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第3章 - 東京都環境局

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第3章 - 東京都環境局
第3章 持続可能性の危機に挑む世界の都市の挑戦
1
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
アメリカでは、連邦政府が京都議定書の批准を
ンフランシスコ、ボストンなど全米の 212 市が
拒むなど、地球温暖化対策に消極的な姿勢をとり
調印しており、これらの市の人口を合計すると
続けているのに対し、議定書の発効に前後して、
4,300 万人に達する(図表 3-1-1)。
地方政府レベルでの地球温暖化対策が活発化して
きている。
州政府レベルでも積極的な取組が始まってい
る。特に西海岸、東海岸に位置する州では、温室
2005 年6月には、全米市長会が京都議定書の
効果ガスの削減に向けた世界的にも先端的な施策
目標達成に向けた協定を成立させた。協定の内容
が次々に開始されている。これらの州レベルの施
は、本来、アメリカが京都議定書で国際社会に約
策の特徴は、アメリカにおいて主要な温室効果ガ
束するはずだった、2012 年までに温室効果ガス
ス発生源と考えられている自動車と発電所などを
を 1990 年比で7%削減するという目標を、調印
対象としていることである。また、再生可能エネ
した各市が自らの地域で実現することを目指すと
ルギーの導入についても、新たな施策が展開され
ともに、連邦政府と州政府に対し、温室効果ガス
つつある。以下では、これらの取組の中で、全米
の削減対策の実施を求めるものである。
最大の経済圏であるカリフォルニア州の試みと、
この協定には、2006 年3月の時点で、シアト
ル、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、サ
2 世界の
都市を
比較する
3 持続可能
性の危機
に挑む世
界の都市
の挑戦
4 東京の挑戦
資料
ニューヨーク州を始めとする北東部7州の広域的
な取組を紹介する。
図表 3-1-1 全米市長気候変動保全協定に署名した市
(資料)シアトル市ホームページより作成 http://www.seattle.gov/mayor/climate/
19
1
カリフォルニア州の挑戦
カリフォルニア州では、1980 年代の終わりか
ら地球温暖化問題への取組が始まっていたが、こ
こ数年、自動車の CO 2対策、再生可能エネルギー
の供給拡大などに関し、注目すべき先駆的な施策
を開始されてきている。
カリフォルニア州の温室効果ガス削減目標
カリフォルニア州は、2005 年6月、州全体で
の温室効果ガスの削減目標を決定した。それは図
図表 3-1-2 カリフォルニア州の温室効果ガス削減目標
表 3-1-2 のとおり、最終的には 2050 年までに
1990 年レベルから 80%削減するという意欲的
なものである。この目標を達成するため、州環境
保護庁を中心とする「クライメート・アクション・
チーム」が設置され、様々な施策の検討が行われ
ているが、2005 年 12 月に公表されたこのチー
ムの報告書草案は、カリフォルニア州の温暖化対
策の基本的なスタンスについて次のように述べて
いる。
( 資 料 )Climate Action Team Report to the Governor and Legislature
Draft For Public Review CALIFORNIA ENVIRONMENTAL
PROTECTION AGENCY, December 8, 2005
「気候変動は現代における最も手ごわい挑戦の
一つであると、世界中の科学者によって広く認識
されている。温室効果ガスを削減し安定化させ、
図表 3-1-3 カリフォルニア州の気温上昇の予測
コミュニティが気候変動によって生ずる影響に
うまく適応できるようにするためには、予防的で
かつ積極的な施策を採用していかなければならな
い。
カリフォルニアは世界において 12 番目に大き
な温室効果ガスの発生源であり、ほとんどの国の
排出量を上回っている。カリフォルニアが温暖化
を引き起こす大きな要因になっているということ
だけでなく、公害と環境問題に挑戦するリーダー
として世界中に知られている点からも、カリフォ
ルニアにおいて採用される政策は、大きな変化を
もたらすものである。」
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の排出シナリオ(SR
ES)を基に、カリフォルニアの気温上昇予測を見てみると、21
世紀にかけて、気温は著しく上昇する。温室効果ガスの低レベル排
出シナリオにおいては、約 1.5℃、中レベル排出シナリオにおいて
は約 4.5℃、高レベル排出シナリオにおいては、約 5.8℃の気温上
昇となった。
※ 1970 年から 2100 年におけるカリフォルニアの年平均気温の変化
(1971 年から 2000 年までの平均気温との比較。15 年移動平均)
(資料)図表 3-1-2 参照
20
自動車からの CO2 削減
カリフォルニア州は、これまでも自動車排出ガ
規制を認めるよう求めているが、連邦政府の判断
はまだ出ていない。このため 2009 年の規制実施ま
での見通しは、
まだ完全には明確になっていない。
ス対策において全米で最先端の規制を展開して
しかし、西海岸、東海岸の多くの州が、これま
きた。温室効果ガスの削減に関しても、2002 年
でのカリフォルニア州の排出ガス規制と同様に、
7月に温室効果ガス削減を目標とした世界初の自
この温室効果ガス排出規制も採用しつつある。西
動車排出ガス規制法を成立させている。温暖化防
海岸では、オレゴン州とワシントン州が採用した
止に関して、自動車排出ガス対策が重視される背
ことにより、カナダ国境からメキシコ国境まで西
景には、カリフォルニア州の温室効果ガス発生量
海岸全てでこの規制が適用される。一方、東海岸
に占める自動車のウエイトの大きさがある。図表
では、2006 年2月までにニューヨーク、コネチ
3-1-4 に見るように、運輸部門が全体の4割以上
カット、ニュージャージー、マサチューセッツ、
を占めているが、その3分の2は自家用車に起因
バーモント、メーンの各州が採用しており、更に
すると推計されている。
他の州にも広がる動きがある。
法の規定自体は、自動車からの温室効果ガスを
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界の都市
の挑戦
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アメリカは、年間自動車販売台数が約 1700 万
台に達する世界最大の市場であり、第2位の日本
規制を 2005 年1月1日までに採用することを、
市場の3倍近い規模がある。カリフォルニア発の
州政府の大気資源委員会(CARB)に指示する
温室効果ガス排出規制を採用した東西両海岸の州
という簡潔なものであるが、CARBは、これを受
は、全米の自動車マーケットの3分の1のシェア
けて 2004 年9月に具体的な規制内容を決定した。
を有しているので、結局、この規制は、既に日本
され、自動車メーカーごとに図表 3-1-5 に示す
2 世界の
都市を
比較する
資料
対象とし、「実施可能な最大限の削減を達成する」
この規制は 2009 年から販売される新車に適用
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
全体と同じ規模の市場をカバーしていることにな
り、その影響力の大きさがわかる。
規制値の達成を求めるものである。対象になるの
は、乗用車と貨物車であり、規制値は 2016 年ま
図表 3-1-4 カリフォルニア州の分野別温室効果ガス排出量
(2002 年)
でに段階的に強化される。CARBは、この規制
その他
8.4%
の実施により 2002 年に販売された自動車に比
べ、2012 年には約 22%、2016 年には約 30%
の温室効果ガスが削減されると推計している。
発電
19.6%
カリフォルニア州が自動車排出ガス対策で果た
運輸
41.2%
産業
22.8%
してきた先駆的な役割を踏まえ、アメリカの大
気浄化法は、カリフォルニア州に独自の排出ガス
農業&林業 (資料)図表 3-1-2 参照
8.0%
規制を実施する権限を認めるとともに、全米の各
州は、連邦政府の定める排出ガス規制とカリフォ
ルニア州の排出ガス規制のどちらを採用してもよ
い、という特別の規定を設けており、実際にも多く
図表 3-1-5 カリフォルニア州の自動車温室効果ガス排出規制値
年
gCO2/km
の州がカリフォルニア州の基準を採用してきた。
(1.701kg 以下)
(3.856kg 以下)
今回のカリフォルニア州の規制に関しては、全
米自動車工業会などが、この規制は排出ガス規制
ではなく燃費規制であり、カリフォルニア州には独
自の燃費規制を行う権限は無いとして訴訟を提起
している。また、カリフォルニア州は連邦政府に
対し、今回の温室効果ガス規制についても、通常
の排出ガス規制のようにカリフォルニア州の独自
*マイル当たりの規制値をキロメートル当たりに換算した。
(資料)REPORT TO THE LEGISLATURE AND THE GOVERNOR ON REGULATIONS
TO CONTROL GREENHOUSE GAS EMISSIONS FROM MOTOR VEHICLES
21
再生可能エネルギーの拡大
カリフォルニア州の代表的な民間電力会社である
サザンカリフォルニアエディソン(SCE)社は、
カリフォルニア州の温暖化対策で、もう一つ注
2004 年の段階で、既に全販売電力の 18.2%を
目すべきなのは、積極的な再生可能エネルギーの
再生可能エネルギーで調達しているなど、主要な
導入策である。現在においても、カリフォルニア
民間電力会社(IOU s)については、前倒しさ
州の電力供給における再生可能エネルギーの割合
れた目標の達成に向けて順調に進んでいると評価
は、大規模水力発電を除いても図表 3-1-6 に見
されている。しかし一方では、自治体などが経営
るように、地熱、バイオマス、風力などの活用に
する電力会社(POU s)の取組の遅れも目立っ
より 10%を超えているが、カリフォルニア州は、
ており、制度見直しの必要性も指摘されている。
更に、風力発電や太陽光発電の普及を大きく進め
ようとしている。
再生可能エネルギーの拡大をめざす施策の代表
的なものが、電力小売り事業者に再生可能エネル
図表 3-1-6 カリフォルニア州の電力構成(2004)
ギーの販売を義務づけるRPS制度である。これ
(GWh)
は、2002 年に成立した州法によって導入された
ものであり、州内の電力小売り事業者に再生可能
エネルギーの割合を毎年最低1%以上増加させ、
2017 年には 20%にすることを義務づけている。
再生可能エネルギーの導入目標は、2003 年に
策定された「エネルギーアクションプラン」の中
で、20%の導入目標を 2017 年から 2010 年に
前倒しし、更に 2005 年に策定された「エネル
ギーアクションプラン2」では、2020 年までに
33%の導入という一層高い目標が設定された(図
表 3-1-7)
。
(資料)2004 Net System Power Calculation Report, Energy Commission Publication
図表 3-1-7 カリフォルニア州の再生可能エネルギーの導入目標
(資料)INTEGRATED ENERGY POLICY REPORT、California Energy Commission(2005)
22
ソーラーイニシアティブ
に拡大することになる。
この意欲的な目標のため、総額 29 億ドル(約
アメリカでは、風力発電に比べ太陽光発電の普
3,422 億円)の補助金が投入され、住宅、商業
及は立ち後れており、カリフォルニア州でも州
ビル、工場に太陽光発電を設置する場合に設置費
の電力供給の 0.3% に留まっていた。こうした遅
の一部が補助される。補助金の額は年を追って引
れを打開するために、これまでもシュワルツネッ
き下げられることが想定されているが、当初は1
ガー州知事が「100 万戸ソーラールーフ計画」
ワットあたり 2.8 ドル(約 330 円)に設定され
を提唱し、その実現をめざした州法が提案された
ており、設置費の4割程度が補助されることにな
りしてきたが、2006 年1月、民間電力会社を所
る。
管する州の公益事業委員会(CPUC)によって
この補助金に要する資金は、公益事業委員会が
「ソーラーイニシアティブ」と呼ばれるプログラ
管轄する民間電力会社等の料金に上乗せされるこ
ムが決定され、飛躍的な太陽光発電の拡大に向け
とになり、その額は家庭の電気料金の場合、年間
た取組が開始されることになった(図表 3-1-8)。
平均 15 ドル(約1,770 円)程度と推定されて
このプログラムは、2007 年から 2017 年の間
いる(ただし、1996 年の電力自由化に際して発
に合計3,000 メガワットの太陽光発電の設置を
行された債権の償還に充てられている上乗せ料金
めざすものである。住宅用太陽光発電の標準的な
が、2007 年に終了するため、実際の負担増は小
規模は3キロワット程度であるから、3,000 メ
さいとされている)
。
ガワットという目標は、ほぼ州知事が提案してき
このプログラムの意義は、規模が大きいことに
た住宅 100 万戸分に相当する。現時点でカリフォ
加え、太陽光発電事業者が生産規模の拡大に向け
ルニア州に設置されている太陽光発電は、130
て安定的な投資ができるよう、2017 年までとい
メガワットであるから、このプログラムの目標が
う長期間、州政府がコミットすることを明確にし
達成されれば、10 年間で設置規模が 20 倍以上
たことにあると評価されている。
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資料
図表 3-1-8 カリフォルニア・ソーラー・イニシアティブ
(資料)http://www.cpuc.ca.gov/static/energy/electric/051213_casolar.htm
23
2
ニューヨークと北東部諸州の挑戦
2005 年 12 月 20 日、アメリカ北東部7州(コ
図表 3-1-10 RGGI 参加州の排出枠
コネチカット
● ネチカット、デラウエア、メーン、ニューハンプ
シャー、ニュージャージー、ニューヨーク、バー
モント)は、全米初の義務的な温室効果ガス削減
協定に調印した。この協定は「地域温室効果ガス
イニシアティブ(RGGI=リッギイ)
」と呼ば
れるものであり、EUで導入された排出権取引制
度と類似した仕組み(キャップ・アンド・トレー
ド制度)を採用している。この制度においては、
9,702536 トン
デラウェア
6,858,238 トン
メーン
5,396,843 トン
ニューハンプシャー
7,820,481 トン
● ● ● ニュージャージー
20,768,284 トン
ニューヨーク
58,342,762 トン
バーモント
1,112,072 トン
110,001,216 トン
● ● ● 合計
*ショートトン(米トン)を日本国内で一般的に使用されるメトリックトンに換算
(資料)REGIONAL GREENHOUSE GAS INITIATIVE
Memorandum of Understanding
対象地域全体の排出枠上限が設定され、それを達
成するため各対象施設(企業)の排出枠が設定さ
この協定の目標は、2段階になっており、ま
れる(どのような方法で削減義務目標を達成する
ず 2009 年から 2014 年までの間は、温室効果
かは各施設(企業)に一任されており、コスト面
ガスの排出量の上限を7州全体で、ほぼ 1990 年
とのバランスがとりやすいものとなっている)
。
の排出量に等しいレベルである 1.1 億トンとす
この協定の検討は、2003 年4月にニューヨー
ることが目標とされる(協定に参加する各州の排
ク州のパタキ知事が周辺 11 の州知事に議論への
出枠は図表 3-1-10 に示すとおりであり、この数
参加を呼びかけたことから始まり、以後2年余の
値は、2009 ∼ 2014 年の間は変更されないこと
検討を経て、7州の合意が成立したものである(当
になっている)。次に、第2段階の目標として、
初から検討過程に参加していたマサチューセッツ
2015 年から毎年 2.5%ずつ排出枠が引き下げら
とロードアイランドの2州は協定成立の直前に離
れ、2018 年には 10%の削減を行うことが目標
脱したが、マサチューセッツでは州議会で復帰に
とされている。
向けた法案が準備されている。また、メリーラン
この協定により削減義務の対象となるのは、7
ド、コロンビア特別区(ワシントンDC)
、ペン
州の地域内にある 25 メガワット以上の能力を有
シルバニア、及びカナダのケベック、オンタリオ
する火力発電所である(稼働中の施設で約 500
など東部カナダ6州がオブザーバーとして参加し
施設)
。各州ごとの排出枠が州内の対象企業にど
ている)。
のように割り振られるかは、各州の判断によるも
図表 3-1-9 RGGI に参加する北東部 7 州
のとされている。
削 減 義 務 を 負 う 発 電 所 は、 協 定 が 発 効 す る
2009 年以降、割り当てられた削減枠よりも多く
の削減実績をあげれば、それを販売することがで
きるし、反対に目標を達成できなければ他の発電
所から購入しなければならない。
また州ごとの排出枠の配分にあたっては、そ
の全てが各企業に割り当てられるのではなく、
25%が州政府に留保される。州政府はオークショ
(資料)RGGI
ホームページより作成
ンのような方法で、排出枠を必要とする発電所に
販売することができる。
販売から得られた資金は、
再生可能エネルギーの開発など公共の利益に資す
る活動に使用することが決められている。
24
このような排出枠の売買は、個々の発電所が排
あれば7州以外でもよいが、7州以外での実施の
出規制に対応する方法に柔軟性を与え、規制の枠
場合は、CO2 削減量が2単位で7州内の1単位
組み全体の実効性を高めるものであるが、排出枠
の削減にカウントされる。ただし、こうしたオフ
の価格があまりに高くなりすぎれば、規制に対応
セットの上限割合、対象地域、認定単位などの制
するためのコストが高くなりすぎる、というおそ
限は、排出枠の価格が上昇していくに従って、段
れもある。こうした弊害を生まないようにするた
階的に緩和される仕組みとなっており、排出枠価
め、もうひとつ、
「オフセット」と呼ばれる仕組
格の高騰を抑えるための安全装置を入念に用意し
みも導入されている。
たものとなっている。
「オフセット」とは、各企業ごとの削減目標を
2006 年 3 月には、より詳細な規制の枠組みに
達成するための方法として、企業ごとの実際の排
ついてモデル案が発表された。今後、パブリック
出量の削減、他企業からの排出枠の購入という二
コメントを経た後で、2006 年 7 月に最終的なモ
つの方法に加え、第三に、削減義務量の一定部分
デルがまとめられる。このモデルは、各州で規制
までは、温室効果ガスの削減に効果のある、いく
を制度化する基礎となる。制度の発効は 2009 年
つかの代替措置から得られる削減量も認める、と
1月1日に予定されている。また、2012 年には、
いうものである。
それまでの運用実績や成果を踏まえて、総合的な
現在、認定が予定されている代替措置は、埋立
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プログラム評価が行われることになっている。
この協定は、7つの署名州に限定的なものでは
ガス(メタン)の削減、SF6(六フッ化硫黄)
の回収とリサイクル、植林、エンドユーザーレベ
なく、参加意思を表明する州に広く開放されてい
ルでの省エネ対策などであるが、今後、他の対策
る。協定成立の翌日、
ニューヨークタイムズ紙が、
も認められることになっている。
この北東部7州の削減協定のような仕組みの検討
オフセットが認められる割合は、当初は排出枠
はカリフォルニアなど西海岸のいくつかの州でも
の 3.3%までとなっている。また、代替措置が実
行われていると報道するなど、今後の動向が注目
施される地域として認められるのは、合衆国内で
されている。
図表 3-1-11 ニューヨーク州の部門別一次エネルギー消費の推移
PJ
1,600
発電
1,400
1,200
運輸
1,000
800
600
家庭
400
業務
200
2003
2001
1999
1997
産業
1995
1993
1991
1989
0
年
year
(資料)PATTERNS AND TRENDS NEW YORK STATE ENERGY PROFILES: 1990-2004
25
BOX
環境はオリンピック精神の第三の柱
オリンピックをはじめとする国際的なスポーツイベ
ントでは、地球温暖化対策などの環境対策を積極的に
の人々に持続可能な開発の重要性に対する関心を喚起
すること」を規定した。
行うことが常識になってきている。
1999 年、IOC は、「アジェンダ 21」のオリンピッ
■グリーンゲームの考え方が主流に
ク版ともいえる「オリンピックムーブメント アジェ
1992 年、リオで開催された地球サミットでは、持
ンダ21∼持続可能な開発のためのスポーツ」を採択
続可能な開発をめざす「アジェンダ21(21 世紀に
し、スポーツにかかわるすべての組織、選手、個人、
向け持続可能な開発を実現するために実行すべき行動
企業等が、スポーツ活動や一般生活において、持続可
計画)
」が採択されたが、その翌月から開かれたバル
能な開発を確実に取り入れるための方法等が規定され
セロナオリンピックにおいては、国際オリンピック委
た。
員会(IOC)などスポーツ関係者が、地球環境の保
護を公約する「地球誓約」に署名した。
1993 年には、意欲的な環境対策を盛り込んだ環境
2000 年のシドニーオリンピック以降は、
「グリー
ンゲーム(環境にやさしいオリンピック)」の考え方
が標準となり、候補地選考に際しても環境の視点が重
ガイドラインに従って実施することを約束したシド
要な要素となっている。
ニーが 2000 年のオリンピックの開催地に決定され
■ FIFA ワールドカップにおける環境対策
た。
2006 年にドイツで開催される国際サッカー連盟
1994 年、IOC は、パリで開催されたオリンピック
(FIFA)ワールドカップでは、国連環境計画(UNEP)
100 周年会議において、
「スポーツ」
「文化」に加え、
「環
と 2006 年 FIFA ワールドカップ組織委員会、ドイツ
境」をオリンピック精神の第三の柱とすることを宣言
政府が、これまでで最も環境に配慮した大会を目指し
し、同年、国連環境計画(UNEP)と協力協定を締結
た協力協定に調印した。
同大会では、
「グリーンゴール」
した。
イニシアティブとして、汚染の少ない、環境配慮型の
1996 年、IOC は、国際的な環境専門家を含む「ス
競技会とするため、水、廃棄物、エネルギー、交通の
ポーツと環境委員会」を設立し、同年「オリンピック
4 つの分野について、環境負荷削減のための具体的な
憲章」を改定、IOC の役割のひとつとして、「環境問
数値目標を定めている。また、
同大会は、
ワールドカッ
題に責任のある関心を示すという条件のもとでオリン
プとして初めて、開催により排出される温室効果ガス
ピック競技大会が開催されるよう配慮するとともに、
の相殺を計画化している。
( 中略 ) オリンピックムーブメントにかかわるすべて
スポーツイベントにおける主な環境対策
2000 年
シドニーオリンピック
2006 年
トリノオリンピック
26
◎大会スローガン:
「グリーン・オリンピック(環境にやさしいオリンピック)
」
◆選手村の屋根にソーラーシステムを設置。太陽光を利用した世界でも最大の郊外居住地
が誕生
◆雨水を 800 万リットル貯水し、飲み水として再生
◆オリンピック村と競技施設の間を流れるハスラムス川は、ごみがあふれていた運河から、
マングローブが生える自然な河口の状態に復元
◆「オリンピック史上、最も緑にあふれた大会」といわれ、オリンピック施設に無数のオー
ストラリア原生樹が植えられた。それに加え、オリンピック・ランドケア・プロジェク
トに基づき、オーストラリア国中に、200 万本の木が植樹された。
◎開催により排出される全ての温室効果ガスをゼロに相殺する初めてのオリンピック∼ 『HECTOR(ヘクター)計画(Heritage Climate TORino)
』
◆オリンピックとパラリンピックの開催により追加的に排出される温室効果ガス(主とし
て車両の燃料消費や、暖房、電力消費などによる)は、約 12 万トンと試算
◆京都議定書の精神を踏まえ、開催地域だけではなく、世界のほかの地域で実施する省エ
ネ対策や再生可能エネルギーの供給、植林などにより、これに相当する排出量を相殺
◆このほか、
エミッションゼロの水素バスをトリノ市内の定期バスとして運行
2006 年
ドイツ FIFA ワールドカップ
◎環境コンセプト:
『グリーン・ゴール』
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持続可能
性の危機
◆温室効果ガス排出量の相殺
開催に伴う交通量の増加等によって、約 10 万トンの温室効果ガスが排出されると試算し、
これを相殺
◆廃棄物削減とリサイクル
スタジアム周辺から発生する廃棄物の量を 20%削減
◆環境配慮型の交通
2 世界の
都市を
比較する
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性の危機
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界の都市
の挑戦
観客の 50%は、公共交通機関を利用
入場券と併せて、競技期間中に限り、追加的費用なしに、地域の公共交通機関を一日使用
4 東京の挑戦
できる交通カード(Combi-ticket)を使用できる など
◆エネルギー効率:スタジアムのエネルギー消費量を 20%削減
ドルトムントのウエストファーレン競技場では、6試合分とメディアセンターなど付属施
資料
設の電力の一部を太陽光発電で対応
(年間 55 万 kW h の発電量を供給する太陽光発電を 2004 年に設置)
◆水資源の管理
スタジアムの水消費量を 20%削減
2012 年
ロンドンオリンピック
◎大会キャッチフレーズ:
『ワン・プラネット・オリンピック』
立候補に向けた提案書は、世界自然保護基金(WWF)など多くの環境団体等と協力し、
とりまとめられた。
◆炭素排出量の少ない大会
観客に 100%の公共輸送を提供。オリンピック会場には基本的に自家用車でアクセス
● できないようにする。オリンピック公園は低排出ガスゾーン
(ロー・エミッション・ゾー
ン)に指定し、製造から5年以内の車のみ走行が可能
オリンピック公園の電気はすべて再生可能エネルギーで供給。そのうち、2割はオン
● サイトで供給し、その他の全てのエネルギーは、オフサイトの風力発電などから供給
◆廃棄物ゼロの大会
◆生物多様性の保全
都市の緑空間の拡大
● 自然を人々の身近に
● ◆環境意識とパートナーシップの向上
(資料)The official site of London 2012
http://www.london2012.org/en/ourvision/greengames/
27
BOX
風力発電の飛躍的な拡大
アメリカの風力発電は、2005 年に前年比 35%増という急成長を実現し、2005 年末で9,149 メガワットに
達した(図表 3-1-12)。これはドイツ、スペインに次ぎ世界第3位の規模だが、中でもカリフォルニア州には、
その2割以上にあたる2,150 メガワットの風力発電設備が立地しており、テキサス州(1,995 メガワット)と
並ぶ風力発電のメッカとなっている。
カリフォルニアの風力発電の多くは南カリフォルニアに集中しているが、最大のウインドファームは、ロサ
ンゼルスの北方、モハーベ砂漠に近い「テハチャピ (Tehachapi)」と呼ばれる地域にある。ここでは、3月か
ら9月にかけて平均7∼9m/秒という強い風が吹く。約5,000 基の風力発電設備が立地しており、年間 12
億 kWh の電力を発電している。
アメリカにおける風力発電の成長(2005 年末、累計MW) ヨーロッパの風力発電(2005 年末、累計MW)
(資料)U.S. Department of Energy Wind Energy Program & AWEA
http://www.awea.org/faq/instcap.html
テハチャピのウインドファーム
(資料)European Wind Energy Association http://www.ewea.org
(資料)http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/WindEnergy.htm
28
2「持続可能な世界都市の模範」をめざすロンドンの挑戦 ロンドンの CO2 削減目標
再生可能エネルギーの導入
ヨーロッパ最大の都市ロンドンの広域的行政庁
英国政府は、再生可能エネルギーによる電気供
として、2000 年7月に設置された大ロンドン市
給の割合を 2010 年までに 10%、2020 年には
は、誕生の直後から持続可能な都市づくりをめざ
20%とすることを目標としており、「エネルギー
す積極的な施策を展開している。
戦略」の策定に際しても、ロンドン市内でどの程
2004 年2月には、
「エネルギー戦略」を策定し、
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
2 世界の
都市を
比較する
3 持続可能
性の危機
に挑む世
界の都市
の挑戦
度の電力を再生可能エネルギーによって作り出す
その中で CO2 排出量を 2010 年までに 1990 年
ことができるかの検討が行われた。その結果、
「エ
比で 20%削減し、2050 年までに 2000 年比で
ネルギー戦略」で市内において生産する再生可能
60%削減するという高い目標を掲げた。これは
エネルギーの目標として設定されたのは、市域の
英国政府の掲げる目標と同一のものである。
狭さ、市街化の状況などを踏まえ、市の消費量の
ロンドンの「エネルギー戦略」は、エネルギー
2%という、英国全体の目標に比べ小さなものに
の使い方の決定にあたって「エネルギーヒエラル
とどまったが、再生可能エネルギーの導入自体は
キー」という原則を適用するよう提唱している。
重要な課題として掲げられている。
これは、建築物の建設、管理などにあたって、①
再生可能エネルギーの拡大をめざす施策の一つ
より少ないエネルギーの利用 (Be Lean)、②再
は、英国の他の地域における再生可能エネルギー
生可能エネルギーの利用(Be Green)、③効率
をサポートするため、市の購買力の大きさをいか
的なエネルギーの供給 (Be Clean) という序列を
すことである。具体的には、市の地下鉄や庁舎で
つけるものである(図表 3-2-1)
。この原則の考
の電力を市外で生産される再生可能エネルギーに
え方をわかりやすく表現すれば、エネルギーをで
よってまかなう方向が示されている。
きるだけ少なく使い、どうしても使わざるを得な
「エネルギー戦略」で提案されている政策の中
いエネルギーは、再生可能エネルギーを利用する。
で最も注目されるのは、大規模開発にあたっての
それでまかないきれない時は、化石燃料をできる
再生可能エネルギーの導入要求である。「エネル
だけ効率良く使う、ということになる。
ギー戦略」は、市の再生可能エネルギー目標を達
4 東京の挑戦
資料
成するために、市長の都市計画権限を活用すると
図表 3-2-1 エネルギーヒエラルキー
(資料)Green light to clean power The Mayor’
s Energy Strategy, Mayor of London
29
いう方針を明確にしており、市の許可にかかわる
大規模開発をデベロッパーが計画する時に、可能
混雑課金制度の展開
(コンジェスチョン・チャージ)
な場合には、その開発で必要となるエネルギーの
最低 10%を再生可能エネルギーで供給すること
■導入の背景
を求める制度が導入された。この場合、市外から
大ロンドン市が進める施策で我が国に最もよ
のグリーン電力の購入などは含めず、その開発敷
く知られているのは、2003 年に導入された混雑
地内において実際に再生可能エネルギーを供給す
課金制度であろう。この制度は、市の中心部約
ることが求められる。
21km2( 図 表 3-2-3 シ テ ィ・ オ ブ・ ロ ン ド ン、
この施策は最低 10%の導入自体を義務化する
ウエストミンスター、カムデンなど都心区の一部
ものではないが、技術的な理由、財政的な理由
の区域で大ロンドン市全体の 1.3%にあたる。東
によって導入できない場合には、デベロッパーは
京の千代田区と中央区の合計面積に相当。)のエ
その理由を説明することが求められる。開始され
リア内に流入する車に対して課金を行い、これに
たばかりの新しい施策であるため、実際に導入を
よって交通量の抑制と渋滞緩和をめざす制度であ
検討する場合のやり方などを示したツールキット
る。制度導入から3年、目的とした渋滞緩和に成
(図表 3-2-2)や、デベロッパー、プランナー向
けのリーレットが提供されるなど、導入の検討が
スムーズに進むような配慮がされている。
果をあげつつあると評価されている。
英国においては、1990 年代から交通需要の抑
制をめざす施策が検討されてきたが、2000 年に
成立した交通法(Transport Act )の中で、地
方自治体には、渋滞緩和のために必要であれば
交通に関連した賦課金制度を独自に設定する権限
が与えられた。ロンドンにおいては、それよりも
一足早く、大ロンドン市の設置を決めた GLA 法
図表 3-2-2 ロンドン・リニューアブルズ・ツールキット
(1999 年)の中で、市に混雑課金を導入する権
限が認められていた。混雑課金導入前におけるロ
ンドン中心部の平均走行速度は、14.3km/ 時で
あり、ヨーロッパの中でも最悪な混雑状況にあっ
た。また、この混雑を経済コストに換算すると、
毎週 200 ∼ 400 万ポンド(約4∼8億円)の損
失に該当すると試算され、ロンドンの抱える大き
な問題のひとつとなっていた。
このため、2000 年5月に行われた大ロンドン
市初の市長選挙においては、市中心部の道路混雑
対策が大きな争点となったが、混雑課金の導入
をその他の交通改善政策とともにマニュフェスト
に盛り込んだケン・リビングストン氏が市長に当
選した。その後、市民、ビジネス関係者、その他
の利害関係者との 20 ヶ月以上にわたる検討を行
い、2003 年2月に導入されたものである。
混雑課金の導入は、公共交通機関の充実、駐車
場対策といったロンドンの渋滞緩和策のひとつで
あり、課金に伴い、公共交通機関の利用をより簡
単に、より安く、より早く、より信頼性のあるも
30
図表 3-2-3 混雑課金エリア
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
2 世界の
都市を
比較する
3 持続可能
性の危機
に挑む世
界の都市
の挑戦
4 東京の挑戦
(資料)Transport for London http://www.tfl.gov.uk/tfl/
資料
のにするための様々な施策も実施された。例えば、
には、輪留めや撤去という措置がとられる。
混雑課金導入前には、バスの運行間隔やルートの
■これまでの成果
改善などが行われ、混雑課金導入により増加が予
ロンドンに混雑課金が導入され2年が経過した
想される公共交通機関利用客の受け入れ対策を進
2005 年2月、ケン・リビングストン市長は、「混
めている。
雑課金が導入され2年が経過したが、引き続き成
■混雑課金制度の仕組み
果を上げている。課金エリア内の混雑は減少し、
混雑課金は、1日、8ポンド(約 1,640 円)
バスの運行状況は改善され、大気汚染物質は減少
で(当初は5ポンド(約1,025 円))、平日(月
した。長期にわたる慢性的な混雑の後、ロンドン
曜日∼金曜日)の朝7時から夕方6時 30 分まで
中心部はやっと動き始めた。混雑課金は、大部分
の時間帯に、課金エリア内に流入する車に課せら
の市民による支持を得ている。」とその成果を評
れる。ただし、二輪車、原動機付き自転車、軍用
価している。
車、救急車、タクシー、障害者の車、バスなどに
混雑課金を所管するロンドン交通局では、課金
は、減免措置があり、エリア内の居住者に対して
後5年間、混雑状況、交通パターン、公共交通機
も 90%の減免がある。
関利用状況、社会的影響、ビジネスや経済、大気
1日、1週間、1ヵ月、1年の単位で支払うこ
など環境への影響等について詳細な監視を行う包
とが可能であり、また支払いは、郵便局、電話、
括的なモニタリングプログラムを実施することに
インターネット、携帯電話、自動販売機、小売店
なっている。
やガソリンスタンドのカウンターで行うことがで
2005 年4月に公表された第3次年次報告書に
きる。支払いは夜中の 12 時まで可能だが、午後
10 時を過ぎると 10 ポンド(約2,050 円)に上がる。
課金を支払った車両のナンバープレートの番号
は、データベースに登録される。エリア内を走行
する車両は各所に設置された固定式のカメラ及び
監視車両に取り付けられた移動式のカメラによっ
て、ナンバープレートが読み取られ、データベー
スと照合して、支払い済みかどうかがチェックさ
れる。深夜 12 時までに料金が支払われていない
と、自動車の所有者には 100 ポンド(約 20,500
円)の罰金が科せられ、それも支払われない場合
移動式カメラ(資料)GLA資料より
31
よれば、混雑課金導入2年後の成果として次の点
交通事故及び環境
などを挙げている。
課金エリア内の交通事故数が最大5%削減 混雑状況
NOxやPM 10 の排出量が 12%削減
課金時間帯の課金エリア内での混雑は、平均
境界地域への影響
混雑課金導入後、課金エリアへの流入車両が大
30%の減少
交通パターン
課金時間帯の課金エリアでの交通量は、15%
幅に減少したが、課金エリアを取り囲む内環状道
路の交通における影響は特になかった。
の減少。エリアへの流入車両数は、18%の減少
公共交通機関の利用状況
また、2004/5 会計年度の終わりまでには、課
課金エリア内外におけるバスの遅延による待ち
金による税収は、1億 7000 万ポンド(約 349
時間が大幅に減少。バスの運行の信頼度や乗車時
億円)に上ると見込まれており、バスネットワー
間の改善
クの充実など、更なるロンドン交通の改善に投資
社会的影響
される。
課金エリア内の住民に行った調査によると、課
金導入後、特に混雑が改善されたという点で、地
■課金エリアの西側拡大案
以上のような、
混雑課金導入後の成果をうけて、
域環境が良くなったとの好意的意見が多く、また、
2005 年9月、市長は、課金エリアを西側のケン
路上で行った別の調査では、公共サービス、大気
ジントン&チェルシー区の大半を含むエリアまで
環境、騒音、交通量、公共交通の提供という点で
拡大する案を承認した。この西側拡大エリアにお
以前より改善したという意見があった。調査の回
ける混雑課金は 2007 年2月から施行される予定
答者が否定的な見解を持ったのは、混雑課金のこ
である。
とではなく、駐車場の不足や、行き過ぎた駐車違
西側拡大案の検討は、2003 年2月に混雑課金
反取り締まり、そして高騰する駐車料金であった。
制度が導入された直後から開始された。課金制度
ビジネス・経済的影響
は、市長が定める交通戦略と合致するものでなけ
ロンドン中心部の経済においては、雇用、ビジ
ればならないため、市長からの要請により、ロン
ネスの数、売り上げや収益などに対する影響は特
ドン交通局は多数の住民、利害関係者との意見調
になく、また、課金エリア内の住宅物件における
整を行い、その結果を元に、2004 年8月、市長は、
重大な影響もなかった。
課金エリアの西側拡大を可能とする交通戦略の改
図表 3-2-4 課金エリア内、課金時間帯における走行状況の変化 (1km の走行に要する時間の変化 )
(資料)
Transport for London Impacts monitoring Third Annual Report April 2005 より作成
32
定版を発表した。その後、更に具体的な拡大案の
市長は、拡大案の実施にあたって発表した声明
検討を重ね、最終的な実施案を 2005 年9月に決
の最後で、中央政府が全国的なロードプライシング
定した。この拡大案には、拡大対象地域などの事
の検討を進めながらも実施の時期を決めることが
業者や住民からの反対もあり、面積を拡大する一
できずにいることにふれながら、ロンドンは引き続き
方で、現在夕方6時半までの課金時間を 30 分短
この分野で先駆的な役割を果たすと述べている。
縮して6時までにすることや、課金の支払いを翌
日まで認めるなどの緩和措置が導入されることに
なった。
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
2 世界の
都市を
比較する
ディーゼル車規制の実施
2006 年1月、大ロンドン市は、ヨーロッパ
この拡大案の実施によって、現在、課金が実施
で最悪と言われるロンドンの大気汚染の改善をめ
されている中心エリアの交通量は、現行よりも
ざす新たな施策として「ロー・エミッション・ゾー
増加すると予測されている。これは、拡大される
ン(LEZ)
」の導入をめざす「交通戦略」及び「大
西側エリアの住民が課金減免の対象となり、中心
気質戦略」の改正草案を発表し、市民や関係団体
エリアへの進入が増えることなどによる。具体的
への議論をよびかけた。ロー・エミッション・ゾー
には、中心エリアの交通量は約2%上昇、渋滞時
ンは、大ロンドン市全域を対象とし、排出基準に
間は4∼5%上昇、また平均走行速度は約2%低
達しない旧式のディーゼル車の走行を抑制するも
下すると予測されている。これに対し、新たに課
のである。この施策は、2008 年からの実施をめ
金される西側拡大エリア内においては、交通量が
ざしており、車両総重量 3.5 トン以上のディーゼ
10 ∼ 14%の減少、渋滞時間が 15 ∼ 22%の減
ル貨物車やバスなどを対象としている。発表され
少、走行速度が 10 ∼ 14%改善すると予測され
た改正草案の中では、東京都のディーゼル車規制
ている。市は、中心エリアの交通量増加などのデ
もロー・エミッション・ゾーンの事例として紹介
メリットよりも、拡大エリアでの交通量減少など
されており、制度の詳細は、今後、様々な議論を
のメリットの方が大きいと判断し、拡大案の実施
経て決定されていくことになっている。
3 持続可能
性の危機
に挑む世
界の都市
の挑戦
4 東京の挑戦
資料
を決定した。
図表 3-2-5 ロンドン交通局による拡大後課金エリア案
*非課金道路の西側に課金エリアを拡大
(資料)Transport for London http://www.tfl.gov.uk/tfl/
33
BOX
パリ市の交通政策
パリ市の大気は、環境基準を満たしておらず、特に子供や高齢者の健康被害が重大な問題となっている。二酸化窒
素の基準値は年平均 40 μg/m3 であるのに対して、2000 年のパリ市の平均は、60 μg/m3 であり、この大気汚染の
主な原因は、道路交通によるものであった。このため、ここ数年、大気環境の改善策として、また、多くのパリ市民
を悩ませている騒音問題の解決策として、自動車交通量の削減に向けた交通システムの改善が重視されるようになっ
ている。さらに、こうした施策が、魅力的な街づくりの一環としても行われているところに、パリらしさがある。
図表 3-3-5 イル・ド・フランスにおける NO2 の年平均濃度 (2000 年)
EU環境
基準
㧱㨁ⅣႺၮḰ
(資料)AIRPARIF http://www.airparif.asso.fr/page.php?article=cartes&rubrique=resultats
■交通システムの改善
・トラムの開通
セーヌ川左岸の市南部(13,14,15 区)において
全長 7.9km、1日 10 万人を運ぶトラム(路面電車)
の運行を 2006 年末に開始する予定である。その後
2011 年までにはさらに 2.4km の延長が予定されて
いる。線路には芝を敷き詰め、通りには街路樹を植え
る。このトラムの開通により、対象地域の自動車交通
を 25%削減させ、温室効果ガスを削減することをめ
ざしている。
・バスネットワークの充実
市内 17 のバス路線を「バス主要ネットワーク」に
(資料)http://extension-reseau.ratp.fr/tram-paris-sud/index.html
指定し、サービスの充実をはかる。週7日、6時から
24 時 30 分までの運行の確保、バス停や乗車中にリ
る。これらレーンと一般乗用車の走行車線との間には
アルタイムで情報を提供、信号のある交差点ではバス
コンクリートの分離帯(高さ 10 cm、幅 70cm)が
の運行を一般車両に優先させるなどの対策により、利
設置されており、専用レーンの設置により、バスの運
用者の時間のロスを 20%削減し、定時性を向上させ、
行スピードを改善し、効率性を 10 ∼ 20%向上させ
信頼性を高める。また、障害を持った人のバス利用の
ることを目指している。
利便性を高める。
34
市中心部においては、バス、自転車及びタクシーの
・自転車利用の促進
みが使用できるバスレーン及びバイクレーンを拡張す
市内に全長 314km の自転車専用道路が設置されて
1 都市が
抱える
持続可能
性の危機
いるほか、いくつかの通りでは一時的に自転車交通を
遮断する措置が取られている。また、日曜日及び祝日
に歩行者、自転車及びローラーブレード利用者に道路
2 世界の
都市を
比較する
を開放する「パリの息(Paris respire)」と呼ばれる
試みも実施されており、近年では、市内の自転車利用
者が増加してきている。
3 持続可能
性の危機
に挑む世
界の都市
の挑戦
■魅力的な街づくり
パリ市の交通政策は、単に自動車交通量の削減を目
的にしているのではなく、これに合わせて緑を増やし、
生活の質を向上させ、市民にとって住んで楽しい魅力
4 東京の挑戦
的な街づくりをめざしている。交通システムの改善に
合わせ、パリ市内のいくつかの地区を「緑の地区」に
指定し、歩道の拡張や、駐輪場の設置、自動車走行速
資料
(資料)パリタカシマヤ提供
度の制限などを行い、自動車交通から歩行者や自転車
利用者を守り、また街路樹などの緑を増やし、市民に
ね 300 万人の人々がこの砂浜に集まり、ピクニック
とっての憩いの場を提供している。
やビーチバレーなどのスポーツを楽しんでいる。
そのような都市の魅力を高める施策の中で、2002
このような様々な交通施策により、自動車交通量は
年から毎年恒例となっている夏のイベントとしてパ
2001 年4月から 4 年間で 13%の減少となった。ま
リ・プラージュ ( パリの浜辺 ) がある。これは、7 月、
た地下鉄利用者は7%増加、
バス利用者は3%増加し、
8 月のバカンス期間の約 1 ヶ月、セーヌ川の右岸の一
自転車専用レーンの利用は 40%増加した。
部、全長 3 ㎞を砂浜にして、パリ市民及び観光客に
82%のパリ市民はこの交通計画を支持しており、
憩いの場を提供するものである。セーヌ川沿いの道路
パリ市は、低公害車の普及や、自家用車から公共交通機
からの排気ガスによる大気汚染を削減するため、開催
関へのシフトを更に進めることにより、2010 年まで
期間中は 24 時間全面通行止めとしている。毎年、概
にEU大気環境基準を達成することをめざしている。
BOX
ソウル市の清渓川(チョンゲチョン)復元事業
『自然環境をよみがえらせるとともに、経済もよみがえらせる「清渓川」復元』
韓国・ソウル市は、この事業の必要性と効果につい
て、このように説明している。
ソウル市の中心部から東に約5.8㎞にわたって位
置する、コンクリートの暗渠で覆われていた清渓川
(チョンゲチョン)が、約 50 年ぶりに復活した。ソ
ウル市に復元された新たな都市の顔に、今、注目が集
まっている。
【参考】
「清渓川復元事業」公式ホームページ
(ソウル市)
http://japanese.metro.seoul.kr/chungaehome/
seoul/main.htm (日本語)
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