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某病院手術室クリーンルームの気流解析概要(2003年度)(PDF:7101KB)
某病院手術室クリーンルームの気流解析概要 大阪谷 彰 *1 概 要 従来手術室は、術部からの感染防止を目的として、室内空気の清浄度を確保するために、全面垂直層流や水平層流のク リーンルームにする事が多かったが、これらの方式は施工費もかかり、また運転コストも非常に大きい。 一方で医学的には、手術室の室内空気の清浄度は多少低くても、患者に抗生物質を投与した方が感染防止のコストパ フォーマンスが高いという考え方が出てきている。 本件については、アトリウム及び病室の空調方式について、気流解析を用いた検討結果を顧客に示してきた経緯もあり、 手術室のクリーンルーム空調方式に関して気流解析を用いた解析を行った。これにより、最適な手術室の空調方式を提案 することができた。 THE OUTLINE OF A NUMERICAL AIR FLOW ANALYSIS OF A CERTAIN HOSPITAL OPERATING CLEAN ROOM Akira OHSAKAYA*1 Conventionally, the operating room was made into the clean room of whole surface perpendicular laminar flow or level laminar flow in many cases, in order to secure the cleanliness factor of indoor air for the purpose of the infection prevention from a way part, but construction expense also requires these systems and its operation cost is also very large. On the other hand, medically, the view that its cost performance of infection prevention of the direction which medicated the patient with the antibiotic is high even if some cleanliness factors of the indoor air of an operating room are low has come out. There were circumstances which have shown the customer the examination result of having used numerical air flow analysis, about the atrium of this hospital and the air-conditioning system of a sickroom. Then, since the air-conditioning system of the operating room an initial cost and a running cost do not start as much as possible using numerical air flow analysis about this case was proposed, the outline is reported. *1 技術研究所 *1 Technical Research Institute 1 某病院手術室クリーンルームの気流解析概要 大阪谷 彰 *1 1. はじめに 某病院手術室のクリーンルーム空調方式に関して気流 解析を行い、最適な空調方式を提案することができたの で以下にその概要を報告する。 2. 解析の背景と経緯 従来手術室は、術部からの感染防止を目的として、室内 空気の清浄度を確保するために、全面垂直層流や水平層 流方式のクリーンルームにする事が多かったが、これら の方式は施工費もかかり、また、運転コストも非常に大き い。 一方で医学的には、手術室の室内空気の清浄度は多少 低くても、患者に抗生物質を投与した方が感染防止のコ ストパフォーマンスが高いという考え方が出てきている。 本件については、アトリウム、病室の空調方式について、 気流解析を用いた検討結果を顧客に示してきた経緯もあ り、気流解析を用いて効率的な、できるだけイニシャルコ スト、ランニングコストがかからない手術室の空調方式 を提案することになった。 3. 手術室概要 図‐1 に解析対象手術室の医療機器配置図の一例を示 す。様々な医療器具が床置きされるとともに、無影灯等が 天井に設置されたアームに取り付けられているが、アー ムの取り付け部分にはフィルターを設置することができ ない。 手術には麻酔医、看護師が立ち会うが、手術室間の移動 のため、隣室間の扉を開けたまま手術をすることが多い とのことであり、この点についても考慮して解析を行っ た。 無影灯には、従来タイプの皿型と改良された砲弾型と がある。砲弾型は照明器具の電球の間に空隙があり、清浄 気流が流れるようにしたものである。 4. 解析ケース 図‐2 ∼ 3 に提案した空調システムの天井伏図を示す。 イニシャルコストとメンテナンスの容易性を考慮して、 フィルタとファンが一体となったクリーンユニットを提 案している。フィルタは既存手術室よりも一回り小さく し、図の赤線で囲まれた範囲に設置する。 図‐2 のパターンAはフィルタを正方形に配置し、アー ムの取り付けが中央1箇所のケース、図‐3 のパターンB はフィルタを手術台上部に長方形に配置し、アームの取 り付けがサイド2箇所のケースである。 また、パターンC、DはパターンA、Bとそれぞれフィ ルタの配置はほぼ同様であるが、風量を小さくしたケー スである。吸込み口はそれぞれ室の4隅の隅切り下部に 設置する。 図‐1 医療機器配置図 *1 2 技術研究所 図‐2 天井伏図 パターンA / C 図‐3 天井伏図 パターンB / D 表‐1 解析ケース一覧 解析№ 吹 出 口 パ ターン A1 A2 A3 A4 A5 B1 B2 B5 C2 C 20 C 21 C 22 C3 C4 C5 D2 D 20 D 21 D 22 D5 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 1400*3300 1400*3300 1400*3300 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100( 中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 2100*2100(中 央 欠 損 ) 井 桁 3.08m 2 井 桁 3.08m 2 井 桁 3.08m 2 井 桁 3.08m 2 井 桁 3.08m 2 無影灯 形状 個数 皿 2 皿 2 皿 1 砲弾 1 砲弾 2 皿 2 皿 2 砲弾 2 皿 2 皿 2 皿 2 皿 2 皿 1 砲弾 1 砲弾 2 皿 2 皿 2 皿 2 皿 2 砲弾 2 医師 状態 直立 前傾 前傾 前傾 前傾 直立 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 前傾 扉 状態 閉 閉 閉 閉 閉 閉 閉 閉 閉 閉 中央開 サ イド開 閉 閉 閉 閉 閉 中央開 サ イド開 閉 表‐1 に解析ケースを示 す。吹出口のパターンA∼ Dだけでなく、無影灯の形 状(皿型 / 砲弾型)と個数 (1個 / 2個)、医師の状態 (直立/前傾)、扉の位置(中 央 / サイド)と扉の開閉状 態についても検討し、合計 20 ケースの解析を行った。 ただし、今回は時間の制 約等から全て等温解析と し、熱の移動及び熱による 対流発生等は考慮していな い。 図‐4 解析メッシュ左から「皿形無影灯2、直立」、「皿形無影灯1、前傾」、「砲弾型無影灯1、前傾」) 3 5. 解析メッシュ 医療機器配置図等を元に、図‐4 に示すような解析メッ シュを作成した。手術台近傍の中央部分は5cm間隔である が、端部になるにしたがい粗いメッシュとし、合計で約20 万要素となっている。 6. 解析結果(静止画像) 以下に解析結果の内、主なものを示す。気流をベクトル 表示するとともに、速度コンターをカラーで表示してい る。青い部分が低速、黄色から赤に向かって高速となる。 気流の性状としては、手術台上部の患者近傍に清浄空 気が到達し、さらにある程度の風速で下部へと排出され ることが望ましい。 図‐5 ∼ 7 に無影灯の比較を示す。図‐5 と 6 の比較か ら、無影灯を2個とし、手術台の上部に無影灯が無い常態 が望ましいことがわかる。また、図‐6と7 の比較から、皿 型に比較して砲弾型無影灯の方が望ましいことがわかる。 図‐8 はアームを2本とし、フィルタに中央欠損がない ケースであり、図‐5 と比較して手術台近傍の風速が大き く、より好ましい事がわかる。 図‐9 ∼ 10 に中央扉開閉の影響を示す。図‐9 が閉状態、 図‐10 が開状態であるが、吹出口から手術台にかけての 気流の状態は殆んど同じで、扉開閉の影響は少ないこと が伺える。 7. 解析結果(アニメーション) 解析結果をより直感的に把握できるよう、気流ベクト ルのアニメーションを作成した。例として、ケースC3、 D2の1コマを図‐11 ∼ 12 に示すが、気流の状態の把握 が容易となった。 さらに、患者近傍に発生した汚染物質が排出される状 況を把握するため、パーティクルアニメーションを作成 した。ケースD2のアニメーションのうち数コマを図‐13 に示す。 8. まとめ これらの解析結果から、最も効率的な空調方式として D2の方式を採用することとなった。 現在、技術開発 PJ において、さらに効率的に手術室の 局所清浄化を実現するシステムを研究開発中であるが、 その検証過程において、実大模型実験とともに気流解析 及びアニメーションを活用してゆく予定である。 無影灯 術者 手術台 4 患者 図‐5 C2術台平行中央断面 図‐6 C3術台平行中央断面 図‐8 D2術台平行中央断面 図‐9 D20術台平行中央断面 (扉閉 室全体表示) 図‐7 C4術台平行中央断面 図‐10 D21術台平行中央断面 (扉開 室全体表示) 図‐11 C3気流ベクトルアニメーション 図‐12 D2気流ベクトルアニメーション 1 2 3 4 5 6 図‐13 D2パーティクルアニメーション 5