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中国における地方政府の債務問題

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中国における地方政府の債務問題
 中国動向
中国における地方政府の債務問題
─ 地方融資平台会社向け貸し出しの不良債権化とそのインパクト ─
今年6月、中国の地方政府が、2010年末時点でGDPの約27%に相当する債務を有し
ていることが判明した。この債務は、主に地方政府傘下の投資会社(「地方融資平台会
社」、以下「融資平台」)によるもので、返済難が指摘されている。この融資平台向け貸し
出しの不良債権化問題は、中国経済を大きくつまずかせることになるのだろうか。
2011年6月、中国国家審計署(日本の会計検査院に
相当)が、地方政府の債務に関する監査結果を公表し
た。これによれば、地方政府がなんらかの形で返済責
任を負う債務残高は、2010 年末時点で 10.7 兆元(約
130兆円)で、対GDP比で約27%に相当する規模であ
る。そして、そのうち約半分にあたる4.97兆元が融資
平台を通じた借り入れとなっている。
リスク要因として注目高まる融資平台
融資平台は、地方政府が公共事業実施を目的とし
て、財政資金や土地使用権などで出資して設立した
法人である。2010 年末で 6,576 社あるとされている。
中国では、地方政府が担当する事務にかかる支出に
対して財政収入が不足しているケースが多い。しか
も、地方債発行が禁止されているなど、財源不足を
補うための資金調達に制約が多い。このため地方政
府は、こうした融資平台に代表される別法人を設立
し、銀行融資や債券発行等により資金を調達させる
形で、公共事業を行ってきた(図表 1)。とくに、2008
年末からいわゆる 4 兆元の景気対策が実施された際
に、地方政府が多くの負担を求められたことから融
資平台の果たす役割が大きくなり、その債務が急増
したとみられている。
その債務が、これから本格的な返済ラッシュを
迎える。審計署の監査結果によれば、2011 年および
2012 年が返済期限となっている地方政府債務は総
残高の約 4 割となっている。しかし、この融資平台に
関しては、放漫な運営、
地方政府の違法な担保差し入
れ、一部銀行のリスク意識の低さや融資平台向け貸
し出しの管理不足等の問題が指摘されており、多く
の不良債権が発生すると懸念されている。
経済への影響は限定的なものにとどまる
見通し
では、融資平台に係る貸し出しのうちどの程度が
銀行の不良債権となり、経済にどの程度の影響を及
ぼす恐れがあるのだろうか。
まず、融資平台の債務 4.97 兆元のうち不良化の恐
れがある銀行借り入れの規模について試算をする。
審計署の監査結果を参考にし、債務に占める銀行貸
し出しの比率が 79%、債務の不良化率が 26.4%と仮
●図表1 地方融資平台会社の仕組み
地方融資平台会社による
返済が不能な場合、
返済、
償還の責任あり
地方政府
・財政資金割り当て
・土地、
株保有権等の資産注入
・銀行の融資
・債券投資、
など
地方融資平台会社
銀行など金融機関
返済、
償還
資金投融資
プロジェクト収益
公共プロジェクト
・都市整備
・交通インフラ整備、
運営、
など
(資料)中国国務院「地方政府融資平台会社の管理強化に係る問題に関する通知」
などにより作成
11
中国動向
(注1)
定 すると、融資平台に関して発生する不良債権の
規模は、1兆300億元程度になると推計できる。
この数値をもとに商業銀行の不良債権の増加の程
(注 2)
度を推計 すると、商業銀行の不良債権残高、不良
債権比率(ともに 2011 年 6 月末時点)、不良債権の対
GDP比(2010年末時点)は、4,229億元、
1.0%、
0.9%か
ら、それぞれ 1 兆 4,559 億元に増加、3.4%、3.7%に上
昇する。ただし、この水準は、不良債権比率が 20%を
上回るほどに問題が深刻であった 1990 年末∼ 2000
年代前半と比べて相当低い(図表2)。
同様に、商業銀行の中核的自己資本比率の変動を
(注 3)
推計
すると、貸し倒れ引当金の積み増しによる
損失の発生と、それに伴う自己資本の減少により、
2011 年 6 月末時点の 9.9%から 8.8%へ低下する。た
だ、それでもバーゼルⅢで要求されている水準の
8%より高い水準にある。
不良債権問題が深刻化した 90 年代末以降、資産管
理会社設立による不良債権切り離しや資本注入など
中央政府による様々な措置が採られたが、今回発生
すると見込まれる負担は銀行自身でも処理が可能だ
ろう。
以上より、今般問題視されている融資平台の債務
不良化が、商業銀行の財務状況の大幅な悪化やそれ
●図表2 不良債権関連指標の推移および推計値
(10億元)
(%)
25
不良債権比率(右目盛)
不良債権残高対GDP比
(右目盛)
不良債権残高(左目盛)
20
2,500
15
2,000
10
1,500
5
1,000
0
500
0
2002 03
04
05
06
07
08
09
10
に伴う信用収縮を招き、経済成長を失速させる可能
性は小さいと考えられる。
ただし、一定の影響は予想される。例えば、中央政
府は融資平台に関する債務の管理を強化する方針
で、銀行に対しては新規プロジェクトへの貸し出し
の厳格化や、返済期限の延長、債務の借り換えの禁止
などの対策を採るとの見解を示している(低所得者
向けの住宅である「保障性住宅」など重要なプロジェ
クトは、対象から除外される模様)。このほか、融資平
台の整理統合やプロジェクトの見直しなども強化す
るとみられる。これら一連の措置が、予定されていた
投資の延期または中止を招くことで、現在の中国経
済の成長をけん引している投資の押し下げ圧力とな
る可能性もないとはいえない。
また、地方政府は、融資平台による債務以外にも返
済責任を負う債務を抱えているほか、一部では審計
署の監査内容に脱漏があるとの指摘もある。このた
め、地方政府が抱えている債務の正確な規模につい
ては、今後の情報にも注視が必要だろう。
求められる財政の改革と規律化
融資平台による債務とその不良化に関する今次の
問題は、中央−地方政府間での財源と担当事務の分
担のバランス失調に起因する地方政府の財政難や、
地方政府の財政規律の弱さなどにあると言える。
上で見たとおり、当面の経済成長には大きなリス
クにならないと予想されるが、もし中央政府の取り
組みが短期的な不良債権処理だけにとどまり、この
構造的な矛盾の解消を先延ばしにしてしまえば、将
来的に同様の問題が発生する可能性もありうる。
現在検討されている地方政府による地方債の発行
許可といった地方政府の収入構造の柔軟性を高める
取り組みのほか、中央−地方間での行政・財政改革や
財政の規律化、透明化といった構造改革にまでつな
げていけるかが、中国経済の先行きに関するひとつ
の試金石になるだろう。
(年)推計
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(注)1. 2004年までは国有商業銀行及び株式制商業銀行が対象、
2005年以降は
これに加え都市商業銀行、農村商業銀行、外資系銀行も対象。
2. 2011年の不良債権残高および不良債権比率は、
同年6月末時点の値。
2011年の不良債権残高対GDP比は、
2010年末時点の値で据え置き。
(資料)CEIC、
中国国家審計署
「全国地方政府性債務監査結果」
により作成
みずほ総合研究所 アジア調査部中国室
研究員 三浦祐介
[email protected]
(注1)この銀行貸し出しの比率(79%)は、地方政府債務残高全体に占める銀行貸し出しの比率が、融資平台にも同様に当てはまると仮定し、適用している。ま
た、債務の不良化率(26.4%)は、融資平台6,575社のうち損失が発生すると報告されている平台の数を、債務残高にも適用している。
(注2)不良債権化した融資平台の債務全額が、地方政府が返済できずに銀行側の負担になるものと想定している。
(注3)2011年6月末時点における貸し倒れ引当金で不足する分を積み増すものと想定して推計した。なお、一部報道に基づき、不良債権額の2倍もの貸し倒れ引
当金を積むという厳しい仮定を置いている。
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