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音のレーザー光オシログラフ装置の開発
中学第一分野 音のレーザー光オシログラフ装置の開発 鹿児島県総合教育センター 樋 之 口 仁* 目 的 中学第 1 分野や高校物理における音の波形の観察 は、一般的には陰極線オシロスコープやパソコンが用い られる。いずれも便利な装置であるが、生徒にとっては ブラックボックスであり、音波の本質的理解につながり にくい。また、回転鏡を使った市販装置もあるが、高価 であり、学校予算が少ないことを考えると、購入は難し い。また、高校物理においては、 「ある媒質の時間変動 を示す振動のグラフ」と 「ある時刻の各媒質の空間的な 振動の変位を示す波形のグラフ」の違いが、同じ正弦 曲線であるゆえに理解することが難しい。そのため、 オシロスコープの原理や振動のグラフを直観的に理解 させることのできる教材教具の開発が望まれていた。 そこで、装置の動作原理が明解で、安価な(材料費 千円程度)オシログラフ装置の開発を行った。同時に、 数時間で容易に自作でき、木工、金属加工、ハンダ付 け、圧着などの理科教具製作のための教員研修教材と しても有用なものを目指した。 概 図 1 レーザー光によるオシログラフの原理 要 開発した装置は、陰極線オシロスコープの陰極線の 代わりに、学校にあるレーザーポインターやレーザー 光源装置のレーザー光を用い、この光を自作回転鏡に よって走査する仕組みである。 図 1 のように小さな鏡をおんさに取り付け、この鏡 にレーザー光を当てると、レーザー光の光路が振動し、 それを回転鏡で走査して黒板等のスクリーンに映すと 正弦曲線をえがく。 おんさによる実験では、反射鏡をおんさに直接付け ているため、音源の振動の大きさと音の大小の関係は 示すことができるが、実際の空気の振動である音の観 測はできない。そこで、空気の振動を観測するために 厚紙の円筒を利用した鏡付きの紙筒マイクを製作し た。図 2 のように紙筒マイクに息を吹き込むように発 声すると、筒内の空気の振動がマイクの先端に取り付 けた鏡の振動になり、これにレーザー光を当て、回転 鏡装置で走査すると音波のオシログラフが得られる。 図 2 紙筒マイクによる音波のオシログラフ装置 教材・教具の製作方法と学習指導方法 蠢.回転鏡装置 1. 原理 図 1 のようにレーザー光源の光をおんさの反射鏡に 当てる。この状態でおんさをたたくと、回転鏡上の反 射鏡の輝点が上下に振動し、輝線をえがく。このとき 回転鏡を回転させると、スクリーン上の輝点が正弦曲 線のオシログラフとして観察される。 2. 材料 発泡ポリスチレン板、グラフ用紙、両面テープ、鏡、 真 鍮 棒、プーリー、輪ゴム、ベニヤ板、L 型金具、木 ねじ、モーター、わに口クリップ、釘、電熱線、圧着 端子、単一電池ホルダーなど。 ちゅう くぎ (注)樋之口 仁研究主事は平成 19 年 4 月 1 日付で鹿児島県立錦江湾高等学校に転任された。 * ひのくち ひとし 鹿児島県立錦江湾高等学校 教諭 〒 891-0133 鹿児島県鹿児島市平川町 4047 蕁 (099) 261-2121 E-mail [email protected] 19 3. 製作 正方形の発泡ポリスチレン板 2 枚と 4 枚の鏡で直方 体状の回転鏡(写真 1 参照)を作成する。回転軸とし て真鍮棒を用いる。まず、回転軸にプーリーを差し込 み、回転鏡を写真 1 のように挿す。この工程では、正 方形(一辺 4cm)の発泡ポリスチレン板を正確に切り 出すことがポイントで、発泡ポリスチレン板にグラフ 用紙を貼り、目盛りに沿って切り取る工夫をした。 回転鏡の軸受には、写真 1 のように L 型金具を上下 に 2 枚用い、金具とベニヤ板との固定には、木ねじを 利用する。モーターの回転をプーリーに伝えるベルト として輪ゴムを利用する。回転鏡の回転速度は遅くし た方が観察しやすいため、電熱線とわに口クリップを 用いて可変抵抗器を作り、モーターの回転速度を調節 する工夫をした。電熱線の一端は、圧着端子で固定し、 その圧着端子を単一電池ホルダーにハンダ付けし、他 端は釘に固定する。この工夫により、乾電池 1 個で駆 動できるので、電源装置がコンパクトで、携帯性に優 れるものになった。 写真 2 実験装置 写真 3 音源の振動(おんさ)のオシログラフ (上段:大きな音、下段:小さな音) 蠡.音波の振動を観察する紙筒マイクの製作 写真 1 回転鏡装置 4. 学習指導方法 写真 2 のように実験装置を組み合わせ、波形を観察 させる。起動の際は、わに口クリップを単一電池の端 子に直接当て、勢いよく回転させる。次に、わに口ク リップを電熱線上で釘の方向へスライドさせ、できる だけオシログラフが観察しやすい回転速度に調節す る。回転鏡の回転を速くすれば時間のスケールが小さ くなり、波形は横に伸びる。また、回転を遅くすれば 波形は縮む。 実験において、おんさを強くたたくと写真 3 の上段 のような波形になり、弱くたたくと下段のような波形 になり、音の大小と音源の振幅の関係を体験的に気付 かせることができる。カーテンや暗幕のある教室では、 スクリーンの代わりに黒板を用いると、迫力のある大 きな波形を観察させることができる。 20 おんさによる実験では、音源の振動の大きさと音の 大小の関係が理解できるが、実際に音波を観察できて いない。そこで、音の媒質である空気の振動を観察す るために厚紙の円筒を利用した鏡付きの紙筒マイクを 製作した。 1. 原理 図 2 のように紙筒マイクに息を吹き込むように発声 すると、空気の振動がマイクの先端に付けた薄いフィ ルムの前後振動になる。その振動を縁に付いている鏡 が上下の振動に換え、回転鏡装置で音波のオシログラ フが得られる。 2. 材料 太さの異なる厚紙でできた紙筒 3 つ(印刷機の使用 済みマスター芯や台所用ラップフィルムの芯などで、 一番太い円筒の内径と 2 番目の太さの円筒の外径がほ ぼ同じで挿入でき、一番小さな円筒の外径が 2 番目の 太さの円筒の内径よりも細いもの)、台所用ラップフィ ルム、輪ゴム、薄い鏡(塩化ビニルやポリカーボネー ト製)、両面テープ、セロハンテープ、塩化ビニル管、 ビニルテープなど。 3. 製作 紙筒は、印刷機の使用済みマスター芯を利用した。 その片端に振動しやすい薄いフィルム(台所用ラップ フィルムを利用)を輪ゴムでとめ、しわを伸ばし、輪 ゴムの上からセロハンテープで固定する(写真 4 参 照)。さらに、写真 5 のように 2 本の塩化ビニル管をビ ニルテープで固定して転倒しないように支持した。 この紙筒に抜き差しできる紙筒とその紙筒に穴を開 けて細い紙筒を挿して L 型紙管を作り、写真 6 のように 紙筒マイクの支持台に挿入する。この L 型紙管によっ て、声を出す人も自分の作るオシログラムを観察でき、 かつ目にレーザー光が入射しないように配慮した。 4. 学習指導方法 写真 7 のように実験装置を配置し、生徒に体験させ る。写真 8 の波形は、いずれも「ア」の音声であり、 音程を変えて観察したものである。このように、音の 高低による振動数の大小の変化を提示することができ る。また、明るいレーザー光源を使えば、オシログラ フスクリーンを黒板で代用することができ、黒板に映 した迫力のあるオシログラフ像を提示できる。 写真 7 音波のオシログラフ実験装置 写真 4 紙筒マイクの鏡の取り付け 写真 8 観察された音声「ア」の波形 (上段:低い音、下段:高い音) 写真 5 紙筒マイクの支持台 実践効果 蠢.本教具の学習指導における効果 1.音波のオシログラフを大きく黒板に効果的に提示 できる 市販レーザー光源装置や明るいレーザーポインター を用いると、黒板をスクリーンとしてクラス全員に大 きなオシログラフを提示することが可能である。 生徒は簡便な本装置によるおんさの振動の正弦曲線 に非常に感動する。また、紙筒マイクでえがかれる自 分の声の振動に非常に興味をもつ。おんさの実験で、 中学校の音波の単元の「音の大小と振幅の関係」、紙 筒マイクの実験では、「音の高低と振動数の関係」へ の理解に効果的である。 写真 6 紙筒マイクの完成 21 2.中学生にもオシログラフの原理を説明できる これまで、オシロスコープの波形がどのようにして できるか原理まで説明することは、高校物理の電磁気 単元を終了するまで不可能であった。 しかし、製作した装置は、陰極線をレーザー光線に 置き換えたために、回転鏡による走査や鏡による増幅 などの仕組みが、光の反射ですべて説明できるため中 学生にも理解しやすい教具である。 3.生徒の混乱しやすい波や弦の振動の様子と音の振 動の様子の違いを明確にできる 本装置は、中学生や高校生に波のある点の媒質の振 動の様子(ある媒質の時間変動を示す振動のグラフ) をしっかり理解させ、弦の振動(定常波の基本振動) や実際の波の様子(ある時刻の各媒質の空間的な振動 の変位を示す波形のグラフ)との違いの理解を深める ことができる。 4.中学校の選択理科や自由研究、高校物理の探究活 動や課題研究における音波の実験装置として活用 できる 本装置は、黒板に投影することによって今まで述べ たような実験以外にも、あらかじめ振動数の分かって いる発音体(おんさ)を写真 3 や写真 8 で使ったグラ フ用紙で作ったスクリーンに投影すると、横軸の長さ が、時間に対応しているため、未知の振動数の発音体 の振動数を正確に求めることが可能である。また、お んさの代わりに拡声器のスピーカの縁に鏡を付ける と、図 2 と同じ原理で拡声器のマイクによって様々な 音源(楽器)による音波の波形の様子(音色の違い) を調べることができる。 22 蠡.教職員の研修講座教材としての効果 1.理科の教職員の教材製作のための技能向上を図る ことができる 本装置は、千円程度の材料代で製作できるためコス トパフォーマンスに優れる。また、製作時間も 4 時間 程度で容易に製作できるため、教職 10 年経験者研修 や短期研修などの研修の教材として活用しやすい。ま た、製作において、木材や紙(せん孔)、金属(切 断・研磨)、プラスチック(切断)などの加工、ハンダ 付け、圧着などの工程があるので、基礎的な技能を習 得することができる。製作した先生方は皆熱心に取り 組み、教材を持ち帰った。 2.製作した教材で実証授業をしてもらい、観察実験 のノウハウ集にまとめ、Web 公開し、本県だけで なく、理科教育の振興に役立てることができる http://www.edu.pref.kagoshima.jp/kari/rika/ index.htm