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平成25年度

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平成25年度
警察職員による
被害者支援手記
警
察
庁
犯罪被害者支援室
発刊にあたって
犯罪被害者は、犯罪による直接的な被害だけでなく、その後に
生じる様々な問題により精神的被害など多くの被害に苦しめられ
ます。犯罪被害者が、こうした被害から回復し、再び平穏な生活
を営めるようになるためには、様々な支援が必要です。
この冊子は、全国警察の第一線において、犯罪被害者の支援活
動に当たる警察職員から寄せられた「手記」を、警察庁犯罪被害
者支援室がとりまとめたものです。
ここに収めた手記には、犯罪被害者がどのような状況に置かれ、
どのように苦しんでいるのかの一端が現れているほか、個々の犯
罪被害者に真摯に向き合い、時には共に涙しながら、犯罪被害者
の立場に立ってその様々なニーズに応えるべく努力している警察
職員の姿も記されています。
この冊子が、犯罪被害の実情や犯罪被害者を支援することの重
要性などについての理解の一助となることを願っております。
平成 26 年 2 月
警察庁長官官房給与厚生課長 吉岡 健一郎
目 次
被害者と接して学ぶこと
警察署勤務 警部補 女性··········································································1
犯罪被害者になるということ
警察署勤務 巡査部長 女性·······································································4
「人間らしく向き合う」
警察署勤務 巡査長 男性··········································································7
資 料 編································································································· 12
※警察では、性犯罪、少年、悪質商法、暴力団、交通事故等に関する相談について、
全国統一の相談専用電話「♯(シャープ)9110 番」により受け付けています。
そのほか、巻末のとおり、警察本部において個別の相談電話を設けています。
※手記の編集に当たりましては、被害者の方又はご遺族のご了承をいただいています。
被害者と接して学ぶこと
警察署勤務 警部補 女性
小学校の夏休みを目前に控えた暑い日の午後だった。
「ピコピコピコ…」
無線機がけたたましく鳴り、本部通信指令課が悲惨な事故の発生を伝える。
「下校途中の小学生の列に、大型トラックが突っ込んだ。被害者は小学生の
女の子で意識がない。」
一瞬にして署内がざわついた。事故の大きさと悲惨さから、
すぐに被害者支
援が必要となることがわかった。
通学路での事故は社会的反響も大きく、注目を浴びることは過去の同様の
事故からもわかっていた。
慌てて準備した相談室に、家族を通した。
「Aちゃんはどこの病院に行ったんだ、早く会わせてください。」
事故のショックから強い口調で詰め寄る家族に、
「Aさんは、警察署にいます。
まだ会わせることはできません。」
と答える以外かける言葉も見つからず、
ただ黙って一緒にいることしかできな
かった。
相談室では、事故の詳しい状況も分からず、不安を募らせる家族を前にして、
初めて被害者支援に当たる自分自身が焦っていた。
「トラックは信号無視のようです。」
「トラックは直進でした。」
捜査側から伝えられる断片的な情報を伝えると、
その目が一斉に私に向けら
れた。
家族には、情報が必要だ。
そう判断した私は、可能な限り、多くの正確な情報を提供するよう気を配るほ
か疑問や要望を一つずつ解消することに努めた。
やがて、交通課の幹部が相談室に入り、事故の概要とAちゃんの死亡が伝え
られた。泣き崩れる家族を前に、本当にどうしてよいかわからなかった。
一瞬でも気を抜くと、一緒に泣き出してしまいそうだった。
警察署の霊安室で、
Aちゃんは家族と対面した。
大怪我を負った頭部は交通課員の手によってきれいに修復され、真っ白い
包帯が巻かれていた。
泣き崩れる父親と、声も出せず立ち尽くす母親。
私はそっと寄り添うことしかできなかった。
1
娘を亡くした両親の絶望は、想像もつかないものだった。
そして、
Aちゃんは家族と自宅に帰って行った。
それからAちゃんの家族との長い付き合いが始まった。
当初、被疑者はすぐに起訴されるかと思われたが、
いったん処分保留で釈放
となり、事故から3ヶ月以上経ってようやく起訴されることとなった。
危険運転致死罪での立件のため、
より慎重に捜査を行う必要があったため
だ。
その間、
Aちゃんを失った悲しみとやり場のない怒りで毎日のように電話がか
かってくる時期もあった。
被疑者は自宅に戻り、
家族と過ごせるのに、
自分たちはどんなに望んでも二度
とAちゃんと会えない。
今は何とか頑張っているけれど、
いつ気持ちが折れてしまうかわからない。
Aちゃんのところへ行きたい。
といった悲しみや怒り、危険運転致死罪の適
用は難しいのではないか、被疑者は大した罪に問われないのではないかと
いった不安が語られた。
私が被害者方を訪問する度、事故に対する様々な思い、時にはAちゃんの思
い出が語られ、私は可能な限り話を聞くように努めた。
また、家族からの不安や疑問は早期に解消するよう心掛け、私だけでは十分
な支援ができないところは、本部の犯罪被害者支援室や民間被害者支援団体
にも協力を依頼し、多方面から支援が受けられるように手配した。
被疑者が起訴になった連絡をしたとき、家族は涙を流して喜んでくれた。
そして、暑い中、何度も何度も検証してくれて、
ありがとうございました。捜査をし
て下さった皆さんに、
よろしくお伝え下さい。
と警察の捜査に対して謝辞が述べ
られた。
事故後、溶けるような暑さの事故現場で何時間も、何日も取締りや検証に当
たる交通課員の姿を見ていてくれたのだった。
今回の支援を通じて、被害者の思いに接し、様々なことを学んだ。
Aちゃんを亡くすという悲しい体験をした家族の間でも、個々の思いは様々
で、
それがまたストレスや二次的被害を生む場合もあるということ。
心に受けた傷は時間とともに癒えるわけではなく、
その回復の具合は被害者
本人にもわからないため、注意深く支援にあたる必要があるということ。
そして、事件事故の現場に一番に向かい、一番最初に被害者に接することに
なる警察官の役割の重要性を改めて実感した。
人として誠実に、同じ目線で向き合うことで、被害者のためになりたいと思う
2
気持ちは通じるものだと思う。
今回の支援を通じて知り合った、別の交通事故遺族が言っていた。
被害者は、一生被害者をやめられない。
本当に、
そのとおりだと思う。
つらくて、苦しくて、逃げ出したくても被害者をやめられない。
私たちはそのことを忘れてはならない。
事故からまもなく1年となるが、裁判はまだ始まらない。
Aちゃん家族と私の付き合いはまだ続く。
3
犯罪被害者になるということ 警察署勤務 巡査部長 女性
被害届に署名をする手が震えた。使い慣れたボールペンのペン先が揺れる。
私は深く息を吸って、大きく吐くと同時に勢いをつけて届出人欄に私の名前
を書いた。
罪名は公務執行妨害。私は人生で初めて被害者となった。被害者と関わる
ことは多くあったし、被害者支援を実際に行ったことも何度かある。
しかし、
自分
が被害者になるとは夢にも思っていなかった。
私は、交通取締中、逃走車両のドアに腕を挟まれ、
そのまま走行されて転倒
するという公務執行妨害の被害に遭い、腰や腕に怪我を負った。
病院に行き診断書を貰う。先生になんと説明して、
どういう風に何通、診断書
を貰えばいいのか、悩む。
調書作成時、詳しく被害の状況を聞かれ、被害の状況を思い出す。光景がフ
ラッシュバックし背筋が凍る。
忙しそうな沢山の同僚たち。申し訳ない。私が被害に遭わなければ・・・。罪悪
感が沸く。
私がもっとしっかりしていれば、事件は起きなかった。私が犯罪者を生み出し
てしまった。
被害届に署名押印をする。悪いのは相手であって私ではない。
でも、処罰意
思を示す書類に署名するのが、本当に正しいのか、一瞬躊躇する。
後日、被害現場で目撃者を探すための看板を見て、被害の状況を思い出す。
心臓がどきどきする。怖い。
被害の場所、被害に関係するもの。私にとっては車が怖くなる。避けたくなる。
新聞報道や状況を聞いた周囲の人間から、相当の期間いろいろな事を言
われる。
かわいそうと言われたり、
もっと気をつけていればと注意を受けたり。私
だって、
どうしてこうなったのかくらいずっと考えている。
なぜ、やっと忘れてきて
いたのに、
また掘り返して話すの・・・。
怪我をした私を見て、
いつも気丈な母が泣いた。私が被害に遭ったばかりに、
私の大切な人まで傷つけてしまった。申し訳ない。
すべて私が体験した出来事であり、私が抱いた感情である。被害に遭った
後、警察官である私であっても、
これだけの事を考え、感じていた。
そして、正直
しんどかった。
被害者支援の教養を受けると、
よく指導を受ける内容にすべて当てはまって
いた。
4
司法制度に詳しい私でも、診断書を取るときには、多少迷う。全く知らない被
害者はどうだろうか?どうして診断書が必要なのか。
そこすらも解らないかもしれ
ない。
調書作成時に詳しく内容を思い出し、具合が悪くなる等の二次的被害を受
ける可能性がある。捜査員が必死に捜査している姿に
「私が事件に遭わなけれ
ば、
こんな迷惑を掛けなかった。」
と罪悪感を感じる。事件の要因は自分にある
と、落ち込みうつ状態になることもある。
自己否定の感情が高まる。被害に関係
のあるものを見ると、
フラッシュバックを起こし、恐怖を感じる。被害現場、被害状
況を思い出したり、関係するものから忌避行動を取る。周囲の人間からの安易
な言葉に傷つきやすくなる。
すべて、当たっていた。私は警察官という職業を持っていて、警察官という立
場で被害者となった。経験上事案がどういう流れをたどるかも解っているし、多
少ショックなことも乗り越えられる。
しかし、
これが、
いつも私が接している被害者
ならどうなるのだろう。考えると、恐ろしくなった。
私は今まで、
きちんと被害者支援を行ってきたと思っていた。
しかし、私はま
だまだ被害者に対する気遣いが足りていなかったのではないかと考えるように
なった。被害者になるということは、想像以上に自分の自己否定の感情を育て、
周囲に申し訳ないという気持ちを持たせ、恐怖を味わうものなのだ。机上の論
理で私は知っていた。
しかし、机上の論理と、私の受けたショックの間には大き
な隔たりがあった。
きっと、私が想像していた被害者の気持ちと、私が支援した
被害者が抱いていた感情にも大きな隔たりがあっただろう。
それに私はきっと気
づいていなかった。私がもっと出来た事もあっただろう。
それに初めて気づいた
のは、皮肉にも私自身が被害者になったときであった。
私はこれからも被害者と接していく。女性警察官という立場から私が受けた
被害より、
より凄惨な被害に遭った女性の支援を行うことも必ずあると思う。
その
ときに私が出来ることは、被害者が理解するまで司法制度を説明する事や、少
しでも被害者の自己否定の感情や、つらい感情を酌んで、解消する手伝いをす
ることだと思う。被害者が、小さな事につまづき、不安に思い、
どうすればいいか
解らなくなる瞬間瞬間に、
その人の気持ちに気付き、支える事だと思う。
犯罪の被害に遭うということは不幸な事だと思う。犯罪被害はそれ自体が不
幸な事である。
だからこそ、被害者をこれ以上不幸にしたくないと私は今までも
思ってきた。
しかし、私が想像した以上に、犯罪被害に遭った後の被害者の周
りには、不幸や苦痛が散らばっている。小さな段差に躓いてしまうように、小さ
な出来事に戸惑ったり、傷ついてしまう。
そのことを私は身にしみて実感した。今
5
回私は、公務執行妨害の被害に遭ってとても痛い思いをした。体も、心も痛かっ
た。
もう二度とこのような痛みを味わいたくない。私が受けたこの痛みは、被害に
あった人が受ける様々な痛みを実感として教えてくれた。私は、
この消えない痛
みを経験として大切にしたいと思う。忘れず、私の中で活かしたいと思っている。
人には転んでもただでは起き上がらないという強さがあると思う。私は、
この痛
みを痛かっただけでなく、
これからの被害者支援に活かそうと思っている。
私と同じように、全ての被害者に、
「痛みを受けただけで終わらせない。
ただ
では起き上がらない。」
という強さがきっとどこかにあるはずだ。
そんな人間の強
さを被害者の中に見つけて、痛みを乗り越え、被害に遭う前よりもっと強く再度
立ち上がれるように、私は、共に戦い、支援していきたいと強く思う。
6
「人間らしく向き合う」
警察署勤務 巡査長 男性
平成○年、私は、警察官を拝命する以前、教員として教壇に立っていた。
その年の夏、私が受け持つ部活動の生徒の兄が交通事故によって命を落と
した。死亡ひき逃げ事故であった。
後日、通夜に参列したが、
その生徒に何と声を掛けてやればいいのか分から
ず、結局、私は何一つ声を掛けることができないまま帰宅した。
それから、
この生徒は学校に来なくなってしまった。
私は、生徒が翌日学校に来られるように、仕事が終わってから、翌日の時間
割や配布物等を生徒の家に持っ行くものの、生徒と会えない日が続いた。
1ヶ月ほど経ったころ、私が仕事帰りに生徒の家に立ち寄った際、生徒が下を
向いて玄関まで降りてきた。
すると生徒が「きつかった。逃げた犯人が許せない。
でも先生明日から学校行くからね。」
と私に話してくれた。
私は、
この生徒に、励ましとなるような話は一切できなかった。
もちろん生徒と会って話をすることが目的だったが、毎日たったの3分、
その
生徒の家に行き、母親に配布物等を渡し、少し母親と話をして帰るだけであっ
た。
特に何かをしてあげたわけではないのに、
生徒の気持ちの中で少し前向きに
なってくれたことには間違いなかった。私が、
この学校を辞める時、生徒が「あり
がとうございました。先生が毎日来てくれたこと嬉しかった。
お兄ちゃんのこと大
好きだったから、
あのままだったら、
おれもダメになっていたかもしれない。」
と話
をしてきた。
私は嬉しかった反面、
「こんなにも思い詰めていたのか。」
と思うと、生徒に申
し訳なく、生徒の気持ちを分かってやれなかった自分の力なさが悔しかった。
ま
た、
もしこの時、私が中途半端な対応をしていれば、取り返しのつかないことに
なっていたかもしれないと強く感じた。
あれから6年、私は警察官となり交通課員として、昼間は免許更新や許可関
係の仕事をして、
6日に1回事故当直に就いている。
平成○年○月、私が事故当直に就いて間もなくして、人身交通事故の110番
指令がなされた。
その内容は
「高齢の男性が、横断歩道を横断中に軽自動車に
はねられ、意識はあるものの頭部から出血している。」
というものであった。
この高齢の男性Aさんは、近所のスーパーから自宅へ戻るため、国道の横断
歩道を横断中に車にはねられ、翌日午前4時ころ、病院で亡くなられた。
後から分かったことであるが、
Aさんは、足を怪我している奥さんの姿が見当
たらなかったことから、近所のスーパーに買い物に行っていると勘違いし、奥さ
んの身体を気遣ってスーパーに迎えに行ったものだった。
Aさんは、奥さんを迎
7
えに行ったものの、
スーパーに奥さんの姿が見当たらなかったため、仕方なく自
宅に戻る途中で不慮の事故に遭ったものだった。
しかも、
Aさんが、安全に道を歩けるようにとの妻への思いで買ってあげた懐
中電灯を手にしての死亡事故であった。
Aさんは、奥さんが自宅に忘れていた懐中電灯を持って、奥さんを迎えに
行っていたことが分かり、
Aさんの優しい人柄と不慮の死が交錯して、私はとて
も複雑な気持ちであった。
この事故が、私が初めて担当することとなった死亡事故だった。
事故後、お通夜、葬儀が終わり、
Aさんの奥さんが、突然警察署に来られ、
「加害者側から何の連絡もないし、謝罪もない、
こんなことがありますか。」
と怒
鳴り込んできた。怒りに満ちたその表情には、奥さんの心の悲しみと、加害者に
対する怒りが溢れていた。
その後、私はAさんの奥さんであるBさんから遺族調書をとることとなった
が、当然今の状況で話が聞ける状態ではなかったことから、
Bさんの気持ちが
落ち着いて、話ができる状況になるまで待つことにした。
また、
Bさんは、警察署で話を聞かれるということで緊張され、話したいことも
十分に話すことができないのではないかと思い、
Bさんに、
「旦那さんへの思い
や加害者への思い、
いろんな思いがあると思います。
それを警察官とはいえ、見
ず知らずの私に話すことはなかなかできないと思います。様式はどうでもいいの
で、
Bさんの気持ちを素直にそのまま書いてきてください。」
と話をした。
Bさんは、
「わかりました。
ありがとうございます。」
と一言だけ言われ帰られた。
事故発生から約2ヶ月経ったころ、
Bさんが警察署に娘さんと一緒に来られ、
私に
「陳情書」
と書かれた封筒を渡された。
陳情書の内容は、
「死亡事故以来、
自分に襲いかかる恐怖、危険も感じず、
そ
の瞬間まで私の怪我の事を心配して見守ってくれていた夫を思うと涙が止まり
ません。一瞬にして大黒柱を失い、75歳の私は一人暮らし。今後どれだけ経済
面、体力面、心的苦痛を乗り越えて行かなければならないかと思うと、不安な
毎日です。加害者からは今だに何の謝罪もなく、怒りと不安で全く先が見えませ
ん。」
と綴られていた。
陳情書からは、
この夫婦のお互いを愛する気持ちや家庭の温かさが頭に浮
かんでくるように綴られており、
そして何よりも、一家の大黒柱を失った妻の、加
害者に対する怒りと掛け替えのない夫を失った喪失感を痛切に感じることがで
きた。
そしてBさんは、
「加害者の方は、何度か家に来られるのですが、
ただ毎回頭
を下げられるだけで、何の謝罪の言葉もないんですよ。加害者の方に何かを尋
8
ねても、代わりに父親が話しをしだしてお金の話しかしません。保険でお金を支
払えばそれで終わりだと思っているようで、私達被害者の気持ちを全く分かって
もらえていません。
こんなに人に馬鹿にされているような思いをしたのは初めて
で憤りを感じます。」
と最初の印象とは違う落ち着いた表情で話をされた。
私は、何か話さなければと思いながらも掛ける言葉が見つからず、渡された
陳情書をただただ見つめていた。
すると、
Bさんが私に
「責めるわけじゃないけど、
お巡りさんには、私達の気持
ちは分かりませんよ。私達がどんな思いでいるのか。
どんな考えを持っているの
か。一家の大黒柱を失った家族の悲しみが分かることはないと思います。」
など
と悲痛な胸の内を露わにされた。
私は言葉に詰まって何も言えなかった。
誤った言葉を出して傷つけてしまうかもしれないと思うと、気持ちが委縮して
しまい、掛ける言葉を見つけることができなかった。
そして6年前のことを思い出していた。
あの時、生徒に何も言えなかった自分。
何とか元気を出してもらおうと頭の中でたくさんの言葉を考えていたが、結局
何もいい言葉が見つからず、最後まで何も言えなかった。
ただ、
あの時、私は、生徒のそばに行って話を聞いてあげたいと思い毎日のよ
うに生徒の家に行っていたことを思い出した。
とにかく、私は、長い時間をBさんと向き合い、
Bさんの思いを全て聞いてあ
げたいと思った。
それから、
いくつか私の方からBさんに質問をするものの、最初は質問に対す
る答えだけですぐに話が途切れ、
お互い沈黙が続いてしまう。
そんなぎこちない
時間が2時間くらい続いた。
しかし、
うなずきながらじっくりとBさんの話を聞いていくうちに、
Bさんの話
は次第に長くなり、
たくさんの想い出話やBさんの考えを聞くことができるように
なった。
Bさんと話をしていく中で、
Bさんが以前学校の先生をしていた話をされ
た。私は、
「私も警察官になる前、学校の先生をしていたんですよ。」
と話をする
と、
Bさんは、
「どおりで話を聞くのが上手だと思った。」
と笑いながら話された。
私は、初めてBさんが笑った顔を見ることができた。
この瞬間を境に、私とBさんの距離が一気に近づいた、
そんな親近感が生ま
れ、私は、
「Bさんを救いたい。」
という純粋な気持ちが心の底から沸き上がって
きた。
私は、
Bさんに、
「 私が先生をしていたころ、生徒の兄弟が交通事故で亡く
なってね。
その子はお兄ちゃんが大好きで、
すごく落ち込んで学校に来なくなっ
たんです。私も心配で毎日その生徒の家に行ってたんだけど、
なかなか生徒と
会えなくて、何も励ましになるような言葉を掛けてやれなかったんです。結局1ヶ
9
月後には登校してきて、以前と変わらない様子で学校生活を送っていたと思う
けど、内心はどうだったんでしょうね。生徒は私に
『ありがとう。』
と言ってくれたけ
ど、結局最後まで生徒に何の励ましになるような言葉は掛けられませんでした。」
と、初めて素直な気持ちを話すことができた。
長い話になってしまったのですが、
Bさんは
「にこっ」
と笑い、
「今日のお巡りさ
んの様に、私達被害者は別に飾った励ましの言葉なんて言ってもらわなくてい
いんですよ。私達は話をちゃんと聞いてくれたり、私達の気持ち分かる人、誰か
が近くにいるということを感じるだけでいいんですよ。
だからその生徒さんもお巡
りさんに
『ありがとう。』
と言ったと思うよ。
さっき
『お巡りさんには、私達の気持ち
は分かりません。』
と言ったことは間違いだね。
ごめんね。」
と頭を下げられた。
私は、込み上げてくる熱いものを押さえることで精一杯だった。
その後、
Bさんは陳情書を書いて警察署に持って来られることが4回あった
が、最後には、
「お巡りさん、忙しいのに何回もごめんね。
また、
あれから色々考
えて紙に書いてきたのでお願いします。今度は、
『今後、私はいかに人生を送る
べきか。』
という内容で書いてきました。字が汚くて読みにくいけど。
それと、
この
前○○さんが家にきたよ。
でも何も喋らずに帰りました。
なにを考えているのか、
今だにわかりません。」
とうっすら笑みを浮かべたように話をされた。
その顔を見た時、
事故の前のような気持ちや生活には戻れないかもしれない
けど、
Bさんの気持ちがほんの少しだけ前向きになったように感じた瞬間だっ
た。
私はBさんに
「近いうちに調書とりましょうか。
」
と話したところ、
Bさんは
「よろし
くお願いします。
また今の気持ちを書いてきます。」
と言って軽く会釈をして帰って
行かれた。
数日後、
Bさんが警察署に来られ、
Aさんの生前のことや、加害者に対する思
いなどを綴った調書を確認してもらった。
Bさんは「上手に書けています。夫の生前のことや、
あの時の状況、私の気持
ちがしっかり書いてあり物語みたいになっています。加害者の方に私達の苦し
みを少しでも分かってもらえるように願っています。真っ白な紙に自分の気持ち
を書いていくうちに、
ごちゃごちゃになっていた気持ちが少しずつ整理されてい
きました。
これからも少しずつ頑張っていきたいと思います。
ありがとうございまし
た。」
と言われ、丁寧に頭を深々と下げられた。
私もつられて
「ありがとうございました。」
と言って頭を下げたところ、
Bさんは
「にこっ」
と笑って、
「お巡りさんに話を聞いてもらってよかった。
お巡りさんも頑張ってください。」
と話され、警察署を後にされた。
被害者支援・・・。
それは指定された一部の警察官が行うものではなく、被害
10
者と接する全ての警察官が、多忙な警察業務の中でも、被害者と精一杯人間ら
しく向き合うことだと私は思った。
11
資料編
12
13
14
第2次犯罪被害者等基本計画の概要
▼4つの基 本 方 針・5つの重 点 課 題
4 つ の 基 本 方 針
尊厳にふさわしい
処遇を権利として
保障すること
個々の事情に応じて
適切に行われること
途切れることなく
行われること
国民の総意を形成
しながら展開され
ること
5 つ の 重 点 課 題
1 . 損 害 回 復・経 済 的 支 援 等への取 組( 基 本 法 第 1 2・1 3・1 6・1 7 条 関 係 )
35施策
2 . 精 神 的・身 体 的 被 害の回 復・防 止への取 組( 基 本 法 第 1 4・1 5・1 9 条 関 係 ) 68施策
3 . 刑 事 手 続への関 与 拡 充への取 組( 基 本 法 第 1 8 条 関 係 )
37施策
4 . 支 援 等のための体 制 整 備への取 組( 基 本 法 第 1 1・2 1・2 2 条 関 係 )
73施策
5 . 国 民の理 解の増 進と配 慮・協 力の確 保への取 組( 基 本 法 第 2 0 条 関 係 )
28施策
推進体制に関するもの(9項目)
計画期間:5年(平成27年度末まで)
合計241施策
15
被害相談電話一覧表
被害者の心の悩み
性犯罪
少年
交通事故
0120-756310 0120-677110 011-233-2543
011-242-0310
0120-677110
北海道
0120-897834
青 森
0120-587867 017-734-9235
017-782-5012
0120-797874 019-651-7867 019-652-4597
0197-65-2400
岩 手
宮 城
022-221-7198 022-221-7867
022-222-4970
秋 田
0120-028110 018-824-1212 018-864-9110
018-831-3421
山 形
023-615-7130 023-642-1777 023-655-6360
059-223-1333
077-521-8341 077-521-8341 077-521-5735 077-585-2750
0749-52-0114
京 都
075-411-0110 075-551-7500 075-411-0056 ~ 7
大 阪
06-6941-0110 06-6772-7867 06-6941-6983
兵 庫 0120-338274 078-351-0110 0120-786109 078-371-2262
0742-24-4110 0742-22-0110 0744-23-4400
0744-27-4544
073-432-0110 073-425-7867 073-473-0110
和歌山
073-473-3249
島 根
0120-110267
03-3597-7830 03-3597-7830 03-3580-4970 03-3593-0941
岡 山
0120-001797 086-231-3741 086-224-3003
03-3592-1234
広 島
0120-720110 082-228-3993 082-941-7700
山 口
0120-378387 0120-495150 083-973-0054
083-932-7830 083-925-5150 083 ー 973-2316
0120-503732
0120-795110 024-591-5038
024-526-1189
栃 木
0120-710873
0120-874152 028-622-8483
群 馬 027-221-7777 027-224-4356 027-221-1616
0120-381858
0120-381858 048-865-4152 048-824-3050
048-861-1152
千 葉
043-223-0110 0120-783497 043-271-8481
神奈川
045-681-0110 0120-457867 045-211-2574
045-641-0045
新 潟
025-281-7890 025-285-4970 025-285-3755
0258-36-4970
025-526-4970
山 梨
055-224-5110 055-235-4444 055-233-0374
0555-22-4444 055-280-5550
長 野 026-234-8110 026-234-8110 026-232-4970 026-292-9750
静 岡
富 山
0120-783870
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0120-728730
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石 川
076-225-0281 0120-497556 076-238-0496
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福 井
0120-292170 0120-783214 0776-22-0465
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愛 知
交通事故
0857-22-7110 0857-29-0808
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茨 城
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高 知 088-871-3110 088-873-0110 088-822-0809 088-822-5877
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福 岡
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佐 賀
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0120-786714 095-824-1111
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096-384-4976
熊 本
大 分 0120-098110
0120-098110 097-532-3741 097-506 ー 2166
宮 崎
0985-31-8740 0985-23-7867 0985-35-6231
鹿児島
099-206-7867 099-252-7867 099-269-4493
沖 縄
098-868-0110 0120-276556 098-868-2291
098-862-0111
052-954-8897 0120-677830 0120-786770 052-981-7587
0570-064-810 052-951-7867
(ワンストップ
支援センター)
警 察 庁
警察庁 犯罪被害者支援室のホームページ http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm
NPO 法人全国被害者支援ネットワーク http://www.nnvs.org
斜字体は交通安全
活動推進センター
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