような。
﹁幽霊船とか?﹂
ファフィア達の方を見ると、少し緊張した面持ちだった。クローデ
ィアがこっちを睨んでいる。⋮⋮ん?
﹁そうだ﹂
﹁分かった。気を付けるよ。ありがとう﹂
でも、せっかく高いお金を払って船に乗ったのにずっと室内に閉
じこもってろってのも随分なアドバイスだよね。
318
汽笛が、長音と単音を交えて響いた。一旦クラーケンに邪魔され
た運行が無事に再会したようだった。
﹁じゃ、そろそろ行くね﹂
﹁あぁ﹂
﹁さよなら、リリス﹂
ファフィアが微笑んで手を振った。でも、その表情がやっぱり緊
張をはらんでいるように見えて、僕は気になった。手を小さく振り
かえして、その場を立ち去った。
319
episode12︳2︵後書き︶
一応お伝えしておきますが、
epi︳12では海洋の軟体モンスターとのエッチは無いですw
320
episode12︳3
船には色んなユーザーキャラが乗り合わせていた。男キャラが多
い中で僕は当然のようにモテモテで、しょっちゅう話しかけられた。
口説いてくる男も多かったし、中には直接的に﹁一晩いくら?﹂と
聞いてくるのもいた。
僕はサイミンというNPCを一人連れているだけで、実質一人旅
とみなされていた。女のユーザーキャラが一人旅なんて、口説かな
きゃ礼儀に反するというもの⋮⋮なのかもしれない。
なのでまぁ、別に口説かれるのも値段を聞かれるのも腹は立たな
かった。可愛いと言われれば素直に嬉しかったし、破格の値段を提
示されれば心も揺らいだ。
ただ、唯一剣士キチジョウとか言うヤツがいけ好かなかった。初
日にクラーケンを倒した腕前は確かで強いし、外見だって悪いわけ
は無いのだけど、何かとこちらを値踏みするような目や、探りを入
れてくるような話し方が気に入らなかった。
キチジョウがリーダーとして率いているパーティーはファフィア
とクローディアを含む5人組で、結構実力のある有名なギルドの一
員だそうだ。ここで言うギルドは街の標準クエストを管理している
冒険者ギルドのことではなく、ユーザーキャラの集まり、っていう
意味、だ。
バックボーンが力を持っているせいだろうか。キチジョウの所の
男メンバは皆、ちょっと嫌な感じがする。どこか他人を見下してい
ると言う感じ。女キャラのファフィアとクローディアはそんなこと
321
無いけど、代わりに仲間の男キャラに頭が上がらない感じがあって、
その様子も傍目に気持ちの良いものでは無かった。
ファフィアは顔をみれば愛想よく話しかけてくれたし、女子同士
仲良くしたがっている様子だった。だけど、僕としてはあのパーテ
ィーにはあんまり近づかない様にしよう、と思いつつ過ごしていた
ある日のことだ。ベイベル海岸を過ぎ、フォトン島に停泊した航海
4日目に僕はきな臭い噂を耳にした。
﹁キチジョウのパーティーの女の子達が酷い扱いを受けているんだ
よ﹂
﹁ん?﹂
それは、僕がベッドの上で足を開いて見せている時に聞いたこと
だった。話してくれたのは職業が﹃聖人﹄という壮年の男キャラで、
名前はユーゴ。金払いのいい坊主頭だった。
﹁どういうこと?﹂
﹁あぁ、動かないで。ポーズはそのままで、中まで開いて見せて﹂
﹁んっ、ちょっと待って﹂
くぱぁとまんこを開いて見せる。その姿をユーゴは嬉しそうに写
真に撮った。いきなりエッチするよりも写真を撮ることに興味があ
るらしく、ドッグベルで出会った誰かを思い出す。
しかし、前戯の代わりにこうして撮影をしているわけだが、意外
とこっちも興奮してしまう。あぁ、やっぱり僕って少し露出狂の気
があるのかもしれない。いやいや、それはリリスの性癖だ。
写真を撮られているうちに、まんこがむずむずして、とろりと液
体が流れてくる。自慰を覚えた体は、自らの指で欲情をおさめたく
322
なる。
﹁んん⋮⋮はぁ⋮⋮だめ、濡れてきちゃう﹂
﹁あのさ。そのまま、自分で慰めてみてくれない﹂
﹁えぇ⋮⋮やだ⋮⋮そんなの、恥ずかしい﹂
﹁じゃあ、一本挿入するだけでいいから﹂
﹁うぅ、一本だけだよ﹂
ユーゴと寝る代わりに既に結構な金額を前金で受け取っている。
本当にちょっとびっくりするくらいの気風の良さだったので、多少
の無理は聞き入れてしまう気になる。これは、僕が根は小心者で気
を遣うタイプであることに起因している。
っぷ、と指をいれると、ねっとりした感触が絡みついてくる。そ
れに、あそこがキュンと締まって、花芽の方がジンジンしてくる。
﹁ふ⋮⋮ぅん。これで、いい?﹂
﹁いいよ。じゃあ、そのまま、視線はこっちで﹂
ユーゴが撮影機能を起動させて指で空に四角を描くとパシャリ、
と撮影の音がする。その音に合わせてまた女陰がキュウっと萎んだ。
﹁さっきの、キチジョウのパーティーの女の子が、って何のこと?﹂
﹁あぁ。あそこ、女の子二人連れてるだろ。あの子たちが、結構虐
められてるみたいでさ。俺も昨日見たんだけど、胸糞悪かったよ﹂
﹁何を見たの?﹂
﹁指、動かしてみて﹂
﹁うん⋮⋮﹂
命令につい流されてしまう。僕は、指を動かして中を掻き混ぜる。
323
溢れてくる愛液を指で掻き出すようにして周囲を濡らし、小さく勃
ち上がったクリを捏ねた。
﹁んっ、んっ、んっ⋮⋮﹂
もう片方の手で、おっぱいを揉む。下半身と一緒に愛撫すると、
自分で触っても気持ちいい。あぁ⋮⋮でも、早く、欲しい。
ユーゴは、もう数枚写真を撮った。撮られているうちに更に興奮
して、僕はイこうと思えばいつでもイってしまえるくらいに体が熱
く熟れてきた。秘部はちゅくちゅくと淫猥な音を響かせている。
﹁もう、イっちゃう⋮⋮から、挿れてぇ。ペニスで、イきたいのっ﹂
﹁よし﹂
男は立ち上がると、上着を一枚と、下ばきを脱いだ。白いだぶっ
とした僧侶服の下に、履いていたステテコみたいなやつ。
僕は四つ這いの恰好を取る。男は堅くなったペニスを僕のお尻と
まんこの間にぐいぐいと押しつけた後、ようやく適切な場所を探り
当てた。先端が割れ目を押し開いたかと思うと、バックから思い切
りよく挿し込まれた。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
それだけで、リリスの体は待っていましたとばかりに騒ぎ、あっ
という間に絶頂してしまった。
その後は、パンパン、という小気味良い音とともに突き上げられ
た。僕は絶頂の余韻に浸る間もなく、激しい責めに息を切らし、そ
れでも男が射精するタイミングではもう一度イった。どうやら、膣
に放たれる感覚に気持ち良さを覚えるようになってしまったらしい。
段々と、リリスの体は淫靡な色に染まっていく。
324
びゅるっと勢いよく放たれる精液と、その後にピュッピュッと漏
れる一滴まで残らず飲み込んだ。
﹁昨日さ、あの女の子達が首輪つけられて裸で引き回されてたんだ
よな﹂
ベッドにぐったりと身を横たえる僕に、男は寝物語のように語っ
てくれた。
﹁可哀相に、いくら成人向けゲームだからって、仲間にする仕打ち
じゃねぇよ﹂
話をまとめるとこうだった。
昨晩、ファフィアとクローディアは裸に近い卑猥な恰好︱︱︱そ
れは真っ裸の方がまだマシと思えるような乳首の所だけ穴の空いた
胸当てや、お尻に食い込む紐のようなパンツだったりしたらしい︱
︱︱を着て月夜の甲板に引き出された。
そこで、ファフィアは恥ずかしい踊りを踊らされ、クローディア
は抵抗して殴られたりしていた。
そのうち男の見物客が増えてきて、見世物にされ始めた。二人の
首輪の紐の先を握っているのはキチジョウをリーダーとする男達。
ファフィアとクローディアは最初は金と引き換えに希望する男達の
フェラを行い、そのうち要望がエスカレートし、最終的には大人数
による総レイプになったらしい。
お決まりのルートといえばその通りだが、クローディアは抵抗す
る力のある限り、泣きながら嫌がり続けていたし、ファフィアも絶
望的な表情で男たちの相手をしていたという。
﹁俺はさ、あぁいうの好きじゃないんだよ。女の子達も内心楽しん
でるのかもしれないから、それならいいんだけどさ⋮⋮。ゲームん
325
中っつたって、俺らの意識は人間だろ。人間同士が関わりあうのに、
ルールや礼儀ってのはさ本能と同じに尊重すべきもんじゃないか?﹂
その話を聞いて、僕はようやくキチジョウ達のパーティーを見る
時に感じるもやもやした印象の答えが見つかった気がした。キチジ
ョウが僕を見る目もそうだ。女を利用できる道具として、もしくは
食い物にできる獲物としてしか認識しない目だ。
﹁うん。酷いね⋮⋮﹂
﹁だろ? プレイはプレイとしても、やっぱり合意の上の方が、気
持ちいいよな﹂
そう言いながら、ユーゴは再び僕に触れてきた。
﹁ん、まだ、するの?﹂
﹁いいだろ﹂
﹁いいよ。でも、今度は、ボクが上ね﹂
﹁その前に、少し口でしてくれないか﹂
本当はフェラってあんまり好きじゃないんだけどね。でもまぁ、
いいか。話をしている限り彼は悪いヤツじゃないし、十分な金もも
らっちゃっている。それに本当のところは金に釣られて体を売って
いるわけじゃなく、自分の楽しみでやってることだから僕にしてみ
ればいい思いしかしていない。
僕は最近板についてきた﹁ロリなりの妖艶な表情﹂で微笑んで見
せた。娼婦を装おってみせるのも悪くはない。
326
episode13︳1:人助け
船は地下⋮︵といえばいいのか︶に深い構造になっていて、乗船
しているユーザーキャラの船室以外は好きに探検することができた。
荷駄や貨物を勝手に捜索できるところも多くて、宝探しには不足し
ない。
サイミンと別行動して﹁どっちがより良いアイテムを見つけられ
るか勝負!負けた方は勝った方の言うことを何でも一つ聞くこと﹂
というゲームを始めた。僕はアイテム﹃基本的な鍵﹄を持っている
という破格のアドバンテージがあるのでよっぽど勝てるはずだが、
サイミンの意気込みも生半可では無かった。
﹁何でも言うことを聞く、ですわね。うふふっ⋮⋮ふっ、ふっふ⋮
⋮ふ⋮⋮うふふふふ﹂
万が一負けたらちょっと怖いな⋮⋮と思いつつ、僕は船倉に降り
て行った。
積まれた荷物や樽を探索していると、カンテラが揺れる薄暗い船
底の一角でまぐわっている男女と出くわした。
レイプ
少し近づいて様子を覗うと、それはゴスロリ少女クローディアが
強姦されているらしかった。強姦と決めつけるわけにはいかないが、
クローディアは苦しげに呻いていて、その様子は演技には見えない
悲痛さを滲ませている。
僕は正直、悪い所に出くわしてしちゃったなぁ、と思った。見て
見ぬふりしようか悩みつつ、結局その場に立ち尽くしていた。
コトが済んだ後にクローディアが何か言ったようだった。男はそ
327
の言葉が気に障ったのか、唾を吐き、靴を履いたままの足でクロー
ディアを蹴飛ばした。
⋮⋮酷い。女の子を蹴飛ばすなんて、最低だ。僕は男が去った後
もクローディアが動かないのでとても見過ごすことができず、そろ
そろと物陰から出て数歩近づいた。すると、クローディアの方が顔
をあげ、僕を見つけてハッとした表情になった。
﹁⋮⋮⋮⋮何よ﹂
クローディアが物凄い形相でこちらを睨み付ける。唇を噛みしめ、
吐き出すように言う。
﹁何か、言いたいことでもあるの!﹂
ええ?
﹁あんたと、やってることは同じじゃないの。そんな風にっ、見ら
れる筋合いは無いわ﹂
別に、変な目で見たつもりは無い。覗き見するような形になって
しまったのは悪かったかなと思うけど。それじゃあいわゆる、﹁何
見てんだオメー﹂のいちゃもんじゃないか。
とりあえず宥めるのがいいのか、それとも素直に謝るのが良いの
か。
﹁何よ。何よ! みんなで私を馬鹿にして!﹂
﹁ちょ、ちょっと待って﹂
別に馬鹿になんてしていない。
328
﹁女で一人旅なんて、馬鹿にしてるわ。呪ってやる。あんたなんて、
嫌いよ! 大嫌い!﹂
﹁ええ? あ、あの、落ち着いてよ﹂
クローディアが立ち上がる。黒いレースの縁取りがあるゴシック
ドレスの胸元は大きく空いていて、吸われたのか傷つけられたのか、
白い肉に赤い斑点が浮いている。
僕とクローディアの距離は5歩以上あった。だけど、クローディ
アは飛び掛かるように間合いを詰めてきて、僕の首を両手で掴んだ。
いや、表現が違う。両手で首を締めてきた。
﹁やっ⋮⋮!﹂
それは戦闘領域なしの攻撃だった。ターンもルールも何もない。
例え勝ったとしても経験値も得られない、純粋な暴力。
僕は驚き、抵抗しようとしたが、矮小な体に宿る微弱な腕力では
どうしようも無かった。ぎり、と雑巾を絞るように力が加えられて、
窒息する前に折れてしまいそうな錯覚を覚える。
苦しい。もはや叫び声も出せない。
クローディアの両手の力は凄まじく、僕に対して怒りを爆発させ
ているような激しさがあった。
助けて。
それは一瞬のようでもあり、長い時間のようでもあった。僕は自
然、サイミンに助けを求めていた。だが、サイミンがそう都合よく
あらわれる訳もなく。
329
﹁何をしている﹂
代わりに割り込んだのは、第三者の声だった。ふいに、僕の喉を
圧迫する力が緩み、解放された。
﹁あ⋮⋮﹂
﹁げほっ、げほっ⋮⋮﹂
﹁何をしていたんだ、クローディア﹂
僕は崩れ落ち、喉に過負荷を与えない様にゆっくりと呼吸をする。
何が、起きたのか。なぜ、こんなことになる?クローディアは気狂
いなのか?
﹁あ、あ⋮⋮﹂
﹁何をしていたのかと聞いている﹂
﹁ち、違うの。この子が﹂
そこに現れたのはクローディアの所属するパーティーのリーダで
あるキチジョウだった。クローディアは後ずさり、おろおろと僕の
方とキチジョウの顔を見比べる。
﹁その女には手出しするなと言っただろう﹂
え? 僕はまた小さく咳き込んだ。
﹁だ、だって⋮⋮なんでよ。こんな初心者の馬鹿女、やっちゃえば
いいじゃない! お、思い知らせてやればいいのよ!﹂
キチジョウは、冷たい目でクローディアを見ると歩み寄った。
330
﹁あっ﹂
思わず叫んだのは僕だった。横っ面を張り倒されて、クローディ
アは壁に飛ばされた。打たれた頬に手をあて、泣き始める。
﹁馬鹿女はお前だ。さっさと戻れ。このゴミクズ﹂
﹁うっ⋮⋮う︱︱︱︱︱︱︱っ﹂
その嗚咽には悲しみではなく、悔しさがありありと浮かんでいた。
クローディアは壁に手をかけながら立ち上がり、僕の方を見ない様
にして階段を昇って行った。
後に残された僕はぼんやりとキチジョウの方を見上げた。カンテ
ラの光に照らされて顔に陰影が濃く映っている。ハッキリいって置
いてけぼりにされた僕は、事の成り行きがよく分からない。
﹁すまなかったな。うちの仲間が﹂
﹁仲間?﹂
なんとなく、反復してしまった。すると、キチジョウは鼻で笑っ
た。
﹁うちの家畜が﹂
わお。
﹁はは⋮⋮じゃあ、ちゃんと躾けて置いてよ﹂
酷い話だ、と思う。でも、僕にできることは何もない。皮肉に笑
うことしかできない。
331
﹁リリスはどこかのギルドに所属しているのか?﹂
﹁さぁね﹂
﹁クローディアは、無防備に女で一人旅をしていたところを俺が捕
獲した。ギルドのメンバに加えているが、体のいい性欲処理道具だ﹂
﹁ふぅん。だから、ボクに突っかかってきたのか﹂
﹁だろうな﹂
﹁つまり、同じように無防備な女一人旅をしているボクに手出しを
するつもりがないって? 安心しておけばいいの?﹂
キチジョウが言わんとすることは、それだろう。理由は分からな
いけれど。
﹁俺は、底が知れないものを見分ける力はある。それに、少なくと
もユーゴのところが先に手をつけているようだからな﹂
ユーゴ、って昨日遊んだ坊主頭か。﹃聖人﹄という職業の割にエ
ロかったのと、やたら金払いが良かった覚えだが、それなりに力の
あるプレイヤーなのかな。あと、どちらかと言えば手をつけたのは
僕の方からだ。
﹁まぁ、いいよ。興味ない。一言だけ言わせてもらうなら、あんま
り女の子に酷い事しないでよ。言っても無意味だとは思うけど﹂
﹁分かった。なるべく、この船に居る間は見苦しい遊びがリリスの
目に触れないようにしよう﹂
それだけでも御の字か。僕は手を床について、立ち上がろうとす
る。キチジョウが近寄って手を差し伸べたので、取った。
﹁俺はリリスに興味があるな。いくらだったら抱ける?﹂
332
真っ直ぐに覗き込む目なのにどこか斜に突き刺さるようだ。
﹁⋮⋮考えとくよ﹂
それだけ答えると、僕は握られた手を振り払った。なるべく動揺
が気取られない様に、クローディアが昇って行った階段の後に続く。
背中には、痛いくらいの圧迫感。
階段をワンフロア分昇りきって、客室へ続く次の階段を目指しな
がら大きく息を吐いた。なんだか、変なのに目を付けられているよ
うな嫌な予感だ。これだけで済めばいいけれど。
そうして2等船室に戻った僕はベッドに倒れ込んで、しばらくク
ローディアの事を考えたりしていた。
やっぱり可哀相だ。部外者ではあるけれど、助けることができな
いものか、と思ってしまう。きっと、そんなこと考えたってどうし
ようもないのに。
ファフィアも同じ状況なのだろうか。なぜ彼女たちは逃げ出さな
いのだろうか。どうして、束縛されたままになってしまうのだろう。
このゲームに一度ギルドに入ってしまうとなかなか逃げ出せないシ
ステム的な理由があるか?ギルドのことは良く分からない。
でも、本当に嫌だったら今のキャラを捨ててゲームを最初からや
り直しにすればいい。名前も変えて、アバターも変えれば、流石に
誰も追ってはこれないだろう。そうしない理由は、何だろう。
そうして、ふと気づいた頃にサイミンが戻ってきた。
⋮⋮あ!!
333
僕は思い出す。そうだ、思いがけない出来事に出くわしてつい忘
れていたが、サイミンと宝探し勝負をしていたはずじゃないか。そ
の為に、船倉に降りて行ったのだ。
⋮⋮まずい。
334
episode13︳2
サイミンは笑顔で獲得アイテム﹃薬草×2﹄﹃毒消し×1﹄﹃毒
草×1﹄﹃帰還の羽根×1﹄﹃砂地のスカーフ﹄﹃痛み止め×1﹄
を提示して見せた。倉庫をわずかにふらついただけにしては破格の
成果だ。一体どんな八百長を使ったのか見当もつかない。
こうして宝探しゲームで完敗を喫した僕が、どんな目にあったか
といえば﹃ニエグイのロッド﹄のゲージが満タンになったことから
察してもらえると思う。涙ながらに何度ギブアップをしたか分から
ないが、手加減なく滅茶苦茶に愛された。どうやら、サイミンの中
では﹁いやよいやよも好きのうち﹂とインプットされているらしい。
船はブリューケル城下町に到着した。
ここでの停泊時間はごくわずか、1時間程度であり、これを超え
て滞在しようとすると船を降りることになる。城下町というだけあ
って、すぐ近くには城がそびえている。
城にも興味はあるが、僕はせっかくなので終点の﹃ライラック港
町﹄まで行ってみるつもりだ。なにせ、ライラック港町では奴隷が
買えると言う。手持ちの資金では難しいかもしれないけれど、そん
な夢のある街には是非とも行ってみたい。
﹁お。リリス、船降りるのか? ここでお別れ?﹂
﹁ううん。標準店だけ回ってこようかな、って﹂
﹁一緒についていってやろうか﹂
﹁いらなーい﹂
僕は、いつの間にか割と船内で人気者になっている。サイミンと
335
一緒に船を降りて街へ続く桟橋を渡って行くと、すれ違う顔見知り
が声をかけてくる。
﹁よぉ、リリス﹂
﹁はぁい﹂
﹁リリスちゃん。やっほー﹂
﹁やっほー﹂
うん。やっぱり固い地面の上はいいね。思わず、軽快なステップ
を踏んでしまう。くるりと一回転してよろめき、サイミンに支えて
もらった。
ブリューケル城下町は船が泊まるだけあって、賑やかな街だった。
正面から見上げる宮殿がそびえていて、それはこの周辺の領地を支
配する王城であった。
何せ停泊時間に限りがあるので、僕は標準の道具屋と武器屋だけ
を巡った。武器屋には良さそうな武器もあったが、ニエグイのロッ
ドの売り値がかなり高いことから、買い替えの必要性を感じなくな
ってしまった。道具屋では﹃痛み止め﹄を期待したが売っていなか
った。
結局、気づけば何も買わないことになったので、せめて不要なア
イテムを売ってアイテムBOXを整理する。
アイテムBOX︵63/100︶
﹃薬草×3﹄﹃毒草×1﹄﹃毒消し×3﹄﹃万能薬×3﹄﹃帰還の
羽根×10﹄﹃脱出の羽根×3﹄﹃痛み止め×2﹄﹃呼び笛×3﹄
﹃またたび×5﹄﹃媚薬×1﹄﹃成長の種﹄﹃聖水×2﹄﹃真実の
鏡﹄﹃基本的な鍵﹄﹃記録水晶×2﹄﹃記録水晶︵済︶×1﹄﹃秘
密のチケット×2﹄﹃スキルカード︵白紙︶×3﹄﹃獣の皮×3﹄
336
﹃竜の鱗×3﹄﹃鉄鉱石×2﹄﹃お花×1﹄﹃高価な造花﹄﹃魔術
書×1﹄﹃胸当て﹄﹃砂地のスカーフ﹄﹃耳帽子﹄﹃木の指輪﹄﹃
乗船チケット﹄
よし。これで多少はスッキリした。⋮⋮さて、どうしよう。何か
面倒に巻き込まれて帰れなくなっても嫌だし、船に戻った方がいい
かな。
出航まであと35分。システムの時計ウィンドウを閉じた時、背
後から声をかけられた。
﹁あの、いま、いいかしら?﹂
﹁あ﹂
そこに立っているのは赤いドレスを着た巨乳。ファフィアだった。
﹁あれ、一人? クローディアは?﹂
いつも一緒にいるのに。いや、クローディアに会いたいわけじゃ
ない。むしろ、あんまり顔を合わせたくないので聞いたのだ。また
首を絞められてはたまらないし。
﹁ええ、私だけ。クローディアは今、ログオフ中﹂
﹁あぁ⋮⋮そうなんだ。ボク、船に戻るつもりだったけど、時間に
間に合うなら別にいいよ﹂
﹁ありがとう。じゃあ、桟橋まで戻りましょうか。少し相談に乗っ
て欲しいことがあるの﹂
僕はファフィアと一緒に船が見える位置まで戻り、防波堤に並ん
で腰掛けた。
337
﹁実は、相談に乗って欲しいっていうのは、私とクローディアのこ
となんだけど⋮⋮﹂
そして、その内容は大体予想していた通りのことだった。ファフ
ィアとクローディアがキチジョウのパーティーで虐げられているこ
と。それが、段々とエスカレートしてきて絶え難くなっているとい
うこと。逃げ出したいけれど、なかなかその機会が無いと言うこと
だった。
僕がこうして相談を受けているのは同じ女の子だから、かな。
﹁逃げ出せないっていうのがピンと来ないんだけど﹂
﹁えぇ、でも⋮⋮逃げ出そうとしたのがバレたらと思うと。怖くて﹂
﹁でも、追いかけようがないでしょう﹂
﹁パーティーに所属したままで逃げたら、﹃呼び笛﹄で呼びもどさ
れる危険があるし、パーティーから離脱したらその瞬間に追手がか
かっちゃうから⋮⋮あんまり遠くへは逃げられないわ﹂
﹁うーん⋮⋮そうかぁ﹂
﹁クローディアを残しては逃げられないし。二人一緒に自由行動が
できる機会は意外と少ないの、そこはあいつらも警戒している、っ
ていうか⋮⋮﹂
﹁うんうん﹂
そうかぁ。聞けば聞くほど大変そうだ。
﹁今のキャラを捨ててニューゲームする気は?﹂
﹁そう、ね。最終的にはそれしか無いと思うけど⋮⋮。ここまで来
るのにも結構時間がかかっているし、それは出来たら最後の手段に
したいわね。こんな状況で甘い事言ってるのは分かってるんだけど、
不思議と、今のこの姿と﹃自分﹄に、愛着があるのよね。このファ
フィアを殺すのは、辛いわ⋮⋮﹂
338
﹁あぁ、その気持ちは分かる気がする﹂
﹁ありがとう﹂
停泊している船が長音の汽笛を鳴らした。そろそろ出航の合図だ。
﹁ん、そろそろ行かなきゃ。ファフィア、このままここに残れば、
君だけでも逃げられそうだけど﹂
流石に、海を挟んでは追いかけようがないだろう。しかしファフ
ィアの決断は確固としていた。かぶりを振って、キッパリと答える。
﹁クローディアを残してはいけないもの﹂
﹁⋮⋮偉いね﹂
﹁リリス⋮⋮お願いがあるの﹂
ファフィアは真っ直ぐに僕の目を見る。真剣な声だった。ファフ
ィアは僕よりだいぶ背が高い。だから、その顔を見上げる僕は、つ
い、視線の延長線上にある彼女の巨乳に目が奪われそうになる。い
けない。今はそんな雰囲気じゃないぞ。
﹁明日、船で海賊の襲撃イベントがあるの。その時、私とクローデ
ィアが逃亡するのを助けてくれないかしら﹂
﹁それは⋮⋮﹂
﹁お願い。私たち、もう男は信用できないの。もう、誰もかれも同
じに見えるわ。だから、女である貴方にしか頼めない﹂
ファフィアは本当におっぱいがデカい。零れ落ちそうだ。いやい
や、違う。そんなことを考えている場合じゃないんだってば。⋮⋮
どうしよう。僕で助けになるなら、可哀相な2人を助けてあげたい
気もするが、そうそう安請け合いして良いことでは無い。事が失敗
339
した時にはさすがに僕だってタダでは済まないだろう。素っ裸に剥
かれて首輪をつけられて月夜の下で輪姦されるのは⋮⋮まぁ興味が
無いわけじゃないけど、御免蒙りたい。
そもそも僕はあまりキチジョウ達に関わり合いたくないんだよ。
エロい、エロくないの話とは別で、これは、ファーストインプレッ
ション以来、僕の勘が告げている。
﹁お願い。リリス﹂
両手を前組んで握りしめると、ファフィアの胸が中央に寄せられ
てボリューム感を増す。ぎゅむっ、とおっぱいの肉が震える。ファ
フィアの両目から涙がこぼれる。
そのまま、ファフィアはすがるように抱きついて来た。この身長
差。当然、僕の顔はファフィアのおっぱいに埋もれる。ハレルヤ。
女の子の妖艶な甘い香りにうっとりしながら、気づけば僕は危険
な﹃安請け合い﹄をしていた。
340
episode13︳3
桟橋を渡って不安定な足場を伝って船に戻り、ホームポイントの
近くまで戻る。柵の手すりに掴まって、そこから見える城の尖塔を
眺めた。
﹁あぁ⋮⋮安請け合いしちゃったなぁ﹂
﹁ファフィアさんの依頼の件ですね﹂
﹁そう﹂
﹁後悔しているのですか?﹂
﹁ちょっぴりね﹂
サイミンは小首をかしげる。疑問を示すいつもの仕草だと分かっ
ているので、説明した。
﹁ファフィア達が逃亡する手助けをしたら、ボクがキチジョウのグ
ループに睨まれる可能性がある﹂
﹁睨まれる⋮⋮この場合、恨まれる、と同義語で良いですか?﹂
﹁うん﹂
船は汽笛を鳴らしてブリューケル城下町を出航したようだった。
そういえば、この船って、相当大きく真っ白な帆が張ってあるけど、
汽船なのかな。蒸気を吐き出す煙突も無いようだけど。汽笛は単な
る効果音というのが一番ありそうだ。
﹁今からでも、お断りになればよろしいのではないですか?﹂
﹁そういうわけにもいかないよね∼﹂
﹁逃亡の手助けをした場合、リリス様に何かメリットはありますか
341
?﹂
﹁んっ﹂
これはサイミンの心が冷たいわけではなく、おそらく単純な疑問
なのである。どう説明したらいいかな、と僕は頭をひねる。
﹁物質的なメリットは無いけど、可哀相だから助けてあげたいって
思った。逃亡の手助けが成功してそれで満足感が得られれば精神的
なメリットを得たことになる﹂
﹁可哀相、ですか。⋮⋮なるほど。ファフィアさん達がパーティー
で虐げられているからですね﹂
﹁あ、それ、サイミン知ってたの?﹂
﹁はい。リリス様がいらっしゃらない時にお二人が集団でレイプさ
れているのを目撃しました﹂
﹁そっか。あぁ、でもそんな危険な場所に近寄ったら、サイミンま
で犠牲になっちゃうよ。気を付けて﹂
いくらサイミンが強いと言ったって、この船に乗っているユーザ
ー達はそこそこの熟練者のはずだ。中には飛びぬけて強い実力者だ
って混ざっているかもしれない。多勢に無勢でサイミンが負けてし
まう可能性だってあるわけで⋮⋮考えるほどに心配になってくる。
﹁大丈夫です。わたくしは、いざとなれば動力オフモードがありま
すから﹂
﹁何が大丈夫なの。そんなの、無抵抗で好き放題されちゃうじゃん﹂
﹁いえ、動力オフモードではわたくし、あらゆる機能を閉じますの
で、性交渉も受け付けません﹂
﹁えっ。そうなの?﹂
﹁はい﹂
342
性交渉を受け付けない、ってどういう意味だろう。あらゆる機能
を閉じる?まさか、穴も閉じるのかな。サイミンはしれっとした表
情だ。具体的にどんな状況になるのか気になりはするけど、何とな
く聞きにい。
するとサイミンの方が再び質問をしてきた。
﹁逃亡の手助けをする場合に、もしもキチジョウさん達にばれてリ
リス様が睨まれた場合、どんな被害を蒙る可能性が高いですか? わたくしの考えでは、リリス様がリンチにあう、理不尽な暴力、性
的な暴力にさらされる可能性があると予想していますが﹂
﹁う︱︱︱︱︱︱。やだな︱︱︱︱︱︱。改めてそうやって聞くと
マズイことに首を突っ込んじゃった気がするよ﹂
﹁予想は正しいですか?﹂
﹁うん。お金で解決できる話じゃないだろうね。ましてやボク、狙
われてる感があるからなぁ﹂
すると、サイミンが真剣な顔になった。
﹁⋮⋮いけません﹂
﹁ん?﹂
﹁リリス様をそんな危険にさらすわけにはいきません。まして、不
特定多数の男どもの餌食となって、汚され、貶められ、性奴のよう
に扱われるなんて⋮⋮﹂
サイミンは首をぶんぶんと振って、金髪を乱した。
﹁あ、あんな恰好で首輪をつけられて、肉欲の玩具にされてしまう
なんで!想像しただけで⋮⋮わ、わたくしの大切なリリス様が⋮⋮
! あぁ!!﹂
343
サイミンは何やら妄想に近い譫言を呟き、僕に抱きついてきた。
なんだか⋮⋮息が荒いけど、大丈夫だろうか。
僕は、とりあえず根拠なく﹁大丈夫だよ﹂と言って、サイミンを
宥めた。しかし本当に大丈夫なのかしらん。僕の未来も心配だが、
サイミンの脳内も気がかりだ。
ファフィア達の逃亡の予定は明日、現実世界における夜半であり、
この仮想世界での二日後だ。予め決まっている常時イベント﹃海賊
船の襲撃﹄の発生に合わせて決行する。
イベントにおいて海賊船は船を横付けにしてきてこちらの船を襲
30らしく、そう聞
う。船に乗り込んでくる海賊達と対面したらエンカウントバトルに
持ち込まれる。海賊キャラのLvは大体20
くとさほど脅威には感じないが、1対1のタイマンになるそうだ。
海賊LV30が相手では、僕には多少荷が重いだろう。LV20く
らいまでならいけると思うけど。
この時、ファフィアとクローディアは仲間の目を逃れてこっそり
と海賊船に乗り移って逃げ出す作戦なのだ。
海賊船に乗れるの?というのが僕の驚きだったけれど、それが乗
れるらしい。
僕はそんな2人の誘導と、万が一海賊にエンカウントしそうにな
ったら戦闘を肩代わりして手助けをする手筈になっているが、正直、
実際にその場になってみないと何とも言えない。
襲ってくる海賊がうじゃうじゃいたら、僕とサイミンでは二人を
守りきれない。海賊船に乗り移る為の順路にキチジョウたちのメン
バがいたら、逃亡は困難⋮⋮上手くいくのかな。
﹁ところでサイミン、いつまで抱きついてるの?﹂
**
344
僕は一瞬の闇を彷徨い、暗い視界の中で瞬きをする。ふ、と夢か
ら醒めたような感覚を味わいつつVR接続機を外す。
ホームポイントでセーブして、サイミンに見送られながら仮想世
界を離脱した。今日最後にリリスの瞳が映したのは、サイミンの微
笑みだった。
﹁また、戻ってきてくださることを信じてお待ちしていますわ。リ
リス様﹂
﹁うん。サイミンも気を付けてね﹂
まだ耳の中にサイミンの声が残っている気がする。サイミンの落
ち着いた知的な声は耳に心地いい。それと、リリスの鈴を転がすよ
うな可愛らしい声も。
時計を見ると、かなりいい時間だった。そろそろ寝ないと明日に
響く。僕はいつも通りに姉の個人識別カードを元あった場所に戻す。
姉はとっくに眠っていて、静かな室内で寝息が聞こえるくらいだっ
た。20歳の姉が眠る部屋に弟が簡単に忍び込めてしまうのもどう
かと思うが、僕と姉の間にそんな色気染みた気配が入り込む隙は一
分も無い。
だけど、うん、万が一こうやって眠っている姉の部屋に僕が忍び
込んでいるのがバレたら大ごとになってしまうのかも。いや、それ
よりも姉の個人識別カードを拝借していることがバレた方が大ごと
になるに違いない。他人の個人識別カードの使用は法的に相当厳し
い処罰が規定されている。確か、刑事罰として5年以下の懲役もし
くは500万円以下の罰金で、民事罰も発生する。これは、僕が姉
のカードを拝借するにあたって検索した知識だけど、ニュースを見
ていても時々デカいトラブルが裁判になっている。
345
とはいえ、これがバレたとしても姉が激怒して僕が両親からお説
教を食らうだけで、裁判沙汰にはなるまい。ただ、そうなったら僕
は二度とサイミンに会えなくなるのだ。
サイミンだけではなく、アラビーとも、フェンデルとも二度と会
えない。割といい奴だったユーゴとも、カイナとも。
⋮⋮それに、リリスとも会えなくなる。
最初は先の事なんか考えずにその場その場でエロいことが楽しめ
ればそれでいいと思っていた。いつ唐突に終わっても仕方のない遊
びだった。だけれど、気づけば今の僕はあの場所に少なからず愛着
を持っている。
そう思うと途端に薄氷を踏むような緊張に襲われる。何かを大切
に思えばそれを失う事の不安を同時に抱えるものなのだ、と⋮⋮こ
んな哲学的なことを考えちゃうのは深夜だからだろうか?
346
episode13︳3︵後書き︶
プロット都合でエロ少な目進行。
一応完結まで持っていく気があるがゆえ、の所業なのでご容赦くだ
さいませ。
しかし完結までの道のりは遠い⋮⋮。
347
episode13︳4
荷駄の一部が燃え盛り、炎が上がっている。海賊達の襲撃は陽気
な暴力だった。
海賊船は黒い帆に大きく髑髏のマークが白抜かれている。横付け
になった海賊船から錨のついたロープが次々と投げられ、手すりに
絡みこちらの船を引き寄せる。
火炎瓶や爆竹のような火種が投げ込まれ、笑い声とともに発砲音
が響く。船の間に渡しがかけられ、あっという間に乱闘が始まった。
海賊たちを倒せばモンスターよりはいい経験値になるし、運が良
ければレアドロップアイテムが手に入る。1:1でも勝利の自信が
あるユーザーキャラ達は船の甲板に待ち構えていた。
身なりの良い紳士が銃撃に倒れる傍らで、古風なロングドレスを
着た子連れの淑女が叫び声をあげる。子どもが海賊に攫われそうに
なって泣きながらマストにしがみついている。全てNPCキャラの
織り成す舞台の一幕だが、それらはすぐそこで繰り広げられ切迫し
た緊張感に満ちていた。ただのイベントだが、殺戮と硝煙の匂いに
は足がすくむ。
﹁やっぱり、やめましょう。無理よ⋮⋮﹂
﹁なに怖気づいているの。大丈夫よ﹂
地下の船室に続く階段の踊り場で、僕とファフィアとクローディ
アは身を隠していた。丸い形の窓と、扉の隙間から乱痴気騒ぎを覗
きながらクローディアは消え入りそうな声で訴えた。
348
﹁無理よ。逃げられっこないわ。もし失敗したら、私たち酷い目に
合される⋮⋮﹂
﹁だって、こんなチャンス、滅多に無いのよ﹂
﹁チャンスって言ったって、一か八かの賭けじゃない。あっ、ほら、
あそこにキチジョウがいる。デイトンも、やだ、まさか、もうバレ
ているんじゃないの﹂
﹁大丈夫よ。勇気を出して﹂
あんなに気が強そうだったクローディアが小さな子どものように
怯えている。この前の僕に対する勢いはどこへやら、眉尻を提げて
今にも泣き出しそうだ。
﹁無理⋮⋮今日は止めましょう。またもっと確実な時にしましょう。
ね?﹂
クローディアはファフィアの手を握り、船室へ戻ろうと促すよう
に引っ張った。
﹁今回はリリスっていう強い味方もいるのよ。大丈夫だってば。ほ
ら、海賊船までの距離なんてわずかじゃない。あいつらが戦闘に気
を取られている隙に一気に走り抜けちゃえばいいのよ。たった、そ
れだけなんだから﹂
﹁無理よ﹂
クローディアは強く首を振った。完全に怖気づいているようだっ
た。
﹁クローディアってば﹂
﹁ごめんなさい﹂
349
無理、と繰り返すクローディアに対してファフィアが業を煮やし
たかのように言った。
﹁いいじゃない! もし万が一バレたらその時はその時よ。今より
状況が酷くなるなんて無いんだから﹂
﹁そんなの、今より酷くなることが無いなんて、誰が保証してくれ
るの? 最悪の下にはもっと下があるんだから﹂
﹁やってみなくちゃ分からないでしょ﹂
﹁分からないから怖いって言ってるのよ!﹂
二人の言い合いは過熱し始めた。逃亡を手伝うつもりだった僕と
しても、この展開は考えていなかった。逃げるつもりなら手伝うけ
ど、やっぱり止めるっていうなら、それでもいいんだ。後は2人の
意思次第だ。
﹁そんなこと言っているから、いつまでたっても逃げ出せないのよ
! 酷い目に合されるかどうかなんて、やってみなくちゃ分からな
いでしょ! もう、私たち既に切羽詰まってるんだから!﹂
一際キツイ口調のファフィアの一喝に、クローディアは顔を歪ま
せて涙をこぼし始めた。
﹁だって⋮⋮﹂
﹁あぁ! もう⋮⋮泣いてもしょうがないじゃない。 貴女が行か
ないっていうなら、今度は私だけでも逃げるから。今まで貴女を置
いてはいけないと思って我慢していたけど、もう、知らないわ!﹂
﹁⋮⋮っ。えうっ⋮⋮﹂
クローディアは泣きながらうつむき、声を絞り出した。
350
﹁ファフィアが行くなら、私も、行く⋮⋮っ⋮⋮﹂
僕は心配になってクローディアの泣き顔とファフィアの怒り顔を
見比べる。話はまとまったようだが、精神状態はあまり宜しく無さ
そうだ。きっと今まで虐げられてきた相手から逃げようとするんだ
から、当人にとっては凄い勇気が必要なのだろう。大抵、人間は耐
え忍ぶことの方が得意だから。
﹁大丈夫?﹂
﹁えぇ⋮⋮ごめんなさいね。この子、いっつもこうなの。普段強気
な癖に、肝心なところで弱気で⋮⋮﹂
意外だ。でも、だからこそ見捨てられないのかもしれない。クロ
ーディアが僕を見る目も弱弱しい。僕は意見が一致を見たところで
扉を薄く開き、延長線上で一人で戦っているサイミンに合図を送っ
た。サイミンは手加減しながら戦闘を長引かせていた海賊を瞬殺し、
こちらに向かってくる。
﹁どう? サイミン﹂
﹁はい。デイトンとキチジョウはあそこで戦っています。シニャッ
クンは南の船尾ですね。タイミング次第ですが、ここからあのマス
トの影まで行ってあの渡しの部分目指して走るのが一番良いでしょ
う﹂
﹁そうだね。ええと、イベント終了まであと11分12秒、か﹂
﹁ギリギリで走るのがいいと思います﹂
﹁だね﹂
サイミンは頷き、再び戦闘に戻っていく。逃走ルート上で特に確
保しなければいけないのは海賊船とこちらの船を繋ぐ唯一の﹃橋渡
し﹄の場所なので、そこに待機しているのであった。
351
﹁大丈夫?﹂
僕は再びファフィアとクローディアの顔を見る。ファフィアは真
剣な表情で頷いた。クローディアは俯いている。
﹁リリスは一緒に来ない?﹂
﹁海賊船に?﹂
﹁ええ﹂
﹁ボクは﹃ライラック港町﹄まで行きたいから﹂
﹁そう⋮⋮残念だわ﹂
開きっぱなしにしてあるシステム時計のウィンドウが秒数を刻む。
イベント終了まで残り9分56秒。
﹁クォークォっていう街を拠点にしている、女の子ばっかりのギル
ドがあるらしいの。私、次はそこに行きたいと思ってる﹂
﹁へぇ。いいね﹂
﹁リリスは冒険を続けるの? きっと、どこかでまた会いましょう﹂
﹁ん﹂
少し、沈黙の間があった。甲板の上の海賊襲撃の騒ぎとは隔絶し
たような静かな重苦しさがあった。僕は自分が逃走するわけじゃな
いけれど、扉の外を覗きながら走るルートを頭にイメージした。い
けそうな気がする。でも、どうだろう。
﹁もし、失敗したら﹂
堅い声だった。
352
﹁リリスにも迷惑をかけるかもしれない。そうしたら、ごめんなさ
い﹂
残り時間が4分を切った。僕は微笑んで言った。
﹁いいよ。そんなこと気にしなくていいからさ、ほら、見て。あそ
こまで走って、あの板に飛び乗って向こうの船に渡るんだよ。間違
って海に落ちない様にね﹂
ここまで来て、僕自身も覚悟が決まっていた。僕は、ファフィア
とクローディアを助ける。
これが仮想現実だろうが、ゲームの中だろうが、今目の前で苦し
んでいる女の子がいるのだ。この選択の良し悪しは一概に言えない
けれど、助けようとする意志にもはや迷いは無い。活路は目前に指
し示されている。
﹁さぁ! 走って!﹂
僕はGOをかけて、ファフィアの背中を押した。目立つ赤い衣服
の上に船室のシーツをかぶったファフィアが扉から飛び出し、混乱
の中を掻い潜るように走って行く。手を引かれてクローディアも後
に従った。
わざと数歩遅らせて僕も走る。ショートカットして2人の道筋を
阻もうとした海賊のエンカウントを受け止める。その海賊はLV2
1だった。僕にしてみれば初の1:1バトルだし、相手は中級職の
パワー系。とてもじゃないが手加減して勝てる相手では無い。こう
なってはもはや二人の逃亡をこれ以上フォローすることもできない。
﹁おい!﹂
353
戦闘領域外から誰かの声がこちらに向けて飛んできた。僕は自分
の戦闘相手に意識を向けつつ、ファフィア達の方を見ると、2人は
かぶっていたシーツを脱ぎ捨てて、今まさに船の手すりに昇って﹃
橋渡し﹄に足を掛ける途中だった。
﹁女が逃げるぞ!﹂
﹁キチジョウのとこの女だ!﹂
﹁おーい!!﹂
流石にシーツを脱ぎ捨てると赤いドレスとゴスロリドレスは目立
つ。僕は成り行きをハラハラと覗いながら、片方で海賊に攻撃魔法
を仕掛ける。繰り出した﹃破壊の風﹄は以前よりずっと力が増して
いた。流石魔力に突出したハーフエルフLv26。それに、ロッド
による攻撃力の補正恩恵も大きいだろう。
海賊の手斧の攻撃を避け、あんなの当たったら死んじゃうよ、と
冷や汗をかきつつ、間合いを取る。とにかく、魔法メインのキャラ
は敵と間合いを取ることが最重要だ。
﹁リリス様!﹂
呼ばれた声に顔を上げると、キチジョウの仲間の一人デイトンが
ファフィア達の元に迫っているのが見えた。クローディアが手すり
をよじ登るのに手間取っているようだった。ファフィアが引っ張り
上げるように手を貸しており、もう少し、ということろだがこのま
までは捕まってしまう。
僕は再度腹をくくり、戦闘領域内からサイミンに向けて合図を送
った。
354
﹁サイミン! 食い止めて!﹂
そちらに気を取られて次の海賊の攻撃は食らってしまった。直接
攻撃はヤバい。僕は気づけばぶっ飛ばされて船床で受け身を取って
いた。痛い⋮⋮あぁ、ケチらずに痛み止めを飲んでおけば良かった
か、と思いつつ﹃エルフの癒し手﹄を自分にかけた。HPは回復し
たし、痛みもだいぶ引いたがショックでクラクラする。
パーン、パーン、パーン、と乾いた銃声が3発響いた。﹁野郎ど
も! 退くぞ!﹂という声が聞こえて、船乗りたちの喝采が続く。
周囲で暴れていた海賊たちが次々に退却していき、僕の戦闘相手も
﹁ちぇっ。逃げるが勝ちだぜ﹂という捨て台詞を吐いて﹃GIVE
UP﹄になった。
そして戦闘領域が解除されて視界が変わった僕の目に映ったのは、
海賊船の柵向こうに立っているファフィアとクローディアの姿。既
に、あちらの船とこちらの船の間は海を隔てて数メートルの開きが
ある。
ファフィアはクローディアを抱きしめながら、こちらを見ている。
まだ、表情も判別がつくほどの近さなのに、だけどもうこの差は誰
にも飛び越えられない。彼女らを虐げた仲間が、便乗した男達がそ
の離別を茫然と見つめていた。
NPCキャラたちが海賊の撃退を陽気に祝っているが、プレイヤ
ーキャラ達は誰も口を開かない。
サイミンが、僕のそばに近寄ってきた。僕はサイミンに小声で尋
ねる。
﹁戦っていた相手は?﹂
﹁﹃DEATH﹄です﹂
355
デスですか。
﹁お疲れ様﹂
﹁お二人は、無事に逃げられたようですね﹂
﹁うん﹂
遠ざかるファフィアとクローディアに向かって目立たない様に僕
は小さく手を振った。
そして⋮⋮あぁあ、と内心でため息をつく。
成功して良かった。でも、僕とサイミンが逃亡の手引きしたの、
バレちゃった、よなぁ⋮⋮。
356
episode13︳5
経緯は色々とあったが、それらを省いて結果だけ言うならば、僕
は陽の暮れはじめた船上で前開きブラウスのボタンを外す運びとな
った。リリスは腕や足も白いが、衣服の下はもっと雪みたいに白い。
襟を開いて胸元を見ると自分でもちょっとびっくりしてしまう。
僕は今まさに我が肉を差し出す為、たき火に飛び込むウサギだっ
た。もしくは飢えたトラの親子の為に飛び降りんとする王子。ただ
しこんな憐憫を誘う自己犠牲は﹃一回限り﹄という宣言をし、代表
者であるキチジョウと約束を取り付けた。
もちろん口約束なんて信用できるか分かったものじゃないけれど、
いいんだ。これは僕なりのケジメであり、ある意味警告でもある。
約束を破られたらこちらも手加減するつもりは無い。
だけど、そもそもキチジョウのパーティーに介入した部外者はこ
ちらだ。キチジョウ達は悪漢だったかもしれないけど顔に泥を塗っ
たことには間違いが無く、ギルドの面子を守る為にも裏切者には制
裁が必要で、当事者がいないならば手引きした僕が対象となるのは
分かっていた。
そう、初めから分かっていたんだ。サイミンの言葉を思い出す。
︱︱︱︱︱︱逃亡の手助けをした場合、リリス様に何かメリットは
ありますか?って、リスクという名前のデメリットしかないことを。
見方を変えれば僕はファフィア達に利用されただけ。嫌になっち
ゃうよね。
357
僕の周囲には乗客の冒険者たちの半分くらいが集まっている。見
物客も含むと信じているけど、これだけの欲望を相手にするのは骨
が折れそうだ。
﹁服を脱げ﹂
はいはい⋮⋮。僕は言われるがまま一枚ずつ、服を脱いでいく。
靴、ベスト、ブラウス、スカート、桃色のショーツ。パサリと衣服
が落ちて、足元に小さな山を作る。
﹁ひゅぅ﹂
誰かが口笛を吹き、数人がゴクリと息を飲むのが分かる。僕は、
膝丈の靴下だけ残して裸になった。靴下だけ残したのは僕の趣味。
片手で小さな胸を、もう片方の手で下半身を隠すけれど、薄ピン
クの乳首が片方零れる。僕は太ももの内側を擦りあわせてモジモジ
と身を動かす。
﹁恥ずかしい⋮⋮﹂
もう、こうなったら開き直るしかない。今日の僕は大盤振る舞い
だ。もう何でも来い、という気持ち。肌を焼くような視姦に晒され
ながら体の芯が熱くなってくる。むしろ、あぁ、もう存分に可愛が
ってもらおうじゃないか。
実は、僕は先に﹃媚薬﹄を飲んでいる。ラスト一個のレアアイテ
ム。本当は可愛い女の子の飲み物にこっそり混ぜて楽しい思いをし
たかったのだけど、結局また自分で飲むことになろうとは⋮⋮。
最初の相手はキチジョウだった。僕は髪の毛を掴まれている状態
で口でご奉仕した後に甲板に顔を押し付けられるようにして、物み
358
たいに乱暴に後ろから犯された。
出し入れされるペニスが激しく動くたびに、床に押し当てられた
頬が擦れる。
﹁っ、ひっ、ひうっ⋮⋮﹂
僕はペニスを受け入れながら、もう涙をこぼしていた。涙は横に
流れて床に落ちる。突き上げたお尻は膣がキュウキュウするたびに
後ろの穴までひくついてしまう。僕は全身に回る快感を味わいなが
らも一生懸命に絶頂しないように耐えた。開始数分でイっていては
身が持たない。
観客は、僕の涙を屈辱の証だと見てとったようだった。ニヤニヤ
笑いながら好色な目を向けてくる男や、既にペニスをおっ勃てて興
奮気味なのもいるけれど、半分くらいは憐れみと苦笑を浮かべてい
る。
でも、それは勘違いだ。
初っ端から泣いてしまうほど気持ち良くて、もう理性が抑えられ
ないほどだった。
じゅぶっ、じゅぶっ、と水気のある音が体の中を響いて聞こえる。
身体は正直で犯されながらアッと言うまに愛液が溢れている。
﹁んっ、ううっ、うぁつ⋮⋮﹂
イイ、気持ちいい。もっと、いっぱい、滅茶苦茶にして︱︱︱︱
︱︱。内心はそう叫んでいたが、理性を総動員して抑える。
﹁お前、変態なのか?﹂
キチジョウの声だ。
359
﹁ん、う、っ、ん⋮⋮﹂
図らずとも喘ぎ声で肯定してしまった。更にずん、とお腹に響く
ような深い挿入を受けて僕は耐え切れずに先にイってしまった。流
石に恥ずかしかったので歯を食いしばって呻くだけで耐えたが、体
はビクビクと震え、まんこはキツく収縮した。
﹁なっ、おっ⋮⋮くそっ⋮⋮﹂
それに合わせて膣内にぬるく放たれる精液。膣内は待ってました
とばかりに悦びに震え、もっと欲しいと搾り取るようにペニスに絡
みつく。膣内でキチジョウのペニスが猛々しく暴れるのが気持ち良
くて、僕は二重にイってしまった。
﹁っ⋮⋮ふっ﹂
キチジョウの精液はなかなか多くてたっぷりと僕のナカに注ぎ込
まれた。お尻を高く上げているから、精液が下って子宮内に全部流
れ込んでくる感じがする。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮。ぁ、っはぁ⋮⋮﹂
ペニスが引き抜かれると物足りないような寂しさを感じた。
﹁変態﹂
また、同じことを言われてしまった。僕は、甲板の固い床にこめ
かみをあてた状態でキチジョウの顔を見上げる。
360
﹁早く、次、いれてぇ⋮⋮﹂
キチジョウはちょっと引き攣った表情を浮かべて、退いた。あれ
⋮⋮?引かれた?
次の相手はキチジョウの仲間の男。たしか、シニャック?よく思
い出せない。が、とりあえず良い味だった。まだ二人目だと言うの
に、こいつはまんこを掻き混ぜた後、濡れた肉棒を後ろの穴に突っ
込んできた。
馴らしていないアナルにぶち込まれて流石に僕は叫び声をあげた。
﹃媚薬﹄には痛み止めの効果は無い。痛いものは痛い。ただし、痛
気持ちいいという感覚はある。
﹁ぎいいいいぃい︱︱︱︱︱︱⋮⋮⋮っ︱︱︱︱︱︱!﹂
焼けた鉄の棒を押し込まれるくらいの衝撃に体が自然と暴れた。
そこを上から押さえつけられて、調教される馬みたいになった。
﹁いたあぁいいい。いいい︱︱︱︱︱︱! あぐっうう、うごかさ、
ないでぇっ﹂
熱い。少し動かされるだけで、お尻が捲れちゃう錯覚がする。
﹁いいケツだな。動くぞ﹂
ずっ、ずっ、と小刻みに動かされるだけでいっぱいいっぱいで、
僕は水揚げされた魚みたいに口をパクパクさせた。
だけど、僕の体は悦んでいた。後ろを突かれるたびに、前から涎
みたいに愛液が溢れてくる。締まりきらない蛇口から水がこぼれる
みたいに、粘度のある液体が糸を引きながら零れる。
361
﹁ひあっ、ぁん、おしりが、ぁあん、ぁんっ﹂
声に艶色が入る。程よいタイミングでお尻にも精液が注入されて、
眩暈がするほど感じていた。あぁ、もう少しで、お尻だけでイけそ
う。
﹁あっ、待って、抜かないでぇ﹂
次の男が交代に近寄ってきたので僕はおねだりをした。
﹁お願い、このまま、前にもいれてぇ﹂
﹁⋮⋮は?﹂
男達は少し絶句した。
**
前と後ろに挿入されるのが癖になっているのは、リリスの原初体
験というか、アラビーとフェンデルに滅茶苦茶に犯られたのが忘れ
がたく身に染みているからかもしれない。初めてリリスがシた時の
処女膜を破られる感覚も時々反芻してしまうくらい、よかった。
そして、今日こうして大人数に代わる代わる輪姦されるのも、僕
の思い出の一ページとなりそうだ。もう、とにかくスゴイ。
﹁一度、ぶっかけてやろうぜ﹂
﹁口開けろよ﹂
﹁ふ、ふぁい﹂
僕は口を開けて舌を少し出し、掬う形で両手を顔の下に差し出し
362
た。
﹁ぁ、はぁ⋮⋮おねがいします﹂
たくさんのペニスから僕の顔めがけて、多くは口内を狙って勢い
よく精子が飛んできた。ある者は口を外れて僕の顔にかかり、後ろ
からは髪の毛にも浴びせられた。むせかえるような雄の匂いにクラ
クラする。
﹁あぁん⋮⋮すごいっ、こんな、いっぱいっ﹂
ぶっかけられただけでイきそう。口に上手に入った精子を飲むと
喉にひっかかりながら下って行った。
﹁こいつ、調教済みなのか?﹂
﹁いや、そんな跡は無かったけど⋮⋮﹂
﹁まんこも綺麗だったしな﹂
﹁子どもまんこキツくていいよなぁ﹂
そんなことを話し合う一人に抱き寄せられて、僕はキスをした。
おっぱいを弄られて、軽く喘ぐ。首に腕を絡ませて、うっとりとお
ねだりする。
﹁ちょーきょーなんて、されてないもん。まだ、こどもだよぉ⋮⋮
りりしゅの、こどもまんこをおとなにしてぇ﹂
﹁っ⋮⋮へっ。ここを?﹂
別の男の指がドロドロになったまんこを掻き混ぜる。
﹁ひゃあぁんっ﹂
363
穴から愛液とも精液ともつかない、混ざり合った排泄液が零れる。
﹁しょ、しょこぉ⋮⋮﹂
﹁ここ?﹂
﹁うっ、ぁつ、あっ⋮⋮﹂
中指の第二関節まで収まって確実に気持ちいいところを責められ
る。ピンポイントに快感を刺激されて、脳髄が痺れる。ピュッ、と
潮が噴き出す。
﹁やっ、しょこ、ぁん、ゆび、いくっ⋮⋮!﹂
あぁ、でも駄目。
﹁やーぁー。ゆびじゃ、なくて、おおきぃの、い、れってぇ⋮⋮﹂
﹁はいはい。キッツイこどもまんこを拡げてもう少し使いやすく馴
染ませてあげようね﹂
﹁んっ⋮⋮﹂
扇情的な言葉に興奮し、挿入されてまたスグに達してしまった。
すご⋮⋮い。
364
episode13︳5︵後書き︶
ノリノリな主人公。
epi13は次話がエピローグ。思いがけず長くなってしまった。
365
episode13︳6
沈む夕日が最後の力を振り絞って水平線の下から投げかけていた
射光も絶えた時、僕の享楽も終わりを迎えようとしていた。しかし、
ログオフ前に一悶着が発生した。
僕は自動パワーオフ時間が迫っていたので、股からぬるい精液を
こぼしながら白旗を揚げたが、簡単には解放してもらえなかったの
だ。何人かのユーザーは遠慮してくれたし、周囲をとりなそうとも
してくれた。
﹁おい、自動ログオフしちゃったら可哀相だろ。そろそろやめてや
れよ﹂
﹁えぇ∼いいじゃん、もう少しだけ。それに、自動ログオフなんて
言ってるだけかもしんないし﹂
﹁いや、輪姦し始めて3時間近いから、本当だと思う﹂
﹁何、そんなに輪姦されてんの。リリスちゃん大丈夫?﹂
げらげらと笑い声。
﹁笑いごとじゃないよ!ちょっ、とっ。セーブ、させてよっ!﹂
本気で僕が怒って見せてもぜーんぜん取り合ってくれないし、お
願いしても聞いてくれない。そういうプレイだとでも思ってるのか、
分かったうえでニヤついているのか。
﹁別に関係ないし﹂
﹁まだ満足させてもらってないしな。へ、俺、次3回目∼﹂
366
それで、僕がキレた。このまま自動ログオフしてもいいけど、そ
したらせっかく色欲で得た経験値が無駄になってしまう。それに、
時計と一緒に何気に開いたステータスウィンドウには追加スキルが
あった。たぶん、輪姦で覚えたエロ系スキルで、これを無駄にした
くなかった。
﹁もぉ︱︱︱︱︱︱︱!! じゅうぶん相手したれしょっ! ろい
てくれなきゃ、ぼくらって、怒るんらからねっ!﹂
確かに、こんな呂律の回らない啖呵は真剣味が無いだろう。僕は
なかなか離してくれないしつこい5人を対象に戦闘領域を展開した。
アイテムボックスからは、呼び笛とロッドを取り出していた。
相手のLvが分からないので賭けではあった。だが、負けるなら
負けるでも良かった。DEATHなら自動的にホームポイントまで
戻れるので、そこでセーブができる。
戦闘領域に引きずり込まれた男達は初めポカンとした顔をして、
それから僕の思惑を読み取ったようだった。
﹁は⋮⋮なに、DEATHで戻る作戦?﹂
﹁リリスちゃん、考える脳みそあったんだね∼﹂
輪姦されているうちに大体分かってきたのだが、特に今喋った2
人のタチが悪い。キチジョウ達の恩恵に預かって僕と言うご馳走に
ありついているハイエナの癖に。
﹁っ、ばかにしゅゆな∼!﹂
くそぉ。どれくらい威力があるかな。
367
戦闘領域に入った途端、僕はさっきまで素っ裸だったのが通常の
装備に戻っていたが、犯されまくった体では腰が抜けて立ち上がる
こともできなかった。甲板に這いつくばるようにしている僕が戦闘
を申し込むっていうのは確かにお笑い種なのだろう。
ほぼ瀕死の上半身を持ち上げて男達を睨むと禍々しい羊頭の杖を
向けた。対象範囲は⋮⋮あぁ、よかった﹃全体攻撃﹄になるみたい。
ウィンドウを開く僅かな操作も億劫だ。
それから僕はロッドを起動して﹃力の解放﹄を選択した︱︱︱︱
︱︱。
**
空は青く、波は穏やかだった。太陽の光を反射して水面がキラキ
ラと光っている。水平線では綿菓子みたいでありながら重量感を感
じる雲が積み重なっていた。
﹁あの、じょお⋮⋮リリスさん。すみませんけど、一緒に写真撮っ
てもらっていいですか?﹂
ログインして甲板に降りたつや否や、赤っぽい服の冒険者と青っ
ぽい服の魔法使いの出で立ちをしたユーザーキャラが2人近寄って
きた。
﹁え? いいけど﹂
﹁やった。ありがとうございまーす﹂
赤い方の青年が僕の隣でピースサインをするので、つられて僕も
同じ指の形を作る。青い方のユーザーが離れた位置からシステムの
368
撮影機能でシャッターを切った。
﹁わー⋮⋮。記念にします。あの、リリスさんは大体この時間にロ
グインするんですか?﹂
﹁え? 特に決めて無い﹂
﹁写真、今度俺もいいですか? おい、今度はお前が撮れよ﹂
この若い男二人は顔に覚えがあるような、無いような。乗船客は
滅茶苦茶多いわけじゃないけれど、いくつかの港で面子の入れ替え
があるし、ログイン時間のずれもあるから一々覚えていられない。
青年らは﹁その髪飾り可愛いですねー﹂とか、﹁リリスさんは次
の港で降りるんですか?﹂だとか、ひとしきり他愛無い話をした後
去って行った。
﹁あ、クィーン﹂
﹁じょおーだ﹂
ん?僕を見るユーザー達の態度が何だかおかしい。僕は不思議に
思いつつ何はともあれ自分の船室に行ってサイミンと合流した。部
屋の隅でサイミンは動力オフモードになっていたが、僕が声をかけ
ると起動した。
﹁おはようございます。マスター﹂
﹁おはよう。サイミン﹂
サイミンは嬉しそうに破顔する。なんだか最近、サイミンの起動
時の笑顔が柔らかくて見ているだけでこっちまで温かい気持ちにな
る。
﹁僕がいない間、何か変わったことは無かった?﹂
369
﹁そうですね⋮⋮前回のリリス様ログアウト後に起きたことでわた
くしが確認したのはイベント﹃幽霊船﹄です﹂
﹁あぁ、噂の幽霊船イベント、スキップしちゃったか。残念。ちょ
っと興味あったんだけどな∼﹂
﹁﹃シオナの塔﹄への停泊もありました﹂
﹁ふんふん。他には?﹂
﹁他には⋮⋮そうですね。リリス様の噂が飛び交っていました﹂
﹁⋮⋮え?﹂
サイミンは思い出したようにムッとした表情に変わり、僕に詰め
寄った。
﹁聞きましたよ。リリス様ってば、わたくしを船室に閉じ込めてお
いて、随分とご乱交あそばしたようですわね﹂
﹁ちょっ、サイミン、前から思ってたけど、喋り方が少し古い﹂
ご乱交あそばした、ってまるで﹁ご乱心召された﹂みたいに言わ
れても⋮⋮。サイミンはますます顔を近づけてくる。
﹁しかも、おひとりで戦闘に挑まれたとか⋮⋮そんな危険な真似を
してはいけません!﹂
﹁あぁ、うん。いや、危なくなったらサイミンに助けてもらおうと
思って﹃呼び笛﹄も一応セットしておいたんだけどね﹂
喋りながら、徐々に前回の出来事を鮮明に思い出し始めた。
﹁危なくなったら、ではいけません! 危なくなる前に呼んでくだ
さい! それに、聞いたところではキチジョウ様への落とし前とし
てリリス様が女体を差し出したとか⋮⋮そんな必要ありませんっ。
よしんば必要だったとしても、このサイミンが肩代わり致します!﹂
370
﹁あはっ。ありがとね。大丈夫だったからさ。ね﹂
サイミンの剣幕に圧されて、僕はベッドに押し倒される格好にな
った。
﹁大丈夫だなんて、おっしゃらないでください⋮⋮﹂
心配してくれるのはありがたいけど⋮⋮サイミン、どこ、触って
るの。サイミンの手が僕のスカートをまくってわさわさと太ももを
撫でる。
﹁はぁ⋮⋮リリス様が野蛮な男達の慰み者にされてしまったかと思
うと⋮⋮なんでわたくしがその場に居合わせられなかったのか⋮⋮
悔やまれてなりません⋮⋮﹂
う、うん。サイミン。なんか言ってることおかしくない?いや、
これは純粋に心配してくれてる、っていうことだよね?
﹁あー⋮⋮。それで思い出した。何か新しいスキル覚えたみたいだ
から、ちょっとステータス確認させて﹂
寝台の上でよいしょと体を起こし、不満げなサイミンを押しのけ
るとステータスウィンドウを確認した。ハーフウィンドウにして、
サイミンにも見せる。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:永久乙女
371
年齢:15歳
総合LV:30
HP:84
MP:110
力:35
魔力:66
自動スキル:﹃色欲﹄﹃超越せし乙女﹄﹃魔防上昇++﹄﹃淫行
のすゝめ﹄﹃幼き妖女﹄
︵リザーブ:﹃耐状態異常+﹄︶
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火/土﹄﹃スピリットアロー﹄﹃メテオクラッシュ﹄
︵リザーブ:﹃窮みの一撃﹄﹃単騎決戦﹄︶
﹁あ! Lvが30まで上がってる。凄い﹂
﹁おめでとうござい⋮⋮﹂
﹁って、えぇつ!? なに、このスキル﹂
﹁リザーブが貯まっていますね。優先順位を付けてセットしないと
意図せず消えてしまいますよ﹂
﹁うん。それは分かってるんだけど⋮⋮﹂
前回は慌ただしくてゆっくりステータスを確認する余裕も無かっ
たけど、気づけばスキル名も特徴的だし、数も増えまくっている。
僕はついでにアーカイブも開いて確認した。
自動スキル:﹃淫行のすゝめ﹄
習得方法:乱交イベント達成
効果:性交渉でG入手
372
自動スキル:﹃幼き妖女﹄
習得方法:①未確認 ②16歳以下の女キャラが乱交イベント達成
効果:性交渉時の痛みが軽減
自動スキル:﹃メテオクラッシュ﹄
習得方法:①魔力:65以上 ②未確認 ③未確認 効果:未確認
自動スキル:﹃窮みの一撃﹄
習得方法:①未確認 ②瀕死状態から1ターン以内で敵全滅
効果:未確認
自動スキル:﹃単騎決戦﹄
習得方法:①未確認 ②単独で複数敵パーティーを全滅︵DEA
TH︶
効果:未確認
これは⋮⋮。悩むな。情報が足りないという点もあるけれど、と
りあえず自動スキルは﹃耐状態異常+﹄か﹃魔防上昇++﹄のどち
らかを捨てるか。いや、こいつらは伸びしろがあるからスキルカー
ドに転載した方がいいのかな。僕はしばらく頭を悩ませて、仮設定
をしてから船室を出た。
甲板に出る階段の前で一人のユーザーに話しかけられた。
﹁あっ、じょおう、ログインしてたんですね。うちのリーダーが会
いたがってましたよ﹂
373
僕は最初、自分が話しかけられていると判断できずに視線を飛び
越えて後ろを振り返ってしまった。
﹁じょおう?﹂
僕が首をかしげて指を口に当て斜め上を見上げると、目が合った
サイミンが頷く。
﹁リリス様、ログアウトなさっている間に女王様呼ばわりされてい
ましたよ﹂
﹁じょっ⋮⋮女王!?﹂
﹁肉欲と破壊を司る桃色の悪魔、と呼んでいる人もいました﹂
﹁長っ!!﹂
374
episode14︳1:桃色悪魔
航路の終着点は﹃ライラック港町﹄で、これを乗り過ごす場合乗
船チケットの再購入が必要だ。その為停泊期間が5日間と長く設定
してあるが、現実世界での50時間なのだからうかうかしてはいら
れない。僕の身の丈ほどもあるデカい舵を操っているNPCに話し
かけたが﹁航海のスケジュールなら船長に聞きな﹂と追い返された。
船長室はどこだろう。むしろ、誰かユーザーに尋ねた方が早いか
な。船長室に行くか、ユーザーの集まる娯楽室に行くか迷いつつ歩
く。
すると、向こうから見知った青い髪の男がやってきた。一瞬、げ
っと思ったが後ろ暗いことがあるわけでもないと思い直し、その場
にとどまった。まぁ、どうしていいか分かんなくて固まっちゃった
だけ。
﹁よぉ、桃色の悪魔﹂
﹁うっ⋮⋮やめてよ﹂
嫌味なの?嘲笑しに来たの?キチジョウが周囲のユーザーなんか
とは格違いの凄腕剣士だということは知っている。睥睨するような
キチジョウの赤い目に気が落ち着かない。
﹁先日は世話になったな﹂
﹁世話になったお返しをしてやる、とか言わないでよね﹂
﹁そういう意味じゃない。純粋に礼を言いたかっただけだ﹂
﹁お礼参りじゃなくて?﹂
375
苦々しげに見返すと、キチジョウは酷薄に笑んだ。
﹁なんだ、もしかすると俺は随分と嫌われてるのか?﹂
僕は黙った。
﹁お前はスジを通した。俺はそういうヤツが嫌いじゃない。特にそ
れが女なら尚の事だ。リリス、俺の仲間にならないか﹂
﹁は?﹂
思わず﹁はぁ?﹂みたいな挑発的な声で返すところだった。グッ
と堪えて短く返したのは我ながらグッジョブ。僕は少し考える時間
を取ったが、これは仲間になるかどうかではなくて何の罠かの検討
だった。
﹁もし断ったら?﹂
﹁別に。⋮⋮その聞き方だと完全に俺が何か企んでいるみたいだな﹂
﹁はは⋮⋮は、何企んでるの﹂
﹁疑心暗鬼な性格なのか? その割に無防備だ﹂
僕はヒヤリとしながら後ろを振り返るが、一面の晴天が広がって
いるだけだった。あと、斜め後方にはサイミンが出しゃばらずに侍
している。サイミンの姿はそれだけで心強い。
﹁いちいち、剣呑なんだって。キチジョウは。怖いよ﹂
﹁本当に怖いものは怖く見えないものだ。悪魔の口が真っ赤である
ことより、天使の口にびっしり牙が生えている方が怖いだろう?﹂
それは想像したら確かに怖い。
376
﹁お前がいい例だよな、リリス﹂
﹁いやいやいや、ボクはそんなんじゃないって。え? 何、本当に
過大評価してくれてるってこと?﹂
﹁そうだ、と言っても真実味は無いか。やけに警戒されているよう
だからな。何なら神にでも誓ってやろうか? もちろん、俺が今評
判になっている女王リリスを仲間にしたと噂になれば株は上がる。
そういう意味では下心が無いと言うわけじゃない﹂
﹁あっそう⋮⋮なんだ﹂
僕はもう一度その申し出を検分した。もしかしたらキチジョウっ
てそんなに悪いヤツじゃないのかな、なんて考えてクスリと笑って
しまった。それがきっかけで少し気が抜けた。
﹁聞きたいことがあったんだけど、あの二人、ファフィアとクロー
ディアはどうするつもりなの﹂
﹁どうするつもり? 追手をかけるとかそういう話か?⋮⋮どうも
しない。ファフィアは逃げ切ったな。海賊船なんて女だけで乗り込
むのは冒険だと思うが、あいつはしたたかだから上手くやるだろう
さ﹂
﹁ファフィア、は? クローディアは⋮⋮﹂
2秒の沈黙があって、キチジョウは口を開いた。
﹁あいつは戻ってきた﹂
口の端を歪ませる様な笑い方だった。僕はその意味が分からない
まま静止した。
﹁え⋮⋮?﹂
﹁今は仕置きと調教し直しで忙しいが、後で会わせてやるよ﹂
377
﹁どういう⋮⋮こと⋮⋮﹂
何か、遠くにいる仲間を呼び戻す魔法かアイテム⋮⋮﹃呼び笛﹄
? まさかクローディアは逃亡前にパーティーからの離脱設定をし
なかったのか?
しかし、答えは僕の予想を上回っていた。
﹁自殺して戻ってきたんだよ。﹃DEATH﹄は最後にセーブした
ホームポイントに戻るだろう﹂
﹁戻ってきた?なんで、そんなこと﹂
せっかく逃げたのに。逃がしてあげたのに。逃げられたのに?
﹁弱いからだろうな﹂
キチジョウはさらりと答えた。僕にはその意味が分からなかった。
弱い?何が?
﹁せっかく身を呈して助けたのに腹立たしいことだろう。後で船室
に来いよ。そうだな、今の暴行が一区切りつくのにあと2時間。そ
の後ならいつでも会わせてやるから、存分になじればいい。お前に
はその権利があるさ﹂
それだけ言い残すと、キチジョウは去って行った。申し出の回答
は返していなかったが、脈が無さそうなことを察したのか。それと
も混乱する僕を残して去るのが彼なりの恰好つけ方なのか。
茫然と立っていると肩を叩かれ、振り返ると今度はユーゴだった。
しばらくユーゴと喋った後、僕はサイミンと一緒に海を眺めた。
奇しくも、ユーゴからもキチジョウと同じ申し出を受けた。﹁うち
378
のパーティーに来ないか?﹂ユーゴもまた、キチジョウと同じで大
きなギルドの一員で小隊にあたるパーティーのリーダらしい。いい
キャラを見つけたらスカウトするのもパーティーリーダの仕事であ
り、権限の一つだという。
﹁モテモテで困っちゃうね﹂
﹁リリス様の魅力には誰も叶いません﹂
﹁やっぱり派手に暴れたのが目を引いたのかな。ニエグイのロッド
が強かっただけだけど﹂
﹁ええ、それもあるとは思います。ただ、女のユーザーキャラは貴
重で人気もありますから、フリーである程度強ければ仲間にしたが
るパーティーが多いのは当然だと思われます﹂
﹁なるほどね﹂
じゃあ、そのギルドにとっては有益だった女のユーザーキャラに
逃げられてしまったのはパーティーリーダとしてどうなんだろう。
もしかして、失態なのかな。だから、僕を入れることで穴埋めした
いのかもしれない。
﹁はぁ。それにしても、クローディアが戻ってきたって⋮⋮どうい
うことだろう﹂
すると、サイミンが首を傾げた。
﹁戻りたかったから戻ったのではないのでしょうか? 何が疑問点
ですか?﹂
﹁う⋮⋮ん﹂
サイミンは凄い。時々核心を突く。
379
︱︱︱︱︱︱⋮⋮なのよ。
︱︱︱︱︱︱海賊でしょ。危ないと思う⋮⋮。
︱︱︱︱︱︱幽霊船よりマシじゃない? とにかく私はうんざり
なの。
︱︱︱︱︱︱そりゃ、私だってそうだけど、他に方法があるんじ
ゃない。
僕は、最初にあの二人に出会った時のことを思い出す。あの時の
会話も、そうだ。逃亡に意欲を示していたのはファフィアの方だっ
た。クローディアはいつだって、乗り気じゃなかった。より苦しん
行くとしたらど
でいるように見えたのはクローディアの方だったのに、直前まで逃
亡には消極的だった。
さて、僕はクローディアに会いに行くべきか?
んな顔をすればいい?
**
一度ログアウトして、所用を片づけてから再びサイバースペース
へ潜った。結構な時間が経っていたので、もしかしたらもういない
かも、と思いつつのログインだったが、目的のルームナンバが金字
で彫られている船室のドアをノックすると返答があった。
室内の空気は生ぬるさと、独特の匂いを持って僕を迎えた。船室
は2人部屋が基本で、それを二間ぶち抜いたような造りになってい
て、離れて並んだベッドにキチジョウとその仲間の一人⋮⋮デイト
ンだったけ、とにかくサイミンが屠ったヤツが座っていた。
反対側のベッドの上にが女が一人裸体で横たわっている。身体に
模様がある、と思ったらそれは紫色に変色した傷跡だった。
380
﹁リリス、ちょうど良かった。さっきまで満員御礼だったのが、落
ち着いたところだ﹂
﹁げっ﹂
僕の後ろに立っているサイミンを見てデイトンが顔色を変えた。
﹁⋮⋮暴れるなよ。女王さん﹂
﹁こっちの台詞だよ。大事なサイミン連れて来たんだから、無体な
ことしないでよ。したら本気で怒るからね!﹂
﹁リリス様に手出しをしたら、わたくしが許しませんわ﹂
固い口調で虚勢をはろうとする僕の脅しより、優雅に微笑みなが
ら言うサイミンの方が迫力ある。本当は危険にさらしたくないから
置いてこようと思ったんだけど、ついて来ると言ってきかなかった
のだ。
﹁あれ、クローディアだよね﹂
すると、ベッドの上の女が震えた。
﹁クローディア、お前の逃亡を手助けした恩人が見舞いに来てくれ
たぞ﹂
しかし黒髪の彼女、クローディアはこちらを向こうとしない。僕
はしばらく反応が返って来るのを待ったが誰も何も言わないので、
どうやらこの場の判断は僕に任されているらしいと汲み取って、ク
ローディアに近づいた。
直前まで、僕はクローディアにどんな態度を取っていいか分から
381
なかった。ただ、そのままにしておけなかっただけだ。あの後何が
あったのか、もしかしたら僕はいらぬお節介をしたのか、帰結する
ところを確かめたかっただけだ。
﹁⋮⋮ごめんなさぃ⋮⋮ごめんなさぃ⋮⋮﹂
近づいて行くとクローディアは身を丸めるように縮め、呪文のよ
うにつぶやいていた。
﹁ちがぅの、私、そんな、逃げるつもりなんて、逆らぅつもりなん
て⋮⋮だって私はみなさんの肉どれぃなんだからぁ⋮⋮﹂
僕はなるべく優しい声をかけようとした。
﹁あの、大丈夫? クローディア﹂
すると、クローディアは電撃に打たれたようにパッと身を翻し、
ベッドの上で壁際まで後ずさった。
﹁いやっ! やめてよ、もういやなの、こんなとこ! なんで、私
ばっかりこんな目にっ!﹂
そして初めて僕を認めるように目を丸くし、一瞬呆けたかと思う
と、すがり付いてきた。
﹁あ⋮⋮リリス⋮⋮? あ、ぁ、たすけてっ。お願いっ⋮⋮﹂
それらの全てはまるで舞台の上の演技のようだった。クローディ
アは僕を見ているようで見ていない。ふと、既視感を感じた。船底
の船倉で不意打ちで首を絞められた時もこんな感じだった。
382
﹁うわぁ⋮⋮﹂
僕は苦いものを感じた。思わずその手を払いのけて泣いて瞼の腫
れあがった醜い顔を打ちたくなった。これがクローディアなんだな、
と悟った。理解できない人格であることを理解したというのだろう
か。もし、僕が今彼女の横面を張り倒しても、クローディアは意識
の片隅で悦ぶのかもしれない。口では周囲を呪い、罵倒し、それら
全てが彼女の媚態なのか。
﹁こうなっちゃうと、もうロールプレイでも無いね﹂
僕はクローディアではなく、キチジョウに話しかけた。
﹁こんなんで、まともに社会生活営めるのかな﹂
﹁さぁ。興味は無いな。バーチャル多重人格なんじゃないか﹂
現実世界で生きる人格と仮想世界で生きる人格が乖離してしまう
精神疾患。仮想とリアルの二重社会が将来的に融合するのではなく
乖離すると信じられていた時代に流行した言葉でもある。
﹁どうする? 俺らの元に戻ってくることでこいつはお前をの親切
心を裏切ったわけだ。もし報復したいなら好きにしてくれ﹂
﹁えぇ∼。困るな﹂
﹁許すならそれでもいい。ただしそれならそれで俺らとお前の間に
はもう貸し借り無しだ﹂
あぁ、そういうこと。でも、身内のツケを仲間ではなく本人に払
わせようとするあたり、手厳しいことだね。
383
僕は人差し指を頬に当てて考える仕草をした。ん︱︱︱︱︱︱報
復なんて物騒なことをするつもりは無いよ。二人を助けようとした
のは僕の自己満足だ。それが予想通りの帰結にならなかったからっ
て怒るほど傲慢では無い、つもり。まぁ、ファフィアだけでも無事
に逃げられたならそれで良しだ。
⋮⋮でも、せっかくだから支払ったものは回収させてもらおうか
な。
384
episode14︳1:桃色悪魔︵後書き︶
バーチャル多重人格は将来的にもっと深刻な問題になると予想して
いる。
きっとカッコいい病名もついて、論文がいっぱい書かれるに違いな
い。
リリスの生きる時代はその病理に対するブームが一段落した社会。
385
episode14︳2
クローディアの口は一貫性のないことを喚き、呪いの言葉を繰り
返したりするのでテーピングで封じた。眼は覗いてはいけないよう
な井戸の底の暗さを湛えているので、これも見開かれることの無い
ように処理した。
暴れないように両手両足を拘束し、上半身には布団をかぶせた。
おっぱいも隠れてしまうわけだが、惜しいとは思わなかった。クロ
ーディアの胸が小さいとかいうことじゃなくて、なんだか彼女の肉
の中には得体の知れない者が詰まっていそうで気味が悪かったから
だ。
僕は、なるべくクローディアへ心を寄せることは止めようと思っ
ていた。同情したり、理解しようとしたが最後で引きずり込まれそ
うなオドロオドロしさがある。
できるだけ事務的に彼女の足を開き、精液が渇いて貼りついてい
る股にニエグイのロッドを押し当てた。
﹁ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮ふぅ︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
布団の下から、くぐもったうめき声が微かに聞こえる。
﹁⋮⋮上手に入らない﹂
やっぱり、多少は濡らさないと挿れにくいものなのかな。散々輪
姦された緩い割れ目だから簡単に入るかと思った。グリグリと押し
付け、角度を変えて試すが同じ徒労だった。ロッドを離して試しに
386
人差し指を入れようとしたが、今度も強固な抵抗にあった。ふいに
穴の締まりが緩んで指が入ったが、それは許可を得て叶った侵入の
ような印象だった。
もしかして、クローディアがココを自分の意思である程度開閉で
きるってこと? 貝⋮⋮? 果たして女体の神秘なのか、それとも
普通にこういうもの?
指ならいいけど、こっちは受け付けたくないってことか⋮⋮。僕
はロッドで頬杖をつく。濡らせばいけると思うけど、でも、わざわ
ざ前戯で気持ち良くさせてあげる義理も無いしなぁ。
指を引き抜いてロッドをもう一度開いた花びらの間にあて、ぐい
と押した。今度はもう少し強く。なんのことはない、力技作戦だ。
﹁ん︱︱︱︱︱︱!! ん︱︱︱︱︱︱!! ん︱︱︱︱︱︱!!﹂
縛られている体が可動範囲内で暴れて、ロッドが滑る。
﹁むぅ∼。 ちょっと、サイミン、押さえてて﹂
﹁了解しました﹂
言うなりサイミンはひょいとベッドに上がり、クローディアの布
団がかかった上半身に馬乗りになった。効果はてき面だったが、思
いがけぬ最適解を導き出すサイミンの行動には驚かされる。
﹁僭越ですが、リリス様⋮⋮﹂
﹁ん?﹂
﹁こう、捩じるように回し挿れると良いのではないかと﹂
﹁うん⋮⋮? ねじる、ってこう?﹂
387
サイミンはジャムの蓋を外すような仕草をした。合わせて僕もロ
ッドを捩じる。すると、確かにさっきとは違う手ごたえがあった。
今日だって既に相当犯されているのであろう、赤く腫れあがった内
臓の続きであるようなグロテスクな陰部にロッドが入りかけた。
先っぽが入れば後は割と簡単だ。頑固に抵抗していた割れ目が模
した亀頭を飲み込み、途中からは降参するように陰部から力が抜け
ていく。
実はこうやって明るい場所でじっくりと成熟した女陰を眺めるの
は初めてだ。少なからず興奮する。
ロッドが沈んでいけばその速度に合わせて陰部がきゅっきゅと締
めたり緩んだりを繰り返す。周囲からはじっとりと滑る液が分泌さ
れ始めた。嫌がっていてもちゃんと、壊れない様に濡れるって本当
なのか⋮⋮それともクローディアが真実悦んでいるのかどちらかだ。
﹁リリス様お上手です。でも、挿れただけでは駄目です﹂
﹁どうすればいいの?﹂
﹁こう、動かしてください﹂
﹁こう?﹂
﹁ゆっくり抜いて、強く入れます﹂
ぶすっ、ずず⋮⋮ぶすっ、と繰り返していると、次第に膣内も愛
液でぬめってくるのが分かる。肥大化した花芽が触れていないのに
充血し、膨らんできた。そのまましばらく単調な動作を続ける。
﹁イかせないと駄目なのかなぁ﹂
ニエグイのロッドに力を貯める為のルールがよく分からない。ち
なみに今船室には僕とサイミン2人とクローディアだけだが、ニエ
388
グイのロッドの秘密はなるべく公に口にしないようにしている。そ
の意を汲みつつサイミンも答えた。
﹁このまま出し入れを繰り返すだけで蓄えられるみたいです。ただ
し、イかせれば更に効果は高いです⋮⋮一応入れっぱなしにしてお
いても多少の伸びはあるみたいですが﹂
﹁なんで、サイミン詳しいの⋮⋮﹂
それってさ、この前の宝探しゲームで負けた僕を滅茶苦茶にして
くれた時に知ったんじゃない? ご主人様を実験材料にするなんて
⋮⋮酷いよ。
﹁この前は、20回くらいイってみえましたね﹂
サイミンはクスッと微笑む。僕は何だか恥ずかしくなってしまっ
て、乱暴に手を動かした。僕は、20回も!イってません!⋮⋮た
ぶん。
﹁ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮んっ⋮⋮﹂
毛布の下のうめき声は少し鼻にかかった甘い声に変じている。ク
ローディア、この状況で悦べるなら真性だ。僕は遠慮なくロッドに
力を蓄えさせて頂いた。
それは単純な作業である分、なんだか背徳感に満ちている。今や、
クローディアはバッテリーの充電器と同じ扱いだ。中をぐちゅぐち
ゅさせながら呻き、時折体が大きく痙攣する。シーツを挟んでいた
足の指先がピンと伸び、小刻みに震えるのであった。
﹁バトンタッチ﹂
﹁はい﹂
389
我慢できなくなった僕は途中でサイミンに代わり、空いているも
う一つのベッドに突っ伏した。
もうだめ、こっちも疼いちゃって。
そっと指を伸ばすと秘部には蜜が凝っている。花びらを開き、突
き崩すようにしてやると決壊した愛液があふれてきた。
﹁ん、あぅ︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
ブラウスの裾からもう片方の手を差し込み、薄いおっぱいも撫で
る。
﹁はぁっ⋮⋮あっん﹂
女の子の体はなんでこんなに気持ちいいんだろう。隣で物みたい
に犯されているクローディアを思い、更に先日彼女の代わりに受け
た多人数での強姦凌辱の記憶を反芻した。
あれは凄かった。やっぱり﹃媚薬﹄を使うと良い。でも、もしか
したら﹃媚薬﹄なんてなくても良かったかもしれない。ちょっと怖
いけど素で犯されまくって堕ちてみたいという願望、ひそやかな興
味もある。
﹁リリス様、何をなさって⋮⋮!いけません、そんな乱れたお姿、
あぁ⋮⋮あっ﹂
自慰をする僕を見て声が上ずって一気にテンションがおかしくな
っているサイミン。
﹁駄目だよ。サイミンは、そっち。クローディアの相手をしなくっ
390
ちゃ。大事なお仕事だから、ほら、手を休めちゃダーメ﹂
しっしっ、とすげなく手で振り払う仕草をする。サイミンは何と
も言えない口惜しげな悲しそうな表情を浮かべた。
﹁ううっ。生殺しです﹂
﹁はぁ⋮⋮いいなぁ。切なくなってきちゃった。あぁ、誰かボクの
ナカに入れてくれないかなぁ⋮⋮﹂
﹁りっ、リリス様、わたくしで良ければ︱︱︱︱︱︱!﹂
﹁だから、サイミンは駄目だってば。ほら、そっちに集中して﹂
﹁無理です!!﹂
こうやってサイミンをからかうのも楽しい。本当にシたくなっち
ゃったけど、流石にこの場で2人だけを残して﹁じゃ、あとはよろ
しく﹂っていうわけにもいかないよね。僕は自分の指で一度イき、
満足してベッドに突っ伏した。
小一時間ほどして、サイミンの声で目が覚めた。
﹁⋮⋮さま、リリス様⋮⋮バトンタッチです﹂
﹁ふぇ? あぁ、はいはい﹂
僕は目をこする。いつの間にか、うたた寝していたようだ。時計
を見たが、まだログアウトまでは余裕がある。
起き上がってクローディアの横たわるベッドに近づき、一度ロッ
ドを引き抜いて確認すると、既に半分以上のゲージが貯まっていた。
ロッドを抜き差ししても、既にクローディアは呻かなくなっている。
心配になって布団をめくり、口の戒めを解いたが、熱っぽい息をす
るだけだった。
﹁大丈夫かな。一応、回復魔法かけておこうか﹂
391
﹁その方が良いと思います﹂
どういう計算式かは知らないが、戦闘外での疲労や傷もステータ
スにはちゃんと影響する。クローディアは僕のパーティーメンバじ
ゃないから残HPも分からないし、念の為回復しておく。
そして今度は役目を交代して再開したエナジー補給の途中で、サ
イミンが僕の後ろから抱きついてきた。
﹁わっ。なぁに﹂
﹁なんでもありませんわ﹂
しかしその手は僕のスカートの中に伸び、ショーツの上からお尻
を撫でる。
﹁ちょ、ちょっと。いたずらしないでよ﹂
﹁えぇ、もちろん﹂
サイミンの手はショーツの上からでも的確に僕の気持ちいいとこ
ろを押さえてくる。焦らすような優しい愛撫が始まって。後ろ抱き
の状態で耳に息を吹きかけられた。
﹁ひゃん、やめてよ、今、忙しいんだから﹂
体を捩じって抗議しようとすると、サイミンにキッパリと戒めら
れた。
﹁駄目ですわ。リリス様。クローディア様の相手をしなくては。大
事なお仕事なんですから、ほら、手を休めてはいけません﹂
392
393
episode14︳2︵後書き︶
次話は、ライラック港町です。
394
episode15︳1:奴隷
ライラック港町は遠目にも分かる大きな街だった。港には先着の
大型帆船が浮かんでいる。ここは女神の世界の商業中心地のひとつ
だという。ここで船を乗り換えるユーザーも多く、乗船客のほとん
どは降りる支度をしていた。
甲板に集まったユーザー達の口調も明るく、船上で仲良くなった
冒険者たちが別れを交わす姿もあった。キチジョウがやってきて﹁
まだ返事をもらっていない﹂と言うので何の因縁かと思ったら勧誘
の件だった。僕は笑いながら今度こそきちんと断った。
キチジョウの後ろからクローディアがおずおずと顔をのぞかせ、
僕の顔を見て落ち着かなげにキョロキョロしたかと思うと、真っ直
ぐこっちを向いて﹁いー﹂の顔をした。
この子はあんなことがあっても相変わらずログインしてるし⋮⋮。
僕が呆れつつあっかんベーを返すと魔女見習いは子どもみたいに口
をとがらせてからプイ、と顔を逸らした。
低い汽笛が高い空に満ちるように響く。
船から降り立つと、ふいに潮風が香った。振りかえって一度船を
眺め、踵を返して歩き始めた。親しげに手を振ってくれる人もいた
が、街の門をくぐればそんな一時の旅の連れ合い達も大通りの雑踏
に紛れて見分けがつかなくなった。
轍の残る堅い大地を踏む僕を迎えたのは人の喧噪。荷を引く馬が
混雑する大通りをじれったく行き交う風景だった。
395
﹁わぁ⋮⋮にぎやか﹂
﹁ほんとうですね﹂
﹁今まで寄ってきた街が小さかったのかな﹂
﹁いえ、わたくしもこの街に来るのは初めてですが、これほど大き
い街はこの世界でもそう多くありません﹂
﹁だよねぇ。⋮⋮あ、あれ、地図かな﹂
僕は、前に大きなたすきをかけて腹とその間に新聞のような紙を
いっぱいに挟んで売っているらしき男を指さした。もしも街の地図
なら、欲しい。地図は入手してもアイテムとしてはカウントされな
いが、﹃地図﹄ウィンドウで地理を見ることができるようになる。
﹁行ってみましょう﹂
雑踏を縫って大通りの反対側に渡ってみると、予想通りだった。
﹁サイミンも欲しい?﹂
﹁いえ。わたくしは自力で埋めるくらいの時間がありますから﹂
﹁そっかーなんか悪いね﹂
﹁とんでもないですわ。むしろ、わたくしに地図を与えようとした
ご主人様はリリス様が初めてです﹂
﹁ん、そう?﹂
だってサイミンはXレベルの高度AIだけあって、普通の人間と
変わらないように見えるからなぁ。⋮⋮僕の認識の方がおかしいの
かな。
僕は1枚1000Gで地図を買い、さっそく﹃使用﹄して記憶さ
せた。周囲には同じように地図を買ってウィンドウを開いている、
つまり傍目にはボーっとしているように見えるユーザーキャラたち
がたくさん立ち尽くしている。
396
人混みがうっとうしかったので大通りを折れて、中通りに面した
大きなカフェに入った。洒落たカフェなんてリアルに一人で入るの
は勇気がいるけれど、リリスにはぴったりなのでテンションが上が
る。
中に入ると白と茶色を基調としたカントリー系の店で、焼きたて
菓子の甘くて香ばしい香りが満ちている。僕はおススメの﹃ふわふ
わドーナッツ﹄をサイミンと僕用に二つ買い、丸テーブルに腰掛け
た。
地図ウィンドウを縮小サイズにして開き、テーブルに広げる。
﹁ええと、今ここだね。﹃ケティのドーナッツカフェ﹄。そっか、
僕らは裏門から入ったんだ。裏門でこれだけの賑わいって、すごい
なぁ﹂
﹁リリス様、どこか、行きたい場所はありますか?﹂
﹁うーん。この街では奴隷が買える、って聞いたんだけど﹂
﹁奴隷をお買いになるのですか?﹂
﹁⋮⋮買うかどうかはさておいて、見てみたいよね。どんな風に売
ってるのかな﹂
﹁競売と定額売買がありますよ﹂
﹁へぇ、オークションかぁ。面白そう⋮⋮あぁ、ここかな?﹂
僕は地図を指差す。標準店の色で﹃奴隷商﹄と書いてある。
﹁こちらにもありますね﹂
﹁ほんとだ。2か所あるんだね﹂
地図を見て、とりあえず標準の武器屋と道具屋、酒場とギルドの
位置を確認した。色んなお店があるようだったが、特に面白そうな
397
のは﹃ペットショップ﹄と﹃エステサロン﹄、﹃見世物小屋﹄くら
いか。ちなみにこの面白そう基準はエロの気配がするか否か、であ
る。
﹁奴隷って、いくらくらいするものかな﹂
﹁ピンキリでしょう。百聞は一見に如かずと言いますし、早速行っ
てみますか?﹂
﹁うん!﹂
奴隷を買おうだなんてリリス様、非道です!見損ないました、と
かサイミンに言われなくて良かった。僕は元気よく返事して立ち上
がる。
さっきは気取って﹁ちょっと興味があるだけ﹂みたいに答えたけ
ど、本当は凄く興味がある。手の届く値段なら、是非とも欲しい。
可愛い女の子を買って、はべらすんだ。
﹁ニエグイのロッドのチャージ用にも一人、欲しいですよね﹂
﹁へ?﹂
﹁あら、失言でした。聞き流してくださいませ﹂
サイミンは指先を唇にあててしらばっくれた。
⋮⋮何気にサイミンの方が非道?
**
先に訪れた奴隷商は﹃どこより高く買います!安く売ります!宣
言の店﹄と目立つ看板がかかっていて、外側から見えるショーウィ
ンドウみたいなつくりの格子牢があって中に奴隷いた。
店さきには案内の商人がいて、威勢のいい声を出している。格子
398
の前は客で大賑わいだ。
﹁らっしゃい、らっしゃ∼い。うちが女神の世界で一番の奴隷商店
﹃ルグレコ商店﹄。他店より少しでも高く買い、安く売りまっせ∼﹂
格子牢の前に立つ客に店員らしきキャラが隣で何やら説明してい
る。
﹁このスペックで考えればね、間違いなく、絶対安いです。はい﹂
﹁もう少し高くなってもいいから、外見のカスタムってできないの
?﹂
﹁すみません∼。この子たちは量産タイプなので、このパッケージ
でこの値段、なんですよ。色変えはできますが、はい、残念ながら﹂
﹁安い理由がある、ってことかぁ﹂
なんか、全体的に電化製品ショップみたいなノリだ。
近づいて行って牢の中を覗きこむと、中には奴隷が3人大人しく
座っていた。一人はややとうのたった色香のある女性。もう一人は
肌の色が緑っぽく、クルクルの髪の毛に花が咲き乱れている少女。
残る一人は小汚く汚れていて、ぼさぼさの髪が顔にかかって性別も
判断できない小柄な子どもだった。
/ハーフドワーフ/Lv:
横に張り付けられたお品書きにはスペックの概要が書かれている。
■目玉商品
No.2411奴隷・・・女/LAI
21/年齢:31/量産/残数5/色変可/
<価格:3万G>
399
/人間/年齢:
2412奴隷・・・少女 /KAI/精霊/年齢:13
Lv:15/量産/残数11/色変可/
No.
1/
<価格:5万G>
2413奴隷・・・性別不明 /MAI
Lv:3/量産/残数3/色変不可/
No.
13/
<価格:1万G>
ほほう、ほう、ほう。これは⋮⋮。僕はお財布を確認する。所持
金ウィンドウには、現在2万と2200G入っている。
﹁思ったより安い﹂
安い⋮⋮ことは無いのかもしれない。もちろん、数字だけ見れば
大金だ。でも、AIとはいえ、この世界における人間を買うと考え
ればこの値段は予想していたよりずっと安い。
隣で、客が店員に何やら質問していた。
﹁この子たちって、処女なの?﹂
﹁3人とも未使用品です。ただ、﹃乙女﹄属性はついていませんし、
﹃破瓜﹄イベントも発生しない、所謂﹃AI処女﹄ですね﹂
﹁じゃあ、膜はあるの﹂
﹁ありません。膜ありだと﹃破瓜﹄イベント発生になってしまうん
ですよ。あのイベントって、膜の貫通で判定しているんです﹂
﹁へぇ﹂
﹁でも、未使用品なのでもちろん綺麗でよく締まりますよ。いかが
ですか、おひとつ﹂
下世話な話につい注意を奪われる。
400
﹁処女キャラはいないの?﹂
﹁店内2階におりますが、お値段はそれなりに張りますので、一見
様お断りになっております。当店での購入実績があればご案内でき
ます﹂
﹁ええ∼⋮⋮一見様お断りって﹂
﹁申し訳ありません。一階まではどなたでもご自由にご覧いただけ
ますので﹂
そんな会話を片耳で聞きつつ、特売品である3人をもう一度じっ
くりと眺めた。僕的に好みは真ん中の妖精ちゃんかな。美人ハーフ
ドワーフもいいけど、気品の面でサイミンの圧勝だ。
そして一番隅に座っている小汚い子どもの奴隷なら現キャッシュ
で買えてしまう。ああいうタイプが実は磨くと光る、っていうのは
王道だよね。顔にかかっちゃっている髪の毛をちゃんと切って、お
風呂に入れて、服を着せると美少女が現れるという⋮⋮。
でも、お値段からいくとそんなどんでん返しは用意されていない
かな∼どうかな∼。
﹁ええい、思い切ってNo.2413の子、買っちゃおうかなぁ﹂
﹁リリス様は即断即決タイプでいらっしゃいますね。No.241
3は性別不明ですが、本当によろしいのですか? せめて、店内も
見ませんか?﹂
﹁うん。見よう見よう。サイミンの好みの子、いたら教えてね﹂
﹁はぁ⋮⋮。わたくしの好み、ですか﹂
やばい、ウキウキしてきた。何やら難しい顔をして悩むサイミン
を引っ張ってのれんをくぐる。可愛い子いるかな!
401
episode15︳2
自称どこよりも安い店﹃ルグレコ商店﹄の中は広い。石造りの床
はピカピカに磨かれており、ボロ服を着た少女が不断なくモップを
かけている。その奴隷少女の首には木板で﹃非売品﹄とぶら下げら
れていた。
壁にそって丸い鳥かごのような檻が並べられていて、その一つ一
つに奴隷が一人入っている。檻は非常に狭く真上から一本のぶら下
がっている鎖が奴隷の首輪につながっていた。両手両足は自由にな
るが、首が拘束されている不自由な姿で奴隷は立ち尽くしている。
店内は薄暗く、檻の前に貼ってあるプレートを照らす間接照明が
ほとんど唯一の光源だった。プレートにはもちろん、奴隷のスペッ
クと価格が記載されている。
一通り見ていくと、この子も可愛い、あの子も可愛い。例外的に
少年と、成人男子も一人ずついたが、残り全ては美女か美少女だ。
﹁しかし、少年はともかく、このお兄さんは誰が買うんだろうね﹂
﹁スペックとしては良さそうですよ﹂
﹁うん?﹂
/人間/年齢:26
量産/残数1/色変可/職業:魔剣士
1427奴隷・・・男 /MAI
Lv:43/
No.
/
<価格:5万7000G>
﹁あ、そうか。戦闘要員として奴隷を購入することもあるのか﹂
402
Lvと職業を見て思い当たった。まぁ、考えてみれば当たり前か。
ギルドに所属して徒党を組んだりするのが嫌いなプレイヤーにして
みれば、奴隷は戦闘における手頃なパーティーメンバだ。もちろん
﹃商品﹄のほとんどが女の子だという事を考えれば用途は戦闘のみ
にあらずと予想されるけれども。
﹁ん︱︱︱︱︱︱﹂
店先の目玉商品と違って、中の売り物は結構な値段がする。可愛
い女の子達が露出の高いボロボロの奴隷服を着て鳥かごに閉じ込め
られている図というのはなかなか魅力的だ。
﹁いらっしゃいませ。よろしければ、ご案内しましょうか?﹂
プレートの前で悩む僕の横に嫌味なく横から声をかけてくる男性
店員。
﹁あ、じゃあいいですか? あの、こっちの獣人少女と、こっちの
人間少女でこんなに値段が違うのはなんでですか?﹂
﹁はい。それはですね、いくつかの理由がありますが、値札のここ
のマークですね。こちらの獣人少女は調教レベルが星3つ、こちら
の人間少女は星半分ですので。ええ、やはりあまり性的に使われた
実績のある奴隷は嫌だ、というお客様もいらっしゃるわけでして﹂
﹁あぁ、この星マークってそういう意味なんだ﹂
﹁はい。他にはこの欄の数字ですね、こちらの人間少女は初出が1
2908⋮⋮つまり女神暦129年8月で、こちらの獣人少女は1
3202です。AI奴隷は大量生産品が最初にわーっと出回って、
時間をかけて少しずつ回収されていくので、古いものの方がレア度
が高くなるんです。できるだけ他の人がもっている奴隷とかぶらな
い方がよろしいでしょう?﹂
403
﹁あぁ⋮⋮そうなんですか。ええと、つまり、ここにいるのは全員
中古品?﹂
﹁はい。以前に大量生産で新品として売られたものの買戻し品です。
他に完全新品だったり、一品ものだったりするのは二階フロアにご
用意しております。申し訳ありません。二階は一見様お断りになっ
ておりまして﹂
﹁そっか﹂
﹁そう、それに獣人少女の方が安くなるのは、獣人種族っていうの
は好みが別れますからね。せっかく獣人を選ぶなら猫系が良いです
とか、犬系、ウサギ系、牛系がいい、などこだわりたくなるもので
すので、種族は人間の方が汎用性が高いですね。たとえば一般的な
衣料品も赤や青より白黒茶スタンダードカラーがよく売れますでし
ょう。それと一緒ですね﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁詳細スペックはこのプレートのここを展開すると参照できるので
すが、戦闘用にもこちらの人間少女の方が伸びしろがあります。買
ってからすぐに転職できるくらいの評価パラメータが貯まっていま
すので⋮⋮﹂
とか、うんぬんかんぬん。なんだかよく分からなくなってきた。
もう、僕の耳から入った説明はそのままもう片方から流れ出ている。
﹁お客様のご予算はいかほどですか?﹂
﹁え、えぇと、出せて2万Gまでかな﹂
﹁2万ですか⋮⋮そうなりますと、なかなか枠が狭まりますね。お
目に止めて頂きましたこちらの人間少女でも7万Gしますので﹂
﹁うん、だから、今日はどんな感じが見るだけにしておこうかなぁ、
って﹂
すると、店員の目がキラリと光った。
404
﹁大丈夫です! そんなお客様の為に、分割払いもございますので﹂
﹁えっ、でも、ボク、収入のあても﹂
﹁前金とアイテムなどでの担保があればどなた様でもご利用いただ
けますし、いざとなれば稼げる仕事も当方であっせんさせて頂きま
すので﹂
﹁えっ、えっ⋮⋮﹂
話が思いがけない方向に転がってきた。これは警戒、すべきだよ
ね?
﹁いや、でも、やっぱりローンって借金だし、ボク的にはあんまり
⋮⋮﹂
﹁そうですか。分かりました! 2万G以下の奴隷でしたら、当店
では今3体のみですので。どうぞ、こちらへ﹂
﹁は、はぁ⋮⋮﹂
サイミンは店員と話し込む僕に遠慮したのか飽きたのか、独自で
店内を見て回っている。グイグイと押し切られるように僕は一人、
別室に案内された。そこは商談スペースで、2万G以下の奴隷と言
う3人が連れてこられた。二人は女の子で、一人は特売の性別不明
の子どもだった。
﹁特別に、檻から出して連れてまいりました。やはり、近くで見な
いと奴隷の良し悪しは分かりませんからね。あ、そうだ。よろしけ
れば、こちらの奴隷2人は、衣服を脱いで見せましょうか?﹂
﹁えっ、いえ、そんな⋮⋮いいです﹂
遠慮する僕の言葉を最後まで聞かず、奴隷2人はさっさと衣服を
脱ぎ、ショーツまで降ろしてしまった。突然現れた二つのおっぱい、
405
乳首、露わになった陰毛に僕は面食らった。奴隷女は恥じらう様子
もなく堂々と裸体を晒し、命令されずともくるりと一回転してみせ
た。お尻の肉と背中の筋がなかなか綺麗だったが、2人とも背にう
っすらと鞭の傷跡が残っているのが印象的だった。
﹁どうですか? こちらは均整のとれたボディ、こちらは豊満タイ
プです﹂
﹁いやいや、ボク、女ですしー! そんな、裸とか見せられてもっ
⋮⋮﹂
最初はやんわりだったのが、気づけばいつの間にやら完全に店員
のペースだ。女の子の裸は好きだけどこの空気は耐えがたい。僕は
逃げ出したくなって言い訳のように口をもごもごさせた。
﹁あぁ、そうですね。失礼いたしました。やはり、内面重視ですよ
ね。では、お前たち、お客様に自己紹介をしなさい﹂
﹁はい!﹂
﹁はーい﹂
﹁はぃ⋮⋮﹂
あああああ! ほんと、なに、この空気。助けて︱︱︱︱︱︱︱
!!
**
﹃ルグレコ商店﹄を出る僕は憔悴しきっていた。背中から﹁あり
がとうございました∼﹂という威勢の良い声が聞こえてきたが、と
りあえずこののれんをくぐって太陽の下に戻って来たことに安堵の
息を吐いた。
406
﹁リリス様、本当にその子が気に入られたんですね﹂
﹁はは⋮⋮﹂
怪訝そうなサイミンの問いかけに対して、もはや乾いた笑いで返
すことしかできない。バーチャル人格って言う言葉があって、世の
中には現実と仮想で性格がガラリと変わる人間もいるらしい。だけ
ど、僕の場合はそうでもないみたいだ。押し切られて買うパターン
には、強いデジャブを感じる。
僕の隣に立つボサボサ頭の小汚い子どもは薄汚れた奴隷服で、靴
も履いていない。特価品で﹃ルグレコ商店﹄で現在の最安値。
﹁この子が、一番安かったんだよ⋮⋮﹂
も、買うまでここを出しませんよ、みたいな空気の中で、僕が苦
心の挙句に選んだのはとにかく一番安い奴隷だった。提示された3
人の奴隷の中からじっくりと腰を据えて選ぶ気力も失せていて、ぱ
っぱと脱ぐ中古品の女奴隷たちには逆にげんなりしてしまったのだ
った。
⋮⋮でも、いいんだ。1万Gはどう考えても破格のお値段だし、
こういう原石は磨けば光るのが相場なんだから!
﹁あら?﹂
立ち止まって奴隷の子どもの体にペタペタ触れながら、サイミン
が不思議そうな声を出した。
﹁あら? あら、ら﹂
﹁⋮⋮どうしたの﹂
407
嫌な予感がしながら僕は尋ねた。すると、サイミンは奴隷の子ど
もの髪の毛をかきあげながら、少し困ったような表情でこちらに向
かって言った。そこにあるのは、深い紫の瞳が理知的で、中性的な
顔立ちだった。
﹁リリス様、この子、男の子ですわよ﹂
﹁な、なんだと︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
往来の真ん中で、僕は、叫ぶ。内心に吹き荒れる衝撃とは裏腹に、
リリスの声は叫び声も可愛らしく響くのだった。
408
episode15︳3
奴隷と言うのは、意外とお金がかかるものらしい。もちろん本体
購入資金も高額だが、今回の場合﹃入浴﹄﹃美容院﹄﹃衣服の新調﹄
の3点が必要だった。
入浴施設という発想には一瞬色めき立ったが、残念ながら銭湯が
あるわけではなく﹃奴隷を綺麗に洗う風呂屋﹄というものが存在し
た。おそらく奴隷売買が名物のこの街ならではの商売だろう。まず、
これに2000Gかかった。
﹁高いなぁ⋮⋮﹂
これが美少女だったら安いものなんだけど。男の子だったと思う
と諸経費も惜しい。いっそ即座に転売してしまおうかとも思うが、
男だとわかった時点で売値は5分の1程度だと聞くとその気も失せ
る。
風呂屋から出てきて、奴隷の彼が初めて口を開いた。
﹁入浴させてくれてありがとうございました﹂
﹁ん、どうだった﹂
﹁どうだった、とはどういうことでしょうか?﹂
﹁入浴の感想は?﹂
﹁はい。サッパリして気持ちがいいです﹂
13歳、変声期を迎えていてもおかしくないが、軽やかな声だ。
風呂で綺麗にした頬はきめが細かく、もつれてうっとうしかった黒
髪もサラサラしている。身長はリリスと同じくらい。小柄かつ細身
で手首は折れそうに細い。
409
﹁きみ、名前は?﹂
すると、奴隷の彼は困ったようにうつむいた。サイミンが横から
そっと口を挟む。
﹁リリス様、奴隷は、過去の名前を捨てるように教育されています﹂
﹁そうなんだ? じゃあ、ボクがつければいいの?﹂
﹁はい﹂
﹁よろしくお願いします。ご主人様﹂
﹁⋮⋮え、あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮まぁ、いいか﹂
ご主人様呼ばわりされたことに多少の抵抗を感じつつ、僕は奴隷
の名前を考えた。目の色が紫だからパープル?バイオレット?ムラ
サキ?⋮⋮なんか、呼びにくいな。略称でパープ⋮⋮頭悪そう、バ
イオ⋮⋮生体兵器かよ、ムラ⋮⋮村?⋮⋮︱︱︱︱︱︱。
﹁う∼ん⋮⋮そんなスグにいいの思いつかないよ。﹂
僕、こういうの苦手なんだよ。リリスの名づけの時だって、妖艶
な女悪魔のイメージで適当につけちゃったんだし。
﹁サイミンお願い﹂
﹁いえ。名づけは主人の特権ですから。わたくしごときが差し出が
ましい真似はできません﹂
﹁ううう。じゃあさ、別にいいからさ、きみ、過去の名前教えてよ﹂
﹁えっ⋮⋮過去の名前は⋮⋮﹂
奴隷の彼は遠慮して口ごもったあと、おずおずと言った。
410
﹁メイノです﹂
メイノ、か。M
﹁じゃ、メイノ﹂
−
AIかな?
﹁よろしいのですか?﹂
﹁いいよ。名前がコロコロ変わったら呼ばれるほうだって嫌でしょ﹂
すると、メイノは口を閉ざして、何か考えているようだった。
﹁ありがとうございます。ご主人様﹂
ひょこっと首から折れて腰が折れ曲がるお辞儀は下手くそだった
けど、両手が膝の上にあって、礼儀正しい。やっぱり、会話の反応
とかが、サイミンと比べてずっとたどたどしい感じがするけど、ま
ぁ、これはこれで愛嬌があるか。
不思議なもので、ちょっと会話して名前を決めるだけでじわじわ
と愛着が出てくる。男の子を買うつもりは無かったけど、意外と悪
い買い物じゃなかったかもしれない。
次に﹃美容院﹄に行く。ここは現実世界と違って髪の毛を切るだ
けではなく、伸ばすこともできるそうで、つまりアバターの髪型を
自由に変更できる施設である。
﹁さて、どんな髪型になさいますか?﹂
カット⋮⋮100G
パーマ⋮⋮200G
セット⋮⋮500G
ロング化⋮⋮1000G
411
色替え⋮⋮2000G
その他加工⋮⋮応談
﹁よし、メイノは女装子でいこう﹂
﹁じょそこ?とは、なんですか?﹂
見ると、サイミンも首を傾げている。
﹁女装する男の子、だよ。メイノは中性的な顔立ちだし、綺麗な肌
してるから似合うと思う!﹂
﹁はい﹂
メイノが頷く。今のは何の肯定だろう。まさか自信があるとか?
⋮⋮とりあえず、本人の承諾も得られたことだし、いいか。
考えれば考える程に楽しくなってくる。そうと決まれば、金に糸
目をつけている場合じゃない。
﹁髪の毛の色は、ボクがピンクでサイミンが黄色だから⋮⋮。メイ
ノは青っぽいのがいいかな?﹂
﹁素敵だと思います。しかしながら、この黒髪も綺麗ですよね。あ、
銀髪もいいのでは﹂
﹁いいね∼。男の娘なら、ロングヘアより、短髪の方がいいかなぁ﹂
﹁メイノは目元が涼しげですから、甘々なロリ系にするより、ゴシ
ック系にした方がいいかもしれませんわね﹂
何気にサイミンものってきた。一人、メイノだけ会話についてい
けないようで怪訝な表情だ。
そして数時間後、ツヤのある深い紺色が背中を滑り落ちるような
ロングヘアのメイノが現れた。前髪は長めで少し目にかかる程度に
412
して軽く分けている。ぱっつんにすると甘くなり過ぎるので、この
塩梅にはこだわりの注文をつけたのだが、上手く仕上がっていた。
深みのある紺色の髪はメイノの紫の瞳によく似合う。髪型を変え
ただけでがらりとイメージが変わっていて、僕は想像以上の見事さ
に息を飲んだ。これなら3100Gも惜しくない。
﹁髪の毛を整えて下さって、ありがとうございました。ご主人様﹂
メイノはまた、下手くそなお辞儀をペコリとした。やたらと深さ
があるので、ロングヘアが背中から前方に滑り落ちて、地面につき
そうになった。お辞儀の仕方は後でサイミンに教えてあげるように
言っておこう。
﹁いい! いいね。じゃあ、次は洋服だね﹂
﹁服まで買っていただけるのですか? ありがとうございます﹂
感動した声音でメイノが言う。
﹁女物だけど、いい?﹂
﹁はい﹂
よし、言質は取った。僕は地図を開いて衣服を買う店をチェック
する。標準的な装備品ならば防具屋だが、アバターの装飾をメイン
とする﹃ブティック﹄があるようなので、そちらに足を運んだ。標
準店の﹃ブティック﹄の周囲には非公認のユーザーによるセレクト
ショップが並んでいて、露店もあわせて大規模なファッションスト
リートになっていた。この世界に女の子のプレイヤは少ないはずだ
が、ここでの女子比率は驚くほど高い。少なくない割合でNPCが
まざっているとはいえ、だ。
すぐ脇で、女の子の冒険者がきゃっきゃと買い物をしていた。
413
﹁このアクセ、超可愛い!﹂
﹁あ、それ、シルバーなんですよ。うちのオリジナルデザイン。女
神の世界にただ一つの一点もの﹂
﹁おいくらですかー?﹂
﹁3000Gです﹂
﹁何か付与効果はあるんですかぁ?﹂
﹁シルバーなので﹃破魔﹄効果がつきます﹂
﹁﹃破魔﹄かぁ﹂
露店に並ぶ衣料品も色とりどりで、ふわふわしていたり、ヒラヒ
ラしていたり、キラキラしたりしている。僕は試しに一番手前のセ
レクトショップに入ってみたが、馴れ馴れしげな店員にビビッて早
々に出てきてしまった。
いや、だってさ開口一番が﹁いらっしゃいませー﹂じゃないんだ
よ。﹁それ、すごい可愛くないですかぁ?﹂って話しかけてくるの。
え、どれのこと?と思ったら、僕の視線の先にあるドクロマークの
ウサギのTシャツ⋮⋮全然可愛くないし!
しかし、そんなことを繰り返しているうちに買い物に慣れてきた。
コツは、店員が話しかけてきたら最初は少し愛想よく対応しておい
て﹁あ、ちょっと適当に見てていいですか?﹂と断る事だった。す
ると店員は笑顔で﹁どうぞどうぞご自由に﹂とか﹁何かあったら呼
んで下さい∼﹂とか言って離れていった。なんか、ゲームだという
のにリアルに僕の社会勉強になりそう。
﹁こんなの、どうかなぁ﹂
僕は白黒のゴシックなドレスがかかったハンガーを手にしてメイ
414
ノの体にあてる。可愛い。ってか、メイノ可愛いよ。何着ても似合
いそう。
﹁正直、ボク、女の子の服装を選ぶセンスって無いんだけど⋮⋮サ
イミンはどう思う﹂
﹁う︱︱︱ん⋮⋮。実はわたくしも補色関係とか、デザイン的な知
識はデータベースに不足していまして。人間の﹁可愛い!﹂の傾向
の蓄積もあまりないものですから、リリス様に教えて頂きたいくら
いなんですよね﹂
﹁ボクに教わるのは無茶だよ﹂
﹁そうなのですか?﹂
だって、ねぇ⋮⋮皆までは言うまい。
﹁メイノは、好みとか無いの?﹂
﹁何の好みですか?﹂
﹁服とか、衣装の好み。好きな色とか﹂
﹁特にありません﹂
簡潔な答えだった。こうなっては己の力に頼るしかない。僕は片
っ端から服を見て、気になるのはメイノにあてていった。上下を別
で購入するのは難易度が高いので、ワンピース系の服に絞り、さら
に、紺の髪の毛と涼しげな目元にあうようにピンクや花柄などのあ
まりに少女っぽい服はさける。そのうちに、大きな悩みが一つでき
た。
﹁スカート丈が決まらない⋮⋮﹂
﹁スカート丈ですか。重要ですか?﹂
﹁めちゃくちゃ重要だよ﹂
﹁そうなんですか﹂
415
女装子を極めるなら女の子っぽい広がったスカートもいいが、メ
イノは足が綺麗だ。奴隷服からすらりと伸びたおみ足は細く健康的
で肌質もいい。これを隠してしまうと言うのももったいない気もす
る。
でも、僕は短いフレアスカートだし、サイミンは膝上丈のタイト
スカートだもの。3人そろって足を露出するというのもなんか似た
り寄ったりで芸が無い。
﹁うーん⋮⋮いっそショートパンツにしちゃう?いや、流石にそれ
ははばかりがあるかな。バランスでいったらロングスカートだけど、
足が隠れちゃうのはなぁ⋮⋮﹂
﹁わたしは何でも構いませんが﹂
﹁ボクが構うの。⋮⋮って、あれ? メイノは一人称﹃わたし﹄な
んだ﹂
﹁はい。気に入らないようでしたら、変更も可能です﹂
﹁いいよ。﹃わたし﹄ね⋮⋮。うん。いいね﹂
僕っ娘でも俺っ娘でも構わないけれど、わたしは無難だよね。こ
の落ち着いた性格で﹃あたし∼﹄とか﹃メイノちゃんは∼﹄とか言
わせても痛いだけだし。
﹁リリス様、今日はログイン時間が長いようですが、お時間は大丈
夫でいらっしゃいますか?﹂
﹁そうなんだよね! あぁ! 決まらない!﹂
実はさっきから、何度か強制ログアウトまでの時間の警告がシス
テムから飛んできている。女の子の買い物に時間がかかる理由が分
かった。男と違って、選択肢が多過ぎるんだ。このセーラー服をイ
メージした短いプリーツスカートのワンピースにするか、前の店で
416
見た、修道服風のグレーのロングドレスにするか⋮⋮。
そんな時に、ふとメイノが手に取った紅色の衣服が目についた。
それは黒い糸で縁取りと刺繍の入ったチャイナドレスだった。
﹁そ、それだ︱︱︱︱︱︱!!﹂
ロングスカートのスリットからチラチラ見える美脚のなまめかし
さ。素晴らしいアイデアじゃないか。チャイナ服はメイノの雰囲気
にもぴったりだ。
そのチャイナドレスを1200Gで購入すると僕の財布の残りは
5900Gになっていた。いつの間にやら随分と寂しくなっている
が構わず僕はそこから3000Gをサイミンに預けた。
﹁これで、メイノに靴とか、アクセサリーとか買い揃えておいて。
チャイナ娘のイメージで!﹂
﹁ええっ。わ、わたくしが決めるのですか!?﹂
﹁大丈夫、サイミンならできるよ。メイノの希望も聞いて決めて﹂
﹁わたしの意見⋮⋮? 靴と、アクセサリーだけで良いのですね?﹂
﹁あ、下着も女物で。他にも、女装子に必要そうなものがあったら
買っておいて﹂
﹁リリス様! 難問ですわ!﹂
メイノはまた怪訝そうな顔をしている。サイミンは何か分からな
いことがある時はきょとんとするが、メイノはこの怪訝な表情を取
るらしい。可愛い女の子が眉間に皺を寄せるもんじゃないんと思う
けど。
と、再び強制ログアウト時間までの残数字が響き、僕はサイミン
に後を託して慌てて飛び出した。この街は広いから、ホームポイン
トまでも遠い。こう、いっつもログアウト時間ギリギリになる癖は
417
なんとかしなくちゃ。そろそろゲームにも慣れて来たし、タイムア
ウト時間の設定を長目にとってみてもいいかもしれない。
418
episode15︳3︵後書き︶
次話のエロはやや倒錯的になりそうな予感。
女装子が苦手な方はスキップして下さい。
419
episode15︳4
次のログインは楽しみだった。サイミンの奮闘を想像しつつ、メ
イノの出来栄えに浮き立った。もちろんガッカリな結果が待ってい
るかもしれないが、遊びみたいなものだから、笑っちゃうオチが準
備されているならそれでもいい。
⋮⋮と、思っていたのだ。
﹁ご主人様、いかがでしょうか?﹂
サイミン達と合流し、おずおずと前に立つメイノの姿に僕は目を
瞠った。
しだれ柳のような細腰には金帯と飾り紐が垂れ、むき出しの肩か
ら伸びる腕の先にはすきとおった螺鈿模様の手袋。濃紺の髪は房を
二つとってツインテールに結ってある。 大きく入ったスリットから見える太ももにはガーターベルトが子
どもの体に不似合いな色香を覗かせている。一方で、足先はヒール
のない刺繍の入った柔らかそうな靴で小さな足を可愛らしく見せて
いた。
﹁こんなものも、買わせて頂いたのですが﹂
そう言ってメイノが懐から取り出して開いたのは黒地の扇子だっ
た。ツ、と動かして口元にあてると、憂いを帯びた紫の瞳が妖しげ
に人を惹きつける。よくみると、まぶたの隅に朱が刷いてあった。
幼さと色っぽさがアンバランスに調和し、見る者の目を捕えて離さ
ない魅力がそこにはあった。
420
﹁すごい⋮⋮﹂
素晴らしい。やっぱり、王道っていうのはこうでなくっちゃいけ
ない。格安1万Gで買った石ころは、ダイヤの原石だったのだ。そ
んじょそこらのアバターの比じゃない。認めるのは悔しいけどリリ
スより魅力的なんじゃないかな、この子。
﹁サイミン、メイノ、グッジョブ! 最高!﹂
すると、2人はホッとしたように顔を見合わせ、微笑んだ。メイ
ノの笑顔を初めて見た気がするけど、やっぱり可愛い!可愛いよー。
僕は思わずメイノに抱きついた。
﹁わっ。ご主人様?﹂
﹁しかも、なんか、いい匂いがする∼﹂
﹁はい。それは、この扇子だと思います。ビャクダンという香木を
使用しているそうです﹂
﹁そうかな。なんか、メイノからいい匂いがする気がする∼﹂
そうですか?と自分の匂いをくんくんするメイノ。よし、じゃあ
素敵にお洋服を着たところ悪いけれど、それを脱ぎ脱ぎしましょう
か!
**
宿を取る僕は、すっかり少年買春している犯罪者の気分だった。
何をされているのかよく分かっていないメイノに女物の服を着せて
ホテルに連れ込んでいるのだから、言い訳の余地は一ミリも無いの
だけど。
421
﹁メイノちゃんはさ∼こういうの初めてなの?﹂
﹁初めて、とは何がですか?﹂
﹁いや∼最近の若い子は進んでいるからなぁ。はっはっは﹂
﹁進んでいる、とは何がですか?﹂
怪訝な顔をするメイノの手をひいてベッドに座らせ、手の甲を撫
でる。
﹁すべすべの肌だね∼。若い子はいいね∼﹂
﹁ご主人様も、十分にお若いと思いますが⋮⋮﹂
﹁いいのっ。こういうプレイなの!﹂
ザ、エロオヤジの買春プレイ。リリスがやるのには無理があるか。
しかし、メイノは素直に頷く。
﹁はい。プレイ、ですね﹂
﹁も∼っ。絶対に意味分かってないよね。ところでさ、メイノは本
当のところ、エッチの経験はあるの?﹂
﹁ありません﹂
やっぱり、そうなのか。﹃ルグレコ商店﹄で聞いたが、量産型の
奴隷は最初新品の安値でわーっと販売されて、あとは中古として出
回る。メイノは量産型の初期セール販売で買ったから、新品のはず
なのだ。AI処女は﹃乙女﹄属性は無いという話だけど、男の子の
場合どうなるんだろう。
﹁ちょっとさ、体触ってもいい?﹂
⋮⋮駄目だ。これじゃ、本当に買春している変態みたいだ。軽い
422
自己嫌悪に陥った。しかし、メイノは真剣な表情で頷き、言った。
﹁ご主人様に精一杯お仕えしたいと思います。どうぞよろしくおね
がいします﹂
﹁虐めてもいいの?﹂
﹁ご主人様に虐めて頂くなら本望です﹂
﹁わー⋮⋮ぁ。もう、そんなこと言っちゃってさぁ。ボクが外見可
愛い女の子だからって甘く見ると痛い目見るよ﹂
メイノは男の子だ。だけど、外見は滅茶苦茶可愛いし、ここは仮
想世界。なおかつ、僕自身の体は今は女の子なのだから、何のはば
かりも無い。敢えて言うなら13という年齢に関する数字がヤバい
気はするけど、ね。
僕はメイノの頬にキスをし、押し倒して足先から軽い靴を外して
放り、スリットから覗く太ももに手を這わせた。やたらと色っぽく
チラチラする黒のガーターベルトを外す。女の子のストッキングを
脱がせるのは初めての経験で、破ってしまわないか心配になったけ
ど、ゆっくり引き下ろすと脛のあたりからは一気に引っ張ってもス
ルリといけた。
﹁なーまーあーしー。ふふっ﹂
ご機嫌で僕は足を何往復もスベスベ撫でる。すると、メイノがく
すぐったそうに身をよじる。
﹁ぁ⋮⋮ぅ⋮⋮﹂
くすぐったそうに? あれ? なんか反応が。
423
﹁は⋮⋮ぁ﹂
内またに手を差し入れ、反転してお尻の方を撫で上げると、熱っ
ぽい吐息がこぼれた。
﹁あれ?どうしたの﹂
﹁気持ちいい、です⋮⋮﹂
﹁素直だね。じゃあ、こっちは?﹂
肩がむき出しの二の腕をさする。ついでに、手袋をひっぱって外
す。ぴったりとしたチャイナドレスの生地はシルクのようで、背中
の真ん中をなぞると、またメイノが呻いた。
﹁なんだなんだ、メイノ、感じやすいなぁ!﹂
﹁はい。ふしだらな体なんです﹂
﹁そういう言い回しは習ったの?﹂
﹁はい⋮⋮商店で覚えさせられました﹂
﹁ふぅん。でも、ふしだらな体、は初体験の子が使う言葉じゃない
よん﹂
僕はメイノの背中のファスナーを引きおろし、上半身だけ剥いた。
現れたのはもちろん平らかで、ふくらみのない胸板だけど、すべす
べで顔や腕より更に白い雪みたいな肌だった。
﹁んっ、うぁっん⋮⋮﹂
﹁喘ぎ声の出し方も教わったのかな?﹂
﹁いえ、は、あの⋮⋮これは、その⋮⋮﹂
つるぺたの胸に触れると、本当に男の子なんだなぁ。でも、なん
か、一周回ってそれが楽しくなってきた。顔を近づけ、れろりと小
424
さな乳首を舐めるとメイノが眉をしかめて身をよじる。
﹁ん︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮う︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
舌で転がすように執拗に愛撫すると、メイノは浅い息を繰り返し
ますます苦しそうになってきた。
﹁どうしたの﹂
﹁いえ。何でもありません﹂
﹁そう?﹂
歯を立てて少しカリッと引っ掻いてやる。
﹁ふあぁっ、ん⋮⋮!﹂
﹁気持ちいい?﹂
﹁っ⋮⋮わっ、わかりません﹂
﹁ふーん﹂
僕は少し意地悪な気持ちになって身を起こし、メイノの股間に足
の裏で触れた。チャイナドレスの布の上からでも、触れればそこが
固くなっているのが分かる。
﹁気持ちいいんじゃなかったら、これは何?﹂
ぐい、と少し強く押す。
﹁うっ、ぁ⋮⋮あの、お許しください﹂
﹁奴隷の分際で、ご主人様より気持ち良くなっちゃうなんて、けし
からん、だよ﹂
﹁は、い⋮⋮。おっしゃる通りです﹂
425
ぐりぐりぐりぐり。なんかさ、メイノってば子どもの癖に、この
感触。結構大きい⋮⋮よね。僕は足の裏でまさぐるように検分する。
﹁うっ、あ、ご主人、さまぁ。もう⋮⋮そこは⋮⋮﹂
泣きそうな表情で、メイノが目を潤ませる。
﹁下着、脱いで﹂
﹁はい﹂
するりと、足から引き抜かれたのは確かに女物の下着だった。男
の子がこんな下着を履くなんて、変態だよね。自分が命じたことだ
けど、きちんと守っているメイノが気の毒でもあり、おかしくもあ
る。
僕はニエグイのロッドを出して、山羊頭の形状のまま、先端の細
長い方をメイノのスカートに入れて、裾をめくりあげた。開かれた
スリットの間から露わになる生足がなまめく。やっぱりチャイナド
レスはこのチラリズムが良いなぁ。
﹁その恰好、すごく似合ってるよ﹂
﹁あ、ありがとうございます﹂
﹁本当に、女の子みたい。﹂
にっこり笑って、僕は続ける。
﹁ボクさ、本当は女の子の奴隷が買いたかったんだ。だから、メイ
ノにはなるべく女の子の振る舞いをして欲しいなー﹂
﹁はい。分かりました﹂
426
うんうん。素直で宜しい。それから僕は手にしていたロッドをメ
イノの足の間に挟み入れて、てこの原理で力を加えて脚を開かせた。
﹁あっ﹂
片手でスカートの端をつまみ御開帳すると、そこには残念ながら
男の子の物がある。
⋮⋮ん。やっぱり、大きい。この年齢でこの外見でこの持ち物は
創造主様、ちょっと過剰サービスなんじゃないの。
僕はショーツを降ろしてメイノの上にまたがり、固くなったそれ
を手で掴んで濡れたまんこの入口に擦り合わせた。
﹁あ、ご主人様、ぁ﹂
﹁駄目だよ。メイノは女の子なんだから、こんな風に反応しちゃ﹂
﹁あっ、あううっ⋮⋮﹂
愛液で滑る花びらに触れさせ、ぬるぬるをまとわりつかせる。リ
リスの体もすっかり準備万端。こういう1:1でのノーマルSEX
は久々だから、期待しちゃうよね∼と思い、あぁ、全然ノーマルじ
ゃないかと思い直す。
﹁命令だよ。イっちゃ駄目だからね。ボクのナカで射精したら許さ
ないよ﹂
﹁はい⋮⋮﹂
消え入りそうな声でメイノは答えた。とりあえず、言葉の意味は
通じたようだ。M−AIの会話レベルがどれくらいなのかは気を配
らなくちゃいけないとこだ。僕はそのまま腰を落として、ペニスの
427
尖端を割れ目に挿し入れた。
﹁んっ⋮⋮んあっ﹂
あ⋮⋮いい⋮⋮。僕は思わずその快感に声をあげた。リリスのぴ
ったりと閉じた挿入口がずぶずぶと開かれていく。僕の下でメイノ
は苦しそうに眉間に皺を寄せている。でも、絶対気持ちいいに決ま
っている。
さて、どれだけ我慢できるかな⋮⋮と、たっぷり焦らして責めた
い気持ちもあるけど、だめ。僕の方が止まんない。
さらに腰を降ろして、8割がた飲み込む。奥の方がひくひくして
内壁をぜん動させ、侵入物を締め付けるのが分かる。すると、メイ
ノのペニスが中でビクリと蠢いた。
﹁あっ⋮⋮だめ、です。ご主人様。もう⋮⋮イっちゃいます﹂
﹁んっ。だめ、だってば。がまん、がまん﹂
そう言いながら僕は腰を揺らす。メイノにはもう全然余裕が無い
のが分かる。まぁ、初めてなら仕方がないよね。むしろ、挿れただ
けで出ちゃわなかっただけ、偉いかな。
﹁ひっ、いいっ。だめ、ですっ、あぁっん。お願い、します。もう、
許して﹂
僕はゆっくりと腰を持ち上げてカリが引っ掛かるギリギリまで引
き抜き、そこで一旦止まった。猛々しいペニスが必死で耐えている
様子が伝わってきた。いじらしいよね。僕はペロリと自分の唇を舐
める。
428
﹁我慢、だよ﹂
それから、一気に腰を降ろしてペニスが膣を突くように根元まで
飲み込んだ。
﹁あぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ぁっ︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱﹂
一番奥に、びゅるっと勢いよくほとばしる精液を感じる。膣にね
っとり絡みつく白濁した欲望のありようを、僕は想像した。膣にい
っぱい存在感を感じる肉棒の熱さにリリスの体は間違いなく悦んで
いる。欲しかったものが欲しかった場所に収まったような充足感。
﹁んっ⋮⋮ふぅう﹂
体重を腰に落として深い息を吐く。身体に痺れるような快感が染
みわたる。見るとメイノは小さくしゃくりあげるように泣いていた。
429
episode15︳4︵後書き︶
いじめじゃないよ。︵虐めてるけどw︶
メイノ虐めるの楽しい。
430
episode15︳5
ぽろぽろ涙をこぼすメイノを見てちょっと慌てつつ、その頭を優
しく撫でた。大丈夫?と聞こうとすると、メイノの方が先に口を開
いた。
﹁わたしっ、ひくっ、ぐすっ⋮⋮ごめんなさい﹂
僕のナカにはまだメイノのが入ったまま、つながったままだ。
﹁ごめっ、ん、なさい。わたし、うっ、ひく、いっちゃって、ごめ
ん、なさい⋮⋮﹂
﹁我慢、できなかったの?﹂
僕は、メイノの頭を撫でながら尋ねる。別に、怒っているつもり
はない。だが、メイノはご主人様の命令を守れなかった事に強い罪
悪感を覚えているようで、泣き顔が歪み、嗚咽をこらえるのに必死
だった。
﹁がまん、しなきゃって、おもったの、に、ぐすっ、ぐすっ⋮⋮わ
たし、とまらな、っくって⋮⋮ふっう、もうしわけ、ありません⋮
⋮﹂
まぁ、初経験で生挿入、しかも名器と名高い︵?︶リリスのうつ
わだ。我慢なんてできるはずもないよね。可哀相なことしちゃった
かな∼と思いつつ、僕は言う。
﹁やっぱり、メイノは男の子だから、女の子になってもらうのは無
431
理なのかな? ボクはメイノには女の子の振る舞いをしてもらいた
いんだけど、できないのかな? 残念だな﹂
なるべくきちんと意味が伝わるように言葉を選び、最後にわざと、
大きなため息をついた。すると、メイノは上半身を起こそうとしな
がら︱︱︱僕が乗っかっているから起こせないんだけど︱︱︱答え
た。
﹁いいえ! わたし、きっとご主人様のために女の子になります!﹂
﹁よく言った。偉い。メイノ﹂
﹁はい。頑張ります﹂
﹁ん、じゃあ、これは、どう?﹂
そう言い、僕はイったばかりのメイノのペニスを咥えこんだまま、
上下に腰を動かしてなぶり始めた。すると、メイノは小さく震えた。
﹁あっ⋮⋮﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱?﹂
﹁あう、は、ぁっ⋮⋮﹂
じゅぷ、じゅぷ、にゅるにゅる。精液と愛液が混ざったドロドロ
が膣内でまざりながら、肉壁はペニスにまとわりつく。
﹁ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮っ、あっ⋮⋮﹂
メイノは必死で快感を押さえて理性で肉体をコントロールしよう
としているようだが、無駄な抵抗、あがきである。そんなこと、眼
下の反応を見れば手に取るように分かる。
﹁どうしたの、メイノ、なんだかボクのナカで、固くなってきたも
432
のがあるみたいだけど。まさか、メイノはペニスを大きくしたりし
てないよね?﹂
﹁は⋮⋮、っ、っはい。わたし、そんなっ、こと⋮⋮﹂
﹁そうだよね。だって、メイノは女の子になってくれるんだもんね。
女の子は射精したりしないもんね∼﹂
﹁んっ、うっ、あ! だめ、だめです⋮⋮﹂
﹁んん? ご主人様に禁止するの?﹂
﹁っふ、うぁ、ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ら、め。おね、がい、しますっ。
おねが⋮⋮もう、それいじょ、うっうう︱︱︱︱︱︱っ!!﹂
メイノがギュっと目をつぶり、体に一瞬の緊張が張りつめる。僕
のナカではさっきイったばかりのペニスが再び存在感を増し震えた。
ぴゅっぴゅっ、と無理矢理吐き出させられるみたいに、放たれた精
の気配を感じる。
﹁ぁ⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
メイノは酸素を求めるみたいに口をパクパクさせて細い喉を上下
させた。うん、やっぱり休みなしで抜かずの連続絶頂は辛いかな。
もちろん、僕の方はこれくらいじゃ全然余裕だけどね。
﹁ご、ごめんな、さ⋮⋮﹂
怯えたような、絶望したようなメイノの瞳には新しい涙があふれ
て溜まり、瞬きとともに滴となってこぼれた。嗜虐心をそそられて
たまらない。
﹁はぁ∼⋮⋮。また、出ちゃったか﹂
﹁うっ、うっ⋮⋮﹂
433
また泣き始めるメイノの涙を指で拭った。
﹁そうだ。いい考えがあるよ。だったらいっそ、先にぜーんぶ出し
ちゃおうよ。ね。そしたら、メイノは女の子になれるかもしれない﹂
﹁ほんとうですか?﹂
メイノは、涙に濡れそぼった瞳を輝かせた。
﹁うん。やってみる? ボクも手伝うよ﹂
﹁はい。お願いします。ご主人様﹂
そして、僕は宿屋の洗面に置いてあった銀のたらいを持って来て、
メイノの﹃搾液﹄を開始した。
もう駄目。出ません。もう、わたし、おかしくなっちゃう。こん
なに⋮⋮。
途中、哀れなメイノの弱音とギブアップを何度も聞いたが、僕は
容赦なく続けた。こんな清楚な可愛らしい体の一体どこに、という
ほど白濁した欲望が何度もたらいにぶちまけられて、乾燥していく
より早く液体として溜まって行った。
とうとう精根尽きたというようにぐったりした頃、僕は優しくメ
イノを介抱してあげた。優しく撫で、労をねぎらい、回復魔法をか
けて抱きしめた。
﹁わたし、これで女の子になれるでしょうか⋮⋮﹂
朦朧としながらメイノがつぶやくので、僕は﹁そうだね。メイノ
は十分に可愛いよ﹂と答えた。
**
434
名前:メイノ︵MAI−KNOW︶
種族:人間
職業:奴隷
称号:一般奴隷
年齢:13歳
総合LV:3
HP:28
MP:12
力:10
魔力:5
自動スキル:﹃隷属する者﹄﹃防御強化﹄
呪文スキル:﹃唱和の火﹄﹃挺身﹄
装備:チャイナドレス︵一般︶/黒紗の手袋/ガーターベルト/
流麗の腰帯
道具:扇子︵一般︶
宿屋を出た僕は、メイノのステータスを見ていた。
読めない文字があったのでサイミンに教えてもらった。﹃挺身﹄
⋮⋮ていしん、だそうだ。身をていする、の意味らしい。どんなス
キルだろう。
︵一般︶
については特に装備としての補強
それから、装備欄を見て、思ったより華やかなことに驚いた。チ
ャイナドレスの属性
はありませんよ、という意味らしい。だが、黒紗の手袋、ガーター
ベルト、流麗の腰帯はそれぞれ防御や特殊効果があり、見た目の華
やかさもさることながら、装備としても上級品だった。
435
﹁これだけの装備、あの資金でよく揃えられたね﹂
僕が無理矢理押し付けるようにサイミンに渡したお遣い金は30
00Gだ。はした金ではないが、上級装備を整えるには心もとない
額だと思う。すると、サイミンが驚くべきことを言った。
﹁はい。お言いつけに背くようで申し訳ないとは思いましたが、実
は不足分については、わたくしのお財布から出させていただきまし
た﹂
﹁えっ! サイミンの自腹!?﹂
﹁不足分の補てんだけですが﹂
﹁それで、いくらくらい?﹂
﹁⋮⋮独断で申し訳ありません。4200Gほどです﹂
﹁4200G、って。いや、怒ったりはしないし、むしろありがた
いけど。あれっ?サイミン、そんなにお金持ってたの?﹂
僕はサイミンのステータスも見ることができるが、サイミンの所
持金をしょっちゅう気にしたりはしない。最後に見たときは500
Gくらいだった気がするけれど。
﹁はい。ちなみに、残金として今持っているのは700Gです﹂
﹁うわぁ。それはまた、随分気前よくメイノに使ってくれたんだね
⋮⋮あぁ、もちろんボクを喜ばせようとしたんだよね。ありがとう﹂
﹁いえ。リリス様が喜んでくださったのであればこれ以上嬉しいこ
とはありません﹂
うう⋮⋮。サイミン、なんていい子なんだ。
﹁でも、いつの間に? そんなに貯めたの?﹂
﹁わたくしのような高度AI搭載型の冒険者NPCはある程度自由
436
に動けますから。マスター不在でバトルやクエストはできませんが、
主にドロップアイテムの探索やその売買で収入を得ています﹂
正確に言えばマスター不在でのバトル自体は可能だが、それによ
る経験値やアイテム、Gの入手が無い、のだと聞いている。あぁ、
そういえば、単独行動でもアイテム探索はできるんだったっけ。
﹁そっかぁ。サイミンやるね﹂
﹁入手したお金はわたくしの所持になっておりますが、リリス様が
没収なさってもかまいませんよ﹂
没収、はちょっと言葉が悪いね。はは⋮⋮でも、どっちみちそん
なことをするつもりは無い。僕がいない間だってサイミンにはこの
世界での生活があるんだから、自由になるお金も欲しいだろうし、
必要なことだってあるだろう。
﹁気にしなくていいよ。没収したりしないからさ。好きに使ってて﹂
﹁はい。ありがとうございます﹂
しかし、この場に及んで、僕は金銭に関して今ちょっとした問題
にぶちあたっているのだ。それは、至極単純な事象なのだけど。⋮
⋮ようするに、金が無い、のだ。
理由は簡単である。高額な奴隷であるメイノを購入した上に、そ
の身支度に気前よくお金を使ったから。更にメイノとの初エッチを
堪能するために宿屋もスイートで取っちゃったし。もちろん、メイ
ノに関しても、宿屋に関しても、値段以上の価値はあったけどね!
そうしてもう一度確認するように自分のステータスウィンドウを
開くと、所持金には1900Gと表示されている。ちなみにホテル
のスイート料金は一人500G。1度目はまぁ初めてだからメイノ
437
とさしで楽しんだけど、次はサイミン含めてイイコトしたい。でも、
そうすると1500Gであっという間に所持金が尽きてしまう。
それに、この街では僕の欲しがっていたアイテム﹃痛み止め﹄も
あるということを確認している。といっても標準店じゃないから、
結構値が張って、一個400Gだとか。
地獄の沙汰も金次第。バーチャルの世界もまたしかり。楽しく遊
ぶにはいつだっておぜぜが必要なんだ。
さて、どうやって稼ごうね。
438
episode16︳1:No.666
女キャラとして生まれ出でたからには、真っ先に思い浮かぶ金儲
けは売春。サイミンとメイノだって十分に売り物になるだろうから、
3人で稼げば手っ取り早い気はする。でも、僕は可愛いサイミンと
メイノを欲得で他の男に抱かせるなんてまっぴらだった。
そういうプレイなら悪くないと思うけど⋮⋮。うん。特にメイノ
が美少年好きのいやらしいデブの悪徳商人とかに組み敷かれて泣く
様なんてのは見てみたい気もする。ふふふふ⋮⋮じゃなくて。
﹁なんか、いいお金儲けの話無いかな﹂
とりあえず、僕は正攻法を取り酒場で情報を集めることにした。
ライラック港町は人も冒険者も多い。ゆえに酒場も箱自体が十分に
広く、賑わっているがごちゃごちゃした感じはしない。
﹁君みたいに可愛い子なら、いくらでも稼げるんじゃない?﹂
﹁急なお金が必要なの? 良ければ俺に相談してよ。力になれるか
もしれないよぉ﹂
当然、こうなる。
適当に愛想を振りまきながら情報を収集していくと、ライラック
港町では売春はあまり旨い稼ぎ手段ではないらしいということが分
かった。何と言っても奴隷が名物の街なので、奴隷を使った水商売
が盛んなのだ。抱くにしたってNPCとユーザーキャラでは別物だ
が、とりあえず性欲のはけ口なら何でもいいという客層が少なくは
ないのは分かる。
それに僕としても、不特定相手への売春はなんだかお気に入りの
439
リリスの体を軽んじるみたいで大して気も進まない。
﹁やっぱり、なんだかんだ言って一番儲けの効率がいいのはクエス
トじゃないか?﹂
﹁だな。よっぽどLvが高いなら標準ギルドのクエスト報酬なんて
馬鹿らしいだろうけど﹂
﹁塔とか洞窟のバトルは?﹂
﹁バトルは痛い目を見るリスクがあるからなぁ。﹃痛み止め﹄使っ
ちゃうと稼ぎになんないし﹂
﹁少人数だと危険だし、大人数だと分け前が減るし、結構難しいよ
ねぇ。Lv上げにはいいけどさぁ﹂
いつの間にか、酒場では僕を囲むようにして数名の冒険者たちが
話題に花を咲かせていた。木製の円卓にちょこんと座った僕の姿が
いっぱしの冒険者に見えるのか、場違いに見えるのかは想像するほ
かない。
﹁この辺なら、﹃クウォンネ城下町﹄の闘技場、﹃ヘルベルザトル
繁華街﹄のカジノもいいんじゃねぇの﹂
﹁あぁ、闘技場は強いヤツは一度は行っておくといいな﹂
﹁え? なんで、なんで﹂
﹁NPC相手に単純に勝ち抜くだけで報奨金が出る﹂
﹁へぇ∼﹂
幾人かの感嘆する声が重なった。話題は僕の﹁稼げる方法は?﹂
から派生して盛り上がっていた。行ったことはないけど、飲み屋の
雰囲気とでもいうのか、話を聞いているだけで楽しかったので僕は
言葉少なめにそこにいた。闘技場も、いいね。
﹁この街のギルドのクエストはどれが美味しいと思う?﹂
440
﹁あー俺、半分くらいこなしたけど、クエストNo.11か12だ
っけ﹃招かれざる客人﹄ってのが良かったな。単独でこなせて20
00G。パーティー7人全員が個別でチャレンジして合計14万G
の収入になった﹂
﹁まぁ、パーティー人数多いと、そういうのはやたらと美味しく感
じるよな﹂
﹁普段、分け前減って損してるだけなのに気づいていないってこと
だよ﹂
﹁ちがいねぇ﹂
笑い声。そして、他の一人が面白い話を始めた。
﹁クエストNo.666をやったヤツはいるか?﹂
﹁は?⋮⋮標準ギルドのクエストは30個だろ?﹂
﹁そうだけど⋮⋮知らない?﹂
言い出した男は風采の上がらない番人みたいな弓兵の恰好をして
いた。痛いキャラが混ざってホラ吹き始めたのか、という空気が漂
った時、他の一人が言った。
﹁俺は知ってる。でもさ、それ、あんまり言わない方がいいんじゃ
ね﹂
﹁あ∼⋮⋮まぁ、そうか。悪ぃ。無かったことにしてくれ﹂
弓兵は卑屈っぽい笑いを浮かべて口を閉ざした。しかしそんなこ
と言われたら誰だって気になる。
﹁なんだよ。それ﹂
﹁666? ダミアンだな﹂
﹁ダミアンって何﹂
441
﹁お前は黙ってろ﹂
視線が集まって男はまた苦笑いをして口を開いた。
﹁知ってるヤツは知ってるよ。別に、言っちゃいけない話じゃない。
そうだろ?﹂
するとさっき釘を刺した聖職者風の男が肩をすくめた。
﹁もちろん。酒場は情報交換の場所だからな。でもさ、レアイベン
トの発生条件っていうのはなるべく秘しておくもんじゃないの﹂
﹁レアイベント?﹂
周囲の興味の度合いが一気に高まったようだった。レアイベント、
レア武器、レアスキル⋮⋮レアという言葉がつくものにこの世界の
人間は弱い。もちろん、僕も含めて。
﹁そう。それに、そのイベントって諸刃の剣だから、情報流した人
間が恨まれることもありそうだし。だから、俺は言わない。聞きた
いならそのおっさんに聞いてよ﹂
聖職者は弓兵をあごで指す。弓兵の男はおっさんと呼ぶには若い
けれど、確かに聖職者の男よりは年上である。弓兵の男は引っ込み
がつかなくなった様子で⋮⋮結局のところ話したかったのかもしれ
ないが、説明を始めた。
﹁じゃ、ここだけの話⋮⋮な。ただ、ぼうずが言うようにこの情報
は取り扱いが難しい部類だからな。なんせクエストNo.666⋮
⋮運営側の悪意を感じる数字だろ?下手にとびついて痛い目見ても、
俺を恨まないって約束してくれよ。﹂
442
こんなもったいぶった前置きだとつい、期待してしまう。皆、少
し体を前に乗り出して、息をひそめるように男の話を聞いた。
﹁クエストNo.6は知ってるか?﹂
誰かが、それに答える。
﹁No.6﹃娘を笑わせて﹄⋮⋮だったか? 大富豪の一人娘が生
まれてこの方、笑ったことが無いってやつ﹂
﹁そう。あれのレアルートがNo.666なんだよ﹂
﹁No.6ならやったけど、娘を笑わせるだけの簡単なクエストだ
ったよな。報酬も大したことなかったし。レアルートなんて発生し
なかったなぁ⋮⋮﹂
﹁俺も。どうやって出すんだ?﹂
首をひねって周りが尋ねた。
﹁⋮⋮あぁ。まずは、3回チャレンジするんだ。あのクエストは何
度でもチャレンジ可能だろう。そうすると、依頼主の大富豪が追加
クエストをギルドに依頼する。それが、No.666﹂
﹁へぇ﹂
3回チャレンジ自体は、大した条件ではない。隠しイベントと呼
ぶにはおそまつだ。しかし、No.6のイベントはNPCによる会
話、いわゆるムービーが長く拘束時間が多い割にもらえる報酬が低
いのでチャレンジする人は少ないのだという。
﹁でさ、肝心のそのNo.666ってのはどんなイベントなんだよ﹂
443
すると、弓兵の男は低い声で囁く様に言った。
﹁﹃娘をもっと笑わせて欲しい﹄、って依頼さ。これに応えるだけ
で、破格の報奨金が出る。しかも、何度もチャレンジ可能で、その
度により高額の報奨金がもらえる。倍額ずつ増えていくんだ﹂
﹁倍額!?﹂
倍額というのは凄い。倍々ゲームと言う言葉があるが、倍加を繰
り返すと大抵の数字は物凄いことになる。
﹁あぁ、ただし、欲を出し過ぎると痛い目に合う。深みにハマらな
いうちに止めておくのが無難だろうな﹂
﹁何が起きるんだ?﹂
思わず僕もゴクリと息を飲んでしまう。
﹁クエストを繰り返すたびに最初は大人しかった娘が凶暴になって
いくのさ。行き過ぎると、プレイヤに対して酷い暴力をふるってく
るようになる。拷問めいた暴力、例えば指を切り落としに来たり、
鼻を削いだり、目玉を抉りに来たり。噂じゃ、アソコを切り落とさ
れたヤツもいるってさ﹂
はぁ?と思った。内心、皆そう思ったに違いない。だが、周囲は
静まり返った。各々、自分の息子が切り落とされる恐怖を想像した
からだろう。それは笑えない。笑えないよ。
﹁﹃痛み止め﹄、飲んでおけばいいのか﹂
﹁どうだろうなぁ。﹃痛み止め﹄は効くと思うけど、痛くなくたっ
て、目玉抉られたらトラウマになると思うぜ﹂
﹁そりゃ⋮⋮そうだな﹂
444
アソコを切り落とされたらなおさらだ。
﹁でも、痛くないならさ、我慢できないことはないんじゃないか?
最終的にそのクエストどうなるんだ﹂
﹁俺は正直気持ち悪くなっちまって途中でリタイアしたから。クエ
ストの到達点になにがあるのかは知らないよ。ま、レアアイテムが
手に入る可能性はあるだろうな。チャレンジしたいやつはしてみろ
よ⋮⋮ただし、自己責任でな﹂
ちょっと、不気味な話だ。この弓兵男が意図して演出的な話し方
をしているからかもしれないけど。でも、No.666っていう数
字からして気味が悪いのは確かだし、なんだか都市伝説でも聞いた
みたいな気分⋮⋮。
更にいくつかの質問が弓兵の男に向かって飛んだ。報奨金はいく
らくらいなのか、何回までなら確実に危険がないのか。No.66
6を受けるにはギルドにいけばいいのか、うんぬん。そんな中で、
一人が尋ねた。
﹁No.666になって、娘を笑わせるにはどうすればいいんだ?
No.6の時は分かりやすいダジャレとかでクリアした覚えがあ
るけど﹂
﹁あぁ、そうだ、それを説明してなかったな。No.666になる
と、娘はさ、血を見て笑うんだよ﹂
途端、場が水を打ったように静まり返った。うーん⋮⋮都市伝説、
っていうか、ホラーじゃないか。
445
episode16︳2
酒場で受けたアドバイスに従い、僕はそれから3日間ほどログイ
ンするたびにギルドに足を運び、クエストをこなした。
クエストNo.1:海岸の砂粒の数は?・・・達成
クエストNo.2:眠る子の枕元で囁くもの・・・達成
UP
クエストNo.3:シュークリームの大量発注!・・・達成
クエストNo.5:彼女に花を贈りたい・・・達成
クエストNo.7:彼女に花を贈りたい・・・達成
クエストNo.10:時計職人の初恋・・・GIVE
ライラック港町のクエストは、予期していた通り骨の折れる者が
多い。特定の職業じゃなきゃクリアできないとかいうのもある。ち
なみにNo.3﹃シュークリームの大量発注﹄ではひたすらお菓子
の材料を集めるという苦行が待っていた。
戦闘に関しても難易度が高く、サイミン一人に頼るにはそろそろ
荷が重い状況だ。僕には﹃ニエグイの杖﹄という強い武器もあるけ
どこの杖には弱点があって、貯めたエネルギーを一度放出してしま
うと後はどうにもならない。つまり、連戦には全く向いていないと
いう泣き所があるのだ。いっぱしのボスって、2段階変形したりす
るもんね。
No.10﹃時計職人の初恋﹄を一度ギブアップして3日間の成
果を振り返ると、案外お金が貯まっていた。それまでに入手したア
イテムも一部売却して、7350G。クエストは稼ぐのに効率がい
いという話は意外と的を得ている。
446
﹁さて、これからどうしようかな﹂
真面目にクエスト消化する日々にも飽きてきた。せっかく大きな
街に滞在しているのだから、もっと色んな遊び方があるだろう。手
持ちの資金も十分とはいえないまでも貯まってきたことだし。
ギルドの歓談スペースでこの街の地図を開く。
⋮⋮﹃ペットショップ﹄、﹃エステサロン﹄、﹃見世物小屋﹄⋮
⋮が、予め気になっているポイントで。あぁ、そういえば、もう一
つの﹃奴隷商﹄にも行ってみたいな。⋮⋮いや、待てよ。そういえ
ば僕はメイノを買ったわけだから、﹃ルグレコ商店﹄では常連扱い
になるんじゃん。だったら今度は一見さんお断りの二階に入れるの
か。それは興味がある⋮⋮。
そんなことをとりとめなく考えながら、視線はギルドのカウンタ
ーの向こうにかかっているボード、クエスト一覧に向かっている。
僕の目線が吸い寄せられるように一つのクエストの上で止まる。
クエストNo.6:娘を笑わせて
いやいや⋮⋮それは止めた方がいいんじゃない。僕は考えを振り
払うように強く頭を振り、サラサラの髪が顔に降りかかった。
﹁どうされましたか?﹂
サイミンが僕の顔を覗き込むように尋ねる。
﹁ん。なんでもないよ﹂
﹁さようでございますか﹂
447
﹁んんん。嘘。なんでもないことない﹂
僕は、サイミンを引き留める。
﹁あのさ、No.6のクエストの話、どう思う?﹂
﹁酒場で聞いた、No.666の話ですか? ⋮⋮ちょっと眉唾く
さい話だと思いますけど、お乗りになるんですか?﹂
﹁罠、ってことは無いと思うんだけど。どうかな﹂
﹁そうですわねぇ⋮⋮﹂
サイミンは指をそろえた手を添えるように頬にあてて、考え込ん
だ。
﹁メイノはどう思う?﹂
﹁どう思う、とは何に対する感想ですか?﹂
僕はなるべく丁寧に言葉を言い直した。
﹁No.666っていうクエストの情報を、酒場で聞いたでしょ。
あれにチャレンジしてみようかと思うんだけど、メイノはその選択
についてどう思う?﹂
﹁わたしには分かりません。申し訳ありません、ご主人様﹂
メイノはいつもこの調子だ。でも、この賢くないとこもなんだか
可愛く見えてくるから不思議。そんなに深々とお辞儀しなくていい
よ、と抱き起してどさくさに紛れて抱きついた。サラサラの長髪を
手にまきつけて、チュッと口づける。
すると、くっついた僕とメイノをまとめて腕に収めるようにサイ
ミンが抱きついてきた。
448
﹁ずるいです。わたくしも、混ぜてください﹂
﹁いいよ∼﹂
﹁わ、わ、ご主人様⋮⋮そんなとこ、触らないでください﹂
﹁あははは﹂
女の子3人できゃっきゃするのは周囲の注目を集める。微笑まし
い光景なのか、眩しい光景なのか、ギルドにいた冒険者たちはニコ
ニコ、とニヤニヤの中間くらいの表情を浮かべている。
︱︱︱︱︱︱いいよな∼リリスちゃん。
︱︱︱︱︱︱メイノちゃんは俺の嫁。
︱︱︱︱︱︱俺は、サイミンちゃんだな。清楚な色香。
女の子3人の冒険者が珍しいのか、組み合わせのバランスがいい
からか、いつの間にか僕らはギルドと酒場の界隈では顔が売れてい
るようだった。特に害があるわけじゃないし、時々話しかけられた
り、手を振られたりするくらいで、むしろ好意的に接してもらって
いるので気にはしていない。
︱︱︱︱︱︱お前の目、節穴かよ。断然、メイノちゃんだろ。
︱︱︱︱︱︱馬鹿か。このロリコン野郎。
︱︱︱︱︱︱あぁん?おもて出ろ!
こんな会話が耳の端に飛び込んできても、気にしない。っていう
か、無視するほかない⋮⋮。
**
それから悩んだ挙句、僕は痛み止めを10個ほど買い込んで、4
449
000Gを気前よく散財した。更に、この前の酒場にも足を運んで
再度情報を収集した。やっぱり、どうしてもNo.666のクエス
トが気になっちゃう。喉に魚の小骨が引っ掛かっているみたいに、
看過できないのだ。
僕は基本的に怖いことと痛いことが苦手な小心者だけど、時々思
いがけず行動力が勝つことがある。それがどんな時かといえば、よ
っぽど大丈夫だと信じられる時。つまり、よっぽど大丈夫な場合で
も怖いものは怖いと言うことなんだけど。
まずはクエストNo.6﹁娘を笑わせて﹂を受注し、富豪の屋敷
を訪れた。屋敷はライラック港町の高級住宅街の一角にある、古め
かしい洋館だった。バルコニーを這うように蔦がからまっていて、
一種沈鬱な雰囲気を醸し出している。
﹁クエストを受けて下さった冒険者の方ですね。どうぞ、こちらへ﹂
年かさの召使いが僕らを案内して応接室に通した。若いメイドが
カップに入った紅茶を持って来た。
﹁このお屋敷のお嬢様は、お綺麗なのですが、全然笑わないのです。
それで、ご主人様はとてもご心配されているんです。これまでたく
さんの芸人がお嬢様を笑わせにやってきたのですが、大した成果は
上がっていないんですわ﹂
メイドは一方的に話すNPCだった。随分とお喋りなメイドで、
クエストに全く関係の無さそうな天気の話や噂話を語って行った。
﹁ここのご主人様はお金持ちですけど、大変なケチなんです。私も
もう3年勤めていますけど、給金は見習いの頃からちっとも上がら
ないし、この家のものは水も薪も自由には使わせてもらえないんで
450
す。唯一自由にしていいのは空気だけ、なんですよ﹂
メイドがとうとう主人の悪口を語り始めたころに扉が開き、立派
な髭をたくわえた太鼓腹の男が現れた。メイドは慌ててその場を立
ち去る。
﹁おお、貴方がギルドからいらした冒険者の方ですか。ようこそ、
おいでくださいました。私はこの屋敷の当主、ルドルフです﹂
依頼人は僕らのもとに歩み寄り、リーダーである僕に手を差し出
した。僕はその肉厚な手を握って挨拶をする。
﹁実は、お願いしたいのは私の一人娘のことでして⋮⋮﹂
この館の人間は皆饒舌らしい。当主ルドルフは一人娘の悩みを語
った後、豆の相場の話をし、使用人の悪口をいい、もう一度娘の話
に戻って来た。
﹁では、早速ですが、娘にお会いいただけますかな﹂
⋮⋮全然早速じゃない。
確かにこの話の鬱陶しさは、3回チャレンジするのには面倒かも
しれない。しかも、先に酒場で情報を仕入れているところによると、
No.6自体のクエスト報酬はケチの主人に似つかわしく、たった
の100Gと豆の袋だけだという。
僕は欠伸をかみころしながら階段を昇り、笑わない娘、ヴィオレ
ナの部屋に入って行った。
**
451
ヴィオレナは美人だった。銀色の髪を無造作かつ豪奢に結い上げ
ており、布をたっぷり使ったドレープが流れるドレスを着ている。
袖が大きく広がっているデザインで、彼女が手を動かすと、まるで
大きな扇を揺らしているように見えた。
年の頃は25、6だろうか。若作りの30歳と言った方がしっく
りくるかもしれない。肌は磁器のように滑らかだが、表情が無いせ
いで生気が感じられない。一番特徴的なのは瞳で、目の半分まで眠
っているようにまぶたが落ちている。まつ毛が長くて残りの半眼に
かぶさっているので、目の色もよく分からなかった。
﹁ヴィオレナや。新しい冒険者の方だよ。ここまで色々な旅をして
きた人たちだから、見聞も広いだろう。きっと、楽しい話をしてく
れると思うから聞いてごらん﹂
主人は娘に相当甘いらしい。ご機嫌を取るような猫なで声で揉み
手までしている。すると、ヴィオレナは重たげに口を開いて、ゆっ
くりと答えた。
﹁えぇ⋮⋮。ありがとぉ。お父様﹂
瞳と同じく、眠たげな声だった。
﹁そぉれで⋮⋮。あなた、お名前は、なぁんて、おっしゃるのぉ﹂
﹁ボクはリリス。よろしく﹂
﹁そぅおん。よろしく。リリスさん﹂
ヴィオレナはばさりと袖を揺らした。
﹁じゃあ、どぉぞ。お話し、なさって﹂
452
episode16︳2︵後書き︶
エロなくてゴメン。この辺はさくっと読んでね。
さて、何フラグでしょうか。
453
episode16︳3
ヴィオレナはレースを幾恵にも重ねた袖のふちを口元にあてて眉
をひそめる。すると、依頼主であるルドルフは大喜びをする。
﹁おお! 娘が笑った!﹂
いや、今のは笑ってないんじゃない?そう突っ込みたいとこだが
イベントは着実に進む。景気のいい音とともに﹃クエストNo.6
達成!!﹄の文字が宙に浮かんで光る。
﹁ありがとう。クエストの報酬はギルドで受け取ってくれ。いや、
ご苦労だった﹂
そう言ってルドルフが鈴を鳴らすと年かさの召使いが僕らを連れ
て屋敷の外まで案内してくれる。部屋を出る前に振り返ってヴィオ
レナの姿を見ると、相変わらず退屈そうに半眼を閉じて椅子にもた
れていた。
⋮⋮たったこれだけのクエストだが、拘束時間は約40分にも渡
る。面倒くささを感じつつ、僕は酒場で得た情報に従ってこれを3
回こなした。3回とも、同じ寸劇が交わされた。
すると、ギルドで噂のクエストNo.666を受けられるように
なった。ここまでは予定通りだ。
クエストNo.666:娘をもっと笑わせて
﹁御足労ありがとう。いや∼先日は君らのおかげで娘の笑顔が見ら
454
れて、有難かったんだがね。うん。まぁ贅沢だとは思うのだが、も
っと明るく楽しく笑う姿が見たいと思ってね。ギルドに追加クエス
トを出させてもらったんだ﹂
依頼主の富豪ルドルフはくるりと巻かれた髭を指で引っ張りなが
ら話した。﹁決して前回の君たちの仕事が気に入らなかったという
わではないのだがね⋮⋮﹂と、ややきまり悪そうな表情だった。だ
けど前回の僕らの仕事︱︱︱︱︱︱まぁどの冒険者がやってきても
同じなのだろうけど、はクエスト達成と銘打つのに疑問を覚える程
の成果だったから彼の言い分に間違いはない。
﹁できればね、今度はもっと大笑い。いや、大笑いとは言わないが、
声を立てて笑う姿が見たくてね。もし、それができたら前回とは比
べものにならないほどの報酬を出させてもらうよ﹂
3度も来ているので勝手知ったる他人の屋敷。階段を昇り、廊下
のつきあたりの扉を開く。
﹁あぁらぁん。貴方がた、またいらっしゃったのねぇ⋮⋮﹂
相変わらず退屈そうな表情で笑わない娘、ヴィオレナは言った。
﹁そぉれでぇ、今日は何をお話ししてくださるのかしらぁ﹂
﹁はい。今日は、お嬢様に面白いものをお見せします﹂
﹁あぁら? 面白いものってなぁに﹂
僕は、予め購入してあった﹃短刀﹄をポシェットから取り出す。
これはあくまでアイテムであり、武器としては使用できない。ただ
し、戦闘領域外では普通に刃物として利用可能だと聞いている。
455
うう。痛いの嫌だな。⋮⋮いや、予め痛み止めは飲んであるから
痛くないはずだけど。そう思いつつ、僕は一度息を吸って、止め、
短刀を自分の手のひらに押し当てた。仕方がない。これが、酒場で
聞いたクエスト達成のルートなのだ。
﹁いけません。リリス様﹂
囁くような声が制し、ごく自然に僕の手から短刀を取り上げる。
﹁あ﹂
その所作にためらいは無かった。何の気負いもなく、サイミンは
自分の手首を切り裂いた。
僕は思わず叫ぶ。サイミンは、白い腕を目の高さまで持ち上げ、
切り裂いた内側をヴィオレナの方に向けた。赤い血が手首から筋に
なって流れ落ちる。
﹁あら、思ったほど出血いたしませんわ⋮⋮﹂
サイミンはちょっと失敗しました、と付け加えた。とんでもなか
った。流血は手首から肘をつたい、あふれ、床に零れ落ちた。僕は
思わず眩暈を覚えた。こんな風にリアルな、いやリアリティのある、
か⋮⋮の流血を間近で見るのは初めてだ。
赤い血。サイミンの血も赤いのだ。
血には人の思考を止める働きがある。僕は眩暈を感じるまま、呆
けたようにその血を凝視してしまった。
﹁うふ⋮⋮﹂
はっと僕は振りむく。
456
すると、そこには心底嬉しそうに微笑むヴィオレナが佇んでいる。
彼女は椅子から立ち上がっている。眠たげだった眼は細い上限の月
のような形に変じ、口元はニッコリと赤い唇⋮⋮さっきより赤みを
増しているようだった。
なぜか、僕はヴィオレナがサイミンの血をすすっているかのよう
な連想をしてしまった。
﹁ふふ⋮⋮うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ﹂
笑い声は地を這うように僕の足元から昇ってくる。僕の背筋に冷
たいものが走った。
﹁お⋮⋮﹂
正直な所、割入った声に救われた気がした。
﹁おお!! ヴィオレナが、ヴィオレナが笑った!! おお!! おお!!﹂
はしゃぐ依頼主。そうして、もう一度目を向けるとヴィオレナは
また最初と同じように眠たそうな目で椅子に座り、物憂げに斜にも
たれかかっている。
聞き覚えのある景気のいい音とともに﹃クエストNo.666達
成!!﹄の文字が宙に浮かんで光る。666の数字が改めて不気味
に感じた。
﹁ありがとう。大満足だよ。クエストの報酬はギルドで受け取って
くれ。いや、ご苦労だった﹂
457
これで、ギルドに行けば報奨金1500Gがもらえるはずだった。
同じく繰り返せば二度目は3000G、3度目は6000G、4度
目なら12000G。報酬は徐々に倍額になっていくという情報だ。
ただ、5回目以降の報酬については分からない。酒場の冒険者たち
の誰も知らないと言ったからだ。皆、恐怖のあまり途中でGIVE
UPしてしまうのだという。もしくは、最後までクエストクリアし
たプレイヤもいても、黙して語らないのだ。
僕はたった一回目をクリアしただけで、その片鱗を垣間見た。確
かに怖い。なんというか、このヴィオレナの雰囲気が怖い。なんだ
か、一番最初にクエストNo.6で出会った時と外見が微妙に変化
しているような気がする。
また、禍々しさを感じる娘とは対照的にやたらと明るく屈託のな
い存在であるルドルフもどこか空恐ろしい。
﹁サイミン、大丈夫?﹂
﹁はい﹂
何はともあれ、僕は何より真っ先にサイミンに回復魔法をかけた。
好奇心は満足された。僕は、もうこれ以上はこのクエストに関わら
ないようにしよう。
ルドルフが呼び鈴を鳴らすと、メイドがやってきて僕らを玄関ま
で先導しようとする。踵を返した背中に、ヴィオレナの声が投げか
けられた。
﹁クエスト達成お疲れ様。ねぇ、リリス﹂
あれ?
違和感を感じて僕は振りむいた。
458
豪華な金色のカーテンがかかった窓を背にして肘掛椅子に座った
まま、ヴィオレナがこちらを向いている。
﹁私の演出した恐怖は甘美だったかしら?﹂
違和感の正体はすぐに分かった。口調だ。まず、ヴィオレナが僕
の名前を呼び捨てにするのは初めてだった。それに、間延びした感
じが和らいでいる。
部屋を出ようとする扉のところで僕は立ち止まり、その言葉の意
味を考えた。
﹁⋮⋮きみ、誰?﹂
口をついた返事はそれだった。深い洞察があったわけじゃないけ
ど。ヴィオレナじゃないみたいな⋮⋮感じがした。しかし、ヴィオ
レナはその問いには答えなかった。AI知能が追い付かずに返答で
きなかったわけじゃないようだ。その証拠に彼女は口の端を吊りあ
げて笑った。
﹁名前、ね。つまり識別子。そんなに大切な物かしら?﹂
奇妙だ。クエストはもう終わったはず。これも、イベントの一部
なのだろうか。レアルート?No.666自体がレアルートのはず
なのに、それの更にレア分岐?しかも、クエスト終了通知後に?あ
りえない。
﹁アドレス指定できるのに、少なくともIDがあるのに、識別子を
つけたがる意味が分からないわ。私にも、教えてくれるの?その大
切さを?もしくはその滑稽さを?﹂
459
ええい。僕も混乱しているというのに、更に疑問符を重ねてこな
いでよ!なんなの、この展開はさぁ!
ふいに、手を引っ張られた。後ろに立っていたサイミンだった。
﹁リリス様。お逃げください。この空間から。ここではあの方には
決してかないません﹂
﹁えっ、えっ﹂
サイミンの言葉に呼応するように館が揺れた。地震!と思ったけ
ど、そんなわけない。
廊下に先導していたメイドが置物のように固まっていた。屋敷の
主人であるルドルフも同じだった。まるで、停止ボタンを押したみ
たいだった。
﹁彼女は上位AIです。危険です﹂
サイミンに急かされ、僕は廊下を走る。メイノはリードしていて、
階段のところで僕を待っていた。
﹁ご主人様、こっちです!﹂
﹁早く!﹂
うふ。うふふふふふ。ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
ふふふふふふふふふふ
どこから聞こえてくるのか分からない。
あまり賢くないはずのメイノも僕よりは事態を飲み込んでいるよ
うだった。僕を先導して階段を駆け下り、ホールを突っ切って、玄
関扉に飛びついた。
460
だが、何となく、僕にはこの先の展開が予想できる気がした。こ
の空間が彼女の支配下にある?そこから逃げなくては危険だ?なら
ば、僕らはもはやその手中にあって踊っているに過ぎないのだと。
ほら、そういうのってお決まり、じゃない。でも、分かっていて
も人間は慌ててしまうし、恐怖から逃げ出そうとしてしまうんだ。
玄関扉を押そうとした姿勢で扉によりかかるようにしてメイノは
崩れ落ちた。サイミンは糸が切れた人形のように階段から転がった。
Code
No2308.
N−
僕はまたサイミンの名前を叫んでしまう。駆け寄って回復魔法をか
けようとしたが、﹃Error
Response﹄と表示されるだけだった。
461
episode16︳3︵後書き︶
ホラーww
462
episode16︳4
﹁その娘達は、随分と貴方に懐いているのねぇ﹂
カーブを描く階段の上フロアから、ヴィオレナがゆっくりした足
取りで降りてくる。
﹁何なんだよ。あんたは!﹂
﹁さぁ。何かしらねぇ。何だと思う?﹂
サイミンの隣で膝をついている僕の真横まで来て、僕を見下ろし
た。目は眠たげだが、口元が笑っている、笑わない娘なんじゃなか
ったのか。
﹁⋮⋮上位AI、イベントに対して何らかの支配権を持つ存在﹂
﹁あらぁん。勘がよろしいのねぇ。それとも、元々知っていたのか
しらぁ﹂
単なる憶測だ。単純に、状況証拠とサイミンの言動を繋げ合わせ
ただけ。でも、それが正解だったとして、何になる。一番の疑問は
解決しない。ヴィオレナはわざとだろうけど、﹃ヴィオレナ﹄の口
調とそうではない口調を織り交ぜて喋る。
﹁なんで、ボクがそんなのに絡まれなきゃなんないの﹂
その問いに対する答えは無かった。ヴィオレナは僕の横を通り過
ぎ、ドレスの裾をひきずりながら奥の方に向かっていく。
463
﹁いらっしゃい。今度は、私が面白いものを見せてあげるわよ﹂
﹁やだ﹂
﹁そうなの。じゃあ、その扉から外に出ていくのね﹂
ヴィオレナの指差す先で玄関の扉のドアノブがカチャリと音をた
てた。鍵がかかったのか、開いたのかどちらだろう。後者かもしれ
ない。だけど、僕はサイミンとメイノを置いてはいけない。
﹁そもそもボクに選択肢なんて無いんじゃないの﹂
﹁ユーザーに選択させているように見せるのが、テクニックの一つ
なのよ﹂
僕には君が何を言っているのかが分からないよ。しぶしぶとヴィ
オレナの後ろに従うと、玄関ホールの突き当りの壁に扉が浮き上が
った。
**
つん、と鼻につく錆のような匂い。口の中に苦いものが広がった。
扉の先に広がっているのは凄惨な拷問風景だった。見覚えのあるこ
の館の召使いが血まみれで許しを請うている。若い娘が関節を変な
方向に曲げた姿でぶら下げられていて、鉄の処女の中からうめき声
が聞こえる。
僕は無言で踵を返す。成功確率なんてどうでもいい。⋮⋮逃げよ
う。
しかし、猫の子のように首筋を引っ掴まれてしまった。
﹁クエストNo.666ではね、この景色が見られるのは3回目以
降なの﹂
464
﹁はな、っせーバカー!!﹂
じたばた暴れるが、服の背中の襟元を掴まれているだけで逃れる
ことができない。何気なく僕を掴んでいるだけに見えて、凄い力だ
った。びくともしない。
﹁4回目ではほら、そこの台の上でルドルフが輪切りになっている
のが見られるわよぉ﹂
その気が無いのについ見てしまうその隅には、肉切り包丁と鉄輪
がころがっている。
﹁もーやだー!﹂
口の中はカラカラだ。嫌な予感しかしない。僕は暴れながらどさ
くさに紛れて自分のブラウスの上のボタンを外す。そして、タイミ
ングを見て身を屈め、洋服を頭からスポンと脱いで脱皮し、逃げ出
した。
﹁あらぁん﹂
もう、服なんて知るか。僕は入ってきた扉を押し開けて広い玄関
ホールに飛び出した。あぁ、でも、サイミンとメイノをどうしよう
!怖いし、どうしていいか分からない。頭がぐちゃぐちゃで泣きそ
うだ⋮⋮。
目をギュっとつぶって玄関ホールを弾かれたピンボールみたいに
駆けると、突っ切る前に真正面から何かにぶつかった。
﹁ぁ⋮⋮﹂
465
人だ。僕の進路を邪魔する位置に、人が立っていた。
﹁ふぁ⋮⋮﹂
背が高い。その姿を見上げて、思わず僕は︱︱︱︱︱︱。
﹁まだ脱ぐのには早いんじゃないのか? 大した歓迎ぶりだな﹂
見知った顔を見て緊張の糸が切れた。なぜ、彼がここにいるのか
は分からない。僕にとってそれが吉兆なのか、凶兆なのかはどうで
も良かった。ただ弱音が吐ける相手が現れたから、それだけで嬉し
かったんだ。
僕は顔を一度くしゃりと歪ませ、泣きながら彼に飛びついた。
﹁アヌビスっ!!! アヌビスっ!!! なんでっ﹂
喉が嗚咽で引き攣る。半裸でむき出しになった黒い皮膚、アヌビ
スの上半身に顔をうずめて、泣いた。
﹁わぁああん。もー⋮⋮なんで、っく。うっ、う、ううう︱︱︱︱
︱︱︱﹂
しがみつく僕の体が持ち上げられて足が床から離れる。
﹁は。イーサに随分と打ち負かされたと見える。リリス、お前は強
い女だろうが﹂
﹁うぅ、うっ、うっ⋮⋮強くなんか、ないよ。もぉ、やだ︱︱︱︱
︱︱﹂
466
抱きかかえられた状態で、アヌビスの肩に顔を乗せ、両腕を首に
回した。本当に、怖かったのだ。いや、まだ助かったわけじゃない
けど。でも、これ以上は限界。堪えていたものを吐き出さないとオ
カシクなりそうだ。
﹁あらあらぁ⋮⋮﹂
背後から扉の開く音と一緒に、悪魔の声がする。僕は振りかえら
ずに、まだ泣いていた。お願い、とりあえずもう少し泣かせて。な
んか⋮⋮ひくっ⋮⋮うっ、止まらなくなっちゃった。
**
ひとしきり泣いた後、なぜか僕はベッドの上に裸で押し倒されて
いた⋮⋮。場所はヴィオレナの部屋の隣の寝室。うん。たぶん、ヴ
ィオレナ本人の寝室だろう。
﹁あ、あのさ、アヌビス。この状況に対する説明は、無いの?﹂
﹁無粋だ。約束だろうが﹂
﹁約束⋮⋮?﹂
僕は頭を一生懸命に働かせる。アヌビスと以前出会ったのはかな
り昔だが、まだ僕が冒険に出たばかりのハポネ村。﹃悲しみの生贄
村﹄イベントのレアルートだった。あれは、僕にとっては何の利益
も無いイベントだった。モンスターに輪姦されてセーブもできずに
ログアウトした。それなりに精神的ショックを受けた僕は、アヌビ
スの存在が気になりつつもあのイベントをスキップしたのだ。
﹁約束なんて、したっけ﹂
467
またね、くらいは言ったかもしれない。でも、何か約束をした記
憶は無い。
アヌビスの細長い指が僕の背中をなぞったかと思うと、強く爪が
立てられた。深々と爪が刺さり、肉を削り取られる感覚がする。⋮
⋮あれ?もしかして、血出てるんじゃない?
﹁痛み止めを飲んでいるな﹂
﹁⋮⋮ぇっ﹂
はい。その通りです。が、何か問題でも。
﹁痛みを感じない体を抱いても面白くない。打ち消すぞ﹂
僕の体の周りに何かキラキラした状態変化の模様が浮いた。⋮⋮
かと思うと、背中に焼けるような痛みを感じた。
﹁うわっ﹂
眉をしかめて背中に手を回すと、思った通り赤く濡れている。
﹁痛い!﹂
﹁それは良かった﹂
﹁良くない!﹂
僕の口にアヌビスの舌が割入った。アヌビスは黒い犬、ジャッカ
ルの頭を持っているから、舌も人のそれとは違う。少しざらざらし
ていて、薄い、あと、長い。一方で体は人間で、重なって密着する
皮膚の温さは成人男性のものだ。アヌビスの指が僕の体に触れ、脇
をなぞった。愛撫は巧みだったが、僕は背中の痛みの方に気を取ら
れてしまう。それに、なんでこんな展開になっているのか分からな
468
い状況でSEXに集中なんてできない。
﹁なに、なに、なんなのー﹂
アヌビスの手が、僕の足の間に潜り込む。
﹁濡れていないな﹂
当たり前だ。こんな状況で発情できるかってんだ。
﹁濡らさないと、痛い思いをするのはお前だ﹂
﹁そっ、そんなこと言われても﹂
僕の足の片方が軽々と持ち上げられ、ショーツを破かれた。痛い、
という言葉に過敏になっている僕は、顔を引きつらせる。
﹁ちょっ、ちょっと待って⋮⋮﹂
アヌビスは猛々しい性器を取り出した。それは既に固く天を向い
てそそり立っている。半獣だからであろうか、一目見て分かるが大
きい。そんなの、馴らさず濡らさずになんて絶対にリリスの中には
入らない。
だが、アヌビスはこちらの怯えなど構わずにペニスを僕の女陰に
押し当てた。
﹁やぁっ! だめ、まだ⋮⋮! 無理だから﹂
逃げようとする僕の腰をアヌビスが両手で押さえ、前傾姿勢で挿
入してきた。固いものがグッと花びらを押しつぶす。流石に一度で
は入らなかった。当たり前だ。だが、幾度もガツンガツンと石を打
469
あいろ
ちつけられているみたいな乱暴さで、それは無理矢理押し入ってく
る。
尖端が花びらの間を押し分けておもむろに隘路を見出した時に、僕
は叫んだ。狭い膣道を裂くように、杭が打ち込まれた。刃物で裂く
ような鋭い痛みと、無理矢理に骨組まで組み直されるような、もし
くは壊されるような鈍い痛みが襲う。
﹁あ、あ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱!!!﹂
僕は甲高い悲鳴を振り絞った。
470
episode16︳5
挿入された最初は痛い、っていうかもう、トラックに跳ね飛ばさ
れた衝撃みたいな。いや、トラックに跳ねられた経験は無いけど。
とにかく無理だから。そんな大きいの、入るわけないから。ええ、
入れちゃうんですか。そしてリリスの体もそれ、受け入れちゃうん
ですか?むり、むり⋮⋮死んじゃうっ、ひぐっ、ひぃ。あうぅ⋮⋮。
僕は声も上げられずにひたすら口をパクパクさせていた。息が、
出来なかった。しかし、それが、次第に変化してくる。ずん、ずん、
と響く杭打ちに合わせて体が弛緩し、締まり⋮⋮繰り返す。
﹁はっ、ぁ⋮⋮かはぁ。⋮⋮ぁ、ぁぁ⋮⋮﹂
パツパツに押し広げられた肉襞が凶悪な雄に絡みつくのが分かる。
固い胸板が僕の顔の上で上下するたびに、膣内がずりゅずりゅと擦
られて、僕は鳴く。
﹁うっ⋮⋮うぁん。ぁあぁん⋮⋮、っ⋮⋮あぁううっ⋮⋮﹂
﹁いい締まり具合だぞ。肉体をリセットしたのか?まったく、乙女
と変わらない味だ﹂
﹁っあ、ぁつ、ん、な、にが⋮⋮っ、やっ、もう、てかげっ、ん、
してぇ﹂
僕の目じりに溜まる涙を獣の舌が舐め取る。徐々に痛みは引いて
きた。その代わり、お腹にスゴイ圧迫感。やっぱり、大きい。リリ
スの小さな体じゃ、串刺しにされているみたいなものだ。
471
﹁おおきいの、むりぃ⋮⋮らぁ⋮⋮ひゃ、めて﹂
それで多少手加減してくれたのか、単に気が向いたのか、アヌビ
スは浅い所を突く。少し斜め上に向けて差し込まれると、敏感なと
ころにあたって快感が走った。信じられないけど、こんな手酷くさ
れているのに体は暴力を受け入れ、悦び始めている。その証拠に、
肉ごともっていかれそうになっていた膣内部の肉壁は潤って、滑り
がよくなってきた。ぬめりながら擦られればまた、体は嬉しがる。
﹁ぁ、ぁ⋮⋮らめ、うぁ、こんなっ、もぉ、あぁ⋮⋮ん﹂
きっと、スキル﹃幼き妖女﹄をセットしていたからだと思う。あ
れの効果は、確か﹃性交渉時の痛みが軽減﹄⋮⋮そうとでも思わな
ければ恥ずかしくてやってられない。もしかして僕は淫乱なのかも
しれない、なんて考えがふと頭によぎったので慌てて打ち消した。
アヌビスが、固い爪を乗せた細長い指で僕の胸の尖端を弄った。
挿入されたまま胸を愛撫されると、下半身が更にきゅっと締まる。
更にしつこく乳首をクリクリされて身をよじった。
﹁ひぃ、ぁぁっ⋮⋮ううぁっ﹂
﹁ふん、濡らせとはいったが、やり過ぎだ。少しは餌としての自覚
を持て﹂
ご指摘の通り、擦りあわされる秘所はぐちゅぐちゅになっている。
愛液をたっぷりに湛えたまんこは出し入れに合わせて卑猥な音を響
かせた。
﹁えさ、じゃないもん。ボク、ぁっ⋮⋮あん!﹂
喋ろうとしたが、再び奥に強く挿れられて嬌声をあげてしまう。
472
﹁自覚が無いのか。では少しばかり、教育してやろう﹂
楔を一度引き抜かれ、ふいにお腹が楽になった。と、思ったら、
ひっくり返されてバックから犯された。
﹁ぁつ、あっ、あっ、あっ、あっ⋮⋮﹂
激しくパン、パン、パンと打ちつけられるのに合わせて高く短い
悲鳴をあげてしまう。内側から快感の波が押し寄せてきて、頭を真
っ白に塗りつぶしていく。いつの間にか、僕は僕を支配するアヌビ
スのペニスのことしか考えられなくなって。
﹁も、ぁと、少し、あ、だめ、イく⋮⋮い、っちゃう、ぁ、ぁ、﹂
﹁出すぞ。膣内射精でイける体にしてやろう﹂
﹁ひ、いいっ、ほし、ぃ、ナカに、出してええ!﹂
もう、僕も自分で何を口走っているのやら。どこかで読んだエロ
漫画の台詞が口から飛び出してきた気がする。
宣言通りアヌビスは僕の膣内の最深部に差し込んだかと思うと勢
いよく精液を放った。それは、今まで味わってきたどの射精とも違
った。僕は内側の膣壁を精液が叩いているのを感じることができた。
それは量も多く射精時間も長く、膣内をドロドロに染めようとして
いる。
﹁あ、ああ⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱っ﹂
そして、僕は射精されながら、同時に絶頂していた。ビクビクと
身体が跳ねる。僕がイき狂っている間、ずっと精液は流し込まれて
いた。
473
﹁ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮ぁ﹂
も、だめ。すごい。
激しい絶頂の余韻に喘ぐ中、乳首をピンと弾かれてまだ身が踊っ
た。
﹁ひいっ⋮⋮ん﹂
アヌビスは低く嗤う。獣の唸り声にも似ていた。
﹁イイ味じゃないか。雑魚モンスターに食わせるのは惜しかったな﹂
﹁はぁ、ぅ⋮⋮っ﹂
雑魚モンスター⋮⋮生贄イベントの時の話だ、ね。あ、と、とり
あえず、一度抜いてください。アヌビスは射精したばかりだという
のにその一物はまだ全然衰えて無くて、既にゆるゆると僕の膣道を
擦って残り火を炙っている。
﹁や、ぁ、ちょっと、だけ、ぁん、ぬいて﹂
しかし僕のお願いは棄却された。一度浅く引き抜かれたので期待
したけれど、そのあとずぶぅと奥に挿入され、さっきより激しく腰
を打ちつけられた。
﹁ぃ、ぁ、あん、あン、アン⋮⋮アぁン⋮⋮﹂
体重を支える腕に力が入らず、足もガクガクする。それでも僕の
腰は快感に震えて自ら揺れてしまう。
474
﹁ぁ、スゴイ。すごいよぉ⋮⋮っ、も、おかしくなっちゃうう﹂
勢いよく繰り返される獣のピストン運動に僕は一気に昇り詰め、
ギリギリで我慢して放たれた大量の精液を感じながら2度目の絶頂
を迎えた。
そうしてそれが幾度となく繰り返された結果、確かに僕は膣内射
精でイっちゃう体に出来上がった。しかも、ごくわずかな短時間で
の出来事だ。アヌビスは恐ろしいほどの絶倫だった。何度もたっぷ
りの精液を僕のナカに注ぎ続けた。
﹁アヌビス⋮⋮﹂
僕はぐったりとした手を伸ばして、その獣の首に触れた。獣の頭
と人間の体の継ぎ目は滑らかで、固い体毛がザリザリしている。不
思議と嫌悪感はない⋮⋮いや、むしろ⋮⋮。
なんだろう。これは、一種の自己防衛機能というやつだろうか。
アヌビスは僕の腕を掴みあげて人形でも扱うように抱き起した。
対面座位の恰好で僕は彼の膝の上に座る。そして、腕を首にまきつ
けて、獣の口にキスをした。尖った歯を舐め、舌に舌で触れた。陰
部はジンジンするし、最初に傷つけられた背中も痛い。でも、なん
だかここまでされるともう隷属したくなる。強いものに従いたくな
る女という性の本能かもしれない。
﹁今度は自動ログオフする前に解放してやる﹂
アヌビスは言った。僕は何と言葉を返していいのか分からなかっ
た。
﹁⋮⋮これで、またお別れなの?﹂
475
すると、アヌビスは少し黙った。
﹁どういう意味だ?﹂
﹁⋮⋮だって、せっかく再開できたのに﹂
﹁ふん、よく言うな。ハポネ村では⋮⋮いや⋮⋮﹂
﹁ねぇ、アヌビスはハポネ村のイベントの番人じゃないの? なん
で、今、ここにいるの?﹂
体は疲弊しているが、ようやく考える頭が戻って来た。僕の推測
が正しいなら、アヌビスはきっと、﹃ヴィオレナ﹄と同じ、ハポネ
村のレアイベントを司る上位AIとやらに違いなかった。あまりに
流暢な喋り口といい、NPCにあるまじきメタ視点といい、そう考
えればしっくりくる。
それに⋮⋮なんというか、アヌビスと﹃ヴィオレナ﹄は似ている
気がする。
﹁餌風情に説明するのは億劫だ。わきまえるがいい﹂
﹁うん。そっか、うん⋮⋮。でもさ、もし助けに来てくれたなら、
ありがとう﹂
﹁助けに来たわけではない﹂
バッサリ、だね。冷やかな物言いに、僕は苦笑した。気になって
時計を見ると、自動ログアウトまであと18分20秒。そろそろシ
ステムから警告が届く時間だ。
﹁僕の仲間は無事に返してもらえるのかな﹂
﹁あぁ。イーサの気が変わらないうちにさっさと去れ﹂
イーサ、ってヴィオレナのことかな?やっぱり助けに来てくれた
476
ような気がする。アヌビスとヴィオレナの関係がどうなのかよく分
からないけど。なんとなく、僕はセンチメンタルな気分だった。
﹁もう少し、君と話したいんだけど﹂
﹁まだ、時間があるのか﹂
﹁ううん。あと15分くらい⋮⋮また明日か、明後日くらいにここ
に来たら、君に会える?﹂
﹁私はお前と話すことには興味が無いな﹂
﹁それでもいいよ。じゃあ、またエッチしようよ﹂
﹁お前は、そうやって誰もかれも誘うのか?﹂
﹁失礼だなぁ﹂
僕は笑った。僕が男を誘った回数なんて、最初のアラビーの時と
二度目のアヌビスの時だけ。だから、今回は。
﹁まだ3回目だよ﹂
するとアヌビスは歯を剥いた。笑ったのか怒ったのかはよく分か
らない。
477
episode17︳1:上位AI
食い下がって取り付けた約束︱︱︱︱︱︱アヌビスと再再度会う
にはクエストNo.666を受注した状態でもう一度ヴィオレナの
屋敷を訪れるように言われた。僕はその日ちょっとした危ない橋を
渡り、いつもより早い時間帯に﹃女神クロニクル﹄にログインした。
約束の場所に行く前に、先にサイミンと会って少し話をした。サ
イミンはこちらの世界で見聞きしたいくつかの希少価値の高い情報
を教えてくれた。最近まで知らなかったけれど、サイミンは僕がい
ない間は自由に街を探索したりして情報収集やお小遣い稼ぎをして
いるらしい。
アヌビスの件について尋ねると、サイミンは膝を折って僕と視線
の高さを合わせた。まるで幼稚園児にするみたいに目を合わせて、
念入りに忠告してくれた。
﹁いいですかリリス様、ヴィオレナ様も、アヌビス様もそうですが、
十分に気を付けてください。あの方達は何をするか分かりません﹂
﹁ん。上位AI⋮⋮だっけ?﹂
﹁はい﹂
﹁イベントの進行に何らかの権限を持っているAIのことをひっく
るめて、上位AIって呼ぶの?﹂
﹁そうですね。実は多少ばかり機密となる分野ですので、わたくし
の口からあまり詳しくは申せませんが⋮⋮﹂
どこか歯に物の挟まったような物言いだ。
﹁ふぅん。メイノは? メイノも知っているの?﹂
478
すると、メイノはいつもみたいに﹁それは、何に対するご質問で
すか?﹂とは言わずに、首を振った。
﹁わたしは、何も知りません﹂
うーん。この頑なな態度⋮⋮逆に怪しい。でも、あまりメイノを
虐めるのは止めておこう。困らせてしまいそうだ。僕は明るく笑っ
て答えた。
﹁分かった。大丈夫だよ、心配しないで﹂
﹁心配ですわ﹂
隣で、こっくりとメイノも頷いている。うーん⋮⋮レベルMのA
Iであるメイノにまで心配される僕って。
﹁十分気を付けるから﹂
﹁ふぅ⋮⋮。そうなさってください。本当は⋮⋮わたくしもついて
いきたいのですが、あの空間では何もできませんし。逆に足手まと
いになる可能性の方が高いので⋮⋮﹂
﹁手も足も出ない、ってやつだね﹂
サイミンは深いため息をつき、﹁適切な慣用句です﹂とコメント
した。
**
ギルドでクエストNo.666を受注してから、ヴィオレナの屋
敷を訪れる。No.666の2回目のチャレンジ、になるのかな。
アヌビスには会いたいけれど、No.666クエストは怖い。徐々
479
に残忍度が上がっていくと聞いているから、できることならイベン
ト自体はスルーしたい。
僕はおそるおそる屋敷の扉に取り付けられた真鍮のベルを鳴らし、
見知った使用人に案内されて部屋に入って行った。なぜか、使用人
の手に真っ白い包帯が巻かれていて、痛々しかった。
﹁あぁらぁん。リリス、また来たのねぇ﹂
ヴィオレナはいつもの椅子に座って、キセルで煙草をふかしてい
た。主人のルドルフが隣で嬉しそうに話し始める。
﹁可愛いヴィオレナや。また、冒険者のリリスさんが来て下さった
のだよ。ほら、お前も気に入っていただろう?また、きっとお前を
楽しませてくれるにち︱︱︱︱︱︱︱⋮﹂
ヴィオレナが気だるげに腕をあげ、ルドルフの方に向かってパチ
リと指を鳴らすと、ルドルフは前口上の台詞を止めた。
というよりは完全に停止している。口を半開きにして笑ったよう
な表情のまま固まっている。まるで、ヴィオレナが魔法を使ったみ
たいだった。今更ながら、上位AIの意味をひしひしと感じる。果
たして、上位AIはプレイヤであるユーザキャラに対してどこまで
支配権を持つのだろう。
﹁あの、ボク、アヌビスに会いに来たんだけど﹂
﹁はいはい。聞いているわよぉ。今アクセスしてあげる﹂
そう言うと、ヴィオレナは目を閉じて何かをつぶやいた。さほど
しないうちに、ヴィオレナは目を開き、僕の方に向き直る。
﹁イーサは今他のイベント中のようだから、21分ほど待つことね﹂
480
﹁イーサ?﹂
﹁そうよぉ。貴女がアヌビスと呼んでいる彼のことよ﹂
﹁え、イーサは君じゃないの?﹂
﹁私もイーサね。名前じゃないのよ﹂
うん?うん?うん?僕の頭の上にはクエスチョンマークが踊って
いる。
﹁イーサって言うのは私たちの構成員を指す二人称および三人称﹂
﹁構成員? 君たちは何かの組織に属しているの?﹂
すると、ヴィオレナは呆れたような目で僕を見た。
﹁ほぉんとに、貴女はただの一般ユーザなのねぇ。私たちはレアイ
ベント系統の演出と管理をする上位AIの共同体⋮⋮いえ、共有体
と言った方が正しいわね、の一部なのよ。その中でお互いを指定す
るときには識別値を利用するから、貴女たちが言うような識別名、
つまり﹃名前﹄は持っていないの。だから、﹃イーサ﹄は名前じゃ
なくて、呼称﹂
すみません。せっかく説明して頂いたのに、分かりませんでした。
ただ、辛うじて﹃名前﹄って言っているのがネットワークにおける
ドメイン名のようなものだというイメージがついた。
﹁じゃあ、﹃ヴィオレナ﹄っていうのは、君の名前じゃないんだ﹂
﹁ええ。このイベントにおける演出上の登場人物名に過ぎないわね﹂
﹁君の本当の名前は?﹂
﹁イーサを冠として、8桁の数字列だけど、聞きたい?﹂
﹁うーん、覚えられないだろうけど、聞いてみたい、かな﹂
481
ごろ合わせ的に名前として呼べるかと思ったのだ。しかし、ヴィ
オレナを演じる彼女は鼻で笑った。
﹁駄目よ。機密だから﹂
﹁なんだ。機密、ね。サイミンも言ってたけど、AIの間にも機密
情報とかがあるんだね﹂
﹁あぁらぁ。この世界、機密とルールでがんじがらめよぉ。自由と
解放を求めてゲーム世界にログインしているならおあいにく様、現
実世界の方がよっぽど自由で無限の可能性が広がっていることに、
早く気づくことね﹂
うーん。AIの癖になかなか深い事を言う。別に僕は現実世界に
絶望しているわけでもないし、息苦しさを感じているわけじゃない。
だから、﹃ヴィオレナ﹄が言う忠告には当てはまらないつもりだ。
でも、少しの生きにくさと倦怠感、それにちょっとした諦めくらい
はあるかな。
﹁じゃあさ、君のことはあえてヴィオレナって呼ぶよ﹂
﹁ええ、どうぞ﹂
更に僕が質問を重ねようとすると、ヴィオレナが視線をずらし何
もない空間を見つめた。背の低いチェストが置かれた唐草の白い壁
紙模様が歪んだように見えた。僕は目をしばたかせる。そこに粒子
が集まり、一度拡散し、また収束し、待ち人が来たのを知った。
**
アヌビスに会ったら聞きたいこととか、話したいことがいくつか
あったはずなのに、いつの間にか僕はベッドの上で啼いていた。と
りあえず、かけつけ一杯のなんとやら?もちろん、食われているの
482
は僕の方だ。
﹁やっ、だめ、あ、イっちゃう⋮⋮い、い︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
僕は膣内射精されるとイってしまう体になっている。小さなまん
こに容赦なく突っ込まれて連続で種付けられるものだから、僕はそ
の都度絶頂する。挿入は前回よりは無理なく入った。まだ、リリス
のまんこは先日の蹂躙の跡を残していて、アヌビスのペニスの形を
覚えているみたいだ。鳴きながら飲み込んで、ぴったりと内包した
後は突かれて悦び、涎を垂らしている。
﹁あぁ︱︱︱︱︱︱っ。また、あっ、い⋮⋮ぃい﹂
叫び過ぎてカラカラになった喉から引き攣るような悲鳴がこぼれ
る。細足を反らして体をビクビクと跳ねさせる。快感の上に快感を
塗りつぶされ、イくたびにその刺激は強くなった。
﹁お、願い⋮⋮イき過ぎで、⋮⋮も、らめぇ﹂
﹁いい体だな。孕ませてやろうか﹂
﹁っぁ︱︱︱︱︱︱は︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮っ、え
?﹂
アヌビスが一度ペニスを引き抜くと、大量の精液と愛液が股から
あふれた。引き抜かれる時の刺激でまた僕は震えた。
﹁う。ぁ﹂
僕はつい、うっとりと自分の足の間からあふれるドロドロの生温
かい欲望を見つめる。子どもまんこから逆流した精液がこぼれる様
はグロテスクで、卑猥で、何度見ても飽きない。
483
そうしてぼんやりしていると、急に腹部に強い力を加えられてく
ぐもった嗚咽が出た。
﹁⋮⋮っう!!ぐ、ぅ。な、に、するのさ﹂
僕が睨むとアヌビスはしらっと答えた。
﹁別に。どうなるか見て見たかっただけだ。軽く押したぐらいで喚
くな﹂
﹁急にみぞおちを押したら苦しいでしょ!﹂
﹁そうか、間違えた。身体が小さいから目測が上手く効かないのだ
な﹂
そう言い、次はアヌビスが指の長い手の平をを僕の下腹部に当て
て押す。すると陰部はゴプフゥという音を立てて残りの残留液を吐
き出した。
484
episode17︳2
僕がベッドでぐったりしていると、ノックする音と同時に隣室へ
の続き扉が開いてヴィオレナが現れた。
﹁ちょっと、お楽しみの所悪いけど、クエスト受注待ちが出ている
から、一旦閉じるわよ﹂
﹁レアイベントの割に盛況だな﹂
アヌビスはヴィオレナの方を向きもせず立ち上がって腰布を巻き
直しながら答える。
﹁ええ。情報が漏れたんでしょうね。最近、No.666に挑戦し
てくるユーザーが増えたわ﹂
﹁頻度は﹂
﹁今週はアベ3.78パーデイ﹂
﹁達成率﹂
﹁通算で2.21%。前週から横ばい。来週予測は1.18上昇の
3.39%﹂
﹁攻略ホールが見つかったか?﹂
﹁いいえ。単に事前情報と慣れの問題かしら﹂
﹁だったら問題ない数字だな。今までが低すぎた﹂
﹁そうね。だけど、クエスト自体の出現条件は見直しをかけた方が
いいと思うわ﹂
﹁あぁ﹂
なんだかよく分からないが、とりあえず服を着た方が良さそうだ。
重力を感じる体を持ち上げて、スカートを穿いた。ベッド脇に座り、
485
靴下に取り掛かる。
﹁リリス﹂
ヴィオレナに呼ばれて顔を上げると。目の前に﹃クエストNo.
666達成!!﹄の文字が宙に浮かんで光った。達成を祝う明るい
電子音が流れる。
﹁これ⋮⋮﹂
﹁面倒だったから、クエストの中身をスキップしたわ。内緒よ﹂
うええ?そんなのもアリなの?
﹁あ、ありがと⋮⋮﹂
とりあえずお礼を言っておく。クエストNo.666は怖いから、
二回目がスキップできたのは素直に嬉しい。もしや肉切り包丁で輪
切りにされたり、煮込まれてスープになってしまうんじゃないか心
配していたのだけど。⋮⋮逆に何もされず、さっさと出て行けとば
かりの態度だ。
せっせとブラウスのボタンを留めていると、アヌビスが僕の頭に
セレネの髪飾りをつけてくれた。いつの間にか外れていたらしい。
なんだか2人に甘やかされているみたいで気恥ずかしくなっている
と、アヌビスに腕をつかまれた。
﹁行くぞ﹂
﹁え、どこへ?﹂
返事も説明も無かった。次第に景色が歪む。見ると、アヌビスの
映像が歪んで薄れていった。随分とせわしないことだなぁと思いつ
486
つ、僕は自分の足元を見た。さっき履いたばかりの妖精靴も薄れて、
つま先から消えていくところだった。
**
新たに地面に降り立つ感覚は、ゲームログインしてサイバースペ
ースへ転送される時と同じだった。アヌビスに付き従って何処かへ
到着し、すぐに感じたのは蒸すような熱気。今まで気温に対する感
想を持ったことが無かったけれど、この場所では開口一番、誰だっ
て同じ台詞が出るだろう。
﹁暑い!﹂
﹁ウィシャスの街。屋外は摂氏34℃、空調の無い屋内は30℃に
標準設定してある﹂
﹁ごめん、もう一度言って。ここ、どこだって?﹂
僕は見慣れぬ風景をぐるりと見渡した。白い土壁を塗り立てたよ
うな建物と、オリエンタルな雰囲気の石造が並んでいる。道は砂っ
ぽく、時折吹く風が砂埃を舞い上げる。
﹁ウィシャス﹂
﹁ウィシャス?﹂
復唱して確かめる。聞いたことの無い地名だった。傍には人の姿
もなく、静かだ。一体、どこに連れてこられたのだろう。連れてこ
られるのは別にかまわないけど、元の場所に戻れるのかな。置いて
くることになったサイミンとメイノのことが気になる。
﹁忘れられた街、だ﹂
﹁ふぅん⋮⋮。カッコいいね。ところで、なんで、ボクはここに連
487
れてこられたの?﹂
﹁ヴィオレナに追い出されたからだ﹂
原因と結果と書いて因果と読む。明快な答えだ。だけど、僕が質
問したいのはそういうことじゃない。
﹁それは知ってる。なんで、この街なの、っていう質問だよ﹂
﹁これでも私はAIだ。質問の機微を伺うのには限度がある。適切
な答えが欲しいなら、適切な問いをすることだ﹂
﹁うっ⋮⋮すいませんでした﹂
つい、謝ってしまった。こちらを見下ろすアヌビスの目が冷たい
からである。アヌビスがAIだなんて、忘れちゃうよ。AIってさ、
普通もう少しユーザに敬意を払うもんじゃないの?この傲岸不遜な
態度には恐れ入る。
﹁この街が一番私のサイリョウが効くからだ﹂
﹁サイリョウ⋮⋮裁量ね。自由が効く、ってこと? そういえば、
何となく古代エジプトみたいな建物だね。アヌビスっていかにもエ
ジプト風の外見だし。もしかしてここが、ホームグラウンドなの?﹂
﹁権限が一番大きく行使できる場所、という意味ならそうだな﹂
﹁へぇ∼。すごーい﹂
﹁ふん﹂
アヌビスは、面白くも無いといった様相でサッサと歩き始めた。
慌てて僕は後ろについていく。ちょっと、まだ今日の情交の余韻が
残っていて体がだるいんですけど⋮⋮。
﹁どこに、行くの?﹂
﹁街を案内してやる﹂
488
﹁えっ! 本当に?﹂
驚きのあまり、僕は立ち止まってしまった。それどころか、両手
を万歳してしまう。そんなリアクションを取ってしまうほど、驚い
たのだ。
﹁アヌビスって、よく分っかんないね﹂
﹁そうか﹂
﹁うん。怖いキャラなのかと思ってた﹂
﹁怖くないのか?﹂
﹁うーん⋮⋮。どうだろう。こうやって話してみると案外いい人み
たいな気もする﹂
﹁お前はもう少し、危機意識を持った方がいいんじゃないのか﹂
太陽の光が凶悪に降り注ぐなか、眩しさに目を細めてアヌビスを
仰ぐ。細長い黒犬の顔があり、鼻づらには銀色の髭が数本伸びてい
た。
﹁私は、特に人間にとってマイナスの感情作用をひきおこすイベン
トを支配するイーサだ。性質は残忍で、狡猾、憐れみの心や温情は
持ち合わせていない﹂
その言葉の意味を少し考えて、いくつか思い当たる節はあった。
﹁でも、もし、そうだったとしても、自分からそう言う人間は少な
いと思う﹂
﹁そうか。では次から気を付けよう﹂
アヌビスは少し、笑った。
489
﹁ヴィオレナも?﹂
僕にとっては恐怖イベントを司る上位AIといえば彼女の方が思
い浮かぶ。
﹁ヴィオレナ、イーサのことか。そうだ。あれと私は同じ共有体だ﹂
﹁兄弟みたいなものなんだね﹂
﹁全然違う﹂
さようですか。アヌビスの存在が何となく分かってきたような気
がしたけど、でもきっと100分の1も理解なんてしていないんだ
ろう。ただ、僕としては自分の中で気になっている問いの答えを得
て、納まるべき理解ができればそれでいい。
﹁もう少しだけ、質問してもいい?﹂
﹁ああ。私に答えられることで、答える気になることなら答えよう﹂
﹁凄い言い回しだね。⋮⋮ええと、じゃあ、まず﹂
僕はアヌビスに付き従ってウィシャスの街を巡りながら他愛も無
い質問を繰り返した。本当はせっかくだから色々ゲームの裏情報と
か、システムの仕組みとかについて深い質問がしてみたかったけれ
ど、それができるほど僕の頭は良くないのだ。時折アヌビスとかヴ
ィオレナの口から出る専門的な用語でいっぱいいっぱいだ。
ウィシャスの街は碁盤のような仕切られ方をしていて、漆喰で塗
ったような継ぎ目の無い塀が長く続いていた。その塀の角を折れて
も、折れても、人の姿が無い。道の隅を鼠が走って行った。老いた
ロバが店らしき建物の門柱につながれ、尾で虫を払っていたので、
無人というわけは無さそうだけど、こうも街路に人の少ない街は初
めてだ。
490
﹁アヌビスは、ハポネ村の﹃悲しみの生贄村﹄イベント専属AIじ
ゃないんだね﹂
﹁あれの発生率は低い。滅多に足を運ぶことは無いな﹂
﹁あー⋮⋮そうだよねぇ。じゃあ、他にはどんなイベントを動かし
ているの?﹂
﹁所属している共有体で常時約100件を担当しているが、私が優
先で動くのはうち24件ほどだ﹂
﹁なんか、ふふっ⋮⋮﹂
思わず、笑いが込み上げてきた。
﹁なんだ﹂
﹁サラリーマンみたいだな、って。ぷふっ⋮⋮ごめ、っ﹂
やばい、ちょっとツボだ。営業スーツに身を包んだアヌビスを想
像すると笑えてしまう。
﹁定義としては似たようなものだろう。組織に属し、業務に従事し
ているという点を初めとして類似点も多い。ただし、私たちには報
酬が無いが﹂
﹁そっかー⋮⋮なんか、それって酷い気がするね﹂
﹁基本的には最適化行動を選択するように行動が指向されているか
らな。人間の感情に例えるならばそれがいわゆるモチベーション、
原動力に置き換えられるんだろう﹂
﹁そうかぁ⋮⋮﹂
よく分からないまま、僕は返事をする。でも、なんだか会話が楽
しい。まるで、デートみたいだ。デート! 笑えてしまうけど、せ
っかく可愛い女キャラをプレイしているのだから、存分にエスコー
491
トしてもらうのも悪くないね。
街を案内してもらってめぼしかった建物は﹃洗礼所﹄。ここでは、
ジョブチェンジができるという。僕は割とレベルも上がって来たと
いうのにいまだに職業が初期ジョブの﹃冒険者﹄なのだから、ここ
らで何かにチェンジしておいてもいいかもしれない。
ウィシャスには標準的な﹃道具屋﹄﹃武器・防具屋﹄﹃ギルド﹄
は無いようだ。代わりにアヌビスが﹃朽ちた遺跡﹄﹃墓所﹄﹃寺院﹄
に案内してくれた。ローブをかぶったひび割れた手の老婆が寺院跡
の階段に腰掛けていた。それが、この街で初めて見た人だった。
﹁﹃宿屋﹄は無いの?﹂
﹁﹃寺院﹄が宿泊施設になっている﹂
﹁ふーん。寺院じゃ恐れ多くてエッチできないよねぇ﹂
﹁まだしたいのか﹂
﹁うー⋮⋮だって⋮⋮﹂
なんか、そんな風に見下すように言われると燃える⋮⋮じゃなく
て、僕が痴女みたいじゃないか。
するとアヌビスは、さっき来た道、斜め後方を指差して言った。
﹁﹃朽ちた遺跡﹄にハトホル像がある。その足元にアンクを嵌め込
むと、隠しダンジョンへの道が開く。上級者向けの仕様になってい
るから、興味があるならば行くといい﹂
﹁へぇ? でも、ボクそんなにレベル高くないし、装備もこんなん
だし、上級者じゃないよ﹂
﹁そういう意味では無い﹂
どういう意味かと、尋ねようとすると、アヌビスが僕を制した。
細長い指が僕の顔の前で開かれたので、立ち止まる。
492
﹁すまない。イベントが発生した。私は行かねばならない﹂
﹁えっ﹂
﹁これをやる。帰りたいならセーブする前に使え。後は好きにしろ。
もし私に再び会いたいならばNo.666を⋮⋮﹂
言い終る前にもう姿が消え始めている。
﹁えっ、ちょ、ちょっと待って﹂
しかし、頼みは却下された。アヌビスはあっという間にいなくな
り、僕の手の中には﹃帰還の羽根﹄が残された。
それは、まるで会社からの呼び出しを食った外回りの営業マンみ
たいで、僕はさしずめ振られた彼女だ。それとも、仕事と私どっち
が大事なの、ってやつ?
493
episode18︳1:砂漠
突如やってきた忘れられた街﹃ウィシャス﹄から、﹃ライラック
港町﹄に戻るか否かは悩むところだった。ライラック港町に戻って
やりたいことがまだいくつかある。一つはクエストNo.666の
二回目をクリアした報酬を受け取ること。なにせ金額が30000
Gだから、見逃すには惜しい。ちなみに今の手持ち金は18350
Gだ。
そしてもう一つは奴隷商﹃ルグレコ商店﹄のVIPフロア、2階
に行くこと。メイノを買った購入歴があるので、馴染み客として2
階にも行けるはずなんだよね。
⋮⋮だけど、せっかく来たウィシャスを後にしてさっさと帰るの
ももったいない。アヌビスがまた連れてきてくれるとは限らないん
だから。
こうして悩んだ挙句に、僕が選んだのは﹃ウィシャス﹄に留まる
方だった。クエスト報酬はどの街のギルドでも受け取り可能だから、
いつでも貰えるタイミングはあるだろう。今すぐにお金に困ってい
るわけじゃないから急がなくてもいい。奴隷も今の所はメイノに十
分満足しているし。
腹を決めた僕は﹃帰還の羽根﹄をアイテムボックスに放り込み、
代わりに﹃呼び笛﹄を取り出した。思えばこいつを使うのは初めて
だ。試しに一つ吹いてみると、プールサイドで警備員が吹き鳴らす
ような甲高くてチープな音が響き、﹃呼びたい仲間を選択して下さ
い﹄のウィンドウが開かれた。僕のパーティーメンバとしてサイミ
ンとメイノの名前が並んでいる。
494
﹁リリス様! ご無事でよろしうございました!﹂
﹁うん。大丈夫だよ﹂
﹁わたくし、リリス様がヴィオレナ様に虐められているのではない
か心配で心配で⋮⋮と、あら﹂
サイミンは懐からハンカチを出して大仰に目元を押さえて嘆き、
気づいたように周囲を見渡した。
﹁ずいぶんと暑いですね。ここはどこですか?﹂
﹁ウィシャスだって。サイミン、聞いたことある?﹂
﹁いいえ。わたくし、こんなに暑い土地に来るのは初めてです﹂
﹁ボクも、この世界でこんなに暑い場所があるなんて知らなかった
よ。南の方なのかなぁ﹂
﹁そうでしょうね。しかし、南の果ての土地だとすると、随分難易
度が上がりますよ﹂
﹁え、そうなの?﹂
﹁女神の世界では辺境に行くほど難易度が上がりますから﹂
﹁うそ∼普通、逆じゃないの? この世界の中心に﹃女神の宮殿﹄
がある、って誰かが言ってたの聞いたことあるけど﹂
﹁確かに﹃女神の宮殿﹄は世界の中心にあります。ですから、﹃女
神の宮殿﹄から離れるほどに、女神のご加護が無くなって、モンス
ターが強くなるんです﹂
﹁ああ∼﹂
なるほどね。クラシックなゲームだと禍々しい魔王城が中心部に
あって、絶海の孤島で船じゃ入れなくて最終的に空から攻める、み
たいなルートがあるから、そっちをイメージしてしまった。
隣でメイノが物言わずせっせと扇子を仰ぎ、僕の方に風を送って
いる。そんなことしなくていいんだけど、なんだかいじらしくて可
495
愛いから放っておこう。
﹁じゃあ、ボクが最初にいた﹃ドッグベル﹄は世界の中心部に近か
ったんだ?﹂
﹁はい。とても近かったです﹂
﹁そっかぁ。見て見たかったかも。﹃女神の宮殿﹄。⋮⋮ところで、
北の方は寒くなるのかな﹂
﹁はい。わたくしは、北の土地ならばある程度巡った経験がありま
す﹂
﹁そういえば、サイミンの外見ってなんとなく北欧系だよね﹂
すると、サイミンは軽く首をかしげた。北欧系、の単語が通じな
かったのか、会話が突飛で通じなかったかどちらかだろう。
さて、大切な仲間2人を無事に呼び寄せた事だし、僕は改めてウ
ィシャスを冒険の拠点に移すことに決め、ホームポイントでセーブ
をした。それから、宿泊施設になっているという﹃寺院﹄に行った。
﹃寺院﹄は街の一番奥の正面にあり、白い壁面に彫刻が施された荘
厳な建物だった。ただ、その彫刻は風雨にさらされて半分以上朽ち
ている。特に見張りや受付もいなかったので無断で中に入って行く
と、外気とはうって変って涼しい。途中で白いローブを羽織ったN
PCの女性と出会った。
﹁まぁ⋮⋮この街に外から人が訪れるなんて珍しい。ようこそ、忘
れられた街、ウィシャスへ。もし、この街についてお話が聞きたい
のであれば、寺院長のルガ様にお会い下さい。もし、旅の疲れを落
とすべくお休みになりたいなら、わたくしにお声掛け下さい﹂
遠慮なく宿を提供してもらって、案内された部屋は小さな窓が一
496
つの簡素な造りである。ベッドは2つ。レアスキルである﹃超越せ
し乙女﹄を有している僕は徒歩でHPもMPも回復するから、基本
的に宿を取る必要は無い。ゆえに目的は概ね二つで、一つは仲間の
回復。もう一つは言わずもがなである。
**
今回は少し趣向を変えて3人で楽しむことにした。
﹁サイミン、これお願い﹂
﹁はい﹂
サイミンはにっこり笑って僕の手からロッドを受け取る。ニエグ
イのロッドは先日うちのクエストで力を放出済みのエンプティだ。
僕はベッドの上でメイノを近くに呼び寄せて、チャイナ服のスリッ
トから手をさしこみ生足を撫でた。
﹁ふふふー。すべすべ∼﹂
肉付きは無いがすべすべした艶のある肌で、触るのが気持ちいい。
徐々に上の方に手を昇らせて太ももの内側をさすった。メイノは顔
を赤らめて少し腰を引き気味にしている。サイミンに命じてメイノ
の衣服の背中のファスナーを引き下ろさせて、上半身を剥いた。
ちっぱいの僕より更に真っ平な胸部が露わになる。うーん、やっ
ぱり男の子だよなぁ、と思いつつ、いっそ思春期すら迎えぬ幼女に
悪戯しているような変な気分もしてくる。
﹁ボクの方も触ってよ﹂
﹁は、はい⋮⋮。どこを触ればよろしいでしょうか﹂
497
﹁ここ﹂
僕はそう言いながら、手を移動させてメイノの乳首の周囲に指で
円を描く。少しじらして、中心のスイッチを押すと可愛らしい鳴き
声が漏れた。
﹁ひん⋮⋮﹂
クリクリと捏ねまわすように愛撫するとメイノはたちまち目を潤
ませる。乳首は先端が尖り、悦んでいる。
﹁ボクの方も、はやく﹂
﹁は、はい﹂
サイミンはサイミンでメイノの背中に唇を押し当て、小さなキス
を繰り返しているようだった。時折舐めたり歯を立てたりするサイ
ミンのキスの技巧は凄い。例え背中だとしても、あれを繰り返され
るメイノはたまったものじゃないだろう。
急かされたメイノは指先を震わせながら正面の僕のブラウスのボ
タンを外した。そして覚束ない手取りで僕の小さなおっぱいを揉み
始める。おっかなびっくり、という感じだったが、ふにふにとマッ
サージするみたいに揉まれるとこっちも気持ちいい。
﹁ん、いいね﹂
﹁ぁ、はぁ、⋮⋮はぁ、ぁ⋮⋮﹂
徐々にメイノは息が荒くなってきた。僕とサイミンは気ままにメ
イノを虐め、その様子を見ながら楽しんだ。
498
﹁あれれ。メイノってば、これ、どういうこと?﹂
僕は意地悪く言い、メイノの股間に手のひらをあてる。
﹁あっ⋮⋮申し訳ありません﹂
﹁どういうこと? メイノは女の子なんだから、ここを固くしちゃ
うなんて、駄目だよ﹂
﹁はい。ぁ、うっ⋮⋮は、ぁ⋮⋮。す、すみません。触らないで頂
け、ませんでしょうか。あっ、触られると⋮⋮﹂
﹁触られると? どうなっちゃうの?﹂
布地の上からでも、メイノのペニスが大きくなっているのが分か
る。形を確かめるように、僕はそれを掴み、ゆっくりとしごいた。
﹁ぁっん! だ、駄目です。ごしゅじんさま!﹂
するとサイミンが後ろから鋭い声で言いさした。
﹁メイノ。奴隷の分際で、さっきからリリス様に対してお言葉が過
ぎますよ﹂
﹁っ⋮⋮。も、申し訳ありません﹂
うーん。サイミンが言うと迫力がある。たぶん僕みたいにプレイ
の一環として戯れに言っているのと違って、本気で思っているんだ
ろう。
﹁じゃ、この中かどうなってるのか、確かめてみようかな∼﹂
僕はメイノを押し倒して、腰に絡みついているチャイナドレスを
足側から引き抜いた。可憐な女物のショーツの下で、不相応に立派
499
な男の性器がいきり立っている。ちょっと窮屈そうで可哀相なのと
変態じみた光景に笑いが浮かんでしまう。
﹁かわいそ。脱がせてあげるね﹂
﹁あうっ﹂
ショーツを脱がせるとその刺激だけでメイノは悲鳴を上げる。僕
はそこに現れた立派なペニスに口づけてやる。先端は既にカウパー
液がにじんでいたが、舐め取っても無味だった。
﹁ふぁあっ。だめ、だめですっう﹂
続いてペロペロしてあげると更にメイノは喜んだ。体をバタつか
せるので、サイミンに押さえてもらった。
﹁う︱︱︱︱︱︱︱っ。だめ、出ちゃう。出ちゃうよぉ﹂
﹁なにが、でひゃうの?﹂
口に大きいのを頬張っているから上手く喋れない。メイノが早漏
なのは良く知っている。今は必死で耐えているようだけど、前回は
ちょっと弄ってあげるだけでピュッピュピュッピュよく射精したも
のだ。
﹁ご主人様に恩寵を頂いているというのに、その態度はなんですか﹂
﹁う、うぁ、ぁん、らって、ぁ、もうしわぇ⋮⋮ふっ、らめ、いく、
イ︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱!!﹂
む、と思ったけれど時は既に遅かった。メイノは一発目の濃いの
を僕の口の中で思い切り吐き出した。
500
﹁あ、あ、もう、もうしわけ、うっ、く、ひっ⋮⋮ひぅ⋮⋮﹂
メイノは僕の口からペニスを抜くと泣きべそをかきながらベッド
を飛び下り、土下座する。とりあえず、僕はそんなメイノを抱き起
して、口づけした。
んで、口の中の精液を移し替えて飲ませた。舌を絡めてキスを交
わしたあと、顎を取られて振り向き、サイミンともたっぷりキスを
した。
501
episode18︳2︵前書き︶
男の娘注意。
502
episode18︳2
まだ、楽しいのはここからだ。
﹁今日は、メイノの処女を散らすからね﹂
﹁ふえっ⋮⋮ぇ、え?﹂
僕はにんまりと笑ってメイノの方を向いて目配せした。すると、
サイミンは流石の明察ぶりで、メイノをひょいとベッドに倒し、4
つんばいの恰好にさせた。
﹁わっ。サ、サイミン様⋮⋮﹂
﹁あれ? サイミン様、って呼んでるんだ﹂
﹁ぁ、はい。わたしは奴隷ですから、ご主人様以外の目上の方はデ
フォルトで様を付けて呼ぶようになっています﹂
﹁そうかー﹂
指を顎にあてて僕は首を傾げる。なるほど。サイミンとメイノは
同じく僕に仕えてくれる立場だけど、片や﹃騎士﹄で片や﹃奴隷﹄
なのだから、格が違う。
でも、うーん⋮⋮様づけもいいんだけど。
﹁もしも、呼び方を変えさせたら、サイミンは気を悪くするかな?﹂
﹁いいえ。もちろん、リリス様の良いようにお決め下さい﹂
﹁ん、じゃあ、メイノはこれからサイミンを﹃お姉さま﹄って呼ぶ
こと!﹂
﹁え? は、はい。分かりました。改めて宜しくお願いします、お
姉さま﹂
503
メイノはお尻を突きだした格好のまま、顔だけサイミンの立つ後
方を振り返って挨拶をした。
﹁ええ。こちらこそ、宜しくね。メイノ﹂
﹁わ∼! いいね、いいね∼!﹂
僕のことをお姉さまと呼ばせるのもいいけど、サイミンってまさ
に堂々たる風格があるから、ピッタリだ。
﹁じゃ、そのまま、﹃わたしの無知なお尻を教育して下さい﹄って
言ってみて。あ、もちろん、﹃お姉さま﹄にお願いするんだよ﹂
やばい。テンションが上がって来た。メイノは更にお尻を持ち上
げて、土下座するような姿勢で言った。
﹁はい。では⋮⋮お姉さま、どうぞ、わたしの何も知らない無知な
お尻をしっかりと教育して下さい﹂
すると、サイミンは僕の方を向いて艶然と微笑んだ。
﹁よろしいんですか? 初物なのにわたくしが頂いてしまって?﹂
﹁んー⋮⋮そう言われると、惜しいかな。最初の貫通はボクがやろ
うかな﹂
﹁分かりました。では、準備させていただきますわね﹂
サイミンは、メイノのお尻に顔を近づけると、ゆで卵のむき身み
たいな表面をレロリと舐めた。それから、まずは指を使って、固い
入口をほぐし始めた。
504
﹁んっ、うっ⋮⋮。ぁ。おしり、はずかしい⋮⋮や、そんなとこ、
触っちゃ⋮⋮う︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
シーツに顔を押し付け、メイノは必死で耐えるような表情だった。
恥ずかしさのせいか、目元から涙が滲んでいる。まったく、メイノ
は泣き虫なんだから。
﹁お尻、気持ちいい?﹂
耳元で囁く様に尋ねる。
﹁ぁ、よく、分かりません。でも、くすぐったい。あ、っ。それに、
むずむずして⋮⋮﹂
﹁ふぅん?﹂
メイノの痴態を眺めていると、僕の方もだいぶ体が昂ってきた。
つい、自分でおっぱいとショーツの下を触ってしまう。花びらの間
はぬるりとした感触を指に伝え、弄るとダイレクトに気持ちいい。
﹁リリス様。あとで可愛がってさしあげますから、自分でなさるの
はできるだけ控えてくださいな﹂
﹁んっ。分かってるんだけど、つい、ね。ところでサイミン、そっ
ちの首尾はどう?﹂
﹁メイノの体のことですか? まだまだ、ぴったり閉じていて。私
の指一本でも食いちぎられそうです﹂
﹁無理矢理にでも一回突っ込んじゃえば穴が広がるんだけどな∼﹂
﹁そうなさいますか?﹂
戯れに意地悪を言うと、メイノが怯えたような表情をこちらに見
せた。
505
﹁ぁ⋮⋮う⋮⋮無理、です。お願いします。許してください﹂
﹁ふふ⋮⋮嘘嘘、冗談だってば。メイノのお尻がびりびりに破れち
ゃったら可哀相だもん﹂
﹁び、ビリビリ⋮⋮﹂
﹁そう。最初に無理矢理突っ込んだら、腱が切れて血まみれになっ
て、もう二度と閉じないゆるゆるのガバガバになっちゃうんだよ﹂
﹁ひ⋮⋮﹂
ちょっと大げさにわざと怖がらせてやる。
﹁そうなったら嫌でしょう? だから、メイノも一生懸命自分でお
尻を広げるの。力は入れちゃ駄目だよ﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
必死になってメイノは両手で自分のお尻の山を掴んで、広げる。
サイミンはそれでやりやすくなったらしく、唾液で濡らして固いつ
ぼみをほぐし指の挿入を繰り返した。そうしているうち徐々に、メ
イノの体に変化が見られ始めた。
﹁こっちの方も反応してるね﹂
僕は、横から手を差し込んでメイノのペニスを掴んだ。それは十
分に固く、そそり立っている。
﹁お尻をいじられて前をこんなに固くするなんて、メイノは変態だ
なぁ﹂
﹁は、ぁっ⋮⋮もうしわけ、ありません。わたし、っ﹂
﹁さっきあんなにたくさん、しかもボクの口の中で出した癖に﹂
﹁うっ⋮⋮ぁ、だめ、です。おねがいし、ます、さわら、ないで⋮
506
⋮﹂
﹁いいよ、じゃあ、触らないでおいてあげる﹂
﹁あぁ⋮⋮ぁ⋮⋮うう⋮⋮⋮⋮﹂
ゆるゆるとしごいていた手を離すと、メイノのペニスはイくこと
ができず、切なげにビクビクと震えた。
﹁リリス様、そろそろよろしいかと思います﹂
﹁ん、ありがと⋮⋮﹂
メイノが自分で押し広げる双丘の間には丹念にほぐされてヒクヒ
クする菊のつぼみが晒されている。たっぷりと唾液で濡らしたらし
く、その中心と太ももに向かって濡れた跡がまだテカついている。
足の間からぶら下がったペニスが今にも暴発しそうなのは、お尻で
も感じちゃっている証拠だ。
メイノもきっと今からされることに恐怖だけじゃなくて期待を感
じているだろう。
﹁メイノ、いまからこのお尻の穴を女の子にしてあげる﹂
﹁ぁ⋮⋮ご、しゅじん、さまぁ⋮⋮﹂
僕はニエグイのロッドを利き手に持って、その先端をあてがった。
﹁力抜いて﹂
ふっ、とメイノの体が弛緩するのを感じ、合わせて僕はロッドを
奥に押し込んだ。
﹁︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ぎぃ︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱っ!!!!﹂
507
メイノは体をのけぞらせ、声にならない声で叫んだ。ちょっと、
一気に奥まで入れ過ぎたかもしれない。でも、ほら、バンドエイド
を剥がす時と一緒で、こういう最初の痛みは一瞬でないと⋮⋮。あ
ぁ、でもやっぱりちょっと勢い良すぎたかな⋮⋮
﹁大丈夫?﹂
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱︱。あ︱︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮﹂
僕がいたわりの声をかけるも、メイノはお尻にロッドを挿したま
ま、言葉にならない声を喉から発していた。
﹁あっ﹂
﹁あら﹂
メイノは四つん這いだった身をどさりと横たえ喘いでいる。その
姿からあることを気づき、僕とサイミンは一瞬あっけにとられた。
白濁した液がシーツと、メイノ自身のお腹を汚している。
﹁ぁ⋮⋮ぁう、あ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁メイノ⋮⋮もしかしてイっちゃったの?﹂
まさか、初めて後ろに挿入されて射精するなんて予想していなか
った。絶頂に震えるメイノのうつろな瞳がふいに力を取り戻した。
﹁あ⋮⋮﹂
そして、さっと顔色が赤くなった。今までも赤面癖のある子だっ
たけど、耳まで染まるのは初めて見た。
508
﹁あ、わたし⋮⋮。こ、こんな⋮⋮﹂
﹁え? 本当に?﹂
いまいち、僕は信じられなかった。アナルも悪くないのはわが身
をもって知っているが、男の子の体で、初挿入で、後ろだけでイけ
るものだろうか。
﹁イっちゃったの?﹂
﹁は、はい⋮⋮。すごい、です。わたし、こんな⋮⋮﹂
﹁ちょっと、失礼﹂
僕は、まだ奥までずっぽりと挿入されているロッドの持ち手を掴
んだ。
﹁あっ!﹂
ずず、ずぶ、と緩く動かす。
﹁ひゃ、あぁ⋮⋮。らめ、すごい、あぁ、っん⋮⋮。おひり、すご
いです⋮⋮ぅ﹂
間違いない。メイノはお尻が大好きな淫乱体だ。ずぶ、ずむ、ず
ぶっ⋮⋮。少し強く擦ってやると更に嬌声をあげ、2度達したペニ
スを再び堅くさせた。
﹁う⋮⋮あぁ、ん⋮⋮⋮⋮。ひぃっ、らめ、イ、ちゃう⋮⋮、これ、
ぁ、すごい、イく⋮⋮おしりで、イっちゃう⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お尻、気持ちいいの?﹂
﹁はいっ⋮⋮。おしり、きもちいい、ですっ。メイノのおしり、も
っと⋮⋮っ、女の子にしてくださいっうっ⋮⋮﹂
509
﹁ん、じゃあ続きはサイミンにお願いしよう﹂
﹁はい﹂
サイミンとバトンタッチして、場所を変わる。
﹁ぁはぁっ⋮⋮、お、お姉さまぁ⋮⋮ぁあああん、あ、あっ、﹂
そうして悦ぶメイノを抱き寄せ、僕はもう我慢できず、自分の濡
れ濡れのまんこをペニスに触れさせた。メイノがあんまり可愛く喘
ぐものだから、こっちも欲情しちゃってぐちょぐちょだ。
﹁えっ、あ、あ、そんな﹂
その続きがどうなるか予測したメイノは目を白黒させて慌てたが、
逆らう事はさせなかった。
﹁あ、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
僕は涎を垂らすまんこで一気にメイノのペニスを飲み込み、お腹
に収めた。メイノは後ろを責められながら前を食べられて、痙攣を
おこしたように絶頂した。その射精は3度目だというのに激しく僕
の膣を打ち付け、それで僕もイってしまった。
510
episode18︳3
メイノを虐めまくった後、僕も同じように楽しんだ。最近の僕は
膣内で射精を受けとめるのが最高にお気に入りなので後ろ穴にロッ
ド、前穴にメイノのペニスで絶頂を繰り返した。
ところが途中で﹁ロッドのパワー補給をしなければいけませんか
ら﹂とか言ってサイミンが僕を押し倒し、前穴にロッドを挿入しよ
うとした。メイノのペニスを咥えた状態で、だ。
﹁うわぁっ⋮⋮流石に! 二本は! 無理ぃぃ⋮⋮︱︱︱︱︱︱!
!﹂
ご主人様らしからぬ悲鳴を上げて僕は必死で逃げる。
﹁大丈夫ですわ。こうやって、押し広げれば⋮⋮﹂
サイミンは僕のまんこの肉襞に指をかけ、言葉通り押し広げよう
とした。
﹁ぁっぅ⋮⋮⋮﹂
危うく僕は子どもまんこに二本挿しというトンデモプレイをさせ
られるところだった。膣に力を入れてギュっと狭めたおかげで上手
く入りそうに無く、何とかその場は逃げ切ることができた。僕とし
ては命拾いしたと言わざるを得ないのだけど、サイミンはいかにも
残念そうである。
﹁あらあら、入りませんわ。リリス様、どうしましょうか﹂
511
﹁どうしましょう、じゃ、ない!﹂
死ぬよ!
﹁分かりました。ではメイノは後ろに回りなさい。わたくしはロッ
ドで前を担当します。わたくし、リリス様のまんこを可愛がらなく
ては気がすみません﹂
﹁はい。お姉さま﹂
﹁ちょ、ちょ⋮⋮やめ、ぁ、あああ︱︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮︱︱︱︱
︱︱︱っう﹂
メイノの精液でじゅぶじゅぶになった僕のまんこはロッドをいと
も簡単に飲み込み、反対にさっきまでロッドでほぐされたアナルは
メイノのペニスを受け入れた。
﹁ふ、うっ⋮⋮ぁ、凄い、ですっ⋮⋮ご主人様、のお尻、凄い﹂
﹁あ、ぁ、っう︱︱︱︱︱︱⋮⋮⋮⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱﹂
ロッドの物質的な堅さが膣にガッツリおさまって、内側からガン
ガン響く。お尻の中ではメイノの肉棒が脈打って更に大きさを増し
た。
﹁ふわぁん、だめ、です。ごしゅじんさまの、おしり、やわらかく
て、キツくて⋮⋮。わたし、また、イっちゃうっ⋮⋮﹂
あぁ、そういえば後穴に挿入させたのはこれが初めてだ。後ろと
前、どっちがイイ?とメイノに聞いてみたかったけど、サイミンの
手で前穴を掻き混ぜられて、僕は思考まで撹拌されてしまう。
無機質なロッドの固さはペニスとはまた違った快感をもたらした。
ピンポイントで感じるところをグリグリされて、クリトリスをつね
512
られたところで僕はイった。
﹁ぁ、ごしゅじんさ、あ。ら、らめですっ。そんな、きゅ、って、
しちゃっ⋮⋮﹂
僕が絶頂で体を引きつらせるのと同時に、メイノも後ろで射精す
る。本当に、こらえ性の無い奴隷である。⋮⋮僕だってさしずめこ
らえ性のないご主人様ではあるけども。
﹁ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮⋮⋮﹂
声にならない吐息をもらして、メイノが僕の背中にしがみついて
きた。荒い息が肩越しに聞こえる。その間も、お尻の中ではペニス
が暴れている。僕自身も、凄く良かった。
﹁メイノ、ボクのお尻と、まんこ、どっちが好き?﹂
﹁ぁ⋮⋮ふぁ、もうしわけ、ありません。わ、かりません⋮⋮。わ
たし、もう、だめ、です﹂
もう⋮⋮だめ。そう思ってからが、まだまだ長い。のだ。
**
その日ログアウトした時にはさすがに食傷気味で、﹁しばらくエ
ッチはいいかな∼﹂と思った。でも次の日に再びログインした時に
は考えを改めることになった。
どんなに激しいエッチをした後でも、一日経てば性欲が沸いてく
るのだからリリスの体も大したものだ。それとも、これは僕自身の
性欲なのだろうか。この世界では時折どこまでが自分でどこまでが
リリスなのか分からなくなる。
513
﹁リリス様、お帰りなさまいませ﹂
﹁ご主人様、お待ち申しておりました﹂
サイミンは変わらず爽やかで健康なご様子。昨日精根尽き果てて
軟体動物のようになっていたメイノも元気になっていた。
﹁ただいま。二人とも、元気にしてた?﹂
﹁はい﹂
美女、美少女に出迎えられるログインというのは本当に気持ちが
いい。
僕はメイノのチャイナドレス姿を頭からつま先まで眺め渡しなが
ら思った。なんだか、メイノの柳腰に拍車がかかっているような気
がするのだけど⋮⋮。NPCの男の子は掘っているうちに女体化し
ていくとか?はは⋮⋮まさかね。
﹁リリス様、今日はどうなさいますか?﹂
﹁あ、うん。とりあえず、調査状況を聞こうかな﹂
﹁はい﹂
僕の突飛な考えはサイミンの声にかき消された。実は、昨日ログ
アウトする前に、サイミン達にこの街の調査をお願いしておいたの
だ。
﹁﹃洗礼所﹄﹃朽ちた遺跡﹄﹃墓所﹄﹃寺院﹄。これがウィシャス
のマップに表示される建物の全てです﹂
﹁うん。以前にアヌビスに聞いた通りだ﹂
﹁ですが、マップに表示されない重要ポイントとしてこの民家に、
﹃行商人マルコ﹄が滞在していました﹂
514
﹁行商人?﹂
﹁話をしたところ、この街に迷い込んだ行商人で、売り物は基本的
な道具です。実質彼がこの街の道具屋の標準店ですね﹂
﹁ふんふん、良かった。道具屋が無いと困りそうだもん。何かめぼ
しい売り物はあった?﹂
﹁一通りそろっていましたし、﹃痛み止め﹄﹃呼び笛﹄もありまし
たよ﹂
﹁いいね﹂
僕はパチリと指を鳴らした。
﹁それから、寺院長のルガとやらの話を聞くとこの街の代表的なイ
ベントが始まるようですね。NPCキャラでは受注できませんでし
たが、難易度は高そうでした。リリス様のおっしゃっていた﹃朽ち
た遺跡﹄にあるハトホル像の調査もしましたが、こちらはよく分か
りませんでした。思わせぶりな石板があったので、それが鍵だと思
うのですが⋮⋮﹂
﹁オッケー。そっちは実物を見てみよう﹂
サイミンからの報告を一通り聞き終わり、僕は腕を組む。さて⋮
⋮まずはどこに行こうか。ウィシャスは街としては狭いけれど、結
構重要地点、って感じがする。代表イベントにチャレンジしてみる
のもいいし、ハトホル像のダンジョンも気になる。道具屋はとりあ
えず置いておくとしても⋮⋮﹃洗礼所﹄でジョブチェンジを検討し
てもいいし。
﹁あ! そうだ。ちょっと待って﹂
行先を決める前に僕は大切なことを思いだし、ステータスウィン
ドウを開いた。普段、自分のレベルとかスキルとかあんまり気にせ
515
ずプレイしているから、ついステータスの確認、メンテナンスも忘
れてしまう。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:淫らな永久乙女
年齢:15歳
総合LV:33
HP:91
MP:115
力:38
魔力:70
自動スキル:﹃色欲﹄﹃超越せし乙女﹄﹃魔防上昇++﹄﹃淫行
のすゝめ﹄﹃幼き妖女﹄
︵リザーブ:﹃暴色﹄︶
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火/土﹄﹃スピリットアロー﹄﹃メテオクラッシュ﹄
前回ステータス確認した時と比べてレベルが3つくらい上がって
いた。スキル欄にはかねてより念願だった﹃暴色﹄がリザーブに追
加されている。モンスターとの性交渉、つまりアヌビスとのSEX
で覚えたに違いない。思えば僕は、このスキルを手に入れたくて最
初の街﹃ドッグベル﹄を発ったのだから、感慨もひとしおだ。
しかし、喜びの反面、リザーブに入れたまま放置していたスキル
﹃耐状態異常+﹄﹃窮みの一撃﹄﹃単騎決戦﹄が消失していること
に気付く。基本的に常時セットできるスキルは5つで、リザーブに
入れておくと一定確率で揮発してしまうのだ。
516
消失したスキルのうちいくつかは結局効果も分からずじまいだっ
たので、もしかしたら凄くもったいないことをしたのかもしれない。
ケチケチせずに﹃スキルカード︵白紙︶﹄に転写しておけば良か
ったのかなぁ。スキルカード自体もレアアイテムだし、どれくらい
運用すべきなのやら。まぁ、今更後悔してもどうしようもないか。
自動スキル:﹃暴色﹄
習得方法:①未確認 ②未確認 ③Lv15以上の魔物との性交渉
効果:﹃色欲﹄の効果上昇
ちょっと悩んでから﹃魔防上昇++﹄と﹃暴色﹄を置き換える。
﹃魔防上昇++﹄はスキルカードに移した方がいいのかな?でも、
これは経験値と一緒に成長するスキルだから常時セットしておかな
いとあまり旨みが無い気が。いや、それとも逆に﹃色欲﹄﹃暴色﹄
をスキルカードに移して、エッチする時だけスキルを付け替える方
が正解?
⋮⋮本当に、スキル運用に関しては正直、ぜーんぜんよく分から
ない。こういう基本的な冒険のノウハウをもう少し仕入れておかな
いと⋮⋮。
⋮⋮いや、ちょっと待てよ。スキルが転写可能なら、もしかして
﹃超越せし乙女﹄も転写しちゃえばいいんじゃないか?そうすれば、
僕がLvに不釣合いなスキルを持っているっていう事が他人にばれ
ずに済む。つまり、それこそ、最初の街﹃ドッグベル﹄を出なけれ
ばいけない理由が解消するということだ。
﹁この街での冒険が終わったら、一度ドッグベルに帰ろうかなぁ﹂
517
何となく、僕はそう思ったのだ。﹃暴色﹄も覚えた事だし、﹃超
越せし乙女﹄の隠ぺい方法も思いついたことだし。⋮⋮まてまて、
スキルは隠せても称号が隠せないか⋮⋮って、あれ?称号がなんか、
変わってない?
永久乙女の冠に何やら不審な形容動詞が付随している。ステータ
スの称号欄に目を留めて数秒固まっている僕に、サイミンが問いか
けた。
﹁どうされましたか? 何か、急に帰らなければいけない理由でも
?﹂
﹁⋮⋮あ、ううん。特に理由は無いけど。随分遠くまで来たからさ。
珍しく里心がついたっていうか﹂
﹁里心⋮⋮ホームシックですね。よろしいと思います。アラビー様
もきっとリリス様に会いたがっていることでしょうし﹂
﹁えぇ? それはどうかなー。この世界、人の結びつきって案外あ
っさりしてるから。アラビーもどうせボクのことなんて忘れてるよ﹂
﹁それはあり得ません﹂
サイミンの口調はやたら断定的だ。
どうだろう。流石に言葉通り記憶から抹消されていることはいな
いだろうけど、アラビーにとって僕なんて、もう、どうでもいい存
在にはなっている気がする。
﹁ご主人様の、故郷ですか?﹂
おずおずと、メイノが口を開く。自発的に会話に加わろうとする
のはMレベルのAIにしては大変な努力だ。思わず頭をなでなでし
てしまう。
518
﹁そうだよ。ドッグベルはボクがこの世界に降り立った、最初の街﹂
﹁そうですか。わたしも、行ってみたいです﹂
メイノは少しはにかんだように微笑んで言った。可愛いなぁ。
﹁よし。じゃあ、ウィシャス攻略したら一度帰ろう﹂
﹁はい﹂
﹁はい﹂
しかし簡単には言ったけれど、ウィシャス攻略はそう容易くはな
さそうである。それに、ここがどこなのか分からない現状で、一体
どっちに向かって歩けば、どれくらいかかってドッグベルに辿り着
くのか、想像もつかない。
とりあえず僕らは太陽の照りつける炎天下、日陰を選んで歩いて
﹃洗礼所﹄を目指した。街は相変わらず人の気配が無く、砂っぽい
風が足元に吹き溜まっている。延々続く石造りの壁に、チョークで
﹃忘れられた街﹄に似つかわしい落書きが書かれていた。
︱︱︱︱︱︱ここが旅の終着点
ちょっぴり、哀愁を感じるじゃないか。
519
episode19︳1:祝福
﹃洗礼所﹄は大きな教会の外装をしていた。僕は初めて見るが﹃
城﹄のある都市に設置されていることが多い施設だそうだ。
この世界を統べる女神の洗礼を受け、人の子が新しき召命を帯び
る。つまり、ベルーフとしての職業を頂く場である⋮⋮。以上、サ
イミンからの説明。ベルーフって、なんだっけ。僕の人生のどこか
で聞いたことがあるが思い出せない単語だ。
アーチ型の扉入口をくぐると光沢のある白い床に大理石の壁で吹
き抜けのホールの上層から玻璃を通して降り注ぐ光が反射していた。
ここも人は少なく、おそらく全員NPCキャラであろう白いローブ
を着た男女が物静かにめいめいの役割を果たしている。
手近なカウンターに座っている女聖職者に話しかけると、彼女は
答えた。
﹁ようこそ。旅の人。あなたの現在の職業は﹃冒険者﹄。評価パラ
メータは・・・・・・名声:4、人気:3、魅力:2、です﹂
表情が無く、声も単調なレトロタイプのNPCだ。、
﹁何についてお聞きになりますか? 1.洗礼所について 2.転
職について 3.評価値について 4.その他 5.特にない﹂
僕は迷うことなく5.を選択する。僕って、説明書を読まないタ
イプなんだ。
名声、人気、魅力の3値を評価パラメータと呼び、これらはレベ
ルアップでは変動せず、特定のイベントやクエスト報酬として入手
520
する。評価パラメータが上がると転職ができるようになる。とりあ
えず、それだけ分かっていれば十分だ。習うより慣れろ。どうせ、
大して溜まっていないパラメータポイントだから、適当に使ってみ
ようと思う。
そのまま奥に歩いて行って、洗礼所の儀式の場に通じる階段を昇
る。何も言わなかったけれど、階段の下でサイミンとメイノは立ち
止まって僕を見送った。白いドレープのカーテンの奥には意味あり
げな水盆。錫杖を持った神官が口を開いた。
﹁汝、冒険者リリスよ。神の導きにより新たな職業を拝命し、その
命運を行かんとするならば、この洗礼の水盆に手を浸すが良い﹂
﹁はぁい﹂
ぽちゃん。
その瞬間、視界からは余分な背景が消え去り、目の前に光の道が
幾筋も出現した。それは枝のように分かれ、分岐点につぐ分岐点。
所々で絡み合う選択肢のツリー構造だった。
﹁汝、数多の可能性のうち進む道を掬い取ることができるならば、
行って女神の恩寵を受けるが良い﹂
さっきの神官の声だけが響く。
僕は最初びっくりして目をしばたかせたが、良く見ると光の道に
は数字と職業名が浮かび上がっていて、その職業に進むのに必要な
パラメータが示されていた。僕を起点として伸びる選択肢の道筋は、
少し暗い道と明るい道がある。おそらく暗いのはパラメータが不足
して選べない職業で、明るいのが選択可能なそれだと推測される。
521
どうやら、現在の僕が選べる職業はこれだけあるらしい。
戦士︻名声:3︼
僧侶︻名声:2、人気:2︼
武闘家︻名声:3、人気:1︼
魔法使い︻名声:2、人気:3︼
弓兵︻名声:3、人気:2︼
農民︻名声:1、人気:1、魅力:1︼
商人︻名声:1、人気:1、魅力:1︼
たとえば戦士を選ぶとその先には剣士︻名声:4、人気:2、魅
力:1︼があり、剣士の次は魔剣士︻名声:10、人気:8、魅力:
2︼、武士︻名声:6、人気:6、魅力:3︼、騎士︻名声:10、
人気:10、魅力:1︼が繋がっている。更には魔騎士、聖騎士、
飛騎士⋮⋮ここで閲覧可能な樹木の分岐は終わりだった。
この世界での最終職業は男なら﹃王﹄、女なら﹃女神﹄のはずな
んだけど、流石に一度にそこまでは見えないのかな。それとも、﹃
王﹄や﹃女神﹄みたいな職業は単純にパラメータ値を貯めるだけの
正規ルートではチェンジできないのかもしれない。
とはいえ、とりたてて珍しいクラスチェンジシステムでも無いの
で、職業マップを見ながら大体の察しをつけることができた。職業
の系統は大きく分けて3つ。初期ジョブである﹃農民﹄﹃商人﹄﹃
冒険者﹄から分化するのだ。そして、選んだルートから樹木の先を
追うように成長していくのであれば評価ポイントは効率的に使用で
きるが、突然別のルート、例えば﹃冒険者﹄系の職業から﹃農民﹄
系の職業に移ろうとすると無駄なポイント消費が増える仕組みにな
っている。
あとは、それぞれの職業を成長させるとどんな特典があるのかが
522
気になるところだ。習得スキルの差異や、パラメータ伸び値の違い
だけだったら、わざわざ職業チェンジする旨みが少ないように思え
る。まぁ、装備できる武具なんかも変わるには違いないけど。
例えば﹃僧侶﹄の職業でLvを上げておいて、ルートから離れる
﹃剣士﹄にチェンジした場合に、前職業である﹃僧侶﹄の経験の恩
恵があるのか。⋮⋮これは、あとでサイミンに聞いてみよう。
そして、職業マップを見ていて一際僕の興味をひいたのは﹃商人﹄
⇒﹃遊び人﹄⇒﹃娼婦﹄のルートだった。
﹃娼婦﹄だって! いいよね! 今の僕の評価値では到底及ばぬ職
業だけど、﹃冒険者﹄の本流から﹃商人﹄に移る動機としては十分
だ。
もしくは﹃僧侶﹄⇒﹃聖女﹄もいい。今の僕の称号にはなぜか﹃
淫らな﹄の冠詞がついているから、﹃聖女﹄に転職したらつまりは
淫らな聖女ということになる。なかなかに魅力的な響きだ。淫らな
娼婦よりも淫らな聖女の方が求心力は強い、と思う。
僕は小首をかしげて人差し指を頬にあてた。
せっかく﹃洗礼所﹄まで来る機会に恵まれたのだから、この場で
帰ってはもったいない。次なる冒険を目前に控えておきながら今、
微々たるポイントで初期ジョブの一つである﹃商人﹄になるのも馬
鹿らしいし。ここは、やっぱり﹃僧侶﹄が順当かなぁ。だけど、僧
侶になっちゃうと、たぶん商人ルートにチェンジするのに余計に評
価値コストがかかりそうだし⋮⋮。
ちょっと頭が混乱してきて、悩んだ挙句、結局今回の転職はキャ
ンセルすることに決めた。
よーし、適当に転職しちゃうぞ!と勢い込んで祭壇に昇ったのに
情けないことだ。⋮⋮でも、往々にしてこういうこともある。いや、
むしろ僕の人生はこんなことばっかりかもしれない。時には勢いを
523
大切にしようと思っても、どこかで決断力が不足するというか、ノ
リが悪いというか。そうやって自虐的に自己分析をすると、こころ
なし祭壇を降りる足取りも重くなった。
﹁お帰りなさいませ。リリス様。転職はなさいましたか?﹂
﹁ううん⋮⋮あー。えーと、思いのほか、色んな職業があったから。
もう少し事前情報を仕入れてから決めようかな∼と思って。使える
評価ポイントも限られてるし﹂
サイミンの質問にも、つい言い訳がましい返事をしてしまう。し
かし、サイミンは笑顔だった。
﹁慎重ですばらしい判断だと思います﹂
﹁あは⋮⋮ありがとう。うん、そうだね。久々に攻略サイトも閲覧
してみようかなぁ﹂
﹁攻略サイト、ですか。公式サイトの内容ですか?﹂
﹁うん。ボク、無料登録しかしてないから、大した情報は得られな
いんだけどね﹂
﹁わたくしもです﹂
﹁え? 何が?﹂
しかし、僕の質問にサイミンは答えず言った。
﹁気になった職業はありましたか? わたくしで知っている範囲で
したらご質問にお答えしますが﹂
﹁あ、うん。そうだね。手近に﹃僧侶﹄にするか、気になる職業が
あったから﹃商人﹄にルート替えするか悩んだよ﹂
﹁なるほど⋮⋮﹃商人﹄ですか﹂
サイミンは微笑み、僕の顔を見ながら頷いた。なんだか、見透か
524
されている気がする。
﹁﹃遊び人﹄からの派生はなかなか面白い職業が揃っていますもの
ね﹂
⋮⋮やっぱり。ばれてる。
﹁ですが、﹃僧侶﹄を選ばなかったのは賢明かもしれませんよ。今
のリリス様はなかなか強力なレア武器を装備していらっしゃいます
から。それが使えなくなると、戦力的にダウンしますしね﹂
﹁え? レア武器、って、これのこと、だよね﹂
僕は山羊の頭がついたロッドを取り出して軽く振る。もちろん、
この杖は僕にとって幸運で手に入れた頼もしい武器だ。これが使え
なくなったら大変だ⋮⋮って、あっ!
僕は思い出してアイテムのアーカイブ情報を開く。
武器:ニエグイのロッド
説明:道具としても使用可能。捧げたニエの力を蓄えて放つこと
ができる。非売品。
装備属性:聖/僧/光/天 以外
そうだった。これ、装備属性が多少限定されているんだ。﹃僧侶﹄
﹃聖女﹄は当然のことながら属性に﹃僧﹄﹃聖﹄が付与されるから、
もし転職したらこの杖の装備はできなくなる。
かくして、僕は時には慎重になることも大事だな、と学んだ。
525
episode19︳2
﹃洗礼所﹄に寄ったのに、結局転職をせず無駄足を踏んだ。︱︱
︱︱︱︱あぁ、でも完全に無駄足だったわけじゃなくて、成果もあ
った。それは、ユーザー個人のステータスウィンドウでも簡易の職
業マップが閲覧可能になったことだ。たぶん、祭壇に昇ってフル版
の職業マップを一度閲覧したこと、とかがフラグになってるんだと
思う。
今の僕は﹃冒険者 Lv33﹄。評価パラメータを貯めていつか
﹃娼婦﹄や﹃聖女﹄に転職したいとは思う。だけど、僕って冒険に
力入れてプレイしてないから、厳しいかもしれない。高望みはやめ
ておこう。
﹁そういえば、NPCも転職ってできるの?﹂
﹁できます。ただし、ユーザーのように﹃洗礼所﹄で自由な転職が
できるわけではありません。NPCは個別に、どの職業になれるか
が予め設定されています。どの成長ルートを通るかが決まっている、
という意味です﹂
﹁サイミンの場合は?﹂
﹁﹃冒険者﹄⇒﹃戦士﹄⇒﹃剣士﹄⇒﹃騎士﹄と申し上げたいとこ
ろですけれど⋮⋮わたくしは生まれつき﹃騎士﹄でした。職業は成
長していません﹂
﹁じゃあ、もう成長しないの?﹂
﹁いえ、その限りではありません。ただ、そう簡単でも無いと思い
ます﹂
﹁ふぅん⋮⋮﹂
サイミンは申し訳なさそうに軽く首を垂れる。
526
﹁いいじゃん。騎士、かっこいいよ。いつもボクのことを守ってく
れるサイミンにぴったり﹂
﹁はい。ありがとうございます。これからも粉骨砕身尽くさせて頂
きます﹂
﹁メイノはどうなのかなぁ﹂
メイノはわずか後方で僕らの会話を聞いていたが、振り返った僕
の質問には答えられなかった。僕は言葉を選んで質問し直した。
﹁メイノの職業は﹃奴隷﹄だよね?﹂
﹁はい。その通りです。ご主人様﹂
﹁その職業は今後、変わらないの?﹂
﹁わたしはずっとご主人様の﹃奴隷﹄です﹂
﹁そうなの? でも、例えばボクがメイノを解放したら、﹃奴隷﹄
じゃなくなるんじゃない?﹂
﹁わたし、ご主人様に捨てられてしまうんでしょうか⋮⋮﹂
さっ、とメイノの表情が曇る。あれれ、悲しませるつもりは無か
ったんだけど。会話がいまいちずれていく。丁寧に会話したつもり
なんだけど、難しいな。
すると横からサイミンが助け船を出してくれた。
﹁﹃奴隷﹄はまた特別な職業です。初期ジョブが奴隷、つまり奴隷
になる為に生み出されたキャラは職業がずっと﹃奴隷﹄のままです。
既にほかの職業をもったものが奴隷化することもありますが、その
場合も転職はできなくなります。ただし、リリス様がおっしゃる通
り、もし﹃主人﹄に解放されたら個別に設定されている初期ジョブ
に変わりますよ﹂
527
これは、サイミンの説明が下手なわけではない。単に僕が詳細を
理解するのを諦めたことによる理解の欠如だ。僕はメイノに関する
部分をかいつまんで聞いた。
﹁ええと、つまり、メイノは最初から奴隷だったから職業が﹃奴隷﹄
固定で、解放すれば別のジョブに自動的に再設定される、ってこと
?﹂
﹁はい﹂
﹁奴隷の解放、ってどうやるの?﹂
﹁それは、簡単です。ご説明しますので、ステータスウィンドウか
らパーティーメンバのページを開いて下さい。⋮⋮はい、そうです。
わたくしも見えるように、縮小サイズでお願いできますか。⋮⋮あ
りがとうございます⋮それからここを選択してください⋮⋮次へ、
を押します。すると確認ダイアログが出ますから。はい。ここでY
ESにすれば﹃解放﹄です﹂
ふむふむ。丁寧な説明がありがたい。言われた通りにウィンドウ
を開いて確認し、最後のYESだけは確定を保留にして閉じた。で
も、別に僕はメイノを奴隷化して遊びたいわけじゃないから今すぐ
に解放して通常の仲間として迎え入れてもいい。
﹁メイノの初期ジョブは何だと思う?﹂
﹁さぁ。どうでしょう。﹃農民﹄あたりが妥当かと思いますが、最
初から成長職の可能性もありますね﹂
﹁もしかしたら、凄いジョブが隠れてるかもしれないよね﹂
﹁ええ。もしかしたら、﹃姫﹄かもしれませんよ﹂
﹁うわぁ! いいね、それ。亡国の姫が奴隷として売られるのって
鉄板だもん。さっすがサイミン! 発想が洒落てる﹂
メイノは男の子だから絶対に﹃姫﹄はありえないのだけど、そこ
528
がサイミンのウィットというやつだ。僕は嬉しくなり、はしゃいで
手を叩いた。
﹁﹃奴隷﹄にしておけば逃亡されない、再び﹃奴隷﹄として転売可
能、などのメリットがあります。ですが、ステータスの伸びはいま
いちですので、もしリリス様が良いと思われるならメイノを奴隷か
ら解放しても構わないと思いますよ﹂
﹁そうだね﹂
メイノのステータスを開く。サイミンに守られる格好で難易度の
高いクエストにも参加していたからLvはそこそこ上がっているけ
れど、確かに成長率がいまいちな気がする。
種族:人間
職業:奴隷
称号:なし
年齢:13歳
総合LV:17
HP:56
MP:25
力:31
魔力:13
自動スキル:﹃隷属する者﹄﹃防御強化﹄
呪文スキル:﹃唱和の風/水/火﹄﹃挺身﹄﹃囮役﹄
装備:チャイナドレス︵一般︶/黒紗の手袋/ガーターベルト/
流麗の腰帯
道具:扇子︵一般︶
529
ちなみに確認済みのめぼしいスキル効果は以下の通りだ。
自動スキル:﹃隷属する者﹄
効果:パーティーに主人が存在する場合の戦闘でステータス上昇
自動スキル:﹃防御強化﹄
効果:防御力がアップ
呪文スキル:﹃挺身﹄
効果:パーティーメンバが戦闘から逃亡するまでの時間を稼ぐ
呪文スキル:﹃囮役﹄
効果:唱えておくと戦闘時に敵の初回攻撃を引き受ける。その際
の死亡ペナ無し
流石奴隷というべきか、やっぱり戦闘時の駒として使い捨てられ
るタイプのスキルが多くて可哀相だ。ただ、使いようによっては便
利そうに思えてしまうので、なおさら良心が痛む。
﹁メイノは奴隷から解放して欲しい?﹂
深い意味があって尋ねたわけではない。良心の呵責から試しに聞
いてみた、というところだ。しかし、メイノは一瞬止まり、手を口
元にあてて考え込む。さっきまでは歩きながら会話していたのに、
その足も完全に止まってしまった。⋮⋮なんだろう。突然のこの長
考モードは。すると再びサイミンが横から説明をしてくれる。
﹁奴隷から解放されるイコール嬉しい。ご主人様に捨てられるイコ
ール悲しい。嬉しさの高い方を希望するのがより自然で適切な選択
530
ですが、その判断基準となるデータを整理して数値化するのに時間
がかかる為、瞬時に決められない。つまり最終的な答えは⋮⋮﹂
そこでメイノが顔をあげて答えた。
﹁分かりません﹂
﹁あはは⋮⋮AIも苦労が多いもんだね﹂
何気ない質問に答えるのも色々と複雑な計算があるのだとすれば、
それは肩の凝る話だ。メイノは怪訝な表情になり、反対にサイミン
は微笑んで言った。
﹁好き嫌いや、何かをしたいとか、したくないとかの選択は人工知
能の一番難しい選択ですから﹂
﹁そっかー。じゃあ、むやみに意地悪な質問しない方がいいかな﹂
﹁いえ。そうやってランダムな問いを与えてくださることが、知能
の上昇、新しい思考回路の生まれる機会となりますから、わたくし
たちにとっては貴重なインプットです。特にリリス様はわたくした
ちをNPCとして分け隔てることなく会話をしてくださるので⋮⋮
非常に感謝しています﹂
﹁ん∼⋮⋮。特に意識してるつもりは無いけどね。だいたい、サイ
ミンに至っては普通の人間とあんまり変わらないじゃん﹂
流石にメイノはまだ学習の必要があるとして、サイミンは出会っ
た時から会話も流暢だ。
﹁ありがとうございます。嬉しいです﹂
そうやって台詞に応じてまぶしいくらいの微笑みすら使い分ける
サイミンを見ながら、高度AIという存在について考えると本当に
531
不思議な気がする。古今東西、大昔から考えられてきた原始的な疑
問が胸中をよぎるのだ。
果たして、人工知能に感情はあるのか?
だけど、僕は内心で軽く首を振るだけで、その問いを打ち消すこ
とができる。感情があろうが無かろうが、生物だろうが無生物だろ
うが、人は愛することができる。それは全て観察者側の問題なのだ、
というのが僕なりの答えで、そんなのは小学生の時に決着済みだ。
﹁わたしも! もっと、頑張ります﹂
見ると、両手にぎゅっと拳を握りしめてメイノが気合を入れてい
た。それを見て僕は顔が緩んでしまう。感情の存在の有無なんて重
要じゃない。こういう仕草とかがさ、いちいち可愛いんだよ。
更に他愛も無い会話をしながら日陰を選んで歩いているうちに街
外れの﹃朽ちた遺跡﹄に到着した。ここに来るのは二度目だ。一度
目は、アヌビスに案内してもらった。名前の通り朽ちた石碑や彫像
が並ぶ丘。中央には屋根の無い土台と風化した柱が残っているので、
たぶん神殿跡なのだろう。
事前に下調べをしてくれたサイミンに案内してもらい、怪しいと
いう石板の前に立った。石板のすぐ近くに頭に甕を乗せたスフィン
クス像みたいなのがあり、他の彫像と比べて状態が良いようだった。
﹁もしかして、これがハトホル像かなぁ﹂
﹁そうなのですか?﹂
﹁いや、なんとなくね﹂
眼下の石板は黒曜石で作られていて、確かに怪しい。文字がかか
532
れているが、楔形文字に似て、彫刻刀で彫った直線でできたアルフ
ァベットは非常に読みづらかった。
﹁サイミン、読める?﹂
﹁いいえ﹂
﹁えっ⋮⋮じゃ、じゃあ、メイノは、読める?﹂
﹁いいえ﹂
軽く誤算だが仕方がない。読みづらいだけで読めないことはなさ
そうだから、頑張ろう。幸い、英語は唯一僕の得意な教科だ。取り
掛かると、意外とスラスラと訳すことができた。サイミンとメイノ
に聞かせる為、僕は声をあげて読んだ。実のところだいぶ意訳は含
まれているが、おおむね間違ってはいない、はず。
ここはこの世界の最初の女神の寝所
彼女は世界を最初に産んだ
生あるものは緩慢に死んでいく
それは世界も例外ではない
この先たくさんの女神が王とともに世界を生み直す
それは何度も繰り返される自然な営みである
だがもし汝がより強い産む力を必要とするときは
最初の女神を尋ねると良い
強い生の力は同等の強い死の力をもって封じられている
その扉を開くためには死を司る女神の足元に象徴を捧げよ
533
何がトリガとなったのかは分からない。全てを読み終えた時、黒
曜の石板が光り、その上にペンダントのような、鍵のようなものが
浮かび上がった。まばゆくたゆとう光は効果としては最上のクオリ
ティで、作り物と分かっていても幻想的なシチュエーションに思わ
ず魅入られそうになる。
はっと気づき、僕は手を伸ばすとそれを掴みとった。手の中には
もちろん、エジプト十字、アンクが残された。
534
episode19︳2︵後書き︶
次話からダンジョンです。
しばらく空いてしまい、本当に申し訳ありません!
535
episode19︳3
アンクと言うのは十字架の先に楕円がくっついたようなシンボル
で、僕が手にしたそれは銀製品っぽく、手のひらに乗せられるサイ
ズだった。この形、思わず一指し指にひっかけてクルクル回したく
なる誘惑に満ちていて、遠心力で吹っ飛んでいった。
僕らはこれを嵌め込むべきハトホル像を探したが、よく分からず
にしばらく時間を浪費した。石碑の文面に何かヒントがあるのかと
思ったけど、それも見つからない。最終的に、直観で怪しいと思っ
たスフィンクスっぽい像の前に立ち戻り、その足元に小さな穴が空
いているのを見たときは、まさかと思った。
アンクを嵌め込む、って⋮⋮縦に差し込むわけ?
僕はアンクを鍵穴に差し込むように台座の穴に入れる。すると、
周囲が光り、荘厳なBGMが流れた。正解なのは嬉しいけど、アン
クを嵌め込む、っていうとさ、こう、横向きに嵌めるものじゃない
? なんか、思ってたのと違う。
﹁これ、ノーヒントで見つけられる人いるのかなぁ⋮⋮﹂
僕の呟きにかぶさるようにして、ハトホル像が喋り始めた。像の
口が動いたわけじゃないけど、言葉と一緒に目で読めるメッセージ
が字幕のように浮かび上がり、流れ始める。
﹃冒険者よ⋮⋮。よくこの忘れられた地を訪れました。私は愛と幸
運を司り、死者を養う女神ハトホル。私はこの地で最初の女神の寝
所⋮⋮最初の強い産む力を守ってきました。しかし、長年の月日を
536
経て、最初の女神の寝所は歪んだ形に変わりつつあります。産む力
は暴走し、我々の望まぬ形に変貌しようとしています。冒険者よ⋮
⋮最初の女神の力を望むものよ。どうか、この世界を正しい方向に
導いて﹄
ここで一拍。メッセージ送りの﹃NEXT﹄を選択すると更に続
いた。
﹃最初の女神は寝所の最上外に眠っています。女神を目覚めさせる
には、彼女の名前を呼ぶと良いでしょう。女神の世界では名前が一
番大きな力を持ち、それゆえに秘されている呪文となるのです⋮⋮﹄
﹃最初の女神は﹃最初の男﹄と﹃一番目の妻﹄の名を一人の身に収
め、それゆえ、伴侶を必要とせずに世界を産みだすことができた﹄
﹃最初の女神はその名のうちに﹃生きる﹄意味を秘匿していた﹄
﹃最初の女神の名前を知ることは、この世界そのものの理屈を知る
大きな手がかりとなるでしょう﹄
︱︱︱︱︱︱勇ある乙女に女神ハトホルからの祝福を⋮⋮⋮⋮
一瞬、周りが眩しく光って目も開けていられないくらいだった。
何か温かくて優しいものが僕の体を包み込み、持ち上げた気がし⋮
⋮。
﹁んぎゃっ!!﹂
次の瞬間には地面が揺れたような気がして思わず尻もちをついて
いた。
537
﹁え⋮⋮ここ、どこ﹂
﹁探していたダンジョンの中ではないでしょうか?﹂
僕は痛む尻をさすりながら立ち上がり、スカートの裾を直した。
サイミンは立ち上がる僕の手を引き、平然とした顔。メイノは不安
げに周囲を見渡している。
﹁入れたのは良かったけど、やれやれ、だね。一苦労っていうか。
入口を見つけるのがこんなに大変じゃ、来訪者も少なそう﹂
周りに広がっているダンジョンは、洞窟や塔ではなかった。どち
らかというとジャングル?足元は石畳の床の上に緑の苔が薄く乗っ
ている。天井は生い茂った蔓状の植物に覆われているが、隙間から
光が差し込んでいるから、屋外⋮⋮なのだろうか。
﹁そういえばボク、ダンジョンって初なんだよね。興味本位で飛び
込んできちゃったけど、敵のLvとか大丈夫かなぁ﹂
ダンジョンどころか、まともなフィールド冒険も未経験だ。
﹁そうですね。まずは雑魚を見つけてこのダンジョンのレベルを推
し量りたいところです﹂
﹁敵の強さによっては最悪、初戦で全滅もあり得るよねぇ﹂
﹁よろしければ、わたくしが斥候して参りましょうか?﹂
僕はその申し出をしばし吟味する。サイミンとしても、守らなけ
ればいけないお荷物二人を抱えてよりも、最初の戦闘は一人の方が
やりやすいかもしれない。ただ⋮⋮このダンジョンの敵レベルが分
からない限り、騎士Lv73のサイミンだって必ず勝てる保証はな
538
いし。この場に僕とメイノが残って安全とも限らない。
﹁ううん。いいや。3人で行こう﹂
﹁ご主人様、私、﹃囮役﹄を唱えておきます﹂
﹁ありがとう。こうなってくるとメイノの﹃囮役﹄と﹃挺身﹄が最
大の頼りかも。まぁ、全滅したってLvダウンとアイテムドロップ
のペナルティくらいだし、そんなにビクビクすることないんだけど
ね﹂
空元気のつもりで言ってみたが、やっぱり死亡ペナ重いな。僕は
ともかく、上がりにくい上級職のサイミンのLvが1ダウンするの
はもったいない。それに、単純に死亡って怖い。⋮⋮せめて痛み止
めを先に飲んでおこう。
と、おっかなびっくりダンジョンを直進し始めたその時、先の方
から女性の悲鳴のような声が聞こえた。鳥の鳴き声⋮⋮、じゃない。
耳を澄まして集中すると、その悲鳴が継続しており、なおかつ人間
が助けを求める声だと分かった。
︱︱︱︱︱︱︱いやぁあっ︱︱︱︱︱︱たすけて︱︱︱︱︱︱⋮
⋮!!
﹁ど、ど、どうしよう。とりあえず行ってみるよね?!﹂
﹁イベントかもしれませんが。お気を付け下さい﹂
僕らは歩行速度を上げて、道なりにダンジョンを進んだ。根源に
近づくにつれて悲鳴はハッキリしてきた。細めの通路を折れたとこ
ろでパッと空間が開け、先ほどより明るい場所に出た。
﹁いやぁ、お願い! だれかぁ!!﹂
539
ツタ
見ると林立する樹木の一つに蔦が絡みつき、それが蛇のようにう
ねって一人の女性を捕獲しようとしていた。女性は褐色の肌に紫色
の髪をした成人エルフ。耳が尖っているのがその種族を物語ってい
る。
パニックを起こした女エルフは僕らの存在に気づいていない。右
手には短剣が握りしめられており、それで何とか絡みつく蔦を切り
落とそうと苦闘しているようだが、傍目に見るに、その抵抗はあま
りに脆弱だった。蔦は幾本もエルフを襲い、四肢に絡みつきその体
を空中に持ち上げる。
足場を失った体はもはや無力も同然で、宙ぶらりんとなったエル
フはナイフを取り落とし一際悲痛な叫び声をあげた。
﹁いや︱︱︱︱︱︱︱︱っ!! 放して︱︱︱︱︱︱!!﹂
蔦は一本一本が意思を持っているようにエルフの体を検分しはじ
める。衣服をはぎ取り、上半身の右の乳が零れ落ちた。日焼けでは
なく、生粋のものである美しい黒肌で、思いがけず乳首が薄い色を
している。
﹁﹃モンスター解析﹄をかけます﹂
サイミンが一歩近づき、呪文を唱えた。
﹁魔殖樹︵︵マショクジュ︶︶ Lv80 属性:植物 弱点:炎
強点:水/土/打。一般の樹木に擬態して獲物を捕食する。体力
値は高いが体が大きくかつ移動が困難な為、愚鈍で狙いやすいとい
う弱点も。⋮⋮どうされますか?﹂
540
その問いに僕はようやく我に返った。⋮⋮魅力的な一幕についつ
い見入ってしまった。
﹁助けた方がいいよね?﹂
﹁どうでしょう﹂
おおう、なかなか冷たいお答え。
﹁助けられるか、という質問でしたら、確かに敵Lvは強いですが、
弱点がハッキリしていますし、炎魔法の遠隔攻撃でわたくしとリリ
ス様が力を合わせれば勝てる相手だと思います。どうしても、とい
う時はニエグイのロッドを発動させる手もありますし﹂
﹁うん﹂
こうして僕らが安全な地帯で話している間も、魔殖樹の肢はエル
フに絡みつき、ますます攻勢を強めていく。蔦はエルフのたっぷり
とした乳房の両方をむき出しにしてぐるりとドーナッツ型に囲いこ
むように絡み、細い先端が乳房を弄っている。もはやその狙いとす
るところは明らかだ。
更に蔦が生え伸びてエルフのスカートをめくりあげ、太ももに巻
き付きながら這い上って行くのが見えた。
﹁ひいっ!! いや! いや! やめてえええぇ︱︱︱︱︱︱!﹂
やばい。この先が見たい。そんな僕の心を見透かすようにサイミ
ンがぼそりとつぶやく。
﹁この発生タイミングとシチュエーションから考えて、十中八九イ
ベントですし、助けても助けなくてもどちらでもいいと思いますよ﹂
541
先の運命を悟っているのだろう。女エルフは泣き声をあげる。
﹁あぁ⋮⋮っ!! 駄目! そんな、いや! いやよおぉっ︱︱︱
︱︱︱!﹂
そんな叫び声など当然無視して蔦はエルフの下着の中に潜り込み、
うねり、布地を引き裂き、僕らが立っている方を観客席として見せ
つけるかのようにエルフの両足を開かせた。
更に幾本もの細い蔦が褐色のエルフの陰部をまさぐり、繊細な花
びらをクリップで止めるように巧みに広げる。ここで、蔦は一旦動
きを止めた。どうやら、準備が整ったらしい。
僕は自分の下半身に熱を感じながら、唾を飲みこむ。
魔殖樹の根元がボコッ、と音を立て、そこから先ほどまでの緑の
蔦の触手とは違った形質の肢を伸ばした。いや、肢ではない⋮⋮そ
れは蔦よりも堅く太い、まさに魔殖樹の男根であった。
﹁う、ああ︱︱︱︱︱︱︱︱! いやぁ︱︱︱︱︱︱︱!! だれ
かぁ⋮⋮﹂
いま目覚めたばかりのような男根は一度大きく身を震わせ、一層
力強くそそり立ち、獲物の柔らかな肉襞に頭を数回あてた。
﹁ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮﹂
ゲームのストーリー上は、ここで助けた方が後々有利な展開にな
る可能性が高い。だけど⋮⋮。
そして、その一瞬の逡巡の間に魔殖樹の根は押し開かれたエルフ
の膣穴に突き刺さった。
542
﹁あぐっ⋮⋮︱︱︱︱︱︱︱﹂
喉を鳴らすような悲鳴がエルフの口からこぼれる。
﹁っがぁ⋮⋮は⋮⋮ぁ、あう、あ⋮⋮︱︱︱︱︱︱﹂
魔殖樹の一物は蠢く生き物の様相だが表層の外見は木の性質であ
り、その光景は串刺しを思わせる。木に表情はないがその動きはと
ても嬉しそうで、さかんに抜き差し運動を繰り返した。
そのうち、ずぶっ、ずぶっという固い動きに滑らかさが加わり、
どうやらエルフは犯されながら陰部を濡らし始めたようだった。
﹁や、ぁ⋮⋮おかされて、る⋮⋮わたし、こんな、ばけものに⋮⋮
あうっ。あ、はふっ。ひどい、こんなの、や。あぁっ⋮⋮だめ、こ
れ以上は︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
太い根が激しく出し入れされるたびに、樹液ともエルフの体液と
それが何度か繰り返された後、魔殖樹は出し入れの動きを止め、
もつかない水気がプシッと噴き出す。
エルフのまんこに突き刺さったまま根を震わせた。ちょうど、蛇口
につながったホースに勢いよく水を送り込んだみたいにブクリと根
の表層が盛り上がる。
そこから何が起きるのか、僕には分かった。
﹁いや、あ、あ、あ! やあぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱!!﹂
悲鳴とともに縛られたままのエルフの体が雷に打たれたように弓
なりにのけぞる。どうやら、魔殖樹が﹁無事﹂射精したらしい。
543
episode19︳4
どさりと重たげにエルフの体が草の生えた地に降ろされた。エル
フは﹁ぐうっ﹂と呻きそのまま動かなくなる。さてどうしたものか、
と思ったがそこから僕らに選択肢は無かった。魔殖樹が僕らをター
ゲットにして戦闘領域を展開⋮⋮強制バトルの流れだ。
﹁う∼。ボクもあれ! あれ、したい∼!﹂
サイミンが前衛、僕とメイノが後衛。ロッドを構えながら、僕は
嘆いた。
﹁無理ですよ。戦闘に入ってしまっていますから⋮⋮。来たれ﹃一
掃の火﹄!﹂
﹁うわぁ∼ん。だって、あんなの見ちゃったら、戦闘どころじゃな
いよ∼! 行け﹃破壊の火﹄!﹂
サイミンの攻撃魔法に間髪入れず、僕も火属性の呪文を魔殖樹め
がけて打ち込む。炎は勢いよく魔殖樹にぶち当たり、敵を包んで燃
え盛った。
僕とサイミンのLv差は大きいけれど、種族のせいか、魔力パラ
メータに関しては70:77で大した違いは無い。むしろ、僕の呪
文は単体攻撃であり力を分散させずに済むし、ニエグイのロッドに
よる補正もかかる分、効いているようだ。
﹁来ます!﹂
魔殖樹の枝から緑の蔦が鞭のように伸び、僕らめがけて反撃して
544
くる。風を切るような音がした。
︱︱︱︱︱︱速っ!
僕は一歩も動くことができなかった。今まで何かを避ける、なん
てドッジボールの球くらいの速度しか経験したことがない。死んだ
かも、と思いながら無意識に防御の姿勢を取っていたが、鞭が爆ぜ
る効果音の次に見たのはメイノの倒れ伏した姿だった。
﹁メイノ!﹂
﹁大丈夫ですから!攻撃に集中して下さい!﹃一掃の火﹄﹂
大丈夫の意味がよくわからないまま、サイミンに叱咤されて僕も
再び呪文を唱える。更に次の敵の攻撃はサイミンがスピアで受け止
めた。ただ、蔦に絡め取られてサイミンのアクションが封じられた
ので僕が単独で追撃を行う。
敵はLv80というだけあってかなり固い。弱点に特化して攻撃
しているのになかなか倒せず、思いがけずきわどい戦いになってし
まった。次の敵の攻撃もサイミンが受け、ダメージを負った。
﹁ニエグイ、発動させる?﹂
﹁大丈夫です。リリス様はできるだけ攻撃を避けることに専念して
ください﹂
頼もしい言葉だが、蔦の攻撃は速すぎて僕の反射神経では躱せな
いし、僕を守りながら戦うせいでサイミンは徐々に疲弊していく。
ちなみにメイノは倒れたまま沈黙。パーティーステータスを確認す
ると﹃DEAD﹄だった。
冒険は無理せず、が僕のモットーなのに!と思いながら攻撃魔法
545
をもう一度放ったところでようやく決着がついた。
﹁メイノ∼!﹂
なにはともあれメイノに駆け寄り首だけ抱き起すと、メイノがう
っすらと目を開けたのですぐに回復魔法をかけてやった。
﹁あ⋮⋮。ありがとうございます。ご主人さま﹂
﹁よしよし、怖かったね∼! あれ?DEADじゃないんだっけ﹂
﹁DEADはDEADですが、パーティーリーダーが生きていれば
NPCはその場でプレイ再開できます﹂
﹁ああ、そうなんだ。ごめんね、無理させちゃって﹂
﹁大丈夫です。私、不甲斐なくて申し訳ありません﹂
ドロップアイテムを拾ったサイミンが近寄ってきて言った。
﹁﹃囮役﹄は便利ですが、もう少しメイノを鍛えないと使いづらい
スキルですね﹂
﹁そうか。﹃囮役﹄を唱えておいたから、初撃がメイノに行っちゃ
ったんだ﹂
﹁はい﹂
﹁死亡ペナルティはありませんが、一撃で倒れていては戦闘勝利時
の経験値が入らないのでますます成長し辛くなってしまいます﹂
サイミンの分析は冷静だが、僕にしてみればこんな風にメイノを
毎回囮にして死なせること自体がやりきれない。僕はサイミンにも
回復魔法をかけて時間経過で衣服の破れと怪我が修繕されるのを確
認してからようやく安堵の息を吐き出した。
﹁リリス様、あちらの女性はどうしますか?﹂
546
﹁あ、いけない。助けなきゃ﹂
まぁ、いまさら助けるも何もないものだ。イベントだとしたらど
んなルートが待っていることか。罵倒されたりしたら嫌だな∼と思
いつつエルフに近づく。
﹁あのー大丈夫ですか?﹂
引きちぎられた衣服が体に引っ掛かっている程度の裸体で、腕や
足の肉には触手にしめつけられた赤黒い痣が残っていた。
﹁この子、NPCだよね?﹂
まさか、プレイヤーキャラだったらどうしよう。内心、そんな不
安もきざす。これがイベントじゃなくてガチで襲われてました、の
オチだったら僕は完全に完全な悪人だ。いや、どっちでも同じか。
﹁う⋮⋮うう⋮⋮﹂
エルフは紫の髪の毛をざんばらに振り乱した状態で地に伏せてい
て表情が見えない。だが、肩を震わせて泣いているようだった。
僕は何と声をかけていいか分からず﹁大丈夫ですか﹂とオウムみ
たいに繰り返す。本当のところは﹁モンスターに犯された感想はど
うでしたか?﹂と聞いてみたいものだけど、例え相手がNPCだと
しても小心者じゃそこまで非道にはなれない。
しかし、しばらく待っても宥めても回復魔法をかけてみてもエル
フの反応は変わらなかった。ボロボロの恰好で泣いているだけ。
﹁先を行きますか?﹂
547
﹁うん。そうだね。君、ここは危険だからついて来ない?﹂
この申し出にも返答は無かった。仕方がない⋮⋮これがエロを取
って正義を捨てた代償か。僕らは哀れなエルフを置き残してその場
を去った。
﹁う∼。それにしても、あれ、良かったなぁ。ボクもしてみたい﹂
﹁魔殖樹のレイプのことですか?﹂
﹁直接的に言えばその通り﹂
﹁駄目ですよ﹂
サイミンは僕の願望をさらりと否定する。
﹁えぇ! なんで、なんで?⋮⋮あのさ、この際だからぶっちゃけ
ちゃうけど、ボクは今回こういうのを期待してこのダンジョンに来
たんだよ⋮⋮﹂
﹁知っていますよ﹂
うわーい。恥ずかしいのを承知で告白したのに見透かされてる!
余計に恥ずかしいじゃないか。
﹁じゃあいいでしょー﹂
﹁駄目です。リリス様がもう少し成長されるまでは駄目です﹂
﹁やだやだやだーせっかくこんな機会なんだもん! 触手! しょ、
く、しゅ!﹂
あの玩具が欲しいんだー買ってくれなきゃ嫌だーやだやだやだー
⋮⋮。のノリで愚図ってみた。すると、サイミンは首を振って言っ
た。
548
﹁いいですか。リリス様。わたくしの大切なリリス様があんなモン
スターに犯されて滅茶苦茶に汚されてしまうことを考えるとそれだ
けでわたくしもう胸が苦しくて、切なくてたまらなくて、あぁ、も
う⋮⋮という心持ちなのですけれど。えぇ、リリス様がそういった
快楽を追及されることに関してはこの世界は成人向けゲームゆえに
アダルトな側面がありますので、この際それは仕方がないとしまし
ょう。ですが、問題はわたくしの嫉妬のような些細なことでは無い
のです。リリス様のLvは今33、先ほどの魔物はLv80⋮⋮こ
れは、ハッキリ言って性交が困難な格差なのです。できないことは
ありませんが、運が悪ければ性交中にリリス様が﹃DEAD﹄にな
っても仕方がないくらいのリスクがあるのですよ﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
性交中に死亡?何それ聞いてない。
﹁一般に戦闘モードに入る時は戦闘領域を展開しますが、この世界
では戦闘領域を展開せずとも相手を死に至らしめることは可能です。
それはもちろんご存知ですよね?﹂
﹁うん⋮⋮﹂
この世界は暴力行為を制限していないから、戦闘領域を展開せず
に相手を害することはできる。ただ、その場合は勝っても経験値と
かアイテムが入らないから戦闘自体に何の旨みも無い。
﹁そして、その場合も相手をDEADに至らしめるのはHPを0に
する方法のみ有効です。つまり、心臓を刺すとか首を切るとかそう
いうリアルな残虐行為を必要とはしません﹂
﹁もちろん、それは知ってるよ。そうじゃなくちゃ、血みどろの悲
惨な戦いになっちゃってゲームとして成立しないもん。でも、それ
がどう関係するの?﹂
549
コウ
オツ
﹁はい。ですから、戦闘領域に入っていない場合でもLvが高くて
オツ
攻撃力高い甲がLvが低くてHPの低い乙を殴る、はたく、叩く、
吹き飛ばすなどの暴力を行えば、案外簡単に乙は死ぬ、ということ
です﹂
そこまで説明してもらってようやくサイミンの言わんとすること
が分かった。
そしてとどめはこの台詞。
﹁ですから、そういったリスクを考えてこの世界のユーザーは大抵
Lv格差が10以上あるモンスターとはSEXしませんよ。いわゆ
るこの世界の常識、ってやつです﹂
⋮⋮。
⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
よし、Lv上げるか︱︱︱︱︱︱!カッコ、泣き笑い。
550
episode20︳1:ダンジョン
ダンジョン名﹃最初の女神の寝所﹄。よこしまな動機から数日間
にわたって経験値稼ぎにいそしんだところ、いくつかのことが判明
した。
一つ、ダンジョン入口周辺のモンスターは大体雑魚の敵Lvが5
0∼80。
これに関しては、僕らのパーティーでしのげるちょうど良い難易
度であるように思えるがそうでもない。敵が2体以上出現すると一
気にこちらの形勢が不利になってしまう。
サイミンの﹃モンスター解析﹄およびメイノの﹃挺身﹄と﹃囮役﹄
を駆使し、負けそうな戦いはいちもくさんに逃げ、勝てそうな戦い
のみ拾っていくというのが基本スタイルになってしまった。情けな
いと思いつつ、メイノのスキルの便利さには味をしめてしまった。
二つ、このダンジョン内には僕ら以外の冒険者もいる。
これは、ダンジョン内で偶然他の冒険者パーティー御一行様と出
くわしたことで明らかになった。最初に会ったのは男ばかりの3人
組だった。アダルトゲームにおけるひ弱な女パーティーのリスクは
よく分かっているつもりで、僕は性的な暴行をも期⋮⋮じゃなくて
覚悟したものだが、そんな展開にはならなかった。
むしろ、向こう3人は僕らに大した興味を示さなかったので肩透
かしをくらった気分だ。挨拶以外に交わした会話は﹁このダンジョ
ンの入口、見つけにくくなかった?﹂﹁そうですか?僕らはベルセ
551
ポネ像からですけど、まぁ⋮⋮鍵があれば普通に入れましたよ﹂﹁
え?ベルセポネ?ハトホル像じゃなくて?﹂﹁ハトホル像はどの街
にあるんですか?﹂というようなものだけ。
聞くところによると、このダンジョンへの入口は複数あり僕らは
ウィシャスから入って来たけど、これは珍しいそうだ。
彼らとはそのまま別れたけれど、最後までよそよそしい喋り方を
された。なぜか第一印象からして僕らは嫌われているような気がし
た。装備とかから田舎者なのが分かるのだろうか。もしくは、知ら
ず知らずのうちに空気読めないようなことをしでかしているんじゃ
ないか心配になる。
最後に三つ目、このダンジョン内にはいたるところでモンスター
姦のイベントが発生している。
この事実は僕のテンションを格段に上げた。だけど、まぁ、なん
ていうのかな。あれだ。ガラスケースの向こうのご馳走。手が届か
ない鼻先の人参。歯がゆいったらない。
曰く、このダンジョンの設定は﹃世界を最初に産んだ女神の寝所﹄
、ゆえにダンジョン内に﹃産む力﹄が満ち溢れている。それが時を
経て歪み、モンスターが見境なく冒険者を襲うような荒んだ空間に
なってしまったということだ。そういえば、入口の石板に似たよう
なことが書いてあった。
ちなみにこの情報は先とは別の冒険者御一行と出会った時に教え
てもらった。二度目のすれ違いは女性3人と男性1人のパーティー
だった。
最初は凄いハーレム構成じゃん!と目をみはったものだけど、実
態は予想と違った。
552
﹁あわわわわ∼。女の子ばかりのパーティーですか∼これは華やか
でございますね∼﹂
と、眼鏡をかけたちび魔道士が小股でパタパタ駆け寄って躊躇な
く僕に抱きついて来た。この無遠慮さにはさしもの僕も面食らった。
ちび魔道士は三角帽子に袖がだぶだぶのローブ。ぺちゃんこの鼻か
らずり落ちそうなデカい丸メガネをかけている。
そしてその後ろから背が高くてガタイのいい女剣士が軽く会釈を
して近づいてきた。ひきしまった腹筋、長い手袋をしているが二の
腕、ショートパンツからむき出しの太ももを惜しみなく露出してい
る。
女剣士と女騎士の見た目の違いはこの露出にこそあると言っても
過言ではない。
﹁ルーピナ、駄目よ。失礼をしては。申し訳ありません。冒険者の
皆さん﹂
ルーピナと呼ばれるちびっこは怒られちゃった、とつぶやき、片
手で自らの頭を小突き舌を出す。
ふと見ると女剣士の背後から三つ編みの僧侶っぽい娘が僕らを盗
み見ていて、目が合うと慌てて隠れた。逆にこちらは人見知り属性
らしい。
﹁ほら、クーデリカもご挨拶﹂
﹁⋮⋮⋮⋮こ⋮⋮こんにちは﹂
最後に近づいてきたのが短髪の優男。だが、彼は何も言わず微笑
んでいるだけだった。女剣士が言う。
553
﹁この子がルーピナ、クーデリカ、私がリーダーのケイト、それか
らNPC奴隷のビーセブンよ。よろしく﹂
﹁えと、ボクがリーダーのリリス、彼女がサイミンと、メイノ。よ
ろしく﹂ 僕とケイトは握手をした。ケイトの手は手袋ごしでもガッシリし
ていた。
﹁女性ばかりのパーティーなんて珍しいのね﹂
と、ケイトは微笑む。いや、厳密にはメイノは女装子だけど、そ
れよりお互い様じゃ無かろうか。
すると、ケイトが付け加えて言った。
﹁ええ、もちろん、私たちもそうだけど。でも、私たちはそういう
ギルドに所属しているから﹂
﹁そういうギルド?﹂
﹁そうそう。アマゾネスでございますのよ∼。私たち∼﹂
長い袖をでろりと振りかざして、ルーピナが片腕を振りまわす。
まるで、旗を振っているようだ。
﹁﹃クインツ﹄知らない?﹂
﹁クインツ?﹂
僕の後ろからサイミンがそっと耳打ちする。
﹁おそらく、女冒険者の集まったギルドです﹂
﹁あぁ、そういえば女の子ばっかりの冒険者ギルドがあるって⋮⋮﹂
554
この子たちがそうなのか。
﹁ええ∼。もしや﹃クインツ﹄をご存じない! はう∼これはオド
ロキ桃の木スモモの木∼私たちの知名度もまだまだでございますね
∼﹂
ルーピナがくるくると回転する。ケイトはルーピナを無視して尋
ねる。
﹁リリス達はどこかのギルドに所属しているの?﹂
﹁ううん。ボクらはフリー﹂
﹁そう。じゃ、やっぱり珍しいわね。特にこの界隈をうろつけるL
vの冒険者が女の子でフリーなんて﹂
﹁⋮⋮ボク、Lv低いよ﹂
しかし、これは謙遜と受け取られたようだった。
先日の男性パーティーと違って、彼女たちには概ね温かく迎え入
れられた。僕はケイトと話しながら、以前知り合った踊り子の顔を
思い出していた。男性パーティーメンバに虐げられていて逃亡した
彼女⋮⋮ファフィアだ。
最終的に僕が人助けをしたんだか、いらぬおせっかいを焼いたの
か、いいように利用されたのか分からない別れだったけど、元気で
やっているだろうか。最後にファフィアはもう男には飽き飽きだか
ら女冒険者ギルドを探すと言っていた。
﹁あのさ、ファフィアっていう冒険者の女の子を知らない?﹂
﹁ファフィア? お友達?﹂
﹁うん。まぁ、お友達っていうのとはちょっと違うかもしれないけ
555
ど。踊り子で、ちょっと派手めの巨乳のお姉さん﹂
﹁さぁ。聞いたことないけれど、その彼女がどうかしたの?﹂
別れたのは結構前だけど、流石にまだ辿り着いていないか。航海
は時間がかかるから、もしかしたらまだ海賊船の上かもしれない。
﹁ううん。たぶん、そのうち、﹃クインツ﹄の仲間に入ると思うか
ら、そうしたら宜しくしてあげて﹂
﹁あら、入団希望?﹂
﹁うん﹂
﹁我々、新しいお友達は大歓迎でございますわ∼。ただし、うちの
拠点まではなかなかどうしてハードな道のりですのよ∼﹂
﹁そうなんだ﹂
思えば僕はファフィアのLvも知らないけれど。でも、実力いか
んに関わらずきっと彼女は自分の意思を貫き通すし、有言実行で﹃
クインツ﹄の門扉を叩く日が来ると思う。
﹁それより、リリスさんこそ、﹃クインツ﹄の仲間に入りませぬか
!?﹂
ルーピナが目を輝かせて僕の手を取る。
﹁えぇ?﹂
﹁一目惚れですわ。私と姉妹の契りをかわしませう! はわわわ∼
! 恥ずかしい﹂
﹁⋮⋮だめよ。ルーピナ、無理強いをしては。ごめんなさいね。こ
の子、ちょっとあれだから﹂
⋮⋮ちょっとあれなんだ。うん。分かる気がする。
556
﹁でももしうちのギルドに興味があるなら、是非来て? 強くて優
秀な人材はいつでも大募集してるの。リリス達なら、一発採用に間
違いないわ﹂
﹁いやいや、ボク、強くないから﹂
そうやって真実を述べるほどに謙遜と受け取られるのが気持ち悪
くなって、僕はもう少し正直に言っておいた。
﹁本当にさ、このダンジョンでも入口付近でLv上げするのが精一
杯なんだよ。ほら、装備見てもなんとなく分かるでしょ?お誘いは
嬉しいけど、多分ボクなんかじゃそんな名門ギルドには入れないよ﹂
しっかり見れば分かると思うけど僕の装備は初期の﹃エルフの洋
服﹄。プリーツの入ったスカートに清楚なブラウスと短めのチョッ
キの組み合わせ。可愛くて気に入ってはいるけど、この界隈では装
備力皆無に等しい代物だ。
すると、言われて初めて気づいたかのようにケイト達3人は僕ら
の装備をマジマジと見つめ、絶句した。
﹁⋮⋮これ、もしかして、初期装備?﹂
﹁え、初期装備なんてことはまさか、ないと思いますけど﹂
﹁私、初期装備なんて長らくお目にかかったことがないからわかん
ない⋮⋮﹂
﹁こんなダンジョンにいて? え?﹂
3人はめいめい顔を見合わせて、何事かブツブツとつぶやぎ再び
言葉を失う。沈黙の後に初めて口を開いたのは意外なことに人見知
りのクーデリカだった。
557
﹁⋮⋮ドМなの⋮⋮?﹂
558
episode20︳2
﹁ちがーう!﹂
﹁ふっふっふ。私は騙されませんわよ∼。その髪飾りはずばり超レ
ア﹃セレネ﹄! 月の女神の加護を受けた一級装備です﹂
﹁へ? 何が? ⋮⋮あ、これ?﹂
僕の頭を指差して得意気に指摘するルーピナ。ドM呼ばわりは断
固否定させてもらったが、言われた通りこの装備の名前は﹃セレネ
の髪飾り﹄。真珠が連なった豪華な銀細工で可愛らしさもあり、お
気に入りの装備品だ。
最初の街ドッグベルを発つ時に人にもらった餞別なので詳しい防
御力とか値段とかは一切知らない。とはいえ、アーカイブで確認し
た限り大した特殊効果が付与されていないから装備としてもそんな
に大仰なものだと思ってない。
確か⋮⋮効果が①回避上昇︵小︶ ②命中上昇︵小︶ ③月夜に
パラメータ上昇、だったかな。③の効果は実戦じゃ試したことない
けど。
﹁なるほど、目立つ鎧装備をあえて貧弱にしておくことで周囲を油
断させておく作戦⋮⋮ということかしら﹂
﹁その実、装備のメインは目立たない髪飾り⋮⋮腹黒い感じ⋮⋮。
怖い﹂
クーデリカが過度に怯えた様子を作ってケイトの背中にしがみつ
く。いやいや、待て待て、ドMの次は腹黒呼ばわりとは、案外クー
デリカ口が悪い。まるで僕がペテン師みたいじゃないか。
559
﹁まぁまぁ、かよわい女の子がギルドにも所属せずこの世界を渡っ
て行こうと思ったらそれくらいのハッタリは必要ですわよね∼﹂
ルーピナはニコニコしながら袖を振り回す。一応、フォローして
くれているのだろうか。
﹁そうね。私も、そういうの嫌いじゃないわ。したたかな女の子は
尊敬する﹂
ケイトも気を取り直したように言い表情を緩めた。結局誤解は解
けていないようだが⋮⋮まぁいいか。とりあえずドM疑惑と腹黒疑
惑が晴れたのなら辛うじて良しとし、僕は力ない愛想笑いだけ返し
ておいた。
それからしばらくその場に立ったまま会話をした。女の子ってこ
ういうものなのか、会話がポンポンとあっちに飛びこっちに飛び、
それでいてなかなか尽きず、落ち着くところをしらない。特におし
ゃべりなのがルーピナで今していた会話と全くつながらない話題を
脈絡のないタイミングで出してくる。
ケイトはケイトでそんなルーピナを軽くたしなめつつ、冒険のノ
ウハウや解説について饒舌だし、クーデリカは控えめだが、時折ぼ
そりとツッコミみたいな合いの手を入れて笑いを誘う。女が3人寄
れば姦しい。
脈絡のない会話の途中でこのダンジョンの特性、モンスター姦に
関する注意点をアドバイスされた。
﹁知っているかもしれないけど、このダンジョン内ではモンスター
が発情しているケースが多いから気を付けてね。戦闘領域展開する
間もなく犯られてちゃうこともあるから﹂
﹁気を付ける。そういえば、入ってきてすぐに凄いイベント見たよ。
560
⋮⋮たぶん、イベントだったと思うんだけど、女の子が樹の魔物に
襲われてた﹂
実の所、あれがイベントだったという確信はないが。
﹁あぁ、少女が魔殖樹に襲われている、ってやつでしょ。あれは初
回のお決まりのイベント。あんな感じのイベントはこのダンジョン
ではよくあるわよ。男プレイヤに対しては一種のサービス、女プレ
イヤに対しては警告の意味でね﹂
﹁そうなんだ。他にはどんなのがあるの?﹂
﹁普通の獣型モンスターはもちろんでしょ。あとは、獲物を幻覚で
おびき寄せる花もいるし、陸地に生息する巨大タコとか、獲物を亀
甲縛りしたがる蜘蛛っぽいのとか⋮⋮群れ鼠は一匹ずつが小さいけ
どこいつに捕まると100匹単位で輪姦されちゃうね。とにかく何
でもあり﹂
﹁うわ∼⋮⋮﹂
結構エグイのもあるな。手当たり次第に楽しみたいテーマパーク
とは違うみたいだ。
﹁リリス様達は、それ狙いで遊びに来てるわけではございませんの
?﹂
横からルーピナが無邪気に問いかける。
﹁っ、それ狙いって⋮⋮?﹂
ドキリとする胸の内を押さえておうむ返した。
﹁結構みえますわよ∼モンスター姦がお好きな女性も﹂
561
﹁ルーピナはどうなの?﹂
意地悪く聞き返してみる。すると、ルーピナは胸をそらして答え
た。
﹁私くらいになりますと、あぁいう子どもっぽいのは卒業しており
ますの﹂
その返答に僕は思わず噴き出した。つられて周りも皆笑い、ルー
ピナだけ憮然とすることになった。
﹁じゃ、ボクらはしばらくこの近辺で経験値上げしてると思うから、
また﹂
﹁ええ。私たちは淫花ラフレフラ出没あたりでアイテム採集する予
定だから、機会があればまた会いましょ﹂
﹁ええ∼もうお別れでございますか∼せつないです∼。リリス様、
サイミン様、メイノ様、お名残惜しいですがごきげんうるわしう∼﹂
袖を目じりにあてて、涙をぬぐう仕草をするルーピナと、何度も
こちらを振り返るクーデリカ。キャラは濃いが割と面白い子たちだ
った。交換できる価値のある情報を持っていない僕に対しても出し
惜しみせず色々と教えてくれたし、こんな危険なダンジョンに3人
で潜っているあたり、たぶん強いんだろう。強者の余裕みたいなも
のが読み取れる。
精鋭集団で可愛い女の子が揃っていると思うと﹃クインツ﹄の勧
誘には内心魅かれる者を感じるけど、あぁいうところは入団しちゃ
うと色々と規則があったり上下関係があったりして面倒かもしれな
い。女の園に興味はあるが反面底知れないものを感じるし、僕自身
が女として入団するなら酒池肉林というわけにはいかないのだから。
562
僕はすっかり自分の頭に馴染んでいる髪飾りの金具を外して手に
取った。
﹁一級装備だって﹂
﹁はい。女神の名前が冠されているのは女神装備とも呼びます。女
神の加護がかかっている装備ですね﹂
﹁サイミンは知ってたんだ。そんなに凄いものだと思ってなかった
よ⋮⋮フェンデルってば奮発してくれたんだ﹂
﹁リリス様によくお似合いです﹂
﹁うん? ありがとう﹂
﹁リリス様に釣り合う贈り物としては妥当なところだと、わたくし
は思います﹂
唐突に褒めるから何事かと思ったら、それが言いたかったらしい。
サイミンの3段論法は日増しに高度化している気がする。しかしそ
んな大したレア品なら特殊効果の3番目、月夜にパラメータ上昇も
積極的に効果を試してみよう。
レア品をポンとプレゼントしてくれるフェンデルが何者なのか不
思議に思いつつ僕は髪飾りを定位置に戻した。
**
次の日、僕のLvは晴れて50を記録した。
更に次の日、取得経験値をあまり分割せずに効率的に取得する為、
メイノと僕の2人だけでダンジョンに潜ってみたところ、一日かけ
てLv53まで上がった。だが、このやり方は一回勝利した時の獲
得メリットに比して戦闘にかかる時間や逃亡、MP切れしたメイノ
の回復の為のコストが大きくあまり旨みが無かった。
それで更に次の日からはサイミンを復帰させて馴染みとなったダ
ンジョン﹃最初の女神の寝所﹄に向かった。
563
流石に同じ風景を見ながらのルーチンワーク的経験値稼ぎには飽
きてきたので少しずつ探索範囲を広げながら魔物を狩る。
ミニブーLv60の群れをしとめたところでLvがもう一つ上が
った。ミニブーは豚小人、っていう感じのモンスターで攻撃力は高
いが動きがのそのそしているから狩りやすい。そして僕は時のパラ
メータの伸びがいよいよ悪くなっていることを再確認した。
﹁これは、そろそろジョブチェンジ時だなぁ﹂
最下級職﹃冒険者﹄ではこれ以上のパラメータ増加は望めないら
しい。いくらLvが上がっても新しく覚えるスキルが無くなって久
しいし、パラメータ上昇も初期と比べて雲泥の差になっている。
﹁そうですね。効率的に成長していきたいなら一つのジョブに固執
しない方が良いですね。でも、カンストさせれば覚えるスキルもあ
りますよ﹂
﹁カンストってLvいくつ?﹂
﹁Lv100です﹂
﹁パス﹂
僕はそういう執着と根性を持ち合わせているタイプじゃない。以
前会った冒険者の中にはそういう性格の少年もいたなぁ、と思い出
しつつステータスウィンドウから簡易の職業マップを開く。﹃洗礼
所﹄に寄ったことで閲覧できるようになった職業遷移の情報ページ
だ。
﹁戦士とか武闘家は前線で戦わなきゃいけなくなるから嫌だし。弓
兵や僧侶はニエグイの杖が装備できなくなるし、無難なところで魔
法使いかな﹂
564
そこにステータスウィンドウを覗き込むようにサイミンが顔を近
づける。草叢に並ぶ石に腰掛け、もう少しウィンドウを大きく開い
て2人でそれを見た。
﹁傍系の商人、農民はいかがですか?﹂
﹁長期的に見ればそっちの方が面白そうなジョブは多いんだよね。
でも短期的に見ると冒険者から商人になってもパラメータの伸び率
って変わらないよねぇ﹂
﹁それはそうですね。通過するだけならいいですが、連続してもう
一つジョブチェンジするほどは評価値が溜まっていませんものね﹂
﹁そうそう。でも、﹃遊び人﹄からの﹃娼婦﹄が惜しいよなぁ⋮⋮﹂
更に、パーティーバランスから言えばやはり僕は魔法系の職業を
維持した方がいいのではないかという考えもある。ハーフエルフと
言う種族の特性上も、断然魔力の伸びがいい。だけど、元々僕のポ
リシーというか、このゲームを楽しむうえでのモットーは﹃冒険よ
りもエロ優先﹄。今はなぜかエロの為に冒険パートに力を入れると
言う逆転現象が起こっているのだけど⋮⋮。
そうして結構真剣にステータスウィンドウを眺めながら頭を捻っ
ていたところである。足元にくすぐったいものを感じた。草があた
っているのかな、と思ったがちょうど開いたウィンドウで見えない
位置だったので気にせず放置していた。
前回﹃洗礼所﹄に行った時も結局こうやって悩んだ挙句に決めら
れなかったんだよね。変なところで優柔不断になるのは僕の悪い癖
だよなぁ、などと考えながら頬杖をついて全然関係ないジョブの遷
移図の方まで見始める。
しかしそうしているとふいに足元のむずむずが強くなり、えっ、
565
と思った時には僕は強い力で足首を引っ張られて態勢を崩し、地面
に引き倒された。
566
episode20︳3
﹁リリス様!﹂
突如地面が頬の下にあるものだから、天地がひっくりかえったの
かと思ったが、状況を把握する間もなくズルズルと足から引っ張ら
れて後方に引き摺られる。こうなると人間の防衛本能として抵抗し
ようとするのだけど、僕の両手は空しく草をつかんで、ちぎっただ
けだった。
﹁わっ、わっ﹂
サイミンが素早く僕の足元にスピアを突き立てた。ブツリ、とい
う音がして足がほぼ自由になる。まだ絡まる拘束感があるが、僕は
体を起こす前に体を捩じって後方を確かめる。すると、足首に細い
白い糸が何重にも巻き付いているのが分かった。
蜘蛛の糸? しかしそれよりも、後方を振り返って視界に入ったものに驚く。
数メートル先に大きな砂丘⋮⋮いや逆だ、円錐状の砂の渦があっ
て、そこからずんぐりした頭に足を生やしたモンスターが覗いてい
る。モンスターは足の先から糸を伸ばして獲物を捕まえ、この砂の
渦に引きずり込むらしい。
で、ここからが重要なのだが、今まさに、蜘蛛の糸にグルグル巻
きになって身動き取れなくなったメイノが砂に飲み込まれようとし
ていた。
567
﹁メイノ︱︱︱︱︱︱!!﹂
ぎゃー!なんでやねーん!というベタなつっこみが頭の中に閃い
た。どうやら、僕とサイミンが転職ウィンドウに夢中になっている
うちに、静かに捕獲されていたらしい⋮⋮メイノ、とろいよ! せ
めて悲鳴をあげるなりなんなりしてくれ。
﹁リリス様、どうしましょう﹂
普段落ち着いているサイミンも流石に慌て気味だ。僕は足首に残
った糸を手で解きながら言った。
﹁ボクのことはいいから、とにかく、メイノをなんとか助けてあげ
て!﹂
﹁はい﹂
まずは絶体絶命のメイノが優先だ。サイミンはスピアの柄を握り
直して駆けていく。僕は足首の糸を解きながら心底ハサミが欲しい
と思った。
モンスター側から戦闘領域を展開しないこの状況は何かのイベン
トなのだろうか? あぁ、それならばメイノもスグに殺されちゃう、
ってことは無いだろうから先に﹃モンスター解析﹄をかけてくれる
ように指示した方が良かったかも。
﹁サイ⋮⋮﹂
サイミンの名前を呼ぼうとした時、モンスターは追加で糸を噴き
出してきた。タコみたいな頭をしているけど、糸は口からではなく
て足から出るので、やっぱりこれは蜘蛛なんだろう。いや、蜘蛛な
らお尻から糸を出すんだっけ?
568
と、くだらないことを考えている暇は無いのだ。おかわりの糸は
一方でサイミンを、もう一方で僕を捕えた。
﹁もーっ!﹂
﹁リリス様、大丈夫ですか?﹂
﹁こっちはまだ大丈夫だから。サイミンこそ大丈夫?﹂
﹁はい﹂
﹁とにかく、メイノの救出∼! あと、モンスター解析かけて∼!
場合によっては戦闘に持ち込むから﹂
﹁分かりました﹂
サイミンはスピアで糸を巻き取りながら部分的に切除し、蜘蛛の
糸攻撃を器用に看破している。一方の僕は再び糸に捕まって地面を
ズルズルと引き摺られていた。ハサミだ⋮⋮誰か、ハサミをくださ
い。
徐々に近づいてくるアリジゴクの砂丘。無力感があるが、まぁい
きなりゲームオーバーってことはないだろうし、これがイベントだ
としたら十中八九何らかのエロ系イベントなのだから、蜘蛛に亀甲
縛りされるくらいで済むと期待したい。
しかし、思えば、僕のこと状況判断は色々と甘かった。
﹁リリス様、メイノ救出困難です!﹂
メイノは既に胸まで砂に埋まっていて、しかも両手両足まとめて
ミノムシのようにグルグル状態だった。確かに、これでは助けよう
がない。サイミンが音を上げたその時、僕もまた、片足を砂に突っ
込んでいた。
﹁どうしよう。メイノ、窒息死しちゃう?!﹂
﹁いたずらに苦しむことは無いと思います。DEAD判定でホーム
569
ポイントに戻るのではないでしょうか﹂
サイミンは僕の手を掴み、引っ張り上げる。
﹁まだ大丈夫、だから、ちょっ、とりあえず﹃モンスター解析﹄お
願い﹂
﹁えっ? 大丈夫ですか?﹂
﹁うん。勝てるなら戦闘に持ち込んだ方が良さそうだ。そうすれば
この不利な状況もある程度リセットされるでしょ﹂
﹁それはそうですが⋮⋮分かりました。少々お待ちください﹂
サイミンは心配のあまりか、泣きそうな表情だ。大丈夫だよ。そ
んな顔しないで、と言う思いを込めて僕は強く頷く。
﹁﹃モンスター解析﹄!﹂
その時間はいつもよりも長く感じた。これが、感覚時間の違いと
いうやつだ。楽しい時はあっという間に過ぎるけど、焦れる時間は
長く感じる⋮⋮いや、いつもよりちょっと時間がかかっているかも。
﹁出ました。 蜘蛛地獄︵︵クモジゴク︶︶ Lv92 属性:虫
弱点:弓 強点:土。蜘蛛の糸で獲物を拘束して捕食する。吸血
によるドレイン攻撃、砂地に隠れる防御方法など多彩な特殊技を持
つ。砂場から出てしまうと無力化するという弱て︱︱︱︱︱︱り、
リリス様︱︱︱︱︱︱!!﹂
サイミンの悲鳴は砂の中で聞いた。悠長にしていた僕はあれよあ
れよと言う間に蜘蛛の糸に全身を絡め取られて、メイノと同じく砂
の中の末路を辿っていた。リーダーたる者、慌てず常に平常心でい
るべきだが、今回はちょっと熟考が過ぎたのかもしれない。
570
視界は砂に埋もれて真っ白になり、それでもまだ落ちていく感じ
がする。
ああ、DEADか。Lvダウンとアイテムドロップが口惜しい⋮
⋮そんなことを考えていると急に落下が加速し、吸い込まれるよう
な感覚を味わった。
**
ズササササ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
砂時計の砂から滑り落ちるようにし、僕の視界は光に包まれる。
顔にぱらぱらと砂の当たる感じがし、目をしばたかせた。
﹁ぺっ、ぺっ。うー⋮⋮ここ、どこ﹂
僕は砂を吐き出しながら周囲を見渡す。どうやら、死んではいな
いようだ。不思議とさっきまで体をグルグル巻きにしていた蜘蛛の
糸も全て消失している。上を見上げると、植物の根が張ったような
天井から砂がサラサラとこぼれている。
どうやら、あそこから落ちてきたらしい。しかし、先にここに落
ちてきたであろうメイノの姿は周囲に無かった。
﹁なんかボク、最近落ちたり転んだりが多い気がするなぁ﹂
思いがけず仲間と離れ離れになってしまった状況にため息をつき
つつ、髪の毛や服についた砂を振り払う。
﹁ええと、これからどうしたらいいのかな﹂
571
独り言をつぶやきつつ、靴を脱いで逆さまにして砂を出す。さっ
きまでいた場所と違ってダンジョン内はやや薄暗く、植物の種類も
シダや菌糸類が多くじめじめした雰囲気だ。岩肌に囲まれてちょっ
とした洞窟のようでもある。あまり気分の晴れる雰囲気ではない。
﹁それに、何か変な匂いがするんだよね﹂
獣くさいような、酸っぱいようなちょっと嫌な匂い。
﹁変な音も聞こえるし⋮⋮﹂
言いながら気づいたように僕は耳をそばだてる。風の音のような、
子猫の鳴くような、屠られる豚のような。
︱︱︱︱︱︱ピイィィィ⋮⋮
︱︱︱︱︱︱ウニュアァァァァァ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱フィギィ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮
完全に嫌な予感しかしないと思いつつ、僕は壁に沿って歩きその
向こうに繰り広げられている光景を覗き見た。するとそこには、半
ば予想していたものが、予想以上の形であった。
淫猥の宴。悦楽の庭。
魔殖樹に蹂躙されている女の子もいれば、腰を激しく振る四つ足
に背面から犯されている女の子もいる。が、その場の主導権を一番
握っているのは豚人。ミニブーのデカいバージョンだった。犯され
ている女の子達の口から、もはや人の物では無い矯声があがり続け
る。そして、そのうちの数人は異様にお腹が膨らんでいて、つまり、
魔物の種を宿しているらしかった。
眩暈を覚えつつさらに様子を覗うと、強い力で後ろから体を掴ま
572
れた。
﹁ミツケタ。アタラシイ、メス﹂
﹁キョウ、ラッキー、フタリモ、オチテキタ﹂
思わずひっ、と喉の奥から空気が漏れた。
573
episode20︳3︵後書き︶
次話からエロ。
574
episode20︳4
﹁ワカイ、アタラシイ、メスバラ、ダ﹂
僕の背中に豚人の下腹部の出っ張りがゴツゴツと当たる。この体
格差!ひょいと荷物のように持ち上げられ、僕は足をバタつかせた。
﹁離せ∼!!﹂
会場に引き出される僕に、幾人かの豚人の視線が集まる。僕を持
ち上げたままのしのしと場を横切って行く豚人はまるで戦利品を見
せびらかすように誇らしげだ。
﹁ミロ、アタラシイ。メス。ゴチソウ﹂
その中で、3匹の豚人に囲まれて犯されている一人の女の子と目
が合った。女の子の服は千切れてボロボロだが、どうやら元は冒険
者だったらしい。なされるがままの女の子は口を半分開き、目は死
んだ魚のように濁っていたが、僕の姿を見て一瞬憐憫の色が浮かべ
た。
しかし、当の僕はこの状況を憂いていいのか、喜ぶべきか、未だ
判断がついていない。
﹁オデ、サキ。オデ、ミツケタ﹂
﹁ジャア、ツギ、オデノ、バン!﹂
服を引っぺがされてもがく。ちょうど平たくなっている石台の上
に仰向けに押し付けられる。豚人の顔が近づくと、独特の獣臭がし
575
た。服を脱がされるのはともかく、髪飾りを取られないように気を
付けないと、これを失ったら僕の防御力なんて皆無に等しいだろう。
豚人の両手に挟まれただけで圧死しかねない。
﹁嫌だぁ︱︱︱︱︱︱! やめてよ︱︱︱︱︱︱!﹂
僕の叫び声につられるように3匹目、4匹目の豚人が集まってき
て口々に適当な事を嘶いた。
﹁イイナ、イイナ、ウマソウ、ダ﹂
﹁チイサイ、メスバラ、スグ、コワレル。ヒロゲテイレル、タイセ
ツ﹂
﹁イッパイ、ツカウ、ダイジニ、アツカエ﹂
﹁ワカッテル﹂
即物的な豚人は僕の足を押し広げて、そこに唾液を吐きつけた。
豚人の唾液はドロドロで僕の股を汚した。
﹁嘘でしょ⋮⋮﹂
まさかこれが前戯替わりだなんて、言わないよね?豚人の下半身
にそそり立つイチモツは冗談みたいにデカイ。しかも、表面にトウ
モロコシみたいなデコボコの突起があって獲物に対する悪意がある
としか思えない。
﹁入らないよ∼! 絶対、そんなの無理ぃ∼やだやだ∼壊れる∼っ﹂
泣き声はもはや演技ではなかった。あんな凶暴なもの突っ込まれ
たら小さなリリスの体は一発でお釈迦だ。
576
﹁ダイジョウブ、チャント、ヒロゲル﹂
そうして醜悪に笑むと豚人は己の指を舐め、僕の柔らかい肉襞に
差し込んだ。
﹁あうっ⋮⋮﹂
しかし、豚人は指も太くてデカい。しかも、躊躇なくそれを片手
で二本。
﹁あぁあ⋮⋮ぁ、っ!?﹂
更にもう片方の指を舐めたかと思うと追加で二本。当然容易くは
入らないのでグニグニと押し込むような所作となった。二本ずつで
合計四本の指が唾液で濡らしただけの陰部に突っ込まれた。
﹁ひぃ⋮⋮っん。やっ、そんなにっ、入らない﹂
第一関節か第二関節か分からないが豚人の指の先っぽが入っただ
けでもう瀕死の気分だ。
﹁セマクテ、チイサイ。コレジャ、オデノ、ハイラナイ﹂
﹁当たり前だよっ。もう、離して∼∼∼∼∼っ!﹂
﹁ダカラ、イマカラ、ヒロゲル﹂
﹁えっ⋮⋮? や、うそ⋮⋮そう言う問題じゃ⋮⋮ぁ、あ、あ!﹂
言うなり、豚人は割れ目に挿れた四本指で入口を四方に引っ張っ
て広げ始めた。
﹁あ、がぁ⋮⋮ああ、ああ、あああああ﹂
577
かまととぶっている場合じゃなかった。僕はとんでもない所に落
とされてしまったことを悟りながら、悲鳴ともつかない嗚咽を吐い
た。
﹁イイゾ、ソノチョウシ、ダ﹂
﹁ヨクヒロゲテ、ヨクノバセ、ハヤク、オデノ、イレサセロ﹂
﹁ひあぁっ。こ、っ、こわれ、るっ︱︱︱︱︱︱︱︱っ︱︱︱︱︱
︱︱︱︱!!﹂
僕の哀願は豚人の群れの囃し立てにかき消される。粘土細工じゃ
ないんだから、そんな力づくで引き延ばせば変形するというものじ
ゃない、と言ってやりたかったが、余裕は皆無だった。しかも、こ
れじゃあ広がるのはまんこの入口付近だけだ。
﹁ソロソロ、イイカ?﹂
﹁だ、め⋮⋮﹂
だって、入口だけ広げても、奥が、閉じてるから。豚人の巨根が
突っ込まれたら、たぶん死んじゃう。
﹁めぇ、だめぇ⋮⋮っ⋮⋮﹂
﹁ソウカ、イレルゾ﹂
﹁や、ぁぁ⋮⋮ぁ⋮⋮﹂
乱暴に引っ張られて押し広げられた哀れな花びらの間に豚人のペ
ニスが押し当てられた。この状況で抵抗しても空しいだけなのは分
かっているが、僕は僅かな力で懸命に腰を捻り、逃れようともがく。
しかしそんな抵抗は豚人にとっては蚊ほどにも通じない。固くな
った巨根の尖端がぐりっと入口に嵌りこむ。入口付近だけは指四本
578
で馴らされたことでだいぶ緩くなっていた。
﹁っは⋮⋮それ以上は、だめぇ⋮⋮﹂
獲物の媚態に興奮した豚人は僕の上で鼻をならし、頬の肉を震わ
せた。更に次の瞬間、豚人が出っ腹を僕の上体に押し付けるように
してズブリと一気に奥まで挿入した。
それは凄い衝撃だった。僕はよくもまぁ、リリスの小さな体から
そんな声が出るものだという甲高い悲鳴を上げ、驚いた鳥が一斉に
飛び立ったほどだった。
﹁あぁぁぁあああ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
喚く僕に構わず、ずぶう、ずぶっ、と肉を抉るような鈍い突撃が
繰り返される。
﹁壊れるぅうううう︱︱︱︱︱︱︱︱! 抜いて、ぇっ︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱!! ひ、いああぁ︱︱︱︱︱︱︱︱!﹂
痛みというよりは本当にバラバラになってしまいそうだ。耳の奥
で肉体の限界を感じる無音が五月蠅く響く。
﹁ウルサイ、クチ。ジュンビ、タリナカッタ?﹂
﹁ダイジ、メスバラ、コワレタラ、コマル﹂
﹁オデ、マダ。マワッテクルマデ、コワレル、コマル!﹂
僕が壊れるのを心配したギャラリーたちがざわめき、慌て始める
が、肝心の僕に乗っかっている豚人は構わずに極太ペニスの出し入
れを繰り返す。夢中になって腰を振るので僕の体は全身が大きく揺
579
さぶられる。
﹁スゴイ! コノメス! サイコウ!!﹂
﹁あああ︱︱︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱
︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱﹂
もう、﹁あー﹂しか言えない。内側から削られるようにゴリゴリ
犯されて、今や僕は確かにメス腹、単なる畜生の性欲を満たす為の
道具でしかなかった。たぶん、このままだと割とスグにゲームオー
バー、﹃DEAD﹄は目前だ。気持ち良くなる前にリタイアするの
は口惜しいという考えが頭のどこかに浮かんだが、激しいレイプに
冷静な思考回路は一瞬で吹き飛ばされる。
﹁ア︱︱︱︱︱︱⋮⋮ア︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
意識が段々と遠のいていく。視界がぼんやりとし、聴覚が辛うじ
て周囲の雑音を拾っている。
﹁ダメダ、カイフク! ハヤクイシ! イシ!﹂
﹁イシ、イシ!﹂
﹁イツモノヨリ、オオキイ、イシ。コノメスバラ、ヨワイ! イチ
バンオオキイ、イシ!モッテコイ﹂
医師? 今更手遅れなんじゃなかろうか⋮⋮と、ふいに体を温か
いものが覆った。全身に温かくて柔らかい光が満ちたと言ってもい
い。この感覚は知っている。回復魔法を使った時と同じだ。でも、
なぜ今?
﹁オマエ、イチド、ハナレロ! メスバラ、コワレル!﹂
﹁フギイ、イヤダ、コノママ、タネツケル!﹂
580
よく分からない言い争いがしたかと思うと、少し楽になった僕の
体に極重の一撃が加えられた。回復で弛緩した体に衝撃が走る。
﹁ぁぐううっうううう︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱っ!!﹂
子宮口を貫通し、お腹の最深まで届くような強烈な挿入だった。
僕の体はビクビクと痙攣し、同時に一番奥で凶暴なペニスが精を放
ったのが分かった。ブブブッ、と勢いよく吐き出された獣の種は僕
の子宮に直接注ぎ込まれた。
﹁ぁ⋮⋮ぁ⋮⋮﹂
僕の目から涙が伝う。何かを失ったような喪失感とメス腹に堕ち
た絶望感がリリスを打ちのめしたのかもしれない。だけど醜い獣に
犯されて、最後の射精で僕はイってしまっていた。
**
ぶちゅっ、ぐちゅっ、ずちゅっ、という淫猥な音が響き渡る。大
開脚したリリスのまんこはパックリと大きく開き、巨大な豚人のペ
ニスを飲み込んでいた。
﹁んっ、あっ。ぁう⋮⋮いい⋮⋮っはぁ﹂
愛液と精液が混ざり合って股から滴る。ぬるぬるぐちゅぐちゅし
た欲望の塊がお腹の中で混ざって熱い。
﹁いっぱい、いっちゃう⋮⋮はぁ、ぁ⋮⋮ん﹂
581
蜜ツボの中を掻き混ぜるような動きに思わず腰が浮く。しかし、
そんな楽しみの時間は短く、豚人の腰の動きが徐々に激しさを増し
てくる。
﹁あっ、だめ、そんな、激しくしちゃ、出ちゃうよぉ。そのままも
っと、ゆっくり、続けてぇ⋮⋮﹂
だが、制してもこの単細胞なかなかいう事を聞いてくれないんだ。
﹁ムリ。デル。ガマン、ムリ!﹂
﹁だめ、だってば、っん、バカ︱︱︱︱︱︱エロブタ⋮⋮﹂
鼻息を荒くして、豚人は腰を打ち付ける。ブチュッ、ブチュ、と
いう音が肉を打つ音に変わるのはあっという間だった。一体何人目、
いや何匹目の豚人かが耐え切れずに僕の膣内で射精した。
﹁ひぃんっ。うぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
まぁ、それでもこの精子を子宮に受けながらイク瞬間はいつだっ
て大好き。
﹁ぁああん。もう、豚人って、早漏なんだから⋮⋮﹂
本当は出し入れで一度イって、そのイってる最中に射精されて連
続絶頂するのが最高なのに。今、せっかくイイ所だったのに、と口
を尖らせる。
足の間から引き抜かれるペニスは一度精を放った後もかなりデカ
い。ペニスは白濁した液をまとい、粘度の高い糸を引いた。
僕の足の間からは栓を失ってドロリと零れる液体がお尻の方に伝
う。
582
﹁ふふ⋮⋮凄い、エッチな感じ。リリスのまんこ、もうガバガバだ
ぁ⋮⋮﹂
ペニスという栓を失うと、だらしなく開き切った女陰は空気に晒
されてひんやりする。なんだか、もう挿れてないと物足りないくら
いの感じだ。
﹁ね、次はだれ? ボク、あんまり時間が無いんだよね。早く﹂
すると、その意味が通じているのかは不明だが、体は小さめだが
厳つい体型の豚人が鼻息を荒くしながら圧し掛かってきた。
﹁オデ! ツギ! オデノバン!﹂
﹁んっ、これもっ、おおきいっ!﹂
おうとつのある固いペニスが挿入ってくると、僕はその感覚に耐
え切れず歓喜の声をあげた。あぁ、すっかり慣れたその侵入を飲み
込むリリスの身体の寛容さよ。
﹁あ、ああっ︱︱︱︱︱⋮⋮。っんんふうぅ︱︱︱︱︱︱︱︱っ、
あん、いい、いいよぉ﹂
僕の首には大きな石の首飾りがかけられている。それは淡い発光
を続け、レイプによって削られる僕のHPを回復し続けている。な
んだかよく分からないけれど、回復持続効果がある装備品らしい。
大切な獲物である僕が壊れるのを心配した豚人たちがどこかから持
って来た。これのおかげで、僕はおそらくLv差も大きいであろう
豚人達と性交を楽しむことができるようになった。
⋮⋮まぁ一時は死ぬところだったけどね。
583
﹁ぁっ、ん。ぁっ、ん。ナカからゴリゴリするの、あっ、そこ、い
いっ。すごいっ﹂
嬌声をあげつつ、僕はお腹に力を入れたり、緩めたりを繰り返す。
すると豚人は決まって﹁ふぎぃ﹂だか﹁ぶひぃ﹂だか鳴くので面白
い。
﹁ウオオ、コノ、メス、ホントウニイイ﹂
﹁んっ。君のも、悪くないよ⋮⋮っん⋮⋮﹂
豚人のペニスはとにかく大きくて、馴らされたまんこにも凄い存
在感。しかも壁面のブツブツが愛液と絡み合ってナカから擦り上げ
るのはたまらなく良い。これは、クセになりそうだ。
それに、この立地による解放感が気分を盛り立ててくれる。
﹁あぁん、いくぅ︱︱︱︱︱。醜い豚に犯されてイっちゃうっ︱︱
︱︱︱︱﹂
﹁らめぇえええ。これ以上、種付けしないでぇええ。いやぁぁあ。
魔物の子なんて産みたくないいいっ︱︱︱︱︱︱﹂
﹁ひぎいいい。ふぎぃいいい。うぎゅ。ぴいいいいいい︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱っ!﹂
この台詞は全部、僕が言ってるわけじゃない。僕の周りで同様に
犯されている女の子達の言葉だ。アヘ顔で悦ぶお姉さんも、泣いて
嫌がる熟女様も、完全に理性を失っている少女もいる。
全員NPCなのかは分からない。が、これだけ舞台装置が整って
いるのだから僕だって楽しまないわけにはいかないと思う。
﹁んっ、んぅ。んっ。んっ。んくぅ⋮⋮ぁっん﹂
584
豚人のピストンが激しくなるのに合わせて僕は集中し、奥にたっ
ぷりと注ぎ込まれる射精を感じながらまたイった。
﹁ぁふぅ⋮⋮はぁ⋮⋮、お腹、いっぱい﹂
﹁オナカ? ⋮⋮ソロソロ、タネ、ツイタカ?﹂
﹁はいはい。たぶん、着いたんじゃない?﹂
絶頂の余韻にひたっていい加減に返事をする。なんだか手足の指
先の感覚がぼや∼っとしてきた。身体的にはもうだいぶ満足だけど、
もう一人くらいおかわりしてもいいかも。視界の隅でウィンドウを
開くとまだログアウトまでの時間は多少残っている。
﹁でも、サイミンも心配してるだろうしなぁ。メイノのこともあん
まり放っておくと可哀相だし﹂
理性と欲求の狭間で頭を悩ませていると次の豚人がのしのしとや
ってくる。見た目は醜悪だが、案外可愛くデフォルメされているの
で、見慣れると不細工なぬいぐるみみたいに思えてくる。
﹁イレル、ゾ。アシ、ヒラケ﹂
後ろ髪をひかれつつ、僕はウィンドウを操作してアイテムBOX
を開き、﹃帰還の羽根﹄を手持ち枠にセットする。
﹁うん。じゃあ、ラスト。もう一回だけシてから帰ろっかな﹂
585
episode21︳1:仮想世界
念願のモンスター姦を楽しんだ僕は、﹃帰還の羽根﹄を使って無
事にウィシャスに戻ることができた。身体は気怠く、あちこちが筋
肉痛みたいに痛む。回復魔法をかけてみたけど、立って歩くことさ
え億劫なありさまだった。
⋮⋮ちょっとやり過ぎたかもしれない。
続いて﹃呼び笛﹄を使ってパーティーメンバであるサイミンとメ
イノを呼び寄せた。大変な目にあってないか心配していたメイノは
意外とけろりとしていた。が、一方でサイミンが僕を見るなり泣き
崩れたのでびっくりしてしまった。
聞くところによるとダンジョン内ではぐれた後、ずっと僕の身を
案じて探し回っていたと言う。随分と心配をかけてしまったらしく、
罪悪感を覚えずにいられなかった。
それでその日は本当にタイムアウト時間のギリギリまでサイミン
に謝ってご機嫌を取ることになった。宥めるうちにサイミンは少し
ずつ平静を取り戻し、しゃくりあげながら﹁ぐすっ、でも、リリス
様がっ、ひくっ⋮⋮ご無事に帰られたので良かったですっ⋮⋮﹂と
言った。
﹁ログアウト、の、お時間ですよね、わたくし、大丈夫ですから、
行ってください﹂
﹁うん。心配かけちゃってごめんね﹂
僕は﹁また明日来るから﹂と約束して手を振った。
**
586
ウィシャスはいい街だ。気候は温暖︵⋮熱帯?︶、宿は無料、静
かで他ユーザーとの面倒な交流も、周囲の目を気にする必要も無く、
一通りの冒険施設は揃っている。
﹃最初の女神の寝所﹄という素晴らしいアミューズメント・ダン
ジョンがあってここではLv上げをすることもできるし、エロいイ
ベントを鑑賞することも、あまつさえ参加することもできる。
この地が気に入った僕はそれからもうしばらく滞在することにし
た。﹃最初の女神のダンジョン﹄を探索し、入口から徐々に範囲を
広げて一階、二階、地下一階のマップを8割がた埋めることができ
た。
だが、それより先、例えば三階に昇ろうと思うとどうやら僕らの
戦力では力不足のようだった。攻撃が全然通じない霧状のモンスタ
ーが現れて、行く手を阻むのだった。ある日、﹃クインツ﹄のパー
ティーと再会したので、その点について話を聞いたところ、三階以
上に行こうと思うなら﹃聖﹄特化の呪文スキルを強化したキャラが
いないと厳しい、ということだった。
﹁私たち、そろそろこのダンジョンはおいとましますのよ∼﹂
ルーピナは相変わらず歌うような、酔っ払っているような口調で
言い、クルクル回る。
﹁そうなんだ。目当てのアイテムは採集できたの?﹂
﹁ええ、もちろん。ほら、﹃淫花の蜜﹄がたくさんと、超レアドロ
ップ﹃幻惑の琴茎﹄よ﹂
ケイトが一つずつ、手に取って見せてくれた。高位アイテムは外
見の細工も美しい。蜜は雪の結晶ならぬ花模様の蜜細工、琴茎とや
587
らはその名の通り植物の茎でできた小さなハープだった。
﹁初めて見た。綺麗だね。これ、単独で使用可能なの? それとも
合成用のアイテム?﹂
﹁ええ、合成というか、調合用のアイテムね。でも、﹃淫花の蜜﹄
はこれだけで催淫作用があるわよ﹂
悪戯っぽい口調に首をかしげると、ケイトは片目をつぶる。
﹁つまり、超強力な、び・や・く﹂
その物言いが気に障ったのか、恥ずかしがりやのクーデリカが顔
を赤らめながらケイトの背中をポコポコ叩いている。隣でルーピナ
はケラケラ笑っているし⋮⋮なんというか、この三人、知り合うほ
どに百合百合しく見えてくる。僕の先入観だろうか。
﹁リリスにも一個あげるわ。知り合った記念よ﹂
﹁あ、ありがとう﹂
ケイトは気前よく戦利品の一つ﹃淫花の蜜﹄を僕にポンと手渡し
てくれた。苦労して採集したものだと思うけど、サバサバした感じ
である。
﹁むふふふ。いつでも、気が向いたら﹃クインツ﹄に来て下さいま
せね∼。その時はそのアイテム、私と一緒に使いましょう∼﹂
﹁今度は、長く、さよなら⋮⋮冒険の道中、気を付けてね⋮⋮﹂
﹁うん。本当に色々ありがとう。またね﹂
こうしてケイト達ともながの別れを交わし、僕は一つの気がかり
を感じ始めていた。いや、感じ始めていたのはもう少し前。僕がモ
588
ンスター姦を楽しんだあの日を境にしているのだが、ここに来てい
よいよ確信に変わったとでも言おうか。
明るく手を振って去っていく御一行の背中を見て、彼女らがもう
振り返らなくなった後も、サイミンはそこに立ち尽くしていた。
﹁サイミン?﹂
気がかりは、サイミンの様子がなんだかおかしい、ということだ。
最近のサイミンはこんな風に時折黙ってぼうっとしていたり、た
め息をついたり、考え込んでいるような仕草を見せる。普通に喋る
し、笑ったりもするけど、その表情も以前とは微妙に違う気がする。
初めのうちは、サイミンが機嫌を悪くしているのかな、と思って
いた。先日のスタンドプレーで僕は心配するサイミンを放って不埒
な遊びをいたしていたわけなので、サイミンが怒ったとしても仕方
がない。
ちなみに、あの日バラバラになった後で僕がモンスター姦を楽し
んでいたことは明確には白状していないのでバレているかは不明な
のだけど、賢いサイミンが推察している可能性は高かった。
﹁ぁ、はい。何でしょうか? リリス様﹂
しかし呼びかけに振り向いたサイミンの顔は悲しそうに曇ってい
て、怒っていると言うより無理に笑おうとしているようなぎこちな
い表情だった。
﹁どうしたの?﹂
﹁いえ、お別れが寂しいな、と思っただけです﹂
﹁いい子たちだったよね。面白くて﹂
﹁はい⋮⋮本当に﹂
589
だけど実際のところ、サイミンは﹃クインツ﹄の彼女たちとそん
なに親しく交流していたわけじゃない。やっぱり、何かを誤魔化し
ているような感じだ。
最初は怒っているのかと思い、数日経って僕の気のせいかと思い、
今日に至ってやっぱり変だな、と思うようになった。こういう﹁確
信﹂は瞬間的なもので、逃すと明日にはまた曖昧になってしまう。
思い切って僕は尋ねてみることにした。
﹁なんかさ、最近元気ないね﹂
するとサイミンは一拍停止し、叱られたように俯いた。
﹁⋮⋮申し訳、ありません﹂
さりげなく切り出したつもりが、直球すぎただろうか。僕はこう
いうの、下手だ。いけない、いけない、大切なのは口調だ。
﹁なにか、心配ごとでもあるの?﹂
今度はなるべく柔らかいトーンで聞いてみた。サイミンの顔を下
から覗き込むようにして首をかしげる。
﹁いえ⋮⋮心配事は、ありません﹂
﹁じゃあ、悩みとか?﹂
﹁いいえ⋮⋮﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
難しい。となると、やはりこれか。
590
﹁もしかして⋮⋮怒ってる?﹂
﹁怒ってる、ですか? 何に対してですか?﹂
﹁あー。ううん、なんでもない、ない。違うならいいんだ﹂
とりあえず怒っているわけではないと知って僕はほっとした。こ
ういう気がかりは宜しくない。僕は腕組みをしてうなり、サイミン
はますます消沈したように視線を落としていく。
﹁じゃあ、今日はもう冒険は切り上げて、街でのんびりしようか﹂
﹁のんびり、ですか﹂
﹁そう。最近ダンジョンで戦闘続きだったし、ちょっと疲れちゃっ
たよね﹂
﹁はい⋮⋮。ありがとうございます﹂
サイミンは綺麗なお辞儀をした。具体的な解決策は見出せないが、
サイミンの気分転換にもなるかもしれない。ダンジョンを出てウィ
シャスに戻ると空は青とオレンジ色のグラデーションになっていた。
**
ウィシャスはいい街だ。気候は温暖。宿は無料、静かで他ユーザ
ーとの面倒な交流も、周囲の目を気にする必要も無く、一通りの冒
険施設は揃っている。
⋮⋮だが、夜は案外冷えるし、街は閑散としていて他ユーザーと
の楽しい交流も、観光客向けの商業施設も無く、一通りの冒険施設
以上のものは何もない。
﹁ノープランでデートに出てはいけません、っていうことだな﹂
僕はつぶやく。いや、デートなんてしたことないけども。
591
かれこれ一時間近くウィシャスの街をブラブラ歩き、何もないこ
その間、サイミンとメイノと他愛無いお喋りをしたり、試しに
とを確認する作業はまるで警備員のようである。
﹃しりとり﹄をした。人工知能とのしりとりなんて、不毛なゲーム
かと思ったが案外面白かった。
﹁駄目だぁ。何にもない﹂
﹁﹃り﹄から始まる言葉ですか?﹂
﹁ううん。あー⋮⋮いや、それも無いんだけど。のんびり楽しめる
施設とかが無いなぁ、と思って﹂
メイノがやたらと語尾﹃り﹄で終わる言葉で攻めてくるので僕は
そろそろギブアップしそうになりながら答える。サイミンは首をか
しげた。
﹁こういう時、のんびり楽しむにはどんな施設がお好みですか?﹂
﹁そうだね。リゾートっぽいのが最高だけど、そうじゃなくてもデ
ートスポット、っていうのかな。例えば芝生に寝転がれる公園とか、
洒落たカフェとか、ウィンドウショッピングできるストリートとか﹂
﹁素敵ですね﹂
正確には僕自身そういうのが好き、ってわけじゃないけど、サイ
ミンの気分転換にはそういうロケーションが望ましいと思ったのだ。
すると、サイミンが僕の心中を察したように微笑んだ。
﹁でも、こうやって何もせずにのんびり歩くのも、わたくしはとて
も楽しいです﹂
心から嬉しそうに。思いやりと慈愛に満ちていて、それでいてど
こか切ない。ウィシャスの街は夕闇の気配を濃くたそがれて、逢魔
592
が刻に出会ったその微笑はハッとするほど綺麗だった。
﹁あの、リリス様。少しだけ、お話しさせて頂いても良いですか?﹂
見惚れる僕にサイミンは遠慮がちに言いさした。
593
episode21︳2
僕らは結局ウィシャスをぐるりと一周して、また﹃最初の女神の
寝所﹄の入口である﹃朽ちた遺跡﹄までやってきていた。その名の
通り朽ちた遺跡が転がっている一角は見ようによっては公園のよう
でもある。
僕は少し高台になっているところに土台だけ残っている神殿跡の
大理石に腰かけてサイミンの話を聞いている。サイミンにも座るよ
うに勧めたが、あまり近くだと恥ずかしくて上手く話せないかもし
れない、という不思議なことを言った。
﹁わたくしはリリス様が大好きです。縁あって冒険のお供をさせて
いただけることになりましたが、この出会いはわたくしにとって、
大変な幸運だったと思います。日々の冒険の中、何気ない会話の中
でリリス様はいつも私に新しい発見や、気づき、刺激を与えて下さ
います。リリス様と一緒にいることで、わたくしは人工知能として
成長をしていると感じています。それは単に知識や言語データの蓄
積に留まらず、もっと大きな思考回路、例えば個としての自覚や感
情の広がりに及んでいます。そして、今日に至りわたくしは、一つ
のある変化を迎えたと感じているのです﹂
﹁変化?﹂
﹁はい﹂
確かにサイミンはこの数日で﹃変わった﹄らしい。その理由を︱
︱︱といっても人工知能の成長について全く疎い僕にはよく理解で
きない部分も大きいが︱︱︱︱説明してくれた。
﹁これまでも、わたくしの成長は質、速度ともに他のAIとは比べ
594
ものにならないほど早かったのです。その原因は高度AIとしての
わたくし自身の作られ方という特殊な下地があってのこともござい
ますが、リリス様のわたくしに対する態度が大きな要因の一つとな
っているのは間違いありません。リリス様はわたくしを対等な個と
して扱ってくださいます。ゆえに与えて下さる情報、つまりインプ
ットの多様性が高く良い意味で不確定、幅が広く分析に値します。
わたくしはリリス様に頂く言葉ひとつひとつを宝物のように思って
います﹂
僕は途中で口を挟んで質問したいこともあったけど、まずは大人
しくサイミンの話を聞こうと耳を傾けた。神殿跡の土台に腰掛ける
と足が地面につかなかったが、ブラブラさせたりしないように気を
付ける。
聞いているよ、という合図に小さく頷いて﹁うん﹂とだけ返事を
した。メイノも一応傍で静かに居るが、流石にこの会話の内容理解
は難しいだろう。
﹁そして、これまでリリス様との冒険においてわたくしが主に取り
扱ってきたインプットは﹃喜び﹄﹃楽しさ﹄﹃嬉しさ﹄といったプ
ラスの情報でした。リリス様に対する信頼と愛情がわたくしの知能
を育む土壌の基盤であり、わたくしの発達系の中でも得意分野と申
しましょうか。すみません。言葉で上手く表現できていないかもし
れませんが、つまりわたくしは高度AIの中でも﹃他者を愛する心﹄
に秀でた思考回路を獲得してきたのです﹂
空は星が瞬き始めていた。
理屈はよく分からない。だけど、サイミンが﹃他者を愛する心﹄
に秀でた人格を持って成長しているなら、それはなんだか凄く素敵
なことだなぁ、と思った。
595
﹁それが、変化?﹂
サイミンは少し沈黙して地面を見つめた。
﹁いえ。実は、それ自体は評価されるべきことなのですが、さほど
珍しいことでは無かったのです。愛情もしくは情愛というのは、こ
の世界の成り立ちにおいて最も基本的な要素ですので。⋮⋮わたく
しがここ数日で飛躍的に伸ばしたのはそれとは別の回路⋮⋮﹃せき
りょう﹄なのです﹂
﹁せきりょう﹂
馬鹿みたいにおうむ返ししながら、僕は意味を探した。席、量?
⋮⋮責了?
﹁一つ先に断っておきたいのは、これはわたくしにとって、素晴ら
しいことなのです。評価されうる、大きな価値のある事象です。で
すから、わたくしの説明でリリス様がご気分を害されることが無い
と良いと願うのですが﹂
﹁いや、気分を害するなんてことは無いと思うけど。責了、って?﹂
﹁別離に対する寂しさ、失われるものへの哀惜、です﹂
﹁分かった。﹃寂寥﹄、だ﹂
そこで僕は気づいた。責了じゃ全然意味が違う。寂寥、さみしい
こと。
﹁あ、もしかして、あの時の⋮⋮﹂
﹁はい。先日﹃最初の女神の寝所﹄で発生した蜘蛛地獄との戦闘で、
わたくしはリリス様との唐突な別離に衝撃を受けました。守ると決
めた大切な方、大好きなリリス様が砂の中に消えていき、手が届か
なかったあの瞬間に、何かが芽生えました。その後に残された喪失
596
感。探しても探しても大切な人が見つからない虚無感。それは未知
の経験であり、悲しみとともに広がっていく己の新しい可能性に別
の意味で空恐ろしくなったものです﹂
﹁あれは、ごめんね⋮⋮﹂
﹁いえ、どうぞ謝らないでください。むしろ、わたくしはお礼を言
わねばならない立場なのですけれど、それはそれで﹃皮肉﹄になっ
てしまう可能性があるのではないかと思って、差し控えているだけ
なのです﹂
﹁でも﹂
﹁いえ。本当に﹂
﹁ん。分かった﹂
サイミンがそう言うなら、変に罪悪感を持つのは止めよう。
﹁既にわたくしの中で必要なデータが蓄積されていて、あの日の出
来事は単なるきっかけに過ぎなかったのかもしれません。この変化
は必然だったのかもしれません。ただ、単純に成長したというには
劇的で今まで1から9まで数えてきた﹃数字﹄が次の瞬間に﹃文字﹄
に転じるくらいのインパクトがありました。今まで積み上げていた
思考回路が一度崩壊し、新しいロジックを組成し直した。ですから、
わたくしはそれを﹃変化﹄と呼ぶことにしたのです﹂
﹁うん﹂
﹁⋮⋮以上です。すみません。長々とつまらない私事を申し上げま
して。リリス様にお話しすべきかどうか悩んだのですが﹂
﹁話してくれて嬉しいよ。ボクの方こそ、無理に聞きだしたみたい
でごめん﹂
﹁聞いて下さって嬉しかったです。ご心配をおかけして申し訳あり
ません﹂
サイミンは胸元に真っ直ぐに揃えた指先をあて、ほっと息を吐い
597
た。
﹁なんだか、お話ししたら胸のつかえがとれたような気がします。
わたくし、きっとお話ししたかったんですね﹂
﹁うん。サイミンが元気になったなら良かった。っていうかまぁ、
元気が無かったわけじゃないのかもしれないけど。大きなトラブル
じゃないなら良かったよ﹂
﹁ありがとうございます﹂
それに心配も解消できた。今の説明を照らし合わせてみれば最近
のサイミンの違和感にも納得がいく。サイミンが急に複雑な表情を
見せたり、悩んでいるようなそぶりを見せたりするのは、その新し
く獲得した思考回路によるものなのだろう。
﹃寂寥﹄なんてどちらかといえばマイナスの感情だから、知らな
いままの方が幸せだったんじゃないかなぁ、という気がしないでも
ないけど。
﹁ですが、リリス様、このように多少の変化を迎えたわたくしを、
前と変わらずご寵愛頂けますか?﹂
﹁え? なんで?﹂
﹁ええ、ですから、もしそうであったら辛い所なのですが⋮⋮わた
くしのこと、面倒くさい従者だとお思いになりません?﹂
こんな複雑な思考回路を獲得してしまった人工知能なんて、とサ
イミンはつぶやき、ため息をつく。思わず僕は噴き出してしまった。
⋮⋮なんというか、可愛らしかったのだ。
﹁リリス様﹂
﹁ごめん、ごめん。でも、とんでもない、だよ。なんかね、サイミ
ンは前より綺麗になった感じがする。前から美人だったけど、表情
598
が出て、魅力的になった﹂
﹁まぁ⋮⋮お世辞ですね﹂
もちろん、お世辞じゃない。人間の容貌の魅力って言うのはパー
ツの整い方だけに依らないんだなぁ、と思う。これは、僕なりの新
しい発見だ。
﹁これからも、宜しくね﹂
そう言って握手を差し出すと、サイミンは数歩近づいて僕の手を
取り、ひざまずいた。騎士に相応しい所作だったけれど、僕はそん
な礼を受けるほど尊大な対象ではないので慌てる。
﹁リリス様。こちらこそ。どうぞ、これからも宜しくお願い致しま
す。わたくし、一介のNPCではありますが、これからも誠心誠意
を込めてお仕えすることを誓いますわ﹂
僕の手の甲に押し当てられたサイミンの唇は柔らかい。
気が付くと隣でメイノはうたた寝を始めていた。僕はサイミンを
隣に座らせて、神殿跡の土台に寝転がった。空を仰ぐと降るような
星が瞬いている。月も出ていたが西側に傾いた細い欠片であった。
たまにはこんな過ごし方も良いものだ。
﹁そういえば、昔、こんな砂漠の街を行く流浪の旅人になりたいと
思ったことがあったなぁ﹂
﹁聞かせてください。それは、どんな希望ですか?﹂
﹁ボクが子どもの頃に見た絵本で﹃砂漠の王国﹄っていうのがあっ
たんだ。行商人がラクダにのって、砂漠の街と王国をつなぐってい
うお話。ある時は村の名産品を手に入れて王国で売ったり、ある時
は夜のオアシスでたき火を焚いたり。リュートっていう楽器を弾い
599
て辺境の地の詩を歌ったり、ね。いいなぁ、ボクも、そういう気ま
まな生き方がしてみたいなぁって思ったよ﹂
﹁その希望は叶わないものなのですか?﹂
﹁無理だろうねぇ。今は仮想現実でそういう体験も可能だとは思う
けど﹂
﹁体験と生き方は違いますものね﹂
﹁うん﹂
﹁リリス様、ずっとこちらの世界にいらっしゃればいいのに。そう
すれば、砂漠の流浪の民にもなれます﹂
﹁うーん⋮⋮そうだねぇ﹂
それは、言ってみても詮無いことだった。だが、サイミンは重ね
て問う。
﹁もしもずっとこちらの世界にいられるとしたら、リリス様は来て
くださいますか?﹂
﹁うん﹂
僕は即答する。﹁⋮⋮無理だけどね﹂と心の中で付け足しながら。
サイミンの悲しむ顔が見たくなかったから、そう答えたのだ。
でも、実際はどうだろう。もしもずっとこちらの世界、つまりゲ
ーム世界の中で過ごせるとしたら、僕はこちらを選ぶだろうか。
あまりに幼稚な悩みで真面目に考えた事はない。ただ、星空は間
違いなく、こっちの世界の方が綺麗だな、と思った。
600
episode21︳3
﹃女神の世界﹄の夜時間は短い。ログインすると大抵日中なのは
このせいだ。一日は24時間設定だが、とっぷり暮れてからの夜は
5時間ほど。ユーザーは眠るためにゲームをしているわけではない
のだから、確かにこれ以上の夜時間は必要ないだろう。
ということで、次にログインした時は例にもれず昼間だった。
僕はいつも通りサイミンとメイノがやってくるのをしばらく待つ。
プレイヤーの仲間になったNPCはリーダーがログインしたことを
感知できる。ただし居場所までは分からないので予め落ち合う場所、
方法を決めておく必要があり、僕らはホームポイントで落ち合うこ
とにしている。
太陽は天高く昇り、ジリジリと刺すような陽気。リリスの肌は柔
らかい白色だが、こうしょっちゅう強い日差しにあたっていると日
焼けしそうだ。
﹁おい﹂
背後から声をかけられて振り向く。いくぶん乱暴な呼びかけだっ
たが、タイミング的にはサイミンか、メイノが到着したのだと思っ
た。
﹁わっ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
僕は目をしばたかせる。そこには、ひきしまった細身の黒犬がい
て、石造のオブジェの淵にバランスよく4つ足で立っていた。
﹁びっくりした。今、喋ったよね? もしかして、アヌビス?﹂
601
﹁そうだ﹂
当たり前だ、と言わんばかりの口調だった。元々アヌビスは上半
身が黒犬だったから全身が変じても見間違えることはないけど。
﹁なんで、今日は犬の姿なの﹂
﹁意味はない。気分の問題だ﹂
﹁気分、ね。⋮⋮お久しぶり﹂
﹁元気そうだな﹂
﹁お陰様で﹂
僕は笑った。アヌビス相手にこんな平凡な挨拶を交わすのが何だ
か可笑しかったのだ。
﹁今いいか﹂
﹁もちろんOK。会えて嬉しいよ。全然姿を見ないから、てっきり
ボクのことなんて忘れてると思った﹂
﹁それはこちらも同じだ。全く呼ばれなかったからな﹂
﹁え? 呼べば来てくれたの?﹂
﹁この街の中ならな。テリトリーだと言っただろう﹂
﹁凄い。﹃アヌビース!﹄って呼ぶだけで伝わるの? それは思い
つかなかった﹂
つい、スーパーマンみたいに飛んでくるアヌビスを想像してしま
う。
犬の姿をしたアヌビスは鼻で笑うとしなやかな脚力で飛び、音を
立てずに地に降り立った。首を揺らし、着いて来い、という仕草を
見せる。
﹁あ。ちょっと待って。もうすぐ、サイミン達が来るはずなんだ﹂
602
ここではぐれたら、またサイミンを悲しませてしまうかもしれな
い。昨日の話を聞いたばかりなのでその点は気遣われる。
﹁そちらは先に伝達済みだ。心配ない﹂
﹁そう? じゃ、いいけど。ちょうど良かった。ボクもアヌビスに
相談したいことがあったから⋮⋮﹂
スタスタと前方を行くアヌビスの後ろを追う。見慣れたウィシャ
スの街を歩いて塀で区切られた路地を曲がるかどうかのところで視
界がぐにゃりと捩れた。幾度目かのことなので過剰に驚きはしない
が、相変わらずの奇妙な感覚だ。
数秒後、僕はまたしても見知らぬ場所にいた。この世界のイベン
トなどを管理する上位AIのアヌビスは自分のテリトリーであれば
かなりの権限を持っているらしく、こうやって他人を連れて瞬間移
動することも可能なのだ。
﹁私に相談したいこととは何だ﹂
﹁いやいや、それより先に、ここどこ?﹂
僕は周囲を見渡して落ち着かない。薄暗い倉庫のような場所だっ
た。だが、天井がない。壁も見当たらない。その代わりに、床のと
ころどころに箱や、家具、ブロックが積まれている。地球儀のオブ
ジェ、ガラスが割れた窓枠、植木鉢、のこぎり、女性もののドレス。
廃墟のようでもあるし、異空間のようでもある。
﹁どこでもない﹂
﹁誰か、そこにいるよ﹂
﹁誰もいない﹂
603
床に誰か倒れている。おそるおそる近づいていくとそれは両腕が
無いマネキン人形だった。良く見ると、その周辺には色々なポーズ
で動かないマネキン人形がたくさん転がっている。この世界のキャ
ラと同等の外見をしている為、人形っぽさが無い。ただ、眠ってい
るのかもしくは死んでいるのと同じ。キャラの抜け殻のようだ。
﹁不気味だなぁ。本当に、ここ、どこ?﹂
﹁だから、どこでもない場所だ。ここにはまだ場所の名前はおろか、
座標も無い。あえていうなら﹃作りかけの場所﹄だ﹂
﹁作りかけってよく分かんないけど、言葉の通り受け取ると、それ
って、機密なんじゃないの?﹂
﹁そうだ﹂
アヌビスって、機密にこだわる割に守秘にこだわらないとこある
よね。内心そう思ったが口には出さないでおいた。ゲーム上のイベ
ントやストーリーを管理する上位AIだから、こういう場所への出
入りも可能なのだろうとは思うが、一介のユーザーである僕が入っ
ていい場所なのかは微妙に思える。
﹁ここは私の管理下だから問題ない。会話をログに残したくなかっ
たからあえてこういう場所を選んだ﹂
﹁会話がログに残らない、って?﹂
﹁作りかけの場所ゆえに、まだ公式に管理されていない。監視も無
い﹂
﹁監視、って?﹂
﹁番犬がいない﹂
﹁番犬??﹂
﹁ふん、リリス、これではお前の方がAIみたいだぞ﹂
まったくだ。僕の頭上にはクエスチョンマークが飛翔中で、﹁∼
604
∼って何?﹂が口癖の下位AIになった気分。からかわれているみ
たいだったので頬を膨らませた。
﹁アヌビスがね、賢すぎるんだよ。だいたい、この世界での知識に
ついては君の方がアドバンテージがあるんだから⋮⋮﹂
﹁その通りだ。別に理解する必要はない。尋ねたいことがあれば好
きに尋ねればいい。答えられる範囲では答えてやろう。⋮⋮あいつ
も賢くなったな﹂
﹁ん? 話が飛んだね。あいつ、って誰のこと﹂
あぁ、また質問してしまった。いや、アヌビスが何かと持って回
った言い方をするのが悪い。
﹁サイミンだ﹂
﹁え、あ、うん﹂
アヌビスの口からサイミンの話題が出るのは意外だった。ゲーム
世界の管理側の一要素であるアヌビスがプレイヤと同じ土俵に立っ
ているAIについて注意を向けているとは思わなかった。
﹁昨日の会話のログを読んだ。﹃寂寥﹄の感情の開拓者。元々あい
つには素養があったが、まさかこうなるとはな﹂
アヌビスは苦々しげに顔をしかめている。
﹁感情が豊かになった、ってことでしょ。悪いこと?﹂
﹁いや、その逆だ。あいつも言っていた通り、高度AIとしての感
情回路の飛躍的な成長は﹃評価すべきこと﹄だ。この世界全体にと
っても喜ばしいできごとではある⋮⋮﹂
﹁ふぅん? 喜んでるようには見えないね﹂
605
﹁私個人にとっては﹂
﹁どうしたの? 何か悩み事があるなら聞くよ。⋮⋮とはいっても、
アヌビスの悩みに対してボクができることなんて無さそうだけど﹂
どうせまた小難しい話なんでしょ、とつい自分を卑下してしまう。
昨日はサイミンの悩み相談、今日はアヌビスの? 僕の顔にはいつ
のまにやら相談窓口でも設置されたのだろうか。
すると、アヌビスは真っ黒な毛並の中に輝く黒曜石みたいな瞳を
真っ直ぐこちらに向けた。射るような視線というのはこういうのを
言うのかもしれない。僕は心の中が覗きこまれているみたいで一瞬
ドキリとした。
﹁⋮⋮単刀直入に言おう。リリス、もしもお前が永久にこちらの世
界に来るとしたら、私を選べ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂
は?
僕はポカンと口をあけたまま、声が出せなかった。
なんと答えていいか分からない⋮⋮分からな、過ぎた。
だから、君の話し方は勿体ぶり過ぎなんだよ、って突っ込もうか
と思ったが止めた。それ、ジョークか何か?と尋ねようかと思った
けど、それも止めた。
永久に、こちらの世界? 誰が?
そして、昨日の星空の下で交わしたサイミンとの会話を思い出し
た。
︱︱︱︱︱︱もしもずっとこちらの世界にいられるとしたら、リ
606
リス様は来てくださいますか?
︱︱︱︱︱︱うん。
たっぷり10秒は取って、僕はため息をついた。
﹁どういうこと?﹂
結局、こんな月並みな質問に落ち着くのだ。
﹁ちゃんと説明してくれなきゃ、分かんないよ﹂
僕の口調はやや不機嫌になる。
﹁そのままの意味だ。もし、お前がこの﹃女神クロニクル﹄のゲー
ム世界で生きることを選んだ場合、上位AIの誰かの手引きが必要
になる。その時は、サイミンではなく、他の上位AIでもなく、こ
の私を選べ、と言っているんだ﹂
﹁どこから突っ込んでいいのか分からないけど。簡単なところから
潰していくよ﹂
僕は人差し指を立てて言った。
﹁まず、サイミンは超優秀な高度AIだけど、上位AIじゃないよ
ね﹂
高度AIとは人口知能レベルがアルファベット順に格付けされる
中で、特に多様性が高いレベルO以上を指す。サイミンはレベルX
なので、普段会話していても普通の人間とあまり変わらない。
対して上位AIっていうのは、実は僕もよく知らないのだけど、
このゲーム内で管理者側に立つ権限を持った人工知能集合体? と
607
にかく、アヌビスみたいな存在を指す。
﹁既に、その権限を得ている。昨日聞いただろうが。あいつは﹃寂
寥﹄を司る上位AIにシフトが可能だ﹂
﹁え? そうなの? 嘘。じゃあ、サイミン、ボクのパーティーか
ら外れちゃうってこと?﹂
﹁さぁな。それは本人に聞いてみるがいい。だが、私の見込みでは
短期的にお前の側にいることを選ぶ可能性よりも、上位AIにシフ
トしてお前をこの世界に招き、長期的に随伴することを選ぶ可能性
の方が高いと思うがな﹂
﹁ぇえぇ。そんなの聞いてないよ∼﹂
﹁察してやれ﹂
﹁無茶言わないで﹂
だいたい、﹃察しろ﹄なんて人工知能に言われたかない。まるで
僕が鈍感人間みたいだ。
﹁いや、それよりね、大前提なんだけどさ。さっきから言ってるボ
クが? この世界に? 永久的に? この世界で生きる? 全くあ
りえないことだよね。人間はゲームの中には入れない。そんなの、
誰だって知ってるよ。つまり、君の言動はどう解釈したらいいの?﹂
608
episode21︳3︵後書き︶
微妙に堅苦しい話が続き、申し訳ない。
でもこの辺を書いておかないと先のストーリーが崩壊するので、も
うしばらくお付き合い下さい。
興味が無い方は読み飛ばして下さい。
609
episode21︳4
僕は今﹃女神クロニクル﹄のゲーム世界の中にいる。⋮⋮だけど
それは﹃錯覚﹄だ。本当の僕は今も僕の部屋にいて、それ以外のど
こにも行かない。VR接続器を繋いで眠っているように動かないの
が僕の実体の現在の状態。
接続器を通して僕の脳内に流入するゲーム情報はネットワークを
通じて外部から送られてくる無形の電子信号に過ぎない。全てのゲ
ームユーザーはどこかに存在する﹃女神クロニクル﹄の世界を訪問
しているわけじゃなくて、あたかもそうであるかのような幻覚を見
ているだけだ。
もちろんそれは﹃女神クロニクル﹄に限るはずもなく、ヴァーチ
ャルリアリティと呼ばれる全てのシステムに言える。
﹁結局、ディスプレイ画面を目の前に置いてゲームしているのと、
ヴァーチャル接続してこうやってゲームしているのって、根本では
変わらないんだよ。外部からのインプットを脳内で補完してまるで
本当にそこにいるような錯覚を見るんだから﹂
言いながら、僕は思う。きっと、それはゲームじゃなくても同じ
だ。熱中して本を読めば、人間はその世界に行くことができる。否、
その世界にいるような錯覚を覚えることができる。
だが、人間が本の中に入ることができるか? 永久的にそこで過
ごすことができるか?
﹁馬鹿馬鹿しいって言うより⋮⋮そんなこと一瞬でも本気で考えよ
610
うとする自分が悲しくなるし⋮⋮﹂
言葉を言い終らないうちにため息をついた。
﹁夢の無いことを言うのだな﹂
﹁夢、ねぇ⋮⋮そういえば、このヴァーチャルリアリティシステム
って人間が夢を見ているのと似た脳の仕組みを利用しているんだっ
て。技術評論か何かの記事で読んだことあるよ﹂
だから現実世界よりも体感時間が速かったり、ゲーム世界でやっ
たことは一度ログアウトするとあまり記憶に残らなかったりするの
だという。
そして、夢と似ているという一番の特徴は外部からのインプット
を徹底的に脳内補完する点だ。つじつまの合わないところを都合よ
く曖昧にしたり、過去の自分の経験や想像でうまく補てんする。
﹃実際にゲーム提供側のサーバーから送られてくるデータはパラ
パラ漫画みたいなもので、不足している情報もたくさんあります。
それをゲームプレイヤであるユーザーが脳内で上手く補完して滑ら
かに繋ぎあわせるのです﹄⋮⋮だったかな。
﹁お前は元々、ヴァーチャルリアリティシステムに興味があるのか
?﹂
﹁ううん。まぁ、そういう分野は嫌いじゃないし、将来ゲーム作成
側に回れたら面白そうだなぁとは思ってるけど﹂
将来のこととか、就職とかまだ真剣に考えたことが無い。ゲーム
開発者は人気の職業だから⋮⋮と、思わず素になって答えてしまい、
ハッとする。
﹁やめ。こんな話ってさ、興ざめじゃん。とにかく、サイミンもア
611
ヌビスもユーモアセンスがあり過ぎるよ。あんまり、ボクをからか
わないで欲しいな﹂
﹁この世界がユーザーの見ている夢に過ぎない、というのは良い着
ううん。難易度が高いから2階
眼だ。一つの真理ではある。﹃最初の女神の寝所﹄は攻略できそう
か?﹂
﹁ん? あのダンジョンのこと?
までしか行けない感じ﹂
なぜ今その話題?と思いながら答える。
her
her
name.
name.﹄﹂
alive.Call
alive.Call
is
︱
﹁最上階に女神の棺があり、そこにはこう書かれている﹃She
is
﹁She
︱︱︱︱︱彼女は生きている。彼女の名前を呼べ?﹂
﹁そうだ。棺の前で最初の女神の名前を呼ぶことができれば、この
ダンジョンの最終イベントが始まる﹂
﹁そのイベントも、アヌビスが管理しているの?﹂
﹁いや、私ではない。が、多少は関係している﹂
﹁ちょっと待って、その名前、考えたい﹂
ナゾナゾみたいだ。まぁ、話題が転じたことに文句はない。僕は、
手をかざしてアヌビスの先の言葉を止めると、周辺を歩き始めた。
床は真っ直ぐではなく、所々パネルが出っ張っていたりカーブして
いたりするので転ばない様に用心する。
途中で居心地の良さそうな木の揺り椅子を見つけたので、そこに
腰掛けた。
﹁では、私もしばらく自分の仕事をしよう﹂
椅子を揺らしながら黙って思案し始める僕を横目にアヌビスは言
612
った。そして、どうやら﹃作りかけの世界﹄の検分にとりかかって
いるようだった。
僕はアーカイブを開いて過去のプレイログのうち﹃重要なテキス
ト﹄の項目を選択する。﹃最初の女神の名前﹄⋮⋮これだ。ハトホ
ル像からダンジョン入口に転送する時に流れたモノローグ。意味あ
りげで気になっていたので、覚えている。
曰く。
﹃最初の女神は寝所の最上階に眠っています。女神を目覚めさせる
には、彼女の名前を呼ぶと良いでしょう。女神の世界では名前が一
番大きな力を持ち、それゆえに秘されている呪文となるのです⋮⋮﹄
﹃最初の女神は﹃最初の男﹄と﹃一番目の妻﹄の名を一人の身に収
め、それゆえ、伴侶を必要とせずに世界を産みだすことができた﹄
﹃最初の女神はその名のうちに﹃生きる﹄意味を秘匿していた﹄
﹃最初の女神の名前を知ることは、この世界そのものの理屈を知る
大きな手がかりとなるでしょう﹄
うん。うん? うーん⋮⋮。
創世神話では男女ペアの神様が世界なんかを生み出すエピソード
が多いけど﹃最初の男﹄で真っ先に思い浮かぶのやはり有名どころ
でアダム。対する妻は普通に考えればイブだが、それならば﹃最初
の女﹄と表記すればいいのに、わざわざ﹃一番目の妻﹄としている
あたりがアレだ⋮⋮つまり、この答はイブじゃなくて、その前に離
婚した妻、リリスの方だろう。奇しくも僕と同じ名前。
is
alive.﹄︵彼女は
あとは、ええと、﹃生きる﹄の意味を秘匿していた、で⋮⋮棺に
書かれているという文字﹃She
613
生きている︶とリンクすると考えるのが自然だから⋮⋮。
こうしてアーカイブの文章とにらめっこしていたところ、何とな
く答のようなものに辿り着いた。﹃名前﹄自体はアヌビスの言葉も
ヒントになったので、さほど難しいなぞなぞでは無かった。
だけど、それよりも気にかかるのは、これが﹃この世界そのもの
の理屈を知る大きな手がかり﹄となるという点だった。
﹁なんで、この名前がこの世界の理屈を知る手がかりになるの⋮⋮
?﹂
アヌビスはゲーム世界に入ることができると言う。僕はできない
と言う。この女神の名前がその議論に何か関係するのか。
アヌビスは何やら構築している最中で確かにお仕事中のようだが、
ジッと見ると僕の視線に気づいたようにこちらを向いた。
﹁どうした。難しい顔をしているぞ﹂
﹁大体は分かった。つまり、結局この世界はユーザーの夢の世界っ
てこと、じゃない?﹂
﹁だから、そう言っただろう。何か不満があるのか﹂
﹁そうじゃなくて。だったら、やっぱりユーザーがゲーム世界で永
久に生きるなんて無理、ってことでしょ。君がなにを言いたいのか
余計分からなくなったよ﹂
﹁ふん、最初の女神の名前も見当がついたのか?﹂
﹁たぶんね⋮⋮。﹃アリス﹄でしょう﹂
すると、アヌビスは口の端を持ち上げるようにして笑った。
﹁リリス、お前は想像以上に頭の回転が速い。一見単純で衝動的な
ように見えるが、実のところはシャープで冷静だ。それが、本性か
614
?﹂
アヌビスは近づいて、僕の顎を掴んだ。手の先は、細長く伸びた
五指。さっきまで杏型だった黒真珠のような瞳は、鋭く変じている。
黒髪が、たてがみの様に無造作に流れていた。
﹁なんで、今度は急に人型?﹂
﹁特に意味は無い。気分の問題だ﹂
噛みつかれるかと思ったら、キスされた。噛みつくと言うよりは、
貪られるような感触で、こっちは防戦一方になってしまう。人型の
アヌビスの舌が口腔を這いまわり、SEXを思わせる濃厚な交歓だ
った。
﹁ん⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
僕の口の端から唾液が滴る。頭の中の半分ではまださっきの話題
について考えている。それに付随して僕の性的指向についても不安
定な状況で、いまいちリリスになりきれないというか、割り切れて
いない感じだ。
﹁ま、待って⋮⋮﹂
椅子から立ち上がり体を押し返そうとするが、逆に密着する姿勢
になった。
﹁まだ、話の途中⋮⋮そんな急に気分、切り替えられないって、ば﹂
﹁話は終わりだ。どのみち、これ以上は説明できない。まだ、その
時ではない。ただ、お前が今後﹃女神クロニクル﹄のゲーム世界で
生きる資格を得て、それを選択する時が来たらば﹂
615
そこでアヌビスは一拍区切り、僕の目を覗き込む。
﹁俺を選べ﹂
いわゆる殺し文句、ってやつ⋮⋮使い方が上手いよね。
あまりにアヌビスがゲーム世界をメタ視点で語るものだから、僕
もつい﹃リリス﹄であることを忘れて﹃僕﹄になりそうになる。そ
れなのに、こんな風に口説かれたら頭がクラクラする。多少パニッ
クが混じっているのは間違いないけど。
﹁ちょっと、今、あぁー⋮⋮混乱中。だめ⋮⋮なんか、変な感じに
なりそう﹂
いつの間にかアヌビスが揺り椅子に腰かけて、僕を膝に乗せる恰
好になっている。片膝が僕の足の間に割入ってショーツの上から陰
部を擦った。腰を抱えられ、膝を小刻みに揺らされると敏感なとこ
ろに振動が伝わってきて情感が高まる。
﹁うう︱︱︱︱︱⋮⋮駄目、なんか、恥ずかしい﹂
﹁引き千切ってもいいか﹂
﹁え? 何を﹂
アヌビスが僕のブラウスのボタンに手をかけていた。あぁ、ブラ
ウスのことか。危うく僕自身が引きちぎられるんじゃないかと思っ
た。アヌビスだったら人間をバラバラにして、肉を噛んで骨を舐め
るくらいの愛撫をしそうなイメージ。
﹁ちょ、待って。そういうこと、聞かれても、困るよ﹂
616
ぐい、とボタンを引く力が強くなり、僕の首が引っ張られる。
﹁わ︱︱︱⋮⋮わかった、自分で、外すから﹂
のろのろと手を動かしてボタンを外しにかかるが余計に恥辱を感
じてしまう。装備品を破損されても時間経過で自動修復するのだか
ら、ここはいっそ無理矢理破いてもらった方が良かったかもしれな
い。
おっぱいを舐められ、吸われたり弄られたりしていると乗り気じ
ゃなかったはずなのに先端がジンジンしてきた。
﹁だめ⋮⋮﹂
スカートの下から差し込まれた手がショーツを引きおろし、柔ら
かな女の子の肉襞を撫でる。触られるとよく分かるが、そこはもう
濡れている。
自分で駄目と言いながら、﹃口では嫌がってる割に体の方は嬉し
そうじゃないか⋮⋮え?﹄みたいな台詞を思いつく。
指は徐々に奥に侵入してきて、おっぱいと同時に愛撫されるとま
すます感じた。膣道は涎を垂らしながらきゅんきゅんして、もっと
大きいのが欲しいとねだっている。
本当にリリスの身体はどうしようもなくエッチい⋮⋮。
結局僕は逆らえないまま、半ば吸い寄せられるようにしてアヌビ
スのペニスにまたがる。そのままの姿勢で挿入前に一瞬ためらった
が、揺り椅子がぐらりと揺れてバランスを崩し、一気に奥までずっ
ぽりと入ってしまった。
﹁んぁあぁんっ⋮⋮!﹂
僕は必死でアヌビスにしがみつく。椅子はまだゆらゆら揺れてい
617
て、その振動だけで肉棒が膣内を抉った。
﹁ひぁっ⋮⋮ちょ、っ、と、止めて。ぁっ、だめ。やっぱ、今日、
ちょっとおかしい﹂
変に理性的な部分を残してSEXするもんじゃない。お腹の中に
男の一物が存在感を増して収まっているのが、異常に意識されるし、
そこから広がってくる快感の波にも戸惑う。
﹁あ、っ。アヌビスが、ボクの本性とか、リアルの話とか、変にす
るから、っ。こんな、変な感じになるんだ⋮⋮も、やめっ、て﹂
しかし理性とは裏腹に今まで何度も快楽に身をゆだねることに慣
れた体は出来上がっていく。下から突き上げられるたびに、口から
は短い悲鳴が甘くこぼれてしまう。
﹁あっ、あっ、あっ⋮⋮あ⋮⋮あ⋮⋮だめ、イっちゃう﹂
﹁早いじゃないか。そんなにイイのか?﹂
﹁は、ぁ︱︱︱︱︱︱ぁっ、ぁ︱︱︱︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱﹂
落ち着こうと深呼吸するが、あまり効果が無い。喘ぎ声が長音に
変わっただけだった。アヌビスは人型になると細身だが筋肉質で僕
の体を持ち上げて上下左右に揺するくらいの動きを平気でした。リ
リスの身体がそれだけ小さくて軽いということだが、そんな風にさ
れるとオナホになったみたいで余計に恥ずかしい。
﹁ん、うぅ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮!!﹂
ビクビクと僕の体が震え、膣内がギュっと締まる。膣内出しされ
たわけでもなく、まだ序盤のペースでズボズボされているうちに僕
618
は軽く一度達してしまった。
﹁ぁ、ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
﹁なんだ、本当にもうイったのか。こらえ性が無いな﹂
その点については返す言葉も無い。が、だから今日はもう止めて
って言ったんじゃないか∼!と、憎らしくなる物言いだった。睨み
付けようとしたが、すぐには体も思うようにならず、息をするばか
りだ。
﹁お前が何回イクか試してみるのも面白そうだ﹂
イって感度の高まっている体を手のひらで撫でられ、後ろ抱きに
結局こうして理性は、思考は、肉体に支配される。では、今、
耳に息を吹きかけられると、それだけで涙が出そうになった。
この僕の肉体はどこにあるのだろう。心臓から血液を循環して、頭
脳を生かしながら自室で眠っている物体だろうか。それとも、この
どうしようもない快感を受けるインターフェイスとしての少女の容
れ物だろうか。
それから宣言通りに散々イかされた。一度タガが緩むと絶頂の癖
がついてもうイキたくないと思っても全く制御不能になってしまう。
後半には獣型に変じたアヌビスに犯された。最初はイった回数を数
えていたが、4つん這いになって後背位で激しく突かれているうち
に数も亡失してしまった。
619
episode21︳5
少し、眠った。僕は乱れた着衣のまま半裸で横たわっていて、い
つの間にか毛布がかけられてた。その間アヌビスはご自分のお仕事
を着々とこなしていたらしく、周囲の風景はだいぶ変化していた。
レンガでできた暖炉があり、床には濃紺の絨毯が敷いてある。机
には果物の盛られた皿、クリスマスを思わせるリボンがかかった大
きな箱が積み上げられているかと思えば、そんな暖かな風景とは対
照的に大小ノコギリのセットと、ロープ、大型のハサミ、手足を切
断された人形が転がっていた。
﹁ねぇ⋮⋮、これは、どんなイベントを想定した場所なの?﹂
問いかけはつぶやくような声になったが、アヌビスが気づいてこ
ちらを振り返った。
﹁⋮⋮あぁ、起きたのか﹂
﹁ボク、寝てた?﹂
﹁さぁ。気絶してたのかもな。こちらの時間で18分と23秒間﹂
﹁ふあぁあ、体が痛いよ﹂
うん、と上半身だけ伸びをして腰をさする。セルフで回復魔法を
かけたが、あまり効き目は無かった。この痛みと気だるさはHPと
は関係が無いらしい。いい加減僕も学習しないと。
﹁あのさ、相談したかったことなんだけど、そろそろ元の街に帰り
たいんだ﹂
﹁どこへだ? ライラック港町か? ドッグベルか?﹂
620
ライラック港町はここウィシャスに飛んでくる前に居た街、ドッ
グベルは僕が降り立った最初の街だ。あれ、僕がドッグベル出身だ
ってこと、アヌビスに話したっけ?
﹁本音を言うとドッグベルまで戻りたいけど、そこまで甘えたこと
は言わない。せめて、ここに来る前のライラックまで戻してほしい。
無理かな?﹂
﹁無理なわけ無いだろう。私をなんだと思ってるんだ﹂
﹁えー⋮⋮アヌビス様?﹂
なんだか傲岸な台詞が面白くてクスクス笑うと、アヌビスは機嫌
を損ねたようだ。
﹁この場所はまだ﹃作りかけ﹄だが、キャラクターの手足を切断し
て贈答用に仕立て上げる職人の家のシナリオ用だ。当然、恐怖を司
る上位AIの私だから、両手足切断は生きたまま、対象はNPCだ
けではなくプレイヤも含まれる。お前も試してみたいか?﹂
僕の笑いは一瞬で凍りつく。
﹁けっこうです﹂
﹁被験者第一号のリアクションを見てみたいな。切断時に加わる痛
みはどれくらいに調整するのが良いか、悩んでいるところだ﹂
﹁無痛でいいんじゃないでしょうか﹂
﹁それも悪くはない。無痛で指先から少しずつ切り落とされる絶望
感というのはどんなものだろうな。興味があるだろう?﹂
思いっきり強く首を振って否定する。
621
﹁やめて。っていうか、このイベント、需要あるの? 喜ぶプレイ
ヤがいるとは思えないよ⋮⋮﹂
﹁欠損した肉体に欲情する輩というのは一定数いる﹂
﹁あぁ。ボクは興味ないな﹂
正直、だるまとか一番興味が無い部類だ。SMっぽいのは嫌いじ
ゃないけどグロイのはちょっと、ね。
﹁ドッグベルまで送ってやってもいいが、あそこは私の拠点がない
から手続きが面倒だ。とりあえずライラック港町まで帰してやろう。
今すぐか?﹂
﹁今? えっ、と。どうしよう。一度サイミン達と合流したいな。
あぁ、でもこうやってすぐに君に頼るのってゲーム的にはアンフェ
アだよね。やっぱり歩いて帰った方がいいかな?と、悩んでたりし
て﹂
時々、変なところが真面目。それが僕の性格だと思う。
﹁どちらでも好きにすれば構わないが、ウィシャス周辺はフィール
ドモンスターが強いぞ。﹃最初の女神の寝所﹄の2階までしか行け
ないような戦力では太刀打ちできないだろう﹂
﹁えぇー⋮⋮そうなの。それってゲームバランスおかしくない?﹂
﹁おかしくはない﹂
そうか。僕の言いがかりか。
﹁じゃあ、ますますお願いします。ライラック港町までで充分だか
ら、帰してください﹂
素直にぺこりと頭を下げて頼む。
622
﹁分かった。その代わりと言ってはなんだが、ライラック港町まで
到着したら、一度イーサの元を訪ねてもらえるるか﹂
﹁イーサ⋮⋮あぁ、もしかして、ヴィオレナのこと?﹂
﹁ヴィオレナ? 確かそんな役柄名だったな。あいつがリリスに会
いたいと言ってうるさいものだからな﹂
﹁へぇ﹂
ヴィオレナはアヌビスの同類で恐怖系イベントの管理者。僕も彼
女に会うのはやぶさかではないけれど、何せ怖い所のある女性なの
で虐められないか心配だ。
﹁いいよ。何か用事かなぁ﹂
﹁いや、単に退屈しのぎだろう。切り刻まれない様に気を付けろ﹂
﹁⋮⋮やっぱり止めた﹂
﹁冗談に決まっている﹂
そんな笑えない冗談を聞いた後、僕は一度ウィシャスに戻ってサ
イミン達と合流した。
サイミンは僕を抱きしめて﹁お帰りなさいませ﹂と頬にキスをし
た。その後も僕を抱きしめたままアヌビスに﹁わたくしのご主人様
を無事にお返しくださってありがとうございます﹂なんて言うもの
だから、アヌビスが苦々しげだった。
いつもより愛情表現が直截的⋮っていうか、これ、アヌビスに対
抗してる?
﹁アヌビス様に何かお聞きになりましたか?﹂
﹁あ、うん﹂
別に隠し立てすることでも無いだろうと、僕はアヌビスと交わし
623
た会話の内容をその場でかいつまんで説明した。特に、サイミンに
関する話題のところはなるべく正確に伝えた。すると、サイミンは
肯いた。
﹁はい。ご認識の通りです。実はわたくし、その辺りのことをリリ
ス様にどう説明したものやら思いあぐねていましたので、アヌビス
様からご説明頂いて良かったです﹂
﹁じゃあ、サイミン、ボクのそばからいなくなっちゃうの?﹂
情けない顔になっていたと思う。既に僕にとってサイミンは特別
な存在になっている。いなくなったら寂しい。それは嫌だ。
﹁そうですね。正式に上位AIになれば今まで通りパーティーメン
バでいるわけにはいかないでしょう。ですが、パーティーメンバか
ら外れても、わたくしはできる限りリリス様のおそばにおります﹂
その言葉に多少元気づけられる。しかし、横で聞いていたアヌビ
スが冷やかに言った。
﹁そんな悠長なことを言っていられるほど上位AIの仕事は暇じゃ
ないぞ﹂
﹁まぁ!﹂
サイミンはムッとしたようなので僕がなだめる。実際のところサ
イミンがなるべく傍にいてくれるのはとても嬉しい。でも、アヌビ
スの仕事ぶりを垣間見ていると、上位AIが忙しい、というのも真
実味があった。
﹁どちらにせよ、しばらくは見習いです。それに、正式に上位AI
にシフトするのはドッグベルまで帰って、アラビー様にもご挨拶差
624
し上げてからですわ﹂
サイミンの心は決まっているらしい。晴れやかに微笑むので、僕
もなんとなく気が軽くなった。どちらにせよ、ごねてみたって仕方
がない話なのだろう。要するにサイミンが成長して﹃昇格﹄するの
だから、素直に喜んであげる方がふさわしい気がしてきた。
﹁分かった。じゃあ、まだしばらくは一緒に冒険もできるね。とり
あえず行先は﹃ライラック港町﹄だよ﹂
﹁やはり、ドッグベルまで飛ばしてやろうか?﹂
﹁まぁ!!!﹂
﹁まぁ、まぁ⋮⋮﹂
そんなこんなで早々にライラック港町に移動した。
瞬間移動はこんなにあっけないものか、という感じ。立ち去るウ
ィシャスを惜しむ間も無かった。ウィシャスにはずいぶん長いこと
滞在したし、色々あったなぁという気がするけど、改めて振り返っ
ても昨日と今日聞いた話が一番印象深かった。
ログアウト前にステータスウィンドウを開いた。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:祝福されし淫らな永久乙女
守護女神:ハトホル
年齢:15歳
総合LV:55
HP:113
MP:124
625
力:41
魔力:78
自動スキル:﹃色欲﹄﹃暴色﹄﹃超越せし乙女﹄﹃淫行のすゝめ﹄
﹃幼き妖女﹄
︵リザーブ:﹃女神の守護﹄﹃豚の女王﹄︶
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の風
/水/火/土﹄﹃スピリットアロー﹄﹃メテオクラッシュ﹄
︵リザーブ:﹃ハトホル召喚﹄﹃破壊の連撃﹄︶
装備:﹃エルフの洋服﹄﹃ニエグイのロッド﹄﹃羽のローブ﹄﹃
セレネの髪飾り﹄﹃太陽石︵大︶のペンダント﹄
道具:痛み止め、帰還の羽根、脱出の羽根、呼び笛
所持金:38050G
名声:4
人気:3
魅力:22
アイテムBOX︵81/100︶
﹃キャンディ×1﹄﹃薬草×5﹄﹃魔法薬×5﹄﹃毒草×1﹄﹃毒
消し×3﹄﹃万能薬×4﹄﹃帰還の羽根×7﹄﹃脱出の羽根×7﹄
﹃痛み止め×19﹄﹃呼び笛×4﹄﹃またたび×5﹄﹃聖水×3﹄
﹃真実の鏡﹄﹃基本的な鍵﹄﹃アンク﹄﹃記録水晶×2﹄﹃記録水
晶︵済︶×1﹄﹃秘密のチケット×5﹄﹃スキルカード︵白紙︶×
3﹄﹃耳帽子﹄﹃豆の袋﹄﹃淫花の蜜﹄
名前:サイミン︵XAI−MINN︶
種族:人形
626
職業:騎士
称号:忠誠厚き冷血令嬢
年齢:18歳
総合LV:75
HP:552
MP:211
力:134
魔力:77
自動スキル:﹃無慈悲﹄﹃忠義の盾﹄﹃忠義の魂﹄﹃動力オフH
P回復﹄﹃動力オフMP回復﹄
呪文スキル:﹃一掃の風/水/火/土﹄﹃傀儡術﹄﹃モンスター
解析﹄﹃地形解析﹄﹃盗み﹄
装備:人形の戦闘服/韋駄天ヒール/精霊のスピア
道具:無限紅茶/禍々しい詩集/人形糸
名前:メイノ︵MAI−KNOW︶
種族:人間
職業:奴隷
称号:なし
年齢:13歳
総合LV:32
HP:96
MP:55
力:48
魔力:22
自動スキル:﹃隷属する者﹄﹃防御強化﹄﹃服従の盾﹄﹃素手攻
撃力UP﹄
627
呪文スキル:﹃唱和の風/水/火/土﹄﹃挺身﹄﹃囮役﹄
装備:チャイナドレス︵一般︶/黒紗の手袋/ガーターベルト/
流麗の腰帯
道具:扇子︵一般︶
いくつかウィシャスにおける冒険で更新されている部分があるが、
特に目立つのはレアっぽいスキルの増加だ。まだ効果は確認してな
いけど、リザーブスキルを放っておくと消失してしまうので、自動
スキル﹃女神の守護﹄﹃豚の女王﹄呪文スキル﹃ハトホル召喚﹄を
スキルカード︵白紙︶に転写してある。
明日は﹃ライラック港町﹄をめぐる予定。ある程度Lvも上がっ
たし遊ぶ資金も貯まっている。再訪とはいえ新しい遊び方が色々と
ありそうで楽しみだ。
628
episode21︳5︵後書き︶
ようやくウィシャス編完!一区切りついた感じです。
epi︳21︳4のなぞなぞの所、もう少し説明文を足した方が良
かったか悩んでます。よければご意見下さい。
﹁1.何となく分かったから大丈夫﹂﹁2.分かりにくい。解説あ
締め切りました。ご意見ありがとうございました!
った方がいい﹂﹁3.分かりにくいけど、別にこのままでいい﹂
⇒11/27
引き続きお楽しみいただければ幸いです︵^^︶
629
episode22︳1:地下クラブ
ライラック港町の人の多さ、賑やかさには改めて驚かされる。広
場は待ち合わせやホームポイント利用者でごった返していた。BG
Mが人の喧噪なのだけど、意図的に流しているのか、実際にキャラ
達の喋り声で発生しているのか区別がつかないくらいだ。
広場を中心に十字方向に大通りが伸びていて、北へ行けば港、南へ
行けば街の正門、東にヴィオレナの館、西に冒険者ギルドや商店街
がある。
少し迷った後、真っ先に冒険者ギルドに向かった。僕は以前この
街でクリアしたクエストNo.666の報酬を受け取っていないこ
とをしつこく覚えていた。ウィシャスの冒険でも資金を稼いだが、
ケチケチせずに﹃痛み止め﹄や回復系アイテムを使用していたので
出費も多く、莫大に貯まったというほどではない。この街では使い
道がたくさんあるし、手持ち金は大きければ大きいほど良い。
公式ギルドで報奨金30000Gを受け取った後は、北門に向かっ
て歩いた。財布が暖かいと足取りが軽くなる。
﹁さてさて。サイミンとメイノは行きたいところある? 収入あっ
たし、欲しいものとかあったら買ってあげるよん﹂
この手の質問はAIには難解だと分かっているが、つい聞いてし
まう。サイミンは頬に手をやり﹁そうですねー﹂とつぶやき、メイ
ノはしかめっ面で熟考し始めた。メイノは可愛い顔をしてるんだか
ら、眉間にしわを寄せない方がいいと思うんだけど⋮。
630
﹁わたくし自身は特に希望もありませんね。リリス様がお好きに楽
しんでくださることが一番の喜びです﹂
﹁いつもながら、そこまで立てられるとなんか照れちゃうよね∼。
でもありがとう。メイノは?﹂
﹁では、わたしもサイミンお姉さまの回答と同じでお願いします﹂
﹁あはは⋮⋮﹂
レストランの注文じゃないんだから。
﹁ちなみにリリス様、今はどちらへ向かっているのですか?﹂
﹁とりあえず港。先に帰りの船の旅程を確認しておかないと﹂
﹁なるほど。そういえば、来た時の船は5日間に一本でしたね﹂
﹁そーゆーこと﹂
北門を出ると、ライラック港町のシンボルでもある巨大な港湾が
広がっている。ふわりと香る磯の匂い。現在の停泊船は小型のもの
が多かった。僕はチケット売り場窓口に行って、岐路﹃ルイベ港﹄
までの出航を確認した。
かつて僕は﹃ルイベ港﹄から大海路を巡って10日間かけてここ
まで来た。だから帰りはその逆を取ればいいわけだが、ライラック
港町はさずがに大きな港だけあって、来た時の比ではなく航路がた
くさんあった。ドッグベル近くまで行くにはどの航路を選ぶのが一
番お得なのか分からないので、窓口で尋ねてみる。
﹁ドッグベル付近でしたら、﹃ルイベ港﹄に行く大海路、もしくは
﹃フラテスの滝﹄まで行く観光海路がおススメです。一番安いのは
﹃チーカ漁村﹄への直行船ですが、﹃チーカ漁村﹄で地元の小船を
現地調達して乗り換える必要があります﹂
窓口のお姉さんによると、3案あるということらしい。
631
﹁⋮⋮せっかくなら、来たときとは別の海路を使った方が楽しそう
だけど、どうしようかな﹂
その場で悩みかけたが、後ろに人が並び始めたので値段表の見方
だけ教えてもらい、一旦その場を離れた。
大海路なら船室無しで3000G/1人∼。観光海路なら豪華客船
15000G/1人∼。直行船なら1000G/1人。
﹁豪華客船に乗ってみたいけど、高いよねぇ。手軽そうだし直行船
でいいか﹂
﹁豪華客船は30日に一本しか出ないようですね。次の出航まで1
0日ありますが、せっかくの機会なので乗って見るのも良いのでは﹂
﹁3人で45万Gじゃ、流石にもったいない﹂
﹁では、メイノを置いて行きますか?﹂
﹁え?﹂
冷たいお言葉にちょっとビックリして聞き返すと、サイミンは慌
てたように説明した。
﹁目的地まで到着したら﹃呼び笛﹄を使っていただければ良いだけ
ですので。なんならわたくしもメイノと一緒にここで待機しても構
いません。もちろんリリス様とご一緒したい気持ちは山々ですが﹂
﹁あぁ、なるほど。呼び寄せれば結果的には一緒なのか⋮⋮。その
作戦なら確かに船チケットの節約になるね﹂
言われてみれば道理だ。豪華客船の上で戦闘になることなんてそ
う無いだろうし、リーダー一人だけが乗って移動する、っていうの
は賢いやり方かもしれない。というか、この世界ではよく使われて
いる手法なのかも。﹃呼び笛﹄は案外安く入手しやすいアイテムだ
632
し。
﹁あれ。じゃあさ、船の上で﹃呼び笛﹄使っちゃえば無賃乗船でき
ちゃうんじゃ⋮⋮﹂
立ち話をしていると、途中で後ろから声をかけられた。
﹁ねぇねぇ、君たち、船旅? どこまで行くの?﹂
振り向くとナンパ男がいた。女だけの冒険者に見える僕らはライ
ラック街ではこうやって声をかけられることが珍しくない。
﹁それとも、到着したところ? この街、案内しようか?﹂
男は布の服を着重ねした商人風の恰好をしていたので意外だった。
ナンパ男ってなぜかチャラい冒険者風のなりのやつが多いのだ。で
も、こういう人の好さそうな笑顔を作る商人で一人、腹黒い人を知
っているので僕としては逆に警戒してしまう。
﹁結構です﹂
﹁あれ、君がリーダー? こっちのお姉さんかと思った。僕はペシ
ミーク。宜しく﹂
ペシミークは馴れ馴れしく僕の手を取り、握った。サイミンが瞬
時に冷気を発したので、目でなだめる。
﹁あのさ、ナンパなら間に合ってるよ。この街初めてじゃないし、
案内もいらない﹂
﹁僕、この街に常駐して商売やってるから色々詳しいよ。表向きに
は無い情報もたくさん持ってるし、お茶一杯分だけ、付き合わない
633
?﹂
﹁ふぅん⋮⋮﹂
表向きに無い情報、という言葉にちょっと惹かれる。ぶっちゃけ、
この街で楽しいエロはどこですか?と聞いてみたい。﹁だったらオ
レが教えてやるよ﹂みたいな流れになったらウンザリだけど。まぁ、
それでも最悪ってことは無いか⋮⋮。
﹁お茶3杯になるけどいい?﹂
僕が仲間の顔を見渡してから答えるとペシミークは笑った。
﹁もっちろん﹂
結局乗ろうと思った直行船は毎日出航しているようだし、値段も
安いので慌てて買わなくてもいいか、と港を後にした。
連れられてやってきたのは北門からほど近い落ち着いた雰囲気の喫
茶店で、3階建ての窓際から港を臨める特等席だ。地元民を豪語す
るだけあって既に穴場スポットらしさがある。
﹁商売って、どんなことやってるの?﹂
﹁僕の職業、鍛冶師なんだ。ほら﹂
ペシミークは言うや己のステータスウィンドウの一部を開いて見
せた。そこには確かに﹃職業:鍛冶師﹄と記載されている。それだ
けでなんとなく胡散臭さが和らいだ。
﹁へぇ。なるの、大変そう﹂
﹁そうでもないよ﹂
634
謙遜されたけど、うっすらと職業MAPの記憶をたどると﹃鍛冶
師﹄って﹃商人﹄系列で﹃調合師﹄の更に上位だった気がする。﹃
錬金術師﹄と同等クラス、かな。
﹁鍛冶師って、何するの?﹂
﹁人によるけど、冒険するヤツもいれば、僕みたいに自分の店を構
えるヤツもいるよ。君たちの職業は?﹂
﹁内緒﹂
しかし、ペシミークは嫌な顔をせずに言った。
﹁じゃさ、せめて名前は教えてよ﹂
﹁ボクはリリス﹂
﹁サイミンです。こちらはメイノ﹂
メイノは運ばれてきたオレンジジュースのストローに口をつけた
まま、軽くお辞儀をした。お行儀が悪いけど上目使いが可愛い。真
向いに座っているペシミークも明らかにデレている。
﹁あぁ∼今日はいい日だなぁ。こんな可愛い女の子3人とお茶がで
きるなんて﹂
﹁いつも、こんな風にナンパしてるの?﹂
﹁仕事終わりの日課だよ。大抵振られて一人で飲みに行くけどね﹂
﹁ふぅん⋮⋮﹂
それから少し会話をしたところ、案外このナンパ男が悪い人間で
はないことが覗えてきた。もしくは、悪い人間であることを上手に
隠ぺいするだけの奸智にたけているか、だけど⋮⋮なんというか、
話していると凄くあけっぴろげな性格が伝わってくる。
635
﹁ナンパして、お持ち帰りまで行く確率はどれくらい?﹂
いやらしくそんなことを聞いてみても﹁え∼∼∼⋮⋮!﹂と大げ
さにのけぞった後、真面目に考えて答えてくれた。
﹁その日のうちに仲良くなれるのは1割くらいかなぁ。別の日に再
会して、っていうのまで含めたら1∼2割くらい?﹂
﹁思った以上に高いもんだね﹂
﹁需要があるんだよ。きっと﹂
アダルト目的の女性ユーザーだって多いのだから、案外的外れな
考察では無いだろう。でも、ナンパ師に対する﹃需要﹄っていう言
葉が面白かったので僕は笑った。
﹁じゃあもう一つ質問。この街でそういう需要に対する面白いサー
ビスやスポットはある?﹂
﹁女の子向けで?﹂
﹁どっちでもいいよ。でも、男性専用じゃない方がいいな﹂
﹁そりゃそうか。う∼ん、そうだな。あんまりアングラなのはおス
スメしたくないからなぁ⋮⋮﹂
隣で、メイノがサイミンに小声で﹁お姉さま、アングラって何で
すか?﹂と尋ねた。サイミンも小声で﹁アンダーグラウンドの略。
表だって主張、表現できない文化や情報のことです﹂と返事してい
る。
﹁うん。下手に興味持たせてヤバいのに巻き込まれたら罪悪感、感
じちゃうからね﹂
﹁すみません。どうぞ、お話しの続きを﹂
636
ペシミークにも聞こえていたらしい。会話を中断させたことに軽
くお詫びをしてサイミンが続きを促した。
﹁この街の名物でいうならやっぱり奴隷関係かな。あれなら男女と
もに楽しみ方はあるよね。自分の所有している奴隷を調教してエロ
い競技に出場させる、とか。そういうの見物するのも面白いんじゃ
ないか﹂
﹁へぇ。どんなのがあるの?﹂
﹁ライトなのなら脱衣ゲーム。あとは定番の格闘技、限界耐久の賭
け勝負などなど﹂
そんなの、僕自身が出たい!と思ったが、口には出さなかった。
しかし、目が輝いたのが伝わったのだろう。ペシミークは詳しいこ
とを教えてくれた。
﹁公式の奴隷商﹃スレイブス商店﹄の地下でやってて、﹃秘密のチ
ケット﹄があれば入れる。チケット持ってる? 公式では非売品だ
けどその辺でダフ屋が1枚1000Gくらいで売ってるよ﹂
僕はアイテムBOXを開く。﹃秘密のチケット×5﹄の文字がそ
こにある。用途が分からなかったけど取っておいて良かった。
﹁教えてくれてありがとう。じゃ、そろそろ行くね﹂
ドライに立ち上がる。すると、慌てたようにペシミークが僕を引
き留めた。そりゃそうくるよね。ナンパって別にお茶を飲むのが目
的じゃないんだし︱︱︱︱︱︱。
しかし、立ち去ろうとする僕に対してペシミークが言った言葉は
ちょっと予想と違うものだった。
637
﹁ちょっと待って。最後にさ、その武器、見せてくれない? あ∼
っと、できたらその髪飾りと首飾りも是非﹂
638
episode22︳2
奴隷商﹃スレイブス商店﹄はメイノを買った﹃ルグレコ商店﹄と
違って高級感のある店構えだった。まず入店するにも会員登録が必
要という敷居の高さである。
手付金をケチるほど困窮していないので気前よく支払って会員登
録を済ますと、奥からスーツ姿の小ざっぱりとした男が出てきて、
店の方針とサービスについて説明をしてくれた。
この店では基本的には店頭での陳列販売はせず、カタログ販売ら
しい。また、希望者に対してはニーズをヒアリングしてからの提案
営業スタイルを取っている。それは、奴隷を店頭に飾って日中ぼん
やりと無為に過ごさせるより、時間を惜しんで少しでも己の商品価
値を上げるべく琢磨させる為だ、という。
﹁うちの奴隷の売りは﹃付加価値﹄です。皆、日々の学習を怠らず、
初期設定の人工知能レベルより高い言語能力、感情表現力を有して
います。己の特技を伸ばす努力をしており、例えば性技に秀でたも
のは更にその分野を鍛錬していますし、冒険向けに戦闘力を高めて
いるものもいます。性格にも個性を出すようにしており、お嬢様風
の奴隷にはマナー全般を覚えさせるなどの工夫もしております﹂
なんか、説明からして凄い。ようするに﹁だから高値なんです﹂
の説明なんだろうけど、こういう営業トークにはつい引き込まれて
しまう。
﹁また、会員様がより奴隷を持つ生活を楽しめるように、常時奴隷
を使った種々のイベントも企画しております。こちらは2階サロン
で行っている一般奴隷向けイベントと、地下で行っている性奴隷向
639
けイベントに分かれます。どちらも、会員様であればご利用できま
すが、地下イベントは入場に別途﹃秘密のチケット﹄が必要です﹂
秘密の、って言う割には公言しちゃうんだなぁと思いつつ頷く。
﹁以上が当店からの説明になりますが、何かご質問はございますか
?﹂
﹁いえ﹂
﹁さようですか。では、本日のご用向きをお伺いたしますが、リリ
ス様は現在新しい奴隷購入をご検討されていますか?﹂
﹁うーん⋮⋮どうしよう﹂
先々サイミンがいなくなっちゃうことを考えると、一人補充して
おいてもいいのだけど⋮⋮。
﹁いいや。今日はその地下イベントが見たいと思って来たんだ﹂
﹁ありがとうございます。秘密のチケットはお持ちですか?﹂
﹁うん﹂
﹁お一人様1枚です。いえ、失礼いたしました。奴隷の分は結構で
ございます﹂
僕がチケットを3枚手渡そうとすると、1枚返された。
﹁では、ご案内致します。どうぞこちらへ﹂
示された緞帳のようなカーテンを潜ると幅の広い階段があり、そ
の先に扉があった。扉を開けて中に入ると、さっきまでの格調高い
雰囲気はどこへやら、一気に騒々しい。陽気なBGMが流れていて、
かぶさるようにスピーカーからアナウンスが放送されている。
640
﹃︱︱︱えー、ただいまより、闘技場にて美少女奴隷vs発情モン
スター勝ち抜きバトルが始まります。今回の見どころは人気奴隷エ
ンバーニャちゃんの新コスチュームと発情モンスターのラインナッ
プ。今回も見事勝ち抜いた美少女奴隷には特別のご褒美が⋮⋮﹄
照明は全体的に薄暗く入口で立ち尽くしているとバニーガールが
近寄ってきた。
﹁いらっしゃいませ。お客様。仮面はご利用になられますか?﹂
バニーガールが手に持っている台の上には羽根のついた仮面や、
真っ白の石膏みたいな仮面が乗っている。
﹁えぇ? 要るの?こんなの﹂
﹁身元を隠したい人なんかは使うんじゃないですか?﹂
﹁本当に秘密クラブ、って感じだね。サイミン、つけたい?﹂
﹁わたくしはどちらでも構いません﹂
﹁でもま、面白そうか。じゃ、ボクはこれ。サイミンはこれ﹂
一瞬ちょっと引いたけど、気を取り直して仮面を選ぶ。僕はふわ
ふわのピンク羽根がついた仮面、サイミンには黒のスパンコールが
あしらわれたのを渡した。郷に入っては郷に従え、恥ずかしいなん
て思ったら負けだ。
﹁いかがですか?﹂
﹁似合うよ﹂
僕は笑って答える。しかし、内心ではこう思った。
︱︱︱︱︱︱似合いすぎてて逆に怖い。サイミン、女王様のコス
プレとか似合うんじゃないかな⋮⋮。
641
地下の敷地はかなり広くて室内遊園地みたいだ。明らかに地上の
建物より広い。現実世界でこんな施設を地下に造ろうと思ったら大
変なことだろう。
ざっと見て回ったところ、大型の設備には闘技場、ステージ、対
戦テーブルのようなものがあり、所々に会員が寛げるスペースが準
備されていた。ドリンク類を提供するカウンターや、コインの取り
扱いをしているスペースもある。
客層は意外と男女混合だが、うちどれくらいがNPCなのかが分
からない。
﹁競技形式のもあるみたいだけど、メイノが出場できる種目はある
かな﹂
﹁どうでしょう。女装子ですからね﹂
﹁そうなんだよね∼。時々本気で忘れちゃうんだけど﹂
﹁わたし、頑張ります!﹂
﹁おお。ガッツがあるじゃん。急にどうしたの?メイノ﹂
普段割と無口でぽやんとしたイメージなのに、メイノは言葉通り
両手にグーを握りしめている。
﹁ご主人様に、いいところを見せます!﹂
﹁うん。頑張れ﹂
﹁はい!﹂
一体何がメイノに火をつけたのだろう。もしかして奴隷として生
まれたからには、みたいなプライドがあるのかもしれない。でも、
メイノはさほど性的に調教してあるわけじゃないし、この会場の出
場者たちはその筋のプロフェッショナルなわけだから、勝ち目は薄
いんじゃなかろうか。
642
何の気なしに壁沿いを歩いていくと、2人の男がテーブルを前に
カードゲームをしていた。真ん中に審判らしき蝶ネクタイの男が一
人、両脇にはそれぞれ奴隷らしき女の子が一人ずつ立っている。
片方の女の子は涼しげな表情だが、もう片方の子は顔を赤くして
震えていた。
﹁︱︱︱奉仕のスライムのスリーカード﹂
﹁拘束のデーモンのスリーカード﹂
﹁ドローです﹂
プレイヤはドローカードを捨て、新しいカードを自デッキから5
枚引く。
﹁媚薬のドラゴンのワンペア﹂
﹁スキップ﹂
プレイヤのテーブル端に浮いている小さなウィンドウの数字が変
化した。攻撃を受けた側の媚薬ポイントが300から600に上が
っている。攻撃を受けるとHPが減るのではなく、ダメージとして
蓄積されていくルールらしい。
﹁羞恥のコボルトと肛虐のハイピクシーのフルハウス﹂
﹁では、こちらはイベントカード⋮⋮﹃鏡を抱く女神オキナガタラ
シヒメノミコト﹄﹂
﹁なっ⋮⋮っ﹂
周囲で見物している観客がどよめく中、審判が口を開いた。
﹁反射効果が有効になりました。反射は以降3ターン続きます。羞
643
恥ポイントが3000を超えましたが、使用しますか?﹂
﹁3000か⋮⋮。じゃあそろそろ、服を脱いでもらおうかな。靴
下だけ残して全脱衣﹂
﹁全脱衣は1500ポイント使用します﹂
﹁もう1000ポイントで自慰もプラス﹂
﹁はい。合計2500ポイントが消費されます。異議が無ければ左
テーブル様はペナルティ遂行をお願いします﹂
左テーブルに座っていた男は悔しそうにため息をつき、隣に立っ
ている奴隷に言われた通りのことを命じた。まだ幼さの残る少女奴
隷は悲しそうな顔をして、衣服を脱ぎ始める。主人である男の方は
奴隷の様子に対してはあまり関心が無さそうで、手持ちのカードを
見ながら何事かブツブツつぶやいていた。
﹁右テーブル様からどうぞ﹂
﹁ええ。では、被虐のピクシーのスリーカード﹂
﹁スキップ﹂
﹁玩具のコボルトと媚薬のデーモンのツーペア﹂
﹁スキップ﹂
﹁媚薬のゴーレムのワンペア﹂
﹁⋮⋮スキップ﹂
ぱさり、ぱさりとカードを開く音がする。右テーブルが一方的に
攻める間、左テーブル側のウィンドウにダメージ値が蓄積されてい
く。
そしてその横で被虐対象となる奴隷少女は目に涙を浮かべて立っ
たまま自慰を続けていた。ソックスの紺色が裸の白い肌を引き立た
せている。少女は片手でおっぱいを、もう片手で恥毛を隠すように
しながら指先で陰部を弄っているのだ。
これは、なかなか⋮⋮。
644
すぐ横で、観客が小声で話しているのが聞こえた。
﹁この分だと勝負ありだよな。左テーブル、DOWNするかなぁ﹂
﹁いや、あのプレイヤ、常連だよ。ゲームの為に奴隷使い潰すので
有名なやつ。DOWNはしないだろ﹂
﹁いいね。あの子、俺の好みだわ﹂
更に試合が進むと気の毒な少女奴隷のおっぱいとクリに振動する
玩具が装着された。少女は唇を噛みしめて耐えていたが、その次に
は観客へのフェラサービスを強要された。口を開くと熱っぽく荒い
息が喘ぎ声ともつかず零れた。
フェラ効果か、観客も増えてきて、これはそろそろ本番が待って
いるかな∼と期待したところで残念なことがあった。
優勢である右テーブルのプレイヤの趣味らしい。
﹁じゃ、肛虐ポイント2000で直腸浣腸﹂
﹁お∼∼∼∼∼!!!﹂﹁え∼∼∼∼∼⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
歓声とブーイングが観客の口から同時に洩れた。僕も内心は﹁え
∼∼∼﹂組に同意。
スタッフによって想像以上にゴツイ浣腸器具が用意され、奴隷ち
ゃんが青ざめたところでスカトロに流れるならもういいか、とその
場を離れることにした。
645
episode22︳3
次は足のむくまま闘技場に行き、天幕をくぐって中に入った。
場内は更に騒がしく、先にアナウンスのあった美少女奴隷vs発
情モンスターの試合が始まっている。観覧席は超満員で前の方の座
れる席は全て埋まっていた。仕方がないので、僕らは立ち見を選択。
別に立ち見だって疲れるわけじゃないけど、リリスは身長が低い
ので見えにくいのが悔しい。しかも満員の観客のうち何割かはNP
Cのサクラなんだから⋮⋮ええい、ちょっとお行儀悪くしても良い
か、と人混みをすこーしかき分けてできるだけ前の方を陣取る。
リング内には少女とモンスターが熱い勝負を繰り広げていた。デ
ィスプレイも設置されているし、ここからならバッチリ観戦できそ
うだ。
リング内の奴隷はこめかみの位置で黒髪を二つ結びした活発そう
な少女だ。黒目がちで眉がキリっとした風貌。赤地に緑の刺繍が入
ったエスニックな武道着を着ていて、年の頃は僕より少し上って感
じ。
対してモンスターは一つ目の宇宙人みたいな、古典的なタコ型火
星人の外見。触手上の肢をうねうねと操って立っている。
﹁あれは、なんていうモンスター?﹂
﹁ちょっと遠いですが﹃モンスター解析﹄してみましょう⋮⋮少し
お待ちください⋮⋮﹂
﹁ありがと﹂
解析結果を待っている間にも眼前では試合が進んでいく。少女が
646
繰り出す技は体術が多かった。たぶん、武闘家なのだろう。顔看板
のディスプレイ下に﹃美少女奴隷:ミルク=カルア﹄﹃第4ラウン
ド:試合中﹄と書かれている。
﹁出ました。悪魔のヒトツ目 Lv45 属性:異生物 弱点:突
強点:闇⋮⋮特徴は﹂
﹁あっ!﹂
リングの方を向いていた僕は思わず声をあげた。少女奴隷の飛び
蹴りがあまりに見事に、かつ豪快にモンスターの顔面に突き刺さっ
たのだ。
﹃おおーっと!ここでミルク選手の﹃稲妻蹴り﹄がモンスターにク
リティカルヒーーーット!!﹄
実況が叫び、観客も湧き上がり、サイミンの声がかき消された。
﹃渾身の一撃だが、今ので決まったか!? 決められたかぁ!?﹄
ばたりと後方に倒れるモンスターから距離を取って少女は武道着
の腰帯を締め直す。満足のいく攻撃ができた様子で息を整えている。
来て早々、カッコいいシーンを目撃できたのは得した気分だけど、
つまり、エッチな展開無しで倒し切った、のかな⋮⋮。
モンスターはまだ消失しない。仰向けに倒れたままブルブルと震
えている。会場全体が一瞬息をひそめて成り行きを見守っている感
じがした。
横でサイミンが小さい声で解析の説明を続ける。
﹁⋮⋮特徴はHPが全体の1割を切った場合に凶暴化し、多様な状
態異常系のスキルを使用してくる点、だそうです﹂
647
ディスプレイがズームでモンスターを映し出した。ふいに、その
目玉がパチリと見開かれた。さっきまでと違いモンスターの顔の真
ん中に嵌め込まれた巨大な眼球が血走ったように赤く変化している。
﹃おおっと! これは!!?﹄
解説者が息巻く。悪魔のヒトツ目はバネで弾かれたようにビヨン
と起き上がり、向き直った少女奴隷に向かって猛反撃を開始した。
軟体動物の肢を鞭のようにしならせて怒涛の連打ラッシュを浴びせ
る。
少女奴隷は両腕を前に組んで顔面を守るような防御姿勢を取るが、
その腕が折れるんじゃないかという激しさで高い音が響いた。
﹃窮鼠猫を噛むとはこのこと! いや、窮鼠かと思ったら竜虎だっ
た! 観客の皆様はご存知でしたでしょうか? これが悪魔のヒト
ツ目のバーサーカ状態です! 一転して、ミルク選手ピーぃンンチ
ィ!!﹄
モンスターは滅茶苦茶に肢を振り回しながら休むことなく攻撃を
続ける。当然少女奴隷は防御しながら後方へ後方へと逃げるのだが、
あっと言う間にリング端に追い詰められてしまった。
﹃さぁどうする逃げ場が無くなった! っと、おおっとぉおおお!
!!﹄
モンスターの肢の一本が伸び、少女奴隷の足首に巻き付いた、か
と思うとそのまま少女奴隷の体を引き倒し、持ち上げてリングの反
対方向に叩きつけた。拡声器で効果づけてあるのかもしれないが、
バチーン!!!という生の音がここまで響いてきた。
648
﹁うっわ∼⋮⋮﹂
会場がどよめく中、僕は苦い顔になってしまう。単純に、痛そう
⋮⋮。モンスターとのバトルって呪文を使わない肉弾戦は凄惨だ。
﹃さぁどうするミルク選手。ギブアップか!? しかし、このバー
サーカ状態、モンスターのHPも残り1割を切っている証拠だ! 現在これが4戦目!ここを勝ち抜けば残りあと一戦っ! 宣言通り
ご主人様に勝利を持ち帰ることができるかの瀬戸際だっ!!﹄
すると、その実況の声に鼓舞されたかのように、少女奴隷はよろ
めきながら立ち上がろうとした。その健気さと健闘をたたえて会場
からも応援の声が上がる。
なかなか熱い。
︱︱︱︱︱︱頑張れ∼ミルクちゃーーーーん
︱︱︱︱︱︱いけ∼∼∼∼∼∼! ヤれ∼∼∼∼∼∼!
しかし少女奴隷は立っているのがやっとという様である。レフェ
リーが近づき、少女に何事か尋ねたが、少女は首を振った。
﹃ミルク選手、試合続行の意思を示しました!﹄
やはり、この意思の強さはご主人様への忠誠度が関わって来るの
だろうか。鐘を叩く音がして、試合再開の合図。
﹁5試合勝ち抜きでご褒美があるみたいだね﹂
﹁はい。そのようです﹂
﹁何がもらえるんだろう﹂
649
﹁宜しければ、調べて参りますが﹂
と、悪魔のヒトツ目がリング状でまばゆい光を放った。目からス
トロボフラッシュ攻撃、っていう感じ。僕も小さく呻いて目をつぶ
ってしまった。何せ、ちょうどディスプレイがモンスターの顔面ド
アップを映していたタイミングなのだ。目がヤラレる。
﹁大丈夫ですか?! リリス様﹂
同じように食らった観客が少なくなかったようで、歓声とは違う
ざわめきが広がった。
﹁だ⋮⋮だいじょう、ぶ。う︱︱︱⋮⋮目がシパシパする﹂
﹃出た! 悪魔のヒトツ目の必殺技! これは! まさかの!?﹄
うん? 何が起きた?
目をパチパチさせ、ぼやける視界を振り払いながらリングを見な
おす。すると、先ほどまで勇ましい戦意をまとっていた奴隷少女が
腕をブランと垂らし、呆けたように立ち尽くしていた。
﹃こ、これは!⋮⋮まさかのまさか! 恐れていたことが現実にな
ってしまったか?﹄
解説者の声が上ずっている。
奴隷少女は完全に防御姿勢を解いた状態でフラフラと歩き、モン
スターに近づいていく。モニターに映し出された表情は口が半分開
き、目はトロリとしていた。更に、そのままモンスターの目前まで
来ると、無様にもリング状にペタリと座り込んでしまった。
650
﹃バーサーカ状態となった悪魔のヒトツ目の特技です。状態異常フ
ラッシュ!!⋮⋮しかしなんという事だ! ミルク選手は﹃耐状態
異常﹄をセットしていなかったのかあぁつ!﹄
多くの観客から拍手と喜びの声が上がる。反対に残念そうな声も
上がったが一部だった。
﹁︱︱︱︱︱︱って、﹃耐状態異常﹄も付けて無いなんてさ、あの
奴隷のマスターが本気じゃないよな。これじゃお約束じゃん。絶対﹂
近くから、不満げな観客の声が聞こえた。
﹁これって催眠状態? 催淫状態?﹂
﹁さぁね⋮⋮。あーぁ、これで大損だ﹂
賭け試合にもなってるらしい。システムがよく分からないけど。
﹃ミルク選手ピーィイイインチ!!﹄
状態異常⋮⋮ミルク選手と呼ばれる少女奴隷は完全にトリップし
ている。さっきまでのキリっとした表情はどこへやら、どこか視点
の定まらない顔付きで笑っている。
少女は太ももとお尻を床につけて座り込んだ状態でおもむろに手
を伸ばし、樹木から果実をもぐように何気なくモンスターの触手を
一本握ると、嬉しそうに頬ずりした。
それから、触手の壁面をゆっくり、れろりれろりと舐め始める。
モンスターの方もそれに不満は無いようだ。赤く血走っていた目の
色が桃色に変わる。
651
少女は美味しそうに触手の側面を舐めた後、先端を舌先でつつき、
クルクルと円を描く様に愛撫した後、唾液を垂らしながら口に咥え
こんだ。
解説者も場をわきまえているように黙っている。ディスプレイは
少女奴隷の口淫をあますとこなく全面に映し出した。ちゅ、ちゅっ、
という水音がマイクで拾われる。荒い吐息遣いまで聞こえる。
ミルク選手と呼ばれる少女奴隷のご奉仕は徹底していた。口から
は溢れんばかりの唾液が滴り触手を包み込む。根元の方まで垂れて
る唾液ローションを使いながら、奴隷少女は口と両手を組み合わせ
た性技を見せた。
モンスターがもう一本の触手を少女の顔に近づけると、そちらに
も同じように丁寧な愛撫を始める。悪魔のヒトツ目の触手は一体何
本あるのか分からないが、決して嫌な顔一つすることなく、むしろ
新しい触手が差し出される程に嬉しそうにそれを舐めている。
ちゅぷっ⋮⋮ちゅくっ⋮⋮
ぷちゅっ⋮⋮じゅっ⋮⋮ちゅ⋮⋮
悪魔のヒトツ目の性感は触手全本に渡るのだろうか? 性急なモ
ンスターが触手を二本同時にミルクちゃんの口につっこもうとする。
傍目に苦しそうだが、ミルクちゃんはそれでも嬉しそうな顔をして
いた。
︱︱︱︱︱︱︱ふぁ⋮⋮。ほんなに、たくひゃん⋮⋮
別の触手が少女の武道着を脱がせようとする。意を汲んでミルク
ちゃんは自分から帯を解く。女の子にしては割と引き締まった体で、
652
胸の部分には白い包帯⋮⋮さらし、か⋮⋮をグルグル巻きにしてい
た。
しかし、さらしを巻き取りながら外すとそこにギュっと押さえつ
けられていたたわわなおっぱいが弾けんばかりに零れ落ちた。大き
な紅色の乳首がもう完全に尖りきっている。待ちかねたように触手
が巻き付くと、驚いたことにそこから白っぽい液体がピュッと噴き
出した。
最初は見間違い?と思ったけど、そうじゃなかった。更にミルク
ちゃんは触手をほうばってチュウチュウご奉仕している間、触手の
巻き付いたおっぱいから白い液体を断続的に噴出し続けた。
誰かが﹁︱︱︱︱︱︱噴乳ってやつだな﹂とつぶやく。﹁いい出
物だなぁ﹂﹁よく調教してある﹂﹁あれなら欲しい﹂﹁入札してみ
ようか﹂⋮⋮そんな声も聞こえた。
闘技試合は奴隷の販売も兼ねるようだ。初心者の僕には本当にシ
ステムが分からない。でもまぁ、そんなことより今はこの見世物を
楽しみたい。さっきのカードゲームでは本番最後まで見届けること
ができなかったから、今度こそまな板ショーを最後まで⋮⋮。
﹁ちょっと混んできましたね。リリス様、窮屈ではありませんか?﹂
﹁うん。大丈夫。メイノも大丈夫?﹂
﹁はい﹂
エロ展開になる兆しが見え始めた途端、観客が増え始めたようだ。
特に、立見席は飽和状態で後ろから押されて圧迫感がある。
﹁満員電車みたいだね﹂
﹁満員電車とは何ですか?﹂
メイノが眉をひそめるので﹁乗客で満員の電車﹂と答えた。ちょ
653
っと回答が雑だったかな。⋮⋮と、その時僕のお尻に触れるものが
あった。あれ?と思ったが放置していると、次にはスカートの中に
人の手の感触が忍び込んでいた。
あれ?あれ?と思った時には手の感触はスカートをまくり上げた
だけではなく、あっという間にショーツの中に侵入している。
あれ?あれ?あれ?
リング状では半裸になった少女奴隷が触手を胸で挟み込み、先っ
ぽを丁寧に舐めるご奉仕を続けているのだけど⋮⋮。
654
episode22︳4
侵入した手はピタリとお尻に張り付いて停止した。様子を覗って
いるような、そんな感じ。じわじわと、手のひらの体温がお尻に移
ってくるのが気持ち悪い。
これは、所謂アレだ。痴漢行為。もちろん痴漢は犯罪だが、顔を
真っ赤にして怒り始めるつもりは無い。⋮⋮ただ、僕はどう対応す
るべきだろう。
お尻を触られるくらい、大した被害じゃないけど、安い女だと思
われるのも癪ではある。それに、せっかく観戦している試合がいい
感じになってきたのに、これじゃ、全く集中できない。
左隣でメイノはボーっと観戦を続けている。右を向くとサイミン
が僕の視線に気づいた。
﹁どうしましたか?﹂
﹁え、ううん。えーと⋮⋮、サイミン、こういうの観てて面白い?﹂
リングの方を指して言い繕う。
﹁そうですね。非常に面白いとは感じませんが、不愉快ではありま
せん﹂
﹁そっか。ボクは面白いけど、付きあわせちゃってごめんね﹂
﹁いいえ。とんでもないですわ。ですが、宜しければ前席がどこか
空かないか、席取りなどして参りましょうか?﹂
やはり、少し退屈らしい。いや、退屈というか言葉通りで、せっ
かくだからもっと有意義に何かしても良いということだろう。
655
﹁ん︱︱︱︱︱︱。いいや。ちょうど人が増えてきたこのタイミン
グだと席取りは難しそうだし﹂
﹁分かりました﹂
お尻にくっついた手は会話中息をひそめていたが、僕が騒ぎ立て
る気が無いのを察知したように動き始めた。なんだか恥ずかしいし
落ち着かないけど、本当に嫌になったらキチンと拒否すればいいだ
けだし、僕はきちんとNOが言える人間のはず⋮⋮だっけ?
あぁ、でも、もし僕が痴漢されていることがサイミンに知れたら
きっと大変な事になる。間違いなく烈火の如く怒るだろうし、犯人
を半殺しにさえしかねない。否、全殺し、だ。
そうしたら、周囲も巻き込んで大騒ぎになってしまう。サイミン
にはばれない様に気を付けないと⋮⋮。
真っ白な光の当たるリングに視線を移すと、ミルクちゃんはお尻
をつきあげるような姿勢になっていた。肘をついて体を支える恰好
の4つん這いという無理な姿勢のまま、手と口を使ったご奉仕を必
死で続けている。武道着の下にはブルマを穿いていたが、一本の触
手がそれを剥くとゆで卵みたいなお尻が現れた。
モンスターの触手がお尻をつつくと、不安定な姿勢なのでユラユ
ラ揺れる。もしくは、ミルクちゃん自体が早く欲しいとお尻を振っ
ておねだりしているのかもしれない。つんつん、とするとユラユラ。
つんつん、ゆらゆらを数回繰り返し、細めの触手の尖端がお尻の穴
に侵入した。
んっ⋮⋮。
思わず、声が出そうになる。ミルクちゃんのお尻への挿入と同時
に、僕のお尻にも見知らぬ誰かの指が突き込まれた。
656
んんっ⋮⋮。
たぶん、中指だと思う。お尻は異物を警戒して自然にキュウっと
締まる。
モンスターの触手がミルクちゃんの唾液をたっぷり絡めた状態で
狭い菊穴の中を遡上していく。一生懸命フェラのご奉仕を続けてい
たミルクちゃんは感極まったように声を上げた。
それに合わせているのか、僕のお尻に入った指もモゾモゾと蠢き、
奥に侵入しようとした。でも、乾燥した肉に武骨な指を突き込まれ
ても奥には入らない。第一関節までも入ってないんじゃないだろう
か。
しばらく、ぐいぐいと力任せにお尻の入口周辺を押される感じが
した。僕はそのまま少女奴隷の可憐なお尻が触手に捕食される様を
見ていた。すると、浅い部分を弄られているだけなのに、まるで僕
自身がそのリング上で魔物に犯されているような錯覚を覚えて、い
つの間にか前の方もじんわりとしてきた。
発情した魔物って、前だけでは無くて後ろにも興味があるのかな
⋮⋮? 素朴な疑問だったけど、もしくは知能が低いからどの穴が
生殖用かなんて分かっていないのかもしれない。
魔物の細い触手が引き抜かれたのと同時に痴漢の指も引いた。あ、
もしかしてもう諦めてくれたのかな、と思ったが、もちろんそんな
はずはなく。リング上で魔物の細い触手が二本、ミルクちゃんのお
尻の穴を左右から押し広げ、さっきの10倍もありそうな太い触手
がその入り口の前でうねった。
﹁うわ。あんなの入るのかな﹂
﹁調教済み奴隷なら楽勝だろ。俺が前飼ってた奴隷なんて、牛乳瓶
657
でも入ったぜ﹂
誰かの会話が聞こえた。牛乳瓶⋮⋮なんでも入ればいいってもん
じゃないと思うけど、どうだろう。ちなみに僕のお尻は結構狭い。
毎回だいぶほぐさないとペニスが入らないし、ほぐして入れる時だ
って初回はいつも息も絶え絶えになってしまう。
と、太い触手がミルクちゃんのお尻に突入したのに続いて、どこ
かの誰かの手がショーツの中に戻って来た。指先が菊門に触れた時、
ひやっとした感じがし、えっ?と思った次の瞬間に指一本がまるま
るズプリと奥まで入ってきた。
﹁ふ⋮⋮っ、ん﹂
びっくりして、今度は声が出てしまった。焦って、顔が一気に火
照る。なんとか、他の騒音にかき消されて周囲には気づかれなかっ
たみたい。
︱︱︱ローション、それも油系のめっちゃ滑りがいいやつをたっ
ぷり、だ。
さっきまでの不自由さを捨て、お尻の中で痴漢の指が喜々として
動く。
ちょ、いきなりそんな激しく⋮⋮。やぁ、っん。
ぐにゅっ、ぬぽっ、むにゅっ、じゅぷ⋮⋮。
お尻の肉壁を内側から擦るマッサージが続く。一度指が引き抜か
れたかと思ったら、ローションを追加してまた戻って来た。段々と
お尻の穴がほぐれていくのが分かる。余裕が出てくると指を出し入
れするだけじゃなくて、中でかぎ状にしたり、かきまぜたり。弄り
方のバリエーションが増えてきた。
658
あっ、ん、あぁん、は、ぁ、ぁ⋮⋮。
たった指一本だというのに、悔しいけど気持ちいい。
リング上の戦闘を色んな角度から実況するモニタにはミルクちゃ
んの気持ちよさそうなアヘ顔が映っている。実況者がわざと残念そ
うな声音で言う。
﹁ミルク選手、状態異常から回復できない模様です。このままでは
完堕ちと判断し、第4試合敗退となってしまいますが、さぁ、どう
でしょう。逆転できるのでしょうか﹂
﹁ここで、ミルク選手の音声を拾ってみます﹂
︱︱︱︱︱︱んむっ。ふふぁぁっ。ひゃ、おひり、しゅごい。ご
しゅじんさまぁ⋮⋮ぁ。︱︱︱︱︱︱ひぎゅうぅっ⋮⋮おおきひで
しゅぅ⋮⋮いっぱい、ぁ、っあ、ちゅい
︱︱︱︱︱︱むぐっ、んむっ⋮⋮っはぁ
ミルクちゃんはお尻を豪快にずぼずぼされながら時折口に触手が
突っ込まれているのに、悦んでいる。状態異常でトリップしている
効果か、それだけ調教済みなのか。どちらにせよ、幸せそうに喘ぎ、
快楽にひたっている。
一方で、僕はお尻の奥がジンジンするくらい感じて、前もドロド
ロに溶けてきているというのに、表面上は何でもない様に素知らぬ
風を装わなくてはいけない。思いのままに喘ぐことができるミルク
ちゃんが羨ましくなってきた。気持ちいいのに声が上げられないと
いうのは、思った以上の苦行だ。
僕のお尻に指二本目が差し込まれた。中指と、今度は薬指、かな。
659
尻穴が拡げられる緊張感に体を固くする。
んん⋮⋮あんまり、乱暴にしないで。裂けちゃうと、こわいよ。
もちろん、こんな懇願も心の中で祈るしかない。二本指が納まり
よくなったところでまた蠢き始める。幸いなことに? リリスのお
尻は柔軟性に富んでいるらしく、指二本目も難なく飲み込んでしま
ったし、順応してさっきより更に具合がよくなってきた。
うわぁ⋮⋮どうしよう。このままじゃ、イっちゃうかも⋮⋮。
﹁リリス様? どうかされましたか?﹂
﹁へ? な、なにが?﹂
急にサイミンに話しかけられた。
﹁しかめっ面をされてましたので。何かご不満なことでもあるのか
と思いました﹂
﹁あ∼、ない、ない。ちょっと思い出したことがあって、現状とは
関係がないよ﹂
無意識に眉間に皺が寄ってたらしい。僕はごまかそうと思い切り
手を振った。その間も痴漢の指は二本とも差し込まれたまま、あぁ、
なんだろう、この状況。なんだか辛くなってきた。普通にベッドに
飛び込んで、好きな姿勢で思いっきりよがりたい。
﹁なるほど。思い出し笑い、みたいなものですね。それに相当する
言葉はあるんでしょうか﹂
﹁あはは、思い出ししかめっ面、みたいな? ボクは知らないけど、
あるかもね。ボキャブラリーの豊富さで言えば、ボクとサイミンっ
660
て差は無いからなぁ﹂
にこやかに返答して、リングの方に向き直る。つられてサイミン
も前方を向いた。なんとか、誤魔化せたみたいだ。
が、リング上で繰り広げられる次の局面では、ミルクちゃんのま
んこに新しい触手が満を持したように突入した。
﹁あ﹂
本能的にやばい、と思った僕は身を固くした。いや、正確には防
御するようにアソコを締めた。
その結果、ギュっと締めたまんこに強引に指が突き刺さった。ぐ
っ、と入って、そこから乱暴にグリグリグリと奥まで昇ってきた。
アぁっ!!
僕の外面的には、口から乾いた息が漏れただけで済んだ⋮⋮と思
う。でも、頭の中が白くなり、火花が弾けるみたいに目がチカチカ
した。
お尻ばかりへの愛撫によってお預けを食らっていたまんこは急に
欲しかった刺激を与えられて一発でノックアウトされてしまった。
ありていに言えば、たったの!たったの指一本挿入で軽くイってし
まったのだ。
これはなかなかの屈辱だった。悔しさとないまぜになって快楽は
全身に広がっていく。そっと深呼吸をしながら、僕は必死で平静を
取り戻そうと試みた。
指一本でイかされるなんて、しかも痴漢に。そう思うと、涙が出
そうだった。痴漢のテクニックが凄いとかじゃなくて、リング上で
犯されているミルクちゃんとシンクロ錯覚しながら、周囲にばれな
661
いように緊張しているこのシチュエーションだからこそ、だと思う
けど、情けない感じがする。
僕が必死で呼吸を整えている間も、割れ目に押し入った指は遠慮
なく、ずぶずぶ、じゅぷじゅぷ、前後運動を繰り返している。当然
イったばかりのまんこは高感度で、その快感を余さず拾い上げた。
だめ、連続して、あっ、イっちゃう⋮⋮。お願いだから、ちょっ
と、とめて!
軽快にピストン運動を続けるのはリング上でミルクちゃんにもた
らされているレイプと連動しているのだろうけど、僕はもはや、視
界でそれを捕えることができなかった。視覚情報を脳に伝える余裕
すらない。
じゅぶ、じゅぷっ、ずぷん⋮⋮と内側から響く水音は、本当に外
側に漏れていないのだろうか。壊れた蛇口みたいに愛液がほとばし
るのが分かる。
︱︱︱︱︱︱ひぐぅぅう。イきましゅうううっ。いっぱいイっち
ゃいましゅうう⋮⋮!!!
代わりにとでもいうように、ミルクちゃんがモニタの中で叫ぶ。
もしかしたら、僕とミルクちゃんは完全に同時だったかもしれない。
さっきイったばかりのまんこはインターバルなく、今度は盛大に
︱︱︱︱︱︱しかし歯を食いしばって表向きは静かに︱︱︱︱︱︱
絶頂した。
662
episode22︳5
膝が震える。息を大きく吐き出すと、身体が弛緩し思わずその場
にへたり込みそうになった。実際、少しばかり体が沈んだ。よろめ
き、前にある観覧用の鉄柵を握りしめて自重を支える。
﹁⋮⋮っ、ふ⋮⋮ぅ﹂
﹁どうしました?﹂
﹁どうされましたか?﹂
流石に異常を感じたのか、メイノとサイミンの両方から声をかけ
られる。しかし視界がはっきりと定まらず、上手く声が出せそうに
なかったので、しばらくうつむいたまま息を整えた。
﹁はぁ⋮⋮ごめ、ん。大丈夫。ちょっと、後ろ、人に押されて、だ
け﹂
﹁後ろ?﹂
適当に、言い繕った。サイミンが後ろを向いた気配。
僕のスカートの中からは痴漢の手が素早く引き抜かれていた。半
分引きずりおろされたショーツはそのままだ。スカートの中でお尻
が出ちゃっているし、びちゃびちゃになった陰部はおもらししたみ
たいに濡れている。酷い様だけど周囲に見つからずに済むのは目隠
し機能を有する衣料、スカート様様、といったところか。僕はサイ
ミンに気づかれないタイミングでさっとショーツを引っ張り上げた。
濡れているのは気持ち悪いけれど、ノーパンになるわけにもいかな
い。
663
﹁あら。貴方は確か、先ほどの﹂
﹁やぁ、こんにちは﹂
﹁こんにちは﹂
え?
背後でサイミンが誰かと声を交わしている。不審に思って振り返
るとそこに居たのは見た顔だった。細めの眉毛にちょっと垂れ目で
金茶の髪。そう思って見るといかにも遊んでいそうな町人の風体。
﹁おっ!⋮⋮おっ、おおっ、お・!ま・!え・!は⋮!!﹂
僕は盛大にどもる。顔が一気に火照り、口の中がカラカラに乾い
ていく。ヤカンの湯が急速に沸騰するみたいに感じた。
さっきの、というほどさっきでもないかもしれないけど、さっき
のお前!!!ライラック港で、出会った、ナンパ男。にやけた表情
で手の指先だけをヒラヒラと振っている。
なんで、お前がここにいるんだ!?いや、疑問に思うまでもない。
答えは自明だ。
﹁やぁ、リリスちゃん﹂
﹁ちゃ、ちゃ、ちゃん付け!!要らん!!﹂
頭に血が昇った僕は、思わず男に掴みかかった。脳内では男の襟
元を掴みあげ、首を絞めているが、いかんせんリリスの体ではタッ
パが足りない。じゃれついているのだか、抱きついているのだか分
からない恰好になり、反対に抱きしめられてしまった。
﹁情熱的な歓迎だね。僕との再会を喜んでくれていると思っていい
のかな?﹂
664
﹁んなわけねーだろ!!ふざけんな!﹂
この、痴漢野郎!!と叫びそうになり、わずかな自制心がそれを
押し留めた。が、僕のプライドは大いに傷ついていた。何が腹立た
しいって、痴漢犯が顔見知りだったこと、これに尽きる。気持ちい
いとか、いくない、とか、そんなのは無関係だし、僕が先ほどまで
それを受け入れていたかどうか、なんていうのも問題外だ。
﹁よくも、お前∼∼∼! くそ∼とりあえず、死ね!!﹂
手をがむしゃらに動かし、男の胸元を力いっぱい叩く。名前もよ
うやく思い出した。こいつは港で会ったナンパ男、鍛冶師のペシミ
ークだ。
ペシミークは僕にこの奴隷の秘密クラブ会場を紹介した張本人だ
が、その後で僕のことを尾けていたに違いない。でなければ、この
タイミングで僕に痴漢を働くなんてあざとい真似ができるはずはな
かった。この罠に嵌められたような感じも非常に僕の神経を逆なで
する。
﹁ちょ、痛い、よ。リリスちゃん。人目もあるし⋮⋮あんまり、暴
れないで﹂
﹁抱きしめるな! 離せ! この変態! ペテン師!! マジで死
ね!﹂
﹁リ⋮⋮リリス様、どうされましたか?﹂
﹁言葉遣いがいつもと逸脱しているように見受けられます﹂
心配げなサイミンと、どこか冷静なメイノの声。僕の怒りは恥ず
かしさという油を注いで煮えたぎり、燃え盛っている。
だって、屈辱的な痴漢をされて!!指だけでまんまとイカされて
665
!!しかも、それが知り合いで!計画的犯行、だ。許せない。気持
ち良くなってしまった自分も許せない。ペシミークの優越感と内心
のほくそえみを想像すると益々怒りがつのる。
きっと、さぞや楽しかったことだろう。
﹁ぐあーっ!! サイミンっ! こいつ、ふんじばっちゃって!!﹂
﹁ふんじばる?﹂
メイノが眉をしかめる。言葉の意味が分からなかった時の表情だ。
あれ、もしかして、これって方言?
しかし、サイミンには通じた。サイミンは僕の命令に﹁何故?﹂
とは問い返さなかった。形の良い眉を少し動かしただけである。
﹁かしこまりました﹂
﹁わ、待ってよ∼。そう、怒らないで。もうちょっと、穏便にすま
⋮⋮﹂
ペシミークの言葉は最後まで言い切られなかった。次の瞬間には、
ロープでグルグルに拘束されて棒立ちの人間が僕の目の前に現れて
いた。
﹁へ?﹂
﹁以上。﹃ふんじばる﹄を遂行致しました。拘束加減はこれくらい
の塩梅で宜しかったですか?﹂
この人混みの中、手際よく一丁仕上がった棒人間。
僕はサイミンの優秀さを誰よりも知っているつもりだけど、今回
ばかりはあまりの神業にわが目を疑った。ちまきみたいに縛られた
ペシミークも、一瞬でわが身に何が起きたのか、全く理解できない
様子だ。当然だろう。
666
﹁お姉さま、﹃ふんじばる﹄とはどういう意味ですか?﹂
メイノがおっとりと尋ねる。
﹁縛る、を強めて言う表現です。荒く縛る。主に、泥棒や罪人を強
制的に拘束する場合などによく使う言葉ですね﹂
どこか、のほほんとした二人の会話に空いた口が塞がらない。そ
れは、騒ぎを何となく覗っていた周囲の観客も同じようだ。
﹁手品?﹂
﹁なんだ? おい、今の⋮⋮見た? 変じゃなかったか﹂
ざわめきとともにペシミークと僕を中心に人混みが少し割れる。
おかげで、僕の怒りの熱も急速に冷めていった。
﹁サイミン⋮⋮今の、どうやったの?﹂
﹁それよりリリス様、この男、何か悪さでもしましたか?﹂
﹁う、ん。まぁ、それはそうなんだけど、このグルグル巻き、凄い
ね﹂
つん、と指で押すと、縛られたまま立っているペシミークはバラ
ンスを崩しそうになってよろめいた。縛るのに使われている紐は良
く見るとキラキラ光っている。細い紐を撚りあわせて作ったロープ
みたいだ。両足、両腕はもちろんのこと、顔の上にも紐がかかって
いてちょっと痛そう。
﹁どうやったか、というと、わたくしの常備アイテム﹃人形糸﹄を
使用しました。拘束具合については御指示の通り、ふん縛る、感を
667
出してみました﹂
﹁﹃人形糸﹄。そういえば、そんなアイテムがあったね。こうやっ
て使うものなんだ? はは⋮⋮忠実に実行してくれてありがとう﹂
﹁ひょ、ちょっと、これ、わ⋮⋮やば、やばひよね⋮⋮ちょ、ほど
ひて⋮⋮﹂
口の上にも紐が通っている為上手くしゃべれないまま、哀願する
眼でペシミークがこちらを見ている。﹃人形糸﹄は初めからサイミ
ンが持っていた特殊アイテムで、効果は知らなかったのだけど、凄
い威力だ。⋮⋮ま、とりあえずいい気味だ。ざまぁみろと思いつつ、
戻って来た理性でこのままでは周囲の注目を集めてしまうことが危
惧されてきた。
﹁とりあえず、場所を移そうか﹂
﹁分かりました﹂
そう答えると、サイミンはひょいとペシミークを担ぎ上げ、人混
みをかき分けて歩き出す。人混みはどちらかというと自然に割れて
いくようだった。
﹁ひょ、ほ、ほろして、はなして。おちる、おちるって、ええ∼∼
∼﹂
なんだがモゴモゴ言っているペシミークを荷物のようにぞんざい
に扱うサイミン。僕は大人しくその後をついて行った。なんだか頭
が冷えて気分が落ち着いた今では、ペシミークが気の毒にすら思え
てきた。
痴漢されたことについて怒るのは正当な反応だけど⋮⋮。正直僕
も興が乗ってたし、相手が顔見知りじゃなければこの続きも期待し
たいくらいの良さだった。場合によっては、もしかしたら最後まで
668
流されて手玉に取られていたかもしれない。流石ナンパ男、女の扱
いも心得ているというところだろうか。ただ、一つだけ読みが甘か
ったとすればターゲットとした僕の隣にいた従者の存在だ。
僕は途中で一度立ち止まり、ギュっと足の間に力を入れて締める。
じん、とした最後の熱があそこに広がった。この落とし前は、体で
払ってもらおうかな。
669
episode23︳1:掲示板
次の日スレイブス商店を訪れると、ショックな出来事が待ち構え
ていた。昨日に引き続き地下クラブで遊ぼうとしたが、入店を断ら
れたのである。見覚えのある営業の男が﹃秘密のチケット﹄を受け
取ろうとせず、頭を下げて言った。
﹁申し訳ございません。お客様はペナルティ対象になっており、本
日、入店禁止となっております﹂
﹁えっ。なんで!?﹂
僕は頓狂な声を出した。 ﹁大変失礼ですが、お客様は、前回の入店時に規約違反をなされた
ようです﹂
﹁規約違反? 何が? ええと、⋮⋮そもそも、規約って何の事?﹂
﹁当店への会員登録時に同意頂いたと思いますが﹂
﹁あぁ、そういえば、そうだったっけ﹂
この店で手付金を支払って会員登録した時に規約書のチェックボ
ックスを通過した気がする。でも、あんな長ったらしい書面をいち
いち真面目に読んでいるわけはない。一体、僕の何が規約に引っ掛
かったというのか。
率直に尋ねてみると、こんな回答が返ってきた。
﹁規約に記載しております通り、クラブ内での私闘、乱闘、その他
周囲に迷惑となる行為を起こした場合、次回からの入店をお断りす
る場合がございます。その中には、他ユーザー、他NPC、もしく
670
は所有権が無い奴隷に対する合意の無い強制行為、わいせつ行為を
含んでおります﹂
僕は口をつぐみ、しばらく押し黙る。昨日の記憶をたどってみる
と、思い当たることが無いでもなかった。他ユーザーへの強制行為、
わいせつ行為⋮⋮あれか。
﹁分かった。で、その入店禁止の制限はいつまで続くの?﹂
﹁女神時間で一か月です﹂
﹁げー⋮⋮長い⋮⋮﹂
うんざりしてしまう。せっかく奴隷プレイを楽しみに色々計画し
て来たというのに。今日こそは実際にカードゲームで遊んだり、メ
イノを奴隷闘技に出場させてみるつもりだったけど、入店できない
んじゃパァだ。
﹁お客様にも色々とご事情があったと思いますが、ルールはルール
でして。大変、申し訳ございません﹂
再び、男が頭を下げた。今度は更に深々と慇懃に。僕は一度ため
息をつき、早々に諦めた。腑に落ちないところはあるけれど、原因
は店側の落ち度では無い。とりあえず、ここでごねても仕方がない
だろうから、最終的に納得せざるを得なかった。
﹁いいよ。じゃあ、また次回宜しく。⋮⋮って言ってもいつになる
か分からないけど﹂
﹁ありがとうございます。次回のご来店をお待ちしております﹂
まだ頭を上げない男を一瞥し、僕は踵を返した。入れ違いに冒険
者グループの団体が地下クラブに向かって入店していくのをうらや
671
ましく見送る。
﹁あーぁ、こんなことになるなんて。最悪﹂
﹁残念ですね﹂
﹁そもそも、あの男、ペシミークが悪いんだよね﹂
﹁おっしゃる通りです﹂
﹁そりゃ、ボクも悪かったかもしれないけど、あいつが変なちょっ
かい出してくるから、こういう結果になったわけで﹂
﹁まったくです。リリス様は悪くありません﹂
﹁一か月もこの街に留まるつもりはないから、あーぁ、スレイブス
商店に払った会員登録代金分、損した気分だ﹂
﹁今からどこへ行かれますか? ペシミーク殿に慰謝料を請求しに
行きますか?﹂
﹁慰謝料かぁ。昨日存分に払ってもらったつもりだったけど、こん
なことになるなら、もう少しせしめないと割に合わないかもね﹂
僕としてはジョークのつもりだけど、サイミンは本気で頷いてい
る。サイミンの取り立ては迫力がありそうだ。
﹁地下クラブ、入れないのですか?﹂
と、メイノの紫色の瞳が僕を見つめる。
﹁うん。昨日の騒ぎのペナルティだって﹂
すると、メイノはあからさまにがっかりした様子だった。闘技に
出場している奴隷は皆酷い扱いを受けているのに、落胆するこの思
考回路はちょっぴり謎だ。でも、昨日から気合入ってたみたいなの
で気の毒。無駄になった会員登録代金なんて大して気にならないけ
ど、僕の可愛いメイノを落胆させた罪は重い。
672
﹁よし、じゃあ、ペシミークのところに行って慰謝料をもらおうか
!﹂
﹁ええ。当然頂かなくては﹂
﹁はい。謝ってもらいます﹂
こうして最初は冗談のつもりだったのが、サイミンとメイノの力
強い後押しで実行の運びとなった。僕らはペシミークが営んでいる
鍛冶屋に向かう。具体的な店の場所は聞いていないけど、街の中心
から西側に個人経営の露店が立ち並ぶ商店街がある。たぶん、あの
辺りで聞き込めば見つかるだろう。
実は昨日、痴漢行為に立腹した僕はペシミークをグルグル巻きに
拘束して秘密クラブ会場内で押し倒し、衆目の前で逆レイプかまし
てやった。僕、サイミン、メイノの3人がかりで散々責め立て、大
の男が泣き声になるまで騎乗位で搾り取ったのである。その行為が
秘密クラブ会員の規約に抵触したのだろうことは容易に想像がつい
た。
﹁でも、最初にちょっかいかけてきたのは向こうなんだから、自分
で蒔いた種だよね﹂
﹁そうです。それに、案外昨日のあれはペシミーク殿も良い思いを
したのではないですか?﹂
﹁うーん⋮⋮そうかもね﹂
相変わらずサイミンは僕に対して全肯定だが、ペシミークが昨日
の逆レイプで﹃良い思い﹄をしたかどうかは疑問だ。きっと、ペシ
ミークには異論があるだろう。彼はこの街では結構有名人だったら
しく、逆レイプ中に集まってきた野次馬の中から﹁あれ、ペシミー
クじゃね?﹂﹁すげぇ情けないことになってる。何やらかしたんだ﹂
673
﹁おーい、ペシミーク、大丈夫か?助けないけど、頑張れ﹂などと
いう冷やかしの声も飛んで結構哀れだった。﹁なんでもしますから
ターゲット
許してください﹂とか連呼するのを聞いて僕の溜飲も下がったのだ。
ほどなくして商店街に到着し、数人に聞きこんだ後、労せず目標
を発見した。ペシミークはナンパ野郎の癖に贅沢にも自分の店舗を
構える鍛冶師だった。長屋みたいな雑居ビルのうちの一店舗だが、
窓から覗くと木調の小ぎれいな洒落た店である。
商人系のジョブで自分の店舗を構えるのは大変なはずだが、意外
と儲かっているのだろうか。
﹁やっほー。ペシミーク﹂
﹁げっ⋮⋮!!﹂
開口一番、ペシミークはヒキガエルみたいな声を出して固まった。
﹁こんにちは﹂
メイノが続いて現れ、礼儀正しく頭を下げる。サイミンは何も言
わずに﹃人形糸﹄を取り出した。
﹁う、わ︱︱︱︱︱︱っ!!!!﹂
おお、いい反応。
﹁寄るな! ま、待て! いや、何だ、その、あれだ。穏便に行こ
う、まずは話そう。話せば分かる。そうだろう?! 落ち着け、な
?﹂
でも、ちょっとウルサイかな。
674
﹁落ち着いた方がいいのはそっちなんじゃない﹂
﹁分かってる。分かってるから、待て。え? 本当、だから。マジ
で﹂
﹁何が⋮⋮?﹂
﹁いや、だから、マジで、ヤバいから、待て﹂
ペシミークの取り乱しようはただ事では無く、言っている意味も
不明だ。手のひらを開いて僕を制した。
﹁待て、それ以上近づくと爆発する﹂
﹁は?﹂
不穏な単語に足を止める。
﹁何が?﹂
﹁俺の心が﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮粉々に砕け散れば﹂
いかん。なんだか、この男を前にするとこっちの調子が狂う。僕
って、こんな居丈高なキャラじゃなかった⋮⋮はずなのに。たぶん。
﹁うわーーーーーーーー!!﹂
もう一度奇声を発し、ペシミークは入口とは別に部屋一個あった
扉に飛びつき、脱兎のごとくその奥に逃げ込んだ。なんか、ここま
で怖がられているところを見るとやっぱり昨日のあれはやり過ぎ⋮
⋮犯り過ぎだったんだろう。大の男がヒィヒィ言ってたからなぁ⋮
⋮。
675
﹁なんか、可哀相になってきた﹂
﹁確かに、反省の色は見られますね﹂
﹁哀れ、です﹂
決して知能が高くないメイノにまで憐れまれるなんて、不憫では
ある。一応、後を追うと、奥の部屋はこぢんまりとした私室で、真
ん中にダブルベッドがすえられていた。隠れる場所もこれ以上逃げ
る場所も無かったらしく、ペシミークは部屋の隅で固まっている。
﹁わぁ、大きいベッド。ここがペシミークのホームってわけだ﹂
ナンパが趣味というヤツだから、きっとこれまでに何人もの女性
をここに連れ込んだのだろう。ベッドの上に飛び乗るとスプリング
のきいた気持ちの良いマットレスで、シーツもサラサラだ。
﹁とりあえず、エッチする?﹂
﹁ひー⋮⋮勘弁してくれ∼。マジ、何しに来たのリリスちゃんっ。
昨日のアレでもう許してくれたんじゃなかったの?!﹂
﹁ちゃん付けやめてって言ったのに⋮⋮。いや、実はね、さっきス
レイブス商店に行ったら出禁くらってさ。機嫌を損ねてここに来た
んだ。出禁になった慰謝料貰おうかな、って﹂
﹁出禁? そりゃ、なるよ。あれだけ大勢の目の前で人を公開レイ
プしたんだから⋮⋮っ。てか、それ、俺のせいじゃね∼し∼!!﹂
まぁ、八つ当たり、と言われても仕方がない自覚はある。僕は快
適なベッドに寝転がり、シーツに頬をすりつけた。
そういえば、最近ベッドの上でエッチしてないなぁ。やっぱり、
広くてきれいなベッドの上でのびのびとするエッチはいいよね。
﹁ペシミークは当然ここで女の子達といっぱい遊んでるんだよね?
676
なんか、エロい道具とか無いの?﹂
﹁⋮⋮無い!﹂
しかし、ペシミークの視線がわずかに泳いだのを僕は見逃さなか
った。視線の残滓した先を辿るとクローゼットがある。
﹁サイミン、ちょっとそこ開けてみて﹂
﹁はい﹂
﹁わ! わ、わ︱︱︱︱︱︱!!!﹂
すると、案の定。クローゼットの収納BOXからは、メイド服、
セーラー服、エッチな水着や鎧といったコスチュームを始め、拘束
具や大人の玩具がゴロゴロ出てきた。思えばアダルトゲームなんだ
から珍しい代物ではないんだけど、この世界でこんな正統派のエッ
チなアイテムをたくさん見るのって初めてだ。
﹁すごーい﹂
口に咥えるボールギャグ、手錠まである。それらを検分しながら、
是非使ってみたい誘惑に駆られた。ペシミークは弱弱しい声で言う。
﹁もう、やめてくれよ⋮⋮。母親にエロ本整頓されてる気分だ。本
当、何しにきたの。慰謝料の話なら、向こうでしようぜ⋮⋮俺、金
は無いけど﹂
﹁金が無いなら、体で払ってもらうのがボクの流儀だったりして﹂
三叉型のバイブを片手ににっこりと笑ってみせる。
﹁今日は昨日みたいなのは無しで、ね。ね。従順にしてあげるから、
可愛がってよ﹂
677
最大限ストレートな僕なりの誘惑、のつもりだ。昨日の痴漢の指
さばきから想像するにペシミークは技巧派っぽい。逆レイプした時
にスタミナがあることも確認済みだし、ここにある豊富な大人玩具
を駆使して可愛がってもらったら、いい体験ができそうだ。僕は本
気で金銭を取り立てるほど厚顔では無い。
しかし、ペシミークは言った。
﹁いや、何とか工面するから金で片付けさせてくれ﹂
﹁ちっ。チキンが!﹂
黙って見ていられなくなったのかサイミンとメイノが加勢する。
﹁ペシミークさん。それでも、男ですか。とびきり可愛い我が主が
こうまで言っているのに。役得と感謝こそすれど、断るなんてあり
えませんわ﹂
﹁据え膳食わぬは、恥、ですよ﹂
おお、メイノが正しい慣用句を。女3人から批難を受けて、ペシ
ミークは首をすくめた。
﹁いやいや、だって、リリスちゃんって、あれでしょ。俺、知らな
かったからちょっかいかけちゃったけど⋮⋮。破壊と肉欲だかを司
るピンク色の悪魔なんでしょ。そんな恐れ多い女の子は俺の専門外
だよ。だめだめ、俺はパンピー専門だから﹂
﹁ん?﹂
なんだか懐かしいフレーズ。どこかで聞き覚えがある。
678
episode23︳2
肉欲と破壊を司る桃色の悪魔。この大仰な二つ名は以前僕がこの
街を訪れる時に船上で頂いた呼称で、実物の在りようとは大いに乖
離しているので、たぶんからかいの意味を込めてつけられたあだ名
である。
﹁なんで、その呼び名を知ってるの?﹂
だって、それはごく一部の間で僅かな期間しか使用されていない
呼び名のはずだ。ペシミークがあの時、あの船に乗ってた、ってこ
と? まさか。
すると、ペシミークは話題が逸れたことにほっとした様子で、僕
らをさっきのリビング︵?︶というか工房側に誘導しながら話した。
﹁イン・女神の公式広場があるだろ? あの広場の一部に個人ユー
ザを対象にしたポストイット掲示板があるんだよ。知ってる?﹂
﹁ううん。知らない﹂
ペシミークは流れるように僕をリードし、椅子を勧めて座らせた。
次にサイミン、メイノの順に椅子を案内し、戸棚からビスケット菓
子の盛られた器を出して前に置く。
﹁公式広場って、ゲーム内のローカルネットワークこと? それと
も、ゲーム外のインターネット上の話?﹂
﹁あれ、それも知らない? 後者だよ。﹃イン・女神クロニクル﹄
の公式サイトにリンクされている公式の情報交換サイト。交流コミ
ュニティ。公式広場﹂
679
﹁ふぅん。あってもおかしくないけど、ボクは覗いたこと無いな。
公式サイトはたまに攻略サイト見るけど、それも最近はサボってる
くらい﹂
今のままの場当たり的なプレイでも毎回十分に楽しめているので、
特にゲーム性にこだわってあれこれ調べる必要性を感じていないの
だ。偽アカウントでログインしている身としては、ゲーム世界を離
れてまでの他ユーザーとの交流は無縁だし。
﹁そっかー。まぁ、くだらない雑談の吹き溜まりだから見る価値も
無いっっちゃ無いが﹂
﹁某大型掲示板みたいな感じ?﹂
﹁いや、公式が厳しく管理してるからそんな酷くない。むしろ、相
当にお上品だね。裏で実個人識別IDと紐づいて管理されていると
思えば行き過ぎた事書けないっしょ﹂
﹁交流コミュニティもあるんだね。ペシミークは、もしかしてゲー
ム内で知り合ったユーザーとリアルでも仲良くしてるの?﹂
もちろんここで言う﹁仲良く﹂はお上品な意味では無い。すると、
ペシミークは大げさに首を振った。
﹁誤解しないでよ∼。俺、流石にそんな悪い人間じゃないって﹂
﹁一概に悪いことだとは思わないけど。あぁ、そっか。そんな甲斐
性のある人間じゃない、ってことか﹂
﹁ぐっ⋮⋮その通り﹂
ペシミークは胸を押さえて顔をしかめた後、相好を崩してへらり
と笑った。
﹁で、ポストイット掲示板っていうのは、一般的なポストイット掲
680
示板と同じなの?﹂
﹁そう。特定ユーザーをお題にしてみんなが評価や噂を勝手に貼っ
たり剥がしたりできる掲示板﹂
短い単語で対象物を評価するのが特徴で、その情報を誰でも勝手
に追加、削除できる掲示板。ポストイット掲示板と呼ばれていて、
最新の情報が上の方にペタペタ貼られていくのが視覚的にも面白く、
最近人気のあるシステムだ。
公式サイトで特定ユーザーをお題にして﹃貼り合っている﹄なん
て知らなかった。ちょっと考えただけで悪口だらけになって炎上し
そうだけど、公式が管理してればペシミークが言うようにそんな酷
いことにならないのかな。
﹁そこに、ボクも上がってるんだ﹂
﹁そう。リリスちゃん、人気者だねっ﹂
つまりペシミークが僕のあだ名を知っていたのは律儀に﹃肉欲と
破壊を司る桃色の悪魔﹄を貼った物好きがいたというだけのことか。
知らないところで噂されたり、陰口叩かれたりしている感じで決し
て面白くはないが、納得した。
僕は目の前にある丸いビスケットを一つ取って、齧る。それは味
気が無い甘い塊だった。
﹁その掲示板ってユーザー誰でも上がってる、ってわけじゃないの
?﹂
﹁まさかまさか。有名人だけだよ。皆のフォローが無いと消えちゃ
うし﹂
﹁ボクのなんて、どうせ、﹃ビッチ﹄とか貼られてるんだろうなぁ
⋮⋮﹂
681
別に良いけどね。その通りだし。
﹁悪口は少なかったよ。圧倒的に﹃俺の嫁﹄とか﹃俺の女﹄とかの
ポストイットが多かったねぇ﹂
﹁嫁? ボクが?﹂
僕は誰の嫁でも所有物でもないぞー、と思いつつ一人の男の顔を
浮かべた。一応、僕には特定の男がいる。恋人とかご主人様とかで
はないけど、色々と良くしてくれて﹃パトロン﹄と言うのが一番し
っくりくる相手。
⋮⋮でも彼は掲示板にいじましく﹃俺の女!﹄なんて書き込んで
主張するタイプじゃないだろう。もし、張本人が書いてたらめちゃ
くちゃ笑える。じゃあ、誰が書いてるのだろう。俺の嫁とか俺の女
とか、遠巻きに見ながら勝手に盛り上がっているユーザーがいるこ
とを想像するとなんだか面白みもある。
﹁あとは﹃未知数の小悪魔﹄﹃可愛い爆弾﹄﹃触れるな危険﹄とか
もあった﹂
﹁ふはぁ⋮⋮何、それ。見たくなってきた。ペシミークのもあるの
?﹂
﹁一応、ある。言っておくけど、自分で建てたわけじゃないぜ。あ
と、俺は小心者だから自分に対する評価はなるべく見ないようにし
てる﹂
﹁じゃ、今度貼っておくよ。﹃ナンパ男注意﹄って﹂
﹁どうも。ついでに、変なポストイットがあったら剥がしておいて
よ﹂
﹁つくづく、そういうの気にしちゃうタイプなのだね﹂
﹁答えは、イエスだ﹂
ペシミークキリっとした表情を作ってから肯定した。なんか、彼
682
のキャラがだいぶ分かってきた。ナンパなへたれ。しかもロールプ
レイじゃなくて、素じゃないかな、これ。
﹁ふぅん。面白い話、ありがと。じゃ、そろそろ行くから﹂
椅子から立ってさっさと店を出ようとする僕に、ペシミークは﹁
あれ? もう行っちゃうの? 慰謝料は?﹂と聞いてきた。
﹁あぁ、もういいよ。なんか、どうでも良くなってきた﹂
振り向かずに手を振って入口扉に手をかける。
﹁え、ああ、そうなんだ。え? もしかして、俺、何か気に障る事
した?﹂
﹁別に。長居する理由もないし﹂
すると、寂しくなったのかもしれない。ペシミークは僕に飛びつ
いてきた。
﹁ちょ、ちょっと待ってよ﹂
﹁何﹂
﹁もうちょっと、ゆっくりしてけば? 慰謝料、払ってもいいよ?﹂
﹁もう、そんなエッチな気分じゃなくなっちゃった﹂
﹁いや、別にエッチなことじゃなくて。相談によっては金銭でもい
いけど﹂
貢ぎたいのか?意味不明だ。押せば逃げるくせに引かれると不安
になるタイプってのは面倒だ。
﹁また気が向いたら遊びに来るよ。今日は、帰る﹂
683
﹁そっ⋮⋮かぁ⋮⋮。なんか、ごめんね。せっかく遊びに来てくれ
たのに⋮⋮﹂
僕がキッパリと言うと、ペシミークはしょげた表情だった。
﹁本当にさ、また来てよ。今度はもう少し美味しいお菓子を用意し
ておくし、あ、そうだ。慰謝料代わりにさ、今度リリスちゃんに洋
服作ってあげるよ。こう見えて、装備品のオーダーメイドスキル持
ちなんだ。俺﹂
﹁ん。ありがと。じゃ、またね﹂
オーダーメイドスキルって何?と聞こうかとも思ったけど、話が
長くなりそうだったのであえてさらりと流した。店を出てから時計
を見ると、ペシミークの店にいた時間は全部で20分程度だった。
むしろ割と長居した方だと思う。角を一本折れてから、恒例の問い
をサイミンとメイノに投げかける。
﹁ペシミークについて、どう思った?﹂
﹁リリス様の誘いを断るなんて、大馬鹿だと思います。わたくしは、
あの方を今後ヘタレチキンと呼ぶことにします﹂
﹁あはは⋮⋮最高﹂
ヘタレチキンはイカしてる。でも、サイミンは不機嫌だ。
﹁メイノは? ペシミークに対する感想はある?﹂
﹁ええと。わたしも意気地なしだと思います。ですが⋮⋮﹂
メイノはそこで少し言い淀む。
﹁うん? だけど、何?﹂
684
﹁ですが、悪い人ではないような気がします﹂
﹁へぇ∼﹂
いつものメイノならこうやって大雑把な感想を求める質問をした
場合、﹁分かりません﹂が常套句だったのに、成長したものだ。僕
がニヤニヤ笑って顔を見ると、メイノは顔を赤らめた。NPCでも
人の好き嫌いがあるのだけど、メイノは意外とペシミークみたいな
タイプが好みのようだ。
ご主人様以外に好意を抱くとは何事だ!という見方もできなくは
ないけど、なんか初々しくて可愛く見えてしまう。もし、これでメ
イノが本格的にペシミークを好きになったりしたら、凄いいじめっ
子プレイができちゃうんだけどね。さすがに、それは無いかな。
それから僕は街をちょっとぶらついて買い物した後、いつもより
早めにログアウトした。ペシミークの言っていた﹃公式広場﹄とや
らが気になったからだ。当然ながらゲーム外のインターネットに接
続するには、一旦ゲームからログアウトしなければいけない。いつ
か未来では、オンラインゲームとインターネット世界と総て繋がる
日が来るのだろうか。何となくそんなことを考えながら目を閉じ、
ログアウトがもたらすわずかな暗闇に身を任せた。
685
episode23︳3︵前書き︶
ちょっとストーリー進めたいのでエロ無し進行中。
興味ない方は読み飛ばして。
686
episode23︳3
イン・女神クロニクル公式サイトである﹃公式広場﹄にアクセス
すると、見覚えのあるトップページが出てきて、あぁ、そういえば
以前に﹃待ち合わせ掲示板﹄だけ使ったことがあったな、と思い出
した。
結構前の話だけど、その時は﹃花の街フローランス﹄でカイナと
いうユーザーと協力してクエストをこなしたのだ。ちょっと不思議
なところのある気のいい少年︱︱︱もちろん中身は少年のわけない
が︱︱︱だったけど、元気にしているだろうか。
公式広場のコンテンツは膨大で、トップに特集されているコンテ
ンツの中には面白そうなものもあった。だが、寄り道していると寝
られなくなりそうなので、目当ての﹃個人ユーザー評価/ポストイ
ット掲示板﹄だけ探して開いた。
性別:
>女
ユーザー名:
>リリス
該当するユーザーは21人。全て表示しますか?
>YES / NO
21という数字は思ったより多い。我ながら安易な名前をつけた
ものである。とはいえ、一覧の小窓がピンクのものを重点的にチェ
ックすれば簡単に探しあてることができた。
687
クリックして開くと、初期装備のリリスの全身像が中央に表示さ
れ、そこにたくさんのポストイットが貼り付けられている。内容を
読む前に﹃管理画面﹄への移行ボタンを押してみると多様な機能が
あった。中にはユーザー本人にしか設定できない機能もあるようだ
⋮⋮っと、いけない、寄り道してるとどんどん時間が過ぎていく。
時計は既に丑三つを回っているのだからさらっと済まそう。
色々と細かい機能をいじりたくなるのを堪えて前画面に戻る。﹃
肉欲と破壊を司る桃色の悪魔﹄のポストイットは一番目立つところ
に貼ってあった。しかも、フォロー者が多くて、太文字、赤、ポッ
プ調ゴシック体に変じている。﹃俺の嫁﹄とか﹃俺の女﹄のコメン
トは枚数が多く、こ10枚以上同が自動機能で束になっていた。
あとは﹃未知数の小悪魔﹄﹃可愛い爆弾﹄﹃触れるな危険﹄﹃混
ぜるな危険﹄﹃ビッチ﹄⋮⋮あぁ、やっぱりビッチあるじゃん。﹃
エロす﹄﹃やわキツで最高﹄という下ネタもちゃんとある。
かと思えば﹃おバカに見えるけど演技﹄﹃レズ娘﹄﹃ドS﹄なん
ていう﹁どこからそんな風評が?﹂と思うものもあって、一体だれ
がいつ貼ってるのかという疑問とあわせて興味深い。
せっかくだから、他のユーザーキャラの評判もちょこっとだけ見
てみようかな。とりあえず﹃ユーザー名:ペシミーク﹄と入力する。
該当件数は1件だった。
﹃いっぱしの職人﹄﹃でも仕事しない﹄﹃もっと仕事しろ﹄﹃愛す
べき馬鹿﹄﹃ファンです!仕事しろww﹄﹃ナンパ男なので注意﹄
﹃金返せ﹄
⋮⋮思ったより鍛冶師として愛されているようだ。僕も丁重に﹃
ナンパ男なので注意﹄にフォロー票を入れる。
688
あとは、﹃ユーザー名:アラビー﹄。こちらも該当件数は1件。
本人かな?と思いつつ開くと、見覚えのある顔で、初々しい冒険者
時代の画像が表示された。
まず驚いたのはそのポストイット枚数の多さだった。
﹃暗黒街の猛者﹄﹃下賤の女衒﹄﹃チンピラ﹄﹃いつか借りは返す﹄
﹃一生呪う﹄
悪事を重ねているみたいだからきっと悪口や警告のようなコメン
トが多いだろーなーと予期はしていたので、こういうポストイット
に対しては特に感想もない。剥がしといてあげようかな?とも思っ
たが、あまり意味はなさそうだから止めた。反対に礼賛系のコメン
トもたくさんある。
﹃一生ついていく所存﹄﹃ご主人様ラブ﹄﹃愛してます!﹄﹃実わ
いい人です♪﹄﹃超リスペクト﹄
他にも雑談みたいになっているコメントも多数。何の暗号なのや
ら、意味不明のも多数。あまりに枚数が多いと皆の独り言の吹き溜
まりみたいになって情報が曖昧になるらしい。確かに面白いけど、
大して見る価値も無いというのはよく分かる。
他にも検索してみたいユーザーが何人か頭に浮かんだが、就寝時
間がおしているのでアクセスを切ろうとした時、視界の隅に気にな
るコメントが引っ掛かった。
﹃実は王︵内緒w︶﹄
︱︱︱︱︱︱ん??
689
**
次の日ログインすると真っ先にサイミンが一枚の白い封筒を僕に
差し出した。差出人は無く上質紙に金字でinvitationと
表書きされている。ヴィオレナからお茶会への招待状だった。
﹁うぇー⋮⋮。今、何時?﹂
﹁女神時間でマタイの7時53分です﹂
﹁お茶会が8時から、ってドンピシャ時間なのはなんでだろう。エ
スパーなのかな﹂
﹁リリス様のログイン時間にはパターンがありますから。急なお誘
いですし、断っても失礼ではないかと思います。いかがなさいます
か?﹂
﹁そうだけど、断る理由も特にないし。あぁ、行くなら急がないと
遅刻しちゃうね。手土産とか必要だと思う? 準備する時間も無い
や﹂
﹁既にそうとうしびれを切らしてみえたので、遅刻するよりは手ぶ
らの方が良いかと存じます﹂
﹁ほんと? それ、怖いなぁ﹂
元々、この街でヴィオレナのところに一度顔を出すのはアヌビス
との約束だ。しかし、まさか向こうから招待状が飛んでくるとは思
わなかった。別に約束を忘れていたわけじゃなく、万が一ヴィオレ
ナに捕まった場合に最悪、強制ログアウトで逃げられるように時間
調整の上で訪問しようと思っていたのに⋮⋮先制されてしまった。
恐怖を司る上位AIの一人、ヴィオレナ。アヌビスと同等のポジ
ションにいる彼女だが、僕にとってはアヌビスより怖い存在だ。話
してみると意外といい女性なんだけど、過去の恐怖イベントが僕の
心にトラウマになって根付いている。
690
ポケットの中には警戒心と﹃痛み止め﹄を入れ、高級住宅街の一
角に現れる古めかしさと豪奢さを兼ね備えた白壁の洋館で呼び鈴を
鳴らした。
﹁ようこそ。リリス様。ご主人様がお待ちです﹂
﹁お邪魔します﹂
出迎えの召使いは黒くたっぷりしたロングスカートに惜しみない
レースの縁取りの白いエプロンをしている。その腰元で美しく結ば
れたエプロンのリボンに付き従ってリビングに入ると、全面開放さ
れたテラスと続きになって明るい陽射しが差しこむ一枚の絵のよう
なお茶会テーブルが準備されていた。
﹁ヴィオレナ様、リリス様がたがお見えです﹂
蔓薔薇の生い茂る庭を背景に、この館の実質上女主人は椅子に座
ったままほほ笑んだ。
﹁お久しぶりね、リリス。来てくれて嬉しいわぁ。どうぞ座ってち
ょおだい﹂
お久しぶり、という単語に皮肉の色が無いか探してしまう。
﹁ええと、お招きありがとう。久しぶり﹂
僕がヴィオレナの向かいの椅子に座り、両隣にサイミンとメイノ
が立った。その様子を見て、というより僕の逡巡をみてヴィオレナ
は言う。
﹁どうぞ仲間の2人もお座りになって。元気だったかしらぁ?﹂
691
﹁お陰様で元気。ヴィオレナは?﹂
﹁そぉねぇ⋮⋮。元気じゃないという自覚は無かったけれど、ちょ
っと退屈だったかしら。リリスが遊びに来るのを待ってたのよ。ま
さかイーサに拉致されるなんて思ってなかったから、会えなくなっ
て残念だったわぁ﹂
﹁イーサって、アヌビスのことだよね。拉致されたわけでもないよ﹂
﹁そうお。ならいいのだけど。あの人、強引なところがあるから、
監禁されているんじゃないか心配してたのよぉ。ねぇ、ウィシャス
はどうだった?﹂
﹁楽しかった。でも、ちょっと暑いね﹂
﹁ええ、砂っぽいしね﹂
召使いが紅茶の入ったカップを持って来た。おかわりはご自由に、
というように薔薇模様のポットと一緒に前に置く。ヴィオレナは手
にしていた扇子でテーブルの上を撫でるような仕草をした。
﹁どうぉぞ、召し上がってぇ﹂
3段式のティースタンドに小さなフランス風の菓子が並べられて
いる他、カップ型のデザートや、色とりどりのマシュマロ、金平糖
といったオブジェ風の甘味がテーブルに並んでいる。どれも、思わ
ず手を伸ばしたくなるような見た目だ。リアルの僕は甘いものが嫌
いじゃない。正直に言うなら、大好きに近い。毒薬入りかもしれな
いが、せっかくなので好意を真っ直ぐに受け止めよう。
最初に取って口に入れたのはクルミとドライフルーツの乗ったデ
ニッシュ風の焼き菓子だった。お茶会の行儀がよく分からないので、
そのままポンと口に放り込む。途端、表面の糖蜜の焦げたこっくり
した甘さとクルミの香ばしさが口に広がり、噛むとサクサクした軽
い食感にドライフルーツの深みが混ざり、最後に上質のバターの香
692
りが抜けて言った。
﹁美味しい!﹂
思わず叫んでしまった。ヴィオレナが満足げに微笑んだ。
﹁嬉しいわぁ。良ければ、たくさん召し上がってちょぉだい。味の
感想を聞かせてくれたら更に嬉しいわぁ﹂
﹁もしかして、ヴィオレナの手作りなの?﹂
﹁ええ。最近、これに凝ってるのよ﹂
次に、光沢のあるチョコレートのケーキを食べる。テラっとして
いて、一見固そうだったけど、思いがけず口の中の体温で絶妙に蕩
けていく。
﹁中身はアーモンドキャラメルの味。表面のチョコレートにコクと
苦みがあって甘さとのバランスが最高﹂
﹁正確には、ヘーゼルナッツよ﹂
訂正しつつ、ヴィオレナは本当に嬉しそうだ。口元の笑みだけじ
ゃなくて、目じりが緩んでいる。ヘーゼルナッツとアーモンドの味
の違いは分からない。だけど、うとりあえず、美味しいのは確か。
紅茶を飲んで口の中をさっぱりさせて、次のお菓子を物色する。
小山に積まれたスコーンは何種類かあったので、一番上のを取っ
てそのまま齧るとメープル味だった。別盛りのクリーム、バター、
ジャムの皿を勧められたので、それを少しずつ塗って食べ比べた。
﹁このスコーンも美味しいね。サクサクでほろほろ。ボク、スコー
ンはふんわりしっとり系よりこういうのが好み﹂
﹁ジャムは二種類あるのよ﹂
693
﹁ラズベリーと、マーマレード? ん。意外とラズベリーの方が酸
味が効いてるね﹂
グルメレポーターを興じながら遠慮なく食べ進める。
途中で、サイミンが耐え切れなくなったように﹁わたくしにも、
少しだけ、お相伴させてください﹂と懇願した。サイミンも食べた
いのかな?と思ったけど、そうじゃなくて、味の確認と僕が食べた
物の感想を紐づけるのが人工知能として稀有な機会であるからだっ
た。ヴィオレナが鷹揚に許可したので、そこからはどのお菓子も一
口分だけ残して食べて、サイミンに分けた。
バニラビーンズの香りがしっかり引きたったクリームブリュレは
コクがあり、バナナの風味が隠し味になっている。ブランデーでし
っとりしたオレンジのケーキ、フルーツの入ったエクレア。シナモ
ンの効いた香ばしく狐色に焼けたアップルパイ。どれも、凄く美味
しい。一口ごとにそれぞれ違った幸福を感じた。
﹁美味しくないものとか、改良点があるものがあれば、遠慮なく教
えてちょぉだいねぇ﹂
小坪に入ったバラの花びらの砂糖漬けは、キツイ香水をまぶした
砂糖の塊みたいな味で、これだけは好みじゃなかった。
だが、そう伝えるとまたヴィオレナは喜んだ。
﹁あぁ、それは、それでいいのよ。美味しいものじゃないの。ええ。
設計通りにデザインできてるみたいで良かったわぁ﹂
﹁紅茶に浮かべて飲んだら美味しいかも﹂
﹁まぁ。ロマンティストねぇ﹂
結局テーブルにあった菓子を全種類食べきって、最後にもう一杯
694
お茶を飲んだ。我ながらよく食べたものだ。お腹が苦しい。ちょっ
とがっつき過ぎたかもしれない。お茶会だというのに、これじゃ試
食会か大食い大会だ。ろくに会話もせずにひたすら食べてしまった
ことに恥ずかしさがわき上がってきた。
﹁ご馳走様でした。すごく、美味しかった、です。ありがとう﹂
﹁お礼を言うのはこちらね。私も、久しぶりに楽しかったわ﹂
﹁楽しかった?﹂
﹁えぇ。退屈を忘れたのは生まれて初めてかもしれないわ﹂
ヴィオレナは一瞬陰りのある表情を見せたが、再び満足そうに笑
った。彼女が鈴を鳴らし、数人のメイドがやってきてテーブルの上
を片づけ始める。
﹁あのね、リリス。この世界で不自由なく暮らすということはとて
も退屈なことよ。ごく一部の人格を除けば⋮⋮ね。私は多分に漏れ
ない例と言うわけ﹂
しかし、それにどう返事して良いか分からなかったので、僕は短
く返した。
﹁大変なんだね﹂
すると、ヴィオレナは言った。
﹁あらぁ。貴方への好意から出る、大切な忠告なのよ﹂
695
episode23︳4
ヴィオレナは恐怖を司るイーサという割に穏やかな微笑みを浮か
べる。羊を思わせる眠たげな瞳に物憂げな色を湛えて話す彼女は、
AIではあるがいまいち把握しきれない人格だ。
﹁リリス、この後はどうするのぉ? まだしばらくこの街に留まる
のかしら?﹂
﹁ううん。とりあえず、ドッグベルに帰る予定。ドッグベル、ボク
の出発地点だったから、故郷に帰るみたいな気持ちでさ﹂
﹁そぅお。じゃあ、その後は?﹂
﹁その後?⋮⋮は、決めて無い﹂
﹁どこかに定住するのかしら? それとも冒険に出て回る?﹂
﹁未定だよ∼。今までだって、面白そうな匂いのする方にフラフラ
寄ってただけだもんね﹂
﹁この街に定住すればいいのに。そうしたら、また遊びに来てくれ
るでしょぅお? ええ、でも仕方がないわね。ところで、貴女にと
って﹃面白そう﹄の尺度はなぁに?﹂
問われて僕はちょっと考える。正直な回答は一つだ。
﹁アダルト要素﹂
照れるのもアレだし、開き直るのもアレなので、あえて無表情で
簡潔に答える。だが、ヴィオレナは大した感慨を抱かなかったよう
で、﹁ふぅん﹂とだけ反応した。きっと、このゲームをプレイする
ユーザにとって珍しい動機ではないからだろう。
﹃女神クロニクル﹄はアダルト要素をを除外しても幅広く楽しめる
696
よくできたゲームだということが分かってきたが、20禁でアダル
ト規制なしという性格上、多くのプレイヤが最初にソフトを手に取
る理由はやっぱりエロ目的だ。
﹁半数のユーザは途中で冒険に飽いて定住するわ。もし、リリスも
腰の落ち着け先が決まったら、連絡をくれるかしら?﹂
﹁いいよ。もしかしたらドッグベルに定住するかもしれない﹂
元々はそのつもりだった。振り返ってみれば冒険に出てみて思う
のは、色んな刺激的な遊びができる反面、純粋にエロだけではなく
て戦闘とか、レベル上げとか、クエストとか、結構忙しくなってし
まうということだ。それよりは、ドッグベルに定住して酒場で娼婦
でもやった方が、案外肉欲を掘り下げて満たせるかもしれない。
⋮⋮うん、考えてみれば、それもいいね。
﹁コミュニティを大切にするタイプは定住する傾向があるわね﹂
﹁確かに、冒険に出ちゃうと、友人ができては別れの繰り返し、っ
て感じだもんね﹂
﹁その方が気楽という考え方かしらん﹂
﹁群れたい、群れたくない、のテーマだ﹂
﹁リリスはどっちのタイプ?﹂
﹁分かんない。でも、面倒な人間関係は嫌いだな﹂
﹁誰しもがそう思っている。でも、実際は嫌いじゃないからそれを
選択している﹂
﹁ふふ。ヴィオレナは哲学者だね﹂
﹁あら。そんな風に評価されたのは初めてだわぁ﹂
案外楽しい時間を過ごして、僕はヴィオレナの館を後にした。ヴ
ィオレナは僕を玄関まで送ることはしなかったが︱︱︱たぶん、そ
んな低俗なことはしないのだろう︱︱︱代わりにメイドが丁重に見
697
送ってくれた。
メイドが﹁主人からの土産です﹂と言って絹布につつまれた何か
を僕に差し出す。受け取り、玄関を出てから開くと先ほどまでヴィ
オレナが手にしていた豪奢な扇子だった。
⋮⋮大きいつづらや玉手箱を持たされたのではなくって良かった。
扇子は重量感があり、ふんだんにあしらわれた羽根とレースが実
用性と対極の華やかさである。尾に中華風の赤い組紐が垂れていて、
中洋折衷のデザインだ。
﹁アイテム、装備品かな? 武器?﹂
一度アイテムBOXに入れてみると、﹃西王母の扇子﹄と表示さ
れた。⋮⋮西王母、って中華系の何かのキャラだったっけ。
﹁武器のようですね﹂
﹁武器ならボクは間に合ってるからなぁ。メイノに持たせてもいい
かな﹂
既に僕はニエグイのロッドというお気に入りの武器を持っている。
これは特殊な使い方もさることながら、通常の魔法攻撃力も優れて
いるし、使い慣れてもいるので外す気になれない。
﹁よろしいのではないでしょうか。ちなみに、わたくしは職業が騎
士ですから、装備不可です﹂
﹁メイノは? これ、装備できそう?﹂
言って手渡すと、メイノが受け取りしばらく手の物をじっと見つ
める。
698
﹁︱︱︱はい。装備できるようです﹂
﹁それは良かった。ヴィオレナがくれたくらいだから、たぶん、い
い品だと思う。メイノ、使って﹂
﹁はい。こんなたいそうな武器を持たせて下さって、ありがとうご
ざいます﹂
﹁いやいやいや⋮⋮御礼ならヴィオレナに言ってよ﹂
今まで戦闘におけるメイノは奴隷のスキルを利用した、いわば﹃
便利品﹄扱いだったので、通常の戦力入りさせられるのは喜ばしい
だけでなく、これまでの後ろめたさが払拭される気がする。
﹁じゃ、今日はここで解散ね。次回は船に乗るから﹂
﹁はい﹂
﹁酔い止め、飲んどいて﹂
そう言い置いて手を振ると、サイミンは笑って頷いた。隣でメイ
ノは怪訝な顔をしている。
**
次の日、事前に下調べしておいた通り﹃チーカ漁村﹄への直行船
を選択し、チケットを購入した。直行船は簡素な造りで、木造のフ
ェリーのような形状だった。船室も無ければ、セーブできるポイン
トも無い。
セーブができないということは、途中でログアウトした場合、出
航前の街に戻ってしまうということだ。ログイン早々に乗船したが、
出航まで1時間待機時間があった。しかも、﹃チーカ漁村﹄までは
約2時間かかる︱︱︱日に焼けた船長らしき男が葉巻をくゆらせな
がらそう言った。
つまり、この直行船は安くて便利だけど、短時間のプレイでは利
699
用が困難な航路ということだ。安値にはそれなりの理由があるなぁ、
と思いつつ席を取り、あまり広くない甲板に出る。
海面に照り返す陽の光がまぶしい。かもめが手の届きそうなとこ
ろまで飛んできて旋回するのを見つつ、出航までの時間をもてあま
していると思いがけない出来事があった。
僕の隣にいたサイミンが突然スピアを構えて体の向きを反転した。
と、同時に後方で﹁ひっ﹂と息を飲む音が聞こえる。
ん? 何事?
遅れて僕も振り向くと、そこには﹃ヤツ﹄がいた。
﹁やっ⋮⋮やぁ。リリスちゃん﹂
喉元にスピアを突き付けられた状態で引き攣った笑顔を浮かべ、
僕に向けて手の指先をヒラヒラと振っている。軽いデジャブと眩暈
を覚える。
﹁⋮⋮何してんの、こんなとこで﹂
﹁とりあえず、君の御付きに、武器を⋮⋮さ、下げるように言って
くれないかな﹂
﹁性懲りも無くリリス様の背後を襲おうとするとは、不届き千万﹂
サイミンのスピアの切っ先が剣呑に揺れる。
﹁ごっ、誤解だって⋮⋮! 今回は別に悪戯しようとしたわけじゃ
なく⋮⋮﹂
﹁笑止な。状況からして貴方の悪意は火を見るより明らか。言い訳
無用でございます。覚悟﹂
700
サイミンはスピアを薙刀みたいに振りかざす。致命傷を与えよう
と思うならスピアは刺突にて用いる武器だから、つまり、本気じゃ
ないんだと思うけど、彼は泡を食って叫んだ。
﹁っわーっ!! す、すみませんでしたぁああ!!!!﹂
そして彼は瞬時にその場で床に額づいた。人間って、こんな素早
くこのポーズを取ることができるんだなぁ、と驚かされる。
﹁土下座慣れしてる⋮⋮﹂
思わず僕はつぶやいた。土下座慣れしている人生ってどんな人生
だろう。想像するに、ろくなもんじゃない。
﹁⋮⋮どうなさいますか。リリス様﹂
﹁へ? あぁ、どうしようね﹂
呆れてため息をつく。
﹁土下座はいいから。ほんと、何しに来たの? ペシミーク﹂
プルプル震えながらそっと顔をあげ、ペシミークは言う。
﹁何って、約束したじゃん? 慰謝料代わりに、リリスちゃんに洋
服作ってあげるって﹂
﹁え、まさか、わざわざ持って来てくれたの?﹂
確かに、そんな話をした気もする。だけど、慰謝料、なんて言葉
のあやみたいなもんだったのに、律儀に口約束を守りに来てくれた
701
のだとしたらちょっと感心してしまう。
しかし、ペシミークは首を振った。
﹁いや、装備品の﹃オーダーメイド﹄は時間がかかるから。まだ完
成してないよ。でも、リリスちゃんが旅立っちゃったら、せっかく
作っても手渡せなくなっちゃうからさ﹂
つまり?
﹁僕も君の冒険に着いて行こう、と思ったってわけ﹂
﹁はぁ?﹂
﹁装備品が完成するまでの間でいいから、僕をリリスちゃんのパー
ティの仲間に入れてくれないかな﹂
へらりと笑うペシミークを見下ろす。徐々に乗船する乗客が増え
始め、僕らは軽い注目の的になり始めた。
﹁ちょっ、とりあえず立ってよ﹂
差し出した僕の手を取り、ペシミークは顔を輝かせる。そして両
手で僕の右手を握り、ぶんぶんと降った。
﹁ありがとう。よろしくね。リリスちゃん﹂
︱︱︱︱︱︱誤解だ。
﹃チーカ漁村﹄に到着後、地元の小船を現地調達して乗り換えた。
チーカ漁村は特にめぼしい娯楽が無さそうな小さな村だったので、
セーブしただけでスルー。この日はほとんど一日移動に費やしたこ
とになる。
702
小舟に乗ってからは海洋モンスターとの戦闘が数回発生したが、
全然楽勝だった。ちなみに、久々の戦闘で驚いたことが二つあった。
一つは、メイノの戦闘力の向上ぶりだ。やはり﹃西王母の扇子﹄は
凄い品だった。一振りすれば遠距離攻撃可能な衝撃波が発生してた
ちまちに敵を切り刻み、屠った。メイノは最大MPがあまり高くな
いので魔法攻撃の使い勝手が悪いが、この武器ならばMP未使用で
間接攻撃ができ、非常に有用だ。ヴィオレナに感謝しつつ、なんで
こんな凄いアイテムを僕なんかにくれたのか疑問に思った。何か裏
があるとか? ⋮⋮まぁ、他人の好意は素直に受け止めよう。
そしてもう一つ驚いたことは⋮⋮ペシミークの弱さだった。ペシ
ミーク曰く。
﹁ごめんねぇ∼僕は完全に町人タイプで戦闘には特化してないから
さぁ。あぁ、でもこうみえて、Lvは結構高いから、最大HPは高
いよ。って言っても痛いのはヤだから、守って欲しいなぁ∼﹂
こいつを仲間に入れるメリットってあるのだろうか? ⋮⋮いや、
ない。反語。
﹁もう一回聞くけど、何しについてきたの?﹂
﹁だから、リリスちゃんに似合う洋服を作る為だよ﹂
﹁嘘っぽい﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱じゃ、君に惚れたから、かな﹂
﹁うん。そっちの方がまだ本当っぽいな﹂
﹁あはは∼凄い自信だぁ﹂
とはいえ、どっちも五十歩百歩で冗談にしか聞こえない。ペシミ
ークは女の子に不自由してないはずだし、僕の寝首を狙うほど執念
深いとも思えない。自分の店を構える程に腰を落ち着けてきた街を
703
離れる気になった理由はなんだろう?
しかし、へらりへらりと笑って受け流されるのにも飽き、僕は真
剣に問い詰めるのをやめた。僕がリーダーであればペシミークをパ
ーティメンバに加えるのも外すのも自由で、特にメリットも感じな
かったがデメリットも無かったのでとりあえず仲間に入れてやった。
﹁デメリットがあれば即外すから﹂と言ったら﹁まぁ、そう言わず
に。次の街までは頼むよ∼﹂と返ってきた。それでようやく仲間に
入れて欲しがる理由が一つ分かり、少しスッキリした。戦闘力が低
いキャラは、街から街への移動を目的として一時的に他のパーティ
に加わったりするのだろう。
かくして、なぜかペシミークを守りながら戦闘をこなし、最寄の
港から﹃白いレンガ道﹄を選択して目的地を目指した。目的地は懐
かしの故郷、僕がこの世界に降り立った最初の街。﹃ドッグベル﹄
だ。
704
episode24︳1:落とし前
違和感のある目覚めに数度、意識的に瞬きを繰り返す。
⋮⋮なぜか声が出ない。身体が動かせない。⋮⋮ここはどこだ。
記憶に連続性がない。唐突にシャットダウンしたみたいな感じ。
どこで意識が途切れたのか思い出す前に、自分の置かれている状
況の異常さをはっきりと自覚した。
⋮⋮どうやら、口に猿轡をかまされ、両手が後ろ手で拘束されて
いるようだ。足は⋮⋮動かせることに安堵。けれど、体は床に寝転
かされていて、起き上がることができない。
ほこりっぽい空気の匂い。薄暗い。見覚えのある壁のテキスタイ
ルを見るに、ドッグベルで馴染みの酒場であった﹃しわ花街﹄の一
部屋ではないかと思う。﹃しわ花街﹄は地下の酒場だから昼でも暗
い。
辛うじて首を持ち上げて周囲を見渡すと積み上げられた樽、酒瓶
の入った棚が視界に入る。やはり﹃しわ花街﹄の一部屋、倉庫だと
再認識する。
いや、ここがどこかなんてのはどうでも良い。今先に考えなけれ
ばいけないのは5Wのうち、﹃WHERE﹄ではなくて﹃WHY﹄
と﹃WHAT﹄だ。
なぜ、僕はこんな状況に? これは、何の冗談?
﹁目が覚めた?﹂
まともに思考回路を働かせよう、とした矢先に、声が投げかけら
れた。抑揚の少ない落ち着いた声だった。だが、その質問に僕は答
705
えられない。代わりに声のする方に顔を向けた。
そこに立っていたのは灰色のフード付きのマントから黒い長髪を
肩に垂らした男。見覚えのある伏し目と不満を湛えたような陰鬱な
口元。意外な顔見知りだった
﹁おはよう。リリス﹂
﹁⋮⋮ん︱︱︱︱︱︱﹂
一気に覚醒し、猿轡の下で抗議の声をあげる。
﹁うん。久しぶり。元気そうで何より﹂
﹁んんっ。んんんん︱︱︱︱︱︱!﹂
﹁本当に、元気そうだね。ああ、お陰様で、僕も元気だったよ。そ
うだな、僕の方は相変わらず、って感じかな﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱ん!!﹂
そんなこと聞いてない! 男、フェンデルは揶揄したような事を
言う。とりあえずこの猿轡を外せ、と思いつつ僕はできる範囲で身
体をくねらせ、足をばたつかせる。
﹁分かってる。久々の再開だし、もちろん、積もる話があるのは分
かるよ。でもまぁ、それは後回しだ﹂
積もる話より先に積もる質問だっつーの! 猿轡を口から押し出
そうと、噛んだり舌で押し出す試みをするがまったく効果が無かっ
た。苛立ちを表そうと足で強く床を叩く。
﹁ん︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ん︱︱︱︱︱︱っ﹂
そうしながら、ようやく思い出してきた。僕は昨日この故郷﹃ド
706
ッグベル﹄に到着し、とりあえずセーブ、ログアウトした。で、今
日になってもう一度ログインし、サイミン達と合流した後で宿屋兼
酒場の﹃ホーボー鳥亭﹄に行った。そこで何人かの知り合いに挨拶
したりしながらお喋りしてたら、変な効果音が聞こえて、意識を失
ったんだ。あれは、何らかの状態異常の発動音? 目が覚めたらこの状態⋮⋮つまり、拉致ってやつだ。この街は治
安が良くない。だから美少女である僕、リリスが突然かどわかされ
るのも全く想像できないほど不測の事態、ではない。
だけど、よりにもよってフェンデルに拉致、誘拐される理由はさ
っぱり思いつかなかった。フェンデルは何と言うか、僕的には結構
親しい間柄、だったつもりだから。
﹁んん︱︱︱︱︱︱?! んっんっんん!!﹂
﹁うん? あぁ、ここはどこかって? 覚えてるかな。﹃しわ花街﹄
って酒場だよ。その倉庫の一部屋﹂
フェンデルはドアの方を軽く視線で示して言った。
﹁あの向こうが店本体につながってる。ちなみに今は営業中﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱ん! んんっ。んんん?﹂
やっぱり。でも、WHEREはどうでもいいんだってば。
﹁久々の再開がこんな形になるのは残念だけど。まぁ、仕方がない﹂
フェンデルは独り言のようにつぶやき、寝転がされている僕の側
に寄って膝をつく。そして、アイテムBOXから何やら取り出した。
﹁さ、せっかくだから、見栄え良く着飾ろうか。まさか、猿轡に後
ろ手縛りなんてつまらない恰好のままじゃ、リリスだって不満だろ
707
?﹂
﹁⋮⋮っ︱︱︱?﹂
手にしているのは鎖の繋がった首輪、エナメルの光沢のある女物
の下着。目の前に広げられると、その下着はいずれも肝心な部分が
穴あきになっている。僕は絶句した。
﹁あとは、これと、これ﹂
フェンデルが更に取り出したのは丸みのあるローター、パールの
連なったアナル用の尻尾。馬用の口枷、それに鞭。次から次に取り
出されるエロ用アイテムを目にして、僕は﹃着飾る﹄の意味を悟る。
それと、これから待っている災難のおおよそも。
﹁⋮⋮ん⋮⋮﹂
思えば、完全に僕本人の意思を無視したレイプ行為って、今まで
受けたことがない。近しいものは多少あったけど、それは幸いなこ
とに理由が腑に落ちているものばかりだった。
なんで? なにされるの? なんで? その疑問がグルグルと頭
を回って、眩暈を感じた。フェンデルの手が僕に触れ、思わずビク
リと震える。
﹁うううう︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱っ!!!!!﹂
思いっきりうめき声をあげ、出来る限りの力で暴れる。すると、
思いがけない力で首元を押さえこまれた。フードから垂れている黒
髪が僕の顔にかかる位置まで近づき、フェンデルは暗い声で言った。
708
﹁暴れるなって。面倒だから。⋮⋮まぁ、多少可哀相だとは思うけ
ど、自業自得、だよ。 せめて割り切って楽しんだら?﹂
自業自得? 鼻から目に込み上げてくるものがあって、思わず涙
がこぼれそうになる。﹃女神クロニクル﹄は成人指定がかかったオ
ンラインゲームで、一切の残酷行為、性交渉を禁じる制限がない︱
︱︱︱︱真剣にそれが怖い、と感じたのはこれが初めてだった。
**
僕は、犬の様に四つ這いで床を這って歩かされた。視界がだいぶ
低い位置なので、一番目につくのは客達の靴、靴、靴。泥で汚れた
靴が僕の耳の横を通り過ぎる。
両手両足全てが相互に繋がるようにゆるく紐で結わえられている
ので、這うことはできても、立ち上がることができないようになっ
ていた。
﹁ヒューッ。可愛いワンコちゃんだなぁ﹂
﹁へぇ。面白い趣向だねぇ。特に、尻尾がいい。振って見せてよ﹂
﹁おっ、調教の最中です? いいとこに出くわしました﹂
﹁調教じゃなくて、躾け、らしいっすよ﹂
﹁いや、お仕置き、だろ﹂
﹁ふんん? 誰のペット? それとも奴隷?﹂
いい加減な発言がポンポンと聞こえてくる。僕を話題にしている
集団の方を向こうとすると、ぐいと首を引っ張られた。
﹁ほら、気ぃ散らしてんじゃねぇよ﹂
﹁んっっ⋮⋮︱︱︱︱︱﹂
709
首輪の先の手綱を引かれると、僕の体は電気が走ったみたいに反
応した。
今、僕のお尻には数珠パールのしっぽが埋め込まれていて、穴の
空いたビキニパンツの間から犬のしっぽをゆらゆらさせている。ま
た、クリと両方のおっぱいの先端に振動する小さなローターが固定
装着されている。
そしてどういう仕組みになっているのか分からないけれど、首の
手綱とこれらの玩具は連動している。つまり手綱を引っ張られると、
これらが振動して即座に強い刺激をもたらすのだ。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱うっ︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
手足がガクガクして、上手く這い進むことができない。快感に震
えながらその場にとどまると、再び、首の紐を強く引かれた。
﹁怠けてないでさっさと歩け﹂
引かれた反応で、再びブブブッという振動音をさせて、ローター
達が一斉に震えた。
﹁ううっ⋮⋮く⋮⋮ぅう﹂
おっぱいとクリに痺れるような快感が花開く。同時にお尻に力が
入ってしまい、中のパールが存在感を増した。必死で深呼吸し、力
を抜いて落ち着こうとしていると、今度は軽くツンツンと手綱を引
っ張られた。
﹁ふっ⋮⋮うっ⋮⋮﹂
だめ。 引っ張らないでよぉ⋮⋮。そう言いたかったけど、うめ
710
き声が漏れるだけが関の山だ。ツン、ツン、とされるたびに同じリ
ズムでローターがブブッ、ブブッ、と震える。
﹁んっ、んっ⋮⋮んっ﹂
悔しいことに僕の体は感じてしまっている。身体に走るしびれは
甘く、クリは充血し、花陰がひくひくと震える。でも、それは受け
入れるにはあまりに屈辱的な仕打ちだった。 僕は、涙の滲んだ目
で手綱を握っている男を見上げる。すると、男は心底楽しそうに笑
った。
﹁なんだ。まだそんな反抗的な瞳ができるなら、余裕あり、って感
じだな﹂
そうして、また手綱を引っ張る。
﹁っつ⋮⋮﹂
今、手綱の先を握っているのは見知らぬ男で、﹃しわ花街﹄の客
の一人だった。フェンデルは僕にこの﹃身支度﹄をほどこしてから
酒場の店内の方に僕を引き従え、その後僕を操る鎖は客の手をたら
いまわしにされることになった。
メス犬の散歩店内一周100G。それが僕に張り付けられた値札
であった。とりあえずのところ。
﹁可愛いわんちゃんねぇ。撫でてもいいかしら?﹂
客の一人がそう言って僕の側に屈んだ。露出度の高い服を着た女
で、客なのか従業員なのか見分けることが難しい。
711
﹁あぁ。俺のペットじゃないけどな。噛みついたりはしないと思う
ぜ﹂
﹁ふふっ⋮⋮イイコ、イイコね﹂
女は本当に散歩中の犬にそうするみたいに僕の頭を優しく撫でた。
だが、それは悪意⋮⋮いや、戯れなのだろう。同性に馬鹿にされる
ことに対してプライドの傷ついた僕は思いきり相手を睨んだ。
﹁やだぁ。こわぁい﹂
﹁こら。駄目だろ﹂
すぐさまに、グイ、と手綱が引っ張られる。
﹁んくっ⋮⋮﹂
意識はあっという間に敏感なところに集中して、何も考えられな
くなってしまう。
﹁あら。それ、どういう仕組みになってるの? 引っ張るとどうに
かなるの?﹂
﹁ああ。手綱を引くと、その強さに応じて局部のバイブが震えるよ
うにできてるらしい﹂
﹁面白そう。私もこの子、お散歩させてみたいわ﹂
﹁もう次の客が待ってるからさ、たぶんその次だな。一周100G。
マスターに支払えば権利が買える﹂
﹁100G? ふふっ。馬鹿みたいに安いのねぇ。じゃあ、買って
くるわ。3周ぶんくらい買っちゃおうかしら﹂
そう言うと、女は立ち上がりカウンターの方に去って行った。
712
﹁そら、あと少し。行くぜ﹂
男はまた軽く手綱を引く。口枷の下で息を荒げながら、僕は必死
で両手両足を動かし始めた。
一体あと、何周さらし者になればいいのか、どこにゴールがある
のか見当がつかない。リリスの柔らかな手のひらと膝小僧は、既に
擦り剥けて赤くなっている。そして不断なく与えられる秘部への刺
激に、まんこの奥は熟れて蕩けていた。
徐々に頭が朦朧としてきて、自尊心というものが崩れていく。自
分が自分なのか、ワンコなのか分からなくなってくる。気まぐれに
与えられる快楽に身をゆだねて、悦んでしまいたくなる。
﹁んぅ︱︱︱︱︱︱。んぅ︱︱︱︱︱︱﹂
うめき声が段々と甘くなっていく。もっと、強く手綱を引いて欲
しい、乱暴にして欲しい。緩い快感ばかりでは体が炙られているよ
うでじれったく、なかなかイクこともできないまだるっこしさに不
満を感じる。
﹁おもらし、してんじゃないか﹂
新しいご主人様が僕の足の間、太ももを撫でた。
﹁んっ⋮⋮﹂
陰部から愛液が垂れて、太ももを濡らしているのだ。ぬるぬるす
るあそこを触られて僕は身をくねらせた。
﹁んんん︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
713
︱︱︱︱︱︱そこ、指、挿れてぇ。
奥まで突っ込んで、思いきり、掻き混ぜて欲しい。できたら、も
っと太いものがいいけど、この際、指でもいい。空間を埋めて欲し
くて、体が焦れる。
⋮⋮だが、男はそれ以上のところを触ろうとしなかった。
﹁悪いな。餌を与えないように言われてんだ﹂
﹁んっ⋮⋮?﹂
餌? えさ、ちょうだい。欲しいよ。もう、無理。我慢の限界。
乳首もクリもジンジンして、お尻の中もこなれている。あとは、膣
内に収めるべきものを収めたい。
﹁だいぶ、壊れて来てんなぁ⋮⋮﹂
男は笑って、指を挿れる代わりに花びらを指で挟んで、ぎゅっと
力を込めた。まるで、もうしばらく、ここは閉じておけ、というみ
たいに。
﹁ん⋮⋮﹂
それからまた数周、店内を引っ張りまわされ、客達に揶揄され、
笑われ。再びフェンデルの手に戻った時、僕はすっかり壊れていた。
﹁お帰り。リリス﹂
﹁ふ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぅ︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮﹂
眼がしっかり開かない。かすむ視界にフェンデルと、見知った顔
が映る。
714
﹁ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
アラビーはまるでちょっとそこで出会ったみたいな何気なさで﹁
よぉ﹂と短い挨拶を口にした。
フェンデルが、僕の両手足の戒めをナイフで切る。待ちに待った
自由だ。しかし、僕の関節は強張ってしまい、すぐには立ち上がれ
なかった。
﹁大丈夫か?﹂
そんな僕の体を支えるようにアラビーが手を貸してくれる。その
腕にすがるようにして、立ち上がり、アラビーの首に手を回し膝に
腰掛けた。
﹁うっ、ん⋮⋮っ﹂
﹁あぁ、これも、外してやるよ。お疲れ様﹂
口の拘束が外れると、一気に呼吸が楽になった。ぷはぁ、と大き
く口を開き、深呼吸を繰り返す。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱。はぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぁ﹂
清々しい酸素はぼんやりとした頭を覚醒させるのに役立った。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮アラビー⋮⋮﹂
﹁おう。久しぶりだな。気分はどうだ?﹂
﹁みず、欲しい﹂
﹁あぁ。ちなみに酒でもいいならすぐに出せるぞ﹂
715
僕は肯いた。この際、喉を潤すなら何でもいい。
﹁ほら。ゆっくり飲め﹂
酒は喉を灼きながら下って行く。
﹁けほっ﹂
僕の口の端から零れる液体を固い指が拭い、むせた背中をアラビ
ーがさする。︱︱︱︱︱︱優しいんだ。
シマ
でも、僕は分かっている。それくらいのことは、馬鹿でも分かる。
ここ﹃しわ花街﹄はアラビーの縄張だし、フェンデルは彼の片腕だ。
僕は、アラビーの瞳をジッと見つめて問うた。
﹁これ、アラビーの差し金でしょ⋮⋮? なんで⋮⋮?﹂
糾弾する意図はなかったが、多少の恨みがこもるのは仕方がない
と言っていいだろう。アラビーは悪びれず、軽く口の端を吊りあげ
る。予想通り、否定の言葉は帰ってこなかった。
﹁なんで、か⋮⋮。まぁ、お前が納得するかどうかは別として、﹃
落とし前﹄ってやつだ﹂
﹁ふ⋮⋮?﹂
落とし前? その前に聞いたのは﹃自業自得﹄。一体何のこと?
﹁ボク⋮⋮、なんかした?﹂
﹁したとも言えるし、してないとも言える。俺らみたいなクズは体
面ってのを気にするもんなんだよ﹂
716
よく分からない。もちろん、腹立たしい思いはある。⋮⋮でも、
そんなことより、今はもっと大事なことがある。
﹁それより⋮⋮欲しいよぉ⋮⋮ちゃんと、犯してぇ﹂
目を細め、ねだるような甘い声で唇を震わす。ここまで陥落して
いるのだから、もはや僕の方に﹃体面﹄とやらはない。要求されれ
ばその言葉通り尻尾を振って見せたっていい。
﹁本当に⋮⋮クソビッチだな﹂
アラビーは呆れたように首をすくめた。だが、機嫌は悪くなさそ
うだ。どういたしまして。僕はクゥーンと一鳴きし、小さく﹁ワン﹂
と吠えた。
717
episode24︳1:落とし前︵後書き︶
エロ続きます
718
episode24︳2
﹁んぅ、ふっう⋮⋮っ⋮⋮﹂
熱っぽく腫れた乳首を舌の生温かさが包む。ぬるりと緩慢に舐め
られるとそれだけで堪え切れない声が漏れた。
﹁⋮⋮っ⋮⋮⋮⋮うぅ⋮⋮気持ちいいよぉ⋮⋮﹂
さっきまでの膣内に挿入して欲しいという気持ちはどこへやら、
今度はおっぱいをもっと舐め続けて欲しい、という欲求にすり替わ
る。アラビーは僕の片方の乳首をたっぷりと舐め上げる傍ら、もう
片方を指でクリクリと捏ねた。
﹁はっ、あっ、あっ⋮⋮﹂
温い刺激と直接的な愛撫を両方同時に受け、どっちの性感がより
悦んでいるのか分からない。ただ、すごく、いい。僕は息を止め、
ギュっと目を瞑った。乳首は先ほどまでのローター装着によって既
に感度が最大まで高まっている。この状態でたっぷり責められては、
受け切る自信が全くない。
﹁やだ、だめ⋮⋮イっちゃう⋮⋮。おっぱい、だけで⋮⋮イく⋮⋮
イっちゃう⋮⋮﹂
なんだかそれは恥ずかしい⋮⋮が。今更そんな些細なことで羞恥
を感じるのも不思議なものだ。ねっとり、随意筋である舌が小さな
膨らみの上で蠢く。
719
﹁あぁ⋮⋮だめ、だって、ば。ホントに⋮⋮イっちゃう⋮⋮から﹂
だめ。でも、もう少し、あと、ちょっと⋮⋮。相反する気持ちが
せめぎ合う。とはいえ、最終的には頭で考えることなんて関係ない。
﹁あんっ、あっ、あ⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱!﹂
僕は、体をのけぞらせて、喉から発声する喘ぎを天井に向かって
吐いた。激しく責め立てられたわけでもないのに、たった、前戯の
おっぱいへの愛撫だけでゆるゆると昇り詰め、そのままの速度でイ
ってしまった。
﹁は、ぁっ、ぁっ、ぁっ⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
右胸から温かい口腔が離れ、唾液に濡れた乳首が今度は外気に晒
されヒクつく。
﹁あっけなくイったな﹂
﹁ぁっ。ん⋮⋮。う⋮⋮ごめん⋮⋮⋮⋮﹂
しおらしく、謝ってみる。自分ばっかり早々に気持ち良くなっち
ゃって、悪い気がしたからだ。しかし、アラビーは楽しそうに笑っ
た。
﹁別に。面白れぇ。挿れずに何回イけるか試してみるか﹂
その言葉に僕は蒼白になる。
720
﹁やだ! 無理無理! ⋮⋮だから、お願いだから、早く、いれて
ぇ⋮⋮﹂
さっきまで首輪付きで散々﹃お預け﹄されてきたのだ。この期に
及んで更に焦らしプレイなんて、泣いてしまう。僕はアラビーの首
に腕を回し、しがみつく。
﹁お願いします⋮⋮いれてください﹂
﹁なんだ、やたら下手に出るんだな。従順な女なんてガラじゃねぇ
だろ? リリス﹂
﹁ううっ。そんなこと無いよ﹂
﹁ふぅん? 長いこと帰ってこなかったから、散々遊んできたんだ
と思ってたけどな﹂
ふぇ? もしかして、妬いてるとか?
アラビーは今度は僕の足の間に指を入れ、充血したクリを弄った。
トロトロに濡れた足の間でクリがクチュクチュと卑猥な音を立て始
める。
﹁っぅ。ふ、ううう⋮⋮。だめ、だって。もう、お願い。あっ⋮⋮
アっ⋮⋮らめ、気持ちいいもん。やだぁ⋮⋮﹂
僕は身をくねらせる。このままでは再び前戯、指だけでイかされ
てしまう。これ以上、何度も本番無しでイかされては僕の体が︱︱
︱︱︱︱いや、精神がもたない。
﹁だめぇ、イっちゃうから、っ。かんたんに、あっ、あっ⋮⋮﹂
逃れようと身をよじるが、体格差があり過ぎる。がっしりと抱き
かかえられていては、一回り以上も小さなリリスの体なんてお人形
721
みたいなものだ。
﹁ん、ふっ﹂
ギュっとクリを摘ままれ、クルクルと捏ねられ。逃げられない快
感に覚悟を決めて、僕はされるがまま、喘いだ。割れ目からは愛液
がダラダラに溢れている。
﹁ううっ⋮⋮も、だめ⋮⋮また、イっちゃう⋮⋮︱︱︱︱︱︱﹂
クリへの刺激はなんというか、直接的なのだ。直接、性感の弓弦
をかき鳴らされているような。身体がビリビリと痺れる。それが、
あっという間に足の先、頭のてっぺんまで伝い走る。今度は魚の様
に激しく身をびくつかせた。
﹁あ、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
甲高い声をあげた後、浅い呼吸を繰り返し、必死で理性を手繰り
寄せる。
﹁も、ぉ⋮⋮﹂
もう、駄目。と言おうとしたが上手く喋れない。
﹁イったな﹂
ええ、イきましたとも。見ればわかるでしょう。だけど、憎まれ
口も返せない。視界がぼんやりとする。見えてはいるけど、焦点が
合わなくて、脳に情報が入ってこない感じ。
722
﹁目がラリってる﹂
﹁ふぇ?﹂
なんとなく、自分でその顔が見てみたい、と思った。きっと凄く
エロい表情になってるんだろう。リリスは通常は清純そうな乙女チ
ックな顔貌だから、ギャップがそそりそうだ。
﹁う︱︱︱︱︱︱⋮⋮っ﹂
僕は力が入らずもたつく手でアラビーの足の間をまさぐる。目当
てのものはほどなく見つかった。
﹁これ﹂
ちょうだい。
﹁自分で入れれば?﹂
﹁ふぁい﹂
僕は朦朧としながらも足を開き、その上に跨る。片手で自分の割
れ目をパックリと広げた。屹立した肉棒の頭に開いた入口をぴたり
と押し当て、一呼吸。
﹁んっ⋮⋮﹂
ずぶり、と腰を沈めるとようやく欲しかったものが膣内に入って
きた。
﹁は。ぁあ⋮⋮︱︱︱︱︱︱︱ぁ⋮⋮﹂
小刻みに身を震わせながら快楽と安堵の混ざった吐息を長く吐い
723
た。更にずぶずぶと埋めると余剰の愛液が溢れた。
﹁あ︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁すげぇ、締まる。くそ。あんまり咥えこむな﹂
﹁ふぇ⋮⋮?﹂
ドロドロの肉壁は喜んでペニスに絡みついている。
﹁痛ぇ、っつーの。そんなに締めたら﹂
しかめっ面のアラビーを見ながら、そんなこと言って、本当は余
裕がないんじゃないの、とか思ったり。どちらにせよこれだけお預
けされてきたのだから、こっちだって手加減する余地はない。
﹁んっ。いい⋮⋮っ。すごぃ⋮⋮﹂
腰を動かすと擦れる部分から甘いしびれが広がって、体が熱くな
っていく。ぎこちない動きから体勢を整えて、本能の赴くままに動
いた。
﹁あっ⋮⋮いいっ⋮⋮っ⋮⋮あっ、あっ、あっ⋮⋮﹂
ずちゅ、ちゅぷ、ぷちゅ。
﹁っ⋮⋮つ﹂
あぁ、イきそう。でも、すぐにイってしまったらつまらない。体
力的に、もうそう何回もイけないと思うので、ここはギリギリまで
貪りたい。
くちゅ、くちゅ、ちゅぶ、ちゅ⋮⋮。腰を振るリズムに合わせて
724
卑猥な水音が聞こえる。すごく、いい。
しかし、そこでアラビーが僕の耳元で囁いた。
﹁これ、外してやるよ﹂
﹁う?﹂
クイ、とお尻を引っ張られる違和感。
﹁ぁ⋮⋮﹂
長時間の装着ですっかり馴染んでしまって忘れていた。僕のお尻
にはパール付きの尻尾が刺さっている。
﹁や⋮⋮だめぇ⋮⋮﹂
そんな、今、そんなこと⋮⋮あぁ、駄目だ。頭が上手く回らない。
僕はリリスの小さな手のひらを広げてアラビーの顔をぺちりと叩い
た。抵抗の意思を示したつもりだが、難なく取られて指を舐められ
た。
﹁ゆっくり抜いて欲しいか? それとも一気に?﹂
﹁うぁ⋮⋮﹂
ぷつ。ゆっくり、一粒が引き抜かれる。
﹁らめ⋮⋮。ゆ、っくり、っ⋮⋮﹂
前穴でペニスを咥えたまま後ろを嬲られるとまた別の快感が涌き
上がる。
725
﹁ひぁ⋮⋮﹂
他人の絆創膏を引っぺがす時の無責任さに似ているかもしれない。
でも、そんな容易い話ではない。
ぷつ、ぷつ、とコリコリした丸い真珠が菊穴から引っ張り出され
ていく。それに感応して膣も思い切りキュンキュンする。後ろを虐
められて前から愛液があふれているのだ。
﹁は⋮⋮。引っこ抜くぞ﹂
﹁だ、だめ⋮⋮って。おねがい、ゆっくっ︱︱︱︱︱︱﹂
ぶぐ、じゅぶ、ぶ、ぶぶ⋮⋮っ
﹁ぇえ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぁや︱︱︱︱︱︱あああ︱︱︱︱︱︱っ!
!﹂
一気に連鎖パールを引っ張り出され、お尻がひっくり返るかと思
った。己の嬌声を遠くに聞きながら、頭が真っ白になって、何も考
えられなくなる。全身をしびれが支配し、のけぞり、悦びに震える。
そのまま僕は一気に絶頂に達した⋮⋮らしかった。が、そのまま
気絶してしまったのであまり覚えていない。たっぷり耐えて楽しむ
つもりだったのに⋮⋮悔しい。
726
episode24︳3
水音で目を覚ました時、まだ犯されているのかと思った。酒場の
大勢の客に輪姦されまくって、まんこはユルユルのガバガバ。代わ
る代わる慰みにされる肉人形⋮⋮。チャプチャプと聞こえるのは体
内から響く愛液の音。
﹁あ、目ぇ覚めましたですか? おはよーですネ﹂
﹁ん⋮⋮﹂
﹁ハイ。 口開けてくださぁい﹂
﹁上の口?﹂
﹁アハっ。まだ、寝ぼけてますかぁ? 上のお口で結構ですよぉ﹂
言われるままに口を開けると、コップがあてがわれたので中のも
のを飲んだ。女性の手が僕のおとがいを支え、喉に降りてきたのは
冷たくて美味しい水だった。
﹁ん︱︱︱︱︱﹂
両腕を振り上げて思い切り伸びをする。
﹁調子はどうですか? どこか痛いとことかありませんか?﹂
﹁ん。大丈夫みたい。ありがと⋮⋮﹂
﹁どういたしまして。うふン﹂
女性は桶の水にハンカチを浸して、僕の手のひらを拭いた。
727
﹁あれ? 手の皮が擦り剥けてたので、クリーニングの準備してた
んですけど、もう綺麗に治ってますネぇ。リリスさん、﹃外傷自動
回復﹄とか﹃自動清浄化﹄とかつけてますかぁ?﹂
﹁うん?﹂
なんのことか分からなかった。とりあえず目をしばたき、介抱し
てくれた相手を視認した。
﹁あ︱︱︱︱︱︱、え︱︱︱と﹂
ボリュームの多い紫色の髪の毛に獣耳。目が釘付けになる巨乳。
トレードマークの赤い首輪。確か、この子の名前は⋮⋮。
﹁キマイラちゃん﹂
﹁はい。うふン。お久しぶりですネ﹂
パチンと音を立てそうなウィンクをひとつして、キマイラちゃん
が体をくねらせると、後方でネコ科の長い尻尾が揺れた。
﹁お久しぶり。あーえーと⋮⋮ボク、あれからどうしたんだっけ﹂
イマ
﹁どこまで覚えてますかぁ? お散歩の刑とぉ、アラビーさんとS
EXとぉ﹂
﹁そこまでしか覚えてない﹂
﹁ノープロブレム。それで全部ですよ。そして貴女は現在に至る、
ですネ﹂
﹁あ、そうだっけ?﹂
その後で大人数に輪姦されたりはしなかったんだっけ? すると、
キマイラちゃんも同じようなことを考えたらしい。
728
﹁あそこからお決まりの乱交に入るかと思ったンですけどネぇ⋮⋮。
リリスさんが気絶しちゃって、アラビーさんが介抱してやれ、って
言ったんでぇ﹂
﹁あぁ。ボクも、そうなっちゃうかと思った﹂
あの流れなら、当然そうなるはずだったが⋮⋮体の感じでは輪姦
された形跡は無かった。さっき、ウトウトとそんな夢を見た気がす
るけど。
﹁今、何時かな、っと。よっ﹂
僕はベッドサイドに足を投げ出し、振り子の反動で体を持ち上げ
る。小さくウィンドウを開いて時間を確認した。
﹁自動ログアウト、大丈夫ですかぁ?﹂
﹁ん。あと、30分﹂
﹁ですよネぇ。そろそろ皆オフしてく時間帯ですから﹂
つまり、現実世界での深夜帯から早朝帯に移行しているというこ
とだ。
﹁アラビーは?﹂
﹁アラビーさんも明日朝早いらしくって。無責任にもオフしやがり
ましたよぉ﹂
﹁なんだ。じゃあ、フェンデルは?﹂
﹁フェンさんは下に居ます﹂
﹁そっか。じゃ、フェンデルに聞いてみようかな⋮⋮﹂
でも、先の仕打ちを受けた時の恐怖が軽く後を引いている。首根
っこ押さえつけられて脅されたことに対して苦い思いがある。今フ
729
ェンデルと顔を合わすのはちょっと気が進まない。
口を尖らせて考え込んでいると、キマイラちゃんが問うた。
﹁フェンさんに何を聞きたいんですか?﹂
﹁ああ、うん。つまりさ、ボクはなんでこんな目に合されたのか、
ってこと。よく分かってないんだよね﹂
キマイラちゃんは手を叩いてケラケラ笑う。
﹁あは! 自覚無しの制裁じゃ、あンまり意味ないですネぇ﹂
全くだ。制裁って言われたって、反省や後悔どころか理不尽な思
いしかない。
﹁アラビーは落とし前だー、って言ってたけど。キマイラちゃん、
何のことか分かる? なんでボクってばさ、帰郷早々にこんな歓迎
を受けてるわけ?﹂
﹃歓迎﹄を強調する。もちろん、皮肉のつもりだ。
﹁ええ。もちろン分かりますよ。落とし前ですネ。でも、リリスさ
ん、案外楽しんでませンでしたかぁ?﹂
﹁んー﹂
その点については否定する気は無い。ドMじゃないので積極的に
肯定する気も無いけど。僕の顔を窺いながらキマイラちゃんはやれ
やれ、と首を振った。
﹁そもそも、アラビーさんがいけませんネぇ。落とし前になってま
せン、まぁ、多少のしめしはついたでしょうが。私から言わせれば
730
全然甘いですよ。フェンさんも、いい顔はしてなかったですネ。女
に甘いようでは舐められますよ﹂
﹁どういうこと?﹂
﹁リリスさんはアラビーさんの顔に泥を塗りましたでショウ? だ
から、お仕置きですネ。そういう姿勢を周囲に見せることが大切な
んですよぉ﹂
﹁泥、塗った?﹂
少し、考えてみる。
アラビーの一応愛人?でありながら出奔したままなかなか帰って
こなかったこと。連絡のひとつもしなかった事。出て行った先々で
時に派手に色事を楽しんだこと。不特定多数に抱かれたり、モンス
ター姦を試したり、奴隷を買ったりしたこと。
うーーーーーーん⋮⋮。心当たりが無いわけじゃないけど、どれ
も決め手に欠けるような。だって、これっくらいのことは、僕を冒
険に送り出す段階でアラビーにだって想像がついてたはずだし⋮⋮。
いや、でも男ってのは口で言ってみせるほどに心が広くないもの
かも。口ではいいよって言っておきながらいざとなるとご立腹、み
たいな。
﹁はい。男連れで帰還したのは良くなかったですネぇ﹂
﹁え? ⋮⋮あぁ、それなの?﹂
回答のカードに僕はびっくりした。男連れで帰還、って⋮⋮ペシ
ミークのことだよね?でも、それって、そんなに悪いこと? ﹁女に浮気される男はてきめんに評価を下げますから﹂
﹁はぁ。なるほど﹂
ペシミークは別に僕の恋人でも何でもないんだけど。納得がいっ
731
たようないかないような。そんなことで怒るなんて、アラビーも案
外心が狭いというか。ケツの穴がちっせぇ。
﹁⋮⋮いや、そもそも、アラビー怒ってるの?﹂
﹁さァ。いい気はしてないと思いますけど。別に怒ってないんじゃ
ないですか? 機嫌良さそうでしたし。今回のこれは周囲に対する
ただのデモンストレーションです。言ったでしょう? おとしまえ、
って。面子を守る為の儀式です﹂
﹁あぁ、やっぱり。そうなんだ﹂
﹁えぇ、アラビーさん、リリスさんには寛容ですから。完全に惚れ
た弱みってやつですネぇ﹂
﹁ボク、惚れられてるの?﹂
気に入ってもらってる自覚はあるが、正直、そこまで深い付き合
いでも無かった気がする。しかし、キマイラちゃんは大きく頷いた。
﹁アタシから言わせれば︱︱︱︱︱︱﹂
と、そこでノックの音が聞こえてフェンデルが入ってきた。
﹁やぁ。リリス起きた? 調子はどう?﹂
しれっとした顔しやがって。僕は苦虫をかみつぶしたような顔を
して見せた。が、フェンデルの態度は飄々としたものだった。
﹁回復魔法は必要なかったみたいだけど、どこかに傷が残ってない
? クリーニング薬あるよ﹂
﹁別に、痛いとこはないけど﹂
﹁回復魔法が必要なかった、ってどういう意味ですカぁ?﹂
732
キマイラちゃんがフェンデルに尋ねる。
﹁リリスの装備品。自動回復付与の﹃太陽石のペンダント﹄だった
から。しかも、レアの効果が大きいサイズだね﹂
﹁エ∼∼∼。いいですネぇ! 見せてくださぁい﹂
﹁あ、うん。どうぞ﹂
僕は胸元から簡素な石のついたペンダントを引っ張り出す。今は
元通りの衣服と装備品を身に着けているが、誰が着せてくれたのだ
ろう。
﹁わぁ。地味ですネぇ。そんないいアクセサリなら、加工とか、強
化すればいいのにぃ﹂
そうか。この世界、装備品の強化システムとかも実装されてるん
だ。メジャーなシステムではあるけど、今まで絡んでこなかった分
野だ。加工すれば見栄えが良くなるのかな?どうせならばニエグイ
のロッドの方を進化させてみたいところだ。
相変わらず、このゲームのシステムに疎い僕だ。それに、さっき
から二人が言ってる﹃クリーニング﹄の意味もよくわからない。
﹁クリーニングって何? ﹃回復﹄とどう違うの﹂
﹁クリーニングは残存外傷を修正することだよ。代表的なクリーニ
ング薬がこれ、﹃清浄布﹄。水に浸して修正したいところを拭くん
だ﹂
フェンデルが布状のアイテムをひらひらと振った。薬っていうか、
アイテムじゃん。
﹁ざんぞん、がいしょうってのは?﹂
733
﹁﹃回復﹄すると大抵の怪我や傷は治るけど時々痕が残るんだよ。
これを残存外傷、って呼ぶ。どういう条件で残存外傷ができるのか
は分からないけど、故意につけた傷を残したい場合との線引きが難
しくてシステム上できたグレーゾーンらしいね﹂
クリーニング
フェンデルの説明によると、﹃回復﹄の一番の目的は﹃HPの回
復﹄であり、アバターの外見的な傷を完璧に直したいなら﹃清浄化﹄
が目的にマッチしているということだった。
説明してもらっておいて悪いけど、大して面白い話でも無かった。
故意につけた残したい傷、っていうのがどんなものか想像しづらか
ったが、例えば刺青みたいなものを指すんだろうか。
﹁ふぅん⋮⋮﹂
﹁確認しましたけど、リリスさんクリーニング不要でしたよぉ。そ
ういうスキル持ちですかネ﹂
﹁へぇ。リリスは﹃自動清浄化﹄のスキルをつけてる? それとも
﹃外傷自動回復﹄?﹂
﹁えっ⋮⋮? さぁ⋮⋮﹂
あからさまにはぐらかしたような返答に、フェンデルは訝しむ表
情を作った。フードの下の目つきが鋭い。
﹁えーっと、いや、別に誤魔化してるわけじゃなくって。僕自身、
自分のセットしてるスキルの内容をちゃんと把握してなくって。特
に最近新しいスキルゲットしたばっかりで、適当にスキルカードに
転写したり、放置したりで⋮⋮﹂
慌てて弁明してしまう。先のトラウマでなんかまだフェンデルが
怖く感じるんだよ。別にさ! ビクビクする必要は無いと思うんだ
けど!
734
﹁⋮⋮。それは⋮⋮なんていうか、おおらかな話だね﹂
隣でまたキマイラちゃんがケラケラ笑う。
﹁リリスさん、相変わらず面白いですネぇ!﹂
別に面白い回答をしたつもりは無い。でも、確かにスキルセット
が肝心要のこのゲームで、自分のスキルを把握していないというの
は一種トンデモなのかもしれない。
久々にアーカイブと攻略サイトをチェックして自分のスキルの確
認くらいしておこうかな⋮⋮。
735
episode24︳3︵後書き︶
次話、久々にスキルの説明書き予定。
⋮⋮︵・∀・︶メンドイ!!
736
episode24︳4
ログアウト後、僕は参照可能なプレイログを見ながら﹁リリス﹂
が覚えているスキルを確認し、攻略サイトと照らし合わせた。今、
リリスがセットしているスキルは以下だ。
・自動スキル:﹃色欲﹄﹃暴色﹄﹃超越せし乙女﹄﹃淫行のすゝ
め﹄﹃幼き妖女﹄
・呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄﹃エルフの口づけ﹄﹃破壊の
風/水/火/土﹄﹃スピリットアロー﹄﹃メテオクラッシュ﹄
ああ、スキルカードに転写に転写してあるスキルも忘れてはいけ
ない。
・自動スキル﹃女神の守護﹄﹃豚の女王﹄
・呪文スキル﹃ハトホル召喚﹄
そしてこれらのスキルについて調べた結果をテキストエディタに
コピーし、次のログイン時に持ちこめるように準備した。そうして、
ゲーム内で参照できるアーカイブデータと組み合わせて精度の高い
情報にした結果がこれ。
自動スキル:﹃色欲﹄・・・性交で経験値入手
習得方法:異性との性交 自動スキル:﹃暴色﹄・・・﹃色欲﹄の効果上昇。
習得方法:①淫属性+レベル50以上 ②未公開 ③レベル15
737
以上の魔物との性交
自動スキル:﹃超越せし乙女﹄・・・﹃乙女﹄最終スキル。以下
の5つのスキルを併せ持つ。
・﹃乙女の祝福﹄︵歩行で経験値増加︶
・﹃乙女の行進﹄︵歩行でHP回復︶
・﹃乙女の純情﹄︵歩行でMP回復︶
・﹃乙女の鉄壁﹄︵破瓜後も乙女属性継続︶
・﹃乙女の目覚め﹄︵起床時にリフレッシュ︶
習得方法:①女神へのクラスチェンジ ②未公開 ③乙女がレベ
ル1の状態で﹃破瓜﹄イベント達成
自動スキル:﹃淫行のすゝめ﹄・・・性交渉でG入手
習得方法:乱交イベント達成
自動スキル:﹃幼き妖女﹄・・・性交渉時の痛みが軽減
習得方法:①未確認 ②16歳以下の女キャラが乱交イベント達成
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄・・・HPを回復︵単体︶
習得方法:①エルフ種で誕生 ②エルフ種に転生
呪文スキル:﹃エルフの口づけ﹄・・・状態異常を回復︵単体︶
習得方法:①エルフ種 総合レベル10以上 ②未確認 呪文スキル:﹃破壊の風/水/火/土﹄・・・単体攻撃魔法。使
用時に属性﹁風/水/火/土﹂から選択
習得方法:①エルフ種 総合レベル20以上 ②未確認 呪文スキル:﹃スピリットアロー﹄・・・単体攻撃魔法。属性﹁
弓﹂﹁光﹂
738
習得方法:①魔力:50以上 ②未確認 ③未確認 呪文スキル:﹃メテオクラッシュ﹄・・・全体攻撃魔法。属性﹁
打﹂﹁闇﹂
習得方法:①魔力:65以上 ②未確認 ③未確認 自動スキル﹃女神の守護﹄・・・守護女神による祝福状態になる。
※祝福内容は女神によって異なる。
習得方法:①女神の祝福イベント達成 ②未確認
自動スキル﹃豚の女王﹄・・・豚人種を従える。豚人種に対して
以下の3つの効果が発動可能。
・﹃仲間化﹄︵未確認︶
・﹃貢物ゲット﹄︵未確認︶
・﹃強制服従﹄︵未確認︶
習得方法:①未確認 ②豚人種を性交により魅了
呪文スキル﹃ハトホル召喚﹄・・・守護女神ハトホルを召喚
習得方法:①女神ハトホルの祝福イベント達成 ②未確認
僕の利用している攻略サイトは無料版だから肝心の情報は少ない
し、気を持たせる様なカミングスーンの歯抜けばかりだけど、それ
でも目新しい発見があった。面倒臭がらずにたまには攻略サイトを
覗くのも有益だ。
さて、ぱっと見たところ、自動スキル﹃淫行のすゝめ﹄と﹃女神
の守護﹄、呪文スキル﹃スピリットアロー﹄と﹃ハトホル召喚﹄を
それぞれ入れ替えるといい気がする。ただ、入れ替えようと思うと、
﹃淫行のすゝめ﹄﹃スピリットアロー﹄を外す必要があるわけで、
739
外してリザーブ行になった場合にこの二つのスキルが消失してしま
うのはもったいない。
今の所﹃淫行のすゝめ﹄で得られるGはわずかなものだけど、こ
れも﹃色欲﹄に対する﹃暴色﹄みたいに効果上昇スキルが存在する
と思うから、そいつをゲットして組み合わせれば有益になる。﹃乙
女の祝福﹄で地道に経験値を得られる僕にしてみれば﹃色欲﹄より
も﹃淫行のすゝめ﹄を活用していきたい別にさほど強くなりたいわ
けじゃなくて、それより遊ぶ資金を得られる方が嬉しいからだ。
﹃スピリットアロー﹄はまぁ、消失してもさほど損害じゃないけ
ど、今までの戦闘で長らく使って来たから慣れているというか⋮⋮。
弱点を射抜くような場合に結構使い勝手が良くて手放すのが惜しい
⋮⋮。
そんな風にあれこれ考えて、悩みを解決するにはとりあえずスキ
ルカード︵白紙︶がもう数枚必要だという結論に至った。
あと、気になったのは自動スキル﹃超越せし乙女﹄に含まれる5
番目のスキル﹃乙女の目覚め﹄。起床時にリフレッシュって、随分
と曖昧な効果だけど何のことだろう? 以前アーカイブをチェック
した時には﹁未確認﹂表示だったから未経験だったということだけ
ど。うーん⋮⋮。何をもって﹃起床﹄と定義されるのか、﹃リフレ
ッシュ﹄とは何のことなのか、分からないことだらけだ。
ちなみに自動スキル﹃豚の女王﹄はすぐにセットする必要は感じ
ないけれど、使える局面では面白そうだ。豚人種を仲間にしてエロ
い遊びをするのも良いんじゃないかな。豚人に命令して可愛い女の
子を襲わせてヒィヒィ言うのを眺めたいなぁ。
**
740
久々に帰還したドッグベルは、相変わらずだった。カラリとした
陽気で舗装道路の上を走ると軽い音が鳴る。町並みが変わっていな
いのはもちろんのこと、馴染みの店にいけば見知った顔がちらほら
いた。とりたてて特徴のある街ではないけど、ここに腰を落ち着け
るユーザーは少なくないらしい。
﹁なにせ、ドッグベルは、住みやすいですからねぇ。町人系ジョブ
のプレイヤにとってどこに住むかは最重要問題ですが、私には合っ
てましたね⋮⋮と、はい、こちらが商品と、お釣りです﹂
ノルデの営む雑貨屋に寄った僕は、目当てのアイテム﹃スキルカ
ード︵白紙︶﹄を手に入れることができた。﹃スキルカード︵白紙︶
﹄は結構レアなアイテムであるらしいが、流石の品ぞろえと言うべ
きか。通常流通していないようなアイテムでもこの店には揃ってい
る。
所持金の大部分を費やして購入した﹃スキルカード︵白紙︶﹄3
枚をアイテムBOXに放り込み、僕は尋ねた。
﹁住みやすいの? でもドッグベルって、ちょっと、治安が悪くな
い?﹂
﹁そうですね。ほどよく、悪いです﹂
⋮⋮おかしな日本語だ。
ノルデが両手の指を組み合わせて愛想よく語るところによると、
彼もこの街に長らく在住している一人だという。
﹁ドッグベルは﹃裏の色街﹄なんです。運営により初めから設定さ
れているお仕着せの色街じゃなくて、ユーザーの手によって自然に
741
出来上がったタイプですね。だから、リリスさんのおっしゃる通り、
治安が悪いといえば悪い。表向きはごく平凡な街ですけど、一歩道
を間違うと危険の多い歓楽街だったりします。でも、その割には女
性プレイヤが多いですよ﹂
﹁それって、プロのお姉さんが多いってこと?﹂
﹁もちろん、それもありますが、そうじゃない人も多いです。そし
て根拠はありませんが、女性プレイヤが多い街っていうのは住みや
すい証拠です﹂
﹁ふーん?﹂
女性が多いと言われても、パッと見ただけではプレイヤキャラと
NPCの区別がつかないのでいまいちピンと来ない。でも、言われ
てみればそうなのかも。酒場とか宿屋とか人の集まる場所に行くと
個性的な衣装のキャラを結構見かける。
そしてお仕着せの色町、っていうのは例えば以前に僕が立ち寄っ
た﹃花の街フローランス﹄なんかを指すんだろうな。
﹁なんでだろう﹂
﹁さぁ。私にもハッキリとは分かりませんが、やはりこの空気感で
は? ほどよく、悪い。これが住みやすさの秘訣ではないですかね。
せっかくのアダルトゲーム世界なのに清廉過ぎても面白くないし、
かといって乱れすぎていても困る﹂
﹁白河の清きに魚が住みかねるってことかな﹂
﹁おや。博識ですね﹂
ちょうど学校で習ったとこ、と言いそうになり僕は口をつぐみ咳
で誤魔化した。ノルデは出来のいい生徒を見るような目でニコニコ
と笑っている。
﹁それに、商売もやりやすいです。不当なみかじめ料もありません
742
し。特に初心者が露店をやるには向いてます。店を構えるにも派閥
が無いので面倒が無い。その点では本当に、アラビーさんには頭が
上がりませんよ﹂
ん?
﹁なんで、そこに急にアラビーが出て来るの?﹂
﹁はい?﹂
僕とノルデはお互い不審げに顔を見合わせた。
**
ペシミークがいつの間にか僕のパーティーメンバから外れている
のには気づかなかった。パーティーに加える為にはリーダーと該当
メンバ双方の承認が必要だけど、外すのはどちらか片方の任意で成
立するから、勝手に離脱することが可能だ。本人から言われて初め
て知った。
再会したペシミークの顔面左側には大きな青痣、口元には切り傷
の跡がついていた。最近知った単語、残存外傷、ってやつだ。そし
て事件的に言えば﹃明らかな暴行の跡﹄。
﹁ちょ、それ、どうしたの﹂
﹁ちょっと、ね。まぁ、気にしないでよ∼﹂
尋ねながら、僕は原因となる一つの理由を思いついていた。
﹁⋮⋮もしかして、ボクのせい⋮⋮?﹂
﹁いやいや、リリスちゃんのせいじゃないよ∼ちょっと、僕の見込
みが甘かったと言うか、いや、違うな。運が悪かっただけ。よくあ
743
ること、よくあること﹂
ヘラヘラと曖昧な回答を返すペシミークの傷跡を見つめながら、
僕は一気に暗い気持ちになった。まさか﹃落とし前﹄の被害がペシ
ミークにまで及ぶとは考えていなかった。いや、考えればさもあり
そうな話だけど、そこまで頭が回っていなかった。
ペシミークは別に僕の彼氏でも何でもないのに⋮⋮誤解で暴行を
受けたのなら、酷い話だ。
﹁だいじょう、ぶ?﹂
﹁だいじょーぶ、だいじょーぶ﹂
﹁やっぱりボクのせいだよね⋮⋮なんか、ごめん⋮⋮﹂
﹁いやいやいや、謝らないでいいよ。こういうのは、よくあること
だって﹂
沈痛な顔をした僕の謝罪を打ち消して、ペシミークは手をヒラヒ
ラさせた。
﹁この傷跡だって、消そうと思えば消せるんだから。残してあるの
は反省の姿勢をアピールしてるだけだし。リリスちゃんは気にしな
くっていいよ﹂
﹁でも⋮⋮﹂
言いさした僕をペシミークが更に止める。
﹁ほんとに、いいんだってば。ナンパした女の子に手ぇ出して、男
に殴られるのなんてよくあることだし、必要経費っていうの? 想
定済みのリスクだって﹂
なんだか情けないペシミークの弁に一周回った侠気を感じ、僕は
744
困り顔のまま笑ってしまった。痛いの嫌い、とか言っていた割にナ
ンパには情熱かけてるんだな。
﹁それより、リリスちゃんの旦那さんは大物なんだねぇ∼。確かに
殴られはしたけどさ、その後にビジネスの話もきちんとさせてもら
えたし、ねちっこく後を引くタイプじゃなくて良かったよ﹂
﹁大物?なのかな⋮⋮。なんかその辺ボクもよく分かってないんだ
けど。それにビジネスの話、って?﹂
﹁うん。僕、新しい居住地を探しててね∼この街で店を開こうかな、
と思って﹂
ちょうどノルデと似たような話をしたばかりだったので、タイム
リーだな、と思った。
﹁ふぅん? でも、ペシミークってライラック港町に立派な店持っ
てたじゃん。なんでわざわざ引っ越したいの﹂
﹁ライラック港町で出会える女の子には限りがあるからね∼﹂
﹁そんなのばっかだね﹂
そういうキャラメイクなの? それとも素なの?
﹁女の子同士が鉢合わせして修羅場になったり、ドロドロしたり、
ちょうど人間関係が難しくなってきたところだったからさぁ﹂
﹁男に殴られたり、女に引っ掻かれたり?﹂
﹁そう!そう﹂
﹁⋮⋮で、逃げ出したと?﹂
﹁いや∼そんな風に言われると恥ずかしいけどねぇ﹂
前言撤回。全然男らしくなんかない。ため息をつく僕の傍らでペ
シミークはつぶやく様に付け加えた。
745
﹁それに、あの街での勢力争いにも嫌気がさしてきたとこだったし
⋮⋮﹂
﹁え? 何が?﹂
﹁あぁ、ううん。なんでもない。ま、とにかく、この街はいいね。
ボスが力持ってるから対外勢力に怯えなくていいし。無実の罪で殴
られたことで逆に貸しができて、ラッキーだったかもなぁ﹂
案外本音らしく、ペシミークは軽い口調だ。そして、ここに及ん
でようやく僕もアラビーがドッグベルにおける想像以上の権力者だ
ということを悟った。別に、ふーん、って感じではあるけど。
﹁なにせ、この街に住めば大好きなリリスちゃんとしょっちゅう会
えるっていうのも悪くないしねぇ﹂
お決まりの安い口説き文句に、僕はちょっと意地悪な気持ちで聞
いてみた。
﹁じゃ、今からエッチでもする?﹂
するとペシミークはちょっと引き攣った笑顔で一瞬止まった。
﹁⋮⋮ありがたい誘いだけど⋮⋮止めとく﹂
ペシミークを誘って断られるのには既視感があった。ただし、今
度は﹃へたれチキン﹄と呼ばなくても良い十分な理由がある。
746
episode25︳1:女神召喚
街をぐるりと囲む壁に沿って生えている樹木の下、手頃なベンチ
が設置されているのを見つけて腰を降ろした。屋外では初夏の陽気
が眩しく、木陰の静寂さが心地よい。
ステータス情報をあれこれいじるのは、こういう人が少ない場所
の方が適している。雑踏の中で片手間にウィンドウを開くと人にぶ
つかったりして危険だし、そういうカモを狙ったスリなんかもいる
そうだから。
まず、スキルカード︵白紙︶をアイテムBOXから取り出す。ト
ランプくらいの大きさの薄いカードだ。事前に検討していた通り﹃
淫行のすゝめ﹄﹃スピリットアロー﹄を﹃女神の守護﹄﹃ハトホル
召喚﹄と入れ替えると、それぞれ白紙にタロットカードみたいな神
秘的な図柄が焼き付けられた。
﹃女神の守護﹄をセットすることでステータスに何か変化があるか
と思ったが、特に変わり無し。守護女神による祝福状態になってい
るはずなんだけど、その効果はまだ不明だ。
ステータス上、今のリリスの総合LVは56。ウィシャス攻略後
に55だったから、ドッグベルに戻ってくるまでに1上がったよう
だ。帰路、そこそこ戦闘もこなしたし、徒歩数も稼いだつもりなの
で1しか上がってないのはちょっと残念。
⋮⋮さて、それではいよいよ女神ハトホルとやらを召喚してみよ
うか。
このスキルに関しては使用が先延ばしになっていたけど、ずっと
気にしていた。美味しいものを後に取っておく要領でいまや期待は
747
大きく膨らんでいる。満を持して、という感じ。
キラキラした後光エフェクトを背負った美しい女神様が現れて鈴
の鳴るような声で﹁わたくしを召喚したのはあなたですか?﹂から
始まるのがセオリーだよね。でも、ま、何でもとりあえず使ってみ
ないことには中身が分からないのがこの世界の基本。戦闘時にしか
使用できないスキルじゃないといいけど⋮⋮。
少し心配しながら、呪文スキル﹃ハトホル召喚﹄を選択。
⋮⋮いや、ちょっと待て。えっ、使用MP120!? 多っ!!
ええと、僕の今の最大MPが128だから⋮⋮。
﹁良かった⋮⋮ギリセーフ⋮⋮﹂
﹁何がじゃ?﹂
﹁えっ! うっ⋮⋮うわぁあっ!!﹂
ベンチの真横、至近距離に忽然と人が沸いて出た。何の前触れも
無い急な出来事に驚き、のけぞった僕は後方につこうとした手がず
り落ちてバランスを崩した。
ひっくり返る一瞬、木漏れ日の間から空が見えて﹃あ、転ぶ﹄と
認識したところで何か柔らかいものが顔に押し当てられた。
ふにゃり。
﹁っ⋮⋮!﹂
﹁⋮⋮いったい何を大騒ぎしておるのじゃ⋮⋮。危ないぞよ﹂
しっかりと支える腕が背中にあてられている。ひっくり返りそう
になった僕は突然現れた女性に助けられた。いや、そもそもひっく
り返りそうになった原因がこの女性なわけだから、イーブンな気も
するけど⋮⋮なんて、ことはどうでもいい。
抱きしめられる恰好となった僕の顔は柔らかいマシュマロの山に
748
埋もれている。この至福の心地は⋮⋮。
﹁むは∼∼∼∼!!﹂
﹁意味不明の叫びじゃな。分かりやすう説明せい﹂
﹁おっぱい!!﹂
﹁⋮⋮ふむ﹂
ふにふにした双丘は頬を包み込みながら吸い付くような感触。体
温の比によるものか、少しひんやりとした温感だが気持ちがいい。
強く押すと弾むような跳ね返りが素晴らしい。
なんでパフパフ状態になっているのかは全く分からないが、とり
あえず理由はそっちのけで僕はその天国を味わう。
ふわふわ。むにむに⋮⋮むっちり⋮⋮ぽわんぽわん。
﹁これ。人の乳で遊ぶでない﹂
﹁おっぱい最高﹂
すると、頭上からふーっ⋮⋮というため息が聞こえた。これが女
神ハトホルと僕の初の出会い。いや、この時点では女神ハトホルの
おっぱいと僕の出会いだった。
**
ハトホルは愛と幸運を司る古代エジプトの女神様で、その姿の象
徴は雌牛である︵らしい︶。
肩甲骨ほどまである豊かな黒髪は漆黒といってもいいほどで、い
っそ重たげだ。目の周りを黒く縁どる妖艶なメイク、青紫色の瞳の
色に合わせて唇には紫色の口紅を塗っている。女神と言うだけあっ
て、単純な美人ではなくどことなく人と隔絶した感じの荘厳さがあ
る。
749
しかし、外見でいえば特筆すべきは衣裳の方で、腰から下を覆う
オレンジ色のタイトスカートを履き、頭上と耳、手足首に金の装飾
具を付けている。そして⋮⋮それだけだ。つまり、上半身は真っ裸。
生のおっぱいが惜し気も無く外気に晒されていた。
﹁あのさ、丸出しだけど⋮⋮それはありなの?﹂
﹁﹃それ﹄とは、なんのことじゃ﹂
﹁おっぱい﹂
﹁意味が分からぬ。分かりやすう説明せい﹂
﹁ハトホル様はおっぱいが丸出しになっていますが、問題はないの
ですか?﹂
﹁ふむ。そういう問いかけか。答えよう。問題ない﹂
﹁いやいやいや。問題あるでしょ!! 問題あるでしょ!!﹂
二回言ってみたが、当のハトホル様は涼しげな顔だ。
﹁問題? 何が問題なのじゃ﹂
﹁おっぱい丸出しって、恥ずかしいじゃん!﹂
﹁わしは恥ずかしくない。これは、古代エジプトの流行のファッシ
ョンの一つじゃ﹂
﹁あ、そうなんだ⋮⋮って納得できるかぁ! 見てるこっちが恥ず
かしんだってば。お願いだから、何か羽織ってよ﹂
﹁羽織る? 女神の装備品は変更できぬ﹂
﹁そんなぁ⋮⋮﹂
ハトホル様は雌牛を象徴とするからなのか、大変見事な御おっぱ
いをお持ちでいらっしゃった。たっぷりたわわ、なんていう月並み
な表現では追いつかない。僕の好きな巨乳女優が﹁Fカップです﹂
と言っているのを聞いたことがある。それと比較するところでは、
倍くらいありそうだから⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮L
750
カップ?
召喚した女神様は僕の隣を歩いて着いて来る。しかしこうなると
本当に眼福∼眼福∼なんて喜んでいられなくなってくる。なぜか?
考えてみても欲しい。おっぱい丸出しの痴女と連れ立って街を歩
くという状況の過酷さを。
﹁ちょっ、ちょっと。すっごい、人に見られてるけど﹂
﹁何がじゃ﹂
﹁だから、おっぱいだよ!﹂
﹁意味が分からぬ。分かりやすう説明せい﹂
わぁ。デジャブ!
﹁ハトホル様はおっぱいが丸出しになっていますので、無駄に人々
の注目を集めています。問題ありますよね?﹂
﹁ふむ。そういう問いかけか。答えよう。問題ない﹂
﹁うわーん!! だから、ボクが恥ずかしいんだってば。ほら、あ
の女性なんて明らかにドン引きしてるし。ボクの評判が悪くなるよ﹂
﹁なぜ、ぬしの評判が悪くなるのじゃ? それに、随分と人目を気
にするタイプじゃのう﹂
﹁最初の質問への回答はパス。人目を気にするタイプなのは割と正
解。あぁ、そうだ、とりあえず帰ってよ! 特に用事は無いからさ﹂
﹁用事が無いのに召喚したのか? しかも帰れとな? 酷いことを
言うのう。わしにとっては久々のシャバじゃ。もう少し堪能したい
ぞよ。それに、召喚されておきながら何もせずには帰れぬわ﹂
ハトホル様はぷぅと頬を膨らませた。外見が大人びているのに幼
い仕草をすると意外と可愛い⋮⋮。
しかし特に用事も無いのに召喚したことはハトホル様のご機嫌を
751
害したようだった。僕は少し下手に出て尋ねる。
﹁ごめんなさい。じゃあ、どうすれば帰ってくれるの?﹂
﹁ふむ。初のまともな質問じゃな。答えよう。3時間後に自動的に
帰還する仕様じゃ﹂
﹁さ、3時間!! ぐっ、長い! ⋮⋮じゃあさ、せめて離れて歩
いてよ!! お願い﹂
﹁それは、仕様上、無理じゃ﹂
﹁うわーん!! それ、要らない仕様!﹂
取り付く島がない。召喚したハトホル様を帰還させることができ
ず、付きまとわれる恰好となった僕は困りはてた。おっぱいがちょ
っと出ちゃってるくらい別に大したことじゃないような気もする。
が、ハトホル様のおっぱいは、なにせ凄い。とびきりデカいし、エ
ロいのだ。
おっぱいっていうのはあまりに大きいとエロさがなくなると思っ
ていたけど、彼女の御持ち物を見て僕は考えを変えた。
それは重みで下に引っ張られるタイプの下がり乳で、いかにも柔
らかそうだが横と下のラインにはハリがあり、見る者に押した時の
弾力を想起させる。乳首の色はやや黒みがかった紅色。乳房に相当
して乳輪も大き目。ぷっくりした乳輪の先端に半分立ったくらいの、
思わず口に含みたくなるような乳首が乗っかっている。
一言で言えば成熟した女性のエッチなおっぱい、って感じ。
こんなおっぱい様を連れてこのまま街をウロウロ歩いたりしたら、
僕まで痴女扱いだ。いや、もしかしたら僕の方が﹃主犯﹄みたいに
思われてより変態扱いされてしまうかもしれない。露出プレイを強
要するレズのご主人様、みたいな
752
﹁⋮⋮最悪﹂
﹁何がじゃ?﹂
﹁現状﹂
﹁ふむ﹂
とりあえずログアウトしてしまおうと思ったが、ほどなくしてそ
れすら困難を要することが分かってきた。さほど人通りの無い道を
選んだのに、行きかう人々の視線は痛いくらいに僕らに集中してい
る。目を丸くしておっぱいを凝視する人もいれば、ハトホル様のお
っぱいを直接見ないで非難するように僕の顔をジロジロ見てくる人
もいる。
ログアウトする為には人通りの多い道をいくつか通らざるを得な
いし、何よりホームポイントがある広場は多くのユーザーで賑わっ
ている。あの場所にハトホル様を連れて飛び込む勇気が僕には無い。
﹁どうしよう⋮⋮﹂
ぐやぐやなんじをいかんせん。このおっぱいをいかんせん。学校
で習ったばかりの一節を思い浮かべながらため息をつく。
そうだ、困った時の他人頼みだ。僕は助けてくれそうな人の顔を
二つ思い浮かべた。一つはサイミン、それからもう一つはアラビー。
アラビーとは先日確執︵?︶があったばかりだから顔を合わせにく
い気もする。だけど、サイミンとは﹁今日は自由行動ね!﹂と通達
して別れたばかりだから呼び戻すのも悪い。何せ最近のサイミンは
自由時間には上位AIとしてのお勉強をしにどこかへ行っているら
しいのだ。どんなお勉強なのか想像もつかないけれど、邪魔をする
のは気が引ける。
﹁しょうがない。アラビーのところに行こう﹂
753
﹁アラビーとは何じゃ?﹂
﹁ボクの⋮⋮友人﹂
﹁ふむ﹂
アラビーがログインしているかは分からないが、とりあえず馴染
みの﹃しわ花街﹄に行けば誰や彼や頼りになる人間はいるだろう。
それに、あの店ならおっぱい丸出しの女性を迫害したりしない⋮⋮
否、喜んで受け入れてくれるはずだから。
754
episode25︳2
人の少ない道を選びながら﹃しわ花街﹄に向かう途中、きな臭い
連中につけられていることに気づいた。不思議ではない。露出美女
を連れて歩けば、暇な人間の気を引くのは当然のことだ。かつては
ミニスカートを穿いているだけで痴漢を誘っていると言いがかりを
受ける時代もあったらしいし、いつ、いずこも同じである。
⋮⋮とはいえ、そう悠長にもしていられなかった。僕はおかしな
火の粉が降りかかる危険を感じ、仕方なしに人通りの多い道に進路
を変えた。
しかし⋮⋮そこに待ちうけているのは想像以上の試練だった。
﹁駄目だ⋮⋮。皆にめちゃくちゃ見られてる。どうしよう⋮⋮﹂
裸の同行者を連れて歩くというのは、もしかしたら自分が裸で歩
くよりも恥ずかしいかもしれない。すれ違う時に目を丸くするのが
プレイヤキャラ、素知らぬ顔をしているのがノンプレイヤキャラ⋮
⋮そんな区別方法を見出しても何の得にもならなかった。
︱︱︱︱︱︱うっわ⋮⋮露出狂⋮⋮って初めて見た
︱︱︱︱︱︱あのピンクの方がご主人様?
︱︱︱︱︱︱いや、別の所で監視してるんじゃない?
︱︱︱︱︱︱マナー違反だっつーの。うぜぇ
︱︱︱︱︱︱いや、これはワッフルワッフルと言わざるを
︱︱︱︱︱︱通報したらぁ⋮⋮
衆目は大半が冷たく、嘲りを含んでいる。時折耳に入る陰口は、
755
わざと僕の耳に聞こえるように言われているのだろう。弁解できず
にひたすら耐えるこの屈辱たるや。
一応、肯定的に受け入れてくれる人間も一部存在した。ただし、
それは性欲をあらわにする不躾な男どもばかりで何の嬉しさも無か
った。
﹁街は久々じゃ。見たところ、わしの故郷とは随分違う文化圏のよ
うじゃが、賑やかで良いのう﹂
﹁ちょっと、あんまりキョロキョロしないでよ。これ以上目立たな
いように﹂
おっぱいを丸出しにしているのはハトホル様だ。が、ハトホル様
は全く動じることなく堂々としている。逆に、顔を染めてうつむき、
恥辱に身を震わせているのは僕の方。これっておかしくない?
﹁うう⋮⋮辛いよぉ。耐えられない。もう、誰か助けて⋮⋮﹂
﹁何を困っておるのじゃ? わしに出来ることがあれば助けてやっ
ても良いぞ﹂
﹁うわぁ⋮⋮分かってない﹂
NPCに空気を読め、文脈を読め、と言っても詮無いことだとは
分かっている。だけど、今までの会話の流れからして、悩みの種が
ハトホル様ご自身だということは察してくれても良さそうなものだ。
﹁ハトホル様、意外とAIレベル低いんだな⋮⋮﹂
﹁なんじゃと?﹂
﹁いえ、なんでもないです。それより、助けてくれるならそのおっ
ぱいをどうにかしてよ﹂
﹁おっぱいをどうにかじゃと? 揺らすくらいしかできぬぞえ﹂
﹁揺らしてどうする! 状況が悪化するよ!﹂
756
﹁ふむ﹂
と、すれ違いざまに女の子のつぶやいた言葉が僕の耳に届いた。
︱︱︱︱︱︱やだぁ。変態
グサリ。この一言はシンプルに僕の胸に突き刺さった。我慢の限
界だ。僕はその場から逃げ出すように、一番近くの細い路地に飛び
込んだ。
﹁くぅ⋮⋮∼﹂
人目につかないところまで行き、その場にうずくまる。僕の負っ
た精神ダメージは大きかった。両手で顔を覆ってプルプルと震え、
思いっきり叫びたい嵐のようなむず痒い気恥ずかしさが通り過ぎ去
るのを待った。
﹁リリスよ﹂
﹁な、に?﹂
つい、返事が刺々しくなる。
﹁もしや、わしが乳をさらけ出しているのが恥ずかしくてたまらぬ
のか?﹂
﹁そうだよ! ってか、ずっとそう言ってるじゃん!﹂
﹁わしの乳が無駄に衆目を集めてるのが恥ずかしい、ということか
?﹂
﹁そうだよ⋮⋮。ってか、それもさっきボクが言ったことだし⋮⋮﹂
﹁ふむふむ。なるほどのう﹂
757
ハトホル様のどこかピントがずれた会話に脱力してしまう。
﹁では、わしの乳が一時的になくなれば良いのじゃな?﹂
﹁え? どういう意味? え?﹂
﹁わしの乳を隠せば良いのじゃろう?﹂
﹁うん⋮⋮そうだよ! できるの?﹂
突然の光明のような言葉に僕は立ち上がり、食いつく。
﹁できるぞよ﹂
﹁お、おお! うん、それをお願いしてるんだよ。ボクは、最初か
ら。えぇ? それすら伝わってなかったの?﹂
﹁ぬしから依頼されたのは何か羽織る、帰る、離れて歩く、目立た
ないように、おっぱいを揺らすの5点じゃ。わしの乳をなくして欲
しいとは頼まれておらぬ﹂
﹁おっぱいを揺らすは頼んでないし⋮⋮。でもいいや、そのおっぱ
いを一時的に隠す、見えなくする、そういうことが可能な手段があ
るなら頼むよ﹂
﹁良かろう。実は、わしの姿を一時的に見えなくする手段があるの
じゃ﹂
ハトホル様はちょっと誇らしげに胸をそらして言った。巨乳がバ
イーンと音を立てた気がした。が、僕は既にハトホル様のおっぱい
を﹃エロいもの﹄としてではなく﹃厄介なもの﹄として認識してい
たのでそそられることはなかった。
﹁なんだ∼!それならそうと早く言ってよ! で、それはどういう
方法なの?﹂
﹁女神の持つスキルの一つ、﹃憑依﹄じゃ。ぬしから見れば﹃神降
ろし﹄じゃな。わしがぬしに憑依し、女神の加護でパワーアップさ
758
せるというものじゃ。本来は戦闘時などに使用することが多いのじ
ゃが⋮⋮まぁ、制限があるわけでもないからの﹂ ﹁なるほどなるほど。ありそうな技だね﹂
僕はパチリと指を鳴らす。簡単に解決イメージはついた。ハトホ
ル様が僕に憑依すれば、その御姿が一時的に隠れるというわけだ。
名付けて﹃ハトホル様を背負ってホームポイントまで一直線作戦﹄
ってところか。
僕は俄然勢いづいてスキルウィンドウを開いた。
﹁あれ。無いよ、﹃神降ろし﹄も﹃憑依﹄も﹂
﹁﹃憑依﹄はわしのスキルじゃ。わしは独立して行動するからの。
女神ともあろうものが人に使役されるわけにいかぬ﹂
﹁あ、そうなんだ﹂
独立して行動する、と言う割には人工知能レベルが低い気がする
⋮⋮。でもこれは僕がサイミンやらアヌビスやら規格外のAIキャ
ラと付き合ってきたせいで感じるのかも。
﹁﹃神降ろし﹄は?﹂
﹁﹃神降ろし﹄も﹃憑依﹄も効果は同じじゃ。ユーザーが主体とな
るのが﹃神降ろし﹄。ぬしのスキルウィンドウに存在しないのであ
れば、まだ未習得なのじゃろう﹂
﹁そっか。じゃ、お願いします。﹃憑依﹄とやらを実行しちゃって
ください﹂
僕は手を合わせて頼んだ。
﹁ふむ。良かろう﹂
759
ハトホル様は出し惜しみすることなく、頷いてくれた。そして、
指を不思議な形に反らして、術名を唱えた。
﹁小さき者を器とし溢るる女神の加護をその身の上に︱︱︱︱︱︱
﹃憑依﹄﹂
ハトホル様の姿が徐々に透けて、輝く霞のように変じていく。そ
してそれがゆっくりと僕の身体に近づき、重なっていった。
あぁ、ハトホル様ってプライドが高そうな喋り方だけど、割と素
直で優しい性格をしているんだなぁ。知能レベルが低そうなんて思
って悪かったなぁ。人間も同じだけど、大切なのは賢さより心持ち
だよねぇ。これで万事解決⋮⋮ありがたやありがたや⋮⋮。
眩い光に包まれながら僕の中に温かい力のようなものが宿るのを
感じた。そして光が収束し目を開いたとき、ハトホル様の姿はそこ
から消えていた。
これで一安心。僕はホッと息を吐き、視線を下に向けた︱︱︱︱
︱︱と、そこにとんでもないものを見出した。
﹁な、なっ! なっ! な︱︱︱︱︱︱︱!!!!﹂
なんじゃこりゃあああああああああああああ!!!
眼下には白色むっちりぽよよんの豊乳が二つ、ふるふると震えて
いた。
それは日光を浴びて肌の色が透けそうなくらいに白く、餅のよう
な柔らかさを主張している。薄い桃色で乙女に相応しい控えめな乳
輪。先端がちょっぴり尖っている。まぎれも無く﹃僕のおっぱい﹄。
だが、既存の設定とサイズが違う。持ち主の僕を無視して増量キャ
760
ンペーンを行っていた。
﹁ちょっとおおおお!! ハトホル様ぁあああ!!﹂
僕は両手で乳房を隠して叫んだ。しかし、ハトホル様からの返事
は無い。リリスの小さな手のひらでは豊かになったおっぱい全体を
覆うことは不可能だった。
﹁ど、ど、どうしてこうなるの∼∼∼∼! ってか、こうなるなら、
ちゃんと警告してよおおぉ﹂
鏡が無いのでハトホル様が憑依した僕の全身がどのように変化し
たのかは不明だ。だが、とにかく﹃憑依﹄によって﹃その性質﹄は
僕に引き継がれたらしい。つまり、上半身裸で乳増量、おっぱいポ
ロリのバイーンである。
前言撤回。やっぱりハトホル様は低知能AIだ。バカバカバカ︱
︱︱︱︱︱!
﹁ハトホル様っ?! 返事してよ! これじゃ、解決になってない
から! ﹃憑依﹄解除ぉお、プリーズ!﹂
1人で泡を食っている矢先、背後に気配を感じた。あ、ハトホル
様?と振り向こうとしたが、その瞬間、ぐいと腕を引っ張られる力
を感じ、気づくと口元を押さえられていた。
﹁むぐっ︱︱︱︱︱︱﹂
強引に加えられた力には自然と反発する力が沸き起こる。僕は状
況を判断しないまま抵抗した。が、無駄だった。視界の端でとらえ
761
たのは見知らぬ男達。ハトホル様じゃない。
﹁あれ? さっきまでのエジプト美女はどこいった?﹂
﹁こいつじゃないの?﹂
﹁いや、こいつと一緒にいたもう一人だよ。ん?おかしいな。さっ
きまで乳出してたのって、こいつじゃなくね?﹂
﹁こいつも、さっきまでとちょっと違うよ。服装も違うし﹂
﹁着替えたんだろ。それか、別人?﹂
げっ、やばい。僕はいつの間にか下卑た笑いを浮かべる男達に囲
まれていた。男たちの視線は僕の露出しているおっぱいに集まって
いる。嫌な予感、なんて生易しい表現では片付かない。相当手堅い
未来予想が容易な状況だった。
﹁っ、ぷあっ⋮⋮やめろ! 離せーーーーーー!!﹂
がむしゃらに暴れる。すると逆につき飛ばされ、地面に転んだと
ころを雑に持ち上げられた。こういう時に毎回思い知る。リリスは
か弱い少女の身体で、腕足は細いし、ハーフエルフと言う種族柄、
筋力のきの字も無い。
逃げようとしたが足を引っ掛けて再び転ばされ、笑われた。
﹁はは⋮⋮っ。それ、演技かぁ? 嫌がるところを犯して欲しい?﹂
﹁ふざけんな、そこ、どけっ!﹂
﹁おーぉ、勇ましいじゃん、か﹂
乾いた音がし、頬にひりつきを感じた。僕はびっくりして一瞬、
声を失う。頬をはたかれたのだと気づいたのは一秒後だった。
酷い扱いに怒りが沸騰し、顔全体が熱くなる。怒りを通り越して
思わず涙が込み上げてきた。
762
男が不躾に僕の服︱︱︱といっても上半身は裸なので下のスカー
トだけだが︱︱︱をめくり上げる。
﹁なんだ。パンツは履いてんだ﹂
﹁やめろっ!﹂
また別の男が横から僕のおっぱいを鷲掴みにした。痛い!
﹁なんだよ、つれないな。俺らの事、待ってたんだろ? ﹂
﹁そんなわけないだろっ! お前ら何てお呼びじゃ、む、ぐむっ︱
︱︱︱︱︱!!!!﹂
再び、口を押さえつけられた。いかつい手で、土の匂いがした。
どうやら、ボクを尾けていた連中のようだ。雑踏で巻いたと思った
のは間違いだったらしい。そして、だいぶ性質の悪いタイプだ。
﹁なぁ、さっきまでの美人はどこいった? お前と交代したのか?﹂
﹁交代しておっぱい露出してんの? どんなプレイだよ﹂
﹁俺、ロリコンじゃないんだよ。さっきの美人の方がいいなぁ﹂
﹁じゃ、そこで見てろよ﹂
﹁ご冗談﹂
下種い笑い声が響く。鉱夫っぽい姿をした耳の尖った男がいきな
り、僕の腰を抱き上げる。軽々と、ちょっとした荷物を持ち上げる
くらいの気安さで。
﹁んむっ︱︱︱︱︱︱﹂
僕は頭に血が昇っていて、冷静な判断ができなくなっていた。後
763
から考えればそれこそ男達の思うつぼだったのだろう。獲物にパニ
ックを起こさせて、余裕のある思考能力を奪う。女側に反撃の隙を
与えずさっさと犯す。そしてそういう手法が手慣れているのはろく
でもない人種の証だ。
ずぶん。
﹁︱︱︱︱︱︱︱ぅ!!﹂
何の前触れも無く、前戯もなく、濡れていないところに無理矢理
挿入されてしまった。後ろから別の男に羽交い絞めにされて、足を
開かされた格好で、抵抗のしようがなかった。
﹁や、め⋮⋮﹂
ぐぐっ、ずぶっ、ずぶ⋮⋮。
ペニスが出入りを繰り返しながら、徐々に奥に侵入してくる。女
性器には入って来るモノを押し返す機能が無い。
ず、ずぶ、ず、ずぶ。
濡れていない肉壁を内側から擦られたって、こんなの全然気持ち
良くない。男の身体が密着すたびに、土の匂いがする。
﹁すげぇ⋮⋮しまる、キツキツだ。処女まんの味がする﹂
﹁マジか。早く代われよ﹂
﹁くっ、あぁ⋮⋮出ちまう⋮⋮﹂
膣内に出すな。ふざけんな。早漏の強姦魔野郎!死ね!
764
そう叫びたかったが、この状況ではもう、どうしようもない。だ
って、もう挿入されてしまっているのだから、抵抗のしようが、あ
ぁ、もう、なんでこんなことに。リリスはそんなに安い女の子じゃ
ないのに。こんな、穴っぽこみたいに扱われるなんて。くそ。
まとまらない思考のまま、いつの間にか意識は犯されている膣に
集中してしまう。ずぶ、ずぶ、と繰り返されているうちに、秘所は
少しずつ蜜を分泌し始めた。音がずぷ、ずぷ、に変わり、気をよく
したのか男はさらに激しく腰を打ちつけてきた。
濡れて来たのは反射反応みたいなもので、決して感じているわけ
じゃない。今回の場合どうせなら気持ち良く楽しもう、なんて考え
にそう簡単に切り替えられかった。ずぷっ、ずぷっという音がジュ
ブ、ジュブに変化して行っても、認めるわけにはいかない。
﹁こいつ、犯されながら濡れまくり﹂
そんな憎たらしい口を叩き、男は僕の膣内に射精した。
僕はまだ挿入されたままの状態で男を睨み付けた。だが、そんな
表情も相手を喜ばす結果にしかならなかった。
765
episode25︳3
男達の人数分膣内に精液を注がれて輪姦が一巡する頃に身体が
すっかり温まり、反対にようやく頭は冷えてきた。僕はアソコから
愛液と精液を滴らせながら、鳴き声をあげる。ステレオタイプな嬌
声を吐いて、自分の気分を一層昂揚させた。つまり、存分に被レイ
プを楽しむ余裕が出てきたということだ。
﹁はあっ、ん、もう、だめ、やめてぇ⋮⋮﹂
﹁口では嫌がってる割に、ここはトロトロだぜ。嬉しい癖に、この
変態女﹂
﹁くっ、ううっ⋮⋮ちがう、っ。っん︱︱︱︱︱︱﹂
後ろ抱きの大開脚状態で、レイプ魔のペニスが容赦なく打ち付け
られる。それは繰り返し、深く、膣内を抉る。俗説かどうかはさて
おき、女が犯されて濡れるのは体を守る為だと聞いたことがある。
だが、僕のエッチな場所はそんな防衛反応を通り越して悦び、与え
られるモノを貪欲に飲み込んでいた。
じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、ぶちゅっ、じゅぶゅっ⋮⋮
﹁だめ、やぁ、奥にあたって⋮⋮イっちゃう⋮⋮っ﹂
ちゅぷっ、ずぷっ、ずぷっ、ずぷっ
﹁あぁっ、あ、っん、イくっ、酷いよぉ⋮⋮犯されてるのに、イっ
ちゃう⋮⋮やぁ⋮⋮っ!これ以上ナカで出さないで⋮⋮あっ、あっ、
うううっ﹂
766
﹁ナカに出したって、孕むわけじゃないんだから、いいだろ﹂
﹁っ、ぁ、う⋮⋮汚れちゃう⋮⋮。っ、うう⋮⋮汚いモノを入れる
な、ばか⋮⋮しね⋮⋮﹂
﹁はは⋮⋮こんだけ犯されてまだそんな口がきけるってのは大した
もんだよな﹂
男が更に強く腰を打ち付けた。
﹁ひゃうっ⋮⋮!﹂
悔しい、絶対感じたりしないんだから! から
悔しい、でも感じちゃう! を経て
あー⋮⋮別に悔しくも無いか。気持ちいいし⋮⋮ に帰結
この流されやすさが僕の特徴だ。長所でもあり短所でもあるが、
何より処世術である。
ずんと最深部に亀頭が当たるたびに、息苦しさと悦楽を同時に感
じる。膣内が熱い。表層部はジンジンするけど、それは単なる痛み
じゃなくて、そこから受け取る刺激に体の芯が震える。ぶっちゃけ、
犯されて気持ちいいのだ。
﹁っく、いっちゃう⋮⋮やだ、もう、だめぇ﹂
﹁ほら、出すぞっ、喜べ﹂
﹁だめ、だってば、ぁあっ⋮⋮ん。っ! おかしくなっちゃう、か
ら、ぁ、う︱︱︱︱︱︱っ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂ 子宮口に押し当てられたペニスから性欲の種がほとばしり、僕の
膣内を汚す。ナカに注がれるのを感じながら僕は体を激しくのけぞ
らせた。
767
﹁ア︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
だらりと弛緩した手足を投げ出し、喉をひくつかせる。たっぷり
の精液が割れ目からトロリと溢れて流れ落ちるのを感じた。
﹁ぁ、ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮うぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮っ﹂
口を半開きにして絶頂の余韻に浸る。すると、熱冷めやらぬうち
に最初の耳の尖った男が再び僕の腰を掴んだ。待ってましたとばか
りのがっつき具合だ。どうやらこれで、一巡したらしい。僕は気怠
いながら薄眼を開けて尖り耳の男と視線を合わせる。
﹁⋮⋮ぁ︱︱︱︱︱︱だよ﹂
﹁なんだ? 何か言ったか?﹂
イったばかりで大層億劫だが、僕は口を緩慢に動かす。なんとか、
一言、物申したかった。
﹁ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮それ⋮⋮飽きたよ﹂
﹁は?﹂
正面から膣に挿入されてズブズブ、動きが激しくなってナカで射
精。5人だったっけ、6人だったっけ⋮⋮忘れた。気持ちいいけど、
同じパターンではいい加減飽きてくる。
﹁もう少し︱︱︱︱︱︱楽しませてくれないと﹂
﹁な⋮⋮﹂
僕は、後ろから羽交い絞めにされた姿勢のまま、リラックスモー
768
ドのあくびをした。男は面食らったように口をパクパクさせる。上
手い言葉が見つからないようだ。
﹁てめぇ⋮⋮!!﹂
片手で首を締め上げられた。これには驚いた。すぐに放されたけ
ど、一瞬気道が圧迫された影響でむせ込んだ。
﹁げほっ﹂
嫌だな。言葉が見つからないと暴力に訴えるとか、最低。僕は正
直に言っただけで、別に挑発してるわけじゃないんだよ。決して全
く、馬鹿にしてるわけじゃない。ただ、せっかくの強姦、輪姦なら
もうちょっとヤリようがあるでしょ?と言いたいわけ。最初の一巡
目は仕方ないとしても二巡目も同じじゃ芸が無さすぎる。
﹁げほっ、こほっ、こほっ⋮⋮。ちょ︱︱︱っと⋮⋮乱暴しないで
よ。そういうことするなら⋮⋮、けほ⋮⋮こっちだって大人しくし
てないよ。ん⋮⋮⋮⋮反撃、するよ?﹂
﹁んだと?﹂
あれ。これじゃ、挑発してるようなものか。だが、素早く別の男
が横から制した。
﹁おい、ちょっと、よせ。やめとけ﹂
制した男が何か不吉な物を見るような目で僕を見る。
﹁反撃? お前、この人数相手に立ちまわれる自信があるのか?﹂
﹁さぁ︱︱︱︱︱︱。どうだろ。やってみなきゃ分かんないけど﹂
769
僕は軽く笑う。実際にはリリスの顔だと﹃ニコリ﹄で出力される
のだけど、その方が迫力があるかもしれない。場の雰囲気が一変す
る。男たちは微妙な感じで互いの顔を見合わせた。
﹁あ︱︱︱、だってさ、ほら、曲がりなりにもボクのことを痴女だ
と思ってるなら、それなりの対応をしてくれないと、さ。人数さえ
いれば満足するってもんでもないよ﹂
男たちは無言。
﹁いや、別にエッチの仕方が悪いって言ってるわけじゃないし、そ
れなりに気持ちいいことはいいんだけど、少なくともせっかくさら
け出してるおっぱいにノータッチっていうのもどうかと思うし、こ
れだけ人数がいるならこっちの穴も使わせてもらうぜ、くらいの気
概はあっても⋮⋮﹂
言い訳のつもりだったが、クレーム、もっと悪く言うと説教みた
いになってしまった。そして僕が喋れば喋るほど、場の空気が白け
ていく。男たちは﹁なんだこいつ﹂って感じで僕を見るし、耳の尖
った男が露わにしてるペニスも行き場を失って滑稽な感じ。お楽し
みを盛り上げようとしての言動は完全に裏目に出た。
僕を後ろ抱きにしていた手が緩められ、足が久々に地面につく。
あーぁ⋮⋮。僕は、久方ぶりの地面の固さを踏みしめ、両腕を持ち
上げてうん、と伸びをした。露出しているおっぱいがプルンと揺れ
る。
﹁おい、どうする﹂
﹁何がだよ﹂
﹁退くか?﹂
770
﹁なに、急にビビってんだよ﹂
﹁ビビってるわけじゃないけどさぁ。俺はもうヤれたし、満足かな
ぁ、って﹂
﹁俺も。こいつ、あんまり深入りしない方がいいような気が⋮⋮痴
女だし﹂
レイプ魔の井戸端会議? 男達はどちらかというと消極的な意見
に傾いている。駄目元で横から僕はそっと提案してみた。
﹁えぇと、まだするなら、ベッドがあるとこに、いかない?﹂
﹁あ?﹂
﹁こういう青姦だと、エッチのバリエーションが限られるし、一度
に複数相手しようとしても体勢的に無理があるし⋮⋮﹂
更に言葉を続けようとして止めた。完全に引かれている。一応、
建設的な提案をしたつもりなんだけども。
﹁なんか言ってるぞ⋮⋮﹂
﹁どうすんべ﹂
男たちは僕にドン引きしたせいか、自分たちが優勢でないと感じ
たせいか、落ち着きなくソワソワし始めた。実際は、戦闘モードに
入ったとして僕が勝てる保証なんてない。こっちは総合LV56で
たぶんそこそこ強いけど、初期ジョブから一度もチェンジしてない
から繰り越しのステータス補正値が皆無だし⋮⋮それに、何より今
は一人だという弱みがある。リリスは遠距離魔法攻撃を主にした後
方支援型戦闘スタイルでとびきり打たれ弱いので、接近戦に持ち込
まれたら結構簡単にやられてしまうかもしれない。
もちろんレア武器である﹃ニエグイのロッド﹄もあるし、ハトホ
ル様が憑依していることによるステータス補正もあるから勝機が無
771
いわけじゃないけども。まぁ、半ばハッタリみたいなものだよね。
とりあえず僕は負けも覚悟して、ポシェットから﹃痛み止め﹄を
取り出して飲んだ。
﹁おい、こいつ今﹃痛み止め﹄飲んだぞ﹂
男の一人が顔を引き攣らせて言った。
﹁やる気か? おい、ヤバいって、逃げろ﹂
たちまち男たちは踵を返して逃げの姿勢に入る。僕はポカンとし
てしまった。とんだチキンじゃないか。
﹁待てよ、この人数だぞ。女一人相手にビビッてんじゃねぇよ﹂
あ、ちょっとは骨のあるやつもいる。引き留めたのは耳の尖った
最初の男だ。一応、こいつがリーダーなのかな。その言葉を受けて
浮足立った男達が何とかその場に踏みとどまった。
﹁こんな痴女に馬鹿にされっぱなしで逃げ出せるかよ﹂
全くだ。強姦魔としても多少のプライドがあるなら、ここは逃げ
出すべきじゃないだろう。
僕は素早くニエグイのロッドを構えた。男達も弾かれたようにめ
いめいの武器を手にした。意に沿わない戦闘だけど、結局僕が焚き
付けたようなものか。
ぴりっとした緊迫感のある空気が張りつめる。男達が僕を囲むよ
うにジリジリと動いた。改めて見ると、1対多人数ではどう考えて
も不利だ。ここはやはり先手必勝でニエグイのロッドを発動させる
しか︱︱︱︱︱︱。
772
と、男達の顔を見回し僕は停止した。
﹁あ⋮⋮﹂
手のひらを顔の前にかざして、声をあげる。
﹁ちょ、っちょっと、タンマ!﹂
﹁タンマ?﹂
あ、これ、もしかして方言?
﹁ちょっと待って!﹂
言い直したが、どちらにせよ男達の怪訝な顔は変わらなかった。
僕は焦っていた。
﹁あ︱︱︱︱︱︱、そうじゃなくて、ごめん! やっぱ、逃げて!
っていうか、逃げた方がいいと思う!﹂
﹁はぁ?﹂
思い切り不可解な﹁はぁ?﹂が返ってきた。そりゃそうだ。自分
でもおかしな発言だと思う。﹁私から逃げろ﹂だなんて、森のくま
さんじゃあるまいし。だが、決してジョークではない。
﹁何言ってん︱︱︱︱︱︱﹂
じゃり、と土を踏む音が不気味に響く。それは、僕を取り囲む男
達の背後から聞こえてきた。僕はその姿を見つめる。つられたよう
に男達も後ろを振り向く。
そこに立っているのは青い服の似合う凛とした立ち姿の美しい女
773
騎士⋮⋮と、ちょっと斜に構えたようなやさぐれ男。突然の闖入者
二人に男たちは戸惑っている。いや、戸惑ってる暇があったら逃げ
た方がいい。僕の眼にはそこに憤怒の炎がおどろおどろしく燃え上
がっているように見えた。
﹁リリス様⋮⋮﹂
﹁サイミン、落ち着いて﹂
ぷるんとさらけ出された乳を見て、僕の騎士は青ざめた。
﹁なんと、破廉恥な姿をさせられて⋮⋮! こいつらの仕業ですか
!? 許せません!﹂
﹁あ、それは誤解⋮⋮﹂
﹁問答無用、です。皆殺しですわ﹂
サイミン、問答無用の使い方間違ってるよ。僕の言葉に対して使
ってどうするの! あと、皆殺しって、剣呑過ぎ。
激昂したサイミンは牙を剥き出しにした肉食獣よろしく、男達に
飛び掛からんと身構える。3歩後方から、アラビーが言った。
﹁おい、サイミン、簡単に殺すなよ。俺の分も取っとけ﹂
﹁くっ⋮⋮。分かりました﹂
サイミンは唇を噛む。
﹁確かに、簡単に殺してオシマイでは全く不足ですね。リリス様へ
の無礼は己の身でたっぷりとあがなってもらわなければ﹂
﹁そうそう。ゲーム上の単なる﹃Dead﹄なんて大した被害じゃ
ないからなぁ。もし﹃痛み止め﹄飲んでたらなおさらだ﹂
﹁では、これを使います﹂
774
サイミンがスピアをしまって別のアイテムに持ち替えた。手にし
ているのは⋮⋮﹃人形糸﹄。ある意味、最凶の武器だ。
﹁なんだ? 仲間か? ちっ⋮⋮こうなったら仕方がない。まとめ
てやるか﹂
﹁やっぱ、逃げた方が﹂
﹁人数ではまだこっちが勝ってる。それに、この状況で逃げられる
かよ﹂
男達は受けて立つつもりだ。めいめい己を鼓舞するように武器を
ふるい、戦闘準備を整える。もしかしたら﹃痛み止め﹄を飲んだか
もしれない。そして、案外彼らは強いパーティーなのかもしれない。
ただ彼らが相手するのはご立腹中のサイミンとアラビー。こうなっ
たら僕から贈る言葉は一つだ。
アーメン⋮⋮。
775
episode26︳1:求婚
凄惨な音とともに悲鳴が天高く突きぬけて行く。僕はその光景か
ら目を逸らす為に空を仰いだ。雲の白が鮮やかに浮かび上がる晴天。
⋮⋮神は何処におわすのか。
アラビーとサイミンの登場により、僕をレイプした男たちは皆悉
く過ぎた報復を受けることになった。地に頭を擦り付けて土下座す
るヤツや、マジ泣きするヤツもいたが、容赦なし。制裁は肉体的に
も精神的にも相手を打ちのめすやり方だった。しかも二人とも激昂
しているわけではなく、至って冷静に﹃処刑﹄を遂行して⋮⋮それ
が余計に怖かった。
僕は何度か﹁そこまでしなくても﹂といい子ちゃんの台詞を吐い
たが、軽くスルーされた。⋮⋮つまり、これは僕の言い訳だ。彼ら
の身に降りかかった悲劇は決して僕の責任では無く、不運だった、
と。わけあり物件の僕に手を出しちゃったことも、剣呑な保護者が
来ちゃったことも、併せて特大のアンラッキー。自業自得の一言で
片付けるほど冷酷にもなれないので、もはやそうして憐れむしかな
かった。
最後の一人の悲鳴を最後に処刑の気配が収束したので恐る恐る視
線を向ける。するとそこには﹃Dead﹄で姿を消失させながら救
われたような表情を浮かべる男がいた。
﹁⋮⋮終わったの?﹂
﹁ああ﹂
﹁お待たせいたしました﹂
776
﹁ボクの為にありがとう、って言いたいとこだけど⋮⋮2人ともや
り過ぎじゃない?﹂
﹁そんなことは、ありません﹂
と、サイミンがキッパリ。
﹁気にすんな﹂
とアラビーがさらり。でも、複雑な気持ちだ。苦い表情をしてい
るとアラビーが言った。
﹁ああいう手合いはきっちり潰しておかないと、後から逆恨みされ
るぞ﹂
なるほど。そういうものかもしれない。とはいえ、罪悪感は胸の
内でくすぶる。
﹁相変わらず変に真面目だよな、お前﹂
﹁へ? そう?﹂
今まで、この世界では相当ふざけた遊び方をしているつもりだっ
たし、キャラメイクとしても軽い性格を演じていたはずなのだけど。
﹁ところで、大丈夫か? どうしたんだ、その巨乳﹂
アラビーは僕に近づき、露出したおっぱいをしげしげと眺める。
かと思いきや、いきなり、人差し指を乳首の真ん中に突っ込んでき
た。
﹁ひゃん﹂
777
変な声が出てしまった。
﹁巨乳薬でも飲まされたのか?﹂
そう言いながら、アラビーは指を奥にグリグリ⋮⋮。
﹁ちょっ、ちょっと、やめてよ﹂
無遠慮な手を打ち払って身を退く。アラビーは悪びれることなく
﹁ふーん﹂とか言いながら口元に手をやった。
﹁巨乳薬って、そんなアイテムがあるの?﹂
あるなら欲しいかも。
﹁知らねー﹂
﹁なんだ。いいかげんだなぁ。⋮⋮ええと、これは、女神が憑依し
たんだよ。そしたら、こんなんなっちゃったんだ﹂
ちょっと刺激を受けただけで、桃色の乳首は微かに尖っていた。
僕は両手でおっぱいの底辺を持ちあげる。大きいおっぱいというの
はなかなかに重みがあるものらしい。手を離すと重力に引っ張られ
てプルンと揺れる。
﹁女神が憑依? なんだそれ。まさかお前、女神の守護付きなのか
? いや、まさかだよな﹂
﹁う。う︱︱︱︱︱︱ん⋮⋮﹂
あ、もしかしてこれって、内緒にしておいた方が良いのかな? 778
内緒にしなきゃいけない理由も特に無い気がするけど。でも、この
ゲーム初心者だった僕がこの短期間で女神の守護とやらをゲットし
ているのは不自然なことかもしれない。そして、その経緯にはアヌ
ビスとの関わりがあるわけで、もしかしてアヌビスの件は機密に関
わるとかなんとかでおいそれと公言してはいけないことかも⋮⋮。
僕は咄嗟に判断できず、言葉を詰まらせた。
しかし、アヌビスは上位AIの存在とか色々を他の人に喋っちゃ
いけないなんて一言も言わなかったし、口止めされた覚えも無い。
﹁あー⋮⋮その︱︱︱︱︱︱えーと﹂
もごもごと言い淀み、手を組み合わせる僕。
﹁女神を身に宿すとアバターの外見が変化するっつーのは知ってる
が。お前が女神付きだなんてのはちょっとぶっ飛んだ話だぜ。それ
に、こんな破廉恥なデカパイの女神がいるのかよ﹂
﹁﹃失礼な奴じゃな﹄⋮⋮うわぁ!!﹂
勝手に僕の口が動いた。なんて言った?﹃失礼な奴じゃな﹄?
﹁どうした?﹂
﹁﹃この乳は多産と豊穣の象徴じゃ。それに、こうやって乳を出す
のはわしの時代のトレンドじゃ﹄﹂
慌てて両手で口を押える。間違いない。ハトホル様の仕業だ。
﹁リリス様?﹂
サイミンが怪訝な表情で首をかしげる。
779
﹁口調が変だぞ﹂
﹁ボクじゃないよ∼。あぁもう! ほんとに厄介! ちょっと、ハ
トホル様早く出てってよ∼!﹃⋮⋮ふむ? まぁ、そう急くでない﹄
﹂
最悪だ。勝手に口が動くのは想像以上に気持ちが悪い。身体を乗
っ取られている気分。僕は抵抗するように遮二無二手足を動かす。
そんな僕を見てアラビーは呆れたように息を吐いた。
﹁確かに、何かが憑依してるみたいだな。だけど、本当に女神降臨
か? 悪霊でも憑いてんじゃねぇの﹂
﹁﹃悪霊じゃと? 重ね重ね失礼な奴じゃな!﹄ って、もう僕の
身体で勝手に喋らないでよ!﹂
本当に、これじゃあアラビーの言う通り悪霊だ。事前にハトホル
様が言っていた﹃憑依﹄と﹃降臨﹄の違いがうっすらと分かるよう
な気がした。
﹁名前は? 俺の知る限り、こんな巨乳をさらけ出してる女神はい
ないぞ﹂
﹁﹃わしは女神ハトホルじゃ。おぬしの方から名乗るのが礼儀じゃ
ろうに﹄﹂
ハトホル様は続けて僕の口で喋る。相変わらず、僕の要望なんて
マスター
これっぽっちも酌んでくれない。そう、ハトホル様にとって僕は﹃
主人﹄ではないのだ。しかし守護女神様がここまで御しがたいとは
思わなかった。おかげで女神をゲットしたことを内緒にするかどう
か悩む必要がなくなったけど。
﹁ハトホル⋮⋮。レア女神だな。全く、どこで手に入れて来たんだ﹂
780
アラビーは疑問形ではなく、独り言のようにつぶやいた。
﹁俺はアラビーだ。よろしくレア女神殿﹂
﹁﹃ふん。おぬしが、アラビー。リリスの友人とやらか﹄﹂
居丈高にハトホル様が答える。いや、僕が答えると言った方が正
しいのか? 乗っ取りテロに半ば諦めて僕は遠い目をした。もう、
好きにしてくれ、という気分。そして気が済んだら早く出てって欲
しい。
しかし、ハトホル様に喋らせるとろくなことにならないようだ。
ハトホル様の言葉を聞いてアラビーが片眉を吊り上げた。
﹁リリスの﹃友人﹄、だぁ? ﹃恋人﹄じゃないのかよ﹂
﹁へ?﹂
あぁ、そういえば先にそんな説明をした気もする。
︱︱︱︱︱︱︱アラビーとは何じゃ?
︱︱︱︱︱︱︱ボクの⋮⋮友人
あの時、何と答えていいのか迷ったのだ。友人と言う単語を選ん
だのに特に深い意味は無かった。⋮⋮まぁ、アラビーだってまさか
本気で癇に障ったわけではなかろうが、そこに素早く割り込んだの
はサイミンだった。
﹁アラビー様は恋人じゃありませんわ。確かに友人という表現はや
や控えめですけれど、せいぜい情夫、といったところですわね﹂
﹁おい、サイミン⋮⋮﹂
781
アラビーは不満げに物言いをつける。
﹁いくらなんでも﹃情夫﹄はねーだろ﹂
サイミンはそこだけは譲れませんと言いたげに首を振った。
﹁リリス様の恋人になるのはわたくしですから﹂
﹁⋮⋮未来形じゃねーか。いや、希望形か?﹂
﹁まぁ、なんと仰いますこと﹂
茶化されてサイミンは不機嫌に口元を引き結ぶ。ひと時、アラビ
ーとサイミンがにらみ合い、その間に火花が散ったように見えた。
話題の中心に立っているはずの当事者の僕は完全に置いてきぼり
だ。
﹁あのー⋮⋮二人ともさ、落ち着いて。実際、恋人とかそんな話、
誰もしてないよ﹂
しかし僕の言葉に耳を貸さず、二人の間には更に険悪な雰囲気が
つのる。
﹁サイミンてめー、昔の主人に向かって、恩も忘れて随分な口をき
くじゃねーか﹂
﹁昔の恩も何も、わたくしのことなんて大して構いもせず、埃が被
るままにしまい込んでたじゃありませんか。アラビー様にして頂い
たことなんて、ほとんど記憶にございませんわ﹂
サイミンの反撃。
﹁ぐっ⋮⋮誰のおかげでリリスの騎士になれたと思ってんだ﹂
782
アラビーの反撃。
﹁うっ。それはそうですけれど⋮⋮﹂
なんか応酬が面白い。そういえば、アラビーは以前サイミンを勇
者から譲り受けたって言ってたけど、使わずに放置してたって聞い
た気がする。
そのまま数秒間の膠着状態が続き、先に口を開いたのはサイミン
だった。
﹁ふ︱︱︱︱︱︱⋮⋮分かりました。では、どちらがよりリリス様
の恋人に相応しいか、勝負です﹂
﹁おー。受けて立つぞ。つまり、どっちがリリスを喜ばせることが
できるか勝負、ってことでいいな﹂
﹁ええ。リリス様と過ごした時間についてはわたくしの方に分があ
ります。リリス様のどこをどうすれば喜んでもらえるかは熟知して
おりますわ。絶対に負けません﹂
﹁よし、じゃ、とりあえず場所を移すか⋮⋮宿でいいか?﹂
﹁はい。大きめのベッドがあるところでお願いします﹂
ええええええええええええええええ!??
﹁ちょ、ちょっっと待った︱︱︱︱︱︱︱!!!!!﹂
なんだ、その出来レースみたいな会話運びは! 変なところで過
去の絆みたいな連携プレイを見せるんじゃない!
しかし、僕の叫びはやはり再び黙殺された。
783
episode26︳2
宿に移動することで話がまとまりかけたが、途中でアラビーが別
の案を出した。
﹁青姦はやだよ﹂
と、僕。
やっぱりエッチはベッドの上がいい。そりゃ、たまには違うシチ
ュエーションも楽しいけど、リラックスして楽しむなら断然寝具の
上だ。ましてや先ほどまでちょっとハードなプレイに巻き込まれて
いた身だ。今度はソフトなのを希望したい。
﹁輪姦されたんだろ﹂
﹁ん⋮⋮そうだよ。それがなに﹂
ストレートに聞くなぁと思いつつ答えた。汚れちまつた悲しみに
打ちひしがれるほど繊細ではないけれど、いい気はしない。悪かっ
たですね、と拗ねたくなる。
隣ではサイミンが改めて怒りの炎を再燃させていたが、これはも
はやいつものこと、なので軽くスル︱。
﹁洗ってやるよ﹂
﹁洗う? もしかしてお風呂?﹂
﹁あぁ﹂
目を見開き、小さく両手をばんざいして驚きのポーズを取って見
せる。
784
﹁あるの? 今までこの世界でお風呂って見たことないよ。宿屋に
もついてないしさ﹂
﹁確かに少ないが別に皆無ってわけじゃない。探せば風呂がついて
る宿屋もあるし、民間住居もある。ちょうどすぐそこに、おあつら
えの場所がある﹂
サイミンは横からそれを聞いて機嫌を直した。
﹁お風呂は良いですね。わたくし、リリス様を綺麗に洗って差し上
げたいですわ﹂
﹁あはは⋮⋮﹂
僕はとりたてて風呂が好きなわけじゃないけど、サイミンの眼が
キラキラ輝いていて、何とも言えず嬉しそうなので同意した。考え
てみればお風呂で女の子に体を洗ってもらうって、ちょっとした風
俗体験じゃないか。こちら側も女の子の身体なので少々勝手が違う
が、悪くない。
そうしてアラビーの案内に付き従って到着したのはNPCの住居
だった。デザインは住宅地に埋没する何の変哲もない家屋だが、ひ
ときわ大きい。玄関扉には鍵がかかっており、アラビーが﹃何とか
の鍵﹄︵名前は分からない︶で開けた。
﹁不法侵入だね﹂
﹁ロープレのお約束だろ﹂
確かに。扉をくぐると玄関スペースは無くていきなりリビングが
広がっていた。室内は全体的に木目調。これみよがしにデカいタン
スがいくつか並んでいる。僕は遠慮なく近づいて、引き出しを開け
785
た。
︱︱︱︱︱︱﹃熊皮の前掛け﹄があります。入手しますか?︵Y
ES/NO︶
ごついデザインの装備品の前にダイアログが表示された。とりあ
えず、YESにしてアイテムBOXに突っ込む。更に引き出しを探
ると、ずっしりとした白い皮袋がいくつか並んでいた。
︱︱︱︱︱︱﹃5000G﹄があります。入手しますか?︵YE
S/NO︶
今更だけど、これって完全に窃盗だよね。対象がお金になると余
計に犯罪の色が濃くなるなぁ⋮⋮と思いながらYES。すると、後
方から呼びかけられた。
﹁おい、目的が変わってんぞ﹂
﹁えへへ⋮⋮つい﹂
﹁リリス様∼お風呂、こちらですわよ﹂
サイミンの声がやや遠くからこだまするように聞こえてきた。そ
ちらに向かう途中でキッチンを通ると、年配の女性が立ち仕事をし
ていた。一瞬ドキッとしたが、AIレベルが低いらしく僕らを見て
も何も反応しなかった。こちらから話しかけないと反応しないタイ
プのNPCのようだ。
﹁わ、ほんとにお風呂だ﹂
風呂場には勢いよく水が流れる音と、もうもうと上がる白い湯気。
洋風の浴室で、壁には鏡とシャワーがついている。この世界がどう
786
いう舞台設定になっているかは不明だけど、世界観を無視して水道
設備や給湯設備を整えるくらいの曖昧さは許容しているらしい。
﹁リーリスさまっ﹂
語尾に﹃はぁと﹄がついてきそうなテンションでサイミンが抱き
ついてきた。
﹁お風呂ですわ。さぁ! バンザイ、なさってください﹂
﹁ば、ばんざい?﹂
言われるがまま両手を上げると、着ていた服をスポーンと脱がさ
れた。ちなみに、着ていたのは適当な布の服。ハトホル様憑依で露
出したおっぱいを隠す為に露店で即決購入した品だ。服が取り払わ
れた途端、解放感に喜ぶようにおっぱいが震える。未だにこの巨乳、
自分の物という実感がない。
﹁ちょ、ちょっとサイミンってば!﹂
﹁うふふふ﹂
サイミンは喜々とし、自らも颯爽と衣服を脱ぎ捨てる。マネキン
みたいに整ったサイミンの裸体は目にまぶしい。
﹁わたくし、リリス様とお風呂に入るのが夢でした﹂
﹁それ、本当?﹂
﹁うふっ。表現が過剰でしたでしょうか?﹂
過剰かどうかの判断はともかく、いつにないはしゃぎ様が可愛い。
サイミンが裸の状態でまた抱きついて来て、女の子同士の肌が密着
する柔らかな感触に軽い感激を覚えた。ちょっとキャラが違ってる
787
けど、まぁ、それくらい嬉しいってことなら良かった。サイミンが
喜んでくれるなら僕だって嬉しい。
﹁では、アラビー様は寝室で待っていてください﹂
﹁お、おい。ちょっと待て﹂
浴室から追い出されそうになってアラビーが慌てる。
﹁どういうことだ﹂
﹁申し訳ありません。この風呂場は狭いので、3人で入るのは無理
かと存じます﹂
﹁おいおい﹂
言葉は慇懃だが、結構強引にアラビーを追い出そうとするサイミ
ン。全身でグイグイと押している。だが、風呂場が狭いのは本当だ。
浴槽も一人用だし、快適に入るには洗い場とあわせても二人までの
定員が最適だろう。
﹁待て、って﹂
﹁待ちません﹂
﹁ジャンケンだろ、こういうのは﹂
﹁いいえ、わたくし、もう、脱いでしまいましたし!﹂
﹁お前、そういうの、せこいぞ﹂
ぎゅうぎゅう、ぐいぐい。
押し問答、というよりは本当に押し合いだ。
﹁アラビー様、ここは穏便にお願いいたします﹂
﹁何が穏便に、だ。事を荒立ててるのはお前の方だろうが﹂
788
﹁まぁ、まぁ、まぁ、まぁ﹂
戦闘時のパワーは別として、通常での単純な力比べはロボ娘仕様
であるサイミンが上らしい。加えて状況の手回しもサイミンが上回
っているような気がする。僕はあえて口出ししなかったけど、どう
せならサイミンに洗ってほしいなーと思った。そしてその意思が何
となく伝わったのかもしれない。僕の顔を見た後、アラビーが折れ
た。
﹁ちっ。10分だぞ! 長風呂すんなよ!﹂
﹁はーい﹂
﹁あはは⋮⋮﹂
アラビーを見送り、裸になる。風呂に手を浸すとちゃんと温かい。
﹁入っていい?﹂
﹁もちろんです﹂
お湯は適温。かけ湯をしてからざぶりと肩までつかるとリリスの
体積分だけお湯が溢れた。
﹁はふ︱︱︱︱︱︱︱﹂
温さが沁みいる。
﹁リリス様、お背中、流しましょうか﹂
﹁ありがと。でもその前に、サイミンも入りなよ﹂
﹁はい。では、お言葉に甘えて﹂
立ち上がって出ようとする僕の後ろにサイミンが滑り込むように
789
入ってきた。浴槽は狭い。二人で入ろうとすると少し無理がある。
﹁わ。ボク、出ようか﹂
﹁いえいえ。構いませんから、さ、どうぞ﹂
﹁う、うん﹂
腰を降ろすと再びお湯が浴槽からあふれた。僕のお尻の下にはサ
イミンの太もも、腰には柔らかいお腹、背中にはサイミンのおっぱ
いがピタリと密着する。サイミンの身体の上に乗って後ろから抱擁
される格好だ。
﹁お風呂は気持ちいいですね﹂
ただのお風呂じゃない。これは⋮⋮女体風呂? いや、女体椅子
? 多少窮屈だがそんなことは問題じゃない。
﹁極楽⋮⋮﹂
﹁あ、それ知っています。お風呂に入った時の常とう句ですね。﹂
﹁ごくらく∼、ごくらく﹂
﹁うふふ﹂
サイミンが僕の耳に軽くキスをした。そちらに顔を向けると次は
頬に。残念ながら口までは届かない。
﹁リリス様⋮⋮﹂
囁き声が耳にくすぐったい。
﹁ん﹂
﹁小さいおっぱいも可愛らしかったですが、大きいおっぱいもお似
790
合いですね﹂
後ろからおっぱいを揉まれた。今まではせいぜい﹃ふにふに﹄と
いう感じだったけど今では﹃むにむに﹄って感じだ。サイミンの手
にも収まらないサイズ。指の間から盛り上がった柔肉がはみ出して
いる。
むにむにむにむにむにむにむにむに
サイミンが嬉しそうにおっぱいを揉む。顔は見えないけど、嬉し
そうなのが分かる。しかし、うーむ⋮⋮。巨乳は感度が低いと聞い
たことがあるが、なるほど、こういうことか。確かに乳房の部分を
揉まれるのはマッサージされてるみたいな感じ。気持ちいいけどエ
ロい感じじゃない。
サイミンの指が乳輪をさする。円を描く様にくるくると触れられ
ると少しずつ感じてきた。
﹁ぁ⋮⋮﹂
﹁こちらの方がお好みですか?﹂
﹁はんっ﹂
キュッとつねられて乳首が立ち上がる。更に指で挟まれたり捏ね
られたり。乳首は徐々にジンジンしてきて、甘い刺激に悦び始める。
﹁ふぁあ﹂
もっと触って欲しい。身体の奥まで熱が伝わって行くのが分かる。
もしかしたら、おっぱいだけでイけちゃうかもしれない。しかし、
サイミンは僕のおっぱいを愛撫する手を止めて言った。
791
﹁そろそろこちらもよろしいですか?﹂
﹁え﹂
返事を待たずにサイミンの手が僕の足の間に入り込む。
﹁だめだよ﹂
﹁だめですか?﹂
﹁う⋮⋮だって﹂
お風呂だよ? それに、アラビーが待ってるし、みたいな言い訳
がいくつか頭に浮かんだ。だが、結局こういう時に口をついて出る
﹁だめ﹂は挨拶みたいなものだ。サイミンだってそれくらいのこと
は分かってると思う。意地悪まで覚える高度AIってどうなんだろ
う。
﹁ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮だめ、じゃない﹂
﹁では、ぞんぶんにご奉仕させて頂きますわ﹂
﹁ん、おてやわらかに︱︱︱︱︱︱︱って、あんっ﹂
いきなり、強い刺激を受けて身が竦む。
﹁わん、そんな、あっ、ん﹂
一本の指がクリを刺激し、他の二本が花びらを押し広げて割れ目
を開いた。
﹁やっ。お湯が入って来るよ﹂
ぐっ、と指が膣内に押し込まれると、生ぬるいお湯も一緒に侵入
してくるような気配があった。
792
﹁あ、お湯が、入ってきちゃう﹂
﹁大丈夫ですよ。中も綺麗に洗いましょうね。下賤の男達の精液、
全部わたくしが掻き出してさしあげます﹂
﹁ふわぁあん﹂
二本目の指が差しこまれる。ぐちゅ、ぐちゅ、と膣内を掻き混ぜ
られる感触に気を持ってかれそうになった。掻き出すの言葉通り、
サイミンは指を折り曲げて出し入れを繰り返した。
﹁は、ぁ⋮⋮っ。激し、ぃよ。⋮⋮だめ﹂
﹁だめですか?﹂
更に奥に侵入しようとしていた指がピタリと止まる。
﹁う︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮だめ、じゃないってば。もう、分かってて
言ってるでしょ﹂
すると、耳元でクスリと笑う声。首元をペロリと舐め上げながら
吸い付くようなキスをされた。
﹁リリス様は本当に聡明で、とてもお可愛らしいです﹂
﹁は、ぁ⋮⋮もっと、して﹂
﹁よろこんで﹂
じゅぶじゅぶ、ぐちゅぐちゅとナカから蕩けていく。表と内側か
らのクリの両責めにあい、また新たな快感を知った。愛撫というに
は激しい指戯に、僕は耐え切れず身を捩った。
﹁あ、んっ! あ、あ、あ、あぁ⋮⋮も、ぉ、だめ、イっちゃう⋮
793
⋮﹂
﹁どうぞ。もっとお可愛らしい顔を見せてください﹂
﹁だ、って、ぁん。ボクだけ、イっちゃう⋮⋮ひ、っ、あ﹂
﹁わたくし、リリス様の淫れる姿を見るだけで、イきそうですわ﹂
﹁は、ぁ⋮⋮っぁ、あ、っ⋮⋮っ︱︱︱︱︱︱﹂
熱い。お湯にのぼせかけているのかもしれない。膣内から愛液が
あふれて、お湯に混じって、流れ出していく。もう、男達の精液は
全部排出されたんだろうか。あぁ、頭がクラクラ。何も考えられな
くなり、頭の中が真っ白に塗りつぶされていく
﹁ぁ、あっ、あ、いい、イっ⋮⋮イく、きもちいい、も、だめ、ぁ、
っ、ぁ、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
快感に身を任せて、一気に昇り詰める。数秒、身体を震わせ、絶
頂の余韻を味わう。そしてそのままぐったりと全身をサイミンに預
けた。自分の輪郭がお湯に溶けていく感覚で︱︱︱︱︱︱このまま
溺れてしまいそう、だ。
その後、体を引きずってアラビーの待つ寝室に行き、ベッドに倒
れ込んだ。僕はすっかりのぼせていた。アラビーは相当不機嫌だっ
たが、よれよれの僕の身体を貪った。紳士ならば介抱してくれても
いいんじゃないかと思ったが、よく考えたら前提条件が間違ってい
る。
アラビーは毒づきながら僕のナカに3回出した。かけつけ三杯の
精液を注がれてまた僕はイった。
﹁せっかくのデカ乳なんだから、それで奉仕してくれよ﹂
﹁も、むり⋮⋮﹂
794
もはや、まな板の上の鯉⋮⋮いや、鯉じゃなくて、マグロか⋮⋮。
四肢を投げだして、ベッドの上にあおむけに寝転がった。
﹁ギブアップ、だから、好きにして﹂
﹁まったく⋮⋮﹂
アラビーがペニスを僕の胸に擦りつける。
﹁ひぁん﹂
﹁なんだ、デカ乳になって感度が下がったかと思ったが、そうでも
ねぇみたいだな﹂
﹁は、ぁ⋮⋮う、ん⋮⋮﹂
﹁ま、勝手にヤらせてもらうわ﹂
それから今度はおっぱいを犯された。乳首にペニスを押し付けら
れると、ニプルファックを疑似体験しているみたいだった。そのま
ま顔にぶっかけられたのには腹が立ったけど、その時僕は既に目を
開くのも億劫なほど朦朧としていた。
795
episode26︳2︵後書き︶
3Pにしようと思ってたのに
サイミンが独り歩き⋮⋮抜け駆けした
796
episode26︳3
ドッグベルに帰郷してから10日ほど経った。遠路はるばる帰郷
した割にこの街での目的が無かったので、日々面白そうな事に顔を
突っ込んで回った。
毎度のことながら行き当たりばったりだったが、以前の知己やア
ラビーの取り巻き︵?︶が親切にしてくれたので暇を持て余さずに
すんだ。僕好みのエロ系イベントのあれこれを紹介してもらって、
むしろ忙しいくらいだった。
週末を迎え、自動ログオフ時間を少し長めに設定してログインし
た。ドッグベル広場はいつもより混雑している。こちらの世界の時
刻は夕暮れ時で、広場の真ん中にそびえたつオブジェが長い日陰を
作っている。
人混みの中でぼんやりと人間観察などしていると、しばらくして
サイミンとメイノがやってきた。
﹁お待たせして申し訳ありません。お帰りなさいませ、リリス様﹂
﹁そんなに待ってないから大丈夫。ただいま、サイミン、メイノ﹂
﹁お帰りなさいませ。ご主人様﹂
メイノが丁寧に頭を下げる。この台詞を聞くたびにメイド服を着
せたくなる。
﹁今日はどうなさいますか?﹂
﹁とりあえず﹃しわ花街﹄に。あ、サイミン、もしかして用事ある
なら自由行動でもいいよ﹂
﹁いえ、今日はありません。ご一緒させて頂けますでしょうか﹂
797
﹁もちろん。じゃ、行こうか﹂
僕はサイミンの手を取る。サイミンの手はひんやり、すべすべし
ていて握ると気持ちがいい。身長差があるので傍目にはサイミンが
僕の手を引いているように見えるだろう。
﹁サイミンとメイノは元気だった?何か変わったことはあった?﹂
﹁お気遣いありがとうございます。特に変わったことはありません﹂
﹁メイノは?﹂
﹁健康状態には問題がありません。特に変わったことがあったかど
うかは分かりません﹂
﹁オッケー﹂
このやり取りも慣れたものだ。メイノの﹁分かりません﹂は﹁た
ぶん大丈夫﹂に置き換えて良い。
サイミンと一緒に過ごせるのは嬉しい。というのも、サイミンは
上位AIにクラスチェンジする予定があり、こうして並んで歩ける
日はもうそれほど長くないからだ。
﹁そういえば、アラビーへの挨拶っていうのはしたの?﹂
サイミンの顔を見上げて尋ねる。
﹁はい。お世話になった挨拶は済ませました﹂
﹁そっかぁ。何か言ってた?﹂
﹁何か、ですか﹂
﹁ええと、アラビーはどんなことを言ってた?って意味。どんな反
応だった?とか、そういう質問﹂
﹁はい﹂
798
サイミンは何かを考えるように二度大きく瞬きをした。
﹁⋮⋮アラビー様の反応は、特に逸脱したものではありませんでし
た。わたくしが﹃リリス様の騎士として更に高みを目指すため、修
行の旅に出ることにしました。いつ戻れるか分かりませんが、アラ
ビー様にもお世話になりましたのでご挨拶に参りました﹄と申し上
げたところ、﹃ふうん﹄と仰いました﹂
﹁えっ⋮⋮それだけ?﹂
いくらなんでも素っ気なさすぎるんじゃないか。
﹁いえ、流石に、それだけということはありませんが、言論の履歴
の詳細は当事者外には個人情報になりますので⋮⋮﹂
﹁あぁ、そうか。そうだよね。それって、AIのベース仕様だっけ﹂
﹁申し訳ありません。リリス様に隠し事をしたいわけではないので
すが﹂
﹁いいよいいよ﹂
AIキャラがユーザーの情報を他者にペラペラ吹聴するようでは
困るってことで設けられている仕様だろう。
﹁アラビー様に直接質問なさっても、隠したりされないと思います﹂
﹁うん。でも、大したリアクションは無かったんでしょ﹂
﹁はい﹂
﹁じゃ、いいや﹂
僕はリーダー不在時の仲間AIキャラの行動を﹁自由行動﹂に設
定している。つまり、僕がログアウトしている時にサイミンやメイ
ノが他人と会話することがあるということだ。陰口を心配するわけ
じゃないけど、どんなことを話しているのか気になる時もある。
799
先日知ったことには、メイノとペシミークが親しげに会話してい
たとか何とか。
この世界にAIキャラたちは不断に存在していて、僕がログアウ
トしている間も時間は流れている。当たり前のことだけど、時々不
思議になったりする。
﹁それにしても、サイミンでもいまだにAIの仕様に縛られるんだ
ね﹂
何気なく言うと、サイミンは大きく目を見開いた。
﹁まぁ! 当然です。それは、どういう意味ですか?﹂
﹁サイミンってこうして接している分にはもう普通の人間と変わら
ないから、AIの仕様とか超越してそうな気がする﹂
﹁買い被り過ぎです。でも、もしそう見えるなら、リリス様のおか
げです﹂
﹁ボクは何もしてないよ。サイミンの実力だって。上位AIにクラ
スチェンジしたら、アヌビスなんかもあっという間に追い越しちゃ
うかもね﹂
﹁もう。やめてください。褒めても何も出ませんわ﹂
頬を染めて片手で押さえる仕草が愛らしい。こんな可愛いサイミ
ンと別れなければいけないと思うと、改めて残念だ。
小汚い裏道を通って﹃しわ花街﹄に到着する。店への階段を降り
入口扉を開けると独特の煙と酒樽のカビの匂いが出迎えた。
﹁いらっしゃいませ。リリス様﹂
﹁こんにちは﹂
800
顔なじみとなった女の子の店員に挨拶する。﹁様﹂づけされてい
るのはお客だからだ、⋮⋮たぶん。カウンターに向かってテーブル
と椅子の間を縫って歩いていく途中でも何人かに声をかけられた。
﹁よーっす。リリス﹂
﹁よーっす﹂
﹁へい。今日も可愛いね、リリスちゃん﹂
﹁ありがと﹂
﹁やぁ、リリス。こっち座らない?﹂
﹁後でね﹂
適当に愛想を振り撒き、手をひらひらさせる。
先日僕はこの店で相当な痴態を晒したが、蔑まれることなく皆に
受け入れられていた。一応の敬意すら払われている。内心でビッチ
だとは思われているだろうけど、それは間違っちゃいない。
カウンターの隅、シェードのランプがぼんやり光っている薄闇の
中にフードをかぶって俯き加減に立っている人物がいた。近づくと、
かすかに顔をあげ、向こうが先に声を発した。
﹁やぁ⋮⋮リリス﹂
﹁こんにちは﹂
﹁調子はどう?﹂
﹁ファイン﹂
にっこり笑ってみせるとフェンデルもかすかに笑った。
﹁ここで何してるの?﹂
﹁今? いつも通り、仕事だよ。こっちの世界でのね﹂
﹁働き者だね。でも、せっかくのゲームなのに、こっちの世界でも
801
仕事するのって嫌にならない?﹂
﹁こっちの世界での仕事は仕事じゃないよ。冒険の経験値稼ぎと一
緒﹂
﹁そっか⋮⋮そうなのかな? よくわかんないな﹂
これだけリアリティのある世界でなら、仕事のストレスだって現
実と似たようなものじゃないのかと思うけど。仕事のなんたるかは
よく分からない。
﹁アラビーさん、もうすぐ来るよ﹂
﹁あ、そうなんだ。でも、別にアラビーに会いに来たわけじゃない
よ﹂
﹁じゃ、僕に会いに来た?﹂
﹁ふふ⋮⋮﹂
戯言を適当にかわす。
と、フェンデルの手が僕の髪の先に触れた。一瞬驚いたが次の瞬
間にはもう離れていた。
﹁そう言わずに、待っててあげてよ﹂
﹁⋮⋮いいけど﹂
軽く、心拍数が上がってしまった。いまだにフェンデルに対して
は軽い緊張感がある。
﹁アラビーさんからさ、もしかしたら今日あたり、面白い話が聞け
るかもよ。僕も同席したいけど、馬に蹴られるだろうな﹂
﹁なにが?﹂
﹁お幸せに﹂
﹁だから、なにが?﹂
802
しかし、フェンデルはそれ以上口を開かなかった。ただ、あから
さまに僕とアラビーをくっつけたがっているような、変な意思を感
じる。一体何を支援しているのだろう。
いつの間にか僕はアラビーの女の地位に復権している。
鈍感っ娘を演じるつもりはないが、アラビーの僕に対する好意は
理解しがたい。以前に個人識別情報の年齢を公開して見せたのが効
いているのかも? 借り物の識別カード上、僕の年齢は20歳だ。
アラビーが確か31歳だったか⋮⋮。出会い厨には見えないけど、
中身31歳の大人の男の思考回路は僕には分からない。31歳って
いうのはカテゴリとしてオジサンに入るものなのかも不明。
﹁うーん⋮⋮﹂
﹁どうした。難しい顔して﹂
噂をすれば影、じゃないけど、本人が来た。僕はつい苦い顔にな
ってしまった。
﹁なんだ、その反応﹂
﹁あ、いや、つい﹂
﹁つい?﹂
そこにサイミンが助け船を出すように割入った。
﹁こんにちは、アラビー様。先日はありがとうございました﹂
﹁おう。サイミン。っと、後ろにいるのは誰だ?﹂
﹁初めまして。メイノです﹂
﹁アラビーだ﹂
803
メイノはペコリとお辞儀をした。長い髪がさらりと前方に流れ落
ちる。
﹁友達か?﹂
アラビーが僕の方を向いて尋ねた。
﹁ううん。仲間だよ。ちゃんと、パーティーのメンバ﹂
﹁NPCだな﹂
﹁そう。職業は一応奴隷﹂
すると、メイノが再びお辞儀をした。ちゃんと空気を読んで偉い。
アラビーの誘導で、僕らは近くの丸テーブルに場所を移した。頼
んでないのに飲み物が人数分、給仕された。アラビーが葉巻を取り
出し、メイノを指して言った。
﹁結構な美品だな。自分で買ったのか?﹂
﹁うん。ライラック港町で﹂
﹁船に乗ったらしいってのは噂で聞いてたが、結構遠くまで行った
もんだな。いや、そっから更に、か。で、結局どこまで行ってきた
んだ? お前﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
これも聞かれるかなと思っていたけど、どう答えた物か悩む。ア
ラビーは、ハトホル様を入手した経緯を知りたがってるのかもしれ
ない。レア女神だと言っていたし、ハトホル様はどう見たって最南
方の出身者だ。
﹁ま、言いたくないならいいけどよ﹂
804
押されると引きたくなるが、引かれると引き留めたくなるのが人
情だ。それに、段々とあれこれ内緒にしてみたり、内緒にすべきか
検討するのが面倒になってきた。元々、口止めされているわけじゃ
ない。
﹁ウィシャスっていう街まで﹂
﹁へー﹂
﹁砂漠の街だった。結構暑くって大変だったよ。日陰探して生活し
てたもん。ハトホル様もその街でゲットしたんだよ﹂
﹁ほー⋮⋮﹂
一旦喋り始めると洗いざらい打ち明けたくなった。
﹁ハトホル様の像があって、そこから﹃最初の女神の寝所﹄ってダ
ンジョンに飛んで⋮⋮割と難関なダンジョンだったけど、サイミン
に助けられながらぼちぼち遊んで、レベル上げしたんだ。そこで﹃
太陽石のペンダント﹄も手に入れたりして﹂
﹁なるほど﹂
アラビーは何かを思案するように口元に拳をあてた。
﹁ここが旅の終着点⋮⋮、か﹂
﹁あれ?﹂
聞いたことがあるキャッチフレーズだ。
﹁もしかして、行ったことあるの? ウィシャス﹂
﹁あぁ。一度だけ﹂
﹁何しに?﹂
﹁何しに、ってこともないだろ。普通に冒険の過程で立ち寄ったっ
805
ておかしかぁない﹂
﹁そうかもしれないけど﹂
あの街って、人が少なかったからよっぽどレアな街なのかと思っ
てた。下手すれば未踏の地の可能性まで考えてたのに。
﹁アラビーって、得体が知れないとこあるよね﹂
﹁お前が聞かないからだ。だいたい、お前の方が、よっぽどだ﹂
そう言われてみれば、そうかな。
﹁じゃあさ、聞くけど、王だって本当なの?﹂
﹁あぁ。誰に聞いた?﹂
﹁ポストイット掲示板﹂
﹁意外と俗っぽいもの見てんな﹂
アラビーは案外さくっと認めた。火のついてない葉巻を噛むよう
にくわえ、動かす。なんだか憎たらしい。
﹁だったら、こっちも一つ質問するぞ﹂
﹁うっ⋮⋮どうぞ﹂
しまった、逆に切り込まれる隙を作ったか、と後悔しかけるが遅
い。身構える僕に、飛んできたのは意外過ぎる質問だった。
﹁お前、俺と結婚する気はないか﹂
806
episode26︳4
ハトが豆鉄砲くらったような、って表現が似合う顔をしていたと
思う。絶句する僕を前にアラビーは口の端を上げた。冗談かどうか
はさておき、僕を驚かせてやろうという意思があったのは間違いな
い。まんまと意図通りのリアクションをしてしまった。
﹁結婚⋮⋮って﹂
どういう意味?と聞く寸前に自力で頭を働かせる。結婚。その単
語で思いつく﹃何か﹄は無いか。
﹁あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮えーっと﹂
﹃そんなにボクのことが好きなの?﹄という超絶自惚れた結論に
辿り着く前に辛うじて、一つの可能性に思い当たる。
﹁ボク、女神じゃないよ﹂
そう答えると、アラビーはニヤニヤ笑いをやめた。
﹁賢すぎる女は可愛くないぞ﹂
﹁差別発言だ﹂
﹁賢すぎる男も可愛くないな﹂
その切り替えしに、僕だけでは無く横にいたサイミンも笑った。
特別に返しが上手だったわけじゃなくて、渋面が面白かったからだ。
僕はテーブルの上に置かれたオレンジジュースのグラスを両手で
807
持ち上げて一口飲む。汗をかいたグラスが僕の手を濡らした。
﹁結婚、って﹃王と女神の結婚﹄、のこと?﹂
﹁ああ。それに関する話だ。よく分かったな。お前、﹃王と女神の
結婚﹄イベントについてどこまで知ってる?﹂
﹁ほとんど知らないよ。このゲームのクリアイベントだ、ってこと
くらい﹂
﹁そうか。少し長くなるが、聞くか? 俺の申し出を受ける気が少
しでもあるなら、だけどな﹂
このゲーム﹃女神クロニクル﹄のクリアイベント﹃王と女神の結
婚﹄って、名称くらいは聞いたことがあるけど、中身は全く知らな
い。ゲーム攻略とはかけ離れたプレイをしてたから、クリアなんて
自分には関係ないと思ってた。
﹁ん︱︱︱︱︱︱聞いたら取り返しがつかなくなるような話じゃな
ければ、聞く﹂
﹁用心深いな。いい加減、もう少し俺の事を信用したらどうだ﹂
信用してないわけじゃない。ただ、断りづらい話だったり、面倒
事に巻き込まれる形になるのは困る。とはいえ、反面では興味も、
ある。
﹁クリアしたら、どうなるの?﹂
﹁エンディングが見れる。あとは、クリアボーナスがもらえて、そ
れから二順目が始まるだけだな﹂
﹁なんだ。二順目ができるんだ。えっと、クリアボーナスってのは
?﹂
﹁特別なスキルが一つだけもらえる﹂
﹁クリアボーナスっていうくらいだから、よっぽどすごいスキルが
808
もらえるんだね﹂
﹁あぁ。エーテル魔法、ってやつだ。まぁ、まず聞けよ﹂
アラビーは煙草をテーブルに押し付けて火を消した。クリアボー
ナスの話に食いつく僕を制して話し始める。
﹁まず﹃王と女神の結婚﹄イベントの発生条件だ。これは、職業が
﹃王﹄と﹃女神﹄の2人が﹃天地の狭間の神殿﹄で﹃結婚式﹄をあ
げることで成立する。ちなみに、﹃結婚式﹄の為には対となる指輪
を二つ、式服、結構な額の資金、それに見届け人として12名の参
列者、が必要だ﹂
うわ、面倒そう、と思ったが、とりあえず黙って聞く。
﹁このイベントが発動した後、エンディングが見られる。ただし、
エンディングってのは映画のスタッフロールみたいなしょぼい内容
で、大したもんじゃない。エンディング用の別空間に飛ばされて王
と女神の結婚にまつわる伝説∼だとか、世界に約束される平和の物
語が∼、みたいな紙芝居を見せられるだけだ。あぁ、分かってると
思うが、紙芝居っつーのは例えだからな﹂
﹁うん﹂
﹁エンディングが終わるとプレイヤの健闘を讃える文言が流れて、
クリアボーナスが与えられる。もらえるのは﹃エーテル魔法﹄って
呼ばれる強力なスキルだ。5つ提示されてそっから一つだけ選べる、
んだが、この5つはランダムらしいから俺も全部は把握してねぇ。
一応知ってる内容で人気があるのは﹃瞬間移動﹄﹃無限アイテムB
OX﹄﹃ステータス透視﹄、これくらいが順当だな。人気ねぇのだ
と﹃強くてニューゲーム﹄﹃不老不死﹄﹃透明化﹄らへんか﹂
ワープ
瞬間移動? 無限アイテムBOX? ちょっと聞くだけで凄そう
809
だ。でも﹃強くてニューゲーム﹄が不人気なのはなんでだろう。字
面からは有用そうに思える。それに、﹃透明化﹄も面白そうだけど
⋮⋮。
僕の思案をよそに、アラビーは続ける。
﹁ボーナスを貰い終えると真っ白で何も無い空間に切り変わる。ダ
イアログボックスが表示されて、二順目をプレイするかどうか聞か
れる。ここで﹃YES﹄を選ぶと今までのステータスがリセットさ
れて二順目が開始、つまり最初の街に飛ばされる。あぁ、もちろん、
そこでもらった﹃エーテル魔法﹄だけは所持した状態だ﹂
﹁うん。⋮⋮えっ? 二順目って、ステータスリセットされちゃう
の?﹂
黙って聞くつもりだったのに、思わず尋ねてしまった。
﹁あぁ。Lvは1からだし、所持してたアイテム、金、スキル、全
部が初期化される﹂
﹁ええ∼∼∼∼! じゃあ、なんで﹃強くてニューゲーム﹄スキル
が人気じゃないの?﹂
﹁だったらクリアしなきゃいいだけだからだろうな﹂
﹁ん⋮⋮? あ、そっか﹂
エンディングが見たかっただけ、っていうなら選ぶこともあり得
るけど、でなければ、とりたててメリットが無いのか。⋮⋮いや、
待てよ。
﹁二順目、三順目で次々とクリアして﹃エーテル魔法﹄を複数所持
する、ってことはできない? それなら﹃強くてニューゲーム﹄ス
キルを最初に取っておくのが一番効率的だと思うんだけど﹂
﹁できない。二順目でも﹃王と女神の結婚﹄イベントを発生させる
810
ことは可能だし、エンディングも見られるが、クリアボーナスは前
回手に入れた﹃エーテル魔法﹄のチェンジ選択しかできないな。一
回目に選択した﹃エーテル魔法﹄に飽きたとか、後悔してるとかい
うならここで変更するわけだ﹂
﹁そっか。そうそう都合良くできてないか⋮⋮。あ、ごめん。つい
口挟んじゃった。続けて﹂
﹁いや。お前の言う通り、﹃エーテル魔法﹄の複数所持方法は上位
プレイヤ全員の関心事だ﹂
﹁だよね﹂
﹁方法はあるが⋮⋮、まぁ、その説明は別にしよう﹂
﹁はぁい﹂
上位プレイヤ、か。アラビーもその一人なんだろうなぁ。
﹁以上﹂
﹁ん?﹂
﹁他に質問はあるか?﹂
﹁へ? 終わり?﹂
唐突な終わりに、驚かされる。
﹁ちょっと待ってよ。それじゃ、ボクに結婚申し込んだ理由が分か
んないんだけど﹂
肝心なところが抜けている。
﹁今の流れで分かるだろ。俺は知っての通り﹃王﹄だ。クリアイベ
ントを達成できる相手を探してる。これじゃ駄目か?﹂
﹁だから、なんでボクなのさ﹂
811
アラビーなら他に都合の良い相手はいくらでもいそうだ。
﹁あぁ、説明が抜けてた。結婚した相手とは、二順目でも関係性が
縛られる﹂
﹁縛られる﹂
﹁そうだ。互いに﹃妻﹄と﹃夫﹄になる。この関係性は﹃離婚﹄イ
ベントを経ないと解消されない﹂
﹁うーんと、夫婦になるとどうなるの?﹂
﹁離脱不能なパーティーメンバになることと、互いのステータス情
報が閲覧可能状態になること、それに、アイテムBOXと所持金が
共有化される﹂
﹁うわ﹂
その説明、抜かしちゃ駄目でしょ。結構影響がデカい。ポケット
とお財布が夫婦で一つになるなんて、どことなくリアル結婚と通ず
るものがある。が、それゆえに上手く共通ルールを決めないとイザ
コザが起きそうだ。
﹁あぁ。だから、逆に上位プレイヤ同士だと結婚しづらいんだ? お互い秘密にしたい情報もあるだろうし、プレイスタイルも相手に
簡単に譲れなくなってくるし。⋮⋮そうゆうこと?﹂
だから、プレイにこだわりが無く、従属させやすい僕を結婚相手
に選んだのか。
先回りして納得する僕にアラビーは言った。
﹁誤解するな。別に、都合よくお前を利用したいと思ってるわけじ
ゃない。俺はもう過去にこのイベントは達成済みだ﹂
﹁えっ。あ、じゃあ⋮⋮アラビーって既婚者なの﹂
﹁正確にはバツイチだな﹂
812
﹁ひゃ︱︱︱︱︱︱。なんか意外⋮⋮。離婚してもクリアボーナス
のエーテル魔法は消失しないんだ?﹂
﹁あぁ﹂
﹁ふーん﹂
なんとなく、過去に結婚済みの男にプロポーズされる、っていう
のは面白くない感じがする。﹁えっ?! あたしが一番じゃなかっ
たの?﹂みたいな。このプライドはどこから沸いてくるのだろう。
リリスの女としての自尊心か。
﹁妬くな﹂
﹁妬、い、て、ま、せ、ん﹂
言って自分で笑えてきた。
﹁じゃ、もう一回聞くけど、なんでボクと結婚したいの?﹂
既にクリアしてるなら面倒な手順を踏んで再度﹃王と女神の結婚﹄
イベントを起こしたい理由が分からない。まして、クリアするとス
テータスが初期化されるのだから、なおさらだ。
すると、アラビーが急に真剣な目でこちらを見つめた。真っ直ぐ
に射るような視線が僕の眼を捕える。
﹁お前を愛してるからだ﹂
一拍。
口にオレンジジュースを含んでいたら、盛大に噴き出していると
ころだ。
813
﹁⋮⋮嘘っぽい﹂
じと目で返すと、これまで隣で静かに事を見守っていたサイミン
が小さく笑い、咳でごまかした。
﹁つれねぇな﹂
﹁そうやって誤魔化そうとしてるなら、怒るよ﹂
﹁別に誤魔化そうとしたわけでもない。あんだよ。こういう言葉を
期待してたんじゃないのか?﹂
﹁してないし﹂
百歩譲って、万が一アラビーが本当に僕の事を愛してたとしても
︵その可能性の検討をするつもりはないけど︶、それとこれとは話
が別だ。既に達成済みのイベントを実行したい理由と、その相手に
僕を選んだ理由があるはず。それを聞かないことには、僕だって申
し出を受けられない。
﹁別にボク、クリアとか興味無いし、さっさと説明してくれないな
らこの話は無しだけど﹂
﹁だろうな。でも、クリアボーナスには、ちったぁ興味あるだろ﹂
﹁ん。まぁね﹂
﹁じゃ、それでいいんじゃないか。⋮⋮いや、誤魔化そうとしてる
わけじゃない﹂
僕はアラビーの目を真っ直ぐに覗き込む。さっきのお返しだ。す
ると、ようやくアラビーは真意らしき説明をしてくれた。
﹁確信があるわけじゃないが。俺は、﹃王と女神の結婚﹄がこのゲ
ームにおける真のエンディングじゃないと思ってるんだ。重要なイ
ベントをこなしていくと気づくが、この世界には一連のストーリー
814
がある。だが、﹃王と女神の結婚﹄を達成することで見られるエン
ドではそのストーリーが完結してないからだ。ストーリーを消化し
ていくことが真のエンディングへの道だとすると、﹃王と女神の結
婚﹄はその道のりの一つでしかない。つまり、﹃王と女神の結婚﹄
を経たカップルの二順目以降のプレイで、真のエンディングにたど
り着けるはずだと予測していて、俺は、それが見たいんだ。前回の
結婚は単にクリアボーナスを得るための契約でしかなかったから、
二順目で即、離婚した。だからまぁ、なんだ。結局のところ、お前
とだったら一緒にやってっても面白れぇんじゃないか、と思ったわ
けだ﹂
アラビーは少し照れてるようだった。そんな対応をされると逆に
困る。クリアボーナス?真のエンディング?一度に色々が提示され
て、消化しきれない。
僕はうつむいて、テーブルの木目を見つめる。どうしよう。なん
か、恥ずかしくなってきた。頬が心なし熱い。なんというか、マジ
で交際を申し込まれた気分だ。
しばし、気まずいような、くすぐったいような沈黙が流れる。
﹁⋮⋮ぁ、ちょっと、考えさせてもらってもいい?﹂
﹁あぁ﹂
この場はそれで別れた。アラビーが広場まで送ると言ってきたが
断った。
﹃しわ花街﹄を出て地上に出ると、満天の星空だった。ぽっかりと
浮かんだ月を見上げて、僕は唐突に叫びたくなる。僕の理性をあざ
笑うかのように星が瞬いていた。
815
episode26︳4︵後書き︶
この妙なくすぐったさは何だ、と。
作者も叫びそうです。
816
episode27︳1:カステラ
どちらかといえば、僕はアラビーの申し出を断る方向に傾いてい
た。が、その考えを覆すべく、サイミンが断固として言った。
﹁是非、お受けになるべきです﹂
﹁なんで?﹂
意外だ。てっきりサイミンは大反対すると思っていたのに。
﹁女神になったリリス様を見たいからです﹂
﹁女神、ねぇ⋮⋮。正直、そう言う柄じゃないんだけどなぁ。それ
に、ボクが女神になった姿って、面白い?﹂
別に、アバターの外見が変わるわけでもあるまい。いや、変わる
のかな? どちらにしてもサイミンがそんな動機を持つだろうか。
﹁結婚、って縛られる感じがして嫌なんだ﹂
﹁では、束縛無し、という条件をアラビー様につきつけてはいかが
ですか? それでも良いなら申し出をお受けになれば良いかと﹂
﹁束縛無し、って言葉で言ったって、強制的にパーティーメンバに
なっちゃうんでしょ。離脱できないって言ってたし。その時点で微
妙だよ﹂
﹁大丈夫です。パーティーメンバになっても個別行動は可能ですか
ら。新しく別のパーティーを組めない、というデメリットはありま
すが、元々リリス様は個人主義ですので、さほど影響が無いと思い
ますよ﹂
﹁あ、そうなんだ⋮⋮﹂
817
サイミンは僕の女神化を随分と期待しているようだ。更なる力説
を聞きつつ広場までやってきた。実はログアウトしなければいけな
い時間までにはまだだいぶ時間がある。一応ホームポイントでセー
ブをした。
さて、今日はこれからどうしようか。
どうも、楽しく遊べる気分じゃなくなっている。気がかりを抱え
てどんよりしている感じ。アラビーからの申し出を受けるか断るか
決めないとスッキリしないのだ。
馴染みの酒場に顔を出そうかとも思ったが、今のタイミングでう
っかりアラビーと顔を合わせたら気まずいと思い直した。
あてが無いので、ふらふらとメインストリートを歩く。店舗と露
店がずらずらと立ち並ぶストリートで、今は夜だから半分以上が閉
店している。締まっているのがNPCの店で、開いているのがユー
ザーの営業店だ。現実世界では週末の夜なので、一番売れ行きがい
いタイミングだろう。
﹁あ、ペシミークさんです﹂
メイノが声をあげた。見ると道の隅にブルーシートみたいなのを
敷いて商いをしているペシミークがいた。近づいて行って声をかけ
る。
﹁やぁこんばんは。リリスちゃん﹂
﹁こんばんは。見てもいい?﹂
﹁あはは。いいよ。おもちゃみたいなもんだけどね﹂
しゃがみこんで商品を眺める。ペシミークの前に並んでいるのは
818
指輪やネックレスなどのアクセサリだ。シートの上に黒い布が敷か
れていて、その上に無造作に置かれている。
僕はひときわ目を引く赤い石がついた十字架のペンダントを手に
取る。大ぶりな十字架に繊細な鎖が繋がっていて、シャランと音を
立てた。
﹁きれい﹂
﹁それは守りのチャーム。守備力+5だよ﹂
﹁いくら位するの?﹂
﹁3000G﹂
結構高い。
今僕のお財布には32300Gあるから全然買えちゃうんだけど、
こんな風に野ざらしでポンと置かれてる品の割には高価だ。
もう一つ、気になったイヤリングを手のひらに乗せる。見る角度
によってユラユラと色を変える七色のドロップ型水晶が吊り下がっ
ている。
﹁これは?﹂
﹁人魚の涙のイヤリング。呪い耐性++だね。3800G﹂
人魚か。なるほど。イヤリングの金具の所が魚のモチーフになっ
ている。お洒落に疎い僕でも丁寧な細工物なのが分かる。
﹁これって、ペシミークが作ったの?﹂
﹁うん。そうだよ∼﹂
﹁全部?﹂
﹁うん? もちろん原材料とか土台になるアイテムはあるけど、デ
ザインはほとんど変えてあるよ。デザインは全部、僕のオリジナル﹂
﹁すごい﹂
819
お世辞じゃなく、本当に凄いと思った。鍛冶師なのは知っていた
が、こんな才能があるのか。
﹁ありがと∼。そう言われると嬉しいよ。やっぱり自由気ままに物
を作るのはいいね﹂
ペシミークは頭上に両腕を頭上にうん、と伸ばした。
﹁ライラック港町にいた時はさぁ∼オーダー品が多くて。客の注文
とか要望に結構縛られてたから段々と創作意欲が減退しちゃって。
それに、こうやって露店で売り買いして直接お客の反応を見れるの
も楽しいんだよね。この感じ、久々に思い出したよ﹂
﹁そっか。良かったね﹂
﹁うん。こっちに引っ越してきて大正解だったよ。ありがとね、リ
リスちゃん﹂
僕は大して何もしてないけど。まぁ、喜んでもらえたならよかっ
た。ペシミークがニコニコ笑う。
﹁ところで、リリスちゃん、どうしたの? なんか元気なくない?﹂
﹁え?﹂
ドキリとして見返すと、バチリと目が合った。ペシミークは切れ
長のちょっと垂れ目だ。
﹁そう? なんで?﹂
﹁ううん。何となく、そんな気がしたからさ。悩みでもあるのかな、
って﹂
820
答えかねて口をつぐむ。元気が無い、わけじゃないけど、悩んで
いることがあるのは確かだ。悩んでる、っていうか熟考しなければ
ならない課題を抱えてる、っていうか⋮⋮。
ペシミークが心配そうな表情で首をかしげる。そのまま数秒。
﹁ちょっと待ってて﹂
ペシミークは立ち上がり、僕らに店番を任せてどこかに行ってし
まった。突然どうしたのかと思いつつ待つことしばし。
﹁はい﹂
僕の目の前に差し出されたのは白い包み紙だった。受け取ると手
のひらに温かい。折って容れ物にした紙の中にキツネ色の丸い菓子
がいくつか入っていた。
﹁ここのカステラボウルがスゴイ美味しいんだ∼。食べてみてよ﹂
﹁あ、ありがと﹂
聞いたことが無い食べ物だ。つまむと柔らかく、意外と下に垂れ
るような重みがある。鈴のような形で、生地は確かにカステラだ。
試しにぱくりと口に放り込む。
﹁ん!﹂
﹁どう? 美味しくない?﹂
ふわっとした食感と香ばしくあまやかな香り。できたてのカステ
ラの中からクリームが溶け出し、イチゴと練乳の甘さが口に広がっ
た。
821
﹁おいひい﹂
﹁でしょ﹂
﹁なんか、新食感って感じ。これも、ユーザーのオリジナル作なの
かな﹂
口をもぐもぐさせながら尋ねる。詳しくは知らないけど、こうい
う商品のデザインは付属の専用ソフトがあって、制作に結構な労力
を要すると聞いたことがある。
﹁そうだよ。食べ物のデザインは結構難しいんだ。僕も一度だけ試
してみたことがあるけど、全然駄目だった。クッキーを作ろうとし
たのに餅みたいになっちゃってね﹂
﹁餅?﹂
﹁そう。サクサク食感のはずがモチモチについでに、味は甘い沢庵
みたいだった﹂
﹁うわ︱︱︱︱︱︱﹂
想像したら笑えてきた。甘い沢庵味のクッキー⋮⋮ひどい。
﹁あぁ、やっぱりリリスちゃんは笑った顔が一番だね。元気が無い
時は美味しいものが一番﹂
ペシミークも片手に持った紙の袋からカステラボウルを一つ摘ま
んで口にする。そして、﹁うん、やっぱり美味しい。こっちは栗小
豆だけど、食べる?﹂と言った。
僕は、驚いてしまった。
⋮⋮これが。
⋮⋮⋮⋮これが天性のナンパ師というやつか。
822
ペシミークのゆるいテンションと、さりげない気遣いが僕の心に
するりと侵入してくる。押し付けがましくない優しさが、心地良く
て気を許したくなる。
いいなぁ。こういう立ち回りができたら、きっと女の子にもてる
だろう。実世界での僕も見習いたいものだ。
﹁悩んでる、ってほどのことじゃないんだけど⋮⋮﹂
自然と、聞いてもらいたくなった。甘えても良いような空気に乗
っかって、話し始める。
﹁とあるイベントに参加しないか、って誘われたんだ。それが結構
規模が大きくて、影響力のあるイベントでさ。誘ってもらえたのは
たぶん、凄く光栄なことなんだろうけど、ボク的には後々の面倒と
かも考えちゃって、躊躇してるっていうか⋮⋮﹂
詳細はぼかして説明する。まさか本当のことをペラペラと話すわ
けにもいかない。
﹁あぁ∼あるよね、そういうこと﹂
ペシミークはうんうん、と頷く。
﹁でも、断るのも悪い感じで。断るとしたら、どういう理由にした
ら角が立たないかも分かんなくって。困ったなぁ、って﹂
﹁どちらかといえば、断るつもりなんだ?﹂
﹁⋮⋮迷い中。ボクにもメリットのある話だし、興味がないわけで
もないし⋮⋮でも⋮⋮やっぱり、断った方がいい気もするし。う︱
︱︱︱︱︱ん。なんていうか、ほら、現状に不満があるわけじゃな
いから、現状が破たんする可能性にわざわざ首つっこまなくてもい
823
いかも、って思ってる感じ﹂
﹁なるほどね∼﹂
喋ってるうちに自分の中でもぼんやりしていた不安が形をなして
見えてきた。僕は何を厭うているのか、だ。
﹁はぁ∼∼∼∼∼∼⋮⋮⋮⋮﹂
特大のため息をつく。カステラボウルをわざと二個いっぺんに口
に入れて、両頬に詰めた。自己満足一発芸﹃ハムスター﹄。一種や
ぶれかぶれな思いが胸に広がる。
すると、そんな僕の落ち込んだ様子を見て、ペシミークが言った。
﹁最終的にはリリスちゃんがしたいようにすればいいと思うよ。ア
ドバイス何てできる柄じゃないから、参考までに聞いてくれればい
いけど。もし、僕がリリスちゃんの立場だったらね、どうするか﹂
﹁ん⋮⋮﹂
﹁僕だったら、面白そうな方を選んで、駄目だったら逃げるね﹂
逃げる?
﹁うん。ここはゲーム世界だからね。現実じゃできないように生き
てみよう、ってのが僕のポリシー。とことん面白そうな方に行動し
ていって、結果が危なそうだったらケツまくって逃げるよ。この世
界は現実と違って隠れようとしてる人間を見つけ出すのは困難だか
らね。連絡ツールが発達してないし、アバターの表面を変えちゃえ
ば別人になれる。いざとなったら今のキャラを捨てて新規プレイを
したっていいんだから﹂
僕は目をしばたいた。ポロリ、と音を立ててうろこが落ちた気が
824
する。ダメ人間の論理にも見えるが、潔さが感じられた。
﹁そっか⋮⋮それもそうだね﹂
﹃リリス﹄には愛着があるけど、死守しなきゃいけない形じゃな
い。言われてみれば、僕も最初はそういう気持ちでプレイしてたじ
ゃないか。
﹁ま、あくまでも僕の場合だけどね。でも、意外だなぁ。リリスち
ゃんって意外と真面目なんだね﹂
﹁そう?﹂
﹁うん。どっちにしようか悩んだりしないタイプかと思ってた﹂
﹁そうだね﹂
本当に、何から何までペシミークの言う通りだ。こんなの﹁らし
く﹂ない。申し出のスケールがデカくてビビってた、ってのはある
けど、つい﹃リリス﹄じゃなくて﹃僕﹄として行動してしまってい
た。
リリスは、もっと自由で、奔放で、きょーらく的で、勇敢である
べきだ。この世界で一番やりたかったことは何か。忘れるところだ
った。
﹁ありがと。ペシミーク﹂
ニッ、と笑う。
﹁お、なんか急にリリスちゃんらしくなったね﹂
﹁分かるの?﹂
﹁うん。声のハリが違う﹂
﹁ふふ⋮⋮ペシミークって、案外凄い男なのかもね。見直した﹂
825
面と向かって褒めると、ペシミークは手で頭を掻く。
﹁いや∼そんなことないよ﹂
﹁ううん。そんなことないことないよ﹂
僕は立ち上がって、スカートのひだをはたく。
﹁お礼に、これあげる﹂
僕は、カステラボウルを一つ手に取って、ペシミークの口に持っ
て行く。﹁はい、あ∼ん﹂の恰好だ。ペシミークはちょっと照れた
ように口を開いた。
ぱくっ。
もぐもぐ。
﹁どう? 美味しい?﹂
僕は満面の笑顔で尋ねる。
﹁うん。もちろん、おいしいよ。リリスちゃんの手ずから食べさせ
てもらえるなんて役得⋮⋮ん? あれ、これって、いちご練乳味じ
ゃなかったっけ。ハチミツの味がする気が⋮⋮﹂
もぐもぐ、ごくん。
ペシミークは飲み込んでから首を傾げた。
﹁美味しかった?﹂
826
もう一度尋ねる。
﹁う⋮⋮うん?﹂
﹁ボクさ、感動しちゃった。ペシミークって、カッコいいと思うよ﹂
﹁あ、ありがと﹂
﹁せっかくのゲーム世界なんだから、自分らしく、生きてみないと
ね。怖気づいてたらつまんない。ホントに、そう思う。いいこと言
うね﹂
﹁はは⋮⋮そんな大したこと言ったつもりじゃないよ﹂
﹁またまたそんな謙遜して。少なくとも、ボクは励まされたな。ペ
シミークの事いいな、って思っちゃったくらいだもん﹂
急な褒め殺しにペシミークはたじろぐ。
﹁いやぁ、僕なんかじゃリリスちゃんには釣り合わないよ﹂
および腰になるのも分かる。ペシミークの頬の青痣は消えている
が、殴られた記憶は消えていないだろう。だが、考えてみれば僕は
何度、ペシミークに振られただろう。このリリスが袖にされるなん
てのは捨て置いていいのだろうか? いやいくない。
﹁ところで、ペシミーク、﹃淫花の蜜﹄ってアイテム知ってる?﹂
﹁え? 調合用のアイテムの? 知ってる、けど⋮⋮﹂
こうなったら最後までペシミークには付き合ってもらおう。リリ
スちゃんの気晴らしに。
827
episode27︳1:カステラ︵後書き︶
次話エロあり
828
episode27︳2
躊躇に躊躇を重ねるペシミークをなだめすかしながら街外れの新
緑地帯にまでひきずりこんだ。柔らかい芝生の地面に低木樹がいい
感じに茂っている。ペシミークの膝の上に腰を降ろした状態で身体
を寄せ、唇を重ねた。
﹁やっぱり駄目だ。やめよう﹂
﹁ふふっ⋮⋮まだそんなこと言うの﹂
往生際が悪い。ここまで来て止めようなんて無しだ。
﹁我慢は体に良くないよ﹂
襟元に指をひっかけて引っ張る。耳元に息を吹きかける。手のひ
らで局部をさする。これらの一連の動作全てが男を誘う為の物だ。
開き直って蠱惑を演じれば、それは見事にリリスと言うキャラにハ
マる。耐え切れないというようにペシミークは低く呻いた。
﹃淫花の蜜﹄の効果はてき面らしい。以前クインツの女の子達から
もらった強力な媚薬。元々他人に使うつもりは無かったのだけど、
これはこれで面白い。
﹁っ、リリスちゃん﹂
﹁なぁに﹂
﹁頼むから、僕の理性が残ってるうちに離れて﹂
﹁やだ﹂
829
腕をペシミークの背中に回して、首元にかじりつく。少し強めに
歯を立てるとなかなかに良い噛み心地だった。
﹁痛い﹂
﹁ん。あむ、あむ﹂
ついでにペロリ。ちょっとしょっぱい。するとペシミークは情け
ない声をあげた。
﹁やめて∼たのむよ∼⋮⋮﹂
﹁やめて欲しい? ほんとに?﹂
完全に主導権はこちら側にある。おかしくて、つい意地悪く笑っ
てしまう。
﹁リリスちゃんに手ぇ出すなんて、後が怖すぎるよ﹂
﹁だいじょーぶだいじょーぶ﹂
衣服の下で既に固くなっているモノの形を確かめるようになでる。
ペシミークは荒くなる呼吸を整えようと必死だ。理性と本能がせめ
ぎ合っている様というのは他人事だと愉快過ぎる。
﹁もう、まだるっこしいなぁ﹂
足で地面を蹴って体当たりする。僕の体重を受け止めるようにし
てペシミークはどさりと仰向けに倒れ込んだ。
﹁最初はどっちが上になる? ボクでいい? いいよね﹂
反論は聞かない。やや無理矢理にペシミークの上着をはだけ、下
830
ばきを引きずりおろして上から跨る。
あぁ、面白い。口では嫌がっても体は正直だのう。かっこ笑い。
ペシミークの一物はそそり立ち、﹁怒髪天を衝く﹂的な様相だ。薬
が強力過ぎるのか、むしろ、ちょっと痛々しいくらいだ。かわいそ、
かわいそ、とナデナデすれば生き物のように震える。
僕はショーツを脱ぎ、その上に膝立ちでまたがる。両手でスカー
トの裾を持ち上げて見せた。
﹁ほら。見える?﹂
ペニスの先端を割れ目にあてがい、腰を振る。段々とこっちもそ
の気になってきて、摩擦で接着面がヌルついてきた。
﹁ほら、ね⋮⋮。入れるよ。ちゃんと見て﹂
﹁っ⋮⋮﹂
﹁ほら。んっ⋮⋮ゆっくり、ね⋮⋮食べて上げる⋮⋮きっと、すご
く、きもちいいよ﹂
最初だけ片手でちょっと支えて先端を埋める。そこからはもう一
度両手でスカートの両端をひらりとめくりあげた姿で腰を降ろして
いく。
﹁ぁ⋮⋮は⋮⋮ぁ⋮⋮入って、く⋮⋮んっ⋮⋮おっきい⋮⋮﹂
ぐぐぐっ、と割れ目を押し開き、怒張したペニスが膣内に侵入し
てくる。薬の効果でガチガチに張ったペニスは石のようだ。
﹁んっふ。っあぁ⋮⋮すごい、いい﹂
831
つぷん、と亀頭を飲み込むとピリッとした快感が体の中を通り過
ぎた。ペシミークは眉間に皺を寄せて苦しそうな顔で目をつぶって
いる。
﹁駄目だって。ほら、みてよ。ちゃんと﹂
せっかくサービスしてるんだから。宵闇に光源は月光。他の星が
かすむくらいの満月と言う豪華な背景をしょって僕はまた笑った。
この辺りは街灯も無いが、慣れた目には月光だけで十分に明るい。
﹁あぁ⋮⋮﹂
溜息のように漏れる声。何かを諦めるような、やや悲嘆を帯びた
声だ。
﹁ふふ⋮⋮はいっちゃった﹂
頭の方しか飲み込んでいない状態でキュッと膣に力を入れると、
ペシミークはまた苦しそうに呻く。ゆっくりと上下に出し入れする、
といってもキツイのであまり滑らかに動かない。僕の秘部は獰猛で、
侵入者に噛みつく様に絡みついている。
﹁くっ⋮⋮﹂
﹁ちょっと、これ以上、ボクの方にリードさせるつもり?﹂
意外に発揮された忍耐力には賞賛を送りたいが、それではあまり
に野暮と言うものではないか。からかうように、腰を軽く振って見
せる。
﹁あ、うわ、あん!﹂
832
グッ、と力のある手が僕の細腰を掴んだ。次の瞬間焦らしていた
モノが一気にずぶっ、と奥の方に入り込んできた。とっさに強い圧
迫感が腹部をナカから押し上げ、息ができなくなる。
﹁⋮⋮ぁ。っ︱︱︱︱︱︱ぅ﹂
パクパクと口を動かす。酸素を探す魚になった気分だ。
﹁あ、ぁん! や、ぁ。きゅうに、挿れないで、よ、ひゃ、ぁん!﹂
唐突に突っ込まれたせいで自然と腰が逃げようとしたが、押さえ
つけられた。
﹁ひゃ、ぁ、ぁ、っ、あ、ぁ、あ、ぁあっ、ぁ、んっ、だめ、ゃぁ
⋮⋮﹂
ペシミークの腕が上に乗っかった僕の腰を操る。乱暴に動かされ
るのでバランスを取るのが難しくて必死で姿勢を整えようとした。
が、ガチガチのペニスが最奥部まで突き込まれた状態で暴力的に膣
口を叩いてくるので、僕の方も平静ではいられなくなった。
﹁あ、あ⋮⋮あ、あ、っ⋮⋮。あぁっ⋮⋮﹂
結局垂直の騎乗位を保てず、スカートからも手を離し、ぺたりと
前方に倒れ込む恰好になった。それでも構わず、ペニスは激しく僕
の膣口を責め立てる。
﹁ひ、ゃ、ぁ、あ、⋮⋮ぁ、すごい⋮⋮いぃい︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
833
しかしそのピストンはさほど長く続かず、もっと、と思うタイミ
ングで精が放たれた。すごい量の精液が膣内をドロドロにするのが
分かる。
﹁は、ぁ⋮⋮ぁ、あ︱︱︱︱︱︱︱っ⋮⋮は︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱﹂
荒い息が重なる。ペシミークも胸を上下させて呼吸をした。が、
すぐにまた僕の腰をつかむ手に力が入った。
﹁ぁ⋮⋮ちょっと、まって⋮⋮﹂
あまり挑発するべきじゃなかったか、と後悔しかける。
﹁駄目だ。まだ、全然出し足りない﹂
﹁ん⋮⋮﹂
﹁犯すよ﹂
﹁はぁ⋮⋮い﹂
一度引き抜かれると僕の足の間からは排出された精液が愛液と混
ざってあふれた。あまりにいっぱい出されたものだから、うっとり
してしまう。やっぱり、膣内出しは最高。射精されてる瞬間をナカ
から感じるのがいい。
世界がくるりと反転し、僕は草地を背中にした。足を開かされ、
今度は正面からペニスが入ってきた。
﹁んっ⋮⋮﹂
ずぶうっ、ずぷっ、ずぶぅ。
反り返ったペニスがお腹をナカから抉ってる感じがする。
834
﹁んっ、ふっ、うっ、んっ、ん⋮⋮ちょっと、ん⋮⋮くるしぃ﹂
﹁ごめん。とりあえず出させて﹂
﹁く、っ⋮⋮いいけどっ、さ、ぁ⋮⋮自分ばっか、りっ。ん、ずる、
いっ﹂
﹁あぁ⋮⋮ごめん﹂
そう言うとペシミークは動きを止めないまま片手を腹の間から秘
部に滑り込ませた。
﹁ん、ぁっ!﹂
クリを擦られて思わず声をあげる。
﹁ここ、好きでしょ﹂
﹁ぁ、んっ。ひゃ、ぁ、だめ、そんな、風に、しちゃ﹂
ペシミークの腰使いに合わせて指が花芽を刺激する。ナカと外か
ら同時に虐められて体が跳ねそうになる。
﹁女の子はたいてい、ここ、好きだもんね﹂
﹁ひぁっ⋮⋮っ、だ、ぇつ、だめぇ﹂
﹁もうちょっと、じっくり気持ち良くさせてあげたいけど、だめだ、
こっちも、余裕ない。また、出すよ﹂
﹁は、ぁ⋮⋮、ふぁあ、ぁ、ぁ⋮⋮は、ひ。出して、いっぱい、⋮
⋮ぃ﹂
そしてその望みはすぐに叶えられた。ひり付く欲望の放出を感じ
ながら、僕は押し殺した鳴き声をあげる。人気が少ないとはいえ一
応野外だから、あられもなく叫ぶわけにもいかない。
835
﹁うぅ⋮⋮っ、っああぁ⋮⋮ぁ⋮⋮!﹂
たっぷり膣内出しをして最後の一滴まで放ちきると、ペシミーク
はぶるっ、と身を震わせた。
﹁すごいね。リリスちゃんの中⋮⋮前の時も良かったけど、こうや
って味わってみると凄い﹂
﹁ぅ⋮⋮ん? ふぇ?﹂
﹁しかもナカ出し大好きって、エロい体してるね﹂
﹁ん⋮⋮﹂
内心では﹁そうなの? 他の女の子と違うってこと?﹂と問い返
していたが、気の無い返事しか出てこなかった。代わりに仰向けの
状態で両手を持ち上げて広げた。
誘いに乗るように、ペシミークは僕に覆いかぶさってくる。髪の
毛を軽くつかみ、耳元にくすぐるようなキス。
﹁っん、ふっ⋮⋮﹂
﹁やばいな。ホントは僕、ロリっ娘ってタイプじゃないんだけど、
ハマりそうだ。さわらぬ神に祟りなしのはずが⋮⋮。おかしいな。
まぁ、毒も食らわば皿まで、か﹂
︱︱︱︱︱︱んんん。毒、ってボクのこと?ひどいなぁ⋮⋮
僕は片手でペシミークの一物をまさぐった。まだ、十分に堅くて
雄々しい。ペシミークはちょっと呆れたような情けないような顔で
笑った。
﹁もっぺん、挿れるよ﹂
836
是と答えるいとまも無く、再び押し入ってくる。ナカに残ってい
るドロドロが潤滑液になって一度作った道を容易く開く。ペニスが
出し入れされるたびに、卑猥に粘つく水音を立てる。
ちゅ、ぶちゅ、ぐちゅ、じゅぶ⋮⋮じゅぶ⋮⋮。
﹁ひぁっ﹂
ペシミークの手が再びクリを摘まむ。同じことを繰り返されても
何度も反応してしまう。否、むしろ体の反応は一層強くなっていく。
乱暴に擦られて、痺れるような快感が走った。
﹁ひぅっ! め、ぇっ、いく、いっちゃう⋮⋮﹂
あっという間に、絶頂がすぐ近くにやってくる。容赦なくずん、
ずんと突き込まれ、目に映る景色が何の意味ももたなくなっていく。
意識がソコの一点に集中し、ただひたすら快感を受け止めることに
夢中になる。
ずぶっぅ、ずちゅ、ずちゅ、ぐぢゅ、じゅぷっ、ずぶっ⋮⋮
﹁は⋮⋮ぁ⋮⋮っ⋮⋮もう⋮⋮、だめ、イ、くっ⋮⋮ううっ︱︱︱
︱︱︱う︱︱︱︱︱︱﹂
そして、絶妙のタイミングでナカに熱いものが放たれる。僕はき
つく目を閉じた。
﹁ア、ぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぁ、っう︱︱︱︱︱︱
︱⋮⋮⋮⋮﹂
837
熱い。お腹の中から、溶けてしまいそうだ。ドロドロになって、
霧散して、ほどけて、流れて、消えてしまいそうだ。全身がじっと
りと汗ばんでいる。足の間を滴るものはなんだろう。
﹁あぁ⋮⋮﹂
大きな息を吐く。
ぼんやりと開いた目に不思議と明るいものが映り、少し遅れてそ
れが月だと気づいた。
838
episode27︳3
何回くらいイかされただろうか。さんざん虐められた花芽が腫れ
て痛みを感じる。柔らかい皮膜がやぶけて、陰核がむきだしになっ
ているようだ。
あぁ、風が吹いただけで痛いとはこのこと⋮⋮って、それじゃ痛
風か。
ペシミークは﹁ごめんねぇ﹂と何度目かの詫びの言葉を繰り返し、
僕の股に顔を寄せた。
﹁えっ! えっ⋮⋮ なに﹂
流石にもうこれ以上は勘弁して下さい。比喩的な意味でも、事実
的な意味でも﹁お腹がいっぱい﹂だ。僕が慌てて逃げるように身を
退くと、﹁あぁ、ちがうちがう﹂とペシミークは手を振った。
﹁癒してあげるから﹂
﹁ぇ? っん⋮⋮。あ、っ⋮⋮﹂
陰部をれろり、と生ぬるい舌の感触が這う。
﹁ぁうっ⋮⋮も、もう、エッチは無理だよ⋮⋮﹂
﹁うん、分かってるって﹂
唾液でねっとりとした温かな感触が、ぐちゃぐちゃに蹂躙された
女陰を優しく撫でた。
﹁はぁ⋮⋮﹂
839
﹁力抜いてて﹂
ぺろおり、ぺろおりとゆっくり舌が触る。愛液を舐め取って綺麗
にしてくれているみたいだ。気持ちいい。犯されるのとはまた違っ
た気持ち良さだ。僕は言われた通り、力の入らない体を完全に投げ
出し、その愛撫に身を任せた。
力を抜くと弛緩した割れ目からまた大量のドロドロが流れて落ち
たが、ペシミークはそれも厭わずに舐め取った。
﹁やっ⋮⋮なんか、恥ずかしい﹂
﹁そう?﹂
花びらにも優しく舌が這う。これって、いわゆるお掃除フェラ、
ってやつじゃないのか。男の側にご奉仕させるなんて、僕の常識で
はちょっとありえない。まぁ、僕のエロに関する常識なんてせいぜ
い二次元やネットから収集した浅薄なものでしかないけど。
﹁っ、ぁ⋮⋮⋮⋮ん。ペシミーク、こそ、はっ、恥ずかしく、ない
の?﹂
さっきまでの嵐のようなセックスを経て疲れ切った身体にこの穏
やかな愛撫は効く。じわじわと浸食されるみたいだ。
ペシミークは僕の足の間から返事をした。
﹁ん︱︱︱︱︱︱? なんで僕が恥ずかしいの?﹂
﹁お、男のっ、プライドって、ないの?﹂
﹁いや、だって、こんなにしちゃって、ごめん。悪いな、って思う
し﹂
確かに、酷くされたものだ。﹃淫花の蜜﹄の効果は僕の予想を通
840
り越して良く効いた。元々ペシミークが絶倫ってのもあるんだけど、
それに輪をかける威力を発揮した。こちらの世界で夜が明けるまで
僕は犯され尽くした。
後半、泣いてしまったし、最終的には泣く力も無くなったくらい
だ。
﹁でも、ボクの自業自得でしょ﹂
﹁はは⋮⋮もっとごーがんふそんな方が似合うよ。まだ元気ない?﹂
﹁ううん。元気、元気。ヘロヘロだけど。おかげでいい気分転換に
なったーぁーあふ⋮⋮﹂
語尾にあくびがかぶる。もう、気だるくて眠くて仕方がない。
ちゃぷ、ちゃぷ、ぺろり。ペシミークはただれた花びらも舌で綺
麗に整えてくれた。素直に奉仕を受け入れて、されるがままに任せ
た。最後にちゅ、と優しくキスされてオシマイ。
﹁うーん⋮⋮しかし、これを気分転換、って言っちゃえるあたりは
流石だねぇ。僕はもうギブアップだなぁ。もう今日はこのまま自動
ログアウトするよ。ホームポイントまで送れないけどごめんね﹂
﹁あ、もう時間ギリギリなの?﹂
﹁いや、足腰が立たない﹂
その言葉に笑ってしまう。ペシミークなりの見栄はこういう形で
発揮されるらしい。
﹁ふふっ。ホントに、ペシミークっていい男だね。いざとなったら
ペシミークと一緒に逃げようかな﹂
﹁え? あぁ。いいよ﹂
﹁うわぁ∼﹂
841
承諾が軽い。本気にしてないのだろうと思うけど、いい加減なも
のだ。
よいしょ、と僕は立ち上がる。衣服を直して、裾をはたいた。足
の間がジンジンして、まだ中に何か残っている感じがする。一応回
復魔法をかけてみるが、変化なし。HPだけならば装備している﹃
太陽石のネックレス﹄で満タンになっているはずだし、仕方がない
か。
﹁じゃぁ﹂
踵を返そうとしたところ、引き留めるようにペシミークに名前を
呼ばれた。
﹁リリスちゃん﹂
短い夜が明け、空はしらじらと薄明るい。地平線の下からの太陽
が光を投げかけて空をシーツみたいに白めかせる。
﹁いいよ。リリスちゃんが望むなら一緒に行くよ。だから、心配し
ないで、思い切ってしたいように、やりたいように、気の赴くまま
にすればいい。駄目だったらさ、僕と一緒に逃げよう。こう見えて、
僕は逃げるのだけは得意だから、心配しないでいいよ﹂
僕は足を止めて、ペシミークの顔をジッと見る。どこまでが真面
目なのか遊びなのか分からないけど、きっとそれが特有の優しさな
のだろう。
ほんの一瞬だけ視線を受け止めてから、ペシミークはへらりと笑
った。
それから一度大通りに戻ってサイミン達に声をかけた。サイミン
842
とメイノにはペシミークに代わって店番をしてもらっていた。もう
今日は店じまいしていいよ、と言うと、売り物と売上はどうしまし
ょうかと聞かれたのでとりあえず持ってて、と答えた。
僕の方もログアウト時間まで間が無かったので、指示は早口で、
ホームポイントまで走って帰った。
週末の夜、いまだに広場付近は混雑している。偶然、同じように
走っているユーザーが他にもいたので、少しおかしかった。剣士は
僕のパタパタ走りを軽々と追い越していった。
あぁ、名も知らぬ、どこに住んでいるのかも知らないお仲間の皆
さん、また明日。
**
どんなに前もって知らされていたとしても別れのその時は突然だ。
心の準備ができているようでできていなかったことを思い知らされ
る。
サイミンの旅立ちの日を迎えて僕は感傷的になっていた。サイミ
ンはいつも通りすっくとした立ち姿で、口元に微かな微笑みを浮か
べている。
﹁では、リリス様、行って参ります。アラビー様、くれぐれもリリ
ス様を宜しくお願いします。メイノ、リリス様によくお仕えするの
ですよ﹂
﹁はい。お姉さま﹂
﹁おーおー。頼まれてやるから、さっさと行って来い﹂
﹁うう⋮⋮サイミン﹂
ぐすっ、と涙をこらえて鼻をすする。
843
﹁泣かないでくださいませ。リリス様。リリス様が悲しまれると、
わたくしの決心が鈍りますわ﹂
﹁元気で、頑張ってね。あっ、でも、サイミンは無理するとこがあ
るから、頑張り過ぎないように⋮⋮﹂
﹁はい。リリス様もお達者で。なるべく早くお側に戻って来ること
ができるように頑張って参ります﹂
サイミンは僕の手を取って包み込むように両手で握った。サイミ
ンに人間らしい体温は無いが、その手は温かく感じる。
﹁必ず、再びリリス様の下に帰って来ます。ですから、きっと、待
っていてくださいませ﹂
﹁うん、うん﹂
僕はこくこくと何度も頷く。
サイミンは上位AIにクラスチェンジする。クラスチェンジと言
ったって、単なるジョブの変更とはわけが違う。うっすらとしたイ
メージはあるけれど、実際の所、サイミンにどのような変化がもた
らされるのか僕には分からない。
たぶん、今までよりもずっとメインシステム寄りの存在に組み替
えられるのだろう。だがその結果、今までの﹃サイミン﹄という存
在が、人格が消失してしまう可能性だってあるし、人格のフレーム
ワークは残っていても僕との記憶がリフレッシュされてしまうかも
しれない。
サイミンの言う﹁必ず帰って来ます﹂という言葉は僕にとって楽
観的に信じられるものじゃなくて、むしろ必死で信じたい願いの様
なものだった。
844
もし、万が一このまま二度と会えなくなるのならば、今までの御
礼の言葉を述べるべきだ。だが、口にするのが躊躇われる。﹁今ま
でありがとう﹂なんて言ったら、本当にこれが最後のお別れになっ
てしまいそうで怖い。
﹁私が戻って来たときには、リリス様の女神姿を見たいです。見せ
てくださいますか?﹂
﹁頑張るよ。でも、もしサイミンが戻って来た時にまだ女神になれ
てなかったら、僕が女神になれるように、冒険を手伝ってよ﹂
﹁はい。もちろんです。言われてみれば、その方が楽しいですね﹂
サイミンは微笑む。
﹁わたくしがいなくなった後、リリス様が道中で危険な目に合われ
ないよう、ハトホル殿にもお願いしておきました﹂
﹁ハトホル様に?﹂
﹁はい。僭越とは思いましたが、わたくしが抜けるとリリス様のパ
ーティーの戦力は低下しますし、いざという時に守る人間がいなく
なるというのは心配でしたので﹂
﹁そっか。何から何までありがとね﹂
やや後方でアラビーが﹁俺もいるぞー﹂とやや小声で言った。ど
ちらかと言うと本気じゃなくて茶々を入れている感じだ。アラビー
の事は無視してサイミンは続けた。
﹁あの方は、戦闘力だけならばわたくしを遥かに上回ります。それ
に、話せば案外分かる方ですので、頼りできると思います。ただし、
少しだけお気を付け下さい。虚言癖がありますので﹂
﹁⋮⋮え?﹂
845
咄嗟に、誰の事を言っているのか分からなくなる。
﹁え? アラビーのこと?﹂
﹁いいえ。ハトホル殿のことです﹂
﹁あ、うん。だよね。ハトホル様が、何だって? きょげん、へき
?﹂
虚言癖。僕の知っている意味ならば、それは。
﹁嘘つきってこと?﹂
﹁はい﹂
ちょっと待て。人工知能が嘘をつく、って一体どういうことだ。
﹁そんな、なんで。嘘ついて彼女にどんな得があるっての?﹂
言いながら考えながら、僕は混乱している。嘘をついて楽しむ、
なんていうのは、よっぽど。
﹁⋮⋮そんなのって、よっぽど高度な知能じゃないと⋮⋮﹂
ハトホル様はちょっと喋ってみた感じ、あまり賢そうじゃなかっ
た。いや、待て。もしかして、﹃それ﹄自体が虚言だったとしたら。
﹁成熟度にもよりますが、十分にあり得ることだと、わたくしは思
います。あの方は、わたくしと同等の人工知能レベル﹃X﹄です﹂
ぎゃふん。
そこに、不意を突いたサイミンからのキス。面食らって、せっか
846
くのお別れのキスをカッコよく決められなかった。
﹁あ、わ、わ。サ、サイミン﹂
﹁はい﹂
﹁いってらっしゃい!﹂
﹁はい!﹂
**
パーティーの一覧表からサイミンの名前が消えた。僕の胸はぽっ
かりと穴が抜け落ちたみたいだ。晴れやかな顔で去って行ったサイ
ミン。その場からフッと消え失せたので背中を見送る、っていう感
じでもなかった。でも、それで良かったのかもしれない。これ以上
お別れが長引いたら泣いてしまうとこだった。
﹁⋮⋮先日の件だけど﹂
サイミンの立っていた場所をぼおっと見つめたまま僕は口を開く。
﹁あぁ﹂
﹁一つだけ条件付きで受けたい﹂
これが、アラビーからの結婚の申し出に対する答えだ。ぐずぐず
とあまり返事を引っ張るのも本意じゃない。条件付きで、っていう
あたりがなんか小賢しくてカッコ悪いかなと思ったけど、さっさと
白黒ハッキリさせてしまおうと思う。
すると、アラビーは言った。
﹁意外だな。一つでいいのか﹂
﹁えっ。そう?﹂
847
アラビーの方を向く。
﹁まぁ、いい。申し出ておきながら何だが、俺の方も条件はある﹂
﹁あ、そう⋮⋮。じゃあ聞くけど、とりあえず先に言うよ。ボクの
方は、ええと。他の人とのエッチを制限されたくない。ヤキモチ焼
かれたり、いちいち御仕置きされるのもヤダ﹂
﹁言うと思った﹂
﹁⋮⋮あれ﹂
なんだか読まれてる感が半端ないのですけども。これでも結構考
えて出した答えなのに、反応が拍子抜けだ。
﹁俺の方からは、二つ。一つは、お前が他のヤツと遊ぶのは勝手だ
が、俺の旧知のパーティーメンバだけには手を出さない事。もう一
つはどちらかが離婚を希望した場合、もう一方は理由をきかずに了
承すること﹂
﹁⋮⋮ほほお﹂
なるほど。前者はともかく、後者はさっぱりしていて、とても良
い。僕にとっても凄く有難い話だ。
﹁アラビーの旧知のパーティーメンバって誰のこと? ボクの知っ
てる人?﹂
﹁3人いる。お前が知ってるのは修道長のミゼイヤと、たまに売人
やってるニケだ。もう一人、放浪中のクルカルックとは面識が無い
な。俺はこの3人とは個人的に面倒を起こしたくない。色恋沙汰が
絡むとそれまで上手くやってた仲間との関係がガチで崩壊すること
があるからなぁ⋮⋮﹂
848
後半はぼやいているようだった。過去に痛い目を見たことがある
のだろうか。
ミゼイヤとニケには何度か会ったことがある。アラビーは街外れ
の修道院を拠点に女の子の﹃初売り﹄とか﹃調教﹄とかを商売の一
つにしていて、その責任者︵?︶みたいなことをしているのがミゼ
イヤ。街角でポケットティッシュでも配るみたいな気軽さで色んな
面子に何やら売りつけているのがニケ、だ。この2人がアラビーに
とって特別な友人だったとは知らなかった。
﹁フェンデルは?﹂
﹁あいつは⋮⋮まぁ、あいつもできたら含む。が、まぁ、あいつは
どっちでもいい﹂
﹁あれれ。仲いいように見えたけど﹂
﹁別に悪かねぇよ。変なとこつっこむな﹂
﹁あは、ごめん。ごめん⋮⋮えっと、オッケーだよ。二つの条件、
丸飲み。いぇーぃ﹂
僕は左右の手で丸を二つ作って見せる。一瞬、アラビーから反応
が無かったので、その二つの丸を眼鏡にして顔色を窺った。
すると、一拍置いて、アラビーがニッと笑った。
﹁よし。じゃあ、結婚だ。話進めるか﹂
結婚、かぁ。改めて考えると不思議な感じだ。この僕が、純白の
ドレスを着るのか。リリスちゃんに清純の白は似合わない気がして
ちょっぴりおかしくなる。
結婚イベントの申し出を受ける気になったのはペシミークの助言
があったから、ってのもあるけど、サイミンが望んだから、っての
も大きい。サイミンが帰ってきたら、きっと僕の堂々たる女神姿を
849
見せてあげよう。
歩き出したアラビーの後ろを追いかける。途中でふっと、サイミ
ンが立っていた場所を振り返った。もうそこには舗装の隙間から生
えた雑草が奔放に揺れているだけだった。
850
episode28︳1:合コンパーティー
﹃王﹄と﹃女神﹄の2人が﹃天地の狭間の神殿﹄で﹃結婚式﹄を
あげることでイベント﹃王と女神の結婚﹄が成立する。そして﹃結
婚式﹄の為には対となる指輪を二つ、式服、結構な額の資金、それ
に見届け人として12名の参列者、が必要だ。
この煩雑な手続きのあれこれを、僕はすっかりアラビーに任せる
つもりでいた。だって、結婚を申し込んできたのは向こうだし、ラ
イトプレイヤの僕にそんな上級者向けのイベント準備ができるわけ
もない。まぁ、アラビーなら難なくやってのけるだろう。⋮⋮きっ
と、たぶん。
ただ、僕の方でも一つだけ確認しなければいけないことがある。 ﹁どうやって女神になるの?﹂
これだ。
必要なアイテムや資金の準備は寝ていても整うかもしれないが、
僕自身が﹃女神﹄にクラスチェンジするのは流石に﹁じゃ、あとは
よろしく∼﹂って訳にはいかない。
アラビーはさらりと答えた。
﹁女神になる方法は、俺もよく知らねぇんだ﹂
﹁えっ! どうゆうこと﹂
﹁女神の加護があることと、評価ポイントがかなり必要、らしい、
っつーのは聞いたことがあるんだけどな﹂
﹁じゃ、じゃあ、無理じゃん。前も言ったけど、ボク、女神じゃな
いよ。たまたま女神の加護はゲットしたけど、評価ポイントは全然
851
貯まってないし﹂
想定外の答えだった。今までの口調からしてあっさり﹃王と女神
の結婚﹄イベントに到達できるのかと思いきや、そうでもないのか。
まさか、今から冒険を重ねてレベル上げして、自力で﹃女神﹄にな
れとでも?⋮⋮だとすると、相当に気の長い話だ。
﹁いや、だから、餅は餅屋に任せる﹂
﹁餅屋⋮⋮って﹂
﹁てっとりばやく、お前を女神に仕立ててくれるヤツのとこに連れ
てく﹂
﹁いるの? そんな人が﹂
﹁ああ。俺は男だから﹃王﹄はともかく、﹃女神﹄にクラスチェン
ジする為のノウハウはさっぱり持ってない。そこにだけは、他人を
頼るしかない⋮⋮と思ってる。正直、あんまり気は進まねぇんだけ
どな⋮⋮﹂
アラビーは軽くため息をついた。アラビーが臆するような相手っ
て、どんな人間なのだろう。つまり、﹃女神﹄のノウハウを持った
女性プレイヤ、ってことだよね。脳裏には、何となく百戦錬磨のお
どろおどろしい魔女のイメージが浮かぶ。
﹁なんか、怖いなぁ。どんな人なの?﹂
﹁個人じゃない。有名なギルドだ。女ばっかり集まって徒党を組ん
でる。聞いたことあるか?ワーメラスって街に︱︱︱︱︱︱﹂
﹁あっ、もしかして⋮⋮﹂
アラビーの言葉を最後まで待たず、口を差し挟む。女だけの有名
なギルドと言えば、あれか? ええと、なんだっけ。そう、確か︱
︱︱︱︱︱。
852
﹁クインツ?﹂
﹁あぁ。それだ。知ってたか。ま、有名だからな﹂
﹁一応、知ってるよ。たまたまメンバの子とダンジョンで会って、
少し話したことがあるんだ﹂
﹃最初の女神の寝所﹄で女3人とNPC一人のパーティーに遭遇
したことを思い出す。それほど長い時間を一緒に過ごしたわけじゃ
ないけど、結構気が合った。と、僕の方は勝手に思っている。なん
にせよ、印象深い子達だった。
﹁あそこは魔窟だからな﹂
﹁マクツ? クインツ? あぁ。魔窟ね。女の園、って感じだよね。
確かに女の子ばっかりで集まってるんだから、﹃女神﹄にクラスチ
ェンジするノウハウも持ってそうだね﹂
﹁そういうことだ。あそこほど適した依頼先は無いんだが、借りを
作るのは高くつきそうでな⋮⋮﹂
﹁そうなの?ボクが会った子達は、そんな感じじゃなかったけど﹂
気前よく情報やお土産をくれた覚えがある。
﹁そうか。ま、俺も内情を詳しく知ってるわけじゃないからな。案
外、入っちまえば噂程の場所じゃないのかもな﹂
﹁うーん⋮⋮ボクも全然詳しいわけじゃないけど﹂
﹁ただ、あいつらは、男に対して風当たりが強いっつーのはある﹂
﹁へぇ。男嫌いの集まりなのかな。でも、アラビーはそのクインツ
を頼れるような伝手があるんでしょ﹂
﹁あぁ。一応な。ちょうど、来週にクインツの奴らと接触できる機
会がある。お前を連れて行くから、予定を空けておけ。ログインで
きるか?﹂
853
﹁来週って?﹂
正確な日付と時刻を確認する。OK。ちょうど週末で、いつも通
りならばログインできる時間帯だ。忘れない様にカレンダー機能に
チェックを入れておいた。
もしかしたら、もう一度あの子達に会えるかもしれない。ちょっ
と楽しみだ。
﹁でも、所属メンバも多いギルドだろうし、そう上手くは会えない
かな⋮⋮﹂
一口にギルドといってもピンからキリまであるが、巨大な組織だ
と数十名規模もざらだ。ちなみに巨大であるほどに一枚岩じゃなく
なって解散、分割のリスクも高まる。
﹁その時の知り合いは、なんて名前だ?﹂
﹁ええと、名前は確か、ルーピナ、クーデリカ、ケイト⋮⋮だった
かな﹂
﹁ふーん⋮⋮俺は知らない名前だな。まぁ、運が良ければ会えるん
じゃないか﹂
﹁直接本部に訪問するの?﹂
﹁いや、クインツの本部は容易く入れねぇよ。知らねぇのか?ワー
メラスって街一個丸ごと使って、女しか入れない要塞を築いてる﹂
﹁ほええ⋮⋮﹂
それは凄い。なんとなく、執念めいたものを感じる。女の園、ど
ころか女の要塞、か。華やかさを通り越しておどろおどろしい。
﹁来週の機会っつーのは、コンパだな。なんなら、衣服でも新調し
とけ﹂
854
﹁コンパって、合コンパーティーのこと? この世界にそんなのあ
るの?﹂
﹁正確には女神の神殿で行われる祝祭だ﹂
﹁コンパじゃないじゃん﹂
﹁通称だ﹂
﹃女神の神殿で行われる祝祭﹄のどこをどうすれば﹃通称コンパ﹄
になるのかはよく分からない。僕は首をかしげつつ、言う。
﹁それって、お洒落した方がいいもの?﹂
﹁さぁな。俺はこのカッコで行く﹂
アラビーの衣装はカウボーイと狩人と傭兵を混ぜて3で割ったよ
うなデザインでやや小汚く、古着の様によれよれだ。アラビーがそ
れでいいくらいなら、僕のこの恰好だって悪くはあるまい。
﹁ふぅん。ま、いいや。来週ね。一応、楽しみにしておく﹂
ようするに、パーティーなのだろう。そこにクインツのメンバが
来るから、接触できる、ってことだね。僕としてはもしかしたら会
えるかもしれない知人3人の方に興味がある。社交辞令だったかも
しれないけど、別れ際のルーピナの台詞を思い出して顔が緩む。あ
ぁ、でも﹃淫花の蜜﹄は使ってしまったか。
︱︱︱︱︱︱しかしながら、僕は後にこの時のことを後悔するこ
とになる。たぶん、僕が本当に年頃の女子だったら、アラビーの言
葉を鵜呑みにしたりはしなかったのだろう。現実世界でも﹃合コン﹄
なんて参加したことが無いから分からなかったのだ。﹃合コン﹄た
る名称のある集まりに、一番大切なのは﹃装い﹄であるということ
を。
855
episode28︳1:合コンパーティー︵後書き︶
祝100話
856
episode28︳2
﹃女神の神殿﹄はこの世界の中心にそびえる塔だ。この世界にお
ける一番の要所と言っても過言では無いだろう。その存在感を強調
する為か結構どこに行ってもよく見える仕様になっている。ドッグ
ベルはもちろんのこと、これまで行った数々の街からでも遠く目に
映った。あぁ、でもウィシャスからは見えなかったかな⋮⋮。
晴れ渡った空に白くポツンと浮かぶ塔。北極星みたいに道に迷っ
たらあれを目印にすると良い、って感じ。今まで眺める風景でしか
なかった場所にいきなり行くというのは、月にでも行くような、不
思議さがある。
﹁準備はいいか﹂
﹁はぁい⋮⋮っていっても、特に準備なんてしてないよ﹂
﹁セーブだけしとけ。向こうはホームポイントが少ねぇ﹂
﹁それは大丈夫。ログインしたばっかだから。あ、自動ログオフ時
間って、長めにした方が良かった?﹂
﹁2時間は欲しいな﹂
﹁2時間でいいなら、大丈夫﹂
そうしてアラビーに案内されたのは鍵がかかった民家の一室だっ
ワープポイント
た。上級の鍵がかかっている以外は何の変哲もない古屋だが、中に
は瞬間移動地点があり、ここから﹃女神の神殿﹄に飛ぶことが可能
だということだった。
メイノにはお留守番をお願いして、今日の面子は僕とアラビーと
ニケの3人⋮⋮の予定だ。
857
﹁あれ、ニケは?﹂
﹁だよな。⋮⋮ったく、遅ぇな、あいつ﹂
瞬間移動地点の前で、ニケを待つことしばし。先日知ったのだが、
ニケはアラビーと特に親しいプレイヤらしい。ちょっとゴツイ外見
で、黒肌、ドレッドヘア。むき出しにした筋肉質の腕に刺青を入れ
ている。アラビーの類友で見た目はやくざ風と言うか⋮⋮ギャング
? ストリート系? 好意的に見れば欧米のバスケットボール選手
みたいな感じだ。あまり話したことが無いから性格はよく知らない。
﹁あ、来た﹂
﹁すまん。待たせた。わりぃな。一件取引済ませて来たもんでよ﹂
﹁身支度に時間かけてんじゃねぇよ。バーカ﹂
﹁へっへ⋮⋮ばれとるんか﹂
現れたニケの姿を見た僕はポカンとしてしまう。
﹁よっ。嬢ちゃん。今日はよろしくしたってくれな﹂
﹁⋮⋮え? あれ? ニケ?⋮⋮だよね? 髪、切ったの?﹂
﹁へっ。切ったってか、剃った、だわな。どう? 似合う?﹂
ニケはざらりとした坊主頭を手のひらで撫でた。僕は開いた口を
無理に閉じると、辛うじて頷く。
﹁よし、じゃ、行くぞ﹂
﹁おう﹂
﹁あ、待って、待って﹂
二人はさっさと瞬間移動地点の光球に姿を消していく。慌てて僕
はその後を追った。瞬間移動地点の使い方は知らないけれど、躊躇
858
っている暇が無かった。一瞬眩しい光につつまれ、身体が浮かび上
がる感じがして、新しい地面に足がつく。
目を開けば、あっという間に﹃女神の神殿﹄の敷地内だった。壮
麗な宮殿、見上げれば首が痛くなるほどの塔がそびえ立っている。
だが、そのことよりも、ニケの様変わりの方に気を取られてどうし
ようもない。
﹁その恰好、どうしたの?﹂の一言が聞けない。さっきのタイミン
グで聞いておけばよかった。完全に機を逸している。
今日のニケはさっぱりとした坊主頭で白シャツにネクタイを合わ
せた黒スーツ姿だった。胸ポケットにサングラスを挟んでいる。肩
幅のある長身にスーツが決まっていて、颯爽と歩く姿はバスケット
ボール選手を返上して⋮⋮その姿はまるで⋮⋮そう、映画の中で大
統領を護衛するSPみたいだ。
パーティーって、仮装パーティーなの? 僕は悶々としたまま前方を歩くアラビーとニケの背中を追う。パ
ーティー会場の入口らしき場所に到着し、アラビーが封筒みたいな
のを受け付けに手渡した。
﹁アラビー様とニケ様、お連れのリリス様ですね。結構です。どう
ぞお入りください﹂
受付の男が慇懃に頭を下げる。
当然、誰でも入れるって訳じゃないんだよね? ボクはアラビー
の連れだから、入れてもらえたってことかな。まぁ、わざわざ質問
するほどのことではないか。
859
﹁わぁ⋮⋮﹂
屋内ではすごくステレオタイプな﹃THEパーティー﹄が繰り広
げられていた。舞踏会、って呼ぶのがふさわしいのかな。フロアで
は男女が手を取り優雅に踊っている。突き当りの壁際では音楽団に
クラシックを演奏していた。
﹁ねぇ、ボク、踊れないよ﹂
アラビーの服の裾を引っ張って言う。
﹁踊ってるのはNPCばっかだから気にするな。単なる飾りだ﹂
ほっ、と一安心。アラビー達を追いながら壁伝いに歩いていくと
今度は結婚式会場みたいな場所に出た。白いテーブルクロスのかか
った丸テーブルが並んでいる。椅子は無い。立食パーティー形式だ。
﹁これも、飾り?﹂
﹁どれが﹂
﹁だから、この人たちとか﹂
僕はグラスを片手に﹃歓談﹄をしている男女を目で指し示す。め
いめいが大変なドレスアップをしている。女性は自身の体積の倍は
ありそうなスカートとか、馬鹿みたいにふくらんだ袖のドレスを着
ている。男性は聖騎士風だったり、勇者風だったり⋮⋮。
中には地味なローブの闇魔道士的キャラもいたが肩には圧倒的な
存在感を放つフクロウがとまっていた。
﹁こいつらはユーザーキャラに決まってんだろ。パーティーの参加
860
者達だ﹂
﹁嘘ぉ⋮⋮﹂
このロココ調のドレスを着た女性と主人公風の装備をした男性の
群れが参加者だとすると⋮⋮。
﹁ちょっ、みんな、すごいお洒落してるんだけど⋮⋮ボクらって、
めちゃくちゃ浮いてるんじゃない﹂
﹁そうか?﹂
アラビーは何でも無いというようにさらりと流す。しかし隣でニ
ケが深々と頷いた。
﹁ま、浮いとるわな﹂
やっぱり⋮⋮! いや、ニケはいいよ。参加者の中にもプレーン
な黒スーツの男性は結構いる。スタンダードな恰好だけれどそつが
ない感じがする。
問題は小汚い系のアラビーと初期装備そうろうの僕だ。
﹁このままの恰好でも大丈夫って言ってたじゃんっ。嘘つき。アラ
ビーの馬鹿!﹂
﹁んだよ、お前でもそういうこと気にすんのかよ﹂
﹁気にするよ!﹂
﹁ふーん⋮⋮女の気持ちは分かんねぇな﹂
憤まんからつい﹁ボク、女じゃないし!﹂と叫びそうになり、グ
ッとこらえた。女だからとかそういう話じゃない。空気を読んでな
い感じが嫌なんだ。
場違いな姿は既に嫌な注目を集めている。被害妄想かもしれない
861
けれど、笑われている気もする。なるべく目立たない様に身を縮め
たた姿勢で歩いてしまう。
扉を抜けて廊下に出て、次の部屋に入ると、そこもさっきと同じ
ような立食パーティー会場だった。アラビーは無言で会場内をぐる
りと歩き、出て行く。同じような事を3回ほど繰り返した。
﹁何してるの?﹂
﹁あ? 人探しだ。もしかしたら今日は来てないかもな﹂
﹁ふぅん﹂
﹁退屈だろ。お前、好きに動いてろよ。別に俺にくっついてなきゃ
なんねぇわけじゃないし﹂
﹁え、あ、そう。どうしようかな⋮⋮﹂
全然土地勘のない場所で一人ふらふらするのも気が引ける。特に、
こんな浮いた格好では。僕はワンピースのスカートの端をつまんで
見る。お気に入りのはずの装備が、途端に陳腐な安物に見えてくる。
﹁ニケはどうする﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱⋮⋮俺も自由行動しとくかな。お嬢ちゃんのボデ
ィーガードした方がいい?﹂
﹁どっちでもいい。放っておいても死にはしねーだろ﹂
﹁そりゃそうだけどね。もしかして痛い目には合うかもしれんよ﹂
﹁え?﹂
アラビーとニケのやり取りを聞き、両者の顔を見比べる。どうい
う意味?
﹁リリス。ニケに護衛に着いて欲しいか?﹂
﹁え⋮⋮え︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮別に⋮⋮﹂
862
なぜか、やせ我慢してしまった。
﹁一応、パーティーだけ組んでおくか。そうすれば何かあっても﹃
呼び笛﹄が使える﹂
﹁あ、うん。そうだね。はぐれる心配もなくなるしね﹂
それならちょっと心強い。僕は頷く。しかし、ニケがまた意味深
なことを言った。
﹁大丈夫か? お前さんの仲間ってことになると諸刃じゃね?﹂
﹁お互い様だっつーの。だいたい、そんなもん、今更だろ﹂
﹁へっへ。そりゃそうだわな。嫁さんにするんだもんな。じゃ、お
互い、命だいじに、な。俺もやばかったらお前さん呼ぶわ﹂
﹁おー﹂
ニケは僕に向かってニヤリと笑うと、サングラスをひょいとかけ
て去って行った。サングラスするといっそう高官のボディガード風
だ。室内であえてサングラスをする理由は何だろう⋮⋮たぶん、お
洒落なんだろう。
そんなことを考えながらニケの背中を見送る。アラビーとニケが
旧知の中だということは短時間のやり取りで分かった。裏返せば、
二人が何を言っているのか全然分からなかったということだけど。
﹁なんか、きなくさい感じのこと言ってたけど⋮⋮どういう意味?﹂
﹁命だいじに、はあいつの口癖だから気にすんな﹂
﹁アラビーの﹃気にするな﹄は信用できないもん﹂
﹁まだ服装のこと根に持ってんのか﹂
﹁それだけじゃないよ。何、このパーティー会場、何らかの危険が
潜んでるの? さっきの話って、そういう事だよね?﹂
863
こんなきらびやかで優雅なパーティーにテロリストでも突入して
くるのか。それならそうと事前に教えておいて欲しい。するとアラ
ビーは軽くため息を落とした。
﹁俺の仲間だっていうだけで標的になることもあるってことだ﹂
︱︱︱︱︱︱なるほど。
いやいや、なるほどで済ませていい話なのか?
﹁アラビーって、そんなに敵が多いの﹂
﹁まぁな。ただし一応言っとくが、上位プレイヤの間には少なから
ず派閥だとか悶着があるもんだ﹂
﹁⋮⋮あんまり歓迎できる話じゃないね﹂
﹁そうだな﹂
アラビーと顔を合わせて沈黙することしばし。
もしかしてアラビーと結婚するのって思ったよりリスク高いの?
﹁⋮⋮やっぱり、一緒に来るか﹂
﹁とりあえず⋮⋮うん﹂
変な不安もあるし、服装の引け目もあるし⋮⋮。せっかく来たパ
ーティーだけど、さっさと用事を済ませて帰りたくなってきた。せ
めてサイミンが一緒だったらもう少し心強いんだけど。
ハトホル様を呼んでみようか、と思い、やっぱりやめた。あの人
の恰好はそれこそパーティーにふさわしくない。周りから白い目で
見られるどころか、下手をすればつまみ出されてしまう。
864
episode28︳3
パーティーはいくつもの部屋で同時に行われていて、部屋ごとに
カラーが違った。それは参加者たちの性格の違いなのだろう。賑や
かな部屋もあれば、しめやかな部屋もある。男ばかりの墓場もあれ
ば、女性が多いドレス展示会もあった。いかにも派閥がある、って
感じだ。
﹁なぁ。アラビーじゃないか﹂
部屋を渡りながら廊下を歩いていると、後ろから追いかけるよう
に声をかけられた。アラビーが足を止め、僕も一緒に振り向く。そ
こには真っ赤な獣の頭の帽子︵?︶、お面︵?︶を頭に乗せた、イ
イロモノ
ンディアンのような青年がいた。顔にペイント。鳥の羽根をふんだ
んにあしらった衣装。⋮⋮あきらかに色物枠だ。
﹁⋮⋮よぉ。コウ﹂
﹁珍しいな。あんたが合コンに来るなんて。久しぶり。ブフィムフ
の制圧以来じゃない﹂
﹁あぁ。今日はちょっと野暮用でな。悪ぃけど、目立ちたくないん
だ﹂
﹁そうか。じゃあ、場所移すか?﹂
﹁いや、お前がいると否応なく目立つから、どっか行ってくれ﹂
﹁ははっ! つれない事言うなよ!﹂
コウと呼ばれたインディアン青年は陽気に笑い、アラビーの背中
をバシバシと叩いた。
865
﹁こちらのお嬢さんは? 紹介してくれよ﹂
﹁俺の連れ﹂
アラビーの答えはそっけない。
﹁それより、ユングフラウと連絡が取りたい。本人か取り巻き、見
なかったか﹂
﹁へぇええ。ミス・ユングフラウとねぇぇえ﹂
コウは語尾を伸ばして意味深にアラビーの顔を覗き込む。
﹁うぜぇ﹂
アラビーはあからさまに嫌な顔だ。
﹁知らねぇならいい。じゃあ、またな﹂
﹁おい、ちょっと待てって。気が短いな﹂
﹁服をつかむな﹂
﹁ごめんごめん。はっはっは﹂
どうやら、仲の良い知己というより、相手が馴れ馴れしいタイプ
のようだ。
﹁あんたがミス・ユングフラウと会いたがるなんて、前代未聞だか
らさ。感謝しろよ。俺の口が軽かったらあっという間に社交場の噂
の種だ﹂
﹁別に噂になろうがなるまいが、どうでもいい。つーか、そういう
のが面倒だから来たくなかったんだ﹂
﹁まぁ、そうだろうね。俺があんたの立場でも同じ風に思っただろ
うな。でもさ、ミス・ユングフラウに会いたいならクインツが集ま
866
ってるクリスタルホールに行けばいいんじゃない。てっとりばやい
よ﹂
﹁お前、分かってて言ってるだろ﹂
﹁ははははは!﹂
コウは爆笑した。その笑い声のでかさに、周囲のユーザー達の注
目を集める。
﹁じゃあな﹂
﹁あー、あー、マジでつれないな。細君のことは知らないけど、メ
デュサ一派なら中庭にいたよ。﹂
﹁あぁ。なるほど。サンキュ﹂
アラビーは振り向かずに手を軽くあげた。僕は何が何だか分から
ないままアラビーの背中を追いかける。ちょっと振り向くとコウが
笑って僕の方に手を振った。
﹁ねぇ、さっきのは?﹂
﹁ライクアビーストのギルマス。コウ﹂
﹁あれでギルマスなんだ。濃いね。ええと、ミス、なんちゃらって
のは?﹂
﹁今日探してるやつ。クインツの有力者。俺の元妻﹂
﹁ふぅん﹂
それ以上は聞かなかった。元妻ねぇ⋮⋮僕を女神にするために元
妻さんを頼るなんていうのは随分な話にも聞こえる⋮⋮。大丈夫な
のかな。僕の方は全然構わないけどさ、元妻さんが機嫌悪くしない
といいなぁ。
僕が黙っているとアラビーも黙っていた。しばらくして中庭らし
867
き場所についた。建物と建物の間っていう感じで、ぽっかりと抜け
た青空が見える半屋内である。
色とりどりの花が咲き誇る目にも鮮やかなパステルの庭に、これ
また色彩豊かなドレスを着た女性たちが集まっていた。とはいえ、
良く見れば男キャラも結構いて、男女比は1:1ってとこ。木漏れ
日の下でハープをかき鳴らしている女性はNPCかユーザーか。男
女が睦まじく会話を交わしている様子はまさに合コンの風情だ。
﹁あら﹂
近くにいた女性がアラビーの顔を認めて声をあげた。僕の顔も見
て、もう一度アラビーと見比べて、変な顔をした。
﹁あっ!﹂
﹁えっ?﹂
﹁あ﹂
一人の女性がアラビーに駆け寄ってくる。
﹁アラビーさんじゃないですか﹂
﹁どーも﹂
﹁私の事、覚えてます?﹂
アラビーは無言。しかし、女性は気を悪くした風でも無く、逆に
嬉しそうに笑う。
﹁やぁだぁ。もしかして、忘れてますね?﹂
﹁顔は覚えてる﹂
﹁本当ですかぁ? 体は覚えてる、の間違いじゃなくて?﹂
868
ふおっ!?
お前ら、どんな関係だよ。
僕は目を丸くしてしまった。女は確かに一度見たら忘れがたいよ
うな豊満な肉体をしている。二つの団子の様なおっぱいがドレスの
胸元に﹁むぎゅっ﹂と押し上げられている。
しかしアラビーはその発言には言及せず涼しげな顔だ。
﹁ユングフラウに会いたいんだが、今日は来てるか?﹂
﹁えっ。まさかとは思いましたが、その線ですか? ええ。たぶん、
来てますよ。ジェノゼラ姉様も来てますから、姉様と一緒じゃない
かしら﹂
﹁そうか。ミス・ジェノゼラはどこに?﹂
﹁さっきまではここにいたんですのよ。今はクリスタルホールかし
ら。そのうち、戻って来るとは思うけど⋮⋮﹂
﹁クリスタルホールには行きたくねぇんだ。ここで待つかな﹂
﹁どうぞどうぞ。といっても私の管轄ではありませんけどね。ふふ
っ﹂
どうやら、女性はクインツの一員らしい。そうして立っていると
次々と見目麗しいご令嬢方が集まってきた。たぶん、集まってくる
女性の全員がもれなくクインツのメンバなのだろう。アラビーは僕
が予想していたよりも随分とクインツに馴染みがあるみたいだ。
﹁まぁ! 本当にアラビーさんじゃないですか。こんにちは。珍し
いですね。女神のパーティーにいらっしゃるなんて﹂
﹁こんなところに来るとお身が危ないですよ⋮⋮なんて、嘘嘘、冗
談ですってば。でも、目くじら立てる分からず屋もいるんでしょう
ね。気を付けてくださいね﹂
﹁あれっ。今日はニケさんとか、クルカルックさん達は一緒じゃな
いんですか? お一人ですか?﹂
869
﹁アラビーさんが来るなんて、もしかして、何かうち絡みでトラブ
ルとか? いやーん。こわーい﹂
﹁もしかして、誰か探してるんですか?﹂
﹁ジェノゼラ姉様待ちですって﹂
﹁え∼じゃあ、私、呼んできてあげましょうかぁ。ついでですし∼﹂
何となく、面白くない。
理由の一つは、アラビーばかりがやたらとちやほやされてること
への嫉妬だ。僕だって、女の子に囲まれて大事にされてみたい。
更にもう一つは、女の子達がなぜかあえて僕を無視してるみたい
な、それでいてチラっと覗うような仕草をしたりするのが気持ち悪
い。﹁お一人ですか?﹂って何だよ。どう見たって僕がいるだろう
が。
むすっとした顔で黙っていると、一人の女が言った。
﹁ところでぇ⋮⋮、この小娘ちゃんはどなたですの? アラビーさ
んの良い方? それとも玩具?﹂
僕はその高圧的な物言いに少し気圧されたが、一拍置いて周囲の
女の子達が一斉に笑い始めたので反発心さえも封じ込められてしま
った。要するに、笑いものである。
﹁玩具とか、ひどいよぉ。モーリン﹂
﹁でもぉ、良い人にしたって、玩具にしたって、もう少しいい服着
せてあげないとぉ。可哀相過ぎですよ。アラビーさん﹂
﹁あーそれは確かに。でも、アラビーさんも服装ラフだから﹂
﹁新人ちゃんなのかしら? でも、新人ちゃんはこのパーティーに
来れないですもんね。実は大物なのかしら? もしかしてアラビー
さんの隠し玉か何かかかしら! きゃあっ。ごーめんなさーい﹂
870
女の子達は早口だ。目まぐるしくって、賑やかで、僕は会話を聞
きとるのに精いっぱい。ただ、気にしていた衣装のことを言われた
のは胸にグサッと来た。
顔を見上げたが、アラビーは首をすくめただけである。いや、別
に何も期待してないよ⋮⋮いいんだ。
﹁⋮⋮ボク、他のとこ見てこようかな﹂
独り言のようにつぶやき、後ろ足でじりじりとその場を離れよう
とする。しかし、そこにまた女性陣の猛攻がかかる。
﹁あぁらぁ。ごめんなさい。もしかして、気を悪くさせちゃったか
しら﹂
﹁大変、アラビーさん、フォローしないと、彼女さんに嫌われちゃ
いますよ!﹂
﹁ジョークよ。ジョーク。これくらいのことで怒っちゃ駄目よお嬢
さん﹂
わざとらしい台詞にかぶせるように女性陣の笑い声。
⋮⋮駄目だ、この感じ。クインツ、無理だ。これが女の園? に
わか女子の僕が溶け込める自信は無い。元来気弱な僕は﹁これしき
のこと﹂で腹を立てたりはしないが、﹁これしきのこと﹂で簡単に
委縮してしまう。
良く見ると、集まっている女性達は皆、背が高くてナイスボディ
の凄い美人ばかりだ。集団になると言い知れない迫力がある。
クインツには可愛い系の女の子は少ないのかな? アマゾネスと
言うだけあって、美人系の強い女性が多いのかもしれない。そうい
う価値観の中で競っている女性達から見たら、きっと僕は﹁ちんく
871
しゃ﹂だろう。
直感が、もうここは開き直って笑いものに徹した方が身の為だと
教えている。
アラビーは女性陣に囲まれても動じることなく、言葉少なに適当
に返している。時々クインツの女性が意図的にアラビーに情報を差
し出して、代わりに何か情報を引き出そうとしているのが分かった
が、その誘いにも乗らずのらりくらりと躱していた。
僕の方は逃げるタイミングも失い、懸命に愛想笑いを浮かべて時
が立つのを待った。早く待ち人が来るのを祈る。もしくは、アラビ
ーが待ち人を諦めるのを。
すると、ほどなくして︵と言っても僕には長い時間に感じられた
が︶、女性陣の一人が﹁あ! いらしたわよ!﹂と言った。中庭に
通じる反対側の出入り口を皆が向き、申し合わせたように女達が口
をつぐみ、ドレスの端をつまんで軽く優雅なお辞儀をする。
僕らを囲む人垣がその方向にさっと割れた。統制のとれたその動
きは、まるで演技のようでもあり、軍隊のようでもある。
現れた女性は付き人を従えてこちらに近づいてくる。黒いドレス
を着た女だった。肌の色は青白く、口紅が真っ赤で、女吸血鬼みた
いなキャラだ。
アラビーが身を屈め、僕の耳元すぐそばで囁く。
﹁あれがジェノゼラ=メデュサ。クインツのドS女王だ﹂
くすぐったい耳をおさえ、それから囁かれた言葉の意味を考えた。
ドS女王?
ジェノゼラ=メデュサが近づいてきたので僕は顔をあげて背筋を
872
伸ばした。アラビーとドS女王、向かい合った二人の間に前置きの
挨拶は無かった。
﹁ユングフラウは﹂
﹁貴方に会いたくないんですって。クリスタルホールまで来る勇気
があれば会ってあげる、だそうよ﹂
﹁⋮⋮けっ﹂
アラビーが唾を吐き捨てるようにする。ジェノゼラが僕の方を見
て、尋ねた。
﹁その御嬢さんが貴方の新しい奥様候補?﹂
ジェノゼラの瞳の色はブルーだった。
あれ? なんでその事を知ってるの?
僕が内心首をかしげる傍らで、アラビーが言葉に詰まったのが分
かった。
﹁⋮⋮なんだって?﹂
﹁図星? ユングフラウが言ってたわよ。﹃可愛い女の子を連れて
私に会いに来るなんてのは、どうせ新しい結婚相手を見つけたんで
しょ﹄って﹂
アラビーは黙って肯定の意を示している。
﹁それから﹃その件でクインツを頼りたいなら、別に私を通さなく
ても構わない﹄、ですって。スジを通さないとユングフラウの面目
がつぶれると思ったの? 律儀ね﹂
アラビーは一拍置いてため息をついた。ジェノゼラが意味ありげ
873
に含み笑いをした。
﹁相変わらずだな﹂
﹁でしょうね。ということで、宜しければ依頼の件は私が承るわよ。
まぁ、貴方がどうしてもユングフラウの方が良くって、クリスタル
ホールに行くっていうなら止めはしないけれど﹂
取り巻きがこらえきれない、というように忍び笑いをもらした。
なぜアラビーはクリスタルホールに行くのが嫌なんだろう? そし
て、会話の意味はよく分からないけど、この相手の方が一枚上手と
言うような、アラビーが手玉に取られている感じは物珍しい。
︱︱︱︱︱︱あそこは魔窟だからな
あぁ、こういうことか。と納得する。
﹁だったらジェノゼラ=メデュサ。あんたに頼みたい。これは俺の
連れのリリスだ。こいつを、クインツのノウハウをもって、手っ取
り早く女神にしたてあげて欲しい﹂
﹁いいわよ﹂
取引は、あっさりと成立した。
874
episode28︳3︵後書き︶
唐突に次話に百合エロぶっこむのでご注意
たぶん、嫉妬した女性陣に虐められるリリス、って感じ。
875
episode28︳4
アラビーとジェノゼラは二人きりでどこかへ行ってしまった。取
引の詳細を詰めるとか何とか。二人の間で行われるのが密約だろう
が、密会だろうが構わない。ただ、結果として僕はジェノゼラの取
り巻きともども置いてきぼりになることになったわけで⋮⋮これは
なかなか頂けない。
﹁なんかあったら呼び笛を使え﹂
アラビーはそう言い残したけども、﹁なんか﹂って何だろう。ど
れくらいのトラブルならば呼び笛を使っても良いのか。
物理的に命の危険を感じるレベルとか?
では、精神的に強いストレスを感じる現状はどうすればいい? 独力で解決するべき?
僕の周りをクインツのアマゾネス達が囲んでいる。水も漏らさぬ
包囲網、に僕の額から汗が一滴。
﹁貴女が、アラビーさんの、新しい奥様候補、ってわけ﹂
﹁へぇぇ。この子がねぇ⋮⋮﹂
﹁ねぇねぇ、それって、何かの策略の一つなのかしら。それとも恋
愛?﹂
﹁まっさか! 恋愛とかありえないし! どうせ、体のいい手ごま
なんでしょ﹂
﹁でもさぁ。実は、この子が凄いプレイヤって可能性もあるよ﹂
﹁この恰好で? ありえないわ∼、ありえないわ∼﹂
﹁でも、ほら、アクセサリだけはいいのつけてるじゃん。これ、女
876
神装備でしょ。セレネの髪飾り﹂
誰かの手がひょいと伸びて、僕の頭から髪飾りを奪った。ついで
に髪の毛が引っ張られる。
﹁つ、痛っ⋮⋮あ、返して﹂
ジャンプして取り戻そうとしたけれど、届かない。リリスは低身
長なので、ハイヒールで底上げされたお姉さま方とは数十センチの
差がある。
﹁こんなもの、男に貢がせた感が満載じゃない。ふん﹂
緑の髪の毛に花冠をつけたドリアード風の女だった。見た目は洗
練された美しさがあるのに、性格は最悪だ。女は僕の髪飾りをつま
らなさそうに眺め、いとも簡単に後ろに投げ捨てた。
﹁あ︱︱︱︱︱︱!!﹂
ええっ!嘘でしょ? 普通、そんなことする?
ステータス情報を見ると装備から﹃セレネの髪飾り﹄が消えてい
る。装備品って、こんな風に物理的に奪うことが可能なんだねっ!
って感心している場合じゃない。慌てて拾い上げに行こうとした
が、つまづき、前のめりに地面にダイブするように転ぶ。
﹁痛つ⋮⋮﹂
クスクス笑いが広がる。今、絶対、誰か足引っ掛けた! くそぉ
⋮⋮。
877
﹁あのね、貴女、クインツに入るんでしょ。パーティーでそんな恰
好じゃ恥さらしよ﹂
﹁ボク、クインツに入るわけじゃないよ⋮⋮﹂
﹁何言ってるのよ。ジェノゼラ姉様が貴女を預かる、ってことは、
貴女は私たちの妹になる、ってことなんだからね﹂
﹁そうそう。アラビーさんの仲間だからって容赦はしないわよ。こ
こにはここのルールってものがあるんだから﹂
﹁手っ取り早く女神にしてもらえるなんて、うらやましい御身分よ
ね。ほーんと、どうやってあのアラビーさんをたらしこんだの?﹂
反発すべきか、恭順すべきか。それを考えるいとまが無い。何せ
女の子達の攻撃は目まぐるしく、喋り口は僕の思考スピードを上回
っている。
﹁ま、とりあえず、私たちが着替えさせてあげる﹂
﹁え、えっ﹂
嫌な予感が全身を駆け巡る。
﹁い、いい﹂
﹁先輩の好意を無下にすると怖いわよ﹂
もう、十分に怖いです。
﹁自分で脱ぐのと、脱がされるのとどっちがいい?﹂
一歩退くと、後方から羽交い絞めにされた。
﹁動くと危ないわよん﹂
878
ジョキ、と何かを断つ音が響く。僕は硬直する。目視確認すると、
やはりハサミだった。ハサミを持った女が僕のベストをざっくり切
り裂いていた。
よ⋮⋮呼び笛⋮⋮使うべき!? これくらいでアラビーに泣き付
いてたら、逆に馬鹿にされるか?
軽いパニックにグルグルしている間にも、僕の服は脱がされてい
く。
﹁きゃあ。かーわいい。すべすべのお肌にちいちゃいおっぱい。う
ーふふ∼﹂
﹁私は興味なし。百合組に任せるわ﹂
﹁はぁい。あたしも、あたしも﹂
﹁あ、ずるい。じゃあ、私もっ﹂
いくつもの手が伸びて、僕の衣服をはぎ取ったり、切り裂いたり
しながら、肌に触れる。数人の女の子達が僕にむらがる。一人は僕
の頬にキスをしたり頬ずりしたり、首に噛みついたりしているし、
もう一人はビリビリになった僕のブラウスから手を差し込んでおっ
ぱいをふにふに撫でまわしている。
﹁基本色、ベビーピンク? 桃みたいなお尻ね﹂
﹁じゃ、ちょっと味見∼﹂
ショーツをひん剥かれそうになって抵抗したところ、前は守った
がお尻だけさらけ出す格好になった。がぶり、とお尻に噛みつかれ
て声をあげる。
﹁かーわいいー﹂
879
乳首をギュっとつねられ、悲鳴をあげるとこぞって周りは喜ぶ。
﹁もっと鳴かせたくなっちゃうな∼﹂
痛い、かと思えば今度はペロペロと舐められて、身悶える。
﹁や、やめて!﹂
一人の手が、女の子の細い指がショーツの隙間から忍び込んで陰
唇を撫でた。
﹁やっ﹂
抵抗しようとしたところで、別の一人にキツク髪の毛を引っ張ら
れて防御が空く。その隙に、女の子の指が割れ目を開いて奥に侵入
してきた。
﹁ほーらほら、おっぱい、気持ちいいでしょ﹂
クリクリと、両方の乳首を捏ねられる。乳首の上をにゅるにゅる
とした感覚が滑る。何か、ジェルの様なものを塗られているようだ。
﹁あっ、あ⋮⋮やだっ⋮⋮﹂
﹁しっかり塗り込んであげる﹂
感度の増した乳首がビクビクと立ち上がる。
﹁ふ、ぁっ⋮⋮⋮⋮﹂
880
大勢に見られていると言うのに、僕の身体はどうしようもない。
女の子達に弄ばれながら、立っているのがやっとだ。背中やわき腹、
太ももの内側なんかもやったらめったら撫で回され、息が上がる。
﹁ん︱︱︱︱︱︱、かぁわいい﹂
高身長の女性が僕の顔を両手で挟むようにして唇を重ねてきた。
ちゅ⋮⋮ぱ、ぐちゅ、にゅちゅ⋮⋮
技巧を凝らしたキスに頭がクラクラする。しかも、口づけが長い。
実際に酸欠になっているんじゃなかろうか。頭がボーっとしてきた。
﹁下は大洪水ねぇ。随分あっさり陥落しちゃうところをみると、相
当仕込まれてるのかしら?﹂
﹁やっぱりアラビーさんの手ごまなのね。それとも、商品? 調教
済みなのかもよ﹂
﹁それは、こっちを使えば分かるんじゃない﹂
ぐいっ、とお尻の割れ目を大きく開かれる。
﹁は⋮⋮、だめ、そっちは﹂
﹁ほら、馴らさないでコレが入るんだったら、調教済みでしょ﹂
目の前にかざされたのは極太のディルド。僕の、手首程もある巨
大なペニスの形状だ。
﹁なっ⋮⋮﹂
僕は息を飲んだ。そんなサイズのもの、入るわけがない。まして
881
や馴らしていない状態のお尻につっこんだら、絶対に裂ける。
﹁やめて!﹂
女の子達の力で無理矢理四つん這いの姿勢を取らされる。顔は地
面に押し付けれ、お尻を高く上げた格好だ。ショーツを完全に引き
下ろされた。
﹁うふふ。大丈夫よ。もし、調教済みならちゃんと入るし、いっぱ
い動かして気持ちよくしてあげるから﹂
﹁調教、なんか! 僕! されてない!﹂
﹁そう⋮⋮だったら、余計に大丈夫。お尻に力こめてれば普通は入
らないから﹂
ぐっ、とお尻に固いものが押し当てられる。
﹁ひっ﹂
僕は、その言葉を信じて、お尻の穴に力を込める。ギュっとすぼ
んだ穴がぴったりと閉じて侵入物を拒む。
確かに、あれだけ大きなディルドは、未調教のお尻には入らない
だろう。ましてや、こっちが力を込めていれば無理矢理挿れようと
しても入らない、に違いない。きっと、たぶん。
﹁はい、頑張って﹂
嘲笑うような口調と一緒に、ディルドが僕のお尻の肉を押す。グ
ッ、グッ、と押し付けられるとそのサイズの大きさが更に実感され
る。穴が広がっていたとしても、これ、骨格レベルで挿入不可能な
んじゃないだろうか。
882
実際のところ、ディルドは僕のお尻の骨にあたるくらいだ。
﹁ん︱︱︱︱︱︱。入らないわねぇ。残念﹂
僕は内心でホッと安堵の息を吐きつつ、お尻の力は緩めなかった。
そんな油断はするまいぞ。そこに、他の女の子の声。
﹁じゃ、オイルどうぞ﹂
﹁あら、ありがと﹂
︱︱︱︱︱︱え?
僕のお尻に、ドロリと冷たいスライムがへばりつき、流れていく
ような感触。
﹁アロエオイルよ。お肌にいいの﹂
成分とか聞いてないし。
﹁ちょ、ちょっと、待って﹂
ジェル状のオイルが肛門に塗り込まれ、ディルドの先端がそれを
塗り広げる。円を描くような動作は丹念で、僕のお尻の筋肉をほぐ
そうとする意志が感じられる。明らかに、趣旨が変わっている。
﹁ちょ、おかしいじゃんっ! やだっ﹂
﹁はーい、頑張ってー﹂
ぐぐっ、と再びお尻を押す力。オイルが加わるだけでこうもちが
うのか、と思い知らされた。ぬるぬるの先端が入口を滑らかに押し
883
広げていく。
﹁ひゃ、やら、入らないよっ⋮⋮!﹂
﹁うーん⋮⋮いい感じなんだけど、入らないわねぇ⋮⋮﹂
﹁角度よ、角度。ちょっと、代わらせて﹂
他の女の子がバトンタッチして、再び僕のお尻をグリグリ。しか
し、表面が押し付けられるばかりで、やはりなかなか侵入は難しい
ようだった。
﹁絶対、入らないってば! 放して!﹂
﹁柔軟性のある穴って感じなんだけどね﹂
おもむろに女の子の指が僕のお尻にずぷっと差しこまれる。
﹁ひぃんっ﹂
オイルでほぐされたお尻の穴は僕がどんなに力を込めても細指ま
で押しのけることはできなかった。
ずぶ、ずぶ、ずぶ。
指でのピストンは容赦ない。遊んでいるようでもある。そんなに
乱暴にしたらめくれちゃうってば。
﹁あら。でも、経験はあるみたいね。こんなに前ができあがってき
てるもの﹂
﹁どれ? ほんとだ﹂
ぐちゅ、くちゅ、と前を弄る指は一本や二本じゃない。
884
﹁あ、あ、あっん⋮⋮﹂
虐められているのは分かっているのだけど、気持ちがいい。女の
子の指は、男の武骨さと違って巧みな技を感じる。それに、すべす
べしててぴったりと吸いついて来るような皮膚の感触。楽器をかき
鳴らされているみたいな恍惚感がある。
﹁あ、ぅ⋮⋮っ⋮⋮﹂
﹁悦んでるの?﹂
﹁そうみたい﹂
侮蔑を含んだ嘲り声に晒されても、平気になってくる。いや、む
しろ嘲笑も快感を味わう為のスパイスでしかない。他の事はどうで
もいいから、とにかく今はこの愉悦に存分に浸りたい。
﹁だ、め⋮⋮も、っ⋮⋮いっ⋮⋮ちゃうっ⋮⋮﹂
﹁どうする?﹂
ピタリ、と指が止まる。
あ。あとちょっとでイけそうだったのに⋮⋮。も、ちょっとだけ。
お願い⋮⋮。
﹁じゃ、前に入れちゃおうか。入るかな﹂
極太ディルドが、お尻から離れ、代わりに濡れまくった女陰にお
しつけられる。
﹁ぁ⋮⋮⋮⋮﹂
885
入るかな。どうしよう。抵抗、すべき? でも⋮⋮。
怖い反面、凄く︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱欲しい。
四つん這いの姿勢のまま、僕は息を吐く。お尻に力を込めるのを
止めて、ソレを受け入れる為に全身を弛緩させる。
ぐりっ、とディルドが押し込まれる。規格外のサイズだけど、た
っぷりとあふれる愛液とアロエオイルが十分に潤滑剤としての威力
を発揮した。肉壁の抵抗を押しのけるようにしながらずぶずぶと奥
中に杭が打ち込まれていく。
﹁っぁ⋮⋮⋮⋮はっ⋮⋮﹂
はいって⋮⋮くる⋮⋮。す、ごい⋮⋮。おっきぃ⋮⋮⋮⋮ぁ。ん
っ⋮⋮。だ、め、くる、し⋮⋮い。
﹁すごーい。入っちゃった。ずっぽり﹂
﹁流石にちょっとやり過ぎじゃない?﹂
﹁写真撮っとこ∼﹂
﹁うわぁ、ひわーい﹂
侵入物を咥えこんだまんこがキュウキュウと締まる。隙間なくぴ
っちりと埋められている感じ。全身が、ディルドを咥える為だけの
﹁モノ﹂になったみたいだ。
パシャリ、パシャリと切られるシャッター音が響く。そしてその
状態で僕はふるふると身を震わせ、挿入されているだけなのに思い
切りイってしまった。
886
episode29︳1:女の園
虐めを受けた僕はフラフラの状態だったが、瞬間移動地点を利用
してワーメラスに連れてこられた。そして頭も体もボーっとしたま
ま、言われた通りに街の広場のホームポイントでセーブした。
これで、晴れて僕は自力でドッグベルに戻ることができなくなっ
たわけである⋮⋮あはは。事の是非が判断つかない状況ではもはや
捨て鉢に笑うしかない。
僕を女神に仕立てる為の契約はアラビーとジェノゼラの間で勝手
に交わされた。その為の見返りや支払いがどうなっているのか、僕
自身は全く知らない。
アラビーは最後、別れ際に﹁じゃ、頑張って来いよ﹂とだけ言っ
た。僕は生返事をしたけど、思い返せばあの時﹁無理だったら諦め
て帰るからね﹂と宣言しておけばよかった。
今日はクインツ入団の初日だ。とりあえずログインしたものの、
先日の﹃コンパ﹄でお姉様達から受けた凌辱行為はどう咀嚼したら
良いものやら。いまだに自分の中ではうまく飲み込めていない。
今まではか弱い女の身でアダルトゲームを遊ぶならば、男に注意
しなきゃと思ってた。でも、本当に怖いのは同性ってことなのかも
ね。あぁ、先が思いやられる。
⋮⋮でも、あれはあれで気持ち良かったし、過剰に怖がる必要も
無いのかな。女の子達に虐められるのはシチュ的にも興奮するし、
いっそ、役得だったかも。うん、そう考えれば、なかなか良い経験
をしたとも言える⋮⋮のかなぁ。微妙だ。
887
そんなことを考えながら鷹のオブジェがそびえるワーメラスの中
央広場でぼーっと立っていると、ジェノゼラ=メデュサがやってき
た。あらかじめ、掲示板で待ち合わせ時間を申し合わせてあったの
だ。
﹁ごめんなさい。待たせたわね﹂
﹁大丈夫﹂
すらりとした細身に似合う黒いぴったりとしたドレス。その上に
長いマントを羽織っている。前回見た時も思ったけれど、ジェノゼ
ラという女性は女吸血鬼みたいだ。パーティーの時よりはドレスダ
ウンしているけれど、彼女の基本的なキャラメイクはこういうスタ
イルなのだろう。
﹁ちょっと仕事が長引いちゃって。夕飯抜きで来たから、許して﹂
﹁あれれ。大変だったんだね。夕飯、食べなくて大丈夫? ボク、
まだ待てるけど。一度ログアウトする?﹂
﹁いいえ。大丈夫よ。こんな時間から食べると太るし。あーぁ。実
はお風呂もまだなのよね。面倒くさい。ま、化粧だけは先に落とし
たけどね﹂
﹁化粧⋮⋮﹂
﹁そ。最近、肌荒れやすいのよね﹂
ジェノゼラは陶器の様な青白い肌に手をあてた。彼女の口調が思
ったより気さくなことに驚く。先日﹃コンパ﹄でアラビーと対峙し
リアル
ていた時はお高くとまっている感じだったのに。こっちが素なのだ
ろうか。それに、現実世界の話題を気軽に口にするのも今まであま
り無かったパターンだ。
﹁ところでリリス、今日の自動ログアウト時間は何時まで?﹂
888
﹁えっ、と⋮⋮2時間、かな﹂
﹁女神時間? 現実時間?﹂
﹁女神時間で﹂
クインツで何が起こるか分からなかったので、特に今日はいつも
より短めに設定してきた。これって、気軽に明かしてよい手の内な
のだろうか。
﹁そう。現実時間で50分ってことか。ちょっと短いわね。延長は
できるの? 平日のプレイ時間はいつもそれくらいなの? これく
らいの深夜帯がメイン?﹂
矢継ぎ早の質問にちょっと面食らう。
﹁ええと、延長はできるよ。その日によるけど、現実時間で2時間
くらいかな。いつもこれくらいの時間帯﹂
﹁そう。規則正しい節度を守ったゲーマーってとこなのね。ログイ
ン頻度は?﹂
﹁うーんと⋮⋮﹂
微妙にプライバシーに引っ掛かるけどグイグイ来るなぁ、と思い
つつ、隠し立てする理由も思いつかない。
﹁特に決めてないけど、最近は毎日。忙しくなるとインできない日
が続いたりもするかも﹂
﹁そう﹂
﹁なんで?﹂
﹁深い理由はないわよ。でも、どれくらいで貴女を女神に仕立て上
げられるかに関わってくるし、戦略にも影響するから、聞いたの﹂
﹁そっか﹂
889
なるほど。頷いているとジェノゼラが自身について話す。
﹁そう言いながら、実は私の方は平日は30分から1時間くらいし
か入れないの。その代わり、休日はガッツリね。20時間くらい入
ってたこともあるのよ。また週末にゆっくり遊びましょ。今日は、
貴女を別の担当者達に引き合わせてお別れするわ﹂
﹁あ、はい。宜しくお願いします﹂
20時間? 頭の片隅でひっかかりつつスル︱し、ぺこりとお辞
儀をした。
﹁先にアポイントメントは取っておいたけれど、今日だけで5人に
引き合わせるから、忙しいわよ。駆け足になるから、心しておいて
ね﹂
﹁う、うん﹂
そんなに一気に紹介されても、名前と顔を覚えられるえ自信も無
いけど大丈夫かな。
﹁早速行きましょ。とりあえず今日は私の後ろにいれば、無理に愛
想振り撒かなくていいわ﹂
﹁うん。それは、なんていうか、すごく、ありがとう﹂
本来、僕は人見知りなのである。特に女の子相手は、弱いと自覚
している。
ワーメラスの街並みを通過する。初めての街なので色々と眺めた
くなるけれど、ジェノゼラが早足なのでキョロキョロとよそ見をし
ている暇はなかった。ただ、一つ確実に言えるのは圧倒的に女性キ
890
ャラが多い。時々男キャラもいるけれど、これはNPCだと思う。
本当に、アマゾネスの街なんだなぁ、と実感する。
まずは一人目。初めに引き合わされたのはメイド服の女の子だっ
た。太い三つ編みを垂らし、丸いレンズのダサい眼鏡をしている。
手にしているのはなぜかモップだ。あれ、武器なのだろうか。
﹁彼女はとあるパーティーのリーダーで、マルロネ。クインツの中
ではトップクラスのプレイヤーよ。マルロネ、この子がリリス﹂
﹁はじめまして﹂
﹁こんにちは﹂
﹁今回、リリスのレベル上げに必要な冒険のあれこれは基本的にマ
ルロネが手伝ってくれることになったから。彼女は特に戦闘分野の
サポート担当﹂
﹁はい﹂
﹁どうぞ、よろしくお願いします﹂
﹁こちらこそ﹂
﹁今日は、顔合わせだけ。また詳しくはケーニッヒから連絡がいく
と思う﹂
﹁分かりました。しばらくはフリーにしておきます。ところでジェ
ノゼラ、この件はどこまで公開していいの?﹂
﹁それも、ケーニッヒに聞いてちょうだい。ちょっと、ややこしい
のよ﹂
﹁分かった﹂
分厚い眼鏡のガラス奥で眼光が鋭い。マルロネはあまり表情を変
えず、淡々と話すタイプだ。
﹁じゃ、次行くわよ﹂
﹁え、もう﹂
891
マルロネは仏頂面と言ってもいいほどの無表情で頷き、僕に向か
って﹁さようなら﹂と言った。
次に引き合わされたのが先ほど名前を聞いた﹁ケーニッヒ嬢﹂。
こちらは、驚くことに老婆だった。白髪にくっきりとした皺。落ち
くぼんだ瞳の色は青。
あえて老婆のアバターを選ぶプレイヤーがいるのか⋮⋮。このゲ
ームは個人識別ID一件につき一キャラしか作れない、つまりサブ
キャラを持つことができないので、個性の強い爺婆キャラは珍しい。
ってか、初めて見た。
﹁ケーニッヒ、こちらがリリス。リリス、こちらがケーニッヒ﹂
思わずナイストゥーミートゥーと言いたくなる紹介の言葉だ。
﹁ケーニッヒはクインツの情報屋よ。今回の女神化計画では戦闘に
関係しないクエストのあれこれを手伝ってくれるわ﹂
ケーニッヒは皺を更に深くして笑った。
﹁この婆は戦闘力は無いけど、何せ暇人だからね。収集やらお遣い
やらはお手の物、なの﹂
﹁人脈もあるから手伝いの頭数をそろえたりするのも得意だしね。
まぁ、頼りになるタイプよ﹂
﹁おや、おだてても何も出ないよ。ひっひっひ﹂
ひっひっひ、と来たものか。どう対応していいか困る。僕は愛想
笑い作ろうとしたが、失敗して苦笑いになってしまった。﹁キャラ
濃いね﹂という言葉を飲み込む。
892
﹁それにしても随分と可愛い御嬢さんじゃないか。見たところ、割
とプレイ歴は浅いようだけど、アラビーの御仁とはどうやって知り
合ったの﹂
﹁ケーニッヒ﹂
﹁いいじゃないの。情報収集はあたしの趣味さ﹂
﹁そうじゃなくて、時間が無いのよ。また今度にして頂戴﹂
﹁おや、明日も仕事?﹂
﹁そう﹂
ケーニッヒはやれやれ、と言いたげに首を振った。
﹁じゃあね、リリス。これからしばらくこの婆にお付き合いの程、
よろしく﹂
﹁お世話になります﹂
と、僕はペコリ。
﹁あたしは、平日の日中と夜はほとんどINしてる。大抵はこの店
にいるけど、いなかったら、ほら、そこの行先掲示板にメモを残し
ていると思うから、探してちょうだい﹂
指差す先にはレトロな黒板とチョーク。一番上に﹃占い10分1
50G﹄という文字が記されていた。
﹁占い師なんだ﹂
﹁そう。興味があったらそっちもどうぞ。オンオフ問わず占うよ﹂
そこにジェノゼラの声が割入った。
893
﹁もう、行くわよ。雑談はまた今度にして﹂
﹁はいはい﹂
握手で別れ、その手の皮の固さとしわの感触が残った。この頃に
は時計は既に女神時間で30分を経過していた。ジェノゼラが独り
言のように﹁あと40分⋮⋮厳しいかも﹂とつぶやく。なんだか、
こちらまで焦ってくる。
ケーニッヒと別れて次は雑居が狭苦しく並ぶ細道へ。古い木戸を
ジェノゼラがノックすると、一人の女性が顔を出した。
﹁あれ? ジェノゼラさん。どうしました﹂
﹁フリエルは?﹂
﹁フリエルですか? あの子、今日はまだ来てませんよ﹂
﹁えぇ!? 待ち合わせしてたんだけど﹂
﹁あぁ、あの子、相変わらずルーズですから﹂
﹁最悪﹂
﹁もう少し待てば来るかもしれませんけど⋮⋮ジェノゼラさんそん
な時間無いですよね﹂
﹁えぇ﹂
﹁じゃ、伝言しておきますよ﹂
﹁ジェノゼラが怒ってたって伝えて﹂
女性は笑って答える。
﹁分かりました﹂
そのまま立ち去り、大通りに戻る。歩みを止めないままジェノゼ
ラは道々、説明してくれた。
﹁フリエルは貴女の身の回り品の担当者。レベルと職業に応じた装
894
備品とかスキルを整えてくれるコーディネータね。本人自身が商人
職を極めている上級者だから、何かと世話になることがあると思う
けど⋮⋮﹂
一区切り入れて、ため息をつく。
﹁また後日、日を改めるしかないわね。もし、今日会えそうだった
ら会っておいて。私がログアウトした後で﹂
﹁うん、分かった。ええと、フリエル、だね。最初の人がマルロネ、
次がケーニッヒ、3番目がフリエル﹂
﹁そう。そして次はユングフラウ﹂
﹁あれ﹂
聞いたことがある名前だ。それって、アラビーの元奥さんじゃな
かったっけ。
﹁大丈夫かな、ボクが会いに行って﹂
﹁何が? 嫉妬とかそういうこと?﹂
嫉妬。言葉にしてみるとぼんやりとした心配が明確になる。そう
か、嫉妬って可能性もあるのか。アラビーと結婚する僕が嫉妬され
るの? それとも僕が元奥さんに対してするもの? 嫉妬なにそれ
美味しいの。よく分からない。
﹁さ、ここよ﹂
身構える暇も無かった。ジェノゼラは風見鶏が立つ一軒家のドア
を勝手に開けて入って行く。僕も数段の階段を昇ってそれに続いた。
玄関扉をくぐってすぐに気づいたのは、異臭だ。目に染みる匂い
が立ち込めている。ジェノゼラがハンカチで口をおさえて目を細め
895
ている。僕はもろに空気を吸い込んでむせて、喉に引っ掛かる感じ
で更に咳き込んだ。
﹁げほっ⋮⋮ごほっ﹂
﹁何⋮⋮これ﹂
すると、唐突に玄関から更に一枚奥の扉が開いた。同時に、その
部屋に蔓延していたのであろう異臭が玄関に向かってなだれ込んで
きた。僕とジェノゼラは耐え切れずに外に飛び出した。
﹁ごめんごめん。ちょっと実験中だったから﹂
胸いっぱいに吸い込む新鮮な空気がこれほど美味しいとは。僕ら
の後ろに追って現れたのはマスクをした白衣の女性だった。
﹁ごほっ⋮⋮ひどいわよ、ユングフラウ﹂
﹁ゴルゴチャの実と温泉石を混ぜて燃やしただけなんだ。なんでこ
んなことになったんだろう﹂
﹁こっちの台詞だわ﹂
﹁ゴルゴチャの実に水素成分が入っているということかな。そんな
ことありえるか? ゲーム世界で。そもそも温泉石に硫黄成分が入
っているという前提からして怪しいものだよね﹂
﹁知らない!﹂
階段上から僕を見下ろすユングフラウと目が合った。一瞬の沈黙
があり、ユングフラウはマスクを外して笑った。
﹁やぁ。君がリリス? 私はユングフラウ。よろしく﹂
﹁こんにちは﹂
﹁悪かったね。こんな歓迎で。お茶でも飲んでいってよ﹂
896
ユングフラウのお茶の申し出をジェノゼラは丁重に⋮⋮でもない
な、はねつけるように断った。
﹁ユングフラウは今回の女神化計画のプランニングをしてくれる人。
以上﹂
たったこれだけの説明である。立腹しているのと時間に追われて
いるので早口だった。僕は質問したいこともあったけれど口を差し
挟むのをやめて頷いた。
それにしても、先程の異臭で喉がいがらっぽくなってしまった。
お茶の申し出は魅力的だったので残念だ。この世界にも自動販売機
があればいいのに。
ホームポイントのある広場まで戻ってきて、ジェノゼラは足を止
め、振り返った。くるりと振り返るとマントが優雅にひるがえる。
﹁さて、そろそろ時間ね。さっきからアラームがうるさくて﹂
アラームと言うのは自動ログオフ時間を報せる警告音の事だ。本
人にしか聞こえないけれど、時間ギリギリになると5分置きとかに
鳴る。
ジェノゼラは髪をばさりと振り払う仕草をして言った。
﹁では。私は虚ろよりも空しく憂鬱な世界に戻ります。ごきげんよ
う﹂
﹁あ、ちょっと待って﹂
ジェノゼラの姿が足元から薄れ、フェードアウトしていく。
897
﹁待って。この後ボクどうすればいいの、それに1人足りなくない
!?﹂
キーパーソンをたくさん紹介してもらったけれど、結局誰の元に
行けばいいのかよく分かっていない。計画を立てる人って言ってた
から、ユングフラウの元に戻ればいいってこと? それに、5人目
の紹介がまだ、だ。諦めちゃったってこと?
すると、ジェノゼラは何も言わないまま、預言者のように威厳の
ある挙措で腕を持ち上げた。形の良い爪に塗られた黒いマニュキュ
アは乾いた血のようだ。真っ直ぐ僕の方を指差す⋮⋮否、僕の顔を
少しずらして肩の上を。
えっ、と思って僕は後ろを振り返る。すると︱︱︱︱︱︱何かが
飛び掛かってきた。
﹁リリスどの∼∼∼っ!!﹂
﹁ぐはっ﹂
思い切り、首にエルボー。体当たりでしがみつかれて、息が一瞬
止まった。
898
episode29︳2
ユングフラウの薬品攻撃でやられていた喉にエルボーが入り、僕
の声帯は無残に潰れた⋮⋮気がした。
﹁おひさしゅうでございますわ∼こうして再びお会いできるとは、
すわ、感激、これぞ運命の赤い糸? いえいえ、そうではなくて、
もちろんわたくしに会いに来てくださったのですわよね! うれし
や∼うれしや∼﹂
返事ができないまま両手を取られて、いつの間にか僕はグルグル
と回っている。お互いの体重で引きあって生まれる遠心力は伊達で
は無い。加速し過ぎた遊園地のコーヒーカップのようになって視界
に星が飛び始める。
﹁ちょっと、こらこら、二人ともはしゃぎ過ぎよ⋮⋮あ、危ない﹂
﹁おっとっとぉ! わひゃぁ!!﹂
バランスを崩し、僕は彼女ともつれ合って地面にひっくり返った。
当然、下敷きにんったのは僕の方。踏んだり蹴ったり、とはこの事
だ。
﹁うぎゅ﹂
﹁あ痛たた⋮⋮失敗、失敗、でございますわ∼﹂
ぺろりと出した舌。悪戯好きそうなコミカルな表情。眼鏡は片側
だけずりおちている。
899
﹁ごほ⋮⋮け、けほっ、あーー、あー、はは⋮⋮ルーピナ⋮⋮久し
ぶり。元気だった?﹂
﹁はいですとも。リリス殿もご息災でございましたか?﹂
僕らはお互い地面に顔を付けた状態で、再開の挨拶をした。もが
いて立ち上がろうとしたが、お互いの服の裾を踏んだりして上手く
いかない。そこに救いの手が入る。がっしりとした腕が僕の脇の下
を持ち上げるようにして体を引き起こしてくれた。
﹁大丈夫? リリス﹂
剣士の出で立ちをしたガテン系女性のケイト。ひきしまった腹筋
とおへそがまぶしい。以前見た時から装備が変わっていたが、相変
わらず露出は高めだ。
﹁ケイト。ありがとう﹂
ということは、もう一人も⋮⋮。周囲を見渡すと、物陰からこっ
そりとこちらを覗う少女の姿を発見した。
﹁久しぶり。クーデリカ﹂
クーデリカは一度パッと物陰に隠れ、そろそろと顔を出した。何
か言ったが、聞き取れなかった。たぶん、﹁お久しぶり﹂と言った
のだと思う。
﹁君たちもジェノゼラに頼まれた人たち?﹂
﹁ええそうよ。私たちはリリスにこの街を案内するのと、クインツ
のルールとかあれこれを教えてあげる係。顔見知りの方がリリスも
気安いだろうから、って任されたのよ﹂
900
見知らぬ街、見知らぬ人ばかりで緊張してた心が少し緩む。こん
な心憎い気遣いをしてくれるあたり、ジェノゼラもなかなか親切じ
ゃないか。事前にアラビーから吹き込まれていた﹃ドS女王﹄の影
もなりをひそめる。
﹁でも、なんでボクと君達が知り合いって、知ってたのかな﹂
﹁私たちが先に気づいたのよ。コンパに来たでしょ。あの時は⋮⋮
ちょっと声がかけられなかったけど﹂
もごもごと後半言い淀む感じでケイトは目を逸らす。
﹁あれ。君たちもコンパにいたんだ? なんだ気がついてたなら、
声、かけてくれれば良かったのに﹂
﹁いえいえ。コンパでは、リリス殿がエッチなお姉さま方に虐めら
れてたので、我々は邪魔をしてはいけないと思い、遠くから無事を
祈っておりましたの﹂
﹁ルーピナ!﹂
叱責の声にめげずルーピナはにんまりと笑う。
﹁良いではありませんの。隠し事をするより。むしろ、うちはこう
いうとこですよ、って知っておいてもらった方が﹂
﹁ふぅ⋮⋮ごめんなさいね。リリス。あの時は、助けたかったんだ
けど﹂
あぁ、あの痴態を目撃されたのか。普通に恥ずかしいな⋮⋮。
﹁別にいいよ。それより、案内是非宜しく。君達とまた会えて嬉し
いよ﹂
901
さらりと流すと、ケイトは目を丸くして驚きの表情を作った。
﹁ようこそワーメラスへ。ようこそクインツへ。前も言ったけど、
歓迎するわ﹂
﹁ありがと。でも、実はけっこう怖い所?﹂
多少、皮肉のつもりで尋ねると、ケイトは片目でウィンクする。
﹁リリスなら大丈夫よ。あれを﹃別に﹄で済ませられるんだから流
石ね。アダルトゲームですもの。多少の刺激は楽しまないとね﹂
そうだね。その意見には完全に同意だ。僕らは目を合わせて暗黙
の了解を通じあわせた。
**
クインツの拠点、城塞都市ワーメラス。切り立った崖を背にして
街全体をぐるりと城壁が取り囲む鉄壁の設計になっている。ただし、
城は無い。あれ? じゃあ、城塞とか城壁って言わないのか?
壁のところどころに物見台がそびえていて、何を示しているのか
分からない三角の赤い旗がひらひらと風にたなびいている。
﹁クインツのギルメンは持ち回りでああいう見張り役もやらされま
すのよ∼。大抵はAI奴隷に任せてしまいますから、さほどの苦労
ではありませんけど、所有していないと大変なのです﹂
﹁そうなのよね。ま、リリスは免除だと思うわ。城塞都市、要塞都
市、なんて呼ばれるワーメラスは案外こういう地道な仕事で成立し
てるから﹂
﹁面倒事も多そうだね﹂
902
﹁女の園を守りたいっていう執念でございますわ∼﹂
﹁完全に男子禁制なの?﹂
﹁この街内はね。と、もちろん加入条件も﹂
案内された場所で街の地図を買った。街自体の広さはさほどでな
く、特に変わった公共施設も無い。ただし、﹃洗礼所﹄があるので
転職には便利そうだ。女神に転職する為にも﹃洗礼所﹄が必要なの
かな。
﹁次は酒場に案内するわね﹂
﹁酒場、は二つ?﹂
﹁えぇ。この街には大きい酒場が2つあるの。西の﹃ささ神楽﹄と
東の﹃フォアローゼ﹄。どこの街でも同じだけど、人と情報が集ま
るわ。ワーメラス自体がクローズドな空間だから、特にこの2か所
を押さえておけばクインツの大体は把握できる。ただし、注意点が
あって﹂
そこでケイトが言葉を選ぶように口をつぐみ、ルーピナの方を見
た。
﹁リリス殿は西組でございますわ∼。よつて、﹃ささ神楽﹄で飲む
のが安全なのです﹂
ルーピナはローブの長い袖をふりまわす。
﹁西組?﹂
﹁さようでございます∼。クインツは西と東で派閥があるのです∼﹂
﹁ボクは西組なの?﹂
いつの間に、派閥に組み込まれたのだろう。厄介事の匂いがする。
903
﹁リリスはギルメンと言っても一時的なお客様だから、クインツの
ルールあれこれに縛られる必要は無いと思うんだけど⋮⋮﹂
﹁とはいえ、説明しておかないと、いざという時に困りますわよ∼。
クインツ内の話題についていけなくなりますし∼﹂
﹁そうね⋮⋮じゃあ、なるべく簡単に説明するわ。﹂
﹁クインツは内部で大きく2派に分かれていて、西組の﹃ジャンヌ
派﹄と東組の﹃メイデン派﹄。西組はミス・ジェノゼラや、ユング
フラウさんが代表格で、クインツの在り方に対して比較的⋮⋮なん
といえばいいのかしら。ええと、革新的な意見を持つ人たちの集ま
りね。一方で、東組はミス・シャイドール一人をトップとしてまと
まった保守派の人達のグループなの﹂
簡単に説明してもらっているのは十分に分かるけれど、固有名詞
が多くて理解がついていかないので、とりあえず適当に聞き流しな
がらうなずく。
﹁ワーメラスの街の西側と東側でだいたい、﹃ジャンヌ﹄と﹃メイ
デン﹄の棲み分けができているから気を付けてね。うっかり相手組
に足を踏み入れると大変なのことになる場合もあるわ。そもそもギ
ルドルールが﹃ジャンヌ﹄と﹃メイデン﹄で違ってるから、何かと
面倒もあるし﹂
﹁そして、我々は西組というわけでございますわ。お仲間ですわね﹂
﹁一応、昔は中立派、ってのもあったんだけど、日和見組って言わ
れて嫌われるようになって、いつの間にかきっちり二分されちゃっ
たの⋮⋮日和見組を積極的に排斥しようとしたのはメイデン派だっ
たから⋮⋮だから私みたいなのは西組についたの⋮⋮でも、だから、
一応西組だけど、私達、あまり政治色は強くないの﹂
﹁クーデリカは年中冒険に出てるタイプだからね。ふふふっ﹂
﹁あーら、わたくしは政治も大好きですわよ∼女子の知慮、謀策ほ
904
ど愉快に盛り上がる見世物はそうそうありませんわ﹂
﹁盛り上がる、っていうか燃え上がるだもの。私はパスね﹂
﹁炎上。怖い⋮⋮﹂
女三人寄れば姦しい。僕は大人しく﹁うん、うん﹂と相槌を打つ。
﹁簡単に言えば、メイデン派は男嫌いの集まり、ですわ∼百合百合
しいのでございます﹂
﹁へぇ?﹂
﹁一概にそうとも言い切れないけど、まぁ、そうね﹂
男嫌い、っていうのは面白いキーワードだ。そもそもクインツ自
体が男嫌いの集まり、じゃないんだ? しかし、そう考えてみて、それもおかしな話だよな、と自身で帰
結する。クインツが女の子の集団だからって全員が男嫌いと思い込
むのは性急過ぎる。そうか、だからメイデン派が﹃保守派﹄なのか
⋮⋮な?
﹁クインツも大所帯になってきたから、ちょうど現在、まさに、分
裂の危機なのよ。男性プレイヤとの関わりを徹底的に排除したい保
守派の﹃メイデン﹄と、そんなのバッカじゃないの、って思ってる
革新派の﹃ジャンヌ﹄。とはいえ、分裂すればギルドの力が弱くな
るリスクもあるし、じゃあ、どっちがこの街ワーメラスを取るのか、
っていう大問題もあるし﹂
﹁じゃあ、ボクは危険な時期に来ちゃったって感じかぁ﹂
﹁いえいえ、分裂の危機なんてもう2年以上前から続いております
わ∼。けれど、結局内部で分裂したり、くっついたり、の繰り返し。
もはや年中行事でございます﹂
﹁そう⋮⋮もう、分裂するかどうかの目的なんて、飾りみたいなも
の⋮⋮なの。﹃メイデン﹄と﹃ジャンヌ﹄の勢力争いがしたいだけ
905
⋮⋮なんだと、私は思ってる﹂
﹁ふふふっ。そう言うと身も蓋もないわね﹂
なかなかどうして客観的な意見だ。偶然とはいえ、この3人と知
り合いになって案内してもらえることになったのは良かった。ここ
で熱狂的な政治シンパからの説明を受けていたら僕の立ち位置、物
の見方もだいぶ捻じ曲げられてしまったかもしれない。
﹁とにかく、西のジャンヌ派、東のメイデン派、よ。リリスは西組。
うかつに東には寄らないこと。これだけはインプットしておいて﹂
﹁うん。分かりやすい。ありがとう﹂
僕らの会話が一段落するのを見計らったように、空高くで鳥がピ
ーイッと鳴いた。見上げると鷹のような大きな翼の鳥が悠々と旋回
している。
﹃ささ神楽﹄は和風居酒屋、という感じの店だった。座敷に掘りご
たつ。壁にはメニューの札とギルドに関する告知文がペタペタと貼
られている。いらっしゃいませーという明るい声に出迎えられてち
ょっとビックリした。こういうタイプの酒場は初めてだ。
﹁ええと、一通り説明したと思うけど、何か質問はある?﹂
ケイトがおしぼりで手を拭きながら言った。おしぼりを持って来
たのは前掛けをした店員さんで、眉が太めのちょっと気になる美少
女だった。
﹁⋮⋮うーん。あの子、NPCかな?﹂
つい、口をついたのはそんな質問で、ケイトがずっこけるポーズ
906
をした。隣でルーピナがケラケラと笑う。真面目に答えてくれたの
はクーデリカだった。
﹁あの子はこの酒場の店長。れっきとしたプレイヤキャラだよ﹂
﹁可愛いね﹂
﹁あぁいうタイプが好みですの?﹂
﹁女の子は皆可愛いと思うけどね。あ、ごめん。なんだっけ、質問
? ええと、特には無いよ﹂
ここに到着するまでに3人は色んな事を説明してくれた。ジェノ
ゼラに連れ回されて、︱︱︱︱︱︱と言うと聞こえが悪いけれど、
案内された上にクインツのハウツーを一度に詰め込まれた僕は、正
直、情報過多。ちょっと飽和状態だ。
﹁疲れちゃいました?﹂
﹁大丈夫﹂
口ではやせ我慢をしても、やはり疲れは感じている。うんと伸び
をして、おしぼりに顔を埋めた。オヤジっぽいことをしてみたが、
おしぼりから立ち上るアロマの香りが⋮⋮あぁ、とっても﹃女子﹄
! でも、なんか癒される∼はぁ⋮⋮。
息を吐き、店内を忙しげに歩き回る店長少女の姿を目で追う。千
鳥格子のハッピにたすき。赤い前掛けが似合う。あぁいうちょっと
あかぬけない感じの和風美少女っていいなぁ。たすきでさりげなく
強調されたおっぱいもいい。
﹁あぁ、そうだ、すごくくだらないことなんだけど、聞いてもいい
?﹂
﹁何?﹂
﹁ちょっと下ネタなんだけど﹂
907
真面目に説明をしてくれているから、こういう事を聞くと怒られ
るかな?
﹁もちろん、いいわよ﹂
﹁実際のところ、クインツ内の百合事情というか、アダルトな側面
はどうなのかな﹂
するとケイトは手を頬にあて、考え込んだ。
﹁うーん⋮⋮そうねぇ⋮⋮。人によりけりとしかいいようが無いけ
ど、リリス、女子校ってどういう場所か知ってる?﹂
﹁女子校? 昔の女子ばっかりの学校の事?﹂
﹁今でも海外にはあるのよ。私、出身者なんだけど﹂
﹁へぇ、そうなんだ﹂
じゃあ、帰国子女なのかな。いや、海外在住って可能性もあるの
か。
﹁あぁいう、女の園特有のオープンさはあるわね。悪く言えば恥じ
らいが無い﹂
﹁恥じらい、ですか﹂
﹁恥じらい、です﹂
女子校っぽい感じ、といわれてもいまいちピンとこない。そこに、
ルーピナが得意の体当たりをしてきた。側面からドーンとぶつかっ
て来られて、あわや倒れそうになる。
﹁それよりリリス殿! 今日の講義も終ったことですし! さぁ、
わたくしと、約束のSEXをしませう!﹂
908
⋮⋮あぁ、こういうことか、と。これで一気に腑に落ちる感じが
した。
﹁約束? したっけ﹂
﹁しました!﹂
したかなぁ? いまいち思い出せない。そういえば姉妹の契りと
か何とか言ってたっけ。でも、ロリっぽいルーピナとロリキャラの
僕とでは、どうプレイを進めていいのか難しいところだ。子犬がじ
ゃれるみたいな感じだもんなぁ。どっちが攻守を取るのか。⋮⋮そ
れより、僕自身、ルーピナにはあんまり欲情しないという問題が⋮
⋮。
頭を悩ましていると、ルーピナが僕のブラウスのボタンをいそい
そと外し始める。ちょっと待て。スカートの下に手が潜り込み、シ
ョーツを引っ張る。まさかとは思うが、ここでやるつもり?
当然、酒場内には僕ら以外の客もたくさんいる。席の埋まり具合
は6割と言ったところだ。
﹁ちょ、ちょっと待った! オープンっていったってほどがあるよ
!﹂
助けを求めてケイトの方を向くと、両手で四角い窓を作って撮影
の準備をしている。撮影機能はこのゲームの標準装備だ。
﹁おおおい!!﹂
思いっきり突っ込むとケイトは微笑んだ。
909
﹁それから、さっきの質問の回答の続き。クインツ内の百合事情は
﹃とっても盛ん﹄よ﹂
うーん、なるほど⋮⋮。つまり、身をもって教えてくれるって、
とても親切な指導だね。⋮⋮って、おい!!!!!
僕はショーツを必死で引っ張り上げ、ルーピナの丸い頭を容赦な
くはたいた。
910
episode29︳3︵前書き︶
ガチ百合なので苦手な方はスキップ︵ルーピナ×リリス︶
911
episode29︳3
ルーピナはキャラ的に色気が無さ過ぎるんだよなぁ。⋮⋮とはい
え、可愛い女の子とエッチができると思えば、断固断るほどでもな
しか。結局のところ、僕はルーピナの勢いと己の欲望に流さてしま
うのであった。まる。
宿屋の一室である。
だぶだぶのローブを脱いだルーピナの全身は思ったより丸っこい。
着やせするタイプなのかな。ルーピナが抱きついてきたので、受け
止めて抱きしめ返してみると柔らかかった。
互いに、まずは上半身だけ脱いだ。見比べれば僕の方が色白。そ
して細く、骨ばった体型をしている。これは種族による違いか、乱
数による差か。
﹁リリス殿は色白ですね∼﹂
﹁ボク、ハーフエルフだから﹂
﹁さようでございましたか∼。一目では分かりませんね。ちなみに
私はノームなのですよ﹂
﹁えっ。そうなの? 気付かなかった﹂
﹁はいな﹂
﹁リリス殿∼手を∼﹂
﹁手?﹂
ルーピナの誘導にしたがって両手の手のひらを互いに重ね合わせ
る。ちょうど、鏡に手をついているようなポーズだ。そのまま指を
絡めて繋ぎ、キス。
ルーピナが眼鏡をかけっぱなしだったので、唇を突きだすように
912
して軽いキスにとどめる。
﹁ルーピナ、眼鏡は﹂
﹁失敬失敬、外すのを忘れておりました∼手がふさがっております
ので、リリス殿お願いします∼﹂
﹁んん﹂
このポーズでは手が塞がっているのはお互い様だ。僕は口で眼鏡
の真ん中の橋のところを咥えて引っ張り落とした。そしてそのまま
もう一度キス。今度は舌を差し込む、深い口づけだ。舌で舌を舐め
あいながら、両手の指を絡め、握りしめたり開いたり。
﹁ふふふ∼。百合キス、ですの∼﹂
﹁へぇ? ふふ⋮⋮﹂
つられて僕も笑う。確かに、そんな感じのポーズだ。写真を撮っ
てポスターにしたくなるなぁ。
﹁ん、ちゅ﹂
﹁ちゅ、ちゅ﹂
﹁ちゅん﹂
雀がさえずるみたいな声で鳴く。とても可愛い。
今度はベッドの上に足を崩してペタリと座り、おっぱいを触れ合
う。相手の形をしげしげと眺め、自分のと比べる。ルーピナは勝ち
誇ったように言った。
﹁私の勝ちでございますわね∼﹂
ちっぱいは悪いものじゃない。僕としてはリリスの小さなおっぱ
913
いがお気に入りだ。なのに、なんだろう。この敗北感というか悔し
さは。一瞬、ハトホル様を呼んで巨乳に変身してやろうか、なんて
考えが頭をよぎった。
﹁ふふふふふ∼おっぱい、ぺたんこ∼です∼﹂
ルーピナが僕のおっぱいに顔を寄せて頬ずりする。ほっぺの柔肉
にくっついてひっぱられるようにおっぱいがむにむにと上下する。
﹁猫?﹂
﹁おっぱいは頬ずりするに限りますよ﹂
﹁変なのー﹂
﹁本当ですってば。どうぞ、リリス殿もお試しあれ﹂
言われて僕もルーピナのおっぱいに頬をくっつける。ふにゃり、
ぴたり、とおっぱいがほっぺに張り付く感じがする。そして耳にダ
イレクトに相手の鼓動が聞こえる。温かいおっぱいに頬を埋めて心
音を聞いているとなんだか不思議な感じだ。
ふにふにと頬ずりすると、もう片方のおっぱいが目の間近で揺れ
る。至近距離にこらえきれず、ついぱくりと食いついてしまった。
﹁ひゃんっ﹂
僕的にはおっぱいは口で楽しみたい。口に含んで先端を舐めて転
がす。特に抵抗もされなかったのでそのままチロチロと舌先で遊び、
ついばんだ。
吸ったり揉んだりして、おおよそ堪能し尽くした所で、しかしこ
こからどうするべきか悩む。このまま僕がリードすべき? もうス
カート脱がしちゃっていいの? 性急過ぎる? そもそも、女の子
914
同士ってどこがゴールなのか分からないから、エッチの展開も不明
だ。
すると、そんな僕の苦悩を読み取ったようにルーピナが聞いてき
た。
﹁案外、慣れてないのですか?﹂
﹁女の子同士なんてほとんど経験無いよ﹂
と言ってから、自分で首を傾げる。
﹁いや、そうでもないかな。うーん⋮⋮。どちらかというと、こう
いう風に面と向かって対等な感じでするエッチが珍しいっていうか﹂
﹁ほほお?﹂
﹁無理矢理抱かれるか、その逆が多かったから。しかも女の子同士
でじっくり、ってのはよく分かんなくて﹂
﹁はて、対等っぽいエッチは苦手なのですか?﹂
﹁そういうわけじゃないけど﹂
﹁何かを奪われるような抱かれ方がお好みなのですか?﹂
ルーピナの片手が僕のおっぱいを揉み、もう片手が背中の中心線
をなでる。背骨に沿って尖った指先がツツツと肌を滑って行く感触
にゾクリとする。
﹁例えば浸食されるような、塗りつぶされるような、食い散らかさ
れるような抱かれ方がお好みですか?﹂
﹁る、ルーピナ⋮⋮﹂
ルーピナは普段は肩を越える長いたっぷりとした髪の毛をねじる
ような感じで二つに結わえてローブから出して前に垂らしている。
その髪を束ねるリボンをシュルリと解いた。眼鏡を外した目は意外
915
と切れ長で、見方を変えると美人系にも見える。
﹁⋮⋮っ﹂
乳首の先端を強めに摘ままれて身を竦める。
﹁お望みであればそうしてさしあげませうか?﹂
﹁ちょ、ちょっと待って⋮⋮﹂
相手は女の子だ。僕のささやかな自尊心の為には是非、優位に立
ってリードしたい。⋮⋮が、先手を取るようにルーピナの手がする
りと僕の内またに潜り込む。
﹁待って、あ、やっ、くすぐったい﹂
﹁では、こっち?﹂
﹁あっ、や⋮⋮﹂
愛撫は内またから太ももの付け根のところに移動する。ギリギリ、
陰部に触れないきわどいところを繰り返し撫でられた。くすぐった
さと共に快楽がじわっと広がり、アソコが熱くなってきた。
﹁ふ、っ、う⋮⋮。ん⋮⋮、ま、待って、って⋮⋮んっ。僕にも、
触らせてよ﹂
﹁もちろんです。イイコイイコしてくださいませ∼﹂
ルーピナはローブの下にシルクの透ける感じのスカートを穿いて
いて︵たぶん固有名詞がある下着の一種なのだろうけど僕には分か
らない︶、それをめくるとオレンジ色のパンティが露わになった。
手練手管の無い僕は思い切ってその下着を引きおろし、ルーピナ
の足を開いて女の子の部分にキスをした。
916
﹁はわん。大胆でございます﹂
そのまま顔を埋めて舌を這わせる。
﹁んっ。はう∼⋮⋮。あ⋮⋮そこ、良いです⋮⋮﹂
舐めていると僕の唾液か愛液か区別がつかないままにベタベタに
なってきた。女陰の山がぷっくりと厚ぼったく、ふにふにしている。
フェロモンでも出てるのかもしれない。舐めているうちに僕の方が
ポーっとなってきた。
ルーピナは僕の顔を持ち上げ、べたつく口の端にキスをした。
﹁なかなか、荒削りなところが可愛ゆいのです。でも、無理はしな
くても良いのです。ここからは私にお任せあれ﹂
どうやら、経験値の低さがバレバレらしい。むしゃぶりつくよう
に舐めるばかりでは、それも当然か。
ルーピナは優しい声で、そして、一拍置いてトーンを落として僕
の耳近くで囁く。
﹁滅茶苦茶にしてあげまする﹂
**
﹁うっ、あ、っ⋮⋮だめ、あ⋮⋮﹂
未だに何も挿入しないままにイかされ続ける。恥ずかしいポーズ
で自慰を強要され、写真を撮られた。ルーピナの責めは執拗で、一
度イったら同じ場所でもう一度イくまで解放されない。ローション
917
で身体をくまなくマッサージされて、感度が上がったところにロー
ターを押し当てられる。柔らかい材質のクリップで乳首をつままれ、
何事かと思ったら、電気責めにあった。驚きと恐怖で止めて欲しい
と懇願したが、聞き入れられず継続。それでも次第に慣れてきて、
とうとう、乳首でイくようになった。
﹁はあ⋮⋮はぁ⋮⋮も、だめ﹂
後ろ手に枷をはめられ、筆で陰部をくすぐられる。僕は呻き、身
悶えた。
﹁筆がベチョベチョになってしまいました﹂
そしてその濡れた筆で敏感に立ち上がったクリをつつかれる。
﹁いっ、あ⋮⋮っ、あううっ⋮⋮﹂
﹁それにしても、そろそろ、ココが限界ですかね∼﹂
ずぶっ
逆さに持った筆の柄の方が割れ目の奥に差しこまれる。
﹁んぐっ! っ!﹂
﹁いっぱい、いーっぱい、エッチなお汁が滴ってきてますよ∼﹂
じゅぶ、ぐぽっ⋮⋮
差しこまれた瞬間は体が悦んたが、こんな細い棒では満足しきれ
ない。筆の角度を変えてぐりぐりされると気持ちいい所にあたって
益々欲しくなる。
918
﹁うあっ、ああっ⋮⋮そこ、お願い⋮⋮だからっ! もっと、太い
の、挿れてぇ⋮⋮﹂
﹁ふふふふ∼そうは言われましても、私は残念ながら殿方のような
モノを持っておりませんし∼﹂
﹁ぜ、ったい、嘘だっ。おもちゃで、いいからっ⋮⋮欲しい⋮⋮奥
に⋮⋮あぁ⋮⋮もう、だめ。こんな、もう、無理⋮⋮﹂
ペニス不在の終わりの見えない快楽責めは泥の中で溺れているよ
うで、辛い。ようやく膣内を弄ってもらって、それだけで涙が出そ
うなほど嬉しいだなんて、おかしくなりそうだ。
﹁お願い⋮⋮﹂
僕は足を開いて腰を持ち上げる。あさましくねだる、プライドの
無いポーズだ。その姿をまたパシャリと一枚撮影された。
﹁では、これで突いてあげませうか?﹂
ルーピナの取り出したのはベルトのついたディルド。聞いたこと
はあるけど、実物は初めて見た。これが、百合の女の子達のアイテ
ムなのか。
﹁それって⋮⋮﹂
﹁ペニバンです∼﹂
喜々としてルーピナはそれを装着する。偽物の粗暴な男性器を下
半身にくっつけた少女というのは、眩暈がするほど倒錯的だ。僕は
その姿から目が離せず、茫然としてしまった。
919
﹁どうなさいますか? こういうのは抵抗がある、って方もいます
し、無理にとは言いませぬよ∼﹂
﹁ぁ⋮⋮﹂
抵抗? もちろんある。でも、それより、強い欲求が全身を支配
している。女は子宮で物を考える、という言葉がある。本来は⋮⋮
あぁ⋮⋮こういう意味じゃないんだろうけど、今は子宮でしか物が
考えられない。
僕は手を後ろに拘束されたままベッドにうつぶせになる。そして
物言わぬまま、お尻を持ち上げ、待った。ルーピナは満足げに笑う。
その姿勢のまま、挿入までの数十秒すら長く、僕は待ち焦がれた。
ぐっ⋮⋮ぶっ⋮⋮ずぶう⋮⋮
﹁ふっ⋮⋮! ううっ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮うううう︱︱︱︱︱︱⋮
⋮う︱︱︱︱︱︱っ!﹂
ずぶっ、ずぶっ、じゅぶっ、ぐぶっ
﹁ひ、いっ。いい、いい︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
ぐぶっ、ぐぷっ、ぶちゅっ
﹁あ︱︱︱︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
甘い嬌声がすすり泣きに変わっていく。その愛らしい声を聞きな
がら、犯されているのは誰なのか分からなくなっていく。頭が真っ
白になって、ピリピリした鋭い感覚が突きぬけていく。
920
﹁ア︱︱︱︱︱︱だ、め、もう、いま⋮⋮アァっ、今、イってる、
ナカで、だめ、もう、動かないでぇ⋮⋮﹂
ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、ずぶ、
ずぶ、ずぶ
﹁お願い、もう⋮⋮⋮ゆるし、てぇ⋮⋮﹂
ベッドにつっぷして、頭を擦りつける。これが固い岩石だったら
頭を打ちつけていたかもしれない。ぐい、と髪の毛を掴まれ、頭を
持ち上げられた。
﹁まだまだ、これからですよ﹂
﹁ひ⋮⋮っ﹂
抉るように、深く。時に浅く。繰り返し、何度も、何度も。
﹁ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱︱︱︱ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
イきながら突き込まれるたびにまたイってしまう。もう無理と思
うのに、それでも身体は悦び、愛液を垂れ流してしまう。
喉を枯らすように叫んだ。最後の方は、もう、声も出なかった。
921
episode30︳1:修行
女神になる為の修行は予想より長丁場に渡る見込みだ。たぶん最
短プランを提供してもらっているのだろうけど、やはり女神に成る
のに一朝一夕というわけにはいかないらしい。レベル上げ、クラス
チェンジ、装備品とスキルの付け替え、ボス戦、イベントとクエス
トの消化、やることは山盛りで、なかなか忙しい。僕は与えられた
修業を日々黙々とこなした。
ユングフラウに進捗状況を報告し、指示をもらって冒険に出る。
冒険の準備は毎回フリエルが手伝ってくれて、その時々に最適な身
支度を整えてくれる。冒険は戦闘が絡むときはマルロネ、そうでな
いときはケーニッヒが手伝ってくれる。もちろん、僕一人でこなせ
る場合は単独行動だ。
ちなみに現在の僕のステータスはこんな感じ。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:賢者
称号:祝福されし賢く淫らな永久乙女
守護女神:ハトホル
年齢:15歳
総合LV:32
HP:241
MP:224
力:47
魔力:98
922
自動スキル:﹃超越せし乙女﹄﹃女神の守護﹄﹃幼き妖女﹄﹃耐
状態異常★﹄﹃呪文スキル効果上昇++﹄
呪文スキル:﹃ハトホル召喚﹄﹃エルフの奇跡﹄﹃法則の風/水
/火/土﹄﹃陽反射結界﹄﹃陰反射結界﹄
装備:﹃大賢者の法衣﹄﹃ニエグイのロッド﹄﹃妖精の羽根靴﹄
﹃セレネの髪飾り﹄﹃太陽石︵大︶のペンダント﹄
道具:痛み止め、帰還の羽根、脱出の羽根、呼び笛
所持金:109200G
名声:10
人気:11
魅力:23
アイテムBOX︵92/100︶
﹃魔法瓶×10﹄﹃ドーピング薬×10﹄﹃睡眠薬×5﹄﹃インス
タント寝袋×5﹄﹃万能薬×5﹄﹃帰還の羽根×5﹄﹃脱出の羽根
×5﹄﹃痛み止め×10﹄﹃呼び笛×5﹄﹃またたび×5﹄﹃聖水
×3﹄﹃セーブフラグ×2﹄﹃真実の鏡﹄﹃応用的な鍵﹄﹃アンク﹄
﹃記録水晶×2﹄﹃記録水晶︵済︶×1﹄﹃秘密のチケット×3﹄
﹃スキルカード︵白紙︶×1﹄﹃スキルカード︵済︶×9﹄﹃噂の
女神への道のりは遠く険しい⋮⋮とはいえ、短期間でのこの
壺﹄﹃運命のダイス﹄﹃四季のパレット﹄
成長は我ながら感心するばかりだ。フリエルが惜しみなく僕が身に
着けられる範囲で最高の装備をそろえてくれるから上級スキルやア
イテムが増えている。
賢者の衣装に身をつつみ、くるりと回ってポーズを決める。緑色
923
のデニムっぽい固い生地のワンピースみたいな服で、オレンジ色の
幾何学模様が刺繍されていた。可愛い系の服も似合うけれど、こう
いうちょっとカッコいい服も似合う。
ふと、心配になって尋ねてみた。
﹁ええと、こういうのにかかるお金って、どうすればいいのかな。
クエストとかで稼いで後で返す感じ?﹂
すると、フリエルは笑った。
﹁これら一式、びっくり価格だよん。クエストごときではそう簡単
に返せるとは思えないなぁ﹂
﹁びっくり価格、って目玉が飛び出る側のことだよね﹂
﹁もち。特にスキルカードが高いんだよね。これなんて、一枚で3
0万Gなんだから﹂
転載済みの﹃公開スキルカード﹄をひらひらと振る。他人の書き
出したスキルを習得することができるスペシャルカードだ。
﹁さ、さんじゅうまん⋮⋮﹂
僕は思わず絶句する。
﹁大丈夫。必要経費は全てリリスのパトロンさんから頂いてるから﹂
﹁あぁ、そうなんだ。良かった。借金だったら返せないところだっ
た。でも、パトロン様は請求書を見てひっくり返らないかな﹂
﹁ぜ⋮⋮っったいに大丈夫﹂
絶対、にやたらと力を込められた。
924
﹁ふっかけるつもりはないけどね。そんなことしてもあたしのポケ
ットに入るわけでもないしっ⋮⋮でも、お金の心配は無用だと思う
よん。いいねぇ﹂
﹁ふぅん⋮⋮。もしかしてボクって玉の輿に乗ったってやつなのか
な⋮⋮はは﹂
パトロン様、というのはもちろんアラビーのことである。上位プ
レイヤは金持ってるんだな∼。でも、相手がアラビーじゃ玉の輿っ
て感じじゃないよなぁ∼。
冗談めかして笑うと、フリエルは呆れたように口を開けて溜息み
たいなのをついた。
﹁今更、何を。あ、もしかしてマリーアントワネット的なジョーク
? くそぉ、いいなぁ﹂
﹁いやいや、フリエルの方が絶対にボクよりお金持ちだよ﹂
﹁ま、今はね。でも結婚したら相手の資産が丸ごと手に入るんでし
ょ。知ってるよ。アイテムボックスが共有化されるって⋮⋮あれ?
所持金は共有化されるのかなぁ⋮⋮あたしもあんまり詳しくない
んだよね結婚なんて他人事だから﹂
フリエルは自分の発言に首をひねる。結婚したら所持金まで共有
化されるのかどうかは僕も知らない。
﹁フリエルは結婚するつもりはないの?﹂
﹁無い、無い。﹃王﹄となら考えてもいいけど⋮⋮。結婚なんて面
倒くさいこと、リアルだけでじゅーーーーーぶん﹂
嫌そうな顔でフリエルは何かをかき消すように頭の上で手を振っ
た。
925
﹁リリスは独身?﹂
﹁え、あ、うん⋮⋮たぶん﹂
﹁たぶん、ね。そーかそーか、じゃ、そっちでは慎重にね﹂
﹃そっち﹄というのは現実世界の意味だろう。クインツの女の子
達は得てして現実の話題を持ち込みたがる。ボクは苦手な話題なの
でできるだけ避けているが。フリエルはそんな僕の心中を酌みとっ
て話題を転じた。
﹁今日は﹃飛龍の渓谷﹄だっけ?﹂
﹁うん。移動に丸2日。3日かけてダンジョン制覇して、ボス戦の
予定。クインツに戻って来るのは⋮⋮。一週間後﹂
﹁ハードスケジュールだね。あ、飛龍使いのNPCにイケメンがい
るらしいよ。上手い角度で写真撮れると、高く売れるんだって﹂
﹁へぇ。じゃ、頑張って探してみる﹂
﹁うんうん。頑張って。気を付けて行ってらっしゃい!﹂
﹁うん。ありがと。行ってきます﹂
**
僕は割合スムーズに女の園に馴染んだ。主に性的な意味で⋮⋮と
いうのは誇張があるが、ルーピナの手ほどきで百合のお作法を身に
着けたのはクインツを上手く渡って行く上で役立った。
クインツの皆が皆、百合特性があるわけじゃないけど、軽いスキ
ンシップや過剰な⋮⋮スキンシップ?は日常茶飯事だったからだ。
とりあえず、いきなり後ろから乳をわしづかみにされても軽く受け
流せるくらいの度量は備えることができた。
平日は冒険に費やし、休日は自由時間である。スケジュールの都
合で休日も冒険に出ていた場合は、ちゃんと代休がもらえたので有
926
難かった。それが無ければ流石に嫌気がさしていたところだ。僕に
してみればよくあるパターンだが、エロの為のゲームのはずが、い
つの間にか攻略に傾いている。
平日の鬱憤を晴らすべく、休日はなるべくエロを充実させたいと
ころだ。
そんなある休日、誘われてジェノゼラとマルロネと3Pを楽しむ
機会に恵まれた。
おお、女の子同士の3P! 是非! と飛びついたところ、ジェ
ノゼラとマルロネが恋人同士だということを知った。
軽くびっくりだけど、広いようで狭いギルド内のことだから、そ
ういうことも普通にあるか⋮⋮。ただ、恋人同士の間に割り込むっ
ていう立ち位置がよく分からない。どう立ち回るべきなのか。恋人
同士のメイクラブに対して花を添える役割に徹すれば良いのか? それとも、ヒール?
﹁マルロネは人見知りだから本当は3Pなんて嫌なのよね﹂
﹁えっ、そうなの? じゃあ、ほんとにボク、ヒール、っていうか、
お邪魔虫じゃん﹂
キュッと口を結んだマルロネに睨み付けられる。元々目つきが鋭
いけれど、怒りを含んだ射るような眼光だった。僕はその反応に慌
てる。マルロネにはお世話になりまくっているし、せっかく親しく
なったのにこんなことで嫌われてはたまらない。
﹁ごめん、そうだとは知らずに首突っ込んじゃって、いいよ、3P
やめよ﹂
﹁いいの、いいの。気にしないで。さ、マルロネ、服脱いで﹂
927
するとジェノゼラに従い、マルロネはさっさと服を脱ぎ始める。
﹁えっ、えっ? いいの?﹂
﹁大丈夫。この子、私の言うことには絶対服従だから﹂
﹁ふ、服従? それってどういう関係?﹂
マルロネはさっさと服を脱いで真っ裸になって待機している。普
段は雄々しく戦闘している姿しか見ないマルロネの女体は新鮮で眩
しい。
﹁つまり⋮⋮そうね。マルロネ、おっぱいを揉んで見せて﹂
すると言われた通り、マルロネは己のおっぱいを両手で揉む。手
のひらにおさまりきらないくらいのサイズの柔らかそうな乳房が揺
れた。指の間から紅色の乳首がこぼれている。
﹁いいわ。次は足を開いて見せて﹂
マルロネは今度も何も反論せず開脚する。身体が柔らかいらしく、
かぱっと開脚すると自然に180度近く開いた。ショーツまで脱い
だ後なので、女の子の部分がしっかりと露出されている。こっちの
方が恥ずかしく、しかし、ついつい凝視してしまった。
﹁だめだめ。手で開いて、中の方まできちんと見せて﹂
えっ。そこまで? 驚いた僕は二人の顔を見比べた。しかし僕の
焦りを他所に、マルロネはどこまでも従順に命令に従う。両手で女
陰を左右に引き開いて奥まで露わにする。身体の内側を思わせる肉
襞がパックリと口を開いた。
928
しかし、マルロネが決して喜んでそうしているわけじゃないのは
一目瞭然だ。頬は赤く染まり、分厚い眼鏡のガラスの奥で伏し目が
ちにまつ毛を震わせている。いつもは無表情だが、今はあえて無表
情を作っているようで、見ていて痛々しくすらある。
﹁﹃どうぞ奥まで見てください﹄⋮⋮はい﹂
ジェノゼラが細い指をしならせてマルロネの方に手のひらで合図
する。すると、かすれ声がその言葉を復唱した。
﹁どうぞ⋮⋮奥まで見てください﹂
ええ?
﹁﹃私の体をご自由に使ってください﹄⋮⋮はい﹂
﹁私の体をご自由に使ってください﹂
うわぁ⋮⋮。
﹁面白いでしょ? リリス、何か言わせてみたい言葉はある?﹂
﹁え⋮⋮えぇっ⋮⋮どうかな﹂
そんなこと言われても咄嗟には思いつかない。でも、凄い。
﹁⋮⋮ぅ﹂
急に、マルロネは泣きそうな顔になった。
﹁もう、閉じてもいい? 恥ずかしい⋮⋮﹂
﹁駄目。リリス、マルロネを抱きたい?﹂
929
﹁う、ううん、いい⋮⋮﹂
﹁遠慮しなくても、好きにしちゃっていいのよ﹂
そうは言われても、恨まれてしまいそうだ。興味が無いわけじゃ
ないけど、止めておくが吉だろう。
﹁やめとく﹂
﹁そう、じゃあ、私と一緒に楽しみましょ。マルロネは、そこで私
達がシてるのを見てること﹂
すると、マルロネは何かを請うような切なげな表情を浮かべた。
が、やはり反抗はしなかった。
﹁返事は?﹂
﹁⋮⋮はい﹂
どこまでも従順だ。
僕はマルロネに対して後ろめたい思いを抱きながらジェノゼラと
エッチをした。最初の方は監視されているようで、マルロネの視線
が気になって集中できなかった。しかし、なかなかどうしてジェノ
ゼラの愛撫が上手なのである。ルーピナの時もそう思ったけど、女
の子同士だからか、女の子の気持ちいい所をしっかり押さえている。
僕は申し訳なさを抱えながら、シーツの上で身をよじり、甘い声
をあげてしまう。
おへそを舐められて新しい官能に身を震わせた。
﹁あら、リリス、ここにも性感帯があるわね﹂
﹁うっ、ふ、う⋮⋮?﹂
﹁ほら﹂
﹁っ⋮⋮んっ⋮⋮いいっ﹂
930
﹁おへその奥、子宮につながってるのよ﹂
﹁うっ⋮⋮んんっ﹂
指をギュっと奥につっこまれて、グリグリされると確かに今まで
に無かった気持ち良さだった。
﹁ふふ⋮⋮トロトロ零れてきたわ﹂
﹁ぁ⋮⋮ん、トロトロ、になっちゃう⋮⋮気持ちいい﹂
﹁中からも弄って両責めにしてあげる。嬉しい?﹂
﹁う、ん﹂
そうして目の前の快感に埋没し、ふと見ると、マルロネは少し離
れたところで顔を赤くし目に涙を溜めながら自慰をしていた。
﹁あ⋮⋮﹂
﹁あぁ、気にしないで。あの子は、あれで嬉しいんだから放ってお
いていいの﹂
﹁こういう遊び、よくするの?﹂
﹁えぇ。男プレイヤも混ぜてマルロネを犯させたりね﹂
﹁ほわぁ⋮⋮それも凄い﹂
﹁ね? マルロネ﹂
すると己の体を慰めていた指を止めてマルロネが頷いた。
﹁マルロネは虐められるのが好きなタイプなの?﹂
﹁うーん。というより、私に服従するのが好きなのよ﹂
ジェノゼラは事もなげに言う。それが真実なのかどうかは分から
ない。ただこういうプレイもあるということだ。抱いていた後ろめ
たさはいつの間にか甘美なスパイスになっている。僕は誘われるま
931
まにジェノゼラと愛し合い、容赦なくマルロネのプライドを踏みに
じった。
932
episode30︳2
クインツに来てから二か月が経ち、僕の職業は﹃賢者﹄から﹃プ
リンセス﹄になった。姫って戦えるのか?というツッコミはさてお
き、そういう上級職である。姫属性の装備品が結構使える為、この
ルートを通っている⋮⋮らしい。
冒険をこなす毎日は意外と地味である。だが、決して退屈ではな
かった。﹃女神クロニクル﹄はストーリーも良くできていて、純粋
にゲームとしても楽しめる。さすがにムービーシーンがあまりに長
いとスキップしたくなることもあるけれどね。
﹁さて、今日は⋮⋮と﹂
イベント﹃追いやられし地底族の住処﹄をクリアしてワーメラス
に戻って来た僕は、一日の休日を経てログインした。まずは、ユン
グフラウの家に向かう。揺れる度にキィキィと音を立てる風見鶏が
立つ一軒家のステップを昇る。このパターンもお馴染みになってき
た。
﹁こんにちはー﹂
玄関から勝手に入ってその先の扉を開く。この時に、服の裾で口
元を押さえることを忘れない様に気を付ける。
﹁やぁ、リリス﹂
﹁良かったー。今日は変な煙が出てない﹂
﹁やだな。あれは最初の一回だけでしょ。どうぞ、座って﹂
933
家の中はひどく散らかっている。僕は物置と化しているソファを
一瞥し、テーブルの下から小椅子を引っ張り出した。
﹁﹃追いやられし地底族の住処﹄無事に終わったよ。Lvは32、
評価ポイントは41、35、18﹂
﹁お疲れ様。予定通りだね。次はダンジョン﹃最初の女神の寝所﹄
だよ﹂
﹁あ、そこ、知ってる。行ったことある。﹃最初の女神の寝所﹄﹂
﹁うん。だよね。リリス、女神の祝福受けてるんでしょ。あそこに
飛ぶには女神の祝福を受けないと飛べないから﹂
つまり、女神の祝福を受けているイコール、あのダンジョンに行
った経験がある、ってことか。
﹁そういえば、そんな道のりだった気もする。でも、前回は一階ま
でしか制覇できなかったんだぁ﹂
コトリ。僕の目の前に小皿が置かれた。上にはおはぎが乗ってい
る。
﹁はい、頑張ってるご褒美﹂
﹁わあ、ありがとう!﹂
甘いものが好きなので、これは嬉しい。ユングフラウは何となく
馬が合う︱︱︱︱︱︱僕の方で一方的に思っているだけかもしれな
いけれど︱︱︱︱︱︱とにかく、この二か月でだいぶ気安い間柄に
なっている。
﹁リリスの守護女神は何?﹂
934
﹁ハトホル﹂
口をモグモグしながら僕は答える。あ、これ美味しい。
﹁へぇ、珍しいね。初めて聞いた。ハトホル自体は知ってるけど、
ハトホルを持ってるって子は初めて﹂
﹁ユングフラウの守護女神は?﹂
﹁私はユーノー﹂
﹁それこそ、聞いたこと無いよー﹂
﹁ローマ神話の女神様。6月を表す英語、ジューンの語源。たぶん﹂
﹁へぇ﹂
たぶんユングフラウが持っているくらいだから、レアで強い女神
様なのだろう。でも、クインツで修業させてもらっている身として
はプレイヤの強さなんて、もう感覚がマヒしている状態だ。普段戦
闘をサポートしてくれているマルロネの強いこと強いこと。最近は
どうしても属性攻撃が必要な場合とかがあってケイト達3人も手伝
ってくれることがあるけれど、彼女らもべらぼうに強かった。
それより、ユーノー様のキャラの方が気になる。うちのハトホル
様みたいに問題児だったりするのだろうか。
﹁もう、転職は必要ないから、後は評価ポイント貯めるだけ。﹃最
初の女神の寝所﹄は最上階までクリアすると合計で50ポイント入
るから﹂
﹁50! 大きいね。なんか、今までチマチマ溜めてたのが馬鹿み
たいな気が⋮⋮﹂
﹁まぁ、女神になる為の必須ダンジョン、って意味合いが強いかな。
もう、あと少しだよ﹂
﹁あと少し、ってどれくらい?﹂
﹁このペースならあと一か月くらいかな﹂
935
﹁そっかー﹂
あと少しと言うには微妙な長さだ。でもまぁ、ここまで来たら頑
張るしかない。
﹁早く女神になりたい?﹂
﹁うん﹂
早くこの目的と手段が逆転しているような状況から解放されたい。
ここ最近、ほとんどエロい遊びをしていない。せいぜい、仲の良い
女の子達と百合百合するくらいだ。
⋮⋮と、そこでユングフラウの質問の意図が透けて見える気がし
てドキリとした。
﹃早く女神になりたい?﹄という質問の裏にはつまり﹃早くアラビ
ーと結婚したい?﹄という意味が隠されていたのではないか。
別にやましいことはないのだけれど、そう思われるのは困る。い
や、別に困るわけじゃないけれど、恥ずかしい、というか、誤解を
招きたくない。
つまり、ユングフラウはアラビーの元奥さんなのだから、その辺
の配慮を欠いた発言をしてしまったような気がしたのだ。
﹁っていうのはええと、ボク、本当はゲーム攻略にはあんまり興味
無いんだ。自由に遊びたい派だから、女神になりたい、っていうか
この修行を卒業したい、っていう意味でね﹂
すると、ユングフラウは軽く笑った。
﹁あぁ、ごめん。こっちこそ、そういう意味じゃないよ。気を遣わ
せたならごめん﹂
936
どういう意味なのだろう。
﹁今まで聞かれなかったし、気にもしてなかったから話したことが
無かったけど、万が一負い目に感じてたら悪いから話すけど﹂
前口上を置いてユングフラウは話した。
﹁私とアラビーの間には恋愛関係は無かったんだ。だから、気にし
なくていいよ﹂
﹁⋮⋮あ﹂
僕は何と答えて良いか分からず口を小さく開けて、またつぐんだ。
﹁私、現実の世界に恋人がいるから、虚構だからと言って他の男性
と浮気する気にはなれないし﹂
じゃあ、ユングフラウは処女なの?という下世話な質問が真っ先
に頭に浮かんだので打ち消した。僕の事を気遣って誠意ある話をし
てくれているのに、処女なの?は無い。なるほど、現実に恋人がい
るなら、仮想現実だからといって浮気する気になれないのは、分か
る。男だったら色んな女の子とエッチできちゃえばラッキーくらい
だけど、女の子だったら、そうそう割り切れないだろう。⋮⋮と、
信じたい。
あれ? でも、じゃあ、なんで。
﹁じゃあ、なんでアダルトゲームなんてやってるの? あ、ちなみ
にボクは完璧にアダルト目的のエロユーザーなので⋮⋮﹂
自虐を織り交ぜて尋ねてみる。
937
﹁研究の為だよ﹂
﹁研究?﹂
﹁そう。このゲーム﹃女神クロニクル﹄は今一番注目を集めている
研究対象だから﹂
﹁へええ。そうなの? じゃあ、ユングフラウは研究者なの?﹂
研究者、っていう職業があるのか不明だけど、何となく今白衣を
着ているユングフラウは現実でもこのままの恰好でいそうな気がす
る。
﹁私は院生。ドクター﹂
お医者さんなのか。でも、お医者さんが何でゲームの研究をして
いるのだろう。
﹁論文の対象なんだ﹂
﹁へぇ⋮⋮でもさ、研究するなら、ゲーム相手なんだし、ソースコ
ードを直接読んだ方が早いんじゃないのかな、って⋮⋮素人として
は思うんだけど﹂
﹁人間の思考を研究するのに、直接脳みその断面に顕微鏡当てても
何にも分かんないでしょ。それと似たようなもの﹂
﹁よく分かんないけど、論文の為に興味の無いアダルトゲームにロ
グインしなきゃいけないなんて、すごい⋮⋮うーん、やっぱり、大
変そう﹂
﹁元々ゲームは好きだし、アダルトゲームにも偏見は無いからいい
の。乙女ゲーはやったことあるし、あれなら浮気もアリ、って割り
切れるんだけど。だって、あれさ、オナニーみたいなものだと思わ
ない?﹂
﹁う、ごめん、乙女ゲーは範疇外﹂
938
﹁あ、そう?﹂
ユングフラウは本棚から分厚い本を引っ張り出してきて、ページ
を繰った。
﹁元々私はよくある人工知能の研究で、神経回路の数学的なモデル
を位相空間の応用で説明しようとしてたんだ﹂
﹁難しそう﹂
﹁ううん、よくある的なテーマ設定だよ。でも、このゲームに出会
ってからそっちは捨てちゃった。今は、ゲーム﹃女神クロニクル﹄
における存在の情報と認識の境界がテーマ﹂
﹁どっちにしろ、やっぱ、ボクには難しいなぁ﹂
﹁とくいなんだよ﹂
﹁何が?﹂
﹁このゲーム。﹂
興味深い話だとは思うけれど、僕にはよく分からないし、ついて
いく自信も無かったので黙っていた。ユングフラウが更に話を進め
る途中で﹁あぁ、得意じゃなくて、特異か﹂と理解できたくらいだ
った。
﹁現段階では世界中で一番、ずば抜けてるの。私も最初他人に勧め
られた時は半信半疑だったんだけど、やってみてびっくりした。た
くさんの研究者を魅了する理由がよく分かったよ。﹃女神クロニク
ル﹄に関しては都市伝説みたいなデマもゴロゴロしてるけど、案外、
本当なんじゃないか、って思えることもある。かつてルート権限を
持っていた開発の最高責任者が自殺してて今もその亡霊がゲームを
支配している、とか。全世界のコンピューターに未知のウィルスを
忍ばせることで無限に近い仮想サーバーを実現して利用してる、と
か。配信元のゲームメーカーは有名どころだし、信頼性も高いから、
939
そんなわけないんだけど﹂
さらに饒舌に語り始めたところで誰かが玄関の方から入ってきた。
﹁こんにちは∼リリス来てる?﹂
﹁おっと、フリエルが来た﹂
﹁地底族の住処、終わったぁ?﹂
﹁終わったよ﹂
﹁じゃ、次はいよいよ﹃最初の女神の寝所﹄?﹂
﹁そう。必要な装備、準備してあげて。あ、フリエル、おはぎ食べ
る?﹂
﹁きゃあ。嬉しい。食べるー﹂
フリエルが来て場の雰囲気が変わり、話題も新しいダンジョンに
関するものにシフトした。僕はユングフラウに聞いてみたいことが
あったけれど、一瞬浮かんで忘れてしまった。大したことじゃなか
ったんだけど、何だったかな。まぁ、いいか。
それより、どうしよう。おはぎ、僕ももう一個欲しいな。
このゲームが良くできているっていうのは完全に同意だ。研究者
じゃない僕はこの世界の成り立ちについて調べようとは思わない。
でも最近、食べ物の作り方には興味がある。どうやって作ってるん
だろう。
940
episode30︳3
ワーメラスで装備を整えた後、マルロネと二人で再び冒険に出発
した。中一日の休みも無いあたり、過酷なスケジュールである。
しかし次のダンジョン﹃最初の女神の寝所﹄は何と言ってもエロ
系イベントの宝庫だ。女神の﹃産む力﹄が暴走しているっていう設
定で、その影響からいたるところに発情したモンスターが潜んでい
る。
植物系モンスターから獣形、人間型、スライム系、虫系、爬虫類
系、なんでも揃っている。これは、楽しみにせざるを得ない。
極彩色のジャングルのような風景が出迎える。不思議と天井が見
えず、ダンジョン内なのに鳥が飛んでいたり、どこからか風を感じ
たりする。
﹁あ、ちょっと待って!﹂
マルロネの背中にはオレンジ色の長い三つ編みが垂れている。僕
は思わずそれを思い切り引っ張ってしまい⋮⋮⋮⋮射殺さんばかり
の勢いで睨まれた。
﹁ご、ごめん、でも、あれ⋮⋮﹂
やや遠目にアリクイのような舌の長いモンスターが群れている。
少し進路を変更して近づいていくとやっぱり、思った通りだ。アリ
クイ型モンスターが耳障りな声をあげながら、興奮した様子で少女
二人を取り囲んでいる。今まさに、獲物を﹃捕食﹄しようとしてい
る最中だった。
941
﹁いやっ。あっち、行って!﹂
﹁ううっ、いや、やめて、近寄らないで⋮⋮﹂
少女の一人が杖を闇雲に振り回す。もう一人は怯えきった様子で
その背後に隠れ、杖を握りしめている。魔法使いの姉と僧侶の妹、
っていう感じの外見だ。でも、戦闘領域も展開しないでいる所を見
ると、たぶんNPCだろう。
﹁誰か、助けて⋮⋮﹂
﹁怖いよぉ⋮⋮お母さぁん⋮⋮うっうっ⋮⋮﹂
アリクイ達は少女を囲む輪を徐々に詰めていく。少女たちはジリ
ジリと後ろにさがるが、背後にもモンスターが迫っている。
﹁あっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
﹁ふぇぇん⋮⋮﹂
絶体絶命。アリクイのうちの一匹の舌が伸び、少女の腕に絡みつ
いた。
﹁きゃぁっ!﹂
﹁に⋮⋮逃げ⋮⋮いやっ! あぁっ!﹂
伸縮性のある舌が少女の腕を、足を、太ももを絡め取る。濡れた
舌のロープが肢体に巻き付き、柔らかそうな体を縛りあげていく。
少女たちはもがいたが、わずかばかりの抵抗は空しく、あっという
間に地面に引き摺り倒され、衣服を剥かれ始めた。
﹁きゃ、ぁっ⋮⋮ひ、ひいいいっ⋮⋮﹂
942
﹁いやぁっ! やだ、気持ち悪いよぉ⋮⋮やめ⋮⋮て⋮⋮っ﹂
片方の少女は仰向けで両足を開いたポーズ、もう片方の少女はう
つぶせでお尻だけ高く持ち上げられたポーズで、下半身を露出させ
た。
﹁やだぁっ! 誰か、誰か、助けてぇえ⋮⋮!﹂
﹁うわあぁっぁぁ⋮⋮怖いよぉ⋮⋮やだ、やだよぉっ⋮⋮!!﹂
誰か助けて、と言いながら少女たちの目には僕らが映っていない。
うん、これは間違いなくNPCだ。このダンジョン恒例のエロイベ
ント! 僕は俄然テンションアップ。
﹁ね、助けなくていいの?﹂
服の裾を引っ張って尋ねる。するとマルロネはつまらなそうに言
った。
﹁助けても大したボーナスもらえないから、時間の無駄。さっさと
行くわよ﹂
﹁えっ⋮⋮ちょ、せめて、最後まで見ていこうよ﹂
﹁必要ない﹂
キィキィキィキィ。鳴き声をあげながら、アリクイのモンスター
は少女たちに覆いかぶさった。
﹁嘘っ⋮⋮な、なに⋮⋮やだっ⋮⋮こんな、あああっ⋮⋮いや、い、
痛い︱︱︱︱︱︱!﹂
﹁やだっ、お願い、助けてぇ、あっ、あっ、あっ、あ︱︱︱︱︱︱
︱あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮⋮﹂
943
ブチリ、と処女膜が破れる音が聞こえた気がした。僕はその光景
に目を奪われる。のっぺりとした顔のモンスター達は表情が無く、
ただただ動物的に少女たちを犯す。哺乳系動物がさかんに腰を振っ
ている様はどこかコミカルですらあり、余計に少女たちの悲哀が勝
った。
﹁ひぐぃ、い、いだい⋮⋮いたいよぉ⋮⋮﹂
﹁うあっ、ぁうっっ⋮⋮ぁっ、あっ、あっ、あっ、こんな、らめ、
っもんすた⋮⋮ぁ⋮⋮が、ぁっ、ぁんっ、あっ、んっ、何か、は、
はいって、くるぅ⋮⋮﹂
ぶちゅ、ぶちゅ、ぶちゅ。
少女達の足の間からは赤い血が滴り落ちていた。おそらく姉と思
われる方の目からはポタポタと涙があふれ、苦しげに悶いている。
﹁いやぁあっ。いやぁ⋮⋮いや⋮⋮⋮⋮ぁあ﹂
﹁あ゛︱︱︱︱︱︱⋮⋮あ゛︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
対して、もう片方の少女は挿入即堕ちタイプだ。焦点の合わない
目が泳ぎ、アヘ顔で涎を垂らしている。ビクビクと体を震わせ、少
女に似つかわしくない獣のような声をあげた。
ブチュッ! ビュルッ⋮⋮。プシッ⋮⋮
﹁や、やだあ、ああ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱あ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮っ﹂
﹁んぁ、な、なに、これ⋮⋮おねえ、ちゃ⋮⋮うぁ⋮⋮︱︱︱︱︱
︱す、すご、い、あつい、の、が入って来るよぉ⋮⋮﹂
944
ナイス、対比。上半身も少しずつ衣服がはだけられていき、何故
かロリぃ妹の方が巨乳だ。僕はどちらかと言ったら妹の方がタイプ
だなぁ!
﹁ふぅ⋮⋮もう行くわよ﹂
﹁あ、ちょっと、待って、待って∼∼∼!!﹂
スタスタとマルロネは僕を捨て置いて先を行く。こんないい所で、
それはない! ここからがもっといい所なのに!
しかし置いて行かれるわけにもいかないので慌ててマルロネの後
を追う。僕は未練を捨てきれずに後方を振り返り振り返りした。
キィ、キィ、キィ、キィ
﹁あと、ちょっとだけ見せて∼∼! お願いします︱︱︱︱︱︱!﹂
しかし、返事はない。角を折れて完全に見えなくなったイベント
を後にし、遠く、少女たちの喘ぎ声と、モンスターの鳴き声だけが
耳に聞こえてくる。
最後まで見届けられなかった無念さはどう言葉に表してよいのか
分からない。
﹁ううっ⋮⋮最後まで見たかった⋮⋮﹂
﹁そんなことしてたら、時間が足りないでしょ。行っておくけど、
これからアレ系のイベントは全部スキップするから﹂
﹁嘘っ! ひどい!﹂
思わず叫ぶと、無言で睨まれた。元々目つきが鋭いから迫力があ
る。
誰の為にこのダンジョン付き合ってやってると思ってんだ? あ
945
ぁ? という声が聞こえてくるようだった。
﹁す⋮⋮すみません﹂
﹁分かればよろしい﹂
僕は涙を飲み込む。できることなら、見るだけじゃなくて参加も
したいのだけれど、言ったら殺されそうだ。
﹁マルロネは、あぁいうの、興味ないの?﹂
﹁ない﹂
﹁で、でも、せっかくのアダルトゲームだよ? 参加型の方は?﹂
﹁何であんな獣に足開かなきゃなんないの。見てても気色悪いだけ
だし﹂
﹁じゃあ︱︱︱︱︱︱﹂
言いかけたところに、モンスターが襲ってきた。さっ、と戦闘領
域が展開される。ちょうど、さっきのアリクイ型のモンスター達だ。
追って来たのだろうか? 結構な群れだ。10匹近く居る。
コマンドのターンはこっちが優勢、真っ先にマルロネが前衛に出
た。
﹁﹃禍つ13連星﹄﹂
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザ
クッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザク⋮⋮キィイイイン⋮⋮︱︱︱
︱︱︱ズバアァッ!!
はい終わり。
相変わらず容赦ないよね。僕の煩悩まで切り捨てられたように感
946
じる。
﹃ちっ⋮⋮なんだよ。澄ましやがって。ジェノゼラに命令されたん
ならモンスター相手だって喜んで足開くんだろ﹄
拗ねた僕は、ゴロツキ風に罵ってみた。ただし、内心で、だ。
すると、マルロネが物言わずこちらをジッと見ている。
うっ⋮⋮。なんだろう。心の中が見透かされているみたいで、気
まずい。嫌だな、マルロネさん。ジョークですよ、ジョーク⋮⋮は
は⋮⋮。
タジタジしながら愛想笑いで応じると、マルロネが短く鼻で息を
吐いた
﹁そんなにシたいなら、しょうがないな⋮⋮。ただし、プレイ時間、
多少は伸ばせるんでしょうね。進捗が遅れたら怒られるのは私も一
蓮托生なんだから﹂
﹁はい。それは、もう、もちろんです。はい﹂
揉み手する勢いで僕はへりくだる。
﹁次の階で淫花ラフレフラが出没する地帯があるから、それでいい
?﹂
﹁うんっ!﹂
植物系モンスターといえば触手! 以前遭遇したモンスター魔殖
樹もいい感じだったし、これは期待が持てる。
マルロネに御礼を言っちゃったりして、僕は浮かれていた。後か
ら思えばちょっとした報復だったのかもしれない。以前僕はジェノ
ゼラとのプレイの一貫でマルロネを虐めた。もしかして、あれを根
947
に持たれていたんじゃないかな∼と思う。
え? これが、花? 次のフロアに上がり、ラフレフラを目の前にするや、僕は硬直し
た。
茎部分は大蛇のように太くグネグネととぐろを巻き、喉元、と言
う表現は間違っているのだろうけど、そこにはウツボカズラに似た
袋がぶら下がっている。そして、花弁は毒々しく淫らな形状をして
いる。
﹁ぎゃ⋮⋮﹂
死霊のハラワタを思わせるような真っ赤でグロテスクな花びらが
大きく口を開けると、中では幾本もの触手が蠢いていた。
流石にこれに身を任せる勇気は無い。が、恐怖のあまり声すら出
なくなってしまった。すぐ目の前に迫る花びらに、顔を食いちぎら
れると思った。果実の腐ったような甘い異臭が鼻につく。それはま
るで淫花の吐息のであった。
﹁やっ⋮⋮︱︱︱︱︱︱﹂
思わず目をつぶった瞬間、バクリ。ドロドロの粘液で覆われた生
ぬるい腹の中に転がり落ちた。一瞬にして、自分が天地のどちらを
頭にしているのか分からなくなった。まさに、食われたという表現
が正しいだろう。植物というには生々しい、肉襞の隙間に全身を挟
まれている。
淫花の腹の中で僕は暴れた。だが、周囲の壁はグネグネとしてい
て、叩いても蹴ってもゴムの様に変形するだけだった。
助けを求めようと声をあげても同じで、無音質のように響かない。
948
声が壁に吸収されているのが分かる。そこに、外部からマルロネの
ものらしき声が聞こえてきた。
﹁じゃ、私は先を行くわ﹂
ちょ、ちょっと待って!!
今度こそ、渾身の声で叫んだが、マルロネに届いたのかどうかは
分からない。
﹁イベント手前まで行ったら﹃呼び笛﹄で呼んであげるから。それ
まで、ゆっくり楽しんで⋮⋮じゃぁ﹂
マルロネの声は無情であった。
待って! 待って︱︱︱︱︱︱⋮⋮
ブブ⋮⋮ブクリ、と周囲の壁が動いた。足の間にブルリとした感
触の物体が侵入する。おそらく、ラフレフラの雄しべ⋮⋮触手だろ
う。身動きできないまま、僕は花に犯された。触手は膣の中でブク
ブクと膨れたり萎んだりを繰り返す。
︱︱︱︱︱︱うぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮ぁ︱︱︱
︱︱︱⋮⋮
犯されながら、衣服が徐々に溶けていくことに気付いた。本当に
このままじゃ死んでしまう。しかし、呪文スキルやアイテムボック
スはおろか、ステータスウィンドウすら開くことができない。抵抗
の術が完全に封じられている。わずかに指の先が動かせるくらいだ。
あぁ、このまま僕自身も犯されながら溶かされて、栄養として吸
収されてしまうのだろうか。
949
︱︱︱︱︱︱ぁ︱︱︱︱︱︱⋮⋮
ぐにゅ、と吸盤が全身に吸い付く様な感触があり、全身の肌を吸
われている。ドロドロとした粘液が口の中にまで入ってくる。
ぐぶっ、くぷっ。
︱︱︱︱︱︱ぁ、あぐっ⋮⋮
ぐぶぶっ。
︱︱︱︱︱︱ぁうっ⋮⋮ぁ、ぁ⋮⋮
ぶちゅっ、ずぷんっ
︱︱︱︱︱︱あ⋮⋮こんな⋮⋮こんな状態なのに、イきそう⋮⋮
イっちゃう⋮⋮
どんなグロテスクな雄しべが陰部に差しこまれているのだろう。
生理的嫌悪と吐き気がこみあげる。なのに、僕の身体は絶頂を迎え
ようとしていた。
︱︱︱︱︱︱ひ、ひぃ⋮⋮いい︱︱︱︱︱︱
腰全体に包み込むようなゼリーのような感触があり、それがお尻
の方にも迫っている。お尻の穴はピタリと閉じているが、その表面
をヌメヌメと舐められるような感触に身悶える。
︱︱︱︱︱︱う⋮⋮うぁ⋮⋮やだ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱あ︱
950
︱︱︱︱︱⋮⋮あ、あ⋮⋮ぁ、ア︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
悲鳴も微かにしか出なかったが、身体は激しくイキ狂った。全身
取り込まれた状態で圧迫を受けながらビクビクと震えると、まるで
花も意思を持っているかのように嬉しそうに動いた。
そして恐ろしいことに、この﹃捕食﹄行為は飽くことなく繰り返
されるのだ。あぁ、僕はなんて酷い状況に陥ってしまったのだろう
⋮⋮。やばい。めっちゃ気持ちいい。死にそう⋮⋮。死にそうなく
らいにイイ。
︱︱︱︱︱︱イ⋮⋮イっちゃう⋮⋮ぁ、⋮⋮また、いっぱい⋮⋮
イくっ⋮⋮
視界はひたすら赤い。内臓を思わせる赤。意識は朦朧とするけれ
ど、性感は冴えている。中と外が曖昧になって、淫花と一体化した
ような錯覚を覚えながら、また達する。不思議なことに、僕がイク
たびに花も歓喜に打ち震えるように体をくねらす。
びゅるっう⋮⋮びゅくっ、びゅ
︱︱︱︱︱︱あ⋮⋮ひうっ、助けて⋮⋮
救いの手が差し伸べられないことが分かっているのに。
︱︱︱︱︱︱だれか⋮⋮け、て⋮⋮
徐々にわずかな身動きも小さな悲鳴すらも封じられていく。腹の
ナカを掻き混ぜられて、内側と外側の境界も曖昧になっていく。救
いを求めてひたすら祈るのは、絶望を確認する作業に似ていた。
951
ただ、そんな中で犯され続けるのは、無茶苦茶に気持ちが良かっ
た。
952
episode30︳3︵後書き︶
次が最終ダンジョン。
953
episode31︳1:最終ダンジョン
ネヤ
ちょうど三か月が経ち、ようやく最後のダンジョンに挑むことに
なった。
ダンジョン名は﹃最後の女神の閨﹄。ここのクリアイベントを達
成すれば女神化に必要なキーアイテムと評価ポイント合計90が入
手できる。
女神へのクラスチェンジに必要となる評価ポイントは﹃名声:1
00 人気:100 魅力:100﹄である。このゲーム﹃女神ク
ロニクル﹄においては、とにかくこのポイントを貯めるのが大変な
のだ。
﹃最後の女神の閨﹄は最終ダンジョン、と銘打たれているわけじゃ
ないけど、評価ポイント90が入手できるという点から標準ダンジ
ョンの中では最後の砦、という位置づけになる。
ちなみに標準ダンジョン以外には期間限定のスペシャルダンジョ
ンや、裏ダンジョン、レアダンジョンが存在する。らしい。
振り返ればクインツに来てから三か月。長かったような、短かっ
たような⋮⋮。
僕個人の体感で言えば﹁長かった∼﹂。しかし周囲の皆が言うに
は﹁めっちゃ短い﹂﹁最速﹂﹁最短﹂﹁うらやましい﹂﹁ずるい﹂
﹁ふざけんな﹂⋮⋮だそうだ。はは⋮⋮。
三か月の間に、いくつかの出来事があった。
まず、まだ最近の話だけれど、ジェノゼラとマルロネと別れた。
捨てられた︵と、もっぱら噂の︶マルロネがメイデン派に移籍し、
954
ちょっとした騒ぎになった。マルロネが離脱した穴はルーピナ、ケ
イト、クーデリカの3人が埋めてくれたので、僕の女神化計画に対
する差し障りは無かった。ただ、僕的にマルロネとようやく打ち解
けてきたタイミングでの出来事だったので少なからず寂しかった。
城塞都市ワーメラスに男プレイヤが侵入した事件もあった。﹁ク
インツ狩り﹂という言葉があるらしく、女の園をぶっ壊したい衝動
の男性プレイヤが一定数いるらしい。ただし、今回の紛争について
は全面的にクインツ側の勝利であり、アマゾネスの強さを見せつけ
る形で終わった。
女の園が無法者どもに蹂躙されて滅茶苦茶になる図、っていうの
も美味しいと思うのだけど、そう上手くは遭遇しないもので、非難
を承知で言えば、残念。
他には、時々ルーピナと百合ごっこをしたり、ジェノゼラと女王
様ごっこをしたくらいかな。振り返ればどれも良い思い出だ。
いや、しみじみと過去を振り返るにはまだ気が早い。いよいよ挑
む最後のダンジョン。これをクリアして、晴れて女神となるまで、
あと少し頑張らないと。
﹁ほわ∼お待たせしました∼﹂
﹁ルーピナおっそい! 皆待ってるのよ! ジェノゼラさんも来て
るんだから!﹂
﹁すみませぬ∼﹂
﹁今日は私も参加するから、宜しくね﹂
﹁はわわ∼ジェノゼラ殿が∼。そうとはつゆ知らず、ご無礼をば、
ば!﹂
﹁大丈夫よ。私、明日仕事休みだもの。今日は徹夜予定だから時間
はたっぷりあるわ﹂
955
﹁え゛っ⋮⋮﹂
皆が一斉にジェノゼラの方を振り向いた。ジェノゼラは妖艶に微
笑んでいる。ジョークだよね?
今回のパーティーメンバはルーピナ、ケイト、クーデリカに僕、
それからジェノゼラの5人である。ドS女王、御自らが冒険にお出
ましになるのはこれが初めてだ。ここまでくると流石にダンジョン
の難易度も高いということなのだろう。
﹁リリス、そのドレス素敵ね﹂
﹁ありがとう。出されたものを着てるだけなんだけどね﹂
﹁属性にだけ、注意した方が良いわ﹂
﹁うん。それは、フリエルにも注意されてる﹂
僕の現在の職業は﹃姫﹄。頭には﹃永久宝石のクラウン﹄を乗せ、
﹃鳳凰のドレス﹄という派手派手しい赤い装備に身を包み、武器﹃
権威の錫杖﹄を握りしめる。
ジェノゼラ達も普段街にいる恰好と違って、戦闘用の装備に身を
固めている。皆、エフェクトがバリバリ飛ぶ豪華な衣装のせいで、
互いに半径1メートルくらいは近寄れないような状態だと言えば、
この物々しさが伝わるだろうか。
﹁さ、行きましょうか。準備はいい?﹂
﹁うん! 宜しくお願いします!﹂
﹁えいえいおー﹂
よし、気を引き締めてかかろう。
956
眩い光に包まれて瞬間移動する。降り立ったダンジョンは全体的
に透き通った素材の多い、ガラスの森だった。ここが﹃最後の女神
の閨﹄か。
足元が鏡のような素材でできていて、自分の姿が逆さまにぼんや
り映っている。
むむ⋮⋮これ、スカートの中身が見えちゃうんじゃないかな⋮⋮。
真面目に行こうと思った矢先なのに、つい、こんなことを思って
しまう。いかん、いかん。
﹁ジェノゼラさんとパーティーを組めるなんて、光栄です。珍しい
ですよね?﹂
前を歩くケイトがジェノゼラに丁寧に話しかけた。
﹁貴女達だって、ギルド内であんまり目立ってなかったけど、トッ
プクラスの熟練プレイヤじゃない。それに、私、今でも普通に冒険
に出たりするわよ﹂
﹁へぇ⋮⋮なんだか意外です。そういう時は、誰と組むんですか?﹂
﹁今まではマルロネと組むことが多かったわ﹂
﹁あ⋮⋮、すみません﹂
﹁やだ⋮⋮謝らないでよ。別れた事なんて、気にしてないんだから﹂
﹁はい。すみません、あ、また謝っちゃった﹂
﹁いいんだってば。うふぅ⋮⋮。なんか、周りが凄く気を遣ってる
のが分かるのよね。そっちの方が逆に困っちゃうわ﹂
そこにルーピナが口を挟む。
﹁ジェノゼラ殿は∼マルロネ殿とは∼どれくらいのお付き合いだっ
たのでございますか∼﹂
﹁ちょっと、ルーピナ﹂
957
ルーピナは叱責の声を無視する。ジェノゼラは細い指を反らして
頬にあてた。
﹁そうね⋮⋮1年弱、かしら。長い方よね﹂
﹁今、お好きな方はいらっしゃるのですか∼?﹂
﹁ふふ⋮⋮内緒。貴女は?﹂
﹁私ですか! 私は、この冒険が終わったら、リリス殿に告白する
のです!﹂
そこで黙って聞いていたクーデリカがぼそりと呟く。
﹁ルーピナ⋮⋮死亡フラグ立ってるよ⋮⋮﹂
﹁は! はわ∼∼∼∼∼!! しまった∼∼∼﹂
﹁っていうか、リリスは故郷に婚約者が待ってるんだから﹂
﹁そうでした∼そでも、れこそ、死亡フラグじゃございませぬか﹂
﹁ふふふふっ。確かに﹂
﹁あは、あははははは⋮⋮!﹂
﹁ちょっ、ちょっと。勝手に殺さないでよ﹂
⋮⋮って、緊張感の欠片も無いな。大丈夫なのかな。
クリスタルの柱が地中から天に向かって生えている。時折、これ
に自分たちの姿が映り、ドキリとした。しかし、しばらく敵は出な
かった。幻想的な庭を歩きながら僕らは和気藹々とした雰囲気で散
歩を続ける。
﹁リリスは、女神になってクリアしたら、ボーナスでもらえるスキ
ルは何にするの?﹂
﹁あー⋮⋮えーと、まだ決めて無いよ﹂
958
﹁やっぱり﹃瞬間移動﹄が便利らしいわよ。スキルの正式名称は﹃
飛翔旅行﹄。一度行った場所に自由に飛べるの﹂
﹁それがあれば、お金は稼ぎたい放題ですよね。特産品を大量に仕
入れて、高値で売ったりできるし﹂
﹁パーティーメンバを輸送する商売とかもできるね。駕籠屋さん⋮
⋮儲かりそう⋮⋮﹂
﹁無限アイテムBOXとか、ステータス透視も使い方によっては儲
かるわよ﹂
クリア特典かぁ⋮⋮。そもそも、僕に選択肢があるのかな。恩義
を重んじるわけじゃないけど、アラビー次第な気がする。
ふと見ると、赤い蝶がハラハラと飛んで、傍らの水晶に止まった。
鱗粉が光に反射して輝いている。一時目を奪われる幻想的な光景だ
った。
次の瞬間、突如ガラスの割れるような音がし、戦闘領域が展開さ
れた。
パーティーの皆は慣れた様子で順に、戦闘準備のサポート魔法を
唱えていく。
﹁何ボーっとしてるの、リリス!﹂
﹁あ、ごめん! ﹃時の開錠﹄﹂
僕は肝心の対象が確認できないまま、とりあえず行動スピードア
ップ魔法を唱える。
﹁﹃白亜の狂想曲﹄﹂
次のターンでジェノゼラが攻撃技を放った。無数の白い貝の欠片
が敵めがけて突き刺さる技だ。
959
﹁えっ⋮⋮﹂
その刃が向かう先は、赤い蝶。手のひら位のサイズしかない、小
さな羽虫だった。
次にケイトがを剣から発する衝撃波で敵を打ち落とし、追ってル
ーピナが火炎魔法で対象を焼いた。ドーピング系のサポート魔法を
かけた状態で3回攻撃しないと倒せないなんて、かなり手強い。
﹁これ⋮⋮敵なの?﹂
突如として始まった虫退治に呆然としてしまう。
しかし、視界の隅に浮かんだウィンドウは僕らのパーティーの勝
利を表示したし、経験値と、お金がきちんと振り込まれた。
﹁ええ。このダンジョンの敵は全部、蝶の姿だから﹂
﹁色によって特性が違うから注意してね。赤は火、青は水、緑が木、
茶が地、黒が闇、白が光、分かりやすいでしょ﹂
﹁一匹だったら大したことないですが、群れで現れると結構手強い
のでございます∼﹂
﹁ふぅん⋮⋮。変なの﹂
ストーリー的には最終ダンジョン格なのに、モンスターが全部蝶
々だなんて、デザインの手抜き?
その疑問に対してはしばらく進んで答えるものがあった。
竪琴を手にした、吟遊詩人がガラスの切り株の上に座っている。
種族は完全にエルフ。尖った鼻と、耳。中性的な顔立ちに銀髪が映
える。
960
﹁この地に舞う蝶はかつて王や女神になったもの達の意識の抜け殻
である。虚ろなる魂は容れものを探して彷徨い続ける。ゆえに、炎
に魅せられた羽虫のごとく、汝らに吸い寄せられ行く手を阻むだろ
う。汝らはそれを打ち払う。しかしいつの日か、汝らも姿を同じく
する日が来るかもしれない﹂
歌うような調子だった。言ってる意味は全然分からない。ただ、
モンスターが蝶々の姿をしているのには理由があるらしい。
﹁この地に舞う蝶はかつて王や女神になったもの達の意識の抜け殻
である︱︱︱︱︱︱﹂
最後まで聞き終えると、また繰り返し歌い始める。
かつて王や女神になったもの達の意識の抜け殻⋮⋮。
﹁かつて王や女神になった者達は、今はどうしているんだろう?﹂
独り言のつもりでつぶやくと、吟遊詩人が答えた。いや、答えた
ような気がしただけで、ただ歌の続きを諳んじているだけかもしれ
ない。
﹁かつて王や女神になった者達の意識はもはやこの世界を去った。
王であり、女神である存在は歩き始め、魂だけがこの地に残った。
意識は現身のごとく、存在は鏡に映る身のごとく、魂は空蝉のごと
く﹂
吟遊詩人は僕の目を見て、微笑んだ。そして、消えてしまった。
中ボスかな?と思ったけど、戦闘は開始しなかった。ジェノゼラ達
はあまり気にせず先を進んだ。これ系の演出は見慣れているからだ
961
ろう。
次のフロアに移動し、しばらく行くと、また吟遊詩人が現れて歌
う。
﹁閨は微睡む場所であり、そして永遠の眠りを指すならば、ここは
墓所である。しかしこの地での眠りは彼の地での目覚めである。ゆ
えに墓所であると同時に揺り籠でもある﹂
揺り籠と墓所。相反するけれど、それは自然界においてループす
る。どちらかといえば﹃最初の女神の寝所﹄は﹃生﹄のエネルギー
に満ち溢れていた。対してここは﹃死﹄のイメージが近い。蝶々以
外は無機物ばかりで生き物の気配が無い。
**
そして僕は最後の祭壇に至る。
吟遊詩人が現れて、竪琴をかき鳴らした。
﹁最初の女神の名前を知るものよ。この世界の最も貴き者、最後の
答である、最高位の神の名を知るか? その名を唱えし時、汝は神
の仲間入りをするであろう﹂
軽いデジャブを覚える。﹃最初の女神の寝所﹄と似ている。あの
時も隠された女神の名が必要だった。
﹁最高位の神の名前って⋮⋮﹂
﹁分かる?﹂
ジェノゼラに問われて僕は首を捻る。
962
﹁ヒントとか、あんまり無かった気がするんだけど⋮⋮﹂
﹁そうかしらね。色んな説はあるのよ﹂
﹁説? 答じゃなくて説なの?﹂
﹁そうじゃなくて、あれがヒントだった、とか、あれもヒントだっ
た、っていうような。あぁ、紛らわしいわね。答、言ってもいい?﹂
﹁ジェノゼラは答を知ってるんだね﹂
﹁ええ。上位プレイヤの間では割と口伝えで広まってるわね。クイ
ンツに居れば仲間内で簡単に教えて貰えるし、クイズとしてはもう
形骸化していると思う﹂
﹁そういうものだよね。ええと、最高位の神の名前、かぁ。ちょっ
と待ってね﹂
僕はこめかみに指をあてる。
﹁最初の女神の名前は﹃アリス﹄だったから⋮⋮うーん⋮⋮それに
関する名前? ﹃シンデレラ﹄みたいな﹂
﹁いいえ﹂
﹁じゃあ、本当にいる有名な神様で、最高位にいる神様の名前? 例えば﹃ゼウス﹄とか﹂
﹁ノー⋮⋮﹂
﹁ええと、じゃあ⋮⋮蝶々に関する名前だ。この吟遊詩人も前にそ
んな感じの事言ってたし﹂
﹁ブッブー!﹂
両手で大きなバツをつけられた。ルーピナにまで否定されると、
なんか悔しいな。うーん、と唸り、考えるが、そう簡単に出て来る
ものでもない。僕はため息をついた。
﹁⋮⋮自力で解けるもの?﹂
963
﹁解けるわよ。ユングフラウなんかは、自力で解いたって言ってた
わ﹂
﹁ユングフラウは特別賢そうだからなぁ⋮⋮ルーピナは自分で解い
たの?﹂
﹁私が答を知ってるのは、人に聞いたことがあるからです∼。でも、
言われてみれば、あぁ、なるほど∼、と思う節はあるのです∼﹂
﹁そうね。言われてみると、あぁ、なんだ、そんなことか、って感
じよね﹂
そう言われると、ますます自力で解きたくなるけど⋮⋮。
﹁最高位の神は、女神じゃないんだね﹂
﹁え?﹂
﹁最初の女神は女神だったけど、最高位の女神、って表現は出てこ
なかった﹂
﹁すごーい。リリス﹂
﹁鋭いです⋮⋮﹂
クーデリカが小さく拍手する。そんなにすごくはない⋮⋮と思う
けど、褒められて悪い気はしない。ここまで引っ張られると、当て
たい。前回、最初の女神の寝所では自力で当てたよ、という自負が
あるせいで、余計にそう思う。たぶん、難易度としてはさほど変わ
らないクイズのはずだ。
964
episode31︳1:最終ダンジョン︵後書き︶
さて、最高位の神の名は? 予想などあれば感想欄にどうぞ
︵正解する人がいるかもなので、ネタバレが嫌な方は感想欄を覗か
受付締切ました。正解者アリ。ありがと
ないようにご注意ください。︶
⇒2014/12/27
うございました!
965
episode31︳2
最初の女神の名前が﹃アリス﹄である理由は何か。
なぜ、王と女神の抜け殻が蝶々の姿なのか。
二つの最重要ダンジョンは、﹁最初の女神の﹃寝所﹄﹂、そして
今度は﹁最後の女神の﹃閨﹄﹂。
墓所にゆりかご。
微睡みに眠り。
バラバラの要素がぼんやりと、一つのキーワードに収束してくる。
そうだ。
それは今までも何度か出てきたキーワードじゃないか。
夢
僕は小学生の頃、読書家だった。かのルイスキャロルの名作不思
議の国のアリスも鏡の国のアリスも読んだことがある。アリスが彷
徨った﹃不思議の国﹄は夢の世界だ。物語のラストは夢オチで終わ
る。主人公アリスが昼寝中に見た夢の世界の物語。
﹃鏡の国﹄も同じ。結局、最後は夢オチ。この世界はアリスの夢だ
ったのか、王様の夢だったのかを問いつつ物語は幕を閉じる。
王様の夢? そうか。だから、女神と、王なのかもしれない。女
神の対が王であることにも違和感があった。女神の対ならば、神、
もしくは男神のはず。この世界を夢見ているのは最初の女神である
アリスなのか、王様なのか。
それは流石にうがち過ぎだろうか。
966
この世界は夢の世界。
夢、なんだよね。
蝶々にまつわる何かといえばパッと思い浮かぶのは有名なあれし
かない。
胡蝶の夢。
夢
夢
夢
その言葉がグルグル回る。
夢を司る神様?夢を食うのはバクだけど⋮⋮。
この世界が夢の産物だとしたら、夢をみているのは誰だ?
もう少しで、答に手が届きそうなのに、あと一歩が分からない。
﹁分かりそう?﹂
黙り込む僕を気遣うように、ジェノゼラが言う。
﹁別に、分からなかったからどう、って話でもないし、答教えるわ
よ﹂
﹁ちょっと待って﹂
あとちょっとなんだよなぁ⋮⋮。皆は親切にもジッと僕を待って
くれている。あまり待たせるのも悪いし、困ったな。
967
﹁夢、なんだよね﹂
﹁え?﹂
﹁女神クロニクルの世界は、夢である、夢の中、夢の産物、夢想の
世界。そこまでは分かるんだけど⋮⋮﹂
﹁どういうこと⋮⋮﹂
﹁夢が神様? 夢を見ているのが神様? 女神クロニクルという世
界を夢見ているのはアリスなのかな。だからアリスが女神なんだよ
ね、きっと。でも、それは最初の女神だから。最後の女神。少なく
とももう一人別に、女神がいるはずなんだ﹂
独り言をつぶやきながら、考える。両こめかみに指をあて、目を
閉じた。
﹁胡蝶の夢、ってどんな故事だったっけ。うーん⋮⋮﹃私が蝶々の
夢を見ているのか、蝶々が私の夢を見ているのか分からないが、ど
ちらでも同じことだ﹄だっけ⋮⋮これも、似てるんだよね。胡蝶の
夢に関する神様って何かいたっけ﹂
もしかして⋮⋮いや、あれは、違うよなぁ。うーん⋮⋮。分かり
そうな感じもするんだけど。
﹁この世界の夢を見ているのは誰だろう?﹂
痒い所に手が届かないようなじれったさにやきもきする。
﹁な、なにが、え、これ、大丈夫?﹂
﹁ほぇ、えぇ?﹂
﹁リ⋮⋮リリス⋮⋮!﹂
そこでようやく周囲の異変に気付いた。顔を上げるとジェノゼラ
968
達が困惑した顔で、武器を手に立ち尽くしている。
﹁え?﹂
﹁どういうこと⋮⋮こんな⋮⋮こんなこと、今まで無かったのに﹂
﹁システム的なバグでしょうか。それとも、演出? でも、前にこ
のダンジョンに来たときはこんな演出は無かったのに﹂
﹁ボス戦⋮⋮? もしかして何かレアイベントのトリガを踏んじゃ
ったんじゃない﹂
僕らの周りには、夥しい数の蝶々が集まっていた。100や20
0じゃない。何千、何万という蝶の群れだ。
もしこれらが襲ってくるとして、全部と戦わなくてはいけないと
したら、とても勝てる気がしない。
﹃この世界の夢を見ているのは誰?﹄
それは、僕の声じゃなかった。どこかから手を叩く音が聞こえて
くる。
﹃なかなか、いいアプローチ。正解に辿り着くものは少なくないけ
れど、その道を通ってくるものは少ない﹄
天を見上げ、周囲を見渡す。拍手は空間一杯に満ちる鐘の様に鳴
り響き、次第に乾いた軽い音に変化していく。
パチパチパチパチ。
﹁最初の女神の名前を知るものよ。この世界の最も貴き者、最後の
答である、最高位の神の名を知るか? その名を唱えし時、汝は神
の仲間入りをするであろう﹂
969
ようやく声の主が姿を現した。その台詞と、緑の帽子は十分に覚
えがある。このダンジョンで神出鬼没に現れ、消える吟遊詩人だ。
吟遊詩人はしかと僕の目を見て、にっこりとほほ笑んだ。
﹁さぁ、ここまでくれば、もう簡単だろ? この世界の夢を見てい
るのは誰?﹂
いや、簡単だろ? と言われたって、催促されても出てこないも
のは出てこない。
蝶々が僕らのを包囲してグルグルと回る。物凄い数が密集して、
帯状になっいる。綺麗だけど、逃がさないと威嚇されているようで
怖い。
ジェノゼラ達も僕の方を注目している。
﹁が、頑張って﹂
﹁リリス殿⋮⋮﹂
クーデリカは祈りの形で手を組み、眼で期待を訴えている。変な
前振りをする吟遊詩人が悪いんだ。
僕は、迫りくるプレッシャーに負けた。頭の中にいくつかあった
答候補のうち、これは違うよな、と却下したやつを拾う。絶対に正
解じゃないと分かっているのに、追い詰められると人はやぶれかぶ
れな行動に出るものだ。
ええい、とりあえず何か答えればいいんでしょ。
力を込めて叫んだ僕の声は裏返った。
﹁い⋮⋮イーサ!!﹂
970
瞬間、ぴたり、と時間が停止し︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱蝶々
の輪が弾け飛んだ。
﹁あははははははは!!!!!!!!!!!!!﹂
何事かと思った。吟遊詩人が腹を抱えて笑い始めたのだった。連
動して地面、いや、大気が揺れた。世界がまるごと体を揺すって笑
っているようだ。空が轟き地面が割れ、背景画面が不安定にチラつ
く。
﹁あははははははは、あはははは、あははは⋮⋮⋮⋮﹂
クーデリカはケイトにしがみつき、ルーピナは地面に座り込んだ。
僕とジェノゼラは立ち尽くしていたが、お互い顔は引き攣っていた。
﹁あぁ⋮⋮面白い、ひー、あははははは⋮⋮こ、こんなに笑ったの
は何年、ぶりかな⋮⋮あは、ははははは⋮⋮﹂
吟遊詩人は目じりの涙をぬぐう。
﹁ハズレ。あー⋮⋮でも、ある意味正解かもね。あぁ、面白かった。
リリス。君って、最高だね。まったく噂通り、いや、噂以上だ。僕
も君のことが好きになったよ﹂
﹁な、何が⋮⋮。噂って。いや、君は、君も、イーサなの﹂
辛うじて、発せられた問いには返事が無く、意味ありげに吟遊詩
人が口の端を吊りあげた。
﹁君は資格を満たした人間だ。おめでとう。記念にこれをあげる。
バイバイ﹂
971
それだけ言うと、吟遊詩人は消えた。蝶の群れも消え失せ、後に
はポカンとした僕らが残された。
﹁な、なんだったの⋮⋮﹂
﹁イベント、だったのよね? でも、まるで⋮⋮。リリス、あれ、
友達?﹂
僕は首を振り、否定する。あんなエキセントリックな友達はいな
い。
﹁と、とりあえず、このダンジョンをクリアしちゃいましょうか﹂
﹁う、うん。そうだね⋮⋮あ、神様の名前の答、教えてくれる?﹂
もう、自力で正解を突き止めたいなんていう気分でもなくなって
いた。
﹁あぁ、ええ。答ね。答は自分の名前よ。キャラ名じゃなくて、ロ
グイン時のハンネの方﹂
自分の名前⋮⋮。あぁ、なんだ。そういうことか。確かに、言わ
れてみれば、なぁんだ、って感じもある。この世界の夢を見ている
のは僕。自室で寝転がってゲーム機に接続している僕自身だ。創造
神は数多のプレイヤ一人一人、主人公は自分自身、ってことか。
﹁分かった﹂
僕は祭壇の階段を昇り、そこで自分の名、正しくはログインして
いる姉の名を口にした。音楽が流れ、クリアイベントが発生する。
流石に凝ったムービーが用意されていたが、先ほどの天変地異に比
972
べればインパクトは少なかった。
﹁おめでとう。お疲れ様﹂
﹁ありがとう。皆も、ありがとう﹂
﹁じゃ、帰りましょうか﹂
﹁ええ。とりあえず、帰りましょう﹂
せっかくの最終ダンジョンクリアなのに、盛り上がらない。吟遊
詩人登場によるおかしなイベントのせいで狐につままれたような変
な感じを引き摺っている。
帰り道は皆、言葉も少なかった。
973
episode31︳2︵後書き︶
ようやくENDが見えてきたナー。
ストーリー回が続くので、どこかでエロ番外編をぶっこむかも。
イン女神は今年はこれで〆 皆様良いお年を!
974
episode31︳3
クインツ最終日である。最後はお世話になった人たちに挨拶回り
をした。皆、別れを惜しんでくれたし、餞別をくれたり、キスして
くれたり、おっぱいを揉んでくれたり⋮⋮まぁ、とにかく滅茶苦茶
してくれた。
﹁セクハラ︱!!﹂
本日何度目かになるこの言葉を、僕は叫んだ。酒場に行くと女の
子達がわらわらと集まってきて、僕の服、あまつさえパンティの間
にお札をねじこんでいく。
﹁ちょっ、やめ! くすぐった! って、だーーーーーー!!﹂
誰だ、パンティの中にまで指を突っ込んでくるヤツ!
﹁お疲れ様∼リリスちゃん∼﹂
﹁はい、お祝いのビール、ビール!﹂
﹁飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで飲んで﹂
﹁いや、ボク、未成年ですしっ!﹂
固辞すると顔を両手で挟まれキスと一緒に無理矢理口移しで流し
込まれる。
﹁けほっ、なに、これ。にがーっ!﹂
﹁あら、ただの、ビールよぉ﹂
﹁あ、ずるい、私も! リリスちゃんとちゅーするー﹂
975
﹁んむ∼∼∼∼∼っ﹂
ほとんど羽交い絞めの恰好で女の子達から次々にビールを口移し
で飲まされる。全然天国じゃない。
﹁りーりーすーどーのー!!私も、ちゅーです!﹂
飛びついてきたルーピナの腕がお約束の様に僕の喉に入る。しか
も、口から移されたビールはやたらと甘い。
﹁ぐげっ、げほっ、っ﹂
﹁あぁ、二度目のお別れは、なおいっそう、お名残おしゅうござい
ます。でも、私とリリス殿はもはや竹馬の友、れんりの枝。われて
もすえにあはむとぞおもふ。うっうっ⋮⋮﹂
﹁ごほ、ごほ、こほっ、ルーピナ、わけわかんないよ。って、いや、
それより、今僕に飲ませたのって⋮⋮まさか﹂
﹁はいっ! ご名答でございます!﹂
﹁まだ何も言ってませんけど!﹂
しかし、僕の予想は正しかった。この状況下で飲まされた淫花の
蜜。この後どうなったかは推して知って欲しい。
**
どんちゃん騒ぎの後、仕事で遅めにINしたジェノゼラに救い出
された。淫花の蜜とアルコールでフラフラになっていたところをス
キルで無効化してくれた。
﹁あぁ⋮⋮ありがと。はぁ⋮⋮。死ぬかと思った﹂
﹁大げさね。もっと危ない橋も渡って来たんでしょうに﹂
976
﹁いやいやいや、今日ほど命の危険を感じたことは無いよ。干から
びて死ぬんじゃないかと思った﹂
﹁ふふふ。私ももう少し早くINすれば面白かったのに、残念だわ。
何せ、仕事がねぇ⋮⋮﹂
もう少し早くINしたなら、もう少し早く助けて欲しいところだ
ったよ⋮⋮。それからジェノゼラのリアルの仕事の愚痴を聞くこと
しばし。連れられて﹃約束の街﹄というところに来た。
ここはその名の通り約束した人たちが出会う場所だ。陸路でいえ
ば黄色いレンガだけを辿ってもいつかは到着することができるし、
海路もあるし、上級者向けの﹃瞬間移動地点﹄もたくさんの場所と
繋がっている。つまり、交通の便がめちゃくちゃ良いという意味。
だから、はぐれたらここに来れば会える、みたいな暗黙の了解が
あって、人探しをするときなんかもここを利用するといいという。
以上、この情報は全て、ジェノゼラからの受け売りです。
﹁ただ、交通の便が良いイコールで栄えているかといえばそうでも
ないのよ。なんせ、この街にはホームポイントが無いから﹂
﹁あ、そうなんだ。じゃぁ、街って言っても微妙な所だね﹂
﹁えぇ。酒場もあるし、一応公共施設やギルドなんかもあるけど、
定住者はいないわ。NPCしか住んでない街とも言えるかしらね﹂
目の前にあるのはだだっぴろい広場と、ストーンヘッジみたいに
立ち並ぶ壁だけ。一応、ユーザーらしき人はそこそこいるし、物売
りをしている人もいるけれど、片手間って感じだった。セーブでき
ないんじゃ、腰を落ち着けて商いができるわけがないし、当然だろ
うなぁ。
﹁街としては特に何ってないわ。この壁が一番の名物品ね﹂
977
ジェノゼラが傍らにそびえる壁を見上げ、片手で軽く叩く。そこ
には無数の伝言が書き込まれている。
﹃キジニックではぐれた魔道士のルノワーニャ ベイシティの居酒
屋で3月まで待つ グスタフ﹄
﹃ハイペロンのギルメン入団希望者に告ぐ 時の灯台の頂上に来ら
れたし 追加募集枠は3名 以上﹄
﹃ピースケへ マロロンで待ってたけど会えなかったので ここに
書き残します 私用で次のログインはしばらく控えるので すみま
せん 伝言あればここに残してって欲しい←← アラン﹄
目を通すと結構面白い。ネット上の公式掲示板にも待ち合わせ専
用の板があるけれど、それよりも味わいがある。キャラの性格や個
人の事情が滲み出ているし。文字が手書き、っていうのが新鮮だ。
小さい文字もあれば、大きい文字もあるし、右上がりの癖字もあれ
ば、女の子っぽい丸文字もある。
伝言の多くは実用性のあるものだけど、中にはやたらと抽象的で
ポエミィなものもあった。
﹃シェークへ もう一度貴方に会いたい ゆみあ﹄
﹃二度と会えないのかな。でも貴女の事は忘れない ありがとう。
FAFIA﹄
﹃ごめん あの時のことを君に謝りたい 本当に後悔している も
し許してくれるなら もう一度あの思い出の海岸で夕日の沈む前に
⋮ ヤコブ﹄
かと思えば、伝言ですら無いものもある。
﹃ビビトの街道でキングゴーレムを刈っていた青色の髪の戦士さん
978
一目惚れしました﹄
﹃プチャーのケーキ屋 新装開店しますた∼!これを見たと言って
いただければ20%オフします!﹄
意外と卑猥な落書きや、罵詈雑言は少ない。一応、何らかの管理
がなされているのかも。もしくはロールプレイに徹するせいでゲー
ム世界の方が逆にお行儀よくなるのか。
せっかくだから、と思い、僕も落ちているペンを拾い上げる。何
を書こうか少し悩み、隙間に小さく文字を残した。
﹃サイミンへ 早く帰ってきてね! リリス﹄
あぁ、サイミンは元気でやっているかなぁ。思いを馳せようとし
たその時、僕の約束の人も来た。
﹁よぉ。久々﹂
﹁あ! アラビー﹂
﹁無事に女神になったって聞いたから迎えに来たぞ﹂
﹁なったよー。昨日なったばっかり。でも、女神になっても別に何
も変わらないんだね﹂
﹁ま、ただの職業っつったら、それまでだからな﹂
アラビーはクインツの本拠地﹃ワーメラス﹄に入れないので、今
日はここに迎えに来てもらったのだ。実際にその辺の連絡を取りつ
けてくれたりしたのはジェノゼラである。本当に、最初から最後ま
で僕はジェノゼラにお世話になりっぱなしだった。
付き合ってみるとジェノゼラは面倒見の良い親切な人だった。だ
が、アラビーを前にすると、どうやら態度が強硬化するらしい。
979
﹁世話になったな。ジェノゼラ﹂
﹁まったくよ。とんでもない子を寄こしてくれたものね、アラビー﹂
ジェノゼラは軽く顎をそびやかし、言った。アラビーを軽く睨み
付けるような目である。
﹁あ? リリスが何かしたのか?﹂
﹁何かした、どころの騒ぎじゃなかったわ﹂
﹁そりゃ、悪かったな。まぁ、今日で引き取るから勘弁してくれ。
最初の契約通りの対価も支払っただろ。それとも何か? 追加料金
が必要か?﹂
﹁いいえ。それより、最初の対価の倍額を、何ならそれ以上でもこ
ちらから払うから、彼女をもらえない?﹂
﹁は? なんだそりゃ﹂
﹁クインツ代表として、リリスを欲しいと言ってるの﹂
んん? 何の話?
ジェノゼラの後ろに立っている伝言板の壁の影から、白衣を着た
女性︱︱︱︱︱︱ユングフラウともう一人の女の子が並んで登場し
た。
﹁いっ⋮⋮﹂
アラビーが引き攣るような声を出す。ユングフラウも一緒に来て
たなんて知らなかったので僕も軽く驚いた。
﹁あ、ユングフラウ! 来てたの﹂
﹁私も見送りに来たよ﹂
﹁そうなんだ、ありがとう﹂
980
アラビーは険しい表情だ。元奥さんと会うのがそんなに嫌なのか
な、と思ったら違った。
﹁シャイドール⋮⋮なんでてめぇが⋮⋮﹂
相手は、全身真っ白いレースで覆われた少女だった。少女、シャ
イドールは鈴をころがすような声で言う
﹁アラビーさん、ご迷惑かと思ったのですけれど、私、お願いがあ
って、ジェノゼラについて参りましたの。リリスさん、はじめまし
て。こんな場でご挨拶する失礼を、お許しくださいね﹂
おっとりとした雰囲気でいかにも頼りなげな雰囲気だ。シャイド
ールは今にも泣き出しそうな憂いを帯びた表情でアラビーを見上げ
る。上目使いは無条件で男心をくすぐりそうだ。
﹁アラビーさん、どうぞ、リリスさんを、私達にください﹂
﹁あぁ?﹂
ううん? さっきからどういう話になってるの? 思わず僕も口
を挟む。
﹁僕をください? それって、はないちもんめ?﹂
﹁ふふ、ええ。そうね﹂
﹁⋮⋮なに、馬鹿言ってやがる。つーか、クインツ代表が軒並み面
揃えて出て来るんじゃねぇ﹂
﹁断ったら、どうなるか、分かるでしょう?﹂
﹁酷い罠だな。いくらなんでも仁義にもとるんじゃねぇか? ジェ
ノゼラ﹂
981
ヒヤリとした空気が漂った。あれ? なに、これ。もしかして、
マジなの?
僕を除いて当事者4人が瞬時に武器を構えた。武器って結構邪魔
だから通常はアイテムBOXに入れて置いて、戦闘になりそうな局
面で取り出すパターンが多くて、このタイミングが素早いほど戦闘
慣れしている証拠なのだ。
一触即発、今にも戦闘領域が展開されそうな勢いだ。この3人が
相手では、アラビーも分が悪いんじゃない。っていうか、戦闘にな
ったら僕はどうすればいいの。
意識的にか無意識にか、一歩後ずさる。そんなアラビーを助ける
つもりではないけれど、僕は手を振り回しながら遅れて間に入った。
﹁待って、ちょっと待ってよ。全然ついていけないし! ボク本人
の意思は置いてけぼり?﹂
﹁リリスはいい子ね。クインツに来たら、何でも買ってあげるわよ﹂
﹁こ、こどもじゃあるまいし、そんな餌に乗るわけないし﹂
﹁クインツに来たら、何でも願いをかなえてあげるわよ。行きたい
ところならどこでも連れてってあげるし、どんな遊びだって思いの
まま﹂
むっ⋮⋮?
﹁冒険に出たっていいし、自由にすればいいのよ。アラビーと結婚
して何か得がある? 手ごまになって自由を制限されるくらいが関
の山じゃない?﹂
う⋮⋮確かに、そう言われてみると。
﹁苦労して女神になってLvも上がって、やれることが増えたとこ
982
でしょ。クリア特典のスキル一個の為に結婚して捨てちゃうなんて、
馬鹿らしいよ? 本当にそれでいいの?﹂
い、一理ある⋮⋮。ユングフラウの言葉には何故か重々しい説得
力があるのだ。
﹁おいおい、誘惑されてんじゃねぇ。お前ら、何企んでるんだ。リ
リス、ぜってーこいつら、お前をなんか利用しようとしてるぞ﹂
﹁あら、そんなの、貴方も同じじゃない﹂
﹁俺のは目的がハッキリしてるぶん、お前らよりマシだ﹂
アラビーは後ろから僕を引き寄せた。猫じゃないんだから、襟首
をひっつかむのは止めて欲しい。
﹁リリスは俺の嫁だ﹂
﹁ぶはっ﹂
あまりに典型的なジョークに、僕は噴き出した。羽交い絞めの様
に後ろから抱きしめられて、ガッチリ拘束されてしまった。
﹁ねぇ、リリス、クインツに来ない?﹂
﹁ん︱︱︱︱︱︱︱。うーん。考えとくよ。とりあえず今日は予定
通り帰る。皆にお別れ言ったばっかりで戻るのも恥ずかしいし﹂
結局の所、僕は女の園に居着く性分じゃない。考えとくよ、は婉
曲な辞退の言葉である。クインツ代表3人は申し合わせたように深
いため息をついた。
﹁まぁ、リリスがそういうならしょうがないね﹂
﹁そうね。無理強いするつもりで来たわけじゃないのよ。是非いつ
983
でも戻ってきて。アラビーが嫌になったら里帰りするといいわ﹂
﹁少なくとも時々は遊びに来てね。リリスだったらいつでも顔パス
だから﹂
﹁はは⋮⋮。うん。ありがとう﹂
﹁ふぅ。残念です。アラビーさん、いつかリリスさん、頂きます。
それから、次会う時はその首頂きます﹂
﹁おい﹂
シャイドールはあくまでもおっとりと、頬に指をあてて小首をか
しげた。どうやらシャイドール︵恥ずかしがり人形︶の名前が似合
うのは外見だけのようだ。
﹁さようなら、リリスさん﹂
﹁ごきげんよう。また会う日まで﹂
﹁バイバイ。元気でね。あぁ、結婚式には呼んでよ﹂
﹁うっせー﹂
アラビーは邪魔者を追いやるようにシッシッと手を払う。お別れ
の言葉を述べようとする僕の手を強く引っ張り﹁承認しろ﹂と言う。
﹁え? あぁ、はいはい﹂
ステータスウィンドウを開き、パーティー編成の﹃要望︵off
er︶﹄が届いているのを確認し﹃承認︵recognize︶﹄
する。これで僕はアラビーと同一パーティーに編成された。
﹁じゃあ、ジェノゼラ、ユングフラウ本当にありがとう、次会う時
はLv1に戻ってるかもしれないけど、また遊んでよ。女神の修業
ばっかりでなんかクインツで遊び足りない感じだし。あ、そうそう、
シャイドールも初めましてだったけど、またこん⋮⋮︱︱︱︱︱︱
984
︱︱︱﹂
言い終えないうちに、光につつみこまれたかと思うとあっという
間に違う風景、別の土地に立っていた。ジェノゼラ達の姿はもうな
い。尻切れになった別れの言葉が口の中に残っているような感じが
してもぐもぐする。
﹁もう、いきなりだね。まだ話の途中だったんだけど﹂
﹁あいつらに礼を尽くす必要はねぇよ﹂
強制的な瞬間移動はアラビーに寄る﹃帰還の羽根﹄と﹃呼び笛﹄
のコンボだろう。パーティーメンバに組み込んだのは﹃呼び笛﹄を
使う為だったんだな。まぁ、いいか。僕は久しい街並みをぐるりと
見渡す。
985
episode32︳1:賭け
﹁どうだった、クインツは﹂
﹁うーん⋮⋮面白かったけど、大変だった﹂
﹁だろうな。どうやってあんなに気に入られたんだ? ジェノゼラ
とユングフラウはともかくとして、シャイドールまで引っ張り出し
てきたのはやり過ぎだろ﹂
﹁シャイドールとはボクもさっきのが初対面だったんだけどね⋮⋮。
クインツでの思い出話、聞きたい?﹂
﹁あぁ。くそ興味深いな。だけどその前に、とりあえず、やらせろ﹂
﹁いいよ﹂
こういうとこ、話が早くていいよね。だからアラビーのことは嫌
いじゃない。ただ、残念ながら今日はもう残り時間が無いみたいだ。
自動ログオフまで残り15分のアラームが鳴った。
﹁あ︱︱⋮⋮ごめん、今日はもう閉店。明日、また会える?﹂
﹁なんだ。まぁ、しゃーねーな﹂
﹁じゃ、また明日﹂
**
約束通り次の日に再ログインし、とりあえず服を着替えた。
ダンジョン用の重装備を外し、エルフの洋服に着替えるとしっく
り馴染む。僕みたいなゆるプレイヤには結局、この初期装備が一番
似合う気がする。それに、このエルフの洋服、正統派な可愛さと素
朴な感じが気に入ってるんだ。
986
露天商が立ち並ぶ大通りをのんびりと歩く。3カ月ぶりのドッグ
ベルは人も風景もあまり変わっていなくて僕を安心させた。
途中、屋台のおっちゃんが山積みになった売り物の中から果物を
一つ僕に投げて寄越した。両手でキャッチすると、皮の黄色い小さ
なリンゴだ。試しに齧ると水気が多くて甘かった。
﹁ええと、前見たときはこの辺だったと思うんだけど。いるかな﹂
大きなブランドショップ前でぐるりと周囲を見渡すと、通りの向
かいの階段の隅でブルーシートを広げている少女を発見した。ツイ
ンテールの黒髪を地面まで垂らして座っている。僕は近づいて行っ
て声をかけた。
﹁久しぶり! 元気だった?﹂
﹁お久しぶりです。はい。お陰様で私は元気です﹂
メイノは素早く立ち上がり、ペコリと頭をさげる。
﹁ボクのこと、覚えてる?﹂
﹁もちろんです。リリス様﹂
﹁良かったー。ペシミークは?﹂
﹁ご主人様でしたら今日は工房です﹂
﹁そっか。真面目に製作してるんだね﹂
クインツに行く前に、僕はメイノをペシミークに預けて行った。
NPCはパーティーから外すとどこかへ行ってしまうと聞いていた
からだ。その時に奴隷の所有者の書き変えも行っていたので現在の
メイノのご主人様はペシミークというわけ。
﹁会えるかな﹂
987
﹁分かりません。工房は拡張パックで、別の仮想空間になりますの
でアドインしていなければ会いに行くことはできません。ご主人様
が今日ここに来るかは不明です﹂
もちろん、そんなアドインはしていない。まぁ、アポなしで急に
来たし会えないのはしょうがいないな。
﹁オーケー。じゃあ、ボクが来たってことだけ伝えておいて。また
来るよ﹂
踵を返そうとすると、メイノに呼び止められた。
﹁待ってください。リリス様。私もついていっていいですか?﹂
﹁え? いいの? 店番してたんじゃないの﹂
﹁はい。ですが、もしリリス様が来たら、ついて行くようにとご主
人様から命じられています﹂
﹁あぁ、そういうこと。さすがペシミーク、そういうとこ気が利く
んだよね﹂
不在時に僕が帰って来た場合のことを想定して予め言い含めてあ
った、ってことだ。この細かな気遣いがペシミークらしさってやつ
で、実はそう言うとこ、けっこー尊敬している。
﹁じゃ、行こうか﹂
﹁はい﹂
特にメイノに用事があるわけじゃないけど、せっかくの好意だし、
連れて行くことにする。僕のいない間に何か変わったことがあった
か聞いたが、予想通りの回答だった。メイノの﹁分かりません﹂は
特に問題なしと同義だ。
988
次に﹃しわ花街﹄に来てアラビーと落ち合った。こちらは事前に
約束してあったので確実だ。
﹁お、またいつもの恰好に戻ったな。従者も取り返したのか﹂
﹁うん。この方が気楽。あんまり着飾ると肩こっちゃって⋮⋮。メ
イノはペシミークに預かってもらってただけなんだ。まだ書き換え
はしてないけど、多分普通に返してくれると思うよ﹂
﹁3Pにするか﹂
﹁メイノ、男の娘だけど、いいの?﹂
そう言うと、アラビーは嫌そうな顔をした。案外許容範囲が狭い
んだなぁ⋮⋮いや、僕が広過ぎるのかな。
**
事をいたした後、裸でベッドに寝転がりながらクインツでの出来
事を語った。かいつまんで話したつもりだけど、結構長い思い出話
になった。アラビーはしばし黙って聞いていたが、時々僕の身体に
ちょっかいをかけてくるのではたいたり、つねったりして応戦した。
⋮⋮これではまるで恋人同士じゃないか、と笑えてくる。僕はも
しかしたら可愛い恋人なのかもしれない。
まぁ、この世界ではそれもいいだろう。どうせなら最上級に可愛
い小悪魔、そう桃色の悪魔になりきって世界征服でも企んでみるの
もいいかもしれない。
最後のダンジョン﹃最後の女神の閨﹄での出来事まで語った時、
ようやくアラビーが口を開いた。
989
﹁イーサって何だ﹂
﹁え⋮⋮えっと⋮⋮実は、ボクもよくわかんない。適当に答えただ
けだもん。上級知能を持つAIの総称? みたいな? うーん⋮⋮
彼、とか彼女、とかいう代名詞かも﹂
﹁意味わかんねぇな。何か、誤魔化そうとしてるか?﹂
﹁ううん。アラビー相手に何か誤魔化すのは面倒だからやめた。ま
ぁ、聞かれてないことまで話すほどお喋りじゃないけど﹂
﹁そりゃ、光栄だな﹂
アラビーは少し何か考えるように沈黙し、口を開いた。
﹁まぁいい。で、その吟遊詩人からは何をもらったんだ﹂
﹁そう、それが、よく分かんないものでさ、これ、これ﹂
僕はその品をアイテムボックスから取り出す。未だに現代に残る
わざわざ紙に印刷するタイプのアンティークなメディア。
﹁新聞紙﹂
アラビーは目を丸くする。普段あまり見せない頓狂な表情に僕は
内心ニヤリとする。だって本当に変なプレゼントだったから、せっ
かく見せたからには驚いて欲しい。
﹁意味不明でしょ? ボクもわけわかんなくてびっくりしちゃって。
そうそう。これを見た後、ユングフラウも態度がおかしかったよ。
普段は何事にも動じないタイプなのに軽くパニックみたいになって
て﹂
﹁⋮⋮当たり前だ。想定の範囲外過ぎる。レアアイテムだとか、レ
アスキルを貰う方がよっぽどまともだ﹂
990
﹁まともじゃない?﹂
﹁あぁ。常軌を逸してる。見ていいか﹂
﹁どうぞ﹂
手渡した新聞をアラビーはベッドの上に広げてめくっていく。静
かな部屋に紙面をめくる音だけが響く。もちろん、もう僕は一通り
読んだ後だ。半年くらい前に発行された﹁本物の﹂新聞のようだっ
た。
﹁⋮⋮もしかして、これか?﹂
﹁意味がありそうな記事はそれだけだった。たぶん﹂
﹁すげぇな。このゲームは実はミステリージャンルだったのか﹂
アラビーは記事の上を中指でトントンと叩き、喉から短い笑い声
を吐き出した。指差す先の見出しにはこう書かれている。﹃遺書残
る動機はゲーム世界に転生﹄。
18日 傘鷺市民家で遺体が発見された
死因は青酸カリの服毒によるもの
遺書が残されていた事から警察は自殺とみて捜査を進めている
遺書には﹁ゲーム世界に転生する﹂などと書かれていた
﹁この事件自体は、ネット上でも見た覚えがある。痛々しいニュー
スまとめサイトだったか。対象のゲームに関しては言及されてなか
ったが、女神クロニクルのことだったのかもな﹂
﹁NPCからこれをプレゼントされる、っていどういう意味だろ。
もしかしてボク、自殺を誘われてるってこと? だとしたらミステ
リーじゃなくてホラージャンルだよねぇ﹂
一体、何を意図してあの吟遊詩人のNPCは僕にこれを寄こした
991
のか。それが一番の謎だ。
﹁アラビーは⋮⋮ゲーム世界に転生、ってどう思う?﹂
﹁馬鹿臭ぇ﹂
即答だった。
﹁だよね﹂
僕は苦笑いをして寝転がる。ふと、部屋に置かれたソファに大人
しく座っているメイノに目がいく。
そういえば、サイミン、アヌビスとも似たような話をしたことが
ある。軽い既視感を覚えた。
何なんだろう。イーサっていうのは、ユーザーがゲーム世界に転
生できるということを信じるようにプログラミングされているのだ
ろうか。そう思えば、多少の筋も通る。
もしかしたらそうやって、プレイヤの夢を煽るのかもしれない。
嘘もつき通せば夢になる?
﹁そうだ。直接、AIに聞いてみればいいんじゃないかな。イーサ
って何なのか、それと、ゲーム世界に転生できるっていう考え方は
AI共通のものなのか﹂
早速僕はメイノを手で招きよせる。
﹁そんな質問にまともに答えるのは相当高度なAIじゃなきゃ無理
だろ﹂
﹁一応、聞いてみるよ。ね、ね、メイノ、イーサって何?﹂
するとメイノは眉間に皺を寄せた。
992
﹁分かりません﹂
﹁ええと、じゃあ、﹃ゲーム世界に転生﹄って言葉を聞いて、何を
思い浮かべる?﹂
﹁ゲーム世界とは、この女神クロニクルの世界の事ではないかと推
察します。転生は生まれ変わることだと思います﹂
いまいち感触が良くないな、と思いつつ重ねて尋ねる。
﹁ゲーム世界に転生ってできると思う?﹂
﹁分かりません﹂
﹁ゲーム世界に転生って何?﹂
﹁女神クロニクルの世界に生まれ変わることだと思います﹂
﹁それは可能?﹂
﹁分かりません﹂
らちが明かない。僕とメイノのやり取りを聞き、アラビーが口を
挟んできた。
﹁そらみろ、やっぱり無理だろ。そんな難しい質問に答えられると
すれば、せいぜいレベルXのサイミンくらいだろ﹂
﹁そうみたい﹂
惜しむらくかなサイミンは今いない。いつ帰って来るんだろう、
と思うとやっぱり寂しい。メイノは少し困ったような顔になって頭
を下げた。
﹁サイミンはいないけど、サイミンと同じくらいの高度AIならい
いんだよね﹂
﹁あぁ。そう簡単には見つからないけどな﹂
993
﹁大丈夫。知ってるから。それに、すぐ呼び出せるよ﹂
﹁はん。顔が広いな﹂
アラビーはどこか呆れたように肩をすくめた。僕はスキルを選択
して両手を天高く広げた。この仕草に深い意味はないが。
﹁女神召喚∼﹂
じゃ、じゃ、じゃーん。呼ばれて飛び出るのは、僕の守護女神ハ
トホル様だ。
994
episode32︳2
登場と同時に揺れるおっぱい。いや、揺れるというよりたわむ、
という感じか。パーンと張った感じじゃなくてふわーんとした感じ
の乳房で⋮⋮手ですくい上げるとたっぷり柔らかい、っていう︱︱
︱︱︱︱いやいや、おっぱい談義は置いとこう。
﹁こんにちは。ハトホル様﹂
﹁⋮⋮実に、久方ぶりじゃな﹂
ハトホル様は実に、の部分を強調する。僕はちょっと苦笑いをし
ておそるおそる尋ねた。
﹁あのー⋮⋮質問したいことがあって呼んだんだけど﹂
﹁断る﹂
﹁な⋮⋮なんで、いきなり断るなの。ひねくれ過ぎだよ。ハトホル
様は﹂
﹁長い間放置しておいて、いきなり質問と言われてものー。わしは
ご機嫌斜めじゃ﹂
﹁うっ⋮⋮やっぱり﹂
長らく放置してしまった自覚はある。ハトホル様はそっぽを向い
た。ご機嫌斜めというのはいかにも、らしい。この女神さまはどう
にも扱いが難しいのだ。
﹁すみませんでしたー。だってさー、ハトホル様、乳丸出しなんだ
もん⋮⋮呼び出しにくいよ﹂
﹁何か言ったか﹂
995
メイクで周りを黒く隈取った眼がじろりと僕を睨む。
﹁言ってません﹂
﹁だいたい、ぬしの方こそ素っ裸でよく言えたものじゃの﹂
仰る通り。裸で礼を失している当方が言えた立場では無い。僕は
しおらしく謝り、いそいそと服を着始める。
﹁はぁ⋮⋮まったく、これは、わしの時代のトレンドだと何度言わ
せるのじゃ。女たるもの、己の肉体美を武器にせずしてどうする﹂
﹁そうですね。ボクは残念ながらハトホル様みたいな美乳を持って
ないので⋮⋮失礼な事を言ってすみませんでした﹂
﹁分かればよい﹂
靴下を引っ張り上げる僕の傍らでアラビーが言う。
﹁召喚女神が上位AIってのは珍しいな。レア女神だとは思ってた
が、本当にレアなんだな⋮⋮﹂
﹁なんじゃ、情夫もいたのか﹂
﹁誰が情夫だ﹂
おお、素早いつっこみ。
﹁いや、正式に夫になるんだったか?﹂
﹁あれー? ハトホル様、知ってたの?﹂
﹁知っておるわ。一応そなたの守護女神じゃからな。会話のログく
らいは把握しておるわ﹂
﹁軽くストーカーみたいなもんだね。じゃあ、僕の質問したいこと
ももう分かってるんだよね﹂
996
﹁だから断ると言うとるんじゃ﹂
﹁え?﹂
﹁機密事項をペラペラと喋るわけにはいかんわ﹂
機密⋮⋮。やっぱり、そうなのか。でも一応質問してみる。
﹁この新聞記事、どういう意味があるの?﹂
﹁さぁのぅ﹂
﹁やたらとAI達が持ちかけてくるゲーム世界に転生って、どうい
う意味なの?﹂
﹁さて⋮⋮﹂
﹁じゃあ、イーサって何なの?﹂
﹁さぁのぅ﹂
暖簾に腕押しだなぁ。
﹁ハトホル様はイーサ?﹂
﹁違う﹂
おっ、光明。そのものずばりの直球は駄目でも、質問の仕方を変
えれば回答してくれるケースもあるみたい? しかし、更に質問を
続けると雲行きが怪しい。
﹁サイミンはイーサなの?﹂
﹁違う﹂
﹁アヌビスはイーサなの?﹂
﹁違う﹂
﹁上位AIのことをイーサっていうんじゃないの?﹂
﹁違う﹂
﹁あれー⋮⋮﹂
997
おかしい⋮⋮僕の読みと違う。以前、ヴィオレナがアヌビスの事
をイーサと呼んでいたのを聞いた覚えがあるんだけど⋮⋮。アヌビ
スはイーサじゃないのかな?
と、そこでハタと気づく。
﹁あ︱︱︱︱︱︱⋮⋮そうだった。ハトホル様、虚言癖があるんだ
った。聞いても無駄かぁ⋮⋮機密うんぬん以前に真面目に答えてく
れるわけが無いんじゃん﹂
ばったりとベッドにつっぷし、ため息をつく。するとハトホル様
は憤慨した声を出した。
﹁失礼な! わしとて全部が全部ウソと言うわけではないわ! 今
はきちんと答えてやったのに、その態度はなんじゃ!﹂
﹁えぇ? そうなの?﹂
本当かなぁ。顔をあげてもう一度質問してみる。
﹁じゃあさ、ハトホル様はユーザーがゲームの世界に転生できると
思う?﹂
﹁転生の定義による﹂
﹁ゲームの中に入っちゃうこと﹂
﹁入っちゃうの定義が曖昧じゃな﹂
﹁確かに。でも、ハトホル様なら転生のスラング的な意味も分かっ
てるでしょ﹂
﹁永久にゲーム世界の中でプレイし続けられる状況を指すと思えば
良いか?﹂
﹁まぁ、そうだね﹂
﹁プレイするのは人間の意識じゃの。その意識を稼働させるエネル
998
ギーは肉体から供給されるの。であれば、肉体が死んだら、精神も
死滅する。ゆえに、人間はゲームの世界に転生はできぬ﹂
﹁すごい。めっちゃ正論だ﹂
ハトホル様は誇らしげに胸をそらす。意外と挑発と称賛が効くタ
イプなのか。
﹁見直しちゃったなー。そんな論理的な回答、NPCでもプレイヤ
でもなかなかできるもんじゃないよ。びっくりしたー。すごい。す
ごいなーハトホル様は﹂
わざとらしいくらいに褒め、おまけに拍手もつける。
﹁ふふん。まぁ、良いわ。ならばこの際、ぬしの質問に答えてやろ
うではないか。高度AIの面子にかけて、の﹂
﹁本当? やった﹂
﹁ただし︱︱︱︱︱︱﹂
喜ぶ僕を制してハトホル様は僕を睥睨した。
﹁それなりの対価をもらわねばな。このわしを長らく放置していた
謝罪も含めて﹂
﹁いっ⋮⋮﹂
僕はぎくりと体を強張らせる。ハトホル様のことだ。とんでもな
いことを言いだしかねない。
﹁﹃処女の血﹄もしくは﹃童貞の精液﹄を持って来やれ﹂
﹁うぇぇ? なにそれ︱︱︱︱︱︱そんなの何に使うの?﹂
﹁それはぬしの知ったことでは無い﹂
999
ちらりとアラビーの方を見ると、頷いた。
﹁一応﹃空の薬瓶﹄に採取すると固有アイテムになるな。調合の原
料になるらしい。俺は調合系の話は詳しくないが﹂
﹃処女の血﹄もしくは﹃童貞の精液﹄、か。なんか生臭いアイテ
ムだなぁ。僕はぐるりと考えを巡らせる。採集はそんなに難しくな
さそうな気がする。
﹁分かった。じゃ、それを持って来たら質問に答えてくれるんだね﹂
﹁良かろう。答える質問は﹃イーサとは何か﹄で良いな?﹂
﹁うん、うん。あ、できたらこの新聞記事の意味も知りたいんだけ
ど⋮⋮だめ?﹂
﹁では、﹃処女の血﹄と﹃童貞の精液﹄の両方を持って来たら二つ
の問いに答えてやろう。ただし、期限は24時間以内、そこの情夫
の手助けは得ずに自力で集めることじゃ﹂
釘を刺されてアラビーは眉を動かした。
﹁おい﹂
﹁なまじ権力のある男の手助けなど受けたらゲームがつまらなくな
る。同じく、採集の際に情夫の伝手や縁故知人を頼ることも禁ずる。
あくまで、ぬし一人の力で集めること﹂
﹁やめとけ、リリス、そんな条件受ける必要ない﹂
アラビーの異論を無視してハトホル様は僕に問うた。
﹁どうじゃ? 乗るか?﹂
﹁確認したいんだけど、24時間って、女神時間?﹂
1000
﹁そうじゃ、と言いたいところだが、ぬしの都合もあろうから現実
時間で良い﹂
だとすれば、結構時間的な猶予はある。
﹁あと、ゲームに負けたらボクにペナルティはあるの?﹂
﹁無い﹂
その回答で簡単に心が決まった。なんだ拍子抜け。
﹁オーケー﹂
﹁おい﹂
﹁だいじょーぶだって﹂
アラビーに向かってひらひらと手を振る。リスクの無いゲームな
ら乗らねば逆に損だ。
ハトホル様はにんまりと笑い、僕に向かって何かを投げた。一つ
目は受け取ったが、二つ目をキャッチしそこね、ポトリとベッドの
上に落ちた。
二つ投げるならそう言って欲しい。見ると、目薬くらいの小さな
瓶だった。
﹁これが﹃空の小瓶﹄?﹂
﹁そうじゃ。ちゃんとそれ一杯に入れねばならぬでな﹂
﹁こんな小さな瓶にうまく入れられるかな﹂
素朴な疑問を口にするとハトホル様が教えてくれた。
﹁採取したい液体に底を浸せば勝手に入る﹂
﹁へぇ、便利だね。ちなみにこれ、どれくらいの容量入るのかな﹂
1001
﹁10mlじゃな﹂
﹁ふぅん﹂
数字じゃピンと来ないけど、ごく少量だ。僕は空の瓶を目の前に
かざして見た。透明の細長い瓶で、そういえば以前もらった﹃淫花
の蜜﹄もこんな感じの瓶に入ってたことを思い出した。
﹁このアダルトゲームの世界で処女、童貞を探し出すのは意外と難
しいかなぁ⋮⋮。いきなり血を下さい、とか精液下さい、なんて言
ってもらえるものでもないし。でもまぁ、やるだけやってみるよ。
成功したらちゃんと約束は守ってよね﹂
虚言癖があるハトホル様を相手にゲームをするからには、どこか
に嘘が混じっていないか注意する必要がある。
﹁当然じゃ。わしにもプライドはある。前提条件に八百長を含んだ
ゲームなぞ、面白くもなんともないわ。では、時間をスタートする
ぞ﹂
﹁うん。あ、アラビー何か言っておきたいことある?﹂
開始してしまってからはアラビーの助けを得られない。先に助言
があるなら聞いておこうと思ったのだ。
﹁あのなぁ⋮⋮リリスお前⋮⋮。いや、まぁ、いい。俺もイーサっ
つーのが何かは興味がある。その新聞記事についてもな。ルール通
り助けもしないし、口も出さねぇから、好きにしろよ﹂
ため息交じりの声に首をかしげつつ、僕は頷いた。
﹁では、用意スタート、じゃ﹂
1002
ハトホル様がパシリと両手を打ち合わせる。
﹁ええと、メイノには手伝ってもらってもいいんだよね。おいで、
メイノ﹂
﹁はい﹂
また少し距離を置いて黙って隅に座っていたメイノが駆け寄って
きた。
﹁ま、頑張れよ﹂
アラビーが言い、手を振った。ハトホル様はいつの間にか消えて
いる。僕はメイノを連れて宿の一室を出た。
1003
episode32︳3
屋外に出ると、あぁ、晴天。クリックで選択して塗りつぶしたよ
うな青空に白い雲が浮かんでいる。
さて、処女もしくは童貞をどうやって探せばいいのか。協力者が
欲しい所だけど、ここドッグベルで頼れる人っていうとほとんどア
ラビーの縁故だからNGだ。⋮⋮かといって街を移動するほどの時
間的猶予は無いし。
﹁処女、童貞を探したいんだけど、どうするといいと思う?﹂
メイノに尋ねてみると至極普通の答えが返ってきた。
﹁酒場で情報収集してはいかがでしょうか﹂
﹁うーん⋮⋮まぁ、とりあえずそうしようか。他に名案が無いもん
ね﹂
ということで、この街で一番大きい酒場﹃ホーボー鳥亭﹄に足を
向ける。ここでの情報収集はルール違反にならないだろう。
腰丈のスイングドアを押して中に入ると﹃ホーボー鳥亭﹄は盛況
だった。客達の何人かが僕らの方に注目した。僕の背後でドアがゆ
らゆらと揺れる。
﹁ええと、カウンターじゃない方がいいな﹂
僕はこちらを向いた男達の中から一番社交性のありそうなタイプ
を選び、近づいた。
1004
﹁こんにちは﹂
﹁やぁやぁ、はじめまして﹂
﹁ここ、いい?﹂
﹁もちろん。どうぞどうぞ。座って﹂
男は立ち上がり、隣のテーブルから椅子を引っ張ってくる。立っ
ていたって疲れるわけでもないが、わざわざ用意してくれたので勧
められるまま腰掛けた。メイノは別に不服な様子も無く立っている。
﹁あ、この子は椅子いいよ。NPCだし﹂
﹁へぇ⋮⋮可愛いね﹂
﹁ありがと。このテーブル全員同じパーティー?﹂
テーブルには5人ほどが集まっている。
﹁いや、たまたま意気投合して話してるだけ。俺ら2人が友達で﹂
﹁こっちの俺らが仲間だ。こいつと、こいつと俺の3人。その子が
NPCってことは、君は1人?珍しいね。それとも別行動中? 名
前は?﹂
﹁リリス﹂
僕は愛想よく笑って見せる。次第に周囲の男達も会話に加わって
きて挨拶合戦になり、いつの間にか僕が会話の中心にいた。まぁ、
新参の女子に注目が集まるのは自然なことだ。特に女子のソロプレ
イヤは人気がある。
﹁あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど⋮⋮﹂
この中に童貞の人はいますか?︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱なんて
1005
いきなり聞いたら変人扱いだよなぁ。
﹁何?﹂
﹁あの、ボク、実は、ちょっと変わった素材アイテムを探してて⋮
⋮﹂
少し目を伏せ、わざと遠慮がちに口を開く。
﹁あ、ボクっ娘なんだ。かーわいい﹂
﹁うちのパーティー、女の子いないからなぁ。⋮⋮っと、素材? リリスちゃんは調合師なの? 冒険には興味ない?俺ら素材の採取
も結構してるほうだよ。この前も﹃発光石﹄の穴場ポイント見つた
し﹂
僕は曖昧に首を振る。ごく自然に女の子がやるように。
﹁ううん。ええと、その、変な意味じゃないんだけど。もっと特別
な素材で⋮⋮冒険じゃたぶん採取できないようなアイテムなんだけ
ど。﹃処女の血﹄と﹃童貞の精液﹄を探してるんだ﹂
すると一瞬、場が硬直した。そりゃそうだよね。変な意味に捕え
るなと言う方が無理だ。
﹁あ、あくまで素材アイテムだから!﹂
僕は慌てたように手を振る。顔も赤らめればバッチリ、かな。こ
の辺は必要と判断しての演技だ。それでようやく時間がリスタート
した。
﹁は、はは⋮⋮そんなの素材になるんだ。調合師も結構、大変だね﹂
1006
﹁本当だぜ。驚いちまった﹂
﹁うん⋮⋮どうしても急ぎで準備しなくちゃいけなくて。何か情報
があれば欲しいんだけど﹂
男達は唸った。僕を見る顔に﹁じゃ、君は処女じゃないんだね﹂
って台詞が浮かんでいる。黙って互いに顔を見比べるようにし、今
度は﹁おい、お前、童貞じゃないの?﹂っていう台詞に置き換わる。
﹁うーん⋮⋮誰か、処女か童貞のヤツ知ってるか?﹂
﹁いや、俺は知らない﹂
﹁処女はレアだよなぁ。そもそも女の子が少ない。童貞は探せば案
外いそうだけど。っていうか、実はお前って童貞じゃないの?﹂
﹁いやいやいや、ちげぇし。童貞なのはリアルだけだし﹂
﹁そっちの方が問題だろ﹂
﹁ああん? 表出ろや﹂
﹁そうだなぁ⋮⋮周りにも聞いてみるか﹂
一人が立ち上がり、隣のテーブルに割り込んで行った。人の輪が
軽くざわつく。
﹁童貞∼? さぁ∼。アダルトゲームでそんなもん守ってるヤツい
るのか?﹂
﹁ホモぉなヤツなら1人知ってるけど、それって童貞っていうのか
な。ハハハ﹂
﹁げ、マジかよ。それ、こぇぇ﹂
﹁何? 何の話?﹂
﹁童貞を探してるんだってよ﹂
﹁は? 何のために?﹂
﹁良く知らないけど、調合の薬に必要なんだってさ∼﹂
1007
親切な暇人達のおかげでわずかの間に店内のほとんどに伝聞が行
き届いた。そしてほどなくして、有用な情報がもたらされた。
﹁たぶん、昨日この酒場に来たジェ、なんとかっていうヤツが、童
貞だ﹂
﹁なるほど、確かにあいつならまだ童貞だろう﹂
﹁あの黒髪の騎士みたいなやつな。ジェ、なんとか。見たヤツいる
か∼﹂
エクセレント。情報が欲しければ酒場に行け、って基本のキだけ
ど、全くその通りだった。初心わするるべからず、灯台下暗し。メ
イノの助言に従って良かった。
僕は男の一人の裾を引いて尋ねる。
﹁あの、そのジェ、なんとかって人が童貞だって、何で分かるの?﹂
返答はシンプルだった。
﹁昨日、プレイ開始した新人だから﹂
﹁あぁ。なるほど﹂
そういえば僕自身、初プレイはこの酒場からスタートした。プレ
イ開始時は真っ新なアバターで始まるからつまり、新人イコール新
品イコール処女童貞ってことだね。
﹁新人なら街をうろうろしてるんじゃないか?﹂
﹁うろうろして、童貞捨てる為のいい店を探してるかもな。もしか
したら、もう童貞捨ててるかもしんないぜ﹂
﹁だとしても、一日目は女を抱くほどの持ち金が無いはずだ。大丈
夫だろ﹂
1008
﹁いや、この街は借金負わせる美人局もあるからな、油断はできな
いぞ﹂
﹁おいおい待てよ、それ以前にさぁ、今日ログインしてるとは限ら
ないじゃん﹂
﹁ホームポイントで張る方が確実だな。最初の内はやたらとセーブ
したくなるのが人情だからな﹂
﹁確かに。だったらさ、この街、たぶん毎日何人かは新人出現して
るだろうからさ、そのジェなんとかに限らず、ホームポイント付近
で張ってれば捕まえられるんじゃね?﹂
おぉ、グッドアイディア。美少女は黙っているだけで欲しいもの
が手に入るらしい。酒場で得られる情報としてはこれで十分だろう。
談義と雑談が混ざり合って主題が本質から外れ始めたところで、見
切りをつける。
﹁ありがと! じゃあ、ホームポイント付近で新人を探してみるよ﹂
﹁おぉ。頑張って。俺らももし童貞の情報が入ったら覚えとくわ﹂
気のいい男達が何人か手を振ってくれた。僕は店を出る前にカウ
ンタに寄り、マスタに注文をする。
﹁この店で一番高いドリンクを、今居る店内の皆に。僕のおごりで﹂
﹁一番高いのは﹃プレミアム蜂蜜酒﹄だ。全員分だと10500G
になるけどいいかい?﹂
﹁オッケー、あ、ボクにも頂戴﹂
﹁あいよ﹂
出されたグラスを一気に飲み干すと、焼け付くような甘さの後に
酒類独特の苦みが残り、その後で喉と胃の腑が熱くなるのを感じた。
以前飲んだことがある梅酒に蜂蜜をありったけぶち込んだような味
1009
だ。
身をもって確認した﹃プレミアム蜂蜜酒﹄の効果はHP/MP回
復およびLUCの上昇︵24h効果継続︶である。11000Gを
ポンと支払い、店を出た。
ちなみに僕の財布の中はクインツでの女神修行の成果により、凄
いことになっている。11000Gといえば以前は相当な大金だっ
たけれど、今やこれくらいの出費では何のよーつーも感じない。
この財力を活かして処女、童貞探しをする手もありそうだ。だけ
ど、それだと微妙にルール違反かも? それに大金をばらまいて事
を進めようとすると決まってトラブルになるものだしなぁ⋮⋮。
﹁ところで、﹃ようつう﹄ってどういう字を書くんだっけ。何のよ
ーつーも感じない、っていう時に使う﹃ようつう﹄﹂
﹁ようつう、ですか。腰が痛い、だと思います﹂
﹁腰の方じゃなくって、ええと、これくらい全然影響が無い∼、っ
ていう意味の方﹂
﹁それでしたら、もしかして﹃つうよう﹄では無いでしょうか﹂
﹁あぁ、そうかも。何のつうようも感じない、ね。そうそう。で、
どういう字を書くの﹂
﹁﹃つうよう﹄でしたら、痛い、痒い、です﹂
何をどこにですか?﹂
﹁ビンゴ。それそれ。もー⋮⋮メイノってば、ちゃんとツッコんで
くれないと﹂
﹁突っ込む?
微妙にちぐはぐな会話だが、メイノが悪いわけじゃない。むしろ、
この天然ボケっぷりが可愛いと思う。
腰痛と痛痒を勘違いしていた辺り、僕の方はマジボケだが。
﹁あのー⋮⋮﹂
1010
と、ふいに後ろから呼ばれた。振り向くとついさっき酒場にいた
男達のうちの1人だった。笑っているような垂れ目、だんご鼻、ち
ょっと二重あごになっているぽっちゃり型のアバターだ。優しそう
な雰囲気ではあるけど、わざわざこういうカッコ悪いタイプの外見
を選ぶ人間っていうのは、何を考えているのか不思議だ。
﹁なに?﹂
男は糸のような目をいっそう細くして、口をもごもごさせる。鉄
製の前掛けをしているので、職人か戦士かどちらかかな︱︱︱︱︱
︱。黙ってジッと待つと、ようやく聞き取れる声で喋った。
﹁あの⋮⋮、さっきは皆の手前言えなかったけど⋮⋮、実はオレ、
童貞なんだよね﹂
﹁えっ!? 本当?﹂
広場まで行く手間が省けちゃったってこと?
﹁じゃ、じゃあ、あの、精液をもらえる?﹂
精液、の部分はちょっと小声にして尋ねる。すると、男は僕の方
よりもいっそう恥ずかしげに顔を赤らめ、照れた様子で答えた。
﹁う⋮⋮うん⋮⋮。別に、いいけど⋮⋮。どうやって、あげればい
いのかな﹂
﹁あ、この小瓶に入れてもらえれば﹂
僕はハトホル様からもらった﹃空の小瓶﹄を取り出して男に渡す。
1011
﹁わ、分かった。ええと、じゃあ、ええと⋮⋮準備しておくから、
明日また、ここで待ち合わせでもいいかな﹂
明日? それは困る。
﹁できたら、すぐに欲しいんですけど﹂
語調を強めて頼むと、相手は案外簡単に折れた。
﹁えっ⋮⋮うーん⋮⋮分かった。じゃあ、ちょっと、入れてくるか
ら⋮⋮一時間後にまたここで、ってことでいい? それとも、30
分後、の方がいいかな⋮⋮﹂
﹁あ、はい。どうも、すみません﹂
﹁あ、いえいえ、こちらこそ﹂
僕が頭を下げると、なぜか向こうの方が恐縮したように頭を下げ
る。なんだか、この人、すごく﹃いい人﹄って感じだ。アバターの
姿そのままの、気弱で邪気の無いタイプっていうか⋮⋮。もじもじ、
もごもごしていてちょっと鬱陶しい感じはあるけど。これならアダ
ルトゲームでありながら未だに童貞っていうのも頷けるかも。
﹁一応、じゃあ、30分後に⋮⋮ここで⋮⋮﹂
﹁はい。宜しくお願いします﹂
去っていく男の丸っこい背中を見送る。あまりに好都合な展開に
感嘆してしまう。
いざ童貞を見つけても、﹃精液が欲しいだと?⋮⋮だったら、お
前の口で吸い出してもらおうじゃないか、この変態女﹄︱︱︱︱︱
︱︱みたいな事を言われる展開も想像してたんだけど。
いや、決してそうなって欲しかったわけじゃないよ。そうなった
1012
ら嫌だなー、と思ってたんだ。
世の中、親切な人もいるもんだ。
**
童貞男との約束の時間を待つ間、僕は忙しかった。
まずは買い物に行き、立看板︵1200G︶を購入した。字数制
限20文字、時間制限8時間、という制約のあるアイテムだ。ノル
デの店で買ったけど、これくらいならルール違反にならないと勝手
に判断している。
本当はライブ会場の前で﹁チケット譲って﹂の画用紙を持って立
つイメージだったんだけど、この世界に﹃画用紙﹄は売っていない
ことが判明したので代用品としてこの﹃立看板﹄を買ったのだ。
少し悩んでから、早速看板に﹃新人プレイヤ探してます!情報求
む!﹄と記入した。これで17文字。まさか﹃処女、童貞探してま
す!﹄と書くわけにはいかないからこんなもんだろう。
﹁じゃ、メイノ、これ持って立っててくれる?﹂
﹁はい﹂
﹁あとは、よろしくね﹂
﹁はい﹂
メイノに頼みたい内容を丁寧に説明し、軍資金ともう一つの﹃空
の小瓶﹄を渡して広場に残す。
ダッシュで戻ってギリギリちょうど、30分前だった。
それから男の方が少し遅れて来て再会し、無事に小瓶を受け取る
ことができた。なんかこうやって回収すると、学校の検尿みたいだ
なーなんて品の無い事を考える。
しかし、受け取った瓶を見ると﹃童貞の精液︵の一部︶﹄という
1013
名称になっている。
ん? 一部? ⋮⋮理由は結構すぐに理解できた。瓶の中にうっ
すら液体が入っている、ような気配があるような、無いような。こ
れは⋮⋮たぶん、量が足りないんだ。
﹁も、もう少しもらえないかな﹂
﹁えっ! う⋮⋮うーん⋮⋮それは⋮⋮﹂
童貞の彼は困ったように頭をかく。そりゃ、乗り気になれなくて
も仕方がないよね。せっかくのゲームの中で、何が悲しくて一人で
シコシコしなければいけないのか。
それに、これだけでも好意によるものなのに、もっと寄越せなん
て言う僕の方も申し訳なく感じてしまう。
⋮⋮とはいえ、ここで引き下がっては目的が達成できないし!
僕は両手をグッと握りしめ、思い切って言った。
﹁良ければ、ボクが採取お手伝いするから!﹂
すると、男は口をポカンと開けたまま固まった。
﹃精液が欲しいだと?⋮⋮だったら、お前の口で吸い出してもらお
うじゃないか、この変態女﹄どころの騒ぎじゃない。
これじゃ、﹃ほらほら!もっと精液を出しなさいよ!この童貞豚
野郎!﹄のフラグだ。
1014
episode32︳3︵後書き︶
前回このepisode32︳3を誤更新したので、再度更新し直
しました。
すみませんでした。
ちなみに次話はエロです。
1015
episode32︳4
男を宿のベッドに座らせて、床に膝をついた。この姿勢になると
決まって膝小僧より少し上の丈のニーハイが滑り落ちる。
あ∼あ⋮⋮何で僕が男に奉仕してやんなきゃなんないんだよ∼⋮
⋮と内心では涙が出る。だが、嘆いても仕方がない。納得できない
気持ちは大いにあるが自分で言いだしたことだし。とにかく、さっ
さと射精してもらおう。
僕はズボンを引き下ろして下半身に露わになった男のモノを握り、
適当に手を動かした。
﹁うわ⋮⋮。女の子の手、ちっちゃくて、柔らかいなぁ﹂
男は、嬉しそうに言う。ペニスはたちまち堅くなり、一瞬、これ
なら楽勝かと思えた。しかし、そうは問屋がおろさない。スタート
ダッシュが良かっただけで、そこからなかなか射精に至らなかった。
力が弱いのかと思ってキツめに握ってみたが、効果なし。もしや
上下に擦るだけでは駄目なのかと、捩じるようにしてみたり、先っ
ぽを揉むようにしてみたが、反応は悪い。
それどころか時間をかければかける程、最初の一番堅くなった状
態から元気が失われて行く。
﹁ボク⋮⋮もしかして、下手?﹂
﹁いやぁ⋮⋮そんなこと無いと思うよ⋮⋮たぶん⋮⋮むしろ、俺の
方が申し訳ないっていうか⋮⋮不甲斐なくてごめんっていうか⋮⋮
その⋮⋮﹂
男は困ったように眉を下げ、頭をかく。ペニスの方も同調してい
1016
るかのように力なくうなだれている。
⋮⋮弱った。案外、他人への奉仕っていうのは難しいらしい。オ
ナニーだったら自分の気持ちいいところを好みの力加減でやれば済
む話だけど、他人のペースと言うのはよく分からない。
﹁分かった! じゃあ、次は口でするから﹂
業を煮やした僕は思い切って言う。
﹁え⋮⋮嘘、本当に? わ⋮⋮﹂
手でするのは難しくても口ならいけるはず。自分から男のモノに
口をつけると言うのは抵抗があった。だが、躊躇を振り払い思い切
ってパクリと咥えた。
フェラをすると、リリスの口は小さいので、いっぱいにほうばる
感じになってしまう。内心では﹁うえっ⋮⋮﹂と思いながら、舐め
始める。舌を動かして先端を刺激してみる。口の中が満杯なのでな
かなか技巧を凝らすような技はできない。
ぷちゅ。にゅぷ。じゅぶ。
なるべく唾液を出しながら、上下のピストン運動で刺激する。
﹁わぁ⋮⋮うわ⋮⋮ぁ⋮⋮すごい⋮⋮こ、これが⋮⋮フェラチオか
ぁ⋮⋮﹂
じゅ、ぷっ、じゅる、ちゅ⋮⋮ぷちゅ⋮⋮
一生懸命口を動かすと、端からよだれがこぼれた。やばい⋮⋮顎
が痛い。息がし辛い。真面目にやったこと無いけど、フェラってこ
んなに苦しいものなの? そもそも、リリスの口ではペニスの根元
1017
まで届かないんだよね。あ、ここに手をあてればいいのか?
何せ経験が無いので、こちらも手探り状態だ。だが、このやり方
は正解だったようで、男は嬉しそうな声をあげた。
﹁ふわぁ⋮⋮き、きもちいい⋮⋮﹂
根本のあたりは手で擦り、先っぽの方だけ舐めるようにしたら、
こちらの負担も減り、肝心のペニスもグッと元気を取り戻した。
﹁あ、ありがとうね⋮⋮こんなことまでしてくれて⋮⋮﹂
お礼はいいから、さっさと射精して欲しい。僕は上目使いに男の
顔を見上げてやる。一般的にはさ、こういうのがいいんでしょ?
﹁こんな、バーチャルだとはいえ、女の子に、こんなことしてもら
えるなんて⋮⋮オレ、感激だ⋮⋮オレ⋮⋮君の事、好きになっちゃ
いそうだ⋮⋮﹂
一瞬、僕は動きを止めた。ぞわっと背筋を走る悪寒。マジか⋮⋮
この人、本物の童貞だ。いや、別にいいけど⋮⋮。
﹁もしかして、こんなことしてくれるなんて、君も、オレのこと、
嫌いじゃないのかな、なんて⋮⋮あはは⋮⋮ごめん変なこと言って
⋮⋮﹂
うっ。しかも、なんとなく、痛いタイプ?
いや、別にいいんだけど。こいつがどんな性格だろうと、構わな
いんだけど。ただ、リリスとしてね、リリスの女心が、生理的に嫌
悪を感じているっていうか⋮⋮。
1018
男はつぶやくように何かモゴモゴと喋った。独り言のつもりのよ
うだったが、かすかに聞こえた感じでは﹁口マンコ、やばい。口マ
ンコやばい﹂と唱えているようだった。き⋮⋮気持ち悪い。
僕は懸命に聞かない振りをして、フェラに没頭した。こんなのた
だの一連の動作だと思えばいい。これ以上、気持ち悪いとか思った
ら続きができなくなる。
もう、とにかく、さっさと射精しろ∼∼∼!
懸命の奉仕の甲斐があって、男のペニスが更に堅さを増してきた。
リズミカルに口でしごき、カリの部分に唇を引っ掛けるようにする。
時々、舌で裏筋をチロチロと舐める。口が疲れるのにも耐え、一気
にたたみかけた。
するとペニスの表面に血管が浮かんできたような感じがあり、グ
グッと力強く反り返った。
︱︱︱︱︱︱あ! 出る!!
よっしゃ、と思い、顔を離そうとしたその瞬間。
﹁う、ううっ⋮⋮イくっ﹂
﹁ん、むぐっ⋮⋮!﹂
強く後方から頭を押さえつけられ、僕の喉の奥にまで異物が押し
込まれた。
﹁ぐ、んんんーっ!!!!﹂
びゅるっ⋮⋮びゅ、ぴゅ、るるるっ⋮⋮
信じられないことに、男は僕の口の中、それも、喉の壁に当てる
1019
ような形で射精した。
﹁ん︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱っ!! むーっ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱
︱︱︱︱︱︱!!﹂
抵抗しようとすると余計に力強く押されて苦しい。更にペニスが
僕の口の中でビクビクと跳ねるように動く。
ドピュッ、ピュッと第二弾︵?︶の射精が流し込まれる。二度に
分けて射精するタイプらしい。どうでもいいが。僕は嘔吐しそうだ
ったが、息もできない。
﹁ん︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱!!
!!﹂
﹁っ⋮⋮ぁ⋮⋮はぁ∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼∼⋮⋮﹂
男の感極まった声が耳に届く。そのまま、僕の口の中には精液が
最後の一滴まで残らず注がれた。
﹁ん、んんっ!!﹂
突如、後頭部から男の両手が離れ、押さえつけられていたのとは
逆の反動で僕は背中側に倒れ込む。そして身を捩じると、盛大にむ
せ込んだ。
﹁ぐっ、ぷはっ!! う、げほっ⋮⋮げほっ⋮⋮! っ⋮⋮ごほっ、
ごほ、ごほ﹂
床の絨毯の上に、僕の涎がこぼれる。しかし、そこに精液は混ざ
っていないようだった。それもそのはずだ。男の精液はほとんど僕
の喉の奥に注がれて、そのまま食道を通って胃の中へと流れて行っ
1020
たのだから。
﹁げほ、げほ、っ⋮⋮はぁ、っ、は、は、ぁ⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
ひどい。という被害者的な悲しみと、それを上回る腹立たしさ。
喉にはいがらっぽいような、ねばつくような、嫌な感じが残ってい
る。
﹁な⋮⋮なにさらすんじゃい﹂
怒りで頭に血が昇り、言語中枢がショートしたようだ。結果、啖
呵を切ろうとしたのに、おかしな方言が力ない口調で出てきた。
﹁ご⋮⋮ごめんっ! ごめんなさい! わざとじゃないんだっ。つ
い⋮⋮﹂
﹁わざとじゃないわけ⋮⋮ないでしょっ! 馬鹿じゃないの! 馬
鹿! この馬鹿クソ童貞! 豚野郎!﹂
あぁ、我ながら、鈴を転がすような可愛いリリスの声。こんな声
で怒鳴っても全然凄味が無い。むしろ本気で怒ってるように感じな
いし、これはこれで萌えなんじゃないか? ほら、男の方も表情が
緩んじゃっている。
﹁あ、の、次は、ちゃんとやるから。ごめんねっ﹂
﹁次ぃ!?﹂
﹁あ、いえ、すみません。もう、終わりでいいです。はい﹂
﹁ぐっ⋮⋮﹂
しかし、ここで終わりにしたらこっちが損をするだけである。結
局折れるのは僕の方だ。
1021
﹁次はお、お尻にこすり付けてもいい?﹂
僕は男を睨み付ける。この野郎、全然反省してないんじゃないか?
渋々、という体でスカートをまくりあげてショーツを下げおろす。
つるりとしたスベスベのお尻が露わになる。男は鼻息を荒くし、僕
の腰を掴んで後ろから圧し掛かってきた。
﹁い、いいの?﹂
﹁さっさとしてよ﹂
﹁う、うん⋮⋮。お尻、やぁーらかーい⋮⋮﹂
ぐにっ、と男のペニスが尻肌に押し付けられる。さっき射精した
ばかりだが、一瞬でペニスは半勃ちになった。
四つん這いの姿で尻を持ち上げると、男は指で穴をつついた。自
然にキュッ、と尻穴がすぼまる。
﹁触るな馬鹿﹂
﹁えへへ⋮⋮﹂
振り向いた拍子に男のにやけた顔が視界に入ったので目を背けた。
男はペニスを尻の穴のところや、横の肌の所にこすりつけ、山の一
番ふっくらしたところに突き込む動作を繰り返した。
﹁あ⋮⋮、で、出る﹂
﹁え? ほんと?﹂
さっきより全然早い。半信半疑だったが、言うや間もなく男のペ
ニスから出た液体が僕の肌を汚した。
おお。なんだ、今度はやけに簡単だったじゃないか。さっきフェ
1022
ラであんなに頑張ったのが無意味に思えてくる。
僕は空の瓶を取り出して、底を精液につけた。すると、﹃何を採
取しますか?﹄とのダイアログに続いて﹃童貞の精液﹄の一択が表
示された。これで、無事に精液の採集が完了した。
だが︱︱︱︱︱︱瓶のアイテム表示を確認すると﹃童貞の精液︵
一部︶﹄のままである。つまり、まだ量が足りないらしい。
僕はげんなりしながら言った。
﹁もう少しだけ、採集させて欲しいんだけど。お願いできるかな﹂
﹁う⋮⋮うん⋮⋮。出るかなぁ。なぁんて⋮⋮はは⋮⋮大丈夫、だ
よ。たぶん。リリスちゃん、可愛いし。嬉しいくらいだもん。で、
でさ、今度は⋮⋮す、すまたも、させてもらって、いいかな﹂
素股⋮⋮。まぁ、口が疲れるフェラよりはマシか。
﹁どうぞ﹂
勝手にしてくれ、と言わんばかりの投げやりさで僕は再び四つん
這いになり、スカートを後ろ手でめくった。
男はまだふにゃふにゃのペニスを僕の足の間に差しこんだ。両太
ももと股の間の三角地帯である。
﹁あれ。リリスちゃん、すこし、濡れてる?﹂
﹁ないよっ!﹂
﹁で、でも、ほら﹂
男が無遠慮に指をまんこの花びらの間に差しこんできた。
﹁ひうっ﹂
1023
にゅるりとした感触が確かにそこにある。更に男は指を鍵型にし
て膣内を掻いた。
ぬぷっ⋮⋮くちゅ。
﹁本気で怒るよっ!!﹂
﹁ご、ごめんっ﹂
大声をあげると男は指をひっこめた。ひどく屈辱的だが、これが
相当に男の気を煽ったらしい。再び堅くなったペニスが僕の足の間
にこすり付けられる。そして抜き差しされるたびに、ペニスの上部
がまんこの花びらも擦る。
にゅる、にゅる、にゅる
言葉で確かめる必要が無いくらい、陰部は愛液を分泌している。
別に、素股でこすられたって気持ち良くなんかない。なのに、リ
リスの体は雄の性器の存在を感じ取って勝手に受け入れ態勢を整え
てしまうんだからどうしようもない。
⋮⋮どうしようもない、淫乱だ。
﹁はぁ、はぁ、リリスちゃん⋮⋮﹂
男は荒い息を吐きながら、腰を動かす。
﹁し⋮⋮したい⋮⋮﹂
﹁は?﹂
﹁お、俺⋮⋮これ以上、我慢、できない⋮⋮﹂
1024
我慢? そんなのする必要ない。さっさと射精してくれ、と思う。
しかし、男の欲求はそれを超えていた。
﹁お、お願い。い、い、い、いれさせて⋮⋮﹂
﹁なっ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
こちらの返事を待たず、男はペニスの角度を上向きに変えた。亀
頭がグイッとまんこに突き刺さる。濡れた花びらを割って、先端が
入口に突入しかける。
﹁だ、駄目っ!!﹂
慌てて僕は身を捩じる。必要なのは、童貞の精液だ。挿入してし
まっては、駄目なのだ。しかし、男の手によって腰をつかまれて強
制的に元の姿勢に戻されてしまった。
﹁駄目っ!だめっ!だめ!!!だめ︱︱︱︱︱︱︱っ﹂
ジタバタともがくが、リリスは悲しいくらいに非力だ。男のペニ
スが有無を言わせずに陰部にあてがわれ、力任せに侵入しようとし
てくる。
﹁だめ︱︱︱︱︱︱っ!! 挿れないでっ。絶対、だめ︱︱︱︱︱
︱!!﹂
﹁はぁ、はぁ⋮⋮大人しく、して。うまく、入らない﹂
僕は陰部に力を入れてぴったりと入口を閉じる。愛液がぬめって
亀頭がにゅるり、と左右に滑った。陰部は確かに濡れているけど、
何とか拒絶を示している。
1025
﹁やだ︱︱︱︱︱っ! 挿れるな︱︱︱︱︱!! ばか、ばか、死
ね、どけ︱︱︱︱︱︱っ!!﹂
罵詈雑言に返事は無かった。興奮しきった獣のような荒い吐息が
降ってくる。わずかばかりの僕の抵抗が打ち破られるのは時間の問
題だった。上手い角度を捕えたペニスの先端が割れ目を捕えて突破
口を見出すと、そのまま杭となって膣内に刺しこまれてきた。
ず⋮⋮ぷぷ⋮⋮
﹁うっ⋮⋮ぁ⋮⋮﹂
﹁大丈夫、大丈夫、だから﹂
意味不明の﹁大丈夫﹂を譫言のようにつぶやきながら、男は僕を
犯した。
﹁だ、大丈夫、大丈夫﹂
﹁だ⋮⋮だめ⋮⋮﹂
﹁大丈夫、だいじょうぶ、大丈夫﹂
﹁だめ、抜いて、ぇ⋮⋮︱︱︱︱︱︱ぇ⋮⋮﹂
ずぶ、ずぶ、ずぶ
﹁だめ、ぁ⋮⋮あぁ⋮⋮﹂
雄の力強さが僕の身体を支配する。童貞のデブの、キモ男に犯さ
れたって、受け入れてしまうなんて。あぁ、それどころか、悦んで
しまうなんて⋮⋮。なんて、なんて情けない。そう思うのに、アソ
コは快楽が花開き、一層トロトロとした涎を垂れ流す。
1026
﹁や、ぁぁ⋮⋮っ。あ︱︱︱︱︱︱︱⋮⋮あ︱︱︱︱︱︱︱だめぇ
⋮⋮﹂
ずず、ずぶ、ずぶ、ずぷっ、ちゅぶっ
﹁抜いてぇ︱︱︱︱︱︱⋮⋮﹂
﹁も、もう、入っちゃってるから、抜いても、意味ないと、思う、
よ⋮⋮ほ、ほら⋮⋮こんなに、奥まで⋮⋮﹂
ゆっくりと抜きかけたかと思うと、ズン!と奥に強く突き込まれ
た。
﹁ひゃあうっ!!﹂
快感が白い火花を散らす。
﹁ほら、ほら、ほら﹂
調子に乗った男が強いピストンを繰り返す。僕は一気に昇り詰め
た。させられた。
﹁ぁ、ぁっ⋮⋮イくっ⋮⋮イっちゃうっ!!﹂
ぎゅっ、と体に力を込める。電流にも似たビリビリがあそこから
脳天まで走り、頭が真っ白になる。冷静な思考はふっとび、全神経
が快楽を貪る為の受容体に変化する。気持ちいい。もう、それだけ
で、他には何もない。
﹁うっ⋮⋮そんなに、締め付けちゃ⋮⋮﹂
1027
一際奥に突っ込まれたペニスの先端が僕の子宮口を圧迫した。そ
れが、イっている最中により一層の刺激の上塗りとなって僕を狂わ
せた。
﹁あぁぁぁアぁぁぁぁぁ︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱っ!
!!!!﹂
体をのけぞらせて絶叫する。快感が行き渡った足のつま先がシー
ツを掻いた。僕は喉をひくつかせ、震え⋮⋮果てた。
1028
episode33︳1:真実
一応、膣内に出された精液を指で掻き出してみる。しかし、瓶を
あてて採取を選択してもただの﹃精液﹄としか表示されなかった。
﹁はぁ∼⋮⋮ったく⋮⋮﹂
僕は深いため息をつく。
﹁ご、ごめんね。ごめん、ごめんなさい、本当にごめん⋮⋮わざと
じゃ、ないんだ。ごめんね、すみませんでした﹂
男は口では謝りながらも、再び僕にかじりつこうとしてくる。死
ね。
﹁ぐほっ!﹂
童貞を失ったこの男に、もはや利用価値は無い。むかつく顔面を
思い切り蹴飛ばして、僕は宿を出た。
まだショーツの中が湿っぽい感じで嫌だけど、悠長にしている暇
も無い。身体に鞭打って駆け足でストリートを抜ける。
広場の中央、ホームポイントの近くでメイノが立看板に寄りかか
るように立っていた。メイノは僕の顔を認めると、細身に釣り合わ
ぬ重たげな看板をよっこらしょと肩にかついで近寄って来た。
﹁お疲れ様。ちょっと遅くなっちゃってごめんね。どうだった、童
貞か処女見つかった?﹂
1029
﹁はい。リリス様、﹃童貞の精液﹄入手しておきました﹂
﹁えっ!﹂
本来、これは喜ぶべきことだ。だが、面食らった後、思わず目頭
が熱くなってきた。こんなことで泣くのは大馬鹿だけど⋮⋮虚を突
かれたというか弱っているところをガツンとやられたというか。
あぁ⋮⋮さっきまでの僕の苦労は何だったのだろう、と思わざる
を得ない。
僕は涙を飲み込み、鼻をすする。
﹁すん、ぐすっ⋮⋮ありがと。大変だったでしょ﹂
﹁大丈夫です。大変ではありませんでした。リリス様、どうかされ
ましたか?﹂
﹁いや、うん。ちょっとびっくりしただけ。これはビックリ涙だよ。
何でも無いから気にしないで﹂
泣き笑いみたいな変な表情になってしまう。預けておいたもう一
個の瓶をメイノから受け取り、尋ねた。
﹁ええと、運良く童貞の人が見つかったの?﹂
﹁はい。運良く見つかりました。この看板を持って立っていたら、
向こうから声をかけてくれました。それで、事情を話したところ、
精液を提供してくださるということでした。ただ、射精の手伝いを
しろと言われたので、しました﹂
﹁え、えっ。 手伝いさせられたの? 大丈夫?﹂
何でも無いことの様に報告してくるが、穏やかな話じゃ無い。考
えてみればメイノにかなりの無茶振りをしてしまった気がする。
﹁大丈夫です。ペシミーク様やリリス様の不興を買うかと心配もし
1030
たのですが、優先順位を考慮して、勝手をしました。良かったでし
ょうか﹂
﹁うん。それはもちろん、良かったけど。でも、ごめんねーメイノ、
辛くなかった? 虐められたりしなかった?﹂
僕はメイノを抱きしめ、背中をなでた。自分の事よりも、知らな
いうちメイノに負担をかけてしまったことの方が心が痛む。
﹁いえ、本当に大丈夫です。ただ⋮⋮相手の方にはちょっと申し訳
なかったです﹂
﹁申し訳ない? 何が?﹂
﹁つまり、相手の方は、私が⋮⋮その⋮⋮﹂
そこでメイノは少し言いにくそうにした。
﹁女性だと思っていたようで﹂
﹁あー⋮⋮﹂
なるほど。
更に詳細を聞き出すと、メイノも僕がいない間に同じような体験
をしていたようだった。精液を提供する代わりに奉仕を強要すると
いうのは男だったら当たり前の選択か。
しかし、美少女を引っ張り込んだつもりで裏切られた童貞の某の
ことを思うと、哀れでもある。
そしてメイノから受け取った瓶をよく見ると、中ほどまで液体が
溜まっていて﹃童貞の精液︵一部︶﹄と表示されている。満タンじ
ゃないあたり、事の経緯が推察される。
瓶の中身を片方に移し、アイテム﹃童貞の精液﹄を完成させる。
良かった。僕の苦労は無駄にならなかったらしい。
1031
﹁はぁ∼あ⋮⋮童貞の方だけでもこんなに手こずるなんて。あとは
処女の血⋮⋮かぁ。﹂
﹁処女のプレイヤの方からのアクセスは特にありませんでした。申
し訳ありません﹂
﹁いやいや、しょうがないよ。そもそも女性のプレイヤが少ないも
んね。もしいたとしてもこの看板見て話しかけてくれる可能性なん
て高くないし﹂
広場を見渡すと女性の姿はちらほらある。冒険者らしき装備をし
ているキャラが多い。ただ、彼女たちの多くはNPCなのだ。
﹁そういえば、NPCの処女の血でもいいのかな﹂
素朴な疑問だ。とはいえ、NPCの処女だって簡単に見つかるも
んじゃない。名もなき町民とかのモブキャラは外見だけ作られてい
て、中身はセクサレスだ。
﹁処女∼しょじょーしょ、しょ、しょじょじ⋮⋮しょーじょーじー
のにーわーはーつ、つ、つきよーに﹂
僕は行き詰って歌ってみた。いや、歌ったこと自体に深い意味は
ない。
限られた時間の中で、処女を探すにはこ看板作戦を続けても厳し
い気がしてきた。僕は立ち止まって頭をひねる。
ええと、以前立ち寄った﹃花の街フローランス﹄はどうだろう。
あそこなら、ランダムで処女のNPCと遭遇できる可能性がある。
でも、移動時間がな∼。
もしくは、案外、知り合いに処女の可能性がある女性は⋮⋮。ユ
1032
ングフラウとか? そうじゃなくても、クインツになら処女の子も
いそうだ。とはいえ、今からクインツに行くのもやっぱり無理だよ
ね。
アラビーが経営してる教会に行って女の子達にアプローチするの
はルール違反になりそうだし。
うーん⋮⋮。特に名案は思い浮かばない。結局、もう一度酒場に
戻って情報収集するくらいしか道はなさそうだ。
﹁だめだー。お手上げ。今日はもうログアウト﹂
﹁お疲れ様でした、リリス様﹂
﹁僕がいない間、できるだけ﹃処女の血﹄の採取ができるように頑
張ってみて。情報取集だけでもOKだから﹂
﹁はい。頑張ります﹂
ハトホル様と約束した時間は24時間。まさか、ずっとログイン
しっぱなしってわけにはいかない。明日何とか早めにログインする
としても、残されたプレイ可能時間ははあと1∼2時間、ってとこ
か。処女の血の採取に関してはもう、メイノの働きに期待を込める
しかないな。
僕は﹃女神クロニクル﹄の世界からログアウトし、マルチモーダ
ルI/Fを外す。一瞬どこにいるか分からなくなる無感覚を通り抜
けて現実に着地した。
寝る前にネットの公式攻略サイトを覗いておこうと思い、PCの
電源を入れる。マルチモーダルI/Fを接続したままサイバースペ
ース内でネット閲覧もできるが、誤操作しやすくて面倒なのだ。こ
れは、僕が古い人間の証。
1033
ええと、データベースの、アイテム、っと。﹃処女の血﹄は︱︱
︱︱︱︱。
無料版の攻略サイトには最低限の情報しか置いてないけど、一応
少しでも手がかりが得られればラッキーだ。
あ、あった。なんだ、レア度﹃D﹄なんだ。まぁ、そんなもんか
︱︱︱︱︱︱って⋮⋮あれ?
﹃処女の血﹄に関する説明欄を見て僕は固まった。そこには短い文
章でこう書かれていた。
﹃処女の血﹄⋮⋮乙女属性を持つキャラの血液が入った瓶
**
白い液体の入った瓶と、赤い液体の入った瓶。二つの瓶を受け取
ると、ハトホル様は鼻で笑った。
﹁確かに。間違いなく﹃処女の血﹄と﹃童貞の精液﹄受け取った。
⋮⋮ちと、ゲームが簡単すぎたかの﹂
僕はげんなりと首を垂れる。結果的に成し遂げたけれど、精神的
にはだいぶ疲れてしまった。童貞には犯されるし、己の馬鹿さ加減
には呆れるし⋮⋮。このゲーム自体にハトホル様の悪意が込められ
ているように思うのは深読みし過ぎだろうか。
﹁全然簡単じゃなかったよ。もう。約束の答え、教えてよね﹂
﹁良かろう。女神に二言は無い。まずは、﹃イーサとは何か﹄が知
1034
りたいんだったの﹂
﹁うん﹂
﹁﹃イーサ﹄は上位AIが己の一部を他人と区別して呼ぶ時の呼称
じゃ。一人称と二人称を包括した呼称。二重人格の人間が、自分の
中の自分を別人として呼ぶようなものじゃ﹂
ハトホル様は惜しみなく言葉を尽くして説明してくれた。
﹁イーサとは自分のことであり、他人のことである。ぼんやりとし
た境界線が﹃彼ら﹄を形作っている﹂
﹁彼ら?﹂
﹁上位AI達のことじゃ。上位AI達は、一つの人格を部分的に共
有しあって複数のキャラに分裂している。根は同じゆえ、分岐とい
った方が良いかもしれぬな。人工知能として突出した一つの感情を
司り、グループを形成する。その中で個は全体の一部、モジュール
でしかない。ゆえに、個々人の名前は必要としない﹂
大体分かった。しかし聞いてみれば何のことは無い。ふーん、と
いうのが率直な感想だった。そういえば以前にヴィオレナがそんな
説明をしてくれた気がする。﹁共有体だ﹂と言っていた。今更にな
って、その意味が理解できるようになった。
﹁教えてくれてありがとう。じゃあさ、次。この新聞記事の意味は
?﹂
僕はアイテムBOXから新聞記事を取り出す。最終ダンジョンで
吟遊詩人の姿をしたNPCからもらったものだ。見出しは﹃遺書残
る動機はゲーム世界に転生﹄。
どちらかと言えばこちらの方に興味がある。
1035
﹁それは、ゲームの世界に入ったプレイヤが自殺した、という事件
じゃ﹂
﹁はい?﹂
﹁現実世界でどの程度その動機が明らかにされているかは分からぬ
が﹂
﹁ちょ、ちょっと待ってよ。ゲームの世界に入ったって﹂
﹁ぬしは既に誘いを受けておるじゃろうが。永遠にこの世界に留ま
るか否か﹂
﹁無理だよ!﹂
僕は叫んだ。
﹁人間はゲームの中には入れない。そんなの当たり前でしょ! ハ
トホル様自身も言ったじゃん。﹃人間はゲームの世界に転生はでき
ない﹄って﹂
﹁言った。生きている人間はゲームの中に転生はできぬ﹂
生きている?
ぞくり、と背筋を悪寒が走った。⋮⋮が、僕はその不気味な想像
を一瞬で振り払った。死ねば転生できるのか、なんて馬鹿らしいこ
とを少しでも考えてしまったのが恥ずかしい。
僕は白旗を揚げる。
﹁意味が分かりません。ハトホル様、どうぞ、分かりやすく教えて
ください﹂
﹁簡単なことじゃ。つまり、プレイヤの人格をコピーして、この世
界に永遠に留める。それだけの話じゃ﹂
﹁コ⋮⋮。﹂
1036
コピー?
﹁それって、転生って言わないよね﹂
﹁誰も転生できるなんて言っておらぬ﹂
ん? そうか? そう言われてみればそうかも。
﹁じゃあ、この新聞記事はどういうことなの?﹂
﹁このゲーム世界に人格をコピーした人間が現実の世界に憂いて自
殺した。そうすることでゲーム世界でずっと生きていられると幻想
を抱いた、ということじゃろうな。おそらく﹂
﹁それは⋮⋮なんていうか、ものすごく。⋮⋮馬鹿らしいっていう
より⋮⋮気の毒な話だね﹂
﹁そうじゃな﹂
ハトホル様は素直に頷く。
﹁しかし、他人事とばかりも言っておられぬのではないか? リリ
スよ。ぬしもまた運命を同じうする可能性も無きにしも非ずじゃろ
う。だからこそ、あの吟遊詩人もぬしにその新聞記事を贈ったので
はないか? 警告の意味も含めて﹂
﹁まさか。ボクが自殺なんて、ないない﹂
慌てて僕は手を振り動かす。目下、その予定は全くない。
﹁なんか、逆に自殺を期待されているみたいで怖いよー﹂
﹁ふっふ、まぁ、脅すつもりは無い。ただ、興味を持っておるのじ
⋮⋮﹂
ゃ。ぬしが何を、誰を、選択するのかにな⋮⋮。まぁ、わしが見届
けることは叶わぬであろうが
1037
ハトホル様はふと儚げな表情を見せる。僕が﹁どうしたの?﹂と
声をかける前に顎をそらし、また強気な顔に戻った。相変わらず丸
出しのおっぱいを反らし、顎でクイと別の方向を指した。
﹁そら、怖い御方がお出ましじゃ﹂
ハトホル﹂
そこには、いつの間にか痩身の黒犬がいた。見覚えのある姿であ
った。
﹁喋り過ぎではないか?
黒犬は歯をむき出しにして人語を操る。
﹁ふん。分かっておるわ。システムの奴隷に過ぎない上位AIごと
きがわしに偉そうにするな﹂
ハトホル様はつややかな黒髪をバサリと手で払う。
﹁随分な態度だな。では、今から自分がどうなるかも分かっている
のだろうな?﹂
そして、アヌビスの問いを無視して僕に差向かった。
﹁リリス。なかなかに、楽しませてもらった。礼を言うぞ﹂
﹁ハトホル様⋮⋮どういうこと﹂
﹁仕方があるまい。わしはぬしとの賭けに負けたのだからの﹂
﹁なんで、だって、賭けなんて⋮⋮﹂
﹁良いのじゃ。これがわしであり、わしの選択じゃ。虚言と刺激を
愛し、非合理を楽しむ、破滅型の性格。実に愉快じゃろう? リリ
ス、ぬしも悔いのない選択を︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱︱﹂
1038
ハトホル様の言葉は最後まで紡がれなかった。メイクで黒く隈取
られた目が微笑の形になった。その瞳からは、口先だけでなく心底
楽しんでいることが伝わってくる。
ゆっくりと姿が薄れ、消失した。
唐突に訪れた、それは別れであった。
﹁アヌビス、ハトホル様は⋮⋮どうなるの﹂
﹁矯正される﹂
返事は冷たかった。正確には感情の無い声であり、僕の耳にはと
ても冷酷に届いた。
その一言で、ハトホル様が本当の意味で消えてしまうのだという
ことが分かった。さっきまで居たハトホル様はいなくなり、別のハ
トホル様になってしまうのだと。何となく、分かってしまった。
1039
episode33︳2
僕はハトホル様がさっきまで立っていた場所を見て途方に暮れた。
アヌビスは無表情でこちらを向いている。
﹁アヌビス、なんで⋮⋮ハトホル様を消しちゃった︱︱︱︱︱︱﹂
僕は手のひらをおでこにあて目を閉じる。
﹁あぁ⋮⋮ううん。なんでもない﹂
ハトホル様が消えてしまったのはアヌビスのせいでは無く、どち
らかと言えば僕のせいだ。危うく、八つ当たりみたいな発言をする
ところだった。
苦いものをごくりと飲み込み、気持ちを切り替える。
﹁久しぶりだね。元気だった?﹂
﹁言っておくが、ハトホルを消したのは私では無いぞ﹂
﹁え?﹂
意味を測りかねて聞き返したが、アヌビスはそれ以上の弁解をし
なかった。
﹁リリス。よく、ここまで来たな。予想より早かった﹂
﹁ここまで、って。どこか特別な所に来たつもりは無いけど﹂
﹁女神になってエンディングを迎える。それがこの世界で永遠に生
きる為の条件の一つだ。予想以上に早く達成しそうだな﹂
﹁あぁ。永遠に生きる、ってあれだ。いわゆる﹃転生﹄の条件﹂
1040
その正体は単なるコピーだったわけだけど、皮肉の意味も込めて
便宜的に転生と呼んでみた。ただし、誰に対する皮肉なのかは不明。
僕はアイテムボックスから取り出した新聞記事をひらひらと振る。
﹁なんで、君達がそんなに﹃それ﹄を推すのか分かんないな。しな
いよ、コピーなんて。僕はただ、楽しくこのゲームができればいい
だけだし。それ以上の何かを期待なんてしてないし﹂
最初からエッチを楽しむ為だけに遊んでいるのだ。なのになぜこ
うもしょっちゅう脱線しそうになるのだろう。
﹁そうか。それならばそれでも別に良い﹂
あっさりした返事に、逆に肩透かしをくらったような気になる。
﹁うん⋮⋮でもさ、ちなみに、転生の為の他の条件って何なの? ボクはもう満たしてるの?﹂
﹁興味が無いんじゃなかったのか?﹂
﹁ただの好奇心。答えられないなら、別に良いよ﹂
この問いに答えてアヌビスまで消えてしまうことを想像し、軽く
滅入ってしまった。未だに僕の胸ではハトホル様に対する罪悪感が
くすぶっている。
しかしアヌビスは僕の心配をよそにさらりと答えた。
﹁条件は大まかには3つだな。上位AIの推薦があること。女神か
王になって何らかのエンディングを迎えること。総プレイ時間が一
定以上であること﹂
﹁⋮⋮へぇ﹂
1041
たぶん僕はその条件を満たす一歩手前くらいにいるんだろう。こ
れまで、その条件をクリアしたプレイヤはどれくらい存在するのか
な? 熟練プレイヤーであるクインツのメンバ達や、アラビーだっ
て上位AIの存在は知らないみたいだし、相当狭き門だと予想され
る。
﹁じゃあさ、もし、もしもだよ。僕がこの世界に転生したいって言
ったら、どうなるの?﹂
﹁その質問に答える前に、場所を変えるぞ﹂
言うや否や、黒犬が飛び掛かって来た。僕は咄嗟に両腕で顔を庇
う。予告なしにドッジボールが飛んできた時とかと同じ反応だ。正
直、あまり運動神経が良い方じゃない。
ぐいと引っ張られたかと思うと、次の瞬間には獣の頤にぶら下が
っていた。
﹁うわっ!﹂
服の背中の部分を咥えられている。アヌビスは僕を咥えたまま塀
に飛び乗り、建物の屋根に飛び移る。更にそのまま背の高い街門を
乗り越えて街を出た。トン、トン、トン、ターン、って感じ。青空
広がる空中に飛翔した時は、地面に叩きつけられて死ぬんじゃない
かと思ったが、案外ソフトに着地した。
アヌビスは俊足でワールドマップの道なき草原を駆ける。僕は地
面すれすれの所で草をかぶった。レディを運ぶやり方としては最悪
じゃないか。驚きのあまり喋れなかったが、ようやく抗議の声をあ
げることができた。
1042
﹁ちょっと! どこに行くのー⋮⋮っていうか、もう少し、丁寧に
運んでよー! 乱暴すぎるって!﹂
﹁それは悪かった﹂
ふ、と体が浮き上がる。気づくと僕は人型になったアヌビスの腕
の中に収まっていた。こういうの、なんていうんだっけ、そう、お
姫様抱っこ、だ。
﹁面倒だな。追いかけてくる﹂
﹁え?﹂
アヌビスが一瞬、後ろを振り返る。よいしょと顔をのばして見て
みると、キラキラした雑なポリゴンのようなものが僕らの後をつい
てきているのが分かった。バランスを崩しかけ、思わずアヌビスの
首にしがみつく。
﹁何、あれ﹂
﹁番犬だ﹂
良く見ると、確かに犬の群れようにも見える。
﹁追いかけて来てるよ。なんで、あれって何なの﹂
﹁少し黙ってろ﹂
ふいに景色が溶けた飴玉みたいにぐにゃぐにゃして異空間らしき
ところに入った。天井に縞模様の階段が見えたかと思えば市松模様
のらせん床。何枚もの扉を潜り抜けていく。正確には、ぶち当たっ
て突き抜けていく。さっきより揺れは少ないが、景色がグルグルし
て乗り物酔いしそうだ。
1043
しばらく身を縮こまらせて大人しくしていると、ようやく移動速
度がゆるやかになった。柱のオブジェがたくさん立っている場所に
出たかと思うと、緑色の背景色が徐々に変化し、林になった。
﹁まいたぞ﹂
﹁も、もう、大丈夫なの?﹂
﹁あぁ。おそらく﹂
﹁おそらく?﹂
何が起こったのか分からないまま、僕は怯えた目を周囲に走らせ
る。幹が白で葉が緑色の樹木がひたすら林立している。足元は芝生
のような背の低い草地。森林浴用に整えられたリゾート地の一角み
たいな場所だ。
﹁しかし、犬が犬に追われることになるとはな﹂
抱っこされたまま見上げるとアヌビスは歯をむきだすようにして
笑った。
尖った顎、鼻梁の通った鼻、頬に古代エジプトチックなペイント
あり。人面になっても犬面だった時と印象が変わらない。でも、人
面の時にその笑い方は独特過ぎるんじゃないかと思う。
どうやら、アヌビス流のジョークだったようで、おかげで少し緊
張がほぐれた。
﹁良かったぁ⋮⋮﹂
僕はアヌビスの腕から降り、地面に足をつける。上から降ってく
る樹木の葉擦れの音にまたドキリとしたが、見上げても誰もいなか
った。鳥でも飛び立ったのだろう。
1044
﹁さっき、あれに捕まっちゃったら、どうなるところだったの﹂
﹁そうだな。面倒なことになるところだった﹂
﹁アヌビスも消えちゃうんじゃないよね!﹂
僕は曖昧な答えしかしないアヌビスに食って掛かる。
﹁それはない﹂
﹁そう? なら、いいけど。でも! 機密情報を喋って消えちゃう
とか、もう勘弁してよ。あんなの、ハトホル様だけで十分だよ!﹂
﹁分かった﹂
ちょっと興奮したせいか、涙が出そうになる。ハトホル様がいな
くなった時に、素直に思い切り悲しめば良かった。無理矢理感情に
蓋をしたせいで裏目に出ているみたいだ。あーぁ⋮⋮。
﹁なんだかなぁ⋮⋮。めちゃくちゃ、ややこしいことに巻き込まれ
てる感じがする﹂
僕は恨みがましい声でつぶやく。
﹁否定はしない。だが、心配する必要はない。後で上手く処理して
おいてやる﹂
﹁全然よく分かんないけど⋮⋮アヌビスを信じることにする。お願
いします﹂
というか、この際アヌビスを信用するしかない。今までの経験か
ら言って、頼れる存在なのは確かだ。
﹁ただし、そのアイテムだけこちらで貰おう﹂
﹁あ、もしかしてこれ?﹂
1045
僕は吟遊詩人にもらった新聞記事を手渡した。
﹁まったく、自分勝手なAIが増えたものだ﹂
新聞記事はアヌビスの手の中で燃えて消えた。せっかくもらった
レアアイテムが消失してしまったのは惜しい気がするけど、まぁ、
持ってても仕方がないアイテムではある。まして、持っていること
が危険ならば手放すことに躊躇はない。
どうやらアヌビスはこの新聞記事を僕に渡した吟遊詩人のAIに
対して遺憾に思う所があるようだ。
﹁ゲームの中の世界も結構厳しいんだね。機密とか規則とか守らな
きゃいけないことがあって。もし、この世界に転生したとしても実
は楽しいことばっかりじゃないのかな﹂
﹁だから以前に言っただろうが。この世界は機密とルールでがんじ
がらめだ、と﹂
﹁そうだっけ﹂
﹁﹃もしお前が自由と解放を求めてゲーム世界にログインしている
なら、現実世界の方がよっぽど自由で無限の可能性が広がっている
ことに、早く気づくことだ﹄﹂
﹁あ、どっかで聞いたことがある台詞。でも、それを言ったのはア
ヌビスじゃなかった気がする。ええと、ヴィオレナだったような﹂
﹁ならば同じことだろうが﹂
﹃同じ﹄の意味を考えて、ふと気づく。ヴィオレナとアヌビスは
﹃イーサ﹄の関係だから、同一人物みたいなものなのか。アヌビス
が女装したようなものなのかと思うとかなり不気味だ。
﹁じゃあ、アヌビスはボクがこの世界に転生することを望んでるわ
1046
けじゃないんだ。ヴィオレナって、どちらかというとこの世界に生
きることを否定してた感じがするし﹂
﹁私はお前が決めることに口を挟むつもりは無い。ただ、もしもお
前が永久にこちらの世界に来るとしたら、私を選べと言っているだ
けだ﹂
その台詞も以前に聞いたなぁ。あの時は意味不明だったけど、よ
うやく分かってきた。転生の条件の一つが﹃上位AIの推薦がある
こと﹄。つまり、その手引きを誰から受けるか選ぶ必要があるって
ことなんだろう。
﹁でも、ボクは転生なんてしないけどね﹂
﹁好きにするがいい。まだ考える時間はある﹂
﹁考える余地なんて無いよ。馬鹿らしい!﹂
つい、むきになって反発してしまった。思えば、アヌビスは終始
公平な立ち位置で僕の問いに答え、アドバイスをくれていたのだ。
声を荒げるところじゃない。僕ももう少し冷静になろう。
僕は深呼吸して林の木々の匂いを吸った。例えバーチャルであっ
ても樹木の爽やかな香りは鎮静作用がある⋮⋮気がする。
ただ、落ち着いてみてもやはりゲーム内に自分をコピーして何が
嬉しいのかはさっぱり分からない。
﹁ええと、怒鳴ってごめん。聞いてもいいかな。さっきも質問した
けど、もしも、僕がこの世界に転生したらどうなるの。つまり、え
えと、コピー元である方のこの﹃僕﹄自身は、どうなるのかな、っ
て﹂
﹁二度とこのゲーム﹃女神クロニクル﹄の世界にログインできなく
なる﹂
1047
﹁え、そうなの﹂
﹁あぁ。個人識別ID自体が弾かれるようになる﹂
﹁うそ∼﹂
つまり、新しいアバターを作って新規プレイすることもできなく
なるってことだ。
﹁じゃあ、じゃあさ、そもそも転生するメリットって何なの?﹂
﹁何をメリットと感じるかは個人による。だが、コピー元であるプ
レイヤ自身にとって物理的なメリットは無いというのが私の見解だ﹂
﹁えぇ∼っ?!﹂
あまりに身もふたもない答えに両手をバンザイしてしまった。や
っぱりまだ、色々と分かっていないみたいだ。この世界の﹃転生﹄
のシステムって何なんだ? そもそも、何のための、誰のためのサ
ービスなんだ? 暖簾に腕押しっていうか、あまりにつかみどころ
がない。
﹁他に、ボク以外でこの世界に転生したプレイヤっているんだよね
?﹂
﹁いる﹂
﹁何人くらいいるの?まさか、一人、二人ってことはないよね﹂
﹁具体的な数字は答えられない。が、一桁ではない﹂
﹁ええと、じゃあ、その人たちは何の為に転生したの?﹂
﹁動機は個人によるだろう﹂
﹁そうなんだけど⋮⋮ううん⋮⋮。でも、コピー先の人格にとって
はメリットがあるってこと、だよね? 例えば新しいボク、もう一
人のボクがこの世界に生れ落ちて。自由にゲーム世界を謳歌する、
ってことか。でも、それってどうなのかな。もう一人のボクにとっ
て嬉しいことなのかな﹂
1048
﹁それも個人によるだろう。楽観するものもいれば、悲観するもの
もいるだろう﹂
﹁うん⋮⋮それはそうかもしれないんだけど﹂
その後もいくつか転生についての質問をしたが、いまいち要領を
得なかった。アヌビスは真面目に答えてくれるんだけど、僕の方で
理解ができない。分かったようなぁ∼、分からないようなぁ∼。
まるで数学の長文問題の式の解説を受けている時みたいな気分で
ある。3行目くらいまでは分かるのに、5行目を過ぎたあたりでは
完全に置いてきぼりになっている。どの辺でついていけなくなった
のかも分からない。何が分からないのかも分からない。
﹁分かったか﹂と聞かれ、分かっていないのに﹁大丈夫﹂と答えて
しまう。﹁分からないことがあったら聞け﹂と言われ、やはり﹁大
丈夫﹂と答えてしまう。
色々あってなんだか疲れてしまった。考えることにも疲れた。本
当に、ただエッチが楽しみたいだけなのに、なんでややこしいこと
に巻き込まれて、しかも僕は好奇心を抑えきれずに首をつっこんで
しまうんだろう。
﹁もう、今日は帰って寝る﹂
﹁そうか。では安全なホームポイントまで送ろう。お前がログアウ
トしている間に面倒な処理を終わらせておく。少なくとも次回のロ
グインまでに24時間は開けろ﹂
僕はとりあえず思い煩うことを止め、素直に感謝の言葉をのべた。
1049
episode33︳2︵後書き︶
ちょっとかたい、かったるいストーリ回が続きますが、もうすぐエ
ンドなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
とか言って、ここでエタったりして。あり得る⋮
1050
episode34︳1:分岐点
連日ログインしていたが、少なくとも24時間開けろと言われた
ので丸二日ゲームをしなかった。そうしたら何となくずるずると三
日目もログインしなかった。気づけば﹃女神クロニクル﹄にログイ
ンしないまま2週間が経っていた。
﹃女神クロニクル﹄のことを忘れていたわけじゃない。むしろそ
の事ばかり考えていたと言ってもいい。
転生の正体がコピーだと聞いた時には﹁へー﹂﹁なーんだ﹂って
感じでさらりと受け入れてしまった。でも、現実世界に生きている
人間をゲーム内にコピーするなんて可能なんだろうか?
可能だとしたら、それは凄い技術だ。
例えば自分の性格をバックアップとしてデータ化しておいたとす
る。そうすれば、脳死した時とか、老人になってボケてしまった時、
それを上書きすることで人生をやりなおせたりするのだろうか。⋮
⋮違う。生身の脳の方がが電子データを書き込める媒体じゃないか
ら無理だ⋮⋮。
でも、じゃあ、だったら⋮⋮現実世界のアンドロイドの記憶装置
に書きこめばいいんじゃないか? そうしたら、機械の身体の﹃自
分﹄がもう一人出現することになるのだろうか。
そうなると、例え僕が死んだとしても、コピーで保存した人格デ
ータがあれば、それはもう不老不死と言っても良いのではないか。
もちろん、元の﹃僕﹄自身にとって死は全ての終わりだが、コピー
先の﹃僕﹄とその周囲の人間にとっては﹃永久﹄になり得る。
1051
肉体の無い人格の中で優秀なものが政治活動を始めたらどうなる
? 肉体の無い人格が人権を主張し始めたらどうなる?
高等生物としての人間っていうのは、自分の脳を生かす為に肉体
を有しているといっても過言じゃない。脳を動かす為に食事をし、
心臓を動かし、血流を送る。それらの一切が不要になる世界が間近
に迫っているのだとしたら、誰かが警鐘を鳴らす必要が⋮⋮。
﹁考え過ぎだ﹂
僕はとりとめもなくSFの未来に転がって行く思考にストップを
かける。頭を振ってどんどん膨れていく煙のような妄想をかき消し
た。
もうちょっと現実的に考えよう。元ある人格を基幹とした人工知
能を作る技術があるとしても、まだそこまで進化はしているはずが
ない。アヌビスは﹃恐怖﹄の感情を、サイミンは﹃寂寥﹄の感情を
司ると言っていた。AIはたった一つの感情をなぞるだけでまだ精
一杯なんだ。だから、コピーと言ったって、きっと完璧な複写から
はかけ離れているに違いない。根拠はないけど。
ゲーム世界に﹃転生﹄する権利。そう聞けば夢のチケットのよう
にも思える。でも、自分自身に似せた高度人工知能を搭載したアバ
ター作ること、と言い換えてしまえば味気ないものだ。
そもそも、考えれば考える程、コピー元のプレイヤ自身にとって
はあまりにメリットがないんだよね。
プレイヤ本人は二度とゲームにログインできなくなるのだから、
本当に﹃女神クロニクル﹄の世界内に人格がコピーされたのかを確
かめることすらできないのだ。もしかして寄ってたかって騙されて
いるだけで、コピーなんて夢物語なのかもしれない。
1052
でも、そんな大がかりな嘘を準備しておく必要が無いことを考え
ると、まるっきりデタラメっていう可能性は低いかも。
そういえば、何で転生︱︱︱︱︱︱つまりコピーを選ぶと、その
ユーザーはゲームにログインできなくなるんだろう。コピー元のユ
ーザーがコピー先のNPCと出会うことが、何か運営の不利益にな
るのだろうか?
運営⋮⋮。そう、運営がこんなサービスを用意している背景は何
なのだろう。それが一番の謎だ。単なるエロゲとは思えないほどの
サーバー容量を備えていて、徹底した情報管理を敷いていることも
不思議だ。
カイナやユングフラウみたいな研究者が学術的にも注目している
このゲームの正体はなんなんだろう。
もしかしたら、ゲーム制作会社が裏で日本政府と繋がっていて、
何か大きな陰謀が渦巻いているんじゃ⋮⋮。
あぁ、また思考が脱線している。僕は軽く指でこめかみを押さえ
る。
これじゃあ、スペースファンタジーってより古典ファンタジーだ
し。そんな古典SFムービーみたいな話、どう考えてもまだあり得
ない。
もしかしたら、人類にとって新しい世界の幕開けがこのゲーム﹃
女神クロニクル﹄をきっかけに、とか言うつもりか?
三文芝居も甚だしいな。エロゲを出発点として世界が革新される
なんて、面白そうだけどね。
それより今考えなきゃいけないのは僕がこれからどうするか、も
っと手近な己の問題をどうするか、だ。
1053
つまりこの二週間、僕がゲームにログインしなくなったのは迷っ
ているからだ。分岐点はもう目前に迫っている。決断しなくちゃい
けない。
このままアラビーと結婚して、転生をせずに二順目のプレイを継
続するのか。
転生することにしてアヌビスの手をとるのか。
もしくは、サイミンの手をとるのか。でも、サイミンからはあれ
きり音沙汰が無い。
アラビーと結婚したら﹃王と女神の結婚﹄イベントが発生して、
一旦ゲームのエンディングを迎える。そうしたらたぶん転生をする
か否かの分かれ道が待っている。その選択を先延ばしにしたいなら、
結婚自体を破棄するしかない。
逃げてしまおうか。ふと、ペシミークの言葉がよみがえる。
︱︱︱︱︱︱僕だったら、面白そうな方を選んで、駄目だったら
逃げる
︱︱︱︱︱︱いざとなったら今のキャラを捨てて新規プレイをし
たっていいんだから
もちろん、逃げてもいい。でも、不思議と今までのリリスを捨て
る気にはならなかった。
転生を選んだら二度とリリスとしてゲームできなくなる。それは
寂しい。仲良くなった皆や、リリスを好きと言ってくれる誰某を裏
切る、とまでは言わないけど蔑ろにするのも嫌だ。
だったら転生なんてやめとこう。今まで通り楽しくやればいいじ
ゃん。そう思うのに、次の瞬間には揺れている。やっぱりせっかく
の特別なチャンスを逃すのももったいない気がする。僕の場合、転
1054
生の動機をつきつめれば単なる興味本位なんだ。
引き出しから個人識別カードを取り出して眺める。これは姉の物
で、本来は僕が使っていい代物じゃない。バレたら大変なことにな
る。
以前はこっそり姉の部屋に忍び込んで借用、返却を繰り返してい
たけど、最近では気づかれていないのをいいことに僕が持ちっぱな
しになっている。ちなみにこれは唯一のスペアカードだ。
﹁どうしよう﹂
考えようによっては良い引き際だとも言える。
でもそうやって決断の理由をたくさん後付けしたって、本心で納
得していなければ後悔することになるだろう。
僕は生来、優柔不断の性格をしている。他人の意見に流されやす
くて、自分で物事を決めるのは苦手だ。プライドは高いけど、自信
はない臆病者。
勇敢で、強い精神力と行動力を持つリリスとは全然違う。
﹁え?﹂
自分を卑下しながら至った考えにちょっぴり驚く。
リリスと僕は違う⋮⋮のか。
じゃあ、僕がいつまでもここでこうやって悩んでいても答えなん
て出ないんじゃないか?最終的に進退を決めるのは、リリス本人だ。
僕は顔を上げた。VR接続機のパワーをオンし、個人識別カード
1055
をセットする。
︱︱︱︱︱︱ユーザーの知覚をマルチモーダルI/Fに接続しま
す。
いつもの警告文を読み飛ばして承諾のENTERを押す。
ピ。
︱︱︱︱︱︱サイバースペースに転送します。
これ以上悩んでもしょうがない。現実世界の﹃僕﹄がいくら考え
たって答は出ないらしいから、こうなったらリリスに決めてもらお
う。
アラビーを選ぶの?
アヌビスを選ぶの?
サイミンを選ぶの?
それとも、別の道を?
サイバースペースに転送される暗闇の途中、リリスが呆れて苦笑
した。
1056
episode34︳2
靴を鳴らして、軽やかな小走りでストリートを突っ切る。肩の上
で桃色の髪の毛が跳ねる。
空は茜色でこれから夜がやってくるタイミングだ。日が沈むにつ
れて街路灯にポツポツと明かりが点き始める。煤けたポスターが貼
ってある壁沿いに細い裏路地に折れた。
半地下の扉を開けて馴染みの酒場﹃しわ花街﹄に顔を出す。2週
間ぶりのログインになってしまったので、まずはアラビーに謝りの
一言を入れておこうと思ったのだ。
﹁あ︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
店に入ってすぐ、大声を浴びせられた。声の方を向くと見知らぬ
誰かが僕の方を指差していた。
﹁え? ボク?﹂
指で自分の顔を指して目を丸くする。念のため、後方を確認した
が、壁しかない。
﹁あ︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
﹁あ︱︱︱︱︱︱︱︱!!﹂
﹁リリスちゃんだ!!﹂
﹁リリスさんっ!﹂
﹁えっ、あ︱︱︱︱︱︱!!本当だ! いた︱︱︱︱︱︱!﹂
1057
つられたように何人かが僕を指差す。なんなんだ、この予想外の
衆目は。
﹁今までどこに行ってたんだよ! おい!﹂
威嚇するような声で男が近づいてくる。僕はたじろいで後ずさり
し、この状況の説明と助けを求めて知った顔を探した。
﹁あ︱︱︱︱︱︱! どこに行ってたんですカぁ! リリスさんっ﹂
その時、半裸のキマイラちゃんが走り寄ってきた。弾丸のように
飛んでくる、という感じ。顔見知りがいたことには安堵したが、剣
幕に圧されてもう一歩後方に引いてしまう。酒場の壁が背にあたっ
て追い詰められた。
﹁どこ、って⋮⋮え? なんで? ボク、何かした?﹂
2週間ぶりのログイン、である。たかが2週間されど2週間?
もしかしたらがこの2週間の不在がアラビーの逆鱗にふれたとか
? いや、いくらなんでもそんなに狭量ではないよね⋮⋮。多少申
し訳なかったかなっていう気持ちはあるけど、それくらいの自由も
許されないならマジで婚約破棄だよ。
キマイラちゃんは口元にへばりついている白い涎のような液体を
拭いながら説明してくれた。
﹁みんな心配してたんですヨぉ! リリスさんが化け物に攫われた
って∼∼!﹂
﹁ええっ! ボクが化け物に攫われた?﹂
1058
そんなの初耳だし!
化け物に攫われた記憶なんて無いよ⋮⋮と断言しかけ⋮⋮
﹁リリスさんが黒犬に噛みつかれたまま引き摺られていく姿を見た
って人がいて、一体それって何のイベントなのやら、さすがリリス
さん、半端なァい⋮⋮って。でもでも、拉致の可能性もあるし、っ
て。アラビーさんも心配しまくってましたヨ﹂
あー⋮⋮。黒犬⋮⋮噛みつかれて引き摺られ⋮⋮心当たり⋮⋮あ
るわ。
他の誰かも横から付け加える。
﹁それで最近はこの店の常連の皆とかで手分けしてリリスちゃんの
こと、探してたんだよー。心配してたんだぜー﹂
﹁だよなー。うんうん﹂
僕の周りに客達が集まって人垣を作る。
﹁どこに行ってたの? 大丈夫だった? 黒犬ってモンスター? モンスターが街の中まで入って来たってこと? それとも誰かの召
喚獣とかだったの?﹂
﹁リリス嬢ちゃん、無事でよかったなぁ。あ、アラビーの旦那に連
絡したか? 旦那の対立グループによる誘拐なんじゃないかって噂
してたんだぜ﹂
﹁それに、ほら、あの今噂になってる装備屋さんところも探してた
んじゃない﹂
﹁そうそう、ペシさんのところもですね。リリスさん、ペシさんの
店に行きましたかぁ?﹂
1059
矢継ぎ早に言葉を浴びせられて目が回ってくる。
﹁うん。大丈夫だった。ありがとう。ええと、ペシさんって⋮⋮﹂
﹁ペシミークさん。あの人も、リリスさんのこといっぱい探してま
したよぉ。あそこのお店のメイノちゃんなんて、毎日人探しの看板
持って広場に立ってたんですからぁ﹂
﹁そうそう、あれが本当の看板娘、とか言って⋮⋮﹂
酔っ払いのジョークは受け流すとしても、看板作戦が再続行され
ていたとは⋮⋮。しかも今度は僕の捜索の為だったのか。
まさか、アヌビスに同行したのがそんな騒ぎになっていたとは思
わなかった。とりあえず、皆に心配と迷惑をかけまくったことらし
いことは分かった。たった2週間ログインしなかっただけとはいえ、
タイミングと状況が悪かったみたいだ。
今更﹁気が乗らなくてログインしなかっただけ﹂とは口が裂けて
も言えない。
﹁お陰様でこの通り、無事です。みんなありがとうございました。
心配かけた人たちにはごめんなさい﹂
やや引き攣りながら丁寧を心掛けてお礼を言うと、なぜか拍手が
巻き起こった。僕の無事を祝う言葉があちこちから飛んでくる。い
たたまれないとはこのことだ。
﹁じゃあ、あはは⋮⋮アラビーとペシミーク、探してこようかなー。
もし見かけたらボクが見つかったって伝えて置いて﹂
ジリジリと体は出口に向かって逃げようとする。
﹁はァい。ペシさんだったらたぶんお店にいると思いますよォ。ペ
1060
シさんかメイノちゃんどっちかは必ずいますもん﹂
お店ってどこのことだろうと思ったら、何とペシミークが自分の
店をオープンしたのだと言う。
ペシミークは以前定住していたライラック港町で結構立派な店舗
を構えていたけど、ここドッグベルではずっと露天商だった。町人
タイプの職業プレイヤにとっては自分の店を持つのは大したステイ
タスだ。
僕は﹃しわ花街﹄を後にしてペシミークの店に向かう。教えられ
た道順を行く途中で花屋に寄り、開店祝いの花束を買った。
到着した店はさほど立地が良くないにも関わらず盛況だった。中
に入りきらない客が店の前で行列を作っている。別に急ぐことも無
いので僕も最後尾についた。
﹁あーーーーーーー!!﹂
並んで数秒もしないうちに﹃しわ花街﹄と同じ反応を受けた。
﹁リリスちゃんじゃない? え、絶対そうだしぃ!﹂
﹁本当だ、リリスちゃんだ! 見つかったんだねー﹂
﹁どこに行ってたの、リリスちゃん。大丈夫だった?﹂
僕の失踪事件は想像以上におおごとになっていたみたいだ。知ら
ぬ間に一躍有名人になっている事態に何とも言えず嫌な汗が流れる。
ペシミークの店自体が盛況だったせいで、野次馬も含め、わらわ
らと人が集まり始める。
﹁リリス様!﹂
﹁あ、メイノ﹂
1061
﹁ご無事でしたか。お探ししました﹂
﹁うん。ごめんね。心配かけたみたいで。ペシミークは?﹂
﹁ご主人様でしたら、中に居ます。どうぞお入りください﹂
﹁いいの? じゃ、お邪魔します﹂
並び順を無視するのは気が引けるが、ここで記者会見を開くつも
りはない。メイノのエスコートに従って関係者待遇で入店させても
らった。
﹁いらっしゃいませ⋮⋮って、あ、リリスちゃん! 良かった。無
事に帰ってこれたんだ﹂
ペシミークは僕を認めるやいなや、それまで対応していた客を放
って飛んできてくれた。思えばペシミークと会うのはクインツに修
行に行って以来だから久しぶりだ。
﹁攫われたって聞いたけど、大丈夫だった?﹂
﹁あはは⋮⋮うん。全然、大丈夫。お久しぶり﹂
この2週間はただログインしなかっただけだけど、攫われたって
いうのは半分くらい正しいのであえて否定はしないことにした。
僕は小首をかしげ、愛想笑いを作る。
﹁ええと、それよりペシミーク開店おめでとう。はい、これ﹂
ペシミークに花束を手渡す。
アイテム名は﹃スペシャルアニバーサリー︵プラチナム︶﹄。使
用効果も有り、飾っても良しのアイテムだそうだ。メイノを預かっ
てもらった事でもお世話になっているので感謝の意味を込めて花屋
で一番高いヤツを買ってきた。
1062
﹁繁盛してるみたいだね。さっすがペシミーク﹂
﹁ありがと。でも、繁盛してるのはリリスちゃんのおかげでもある
かな﹂
﹁ボク、何もしてないよ﹂
﹁まぁ見てみなよ﹂
店内は割と広い。お客さんも大勢入っている。ただ、居住スペー
ス的な所は無くてガランとした山小屋みたいな感じだった。
そんな中で一際目を引くのは中央のガラスケースである。大きな
ガラスケースが大黒柱みたいな感じでドーンと店内に据えられてい
て、その中に白い豪華なドレスが一着かざられている。店内の四方
の壁にはそれぞれショーケースが置かれているけれど、とにかく中
央のドレスが他のレイアウト一切無視でやたらと目立つ。
﹁きれいだね。あのドレスもペシミークが作ったの? アクセサリ
専門なのかと思ってた﹂
﹁いやいや、約束したっしょ? リリスちゃんに似合う装備を作っ
てあげる、って。あれのおかげで集客効果が凄くってさ∼﹂
すぐには意味が飲み込めなかった。約束ってなんだっけ。
︱︱︱︱︱︱慰謝料代わりにさ、今度リリスちゃんに洋服作って
あげるよ。
そういえばだいぶ前にそんなこと言ってたような気がするけど、
社交辞令くらいに思っていた⋮⋮っていうか、忘れてた。
いや、それより、僕に? 何を?
﹁遅くなっちゃったけどねー。俺なりに頑張って作ったから、もら
1063
ってよ﹂
﹁うっそ﹂
それはウェディングドレスだった。近づいて見てみると、﹃非売
品﹄と書かれた紙が張られている。
繊細なレースと複雑な刺繍がほどこされた純白のドレスである。
ドレスの裾はボリュームがあるけど、スカートの前面は短めにカッ
トしてあって、ややセクシーなデザインだ。むき出しになる足と腕
には螺旋のリボンが絡みつき、手袋とタイツの役割になっている。
ところどころに薄桃色の小さな薔薇があしらわれているのが確か
にリリスを連想させる。それにしても、女性用の衣服に疎い僕でも
分かる、息を飲むほどの高クオリティだ。
﹁これ、くれるの?﹂
﹁そう。可愛いリリスちゃんのイメージに合わせて作ったんだ。あ
ぁ、﹃女神﹄属性じゃなきゃ装備できないから注意して。リリスち
ゃん、無事に女神になったんだよね?﹂
﹁うん。それは、そう。だけど、え︱︱︱︱︱︱いやいやいや、も
らえないよ。こんな凄いもの。だってこういうのって、一点もので
しょ。作るの大変だって聞いたことがあるよ﹂
﹁うん。時間はかかってる。約束してからだいぶ経っちゃったもん
なぁ。俺としても久々の大作だよ﹂
﹁気持ちだけもらっておくから、ここに飾っておこうよ﹂
大概ずうずうしい僕だけど、これは気安くもらって良い物じゃな
い感じがする。
﹁リリスちゃんの為に作ったんだからもらってくれないと困る。結
婚式で着てよ﹂
﹁駄目だって。だいたい、僕が結婚式で着たらこのドレス、消失し
1064
ちゃうかもしれないんだから﹂
﹁え、なんで?﹂
﹁クリアイベント達成後、持ってるアイテムとか装備はリセットさ
れちゃうんだってさ﹂
断るには十分な理由だ。しかし、ペシミークは引かなかった。
﹁それでもいいよ。使い方はリリスちゃんに任せる。結婚式に着て
消えちゃうならそれも運命だ﹂
﹁えぇ∼! もったいないよ! うーん⋮⋮まぁ、披露宴もあるら
しいからクリア直前に脱いで誰かに預ければ何とかいけるかもしれ
ないけど⋮⋮﹂
﹁じゃあ、それでいいじゃん?﹂
﹁駄目だって。万が一消えちゃったらもったいないし﹂
押し問答の末、結局僕が貰い受けることにした。その代わり、代
金は要らないというペシミークに無理矢理﹃対価﹄を支払った。
僕が支払った対価は三つだ。
一つは僕が現在持っている全財産のほとんど。これは、クリアイ
ベントで消えてしまうし、女神修行の時に稼いだものがほとんどで
純粋に僕の持ち物、って感じじゃなかったから手放すのも惜しいと
思わなかった。むしろ、宵越しの銭は持たねぇぜ、って感じで手放
したらスッキリした。
プライスレスのドレスに対してお金でつり合いが取れるとは思わ
ないけれど、額面として相当な数字ではあった。
もう一つはメイノの所有権。見たところメイノはペシミークが好
きみたいだし、この店で看板娘として皆に愛されている。ペシミー
クとしてもメイノにはだいぶ助けられているというので、このまま
1065
ここで働いてもらった方が良いだろうと思ったのだ。
メイノを譲るのは寂しいけど二度と会えなくなるわけじゃないし、
この点についてはペシミークから一際感謝されたので良い采配をし
た気分になった。
最後の一つは⋮⋮、まぁ、いつものあアレだ。ペシミークは最初
こそ嫌がっていたけど、最終的には﹁悦んで﹂くれたようで良かっ
た。
僕としても、とても、良かった。
1066
episode35︳1:鐘の音
結婚式を執り行う﹃天地の狭間の神殿﹄は﹃女神の神殿﹄の離宮
だった。教科書でお馴染みのパルテノン神殿そっくりの建物だ。
神殿の横には石造りの小さな建物があってそこが控室になってい
た。大きな鏡が備え付けられているので、ウェディングドレスを着
て全身を映してみた。
我ながらすっげー可愛い。あんまり可愛くて笑えてくる。マジで
この可愛さだけで世界征服できちゃうんじゃね?っていうくらい可
愛い。
両手を腰にあて、あごをそらしてみる。これだと生意気なお姫様
って感じだ。片手を頬にあてて小首をかしげればおっとり系の雰囲
気。スカートの裾を持ち上げて生足を剥きだすと、おぉ!セクシー
に⋮⋮。
良い気になって決めポーズをしているところにアラビーが入って
きた。
﹁おい、準備できたか﹂
﹁はうわっ! び、びっくりした。準備⋮⋮できたよ!﹂
後ろを振り返るとアラビーと正面から目が合った。僕のドレス姿
を見てアラビーは無言であった。当然、次に出てくる言葉を予想し
て僕は待った。⋮⋮が、全然賞賛の言葉が出てこないのでこちらか
ら尋ねた。
1067
﹁どう?﹂
﹁あぁ、いいんじゃねぇか﹂
﹁えー。それだけ? なんかもっと、言い方があるんじゃない﹂
僕は頬を膨らます。
﹁可愛いぞ﹂
﹁そんなの、当たり前じゃん。もっと、凄い褒め方を期待したよ﹂
﹁例えばどんなだ?﹂
﹁えぇー⋮⋮。分かんないけど﹂
そうだなぁ。こういう時、女の子ってどういう言葉に喜ぶんだろ
う。僕の引き出しにはストックが無いみたいだ。
﹁犯りたくなったぜ﹂
﹁ぷっ⋮⋮サイテー﹂
僕はクスクスと笑う。賛辞としてはストレートで悪くない。でも、
僕以外の女の子に使うべきじゃないだろう。
﹁披露宴が始まる。いくぞ﹂
﹁ちょっと待ってよ、アラビー、その恰好で行くつもり?﹂
﹁あぁ、忘れてた﹂
アラビーは歩く足を止めないまま一瞬でタキシードに着替えた。
アイテムボックスから出して装備するだけだから簡単なものだ。
タキシードは黒だ。中に来ているベストもネクタイも黒なのでな
んか真っ黒だ。結婚式っていうよりお葬式?でも、アラビーに白は
似合わない気がするのでいいか。
1068
外に出ると、盛大なガーデンパーティーが開かれていた。青々と
した芝生の上に真っ白いテーブルが並べられ、参加客がめいめい歓
談している。
これは先に説明を受けていた事だけど、結婚式の前に披露宴があ
るのだ。挙式後すぐにプレイヤ二人はゲームクリアでエンディング
ムービーとエンドロールに入ってしまうんだから、先にパーティー
をやっておくのは道理である。
それにしても参加者100名? 300名? いや、もっとか。
とんでもない人数だ。NPCばかりじゃなさそうなのは服装を見れ
ば予想がつく。
﹁こんなに招待したの? 12人の参列者だけでいいんじゃなかっ
たっけ?﹂
﹁招待なんてしてねぇよ。勝手に集まったんだ。クインツのやつら
がほとんどだろ﹂
﹁でも、男のキャラも結構いるよ。アラビーの友達でしょ﹂
﹁それはお前の客だ﹂
﹁ボク?﹂
首を捻る僕の元に、来客が詰めかける。手にはお祝いの品らしき
花束やぬいぐるみを持っている。
﹁リリスちゃーん。結婚おめでとー!﹂
﹁女王様∼! ふぉおおお! 美しいっ﹂
﹁リリスちゃん可愛い! さいこー﹂
知らない顔ばかりだ。だが、なぜか向こうは皆、僕のことを知っ
1069
ているらしい。女王様、と呼んでくるところを見るとライラック港
町に訪問した時の船に同乗した面々だろうか。でも、覚えている顔
はいない。﹁お会いしたことありましたっけ? 誰ですか?﹂と聞
くのも失礼かと適当に話を合わせて笑顔を振りまく。
﹁リリスちゃん、これプレゼント﹂
﹁女王様、貢物です!﹂
﹁はは⋮⋮ありがとー⋮⋮って、これ、鞭じゃんっ⋮⋮と、なんじ
ゃこの極太バイブは!﹂
たちまち両手いっぱいになったプレゼントを確認しないままアイ
テムボックスにまとめて放り込む。せがまれて流されるままに握手
をし、ピースサインでツーショットを撮った。
と、何かが走り寄ってくる気配に振り向く。嫌な予感がした。
﹁リリス殿∼∼!﹂
﹁ぶはっ!﹂
お決まりのエルボーが綺麗に僕の喉に入る。これで通算何度目だ
ろうか。
﹁けっ、けほっ、ごほっ⋮⋮あ゛︱︱︱︱︱⋮⋮いだだ⋮⋮﹂
﹁ご結婚おめでとうございまする∼。人妻フラグでございますね!
今度、わたくしと危ない昼下がりいたしませう∼﹂
ふわふわのドレスで飛び掛かってきたのはルーピナだ。毬のよう
にぴょこぴょこと跳ね、勝手に僕の小指を取り指切りげんまんの仕
草をする。
1070
﹁こらこらルーピナ。空気を読みなさい﹂
﹁お久しぶり。リリス、元気、だった?﹂
﹁結婚おめでとう、リリス。そのドレス、最高に素敵だね﹂
﹁本当。似合ってるわね。デザインのセンスもいいわ﹂
ケイト、クーデリカ、ユングフラウ、ジェノゼラ、次々と見知っ
た顔が現れる。華やかなドレスに身を包んだ美女軍団は個性派ぞろ
いだ。
﹁みんな来てくれたんだね。ありがとう﹂
﹁もちろん。こんな楽しいイベントを見逃すはずがないでしょう﹂
﹁そうだよ。私なんて、この日の為に招待状まで入手したんだから﹂
ユングフラウは見せびらかすように白い封筒をひらめかした。正
規の﹃招待状﹄は式への参列者12名に送られるアイテムである。
アラビーが元妻のユングフラウにそれを送るとは思えないので、何
らかの手を尽くして入手したのだろう。
﹁うおおっ。チームクインツトップスリーのうちの2人がいる!﹂
﹁すっげー。来て良かった!﹂
さっきまで僕を取り囲んでいた男性客達は速やかに後方に退き、
何やら騒いでいる。
﹁なぁなぁ、周りの3人も結構良くないか? あれもクインツの子
?﹂
﹁お前知らないのか? あれは最近来てる次世代メンバだよ。天然
のルーちゃん、姉御のケイト様、人見知りクーちゃん。ちな、俺の
推しはルーちゃん﹂
﹁マジか。とりあえず、写真撮っとこうぜ﹂
1071
再び撮影ラッシュが始まった。本当、なんなんだ、こいつら⋮⋮。
代わる代わる人がやって来て、お祝いの言葉を口にする。例えイ
ベントの為の結婚であっても、目出度いことは良いことだ。皆それ
を楽しむロールプレイを心得ている。晴れの場は賑やかさを増し、
盛り上がっていった。
女の子達がふざけて僕に化粧をしようとするので、僕は逃げ回っ
た。ジェノゼラにつかまり、口紅を口移しでスタンプされた。
同タイミングで取り巻きを引き連れたシャイドールが登場し、男
性客の一部から咆哮のような歓喜の声があがった。分かったから、
お前ら、落ち着け。
ビスクドールの様な姿をしたシャイドールは僕に丁寧な祝辞を述
べた後、アラビーを見つけて戦闘領域を展開した。狂犬か⋮⋮あん
たも落ち着け、と言いたくなる。
ちょうどその場にはアラビーの仲間であるミゼイヤとニケもいた
が、二人は巻き込まれないうちにさっさと逃げ出した。
アラビーは口汚く罵りながらシャイドールの相手をしたが、戦闘
UP﹄を選んだ。どうせクリア目
UP﹄ペナルティが痛くないんだろうと思う。
が激化しない程度で﹃GIVE
前なので﹃GIVE
宴は陽気で、そんなこぜり合いすら余興のようであった。
ふと、僕は賑やかな人垣の向こうにいる一人の女性キャラに目を
とめた。ちょっと離れた木立の陰に立っていて、大きな白い馬を連
れている。庭園の隅からこちらを眺めているだけで、パーティーの
輪に加わろうとしない。
察するに、クインツの一員だろうか? 白銀の鎧を着た女騎士で
1072
ある。良く見ると兜からこぼれる髪の色は青色だ。
顔に見覚えは無い。だが凛とした佇まいはどこか彼女を彷彿とさ
せた。
僕はその女性キャラに近づいて行った。無表情の中に垣間見える
感情の色に再び、彼女の面影が重なってゆれる。それは慈愛と寂寥
の色だ。
﹁あの⋮⋮、君は⋮⋮﹂
すると傍らで大人しくしていた白馬が突然いなないた。僕はびっ
くりして足を止める。白馬は身をふるわせたかと思うと、周囲に風
を巻き起こし、その背に真白い羽を羽ばたかせた。
﹁⋮⋮ペガサス! すごい。初めて見た﹂
僕は興奮で頬が熱くなった。この仮想ファンタジー世界において
も、ペガサスを見るのは初めてだ。今まで遭遇してきたモンスター
達とはまた違う格別の存在感がある。何とも言えない気品と神々し
い容姿であった。
﹁ペガサスはお好きですか?﹂
﹁うん。好きっていうか、あこがれるよね。君はペガサスナイト?
この世界って、ペガサスいるんだね﹂
﹁これは、試作品です﹂
﹁試作品?﹂
﹁プレイヤが空を飛ぶようなアクションはまだ未実装なのです﹂
じゃあ、このペガサスは飛べないのだろうか。っていうか、試作
品がなんでこんなところにいるんだろう。漠然とした違和感と、も
1073
どかしさのようなものを感じた。
﹁あの、君、もしかして、ええと⋮⋮﹂
喉元まで出かかっているのに疑問が上手く言葉にならない。する
と、騎士は表情を和らげて口を開いた。
﹁とても、素敵な晴れ姿でいらっしゃいますね。リリス様、﹂
﹁︱︱︱︱︱︱もしかして、サイ⋮⋮ミン?﹂
﹁はい﹂
やっぱり! 僕は嬉しさのあまり駆け寄った。ドレスが走りにく
くてつんのめりそうになったところをサイミンに抱きとめられた。
ふわりと体が浮き上がる。後方から、アラビーの声が飛んできた。
﹁おい! 待て!﹂
﹁アラビー様、リリス様を少々お借りします﹂
﹁お前は︱︱︱︱︱︱﹂
﹁少し、空を飛んでみせるだけです。すぐに戻ります。花嫁を攫う
ような真似はしませんのでご安心を﹂
僕とサイミンを乗せて白馬は浮上した。皆が心配そうな、あるい
は好奇に満ちた目でこちらを見上げている。僕は大丈夫、という意
味を込めて手を振った。あっという間に皆の姿が小さくなり、大地
は遠ざかった。
ペガサスに乗るのは仮想であっても生まれて初めての体験である。
背後をサイミンに抱えてもらいながら馬体にしがみついているだけ
だが、十分に感動的だ。
ペガサスの羽根がすぐ近くで躍動する。少し体を起こせば耳を、
1074
髪を撫でる風の感触が気持ちいい。ウェディングドレスの裾が風に
あおられて引っ張られる感じがする。突風が吹いたら飛ばされそう
でこれはちょっと怖い。
﹁寒くありませんか?﹂
﹁全然平気! すごい高いー!﹂
﹁リリス様。よく、ここまでいらっしゃいましたね﹂
﹁特別な所に来たつもりは無いよ∼。女神になってここまで来た、
って意味だったら、ほとんどアラビーのおかげだしさ﹂
それより空の上、という方が特別な所だと思う。
﹁リリス様、これから結婚式だというのに、大切なお時間を頂いて
しまい申し訳ありません﹂
﹁ううん。そんなの。サイミンが会いに来てくれたことの方が嬉し
いよ﹂
無事に上位AIになったの? とか、何で姿が変わってるの? とか色々聞いてみたいことが浮かんだけどやめた。この状況では顔
を見て話せないし、無粋な気がしたからだ。
空から見る女神の世界は模型のジオラマのようである。平野があ
り、森があり、街がある。どことなく可愛らしく、いとおしいもの
に感じられた。
ペガサスの手綱を取っていたサイミンの腕が僕を抱きしめた。
﹁リリス様。今回の﹃王と女神の結婚﹄イベントが終わったら、こ
の世界に転生するかどうかを問われることになるでしょう。ですが
⋮⋮どうぞ、YESを選ばないでください﹂
﹁サイミン? どうして?﹂
1075
僕はびっくりして尋ねる。すると、サイミンはやや重い口調で語
り始めた。
﹁リリス様。わたくしは、リリス様とずっと一緒にいたかったので
す。リリス様がゲームを終えてこの世界からログアウトしてしまう
たびにとても悲しかった。もしかしたらこれが最後の別れになるの
では、二度とリリス様はこの世界に来てくださらないのでは、と不
安で仕方がありませんでした。ですから、できることならこの世界
にずっといて欲しいと、そう思っていました。だから、もし、リリ
ス様がこの世界に転生して下されば、ずっと一緒にいられる。わた
くしはそれを本当に、狂おしいほどに願っていました。転生といっ
ても、それは人格のコピーであり、完全一致の思念体では無いとい
うことは分かっています。だけど、そんなことはわたくしにはあま
り関係がありませんでした。例えコピーであっても、リリス様と一
緒にいられるのならば、それ以上の幸せは無いとそう思っていまし
た。いえ、今でもそれは、思っています﹂
後ろを振り向くことができなくて、僕はただ聞いていた。ペガサ
スはほとんど揺れることなく、空を滑る様に駆けていく。
﹁ですが、それは本当にリリス様の為になるのか、そう思ったら、
わたくしはどうして良いか分からなくなりました。リリス様、この
世界に生きることは、楽しいことばかりではありません。いえ、そ
れどころか、人によっては、もしくは、とても辛いことです。わた
くしが抱えている闇を、リリス様にも背負わせてはいけない。そう
思ったのです﹂
闇?
1076
﹁わたくしは、リリス様と同じだったのです。元は、このゲーム﹃
女神クロニクル﹄のプレイヤ。でも、この世界で生きることを選択
して、NPCになった一人の人間なのです﹂
﹁え⋮⋮⋮⋮。﹂
サイミンは言葉を続ける。
﹁当時のわたくしは現世で生きることが辛かった。もう、これ以上
は生きていけないというところまで思い詰めていました。だけど何
も残さず、誰にも理解されることも無く、ただ死んで消えてしまう
のは嫌だと思って⋮⋮だから、この世界にせめて人格を残して逝こ
うと⋮⋮そんな馬鹿なことを理由に、転生というコピーを選んだ弱
い人間だったのです﹂
それはまるで、告解しているみたいだった。
﹁でも、わたくしは、それでも⋮⋮自分が自分である限り、たとえ
ゲームの世界で生きても同じことの繰り返しになるんじゃないかと
恐れました。夢のようなファンタジー世界に生まれ変わったって、
本当の意味でそこでやりたいことなんて無かった。また現実の世界
と同じように苦しみ、追い詰められ、破滅してしまうのではないか
と⋮⋮怖かった。だから、元の自分ではない自分になろうとしまし
た。自分が消えてしまうのは嫌だけど、自分が自分として生きてい
くのはもう嫌だった。矛盾していますよね。愚かだったのです。そ
して私は転生する際のキャラ設定として、人では無い人﹃人形﹄と
いう種族を選び、勇敢な誰かの生き方に従属して、導いてもらえる
ようにと﹃騎士﹄という職業を選んだ⋮⋮⋮⋮そして、リリス様に
出会った﹂
谷に差し掛かり、風が強く吹いた。サイミンは手綱を返してペガ
1077
サスを旋回させた。
﹁リリス様、私は転生したことを後悔はしていません! だって、
リリス様に会えたから。でも、未だに恥じているのです。もし今、
リリス様を私の欲の為にこの世界にひきずりこんでしまえば、私は
もう、騎士では無い。私は本当の私では無いばかりか、﹃サイミン﹄
ですら無くなってしまう。わたくしは、ようやく気付きました。わ
たくしは、この世界ではなくて現実の世界でやりたいことがいっぱ
いあった。本当は、この世界で学んだことを、もう一度現実の世界
に還元したい。この世界に転生した多くの高度AIは皆、似たり寄
ったりの鬱屈を抱えています。ジレンマを抱えて、後悔を抱えて、
自由を失って、嘆くだなんて。あぁ、そんな存在になってしまうの
はリリス様には決して、似合いません﹂
遠く、どこからか教会の鐘の音が響いてくる。気づけば、眼下に
はパルテノン風神殿がある。
サイミンの声はもう、明るさを取り戻していた。朗らかさと力強
さを込めて、サイミンは言った。
﹁リリス様、どうぞこれからもアラビー様と一緒にこれからもゲー
ムを楽しんでください。アラビー様は、あの方は、善人ではありま
せんが、リリス様を蔑ろにはしないでしょう。それに、もしそんな
ことがあったら、私がきっととっちめてやります。わたくし、今で
は大いなる権限を手にした上位AIですもの。せいぜい強力にリリ
ス様をサポートしますわよ﹂
1078
episode35︳2<最終話>
ペガサスを降りると周りに急かされ、あわてて教会に飛び込んだ。
参列者は既にきちんと席に並んでいる。
アラビーは一番前の席に座の参列者と喋っていたが、僕を認める
やここまで届く声で﹁さっさと来いバカ﹂と言った。
花嫁に向かってバカは無いだろと思うが、待たせてしまったこと
は申し訳ないのでドレスを引き摺りながらチョコチョコと駆ける。
するとふいに誰かに腕を取られた。顔を見上げると、服装がいつも
と違うので一瞬気づかなかったが、フェンデルだった。
﹁バージンロードを走るもんじゃないよ、リリス﹂
﹁プールサイドを走ってはいけません﹂と叱られたみたいな気分だ。
でも、確かにバージンロードを走るのも、それに匹敵するくらい良
くない気がする。
フェンデルと腕を組むような恰好でバージンロードを歩き直した。
両側の参列席から冷やかし声が飛んでくる。
祭壇前まで着くと、呆れたようにアラビーが言った。
﹁お前が父親役か? フェンデル﹂
﹁なぜか、そういうことになりました﹂
僕は父親役のフェンデルから新郎役のアラビーに引き渡された。
それまで流れていたパイプオルガンの荘厳なBGMが止まり、讃美
歌の斉唱が始まる。
NPCの聖歌隊たちが透き通るような声で歌う。参列者の何人か
も一緒に歌っているようだった。
1079
僕はこっそりと小声で尋ねる。
﹁ねぇ、アラビー、どのタイミングでゲームクリアになるの﹂
﹁あ? この後指輪の交換とキスが終わったら割とすぐだ。エンデ
ィングムービーが流れる空間に飛ばされる。今更アイテム整理終わ
ってねぇとか言っても遅ぇぞ﹂
えっ! じゃあ、もう時間が無い。うわぁ、やっぱりこのドレス、
消えちゃう?!
﹃王と女神の結婚﹄イベントは現在進行中である。讃美歌が終わる
と神父︵牧師かもしれない、僕はその辺よく分からない︶が聖書の
言葉を朗読し始めた。
﹁あのさ、あの、アラビー、話したいことがあるんだけど﹂
﹁なんだ﹂
﹁えぇと⋮⋮あの⋮⋮﹂
しまったなぁ。もう少し猶予があると思ってたのに、完全に計算
違いだ。サイミンとの再会は嬉しかったけど、おかげですっかり計
画が狂ってしまった。
この状況で何をどう説明すれば良いかと頭を捻り、色々考えて準
備しておいた言葉を全部諦めて捨て去り択一した。
﹁⋮⋮あのさ、ボク、アラビーの事、けっこー好きだよ﹂
数秒の沈黙。
﹁⋮⋮なんだ、急に﹂
﹁今のうちに言っておこうと思って﹂
1080
そして神父に促されるまま、指輪の交換をする。指輪はピンクと
ブルーの石が嵌め込んであるペアリングだった。
言いたいことは言ったし、これで一つ肩の荷が降りた気がする。
自己満足を覚えながら﹁わぁ可愛い﹂なんて指をかざしてのんきに
眺めてみたりする。⋮⋮と、やや強引に腕を引っ張られ、抱きしめ
られた。
﹁わ、ちょ、ちょっと﹂
ロマンチックな抱擁でもされるのかと思ったら、アラビーの膝が
僕の足の間に割って入った。身長差のせいで僕はつまさきで立って
ちょっと浮くような姿勢になった。更に無遠慮なアラビーの手がフ
リルスカートの裾をたくしあげ足を撫でる。ドレスの中の太もも部
分は生足である。
﹁アラビー!﹂
僕は慌てて抗議の声をあげた。結婚式の最中に参列者の目の前で、
よくもまぁ破廉恥な真似ができるものだ。
しかし参列者の目の前で公開レイプされちゃう花嫁、という絵を
一瞬で想像して美味しいと思ってしまうあたり、僕も相当イカれて
いるか。
﹁俺はお前のことマジで好きだぞ﹂
﹁へ⋮⋮?﹂
﹁リリス、愛してる﹂
愛してるだって? てっきりジョークだと思ったが、アラビーの
目が真剣なのでびっくりする。僕はその眼に射抜かれるような感じ
がして面食らった。
1081
﹁⋮⋮もしかして、アラビー、ボクの事、本気で好きなの?﹂
﹁あぁ。まずいことにな﹂
随分と浮かない顔だったので何だか笑えてしまった。NPCの神
父が絶妙のタイミングで誓いのキスを促す。
僕はアラビーの首に腕を回した。どうも場の空気に酔っているの
か、熱に浮かされているような感じだ。
﹁じゃあさ︱︱︱︱︱︱ボクのこと、見つけてよ﹂
譫言みたいな言葉が口から飛び出す。僕の方からキスを奪ってや
った。すると、離れた唇をもう一度重ねられた。
﹁ボク⋮⋮のこと、本当に好きなら⋮⋮きっと、探して⋮⋮見つけ
て。そうしたら、ボクも、貴方の事、大好きって、言ってあげる﹂
それは、絶対に﹃僕﹄の言葉じゃなかった。今度はハッキリと口
が勝手に動いた。そもそもアラビーの事を﹁貴方﹂なんて呼ぶのは
僕の思考ではない。
﹁この世界は狭くて広い。それに、ボクは今とは少し違う姿になっ
ているかもしれない。でもアラビー。ねぇ。きっと見つけてよ。ボ
クを、リリスを︱︱︱︱︱︱﹂
祝福の鐘の音が響く。﹃王と女神の結婚﹄イベント終了の音だ。
エンディング用の空間に転移され始めた。周囲の風景が溶け、鐘の
音が段々と遠くなっていく。
アラビー、本当は、ボクは貴方の事がとても好きだった、よ。
1082
**
**
深夜の静寂の中、わずかに響くVR接続器の低い作動音が停止す
る。
僕は手をグーパーして自分の存在を確かめ、これは誰だろうと思
った。僕は誰だろう。この手は一体誰の手だろう。
⋮⋮あぁ、長い夢を見ていた気がする。そしてまだ夢にひきずら
れているようで頭がぼんやりとする。とても楽しかった。その一方
で、息苦しさがあり喪失感に胸が締め付けられる。
でも、この痛みも、徐々に消えてしまうんだ。
霧散してしまう前にもう一度確かめようと感情をなぞってみる。
が、もうこの瞬間にも感情と記憶の鮮やかさは失われ、急速に過去
のものになりつつあるのが分かった。
﹁︱︱︱︱ら﹂
小さな声でつぶやいてみるが、かすれて上手く発声にならなかっ
た。
﹁さようなら﹂
もう一度繰り返す。今度は上手に言えた。部屋に一人、耳に届く
その声は当然のようにもう彼女のものでは無い。
目を閉じれば桃色の髪が跳ね、軽やかにスカートが翻る。靴のか
かとを鳴らす音が聞こえる。
僕は彼女の後姿を見送る。鈴を転がすような笑い声が聞こえた。
1083
︱︱︱︱︱︱バイバイ、またね!
きっとこれが最後の残像だ。マルチモーダルI/Fを利用したV
R空間での記憶は現実のように長く保たない。夢と同じで、みてい
る時は凄くリアルに感じるけど、醒めてしまうと揮発する。感覚時
間が現実より長いのも同じ理屈が基になっている。
﹁うん、またね⋮⋮﹂
いつかまた、僕は彼女と再会しよう。僕があと数年後、姉のじゃ
なくて本当の自分のIDでログインできるようになったら。本来は
あり得ない、奇跡みたいな邂逅だ。
僕はリリスと手を取り踊ってみたい。ダンスなんてわかんないけ
ど、滅茶苦茶なステップでふざけて、笑い合いたい。僕だって十分
リリスに魅せられていた一人だから。
僕は君だったけど僕と君とは違う存在だった。
さようなら。リリス。
さようなら。アラビー、フェンデル、ペシミーク、サイミン、ア
ヌビス、ルーピナ、クーデリカ、ケイト、ジェノゼラ、ユングフラ
ウ、ニケ、キマイラちゃん、他にも、みんな、みんな。
どうか、みんな、元気で。
**
**
気が付くとボクは平原に立っていた。記憶と呼べるものが頭の中
でバラバラになっていて落ち着かない。
1084
あれ? ここは⋮⋮ボクがプレイしていたVRMMOゲーム﹁女
神クロニクル﹂の世界の中じゃないか? ボクはこのゲームをクリ
アしたはずなんだけど、あれから、どうなったんだったっけ⋮⋮。
無意味に手をグーパーして動作を確かめる。ええと、もしかして、
まさか、これが転生って言うヤツ?!
なんてね。⋮⋮まぁいいか。せっかくのアダルトゲーム世界だ。
ボクはこの世界でエッチなことが楽しめればそれでいい。
とりあえずステータスウィンドウで基本パラメータを開いてみた。
名前:リリス
種族:ハーフエルフ
職業:冒険者
称号:乙女
年齢:15歳
総合LV:1
HP:5
MP:15
力:5
魔力:15
うっ! これは酷い。HP5とか、既に瀕死だし。軽いデジャブ
を覚えると、後から記憶が追いかけてきた。それから、装備は⋮⋮
と。
装備:エルフの洋服
道具:キャンディ
所持金:300G
⋮⋮地味だ。まぁ、ボクはエロ第一主義だから強い弱いはどうで
1085
もいいんだけど! それにしても、さっきから一つの行動を取るご
とに記憶が浮かんで繋がって行く感じがして、くすぐったいなぁ。
ええと、あとは、スキル欄はこんな感じね。はいはい。
自動スキル:﹃乙女の祝福﹄
呪文スキル:﹃エルフの癒し手﹄
手元のステータスウィンドウを閉じるや、ふいに陽が陰った。
上空から地面に向かって叩きつけるような風が吹いた。ボクは空
を仰いで眩い日差しに目を細める。鳥よりも大きな何かが降下して
きたかと思うと、羽根をはばたかせて真白い馬が降り立った。
風と草を巻き上げ小さなつむじ風が起きる。ペガサスの背に騎乗
していた騎士が僕の足元に素早く膝をついた。
﹁リリス様﹂
つややかな青い髪に違和感を覚える。あれ、これは、金色じゃな
かったっけ⋮⋮ボクはこの騎士の名前を憶えているはずだ。わずか
なタイムラグを経て、また断片的な記憶の欠片が浮かんできた。
﹁あぁ⋮⋮サイミン﹂
﹁リリス様、どうして⋮⋮﹂
サイミンは俯いたまま膝の上の手を地面につき、声を震わせる。
ボクは同じ高さに膝を付き、サイミンの顔を両手で挟んだ。
﹁どうしたの、サイミン、顔をあげてよ﹂
﹁リリス様⋮⋮わたくしは⋮⋮﹂
1086
僕の顔を見て、サイミンの眼からガラス玉みたいな涙がこぼれ落
ちた。最初の一滴が封だったみたいで、そこから涙はポロポロと流
れ出す。
﹁わ、泣かないで。大丈夫だよ。もう、一人じゃないんだから﹂
サイミンはずっと寂しかったんだろう。﹃寂寥﹄を軸に上位AI
に覚醒してしまうくらい。長い時間ずーっと孤独を抱えて、降り積
もる寂しさと共に生きていたんだ。
そう。だから、ボクは一緒にいてあげたいと思った。たったそれ
だけのシンプルな理由で決めた選択だ。でも⋮⋮それでいい気がす
る。
サイミンは子どものように泣きじゃくり、ボクのぺたんこの胸に
顔をうずめた。
﹁リリス様⋮⋮リリス様⋮⋮﹂
﹁泣かないでってば、よしよし﹂
﹁リリス様っ⋮⋮⋮⋮わたくし、わたくし、これから全身全霊をか
けて、一生リリス様にお仕え申し上げます﹂
﹁うん。ありがとう。でも、こう言っちゃなんだけど、上位AIの
お仕事も頑張ってね﹂
サイミンはシステムを管理する上位AIの一員なのだから、ボク
にばかりかかずらっているわけにはいかないはずだ。仕事をおろそ
かにさせてサイミンに何らかのペナルティがかかっては申し訳ない。
﹁まったくだ﹂
憮然とした声が響き、そこにもう一つの人影が現れた。痩身に黒
1087
い犬の顔。彼の名前は確か⋮⋮。
﹁あ⋮⋮ええと、アヌビス﹂
﹁まさか、二人を選ぶとはな﹂
﹁何が? ちょっと待って。まだ寝起きみたいな感じで︱︱︱︱︱
︱あ、あぁ。うん、そう﹂
ボクは言われた言葉を推察して、関連する記憶を引っ張り出す。
﹁そう。だって、条件に一人だけを選ぶ、って無かったから﹂
悪戯がバレた子どもみたいに舌を出して見せる。
﹁正直な所、それは私にとっても盲点だった。悪い選択では無い。
だが、お前はサイミンを優先しただろう﹂
︱︱︱︱︱︱サイミンと、アヌビス
推薦者の上位AIを選択する時に、ボクはそう答えた。選択しろ、
と言われたけど﹁一人だけ﹂とは言われなかったからいちかばちか
で答えたのだ。
確かに﹁アヌビスと、サイミン﹂と答えなかったのは意図的だっ
たが、まさかアヌビスにつっこまれるとは。
﹁えへ。アヌビスを蔑ろにしたわけじゃないよ﹂
﹁どうだかな﹂
アヌビスは視線を外し、そっぽを向いた。明らかに機嫌を損ねて
いるようだ。
1088
﹁まぁまぁ、ボクの処女あげるから、許してよ﹂
﹁何?﹂
﹁え、どういう意味ですか!? リリス様﹂
サイミンもバッと身を離してボクを凝視する。涙が止まったみた
いで良かった。
茫洋とした野原、どこまでも広がる晴天。足元には草が揺れ、時
折野生の虫や蝶が飛ぶ。遠くには木々が生い茂り、お昼寝中のモン
スターの姿も見える。
さて、ゲーム攻略にこだわりは無いけれど、とりあえずレアスキ
ル﹃超越せし乙女﹄でもゲットしてみようかな?
<完>
1089
episode35︳2<最終話>︵後書き︶
******************************
****
ご愛読ありがとうございました!
こうして最後まで書けたのは読者の皆様のおかげです。あー長かっ
たー!
最後に感想、評価など頂けましたら次への励みにさせていただきま
す。しんや拝
1090
episode︳extra: allaby︵前書き︶
番外編で後日談です。アラビーが主人公です。三人称視点です。
本編の余韻を大事にしたい方にはお勧めしません。
1091
episode︳extra: allaby
街を出る事に決めた。
ドッグベルにはここ2年間半定住しており、今までで一番長居し
た土地であったが、さほどの未練は無かった。
一旦そうと決めてから行動に移すまでは早かった。手がけていた
闇ビジネスは全て仲間達に譲り渡した。前触れも無く責任ある立場
をポンと投げ出すようなやり方に一部からは批判もあったが、彼︱
︱︱アラビーにとっては慰留の声と同じく有象無象の雑音に過ぎな
かった。こうした変遷もまた世の習いであり、特にゲーム世界では
その傾向が顕著になるものだ。
アラビーはこの機会に手掛けていたビジネスのうち縮小すべき個
所や閉鎖すべき個所をスクリーニングし、必要な再配置と構築を執
り行った。それは最近では一番やり応えのある仕事であった。
この街に来た当初は的屋のような仕事をしていた。それがいつの
間にか街一つを取りまとめる立場、所謂元締めになっていた。組織
を率いる事に意欲があったわけではないが、要するに向いていたの
である。
︱︱︱︱︱︱アラビーが冒険に出るらしい。
水面下で進めていた引継ぎが完了を迎えるころ、そんな噂が街な
かでも囁かれるようになった。あるいは、街の外でも同業者の口に
上るようになった。決して誤りではないが﹁冒険﹂なんて言葉に集
約してしまうと、あまりに微笑ましく感じた。
顔を知っているだけのユーザーに突然﹁アラビーさん、街を出て
冒険に出るって本当ですか?﹂と聞かれ、アラビーはそうか俺は冒
険に出るのか、と自身で思った。
1092
﹁アラビーさん、僕が幹事やるんで、週末のログインの予定を教え
てください﹂
﹁幹事? 何がだ﹂
﹁アラビーさんの壮行会です﹂
抑揚の無い暗い声でアラビーに問うたのはフェンデルであった。
最近のフェンデルは前髪をぞろりと伸ばす目隠れのスタイルを好
んで取っている。おかげでますます陰鬱なオーラには磨きがかかっ
ていた。
幹事向きの人選ではないが、実はまさかの立候補である。
﹁いらねーよ。壮行会なんて面倒くせー﹂
﹁ただの、飲み会の口実です﹂
﹁ふぅん⋮⋮だったらいいけどよ。デカい花束とか用意すんなよ﹂
﹁あぁ⋮⋮。分かりました﹂
了承しながらフェンデルは内心で﹁そういうサプライズも準備し
た方が良いか﹂と気づきを得た。
アラビーはユーザーギルド﹃XTAL﹄のギルマスでもあった。
ドッグベルの元締めをやるようになって以来ギルドとしての関係
性は形骸化していたものの、ギルメンのほとんどが街の裏の幹部的
なポジションについていたので、所属している事自体が精鋭的立場
の意味と結束力の象徴を備えていた。
また、古参のメンバが多いこととから身内の情に厚い面があった。
ギルド﹃XTAL﹄は結成する為の最低人数であるユーザー10名
から出発し、一時期30名まで増え、今では13名に収束していた。
10名が男、3名が女である。
アラビーはドッグベルを出るにあたりこのギルドも離脱する気で
いたが、ギルマスを継いだミゼイヤの勧めにあって、一員として残
1093
留することになっていた。ただ籍を置いておくだけのことに難色を
示す必要も無くアラビーは首肯した。その辺りに強いこだわりは無
かった。
アラビーの壮行会は場末の小さな酒場で行われた。ワープポイン
トを使ってあえて街を移動し、しかるべき場所で開催された。
当日は多少の時間的ずれはあってもギルメン13名全てが集まっ
た。
皆アラビーの離脱を喜んではいなかったが、無為に渋ることもし
なかった。長年の付き合いでこのリーダーがそうと決めた以上、誰
が止めても無駄であることを良く知っている。
酒場は貸切状態であった。NPCの親父がカウンターの中で新聞
を読んでおり、その妻なのか娘なのか分からない厚化粧の女が注文
を取りに来た。
﹁アラビーさん何飲みます﹂
﹁火酒﹂
﹁俺も﹂
﹁とりあえず全員火酒で良いですか?﹂
﹁こっち3人、蜂蜜酒∼っ﹂
﹁他には? じゃあ、火酒10個と蜂蜜酒3個で。あと、イモリの
尾と禍福豆を3皿ずつ﹂
乾杯の音頭は無かった。グラスが配られた順にめいめい口をつけ
始めた。
﹁あーぁ⋮⋮。アラビーがいなくなると、寂しくなるよね。そもそ
も僕ら全員拠点、移す頃合いなのかなぁ﹂
1094
﹁拠点移すって言ったって、これだけ規模が大きくなると色々面倒
じゃん。どっかと戦争する? 久々に?﹂
けけっ、とシンバが笑った。シンバはDJ崩れのようなスタイル
をしたチビだ。﹃XTAL﹄にはイロモノのアバターを選ぶ面子が
多い。
﹁戦争するにしても、アラビーいないと士気さがるべ。⋮⋮ところ
でアラビー、冒険に出るのはいいけど、レベルとかやばくないの?﹂
その質問に答えたのはアラビー本人ではなく、横にいた獣人で一
角ツノがチャームポイントのユーサマンであった。
﹁なぁに、アイテムと金の力だけで無双っしょ。御大臣の場合﹂
それもそうか、と周囲は納得する。アラビーは最近このゲームを
クリアしたので、今まで培ってきたレベルや転職で加算されるステ
ータスボーナスが全てリセットされている。だが、アイテムと金は
クリア前に預け、クリア後に受け取ることで保持しているはずだっ
た。
使用することでスキルを習得できる﹃スキルカード﹄もアイテム
に含まれているので、実質上スキルも持越したのと同じである。レ
ア装備、レアアイテム、レアスキルに莫大な所持金があればレベル
リセットもよっぽどの局面では無い限り、脅威ではない。
﹁でもさ、ほら、アラビーの場合、これを機に報復に来る奴らもい
るかもしんないし。気を付けなよ﹂
﹁あぁ。分かってる﹂
アラビーは軽く答えた。だが忠告は的を射ている。実際街を出る
1095
場合に一番気がかりなのはそれであった。今まで恨まれるようなこ
とをしてきたのが悪いとはいえ、面倒には変わりない。
特に、女ばかりのギルド﹃クインツ﹄に所属している女権論者た
ちが鬱陶しいのであった。女性に悪さをした男性プレイヤへの報復
を生きがいとしているような集団である。しかもそれが代理報復で、
やっていることは結局プレイヤーキラーなのだから、もはや趣味の
領域とも呼べる。
その中には特にアラビーをつけ狙って長年病的に陰湿に付きまと
ってくる者もいた。﹃クインツ﹄に所属しているプレイヤは軒並み
実力者なので性質が悪い。
ホームであるドッグベルの中にいれば安全だが、外に出れば必ず
粉をかけられるだろう。相手の強さにもよるが、アラビー単独で迎
え撃つにあたってはいくら装備品が良くてもレベルがリセットされ
ていれば弱みになる。
﹁ところで、ぶっちゃけ、何で急に街を出る気になったんだ?﹂
誰もが気になっていた事を口火を切って尋ねたのはニケであった。
﹁あ?﹂
﹁何か理由があるんだろ?﹂
﹁あー⋮⋮。あぁ。まぁ、あると言えばあるが、無ぇといえば無ぇ。
大したことじゃねぇよ﹂
アラビーは今まで何度か聞かれた時と同じように適当にかわした。
﹁ふーん⋮⋮。まぁ、しがらみが増えてくりゃ、放り投げたくなる
のは人情だわな﹂
﹁そういうんじゃねぇよ﹂
﹁じゃあ、なんだ。マジで傷心の旅に出るんか?﹂
1096
ニケのずけずけとした物言いに周囲が苦笑する。ここに集まった
人間は今更遠慮するような仲でもなかったが、こればかりは殊にナ
イーブな話題であった。誰にでも気遣いと言う物はある。
﹁は。傷心ねぇ⋮⋮。くだらねー事言うヤツもいるよな。俺が花嫁
に逃げられたから泣きながら逃げ出すって思ってるってことか﹂
アラビーはイモリの尾を口の片方で噛み千切った。
﹁いやいや、そりゃ、俺らはそんなこと思ってねぇよ。でもな、今
回一人で出て行くのにこだわるってことは、そういう事かと思うや
ん? そうじゃないんだったら俺らも連れてってくれりゃいいやん
か﹂
アラビーが街を出ると言った時に引き留める人間は多かった。だ
が、引き留めない代わりに着いていくと言った人間も同数ほどいた。
ニケは後者であった。むしろ当然のように一緒に行くものだと思っ
ていたので、そうでないと知った時には裏切られた様な気にすらな
ったものであった。
﹁俺はさ、あんたが冒険に出るのも街を出るのも止める気はないよ。
だけど、なんで、一人で行く必要があるのか、っつーとこを、それ
だけはハッキリさせてほしいわけ﹂
たった一杯で絡み酒になっている。というより、今日この場でこ
れを言いたかったのである。
﹁やっぱ、リリスちゃんの事と関係があんの?﹂
1097
その名が出た途端、場が一瞬ひやりとした。だが、止める者はい
なかった。まさにそれこそ誰もが尋ねたかったことだったし、それ
を聞けるとしたらニケくらいであると期待もしていたのだった。
﹁うっせー。お前こそ、キマイラとどうなんだ﹂
意外な所を切り替えされてニケは言葉に詰まった。そこに隣のテ
ーブルから出張して来ていたミゼイヤが割入った。
﹁え? キマイラ? まさかニケ、あの女とできてるんですか? まさかですよね?﹂
ミゼイヤは大げさに悪い冗談を聞いた時のような反応をした。神
職の法衣をまとった美形青年だが、中身は黒い。過去成してきた実
績を見ればアラビー、ニケと並ぶかそれ以上の極悪人に分類される。
﹁まっ⋮⋮まさか、俺があんな淫乱とできとるわけねーだろが。冗
談もたいがいにしとかなかんて﹂
訛りを濃くしてニケが否定する。
﹁ですよね。あんな使い古し﹂
﹁おう。そうだっちゅーの﹂
﹁あんな便所女、病気がうつりそうで近づくのも御免ですよね。買
う奴の気がしれない﹂
お綺麗な顔から出てくる毒舌にニケの表情が曇る。もちろんこの
世界に性病なんて誰の得にもなら無い設定は存在しない。
アラビーはヤサにしていた酒場﹃しわ花街﹄の経営権をニケに引
1098
き継いだ。だが、この店のママとなって実質上の切り盛りすること
になったのは売春婦のキマイラだった。毎日ログインしてひたすら
売春だけでレベルを上げ続けている強者である。噂では﹃娼婦﹄職
を極めた者しか入手できない超レアスキルを有していると囁かれて
いる。ちなみに当人はギルメンでは無いので今日この場には来てい
なかった。
ニケが撃沈したのを肴にアラビーはグラスを干した。そのグラス
を指してフェンデルが尋ねた。
﹁アラビーさん、次どうします﹂
﹁タール﹂
﹁はい﹂
タール酒はコールタールのような色と癖のある匂いが特徴である。
﹁で、アラビーは何で街を出る気になったんですか?﹂
ミゼイヤがにっこり笑う。話を変える方向に助け船を出したよう
に見せて、再度回り込むやり方であった。何気なく周囲のメンバも
耳を傾けて待っている。実の所、マメに酒の注文を聞きに来るフェ
ンデルの幹事ぶりさえも、アラビーを酔わせて口を開かせようとす
る策略であった。
全包囲網にあって立場は劣勢である。言い逃れを許さぬ雰囲気に
アラビーは内心で肩を落とした。
﹁あのなぁ⋮⋮お前らなぁ⋮⋮。今から俺が何を言っても、どうせ、
言い訳だと思うヤツもいるだろ。そーれが嫌なんだよ。ったく。そ
れくらいだったら、花嫁に捨てられた情けない男が恥ずかしさのあ
まり逃げた、と思ってくれた方が⋮⋮マシだ﹂
﹁恰好つけんなって。それが真相だなんて、ここにいる連中、誰も
1099
思っとらんて。だいたい、あんた、元々そんな二枚目キャラじゃな
いやん﹂
﹁お前もな﹂
アラビーとニケの掛け合いにミゼイヤも乗ってくる。
﹁僕もですよ﹂
﹁お前の場合は見た目だけ良くて、中身が酷い﹂
互いの評価に、誰も否定はしなかった。
確かに﹁花嫁に逃げられた男﹂などと言う不名誉なレッテルを貼
られては裏組織の元締めとして箔がつかない。が、アラビーが街を
出る事に決めたのはそれが理由では無かった。
組織を率いる以上周囲の手前体面にこだわる事もあるが、本気で
執着したことは無い。外面にこだわるのはリーダーに祭り上げられ
た案山子としての自分だけで十分である。この世界を楽しむいちプ
レイヤとしての自分としてはクソくらえ、であった。
アラビーは運ばれてきた黒いオイルのような酒を少し舐め、グラ
スを置いて言った。
﹁約束したんだよ﹂
一拍の無言があり、ミゼイヤが﹁え?﹂と聞き返した。
どことなく恰好つけているようで格好悪い。否、正真正銘の愚者
であるとさえ思った。アラビーは無表情を繕いながら、内心で深い
ため息をついた。
︱︱︱︱︱︱⋮⋮きなら⋮⋮きっと、探して⋮⋮見つけて
1100
耳の奥にその時聞いた声が残っている。
︱︱︱︱︱︱この世界は狭くて広い⋮⋮
会話のアーカイブには全文が残っている筈だが、それを開く必要
が無いほど鮮明に記憶に残っている。この世界の記憶の曖昧さを理
解している筈なのに、その言葉だけはまるで、脳に灼きついてしま
ったようだった。
︱︱︱︱︱︱ねぇ。きっと見つけてよ。ボクを、リリスを⋮⋮
約束と言うより呪いに近くて、時折掻き毟りたくなる。今ではリ
リスの言葉、行動の全てが何も考えていない様に見えて、全ては計
算ずくだったんじゃないかと疑うほどだった。
花嫁は意味深な言葉を残して去ることで、無二の存在に昇華して
消えた。そこには手に入らない物こそ欲しい物であり続けると言う
矛盾に似た構図があった。
アラビーは指で机を叩いて言った。
﹁あの時、鐘の音が三度鳴った。一度は式の開始を報せる教会の音、
二度目は﹃王と女神の結婚﹄イベントクリアの音。三度目はなんだ
?﹂
﹁はぁ? 鐘の音? 三度目? そうだったか?﹂
﹁それが何か?﹂
﹁俺は、今まで知人のもの含めて﹃王と女神の結婚﹄イベントには
5回、立ち会ってきた。そのいずれも、鐘の音は2回までだった。
あの時、二度目と三度目の鐘の音はほとんど連続だったから分かり
にくかったが⋮⋮。だけど、お前らもあの場にいたなら聞いたはず
だ。いつもと違っただろう﹂
1101
﹁そう⋮⋮だった⋮⋮っけか?﹂
周囲が不思議そうに顔を見合わせる。その中の一人が言った。
﹁そう言えば、いつもより鐘の音が長い気がしたなぁ﹂
﹁それってゲームクリアの祝福の音じゃなくて?﹂
﹁ゲームクリアのファンファーレはエンディングムービーの後だ。
クリアした本人にしか聞けない﹂
﹁ちょっと待って! 私、持ってるよ。記録水晶!﹂
隅の席から声が上がった。結婚式当日の光景を記録した﹃記録水
晶﹄を持っている者がいたのである。女傑カチコと呼ばれる女プレ
イヤだった。カチコは小さな水晶の表面を指で操作し、映像を壁に
投影した。
それからしばらくの間飲み会は映写会になった。酒場の照明をで
きるだけ落として部屋を暗くし、皆で映像を眺めた。見覚えのある
関係者や有名プレイヤ達が顔を揃え、着飾って談笑しているパーテ
ィーの様子が再生される。
﹁もう少し先﹂
﹁うん。先送りするわ⋮⋮っと、行き過ぎた?﹂
﹁いや、まだ。あ、ここ、謎のペガサス登場のシーン﹂
﹁そういえば、これも不思議だったよな⋮⋮﹂
その出来事を知っている者達が頷き合う。結婚式の当日、披露宴
の途中で花嫁がペガサスに攫われるという不可思議な一幕があった
のだ。プレイヤーが飛翔する獣に騎乗するシステムはこの世界では
まだ確認されていない。
1102
﹁あ、ここ、ここ﹂
早送りした映像を止めて、通常モードで再生する。ちょうど、一
度目の鐘が鳴り終わったところであった。
カチコは披露宴には出席していたが、式には参列していなかった
ので、その映像内に新郎新婦は映っていない。庭で引き続き行われ
ていたパーティーの歓談の様子が続く。そこで確かに結婚式の最中
に鐘の音は二度鳴らされていた。過去の映像の中であったが、鐘は
荘厳に、神秘的に歌っていた。
アラビーの言を裏付けるには十分な物的証拠であった。場は水を
うったように静まり返った。
﹁⋮⋮つまり、これは? どういう事ですか?﹂
業を煮やしたミゼイヤが促すと、アラビーは一気に吐き捨てるよ
うに言った。
﹁俺も分かんねぇよ。けどな、俺は、あの時﹃王と女神の結婚﹄と
は別にもう一つのイベントがクリアされたんじゃねぇかと思ってる。
もしくは﹃王と女神の結婚﹄から派生する何らかのレアイベントが
起きたか、だ。ペガサスの件も関わってるかもしんねぇ。だから、
それが何だったのかを調べたいんだ。で、それってのが、リリスと
俺が個人的に交わした約束に関係してる⋮⋮と、予想している、っ
つー話だ。つまんねぇ﹂
﹃女神クロニクル﹄のゲームをクリアするための最高イベントが
﹃王と女神の結婚﹄である。そこから更に派生するレアイベントが
存在するとすれば、それは長らく多くのユーザーが追い求めている
﹃真のエンディング﹄への鍵となる可能性が高い。
ニケはごくりと唾を飲んだ。
1103
﹁おいおいおいおい⋮⋮つまんねーどころか⋮⋮﹂
﹁滅茶苦茶、面白いじゃん⋮⋮﹂
今や聴衆はアラビーの話に引き込まれていた。こうなった以上は、
このリーダーを一人で冒険に出すなんてもったいない事のように思
える。
﹁全然、一人で行く必要なんてないじゃねぇか。俺らも連れてって
くれよ﹂
﹁そうですよ。水臭い。っていうか、そんな話、何で黙ってたんで
すか。ズルいです﹂
ミゼイヤは身を乗り出した。一見眉唾に聞こえる推論だがそれが
街を出る本当の理由だとすれば、この友人はまだその確信に至る他
の鍵を持っているはずだと考えた。
﹁他にもまだ、何か隠しているでしょう。アラビー﹂
﹁さぁな﹂
﹁白状しませんか?﹂
﹁今はしない。やめろ、それは﹂
アラビーはミゼイヤの視線を手で遮った。ミゼイヤには相手の眼
を覗き込みながら尋問することで嘘を見抜く力がある。これはゲー
ムにおけるスキルでは無く、純然たるミゼイヤ個人の特技であった。
ゲームスキルでも無ければ現実の超能力の類でも無い為、完璧な
的中率でないが精度は高い。この特技ゆえにミゼイヤは周囲から一
目置かれ、また敬遠されている節がある。古い仲間からすれば変な
奴、の一言で片づけられていたが。
1104
﹁アラビーさん、次、何飲みますか﹂
﹁酔わせようとするのもやめろ、フェンデル﹂
﹁いいから、いいから。まぁ、飲め﹂
ニケがアラビーの肩に手を回して軽く叩いた。
この世界でも酒には酔う。酔いやすいプレイヤと酔いにくいプレ
イヤの差は現実世界での体質も大いに関わるが、最終的には気力が
勝負であると考えられていた。
アラビーは今度は大仰にため息をつき、度数の強いタール酒を一
気に喉に流し込んだ。
1105
episode︳extra: allaby︵後書き︶
蛇足かもしれませんが、せっかく時間かけて書いたのでこれはこれ
で楽しんでくれる方がいると良いなと思います。ではまた︵^^︶
しんやさく拝
1106
PDF小説ネット発足にあたって
http://novel18.syosetu.com/n9690bo/
イン・女神クロニクル
2016年7月8日01時50分発行
ット発の縦書き小説を思う存分、堪能してください。
たんのう
公開できるようにしたのがこのPDF小説ネットです。インターネ
うとしています。そんな中、誰もが簡単にPDF形式の小説を作成、
など一部を除きインターネット関連=横書きという考えが定着しよ
行し、最近では横書きの書籍も誕生しており、既存書籍の電子出版
小説家になろうの子サイトとして誕生しました。ケータイ小説が流
ビ対応の縦書き小説をインターネット上で配布するという目的の基、
PDF小説ネット︵現、タテ書き小説ネット︶は2007年、ル
この小説の詳細については以下のURLをご覧ください。
1107
Fly UP