Comments
Description
Transcript
REACHへの予防原則の適用
REACHへの予防原則の適用 2005 年 9 月 17 日 安間 武 (化学物質問題市民研究会) ■予防原則の定義 一般に、厳密な定義はないとされながらも、「潜在的なリスクが存在するというしかるべ き理由があり、しかしまだ十分に科学的にその証拠や因果関係が提示されていない段階であ っても、そのリスクを評価して予防的に対策をとること」という定義がある。 ■予防原則の基本要素 代表的なものとして、2000 年 2 月の「予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM 2000/1」で提唱されている EU の予防原則(注 1)と、1998 年 1 月のウィングスプレッ ド声明に代表されるアメリカの NGOsや北欧で提唱されているウィングスプレッド系予防 原則(注 2)の基本要素を下記に示す。 前者の基本要素は 政策立案者 からの視点によるもの、後者の基本要素は 被害を受ける 側 からの視点によるものであるとも言える。 注 1:「予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM 2000/1」 (化学物質問題市民研究 会訳)http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/eu/eu_com2000.html 注 2:「予防原則に関するウィングスプレッド会議」(化学物質問題市民研究会訳) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/wingspread/wingspread.html ■EU の予防原則基本要素 1. 2. 3. 4. 選択された保護レベルに釣り合うこと 適用において非差別的であること 既に実施された類似の措置と一貫性があること 措置をとる叉は措置をとらない場合の潜在的便益とコストの検証に基づいているこ と 5. 新しい科学データが得られた時には再検証の対象とすること 6. リスク評価に必要な科学的証拠を作成する責任の所在を明確にすること ■ウイングスプレッド系の予防原則基本要素 1. 2. 3. 4. 健康と環境を守る目標を設定し、それに向けて働きかけること 潜在的に有害な行為や物の代替を探し、より害の少ないものを使用すること 立証責任は被害者や潜在的な被害者ではなく、行為の提案者に移行すること 健康と環境に影響を与える政策決定には民主主義と透明性があること 1 ■REACH での予防原則の引用 REACH の源となった EU の 2001 年白書では EU の化学物質政策は予防原則に基づく と し、さらには EU 自体の源である EC 条約では、 EU の環境政策は予防原則に基づく と明 示している。 したがって、REACH は、予防原則の考えに基づいて作られており、2003 年 10 月 29 日に 発表された REACH 最終提案では、その前文で、全体の指針原則として予防原則が引用され ている。 ■REACH ではどのように適用されているか 1. 予防的措置 REACH の目的を人間の健康と環境が、合理的に予見できる状況下で化学物質の製造あるい は使用によって有害な影響を受けることがないようにするとし、 その適用は予防原則によ って支えられる と述べている。 これにより、REACH では、例えば次のような予防的措置をとることとなっている。 z 既存の化学物質と新規化学物質は区別されることなく、REACH の対象とする z 非常に高い懸念がある全ての物質は認可の対象となり、製造者又は輸入者が当該物質 の使用が適切に管理されること、又は社会経済的な便益がリスクよりも重要であると いうことを示すことができなければ認可されない。 z 非常に高い懸念がある物質: o CMR(発がん性、突然変異誘発性、又は生殖毒性質) o PBT(残留性、生体蓄積性、有毒性) o vPvB(非常に残留性が高い、非常に生体蓄積性が高い) o 人間と環境に対し、深刻で取り返しのつかない影響を与えるものと特定された 物質、例えば、ある種の内分泌かく乱物質 z 深刻なリスクの兆候がある学物質については加盟諸国と欧州委員会は速やかに制限 を提案することができる。 2. 立証責任 現在、市場に出ている化学物質の危険性を証明しているのは EU 当局であるが、REACH で は化学物質のデータを収集し、テストを行い、安全性を証明する責任は化学物質を製造する 企業側に負わせる、すなわち立証責任を企業側に移行する。 また、REACH は認可において、 使用によるリスクが適切に管理されること、又は、社会 経済的便益がそのリスクに勝ることを証明する責任は申請者にある と述べている。 3.コストと便益の検証 認可のプロセスにおいて、 非常に高い懸念がある全ての物質は認可の対象となり、製造 者又は輸入者が当該物質の使用が適切に管理されること、あるいは社会経済的な便益がリス クよりも重要であるということを示すことができなければ認可されない とある。 さらに、 認可賦与の条件を考慮して、申請者は、代替案と代替計画はもちろん、認可が 賦与された場合または拒否された場合の社会経済的分析を提出してもよい。認可の決定は当 局に対する有効な情報に基づいて行われる としている。 2 4.再検証 認可プロセスにおける認可の見直し条項で、 認可のベースとなった、例えば科学的ベー スに変更が生じたような場合には、いつでも再検証を行い、必要があれば認証の変更あるい は取り消しを行うことができる としている。 5. 代替原則 REACH オリジナル提案における記述は、 代替は考慮されなくてはならないが、代替の存 在だけをもって、認可を拒否するための十分な根拠とはならない とあったのを、一部 NGOs や北欧諸国が より安全な代替が入手可能ならば、それは認可を拒否するための十 分な根拠となる と修正するよう代替原則を主張したが、最終提案では より危険の少 ない物質又は技術が入手可能ならば、それにより危険な物質を代替することが推奨される とされ、十分ではないが代替原則の精神が記述された。 ( 要求される ではないところが不十分) 6.目標の設定 人間の健康と環境を守るという大目標の下に、 2020 年までに化学物質の安全使用を達成 するという目標(一世代目標) を念頭に置いたスケジュールが設定されている。 z すでに市場に出ている既存物質は段階的に REACH に取り込まれる。 z 大量物質及び CMRs (発がん性・変異原性・生殖毒性物質)が最初に登録される。 z 登録期限は規制発効後、下記期限とする。 3 年 以内 :大量製造化学物質(年間 1,000 トン以上)及び 1 トン以上の CMRs 6 年 以内 :製造量が 100∼1,000 トン 11 年以内:少量製造化学物質(1∼100 トン) 7.情報の開示 情報の開示についてはビジネス情報の保護という観点から産業界からの強い反対があり、 正確な生産量、顧客名など、ある種の情報は機密として取り扱われることとなった。したが って REACH では情報の開示という点では十分ではないが、特別な理由があり、認められれ ば、企業に機密性を請求することができることになっている。 非機密項目の全ての情報は請求することで入手可能であり(EC の情報公開に関する法)、 いくつかの項目は公表され、インターネットを通じて自由に入手することができることにな っている。 ■EU 発行の新化学物質政策 REACH Q&A パートⅡ Questions and Answers on REACH Part II / 22.11.2004 http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/pdf/qa_reach_part2-2004_11_22_en. pdf 注:日本語訳については化学物質問題市民研究会の下記ウェブページ参照 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/eu/04_11_eu_reach_qa_2.html (問い) 1.1. 予防原則は提案の中で明示的に述べられているか? (答え) Art. 1(3)で明示的に述べられている。 3 Art. 1(3):REACH 規制は予防原則で補強されている。 Art. 1(3)脚注:COMMUNICATION FROM THE COMMISSION on the precautionary principle (COM(2000)1)を参照している。 注:予防原則に関する欧州委員会コミュニケーション COM2000 の日本語訳については、 化学物質問題市民研究会の下記ウェブページ参照 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/precautionary/eu/eu_com2000.html (問い) 1.2. 規定は予防原則によってどのように補強されるのか? (答え) REACH 規制は予防原則に基づいており、その要求は予防原則に関する欧州委員会からのコ ミュニケーション(COM(2000)1)に述べられている原則を履行することである。 どのように予防原則が履行されるかについての例を以下に示す。 安全評価: もし、科学的な証拠に不確実性があれば(例えば、矛盾するデータが存在する)、安全 評価は通常、最も高い懸念を引き起こす証拠に基づくべきである。予防原則に関するコミ ュニケーションで規定されている諸原則もまた、REACH を実施する産業側と当局を支援す るために開発されるガイダンスの中に反映されるべきである。 リスク管理措置: 産業側が特定の危険に関するテスト・データが出るのを待っている間、その潜在的なリ スクのためのリスク管理措置が適切であること及び安全評価の中でこれらの措置を記述す ることが確実になされるべきである。PBT(難分解性・生体蓄積性・毒性)及び vPvB(高難分 解性・高生体蓄積性)の特性を有する物質の場合には、産業側は常に曝露を最小とするよう 要求される(参照: Annex I, Section 6.5)。 認可: 産業側は、リスクを管理するための措置がとられていても、非常に高い懸念のある物質 の使用には認可を求めることが要求される。 制限: 当該化学物質の使用に関連して深刻なリスクの兆候がある場合には加盟諸国と欧州委員 会は速やかに制限を提案することができる。このようにして、予防原則は、科学的評価の ために必要なデータを確立するのに非常に長い時間を要する場合、あるいは十分な確実性 をもってリスクを決定するにはデータが十分でない場合に適用することができる。 (やすま たけし=化学物質問題市民研究会) REACH と予防原則の詳しい情報は、化学物質問題市民研究会のウェブサイトをご覧ください。 http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 4 プレスリリース 2005 年 8 月 22 日 化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会 代表:中地重晴 (有害化学物質削減ネットワーク代表) 〒136-0071 東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4 階 TEL&FAX 03-5836-4359 問い合わせ先: 安間 武 (化学物質問題市民研究会) e-mail: [email protected] TEL: 045-364-3123 2005 年国際市民セミナー 9 月 17 日(土)開催 どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望− 2005 年国際市民セミナー開催 化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会(*参加団体は末尾に掲載)は、 9 月17日(土)、13時∼17 時、全水道会館(東京・水道橋)で、2005 年国際市民セミ ナー「どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−」を開催する。 同セミナーは、昨年 11 月に開催した REACH 国際市民セミナーに引き続くものであり、 欧州議会で REACH 策定に関与したインガー・シェーリングさん(前欧州議会議員/スウェ ーデン)と、国際的に化学物質問題に取り組んでいるパール・ロザンダーさん(ChemSec 代 表/スウェーデン)に、REACH とは何か、現在何が議論されているのか、そしてその展望 は−などについて最新の情報を提供していただく。 また、昨年 11 月の国際市民セミナーの場において採択された「化学物質汚染のない地球を 求める東京宣言」の賛同署名活動の報告も同実行委員会によって行われる。 セミナー参加申込: メール([email protected])又は FAX(03-5836-4359) (先 着 150 名) 東京宣言推進実行委員会のウェブサイトからのオンライン申込も可。資料代:1000 円は会 場で。 詳細は実行委員会ウェブサイト: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tokyo/ REACH とは REACHとは、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、欧州委員会が2001年 に出した「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」に基づいて、欧州委員会が2003 年10月に発表したEUの新しい化学物質規制案で、化学物質の登録、評価、認可−REACH (Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals)のことである。 同案は2003年5月から7月の約2ヶ月間、国際的なインターネット・コンサルテーションに かけられた後、同年10月29日に欧州委員会から最終案として発表され、現在、制定に向けて 欧州連合(EU)の議会及び理事会で審議されており、2006年後半又は2007年前半に立法化 されると言われている。 REACHの主な内容 提案された主な内容は、市場に出る化学物質の安全性を確認することを目的として、①ヨ 5 ーロッパ域内の製造者/輸入者は新設予定の欧州化学品機構に、年間製造・輸入量が1トン以 上の化学物質について安全性等の情報を登録する。登録義務の対象物質は約3 万物質と言わ れている。②EU当局は登録された内容や試験計画を評価し、必要に応じて追加情報の提供を 要求することができる。③発がん性、変異原性、生殖毒性、難分解性、生体蓄積性、有毒性 などの有害物質は認可の対象となる。④容認できないリスクを及ぼす物質については、その 製造、販売、又は特定の使用に関して、EUレベルで制限することができる─などである。 REACHの基本理念 REACHの根底には、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、①既存・新規に 関わりなく市場にある化学物質の安全性の確認、②安全性の立証責任の産業側への移行、③ 人間の健康あるいは環境に危害を与える恐れがある場合には原因と結果の関連が科学的に完 全には証明されていなくても予防的措置をとるとする予防原則、④有害な物質やプロセスの 代替を探し、より害の少ないものを使用するとする代替原則、⑤決定のプロセス、化学物質 データを市民に公開するとする情報公開、⑥2020年までに化学物質の全ての有害な影響を最 小にするとする一世代目標−などの基本理念がある。 化学物質による健康影響や環境汚染の低減が期待される REACHは化学物質に関するEUの既存の多くの指令を統合した総合的な化学物質規制と して導入されるので、EU全体で効果的に機能し、化学物質による健康影響や環境汚染の低減 が期待される。 またREACHは、EUに輸入される化学物質に対してしても適用されるので、EUに化学物 質製品を輸出する全世界の製造者がREACHにより求められる安全情報を提出することにな り、これによりEUのみならず全世界の市場に安全性が確認された製品が出ることが期待され る。 REACHは世界の化学物質政策に影響を与える REACHの高い基本理念が各国の化学物質政策に影響を与えることが期待される。REACH に強く反対しているブッシュ政権のアメリカでも、最近、米会計検査院(GAO)からEPAの 化学物質のリスク評価と規制能力を改善するための勧告が出され、これに基づき7月に、民主 党のジョン・ケリーやヒラリー・クリントン、エドワード・ケネディら有力議員らにより REACHに見られる理念を織り込んだ有害物質規制法(TSCA)の改正提案(別名:子ども安全 化学物質法)がなされた。日本ではこのような動きは見られない。 アメリカ政府及び産業界の反応 ブッシュ政権やアメリカ化学協議会( (ACC) )は REACH がアメリカの化学物質政策や 産業界へ影響を与えることを恐れている。そこで欧州委員会による REACH 策定時に、欧州 化学工業連盟(CEFIC)などと連携して、REACH は広範な失業を引き起こし、アメリカ経 済に打撃を与え、ヨーロッパは製造業を発展途上国に奪われて産業の空白化を招くと大々的 なロビーイング・キャンペーンを展開した。 日本政府及び日本産業界の反応 6 日本政府は 2003 年のインターネット・コンサルテーションにおいて、企業によるイノベー ションや経済活動を阻害し、国際貿易・投資の障害にならぬよう全体の適切なバランスに配 慮すべきという、産業界保護の観点からのみなるコメントを経済産業省が提出した。また、 アジア太平洋経済協力機構(APEC)の一員としても同様なコメントを出した。さらに 2004 年 6 月には WTO 宛に同様のコメントを出した。 REACH は人間の健康と環境を守る規制案であるにもかかわらず、環境省からの公式発言 はない。 日本の産業界も日本化学工業協会を含む 10 以上の団体を動員して、産業に及ぼす影響につ いての懸念を表す同様なコメントをそれぞれ提出した。しかし、本年7月に開催された、 (社) 日本化学物質安全・情報センター(JETOC)主催の「REACH」セミナーには多くの日本企 業の担当者が参加しており、日本企業も REACH への対応準備に動き出しているように見え る。 現在、EU で何が議論されているのか (1) 産業界との議論 EU の産業界は、REACH はコストがかり EU 化学産業の競争力と革新を阻害すると主 張している。 しかし、REACH のビジネスへの影響については欧州委員会が 2003 年の REACH 最終提 案時に予想コストと利益に関する影響評価を発表した。予想コストは既存化学物質の登録 期間である 11 年間で 28∼52 億ユーロ(約 3,700∼6,800 億円)であり、EU の域内総生 産(GDP)への総合的影響は限定されたものであるとし、一方、環境と人間の健康に対す る予想利益の概算は 30 年間で 500 億ユーロー(約 6 兆 5 千億円)としている。 また、新規物質の登録手続きが容易となり、既存/新規物質は同等に扱われることで、 より安全な代替物質を開発する動機付けとなり、EU 化学産業に革新をもたらすとしてい る。 これに対し、欧州産業界は、国際的なコンサルティング会社 KPMG に影響調査委託し、 その結果が 2005 年 4 月に欧州委員会のワーキング・グループで検討されたが、中小企業 が若干の影響を受けるが、それ以外は欧州産業が影響を受けるという証拠はほとんどない としている。 EU の産業界はまた、REACH は手続きが複雑で実行可能性に問題があるとしているが、 産業界、加盟国、及び欧州委員会からなる SPORT((Strategic Partnership on REACH Testing)プロジェクトが 2005 年 7 月に、REACH 規制案の実行可能性を検証した報告書 を提出した。 それによれば、 現状の REACH の条文は調整と明確化が必要であるが、 REACH は実行可能であることを示した。また、同報告書は REACH 実施のためのガイダンスとツ ールが必要であると強調したが、ガイダンス及び IT ツールの開発作業は欧州委員会の REACH 実施プロジェクト(RIPs)が行っている。 (2) 欧州議会での議論 欧州議会では 10 の異なる委員会が修正項目を検討中である。環境委員会からだけでも 1,000 以上の修正項目が出されており、主要なものとして①1 物質 1 登録(OSOR)、②低 生産量物質(約 20,000 種)の登録方法、③免除の範囲、④優先順位の設定、⑤欧州化学品 7 機構の役割強化−などがあるが、REACH の内容を大幅に変更するものではないと言われ ている。 REACH の早期立法化が期待される 2001 年に EU の白書が出されて以来、様々な議論が提起され、また産業側からの強い圧力 を受けて REACH の立法化は遅れているが、本年 7 月 19 日の EU 環境委員スタブロス・デ ィマスのスピーチによれば、現在、欧州議会内の各委員会で REACH 修正案が討議されてお り、本年中の議会及び理事会での承認を目指しているとのことなので、2006 年後半又は 2007 年前半に立法化されることが期待される。 欧州委員会は、REACH は「人の健康と環境の保護」及び「EU 産業の持続可能な発展」 とを両立させるものであるとしている。しかし、有害な化学物質から人間の健康と環境を守 るための REACH が、EU 化学産業の競争力を守るという名目の下にこれ以上後退し遅れる ことなく、早急に立法化されることを EU だけでなく世界の多くの市民、消費者、労働者、 環境団体、消費者団体、そして労働組合は願っている。 化学物質汚染のない地球を求める東京宣言 同実行委員会の参加団体を含む 7 つの NGO は、昨年11月 23 日にナディア・ハヤマさん (グリーンピース・ヨーロッパ・ユニット 政策担当シニア・オフィサー[ベルギー] )とロ ーラン・ボーゲルさん 労働安全衛生部研究員[ ベルギー])を講師と (ヨーロッパ労連 する最初の国際市民セミナー 「化学物質汚染のない世界をめざして/EUの新しい化学物質 規制−REACH」 を開催するとともに、別添の 「化学物質汚染のない地球を求める東京 宣言」 を採択した。 同宣言の賛同署名キャンペーンが同実行委員会によって行われており、7 月 31 日現在、 個人 15,000 人以上、団体 110 以上の賛同署名が寄せられている。8 月 31 日に集約し、賛同 署名簿とともに、東京宣言の要望を日本政府に伝える予定である。 東京宣言推進実行委員会参加団体 有害化学物質削減ネットワーク、化学物質問題市民研究会、ダイオキシン・環境ホルモン対 策国民会議、WWF ジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議 8 別添 化学物質汚染のない地球を求める東京宣言 <背景>これまで人間が創り出した多くの化学物質は私たちに豊かで快適な生活をもたらし てくれました。しかしその半面、私たちの体内だけでなく地球全体がこれまで存在しなかっ た人工化学物質で汚染されています。この事実と近年のガン、心臓血管系疾患、呼吸器系疾患、 喘息、アレルギー、生殖器系疾患、脳神経系の発達障害などの増加及び野生生物に見られる 異常との関連が強く疑われています。安全性が確かめられていない多数の化学物質を大量に 使用続けることを許し、有害性がわかっても迅速に対応できないこれまでの化学物質管理の あり方を早急に見直す時がきています。 <国際的動向>この問題はすでに 1992 年の地球サミットで合意された「アジェンダ 21」の 第 19 章でも取りあげられており、各国政府は化学物質管理において予防的アプローチ、製造 者責任の原則などの採用を検討することが勧告されていました。欧州連合(EU)においては 世界に先駆け 1998 年に欧州理事会が EU の化学物質規制の見直しを指示し、2003 年 10 月 に予防原則を取り入れた新しい化学品規制案 REACH がまとめられ、現在内容の検討が行わ れています。 <日本の対応>EU、米国に次ぐ化学物質生産国である日本は過去に水俣病、カネミ油症など の悲惨な経験を持ち、今日においても前述するような化学物質との関連が疑われる疾患や異 常等は増加の一途をたどっています。然るに日本政府においては見直しに向けた同様の動き がまったく見られないばかりか、米国と歩調をあわせ REACH を弱体化させようとしていま す。 <汚染のない地球への道>化学物質は国境を自由に行き来するものであり、化学物質汚染の ない地球を実現するためには、一部の地域だけでなく世界全体が足並みをそろえ化学物質管 理の改革に取り組むことが不可欠です。ことに世界の化学物質生産の 70%を占める欧州、米 国、日本が率先することが重要です。 よって私たち日本の市民は、EU 及び日本政府に対し以下のことを要望します。 1. 欧州連合 EU の REACH に対する取り組みを化学物質汚染のない地球への大きな第一歩として高 く評価するとともに、人の健康と環境の安全を高いレベルで確保するという当初の目標が 後退することなく成立されることを強く願う。 2. 日本政府 REACH に反対する日本政府および一部の産業界は、短期的な利害のために人の健康や 生態系の安全を犠牲にするような干渉を即刻中止すべきである。また、わが国においても 次のような観点を考慮に入れ、市民参加のもとで化学物質制度の包括的な見直しに早急に 取り組むことを求める。 ① 予防原則を中心にすえ、より安全な物質等への代替を促進させる ② 安全性の不確かな化学物質を使い続けることをやめる ③ 安全性の立証責任を行政から事業者へと転換し、汚染者負担の原則など製造者責任 を強化する ④ 製品中の化学物質情報の開示など、市民の知る権利を保障する ⑤ 規制等の政策決定への市民参加を制度化する 2004 年 11 月 23 日 有害化学物質削減ネットワーク、化学物質問題市民研究会、ダイオキシン・環境ホルモン 対策国民会議、WWF ジャパン、グリーンピース・ジャパン、全国労働安全衛生センター連 絡会議 国際市民セミナー「化学物質汚染のない世界をめざして」参加者有志 9