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1 はじめに 2 地形曲面のフラクタル構造と統計
自然・社会科学におけるフラクタル構造と統計に関する研究 The Study of Fractal Structure and Statistics in Natural and Social Sciences 物理学専攻 佐々木 陽 SASAKI Yo はじめに 1 得る。このプロセスを異なるグリッド数 (システムサイ 本研究では大きく分けて以下の二つの研究テーマを 扱った。一方は地形曲面に見られるフラクタル性に関 ズ)256 × 256, 512 × 512, 1024 × 1024 で行い、検証を 行う。フラクタル次元の算出にはボックスカウント法 を用いる。 する研究である [1]。地形曲面の山並みを自己アフィン フラクタルであるとみなすことで、Matsushita らは以 下のスケーリング関係式が成り立つということを示し た [2] [3]。 2.1.2 結果 結果は図 1(a)、(b)、図 2 となり、図 1(a) より (1) 式 De = 2 − H Dc = 2 (1 + H) ζ= De 2 (1) のスケーリング関係はシステムサイズに依存してよく 成り立つことが示せた。(2) 式に関しては図 1(b) より、 (2) H が反持続性を持つ領域ではシステムサイズの増加に つれて理論値に近い結果となることがわかる。一方で、 H が持続性を持つ領域ではシステムサイズには独立に 理論値から特徴的に外れる結果となった。(3) 式に関し (3) ここで De をその地形の等高線図全体のフラクタル次 元、Dc をその等高線図中の一本の等高線のフラクタル 次元、ζ を等高線図中の島のサイズ分布のべき指数、H ては図 2 において (b) が一番理論値と近くなったこと から、画像表現の解像度とシステムサイズを考慮すれ ばよく成り立つことがわかった。 (a) をその地形の山並みの起伏を特徴付けるハースト指数 とする。本研究では、この先行研究結果をより細かい コンピュータシミュレーション及び実際の地形を用い て検証することを目的とする。 もう一方は人口等の特徴的分布に関する研究であ る [4]。人口は人間の集団的行動を特徴付ける代表的 指標である。政治的・経済的にもその研究は重要であ り、学際領域として様々な分野から行われている。し かし一方で、人口の形成には様々な要素 (政治、経済、 (b) 宗教、災害、地理条件・ ・ ・) が関わっているため、人口 は非常に複雑な現象であるといえる。よって本研究で は、人口の地域分布に着目することで、日本における 人口の特性を調べることを目的とする。 地形曲面のフラクタル構造と統計 2 2.1 2.1.1 シミュレーションによる検証 方法 中点変位法を用いてコンピュータ上に H を指定した 地形曲面を発生させ、各 H ごとに 20 枚の等高線図を 図 1: (a)、(b) はそれぞれ De 、Dc と指定した H の関係 をシステムサイズ毎に ○ : 256 × 256、△ : 512 × 512、 □ : 1024 × 1024 と示している。実線と破線はそれぞれ De = 2 − H 、Dc = 2/(1 + H) である。 2.2 実際の地形による検証 (a) 実際の地形には長崎県の九十九島地域の海岸線を用 いる (図 3)。そして特徴の局地性を調べるためにその 地域を北九十九島と南九十九島に分けた場合も調べる。 表 1 に図 3 の全体図と最長の海岸線のフラクタル次 元を求めた結果と、そこから得られた H の値、島のサ イズ分布のべき指数をまとめた。北、南、全体の九十九 島の海岸線図から得られたフラクタル次元 De 及び Dc (b) は各々非常に近い値となる。これは明らかにこの地域 の地形のフラクタル的特徴を示している。さらに、三 つの図から得られた De 、Dc の値から計算された H の 値は各々近い値となる。 図 4 にこの地域における島のサイズ分布の結果を示 す。図中の実線は九十九島全体図のフラクタル次元 De から (3) 式を用いて得られた ζ の値 (0.72) を用いて引 き、破線は分布の全体の傾向にあわせて引いた。その べき指数は 0.60 であり、De から求めた値とは若干異 (c) なる。しかし、サイズ分布は確かにべき分布に従うと いうことがわかる。 日本の人口の特徴的分布の研究 3 3.1 方法 データは総務省統計局 HP など web 上のものを使用 し、各データの累積個数分布を扱う。また、フィッティ ングには累積分布形の対数正規分布 N (x) を用いる。 ¸¶ µ · NT ln(x/T ) √ N (x) = , (4) 1 − erf 2 2σ ここで NT 、σ 、T はそれぞれサンプル総数、分散、平 均を意味する。erf(z) は誤差関数である。 3.2 図 2: 得られた ζ から Hc = 2 − 2ζ を用いて計算された Hc と指定した H の値との関係。(a)、(b)、(c) はそれぞ れシステムサイズ 256 × 256、512 × 512、1024 × 1024 の 場合の結果である。また、参考として Hr = 2 − De も あわせてプロットしてある。ここで、Hr : ○、Hc : □ としてプロットしてある。 NL + 2 都道府県人口分布 都道府県人口分布を年代別に調べることにより興味 深い結果を得た。1945 年の都道府県人口分布は対数 正規分布によってフィットされる (図 5) が、その後経 済成長を遂げた 2003 年の人口分布では 2-lognormal distributionN2 (x) でフィットされる (図 6)。すなわち 経済発展によって生じた地方の過疎化と都市部の過密 à 1 − erf à log(x/TL ) p 2 2σL !! . (5) ここでフィッティングパラメータは NS , TS , σS がぞれぞ れ small group の総数、平均、分散であり、NL , TL , σL がそれぞれ large group の総数、平均、分散である。 3.3 市町村人口分布 化という日本の人口構造の特徴を分布からも読み取る ことができる。ここで N2 (x) は以下の式で与えられる。 à à !! log(x/TS ) NS p 1 − erf N2 (x) = 2 2σS2 日本の各市・町・村の人口分布を見れば、それぞれ、 べき分布、裾で落ち込む対数正規分布、対数正規分布 を示すことがわかった。図 7 に示した町の場合の分布 から、裾での落ち込みが市への昇格によるものである 図 6: 2003 年の 47 都道府県人口分布。実線は 2- lognormal distribution であり、フィッティングパラメー タは NS = 37, TS = 1480, σS = 0.44、NL = 10, TL = 6780, σL = 0.32 である。 図 3: 長崎県九十九島海岸の島を含んだ等高線図。 図 7: 2005 年の 1178 町の人口分布。実線は対数正規 図 4: 九十九島地域の島のサイズの累積個数分布。 分布であり、フィッティングパラメータは NT = 1178、 T = 1.1 × 104 、σ = 0.73 である。破線は町から市への 昇格の条件である人口 50,000 を表す。 3.4 モデル説明 最初にそれぞれ市、町、村に相当するサイトを 1000 用意する。それらサイトに居住者数として初期値 1 を 与える。移住のルールは以下のようになる。まず人口 移動元となるサイト i をランダムに決定する。ここで 図 5: 1945 年の 46 都道府県人口分布。実線は対数正 移住パラメータ α を導入する。α は選ばれたサイトか 規分布であり、フィッティングパラメータはそれぞれ ら、そのサイトよりも小さい居住者数を持つサイト群 NT = 46、T = 1430、σ = 0.5 である。沖縄県は含ま れていない。 へ移住が起こる確率を与える。確率 α で選ばれたサイ ト群の中から、人口移動先としてのサイト j をランダ ムに決定する。次にサイト i から居住者数の Pij %を サイト j へ移動する。ここで Pij は 0~90 の範囲でラ ことが明確にわかる。我々は各市町村の昇格に伴う人 ンダムに決定する。この基本プロセスを 10000 回繰り 口条件が、市にとっての下限、町にとっての下限と上 返し、1 サンプルとする。 限として作用し、こうした特徴的分布が導かれたと考 ここで、下限と上限をモデルにどう導入するかを説 えた。それを確かめるために単純な人口移住モデルを 明する。上限と下限は平均 Tn 、分散 σn の正規乱数で 作成し、検証を行った。 各基本プロセスごとに与えられる。シミュレーション プロセスにおいて、サイトの居住者数が上限を超えた 場合、そのサイトの居住者数は 0 から 1 の一様乱数に よる値で置き換えられる。これは町から市への昇格に 表 1: 九十九島地域の海岸線図のフラクタル解析結果 Area 北九十九島 南九十九島 九十九島 続いて、村から町への昇格が起こったことに相当する。 De 1.427 1.436 1.440 例えば、もしある町が市へ昇格したならば、その町は Dc 1.257 0.573 0.591 1.295 0.564 0.544 1.282 0.560 0.560 0.714 0.718 0.720 町のグループから除外される。一方で、下限を導入し た場合は、サイトの居住者数が下限を下回らないよう に基本プロセスを 10000 回繰り返す。 H from De H from Dc ζ サンプル平均のため、100 サンプルの結果を平均し、 最終的な分布を得る。これらのことを下限のある場合、 上限と下限のある場合、上限も下限もない場合のそれ ぞれについて、別々に行う。 析をより容易にするであろうと思われる。 人口分布に関する研究では、都道府県人口分布から 終戦直後の先祖帰りと、その後の経済成長と共に発生 した地方での過疎化、そして都市部での人口過密化と 3.5 モデル結果 いう人口構造の二層化の問題が読み取れることを示し た。さらに、日本の市・町・村の人口分布がそれぞれ べき分布、裾で落ち込む対数正規分布、対数正規分布 でフィットされることを示した。この町の人口分布にお ける裾での落ち込みは明らかに町から市になるための 昇格条件によるものであると考えられた。そこで、各 市・町・村の特徴的人口分布が各市・町・村の昇格条 件によってもたらされているという想定の下、実際の 各市・町・村の人口分布を再現できる人口移住モデル を作成した。すなわち、各市・町・村の特徴的人口分 布は各市・町・村の人口条件に強い影響を受けている と考えられる。 図 8: 上限と下限を設定したモデルによる人口分布。 図 8 の分布は Tn = 2.0、σn = 0.2 の上限と Tn = 0.7 × 10−4 、σn = 0.3 × 10−4 の下限を設定して発生さ せた分布である。この場合、分布の裾では外れるが、大 部分が NT = 1000、T = 2.2 × 10−3 、σ = 2.9 の対数 正規分布によってフィットされる。その分布は図 7 の 実際の町の人口分布の特徴を再現した分布となる。 4 まとめと結論 地形曲面に関する研究ではコンピュータシミュレー ションによって発生させた地形と実際の地形の水平断 面図 (等高線図) において (1), (2), (3) 式が成り立つこ とを示した。但し、コンピュータシミュレーションの 場合は各式の妥当性はシステムサイズに依存し、実際 の地形の場合は必然的に海岸浸食や沿岸開発による阻 害影響を含む。水平断面図においてこれらスケーリン グ関係式から計算された H の値はその三次元界面の起 伏特性を表す。つまりこの方法は三次元起伏特性の解 参考文献 [1] Y. Sasaki, N. Kobayashi, S. Ouchi and M. Matsushita: J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 074804. [2] M. Matsushita, S. Ouchi, K. Honda: J. Phys. Soc. Jpn. 60 (1991) 2109. [3] S. Isogami and M. Matsushita: J. Phys. Soc. Jpn. 61 (1992) 1445. [4] Y. Sasaki, H. Kuninaka, N. Kobayashi and M. Matsushita: submitted to J. Phys. Soc. Jpn.