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1.改革の背景と経緯 1.1.これまでの規制 欧州レベルの化学物質規制が

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1.改革の背景と経緯 1.1.これまでの規制 欧州レベルの化学物質規制が
1.改革 の背景と経緯
1.1.これまで の規 制
欧 州レベルの化学物質規制が最初に開始されたのは、1960 年代である。
67 年の 指令(67/548/EEC)によって、有害物質の評価分類と表示、包装
方 法が 調 和 され た 。 そ の後 、 欧 州化 学 物 質 法を 基 礎 的に 定 義 す るた め 、
92 年の指令 (92/32/EEC)によって発ガン性や化学的突然変異誘発性、
生 殖毒 性 な ど毒 性 の 特 徴が 確 定 され 、 そ の 技術 付 属 文書 に お い て欧 州 で
統一 され た有害物質の評価分類(付属文書 I)とリスクシンボル(付属文
書 II)、表示義務の基本となるリスク・安全上の定理(付属文書 III と IV)、
物質 を評価分類するための検査方法(付属文書 V)が規定された。
また 1988 年の指令(88/379/EEC)によって、有害物質が混合・調合
さ れた 場 合 の評 価 基 準 が導 入 さ れ、 調 合 物 質を 原 則 とし て 、 す でに 確 定
さ れて い る 単一 化 学 物 質の 濃 度 に応 じ て 評 価、 分 類 する こ と が 規定 さ れ
た。
67 年の指令(67/548/EEC)は、指令後に上市される化学物質を各構成
国 で届 出 る こと を 義 務 付け 、 各 構成 国 の 管 轄当 局 が 当該 化 学 物 質の リ ス
ク 評価 を 行 って 人 と 環 境に 与 え る影 響 を 軽 減す る た めの 勧 告 を 行う こ と
を 規定 し て いた 。 た だ し各 構 成 国間 で そ の 評価 に 差 があ っ た こ とか ら 、
それ を調和さ せ るた め、1993 年 7 月 20 日の指令(93/67/EEC)によっ
て人 に与えるリスクを評価するための基本原則が確定された。
さら に 1993 年 3 月の既存化学物質指令(793/93/EEC)は、既存化学
物 質の 評 価 につ い て 規 定し 、 化 学物 質 の 既 存デ ー タ のシ ス テ ム 的な 収 集
と プラ イ オ リテ ィ リ ス トに 準 じ たリ ス ク 評 価を 行 う こと が 決 定 され た 。
それ によって、まず年間上市量 1000 トン超の化学物質(付属文書 I で規
定)に関 し て、1994 年 6 月 5 日までに最低限度のデータと、すでにある
化 学物 理 デ ータ 、 人 と 環境 に 与 える 影 響 に 関す る デ ータ を 提 出 する こ と
が規 定され、次に年間上市量が 10 トンから 1000 トンまでの化学物質に
関す るデ ータ を 1996 年 6 月 5 日から 1998 年 6 月 5 年までに提出するこ
と が義 務 付 けら れ た 。 それ に よ って デ ー タ が収 集 さ れた 既 存 化 学物 質 は
約 10 万種に及び、これらは EINECS( European Inventory of Existing
Chemical Substances)に 登録された。
1.2.改革の背 景
前 述 し た よう に 、 現 在欧 州 で は新 規 化 学 物質 を 上 市す る 前 に 届出 る よ
う 義務 付 け られ て い る 。製 造 者 ない し 輸 入 者に は 新 規化 学 物 質 を市 場 に
出す 場合 、
1
1) 年間 上市 数 量 10 キロ グラム超の場合:
管 轄当局への届出
2) 年間上市 数 量 1 トン 以上 の場合:
環境 と 健 康へ の リ ス ク( 特 に 、人 と 環 境 に対 す る 有害 性 な ど の毒 性 )
の評 価を可能とする基礎データの提出
3) 年間上市 数 量 100 トン 超の場合:
管轄 当 局 の要 求 に 応 じた 発 ガ ン性 や 突 然 変異 誘 発 性な ど 毒 性 の評 価 を
可能 とする試 験 の実 施
が義 務付けられる。この規定に準じ、欧州ではすでに 1981 年以降、3700
種 超 の 化学 物質 ( REACH 規制原 案は 、新規 化学 物質 と定 義する )が 届
出ら れた。
し かし、1981 年以前に市場に出された化学物質(REACH 規制案は、
既 存化 学 物 質と 定 義 す る) に 関 して は 、 既 存の 化 学 物質 法 規 で その リ ス
ク を評 価 す るこ と は 不 可能 な 状 況と な っ て いる 。 た とえ リ ス ク が認 識 さ
れて も 、それを規制するまでには長い時間を要しているのが現状である。
1981 年時点ですでに 10 万種超(100,106 種)の既存化学物質が市場
に 出 回 ってお り(1 .1.項参照 )、 これ ら は現在 市場に 出回っ ている 化学
物質 の約 97%を占めている。これら既存化学物質は 1993 年に EC 既存
化 学物 質 指 令が 施 行 す るま で 、 安全 性 評 価 のた め の 点検 や リ ス ク評 価 も
実 施さ れ ず 、化 学 物 質 に関 す る 十分 な 情 報 もな い ま ま市 場 に 出 回っ て い
た。 ま た 1993 年の指令によって年間上市量 10 トン以上の既存化学物質
に 対し て デ ータ の 提 出 が義 務 付 けら れ た が 、化 学 物 質に 関 し て 十分 な 安
全 性評 価 も され な い ま ま使 用 が 認可 さ れ て おり 、 人 や環 境 に 対 する リ ス
クが 十分に認識されていないのが現状である。さらに 1993 年の指令では、
特 定化 学 物 質リ ス ト の 導入 を 規 定し て お り 、管 轄 当 局の 判 断 で 化学 物 質
の テス ト を 実施 す べ き かど う か を決 定 し 、 点検 は 管 轄当 局 で 実 施す る と
して いる。これまでリスク評価する化学物質として、1993 年の指令では
高生 産量 化学 物質 140 種が特定された。これらの物質については必要な
基 礎デ ー タ は提 出 さ れ てい る が 、リ ス ク 評 価手 続 き が完 了 し た もの は そ
の 半分 程 度 で、 最 終 安 全性 評 価 が下 さ れ て 危険 軽 減 措置 が 勧 告 され た も
のは 、わ ず か 30 件程度にしかならない。
こうした現在の化学物質規制・評価状況を表にまとめると、以下の表
1-1 の通りとなる。
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表 1-1
EU における現在の化学物質規制・評価状況
規制対象となる化学物質総数
規制優先度が高いとされる化学物質
特定優先化学物質(4 リスト)
これまでに評価された化学物質
リ ス ク 評 価 後 、使 用 を 禁 止 さ れ た 化 学
物質
危険軽減措置が提案された化学物質
危険軽減措置が受け入れられた化学
物質
危険軽減措置が実施された化学物質
100,106 種 ( 約 3 万 種 、 以 下 の 2 .1 .項 参 照 )
2700 種
141 種
80 種
内訳:
・ 総 合 評 価 ( 66 種 )
・環境影響評価(7 種)
・被雇用者/消費者影響評価(7 種)
53 種
(ただし、最低限度の目的として人と環境に
与える影響の理由だけから)
32 種
内訳:
被 雇 用 者 の た め : 26 種
消 費 者 の た め : 17 種
環 境 の た め : 22 種
17 種( そ の う ち 、さ ら に 改 善 勧 告 が 出 さ れ た
も の 12 種 )
6種
(出所:ラール、ティックナーの共同論文)
1.3.これまで の経 緯
EU の化学物質規制の問題は、化学物質の安全性が製造者ではなく、管
轄 当局 に よ って 証 明 さ れな け れ ばな ら な く なっ て い る点 で あ る 。そ の た
め 、化 学 物 質に 関 す る 責任 と 義 務、 負 担 の 分配 構 造 を改 革 し な い限 り 、
化 学物 質 を 巡る 状 況 に 変化 は な い。 こ う し た状 況 を 踏ま え 、 特 にイ ギ リ
ス、オランダ、スウェーデン、デンマーク、ドイツなどが中心となって、
EU の環境閣僚理事会は 1999 年 6 月(ドイツが議長国を引き渡す直前)、
こ の問 題 に つい て 審 議 し、 欧 州 委員 会 に 化 学物 質 規 制を 改 革 す る戦 略 を
立案 する よう 求 めた 。
欧 州委員会は、2001 年 2 月、「将来の化学物質政策のための戦略白書
2001 年」を提示し、将来戦略の中心として REACH システムを 2012 年
まで に確立することを提案した。その提案が EU 環境閣僚理事会と欧州
議会 にお いて審議され、概ね支持(EU 環境閣僚理事会は 2001 年 6 月、
欧州 議会 は 2001 年 11 月)されたことを受け、欧州委員会は戦略案を立
法化 するため指令案の作成を開始した。
欧州委員会は指令案作成の過程で案の一部を開示することで、早い段
階 から 化 学 物質 規 制 の 改革 に 向 けた 議 論 や 批判 を 誘 発し 、 そ れ を指 令 案
に 盛り 込 む よう 配 慮 し てき た 。 指令 案 は そ のま ま 閣 僚理 事 会 や 欧州 議 会
に提 出さ れるものではなく、議論を重ねていくための土台となるもので、
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いわ ば原案のようなものであった。まず欧州委員会は最初の原案を 2003
年 5 月 7 日に提示し、公開討議するためにネット上で公開した。この最
初の 原案に対するインターネット・コンサルテーションは 2003 年 7 月
10 日まで行われ、全体で約 6300 件の意見が寄せられた。そのうち、産
業界 からの意 見 は 42%と一番多く、労働組合を含めた NGO からの意見
は 142 件であった。寄せられた意見はすべてネット上で公開された。イ
ン ター ネ ッ ト・ コ ン サ ルテ ー シ ョン 中 に 寄 せら れ た 意見 は 、 欧 州委 員 会
のホ ームペー ジ
http://europa.eu.int/comm/enterprise/reach/consultation/public.htm
で閲 覧す ることができる。
イン タ ー ネッ ト ・ コ ンサ ル テ ーシ ョ ン の 過程 で 寄 せら れ た 意 見の 主 な
もの を概 括的にまとめると、以下の通りとなる。
・イ ギリ ス、ドイツなど:
規 制改 革 を 支持 す る も のの 、 産 業界 へ の 影 響が 懸 念 され る こ と から 、 手
放し では 賛成していない。
・ス ウェ ーデン、ノルウェー:
提 案内 容を歓迎
・米 国、日本 :
産業 界 、 貿易 、 技 術 革新 に 与 える 影 響 が 大き い と して 、 改 革 に抵 抗 す
る姿 勢を示し た 。
・欧 州環境団 体 (EEB、FoE、Green Peace、WWF)
有 害物 質による影響を廃絶するため、さらに厳しい規制を要求した。
欧 州 委 員 会は イ ン タ ーネ ッ ト ・コ ン サ ル テー シ ョ ンで 寄 せ ら れた 意 見
を 評価 す る とと も に 、 それ を 指 令案 作 成 に おい て 配 慮し た 。 欧 州委 員 会
は 2003 年 10 月 29 日、これらの過程で作成された、REACH システムの
確立 を目的とする新しい EU の化学物質法を立法化するための指令案を
欧州 委員会最終原案として決議した。これが、前述した REACH 規制案
であ る。
な お 2003 年 10 月の指令案は、インターネット・コンサルテーション
前の 最初 の原案と比較して、主に以下の点で修正された。
1) 規制 範囲 の 縮小 :
・ポ リマーを登録と評価の対象から削除した
・成 形品に含まれる物質に対する規制を軽減した
・化 学的安全性評価の義務を緩和した
2) 注意 義務 の 格付 け:
本 文から説明文に移動させて格下げした
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3) コス ト負 担 の軽 減:
低 生 産 量 化学 物 質 、 下流 側 ユ ーザ ー 、 中 小企 業 に 対す る コ ス ト負 担 を
考慮 して、緩和措置を導入した
4) 事務 手続 き の簡 素化
5) 中央機構となる欧州化学物質機構の権限を強化した
6) 登録された化学物質データの秘密保持:
・正 確な製造・輸入数量、顧客名は開示しない
・秘 密保持されないデータは、EU の情報公開法の枠内で取り扱われる
7) 代替 物質 等 の奨 励:
・企 業に代替案の提出を奨励する
こう した過程を経て作成され た REACH 規制案は、関係閣僚理事会と
欧 州議 会 に おけ る 今 後 の審 議 の 土台 と な る もの で 、 すで に 本 格 的な 立 法
化 に向 け た 手続 き が 開 始さ れ た 。そ の 過 程 では 、 イ ギリ ス と ハ ンガ リ ー
が 2004 年 5 月に共同で、化学物質の登録を企業毎に行うのではなく、1
化 学 物 質 /1 登録 を 原則 とし て その コス トを 当該 化 学物 質に 関係 する 企
業 で分 担 す る案 を 提 案 した の が 注目 さ れ る 。こ の 代 案は 、 同 一 化学 物 質
が 重複 し て 登録 さ れ る のを 防 い で、 コ ス ト 負担 を 分 担で き る と いう 利 点
を もた ら す こと を 目 的 とし て い る。 そ の 場 合、 当 該 化学 物 質 に 対し て 知
的 財産 権 を 有す る 企 業 がど の 程 度の 情 報 を 提供 し な けれ ば な ら ない か が
問 題と な る が、 イ ギ リ ス・ ハ ン ガリ ー 案 は 知的 財 産 権が 保 護 さ れて い る
情 報の 提 供 を義 務 付 け てい な い 。ま た 、 コ スト 負 担 に参 加 し な い“ 無 賃
企 業” が 出 るの を 防 止 する た め 、共 同 で 登 録を 申 請 した 企 業 を コン ソ ー
シ アム の よ うな 形 で 登 録す る こ とも 提 案 さ れて い る 。イ ギ リ ス ・ハ ン ガ
リ ー案 は 、 中小 企 業 団 体な ど に よっ て 支 持 され る な ど反 響 が 大 きい が 、
共 同申 請 し た企 業 間 の 情報 に 食 い違 い が あ る場 合 、 それ が 明 ら かに な ら
ない 可能性があるなどの問題も指摘されている(3.2.2.項参照)。
さ らに、2004 年秋に発足した新しい欧州委員会のフェアホイゲン産業
担当 委員(独)は、REACH 規制案によって輸入者が不利を被って対 WTO
上 問題 と な る可 能 性 が ある と 指 摘し て 、 産 業界 全 体 に不 利 に な らな い 形
で 化学 物 質 規制 改 革 を 実施 す る ため 、 産 業 界と 妥 協 する 用 意 が 十分 に あ
ると の見解を表明している。これら REACH 規制案に関連した問題を解
決 する た め 、フ ェ ア ホ イゲ ン 委 員は 欧 州 委 員会 が リ スボ ン 戦 略 を修 正 す
る に 当 たっ て、 REACH 規制案 の修正 を そのキ ー戦 略の ひと つにす る意
向を 示している。なおリスボン戦略は、2000 年 3 月に行われたリスボン
会議 において欧州域内を 2010 年までに世界で最も競争力があり、経済成
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長 と 雇 用 創出 を 持 続 でき る 知 識基 盤 型 社 会に 変 革 する と の 目 標を 設 定 し、
そ の目 標 を 実現 す る た めに 掲 げ られ た 戦 略 であ る 。 現在 、 サ ー ビス 市 場
の 解放 な ど に関 し て リ スボ ン 戦 略を 実 現 す るた め の 軌道 修 正 が 検討 さ れ
てお り、欧州域内の国際競争力アップのために、20 から 40 のイニシア
チブ がリストアップされる予定である。
2005 年 1 月 19 日には 、欧州議会において REACH 規制案に関して公
聴会 が開かれ る など 、2005 年に入って REACH 規制案の審議が本格始動
して いる。そう した 中、欧州議会環境委員会のフローレンツ委員長は 2005
年 1 月 27 日、REACH 規制案については産業界の反発を考慮するため、
欧 州委 員 会 が指 令 案 を 修正 し な いま ま 、 今 後の 審 議 の過 程 で 欧 州委 員 会
と 欧州 議 会 が共 同 で 修 正の た め のロ ー ド マ ップ を 作 成す る と 発 表し た 。
例 えば 、 化 学物 質 の デ ータ 提 出 に関 す る 要 求は 、 こ れま で の 指 令案 に よ
る と、 製 造 ・輸 入 数 量 だけ に 応 じて デ ー タ に関 す る 要求 が 規 定 され て い
る が、 製 造 等数 量 ば か りで な く 、当 該 化 学 物質 の 有 害性 に 応 じ てデ ー タ
提出 に関する軽減措置などが配慮されることになる見込みである。
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