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赤潮対策について(高水温期に要注意)
漁連だより 2007.6(No.146) 赤潮対策について(高水温期に要注意) 長崎県総合水産試験場 環境養殖技術開発センター 漁場環境科 はじめに 「赤潮」とは、ある種の植物プランクトン A が大増殖あるいは集積して、水の色が様々に D 変わる現象のことです。赤潮の月別発生件数 B とそれに伴う漁業被害件数を図1に示します。 C E 赤潮と漁業被害件数は6~9月頃に多く発生 していていることが分かります。多くの赤潮 プランクトンは水温29~25℃でよく増殖 し、図2に示すような魚類の大量へい死の原 図3. 有害赤潮プランクトンの顕微鏡写真 A: コクロディニウム 、 B: シ ャッ トネラ、 C : カレニ ア 、 D: ヘテ ロシ グマ、 E: ヘテ ロカプサ 因となるコクロディニウム等の有害プランク トン(図3)は水温25~30℃程度で最適 増殖することが知られています(長崎水試の 培養実験等)。したがって、梅雨から夏季に 有害プランクトンの出現状況と増殖特性 【出現状況】コクロディニウム ポリクリ かけての高水温時期(6~9月頃)には赤潮 コイデスの細胞密度の季節変化を図4に示し が発生しやすいといえます。今回は有害プラ ます。本種の出現は周年にわたってみられ、 ンクトンと水温の関係、現場での具体的な赤 夏季を中心とする高水温期に多いことが分か 潮対策について述べます。 ります。つまり、本種はこの時期に赤潮を形 成する可能性が高いと指摘できます。 10 ,00 0 1 ,00 0 1 , 0 0 0 ,0 0 0 10 0 1 0 0 ,01 0 00 1 0 ,0 0 01 1 ,0 0 00.1 0 .0 1 0 01 0 .001 01 1 0 0 , 0 0 0 ,0 0 0 200 1 0 , 0 0 0 ,0 0 0 160 細胞密度(細胞/L) 180 被害無 140 被害有 120 件 数 100 80 60 0.5m 2m 5m B -1 m A M J J A S O N D J F M 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 図4.コクロディニウムの細胞密度の季節変化(薄香湾2 0 0 5- 2 0 06 ) 40 20 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 図1.長崎県下における月別赤潮発生件数 【 増 殖 特 性 】シ ャ ッ ト ネ ラ 3 種( オ バ ー タ 、 アンティーカ、マリーナ)(図5)の培養株 を用いた室内実験(比増殖速度の測定)の結 果を図6にします。3種に共通する特徴とし て、20.5~32.5℃と広い温度範囲で 増殖することができること、25~30℃で は 比 増 殖 速 度 0 . 8 / day ( こ の 数 字 は 一 細 胞 / ml の シ ャ ッ ト ネ ラ が 一 週 間 で 、魚 類 を へ 図2. コクロディニウム 赤潮によって 大量へい死した養殖魚類 ( マ ダイ等) い 死 さ せ る と さ れ る 約 3 0 0 細 胞 / ml ま で 増えること表します。)以上の高速で増殖す る こ と が で き る こ と が あ げ ら れ ま す 。つ ま り 、 殖できる能力をも持ちあわせているといえる シャットネラ3種は四季を通して増殖する能 のです。同様の実験はコクロディニウム 力を持ち、25~30℃の高水温期には、一 リクリコイデスやヘテロカプサ 週間という短期間のうちに危険密度にまで増 ーリスカーマでも確かめられており、これら ポ サーキュラ 有害プランクトンも、やはり25~30℃で 最 適 増 殖 す る こ と が 判 明 し て い ま す 。従 っ て 、 養殖漁場等漁業現場では、有害プランクトン を標的とる周年のモニタリング調査を実施し、 a e c 高水温期には、調査回数を増やすなど、モニ タリング調査体制を強化しなければならない と考えられます。 f d b 図 1 .a・ b: C. o vat a , c・d: C. an tiqu a , e・ f: C. marina .スケ-ルバ - = 10μ m. 図5 . シ ャッ トネラ3種の顕微鏡写真 a, b: オバ-タ、 c , d: ア ンテ ィ-カ、 e , f: マリ -ナ 対策 赤 潮 対 策 に は 、① 有 害 プ ラ ン ク ト ン の 早 期 識 別 、② 魚 類 養 殖 に お け る 餌 止 め 、③ 赤 潮 か ら の 回 避( 筏 の 移 動 等 )な ど が あ り ま す 。こ の 中 で 、 0.6 36 最も重要となるのは L 0 0.9 32 0.8 塩分 Salin ity (PS U) 0. 1 0.2 0.7 0.5 0.6 0.4 0.3 1.0 ①赤潮プランクトンの種類の早期識別です。 H 28 赤 潮 を 形 成 す る プ ラ ン ク ト ン の 中 で 、そ の 種 24 類が魚介類に有害かどうかを早期に識別する 0 20 L C.シャットネラ オバ-タ ovata 0.6 こ と で 、具 体 的 な 対 策( 以 下 の ② 、③ )を 迅 速 L 16 10 12.5 15 17.5 20 22.5 25 27.5 30 0.8 0.7 にとることが可能となります。そのためには、 32.5 0.6 現 場 段 階 で 種 類 を 判 断 す る こ と が 重 要 で す 。長 36 0.9 崎 県 内 の 数 海 域 で は 、漁 業 者 主 導 の 自 主 監 視 体 32 0. 5 塩分(PS U) Salinity 1.1 1.0 28 0.9 H 24 0 0. 1 0.3 0.4 0.5 0.2 0.7 0.6 制 が 整 備( 養 殖 業 者 が 採 水 → 漁 協 職 員 等 が 顕 微 0.4 鏡 観 察 し 、有 害 種 の 有 無 や 数 を 漁 業 者 へ 伝 達 → 0.3 漁 業 者 は 必 要 な 対 策 ② 、③ を 即 座 に と る )さ れ 、 0.8 20 シ ャッ トネラ アンテ ィ-カ C. antiqua 16 10 36 0.2 L 12.5 15 17.5 20 22.5 25 27.5 30 32.5 主監視体制の実施事例紹介など赤潮に関する L 0 0.3 塩分 Sa lin it y (PSU) 32 0.1 0.2 0.3 0.6 0.4 研 修 の ご 要 望 が あ り ま し た ら 、下 記 の 最 寄 り の 水産業普及指導センターまたは総合水産試験 H 0. 5 て い ま す 。赤 潮 プ ラ ン ク ト ン の 顕 微 鏡 観 察 、自 0.6 0.5 0.7 28 赤 潮 に よ る 漁 業 被 害 の 防 止・軽 減 に 成 果 を あ げ 0.8 0.7 場 に 連 絡 し て 頂 け れ ば 、可 能 な 限 り 対 応( ど し 24 0 0.4 どし現場に出向く所存です)します。 20 0.3 シャッ トネラ マリ -ナ C. marina 0.2 0. 1 16 10 12.5 15 17.5 20 22.5 25 27.5 30 32. 5 Temper atur e(℃) 水温(℃) 図4. シャットネラ3種の増殖(比増殖速度)に及ぼす水温と塩分の影響 図6.シャットネラ3種の増殖(比増殖速度)に及ぼす水温、 塩分の影響 ②魚類養殖における餌止め 動 物 は 餌 を 食 べ る た め に 体 力 を 使 い ま す 。赤 潮 の よ う に 環 境 が 悪 い と き に 、魚 に 餌 を 与 え る ことは、余計な体力を消耗させることになり、 赤 潮 に よ る ダ メ ー ジ を 受 け 易 く さ せ ま す 。ま た 、 赤潮時の餌やりは、魚の餌になるだけでなく、 プ ラ ン ク ト ン の 栄 養 源 に も な っ て し ま い 、赤 潮 の 消 滅 が 遅 れ る こ と に つ な が り ま す 。餌 付 け 中 の 稚 魚 は 別 と し て 、ブ リ の 成 魚 で は 、環 境 が 悪 い 場 合 、一 カ 月 程 度 餌 を 与 え な く て も 、環 境 が 良くなってからの餌やりで十分成長が回復す るという報告もあります。 ③赤潮からの回避 筏 等 養 殖 施 設 を 移 動 す る 場 合 、行 政 機 関 に 連 絡 し て か ら 移 動( 緊 急 移 設 )す る こ と が 肝 要 で す 。移 動 に 際 し て は 、赤 潮 の 中 を 通 ら な い こ と は も と よ り 、養 殖 生 物 が 輸 送 中 に ス ト レ ス を 受 け な い よ う 充 分 に 配 慮 す る 必 要 が あ り ま す 。ま た 、赤 潮 時 に は 、周 辺 海 域 で の 蓄 養 を さ け る こ とも大切です。 こ れ か ら の 高 水 温 の 季 節 は 、特 に 、赤 潮 に 注 意する必要があります。 海域の変色を確認したら、昨年三月に発 刊・配布された図説「長崎周辺海域の有害植 物プランクトン」を活用して頂く他、最寄り の水産業普及指導センターまたは総合水産試 験場に連絡して、原因種を早期に確定し、迅 速な被害防止策②、③を講じて下さい。 (担当 山砥稔文) 県関係機関の連絡先 水産基盤計画課 095-822-5073(内線2855) 総合水産試験場 095-850-6316(漁場環境科直通) 水産業普及指導センタ- 県央 095-850-6371 県北 0950-57-0405 県南 0957-64-0487 五島 0959-72-2121(内線295) 上五島 0959-45-3611 壱岐 09204-7-1111(内線265) 対馬 09205-4-2084