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第1 話完全版 - 凸版印刷株式会社

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第1 話完全版 - 凸版印刷株式会社
34
biz.toppan.co.jp/gainfo
鈴野 浩一
No.
S U Z U N O
クリエーターズファイル
K O I C H I
vol.67 Mar.12, 2012
C R E ATO R ' S F I L E
視点を変え、
モノと空間と環境を考える
すずの こういち
トラフ建築設計事務所
1973年神奈川県生まれ。東京理科大学工学部建築学科卒業、横浜国立大学大学院工学部建築学専攻修士課程修了後、
かむろしんや
シーラカンス K&H 、メルボルンの建築設計事務所を経て禿真哉氏と共に2004年トラフ建築設計事務所設立。
建築作品だけではなく、舞台美術やインスタレーション、インテリアからプロダクトまで建築的思考を活かした幅広い作品を数多く
生み出している。主な作品に、トラフ建築設計事務所初めての仕事となった『テンプレート イン クラスカ』
(2004)、かみの工作
所とのコラボレーションにより生まれたプロダクト作品『空気の器』
(2010)、ミラノサローネで会期中の最も優れた展示として、
エリータデザインアワード最優秀賞に選ばれた『光の織機 (Canon Milano Salone 2011)』
(2011)、六本木ミッドタウンのイベ
ントに出展した『ガリバーテーブル』
(2011)などがある。
「建築家ならではのモノ作り」
第1話
建築家としての活動と並行して、インテリアデザイン、インスタレーション、舞台美術、さらにはプロダクト
まで、幅広い分野で活動を続けるトラフ建築設計事務所。どの分野における作品も、シンプルでありながら
雄弁、しかもどこかユーモラスな独自のトーンで貫かれている。
このようなクリエイティブがどのような思
かむろしんや
考から生み出されているのか、トラフ建築設計事務所を禿真哉氏と共に率いる鈴野浩一氏にお聞きした。
―建築家になろうと思ったきっかけを教えてくだ
さい。
幼い頃から図画工作が大好きでした。紙の箱で
ロボットを作ったり、レゴブロックでもずいぶん
遊んでいました。
当時家庭教師に来てくれていた方が横浜国立大
学で建築を学んでいる学生さんで、よく課題で制
作した建築物の模型を持ってきて、見せてくれま
した。それがとても面白くて、大学に入っても図
画工作ができるなんて、なんて素晴らしいんだろ
うと思ったのがきっかけですね。
―建築家でありながら、その他の分野でも多彩な
活動を展開されていますが、拡がったきっかけが
ございましたら教えてください。
トラフ建築設計事務所として最初に手掛けたプ
ロジェクトですかね。老朽化したホテルの長期滞
在 用 客 室 を リ ノ ベ ー シ ョ ン し た『 テ ン プ レ ー ト
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イン クラスカ』というものです。
ホテルの部屋って、キレイなんですが、そこに
人が入り、モノが置かれていくと結局そこから散
らかって汚くなりますよね。カバンは開けっ放し
だったり、脱いだ服はベッドに置きっぱなしだっ
たり…。そこで、狭い空間を最大限利用しようと
考えた時、設置条件として挙げられていた絵画と
ロボットペットの「AIBO」も同じように、ま
るでパズルのように、モノを収容するスペースが
テンプレート化されていれば、例えば使ったドラ
イヤーも自然に元の場所に戻せたり、最終的には
1
© 2 0 12 T O P PA N / G A C
photo / 阿野太一 Daici Ano
『テンプレート イン クラスカ』
(2004)
人も含めて風景と捉えた上で、整理された空間を
提示できるのではないかと考えました。
部屋で使うもの、ゲストが持ち込みそうなもの
を 徹 底 的 に 洗 い 出 し、そ の モ ノのカ タ チ に 合 わ せ
て壁に穴を開けていきました。椅子は実物を横か
ら撮影し、カタチをトレースした穴に入れること
で半分だけ収容できるようにしました。広い部屋
だと椅子が半分だけ収容できることはあまり意
味がないけれど、
ホテルのような狭い部屋ではス
ペース効率を高める上で、非常に効果がありまし
た。
ただ、そこに至るまでには葛藤もありました。
僕たちは建築の教育を受けていたので、カタチに
対する恐怖感があったのです。
―カタチに対する恐怖感とは?
僕たちは2人とも大学と大学院で建築を学びま
した。さらに卒業してから4年間は建築の設計事
務所で仕事もしてきました。建築って公共的なこ
とが求められ、クライアントのお金を使って生み
出すというところがあり、そのカタチがどうして
そうなったのかということを大学の教授や事務所
の上司に突っ込まれ、最終的には説得できなくて
はいけない。
そのような経験のせいか、簡単にカタチを決め
てしまうことへの恐怖感が生まれました。『テン
プレート イン クラスカ』も今になってみれば、
インテリアデザインの仕事として捉え、もう少し
軽く考えても良かったのかもしれませんが、この
ようなものがカタチを持って何十年も在るという
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第1話
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し た。 し か し 、 カ タ チ の 持 つ 豊 か さ や 意 味 や 、
角とかの 穴 で も い い の で は な い か と も 考 え て い ま
ことに恐 怖 感 が あ り 、 直 前 ま で 抽 象 的 な 丸 と か 四
な発想から生まれましたか?
カタチのない空気のための器というのはどのよう
―『空気の器』についてお聞かせください。
ではと考 え る よ う に な り ま し た 。 『 テ ン プ レ ー ト
ても良く て 、 飽 き ら れ な い 、 楽 し い も の に な る の
このよ う な 思 考 が ミ ッ ク ス さ れ 、 抽 象 的 過 ぎ ず
具象的過 ぎ な い バ ラ ン ス に よ り 、 ず っ と 残 っ て い
に至り、 思 い 切 っ た わ け で す 。
『空気の器』で言えば、かみの工作所が主催し
ていた「トクショクシコウ展」という展覧会に参
してモノのカタチを考えていきます。
そこから問いを作り、その問いを解決するものと
で、僕たちはプロダクトにも敷地や条件を与え、
建築には敷地という絶対条件があります。それ
に対して、プロダクトの仕事には敷地がない。そ
フォルム 通 り の 穴 に モ ノ を 戻 す こ と を 楽 し む 環 境
イン クラスカ』を担当したことで、僕たちの意
識の中で 、 モ ノ と 建 築 、 モ ノ と 風 景 、 と い う も の
加したことがきっかけでした。特色を使うという
が生み出 さ れ て い く こ と も 重 要 だ ろ う と い う 考 え
もどんど ん ミ ッ ク ス さ れ て い き ま し た 。 モ ノ と 空
ことが展覧会のテーマで、僕たちに与えられた特
まず、黄色に青色を反射させて、緑色を作ろう
と考えました。それと同時に、やはり僕たちは建
※
こ に 僕 た ち は 不 安 を 覚 え て し ま う の で す。 な の
間を同時 に 考 え て い く と い う か 。
築家ですので、建築的観点から二次元の紙をいか
色は緑色でした。
含めて提 案 す る よ う な 仕 事 が 多 く な っ て い き 、 ま
そ れ 以 来、 た だ の 箱 と し て 建 築 を 考 え る よ り
も、そこ で 起 こ る 出 来 事 や 、 使 わ れ 方 な ど ま で も
た、求め ら れ る よ う に な っ て い き ま し た 。
いただい た り し ま す ね 。 下 の フ ロ ア の 家 具 デ ザ イ
やプロモ ー シ ョ ン ツ ー ル も 一 緒 に 考 え て 制 作 し て
クトの最 初 の 段 階 か ら 入 っ て も ら い 、 サ イ ン 計 画
提案や作 品 を 制 作 す る こ と も あ り ま す 。 プ ロ ジ ェ
そうで す ね 。 現 在 の オ フ ィ ス も グ ラ フ ィ ッ ク デ
ザインの 事 務 所 と シ ェ ア し て い て 、 一 緒 に 組 ん で
るように 思 い ま す が 。
―ご活躍 の 幅 の 広 さ に は こ の オ フ ィ ス も 関 係 が あ
プリントアウトしたものをカッターで地道に切っ
「手切り時代」と呼んでいます。図面を制作し、
タ デ ィ を 重 ね て い き ま し た。 こ の 頃 を 僕 た ち は
サイズもさまざまなものを
張ろうとして切れてしまったりして…。カタチも
えていたら、逆に硬い紙ほどカタチを保とうと頑
作り始めました。
ものにできるかという問いを自ら立て、試作品を
に三次元の立体に変形させ、しかも構造的に強い
ナーの方 た ち と も チ ー ム を 組 ん だ り し て い ま す 。
ていきます。ひとつ切るのに5時間くらいかかっ
て ぎ
個くらい制作し、ス
初期の頃は牛乳パックくらいの硬い紙で作れば
カバンになるような強いものができるだろうと考
このよう な 環 境 が 僕 た ち に と っ て は 刺 激 に な る ん
たりもしました。そうしていくうちに、重力で戻
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ですね。
「手切り時代」の頃の『空気の器』。丸いものから四角いものまでさまざまなカタチでスタディが重ねられています。
ぎ
て
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※ かみの工作所:さまざまな分野のクリエーターと福永紙工の職人がタッグを組み、紙の可能性を追求するデザインプロジェクト
②手切り時代の作品画像をいただけますでしょうか?
ろうとす る 力 と カ タ チ を 保 持 し よ う と い う 力 の バ
ランスが保たれる絶妙なポイントを見つけまし
た。そこ で 、 『 空 気 の 器 』 の カ タ チ の 原 型 が 生 ま
れました 。
立体に し た 時 に 真 ん 中 が 膨 ら む よ う に す る た め
にはただ の 同 心 円 で は ダ メ で 、 切 れ 目 と 繋 が り に
ひと工夫 必 要 な ん で す 。 そ こ も 何 度 も ス タ デ ィ を
重ね、微 調 整 し て い き ま し た 。 底 面 の サ イ ズ は ワ
インボト ル の 直 径 を 参 考 に し て 、 ラ ッ ピ ン グ に 使
えたらい い か な と か 、 花 瓶 と し て も ち ょ う ど い い
サイズに し て 、 器 に し て も い い か な と 、 後 付 け で
用途をイ メ ー ジ し な が ら 最 終 的 な カ タ チ を 決 め て
いきまし た 。
柔らか い 紙 な の で 、 自 在 に カ タ チ を 変 え る こ と
ができま す 。 陶 芸 の 手 び ね り の よ う に 、 手 の 中 で
どんどん カ タ チ が 変 化 し て い く 。 そ こ に あ る 空 気
そのもの を 持 っ て い る よ う な 器 と い う こ と で 『 空
気の器』 と い う タ イ ト ル に 決 定 し ま し た 。
ですか ら 、 こ の よ う な ア ウ ト プ ッ ト に な っ た の
は結果論 で 、 最 初 は 青 色 と 黄 色 で 緑 色 を 表 現 し よ
う、二次 元 の 紙 か ら 三 次 元 の 立 体 を 作 ろ う 、 さ ら
にそれが 自 立 す る も の だ っ た ら そ れ は 小 さ な 建 築
と言える の で は な い か と 考 え た の が き っ か け だ っ
たのです 。
―『空気 の 器 』 の よ う な カ タ チ は 、 ス ケ ッ チ な ど
だけから で は 出 て こ な い 発 想 だ と 思 い ま す 。
そうで す ね 。 必 ず 模 型 を 作 り な が ら 考 え ま す 。
設計事務 所 に 勤 め て い た 頃 、 2 階 が 広 く 、 1 階 が
狭い住宅 を 作 っ た 時 が あ り ま し た 。 「 こ れ し か な
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第1話
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『空気の器』
(2010)
い き な り 模 型 を ひ っ く り 返 さ れ て、「 こ れ い い
い!」と 思 っ て 作 っ た 模 型 を 、 ボ ス に 見 せ た ら 、
の電気街で楽しそうに電化製品のパーツを探して
が違うものを見て、感じているわけです。秋葉原
何の樹があって、いつ頃においしい実がなるとか
いる人は、僕とは全く違う目で街を見ているはず
知っている。そういう視点を知るだけで、僕もそ
ね!」と い う こ と に な っ た こ と が 生 ま れ た 実 際 の
な ら な か っ た の で す が、 ひ っ く り 返 さ れ た こ と
ういう風に街を見られるようになり、世界が少し
ですし、植物に詳しい人は街の中でもどこそこに
で、さま ざ ま な 問 題 が 解 決 さ れ ま し た 。 駐 車 場 に
広がるんですね。多様な視点を少しでも多く自分
経緯なん で す 。 僕 と し て は 全 然 良 か っ た こ と に は
車が2台 停 め ら れ る よ う に な っ た り 、 2 階 か ら 庭
色 々 な 面 か ら 見 ら れ ま す し、ス ケ ー ル を 変 え た
返して違う視点で見たりできませんが、模型だと
ろ、視点をズラしたり、変えることによって生ま
あ ま り な い と 言 っ て も い い か も し れ な い。 む し
たくさんのモノがある今、僕たちはモノを作り
たくて仕方がないというようなモチベーションは
の中に取り込めたら楽しいだろうなと思います。
が近くな っ た り 。
り、
削ったりくっつけてみたりもできます。結局、
れる価値観の変換みたいなことをが大切だと思っ
そ れ 以 来、模 型 を さ ま ざ ま な 角 度、方 向 か ら 見
る よ う に な り ま し た。 で す と、簡 単 に ひ っ く り
自分が計 画 し た 以 上 の も の を 生 み 出 し た い わ け で
で、市販されているトイレの便器に作者名を署名
ています。
して作品として出品し、世間の度肝を抜いたよう
すから、 そ ん な 風 に 視 点 を 変 え 、 発 見 し て い く よ
建築で は 、 模 型 を 手 の ひ ら に 乗 る く ら い 小 さ い
サイズの も の か ら だ ん だ ん 大 き く し て い き 、 も の
アートにはそのような力があると思います。例
えば、マルセル・デュシャンが『泉』という作品
すごくた く さ ん 作 り ま す 。 そ の よ う な 訓 練 を 重 ね
に、それまで常識だと思っていたことが実はそう
うに進め て い く こ と は 大 事 だ な と 思 っ て い ま す 。
ていくと 、 自 分 が 小 さ く な っ た よ う に 目 線 を 低 く
です。そんな魅せ方を自分たちも提供できるよう
じゃなかったということを体験するのが楽しいん
きるよう に な り ま す 。
になれたらいいなと考えています。
して、模 型 の 中 に 入 っ て い く よ う な 感 覚 を 体 験 で
例えば 公 園 を 散 歩 し て い て 、 枯 れ 葉 が 落 ち て い
たとして 、 自 分 が も の す ご く 小 さ く な っ た ら 、 そ
の落ち葉 が ど ん な 有 機 的 な 建 築 物 に 見 え る だ ろ う
とか。虫 の よ う に 小 さ な 視 点 か ら 街 を 見 る と か 、
そういう こ と が で き る よ う に な り ま す 。 視 点 を ズ
ラしたり 、 変 え た り す る こ と に よ り 、 発 見 で き る
ことが沢 山 あ り ま す し 、 と て も 面 白 い こ と だ と 思
います。 そ う い う も の に 僕 た ち は 興 味 が あ る ん で
人
100
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CG
すね。同 じ 通 り を 歩 い て い て も 、 人 い れ ば
100
第1話
鈴野 浩一
no.34
2012年 3月12日発行
C R E AT O R ' S F I L E vol.67
発行・企画・編集
凸版印刷株式会社
情報コミュニケーション事業本部
グラフィック・アーツ・センター
〒112-8531
東京都文京区水道1-3-3
TEL.03-5840-4058
http://biz.toppan.co.jp/gainfo
取材:榊原 奏音 東泉 沙也夏 齊藤 章弘
野崎 優彦 肥田野 聖子
撮影:松浦 広明
文 :野崎 優彦
編集:榊原 奏音 野崎 優彦 interview: 2011.12
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