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基礎知識編

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基礎知識編
<基礎知識編(メンタルヘルス対策)>
【基礎知識編】職場におけるメンタルヘルスの基礎知識
管理監督者だけではなく、全ての教職員を対象としています。研修会等でご活用ください。
第1章
メンタルヘルス対策に関する基礎知識
健康とは心身ともにすこやかな状態のことをさします。身体の健康管理と同様に心の健康管理も
必要です。メンタルヘルス対策は不調者への対応だけではなく、職場の全ての人を対象としている
ことが大切なポイントです。
1 職場におけるメンタルヘルス対策
予防対策と事例対応が車の両輪のように両方が機能しなければ、メンタルヘルス対策の推進はで
きません。
予防対策
事例対応
・職場環境改善
・予防教育
・セルフケア
・早期発見・早期対応
どちらが欠けても
うまく前進しない
・職場復帰支援
・再発防止
2 職場でのメンタルヘルス事例対応
右図は職場での対応の概要です。病気休職中の
者への支援(②)は主に管理監督者の対応になり
メンタルヘルス対策になるのです。
復職時の支援
ないことです。日ごろから、声を掛け合うことが
休業 ②
管理監督者による
診断や治療は不要
ことを気にかけ、
「いつもと違う」サインを見逃さ
こちらへの流れを
多くする!
を防ぐことができます。まずは、お互いが同僚の
①
早期発見・
対応
応すること(①)が大切です。早期発見で重症化
メンタルヘルス不調事例
休まないで健康に働き続ける
ます。職場全体では、早期に不調者に気づき、対
職場でのメンタルヘルス事例対応
平成24年度 県立学校等衛生管理者等研
修会 大同特殊鋼 統括産業医 斉藤政彦
メンタルヘルスケアにおける職場の仲間の役割
<日ごろから取り組むこと>
〇ストレスやメンタルヘルス不調について理解する。
〇「いつもと違う」というサインを軽く見ない。
〇本人の話をよく聴く。
〇判断に迷うときは、校長・教頭・事務長等に相談する。
〇家族や主治医に連絡をとる場合は、本人の了解を得てから行う。
<不調者への対応>
〇療養が必要な場合は、仕事から離れて治療に専念できるように配慮する。
〇はれものに触るような態度や叱咤激励は禁物。
〇本人がゆっくり回復するのを温かく見守る。
<参考>『メンタル不全を正しく知るためのQ&A』
(大野裕監修 地方公務員安全衛生推進協会)
- 51 -
第2章 ストレスに関する基礎知識
ストレスという言葉はマイナスのイメージがあり、できれば取り除きたいものです。しかし、
適度なストレスの場合は、活動能率をアップさせます。ストレスについて知識を得て、ストレス
と上手に付き合えるようになりたいものです。
1 ストレスとは
ストレスとは物体の外側からかけられた圧力によって歪みが生
じた状態をいいます。ストレスを風船にたとえると、風船を指で
押さえる力をストレッサーといい、ストレッサーによって風船が
歪んだ状態をストレス反応といいます。
私たちの心や身体に影響を及ぼすストレッサーには、
次のようなものがあります。
「物理的ストレッサー」
(暑さや寒さ、騒音や混雑など)
「化学的ストレッサー」
(公害物質、酸素欠乏・過剰、一酸化炭素など)
<ストレスマネジメント>
「心理・社会的ストレッサー」
ストレッサーを取り除いた
(人間関係や仕事上の問題、家庭の問題など)
り、ストレスを大きくしな
い工夫や、緊張状態やスト
医学や心理学の領域では、心や身体にかかる外部からの刺激をストレ
レス反応の緩和など、スト
ッサーといい、ストレッサーに適応しようとして、心や身体に生じ
レス生成のあらゆるプロセ
たさまざまな反応をストレス反応といいます。
スに包括的に働きかけるこ
普段私たちが「ストレス」といっているものの多くは、この
とをいいます。
「心理・社会的ストレッサー」によるものを指しています。
ストレス対処が
目標の達成
うまくいくと
成長
ストレス
対処
ストレス反応
心理面
ストレス対処が
身体面
うまくいかないと
行動面
ストレス関連疾患
ストレッサー
満足感の上昇
『教員のためのストレスマネジメント ハンドブック サポート編』
(近畿大学監修)
- 52 -
<基礎知識編(ストレス)>
ストレス反応は、次の心理面、身体面、行動面の3つがあります。
<心理面での反応>
活気の低下、イライラ、不安、
抑うつ(気分の落ち込み、関心の低下)など。
<身体面での反応>
体のふしぶしの痛み、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、
動悸や息切れ、胃痛、食欲低下、便秘や下痢、不眠などの症状。
<行動面での反応>
飲酒量や喫煙量の増加、仕事でのミスや事故の増加など。
2 ライフサイクルと産業ストレス
仕事で経験するストレスの内容は、ライフサイクルによっても異なります。ここでは、厚生労働
省による労働者健康状況調査を参考にしながら、ライフサイクルに伴う仕事のストレスについて考
えてみます。
多くの人は、20 歳代前半から 30 歳ごろにかけて職業生活を始めます。こ
れらの時期では、新しい職場環境に慣れ、仕事を覚え、人間関係を構築するこ
とが必要で、こうした課題に伴うストレスを自覚することが多くなります。ま
た、仕事の適性に関する悩みが多いのもこの時期の特徴です。
30 歳代では、職場環境や人間関係にも慣れ、職業生活も軌道に乗る頃で、
周囲からの期待もしだいに大きくなってきます。これに伴い、仕事の忙しさや
量的な負担についてストレスを感じる労働者が多くなるのもこの時期の特徴
です。また、私生活でも結婚や子どもの誕生といった大きな変化を経験し、こ
うした変化もストレッサーになることがあります。
40 歳代では周囲からの期待がさらに大きくなり、より高度な内容の仕事を
求められるようになります。また、主任や管理職などの立場で部下や後輩の管
理業務を任される機会も多くなることから、仕事の質についてストレスを感じ
る労働者の割合も増えてきます。そのような中、40 歳代が少ないという現在
の教職員の年齢構成から、特定の人に仕事が集中しやすい年代でもあります。
50 歳代以降では、組織の中での能力や立場の違いが顕著になってきます。
担っている役割が人により大きく変わってくることから、人間関係で悩む人が
少なくありません。また、定年後の仕事や老後の問題についても現実味を帯び
てくるほか、自分自身の健康問題や両親の介護の問題などもストレッサーとな
ってきます。
<参考>『働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」』(厚生労働省)
- 53 -
3 「良いストレス」・「悪いストレス」
一般的に、ストレスは悪いものと思われがちですが、ストレスには「良いストレス」もあります。
○良いストレス(快ストレス、eustress)
「良いストレス(快ストレス)」とは、
例えば、目標、夢、スポーツ、良い人間関
生産性(パフォーマンス)
係など、自分を奮い立たせてくれたり、勇
適度なストレス
気づけてくれたり、元気にしてくれたりす
る刺激です。
こうした「良いストレス」は、人生を豊
ストレスが
少ない
かで充実したものにしてくれます。
過剰な
ストレス
ストレスの量と生産性(パフォーマンス)
の関係を見てみますと、右図のように、ス
トレスレベルが高すぎても、低すぎても生
産性は落ちるということがわかっています。
ストレスの量
(ヤーキーズ・ドットソンの法則)
○バランスの良い状態を
「ストレスは生活のスパイスである」ともい
われます。ある程度のストレスは、生活に新鮮
な刺激を与えてくれる要素となります。
ストレスが過剰にならない、また過少になら
ないように、バランスをとりながら対処してい
くことが大切です。どのようなストレス対処を
とるかということが、
「良いストレス」になる
か、
「悪いストレス」になるかの分かれ道とい
えます。ストレス対処法を工夫し、
「悪いスト
レス」を「良いストレス」に変えていきましょ
う。
『教員のためのストレスマネジメント ハンドブック サポート編』
(近畿大学監修)
- 54 -
<基礎知識編(セルフケア)>
第3章 セルフケアに関する基礎知識
心の健康を保つには予防対策が重要です。自らをケアすること(セルフケア)が特に大切です。
自分の心の健康状態を知り、ストレスと上手に付き合い、ストレスに強くなることやストレスを蓄
積しない生活習慣や気分転換方法を身につけることが必要です。
1 セルフケアにおける4つのステップ
<ステップ1 ストレスに気づく>
自分の心の健康状態の変化は気づきにくいものです。
自分の状態を客観的にみつめることで、対応する方法が見つけやすくなります。
こちらでは、入力
すると、自動的に
定期的に「ストレスセルフチェック」を活用してください。
判定されます。
福利課HP http://www.pref.aichi.jp/kyoiku/fukuri/index.html
部局掲示板 部局掲示板>掲示所属別>管理部福利課>メンタルヘルス
最近1か月間のあな た の状態について 伺います。最もあて はまるものに○を付けて く だ さい。
ほとんど
なかった
状 態
1
2
3
4
5
A
心
理
的
ス
ト
レ
ス
反
応
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
B
身
体
的
ス
ト
レ
ス
反
応
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
ときどき
あった
しばしば
あった
ほとんど
いつもあった
活気がわいてくる
元気がいっぱいだ
生き生きする
怒りを感じる
内心腹立たしい
イライラしている
ひどく疲れた
へとへとだ
だるい
気がはりつめている
不安だ
落ち着かない
ゆううつだ
何をするのも面倒だ
物事に集中できない
気分が晴れない
仕事が手につかない
悲しいと感じる
めまいがする
体のふしぶしが痛む
頭が重かったり頭痛がする
首筋や肩がこる
腰が痛い
目が疲れる
動悸や息切れがする
胃腸の具合が悪い
食欲がない
便秘や下痢をする
よく眠れない
※ 判定は網掛け部分の○の数で判定します。
A 心理的ストレス反応(1~18)
判定
14個以上
B 身体的ストレス反応(19~29)
A 心理的ストレス反応(1~18)
5個以上
13個以上
B 身体的ストレス反応(19~29)
6個以上
男性
女性
A又はBのいずれかに該当す
ると
「 要注意」
該当しなければ
「 判定上問題な し」
他にもストレスセルフチェックのサイトがあります。試してみましょう。
⇒アルコール依存性
⇒こころの体温計
【資料編】をご覧ください。ポータルサイトに掲載中
公立学校共済組合愛知支部の HP をご覧ください。
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<ステップ2 ストレス要因を減らす>
<ステップ3 ストレスに強くなる>
ストレスの要因を減らすことを考えましょう。
ストレスをためない工夫を身につける。
〇コミュニケーションを図る。
〇自分の考え方のくせを知る。
報連相(ホウレンソウ)を忘れずに
「認知のゆがみ」を知る。
※働くうえで「報告・連絡・相談」は
いろいろな考え方があることを知る。
大切です。
~副交感神経に働きかけをする。~
○アサーティブにいこう。
〇簡単にできる気分転換を身に付ける。
相手に配慮しながらも、自分の言いたいこ
※遠くを眺める。※ストレッチをする。
とを無理なく伝える会話(アサーティブ)
※深呼吸をする。※好きな言葉を思い出す。
をしましょう。
〇リラックス方法を身につける。
○SOS上手、相談上手になる。
※ゆっくりお風呂に入る。
「一人で抱え込まない」
「周囲に相談する」
※好きな音楽で心をほぐす。
で仕事の質を向上させましょう。
※ハーブティーなどで緊張をほぐす。
〇切り替え上手になる。
〇環境を整える。
※運動で心身を解放する。
環境改善は小さなことからスタートできま
※友人・家族と楽しむ時間を持つ。
す。まず、机の上の整理整頓から。
<参考>
『心の健康管理
※没頭できる趣味を持つ。
上手なセルフケアの秘訣』
(財団法人 地方公務員安全衛生推進協会)
『明るく悩むコツ』
ストレスのない人は一人もいません。悩みのない人も一人もいません。
どうせ悩むなら、明るく悩みましょう。
1 悩んでも当然。いつも明るく
6 変化はほんの小さなことから。
元気になんかしていられない。
2 泣いたり、わめいたり、怒ったり、
7 「逃げる」
「棚上げする」のも
感情を出すのは悪いことではない。
3 誰かに自分の気持ちを話してみる。
立派な選択肢。
8 自分らしさを大切にする。
自分への手紙・日記もOK。
4 「Here & Now」
(今ここで)で考える。 9 時機を待つ(時の流れに
身を任せる)ことも大切。
5 「~せねばならない」ではなくて、
「~したほうが楽かどうか」で考える。
10 頑張り過ぎない勇気を持つ。
『教員のためのストレスマネジメント ハンドブック サポート編』
(近畿大学監修)
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<基礎知識編(セルフケア)>
<ステップ4 生活習慣を見直す>
身体の健康と同様に心の健康にも生活習慣は大きく影響しています。
<睡眠>
睡眠と心の健康の関連性は強いです。ストレスにより不眠が
続くこともあれば、睡眠の質が悪くて疲れが取れないために、
元気がなくなる場合もあります。睡眠時間だけではなく、睡眠
の質を向上させることが、ストレスへの耐性を高めます。
<食事>
栄養バランスが取れ、偏りの少ない食生活は生活習慣病予防や関連疾患の改善に重要な役割
を果たしています。また、栄養バランスが崩れたり、食事時間が不規則になったりすると疲労
が蓄積しやすくなり、集中力も低下します。それはイライラや落ち込みの要因にもなります。
心身ともに健康で元気に働くためには、
「食事」がとても大切なのです。
<運動>
気分転換の方法として、適度な運動やストレッチなどはよく知
られています。身体を動かすことにより、血行が促進し副交感神経
を刺激して、気分的にも落ちつくことができます。簡単なストレッ
チや校内巡視など、上手に身体を動かして、気分転換を図りましょ
う。また、日ごろから身体を動かす習慣(定期的に運動をする。階
段を使う。歩く距離を増やす。)で生活習慣病予防や筋力の維持に
つなげてください。
<飲酒>
「元気がないな。酒でも飲んで、元気をだそう。」と、声をかけたくなる人もいると思いま
す。しかし、メンタルヘルス不調者にとっては、酒席は辛いものです。また、話を聴くつもり
でも、お酒が入るとついつい、自分の意見を押し付けてしまうことも多いものです。お酒は健
康なときのコミュニケーションを深める一助と考えてください。
<整理整頓>
書類や教材が見つからず、捜すことに時間をかけていませんか?自分の周辺を整理整頓する
習慣を身に付けましょう。効率よく仕事ができるとともに、整理整頓は大切なデータの紛失も
防ぐことになります。
- 57 -
セルフケアに役立つストレスマネジメント関連用語
〇ストレス・コーピング
「コーピング」は「対処する」「切り抜ける」という意味を持ち、ストレス・コーピングとは、
特定のストレスフルな問題や状況に対するストレス対処方法のことです。
<対処法例>
問題解決型・・・状況を変化させる、問題を明確にする。
別の解決方法を見つけてそれをあわせて評価する。
情動焦点型・・・問題に対する情動的な反応をコントロールしたり変化させたりする。
逃避したり最小化したりする。情動的な苦痛の軽減を目指す。
○ストレス耐性
ストレスに対する抵抗力のことで、次のような要素があります。
「感知能力」ストレスに気づくか気づかないか。
「回避能力」ストレスをつくりやすい性格かどうか。
「根本の処理能力」ストレッサーをなくしたり、弱めたりする。
「転換能力」ストレス状態に陥ったときに、その意味を良い方向に捉え直すことができる。
「経験」ストレスそのものの経験
「容量」ストレスをどのくらいためていられるか。
○ストレスコントロール
生活上のストレッサーを認識し、ストレスの影響を知り、ストレスレベルをコントロールする
ことをストレスコントロールといいます。これによって、ストレッサーに適切に対処し、リラッ
クスすることができるようになります。
○アサーション
相手の気持ちや考えを尊重しながらも、自分の気持ちや考えをその場に適切な表現で相手に率
直に伝える方法です。
<参考>『働く人のメンタルヘルス・サポートサイト「こころの耳」』(厚生労働省)
※※※※※※『県立学校の教職員の心の健康づくり計画』と4つのメンタルヘルスケア※※※※※※
セルフケア
保健スタッフ等によるケア
⇒教職員自身がストレスや心の健康について理解し、自
⇒教職員や管理職を支援する専門知識を備えた教育委員会
らのストレスを予防、軽減、あるいは対処すること。
のスタッフが行うケア。
ラインによるケア
外部資源によるケア
⇒教職員と日常的に接する管理職が対応を行うケア。
⇒外部の相談・医療・専門機関等の資源を活用したケア。
- 58 -
<基礎知識編(医学面)>
第4章 メンタルヘルスに関する医学面の基礎知識
職場におけるメンタルヘルス対策では上司や同僚が「病気の診断」や「治療」をする必要はあ
りません。しかし、基礎的な疾患の知識を得ることは予防や対応に役立ちます。ここでは主に働
く人に問題となる精神疾患について、用語の説明をしていきます。
1 ストレスが引き起こす脳内トラブルについて
ストレスが原因で倦怠感や焦燥感に襲われた
り、気持ちが不安定になったりしますが、これは
前シナプス細胞から
性格や気持ちの問題だけではなく、脳の中でも異
放出された神経伝達
常が起きているのです。倦怠感、焦燥感や不眠が
物質が、後シナプス細
続くようなら、専門機関へ相談しましょう。
胞の受容体に結合す
ることで情報が伝え
られます。
放出される神経伝達
物質の量が減少した
り、受容体から離れた
脳 内 の
構造
りすることで、情報の
伝達がうまくいかな
脳内には無数の神経細胞(ニューロン)が
くなります。そのため
あり、その連接部分(シナプス)で連絡しあうことで、
感情の調節がうまく
神経伝達物質(セロトニン、ドーパミンなど)が情報処
できなくなってしま
理を行っています。
うのです。
上図のようにメンタルヘルス不調は「気持ちの持ちよう」「甘え」「わがまま」ではないので
す。不調を自覚したり、周囲から指摘されたりしたら、専門機関を受診して、自分自身の心身の
健康状態を確認しましょう。『教員のためのストレスマネジメント
ハンドブック サポート編』(近畿大学監修)
2 ストレスが引き起こす疾病
ストレスによる症状が精神面にあらわれた場合は「気分障害」や「不安障害」、身体面にあら
われた場合は「心身症」を発症します。また、アルコール依存や摂食障害など、行動面に症状が
あらわれることもあります。
- 59 -
メンタルヘルス対策に関する基礎用語
〇メンタルヘルス不調
厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」によると、「精神及び行動の障害
に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健
康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含む
もの」と定義されています。
〇病識
自分自身の異常体験や行動が病気あるいは病気であったことを判断し、自覚していることで
す。統合失調症、アルコール依存症などのメンタルヘルス不調の場合は病識がないことが多く、
そのために治療がうまく進まないこともあります。
気分障害
〇うつ病
精神活動が低下し、抑うつ気分、興味や関心の欠如、不安・焦燥、精神運動の制止あるいは
激越、食欲低下、不眠などが生じ、生活上の著しい苦痛や機能障害を引き起こす精神疾患です。
治療としては、
「休養」
「薬物療法」「精神療法」を組み合わせます。最近では、生物学的な観
点からの研究も多く、薬物療法はセロトニンやノルアドレナリンといった脳内神経伝達物質の
働きの促進を目的とした抗うつ剤が開発され、現在の治療の主流となっています。
○躁うつ病
〇抑うつ状態
双極性障害ともいわれます。躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患です。躁状態の程度によ
り大まかに双極Ⅰ型(顕著な躁状態)、双極Ⅱ型(軽躁)に分類されます。この障害の基本障
害は気分あるいは感情の変化であり、抑うつや高揚気分へと繰返し変化します。ほとんどに再
発傾向があり、発症の多くはストレスとなる出来事や状況と関連します。躁的状態は平均4か
月間、うつ的状態は平均6か月間とされています。
○現代型うつ
正式な医学病名ではなく、従前からの典型的なうつ病と違うものを意味する総称としていま
すが、専門家の間でも見解は一致していません。「新型うつ病」などとも言われますが、実は
古くから「ディスチミア親和型」「逃避型うつ病」「アパシー」「退却神経症」「パーソナリ
ティ障害(境界性、自己愛性など)」「甘え、怠け、わがまま、自己中心的な性格の問題」な
ど、専門家の間では様々な見方をされてきています。
- 60 -
<基礎知識編(医学面)>
○仮面うつ病
精神症状が一般的ですが、なかには身体症状の方が前面にたつケースも少なくありません。
身体疾患の仮面をかぶったうつ病という意味で、仮面うつ病と呼ばれています。主体となる苦痛
が身体症状となると、内科、産婦人科などの心の専門医以外の診療科を受診し、誤診されてしま
うこともあります。
○適応障害
ストレスと個人要因の相対的関係で、主として職場や学校などの「場」における適応が上手
くいかなくなり臨床症状を呈した状態です。強度のストレスがあるのが診断の前提になってお
り、個人的素質あるいは脆弱性は適応障害の発症の危険性と症状の形成においてより大きな役割
を演じているとされています。症状は多彩であり、抑うつ気分、不安、心配(あるいはこれらの
混合)などがあります。
<抑うつ状態とうつ病>
抑うつ状態とは気分が落ち込み、憂うつになる「状態」をいいます。抑うつ状態を呈する
代表的な疾患としては、うつ病が知られていますが、不安障害、統合失調症、適応障害、パ
ーソナリティ障害などあらゆる精神疾患の併発症状ともなり得ます。
不安障害
不安とは、明確な対象を持たない恐怖のことを指します。不安により発汗、動悸、頻脈、胸
痛、頭痛、下痢などといった身体症状も現われますが、不安そのものや不安による身体症状が
強く生活に支障がある病的な状態を不安障害と呼びます。治療には、薬物療法・認知行動療法
などがあります。
〇パニック障害
強い不安感を主な症状とする精神疾患のひとつで、従来不安神経症と呼ばれていた疾患の一
部です。パニック発作と呼ばれる状態が繰り返されます。突然強いストレスを覚え、動悸、息
切れ、めまいなどの自律神経症状と強い不安感に襲われるものです。
〇恐怖症性障害
乗り物、高所、閉所、動物、血液など、ある特定の事物や状況に激しい不安感や恐怖心を抱
くものです。
〇社会不安障害
人前で話したり行動したりすることに極度に緊張し、その状況を避けようとします。
- 61 -
〇強迫性障害
自分でもそんなことはない、とわかってはいても拭い去れない考え(強迫観念)に基づいた行
動(強迫行為)を繰り返し、日常生活に支障をきたします。
〇全般性不安障害
不安の対象が仕事、家庭、学校、健康などと対象が固定しておらず、
漠然とした不安が長時間続きます。
〇心的外傷後ストレス障害(PTSD)
天災や事故など生死に関わるような体験をし、その時の光景を思い出したり、関連のある場所
や状況を避けたりするようになります。
心身症
体の病気ですが、その発症要因や慢性化にストレスが関与している病
気の総称で、病名ではありません。胃・十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、
本態性高血圧症、神経性狭心症(狭心症)、過呼吸症候群、気管支喘息、
甲状腺機能亢進症、摂食障害、メニエ-ル症候群、更年期障害が代表的
なものです。治療は身体疾病の治療、心身相関のメカニズムへの気づき、
ストレスへの対応などが中心になります。
行動面
〇アルコール依存症
自分の意思でアルコールがやめられなくなる病気です。放置すると肝臓障害が出るだけではな
く、幻覚やせん妄などの精神面の異常もあらわれます。また、アルコール依存の人はうつ病を発
症しやすく、また、逆にうつ病の人がアルコール依存に陥るケースもあります。
〇摂食障害
食事を受け付けなくなる神経性食欲不振症(拒食症)と、反対に、異常に食べ続ける神経性過
食症(過食症)の2つのタイプがあります。摂食障害の人の大半は、拒食と過食を交互に繰り返
し、極端な体重減少や月経異常などの症状があらわれます。発症の背後には、極端な減量をはじ
め、性格やストレスの問題も潜んでいるといわれます。
- 62 -
<基礎知識編(医学面)>
その他
○統合失調症
かつては精神分裂病としていましたが、現在は統合失調症という病名に変更されました。症
状としては、幻覚、妄想、興奮、意欲障害、思考障害、睡眠障害等があります。しかし、最近
では、副作用の少ない向精神薬の使用が可能となり、日常生活や社会的生活に支障が出ること
は少なくなっています。
神経内科とは
精神科や心療内科、メンタルクリニックなどメンタルヘルス不調で受診する科の名称と似て
いるのが「神経内科」です。しかし扱う疾病は大きく違うので、覚えておきましょう。脳血管
障害やパーキンソン病、ニューロパチーなどの神経の病気を扱う科です。
この場合の「神経」というのはいわゆる「神経が太い」とか「神経質」という神経ではなく、
実際に筋肉などの組織につながって、信号を伝えたりしている実体のある「神経」のことです。
厚生労働省の関連サイト
メンタルヘルス関連の情報が掲載されています。タイトルを入力して検索しましょう。
検
<参考>
『働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」』(厚生労働省)
『メンタルヘルス不全を正しく知るためのQ&A』(財団法人 地方公務員安全衛生推進協会)
- 63 -
索
第5章 快適な職場づくりの基礎知識
理想の職場はみんなで支え合える職場です。そのためには教職員一人ひとりの意識の向上や行動が
重要です。
1 快適な職場づくりの基礎知識
快適な職場環境づくりには教職員一人ひとりの意識の向上が欠かせません。教職員は周囲に相談
することが苦手な人が意外に多いようです。一人ひとりがほんの少しずつ視野を広げてみましょう。
周囲の同僚をお互いに気にかけていきましょう。
教育職員や事務職員・技術職員、もちろん管理職もそれぞれ個性を
持つ人間です。相手の足りないところばかり目に留まることがありが
ちです。しかし、お互いの長所を生かし短所を補い合ってこそ、働き
やすい職場ができるのです。
2 みんなで健康に働ける職場をつくろう!~理想は「支え合える」職場~
職員室を例に考えてみましょう。教員のストレスの原因の一つになっている「悩み」は、生徒の
ことを考えるからこそ、生まれるといっても過言ではありません。しかし、その悩みは同じ学校に
いる教員同士だからこそ、理解し合えるものでもあります。
「助けを求める」
、
「助けを求められる」
職員室を目指しましょう。支え合える関係は、活力に満ちた教員集団をつくります。
『教員のためのストレスマネジメント ハンドブック サポート編』
(近畿大学監修)
- 64 -
<基礎知識編(快適な職場づくり)>
「教職員間の無自覚なハラスメントに注意しよう」
ハラスメントは嫌がらせ、いじめのことをいいます。これは心の健康に大きく影響
します。しかし、行為者(ハラスメントをする人)は「指導のつもり」
「冗談だよ」の
ように、自覚がない場合が多いです。日頃からハラスメントの認識を高めるとともに、
相手の気持ちを理解するためにコミュニケーションを図ることが大切です。
また、被害者になった場合は一人で悩まず、上司・同僚または相談窓口に相談しまし
ょう。<参照> 愛知県教育規定集「職場におけるパワーハラスメントの防止及び対応について」
「セクシュアル・ハラスメントの防止等について」
(ハラスメントの一例)
○暴力
机を叩く、椅子を蹴るなど、直接の暴力でなくても、威圧的な行動・態度をとる
○相手にしない
無視・軽視が続くと相手は精神的に追い込まれます
○年齢・身体的特徴等に関する発言をする
「むだに年ばかりとって」
「だからB型はダメなんだ」
○ミスとは関係ないプライベートに言及する
「カップ麺ばかり食べているからミスするんだ」
「親の顔が見てみたい」
○執拗な叱責を繰り返す
過去のミスを繰り返し非難する、大勢の前で謝罪させる
(セクシュアルハラスメントの一例)
○スキンシップのつもりで、軽く体に触れる
○仕事にかこつけて、執拗に電話やメールをする
○性的な体験談などを聞かせる
○妊娠・出産に関する発言
身体が最も変化を遂げる時期であり、気持ちも不安定になりがちです。デリカシ
ーのない発言や深く踏み入った発言は控え、思いやりの心を持ち、接しましょう。
<モラルハラスメントとは>
言葉や態度、身振りや文書などによって人格や尊厳を傷つけることです。
○嘘をつく
○孤立させる
○失敗するように誘導する
○からかったり、嫌みや皮肉を言ったり、人前で笑いものにしたりする
○ため息をついたり、舌打ちしたり、間接的に意味ありげなしぐさをする
<参考>『職場のハラスメント対策』
(財団法人 地方公務員安全衛生推進協会)
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<参考図書・参考文献>
【対応編】
『メンタルヘルス支援の手引き』
(愛知県 総務部人事担当局職員厚生課)
『労働者の心の健康の保持増進のための指針』
(厚生労働省 平成 18 年)
『管理監督者のための職場のメンタルヘルス』
((財)地方公務員安全衛生推進協会)
『働く人の新メンタルヘルス』
(山岡昌之監修 社会保険出版社)
『教職員のための最新メンタルヘルス・アドバイス』
(真金薫子監修 社会保険出版)
『メンタル不全を正しく知るためのQ&A』
(大野裕監修 (財)地方公務員安全衛生推進協会)
『教職員のメンタルヘルス対策検討会議配付資料』
(文部科学省)
『人事・総務担当者のためのメンタルヘルス読本』
(鈴木安名著 (財)労働科学研究所出版部)
『かけがいのない人のために。気づいて共に支え合う』
(愛知県 健康福祉部障害福祉課)
『産業人メンタルヘルス白書 2005 年版』
((財)社会経済生産性本部メンタルヘルス研究所)
『改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』
(厚生労働省)
『メンタルヘルスと職場復帰支援ガイドブック』
(日本産業精神保健学会 中山書店)
『職場のメンタルヘルス 管理監督者のケア活動と職場復帰支援の実際』
(大野裕監修 東京法規出版)
【基礎知識編】
『メンタル不全を正しく知るためのQ&A』
(大野裕監修 (財)地方公務員安全衛生推進協会)
『平成 24 年度県立学校等衛生管理者等研修会資料』
(大同特殊鋼 統括産業医 斉藤政彦)
『教員のための ストレスマネジメントハンドブック ~サポート編』
(近畿大学監修)
『働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」
』
(厚生労働省)
『心の健康管理 上手なセルフケアの秘訣』
(関谷透監修 (財)地方公務員安全衛生推進協会)
『職場のハラスメント対策』
(湧井美和子監修 (財)地方公務員安全衛生推進協会)
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メンタルヘルス支援の手引き(県立学校版)
平成25年3月発行
(平成 26 年 1 月改訂版)
愛知県教育委員会管理部福利課
〒460-8534
名古屋市中区三の丸三丁目1番2号
電 話 052-954-6777
FAX 052-953-5057
<協力> 総務課、教職員課、健康学習課
この手引きは 愛知県職員ポータルサイト「部局掲示板」及び「教育用手引き・規程集」に掲載しています。
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】
○ 部局掲示板>掲示所属別>管理部福利課>メンタルヘルス
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