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男性の育児参画志向がキャリア成熟に及ぼす影響

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男性の育児参画志向がキャリア成熟に及ぼす影響
男性の育児参画志向がキャリア成熟に及ぼす影響
Effect of men’s child care motivated on career maturity
久米泰輔
KUME,Taisuke
キーワード:成熟キャリア、育児参画意欲
1.問題
私の研究では育児参画意欲には 2 種類があ
現在の男女共同参画社会では男性の育児
ると仮定する。一つ目は、直接的に子供と
休業取得を進めており、男性と女性の両方
接して子供の世話をしたいという「直接育
が育児と仕事をする社会に進もうとしてい
児参加意欲」
。二つ目は社会的な男女意識や
る。内閣府は 2020 年までに男性の育児休暇
働き方の観点から育児参画を望む「ワーク
取得の目標値を 13%に定めている。その中
ライフバランス意識」である。
で男性の育児参加意欲は 51.6%と上がって
いるにも関わらず男性の育児休暇取得は依
1-2.「キャリア成熟」
然として 1%代である。育児参画意欲と成人
Super(1984)はキャリア成熟を「キャリア
キャリア成熟との関連に注目し、育児参画
成熟とはキャリア発達課題に取り組もうと
意識がキャリアを考えることどのようにプ
する個人の態度的・認知的レディネスであ
ラスに働くのかを考えることが課題である。
る」と定義している。職業適性における従
それによって育児参画意欲の高い男性の後
来のマッチング理論の批判から出てきた職
押しをすることが目的である。
業発達理論は、職業選択を幼年期から老年
期に至るまでの職業的発達課題の達成プロ
1-1.「育児参画意欲」
セスとしてとらえた。Crites(1965)が、
育児参画意欲とは自身を父親として育児
キャリア発達課題に対する成熟度(心理的
参画をしたいか、また父親が育児参画する
な準備度)を概念的、操作的に定義するこ
ことに肯定的であるかである。日本におい
とにより、個人差を尺度によって測定する
ては育児休暇を取得することが育児参画に
ことが可能になった。
つながり、企業において育児休暇を取得す
成人キャリア成熟尺度には「関心性
ることを望むことも育児参画意欲を表す
(concern);自己のキャリアに対して、積
(佐藤・武石,2004)。また先進国の中で男性
極 的 な 関 心 を 持 っ て い る か 」、「 自 律 性
の育児休業取得率が高く 80%を越えるスウ
(autonomy);自己のキャリアへの取り組み
ェーデンでは父親から育児休業をより長く
姿 勢 が 、 自 律 的 で あ る か 」、「 計 画 性
してほしいという要望も出ている(野間
(planning);自己のキャリアに対して将来
1998)。
展望をもち、計画的であるか」の 3 つの態
度特性が設定されている(坂柳,1999)。
本研究では男性の育児参画意欲と成人キ
ャリア成熟との関連について検証した。
そぐわない項目は修正して使用した。
なお他にもフェース項目として、性別・年
齢・回生についての質問項目も質問紙に載
せた。
1-3.仮説
① 男性の「直接育児参画意欲」が高い傾向
ほど「キャリア主体性」の傾向は高くな
る。
3.結果
3-1.独立変数について
育児参画意欲尺度を因子分析(主因子法、
② 男性の「直接育児参画意欲」が高い傾向
バリマックス回転)した結果、第 1 固有値
ほど「キャリア関心」は高くなる。
は 6.93 で因子寄与率 33.03、第 2 固有値
③ 男性の「ワークライフバランス意識」が
は 3.01 で因子寄与率 14.32 となり、2 因
高いほど「キャリア関心」は高くなる。
子構造と判断した。
因子負荷量が第 1 因子、
第 2 因子とも.4 以上を採用した。どちら
2.方法
の因子にも負荷量が少なかった 1 項目はそ
本研究では関西大学の男子学生を対象とし
の後の分析から削除した。項目の内容を参
た質問紙調査を行った。
考にして、
第 1 因子を
「直接育児参加意欲」
調査対象者
因子(α=.900)と、第 2 因子を「ワークライ
関西大学の大学生 99 名(男性 99 名)
フバランス」因子(α=.813)と命名した。
調査時期
2010 年 10 月 中旬~11 月下旬
調査方法
3-2.従属変数について
成人キャリア成熟尺度の 17 項目につい
個人で手渡して自記式にて行った。
て因子分析(主因子法、プロマックス回転)
質問紙の構成
を行った結果、第 1 固有値は 10.41 で、因
①育児参画意欲尺度:本研究オリジナルの
子寄与率 38.59%、第 2 固有値は 2.89 で因
尺度である。
子寄与率 10.71%はとなり、2 因子構造と判
自身が父親になる状況について想定しても
断した。原典(坂柳,1999)によれば、成熟
らい、その状況でどの程度育児参画したい
キャリア成熟尺度には関心性、自律性、計
か、また、父親が育児参画することに対す
画性の下位尺度が存在したが、結果からは
る社会的意識を問う 21 項目で、5 件法によ
抽出できなかったため、今研究ではこの 2
り使用。
因子を使用する。
②成人キャリア成熟尺度:坂柳(1999)の成
因子負荷量が第 1 因子は.4 以上、第 2 因
人キャリア成熟尺度を用いた。原典の尺度
子は.35 以上を採用した。どちらの因子に
は 81 項目であったが、実際の仕事意識を測
も負荷量が少なかった 2 項目はその後の分
定する項目だと考えられる 27 項目を 5 件
析から削除した。項目の内容を参考にして、
法で使用した。成人キャリア成熟尺度は本
第 1 因子を「キャリア主体性責任」因子(α
来、成人(勤労者)を対象としているため、
=.946)と、第 2 因子「キャリア関心」因子(α
=.529)と命名した。
ャリア関心」について有意な差は見られな
かった(t(97)=.732, n.s)。
3-3.仮説 1 の検証
本研究では仮説 1 に『「直接育児参加意
欲」傾向が高ければ高いほど、
「キャリア主
3-5.仮説 3 の検証
仮説 3 には、
『ワークライフバランス意識
体性責任」を高めやすい』と設定していた。
が高ければ高いほど、
「キャリア関心」を高
「キャリア主体性責任」の因子を従属変数
めやすくなる』と設定していた。ワークラ
として、
「直接育児参加意欲」傾向の高低群
イフバランスの高低群間の「キャリア関心」
間で差が見られるのかどうかを独立したサ
の平均値の比較について独立したサンプル
ンプルによる t 検定により検証した。
による t 検定を行い、得点の相関関係を調
その結果、「直接育児参加意欲」の高群(平
べることで検証した。
均=3.98,SD=0.355,N=54)の方が低群(平
その結果、ワークライフバランス意識の高
均=3.55,SD=0.508,N=45)よりも「キャ
群(平均=3.45,SD=0.68,N=60) の方が低群
リア主体性責任」の平均値の面で高かった。
(平均=3.20,SD=0.815,N=39)よりも「キャ
また、独立サンプルの t 検定の結果、等分
リア関心」の平均値の面で高かった。独立
散性の検定で有意であったため
サンプルのt検定の結果、等分散性の検定
(F=6.29,p<.05)、等分散を仮定しない。そ
で有意ではなかったため
して、2 群間の「キャリア主体性責任」に
(F=2.24,n.s)、等分散を仮定する。しかし、
つ い て 1% 水 準 で 有 意 な 差 が み ら れ た
2 群間の「キャリア関心」で有意な差は見
(t(76.5)=4.79,p<.01)。
られなかった。(t(97)=1.68, n.s)。そして、
t 検定で有意な差が見られなかったため、
3-4.仮説 2 の検証
仮説 2 では、
『育児直接参画意欲が高い傾
向にあるほど、
「キャリア関心」が高くなる』
ワークライフバランス意識と「キャリア関
心」との相関関係を調べたが、有意な相関
が見られなかった(R =.093, N=99, n.s )。
と設定していた。これらを検証するために
「キャリア関心」の因子を従属変数として、
Table.1
「直接育児参加意欲」傾向の高低群間で差
が見られるのかどうかを独立したサンプル
による t 検定を行った。
直接意識参加意欲の高群(平均=
3.40,SD=0.796,N=54) の方が低群(平均=
3.29,SD=0.678,N=45)よりも「キャリア関
心」の平均値の面で高かった。また、独立
サンプルのt検定の結果、等分散性の検定
で有意ではなかったため(F=.44,p=.51>.05)、
等分散を仮定する。そして、2 群間の「キ
キャリア 平均値
主体性 標準偏差
責任
標準誤差
平均値
キャリア
標準偏差
関心
標準誤差
直接育児参加意欲 直接育児参加意欲
高群
低群
3.98
3.55
0.36
0.51
0.05
0.76
3.4
3.29
0.8
0.11
0.68
0.1
4-2.仮説 2 について
結果より、仮説 2 は支持されなかったと
Table.2
ワークライフバランス ワークライフバランス
意識 高群
意識 低群
平均値
キャリア主
標準偏差
体性責任
標準誤差
平均値
キャリア関
標準偏差
心
標準誤差
3.83
0.5
0.06
3.45
0.68
0.09
3.71
0.45
0.07
3.2
0.82
0.13
いえる。
本研究では、
「直接育児参画意欲」は「キ
ャリア関心」に影響を持たないとわかった。
「直接育児参画意欲」は自身が将来育児に
参画したいかを測定するものなのである。
なのでこれが高くなれば、キャリア関心も
高くなると考えて仮説 2 を立てた。しかし、
4.考察
結果は仮説 2 を支持しないものとなった。
4-1.仮説1について
調査に問題が残ると言う結果になったが、
結果から、仮説 1 は支持されたと言える。
本来、キャリア関心は、キャリアに何らか
「直接育児参加意欲」傾向が高い群におけ
の関心を持っていることだけを示しており、
る「キャリア主体性責任」は低い群のそれ
主体的にその実現をしていく意識が混ざら
よりも有意に高く、
「直接育児参加意欲」と
ないようになっていたこともあり、仮説自
キャリア主体性責任との関連性はあったと
体が間違っていた可能性が高い。
言える。
「直接育児参加意欲」がキャリアに主体的
に責任を持ちやすくなっている事を、本研
究では明らかにしている。それは育児に直
接自身が参画したいという意欲が、育児参
4-3.仮説 3 について
結果から仮説 3 は支持されなかったとい
える。
本研究では、
「ワークライフバランス意識」
画を実現するためにキャリアに主体的に取
は「キャリア関心」に影響を持たないとわ
り組むことを意識させるのではないかと考
かった。
「ワークライフバランス意識」とは、
えられる。現在の日本社会では育児参画を
男性は仕事と育児のバランスをとった働き
希望し、育児休暇などの取得を考えた場合、
方をするべきと考えているものである。な
よほど意識して取り組まない限り実現は難
ので、そのような働き方を支持し、意識し
しいためこの結果が出たと予想できる。北
ているということは、キャリア関心も同時
欧諸国などの育児休暇取得率がと過半数を
に高くなると考え、この仮説 3 を立てた。
超えているノルウェーやスウェーデン(野
だが、今回の結果は仮説 3 を支持しないも
間,1998)の男子学生は直接育児参加意欲と
のとなった。これは、
「ワークライフバラン
キャリア主体性責任との関係は日本の学生
ス意識」の低い群、即ち男性は仕事を中心
と違った結果になるかもしれないと予想で
にし、女性は家庭を中心とすべきという性
きる。ただ、これはあくまで予想なので今
役割固定観念の強いものも、仕事中心に人
後検証する必要があると考えられる。
生を考えているため結果としてキャリア関
心が高いという結果になってしまったと考
えられる。また「キャリア関心」自体もキ
ャリアに主体性を持つのではなく、あくま
定できていなかったと考えられる。また、
で関心があるということなので、
「ワークラ
ワークライフバランス意識を測る質問項目
イフバランス意識」が高くても低くても「キ
の中には「人生を仕事中心に考えない意識」
ャリア関心」を持つことまでは、多くの人
を測っているものもあり、必ずしも育児を
がするのではと考えられる。また、
「ワーク
することを意味しないものもあった。
ライフバランス意識」というのは自身が育
しかしながら、育児参画意欲尺度によっ
児をしたいかというものではなく、社会全
てはキャリア成熟に影響を与えるというこ
体の意識として、男が育児するべき、ワー
とがわかった事は喜ばしいことだと言える。
クライフバランスを進めるべきかを測定す
よってワークライフバランス意識の質問を
るものであったため、ワークライフバラン
もっと体系的に分類できるように練り直せ
ス意識が低くてもキャリア関心が低くなら
ばもっと育児参画意欲とキャリア成熟との
ない場合があり、仮説自体が間違っていた
関連を見出すことができるのではないかと
可能性が高い。
思った。
5.総合的考察
6.引用・参考文献
本研究では、男性の育児参画意識と成人
Crites,J.O1965
Measurement
of
maturity
in
キャリア成熟との関連について検証した。
vocational
本研究全体を通しての結論としては、仮説
adolescence:.Attitude
に不足があったと思われる。本研究で立て
vocational
た 3 つの仮説のうち、2 つが支持されなか
inventory.Psychological
った。このことから、仮説自体に無理があ
Monographs:General
ったと思われる。
Applied,79(2),1-35.
また成人キャリア成熟尺度の修正に不備
Super,D.E.
test
of
the
devlopment
1984
and
Career&life
があった。これは成人(勤労者)を対象に
development.
作られた尺度であり、学生に使うべきでな
Brown,D.&Brooks,L.(Eds.)
い質問項目の修正が不十分な項目が 2,3 あ
Choice and Development. Jossey-Bass.
った。
また育児参画意欲尺度に不足があった。
ワークライフバランス意識において、自身
In
Career
佐藤博樹・武石恵美子 2004 男性の育児
休業 社員のニーズ、会社のメリット 中
公文庫
がワークライフバランスのとれた仕事生活
ヒューマンルネッサンス研究所(編著)2008
を送りたいのか、社会全体として男性がそ
男たちのワーク・ライフ・バランス 幻冬
のような生き方を目指していくべきなのか
舎ルネッサンス
が区別されなかったということを調査後に
野間敦子 et.al(著)日本労働研究機構(編)
気付いた。よって自身がワークライフバラ
1998 諸外国における男性の育児参加に関
ンスのとれた生活をしたいと考えているこ
する調査研究
とと成人キャリア成熟との関連を満足に測
堀洋道(監修)・吉田富二雄(編)2001 心
理尺度集Ⅱ
人間と社会のつながりをと
らえる<対人関係・価値観>サイエンス社
坂柳恒夫
1999 成 人 キ ャ リ ア 尺 度
(ACMS)の信頼性と妥当性の検討
愛
知教育大学研究報告、48,115-122
―――――――――――――――――――――
転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記
までご連絡ください。]
掲載責任者: 土田昭司
竹内登規夫・坂柳恒夫 1982 進路成熟態度
尺度 (CMAS-1)の作成と項目分析
(平成 17)
愛知
教育大学研究報告、31,193-210
男女共同参画白書(2005)男女共同参画局
連絡先: [email protected]
最終更新日: 2011 年 4 月 5 日
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