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新BIS規制により管理強化が 求められるヘッジファンド投資

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新BIS規制により管理強化が 求められるヘッジファンド投資
Financial Information Technology Focus September 2005
2
アセットマネジメント
新BIS規制により管理強化が
求められるヘッジファンド投資
新BIS規制の中で、金融機関はリスク管理の高度化を求められており、
ヘッジファンド投資に対するリスク管理も同様だ。一方、年金においても、
CalPERSが保有残高ベースのリスク管理を実現しており、今後は機関投資家全体として、
ヘッジファンドに投資する際のリスク管理がより重視されていくことになろう。
日本における新BIS規制の動向
現在、日本において、新BIS規制に対応す
準による方式、③それ以外の方式のいずれか
によりリスクウエイトを算出することになる。
るための「新しい自己資本比率規制」が検討
まず、ファンドが投資する個別のアセット
されており、2005年3月31日に、金融庁より
が把握できる、最も透明性が高いケースでは、
規制案が公表されるとともに、それに対する
ファンド内の個々の資産ごとにリスク・アセ
パブリックコメントが募集された。6月17日
ットを算出して足し上げることができる(ル
には、寄せられた意見とそれに対する金融庁
ックスルー方式)。例えば、A社株式(RW=
の回答が示され、規制の詳細と金融庁の方針
200%)とB社株式(RW=350%)の2銘柄
が徐々に明らかになりつつある。これらによ
にそれぞれ50ずつ投資しているファンドの場
ると、ヘッジファンドに投資を行っている場
合、リスク・アセットは、27,500(=50×
合、自己資本比率を計算する際のリスクウエ
200%+50×350%)となり、ファンド全体と
イト(RW)を、現行より大きく扱わなけれ
してのリスクウエイトは、平均として275%
ばならない可能性がある。これを受け、現在
(=27,500÷(50+50))となる。
ヘッジファンド投資を行っている銀行の担当
次に、現状の多くのヘッジファンドのよう
者の一部からは、「仮にこのまま規制が適用
に、ファンドが投資している個別の資産につ
されれば、これまで投資してきたヘッジファ
いて適宜公表されないものでは、ルックスル
ンドへの投資額のかなりの部分を回収するこ
ー方式によってリスク・アセットを積み上げ
とになるだろう」といった極論も聞かれる。
ることが困難となる。このような場合は、
しかし、現在の世界的な低金利下において運
「資産運用基準」による算定が認められる。
用難にあえぐ機関投資家にとって、ヘッジフ
資産運用基準とは、ファンドの運用基準書な
ァンドのような代替投資による収益機会を失
どにより、ファンドが投資する個別資産の上
Yasutoshi Kaneko
うことは得策ではないだろう。2006年末から
限や、資産クラスの上限が定められているよ
金融ITイノベーション研究部
予定されている新BIS規制の適用に向け、銀
うな場合に、個別の資産、あるいは資産クラ
行はどのような対応を取るべきだろうか。
スごとのリスク・アセットを、リスクウエイ
Writer's Profile
金子 泰敏
上級研究員
専門は資産運用関連
ビジネスの調査・研究
[email protected]
4
トの高いものから順に積み上げる方法であ
新しい規制下でのヘッジファンドの扱い
る。例えば、ファンドが、上場株式、または
新BIS規制において、内部格付手法を採用
非上場株式にのみ投資し、上場株式と非上場
する金融機関がファンドに投資した場合、フ
株式への投資の上限は、それぞれ純資産の
ァンドの透明性に応じて概ね3種類の方法、
60%までであることが担保されているとす
つまり、①ルックスルー方式、②資産運用基
る。今、上場株式のリスクウエイトが300%、
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
非上場株式のリスクウエイトが400%と仮定
だろう。あるいは、ヘッジファンドに直接投
すると、このファンドのリスク・アセットは、
資するのではなく、適切に格付けされた、ヘ
36,000(=60×400%+40×300%)となり、
ッジファンドのパフォーマンスにリンクする
ファンド全体の平均のリスクウエイトは
MTN(ミディアム・ターム・ノート)に投
360%となる。
資したり、下方リスクを限定したMTNに投
最後に、ファンド内の個別の投資資産が分
資したりするなどの選択肢もある。このよう
からず、また運用基準も明確でない場合では、
なリスク管理対策を行うことで、結果的に新
金融庁の公表した規制案(2005年3月31日時
しい自己資本規制で定められる、ルックスル
点)の第五款「信用リスク・アセットのみな
ー方式や、資産運用基準によるリスク・アセ
し計算」、第百六十七条5項によれば、適用
ットの算定が可能となり、リスクウエイトの
されるリスクウエイトは一律に1,250%まで引
低減に繋がる。
き上げられてしまう可能性がある。つまり、
金融機関と同様、ヘッジファンドへの投資
ファンドに対する投資額を12.5倍した額をリ
が近年増加している年金の資産運用において
スクとみなす(自己資本比率算出の際の分母
も、リスク管理強化の動きがある。例えば、
に加算する)ことになり、自己資本比率への
CalPERS(California Public Employees’
マイナスのインパクトがかなり大きいことが
Retirement System)では、ヘッジファンド
想像される。このため、1,250%のリスクウエ
の透明性を向上することで、リスク管理の厳
イトが適用される可能性があるファンドに投
密化を計っている。Pensions & Investments
資している銀行の一部の担当者で、ヘッジフ
誌(2005年7月11日付)によると、投資して
ァンドからの資金回収が検討されている。
いるヘッジファンドやファンドオブヘッジフ
ァンズが保有する個別の残高情報に基づく、
規制を背景に進展するリスク管理
独自のリスク管理システムを開発したとのこ
金融庁が公表した新しい規制において注目
とである。なお、同誌によれば、CalPERSか
すべきは、設定されたリスクウエイトの大き
らの残高開示の要求に応じなかった運用マネ
さに、銀行への金融庁の期待、つまり、
ージャーは全体の約四分の一に過ぎない。
1,250%のリスクウエイトが課せられるような
CalPERSのような世界的に注目される年金が
ものには投資するべきでないという金融庁か
ヘッジファンドに対するリスク管理を厳密化
らのメッセージが現れていると解釈できる点
したことで、年金のみならず、金融機関など、
である。今後、銀行がとるべき対応は、2006
他の投資家がこれに追従する可能性は高い。
年末に予定されている規制の適用開始に備え
機関投資家によるヘッジファンドへの投資
てヘッジファンドへの投資を回収することで
が本格化したのは2000年以降といわれてお
も、1,250%のリスクウエイトのままヘッジフ
り、ヘッジファンドへの投資を開始してから
ァンドに投資しつづけることでもない。十分
まだ数年程度という金融機関が多い。リスク
なリスク管理体制のもとで、ヘッジファンド
管理を含めた運用管理体制が整うのはこれか
に投資することが重要だ。リスク管理を強化
らだ。新BIS規制の導入が一つのきっかけと
するためには、例えば、必要に応じてヘッジ
なり、金融機関におけるヘッジファンド投資
ファンドに対し個々の投資資産を開示するこ
に対するリスク管理がより進展していくと想
とで透明性を向上させるように働きかけた
像される。その進展の如何が、今後、ヘッジ
り、投資中のファンドの約款等を見直して、
ファンド投資が国内で定着するかに影響しそ
運用基準をより明確化したりすることも必要
うだ。
N
野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部
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