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2011年度問題

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2011年度問題
2011 年度 小児科学中間試験問題集 解答解説
111205 3/3 を公 開 、111210 2/3 を公 開 、111213 ファイル統 合 、今 年 度 の問 題 を収 録
目次
A. 小 児 の発 達 (問 1〜問 5)
B. 先 天 性 代 謝 異 常 (問 6-15)
C. 腎 尿 路 系 の疾 患 (問 16-22)
D. 循 環 器 系 の疾 患 (問 23-29)
E. 感 染 症 (問 30-38、問 49)
2011 年 度 中 間 試 験 (12/12 実 施 )の問 題 ................................................................. 2
F. 血 液 疾 患 (問 39-44、46-48) ............................................................................. 3
G. 免 疫 疾 患 (問 45、50-60) ............................................................................... 16
H. 神 経 ・筋 疾 患 (問 61-69) ................................................................................ 32
I. 周 産 期 管 理 (問 70-75) .................................................................................. 44
J. アレルギー疾 患 、呼 吸 器 疾 患 (問 76-83) ............................................................ 51
K. 染 色 体 異 常 症 、その他 の多 発 奇 形 症 候 群 、早 老 症 (問 84-90) ............................... 60
はじめに
例 年 、小 児 科 中 間 試 験 は 4 年 次 の 12 月 中 旬 (小 児 科 講 義 の最 終 日 )に行 われるようです。
最 初 の講 義 で 90 問 の「小 児 科 学 中 間 試 験 問 題 集 」が配 布 され、そこから 10 問 が出 題 され
るという予 告 がありました。
なぜこの時 期 に試 験 をするのか? 小 児 科 卒 試 は伝 統 的 に全 科 目 の最 後 (11 月 下 旬 )に行
われます。卒 試 スケジュールが過 密 で国 試 も近 く本 格 的 な試 験 はできないため、卒 試 はマー
ク試 験 のみとし、記 述 式 は 4 年 次 に回 すということになったようです。評 価 のウェイトは不 明
ですが、「中 間 :卒 試 :ポリクリ=4:4:2 くらい」という説 や、10%くらいという説 も聞 きました
(どちらも確 証 がありません)。
2011 年 度 の小 児 科 学 中 間 試 験 問 題 集 の内 容 は、2年 前 と同 一 です。矢 野 先 生 による解 答
解 説 が存 在 しますが、後 半 にいくほど簡 単 な解 答 のみになっています。そこで今 回 は、後 半
部 から解 答 解 説 を作 っていきます。
全 90 題 を、著 者 の判 断 により目 次 のように A〜K のカテゴリーに分 けました。
1
結 局 、後 半 の半 分 強 (F〜K)しか完 成 しませんでした m(_ _)m
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
2011 年 度 中 間試 験 ( 12/12 実 施 ) の 問 題
※[]内 に、カテゴリーと中 間 試 験 問 題 集 の番 号 を追 記
1. [A. 小 児 の発 達 (問 題 集 3)より]乳 児 において体 重 増 加 不 良 (failure to thrive) がみら
れた場 合 に考 えるべき疾 患 をあげよ。
2. [B. 先 天 性 代 謝 異 常 (問 題 集 13)より]新 生 児 における高 アンモニア血 症 の原 因 をあげ
よ。
3. [D. 循 環 器 系 の疾 患 (問 題 集 26)より]チアノーゼ性 先 天 性 心 疾 患 を 3 つ挙 げ、そのうち 1
つについて臨 床 症 状 (理 学 的 所 見 )、検 査 所 見 、管 理 (治 療 )について述 べよ。
4. [E. 感 染 症 (問 題 集 36)より]わが国 で行 われている小 児 に対 する予 防 接 種 の種 類 と接 種
時 期 を述 べよ。
5. [F. 血 液 疾 患 (問 題 集 40)より]乳 幼 児 期 に好 発 する悪 性 腫 瘍 を 5 つあげ、臨 床 的 特 徴 を
簡 単 に述 べよ。
6. [G. 免 疫 疾 患 (問 題 集 53)より]複 合 型 免 疫 不 全 症 、液 性 免 疫 不 全 症 、好 中 球 機 能 異 常
症 、補 体 欠 損 症 についてそれぞれ代 表 的 な疾 患 を1つずつあげて、その特 徴 を述 べよ。
7. [H. 神 経 ・筋 疾 患 (問 題 集 61)より]West 症 候 群 について以 下 の項 目 を簡 潔 に述 べよ。1 )
好 発 年 齢 、2 ) 症 状 、3 ) 原 因 疾 患 、
4 ) 脳 波 所 見 、5 ) 治 療 、6 ) 予 後
8. [H. 神 経 ・筋 疾 患 (問 題 集 64)より]フロッピーインファントとは何 か。また、フロッピーインフ
ァントの原 因 と鑑 別 について記 せ。
9. [I. 周 産 期 管 理 (問 題 集 74)より]新 生 児 にみられる低 カルシウム血 症 の症 状 および鑑 別
診 断 を述 べよ。
10. [I. 周 産 期 管 理 (問 題 集 75)より]母 乳 栄 養 の利 点 および母 乳 栄 養 の禁 忌 を述 べよ。
2
F. 血 液 疾 患 (問 3939 - 44、
44 、 4646 - 48)
48 )
本 章 では血 液 についての良 性 疾 患 、悪 性 疾 患 を中 心 に扱 う。以 下 の順 に説 明 していこう。
① 貧 血 (問 43、46)
② 血 液 腫 瘍 (問 39、40、44、41、42)
③ 造 血 幹 細 胞 移 植 (問 47、48)
問 43 年 齢 別 (新 生 児 期 、乳 児 期 、幼 児 期 、学 童 期 )に小 児 によくみられる貧 血 をそれぞれ 3
種 類 挙 げて、主 な鑑 別 点 について記 載 せよ。
以 下 に時 期 別 によくみられる貧 血 を整 理 した一 覧 表 を示 す 1。
時期
頻 度 の高 い貧 血
新生児期
★新 生 児 溶 血 性 貧 血 、★失 血 性 貧 血 、★感 染 性 貧 血 、先 天 性 貧 血 (遺 伝 性 球
状 赤 血 球 症 、先 天 性 赤 芽 球 癆 …)など
乳児期
★生 理 的 貧 血 、★未 熟 児 早 期 貧 血 、★未 熟 児 後 期 貧 血 、
鉄 欠 乏 性 貧 血 、失 血 性 貧 血 、感 染 性 貧 血 など
幼児期
★鉄 欠 乏 性 貧 血 、失 血 性 貧 血 、★感 染 性 貧 血 、★白 血 病 ・悪 性 腫 瘍 の骨 髄 浸
潤
学童期
鉄 欠 乏 性 貧 血 、失 血 性 貧 血 、慢 性 疾 患 に伴 う貧 血 (感 染 性 貧 血 を含 む)、★再
生 不 良 性 貧 血 、白 血 病 ・悪 性 腫 瘍 の骨 髄 浸 潤
新 生 児 期 には、周 産 期 の異 常 や遺 伝 子 異 常 に基 づく貧 血 の出 現 が特 徴 的 である。
乳 児 期 には、発 達 に伴 う一 時 的 貧 血 (生 理 的 貧 血 )や、早 産 (未 熟 児 )が原 因 の貧 血 が出 る。
これらを除 くと、乳 児 期 以 降 に出 現 する貧 血 は基 本 的 に成 人 と同 じ種 類 の疾 患 であり、鑑 別
の進 め方 も貧 血 一 般 にほぼ準 ずる。
ここでは上 表 で★マークを付 与 した疾 患 を順 に簡 単 に説 明 していくことで、特 徴 を大 づかみに
していこう(主 な鑑 別 点 に下 線 を付 した)。
新 生 児 期 の貧 血
(1)新 生 児 溶 血 性 貧 血
① 母 児 間 の血 液 型 不 適 合 (Rh 型 、ABO 型 など)により、溶 血 性 貧 血 と黄 疸 をきたす。
② 機 序 は、胎 児 RBC が母 体 循 環 に入 る→母 体 が IgG 抗 体 産 生 →胎 児 循 環 に戻 って溶 血 を
生 じる、というもの。
③ 間 接 Coombs(クームス)試 験 によって、抗 RBC 自 己 抗 体 の出 現 を確 認 する。
(2)失 血 性 貧 血
① 周 産 期 に特 有 の失 血 原 因 がある。
1
出 生 前 では、胎 児 母 体 間 輸 血 (胎 児 血 液 が母 体 へ以 降 する)や双 胎 間 輸 血 など。
『今 日 の小 児 診 断 指 針 (第 四 版 )』、医 学 書 院 、2004、pp.107-を中 心 に、複 数 の文 献 を編 集
して作 成 。
3
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
分 娩 時 では、前 置 胎 盤 ・胎 盤 早 期 剥 離 ・胎 児 -胎 盤 輸 血 ・外 傷 性 出 血 など。
新 生 児 では、ビタミン K 欠 乏 による消 化 管 出 血 (新 生 児 メレナ)や頭 蓋 内 出 血 など。
② 血 液 生 化 では正 球 性 正 色 素 性 貧 血 を呈 し、末 梢 血 塗 抹 標 本 では赤 血 球 の形 態 異 常 を認
めない。
(3)感 染 性 貧 血
① 母 体 内 または出 生 時 の感 染 による貧 血 。TORCH 症 候 群 (問 30)など。
② 出 生 直 後 の IgM が高 値 になる(問 50)。
乳 児 期 の貧 血
(1)生 理 的 貧 血
胎 児 期 〜出 生 直 後 の新 生 児 は、母 体 内 の環 境 に適 合 するため生 理 的 な多 血 状 態 にある
(Hb20g/dl 前 後 )。出 生 後 しばらくは骨 髄 の造 血 能 が低 いため RBC は減 少 していき、生 後 1〜2
ヶ月 頃 に最 低 値 となり(Hb10g/dl前 後 )、その後 は上 昇 に転 じる。これを生 理 的 貧 血 といい、小
球 性 低 色 素 性 貧 血 を呈 する。
(2)未 熟 児 早 期 貧 血
早 産 児 の未 熟 性 に起 因 する貧 血 。EPO の産 生 不 全 により、生 後 1〜2ヶ月 頃 に貧 血 が著 明 と
なる。腎 性 貧 血 と同 様 に正 球 性 正 色 素 性 貧 血 である。
(3)未 熟 児 後 期 貧 血
早 産 児 の未 熟 性 に起 因 する貧 血 。出 生 までに十 分 な鉄 分 が貯 蓄 されず、体 が大 きくなるにつ
れて、生 後 5 ヶ月 頃 から貧 血 が著 明 となる。鉄 欠 乏 性 貧 血 と同 様 に小 球 性 低 色 素 性 貧 血 であ
る。
幼 児 期 の貧 血
(1)鉄 欠 乏 性 貧 血
① 乳 児 期 以 降 の小 児 が貧 血 のみが出 現 した場 合 は、鉄 欠 乏 性 貧 血 が最 も多 い。急 速 な身 体
の成 長 による鉄 需 要 の増 大 、栄 養 不 良 (離 乳 、偏 食 など)によって起 こる。
② 幼 児 期 に牛 乳 を飲 み過 ぎると、栄 養 分 の偏 りや牛 乳 アレルギーによる鉄 分 吸 収 不 良 で鉄 欠
乏 性 貧 血 になりやすい(牛 乳 貧 血 )。
③ もちろん小 球 性 低 色 素 性 貧 血 である。
(2)感 染 性 貧 血
① 小 感 染 の反 復 、比 較 的 長 い経 過 の感 染 症 などで、軽 度 の貧 血 を呈 した状 態 。
② 最 初 は正 球 性 正 色 素 性 だが、経 過 が長 いと小 球 性 低 色 素 性 にことがある。
「鉄 欠 乏 性 貧 血 」と「慢 性 疾 患 による貧 血 」の鑑 別
4
慢 性 感 染 症 、慢 性 炎 症 性 疾 患 (膠 原 病 や悪 性 腫 瘍 など)による軽 度 の貧 血 を、「慢
慢性疾患に
よる貧 血 (Anemia
( Anemia of chronic disorders; ACD)
ACD ) 」と言 う。ACD は貧 血 の中 で鉄 欠 乏 性 貧 血 に
ついで頻 度 が高 く、両 者 の鑑 別 が要 求 されることが多 い。以 下 に鑑 別 点 を整 理 しよう。
◆ACD により貧 血 が起 こる機 序 は血 液 学 資 料 2011 で述 べた。
貧 血 の種 類
MCV
血清鉄
血 清 フェリチン
総 鉄 結 合 能 (TIBC)
鉄欠乏性貧血
小球性
↓
↓
↑
ACD
小 〜正 球 性
↓
→ or ↑
↓
(3) 白 血 病 ・悪 性 腫 瘍 の骨 髄 浸 潤
① 白 血 病 では白 血 病 細 胞 が骨 髄 中 で増 殖 する。また固 形 腫 瘍 が骨 髄 に転 移 して、骨 髄 中 で
増 殖 する。いずれも骨 髄 で正 常 な造 血 を行 うスペースが小 さくなり、各 系 統 の血 球 が減 少 す
る。
② 血 算 で RBC↓、WBC↓、PLT↓(汎 血 球 減 少 )をみる。
学 童 期 の貧 血
(1)再 生 不 良 性 貧 血
① 造 血 幹 細 胞 レベルの何 らかの障 害 (遺 伝 的 異 常 や自 己 免 疫 的 機 序 による傷 害 など)によっ
て、骨 髄 の造 血 幹 細 胞 数 が減 少 し、各 系 統 の血 球 が減 少 する。
② 末 梢 血 の血 算 では汎 血 球 減 少 を呈 し、骨 髄 穿 刺 or 骨 髄 生 検 では骨 髄 の顕 著 な低 形 成
(脂 肪 髄 )をみる。
問 46
再 生 不 良 性 貧 血 の原 因 および重 症 度 に基 づく分 類 法 について述 べよ。
* 再 生 不 良 性 貧 血 aplastic anemia(以
anemia (以 下 AA と略 す)
① 何 らかの原 因 により、骨 髄 では造 血 幹
細 胞 が減 少 し、各 系 統 の血 球 も減 少 し
て、顕 著 な低 形 成 になる。末 梢 血 では汎
血 球 減 少 (RBC↓、WBC↓、PLT↓)を
呈 する。
② 小 児 AA の原 因 には以 下 のようなもの
がある:
(a) 先 天 的 な遺 伝 子 異 常 (Fanconi 貧
血 など)
10%
(b) 二 次 性 (薬 剤 、化 学 物 質 、放 射 線 な
どへの被 曝 、肝 炎 後 など) 15%
(c) 特 発 性 75%
③ 臨 床 的 には、各 系 統 の血 球 減 少 によっ
て、進 行 性 の貧 血 、易 感 染 性 、出 血 傾
向 を呈 する。また先 天 性 AA では奇 形 や
機 能 異 常 を合 併 することが多 い。
5
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
④ 各 系 統 の血 球 数 によって重 症 度 分 類 を行 い(右 に基 準 を示 す 2)を行 い、それに従 って治 療
法 を決 める。
軽 症 の場 合 は無 治 療 で経 過 観 察 するが、小 児 患 者 のほとんどは中 等 症 以 上 である。治 療 法
について下 にまとめよう。
治療法
説明
支持療法
感 染 症 が疑 われる場 合 は早 期 に抗 菌 薬 投 与 を開 始 する。RBC 輸
血 、血 小 板 輸 血 、G-CSF 投 与 を必 要 に応 じて行 う。
免疫抑制療法
高 胸 腺 細 胞 グロブリン(ATG)とシクロスポリン(CsA)を用 いて、T 細
胞 性 の免 疫 機 能 を抑 制 する。
中 等 症 では ATG 単 独 or CsA+ATG 併 用 、重 症 以 上 では
CsA+ATG 併 用 を選 択 する。
造血幹細胞移植
中 等 症 で免 疫 抑 制 剤 の反 応 が悪 い場 合 や、重 症 以 上 の場 合 に検 討
する。 HLA 一 致 の場 合 は 90%以 上 、非 血 縁 者 間 移 植 の場 合 でも 70
〜80%の長 期 生 存 率 が得 られている。
問 39
腫 瘍 崩 壊 症 候 群 の症 状 、検 査 所 見 、治 療 について述 べよ。
腫 瘍 崩 壊 症 候 群 tumor lysis syndrome
右 のイラスト 3が分 かりやすいので、
これを見 ながら順 に説 明 すると——
① 悪 性 腫 瘍 に対 して強 力 な化 学
療 法 や放 射 線 治 療 を行 ったと
き、
② 腫 瘍 組 織 が一 挙 に崩 壊 して細
胞 内 成 分 (核 酸 、K、P など)が
血 中 に流 出 し、
③ 高 尿 酸 血 症 、高 カリウム血 症 、
高 リン血 症 、低 カ ルシ ウ ム血 症 、
乳 酸 アシドーシスなど電 解 質
異 常 や代 謝 異 常 をきたし、
④ 最 悪 の場 合 は腎 不 全 、不 整 脈
により死 に至 る。
◆そこで腫 瘍 の総 量 が大 きい場 合 (造 血 器 腫 瘍 など)、薬 物 感 受 性 が高 い場 合 、強 力 な薬 剤 を用 いる場 合 (分
子 標 的 薬 の一 部 など)にリスクが大 きい。
2
中 尾 眞 二 「再 生 不 良 性 貧 血 」『今 日 の治 療 指 針 2010 年 版 』、医 学 書 院 。
3
日 経 メディカルオンライン「腫 瘍 崩 壊 症 候 群 に注 意 を」より。
ttp://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/cr/201012/517565.html
6
検 査 所 見 、臨 床 症 状
異 常 となる検 査 値 と、関 連 する臨 床 症 状 を以 下 に整 理 しよう。
項目
検査値
臨床症状
高尿酸血症
≧8mg/dl or 25%以 上 の増 加
放 出 された核 酸 の代 謝 により尿 酸 値 が上 昇 。
急 性 痛 風 性 関 節 炎 や尿 細 管 ・尿 管 に沈 着 し
て腎 不 全 をきたす。
高 カリウム血
≧6.0mEq/l or 25%以 上 の増 加
症
細 胞 内 に多 いカリウムが放 出 され、神 経 症 状
(しびれや脱 力 )、消 化 器 症 状 (悪 心 、下 痢 )、
不 整 脈 が出 現 。
高 リン血 症
≧6.5mg/dl or 25%以 上 の増 加 (小 児 )
リン酸 カルシウム塩 を作 り、毛 細 血 管 、尿 細
≧4.5mg/dl or 25%以 上 の増 加 (成 人 )
管 、心 筋 などに沈 着 する。腎 不 全 、不 整 脈 の
一 因 となる。
低 カルシウム
≦7mg/dl or 25%以 上 の減 少
血症
高 リン血 症 により二 次 的 に発 生 。神 経 ・筋 の
興 奮 性 が亢 進 し、テタニーやけいれんを生 じ
る。
予 防 と治 療
治 療 の基 本 は上 記 症 状 の対 症 療 法 であり、次 のような治 療 法 がある。基 礎 疾 患 の存 在 など
でもともとリスクが高 い患 者 には、化 学 療 法 前 に予 防 的 に①と②を行 っておく。
① 水 分 負 荷 と利 尿 。輸
。 液 (生 食 )によって、尿 酸 、P、K の排 泄 を促 進
② アロプリノール(ザイロリック®)。尿
酸 の生 合 成 を抑 制 する。
アロプリノール
③ 尿 アルカリ化 。高 尿 酸 血 症 に対 して重 曹 やクエン酸 を投 与 して尿 をアルカリ化 し、尿 酸 の析
出 を防 ぐ。
④ 人 工 透 析 。重 症 例 では人 工 透 析 により電 解 質 や尿 酸 値 を正 常 化 させる。
問 40
乳 幼 児 期 に好 発 する悪 性 腫 瘍 を 5 つあげ、臨 床 的 特 徴 を簡 単 に述 べよ。
「乳 幼 児 期 」に限 定 した情 報 はあまりない
ので、小 児 がん全 体 の統 計 を示 し 4、小 児 がん
の一 般 的 な特 徴 について説 明 する。
小 児 がんの特 徴
① 全 体 として、成 人 と違 って癌 腫 (上 皮 性
悪 性 腫 瘍 )は少 なく、肉 腫 (非 上 皮 性 )や
胎 児 性 腫 瘍 が多 い。
② 神 経 芽 腫 、Wilms 腫 瘍 (腎 芽 腫 )、肝 芽
腫 など小 児 特 有 の腫 瘍 がある。
4
「がんサポート情 報 センター」 ttp://www.gsic.jp/medicine/mc_01/arranong/ より一 部 改
変 して引 用 。
7
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
③ 頻 度 が最 も大 きいのは血 液 腫 瘍 (白 血 病 ・悪 性 リンパ腫 、全 体 の約 半 数 )、次 に多 いのが神
経 系 の腫 瘍 (神 経 芽 腫 ・脳 腫 瘍 ・網 膜 芽 腫 、28%)で、以 上 で大 半 を占 める。残 りは腎 芽 腫
(Wilms 腫 瘍 )と肝 芽 腫 、骨 軟 部 腫 瘍 、胚 細 胞 腫 瘍 など。
◆骨 軟 部 腫 瘍 の一 部 と胚 細 胞 腫 瘍 の一 部 を除 き、頻 度 の高 い腫 瘍 はいずれも好 発 年 齢 が乳 幼 児 期 に重 なる
ので、解 答 には下 線 部 の疾 患 を挙 げておけばよい。
④ 脳 腫 瘍 は脳 幹 、小 脳 などテント下 に多 い(成 人 の大 半 は大 脳 に発 生 )。
⑤ 腫 瘍 ごとに好 発 年 齢 があるが、全 体 としては乳 幼 児 期 に最 多 。
⑥ 一 般 的 な臨 床 的 特 徴 として、(1)進 行 が早 く、(2)非 上 皮 性 腫 瘍 が多 いため外 科 治 療 によ
る治 癒 が難 しい。しかし(3)化 学 療 法 が効 きやすく、全 体 の 2/3 程 度 は治 癒 に至 る。
問 44
急 性 リンパ性 白 血 病 と急 性 骨 髄 性 白 血 病 の鑑 別 法 について述 べよ。
正 常 造 血 の復 習 、白 血 病 の疾 患 概 念
正 常 な造 血 について復 習 しておくと、末 梢 血 でみられる各 種 の血 球 は、すべて骨 髄 の造 血 幹
細 胞 から分 化 する。下 に骨 髄 で造 血 幹 細 胞 から各 系 統 の血 球 へと分 化 していく様 子 (血 球 分
化 図 )を示 す 5。図 中 で「M3」などと書 かれているのは、この段 階 の細 胞 が腫 瘍 化 することで AML
の M3 が発 症 する、という意 味 である。
次 に疾 患 概 念 を整 理 しておこう。たとえば「急 性 リンパ性 白 血 病 ALL」というとき、「急 性 」「リン
パ性 」「白 血 病 」はそれぞれ何 を意 味 するか。
5
8
『病 気 がみえる Vol.5 血 液 第 1 版 』、メディックメディア、P73 より引 用 。
白 血 病 とは、もともとは末 梢 血 の白 血 球 が顕 著 に増 殖 する疾 患 として定 義 された。現 在 では
白 血 病 細 胞 は骨 髄 で増 殖 することが分 かっている。それに対 してリンパ腫
リンパ腫 とは、リンパ系 細
胞 (後 述 )がリンパ節 で増 殖 する疾 患 を指 す。
◆ 末 梢 血 を遠 心 したとき白 い層 に分 離 されることから「白 血 球 」という名 前 があるが、白 血 病 はこの白 層 が
太 くなることからこの名 前 がある。
急 性 /慢 性 は、当 初 は臨 床 経 過 の早 い/遅 いと対 応 していたが、現 在 では芽
芽 球 が増 える/
成 熟 した白 血 球 が増 えるという対 比 で理 解 されている。
◆芽 球 は、分 化 段 階 が早 い、つまり上 図 で左 方 にある幼 若 な白 血 球 のこと。
骨 髄 性 /リンパ性 は、どの系 統 の細 胞 が増 えるかで決 める。骨 髄 内 で骨 髄 系 細 胞 (上 図 で、
好 中 球 、単 球 、赤 血 球 、血 小 板 などに分 化 する前 駆 細 胞 たち)が増 えれば骨 髄 性 、リンパ系
細 胞 が増 えればリンパ性 である。
というわけで急 性 リンパ性 白 血 病 ALL とは、「リンパ系 の芽 球 が骨 髄 で増 殖 して末 梢 血 に漏
れ出 し、末 梢 血 中 で白 血 球 の総 数 が多 くなる疾 患 」ということになる。
小 児 の急 性 白 血 病 について
小 児 白 血 病 は 95%が急 性 型 (芽 球 増 殖 タイプ)で、うち 8 割 はリンパ性 (リンパ系 細 胞 が増 殖
するタイプ)、すなわち急 性 リンパ性 白 血 病 ALL で、残 り2割 が急 性 骨 髄 性 白 血 病 AML である。
以 下 では急 性 白 血 病 の鑑 別 の進 め方 を述 べる。
① 臨 床 的 に原 因 不 明 の発 熱 やリンパ節 腫 大 、貧 血 ・易 感 染 ・出 血 傾 向 を呈 し、血 算 で汎 血 球
減 少 (RBC↓、WBC↓、PLT↓)をみるとき、急 性 白 血 病 を疑 う。
② 精 査 のために骨 髄 穿 刺 を行 い、骨 髄 塗 抹 標 本 の May-Giemsa 染 色 を観 察 する。芽 球 の増
殖 がみられ、全 血 球 中 の芽 球 の比 率 が20〜25%を超 えていれば、急 性 白 血 病 である。
◆従 来 型 の FAB 分 類 では芽 球 比 率 30%以 上 を急 性 白 血 病 と定 義 していたが、新 しい WHO 分 類 では「20%
以 上 」に引 き下 げられた。
③ 次 に骨 髄 性 (AML)とリンパ性 (ALL)を区 別 するために、MPO 染 色 を行 う。大 まかには、MPO
染 色 陽 性 (MPO 染 色 で3%以 上 の芽 球 が染 まる)ならば AML、陰 性 (3%以 下 )ならば ALL と
判 断 する。
◆MPO(ミエロペルオキシダーゼ)は、強 力 な殺 菌 作 用 を持 つフリーラジカルを産 生 する酵 素 。成 熟 血 球 では好
中 球 の顆 粒 に多 く含 まれるほか、単 球 系 でも少 量 の MPO 顆 粒 がみられる。骨 髄 系 細 胞 の多 くでみられるの
で、骨 髄 系 細 胞 のマーカーとして利 用 される。
④ ただし AML の一 部 は MPO 染 色 陰 性 であるので、次 のような手 法 を組 み合 わせて、AML の
亜 型 や ALL を診 断 する。
(a) 他 の染 色 法 (特 異 的 /非 特 異 的 エステラーゼ染 色 、PAS 染 色 )
(b) フローサイトメトリーによる細 胞 表 面 マーカー分 析
(c) May-Giemsa 染 色 像 で、白 血 病 細 胞 の形 態 を詳 しく検 討
9
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
診 断 のための染 色 法 、細 胞 表 面 マーカーをまとめた表 を下 に示 す 6。
⑤ たとえば ALL を疑 うとき、(1)骨 髄 塗 抹 標 本 で芽 球 が増 殖 しており、(2)MPO 染 色 が陰 性 で、
(3)フローサイトメトリーで B 細 胞 系 マーカー(CD10,19,20 など)または T 細 胞 系 マーカー
(CD2.3,5,7 など)を確 認 できれば、ALL と確 定 する。
最 後 に、国 試 過 去 問 から症 例 を見 ておこう。
第 104 回 I 問 51
前 掲 書 P73 より引 用 。
6
57 歳 の男 性 。38℃台 の発 熱 と倦 怠 感 とを主 訴 に来 院 した。頭 部 に小 指 頭 大 のリンパ節 を
数 個 触 知 する。腹 部 は平 坦 、軟 で、肝 ・脾 を触 知 しない。既 往 歴 と家 族 歴 とに特 記 すべきこと
はない。血 液 所 見 : 赤 血 球 210 万 、Hb 7.4g/dl、Ht 23%、白 血 球 16,000(異 常 細 胞
60%)。血 小 板 5.6 万 。異 常 細 胞 のペルオキシダーゼ反 応 は陰 性 。骨 髄 塗 抹 [May-Giemsa
染 色 ]]標 本 (別 冊 No.10)を別 に示 す。
診 断 はどれか。
a
急性骨髄性白血病
b
急 性 リンパ性 白 血 病
c
慢性骨髄性白血病
d
慢 性 リンパ性 白 血 病
e
成人 T 細胞白血病
10
解 答 は b。
症 状 は発 熱 と倦 怠 感 、リンパ節 腫 大 。末 梢 血 所 見 で汎 血 球 減 少 、異 常 細 胞 の増 殖 をみとめ
るから、ここまででほぼ急 性 白 血 病 ときまる。
骨 髄 塗 抹 標 本 でも芽 球 をみる(=悪 性 度 の高 そうな一 種 類 の白 血 球 細 胞 が増 殖 している)
ので、やはり急 性 白 血 病 。MPO 染 色 陰 性 より、ALL の可 能 性 が高 いと判 断 する。
◆厳 密 には AML の M0、M6b、M7 のいずれかである可 能 性 もあるが、骨 髄 塗 抹 標 本 の芽 球 の形 態 形 態 からリ
ンパ性 であることを判 断 するのは、ちょっとレベルが高 すぎると思 う。上 の写 真 が M6bや M7 でないことは分 か
るが、M0 と ALL の区 別 は、普 通 は無 理 である。
問 41
急 性 リンパ性 白 血 病 の予 後 因 子 について知 るところを記 せ。
ALL の診 断 確 定 後 、さらに染 色 体 検 査 や遺 伝 子 検 査 など行 い、各 種 の予 後 因 子 を調 べる。こ
れには予 後 を予 測 するという目 的 ももちろんあるが、治 療 法 を決 める上 で重 要 だからである。
小 児 ALL の治 療 法 の第 一 選 択 は化 学 療 法 である。参 考 までに小 児 ALL の治 癒 率 は、
標 準 リスク群 :80%以 上 が化 学 療 法 で寛 解
高 リスク群 :60%以 上 が化 学 療 法 で寛 解
造 血 幹 細 胞 移 植 :50%以 上 (HLA 一 致 同 胞 からの同 種 移 植 )
(参 考 )成 人 の場 合 、通 常 の化 学 療 法 で治 癒 するのは 30%以 下 。
となる。造 血 幹 細 胞 移 植 はかなり強 力 な治 療 法 なのに最 も予 後 が悪 いのはなぜか、と思 うかも
しれないが、その理 由 はこうである:造 血 幹 細 胞 移 植 は患 者 への負 担 やリスクの大 きい方 法 で、
適 応 は厳 しく限 定 されている。小 児 ALL ならば、化 学 療 法 で効 果 がなかった場 合 や、予 後 不 良
因 子 が多 く化 学 療 法 での治 癒 が望 めない場 合 に、はじめて造 血 幹 細 胞 移 植 の適 応 になる。
主 な予 後 因 子 について下 表 で述 べていこう。
年齢
予後不良因子
コメント
1 歳 未 満 、10 歳 以 上
好 発 の 2-4 歳 は予 後 良 好 。1歳 以 下 は体 力 がないの
と、予 後 不 良 の遺 伝 的 変 異 の存 在 が影 響 している。
10 歳 以 上 では予 後 は成 人 型 ALL に近 づいている
(?)
≧10 万 /ul 以 上
増 殖 が早 い場 合 、治 療 開 始 が遅 れた場 合 など。
低 2倍 体 (欠 失 などで 46 本 より
50 以 上 の高 2倍 体 (トリソミーなど)は、正 常 (46 本 )
少 ない場 合 )
よりも予 後 良 好 。
フィラデルフィア染 色 体 t(9;
t(12;21)は予 後 良 好 。Ph 染 色 体 陽 性 ALL はイマチ
21)、t(4;11)などの転 座 の存 在
ニブ(グリベック)を含 む多 剤 併 用 療 法 を適 用 する。
細 胞 の種 類
T 細 胞 性 、B 細 胞 性
Common type の前 駆 細 胞 性 は予 後 良 好 。
治療反応性
治 療 開 始 後 2週 間 で芽 球 が
治 療 反 応 性 が悪 い場 合 に予 後 が悪 いのは当 然 とも
25%以 上 残 存 している
言 える。
初発時末梢血
WBC
染色体数
染色体異常
11
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
問 42
解答解説
小 児 期 悪 性 リンパ腫 の特 徴 を述 べよ。
悪 性 リンパ腫 は、リンパ組 織 でリンパ系 細 胞 (骨 髄 で成 熟 して末 梢 に出 た B 細 胞 または T 細
胞 系 統 )が増 殖 する疾 患 である。悪 性 リンパ腫 は大 きくホジキンリンパ腫 (Hodgkin
Lymphoma; HL)と非 ホジキンリンパ腫 (NHL)に分 けられる。
ホジキンリンパ腫 ( HL)
HL )
HL は悪 性 リンパ腫 全 体 の 10%で、欧 米 に多 く日 本 では少 ないタイプである。小 児 の HL 患 者
は国 内 で 100 人 ほどしかいないこともあり、「小 児 HL」というカテゴリーの情 報 はほぼ皆 無 である
ので、HL 一 般 について簡 単 に述 べておく。
① 悪 性 リンパ腫 の1つで、病 理 像 でふくろうの目 のような特 徴 的 な外 観 を持 つ大 型 の腫 瘍 細 胞
(1つ目 が Hodgkin 細 胞 、2つ目 が Reed-Sternberg 細 胞 )を認 める。
② 症 状 として、頚 部 のリンパ節 腫 脹 、発 熱 ・盗 汗 ・体 重 減 少 (3つまとめて B 症 状 と呼 ぶ)が出
現。
③ リンパ節 に初 発 し、隣 接 したリンパ節 に連 続 的 に進 展 する。悪 性 リンパ腫 の中 では予 後 の良
い群 に入 る。
④ 放 射 線 治 療 や化 学 療 法 によく反 応 し、進 行 例 でも長 期 生 存 率 は 80%を超 える。
非 ホジキンリンパ腫 ( NHL)
NHL )
小 児 NHL は、成 人 NHL とはかなり傾 向 が異 なる。まずは表 にまとめてみよう。
小 児 NHL
成 人 NHL
好発年齢
10 歳 以 上 で好 発 、3歳 以 下 はまれ。
50-70 歳 に多 い。
組織型
ほとんどがびまん性 で悪 性 度 の高 い組
限 局 性 で悪 性 度 の低 い組 織 型 が比 較 的
織型。
多 い。
胸 部 、腹 部 のリンパ節 外 に原 発 するも
リンパ節 が原 発 のものが比 較 的 多 い。
原発
のが多 い。
浸潤
骨 髄 や中 枢 神 経 への浸 潤 (白 血 病
病 型 ごとに異 なる
化 )が多 い
相 違 点 を要 約 すると、成 人 NHL は経 過 や予 後 が異 なる多 様 な組 織 型 があるのに対 して、小
児 ではびまん性 ・悪 性 度 の高 い組 織 型 がほとんど。治 療 や予 後 についても、成 人 NHL は組 織 型
によりまちまちだが、小 児 NHL は一 般 に化 学 療 法 によく反 応 し、予 後 は比 較 的 良 い(組 織 型 や
進 行 度 によるが、長 期 生 存 率 は 60-90%程 度 )。
問 47
幹 細 胞 移 植 に使 われる幹 細 胞 ソースおよびそれぞれの特 徴 について述 べよ。
造 血 幹 細 胞 のソースについて解 説 する前 に、いくつかの前 提 知 識 を説 明 しておく。
造 血 幹 細 胞 移 植 とは
造 血 幹 細 胞 移 植 (hematopoietic stem cell transplantation; 以 下 HSCT と略 す)は、次 の
2ステップからなる治 療 手 段 である。
12
① 前 処 置 :大 量 化 学 療 法 や全 身 放 射 線 照 射 で、患 者 の骨 髄 を徹 底 的 に破 壊 。
② 造 血 幹 細 胞 輸 注 :あらかじめ採 取 した自 分 の造 血 幹 細 胞 (自 家 移 植 )か、ドナーから提 供 さ
れた造 血 幹 細 胞 (同 種 移 植 )を、患 者 に移 植 する。
造 血 幹 細 胞 移 植 の適 用 疾 患 と目 的
HSCT の適 用 疾 患 と目 的 は、大 きく次 の2つがある。
① 異 常 な造 血 幹 細 胞 の入 れ替 え。再
生 不 良 性 貧 血 (問 46)、先 天 性 免 疫 不 全 症 (重 症 複 合
え
免 疫 不 全 症 SCID、慢 性 肉 芽 腫 症 など。問 53)など、造 血 幹 細 胞 レベルの異 常 により正 常
な血 球 や免 疫 細 胞 を作 ることができない場 合 。
「異 常 な造 血 幹 細 胞 を入 れ替 える」ことが目 的 だから、同 種 移 植 になる。
② 難 治 性 の悪 性 腫 瘍 に対 する超 強 力 な治 療 。通 常 の化 学 療 法 や放 射 線 療 法 は、副 作 用 の
骨 髄 抑 制 (造 血 機 能 障 害 )がボトルネックとなるので、あまりに強 力 な治 療 はできない。そこ
で、後 から HSCT で造 血 能 力 を回 復 することを前 提 として、超 強 力 な治 療 を行 うことができ
る。
白 血 病 や骨 髄 異 形 成 症 候 群 など患 者 の造 血 幹 細 胞 に異 常 がある場 合 は、同 種 移 植
を行 う。悪 性 リンパ腫 や固 形 腫 瘍 など、その他 の場 合 は自 家 移 植 を選 択 することが可
能。
同 種 移 植 に特 有 の現 象
免 疫 応 答 において自 己 と非 自 己 を区 別 する過 程 、すなわち抗 原 提 示 細 胞 からヘルパーT 細
胞 への抗 原 提 示 や、キラーT 細 胞 が非 自 己 細 胞 を認 識 する過 程 に関 与 する MHC(ヒトでは
HLA)には多 型 (個 人 差 )がある。そのため同 種 移 植 では、HLA などの不 一 致 により次 の3つの現
象 が起 こる。
◆MHC は”major” histocompatibility complex”だから、当 然 minor な抗 原 も存 在 し、HLA が完 全 一 致 しても
以 下 の現 象 は発 生 しうる。
① 移 植 片 拒 絶 。患 者 の残 存 リンパ球 が、移 植 された造 血 幹 細 胞 を非 自 己 とみなして攻 撃 し、
排 除 してしまう。
② GVHD(
来 のリンパ球 が患 者 (宿
GVHD ( graft versus host disease; 移 植 片 対 宿 主 病 )。ドナー由
)
主 )を非 自 己 と認 識 して攻 撃 し、皮 膚 、肝 臓 、消 化 管 などが障 害 される。HLA がどれくらい一
致 するかによって、発 症 確 率 や重 症 度 が異 なる。
③ GVL(
血 病 患 者 に対 して HSCT を行
GVL ( graft versus leukemia; 移 植 片 対 白 血 病 効 果 )。白
)
うとき、ドナーの造 血 幹 細 胞 に由 来 するリンパ球 が、前 処 置 後 にわずか残 存 していた白 血 病
細 胞 を非 自 己 とみなして排 除 するという、プラスの現 象 である。
同 種 移 植 後 に白 血 病 を再 発 した患 者 に対 して、GVL 効 果 を狙 って同 じドナーのリンパ
球 を輸 注 する「ドナーリンパ球 輸 注 DLI」を行 うことがある。
造 血 幹 細 胞 移 植 のソース
の ソース
移 植 する造 血 幹 細 胞 は、
[
13
骨髄、
末梢血幹細胞、
臍帯血
]
と
[
自己、
同 種 (他 人 )
]
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
——を組 み合 わせて、自 己 +臍 帯 血 という組 み合 わせは無 理 だから、5 種 類 のソース(源 )から入
手 することができる。自 己 か同 種 かの選 択 は前 述 のように適 用 疾 患 に依 存 するから、ここでは、
[
骨 髄 、末 梢 血 幹 細 胞 、臍 帯 血
]という選 択 に注 目 し、3つを順 に説 明 していく。
骨髄移植
ドナーを全 身 麻 酔 し、腸 骨 稜 に骨 髄 穿 刺 を行 なって、骨 髄 液 を採 取 する方 法 。最 も早 期 に開
発 された方 法 で、30 年 以 上 の実 績 を持 つ。
利 点 :歴 史 が長 く方 法 として確 立 している。一 回 で十 分 量 の幹 細 胞 を採 取 できる。
欠 点 :全 身 麻 酔 や自 己 血 貯 留 など、ドナーの負 担 が大 きい。
◆自 己 血 貯 留 は、多 量 の血 液 採 取 による貧 血 を防 ぐため、自 己 血 を事 前 に採 取 しておき、骨 髄 液 採 取 後 に輸
血 すること。
末梢血幹細胞移植
ドナーに G-CSF(顆 粒 球 コロニー刺 激 因 子 )を静 注 することで骨 髄 の造 血 幹 細 胞 を刺 激 して
末 梢 血 に動 員 し、4-5 日 後 に血 液 成 分 分 離 装 置 で必 要 な細 胞 を細 胞 を分 離 採 取 し、凍 結 保 存
しておく方 法 。1990 年 代 以 降 に普 及 した。
利 点 :ドナーの負 担 は骨 髄 移 植 より小 さい。
この方 法 では、全 身 の造 血 組 織 から満 遍 なく大 量 の幹 細 胞 を採 取 できるが、(骨 髄 穿 刺 より
も)リンパ球 が多 く混 じってしまう。このため、(1)移 植 後 の造 血 回 復 が早 い、(2)GVL 効 果 が
期 待 できるという長 所 と、(3)慢 性 GVHD の頻 度 が高 いという短 所 がある。
臍帯血移植
分 娩 後 の[胎 盤 +臍 帯 ]に残 った臍 帯 血 (胎 児 由 来 の血 液 )を採 取 し、凍 結 保 存 しておく方 法 。
最 も新 しい方 法 で、まだ実 績 は少 ない。
利 点 :ドナーへの負 担 が最 も少 ない。臍 帯 血 バンクが整 備 されており、HLA 適 合 ソースが探
しやすい。胎 児 由 来 の造 血 幹 細 胞 は未 熟 なため、GVHD が起 こりにくく、HLA 不 一 致 (2つま
で)でも移 植 が可 能 。
欠 点 :採 取 量 が限 られている。造 血 幹 細 胞 が未 熟 なため、生 着 が悪 く、また移 植 後 の造 血
回 復 が遅 い。
問 48
急 性 GVHD の症 状 を述 べよ。
前 問 で述 べたとおり、GVHD
GVHD(移
植 片 対 宿 主 病 )は、同 種 移 植 後 にドナー由 来 のリンパ球 が患
GVHD
者 (宿 主 )のさまざまな組 織 を非 自 己 と認 識 して攻 撃 する現 象 である。臨 床 経 過 から、移 植 後 10
0日 以 内 に問 題 になる急 性 GVHD と、それ以 降 に問 題 になる慢 性 GVHD に分 類 される。
急 性 GVHD
急 性 GVHD の発 症 原 因 について、(1)移 植 片 に含 まれるリンパ球 と宿 主 組 織 の HLA タイプ
が違 うことはもちろん原 因 の一 端 だが、(2)移 植 後 の特 殊 な免 疫 学 的 環 境 も、発 症 や重 症 度 を
決 める重 要 な要 因 となる。
移 植 直 後 は前 処 置 によって患 者 の免 疫 系 細 胞 が壊 滅 し、また全 身 の組 織 障 害 (消 化 管 の潰 瘍
など)が起 こっており、もし免 疫 細 胞 が存 在 すれば免 疫 応 答 が活 性 化 されそうな状 況 が準 備 され
14
ている。単 に HLA が不 一 致 なだけでなく、こうした状 況 下 でドナー由 来 のリンパ球 の免 疫 応 答 が
刺 激 されてしまうことが、急 性 GVHD 発 症 の誘 因 となる。
急 性 GVHD の症 状 について。通 常 は移 植
後 2〜3週 間 後 くらいから、右 のような症 状 が
出 現 する。理 由 はよくわからないが、急 性
GVHD の標 的 臓 器 は「皮 膚 」「肝 臓 」「消 化 管 」
の3つが多 い。
これらの症 状 は、(1)同 種 移 植 の際 に予 防
* 急 性 GVHD の 主 要 症 状
全身症状
発 熱 、全 身 倦 怠 感
皮膚症状
発 疹 、水 泡
肝障害
胆 汁 うっ滞 、黄 疸
消化管障害
悪 心 、水 溶 性 の下 痢 、下 血
目 的 で必 ず投 与 される免 疫 抑 制 剤 の副 作 用
や、(2)この時 期 に起 こりやすいサイトメガロウイルスなどの感 染 症 の症 状 と紛 らわしく、急 性
GVHD の診 断 はこれらの可 能 性 を除 外 し、かつ病 変 部 位 を病 理 学 的 に精 査 することで行 う。
治 療 は重 症 度 によりステロイドや免 疫 抑 制 剤 を用 いるが、上 記 (1)(2)と紛 らわしい場 合 や合
併 している場 合 は、判 断 やコントロールが非 常 に困 難 である。
慢 性 GVHD
① 通 常 は急 性 GVHD の寛 解 後 かまたはそれに引 き続
いて移 植 100 日 後 くらいに発 症 する。
② 右 のように、自 己 免 疫 疾 患 に類 似 した多 様 な症 状 が
出 現 する。
*慢 性 GVHD の 主 要 症 状
扁平苔癬様皮疹
強 皮 症 様 の皮 疹
シェーグレン症 候 群 様 症 状
③ 移 植 片 に由 来 するナイーブ T 細 胞 が分 化 、成 熟 する
過 程 での障 害 だとされる。具 体 的 には、胸 腺 で自 己
反 応 性 T 細 胞 クローンを排 除 する過 程 での異 常 が
考 えられている。
15
(ドライマウスやドライアイ)
原発性胆汁性肝硬変
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
G. 免 疫 疾 患 (問 45、
45 、 5050 - 60)
60 )
本 章 は免 疫 系 の異 常 に関 わる疾 患 について、以 下 の順 に説 明 していく。
① 原 発 性 免 疫 不 全 症 (問 50,51,53,52,54,45)
② 膠 原 病 および自 己 免 疫 疾 患 (問 55、59、56-58、60)
問 50
新 生 児 期 の液 性 免 疫 の特 徴 を成 人 と対 比 させて述 べよ。
胎 児 期 には、一 般 に自 然 免 疫 や細 胞
性 免 疫 が先 行 して確 立 し、液 性 免 疫 の
確 立 はそれよりも遅 れる。新 生 児 期 の液
性 免 疫 の特 徴 は、「IgG
IgG は胎 児 のうちにス
トック、IgM
トック、 IgM は自 力 で作 れる、I
れる、 I g A は母 乳 で
もらう」と要
約 できる。
もらう
右 に示 す、各 クラスの抗 体 量 (レベル)
の年 齢 による変 化 のグラフ 7をみながら順
に説 明 していこう。
IgG(単
娠 後 期 に胎 盤 から能 動 輸 送 されて胎 児 に移 行 する。新 生 児 の IgG 産 生 能
IgG (単 量 体 )は妊
)
は極 めて低 く、母 体 から移 行 した IgG に頼 っている。母 体 由 来 IgG は次 第 に減 少 していき、児 の
IgG 産 生 は3-4ヶ月 くらいから盛 んになるので、この時 期 に最 も IgG レベルが低 くなる。その後 は
次 第 に増 加 し、6 歳 程 度 で成 人 並 みの水 準 に達 する。
◆予 防 接 種 は、IgG 産 生 が盛 んになる生 後 3ヶ月 以 降 に受 けることになっている。
IgM(五
盤 を通 過 しない。IgM 産 生 能 は胎 児 期 から上 昇 し、新 生 児 では IgM の血
IgM (五 量 体 )は胎
)
中 レベルこそ低 いものの、IgM 産 生 能 はほぼ成 人 に等 しい。IgM レベルは出 生 後 に急 速 に増 加
し、1歳 前 後 で成 人 並 みの水 準 に達 する。
◆IgM は補 体 活 性 化 能 が強 い。好 中 球 や補 体 系 は出 生 直 後 からある程 度 ワークしており、これらが新 生 児 の液
性 免 疫 応 答 の中 心 になる。
◆新 生 児 の血 中 IgM 上 昇 は、子 宮 内 での感 染 を示 唆 する。
IgA(二
盤 を通 過 せず、新 生 児 は IgA の血 中 レベルが低 い上 に、IgA 産 生 能 も低 い。
IgA (二 量 体 )は胎
)
母 乳 (とくに出 産 後 数 日 の初 乳 )のは多 量 の IgA が含 まれており、新 生 児 、乳 児 期 の感 染 防 御
上 、重 要 な役 割 を果 たしている。IgA 産 生 能 の発 達 は IgG よりも遅 く、10 歳 頃 にようやく成 人 の
水 準 に達 する。
問 51 細 胞 性 免 疫 不 全 、液 性 免 疫 不 全 、食 細 胞 の異 常 のそれぞれが易 感 染 性 を示 す病 原 体
につき述 べよ。
最 初 に結 論 を要 約 しておこう。
① 細 胞 性 免 疫 の不 全 は、一 般 的 なウイルス感 染 、細 胞 内 寄 生 菌 (結 核 など)、真 菌 、原 虫 に易
感 染 になる。
7
矢 田 純 一 『医 系 免 疫 学 10 版 』、中 外 医 学 社 、2007 年 。
16
② 液 性 免 疫 不 全 は、化 膿 菌 、細 胞 溶 解 型 ウイルス(ポリオ、コクサッキーなど)に易 感 染 になる。
③ 食 細 胞 の異 常 は、化 膿 菌 に易 感 染 になる。
どのタイプの免 疫 不 全 が、どの系 統 の病 原 体 に易 感 染 になるかを示 す表 を下 に提 示 する 8。上
の要 約 はこの表 の ++を抜 き出 している。
病 原 体 (代 表 例 )
T 細胞
抗体
好中球
不全
欠乏
不全
一 般 細 菌 (化 膿 菌 )
(ブドウ球 菌 、肺 炎 球 菌 、大 腸 菌 )
細胞内寄生細菌
(結 核 、サルモネラ、らい)
一 般 ウイルス
(ヘルペス、麻 疹 )
細 胞 融 解 型 ウイルス
+
++
(ナイセリア)
++
++
肝 炎 ウイルス
++
+
真 菌 (カンジダなど)
++
原 虫 (カリニ、マラリア)
++
++:関 連 性 大
+
++
+
(ポリオ、コクサッキー、日 本 脳 炎 )
++
補体欠損
+
+
+
+:関 連 性 あり
補 体 を除 く各 系 統 で、易 感 染 が起 こる機 序 を説 明 していこう。
① 好 中 球 の主 な役 割 は一 般 細 菌 (化 膿 菌 )に対 する防 御 である。一 般 細 菌 は組 織 や血 中 で急 速
に増 殖 するのが特 徴 で、好 中 球 (白 血 球 の中 で最 多 )は、いわば物 量 作 戦 でそれに対 抗 する歩
兵 であり、両 者 が争 って死 屍 累 々となったのが膿 である。
② 一 般 細 菌 は細 胞 外 で増 殖 する。抗 体 は細 菌 に結 合 して、好 中 球 による貪 食 を助 ける(オプソニ
ン化 )。とくに肺 炎 球 菌 やインフルエンザ桿 菌 は厚 い莢 膜 を持 つため好 中 球 に認 識 されにくく、
抗 体 によるオプソニン化 がないと防 御 能 がかなり低 下 する。ウイルスは細 胞 内 で増 殖 するため抗
体 はあまり役 立 たないが、細 胞 融 解 して感 染 拡 大 するタイプのウイルス(ポリオ、コクサッキーのよ
うなエンテロウイルス属 、日 本 脳 炎 など)は、抗 ウイルス抗 体 が感 染 拡 大 の抑 止 力 として重 要 。
③ T 細 胞 はすべてのグループの病 原 体 に対 する防 御 に関 与 するが、特 に重 要 なのは(1)ウイルス
や細 胞 内 寄 生 菌 が感 染 した自 己 細 胞 を処 理 すること、(2)マクロファージと協 力 して真 菌 や原
虫 などの真 核 生 物 に対 処 することである。
問 53 複 合 型 免 疫 不 全 症 、液 性 免 疫 不 全 症 、好 中 球 機 能 異 常 症 、補 体 欠 損 症 についてそれ
ぞれ代 表 的 な疾 患 を1つずつあげて、その特 徴 を述 べよ。
原 発 性 免 疫 不 全 症 (primary immunodeficiency: PID)は、遺
伝 子 の異 常 やその他 の原
PID)
因 により、先 天 的 に免 疫 系 の構 成 要 素 が欠 けているかまたは機 能 せず、免 疫 系 が正 常 にはたら
8
矢 田 純 一 『医 系 免 疫 学 10 版 』、中 外 医 学 社 、2007 より、表 14-2 を改 変 して作 成
17
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
かない疾 患 の総 称 である。症 状 は、多 くの例 で乳 幼 児 期 から易 感 染 状 態 (感 染 の反 復 ・遷 延
化 ・重 症 化 、日 和 見 感 染 )を呈 し、長 期 的 な経 過 の中 では悪 性 腫 瘍 や自 己 免 疫 疾 患 が合 併 す
るリスクも大 きくなる。
原 発 性 免 疫 不 全 症 には頻 度 がごく低 い多 数 の疾 患 が存 在 するが、下 表 では year note レベ
ルの主 な疾 患 のみ列 挙 し、まずは簡 単 にコメントしていこう。★のついたものは本 問 で、●は問 52
で説 明 する。
なお以 降 では次 の記 号 を用 いる。たとえば「AR」は常 染 色 体 劣 性 遺 伝 を指 す。
A:常 染 色 体
X:X 染 色 体
D:優 性
R:劣 性
① T 細 胞 系 、B
、 B 細 胞 系 の混 合 性 障 害
重症複合型免疫不全症★
リンパ球 分 化 の初 期 段 階 の障 害 による、多 系 統 かつ重 度 の免
疫 能 低 下 。さまざまな原 因 遺 伝 子 が同 定 されている。
WiskottWiskott - Aldrich 症 候 群 ●
XR。WASP 遺 伝 子 の異 常 により細 胞 性 免 疫 低 下 と IgM 低 値
になる。易 感 染 、湿 疹 、血 小 板 減 少 の3徴 を呈 する。
毛細血管拡張性運動失調症
AR。ATM 遺 伝 子 の異 常 で細 胞 性 免 疫 低 下 と IgA 低 値 にな
る。易 感 染 、進 行 性 の小 脳 失 調 、眼 球 結 膜 ・皮 膚 の毛 細 血 管
拡 張 などの特 徴 的 な症 状 を呈 する。
② T 細 胞 系 の障 害
DiGeorge 症 候 群
発 生 異 常 による胸 腺 、副 甲 状 腺 の低 形 成 。CATCH22(問 90)
の一 部 として発 症 することがある。
③ B 細 胞 系 の障 害
X 連 鎖 無 γ グロブリン血 症 ★
XR。B 細 胞 の分 化 障 害 により、各 クラスの抗 体 が作 られなくな
る。
選 択 的 IgA 欠 損 症
IgA のみが低 下 、無 症 状 の場 合 が多 い。
CVID
「Common variable immunodeficiency」というゴミ箱 的 疾 患
概念。
④好 中 球 系 の障 害
慢性肉芽腫症★
好 中 球 の活 性 酸 素 産 生 能 の異 常 。貪 食 はできるが殺 菌 でき
ない。
ChediakChediak - Higashi 症 候 群
AR。CHS 遺 伝 子 の異 常 で好 中 球 の遊 走 能 と殺 菌 能 が低 下 。
⑤補 体 系 の障 害
補体欠損症★
補 体 の C1〜C9 のいずれかが欠 損 。
重 症 複 合 型 免 疫 不 全 症 ( Severe combined Immunodeficiency:SCID)
Immunodeficiency:SCID )
① 多 くの場 合 、造 血 幹 細 胞 からリンパ球 の各 系 統 が分 化 してくる過 程 のうち初 期 段 階 ではた
らく分 子 の欠 損 によって起 こる。
② 出 生 直 後 からさまざまな重 症 感 染 症 や日 和 見 感 染 に見 舞 われる(母 体 からの移 行 抗 体 が
あるので、T 細 胞 不 全 による真 菌 、ウイルス感 染 症 が多 い)。早 急 に骨 髄 移 植 を行 わない限 り、
1〜2歳 以 上 の生 存 は望 めない。
18
下 に造 血 幹 細 胞 から各 リンパ球 への分 化 過 程 を示 す。
SCID では20以 上 の原 因 遺 伝 子 が同 定 されている。有 名 な RAG1/2、Artemis、ADA(上 図 に
載 ってない)を例 として取 り上 げよう。SCID ではどの遺 伝 子 が変 異 しているかで症 状 ・予 後 ・治
療 法 が異 なるので、原 因 遺 伝 子 の検 索 が重 要 である。
RAG1/2、Artemis はいずれも T、B の遺 伝 子 再 編 成 に関 与 する分 子 であり、欠 損 により T、
B の両 系 統 は障 害 される(NK は存 在 )。
ADA(アデノシンデアミナーゼ)は、アデノシンを代 謝 する酵 素 である。ADA はリンパ球 系 の細
胞 でとくに発 現 が強 く、ADA が欠 損 するとアデノシンが蓄 積 して細 胞 毒 性 を持 つことで、全
系 統 のリンパ球 が減 少 する(つまり、一 種 の先 天 性 代 謝 異 常 でもある)。
X 連 鎖 無 γ グロブリン血 症 ( X - linked agammaglobulinemia;
agammaglobulinemia ; XLA)
① XR。B 細 胞 の分 化 に必 須 の Btk(細 胞 質 チロシンキナーゼ、上 図 )の変 異 により、B 細 胞 の成
熟 が障 害 され、末 梢 血 の B 細 胞 、全 クラスの Ig がかなり低 下 する。
② 母 体 由 来 の IgG が消 失 する生 後 6ヶ月 頃 から、一 般 細 菌 (肺 球 、インフルなど)や細 胞 溶 解
型 ウイルス(ポリオ、コクサッキーなど)に易 感 染 状 態 になる。
生 ワクチン接 種 によるポリオ発 症 (!)、エンテロウイルス属 による慢 性 脳 髄 膜 炎 などがみられる。
③ 生 後 早 期 から定 期 的 (月 1回 くらい)にγグロブリン製 剤 を補 充 することで、健 常 人 に近 い生
活 を送 ることができる。
慢 性 肉 芽 腫 症 ( chronic granulomatous disease;
disease ; CGD)
CGD )
① 活 性 酸 素 産 生 系 の酵 素 の異 常 (NADPH オキシダーゼ欠 損 など)により、好 中 球 の細 胞 内
で活 性 酸 素 を十 分 に産 生 できず、遊 走 や貪 食 は正 常 だが、殺 菌 能 が低 下 する。
19
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
② 一 般 細 菌 (とくにブドウ球 菌 、大 腸 菌 、緑 膿 菌 、結 核 菌 などのカタラーゼ陽 性 菌 )や真 菌 に易
感 染 になる。病 理 学 的 には、肝 脾 などの細 網 内 皮 系 に肉 芽 腫 形 成 がみられることが特 徴 的
で、疾 患 名 の由 来 にもなっている。
③ 感 染 症 のモニターと早 期 発 見 で予 後 が改 善 できる。好 中 球 貪 食 能 を活 性 化 するインターフ
ェロンγを投 与 することがある
補体欠損症
補 体 の主 成 分 は C1〜C9 の血 中 タンパクであり、その役 割 は免 疫 系 のエフェクターである。抗
原 抗 体 反 応 や細 菌 膜 成 分 などで補 体 系 が活 性 化 されるとカスケード反 応 を起 こし、(1)病 原 体
のオプソニン化 、(2)血 管 拡 張 および血 管 透 過 性 亢 進 、(3)食 細 胞 のリクルート、(4)膜 侵 襲 複
合 体 (MAC)による殺 菌 などの作 用 を発 揮 する。
補 体 欠 損 症 は、C1-C9 など、補 体 系 を構 成 する分 子 の欠 損 により易 感 染 をきたす疾 患 の総
称 である。どの成 分 が欠 損 するかにより症 状 は異 なる。
C1〜C4 など上 流 分 子 の欠 損 は、上 記 の各 機 能 に障 害 が出 る。また抗 原 抗 体 反 応 に引 き
続 く補 体 反 応 が起 こらないと、免 疫 複 合 体 が組 織 に沈 着 しやすくなり、SLE 様 の症 状 をきた
すことが知 られる。
C5〜C9 の欠 損 は、膜 侵 襲 複 合 体 (MAC)による殺 菌 機 能 が低 下 する。この場 合 、ナイセリ
ア属 (淋 菌 、髄 膜 炎 菌 )に対 する易 感 染 を呈 することが知 られており、それ以 外 はほぼ正 常
である。ナイセリアに対 する防 御 に MAC が大 きな役 割 を果 たすことが分 かる。
問 52
Wiskott-Aldrich 症 候 群 の三 主 徴 を述 べよ。
ウィスコット・オールドリッチ症
ウィスコット・オールドリッチ 症 候 群 ( WAS)
WAS ) は湿 疹 ・血 小 板 減 少 症 ・免 疫 不 全 症 候 群
(eczema-thrombocytopenia-immunodeficiency syndrome)とも呼 ばれる。trias にはこの3
つを挙 げればよい。
① X 染 色 体 劣 性 遺 伝 する原 発 性 免 疫 不 全 症 の1つ。WASP 遺 伝 子 の変 異 により、造 血 幹 細
胞 由 来 の血 球 の細 胞 骨 格 に異 常 をきたす。とりわけ T 細 胞 の TCR と血 小 板 構 造 に異 常 が
出 現 し、前 者 は免 疫 不 全 (B/T)、後 者 は血 小 板 異 常 (数 の減 少 、サイズが小 さくなる)をきた
す。湿 疹 の機 序 は不 明 。
② 臨 床 的 には、乳 児 早 期 から(1)アトピー性 皮 膚 炎 様 の湿 疹 と(2)血 小 板 減 少 による出 血 傾
向 (血 便 と皮 下 出 血 、ときに頭 蓋 内 出 血 )を呈 し、(3)年 齢 が上 がるにつれて主 に細 胞 性 免
疫 が低 下 し、易 感 染 性 を示 す。
③ IgM↓、IgA↑、IgE↑がみられる。
④ 易 感 染 性 に加 えて悪 性 腫 瘍 (とくに悪 性 リンパ腫 )の合 併 が多 く、予 後 は悪 い。血 小 板 減 少
に対 しては脾 摘 が有 効 だが、根 治 には骨 髄 移 植 を行 う。
問 54
白 血 球 機 能 異 常 が疑 われる小 児 に対 して行 う検 査 について述 べよ。
白 血 球 一 般 の機 能 異 常 のことかと思 ってしまうが、「白 血 球 機 能 異 常 症 」というと通 常 は好 中 球
のことを指 す。 次 のような臨 床 所 見 があれば、好 中 球 機 能 異 常 を疑 い、精 査 のために専 門 的 な病
院 で白 血 球 機 能 検 査 を行 う。
20
① 乳 児 早 期 から一 般 細 菌 (とくにブドウ球 菌 、大 腸 菌 、緑 膿 菌 、結 核 菌 などのカタラーゼ陽 性
菌 )や真 菌 に易 感 染 性 を示 す。
② 肛 門 周 囲 膿 瘍 やリンパ節 炎 の反 復 。
③ 血 算 で白 血 球 数 や好 中 球 数 に大 きな異 常 がない。
好 中 球 は通 常 は血 中 や細 網 組 織 (肝 脾 など)
に存 在 するが、細 菌 が体 内 に侵 入 すると、組 織
マクロファージなどが反 応 してケモカインを放 出
し、好 中 球 はこれに応 じて感 染 部 位 に遊 走 する。
この過 程 は、(1)血 管 壁 への粘 着 、(2)血 管 外
への漏 出 (狭 義 の遊 走 )、(3)細 菌 の貪 食 、(4)
細 胞 内 での殺 菌 の各 段 階 に分 けることができる
(右 図 9)。 好 中 球 機 能 異 常 を疑 ったとき、この各
段 階 の機 能 を調 べる次 の試 験 を行 い、原 因 疾 患 に当 たりをつける。
(1) 血 管 壁 への粘 着 :以
: 前 は特 定 のプラスチックやナイロンなどに接 着 するかどうかを調 べていたが、
近 年 はフローサイトメトリーで好 中 球 の接 着 分 子 (CD11/CD18)の発 現 量 を調 べる。
(2) 血 管 外 への遊
への 遊 走 :ボイデン・チェンバー法 は、2室 を多 孔 膜 で仕 切 った装 置 を用 いる。アガロース
法 は、アガロースゲルに隣 り合 った2つの穴 を空 ける。いずれも一 方 に好 中 球 を、一 方 にケモカイ
ン(走 化 因 子 )を入 れ、好 中 球 が遊 走 する様 子 を顕 微 鏡 で観 察 する。
(3) 貪 食 能 : ラテックス粒 子 や墨 汁 を貪 食 させ、顕 微 鏡 で観 察 する。近 年 は蛍 光 色 素 で標 識 した
粒 子 を貪 食 させてフローサイトメトリーで計 測 する方 法 も使 われる。
(4) 殺 菌 能 :NBT 還 元 試 験 がよく用 いられる。NBT( ニトロブルー・テトラゾリウム )は H 2 O 2 により還
元 されて色 が変 わることを利 用 。
問 45
小 児 にみられる一 次 性 好 中 球 減 少 症 を 4 種 類 挙 げ、その鑑 別 法 について述 べよ。
好 中 球 減 少 症 は、末 梢 血 中 の好 中 球 数 が減 少 して、一 般 細 菌 や真 菌 に易 感 染 性 を呈 する
疾 患 の総 称 である。抗 癌 剤 などの薬 物 性 、放 射 線 、ウイルス感 染 症 などによる二 次 性 のものと、
一 次 性 (原 発 性 )のものに分 類 される。一 次 性 の主 な原 因 と疾 患 を以 下 に整 理 し、それぞれの疾
患 概 念 と鑑 別 について説 明 していこう。鑑 別 は(1)家 族 歴 、(2)臨 床 経 過 、(3)骨 髄 像 (骨 髄 穿
刺 液 の塗 抹 標 本 )などに着 目 して行 う。
◆いずれも稀 な疾 患 で、国 試 レベルでは全 く出 てこない。
原因
疾患
骨 髄 での好 中 球 産 生 低 下
先 天 性 好 中 球 減 少 症 (Kostmann 症 候 群 )
周期性好中球減少症
末 梢 血 での消 費 あるいは破 壊 の亢 進
小児慢性良性好中球減少症
同種免疫新生児好中球減少症
9
「白 血 球 機 能 検 査 」の項 目 、『医 学 大 辞 典 第 2 版 』、医 学 書 院 。
21
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
骨 髄 から末 梢 血 中 への動 員 障 害
解答解説
なまけもの白 血 球 症 候 群
先 天 性 好 中 球 減 少 症 (Kostmann
( Kostmann 症 候 群 )
① 好 中 球 産 生 に関 わる分 子 の遺 伝 的 変 異 により、出 生 時 より好 中 球 が著 減 している。
② 生 後 すぐに重 症 の細 菌 感 染 症 (皮 膚 感 染 症 、口 内 炎 、中 耳 炎 、呼 吸 器 感 染 症 、肛 門 周 囲
膿 瘍 など)を反 復 する
③ 骨 髄 像 では、好 中 球 の著 減 と前 骨 髄 球 〜骨 髄 球 の段 階 での成 熟 停 止 がみられる。
④ G-CSF(顆 粒 球 コロニー刺 激 因 子 )投 与 により好 中 球 が増 加 する例 が多 い。重 症 ・難 治 例
では骨 髄 移 植 を考 慮 する。
周期性好中球減少症
① 約 21 日 周 期 で好 中 球 が減 少 するのが特 徴 の遺 伝 性 疾 患 。ほぼ全 例 で好 中 球 エラスター
ゼ遺 伝 子 (ELANE)の変 異 を認 める。ELANE 変 異 と周 期 的 な好 中 球 減 少 との関 係 は不
明。
② 好 中 球 減 少 期 に重 症 の細 菌 感 染 症 を罹 患 し、3〜5日 で回 復 する、というサイクルを繰 り返
す。
③ G-CSF 投 与 が有 効 。年 齢 とともに症 状 が軽 くなる。
小児慢性良性好中球減少症
① 小 児 では比 較 的 頻 度 が高 い、一 種 の自 己 免 疫 疾 患 。好 中 球 に対 する自 己 抗 体 が出 現 し、
好 中 球 の破 壊 亢 進 が起 こる。
② 乳 幼 児 期 から皮 膚 感 染 症 、口 内 炎 、中 耳 炎 、呼 吸 器 感 染 症 などを反 復 するが、反 応 性 に好
中 球 が増 加 するため、重 症 感 染 症 は起 こりにくい。
③ 骨 髄 像 では骨 髄 系 細 胞 の過 形 成 、分 節 核 球 の減 少 がみられる(末 梢 での好 中 球 破 壊 亢
進 への応 答 と理 解 できる)。
④ 3-5 歳 までに自 然 治 癒 することが多 い。
同種免疫新生児好中球減少症
① 母 児 間 の好 中 球 抗 原 の不 適 合 が原 因 で、母 体 からの移 行 抗 体 による好 中 球 の破 壊 亢 進
が起 こる。移 行 抗 体 の減 少 により、数 ヶ月 で好 中 球 数 は回 復 する。
② 生 後 から数 ヶ月 の間 に細 菌 感 染 症 に易 感 染 になるが、重 症 感 染 症 はまれ。
③ 骨 髄 像 では骨 髄 系 細 胞 の過 形 成 、分 節 核 球 の減 少 がみられる。
なまけもの白 血 球 症 候 群
① 骨 髄 では十 分 な好 中 球 が産 生 されているが、ケモカイン受 容 体 の遺 伝 的 変 異 などが原 因
で好 中 球 の遊 走 能 が低 下 し、末 梢 血 への動 員 が減 少 する。
② 生 後 から重 症 の細 菌 感 染 症 を反 復 する。
③ 骨 髄 像 では成 熟 好 中 球 が増 加 している。
22
問 55
川 崎 病 診 断 基 準 の主 要 症 状 を列 挙 せよ。
*川 崎 病 (急 性 熱 性 皮 膚 粘 膜 リンパ節 症 候 群 )
① 主 に4歳 以 下 の乳 幼 児 に発 症 する、急 性 熱 性 発 疹 性 疾 患 。
② 全 身 の血 管 炎 を主 病 変 とし、症 状 には高 サイトカイン血 症 が関 与 するが、原 因 は不 明 。
③ 日 本 に多 く(5 歳 以 下 人 口 の 150 人 /10 万 )、頻 度 は欧 米 の約 20 倍 。
④ 一 般 に予 後 良 好 だが、一 部 の患 者 で冠 動 脈 瘤 が発 生 し、突 然 死 のリスクがある。
⑤ 治 療 はアスピリンとγグロブリン大 量 療 法 を併 用 。
川 崎 病 は乳 幼 児 で急 激 に発 症 する全 身 血 管 炎 で、(1)多 彩 で疾 患 特 異 的 な皮 膚 粘 膜 所 見
がみられること、(2)冠 動 脈 を冒 しやすく、後 遺 症 の冠 動 脈 瘤 により突 然 死 のリスクがある点 が特
徴 的 である。後 者 は、早 期 に診 断 ・治 療 を行 うことで発 生 確 率 を下 げられるので、専 門 医 ではな
い医 師 が診 断 基 準 を理 解 し、カワサキでないかと疑 えることが重 要 である
◆大 きな病 院 なら年 に数 人 程 度 は救 急 外 来 に来 るので、ファーストタッチの初 期 研 修 医 としては、即 座 に診 断
の目 処 をつけ、「カワサキの疑 いです」と言 って小 児 科 医 を呼 んでみたいものです。
下 に川 崎 病 ホームページ 10 より診 断 基 準 の「主 要 症 状 」を引 用 する。主 要 症 状 のうち
5/6 または 4/6 + 冠 動 脈 瘤 (エコーor 血 管 造 影 )で診 断 できる。
川 崎 病 の主
の主 要 症 状
① 5 日 以 上 続 く発 熱 (ただし、治 療 により 5 日 未 満 で解 熱 した場 合 も含 む)
② 両 側 眼 球 結 膜 の充 血
③ 口 唇 、口 腔 所 見 :口 唇 の紅 潮 、いちご舌 、口 腔 咽 頭 粘 膜 のびまん性 発 赤
④ 不定形発疹
⑤ 四 肢 末 端 の変 化 :(急 性 期 )手 足 の硬 性 浮 腫 、掌 蹠 ないしは指 趾 先 端 の紅 斑
(回 復 期 )指 先 からの膜 様 落 屑
⑥ 急 性 期 における非 化 膿 性 頸 部 リンパ節 腫 脹
以 降 では各 症 状 にコメントを加 えていくが、上 記 ページにはそれぞれの症 例 写 真 が掲 載 されて
いるので、ネット環 境 がある人 はぜひ参 照 してほしいとおもう。
①と②について、主 要 症 状 の中 でも発 熱 と両 側 眼 球 充 血 (白 目 が真 っ赤 になる)はほぼ必
発 であり、乳 幼 児 でこのコンボをみたら川 崎 病 を疑 い、他 の症 状 を調 べよう。
③は、口 唇 ・口 腔 の赤 く柔 らかい部 分 がイチゴのような鮮 やかな色 になる。
④は全 身 の発 疹 で、麻 疹 のような小 さな発 疹 から、融 合 して地 図 のように広 がるものまで
様 々。
10
23
②〜④はいずれも、毛 細 血 管 拡 張 によるものと解 釈 できる。
ttp://www.kawasaki-disease.org
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
⑤急 性 期 には、手 足 がむくんで硬 くなる。手 のひらや足 裏 、または指 先 に紅 斑 ができる。回 復
期 には、指 先 から皮 がぽろぽろむける。
⑥の頸 部 リンパ節 腫 脹 は年 長 児 に顕 著 で、部 位 は胸 鎖 乳 突 筋 の上 から後 方 の深 頸 リンパ
節 である。通 常 の化 膿 性 リンパ節 炎 、悪 性 リンパ腫 、耳 下 腺 炎 や風 疹 などとは部 位 が異 な
る。
最 後 に、国 試 過 去 問 より症 例 を挙 げてみよう
第 100 回 A 問 6 [臨 床 ]
7 か月 の乳 児 。発 熱 を主 訴 に来 院 した。5 日 前 から発 熱 が続 き、昨 日 から発 疹 が出 現 してい
る。体 温 39.4℃。全 身 に紅 斑 を認 め、手 背 と足 背 とが腫 れている。指 圧 痕 は残 らない。両 側 眼
球 結 膜 は充 血 し、口 唇 は発 赤 している。心 雑 音 はなく、呼 吸 音 も正 常 である。腹 部 は平 坦 、
軟 。肝 を右 肋 骨 弓 下 に 2cm 触 知 する。脾 は触 知 しない。血 液 所 見 :赤 血 球 390 万 、
Hb11.5g/dl、Ht38%、白 血 球 15,600(桿 状 核 好 中 球 19%、分 葉 核 好 中 球 48%、好 酸 球 1%、
単 球 5%、リンパ球 27%)、血 小 板 41 万 。CRP16mg/dl。1 か月 前 に接 種 した BCG 接 種 部 位
の写 真 を別 に示 す(※著 者 注 :省 略 、BCG 跡 の周 囲 の発 赤 を認 める)。まず投 与 するのはどれ
か。
a.抗 菌 薬
b.利 尿 薬
c.アスピリン
d.イソニアジド
e.副 腎 皮 質 ステロイド薬
好 発 年 齢 に入 り、主 要 症 状 の1〜5が揃 うので(確 認 してみよう)、川 崎 病 と診 断 できる。そこで
c. アスピリンを解 答 に選 ぶ。なお川 崎 病 は、血 管 炎 ではあるがステロイドは効 かない。
問 59
若 年 型 関 節 リウマチのサブタイプとその特 徴 を述 べよ。
(問 56 と 59 は同 じ疾 患 を扱 うが、行 論 の都 合 上 、問 59 を先 に解 説 する。)
若 年 性 特 発 性 関 節 炎 (juvenile
歳 未 満 に発 症 し、6週 間
( juvenile idiopathic arthritis;
arthritis ; JIA)は、16
JIA)
以 上 持 続 する原 因 不 明 の慢 性 関 節 炎 の総 称 。
まずは疾 患 概 念 と病 型 分 類 の変 遷 について説 明 しておく必 要 がある。
① JIA はかつて成 人 の関 節 リウマチ(RA)と類 似 の臨 床 像 を示 すことから若 年 性 関 節 リウマチ
(JRA)と呼 ばれていた。その後 、RA の小 児 版 という捉 え方 が適 当 ではないと考 えられるよう
になり、現 在 では JIA という名 称 を用 いる。
② 病 型 分 類 について、かつて JRA と呼 ばれていたとき、臨 床 像 により「全 身 型 」「多 関 節 型 」
「少 関 節 型 」の3つに分 ける分 類 が一 般 的 だった。現 在 では WHO/ILAR が新 しい国 際 分 類
を提 示 し(2001)、下 表 のように7つの病 型 に分 類 されるようになった。
③ しかしこの新 分 類 は必 ずしも普 及 しておらず、臨 床 的 には旧 分 類 の方 が使 いやすいことなど
から、旧 分 類 はいまだに使 われている。そこで以 降 では、旧 分 類 に基 づいて各 病 型 の臨 床 像
を整 理 していこう。
◆各 教 科 書 や臨 床 本 では、この辺 りの事 情 は曖 昧 にしか書 かれず、新 旧 分 類 を説 明 なしに混 在 させていること
が多 い。多 少 の推 測 を含 めて整 理 すると以 上 のようになると思 う。
24
若 年 性 関 節 リウマチ(JRA
リウマチ( JRA)
JRA )
若 年 性 特 発 性 関 節 炎 (JIA
( JIA)
JIA )
全身型
全身型
多関節型
関節型
リウマトイド因 子 陽 性 多 関 節 型
リウマトイド因 子 陰 性 多 関 節 型
少関節型
少関節型
症候性関節炎
乾癬関連関節炎
付着部炎関連関節炎
分 類 不 能 な関 節 炎
全 身 型 JIA(
JIA ( Still 病 )
① 全 年 齢 の小 児 に発 症 、男 女 比 ほぼ1:1。
② 特 徴 的 な全 身 症 状 が出 現 。弛 張 熱 と高 熱 時 のサーモンピンク疹 を認 め、ときに全 身 リンパ
節 炎 、肝 脾 腫 、心 外 膜 炎 などがみられる。関 節 炎 の程 度 は多 様 だが、進 行 例 では多 関 節 に
及 ぶ。
◆ 弛 張 熱 は、(1)日 差 変 動 が 1℃以 上 あり、(2)体 温 の谷 間 が平 熱 までは低 下 しないパターンの発 熱 。
③ 血 液 検 査 では WBC 増 加 、炎 症 所 見 が強 く(CRP↑、赤 沈 ↑)、抗 核 抗 体 とリウマトイド因 子
は原 則 として陰 性 。
④ 治 療 の基 本 は NSAIDs、全 身 症 状 が強 い場 合 はステロイド。
⑤ 一 般 に予 後 良 好 だが、血 球 貪 食 症 候 群 を合 併 すると生 命 予 後 不 良 。
多 関 節 型 JIA
① 全 年 齢 の小 児 に発 症 、女 児 に多 い(1:4)。
② 全 身 症 状 は顕 著 でない。関 節 炎 は手 指 に初 発 、5 カ所 以 上 の全 身 性 関 節 炎 、朝 のこわばり
など成 人 RA と類 似 した病 型 。
③ 治 療 の基 本 は NSAIDs、関 節 炎 が強 い場 合 はメトトレキサート少 量 パルス療 法 。
④ リウマトイド因 子 陽 性 例 (50%)は関 節 予 後 が悪 い。
少 関 節 型 JIA
① 1〜5 歳 の女 児 に好 発 。
② 全 身 症 状 は 顕 著 でない。関 節 炎 は膝 などの大 関 節 が中 心 で、発 症 半 年 で4カ所 以 下 。
③ 治 療 の基 本 は NSAIDs、不 応 例 はメトトレキサート少 量 パルス療 法 。
④ 関 節 予 後 は良 好 。抗 核 抗 体 陽 性 例 では虹 彩 炎 を合 併 しやすく、視 力 障 害 を残 すことがあ
る。
問 56 若 年 性 関 節 リウマチの関 節 症 状 、皮 膚 症 状 、心 合 併 症 の特 徴 をリウマチ熱 と対 比 して
述 べよ。
まずはリウマチ熱
リウマチ熱 rheumatic fever について整 理 しよう。
① 学 童 期 に好 発 。
25
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
② A 群 β溶 血 性 連 鎖 球 菌 (以 下 、溶 連 菌 )の感 染 による咽 頭 炎 の1〜3週 間 後 に、心 炎 ・関 節
炎 ・皮 膚 症 状 などの主 症 状 が出 現 。
③ 臨 床 的 には心 炎 が最 も重 要 で、重 症 例 は急 性 期 に心 不 全 状 態 になり、高 い確 率 で弁 膜 症
(僧 帽 弁 狭 窄 症 が多 い)を後 遺 症 として残 す。
④ 治 療 は抗 菌 薬 、心 炎 がある場 合 はステロイドを併 用 。再 発 する確 率 が高 く、予 防 のため少 量
の抗 菌 薬 を長 期 投 与 する。
⑤ 溶 連 菌 に対 する抗 体 が心 臓 の弁 膜 や内 膜 、その他 の組 織 に交 差 することが原 因 の自 己 免
疫 疾 患 だと考 えられている。
◆かつては膠 原 病 の1つだと考 えられていたが、溶 連 菌 感 染 症 との関 連 が明 らかになったので除 外 された。
◆高 齢 者 には過 去 のリウマチ熱 の後 遺 症 による弁 膜 症 患 者 が一 定 数 みられるが、治 療 法 の確 立 によりある年
代 以 下 では後 遺 症 の心 疾 患 はきわめて稀 。
リウマチ熱 の診 断 基 準 を下 に示 す。
リウマチ熱 診 断 の Jones 基 準
溶 連 菌 感 染 の証 明 に加 えて、以 下 の大 症 状 2 or 大 症 状 1+少 症 状 2で診 断 できる。
大 症 状 …①心 炎 、②多 関 節 炎 、③舞 踏 病 、④輪 状 紅 斑 、⑤皮 下 結 節
少 症 状 …臨 床 症 状 (①発 熱 、②関 節 痛 )、検 査 所 見 (③PR 延 長 、④赤 沈 亢 進 、⑤CRP 陽 性 )
さてリウマチ熱 は比 較 的 経 過 がはやく、早 期 診 断 と治 療 により後 遺 症 の心 疾 患 を予 防 するこ
とが重 要 であり、リウマチ熱 を疑 う場 合 、若 年 性 特 発 性 関 節 炎 JIA やその他 の疾 患 との鑑 別 が
必 要 となる。そこで、大 症 状 に含 まれる多 関 節 炎 、皮 膚 症 状 、心 炎 の特 徴 を、JIA との対 比 で理
解 させる——この点 に出 題 者 の意 図 があると思 う。下 表 で対 比 しよう。
リウマチ熱
若 年 性 特 発 性 関 節 炎 JIA
関 節 炎 は少 数 の大 関 節 に起 こり、移 動 性 がある点
関 節 炎 の出 方 は病 型 ごとに異 なる。
が特 徴 的 (自 然 に消 退 して他 の関 節 に移 動 )。関
節 変 形 は稀 。
輪 状 紅 斑 、皮 下 結 節 をみる。前 者 は体 幹 ・四 肢 に
全 身 型 JIA では、体 幹 ・四 肢 に直 径 数
出 現 する、数 cm 程 度 の不 整 形 な紅 斑 。後 者 は関
mm のサーモンピンク疹 をみる。
節 伸 側 などみられる無 痛 ・可 動 性 の結 節 。
心 炎 は予 後 を決 める最 も重 要 な因 子 である。約 半
全 身 性 JIA の約 1/3 で、全 身 症 状 の一
数 で弁 膜 炎 、心 筋 炎 などが出 現 し、かつては後 遺
部 として心 外 膜 炎 や心 のう水 貯 留 をみ
症 として弁 膜 症 (僧 帽 弁 狭 窄 症 が多 い)を残 す例
る。一 般 にあまり重 篤 ではない。
がしばしばあった。
問 57
副 腎 皮 質 ステロイドの長 期 投 与 に伴 う副 作 用 を述 べよ。
(薬 理 学 2010 から、一 部 改 変 して再 掲 する)
26
ステロイド剤 とは
副 腎 皮 質 から分 泌 されるグルココルチコイドは、体 内 でコレステロールから合 成 されるステロイ
ドの一 種 である。グルココルチコイドの主 な生 理 作 用 は、血 糖 値 を上 昇 させて身 体 全 体 のエネル
ギー消 費 の増 大 に中 長 期 的 に対 応 することとまとめられる。具 体 的 には次 のような作 用 をもたら
す:
① 筋 細 胞 や脂 肪 細 胞 で脂 質 やタンパクの異 化 を促 進 し、アミノ酸 や脂 肪 酸 の供 給 を増 やす。
② 筋 細 胞 や脂 肪 細 胞 のグルコース取 り込 みを抑 制 させる
③ 肝 細 胞 の糖 新 生 を促 進 (アミノ酸 や脂 質 から糖 を合 成 する)
④ 骨 量 減 少 (Ca2+取 り込 み阻 害 、骨 形 成 阻 害 )
前 二 者 は、インスリンとちょうど逆 の作 用 だと考 えると分 かりやすい。
これに加 えて、グルココルチコイ
ステロイド剤 が使 われる疾 患 の例
ドは強 力 な抗 炎 症 作 用 、免 疫 抑
制 作 用 を持 つ。そこで、人 工 合 成
自 己 免 疫 疾 患 :各 種 の膠 原 病 、血 管 炎 など
されたグルココルチコイドのアナロ
アレルギー:気
管 支 喘 息 、アレルギー性 皮 膚 炎 など
アレルギー
グ(類 似 体 )は一 般 に「ステロイド
炎 症 性 疾 患 :膵 炎 、肝 炎 、潰 瘍 性 大 腸 炎 、クローン病 など
剤 」と呼 ばれ、右 に挙 げるような、
感 染 症 :肺 炎 の重 症 例 など
炎 症 や免 疫 作 用 が関 与 する多 く
臓 器 移 植 や骨 髄 移 植 :移 植 片 拒 絶 や移 植 片 対 宿 主 病
の疾 患 に適 用 がある。
GVHD の抑 制
作 用 の分
の分 子 機 序
ステロイド剤 は脂 溶 性 が高 く、細 胞 膜 を容 易 に通 過 して細 胞 内 に入 り、細 胞 質 中 のステロイド
受 容 体 に結 合 する。この複 合 体 は核 内 に移 行 し、各 種 の遺 伝 子 の発 現 調 節 を行 うことで、ステ
ロイドの作 用 が発 揮 される。発 現 が抑 制 される主 な分 子 と、発 現 調 節 による生 理 的 影 響 を表 に
示 す。
発 現 調 節 される分 子
生理的影響
↓ ILIL - 1 〜 6 、 ILIL - 8 、 TNFTNF - α (炎 症 性 サイトカ
炎 症 反 応 を抑 制
イン)
↓ NOS(一
NOS (一 酸 化 窒 素 合 成 酵 素 )
NO 産 生 を抑 制
(血 管 平 滑 筋 が弛 緩 しにくくなる)
↓ホスホリパーゼ A2
アラキドン酸 カスケードを抑 制
↓シクロオキシゲナーゼ 2 型 (COX
( COXCOX - 2 )
(PG↓、LT↓)
↓細 胞 接 着 分 子 (ICAM
( ICAM など)
白 血 球 の遊 走 性 低 下
副作用
ステロイドは多 くの場 合 、炎 症 や免 疫 反 応 の抑 制 を目 的 として使 用 する。よって必 然 的 に易 感
染 状 態 になり、またそれ以 外 の生 理 作 用 が過 剰 に作 用 することで多 様 な副 作 用 が出 現 する。副
作 用 は major と minor に分 けられる。
27
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
major side effect:生 命 予 後 に影 響 を与 える、または重 篤 な機 能 喪 失 をもたらす障 害 。
minor side effect:軽 度 で可 逆 的 な障 害 。
major な副 作 用 が出 現 したときは、ステロイドを減 量 または中 止 する必 要 がある。
*ステロイドの副 作 用
major side effect
(易 感 染 )、糖 尿 病 、高 脂 血 症 、消 化 器 潰 瘍 、骨 粗 鬆 症 、無 菌 性 骨 壊 死 、中 枢 神 経 障 害 (ステ
ロイド性 うつなど)、高 血 圧 、白 内 障 、緑 内 障 など
minor side effect
多 毛 (アンドロゲン様 作 用 )、ざ瘡 (ニキビ)、満 月 様 顔 貌 、皮 下 溢 血 、紫 斑 など
自 己 免 疫 疾 患 、アレルギー性 疾 患 、慢 性 炎 症 性 疾 患 などでは、疾 患 の性 質 上 、症 状 を抑 制 す
るためにステロイド剤 を長 期 的 に(場 合 によっては何 十 年 にもわたって)飲 み続 けなくてはならない。
ステロイド剤 の継 続 投 与 は、症 状 の抑 制 と副 作 用 のバランスをみながら投 与 量 を調 節 する。
とくに小 児 の場 合 、長 期 投 与 により低
低 身 長 をきたす可 能 性 が高 いので、本 人 や保 護 者 によく
説 明 しておく必 要 がある。
問 58
小 児 においてよくみられる全 身 性 エリテマトーデスの症 状 を述 べよ。
小 児 SLE の診 断
持 続 する発 熱 ・全 身 倦 怠 感 、広 い範 囲 の皮 疹 、多 関 節 炎 などの症 状 があるとき、膠 原 病 を疑
う(基 本 的 な鑑 別 として、各 種 の感 染 症 と悪 性 腫 瘍 を検 討 する)。身 体 所 見 や検 査 所 見 で膠 原
病 の各 疾 患 に関 連 する項 目 を調 べ、各 疾 患 の診 断 基 準 を満 たせば診 断 できる。
小 児 SLE の診 断 基 準 11を下 に示 すが、この基 準 は成 人 用 の基 準 とほぼ同 一 である。この診 断
基 準 の項 目 をすべて書 き下 せば解 答 となる。または症 状 の意 味 を狭 くとって、問 診 と身 体 所 見 で
確 認 できる①〜⑤のみを書 く、という手 もあるだろう。また題 意 を「成 人 SLE よりも小 児 SLE でよ
くみられる症 状 」ととれば、蝶 形 紅 斑 、腎 障 害 を挙 げることもできる。
11
複 数 の文 献 から、厚 生 省 小 児 SLE 診 断 手 引 き(1986)、米 国 リウマチ学 会 診 断 基 準 (1997)
を孫 引 用 して作 成 。後 者 をベースに前 者 の低 補 体 血 症 を追 加 した。
28
小 児 SLE の診 断 基 準
下 記 のうち4項 目 を満 たす場 合 に SLE の可 能 性 が高 い。
① 頬部紅斑
扁 平 or 隆 起 性 の固 定 性 紅 斑
② 円板状紅斑
癒 着 性 ・角 化 性 鱗 屑 および毛 嚢 角 栓 を伴 う隆 起 性 紅 斑
③ 日光過敏症
日 光 曝 露 により皮 疹 が出 る
④ 口腔内潰瘍
ふつう無 痛 性 の口 腔 or 鼻 咽 頭 潰 瘍
⑤ 関節炎
2 つ以 上 の末 梢 関 節 の非 びらん性 関 節 炎
⑥ 漿膜炎
胸 膜 炎 、心 膜 炎
⑦ 腎障害
蛋 白 尿 、細 胞 性 円 柱
⑧ 神経障害
けいれん、精 神 病
⑨ 血液学的異常
溶 血 性 貧 血 、白 血 球 減 少 症 、リンパ球 減 少 症 、血 小 板 減 少 症
⑩ 免疫学的異常
抗 DNA 抗 体 、抗 Sm 抗 体 、抗 リン脂 質 抗 体
⑪ 抗核抗体陽性
⑫ 低補体血症
SLE の病 態 から症 状 を考 えてみる
SLE では上 記 のような多 彩 な症 状 が、時 間 的 ・空 間 的 に多 様 なパターンで出 現 する。また症
状 の出 方 や経 過 には個 人 差 も大 きい。だが診 断 基 準 の丸 暗 記 も辛 いから、仮 説 的 に次 のように
考 えてみると、多 彩 な症 状 の一 端 を説 明 できるのではないかと思 う。
① SLE は、体 液 中 成 分 に対 して節 操 なく自 己 抗 体 を作 ってしまう疾 患 である。
たとえば SLE では RBC、WBC、PLT がすべて低 下 することがあるが(汎 血 球 減 少 )、こ
れは抗 RBC 抗 体 、抗 WBC 抗 体 、抗 PLT 抗 体 がそれぞれ出 現 することによる(!)
② 自 己 抗 体 と体 液 中 の抗 原 が結 合 し、免 疫 複 合 体 となって血 管 壁 や組 織 に沈 着 し、補 体 や好
中 球 も手 伝 って周 辺 組 織 を傷 害 する。
③ 皮 膚 症 状 や関 節 炎 が四 肢 末 端 部 に左 右 対 称 に出 やすいことから、免 疫 複 合 体 は全 身 のう
ち血 管 走 行 や血 流 動 態 の関 係 で沈 着 しやすいところに沈 着 している、と予 想 される。
④ では逆 に、免 疫 複 合 体 が沈 着 しやすいのはどんなところか。たとえば「小 さな血 管 が入 り組 ん
で走 行 しているところ」という考 えが浮 かぶ。腎 糸 球 体 、四 肢 末 端 、顔 面 などはそういう場 所
かもしれない。これとは別 に、鋭 敏 な感 覚 を持 つ部 位 (神 経 が密 に分 布 し、小 さな血 管 が栄 養
する)に出 やすい、という考 え方 もある。
問 60
29
Henoch-Schonlein 紫 斑 病 の症 状 について述 べよ。
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
* H enochenoch - S choenlein 紫 斑 病 (アレルギー性 紫 斑 病 、アナフィラクトイド紫 斑 病 )
① 全 身 性 血 管 炎 の一 種 で、紫 斑 (点 状 ・斑 状 の皮 下 出 血 )を主 徴 とし、関 節 痛 ・消 化 器 症 状
(腹 痛 や血 便 )・腎 炎 などを併 発 する疾 患 。
② 患 者 の約 90%は小 児 で、ピークは 4-11 歳 にあり、やや男 児 が多 い。
③ 先 行 する上 気 道 感 染 に続 いて発 症 することが多 い。IgA 免 疫 複 合 体 が血 管 壁 に沈 着 し、
補 体 反 応 や好 中 球 活 性 化 によって血 管 壁 が傷 害 され、出 血 や壊 死 をきたす。
④ 治 療 の基 本 は対 症 療 法 だが、重 症 例 にはステロイドを用 いる。
Henoch児 に好 発 する全 身 性 血 管 炎 の1つ
Henoch - Schonlein 紫 斑 病 (アレルギー性 紫 斑 病 )は小
)
で、「紫 斑 」「関 節 痛 」「消 化 器 症 状 」を3主 徴 とし、腎 病 変 は予 後 を左 右 する。この疾 患 は特 徴
のある症 状 の出 方 をするので、症 候 学 的 に重 要 である——平 たく言 うと、小 児 が3主 徴 のいずれ
か1〜2個 を訴 えたときに、鑑 別 疾 患 として挙 げられるようになろう、ということだ。そのために、主 要
症 状 を列 挙 できるだけでなく、各 症 状 をもう少 し具 体 的 に説 明 してね、ということが本 問 の出 題
意 図 だと思 う。
症状
説明
紫斑
診 断 上 は必 須 。下 肢 を中 心 に、左 右 対 称 、多 発 する紫 斑 (アナフィラクトイド紫
斑 )が出 現 する。通 常 の紫 斑 とは異 なり丘 疹 として触 知 できることが特 徴 的 。こ
れを「浸 潤 を触 れる紫 斑 」と表 現 することが多 い。
関節痛
約 70%に出 現 。多 関 節 炎 で、予 後 は良 好 。
消化器症状
約 90%に出 現 。腹 痛 、下 痢 、血 便 のほか、重 症 ではイレウスをきたすこともある。
内 視 鏡 では十 二 指 腸 を中 心 に粘 膜 の浮 腫 、潰 瘍 、出 血 などがみられる。
腎病変
上 記 3症 状 は、初 期 に相 前 後 して出 現 する。腎 症 状 (蛋 白 尿 や血 尿 )は約
50%にみられ、他 症 状 よりやや遅 れて出 現 する。病 理 学 的 には慢 性 の糸 球 体
腎 炎 で、進 行 例 では腎 不 全 から透 析 導 入 に至 る(小 児 の透 析 導 入 の約 1割 を
占 める!)
多 関 節 炎 は全 身 性 炎 症 疾 患 では一 般 的 な全 身 症 状 であり、また自 己 抗 体 が出 現 する全 身
性 疾 患 では自 己 抗 体 は腎 糸 球 体 に沈 着 しやすい。そこで紫 斑 と消 化 器 症 状 の2つが、とりわけ
この疾 患 に特 徴 的 である。
紫 斑 ≒出 血 傾 向 を主 訴 とする患 者 の鑑 別 では、血 小 板 数 ・血 小 板 機 能 ・凝 固 系 検 査
がすべて正 常 である場 合 、本 疾 患 を疑 う。
なぜ消 化 器 症 状 が特 に多 いのかは不 明 だが、IgA が主 体 となる消 化 管 の粘 膜 免 疫 の
異 常 が関 連 しているかもしれない。
30
最 後 に、国 試 過 去 問 から症 例 を出 しておこう。
第 96 回
A
問 37 [臨 床 ]
7 歳 の男 児 。前 夜 からの激 しい腹 痛 、関 節 痛 および下 腿 の皮 疹 を訴 えて来 院 し、入 院 した。
入 院 時 タール便 を認 めた。尿 所 見 :蛋 白 1+、沈 渣 に赤 血 球 多 数 /1 視 野 。血 液 所 見 :赤 血 球
430 万 、白 血 球 9,600、血 小 板 25 万 。出 血 時 間 、凝 固 時 間 およびプロトロンビン時 間 は正 常 ,
第 7 病 日 、顔 面 と下 腿 とに浮 腫 が出 現 した。血 圧 134/82mmHg。尿 所 見 :蛋 白 3+、沈 渣 に赤
血 球 無 数 /1 視 野 、赤 血 球 円 柱 (+)。血 清 生 化 学 所 見 :総 蛋 白 4.2g/dl、アルブミン 2.6g/dl、
尿 素 窒 素 17mg/dl、クレアチニン 0.9mg/dl、総 コレステロール 350mg/dl。免 疫 学 所 見 :
ASO250 単 位 (基 準 250 以 下 )、抗 核 抗 体 陰 性 、血 清 抗 体 価 正 常 。下 腿 の写 真 (別 冊
No.23)を別 に示 す。考 えられるのはどれか。2つ選 べ。
(1)急 性 糸 球 体 腎 炎
(2)膜 性 増 殖 性 腎 炎
(3)巣 状 糸 球 体 硬 化 症
(4)紫 斑 病 性 腎 炎
(5)ネフローゼ症 候 群
解 答 は(4)と(5)である。
最 初 から関 節 痛 、下 腿 の皮 疹 、血 便 で三 主 徴 が揃 っているので、アレルギー性 紫 斑 病 の診 断
は容 易 。この症 例 では最 初 から尿 タンパクと血 尿 があったが、1週 間 のうちに進 行 してネフローゼ
症 候 群 が出 現 している。鑑 別 疾 患 として、出 血 傾 向 をきたす他 の疾 患 (←出 血 時 間 と凝 固 検
査 )、リウマチ熱 (←ASO)や膠 原 病 (←抗 核 抗 体 )を検 索 している点 にも着 目 したい。
31
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
H. 神 経 ・ 筋 疾患 ( 問 6 1 - 69 )
本 章 では神 経 ・筋 疾 患 を扱 う。以 下 の順 で説 明 していこう。
① 発作性疾患
(a) 熱 性 けいれん(問 62)
(b) てんかん(問 66、問 67、問 61)
② 発達障害
(a) 脳 性 麻 痺 (問 63)
③ 筋 力 ・筋 緊 張 低 下
(a) フロッピーインファント(問 64)
(b) 筋 ジス、重 症 筋 無 力 症 (問 65)
④ 運動調節障害
(a) 運 動 失 調 (問 68)
(b) 不 随 意 運 動 (問 69)
問 62 熱 性 けいれんについて以 下 の項 目 について簡 潔 に記 せ。
1 ) 単 純 性 熱 性 けいれんとは何 か。 2 ) 熱 性 けいれんの予 防 。3 ) 熱 性 けいれんの予 後 。
まず「熱 性 けいれん」について整 理 しておく。
*熱 性 けいれん
① 定 義 :「通 常 38℃以 上 の発 熱 に伴 って乳 幼 児 期 に生 じる発 作 性 疾 患 で、中 枢 神 経 感 染
症 、代 謝 異 常 やその他 の明 らかな発 作 の原 因 疾 患 ・異 常 のないもの」
② 疫 学 :乳 幼 児 (6 ヶ月 〜4 歳 )に好 発 し、頻 度 は極 めて高 い(小 児 全 体 の 3%が発 症 し、小
児 けいれんの 50%を占 める)。両 親 にも熱 性 けいれんを認 めることが多 く、遺 伝 的 要 素 が
ある。
③ 治 療 と予 後 :けいれんが持 続 する場 合 は気 道 確 保 の上 、ジアゼパム(ベンゾジアゼピン
系 )を投 与 する。予 後 は良 好 。
熱 性 けいれんの疾 患 概 念 (というか、臨 床 での位 置 づけ)を理 解 するには、具 体 的 な症 例 をみ
るのがいいと思 う。次 の国 試 過 去 問 をみてみよう。
32
第 101 回 D 問 21 [必 修 ] [臨 床 ]
8 か月 の乳 児 。発 熱 とけいれんとを主 訴 に来 院 した。午 前 中 は元 気 で哺 乳 力 も良 好 であっ
たが、午 後 になって発 熱 に気 付 いた。その後 、約 3 分 続 く全 身 のけいれんを認 めた。発 熱 もけい
れんも出 生 後 初 めてだという。意 識 は清 明 。身 長 72cm、体 重 8,600g。体 温 38.6℃。大 泉 門
の膨 隆 は認 めない。咽 頭 に軽 度 の発 赤 を認 める。鼓 膜 に異 常 はない。心 音 と呼 吸 音 とに異 常
を認 めない。腹 部 に異 常 を認 めない。項 部 硬 直 と Kernig 徴 候 とはみられない。血 液 所 見 と血
清 生 化 学 所 見 とに異 常 を認 めない。
対 応 として適 切 なのはどれか。
a.輸 液
b.経 過 観 察
c.抗 菌 薬 投 与
d.抗 けいれん薬 投 与
e.副 腎 皮 質 ステロイド薬 投 与
正 解 は b。熱 性 けいれんは、重 度 のけいれん症 状 があれば上 BOX のような措 置 を行 うが、基
本 的 には予 後 のよい、あまり心 配 のない疾 患 である。「発 熱 +けいれん」を主 訴 とする乳 幼 児 が来
院 したとき、この症 状 をきたす他 の疾 患 (髄 膜 炎 、てんかん、脳 腫 瘍 など)を除 外 でき、熱 性 けいれ
んと診 断 できれば一 安 心 ということになる。よって熱 性 けいれんでは、熱 性 けいれん自 体 の特 徴
および鑑 別 診 断 を知 っておく必 要 がある。
単 純 型 熱 性 けいれんとは、右
BOX の条 件 をすべて
けいれん
みたすものをいい、最 も予 後 がよい群 である。条 件 を1
つでも満 たさない場 合 を複
複 雑 型 熱 性 けいれんと呼
び、
けいれん
要 するに症 状 が重 く再 発 の可 能 性 が高 いので、注 意
して経 過 をみなければならない。
◆熱 性 けいれん発 症 者 の約 半 数 は、一 生 で一 回 しか発 作 が
*単 純 型 熱 性 けいれんの要 件
①けいれんの持 続 は 15 分 以 内
②けいれん発 作 は全 身 性 (左 右 対 称 )
③発 作 後 の麻 痺 なし
④24 時 間 以 内 の発 作 の反 復 なし
出 ない。
上 の症 例 では、確 認 できる限 りでは単 純 型 の要 件 を満 たしており、また後 半 では一 通 り身 体
診 察 と検 査 を行 って、髄 膜 炎 、中 耳 炎 、腸 重 積 やイレウス、心 疾 患 や肺 炎 など、緊 急 性 の高 い疾
患 を除 外 している。その結 果 、特 に心 配 のない、経 過 観 察 でよいケースと判 断 したと考 えられる。
熱 性 けいれんの予 防 について、複 雑 型 で再 発 が心 配 な場 合 は、ジアゼパムの坐 薬 (ダイアップ
®など)を親 に渡 しておき、38℃以 上 の発 熱 時 に投 与 してもらう。
問 66 小 児 における全 般 性 強 直 間 代 性 てんかん、欠 神 発 作 、部 分 てんかんに使 用 される抗 て
んかん薬 を述 べよ。
問 67 抗 てんかん薬 の副 作 用 について述 べよ。
いずれも抗 てんかん薬 についての問 なので、まとめて解 答 しよう。
てんかん発 作 と発 作 型 分 類
33
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
てんかん発 作 は、大 脳 皮 質 のニューロンが同 期 して過 剰 興 奮 することで生 じる。異 常 興 奮 が
起 こる領 域 やパターンにより、けいれん・一 過 性 の意 識 消 失 ・筋 緊 張 亢 進 ・脱 力 ・異 常 感 覚 (本
人 しか分 からない!)など様 々な症 状 が出 る。下 表 にてんかんの発 作 型 分 類 を示 す。
<発 作 型 分 類 >
単純部分発作
全般発作
身 体 の一 部 のけいれんや感 覚 異 常
欠 神 発 作 (突 然 の短 時 間 の意 識 消 失 )
複雑部分発作
ミオクロニー発 作 (四 肢 が一 瞬 ピクッとなる)
意 識 障 害 あり、自 動 症 などを伴 う
脱 力 発 作 (一 瞬 力 が抜 けてガクッとなる)
強 直 発 作 (四 肢 ・体 幹 が強 直 して硬 くなる)
全 般 性 強 直 間 代 発 作 (強 直 から、筋 収 縮 と弛 緩 を繰 り
返 す間 代 けいれんに移 行 )
「部 分 発 作 」とは異 常 興 奮 が脳 の局 所 で発 生 することで、意 識 障 害 がない場 合 を「単 純 複
雑 発 作 」、ある場 合 を「複 雑 部 分 発 作 」という。
「全 般 発 作 」は異 常 興 奮 が脳 全 体 で発 生 し、通 常 は意 識 障 害 を伴 う。
疾 患 概 念 としてのてんかん
としての てんかんと症
てんかん と症 候 群 分 類
このような「てんかん発 作 」を繰 り返 す機 能 性 神 経 疾 患 を、(疾 患 概 念 としての)「てんかん」と
いう。これは原 因 ・生 じる発 作 の種 類 ・臨 床 経 過 などにより、以 下 のように分 類 される(症 候 群 分
類 )。
<症 候 群 分 類 >
特 発 性 ・部 分 性 てんかん
特 発 性 ・全 般 性 てんかん
小 児 良 性 てんかん
若 年 性 欠 神 てんかん
若 年 性 ミオクロニーてんかん
症 候 性 ・部 分 性 てんかん
症 候 性 ・全 般 性 てんかん
前 頭 葉 てんかん
West 症 候 群 (点 頭 てんかん)
側 頭 葉 てんかん
Lennox-Gastaut 症 候 群
頭 頂 葉 てんかん
後 頭 葉 てんかん
「症 候 性 」とは、先 天 奇 形 、腫 瘍 、脳 血 管 障 害 など脳 の器 質 的 病 変 の存 在 が想 定 されるも
の、「特 発 性 」とは想 定 されないものをいう。
てんかんの原 因 について
① 遺 伝 的 要 因 、脳 の器 質 的 障 害 、環 境 要 因 が絡 みあう多 因 子 疾 患 である。
② 家 族 性 てんかんの一 部 でイオンチャネル遺 伝 子 が責 任 遺 伝 子 として同 定 されていることか
ら、チャネル異 常 がてんかんの本 態 であるという仮 説 がある。
③ 別 の仮 説 は、抑 制 性 の神 経 伝 達 物 質 GABA の活 動 度 の低 下 が発 症 に関 与 すると主 張 さ
れている。
34
てんかんの治 療 薬 、副 作 用
症 候 性 てんかんでは基 礎 疾 患 の治 療 を行 うが、その他 は薬 物 治 療 が中 心 になる。てんかん治
療 薬 の目 的 は発 作 の抑 制 なので(投 薬 中 も異 常 脳 波 が出 る)、(症 候 群 分 類 ではなく)発 作 型
に基 づいて選 択 する。以 下 に発 作 型 ごとの治 療 薬 をまとめる。
発作型
第一選択
第二選択
第三選択
部分発作
カルバマゼピン(CBZ)
ゾニサミド、フェニトイン
プリミドン、クロパザム、
クロナゼパム
全般発作
バルプロ酸 (VPA)
欠 神 発 作 、ミオクロニ-
エトスクシミド、クロナゼ
クロパザム、クロナゼパ
パム
ム
発 作 、脱 力 発 作
全般発作
ゾニサミド、プリミドン、
強 直 発 作 、強 直 間 代
フェニトイン
発作
まずは「部 分 発 作 にはカルバマゼピン、全 般 発 作 にはバルプロ酸 」を覚 えておこう。それぞれの
機 序 と副 作 用 をまとめておく。
カルバマゼピン(CBZ
カルバマゼピン( CBZ)
CBZ ) は、電 位 依 存 性 Na チャネルに結 合 して興 奮 後 の不 応 期 を延 長 し、て
んかん発 作 領 域 から非 発 作 領 域 への興 奮 伝 播 を抑 制 する。
バルプロ酸 (VPA
( VPA)
VPA ) の機 序 は十 分 に解 明 されていないが、①GABA の代 謝 酵 素 を阻 害 して
GABA 濃 度 を上 昇 させることと、② CBZ と同 様 のチャネル抑 制 効 果 が考 えられている。
◆CBZ→部 分 、VPA→全 体 という適 応 と以 上 の機 序 は、何 となく関 連 しているように思 える。
薬剤
主 な適 用
副 作 用 (濃 度 依 存 的 )
副 作 用 (長 期 投 与 時 )
カルバマゼピン(CBZ
カルバマゼピン( CBZ)
CBZ )
部分発作
過 度 の鎮 静 、運 動 失
各 種 の血 球 減 少 症 (とくに顆
顆粒球減
調 、複 視 、眼 振
少 )、皮 疹 (皮 膚 粘 膜 眼 症 候 群 など)
悪 心 、嘔 吐 、振 戦
肝 障 害 、高 アンモニア性 脳 症 、各 種
バルプロ酸 (VPA
( VPA)
VPA )
全般発作
の血 球 減 少 症
問 61 West 症 候 群 について以 下 の項 目 を簡 潔 に述 べよ。1 ) 好 発 年 齢 、2 ) 症 状 、3 ) 原
因 疾 患 、 4 ) 脳 波 所 見 、5 ) 治 療 、6 ) 予 後
* West 症 候 群
① 乳 児 に好 発 する症 候 性 ・全 般 性 てんかん。
② 三 主 徴 は①点 頭 発 作 、②異 常 脳 波 (ヒプスアリスミア)、③精 神 発 達 遅 滞 。
③ (発 作 が消 失 しにくい、知 的 障 害 をきたすという点 で)予 後 が悪 いが、ビタミン B6 や ACTH
で予 後 が改 善 する点 が特 徴 的 。
1)好
1) 好 発 年 齢 : 乳 児 に好 発 し、生 後 6 ヶ月 頃 がピーク。
35
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
2)症 状 (三 主 徴 )、4
)、 4 )脳
)脳 波 所 見
① 点 頭 発 作 。頭 をガクガクと前 屈 (点 頭 )、上 下 肢 をビクンと振 り上 げる動 作 を、数 秒 間 隔 で繰
り返 す。
◆点 頭 は「うなずく」の意 味 。上 肢 を振 り上 げ→お辞 儀 の様 子 は、イスラム教 徒 の礼 拝 に似 ている。
② ヒプスアリスミアは
ヒプスアリスミア West 症 候 群 に特 徴 的 な脳 波 所 見 。振 幅 が高 い不 規 則 な棘 徐 波 が数 秒
間 隔 で反 復 する。
◆hyps (高 い)+a+rhythm で、高 い振 幅 、律 動 性 rhythm が乱 れたの意 味 。
③ 精 神 発 達 遅 滞 を伴 うことが多 い。
3)原 因 疾 患 :一
: 部 の患 者 では脳 の器 質 的 障 害 を持 ち(症 候 性 )、出 生 時 または出 生 後 の低 酸
素 状 態 が多 い。明 らかな異 常 を認 めない患 者 でも器 質 的 異 常 の存 在 が想 定 される(潜 因 性 )。
5 ) 治 療 : 発 作 時 は抗 てんかん薬 (バルプロ酸 )などを用 いる。機 序 は不 明 だが、ビタミン B6 や
ACTH の投 与 で予 後 が改 善 する。
6 ) 予 後 :一 般 に特 発 性 てんかん>症 候 性 部 分 性 てんかん>症 候 性 全 般 性 てんかんの順 に予 後
は悪 くなる。West 症 候 群 は 90%以 上 で精 神 発 達 遅 滞 を伴 うという点 で予 後 が悪 い。点 頭 てん
かん発 作 は5歳 頃 までに消 失 することが多 いが、一 部 は Lennox-Gastaut 症 候 群 という、さらに
予 後 不 良 の疾 患 に移 行 する。
問 63
脳 性 麻 痺 とは何 か。また脳 性 麻 痺 の主 な原 因 を 3 つ挙 げ、各 々につき簡 潔 に述 べよ。
定 義 と症 状
脳 性 麻 痺 Cerebral Palsy は、特 徴 的 な疾 患 概 念 をまず理 解 する。それは次 のように定 義 さ
れる:
「受 胎 から新 生 児 (生 後 4 週 以 内 )までの間 に生 じた,脳 の非 進 行 性 病 変 に基 づく,永 続 的 な
しかし変 化 し得 る運 動 および姿 勢 (posture)の異 常 」 12
これをさらに噛 み砕 いておこう。
*脳 性 麻 痺 の定 義
① 受 胎 〜新 生 児 のうちに脳 が障 害 を受 け(例 えば母 体 からの有 害 物 質 の移 行 、出 産 時 の低
酸 素 脳 症 、産 道 感 染 による新 生 児 感 染 症 など)、
② 運 動 機 能 に一 生 続 く障 害 をきたしたもの。
③ 脳 の障 害 自 体 は非 進 行 性 だが、発 達 につれて臨 床 像 は変 化 していく(だいたい3歳 頃 ま
でに固 定 )。
12
旧 厚 生 省 脳 性 麻 痺 研 究 班 (1968)による。竹 内 義 博 「脳 性 麻 痺 」『今 日 の診 断 指 針 第 6
版 』、医 学 書 院 より引 用 。
36
脳 性 麻 痺 の症 状 は脳 障 害 の種 類 や程 度 、発 達 段 階 によって多 様 だが、発 達 の遅 れ(6 ヶ月 を
過 ぎても首 が座 らないなど)、麻 痺 、姿 勢 ・筋 緊 張 ・反 射 の異 常 、異 常 運 動 の出 現 (ジストニア、ア
テトーゼなど)などをみる。
脳 性 麻 痺 の原 因
かつては「仮 死 」「早 産 」「黄 疸 」が脳 性 麻 痺 の三 大 原 因 とされていたが、新 生 児 黄 疸 の治 療
法 が進 歩 し、また出 生 前 の原 因 による脳 性 麻 痺 が増 加 したため、現 在 では「仮 死 」「早 産 」「先 天
異 常 」を三 大 原 因 とする(と講 義 で説 明 された)。
① 新 生 児 仮 死 neonatal asphyxia は、出 生 時 の適 応 現 象 (問 70、胎 外 環 境 に適 応 するため
に必 要 な呼 吸 や循 環 の確 立 )が障 害 された状 態 で、臨 床 的 には APGAR スコア(問 71)で
診 断 する。
② 早 産 児 の脳 性 麻 痺 の原 因 の中 では、脳
脳 室 周 囲 白 質 軟 化 症 (PVL
( PVL)
PVL ) の頻 度 が最 も高 い。脳
室 周 囲 白 質 は血 流 の都 合 で脳 虚 血 のリスク部 位 であり、PVL では、早 産 児 の周 産 期 〜新
生 児 期 において、この領 域 が脳 虚 血 によって障 害 でされる。
③ 先 天 異 常 としては、脳 の発 生 異 常 や先 天 性 感 染 症 (TORCH など)が多 い。
問 64
せ。
フロッピーインファントとは何 か。また、フロッピーインファントの原 因 と鑑 別 について記
(1)定 義 と徴 候
floppy infant は日 本 語 で「ぐにゃぐにゃ乳 児 」ともいう。乳 児 期 にはじまる、全 身 の筋 緊 張 が低
下 して体 がぐにゃぐにゃしている乳 幼 児 を指 す。
◆floppy は「柔 らかい、だらりとした」の意 。英 米 では垂 れ耳 の犬 をよく floppy と名 付 ける。floppy disk は、いま
見 かける 3.5 インチのものは硬 いプラスチック性 だが、それ以 前 は 5 インチのぺらぺらのディスクだった。
姿 勢 がぐったりしており、四 肢 を動 かすと抵 抗 なくぐにゃぐにゃ動 けば、floppy infant と判 断 す
る。専 門 的 には以 下 のような所 見 をとる。
カエル肢 姿 勢 :四 肢 がダラリとして全 長 ・全 関 節 が床 面 につき、カエルのような寝 姿 になる。
スカーフ徴 候 :片 手 を首 に巻 き付 けるように引 っ張 ると、隙 間 なくぴったり巻 き付 く。
その他 、踵 -耳 徴 候 、逆 U 字 姿 勢 、引 き起 こし反 応 時 の head lag など。講 義 プリント(小 児 神
経 学 )の画 像 を確 認 しておこう。
(2)原 因 と鑑 別
たとえば「手 を握 る」という動 作 は、
上 位 運 動 ニューロン→下 位 運 動 ニューロン→神 経 筋 接 合 部 →筋 組 織
という経 路 でシグナルが伝 わることで実 現 される。逆 に、この経 路 のいずれかが障 害 されると、
手 を握 る動 作 はできない。floppy infant は、この経 路 のどこかが障 害 されることで発 症 する。
脳 や脊 髄 の病 変 は、局 所 的 な障 害 でも floppy infant になりうる(たとえば PVL による脳 性 麻
痺 (問 63)や脊 損 )。しかしそれよりも末 梢 側 の障 害 では、自 己 免 疫 、代 謝 、遺 伝 性 筋 疾 患 など、
全 身 性 の病 変 をきたす機 序 がなければならない。
37
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
以 下 に原 因 と疾 患 を整 理 する(小 児 科 領 域 ではマイナー疾 患 がたくさんがあるが、ここでは
year note に記 載 がある疾 患 に絞 った)。
* floppy infant の原 因 と疾 患
① 筋 細 胞 の異 常
(a) 構 成 タンパクの異 常
筋 ジストロフィー(とくに福 山 型 )、先 天 性 ミオパチー
(b) エネルギー代 謝 の異 常
ミトコンドリア病 、糖 原 病 (とくに Pompe 病 )
② 神 経 筋 接 合 部 の異 常
重症筋無力症
③ 脊 髄 前 角 細 胞 の異 常
脊 髄 筋 萎 縮 症 (とくに SMAⅠ型 :Werdnig-Hoffmann 病 )
④ 大 脳 の異 常
(a) 染 色 体 異 常
Down 症 候 群 、Prader-Willi 症 候 群 、Angelman 症 候 群
(b) 脳 性 麻 痺
⑤ 結 合 組 織 の異 常
Ehlers-Danlos 症 候 群
以 下 では、それぞれの疾 患 概 念 と鑑 別 に役 立 つ所 見 について簡 単 に説 明 していこう。
① ミオパチーとは、神
経 ではなく筋 自 体 の異 常 が原 因 となって起 こる骨 格 筋 障 害 の総 称 。上 の
ミオパチー
リストの①②はミオパチーである。
(a) 先 天 性 ミオパチーと筋
細 胞 の構 造 保 持 に関 与 する遺 伝 子 の
ミオパチー 筋 ジストロフィーは、いずれも筋
ジストロフィー
変 異 による遺 伝 性 疾 患 である。前 者 は生 まれつき floppy で非 進 行 性 だが、後 者 は生 後 に
発 症 して、進 行 性 の筋 病 変 をきたす(CK など筋 逸 脱 酵 素 が上 昇 )。
(b) ミトコンドリア病 と糖
糖 原 病 はいずれも遺 伝 性 の疾 患 。前 者 はミトコン内 酵 素 の変 異 により
ATP 産 生 が低 下 し、エネルギー需 要 が高 い脳 と骨 格 筋 が特 に傷 害 される疾 患 。後 者 はグ
リコーゲン代 謝 酵 素 の変 異 によりグリコーゲンが蓄 積 する疾 患 で、様 々な亜 型 があるがⅡ
Ⅱ
型 (Pompe
部 の亜 型 で floppy になる。
( Pompe 病 )など一
)
② 重 症 筋 無 力 症 (MG
( MG)
MG ) は、抗 アセチルコリン受 容 体 抗 体 が出 現 し、神 経 筋 接 合 部 での神 経 伝
達 を妨 げることで筋 力 低 下 をきたす疾 患 。小 児 発 症 例 は稀 だが、母 体 MG からの移 行 抗 体
により新 生 児 が一 過 性 MG を発 症 することがある(予 後 は良 好 で、約 1ヶ月 で症 状 は消 え
る)。
③ 脊 髄 筋 萎 縮 症 SMA は出 生 後 の脊 髄 前 角 の運 動 ニューロンの変 性 により進 行 性 の筋 力 低
下 、筋 萎 縮 を呈 する遺 伝 性 疾 患 。Ⅰ〜Ⅳ型 に分 類 されるが、とくにⅠ型
Ⅰ型
( Werdnig児 期 に発 症 して floppy となる。下 位 運 動 ニューロン障 害 に
Werdnig - Hoffmann 病 )は、乳
)
よる症 状 (繊 維 束 攣 縮 、腱 反 射 消 失 )が出 る点 が特 徴 的 。
④
(a) 複 数 の奇 形 や特 徴 的 な顔 貌 を持 つ新 生 児 をみたら染
染 色 体 異 常 章 (K 章 で扱 う)を疑 い、
染 色 体 検 査 を行 う。染 色 体 異 常 症 は奇 形 やさまざまな合 併 症 を伴 うが、floppy infant を
きたす疾 患 のうち頻 度 が高 い3つを挙 げた。
38
(b) 脳 性 麻 痺 は、受 胎 〜新 生 児 期 に生 じた脳 傷 害 による運 動 障 害 の総 称 である。詳 しくは問
63 で扱 う。
⑤ だけは神 経 筋 疾 患 ではなく、結 合 組 織 を病 変 の主 座 とする疾 患 である。Ehlers
EhlersEhlers - Danlos 症
候 群 は、コラーゲンなど細 胞 外 マトリックス分 子 やその修 飾 酵 素 の異 常 によって、皮 膚 の過
伸 展 ・脆 弱 性 、靭 帯 ・関 節 の可 動 性 亢 進 、易 出 血 性 をきたす遺 伝 性 疾 患 。
問 65 以 下 の疾 患 について簡 潔 に述 べよ。1 ) Duchenne 型 筋 ジストロフィー
無 力 症 3 ) 福 山 型 先 天 性 筋 ジストロフィー
2 ) 重症筋
筋 ジストロフィー定
ジストロフィー 定 義 と分 類
筋 ジストロフィーは「筋 線 維 の変 性 ・壊 死 を主 病 変 として,進 行 性 の筋 力 低 下 を伴 う遺 伝 性 疾
患 」と定 義 される疾 患 群 である。
下 に筋 ジストロフィーの主 な病 型 を示 す(まずは、いろいろなタイプがあるんだなと思 って眺 めて
もらえばいい) 13。この分 類 は、原 因 遺 伝 子 がまだ同 定 されていなかった時 代 に、(1)遺 伝 形 式
(常 染 色 体 劣 性 など)および(2)臨 床 症 状 によってなされた、という点 が重 要 である。たとえば、最
も多 い Duchenne 型 と比 較 的 多 い Becker 型 は、「X 連 鎖 劣 性 遺 伝 の筋 ジス」という点 では共
通 するが、前 者 では10歳 くらいまでに歩 行 不 能 になるのに対 して、15歳 になっても歩 行 可 能 な軽
症 群 を Becker 型 と呼 ぶ。
◆現 在 では両 者 とも筋 細 胞 の構 造 維 持 にかかわるジストロフィンの遺 伝 的 変 異 が原 因 であることが分 かってい
る。前 者 は frame shift 変 異 (3塩 基 ずつの読 み枠 がずれたもの)であるのに対 して、後 者 は in frame 変 異 で
あるため、多 少 ともジストロフィンが発 現 することで症 状 が軽 いと考 えられている。
問 題 の3疾 患 について、相 違 点 に注 意 しながらポイントを挙 げていこう。
1)Duchenne
1) Duchenne 型 筋 ジストロフィー
① X 劣 性 遺 伝 疾 患 (→患 者 は男 児 がほとんど)で、筋 ジスの中 で最 も頻 度 が高 い。ジストロフィ
ン蛋 白 の欠 損 による。
13
39
川 井 充 「筋 ジストロフィ」『今 日 の診 断 指 針 第 6 版 』、医 学 書 院 (図 を一 部 改 変 )。
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
② 生 後 数 年 の発 達 はほぼ正 常 だが、3-5 歳 頃 に歩 行 障 害 で発 症 。10 歳 前 後 で歩 行 不 能 に
なり、人 工 呼 吸 器 なしだと 20 歳 前 後 で死 亡 する。
③ 腰 帯 部 など近 位 筋 の障 害 が出 やすく、以 下 のような徴 候 がでる:
(ア) 腓 腹 筋 仮 性 肥 大 :脂 肪 と結 合 組 織 が増 生 し、ふわふわのふくらはぎになる。
(イ) Gowers 徴 候 (登 攀 性 起 立 ):体 幹 の筋 が弱 いので、膝 、腰 に順 に手 をおいて支 えにし、
自 分 に対 してよじ登 るように起 き上 がる(イラストか動 画 を探 して欲 しい)。
(ウ) 動 揺 性 歩 行 :アヒルのように、骨 盤 を左 右 に揺 らしながらよたよた歩 く。
④ 筋 組 織 の破 壊 により、検 査 では血 中 CK、LD、アルドラーゼなどの筋 逸 脱 酵 素 が上 昇 する。
3)福 山 型 先 天 性 筋 ジストロフィー
① 常 染 色 体 劣 性 遺 伝 で、患 者 のほとんどは日 本 人 、国 内 の筋 ジス中 では頻 度 は2番 目 。
fukutin 遺 伝 子 の変 異 による。
② 乳 児 期 から症 状 が出 現 し(floppy infant)、進 行 性 で多 くの場 合 は歩 行 を獲 得 せず、人 工
呼 吸 器 なしだと 10 歳 前 後 で死 亡 。
③ 中 枢 神 経 症 状 を伴 う点 が特 徴 的 。中 〜重 度 の精 神 遅 滞 はほぼ必 発 、約 半 数 にけいれんが
出 る。
④ 血 中 の筋 逸 脱 酵 素 の上 昇 がみられる点 は同 様 。
2)重 症 筋 無 力 症 ( MG)
MG )
① 自 己 免 疫 機 序 によって、アセチルコリン受 容 体 (AChR)に対 する自 己 抗 体 が産 生 され、神 経
筋 接 合 部 (シナプス後 膜 にニコチン性 AChR がある)での神 経 伝 達 が障 害 される。
② 小 児 発 症 は稀 だが、MG 母 親 の出 産 の一 部 で、移 行 抗 体 による新 生 児 一 過 性 型 MG があ
る。
③ 易 疲 労 性 と筋 力 低 下 を主 訴 とし、(1)夕 方 になると増 悪 すること(日 内 変 動 )、(2)外 眼 筋 の
障 害 (眼 瞼 下 垂 ・複 視 など)が好 発 することが特 徴 的 。
④ 筋 自 体 の異 常 ではないので、筋 逸 脱 酵 素 は上 昇 しない。自 己 免 疫 疾 患 なのでステロイドが
有 効 (新 生 児 一 過 性 型 には使 わない)。
問 68
正 常 小 児 が急 に運 動 失 調 をきたした場 合 に考 えるべき疾 患 を述 べよ。
運 動 失 調 ataxia(a+taxia;
lack of order)とは、小 脳 系 の障 害 により、円 滑 な運 動 制 御 のでき
ataxia
ない状 態 を表 す。
運 動 失 調 の患 者 は、「ふらつく」「めまいがする」「歩 く時 に足 が出 にくい」「物 を取 るとき手 がふ
るえる」などと訴 える。この表 現 からは筋 力 低 下 、大 脳 基 底 核 の障 害 、大 脳 の障 害 なども考 えら
れるが、医 師 側 がある程 度 まで診 察 を行 い、小 脳 系 の障 害 を念 頭 においた場 合 に「運 動 失 調 」と
いう用 語 を使 う。
では運 動 失 調 をきたす疾 患 をどのように考 えていくかというと、(1)空 間 的 な分 け方 と(2)時 間
的 な分 け方 がある。
40
(1)解
解 剖 学 的 な分 類 。小
。 脳 系 は、求 心 路 (末 梢 神 経 〜脊 髄 後 索 、および前 庭 迷 路 系 )、小 脳 、
遠 心 路 からなる。そこで運 動 失 調 は、病 変 部 位 から①脊 髄 後 索 性 、②小 脳 性 、③前 庭 迷 路 性 に
分 類 される。
(2)臨
臨 床 経 過 による分 類 。発 症 パターンから下 表 のように分 類 される。
発 症 パターン
特 徴 と主 な疾 患
急性
急 激 に発 症 する場 合 。
急 性 中 毒 、血 管 障 害 、脱 髄 性 疾 患 、前 庭 神 経 炎 、急 性 脳 炎 など。
亜急性
数 週 間 〜数 か月 のオーダーで進 行 する場 合 。
腫 瘍 、慢 性 硬 膜 下 血 腫 、慢 性 中 毒 性 疾 患 、スローウイルス感 染 症 、傍 腫 瘍
症 候 群 、脊 髄 血 管 腫 など。
慢性進行性
1 年 以 上 の時 間 をかけて緩 慢 に進 行 する場 合 。
脊 髄 小 脳 変 性 症 など。
以 上 を参 考 に、「正 常 小 児 」に「急 激 に発 症 する」、「運 動 失 調 が主 症 状 となる疾 患 」を挙 げて
いこう。
疾患名
説明
急性小脳失調症
「急 性 小 脳 炎 」とも呼 ばれる。しばしばウイルスや細 菌 感 染 症 を先 行 し、一
定 期 間 後 に歩 行 障 害 ・体 幹 失 調 ・四 肢 の振 戦 ・構 音 障 害 ・眼 振 などを突
発 する。
幼 児 に好 発 。予 後 は良 好 で、無 治 療 でも多 くの場 合 は2ヶ月 以 内 に治 癒
する。
前庭神経炎
(同 様 に)しばしば感 冒 様 症 状 が先 行 し、強 いめまい、平 衡 障 害 などが出
現 する。症 状 は比 較 的 長 く続 き、難 聴 は伴 わない。
GuillainGuillain - Barre
症 候 群 ( GBS)
GBS )
(これまた)しばしば感 冒 様 症 状 を先 行 し、1〜3週 間 後 に四 肢 の筋 力 低
下 が出 現 する。
とくに Fisher 症 候 群 は GBS の亜 型 であり、筋 力 低 下 は軽 度 だが、眼 球
運 動 麻 痺 ・運 動 失 調 ・深 部 反 射 消 失 (三 徴 )を呈 する。
小 脳 の血 管 障 害
小 児 の脳 梗 塞 や脳 出 血 は、高 血 圧 ・糖 尿 病 ・動 脈 硬 化 のような生 活 習
慣 病 の要 素 は少 なく、血 管 形 成 異 常 (脳 動 静 脈 奇 形 など)・血 液 疾 患
(血 友 病 など)・心 疾 患 ・膠 原 病 ・感 染 症 ・代 謝 疾 患 ・外 傷 などを背 景 とし
て起 こる。
小 脳 のみの障 害 では麻 痺 や意 識 障 害 はみられず、頭 痛 、めまい、嘔 吐 、四
肢 ・体 幹 の運 動 失 調 などの症 状 を呈 する。
中毒性疾患
アルコールによる小 脳 失 調 症 、アミノグリコシド系 抗 菌 薬 (ストレプトマイシ
ンなど)による前 庭 神 経 障 害 など。
Wernicke 脳 症
ビタミン B 1 の欠 乏 によって生 じる急 性 または亜 急 性 の脳 症 で、意 識 障 害 、
眼 球 運 動 障 害 、運 動 失 調 を古 典 的 3 主 徴 とする。アルコール依 存 症 が有 名
だが、極 端 な偏 食 、消 化 器 系 の基 礎 疾 患 による吸 収 不 良 なども考 えられる。
41
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
◆以 上 のリストは、『今 日 の診 断 指 針 第 6 版 14』より「運 動 失 調 」「急 性 」で検 索 し、条 件 を満 たす疾 患 を選 別 し
て(稀 な疾 患 や、多 彩 な症 状 の1つに運 動 失 調 を含 む疾 患 は除 外 した)、再 編 集 して作 成 した。各 疾 患 に簡
単 なコメントを加 えてある。
問 69
小 児 にみられる病 的 な異 常 運 動 のタイプを述 べよ。
「異 常 運 動 abnormal movement」は「不 随 意 運 動 (involuntary movement)」とほぼ同 義
で、本 人 の意 志 と無 関 係 に出 現 する運 動 を総 称 してこう呼 ぶ。神 経 系 の身 体 診 察 では、「舞 踏
様 運 動 、バリズム、アテトーゼ…」など様 々な不 随 意 運 動 が出 てくるが、これらは運 動 の形 態 、周
期 、大 きさなどから臨 床 的 に分 類 されたものである(問 題 文 の「タイプ」はこの意 味 だろう)。
以 下 では、各 タイプの不 随 意 運 動 を、原 因 別 に大 きく「大 脳 基 底 核 の障 害 」と「それ以 外 」に
分 けて整 理 してみよう。
◆ここでは文 章 のみで記 述 していくが、不 随 意 運 動 は外 観 により臨 床 的 に分 類 されているのだから、学 習 者 は、
実 際 の患 者 さんの観 察 や映 像 から学 ぶのが正 しいやり方 だと思 う(神 経 内 科 の診 察 でも、運 動 の様 子 をビデ
オに撮 影 して評 価 することがよくある)。動 画 サイトで検 索 してみることを推 奨 する。画 像 はたとえば「診 察 と手
技 がみえる Vol.1 2 版 」の P.178 などを見 て欲 しい。
(1)
(1 ) 大 脳 基 底 核 の障 害
大 脳 基 底 核 のはたらきを、正 確 さはあまり考 えずおおまかなモデルで説 明 してみよう。ヒトの運
動 機 能 は、ベースとしての「静 止 状 態 」が存 在 し、その上 でコントロールされた「随 意 運 動 」が可
能 になる。随 意 運 動 の実 行 を担 うのが錐 体 路 系 、筋 緊 張 の調 節 などでそのベースとなる静 止 状
態 を作 り出 し、また随 意 運 動 時 に必 要 のない運 動 を抑 制 する役 割 を持 つのが大 脳 基 底 核 であ
る。
大 脳 基 底 核 では、(1)運 動 の抑 制 を亢 進 させる GABA 系 、(2)運 動 の抑 制 を減 弱 させるドパ
ミン系 の2系 統 が拮 抗 的 に作 用 している。大 脳 基 底 核 の障 害 は、障 害 の内 容 により、
GABA 系 が弱 くなると、筋 緊 張 が弱 くなり、激 しい不 随 意 運 動 が出 る(Huntington 病 が典
型 的 )。
ドパミン系 が弱 くなると、筋 緊 張 が強 くなり、無 動 ・固 縮 が出 る(Parkinson 病 が典 型 的 )
というパターンになる。
下 表 の5つの不 随 意 運 動 は、Huntington 病 と Parkinson 病 を両 極 としたスペクトラムとして
捉 えられ、舞 踏 とバリズムは GABA 系 ↓、アテトーゼは混 合 型 、ジストニアと安 静 時 振 戦 はドパミ
ン系 ↓が中 心 となり出 現 する。治 療 についても GABA 系 ↓に対 してはドパミン阻 害 (ハロペリドー
ルなど)、ドパミン系 ↓に対 してはドパミン補 充 (L-DOPA など)によって、2系 統 の拮 抗 を回 復 させ
る戦 略 が基 本 となる。——以 上 は全 体 像 をつかむためのかなり大 雑 把 な議 論 なので、詳 細 は各
論 を調 べてほしい。
14
42
『今 日 の診 断 指 針 第 6 版 』、医 学 書 院 。
タイプ
特徴
代 表 的 な疾 患
舞踏様運動
四 肢 遠 位 部 や顔 面 を中 心 に、左 右 非 対 称 に出 現 。
Huntington 病
突 発 して短 時 間 持 続 する、動 きの早 い不 規 則 な運
動。
バリズム
片 側 の上 肢 や下 肢 を放 り出 すような、激 しい運 動 。
脳 出 血 (視 床 下 核 )
アテトーゼ
主 に四 肢 遠 位 部 にみられる、緩 慢 な筋 緊 張 の変
脳性麻痺
動 。手 指 をくねらせるような、何 かをいじるような動 き
Wilson 病
が典 型 的 。
脳 血 管 障 害 (線 条 体 )
持 続 的 な筋 緊 張 で、しばしば捻 転 性 または反 復 性
脳 血 管 障 害 (被 殻 )
の運 動 や異 常 な姿 勢 を来 す。
Wilson 病
筋 が収 縮 していないときに生 じる、ゆっくりとした動
Parkinson 病
ジストニア
安静時振戦
きの粗 いふるえ。
(2)その他 の障 害
タイプ
特徴
代 表 的 な疾 患
動作時振戦
物 を持 つ、字 を書 くなど動 作 中 にのみ出 現 する振
小脳障害
戦。
本 態 性 振 戦 (原 因 不 明
の振 戦 )
陽 性 ミオクロー
中 枢 神 経 系 の機 能 異 常 で、四 肢 ・顔 面 ・体 幹 に電
しゃっくり(生 理 的 )、神 経
ヌス
撃 的 に生 じる、意 識 消 失 を伴 わない不 随 意 運 動 。
変 性 疾 患 、脳 血 管 障 害 、て
このうち突 発 的 な筋 収 縮 を陽 性 ミオクローヌス、突
んかん、亜 急 性 硬 化 性 全
発 的 な筋 収 縮 の停 止 を陰 性 ミオクローヌスという。
脳炎
陰 性 ミオクロー
アステリシス(固 定 姿 勢 保 持 困 難 )ともいい、羽 ば
肝 性 脳 症 、尿 毒 症 、
ヌス
たき振 戦 はこれに含 まれる。
Wilson 病
チック
限 局 された筋 群 に生 じる、突 発 的 ・急 速 ・反 復 性
緊 張 や心 因 により増 悪 す
の運 動 、発 声 。症 状 はまばたき・しかめ面 、鼻 すす
るが、脳 の器 質 的 障 害 に
り・咳 払 い、地 団 駄 を踏 む、汚 言 など様 々。
よる不 随 意 運 動 と考 えら
れる
43
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
I. 周 産 期 管 理( 問 7070 - 75)
75 )
本 章 では、出 生 前 後 の時 期 の問 題 について、時 間 的 順 序 に沿 って説 明 していこう。
(以 下 の順 で解 説 する:問 72,70,71,73-75)
問 72
か。
胎 児 心 拍 モニタリング中 にみられる一 過 性 徐 脈 のパターンと臨 床 上 重 要 な事 項 とは何
胎 児 心 拍 モニタリングとは、出 生 前 の胎 児 の健 康 状 態 (well-being)を評 価 するために、産 婦
人 科 で行 う検 査 の1つ。
左 上 図 15のように母 親 の腹 部 に陣 痛 計 をつけて、①子 宮 収 縮 圧 と②胎 児 心 拍 数 の 2 つのパラ
メータを一 定 時 間 (40-60 分 )測 定 する。測 定 結 果 を継 時 的 にプロットしたものを胎 児 心 拍 数 陣
痛 図 (CTG; cardiotocogram)といい、子 宮 収 縮 に対 する胎 児 側 の反 応 を評 価 する。
右 上 16に CTG の例 (模 式 図 )を示 す。横 軸 は時 間 (3cm/分 )、縦 軸 は胎 児 心 拍 数 (bpm)と子
宮 収 縮 圧 (mmHg)を表 す。この例 は、母 親 の陣 痛 とともに胎 児 の一 過 性 頻 脈 が出 現 する、正 常
なパターンである。
この検 査 は、最 初 は分 娩 中 の検 査 として開 発 されたが、現 在 では出 産 前 のスクリーニング検
査 として、以 下 の2つの方 法 で行 う。
① NST(
NST ( non stress test)
test ) : 特 にストレス刺 激 を加 えずにモニターする方 法 。妊 娠 経 過 な順 調 な
妊 婦 に対 して、出 産 の直 前 (34-37 週 頃 )に行 う。PIH(妊 娠 高 血 圧 症 )や糖 尿 病 、IUGR(子
宮 内 胎 児 発 育 遅 延 )などのトラブルがある場 合 はより早 い時 期 に行 う。
② CST(contraction stress test):
test) : 人 工 的 に子 宮 収 縮 刺 激 を誘 発 してモニターする方 法 。
NST で判 定 ができない場 合 に実 施 する。
CTG の胎 児 心 音 グラフが、①基 線 が正 常 (110〜160bpm)、②基 線 の細 変 動 が正 常 (6〜
25bpm)、③一 過 性 頻 脈 あり(15bpm 以 上 ,15 秒 以 上 の一 過 性 頻 脈 を 20 分 間 に 2 回 以 上 )、
④一 過 性 徐 脈 なし、以 上 の4条 件 を満 たせば、胎 児 の健 康 状 態 は良 好 だと判 断 する。
15
「病 気 がみえる vol.10 産 科 第 2 版 」、メディックメディア、2009。
16
ttp://www.internethospital.net/fetal-distress.html より
44
異 常 のサインである一 過 性 徐 脈 は、子 宮 収 縮 との時 間 関 係 と徐 脈 の波 形 により、下 図 17の4
パターンに分 類 される。その下 の表 で、各 パターンの波 形 と機 序 、判 定 について整 理 しよう。
徐 脈 パターン
機 序 と臨 床 的 判 断
早発一過性徐脈
子 宮 収 縮 と同 時 に一 過 性 静 脈 が出 現 する。胎 児 の頭 部 が産 道 に圧 迫
され、迷 走 神 経 反 射 により起 こると考 えられており、出 現 しても異 常 とは
判 定 しない。
遅発一過性徐脈
子 宮 収 縮 より遅 れて一 過 性 徐 脈 が出 現 する。子 宮 収 縮 時 、胎 盤 で換 気
不 全 が起 こり、胎 児 の低 酸 素 症 が発 生 した状 態 を示 し、重 症 (頻 発 する
場 合 や基 線 細 変 動 の消 失 を伴 う場 合 )では急 速 遂 娩 の適 応 となる。
◆換 気 不 全 →徐 脈 は不 自 然 に感 じるが、血 中 PO2↓→交 感 神 経 興 奮 →血 圧 ↑
→迷 走 神 経 興 奮 →心 拍 数 ↓、という経 路 でやや遅 れて一 時 的 に徐 脈 になると考
えられている。
◆急 速 遂 娩 (すいべん)は、母 児 に危 険 な状 態 が生 じたとき、帝 王 切 開 、鉗 子 、吸 引
カップなどで直 ちに分 娩 させること。
低 酸 素 症 の原 因 には、①母 体 側 の要 因 (低 血 圧 や貧 血 )、②胎 盤 機 能
不 全 (早 期 剥 離 、妊 娠 中 毒 症 、糖 尿 病 合 併 妊 娠 )、③胎 児 側 の要 因 (別
の原 因 で低 酸 素 血 症 が既 にある)などがある。
(表 は次 ページに続 く)
17
日 本 産 婦 人 科 学 会 研 修 用 資 料 「分 娩 中 の胎 児 心 拍 モニタリング」
ttp://www.jsog.or.jp/activity/kensyu_C.html
45
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
徐 脈 パターン
機 序 と臨 床 的 判 断
変動一過性徐脈
子 宮 収 縮 とずれたタイミングで、さまざまな波 形 の一 過 性 徐 脈 が出 現 する。
羊 水 過 少 症 が原 因 で、臍 帯 圧 迫 により発 生 することが多 い。この場 合 は体
位 変 換 で圧 迫 を解 く。
遅延一過性徐脈
子 宮 収 縮 による徐 脈 が長 く(2〜10 分 )続 く。原 因 は、 過 強 陣 痛 、臍 帯 圧
迫 、臍 帯 脱 出 、母 体 の低 血 圧 (体 位 や硬 膜 外 麻 酔 など)、胎 盤 早 期 剥
離 、子 癇 発 作 などさまざまで、原 因 が解 除 できれば正 常 化 しうるので、急
速 遂 娩 に踏 み切 るかどうかは状 況 により判 断 する。
問 70
出 生 に伴 う適 応 現 象 について、発 達 生 理 学 的 に説 明 せよ。
母 体 内 の胎 児 は羊 水 に浸 かり、胎 盤 を介 して母 親 から酸 素 や栄 養 素 を受 け取 って生 きている。
だが出 生 を迎 えた胎 児 /新 生 児 は外 界 の劇 的 な変 化 に直 面 し、呼 吸 や循 環 などをごく短 期 間
のうちに外 界 に順 応 させる必 要 に迫 られる。ここでは(1)呼 吸 、(2)循 環 、(3)消 化 器 系 の適 応
現 象 をそれぞれみていこう。
(1)呼 吸 の確 立
胎 児 肺 は肺 水 で満 たされており機 能 していないが、サーファクタントは出 生 前 から産 生 されて
いる。分 娩 中 、肺 水 の一 部 は産 道 によって胸 郭 が圧 迫 されて体 外 に排 出 され、残 りは体 内 の血
管 やリンパ管 に吸 収 される。胸 郭 が完 全 に子 宮 外 に出 ると、胸 郭 の弾 性 により肺 に空 気 が流 入
し、第 一 呼 吸 が開 始 される。既 に産 生 されている肺 サーファクタントの存 在 下 で肺 胞 が拡 張 し、
呼 吸 が確 立 する。
◆何 らかの原 因 でサーファクタントが十 分 に産 生 されないず、出 生 直 後 に呼 吸 障 害 が出 現 する疾 患 を 呼 吸 窮 迫
症 候 群 ( respiratory distress syndrome; RDS)
RDS ) という。早 産 児 、低 出 生 体 重 児 に多 い。
(2)
(2 ) 循 環 の確 立
新 生 児 は出 生 後 ただちに、胎 盤 を介 する胎 児 循 環 から、肺 や消 化 管 を使 う新 生 児 循 環 へ移
行 する(問 23)。
(a) 胎 児 の肺 動 脈 は収 縮 しており血 流 はわずかしかない。出 生 前 の胎 児 肺 の血 管 内 皮 細 胞 で
NO 合 成 酵 素 が発 現 し、出 生 と同 時 に NO が産 生 されて肺 動 脈 が拡 張 する。
(b) 肺 呼 吸 の開 始 により P O 2 が上 昇 すると、肺 血 流 が増 加 して左 房 圧 が上 昇 し、それが刺 激 に
なって卵 円 孔 は出 生 後 数 分 で閉 鎖 する。
(c) また P O 2 上 昇 は、動 脈 管 の中 膜 収 縮 と内 膜 変 性 を引 き起 こし、動 脈 管 は出 生 後 約 15 時 間
で閉 鎖 する。臍 帯 動 脈 も同 様 に血 管 収 縮 により閉 鎖 する。
(3)消 化 系 の確 立
乳 汁 摂 取 は、消 化 酵 素 の分 泌 や腸 管 壁 の酵 素 活 性 を上 昇 させ、また消 化 管 蠕 動 を促 す。出
生 時 の消 化 管 は無 菌 だが、空 気 を吸 い込 むことで細 菌 が定 着 し、消 化 管 ガスが産 生 されるよう
になり、24時 間 以 内 に胎 便 がある。
問 71
46
アプガースコアについて説 明 せよ。
アプガースコアは、麻 酔 科 医 の Apgar 先 生 が考 案 した出 生 直 後 の新 生 児 の状 態 評 価 法 で、
下 表 の5項 目 (各 2点 )を生 後 1分 と 5 分 で評 価 する。スコアは 6 点 以 下 で新 生 児 仮 死
(neonatal asphyxia)、3 点 以 下 は重 症 仮 死 とみなし、1 分 値 は蘇 生 方 法 の、5 分 値 は神 経 学
的 予 後 (神 経 系 の後 遺 症 の程 度 )の目 安 になる。
◆asphyxia は a+sphyxia で無 呼 吸 状 態 の意 味 (呼 吸 停 止 後 も心 拍 はしばらく続 く)なので、「仮 死 」という名
称 はどうかという議 論 がある。
病 院 で出 産 すると、多 くの場 合 はスコアを評 価 し母 子 手 帳 に記 入 しておく。小 児 、とくに乳 幼
児 期 の疾 患 は、周 産 期 の異 常 が原 因 で起 こるものが一 定 割 合 で混 じっているので、小 児 診 察 で
は問 診 でスコアを聞 いておくと参 考 になる。
1 分 と 5 分 で測 定 することから推 測 できるように、現 場 ではこれを暗 記 して即 時 に計 算 すること
が求 められる。国 試 でも過 去 にスコアを 1 点 刻 みで計 算 させる問 題 が出 ている(選 択 肢 は 0 点 〜
9 点 の 10 個 だった!)。産 科 ポリクリでも聞 かれるはずなので、このタイミングで覚 えてしまおう。ま
ず項 目 を頭 文 字 「APGAR」で覚 え、あとは1点 の内 容 を覚 えておくとよい(0 点 と2点 の内 容 はだ
いたい予 想 できる)。
項目
2点
1点
0点
Apperance(皮
Apperance (皮 膚 色 )
全 身 ピンク
四 肢 のみチアノーゼ
全 身 チアノーゼ
Pulse(心
Pulse (心 拍 数 )
100/分 以 上
100/分 未 満
なし
Grimace(反
Grimace (反 射 )※
泣 く・くしゃみ
しかめ顔 grimace をする
なし
Respiration(呼
Respiration (呼 吸 )
強 く泣 く
弱 い泣 き声 、不 規 則 な呼 吸
なし
Activity(筋
Activity (筋 緊 張 )
四 肢 を活 発 に動 かす
少 し四 肢 を屈 曲
だらりとしている
※丸 めたティッシュなどで鼻 下 をくすぐる
問 73
新 生 児 にみられる多 血 症 の定 義 と臨 床 症 状 を述 べよ。
*新 生 児 多 血 症 neonatal polycythemia
① 定 義 :生 後 1週 以 内 の静 脈 血 Ht 値 が 65%以 上 。
※過 剰 な輸 血 、脱 水 、測 定 誤 差 による Ht 上 昇 に注 意 する
② 疫 学 :正 期 産 児 に高 頻 度 でみられる(1.5〜4%)。
③ 症 状 :無 症 状 であることも多 いが、肺 、脳 、消 化 管 、四 肢 末 梢 などで酸 素 供 給 が低 下 し
て、呼 吸 障 害 ・けいれん・嘔 吐 ・哺 乳 障 害 ・チアノーゼなどの症 状 が出 る(過 粘 度 症 候
群 )。
④ 治 療 :Ht 値 がかなり高 い or 症 状 がある場 合 は、輸 液 や部 分 交 換 輸 血 により Ht 値 を 60%
未 満 に下 げる。
◆血 液 を遠 心 して血 球 と血 漿 を分 離 したとき、血 球 が占 める比 率 (%)を ヘマトクリット( Ht ) という。成 人 の正
常 値 は M40.2-49.4%、F34.4-45.6%だが、新 生 児 は一 般 にこの範 囲 よりも高 い。
47
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
胎 児 の赤 血 球 は、母 体 とのガス交 換 を効 率 的 に行 うため、(1)酸 素 との結 合 度 が成 人 型 ヘモ
グロビン(HbA; Adlut)より高 い胎 児 型 ヘモグロビン(HbF; Fetus)を発 現 しており、また(2)血 液
中 の赤 血 球 濃 度 も高 い。後 者 のために出 生 直 後 の新 生 児 は生 理 的 に赤 血 球 濃 度 が高 い状 態
にある。赤 血 球 濃 度 はその後 に次 第 に減 少 し、また出 生 後 2〜6 ヶ月 で HbF が HbA に置 き換 わ
る——この仕 組 みは、問 70で扱 った出 生 時 の適 応 現 象 の一 環 である。
つまり新 生 児 の末 梢 血 Ht やヘモグロビン Hb の値 が成 人 よりも高 いことは正 常 なのだが、あま
りに高 すぎると血 液 の粘 稠 度 が上 がり(ドロドロになり)、循 環 障 害 をきたす。これが新
新生児多血
症 である。
問 74
新 生 児 にみられる低 カルシウム血 症 の症 状 および鑑 別 診 断 を述 べよ。
*新 生 児 低 カルシウム血 症
① 定 義 :何 らかの原 因 で、新 生 児 期 に血 清 カルシウム濃 度 が低 下 した状 態 。血 清 Ca 3.5
mEq/dl 以 下 で診 断 できる。
② 疫 学 :全 出 生 児 の 1.2%、ハイリスク児 の約 50%にみられるという報 告 がある。
③ 症 状 :無 症 状 の場 合 がほとんど。哺 乳 力 不 良 ・易 刺 激 性 のような非 特 異 的 症 状 や、心 電
図 上 の QT 延 長 が出 現 する。稀 にテタニー・けいれんなどの明 らかな症 状 が出 る。
④ 治 療 :症 状 がある場 合 は希 釈 したグルコン酸 カルシウムを静 注 (急 速 な注 入 は徐 脈 を招 く
ので、心 電 図 モニターしながらゆっくり投 与 する)
まずは血 中 Ca 濃 度 についての正 常 生 理 をおさえておく。
① 胎 児 期 は、胎 盤 を介 して母 体 から胎 児 への Ca 輸 送 が行 われている。とくに妊 娠 後 期 、胎 児
のサイズ的 な成 長 が著 しい時 期 にこの輸 送 は急 増 し、胎 児 に Ca が蓄 積 されて、出 生 に至
る。
② 出 生 後 の血 中 Ca 濃 度 は、下 表 の3つのホルモンにより調 節 されている。
血 中 Ca
血中 P
↑
↓
活 性 型 ビタミン D 3
↑
↑
小 腸 からの Ca、P 吸 収 を促 進
カルシトニン
↓
↓
骨 吸 収 を抑 制
ホルモン
副 甲 状 腺 ホルモン(PTH
ホルモン( PTH)
PTH )
主 な作 用
骨 吸 収 (破 骨 細 胞 による骨 溶 解 )を促 進
腎 で Ca 再 吸 収 、P 排 泄 を促 進
問 題 文 の「鑑 別 疾 患 」とは、新 生 児 カルシウム血 症 をきたす原 因 疾 患 の鑑 別 のことだと解 釈
する。新 生 児 低 カルシウム血 症 は、(1)生 後 48時 間 以 内 に認 められる「早 発 型 」と、(2)生 後 1週
間 程 度 で発 症 する「晩 発 型 」に、まず分 類 される。各 々について頻 度 の高 い原 因 を述 べていこう。
(1)早 発 型 低 カルシウム血 症
出 生 直 後 の新 生 児 は、母 体 からの Ca 輸 送 が停 止 することで一 過 性 の副 甲 状 腺 機 能 低 下 状
態 となるため、低 カルシウム血 症 のリスクが高 くなる。とくに子 宮 内 の発 育 や出 生 時 に何 か問 題
があったハイリスク児 では、高 い確 率 で早 発 型 低 カルシウム血 症 をきたす。
48
◆下 線 部 の理 由 を説 明 しておく:血 中 Ca 濃 度 と PTH 分 泌 は負 のフィードバック関 係 にある(Ca↑のとき PTH
↓など)。胎 児 期 の副 甲 状 腺 は、母 体 からの高 濃 度 Ca に継 続 的 に曝 され、活 発 に活 動 していない。よって出
生 後 の急 激 な Ca 濃 度 の低 下 に対 して、十 分 な調 節 能 力 を持 たないのである。
主 な原 因
(a) 低 体 重 出 生 児 。胎 児 期 の Ca 蓄 積 が不 十 分 で、また PTH への反 応 が悪 い。
(b) 仮 死 児 。低 酸 素 症 による細 胞 障 害 で細 胞 外 にリンが放 出 されて高 リン血 症 になること、スト
レスに対 してコルチゾールやカルシトニン分 泌 が増 えることによる。
(c) 糖 尿 病 母 体 児 。流 産 、周 産 期 死 亡 、先 天 異 常 の頻 度 が高 い。また新 生 児 は低 血 糖 、低 Ca
血 症 、呼 吸 窮 迫 症 候 群 RDS などさまざまな合 併 症 のリスクがある。
(2)遅
(2) 遅 発 型 低 カルシウム血 症
(1)は未 熟 児 が多 いが、(2)は成 熟 児 に多 い。生 後 の代 謝 異 常 により起 こるので、発 症 まで 1
週 間 ほどかかる。
主 な原 因
(a) 新 生 児 テタニー。母 乳 より高 濃 度 の無 機 リンを含 む人 工 乳 を摂 取 すると、腎 機 能 が低 いた
めに排 泄 されず、高 リン血 症 から低 カルシウム血 症 をきたす。現 在 では人 工 乳 の改 善 により
ほとんど発 生 しない。
(b) 各 種 の副 甲 状 腺 機 能 低 下 症 。
母 体 の副 甲 状 腺 機 能 亢 進 症 。胎 児 期 に高 カルシウム血 症 に曝 露 し、副 甲 状 腺 機 能 低
下 に陥 っている。
遺 伝 性 の副 甲 状 腺 機 能 低 下 症 。DiGeorge 症 候 群 など。
新 生 児 一 過 性 副 甲 状 腺 機 能 低 下 症 。副 甲 状 腺 の原 因 不 明 の一 時 的 な低 形 成 による。
治 療 に対 してよく反 応 し、その後 の経 過 は良 好 。
問 75
母 乳 栄 養 の利 点 および母 乳 栄 養 の禁 忌 を述 べよ。
母 乳 栄 養 とは、離 乳 食 を除 き母 乳 のみで必 要 な栄 養 分 を摂 取 させることをいう。日 本 を含 む
多 くの先 進 国 では、第 2 次 大 戦 後 の 20-30 年 くらいの間 に、ある種 の進 歩 主 義 や科 学 に対 する
楽 観 主 義 的 な風 潮 を背 景 として、急 速 に人 工 乳 が普 及 し、母 乳 栄 養 の割 合 が減 少 した。
現 在 では、母 乳 栄 養 には様 々な利 点 があることが分 かり、医 学 的 には母 乳 栄 養 を第 一 に推 奨
し、WHO のキャンペーンなどの成 果 もあって母 乳 栄 養 が復 権 しつつある。ただし現 在 の人 工 乳 は、
成 分 を母 乳 に近 づける工 夫 や母 乳 で不 足 しがちな成 分 の添 加 などが行 われており、栄 養 学 的 に
はあまり遜 色 ない。
以 下 、母 乳 栄 養 の利 点 と欠 点 、母 乳 栄 養 を行 うべきでない状 況 について順 に述 べていく。
母 乳 栄 養 の利 点
① 母 乳 (とくに出 産 後 数 日 間 の初 乳 )は、IgA、リゾチームやラクトフェリン(抗 菌 物 質 )、リンパ
球 などを豊 富 に含 み、胎 児 の免 疫 能 力 を上 昇 させる。
② 授 乳 行 為 が母 子 の心 理 的 な絆 を強 くする。
49
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
③ 精 神 運 動 発 達 にプラスの影 響 を与 えること、新 生 児 突 然 死 症 候 群 SIDS のほか様 々な疾 患
の発 症 率 を下 げることが、疫 学 的 に示 されている。
母 乳 栄 養 の欠 点
ビタミン K 不 足 による出 血 傾 向 。ビタミン K 依 存 性 凝 固 因 子 の欠 乏 により頭 蓋 内 出 血 をきた
す場 合 がある。予 防 のためすべての新 生 児 に対 し、ビタミン K シロップを3回 (日 齢 0、7、28)投 与
する。
母 乳 栄 養 の禁 忌
① 母 親 が重 篤 な疾 患 にかかっており、授 乳 が困 難 な場 合 。心 不 全 、悪 性 腫 瘍 、コントロール不
良 の糖 尿 病 、腎 不 全 など。
② 母 親 が母 乳 に移 行 する可 能 性 のある薬 物 を投 与 中 の場 合 (精 神 疾 患 、てんかん、
Basedow 病 など)
③ 母 親 が感 染 症 に罹 患 中 で、授 乳 により児 に感 染 する危 険 がある場 合 (急 性 感 染 症 、活 動 性
結 核 、HTLV-1、HIV など)
50
J. ア レ ル ギ ー疾 患 、 呼 吸 器疾 患 ( 問 7676 - 83)
83 )
本 章 では、(1)アレルギー疾 患 、(2)呼 吸 器 系 の感 染 症 を扱 う。
(以 下 の順 で解 説 する:問 76,77,80,81,82,78,79,83)
問 76
食 物 アレルギーによるアナフィラキシーの治 療 法 の概 要 を示 せ。
食 物 アレルギーは、特 定 の食 物 を摂 取 した後 に、皮 膚 、呼 吸 器 、消 化 器 などで異 物 排 出 症 状
(発 疹 、下 痢 、咳 ・くしゃみなど)が出 るもの。代 表 的 なアレルゲンには、卵 ・乳 ・小 麦 ・そば・落 花
生 ・えび・かになどがある(2011 年 現 在 、これらの 7 品 目 は加 工 食 品 に表 示 が義 務 付 けられてい
いる)。
食 物 アレルギーおよび次 問 で扱 う気 管 支 喘 息 の発 症 には、主 にⅠ型 アレルギーが関 与 する。
Ⅰ型 アレルギーの即 時 型 反 応 を簡 単 におさらいしておくと:
① アレルゲンが体 内 に侵 入 し、特 異 的 IgE 抗 体 を誘 導 。
② 全 身 の組 織 に分 布 するマスト細 胞 の表 面 に、IgE 抗 体 が結 合 。
③ 再 度 のアレルゲン侵 入 によりマスト細 胞 が脱 顆 粒 し、ヒスタミンやロイコトリエンなど炎 症 性 メ
ディエーターを放 出 し、周 囲 に炎 症 反 応 を起 こし、右 の囲 みのようなアレルギー症 状 を引 き起
こす。
主 なアレルギー症 状 を右 に示 す。気 管 支
主 なアレルギー症
なアレルギー 症 状
喘 息 は吸 入 アレルゲンにより誘 発 され、症
皮 膚 症 状 :蕁 麻 疹 ・発 赤 ・掻 痒 感 ・湿 疹
状 は呼 吸 器 に限 局 される。いっぽう食 物 ア
粘 膜 症 状 :充 血 ・浮 腫 ・流 涙
レルゲンは血 中 に入 るので、全 身 に症 状 が
呼 吸 器 症 状 :腹 痛 ・下 痢 ・嘔 吐 ・血 便
出 現 する可 能 性 がある。
消 化 器 症 状 :くしゃみ・鼻 水 ・鼻 閉 ・喉 頭 浮
アレルギーが全 身 性 に強 く出 て重 症 化 す
腫 ・咳 嗽 ・喘 鳴 ・呼 吸 困 難
る病 態 をアナフィラキシー
アナフィラキシーと呼
び、発 症 後 は
アナフィラキシー
急 速 に悪 化 し、循 環 不 全 (ショック)や呼 吸 不 全 により致 死 的 になりうる。重 篤 な症 状 は発 症 後
わずか5分 以 内 に起 こることが多 く、この間 の救 急 処 置 が予 後 を左 右 する(”golden five
minutes”)。
アナフィラキシーを疑 うとき、ただちに次 の処 置 を行 う。
*アナフィラキシーへの対 応
① 気 道 を確 保 し、酸 素 投 与 を行 う。バイタルモニターの装 着 。
② アドレナリン(ボスミン®)を筋 注 。反 応 に乏 しい場 合 は、10-15 分 間 隔 をおいて追 加 投 与 。
③ 静 脈 路 を確 保 して輸 液 を開 始 する。抗 ヒスタミン薬 、ステロイドなどを投 与 。
④ 入 院 による経 過 観 察 。
① 救 急 処 置 の ABC(Airway, Breathing,Circulation)に従 い、まず呼 吸 管 理 を行 う。
② 第 一 選 択 薬 であり、呼 吸 器 系 ・循 環 器 系 の両 方 に即 効 性 のあるアドレナリンをすぐに投 与 。
③ 輸 液 により循 環 血 液 量 を確 保 。抗 ヒスタミン薬 、ステロイド、気 管 支 拡 張 薬 など作 用 発 現 に
時 間 がかかる薬 剤 を投 与 。
51
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
④ 即 時 型 アレルギーの症 状 がいったん回 復 したあと、遅 発 型 症 状 により数 時 間 後 に再 び悪 化
することがあるので、入 院 による経 過 観 察 が妥 当 。
問 77
小 児 気 管 支 喘 息 (中 等 症 )の予 防 的 薬 物 療 法 の概 要 を示 せ。
まず簡 単 におさらいしておくと、気
気 管 支 喘 息 asthma とは:
吸 入 アレルゲンに対 するⅠ型 アレルギー反 応 (小 児 に多 い)やその他 の原 因 で、
気 道 の慢 性 炎 症 、気 道 過 敏 性 の亢 進 、部 分 的 に可 逆 的 な気 道 狭 窄 をきたし、
喘 鳴 、呼 吸 困 難 の発 作 を反 復 する疾 患 である。
喘 息 治 療 薬 は、(1)発 作 治 療 薬 (リリーバー)、(2)長 期 管 理 薬 (コントローラー)の2つに分 け
て考 える。
(1) リリーバーは短
時 間 作 用 性 β2 刺 激 薬 吸 入 を基 本 とし、中 等 度 以 上 の発 作 では、酸 素 投 与 、
リリーバー
ステロイド投 与 、テオフィリン投 与 、抗 コリン薬 吸 入 などを適 宜 追 加 する。
(2) コントローラーは吸
入 ステロイドを基 本 し、コントロール不 良 の場 合 に、長 時 間 作 用 性 吸 入 β
コントローラー
2 刺 激 薬 、ロイコトリエン受 容 体 拮 抗 薬 、テオフィリン徐 放 製 剤 などを併 用 する。
気 管 支 喘 息 の重 症 度 は、発 作 の頻 度 や症 状 により
重症度分類
分 類 の目 安
間欠型
症 状 は週 1-2 日
に推 奨 される投 薬 パターンがガイドラインで示 されてい
軽症持続型
症 状 は週 2日 以 上
る 18。
中等度持続型
症 状 は慢 性 的
重症持続型
症 状 が一 日 中 持 続
右 表 のように4段 階 に分 類 される(実 際 の判 定 は発 作
の強 度 や呼 吸 機 能 なども評 価 して行 う)。重 症 度 ごと
18
52
小 児 気 管 支 喘 息 治 療 管 理 ガイドライン、ttp://www.allergy.go.jp/allergy/guideline/01/
設 問 は「中
中 等 度 持 続 型 のリリーバー」と言
い替 えることができる。中 等 度 持 続 型 のリリーバー
のリリーバー
は、中 用 量 の吸 入 ステロイドを基 本 とし、コントロールが不 十 分 な場 合 は以 下 の薬 剤 を1〜複 数
追 加 する。
薬剤
作用機序
ロイコトリエン受 容 体 拮 抗 薬
ロイコトリエンの受 容 体 への結 合 を阻 害 して、気 道 炎 症 と気 管
支 収 縮 を抑 制 する。
DSCG(クロモグリク酸
DSCG (クロモグリク酸 ナトリウム)
マスト細 胞 の膜 を安 定 化 し、脱 顆 粒 を抑 制 。
テオフィリン徐 放 薬
気 道 平 滑 筋 細 胞 内 のホスホジエステラーゼ(PDE)抑 制 作 用
により、細 胞 内 cAMP を増 加 させる機 序 で気 管 支 拡 張 作 用 を
発 揮 する。
問 80 原 因 アレルゲンを決 定 するために用 いるアレルギー検 査 を 4 種 類 挙 げ、その原 理 を簡 潔
に記 せ。
皮 膚 、呼 吸 器 、消 化 器 などにアレルギー症 状 があり、血 液 検 査 で総 IgE 量 や好 酸 球 数 の増 加
がみられる場 合 にアレルギー性 疾 患 を疑 い、アレルゲンの検 索 を行 う。
検 査 は(1)試 験 管 内 で行 うもの(in vitro)と(2)生 体 反 応 を利 用 するもの(in vivo)に分 けら
れ、次 のような種 類 がある。
*アレルギー検 査
Ⅰ型 アレルギー
In vitro:RAST
In vivo:プリックテスト、スクラッチテスト、皮 内 テスト
Ⅳ型 アレルギー
In vivo:パッチテスト
RAST、プリックテスト、スクラッチテスト、皮 内 テストは、いずれもⅠ型 アレルギーの即 時 型 反 応
をみる検 査 である。
RAST 法 (radio(radio - allergosorbent test)
患 者 血 清 中 に既 知 のアレルゲンに対 する IgE 抗 体 が存 在 するかを確 認 する検 査 である。調 べ
たいアレルゲンをペーパーディスクと結 合 し、患 者 血 清 と反 応 させる。それを放 射 性 同 位 体 で標
識 した抗 IgE 抗 体 で検 出 する。
RAST 検 査 は、疑 わしい抗 原 を選 択 し(右 にその
RAST の対 象 となるアレルゲン
候 補 を示 す。13 種 類 まで保 険 適 用 )、結 果 は 0-6 の
スギ、ヒノキ、ハンノキ、ハルガヤ、カモガ
7 段 階 のスコアで示 される。0 は陰 性 、1 は境 界 、2
ヤ、ホソムギ、オオアワガエリ、ブタクサ、
以 上 は陽 性 で数 字 が大 きいほど抗 原 特 異 的 IgE
ヨモギ、ネコ、イヌ、ハムスター、ハウスダ
抗 体 が多 いことを示 す。たとえば「RAST スコア:ス
スト、ヤケヒョウダニ、コナヒョウダニ、カ
ギ 2、ハウスダスト 5」は、スギに対 して少 量 、ハウス
ビなど
ダストに対 して大 量 の IgE が存 在 することを示 し、軽
症 のスギアレルギー、重 症 のハウスダストアレルギーを示 唆 する。
53
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
◆RAST は従 来 最 もよく使 われてきた in vitro の特 異 的 IgE 検 査 だが、現 在 では、(1)複 数 のアレルゲンを同 時
測 定 、(2)測 定 時 間 の短 縮 などの点 でよりメリットがある新 しい方 法 がいくつか出 現 し(RAST 改 良 版 の
CAP-RAST 法 など)、そちらを用 いることが多 い。
プリックテスト、スクラッチテスト、皮 内 反 応
いずれも患 者 皮 膚 の小 さい領 域 にアレルゲン刺 激 を行 い、Ⅰ型 アレルギーの即 時 型 反 応 が出
るかどうかを確 認 する検 査 である。調 べたいアレルゲン液 を用 いて検 査 し(各 種 のアレルゲン液 が
市 販 されている)、一 定 以 上 の大 きさの発 赤 ・膨 疹 が出 現 すれば陽 性 とする。3つの検 査 は、アレ
ルゲン刺 激 の方 法 が異 なる(右 図 19)。
(1) 皮 内 テストは、皮
膚 内 にアレルゲン液 を直
テスト
接 注 射 する。
(2) スクラッチテストは、皮
膚 に針 で 2-3mm の
スクラッチテスト
引 っかき傷 をつけて、アレルゲン液 を1滴 落
とす。
(3) プリックテストは、皮
膚 を針 で刺 して、アレル
プリックテスト
ゲン液 を1滴 落 とす。
(1)は(2)(3)よりも感 度 が高 いが、痛 い、直 接 注 入 するためアナフィラキシーの可 能 性 がある
などのデメリットがあるため、(2)(3)の方 がよく使 われている。
パッチテスト
Ⅳ型 アレルギーの接 触 皮 膚 炎 の原 因 アレルゲンを検 索 するための検 査 である。アレルゲン候
補 物 質 をパッチ(絆 創 膏 のようなもの)で患 者 皮 膚 に貼 り、48 時 間 後 に剥 がして、発 赤 ・丘 疹 ・浮
腫 などを確 認 する。
問 81
小 児 における受 動 喫 煙 のリスクについて述 べよ。
タバコ中 には、依 存 性 の原 因 となるニコチン、酸 欠 をもたらす CO、発 がん性 のあるタールやそ
のほか様 々な有 害 物 質 が含 まれる。小 児 の受 動 喫 煙 (妊 婦 の喫 煙 による胎 児 への曝 露 も含 む)
は、(1)有 害 物 質 は副 流 煙 により多 く含 まれること、(2)体 が小 さく有 害 物 質 の体 内 濃 度 が上 昇
しやすいこと、(3)発 達 過 程 の途 上 にあることなどから、曝 露 により有 害 な影 響 を受 けるリスクは
大 きい。
日 本 小 児 科 学 会 のパンフレット 20から、具 体 的 な悪 影 響 とされる内 容 のうち主 なものを挙 げて
いく。また、特 殊 な疾 患 概 念 である乳 幼 児 突 然 死 症 候 群 (SIDS)についても説 明 しておこう。
19
大 槻 マミ太 郎 「アトピー性 皮 膚 炎 の IgE RAST と皮 内 テスト」『今 日 の皮 膚 疾 患 治 療 指 針 第
3 版 』、医 学 書 院 、2002。
20
54
「タバコから子 どもを守 ろう」
ttp://jpa.umin.jp/download/tabacco/tabacco052.pdf
*妊 婦 の喫 煙 ・受 動 喫 煙 の胎
の 胎 児 への影 響
① 流 産 、早 産 、未 熟 児 、さまざまな奇 形 をきたす確 率 が高 くなる
② 出 生 後 、乳 幼 児 突 然 死 症 候 群 (SIDS)を起 こす確 率 が高 くなる
③ 出 生 後 の発 達 に悪 影 響 がある(低 身 長 、低 体 重 、知 能 の遅 れなど)
④ 小 児 癌 (血 液 腫 瘍 、軟 部 腫 瘍 など)の確 率 が高 くなる
乳 幼 児 突 然 死 症 候 群 (SIDS
( SIDS;
SIDS ; Sudden Infant Death Syndrome)
Syndrome )
① 定 義 は「それまでの健 康 状 態 および既 往 歴 からその死 亡 が予 測 できず、しかも死 亡 状 況 調
査 および解 剖 検 査 によってもその原 因 が同 定 されない、原 則 として 1 歳 未 満 の児 に突 然 の
死 をもたらした症 候 群 」。
② 生 後 2〜5ヶ月 に好 発 。発 症 頻 度 は 0.25/1000 で、0 歳 児 の死 亡 原 因 の第 3 位 を占 める。
③ 哺 乳 後 の睡 眠 中 に、無 呼 吸 ・チアノーゼ・心 肺 停 止 などで発 見 されること多 い。
④ 診 断 は剖 検 と死 亡 状 況 調 査 に基 づいて行 う(剖 検 しないと診 断 できない)。突 然 死 をもたら
す疾 患 、虐 待 ・窒 息 などの外 因 死 を除 外 する必 要 がある。
⑤ SIDS 発 症 のリスク因 子 として、受 動 喫 煙 、非 母 乳 保 育 、うつぶせ寝 、低 出 生 体 重 などが挙
げられる(これらは原 因 ではない点 に注 意 )。
問 82
小 児 における市 中 肺 炎 の原 因 を述 べよ。
肺 炎 pneumonia の基 本
肺 炎 とは、(1)発 熱 があり、(2)鼻 汁 、咽 頭 痛 、咳 嗽 など呼 吸 器 症 状 があり、(3)胸 部 X-P や
CT で新 しく陰 影 が出 現 する、この3点 で定 義 される疾 患 であり、多 くは病 原 微 生 物 の感 染 によ
る肺 実 質 の急 性 炎 症 である。
肺 炎 はまず「市
市 中 肺 炎 /院 内 肺 炎 」に区 別 され、健 常 者 が日 常 生 活 の中 で発 症 するものを市
中 肺 炎 、基 礎 疾 患 がある入 院 中 の患 者 が罹 患 するものを院 内 肺 炎 と呼 ぶ。後 者 は患 者 の易 感
染 性 や耐 性 菌 の存 在 のため、原 因 となる微 生 物 の比 率 が前 者 とはかなり異 なる。
成 人 の肺 炎
比 較 のため、成 人 の肺 炎 の原 因 微 生 物 について要 約 しておこう。
市 中 肺 炎 で最 も多 いのは肺 炎 球 菌 、インフルエンザ菌 で、この 2 つを二 大 原 因 菌 と呼 ぶ。
黄 色 ブドウ球 菌 はいずれにもみられるが、緑 膿 菌 や肺 炎 桿 菌 (Klebsiella pneumoniae)は院
内 肺 炎 で顕 著 に多 い。
市 中 肺 炎 で上 位 を占 めるマイコプラズマ、クラミジア、レジオネラや、ウイルス・真 菌 など細 菌 以
外 の微 生 物 による肺 炎 は、「非 定 型 肺 炎 」と総 称 される。
◆それに対 して一 般 的 な細 菌 による肺 炎 は「定 型 肺 炎 」または「細 菌 性 肺 炎 」と呼 ばれる。この名 称 は、1940 年
代 に細 菌 学 的 検 査 で原 因 菌 が同 定 されない肺 炎 を一 括 してこう呼 んだことに由 来 するが、原 因 菌 やウイルス
が特 定 された現 在 でもこの名 称 が使 われている。
小 児 の市
の市 中 肺 炎
55
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
小 児 は(1)発 達 につれて免 疫 能 や全 身 が順 次 発 達 していく、(2)同 じ年 齢 間 では生 活 が同
質 的 、(3)同 じ年 齢 の小 児 内 で感 染 が広 がることが多 い、以 上 のような理 由 から、小 児 の市 中
肺 炎 は、年 齢 ごとに原 因 微 生 物 に顕 著 なパターンがあることが大 きな特 徴 である。逆 にいえば、
患 者 の年 齢 により原 因 微 生 物 が推 測 できる可 能 性 が高 い。年 齢 別 の主 要 な原 因 微 生 物 を以
下 に整 理 しよう 21。
時期
主 な原 因 微 生 物
生 後 0 - 20 日
B 群 連 鎖 球 菌 、大 腸 菌 など
生 後 3週 -3か月
トラコーマ・クラミジア、RS ウイルス、パラインフルエンザウイルス、肺 炎
球 菌 、百 日 咳 菌 など
生 後 4か月 -4歳
呼 吸 器 ウイルス、肺 炎 球 菌 、インフルエンザ菌 、肺 炎 マイコプラズマな
ど
5歳 -15
- 15 歳
肺 炎 マイコプラズマ、肺 炎 クラミジア、肺 炎 球 菌 など
① 出 生 直 後 の B 群 連 鎖 球 菌 、大 腸 菌 、トラコーマ・クラミジアは、母 体 の消 化 管 や膣 粘 膜 に存
在 し、出 生 時 に産 道 感 染 する。クラミジアは潜 伏 期 間 が少 し長 い。
② 乳 幼 児 期 は呼 吸 器 ウイルス(RSV、インフルエンザ、パラインフルエンザ、アデノなど)による
肺 炎 が多 い。
③ 年 齢 が上 がるほどマイコプラズマ、クラミジアによる非 定 型 肺 炎 が増 加 し、とくに小 学 生 以 上
ではマイコプラズマ肺 炎 が圧 倒 的 に多 い。これらは緩 徐 に発 症 し、炎 症 所 見 が乏 しい点 が特
徴 的 (非 定 型 肺 炎 )。なおマイコプラズマ肺 炎 は小 児 〜若 年 者 の患 者 が非 常 に多 く、いっぽ
うクラミジア肺 炎 は小 児 〜成 人 の全 年 齢 にみられる common な起 炎 菌 である。
④ 肺 炎 球 菌 、インフルエンザ菌 など一 般 細 菌 による肺 炎 は各 年 齢 層 でみられ、頻 度 は低 いが
一 般 に症 状 は重 い。
以 上 は、髄 膜 炎 の年 齢 別 起 炎 菌 (要 暗 記 !)と比 較 すると理 解 しやすい——というのは肺 炎 と髄 膜 炎 のリスク
は、互 いに重 なり合 うからである。髄 膜 炎 の起 炎 菌 として多 いのは、新 生 児 では B 群 レンサ球 菌 と大 腸 菌 、乳
幼 児 期 は肺 炎 球 菌 とインフルエンザ菌 、6歳 以 上 は肺 炎 球 菌 と髄 膜 炎 菌 である。
問 78
仮 性 クループの特 徴 的 な症 状 とその原 因 を列 挙 せよ。
上 気 道 (とくに喉 頭 )の急 激 な狭 窄 ないし閉 塞 により、嗄 声 や犬 吠 様 咳 (吸 気 性 呼 吸 困 難 )を
きたす疾 患 を総 称 して、クループ
クループ croup と呼 ぶ。
◆犬 吠 様 咳 (けんばいようせき)は、咳 が声 帯 を振 動 させることで起 こる、犬 が吠 えるような甲 高 い金 属 音 に類 似
して聞 こえる咳 。
かつてはジフテリア(ジフテリア菌 による急 性 喉 頭 炎 で、特 徴 的 な偽 膜 形 成 をみとめる)による
クループが多 く、ジフテリアを真 性 クループ、それ以 外 の原 因 のものを仮 性 クループとしていた。だ
が現 在 では DPT ワクチンによりジフテリアが激 減 したため、クループといえばほぼ仮 性 クループを
指 す。仮 性 クループの主 な疾 患 と原 因 、好 発 年 齢 を下 表 にまとめよう。
21
56
山 崎 勉 「小 児 の肺 炎 」『今 日 の治 療 指 針 2009 年 版 』、医 学 書 院 、2009 を要 約 した。
疾患
特徴
①急 性 喉 頭 気 管 気
主 のかぜ症 候 群 ウイルス(パラインフル、アデノなど)の感 染 により、喉
管支炎
頭 〜気 管 〜気 管 支 に炎 症 、腫 脹 をきたす。3歳 以 下 の乳 幼 児 に多 い。
②痙 性 クループ
ウイルス感 染 やアレルギーなどが原 因 で、痙 性 (≒発 作 性 ・反 復 性 )の
喉 頭 浮 腫 が主 に夜 間 に起 こる。3歳 以 下 の乳 幼 児 に多 い。
③急 性 喉 頭 蓋 炎
インフルエンザ桿 菌 b 型 (Hib)により喉 頭 蓋 が腫 脹 し、嚥 下 痛 、呼 吸
困 難 をきたす。成 人 に多 く小 児 では稀 。
臨 床 的 には③と①②の鑑 別 が重 要 で、③は急 速 に進 行 して窒 息 するリスクがあるため、即 刻
入 院 させて抗 菌 薬 投 与 を行 う。「喉 頭 蓋 の腫 脹 」から推 測 できるように、嚥 下 痛 ・嚥 下 困 難 が特
徴 的 で、嗄 声 はきたしにくい。①②は喘 息 に似 た病 態 で、一 般 に③よりも症 状 は軽 い。基 本 治 療
は気 道 への加 湿 ・水 分 補 給 ・安 静 であり、呼 吸 困 難 が強 い場 合 にはステロイドを用 いる(③にス
テロイドは無 効 )。
問 79
マイコプラズマ肺 炎 の診 断 法 と治 療 法 について記 せ。
マイコプラズマ(本 問 )、クラミジア(問 83)、およびリケッチアの3種 は、一 般 細 菌 とは異 なる特
徴 を持 つため、「非 定 型 細 菌 」と総 称 される。
マイコプラズマは菌 体 が極 めて小 さく、細 胞 璧 を持 たない特 殊 な細 菌 で、環 境 中 に広 く存 在 す
る。ヒトに対 して病 原 性 を持 つ Mycoplasma pneumoniae による肺 炎 は、健 康 な小 児 〜若 年 者
の肺 炎 では圧 倒 的 に頻 度 が高 く、必 ず鑑 別 に入 れる。
診 断 には、まず次 のような所 見 から非 定 型 肺 炎 を疑 う。
非 定 型 肺 炎 にみられる所 見
① 緩 徐 に発 症 し、発 熱 、乾 性 咳 嗽 が症 状 の中 心 。
② 炎 症 所 見 に乏 しく、血 液 検 査 所 見 では、白 血 球 や CRP 上 昇 は軽 度 。
③ 胸 部 X-P では間 質 性 陰 影 を示 すことが多 い。
次 に、患 者 の年 齢 や症 状 から疑 われる病 原 微 生 物 を特 定 する検 査 を行 う。診 断 と治 療 を下 に
まとめよう。
* マイコプラズマ肺 炎 の診 断
① 抗 体 価 の上 昇 :急 性 期 と回 復 期 のペア血 清 を用 いて、特 異 抗 体 価 が4倍 以 上 の上
昇 を示 す。
② 咽 頭 ぬぐい液 を PPLO 培 地 で培 養 し、M.pneumoniae を分 離 。
寒 天 培 地 では発 育 しない。喀 痰 からは検 出 できないことが多 い。
③ 特 異 遺 伝 子 検 出 :PCR などで咽 頭 スワブ検 体 から M.pneumoniae の遺 伝 子 の存 在
を証 明 する。
57
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
* マイコプラズマ肺 炎 の治 療
Mycoplasma 属 は他 の多 くの細 菌 と異 なり細 胞 壁 を持 たないため、細 胞 壁 に作 用 す
るβラクタム系 は無 効 。マクロライド系 ,テトラサイクリン系 (リボソームでのタンパク合 成
を阻 害 )、一 部 のニューキノロン系 (核 酸 合 成 を阻 害 )が有 効 。
マクロライド系 が第 一 選 択 (∵マクロライド系 はマイコプラズマに対 する抗 菌 活 性 が強
く、また他 の2系 統 より抗 菌 スペクトルが狭 い)。ただし一 部 の野 生 株 はマクロライド耐
性 を持 つ。
問 83
乳 児 のクラミジア肺 炎 の診 断 法 と臨 床 的 特 徴 を述 べよ。
下 表 に、クラミジア属 の主 な種 類 と疾 患 を整 理 する。問 82で扱 った全 年 齢 で市 中 肺 炎 の
common な起 炎 菌 となるのは C. pneumoniae であり、本 問 で扱 うのは C. trachomatis である。
種名
主 な疾 患
Chlamydia trachomatis
性 器 クラミジア、トラコーマ(封 入 体 結 膜 炎 )、新 生 児 クラミ
ジア肺 炎
Chlamydophila pneumoniae
肺 炎 クラミジア
Chlamydophila psittaci
オウム病
クラミジア属 は、細 胞 内 で封 入 体 を作 りそこでのみ増 殖 するという特 殊 な性 質 を持 つ(偏 性 細
胞 内 寄 生 細 菌 )。この点 と関 連 して、クラミジア感 染 症 は一 般 細 菌 のそれと比 べて、(1)増 殖 が
緩 徐 で、(2)感 染 しても症 状 に乏 しく、(3)慢 性 化 し、放 置 すると深 刻 な事 態 になることがある、と
いう点 に特 徴 がある(たとえば淋 病 と性 器 クラミジアの違 い、細 菌 性 肺 炎 と非 定 型 肺 炎 の違
い)。
C. trachomatis はかつてトラコーマ(封 入 体 結 膜 炎 )の原 因 菌 として発 見 されたのでこの名 前
があるが、現 在 では性 器 クラミジアの原 因 菌 として重 要 である。C. trachomatis による性 器 クラミ
ジアは、性 感 染 症 の中 では最 も頻 度 が高 く、かつ近 年 増 加 傾 向 にある。特 に女 性 の性 器 クラミ
ジアは感 染 しても症 状 が軽 微 で、気 付 かれないまま放 置 されることも多 い。C. trachomatis のキ
ャリアである母 親 から新 生 児 へと産 道 感 染 すると、封 入 体 結 膜 炎 (生 後 1ヶ月 までに発 症 )や新
生 児 クラミジア肺 炎 (生 後 1〜3ヶ月 で発 症 )を発 症 する。
* 新 生 児 クラミジア肺 炎 の臨 床 的 特 徴
(1)遷 延 性 で発 熱 はなく、(2)多 呼 吸 を伴 い、(3)百 日 咳 様 のしつこい咳 嗽 が出 て、(4)
胸 部 X 線 では両 側 にびまん性 の間 質 性 肺 炎 像 (すりガラス陰 影 など)がみられる
* 新 生 児 クラミジア肺 炎 の診 断
(1)迅 速 抗 原 キットや PCR で病 原 菌 の抗 原 や DNA を検 出 するか、または(2)ELIZA によ
り血 中 抗 体 価 (IgM、IgA、IgG)を測 定 する。
58
◆「新 生 児 クラミジア肺 炎 」「乳 児 クラミジア肺 炎 」の両 方 の呼 称 をみかけるが、出 産 時 に感 染 していることを考
えると、前 者 の方 が分 かりやすいと思 う。
新 生 児 クラミジア肺 炎 は、肺 炎 として特 徴 的 な臨 床 像 を持 つ。上 記 のような症 状 が出 現 したら
この疾 患 を疑 い、クラミジアの存 在 を検 査 により証 明 して確 定 診 断 する。治 療 は、マイコプラズマ
と同 様 にβラクタム系 は無 効 で、マクロライド系 、テトラサイクリン系 、ニューキノロン系 の抗 生 物
質 を用 いる。
◆以 上 の臨 床 的 特 徴 は、「偏 性 細 胞 内 寄 生 細 菌 」と関 連 付 けて理 解 することができるかもしれない。クラミジア
菌 は気 道 壁 の細 胞 に侵 入 後 、封 入 体 を作 って増 殖 し、宿 主 細 胞 を破 壊 して周 囲 の細 胞 に感 染 を広 げる。菌
は細 胞 内 にいるから、咳 をしても排 出 されにくく、また免 疫 細 胞 の攻 撃 を受 けにくい。間 欠 的 に病 原 菌 と細 胞
破 壊 が生 じ るの で、免 疫 系 は い わば <終 わ りな きも ぐ らたた き> <対 ゲリ ラ長 期 戦 >の ような 状 況 に直 面 す る。
そこで熱 はあまり上 昇 せず、症 状 は遷 延 する——と、このように考 えることができる。
59
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
K. 染 色 体 異 常 症 、そ の 他 の多発 奇 形 症 候群 、早 老 症( 問 8484 - 90)
90 )
(以 下 の順 で解 説 する:問 84,87,85,86,89,90,88)
*本 章 で扱 う疾 患
① 染 色 体 異 常 による多 発 奇 形 症 候 群
(a) 常 染 色 体 の数 的 異 常 :21 トリソミー(ダウン症 )、18 トリソミー
(b) 性 染 色 体 の数 的 異 常 :Kleinfelter 症 候 群 、Turner 症 候 群 、トリプル X 症 候 群
(c) 常 染 色 体 の構 造 異 常 :CATCH22
② 単 一 遺 伝 子 の変 異 による多 発 奇 形 症 候 群 :Noonan 症 候 群
③ 早老症
ヒトは通 常 23×2本 の染 色 体 を持 ち、合 計 で2.5万 程 度 の遺 伝 子 をコードされている。たった1
つの遺 伝 子 の欠 損 でも個 体 が生 存 できないことも多 くあるから、まして染 色 体 が1本 多 い、1本 少
ない、半 分 欠 けているなどの大 きな異 常 があれば、多 くの場 合 は発 生 途 中 で停 止 してしまい、出
生 まで辿 りつけない。
染 色 体 異 常 は大 きく「数 的 異 常 」と「構 造 異 常 」に分 かれる。
常 染 色 体 の数 的 異 常 のうち、出 生 可 能 なのは 21,18,13 トリソミーのみであり、大 小 の多 くの
奇 形 が出 現 し(多 発 奇 形 症 候 群 )、また様 々な合 併 症 を伴 う。いっぽう性 染 色 体 の数 的 異 常
は、性 機 能 の異 常 を除 くと概 して軽 症 だが、問 86 で扱 う lyonization はその理 由 の一 端 を
説 明 する。
染 色 体 の「構 造 異 常 」は、具 体 的 には転 座 や欠 失 など、染 色 体 レベルの構 造 の異 常 を指 す。
たとえ染 色 体 の小 さな部 分 の構 造 異 常 だとしても多 数 の遺 伝 子 発 現 に関 与 するため、やは
りさまざまな異 常 が出 現 することが多 い。本 症 ではその例 として CATCH22 症 候 群 を扱 う。
また、染 色 体 は正 常 だが、単 一 遺 伝 子 の変 異 により多 発 奇 形 症 候 群 を呈 する場 合 もある。本
章 ではその例 として Noonan 症 候 群 を扱 う。
カテゴリーとして少 しずれるが、通 常 よりも早 期 に老 化 症 状 が出 現 する「早 老 症 」と総 称 される
一 連 の稀 な疾 患 を、本 章 の最 後 で扱 う。中 でも出 生 時 にすでに老 化 症 状 が出 ている
Wiedemann-Rautenstrauch 症 候 群 は、一 種 の多 発 奇 形 症 候 群 とも捉 えられるだろう。
問 84
ダウン症 にみられる合 併 症 を列 記 せよ。
*ダウン症 候 群 Down syndrome
21 トリソミーにより、精 神 遅 滞 、特 異 的 顔 貌 、多 発 奇 形 を呈 する。
頻 度 1/1000、平 均 寿 命 は 50 歳 前 後
合併症
心 奇 形 (VSD、ECD、TOF など)
消 化 管 (十 二 指 腸 狭 窄 、Hirschsprung 病 、鎖 肛 など)
点 頭 てんかん、眼 科 的 異 常 (白 内 障 、屈 折 異 常 )、難 聴 、甲 状 腺 機 能 異 常 (亢 進 or 低
下 )、白 血 病 (とくに ALL)など
60
(ほとんどの場 合 )21 番 染 色 体 のトリソミーによって生 じ
る染 色 体 異 常 症 である。頻 度 は 1/1000 で、染 色 体 異 常 症
では最 も多 い。
精 神 遅 滞 、特 徴 的 な顔 貌 (右 図 参 照 、短 頭 、扁 平 な顔 、
つり目 、鞍 鼻 など 22)やさまざまな奇 形 を呈 し、また多 くの合
併 症 を伴 うが、医 学 的 管 理 の進 歩 により平 均 寿 命 は 50 歳
前 後 にまで伸 びている。
合 併 症 について
① 約 半 数 の患 者 に心 奇 形 がみられる。心 室 中 隔 欠 損 症 (VSD)、心 内 膜 床 欠 損 症 (ECD)、フ
ァロー四 徴 症 (TOF)が多 く、重 症 度 によって予 後 が左 右 される。
② 次 いで消 化 管 奇 形 が多 く、十 二 指 腸 狭 窄 、Hirschsprung 病 (肛 門 側 腸 管 を支 配 する末 梢
神 経 の欠 損 )、鎖 肛 (腸 管 が肛 門 付 近 で閉 鎖 )などをきたす。出 生 後 早 期 に外 科 的 治 療 を
行 うことが多 い。
③ その他 にも、成 長 する過 程 で脳 ・眼 ・耳 や内 分 泌 など多 数 の合 併 症 が出 現 する。また白 血 病
の発 生 リスクが非 常 に大 きく、一 般 小 児 の 15-20 倍 といわれる。
問 87
トリソミー18 の特 徴 的 臨 床 症 状 について述 べよ。
* 18 トリソミー(Edwards
トリソミー( Edwards syndrome)
syndrome )
18 トリソミーによる多 発 奇 形 症 候 群
頻 度 1/3000-6000、女 児 が多 い(1:3)、90%以 上 は1歳 時 までに死 亡
臨床像
出 生 前 後 の重 度 の発 達 遅 滞 、特 徴 的 な顔 貌 や四 肢 の少 奇 形 を呈 する。
先 天 性 心 疾 患 (VSD、PDA など)はほぼ必 発 。
減 数 分 裂 時 の染 色 体 不 分 離 に起 因 する 18 トリソミーにより生 じる多 発 奇 形 症 候 群 である。
多 くは死 産 で、出 生 例 も非 常 に予 後 が悪 い(約 半 数 は 1 ヶ月 以 内 に死 亡 、2歳 を超 える例 はほと
んどない)。以 下 に臨 床 上 の特 徴 を列 挙 する。
① 胎 内 では羊 水 過 多 や単 一 臍 動 脈 があり、子 宮 内 発 育 遅 滞 (IUGR)が多 い。出 生 後 の発 達
遅 滞 も顕 著 である。
② 外 見 のうち、特
特 徴 的 な顔 貌 (後 頭 部 突 出 、華 奢 な顔 立 ち、眼 間 隔 離 、耳 介 低 位 など)、手 指
の関 節 拘 縮 による指
指 の重 なり(手
を握 ったままになる)などが、診 断 の上 で重 要 になる。
なり
③ VSD や PDA など先 天 性 心 疾 患 をほぼ必 発 する。
◆複 数 の教 科 書 を参 照 したが、特 徴 的 な顔 貌 として何 を挙 げるかは、教 科 書 によりかなり多 様 だった。おそらく臨
床 医 は、画 像 や症 例 を多 数 経 験 する中 で「こういう顔 が 18 トリソミーなのか」と感 覚 的 につかみ、カルテには
「x,y,z など 18 トリソミーに特 徴 的 な顔 貌 を示 す」などと記 載 するのだろう。x,y,z…として挙 げる外 見 上 の特 徴
をどう抽 出 するかは、医 師 や病 院 ごとにかなり幅 や多 様 性 が存 在 するが、それでも実 用 上 は問 題 ない——余 談
22
61
医 学 大 辞 典 第 2 版 「21 トリソミー」の項 。
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
だがウィトゲンシュタインのいう「家 族 的 類 似 性 」とは、まさにこうした事 態 である。そこで学 習 者 は、無 理 に言 葉
を覚 えようとせず、 Google イメージ検 索 などで顔 写 真 をいくつか眺 めてイメージをつかみ、自 分 にとって分 かり
やすい2,3の特 徴 を画 像 から引 き出 せるようにしておく、といったやり方 が実 用 的 だろう。
問 85
性 染 色 体 異 常 症 の 3 疾 患 を挙 げ、それぞれについて簡 単 に述 べよ。
疾患
特徴
Klinefelter 症 候 群
頻 度 は 1/1000-2000。
( 47XXY など)
矮 小 精 巣 (不 妊 )、細 身 ・高 身 長 、女 性 化 乳 房 などを呈 する。
Turner 症 候 群
頻 度 は 1/2000-3000。
( 45XO など)
無 月 経 (不 妊 )、低 身 長 、翼 状 頚 、外 反 肘 、リンパ浮 腫 など特 徴 的 な
奇 形 を呈 する。
トリプル X 症 候 群
頻 度 は 1/1000-2000。性 機 能 を含 めとくに異 常 がない場 合 が多 く、妊
( 47XXX)
47XXX )
娠 ・出 産 例 もある。軽 度 の奇 形 、発 達 障 害 、性 機 能 障 害 を呈 すること
がある。
性 染 色 体 の数 または構 造 の異 常 を、性
性 染 色 体 異 常 症 という。常 染 色 体 異 常 と比 較 すると奇
形 、発 達 障 害 、合 併 症 は概 して軽 度 で、性 機 能 障 害 が中 心 である。上 表 ではいずれも染 色 体 数
の異 常 を挙 げたが、「染 色 体 の構 造 異 常 による軽 度 の Turner 症 候 群 」なども存 在 する。
Klinefelter 症 候 群 と Turner 症 候 群 はいずれも染 色 体 数 の異 常 で、両 者 を対 照 的 に捉 える
と分 かりやすい。一 言 でいうと前 者 は「男 性 的 特 徴 を欠 如 した男 性 」で、後 者 は「女 性 的 特
徴 を欠 如 した女 性 」である。前 者 は高 身 長 ・細 身 ・中 性 的 であり、不 妊 を除 くとほぼ健 常 者 に
みえる(むしろある種 のイケメンかもしれない)。後 者 は無 月 経 と低 身 長 (無 治 療 だと 140cm
程 度 )が必 発 で、骨 格 奇 形 やリンパ浮 腫 などにより特 徴 的 な外 見 になる。予 後 は良 いが、成
人 になると自 己 免 疫 疾 患 や2型 糖 尿 病 などの合 併 症 が多 くなる。
トリプル X 症 候 群 (XXX
二 者 よりも軽 症 。軽 度 の奇 形 や発 達 障 害 があって不 妊
( XXX 症 候 群 )は前
)
になることもあるが、気 づかないまま妊 娠 ・出 産 して一 生 をすごす例 もある。頻 度 はかなり低 く
なるが XXXX 症 候 群 や XXXXX 症 候 群 も存 在 し、X が多 くなるほど奇 形 や発 達 障 害 が強 く
なる。
問 86
Lyon の仮 説 について述 べよ。
* Lyonization
哺 乳 類 の雌 の2本 の X 染 色 体 のうち 1 本 が、遺 伝 子 発 現 量 の補 正 のために、胎 生 初 期 に
ランダムで不 活 性 化 される現 象 。
哺 乳 類 の雌 は XX、雄 は XY の性 染 色 体 を持 つ。Y 染 色 体 はごく小 型 で遺 伝 情 報 はわずかだ
が、X 染 色 体 は性 機 能 に関 与 しない複 数 の遺 伝 子 が多 数 存 在 するので、雌 雄 で X 染 色 体 上 の
遺 伝 子 の発 現 量 が大 きく異 なるのは生 物 として問 題 である。
62
イギリスの遺 伝 学 者 Mary Lyon は 1961 年 、この問 題 について以 下 のような現 象 により、遺 伝
子 発 現 量 が補 償 されているとする仮 説 を示 した:
* Lyon の仮 説 (X
(X 染 色 体 不 活 性 化 )
① 哺 乳 類 の雌 の2本 の X 染 色 体 のうち1本 は発 生 途 中 で不 活 性 化 される。
② 不 活 性 化 は胎 生 初 期 に起 こり、父 由 来 /母 由 来 のどちらの X 染 色 が不 活 性 化 されるか
はランダムで決 定 される。
③ その以 降 の体 細 胞 分 裂 ではこの決 定 が引 き継 がれるので、成 体 の全 身 の細 胞 は、X 不
活 性 化 ついてモザイク状 の分 布 をなす。
現 在 ではこの仮 説 がほぼ正 確 であったことが確 認 され、X 染 色 体 不 活 性 化 の分 子 機 序 が明
らかにされつつある。この点 は遺 伝 学 の資 料 (2009)でも述 べたが、X 染 色 体 上 の xist 遺 伝 子 か
ら non coding RNA が転 写 され、RNA 干 渉 が関 与 する機 序 により X 染 色 体 がヘテロクロマチン
化 する、という機 序 が考 えられている。
X 不 活 性 化 の例 として三
三 毛 猫 が有 名 である(三 毛 が出 現 するのは、ほぼ雌 に限 られる)。ヒトで
は、Duchenne 型 筋 ジストロフィーや血 友 病 などの XR(伴 性 劣 性 遺 伝 )の疾 患 で、ヘテロの遺 伝
子 型 を持 つ女 性 が不 活 性 化 の偏 りにより軽 症 で発 症 することが知 られている。
問 85 では「XXY」「XO」などの染 色 体 異 常 による疾 患 を扱 ったが、ここで疑 問 なのは「X 不 活
性 化 を考 慮 すれば、XXY の遺 伝 子 発 現 量 は XY と、XO は XX と同 じであり、これらの染 色 体 異
常 で症 状 が出 るのは変 ではないか」という点 である。
この疑 問 に対 する解 答 は「X 染 色 体 上 に、X 不 活 性 化 を免 れる領 域 があるから」である。X 染
色 体 上 には、擬
擬 似 常 染 色 体 領 域 (pseudoautosomal
( pseudoautosomal region;
region ; PR)
PR ) と呼 ばれる、不 活 性 化 を受
けない領 域 がある。この領 域 の遺 伝 子 発 現 量 が健 常 者 と異 なることで、XXY や XO に特 有 の症
状 がでると考 えられる。逆 に、染 色 体 数 の異 常 といっても遺 伝 子 発 現 量 が異 なるのはこの領 域 だ
けなので、この点 も、XXY や XO が常 染 色 体 の数 的 異 常 に比 べるとかなり軽 症 である理 由 の1つ
になっていると考 えられる。
なお、この領 域 には Y 染 色 体 と共 通 した配 列 が含 まれており、Y 染 色 体 と共 通 する複 数 の遺
伝 子 がコードされている。下 の概 念 図 を示 すように、この領 域 では XY、XX とも2本 分 の遺 伝 子 が
発 現 することになる。結 局 、
① X 不活性化
② X、Y で共 通 配 列 を持 つ擬 似 染 色 体 領 域 は X 不 活 性 化 を免 れる
——この両 方 の機 序 によって、XY と XX の間 で遺 伝 子 発 現 量 が同 程 度 になるように調 節 されて
いるのである。
X
PR
X
PR
Y
PR相同配列
X
PR
63
(不活性化)
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
問 89
解答解説
Noonans 症 候 群 と Turner 症 候 群 の類 似 点 と相 違 点 について述 べよ。
* Noonan 症 候 群
性 腺 形 成 異 常 、低 身 長 、翼 状 頚 、外 反 肘 など Turner 症 候 群 と同 様 の症 状 を示 すが、染 色
体 異 常 を認 めない。男 性 患 者 が存 在 する。先 天 性 心 疾 患 の合 併 (とくに右 心 系 )が多 い。
Noonan syndrome(こちらの表 記 が一 般 的 )は、誤 解 を恐 れず一 言 でいえば「染 色 体 異 常 の
ない Turner 症 候 群 」である。Turner 症 候 群 のような染 色 体 異 常 を認 めず、原 因 の多 くは単 一
遺 伝 子 の突 然 変 異 で、PTPN11(50%)、SOS1(20%)などが責 任 遺 伝 子 として知 られている。
類似点
性腺形成異常
翼 状 頚 …頚 の周 囲 の皮 膚 のたるみ。
外 反 肘 …上 肢 下 垂 位 で肘 関 節 伸 展 ・前 腕 回 外 位 としたとき(手 を下 げて手 のひらを前 に向
けたとき)、肘 関 節 が外 側 に曲 がっている。
手 甲 や足 甲 に顕 著 なリンパ浮 腫 がある。
◆本 症 では、リンパ管 本 幹 の低 形 成 によるリンパうっ滞 が全 身 でみられる。翼 状 頚 とリンパ浮 腫 がこれで説 明 さ
れる他 に、外 反 肘 や下 記 の肺 動 脈 狭 窄 症 も、胎 生 期 のリンパうっ滞 による圧 迫 が原 因 の1つと考 えられてい
る。
相違点
Noonan では男 性 患 者 が存 在 し、停 留 精 巣 、小 陰 茎 などを呈 する。
Turner では大 動 脈 狭 窄 症 など左 心 系 の異 常 が多 く、Noonan では肺 動 脈 狭 窄 症 など右 心
系 の異 常 が多 い。
問 90
CATCH22にみられる特 徴 を述 べよ。
* CATCH22 症 候 群
22 番 染 色 体 q11.2 の欠 失
5 つの主 要 症 状 :
① 心 血 管 異 常 (cardiac defects):TOF、VSD、大 動 脈 離 断 など
② 特 有 の顔 貌 (abnormal facies)
③ 胸 腺 低 形 成 (thymic hypoplasia):Digeorge 症 候 群 による T 細 胞 の機 能 不 全
④ 口 蓋 裂 (cleft palate)
⑤ 低 カルシウム血 症 (hypocalcemia):副 甲 状 腺 機 能 低 下 症
以 前 から<①〜⑤の先 天 的 異 常 が重 複 することが多 い>ことが経 験 的 に知 られていたが、重
複 患 者 の遺 伝 子 検 索 を行 ったところ、22 番 染 色 体 の q11.2 領 域 に微 細 欠 失 が高 い確 率 で
みられることが判 明 。主 要 症 状 の頭 文 字 と染 色 体 番 号 をとって「CATCH22 症 候 群 」と呼 ば
れるようになった。
64
第 3・第 4 鰓 弓 に由 来 する構 造 物 を中 心 に、複 数 の奇 形 や臓 器 障 害 をきたす。
心 奇 形 ではファロー四 徴 症 、心 室 中 隔 欠 損 症 、大 動 脈 離 断 など、動 脈 幹 (大 動 脈 と肺 動 脈
が分 かれる前 の1本 の大 血 管 )が発 生 する過 程 での異 常 が多 い。
*(参
*( 参 考 ) 第 3・第 4 鰓 弓 に由 来 する構 造 物
咽頭弓
筋
骨格
神経
その他
第 3 咽頭弓
茎突咽頭筋
舌骨大角, 舌骨
舌 咽 神 経 (IX)
胸腺, 副甲
体下部
第 4 咽頭弓
状腺
輪状甲状筋, 口蓋
甲状軟骨, 喉頭
迷 走 神 経 (X)の上 喉
帆挙筋, 咽頭収縮
蓋軟骨
頭神経枝
副甲状腺
筋, 喉頭内在筋
問 88
加 齢 症 状 を呈 する症 候 群 にはどのようなものがあるか。
*早 老 症 premature senility
(1) Wiedemann-Rautenstrauch 症 候 群
(出 生 時 に既 に発 症 )
(2) Hutchinson-Gilford 症 候 群
(1〜2歳 で発 症 )
(3) Werner 症 候 群
(思 春 期 以 降 に発 症 )
「早 老 症 」と総 称 される一 群 の疾 患 では、(1)早 期 より老 人 様 の外 観 を示 し、また(2)一 部 の
臓 器 ・器 官 の老 化 現 象 がみられる。ここでは3つの疾 患 を挙 げるが、「人 名 」+「症 候 群 」という名
称 から予 想 できるように、いずれも稀 な遺 伝 性 疾 患 である。
WiedemannWiedemann - Rautenstrauch 症 候 群
ドイツ語 読 みは「ヴィーデマン-ロイテンシュトラウホ」。新 生 児 類 早 老 症 候 群 ともいう。
AR(常 染 色 体 劣 性 遺 伝 )。出 生 した時 点 で既 に皮 下 脂 肪 の減 少 、歯 牙 萠 出 などがみられ、早
老 症 様 の顔 貌 を呈 する。発 達 遅 滞 を伴 い、5 歳 までに死 亡 する例 が多 い。
HutchinsonHutchinson - Gilford 症 候 群
「プロジェリア progeria」とも呼 ばれる。1歳 頃 から老 人 様 の外 見 (毛 髪 脱 落 、皮 膚 萎 縮 や強
皮 症 様 変 化 、頬 や陰 部 の脂 肪 萎 縮 など)、成 長 障 害 (骨 低 形 成 、大 泉 門 閉 鎖 遅 延 など)が出 現
し、2歳 頃 までに成 長 が停 止 。小 児 期 に動 脈 硬 化 が出 現 し、ほとんどの例 は冠 動 脈 疾 患 などで
20 歳 までに死 亡 する。
◆progeria は”pro(前 )+geriatric (老 人 の)”より。
Werner 症 候 群
ドイツ語 読 みは「ヴェルナー」だが「ワーナー」と発 音 されることもある。
AR(常 染 色 体 劣 性 遺 伝 )。「成 人 型 プロジェリア」とも呼 ばれ、思 春 期 以 降 に発 症 する早 老 症
である。医 学 的 管 理 により近 年 では平 均 寿 命 は50歳 代 となった。日 系 人 の報 告 例 が多 い。
◆1996 年 に責 任 遺 伝 子 がクローニングされ、 DNA 修 復 に関 与 する DNA ヘリカーゼの1種 (RecQ 型 )が変 異 す
ることで発 症 することが判 明 した。
65
2011 年 度 小 児 科 中 間 試 験 問 題 集
解答解説
右 に列 挙 するような様 々な老 化 症 状 が出 現 するが、
主 な老 化 症 状
全 身 があまねく老 化 症 状 を示 すというわけではない
白 髪 ・脱 毛 、皮 膚 の強 皮 症 様 変 化
(たとえば、認 知 症 の合 併 は多 くない)。20〜30 歳 代 で
白内障
あれば生 殖 は可 能 。
筋 ・脂 肪 組 織 の萎 縮
骨 粗 鬆 症 、動 脈 硬 化 、糖 尿 病
性腺機能低下
悪 性 腫 瘍 の発 生 率 が高 い
66
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