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スライド - 京都大学 大学院経済学研究科・経済学部
「電気通信分野の競争評価についての京都カンファレンス」 2004年1月28日(水) 午前11時 於ウェスティン都ホテル 拡張Shyモデルによる日本のブロード バンド市場のスイッチング費用の計測 京都大学大学院経済学研究科助教授 依田 高典 京都大学大学院経済学研究科修士課程 安橋 正人 1 序論 z スイッチング費用=「既に契約しているサービスや事業者を新しく 変更する際に使用者が負担しなければならない費用」 z ロックインとスイッチング費用(Shapiro&Varian) ・契約:契約を破棄した側が支払うべき費用や補償 ・訓練と習得:新システム導入による生産性の低下と訓練・習得の費用 ・データ変換:データの新フォーマット変換費用 ・探索費用:新製品の探索や買い物をする費用 ・ブランド変更費用:お得意様向けプログラム など z 従来の研究 ・豊富な理論研究:von Weitzsaecker (1984)とKlempeler (1987a,b, 1989, 1995) など ・少ない実証研究(心理的費用に関するデータの制約による):銀行業: Tarkka (1995),Sharpe (1997);与信市場:Kim, Kliger, and Vale (1999, 2003);情報通信産業:Knittel(1997);携帯電話産業:Shy(2002) 2 本研究の論点 z Shyによるスイッチング費用計測モデルの理論的発展 z 「事業者変更」&「サービス変更」のスイッチング費用 z 「専業事業者」モデル&「多角的事業者」モデル z 日本のブロードバンド(BB)・サービス市場のスイッチング費用の計測 z 対標準料金比率でみたスイッチング費用(SCC)はどれくらいか?また、 それは高いと言えるか? z 対料金比率でみて「事業者スイッチング費用」と「サービス・スイッチン グ費用」のどちらが高いか? z 「多角的事業者」のスイッチング費用は? z 全国市場と地域市場を比較すると? 3 Shyによるスイッチング費用モデル z Shyモデルの特徴 z 価格切下に対して耐久可能な価格(undercut-proof-price・略し てUP)条件 z 料金&加入者数データ→スイッチング費用計測 z 本論文の拡張 z 事業者スイッチング費用&サービス・スイッチング費用 z 複数サービスを提供する多角的事業者 z 日本のBBサービス市場への適用 4 Shyモデルの概要 z 1サービス・2事業者(1,2)の場合 z UP条件とは何か z 価格切下:他の事業者の価格からスイッチング費用を引いた価格にまで自分 の価格を下げること z 価格切下を行えば、他の事業者の加入者をすべて奪うことができる z 事業者1のUP条件:事業者2の価格切下に対応(限界費用はゼロと仮定) (事業者2の価格)×(事業者2の加入者数) ≧{(事業者1の価格)−(事業者1のスイッチング費用)} ×{(事業者2の加入者数)+(事業者1の加入者数)} z (事業者2が価格切下をしないときの利潤) ≧(事業者2が価格切下をし、事業者1から加入者を奪ったときの利潤) z スイッチング費用の計算式 z 事業者1のスイッチング費用 =(事業者1の価格)−(事業者2のシェア)×(事業者2の価格) 5 Shyモデルの具体例 事業者1 事業者2 価格(円) 2000 1500 加入者数(万人) 300 200 *限界費用はゼロと仮定 事業者1のスイッチング費用:π1 1500(円)×200(万人) (価格切下をしないときの事業者2の利潤) ≧ (2000−π1)(円)×(200+300)(万人) (価格切下したときの事業者2の利潤) 事業者1はこの式が成立するようなぎりぎりの水準で価格づけを行う。(∵事 業者2はもはやこのとき価格切下をしない。) π1=2000−(200/200+300)×1500=1400(円) 6 拡張モデル1:専業事業者 z 2サービス×2専業事業者の場合 z 複数サービスを提供する事業者は存在しない z 事業者名は(ij)={(11),(12),(21),(22)} z UP条件 z 考え方はShyモデルと同じ z 事業者(11)の場合 ・(UP12):サービスの種類は同じで事業者のみ変更 ・(UP21)(UP22):サービスの種類、事業者ともに変更 z 事業者(12)(21)(22)の場合 z スイッチング費用の算定 z 全てのUP条件を満たすようなスイッチング費用の最小の組み合わせ z 線形計画法と非線形計画法 z 非線形計画法では、UP条件を満たす領域までの原点からのユークリッド距 離を最小にする 7 拡張モデル2:多角的事業者 z 2サービス、1多角的事業者、2専業事業者の場合 z 多角的事業者は異なる2種類のサービスを両方とも供給 z 事業者名は(ij)={(1121),(12),(22)} z 事業者(12)(22)は、多角的事業者(1121)の各サービスに対しより低い実質価 格を設定すれば、サービス(11)(21)の加入者を奪うことが可能 z UP条件 z 事業者(1121)の場合 ・(UP12):サービス(11)(21)の実質価格の高低で場合分け ・「事業者変更のスイッチング費用を考慮に入れたサービス(11)の価格」と 「事業者変更とサービス変更のスイッチング費用を考慮に入れたサービ ス(21)の価格」を比較 ・(UP22):(UP12)と同様、サービス(11)(21)の実質価格の高低で場合分け z 事業者(12)(22)の場合 z スイッチング費用の算定 z 拡張モデル1と同様 8 表1:専業事業者ケース サービス種類 i (スイッチング費用 ∆) 1 2 事業者費用ランキング j (スイッチング費用 π) 1 2 (11) (12) (21) (22) 1 2 事業者ランキング j (スイッチング費用 π) 1 2 (12) (1121) (22) 表2:多角的事業者ケース サービス種類 i (スイッチング費用 ∆) 9 日本のブロードバンドのスイッチング費用 z 時点:2003年9月末日 z データ:2003年11月総務省『電気通信事業分野における 競争状況の評価の実施について』 z サービス:ADSL、FTTH z 市場:全国市場、地域市場[電気事業者区分] z 事業者:各サービス上位3社(占有率5%以上) z 標準的料金:ADSL:12Mbps、FTTH:100Mbpsのものを利用 インターネット通信料金とプロバイダ料金が統合されている場合、合理 的な仮定に基づき、標準的料金を算定 10 サービス変更に関する消費者意識 z DU:2%、ISDN:5%、ADSL:67%、CATV:18%、FTTH:8% z 現在契約サービスを選択した理由 常時接続性(55.9%)、定額制(41.0%)、廉価性(31.7%)、通信速度(25.7%) z 現在契約しているサービスへの満足度 非常に満足(5.8%)、やや満足(60.1%)、やや不満(28.1%)、非常に不満 (4.4%)、無回答(1.6%) z やや不満・不満というユーザの変更意欲 すぐに変更したい(7.9%)、いずれ変更したい(57.9%)、できれば変更した くない(27.6%)、変更したいと思わない(5.8%)、無回答(0.9%) z 何故すぐに変更しないのか Eメイルアドレスの変更が必要 (30.9%)、料金が安い (14.5%)、変更手続 きが面倒 (12.7%)、変更メリットが不明(10.9%) z 変更するならばどのサービスか FTTH(74.7%)、ADSL(35.2%)、CATV(29.8%)、無線LAN(12.6%) 11 全国市場におけるスイッチング費用 z BBのスイッチング費用は高水準 z ADSL:事業者SCC(66%)、事業者・サービスSCC(95%) z FTTH:事業者SCC(66%)、事業者・サービスSCC(73%) ・期間限定割引キャンペーンはスイッチング費用から見て合理的な経営戦 略(スイッチング費用を事業者が全額肩代わり) z ADSL・FTTH共に、事業者スイッチング費用が、サービス・スイッチング 費用よりも高い z ADSL:66%対29%、FTTH:66%対7% ・事業者変更に伴うEメイル変更や導入手続の面倒さ原因 ・多角的事業社内ではサービス・アップグレードがスムーズにいくが、専業 事業者間ではサービス・アップグレードがうまくいかない 12 表3:ADSL・FTTHの契約者数・標的料金[全国市場] 事業者ランク(j) 1(ADSL) サービスの種類(i) 2(FTTH) 1 2 3 事業者名 A社 B社 C社 契約者数 3,435,118 3,247,921 1,179,677 標準料金 2,800 1,190 1,503 事業者名 A社 D社 E社 契約者数 493,643 96,820 48,794 標準料金 4,400 2,800 3,517 *契約者数は2003年9月末日現在 **標準料金はインターネット通信料金(プロバイダ・サービスを併せて提供している場合 は、p.10のようにプロバイダ料金を控除して算定) 13 表4:ADSL・FTTHのスイッチング費用[全国市場] 事業者ランク(j) 1 2 3 A社 B社 C社 πij 2416 (86%) 790 (66%) 682 (45%) πij+Δij 2757 (98%) 1138 (96%) 1363 (91%) 事業者名 A社 D社 E社 πij 4084 (93%) 1621 (58%) 1655 (47%) πij+Δij 4084 (93%) 1644 (59%) 2345 (67%) 事業者名 1(ADSL) サービスの種類(i) 2(FTTH) *括弧内の数字はスイッチング費用の標準料金に対するパーセンテージ 14 地域市場におけるスイッチング費用 z 電力事業者の営業地域で全国市場を分割 z 関東、関西、中部、九州、中国、四国、東北、北陸、北海道の9地域 z ADSL市場:全国市場と概ね同じ z 大手ADSL回線事業者が、均一価格で全国営業を展開 z FTTH市場:地域市場で差異あり z 東北、北陸、四国:第1位事業者に対抗するライバル事業者が十分に 育たず z 関西:第1位事業者SCC(94%)と第2位事業者SCC(86%)が高く、先行 上位2者の激しい競争 15 結論 z 日本のBB全国市場 z ADSL・FTTH共にスイッチング費用は高い。 z 対標準料金比率でみて、ADSLの事業者スイッチング費用は66% 、事業者・サービス・スイッチング費用は95% z その意味で期間限定割引キャンペーンは合理的な戦略 z 事業者スイッチング費用の方がサービス・スイッチング費用よりも高 い z 対標準料金比率でみて、ADSLでは66%対29%、FTTHでは66%対 7% z Eメイル変更のような心理的費用が重い障壁になる z 事業者内のアップグレードはスムーズにいくが、事業者間のアッ プグレードはうまくいかない可能性 16