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グローバル化の進展と 所得の二極化 ゲイリー・バートレス ブルッキングス研究所、ワシントンDC、米国 2007年3月5日 国際フォーラム、東京 内閣府経済社会総合研究所 国際協力プロジェクト、2006~07年 はじめに 所得不平等の拡大は、豊かな国の多くで起こっている 豊かな国と貧しい国との経済的な統合も進んでいる 経済統合は、勝者と敗者を生み出す 勝者 - 貧しい国の労働者 豊かな国の消費者 豊かな国の貯蓄者および投資家 敗者 - 豊かな国の非熟練労働者(低技能労働者) グローバル化は所得の二極化を生む原因のひとつで あるに過ぎない 最重要課題: グローバル化と技術進歩がもたらす利 益が、敗者にも分配されるようにするには? 不平等は拡大している― 豊かな国における不平等の拡大(1979-1987年) Gini coefficient of disposable income inequality ( x 100) 可処分所得の不平等度を表すジニ係数(国民所得分配係数)(×100) 40 1979-1987 35 30 25 20 22 23 23 24 26 27 28 28 30 30 31 31 32 33 フィンランド ノルウェイ オーストリア ベルギー ドイツ オランダ 英国 オーストラリア カナダ フランス 米国 イタリア スイス スペイン アイルランド U Au .K st . ra Ca lia na d Fr a an ce U. S. Sw I it z taly er la nd Sp ai Ire n la nd 21 Sw ed e Fi n nl an No d rw a Au y s Be tria lg G i um e Ne rm th any er la nd s 20 スウェーデン 15 出典:ルクセンブルク所得研究(Luxembourg Income Study) 不平等は拡大している― 豊かな国の所得不平等は1999-2001年に最も拡大している Gini coefficient of disposable income inequality ( x 100) 可処分所得の不平等度を表すジニ係数(国民所得分配係数)(×100) 40 37 1979-1987 1999-2001 34 34 33 35 32 32 28 30 28 30 28 26 25 25 25 20 21 22 26 25 25 20 28 28 30 31 31 32 33 Sw ed e Fi n nl an No d rw a Au y s Be tria lg G i um e Ne rm th any er la nd s U Au .K st . ra Ca lia na d Fr a an ce U. S. Sw I it z taly er la nd Sp ai Ire n la nd フランス カナダ オーストラリア 英国 オランダ ドイツ ベルギー 30 アイルランド 27 スペイン 26 スイス 24 イタリア 23 米国 23 オーストリア ノルウェイ フィンランド スウェーデン 15 出典:ルクセンブルク所得研究(Luxembourg Income Study) 米国における不平等の拡大― 市場所得の不平等拡大が進み… 2004 Equivalent等価市場所得 Market Income (1979=100) 1979=100 150 1979 160 95th percentile 第95百分位数 Median income 平均収入 20th percentile 第20百分位数 150 140 140 130 130 120 120 110 110 100 100 90 90 80 80 1978 1982 1986 1990 1994 1998 1979=100 160 2002 Year 年 出典: 米商務省センサス局『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 米国における不平等の拡大― … 税や社会保障費の控除後の所得においても不平等が拡大 1979=100 1979 160 95th percentile 第95百分位数 160 150 Median income 平均収入 20th percentile 第20百分位数 150 140 140 130 130 120 120 110 110 100 100 90 90 80 1978 80 1982 1986 1990 1994 1998 1979=100 2004 Equivalent After-tax, After-transfer Income (1979=100) 等価税引後・社会保障費控除後所得 2002 年 Year 出典:米商務省センサス局『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 米国における不平等の拡大― 1994年以来、所得の伸び率が最も高いのは、最上層 (税引後所得における変化推定値) 1979 real income = 100 1979年の実収入 300 300 275 Top 1% of income recipients 所得者の上位1% Next lower 4% その次の層の所得者4% 275 +175% 250 Middle 20% 中間所得者20% 250 225 Lowest 20% 低所得者20% 225 200 200 175 175 150 150 125 125 100 100 75 75 1978 1982 1986 1990 1994 1998 +58% +21% +6% 2002 出典:米議会予算局(Congressional Budget Office) 市場所得の不平等の一因は賃金格差の拡大 OECD 17カ国における変化(1994-2003年) Percent change in 90-10 earnings ratio 90-10帯の収入比率(パーセント)の変化 30 28 20 19 New Zealand Switzerland Netherlands Germany Korea Norway ニュージーランド スイス Australia 13 オランダ ドイツ 韓国 Denmark 12 8 ノルウェイ Sweden 7 オーストラリア U.K. 6 デンマーク Finland 5 スウェーデン U.S.A. 3 英国 Canada 3 フィンランド 米国 -10 カナダ -2 2 3 フランス 0 2 France Japan Ireland Spain 11 日本 アイルランド スペイン 10 -16 -19 -20 出典: OECD 市場所得の不平等の一因は賃金格差拡大 米国における時間当たり賃金の格差の変化(1973-2005年) 分布の主要点における収入の比率:男性 Ratio of earnings at selected points in distribution: Men 95 50 3.25 3.00 95/50 50/10 2.75 90/50 90 50 2.50 2.25 50 10 2.00 1.75 1.50 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 出典:米経済政策研究所 (EPI: Economic Policy Institute) 市場所得の不平等の一因は賃金格差拡大 米国における世帯主の年収の格差の変化(1973-2005年) 95 50 Ratio of earnings at selected points in distribution: Males 分布の主要点における収入の比率:男性 3.25 3.00 2.75 95-50 50-10 90-50 2.50 90 50 2.25 50 10 2.00 1.75 1.50 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 出典:米商務省センサス局『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 賃金格差の一因― 大卒者と非大卒者の賃金格差の拡大(米国、1970-2003年) Earnings premium compared with 高卒者の収入を基準とした場合の high school graduates' earnings: 収入の増加分(プレミアム): 男性 Men (対数差) 大学院での学位取 得による増加分 0.80 0.60 大学での学位取 得による増加分 0.40 一部の大学への 進学による増加分 0.20 0.00 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 出典:米商務省センサス局『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 賃金格差の一因― 低学歴者の賃金水準の低下(米国、1970-2003年) 高卒者の収入を基準とした場合の Earnings penalty compared with high school graduates' earnings 収入の減少分 (対数差) -0.30 -0.35 男性中退者の 場合の減少分 -0.40 女性中退者の 場合の減少分 -0.45 -0.50 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 出典:米商務省センサス局『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 原因 これらの変化は、グローバル化がもたらす影響と 一致する 貧しい国の非熟練労働者との競合 最も高度な技能を有する熟練労働者の労働力を求める 市場が拡大 非熟練労働者による労働力が、豊富に入手可能となるため、 そ の価格が下がる(豊かな国で) 熟練労働者が不足し、その労働力の価格が上がる(豊かな国 で) しかし、賃金格差を拡大する要因は、グローバル化 だけではない 技術的進歩 法定最低賃金額の引き下げ・労働組合の弱体化 貿易の重要性の増大 輸出入の総額がGDPに占める割合(1970-2005年) GDPに占める割合(パーセント) Percent of GDP 70 60 France, Germany, Italy, & UK: Average フランス、ドイツ、イタリア、英国:平均 United 米国 States Japan 日本 50 40 30 20 10 0 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 出典: OECD 貧しい国との貿易の重要性の増大 米国における輸入先の変化(1972-2005年) Percent of U.S. GDP 米国のGDPに占める割合(パーセント) 15 12 Developing countries, except OPEC 発展途上国(OPEC諸国を除く) OPEC諸国 OPEC countries 先進国 Industrial countries 6.7% 9 6 3 0 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 出典:米大統領経済報告(Economic Report of the President)各年 原因 不平等拡大をもたらす他の要因 技術的進歩 より大規模な市場における“勝者独り占め”の経済 原則 人口構造の変化 新たな機械やコンピュータが導入され、非熟練・半熟練 労働者の労働力が取って代わられる 電気通信を通じて提供されるサービスが拡大する 世帯の“原子(個人)化”:結婚して家庭を持つ人が減り、 独身成人が構成する世帯が増加 共働き世帯 資本に課せられる税率の低下(?) もしも賃金格差が変化しなかったとしたら、所得不平 等の拡大は、どのくらいだろうか? ジニ係数の変化(パーセント) Percent change in Gini 1979〜2004年 coefficient, 1979-2004 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 エフェクトサイズ 15.7 9.8 9.5 13.6 13.2 実際のジニ Actual Gini 係数 男性の不平 Male 等に変化が inequality ない場合 男性および Male + 女性の不平 Female 等に変化が inequality ない場合 世帯構造に Constant 変化がない household 場合 No夫・妻の収 change in 入の相関関 husband-wife 係に変化が earnings ない場合 correlation constant constant structure 出典:1980年および2005年の『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 各要因は、それぞれどのような割合で米国における 所得不平等の拡大に寄与しているのか? Change in earnings 収入の不平等の変化 inequality 31 39 世帯構造の変化 Change in family structure 夫・妻の収入の相関関係の変化 Changing husband-wife earnings correlation 16 その他の要因 Other factors 14 出典:1980年および2005年の『人口現況調査』(Current Population Survey)より図作成 賃金格差の拡大に起因する米国の所得不平等 の拡大は、全体の40~50% (1979-2004年) 不平等拡大は、その大半が他の要因に起因する ―人口構造の変化、女性の労働パターンの変化、 所得に占める他の項目の不平等拡大など 賃金格差拡大の原因に占める、グローバル化 それ自体による影響の割合は、おそらく半分以下 技術的進歩や経営革新の方が、おそらくより大きな割合を 占める 1994年以降、不平等拡大は、最上層と中間層の間で進行 している… 中間層と最下層の間ではない 考えられる方策 グローバル化による影響が所得の二極化の原因 に占める割合が何パーセント(10%、25%、それと も50%)であれ、理に適った方策は … 労働者所得に失業保険をかける …平均所得の伸びに足並みが揃うよう、低賃金労働者 の生活水準を押し上げる … 必要な場合には、転職できるように、若い労働者に は一般技能を身に付けさせる ほとんどの経済学者と同様、私も、技術の進歩を 止めたり、グローバル化の流れを逆転させたりし ようすることは、理に反すると考えます。