Comments
Transcript
クレジットデリバティブの ブームの後 - Nomura Research Institute
Financial Information Technology Focus January 2005 2 ホールセールビジネス クレジットデリバティブの ブームの後 クレジットデリバティブはクレジットポートフォリオのコントロールに欠かせないツールであり、 現在クレデリの一種であるCDOも運用商品として人気が高い。この繁栄はいつまで続くのだろうか? まだ繁栄の緒についたばかりなのかもしれないが、 ブームが去る前にその後の備えについて考えるのも悪くないだろう。 クレジットデリバティブの発展 オのヘッジの観点から市場拡大の様子を見て クレジットデリバティブ(Credit Derivatives、 みよう。クレデリ誕生当初、クレデリを供給 以下クレデリ)のマーケットは拡大を続けて する立場の業者は基本的に取引毎に裏付け資 いる(下図参照)。BIS規制でもヘッジとして 産によるヘッジを行っていた。 認められているが、バーゼル銀行監督委員会、 前述のように現在は取引が拡大し、業者は さらに証券監督者国際機構(IOSCO)、保険 大きなポートフォリオを持つことになった 監督者国際機構からも有効性を評価するコメ が、その結果必ずしも現物債をヘッジとして ントが出されている。 売買する必要はなくなってきている。取引量 実際、金融機関にとっては債権保証や債権 の拡大によってポートフォリオ内でポジショ 購入などと比べて手続きに手間がかからず、 ンの相殺が可能となり、保有ポートフォリオ 1) 自由度の大きいCDS(Credit Default Swap ) の拡大によって多少のリスクは内部に吸収で 等のクレデリはポートフォリオ再構築の道具 きるようになったからである。その結果、現 としてニーズが高い。 在では(市場にもよるが)クレデリの流動性 運用商品では、スプレッドが全般的に縮小 は社債を上回ると言われている。 傾向にある中でCDO(Collateralized Debt 2) Obligation )の人気が高い。現物商品の品薄 ブームは終焉するか? Writer's Profile から部品としてCDSを使う合成CDOの発行額 今年はバーゼル委員会による新しい銀行自 己資本規制の公表(Basel II、新BIS規制)、 が特に大きく伸びているようだ。 社債スプレッドの世界的な縮小など、クレデ クレデリ市場の拡大とヘッジ リの取引を後押しするような事件が多く、盛 ディーラー(業者)が抱えるポートフォリ 榛葉 清人 Kiyoto Shimba 金融IT研究センター 図1 デリバティブ想定元本ベース残高 (国内、銀行報告のみ、10億ドル、日本銀行) 上級研究員 専門は証券数理分析、 リスク管理 [email protected] 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1998 クレジット 4 2001 エクイティ 2004 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 金利(右軸) んに取引された年だったといえるだろう。 こうした状況を受け、クレデリも金利デリ バティブのように現物資産の裏付けがなくて も取引できる商品に近づいてきたのだろう か?実際、金利に比べれば取引残高は小さく、 拡大の余地は残されていると言えるかもしれ ない。しかしながら今はブームと言っていい ほどのCDOの人気が大きな流動性を与えてい る面も少なくない。ここで「もしブームが終 わりを迎えたら・・」などと考えてみるのも 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. NOTE 無駄ではないだろう。 まくはいかないだろう。こうした状況下では ①流動性の吹き溜まり 情報の(例えばメインバンクへの)偏在が起 CDSはオフバランス取引であり取引の機動 性が高い。取引相手相互に信用枠が残ってい れば信用リスクの移転は瞬時に完了する。 こりやすく流動性も期待できない。 最も有効な使い方は戦略的な意図をもって 「事が起こる前に備えるために」クレデリを しかし一方で特定の投資家が特定のリスク 使うことである。リスクプロファイルの偏っ を集めてしまうことも容易だ。今年ヨーロッ たポートフォリオのリスク平準化を行い、投 パの再保険会社にクレデリ等を介して特定の 資戦略の一環として信用リスクの比重を変更 信用リスクが集中しているのではないかとい するケースにこそ、クレデリを用いる意義が う懸念が広がった。結局前出の国際監督機関 出てくることを肝に銘じたい。 等の調査によってリスク集中はないとの結論 ④クレデリ成長の抵抗線と支持線 に達したが、こうした懸念が現実化するとし てもさして時間はかからない。 クレデリが金利に比べて弱い点は最終的な (デフォルト時の)決済の部分である。金利で ブームが去った後では特にこうしたリスク は一般的に固定金利と流動性のある短期金利 が市場や経済に与えるインパクトが大きくな を交換するが、CDSの場合は固定金利とデフ る。参加者自身にとって信用リスクの集中を ォルト時保証を交換する。本来、デフォルト 排除するようなリスク管理を行う必要がある 時清算価値を使うべきだが、決済の速さを優 ことは論を待たない。一方で参加者全てのリ 先するため簡略化されている場合が多い。そ スク管理体制の監視という点においては監督 れに対して現物のローンや保険の場合、時間 当局の担う役割は大きい。 はかかるが正確な決済がされる。金利デリバ ②クレデリのカウンタパーティリスク ティブは決済の制約はほぼ受けないに等しい CDSの場合、カウンタパーティリスクの管 理は特に重要な問題である。CDSは債権保証 1) CDSはデフォルトオプシ ョンとも呼ばれ、契約期間内 にデフォルトが発生した場合 にオプションの売り手(保証 者)がデフォルトの買い手に 対して「額面マイナス残余価 値」分を支払う契約。ただし、 最終的な精算方法はいくつか のパターンがある。通常オプ ションの買い手は売り手に対 してアニュイティ方式でオプ ション料を支払う。 契約期間を満期とする債券 を買い、レポで資金調達する ことと経済効果は類似。また 債権保証契約とも類似してい る。類似商品との違いはCDS の対象企業の都合や現存債券 属性に関わらず商品の条件が 決められること、一般にデフ ォルト時の決済に手間がかか らないことなどである。 2) CDOは債券、ローン、そ の代替商品としてのCDSなど から成る裏付けポートフォリ オを担保として構成される資 産担保証券である。通常はい くつかの優先順位のことなる クラスによって構成され、ク ラスごとに格付けを取得する。 が、クレデリの場合、頻度の高くない清算価 値の算出という行為からは自由になれない。 の類似商品と見なされることが多いが、保証 ブームが去りマーケットが縮小したとして では一般的にリスク引受けを行うのは信用力 も、ヘッジ用の現物が手当てできる限りにお の高い損保会社であるのに対して、クレデリ いては流動性がそれを下回ることはない。一 のカウンタパーティの信用力は必ずしもそれ 市場参加者としてできることは限られている ほど高くない。保証と考えるならばカウンタ が、クレデリ市場発展のためにはクレデリ市 パーティリスクの分散は重要である。 場を下支えする債券・ローンの流通市場の発 ③クレデリによる信用リスク管理 展にも貢献したいところである。 次に信用リスク管理におけるクレデリの有 効的な使い方を考えよう。前述のようにクレ 備えあれば憂いなし デリの有効性は広く認められているが、クレ 今だからできることもあり、今だからやり デリによって信用力が低く多くの人が外した やすいこともある。ブームが去った後に起き いと考えている銘柄をうまくヘッジできると ることも予測しながら今から備えておくべき いうわけではない。ブームが去った後でスプ ではないだろうか。 N レッドが拡大した時にヘッジに向かってもう 野村総合研究所 金融 IT イノベーション研究部 当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2006 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 5