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第1 話完全版 - GA info. 印刷表現を追求するクリエイターのために by
14 biz.toppan.co.jp/gainfo 寄藤文平 Y O R I F U J I B U N P E I クリエーターズファイル No. vol.29 Feb.24, 2006 C R E ATO R ' S F I L E “デザイン”という翻訳の方法 よりふじぶんぺい アートディレクター/グラフィックデザイナー/イラストレーター 1973 年長野県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科中退後、博報堂の広告制作の現場に参加。 98 年ヨリフジデザイン事務所を立ち上げ、2000 年有限会社文平銀座設立。 これまでの主な仕事に、サントリー「ザ・カクテルバー」 、キリン「キリンラガー」 、JT「大人たばこ養成講座」 「マナーの気づき」などの他、 朝日出版社『海馬』をはじめとする書籍のイラスト・装幀も多数。著作として、実業之日本社『ウンココロ』 、大和書房『死にカタログ』がある。 JT「マナーの気づき」広告にて 05 年東京 ADC 賞、日本タイポグラフィ年鑑大賞受賞。 第1話 「伝えるために、伝わるように、エッセンスを抽出する」 どこかユーモラス、どこか皮肉っぽい。そんなイラストで評判になった JT のシリーズ広告「大人たばこ養 成講座」 。この作品でイラストを描き、デザインもしているのが寄藤文平氏だ。最近はブックデザインでも たくさんのヒットを飛ばし、 『ウンココロ』という著書もある。多方面で表現活動を展開している寄藤氏。そ の独自のデザイン観について、話を伺った。 スタート地点はディレクターの手の代わり 絵 を 描 く の は こ ど も の 頃 か ら 好 き だ っ た け ど、 別にそれで食べていこうとか、イラストレーター になろうということは考えていませんでした。 意識的に絵を描き出したのは、武蔵野美術大学 に在籍しながら、広告代理店にいた美大の先輩の 仕事を手伝うようになってからです。といっても、 自分で描きたいものを描くというのではなく、プ レゼンテーションに使うためのラフや撮影用のス ケッチを描いたりと、本当に仕事のためです。 広告の仕事はデザイナーが営業さんに話をする にしても、スポンサーに説明するにしても、まず、 絵がないと話にならない。だから絵が必要になる のですが、僕が手伝っていた先輩は、アイディア は考えるけど描くのは他人という人で、僕はいう なればその人の手の代わりだった。 そこで僕が描いていたのは、プレゼンテーショ ン用に、だれそれ風のタッチで何かを描いてくれ G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 2 9 F e b . 2 4 , 2 0 0 6 というオーダーが多かったわけです。それでアメ コミ調だったり、いろんなタッチでいろいろな絵 を 描 き わ け て い ま し た。 そ の う ち に 絵 を 見 れ ば、 どんな画材でどういう風に描けばいいのかわかる ようになってきた。もともと器用なタイプ、コツ をつかむのは早いほうだと思います。 としまえんの﹁とし博﹂ その頃やっていたのは、 のキャンペーンの仕事などでした。大量にグッズ を作らなければならなくて、会場案内を作ったり、 スタンプラリー用のイラストなどを描いたりして いました。 1 © 2 0 0 6 T O P PA N / G A C できるだけ自分を出さないような描き方 プレゼンテーション用に描くということは、つ まり説明用ですから、 〝僕〟がなるべく出ないよ うにしなければいけない。﹁こういうことです﹂ と、 誰が見てもそれはそれに見えるということが必要 なわけです。 たとえば新宿駅前を描けといわれたら、新宿駅 前 に あ る 有 名 な も の だ け を 抽 出 し て 描 く ん で す。 ポイント、ポイントだけを押さえて、あとはなん となく線でつないでいくというように描いていく んです。あるものを全部描いてしまうとゴチャゴ チャになってしまうから。 人を描くにしても、なるべくキャラが立たない ようにして、その人が何をしているのか、シチュ エーションのポイントだけわかるように描くとか、 そういう描き方をずっとしてきました。 だから、いわゆる作家性で勝負しているような イラストレーターのように、自分のタッチを追求 するとか、そういうことはまったくしたことがな かったですね。 そ れ が 個 性 に な っ て い る と い わ れ た り、 線 に 特徴があるといわれたりすることもあるけど、僕 にしてみたら描こうと思ったら誰にでも描けるよ うな絵だと思うし、線にしても特徴なんかないと 思ってる。正直、自分ではよくわからないんです。 これはなかなかいい絵だ﹂と思って、 たまに﹁お、 でもよく見てみたら、前に自分が描いた絵だった りすることがありますけどね︵笑︶。 ADとの関係 ││ 必要に応じた絵を描きたい イラストの仕事で初めて注目されたのは、雑誌 ﹃WIRED日本版﹄での仕事でしたが、これも 本当にたまたまだったんです。 先輩たちが共同で家を借りることになって、蒲 田に LDKくらいのすごい広い家を借りたんで A D の 指 示 や 媒 体 の 特 性 な ど を 考 慮 し た 上 で、 なるべく必要に応じた絵が描きたいとは思ってい サーP38は有名だからそれにしたり。 では機関銃とかもきちんと調べ、ピストルもワル ただ、小物はいろいろと調べて描いているんで すよ。後に依頼された雑誌﹃サイゾー﹄のグラフ だから忘れてしまいました︵笑︶。 たのかって、自分ではよくわからない。昔のこと したが、実際のところ、どうしてこういう絵になっ ということはわかっていたので、そこは意識しま わかりやすくてベタな表現じゃないと伝わらない れまで広告の仕事をしてきて、オーバーなくらい できるだけその意に添うようにとは考えたし、そ 木継さんからは﹁グラフっぽくないバカなもの にして欲しい﹂というオーダーを受けていたので、 誌に描いてくれない?﹂って頼まれたんです。 継則幸さんがいらして、僕のラクガキを見て﹁雑 で、たまたまそのメンバーの中に当時﹃WIR ED日本版﹄でアートディレクターをしていた木 たに家に帰らないような生活だったんですけどね。 めてみんなそれぞれ忙しく仕事してたから、めっ 緒に住むことになったんです。もっとも、僕も含 すけど、その時になぜか僕にも声がかかって、一 10 © 2 0 0 6 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 2 9 F e b . 2 4 , 2 0 0 6 2 第1話 寄藤文平 no.14 『WIRED日本版』1998 年8 月号の「数字で見る20 世紀」 AD:木継則幸 同朋舎出版 る け れ ど 、 自 分 の 個 性 か ど う こ う と い う こ と は、 本当に気にしていませんし、自分の絵が本当にい いのかどうかって、今ひとつピンとこないですね。 キリンラガーなどで使った2階調のイラスト も、自分では面白いなとは思っていたけど、アー トディレクターの青木克憲さんに認めてもらって、 世の中に出て行くまでは、同じような絵を描いて いても、誰からもいいと言われなかったですし。 こ れ は も と も と 手 書 き で 描 い て い た の で す が、 描くのにすごく時間がかかっていたんです。 で、 何 か い い 方 法 は な い か な と 思 っ て、 発 明 というか発見したのが、コンピュータのソフトに あった機能のひとつ﹁スムースツール﹂というや つ、僕はツルツルと呼んでいたんですけど︵笑︶。 スキャンした写真を二階調にして、このスムー ス ツ ー ル で ひ た す ら ツ ル ツ ル し て い る と、 ア ン カーポイントがほどよく整理されて、こんなタッ チになるんです。 線画のイラストってクオリティを上げていって もあまりよくは見えない、むしろ、ちょっとダメ なくらいのほうが今っぽく見えたりすると思って いて、スムースツールを使ったタッチは、そうい う感じが出しやすいんです。だいたい手描きの5 分の1くらいの時間で、もっといいものができる ので、これを発見したときは嬉しかったですね。 このタッチは、僕的にも世の中的にも賞味期限 切 れ と 思 っ て い る か ら 手 の 内 を 明 か し ま し た が、 こんな風に手順や作業を効率化することをあれこ れ考えて作ることはけっこう好きですね。 〝作る 過程〟を作れば、同じモノが量産できるようにな る⋮みたいなね。 「カンパイ!! ラガー」キャンペーンマーク キリンビール株式会社 2001∼2003 年 AD:青木克憲 ロットリング(手前)とジェルインクのボールペン、寄藤氏オリジナルの原稿用紙 〝こだわり〟 の画材について イラストは、コンビニで売っているようなボー ルペン、ぺんてるのハイブリッドテクニカという ボールペンで描いてます。 疲れてくると手が脂っぽくなってきて、紙に脂 がつくとインクが滲むんですけど、これが困るん ですよね。その点、このボールペンはジェルイン クというのを使っていて滲まなくていいんですよ。 あと、細かいものはロットリングを使っていま す。でもロットリングは滲むからできるだけ使い たくないんですけどね。 カット的なイラストは、レイアウトするときに 拡大・縮小したり線の太さを揃えたりするのが面 倒なのでだいたい原寸で描いています。下書きも ほとんどしないで、いきなり描きはじめています。 紙にはけっこう凝ります。今はボンド紙という 紙で原稿用紙を作って、それを愛用しています。 この紙はよく透けるし、ほんのちょっとデコボ コしているので、ほんの少しだけ線が太くなって、 それがいいんですよ。もともとはアニメーション 用にと思って作ったから、640×480という モニターのサイズにぴったり合うんです。 複雑な構造物を描くときとかは、まず、だいた いの感じを描いて、その上に新しい原稿用紙を重 ねて細かなところを描き足して⋮というプロセス を繰り返して、最終的に1枚に仕上げています。 この原稿用紙はオリジナルで作ったものですけ ど、これも自分なりの手順を考案するということ と同じですね。 © 2 0 0 6 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 2 9 F e b . 2 4 , 2 0 0 6 3 第1話 寄藤文平 no.14 誰が見てもわかるもの 長く続いているJTの﹁大人たばこ養成講座﹂ は、実は僕が担当する前からシリーズとしてはス タートしていたものらしいです。 でも、担当されていたデザイナーの方が会社を 辞められたとかで、後任のイラストも描けるデザ イナーを探すコンペに参加したら僕に決まったと いうことで、これもたまたまといえばたまたま手 がけるようになった仕事といえます。 これは基本的には﹃WIRED日本版﹄などで 描いていたようなイラストと同じで、こういうこ とだよねというテーマを、なるべくベタに、誰に でもわかるように表現しています。 しての目線から絵柄を発想しているんです。 どう使われる絵で、どういうことが描いてある べきなのかこそが重要ですからね。デザイナーと よくマンガとかでビックリしたときの表現に 〝ギャフン〟 ってあるけど、 実際にギャフンって言っ てる人はいないですよね。それと同じように、僕 が描いているのは、世の中一般の﹁人間ってこう だよな﹂という、類型化された人間像を描いてい るつもりなんです。だからこそ、誰が見てもわか るものになっているんじゃないかと思いますね。 作り方としては、毎回、コピーライターの岡本 欣也さんと、あーでもないこーでもないと、打ち 合わせしながらラクガキしながら作っています。 ありがたいことにずっと評判も良くて、評判が いいということはわかってくれる人がたくさんい るということだと思っています。 © 2 0 0 6 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 2 9 F e b . 2 4 , 2 0 0 6 4 第1話 寄藤文平 no.14 右:寄藤氏が 2000年より携わってきたJTの雑誌広告「大 人たばこ養成講座」シリーズは書籍化され、これまでに2巻 が出版されている 上:書籍『大人たばこ養成講座(2002年) 』 (手前)と『大人 たばこ養成講座2(2005年) 』 美術出版社 2005 年からはじまった「マナーの気づき」 キャンペーンの新聞広告(右)と「スーさん」 シリーズの雑誌広告 目的に応じたコミュニケーション 同じJTの仕事ですが、﹁マナーの気づき﹂シ リーズは、まったく別ルートからの仕事です。 これはクリエイティブに入る前の調査や、クリ エイティブディレクターの立てた考え方がまずあ りました。。 ていても成立するでしょ?そういう見え方をした ほうが、より効果的だろうと考えたのです。 英語も併記してあるのは公共広告っぽさを強調 するための演出です。最初はハングルも併記して いたけど、ちょっとゴチャゴチャしすぎてしまっ たので取ったんです。 この仕事は具体的な効果が求められていたので、 こういうコミュニケーションになりました。実際 にマナーが良くなったという調査結果も出ていて、 それを題材に新聞広告を作ったりもしています。 ﹁大人たばこ﹂がJTにとってはビジネスの下 地作りを担っているのに対して、﹁マナーの気づ マナーを良くしましょうという広告を作って欲 しいというオーダーに対して﹃広告ではマナーを 話を始めるコミュニケーションをしませんか﹄と き﹂はモラルアップを狙っていて、だから必要と 良くすることはできません、だからその手前から いうところからはじめようという作戦でした。 されるコミュニケーションが異なる。必然的に表 現の手法も正反対に近いくらい異なるわけです。 そのコンセプトで一番うまく作れるのは誰だっ てなったときに、僕と岡本さんのチームに白羽の ンに応じた〝気づき〟のワードを見つけていきま まず岡本さんが﹁あなたが気づけばマナーは変 わる﹂というタグラインを考え、いろいろなシー ているところが違う点ですね。これはもともとT すが、表現の仕方がポジティブアプローチになっ ズの延長上にあるもので、喫煙マナー広告なんで 矢が立ったというわけです。 した。それをよりよく伝えるためにはどんなグラ V用に作ったキャラクターですが、TVのスポッ 最 近、 出 稿 さ れ て い る ス ー さ ん の シ リ ー ズ は、 基本的なコンセプトは﹁マナーの気づき﹂シリー フィック表現がふさわしいのかという順番で考え いですから。 なので、 もっとエンターテイメントっ トCFでネガティブなことをやっても届かないし、 まず、言葉できちんとメッセージを伝えなけれ ばいけないから、コピーがある程度以上の大きさ ぽくしようということで、こういうアプローチで ていきました。 で、きちんと立っていなければならない。なおか メッセージを発信しています。 そのためには自分の個性なんていうのは二の次 以下でもまったくかまわないと思っています。 たものを作りたいと考えているんです。 そういう意味では、イラストを描くのもデザイ ンを考えるのも同じことで、とにかく目的に沿っ お説教みたいなことをオンエアしてもしょうがな つ、 JTという一企業が発信しているよりも、もっ く届くだろうと考えて、公共にある看板やサイン と公共性の強いメッセージに見えた方が、より強 をモチーフにしたアイコン的なビジュアル表現を 採用したのです。 な どと入っ JTの社名ロゴのところに﹁東京都﹂ © 2 0 0 6 T O P PA N / G A C G A i n f o . / C R E AT O R ' S F I L E v o l . 2 9 F e b . 2 4 , 2 0 0 6 5 第1話 寄藤文平 no.14 C R E AT O R ' S F I L E vol.29 2006年2月24日発行 発行 凸版印刷株式会社 東京都千代田区神田和泉町1番地 〒101-0024 http://www.toppan.co.jp 発行責任者 三浦 篤 企画・編集・制作 凸版印刷株式会社 GAC TEL.03-5840-4058 http://biz.toppan.co.jp/gainfo 取材:福田大 足立典子 野崎優彦 西村広(撮影) 文:野崎優彦 編集:福田大 足立典子 野崎優彦 デザイン:福田大 interview:2005.11