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事 例 小学校 通級指導教室 テーマ 児童の良さを生かした通級指導教室

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事 例 小学校 通級指導教室 テーマ 児童の良さを生かした通級指導教室
事
例
小学校
通級指導教室
テーマ
児童の良さを生かした通級指導教室での授業改善
授業改善の視点
(1)児童の良さを生かした指導教材教具の工夫
(2)児童の良さを生かした将来の仕事プロジェクトの授業
1
授業改善の方針
通常学級に在籍しながら通級指導教室での特別支援教育を希望するということは、保
護者も、担任を含む学校全体も、その子の問題行動を深刻にとらえていることが多い。
個の教育的ニーズを的確にとらえ、情報を整理して個別の指導計画をたて、授業形態・
教材を工夫して指導にあたることが大切ではあるが、どうしても問題行動が浮上し、そ
の改善を期待される。しかし、問題行動を多く含む児童の場合、自分の弱さを指摘され
る と 、敏 感 に 反 応 し 、強 い る と よ け い に 問 題 行 動 を 増 幅 さ せ る 。そ こ で 、そ の 子 の 興 味 ・
関心、良さに注目し、そこからの出発をすることを基本にしていけば、自ずと困難点の
克服も可能になり、考えることができると仮定し、研究を進めることにした。
〈Aさんの様子と課題〉
Aさんは、学習に対する抵抗感が強い。教室における机上学習は拒否し、教室から
出て遊んだり、図書館で本を読んでいたりすることが多い。この原因は、認知の偏り
により、周りの状況を理解できないまま学年が進み、学習に関して分からないことや
うまく活動できないことが増えたことの不安感から生じた二次的問題と考えられる。
様々な不適応行動(パニック、暴力、逃避)も、不安から自分を守るための行動と推
測される。また、教室の外に居場所を作ってしまったこともAさんの必死の自衛策で
あったかもしれない。きめ細かい支援のステップが必要と考えられる。
〈Aさんの1学期の課題と支援方法〉
通級を楽しみにして、通うことができる。
・ 得 意 な こ と を 教 材 と し て 扱 う 。( 魚 、 虫 。 ポ ケ モ ン な ど )
・遊びや実験、マジックなどを介して、知識を得ることへの興味を引く。
プログラムや指示に従って、活動することができる。
・前日に活動内容を知らせ、心の準備をする。
・作業したり製作したりして、体験的な教材を取り入れる。
いらいらした自分の気持ちがわかるようになる。
・いらいらした時に、気持ちを表現する言葉を教えたりして、共感する。
・ 感 情 の ス キ ル ト レ ー ニ ン グ を す る 。」
苦手なことも、少しやってみることができる。
・少しがんばったあとに、好きな活動ができるように仕組む。
・良いところを、担任や保護者に伝え、本人にも自覚できるよう褒める。
〈Bさんの様子と課題〉
Bさんは、授業に集中することが苦手である。授業中、落ち着かず、手遊びをし、
トラブルを繰り返している。いやなことを言われると、顔つきが変わり、攻撃的な言
動 や 行 動 を 見 せ る 。 目 を 見 て 話 せ な い 、 単 語 の み の 答 え 方 、「 わ か ら ん 。」 の 連 発 ・ ・
など、すべてに自信のなさを感じた。家でも、兄弟げんか、物をすぐなくす、整理整
頓ができない、暴言を吐く、手足が出る・・・などの問題が頻繁に起こる。これらの
原因は、集中力の弱さ、記憶容量の低さ、思いを言葉で伝えられない弱さ、自己肯定
感の低さによるものと思われる。
そこで、Aさんのように、Bさんの得意なペーパークラフト、折り紙などの製作活
動を中心にした学習課題を設定して、1学期の通級での学習を行ったところ、かなり
落ち着いてきた。集団の場でも、課題をさっとすませることができるようになってき
た。しかし、新たな問題として浮上してきたのが、周りとの協調性である。自分を見
つ め る こ と は 避 け よ う と す る し 、振 り 返 ろ う と し て も「 わ す れ た 。わ か ら ん 。」の 一 点
張 り に な る 。自 分 の 良 さ に つ い て 質 問 し て も 、悪 い こ と し か 出 て こ な い 。
「やられたら、
や り か え す 。」と い う 考 え 方 の 裏 に は 、
「 誰 も 自 分 を 助 け て は く れ な い 。」と い う 人 間 不
信 も 感 じ ら れ る 。や は り 、B さ ん の 良 さ を 利 用 し た 方 法 で 学 習 の 目 的 を 作 り 、
「世の中
は 広 く 、い ろ い ろ な 人 が お り 、君 を 応 援 し て く れ る 人 が 必 ず い る 。」と い う メ ッ セ ー ジ
を送りたいと思った。
〈Bさんの2学期の課題と支援方法〉
自 分 の 良 さ か ら 将 来 像 を 描 き 、暴 言 、暴 力 を な く し て 、会 話 の 弱 さ を 克 服 し よ う
とする意識を持つ。
・興味ある仕事をテーマにして、将来像を描く。
・ 自 分 の 良 さ を 掲 示 し て 見 え る よ う に す る 。( 弱 さ は 小 さ く 掲 示 )
授業中の集中力を高め、授業参加の姿勢を作る。
・ 板 書 写 し 練 習 を す る 。( お も し ろ 話 、 シ ャ レ 言 葉 な ど 。)
・きれいなノート作りの練習をする。
・単純作業で、集中時間を伸ばし、できるという自覚をもつようにする。
身の回りの整理整頓ができる。
・持ち物チェック表を作成し、自分でチェックする習慣をつける。
・持ち物の整頓箱を作成したり、筆箱に学用品の入れ場所を決めたりして、目
に見える形で、物の紛失に気付くようにする。
自分の思いだけでなく、相手や第3者の思いを考える。
・身近な事象や生活のルールについて、常に第3者の視点を入れる。
・「 こ ん な と き ど う す る ? 」 の 資 料 を 使 っ て 、 ソ ー シ ャ ル ス キ ル を 練 習 す る 。
・緊張時のリラクゼーションスキルを練習する。
2
改善の具体的方途と実践
(1)児 童 の 良 さ を 生 か し た 指 導 教 材 教 具 の 工 夫
〈Aさんの良さ〉
○好きな物・・・ポケモン、昆虫、魚
○好きなこと・・川や海でのつり遊び
図書館での読書
○好きなものの話になると夢中になって話す。
○親しくなってくると、細かいところに気づいて思いやることができる。
○約束など、しっかり覚えていて守る。
○人なつっこい。特に年配の人に話し掛けることが多い。
○得意な力(発達検査より)
具体物を認知する力
簡単な言葉の指示理解
知識を長期間貯める力
○本人の行動パターン・・興味がある物で認知しやすいものに惹かれる傾向
Aさんは、川や海でのつり遊びが大好きである。その話になると、とても目が輝い
た。視覚的な教材が有効であることも、考慮して工夫した。遊びやマジックなど、知
識を得ることへの興味を引く教材も、取り入れてきた。自分で作った魚漢字カードを
利用し、つりゲームを学習に取り入れた。集中力が持続しないことを考慮にいれ、1
活動15分程度とした。カードによる繰り返し学習も取り入れた。ポイントは、褒め
ることと、できないことを意識させないこと。
資料1
「漢字魚つりゲーム」学習指導案
資料2
漢字カード及び魚つりゲーム
大勢の先生方に発表する授業では、緊張というストレスがかかった時の対処法(リ
ラ ク ゼ ー シ ョ ン ス キ ル )も 取 り 入 れ 、資 料 1 の 授 業 で は 、
「 冷 た い 水 を 飲 む 」と い う ス
キルを試した。
資料3
リラクゼーションスキルの掲示
【授業とその後の様子】
準備段階で、自分が得意とするつりの糸結びで褒められ、緊張がほぐれていった。
難しい魚漢字を読むたび、参観された先生方が感嘆の声をあげられるので、とても良
い 表 情 に な っ た 。「 緊 張 す る 。」 の 声 を 上 げ た 時 に 、 す か さ ず リ ラ ク ゼ ー シ ョ ン ス キ ル
をすることもできた。このことをきっかけにして、Aさんはいろいろな漢字に抵抗感
をなくしていった。この後、Aさんは図鑑とパソコンを駆使して、魚や昆虫の漢字カ
ードを増やす学習を続けていくことができた。時には、自作の魚カードを自校へ持っ
て帰り、それを使ってクラスのみんなと遊び、自慢することもあった。また、魚や昆
虫に関するプリント学習をするため、机上での学習をするようになり、現在では、視
写学習や読み取りプリント学習などもできるようになってきている。また、机上学習
が 可 能 に な っ た こ と に よ り 、在 籍 校 に お い て も 、通 級 指 導 教 室 で の 記 録 を も と に し て 、
同じような個別学習の時間をとるように改善された。その結果、Aさんのパニックは
減り、少しずつ学校に適応できるようになってきている。
(2)児 童 の 良 さ を 生 か し た 将 来 の 仕 事 プ ロ ジ ェ ク ト の 授 業
〈Bさんの良さ〉
○好きなもの・・
折り紙、切り紙。絵(イラスト)をかく。ゲーム
材料になりそうな道端の木や鉄くずなどを集める。
基地作り。
○小さい子や女の子にとても優しい。作った大事なものを贈り、遊んであげる
ことができる。
○パソコンのローマ字入力が速い。
Bさんは、小さい子や女の子にとても優しく接してくれる。学校での、不適応行動
の話が想像できないほど「あの子にこれあげて、作ったで」と、使ってもらえること
を喜ぶ姿があった。そこで、Bさんの良い面「小さい子や女の子に優しい。物を作る
こ と が 好 き 」に 焦 点 を 当 て 、母 か ら 聞 い た「 介 護 士 に な り た い 。」と い う 夢 に つ な げ る
ことにした。その夢を身近なものにするため、人と出会い、コミュニケーションを図
ることで、ソーシャルスキルの必要性を生じさせたい。そして自分の良さを伸ばして
行けば、夢に手が届くかもしれないという期待感を持ちつつ、少しでも現在の自分の
弱さについて振り返り、克服の意欲をもってほしいと願っている。
資料4
仕事プロジェクト単元指導計画及び学習指導案
【授業の考察】
自 分 の 良 い と こ ろ が な か な か 言 え な い B さ ん で あ っ た 。「 小 さ い 子 や 女 の 子 に や
さ し い よ 。 君 が お も ち ゃ を 作 っ て プ レ ゼ ン ト し た ら 喜 ん で い た よ 。」 と い う と 、 照
れながらもうれしそうな表情を見せた。介護士さんに電話をかけることに抵抗はあ
ったが、話し方、電話のかけ方などを事前に練習できたことで、上手に話すことが
できた。介護士さんも、大変協力的で、おだやかな口調で丁寧に応対してくださっ
たので、安心して話せたようだった。毎週、介護施設訪問を楽しみにして通級する
姿があった。母親とも介護士の話題で話せたとのことであった。準備のためのいろ
いろなスキルにも前向きに取り組めた。
参観授業のビデオレターでは、自分の姿を自分で見ることに強い抵抗があり、話
し方練習はできたものの、撮影は拒否した。しかし、参観者がいなくなったときに
は 、 自 分 か ら 「 撮 影 す る 。」 と 言 っ て く れ た 。 相 手 の 介 護 士 さ ん の こ と を し き り に
気にしており、あこがれをもっているようにも見えた。訪問のおみやげも、手作り
で準備した。いつもより、丁寧に作っている姿を見ることができた。やはり、相手
を意識するということは大切であると痛感した。訪問当日、Bさんは緊張しながら
も、訪問日程のしおりを握りしめ、あいさつの練習を車の中で繰り返していた。ふ
と気づくと、Bさんは一生懸命リラックス深呼吸をしていた。授業中に練習したこ
とを実践していたのである。介護施設では、どの介護士さんも、温かく声かけをし
て く だ さ る の で 、B さ ん の 表 情 は 明 る か っ た 。あ こ が れ の 介 護 士 さ ん に 出 会 い 、堂 々
とインタビューする姿に母親も驚いていた。単なる訪問ではなく、自分の将来の職
業という目で見ていることがよくわかった。
3
成果
・AさんBさんともに、通級指導教室を楽しみにして、毎回通級することができた。祝
日 に 当 た っ て 休 級 す る 週 が あ っ て も 「 ど う し て も 1 時 間 で よ い か ら 来 さ せ て ほ し い 。」
とのことであった。そして、本人と確認した学習プログラムに沿って、学習できるよ
うになった。今では、1∼2時間、学習プリントをはじめ、試写、板書写し、音読等
を含む学習活動ができるまでになった。
・Aさんの担任の先生から「学校でも落ち着いて生活することが増えています。時間を
守 る こ と も か な り で き る よ う に な り ま し た 。」と の コ メ ン ト を い た だ い た 。ま た 、教 務
の先生と個別対応の時間を設け、制作活動やおもしろ算数、視写による絵本作りなど
の学習をするようになったとのことであった。
・B さ ん は 、将 来 に つ い て 現 実 的 で は な い に し て も 、
「 中 学 校 に な っ た ら 、勉 強 す る よ 。」
「 ぼ く が 介 護 士 に な っ た と き 、あ の 施 設 の 人 た ち に 会 え る か な ぁ 。」な ど と 、口 に し た 。
少しずつではあるが、今の自分の姿ではいけないという自覚を見せ、いろいろなトラ
ブルに対して、相手を非難することよりも、自分の感情のコントロールが効かないこ
とに原因を見出す言動を見せるようになった。
・発達障がいの児童の多くは、うまく言葉が使えず、感情もコントロールできないこと
により、叱責を受けたり、説明を強いられたり責められたりする経験が積み重なって
い る こ と が 多 い 。 日 常 的 に 「 何 か こ と が 起 き た と き は 、 必 ず 叱 ら れ る 。」「 い や な 顔 を
さ れ る 。」 と い う こ と を 言 わ れ る の で 、「 自 分 は 悪 い 」 と い う イ メ ー ジ が 固 定 さ れ て い
る の で は な い か と 思 う 。し た が っ て 、
「 良 さ を 認 め る 、良 い 雰 囲 気 の 中 に い る 、良 く 思
っ て く れ る 人 の 中 に い る 。」と い う こ と が 、と て も 有 効 に 働 く と 思 わ れ る 。集 団 の 中 は
苦 手 な の で 、 通 級 と い う 特 定 の 空 間 の 中 で 、「 良 さ 」 か ら 出 発 し た 教 材 教 具 を 工 夫 し 、
指導過程に取り入れることはとても有効であるといえる。
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