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1000ha - 日本林業経営者協会

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1000ha - 日本林業経営者協会
2015年7月17日 日本林業者経営協会
森林のシカ被害対策を
どう考えるか
(研)森林総合研究所
研究コーディネータ
小泉 透
移り変わる獣害
森林面積(×1000ha)
天然林
人工林
年度
森林面積と造林面積の推移(1951~2012年)(森林・林業統計要覧)
造林面積(×1000ha)
その他
Clethrionomys rufocanus
エゾヤチネズミ
Microtus montebelli
ハタネズミ
Eothenomys smithii
スミスネズミ
ノネズミ3種の分布
造林面積(×1000ha)
被害面積(×1000ha)
年度
ノネズミによる森林被害面積(棒グラフ)と造林面積(折れ線グラフ)の推移
ノウサギの分布
Lepus timidus
Lepus brachyurus
造林面積(×1000ha)
被害面積(×1000ha)
年度
ノウサギによる森林被害面積(棒グラフ)と造林面積(折れ線グラフ)の推移
造林面積(×1000ha)
国有林野における新たな森林施業通達(1972)
作業:大面積皆伐
伐区:集中
草原環境の増大
作業:小面積皆伐
伐区:分散
林縁環境の増大
ノネズミ ◎
ノウサギ◎
ノネズミ △
ノウサギ△
年度
造林面積の推移
ニホンジカの分布
造林面積(×1000ha)
被害面積(×1000ha)
年度
シカによる森林被害面積(棒グラフ)と造林面積(折れ線グラフ)の推移
シカによる森林被害
6.0
500
450
400
350
4.0
300
250
3.0
200
2.0
150
100
1.0
50
0.0
0
1950
1955
1960
1965
1970
1975
年度
1980
1985
1990
1995
2000
造林面積(×1000ha)
被害面積(×1000ha)
5.0
造林面積の推移
450
国有林野における新たな森林施業通達(1972)
400
面積(×1000ha)
350
300
250
作業:大面積皆伐
伐区:集中
草原環境の増大
作業:小面積皆伐
伐区:分散
林縁環境の増大
シカ
シカ
200
150
○
◎
100
50
0
1950
1955
1960
1965
1970
1975
年度
1980
1985
1990
1995
2000
シカという動物
ニホンジカ
Cervus nippon TEMMINCK, 1838
ワシがゴトウで買い求めたシカが
ニホンジカのタイプになったの
ぢゃ
ニホンジカ Cervus nippon Temminck, 1838の分布
所変わればシカ変わる
体の大きさが違う
120
100
60
50
35
30
ニホンジカの分布
赤い数字はオス成獣の体重を示しています
左:エゾシカ 右:キュウシュウジカ
GPS受信器を組み込んだ首輪を装着されたシカ
行動範囲の大きさが違う
夏
夏
冬
北海道:季節移動型
森林と農地の両方を利用していた。
移動距離は2003年33.0±7.5 km、2004年36.6±21.5 km
夏
九州:定住型
林縁部を頻繁に利用していた。
行動圏は60~190ha
動くシカ、動かないシカ
知床 3.25km2 (矢部 1995)
阿寒 19~42km移動
(Uno and Kaji 2000)
白糠 35.1~101.7km移動
(Igota et al. 2009)
五島 0.03~0.036km2
(Endo and Doi 1996)
房総 0.46~2.46km2 (重松ほか 1994)
大台ヶ原 0.76~2.11km2 (前地ほか 2000)
椎葉 0.34~2.11km2 (矢部ほか 2001)
関東以西のシカは定住性が強い
シカは何でも食べる
食物メニューは1000種を超える
食物選択の基準
2
3
第1胃粘膜
4
1
第2胃粘膜
1.たくさんある
2.なくならない
3.おいしい
(栄養がある)
(毒ではない)
地域(植生) に応じて
シカは反芻動物である 食性も変化する
ダイスほか「獣医解剖学」
シカは増える
シカの繁殖
10月
繁殖期
妊娠(約240日)
オス1頭とメス数
頭のハーレムを作
る
6月
出産
授乳
10月
繁殖期
生まれる子ジカ
は通常1頭
出産するのは年に1回1頭だけ
シカは何歳まで生きる?ー年齢を調べるー
歯
冠
歯
髄
腔
3
2
1
歯
根
下あごの第1切歯(上図の矢印)を使って年齢を調べます
1.5~10才 2.15~20才 3.25~30才
100
妊娠率(%)
80
60
高い妊娠率
40
20
0
0
1
2
3
4
5 6
年齢
7
8
9 10以上
ニホンジカの齢別妊娠率(兵庫県)
高い妊娠率は長期に持続する
100%
妊娠率
80%
60%
40%
20%
0%
1994
1995
1996
1997
1998
1999
年度
2000
2001
熊本県における妊娠率の年変化
妊娠率は2~4月に捕獲された1才以上の個体より算出
2002
2003
1年目
万頭
シカ算式?に増える
…年目
1.5 2年目
3年目
♂
1
4年目
1000頭のシカ
が15年後には1
万頭を超える!
0.5
5年目
♂
♂
♂
♂
捕獲をしないと…
0
年率20%で増加
♂
1年目 3年目 5年目 7年目
4~5年で個体数倍増
♂
9年目 11年目 13年目 15年目
イラスト 八代田千鶴
妊娠率が高い
南但馬 73.9-89.8%
(Koizumi 1992)
弥山 77%
(金森ほか 1999)
福岡 78.3%
(池田2001)
足寄 96.4%
(Suzuki et al. 1993)
五葉山*94.1%(高槻 1992)
房総*72.5~100%(浅田 1996)
大分 90.2%(自然環境研究センター19987)
球磨 92.2%(Koizumi et al. 2009)
宮崎 78.3%(自然環境研究センター1998)
1才以上のメスジカの妊娠率
*:五葉山、房総は2才以上の妊娠率
戦後約60年メスジカの捕獲数を制限して保護してきた
捕獲数
2007メスジカ解禁(全国)
1999特定鳥獣保護管理計画制度創設
1994メスジカ解禁(一部地域)
メスジカは
保護されてきた
1950
1960
1970
1980
1990
2000
シカ捕獲数(棒グラフ)の推移とメスジカの割合(折れ線グラフ)
(鳥獣統計資料より)
メスジカの割合(%)
捕獲数は20万頭以上だが、メスの割合が50%ではシカは減らない
【環境省】捕獲統計から推定される
本州以南のシカ個体数は261万頭
環境省「鳥獣保護管理のあり方検討小委員会」資料
http://www.env.go.jp/council/12nature/y124-04/mat02.pdf
広がるシカの分布
国土の
10%
23
%
42
%
25年で1.7倍に拡大!
シカは何でも食べる
+
シカは増える
シカは林業にとって最大の害獣に
なってしまった
被害面積(×1000ha)
シカ
年 度
林業被害面積の推移(1980~2011年度)(林野統計による)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/tyouju.html
若い造林木を食害する
(上あごに前歯がないので摘み取るように食べる)
収穫直前の木の樹皮を剥いでしまう
シカは農業にとっても最大の害獣になってしまった
【農業被害】
水稲、畑作物、飼料作物等ほとんどの作物に被害が発生して
いる。
獣害の約6割を占める。特に北海道の飼料作物被害が深刻化
している。
農業被害面積の推移
(農林水産省資料による)
シカによる森林被害は…
産業振興上の妨げとなるだけでなく
生物多様性上の問題となりつつある
1975
2000
シカの採食により林床のササ(スズタケ)は急速に後退してしまった
シカの採食により下層植生が
ほとんど消失した森林
国土保全上の問題となりつつある
「深刻化するニホンジカによる森林被害」より
東京都農林総合研究センター提供
被害を防ぐ
吉野林業全書(1898)
41
長野県塩尻市に残る「猪土手」跡
長野県塩尻市に復元された「猪土手」
長野県塩尻市に復元された「猪土手」
「若北猪狩状」
宝永年間(1704~1711)から…猪と鹿の害が大きく…大豆・小豆・粟・稗・黍・蕎
麦・大麦・稲・筍…みな食われ…
山野に小屋掛をし、鐘をたたき声をあげて野獣を追い…
垣をめぐらし、案山子を立て、鳴子を引き、落とし穴を設けて…狩人を雇い…
享保15年(1730)
士卒農民2,800人で各方面から狩り立て、全数およそ20,000頭を捕って凱歌を
挙げた。
「須万盛衰記」
享保19年(1734)
激増するシカにコウゾ皮が食害され枯死したため、この地方(毛利藩山代地
方)の紙生産高は最盛期の約3/5に減じた。
千葉徳爾「オオカミはなぜ消えたか」 新人物往来社(1995)
生類憐れみの令
(1687から1709年)
総合被害防除という考え方(Ⅰ)
被害対策を構成する3つの要素
• 被害防除
被害発生の原因と状況を把握し、適切な防止技術を適用し
て被害の軽減を図る。
• 個体数管理
野生動物と共存する(個体群を存続させ被害を低減させる)
ために、個体数(生息密度)、分布域、群れの構造などを適
切に管理する。
• 生息環境管理
野生動物の主な生息地(森林)を適切に整備して、農地や集
落への出没を減少させる。
農林水産省生産局「野生鳥獣被害防止マニュアル イノシシ、シカ、サル -実践編-」(2007)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/h19_03/index.html
を一部改変
実は、農業と林業は異なる産業である
農業
林業
シカの生息地外である
シカの生息地内である
農地は固定している
生産期間は長い
単年で収穫する
あらゆる成長段階で
被害が発生
作物以外は対象外
天然林も対象(公益的機能)
被害対策の基盤として
被害対策の基盤として
農地防護が重視される
個体数調整が重視される
総合被害防除という考え方(Ⅲ)
それぞれの管理の要点
• 被害管理
防護柵はメンテナンスが不可欠
…できれば設置で終わらせたい…
• 個体数管理
減るように獲る
• 生息地管理
被害の「もと」を放置しない
ネット柵に絡んだシカ
(ネットの目合いは5センチにしたい)
跳び越えるよりもぐり込もうとする
下止めを完全にする
沢型をまたがない
シカは助走をつけて飛びこさない
柵に返しをつけると踏切位置が下がり、
飛び越さなくなる
ネット柵(パッチディフェンス)
三重県大台町
シカの通路を確保してやることにより柵への負担を軽減する
ブロックディフェンス(森林整備センター) 山梨県南部町
総合被害防除という考え方(Ⅲ)
それぞれの管理の要点
• 被害管理
防護柵はメンテナンスが不可欠
…できれば設置で終わらせたい…
• 個体数管理
減るように獲る
• 生息地管理
被害の「もと」を放置しない
エサ場を放置していないか?
山の中に牧草地が利用されないで放置されていないか
こうした牧草地がエサ場として利用されていないか
をチェックする。
牧草地を柵で囲む
牧草地を農地と林地との緩衝帯にする
牧草地に侵入するシカを集中して駆除する
総合被害防除という考え方(Ⅲ)
それぞれの管理の要点
• 被害管理
防護柵はメンテナンスが不可欠
…できれば設置で終わらせたい…
• 個体数管理
減るように獲る
• 生息地管理
被害の「もと」を放置しない
個体数
レズリー行列を使ってシカを管理する
4000
2才以上オス
3000
1才オス
0才オス
2000
2才以上メス
1000
1才メス
0
0才メス
0
1
2
3
4
5
経過年
6
7
8
9
10
このシカから,5年目以降毎年オスを40頭ずつ合計
120頭を間引いてみましょう。
個体数を減らすことはできませんでした。
このシカから,5年目以降毎年メスを40頭ずつ合計
120頭を間引いてみましょう。
個体数は年率5~15%で減少しました。
一夫多妻型の繁殖パターンをつため
高位のオスを除去しても次位のオスが
代替えする→ 妊娠率に影響しない
狩
猟
者
登
録
数
(
赤
棒
)
60
才
以
上
の
割
合
%
(
青
線
)
年 度
捕獲の担い手は減る一方
全国で約20万人(1970年代の半分以下)、約6割が60才以上
これからのシカ管理の原則
少人数で
効率よく
メスジカを
捕獲する
2012年1~2月
上井出(西)
小山
2013年1~2月
2014年1~2月
上井出(東)
御殿場
2015年1~2月
表富士
富士山国有林における森林被害状況と捕獲エリアの変遷
少人数で、効率よく、メスジカを捕獲するために
「誘引法」を開発
目的:発砲可能な日中に野生のシカを開けた場所に出没させる
方法:同じ場所に、同じ人が、同じ時刻に、同じ量を繰り返し給餌する
餌を置いて(9:50)から26分後(10:16)に自発的に出没
このような出没が習慣化する
少人数で、効率よく、メスジカを捕獲するために
「狙撃法」を開発
目的:周辺の個体を警戒させずに、給餌場の個体を確実に除去
方法:群れをリードする警戒心の強い成獣メスから除去する
群れを散らさないよう、4頭以上の大きな群れには発砲しない
①
③
ブラインドまたは車両から狙撃する
許可を受けて実施しています
②
この順番で撃つ
ネット柵(パッチディフェンス)
三重県大台町
シカの通路を確保してやることにより柵への負担を軽減する
ブロックディフェンス(森林整備センター) 山梨県南部町
森林被害対策の進め方
防護柵
・大規模柵で全面を防護するか小規模柵で分割して防護するか
・シカは柵の周囲を頻繁に歩き回る(探索する)
・大規模柵の方が低コストだが、破損のリスクは高い
・小規模柵はコスト高だが、効果は持続する
・誘導路を作って捕獲と連動させると効果が高い
捕獲
・捕獲対象地を団地化して銃捕獲のコストを低下させる
・これからの銃捕獲は少人数で撃ち漏らさない方法を基本とする
(それが可能な捕獲者と組むことが大切)
・ワナ捕獲は持続しない
(ワナを見破って警戒する)
(造林地に近寄らせない効果はある)
坂元邦夫
誘引捕獲の効果的な実施のためには、
森林管理者、研究者、捕獲技術者および「協力が得ら
れる関係者」との十分な連携体制の構築や情報共有が
必要不可欠である。
単にマニュアルに沿った対応では、期待した成果が得
られないばかりか、安全さえも確保できない場合も生じ
てくると考えるべきである。
シカを捕獲する技術 誘引捕獲(シャープシューティング).森林組合 518:6-9.2013
エドワード T ダイソン
スコットランドでは、野生のシカは無主物であるが、
土地所有者および管理者はシカ管理に主たる責任
を負っている。
シカは土地の境界を越えて動くため…土地に関わる
個人や団体がシカ管理に関わる団体をつくり、シカを
協働で管理している。
スコットランドにおけるシカ管理.山林 1498:22-31.2009
イングランド林業委員会
専門のシカ処理場を併設している
この人はシカ肉を衛生的に処理する専
門知識と技術をもっているが・・・
実は森林官である
日本のシカ肉処理場の衛生水準は高い
日本では捕獲者(狩猟者)に対する
衛生知識の啓発と技術普及が重要である
Example of GOOD transportation
Example of BAD transportation
日本ではごくあたり前に行われている
イングランド林業委員会「獣肉処理マニュアル」より
衛生的なシカ肉は美味しい資源
シカは「動く林産物」です
軽くスモークした鹿肉の冷製バルサミコソース
農林水産研究機関の主催する
「食のブランドニッポン」にもシカ肉が提供されています
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