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日消外会誌 28(8):1853∼ 1857,1995年 胆管内茅L頭状発育 を呈 した早期肝内胆管癌 の 1例 鹿児島大学第 1外 科 三枝 伸 二 小林 泰 之 田 辺 元 上 野 信 一 川 井田浩一 愛 甲 孝 左肝管内に発生 した管内発育型の早期肝 内胆管癌 の 1例 を報告 した。症例 は66歳の男性,全 身俗怠 一 感 を主訴 として近医 を受診 し,超 音波検査 にて異常 を指摘 された。入院時 般検査 では未梢血液像, 一 血液生化学,腫 瘍 マーカー などに異常 はみ られなかった。精査の結果,左 肝管 次分枝 の胆管癌 と診 断 され,肝 左葉 十尾状葉 十左肝管切除 を施行 した。腫瘍 は左肝管内に限局 した乳頭状腫場で,病 理組 織診断 は高分化型乳頭状腺癌,深 達度 は mで ぁった。また免疫組織染色 において乳腺型 ムチンコア蛋 白関連抗原陰性,腸 型 ムチンコア雷白関連抗原陽性 であった。術後 4年 2か 月を経過 した現在,再 発 の徴候 な く健在 である。管内発育型 の早期肝内胆管癌の本邦報告例 は自験例 を含め 7例 で,自 験例以 外 はいずれ も粘液産生胆管癌 として報告 されていた。本症例 のように深達度が mも しくは fmに とど まる管内発育型胆管癌 は,手 術 により良好 な長期予後 を期待で きると思われた。 Key words: intraductal papillary cholangiocarcinoma,early intrahepatic cholangiocarcinoma, intestinal and mammary type apomucins I . はじめ に (Table l). 肝 門部胆管癌 は浸 潤性 が 強 く,早 期 に肝 内転移 を き た した り,高 率 に リンパ 節転移 ,神 経周 囲浸潤 を起 こ 入院時理学的所見 :体 格 中等大,貧 血,黄 疸 な く, 心肺 に も異常 は認 め られ な い。腹部 は平坦 で肝 陣 は触 す こ とが あ り,一 般 にその予後 は不 良 で ある。 しか し 知 され な い。 近年,胆 管 内 に限局 し無症状 で発見 され る早期癌 の報 1)り も散見 され る。今 回われわれ は左肝 管 内 に乳頭 告例 状 発育 を呈 し,特 異 な画像所見 を示 した深達度 mの 早 腹部超音 波検 査 :肝 内側 区 に echogenic massを認 める.門 脈左枝 の第 2次 分枝 は腫瘍 によ り中断 され , 腫瘍 周 囲 に は左 肝 管 か ら連 続 す る free spaceがみ ら 期乳頭型肝 内胆管癌 の 1治 験例 を経験 したので報告 す れ る (Fig.1). 腹部 computed tomography(CT)所 る。 II.症 例 見 :単 純 CT で は肝 内側 区 に径 約 5cm大 の類 円形 の low denSty 患者 :66歳 ,男 性 areaが 認 め られ る。内部 には肝 実質 よ りやや低 い den‐ 主訴 :全 身俗 怠感 Styを もつ腫瘤 が認 め られ,末 梢胆管 の拡張像 もみ ら 家族歴,既 往歴 :特 記 す べ きこ とな し. れ る (Fig.2). 現病歴 :1990年 8月 ごろよ り全身俗 怠感 が 出現 し, 近 医受診.超 音波検査 にて肝 内 に腫瘍像 を指摘 され, 手術 目的 で当科 を紹介 された。 生活歴 :飲酒 1.5合/日 ×40年,喫 煙30本/日 ×40年 入院時検査所見 :LDHが 軽度 の高値 を示 したが, その他の末梢血液像,血 液生化学,凝 回系検査 な どに 異常 は認 められず,腫 瘍 マー カー も正常範囲内であっ た。HBs抗 原,HCV抗 体 は い ず れ も陰性 で あった <1995年 3月 8日 受理>別 刷請求先 :三枝 仲 二 〒890 鹿児島市桜 ケ丘 8-35-1 鹿 児島大学医学 部第 1外 科 Table 1 Laboratory data on admission Pit COT GPT LDH ALP 18 9× 104/mm3 ICG15 20Ka U 556ヽ PT HPT 34Ka U VU CEA AFP 72KAU ChE GTP γ‐ 0 83 Zph 61 mu/ml T Bi1 0 5mg/dl Alb γ‐ gib 4.4g/di 18 4% CA19-9 HBs Ag HCV― Ab 95% 108% 7.2% 4 3ng/ml 5 1ng/ml 50>U/ml (一) ( 一 ) 94(1854) 胆管内乳頭状発育 を呈 した早期肝 内胆管癌 の 1例 Fig. I US showsan echogenictumor. The second branchesof the left portal vein are interruptedby the tumor. Low echoic space which continued from the left hepatic duct surroundedthe tumor 日消外会誌 28巻 8号 Fig. 3 T,-weighted image shows a low signal intensity tumor (A) . T,-weighted image showsa very high signal intensity tumor (B) . Fig. 2 Plain CT showsan oval low densityarea in the medial segmentof the liver. An enlargement of the peripheralbile ducts in the lateral segment is shown. Fig. 4 Grossappearanceof the tumor. The tumor showspapillary growth limited in the left hepatic duct. 腹部 magnetic resOnance imaging(MRI)所 見 : Tl強 調像 で S4領域 に周囲肝組織 よ り low intenStyを 呈 す る径 5cm大 の腫 瘍 が認 め られ る。 同部 は T2強 調 像 で high intensityを 呈 してお り,嚢 胞性 また は豊 富 な粘液 を もつ腫瘍,血 管腫 な どが疑 われた (Fig,3). EndOscopic retrOgrade cholangiOgraphy (ERC) 像 :左 葉 の肝 内胆管 は造影 されず,左 肝 管起始部 に不 整 な陰影欠損 が認 め られた。 腹部血管造影 :中 肝動脈 に不整像 が み られ ,門 脈造 影で は門脈左枝 の造影 が 不良で あった. 術 前診 断 お よび手術 :以 上 よ り左肝 管第 1次 分枝 に 発生 した胆管癌 と診断 し,1990年 11月6日 ,肝 左葉 十 尾状葉 十左肝管切除 を施行 した。 切除標本 :腫瘍 は拡張 した左肝管の内腔 を占め,灰 白色 を呈するゼラチン様 であった。門脈左枝 は切離断 端 よ り約 1.5cm肝 臓側で閉塞 していた。割画像では腫 瘍 は胆管粘膜 より乳頭状 に発生 し,表 面 に粘液 の付着 4). もみ られた (Fig。 95(1855) 1995+ 8 E Fig. 5 Microscopic findings (hematoxylineosin, x40) . The tumor is derived from the bile duct epithelia and showspapillary growth in the left hepatic duct. Fig. 6 Microscopic findings (hematoxylineosin, x 200).The tumor is limited to the musoca and shows papillary growth (A). Cribriform pattern is dominantly shown in a part of the tumor (B). Fig. 7 The intestinal type apomucin is expressed in the tumor (A), whereas the mammary type apomucin is not expressed (B). (These figures were provided by Suguru Yonezawa M.D., the Second Department of Pathology, Kagoshima University School of Medicine) (一)の 乳頭型胆管癌 で あった。 転帰 :術 後,後 区域枝 の術 中損傷 による と思われ る 胆汁療 を形成 し,再 手術 を施行 した。 その後 の回復 は 順調 で初 回手術後 4年 2か 月 を経過 した現在 ,再 発 の 徴候 は認 めていな い。 I I I . 考察 早期胆管癌 の定義 につ いて は,諸 説 が あ り現在 も統 一 された もの はな い4卜の.し か し,胆 管壁深達度 が粘膜 4)の定 お よび線 維筋 層 内 に とどまる もの とす る佐 藤 ら 義 が比 較 的多 くの施設 で採用 され てい るようで あ る. 胆管 内発育 を示 す早期肝 内胆管癌 の本邦報告例 はわ れわれが調 べ えた範 囲 で は,い ずれ も粘液産生胆管癌 として報 告 された 6例 のみで あつた。 これ に 自験例 を 病理組織 学的所見 :弱 拡大像 でみ る と,腫 瘍 は胆管 上皮 よ り発生 し,乳頭状 の増殖 を示 して い た (Fig.5). 強拡大像 で は,腫 瘍細胞 の粘膜層以下 へ の浸潤 は認 め られず ,深 達度 は mと 診 断 した。腫瘍 は部位 に よ り多 彩 な構造異型 を示 し,乳 頭状増殖 が主体 の部分,小 管 腔構造 が主体 の部分,組 織 内 に多量 の粘液 が貯 留す る 部 分 な どが み られ ,高 分化 型 乳頭 状 腺 癌 と診 断 した (Fig.6).免 疫組織染色 で は腸型 ムチ ンコア蛋 白関連 抗原 の発現 が腫瘍 内 にみ られたが,乳 腺型 ムチ ンコア 蛋 白関連抗原 は陰性 で あった (Fig.7).リ ンパ 節転移 は認 め られず,胆 道癌取扱 い規約 3)による と Bl,45× 加 えた 7例 の 中 で,記 載 のあつた 6例 中 2例 に表層拡 大型浸潤 が認 め られた (Table 2).胆 管癌 も早期 の も の は,肉 眼上 は乳頭型 を呈 す る ことが 多 い。 ただ し, 腫瘍周辺粘膜 へ の表層拡大型浸潤 を伴 う ことが あ り, 切除範 囲 には十分 な注意 が必要で あ る。 の 粘液産 生管癌 の病 因 として鹿 毛 ら は,胆 道 系 の長 期間 の炎症 に よる刺激 が 関与 す る と述 べ てい る。また, Chouら "は 肝吸虫症 との関与 を,Halpapの は肝 内外胆 管 の paplllomatoSsと の 関連 を示唆 して い る。 今 回の症例 は,婁 胞状 に拡 張 した左肝管 内 に発生 し 1い た胆管癌 で,水 本 ら の分類 にお ける bile duct car― 中に cinoma with intrahepatic bile duct dilatationの ) ,, pM n 。入 る もの と思われ る。比較 的太 い胆管 に発生 し,胆 管 4 c m , m , ,h hi, 。 nv fO 。 , l y O , , v ■p( 9一 96(1856) 胆管内乳頭状発育 を呈 した早期肝 内胆管癌 の 1例 6 6M 6 6M ヽ4itsue 1995 C 6 3 F Naginol的 1990 6 6M Naginoゆ 1990 chieF Loca. tron jaundice Superficial spreading Histo. logy Outconre 25 dat's death flln CiS fever pap pap iaundice abd. pain ND BI pap complaint 6yr5nro alive 4yr2mo alive fatigue ND i not 型進展 の有無,範 囲の検査が術式決定 の上 で必須 な も の にな る と思われ る。 本症例 は径 4×4.5cmと 比 較 的大 きい腫 瘍 で あ った が,左 肝 管 内 に 限局 性 に発育 し,深 達 度 も mに とど まって い た.免 疫組織染色 によるムチ ンコア蛋 白関連 抗原 の発現様 式 か らも良好 な予 後 が期待 で きる症 例 と な く健在 で あ る。 IyrUmo alive ND 8号 考 え られ ,術 後 4年 2か 月経過 した現 在,再 発 の徴候 3yr6nlo alive abd.pain LHD abd.pain lyr alive m w 2 6M s t 7 9 M︲ ヽ4tyaka、 Hal' 1988 C 8 7 F Kawanlura 1987 6 7M Yamasel詢 1987 x e 昨S Author Year 帥 叫 m p Table 2 Caseswith early intraductal papillary cholan giocarcinoma reported in the Japaneseliteratures 日消外会誌 28巻 described pap i papillary cholangiocarcinoma RHD i right hepatic duct LHD:leFt hepatic duct 内 に限局性 に乳頭状 の発育 を示 す胆管癌 を Craigら 1' は intraductal papillary cholangiocarcinoma と モ 待名 い し,比 較 的予後 の 良 腫瘍 として,総 胆管癌,肝 門部 胆 管癌,末 梢型胆 管癌 とは別 に分類 して い る. は,胆管癌 の免疫組織染色 において膨 最近,山下 ら1り 張性 の発育 を示 した乳頭型胆 管癌 で は乳 腺型 ムチ ンコ 文 献 1)太 田博郷,中野 哲 ,綿引 元 ほか :無 症状 にて発 見 された肝門早期胆管癌 の 1例 .胆 と膵 4:817 --820, 1983 2)大 岩孝幸,横地 員 ,池田和雄 ほか :無 黄疸 で発見 された早期 胆 管癌 の 1例 .胆 道 2:517-523, 1988 3)日 本胆道外科研究会編 :胆 道癌取扱 い規約.第 2 版.金 原出版,東 京,1986 4)佐 藤寿雄,小 山研 二,山 内英生 ほか :早 期胆道癌 に ついて,外 科 42:1511-1518,1980 5)渡 辺英仲,山際岩雄,岩下明徳 ほか :早 期胆道癌 の 定義 と診 断.病 理の立場 か ら,胃 と腸 17:608612, 1982 6)竹 本忠良,富士 匡 :早 期胆道癌 の定義 と診断.臨 床の立場 か ら.胃 と腸 17:613-618,1982 7)鹿 毛政義,古賀正広,日高久光 ほか :閉 塞性黄疸 を 呈 した ム チ ン産 生 肝 内胆 管 癌 の 2 症 例. 肝 臓 21 : 1068--1075, 1980 ア蛋 白関連抗原が陰性 で,腸 型 ムチ ンコア蛋 白関連抗 8)Chou ST,Chan CW: Mucin prOducing cholan‐ 原 が 陽性 であ るの に対 し,浸 潤性 の発育 を示 した非乳 giocarcinoma. Pathology 8:321--328, 1976 9)Helpap b: Malignant papillomatosis of the intrahepaticbile duct. Acta Hepato‐ 頭型胆管癌 で は乳 腺型抗原が陽性 で腸 型抗原が 陰性 で あつた と報告 してい る。近隣臓器 で あ る膵 臓 にお い て も,胞張性発育 を示 す主膵管型 粘液産生性 乳頭腫瘍 と, 著 明 な浸潤性増 殖 を示 す浸潤 性膵管癌 との あ い だで同 13)が ぁ り,ム チ ンコア蛋 白関連抗原 の発現様 の差 が 式 異 腫瘍 の生 物学 的悪性度 に関連 してい る可能 様 の報告 性 が 考 え られて い る.わ れわれの症 例 も乳腺型 ムチ ン コア蛋 白関連抗原 が 陰性,腸 型 ムチ ンコア蛋 白関連抗 原 陽性 で あ り,臨 床 的 に も膨 張性 に発育 し浸 潤傾 向 が 認 め られ な い生 物 学 的悪性 度 の 低 い腫瘍 と考 え られ た。 本症 の診 断 には超音波検査,CT,ERC,MRIな ど が 有 用 で あ る。 早 期 胆 管 癌 の 診 断 に は CT‐ cholangiographyが有 用 で あ った とす る 報 告 10も あ る.今 回われわれが行 った検査 で は,超 音波検 査 ,ERC が 腫 瘍 の 性 状 を よ く反 映 し て い た。今 後 は per_ cutaneous transhepatic cholangioscopy (PTcs) な どに よる腫 瘍 の観察 お よび生検 ,先 に述 べ た表 層拡大 GastrOentero1 24:419--425, 1977 10)水 本龍 二,野 口 孝 ,小 坂 篤 :肝 良性腫瘍 の治療 法。日 臨 46:17-24,1988 11)Craig JR,Peters RL,EdmondsOn HA I TumOrs Of the llver and intrahepatic bile ducts Armed Forces lnstitute of Path010gy,ヽ Vashin‐ gton,DC,1989,p197-211 12)Yamashita K,Yonezawa S,Tanaka S et al: ImunOhistOchenlical study of mucin carbo‐ hydrates and core proteins in hepatolithiasis and cholanglocarcinoma lnt J Cancer 55:8291, 1993 13)Osako M,Yonezawa S,Siddiki B et al: Im‐ munohistOche■lical study Of mucin carbo‐ hydrates and core proteins in human pancreatic tumors.Cancer 71 :2191--2199, 1993 1 4 ) 岡山 安 孝, 後 藤 和 夫, 野 口 良 樹 ほ か : C T ‐ Cholangiographyに よる胆道病変の検討.胆 と膵 6: 185--193, 1985 97(1857) 1995年8月 15)山 瀬博史,二村雄次,早 川直和 ほか :粘 液 によ り黄 疸 をきた した粘液産 生胆管細胞癌 の 1例 。 日消外 宮川秀一 ,山川 真 ,堀 口祐爾 ほか :粘 液産生 を伴 った 早期肝 内胆 管癌 の 1例 .胆 と膵 9:1445- 会誌 20:879-882,1987 16)松 為泰介,深井泰俊,堀 田郭夫 ほか :閉 基性黄疸 を 呈 した粘液産生肝 内胆管癌 の 1例 。 日臨外医会誌 1453, 1988 那野 正人 ,二村雄 次,早川直和 ほか :粘 液産生胆管 癌の臨床病理学的研究。日外会誌 91:695-704, 48:557--561, 1987 1990 A Case of Early Intrahepatic Cholangiocarcinoma with Intraductal Papillary Growth Shinji Mitsue, Gen Tanabe, Kouichi Kawaida, Yasuyuki Kobayashi, Shinichi Ueno and Takashi Aikou First Department of Surgery, Kagoshima University School of Medicine A 66-year-o1dman presented with early intrahepatic cholangiocarcinoma with intraductal papillary growth. Abdominal US showed a high echogenic mass in the left hepatic duct. The left lobe, the caudate lobe and the left hepatic duct were resected. The tumor showed expansive growth in the left hepatic duct without invasion to the parenchyma of the liver. Histologically, the tumor showed various structual atypia with little mucin production, and was limited to the mucosa. Immunohistologically, intestinal-type apomucin was expressed in this tumor, but mammary-type was not. We diagnosed this tumor as an early intraductal papillary cholangiocarcinoma. The patient is doing well without the evidence of recurrence 50 months after surgery. Seven cases of intraductal cholangiocarcinoma including our case have been reported in the Japanese literatures. All the tumors except ours have been reported as mucin-producing cholangiocarcinomas. Patients with intraductal papillary cholangiocarcinoma which is limited to the mucosa of fibromuscular layer could be given a good prognosis by surgery. Reprint requests: Shinji Mitsue First Department of Surgery, Kagoshima University Medicine 8-35-1 Sakuragaoka, Kagoshima, 890 JAPAN School of