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第4回 マルチチャネルマーケティング戦略
医薬品営業マーケティングモデルの 変革 ベイン・アンド・カンパニー パートナー 矢吹 第4回 博隆 マルチチャネルマーケティング戦略 医師とMRの関係の希薄化が進む一方、eチャネル単独での処方影響度には限界があることが明らか になりつつある中、製薬企業各社はMRとeチャネルを統合したマルチチャネルマーケティングモデル を推進しつつある。連載第4回の本号では、マルチチャネルモデルが解決すべき課題と成功のための カギについて、他業界の先進事例からの学びも含めて述べていきたい。 号で「医師の処方薬選択動機をMR 医師の時間制約からこれ以上参加を が把握出来ていない」というデータ 増やすことが難しい中、eチャネル を示したが、医薬品営業に限らずそ は24時間いつでもどこからでも参加 これまでの連載で述べてきた通 もそも顧客は親しい友人には話すこ できる新たな選択肢の幅を大きく広 り、MRチャネルについては、大量 とでもメーカー営業員に対しては本 げる。 ディテールによるシェア・オブ・ボ 音を話さないケースが多い。接待規 一 方eチ ャ ネ ル に つ い て も、 医 イス(SoV)モデルの限界は明確に 制等により医師とMRの関係が希薄 師 がeチ ャ ネ ル を 通 じ て の 情 報 収 なりつつある。医師の処方に影響を 化している中、医薬品についてはこ 集に使っている時間は年々増加し 与え、動かしていくためには個々の の傾向はより強くなってきている。 m3.com、Carenet.com、日経メディ 医師の情報ニーズ、治療方針、処方 一方、SNSを含むeチャネル上では カル オンライン、製薬企業各社の 動機、影響を受けるチャネル・ソー 顧客は自身のプロファイルについて ウェブサイト等の利用医師の割合も スを正確に理解する「①プロファイ メーカー営業が聞くことが難しい多 高くなってきている反面、これら リング」 、プロファイルに応じた提 くのプロファイル情報をオープンに のeチャネル単独では処方への影響 供情報・サービスの「②カスタマ している。「②カスタマイゼーショ 度は低いことがデータから明らかに イゼーション」 、適切な情報・影響 ン」については、MRが頭の中、カ なってきている。個々の製品につい ソースへの「③ナビゲーション」が バンの中に入れられる情報量、種類 ての事例を見ても「eディテール数 カギとなる。この①~③について には限りがあるが、iPad、eチャネ は大幅に増えたが自社品売上増には は、MR、リアルチャネルだけで可 ル上ではその制約はなくなる。「③ つながっていない」というケースが 能なことには限界がある。 「①プロ ナビゲーション」についても、リア 多い。既存のリアルチャネルでの情 ファイリング」について言えば、前 ルチャネルでの講演会、研究会等が 報をデジタル化しただけの、カスタ マルチチャネルモデルが 解決すべき課題 矢吹 博隆(やぶき ひろたか) ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン パートナー 18年にわたり、全社戦略、研究開発戦略、営業・マーケティング戦略などを中心に、日本国内および外資系製薬企業、医療機器メーカー等のヘル スケア分野でコンサルティング経験を有す。 48 Monthly ミクス2013年1月号 マイズされていない一方通行のマス したカスタマイズされた情報提供を ていた時にオンにするとそのアー 情報伝達では医師の処方は動かな 行っている。こうして無数の情報の ティストや曲名がわかるだけでな い、ということである。 中から顧客が真に求めているものだ く、そのままiTunesにナビゲート こ の 様 に、MRチ ャ ネ ル、eチ ャ けをタイムリーに提供することによ してワンクリックでその曲やアルバ ネル共に単独では医師の処方行動に り、個々の顧客からの売上を向上す ムの購入を可能としている。 対する影響には限界があるが、MR るだけでなく、自社に対する顧客ロ とeチャネル等を有機的に組み合わ イヤルティーをも向上している。ま せたマルチチャネルモデルにより、 た流通業界においてはオンライン/ プロファイリング、カスタマイゼー オフラインチャネル共通のカード、 ション、ナビゲーションを効果的に IDによるリアルチャネルとeチャネ それでは、、医薬品のマルチチャ 行うことが出来れば、医師の処方に ルのプロファイル情報の統合が行 ネルモデルはどうあるべきであろう 大きな影響を与えることが可能に われている。例えば音楽分野では、 か? 図1にマルチチャネルモデル なってくる。 HMVではオンラインストアとリア の成功のカギを示す。 ルストアでのポイントが共有される 第1に、MRと多数のeチャネル メンバーズカードを発行し、両チャ から得られるプロファイル情報の有 ネルから得られるプロファイル情報 機的な統合と活用である。必要なプ では、医師の処方に大きな影響を を統合することにより、プロモー ロファイル情報の中には、MRの医 与えるマルチチャネルモデルはどう ションeメール等の内容を顧客毎に 師とのリアルでの直接の接触を通し あるべきなのであろうか?その問い きめ細かくカスタマイズしている。 てしか得られない情報も多いことは に答えるためのヒントは他業界の事 「ナビゲーション」については、 言うまでもないが、逆にMRにはわ 例を見ることで得られる。 化粧品の口コミサイト@cosmeでは からないがeチャネル上では把握可 「プロファイリング」 、 「カスタマ ユーザーの口コミを掲示しそれによ 能な情報も多い。医師のeチャネル イゼーション」については音楽分 り商品をランキングするだけでな 上の情報アクセス履歴、コメント内 野でのアップルのiTunes、書籍等 く、オピニオンリーダーのブログ 容、ネットワーク等である。日常生 の ア マ ゾ ン の 事 例 が 参 考 に な る。 をランキングした@BEAUTIEST、 活でもSNS上でつながることによっ iTunesやアマゾンでは、顧客の情 オンラインショッピングサイトの て初めて見えてくる友人や同僚の意 報検索から購買に至る全ての過去の cosme.com、@cosmeでのランキン 外な一面に驚かされることは多い 「行動」を記録、分析している。購 グが品揃えに反映されたリアルの が、これは医師と製薬企業の関係に 買については「何を買ったか」だけ アットコスメストア等にユーザーの おいても同様である。これら複数 でなく「何と何を一緒に買ったの ナビゲーションを行っている。マ ソースの情報を統合することにより か」を、また購買していないものに クドナルドは、フェイスブックや MRのみ、eチャネルのみでは得ら ついても「ウィッシュリスト」とし ツイッターといったeチャネル上で れない精度、価値の高い個々の医師 て 「何を買いたいと思っているのか」 の「バーチャルオピニオンリーダー のプロファイル情報の構築が可能と も把握している。こうして得られた (OL)」を特定し、彼らをリアルの なってくる。MRのiPad活用も情報 多数の顧客のプロファイルから「こ 試食会等にナビゲートすることによ 提供ツールとしてだけでなく、MR の商品を購入した他の方はこんな商 り、eチャネル上での自社新商品に が得たプロファイル情報の入力、他 品も購入しています」 、 「既にご購 ついてのポジティブな発信や口コミ チャネルからの情報と統合されたプ 入されているアーティストXXXの を実現している。またShazamとい ロファイル情報の閲覧や利用に、よ 他の曲でYYY、ZZZもお薦めです」 うスマートフォンアプリは、バーや り重点が置かれるべきである。 といった顧客プロファイルにマッチ レストランで気になる音楽がかかっ 第2に、プロファイル情報に基 他業界事例からの学び マルチチャネルモデル 成功のカギ Monthly ミクス2013年1月号 49 図1 リアルとバーチャルを有機的に統合したマルチチャネル ソリューション 3 2 MR with iPad 1 MR e MR DB づく個々のチャネルでの提供情報、 マイズしていくことが重要である。 るMRからの働きかけ(eチャネル サービスのカスタマイゼーションで eチャネル上に情報が氾濫する中、 →MR)といったMR、eチャネルを ある。MRはディテールやサービス マスメディア的な情報発信は顧客医 有機的に統合したアプローチが重要 提供内容のカスタマイズに留まら 師の反発を招き、個々の医師が真に である。また、マクドナルドの様に ず、 講演会、 座談会等についても「こ 求める情報のみにカスタマイズして リアル世界のオピニオンリーダー の先生はどんなテーマに関心があ 提供する企業のみが顧客ロイヤル (OL)とは必ずしも一致しない「バー り、どの先生の影響が大きいのか」 ティーを獲得していく。 チャルOL」をeチャネルで特定しリ というプロファイル情報に応じてそ 第3に、リアル、バーチャルの垣 アルの世界で深くアプローチする、 れにマッチするイベントに絞って医 根を越えたマルチチャネル間の効果 Shazamの様に24時間いつでもどこ 師をナビゲートすべきである。接待 的なナビゲーションである。サード でも医師が思いついた時に情報アク 規制、医師の時間不足等によりイベ パーティーサイトから自社サイト セスのアクションを起こせてそれが ント参加回数の増加が困難な中、限 へのeチャネル上のナビゲーション 他のチャネルにもつながるモバイル られた回数のイベントを効果の高い だけでなく、MRによるiPad上での アプリ、等様々なアプローチが考え ものにすることが重要である。ま 医師とのeコンテンツの共同視聴等 られる。 た、eチャネルでの情報発信も上述 によるeチャネルへのナビゲーショ 次号では、新たな営業マーケティ のiTunesやアマゾンの例と同様に、 ン(MR→eチ ャ ネ ル )、eチ ャ ネ ル ングモデルを成功させていく上でカ 個々の医師のプロファイルに応じた 上 の 医 師 の ア ク シ ョ ン のMRへ の ギとなるマネジメントシステムにつ コンテンツ、フォーマットにカスタ リアルタイムフィードバックによ いて述べていきたい。 50 Monthly ミクス2013年1月号