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シンポジウム(PDFファイル 約874KB)

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シンポジウム(PDFファイル 約874KB)
「世界創造都市フォーラム 2012 in KANAZAWA」
:シンポジウム記録(概要版)
■佐々木
雅幸
氏
/大阪市立
大学創造都市研究科教授・都市研究
プラザ所長
先ほど、近藤長官が話されたよう
に、大震災後の停滞している日本社
会を再生するには、文化・芸術の力
を総合的に発揮することが重要で、
中央政府からトップダウンでやる
のではなくて、それぞれの地域・都
市から固有の文化の特徴に基づい
て、市民とともに再生することが必要です。そして、日本社会のみならず、アジア全体で
も新しい可能性のある経済文化圏をつくっていくことが大事です。すばらしいメッセージ
でした。
これから、創造都市の実績のある取り組みを順にご発表いただき、どのように相互の連
携を強めていくかついても、議論したいと思っています。
まず遠方よりお越しいただいた韓国全州市のキム・シン文化経済局長からお願いします。
■キム・シン 氏 /韓国・全州市文化経済局長
2002 年から友好を積み重ねてきた姉妹都市・金沢の「世
界創造都市フォーラム」において、全州をご紹介するこ
とができて、非常にうれしく思います。
まず、全州の歴史・伝統文化・産業を紹介し、続いて
ユネスコの食文化創造都市の選定、全州を代表する食べ
物、フェスティバル、ユネスコのネットワーク加入以降
の全州の計画についてお話しします。
全州は、9世紀後期の百済王朝と、14 世紀から 19 世
紀まで 500 年間王位を継承してきた朝鮮王朝の発祥地
であり、1200 年の歴史を誇っているまちです。
日本でも大人気を得たドラマ「チャングムの誓い」にも登場したビビンバ、もやしのク
ッパ、韓定食、家庭食、母酒(モジュ)といったお酒など、韓国を代表する食べ物のふる
さとです。
書や音楽、絵、そして文学などの文化も全州には存在しています。現在では、映画・ド
ラマ、炭素繊維産業のリーダー都市として、伝統と現代の姿を最もよく表しているまちと
して、韓国を代表する人口 65 万の都市です。
1
さらに全州は、韓国の伝統文化の基礎である韓国伝統家屋・韓屋(ハンオク)、ユネスコ
で認定された食文化、ユネスコ無形文化遺産に登録されたパンソリなどを現在まで継承し、
創造的に発展させている都市でもあります。また、千年の生命力を持つと言われ、王朝実
録にも使われている固有の紙、
「韓紙」を利用した製紙技術、そして印刷技術でも知られて
います。
全州市は国内ではエコツーリズムの一番地に指定され、また人口 50 万人以上の大都市の
中では、世界初の国際スローシティに指定されており、ミシュランガイドが選んだ名所と
して注目を集めています。
このように全州は、韓国固有の文化を創造的に継承して、産業として発展させ、世界に
知らせるために多くの努力をしています。
一方で、カーボンファイバーという新素材開発に成功し、産業都市としても成長してい
ます。日本やアメリカなど先進国との競争に遅れをとらないため、多くの研究者、技術者
たちが今日も努力を続けています。また世界で最も長い防潮堤を構築し、401 平方キロメー
トルの産業用地に開発する、新萬金(セマングム)事業の中心地として無限の可能性を持
っています。
さらにアジア最高レベルの映画祭である「全州国際映画祭」の中心地として映画産業を
発展させており、韓国で人気の映画、ドラマの話題作はほとんどが全州で撮影されました。
このように伝統と現代が融合した都市であり、年間 500 万人もの観光客が訪れる観光都
市でもあり、森と川にも恵まれ、都心でも絶滅危機にあるかわうそやおしどり、「シュリ」
という珍しい魚に出会うことができる美しい環境を誇っています。
このような歴史的、文化的なものを基盤として、今年5月にコロンビアのポパヤン、中
国の成都とスウェーデンのエステルスンドに続き、世界で4番目に食文化分野のユネスコ
創造都市に選定されました。
全州が食文化で発展することになった理由は、まず、山と海、平野が隣接しており、食
材が豊かで新鮮であることであり、第2に、代々受け継がれた創造的で多様な食べ物が発
達しており、第3に、専門の行政部局が、「ビビンバ祭り」
、
「発酵食品エキスポ」
、
「食のフ
ェスティバル」などを開催し、
産業化を政策的に進めてい
ることです。
「全州ビビンバ」は、野菜、
山菜、肉など30種類以上の
多様な材料を、ご飯と一緒に
混ぜて食べる料理で、王様に
捧げられる高級なものでし
たが、最近はテイクアウトや
飛行機の機内食、そして宇宙
2
食としても開発されています。
「全州ビビンバ」は、多くの材料が一つになり味を出すとい
う意味で、ハーモニーを愛する韓国人の哲学、思想を見ることのできる食べ物です。
全州の家庭料理に由来するのが家庭定食「全州ペッパン」です。テーブルいっぱいに並
べられたおかずを見ますと、豊かなおもてなしの心を感じられると思います。
全州では毎年秋に、食べ物、伝統文化コンテンツが一つになった「ビビンバフェスティ
バル」が「韓屋村(ハンオクムラ)
」において開催されて、多くの国内外の観光客が集まり
ます。今年はユネスコの創造都市に加盟した元年として、創造都市のホームページを構築
し、記念式典を「ビビンバフェスティバル」の際に開催する予定です。
すでに活発な活動をしている「食の市民ネットワーク」などを通じて、市民との協力を
強化していく予定です。市民たちの理解と協力が重要であると近藤長官も指摘されました
が、我々にとっても「食の市民ネットワーク」との協力が欠かせません。
来年度からの8大戦略計画の第1は、食文化の創造都市の名声を守るための飲食文化の
サービス改善事業です。第2は、韓国の食べ物の継承発展のための創造的な人材育成です。
第3は、グルメストリート、テーマ公園などのハードウェアの整備です。第4は、産学官
民の協議体などガバナンスの構築、国内外との交流の活性化です。第5は、全州の食べ物
のフランチャイズの育成、特性化事業などです。第6は、全州のトップ 10 料理コンテスト
などの開催です。第7が、歴史のある全州の食べ物に関する物語の発掘、観光産業化、商
品化です。第8は、食文化創造都市の広報を活発にしていくことです。
全州市は、昨年9月コロンビアのポパヤン市を訪問し、ポパヤン、スウェーデンのエス
テルスンドとの間で協定を締結しました。そして食文化創造都市の世界連盟を構築しよう
という意志を一つにしました。ユネスコ創造都市ネットワークの一員になった全州は今後、
さまざまな創造都市と交流を通じて文化的多様性を増進し、持続可能な成長のために共に
努力していくつもりです。
姉妹都市として持続的に交流してきた金沢市をはじめ、他の日本の創造都市とも交流が
活発になることを願っています。そして多くの方たちに、全州の発展に関心を持って下さ
ることをお願いしたいと思います。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
金沢と全州市の姉妹都市 10 周年と全州市のユ
ネスコ創造都市ネットワーク加入という記念す
べき年に、ゲストにお迎えできたことは、とて
も良かったと思っています。
これから、ユネスコのネットワークへの登録
を実現しようと頑張っている日本の3都市の取
り組みについて紹介していただきます。最初に
札幌市の市長政策室政策企画部のプロジェクト
3
担当部長、酒井さんにお願いします。
■酒井
裕司
氏
/札幌市市長政策室政策企画部
プロジェクト担当部長
ご覧いただいたプロモーションビデオ「Sapporo,
Blessed by Snow(この街は、雪のたまもの)
」は、
札幌市のメディア・アーツ都市として取り組みを紹介
した PR ビデオです。
札幌市は、民間シンクタンクのランキングにおいて、
2006 年からの7年間で6回、魅力度ランキング1位となっており、国内はもとより、東ア
ジアからも、非常に好感度の高いまちとして知られています。
札幌の都市基盤や骨格は、1972 年の札幌オリンピックのときに作られましたが、
「札幌オ
リンピック・雪・時計台」というようなイメージもそろそろ更新の時期に来ています。ま
ちの魅力をさらに高め、海外への発信を強化し、交流人口を増やしていくためには、札幌
オリンピック当時の「SAPPORO Ver.1.0」から「SAPPORO Ver.2.0」へと構築していくべ
き時期であると思っています。
これまで、札幌市は、
「市民・企業の創造性を活用した魅力資源の再生」に取り組み、
「既
存資源の効果的活用による交流人口の増加」
、そして「多様な交流で生まれる新たな創造性
を育む環境整備」を進め、これらの好循環を生み出す取り組みとして、一連の創造都市さ
っぽろの取り組みを進めてきました。
札幌市は、平成 18 年 3 月に「創造都市さっぽろ宣言」を行い、平成 20 年 11 月には、
「文
化芸術創造都市部門」の文化庁長官表彰を受けました。これまで札幌市が取り組んできた
大規模な文化芸術施設整備、文化芸術イベントの開催、コンテンツ産業の担い手育成支援、
札幌市立大学をはじめとする教育研究による人材育成を評価いただいています
これらをより一層進めるために、平成 21 年に「創造都市さっぽろ推進会議」という市民
会議を開催し、この中で、ネットワーク加盟や国際芸術祭の開催などを盛り込んだ基本計
画と重点プロジェクトを提言いただきました。平成 22 年 8 月には、これをさらに進め、
「創
造都市さっぽろ市民会議」を設立し、ユネスコ創造都市ネットワークの登録分野を検討し
た結果、メディア・アーツ部門で登録をめざすことになりました。平成 23 年 11 月には、
札幌市長を会長に商工会議所会頭、創造都市関連の有識者、主要企業の経営層で構成され
る産学官民の連携組織、
「創造都市さっぽろ実行委員会」を設立しました。
近年、都心部における創造活動の場の充実が図られており、アーチストや市民の芸術作
品等の発表の場として、地下鉄の通路に「500m 美術館」を整備し、本年4月には、市内を
南北に流れる昔の運河、創成川の川べりに親水公園を設備し、ここに多くの芸術作品を展
示しています。
札幌市は、
「メディア・アート」ではなく、
「メディア・アーツ」の都市であることにこ
4
だわって、
「ヴィジュアルアーツ」
、
「パフォーミングアーツ」を含む、多様な媒体を通して
の表現技芸(アーツ)としてクリエイティブ産業を振興しています。
札幌の中央にある大通公園を四季
折々に祝祭空間に変えるものとし
て、
「雪まつり」
、
「YOSAKOI ソー
ラン祭り」、大通公園が全部ビアガ
ーデンになる夏祭り、秋の収穫祭
「さっぽろオータムフェスト」な
どがあります。これらを一つのメ
ディアとして捉えて、札幌の魅力
をこの大通公園という大きなメデ
ィアを使って発信していき、都市
自体がメディアとなって、さまざまな魅力を発信すること、これが札幌版メディア・アー
ツです。
ユネスコのネットワーク加盟に向けて、市民にも積極的にさまざまな取り組みをしても
らおうと、昨年の震災の翌日 3 月 12 日に先ほどの地下歩行空間をオープンすると同時に、
北二条広場に市民、地元のアーチスト、クリエイターの方々に自由に映像作品を発表して
いただける CGM 空間としてのデジタルサイネージも設置しました。
2014 年に始める「国際芸術祭」はトリエンナーレ形式で「都市と自然」をテーマとして
開催します。
「メディア・アーツ札幌」にふさわしい第1回目のゲストディレクターとして
世界的に著名な坂本龍一さんにお願いしたところです。
「創造都市さっぽろ」を発展させ、継続的に進めていくドライビングフォース、エンジ
ンとして「札幌メディア・アーツラボ」という産学官民の連携組織を設置しました。これ
は、創造産業の振興・発展のための調査・研究、創造都市に関する最新情報の発信、国内
外の創造都市の情報集積、実践的人材育成のための交流の創造の場づくりを行うことを目
的として設立したものです。今年 7 月に立ち上がり、毎月1回の定例会には大学の先生、
企業の方、学生に加えて市長も参加しています。9 月には、このメディア・アーツラボの提
案、実施により、創成川の親水公園で、公園の魅力アップにアートが果たす効果を実証す
る 3D プロジェクションマッピングを活用したトライアルを行いました。
今後も、著名なアーチストや創造都市関係者を招いた国際シンポジウムの開催、既存イ
ベントの魅力アップに、「札幌メディア・アーツラボ」を活用していこうとしています。2
月に行われる「さっぽろ雪まつり」に対して、光のアートを組み合わせた全く新しい提案
を、この事業から発信していきたいと考えているところです。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
続いて、新潟市地域・魅力創造部長の高橋建造さんにお願いします。
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■高橋 建造 氏 /新潟市地域・魅力創造部長
新潟には本当に多くの豊かな取り組みがあります
が、食文化の分野でユネスコ創造都市にエントリーし
ようと考えています。まず、新潟の歴史を説明し、次
に、食文化そのもの、それに留まらない創造的なまち
づくりについて説明します。
新潟市は、広大な新潟平野を潤す大きな二つの川、
信濃川と阿賀野川が日本海に注ぎこむ河口に発展し
てきたまちで、17 世紀頃から、新潟湊は北前船の最大の港町として発達してきました。当
時の豪商が年貢米輸送の安全と家の繁栄を願って神社に奉納した「大船絵馬」には、江戸
と大阪、そしてこの2つの都市と新潟湊を行き来する多くの船が描かれています。新潟湊
は、1858 年に神戸・横浜などとともに5つの開港場として世界に開かれ、明治2年建築の
旧新潟税関は当時の税関として唯一現存しています。
新潟湊が発達し交易が盛んになるにつれて、料理と趣向を凝らせたしつらえで来客をも
てなす料亭文化が発達し、現在も、300 年の歴史を持つものをはじめとした市内の各料亭で
は、四季折々の豊富な食材と伝統の技を用いて、訪れる方々を楽しませています。また、
古町芸妓の踊りは新潟に拠点を構える日本舞踊の宗家「市山流」の方々が今日まで指導さ
れています。こうして磨かれた新潟のおもてなし文化のすばらしさは全国的に有名で、明
治、大正には、尾崎紅葉や吉川英治などの多くの文人墨客が訪れたという記録があります。
新潟市が作成したビデオ「City of Gastronomy」は、ユネスコが食文化の部門において
基準を設けている 8 つの基準に合致するように編集したものです。この中の「食の新潟国
際賞」は、今秋第2回目の表彰が行われます。併催の「食と花の世界フォーラムにいがた」
には、国際シンポジウムもあり全州市からも代表がお越しいただくことになっています。
食べ物、料理、芸妓という過去から楽しまれてきた食文化があって、米加工品など独自
産業が起こり、さまざまな分野と関わるなかで保存・伝承の動きが生まれ、さらに磨きが
かけられることによって、経済的に豊かなものになっていくという流れが分かると思いま
す。新潟には食に関わる研究機関などもあり、料理することだけでなく、素材と素材をつ
くる農地や漁場、さらにその農地や漁場を守る環境を含めたすべてをとても大切にしてい
ます。
食べることは同時に楽しむことです。踊りを見たり、しつらえによって楽しんだり。新
潟で多く開催されているハイレベル・コンベンションでも、昼間にシビアな会議をやった
方々が、夜には食、お酒で和むことによって、翌日には合意(アグリーメント)すること
ができるのです。
文化・芸術を活かした創造的なまちづくりとして「水と土の芸術祭」を紹介します。
私どものまちは、大きな川が運んできた土、川の水、そして海の水と付き合いながら、
6
形作られてきたまちです。そういう
ものに感謝しながら、新しいことに
挑戦していこうと、アートプロジェ
クト「水と土の芸術祭」が2年前か
ら開始されました。
姉妹都市ナント市(フランス)で
行われた「ラ・フォル・ジュルネ」
の新潟版があります。1998 年にオ
ープンした市民芸術文化会館「りゅ
ーとぴあ」で 2010 年から開催され
ています。街中の各所でも演奏が行われており、今年度は約8万人の方に楽しんでいただ
きました。新潟市は 1968 年に「スポーツと音楽の都市宣言」をしています。市民による音
楽活動がとても盛んで、コンサートホールの隣にある練習室中心の音楽文化会館は 1977 年
にオープンしています。それらを活かしながら、このような音楽イベントにつなげていま
す。
伝統的な踊りとして「市山流」が有名ですが、同時にたゆまぬ挑戦も続けています。「り
ゅーとぴあ」を拠点として、日本で初めて公立館のレジデンシャル・カンパニーとなった
のがプロのコンテンポラリーダンスチーム Noism です。
「りゅーとぴあ」の舞台芸術監督で
もある金森譲さんのもとで 2004 年の設立以降、独創的な企画、作品発表を行い、海外7カ
国でも公演しています。
このような伝統的なものと挑戦的なものを融合していくことは、金沢の伝統的工芸と 21
世紀美術館との関係に通じるものがあると思います。
また新潟は、「ドカベン」の水島新司さん、
「うる星やつら」の高橋留美子さんをはじめ
とするマンガ家を多数輩出しています。全国でも数少ないアニメ・マンガ専門学校もあり、
ナントから留学生が来ています。
「にいがたマンガ大賞」も募集しており、「にいがたアニ
メ・マンガフェスティバル」は、今年から「がたふぇす」といってさらに規模が大きくな
って来月開催されます。これをアピールするキャラクターが「花野古町」と「笹団五郎」
です。古町というのは古い町、「笹団五郎」は「笹団子」をもじったものです。来年には、
「マンガの家」と「マンガ・アニメ情報館」もオープンします。
新潟は、食文化はもちろんですが、これまでの歴史や先人たちの遺産を上手に、積極的
に活かしていくという創造的なまちづくりをしています。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
続いて、浜松市企画調整部長の寺田賢次さんにお願いします。
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■寺田 賢次 氏 /浜松市企画調整部長
浜松市は従来から楽器、繊維、オートバイなどに代表
される「ものづくり」のまちとして発展してきましたが、
現在は、音楽文化によるまちづくりをめざしています。
産業と音楽が結びつく「創造都市・浜松」に向けた新し
い取り組みを紹介します。
浜松と音楽について、次の3点をあげることができま
す。1点目は「楽器産業の発展と音楽の拡がり」
、2点目
は「浜松市が誇る音楽の拠点施設」
、3点目は「市民と音
楽を結ぶ場の積極的な創出」です。
まず、1点目として浜松市では、楽器産業が音楽の大衆化に貢献してきました。明治維
新ののち、欧米の制度に倣った新しい学校制度が発布され、その 10 年後には、現在のヤマ
ハの前身である日本楽器製造株式会社が設立されています。日本の教育制度、特に音楽教
育の確立とともに楽器産業が発展して、教育の広がりとともに、楽器の演奏技術も広まり
ました。
1950 年代には、カワイ・ヤマハが相次いで音楽教室をスタートさせます。これによって
育った世代がティーンエイジャーになると、自分でギターやキーボードを弾いて、音楽を
楽しむポピュラーミュージックが全盛の時代を迎えます。
音楽教室は、就学前から小学校低学年を対象にして国内はもとより世界に広く普及して
います。現在では、趣味として楽器を演奏したい大人のための教室も増え、浜松市内だけ
でも 140 以上の音楽教室があります。さまざまな楽器が生活の中に定着し、それとともに
演奏する人も増えています。
浜松市ゆかりの芸術家として、市が顕彰している音楽家3人を紹介します。上原彩子さ
んは、第 12 回チャイコフスキー国際コンクールピアノ部門において、女性としては史上初
めての第1位を獲得されました。村松崇継さんは、ピアニストとしての活動とともに、作
曲家としても注目されています。上原ひろみさんは、世界的なジャズピアニストとして活
躍され、彼女が参加したスタンリー・クラークトリオのアルバムは、第 53 回のグラミー賞
を獲得しています。
この3人に共通するのは、子どものころから音楽教室で学んでいたということです。音
楽教室は音楽の大衆化に貢献しつつ、世界に通用する芸術家も育んできました。
昭和 56 年、浜松市総合計画に「音楽のまちづくり」の推進を掲げて以降、すべての総合
計画において「音楽のまちづくり」を重要施策の柱の一つと位置付け、ソフト・ハードの
両面のバランスを取りながら進めてきました。平成 19 年の政令指定都市への移行を経て、
平成 23 年策定の現在の総合計画では、国内外の都市との交流、人材育成、文化施設の整備
などにより、
「音楽のまち」から「音楽の都」へと飛躍させることを目標としています。
2点目は、浜松市が誇る音楽の拠点施設です。
8
「アクトシティ浜松」は、日本初の四面舞台を持ち本格的なオペラや歌舞伎が上演でき
る大ホール、正面にパイプオルガンを備え残響音設定などを追及した中ホール、大型国際
コンベンションが開催可能なコングレスセンター、さまざまなイベントが開催できる展示
イベントホール、さらに民間施設のショッピングモール、レストラン街、オフィス、ホテ
ルからなる複合施設です。浜松市と民間事業者が一体となって、音楽・文化・産業の交流
を図るために整備したものです。
浜松市楽器博物館は、世界の楽器を平等に展示し、さまざまな地域の楽器を通じて、「人
間」と「文化」を考え、人々の認識と理解を深める目的で、平成 7 年に設立された日本初
の公立楽器博物館です。収蔵点数は約 3,300 点、その内 1,300 点を常設展示しています。
2010 年から電子楽器コーナーを新たに設置し、ヘッドフォンによる音色、露出展示、演奏
体験ルームなど「きく・みる・ふれる」ことができる施設です。
3点目、市民と音楽を結ぶ場の積極的な創出について浜松市では、市民と音楽を結ぶソ
フトの充実を、行政だけではなく、音楽団体や企業との協働によって実現してきました。
たとえば、
「やらまいかミュージックフェスティバル」は、2007 年から毎年開催をされてお
り、今では「市民が奏で、市民が楽しみ、市民がつくる音楽祭」を合言葉とする市民の手
作りによるビッグイベントになっています。
「浜松国際ピアノコンクール」は 1991 年にスタートし、世界をめざすピアニストの人材
育成、世界の音楽文化の振興、交流を目的として3年ごとに開催しています。このコンク
ール入賞者は、世界のピアノコンクールにおいても優勝を飾るなど、若手ピアニストの登
竜門として注目されています。
「音楽のまちづくり」にとって、演奏家や聴衆を育てることも大事ですが、企画者・運
営者を育てることも必要です。
「主催者養成セミナー」は、音楽イベント開催のノウハウを
備えた人材を増やし、浜松の音楽文化が自立的、自発的に活動するための手助けになるこ
とをめざしています。修了生は、すでに 100 人を超え、企画会社や NPO 法人を設立してお
り、コンサートの企画運営に取り組む市民が生まれています。
次に、
「創造都市・浜松」に向けて
の、新たな取り組みを説明します。
市民協働で築く「未来へかがやく創
造都市・浜松」、「やらまいかスピリ
ッツ!創造都市・浜松」は現総合計
画における将来の都市像とキャッチ
コピーです。
「創造都市・浜松」の実
現に向けて、音楽のみならず、他の
分野においても創造都市の理念を取
り入れて、次のような取り組みを始
めています。
9
「みんなのはままつ創造プロジェクト」は、市民活動団体や民間企業等が発意・主導し
て実施する創造的な取り組みやイベントなどを応援する事業です。スタートアップの資金
として、1事業当たり上限 100 万円の事業経費を補助します。次年度以降も自主的に実施
され、文化と産業の両面において価値を高める事業を募集しています。企業、大学、NPO
法人、任意グループなど 80 件を超える応募があり、音楽交流プログラムの開発、歴史的建
造物の利用、浜松のブランドである天竜材を使った商品開発、市内に多く在住する南米の
日系第2世代に焦点を当てたドキュメンタリー映像製作など、多岐の分野にわたる 37 事業
を採択しました。
子どもの才能を伸ばす課外 IT 講座は、産学官の連携により、体験型・実践型の課外特別講
座を開設し、子どもたちの科学に対する好奇心・探究心を高めるとともに、IT 分野に係る
才能豊かな子どもを育て、地域産業の発展に寄与する将来の優れた技術者を育成すること
を目的としています。
「エンジン 01 文化戦略会議 オープンカレッジ in 浜松」は、著名な文化人を会員とする
同会議が、新たな地域文化の創造と発信を目的に、地域の市民と「知」の交流のため、趣
向を凝らした数多くの講座やシンポジウムを平成 25 年 2 月に開催するものです。交流で芽
生えた文化に対する市民の意識を醸成し、次代を担う人材を育成するため、次年度以降も
講座やシンポジウムの開催を計画しています。
「創造都市」政策を推進していくためにも他都市、他分野との交流・連携は不可欠と考
えています。今後とも、ご支援ご協力をよろしくお願いします。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
続いて、このフォーラムのホスト市である金沢市の濱田副市長、よろしくお願いします。
■濱田 厚史 氏 /金沢市・副市長
金沢は 2009 年に、歴史まちづくり法に基づく歴史都市と
ユネスコ創造都市ネットワークによる認定の両方を受けて
おり、歴史都市であると同時に創造都市です。歴史都市とし
ては、「きらめく城下のまち・金澤」をキャッチフレーズに
歴史に責任を持ち、伝統環境を保全することに努めています。
創造都市については、「手仕事のまち、金沢」というキャッ
チフレーズのもとでまちづくりを進めています。
金沢は、1583 年に前田利家公が入城され、以来 420 年に
渡る歴史があります。この間、歴代藩主は、学術・文化を奨励し続け、「百万石文化」が確
立し、今に息づいています。その一つの事例として、5代藩主綱紀公が作成された「百工
比照」があります。工芸職人、細工人の技術向上と工芸技術の保存を目的として、さまざ
まな資料や記録をまとめたものです。これに倣い、現在、金沢市は、
「平成の百工比照」と
10
いう事業を行っています。今も残る伝統工芸品としては、金沢箔をはじめとする 20 を超え
る業種があげられます。
人材育成の分野では、まず、市立の金沢美術工芸大学があげられます。注目いただきた
いのは、1946 年、終戦の翌年に設立されていることです。金沢の先人が金沢の工芸美術の
継承・発展、文化と産業の振興をめざす熱い志を持って設立された大学なのです。芸術院
会員や人間国宝を輩出するだけではなく、最近では、アニメーション、工芸デザインの分
野でも、さまざまな人材を送り出しています。
同じく人材育成の場として、市制 100 周年を記念し、平成元年に設立したのが「金沢卯
辰山工芸工房」です。特色は、全国から人材を集めているということ、研修生には2年か
ら3年間、奨励金を市が支給をしているということです。現在までに県外からの 163 人、
海外からの 9 人を含む 231 人が修了されています。その約半数が今も金沢周辺に居住し、
作家や指導者として創作活動を続けています。
最近始めた市事業に「クリエイティブ・ワルツ」があります。これは、若手の工芸家を
海外のユネスコ創造都市へ派遣して、新たな刺激を受けてもらい、人脈、視野を広げてい
ただくという事業です。
「ワルツ」とは、ドイツのマイスター制度の枠組みの中にある、3
年と1日間の技術習得するための放浪修行のことで、本事業はそれに倣ったものです。
また、金沢には、歴史的、伝統的建造物が数多くあります。それを残し、伝えていくた
めに欠かせない大工や左官など職人さんの人材育成、研修機関として、職人大学校を平成
8年に設立しています。
次代を担う子どもたちに創造性を育むことも大変重要です。「工芸子ども塾」を実施して
おり、人間国宝の先生にも直接ご指導いただくなど、子どもたちに本物に触れ、感性を磨
いてもらっています。
さらに、
「革新あってこその伝統」ということで、新しい文化芸術の創造にも取り組んで
います。平成 8 年に元の紡績工場の倉庫跡を改修した「金沢市民芸術村」を開設し、専門
家・プロではない一般市民が文化・芸術活動、創作活動に取り組む拠点として4つの工房
を設置しています。24 時間 365 日オープンしており、公立文化施設では全国で初めての試
みです。また、金沢 21 世紀美術
館も、新たな文化・芸術を発信
するための拠点、創造の場であ
り、年間 150 万人以上の方にご
来館いただいています。
金沢市として、文化のビジネ
ス化にも取り組んでいます。そ
れを進める中核的な機能・役割
を果たしているのが、
「金沢クラ
フトビジネス創造機構」です。
11
平成 23 年に既存組織を改編し、創設したものですが、機構長に福光実行委員長、プロデュ
ーサーにマーケティングの分野で著名な川島蓉子さんにご就任いただき、人材育成や製品
開発、販路拡大、情報発信を進め、金沢で創作活動に取り組んでいる若手の工芸作家を支
援する機能を果たしています。
今年で7回目を数えるのが「おしゃれメッセ」です。金沢の伝統産業の一つである繊維
分野をアピールするファッションショーなどを開催し、伝統工芸、アパレル分野での新た
なライフスタイルを提案し、情報を発信しています。市内にある伝統工芸品から、100 名の
セレクターが選んだものを展示し販売する「100 人×100 品展」も開催しています。
現代工芸の新たな可能性を追求する取り組みも支援しており、新たな切り口での作品も
いくつか出てきています。加賀友禅や金沢箔などについては、技術支援、製品開発の課題
に取り組む研究組織を市が設置しています。
さらに世界への発信として、金沢市では本日のようなフォーラムを平成 20(2008)年か
ら開催しています。もう一つ大きな事業として、2010 年に第 1 回を開催した「世界工芸ト
リエンナーレ」があります。現在、来年度の第2回目の開催に向けて準備を進めています。
この 21 世紀美術館を主会場に開催する予定です。また、市内の伝統工芸作家の工房や窯元
を美術館と位置付けて、その魅力を体験してもらう「クラフト・ツーリズム」にも取り組
んでいます。
金沢市は次の3つ将来像を掲げています。一つは、「文化をビジネスにつなぐ」こと、次
に「担い手を育てる」こと、さらに「世界への発信」、国内外から金沢へお越しいただく、
世界を引き付けるということです。この3つの将来像を設定し、創造都市の取り組みを進
めています。
最近の新たな取り組みを紹介します。若手の工芸作家が販路の拡大に向け、お客さんと
対面して、どういうものが売れるのか、どうすればビジネスが進むのかということを体験
する実験店舗「モノトヒト」を、
「おしゃれメッセ」の開催に合わせ、10 月 5 日にオープン
したところです。21 世紀美術館からすぐの広坂通り沿いにあります。海外との交流として
は、台南市との交流を始め、工芸品の相互の展示会を開催しています。
2015 年 3 月には、いよいよ北陸新幹線が金沢に開業します。鉄道建設機構、JR とも相
談して金沢駅のホーム階では金箔が柱にしつらえられる予定で、待合室などにも金沢の本
物の伝統工芸をあしらうための準備を行っています。
この金沢に息づく伝統工芸など歴史も大切にしながら、しかし新しい価値を生み出し続
けることによって持続的に発展する創造都市・金沢を実現していきたいと考えています。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
最後の、北陸新幹線という最先端の鉄道技術に金沢特有の伝統工芸を結びつけるという
のは、非常に面白いアイデアだと思います。2015 年の開業が楽しみです。
ユネスコの創造都市ネットワークは、グロバリゼーションの中で文化が画一化していく
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傾向を抑制して、文化的多様性を広
げるために、世界の隅々で多様な文
化を活性化し、文化産業を育てよう
という趣旨で始まりました。このユ
ネスコのネットワークへの加入を
めざして、非常に多様な取り組み、
アプローチがあります。メディア・
アーツ、音楽、ガストロノミー、ク
ラフトがあり、文化芸術の創造性を
都市の再生に活かすという共通点
はありながら、創造都市自体が非常に多様であるということを改めて確認できたと思いま
す。
その上で、このネットワークをどのようにしてこれから発展させていくべきなのか、創
造都市がネットワークを組むことによって、どのようなメリットを引き出せるか、これか
らの課題ではないかと思います。
そこでまず、全州市のキム局長に伺いますが。アジア、特に東アジアにおいて、都市と
都市が文化をテーマにして交流し、ネットワークをつくっていくことの意味を、どのよう
に考えておられるでしょうか。国と国ではなかなか難しい問題があります。都市と都市が、
互いに文化をテーマにしてネットワークを広げることは、大きな可能性があると思ってい
るのですが、その点をお伺いしたいと思います。
■キム・シン 氏 /韓国・全州市文化経済局長
本日、全州市が参加した理由も、国を超えた都市間の交流にあります。発表で申し上げ
ましたけれども、全州市は創造都市に加入する意味を、都市間交流、各都市間の PR を通じ
た経済成長はもちろんのこと、それによって全州市が食文化の新たな段階に進むことに見
いだしています。このために積極的に参加しているわけで、アジアの都市のネットワーク
化は非常に重要だと思います。
我々は、国内のネットワーク、国際的なネットワークの2つの構築をめざしています。
全州は「味のふるさと」といわれており、全州という名前を利用したレストランが国内に
3,000 軒あります。国内的には、このようなレストランをネットワーク化し、全州の食べ物、
調理法を発展させる活動を行っています。
国際的なネットワークのために、
「ビビンバ」フェスティバルがあり、中国、スウェーデ
ンとも交流しています。さまざまな国際交流を通じ、ネットワークを強化して、各都市間
の協調事業を行う計画を持っていますので、ユネスコ創造都市ネットワークの形成は是非
とも進める必要があると思います。
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■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
私は、こういう時代だからこそ都市と都市が文化で交流することに意味があり、とりわ
け全州からお越しいただいたことはとても良かったと思っています。
日本の各都市からは、これからユネスコのネットワークに加盟する意気込みを込めた発
表をいただきました。ホスト都市の金沢にとっては、昨年ソウルで行われたユネスコの創
造都市ネットワークの世界大会を 2015 年に開催するにあたって、これらの都市には強力な
サポーターにもなっていただけるし、国内の信頼のネットワークにもなってもらえると思
っています。
札幌市はメディア・アーツ分野で創造都市をめざされていますが、金沢にもメディア・
アーツに関する「イート金沢」という催しがあります。ユネスコのジャンルでは、金沢は
クラフト、札幌はメディア・アーツで異なっていますが、ジャンルを超えた連携について、
どのようにお考えでしょうか。
■酒井 裕司 氏 /札幌市市長政策室政策企画部プロジェクト担当部長
非常に重要だと思います。先ほど、札幌はまち全体がメディアなのだと言ったわけです
が、歴史的にも確固たる大きな産業があるわけではなく、むしろ、北海道の道都として北
海道を代表して発信していくというメディアとしての役割を果たしてきています。その発
信力は、いろいろなネットワークができてこそ高まると考えています。
こうしたネットワークに参加させていただき、金沢市、新潟市、浜松市、それぞれ特徴
を持った都市との交流、さらに海外と交流することによってパイプが太くなればなるほど、
札幌市の発信力がより一層高まっていくと、大きく期待しているところです。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
新潟市と浜松市の取り組みを伺いながら、ユネスコのネットワークは、先進国における
都市間ネットワークのみならず、途上国も意識していると改めて感じました。
金沢市は工芸分野の若い作家たちに、
「クリエイティブ・ワルツ」のような取り組みをし
ています。放浪しながら技を磨くということで、たとえばアジア規模で、音楽産業やガス
トロノミーや食文化の分野で、どのような貢献、展開ができるのだろうかと考えながら聞
いていました。高橋部長いかがでしょうか。
■高橋 建造 氏 /新潟市地域・魅力創造部長
前提にあるのは、都市の固有性だと思います。海外展開できる産業は、海外に出る圧力
が必ずかかってくるわけですが、その土地にある固有のものは外には持っていけません。
これが重要であって、新潟市が食文化だけではないとお話ししたのは、それがユネスコの
分野に合致するからということもあるのですが、むしろ食文化を通じて他の市内産業の独
自性も文化の固有性も分かっていただきたいという思いで取り組んでいるのです。
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佐々木先生が言われたように、固有性をあまり意識していない都市がアジアにまだ多く
あるとするならば、それを発見できるように、いろいろなきっかけを作ることが大切なこ
とだと思っています。そのために、来週にも国際シンポジウムを開催しますし、5月には
新潟に来られた中国の成都とも交流を行いました。
■佐々木
雅幸
氏
/大阪
市立大学創造都市研究科教
授・都市研究プラザ所長
浜松市がもしユネスコの音
楽都市として認定されますと、
アジアで最初になります。アジ
アで音楽都市を広げる時に、ど
のような貢献ができるのか、あ
るいは音楽文化を広げる上で
浜松市はどのような取り組み
の可能性があるかついて伺い
ます。
■寺田 賢次 氏 /浜松市企画調整部長
浜松市は、古くから楽器のまちとして楽器産業が盛んですが、ソフト面の音楽産業はあ
まり育っていなかったということもあり、創造都市の推進については、それも含めた対応
で考えています。その取り組みは、昨年の「創造都市ネットワーク」の加盟申請を機に、
本格的に始めたばかりで、本市の持つポテンシャルを探っているところです。
浜松市には音楽もありますが、ものづくりもあるし、24,000 人の外国人の方も居住して
います。多文化共生という要素もあり、この創造の3要素を基軸にあらゆるジャンルの活
動をコラボレーションしていくという形で、創造都市を進めていこうと思っています。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
今、多文化共生という言葉が出たのは、浜松市の場合は自動車産業で働く日系ブラジル
人の方がたくさん市内におられて、文化を通じた共生が、もう一つの大きなテーマになっ
てくるということがあります。そこにも、創造都市という政策の大事な切り口というべき
ものがあって、多文化共生という点で、アジアとの関係にまた別の光が当てられるかなと
いうことを感じました。
最後に、濱田副市長、2015 年の世界会議開催にむけて、それまでにどのように国内外の
ネットワークを広げ、金沢型の創造都市というものを広めていくのかについて決意をお聞
かせいただきたいと思います。
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■濱田 厚史 氏 /金沢市・副市長
分野は異なるといえ、それぞれの地域の特性を活かした創造都市の取り組みを進めてい
る都市のお話を聞かせていただき、大きな刺激を受けました。金沢市も負けていられない
なという感を強くしています。
このように創造都市が集い、共に議論し、ネットワークの枠組みを作っていくというこ
とは、本当に有意義なことなのではないかと思います。そういう枠組みの中で共に競い合
って、さらにそれぞれの都市の創造性を高めていくことが、重要なのではないかと感じた
次第です。
金沢市には、これまで積み上げてきたものがありますが、さらに 2015 年に北陸新幹線の
金沢開業という一つの大きな契機もあります。それに向けて、先ほどのような取り組みを
着実に進めると同時に、本日お越しをいただいた皆様とのネットワーク、連携を深めるこ
とによって、さらに金沢らしい創造都市づくりに取り組んでいきたいと考えたところです。
■佐々木 雅幸 氏 /大阪市立大学創造都市研究科教授・都市研究プラザ所長
今日は地元、金沢からたくさんの市民の方々や、各地の創造都市を実践されている都市
の代表の方も来ておられます。お忙しい中、お越しいただきありがとうございました。
このフォーラム、シンポジウムのまとめを兼ね、
「創造都市の新たな連携を築くための金
沢アジェンダ」の採択に移りたいと思います。
------------------------「創造都市の新たな連携を築くための金沢アジェンダ」-------------------“世界創造都市フォーラム 2012 in KANAZAWA”に参加した私たちは、シンポジウムに
おける発表と討論を通じて、以下のとおり、共通の目標をもって行動することを宣言する
ものである。
21 世紀は「都市の時代」と言われる。その中でも、文化と産業の連環によるまちづくり
を実践する創造都市は、新たな価値を創造しうる都市のあり方として、その役割が期待さ
れている。
また、創造都市の連携を強化することで、その取り組みを高めあい、都市の持続的発展
を実現すべきと考える。そのため、以下の諸点について、参加者一同で合意し、創造都市
の新たな連携を築くため、各方面に働きかけるものとする。
(1) 創造都市間の連携により、多様な創造産業の取り組みを結びつけ、相互発展を図る。
(2) 創造産業や地域経済の発展に貢献する都市間ネットワークを形成することで、新た
な価値を創造し、市民生活の向上を図る。
(3) 創造都市の取り組みを高め、広く発信することで「ユネスコ創造都市ネットワーク」
や東アジアにおける創造都市相互のネットワークの発展に向けて貢献する。
2012 年 10 月 11 日 世界創造都市フォーラム 2012 in KANAZAWA 参加者一同
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---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------以上です。ご異議なければ皆さん拍手をお願いいたします。
(拍手)
どうもありがとうございました。今年の世界フォーラムは、これにて閉会します。
■福光
松太郎
氏
/金沢創造都市推進委員会実行
委員長
一言御礼を申し上げたいと思います。
今日はパネリストの皆様、特にキムさん、ご遠路か
らお越しいただきありがとうございました。佐々木先
生ありがとうございました。近藤長官には、大変示唆
に富んだ、文化・芸術の重要性と創造都市の心構えを
お聞かせいただきました。そしてまた、パネリストの
皆様からそれぞれのまちの取り組みを聞かせていただいて、いよいよ面白くなってきたな、
というのが本当のところです。
地方、地域からいろいろな情報、文化が発信されるという時代になったということだと
思います。国が動いて、地域がそれについていくという時代が完全に終わろうとしている
というのが感想です。
それぞれの創造都市が自分たちの特色や文化を基盤にして発展させていき、積極的に 21
世紀型の産業を構築していく、その心構えを強く持って推進するべきだと思います。この
21 世紀型産業というレベルまで達すれば、ネットワークでのコラボレーションは、相当進
み、強力な関係が結べたり、ネットワークとして取り組むのにふさわしいことがたくさん
出てくるだろうと思います。それを楽しみにしたいと思いますし、さらに金沢市も頑張ら
なければいけないなということを、濱田副市長とともに感じた次第です。
冒頭に山野市長がご挨拶申し上げ、佐々木先生にも話題にしていただいたように、2015
年に金沢でユネスコ創造都市ネットワークの世界会議を開催したいと思っております。ど
のような方向で、どのようにすればいいか。さらにいろいろと研究し、また皆様からもご
意見いただき、強力に進めていきたいと思います。
本日お越しいただきましたパネリストの皆様のそれぞれの創造都市が、発展されますよ
うに心からお祈りを申し上げ、また、我々の世界会議のときにも、お力をお貸しいただき
ますようにお願い申し上げまして、閉会の挨拶とさせていただきます。
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