...

平 成 1 5 年 度 東アジア地域における環境問題

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

平 成 1 5 年 度 東アジア地域における環境問題
日機連 15 環境安全−10
平 成 1 5 年 度
東アジア地域における環境問題、技術移転
に関する調査研究報告書
平 成 1 6 年 3 月
社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会
財団法人 国際環境技術移転研究センター
序
近年、技術の発展と社会との共存に対する課題がクローズアップされ、機
械工業においても環境問題、安全問題が注目を浴びるようになってきており
ます。環境問題では、京都議定書の発効が間近となり、排出権取引やCDM
などの柔軟性措置に関連した新ビジネスの動きもあり、政府や産業界は温室
効果ガスの削減目標達成に向けた取り組みを強化しているところであります。
また、安全問題も、EUにおけるCEマーキング制度の実施や、平成12年
には厚生労働省から「機械の包括的な安全基準に関する指針」が通達として
出されるなど、機械工業にとってきわめて重要な課題となっております。
海外では欧米諸国を中心に環境・安全に配慮した機械としての具体的な形
が求められてきており、それに伴う基準、法整備が進められているところで
あります。グローバルな事業展開を進めているわが国機械工業にとって、こ
の動きに遅れることは死活問題であり早急な対処が必要であります。
こうした内外の情勢に対応するため、当会では早くから取り組んできた環
境問題や機械標準化に係わる事業を発展させて、環境・社会との共存を重視
する機械工業の在り方を追求して参りました。平成15年度には、海外環境
動向に関する情報の収集と分析、環境適合設計手法の標準化、それぞれの機
械の環境・安全対策の策定など具体的課題を掲げて活動を進めてきました。
こうした背景に鑑み、当会では機械工業の環境・安全対策のテーマの一つ
として財団法人国際環境技術移転研究センターに「東アジア地域における環
境 問 題 、技 術 移 転 に 関 す る 調 査 研 究 」を 調 査 委 託 い た し ま し た 。本 報 告 書 は 、
この研究成果であり、関係各位のご参考に寄与すれば幸甚であります。
平成16年3月
社団法人
会
長
日本機械工業連合会
相
川
賢
太
郎
序
本報告書は、日本自転車振興会から自転車等機械工業振興事業に関する補
助金の交付を受けて、社団法人日本機械工業連合会が実施した「平成15年
度機械工業の環境・安全、エネルギー効率的利用等に関する基礎調査補助事
業( 環 境 ・ 安 全 対 策 )」の 一 環 と し て 、財 団 法 人 国 際 環 境 技 術 移 転 研 究 セ ン タ
ー が 受 託 し た「 東 ア ジ ア 地 域 に お け る 環 境 問 題 、技 術 移 転 に 関 す る 調 査 研 究 」
の結果をとりまとめたものです。
近年、東アジア地域ではダイナミックな経済発展が進む一方、産業公害・
都市公害、自然環境の劣化等、様々な環境負荷が同時に顕在化しています。
また、地球温暖化、酸性雨など、環境問題は今や国や地域を越えた広がりを
見せはじめ、広域的(グローバル)な取り組みが必要になってきています。
機械工業界は、機械工業と環境の共生の観点から、東アジア地域の環境問
題に対応していくことが必要です。その際には、これまで我が国が培ってき
た環境関連技術、環境管理手法・ノウハウ等による我が国の環境技術の比較
優位性を活かし、ビジネスチャンスとするという視点も重要です。
このような背景のもと、本調査研究では、東アジア地域における環境問題
の実態を調査し、各国の環境問題・環境規制状況に対する我が国の環境技術
の有効性・比較優位性を検討するとともに、地域レベルでの環境問題への取
り組みが進んでいる欧州の状況を調査し、東アジアにおける地域レベルでの
環境関連技術の移転を可能にする地域的枠組みの分析を行いました。
最後に本調査研究の実施にあたり、ご協力いただいた多くの関係者の方々
に対し、心から感謝申し上げます。
平成16年3月
財団法人
専務理事
国際環境技術移転研究センター
倉
剛
進
事業運営組織
現地調査指導
定方正毅
東京大学大学院化学システム工学科
(韓国調査)
朴
恵淑
三重大学人文学部文化学科
倉
剛進
(財)国際環境技術移転研究センター
専務理事
人見一晴
(財)国際環境技術移転研究センター
常務理事兼事務局長
小林康浩
(財)国際環境技術移転研究センター
企画調査部長
永野隆夫
(財)国際環境技術移転研究センター
企画調査部
総括参事
川本
(財)国際環境技術移転研究センター
企画調査部
主査
研
(中国調査)
究
員
忠
教授
教授
目
次
調査研究の概要…………………………………………………………………………
1
1.背景と目的…………………………………………………………………………………
3
2.調査内容……………………………………………………………………………………
3
3.調査対象国…………………………………………………………………………………
3
4.調査研究期間………………………………………………………………………………
3
序
章
東アジア地域の概況……………………………………………………………………
5
1.社会・経済・エネルギー指標……………………………………………………………
7
2.エネルギー需給の現状……………………………………………………………………
9
第1章
第2章
東アジアの地域レベルの環境問題…………………………………………………… 13
1.酸性雨……………………………………………………………………………………… 15
1.1
東アジア各国の硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量…………………………… 16
1.2
酸性雨の状況……………………………………………………………………… 21
1.3
酸性物質の長距離輸送の実態…………………………………………………… 28
1.4
越境酸性雨による被害…………………………………………………………… 34
1.5
まとめ……………………………………………………………………………… 35
2.越境煙害…………………………………………………………………………………… 36
3.メコン川流域の環境問題………………………………………………………………… 36
4.海洋環境…………………………………………………………………………………… 36
5.黄砂………………………………………………………………………………………… 37
第3章
東アジア各国の環境問題の現状及び環境規制状況………………………………… 39
1.中国………………………………………………………………………………………… 41
1.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 41
1.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 52
2.韓国………………………………………………………………………………………… 60
2.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 60
2.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 63
3.インドネシア……………………………………………………………………………… 64
3.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 64
3.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 65
4.マレーシア………………………………………………………………………………… 66
4.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 66
4.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 67
5.フィリピン………………………………………………………………………………… 69
5.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 69
5.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 69
6.タイ………………………………………………………………………………………… 71
6.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 71
6.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 71
7.ベトナム…………………………………………………………………………………… 73
7.1
環境問題の現状…………………………………………………………………… 73
7.2
環境規制状況……………………………………………………………………… 74
8.各国の排出基準値比較…………………………………………………………………… 75
第4章
中国の産業に起因する環境問題の実態把握・評価………………………………… 79
1.産業部門に起因する環境汚染実態(各部門の直接的排出)………………………… 81
1.1
二酸化硫黄………………………………………………………………………… 81
1.2
窒素酸化物………………………………………………………………………… 82
1.3
ばいじん…………………………………………………………………………… 83
1.4
COD……………………………………………………………………………… 84
2.各産業部門に起因する汚染物質排出の日中比較(間接的排出を含めた評価)…… 86
3.各産業の環境対策の評価………………………………………………………………… 93
3.1
電力………………………………………………………………………………… 93
3.2
セメント…………………………………………………………………………… 98
3.3
鉄鋼…………………………………………………………………………………104
3.4
紙・パルプ…………………………………………………………………………108
4.経済発展段階と環境劣化との関係の評価………………………………………………112
4.1
環境クズネッツ曲線………………………………………………………………112
4.2
経済発展段階と環境劣化との関係の評価………………………………………113
第5章
我が国が比較優位にある環境関連技術の分析………………………………………117
1.日本の環境産業の競争力…………………………………………………………………119
1.1
環境装置の輸出シェア……………………………………………………………119
1.2
アジアの環境分野における日本の競争力の現状………………………………123
1.3
環境産業の競争力比較……………………………………………………………124
2.日本の環境関連企業の東アジアへの進出有望分野……………………………………125
第6章
欧州における越境汚染問題解決の取り組み…………………………………………129
1.長距離越境大気汚染レジーム……………………………………………………………131
1.1
枠組みの構成………………………………………………………………………131
1.2
LRTAPレジーム形成経緯の概括……………………………………………134
1.3
要素政策の導入・経過……………………………………………………………135
1.4
各国の政策枠組みへの参加の経緯………………………………………………138
1.5
東側各国の政策枠組みへの参加…………………………………………………140
1.6
条約施行の成果……………………………………………………………………141
1.7
条約とEU政策枠組みとの関係…………………………………………………141
1.8
合意形成に果たした有効なメカニズム…………………………………………143
2.バルト海沿岸地域の海洋環境保全の枠組み……………………………………………146
3.ライン川汚染防止国際委員会……………………………………………………………150
4.まとめ………………………………………………………………………………………151
第7章
東アジア地域レベルでの環境関連技術の移転を可能にする
地域的枠組みの分析……………………………………………………………………153
1.東アジアの地域環境協力…………………………………………………………………155
1.1
包括的な取り組み…………………………………………………………………155
1.2
個別テーマに関する取り組み(酸性雨)………………………………………157
1.3
二国間環境協力……………………………………………………………………158
2.東アジア地域レベルでの環境関連技術の移転を可能にする地域的枠組み…………159
海外調査報告書……………………………………………………………………………………161
中国訪問調査報告書…………………………………………………………………………163
韓国訪問調査報告書…………………………………………………………………………177
序
章
調査研究の概要
−1−
−2−
1.背景と目的
近年、東アジア地域では、ダイナミックな経済発展が進む一方、産業公害・都市公害、自然環
境の劣化等、様々な環境負荷が同時に顕在化してきている。また、地球温暖化、酸性雨など、環
境問題は今や国や地域を越えた広がりを見せはじめ、広域的(グローバル)な取り組みが必要に
なってきている。
機械工業界は、機械工業と環境の共生の観点から、東アジア地域の環境問題に対応していくこ
とが必要である。その際には、これまで我が国が培ってきた環境関連技術、環境管理手法・ノウ
ハウ等による我が国環境技術の比較優位を活かし、ビジネスチャンスとするという視点も重要で
ある。
このような背景のもと、本調査研究では、東アジア地域における環境問題の実態を調査し、各
国の環境問題・環境規制状況に対する我が国環境技術の有効性・比較優位性を検討するとともに、
地域レベルでの環境問題への取り組みが進んでいる欧州の状況を調査し、東アジアにおける地域
レベルでの環境関連技術の移転を可能にする地域的枠組みの分析を実施し、そのような地域的枠
組み構築に資することを目的とする。
2.調査内容
(1)東アジア地域の越境汚染実態調査及び環境規制状況調査
(2)中国の直面する環境問題の実態把握・評価
(3)欧州における越境汚染実態把握技術の調査
(4)我が国が比較優位にある環境関連技術の分析
(5)地域レベルでの環境関連技術の移転を可能にする地域的枠組みの分析
3.調査対象国
東アジアのうち、主として、中国、日本、韓国、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア、
インドネシアを対象とする。
4.調査研究期間
平成15年6月2日∼平成16年3月31日
−3−
−4−
第1章
東アジア地域の概況
−5−
【要旨】
本章では、東アジア地域の社会・経済・エネルギーの概況について記述する。
東アジア地域は、経済発展の度合いもエネルギー需給の様相も様々な地域である。日
本、韓国、台湾、シンガポールを除くと、エネルギー原単位が極めて悪く、エネルギー
浪費あるいは多消費の産業構造となっている。また、中国はこの地域で最大のエネルギ
ー消費国で地域全体の 46%を占め、1 次エネルギー消費に占める石炭の割合が 67%と高
い。
−6−
1.社会・経済・エネルギー指標
北東アジア(中国、日本、韓国、北朝鮮、モンゴル、台湾)及び東南アジア(ブルネイ、カン
ボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、
ベトナム)を合わせた東アジア地域は、広大な地域に多くの人口をかかえ、経済発展の度合いも
エネルギー需給の様相もさまざまな地域である。表 1-1 に同地域における主な社会・経済・エネ
ルギー指標(2001 年値)を示す。東アジア地域は、日本、韓国、台湾、シンガポールを除くと、
エネルギー原単位が極めて悪く、エネルギー浪費あるいは多消費の産業構造となっている様子が
窺える。
表 1-1 東アジア地域における主な社会・経済・エネルギー指標(2001 年値)
面積
人口
人口密度
名目 GDP
TPES
電力消費量
千km2
百万人
人/km2
10 億 US$
ktoe
GWh
中国
9,597.0
1,285.0
133.9
1,159.0
1,139,369
日本
377.9
127.3
336.9
4,175.7
韓国
99.3
47.3
476.9
TPES/GDP
TPES/Capita
電力/GDP
電力
US$/人
GDP/Capita
toe/百万 US$
toe/人
Wh/US$
/Capita
1,312,000
902
983
0.89
1,132
570,730
964,200
32,805
137
4.48
231
7,575
422.2
194,780
270,300
8,917
461
4.11
640
5,709
1,244
kWh/人
北朝鮮
モンゴル
台湾
1,021
120.5
22.4
186.1
15.7
20,440
27,910
700
1,302
0.91
1,778
1,566.5
2.4
1.5
1.0
NA
2,194
433
NA
NA
2,092
905
36.0
22.3
620.5
272.6
88,953
140,500
12,204
326
3.98
515
6,289
6,750
5.8
0.3
59.7
4.2
2,168
2,322
12,070
522
6.30
559
カンボジア
181.0
13.3
73.5
3.7
NA
478
278
NA
NA
129
36
インドネシア
1,919.3
214.8
111.9
141.8
152,304
89,080
660
1,074
0.71
628
415
ブルネイ
ラオス
236.8
5.4
22.8
1.7
NA
825
323
NA
NA
473
153
マレーシア
329.8
22.6
68.6
88.0
51,608
63,480
3,887
587
2.28
722
2,805
ミャンマー
676.6
48.4
71.5
6.3
12,159
5,709
131
1,918
0.25
901
118
フィリピン
300.0
77.1
257.1
72.0
42,151
42,040
933
586
0.55
584
545
0.6
4.1
6,377.0
84.9
29,158
28,350
20,554
343
7.06
334
6,863
タイ
513.1
62.9
122.6
115.4
75,542
90,910
1,834
655
1.20
788
1,445
ベトナム
331.7
79.2
238.7
32.9
39,356
27,710
415
1,197
0.50
843
350
シンガポール
注)
TPES: Total Primary Energy Supply(一次エネルギー総供給)、 ktoe: 石油換算千トン、
(出所)総務省統計局「世界の統計 2003」(http://stat.go.jp/data/sekai/index.htm)
IEA, “Energy Balances of OECD Countries (2003 Edition)’’
IEA, “Energy Balances of Non-OECD Countries (2003 Edition)’’
ASEAN 事務局ホームページ(http://www.aseansec.org/home.htm)
電力消費量:カンボジア以外…CIA The World Factbook(http://www.cia.gov/)
カンボジア…JICA 事業事前評価表(カンボジア国電力技術基準及びガイドライン整備調査)の発電
電力量とした。
(http://www.jica.go.jp/evaluation/before/2003/cam_01.html)
北朝鮮の GDP は韓国銀行の推定値(福島篤「北東アジア地域における石炭・環境問題(その1現状と
課題)」日本エネルギー経済研究所 2003 年 10 月より)
名目国内総生産額(名目 GDP)の 2001 年値は、日本の 41,757 億ドル、中国の 11,590 億ドル
からラオスの 17 億ドル、モンゴルの 10 億ドルまでの格差がある。
また、一人当りの GDP(名目、2001 年)も日本の 32,805 ドル/人、シンガポールの 20,554 ド
ル/人からカンボジアの 278 ドル/人、ミャンマーの 131 ドル/人までの格差がある。中国について
は、「中国統計年鑑 2003」をもとに計算すると、中国全国の一人当りの GDP(名目、2002 年)
は 985 ドル/人であるが地域によってかなり異なり、上海市の 4,020 ドル/人、北京市の 2,727 ド
ル/人から甘粛省の 541 ドル/人、貴州省の 373 ドル/人までの格差がある。
−7−
電力消費量は、経済活動の規模や生活インフラを表現する指標として引用される場合が多い。
図 1-1 は、東アジア諸国及び地域の GDP と電力消費量との関係を両対数グラフ上にプロットし
たものである。経済規模(GDP)に比較して中国の電力消費量が大きいことが分かる。
10000
中国
電力消費量(10億kWh)
1000
日本
中南 華東
華北
韓国
東北 台湾
西北 西南
タイ
インドネシア
フィリピン マレーシア
100
北朝鮮 ベトナム
シンガポール
10
ミャンマー
モンゴル
1
ブルネイ
ラオス
カンボジア
0.1
0.1
1
10
100
1000
10000
GDP(名目、10億US$)
図 1-1
GDP と電力消費量との関係(2001 年)
(出所)表 1-1、「中国統計年鑑 2002」、「中国電力年鑑 2002」
一人当りの GDP や電力消費量は、その国や地域の発展状況や生活水準を反映する。図 1-2 は、
一人当りの GDP(GDP/Capita)と一人当りの電力消費量(kWh/Capita)との関係を示したも
のである。中国は一人当りの GDP も電力消費量も格差があるので、地区別に西南区から華東区
まで、そして経済的に進んでいる上海、北京、天津の特別行政市と開発の遅れている西蔵自治区、
貴州省、甘粛省をプロットしている。
貴州省、甘粛省、モンゴルのGDP/Capita当りのkWh/Capitaの値が相対的に高いのは、前者 2
省の電力需要は工業用が主であること、モンゴルの電力需要は都市部と鉱山用が主であることに
よるものと推測される。西蔵自治区の一人当りの電力消費量が少ないのは、地形上の困難さによ
るものであろう(1)。また、カンボジアの一人当りの電力消費量が少ないのは、長期の内戦により
電力供給施設が破壊され、十分なメンテナンスも行われてこなかったためであり、世帯電化率が
13%程度しかなく、一人当り年間電力消費量は 36kWhで、東アジア地域の国々の中で最低となっ
ている。
−8−
10000
ブルネイ
日本
シンガポール
台湾
韓国
一人当り電力消費量(kWh/人)
上海
北京
天津
北朝鮮 華北
タイ
モンゴル甘粛 中国 東北
華東
西北 中南
貴州
西南
フィリピン
ベトナム
インドネシア
1000
ラオス
ミャンマー
マレーシア
西蔵
100
カンボジア
10
100
1000
10000
100000
一人当りGDP(US$/人)
図 1-2 一人当りの GDP と一人当りの電力消費量との関係(2001 年)
(出所)表 1-1、「中国統計年鑑 2002」、「中国電力年鑑 2002」
2.エネルギー需給の現状
2000 年時点における東アジア地域全体(データがそろわなかったカンボジア、ラオス、ミャン
マーを除く)の一次エネルギー消費量は、20.5 億 toe(石油換算トン)で、最大の消費国は中国
(香港を含む)の 9.43 億 toe で全体の 46.1%を占め、続いて日本の 5.25 億 toe(25.7%)、韓国
の 1.94 億 toe(9.5%)となる。
フィリピン
マレーシア 1.6%
2.3%
タイ
2.9%
シンガポール 北朝鮮 ベトナム
1.2%
1.0%
0.7% モンゴル
0.1%
ブルネイ
0.1%
台湾
4.1%
インドネシア
4.8%
(出所)
日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済
要覧 2003」、
中国
46.1%
韓国
9.5%
北朝鮮:IEA, ‘’Energy Balances of Non-OECD
Countries (2003 Edition)’’、
モンゴル:福島篤「北東アジア地域における石炭・
環境問題(その1現状と課題)
」日本エネルギー
経済研究所
日本
25.7%
図 1-3 東アジア地域における一次エネルギー消費(2000 年)
−9−
2003 年 10 月
東アジア地域の一次エネルギー需要構成を図 1-4 に示す。一般的にアジアは中国、インドとい
う大石炭生産・消費国を抱えており、一次エネルギー消費に占める石炭の割合が高い。アジア太
平洋地域でみても、石炭のシェアは 43.5%と世界平均の 25.5%と比較して高い。
中国
日本
北朝鮮
19.9%
80.1%
台湾
86.3%
13.7%
インドネシア
フィリピン
3.3%
46.9%
43.4%
6.4%
2.1%
30.6%
50.0%
17.4%
マレーシア
7.2%
70.0%
15.7%
シンガポール
12.5%
ベトナム
25.7%
0%
10%
10.9%
36.5%
25.5%
30%
石炭
40%
石油
50%
天然ガス
60%
70%
原子力
水力他
4.3% 4.7%
6.5%
24.3%
37.5%
20%
8.7%
7.9%
57.7%
43.5%
世界計
2.3%
33.9%
51.3%
アジア・太平洋計
7.2%
4.3%
95.7%
タイ
1.6%
10.1%
8.6%
43.4%
36.4%
ブルネイ
4.1%
7.9%
88.0%
モンゴル
0.6%
13.1%
11.5%
51.0%
23.8%
4.0%
14.0%
13.7%
47.6%
20.7%
韓国
2.7% 0.6% 5.6%
24.6%
66.5%
80%
6.3%
90%
100%
図 1-4 東アジア地域の一次エネルギー需要構成(2002 年)
(出所)BP, ‘’BP Statistical Review of World Energy’’, June 2003、
ベトナム(2000 年値)
、ブルネイ(2000 年値)
:日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済要覧 2003」、
北朝鮮(2000 年値)、モンゴル(1999 年値)
:福島篤「北東アジア地域における石炭・環境問題(その1現状と課題)
」
日本エネルギー経済研究所
2003 年 10 月
北東アジア地域については、資源小国である日本、韓国を除くと、かなり石炭に依存したエネ
ルギー需給構造となっている。石炭のシェアは、北朝鮮 88%、モンゴル 80%、中国 67%と 6 割
以上を占めている。これは自国内に豊富な石炭資源を有していることにもよる。他方、天然ガス
のシェアは、世界平均より低い。石油についてはそれぞれ事情があり、日本と韓国は大輸入・消
費国であってそのシェアが高い。
東南アジア地域については、石油と天然ガスを合わせたシェアが非常に高い。
−10−
引用文献・資料等
(1) 福島篤「北東アジア地域における石炭・環境問題(その1現状と課題)」日本エネルギー経済研究所
年 10 月
(2) 総務省統計局「世界の統計 2003」(http://stat.go.jp/data/sekai/index.htm)
(3) IEA, “Energy Balances of OECD Countries (2003 Edition)’’
(4) IEA, “Energy Balances of Non-OECD Countries (2003 Edition)’’
(5) ASEAN 事務局ホームページ(http://www.aseansec.org/)
(6) CIA The World Factbook(http://www.cia.gov/)
(7) JICA 事業事前評価表(カンボジア国電力技術基準及びガイドライン整備調査)
(http://www.jica.go.jp/evaluation/before/2003/cam_01.html)
(8) 中国統計年鑑社「中国統計年鑑 2002」
(9) 中国電力出版社「中国電力年鑑 2002」
(10) 日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済要覧 2003」
(11) BP, ‘’BP Statistical Review of World Energy’’, June 2003
−11−
2003
−12−
第2章
東アジアの地域レベルの環境問題
−13−
【要旨】
本章では、東アジアの地域レベルの環境問題について記述する。
地域レベルの環境問題としては、SOx や NOx の大量排出による越境酸性雨、森林火
災に伴う越境煙害、海洋資源の乱獲や海洋汚染などの海洋環境問題、黄砂などがある。
なかでも、酸性雨問題はとりわけ日本、中国、韓国を含む北東アジア地域で重要な関心
事となってきている。
酸性雨の原因物質であるSOx、NOxの東アジア地域最大の排出国は中国で、SO2は地
域全体の 78%、NOxは地域全体の 57%を排出している。
日本の降水 pH は全国測定地点の 87%で年平均値 5.0 未満の強い酸性度の雨が降って
おり、全国年平均値は 4.7∼4.9 で推移し、欧米と同レベルの酸性雨が降っている。
また、日本では、日本海側の測定局で北西風の強い冬季に硫酸イオン、硝酸イオン沈
着量が増加する。冬季に日本へ沈着する硫黄の 57%は中国が発生源で、日本の中では日
本海側に最も多量に沈着していることが長距離輸送モデルによって解析されている。
さらに、日本海側では、越境性酸性雨による影響が大きいと推測される森林衰退が報
告されている。
一般的に酸性雨による土壌・植生、降水等に対する影響は、長い期間を経て現れると
考えられているため、特に風上に位置する中国での環境対策の取り組みが遅れたり、規
制が守られなかったりして、SOx、NOx 排出量が増加すると、日本における越境性酸性
雨被害が劇的に増加することが懸念される。
−14−
1.酸性雨
酸性雨とは、工場や自動車等により排出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)など
が大気中で反応して生じる硫酸や硝酸などを取り込んだpH値が 5.6注)未満の雨のことをいう。酸
性雨による陸水の酸性化による魚類等への影響、土壌の酸性化による森林等への影響、文化財等
の腐食が懸念されており、とりわけ北東アジアにおいて重要な関心事となってきている。酸性雨
は、原因となる物質が風により発生源から 1,000km以上も離れた地域まで運ばれ、沈着する現象
であることから、国境を越えた広域な問題でもあり、地球温暖化対策と同様、国際的な取り組み
が必要とされている。
図 2-1 は、酸性雨の原因物質の発生から沈着に至る過程を示している。人間が出す SOx、NOx
は大気中で硫酸や硝酸に変わり、風に乗ったり、雨に溶けたりして地表面へ降下する。汚染物質
は降水がない時にも地表面へ降下し、これを乾性沈着と呼ぶ。また、雨、雪、霧などの形の降下
を湿性沈着と呼ぶ。湿性沈着と乾性沈着を合わせたものは、酸性沈着、酸性降下あるいは広い意
味での酸性雨と呼ばれる。
図 2-1 酸性雨の原因物質の発生から沈着に至る過程
注)
きれいな雨も大気中の二酸化炭素を取り込むことで pH は 5.6 程度の値を示すため、酸性雨とはこれより
強い酸性の雨のことをいう。
−15−
1.1
東アジア各国の硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量
酸性雨の原因となるSOx及びNOx排出量についての公式データ(政府公表値)は、中国のSO2、
韓国のSO2・NOxについては毎年公表されているが、日本でも個別年次を除けば、全排出量に関
する年次調査は行われていない。それ以外の国は、公式データは見当たらない。一方、酸性物質
の生成、輸送、変質および沈着過程を長距離輸送モデルなどを用いて解析する際には、政府公表
値のような一国単位での排出量では不十分で、グリッドベース(緯度×経度)の発生源データの
整備が必要不可欠であるため、長距離輸送モデル研究者らにより、様々な排出量データが作成さ
れている。しかし、これら各種の排出量推計値の間にはいくらかの差がある。
アジア各国の排出量データとして、MICS-ASIA 等の長距離輸送モデル比較研究に用いられる
排出量データを提供している米国アイオワ大学 CGER が作成したアジア地域の 2000 年のインベ
ントリー(排出目録)からの抜粋を表 2-1 に示す。
図 2-2 はアジアの二酸化硫黄の排出量分布である。排出量が多い地域は、朝鮮半島西方の渤海、
黄海を囲む地域であることが分かる。
図 2-3 はアジアの窒素酸化物の排出量分布である。窒素酸化物の排出量分布も二酸化硫黄の排
出量分布と似ている。
表 2-1 東アジア地域の硫黄酸化物、窒素酸化物の排出量(千トン/年)(2000 年)
SO2
中国
日本
韓国
北朝鮮
モンゴル
台湾
中国以外の北東アジア 計
ブルネイ
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
ミャンマー
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
東南アジア 計
工業
民生
7353
347
518
155
31
245
1296
1
14
271
3
135
4
286
18
489
66
1285
2512
68
72
22
3
10
174
0.8
8
169
2
9
25
75
7
22
70
387
運輸
NOx (as NO2)
発電
409 10029
78
308
116
122
4
45
0.5
49
30
91
229
613
2
2
6
7
210
186
3
0.0
20
97
1
0.6
19
321
4
135
22
400
9
33
295
1182
バイオマ
合計
ス燃焼
83 20385
1
801
1
829
1
227
17
101
0.2
376
21
2334
0.0
6
6
40
48
884
13
21
13
273
34
65
12
713
0.0
163
28
961
15
193
170
3319
工業
民生
運輸
発電
2790
358
227
173
9
159
925
2
6
128
0.3
71
2
32
35
93
29
397
702
168
80
0.2
4
18
270
0.3
3
134
2
14
17
6
0.6
34
39
249
2632
1340
819
34
13
219
2424
9
14
573
15
210
31
181
103
561
56
1753
4407
323
190
59
13
123
707
9
4
169
0.1
142
14
39
46
209
26
658
バイオマ
ス燃焼
816
10
7
8
183
2
209
0.0
62
313
78
57
163
69
0.0
189
133
1065
合計
11347
2198
1322
273
221
521
4535
20
89
1317
96
494
226
326
185
1086
283
4122
(出所)米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
−16−
図 2-2 アジア地域におけるSO2の放出量マップ(2000 年)
(出所)米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
図 2-3 アジア地域における NOx の放出量マップ(2000 年)
(出所)米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
−17−
図 2-4、図 2-5 は、表 2-1 を元に、東アジア地域のSO2及びNOx排出量を多い順に示したもので
ある。2000 年時点の比較では、中国が排出しているSO2は推定年間約 2,000 万トンで、世界最大
(第 2 位はアメリカの約 1,500 トン)であり、これは東アジア地域の総排出量の 78%(日本は約
3%)に当る。また、NOxについては、中国は推定年間約 1,100 万トンを排出し、世界第 2 位の
排出国(第 1 位はアメリカの約 2,100 万トン)であり、この地域の総排出量の 57%(日本は約 11%)
に当る。
SO2及びNOx排出量の推移を表 2-2、表 2-3、図 2-6、図 2-7 に示す。SO2について、中国のデ
ータがどこまで信頼できるか多くの議論があるところだが、「中国環境年鑑」のデータによれば、
中国は 1995 年の 2,370 万トンをピークに、その後は減少傾向になり、2002 年は 1,927 万トンに
なった。しかし、中国はなお世界最大のSO2排出国である。日本、韓国は緩やかな減少傾向にあ
る。NOxについては、各国とも増加傾向にあるが、なかでも中国の増加は著しい。
2500
SO2排出量(万t)
2000
1500
1000
500
ブルネイ
ラオス
カンボジア
ミャンマー
モンゴル
シンガポール
ベトナム
北朝鮮
マレーシア
台湾
フィリピン
日本
韓国
インドネシア
タイ
中国
0
図 2-4 東アジア地域各国のSO2排出量(2000 年)
(出所)表 1-1 より作成
1200
800
600
400
200
図 2-5 東アジア地域各国の NOx 排出量(2000 年)
(出所)表 1-1 より作成
−18−
ブルネイ
カンボジア
ラオス
シンガポール
モンゴル
ミャンマー
北朝鮮
ベトナム
フィリピン
マレーシア
台湾
タイ
インドネシア
韓国
日本
0
中国
NOx排出量(万t)
1000
表 2-2 二酸化硫黄の排出量推移(万トン/年)
国
年
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
①
1371
1200
1303
1406
1552
1502
1662
1685
1795
1825
2370
中国
②
③
1938
1923
1975
2103
2283
1858
1753
1980
2136
2195
2095 2223
2275
2363
2517
2559
2652 2570
2346
2091
1858
1995
1948
1927
④
日本
② ③ ④
134
126
116
111
103
91
89
93
91
93
90 97 83
97
89
82
85
87 78
⑤ ⑥
128
84
88
90
2497
⑦
④
135
124
104
140
145
161 171
160
161
157
160
153 122
150
136 128
115
95
75
87
2039
韓国
③
80
83
インドネシア
③
④
マレーシア
③ ④
フィリピン
③ ④
タイ
③ ④
ベトナム
③ ④
56
26
41
96
11
68
27
48
125
13
99
31
66
132
27
88
27
71
96
19
(出所)①「中国環境年鑑」(各年版)
②「藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-'03(佐藤太英監修)
、エネルギーフォーラム、pp.248-262, 2002」
③Streets et. : Water, Air, and Pollution 130: 191, 2001
④米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
⑤「環境統計集 平成 14/15 年版」(http://www.env.go.jp/doc/toukei/index.html)
⑥「Environmental Performance Reviews JAPAN」(OECD, 2002)
⑦「韓国環境統計年鑑」、韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
表 2-3 窒素酸化物の排出量推移(万トン/年)
国
年
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
①
402
397
416
443
480
521
550
591
635
660
672
708
743
743
827
中国
②
日本
韓国
インドネシア
マレーシア
フィリピン
①
②
③
⑥ ② ③ ②
③ ② ③ ② ③
153
148
145
151
146
132
140
72
128
131
78
149
84
142
98
144
146
112
763
148 185
158 282
93
93
79
31
23
165
88
141
162
107
160
119
166
119
1092
169 320
115 163
112
45
30
126
1223
327
128 182
131
54
27
108
200
114
1135
220
132
132
49
33
③
④
162
⑤
タイ
②
③
ベトナム
②
③
55
91
102
109
28
(出所)①「藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-'03(佐藤太英監修)、エネルギーフォーラム、pp.248-262, 2002」
②Streets et. : Water, Air, and Pollution 130: 191, 2001
③米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
④「環境統計集 平成 14/15 年版」(http://www.env.go.jp/doc/toukei/index.html)
⑤「Environmental Performance Reviews JAPAN」(OECD, 2002)
⑥「韓国環境統計年鑑」、韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
−19−
2400
中国
日本
韓国
インドネシア
マレーシア
フィリピン
タイ
ベトナム
(参考)USA
2200
2000
SO2排出量(万t/年)
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
1945
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
図 2-6 二酸化硫黄の排出量の推移
(出所)中国…「中国環境年鑑」
(各年版)
日本…1945∼1995 年:「藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-'03(佐藤太英監修)、エネルギーフォーラム、pp.248-262, 2002」
2000 年:米アイオワ大学 CGRER の Emission Data
韓国…1975,1980 年:「杉山大志、東アジア諸国の SOx 排出動態に関する考察、電力中央研究所報告 Y97005、P-8 の図」から一人当り排出量を読み取り、計算
1985∼1999 年:韓国環境統計年鑑、韓国環境部ホームページ
2000 年:米アイオワ大学 CGRER の Emission Data
東南アジア諸国…1990,1995,1997:Streets et. : Water, Air, and Pollution 130: 191, 2001
2000 年:米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data
USA…米国環境保護局「2002 STATUS AND TRENDS」p.12(http:www.epa.gov/airtrends/2002_airtrends_final.pdf)
2400
中国
日本
韓国
2200
2000
1400
インドネシア
マレーシア
フィリピン
タイ
1200
ベトナム
(参考)USA
NOx排出量(万トン/年)
1800
1600
1000
800
600
400
200
0
1945
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
図 2-7 窒素酸化物の排出量推移
(出所)中国、日本…1945∼1995 年:「藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-'03(佐藤太英監修)、エネルギーフォーラム、pp.248-262, 2002」
2000 年:米アイオワ大学 CGRER の Emission Data
韓国…1985∼1999 年:韓国環境統計年鑑、韓国環境部ホームページ
2000 年:米アイオワ大学 CGRER の Emission Data
東南アジア諸国…1990,1995,1997:Streets et. : Water, Air, and Pollution 130: 191, 2001
2000 年:米アイオワ大学 CGRER の Emission Data
USA…米国環境保護局「2002 STATUS AND TRENDS」p.6(http:www.epa.gov/airtrends/2002_airtrends_final.pdf)
−20−
1.2
酸性雨の状況
(1)EANET によるモニタリング
東アジア地域全体の酸性雨の状況を把握するものとしては、共通の手法による、信頼できる水
準の精度保証・精度管理の確保を目指したモニタリングとして、1998 年以降、東アジア酸性雨モ
ニタリングネットワーク(EANET)の活動が行われている。
EANET の 2001 年のモニタリングサイトを図 2-8 に、2001 年の湿性沈着モニタリング結果よ
り、pH の年間平均値(降水量による加重平均値)を図 2-9 に示す。図 2-9 によると、pH の年平
均値は 4.2(Chongqing-Jinyunshan:中国重慶)から 6.4(Xi’an-Shizhan:中国西安)までの
間にある。
図 2-8
EANET モニタリングサイト(湿性沈着)位置図(2001 年)
(出所)環境省ホームページ(http://www.env.go.jp)
−21−
7.0
中国
6.5
モンゴル
ベトナム
ロシア
フィリピン
5.5
韓国
タイ
インドネシア
日本
マレーシア
5.0
4.5
モニタリングサイト (U:都市地域、Ru:田園地域、Ru:遠隔地域)
図 2-9 降水の pH の年平均値(2001 年)
(出所)東アジア酸性雨データ報告書 2001 年
(2)中国における酸性雨の状況
2002 年には全国の 575 都市で降水の pH 値を観測しているが、年平均降水 pH 値が 5.6 未満で
あった都市は 181(32.6%)に及び、また酸性雨が発生した都市は 279(50.3%)と過半数に及ん
でいる。地域的な分布を見ると(図 2-10 参照)、主に長江以南及び青蔵高原以東の広大な地区と
四川盆地に分布している。年平均降水 pH 値が 5.6 未満の都市は主に華東、華南、華中及び西南
地域に分布している。
酸性雨規制区注)に存在する 109 の都市中、年平均降水pH値が 5.6 未満の都市は 79(72.5%)
にも及び、また酸性雨が発生した都市は 101 都市(92.7%)を占めている。
酸性の降水に主に寄与しているのは硫黄の排出であり、降水中の硫酸基と硝酸基の規定度の比
は約 10:1 程度で、これは主たるエネルギー源を石炭としていることと関係している(19)。
中国における酸性雨の主たる原因は石炭燃焼に伴い発生する硫黄酸化物であり、図 2-11 から概
況が分かるように、二酸化硫黄の深刻な地域は主に中北部及び南部の都市に広く分布している。
一方、酸性雨が観測される地域は図 2-10 から分かるように、主として長江以南の地域に限られて
いる。この理由として、中北部は黄土高原や砂漠化地域が広く分布し、ここから揚じんや黄砂が
発生するが、これらの空気中に浮遊する粒子はアルカリ性であり、酸性雨を緩和するものと考え
られている。
注)酸性雨規制区:1998 年に新たに導入された規制制度で、酸性雨が多発している主として長江より南の都市及
びその周辺地域が酸性雨規制区として規制されている。この地域では二酸化硫黄の排出等に関して、他の地
域より厳しい規制が課せられている。
−22−
Bandung (U)
Kototabang (Re)
Jakarta (U)
Serpong (Ru)
Tanah Rata (Re)
Mae Hia (Ru)
Petaling Jaya (U)
Khao Lam Dam (Re)
Bangkok (U)
Patumthani (Ru)
Hanoi (U)
Hoa Binh (Ru)
Los Banos (Ru)
Metro Manila (U)
Ijira (Ru)
Banryu (U)
Hedo (Re)
Ogasawara (Re)
Oki (Re)
Yusuhara (Re)
Happo (Re)
Tappi (Re)
Sado-seki (Re)
Imsil (Ru)
Rishiri (Re)
Cheju (Re)
Kanghwa (Ru)
Zhuhai-Zhuxian Cavern (U)
Xiamen-Xiaoping (Re)
Zhuhai-Xiang Zhou (U)
Xi'an-Jiwozi (Re)
Xiamen-Hongwen (U)
Xi'an-Shizhan (U)
Xi'an-Weishuiyuan (Ru)
Chongqing-Jinyunshan (Ru)
Terelj (Re)
Chongqing-Guanyinqiao (U)
Irkutsuk (U)
Ulaanbaatar (U)
Mondy (Re)
4.0
Listvyanka (Ru)
pH
6.0
図 2-10 中国の降水 pH 値分布(2002 年)
(出所)中国環境状況公報 2002(http://www.zhb.gov.cn)
図 2-11 二酸化硫黄濃度地域分布
(出所)中国環境状況公報 2001(http://www.zhb.gov.cn)
−23−
(2)韓国における酸性雨の状況
韓国主要都市における降水 pH は、1997 年までは年平均値 5∼6 程度で推移してきたが、1998
年には多くの都市で pH5 を下回る強い酸性度の雨を観測しており、悪化の兆しも読み取れる。
原州 5.8/6.3/5.8/5.8/6.6/6.1/6.5/4.7/5.4/5.1/5.4
忠州 5.6/5.9/6.0/6.0/6.7/6.0/−/4.8/5.1/5.3/6.5
仁川 6.1/6.2/5.8/6.0/5.9/5.9/−/4.4/4.6/5.0/4.7
ソウル
清州 6.1/5.9/5.6/5.7/5.7/5.9/5.8/5.2/5.2/4.9/5.4
5.8/5.3/5.4/5.4/5.8/5.7/5.4/4.9/5.0/4.8/4.7
大邱 5.9/5.6/5.5/5.6/5.7/5.6/5.8/5.4/5.6/5.8/6.0
大田 5.7/5.7/5.5/5.7/5.9/5.8/6.2/4.7/5.0/4.7/4.9
浦項 5.8/5.9/5.6/5.6/5.8/5.5/5.4/5.8/6.0/6.2/6.3
群山 6.0/6.3/6.4/6.4/7.2/6.0/6.1/5.8/5.6/5.7/5.8
蔚山 5.7/5.6/5.6/5.4/5.3/5.7/5.7/4.9/5.0/5.0/5.1
全州 5.8/5.6/5.6/5.7/6.4/6.3/6.1/5.9/5.6/5.7/5.9
釜山 5.2/5.2/5.3/5.2/5.2/5.1/5.2/4.7/4.8/4.9/5.0
光州 5.5/5.7/5.8/5.8/6.2/5.9/5.9/4.8/5.2/5.2/5.0
馬山 5.0/5.4/5.4/5.5/5.7/6.2/−/5.0/4.8/5.2/5.3
木浦 5.6/5.8/5.7/6.2/6.7/6.5/6.4/4.5/5.1/5.5/5.0
麗水 −/−/5.6/5.8/5.5/5.3/5.5/4.5/4.8/5.2/5.2
済州 5.9/5.9/5.9/5.9/5.5/5.6/5.4/5.0/5.0/4.7/4.5
年平均値
1991 年/1992 年/1993 年/1994 年/1995 年/1996 年/1997 年/1998 年/1999 年/2000 年/2001 年
:pH<5.0、
:5.0≦pH<5.6、
:5.6≦pH
図 2-12 韓国の降水 pH 値分布
(出所)韓国環境部:環境統計年鑑
各年版
−24−
(3)日本における酸性雨の状況
日本の降水pH値は 4.7∼4.9(年平均値の平均)で推移しており変化はなく、全国でpH5.0 未満
の酸性度の高い雨が観測されており、pH値の改善の兆しは見られない。
①利 尻 4.8/4.9/5.3/** /5.0/** /** /** /**
①
②野 幌 4.8/4.8/5.0/5.1/5.2/5.3/ - / - / ③札 幌 5.2/5.1/4.7/4.6/4.6/4.6/4.7/4.7/4.6
④落石岬 - / - / - / - / - / - / - / - /**
⑤竜飛岬 - / - /4.7/4.9/4.7/4.8/4.9/4.8/**
④
③②
⑥八幡平 - / - /** /4.8/4.7/4.8/5.0/4.9/4.7
⑦尾花沢 - / - /** /4.8/4.7/4.7/4.8/4.8/**
⑧仙 台 5.1/5.3/** /5.1/5.1/5.2/5.2/5.2/4.9
⑨箟 岳 4.9/5.2/4.8/4.8/4.8/4.9/5.0/5.0/4.7
⑩佐渡関岬 - / - / - / - / - / - / - /** /4.6
⑤
⑪佐 渡 4.6/4.7/4.7/4.7/4.6/4.8/4.8/ - / ⑫新潟港 - / - / - / - / - / - / - / - /4.6
⑥
⑬新 潟 4.6/4.6/4.5/4.6/4.6/4.7/4.9/4.7/4.7
⑭新 津 4.6/4.6/4.6/4.7/4.5/4.7/4.7/4.7/ ⑮筑 波 4.7/** /** /** /4.8/4.9/5.0/4.9/4.6
⑯鹿 島 5.5/** /5.6/5.7/** /5.8/5.9/5.8/4.7
⑰市 原 4.9/5.2/5.5/5.3/5.4/5.0/5.3/5.4/4.8
⑱東 京 **/** /** /** /** /** /** /** / -
21
⃝
⑲川 崎 4.7/5.1/4.7/4.8/5.0/4.8/** /5.0/4.5
⑩
⑪ ⑫
⑬⑭
⑦
⑨
⑧
22 立 山 - / - /** /4.8/4.7/4.7/4.9/4.7/4.8
⃝
⑳丹 沢 - / - / - /4.8/4.8/4.9/5.0/5.1/4.7
23 八方尾根 - / - /4.7/** /** /4.8/5.0/4.9/4.8
⃝
22 23
⃝
⃝
33
⃝
24
⃝
28
⃝
34
⃝
43
⃝
42
⃝
45
⃝
46
⃝
44
⃝
41
⃝
31 ⃝
⃝
30
⃝
29
36
37⃝
⃝
35
⃝
21 輪 島 - / - / - /4.5/4.5/4.6/4.6/4.5/4.5
⃝
25
⃝
26
⃝
27
⃝
24 越前岬 - / - / - /4.5/4.5/4.6/4.6/4.5/4.5
⃝
⑮ ⑯
⑱
⑳⑲ ⑰
25 伊自良湖 - / - / - / - / - / - / - /** /4.5
⃝
26 犬 山 4.5/4.7/4.8/4.7/4.7/4.8/4.8/4.7/4.5
⃝
27 名古屋 5.2/5.3/5.3/4.7/4.7/5.0/4.9/5.1/**
⃝
28 京都弥栄 - / - /** /4.7/4.5/4.8/** /4.8/4.6
⃝
29 京都八幡 4.5/4.7/4.7/4.8/4.7/4.8/** /4.9/4.7
⃝
38
⃝
30 大 阪 4.5/4.8/4.5/4.7/4.7/4.9/4.9/** /4.8
⃝
39
⃝
31 尼 崎 4.7/5.0/4.8/4.8/4.7/4.9/5.0/** /4.8
⃝
32
⃝
47
⃝
32 潮 岬 - / - /4.6/4.6/4.5/5.2/5.1/4.8/4.8
⃝
40
⃝
33 隠 岐 4.9/** /5.1/4.8/4.7/4.8/4.9/4.7/4.7
⃝
48
⃝
34 松 江 4.7/4.9/4.8/4.7/4.6/4.9/4.9/4.8/4.7
⃝
35 倉 敷 4.6/4.7/4.7/4.6/4.5/4.7/4.6/4.8/4.7
⃝
49
⃝
41 宇 部 5.8/5.9/5.7/5.8/5.6/5.7/6.0/6.0/6.2
⃝
36 蟠竜湖 - / - / - / - / - / - / - /** /4.6
⃝
42 北九州 5.0/4.8/5.2/5.2/5.2/** /4.9/5.2/ ⃝
37 益 田 - / - /4.7/4.6/4.5/4.7/4.7/ - / ⃝
43 対 馬 4.5/4.8/** /4.9/4.7/4.8/4.8/** /**
⃝
38 倉橋島 4.5/** /4.4/4.6/4.5/4.6/** /4.7/4.6
⃝
44 五 島 - / - /** /4.9/4.7/4.8/4.9/4.9/5.0
⃝
39 梼 原 - / - / - / - / - / - / - /** /4.7
⃝
45 筑後小郡 4.6/4.9/4.7/4.8/4.8/4.9/4.8/4.8/4.8
⃝
40 足摺岬 - / - /** /** /** /4.6/4.7/** / ⃝
46 大牟田 5.0/5.3/5.5/5.5/5.5/5.5/5.4/5.7/5.7
⃝
50
⃝
47 大分久住 - / - /4.5/4.7/4.7/5.0/4.9/4.8/4.8
⃝
48 えびの - / - / - / - / - / - / - / - /4.8
⃝
49 屋久島 - / - /4.6/4.6/4.7/4.8/4.8/** /4.6
⃝
51
52⃝
⃝
50 奄 美 5.7/5.5/5.0/5.1/** /5.3/5.2/** /4.8
⃝
51 辺戸岬 - / - / - / - / - / - / - /** /5.1
⃝
53
⃝
52 沖縄国頭 - / - /** /4.9/5.1/** /5.0/** / ⃝
53 小笠原 5.1/5.1/5.3/5.3/5.4/5.6/5.2/** /5.2
⃝
第 2 次平均/1993 年度/1994 年度/1995 年度/1996 年度/1997 年度/1998 年度/1999 年度/2000 年度
−:未測定
*:無効データ(欠測が多いなど年平均値にするにはデータが足りない場合)
:pH<5.0、
:5.0≦pH<5.6、
:5.6≦pH
図 2-13 日本の降水 pH 値分布
(出所)環境省・酸性雨対策検討会「第 4 次酸性雨対策調査取りまとめ」
−25−
表 2-4 及び図 2-14 は、中国、韓国、日本の降水pH値(年平均値)を比較したものである。日
本はpH5.0 未満の強い酸性度の地点が 87%もある。中国の酸性雨規制区でさえpH5.0 未満の地点
は 46%である。日本は欧米や中国に負けないくらい酸性度の高い雨や雪が降っている。韓国の雨
は、中国北部のアルカリ性土壌粒子の飛来の影響もあってか、日本と比べるとpHは高い。
表 2-4 中国・韓国・日本の降水 pH 比較
pH
地点数
%
地点数
%
地点数
%
中国(酸性雨規制区)
(2001 年)
韓国
(2001 年)
日本
(2000 年)
pH<4.5
8
7.5
0
0
0
0
%
(出所)中国:中国環境年鑑 2002、
4.5≦pH<5.0
41
38.3
4
23.5
34
87.2
韓国:図 2-12 より、
5.0≦pH<5.6
29
27.1
8
47.1
3
7.7
5.6≦pH<7.0
25
23.4
5
29.4
2
5.1
7.0≦pH
4
3.7
0
0
0
0
日本:図 2-13 より
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
中国(酸性雨規制区)
韓国
日本
<4.5
4.5-5.0
5.0-5.6
pH
5.6-7.0
>7.0
図 2-14 中国・韓国・日本の降水 pH 比較
(出所)表 2-1
また、日本海側の測定局で冬季に硫酸イオン、硝酸イオン沈着量が増加する傾向が認められて
いる(図 2-15、図 2-16 参照)。
−26−
図 2-15
nss-SO42−沈着量注)分布図
(出所)全国公害研協議会による全国第1次酸性雨調査データセット(http://www-cger.nies.go.jp/acid/acid0.html)
図 2-16
NO3−沈着量分布図
(出所)全国公害研協議会による全国第1次酸性雨調査データセット(http://www-cger.nies.go.jp/acid/acid0.html)
注)海からは硫黄化合物として、植物プランクトンが生産する硫化ジメチルなどが発生するが、大部分は海域に
沈着して、降水の酸性化にはあまり寄与しない。ここでは、影響の大きい人間活動及び火山によるものに焦
点を当てるため、海塩由来の硫酸イオンを除いた非海塩硫酸イオン沈着量としている。非海塩由来のイオン
(nss)沈着量の算出に当たっては、Na+を基準として、降水中の海塩由来成分の組成が平均的な海水中の組成
と同様であるとの仮定を用いている。
−27−
1.3
酸性物質の長距離輸送の実態
(1)長距離輸送モデルによる解析
どこで排出されたものがどこで沈着するかを定量的に把握するために、輸送中に起こる様々な
物理、化学現象を計算機の中で表現する長距離輸送モデルという計算手段が用いられている。
(a) 長距離輸送モデルの概要
大気中の主要な酸性物質は硫酸と硝酸である。このうち硫酸とその前駆物質(以下、硫黄
化合物)は、モデル化を行う上で扱いが比較的容易であるため、長距離輸送モデルの研究は
硫黄化合物を中心に進展してきた。一時期のモデル開発ラッシュはひと段落つき、発生源寄
与評価などの解析結果もほぼ出揃った。現在はモデルの相互比較や長期トレンドの予測とい
った応用的な段階に入っている。
一方、硝酸とその前駆物質(以下、アンモニアを含め窒素化合物)を対象としたモデル開
発は発展途上にある。これは、硫黄化合物輸送モデルの場合、反応物質として基本的にはSO2
とSO42−を考えればよいのに対し、窒素化合物輸送モデルの場合、反応過程に関与する何十
もの化学種と反応式を考慮しなければならないからである。また、そのため窒素化合物輸送
モデルは計算時間も長くかかるので、1 年間のシミュレーションによる発生沈着マトリック
ス作成はほとんどなく、通常は酸性沈着量が高くなる期間を対象としたエピソード解析に用
いられている。
長距離輸送モデルは、それが採用する計算方法によって主に、オイラー型モデル、トラジ
ェクトリー型(ラグランジュ型)モデルと両者のハイブリッド型に大別される。表 2-5 に長
距離輸送モデルの特徴をまとめた。
表 2-5 長距離輸送モデルの特徴
概
要
特
徴
オイラー型モデル
トラジェクトリー型モデル
● 対象領域を 3 次元の格子に区切って、格 ● 汚染物質を含む空気塊の流跡に沿って
濃度解析する。
子内での物質収支を表す連立方程式を
解く。
● 物理、化学現象を詳細に扱えるが、排出 ● 物理、化学過程を簡単に扱うが、比較的
手に入れやすい排出量や気象のデータ
量や気象、土地利用などのデータや計算
をもとに濃度、沈着量の計算ができる。
機環境が十分でないと、精度よい結果が
期待できない。
● 通常は酸性沈着量が高くなる期間を対
象としたエピソード解析に用いられる。
(出所)市川陽一(1998):酸性物質の長距離輸送、大気環境学会誌、Vol.33、№2、1998 年 p.A17 より作成
(b) 発生源寄与の見積り
1) 1990 年代の研究
表 2-6 に、1990 年代に長距離輸送モデルを用いて試算された、日本に沈着する酸性降
下物の発生源寄与度を示す。
①硫黄の発生源寄与について
中国や朝鮮半島といった大陸から運ばれてくる硫黄の割合は、5∼約 40%と予測者によ
って大きな開きがある。日本の予測者は概ね似たような 40%前後の値を報告しているが、
−28−
中国の予測者は 5%と大陸の寄与を小さく評価している。世界銀行の予測では両者の中
間の 17%になっている。
②窒素の発生源寄与について
大阪府立大学の硫黄と窒素の結果を比較すると、窒素については大陸の寄与が硫黄と比
べて低くなり、逆に、日本国内の寄与が高くなっている。これは、窒素酸化物は硫黄酸
化物より速く酸化し、大気から除去されやすいので、輸送距離が短いためである。
表 2-6 日本に沈着する酸性降下物の発生源寄与度の見積り(単位:%)
予測者
電力中央研究所
(市川・藤田・速見)
大阪府立大学
(池田・東野)
山梨大学(片谷)
世界銀行
(RAINS-ASIA)
(Carmichael・Arndt)
中国科学院(黄ら)
対象酸性
降下物
硫黄
対象年
モデルの種類
硫黄
窒素
硫黄
硫黄
1988.10
∼89.9
1990
1990
1988
1990
トラジェクトリーとオイラー
のハイブリッド型
オイラー型
オイラー型
オイラー型
トラジェクトリー型
硫黄
1989
オイラー型
日本
40
火山
18
37
76
47
38
28
−
11
45
94
発生源
中国 朝鮮半島
25
16
その他
1
25
13
32
10
10
11
10
7
0
0
0
0
3
2
1
(出所)市川陽一「酸性物質の長距離輸送」大気環境学会誌、Vol.33、№2、1998 年 p.A17
2) MICS-ASIA(モデル比較研究)
モデルによって結果が異なる原因を確かめるため、研究者が一堂に会して長距離輸送解析
結果の相違について議論するため、MICS-ASIA(Model InterComparison Study of Long
Range Transport and Sulfur Deposition in East Asia)フェイズⅠが行われた。8 モデル(韓
国延世大、電中研、デンマーク国立環境研、九州大、大阪府大、米国アイオワ大、世銀、ス
ウェーデン気象水文研)が参加し、結果は表 2-7 に示すように差が大きい地点もあり、ほぼ
一致している地点もある。そこで、さらに MICS-ASIA フェイズⅡ(2003∼2004 年)が現
在実施されている。
表 2-7 評価地点に沈着する硫黄の外国起源の割合(火山除く、8 モデルの最小∼最大)
狛江(東京)
隠岐(島根)
福江(長崎)
Yangyang(韓国)
北京(中国)
南京(中国)
台中(台湾)
1993 年 1 月(%)
10∼60
80∼95
80∼ほぼ 100
45∼80
ほぼ 0
ほぼ 0∼5
20∼70
1993 年 5 月(%)
5∼35
50∼75
55∼90
35∼60
ほぼ 0
ほぼ 0∼5
10∼40
(出所)市川陽一「環境影響評価のための物質輸送・大気拡散予測手法の開発」大気環境学会誌、Vol.38、№3、
2003 年 p.126
−29−
3) 東アジア地域の大気汚染物質発生・沈着マトリックス作成と国際共同観測に関する研究
(村野健太郎ほか、平成 11 年度∼平成 13 年度環境省地球環境研究総合推進費)
この研究では、夏季(1995 年 7 月)と冬季(1995 年 12 月)における発生・沈着マトリ
ックスを作成している。
①夏季(1995 年 7 月)
日本全国の硫黄酸化物沈着量の発生源別割合は、火山 34%、日本 30%、中国 15%、朝
鮮半島 12%の順となっており、12 月に比べて火山や日本国内による寄与が大きい。これ
は、日本上空において南西風が吹いているため特に西日本地域では桜島に代表される九州
の火山の影響を強く受けること(中国・四国・近畿と九州での火山寄与率は共に 48%)、
夏季は冬季よりも風が弱いことから日本国内で発生した硫黄酸化物が日本列島外まで流
れていかないことが原因と考えられる。国内 6 地域別の中国からの寄与率は 13∼25%で
あり、中部・関東で最も低く北海道で最も高いが、量で評価すると日本海側が最も多く
(69mg/m2/月)、東北で最も少ない(27mg/m2/月)。
日本から発生した硫黄酸化物のうち 48%が国内に沈着し、残りのほとんど(50%)が
海上に沈着するか計算領域から流出する。また、中国から発生した硫黄酸化物のうち 86%、
2%、1%、1%がそれぞれ中国、朝鮮半島、日本、東南アジアに沈着する。
②冬季(1995 年 12 月)
日本全国の硫黄酸化物沈着量の発生源割合は、中国 57%、朝鮮半島 18%、日本 13%、
火山 7%の順となっており、7 月に比べて中国や朝鮮半島の寄与率が大きく火山や日本国
内による寄与率が小さく約 80%が越境汚染による。このような季節による差異が生じる
最大の原因は、冬季には日本上空に強い北西風が吹いているためである。即ち、北西風の
ために火山の影響が小さいこと、風が強いことから日本国内で発生した物質が日本列島外
まで流されやすいこと、強い北西風のため日本の風上になる中国や朝鮮半島からの寄与が
大きくなること等の要因が考えられる。国内 6 地域別の中国からの寄与率は 37∼76%で
あり、中部・関東で最も低く北海道で最も高い点は 7 月と同様であるが、量で評価すると
日本海側が最も多く(208mg/m2/月)、関東・中部で最も少ない(38mg/m2/月)。
中国から発生した硫黄酸化物のうち 59%、4%、2%、2%がそれぞれ中国、日本、朝鮮
半島、東南アジアに沈着する。これを 7 月と比較すると、中国自国への寄与率が約 2/3 ま
で低下すること、朝鮮半島への寄与よりも日本への寄与が大きいことなどの特徴がある。
前者の原因は平均風速が強いこと及び主要発生源地域が太平洋沿岸にあるため北西風に
よって汚染物質が自国から流出しやすいこと、また後者の原因は日本の日本海側地域にお
ける降雪による湿性沈着が多いことが考えられる。中国からの日本に対する寄与は、7 月
には華東地域(6%)が最も多いのに対して、12 月には華北地域(23%)と東北地域(14%)
が多く、この原因も平均風の季節差によって説明できる。なお、日本から発生した硫黄酸
化物のうち、25%が国内に沈着し、残りのほとんど(74%)が海上に沈着するか計算領域
から流出する。
−30−
図 2-17 硫黄酸化物沈着量の発生源地域別寄与率(1995 年 7 月と 12 月)
−31−
単位:mg/m2/月
表 2-8 アジア 12 地域間の発生沈着マトリックス(1995 年 7 月)
沈着
発生
中国(東北)
中国(西北)
中国(西南)
中国(華北)
中国(華東)
中国(華中)
中国(華南)
東南アジア
台湾
北朝鮮・韓国
日本
その他
火山
総沈着量
中国
(東北)
355.7
32.3
8.7
336.6
262.7
30.2
8.1
0.4
2.4
59.6
1.9
20.7
7.8
1127.2
中国
(西北)
0.7
471.3
171.0
228.0
10.4
41.9
25.8
3.2
0.4
0.1
0.0
1.5
0.1
954.4
中国
(西南)
0.6
62.1
1907.8
14.0
2.3
31.6
115.7
66.4
1.7
0.1
0.1
7.1
1.7
2211.1
中国
(華北)
101.4
240.8
135.0
3289.6
981.8
341.0
135.9
6.9
4.4
7.8
0.4
20.8
1.8
5267.6
中国
(華東)
22.1
34.7
58.5
288.3
1560.7
302.5
171.5
7.8
34.6
9.2
1.2
104.7
5.5
2601.2
中国
(華中)
0.9
49.1
160.7
113.2
165.4
443.7
303.9
14.3
10.0
0.6
0.2
27.1
3.3
1292.5
中国
(華南)
0.2
6.4
150.4
8.3
15.2
52.8
503.0
84.9
22.3
0.1
0.4
67.9
7.0
918.8
東南ア
ジア
2.2
1.4
88.4
8.5
5.5
1.2
12.4
1379.4
1.0
0.2
0.0
18.3
87.8
1606.1
台湾
北朝鮮・韓国
日本
その他
0.0
0.3
1.2
0.3
2.2
2.0
21.2
4.1
87.1
0.0
0.2
17.9
5.5
142.0
33.4
13.0
8.9
68.5
117.2
23.9
15.5
0.8
8.2
282.0
7.2
27.4
22.6
628.7
22.7
14.5
10.6
57.1
76.4
21.2
18.4
1.8
14.0
149.2
356.8
44.8
412.7
1200.3
48.7
15.8
2.9
66.9
28.7
5.1
4.7
9.1
3.2
31.8
8.1
24.2
20.4
269.7
総沈
着量
588.8
941.6
2704.2
4479.2
3228.4
1297.0
1336.2
1579.1
189.2
540.6
376.6
382.4
576.2
−
表 2-9 日本への発生源地域別硫黄酸化物寄与割合(1995 年 7 月)
発生源
北海道
東北
中部・関東
中国(東北)
中国(西北)
中国(西南)
中国(華北)
中国(華東)
中国(華中)
中国(華南)
北朝鮮・韓国
東南アジア
台湾
日本
火山
その他
合計
6.7
1.6
0.5
8.5
6.6
1.0
0.4
20.5
0.0
0.2
20.8
28.6
4.6
100
2.8
1.4
0.7
6.3
5.8
1.4
0.9
16.0
0.1
0.5
38.3
22.8
3.1
100
1.0
0.9
0.7
3.5
4.5
1.4
1.2
5.7
0.1
0.7
43.4
34.2
2.7
100
中国・四国・
近畿
0.6
0.8
1.0
2.6
5.3
1.8
1.8
5.6
0.2
1.3
27.5
48.5
3.1
100
日本海側
九州
日本全体
1.6
1.6
1.1
5.8
8.0
2.2
1.8
17.8
0.1
1.2
32.0
22.7
4.0
100
0.8
1.0
1.1
3.4
7.4
2.1
2.5
11.3
0.3
2.5
15.0
47.5
5.2
100
1.9
1.2
0.9
4.8
6.4
1.8
1.5
12.4
0.2
1.2
29.7
34.4
3.7
100
表 2-10 アジア 12 地域間の発生沈着マトリックス(1995 年 12 月)
沈着
発生
中国(東北)
中国(西北)
中国(西南)
中国(華北)
中国(華東)
中国(華中)
中国(華南)
東南アジア
台湾
北朝鮮・韓国
日本
その他
火山
総沈着量
中国
(東北)
196.6
15.3
8.4
164.0
60.8
6.1
2.3
0.8
0.1
10.4
0.2
4.0
0.3
469.4
中国
(西北)
0.1
186.8
47.6
68.3
6.0
13.3
9.6
2.6
0.3
0.1
0.0
0.7
0.2
335.6
中国
(西南)
0.8
43.0
833.8
42.3
27.0
55.7
129.4
63.5
3.3
1.3
0.2
7.4
3.0
1210.9
中国
(華北)
13.3
98.2
30.5
1115.5
201.3
59.2
13.7
2.3
0.5
1.3
0.1
3.5
0.5
1540.0
中国
(華東)
25.1
25.1
19.1
399.7
1112.5
132.4
17.6
2.3
2.9
10.5
0.8
39.6
3.4
1791.0
中国
(華中)
3.3
36.8
50.6
190.2
223.5
271.3
70.8
7.6
3.8
3.2
0.4
12.3
2.6
876.4
中国
(華南)
2.0
17.1
92.8
58.0
78.2
107.1
324.5
23.9
14.4
3.0
0.6
34.1
4.2
759.8
−32−
東南ア
ジア
1.7
3.8
48.2
14.0
12.7
8.6
34.9
162.5
3.9
3.1
1.1
11.4
52.3
358.0
単位:mg/m2/月
台湾
北朝鮮・韓国
日本
その他
1.5
3.5
4.4
15.9
34.9
8.1
10.2
1.2
54.8
3.1
0.7
13.4
4.2
155.7
48.9
9.5
4.9
78.5
55.4
6.5
1.8
0.6
0.1
113.7
1.0
5.5
1.4
327.8
145.9
48.2
40.2
231.4
95.4
18.3
8.7
5.1
0.6
184.0
135.1
36.1
75.0
1024.0
41.7
13.0
9.0
50.8
23.7
5.1
6.5
4.2
2.6
17.5
6.5
14.7
13.6
208.9
総沈
着量
480.9
500.4
1189.4
2428.4
1931.4
691.8
630.1
276.3
87.2
351.1
146.8
182.9
160.7
−
表 2-11 日本への発生源地域別硫黄酸化物寄与割合(1995 年 12 月)
発生源
北海道
東北
中部・関東
中国(東北)
中国(西北)
中国(西南)
中国(華北)
中国(華東)
中国(華中)
中国(華南)
北朝鮮・韓国
東南アジア
台湾
日本
火山
その他
合計
25.1
7.2
4.5
30.2
5.6
1.7
0.8
6.7
0.5
0.0
7.3
5.1
5.2
100
18.7
6.4
6.1
26.8
7.5
2.0
1.1
11.9
0.7
0.1
11.0
4.3
3.4
100
10.4
2.7
3.2
13.3
5.2
1.0
0.6
12.7
0.5
0.0
36.2
11.3
2.9
100
中国・四国・
近畿
8.6
3.5
3.2
17.8
9.7
1.6
0.7
22.3
0.5
0.1
20.0
8.8
3.2
100
日本海側
九州
日本全体
15.3
4.6
4.1
23.1
9.4
1.7
0.9
21.7
0.5
0.1
11.7
3.6
3.2
100
6.7
3.5
2.3
20.4
14.9
2.3
0.7
24.2
0.3
0.1
6.7
14.5
3.4
100
14.2
4.7
3.9
22.6
9.3
1.8
0.9
18.0
0.5
0.1
13.2
7.3
3.5
100
(2)航空機観測による方法
通常、汚染物質の発生源が明らかにない海の上空で汚染気塊を航空機観測で捕らえ、それがど
こから輸送されてきたか流跡線解析を行う。
東アジア地域の大気汚染物質発生・沈着マトリックス作成と国際共同観測に関する研究(村野
健太郎ほか、平成 11 年度∼平成 13 年度環境省地球環境研究総合推進費)で行われた東シナ海上
空航空機観測では、低空を飛行している時に 10ppbを越える高濃度のSO2が観測された(図 2-18)。
バックトラジェクトリー解析からも、低高度の 500mで捕らえた気塊は、上海付近の非常に低い
高度(500∼600m)を飛んできていることが見て取れる(図 2-19)。
図 2-18
2001 年 3 月 21 日のガス状汚染物質分布
図 2-19
2001 年 3 月 21 日低空で捕ら
えた気塊のバックトラジェク
トリー
−33−
1.4
越境酸性雨による被害
(1) 日本
日本においても最近、森林の衰退が見られるようになってきた。一つは関東周辺、関西周
辺、瀬戸内海などの大都市周辺地域。もう一つは北陸・山陰などの日本海沿岸地域である。
国立環境研究所の畠山史郎は、前者には大都市域で放出された大気汚染物質が光化学反応を
受けて生成したオゾンなどの酸化性物質の影響が、後者では中国など東アジアから長距離輸
送されてきた酸性物質の影響が大きいのではないかと推測している(16)。以下は後者の、越境
酸性雨による影響が大きいのではないかと推測している例である。
(a) 敦賀半島のミズナラ林
福井県の敦賀半島では、数年前からミズナラなどの広葉樹が、8 月のまだ紅葉には早い時
期に葉が真っ赤になり、翌年には枯れてしまうという現象が見られた。このようになった木
には必ずキクイ虫が入っており、キクイ虫がとどめを刺して木を枯らしているらしい。しか
し、同じ種類の木でも、健全な木にはキクイ虫は入っておらず、なんらかの要因で木が弱る
とキクイ虫が入って葉が真っ赤になり、翌年には枯れてしまう。また、弱った木の根には、
木の根に共生して樹木の養分吸収を助けている菌根菌が非常に少なくなっている。これは
酸性雨(雪) → 菌根菌の減少 → 樹木の衰弱 → キクイ虫の侵入 → 樹木の枯死
という流れを示しているようである。日本海側では、雨や雪の pH は夏より冬の方が低く、
太平洋側とは逆の傾向である。また、積もった雪がとけるときには、雪の中の酸性物質が早
く流れ出して、酸性度の高い水が土壌に浸透して行くことも知られていて、いずれも酸性雨
(雪)と森林被害との関連を示唆している。
(b) 大山のダイセンキャラボク
1996 年 6 月、鳥取県の大山の頂上付近で、天然記念物のダイセンキャラボクが一斉に枯
れてしまった。また、キャラボク以外の木にも広範囲に枯れが見られた。大山は日本海に直
接面し、冬の気象条件の厳しいことでも知られている。冬季には、冬の北西季節風が大陸か
ら吹き付けてくるところであり、その風に乗って酸性物質が大陸から運ばれてくる可能性を
考えると、福井の樹木被害と、もとは同じなのではないかとも考えられる。図 2-20 のよう
な 4 つの領域に分けて、どの領域を経由して気塊が大山山頂に届いているのかを流跡線解析
で調べると、A(中国及び韓国の上空を経由する経路)が 32%、D(中国南部から北九州を
経由する経路)が 22%で、両方あわせて、この狭い領域からの気塊が 54%をしめることが
わかった。特に冬季にはその割合は 60%を越えている。この領域にはいずれも現在急速に経
済発展を続けている韓国と中国がある。その上空を通ってきた気塊が大山の山頂にかなりの
割合で到達しているのだということがわかった。
−34−
32%
32%
14%
22%
図 2-20 大山山頂へ到達する気塊の割合
(2)日本以外の国
東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)のネットワークセンターである(財)
日本環境衛生センター 酸性雨研究センターでのヒアリングでは、タイ国メモ発電所(石炭
火力)周辺での局地的大気汚染による酸性雨被害のような例はあるが、周辺に汚染物質の発
生源がない北欧の森林や湖沼の酸性雨被害のような越境汚染被害例は聞いたことがないと
いうことであった。
韓国のソウルでは、酸性雨によるとみられる文化財被害として、南大門の顔料が変色した
り、景福宮の大理石の石塔が変形するなどの被害が出ている(1995.2.19 共同通信)。また、
本章 第 1.2 節(2)項で述べたように韓国の雨は酸性度が高まってきているが、これに関して
2002 年 7 月 18 日付の朝鮮日報は、
「ソウル市は『ソウル地域の雨の酸性度が高まっている
のは、中国の工業化により大気汚染物質が韓国に移動するため』と分析した。」と報じてい
る。韓国は、越境大気汚染と説明できるだけの因果関係や影響は現時点では明らかではない
(韓国現地調査によるヒアリング結果)としながらも、EANET や日中韓 LTP プロジェクト
(北東アジアの越境大気汚染のモニタリング及びモデリング共同研究)等に積極的に参加す
るなど、酸性雨に対する関心は高い。
1.5
まとめ
日本の降水 pH は全国測定地点の 87%で年平均値 5.0 未満の強い酸性度の雨が降っており、全
国年平均値は 4.7∼4.9 で推移している。これは韓国の年平均値 5∼6 よりも酸性度が強く、欧米
と同レベルの酸性雨が降っている。
また、日本海側の測定局で北西風の強い冬季に硫酸イオン、硝酸イオン沈着量が増加する。冬
季に日本へ沈着する硫黄の 57%は中国が発生源で、日本の中では日本海側に最も多量に沈着して
いることが長距離輸送モデルによって解析されている。
さらに、日本海側では、越境性酸性雨による影響が大きいと推測される森林衰退が報告されている。
一般的に酸性雨による土壌・植生、降水等に対する影響は、長い期間を経て現れると考えられ
ているため、特に風上に位置する中国での環境対策の取り組みが遅れたり、規制が守られなかっ
たりして、SOx、NOx排出量が増加すると、日本における越境性酸性雨被害が劇的に増加するこ
とが懸念される。
−35−
2.越境煙害(17)
東南アジア地域では、インドネシアにおける森林火災に伴う越境煙害問題が 1997 年に深刻化
した。越境煙害は、隣国のシンガポールやマレーシア等に甚大な健康被害及び社会的・経済的損
害を及ぼしたことから、地域をあげて取り組むべき問題としての認識が広がった。そのため、森
林火災を監視するモニタリングネットワークが整備されるとともに、2002 年には ASEAN 越境
煙害協定が締結されるに至った。
図 2-21
1997 年 10 月 19 日のインドネシアに漂う森林火災の煙
(出所)http://www-cger.nies.go.jp/geo2000/ov-j/ioj7.htm
3.メコン川流域の環境問題(18)
メコン川は中国奥地の源流から 6 カ国(中国、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベト
ナム)を流下して南シナ海に注ぐ国際河川である。ダム及び道路・橋梁建設工事に伴う森林破壊、
その後の保守不足のための土壌流出、河川の汚濁、ダムによる下流への水量・水質の変化、航行
改善プロジェクトに伴う岩礁爆破による魚類への影響など、開発に伴う環境問題が生じている。
1995 年には「メコン川流域の持続的な開発のための協力に関する協定」が結ばれた。灌漑、水力
発電、舟運、洪水防御、漁業、森林運搬、観光などの分野における、メコン川の水及び関連資源
の開発と利用、環境・生態系の保全等の協力について規定している。その中で、流域開発計画の
策定に加え、水利用及び流域間分水のための規則の策定、実施、及び水量・水質基準のガイドラ
イン作成、監視を求めている。
4.海洋環境(17)
ESCAP 報告書によれば、海洋資源の乱獲や海洋汚染、生息地の劣化や気候変動の影響によっ
て、アジア太平洋地域の海洋環境への圧力は増しており、計画性のない商業活動や沿岸地域の人
口増加によってその圧力は増大の一途である。
海洋汚染に関しては、44%が陸上起源の汚染、33%が大気降下物による汚染、残りが富栄養化
沈殿物や肥料、廃棄物や重金属、合成化学薬品などによる汚染となっている。このような海洋汚
染によって、オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、フィリピン、韓国の近海では、
赤潮などの問題が起こるようになってきた。
−36−
5.黄砂
北東アジアでは、2000 年以降深刻な問題として黄砂の悪化が強く懸念されるようになってきた。
黄砂は、中国大陸内部にあるタクラマカン砂漠やその東の河西回廊、黄土高原付近の砂漠などに
降り積もった微細な砂が黄砂の正体とされ、春先、強風により上空に巻き上げられ、偏西風によ
り数千 km 離れた地域にまで運ばれている。
中国では、黄砂は台風並みの砂嵐となって街を襲うこともあり、交通機関や農作物などに深刻
な被害をもたらしている。2000 年には黄砂による視界不良で北京空港が 1 週間にわたって閉鎖
される事態も起きている。日本、韓国でも黄砂の発生回数は年々増加しており、その強度も増し
てきているようである。
近年、黄砂現象の頻度や規模が増してきた背景には、大陸内陸部における砂漠化が進行したこ
と、温暖化に伴って気圧配置が北へ押し上げられたために強風帯が黄砂発生域にかかる時期と黄
砂発生域が乾燥する時期とが重なったことなど様々な要因が挙げられている。
第 4 回日中韓三ヵ国環境大臣会合(2002 年 4 月:ソウル)において、黄砂問題について活発
な議論がなされ、今後モニタリング能力を強化していくことで意見が一致したことを踏まえ、地
球環境ファシリティー(GEF)とアジア開発銀行の拠出により、黄砂モニタリングや対策のため
の国際的枠組みやマスタープラン作りを目的とする地域協力プロジェクトが 2003 年から開始さ
れた。このプロジェクトには日本、中国、韓国及びモンゴルの 4 ヶ国並びに UNEP、国連砂漠化
対処条約事務局及びアジア開発銀行の 4 つの国際機関が参加している。
−37−
引用文献・資料等
(1) 米アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
(2) 中国環境年鑑(各年版)
(3) 藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-'03(佐藤太英監修)
、エネルギーフォーラム、pp.248-262, 2002
(4) Streets et. : Water, Air, and Pollution 130: 191, 2001
(5) 「環境統計集
平成 14/15 年版」(http://www.env.go.jp/doc/toukei/index.html)
(6) 「Environmental Performance Reviews JAPAN」(OECD, 2002)
(7) 韓国環境部「韓国環境統計年鑑 2002」、韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
(8) 杉山大志「東アジア諸国の SOx 排出動態に関する考察」電力中央研究所報告 Y97005
(9) 米国環境保護局「2002 STATUS AND TRENDS」p.12 (http:www.epa.gov/airtrends/2002_airtrends_final.pdf)
(10) 環境省ホームページ(http://www.env.go.jp)
(11) 中国環境状況公報(http://www.zhb.gov.cn)
(12) 韓国環境部「環境統計年鑑」
(13) 市川陽一(1998):酸性物質の長距離輸送、大気環境学会誌、Vol.33、№2、1998 年 p.A17 より作成
(14) 市川陽一「環境影響評価のための物質輸送・大気拡散予測手法の開発」大気環境学会誌、Vol.38、№3、2003
年
(15) 村野健太郎ほか「東アジア地域の大気汚染物質発生・沈着マトリックス作成と国際共同観測に関する研究」
平成 11 年度∼平成 13 年度環境省地球環境研究総合推進費
(16) 畠山史郎「酸性雨
誰が森林を傷めているのか?」日本評論社、2003 年
(17) (財)地球環境戦略研究機関「平成 14 年度 バルト海沿岸地域の環境政策の東アジアへの適用に関する調査
報告書」2003 年 3 月
(18) 笠井利之「メコン川流域の開発と環境を考える」立命館国際研究 15-3、March 2003
(19) 小柳秀明「中国の環境状況の概要と今後」環境管理 Vol.39、№1(2003)
(20) (財)電力中央研究所「酸性雨の総合評価」電中研レビュー№43、2001.2
(21) 韓国訪問調査報告書
−38−
第3章
東アジア各国の環境問題の現状
及び環境規制状況
-39-
【要旨】
本章では、東アジアの各国レベルの環境問題について記述する。
中国では、1 次エネルギーの 67%を石炭に依存しており、大量の石炭燃焼に伴う大気
汚染が深刻である。最近改善されてきてはいるものの、それでも主要都市のSO2濃度は
日本の大気汚染がひどかった 1970 年以前のレベルの高濃度、粒子状物質の年平均濃度
は 63%の都市が 2 級基準(一般住居基準)を超過し、南部では酸性雨による汚染が激し
く、森林・農作物・健康被害が発生しており、経済的損失も大きい。その他、河川・湖
沼・沿岸海域の水質汚濁、廃棄物などの問題も発生している。中国政府は、排出課金、
高硫黄炭から低硫黄炭への転換、汚染を引き起こす各種の小規模企業の閉鎖、総量規制、
大中都市の市内と近郊での石炭火力発電所建設禁止、硫黄分 1%以上の石炭を使用する発
電所の 2010 年までの排煙脱硫装置設置義務付け、新設石炭火力発電所の排煙脱硫装置
設置義務付け、セメント・鉄鋼・その他各部門の新技術・省エネ設備の普及促進、など
様々な政策を進めている。中国ではすでに環境関連の法律はかなり整備されており、重
要なのはその施行の徹底にある。行政監督・社会監督能力が低く、結果として規制の実
効性が低い。また、第 10 次 5 ヵ年計画では環境投資総額 7,000 億元のプロジェクトが
計画されているが、必ずしも計画通りには進んでいないようであり、総量規制目標達成
が危ぶまれる。
韓国でも一時期大気汚染が深刻化したが、天然ガスや低硫黄燃料の供給、工場や自動
車に対する規制強化により、改善してきた。現在では、石炭火力発電所のほぼ全てに排
煙脱硫装置の設置が達成されている。
東南アジア諸国では、都市への人口集中と経済活動の活発化によって引き起こされる
水質汚濁、自動車等による大気汚染、廃棄物の増大、上下水道に代表される生活インフ
ラ整備の立ち遅れに伴う衛生問題などがある。
-40-
1.中国
960 万km2の広大な国土と約 13 億人の巨大な人口を抱えたこの国は、国内各地及び国境を越え
て様々な環境問題に直面している。従来型の公害問題(大気汚染、水質汚濁など)のみならず、
新しいタイプの環境問題(ダイオキシン、環境ホルモン等化学物質問題など)、砂漠化問題、地球
温暖化問題などさまざまな課題の同時対応を迫られている。
日本が昭和 30・40 年代に工場からの大気汚染や水質汚濁問題に真剣に取り組み始めたころは、
まだ都市・生活型公害や有害化学物質問題、地球温暖化問題は顕在化してなく、いわゆる公害問
題の解決に専念すればよかった。また、この問題が解決に向かうと次ぎに都市・生活型公害問題
へ、その次に化学物質問題へ、さらには地球温暖化問題等地球環境問題へと一歩一歩駒を進めて
いくことで対処できたが、現在中国が置かれている状況は、これらの問題に加えて砂漠化防止等
の課題があり、これらいずれをとっても困難な課題の同時解決を図っていくことが中国政府に課
せられている。
1.1
環境問題の現状(1)(2)(3)(4)(5)(6)
(1)大気汚染問題
2002 年には全国の 343 都市で大気環境モニタリングが行われている。主要な汚染物質は粒子状
物質、硫黄酸化物(二酸化硫黄)、窒素酸化物(二酸化窒素)となっているが、粒子状物質、二酸
化硫黄と酸性雨による問題が深刻である。
大気汚染による被害状況
● 世界銀行の研究調査結果によると、中国の主要都市部で毎年 17.8 万人に上る大気汚染に
よる死亡者が出ており、環境汚染がもたらす経済損失は、1986 年の 381 億元、GNPの
6.75%から 1997 年の 4,466 億元、6.1%前後になると推定されている(27)。
● 「中国環境年鑑 1998, p155」によると、広西省の酸性雨被害地域における農作物の減少は
5~10%に達した。重慶市では 80 年代以来、酸性雨の影響で林区の 85%のアカマツが程度
の差こそあれ損害を受け、その枯木率は 35%にも達している。また、二酸化硫黄による呼
吸器系の病気により国民の死亡率を上げている。重慶市の汚染の深刻な地域では肺がんの
死亡率が年々上昇し、50/10 万を超え、これは相対的に大気が清浄な区域の 4.7 倍であり、
長沙市の特定の街区における死亡率は 94.36/10 万にも達している。1995 年の経済損失は
約 1,100 億元で、当時の GNP の 2%程度に達している。
(a) 粒子状物質
粒子状物質の年平均濃度は63.2%(217 都市)が 2 級基準(一般居住区基準)を超過し、29.8%
(102 都市)では 3 級基準(特定工業地区基準)を超過している。粒子状物質の高い都市は主に
新彊、青海、甘粛、山西、内蒙古、陝西、寧夏、河北等の省・自治区(中国北西部)に分布して
いる(図 3-1)。
-41-
図 3-1 粒子状物質(TSP)濃度地域分布
(出所)中国環境状況公報 2001(http://www.zhb.gov.cn)
図 3-2 は、中国、日本、韓国の粒子状物質濃度の推移を比較したものである。中国は、全体的
には低下が見られるものの、依然として深刻な汚染状況である。中国のデータは総粒子状物質
(TSP)、日本・韓国のデータは浮遊粒子状物質(PM10)注)であるため、単純な数値の比較はで
きないが、中国の粒子状物質濃度は、日本・韓国と比べると非常に高い。
日本(一般局)
日本(自排局)
中国(太原)
中国(重慶)
0.7
浮遊粒子状物質濃度(mg/m3)
0.6
中国(天津)
中国(貴陽)
中国(宜賓)
中国(長沙)
中国(青島)
中国(北京)
0.5
0.4
中国 3 級基準(0.30)
0.3
中国(石家庄)
中国(南充)
中国(瀋陽)
中国(上海)
韓国(ソウル)
韓国(Busan)
中国 2 級基準(0.20)
0.2
中国 1 級基準(0.08)
0.1
0.0
1975
1980
1985
1990
1995
2000
韓国(Daegu)
韓国(Gwangju)
韓国(Ulsan)
図 3-2 中国、日本、韓国の粒子状物質年平均濃度の推移
(出所)中国:中国環境年鑑各年版
日本:環境省環境管理局「平成 14 年度大気汚染状況について」(http://www.env.go.jp/air/osen/index.html)
韓国:韓国環境省 HP(http://www.me.go.kr)及び韓国統計局 HP(http://www.nso.go.kr)
注)総粒子状物質(TSP):空気中に浮遊している粒径 100μm 未満の顆粒物
浮遊粒子状物質(PM10):空気中に浮遊している粒径 10μm未満の顆粒物
-42-
表 3-1 に、中国全国のばいじん及び粉じん注)の排出量を示す。ばいじん排出量は、1997 年の
1,873 万tをピークに減少しているが、現在でも約 1,000 万t強が排出されている。このうち約 80%
が工業系、約 20%が生活系からの排出である。省別の排出量を見ると、排出量の多い省から順に、
山西(101 万t)、四川(85 万t)、河北(74 万t)、河南(68 万t)、遼寧(64 万t)、山東(62 万t)
等となっている。工業粉じんについても近年減少している。
粒子状物質による大気汚染の主たる原因は、石炭燃焼(工業系及び生活系の両方とも)による
ところが多い。このほか北西部地域では砂漠化した地域からの粒子の細かい黄土・黄砂等の舞い
上がりによる影響も受けている(3)。また、中国は経済発展のスピードが早く、至るところに工事
現場があり、そこからのほこりによる影響も受けている(4)。
表 3-1 中国のばいじん、工業粉じん排出量
年
工業系
生活系
合 計
ばいじん
工業粉じん
(単位:万 t)
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
807
758
1565
1179
953
953
841
804
607
308
276
206
212
218
209
1414
1744
1873
1455
1195
1165
1059
1013
1505
1321
1175
1092
991
941
(出所)中国環境年鑑各年版
2,000
1,800
1,600
排出量(万t)
1,400
1,200
1,000
ばいじん排出量
工業粉じん排出量
800
600
400
200
0
1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001
図 3-3 中国のばいじん及び工業粉じん排出量の推移
(出所)中国環境年鑑各年版
注)
ばいじん:
粉じん :
燃焼等に伴い発生するいわゆるスス
物の破砕や堆積等により飛散する物質
-43-
(b) 二酸化硫黄(SO2)
SO2については、22.4%(77 都市)で 2 級基準(一般居住区基準)を超過し、7.9%(27 都市)
では 3 級基準(特定工業地区基準)を超過している。汚染の深刻な都市は主に山西、河北、貴州
の各省及び重慶市に分布している。このほか甘粛、陝西、四川、湖南、広西および内蒙古の一部
地域にも分布している(図 3-4)。
太原
重慶
天津
貴陽
宜賓
長沙
青島
北京
石家庄
南充
瀋陽
上海
二酸化硫黄(SO2)濃度(mg/Nm3)
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
3 級(0.1)
2 級(0.06)
1 級(0.02)
0.0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
図 3-4
図 3-5 主要都市のSO2年平均濃度の推移
SO2濃度地域分布
(出所)中国環境状況公報 2001(http://www.zhb.gov.cn)
(出所)中国環境年鑑各年版
図 3-6 は、中国のSO2濃度単位mg/Nm3をppmに換算して、日本、韓国のSO2濃度と比較したも
のである。中国は、減少してきてはいるものの、0.01~0.06ppmの範囲にある。これは、日本の
大気汚染がひどかった 1970 年以前のレベルの高濃度であり、依然として深刻な状況である。
日本(一般局)
0.18
日本(自排局)
日本(川崎)
日本(四日市)
0.16
中国(太原)
0.14
中国(重慶)
中国(天津)
中国(貴陽)
SO2濃度(ppm)
0.12
中国(宜賓)
0.10
中国(長沙)
中国(青島)
中国(北京)
0.08
中国(石家庄)
0.06
中国(南充)
0.04
中国(瀋陽)
中国(上海)
韓国(ソウル)
韓国(Busan)
0.02
0.00
1965
韓国(Daegu)
韓国(Gwangju)
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
韓国(Ulsan)
図 3-6 中国、日本、韓国のSO2年平均濃度の推移
(出所)中国:中国環境年鑑各年版
日本:環境省環境管理局「平成 14 年度大気汚染状況について」(http://www.env.go.jp/air/osen/index.html)、
川崎、四日市:大気汚染法令研究会「日本の大気汚染状況(平成 14 年版)」
韓国:韓国環境省 HP(http://www.me.go.kr)及び韓国統計局 HP(http://www.nso.go.kr)
-44-
図 3-7 に、中国全国のSO2の排出量を示す。SO2排出量は、1995 年の 2,370 万tをピークに減少
しているが、2002 年でも 1,927 万tが排出されており、世界最大の排出国である。このうち約 80%
が工業系、約 20%が生活系からの排出である。省別の排出量を見ると、排出量の多い省から順に、
山東(169 万t)、貴州(133 万t)、河北(128 万t)、山西(120 万t)、江蘇(112 万t)、四川(112
万t)等となっている。このうち、貴州省は特に生活由来の排出量が多く(56%:75 万t)、中国全
体の生活系排出量 365 万tの約 21%を占めている。
SO2による大気汚染の主たる原因は、石炭燃焼(工業系及び生活系の両方とも)によるところ
が多い。
二酸化硫黄(SO2)排出量(万t)
2,500
2,370
2,091
全体
工業系
生活系
2,000
1,995 1,948
1,552
1,500
1,371
1,303
1,406
2,346
1,622
1,852
1,795
1,685
1,502
1,324
1,165
1,927
1,858
1,612
1,567
1,593
1,825
1,341 1,405
1,562
1,460
1,397
1,292
1,200
965
1,000
497
503
457
500
484
383 381
494
361
397
365
0
1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001
図 3-7 中国の二酸化硫黄(SO2)排出量の推移
(出所)中国環境年鑑各年版
(c) 窒素酸化物(NOx)
窒素酸化物については、2000 年を境にして、中国環境年鑑での公表値がNOx濃度値からNO2濃
度値へ変更されている。2000 年以前のNOx濃度公表値では北京、上海、広州等で年平均濃度が 3
級基準を超過していたが、2000 年以降のNO2濃度公表値では全ての都市で 3 級基準を満足した。
しかし、2 級基準(一般居住区基準)を満足していない都市はかなりある。なお、広州、北京、
上海等の特大都市における濃度は相対的に見ると比較的高くなっている(図 3-8 参照)。
図 3-9 は、中国のNO2濃度単位mg/Nm3をppmに換算して、日本、韓国のNO2濃度と比較したも
のである。中国のNO2濃度の測定場所が分からないが、日本の一般環境大気測定局の平均値より
高めで、自動車排出ガス測定局の平均値と同レベルであると言える。
NO2による汚染については、平均値で公表している観測データ上はまだ全国的には顕在化して
きていないが、北京、上海等の特大都市では自動車の急速な普及により幹線道路の沿道等地域的
にはすでに問題化している(3)。
なお、窒素酸化物の排出量については、公表値はない(5)。
-45-
0.16
NOx 3 級基準→
(0.10)
NOx 1,2 級基準→
(0.05)
窒素酸化物濃度(mg/Nm3)
0.14
0.12
0.10
0.08
←NO2 3 級基準
(0.08)
0.06
0.04
←NO2 1,2 級基準
(0.04)
0.02
NOx 濃度
太原
重慶
天津
貴陽
宜賓
長沙
青島
北京
石家庄
南充
瀋陽
上海
広州
NO2濃度
0.00
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
図 3-8 中国の主要都市の窒素酸化物年平均濃度の推移
注)2000 年を境にして、中国環境年鑑での公表値がNOx濃度値からNO2濃度値へ変更されている。
(出所)中国環境年鑑各年版
0.06
日本(一般局)
日本(自排局)
中国(太原)
0.05
中国(重慶)
中国(天津)
中国(貴陽)
NO2濃度(ppm)
0.04
中国(宜賓)
中国(長沙)
中国(青島)
0.03
中国(北京)
中国(石家庄)
中国(南充)
中国(瀋陽)
0.02
中国(上海)
中国(広州)
韓国(ソウル)
0.01
0.00
1970
韓国(Busan)
韓国(Daegu)
韓国(Gwangju)
1975
1980
1985
1990
1995
2000
韓国(Ulsan)
図 3-9 中国、日本、韓国のNO2年平均濃度の推移
(出所)中国:中国環境年鑑各年版
日本:環境省環境管理局「平成 14 年度大気汚染状況について」(http://www.env.go.jp/air/osen/index.html)、
韓国:韓国環境省 HP(http://www.me.go.kr)及び韓国統計局 HP(http://www.nso.go.kr)
-46-
(d) 酸性雨
2002 年には全国の 575 都市で降水の pH 値を観測しているが、年平均降水 pH 値が 5.6 未満で
あった都市は 181(32.6%)に及び、また酸性雨が発生した都市は 279(50.3%)と過半数に及ん
でいる。地域的な分布を見ると(図 3-10 参照)、主に長江以南及び青蔵高原以東の広大な地区と
四川盆地に分布している。年平均降水 pH 値が 5.6 未満の都市は主に華東、華南、華中及び西南
地域に分布している。
酸性雨規制区注)に存在する 109 の都市中、年平均降水pH値が 5.6 未満の都市は 79(72.5%)
にも及び、一部の都市ではpH4.5 未満を観測する。また酸性雨が発生した都市は 101 都市(92.7%)
を占めている。
酸性雨は農作物や森林に被害を及ぼしており(図 3-11 参照)、「中国環境年鑑 1998、 p155」に
よると、広西省の酸性雨被害地域における農作物の減少は 5~10%に達した。重慶市では 80 年代
以来、酸性雨の影響で林区の 85%のアカマツが程度の差こそあれ損害を受け、その枯木率は 35%
にも達している。
研究者によると、中国の降水中の硫酸基と硝酸基の規定度の比は約 10:1、酸性雨は硫酸型で
あり、人為的な二酸化硫黄排出が主な原因である(中国環境年鑑 1998, p155)。
中国における酸性雨の主たる原因は石炭燃焼に伴い発生する硫黄酸化物であり、図 3-4 から概
況が分かるように、二酸化硫黄の深刻な地域は主に中北部及び南部の都市に広く分布している。
一方、酸性雨が観測される地域は図 3-10 から分かるように、主として長江以南の地域に限られて
いる。この理由として、中北部は黄土高原や砂漠化地域が広く分布し、ここから揚じんや黄砂が
発生するが、これらの空気中に浮遊する粒子はアルカリ性であり、酸性雨を緩和するものと考え
られている。
図 3-10
2002 年全国降水 pH 値分布 (出所)中国環境状況公報 2002(http://www.zhb.gov.cn)
注)酸性雨規制区:1998 年に新たに導入された規制制度で、酸性雨が多発している主として長江より南の都市及
びその周辺地域が酸性雨規制区として規制されている。この地域では二酸化硫黄の排出等に関して、他の地
域より厳しい規制が課せられている。
-47-
図 3-11 中国の酸性雨被害
(出所)発展途上国における環境問題と化石燃料関連技術、季報 エネルギー総合工学 Vol.24, №3,
(財)エネルギー総合工学研究所(2001 年 10 月)
(e) 主要大気汚染物質の原因である石炭の消費量
中国ではエネルギーの約 7 割を石炭に依存している。経済の高度成長とともに石炭の消費量も
急激に増加しているが、小規模炭坑の閉鎖、高硫黄分炭の生産禁止・生産量制限・使用制限等に
よって 1997 年から一時減少傾向を示した。しかし、2000 年からは再び増加に転じている(図 3-12
参照)。
石炭消費の内訳(2000 年)は、電力 43.9%、鉄鋼・コークス 12.0%、熱供給 5.4%、工業その
他 31.7%、民生 7.0%である(28)。
1次エネルギー消費量(億tce)
16
水力他
天然ガス
石油
石炭
14
12
10
8
6
4
2
0
1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002
図 3-12 中国の 1 次エネルギー消費量の推移
(出所)中国統計年鑑 2003
-48-
(2)水質汚濁問題
(a) 河川
中国の河川は大きく 7 大水系に分類される。2002 年には 7 大水系全体で 741 の重点観測地点
で水質モニタリングが行われた。この観測結果をまとめたのが図 3-13 で、全国の 40.9%で最低水
準であるⅤ類の水質基準すら満足していない汚染状況にある。7 大水系を汚染のひどい順に並べ
ると、海河、遼河、黄河、淮河、松花江、珠江、長江の順になっており、海河では 71.2%、遼河
では 52.2%、黄河では 49.7%、淮河では 44.1%がⅤ類(BOD6mg/l、COD30mg/l)注)よりも劣る
悪化した水質となっている。主要な汚染物質は、油分、生物化学的酸素要求量(BOD)、アンモ
ニア性窒素、過マンガン酸塩、フェノール類、水銀などとなっている。
Ⅰ類
2.7%
劣Ⅴ類
40.9%
図 3-13
Ⅱ類
13.8%
備考)水域分類の概要
Ⅰ類:主に水源水、国家自然保護区
Ⅱ類:主に生活飲用水 1 級保護区、希少魚
Ⅲ類
類保護区、魚・海老産卵場
12.6%
Ⅲ類:主に生活飲用水 2 級保護区、一般魚
類保護区、遊泳区
Ⅳ類:主に一般工業用水区、直接人体に触
Ⅳ類
れない娯楽用水区
Ⅴ類
18.9%
Ⅴ類:主に農業用水区、一般景観確保
11.1%
(出所)中国環境状況公報 2002
(http://www.zhb.gov.cn)
2002 年 7 大水系水質類別比率
(b) 湖沼
中国には数多くの湖沼やダム湖等が存在するが、リン及び窒素による富栄養化が進み、強力な
対策が必要な湖沼としては、太湖、巣湖及びテン池が有名である。これら 3 湖の水質はいずれも
Ⅴ類よりも劣る水質となっている(表 3-2 参照)。
表 3-2 太湖、巣湖及びテン池の汚染状況
湖
湖 区
全リン(mg/l)
0.168
五里湖
0.154
梅梁湖
太湖
0.097
西部沿岸区
0.05
湖心・東部沿岸部
0.079
全湖平均
0.231
西半湖
巣湖
0.116
東半湖
0.174
全湖平均
1.066
草 海
テン池
0.121
外 海
0.594
全湖平均
0.12
(参考)Ⅴ類基準値
(出所)中国環境状況公報 2002(http://www.zhb.gov.cn)
全窒素(mg/l)
7.02
4.73
2.83
1.48
2.42
3.22
1.54
2.38
11.48
1.94
6.71
1.20
注)BOD:水中の有機物をバクテリアが分解するときに要する酸素量のことで、排水に含まれる生物分解性の有
機汚濁物質量の指標となる。数値が小さいほどきれいな水ということになる。
COD:水中の酸化されやすい物質によって消費される酸素量のことで、酸化剤の消費量で表す。BOD 測定に
比べて簡易に測定できる特徴がある。数値が小さいほどきれいな水ということになる。
-49-
(c) 海域の汚染状況及び赤潮の発生状況
図 3-14 は、2001 年の中国沿岸海域における汚染状況の概況を示す。渤海の湾奥部及び東シナ
海沿岸域の汚染が深刻になっている。
全国の海域において発見された赤潮は、2000 年 28 回、2001 年 77 回、2002 年 79 回で、赤潮
の発生回数が年々増えてきており、その発生時期も早めとなり、より長く続くようになってきて
いる。2002 年の赤潮の発生が発見された累計面積は 1 万km2を超えている。海域の中では、東シ
ナ海 51 回、黄海と渤海 17 回、南シナ海 11 回となっている。
図 3-14
2001 年全海域の水質状況
(出所)中国環境状況公報 2001(http://www.zhb.gov.cn)
-50-
(d) 汚染物質の排出状況
排水中の COD 排出量について見てみると、生活系が 57%、工業系が 43%である。近年、工業
系が減少傾向であったものの、生活系からの排出量が増加傾向にあったため、全体の排水量は近
年は横ばいである。
2,000
1,800
1,757
COD排出量(万t)
1,600
1,496
1,400
1,445
1,405
741
797
1,367
1,389
1,200
1,000
1,073
800
600
801
684
400
200
0
1997
695
697
692
705
608
584
合計
工業系
生活系
1998
783
1999
2000
2001
2002
図 3-15 中国の COD 排出量の推移
(出所)中国環境状況公報 1997、2002(http://www.zhb.gov.cn)
(3)廃棄物問題
2002 年の産業廃棄物発生量は 9.5 億 t で、毎年 6%の速度で増えている。そのうち、5 億 t がリ
サイクルされ、リサイクル率は 52.0%であった。一般廃棄物発生量は 1.4 億 t で、毎年 8%の速度
で増えている。そのうち、適切に処理されたのは 7400 万 t で、処理率は 54.3%であった。全国の
工業固体廃棄物の発生量等を表 3-3 に示す。毎年 3 億 t 近く貯蔵されている廃棄物がその後どの
ような行方をたどるのか、今後よく追跡する必要があろう。
表 3-3 工業固体廃棄物発生量及び処理状況
年
1998
1999
2000
2001
2002
発生量
危険廃棄物
合計
80,068
974
78,442
1,015
81,608
830
88,746
952
94,509
1,001
リサイクル量
合計
危険廃棄物
33,387
428
35,756
465
34,751
408
47,290
442
50,061
391
貯蔵量
合計
危険廃棄物
27,546
387
26,295
397
28,921
276
30,183
307
30,040
383
(出所)中国環境年鑑各年版
-51-
処置量
合計
危険廃棄物
10,527
131
10764
132
9,152
179
14,491
229
16,618
242
(単位:万 t)
排出量
合計
危険廃棄物
7,048
45.8
3,880
36.0
3,186
2.6
2,894
2.1
2,635
1.7
1.2
環境規制状況
中国政府の環境対策は、基本的に汚染物質の総量規制と汚染源の排出規制から進められている。
しかし、行政監督・社会監督能力が低く、結果として規制の実効性が低い。中国ではすでに環境
関連の法律はかなり整備されており、重要なのはその施行の徹底にある。
(1)三同時制度(1973 年~)
1973 年「環境の改善と保護に関する諸規定(試行)」により、企業が新築・増築・改築を行う
際、あらゆる本体工事に関して、環境保護設備と本体工事とを必ず同時に設計し、同時に建設し、
同時に稼動させなければならないと規定した制度。
問題点:実施率の低さ
全国の各環境監督管理部門が建設プロジェクトに対する現場監督検査を行った結果を表 3-4 に
示す。現場監督検査回数は年々増え、検査を強化しているのがうかがえるが、「三同時」の実施率
は年々低下し、2002 年は 62%である。
表 3-4 建設プロジェクトの現場監督検査結果による三同時実施状況
現場監督検査回数
プロジェクト操業開始数
汚染防止施設操業開始数
三同時実施率
(出所)
2000 年
2001 年
2002 年
74,369 回
171,240 回
207,189 回
1,4168 件
47,747 件
33,713 件
1,1070 件
34,281 件
21,029 件
78%
72%
62%
中国環境年鑑 2001, 中国環境年鑑 2002, 中国環境年鑑 2003,
p215
pp293-294
pp287-288
(2)排汚費制度(1983 年~)
排汚費(排出課徴金)制度は、1982 年 2 月に発表された「排汚費を徴収する暫行方法」により
始まった。これは、排出される汚染物質の濃度と量に応じて一定の経済的負担を課すもので、汚
染物質の排出削減を促すことを目的とした制度である。排水、排ガス、固体廃棄物、騒音、放射
線廃棄物など 5 分野の汚染物が対象。排汚費は、本来、排出基準を遵守しない汚染源に対して課
せられることで始まったが、排出基準にかかわらず排出量全量に対して排汚費が徴収されるよう
になってきている。
(a) 排水
・ 1990 年代初期までは、排汚費のほとんどは排出基準を超えた部分に課される基準超過排
汚費で、基準を満たした排水に対しては排汚費を徴収しなかった。
・ 1993 年から、排水基準に関わらず排水量全量に対し、徴収し始めた。
(b) SO2
・ 1993 年までは、最大の発生源である石炭燃焼によるSO2については実施していなかった。
・ 1993 年から、酸性雨とSO2汚染の深刻な 2 省(広東省、貴州省)と 9 市(重慶、宜賓、
南寧、桂林、柳州、宜昌、青島、杭州、長沙)に試験的に導入(料率 0.2 元/kg)。
-52-
・ 1998 年から、「両控区」
(酸性雨規制区と二酸化硫黄規制区)に範囲を拡大。
・ 2003 年 7 月から、範囲を全国に拡大し、料率も高くした。
1) 2003 年 7 月~:0.2 元×SO2排出量(kg)/SO2汚染当量値(0.95kg) (≒0.21 元/kg)
2) 2004 年 7 月~:0.4 元×SO2排出量(kg)/SO2汚染当量値(0.95kg) (≒0.42 元/kg)
3) 2005 年 7 月~:0.6 元×SO2排出量(kg)/SO2汚染当量値(0.95kg) (≒0.63 元/kg)
※一部地域は各地方政府が許可した基準をそのまま認める。(例:北京は現状の高硫黄炭
1.2 元/kg、低硫黄炭 0.5 元/kg を適用し、2005 年 7 月からは低硫黄炭は上記 3)を適用
する。)
(c) NOx
・ 2004 年 7 月まで…なし。
・ 2004 年 7 月から…0.6 元×NOx 排出量(kg)/NOx 汚染当量値(0.95kg) (≒0.63 元/kg)
問題点
● 徴収すべきものを徴収していない。
・ 排汚費のカラ徴収による財政収入の「空回り」問題が深刻で、環境保護部門の徴収漏れ、
徴収費用不足と違法徴収、及び汚染物質排出企業の納付拒否、滞納などが多い(中国環
境年鑑 2001, p214)。
・ 2000 年には、電力関係者によるSO2排汚費納入拒否によってSO2排汚費が 10%近く減少
した(中国環境年鑑 2001, p228)。
・ 企業が赤字の場合にしばしば環境規制の実施や排汚費の賦課が免除される(文献(8),
p205)。
● 料率が低すぎる。
・ 汚染処理費用よりも排汚費の方が低いため、企業の汚染処理を促す経済的インセンティ
ブとして働いていない。「三同時」によって環境設備を建設するとしても、環境保護設
備のランニングコストが排汚費より高く、環境保護設備を使用せず、排汚費を支払うこ
とを選択し、汚染処理を避けるという状況をもたらしている(中国環境年鑑 1998, p157)。
・ SO2排汚費は、少なくとも 1.2 元/kgまで引き上げなければならないといわれており(9)、
2005 年 7 月から 0.63 元/kgに引き上げられてもまだ低すぎる。
● ゆがんだインセンティブ構造
・ 排汚費が地方環境保護局の主要な財源となっている場合が多いため、ゆがんだインセン
ティブ構造が生じている。つまり、環境政策における経済的手段として排汚費をみる立
場からすれば、環境損害が排出防止機器設置費を上回る場合には、排汚費のレベルは防
止機器設置費よりも高く設定する必要が少なくともある。しかし、そのように高く設定
すると地方環境保護局は主要な財源を失うため、排汚費のレベルを排出防止機器設置費
以下に据え置くインセンティブをもつことになる。その結果、企業による排出は続くこ
とになる(文献(8), pp204-205)。
-53-
(3)第 9 次 5 ヵ年計画(1996 年~2000 年)時期に始まった規制
中国の総量規制は、第 9 次 5 ヵ年計画(1996 年~2000 年)から開始された。2000 年における
目標値は、シアン化物、ヒ素、重金属などのような危害の大きい有毒物質については、排出量は
1995 年より削減し、ばいじん、工業粉塵、化学的酸素要求量、石油類、工業固体廃棄物について
は、排出量を 1995 年レベルに抑制し、規制の困難さが大きい二酸化硫黄については、酸性雨規
制区と二酸化硫黄規制区での排出量をできるだけ 1995 年レベルに抑制しなければならないとし
て設定された。結果は、総量規制目標を達成している。この時期に始まった主な実施項目は以下
の通りである。
(a) 排出基準の見直し
・ 1996 年に、大気汚染物総合排出基準、汚水総合排出基準、火力発電所大気汚染物排出基
準などの見直しを行っている。
・ 火力発電所大気汚染物排出基準では、両控区内において、SO2の全発電所排出総量と各
煙突排出濃度の 2 重規制になった。また、初めて火力発電所のNOx排出基準が規定され
た(しかし、NOxについては、規制値ではない(排汚費も総量規制もなかった)ため関
心を寄せる対象にならないため、進んで対策は行われなかった)。
(b) 両控区の設定(1998 年)
1998 年に導入された規制制度で、酸性雨汚染が深刻な地域と二酸化硫黄汚染が深刻な都市
を重点に制御するため、「酸性雨規制区」と「二酸化硫黄規制区」(2 つ合わせて「両控区」
と呼ぶ)が設定され(図 3-16 参照)、二酸化硫黄の排出等に関して、他の地域より厳しい規
制が課せられている。両控区の面積は、国土面積の 11.4%に当り、全国の排出量の 60%を占
める。
<両控区内での主な規制>
●SO2排汚費制度を両控区に拡大
●硫黄含有率の高い炭鉱の制限
・ 硫黄含有率 3%を超える炭鉱
の新設禁止。硫黄含有率 3%
を超える既存の炭鉱は徐々
に生産制限あるいは生産停
止。硫黄含有率 1.5%を超え
る炭鉱の新設・改修は、選洗
炭設備設置。
●火力発電所を重点管理
・ 大中 都市の市内 とその近
郊は石炭火力の新設禁止。
・ 硫黄含有量 1%を超える石炭
図 3-16 酸性雨規制区と二酸化硫黄規制区(両控区)
(出所)中国国家環境保護総局 HP(http://www.zhb.gov.cn)
を燃焼する火力発電所の新設・改修時には脱硫装置設置。
・ 既存の硫黄含有量 1%を超える石炭を燃焼する火力発電所は、2000 年までにSO2排出削
減の措置をとり、2010 年までに脱硫装置設置(または相応の措置をとる)。
-54-
(c) 「十五小」企業取締まり(1996 年~)
郷鎮企業の深刻な環境汚染を抑制するため、小規模な製紙工場、製革工場、染料工場、遅
れた技術によるコークス精錬、硫黄精錬、簡易な方法による砒素製造、水銀精錬、亜鉛・鉛
精錬、石油精製、砂金精錬、農薬、漂白・染色、電気メッキ、石綿製品製造、放射性製品製
造、など 15 業種の小規模企業(十五小)の取締り、閉鎖・生産停止を決定し、1996 年 9 月
30 日を期限として生産活動が事実上禁止された。
規制実施状況及び規制違反の実態(8)
表 3-5 は、小規模工業汚染源の淘汰について、1996 年に規制が決定されて以降の進捗
状況を示す。これによると、取締り期限後も取締りが行われなければならないことにも問
題はあるが、時間の経過とともに実施率が向上している。2000 年には実施率は 100%近く
になっている。ただし、よく「全国にまるで星のように散らばっている」と言われるよう
な小規模工業汚染を全て政府が掌握することには困難が伴うことは十分に予想される。実
際には取締まるべき企業数はもっと多い可能性が高い。また、いったん取締りを受けたに
もかかわらず、再びこっそり操業を開始するいわゆる「死灰復燃」(「消えた灰が再び燃
える」の意)があとをたたず、取締り期限の 1 年後の 1997 年 9 月 30 日時点で、全国で
1,090 件あった。再度取締りの対象となった企業が多い業種は順に、精油(276 企業)
、銅・
亜鉛精錬(212)、製紙(186)、皮なめし(169)、電気メッキ(91)であったという(「中
国環境年鑑 1998」p280)。1998 年の国家環境保護総局と監察部による合同検査でも 11
省・市のみでなお 694 件にのぼり(「中国環境年鑑 1999」p221)、それ以降も同様の規制
違反が報告されている。
表 3-5 小規模工業汚染源に対する取締り・閉鎖・生産停止措置の進捗状況
時期
1996 年 5 月~11 月
1997 年 1 月 31 日
1997 年 9 月 31 日
1997 年 12 月 31 日
2000 年 12 月 31 日
実施企業
56,866
60,725
65,244
65,791
74,774
完成率(%)
-
85
87
88
98
(出所)寺尾忠能・大塚健司編、「開発と環境」の政策過程とダイナミズム、アジア経済研究所、研究双
書№527、2002 年、p152 より(「中国環境年鑑 1997」p133, pp169-170、「中国環境年鑑 1998」
p280、「中国環境年鑑 2001」p201, p205)
-55-
(d) 「五小」整理整頓
国家経済の構造調整と結びつけ、技術が遅れ、資源を浪費し、大気環境を汚染する、小規
模炭鉱・小規模セメント・小規模ガラス・小規模火力発電・小規模製鉄、など 5 業種の小規
模企業(五小)の淘汰・閉鎖を決定した。
小規模火力発電所の閉鎖状況(10)
対象となる「小規模火力」とは、出力 50MW 以下の復水式蒸気タービンユニットで、
1998 年に約 30GW あった。2001 年末までに閉鎖された「小規模火力」ユニットは 12.26GW
に達し、目標の 30GW の 40.9%を達成した。このうち、国家電力公司が閉鎖したユニッ
トは 9.19GW で目標 14GW の 65.5%を達成している。一方、地方が閉鎖したユニットは
3.07GW で目標 16GW の 19.2%である。また、一部のユニットは改造して、熱電併給(コ
ジェネ)ユニットや複合発電(コンバインドサイクル)ユニットにしている。
<問題点>
●地方の閉鎖の進展が緩慢である。
●依然として地方では大量に「小規模火力」が新設されている。
・地方ではいまだ「小規模火力」の新設(または改造)が積極的に行われ、「小規模火
力」の比重は高いままである。大部分は熱電併給や複合発電の名義で新設(または改
造)されたもので、政策に合致しているが、実際には偽熱電併給や偽複合発電の復水
式蒸気タービンユニットであったりする。
・1998~2000 年の 50MW 以下ユニットのデータを見ると、1999 年は 2.32GW、
2000 年は 5.16GW 増加している。
・ある省の例では、1998~2001 年の間に新設された 50MW 以下のユニットは、合計
554.5MW、34 基であった(1999~2001 年の間に同省で閉鎖された「小規模火力」
は 626.1MW)。
(e) 高硫黄分炭の生産禁止・生産量制限・使用制限
(4)第 10 次 5 ヵ年計画(2001 年~2005 年)
第 10 次 5 ヵ年計画は 2001 年 12 月に国務院の承認を受けて公表され、主な目標として、
① 主な汚染物質(SO2、粒子状物質、COD、アンモニア、工業用固体廃棄物等)の排出量を
2005 年に 2000 年に比べ 10%減少させる。
② 酸性雨規制区と二酸化硫黄規制区ではSO2排出量を 2000 年に比べて 20%削減する。
③ 水質汚濁については、国が規制する水域ではⅤ類以下の箇所をなくす。
などを掲げた。
大気汚染物質、水汚濁物質及び産業固体廃棄物の詳細な削減目標は、表 3-6 に示す通りである。
また、産業環境対策分野では、産業廃棄物再利用率 50%以上、都市環境対策分野では、都市ゴミ
無害化処理能力 15 万トン/日の新設、農村環境対策分野では、大規模家畜・家禽養殖場の汚水排
出基準の基準達成率 60%以上、等の目標も掲げられている。これらの汚染物質の排出規制は、地
-56-
域別、業種別に分類され対策を講じられている。
重点産業汚染防止としては、石炭に含まれる硫黄分削減、「両控区」の大中都市市街地と近郊の
石炭火力発電所の新設禁止、新設石炭火力発電所への脱硫装置設置・低 NOx 燃焼方式採用・排煙
汚染物質のオンライン継続監視装置設置の義務付け、小規模火力発電所・老朽火力発電所の閉鎖、
小型コークス炉・小型製鉄所などの小規模企業を閉鎖、汚染がひどく時代に遅れた技術の淘汰、
クリーナプロダクションの推進などである。
表 3-6 第 10 次 5 ヵ年計画期間における汚染物質総量規制計画指標
2000 年実績
1,995.00
指標
SO2 排出
2005 年目標
1,796.00
1,613.50
382.50
1,316.40
1,165.00
953.30
211.70
1092.00
1,445.00
704.54
740.46
183.50
77.84
105.66
3,186.09
産業
生活
両控区
ばいじん排出
産業
生活
工業粉塵
COD 排出
産業
生活
アンモニア
産業
生活
産業固体廃棄物
(単位:万トン)
削減率(%)
-10.0
1,450.00
346.00
1,053.20
1060.30
850.00
210.30
898.71
1,300.00
646.78
653.22
165.00
70.89
94.11
2,860.00
-10.1
-9.5
-20.0
-9.0
-10.8
-0.7
-17.7
-10.0
-8.2
-11.8
-10.1
-8.9
-10.9
-10.2
(出所)中国国家環境保護総局ホームページ(http://www.zhb.gov.cn)
第 10 次 5 ヵ年計画(2001~2005 年)での環境投資総額は 7,000 億元とされており、GDP 比
では 1.3%になる(表 3-7 参照)。
また、「両控区」でのSO2削減プロジェクトの概要を表 3-8 に示す。
環境投資額はあくまで政府の計画であり、現実の投資額は経済成長率や環境政策の有効性等に
左右される。第 9 次 5 ヵ年期間中、実質投資額は 3,600 億元で計画額 4,500 億元の 80%しかでき
なかった。したがって、第 10 次 5 ヵ年計画の投資資金調達が、全額実現できるとは言えない(27)。
実際、中国国家環境保護総局でのヒアリングでは、計画通りには進んでいないとのことであった。
表 3-7 第 10 次 5 ヵ年計画(2001~2005 年)環境投資
大気汚染防止
水汚染防止
廃棄物汚染防止
生態環境保護
環境基礎整備
合計
環境投資額
(億元)
(兆円)
2,800
4.20
2,700
4.05
900
1.35
500
0.75
100
0.15
7,000
10.5
対 GDP 比
(%)
0.52
0.50
0.17
0.09
0.02
1.3
(出所)李志東「中国におけるエネルギー起源の環境問題と対策に関する中長期展望」より
-57-
表 3-8 第 10 次 5 ヵ年計画「両控区」SO2削減プロジェクトの概要
重点プロジェクト合計
・新規石炭火力の脱硫
・既存石炭火力の脱硫
・ボイラ脱硫
・工業釜脱硫
・ボイラ、釜の燃料転換
・都市部のガス供給
・生産工程の改造
・その他
上記以外の合計
「両控区」合計
プロジェクト件数(件) SO2削減能力(万t)
279
303.7
18
49.7
137
162.1
26
10.1
21
13.8
8
4.8
40
24.9
21
27.7
8
10.6
271
83.3
550
387
投資額(億元)
409.6
80.3
214.4
15.1
13.6
3.8
57.5
22.1
2.8
557.4
967
(出所)李志東「中国におけるエネルギー起源の環境問題と対策に関する中長期展望」より
2002 年における 2005 年の総量規制目標の達成状況
現在、第 10 次 5 ヵ年計画が開始されてから 3 年近く経つが、表 3-9 が示すように、2002
年末までの実績を見ると、ばいじん・粉塵排出等の一般的な技術で対応できる分野あるい
は産業排水や産業固体廃棄物等では、2005 年の目標をすでにクリアしているか達成の見
込みがある。しかし、技術レベルの高い脱硫分野や、対策資金の手当が難しい都市下水・
都市ゴミ処理の分野は達成することが難しいと思われる(27)。
表 3-9
2002 年における 2005 年の総量規制目標の達成状況
SO2 排出
2000 年
1,995.00
うち産業排出
(例)広東省 全省
広東省 両控区
ばいじん排出
産業粉塵排出
COD 排出
産業
生活
産業固体廃棄物排出
1,612.25
90.47
81.83
1,165.00
1,092.00
1,445.00
704.54
740.46
3,186.09
指標
2002 年実績
1,926.6
1,562.0
97.4
1,012.7
941.0
1,366.9
584.0
782.9
2,635.2
(単位:万トン)
2005 年目標
1,796.00
1,450.00
80.00
65.50
1,060.30
850.00
1,300.00
646.78
653.22
2,860.00
(出所)中国国家環境保護総局ホームページ(http://www.zhb.gov.cn)、中国環境年鑑 2003
−58−
(5)規制の実施、規則違反状況
(a) 排出基準遵守状況
表 3-10 に、全国の各環境監督管理部門が実施した現場検査及び汚染防止設備の排出基準遵
守状況を示す。2002 年は、汚染源に対して 211 万 5169 回の監督検査を行い、前年に比べ 21
万 8801 回の増加である。そのうち、27 万 3269 台(セット)の汚染防止設備に対する検査
が 115 万 4991 回行われた。そのうち、正常に稼動していた設備は 25 万 0843 台(セット)
で、運転率は 92%であった。正常に稼動していた設備の中で排出基準を達成していた排出基
準達成率は 87%であった。
つまり、80%(=92%×87%)しか排出基準を守っていない。
表 3-10 汚染防止施設の排出基準遵守状況
年
2001
2002
現場監督検査
延べ回数
1,896,368 回
2,115,169 回
そのうち汚染防止設備に対する検査
延べ回数
設備数
1,067,899 回
171,763 台(セット)
1,154,991 回
273,269 台(セット)
設備の運転率
90%
92%
運転設備設中の排出基
準達成率
81%
87%
(出所)「中国環境年鑑 2002」pp293-294、「中国環境年鑑 2003」pp287-288
(b) 猶予期限付き管理プロジェクトの期限遵守状況
表 3-11 に、猶予期限付き管理プロジェクトの期限遵守状況を示す。猶予期限を与えられて
期限内に遵守しているのは 80%で、20%は猶予期限を守っていない。
表 3-11 猶予期限付き管理プロジェクトの期限遵守状況
猶予期限付き管理プロジェクト検査
年
2000
2001
2002
延べ回数
322,840 回
271,279 回
168,584 回
完成しているべき
プロジェクト数
だったプロジェクト数
141,434 件
107,690 件
91,856 件
74,861 件
22,804 件
18,807 件
期限内完成率
期限遅れ完成率
未完成率
74.7%
79.8%
81.2%
6.5%
6.7%
7.8%
18.8%
13.5%
11.0%
(出所)「中国環境年鑑 2001」p215、「中国環境年鑑 2002」pp293-294、「中国環境年鑑 2003」pp287-288
(c) 汚染物質排出許可証
「中国環境年鑑 2003, p288」によると、2002 年は、汚染物質排出許可証について、現場
検査を 20 万 8386 回行った。その中で 8 万 8014 の汚染物質排出機関が許可証を支給されて
おり、このうち許可証と符合する汚染物質排出機関の数は 8 万 1765、許可証の制限を超える
汚染物質排出機関は 1 万 2243 で 15%であった。
中国ではすでに環境関連の法律はかなり整備されており、重要なのはその施行の徹底にあ
る。行政監督・社会監督能力が低く、結果として規制の実効性が低い。また、企業の環境に
対する意識も低い。総量規制にしても、排汚費徴収にしても、企業などの排出レベルを正確
に把握する必要があるが、モニタリング能力が十分ではないため、正確な把握が困難である。
-59-
2.韓国
2.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題
韓国でも一時期大気汚染が深刻化したが、1980 年代初頭より天然ガスや低硫黄燃料を供給し、
同時に工場や自動車の排ガスに対する規制を強化して、大気の質の改善を図ってきた。現在では、
石炭火力発電所のほぼ全てに排煙脱硫装置が設置されている(26)。しかし、二酸化窒素(NO2)と
オゾンの濃度はしだいに増加しており、自動車からの排気が大気汚染の主要な原因になっている
ことを示している。
(a) 二酸化硫黄(SO2)
低硫黄石油やLNGの使用拡大により、SO2濃度は減少してきており、全国で環境基準(年
平均値 0.02ppm)を満足している(図 3-17 参照)。
部門別の排出量を見ると、産業分野が大きな割合を占め、次に運輸分野が続いている(表
3-12 参照)。
0.10
二酸化硫黄(SO2)濃度(ppm)
0.09
Seoul
Busan
Daegu
Gwangju
Ulsan
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
←環境基準
(0.02)
0.01
0.00
1980
1985
1990
1995
2000
図 3-17 韓国の主要都市の二酸化硫黄(SO2)年平均濃度の推移
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)、韓国統計局ホームページ(http://www.nso.go.kr)
表 3-12 韓国の部門別SO2排出量(1999 年)
SO2排出量(t/年)
運輸
336,159
(35.3%)
産業
447,273
(47.0%)
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
-60-
発電
114,992
(12.1%)
民生
52,759
(5.6%)
(b) 窒素酸化物(NOx)
環境基準(年平均 0.05ppm)は満たしているが、二酸化窒素(NO2)濃度はしだいに増加
している(図 3-18 参照)。
部門別の排出量を見ると、運輸分野が約半分を占め、次に産業分野が続いている(表 3-13
参照)。
0.040
二酸化窒素(NO2)濃度(ppm)
0.035
0.030
0.025
0.020
0.015
Seoul
Busan
Daegu
Gwangju
Ulsan
0.010
0.005
0.000
1985
1990
1995
2000
図 3-18 韓国の主要都市の二酸化硫黄(SO2)年平均濃度の推移
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)、韓国統計局ホームページ(http://www.nso.go.kr)
表 3-13 韓国の部門別 NO2 排出量(1999 年)
NOx 排出量(t/年)
運輸
557,220
(49.1%)
産業
354,793
(31.2%)
発電
108,696
(9.6%)
民生
114,794
(10.1%)
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
(c) 浮遊粒子状物質(TSP、PM10)
浮遊粒子状物質濃度は、特に春、黄砂の越境移動により 2~4 倍高くなる。次に暖房用に大
量の燃料が燃焼される冬に高くなる。主要都市のTSP濃度は着実に減少してきたが、自動車
台数の増加により、1995 年からは顕著な改善は見られない。
2002 年のPM10の年平均濃度は、
ソウル(0.076mg/Nm3)とDaegu(0.071mg/Nm3)で環境基準(0.070 mg/Nm3)を超過し
ている(図 3-19 参照)。
部門別の排出量を見ると、発電が大きな割合を占め、次に産業が続いている(表 3-14 参照)。
-61-
浮遊粒子状物質(PM10)濃度(mg/Nm3)
0.10
0.09
0.08
0.07
←環境基準
(0.07)
0.06
0.05
0.04
Seoul
Busan
Daegu
Gwangju
Ulsan
0.03
0.02
0.01
0.00
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 3-19 韓国の主要都市の浮遊粒子状物質(PM10)年平均濃度の推移
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)、韓国統計局ホームページ(http://www.nso.go.kr)
表 3-14 韓国の分野別 TSP 排出量(1999 年)
TSP 排出量(t/年)
運輸
86,644
(19.7%)
産業
149,130
(33.9%)
発電
197,914
(45.0%)
民生
6,127
(1.4%)
(出所)韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
(2)水質汚濁問題
韓国の首都であるソウル特別市は、1950 年代に入って急速な発展を遂げたことから、これまで
様々な都市環境問題に直面してきた、水質汚濁もその一つで、同市を流れる漢江の水質は徐々に
悪化しはじめ、1980 年代後半には、BOD が水質基準のⅤ等級(10mg/L 以下)さえ満足できな
い状況となっていた。その後、1990 年に水質環境保全法が制定され、排水基準や各種の規制が強
化されるようになると水質は徐々に向上し、Ⅲ等級の水質レベルにまで改善されてきている。他
の河川については、1985 年以降、栄山江はⅡ等級、洛東江、錦江はおおむねⅢ等級の水質を維持
している。
12.0
10.0
濃度(mg/L)
漢江(加陽)
Ⅴ等級
8.0
Ⅳ等級
6.0
洛東江(亀浦)
Ⅲ等級
4.0
錦江(扶余)
2.0
Ⅱ等級
栄山江(努安)
Ⅰ等級
0.0
1985
1987
1989
1991
1993
1995
1997
1999
2001
図 3-20 韓国四大河川の水質状況(下流域)(BOD)
(出所)(財)環日本海環境協力センター「環日本海環境白書 2003」
-62-
2.2
環境規制状況
(1)大気汚染対策
1990 年に制定された大気環境保全法により大気環境の監視体制が強化されるようになった。環
境基準を超える地域での固体燃料の使用制限、特定地域または環境基準を超える地域でのガス燃
料使用の強制、また、大気汚染物質への課徴金システムが導入されている。移動発生源対策とし
て、自動車排ガス基準は、2002 年にはヨーロッパの EUROⅢレベルに強化され、また、2006 年
までにはヨーロッパの EUROⅣに強化される予定である。固定発生源対策としては、2005 年か
ら排出基準の強化が実施される(表 3-15 参照)。
表 3-15 韓国の大気排出許容基準(抜粋)
汚染物質
硫黄酸化物
(SO2として)
窒素酸化物
(NO2として)
適用期間及び排出許容基準
2004 年 12 月 31 日まで
2005 年 1 月 1 日以降
排出施設
イ.発電施設
(2)新規施設
(ア)液体燃料使用施設
(イ)固体燃料使用施設
ク.焼却施設または焼却ボイラ
(1)焼却容量 2 トン/時間以上の施設
(2)焼却容量 200kg/時間以上 2 トン/時間未満の施設
(3)焼却容量 2kg/時間未満の施設
ケ.セメント製造施設のうち焼成施設
イ.発電施設
(1)液体燃料使用施設
(ア)発電用内燃機関
1)ガスタービン
ア)既存施設
イ)新規施設
2)ディーゼル機関
ア)既存施設
イ)新規施設
(2)固体燃料使用施設
(ア)既存施設
1)1989 年 12 月 31 日以前に設置された施設
2)1990 年 1 月 1 日以降設置された施設
(イ)新規施設
120ppm 以下
120ppm 以下
300ppm 以下
500ppm 以下
70ppm 以下
80ppm 以下
30ppm 以下
70ppm 以下
100ppm 以下
250ppm 以下
950ppm 以下
250ppm 以下
70ppm 以下
600ppm 以下
300ppm 以下
350ppm 以下
350ppm 以下
150ppm 以下
80ppm 以下
(出所)韓国環境統計年鑑 2002
(2)水汚染対策
1990 年に水質環境保全法が制定され、排水基準や各種の規制が強化された。また、排水へは課
徴金システムが導入されている。
-63-
3.インドネシア(16)(17)
水質汚濁をはじめとする各種の環境汚染のほか、急速な熱帯林減少に代表される自然環境の破
壊、そして飲料生活用水の汚染等による環境衛生問題など、多くの環境問題が山積している。特
にこのうち、ジャカルタ首都圏をはじめとする都市への人口集中と経済活動の活発化によって引
き起こされる水質汚濁や自動車等による大気汚染、廃棄物の増大、上下水道に代表される生活イ
ンフラ整備の立ち遅れに伴う衛生問題などの解決は急務の課題となっている。
3.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題
他の開発途上国と同様、インドネシアの大気汚染は人口の集中が続く大都市部を中心に顕在化
している。しかし産業活動による大気汚染については、局地的なものを除いてこれまで大きな問
題にはなっていない。
一方、多くの人口を抱え急激に自動車が増えているジャカルタ首都圏やスラバヤ等の大都市部
では、自動車の排気ガスが原因とみられる大気汚染が年々深刻化しており、すでに二酸化窒素
(NO2)と粉塵については大気環境基準を超える値が観測されている。
大気汚染については、環境基準、工場と自動車からの排出基準は決められているものの、現状
ではジャカルタなど一部地域を除いては大気汚染物質のモニタリングはほとんど実施されておら
ず、全国的な大気汚染の実態は把握されていない。また環境行政の優先度も現状では水質汚濁に
比べて低い。
(2)水質汚濁問題
日系企業をはじめとする大規模な工場の場合は排水処理設備を持ち、処理設備の適切な運転管
理も行われているが、現地資本の中小規模工場の場合はほとんどが排水規制はあっても排水処理
設備を設置しておらず、一般的に工場排水はそのまま河川に放流されているのが現実となってい
る。このため有機物はもちろん重金属などによる河川の汚染が著しいものとなっているほか、河
川が流れ込む海域の水質汚濁にも拍車をかけている。すでにジャカルタ湾などの海域では、産業
排水が原因とみられる水銀も検出されている。
一方、下水道がほとんど整備されていないことから、し尿を含む生活排水は地下浸透されるか
そのまま河川に流されているため、河川や地下水の汚濁も深刻化している。特に人口が急増して
いるジャカルタ首都圏などの都市部では水道設備が劣悪であることから、通常生活用水として井
戸水が使われているが、地下浸透後浄化されないままの汚水が汲み上げられる場合もあり、もう
一つの生活用水源である河川水の汚濁とあいまって、水質汚濁の進行が衛生面からも大きな課題
となっている。
そのほか、農地に散布される多量の農薬による水質汚濁も無視できない問題といえる。
(3)廃棄物問題
日本では廃棄物はその発生源に応じて一般廃棄物と産業廃棄物に分けられているが、インドネ
シアでは廃棄物は、「有害廃棄物」とそれ以外の廃棄物に分けられている。
-64-
有害廃棄物については法律で、水中、土壌、大気中への直接廃棄が禁止され、実質上工場から
排出される有害廃棄物は公認の有害廃棄物処理業者の手に委ねなければならないことになってい
るが、処理能力なある業者が現在国内に1社しかなく、日系企業ではこの業者に委託するか敷地
内で保管している。ちなみに、有害廃棄物の年間排出量は、10 年間でほぼ倍増し 2000 年には 100
万トンに達すると見込まれている。
また、有害廃棄物以外の廃棄物については、工場から排出されるものは回収業者の手に渡り、
有価物が分別回収された後、埋め立てられるか焼却されている。工場から排出される産業系の廃
棄物については、金属や木材など換金可能なものを多く含むことから回収業者の人気も高いよう
である。しかし、埋立地は野積みが一般的で覆土もされておらず、降雨時などに廃棄物が周囲に
流れ出ている場合がある。一方、一般家庭からの生活系廃棄物に関しては有価物も少ないことか
ら、河川や空き地などにそのまま投棄されることが多く、間接的に河川等の水質汚濁の原因とも
なっている。
3.2
環境規制状況
インドネシアでは環境法令が大変良く整備されている。環境施策全体の基本法である環境管理
法から水質汚濁、大気汚染、廃棄物、環境アセスメントなどに関わる各種の法令、騒音、振動、
悪臭に関する基準まで、先進諸国レベルの環境法体系が整えられている。しかし、そのほとんど
は欧米先進国の法律や基準等をそのまま取り入れたもので、例えばそれらの法令等を担保するた
めの大前提である環境監視モニタリング体制も整備されていない状況では、法律はあっても環境
規制の実行段階ではそれらがうまく機能していないのが現状である。
水質汚濁に関しては、21 の特定業種に対して各々排水基準値を設定しているほか、その他一般
の工場排水を対象にした一律基準値を定めている。開発途上国の排水基準値は、欧米における最
も厳しい基準値を抽出して用いていることが多く、インドネシアにおいても、基準値は大変厳し
く、特に重金属類については、日本の排水基準を上回っていることが多い(本章 第 8 節 各国の
規制値比較 を参照)。違反者への制裁については、1997 年制定の新環境管理法などで罰則を伴っ
た法令整備が進んでいるが、実際の運用では問題が多い。インドネシアでは環境計量の認定機関
の制度がなく、法令違反者を発見しても分析値の正当性を立証することが困難であり、違反者へ
の警告書送付や新聞への実名公表などの圧力を加えるにとどまっている。
大気汚染については環境大臣令で、二酸化硫黄、窒素酸化物、鉛などの 9 物質を対象とした環
境基準、4 の特定業種とその他業種の 5 分野の固定発生源の排出基準、自動車排ガス基準などが
定められている。また、環境管理庁が大気汚染物質の削減を目的としたブルー・スカイ・プログ
ラムに取り組んでいるが、各地への大気汚染連続自動測定器設置など遅れ気味である。
-65-
4.マレーシア(18)
4.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題
マレーシアの大気汚染は、都市部を中心とした自動車やオートバイなどの排気ガスによるもの、
気候条件や隣国インドネシアの森林火災が原因とされるヘイズ、産業活動などによる汚染の 3 つ
に大別される。このうち最も大きな問題となっているのは自動車などの移動発生源の排気ガスに
よる大気汚染であり、移動発生源からの大気汚染物質発生量は、マレーシア全体から発生する大
気汚染物質の 81%を占めるとされており、現状では環境基準を下回っているものの、今後も続く
自動車数の増加によって、ますます重要な課題となっていくものとみられる。一方、産業活動に
よる大気汚染はマレーシアではまだ少なく、産業分野の大気汚染寄与率は国内全体の 7~8%に過
ぎず、砕石場やゴム産業といった特定の産業以外では大きな原因となっていない。また、年によ
りヘイズが問題となり、1997 年にはヘイズによりPM10が環境基準を超えた。
マレーシアでは、大気質の状況は、PM10、CO、SO2、NO2、O3の 5 つの測定結果から算出さ
れるAPI(Air Pollutant Index)と呼ばれる指標で報告され、5 つのランク(良好…API0~50、
普通…API51~100、不健康…API101~200、非常に不健康…API201~300、危険…API301~500)
で評価される。表 3-16 は 2000 年における主要都市のAPIを月ごとにしめしたものであるが、良
好から普通レベルにあり、特に問題とはなっていない。
表 3-16
Kuala Lumpur
Johor Bahru
Ipoh
Sungai Petani
Melaka
Seberang Prai
Nilai
Kemaman
Kuantan
Kota Bahru
Kuching
Miri
Kota Kinabaru
1月
50
35
44
47
48
26
40
21
37
33
42
46
2月
52
38
47
51
53
50
39
25
43
28
32
39
2000 年におけるマレーシアの API
3月
55
38
43
52
48
55
33
24
38
35
36
43
4月
54
40
38
42
52
44
55
35
23
35
40
32
35
5月
60
35
42
46
57
51
62
44
32
38
43
35
42
6月
57
48
39
51
51
53
52
38
27
38
42
20
35
7月
64
50
56
64
57
73
59
49
32
54
50
20
44
8月
59
54
41
46
52
53
53
45
29
38
50
33
46
9月
63
57
46
48
55
61
58
45
31
39
44
38
39
10 月
53
50
34
41
49
48
51
36
26
36
44
34
36
11 月
59
47
35
44
54
54
53
35
23
29
41
37
35
12 月
56
49
32
42
50
50
50
35
25
33
36
33
35
(出所)Department of Statistics: Compendium of Environmental Statistics, Malaysia 2001
(2)水質汚濁問題
マレーシアでは、河川の水質の評価は、pH、DO注)、BOD、COD、アンモニア性窒素、SS注)
の 6 つの測定結果から算出されるWQI(Water Quality Index)と呼ばれる水質指標に基づいて
行われ、3 つのランク(汚染、少々汚染、清浄)で発表される。全般的傾向としては「清浄」な
河川数が減少している(表 3-17 参照)。
注)DO(溶存酸素):水中に溶解している酸素のことで、Dissolved Oxygen の略。
SS(浮遊物質量)
:Suspended Solids の略。水中に浮遊又は懸濁している直径 2mm 以下の粒子状物質。
-66-
マレーシアでは、製造業、アグロインダストリー(パーム原油と原料天然ゴム)、畜産(養豚)、
下水の 4 つが重大な水の汚染源として知られている。1998 年のデータによれば、これら 4 つの活
動、施設による合計 13,398 の汚染物質排出源が存在した。このうち下水が 5,665(42.3%)を占
め最多、次いで製造業(5,029、37.5%)、養豚(2,235、16.7%)、アグロインダストリー(469、
3.5%)の順である。
表 3-17 河川の水質のモニタリング結果
年
河川の水質
汚染
少々汚染
清浄
合計
1995
数
%
14
12.2
53
46.1
48
41.7
115
100
1996
数
%
13
11.2
61
52.6
42
36.2
116
100
1997
数
%
25
21.4
68
58.1
24
20.5
117
100
1998
数
%
16
13.3
71
59.2
33
27.5
120
100
1999
数
%
13
10.8
72
60.0
35
29.2
120
100
2000
数
%
12
10.0
74
61.7
34
28.3
120
100
(出所)Department of Statistics: Compendium of Environmental Statistics, Malaysia 2001
(3)廃棄物問題(17)(19)
産業活動の活発化に伴って指定産業廃棄物の発生量は年々増加しており、産業別発生量では化
学、繊維、金属工業などが多く、発生廃棄物の種類は、各種の汚泥と酸性廃棄物が半数以上を占
めている。指定産業廃棄物は政府が許可した特定施設で処理する必要があるが、国内に 1 ヶ所し
かなく、またその処分費用が日本国内に比較しても割高なこともあって、現状では違法投棄が絶
えない。指定産業廃棄物問題はマレーシアの環境行政では優先度が高く、違法投棄に対する取締
りもかなり厳しく実施されており、違法投棄に対する裁判も頻繁に行われている。
4.2
環境規制状況
(1)大気汚染対策
近年においてはとりわけ移動発生源対策のための新たな規制が付け加えられ、執行の強化が図
られている。ディーゼルエンジン車からの黒煙の排出は、環境質規則による規制を受け、AWASI
(Area Watch and Sanction Inspection)プログラムによる強制的な執行が行われている。機動
部隊が路上パトロールを行い、黒煙を出している車両を見つけると強制的に停車させ、検査を行
う。1999 年には全国で計 662 回の黒煙規制キャンペーンが実施され、41,970 台の車両が強制検
査を受け、1,519 台に対しては黒煙排出許容限界を犯したとして召喚状が発行され、918 台に対し
ては車両が改良され環境局によって再検査されるまで使用禁止命令が出された。同年の規制遵守
率は 96.4%であった。
(2)水汚染対策
マレーシアにおいても排水基準値は大変厳しく、日本の基準よりも厳しい傾向がある(本章 第
8 節 各国の規制値比較 を参照)。ただし、アグロインダストリーについては、伝統産業保護と製
造工程上厳しい排水基準への対処が困難であることから、他製造業とは別の緩い基準が設定され
ている。
-67-
(a) アグロインダストリー
1) 原料天然ゴム工場
1999 年には 134 工場が許可されていた。同年の立入検査は 161 回実施され、8 工場が様々
な違法行為にかかわったとして提訴された。同年の法令遵守率は 90%であった(4)。
2) パーム原油工場
1999 年には 337 工場が許可されていた。同年の立入検査は 493 回実施され、22 工場が提
訴され、2 工場は許可を取り消された。同年の法令遵守率は 81%であった。
(b) 製造業
1999 年には計 3,099 工場に対して立入検査が実施され、87%に当たる 2,707 工場では排水
基準を遵守していた。法令遵守率が低いのは、魚粉・動物用飼料(55%)、金属仕上げ・電気
メッキ(63%)、食品・飲料(64%)で、背景としては、排水処理施設が効果を発揮していな
いこと、熟練した排水処理施設のオペレーターが不足していること、排水処理施設を持たず
に操業していること、等が指摘でき、大部分は中小企業である。
-68-
5.フィリピン
この国で問題になっている環境問題は主としてマニラ首都圏等の都市部における大気中の浮遊
粒子状物質、人口密集地における河川の汚濁、廃棄物の処理問題である。
5.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題(20)
マニラ首都圏等の都市部における浮遊粒子状物質が問題となっている。1999 年のTSP年平均値
は 174.4μg/m3で、環境基準(年平均 90μg/m3)の 2 倍の水準である。TSPの主な原因は、自動
車と工業・商業施設等に起因する化石燃料の燃焼や建設現場からホコリである。
(2)水質汚濁問題
マニラ首都圏で最も深刻であり、マリキナ川上流部を除く大部分の河川ではBOD増加とDO低
下のために、乾季には生物学的に「死の川」になっている。水質汚濁は、主に未処理あるいは処
理不十分な下水(家庭系 60%、工業系 35%、廃棄物 5%)の流入によるものである(21)。下水処理
システムは 900 万市民のわずか 8%にサービスを提供するのみである(22)。
水質汚濁が特に問題となっているのは、パシグ川、マリキナ川、ツラハン川、サンフワン川及
びパラニャケ川である(21)。また、マニラ首都圏地区の南方に位置するラグナ湖は現在のところ水
棲生物の生育に適するというクラスCにランク付けされているが、湖の一部はより大きなBODや
栄養負荷の脅威、増加する沈泥(推定年間 400 万m3)に直面し始めおり、工場や住宅地が集中す
る湖の西部地区では季節によっては魚の大量死が起きている(22)。
(3)廃棄物問題(21)
カルモナ処分場の 2000 年 12 月の閉鎖と 1999 年に公布された大気浄化法による廃棄物の焼却
処分禁止により、厳しい状態に陥っている。マニラ首都圏で発生する廃棄物は、道路端、住宅街
や商業地域の傍等、あらゆる所でゴミの山となっており、ハエ、ねずみ、蚊、バクテリア、ウイ
ルスの温床となっている。マニラ首都圏で発生する廃棄物のうち、リサイクルされているのは 6%
に過ぎない。処分方法はまだ野積みが主流である。2000 年の生態的廃棄物管理法の施行に合わせ
て、自治体の中にはオープンダンピングから、管理埋立てへの改善を推進しているものがあり、
142 の地方自治体では、廃棄物削減、コンポスト、リサイクル、再利用を含む総合廃棄物管理を
進めている(7)。
5.2
環境規制状況
(1)大気汚染対策(22)
汚染物質を排出する施設・設備を建設、拡張、改良するためには建設許可が、操業・維持のた
めには操業許可が必要となる。また、これらの施設・設備の排出基準遵守状況は環境天然資源省
環境管理局によってモニターされることになっており、非遵守企業・施設に対しては違反通知が
発行され、当該違反事件を審査する技術会議に召喚される。技術会議で合意された条件が履行で
きない場合には、公害裁定委員会から停止命令が出されることになる。1995 年までに大気汚染防
-69-
止装置の設置企業数は増加し 100%に近くなったが、操業許可の取得数は減少し、1995 年には 6
割が操業許可なしで操業していた。1999 年にはモニターした企業 5,579 のうち、違反通知 183、
停止命令 22、2000 年にはモニターした企業 6,181 のうち、停止命令 26 であった。
(2)水汚染対策
フィリピンにおいても排水基準値は大変厳しく、日本の基準よりも厳しい傾向がある(本章 第
8 節 各国の規制値比較 を参照)。
ラグナ湖水域では、ラグナ湖開発庁が環境利用料(課徴金)を徴収する制度を 1997 年に導入
し、ラグナ湖に排出されるBOD負荷の低減に成果を上げている。これは湖に排水する全ての事業
者(工場、商業施設等)に対し排出許可の取得を求め、また事業所に加えて全ての集合住宅・家
庭に対しても排水量に応じて料金の支払いを求める制度である。BOD負荷は、1997 年の 5,403.29t
から 1998 年には 4,687.00tへ 13%ほど減少した(22)。
-70-
6.タイ
タイにおける環境問題としては、バンコク首都圏における大気質の低下、河川における水質の
低下、固形及び有害廃棄物の発生量増加、森林被覆の減少などが挙げられる。
6.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題
バンコク首都圏地域を中心とする都市部での大気汚染が深刻化している。産業活動による大気
汚染も原因だが、最大の原因は急激なモータリゼーションの進展に伴う自動車排気ガスによる大
気汚染である。以前は鉛の健康被害が心配されていたが、1995 年に完全無鉛化が実現したため問
題はなくなり、代わりに最も問題視されているのは自動車及び道路で巻き上げられるホコリによ
り発生するPM10で、大気環境基準値を超えている(17)(23)(24)。タイ北部のランパン県メモにある褐
炭(リグナイト)を燃料とする発電所では、二酸化硫黄(SO2)などによる深刻な大気汚染が発
生し、高煙突化、集塵器や脱硫装置の設置が進められた。
(2)水質汚濁問題(17)(23)
バンコク首都圏を中心に、生活排水や工場排水を原因とする河川の水質汚濁が深刻化している。
バンコクを流れるチャオプラヤ川の汚染源は 75%が生活排水といわれており、浄化槽の設置や下
水処理場の建設を行っているものの、実効があがるまでには時間がかかるものと思われる。残り
の 25%は工場排水で、地場産業である製糖、紙パルプ・製紙、ゴム、皮革などが主な汚染源とさ
れている。また、長年にわたって流れ込んだ重金属による汚染も無視できず、チャオプラヤ川河
口では基準値を大きく超える水銀も測定されており、川底に堆積した重金属による生態系への影
響も懸念されている。
(3)廃棄物問題(17)(23)
工業発展などに伴って有害廃棄物の発生量は毎年対前年比 10%近い伸びを示しており、1996
年の総発生量は 160 万トン、このうち工業要因は 120 万トンと推計されている。ところがタイ国
内には有害廃棄物を適切に処理できる施設がバンコク都内とラヨン県の 2 ヶ所しかなく、両施設
を合わせた処理能力は年間 20 万トン程度であることから、ほとんどの有害廃棄物は工場内に保管
されるか不法投棄されている。タイ政府は新たな処理施設の建設を計画しているが、住民の強い
反対で滞っている。他方、工場から出る有害廃棄物以外の廃棄物については、プラスチック、金
属、材木、段ボールなど有価物としての需要が高く、民間の回収業者が引き取り、再生・再販が
進んでいる。一方、生活系廃棄物については、バンコク都では 99%が収集され、9 割が埋立処理、
1 割が堆肥化処理されている。バンコク都以外の地域でも平均 8 割程度が収集されている。
6.2
環境規制状況
(1)大気汚染対策(23)
タイの大気汚染対策については、都市部を中心に深刻化し解決が緊急の課題となっている自動
車排気ガスによる大気汚染に重点が置かれており、産業活動が原因となる大気汚染対策について
-71-
は火力発電所など特定の施設を除いては、本格的な規制実施はこれからという段階にある。工場
からの大気汚染を対象とした排出基準が設定され、工場に対しては定期的な測定及び報告が義務
づけられてはいるものの、現実問題としては煙道排ガスを測定できる分析機関が少なく、しかも
測定値の正確さを検証する仕組みがまだタイ国内にないことなどから、法規制通りの大気汚染対
策が実施されるまでには時間がかかることが予想される。
(2)水汚染対策
タイでは全国一律の排水基準値を設定している。同時に、水質汚濁対策が難しい特定業種につ
いては現実的で実施可能な水質汚濁対策を重視する観点からBOD、COD、全ケルダール窒素の 3
項目に関しては基準値の緩和措置が設けられている(17)。タイにおいても排水基準値は大変厳しく、
日本の基準よりも厳しい傾向がある(本章 第 8 節 各国の排出基準値比較 を参照)。排水基準を
違反した場合、所管官庁から警告を受け、これに従わない場合には操業停止処分を受ける。実際
に、ある紙・パルプ工場が操業停止になった例がある。また、工業団地で団地事務所から設定さ
れている基準値に違反した場合には、給水を停止されて操業できなくなった例がある(17)(23)。
-72-
7.ベトナム(25)
7.1
環境問題の現状
(1)大気汚染問題
ベトナムの大気汚染物質の排出源は、都市部を中心としたオートバイや自動車の排気ガスによ
るものと産業活動などによるものの 2 つである。ハノイ市、ホーチミン市等の大都市では、オー
トバイや自動車から排出される大気汚染物質によって、粉塵、鉛、CO、NOx、HC、SO2などの
濃度が年々上昇している。一方、産業活動による大気汚染については、工業団地や石炭を燃料と
した火力発電所の周辺で問題となっている。国有企業を主体としたローカル企業はほとんど大気
汚染対策を実施しておらず、排出基準はあってもそれは全く守られていないのが現状である。環
境行政側も排ガスのサンプリング・分析機器の不足等の理由でほとんど立入検査等を行っておら
ず、工場からの排ガスは事実上野放しとなっている。また、ベトナム国内には燃料用の重油とし
て質の悪い硫黄含有量 3%のものしか流通しておらず、硫黄酸化物対策を難しくしている。さらに、
冬季の暖房用に北部地域では石炭が使用されているが、これが都市部のばいじんと硫黄酸化物濃
度を季節的に押し上げている。その他、黒煙を上げる廃棄物等の野焼きも目立ち、これによる大
気汚染も無視できなくなっている。
(2)水質汚濁問題
ベトナムの水質汚濁問題は、産業排水、生活排水、河川や湖沼に投棄される廃棄物などが複合
的に絡んで発生しているが、改善が図られない最大の理由は、処理施設の欠如や不足といった水
質汚濁対策インフラの未整備にある。産業排水については、工業セクターの主流を占める国有企
業の工場にほとんど廃水処理設備が設置されていないだけでなく、多くの工場が立地する工業団
地でも最近開設された一部を除いては中央排水処理施設がなく、排水処理への取り組みは入居企
業の自主責任となっている。このため、外資系企業を除いては、排水処理設備の建設や運転コス
トの負担を嫌って、産業排水を処理しないまま近隣の河川や水路などに放流しているのが現実と
なっている。また、小規模な家内工業の立地の多い都市地域では、排水先の河川は川幅が狭く流
量も少ない場合が多いことから、汚水が滞留状態となって汚濁が深刻化している。また、生活排
水はほとんどが未処理のまま河川などに流れ込み、大きな水質汚濁源となっている。これに対し
てベトナム政府では、工場への立入検査の強化、都市内河川の改修、海外からの援助による下水
処理施設の建設に取り組んでいるが、排水量の増大に追いつけず、大きな効果をあげるには至っ
ていない。
(3)廃棄物問題
現在ベトナムでは、生活廃棄物も産業廃棄物も分類されることなくひとまとめに収集され、一
部の医療系廃棄物を除いてほとんどが埋立処分されている。ただし、廃棄物の収集率は大都市部
で 40~67%、町村部で 20~40%、全国平均では 53.4%に過ぎず、収集されない廃棄物については
河川や空き地にそのまま投棄されるか野焼きされる。埋立処分場は全国各地にあるが、そのほと
んどは地面にくぼみを掘ってゴミを積み上げているだけであり、遮水シートの敷設や覆いによる
廃棄物の飛散防止対策などがとられていない。このためゴミから発生した汚水やガス、悪臭が処
-73-
分場周辺の環境を汚染している。搬入される廃棄物には有害廃棄物を含む産業廃棄物も多く、浸
出水による地下水汚染の発生などが懸念されている。一方、今後大きな環境課題となると考えら
れるのは有害産業廃棄物の問題である。有害廃棄物については、ベトナム政府が 1999 年に出し
た有害廃棄物管理規則によって、有害廃棄物の定義、運搬、処理・処分の方法が規定された。し
かし、現在ベトナム国内には有害廃棄物の処理施設も最終処分場もなく、規則通りの廃棄物対策
はできないのが現実となっている。国内 3 ヶ所に有害廃棄物処理施設を作る計画はあるものの、
海外からの資金援助のめどが立たずに中断している。
7.2
環境規制状況
(1)大気汚染対策
産業からの無機物質及びばいじん等の大気排出基準(TCVN5939-1995)は、A(既設施設)と
B(新設施設)の 2 つの分類で基準値が設定されているが、全体を日本の基準と比較すると A 分
類は緩いが B 分類はほぼ同じレベルである。有機物質の大気排出基準(TCVN5940-1995)は、
109 種類の有害化学物質について規定したものであるが、規制対象物質の種類が多く分析が難し
いものが多いことなどから、現実的にはベトナムの環境行政機関による規制は実施されていない。
(2)水汚染対策
ベトナムにおいても排水基準値は大変厳しく、日本の基準よりも厳しい傾向がある(本章 第 8
節 各国の規制値比較 を参照)。この基準は、排水水域の条件による全国一律基準であり、業種別
基準はないため排水対策が難しい業種についても同一の基準の遵守が要求される。現行の産業排
水基準では、アンモニア性窒素や一部の重金属に非常に厳しい規制値がみられ、排水基準をクリ
アするためには技術的課題が大きい項目がみられるほか、フェノールのように分析自体が困難な
ほど低いレベルが基準とされている項目もあるなど、基準自体に問題点も多い。ベトナム政府で
は、環境保護法の改訂作業に合わせて産業排水基準の見直しも進めている。見直しの方向性は、
基本的にはベトナムの現実に合ったものへの変更だが、放流先水域や工場立地先の特性に応じた
効率的な排水規制の実施に向けて、現行の濃度規制に加えて総量規制的考え方が盛り込まれる見
込みとなっている。しかし、産業排水基準の規制の対象となるのは環境保護法施行以後に稼動し
た工場に限られるため、大きな水質汚濁負荷を占めながらも工場の設立が古い国有企業は、ほと
んどその規制対象にならない。
-74-
8.各国の排出基準値比較
(1)排水基準
開発途上国の排水基準値は、欧米における最も厳しい基準値を抽出して用いていることが多く、
その国の技術レベルでは実現困難なほどに厳しい排水基準値を定めている場合もある。各国とも
日本の国が定める一律基準よりも厳しい傾向がある。また、CODについては、日本の 160mg/liter
に比較して値が小さいだけでなく、測定方法が異なる点に注意する必要がある。日本では過マン
ガン酸カリウムによる酸化反応で酸化に要する酸素量を求めるが(CODMn)、日本以外の国では
重クロム酸カリウムによる酸化反応で求める(CODCr)。重クロム酸カリウムの方が酸化力が強い
ので、同じサンプルを両方法で分析するとの重クロム酸カリウムによる方が高い値となる。サン
プルによって異なるが、CODCrはCODMnのおよそ 3 倍となる(19)。したがって、日本の基準値
160mg/literは、日本以外の各国の測定法では 500mg/liter前後になる。
0
BOD排出基準(mg/L)
100 200 300 400 500
160
日本 一律基準
0
160
日本 一律基準
日本 上乗せ基準
(大阪)
10
日本 上乗せ基準
(大阪)
中国 1級基準
20
中国 1級基準
中国 2級基準
30
中国 2級基準
300
中国 3級基準
COD排出基準(mg/L)
100 200 300 400 500
0
SS排出基準(mg/L)
100 200 300 400 500
200
日本 一律基準
日本 上乗せ基準
(大分)
10
100
10
70
中国 1級基準
150
150
中国 2級基準
500
中国 3級基準
400
中国 3級基準
韓国 特定地域
10
韓国 特定地域
40
韓国 特定地域
10
韓国 その他地域
20
韓国 その他地域
40
韓国 その他地域
20
インドネシア 基準Ⅰ
50
150
インドネシア 基準Ⅱ
マレーシア 基準A
マレーシア 基準B
フィリピン ClasA, B
フィリピン Class C
20
30
フィリピン ClasA, B
50
120
20
タイ 排水基準
ベトナム 基準A
20
ベトナム 基準A
ベトナム 基準C
50
ベトナム 基準B
100
マレーシア 基準A
100
フィリピン ClasA, B
100
フィリピン Class C
200
100
50
70
150
フィリピン Class D
120
50
100
タイ 排水基準
50
ベトナム 基準A
50
ベトナム 基準B
400
ベトナム 基準C
50
マレーシア 基準B
60
フィリピン Class D
400
インドネシア 基準Ⅱ
50
フィリピン Class C
タイ 排水基準
ベトナム 基準B
300
マレーシア 基準B
200
インドネシア 基準Ⅰ
インドネシア 基準Ⅱ
マレーシア 基準A
50
フィリピン Class D
100
インドネシア 基準Ⅰ
ベトナム 基準C
100
200
図 3-21 東アジア各国の排水基準値比較
注)COD測定法:日本…過マンガン酸カリウムによる方法(CODCr)、日本以外…重クロム酸カリウムによる方法(CODMn)
(出所)日本:一律基準…排水基準を定める総理府令、上乗せ基準…(社)日本産業機械工業会「平成 14 年度発展途上国に適
合した環境技術・装置の評価及び技術移転に関する調査研究報告書」より
中国:汚水総合排放基準(GB8978-1996)のうち、特定業種以外の業種の 1998 年 1 月 1 日以降設置のものの基準
韓国:韓国環境部「環境統計年鑑 2002」より
インドネシア:「産業活動の排水基準」1995 年環境大臣令第 51 号(Ⅰ:高度な排水処理設備を有する工場向け、Ⅱ:簡便
な排水処理設備を有する工場向け)及び西ジャワ州知事通達による
-75-
マレーシア:下水・産業排水に関する環境規則による排水基準(A:飲料水取水口より上流へ放流する場合、B:飲料水取
水口より下流へ放流する場合)
フィリピン:Revised Effluent Regulations of 1990(AA:上水道 1 級…排水禁止、A:上水道 2 級、B:レクリエーション用水 1
級(水浴等)、C:水産、レクリエーション用水 2 級(ボート等)
、工業用水 1 級、D:農業、灌漑、畜産、工業用水 2
級(冷却等)、その他)
タイ:1992 年国家環境保全推進法に基づく科学技術環境省告示 1996 年第 3 号による基準
ベトナム:TCVN5945-1995(A:生活用水取水水域、B:水運、灌漑、水産、水浴等の水域に排水する場合、C:行政
から特に許可された水域に排水する場合)
(2)大気汚染物質排出基準
表 3-18 東アジア各国の大気汚染物質排出基準値比較
(大規模な石炭火力発電所を新設するとした場合)
世界銀行
日本
中国
韓国
インドネシア
硫黄酸化物(SOx)
・量規制
0.2tpd/MW for the first 500MW +
0.1tpd/MW for each additional MW
・濃度規制
700ppm (2000mg/Nm3)
・量規制(K値規制)
q=K×10-3He2
q: SOx許容排出量(m3/h)
He: 排出口高さ
K 値は地域の区分ごとに異なる
・総量規制
K 値規制のみによっては環境基準確
保が困難な地域において、大規模工場
に適用
・量規制(発電所全体)
Q=PUHm×10-6
Q: 全所のSO2許容排出量(t/h)
P: 排出抑制係数
U: 煙突口付近の風速
H: 煙突の平均高度
m: 周辺地域拡散の条件指数
・濃度規制(個々の煙突)
420ppm (1200mg/N3)
・濃度規制
2004.12.31 まで 120ppm
2005.01.01 から
80ppm
・濃度規制
263ppm (750mg/Nm3)
マレーシア
フィリピン
タイ
ベトナム
・濃度規制
245ppm (700mg/Nm3)
・濃度規制
320ppm
・濃度規制
175ppm (500mg/Nm3)
窒素酸化物(NOx)
・濃度規制
365ppm (750mg/Nm3)
ばいじん
・濃度規制
50mg/Nm3
・濃度規制
200ppm
・総量規制
濃度規制のみによっては環
境基準確保が困難な地域に
おいて、大規模工場に適用
・濃度規制
一般排出基準 100mg/Nm3
特別排出基準
50mg/Nm3
・濃度規制
Wet-bottom boiler
487ppm (1000mg/Nm3)
Dry-bottom boiler
317ppm (650mg/Nm3)
・濃度規制
都市計画内 200mg/Nm3
都市計画外 500mg/Nm3
・濃度規制
2004.12.31 まで 350ppm
2005.01.01 から
80ppm
・濃度規制
414ppm (850mg/Nm3)
・濃度規制
974ppm (2000mg/Nm3)
・濃度規制
487ppm (1000mg/Nm3)
・濃度規制
350ppm
・濃度規制
487ppm (1000mg/Nm3)
・濃度規制
2004.12.31 まで 50mg/Nm3
2005.01.01 から 30mg/Nm3
・濃度規制
150mg/Nm3
・濃度規制
400mg/Nm3
・濃度規制
150mg/Nm3
・濃度規制
120mg/Nm3
・濃度規制
400mg/Nm3
(出所)世界銀行:World Bank, ‘’Pollution Prevention and Abatement Handbook’’, July 1998
日本:環境省ホームページ(http://www.env.go)
中国:火力発電所による大気汚染物の排出基準(GB13223-1996)
韓国:韓国環境部「環境統計年鑑 2002」より
インドネシア:「固定排出源に係る排出基準」1995 年環境大臣令第 13 号
マレーシア:International Law Book Services, Environmental Quality Act 1974 (Act 127) & Subsidiary Legislations (as
at 25th August 1998)
フィリピン:Implementing Roles and Regulations for the Philippine Clean Air Act of 1999
タイ:Notification of the Ministry of Science, Technology and Environment published in the Royal Government
Gazette, Vol. 113 Part 9 Page 220 (科学技術環境省汚染対策局ホームページ(http://www.pcd.go.th))
ベトナム:TCVN5939-1995
-76-
引用文献・資料等
(1) 「中国環境状況公報」各年版(http://www.zhb.gov.cn)
(2) 「中国環境年鑑」各年版
(3) 中国国家環境保護総局ホームページ(http://www.zhb.gov.cn)
(4) 小柳秀明「中国の環境状況の概要と今後」環境管理 Vol.39、№1(2003)
(5) 国家環境保護総局ヒアリング(平成 15 年 12 月 22 日)による
(6) 「全国環境統計公報」各年版(http://www.zhb.gov.cn)
(7) 荒山裕行ほか「中国の経済発展と環境問題」東北財経大学出版、2002 年
(8) 寺尾忠能・大塚健司編、「開発と環境」の政策過程とダイナミズム、アジア経済研究所、研究双書№527、2002
年
(9) 梁
秀山「中国のSO2排出課徴金と許可証取引制度」立命館大学政策科学会、政策科学 9 巻 2 号、2002 年
(10) 薛新民ほか「中国における小型火力発電所閉鎖の動き」中国能源 2003 年第 3 期
(11) 李志東「中国におけるエネルギー起源の環境問題と対策に関する中長期展望」
(12) 韓国環境部ホームページ(http://www.me.go.kr)
(13) 韓国統計局ホームページ(http://www.nso.go.kr)
(14) 韓国環境統計年鑑 2002
(15) (財)環日本海環境協力センター「環日本海環境白書 2003」
(16) (財)地球・人間環境フォーラム「日系企業の海外活動にあたっての環境対策(インドネシア編)
」平成 10 年
3月
(17) (社)日本産業機械工業会「平成 14 年度
発展途上国に適合した環境技術・装置の評価及び技術移転に関す
る調査研究報告書」平成 15 年 6 月
(18) 藤崎成昭「マレーシアの環境問題と規制動向」環境管理 Vol.38、№9(2002)
(19) (財)地球・人間環境フォーラム「日系企業の海外活動にあたっての環境対策(マレーシア編)」平成 12 年 3
月
(20) 新エネルギー・産業技術総合開発機構、(財)国際環境技術移転研究センター委託「平成 14 年度
政府開発
援助地球環境問題等アジア及び太平洋地域環境技術普及促進事業」平成 15 年 3 月
(21) 国際協力事業団「国別環境整備調査報告書(フィリピン国)
」平成 14 年 2 月
(22) 藤崎成昭「フィリピンの環境問題と規制動向」環境管理 Vol.38、№9(2002)
(23) (財)地球・人間環境フォーラム「日系企業の海外活動にあたっての環境対策(タイ編)
」平成 11 年 3 月
(24) 折山光俊「タイの環境問題と規制動向」環境管理 Vol.38、№9(2002)
(25) (財)地球・人間環境フォーラム「日系企業の海外活動にあたっての環境対策(ベトナム編)」平成 14 年 3 月
(26) 武石礼二「アジア地域の大気汚染とその対策」Economic Review、2002.1、p126
(27) 金堅敏「中国環境ビジネスの市場性と日系企業」富士通総研研究所、研究レポート№185、January 2004
(28) 福島篤「北東アジア地域における石炭・環境問題(その1現状と課題)」日本エネルギー経済研究所
年 10 月、p15
-77-
2003
-78-
第4章
中国の産業に起因する環境問題の
実態把握・評価
−79−
【要旨】
中国は経済発展が進む一方、様々な環境汚染が深刻化している。また、酸性雨の原因
物質であるSO2・NOxの排出量は東アジア地域最大で、東アジア地域の総排出量のSO2は
78%、NOxは 57%も占め、中国国内のみならず東アジア地域全体に及ぼす影響も大きい。
そこで本章では、中国の産業に起因する環境問題の実態把握・評価を記述する。
まず、SO2・NOx・ばいじん・COD排出量に占める工業系・生活系の割合、工業系に
占める業種別割合を調査した。その結果から、主要汚染物質が多い業種として、火力発
電、セメント、鉄鋼、紙・パルプを選定し、製品生産 1 単位当りの汚染物質排出量であ
る排出原単位で評価した。
また、経済発展段階と環境劣化の関係を評価するため、環境クズネッツ曲線(1 人当
りSO2排出量を 1 人当りのGDPに対してプロットしたもの)を作成し、検討を行った。
−80−
1.産業部門に起因する環境汚染実態(各部門の直接的排出)
1.1
二酸化硫黄
図 4-1 に、中国のSO2の排出量を示す。SO2排出量は、1995 年の 2,370 万tをピークに減少して
いるが、2002 年でも 1,927 万tが排出されており、世界最大の排出国である。2002 年の排出量の
内訳は、工業系 1,562 万t、生活系 365 万tで、約 80%が工業系、約 20%が生活系。
二酸化硫黄(SO2)排出量(万t)
2,500
2,370
2,091
全体
工業系
生活系
2,000
1,995 1,948
1,552
1,500
1,406
1,371
2,346
1,622
1,795
1,685
1,502
1,303
1,852
1,341 1,405
1,324
1,165
1,927
1,858
1,612
1,567
1,593
1,825
1,562
1,460
1,397
1,292
1,200
965
1,000
497
503
457
500
484
383 381
494
397
361
365
0
1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001
図 4-1 中国の二酸化硫黄(SO2)排出量の推移
(出所)中国環境年鑑各年版
石油製品・コークス
2.6%
産業の業種別SO2排出量を見ると、火力
採掘
2.7%
発電が 49%を占め、次ぎにセメント、化学、
鉄鋼、熱供給、非鉄金属、紙・パルプなど
が続く(表 4-1、図 4-2 参照)。
表 4-1 産業業種別SO2排出量(2001 年)
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11∼
業種
火力発電
セメント
化学原料・化学製品
鉄鋼
熱供給
非鉄金属
紙・パルプ
食品・飲料・タバコ
採掘
石油製品・コークス
その他
排出量(万 t)
654.4
100.5
78.6
73.3
71.6
61.2
42.6
39.2
35.9
34.4
155.0
その他
11.5%
食品・飲料・タバコ
2.9%
紙・パルプ
3.2%
火力発電
48.6%
非鉄金属
4.5%
熱供給
5.3%
鉄鋼
5.4%
化学原料・化学製品
5.8%
セメント
7.5%
図 4-2 産業業種別SO2排出量割合
(出所)中国環境年鑑 2002
(出所)中国環境年鑑 2002
−81−
1.2
窒素酸化物
NOx 排出量については、中国の公式データがない。米国アイオワ大学 CGER の推計による、
2000 年の中国の NOx 排出量を表 4-2 に示す。工業と発電を合わせた 63%が産業の固定排出源か
ら排出され、そのうちの約 60%を発電部門が占めている。しかし、工業の内訳は分からない。
表 4-2 中国の NOx 排出量(2000 年)
排出量(万 t)
割合(%)
工業
279.0
24.6
発電
440.7
38.8
運輸
263.2
23.2
民生
70.2
6.2
バイオマス燃焼
81.6
7.2
合計
1,134.7
100.0
(出所)米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
さらに細かく産業種別毎 にNOx排出量を推計しているものとしては、少し古いが、東野ら(5)に
よる 1990 年の中国のNOx排出量推計がある。それを表 4-2 と同様な部門別にしたものを表 4-3
に示す。工業と発電を合わせた 74.8%が産業の固定発生源から排出され、そのうち 45%を発電部
門(熱供給を含む)が占めている。
表 4-3 中国の NOx 排出量(1990 年)
排出量(万 t)
割合(%)
工業
276.7
41.1
発電+熱
226.3
33.7
運輸
77.3
11.5
民生
40.2
6.0
農業他
52.0
7.7
合計
672.2
100.0
(出所)東野晴行ら:東アジア地域を対象とした大気汚染物質の排出量推計(Ⅱ)
、大気環境学会誌、30(6),
pp374-390, 1995
非鉄金属
0.7%
産業の業種別 NOx 排出量を見ると、火
力発電が 45%を占め、次ぎに採掘、石油製
品・コークス、セメント、鉄鋼、食品など
が続く(表 4-4、図 4-3 参照)。
表 4-4 産業業種別 NOx 排出量(1990 年)
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10∼
業種
発電・熱供給
採掘
石油製品・コークス
セメント
鉄鋼
食品・飲料・タバコ
化学原料・化学製品
紙・パルプ
非鉄金属
その他
その他
19.5%
紙・パルプ
1.0%
化学原料・化学製品
1.2%
食品・飲料・タバコ
2.3%
排出量(万 t)
226.3
44.9
40.4
36.2
31.0
11.4
5.8
5.1
3.6
98.3
発電・熱供給
45.0%
鉄鋼
6.2%
セメント
7.2%
石油製品・コークス
8.0%
採掘
8.9%
図 4-3 産業業種別 NOx 排出量割合
(出所)表 4-3 と同じ
(出所)中国環境年鑑 2002
上記 2 つの出典による発電部門が産業に占める割合は、推定時期が異なることもあり、かなり
の違いがあるが、火力発電が非常に大きな割合を占めているのは確かである。
−82−
1.3
ばいじん
図 4-4 に、中国のばいじん排出量を示す。ばいじん排出量は、1997 年からは減少している。2002
年の排出量は 1,013 万 t で、そのうち工業系 804 万 t、生活系 209 万 t で、約 80%が工業系、約
20%が生活系。
2,000
ばいじん排出量(万t)
1,600
1,873
1,744
1,800
1,454
1,400
1,492
1,353
1,565
1,414
1,328 1,314
1,323
1,200
1,396
1,159
1,165
1,059
1,013
1,179
1,000
953 953
800
841
全体
工業系
生活系
600
400
308 276
200
0
1981
1,455
1,416 1,414
1983 1985
1987 1989
1991 1993
1995
212
804
209
206
218
1997 1999
2001
図 4-4 中国のばいじん排出量の推移
(出所)中国環境年鑑各年版
その他
20.3%
産業の業種別ばいじん排出量を見ると、
火力発電が 39%を占め、次ぎにセメント、
鉄鋼、化学、食品、熱供給、紙・パルプな
どが続く(表 4-5、図 4-5 参照)。
表 4-5 産業業種別ばいじん排出量(2001 年)
順位
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11∼
業種
火力発電
セメント
鉄鋼
化学原料・化学製品
食品・飲料・タバコ
熱供給
紙・パルプ
採掘
非鉄金属
石油製品・コークス
その他
排出量(万 t)
289.7
45.3
44.5
43.3
36.4
33.5
27.8
26.0
23.7
19.6
150.4
石油製品・コークス
2.7%
火力発電
39.1%
非鉄金属
3.2%
採掘
3.5%
紙・パルプ
3.8%
熱供給
4.5%
食品・飲料・タバコ
4.9%
化学原料・化学製品
5.8%
鉄鋼
6.0%
セメント
6.1%
図 4-5 産業業種別ばいじん排出量割合
(出所)中国環境年鑑 2002
(出所)中国環境年鑑 2002
−83−
1.4
COD(化学的酸素要求量)
図 4-6 に、中国の COD 排出量を示す。COD 排出量は、1999 年まで減少してきたが、その後
は横ばいである。工業系の COD 排出量は減少しているが、生活系の COD は増加しており、1999
年からは生活系が工業系を上回っている。2002 年は生活系 783 万 t、工業系 584 万 t で、生活系
が 57%、工業系が 43%という構成比になっている。
2,000
1,800
1,757
COD排出量(万t)
1,600
1,496
1,400
1,200
1,445
1,405
1,389
1,367
1,073
1,000
801
800
600
684
400
200
0
1997
695
697
692
741
797
705
608
783
584
合計
工業系
生活系
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-6 中国の COD 排出量の推移
(出所)中国環境年鑑各年版
産業の業種別 COD 排出量を見ると、
紙・パルプが 41%を占め、次ぎに食品、化
学、紡績、医薬品などが続く(表 4-6、図
その他
20.7%
4-7 参照)。
表 4-6 産業業種別 COD 排出量(2001 年)
順位
1
2
3
4
5
6∼
業種
紙・パルプ
食品・飲料・タバコ
化学原料・化学製品
紡績
医薬品製造
その他
排出量(万 t)
203.3
104.6
47.3
24.4
15.6
103.2
医薬品製造
3.1%
紙・パルプ
40.8%
紡績
4.9%
化学原料・化学製品
9.5%
食品・飲料・タバコ
21.0%
(出所)中国環境年鑑 2002
図 4-7 産業業種別 COD 排出量割合
(出所)中国環境年鑑 2002
−84−
<産業部門に起因する汚染例>
製鉄所周辺の大気質
図 4-8∼10 は、日本と中国の代表的な製鉄所
ータ)。中国の製鉄所周辺の大気質は、日本と比
べて非常に悪いことが分かる。
・ SO2濃度は、日本の 3 倍
SO2濃度(mg/Nm3)
周辺の大気質を比較したものである(1993 年デ
0.20
0.184
0.15
0.10
0.06
0.05
0.00
中国
・ 浮遊粒子状物質濃度は、日本の 15 倍
・ 降下煤塵量は、日本の 9 倍
日本
図 4-8 製鉄所周辺の大気中の
0.70
0.60
0.50
0.40
0.30
0.20
0.10
0.00
降下ばいじん量(t/月km2)
浮遊粒子物質濃度(mg/Nm3)
SO2濃度
0.588
0.04
中国
70
60
50
40
30
20
10
0
日本
63.5
7.0
中国
図 4-9 製鉄所周辺の大気中の
日本
図 4-10 製鉄所周辺の降下ばいじん量
浮遊粒子状物質濃度
(図 4-8∼10 出所)
新日本製鉄㈱資料(鉄鋼業の取り組むべき環境問題 中国鉄鋼業への環境・省エネルギー技術移転)
中国の鉄鋼業はエネルギー源に石炭を多く使用し、設備の多くは環境対策が整っていない。ま
た、製鉄所の多くが市街地に隣接していて公害源となっている。
−85−
2.各産業部門に起因する汚染物質排出の日中比較(間接的排出を含めた評価)
本章 第 1 節から、火力発電所から排出される大気汚染物質は、産業全体の排出量の 40∼50%
を占めていることが分かった。しかし、電力は様々な製品を製造するために使用されていること
から、他の様々な部門は、電力を使用することで、間接的に汚染物質を排出していることになる。
また、鉄鋼などについても同様のことが言える。そこで、このような間接的な汚染物質排出寄与
を、産業連関表注)に示された部門毎の財・サービスの産出(販売)先構成に比例すると仮定して、
中国及び日本の各部門の国内生産額当りSO2・ばいじん排出量を試算したものを表 4-8∼11 に示
す(日本については、「その他」部門の排出量データ(全排出量の約 13%)を各部門に割り振る
ことができなかったため、排出量が若干少な目に試算されている点に注意が必要であるが、日中
の差の大きさから見れば非常に小さいため、日中の差の大きさを比較する場合には無視できる)。
これらの結果を整理して、国内生産額当りのSO2・ばいじん排出量を日中比較したものを表 4-7
に示す。いずれの部門でも中国のSO2・ばいじん排出量は日本に比べて非常に多いことが分かる。
表 4-7 各部門の国内生産額当りのSO2・ばいじん排出量(間接的排出を考慮)の日中比較
SO2
部門
鉱業
食品
繊維
化学
窯業・土石製品
金属
国
中国
日本
中国
日本
中国
日本
中国
日本
中国
日本
中国
日本
中国
機械
電力・熱供給
日本
中国
日本
為替ベース
(kg/100 万米ドル)
6,085
33
2,782
117
2,660
236
8,224
222
11,963
148
10,472
鉄鋼
260
非鉄金属
45
金属製品
93
2,718
一般機械
41
電気機器
28
輸送機械
32
精密機械
30
11,301
307
PPP(購買力平価)ベース
(kg/100 万国際ドル)
1,309
47
599
167
572
336
1,769
317
2,574
211
2,253
鉄鋼
370
非鉄金属
64
金属製品
133
585
一般機械
58
電気機器
39
輸送機械
46
精密機械
42
2,431
437
ばいじん
為替ベース
PPP(購買力平価)ベース
(kg/100 万米ドル) (kg/100 万国際ドル)
2,939
632
3
4
2,143
461
9
12
1,241
267
32
46
3,947
849
21
30
7,585
1,632
30
43
5,184
1,115
鉄鋼
鉄鋼
33
46
非鉄金属
非鉄金属
16
23
金属製品
金属製品
13
18
1,490
320
一般機械
一般機械
6
8
電気機器
電気機器
5
6
輸送機械
輸送機械
5
7
精密機械
精密機械
5
7
5,249
1,129
17
24
注)産業連関表は、国内経済において一定期間(通常 1 年間)に行われた財・サービスの産業間取引を一つの行
列(マトリックス)に示した統計表である。産業連関表を部門毎にタテ方向(列部門)の計数を読むと、その
部門の財・サービスの国内生産額とその生産に用いられた投入費用構成の情報が得られる。また、部門毎にヨ
コ方向(行部門)の計数を読むと、その部門の財・サービスの国内生産額及び輸入額がどれだけ需要されたか
の算出(販売)先構成の情報が得られる。
−86−
-87-
568,659
0
12,203
54
1,305
4,929
489,944
11,757
11,819
14,453
19,605
2,590
0
0
0
0
0
0
25,462
594,121
97,642
6,085
453,888
1,309
319,462
1,309
1,485,023
282
採掘
農業
418,147
0
1,658
39,922
1,869
6,192
254,792
15,204
79,372
12,040
5,511
1,586
0
0
0
0
0
0
0
418,147
02
01
822,617
599
176,964
2,782
241,206
0
1,959
41,671
784
30,057
126,966
1,620
13,098
17,355
7,219
476
0
0
0
0
0
0
251,161
492,367
食品
03
959,529
572
206,416
2,660
369,400
0
1,464
6,424
170,814
11,056
122,214
1,469
47,537
4,014
3,539
868
0
0
0
0
0
0
179,619
549,019
紡績、縫
製、皮革
04
06
501,167
1,541
107,812
7,163
554,569
0
3,762
163
14,635
145,515
322,880
2,390
24,218
13,693
26,274
1,038
0
0
0
0
0
0
217,641
772,209
478,563
2,431
102,950
11,301
577,558
0
42,168
0
450
4,106
468,776
47,518
1,702
6,455
2,688
3,695
0
0
0
0
0
0
585,908
1,163,466
467,217
855
100,509
3,973
07
コークス、ガ
ス、石油精
製
382,555
0
169,828
0
270
1,869
171,537
26,297
4,004
5,753
2,236
761
0
0
0
0
0
0
16,777
399,332
1,212,082
1,769
260,746
8,224
2,025,753
0
21,691
5,878
18,764
29,705
1,611,971
30,617
260,506
28,378
16,421
1,822
0
0
0
0
0
0
118,640
2,144,393
化学
08
352,337
2,574
75,796
11,963
644,580
0
15,226
156
2,509
33,262
407,237
11,307
14,989
130,907
27,788
1,199
0
0
0
0
0
0
262,177
906,757
非金属鉱
物製品
09
883,021
2,253
189,958
10,472
1,848,424
0
40,969
0
1,456
48,510
1,253,237
36,068
11,739
57,039
396,676
2,730
0
0
0
0
0
0
140,752
1,989,176
金属
10
2,337,438
585
502,836
2,718
1,289,290
0
7,523
12
5,843
44,277
469,300
14,806
119,616
106,631
460,993
60,287
0
0
0
0
0
0
77,347
1,366,637
機械
11
表 4-8 中国のSO2排出の産業連関
その他製 電力・熱供
造業
給
05
1,244,079
1,129
267,630
5,247
1,404,163
0
8,066
339
1,629
26,478
201,675
70,843
19,937
827,917
239,274
8,004
0
0
0
0
0
0
0
1,404,163
建築
12
593,532
496
127,682
2,307
294,589
0
1,467
1,277
1,300
12,858
209,441
47,393
4,575
5,846
4,008
6,424
0
0
0
0
0
0
0
294,589
運輸、郵
便、電話
13
950,830
332
204,545
1,545
315,978
0
714
37,969
5,212
44,184
171,499
15,046
10,770
20,581
4,955
5,049
0
0
0
0
0
0
0
315,978
商業、飲
食業
14
620,030
390
133,383
1,812
241,653
0
1,773
5,594
4,819
33,114
126,212
14,607
10,665
35,157
5,596
4,116
0
0
0
0
0
0
0
241,653
公共サー
ビス
15
290,015
104
62,389
484
30,223
0
65
17
200
8,868
18,132
590
306
979
422
644
0
0
0
0
0
0
0
30,223
金融、保
険
16
809,764
471
174,199
2,191
381,755
0
3,005
2,017
3,386
53,226
243,693
6,642
32,684
24,240
9,485
3,377
0
0
0
0
0
0
0
381,755
その他サ
ービス
17
0
333,541
141,492
235,244
538,206
6,669,507
354,173
667,540
1,311,440
1,232,691
104,668
0
0
0
0
0
0
中間消費
による排
出量
0
25,462
251,161
179,619
217,641
585,908
16,777
118,640
262,177
140,752
77,347
0
0
0
0
0
0
最終消費
による排
出量
359,003
392,653
414,863
755,847
7,255,415
370,950
786,180
1,573,617
1,373,443
182,015
総排出量
(排出量単位:ton/年)
(出所)2000 年産業連関表(中国統計年鑑 2003、pp73-77)、2001 年排出量データ(中国環境年鑑 2002、p607)(2000 年データは、前後の年のデータからみて整合性が合
わない部分があったため、直近の 2001 年データを使用)
、2000 年対米ドル為替レート・購買力平価レート(エネルギー・経済統計要覧 2003、pp225-226)を使用し
て作成した。
投入(Input)
間接的排出量合計
01 農業
02 採掘
03 食品
04 紡績、縫製、皮革
05 その他製造業
06 電力・熱供給
07 コークス、ガス、石油精製
08 化学
09 非金属鉱物製品
10 金属
11 機械
12 建築
13 運輸、郵便、電話
14 商業、飲食業
15 公共サービス
16 金融、保険
17 その他サービス
最終消費による排出量
総排出量(間接的排出を考慮)
(為替ベース)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPベース)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
-88-
268,576
0
8,836
50
572
3,724
218,248
6,555
6,507
11,990
10,351
1,742
0
0
0
0
0
0
18,437
287,013
97,642
2,939
453,888
632
319,462
699
1,485,023
150
採掘
農業
223,349
0
1,201
37,011
819
4,679
113,498
8,478
43,699
9,988
2,910
1,067
0
0
0
0
0
0
0
223,349
02
01
822,617
461
176,964
2,143
146,307
0
1,419
38,632
343
22,712
56,558
903
7,211
14,397
3,812
320
0
0
0
0
0
0
232,847
379,154
食品
03
959,529
267
206,416
1,241
177,423
0
1,060
5,956
74,838
8,354
54,441
819
26,172
3,330
1,869
584
0
0
0
0
0
0
78,696
256,119
紡績、縫
製、皮革
04
06
501,167
934
107,812
4,342
303,666
0
2,724
152
6,412
109,954
143,828
1,333
13,334
11,359
13,873
698
0
0
0
0
0
0
164,454
468,119
478,563
1,129
102,950
5,249
279,344
0
30,534
0
197
3,103
208,818
26,495
937
5,355
1,419
2,485
0
0
0
0
0
0
260,995
540,339
467,217
500
100,509
2,324
07
コークス、ガ
ス、石油精
製
224,248
0
122,973
0
118
1,412
76,412
14,663
2,204
4,772
1,180
512
0
0
0
0
0
0
9,354
233,602
1,212,082
849
260,746
3,947
963,814
0
15,706
5,450
8,221
22,446
718,060
17,072
143,424
23,542
8,670
1,225
0
0
0
0
0
0
65,318
1,029,133
化学
08
352,337
1,632
75,796
7,585
357,440
0
11,025
145
1,099
25,133
181,406
6,305
8,252
108,597
14,672
806
0
0
0
0
0
0
217,495
574,935
非金属鉱
物製品
09
883,021
1,115
189,958
5,184
910,389
0
29,666
0
638
36,655
558,260
20,111
6,463
47,318
209,442
1,836
0
0
0
0
0
0
74,316
984,706
金属
10
2,337,438
320
502,836
1,490
697,044
0
5,447
11
2,560
33,456
209,052
8,256
65,856
88,458
243,402
40,546
0
0
0
0
0
0
52,020
749,065
機械
11
1,244,079
792
267,630
3,683
985,726
0
5,840
314
714
20,007
89,837
39,501
10,977
686,817
126,335
5,383
0
0
0
0
0
0
0
985,726
建築
12
表 4-9 中国のばいじん排出の産業連関
その他製 電力・熱供
造業
給
05
593,532
246
127,682
1,144
146,059
0
1,062
1,184
569
9,716
93,296
26,426
2,519
4,850
2,116
4,321
0
0
0
0
0
0
0
146,059
運輸、郵
便、電話
13
950,830
195
204,545
905
185,186
0
517
35,200
2,283
33,387
76,395
8,389
5,930
17,074
2,616
3,395
0
0
0
0
0
0
0
185,186
商業、飲
食業
14
620,030
224
133,383
1,040
138,729
0
1,284
5,186
2,111
25,022
56,222
8,145
5,872
29,165
2,955
2,768
0
0
0
0
0
0
0
138,729
公共サー
ビス
15
290,015
58
62,389
271
16,894
0
47
15
88
6,701
8,077
329
169
812
223
433
0
0
0
0
0
0
0
16,894
金融、保
険
16
809,764
251
174,199
1,168
203,388
0
2,176
1,870
1,484
40,218
108,554
3,703
17,995
20,109
5,008
2,272
0
0
0
0
0
0
0
203,388
その他サ
ービス
17
0
241,518
131,174
103,067
406,679
2,970,962
197,483
367,519
1,087,934
650,853
70,395
0
0
0
0
0
0
中間消費
による排
出量
0
18,437
232,847
78,696
164,454
260,995
9,354
65,318
217,495
74,316
52,020
0
0
0
0
0
0
最終消費
による排
出量
259,955
364,021
181,763
571,133
3,231,957
206,837
432,837
1,305,429
725,169
122,415
総排出量
(排出量単位:ton/年)
(出所)2000 年産業連関表(中国統計年鑑 2003、pp73-77)、2001 年排出量データ(中国環境年鑑 2002、p607)(2000 年データは、前後の年のデータからみて整合性が合
わない部分があったため、直近の 2001 年データを使用)
、2000 年対米ドル為替レート・購買力平価レート(エネルギー・経済統計要覧 2003、pp225-226)を使用し
て作成した。
投入(Input
間接的排出量合計
01 農業
02 採掘
03 食品
04 紡績、縫製、皮革
05 その他製造業
06 電力・熱供給
07 コークス、ガス、石油精製
08 化学
09 非金属鉱物製品
10 金属
11 機械
12 建築
13 運輸、郵便、電話
14 商業、飲食業
15 公共サービス
16 金融、保険
17 その他サービス
最終消費による排出量
総排出量(間接的排出を考慮)
(為替ベース)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPベース)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
-89-
423
0
0
0
12
13
35
38
1
6
0
0
0
0
0
0
0
0
295
23
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
423
12,789
33
8,970
47
133,300
37
93,492
53
鉱業
農林水産業
4,955
0
0
1,012
105
730
1,834
512
75
5
0
0
0
0
0
0
0
0
639
44
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4,955
02
01
167
253,251
117
361,082
13,279
0
0
5,090
76
2,304
977
303
748
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3,255
527
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
28,926
42,205
食料品
03
336
46,152
236
65,803
5,786
0
0
15
2,878
237
1,683
71
18
1
0
0
0
0
0
0
0
0
776
107
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
9,720
15,506
繊維製品
04
272
96,694
190
137,865
317
169,827
222
242,138
35,486
0
0
102
35
1,434
21,467
2,787
737
4
0
0
0
0
0
0
0
0
8,105
815
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
18,349
53,835
化学製品
06
177
84,472
124
120,440
211
54,451
148
77,635
07
08
石油・石炭 窯業・土石
製品
製品
2,952
7,552
0
0
0
0
0
4
8
36
2
591
108
567
1,789
281
37
3,224
0
237
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
957
2,432
51
180
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
12,036
3,926
14,988
11,478
370
111,643
260
159,179
36,146
0
0
0
17
54
293
714
631
28,871
0
0
0
0
0
0
0
0
5,375
190
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
5,182
41,328
鉄鋼
09
64
39,933
45
56,937
2,541
0
0
0
18
116
257
84
213
34
0
0
0
0
0
0
0
0
1,768
51
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,541
非鉄金属
10
表 4-10 日本のSO2排出の産業連関
05
パルプ・紙・
木製品
20,065
0
0
23
143
13,257
1,384
323
421
408
0
0
0
0
0
0
0
0
3,895
210
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
6,193
26,258
133
87,524
93
124,790
11,635
0
0
0
29
227
360
87
229
8,619
0
0
0
0
0
0
0
0
1,996
87
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
11,635
金属製品
11
58
185,990
41
265,182
10,837
0
0
0
60
197
490
97
703
6,797
0
0
0
0
0
0
0
0
2,232
261
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
10,837
一般機械
12
39
347,448
28
495,388
13,708
0
0
0
211
1,134
1,492
120
2,792
2,525
0
0
0
0
0
0
0
0
5,120
313
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
13,708
電気機器
13
46
277,602
32
395,802
12,852
0
0
0
134
245
1,229
161
1,351
6,410
0
0
0
0
0
0
0
0
3,129
193
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
12,852
輸送機器
14
42
25,627
30
36,539
1,083
0
0
0
9
89
78
8
323
149
0
0
0
0
0
0
0
0
391
37
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,083
精密機械
15
109
212,352
77
302,768
16
その他の製
造工業製品
23,227
0
0
45
222
6,302
9,279
1,543
472
862
0
0
0
0
0
0
0
0
4,316
186
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
23,227
91
502,996
64
717,166
45,740
0
0
0
309
12,843
1,043
1,995
21,168
4,784
0
0
0
0
0
0
0
0
2,857
741
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
45,740
建設
17
437
125,492
307
178,926
18
電力・ガス・
熱供給
7,600
0
0
0
8
71
55
1,752
5
0
0
0
0
0
0
0
0
0
5,239
470
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
47,298
54,899
(排出量単位:ton/年)
(出所)2000 年産業連関表(総務省統計局ホームページ http://www.stat.go.jp/data/io/)、1999 年排出量データ(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)、
p22)、2000 年対米ドル為替レート・購買力平価レート(エネルギー・経済統計要覧 2003、pp225-226)を使用して作成した。
投入(Input)
間接的排出量合計
01 農林水産業
02 鉱業
03 食料品
04 繊維製品
05 パルプ・紙・木製品
06 化学製品
07 石油・石炭製品
08 窯業・土石製品
09 鉄鋼
10 非鉄金属
11 金属製品
12 一般機械
13 電気機器
14 輸送機器
15 精密機械
16 その他の製造工業製品
17 建設
18 電力・ガス・熱供給
19 水道・廃棄物処理
20 商業
21 金融・保険
22 不動産
23 運輸
24 通信・放送
25 公務
26 教育・研究
27 医療・保健・社会保障・介護
28 その他の公共サービス
29 対事業所サービス
30 対個人サービス
31 事務用品
32 分類不明
最終消費による排出量
総排出量(間接的な排出を考慮)
(為替ベース)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPベース)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
-90-
投入(Input)
間接的排出量合計
01 農林水産業
02 鉱業
03 食料品
04 繊維製品
05 パルプ・紙・木製品
06 化学製品
07 石油・石炭製品
08 窯業・土石製品
09 鉄鋼
10 非鉄金属
11 金属製品
12 一般機械
13 電気機器
14 輸送機器
15 精密機械
16 その他の製造工業製品
17 建設
18 電力・ガス・熱供給
19 水道・廃棄物処理
20 商業
21 金融・保険
22 不動産
23 運輸
24 通信・放送
25 公務
26 教育・研究
27 医療・保健・社会保障・介護
28 その他の公共サービス
29 対事業所サービス
30 対個人サービス
31 事務用品
32 分類不明
最終消費による排出量
総排出量(間接的な排出を考慮)
(為替ベース)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPベース)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
12,117
0
0
14
442
2,520
2
330
150
0
0
0
0
0
0
0
0
0
7,538
1,121
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
12,117
899,329
13
630,759
19
71,579
249
50,203
355
商業
水道・廃棄
物処理
5,674
0
0
0
16
86
296
179
86
11
0
0
0
0
0
0
0
0
3,097
1,903
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
12,167
17,841
20
19
9
248,207
6
353,891
2,143
0
0
0
79
573
2
35
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,073
377
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,143
金融・保険
21
4
428,449
3
610,878
1,862
0
0
0
3
136
4
101
12
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,474
133
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,862
不動産
22
65
311,691
45
444,405
16
144,044
12
205,376
2,372
0
0
0
24
166
46
55
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,594
487
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,372
通信・放送
24
30
235,692
21
336,047
7,016
0
0
9
114
240
81
504
34
3
0
0
0
0
0
0
0
0
3,563
2,469
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
7,016
公務
25
42
236,135
30
336,678
9,975
0
0
15
11
537
438
482
238
0
0
0
0
0
0
0
0
0
6,724
1,529
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
9,975
教育・研究
26
92
286,311
65
408,219
22
27,536
16
39,261
13
496,070
9
707,291
67
380,283
47
542,203
27
28
29
30
医療・保健
その他の公 対事業所サ 対個人サー
・社会保障
共サービス
ービス
ビス
・介護
26,413
610
6,465
25,327
0
0
0
0
0
0
0
0
559
6
0
5,645
228
105
201
317
711
212
1,132
1,265
16,556
22
676
1,145
386
42
254
527
240
20
247
685
1
0
24
5
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
6,003
146
3,641
10,929
1,727
56
289
4,809
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
26,413
610
6,465
25,327
表 4-10 日本のSO2排出の産業連関(続き)
20,180
0
0
8
139
1,072
56
12,686
15
54
0
0
0
0
0
0
0
0
5,194
957
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
20,180
運輸
23
254
11,985
178
17,089
3,050
0
0
0
49
2,678
299
0
24
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
3,050
事務用品
31
41
27,406
29
39,075
1,128
0
0
1
47
233
198
86
130
88
0
0
0
0
0
0
0
0
136
209
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,128
分類不明
32
0
0
12,548
6,086
51,407
62,448
28,333
35,034
59,898
0
0
0
0
0
0
0
0
103,891
20,553
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
中間消費に
よる排出量
(排出量単位:ton/年)
0
0
28,926
9,720
6,193
18,349
12,036
3,926
5,182
0
0
0
0
0
0
0
0
47,298
12,167
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
最終消費に
よる排出量
151,189
32,720
41,474
15,806
57,600
80,797
40,369
38,960
65,080
総排出量
-91-
35
0
0
0
2
2
3
2
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
15
9
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
35
12,789
2.7
8,970
3.9
133,300
3.5
93,492
5.0
鉱業
農林水産業
464
0
0
60
15
116
171
31
21
1
0
0
0
0
0
0
0
0
33
17
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
464
02
01
12.2
253,251
8.5
361,082
1,373
0
0
301
11
365
91
19
205
0
11
0
0
0
0
0
0
0
170
200
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,712
3,085
食料品
03
46.1
46,152
32.3
65,803
707
0
0
1
421
38
157
4
5
0
0
0
0
0
0
0
0
0
40
41
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,421
2,127
繊維製品
04
38.4
96,694
26.9
137,865
29.9
169,827
21.0
242,138
3,369
0
0
6
5
227
2,001
171
202
1
24
0
0
0
0
0
0
0
423
310
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,710
5,079
化学製品
06
11.1
84,472
7.8
120,440
43.4
54,451
30.4
77,635
07
08
石油・石炭 窯業・土石
製品
製品
201
1,288
0
0
0
0
0
0
1
5
0
94
10
53
110
17
10
884
0
32
0
8
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
50
127
19
69
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
739
1,076
940
2,364
46.4
111,643
32.5
159,179
4,487
0
0
0
3
9
27
44
173
3,849
30
0
0
0
0
0
0
0
280
72
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
691
5,178
鉄鋼
09
23.1
39,933
16.2
56,937
657
0
0
0
3
18
24
5
58
5
432
0
0
0
0
0
0
0
92
19
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
266
923
非鉄金属
10
11
18.4
87,524
12.9
124,790
1,610
0
0
0
4
36
34
5
63
1,149
181
0
0
0
0
0
0
0
104
33
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,610
金属製品
表 4-11 日本のばいじん排出の産業連関
05
パルプ・紙・
木製品
2,729
0
0
1
21
2,099
129
20
115
54
6
0
0
0
0
0
0
0
203
80
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
980
3,709
8.3
185,990
5.8
265,182
1,542
0
0
0
9
31
46
6
193
906
136
0
0
0
0
0
0
0
116
99
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,542
一般機械
12
6.4
347,448
4.5
495,388
2,229
0
0
0
31
179
139
7
765
337
384
0
0
0
0
0
0
0
267
119
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,229
電気機器
13
6.6
277,602
4.6
395,802
1,820
0
0
0
20
39
115
10
370
855
176
0
0
0
0
0
0
0
163
73
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,820
輸送機器
14
7.3
25,627
5.1
36,539
186
0
0
0
1
14
7
0
89
20
20
0
0
0
0
0
0
0
20
14
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
186
精密機械
15
12.2
212,352
8.6
302,768
16
その他の製
造工業製品
2,600
0
0
3
32
998
865
95
129
115
67
0
0
0
0
0
0
0
225
71
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,600
18.5
502,996
13.0
717,166
9,303
0
0
0
45
2,033
97
123
5,802
638
134
0
0
0
0
0
0
0
149
282
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
9,303
建設
17
24.3
125,492
17.0
178,926
18
電力・ガス・
熱供給
581
0
0
0
1
11
5
108
1
0
2
0
0
0
0
0
0
0
273
179
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,467
3,048
(排出量単位:ton/年)
(出所)2000 年産業連関表(総務省統計局ホームページ http://www.stat.go.jp/data/io/)、1999 年排出量データ(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)、
p24)、2000 年対米ドル為替レート・購買力平価レート(エネルギー・経済統計要覧 2003、pp225-226)を使用して作成した。
投入(Input)
間接的排出量合計
01 農林水産業
02 鉱業
03 食料品
04 繊維製品
05 パルプ・紙・木製品
06 化学製品
07 石油・石炭製品
08 窯業・土石製品
09 鉄鋼
10 非鉄金属
11 金属製品
12 一般機械
13 電気機器
14 輸送機器
15 精密機械
16 その他の製造工業製品
17 建設
18 電力・ガス・熱供給
19 水道・廃棄物処理
20 商業
21 金融・保険
22 不動産
23 運輸
24 通信・放送
25 公務
26 教育・研究
27 医療・保健・社会保障・介護
28 その他の公共サービス
29 対事業所サービス
30 対個人サービス
31 事務用品
32 分類不明
最終消費による排出量
総排出量(間接的な排出を考慮)
(為替レート)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPレート)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
-92-
投入(Input)
間接的排出量合計
01 農林水産業
02 鉱業
03 食料品
04 繊維製品
05 パルプ・紙・木製品
06 化学製品
07 石油・石炭製品
08 窯業・土石製品
09 鉄鋼
10 非鉄金属
11 金属製品
12 一般機械
13 電気機器
14 輸送機器
15 精密機械
16 その他の製造工業製品
17 建設
18 電力・ガス・熱供給
19 水道・廃棄物処理
20 商業
21 金融・保険
22 不動産
23 運輸
24 通信・放送
25 公務
26 教育・研究
27 医療・保健・社会保障・介護
28 その他の公共サービス
29 対事業所サービス
30 対個人サービス
31 事務用品
32 分類不明
最終消費による排出量
総排出量(間接的な排出を考慮)
(為替レート)
国内生産額(100万米ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万米ドル)
(PPPレート)
国内生産額(100万国際ドル)
国内生産額当り排出量
(kg/100万国際ドル)
産出(Output)
1,346
0
0
1
65
399
0
20
41
0
0
0
0
0
0
0
0
0
393
427
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,346
899,329
1.5
630,759
2.1
71,579
78.1
50,203
111.4
商業
水道・廃棄
物処理
965
0
0
0
2
14
28
11
24
2
0
0
0
0
0
0
0
0
162
724
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
4,628
5,594
20
19
1.2
248,207
0.9
353,891
305
0
0
0
12
91
0
2
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
56
143
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
305
金融・保険
21
0.4
428,449
0.3
610,878
5.2
311,691
3.6
444,405
1,621
0
0
0
20
170
5
779
4
7
0
0
0
0
0
0
0
0
271
364
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,621
運輸
23
2.1
144,044
1.5
205,376
306
0
0
0
4
26
4
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
83
185
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
306
通信・放送
24
5.2
235,692
3.7
336,047
1,230
0
0
1
17
38
8
31
9
0
1
0
0
0
0
0
0
0
186
939
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,230
公務
25
4.9
236,135
3.4
336,678
1,156
0
0
1
2
85
41
30
65
0
0
0
0
0
0
0
0
0
351
582
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1,156
教育・研究
26
9.8
286,311
6.8
408,219
3.2
27,536
2.3
39,261
1.3
496,070
0.9
707,291
8.7
380,283
6.1
542,203
27
28
29
30
医療・保健
その他の公 対事業所サ 対個人サー
・社会保障
共サービス
ービス
ビス
・介護
2,793
88
660
3,312
0
0
0
0
0
0
0
0
33
0
0
334
33
15
29
46
113
33
179
200
1,543
2
63
107
24
3
16
32
66
6
68
188
0
0
3
1
11
0
2
4
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
313
8
190
570
657
21
110
1,830
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,793
88
660
3,312
表 4-11 日本のばいじん排出の産業連関(続き)
159
0
0
0
0
21
0
6
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
77
51
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
159
不動産
22
38.9
11,985
27.3
17,089
466
0
0
0
7
424
28
0
7
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
466
事務用品
31
7.5
27,406
5.2
39,075
205
0
0
0
7
37
18
5
36
12
3
0
0
0
0
0
0
0
7
80
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
205
分類不明
32
0
0
742
889
8,138
5,820
1,741
9,603
7,986
1,635
0
0
0
0
0
0
0
5,418
7,819
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
中間消費に
よる排出量
0
0
1,712
1,421
980
1,710
739
1,076
691
266
0
0
0
0
0
0
0
2,467
4,628
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
最終消費に
よる排出量
7,885
12,447
2,454
2,310
9,118
7,530
2,480
10,679
8,677
1,901
総排出量
(排出量単位:ton/年)
3.各産業の環境対策の評価
本章 第 1 節での分析結果から、主要汚染物質の排出量が多い業種として、火力発電、セメン
ト、鉄鋼、紙・パルプを選定し、汚染物質の排出原単位の日中比較を行い、評価する。金額ベー
スの比較では共通単位の金額に換算する方法の違いによって、排出原単位が大幅に変動し、どの
データを信頼すればよいかという問題が生じる(13)ため、ここでは物量ベースの排出原単位(製品
生産 1 単位当りの汚染物質排出量)で評価した。
3.1
電力
中国の電力の伸びは著しく、2002 年末時点で、発電設備容量は 3.57 億 kW、年間発電電力量
が 1 兆 6,542 億 kWh に達し、世界第 2 位の電力生産・消費大国である。また、全体に占める石
炭火力発電の割合が大きく、発電電力量の伸びとともに石炭火力発電も伸びている。
1,600,000
発電電力量(GWh)
1,400,000
その他
原子力
水力
天然ガス
石油
石炭
1,200,000
1,000,000
800,000
600,000
400,000
200,000
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
1985
1984
1983
1978
1973
1971
0
図 4-11 中国の発電電力量の推移
(出所)IEA 統計「Energy Balances of Non-OECD Countries」
(1)汚染物質の排出原単位
表 4-12 は、SO2、NOx、ばいじんの発電電力量 1kWh当りの排出量について、日本、中国、韓
国を比較したものである。中国の排出原単位は日本に比べて非常に大きいことが分かる。
・ SO2排出原単位は、中国は日本の 21 倍
・ NOx 排出原単位は、中国は日本の 14 倍
・ ばいじん排出原単位は、中国は日本の 180 倍
日本
中国
韓国
表 4-12 火力発電業のSO2、NOx、ばいじんの排出原単位
SO2
NOx
0.28(2000 年)
0.23(2000 年)
3.98(2000 年)
4.92(2002 年)
0.83(1999 年)
0.88(1999 年)
(単位:g/kWh)
ばいじん
0.012(1999 年)
2.16(2002 年)
1.52(1999 年)
(出所)日本:SO2、NOx…電気事業連合会ホームページ(http://www.hepc.or.jp)
ばいじん…排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要))/発電電力量(電気事業便覧)
中国:SO2、ばいじん…排出量(中国環境年鑑 2003)/発電電力量(中国電力年鑑 2003)
NOx…排出量(米アイオワ大学 CGRER の Emission Data)/発電電力量(中国電力年鑑 2002)
韓国:排出量/発電電力量(韓国環境統計年鑑 2002)
−93−
図 4-12∼14 は、それぞれ、SO2、NOx、ばいじんの排出原単位の推移を示す。中国の排出原
単位は低下しているが、非常に高い水準である。また、発電電力量の伸びにより、火力発電所か
SO2排出原単位(g/kWh)
らのSO2排出量は増えており(2001 年 654 万t→2002 年 666 万t)(図 4-16 参照)、問題である。
6.0
日本
中国
韓国
日本(T社)
5.0
4.0
3.0
5.43
4.92
2.0
0.88
1.0
0.23
0.0
1990 1991 1992
1993 1994 1995 1996 1997 1998
0.16
1999 2000 2001 2002
図 4-12 日中韓の火力発電所SO2排出原単位の推移
NOx排出原単位(g/kWh)
(出所)日本:電気事業連合会ホームページ(http://www.hepc.or.jp)
中国:SO2排出量(中国環境年鑑 2002)/発電電力量(中国電力年鑑 2002)
韓国:SO2排出量/発電電力量(韓国環境統計年鑑 2002)
4.0
3.98
日本
中国
韓国
日本(T社)
3.0
2.0
1.0
0.83
0.0
1990 1991
1992 1993 1994
1995 1996 1997
0.28
1998 1999 2000
0.20
2001 2002
図 4-13 日中韓の火力発電所 NOx 排出原単位の推移
ばいじん排出原単位(g/kWh)
(出所)日本:電気事業連合会ホームページ(http://www.hepc.or.jp)
中国:NO2排出量(米アイオワ大学CGRERのEmission Data)/発電電力量(中国電力年鑑 2002)
韓国:NO2排出量/発電電力量(韓国環境統計年鑑 2002)
3.0
日本
中国
韓国
2.5
2.0
1.5
2.41
1.52
2.16
1.0
0.5
0.0
1990 1991 1992
0.012
1993 1994 1995 1996 1997 1998
1999 2000 2001 2002
図 4-14 日中韓の火力発電所ばいじん排出原単位の推移
(出所)日本:ばいじん排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要))/発電電力量(電気事業便覧)
中国:ばいじん排出量(中国環境年鑑 2002)/発電電力量(中国電力年鑑 2002)
韓国:ばいじん排出量/発電電力量(韓国環境統計年鑑 2002)
−94−
(2)中国の汚染物質排出原単位が高い原因
中国の汚染物質排出原単位が高い原因は、
1) 石炭を大量に使用しているにもかかわらず、対策が不十分である
2) 低発電効率のため燃料を多量に消費し、その分、汚染物質も多量に排出する
ためである。
(a) 高い石炭火力発電比率(中国 76.2%:日本 23.1%)
表 4-13 は、発電電力量ベースの電源構成に関する日中比較である。中国は発電電力量の
76.2%が石炭燃焼によるものであり、石炭火力の比率が日本よりはるかに高い。
石炭燃焼排ガスの性状は重油燃焼排ガスと異なり、一般的には次ぎのような特徴がある(8)。
1) 炭種にもよるが、一般的にSO2濃度が高い。また、NOx濃度も高い。
2) 灰分が極めて多く、ばいじん濃度が重油の場合と比べて 100 倍以上である。また、
電気集じん装置におけるばいじんの捕集性能は炭種により異なる。
表 4-13 発電電力量ベースの電源構成に関する日中比較(2001 年)
火力計
中国(十億 kWh)
(%)
日本(十億 kWh)
(%)
1174.8
79.8
612.6
59.3
非火力計
石炭
1122.0
76.2
238.7
23.1
石油
47.4
3.2
117.2
11.3
天然ガス
5.4
0.4
256.7
24.9
296.8
20.2
420.6
40.8
合計
水力
277.4
18.9
84.2
8.2
原子力
17.5
1.2
319.9
31.0
その他
1.9
0.1
16.5
1.6
1471.7
100.0
1033.2
100.0
(出所)IEA 統計「Energy Balances of Non-OECD Countries」、「Energy Balances of OECD Countries」
(b) 低い排煙脱硫装置の設置率(石炭火力…中国 2.2%:日本 93.7%)
表 4-14 に、排煙脱硫装置の設置状況に関する日中比較を示す。
2000 年末現在、中国では、石炭火力に設置された排煙脱硫装置の総容量は約 500 万 kW
であり、発電設備容量に対する比率は僅か 2.2%である。建設中の排煙脱硫装置を合わせると
1100 万 kW である(中国電力年鑑 2003, p39)が、それが完成しても石炭火力の 4.8%にしかな
らない。それに対し、日本では、石炭火力に設置された排煙脱硫装置は、発電設備容量の 93.7%
に達している。
石油火力に関しては、中国が排煙脱硫装置を設置していないが、日本は発電設備容量の
21.2%に脱硫装置を設置している。また、日本の場合、石油火力は低硫黄原油と精製過程で
脱硫処理を行った低硫黄重油を主な燃料としている。これが石炭火力よりも石油火力の排煙
脱硫装置の設置率が低い原因である。
天然ガス火力については、日本は全てLNGを燃料としている。天然ガスはSO2を微量に含
むが、LNGへの転換加工段階で全て脱硫されるので、発電過程でSO2が発生しない。したが
って、LNG火力に脱硫装置を設置する必要はない。一方、中国では、ガス火力はLNG火力
ではないが、石油火力と同様、脱硫装置が設置されていない。
−95−
表 4-14 排煙脱硫装置の設置状況に関する日中比較
中国(6000kW 以上の電力事業者ベース)
日本(全国ベース)
発電設備
脱硫設備
脱硫設備比率
発電設備
脱硫設備
脱硫設備比率
(MW)
(MW)
(%)
(MW)
(MW)
(%)
石炭火力
230,169
5,000
2.2
30,403
28,486
93.7
石油火力
5,214
0
0
50,112
10,623
21.2
ガス火力
5,768
0
0
57,567
0
0
火力計
241,151
5,000
138,082
39,109
(出所)①中国:「中国電力年鑑 2002」より作成。発電設備容量は 2001 年末、脱硫設備は 2000 年末。
②日本:2002 年 3 月 31 日現在
1) 発電設備容量は『電源開発の概要』平成 14 年度版の参考資料表 14「石炭等火力発電所一覧」
、表
15「LNG 火力発電諸一覧」及び表 17「石油火力発電所一覧」より作成。
2) 電源別脱硫装置の設置容量は『電源開発の概要』平成 14 年度版の参考資料表 18「排煙脱硫装置
の設置状況」より作成。
(c) 排煙脱硝装置は設置数ゼロ(設置率…中国 0%:日本は石炭火力 79.3%、ガス火力 71.8%)
表 4-15 に、排煙脱硝装置の設置状況に関する日中比較を示す。日本では排煙脱硝装置が
かなり設置されているが、中国では全く設置されていない。
日本では低 NOx 燃焼システムは当然のこととして採用した上で、さらに排煙脱硝装置を
設置しているのであるが、中国では、第 10 次 5 ヵ年計画において、石炭火力発電所の新設
時に低 NOx 燃焼システムの採用が義務付けられた程度である。
表 4-15 排煙脱硝装置の設置状況に関する日中比較
中国(6000kW 以上の電力事業者ベース)
日本(全国ベース)
発電設備
脱硝設備
脱硝設備比率
発電設備
脱硝設備
脱硝設備比率
(MW)
(MW)
(%)
(MW)
(MW)
(%)
石炭火力
230,169
0
0
30,403
24,295
79.9
石油火力
5,214
0
0
50,112
20,013
39.9
ガス火力
5,768
0
0
57,567
41,331
71.8
火力計
241,151
0
138,082
85,639
(出所)①中国:「中国電力年鑑 2002」より作成。発電設備容量は 2001 年末、脱硫設備は 2000 年末。
②日本:2002 年 3 月 31 日現在
1) 発電設備容量は『電源開発の概要』平成 14 年度版の参考資料表 14「石炭等火力発電所一覧」
、表
15「LNG 火力発電諸一覧」及び表 17「石油火力発電所一覧」より作成。
2) 電源別脱硝装置の設置容量は『電源開発の概要』平成 14 年度版の参考資料表 19「排煙脱硝装置
の設置状況」より作成。
(d) 低い汽力発電効率(中国 34.50%:日本 41.03%)
図 4-15 は、日本と中国の汽力発電熱効率を比較したものである。2002 年現在の熱効率は、
日本が 41.03%(発電端)であるのに対し、中国は 34.50%(発電端)である。推移をみると、
両者の差が 1980 年の 8.38 ポイントから 2002 年の 6.53 ポイントへ 1.85 ポイント縮小した。
中国の火力発電所の熱効率の向上速度が、日本の汽力発電の熱効率の向上速度よりやや速い
と推測できるが、これは、「改革開放」による経営効率の向上に加え、熱効率の起点が日本
と比べてあまりにも低いことがその背景であろう。
中国の発電効率が低い原因は、老朽化した小規模火力発電ユニットの使用、大容量・高効
率ユニットが少ないこと、及び管理技術の低さが原因である。
−96−
45
41.03
39.39
40
汽力発電熱効率(%)
35
34.50
32.07
30
25
日本(発電端)
日本(送電端)
中国(発電端)
中国(送電端)
20
15
10
5
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
図 4-15 日本と中国の汽力発電熱効率比較
(注)中国は 6000kW 以上の火力平均、日本は9電力会社の汽力平均。日本の場合、火力平均ではなく、汽力だ
けであり、熱効率の高い複合発電が含まれていないことに注意が必要。
(出所)中国は「中国電力年鑑(2003 年版)」、日本は「電気事業便覧」各年版
(3)評価
図 4-16 に、電力・熱供給業からのSO2排出量の推移を示す。第 9 次 5 ヵ年計画期間(1996∼
2000 年)に、SO2排出量が削減できた理由は、主に小型火力発電ユニットの閉鎖と「両控区」内
の火力発電所の低硫黄炭への転換によるものである(中国電力年鑑 2002, p53)。しかし、これらの
対策により、SO2排出原単位は少し下がってはいるが、日本と比べると非常に高い値である。さ
らに最近では、電力需要の増大とともに火力発電所からのSO2排出量は
再び増加に転じている。第 10
SO2 排 出 量 を 2005 年 ま で に
2000 年比で 10∼20%削減する
という目標(中国電力年鑑 2002,
p49)の達成は難しそうである。
SO2排出量(万t)
次 5 ヵ年計画での、電力業の
したがって、これまでの小型
火力発電ユニット閉鎖や低硫
900
800
700
600
654 666
500
電力・熱供給業
400
300
火力発電
200
100
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
図 4-16 中国の電力・熱供給業のSO2排出量推移
黄炭への転換を進めるのみで
500
に加えてさらに以下の対策を
進めなければならない。
① 排煙脱硫装置の設置推進
② 高効率ユニットへの転換
③ 燃料のさらなる低硫黄化
④ 高性能集塵装置の設置
ばいじん排出量(万t)
は対策は不十分であり、これら
400
300
290 292
電力・熱供給業
火力発電
200
100
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
図 4-17 中国の電力・熱供給業のばいじん排出量推移
(出所)図 4-17, 18 とも
−97−
中国環境年鑑各年版
3.2
セメント
1977 年の改革、開放発表以来、中国のセメント産業はかつてないほどめざましく発展を遂げて
きた。中国のセメント生産量は改革、開放初期の 1978 年の年間 6,524 万 t から 2001 年の 6.27
億 t に増加した。これは実に 24 年間で約 10 倍の伸びである。1985 年より中国は世界第 1 位の
セメント生産および消費国であり、2001 年においては全世界のセメント生産 16.88 億 t の 37.1%
を占める。国民 1 人当りの年間セメント消費においても、2001 年の中国は 491kg であり、米国
395kg、フランス 349kg、イギリス 210kg より多く、世界平均 274kg を大きく上回っている。
70,000
62,717
58,620
セメント生産量(万t)
60,000
51,427
50,000
49,100
47,593
42,124
36,005
40,000
30,884
30,000
21,013
20,000
18,625 20,925
16,606
10,000 14,595
0
1985
57,300
53,600
1987
1989
24,478
20,971
1991
1993
1995
1997
1999
2001
図 4-18 中国のセメント生産量推移
(出所)(社)セメント協会「セメントハンドブック」2003 年度版 p28
その他
41.1%
中国
インド
アメリカ
中国
37.1%
日本
韓国
スペイン
その他
世界合計
インド
スペイン
6.2%
韓国
アメリカ
日本
2.4%
3.2% 4.7%
5.3%
図 4-19 世界主要国のセメント生産量
(出所)(社)セメント協会「セメントハンドブック」2003 年度版 p28
−98−
生産量(万t)
62,717
10,475
8,890
7,946
5,366
4,052
69,381
168,827
(1)汚染物質の排出原単位
表 4-16 は、SO2、ばいじんのセメント製品 1t当りの排出量について、日本と中国を比較したも
のである。なお、NOxについては、中国の排出量データが得られなかったため、日本と比較でき
ない。中国の排出原単位は日本に比べて非常に大きいことが分かる。
・ SO2排出原単位は、日本の 12 倍
・ ばいじん排出原単位は、日本の 19 倍
表 4-16 セメント業のSO2、ばいじんの排出原単位(2002 年)
SO2
ばいじん
0.111
0.031
日本
1.312
0.585
中国
(単位:kg/t-セメント)
NOx
1.717
NA
(出所)日本:太平洋セメント㈱の例(太平洋セメント環境報告書より)
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/セメント生産量(中国統計年鑑 2003)
図 4-20、図 4-21 は、それぞれ、SO2、ばいじんの排出原単位の推移を示す。中国の排出原単
位は少し低下しているが、非常に高い水準である。また、セメント生産量の伸びにより、セメン
SO2排出原単位(kg/t-セメント)
ト業からのSO2及びばいじん排出量は増えており、問題である(図 4-22、図 4-23 参照)。
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1992
1.312
中国
日本
0.111
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-20 日本、中国のセメント業SO2排出原単位の推移
ばいじん排出原単位(kg/t-セメント)
(出所)日本:太平洋セメント㈱の例(太平洋セメント環境報告書より)
中国:SO2排出量(「中国環境年鑑」各年版)/セメント生産量(中国統計年鑑 2003)
1.4
中国
日本
1.2
1.0
0.8
0.6
0.585
0.4
0.2
0.0
1992
0.031
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-21 日本、中国のセメント業ばいじん排出原単位の推移
(出所)日本:太平洋セメント㈱の例(太平洋セメント環境報告書より)
中国:ばいじん排出量(「中国環境年鑑」各年版)/セメント生産量(中国統計年鑑 2003)
−99−
120
SO2排出量(万t)
100
80
60
40
20
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2001
2002
図 4-22 中国のセメント業のSO2排出量推移
(出所)中国環境年鑑各年版
ばいじん排出量(万t)
70
60
50
40
30
20
10
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
図 4-23 中国のセメント業のばいじん排出量推移
(出所)中国環境年鑑各年版
(2)中国の汚染物質排出原単位が高い原因
中国の汚染物質排出原単位が高い原因は、
1) エネルギー効率と生産性が低い設備の多さ、つまり、時代遅れの技術と小規模工場の多さ
2) 不十分な集塵設備とメンテナンス不良
のためである。
(a) 低いエネルギー効率(エネルギー原単位…中国 171kgce/t-セメント:日本 120kgce/t-セメント)
図 4-24 に、日本及び中国のセメント生産のエネルギー原単位の推移を示す。セメント製
造にかかるエネルギー消費は、セメント 1t当り、中国 171 kgce注)(2000 年)、日本 120 kgce
(2001 年)である。2000 年における中国のエネルギー利用効率は日本の 1974 年に相当す
る。
注)
kgce:石炭換算キログラム(1kgce=7,000kcal)
−100−
220
kgce/t-セメント
200
日本
中国
180
中国:171kgce/t-セメント(=5,011MJ/t-セメント)
160
(2000 年)
140
日本:120kgce/t-セメント(=3,517MJ/t-セメント)
(2001 年)
120
100
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
図 4-24 日本、中国のセメント生産のエネルギー原単位の推移
(出所)沈中元、中国の省エネルギー潜在力、日本エネルギー経済研究所研究レポート、2003 年 7 月
中国のセメントのエネルギー原単位が高い原因は主に 2 つある。1 つは、中国の平均生産
規模が極めて小さいこと、もう 1 つは、世界で主流である生産技術(NSP・SP方式注))の
普及率が低く、今も時代遅れの技術(竪窯)が中国での主流であること、である。
(b) 平均生産規模が極めて小さい(中国 14 万t/工場:日本 227 万t/工場)
中国のセメント産業の特色は、非常に企業数・工場数が多く、また小規模の工場が圧倒的
に多いことである。これは他の国と比べると際立っている(表 4-17 参照)。
2001 年における 1 工場当りのセメント生産量は、中国は 14 万 t、日本は 227 万 t であり、
中国の平均生産規模は日本の 16 分の 1 である。
表 4-17 世界主要国のセメント企業数と製造能力(2001 年)
項目
国名
中国
日本
インド
韓国
インドネシア
台湾
アメリカ
企業数
(4,500)
20
53
9
9
10
43
一貫工場
(4,500)
35
119
11
12
13
111
キルン能力(千 t)
(740,000)
83,309
121,520
61,309
42,572
24,865
89,100
項目
国名
ブラジル
ロシア
イタリア
ドイツ
スペイン
フランス
イギリス
企業数
(出所)(社)セメント協会「セメントハンドブック」2003 年度版 p29
キルン能力(千 t)
一貫工場
(31)
(50)
25
38
16
6
4
(54)
(50)
60
62
37
33
15
(注)(
(43,200)
(70,000)
(41,000)
(42,000)
(34,000)
(23,100)
(12,600)
)内は推定
注) SP:複数の大型サイクロンを組み合わせた熱交換設備(プレヒータ)を備えたサスペンションヒータ付キ
ルン方式
NSP:プレカルサイナ(仮焼炉)付 SP 方式
−101−
(c) 時代遅れの技術(中国…竪窯 78%:日本…竪窯ゼロ)
現在、世界の主要国および東南アジア諸国においては、高効率、高能力、省エネルギータ
イプの NSP キルンへの転換が急速に進み、例えば日本においては 2003 年において全キルン
製造能力の 84.0%が NSP キルン、残りの 16.0%が SP キルンとなっており、その他のキルン
は全く使用されていない。
一方、中国におけるセメントクリンカ焼成窯の様式は、効率の悪い竪窯が非常に多いのが
特色である。正確な数は把握できないが、生産量の比率からすれば 2000 年において竪窯に
よるセメント生産量は全体の 78%を占めている。NSP・SP 方式は全体の 12%でしかない(表
4-18 参照)。
改革開放以来、大型セメント工場の建設も始まり、高効率、省エネルギータイプの乾式
NSP キルン生産ラインの建設も行われてきており、日産 2,000t 以上の能力の NSP キルンも
40 数ラインある。しかし回転窯にしても湿式キルン、ボイラ付乾式キルンなども多くあり、
相対的に古く、エネルギー効率と生産性が低い設備が多いのが現状である。
このように、中国は、セメント生産量は世界第 1 位であるが、生産設備は世界水準より大
きく立ち遅れている。
表 4-18 中国のキルン様式別生産量
品
質
高
品
質
低
品
質
製造
様式
キルン様式
NSP(窯外分解炉付 SP)
NSP(室外分解炉付 SP)
SP(サイクロンプレヒータ付)
半乾式(湿式ロングキルンより改造)
乾式
廃熱ボイラ付乾式
レポール式
その他(殆どは旧式小型キルン)
計
湿
式
小
計
改良式
竪窯 機械式
手動式
小
計
合
計
キルン能力
(t/d)
700∼7,200
300∼600
100∼1,000
700∼2,000
500∼1,000
400∼600
50∼400
400∼800
250∼350
100∼250
50∼160
1997 年セメント生産高
(百万トン)
構成比(%)
33.6
6.6
?
?
10
2
3
0.6
10
2
3
0.6
9
1.8
68.9
13.6
31.6
6.2
100.2
19.8
41.8
8.2
300
58.8
68
13.2
409.8
80.2
510.0
100.0
2000 年セメント生産高
(百万トン)
構成比(%)
48.6
8.3
6.4
1.1
12.3
2.1
3.5
0.6
11.7
2.0
2.9
0.5
8.8
1.5
94.2
16.1
35.7
6.1
129.9
22.2
68.4
11.7
323.5
55.3
62.6
10.7
454.5
77.8
584.4
100.0
品質規格
525∼625
525∼625
325∼525
325∼525
325∼525
425∼525
325∼525
325∼625
425∼525
325∼425
∼325
(出所)NEDO 共同実施等推進基礎調査「中国本渓市鉄鋼業とセメント業の省エネルギー化」(平成 14 年 3 月)
中国のSO2排出原単位が高い原因は、エネルギー効率の低さと生産量全体の 8 割を占める竪窯
による。NSP・SP方式では燃焼ガス中の硫黄酸化物は原料に吸着されるのでSO2排出は抑えられ
るが、竪窯は熱効率が悪いばかりでなく、完全燃焼していない部分があることで硫黄酸化物が完
全に原料に吸着されないためSO2排出が多いと考えられる。
また、ばいじん排出原単位が中国で高い原因は、日本では電気集塵器やバグフィルターが設置
されているのに対し、中国では設置されていなかったり、設置されていてもメンテナンス不良の
問題があったりすることが考えられる。
−102−
(3)評価
中国政府は、1997 年には「深刻な環境(大気)汚染をもたらす淘汰技術と設備リスト」に関す
る通達を出し、通知公布日までに普通竪窯を淘汰、1997 年末までにφ2m以下の機械式竪窯を淘
汰、2000 年末までにφ2.2m以下の機械式およびφ2.4m以下の小型回転窯を淘汰するとした。ま
た、「五小」整理整頓活動注)で小規模セメント工場の生産制限・閉鎖を進めてきている。1995 年
にはセメント企業が 8,435 社あった(11)のが、2001 年には推定 4,500 社(12)に減少している。それ
らがエネルギー原単位の低下やSO2・ばいじん排出原単位の若干の低下につながってきているよ
うである。
しかし、これらの原単位は日本と比べると非常に高く、また、SO2及びばいじん排出量はセメ
ント生産量の増加とともに増加している。また、第 10 次 5 ヵ年計画では「竪窯の新設・禁止、
新型乾式(NSP・SP方式)生産量の比重を 20%以上にする」というように目標レベルは非常に
低い。
したがって、
① NSP・SP 方式の拡大
② 小規模セメント工場の淘汰
③ 集塵装置設置
等をいっそう加速する必要がある。
注)
「五小」整理整頓:技術が遅れ、資源を浪費し、大気環境を汚染する、小規模炭坑・小規模セメント・小
規模ガラス・小規模火力発電・小規模製鉄、など 5 業種の小規模企業の淘汰・閉鎖。
−103−
3.3
鉄鋼
中国の鉄鋼生産量は、経済の発展を背景に、一貫して増加してきている。2002 年の粗鋼生産量
は 1 億 8237 万 t で、世界第 1 位の鉄鋼生産国である。
20,000
18,000
粗鋼生産量(万t)
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1985
1990
1995
図 4-25 中国の粗鋼生産量の推移
2000
(出所)中国統計年鑑 2003
(1)汚染物質の排出原単位
表 4-19 は、SO2、ばいじんの粗鋼 1t当りの排出量について、日本と中国を比較したものである。
なお、NOxについては、中国の排出量データが得られなかったため、日本と比較できない。中国
の排出原単位は日本に比べて非常に大きいことが分かる。
・ SO2排出原単位は、日本の 7 倍
・ ばいじん排出原単位は、日本の 24 倍
表 4-19 鉄鋼業のSO2、ばいじんの排出原単位 (単位:kg/t-粗鋼)
NOx
SO2
ばいじん
日本
0.66(1999 年)
0.09(1999 年)
1.01(1999 年)
NA
中国
4.46(2002 年)
2.18(2002 年)
(出所)日本:排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)pp.22-24)
/粗鋼生産量(新日鉄ガイド 2003)
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/粗鋼生産量(中国統計年鑑 2003)
図 4-26、図 4-27 は、それぞれ、SO2、ばいじんの排出原単位の推移を示す。中国の排出原単
位は少し低下しているが、非常に高い水準である。また、鉄鋼生産量の伸びにより、鉄鋼業から
のSO2排出量は 1999 年から再び増加(図 4-28 参照)、ばいじん排出量も 2000 年から再び増加(図
4-29 参照)に転じており、問題である。
−104−
SO2排出原単位(kg/t-粗鋼)
10
9
中国
8
日本
7
日本(S社)
6
5
4
4.46
3
2
0.66
1
0
1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001
図 4-26 鉄鋼業SO2排出原単位の推移
ばいじん排出原単位(kg/t-粗鋼)
(出所)日本:排出量(平成12年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要))/粗鋼生産量(新日鉄ガイド2003)
中国:排出量(
「中国環境年鑑」各年版)/粗鋼生産量(中国統計年鑑 2003)
7
6
中国
5
日本
4
3
2
2.18
1
0
1992
0.09
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-27 鉄鋼業ばいじん排出原単位の推移
(出所)日本:排出量(平成12年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要))/粗鋼生産量(新日鉄ガイド2003)
中国:排出量(
「中国環境年鑑」各年版)/粗鋼生産量(中国統計年鑑 2003)
SO2排出量(万t)
100
80
60
40
20
0
1992
1993
図 4-28
1994
1995
1996
1997
1998
中国の鉄鋼業のSO2排出量推移
1999
2000
2001
2002
(出所)中国環境年鑑各年版
ばいじん排出量(万t)
60
50
40
30
20
10
0
1992
1993
図 4-29
1994
1995
1996
1997
1998
1999
中国の鉄鋼業のばいじん排出量推移
−105−
2000
2001
2002
(出所)中国環境年鑑各年版
(2)中国の汚染物質排出原単位が高い原因
中国の汚染物質排出原単位が高い原因は、
1) 不十分な環境対策
2) エネルギー効率と生産性が低い設備の多さ
のためである。
(a) 不十分な環境対策
中国では排ガス脱硫装置がほとんど設置されていない。設置されているのは、新日本製鉄
㈱が NEDO 環境調和型モデル事業で実施した安陽製鉄所/コークス炉ガス脱硫設備ぐらい
である。また、脱硝設備は設置されていない。また、本章 第 1 節でも述べたように、製鉄
所周辺の大気中の 浮遊粒子状物質濃度は中国では日本の 15 倍、降下煤塵量は中国では日本
の 9 倍もあり、集塵設備が不十分であることが分かる。
(b) 低いエネルギー効率(エネルギー原単位…中国 1,010kgce/t-粗鋼:日本 650kgce/t-粗鋼)
表 4-20 は、各国鉄鋼業の粗鋼 1t 当りのエネルギー消費(エネルギー原単位)を比較した
ものである。中国の鉄鋼業の平均は 1,010 kgce で、日本の鉄鋼業平均 650 kgce の約 1.6 倍
である。
表 4-20 各国鉄鋼業のエネルギー原単位比較
日本鉄鋼業平均
欧米鉄鋼業平均
中国鉄鋼業平均
中国鉄鋼業大中企業平均
エネルギー原単位(kgce/t-粗鋼)
650
730
1,010
920
(出所)NEDO 共同実施等推進基礎調査「中国本渓市鉄鋼業とセメント業の省エネルギー化」(平成 14 年 3 月)
この差の大きな理由は、1950 年代に建設された旧式小型設備がまだ多数稼動していること
と、大手企業でも日本などで一般的な省エネルギー設備が設置されていない場合が多いこと
による。
1999 年の中国の鉄鋼メーカー数は 1,042 社(うち、粗鋼 50∼99 万tが 18 社、100 万t以上が 30
社、500 万t以上が 4 社)で、1995 年の 1,639 社からは 3 分の 2 に減っている(11)が、1 社当りの
生産は 12 万t(=1999 年粗鋼生産量 12426 万t/1042 社)であり、非常に小規模である。
図 4-30 は、日本と中国の省エネルギー設備普及率を比較したものである。中国では、日
本などでは一般的なCDQ(コークス乾式消火) 注)、TRT(高炉炉頂圧回収発電) 注)、OG
(転炉ガス回収発電)などの省エネルギー設備がほとんど設置されていないことが分かる。
またCC(連続鋳造)化の比率も日本と比べると低い。
注)CDQ:Coke Dry Quenching:乾留後排出された赤熱コークスを水で消火せず、窒素ガス等で消火するとと
もに、顕熱を回収する大型排熱回収設備。
TRT:Top-pressure Recovery Turbine:高炉の炉頂圧をタービンで制御するとともに、従来活用できなかっ
た圧力エネルギーを電力として回収する設備。
−106−
省エネ設備普及率
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
90%
97%
100%
97%
TRT
OG
CC化
82%
11%
CDQ
2%
3%
TRT
OG
中
CC化
国
CDQ
日
本
図 4-30 日本と中国の省エネルギー設備普及率比較
(出所)新日本製鉄㈱資料(鉄鋼業の取り組むべき環境問題 中国鉄鋼業への環境・省エネルギー技術移転)
(3)評価
中国政府は、「五小」
整理整頓活動で小規模製鉄工場の生産制限・閉鎖を進めてきている。また、
第 10 次 5 ヵ年計画の中でも、小型コークス炉、小規模製鉄所などの取締りを続け、小型高炉、
小型焼結炉、小型転炉など時代に遅れた技術・設備の淘汰、CDQ、連続鋳造など先進技術を採用
し、2005 年に大中型企業のエネルギー原単位を 0.8tce/t-粗鋼 以下まで下げ、鉄鋼業からのSO2や
ばいじん等の排出量を 10%低下させるとしている。小規模製鉄所の淘汰などによりSO2及びばい
じん排出原単位は低下している。
しかし、これらの原単位は日本と比べると非常に高いレベルであり、また、鉄鋼生産量の増加
によりSO2及びばいじん排出量は 2000 年のより増加しており、鉄鋼部門での主要汚染物の排出量
10%削減というのは達成困難であろう。
したがって、
① 脱硫装置
② 集塵装置
③ 省エネ設備(CDQ、TRT、OG、CC 等)
等の導入加速が必要である。
−107−
3.4
紙・パルプ
中国の紙・板紙生産量は、1998 年に減少したものの、1999 年から再び増加しており、特に最
近の増加は著しい(図 4-31 参照)。
5,000
紙・板紙生産量(万t)
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002
図 4-31 中国の紙・板紙生産量の推移
(出所)中国統計年鑑 2003
(1)汚染物質の排出原単位
表 4-21 は、SO2、ばいじん、CODの紙・板紙製品 1t当りの排出量について、日本と中国を比
較したものである。なお、NOxについては、中国の排出量データが得られなかったため、日本と
比較できない。中国の排出原単位は日本に比べて非常に大きいことが分かる。
・ SO2排出原単位は、日本の 4 倍
・ ばいじん排出原単位は、日本の 21 倍
・ COD排出原単位は、日本の 1.5∼6 倍注)
日本
中国
表 4-21 紙・パルプ業の主要汚染物質の排出原単位 (単位:kg/t-製品)
COD
NOx
SO2
ばいじん
1.88(1999 年)
0.23(1999 年)
2∼8(CODMn)(2002 年) 1.68(1999 年)
NA
7.50(2002 年)
4.85(2002 年)
35.12(CODCr)(2002 年)
(出所)日本:大気関係…排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)pp.22-24)
/紙・板紙生産量(日本製紙連合会ホームページ)
COD…各社の環境報告書より
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/紙・板紙生産量(中国統計年鑑 2003)
図 4-32∼34 は、SO2、ばいじん、CODの排出原単位の推移を示す。中国の排出原単位は、い
ずれも 1998 年から低下しているが、日本と比べると非常に高い水準である。
注)CODについては、日本と中国の測定法の違い(日本はCODMn、中国はCODCrで、同じサンプルでもCODCr
はCODMnのおよそ 3 倍の値になる。第 3 章 8 節(1)参照。
)を考慮した。
−108−
SO2排出原単位(kg/t-製品)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1992
中国
7.50
日本
1.88
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-32 紙・パルプ業SO2排出原単位の推移
ばいじん排出原単位(kg/t-製品)
(出所)日本:排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)
)
/紙・板紙生産量(日本製紙連合会ホームページ)
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/紙・板紙生産量(中国統計年鑑 2003)
16
14
12
10
8
6
中国
4
日本
4.85
2
0
1992
0.23
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-33 紙・パルプ業ばいじん排出原単位の推移
COD排出原単位(kg/t-製品)
(出所)日本:排出量(平成 12 年度大気環境に係る固定発生源状況調査(結果概要)
)
/紙・板紙生産量(日本製紙連合会ホームページ)
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/紙・板紙生産量(中国統計年鑑 2003)
200
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
中国
日本(A社)
日本(B社)
35.12(CODCr)
2∼8(CODMn)
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
図 4-34 紙・パルプ業 COD 排出原単位の推移
(出所)日本:COD 排出原単位…各社の環境報告書より
中国:排出量(中国環境年鑑 2003)/紙・板紙生産量(中国統計年鑑 2003)
−109−
2001
2002
図 4-35∼37 は、中国の紙・パルプ業のSO2、ばいじん、COD排出原量推移を示す。SO2排出量
SO2排出量(万t)
は増加傾向、ばいじん排出量はほぼ横ばい、COD排出量は順調な低下、を示している。
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
図 4-35 中国の紙・パルプ業のSO2排出量推移
2000
2001
2002
(出所)中国環境年鑑各年版
ばいじん排出量(万トt)
35
30
25
20
15
10
5
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
COD排出量(万t)
図 4-36 中国の紙・パルプ業のばいじん排出量推移
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
図 4-37 中国の紙・パルプ業の COD 排出量推移
−110−
2000
2001
2002
(出所)中国環境年鑑各年版
2000
2001
2002
(出所)中国環境年鑑各年版
(2)中国の汚染物質排出原単位が高い原因
中国の汚染物質排出原単位が高い原因は、
1) 不十分な環境対策
2) エネルギー効率と生産性が低い設備の多さ
のためである。
大気関係の負荷軽減としては、日本の紙・パルプ業は、排煙脱硫装置・高性能除塵装置・排煙
脱硝装置の設置、燃料転換(石炭→低硫黄重油・天然ガス・バイオマス等)等を行っている。一
方、中国では、ようやくこれから石炭火力発電所に排煙脱硫装置が設置されていく段階なので、
紙・パルプ業での排煙脱硫装置・排煙脱硝装置設置はない。また、除塵装置の効率も不十分のよ
うである。また、パルプの漂白工程では塩素を使用するのが一般的だが、このプロセスでは有害
大気汚染物質のクロロホルムなどが発生するため、日本では ECF 漂白(元素状塩素を使用しな
い漂白方式、Elementary Chlorine Free)に順次転換しており、これにより COD 排出量も低減
している。
(3)評価
中国政府は、1996 年から始めた「十五小」企業取締りの中で、年産 5,000t 以下の製紙工場の
閉鎖を進めてきている。また、第 10 次 5 ヵ年計画の中でも、小規模製紙工場の淘汰を進めると
し、最低規模として年産 10 万 t、新設・増設の規模は年産 30 万 t としている。
小規模製紙工場の淘汰などにより主要汚染物質の排出原単位は低下している。しかし、これら
の原単位は日本と比べると高いレベルであり、COD排出量は低下しているが、特にSO2排出量は
紙製品生産量の増加とともに増加している。また、ばいじん排出量は横ばいで、低下していない。
したがって、
① 排煙脱硫装置
② 集塵装置設置
等を行う必要がある
−111−
4.経済発展段階と環境劣化との関係の評価
ここでは、日本、韓国、中国の 1 人当りSO2排出量を、環境クズネッツ曲線の考え方を用いて
整理し、中国の経済発展段階と環境劣化との関係を評価する。
4.1
環境クズネッツ曲線
環境クズネッツ曲線とは、図 4-38 に示すように、横軸に豊かさの指標をとり、縦軸に汚染水準
指標をとった場合に現れる逆U字型の曲線である。この概念は経済発展と環境汚染の関係を分析
する道具として、世界銀行の世界開発報告などで用いられている。
一般に逆U字型が現れる理由は、以下のように考えられている。すなわち、低所得の段階では
豊かになるにつれて環境汚染的な経済活動が活発になり汚染水準が上昇する(図中①)。一方で高
所得になると、環境汚染はピークを迎えた後に改善する(図中②、③)。この局面では、市民の環
境意識は高まり、また経済的余裕が生まれて、環境投資が実施される。さらに、産業構造変化、
汚染水準(1 人当りSO2排出量)
及びエネルギー利用構造変化などが環境改善に寄与する場合もある。
②
①
③
所得水準(1 人当り GDP)
図 4-38 環境クズネッツ曲線の概念図
−112−
4.2
経済発展段階と環境劣化との関係の評価
図 4-39 は、日本、韓国、中国の 1 人当りSO2排出量を 1 人当りのGDPに対してプロットした
もの(環境クズネッツ曲線)である。中国については、中国全国のほか、1 人当りGDPの高い地
域として、北京、天津、上海についてプロットした。以下に経済発展段階と環境劣化との関係を
評価する。
60
中国(全体)
50
1970 年
1980 年
中国(北京)
中国(天津)
1人当りSO2排出量(kg/年)
中国(上海)
日本
40
韓国
1992 年
1995 年
1992 年
1975 年
30
2002 年
1992 年
1995 年
20
2002 年
1999 年
1981 年
2002 年
2002 年
10
1950 年
1999 年
0
100
1,000
10,000
1人当りGDP(US$, 1995年価格)
100,000
図 4-39 日本、韓国、中国の 1 人当りGDPと 1 人当りSO2排出量の経年変化
(出所)「藤田慎一、大気汚染と酸性雨、地球環境 2002-’03(佐藤太英監修)、エネルギーフォーラム、pp248-262,
2002」
、総務省統計局、韓国環境統計年鑑、中国環境年鑑、中国統計年鑑、
「杉山大志、東アジア諸国の
SOx 排出動態に関する考察、電力中央研究所報告 Y97005」などのデータより作成
(1)日本
日本では、局所大気汚染対策が強力に推進されたことなどによって、SO2排出量は 1970 年頃を
ピークとしてその後著しく減少した。ここでは、燃料転換(特に、1966 年に始まった高硫黄分か
ら低硫黄分への重油の燃料転換が重要な役割を果たした。重油の平均硫黄分は、1965 年から 1987
年には 1.09%にまで減少している)及び、1970 年に開始された排煙脱硫装置の設置が重要な役割
を果たした。
−113−
(2)韓国
韓国では、低硫黄燃料への転換が重要な役割を果たした。重油の硫黄分は、韓国では 1980 年
の 4.0%から 1987 年には 2.64%に低下した。韓国は硫黄排出削減政策を 1981 年に開始した。
実際のSO2排出減少には、このような環境政策の他に、原油価格などのエネルギー価格の高騰、
産業構造変化など様々な要因が寄与したと考えられる。
韓国の 1 人当りSO2排出量ピークは、日本に比べて低所得側にシフトした。この要因には以下
の 2 つがあったと考えられる。
1) 初め、韓国では、開発優先・環境軽視の経済政策が採られた結果、その排出水準は日本
よりも所得水準の割に高く推移した。
2) しかし一方で、本格的なSO2排出削減政策施行は日本よりも低い所得水準で開始されてお
り、これには技術・制度両面での後発者利益が利用された。
(3)中国
中国のクズネッツ曲線は、1995 年に 1 人当りSO2排出量が 19.6kgという低いポイントでピー
クになり、その後は減少しており、ピークは日本や韓国に比べてかなり低所得側にシフトした。
アジア通貨危機後、環境施設への積極的財政支出を契機に、中国政府は環境対策に本腰を入れ
始めた。特に、北京オリンピックや上海万博の招致活動は、中国の環境問題がグローバルな関心
事となり、中国政府の環境対策を促す力となった。国債により調達した資金を環境対策に回すほ
か、環境規制の強化や国民所得の向上に伴う環境意識の芽生えもあり、図 4-40 が示すように、環
境対策費の GDP 比は 1998 年を境に上昇し、2002 年には 1.33%となっている。また、民主的な
プロセスが欠落している国であっても、公害は明確な失政であり、政争の種になりうるため、公
害問題がかつての韓国のように社会不安を引き起こす(一般に公害問題は反政府運動になりやす
く、民主化運動と結びつくことが多い)ことを懸念して、中国政府が環境対策に熱心になってき
環境投資対GDP比(%)
たとも考えられる。
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
86-90
91-95
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
図 4-40 中国の環境対策投資対 GDP 比の推移
(出所)金堅敏「中国環境ビジネスの市場性と日系企業」富士通総研経済研究所 研究レポート№185, 2004
過去の先進国の数字とこれを比較してみると、日本における 1970 年代初めの環境対策費は
1970 年代に増加を始め、1980 年代初めにはGDPの 1.3%に達した。当時のアメリカは 1.8%、西
ドイツは 1.85%、フランスは 1.1%であったという。また、別の見積りによれば、OECD諸国の環
−114−
境対策費用は 1970 年代以来GDPの 0.8%から 1.5%程度であった(21)。
2002 年の中国の環境投資額はGDP比の 1.33%ではあるが、これは、1 人当り 985 ドルという
レベルのGDP比率であり、これで十分な環境対策が行われることを意味しない。また、1 人当り
SO2排出量は韓国よりも低いレベルにあるが、それは人口が多いためであり、排出量の絶対値は
依然として莫大で、都市の大気質は依然として悪い状態にある。専門家の試算では、酸性雨規制
に基づく場合、全国で受け入れられるSO2容量は約 1,620 万トン、大気質 2 級基準を満足するた
めのSO2容量は約 1,200 万トンとなっている(18)(19)。
中国では、第 9 次 5 ヵ年計画(1996∼2000 年)で主要汚染物質の排出総量規制が始まり、各
種の規制強化が始まったため、SO2排出量が 1995 年をピークに減少しているのである。第 9 次 5
ヵ年計画期にSO2排出量が削減できた理由は、主に小型火力発電ユニットの閉鎖と「両控区」内
の火力発電所の低硫黄炭への転換によるものであり、排煙脱硫装置設置はあまり進まなかった。
中国は日本や韓国と 1 次エネルギー源の構成が違い、もともと高硫黄炭を大量に燃焼し、大量に
SO2を排出していたため、この程度の対策でもSO2排出量が減少したものと考えられる。1 人当り
所得が 4,000∼5,000 ドルに達した場合、経済成長は汚染問題の軽減を求める傾向があるといわれ
ていることを考慮すると、中国全体の 1 人当りGDPが 985 ドルというのはかなり低いため、1995
年をピークにSO2排出量が減少しているからといって、単純に経済成長が環境対策の強化を促す
段階にきているとは判断できず、なお一層の環境対策投資が必要である。
ただ、中国の 1 人当り GDP(名目、2002 年)は都市・地方の格差が大きく、全国平均では 985
ドル/人だが、所得の高い都市では、上海市 4,020 ドル/人、北京市 2,727 ドル/人、天津市 2,460
ドル/人であり、所得の高い都市部ではこの領域に入りつつある。
−115−
引用文献・資料等
(1) 「中国環境状況公報」各年版(http://www.zhb.gov.cn)
(2) 「中国環境年鑑」各年版
(3) 中国国家環境保護総局ホームページ(http://www.zhb.gov.cn)
(4) 米国アイオワ大学 CGRER の Emission Data (http://www.cgrer.uiowa.edu/EMISSION_DATA/index_16.htm)
(5) 東野晴行、外岡豊、柳沢幸雄、池田有光:東アジア地域を対象とした大気汚染物質の排出量推計(Ⅱ)
、大気
環境学会誌、30(6), pp374-390, 1995
(6) IEA Statistics, ‘’Energy Balances of OECD Countries’’, 2003 Edition
(7) IEA Statistics, ‘’Energy Balances of Non-OECD Countries’’, 2003 Edition
(8) 入門講座「火力発電所の環境保全技術・設備」火力原子力発電 Vol.53, №8
(9) 中国電力年鑑
(10) 李志東、中国電力産業の省エネルギー対策および CDM の適用に関する研究、国際エネルギー使用合理化基
盤整備事業[上]
、NEDO、平成 13 年 3 月
(11) NEDO 共同実施等推進基礎調査「中国本渓市鉄鋼業とセメント業の省エネルギー化」(平成 14 年 3 月)
(12) (社)セメント協会「セメントハンドブック」2003 年度版
(13) 沈中元「中国の省エネルギー潜在力」日本エネルギー経済研究所、研究レポート、2003 年 7 月
(14) 梁
秀山「中国のSO2排出課徴金と許可証取引制度」立命館大学政策科学会、政策科学 9 巻 2 号、2002 年
(15) 薛新民ほか「中国における小型火力発電所閉鎖の動き」中国能源 2003 年第 3 期
(16) 李志東「中国におけるエネルギー起源の環境問題と対策に関する中長期展望」
(17) 金堅敏「中国環境ビジネスの市場性と日系企業」富士通総研経済研究所 研究レポート№185, 2004
(18) 孫栄慶「我国の二酸化硫黄汚染の現状と対策」中国能源、第 25 巻
第7期
2003 年 7 月
(19) エネルギー戦略と改革国際シンポジウム(2003 年 11 月 5 日)「国家エネルギー戦略の基本構想」
(20) 中国統計年鑑
(21) 杉山大志「東アジア諸国の SOx 排出動態に関する考察」電力中央研究所報告 Y97005
−116−
第5章
我が国が比較優位にある環境関連技術の
分析
-117-
【要旨】
本章では、我が国が比較優位にある環境関連技術の分析を行った。
貿易統計データによる環境装置の輸出市場シェア分析では、日本のシェアは低下し、
アメリカのシェアは増加している。
環境産業の競争力の比較結果では、1 位アメリカ、2 位ドイツ、3 位フランス/イギリ
ス、4 位日本の順になる。
また、環境規制状況、ニーズ、競争力等を考慮し、東アジア環境市場への進出可能性
分野を検討した。
-118-
1.日本の環境産業の競争力
1.1
環境装置の輸出シェア
アメリカ-アジア環境パートナーシップ(US-AEP)は、アジア(US-AEP 国:韓国、香港、
台湾、フィリピン、インドネシア、シンガポール、ベトナム、マレーシア、タイ、スリランカ、
インド)におけるアメリカの環境産業の競争力を評価するため、貿易統計データを用いて、環境
装置の輸出市場シェアを分析している。以下はその結果をまとめたものである。
・ 日本は全世界でも、アジアでもシェアが低下しているが、アジアではなお優勢。
・ アメリカは全世界でも、アジアでもシェアを増加させている。
(1) 全環境装置
(a) 全世界
・ 1 位アメリカ 26%、2 位ドイツ 19%、3 位日本 15%。
・ 日本のシェアはしだいに低下してきている(18→15%)が、アメリカは着実に伸びてい
る(22→26%)。ドイツは変化なし。
(b) アジア
・ 1 位日本 39%、2 位アメリカ 27%、3 位ドイツ 8%
・ 日本のシェアは低下している(43→39%)が、アメリカは着実に伸びている(23→27%)。
ドイツは変化なし。
・ 日本はシェアを低下させているが、アジアではなお優勢。
10 0%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストラリア
韓国
オーストリア
デンマーク
台湾
中国
スウェーデン
カナダ
オランダ
フランス
イギリス
イタリア
日本
ドイツ
アメリカ
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
図 5-1 全環境装置輸出シェア(全世界)
図 5-2
1996
1997
1998
1999
カナダ
オーストリア
デンマーク
スウェーデン
オランダ
オーストラリア
フランス
韓国
中国
イギリス
イタリア
台湾
ドイツ
アメリカ
日本
全環境装置輸出シェア(アジア)
(2)排水処理装置
(a) 全世界
・ 1 位ドイツ 25%、2 位アメリカ 19%、3 位日本 10%
・ 日本のシェアはしだいに低下してきている(14→10%)が、アメリカは着実に伸びてい
る(16→19%)。ドイツも若干低下している(27→25%)。
-119-
(b) アジア
・ 1 位日本 31%、2 位アメリカ 17%、3 位ドイツ 12%
・ 日本シェアは大きく低下している(40→31%)が、アメリカは着実に伸びている(14→
27%)。ドイツは変化なし。
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストラリア
オーストリア
中国
台湾
カナダ
デンマーク
韓国
スウェーデン
オランダ
イギリス
イタリア
フランス
日本
アメリカ
ドイツ
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
図 5-3 排水処理装置輸出シェア(全世界)
1996
1997
1998
1999
デンマーク
カナダ
オーストリア
オーストラリア
スウェーデン
オランダ
イタリア
フランス
中国
イギリス
台湾
韓国
ドイツ
アメリカ
日本
図 5-4 排水処理装置輸出シェア(アジア)
(3)大気汚染防止装置
(a) 全世界
・ 1 位アメリカ 27%、2 位ドイツ 24%、3 位日本 10%
・ 日本のシェアは変化なし。アメリカ(24→27%)、ドイツ(20→24%)はシェアを伸ばし
ている。
(b) アジア
・ 1 位日本 31%、2 位アメリカ 30%、3 位ドイツ 13%
・ 日本のシェアは大きく低下している(38→31%)が、アメリカは伸びている(28→30%)。
ドイツも若干伸びている(12→13%)。
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストラリア
韓国
オーストリア
デンマーク
台湾
中国
スウェーデン
カナダ
オランダ
フランス
イギリス
イタリア
日本
ドイツ
アメリカ
100%
80%
60%
40%
20%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストリア
オーストラリア
デンマーク
カナダ
韓国
スウェーデン
フランス
オランダ
中国
イタリア
台湾
イギリス
ドイツ
アメリカ
日本
図 5-5 大気汚染防止装置輸出シェア(全世界) 図 5-6 大気汚染防止装置輸出シェア(アジア)
-120-
(4)モニタリング・解析装置
(a) 全世界
・ 1 位アメリカ 30%、2 位ドイツ 21%、3 位日本 15%
・ 日本のシェアはしだいに低下してきている(19→15%)が、アメリカは着実に伸びてい
る(26→30%)。ドイツは変化なし。
(b) アジア
・ 1 位日本 37%、2 位アメリカ 35%、3 位ドイツ 10%
・ 日本のシェアは大きく低下している(45→37%)が、アメリカは着実に伸びている(28
→35%)。ドイツは変化なし。
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
韓国
オーストラリア
台湾
オーストリア
中国
デンマーク
スウェーデン
カナダ
オランダ
イタリア
フランス
イギリス
日本
ドイツ
アメリカ
図 5-7 モニタリング・解析装置輸出シェア
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストリア
カナダ
デンマーク
オーストラリア
韓国
オランダ
スウェーデン
イタリア
台湾
中国
フランス
イギリス
ドイツ
アメリカ
日本
図 5-8 モニタリング・解析装置輸出シェア
(全世界)
(アジア)
(5)廃棄物処理・リサイクルシステム
(a) 全世界
・ 1 位日本 26%、2 位アメリカ 26%、3 位ドイツ 16%
・ 日本のシェアは低下している(29→26%)が、アメリカは着実に伸びている(22→26%)。
ドイツはほとんど変化なし。
(b) アジア
・ 1 位日本 50%、2 位アメリカ 31%、3 位ドイツ 7%
・ 日本のシェアは 1998 年まで低下していたが、再びもちなおし、若干の低下でおさまって
いる(51→50%)。アメリカは着実に伸びている(25→31%)。ドイツも若干シェアを伸
ばしている。
-121-
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストラリア
デンマーク
中国
台湾
オーストリア
カナダ
スウェーデン
オランダ
韓国
フランス
イギリス
イタリア
ドイツ
アメリカ
日本
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
デンマーク
カナダ
オランダ
スウェーデン
オーストリア
中国
オーストラリア
フランス
韓国
イギリス
台湾
イタリア
ドイツ
アメリカ
日本
図 5-9 廃棄物処理・リサイクルシステム
図 5-10 廃棄物処理・リサイクルシステム
の輸出シェア(全世界)
の輸出シェア(アジア)
(6)熱・エネルギー管理機器及び再生可能エネルギープラント注)
(a) 全世界
・ 1 位日本 23%、2 位アメリカ 20%、3 位ドイツ 12%
・ 日本のシェアは若干増加している(22→23%)。アメリカは着実に伸びている(15→20%)。
ドイツは変化なし。
(b) アジア
・ 1 位日本 48%、2 位アメリカ 22%、3 位ドイツ 6%
・ 日本のシェアは増加している(45→48%)。アメリカは大きく伸びている(12→22%)。
ドイツはしだいに低下している(9→6%)。
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
オーストラリア
カナダ
中国
オーストリア
韓国
台湾
オランダ
スウェーデン
イギリス
イタリア
フランス
デンマーク
ドイツ
アメリカ
日本
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1995
1996
1997
1998
1999
カナダ
オランダ
オーストリア
オーストラリア
スウェーデン
イギリス
デンマーク
フランス
韓国
イタリア
中国
台湾
ドイツ
アメリカ
日本
図 5-11 熱・エネルギー管理機器及び
図 5-12 熱・エネルギー管理機器及び
再生可能エネルギープラント
再生可能エネルギープラント
の輸出シェア(全世界)
の輸出シェア(アジア)
注)この分野には光半導体、太陽電池、発光ダイオードなどが含まれているため日本のシェアが高くなっている。
-122-
1.2
アジアの環境分野における日本の競争力の現状
(1)環境ビジネス市場での競争力のある企業((社)日本産業機械工業会のアンケート結果による)
((社)日本産業機械工業会「環境産業の国際協力のあり方に関する調査研究報告書」平成 13 年 6 月より)
ごみ・産廃
(焼却)
処理事業
プラント建設
ごみ・産廃
(焼却)
プラント建設
処理事業
上水供給
供給事業
システム技術
産業用水供給
(超純水含)
供給事業
システム技術
下水・し尿処理
処理事業
システム技術
産業排水処理
(工場排水)
処理事業
システム技術
地下水・土壌浄
化
化学物質処理
大気汚染防止
処理事業
システム技術
処理事業
システム技術
システム技術
企業名
ウエイスト・マネジメント、スエズ・リオネーズ・デゾー、ONYX、ビベンディ、ABB、
シタ
Alstom Power、川鉄サーモセレクト、日本鋼管、荏原製作所、フィットナー、タクマ、
新日鉄、ステインミュラー、三菱重工、川崎重工、ABB、フォン・ロール、IHI、
日立造船、DBA、ルルギ、独バブコック
ウエイスト・マネジメント、シタ、ビベンディ、スエズ・リオネーズ・デゾー
荏原製作所、ウエイスト・マネジメント、日経ジェネコン、新明和、川崎重工、
三菱重工、ABB
テムズウォーター、スエズ・リオネーズ・デゾー、栗田工業、OTV、アングリアン・ウ
ォーター、ビベンディ、バイウォーター、CGE、Puncak Niaga、RWE、デグモラン、
エンロン
栗田工業、デグラモン、荏原製作所、パターソンキャンディ、BBV、OTV、
US フィルター、富士化水、日立プラント、ビベンディ、スエズ・リオネーズ・デゾー
栗田工業、US フィルター
栗田工業(超純水)
、オルガノ、US フィルター、Christ、ササクラ、IDE(イスラエル)、
シデム(仏)、テムズウォーター、デグラモン、荏原製作所、クボタ、ノムラマイクロ
荏原製作所、スエズ・リオネーズ・デゾー、日本ヘルス、CGE、ビベンディ、
テムズウォーター、APTCO、月島メンテナンス、エバラエンジニアリング
荏原製作所、日立プラント、デグラモン、OTV、栗田工業、スエズ・リオネーズ・デゾ
ー、パシフィック・コンサルタンツ・インターナショナル、西原環境、ビベンディ、US
フィルター、Water Engineering、CGE、テムズウォーター
荏原製作所、テムズウォーター、バイウォーター、OTV、デグラモン、スエズ・リオネ
ーズ・デゾー
荏原製作所、新日鉄、デグラモン、OTV、オルガノ、栗本鉄工、スエズ・リオネーズ・
デゾー、三菱重工、東洋エンジニアリング、ビベンディ、テムズウォーター、川崎重工、
栗田工業、US フィルター、日立プラント、Pake(ベルギー)
Chzmhills、The IT Group Inc.
Chzmhills、大成建設、パーソンズ
EG&G
Chzmhills、ルルギ、パーソンズ、AEA テクノロジー
日立製作所、荏原製作所、三菱重工、富士化水、ビショップ、ルルギ、三井鉱山、マー
スレックス、川崎重工、スタインミュラーDBA、F. L. Smith、IHI
(2)アジア環境分野における日本勢の実態-日本と欧米の対応の差(日本企業の競争力が弱い理由)
((社)日本産業機械工業会「環境産業の国際協力のあり方に関する調査研究報告書」平成 13 年 6 月より)
(a) 案件対応レベルでの違い
・ 提案内容の違いでは、欧米企業はO&M、BOT、BOO注)といった事業運営まで含めた提
案が可能であるのに対し、日本企業は依然としてプラント輸出の域を出ていない。EPC注)
案件がBOT、BOOに変わった途端やる気を失う。
・ 技術品質の違いでは、欧米企業は価格に見合った品質のプラントや装置を提案できるの
に対し、日本企業は、日本市場で標準となっている仕様をそのまま持ち込むことが多く、
結果として相手国のニーズに対して高価な仕様の提案となってしまう。
注)O&M:Operation & Maintenance、運転保守
BOT:Build, Operate and Transfer、民活インフラ整備・運営の一手段で、民間が公共の認可のもとに施設
を民間資金で整備(Build)、運転(Operate)し、ある一定期間にその利用料金で投資資金を回収した
後、公共にその施設を移管(Transfer)する事業方式。
BOO:Build-Own-Operate、BOT 方式の一つ。建設した施設を移管せず所有、運営。
EPC:設計(Engineering)・調達(Procurement)・建設(Construction)を含むプロジェクトの建設工事請負。
-123-
(b) 企業レベルでの違い
・ 欧米企業は現地化を積極的に進めているのに対し、日本企業は基本的に日本から装置を
輸出することを前提にしているため、意思決定のスピードや調達コストの面などで不利
である。
・ 欧米企業は事業運営で利益をあげるという考え方であるが、日本企業は装置やプラント
の輸出で利益をあげるという考え方である。
(c) 国レベルでの違い
・ 政府の関与として、欧米では案件に対して相手国政府等に民間企業と大使館員が同行し
たりするなど、大使館員、政治家の後押しが強い。
(d) その他の違い
・ 欧米企業のプラントは、導入コストが低い代わりに、頻繁に部品交換が必要になるなど
ランニングコストは高い傾向にある。これは東南アジアの国の「負担を時系列で平準化
したい」という要望には沿っている。
1.3
環境産業の競争力比較(3)
表 5-1 は、日本の環境産業の競争力を、米国、ドイツ、フランス/英国と比較して示す。
この表から分かることは、米国企業がサービス部門で圧倒的強さを持っているということであ
る。アジア諸国を始めとして対外的にコンサルタントとして活動できる人材を豊富に持っている
のが米国であり、こうした人材の蓄積もあって米国のサービス部門での力は圧倒的に強くなって
いる。
次ぎにドイツは、廃棄物処理に強みを持っている。化学産業が世界的に力を持つドイツでは、
その化学産業のバックアップを受けることができる廃棄物関連の処理システムが整っており、対
外的活動においても、リードしていることが分かる。
次ぎにフランスと英国のグループでは、世界的に見て民営化が先行した上下水道で他国を圧倒
しており、それぞれの国内で培ったノウハウを武器にして、国外で活発に受注活動を行っている。
日本は、水処理と大気汚染対策のプラントの部分で世界をリードしている。これらの技術は、
1960 年代から 1970 年代に培ったものである。ただし、これらプラントは自治体よりの受注に依
存している面が強く、国内での高スペック技術は保有しているものの、対外的に販売を目指すと
きには、国内価格とは異なり、「価格破壊」と呼ばなければならないほどの低価格で販売しなけれ
ば受注できない状況にある。したがって、国内での競争力の強さ、高スペックであることが即座
に、対外的な競争力に結びついていないという欠点を持っている。
このように比べると、総合力では米国が世界の環境産業において最も強力であり、次いでドイ
ツ、さらにフランスと英国が続き、日本の環境産業の世界における競争力という点では第 4 位に
止まらざるを得なくなっている。
-124-
表 5-1 環境産業の分野別競争力比較
1位
米国
○
ランキング
技術分野
置
水処理装置、化学処理
大気汚染
関連装置/情報システム
廃棄物処理
工程改善/未然防止技術
サービス
固形廃棄物処理
有害廃棄物処理
コンサル&エンジニアリング
汚染処理/産業向けサービス
分析サービス
下水等廃液処理作業
資源管理
上水
資源回収とリサイクル
自然エネルギー
装
(注)◎たいへん優位、
○優位、
○
×
◎
○
◎
○
○
×
×
○
無印=普通、
△やや劣位、
2位
ドイツ
◎
◎
○
○
×
◎
◎
△
△
○
△
3位
フランス/英国
△
4位
日本
◎
◎
○
×
○
△
△
△
△
△
◎
◎
○
△
×
×
○
○
×大変劣位
(出所)武石礼司「アジアにおける環境産業発展と制度的課題」富士通総研研究レポート№179、2003 年 11 月
2.日本の環境関連企業の東アジアへの進出有望分野
表 5-2 は、環境状況・規制・需要等、及び日本の競争力を考慮して、東アジア環境市場への進
出可能性がある分野を検討した結果である。
(1)大気汚染分野
大気汚染分野では、脱硫装置設置の計画がさかんに行われている中国へ進出の可能性がある。
中国では現地企業にて脱硫装置を低コストで作れるようになったが、脱硫率は 85%とまだ低い(4)。
中国政府による発電所の排煙脱硫装置の技術路線は、脱硫率 90%以上、運用率 95%以上を保証す
ることになっている(5)が、現地企業の脱硫装置はまだそのレベルには達していない。中国の国家
重点環境投資プロジェクトは、環境技術、プラント・装置の品質に対する要求も高いので、技術
は優れているが比較的高コストになりがちな日系企業にビジネスチャンスとなりやすい。例えば、
大型脱硫装置について地場認定企業 19 社は、広東省の入札段階で満足のいくソリューションを提
示できず、アフターサービスやメンテナンスも大きな課題として残るという。実際、20~30 年も
継続するプロジェクトなので、大部分の発注者は、価格よりも技術、品質、アフターサービス・
メンテナンスを重視しているようである(6)。特に金額の大きいプロジェクトでは品質の高い外国
製が信頼されている(7)。韓国での脱硫装置については、石炭火力発電所にはほとんど設置済みで
あり、現地企業でも製作可能であるため対象外とした。東南アジアでの脱硫装置については、中
国ほどの市場規模はないが、東南アジアの中ではインドネシア、タイ、フィリピンが石炭火力発
電が比較的多いため、これらの国で可能性がある。脱硝装置については、韓国において規制強化
されたが、現地企業にて製作可能になったため対象外。他の諸国は、脱硫装置が不十分な段階で
-125-
は脱硝装置まで対策されないため対象外。集塵装置については、市場の大きい中国では現地企業
にて低コストで製作可能であるため、今のところ可能性は低い。ばいじんの排出基準が強化され
たとしても、中国の石炭は灰分が多く、日本や欧米で使用されている石炭とは異なるため、日本
や欧米の電気集塵器をそのまま持っていってもダメで、中国向けの装置を開発する必要がある。
大気汚染防止にも結びつけた省エネルギー対策としては、中国の第 10 次 5 ヵ年計画で積極的採
用が求められている製鉄所の CDQ(コークス乾式消火)の可能性がある(日本も中国現地で合弁
企業を作っている)。なお、セメント業における省エネルギー対策としての NSP・SP キルンは、
現在中国の現地企業が半額程度で製作できるようなり、現地企業のものが入りはじめているため、
難しい。
(2)水処理分野
水処理分野では、先進国で自国に水資源がないシンガポールにおいて、排水から上水を得るた
めのプラントに使われる限外ろ過(UF)膜エレメントの可能性がある。ただし、プラント自体は
欧米企業が強い。
東南アジアにおいては、海外からの進出企業を中心とした工場の排水処理において可能性があ
る。技術については、排水の内容毎に異なるため、一概には言えない。
ODA によるインフラ整備としての上下水道整備において、東南アジアで日本企業が進出できる
可能性がある。中国においては現地企業または欧米企業が優勢であり、可能性は低い。
(3)ごみ処理分野
ごみ処理分野では、シンガポール、台湾、韓国において、ごみ焼却用のガス化溶融炉の需要が
発生しており、日本と似たダイオキシン対策の導入が必要な状態が生じている。
また、マレーシア、タイ、中国においては、ストーカ式または流動床式のごみ焼却炉の可能性
がある。ちなみに、中国における 45 ヶ所(稼動、建設中含む)のごみ焼却炉において、欧米企業
が 16 ヶ所、地場企業が 21 ヶ所、日本企業が 8 ヶ所を受注している(4)。なお、フィリピンは 1999
年に公布された大気浄化法によりごみ焼却が禁止されたため、また、インドネシアとベトナムは
資金がかかる焼却施設よりもオープンダンピング(埋め立て)が主流のため、これらの国でのご
み焼却炉の可能性は今のところ少ない。
-126-
大気
水
−127−
廃棄物
日本の競争力
【排煙処理】
世界的に見れば、日本の脱
硫技術の競争力はある。中
国では、低スペックのもの
は地元企業が製作でき(脱
硫率 85%まで)、コスト的
に日本はかなわない。しか
し、高スペックのものであ
れば日本の競争力はある。
東南アジアでは、発電所新
設時あるいは既設改造とし
て日本の脱硫装置が入って
いる。
【省エネ】
製鉄所の CDQ(コークス乾
式消火)は、日本は中国現
地企業と合弁会社を設立し
ており、可能性がある。
セメント工場の NSP・SP
キルンは、現在中国の現地
企業が日本の半額程度で製
作できるようになり、日本
はかなわない。
先進国で自国に水資源のないシンガポールでは排水から上水を得る設備の需要がある。
膜技術は競争力がある。
開発途上国では生活排水や工場排水を原因とする河川の水質汚濁が深刻化している。開 プラントでは、日本国内で
発途上国の排水基準は、欧米における最も厳しい基準値を抽出して用いていることが多く、 培った高スペック技術は保
その国の技術レベルでは実現困難なほどに厳しい排水基準値を定めている場合もある。各 有しているものの、コスト
国とも日本の定める一律基準よりも厳しい傾向があるが、低開発国になるほど立入検査体 面などで対外的な競争力に
制など、実際の運用で問題が多く、規制施行以前の古い工場は大きな水質汚濁負荷を占め 結びついていない。欧米が
ながらも規制対象外であったりする。これらの国では、海外からの進出企業などを中心と 強いが、東南アジアでは日
した工場排水処理、ODA によるインフラ整備としての上下水道整備の需要がある。
本のものも入っている。し
かし、中国では地元企業及
び欧米企業が非常に優勢。
ある程度所得が上がってこないとごみ焼却は導入されない。
日本国内で培った高スペッ
シンガポール、台湾、韓国では、ごみ焼却用のガス化溶融炉の需要が発生しており、日 ク技術は保有しているもの
本と似たダイオキシン対策の導入が必要な状態が生じている。
の、輸出競争力となると話
マレーシア、タイ、中国では、ストーカ式または流動床式のごみ焼却炉の需要がある。
は別で欧米が強いが、日本
フィリピンは 1999 年に公布された大気浄化法によりごみ焼却が禁止されたため、また、 のものも入っている。
インドネシアとベトナムは埋め立てが主流のため、ごみ焼却炉の需要は今のところない。
中国は、大量の石炭燃焼に伴う粒子状物質、SO2、酸性雨など大気汚染問題が深刻。汚染
物質の総量規制と汚染源の排出規制が行われているが、行政監督・社会監督能力が低く、
結果として規制の実効性が低い。第 10 次 5 ヵ年計画では、主な汚染物質(SO2、粒子状物
質、COD、アンモニア、工業用固体廃棄物等)を 2005 年に 2000 年に比べて 10%減少さ
せることが目標に掲げられている。SO2削減では、新設石炭火力発電所への脱硫装置設置義
務付け、両控区内の既設石炭火力発電所への 2010 年までの脱硫装置設置義務付け、排汚費
の範囲拡大・料率上げ、セメント・鉄鋼・その他各部門の新技術・省エネ設備の普及促進
などの政策が進められている。また、火力発電所の排煙脱硫装置は、脱硫率 90%以上、運
用率 95%以上を保証することという技術路線が出ている。現在、排煙脱硫装置設置の計画
がさかんに行われており、排煙脱硫装置の需要は大きい。NOx規制については、新設石炭
火力発電所への低NOx燃焼システム採用が義務付けられた程度であり、排煙脱硝装置の需
要はない。ばいじんについては、すでに 2001 年に第 10 次 5 ヵ年計画の総量規制目標を達
成している。
韓国でも一時期大気汚染が深刻化したが、天然ガスや低硫黄燃料の供給、工場や自動車
に対する規制強化により、改善してきた。現在では、石炭火力発電所への排煙脱硫装置の
設置がほぼ達成されている。2005 年から固定発生源の大気排出基準が強化されるため、火
力発電所での排煙脱硝装置設置が始まっている。
東南アジア諸国では、大都市部での自動車やオートバイの排気ガスによる大気汚染が深
刻である。産業活動による大気汚染については、局地的なものを除いてこれまで大きな問
題にはなっていない。東南アジアでの脱硫装置については、中国ほどの市場はないが、イ
ンドネシア、タイ、フィリピンは石炭火力発電所が比較的多く、ポテンシャルがある。
環境状況、規制、需要等
ガス化溶
融炉
ストーカ
式または
流動床式
焼却炉
限外ろ過
膜
工場排水
処理
上下水道
製鉄所の
CDQ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
進出可能性
シンガポール 台湾 韓国 マレーシア タイ 中国 フィリピン インドネシア ベトナム
脱硫装置
○
○
○
○
表 5-2 東アジア環境市場への進出可能性分野
引用文献・資料等
(1) United States-Asia Environmental Partnership, ‘’U.S. Environmental Industry Export Competitiveness
in Asia’’, October, 2001 (http://www.usaep.org/downloads/Export%20Competitiveness.pdf)
(2) (社)日本産業機械工業会「環境産業の国際協力のあり方に関する調査研究報告書」平成 13 年 6 月
(3) 武石礼司「アジアにおける環境産業発展と制度的課題」富士通総研経済研究所、研究レポート№179、2003
年 11 月
(4) 中国節能投資公司ヒアリング(平成 15 年 12 月 23 日)による
(5) 中国国家環境保護総局
環発[2002]26 号「石炭燃焼による二酸化硫黄排出汚染防止技術政策」(中国国家環
境保護総局ホームページ http://www.zhb.gov.cn)
(6) 金堅敏「中国環境ビジネスの市場性と日系企業」富士通総研経済研究所、研究レポート№185、2004 年 1 月
(7) 南開大学ヒアリング(平成 15 年 12 月 24 日)による
−128−
第6章
欧州における越境汚染問題解決の
取り組み
-129-
【要旨】
本章では、欧州における越境汚染問題解決の取り組みを記述する。
長距離越境汚染レジーム、バルト海沿岸地域の環境保全の枠組み、ライン川汚染防止
国際委員会を取り上げ、枠組みの内容・枠組み形成に至る経過などを調べた。
欧州における地域環境問題への取り組み方の特徴をまとめると、次ぎのようになる。
① まず、汚染が深刻になり、被害が現れはじめる。
② 次ぎに、科学者による国際共同モニタリングが行われ、データ及びその解析結
果を各国が共有、政治家等が環境問題の現状と環境保護の重要性を認識し、被
害国と加害国の対立構造が調整される。
③ 科学的根拠をもって削減数値目標設定の交渉が行われる。
-130-
1.長距離越境大気汚染レジーム
本節は文献(1)を参考にした
酸性雨に関する多国間枠組みで、欧州長距離大気汚染物質監視・評価計画(EMEP)及び長距
離越境大気汚染条約(CLRTAP)がある。CLRTAP と EMEP は、長距離越境大気汚染(LRTAP)
レジームを形成している。
1.1
枠組みの構成
長距離越境大気汚染レジームは、1977 年に発足した EMEP、1979 年に採択され 1983 年に発
効した CLRTAP、及び CLTAP 下で採択された 8 つの議定書により構成されている(表 6-1 参照)
。
表 6-1 長距離越境大気汚染レジームの条約・議定書一覧 (2004 年 2 月 18 日現在)
締結
1979
1984
LRTAP 条約
EMEP 議定書
1985
第 1 次硫黄議定書
(ヘルシンキ議定書)
1988
NOx 議定書
(ソフィア議定書)
1991
VOC 議定書
1994
第 2 次硫黄議定書
国際条約名
(Convention on Long-Range Transboundary Air Pollution)
(Protocol on Long-term Finance of the Cooperative Programme for
Monitoring and Evaluation of the Long-range Transmission of Air
Pollutants in Europe)
(Protocol on the Reduction of Sulpher Emissions or their
Transboundary Fluxes by at least 30 per cent)
(Protocol concerning the Control of Nitrogen Oxides or their
Transboundary Fluxes)
(Protocol concerning the Control of Emissions of Volatile Organic
Compounds or their Transboundary Fluxes)
(Protocol on Further Reduction of Sulpher Emissions)
発効年
1983
1988
締約機関数
49
41
1987
22
1991
28
1997
21
1998
25
(Protocol on Heavy Metals)
(Protocol on Persistent Organic Pollutants)
(Protocol to Abate Acidification, Eutrophication and Ground-level
Ozone)
2003
2003
未発効
21
19
8
(オスロ議定書)
1998
1998
1999
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
(ヨーテボリ議定書)
図 6-1 LRTAP レジームの構成
-131-
現在、CLRTAP には、欧州各国及び米加の 49 締約機関(EC 含む)が参加している。条約で
は、各国政府上級顧問をメンバーとする執行機関(EB:Executive Body)が設けられ、条約の
実施及び発展に関する事項を検討する意思決定機関として中心的な役割を果たしている。執行機
関の下には各種ワーキンググループやタスクフォース等が設立されている。
執行機関の下に設立された各機関の役割は、以下の通りである。
(1) Implementation Committee(遵守委員会)
①条約/議定書の報告義務の遵守状況、②各議定書の特定の排出削減目標や排出基準等の遵守
状況、を定期的に評価。EB が、遵守を促進するための方策や提言を作成することを支援。
(2) 戦略とレビューに関する作業グループ(WGSR)
進行中の科学的・技術的な活動を評価し、必要に応じて既存の議定書を改訂したり、あるいは
新たな議定書の作成が必要と認められた場合は、特定の汚染物質削減に関する議定書の準備や交
渉を行う。WGSR で議論され決定された事項は EB に送られて議論・決定される。
(3) 影響に関する作業グループ(WGE)
①以下に関する情報の収集・分析を行う。
- 長距離越境大気汚染の影響評価、その影響が及ぶ地理的範囲や程度の把握
- 被害-加害関係の定量的把握
- 臨界負荷量(Critical Lords)の把握
②今後必要な科学的活動及び条約の実施行動計画の諸活動に関し計画・調整・評価・報告する。
③WGE の下には、以下の 6 つの国際協力プログラム及びタスクフォースが設置されている。
-
大気汚染の森林への影響の評価・モニタリング (ICP Forests)
-
河川・湖沼の酸性化の評価・モニタリング (ICP Waters)
-
大気汚染の材料(文化財を含む)への影響 (ICP Materials)
-
大気汚染の自然植物・作物への影響 (ICP Vegetation)
-
大気汚染の生態系への影響の統合モニタリング (ICP IM)
-
臨界負荷量及び大気汚染影響のモデル化とマッピング(ICP Modeling and Mapping)
-
Task Force Health
(4) EMEP 運営機関(Steering Body)
①CLRTAP、EB、その他の補助機関に対し、毎年、越境大気汚染に関する総合的な分析評価
を提供する。
②EMEP 各センターやタスクフォースの活動の計画・監督・評価・指導を行う。
③EMEP の年間活動計画を作成するとともに、EB で承認された強制拠出金をもとに、EMEP
の各センターの予算配分について検討する。
④EMEP 運営機関の下には、3 つのタスクフォースが設置されている。
- 測定とモデリング(TFMM)
- 排出インベントリーと予測(TFEIP)
-132-
- 統合評価モデル(TFIAM)
以下のセンターは、これらのタスクフォースで特定された活動に従事している。
1) 科学物質調整センター(CCC:ノルウェー大気研究所)
EMEP では、30 ヶ国 100 ヶ所以上の地上モニタリング地点を設置し、大気及び降水
中の汚染物質(硫黄化合物・窒素化合物・重金属・VOC・オゾン)のモニタリングを行
っている。CCC はこれらのデータを収集・評価し、解析を行うとともに、分析方法等を
向上する各種活動を行っている。
2) 気象合成センター(MSC-E、MSC-W)
MSC-E:モスクワ気象研究所…重金属及び POPs のモデル開発
MSC-W:ノルウェー気象研究所…排出及び排出予測に関する情報収集・管理報告、
硫黄・窒素化合物などのモデル評価
3) 統合アセスメントモデルセンター(CIAM:国際応用システム分析研究所(IIASA))
1999 年、CLRTAPのEB会合にて、EMEPに統合アセスメントセンターを新設するこ
と が 決 定 さ れ 、 IIASA が 指 定 さ れ た 。 IIASA の RAINS ( Regional Air Pollution
Information and Simulation)モデル注)は、1994 年に締結されたオスロ議定書でもす
でに用いられており、EMEP議定書における排出削減目標算定と達成のための施策の特
定を行うことが主なタスクとされた。
CLRTAP における資金構造については、EMEP に関しては、1983 年までは参加各国や国連か
らの任意拠出金であったが、1984 年に EMEP への長期的資金供与に関する議定書が採択され、
41 ヶ国が批准している。これによれば、資金拠出は、
①強制的拠出:議定書締約国が拠出
②任意拠出
:EMEP の地理的範囲内、あるいは範囲外でも締約国・執行機関の承認を得て、
国・機関・個人が任意に拠出
に大別される。
注)
Rains-Modelは、ウィーンにある国立応用科学研究所(IIASA)が欧州経済共同体(EEC)や欧米の政策
助言者と協力し、6 年かけて開発したモデルである。これは、エネルギー消費→汚染物質(SO2、NOx)
排出計算・削減のための費用計算→汚染物質の長距離輸送予測→酸性沈着による環境・生態系への影響予
測といったサブモデルを統合させた。これによって、現在から未来にわたって、排出削減のためのエネル
ギー消費や排出削減対策政策の効果を予測することが可能になった。現在、欧州の数ヶ国は、実際、排出
削減のためのエネルギー政策や汚染物質削減対策を選択する上で、これを適用させている。
-133-
1.2
LRTAPレジーム形成経緯の概括(2)
長距離越境大気汚染(LRTAP)レジームの形成は、ひとことで言えば科学主導である。その交
渉プロセスは、次ぎの 3 つの期間に分けられる。
1) 第一期(1967~1984 年)
第一期では、交渉ベースとなる科学的知見を獲得する目的で科学インフラが構築され、国際共
同研究プログラムが立ち上げられた。北欧における酸性雨の被害はすでに 1950 年代から顕著に
なったが、科学者による被害の実態と、越境性大気汚染との因果関係の告発は 1968 年まで待た
なければならなかった。以降、そうした危機感から、スカンジナビア諸国は酸性雨問題に関して
共同で積極的な環境外交を展開し、その一つの成果として、長距離越境大気汚染条約(CLRTAP)
が締結され、結果的に枠組み条約として機能することになる。同条約は、ノルウェーのイニシア
ティブで始まった OECD の広域越境汚染のモニタリングプログラムを、まもなく EMEP として
取りこみ、科学インフラ構築と科学研究プログラムを立ち上げる中心機関の役割を果たしてきた。
スカンジナビア諸国は当初から削減目標を条約本体に盛込もうとしたが、イギリス、ドイツなど
の大排出国の反対にあい、採用されなかった。その後、1980 年代初めに酸性雨による森林被害が
明らかになるとドイツが方針を 180 度転換したため、以降の交渉は一変することになる。
2) 第二期(1985~1992 年あたりまで)
第二期は、法的拘束力のある一律削減議定書の採択が相次いだ。それは議定書の対象とする汚
染物質が拡大し、交渉過程が「理性化」していくプロセスである。具体的には汚染物質はSO2、
NOx、VOCs(揮発性有機化合物)と拡大していき、交渉プロセスにおける科学の役割が徐々に
重要性を増していった過程と見ることができる。これら初期の議定書の削減目標設定に関する科
学的根拠は薄弱であり、政治的に決められたにすぎないという批判があった。
3) 第三期(1993 年ごろから現在まで)
第三期では、この批判に応えるかたちで、政策決定者たちは環境影響を反映させた削減戦略を
採用し、その戦略に沿った議定書が採用されるようになる。このころまでに、酸性雨モニタリン
グなどの科学インフラの構築・維持や国際共同研究といった科学研究を、CLRTAP 構築の一部と
して制度化するプロセスは完了の域に達し、「科学・政治複合体」とも呼ぶべき環境レジームが成
立したとみてよい。第 2 次硫黄議定書は、「科学・政治複合体」のもとで行われてきた科学研究
が、外交的ツールとして結実した議定書である。つまり、環境影響と排出削減の相関関係を定量
化する臨界負荷量と、統合モデル RAINS による科学アセスメントを、外交交渉と直結させるこ
とによって、環境影響を反映させた削減戦略を外交合意の形に結実させたものである。なお、第
三期では規制対象の汚染物質も、VOCs のあと、重金属、POPs(残留性有機汚染物質)、アンモ
ニアへとさらに拡大していった。
-134-
1.3
要素政策の導入・経過
条約の要素政策は、主に以下の 5 つに分類できる。
越境大気汚染の体系的観測
EMEP の実施・発展
- 標準化された監視手続きを利用
- 国家計画と国際的計画の両者の
枠組みに基づいた監視計画作成
と実施
- 排出データの収集
- 越境移動データ
- 健康/環境影響評価
- 長距離輸送・酸性沈着に関する
統合モデルの開発と運用
-
研究開発
汚染物質排出削減技術
環境計測の機器
長距離輸送モデルの改良
環境影響評価方法
環境目標達成措置の経済
的・社会的・環境的評価
教育/訓練計画
協議
- 影響を受ける国と汚染に寄与する国の間で協議
- 執行機関を少なくとも年 1 回開催
(条約の実施を審査、条約の実施・発展関連事
項検討、文書準備、ワーキンググループ設立)
- EMEP を活用
- 関連の国際機関からの情報を利用
-
情報交換
汚染物質排出データ
汚染物質越境移動データ
汚染原因となる国家政策
/産業の変化やその影響
汚染物質排出規制コスト
気象学的/物理化学的デ
ータ
地域政策・戦略の策定・実施
越境大気汚染条約の下に、
- 各国は:
・国家計画・政策・戦略を策定
・国家計画の実施関連の年次報告を執行
機関へ提出
- 実施委員会開催:遵守状況の定期的評価、
遵守促進策の提案
(1)体系的観測
EMEP が発足したのは 1977 年であるが、長距離越境大気汚染の体系的観測のための国際プロ
グラムが始まったのは、それより 5 年前の 1972 年である。1972 年、スウェーデンは国連人間環
境会議をストックホルムに招致し、
「国境を越える大気汚染:大気・降水における硫黄分の環境へ
の影響」と題された報告書を発表した。また、スウェーデンは、この問題を検討するために、経
済協力開発機構(OECD)に国際的モニタリングの開始を働きかけた。OECD は、1972 年に「大
気汚染物質長距離越境移動モニタリング共同計画」を開始した。
OECD プログラムには、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、西
ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、イギリスの 11 ヶ国が参加した。地上
60 ヶ所のモニタリングサイトからのデータ、及び航空機を用いて採取されたサンプリングは、ノ
ルウェーの大気研究センターに集められ、分析が加えられた。
1975 年、ノルウェーは、この OECD プログラムの継続を、全欧安全保障協力会議(CSCE)
交渉の場で求めた。OECD プログラムは 1977 年までのプログラムであったため、その後大気質
を継続的に監視するためには、何らかのフォローアップ取り組みが必要とされていた。一方、
CSCE プロセスにおいては、東西陣営をまたがる大規模科学的プロジェクトの立上げが模索され
ていた。そこでこの 2 つのニーズが合致し、ヘルシンキ会議では各国が OECD 大気汚染管理プ
ログラムの継続として、EMEP を立ち上げることに合意した。
こうして、OECD のモニタリング計画は、国連ヨーロッパ経済委員会(UN/ECE)に引継がれ
ることになった。UN/ECE は、世界気象機関(WMO)
・国連環境計画(UNEP)の協力のもと、
1977 年に EMEP を発足させた。
EMEP では、OECD プロジェクトのデータセンターを担っていたノルウェーの大気環境研究
-135-
所が、引続きモニタリングネットワークセンター(=化学物質調整センター:CCC)を継続する
ことになった。また、長距離輸送モデルを用いた大気汚染物質の長距離輸送解析を行う気象合成
センター(MSC)として、ノルウェー気象研究所(MSC-W)とモスクワ気象研究所(MSC-E)
が指定された。
(2)地域政策の策定
長距離越境汚染の抑制を目的とする条約が採択されたのは、1979 年のことであるが、この条約
締結に向けての国際交渉が始まったのは、そのわずか 2 年前の 1977 年である。
1975 年に合意された CECE のヘルシンキ議定書では、EMEP 発足が決定されたが、ヘルシン
キ議定書交渉プロセスにおいて、条約締結に関する議論は全く行われていなかった。
条約締結の提案が行われたのは、1977 年に開催された UN/ECE の環境上級顧問会合(SAEP)
の場においてであった。提案を行ったのはノルウェーをはじめとする北欧グループであった。
1977 年、OECD プロジェクトの分析結果をまとめた報告書が、OECD より公表された。この中
で、オーストリア、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、スイスは net-importers(自国
由来の他国への硫黄沈着寄与量より、他国由来の自国への硫黄沈着量のほうが多い)であり、他
の国は net-exporter(他国由来の自国への硫黄沈着量より、自国由来の他国への硫黄沈着寄与量
が多い)かあるいは balanced-budged(他国由来の自国への硫黄沈着量と、自国由来の他国への
硫黄寄与量が殆ど変わらない)であることが明らかにされた(OECD, 1977, 9-13)。そこで、ノ
ルウェーをはじめとする北欧諸国は、OECD プロジェクト結果をもとに、越境大気汚染問題が非
常に深刻で緊急性が高いことを力説した。ノルウェーは「人間健康と経済に重大な損害を与える
ことが明らかにされた以上、これ以上他国から大気汚染物質を大量に受け入れることは耐え難い」
として、「拘束力のある国際公約に基づいて各国レベルで対策を行うことが重要」と演説した
(ECE/ENV/23, para 16)。フランスなど一部の国は、「条約を締結するには時期尚早」としたが
( ENV/AC.9/4, para 12 )、 北 欧 諸 国 に 加 え て 東 側 諸 国 は 、 ノ ル ウ ェ ー 演 説 に 賛 同 し た
(Chossudovsky, 1988, 74)。
当初、北欧グループ(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)
は、「長距離越境汚染の削減に関する ECE 地域条約案」及び「硫黄化合物排出に関する附属書に
含まれるべき主な要素に関する覚書」の 2 提案を提出した。しかし、具体的な排出削減に関する
英国や西ドイツの抵抗は強く、結局、硫黄酸化物排出削減のための附属書締結案を含まないこと
で妥協点が見出され、1979 年 11 月、アメリカ・カナダを含む 34 ヶ国が「長距離越境大気汚染
条約」を採択した。
以上のような経緯から、長距離越境大気汚染条約は、何らかの具体的な排出削減を規定したも
のではなく、長距離越境大気汚染を削減することを明記し、各国が大気汚染物質排出削減に取り
組むための政策や戦略を作り上げる意志を表明するといった、漠然としたコミットメントを定め
たものになった。
しかしその後、この条約をベースに、具体的削減目標や行動を規定する議定書が次々と採択さ
れることになる。
1980 年代に入ると、EMEP を中心として国際共同研究が進展し、酸性雨被害と汚染物質の長
距離輸送に関する理解が進んだ。また 1984 年には、EMEP 議定書が採択され、ヨーロッパにお
-136-
ける大気汚染物質の長距離移動の監視及び評価に関する協力のための資金メカニズムが定められ
た。さらに、1985 年 9 月には、「硫黄排出あるいはその越境流出の最低 30%削減に関する議定書」
(第 1 次硫黄議定書)が採択され、21 ヶ国によって署名された。
硫黄排出削減に続いて、1988 年には「NOx の排出あるいはその越境流出の排出削減に関する
議定書」(NOx 議定書)が締結された。この条約において、締約国はその国の NOx 総排出量ま
たは越境流出を、削減あるいは規制することによって、1987 年の総排出量を超えないことを規定
した。ここでは、経済的に見合う最善技術(BAT: Best Available Technology)をもとにした排
出基準を、新規あるいは十分に改善が加えられた主要固定排出源や新規の移動排出源に適用する
ことも定められた。さらに、揮発性有機化合物(VOCs)30%削減に関する議定書も 1991 年に締
結された。
1994 年には第 2 次硫黄議定書も締結され、これまでの一律削減とは全く異なり、長距離輸送
モデルの適用による「臨界負荷量」に続いてそれぞれの削減目標が定められた。この議定書では
BAT や経済的手法の導入も盛込むことが定められた。さらに 1999 年には、複合効果・複数汚染
物質に関する議定書が締結された。
このように、ヨーロッパの越境大気汚染問題への地域的枠組みは、1970 年代のモニタリング開
始に端を発して、1979 年の UN/ECE の場における全体的な条約の締結、その後、個々の具体的
な汚染原因物質を削減・規制する議定書の締結と、地域的取り組みが徐々に強化されてきた。
表 6-2 は、越境大気汚染条約の枠組みにおいて採択された議定書一覧である。
締結
1984
1985
1988
1991
1994
1998
1998
1999
表 6-2 越境大気汚染条約の各議定書及びその取り決め内容一覧
議定書名
主な取り決め内容
EMEP 議定書
■モニタリングの資金拠出
第 1 次硫黄議定書
■1993 年までに硫黄排出もしくは越境性排出を 1980 年レベル
(ヘルシンキ議定書)
から 30%削減する。
NOx 議定書
■1994 年までに NOx 排出もしくは越境性排出を 1987 年レベル
(ソフィア議定書)
に凍結する。
■経済的に導入可能な最善技術を、国家排出基準を通じて、新規
の移動・固定排出源に適用する。既存の排出源には汚染制御措
置を課す。
■触媒付の車普及のために、無鉛ガソリン普及義務付け。
VOC 議定書
■1999 年までに揮発性有機化合物(VOCs)排出もしくは越境性
排出を 1984-1990 年レベルから 30%削減する。
第 2 次硫黄議定書
■過重な負担を伴わない範囲で、統合モデル(RAINS)算出を
(オスロ議定書)
基に各国別の硫黄排出削減量を設定。(臨界負荷量と 1990 年
の沈着量の差を 60%削減する)
■全ての新規大規模燃焼排出源へ排出基準適用し、2004 年まで
に一定の排出基準・規制を既存の排出源へ課す。
■発効後 2 年以内に gas oil の硫黄含有量を基準値以下に抑える。
重金属議定書
■カドミウム、鉛、水銀を対象に、固定発生源からの排出規制と
ガソリンの無鉛化や製品からの鉛削減措置導入。
POPs 議定書
■ダイオキシンなどの残留性有機汚染物質(POPs)の排出規制・
削減または除去を目的としており、ダイオキシンについては
1990 年レベル以下に下げるよう義務化を求める。
複合汚染複数物質議定書 ■SO2、NOx、VOCs、アンモニアの排出シーリング設定。
(ヨーテボリ議定書)
(例えば酸性度では臨界負荷量と 1990 年レベルとの差を 95%
削減するよう、削減量を設定)
■排出基準(SO2、NOx、VOCs)、燃料基準(SO2)適用。
-137-
1.4
各国の政策枠組みへの参加の経緯
(1)北欧諸国
1950 年代から酸性化被害を受けてきた北欧諸国は、他のどの国よりも積極的に政策枠組みに関
与してきた。とりわけ、スウェーデンやノルウェーは、CLRTAP 設立以前から、ストックホルム
会議を招致し、OECD に国際共同モニタリングプログラムを呼びかけるなど、長距離越境大気汚
染問題への地域的取り組みを推進してきた。
北欧グループの 1979 年長距離越境大気汚染条約の交渉プロセスにおける交渉スタンスは、
「拘
束力のある条約」を「硫黄化合物削減に関する附属書」とともに締結することであった。しかし、
1979 年の本条約締結時、
「硫黄化合物削減に関する附属書」は西ドイツや英国等の強い反対にあ
い、結局実現をみなかった。
そこで、条約発効後、北欧諸国は、再度硫黄化合物規制のための議定書締結を推進した。
その後も北欧諸国は、概して議定書の推進役を担ってきた。しかし、1988 年締結の NOx 議定
書に関しては、ノルウェーは当初提案された 30%削減に後ろ向きであった。なぜならば、ノルウ
ェーは船舶交通に起因する NOx 排出を抱えており、これを削減することは不可能であった
(Laugen, 1995)。ノルウェー交渉団(=環境省)は、国内の他省庁からの反対を受けて、条約
交渉で難しい立場に立たされていたが、結局、NOx 議定書の目標値はノルウェーが最大に譲歩で
きる 0%(凍結)に定められた。議定書推進派がマイナス 30%から 0%へ譲歩した背景としては、
これまでの条約プロセスを共有し共通の価値観を醸成してきた各国の主な政策担当者たちが、こ
れまで先導的立場にあったノルウェーが推進できないケースが生じないよう配慮した結果である
とされている(Thompson, 2002)。
(2)西ドイツ・イギリス
西ドイツ及び英国は、越境酸性雨問題の加害者としての立場にあるとみなされていたことから、
当初は非常に後ろ向きであった。
本条約交渉時、西ドイツ及び英国は国内の硫黄排出について決定されることを強く拒否した。
北欧グループが「硫黄化合物削減に関する附属書案」をあきらめるという妥協案を出したのは、
交渉の早い段階のことであった(Chossudovsky, 1989, 82)。また「具体的な排出削減」を規定す
るという文言も、西ドイツ等の反対で取下げられ、「できる限りの段階的な削減」に置き換えられ
ることになった。
1980 年代初め、北欧諸国及びカナダが、硫黄化合物 30%案を提出した時、西ドイツ・英国と
も強く反発した。しかし、1984 年、西ドイツは突然 30%クラブを支持した。第 1 次硫黄議定書
の締結が可能になったのは、この西ドイツの転換があったためといわれている。
一方の英国は、結局第 1 次硫黄議定書に署名も批准も行わなかった。しかし、英国も 1988 年
から条約推進派に転じている(Williams, Thompson 2002 等)。
何故、西ドイツはスタンスを 180 度転じたかについて、当時の政府担当者は(Vygen, 2002; Jost,
2002)、西ドイツにおいて大規模な森林被害が明らかになってきたこと、西ドイツは加害者
(net-exporter)である一方被害者(net-importer)でもあり排出・沈着相関図で見れば五分五
分であったこと、北欧諸国は越境汚染によって net-exporter に何らかの補償を求める意図がない
ことが明らかになったことなどが、判断材料となったと述べている。
(ただ、西ドイツにおける森林枯死の状況は、1980 年代に入って突如発見されたわけではない。
-138-
そのため、酸性雨が森林被害を引き起こしているとする説がいわば衝撃的にマスメディアで報道
され、NGO や市民の関心が一気に高まったことにより、世論が動いたとの説明の方が説得力を
持つであろう(Levy, 1995; Cavender-Bares, Jager and Ell, 2001))。
さらに、西ドイツのスタンス転換の背景として、当時の国内政治状況による影響を指摘する声
もある(Bjorkbom, 2002 他)。1960 年代後半のベトナム戦争をうけて、反戦運動が先進国の間で
広がり、新社会運動を引き起こしていた。そのようななかで、西ドイツ政府は 1982 年に政権交
代があり、環境保護派の社会民主党の連合が地すべり的に政権を獲得した。また緑の党が 1983
年に初めて議席を獲得するなど躍進した。このように、西ドイツ連邦政府においても、環境保護
派が台頭してきたことで、LRTAP 条約交渉における西ドイツの姿勢も変化していったと考えら
れる。さらに、新政権は、環境運動と反核運動が一大社会運動の潮流を巻き起こすのを避けたか
ったのではないかという指摘もある(Bjorkbom, 2002)。
さらに、国際政治上の理由を指摘する声もある。米本(1998)は、ミュンヘン会議はパーシン
グミサイル配備問題で険悪となっていた東西関係を緩和する目的でこのような多国間会議が開催
されたと観察している。
(3)ソ連
1979 年の本条約交渉では、北欧と西欧は対立関係にあった。これに対して、ソ連は基本的に、
北欧提案に好意的な姿勢をとった(Chossudovsky, 1988)。
ソ連が北欧寄りであった理由・背景として、ソ連及び東欧諸国が、偏西風の風下に位置してい
たこと、つまりどちらかといえば越境汚染の net-importer であること、があろう。またより一般
的な理由として、東側諸国、すなわちワルシャワ条約機構諸国の中では、環境悪化は資本主義市
場経済体制の産物であり社会主義国には関係ないという基本イデオロギーがあったことが指摘さ
れうる。(しかし条約プロセスにおいて、このようなイデオロギーが実際にどの程度作用していた
のかは不明である。)
しかし、より重要であったのは、ソ連が CSCE プロセス当時から、大規模な東西協力プログラ
ムを実施したいという基本的姿勢をもっていたことである(Chossudovsky, 1988; グロモフ,
2003 他)。このため、ソ連は、EMEP 設立に前向きであった。
なお、さらに、ソ連は、西ドイツや英国の強硬な反対をみて、逆に急に北欧グループの主張を
強く支持するような局面もあったということからして、北欧諸国と EEC を分断させることで、
西欧グループを分割させようとする狙いもあったのではないかとの指摘もあった(Bjorkbom, 2000)。
硫黄議定書に関しては、ソ連は、ソ連全域の排出削減ではなく、「越境移動」量を削減すべきで
あることを主張し、受け入れられた。
このように当初条約の推進派であったソ連は、90 年代に入るとやや消極的に転じた。ロシアは、
1990 年代に採択された議定書のいずれにも署名を行っておらず、これは後述の東欧諸国と対照的
である。
このようなロシアの消極的姿勢の背景として、東西をまたがる大規模科学プログラムとしての
EMEP の推進というインセンティブが失われてきたことや、移行経済期による影響(たとえば、
MSC-E 等は民営化され独立採算性になり、財政的に逼迫状況にある)
、また議会や産業界が議定
書批准に反対であること(経済成長を優先する考え方が優勢であること)などが挙げられる(グ
ロモフ, 2003)。
-139-
1.5
東側各国の政策枠組みへの参加
東側諸国の LRTAP レジームにおけるスタンスは、冷戦終結までは、基本的にソ連に追随する
ものであったとされている(Munton 他, 1999)。もちろん例外はあり、たとえばポーランドは、
ロシアが署名・批准をおこなった第 1 硫黄議定書及び NOx 議定書に対して署名も行っていない。
また、ルーマニアは環境に限らず全ての政策分野において独自路線をとっていた。そのため、た
とえば 1979 年の条約交渉時に、ソ連が社会主義国代表として発言を行う際にも、
「社会主義国」
グループの中に入らなかった(Gehring, 1994)。このような例外はあるものの、基本的には中東
欧諸国のほとんどはソ連に追随していた。
しかし、1990 年代に入ってからは、ロシアと中東欧諸国のスタンスは必ずしも同一ではなくな
ってきた。表 6-3 をみると、ロシアは第 2 硫黄議定書を除き VOC 議定書以降の議定書に署名・
批准を行っていない。これに対し、チェコ・スロバキアは複合汚染複数物質議定書を除き全ての
議定書を批准しており、ハンガリーは重金属議定書と複合汚染複数物質議定書を除き全ての議定
書を批准している。またラトビア・リトアニアなども、90 年代後半に採択された議定書に署名を
行っている。この点からすれば、ロシアが LRTAP レジームに消極的になってきたのに対し、中
東欧諸国・バルト海諸国はやや前向きになってきていることが読み取れる。
表 6-3 東欧諸国の枠組みへの酸化状況(2004 年 2 月 18 日現在)
エストニア
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
ロシア
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
チェコ
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
ラトビア
署名
-
-
-
-
-
批准
2000
2001
2000
2000
2000
署名
1979
1984
1985
1988
-
1994
-
-
-
批准
1980
1985
1986
1989
-
-
-
-
-
署名
-
-
-
-
-
1994
1998
1998
1999
批准
1993
1993
1993
1993
1997
1997
2002
2002
-
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
ポーランド
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
スロバキア
CLRTAP
EMP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
-140-
リトアニア
署名
-
-
-
-
-
-
1998
1998
1999
批准
1994
1997
-
-
-
-
-
-
-
署名
1979
-
-
1988
-
1994
1998
1998
2000
批准
1985
1988
-
-
-
-
-
-
-
署名
-
-
-
-
-
1994
1998
1998
1999
批准
1993
1993
1993
1993
1999
1998
2002
2002
-
署名
CLRTAP
-
EMP 議定書
-
第 1 次硫黄議定書
-
NOx 議定書
-
VOC 議定書
-
第 2 次硫黄議定書
-
1998
重金属議定書
1998
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
-
ハンガリー
署名
CLRTAP
1979
1985
EMP 議定書
1985
第 1 次硫黄議定書
1989
NOx 議定書
1991
VOC 議定書
1994
第 2 次硫黄議定書
1998
重金属議定書
1998
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書 1999
批准
-
2003
-
-
-
-
-
-
-
批准
1980
1985
1986
1991
1995
2002
-
2004
-
1.6
条約施行の成果
欧州では、長距離大気汚染の主な原因物質である SOx 及び NOx の大気への排出量が、欧州全
体で大幅に削減されている。表 6-4 は、第 2 次硫黄議定書の例である。
表 6-4 第 2 次硫黄議定書の数値目標の達成状況
締約国(1998 年 12 月)
オーストリア
カナダ
チェコ
デンマーク
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシア
アイルランド
イタリア
リヒテンシュタイン
ルクセンブルク
オランダ
ノルウェー
スロバキア
スロベニア
スペイン
スウェーデン
スイス
イギリス
ヨーロッパ共同体
1996 年の排出量
52
2722
946
186
105
1031
1543
543
147
1322(1995 年)
0.13(1994 年)
8
135
34
227
110
2071(1993 年)
83
30
2017
データなし
2000 年の排出推計
60
2833
462
90
116
868
1300
595
155
1004
0.11
4
92
34
210
92
2143
72
26
1290
データなし
2000 年の削減目標
78
3200
1128
90
116
868
1300
595
155
1330
0.1
10
106
34
337
130
2143
100
60
2449
9598
表 6-4 中の網掛け部分は、数値目標が達成されていない国を表している。この表では、1996
年時点では未達成の国も、概ね 2000 年には達成可能であることが明らかにされている。
1.7
条約と EU 政策枠組みとの関係
以下の表 6-5 は、CLRTAP と EU 政策枠組みを対照させたものである。
表 6-5
1970 年代
1980 年代
1990 年代
1977
1979
1984
1985
1988
1991
1994
1998
1998
1999
CLRTAP と EU 政策枠組みの関係
CLRTAP
EMEP
CLRTAP
EMEP 議定書
第 1 次硫黄議定書
NOx 議定書
VOC 議定書
第 2 次硫黄議定書
重金属議定書
POPs 議定書
複合汚染複数物質議定書
EU 政策枠組み
1998
1993
1995
1996
1997
1999
2001
EU 指令 88/609/EEC(大規模燃焼装置指令)
EU 第 5 次 EU 環境行動計画
EU 指令 95/62/EC(大気環境枠組指令)
EU 指令 96/62/EC(hot spot における汚染物質濃度を
許容レベルまで削減)
酸性化対策戦略 策定
SO2、NOx、Pb、PM10指令
国別排出シーリング交渉開始
第 6 次 EU 環境行動計画
-141-
1.6 節で述べたとおり、欧州の LRTAP レジームでは、殆どの国が議定書で定められた数値目
標を達成しており、遵守率が非常に高いと言える。とはいえ、LRTAP レジームには、遵守のた
めの罰則規程あるいは遵守支援のための資金メカニズムが備わっているわけではない。LRTAP
レジームでは、締約国の不遵守が判明した場合、実施委員会における協議を経て不遵守国に勧告
を行うことができる。しかし、実施委員会による勧告には強制力はなく、遵守は事実上各国に委
ねられているのが実情である。
そういった状況において、これほど LRTAP レジームの遵守率が高いのはなぜなのかを検討し
ておくことは意味があると思われる。
UN/ECE の元環境局長は、LRTAP レジームの遵守率が高い要因の 1 つとして、EU の存在を
指摘している(Nordberg, 2001)。EU 加盟各国は、強い法的拘束力を持つ EU 指令を遵守するた
めの国内政策措置を導入した結果、LRTAP 条約議定書の遵守にもつながったというのである。
例えば、第 2 次硫黄議定書では、新規大型燃焼プラントに適用する排出基準やガソリンの最大硫
黄 含 有 量 を 示 す 燃 料 基 準 の 導 入 が 規 定 さ れ て い る が 、 こ の 基 準 は 、 1988 年 の EC 指 令
(88/609/EEC)と近似している。そのため、EC 指令の遵守が、第 2 次硫黄議定書の義務遂行を
も満たしたと考えられる。
しかし、EC(EU)諸国は、CLRTAP 参加国の一部を占めるに過ぎない。ほかの国々(中東欧
やソ連(ロシア))などの状況はどうであったのか。この点について、まず数値目標を負っている
のは、各議定書を批准した国だけであることに留意しておく必要がある。条約の 49 加盟国のう
ち、第 1 次硫黄議定書に批准したのは 22 ヶ国、NOx 議定書は 28 ヶ国、第 2 次硫黄議定書は 25
ヶ国である。国際法の原則「合意は拘束する」からすれば、合意(=批准)をしない加盟国に対
して、議定書の数値目標は拘束力を持たない。それゆえ、第 1 次硫黄議定書は 27 条約締約国、
NOx 議定書も 21 条約締約国、第 2 次硫黄議定書は 24 条約締約国に対して効力を持たないので
ある。
とはいえ、こういった点を考慮しても、現在各議定書には非 EC/EU 諸国(つまり中東欧諸国)
が批准をしており、またその遵守率は高い。これをどのように考えればよいのだろうか。
この点に関しては 3 つの理由が考えられる。第 1 は、とりわけ SOx 削減に関して、技術開発
と普及が進んだ点である。全世界に見ても、1970 年代は先進国で SOx 対策が強化された時期で
あったが、SOx 対策は大規模排出源に脱硫装置を設置することなどで大幅削減を達成することが
技術的に可能となっていた。
第 2 は、議定書の基準年と目標年である。第 1 次硫黄議定書は基準年が 1980 年-目標年が 1993
年、NOx 議定書は 1987 年-1994 年となっている。目標年はいずれも 1990 年代前半であるが、
東西冷戦の終結後で、中東欧諸国の経済が落ち込んだ期間である。そのため、気候変動問題に関
してロシアや中東欧諸国に Hot Air(1990 年水準からの排出減少量)が生じたように、NOx に
関しても 1990 年ごろを境に排出減少があったことは十分に予測できる。
第 3 の理由は、EU 拡大である。中東欧諸国は、80 年代までは EC 環境政策とは無縁であった。
しかし、冷戦終結を機に、中東欧諸国が EU 加盟をめざすようになってから、状況は異なってき
ている。つまり、加盟候補国は、EU に加盟するためには一定の要件(民主主義の確立、法制の
整備、人権尊重、少数民族の保護、市場経済の導入など)を満たさなくてはならず、この中に、
環境政策の整備も重要な項目として含まれているのである。ただし、中東欧諸国が EU の環境要
-142-
件を満たすためには莫大な費用がかかり、自国のみで達成することは難しい。そこで、EU は、
1990 年代前半より PHARE や ISPA などの援助プログラムを立ち上げて、大量の資金・技術援助
を中東欧諸国向けに行ってきた。このように、中東欧諸国は EU に未加盟ながらも EU の環境政
策遵守に向けて努力を続けており、このような取り組みは、如いては LRTAP レジームの遵守に
もつながると考えられる。
1.8
合意形成に果たした有効なメカニズム
ここでは、越境大気汚染レジームでの合意形成において重要な役割を果たした各種要素、ある
いは合意形成にかかる有効なメカニズムを抽出して検討する。
(1)科学的知見の政策枠組み形成プロセスへの反映
欧州では、1972 年の OECD プログラム開始以降、共有のモニタリング指標に基づいて国際共
同モニタリングが行われ、データ及びその解析結果を各国が共有することで、問題に対する共通
理解が醸成された。実際のところ、1977 年に条約交渉の道を開くうえで、重要な役割を果たした
のは、OECD プログラムの結果であったし、また第 1 次議定書の硫黄削減の必要性の根拠になっ
たのも、EMEP における体系的かつ継続的な観察・評価・情報であった。
LRTAP レジームにおいて条約の中で、科学的知見を提供する役割を担うものとして EMEP の
果たすべき役割が規定されている。このように科学的プログラムが条約において位置付けられて
いること(=科学的知見を政策枠組み形成プロセスに反映させる制度が整備されていること)は
非常に重要なことであろう。
さらに、第 2 次硫黄議定書以降に、統合評価モデルが削減数値目標算定に使われるようになっ
てからは、交渉プロセスにおける科学的知見の重要性はますます高まっていくことになった。こ
のように科学的知見がよりよく集積され公表され、政策プロセスに反映されることは、合意形成
における重要な要素を提供するものと考えられる。
(2)推進国グループ内の共同研究・政策協調
国際交渉では、一国が提案や主張を行うよりも、同様の利害を持つ国が数ヶ国集まって交渉に
臨んだほうが、交渉力が増大する。そこで、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマ
ークをメンバーとする北欧諸国の政策担当者及び科学者は、1960 年代から共同で酸性雨に関する
調査研究を進めるとともに、酸性雨問題をどのようにして西欧諸国に認識せしめ、対策を推進す
るかについて頻繁に対話を行い、緊密な連携を保ってきた。実際の交渉プロセスにおいても、例
えば 1978 年の UN/ECE SAEP 会合において、北欧グループとして条約素案及び SOx 排出削減
附属書案を共同提案するなど、歩調を合せて条約を推進してきた。
このような北欧内協力を深める上で中心的な役割を果たしたのが、Nordic Circle であった
(Person, 2002)。Nordic Circle とは、北欧諸国の越境大気問題に関連する政策担当者及び科学
者から構成される集まりで、OECD プロジェクトや EMEP、長距離越境大気汚染条約交渉プロ
セス等の主要な専門家/政府間会合の前に必ず集い、会合をどのように先導すべきかを議論し、
意見統一を図っていた(Person, 2000)。Nordic Circle の活動費用は、北欧議会の外郭団体によ
って供与されていた。
-143-
(3)異なる交渉グループ間での共同プロジェクト実施
国際交渉においては、同様の利害関係を持つ国同士の連携に加えて、別グループ交渉グループ
とも協力関係を築いたり、あるいは異なる意見をもつ交渉グループを説得するのも非常に重要と
なっている。そのような協力関係の醸成あるいは対立グループの説得に際し、LRTAP レジーム
において重要な役割を担ったのが、共同研究やプロジェクトの実施であった。
社会主義国との協力関係からいえば、EMEP のセンターがノルウェーとモスクワに設置される
ことになった経緯もあり、ノルウェーとソ連の間での研究協力が行われるようになった。また、
ノルウェーの CCC とモスクワの MSC-E は共同でモニタリング指標を作成し、この指標が実際
に EMEP に用いられるようになった。このような科学面での協力は、交渉における政策担当者
間の協力関係にも、多少なりとも寄与したものと予想される。
一方、西欧諸国との研究協力であるが、最も象徴的なものは、1980 年代にイギリス・スウェー
デン、ノルウェーの科学者たちによって実施された SWAP プロジェクトであろう。1980 年代半
ば、イギリスは、とりわけ CEGB などが北欧の酸性雨被害に懐疑的であった。そこで、ノルウェ
ーの政策担当者は、ノルウェー・スウェーデン・イギリスで共同研究プロジェクトを立ち上げた。
その結果イギリスの科学者たちも長距離越境大気汚染問題に対する科学的知見を北欧と共有する
ようになった(Thompson, 2002)。イギリスが LRTAP 積極派に転じたのは、この少し後のこと
である。ノルウェーの政策担当者は、
「北欧の科学者あるいは政策担当者が直接、イギリスの政策
担当者に問題の信憑性を訴えるよりは、まず科学者間で国際共同研究を通じて問題への共通理解
を醸成し、然る後に、その国(=イギリス)の科学者がその国(=イギリス)の政策担当者に問
題の信憑性を伝えるほうが、より効果的である」と述べている(Thonpson, 2002)。
(4)ソフト面での人的交流・友好関係の醸成
欧州の LRTAP レジームは、北欧内協力を含めれば、40 年近くの歴史を持つ。このような長い
交渉の歴史の中では、主要な交渉担当者が互いに顔なじみになり、どこまで譲歩できるかを非公
式かつ本音ベースで打診することが可能になっていった。このような人的つながりが、議定書交
渉を効率的なものにし、90 年代には、短期間に多くの議定書が採択されるに至った(Thonpson,
2002)。
また交渉の要となるようなキーパーソンの存在も重要であった。執行機関下の戦略 WG は、レ
ジーム全体の方向性について議論し、議定書の内容を具体的に練り上げる非常に重要な機関であ
ったが、その WG 議長 Bjorkbom(スウェーデン人)は、80 年代~90 年代を通じて長期にわた
り在職した。本来スウェーデン環境省を退職する年になった後にも、各国担当者からの要請で、
超法規的存在として 1999 年の複合汚染複数物質議定書採択まで在任しつづけた。同様に、80 年
代からノルウェー人代表団に入り、90 年代を通じて執行機関の議長をつとめた Thompson(ノル
ウェー人)も人望が厚く、長期にわたって執行機関の議長に在任していた。Thompson は英語、
フランス語、ドイツ語に加えてロシア語を得意としており、ロシア政策担当者との人的交流を通
じて、ロシアからの妥協や合意を引き出すことに長けていたことが、本人及び数名の政策担当者
から指摘されている(Thompson, Bjorkbom, Eliassen, Jost, Williams, 2002 等)。
(この点、アジアでは 2~3 年で政策担当者のポストが変わる国が多い。ポストが定期的に変わ
-144-
ることは、それなりのメリットや意義もあるのだが、国際交渉における人的交流の蓄積の面から
すれば、不利であることは留意される必要がある。)
(5)メディアを通じた国民の意識啓発
LRTAP レジームの歴史の中で、西ドイツが 1984 年にそのスタンスを変えたことは、その後の
レジームのあり方に大きな影響を与えた。西ドイツがスタンスを転換させた理由として、森林枯
死が発見されたことがよく議論されている。しかし、西ドイツにおける森林枯死の状況は、1980
年代に入って突如発見されたわけではない。1957 年には、西ドイツの森林被害はルール工業地帯
から飛来する大気汚染物質に寄与することを指摘する報告書が出されていた。また森林被害は非
常に複雑な作用で生じるために、酸性雨が原因と 100%証明するのが難しいことは、被害が甚大
であったノルウェー・スウェーデンにおいても当てはまることであった。このように考えると、
西ドイツのスタンス転換の背景には、森林が枯死したという事実よりも、むしろ『森林枯死』の
言説が、いわば衝撃的にマスメディアで報道され、NGO や市民から高い関心を集めたという事
実のほうが、重要ではなかったかと思われる。
以上からすれば、メディアを通じた国民の意識啓発が、レジーム推進及び合意形成に及ぼす影
響力は見逃すべきではないと思われる。
(6)経済的実現可能性・インセンティブ
LRTAP レジームにおいては、当初主要反対国であった西ドイツやイギリスが、80 年代を通じ
てレジーム推進派へと転換し、反対グループは徐々に縮小していった。この背景には、両国の国
内政策によって経済的実現可能性が増大したこと及び経済インセンティブの増加が見受けられる。
まず一つ目は、エネルギー政策など他分野の政策を実施することによる副次的な効果などによ
って、追加的な国内政策(費用負担)がなくても汚染物質が目標値まで削減されうる場合である。
石炭から燃料転換をとげたイギリスなどがこの例に当てはまる。イギリスは、第 1 次硫黄議定書
を批准していなかったが、80 年代からのエネルギー構造の変化によって、結局は第 1 次硫黄議定
書の数値目標を達成することができた。
一方、長距離越境大気汚染の対策推進によって、経済的/社会的利益が生じる場合もある。例
えば、西ドイツが NOx 議定書において、BAT(最善技術)利用の義務付けを強く主張した背景
には、西ドイツ自身が、締約国の中で、最新の BAT を保有していたことが背景にあったのでは
ないかという指摘がある(Bjorkbom, 2002 等)
。
この例からは、経済的インセンティブをうまく組み合わせたり活用することによって、合意形
成を促すことが可能となるケースが生じるといえる。
-145-
2.バルト海沿岸地域の海洋環境保全の枠組み
本節は文献(1)を参考にした
(1)経緯
バルト海の汚染状況は 1970 年代にピークに達した。汚染の発生源は、都市排水や工業・農業
からの排水、船舶等からの交通公害、大気汚染、沿岸周辺の汚染の影響が主たる原因である。バ
ルト海沿岸地域は、パルプ・製紙工場、精密機器、化学製品、肥料等の産業集積地であり、フィ
ンランド、スウェーデン、ポーランド、ロシアが面している海域では、水銀、カドミウム、栄養
塩、鉄、亜鉛、鉛等の重金属が大量に排出されて汚染を引き起こす原因となった。とりわけポー
ランド、ロシア、バルト三国の河川から流出した重金属汚染物質が海洋環境に多大な影響を及ぼ
した。また、窒素やリンの発生がバルト海の富栄養化、プランクトンの大量繁殖、海水の溶存酸
素量の減少を進行させた。ラトビアの首都近くのリガ湾では、不十分な処理廃液がバルト海に流
出したことで海水浴場が閉鎖される事態が発生した。バルト海に富栄養化が進む一方で、重金属、
有機塩素化合物、石油などの有害物質による沿岸海域の複合的な汚染が、より事態を深刻化させ、
また海産物の乱獲によって海洋資源が減少していった。
バルト海沿岸地域における環境協力は、まさに海洋汚染防止・海洋資源保護分野から始まる。
その皮切りは、1973 年ポーランドのイニシアティブで開催されたバルト海漁業会議である。会議
には、ポーランドをはじめ、ソ連、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、東西ドイツ、EC
が参加し、海洋資源を保護するための方策が話し合われた。この結果、1982 年には漁業規制に関
する議定書が採択され、各国に漁獲高が割り当てられた。1974 年には、より総合的に海洋保護を
行うために、バルト海海洋保護協定(ヘルシンキ条約)が締結され HELCOM(ヘルシンキ委員
会)が設置された。
(2)バルト海洋環境保護委員会(ヘルシンキ委員会)
Baltic Marine Environment Protection Commission/Helsinki Commission(HELCOM)
●設
置:1974 年、ヘルシンキ条約の枠組みの下で設置。
●参加国:デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポー
ランド、ロシア、スウェーデン、EU 事務局
●組
織:6 つのグループで構成される。
・HELCOM STRATEGY:戦略グループ
・HELCOM MARITIME:船舶からの汚染防止、規制
・HELCOM RESPONSE:事故時等の対応
・HELCOM LAND
:陸上での汚染防止、規制
・HELCOM MONAS
:モニタリングとアセスメント
・HELCOM HABITAT
:自然保全と沿岸管理
-146-
図 6-2 ヘルシンキ委員会(HELCOM)の組織
(3)バルト海地域の海洋環境保護に関する議定書(ヘルシンキ条約)
Convention on the Protocol of the Marine Environment of the Baltic Sea Area
●締
結:1974 年
●発
効:1980 年
●締約国:デンマーク、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、リトアニア、ポー
ランド、ロシア、スウェーデン、EU 事務局
●主な勧告:
(a) カドミウム、水銀、鉛等の分解されにくい有機化合物の排出阻止と減少に関する勧告
(b) 有害な化学物質(DDT、PCB、PCT 類)の生産、取引、使用を段階的に停止するため
の指令の発布
(c) 指令発布は、汚水処理施設、パルプ・製紙産業からの排出、農林業からの漏出が中心
(d) 勧告は、化学物質排出・放出源、化学物質の処理方法、技術に関して詳細を示す
(e) 勧告の実行は、各国の権限に委ねられる
●これまでに成功した実績
(a) 点汚染源からの有機系汚染物質と栄養物の排出抑制を実施した。
(b) バルト海に面している数少ない海水浴場が汚染によって閉鎖されていたが、産業や都
市排水処理の改善によって海水浴が可能となった。
(c) 大気上の窒素量が著しく減った。
(d) 有鉛ガソリンの段階的な廃止により環境改善が前進した。
(e) 有害なダイオキシンやフランのような有機的なハロゲン化合物の排出量を大幅に削減
した。
(f) PCB や DDT のような危険物質を禁止する国際的な規制を設定した。
(g) 産業に対する厳しい管理を実施した(排出許可証を企業に義務付けた)。
(h) アザラシ、オジロワシ等の生息を回復させた。
(i) 船舶からの汚染防止を義務付ける特別法を国際海事機関と協力して設置させた。
-147-
(4)環境協力枠組み形成の流れ
HELCOM が推進してきた地域環境政策の実施経緯を整理すると下表のとおりである。
表 6-6 環境協力枠組み
1
2
環境協力枠組み
中核組織の設置
目標の設定
3
活動計画
4
調査研究
モニタリング
アセスメント
年
74
74
92
80-
96-
79-
80-
主な取り組み内容
バルト海環境保護委員会(HELCOM)設置
「バルト海海洋環境保護ヘルシンキ条約」締結
ヘルシンキ条約改正
年次活動計画の立案・報告
活動に関する概観の作成・報告
モニタリングプログラムの実施
第 1 ステージ:1979-1983、第 2 ステージ:1984-1988、第 3 ステージ:1989-
第 1 回バルト海海洋環境の現状のアセスメント(80-85 年)86 年報告
1) 定期アセスメント実施 2) 沿岸部の汚染アセスメント
3) 大気汚染評価アセスメント 4) 放射能核種アセスメント 5) 人口の確認
第 2 回バルト海沿岸地域海洋環境の現状アセスメント(84-88 年)1990 年報告
第 3 回バルト海沿岸地域海洋環境の現状アセスメント(89-93 年)1996 年報告
第 4 回バルト海沿岸地域海洋環境の現状アセスメント(94-98 年)2002 年報告
第Ⅰ期(87~89 年)バルト海汚染負荷データ集作成
第Ⅱ期(90~93 年)バルト海汚染負荷データ集作成
第Ⅲ期(94~99 年)バルト海汚染負荷データ集作成
第Ⅳ期(00~02 年)バルト海汚染負荷データ集作成
バルト海包括的環境行動計画(JCP)の採択
同行動計画の改定
環境行動計画に基づき、「再建設と開発に関する欧州委員会(EBRD)」「欧州
投資銀行(EIB)」「北欧投資銀行(NIB)」「世界銀行(WB)」等の国際的な
金融機関から資金調達メカニズムを確立
オーフス条約:環境問題における情報アクセス、意志決定への市民参加及び
司法アクセスに関する条約の締結
84-
89-
94-
5
インベントリー
ガイドライン作成
6
アクションプラン
7
支援・技術・資金
8
情報公開
情報交換
1970年代
HELCOM設置
1980年代
1990年代
98
条約
モニタリング
ヘルシンキ条約
1974
↓
条約発効
1980-
第1回プログラム
1979-83
↓
第2回プログラム
84-88
↓
第3回プログラム
89-92
↓
第4回プログラム
93-97
↓
条約改定
1992
↓
2000年代
87-
90-
94-
00-
92
98
92-
条約発効
2000-
↓
第5回プログラム
98-2003
↓
アセスメント
インベントリー
年次活動計画開始
1980-95
第1回アセスメント
1980-84
↓
第2回アセスメント
84-88
第1回データ集
1987-89
↓
↓
第3回アセスメント
89-93
↓
第4回アセスメント
94-98
↓
第5回アセスメント
99-2003
↓
環境行動計画
第2回データ集 JCP実施
90-93
1992
バルテック21
↓
↓
1996
第3回データ集 JCP改定
↓
94-99
1998
↓
↓
第4回データ集
2000-2002
↓
図 6-3 ヘルシンキ条約に基づく環境取り組みの流れ
-148-
北欧
金融機関
EU 国際機関
EIB
1976-
MEFCO
90- Phare
NIB 198990Tacis
91Life
92ISPA
98Sapard
2000-
GEF
91-
(5)合意形成に果たした有効なメカニズム
1980 年代は、地域環境協力の枠組みを推し進めるための調査研究が進み、バルト海を汚染から
保護するための目標・ガイドラインを設定するなど、環境共同体としての意識向上と条約遵守の
ための枠組みを明確にした。また、水及び大気への点源汚染からの放出、非点源汚染の汚染量と
計算により、汚染原因などについての科学的な裏付けを行った。各国のデータの質改善、適切な
評価を行うために、締約国に対して汚染負荷量データを作成する等の目的を明確にし、データの
評価及び測定・収集のための方法の根拠を規定した。当時は西側諸国と社会主義体制の東側諸国
との利害関係が対立していたが、西側の研究者と一部の東側研究者で構成された調査メンバーに
よって調査・分析された環境データは、バルト海周辺諸国の政治家等に環境問題の現状と環境保
護の重要性を認識させ、認知共同体としての意識を高める手段として一定の成果が得られた。す
なわち環境問題に関して各国の同意と参加を得るには、政治家レベルでの政策決定に大きく左右
されるため、政治家等への適切な情報発信が不可欠であった。1980 年代は、科学的な根拠を地道
に積み上げ政治的な決定を導き出すための基盤作りを強化する点が重視されていた。
-149-
3.ライン川汚染防止国際委員会(4)
ライン川の汚染は、既に 200 年ほど前から問題になっていたが、1949 年、オランダの飲料水
の原水(伏流水)にまで及んでいることが明らかになったことを契機に、オランダの提唱で 1950
年に、ライン川汚染防止国際委員会(ICPR: International Commission for the Protection of the
Rhine)が設立された。
ICPR は、スイス、フランス、ドイツ、オランダ、ルクセンブルク及び EC をメンバーとする
国際協定に基づく組織で、主な仕事は、
・ライン川の汚染を詳細に分析(特徴・程度・原因)し、評価すること、
・ライン川を守るための行動を提案すること
・国際的な条約を起草すること
など。
しかし、ライン川の水質は悪化の一途をたどり、1970 年代初めには大量の未処理の汚水が BOD
の増加を引き起こし、ライン川に含まれる酸素量の減少は危機的な状況となった。水に棲む動物
種の数は減り続け、さらに、有害で蓄積性の重金属が魚の中にたまったり沈殿したりする問題も
発生した。
そのような中、ICPR は、
・ライン川化学物質汚染防止条約(1976 年署名、1979 年発効)
・ライン川塩化物汚染防止条約(1976 年署名、1985 年発効)
など国際的な取り組みに大きな役割を果たしている。汚染物質削減のため、
・各国政府はライン川への排出物質の国家インベントリー作成
・ICPR は排水濃度・量の制限を提案し、各国政府は排水基準(排水濃度、排水量)作成
・ICPR 内で調整し、各国政府は汚染物質低減の国家プログラム制定
などを行った。
1975 年から 1986 年の間に、主な工場プラント、町や地域共同体から出される排水が汚水処理
装置を通るようになり、ライン川の溶存酸素は徐々に増加した。また、ICPR は 1987 年には「ラ
イン川行動計画」を策定し、2000 年前後までに以前ライン川に生息していた高等生物種(例えば
鮭)が川に戻ってくるようにすることや、ライン川の水を将来も飲用水として供給できることな
どを目標に掲げ活動した。1992 年の報告では、ICPR が定めた 45 の対象物質のライン川への流
入量は 1955 年または 1990 年と比べ 1992 年までに 50~100%も削減でき、ライン川の水質は劇
的に向上した。近年では鮭や鱒が戻ってきているのが確認されている。
-150-
4.まとめ
(1)欧州における地域環境問題への取り組み方の特徴
これまで見てきた欧州における地域環境問題への取り組み方の特徴をまとめると、以下のよう
になる。
ア
まず、汚染が深刻になり、被害が現れはじめる。
イ
次ぎに、科学者による国際共同モニタリングが行われ、データ及びその解析結果を各国
が共有、政治家等が環境問題の現状と環境保護の重要性を認識し、被害国と加害国の対
立構造が調整される。
ウ
科学的根拠をもって削減数値目標設定の交渉が行われる。
(2)欧州における地域環境問題の取り組み経験からのインプリケーション
ア
今何が問題か?
将来何が問題になりうるか? を科学的知見を基に、各国が問題を共
通理解する必要がある。
そのためには、モニタリング、排出量インベントリー作成、モデル分析、影響分析など
が必要になるが、これらは加害国と被害国を特定するのに直接影響するものであるため、
データやモデルを当該国の承認なしに用いて試算しても、その結果の信頼性や正当性を
確保できなくなる可能性が高い。そこで、これらは潜在的加害国、潜在的被害国も含め
た各国政府承認の国際共同研究プロジェクトで実施し、ここで得られる科学的知見を各
国が共通認識せざるを得ないようにしなけれならない。
イ
欧州における長距離越境大気汚染条約(CLRTAP)は、削減について明言されておらず、
続く議定書において具体的な削減が規定される仕組みの、枠組み条約であった。また、
対象は、酸性雨以外に、VOC(揮発性有機化合物)、重金属、POPs(残留性有機汚染物
質)、地上レベルオゾンへと拡大している。これらの広域大気汚染問題は、その輸送の
気象現象を共通に扱うことが可能であるだけでなく、一つの問題の対策を検討する上で
も複数の物質の排出対策を考慮する必要があること及び同時にそれが対策費用の削減
につながること等から、連携して扱うことが極めて有効であり、複合汚染複数物質議定
書(ヨーテボリ議定書)におけるアプローチとして採用されている。
東アジア地域での環境問題取り組みを現在のモニタリングから、今後対策まで進めてい
くためには、CLRTAP と同様のアプローチが考えられる。つまり、まず枠組み条約を締
結して各国が共通のテーブルに着かざるを得ないようにし、その後科学的知見に基づく
議定書により具体的な削減を規定する方法である。
枠組み条約は、欧州と同様、酸性雨だけではなく包括的に越境大気汚染問題を扱えるよ
うなもの、さらに東アジア特有の問題として黄砂も同時に扱えるようなものにして、各
国の関心を引くようにすることが望ましい。黄砂を取り扱う理由としては、
a) 韓国では酸性雨よりも黄砂の問題が優先度が高い。
b) 中国の立場からすると、黄砂は北京でも喘息や目の疾患を引き起こしていること、
及び大気汚染になると目に見えないが黄砂はすぐ影響が目に見えることから、対策
せざるを得ない。
-151-
c) 黄砂はアルカリ性土壌粒子であることから、直接的に酸性雨による生態系の被害を
緩和する効果が大きいことが予想されるため、この因子を取り入れることは極めて
重要である。潜在的加害国が自国の立場を少しでも有利にしようと、こうした現象
を長距離大気輸送モデルに繰り込むよう主張することは確実であり、東アジアにお
ける越境大気汚染問題は、この面の科学的知見をも公平な形で取り入れなければ、
説得力を持たない。
などである。酸性雨にも関連し、かつ、各国の関心を引く対象物質を取り込むことで、
各国を交渉のテーブルに着きやすくさせ、これらの問題について総合的な対策を考えて
解決できるとよい。
ウ
東アジア地域での環境問題取り組みでは、中国を交渉のテーブルに着かせることが重要
である。越境大気汚染問題では、韓国は、日本に対する潜在的加害国かつ中国からの潜
在的被害国という中立的立場にある。そのような中立的立場から韓国が中国を交渉のテ
ーブルに着かせるように、日本と韓国が連携できるとよい。
エ
東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が実施しているのは酸性雨に関
するモニタリングのみである。モニタリングのみから統合アセスメント(モニタリング
結果、排出量インベントリーデータ、輸送・沈着モデル、生態系へのインパクト、費用
-効果分析を組合せたもの)へと拡大し、政策を検討する上で直接的な情報を提供でき
るようになることが望ましい。さらに対象汚染物質も拡大していくことが望ましい。
引用文献・資料等
(1) (財)地球環境戦略研究機関「平成 14 年度 バルト海沿岸地域の環境政策の東アジアへの適用に関する調査
報告書」2003 年 3 月
(2) 石井敦、越境大気汚染に対処するための環境外交
第一部(ヨーロッパ編)、Studies 生命・人間・社会№5、
2001 年 7 月
(3) 国連欧州経済委員会(UNECE)ホームページ(http://www.unece.org/env/lrtap)
(4) バルト海洋環境保護委員会(ヘルシンキ委員会)
(HELCOM)ホームページ(http://www.)
(5) ライン川汚染防止国際委員会ホームページ(http://www.iksr.org)
-152-
第7章
東アジア地域レベルでの環境関連技術の
移転を可能にする地域的枠組みの分析
-153-
【要旨】
本章では、東アジアの既存の地域環境協力を整理し、環境関連技術の移転を可能にす
る枠組みの分析を試みた。
-154-
1.東アジアの地域環境協力
1.1
包括的な取り組み
(1)国連アジア太平洋経済社会委員会(UN/ESCAP)
1947 年、国連経済社会理事会の下部機構の 5 つの地域社会委員会の 1 つとして設立された(ア
ジア極東経済委員会(ECAFE)として設立、1974 年に ESCAP に名称変更)。
ESCAP は、西はロシアから東は南太平洋諸島にいたる地域を対象としており、現在、域内の
加盟国・準加盟メンバー57 ヶ国・地域、域外の加盟国 4 ヶ国の計 61 ヶ国・地域が参加している。
ESCAP は、アジア・太平洋地域の経済・社会開発に係わる地域間協力の促進を基本的使命と
しており、メコン川委員会の設立(1957 年)、アジア開発銀行(ADB)(1966 年)
、アジアハイウ
ェイ・プロジェクトの推進など当該地域の経済・社会開発分野での重要な基盤づくりにも貢献し
ている。
ESCAPでは、1985 年より 5 年に一度環境大臣会議を開催し、アジア太平洋全域を対象に、持
続可能な開発のための 5 ヵ年地域行動計画を策定している。このプログラムの実施を効果的に確
保するために、ESCAPは小地域ごとの協議を実施しており、北東アジア地域(日、韓、中、露、
蒙、北朝鮮の 6 ヶ国)では、1993 年から北東アジア環境協力高級事務レベル会議が開催されてい
る。2000 年に日本(北九州市)で開催された第4回ESCAP環境大臣会議では、実施状況をレビ
ューし、2001-2005 年の 5 ヵ年地域行動計画、「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」
注)
を採択した。
また、ESCAP は、地域レベルでの協力活動の維持と円滑化に努めてきた。北東アジアの場合、
ESCAP は域内各国の要請に応じ、1997 年以来、後述の NEASPEC の暫定事務局を引き受け、活
動の調整を行ってきた。
(2)北東アジア準地域環境協力プログラム(NEASPEC)
1993 年、国連アジア太平洋経済社会委員会(UN/ESCAP)が韓国の提唱を受けて主催した第 1
回北東アジア環境協力高級事務レベル会議の場で創設された。以来、プロジェクトの企画と実施
などについて討議・決定する機関として高級事務レベル会議が 1~2 年に 1 度、開催されている。
優先分野は、①エネルギー及び大気汚染、②森林消失、砂漠化対策を中心とする生態系管理、③
キャパシティービルディング、である。
北東アジア地域の 6 ヶ国が、地域協力が不可欠な地球規模の環境問題について、協力の枠組み
を検討するとともに、環境問題に対する意見交換等を通じて国際的理解の増進を図ることを目的
に、日本、韓国、中国、モンゴル、ロシア、北朝鮮の 6 ヶ国から、環境・外交担当部局長クラス
が参加。
NEASPEC の下には、環境データ・研修北東アジアセンター(NEACEDT)が設立され、大気
質の比較調査が行われる。NEASPEC のプロジェクトによる大気環境モニタリングは行われない
ため、酸性雨のデータは EANET で得られたデータの提供を受けることになっている。
注)クリーンな環境のための北九州イニシアティブ:5 ヵ年計画の優先分野である「環境の質と人間の健康」につ
いて、ローカルイニシアティブによる積極的取組みとこれに対する国、国際機関の支援、国の枠組みを越えた都
市間協力によって、着実な環境改善を進めようとするもの。
-155-
(3)環日本海環境協力会議(NEAC)
1988 年以降、韓国の提案に基づき日韓環境シンポジウムが開催されてきた。当初は日韓の環
境省庁によって主催されたものであったが、UNEP が協力し、中国、モンゴル、ソ連(後にロシ
ア)がオブザーバーとして参加するようになり、1992 年に開催されたリオサミットを契機に日本
の環境庁が同年に新潟で開催した第 1 回環日本海環境協力会議により、北東アジア 5 ヶ国が情報
を交換し域内協力を模索するフォーラムへと発展した。参加者は、中央政府の環境担当機関、地
方自治体、研究機関等の専門家、NGO。また、国際機関である UNEP(国連環境計画)、UNDP
(国連開発計画)、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)からも専門家がオブザーバーと
して参加している。
この会議においては、各国の環境専門の行政官や研究者が一堂に会し、幅広い議論を行ってい
る。したがって、何かを決定するためのフレームではなく、各国の環境情報を共有し、参加者間
の相互理解を深め、もって自国の環境政策の推進や、二国間・多国間の公式な協力関係の促進に
貢献することを目的とする対話のスキームである。
(4)日中韓三ヵ国大臣会合(TEMM)
北東アジアでは他の地域と異なり、1990 年代後半まで、環境大臣レベルの恒常的な会合は開か
れていなかった。そこで、韓国の提唱を受け、1999 年より年 1 回、日中韓三ヵ国環境大臣会合
(TEMM)が開催されるようになった。
第 1 回会合で、北東アジアの主要三ヵ国として、より積極的に環境問題に対応していく必要性
を認め、環境協力を強化することに合意し、既存の北東アジアにおける環境協力の状況を再検討
し、北東アジアの優先課題を特定した。TEMM では基本的には既存のプログラムやネットワーク
を活用・強化することに重点を置いたが、既存のプログラムでカバーされていないものについて
は新たなプロジェクトを策定することが合意された。
優先取組分野は、
①環境共同体意識の向上
②情報交換の活発化
③環境研究における協力の強化
④環境産業分野及び環境技術の協力の促進
⑤大気汚染防止及び海洋環境保全のための適切な対策の探求
⑥生物多様性や気候変動などの地球問題への対応
TEMM では具体的な協力プロジェクトを策定し、順次実施に移しており、2001 年にはソウル
で国際環境技術・製品展示会を開催している。
第 4 回会合(2002 年 4 月:ソウル)において、黄砂問題について活発な議論がなされ、今後モ
ニタリング能力を強化していくことで意見が一致したことを踏まえ、地球環境ファシリティー
(GEF)とアジア開発銀行の拠出により、黄砂モニタリングや対策のための国際的枠組みやマス
タープラン作りを目的とする地域協力プロジェクトが 2003 年から開始された。このプロジェク
トには日本、中国、韓国及びモンゴルの 4 ヶ国並びに UNEP、国連砂漠化対処条約事務局及びア
ジア開発銀行の 4 つの国際機関が参加している。
-156-
(5)アジア太平洋経済協力(APEC)
1989 年に設立され、1994 年から 3 回環境大臣会合が開催された(1997 年の第 3 回環境大臣会
合以降は開催されていない)。1995 年の大阪での年次会議でも声明の最後で環境、食料、エネル
ギーなどのいわゆる地球的課題が触れられた。ただし、APEC は EC のように独立の環境部が制
度化されるには至っておらず、あくまでも、貿易投資データレビュー、貿易促進、投資技術移転、
人材育成、エネルギー協力、海洋資源保全、電気通信、運輸、観光、漁業資源などの各作業グル
ープにおいて環境上の考慮事項を付け加えるにとどまっている。また、包括的レジームである
APEC と個別レジームの密な相互作用も見られない。
1.2
個別テーマに関する取り組み(酸性雨)
(1)東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)
1993 年から「東アジア酸性雨モニタリングネットワークに関する専門家会合」が 4 回にわたり
開催され、酸性雨の現状やその影響、さらには地域協力の方向性に関して議論が行われた。専門
家会合での成果をもとに 1998 年 3 月に、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)
に関する第 1 回政府間会合」が開催された。1998 年からは東アジア酸性雨モニタリングネットワ
ークの試行稼動が実施され、2001 年 1 月から本格稼動が開始された。
目的は、①東アジアにおける酸性雨問題の状況に関する共通理解を形成する、②酸性雨による
環境への悪影響を防ぐため、国や地域レベルでの政策決定に有益な情報を提供する、③参加国で
の酸性雨問題に関する協力を推進する、ことである。東アジアの 11 ヶ国(日本、中国、インドネ
シア、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、ロシア、シンガポール、タイ、ベトナム)が
参加し、酸性雨のモニタリングを行っている。
将来的には、発生源対策を含めたより実効性のある取組みを目指すことが必要と考えられ、そ
のために欧州における CLRTAP のような法的枠組みも含めた取組みのあり方も検討しなければ
ならない。また取り組む対象も酸性雨だけではなく、関連する他の越境汚染問題を扱うことも視
野に入れておく必要がある。
(2)UNDP/UN DESA 北東アジア越境汚染モデリングプロジェクト
UNDP(国連開発計画)及び UN DESA(国連経済社会部)により開始された、中国、北朝鮮、
モンゴル、韓国を対象とした「北東アジアエネルギー・石炭燃焼・大気汚染プロジェクト」の一
貫として 3 回の会合が開催された(1997 年、1998 年、2000 年)。
目的は、北東アジアにおける、長距離輸送(越境)大気汚染の評価及びシミュレーションモデ
ルの開発及び確認。
シンセン(中国)に設立された情報センターは、東アジアのモデリングセンターを担える機能
を持つような構想でないことから、当面イニシアティブを取れるようなものではない。
(3)日中韓 LTP プロジェクト
日本、中国、韓国が参加した第 1 回北東アジア長距離越境汚染に関するワークショップが 1995
年 9 月にソウルで開催され、ワーキンググループの設置と、韓国の国立環境研究院(NIER)に
暫定事務局の設置が決定された。
-157-
北東アジアの越境汚染問題に対して、モニタリング及びモデリング分野の共同研究を行うこと
を目的とする。
事業は進みつつあるが、事務局(NIER)のキャパシティー不足及び中国の対応の遅れ等により、
当初の 5 ヵ年計画から遅れている。
1.3
二国間環境協力
(1)日中環境協力
1979 年の大平総理大臣(当時)訪中以来、日本政府は積極的に対中経済協力を推進している。
環境案件は当初上下水道のみに限られていたが、1990 年代に入ってからは質量ともに増加し、円
借款を中心に無償資金協力・技術協力等の援助が、関係省庁・援助機関によって実施された。特
に、経済産業省では、1992 年より産業公害分野及び省エネルギー分野に特化した「グリーン・エ
イド・プラン」事業を展開しており、中国は、インドネシアやフィリピン等と並んで重点国の一
つとして位置付けられている。ただし、日本の ODA だけで広大な国の環境対策を全て行えるも
のではない。
(2)日韓環境協力
日中環境協力と比較すると質量ともに小規模なものにとどまっている。この背景として、対韓
円借款供与・無償資金協力が行われなくなったことが挙げられる。日韓協力を支える枠組みとし
ては、1993 年 6 月に日韓環境保護協力協定が締結されている。この協定に基づいて、日韓環境保
護合同委員会が、毎年両国で開催され、協力プロジェクトの調整・実施を図っている。
(3)韓中環境協力
韓国は 1987 年に対外経済協力基金(EDCF)、1991 年に韓国国際協力団(KOICA)を設立し、
1996 年には OECD に加盟するなど、着実に援助供与国としての体制を整備しており、これに伴
って、環境面における対中 ODA も増大している。しかしながら、対中環境協力は必ずしも ODA
を軸とはしていない。1993 年 10 月に締結された対中環境協力協定では平等と相互利益の精神が
うたわれており、データ・情報交換や人的交流・研究協力を中心とした協力が推進されている。
-158-
2.東アジア地域レベルでの環境関連技術の移転を可能にする地域的枠組み
東アジア地域で地域環境政策・環境協力を進展させていくための長期的目標は、欧州の酸性雨
問題で形成された長距離越境大気汚染レジームであろう。すなわち、環境モニタリング等の科学
的調査・データの確保、地域環境に関する共通認識の形成、汚染源等のインベントリーの整備、
地域環境の構造の明確化、地域環境改善のための計画の策定、汚染物質の削減、資金協力・技術
協力の推進、普及啓発、地域政策の推進のための組織等の各般にわたった施策に関して、関係各
国・地域における基本合意を得て、地域政策枠組みを構築することである。これらの地域環境政
策の構築を進展させる上で重要な点は、一般的に、科学的な調査・研究に関する取組みを優先す
べきことである。地域環境等に係わる共通認識の醸成は、各国の環境意識を高め、環境への取組
みを進める上で不可欠の要素である。
東アジア地域においては、既に様々なプログラムや地域協力のイニシアティブが複雑な形で存
在している。しかし、いずれの活動も、欧州で見られるような環境負荷の低減まで踏み込んだ地
域政策は確立されていない。今後これらの既存の取組みを、枠組み条約等の環境レジームの形成
に発展させることが望ましいのはいうまでもない。
東アジア地域における越境大気汚染レジーム形成であれば、まず EANET(東アジア酸性雨モ
ニタリングネットワーク)の機能をモニタリングのみから統合アセスメントに拡大し、取り組む
対象も酸性雨だけでなく、関連する他の越境汚染問題も扱い、科学的情報を収集して共通認識を
形成し、EMEP(欧州長距離大気汚染物質監視・評価計画)のような組織を目指していかなけれ
ばならない。レジーム形成では、東アジア地域の越境大気汚染問題の利害関係の中心にある日中
韓がまず合意する必要があるため、TEMM(日中韓三ヵ国環境大臣会合)も協調して枠組み形成
を協議する必要がある。
しかし、東アジア地域における現在の主たる汚染源は中国という発展途上国であるため、現時
点で排出削減の自発的活動を求めることが難しい。これは、欧州における越境汚染源が主にイギ
リスという先進国であったのとは異なる。そこで、当面は、排出量削減を法的に拘束する条約レ
ジームではなくとも、相手国内の環境問題を解決するために環境関連技術の移転がスムーズに行
われる政策枠組みが重要である。ここでも TEMM が重要な役割が果たせると考える。その理由
は、TEMM の優先取組分野の中に「環境産業分野及び環境技術の協力の推進」や「大気汚染防止
及び海洋環境保全のための適切な対策の追及」があり、環境産業振興プロジェクトとして日中韓
環境産業ラウンドテーブルや環境技術・環境製品の展示会を開催したことがあるためである。
また、今後は、日中韓三ヵ国の経済産業政策担当者による環境技術協力会合を TEMM のよう
に開催し、ここで東アジア地域における産業環境汚染実態の認識の共有化、環境関連技術移転の
あり方、対中国技術移転協力の日韓の役割分担など、環境分野での産業協力を話し合うことによ
り、さらに具体的な産業環境汚染防止に結びつくことが期待される。地域の環境状況、環境政策、
環境対策状況、環境投資状況等、現状について共通認識した上で、どういう対策をすべきか、ど
ういう協力ができるか等を話し合うのである。何も日本がいつもいつも資金も人も出す必要はな
く、日中韓で役割分担すればよい。その中で、日本が培った環境関連技術の移転可能性を見出す
ことができれば、環境ビジネスの可能性も拡大してくる。また、どの国が実施しようと、中国に
おいて汚染物質が削減されれば、日本への越境汚染は低減され、日本のメリットになる。そして、
-159-
将来的には、このような環境技術協力会合が日中韓三ヵ国から東アジア地域全体に拡大されるこ
とが望ましい。
引用文献・資料等
(1) (財)地球環境戦略研究機関「平成 14 年度 バルト海沿岸地域の環境政策の東アジアへの適用に関する調査
報告書」2003 年 3 月
(2) 鈴木克徳、環境問題と域内協力、(財)日本国際問題研究所平成 14 年度自主研究「北東アジア開発の展望」
(3) 外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp)
(4) 環境省ホームページ(http://www.env.go.jp)
(5) (財)地域環境戦略研究機関「第 1 期戦略研究報告書(環境ガバナンスプロジェクト)
」2001 年 3 月
-160-
海外調査報告書
-161-
-162-
中国訪問調査報告書
1.調査の概要
(1)調査目的
中国の環境状況、環境規制状況、環境対策状況の実態、および中国が必要としている技
術・援助を調査し、東アジア地域レベルでの環境技術移転を可能にする地域的枠組みのあ
り方について検討する。
(2)調査先および期間
中国北京市および天津市
平成15年12月20日~平成15年12月28日
(3)調査メンバー
東京大学大学院化学システム工学科
教授
定方正毅
財団法人国際環境技術移転研究センター
総括参事
永野隆夫
同
主査
川本
忠
(4)訪問先および面談相手
国家環境保護総局
政策法規司行政処罰・復議処
処長
別涛
同
中日友好環境保護中心
副主任
程子峰
氏
主任
田春秀
氏
教授
徐旭常
氏
同
環境・経済政策研究中心
清華大学
環境信息研究室
中国科学院
熱能工程系
資源環境科学・技術局生態環境処
氏
Haifeng Rui 氏
業務主管
中国節能投資公司 CDMオフィス
副主任
中国環境保護公司
総経理助理
天津市環境保護局 国際合作処
処長
楊婕婻
同
科員
馬麗
同
大気処
陳英
氏
張軍
氏
氏
氏
主任科員
鮑金宏
天津市環境監察総隊
主任科員
趙鋒
氏
天津市環境監測中心
副主任
陳向党
氏
南開大学 校長助理
教授
高玉葆
氏
同
環境科学与工程学院環境工程系
教授
Wang Qi Shan 氏
同
環境科学与工程学院
副教授
李洪遠
天津経済技術開発区管理委員会 環境保護局
局長
Wu Guo Hua 氏
同
Sun Bo 氏
-163-
氏
氏
2.調査結果の概要
(1)国家環境保護総局
日
時:平成15年12月22日(月) 9:00~11:30
面談者:政策法規司行政処罰・復議処 処長
中日友好環境保護中心
環境・経済政策研究中心
副主任
別涛(BIE Tao)氏
程子峰(Cheng Zi Feng)氏
環境信息研究室
主任
田春秀(Chunxiu TIAN)氏
<SOx 環境状況>
●
統計で、SO2濃度の減少率が排出量の減少率に比べて大きいのはなぜか?
排出量は全国のもので、主に統計の方法で計算したもの。濃度は大都会の濃度。都市で
はSO2濃度を抑制するためS分の少ない石炭を使用し、悪い石炭は使用しない。また、一
部の都市では洗炭して使用する。小都市・農村では脱硫や洗炭しない石炭を使用してい
る。したがって、都市ではSO2は減少しているが、全国では都市のようには減少してい
ない。
●
公害病とか、人間に対する被害は出ていない。酸性雨は出ている。
<SOx 環境規制>
●
一つは総量規制で、まず地域の最大総排出量を決める。これを地域内の排出源に配分す
る。これは 2000 年に改訂した大気汚染規程にある。
もう一つは課徴金(非汚費)で、SO2排出全量に課せられる。主な対象は、発電所、大
きな工業企業。汚染排出規程がある。発電であれば 300MW以上のものは省が徴収する。
県レベルだと自分の地域の企業を守りたいという地方保護主義が働いて抵抗するため、
省が徴収する。支払わないと厳しい処罰がある。小企業は県・市が管理する。排汚費の
金額は、2ランクに分けられている。発電所の場合、高硫黄分炭は 1.2 元/kg、低硫黄分
炭は 0.6 元/kg。
排出基準を超えた時の処罰は、期間を設けて改善させると同時に罰金を課す。その期間
内に改善できないと閉鎖させる。
<SOx 汚染源対策>
●
多くの火力発電所にはまだ排煙脱硫装置はついていない。小規模火力は経済利益もない
し、汚染もひどいため、たくさん閉鎖した。
●
全部で 8 万件の 15 小企業(皮革、製紙、染色、コークス、火力、…)を閉鎖した。再活
動するものが 5~10%ある。つまり失業とか地方経済の問題で必要があるから。国とし
てはこれからも閉鎖を進めていく。閉鎖した小企業は大多数は私営、一部は国営(小火
力、小水泥)
。
●
最近SO2の規制が厳しくなって、各発電所で脱硫装置を設置する動きが急速に高まって
いる。しかし、計画はたくさん作ったが、実際の設置は多くない。発電所には経済負担
が大きいのと、電力不足で政府も発電をお願いする立場。我々の部門は閉鎖も要求して
いるが、それでバランスをとっている。
●
対策は主には 2 つあり、大火力発電所への排煙脱硫装置設置と、排出SO2への課金。
●
エネルギー白書では、
1 エネルギー原単位削減…強制ではないが、政府が企業に厳しい要求と指導をする。
-164-
2
産業誘導…IT や製薬などエネルギー消費の少ない産業へ。
3
第 3 次産業を増やす…今までは 1, 2, 3 次産業のバランスが良くなかった。
そのためには投資が必要で、それを政府が助ける。中国の銀行は国営なので、銀行借入
の面で応援する。
<NOx>
●
NOx については、濃度データはあるが、排出量データはない。
●
中国では光化学スモッグは頻繁に発生しているか?
類似したものは発生したことがある。類似であって、間違いなくそれということではな
い。北京は毎日大気中の NOx 濃度データを発表しているが、それを見るとそれほど悪く
ない。中国も光化学スモッグをとても心配している。北京の車の数は 200 万台で増加率
も大きい。車に対する規制も厳しくなっている。車の規制については、ユーロⅡよりも
厳しいものにする。つまり、2005 年まではユーロⅡ、2005 年以降はユーロⅢ。北京の
車は三元触媒を取付けている。
●
NOx の産業対策は?
化学肥料とか NOx 排出が多い工場以外は規制がない。今のところ重要視していないが、
これからは重要視する。
火力発電所は排煙脱硫装置がまだ設置されていないのに脱硝装置はあるわけがない。
<ばいじん>
●
大気中のばいじん濃度が高い理由は?
1つは石炭消費が多いことがあげられるが、少なくとも大都会ではほとんど除塵装置を
取付けた。工場と石炭を使うボイラでは国の管理が厳しいのでSO2対策装置より多く取
付けた。石炭がばいじんの全ての原因ではない。北部では森林破壊で風が強い時、ほこ
りが立つ。もう 1 つの原因は中国の発展が早いので、至る所に工事現場がある。ここか
らほこりが出る。
●
ばいじんの対策は?
今は厳しい規制を行っている。北京では今は天然ガスしか燃やせない。他の都市では必
ず除塵装置(サイクロンフィルタ、バグフィルタ、EP)が必要。
<環境技術>
●
海外導入技術は、ごみ焼却ではたくさんの炉を導入した。日本からも脱硫装置を導入し
ている。外国技術導入は重視している。
●
国産で力を入れている技術は、汚水処理場(産業、生活とも)、水のパイプ化(汚れない
ように)、ごみ焼却、埋立処分場など。
●
10 次 5 ヵ年計画期間で総投資 7 千億元。
●
計画はたくさん作ったが、実際には計画通りには進んでいない。
<環境協力のあり方>
●
今まで日本の ODA があまり効果が上がっていない原因は、中国の本当に必要なもので
はなく日本のことを考えているため、中国に合わないのである。
●
また、ODA は要望してから事前調査、打合せ、資金手当、建設まで、何年もかかる。中
国の発展が早いため、その間に状況は大きく変わってしまう。
-165-
<その他>
●
PAH(多環芳香族炭化水素)については、まだ研究の段階である。それほど汚染してい
ない。POPs(残留性有機汚染物質)
、PAH について、中国は世界の公約に加入した。中
国は POPs、PAH について日中友好センター、清華大学などとプロジェクトを作って共
同で研究を始めた。
●
PAH はディーゼル車から出るが、ディーゼル車の数は多いか?
北京はディーゼル車は非常に少ない。したがって、中国の PAH は非常に少ない。一部の
自動車メーカーはディーゼル車を作りたいが、今は非常に少ない。ガソリンスタンドを
見れば分かるが、ディーゼル燃料を売る所は少ない。
●
将来の石油資源を考えるとディーゼルも必要ではないか?
中国には他の道(アルコール)がある。メタノールは石炭から、エタノールはバイオマ
スから作る。これから行う。
●
実際にアルコール車は走っているのか?
ガソリンとアルコールを混ぜたものはある。
●
農村の室内でのバイオマス燃焼による健康被害の対策は?
今は石炭とバイオマスを使っているが、これは体に影響がある。対策は1つは液化ガス
(LPG)、もう1つは糞便からのメタンを使用すること。LPG は都市郊外、メタン発酵
は農村で行う。この方法で農村の室内汚染を改善する。これはすぐにはできないが徐々
に改善する。
●
対策としてバイオブリケットの可能性は?
一部の地域(東北など)では試験的に使用している。しかし、価格が高い。石炭の 1.5
~2 倍する。
●
日本の田舎では LPG を使っている。しかし、中国は広いので運搬が大変。これからは農
村ではメタン発酵とバイオブリケットの可能性は大きい。
●
郷鎮企業からの排出はかつて深刻と聞いたが、最近は改善されたのか?
1 番ひどいのは 80 年代であった。その時、郷鎮企業がたくさん作られた。これらは技術
が低いので特に水質汚染が深刻になった。90 年代になっていくつか処置をとった。1つ
は小企業閉鎖、2 番目は汚染しないような技術への改善。今は良くなった。監理レベル
は今は県になった。県には環境監理部門があるので良くなった。
●
郷鎮企業の排出量データは国家レベルの統計データに含まれているのか?
一部は含まれている。統計データは 85~90%の企業で、数で 16 万件の企業である。と
いうのは、郷鎮企業は今日できて明日なくなり、閉鎖されてもこっそり再開したりする
ので、全国の郷鎮企業を全て統計することはできない。
(2)清華大学
日
時:平成15年12月22日(月) 13:30~15:00
面談者:熱能工程系
教授
徐旭常(Xu Xuchang)氏
<両控区>
-166-
●
両控区は、SO2排出の主な地域で、SO2排出量の 60~70%を占める。1つは汚染のひど
い所(酸性雨地域)、もう1つはそんなに汚染されていないけれど排出量が多い所、を対
策するのが目的。
●
両控区以外の地域であっても火力発電所の新設時には脱硫装置設置が義務付けられてい
る。現在の新設火力発電所の規模は 300MW。工業用以外はこの規模。以前は脱硫設備
費用が高くて設置できなかったが、導入技術の国産化により脱硫設備費用が大幅に下が
った(8 年前の 1/4 になった)。だから大量にできるようになった。
<排汚費>
●
脱硫設備費のコストダウンにより脱硫コストは、8 年前 1.2~2.0 元/kg-SO2であったのが
今では 0.6~1.0 元/kg-SO2まで下がった。
●
排汚費は、現在 0.2 元/kg だが、2004.7.1 に 0.4 元/kg になり、2005.7.1 に 0.6 元/kg に
なる。0.2 元/kg というのは全国の数値で、以前は全国共通だったが、北京、上海、抗州
ではこの数値より高い排汚費を課している。したがって、脱硫コスト=排汚費になった。
●
SO2だけでなく、NOxも 2004 年から排出量全量に排汚費が課せられる。しかし、測定が
難しいので、そう簡単にはいかないだろう。対象はまずは大企業だろう。小企業は測定
が困難だから。
●
ばいじんは排汚費なし。合格か不合格かだけ。不合格なら環境保護局が処罰する。
<NOx>
●
石炭火力の排出基準をすでに改訂した。まもなく公表する。公表の数値は以前の数値よ
り低くなる。
<ばいじん>
●
火力発電所は、大型火力にはほとんど全部電気集塵器(ESP)が設置されている。企業
の自家発、中小火力も新設の場合は ESP が設置されている。既設にも ESP を設置して
いる。したがって、発電量は増加しているが、排出量は増加していない。
●
しかし、ばいじんは減少しているが、PM10は急増している。ESPの効率はまだまだ不十
分と思われたのでバグフィルタ取り付けを要求。
●
日本やアメリカと違うのは、日本やアメリカでは石炭の灰分が少ない。中国では輸出用
は灰分が低いが、国内用は灰分が高い。したがって、日本やアメリカの除塵器をそのま
ま持ってきてもダメ。
●
その他の産業も大型のものにはついていて、ほとんど排出基準値以下になっている。た
だし、新基準になると対策が必要なものも出てくるだろう。
<環境協力のあり方>
●
アジア地域、特に東アジア地域は重要な地域である。技術協力を通じて改善することは
よいこと。特に東アジア地域では低コストの技術が必要。これらを開発すれば市場にな
る。例えば、排煙脱硫装置の設置数は 1995 年から 3 年毎に倍増している(1995 年 100
万 kW、1998 年 200 万 kW、2001 年 400 万 kW、2003 年 700~800 万 kW、2006 年 1500
~1600 万 kW)。これは、排煙脱硫装置のコストダウンによる。低コスト技術はアジア
地域に必要である。低 NOx 技術や除塵技術も安くできれば早く発展できる。今は費用が
安いかどうかに環境技術採用が左右される。以前は政府が要求してもあまり設置されな
-167-
かったのが、今はそれほど言わなくても企業は設置する。
●
排煙脱硫装置のコストダウンは、主に中国で作れるようになったからである。中国で開
発したものもあり、合弁企業による外国技術導入もある。単なる外国の装置購入ではコ
ストダウンできない。
●
政府間協力で資金援助もあればよい。
●
このところ大気環境はよくなったが、汚染を解決する道はまだ遠い。SO2以外にNOx、
PM10などがある。Hg排出も大きな問題である。7~8 年前は外国技術を買うだけだった
が(~1995 年)、大きな効果は得ていなかった。何年たっても 100 万kWの設備しか取
り付けられていなかった。これは東南アジアも同じ。その時は設備を買う金がなかった。
SO2と同じで、現有技術を買うのではなく、一緒に安い設備開発を行うことが必要。国
産化も1つの方法で、互いに競争すると価格が下がる。価格を下げても儲かる。という
のは、1工事では儲けは減るかもしれないが、売れる量が増えるので全体では儲かる。
安い設備開発が必要。
(3)中国科学院
日
時:平成15年12月22日(月) 16:10~16:40
面談者:資源環境科学・技術局生態環境処 業務主管
●
Haifeng Rui 氏
必要とする技術
ここは科学研究をする所。どういう技術を導入するかという決定の権限はない。それは
環境保護総局、国家経済貿易委員会がすること。
●
酸性雨研究
第 6~8 次 5 ヵ年計画にあった。それを組織したのは環境保護総局である。各研究所は研
究の実務をした。第 10 次 5 ヵ年計画は科学院に大きな研究プロジェクトはない。国際
協力プロジェクトがあるが、それは環境保護総局がやっている。対外窓口はここではな
く、環境保護総局になる。また、実務的な研究はここではなく、下部の研究所になる。
例えば環境保護総局の生態センターになる。酸性雨研究では大気研究所がよい。
●
中国科学院における環境に関する研究の割合
研究所は科学院の下に 85 あり、そのうち資源環境科学の研究所は 25 ある。
(4)中国節能投資公司
日
時:平成15年12月23日(火)
面談者:中国節能投資公司
9:00~11:00
CDMオフィス
中国環境保護公司
副主任
陳英(Chen Ying)氏
総経理助理
張軍(ZHAN JUN)氏
<中国節能投資公司の概要>
●
1982 年、設立。当時は国家計画委員会
節能局という名前。1988 年、会社になった。
中国で最大の節能と環境保護の会社。特大企業 189 社のうちの1つ。従業員約1万人。
1982 年~1988 年は計画経済だったが、その時の投資計画は全てここがやった。1998 年
までに中国節能投資公司を通して全国で 2300 件、700 億元の計画を実施した。プロジェ
クトは台湾以外全て、例えば電力、軽金属、石炭など様々な分野にわたる。近年は、環
-168-
境では汚水処理、ゴミ処理、廃棄物処理、医療廃棄物処理もやっている。エネルギー構
造調整のためエネルギー再利用、風力発電プロジェクトもある。
<中国環境保護公司の概要>
●
中国節能投資公司の子会社。水、固体廃棄物の専門公司。中国環境保護公司が天津に建
設した危険物処理センターは全国で一番大きなセンター。
<CDM プロジェクト>
●
CDMプロジェクトは2種類ある。1つはエネルギー効率向上(省エネルギー)、もう1
つは再生可能エネルギー(風力、太陽、ゴミ、地熱)。中国のエネルギー効率は悪く、日
本と比べたらまだまだなので、省エネポテンシャル、CO2削減ポテンシャルは大きい。
中国では 2006 年に再生可能エネルギーの法律が発布されるかもしれない。これが発布
されると優遇政策が出る。再生可能エネルギーは総電力の 5%を占めるだろう。
●
将来、再生可能エネルギーにバイオマスが占める割合は?
まだ全体計画は出ていない。しかし中国は農業大国だから、この分野のポテンシャルは
大きい。中国の農民はまだまだ農産物を燃やすから可能性がある。
<脱硫装置>
●
中国の火力発電所は脱硫するのとしないのとでコスト差は 10%ある。中国の企業が開発
した脱硫設備は大きくコストが下がった。日本の脱硫装置は 0.4 元/kg-SO2までコストダ
ウンしたら中国の企業が受け入れる可能性がある。中国はどの国でもよいからコストを
最優先する。
●
性能は重要ではないのか? 脱硫効率は 80%でもかまわないのか?
日本製は 95%以上だが、中国製は湖南省に 85%のものもあり、コストも低い。性能を考
慮しないということはないが、85%なら可能かもしれない。
●
脱硫効率は 90%以上必要なのでは?(環発[2002]26 号)
指標はますます高くなっているのは確か。しかし政府が要求しても企業はコストを考え
る。環境に対する認識レベルは以前より向上した。規制はますます厳しくなっている。
<国産品と輸入品の割合>
●
中国節能投資公司が扱った 2300 件のプロジェクトでは 8 割は国産、2 割は輸入。輸入の
2 割というのは、コントロール技術などの中心技術で、中心技術だけ導入して設備は中
国で製作するというやり方。日本は先進技術をもって、中国国内で生産するのがよい。
物を売るだけではダメだろう。どこにもない技術ならば、例えばドイツの熱利用技術の
ように物を売るだけでもよいだろうが。中国には廃熱がたくさんあり、このような設備
を導入する可能性は大きい。また、ゴミ発電を合作で作った。中心技術はフランスのア
ルストーム、他の大部分は中国。
<環境協力のあり方、ニーズ>
●
日本は中国の状況を考えないで、日本の技術を強調するだけである。
●
日本企業が合作に消極的なのは、日本企業にとってメリットが得られないからではない
かと思うが、日本企業にメリットが与えられるかどうか?
CDMがある。アメリカが一度視察に来たが、その結果では中国は最大の市場で、全世界
が中国のCO2に注目している。我々投資会社は、政策、企業ニーズ、プロジェクトコス
-169-
トが分かる。そこで、
(世界銀行の炭素基金のような)基金を設立するとよい。中国は投
資回収が一番高い。そうすると中国の環境問題は解決できる。省エネルギーと環境の範
囲は広い。省エネルギー技術は 100 種類程度あるが、投資者は十数種類にしか投資しな
い。環境解決には投資回収できる方面から着手した方がよい。省エネルギーは再生可能
エネルギーよりはよい。
●
日本の廃棄物処理技術はすばらしい。中国の建築ゴミは至る所に捨てられている。日本
の投資者・技術者と一緒にプロジェクトを行うとよい。
●
固体廃棄物について考えた方がよい。政府は医療廃棄物と危険廃棄物については規制す
るが、それ以外のゴミ 2 億トン/年の処理方法があまりよくない。ゴミ処理をする部門
に資金がないし、また、ゴミは資源という意識がない。半分以上は建築ゴミで、大多数
は勝手に捨てられたもの。これを資源として活用しないのはもったいない。また、生活
ゴミで発生する環境汚染はひどい。この分野でできる仕事は多い。また、2 千万個/年
の廃タイヤについて、政府もどうすればよいか考えている最中である。工業の固体廃棄
物の問題もたくさんある。例えば、酸化アルミ工場のゴミはよい技術がなくて山ほど出
ている(高さ 100mくらいの山になっている)。また、石炭のボタ山が 1500 くらいある。
ボタ山は毎年自然発火して、ここからCO2が発生している。
●
農村人口は 9 億人で、その半分くらいが農作物を燃やす。したがって、バイオマス技術
は農民に受け入れられたら普及する。
<その他>
●
バイオブリケットを使うとSO2を 80%除去、ばいじんは出ない、省エネになる。ボイラ
で使用すると効率は 10~15%向上する。また、バイオマスを使用するため、CO2を約 30%
削減できる。バイオブリケット成型機は日本でしか製作できない。対象は一般家庭のコ
ンロ、小規模石炭燃焼設備(ストーカー炉)。瀋陽市に1台、成都市に1台導入されてい
る。中国に普及すれば省エネ、環境浄化に効果が期待できるのではないか?
●
農作物残渣をガス化して農家で使用するテストをしたことがある。しかし、石炭が安す
ぎたため、一部の地域ではまた石炭を使うようになった。バイオブリケットのコストは
分からないが、現実に合ったコストでないといけない。
●
中国で省エネが進まないのは石炭価格が安すぎるからではないか?
特に石炭生産地ではそうである。将来的には石炭価格は上がる。今年は特別で、電気・
石炭も不足で石炭価格が上がった。
●
緑証書
石炭の安い地域はその証明書を買わなければならない。再生可能エネルギー、クリーン
エネルギーが 5%占めなければならない。山西省はクリーンエネルギーがないため、証明
書を買わなければならない。
●
植物によるCO2吸収について政府はまだCDM対象として承認していない。例えば森林が
火事になったら逆になり、コントロールしにくいためである。
-170-
(5)天津市環境保護局
日
時:平成15年12月23日(火) 15:30~17:00
面談者:天津市環境保護局
国際合作処 処長
楊婕婻
氏
科員
馬麗(Ma Li)氏
主任科員
鮑金宏
天津市環境監察総隊
主任科員
趙鋒
天津市環境監測中心
副主任
陳向党
同
同
大気処
氏
氏
氏
<天津市の大気汚染状況>
●
天津市は大気質の自動観測・分析を実現し、毎日マスコミで日報を発表する。同じよう
に 46 都市がマスコミを通して発表している。天津市の順位は、良いほうから 35 位、つ
まり汚染されているほうである。大気質はSO2、NO2、PM10を毎日測定している。今日
の状況は、悪いほうから 10 番目である。モニタリング箇所は、自動計測が 14 ヶ所。現
在 8 ヶ所建設中なので、来年 22 ヶ所になる。
<規制、対策>
●
酸性雨防止について
酸性雨やSO2のひどい所について区分けし、具体的要求と目標を立てた。地方では、例
えば天津では 2002 年に天津市大気汚染防止条例を発布した。
●
ばいじんについて
天津市は石炭をたくさん使用し、エネルギー全体の 62%を占めている。天津市の汚染は
主に石炭の煙を防止することが必要。したがって、大気汚染を防止するためエネルギー
構造を改造すること、クリーンエネルギー普及を今年の主な仕事とします。と同時に発
電所にも導入を求めた。
(クリーンエネルギーとは、電気、天然ガス、地熱、太陽など)
●
基準について
発電所については、天津だけでなく全国的な火力発電所大気汚染物排出基準がある。
道路のほこり、建物を壊す時のほこり、建築現場のほこりについて、明確な要求をした。
車の排気について明確な要求をした。まず、町を走る車は国の基準を満たさねばならな
い。交通局と環境保護局は、毎年走っている車を検査する。基準を超えた車は走行禁止
になる。
石炭の煙について、ボイラ排出基準を作った。石炭ボイラについて厳しく規制する。規
制は2段階で、2003 年 10 月 1 日からは市内では外環環状線内側では石炭ボイラの新設
を禁止し、現有石炭ボイラについて基準を作った。2005 年末までに 10t/h 以下のボイラ
は必ずクリーン燃料に替えなければならない。集中暖房に加入するなどして、石炭を使
用しないようにしなければならない。10t/h 以上のボイラは、需要があるため、まだ使用
してよいが、必ず脱硫設備を設置することと良い石炭を使用することを要求している。
●
大型ボイラの脱硫、除塵についての規制
1999 年、天津市は石炭関連基準(石炭使用について)を作った。法律・通達も出した。
特に天津市政府の命令で 2001 年から天津市青空プロジェクトを作った。このプロジェ
クトは毎年、量的目標を出す。例えば、2002 年には 2 級より良い日数を必ず 65%以上
にしなければならない。今年政府の出した要求はさらに厳しくなり、2 級以上を年間 75%
-171-
以上にしなければならない。
●
SO2発生は石炭燃焼によるもので、発生源は、発電所 50%、工場(供熱と企業)35%、
民生 15%である。天津市では、発電所の煙突は高さが 150mあるが、民生の煙突は低い
ため、民生の煙が一番影響が大きい。そこで、中小の汚染源を重点的に対策し、効果が
あったと言える。現在、2t/h以下はクリーン燃料に替わった。家庭は天然ガスをパイプ
で供給されている。天津市市内では 100%天然ガスで、市外でもパイプが届く所は天然
ガスを使用している。
●
天然ガスは石炭に比べてコストがかかると思うが(同じ熱量で天然ガスは 3 倍程度高い
と思うが)、一般工場で天然ガスを使うのは難しいのか?
2t/h 以下は強制的に天然ガスにした。年々改造していく最中で、今年は天津市全体で
1243 台のボイラを改造した。未改造は残り 2500 台くらいあり、2004 年と 2005 年に改
造し、完了予定。
●
企業が積極的に改造に協力しているのか?
今のところは青空計画、政府関連通達、天津市市民の環境改善なので、全社会が支持し
ている。都市は発展しようと思ったらエネルギー構造を変えなければならない。
●
企業は罰金を払うよりも天然ガスに転換したほうが経済的ということか?
天然ガスよりも、罰金を払ってでも石炭のほうが安いこともある。しかし、もし改善し
なければ、大気汚染防止条例にあるように、違法企業は生産停止になるため、改善しな
ければならない。
●
大型ボイラや発電所に脱硫設備を設置するとすると湿式になる。そうすると大量の水を
使用するが、それは OK か?
天津の発電所はまだ脱硫設備を設置していない。これについてはまだ分からないが、ど
んな設備を設置したらよいか公開入札になる。もちろん低コスト、低エネルギー使用の
ものになる。天津市第1熱電所は、湿式を導入する計画がある。天津市では、水は不足
している。
●
乾式脱硫設備の脱硫効率は?
現在中間規模の乾式設備のテストを行っている。効率は 70~80%、建設コスト、運営コ
ストとも湿式の 1/2。中国北部、東北部など水不足の地域には乾式が適しているだろう。
<排汚費>
●
排汚費制度は 20 年間行われてきたが、2003 年 7 月から新しい徴収法を実行した。以前
は環境を1つの資源として使ってもよいが有償として使うという考えで、排出基準を超
える分について排汚費を徴収した。今は、排出総量について徴収し、排汚者に対して経
済的に排出したくないようにする。SO2は天津市では 1998 年から排出すれば有料という
ふうになった。当時、徴収したSO2排汚費は、SO2排出の治理、汚染源の監督監理に使っ
た。
●
●
次の2点が重要である。
1
排汚の申告
…
2
オンライン観測
排汚する会社が種類・数量・行先を環境保護局へ申告する。
…
主に水と大気
SO2排汚費は高くなる。現在の 0.21 元/kgは治理コスト(1 元/kg以上)よりはるかに低
-172-
い。企業の負担力にもよるが、2006 年には 0.63 元/kgになる。北京では 0.95 元/kgくら
いで天津より高い。最終目標は治理コストより高くなる。
●
排汚費の単価は地方が決めてよいのか?
国の基準がない場合には地方が条例を作ってもよいし、国の基準がある場合には国の基
準より厳しくするものであれば(国の基準を満たすものであれば)地方が作ってもよい。
●
排汚費の使い道
10%は国に納められ、三河三湖の治理に使われる。残りの 90%は天津市の財政になるが、
使い方は規定されており、研究開発と重点汚染源治理に使われる。
<ニーズ>
●
オンライン観測
水については、量はリアルタイムで観測できるが、濃度(BOD)はまだできない。大気
については、天津市には 300MW以上の発電所が 5 箇所ある。このうち、2~3 箇所はSO2
とばいじんの観測がリアルタイムでできる。我々の目標は全部の発電所に取付けること。
これは条例の中に 20t/h以上はオンライン観測設備を取付けることを規定した。したがっ
て、オンライン技術、設備、人材研修が必要になる。
<その他>
●
日本の自治体・企業から天津市の環境浄化をサポートしたいという話はあったか?
日本との友好都市はあるが、援助という話はない。四日市、神戸、千葉、北九州がある
が、密なのは四日市。神戸とは地震後白紙になった。千葉とはまだ接触していない。北
九州とは相互に1回づつ訪問した。また、水俣市と水俣病の交流をしたことがある。
(6)南開大学
日
時:平成15年12月24日(水) 9:00~11:00
教授
高玉葆(Gao Yubao)氏
環境科学与工程学院環境工程系
教授
Wang Qi Shan 氏
環境科学与工程学院
副教授
李洪遠(Li Hong Yuan)氏
面談者:校長助理
<規制>
●
中国の大気汚染は工業と民生の 2 つある。工業汚染については改造を進めている。民生
は石炭を暖房に使う生活の汚染です。大都会では西から東へガスを運ぶプロジェクトで
よくなってきている。集中暖房、発電では石炭を燃やす。石炭を燃やす企業全てに存在
する問題であるが、問題は脱硫である。改善技術はヨーロッパ、日本、国産があり、燃
焼後の脱硫と燃焼前の脱硫の両方ある。既設の設備に脱硫設備を取付け、新設時には脱
硫設備も一緒に設計し、濃度・総量の両方を満たすようにする。
●
大気も水も同じであるが、以前は郷鎮企業、個人企業もあって遵法意識が低いから環境
設備があるのに運転コスト削減のために環境設備を運転しないということがあったが、
管理・監督を強化して摘発している。
<ニーズ>
●
排汚費の金額を上げるだけで改善されるかというとダメで、解決には自動観測が必要で
ある。煙の中にSO2以外に他の物質もあるので、総合治理が必要。自動監視設備があれ
-173-
ば、その工場が排出したものが基準値以内かどうかが分かるから必要である。検査が入
る時だけ環境設備を運転するということも防げる。
●
除塵装置は、国産で電気集塵器もバグフィルタもある。
●
国産・外国産の両方あるが、中国政府は国産技術を育てていきたいのか?
今、中国では国産の技術・生産について問題はない。しかし、今でも外国産を導入して
いる。外国産を導入する目的は、設備全体を同一メーカにそろえるためである。単一技
術なら中国でもできるが、設備全体を国産でそろえるのは今の中国ではできない。もう
1 つは、製品品質からで、大きな投資では輸入設備を信じる傾向がある。必ずしも国産
にこだわるわけではない。
●
モニタリングは国産で十分か?
国産ではない。輸入品では高いものになるが、今の中国の購買力は問題ない。
●
モニタリング設備の設置は法律で規定されているのか?
今までの研究や監理を通じてあればよいと単に考えているだけで、法律で規定はされて
いない。今の中国ではまだ実現できないので、法律で規定するまではできない。
<その他>
●
南開大学環境系学科卒業生の就職はよいか?
他の学科と比べたら就職しやすい。それだけ環境のニーズが高いということである。
●
中国の森林消失について
国土に占める森林面積の割合: かつて 10% →
現在 12%
→
目標 15%
現在まで合計すると 30%植林したことになるが、植林しても破壊されるため、2%の増加
にとどまっている。
●
大気汚染が森林消失にどの程度関わっているのか?
これは統計がない。ただし、例えばSO2により木が病気になり、抵抗力が弱って、虫に
食われて、ということは発表したことはあるが、SO2が直接の原因で枯死したというこ
とはない。今は地下水がなくなって枯死したと言われている。
(7)天津経済技術開発区
日
時:平成15年12月24日(水)
14:30~16:30
Wu Guo Hua 氏
面談者:天津経済技術開発区管理委員会
環境保護局
局長
天津経済技術開発区管理委員会
環境保護局
Sun Bo 氏
<天津経済技術開発区の概要>
●
1984 年に国務院の許可で建設された。計画面積 3.3km2。2002 年末現在、59 ヶ国・地
域から外資系企業がきており、3518 社ある。投資額 190.8 億US$、GDP380 億元、工業
生産高 1031 億元。工業はあるが、第3次産業は天津市より少ない。代表的な企業は、
電子通信(サムソン、サンヨー、モトローラ)、食品輸入(ネッスル)、機械(SEW)、
医薬、自動車(トヨタ、ダイハツ)
。
●
SO2排出は、供熱とボイラから。高速道路の北側を工業区、南側を商業区というように、
互いに影響しないように分けた。
●
政府は環境を重視して、たくさんの投資をした。海外資金によるプロジェクトもある。
-174-
ノルウェー政府の借款による 10 万 t/日の汚水処理場、オーストラリア政府借款による
1000t/日の電気メッキの汚水処理センター(開発区内の工場ではメッキ作業がよくある
ため、企業の負担を減らすため、集中処理設備を作った)など。また、2 年前から汚水
処理した水(中水)(1.5 万 t/日)を工業用ボイラに再利用している。
●
3つのエネルギーセンターが高速道路のそばにあり、主として石炭を使い、工業動力用、
冬の暖房用、夏の冷房用のための蒸気を提供している。今年、循環流動床ボイラを採用
した。また、1つは生活区に近いため、天然ガス燃焼にしている。脱硫装置は、循環流
動床ボイラと半湿式。
●
天津市と違って、100%集中供熱。緑化には 1.2 億元投入し、天津経済技術開発区の緑化
率は今年 33%。
●
天津経済技術開発区では今までに 34 社が ISO14000 を取得した。特に、2000 年には我々
の部門が主体となって、天津経済技術開発区を範囲とした区域 ISO14000 を取得した。
全国の模範地域として評価されている。
●
天津経済技術開発区では生態工業園(ゼロエミッション)の企画を作成した。
●
高速道路の近くには自動モニタリングがあり、主にSO2、PM10、NOx、CO、O3を 24H
自動観測し、毎日、前日の報告を新聞・ラジオ・インターネットを通して発表している。
<環境状況>
●
天津経済技術開発区では排出基準を超えることは少ない。たまにあるのは、設備故障や
作業ミスなど特別な場合。
<環境対策>
●
天津経済技術開発区が環境対策で成功している理由
1
天津経済技術開発区の企画がよかった。
2
汚水処理施設などちゃんとした施設がある。
3
開発区に入るまでの規制が厳しい。企業が来るまでに環境規制の基準や指示の内容
をあらかじめ知らせてあるので、それを承知した企業しか進出しない。
4
●
外国の有名企業が多く、環境の重視度が高い。
天津経済技術開発区以外の地区がなかなか環境対策が進まない理由は
天津経済技術開発区は特別な地域である。一番の特徴は、天津経済技術開発区は十数年
間の歴史しかない。その前は何もない所であった。他の地区は、何十~百年以上の歴史
的なものがある。天津経済技術開発区はこの 19 年来、基準を満たさないから改善しなさ
いと言わなければならない企業は1つもなかった。一方、天津市ではたくさんある。
<その他>
●
合弁企業が成功する秘訣
天津経済技術開発区に投資した企業は成功した企業が多い。撤退するという企業は聞い
たことがない。外国企業がくるのはメリット(市場、人件費の安さ)があるからだろう。
失敗があるとすると、それは中国の文化に適応していないからだと思う。制度・物事の
考え方・国情・文化とか。これらの違いに適応できずに文句を言う企業もあれば、
「郷に
入っては郷に従え」ということで、いかに適応するかを考える企業もある。成功したと
ころは、日中の文化の違いを乗り越え、相互の信頼関係ができたところだと思う。
-175-
-176-
韓国訪問調査報告書
1.調査の概要
(1)調査目的
韓国における酸性雨その他越境大気汚染問題の実態、環境設備産業の状況、東アジア地
域レベルでの環境技術移転を可能にする地域的枠組みのあり方およびその中での日本の役
割について韓国はどのように考えているのか等について、関係する韓国の政府機関、学者・
研究者、企業を訪問し、聞き取り調査を行う。
(2)出張先および期間
韓国ソウル市および果川市
平成15年12月25日~平成16年1月7日
(3)調査メンバー
三重大学人文学部文化学科
教授
朴
恵淑
財団法人国際環境技術移転研究センター
総括参事
永野隆夫
同
主査
川本
忠
(4)訪問先および面談相手
韓国環境部
政策総括課
韓国環境部
韓国産業資源部
産業環境課
同
韓国中央大学
産業経済学科
韓国環境産業協会(KEIA)
課長
申元雨(Shin, Won Woo)氏
大臣補佐
姜光珪(Kang, Kwang Kyu)氏
課長
許瓊(Kyung Huh)氏
副課長
Park, Jung Mi 氏
教授
金正仁(Jeong-in KIM)氏
事務局長
魯求海(Gu-Hae Noh)氏
李仁宰(In-Jae Lee)氏
同
韓国環境科学技術研究所(KIEST) プロジェクトマネージャー
韓国コットレル社
李太榮(T. Y. Lee)氏
社長
韓国産業技術研究所(KITECH) 国際チーム
Hyong-Sun Lee 氏
チームリーダー
Jae Youn Kim 氏
姜知延(Kang, Ji-Yun)氏
同
-177-
2.調査結果の概要
(1)タプコル公園
日
●
ブロンズ像
時:平成16年1月5日(月) 11:00~11:30
ここには約 30 年前に建てられたブロンズ像があり、酸性雨によると思われる黒いシミが
あるとの情報を得て確認しに行ったが、判別できなかった。ここはソウル市中心部で、
100m 以内に自動車の往来が激しい大通りがあり、たとえブロンズ像にそのような兆候
があったとしても、それは局地的な大気汚染によるものと考えるのが妥当であり、越境
大気汚染によるものであるとする説明は困難であろう。
-178-
(2)韓国環境部
日
政策総括課
時:平成16年1月5日(月) 14:00~15:00
申元雨(Shin, Won Woo)氏
面談者:課長
●
越境大気汚染については、国民に説明できるだけの因果関係、影響が出ていない。
● 日中韓三ヵ国環境大臣会議(TEMM)は、越境大気汚染、黄砂問題を取り上げている。
韓国としては、越境大気汚染、黄砂問題、特に黄砂問題は重要な問題だと考えている。
日本には経済的な支援を期待している。越境大気汚染については、国民に説明できるだ
けの因果関係、影響が出ていないので、大気汚染、地球温暖化をセットで総合的な対策
を考えて解決できるとよい。
(3)韓国環境部
日
大臣補佐(Advisor to the Minister)
時:平成16年1月5日(月) 15:00~15:30
面談者:Advisor to the Minister 姜光珪(Kang, Kwang Kyu)氏
●
日中韓三ヵ国環境大臣会議(TEMM)は大気汚染、黄砂も重要視しているため、これを
利用するのがよいかもしれない。
●
日本への黄砂の影響は、2002 年は大きかったが、2003 年は小さかった。2004 年は、中
国・モンゴルで気温が高いため、黄砂の影響が大きいと予測している。中国の立場から
すると、黄砂は北京でも喘息や目の疾患を引き起こすため、対策せざるを得ない。大気
汚染になると目に見えないが、黄砂はすぐ影響が目に見える。まず、黄砂問題のレジー
ムを作ることによって、これが越境大気汚染レジーム作成にも役立つ。黄砂問題を前面
に出したほうがよい。
●
それには資金問題が重要で、被害国が加害国に資金を出すという受益者負担も一つの考
え方である。
(4)韓国産業資源部
日
産業環境課
時:1月5日(月)
面談者:課長
副課長
●
15:30~16:30
許瓊(Kyung Huh)氏
Park, Jung Mi 氏
関心は高いが、越境汚染、黄砂問題は環境部に任せる。環境政策、規制は環境部が作る
が、大企業は別として中小企業など規制に対応できる環境が整っていない場合などがあ
り、そのような場合には産業資源部は企業の立場になり環境部をけん制する。また、産
業資源部は、研究所を通して環境産業の資金的な支援を行う。環境政策は、環境部、産
業資源部の協調で進められている。
(5)中央大学
日
産業経済学科
時:平成16年1月5日(月) 18:00~20:00
面談者:教授
●
金正仁(Jeong-in KIM)氏
韓国貿易センター(民間の協会)は中国に 5 箇所の支店を持っており、そこから韓国が
見る中国の環境マーケッティング、どこに問題があるのか、メリット、について毎日デ
-179-
ータが入ってくる。
●
中国の環境への投資額は、2002 年(実績)2000 億元、2010 年(予想)4000 億元、2020
年(予想)1 兆元。韓国の環境企業はこれを放っておかない。韓国から中国へ進出して
いる環境企業は 30 社を超える。韓国企業が中国から受けた利益は 2002 年 22 億円、2003
年上半期 42 億円である。これはますます増える。
2008 年に北京オリンピックがあるので、これから 5 年間で環境だけで 142 の重点計画
●
1800 億元がある。重点は、大気では、経済的SO2管理技術、自動車の汚染管理技術、NOx
低減技術、自動車の触媒の強制的装着、衛星による黄砂のリモートセンシングなど。水
質では、排水処理の効率向上、汚染された水質の改善技術など。
200 万棟を超える建築物の建て替えを計画しており、その建築廃材をどうするかという
●
問題、SARS 汚染廃棄物をどうするかという問題がある。
韓国企業では、大京がすでに湖南省に SARS 廃棄物処理施設を建設し始めている。第一
●
は、バイオフィルターによる水質処理契約を結んだ。インサンは、建築廃棄物の処理契
約を結んだ。
●
韓国の環境産業について
大気汚染対策は自前の技術でできる。水質については、畜産・農業分野での排水処理対
策が韓国では不十分なため、日本からの技術指導が必要。
●
韓国の規制
SOx、NOx、PM の総量規制が 2005 年から行われる。今までは、濃度規制+総量規制に
限りなく近い規制。濃度規制を超えた会社は罰金を課せられ、一旦濃度規制に引っかか
ると、さらに厳しく管理される。
●
韓国の環境問題
大気汚染は、移動発生源の対策を重要視している。水質は4大河川の汚染対策が重要。
(6)(社)韓国環境産業協会(KEIA: Korea Environmental Industry Association)
日
時:平成16年1月6日(火) 10:00~11:00
面談者:事務局長
魯求海(Gu-Hae Noh)氏
李仁宰(In-Jae Lee)氏
●
この協会は、1989 年設立。主に環境部を中心とする委託調査、海外市場調査研究、トレ
ーニング、セミナーを実施。
●
環境産業の支援として、産業資源部の資金で、会員の中小企業が資金を利用できるしく
みがある。大企業は自分でできるため、対象は中小企業。
●
特に環境関連産業のターゲットは中国で、中国に支社を設置しており、展示庁を作って、
そこへ行けば韓国の環境産業が分かるようにしている。中国へ進出する韓国企業へ配布
物の配布、通訳、バイヤーとの交渉など何でも手助けしている。
●
「優秀環境技術説明会」を毎年開催し、マーケッティングに見込みのある国から韓国の
負担で 2 人/国ずつ招聘している。招聘している国はベトナム、フィリピン、インドネシ
ア、ソマリア、中国で、中国については何人でも希望する人を招聘している。これは単
なる PR で終わらせるだけでなく、今後の情報交換の覚書を書かせている。これは産業
-180-
資源部ではなく環境部の資金で行われている。
●
環境部の力がこんなに強いのは、5 年ほど前に環境庁から環境部に昇格したことで大き
な方向転換があり、それまでは単なる規制強化であったのが、それからは環境によい商
品を作ってもらおうということになったためである。環境部と産業資源部は互いに力を
合わせてやっているが、環境環境と言っても、まだまだ産業資源部の力は強い。
●
中国は商売がうまい。中国は技術がないと考えていたら大間違いである。中国ができな
いことは韓国も日本もできないし、そういうものだけが残っている。中国がラブコール
を時々送るのは、資金がほしい時。彼らは自分でする技術も人材もある。韓国も中国に
うまくやられてきた。
●
中国の統計で環境が改善されたと言っているが、あまり信用できない。
●
中国に進出するには中国人の価値観が分からなければいけない。中国は平気で契約を不
履行する。入札で決まり、契約しても、資金手当てができなかったからといって 1/10 に
しろとかいうことがある。ある例では、ステンレスで用意させておいて、後から鉄でい
いじゃないかと言って、泣き泣き 1/10 にさせられた。長いスパンで見て、すぐに利益が
出ると思ってはいけない。それでもなぜ中国へ進出するかというと、中国は巨大市場で、
中国も WTO に加盟して少しずつ分かってきているからである。最初は泣き泣きでも実
績を作っていく。だから、こういう協会が情報提供することが重要。
(7)韓国環境科学技術研究所(KIEST: Korea Institute of Environmental Science and Technology)
日
時:平成16年1月6日(火)
13:30~15:00
Hyong-Sun Lee 氏
面談者:プロジェクトマネージャー
●
越境大気汚染について中国は積極的でないので、とにかく共同研究を始めることが必要
ということで、越境汚染、黄砂、地球温暖化などの共同研究ができる日中韓の共同基金
を設立しようと訴えている。
(8)韓国コットレル社(Korea Cottrell Co., Ltd.)
日
時:平成16年1月6日(火) 16:20~17:50
面談者:社長
●
李太榮(T. Y. Lee)氏
(中国への進出の難しさについて、
)中国の資料の信憑性がないため、戦略がたてられな
い。
●
中国の人々のマインドが分からない。例えば入札であれば、韓国では金額が安いところ、
提案内容のよいところに決まるが、中国ではそうではない。中国ではグローバライゼー
ションというものさしではダメで、中国独特のローカルルールを知らねばならない。韓
国コットレル社では、1993 年に中国へ進出し、10 年かけて人間関係ができた。中国の
長春に合弁会社を設立したが、経営権は韓国側が持っているが、マネジメントは中国側
が行っている。
●
中国のマーケットは、外国企業が全部を取れると思ったら大間違いで、彼らが持ってい
るものがあり、外国企業が取れるマーケットは思ったほど大きくない。中国もある程度
技術を持っており、コピーの技術もある。一部技術供与し、一部隠しても、いずれ彼ら
-181-
は自分で作ってしまう。
●
単に物を買わせるのではなく、それよりも、最初から全部技術供与して、人材育成して、
現地企業化して、現地で競争した方がよいということが分かった。
●
企業が政府の保護下ではダメで、自力で経験し乗り越える中で人間関係も作られる。た
だし、政府には情報の提供などの分野での支援を期待する。
韓国コットレル社の売上は、国内 7 割、国外 3 割である。中国ではあまり利益が得られ
●
ない。中国は技術があり、人件費が安く、情報もある。これからの競争相手は中国であ
る。これから東南アジアを有望な市場として見ているが、東南アジアに進出し、中国と
競争するのに、中国とはどんなところかを知るために一つの拠点を置いている。それで、
今はほとんど見込みがなくても中国に行っている。
(9)韓国産業技術研究所(KITECH: Korea Institute of Industrial Technology)
日
時:平成16年1月6日(火) 19:00~21:00
面談者:国際チーム
チームリーダー
Jae Youn Kim 氏
姜知延(Kang, Ji-Yun)氏
●
政府間でも企業間でもよいので、日中韓の 3 ヶ国が役割分担し、手を組んですることは
何かということを検討する場を設けたい。例えば、3 ヶ国で国際環境技術交流センター
を作れないか。環境産業を扱う会合として、環境省は日中韓三ヵ国環境大臣会合
(TEMM)があるが、産業省の高級事務レベル、大臣級の会合はない。環境産業の協力、
交流、標準化に関する日中韓三ヵ国産業大臣会合ができないか。中国を刺激するために、
まず日韓でラウンドテーブルを設けてもよい。日中韓が協力してできることから始める
のがよい。そうすれば魅力のある東南アジアへ協力して進出できる。
-182-
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
非
売
品
禁無断転載
平 成 1 5 年 度
東アジア地域における環境問題、技術移転
に関する調査研究報告書
発
行
発行者
平成16年3月
社団法人 日 本 機 械 工 業 連 合 会
〒105-0011
東京都港区芝公園三丁目5番8号
電
話 03−3434−5384
財団法人 国際環境技術移転研究センター
〒512-1211
三重県四日市市桜町3690番地の1
電
話 0593−29−3500
Fly UP