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ナタネを原料としたバイオディーゼル燃料の 小型ディーゼル機関への適用
一 向 一 農業機械学会誌 7 1 ( 5 ): 88-94 ,2 0 0 9 ナタネを原料としたバイオディーゼル燃料の 小型ディーゼル機関への適用 イ* s t 西野邦彦事1・宮田雄介* 1・櫨谷幸憲* 2・野口 申 要 旨 近年,地球温暖化対策としてバイオマスの利用が注目されている。なかでも,ナタネ油等の植物油や廃 食用油を原料として製造したバイオディーゼル燃料 ( b i o d i e s e lf u e l, BDF)は軽油代替燃料として欧米や 圏内の一部で既に実用化されている。本研究では,圏内で生産されたナタネを原料として BDFを製造 し,燃料性状と機関性能,排出ガス特性について明らかにした。その結果, BDFの燃料性状は軽油と異な るものの,出力性能は十分に発揮でき,高負荷域で正味熱効率が向上することが明らかになった。 ISO計 測標準 8 1 7 8 4に則して排出ガス特性を検討した結果, BDF運転時は CO ,NOx排出量の増加, CO排出 2 量の減少が認められた。 [キーワード]バイオマス.パイオディーゼル燃料,燃料性状,機関性能,排出ガス特性 ー l il ll ia --! i?! i ApplicationtoSmall-sizedDieselEngineofBiodieselFuel i l GeneratedfromRapeseedO KunihikoNISHINO ベYusukeMIYATAべYukinoriSHIBUYA*2,NoboruNOGUCHI*3t Abstract YJ 一、 円一一品}ム 1 ,biomasshasbeenseena sameanst of i g h tg l o b a lwarming. S p e c i f i c a l 1 y, r a p e s e e do i l R e c e n t l y ando t h e rwastedcookingo i la r ec o n v e r t e di n t ob i o d i e s e l(BDF);andtheya l r e a d ya c ta ss u b s t i t u t e sf o rd i e s e lf u e li nAmerica ,EuropeandJ a p a n .I nt h i sr e s e a r c h ,t h ep r o p e r t i e so fBDFfrom l o n gwithi t sperformanceande m i s s i o n swhen domestica l 1 yproducedr a p e s e e do i lweres t u d i e d,a useda senginef u e l .Ther e s u l t sshoweds i m i l a re n g i n eperformancewhene i t h e rBDFo rd i e s e lf u e l wereused;withas l i g h t l yh i g h e rthermale f f i c i e n c ya th i g h e rl o a d si nc a s eo fBDF. I nt e r m so f e m i s s i o n s, t h eBDFgeneratedmoreCO i e s e lf u e lwhencomparedbasedont h eISO 2andNOxthand 8 1 7 8 4standard;c o n t r a r i l yCOe m i s s i o n swerer e d u c e d . [ K e y w o r d s ]b i o m a s s,b i o d i e s e l,f u e lp r o p e 此y , e n g i n ep e r f o r m a n c e .e m i s s i o n tz -一--一‘ー、 一 一 、 一 jFC teJez" 一一 I 緒 言 4 近年,ナタネ油等の植物油や廃食用油を原料として製 造されるバイオディーゼル燃料 ( b i o d i e s e lf u e l ,BDF) が,温室効果ガスの主要因である二酸化炭素の削減や, ディーゼル車から排出される黒煙などの大気汚染物質の 低減,持続可能な資源循環型社会システムの形成手段と 、¥ して注目されている (Yamane ,2 0 0 6 )。欧州や米国では 1 9 9 0年代前半から休耕地などを利用して,それぞれナタ ネおよび大豆を栽培し,得られる植物油の新油から BDFを製造しており,年間製造量 ( 2 0 0 4年)はドイツで 1 5万 kL ,米国で約 9 . 5万 kLとなっている。日本で 約1 は,主に廃食用油から年間 0 . 5万 kL( 2 0 0 4年)の BDF を製造して,市営パスや廃棄物収集車の嬬料として使用 骨盤底航船艇瓢劉部釦器官位粧酬馳 'LF 防 h 総際鯵撒欝 説 uhp ぷ 伝 * 1学生会員,北海道大学大学院農学院(〒 0 6 0 8 5 8 9札幌市北区北 9条西 9丁目 TEL0 1 l7 0 6 3 8 ( 7 ) G r a d u a t eS c h o o lo fA g r i c u l t u r e , H o k k a i d oU n i v e r s i t y , K i t a ・ 9 , N i s h i 9 , Ki t a k u , S a p P o I ・ o , 0 6 0 8 5 8 9 , J a p a n 2 0 0 1 9 8盛岡市下厨川字赤平 4 TEL0 1 9 6 4 3 3 5 3 5 ) * 2会員,東北農業研究センター 寒冷地パイオマス研究チーム(〒0 N a t i o n a lA g r i c u l t u r a lR e s e a r c hC e n t e rf o rT o h o k uR e g i o n , A k a h i r a4 , K u r i y a g a w aM o r i o k aI w a t e , 0 2 0 0 1 9 8 , J a p a n *3会員,北海道大学大学院農学研究院 tC o r r e s p o n d i n ga u t h o r: n o g u c h i @ b p e . a g r . h o k u da i . a c . j p 8 9 西野・富田・溢谷・野口:ナタネを原料としたバイオディーゼル燃料の小型ディーぜル機関への適用 している。廃食用油を原料とする場合, BDFの品質は, 適切に製造すれば原料廃食用油の劣化(特に油の劣化度 を示す酸価)の影響はそれほど受けないが,劣化が大き いと燃料の収率が悪くなることが懸念される。また,廃 食用油はさまざまな原料油脂が混合しているため,製造 された BDFの燃料性状が一定せず,場合によっては車 両に悪影響を及ぼすことが起こりうる。 ナタネの新油を原料とした場合,廃食用油の持つ上記 のような問題を回避できる可能性を有する。ナタネは寒 さや雪に対しでも強く,乾燥に対しでも抵抗性があり, あまり肥沃でない土地でも栽培できて,稲作の裏作とし ,1 9 7 7 )。未利用農地を利用 ても栽培可能であるCIimoto したナタネ栽培による製造可能量の推定結果によるとナ 9万トン, BDF製造量は年間 1 8万 タネ収穫量は年間 1 トンと,家庭系廃食用油発生量と同等の量が見込まれる ( I kegami ,2 0 0 8 )。このようなことから圏内における BDFの原料が廃食用油からナタネに移行することは十 分に考えられる。そこで圏内で生産されたナタネを原料 として製造した BDFの燃料性状,特に動粘度特性を明 らかにし, BDF運転時のディーゼル機関性能と排出ガ ス特性について試験を行ったので本報において報告す る 。 1 1 実験材料および実験方法 1.供試燃料 ( 1 ) BDFの製造 本研究で供試した BDFは東北農業研究センターにお いて生産されたナタネを搾油し,アルカリ触媒法で製造 したものである。アルカリ触媒法とは,原料油脂とメタ ノールを水酸化カリウム (KOH) や水酸化ナトリウム (NaOH) などのアルカリ触媒下でエステル交換反応さ せて指肪酸メチルエステルを得る方法である。得られた 脂肪酸メチルエステルは BDFとしてディーゼル機関に 使用できる。 ( 2 ) BDFの諸性質 BDFの燃料性状は,その脂肪酸メチルエステル組成 に左右される。脂肪酸メチルエステル組成は,原料油脂 の脂肪酸組成そのものである。ガスクロマトグラフで測 定したナタネ油の指肪酸組成を表 1に示す。分析した脂 8 . 3 %となったが, 残りの1.7%の中 肪酸組成は総量で 9 に未反応のトリグリセリド,反応途上のジグリセリド, モノグリセリド等が含まれているものと推察できる。パ ノレミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸は低温時に 結品化しやすいが,ナタネ油は大豆油やパーム油と比較 してこれらの含有量が少なく低温特性の点で有利であ る。ナタネ油のもう一つの特徴としてオレイン酸の割合 が高いことが挙げられる。これは不飽和脂肪酸のなかで は酸化されにくく酸化安定性が高いという特徴を持つ。 ナタネを原料として得られた BDFのディーゼル機関 用燃料としての適合性を明らかにするため JIS2号軽油 表 l ナタネを原料とした BDFの脂肪酸組成 T a b l e1 F a t t ya c i dc o m p o s i t i o no fr a p e s e e dm e t h y le s t e r (%) P a 1 m i t i ca c i d S t e a r i ca c i d O l e i ca c i d L i n o l e i ca c i d L i n o l e n i ca c i d E i c o s e n o i ca c i d C 1 6 :0 C 1 8 :0 C 1 8 :1 C 1 8 :2 C 1 8 :3 C 2 0 :1 4 . 7 2 . 6 6 5 1 7 . 5 7 . 6 0 . 9 表 2 BDFとJ I S 2号軽油の燃料性状 T a b l e2 P r o p e r t i e so fB i o d i e s e la n dJ I SN O . 2D ie s e lF u e l P r o p e r t y D e n s i t y( l5 O C l F l a s hp o i n t P o u rp o i n t C a l o r i f i cv a l u e C H O BDF g / c m3 0 . 8 8 9 1 。 C 1 5 4 . 0 。 C 1 0 . 0 M J / k g 3 7 . 7 7 5. 4 % % 1 1 .7 現 6 1 1 .2 D i e s e lF u e l 0 . 8 2 3 7 6 4 . 0 1 0 . 0 4 2 . 7 8 6 . 1 1 3 . 8 < 0 . 1 の燃料性状と比較した。その結果を表 2に示す。密度は 着火性を示すセタン指数に影響する値で BDFのほうが 高い。ただし,セタン指数は石油系燃料のセタン価推定 に用いられるため, BDFには適用すべきではないとさ ,2 0 0 6 )。引火点は BDFの方が高く, れている (Yamane 軽油よりも取り扱い性が高いといえる。流動点で示され る低温流動性は同等の値を示した。ナタネを原料とした BDFは一般に大豆油やパーム油を原料とした場合より も流動点が低いことが特徴である。発熱量は BDFのほ うが小さく,これは BDFが酸素を約 11%含む含酸素燃 料であることに起因している。これにより BDF運転時 は出力の低下,燃料消費量の増加が予想される。 ( 3 ) 動粘度特性 軽油代替燃料として植物油で運転した場合,動粘度が 高いため霧化特性が悪化し,燃焼室内で昇温するのに時 間を要し,着火遅れ期聞が長くなり,機関性能に悪影響 ta , . 11 9 6 9 ) ことが を及ぼす可能性がある (Tanazawae 報告されている。そのため,供試したナタネ由来の BDF が適正な動粘度であるか明らかにする必要がある。そこ で,さまざまな温度条件下における動粘度特性を明らか にした。また, BDFは軽油と混合して使用されることが 多いため,その点についても検討した。動粘度の測定は J I SK 2 2 8 3r 原油及び石油製品一動粘度試験方法及び粘 度指数算出方法」に準じて行った。動粘度試験器にはガ ラス製毛管式動粘度計で,圏内で一般的に使われている 動粘度計の一つであるキャノンーフェンスケ動粘度計 (柴田科学製)を使用した。 2 . 供試機関 供試機関にはヤンマーデ、イーゼル製農用小型ディーゼ ル機関 NSA40Cを採用した。これは主として揚水ポン 6 9 c cの単気筒機関で,定 プ,発電機などに使用される 2 農業機械学会誌第 7 1巻 第 5号 ( 2 0 0 9 ) 9 0 格出力 2 . 5 7kW/ 2, 0 0 0rpm,圧縮比 2 4 . 5の渦流室式 4サ ルトを介し トル クメ ータに伝達し, イクル機関である。実験を行うにあたって,冷却水外部 からタイミングベルトを介して発電機に接続されてい トル クメ ータの出力 る。機関への負荷は発電機を介し,負荷抵抗器(山菱製 循環装置の設置,燃料供給管の延長,吸排気管の変更な ど、を行ったが,機関の燃焼に関わる部分の改造は施して いなし、。したがって,燃料噴射時期 (BTDC1 0CA),圧 RZ10 0 4 B )によって与えた。ロータリエンコーダ,温度 センサ, トノレクメ ー タからの信号は一括して PCに取り 縮比,噴 口面積比などは一般に使用されている形態その 込んで処理し,試験中の冷却水温は 50 ~60 0C になるよ 0 排出ガス成分である CO ,CO ,NOxは 2 ままである 。実験では BDFと軽油を種々の割合で混合 うに設定した。 した ものを燃料として用 いている が,機関への供給は燃 T e s t o製 t e s t o 3 5 0 XL) ポータフ'ル燃焼排出ガス分析計 ( 料タンクに予め任意の混合率で混合した BDF混合軽油 によって測定した。これには風速計測機能も有してお を入れる方法とした。 り,排気管径を用いた演算により排出ガス量を求めるこ 3 . 測定装置と方法 とができる。排気煙濃度は光透過型煙濃度計(堀場製作 各種デ ー タを取得するためベンチ装置の製作を行っ 1 3 0 S)によって測定した。 所製 MEXA r I SB8 0 1 8 小形陸用ディ ーゼルエンジ 試験方法は, J た。システムの概略図を図 lに示す。燃料はビュレッ卜 を介して機関に供給し, 5または 1 0cm消費する時間と ン性能試験方法」に準じ,連続定格回転数 ( 2, 0 0 0rpm) タンク中の燃料温度により,燃料消費量を算定した。吸 における連続定格出力 ( 2 . 5 7kW)を 100%負荷 (BMEP 入空気量は吸気管にサ ー ジタンクを取り付け,内外の差 3,1 05 ,7 0,5 6,4 4,21%負荷及び無 0 . 5 7MPa) とし, 9 ,BDF混合 負荷について行った。この一連の試験を BDF B 5,B 2 0, B50,B 7 5) ,軽油について実施した。 軽油 ( 3 圧により求めた。機関回転数の計測はロータリエンコー 6C2-CWZ3E)を 7ライホイ ールに取り ダ(オム ロン製 E 付けて行った。温度センサは吸気管と冷却水管に取り付 けた。機関の動力は, フライホイールからタイミングベ I I I 実験結果および考察 1.動粘度試験 図 2に燃料温度と BDF混合率が動粘度に与える 影響 について示す。全ての試験温度において BDFの動粘度 ,軽油いずれも温度の上 は軽油よりも高くなった。 BDF 昇にともない動粘度は低下する傾向を示し, BDFの動 粘度は温度の 上昇にともない 軽油に近づいていった。 BDFは低温条件下で急激に動粘度が高くなるという点 Rushange ta , . l2 0 0 7 ),それ は他の文献でも確認でき ( 0 と同様の傾向を示した。 BDF混合軽油の 4 0Cにおける/ ι 動粘度特性については,混合による急激な変化はなく BDFと軽油の動粘度を按分する結果となった。 4 00 Cに 2 1 0 0の動粘度は 5 . 3 7m m/ sであり,米国におけ おける B TMD6751-02) の範囲(1. 9~6.0 る BDF性状規格 (AS mm2/ s ) 内であった。 しかし, EUや日本の規格 ( EN 1 4 2 1 4,揮発油等の品質の確保等に関する法律)では動粘 且 ルlanometer 図 l システム概略図 c h e m a t i cd i agramo fe x p e r i m e nt a la p p a r a t u s F ig . 1 S 6 2 5 U勺 凶 ¥ 円 E2 0 門 戸 言15 一 ・ 一D i e s e l に > -ι-BIOO 0 n 広 也3 " ' コ ' " D に3 一 ← 40"C n 包 g4 ' " E α ョ ~ b 〉 :lO 戸 ¥ " コ Zニ 。 1 0 ー X 、 F J 1 0 5 0 F u e lt e m p出 u r e[ o G] 3 0 7 0 9 0 。 2 0 6 0 B D Fr a t i o[%] 40 8 0 図 2 燃料温度と BDF混合率が動粘度に与える影響 F i g . 2E f f e c to ff u e lt e m p e r a t u r ea n db l e n dr a t i oo fBDFw i t hD i e s e lFue lo nk i n e m a t i cv i s c o s i t y 1 0 0 西野・宮田・溢谷・野口:ナタネを原料としたバイオディーゼル燃料の小型ディーゼル機関への適用 2 5 2 4 邑2 2 ; ; ?23 9 1 f ; ' 2 2 ~ 巴S ・21 E E 2 百 戸 ・1 6 官 E 1 3 白 戸 20 1 0 1 9 8 0 0 5 5 0 一 + ーD i e s e l 7 ω E 」 ・ =600 -0-8 1 0 0 0 包 u m , 5 0 0 一 ← 44%load(0.26MPa) 5 0 0 制 ミ . . c 包400 CI) 4 0 0 ∞ 3 5 0 3 0 0 0 . 0 0 . 1 0 . 2 . 4 0 . 5 0 . 3 0 BMEP[ M P a ] 0 . 6 0 . 7 図 3 軽油と BDFの正味燃料消費率と正味熱効率の比較 F i g .3 C o m p a r i s o nb e t w e e nDie s e lF u e landBDF i nt e r m so fb r a k es p e c i f i cf u e lc o n s u m p t i o n andt h e r m a le f f i c i e n c y 2 度は 3 . 5 5 . 0mm / sとされており,供試した BDFは規 格よりもわずかに上回ることも明らかとなった。 2 . BDF運転による機関性能 BDF運転時の最大出力は 2.68kW ,最大トルクは 1 2 . 7 9 ,1 2 . 8 0 N.m) と同等 N.mであり,軽油運転時 (2.68kW であった。軽油と BDFの正味燃料消費率と正味熱効率 の比較を図 3に示す。 BDFの正味燃料消費率は軽油と 比較して 6 . 4 . ; 1 4 . 1 % (平均 1 1 . 5%)増加している。これ は,燃料の単位質量当たりの発熱量が軽油より約 12% 低いため,同一出力を得るには燃料消費量を増す必要が あることを示している。つまり燃費が軽油より悪いこと を意味する。一方, BDF運転時の正味熱効率は無負荷か . 4 0MPa) までは軽油運転時と差 ら 70%負荷 (BMEP0 . 6 0MPa) においては がなく, 70-105%負荷 (BMEP0 高くなっている。林ら ( Hayashie ta , . l1 9 9 2 ) は,ナタ ネ精製油で運転したときの正味燃料消費率は軽油より大 きいが,負荷率が増加するにつれてその差は縮小され, 正味熱効率は 50%負荷で軽油の方が上回り, 100%負荷 では逆にナタネ精製油の方が上回ることを報告してい る。その理由を,含酸素燃料であるナタネ油は高温・高 圧の条件下では早く分解燃焼するため,燃焼速度が速 く,可燃範囲も広くなるため正味熱効率が高くなり,逆 に低温・低圧では着火遅れ期聞が長く予混合燃焼割合を 高め,空気利用度も低くなるため,冷却損失などの影響 の度合いが大きくなり正味熱効率が低くなると報告して いる。しかし,本研究の結果によると低温・低圧である 3 0 0 0 2 0 4 0 6 0 BDFRa t i o[ % ] 8 0 1 0 0 図 4 BDF混合率が正味燃料消費率と正味熱効率に与え る影響 F i g .4 E f f e c to fb l e n dr a t i oo fBDFonb r a k es p e c i f i c f u e lc o n s u m p t i o nandt h e r m a le f f i c i e n c y 低負荷域において BDF運転による正味熱効率の低下は 4 . 5と高圧縮 認められない。これは供試機関の圧縮比が 2 比機関であるため, BDF運転時の低温・低圧の条件下 でも圧縮圧力や燃焼室内温度が高く,着火遅れ期聞が短 くなり正味熱効率に影響を与えなかったと推察できる。 BDF混合率が正味燃料消費率と正味熱効率に与える 影響について図 4に示す。 BDF混合軽油の発熱量は BDF と軽油の混合率に応じて按分した値として計算した。正 . 2 5MPa),93% (BMEP 味燃料消費率は 44% (BMEP0 0 . 5 3MPa) のいずれの負荷域でも BDF混合率の増加に I00でそれぞれ 1 3 . 2 ,1 0 . 3 % より増加し,その増加率は B であった。正味熱効率は中負荷域である 44%負荷では, BDF混合率が増加しでも変化しなかった。一方,高負荷 域である 93%負荷では BDF混合率の増加にともない 正味熱効率は漸増し,軽油運転で 2 3 . 1 % , B I00で 2 3 . 7 % となった。上述したように BDF運転時,無負荷から中 負荷域では正味熱効率に差がないのに対し,高負荷域か ら過負荷域で BDFの正味熱効率が高まったという結果 は , BDF混合率に応じてそのまま適用できると判断され る 。 BDF混合軽油は総じて BDF混合率に線形的な変化 を示すといえる。 3 . BDF運転による排出ガス特性 図 5に BDF運転時の排出ガス特性を示す。一般に, ディーゼル機関は,高負荷時には黒煙を主に排出し,低 負荷時には青・白煙を排出する。本研究で用いた排気煙 農業機械学会誌第 7 1巻 第 5 号 ( 2 0 0 9 ) 9 2 3 5 0 5 一 + ーD i e s e l -o-BIOO 3 今 今 'h 4 内 l ・ 弓 ,a nUAU eJAU [gan-]H02 1 5 0 aaT [d]OZE ﹄一回目m u u H ω 3 0 0 0 1 0 0 0 . 0 1 0 0 0 0 . 1 0 . 2 0 . 3 0 . 4 0 . 5 目 。6 0 . 7 BMEP[MPa] 8 0 0 UAu ︽ toaaT n u U ︽ {自色且 ]0υ 図 6 空気過剰率と正味平均有効圧の関係 F i g .6 R e l a t i o n s h i pbetweene x c e s sa i rr a t i oand BMEPi nBDFmode 2 0 0 。 1 2 1 0 OU [ヌ]円 8 6 4 2 5 0 ~ 40 i .30 5 2 0 + ーD i e s e 1 -O-B1oo .国 o J j 10 0 0 . 0 0 . 1 0 . 2 0 . 3 0. 4 0. 5 0 . 6 0 . 7 BMEP[MPa] 図 5 BDF運転時の排出ガス特性 m i s s i o nc h a r a c t e r i s t i c si nBDFmods F i g . 5 Exhauste 濃度計ではこれらを総合した値を出力するので,排気煙 濃度と一括して扱う。 BDF運転時の排気煙濃度は常に 軽油よりも低くなった。また,負荷が増加するほどその 差は顕著に現れた。 BDF運転による排気煙濃度の減少 率は 70%負荷時に 50%,93%負荷時に 54%であった。 105%過負荷時にはいずれの燃料も排気煙濃度は急増し た。過負荷域では空気過剰率が低くなることで酸素供給 量が不足し,不完全燃焼を起こしたためである。空気過 剰率について図 6に示す。軽油と BDFの理論空燃比は 元素分析結果よりそれぞれ 1 4 . 7,1 2 . 8とした。 BDFの理 論空燃比が軽油よりも小さいことから,空気過剰率は高 くなると考えられたが,そのような相違は確認されな かった。このことから排気煙濃度が減少したのは,空気 過剰率によるものでなく, BDF自体が酸素を含むこと で空気利用度が高まり,生成したすすの再燃焼が促進さ れたことによると判断した。 CO2は有機化合物の燃焼によって発生するもので,地 球温暖化の原因であるとされているが,BDF運転によっ て発生する CO2はカーボンニュートラルとされる。無負 荷を除く全ての負荷域において BDF運転時の CO 2排出 濃度は軽油運転時より高くなった。特に 93%負荷時に は軽油比 7.6%増となった。つまり無負荷以外の負荷域 において BDF運転時の燃焼状態は軽油運転時よりも良 好であるといえる。このことかちも,上述した正味熱効 率の向上や排気煙濃度の低減が裏付けられる。一方,不 完全燃焼によって排出される BDF運転時の CO濃度は . 1 2MPa) 負荷で軽油より僅 無負荷から 21% (BMEP0 かに上回った。この原因として燃料の動粘度の増加によ る霧化特性の悪化や局所的な酸素不足があるが,正味熱 効率や排気煙濃度, CO2排出濃度の面から考えると燃焼 の悪化によるものとは考えにくい。これについては今後 詳細な検討が必要である。中負荷域以上では BDF運転 時の CO排出濃度は軽油運転時を下回った。特に 7093%負荷にかけて軽油運転時は増加に転じているのに 対し, BDF運転時は減少を続けている。つまり空気過剰 率の小さくなる最大出力付近において BDF運転時は良 好な燃焼状態を保つことができるといえる。 105%過負 荷では不完全燃焼により CO排出濃度は急増した。これ は排気煙濃度と同様の傾向を示している。 NOxは通常の燃焼では徴量しか発生しないが,高 温・高圧状態になる燃焼室では窒素が酸化しやすくなる ため発生する量が増加する。したがって,負荷率が増加 するほど NOx排出濃度が高くなる。 BDF運転時の NOx 排出濃度は無負荷から 44%負荷までは軽油運転時と同 等の値を示した。しかし,中負荷域から高負荷域である 44-93%負荷で NOx排出濃度は増加した。 70%負荷で その差は最大となり,軽油比 11 . 4%増となった。 NOx 生成に影響する要因である燃焼温度の相違を確認するた め,排出ガス温度の比較を行った。その結果を図 7に示 す。排出ガス温度は全ての負荷域で BDFのほうがわず 西野・宮田・溢谷・野口:ナタネを原料としたバイオテoイーゼル燃料の小型ディーゼル機関への適用 4 刊 BMEP[ M P a ] 図 7 排気ガス温度と正味平均有効庄の関係 F i g .7 R e l a t i o n s h i pbetweenexhaustg a st e m p e r a t u r eandBMEPi nBDFmode 表 3 BDF混合率の変化による排出ガス特性 Table3 Exhauste m i s s i o nc h a r a c t e r i s t i c sduet o v a r i o u sBDFr a t i o s BDFr a t i o ( % ) kg/kWh) CO 2( CO( g / k W h ) NOx( g / k W h ) 0 5 2 0 5 . 3 5 0 7 5 。 2 0 4 0 6 0 BDFr a t i o[ % ] 8 0 企守 0 . 7 、 ‘h 目 。6 , 血、 、 、 、 0 . 5 、 、 0 . 4 、 、 ‘ 0 . 3 • AU 0 . 2 斗 0 . ¥ .. O回 目 ﹄ 5 0 0 . 0 令 J a H ul 4 -0-8 1 0 0 帽 . . c 弓 ・ 88 一 + ーD i e s e l 0 “ '8 = ¥ 3 、 .2x 、 000 CCN 、 ・ ・110 E 。 位 。 ・ ¥ ]UHEUmg﹄UUQ 1 4 0 ・i ' i {ヌ ~ 1 7 0 帽 ~ g nυnunUAυnunu P200 9 3 ¥ 0 0 図 8 BDF混合による排出ガスの増減率 F i g .8 Changesi nexhauste m i s s i o nwitht h e v a r i o u sBDFr a t i o s 1 0 0,7 5,50%の ときの出力 (kW) である。 D1Efを求めることで,負荷 HP100%,HP15%,HP50%は,それぞれ負荷 条件で異なる排出量を平均化し,供試機関の BDFおよ び BDF混合軽油の排出ガス特性を明らかにした。評価 . 2 5 . 2 5 5. 4 5. 4 .3 1 0 . 1 9 . 1 8 . 1 1 2 . 3 11 0 . 8 11 .1 1 1 .3 1 0 . 7 1 .0 11 3,7 0,56%時の値を採用 には評価基準に最も近い負荷 9 した。その結果を表 3に示す。また,それぞれの排出ガ スの増減率を図 8に示す。 BDF混合率の増加にともな かに高くなった。これは,一般に BDFの方が,軽油に比 い , CO2排出量, NOx排出量は増加し, CO排出量は減 少した。その増減率は, B100と軽油を比較した場合, CO 2 べて体積弾性率が大きい(圧縮率が小さしすためジャー , NOxは 9 .4%増, COは 31 .9%減であった。 は 5.6%増 ク式噴射ポンプと自動噴射弁から構成される噴射系で これは米国再生可能エネルギー研究所 C N a t i o n a lRenew- は,動的噴射時期が軽油より早まることと軽油に比べて a b l eEnergyLaboratory:NREL) の結果と同様の傾向 自着火性が高く着火時期が早まることによって等容的に を示した。 燃焼が生じるためである。また,粘度,密度の増加によ り軽油運転時と比較して着火遅れ期間が長引いたことも I V摘 要 要因であると考えられる。以上のように BDF運転時の ナタネの新油を原料として製造した BDFの燃料性状 燃焼温度の上昇と燃料中の酸素が大気中の窒素と結合し と機関性能,排出ガス特性を調査した。排出ガス特性に やすいことにより NOx排 出 濃 度 は 軽 油 運 転 時 よ り 高 ついては負荷と排出ガス濃度の関係を明らかにするとと まったと判断される。また, NOxは COとはトレードオ もに,客観的な評価として, ISO計測標準に従った評価 フの関係があるため上述のように中負荷域から高負荷域 を行い,以下の知見を得た。 で COが減少していることからもこの結果は妥当といえ 178-4 往 められており, BDFの排出ガス特性を ISO8 1 ) BDFは含酸素燃料であるため発熱量が軽油と比較し て約 12%低かった。流動点で示される低温流動性は JIS 2号軽油並であった。 2 )動粘度は軽油よりも常に高く,低温になるにつれその 差は漸増した。また, BDF混合軽油の動粘度は BDFと 復動内燃機関ー排気排出物測定一第 4部:各種機関用途 軽油の動粘度を按分した特性を示した。 ISO,1 9 9 6 ) に則して評価した。 に対する試験サイク JレJ( 3 ) BDF運転時,正味燃料消費率は増加したが,正味熱 供試機関は,サイクルD1 定速回転の発電用小型機関」 効率は高負荷域で BDFのほうが高くなった。 に分類され,この条件の性能評価を以下のように求め 4 ) ISO計測標準で排出ガス特性を評価すると, BDF運 円 転時の CO2,NOx排出量は増加し, CO排出量は減少し る 。 4 . 150計測標準による排出ガス特性評価 内燃機関の排出ガス特性の評価は,国際評価基準が定 r r れ」。 0 . 3伊'M 0.5(PM 慨)+0.2(PM 1 0 0%)+ 5 0%) D1Ef ( 1 ) 0 . 3 ( 的 10腕)+0.5C 均 慨)+0.2ゆ 50%) ただし ,D1Efは ISO8 178-4による排出ガス特性の評 価 値 (g/kW.h),P M 1 0 0%,P M 1 5%,P M 5 0% はそれぞれ負 0 0,7 5,50%のときの排出量 (g/h)である。同様に, 荷1 た。また,排気煙濃度は全ての負荷域で低下した。 R e f e r e n c e s K n o t h e ., K e v i n, R, S t e i d l e y ., 2 0 0 7 .K i n e m a t i cv i s c o s G e r h a r d, i t yo fb i o d i e s e lcomponents( f a t t ya c i da l k y le s t e r s )and r e l a t e dcompoundsa tlowt e m p e r a t u r e s .F u e l,8 6,2 5 6 0 - 9 4 農業機械学会誌第 7 1巻 第 5 号 ( 2 0 0 9 ) 2 5 6 7 . Hayashi,S .,Kubota,Y .,Sawa,N .,K a j i t a n i,S .,1 9 9 2 .E f f e c to f r a p e s e e do i lonp r 陀e ぱfJSAM , 臼 5 4 ∞ ( 2 幻 ) ,1 1 21 . o I imoto ,M. ,1 9 7 7 .Ont h eo p e r a t i o ne n g i n ef o rfarmu s er a p e s e e do i la sf u e l .J o u r n a lo fJSAM,3 8( 4 ),4 8 3 4 8 7 . , J .,2 0 0 8 .B i o d i e . s e lHandbook( i nJ a p a n e s e ) .Nipppou l k e g a m i Syuppan.1 6 . 9 9 6 .IS08 1 7 8 4 ;R e c i p r o c a t i n gi n t e r n a lcombustione n IS0,1 g i n e sP a r t4 . J I S,1 9 8 9 .J I SB 8 0 1 8, T e s tmethodo fperformanceo fs m a l ls i z e d i e s e le n g i n e sf o rl a n du s e . 0 0 0 .J I SK 2 2 8 3,Crudep e t r o l e u mandp e t r o l e u mp r o J 1 S,2 d u c t s D e t e r m i n a t i o no fk i n e m a t i cv i s c o s i t yandc a i c u l a - t i o no fv i s c o s i t yi n d e xfromk i n e m a t i cv i s c o s i t y . Rushang , M, Josh , . iM i c h a e l, J,p e g g .,2 0 0 7 .Flowp r o p e r t i e so f .8 6,1 4 3 b i o d i e s e lf u e lb l e n da tlowt e m p e r a t u r e s .Fue1 1 51 . Send , aJ .,Okui ,N .,Tsukamoto ,T .,Fujimoto,H .,2 0 0 4 .On b o a r dmeasuremento fe n g i n eperformanceande m i s . lSAE , s i o n si nd i e s e lv e h i c i eo p e r a t e dwithb i o d i e s e lf u e 2 0 0 4 0 1 0 0 8 3 .2 1 2 8 . Tanazawa,Y .,Takeno,S . ,1 9 6 9 .Ont h eimmersionl i q u i df o r c a t c h i n gd r o p l e t so ff u e lo i l .Journa 1o fJSME ,3 5( 2 7 6 ), 1 7 4 1 1 7 51 . Yamane,K .,2 0 0 6 .B i o d i e s e l{ i nJ a p a n e s e ) . T o k y oTosyoSyuppannka i .1 ,1 1 9 . (原稿受理:2 0 0 9年 1月 2 2日・質問期限:2 0 0 9年 1 1月 3 0日) / / /