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- 50 - テレビ・ビデオ接触の言語発達に与える影響 一色伸夫・飽戸弘

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- 50 - テレビ・ビデオ接触の言語発達に与える影響 一色伸夫・飽戸弘
テレビ・ビデオ接触の言語発達に与える影響
一色伸夫・飽戸弘・松本聡子
1. はじめに
「日本小児科医会」が「2歳までの子どものテレビ・ビデオ視聴を控えよう」という提
言を2月に発表したのに続いて、
「日本小児科学会」も、1900 人の保護者を対象としたア
ンケート調査で、テレビを長時間見る子どもほど言葉遅れの割合が高かったとして、2歳
以下の子どもにテレビを長時間見せないよう呼びかける提言をまとめ、3月に発表した。
“子どもに良い放送”プロジェクトでは、それらの背景にある、アメリカ小児科学会
(American Academy of Pediatrics)が 1999 年と 2001 年に出した、2歳以下の子どもの
テレビ視聴を避けるようにという勧告(Recommendation)が、どのような背景で生まれ、
現在、アメリカ社会でどう位置づけられているのかを直接関係者に会って現地調査した。
その結果は、アメリカでは、まだ具体的な調査や研究がそのために行われてはいないし、
科学的に実証された研究はないということであった。
「日本小児科学会」の生後 17 か月∼19 か月の子ども 1900 人を対象にした調査の結果
では、視聴時間別に運動、社会性、言語の発達状況を見ると、テレビ視聴が4時間以上の
子ども(長時間視聴児)では、4時間未満の児に比べ、意味のある言語(有意語)出現の
遅れが約2倍に達していた。また、子どもの近くでテレビが8時間以上ついている家庭に
おける長時間視聴児の有意語出現の遅延率は、4時間未満の家庭の子どもの2倍であった
(日本小児科学会,2004)
。
そこで本稿では、
“子どもに良い放送”プロジェクトの 18 か月児∼24 か月児におけるテ
レビ接触と言語発達の関係について分析を行なった。
2. 方法
2-1. 調査対象
マッカーサー乳幼児言語発達質問紙および後述の視聴日誌に回答があった対象者のう
ち、
マッカーサー乳幼児言語発達質問紙の実施時の月齢が 18∼24 か月の子ども 1023 名を
分析の対象とした(月齢 17 か月と 25 か月は、それぞれ 2 人と 6 人であったため、分析か
ら除外した)
。各月齢の人数を表1に示す。
(なお、月齢は記入者によるものであり、マッ
カーサー乳幼児言語発達質問紙で用いられている「生活年齢」ではない。
)
- 50 -
表1 対象児の月齢分布
N
18か月
19か月
20か月
21か月
22か月
23か月
24か月
合計
100
173
152
154
168
163
113
1023
%
9.8
16.9
14.9
15.1
16.4
15.9
11.0
100.0
2-2. メディア接触量
平成 16 年 1 月 13 日∼1月 19 日の間に「テレビ・ビデオ・テレビゲーム 視聴・利用
アンケート調査」
(以下、映像メディア視聴日誌とする)を実施した。この調査では、対象
児のそばにいた保護者に、対象児がいつ、どんなメディア(テレビ、ビデオ・DVD、テレ
ビゲーム)に、誰と、どんな状況で接触していたかを記入してもらった。この映像メディ
ア視聴日誌により得られたデータのうち、本稿では、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、
テレビ専念視聴時間、テレビ・ビデオ接触時間、ビデオ接触時間をメディア接触量の指標
として分析に使用しているが、これらの指標の内容は、以下に述べるとおりである。テレ
ビ接触時間とは、
「専念視聴時間(他のことはせず専念して見ていた)
」
、
「ながら視聴時間
(他のことをしながら見ていた)
」および「ついているだけの時間(画面がついているだけ
だった)
」の3つを合計したものである。テレビ視聴時間は、
「専念視聴時間」と「ながら
視聴時間」を合計したものである。
2-3. マッカーサー乳幼児言語発達質問紙
マッカーサー乳幼児言語発達質問紙とは、コミュニケーション言語能力の発達レベルを
親(養育者)の報告に基づいて評価する検査(小椋,2004)であり、8∼18 か月児用であ
る「語と身振り」版と 16∼36 か月児用である「語と文法」版がある。このうち、本研究
では、
「語と身振り」版を実施した。
「語と身振り」版には、検査できる主な領域として、
指示理解(28 項目)
、語彙として理解語彙(448 語)と表出語彙(448 語)の2領域(理
解語彙と表出語彙の語彙は共通)
、身振り(63 項目)の合計4領域が含まれている。語彙
と身振りはさらにそれぞれ 22 と5の下位領域がある。4領域の得点化の方法について、
以下に述べる。指示理解については、検査項目(例えば、
「おなかすいた?」
)に対して「わ
かる」と回答があった項目の合計数を得点とする。語彙について、評価者は各検査項目(例
えば、
「アヒル」
、
「エプロン」など)に対して、対象児が「言えないけれども、知っている」
場合には「わかる」と、
「知っていて、言える」場合には、
「わかる・言う」と回答する。
これらのうち、
「わかる」と「わかる・言う」の総合計が理解語彙の得点、
「わかる・言う」
- 51 -
の合計が表出語彙の得点となる。身振りについては、各検査項目(例えば、
「イナイイナイ
バーをする」
)に対して「はい」
(あるいは、
「たまにする」と「よくする」の合計)と回答
があった項目の合計数が得点となる。
3. 結果
3-1. メディア接触量
まず始めに、対象者のメディア接触量に関する各変数の分布を求めた。
表2 テレビ接触時間(N=1023)
(単位:%)
0時間
0.8
∼1時間 ∼2時間 ∼3時間 ∼4時間 ∼5時間 ∼6時間 ∼7時間 ∼8時間
8.6
17.0
19.7
19.0
14.6
10.9
4.9
1.9
8時間
より長い
2.6
表3 テレビ視聴時間(N=1023)
0時間
∼1時間
∼2時間
∼3時間
∼4時間
∼5時間
∼6時間
2.0
26.4
38.5
21.6
7.4
2.3
1.4
(単位:%)
6時間
より長い
0.4
表4 テレビ専念視聴時間(N=1023)
0時間
23.9
∼1時間
66.7
∼2時間
8.8
∼3時間
0.5
∼4時間
0.0
(単位:%)
∼6時間
0.1
∼5時間
0.0
表5 ビデオ接触時間(N=1023)
0時間
∼0.5時間
∼1時間
∼1.5時間
∼2時間
∼2.5時間
∼3時間
21.5
35.2
21.7
11.9
5.2
1.8
1.3
(単位:%)
3時間
より長い
1.5
表6 テレビ・ビデオ接触時間(N=1023)
0時間
∼1時間
∼2時間
∼3時間
∼4時間
∼5時間
∼6時間
∼7時間
∼8時間
0.4
3.9
11.1
17.4
20.4
17.7
14.0
7.3
3.9
次に、対象者のメディア接触量に関する各変数の平均値を求めた。
- 52 -
(単位:%)
8時間
より長い
3.8
表7 視聴時間に関する各変数の記述統計量
(N=1023)
平均値(分)
標準偏差
最小値
最大値
テレビ接触時間
204.5
116.24
0
698.6
テレビ接触視聴時間
103.8
68.66
0
565.7
テレビ専念視聴時間
23.7
27.02
0
336.4
ビデオ接触時間
36.7
41.69
0
278.6
241.2
118.12
0
720.0
テレビ・ビデオ接触時間
メディア接触量の月齢による違いを検討したところ、いずれの変数においても、月齢間
で有意な差は認められなかった。
また、きょうだいの有無によってメディア接触量に違いが見られるかを検討した。きょ
うだいの有無によって、メディア接触量に違いが見られたのは、ビデオ接触時間
(t=−2.514,p <.05)であり、きょうだいがいる対象児の方が、ビデオを長く見ているこ
とが示された。月齢別では、19 か月のテレビ・ビデオ接触時間(t=−2.626,p<.01)
、ビ
デオ接触時間(t=−2.189,p <.05)
、20 か月のテレビ視聴時間(t=−2.229,p <.01)
、22
、テレビ・ビデオ接触時間(t=2.204、 p <.05)
か月のテレビ接触時間(t=2.259、 p <.05)
において差が認められた。有意差が認められたもののうち、22 か月のみが、きょうだいの
いない群の方が接触量が長いことが示された。
3-2. 言語発達について
<性別・月齢差>
マッカーサーの各得点(理解語彙、表出語彙、身ぶり合計得点)を各月齢ごとに連続変
量として用い、性別による違いを検討した。結果を図1∼4に示す。表出語彙と身振りの
得点については、全ての月齢において、有意な性別差が認められた。
- 53 -
理解語彙
450
*
**
400
*
350
300
266.2
250
223.8
200 186.08
288.7
264.9
354.6
352.2
**
305.4
268.5
310.0
284.1
310.4
292.2
207.1
150
100
50
0
M
F
18か月
M
F
19か月
M
F
20か月
M
F
M
21か月
F
22か月
M
F
M
23か月
F
24か月
図1 理解語彙の得点
表出語彙
**
300
**
251.9
250
**
200
148.4
131.3
**
102.7
100
50
184.3
*
**
150
231.0
**
84.1
97.3
157.8
144.6
131.7
97.0
57.5
44
0
M
F
18か月
M
F
19か月
M
F
20か月
M
F
21か月
M
図2 表出語彙の得点
- 54 -
F
22か月
M
F
23か月
M
F
24か月
身振り
60
**
*
50
41.1
40.2
F
M
41.3
51.6
49.4
45.8
44.4
**
**
**
48.5
47.7
45.0
40 37.3
**
**
50.8
47.0
45.0
30
20
10
0
M
18か月
F
M
19か月
F
M
20か月
F
M
21か月
F
M
22か月
F
M
23か月
F
24か月
図3 身振りの得点
3-3. テレビ接触と言語発達との関連について
メディア接触量のうち、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テレビ専念視聴時間につい
て、20 パーセンタイル刻みで5つの層にわけ、これらの5つの層間でマッカーサー言語発
達検査の理解語彙、表出語彙、身振りの得点に差が見られるかを検討した。5つの層の言
語発達検査の平均値と標準偏差を表8∼表 10 に示した。分散分析の結果、テレビ接触時
間については、理解語彙数(F(4,1015)=2.54、 p <.05)と表出語彙数(F(4,1000)=3.74,
p <.01)で差が認められた。テレビ視聴時間については、表出語彙数にグループ間に差が
認められた(F(4,1015)=3.72,p <.01)
。テレビ専念視聴時間については、言語発達検査
のいずれの得点にもグループ間で差は認められなかった。有意差が認められたものについ
て、Tukey 法による多重比較を行なった結果、テレビ接触時間の下位∼20%群が上位 20%
の群よりも有意に理解語彙数が多く、
下位∼40%群が上位 20%群よりも有意に表出語彙数
が多かった。また、テレビ視聴時間の下位 20∼40%が上位 20%の群よりも、有意に表出
語彙数が多かった(表中の斜線部分が有意差が認められた部分)
。
表8 テレビ接触時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
テレビ接触時間
表出語彙数
身振り
度数
平均値
標準偏差
度数
平均値
標準偏差
最下位∼20%
205
293.4
104.28
203
150.9
115.51
206
46.4
9.09
∼40%
204
285.3
106.11
199
140.7
115.76
205
45.4
8.86
∼60%
204
284.0
108.68
200
132.7
110.53
203
45.4
8.34
∼80%
205
278.1
111.04
204
129.6
110.19
205
45.3
9.39
202
261.1
111.10
199
110.0
103.32
202
44.8
8.56
1,020
280.4
108.60
1,005
132.8
111.77
1,021
45.5
8.86
∼100%
合計
- 55 -
度数
平均値
標準偏差
表9 テレビ視聴時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
度数
テレビ視聴時間
表出語彙数
平均値 標準偏差
度数
身振り
平均値 標準偏差
度数
平均値 標準偏差
最下位∼20%
205
279.3
100.82
204
132.9
110.05
205
45.6
8.46
∼40%
212
286.5
113.32
206
154.6
121.26
213
45.6
9.23
∼60%
199
283.5
106.01
194
136.4
108.23
200
45.9
8.64
∼80%
211
281.2
108.45
210
126.2
110.55
210
44.9
8.41
193
271.1
114.39
191
113.0
104.39
193
45.3
9.57
1,020
280.4
108.60 1,005
132.8
111.77 1,021
45.5
8.86
∼100%
合計
表 10 テレビ専念視聴時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
度数
テレビ専念視聴時間
平均値
表出語彙数
標準偏差
身振り
度数 平均値 標準偏差 度数
平均値
標準偏差
最下位∼20%
245
275.5
107.56
242
125.4
110.59
245
44.8
8.49
∼40%
178
282.3
102.33
175
143.3
110.30
179
45.8
8.28
∼60%
192
286.5
105.96
188
142.3
112.06
192
45.8
8.31
∼80%
195
284.0
112.59
191
132.8
116.97
195
45.9
9.89
∼100%
210
275.8
114.00
209
124.2
108.86
210
45.2
9.24
1020
280.4
108.60 1005
132.8
111.77 1021
45.5
8.86
合計
同様に、メディア接触量のうち、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テレビ専念視聴時
間について、2シグマ(特に多い:上位 2.5%)
、1シグマ(かなり多い:上位 13.5%)
、
それ以外(下位群)の3つの層にわけ、これらの層の間で、マッカーサー言語発達検査の
理解語彙、表出語彙、身振りの得点に差が見られるかを検討した。3つの層の言語発達検
査の平均値と標準偏差を表 11∼表 13 に示した。分散分析の結果、テレビ接触時間につい
て、表出語彙数にグループ間で差が認められた(F(2,1002)=3.34,p <.05)
。同様に、テ
レビ視聴時間の場合についても、表出語彙数でグループ間で得点に差が認められた(F(2、
。テレビ専念視聴時間については、言語発達検査のいずれの得点にも
1002)=3.94,p <.05)
グループ間で差は認められなかった。有意差が認められたものについて、Tukey 法による
多重比較を行なった結果、
テレビ接触時間、
テレビ視聴時間の下位群が1シグマ群よりも、
有意に表出語彙数が多かった(表中の斜線部分が有意差が認められた部分)
。
表 11 テレビ接触時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
度数
テレビ接触時間
標準偏差
身振り
度数
平均値
標準偏差
下位群
856
283.6
108.67
843
136.8
113.24
857
45.6
8.95
1シグマ
137
268.2
103.82
136
112.0
100.13
137
44.8
8.26
2シグマ
27
242.1
121.91
26
112.5
110.99
27
45.3
8.82
1,020
280.4
108.60
1,005
132.8
111.77
1,021
45.5
8.86
合計
平均値
表出語彙数
- 56 -
度数
平均値
標準偏差
表 12 テレビ視聴時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
度数
テレビ視聴時間
表出語彙数
平均値 標準偏差
度数
身振り
平均値 標準偏差
度数
平均値 標準偏差
下位群
852
281.7
107.24
839
136.7
112.80
853
45.5
8.78
1シグマ
142
270.5
116.59
140
108.4
103.81
142
45.1
9.42
2シグマ
26
292.7
108.45
26
140.7
106.43
26
47.5
8.10
1,020
280.4
108.60 1,005
132.8
111.77 1,021
45.5
8.86
合計
表 13 テレビ専念視聴時間とマッカーサー言語発達検査の得点
理解語彙数
度数
テレビ専念視聴時間
平均値
表出語彙数
標準偏差
身振り
度数 平均値 標準偏差 度数
平均値
標準偏差
下位群
839
283.0
107.33
825
135.8
112.72
840
45.6
8.71
1シグマ
153
266.2
113.31
152
118.4
106.36
153
44.6
9.63
2シグマ
28
281.0
117.90
28
123.4
109.24
28
45.0
8.89
1020
280.4
108.60 1005
132.8
111.77 1021
45.5
8.86
合計
以上の結果をまとめたものを、表 14 に示す。
表 14 テレビ接触とマッカーサー言語発達検査の得点との関係
テレビ接触時間
テレビ視聴時間
テレビ専念視聴時間
理解語彙数
シグマによる
5分位
3群
n.s.
(*)
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
表出語彙数
シグマによる
5分位
3群
**
(*)
**
(*)
n.s.
n.s.
5分位
n.s.
n.s.
n.s.
身振り
シグマによる
3群
n.s.
n.s.
n.s.
**:1%水準で有意な関連あり、
(*):5%水準で有意な関連有り、n.s.:関連なし(n.s.=not
significant)
以上のように、理解語彙数と身振りについては、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テ
レビ専念視聴時間との関連は認められなかったが、表出語彙数については、テレビ接触時
間とテレビ視聴時間との間に関連性が認められた。
4. 考察
4-1. メディア接触量について
本研究の対象児が一日あたりテレビに接触する時間は平均して 3 時間 23 分であり、テ
レビ視聴時間は、そのおよそ半分の時間である 1 時間 44 分であった。テレビとビデオを
合わせた接触時間は、一日あたり平均約 4 時間であり、ビデオを見ている時間は一日平均
36 分であった。月齢による視聴量の変化を見ると、月齢間で有意な差は認められなかった。
次に、きょうだいの有無とメディア接触量との関係性を検討したところ、きょうだいの
- 57 -
いる対象児の方がビデオに接触する時間が有意に長いことが示されたが、その他のメディ
ア接触量については、有意な差が認められなかった。きょうだいがテレビやビデオを見て
いれば、対象児がテレビやビデオに接触する機会も増え、結果として対象児のメディア接
触量全体が増加すると予想されたが、本研究の対象者全体としては、ビデオ接触時間以外
ではそのような傾向は認められなかった。月齢別に検討したところ、19 か月と 20 か月で
は、きょうだいがいる方がメディア接触量が長くなる傾向が見られたが、22 か月児では、
きょうだいがいない方が、メディア接触量が長かった。
4-2. マッカーサー言語発達検査の得点について
マッカーサー言語発達検査の3領域の得点の月齢変化を見ると、
18 ヶ月から 24 ヶ月と、
子どもの成長とともに、それぞれ得点が高くなり、言語能力が発達していることが示され
た。特に、表出語彙数(
「わかる」+「言う」ことのできることばの数)は、月齢に伴う発
達が著しい。
次に各領域の月齢別得点の男女差を検討したところ、
理解語彙数については、
男女差が見られる月齢と見られない月齢があった。一方、表出語彙数(わかる+言う)と
身振りについては、全ての月齢において性差が認められ、同じ月齢においては、女児の方
が、表出つまり「言える」ことばの数が多く、非言語的なコミュニケーションのスキルや
象徴能力が発達していることが示された。
4-3. テレビ接触量と言語発達について
テレビ接触量を複数の層に分け、そのグループ間で、言語発達の状況を比較した。まず、
テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テレビ専念視聴時間を 20 パーセンタイルずつ5群に分
けて、マッカーサー言語発達検査の得点の比較をしたところ、今回の対象となった子ども
たちの中で、相対的にテレビ接触時間やテレビ視聴時間の特に長い子どもほど、表出語彙
数が少ないことが示された。しかし、理解語彙数や身振りの得点については、メディア接
触量との間に、統計的に有意な関係性は見られなかった。
同様に、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テレビ専念視聴時間について、今回の対象
となった子どもたちの中で、相対的にテレビ接触時間が特に多い群(2シグマ:上位 2。5%)、
かなり多い群(1シグマ:13。5%)、その他の子どもたちの3グループに分けて、言語発
達検査の得点の比較をした。その結果、テレビ接触量とマッカーサーの言語発達検査の得
点との間に、1%水準で有意な関連は見られなかった。
全体として、表出語彙数、すなわち、言葉を理解した上で言語化できる言葉の数につい
ては、相対的に長く見ている子どもたちほど、少なくなるという傾向が若干見られたが、
言葉を理解したり、身振りで示したりすることと、メディア接触との関連性は、今回のデ
ータにおいては認められなかった。
従って、この時期の子どもにテレビを見せることによる直接的な、深刻な、言語発達の
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障害は、確認されなかった。今後、テレビの見せ方、子どものしつけ、親の養育態度、そ
して子どもの日常生活行動のパターンなど、さまざまな媒介変数との関連で見ていくこと
が不可欠であることが示唆されていると言えよう。
5. 今後の課題
今回の分析では、テレビ接触時間、テレビ視聴時間、テレビ専念視聴時間という3つの
指標を主に用いて、言語発達状況との関連性を検討した。これらの指標は、量(時間)と
いう側面からみると、月齢などで差は見られないが、同じ接触量でも、月齢や性別によっ
て、その内容が変化し、それが言語発達と関係している可能性も想定される。さらに、メ
ディアにどんな状況で接触しているのか(一人で見ているのか、他の人と見ているのか、
など)といったことも、考慮していく必要性があるだろう。今後は、接触しているメディ
アのジャンルや内容、メディア接触の状況などについても考慮し、多角的にメディアと言
語発達について検討することが必要であると考えられる。
今後、エビデンスにもとづいた調査研究をさらに行い、メディア接触が子どもの言語発
達に及ぼす影響について事実を明らかにすることとしたい。
また、
これらの結果を通して、
言語発達を促進するコンテンツの方策を探ることも必要であると考えられる。
6. 引用文献
日本小児科学会 2004 「乳幼児のテレビ・ビデオの視聴と発達への影響」に関する調査
テレビ・ビデオの長時間視聴は乳幼児の言語発達に悪影響−調査結果を踏まえ。日本小
児科学会から 6 つの提言− プレスセミナー 2004 年 3 月 29 日
日本小児科医会 2004 「子どもとメディアの問題に対する提言」 2004 年2月6日
小椋たみ子 2004 「マッカーサー乳幼児言語発達質問紙の開発と研究(II)
」平成 13 年
度∼15 年度 科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)) 研究成果報告書
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