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産業観光 - 中国電力

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産業観光 - 中国電力
本調査研究レポートは,広島経済同友会からの依頼により,
中国電力株式会社エネルギア総合研究所が作成したものです
2010 年度(平成 22 年度)調査研究レポート
「産業観光」振興による広島県経済の活性化方策
平成 23 年3月
広島経済同友会
地域経済委員会
目
次
はじめに ····························································· 1
本レポート作成までの委員会における活動内容 ··························· 2
第1章
地域経済活性化における産業観光の意義 ························· 3
1.産業観光とは ···························································· 3
2.産業観光の必要性と特性 ·················································· 6
3.全国における産業観光の現状 ·············································· 10
第2章
広島県における産業観光の現状と問題点・課題 ··················· 21
1.広島県における産業観光の必要性 ·········································· 21
2.広島県の産業観光の現状と将来展望(アンケート調査) ······················ 30
3.広島県の産業観光のポテンシャルと取り組みにあたっての問題点 ·············· 47
第3章
「産業観光」の振興による広島県経済の活性化方策 ··············· 51
1.「産業観光」振興のキーコンセプト ········································· 51
2.広島県における「産業観光」の振興に向けた方策 ···························· 52
おわりに ····························································· 55
はじめに
近年,工場見学ツアーなど製造現場を訪れる観光の人気が高まっています。静岡県浜松市
にある春華堂の「うなぎパイファクトリー」では,年間 57 万人が見学に訪れるなど,工場が
新たな観光資源になっている地域もあります。こうした取り組みは「産業観光」と呼ばれ,
観光の新たな潮流であるニューツーリズムの一つとして確立されつつあります。
「産業観光」は,歴史的・文化的価値のある産業文化財(古い機械器具,工場遺構等),生
産現場(工場,工房等)および産業製品を観光資源としてとらえ,それらを通じてものづく
りの心にふれるとともに,人的交流を促進する観光活動であり,「見る」「学ぶ」
「体験する」
という三つの要素を併せ持っています。さらに,従来型の観光では評価されなかった資源も,
「産業観光」ではアイディア次第で観光振興に活用できます。このような特性から「産業観
光」は,全国どこでも実施可能な観光振興策として急速に拡大しはじめています。
広島県は,自動車や造船などの輸送用機械を中心に,鉄鋼,食品,電気機械など様々な製
造業が集積する全国有数の「ものづくり」県です。また,厳島神社や原爆ドームなど,国内
外から観光客をひきつける魅力のある観光資源も有しています。こうした全国規模の著名観
光地とものづくり県としての既存資源を有効に活用し,産業と観光を融合させた「産業観光」
に取り組んでいくことは,広島県において製造業と観光業の双方に新たなビジネスチャンス
をもたらすと期待されます。
本委員会では,これまで,観光振興,小売業,地域資源の活用,商店街等のテーマを検討
してきましたが,今年度は「産業観光」の振興によって広島県経済の活性化を図っていくた
めの方策を提言することとしました。
今回の調査に関して,委員会等にお招きした講師の皆様,ヒアリングおよびアンケート調
査にご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
−1−
本レポート作成までの委員会における活動内容
○地域経済・地域連携合同委員会(2010 年 4 月 21 日)
・勉強会「瀬戸内 海の道一兆円構想について」
講師 広島県 総務局 海の道プロジェクトチーム
課長 後藤
○第1回委員会(2010 年 8 月 6 日)
・勉強会「産業観光の現状と課題」
講師 東海旅客鉄道株式会社
氏
相談役 須田
寛
昇
氏
○第2回委員会(2010 年 10 月 25 日)
・勉強会「『大和ミュージアム』を柱とした地域の活性化に向けて」
講師 呉市 産業部 副部長 伊牟田 真治 氏
○先進地視察会(2010 年 11 月 25 日∼26 日)
・静 岡 県 浜 松 市 : (財)浜松観光コンベンションビューロー,浜松市商工部観光交流課
春華堂 うなぎパイファクトリー,浜松市楽器博物館
・愛 知 県 岡 崎 市 : カクキュー 八丁味噌の郷
・愛知県名古屋市 : 名古屋商工会議所,トヨタテクノミュージアム 産業技術記念館
ノリタケの森 クラフトセンター
○第3回委員会(2010 年 12 月 22 日)
・先進地視察会の報告
・アンケート結果の概要報告
・報告書骨子(案)の検討
○県外先進地域のヒアリング
・山 口 県 宇 部 市(2011 年 2 月 3 日)
(社)宇部観光コンベンション協会, 宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会
・神奈川県川崎市(2011 年 2 月 9 日)
川崎市 経済労働局 産業振興部 商業観光課
・岡 山 県 倉 敷 市(2011 年 2 月 24 日)
(社)倉敷観光コンベンションビューロー
○第4回委員会(2011 年 2 月 28 日)
・報告書(案)の検討
−2−
第1章
地域経済活性化における産業観光の意義
1.産業観光とは
(1)産業観光の定義
産業観光は,ニューツーリズムの一つとして,近年,注目を集めている。
その定義については,2001 年の「全国産業観光サミット in 愛知・名古屋」において提
唱された以下のものがよく知られている。
産業観光とは歴史的・文化的価値のある産業文化財(古い機械器具,工場遺構などのい
わゆる産業遺産)
,生産現場(工場・工房等)及び産業製品を観光資源とし,それらを通じ
てものづくりの心にふれるとともに,人的交流を促進する観光活動をいう
この定義を資源と手法に分けてみると,以下のように整理される。
農林水産業,鉱業,製造業などの歴史的・文化的価値のある産業文化財(古い機
資
源
械器具,工場遺構等のいわゆる産業遺産),生産現場(工場,工房,農・漁場等)
および産業製品,コンテンツ(ショッピング,体験)など
資源の価値や意味,おもしろさに触れることにより人的交流(見学,視察,体験
手
法
学習など)を促進。具体的には,工場見学の受入,ものづくり体験,農業漁業体
験,産業博物館・資料館の運営など
以上のように,産業観光は,地域にある第1次産業から第3次産業に至るまで,全ての
産業資源を対象としている。
何らかの産業が存在してはじめて地域社会が形成されるものと考えれば,全ての地域に
産業観光のコンテンツとなる資源が存在している。つまり,産業観光はこれまで観光地と
しての知名度が低い地域であっても,多様な産業資源の活用によって観光事業に取り組む
ことを可能とするニューツーリズムといえる。
(2)産業観光の発展
産業観光の起源は 1851 年にロンドンで開催された万国博覧会といわれており,産業革命
の成果を世界に発信することに大きな意義があった。その後,フランスでは 1950 年代に
“TECHNICAL
TOURISM”の名で産業施設見学の受入を主な企業に呼び掛けて外国人観光客
の誘致が進められ,これが世界における産業観光の始まりとされている。
わが国では 1960 年代にビール工場等におけるビアホールの併設や工場見学が活発化し,
1970 年代には陶芸をはじめとした伝統工芸の製作過程見学がブームとなった。1990 年代に
戦前までに建築された近代産業施設が更新時期を迎えたため,それらの保存や一般公開が
叫ばれ,
「産業遺構」めぐりが注目され始めた。この頃には第1次産業の資源を活用した農
業体験や漁業体験が盛んになり,各地に観光農園等の整備が進められた。
このように,産業資源を活かした交流事業が展開されて「産業観光」という言葉が国内
に定着したのは 2000 年代に入ってからである。
−3−
2000 年に愛媛県新居浜市で「産業遺構保存活用全国フォーラム」が開催され,産業に関
連する資源の活用について全国規模の定例会議の必要性が提案された。これを受け,2001
年に「産業観光」を冠した初めての全国規模のイベントである「全国産業観光サミット」
が名古屋市で開催された。この会議は,2005 年に開催された愛知万博のプレイベントとし
て位置付けられており,愛知万博も産業観光の発展における大きな契機となった。
全国産業観光サミットでは,「産業観光推進宣言」が採択され,「産業観光」の言葉が大
きく認知度を高めることとなった。なお,2002 年度からは「全国産業観光フォーラム」に
改称し,現在まで継続的に開催されている。
「産業観光推進宣言」
産業観光とは,歴史的・文化的価値の高い産業文化財を観光資源として位置付け,
これを観光客誘致に向けた諸事業を展開することである。
今世紀における観光は,経済成長優先から生活の豊かさへと国民の関心が移行して
いる現状を踏まえ,観光振興は今後ますますその重要性が高まるものと考えられる。
この様な変化に即応した新しい観光の振興を図るため,産業観光を推進することと
する。
我が国には,全国に歴史的・文化的価値の高い産業文化財が多く存在していること
から,各地域がそれぞれ個性を活かしながら産業観光への取り組みと相互の情報交換
をとおし文化交流を図ることとする。
本日の産業観光サミットにおいて,この意思を相互に確認し,今後さらに連携を深
めながら産業観光の推進に積極的に取り組むことをここに宣言する。
平成 13 年 10 月 25 日
産業観光サミット in 愛知・名古屋
その後,2007 年1月に施行された観光立国推進基本法に基づく国の観光立国推進基本計
画において「産業観光の振興」が盛り込まれ,各自治体においても「産業観光」を観光施
策の中に位置付けるようになった。また,日本経済団体連合会や日本商工会議所など主要
経済団体の観光に関する提言等でも「産業観光」は一つの柱として取り扱われるようにな
り,観光振興の一つのジャンルとして確立されつつある。
こうした産業観光の認知度の向上により,全国各地の産業観光施設への来訪者の増加が
みられるようになった。特に,学習観光の一つである工場見学は,関連施設の整備が進む
につれて大きな集客力を持つようになっており,全国で最も見学者の多い春華堂が運営す
る「うなぎパイファクトリー」
(浜松市)は,年間 57 万人(2009 年度)が訪れる一大観光
拠点となっている。
−4−
図表 1-1
順位
全国の工場見学トップ 10(2009 年度)
企業名
施設名
所在地
集客数
1位
春華堂
うなぎパイファクトリー
静岡県浜松市
57万人
2位
石屋製菓
白い恋人パーク ファクトリーウォーク
北海道札幌市
37万人
3位
カクキュー
八丁味噌の郷
愛知県岡崎市
26万人
4位
サッポロビール
九州日田工場
大分県日田市
20万人
5位
キリンビール
横浜ビアビレッジ
神奈川県横浜市
16万人
6位
アサヒビール
神奈川工場
神奈川県南足柄市
15万人
7位
本坊酒造
山梨マルスワイナリー
山梨県笛吹市
15万人
8位
サントリー
白州蒸留所
山梨県北杜市
14万人
9位
富士重工業
スバルビジターセンター
群馬県太田市
10万人
9位
タカラトミー
リカちゃんキャッスル
福島県小野町
10万人
資料:日本テレビ放送網「真相報道バンキシャ!」調べ
「春華堂 うなぎパイファクトリー」の外観(左)と売店(右)
「カクキュー 八丁味噌の郷」の外観(左)と味噌蔵の見学風景(右)
−5−
2.産業観光の必要性と特性
(1)産業観光の必要性
全国各地において産業観光の取り組みが進みつつある背景や,産業観光に取り組む必要
性として,以下のようなものが考えられる。
①
製造業をはじめとする地域の基幹産業の成熟化
わが国の地域経済は,これまで主力製造業の工場立地の進展,第1次産業や地場製造業
の下支えによって発展を遂げてきた。
広島県内では食品,家具,繊維などから自動車,鉄鋼,造船さらには電気機械など多様
な業種が集積し,全国でも有数の製造業の生産拠点を形成している。
しかし,1985 年のプラザ合意を機とする円高定着の中で,海外直接投資の進展やアジア
企業との競争の激化などを背景に県内製造業の多くは成熟化している。とりわけ,食品,
家具などの生活関連型製造業の生産規模が長期にわたり低下傾向をたどっている。
図表 1-2
広島県の生活関連型製造業の製造品出荷額等の推移
(億円)
20000
15000
10000
5000
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 (年)
(注)生活関連型製造業は食品,繊維,医療,木材木製品,家具・装備品,印刷など
資料:経済産業省「工業統計調査」
農林水産業も国内需要の停滞や低価格の海外産品の流入,担い手の高齢化などからビジ
ネスとして成立しにくい環境となっている。
このように,これまで地域の社会や経済を支えてきた地域密着型の産業の多くが成熟化
し停滞感を強める中で,地域に埋もれた産業資源に光を当てた「産業観光」の振興によっ
て地域経済の再生を模索していこうという期待が高まっている。
−6−
②
観光ニーズの変化と国内観光の伸び悩み
製造業や農林水産業がかつての活力を低下させる一方で,広島県内では経済のサービス
化の進展などによって第3次産業のウエイトが高まっており,地域資源を活かした経済の
活性化を実現する手法として観光が注目されている。
しかし,国内の観光をみると,海外旅行との競合が強まる中で,団体旅行から個人旅行
へ,物見遊山型から学習・体験型へといった顧客ニーズの変化への対応の遅れなどから,
近年は総じて集客力が低下している。広島県の観光客数の推移をみると,NHKの大河ド
ラマや大型キャンペーン,高速道路など社会基盤整備等をきっかけに観光客数を拡大して
きたが,国内景気の停滞などから 2006 年をピークに緩やかな減少傾向にある。
図表 1-3
(万人)
広島県の観光客数推移
6,000
大河ドラマ毛利元就放送
5,000
大型観光キャンペーン
4,000
瀬戸内しまなみ海道開通
大型観光キャンペーン
ひろしま国体
3,000
アジア競技大会
海と島の博覧会
2,000
総観光客数
1,000
県内客
県外客
0
89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年
資料:広島県「観光動態統計」
こうした中で,産業観光は製造業,農林水産業,サービス業などが融合し,顧客ニーズ
の変化に対応する新たな国内観光の形態として可能性を秘めている。さらに最近のアジア
諸国の経済的発展を背景としたインバウンド(訪日外国人)を取り込むための観光メニュ
ーの一つとしても注目を集めている。
③
企業の地域貢献活動の高まり
近年,CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)を重視する経営
に取り組む企業が多くなっている。
これまでも地域に立地している多くの企業や事業所では,企業イメージの確立や消費
者・地域とのコミュニケーションを図っていく手法として,工場等の見学の受入や企業の
歴史・技術を紹介する資料博物館・資料館の運営などを行ってきた。
そして,近年では“コーポレート・シチズンとして地元の観光振興に貢献する”との思
いから,自前でガイドやパンフレットなどを整えて「生産現場の見学等の観光メニュー化」
に協力する動きが活発化しつつある。
−7−
(2)産業観光の特性
以上のように,産業観光は全国各地で注目を集めているが,その持続的な振興を図って
いく上で留意すべき特性として次の点が挙げられる。
①
地域と住民の生活に密着した観光であること
産業は人間が生活する場には必ず存在するものであり,産業に注目した観光はどのよう
な地域においても取り組むことができる。そして,産業は地域に根ざしたものであること
から,産業観光も地域と住民の生活に密接な関係を持つ観光の新たなジャンルといえる。
これまでの観光は,観光客のニーズが優先され,地域のための産業とはいえない場合も
みられた。これに対し地域密着型の産業観光は,観光資源が地域にあり,資源所在地から
の情報発信がなければ成立しない。そのため,着地側の意思に沿った観光が提供されると
ともに,地域住民と観光客との間に新たなコミュニケーションが生まれるという重要な特
性を有している。
②
三位一体(「見る」「学ぶ」
「体験する」)の観光であること
最近の観光ニーズは,単なる物見遊山型の「見る」観光では充足されず,
「体験」や「学
習」といった要素を求める傾向がある。産業観光はこの3要素を併せ持っていると考えら
れる。
例えば,地域の伝統工芸を学ぶ観光メニューでは,製作過程の見学や職人の指導による
製作体験があり,自ら製作したものを持ち帰ることができる。また,資料館などでは伝統
工芸の歴史や技術についての学習機会を提供することで,地域の観光振興において新たな
起爆剤になることが期待される。
さらに,歴史的文化財や地元グルメなど他の観光資源との組み合わせが容易なため,域
内,域外を問わず,多様なニーズを持つ観光客が参加できることから,観光産業の裾野を
さらに拡げることでより大きな波及効果が期待できる。
図表 1-4
産業観光のポジション
見る観光
産業観光
学ぶ観光
体験する
観光
−8−
③
滞在時間を延ばす観光であること
産業観光は体験や学習が中心であり,個々の工場の生産現場を見学するには一定の時間
を要する。また,特定の産業資源を巡るようなテーマ型のコースを企画すれば,地域内に
分散した見所を周遊することによって滞在時間の伸長につながる。さらに,産業観光の中
には,体験に数日を要するものや農業体験などであれば複数回訪れることで完結するよう
な観光メニューもあり,長期滞在型の観光につながる。
これまでの観光では,通過型観光からの脱却を図るため,満足度の高い観光コンテンツ
を創出し,滞在時間や宿泊観光の拡大,観光消費額の増加に取り組んできた。こうした点
で産業観光は,歴史的な文化財や地元グルメなど既存の観光資源との組み合わせによって
観光客を地域に長時間滞在させ,その魅力を楽しんでもらうことを可能にする。
④
地域活性化につながる観光であること
産業観光は,地域が情報発信することにより作り上げられる着地型観光であり,地域の
関係主体が連携して各々の役割を果たすことが求められる。また,地域住民が価値を知り,
来訪者に魅力を伝えていくことも重要である。
さらに,取り組みを継続的に実施していくためには,産業観光から得られる利益がその
産業や地域の観光業者だけに帰着するのではなく,幅広く地域内に還元されていくことが
求められる。すなわち,
「産業観光」は,地域の関係主体の連携と協働を引き出し,地域の
人的な資源を掘り起こし,活動から地域全体への利益をもたらす,まちづくりの要素を多
分に含んだ地域活性化につながる活動であるといえる。
−9−
3.全国における産業観光の現状
(1)産業観光の全国的な展開
近年の全国的な産業観光の推進には,全国産業観光推進協議会が大きな役割を果たして
いる。
同協議会は,観光関連企業や産業観光受入企業,自治体等関連団体などにより,2004 年
4月に立ち上げられた任意団体(事務局:日本観光協会)で,産業観光の概念の普及,産
業観光の受入の推進,産業間の連携と旅行商品の開発,関係者の情報交換などを目的とし
ている。
この取り組みの一環として,年1回,産業観光フォーラムを開催し,産業観光の普及啓
発活動を展開している。なお,現在まで,産業観光フォーラムは広島県および中国地方で
は開催されていない。
図表 1-5
産業観光フォーラムの開催状況
フォーラム名・開催日
開催地
産業観光サミットin愛知・名古屋 2001年度
名古屋市
2001年10月25日∼26日
(愛知県)
産業観光フォーラムin浜松 2002年度
500名
ものづくりと出会う旅
500名
鹿児島市 産業観光アイランド九州を考える
(鹿児島県) ∼近代化遺産と現代産業の融合∼
600名
(静岡県)
全国産業観光フォーラムinかごしま 2003年度
2003年10月24日∼25日
全国産業観光フォーラムinさっぽろ 2004年度
札幌市
開拓の沃野の広がる北海道の観光産
業
(北海道)
2005年2月7日∼8日
全国産業観光フォーラムinはちのへ 2005年度
八戸市
2005年10月20日∼21日
八戸地域の産業観光資源とその可能
(青森県) 性
全国産業観光フォーラム in 北九州2006
北九州市
2006年11月16日∼17日
(福岡県)
全国産業観光フォーラム in 会津若松2007
会津若松市
2007年10月26日∼27日
(福島県)
全国産業観光フォーラム in とやま2008
2009年10月22日∼23日
全国産業観光フォーラム in 姫路2011
2011年2月17日∼18日
伝統と先端技術が交錯するまち
400名
富岡市
日本近代産業発祥の地 ぐんま富岡
から未来を拓く
(群馬県)
姫路市
世界文化遺産姫路城のもとで育まれ
(兵庫県) た伝統産業と最先端産業の競演
資料:全国産業観光推進協議会資料より作成
−10−
400名
400名
「富山のくすり」が育んだ産業の富
(富山県) の山
全国産業観光フォーラム in 上州とみおか2009
500名
産業観光パワーアップの道
富山市
2008年9月25日∼26日
参加者
産業遺産の活用と地域づくり
浜松市
2002年10月17日∼18日
テーマ
500名
670名
800名
また,同協議会では,
「産業観光(産業遺産や,現在稼働している産業施設などを活用し
た観光)」による観光まちづくりを実践し,他の模範となる地域を表彰する「産業観光まち
づくり大賞」を 2007 年度に創設している。中国地方では,宇部・美祢・山陽小野田産業観
光推進協議会と(社)真庭観光連盟が特別賞を受賞している。
図表 1-6
回
第
1
回
(
07
年
度
賞
金 賞
受賞団体
概 要
(財)名古 屋観光コンベ ンション
産官連携による産業観光バスのビジネスモデル構築
ビューロー
銀 賞 北海道釧路市
漁業・炭坑・製紙などの基幹産業を活用した産業観光
特別賞
宇部・美祢・山陽小野田産業観光
CSRを魅せる産業観光の推進
推進協議会
金 賞
( 財 ) 浜 松 観 光 コ ン ベ ン シ ョ ン 「やらまいか精神」(何でもやってやろう)という精神風
ビューロー
土・ものづくり風土を,観光地域づくりの活力として活用
)
第
2
回
「産業観光まちづくり大賞」の受賞団体一覧
銀 賞 川崎産業観光振興協議会
異種の資源を組み合わせた産業観光の推進
(
︶
08
年
度
NPO法人いくのライブミュージ
遺産・道・町並みなどの全体を活かす事業展開
アム
特別賞
栗原市
金 賞 北九州市
第
3
回
「環境」をテーマとした幅広い産業観光の展開
函館市
産業観光資源を組み合わせた着地型の旅行商品の創出
益子アートウォーク実行委員会
新たな産業観光の形として,「土」をテーマにした文化芸術
イベント「土祭」の実施
銀 賞
(
09
年
度
特別賞
「軍港」・「基地」というマイナスのイメージを逆転し,軍
横須賀市・横須賀集客促進実行委
事拠点であった歴史からなる軍港産業資源を「ハイブリット
員会・(株)トライアングル
遺産」として活用
)
YKK(株)・黒部市
第
4
回
「田園都市」と鉱山都市,これらを結ぶ栗原電鉄などの全体
を観光交流資源として活用
YKKが核となり,地元の観光資源や体験プログラムなど異
種の産業観光資源を連携
金 賞 桐生市
繊維産業の発展により形成されてきた「のこぎり型の屋根」
の工場を近代化遺構として保存,他用途で利活用
銀 賞 大垣商工会議所
「高技術・IT」などをテーマとするモデルツアーを実施。
マスコミを活用した西美濃地域のものづくり力の全国広報を
実現
昭島市
「教育産業観光」「技術産業観光」「交通産業観光」の三つ
の地域に根差したカテゴリーを設定し産業観光を推進
(社)真庭観光連盟
「バイオマスタウン」として中山間地域の新産業創出と林業
等の他産業を観光と組み合わせたツアーを展開
(
10
年
度
特別賞
)
資料:全国産業観光推進協議会資料より作成
−11−
全国産業観光推進協議会のホームページ(URL:http://sangyou.nihon-kankou.
or.jp/index.html)では,全国の先進的な取り組みを紹介している。
主要な産業観光実施地域として,広島県では呉市が紹介されている。中国地方の他の4
県では,大田市,宇部市・美祢市・山陽小野田市の2地域が取り上げられている(図表 1-7)。
また,産業観光地としては,広島県の安芸地域,中国地方の他4県では江府町,奥出雲
地域,倉敷市,岡山市犬島,萩市,下関市が紹介されている(図表 1-8)。
図表 1-7
国内の主要な産業観光実施地域
資料:全国産業観光推進協議会のホームページ
図表 1-8
県
市・地域
広島県
呉市
広島県
安芸地域
鳥取県
江府町
島根県
大田市
島根県
奥出雲地域
岡山県
倉敷市
岡山県
岡山市犬島
山口県
宇部市・美祢市・
山陽小野田市
山口県
萩市
山口県
下関市
中国地方の産業観光実施地域
概 要
戦艦「大和」のふるさとで造船の歴史を学ぶ旅
筆づくりと製塩の「ものづくり」のまち
「水のまち」の水力発電所を訪れる
世界遺産!石見銀山を訪ねる旅
鉄の道文化圏
さまざまな産業遺産が見られる「倉敷アイビースクエア」
を訪れる
石と銅の島の産業観光
「環境の世紀」と呼ばれる現代に必要な「共生の心」を学ぶ
CSRツーリズム
明治維新の原動力となった人材を多く輩出した地を巡る
今も残る海峡の歴史・文化を巡る
資料:全国産業観光推進協議会のホームページ
−12−
(2)先進地の取り組み状況
広島県における産業観光の取り組みは,他地域と比較して活発とはいえない状況にある。
今後,
「産業観光」を県経済の活性化の一つの要素として育てていくためには,既に産業観
光で一定の成果を上げている先進地の事例を検証し,広島県の各地域の取り組みに活用し
ていくことが求められる。
ここでは,全国の産業観光をけん引する中部地域と,その他で注目される地域の取り組
み状況を整理する。
①
中部地域における取り組み
中部地域は,世界的な知名度を有するメーカーが多数立地し,全国的にみても製造業が
集積している。そのため,地域内に数多くの産業ミュージアム(博物館・資料館など)が
設置され,「見る」
「学ぶ」「体験する」という産業観光の基盤が確立されている。
こうした中部地域では,個別企業による産業観光の取り組みに加え,広域連携によって
産業観光を新たなビジネスに進化させようとしている。
以下では,名古屋市および浜松市における取り組みを紹介する。
a.名古屋市を中心とした地域での取り組み状況
ア)取り組みの経緯
・名古屋市では,1994 年のトヨタテクノミュージアム・産業技術記念館のオープンが産
業観光振興の契機となった。1996 年には名古屋商工会議所が中心となって,周辺地域
に 20 館以上立地する産業ミュージアム等と行政・関連主体の参加する産業観光推進懇
談会(AMIC)を結成し,施設間の情報交換や連携による産業観光の振興を図って
きた。
・この時期,愛知万博(2005 年開催)の誘致が進められており,愛知県および名古屋市
の知名度の向上を図るため,世界的にも認知度の高い製造業という地域資源を交流事
業に活用することを目的として,産業観光の推進に着手した。
トヨタテクノミュージアム 産業技術記念館
−13−
イ)取り組み体制
・取り組みを主導するのは産業観光推進懇談会(AMIC)であり,参加する産業ミュ
ージアムは 27 館ある。現在は年4回の会議を開催し,情報交換や推進体制の強化を図
っている。
・産業観光推進懇談会のメンバーである(財)名古屋観光コンベンションビューローでは,
民間企業に呼び掛け,定期的に「産業観光バス」の運行を行っている。
・2005 年に中部地域の9県1市(富山県,石川県,福井県,長野県,岐阜県,静岡県,
愛知県,三重県,滋賀県,名古屋市)で設立された中部広域観光推進協議会では,産
業観光の振興のために,ホームページで中部産業観光データベースを提供している。
(URL:http://www.kandou10.jp/ja/industry/)
ウ)取り組みの概要
・産業観光推進懇談会や名古屋商工会議所では,教育機関や旅行代理店向けの「産業観
光のしおり」をはじめとするPR用パンフレット等の作成,配布を行っている。また,
インバウンド観光の拡大に対応して多言語によるパンフレットを作成している。さら
に,来訪者の支援として,名古屋駅コンコースや主要博物館に産業観光の総合インフ
ォメーションセンターを設置している。
・名古屋観光コンベンションビューローの呼びかけにより,名鉄観光サービスと名阪近
鉄旅行の2社が,毎週火曜日と水曜日に「産業観光バス」を運行している。このツア
ーは各回異なるテーマを設定して広域的な産業観光のメニューを提供している。
・名古屋市内の産業観光施設等へのアクセスの向上を目的に,2007 年7月から施設を循
環する「なごや観光ルートバス(愛称:メーグル)」が運行されている(平日 13 便,
土曜祝日 18 便)。このバスは,名古屋市市民経済局が企画運営し,同市交通局が運行
を受託している。
エ)地域への効果
・地域の産業観光に関連する主体が集まり,総合的な広報・宣伝活動を行うことで,産
業観光の先進地としてのブランドを形成している。
・産業観光推進懇談会に参加する 27 館への年間来訪者は,2009 年度で約 400 万人にのぼ
り,国内外から多くの観光客をひきつけている。
・産業観光バスは,名古屋市だけでなく,周辺地域も含めた広域で実施しているため,
多様なテーマのツアーが造成されており,幅広な観光客を集客している。
・2007 年度には名古屋観光コンベンションビューローが第1回産業観光まちづくり大賞
の金賞を受賞している。
b.浜松市を中心とした地域での取り組み状況
ア)取り組みの経緯
・浜松市は,繊維,楽器,輸送用機械などで多くの世界企業を輩出し,高い産業集積を
形成してきた。このため,観光振興には積極的に取り組んでいなかった。
−14−
・地域の強みである産業を交流人口の拡大につなげるため,1998 年頃から観光関連パン
フレットへ施設見学情報を掲載し,観光振興に取り組んできた。また,2000 年には「浜
松地域見学受け入れ企業・施設一覧」を作成している。
・2001 年には地域が一体となって産業観光を推進するための枠組みとして,行政,観光
関連団体,受入企業で構成する産業観光研究会を発足させた。
・浜松市では,2002 年度には市内企業調査を実施し,商品化および販売促進に向けた「浜
松の産業観光推進計画」を策定している。
イ)取り組み体制
・浜松市における産業観光の取り組みを主導するのは,市や(財)浜松観光コンベンショ
ンビューローを中心に構成される産業観光研究会であり,年間数回の意見交換会を実
施し,関係者の連携を強化している。
・浜名湖観光圏整備推進協議会(浜松市・湖西市の関係主体で構成)において広域的な
産業観光を推進している。
ウ)取り組みの概要
・浜松市を中心に周辺の受入企業約 100 社を紹介する浜松地域産業観光ガイドブック(多
言語対応)を作成,配布しているほか,ホームページによる情報発信も行っている。
・インバウンド観光の獲得に向け,中国瀋陽市や大連市において観光プロモーションの
一環として産業観光をPRしている。
・最近では市内からの主要工場の移転などもあり,周辺地域や北陸地域等と連携した観
光コースを造成し,その中で産業観光メニューの組み込みを進めている。
エ)地域への効果
・観光の目玉として産業観光を前面に出して取り組んでいるため,地域内での産業観光
への認知度が高まっている。
・大企業が率先して産業観光に取り組んだこともあり,地域企業にも産業観光へ協力す
る意識が高まっており,現在では約 100 社が受入企業となっている。
・春華堂のうなぎパイファクトリー等の
工場や浜松市楽器博物館など産業ミュ
ージアムには,年間約 120 万人が訪れ
ており,増加傾向にある。
・産業集積の周辺地域への拡大に対応す
るため,産業観光の取り組みも広域的
な展開が進められており,周辺地域と
の連携が進んでいる。
・2008 年度には浜松観光コンベンション
ビューローが第2回産業観光まちづく
り大賞の金賞を受賞している。
浜松市楽器博物館
−15−
②
その他地域における産業観光の先進事例
a.川崎市における取り組み状況
ア)取り組みの経緯
・国内でも有数の産業集積地である川崎市は,有名な観光資源として川崎大師があるも
のの,観光振興に対する取り組みが十分ではなかった。また,川崎市では,2005 年に
「かわさき観光振興プラン」を策定するまで,観光に関する計画が存在しなかった。
・ニューツーリズムが台頭してきた時期に,川崎市における観光振興を検討し,産業観
光を観光振興の柱として取り組んでいくこととなった。
・市内の産業観光を推進するため,川崎市ではプランを策定するとともに,川崎産業観
光振興協議会を設立した。
イ)取り組み体制
・川崎市における産業観光の取り組みを主導するのは,市,商工会議所,観光協会連合
会,企業,旅行代理店で構成される川崎産業観光振興協議会である。
・事業運営に当たっては,川崎市と川崎市観光協会連合会が中心となっている。
ウ)取り組みの概要
・2007 年に産業観光の情報発信として,旅行業者や学校関係者向けの「スタディ・ツー
リズムの勧め
産業観光都市 川崎市の産業の魅力」というパンフレットを作成した。
さらに,市民・観光客向けの「川崎産業観光PRパンフレット」や産業観光ホームペ
ージの作成によって積極的な情報発信を行っている。
・川崎市では,民間事業者を巻き込んだ「川崎産業観光ツアー」を実施している。2008
年から開始し,2010 年度は 11 コースで 13 回ツアーを催行し,ほぼ完売している。
・川崎工場夜景屋形船クルーズや川崎工場夜景バスツアーなどが定期的に運行されてい
るほか,東京発のはとバスツアーや横浜発の夜景クルーズもあり,民間ベースの取り
組みが促進されている。
・産業観光に関する知識を高める取り組みとして,2007 年に「川崎産業観光検定」を開
始し,その参考書となる「川崎産業観光読本」を作成している。
・川崎産業観光検定の合格者を産業観
光ガイド(有料のガイド)に養成す
る「川崎産業観光ガイド養成講座」
を開催するなど,人材の育成にも力
を入れている。
・2010 年度には,工場夜景ポスターの
作成,工場夜景カレンダーの販売,
全国工場夜景サミットの開催など,
独自の産業観光のPRも展開してい
る。
川崎産業観光読本
−16−
全国工場夜景サミット
チラシ
エ)地域への効果
・産業観光振興の取り組みにより,受入施設の来訪者数は,2006 年の 50 万人から 2009
年には 87 万人まで拡大している。
・川崎産業観光ツアーは,市内北部の住民が沿岸部の産業への理解を深めるきっかけと
なり,市民を中心としたリピーターの確保につながっている。
・ツアーの中に川崎市の食や新たな観光資源を盛り込むことで,産業観光以外の観光資
源の育成も図っている。
・観光ニーズの多様化に対応するため,
「工場萌え」として集客を行っている。全国的に
も注目を集め,マスコミの取材も多く,経済的な波及効果以上に川崎市のイメージア
ップに大きく貢献している。
・川崎産業観光検定の実施から産業観光ガイドの養成につなげるなど,産業観光に関わ
る人材育成が進められており,市民主導による産業観光振興にシフトし始めている。
・2008 年度には川崎産業観光振興協議会が第2回産業観光まちづくり大賞の銀賞を受賞
している。
b.宇部・美祢・山陽小野田地域における取り組み状況
ア)取り組みの経緯
・宇部市は元々工業のまちであり,有名な観光資源として常盤公園があるものの,観光
振興に対する取り組みが十分ではなかった。
・宇部市では,1997 年に「宇部ファクトリー観光」を推進しようとしたが,当時は企業
秘密の保持などのため地元企業の協力が得られず実現できなかった。
・JRとのタイアップ観光イベント「ディスティネーション・キャンペーン」の対象地
域となったため,その準備として 2006 年から山口県の要請を受け,新たな観光振興の
目玉として産業観光に着目した。
・この時期,マスコミが「産業観光」を取り上げたこともあり,
「CSR(企業の社会的
責任)」の一環で企業の協力も得やすくなっていった。
・2007 年 11 月に宇部興産本社内に,一般の人が宇部興産の歴史や製品などについて学習
できる総合案内施設「UBEiPlaza(ユービーイー
アイ プラザ)」が設置さ
れ,産業観光の気運が高まる契機となった。
イ)取り組み体制
・宇部市における産業観光は,当初 2007 年1月に発足した宇部市産業観光協議会が担う
予定であった。しかし,産業観光を効果的に展開するため,広域的な取り組みが必要
と判断し,同年5月に宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会を設立し,この協
議会が広域的な産業観光の取り組みを主導することとなった。
ウ)取り組みの概要
・2007 年7月に,「第3回産業観光ワークショップ in やまぐち」でのエクスカーション
として,モデル4コースを企画・実施した。
−17−
・その後,2008 年からの本格的実施に向け
て8コース(日帰りと宿泊)の産業観光
モニターツアーも実施した。
・現在は,「募集型」と「受注型」のバス
ツアーを実施している。
「募集型」は「大
人の社会派ツアー」として 18 のコース
を設定し,宇部市交通局および船鉄観光
が参加者を募集している。
・ツアーでは,石炭,粘土,石灰石,大理
石などの地域資源を活用した企業の生
産活動や地域への貢献をストーリー仕
立てで紹介している。
・ツアー実施に際しては,企業OBや郷土
「大人の社会派ツアー」
第 16 章「食・宇部」訪問先
宇部蒲鉾㈱のかまぼこ歴史館
史家からなる 17 人の「エスコーター」が
道中の案内や企業時代の体験談などを語り,学習効果を高めている。
・
「受注型」は旅行会社が募集するツアーに産業観光メニューが組み込まれる場合に,受
入企業との調整,「エスコーター」や「担当係員」の派遣などを行っている。
エ)地域への効果
・2010 年度(1月末現在見込み)の参加者は 1,374 人(58 ツアー)で前年を約2割上回
っている。内訳は,
「募集型」が 533 人,「受注型」が 841 人となっており,「募集型」
は地元からの参加が7割以上を占める。
・ツアーの参加者の約8割は「満足」しているなど評価は高い。ただし,宿泊にまでつ
なげるにはまだ難しい状況である。
・同協議会の産業観光事業は,3市からの補助金に加え,エスコーターと担当係員の派
遣費(参加者1人当たり 600 円。最低でも1ツアー当たり 6,000 円分を徴収),事務経
費などの事業収入によってまかなわれており,2007 年度以来黒字が続いている。
・2007 年度には宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会が第1回産業観光まちづく
り大賞の特別賞を受賞している。
c.倉敷市を中心とした地域での取り組み状況
ア)取り組みの経緯
・倉敷市は,美観地区に倉敷紡績の旧工場を利用した倉敷アイビースクエアがあり,近
代産業遺産を集客施設として活用してきた歴史がある。
・重厚長大型のコンビナートが集積する水島・玉島地区,ジーンズ等繊維産業が集積す
る児島地区など,多様な産業集積を有する都市である。これまで工場見学を多く受入
れてきた実績があり,産業を観光に活用する取り組みが盛んな地域である。
・玉島・水島地区では,2005 年以来,玉島商工会議所により産業観光の取り組みが進め
られており,水島工場ナイトクルーズなど様々なツアーが実施されてきた。
−18−
・2006 年には児島商工会議所が中心となり,地域のジーンズメーカーやジーンズミュー
ジアムなどを巡る「ジーンズバス」を週末に運行し,ジーンズファンを多く集めてき
た。
イ)取り組み体制
・倉敷市では,従来,市内の関係主体が独自に実施してきた産業観光の取り組みを一体
的に運営するため,2010 年度に児島商工会議所,玉島商工会議所,
(社)倉敷観光コン
ベンションビューロー,倉敷市によって産業観光ツアー連携委員会が設立された。
・高梁川流域の総社・高梁・新見・浅口・笠岡・里庄・矢掛・井原・早島の各地域では,
広域連携によって産業観光を推進するため,備中地域広域観光振興協議会(事務局:
岡山県備中県民局)が設立された。さらに,同地域の「着地型観光」や地域発の商品,
サービスの開発を目指す(社)水辺のユニオンが設立されている。
ウ)取り組みの概要
・これまで,産業観光については,各商工会議所や自治体が独自に行っており,倉敷観
光コンベンションビューローなどと連携し,地域ごとの産業観光パンフレットなどが
作成されてきた。
・産業観光ツアー連携委員会では,企業の魅力や地域の歴史を楽しく学べる6つのツア
ーコースを企画し,中鉄観光が 2011 年2月から参加者を募集している。
・水辺のユニオンでは,前身の倉敷産業
観光ユニオンにおいて広域観光拠点
および広域観光ルートの開発,観光ま
ちづくりのための人材育成,インター
ネットを活用した情報発信,流域の魅
力を伝える冊子の発行などの活動を
行ってきた。
・備中地域広域観光振興協議会では,
2008 年度から「岡山・備中『鉄の径』
ツアー」や「備中杜氏の郷ツアー」な
どを企画し,両備バスや備北バス等の
民間企業が募集する形で実施した。
鉄の径紹介ホームページ
資料:備中地域広域観光振興協議会ホームページ
エ)地域への効果
・倉敷市は,従来,工場見学や近代産業遺産の活用が盛んで,産業観光の素地は形成さ
れていた。
・各関係主体が個別に行ってきた産業観光ツアーについても,連携組織の設立により,
効率的な運営が可能となっている。各ツアーも成功し,今後のさらなる発展が期待さ
れる。
−19−
(3)全国の取り組みのまとめ
○
全国の先進事例では,高い産業集積を背景に,観光振興の柱として産業観光を位置付
け,集中して取り組むことで成功を収めている。
○
自治体,経済団体,観光関連団体が連携し,地域が一体となって取り組むことで成功
につながっている。
○
産業観光のコンテンツは,地元の大手企業が率先して取り組むことで中小企業の参加
意識を高め,産業観光の受入企業の充実を実現した地域がある。また,地場企業が伝統
技術を活かして積極的に取り組み,周辺企業の参加を促しているケースも見受けられる。
○
受入企業を拡大していくためには,取り組みを推進する組織が地道に個別企業を訪問
して参加を依頼するとともに,受入企業が協力できる範囲を協議して,受入体制を確立
していくことが重要である。
○
多くの先進事例で旅行商品化された産業観光ツアーが実施されており,一定のビジネ
スモデルを構築しつつある。これらのツアーは,地域の産業観光資源を理解し,観光客
のニーズも熟知した幅広い知識を持つ人材が「作り込んでいく」ことで満足度の高いも
のに仕上げられている。このように,地域発のアイディアを関係主体が連携して出し合
い,発信していくことが,産業観光による地域経済の活性化を実現するポイントになる
と考えられる。
−20−
第2章
広島県における産業観光の現状と問題点・課題
1.広島県における産業観光の必要性
(1)広島県観光の現状
①
観光客数の推移と目的別内訳
広島県における 2009 年の観光客数(年間)は 5,530 万人となっている。経年変化をみる
と,2006 年 5,799 万人,2007 年 5,761 万人,2008 年 5,632 万人となっており,ここ数年は
減少傾向にある。
観光客数を目的別にみると,
「産業観光」は年間 148 万人(2009 年)で,全体の 2.7%を
占めるに過ぎない。ただし,2009 年はここ数年では最も多く,全体に占める割合も前年に
比べ 0.4 ポイント上昇している。
図表 2-1
広島県における観光客数と目的別内訳
(単位:千人)
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
都市観光(美術館等)
11,826
11,845
11,773
11,596
都市観光(ショッピング等)
11,239
11,711
11,359
11,064
産業観光
1,328
1,364
1,318
1,478
自然探勝
5,472
5,043
4,627
4,451
温泉
3,990
3,915
3,236
3,329
ハイキング,登山,キャンプ
1,617
1,352
1,376
1,339
867
601
645
522
その他スポーツ
3,479
3,654
3,349
3,405
海水浴・釣・潮干狩
1,480
1,539
1,606
1,436
神社・仏閣
2,789
3,391
3,654
3,808
324
351
365
348
祭・行事
5,675
5,993
5,463
5,889
大規模公園等
2,474
2,300
2,591
2,360
その他
5,434
4,550
4,954
4,277
57,994
57,609
56,316
55,302
スキー
みかん狩・松茸狩等
計
資料:広島県観光動態統計
−21−
図表 2-2
広島県の目的別観光客割合(2009 年)
その他
7.7%
都市観光
(美術館等)
21.0%
大規模公園等
4.3%
祭・行事
10.6%
みかん狩・松茸刈等
0.6%
神社・仏閣
6.9%
都市観光
(ショッピング等)
20.0%
海水浴・釣・潮干狩
2.6%
その他スポーツ
6.2%
温泉
6.0%
スキー
0.9%
自然探勝
8.0%
産業観光
2.7%
ハイキング、登山、
キャンプ
2.4%
資料:広島県観光動態統計
産業観光の市町別の観光客数(2009 年)では,東広島市 39.6 万人,庄原市 33.9 万人,
尾道市 16.9 万人,呉市 16.7 万人,福山市 11.2 万人等となっており,これらが 10 万人を
超えている。一方,広島市 0.2 万人,廿日市市 4.5 万人,府中市 0.6 万人など産業観光資
源が多いとみられる市町で少ないが,これは「産業観光」の区分が統一されていないこと
も影響していると考えられる。
図表 2-3
産業観光を目的とする観光客の市町別割合(2009 年)
広島市
0.1%
呉市
11.3%
庄原市
22.9%
神石高原町
0.0%
竹原市
0.6%
大竹市
3.1%
三次市
0.8%
世羅町
5.0%
府中市
0.4%
東広島市
26.8%
福山市
7.6%
尾道市
11.4%
廿日市市
3.0%
三原市
0.1%
北広島町
1.1%
安芸太田町
0.6%
安芸高田市
大崎上島町
0.0%
−22−
坂町
0.3%
江田島市
府中町 0.1%
3.7%
海田町
熊野町 0.0%
0.9%
資料:広島県観光動態統計
図表 2-4
産業観光目的の市町別観光客数の推移(年間)
(単位:千人)
2005 年
広島市
2006 年
2007 年
2008 年
2009 年
1
1
0
2
2
146
185
185
169
167
竹原市
27
32
34
34
9
大竹市
40
42
47
46
46
東広島市
211
403
489
515
396
廿日市市
46
20
6
32
45
江田島市
3
1
1
2
2
府中町
81
67
70
69
55
海田町
0
0
0
0
0
熊野町
40
11
11
14
13
坂町
1
3
4
4
5
大崎上島町
0
0
0
0
0
安芸高田市
0
0
1
0
0
安芸太田町
9
8
11
11
9
51
19
15
15
16
三原市
1
3
1
2
1
尾道市
163
144
148
160
169
福山市
178
113
121
123
112
府中市
4
3
3
4
6
世羅町
72
70
21
55
74
0
4
0
0
0
三次市
110
133
138
12
12
庄原市
247
66
58
49
339
1,431
1,328
1,364
1,318
1,478
呉市
北広島町
神石高原町
計
(注)2005 年の因島市,瀬戸田町は尾道市に加算済み。
資料:広島県観光動態統計
−23−
②
日帰り客・宿泊客別観光客数
日帰り客が増加傾向で推移しているのに対し,宿泊客は横ばいとなっている。このため,
観光客の滞在時間を延ばすことで,宿泊客の増加につなげていくことが課題となっている。
(万人)
6,000
図表 2-5
日帰り客・宿泊客別観光客数の推移
5,000
4,000
3,000
総観光客数
日帰り客
2,000
宿泊客
1,000
0
89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年
資料:広島県「広島県観光動態統計」
③
旅行形態別観光客数
団体旅行客はほぼ横ばいであり,一般旅行客が中心となっている。今後も,一般旅行客
を中心に伸びると考えられ,多様なニーズや小グループ向け,自由行動に対応した観光施
設等の受入体制を整備する必要がある。
(万人)
図表 2-6
旅行形態別観光客数の推移
6,000
5,000
4,000
総観光客数
3,000
一般旅行客
団体旅行客
2,000
修学旅行客
1,000
0
89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年
資料:広島県「広島県観光動態統計」
−24−
④
外国人観光客数
外国人観光客は,2009 年は減少したものの,ここ数年は急増傾向にある。こうしたイン
バウンドに対応した観光資源の充実と受入体制の強化が課題となっている。
図表 2-7
外国人観光客数の推移
(千人)
700
(万人)
6,000
600
5,000
500
4,000
リーマンショック
400
3,000
300
SARS
新型インフルエンザ
2,000
200
アジア競技大会
9.11テロ事件
100
1,000
外国人観光客数
総観光客数
0
0
89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年
資料:広島県「広島県観光動態統計」
⑤
1人当たり観光消費額
宿泊客数が伸び悩んでいることなどから,1人当たりの観光消費額はほぼ横ばいで推移
している。このため,滞在時間の向上,土産物を買いたくなるような受入体制の充実が必
要である。
図表 2-8
1人当たりの観光消費額推移
(万人)
(円)
10,000
6,000
9,000
5,000
8,000
7,000
4,000
6,000
5,000
3,000
4,000
2,000
3,000
1人当たり消費額
2,000
総観光客数
1,000
0
1,000
0
89年 90年 91年 92年 93年 94年 95年 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 05年 06年 07年 08年 09年
資料:広島県「広島県観光動態統計」
−25−
⑥
有料観光施設の利用状況
広島県内における主要有料観光施設の利用状況をみると,大和ミュージアム,安佐動物
公園,国営備北丘陵公園,こども文化科学館,福山市立動物園,広島市植物公園,交通科
学館など,体験型・学習型施設が人気を集めている。
図表 2-9
広島県内の主要有料観光施設(上位 30 位)の利用状況
(単位:千人)
所在地 人数
宮島町
1,377
広島市
1,193
2004年
施設名
1 厳島神社
2 平和記念資料館
(単位:千人)
所在地 人数
宮島町
1,319
広島市
1,083
2009年
施設名
1 厳島神社
2 平和記念資料館
3 平山郁夫美術館
瀬戸田町
714
3 安佐動物公園
広島市
437
3
瀬戸田町
5 安佐動物公園
広島市
広島市
6 こども文化科学館
福山市
7 ふくやま美術館
8 千光寺山ロープウェイ 尾道市
9 宮島水族館
宮島町
10 因島フラワーセンター 因島市
庄原市
11 国営備北丘陵公園
12 広島ニュージーランド村 高宮町
13 アルカディアビレッジ
廿日市市
君田村
14 君田温泉 森の泉
宮島町
15 宮島ロープウェイ
16 交通科学館
広島市
17 縮景園
広島市
福山市
18 福山市立動物園
広島市
19 広島市森林公園
20 ガラスの里資料館
広島市
21 グリーンピア安浦
安浦町
高宮町
22 たかみや湯の森
広島市
23 広島市植物公園
24 神楽門前湯治村
美土里町
25 現代美術館
広島市
広島市
26 ひろしま美術館
502
448
436
355
330
327
310
265
251
198
194
192
187
184
178
178
177
165
155
155
154
153
148
4 国営備北丘陵公園
5 こども文化科学館
6 広島県立美術館
7 宮島水族館
8 千光寺山ロープウェイ
9 耕三寺・耕三寺博物館
10 君田温泉 森の泉
11 福山市立動物園
12 広島市森林公園
13 交通科学館
14 神楽門前湯治村
15 ふくやま美術館
16 広島ニュージーランド村
17 グリーンピア安浦
18 ひろしま美術館
19 広島市植物公園
20 縮景園
21 現代美術館
22 たかみや湯の森
23 平山郁夫美術館
24 クアハウス湯の山
25 芸北オークガーデン
26 広島城
庄原市
広島市
広島市
宮島町
尾道市
瀬戸田町
三次市
福山市
広島市
広島市
安芸高田市
福山市
安芸高田市
安浦町
広島市
広島市
広島市
広島市
安芸高田市
瀬戸田町
湯来町
芸北町
広島市
406
383
276
256
242
225
200
179
178
173
171
168
168
167
165
160
157
154
153
138
134
131
129
4
27 広島城
広島市
134
27 千畳閣
宮島町
121
27
28 湯来ロッジ
湯来町
因島市
湯来町
129
120
104
9,412
108
102
94
7,776
28
1999年
4 シトラスパーク瀬戸田
29 因島水軍城
30 クアハウス湯の山
小 計
28 アルカディアビレッジ
廿日市市
29 ガラスの里資料館
広島市
30 花みどり公園
広島市
小 計
資料:広島県「広島県観光動態統計」
−26−
1
2
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
29
30
施設名
厳島神社
平和記念資料館
呉市歴史海事科学館
大和ミュージアム
安佐動物公園
国営備北丘陵公園
こども文化科学館
千光寺山ロープウェイ
福山市立動物園
広島市植物公園
交通科学館
広島県立美術館
千畳閣
広島城
もみのき森林公園
広島市森林公園
縮景園
グリーンピアせとうち
ふくやま美術館
尾道ふれあいの里
君田温泉 森の泉
現代美術館
神楽門前湯治村
ひろしま美術館
平山郁夫美術館
湯っ蔵さんわ
花みどり公園
奥田元宋・
小由女美術館
筆の里工房
休暇村 吾妻山
休暇村 帝釈峡
小 計
(単位:千人)
所在地
廿日市市 1,928
広島市
1,374
呉市
873
広島市
庄原市
広島市
尾道市
福山市
広島市
広島市
広島市
廿日市市
広島市
廿日市市
広島市
広島市
呉市
福山市
尾道市
三次市
広島市
安芸高田市
広島市
尾道市
神石高原町
広島市
564
498
445
273
259
219
218
218
211
197
189
182
179
178
171
151
151
122
118
109
106
99
90
三次市
77
熊野町
庄原市
庄原市
75
75
71
9,423
(2)広島県における産業観光の取り組み状況
①
中国経済産業局による産業観光施設の紹介
中国経済産業局では,
・
(財)ちゅうごく産業創造センター「中国地域における産業観光による地域振興方策調
査」(2006 年度)
・中国経済産業局「中国地域産業観光実態調査」
(2006 年度)
に基づき,「産業観光マップ ∼工場へ行こう!産業を楽しもう!∼」として,中国地方
の見学可能な工場や施設について,情報公開を行っている。
・中国経済産業局のホームページに掲載
(URL:http://www.chugoku.meti.go.jp/exploring/index.html)
・県別・業種別・体験の有無などが検索可能であり,入場料や予約の必要性など各種情
報も満載している。広島県内では,94 施設について紹介を行っている。
② 広島県における産業観光施設の紹介
広島県では,広島県観光便覧,広島教育旅行ガイドブック等で,産業観光施設の情報を
紹介している。
図表 2-10 広島県内の産業観光施設
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
名称
NHK広島放送局
広島市健康づくりセンター(健康科学館)
造幣局広島支局
広島高速交通車両基地
オタフクソース(株)
広島市水産振興センター
広島市中工場
広島電鉄(株)千田車庫
福留ハム(株)広島工場
(株)研創
産業技術総合研究所中国センター
(株)ディスコ広島事業所桑畑工場
中国木材(株)本社工場(郷原工場)
王子製紙(株)呉工場
J−POWER電源開発(株)竹原火力発電所(展示館)
アヲハタ(株)
広島県栽培漁業センター((社)広島県栽培漁業協会)
コカ・コーラウエストプロダクツ(株)本郷工場
まるか食品(株)
石田造船建設(株)
万田発酵(株)
ヤング産業(株)
内海造船(株)
JFEスチール(株)西日本製鋼所(福山地区)
(株)エフピコ(福山リサイクル工場)
(株)ヤクルト本社(福山工場)
(株)本家中村屋
ヒロボー(株)ヒロボーライブファクトリー
三次人形窯元
(株)広島三次ワイナリー
おおたけ和紙の里
中国電力(株)エネルギア総合研究所
(株)サタケ
川原厳栄堂
山根対厳堂
中国新聞広島制作センター(ちゅーピーパーク)
広島ガス(株)廿日市工場
キリン広島ブルワリー
マツダ(株)マツダミュージアム
(株)明光堂
所在地
広島市中区
広島市中区
広島市佐伯区
広島市安佐南区
広島市西区
広島市西区
広島市中区
広島市中区
広島市安佐北区
広島市安佐北区
呉市
呉市
呉市
呉市
竹原市
竹原市忠海町
竹原市高崎町
三原市
尾道市(尾道工業団地内)
尾道市因島三庄町
尾道市因島重井町
尾道市因島重井町
尾道市瀬戸田町
福山市
福山市
福山市
府中市
府中市
三次市
三次市
大竹市
東広島市
東広島市
廿日市市
廿日市市
廿日市市
廿日市市
府中町
府中町
府中町
(注)工場見学のみ,農業体験,博物館・美術館施設は除いている。
資料:広島県観光課資料
−27−
内容
放送体験
病気と健康
製造工程
車両基地
お好み焼き館
カキ打ち体験等
廃棄物焼却工場
車両見学等
ウィンナー製造工程
金属製看板
実証プラント見学
半導体製造工程
構造材、集成材
製造行程
発電の仕組み
ジャム製造工程
栽培漁業
清涼飲料水製造工程
食品製造
造船所
植物発酵食品
服飾用皮製品製造
造船所、進水式
製鉄所
食品トレーのリサイクル
製造工程
味噌づくり体験
産業用ヘリコプター見学、体験
制作過程
ワイン製造工程
作業風景
展示ホール見学
米の栽培や加工工程
宮島焼の製作過程
宮島焼の絵付け体験
新聞製作、ビデオ
都市ガス製造設備
生ビールの製造工程
車の企画から生産までの過程
ピン、針等の加工工程
③
広島県による取り組み状況
・広島県の観光基本計画では,産業観光の普及啓発や支援方策の検討などが打ち出され
ている。
■ひろしま観光立県推進基本計画(広島県,2008 年4月)
ものづくりの産業集積を活かした産業観光の推進
本県には,筆などの伝統的工芸品や食品,自動車,鉄鋼,造船,電気などのものづく
りの産業が集積しており,数多くのナンバーワン,オンリーワン企業もあります。
こうした産業集積を活かした産業観光に取り組んでいる企業も数多くありますが,今
後は既存の産業観光の充実を図るとともに,そのネットワーク化を促進していきます。
○県が主体的に取り組むもの
・産業観光に対する企業等の理解に向けた普及啓発の強化
・産業観光に関する企業等意向調査と支援方策の検討
○観光事業者・観光関係団体等が主体的に取り組むもの
・産業観光振興のための工場等への観光客の受入促進(企業等)
・産業観光と既存の観光地とをネットワークで結んだ多様で魅力的な商品開発(観
光事業者・観光関係団体)
他に,広島県では教育旅行(修学旅行生等)の誘致に力を入れており,平和学習,歴史
学習,体験,産業学習としてPRを行っている。
体験は,お好み焼き体験,海辺・漁業体験,海・川の体験など農林漁業体験が中心とな
っている。産業学習としては,マツダミュージアム,広島電鉄千田車庫,広島市中工場,
ヒロボーライブファクトリー,サタケ,王子製紙,広島県栽培漁業センター,JFEスチ
ール西日本製鉄所,エフピコ,本家中村屋が紹介されている。
なお,2010 年度から,瀬戸内ツーリズムとして,グルメ,健康,体験,山登りなどの広
島発着の日帰り旅行を提案している。
④
広島県内における産業観光の取り組み事例
■呉市/大和ミュージアムをはじめとした市主導による産業観光の振興
・呉市では,1889 年(明治 22 年)に海軍が開設,1903 年(明治 36 年)に海軍工廠が置
かれた。戦後,海軍工廠で培われた技術がIHI,日新製鋼などに受け継がれ,工業
都市として発展した。
・呉ポートピアランドは 1992 年に開設し,1998 年に閉園した。その後,観光振興策を
模索する中で,呉市が中心となって民間の寄付も募り,2005 年に大和ミュージアムを
オープンさせた。現在,年間 100 万人以上を集客し,400 億円の経済効果,3,000 人の
雇用を生み出している(呉市試算)。
・呉市単独では滞留性が低いため,第一術科学校(江田島市),海軍グルメ,潜水艦基地,
赤レンガ倉庫等の産業観光資源のネットワーク化が課題となっている。
・教育旅行の分野として,平和,体験,歴史に加えて産業観光を掲げている。産業体験
施設では,造船所進水式,ミツトヨ(精密測定機器製造),ディスコ(半導体精密研削
切断装置製造),酒工房せせらぎが挙げられている。
−28−
呉市歴史海事科学館 大和ミュージアム
(写真提供:大和ミュージアム)
■府中市/商工会議所を含めた地域を挙げた産業観光への取り組み
・
「府中ものづくり観光」として,企業,会議所,府中市他で実施している。工場見学受
入事業として,2006 年度から実施し,受入協力企業 14 社,年間 3,000 人程度の実績
がある。
・産業体験ツアーとしては,府中産業観光体験ツアー(福山市発着)を 2004 年度から実
施し,現在7年目である。①親子ものづくり体験,②大人のものづくり,③工場見学
の3コースで,年間計 200 人程度の実績となっている。
・産業観光ツアー経費は,市等の補助金と会議所からの持ち出しとなっており,現在,
2,000 円/人程度の赤字である。
・受入企業のメリットとしては,売上げの増加には直接つながらないものの,従業員の
意識向上や工場内の美化につながっている。
・府中市の名物である味噌,府中焼きなどの体験では,受入人数に制約があるなど,地
域や施設側の容量の問題も大きい。
・現時点では,ツアー自体が採算割れであるため,ホテル・旅館やエージェントなどを
巻き込むまでには至っていない。新たなツアー内容の企画,広報手段の開拓などによ
り,ものづくり観光の今後のあり方を模索している状況である。
ヒロボー ライブファクトリー(左)と産業観光体験ツアーのチラシ(右)
−29−
2.広島県の産業観光の現状と将来展望(アンケート調査)
(1)調査の概要
現在の広島県内における産業観光の取り組み状況,取り組みを進める上での課題,今後
の展開方向などを把握するため,自治体・商工関係団体等の公的団体および産業観光等の
実施企業を対象にアンケート調査を実施した。
公的団体向けアンケートでは,地域における産業観光の位置付け,産業観光に適した地
域資源(産業遺構,伝統技術,企業,産業関連施設,体験メニューなど),取り組みを推進
する上での課題,今後の展開方向などを調査した。
産業観光等の実施企業向けアンケートでは,受入実績,受入に関する課題,観光等関連
施設との連携可能性など今後の対応方向などを調査した。
なお,本調査は広島県の特徴をより明確にするため,中国地方全体を対象に実施した。
(2)実施時期
2010 年 11 月下旬∼12 月上旬
(3)発送数および回収数等
図表 2-11
市町村
公的団体向け
商工会議所・商工会
観光協会等
発送数
回収数
回収率
発送数
回収数
回収率
発送数
回収数
回収率
広 島 県
23
12
52.2
46
17
37.0
27
12
44.4
鳥 取 県
19
4
21.1
22
14
63.6
6
2
33.3
島 根 県
21
7
33.3
29
17
58.6
12
5
41.7
岡 山 県
27
12
44.4
32
13
40.6
42
13
31.0
山 口 県
19
12
63.2
34
14
41.2
14
5
35.7
109
47
43.1
163
75
46.0
101
37
36.6
合
計
図表 2-12
産業観光等の実施企業向け
発送数
回収数
回収率
広 島 県
90
38
42.2
鳥 取 県
21
6
28.6
島 根 県
27
12
44.4
岡 山 県
50
20
40.0
山 口 県
29
12
41.4
不
明
−
16
−
合
計
217
104
47.9
−30−
(4)集計結果概要
①
公的団体向け
a.回答団体の属性
○
回答団体の構成は以下のとおりである。
図表 2-13 回答団体の構成
0%
20%
中国5県
29.6
(47)
広島県
29.3
(12)
他中国地方
29.7
(35)
40%
60%
80%
47.2
(75)
23.3
(37)
41.5
(17)
29.3
(12)
49.2
(58)
市町村
100%
商工会議所・商工会
21.2
(25)
観光協会等
(注)グラフ中の( )内は回答数。
(以下同様)
b.産業観光の取り組み状況
○
広島県では,約半数の 21 団体の地域において産業観光の取り組みがある。
図表 2-14
0%
20%
中国5県
51.3
(79)
広島県
51.2
(21)
他中国地方
51.3
(58)
取り組みがある
取り組みはない
その他
産業観光の取り組み状況
40%
60%
5.2
(8)
80%
37.0
(57)
4.9
(2)
36.6
(15)
5.3
(6)
37.2
(42)
100%
2.6
(4)
4.9
(2)
1.8
(2)
取り組みの計画がある
わからない
−31−
3.9
(6)
2.4
(1)
4.4
(5)
c.今後,産業観光での活用が期待される地域資源
○
広島県では,産業観光での活用が最も期待されているのは「見学可能な製造業の工
場等」である。また,「農業体験のできる農場」への期待も比較的高くなっている。
図表 2-15 今後,産業観光での活用が期待される地域資源(回答率)
0
20
見学可能な製造業の工場等
40
60
30.6
28.1
伝統工芸・伝統技術
(%)
68.8
22.4
農業体験のできる農場
80
46.9
51.0
12.5
15.3
産業遺構
21.9
16.3
18.8
漁業体験のできる漁場・船舶
産業関連の資料館・博物館
18.8
17.3
製造業に関連した体験施設
9.4
12.2
その他
40.8
広島県 (n=32)
他中国地方 (n=98)
d.公的団体の産業観光推進の考え方
○
広島県では,
「新たな観光の1分野として発展可能性を検討したい」が最も多くなっ
ており,他の中国地方4県と比較すると「観光施策の1つの柱として位置付けて推進
していく」は若干少なくなっている。
○
団体別にみると,広島県の市町で「観光施策の1つの柱として位置付けて推進して
いく」と回答したのは2自治体であった。
図表 2-16 公的団体の産業観光推進の考え方
0%
中国5県
広島県
他中国地方
20%
24.2
14.6
27.6
40%
60%
40.8
53.7
36.2
80%
100%
28.7
6.4
24.4
7.3
30.2
6.0
観光施策の1つの柱として位置付けて 推進して いく
新たな観光の1分野として発展可能性を検討したい
具体的な取り組みは考えていない
その他
−32−
[参考:団体別の産業観光推進の考え方の違い(中国5県)]
0%
市町村
20%
40%
24.2
商工会議
所・商工会
40.8
30.4
観光協会等
60%
80%
100%
28.7
6.4
41.3
20.3
23.9
37.8
4.3
8.1
33.8
観光施策の1つの柱として位置付けて 推進して いく
新たな観光の1分野として発展可能性を検討したい
具体的な取り組みは考えていない
その他
(※
広島県の市町で産業観光を観光振興の柱として考えているのは2市町)
e.公的団体の産業観光に対する支援・促進・PRなどの取り組み状況
○
広島県では,現在支援等を実施している団体が他中国地方4県と比較して若干少な
いものの,「現在実施しており,今後は拡大の予定」とする団体や,「現在実施してい
ないが,今後は実施する予定」という団体が多くなっている。今後の産業観光への取
り組み支援の拡大が期待される。
図表 2-17 公的団体の産業観光に対する支援・促進・PRなどの取り組み状況
0%
中国5県
広島県
他中国地方
20%
13.9
17.1
12.8
40%
29.1
0.6
22.0
31.6
60%
24.1
29.3
0.9
22.2
80%
100%
32.3
31.7
32.5
現在実施しており、今後は拡大の予定
現在実施しており、今後も現状を維持する予定
現在実施しているが、縮小・廃止の予定
現在は実施していないが、今後は実施する予定
現在も実施していないし、今後の実施予定もない
−33−
f.公的団体の具体的な支援策
(現在の支援策・効果のあった支援策・今後取り組みたい支援策)
○
産業観光への具体的な支援施策では,現在は「旅行会社・観光客からの照会への対
応」「受入施設を紹介するパンフレット等の作成」が多くなっている。
○
今後は,
「受入企業施設の調査・発掘」や「旅行会社・観光客からの照会への対応」,
「産業観光のモデルルートの作成」などを強化する意向が強くなっている。
図表 2-18 公的団体の具体的な支援策(広島県,回答率)
0
10
20
30
40
50
60
56.3
旅行会社・観光客からの照会への対応
57.1
受入企業施設の調査・発掘
63.6
37.5
18.2
産業観光ツアーを主催
71.4
37.5
27.3
23.8
産業観光のモデルルートの作 成
31.3
18.2
修学旅行など団体見込客の開拓
18.2
52.4
25.0
28.6
12.5
9.1
旅行会社・観光客と受入施設の交渉の代行(窓口)
0.0
周回バスの運行など地域インフラの整 備
0.0
0.0
28.6
6.3
4.8
23.8
0.0
その他
42.9
12.5
0.0
受入企業・施設先に対する資金助 成
セミナーの開催など産業観光への 理解の 促進
80
50.0
45.5
42.9
受入施設を紹介するパ ンフレット等 の作成
受入企業・施設への指導・相談対応
70
9.1
4.8
現在の支援策 (n=16)
19.0
効果のあった支援策 (n=11)
12.5
9.1
今後の支援策 (n=21)
[参考:中国5県(回答率)]
0
10
20
30
40
受入施設を紹介するパ ンフレット等 の作成
19.4
修学旅行など団体見込客の開拓
51.4
26.5
28.0
16.2
27.8
14.7
8.0
22.2
4.4
4.0
2.9
2.0
29.4
27.8
10.0
旅行会社・観光客と受入施設の交渉の代 行(窓口)
その他
61.8
16.2
8.0
受入企業・施設への指導・相談対応
(%)
63.2
63.9
24.0
産業観光ツアーを主催
70
33.8
22.0
産業観光のモデルルートの作 成
周回バスの運行など地域インフラの整 備
58.0
42.0
40.3
受入企業施設の調査・発掘
受入企業・施設先に対する資金助 成
60
37.5
旅行会社・観光客からの照会への対応
セミナーの開催など産業観光への 理解の 促進
50
22.2
現在の支援策 (n=68)
8.3
1.5
2.0
11.1
5.9
6.0
8.3
−34−
効果のあった支援策 (n=50)
今後の支援策 (n=72)
g.産業観光の支援を行う上での問題点
○
広島県では,産業観光の支援を行う上での問題点としては,
「人手が足りない,十分
な知識を持った人材がいない」や「予算が乏しい」という意見が多くなっている。
○
広島県では,
「受入施設に関する情報が少ない」や「受入施設等の協力が得られない」
が高くなっている。
図表 2-19 産業観光の支援を行う上での問題点(回答率)
0
20
40
60
(%)
人手が足りない、十分な知識を持った人材がいない
54.2
53.1
予算が乏しい
54.2
51.9
41.7
38.3
産業観光に対するニーズ や見込客の情報が少な い
29.2
他に優先順位の高い課題が多い
34.6
33.3
事務量の負担が大きい
27.2
29.2
28.4
情報発信がうまくできない
33.3
受入施設に関する情報が少な い
18.5
29.2
受入施設等の協力が得られない
7.4
4.2
他の関係団体などの協力が得られない
その他
旅行会社・公共交通機関等の協力が得られな い
7.4
0.0
8.6
0.0
4.9
−35−
広島県 (n=24)
他中国地方 (n=81)
h.現在連携している組織と今後連携したい組織
○
産業観光の取り組みで連携している組織としては「地元市町村」や「近隣の商工会
議所・商工会」が多く,5割を超えている。
○
今後連携したい組織としては,
「地域内および近隣の企業・施設」が最も多くなって
いる。
「旅行業者」,
「宿泊施設」,
「公共交通機関」等の観光関連事業者や「NPO・ま
ちづくり組織」については,現在は連携の実績は少ないものの,今後連携を強化した
いと考える団体が多くなっている。
図表 2-20 現在連携している組織と今後連携したい組織(広島県,回答率)
0
10
20
30
40
地元市町村
50
39.1
28.6
近隣市町村
70
80
57.1
39.1
19.0
21.7
県・国の出先機関
33.3
地域内および近隣の企業・施設
78.3
57.1
56.5
近隣の商工会議所・商工会
28.6
観光協会等
14.3
近隣の観光施設
34.8
4.8
公共交通機関
39.1
19.0
旅行業者
学校・その他教育機関
14.3
NPO・まちづくり組織
14.3
0.0
43.5
30.4
9.5
宿泊施設
その他
60
39.1
現在連携・協力
している機関
(n=21)
39.1
今後連携・協力
したい機関
(n=23)
26.1
4.8
−36−
90
(%)
i.受入企業・施設として解決が必要な問題点
○
広島県では,受入企業・施設として解決が必要な問題点としては,
「受入ソフト(ガ
イド・パンフレット等)が不十分」が最も多い。
図表 2-21 受入企業・施設として解決が必要な問題点(回答率)
0
20
40
60
(%)
57.1
受入ソフト(ガイド・パンフレット等)が不十分
41.1
40.0
42.9
受入条件(人数・日時)が限られる
34.3
34.8
企業には受入メリットが無い・低い
20.0
事務負担が重い
37.5
20.0
費用負担が重い
34.8
31.4
30.4
説明書きや見学通路等の見学設備が不十分
25.7
PR 不足で知名度が低い
30.4
17.1
機密情報の管理が難しい
広島県 (n=35)
4.5
17.1
その他
他中国地方 (n=112)
5.4
j.地域として解決が必要な問題点
○
地域として解決が必要な問題点としては,
「産業観光資源が乏しい」や「地域の産業
観光施設に精通したガイドが少ない・いない」が多くなっている。
図表 2-22 地域として解決が必要な問題点(回答率)
0
20
40
60
(%)
54.8
産業観光資源が乏しい
50.0
54.8
地域の産業観光施設に精通したガイドが少な い・い
ない
47.2
35.5
地域の受入企業・施設の情報・P Rが足りない
40.7
35.5
交通アクセスが整備されていない
33.3
32.3
連携できる観光資源が乏しい
30.6
16.1
統一的な"まちなみ"が整備されていない
24.1
広島県 (n=31)
その他
3.2
2.8
−37−
他中国地方 (n=108)
②
産業観光等の実施企業向け
a.回答企業の概要
○
回答企業の概要は以下のとおりである。
図表 2-23 回答企業の業種
0%
20%
中国5県 (n=86)
20.9
広島県 (n=37)
21.6
他中国地方 (n=49)
20.4
40%
15.1
60%
10.5 14.0
10.8 13.5
18.4
80%
8.2 6.1
24.4
15.1
24.3
21.6
8.1
20.4
100%
26.5
飲食料品製造業
基礎素材系製造業
機械系製造業
その他製造業
卸小売・サービス等
その他(博物館・資料館等)
図表 2-24 回答企業の従業員規模
0%
中国5県 (n=86)
広島県 (n=37)
他中国地方 (n=49)
20%
40%
50.0
60%
11.6
45.9
10.8
53.1
80%
15.1
21.6
12.2 10.2
100%
23.3
21.6
24.5
50人未満
50∼100人未満
100∼300人未満
300人以上
−38−
b.工場見学等の受入状況
○
工場見学の受入状況をみると,回答企業のほとんどで受入を行っている。
図表 2-25 工場見学等の受入状況
0%
20%
40%
中国5県 (n=88)
60%
80%
90.9
広島県 (n=38)
100%
9.1
97.4
他中国地方 (n=50)
2.6
86.0
14.0
受け入れている(部分的にでも)
一切受け入れていない
c.受入概要(実施の内容)
○
広島県では,
「製造過程の見学」が最も多い。また,他中国地方4県と比較して「商
品の展示・販売」や「商品の試食(飲)」が高くなっている。
図表 2-26 受入概要(実施の内容)
0
20
40
60
80
(%)
69.7
62.8
製造過程の見学
33.3
製造過程のビデオ上映
商品の展示・販売
商品の試食(飲)
敷地(緑地・庭園等)の開放
商品の製作体験
その他
34.9
18.6
44.2
42.4
27.3
24.2
18.6
12.1
20.9
36.4
32.6
−39−
広島県
(n=33)
他中国地方
(n=43)
d.受入概要(体験コーナー・施設)
○
広島県では,約3分の1で体験コーナー・施設がある。
図表 2-27 受入概要(体験コーナー・施設)
0%
20%
40%
60%
80%
中国5県 (n=77)
33.8
66.2
広島県 (n=35)
34.3
65.7
他中国地方 (n=42)
33.3
66.7
あり
100%
なし
e.受入概要(費用負担)
○
広島県では,受入時に費用負担を求めるのは約2割であり,約8割は無料で受入れ
ている。
図表 2-28 受入概要(費用負担)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
中国5県 (n=77)
77.9
22.1
広島県 (n=35)
77.1
22.9
他中国地方 (n=42)
78.6
21.4
無料
有料
−40−
f.受入体制
○
広島県では,他中国地方4県と比較して「専従者を配置して対応」している企業・
施設がやや多くなっている。
図表 2-29 受入体制
0%
中国5県 (n=77)
20%
40%
26.0
広島県 (n=35)
80%
100%
63.6
31.4
他中国地方 (n=42)
60%
10.4
54.3
21.4
14.3
71.4
7.1
専従者を配置して対応
関係部署の職員が兼務して対応
その他
g.受入数の推移
○
広島県では,3分の1で受入数が増加しているが,約2割の企業・施設では減少し
ている。
図表 2-30 受入数の推移
0%
20%
40%
60%
80%
100%
中国5県 (n=79)
32.9
46.8
20.3
広島県 (n=36)
33.3
47.2
19.4
他中国地方 (n=43)
32.6
46.5
20.9
増加している
横ばい状態である
減少している
−41−
h.受入の目的
○
広島県では,
「企業・製品イメージの向上」を7割近くが受入の目的として挙げてい
る。このほか「地域の観光活性化への貢献」や「地域ブランドの確立・向上」,「もの
づくり教育への貢献」,「地域産業全体の活性化」なども比較的多くなっている。
図表 2-31 受入の目的(回答率)
0
20
40
60
(%)
66.7
67.4
企業・製品イメージの向上
47.2
48.8
地域の観光活性化への貢献
38.9
41.9
ものづくり教育への貢献
地域ブランドの確立・向上
44.4
32.6
地域産業全体の活性化
34.9
業界イメージの向上
27.9
歴史・文化的資源の保存・保全
16.3
来訪者からの情報(消費者の生の声)の収集
16.3
41.7
36.1
30.6
25.0
16.7
16.3
新たな販路の獲得
技術の伝承
8.3
人材確保にむけたPR
8.3
9.3
その他
80
14.0
広島県 (n=36)
16.7
16.3
−42−
他中国地方 (n=43)
i.受入上の問題点
○
広島県では,
「土日祝日での対応が困難」を半数以上が受入上の問題点として指摘し
ている。
「大人数の受入対応ができない」,
「受入にかかる負担(事務・人手等)が大き
い」などと回答した企業も多い。
○
その他の項目では,
「コース等,案内に必要な設備がない」や「既存の観光ルート上
に位置していない」などの意見が他中国地方4県より多くなっている。
図表 2-32 受入上での問題点(回答率)
0
20
40
土日祝日での対応が困難
大人数の受入対応ができない
37.8
36.4
受入にかかる負担(事務・人手等)が大きい
9.1
受け入れ側が求めない観光客の来訪
コース等、案内に必要な設備がない
(設備等の関係上)安全性が確保できない
必要なコストに対するメリットが少ない
既存の観光ルート上に位置していない
見学ニーズが乏しい
見学を受け入れていることが知られていない
ニーズに合った見学メニューが作れない
技術の漏洩が懸念される
その他
60
48.6
48.5
80
(%)
57.6
45.9
21.6
21.2
8.1
12.1
13.5
6.1
16.2
15.2
8.1
9.1
5.4
6.1
5.4
3.0
5.4
3.0
5.4
2.7
広島県 (n=33)
24.2
他中国地方 (n=37)
[参考:広島県内企業のその他意見]
・工場の場所へのアクセスを案内するのが説明しにくい。
・一般観光者向けで無い業種,設備。
・大型バスの駐車場がない。
・秋や夏休みなど問合せが多く,希望時期が重なり,全ての受入れができない時がある。
・施設の老朽化。
・バリアフリーの対応ができていない。
など
−43−
j.現在連携している組織と今後連携したい組織
○
産業観光の連携先としては,現在は「地元市町村」,「学校・その他教育機関」,「近
隣の商工会議所・商工会」などが多い。今後連携したい組織としては,
「NPO・まち
づくり組織」や「県・国の出先機関」,「近隣の企業・施設」などが多くなっている。
図表 2-33 現在連携している組織と今後連携したい組織(広島県,回答率)
0
20
40
60
80
(%)
地元市町村
75.0
42.9
学校・その他教育機関
66.7
35.7
近隣の商工会議所・商工会
50.0
28.6
観光協会等
45.8
21.4
16.7
県・国の出先機関
42.9
29.2
旅行業者
近隣市町村
20.8
近隣の観光施設
20.8
近隣の企業・施設
20.8
現在連携・協力
している機関
(n=24)
35.7
28.6
今後連携・協力
したい機関
(n=14)
42.9
16.7
公共交通機関
35.7
28.6
20.8
NPO・まちづくり組織
12.5
宿泊施設
0.0
その他
57.1
21.4
7.1
[参考:現在連携している組織と今後連携したい組織(回答率・中国5県)]
0
20
40
地元市町村
35.7
学校・その他教育機関
35.7
近隣の商工会議所・商工会
52.7
50.9
29.1
27.3
旅行業者
46.4
35.7
25.5
近隣市町村
25.5
21.4
23.6
近隣の観光施設
近隣の企業・施設
公共交通機関
16.4
NPO・まちづくり組織
16.4
14.5
宿泊施設
(%)
60.0
21.4
県・国の出先機関
80
69.1
32.1
観光協会等
その他
60
50.0
現在連携・協力
している機関
(n=55)
42.9
25.0
53.6
25.0
1.8
3.6
−44−
今後連携・協力
したい機関
(n=28)
k.今後の受入の考え方
○
広島県では,約4分の1が「受入を増やす(新たに受入を始める)」としている。
図表 2-34 今後の受入の考え方
0%
20%
40%
60%
80%
100%
1.1
5.7
中国5県 (n=88)
23.9
1.1
68.2
2.6
広島県 (n=38)
他中国地方 (n=50)
26.3
2.6
2.6
65.8
22.0
70.0
8.0
受入を増やす(新たに受入を始める)
現状と同程度
従来通り受入は行わない
その他
わからない
※ 「受入を減らす」,
「受入をやめる」という企業はなし
l.今後,地域として産業観光振興を図っていくための課題
○
広島県では,
「地域一体となった受入企業・施設の情報のPR」や「他の観光資源等
との連携ルートの作成」を課題とする企業が多い。
○
他中国地方4県と比較すると,「産業観光資源の発掘」が多くなっている。
図表 2-35 今後,地域として産業観光振興を図っていくための課題(回答率)
0
10
20
30
40
60
(%)
52.9
地域一体となった受入企業・施設の情報のPR
46.7
50.0
他の観光資源等との連携ルートの作成
46.7
29.4
助成金や減税などの金銭的優遇
28.9
32.4
産業観光資源の発掘
20.0
20.6
交通アクセスの整備
28.9
14.7
地域全体の産業観光ガイドの育成
24.4
14.7
統一的な"まちなみ"の整備
その他
50
15.6
14.7
2.2
−45−
広島県 (n=34)
他中国地方 (n=45)
③
アンケート結果のまとめ
○
広島県では,公的団体の半分以上において産業観光に関する取り組みが行われてい
る。しかし,産業観光を観光振興策の柱とするのではなく,あくまでも,観光振興の
新たな1分野として取り組む団体が多くなっている。
○
広島県で最も活用が期待されている産業観光資源は見学可能な製造業の工場等であ
り,農業体験のできる農場なども期待されている。
○
企業・施設における対応状況をみると,無料での対応が多くなっている。なお,広
島県では専従職員を配置している事例が比較的多くなっている。
○
企業が工場見学等の産業観光に取り組む理由では,企業・製品イメージの向上や地
域貢献等の意識が多くなっており,観光ビジネスへの展開を見据えた取り組みにはな
っていない。
○
産業観光振興において今後連携が必要な組織としては,「NPO・まちづくり組織」
を挙げる企業・公的団体が多くなっており,産業観光振興は,まちづくりと関連付け
て取り組むことが重要と考えられていることがうかがえる。
○
広島県における産業観光振興への支援策としては,他中国地方4県と比較して,受
入企業・施設の調査・発掘を将来的に進めるべきという意見が多い。また,地域の産
業観光振興の課題でも受入施設に関する情報が少ないことや受入施設等の協力が得ら
れないという意見が比較的多くなっており,産業観光を取り組む上での情報収集を進
める必要性があることがうかがえる。
○
受入企業・施設からは,地域一体となった受入企業・施設の情報PRや他の観光資
源等との連携ルートの作成など,観光事業として効果を上げていくための対応の必要
性が指摘されている。
○
以上のように,広島県における産業観光の現時点での取り組みは,従来までの地域
貢献的な意味合いでの工場見学が中心であり,観光ビジネスとしての新規展開を意識
した取り組みとはなっていない。
○
「産業観光」という言葉が観光の一つのジャンルとして定着してきた近年の状況を
受け,産業観光への取り組みを具体化していくため,受入企業の情報収集や産業観光
の認知度の向上などの基礎的条件を整備していく初期の段階にあると考えられる。
−46−
3.広島県の産業観光のポテンシャルと取り組みにあたっての問題点
(1)広島県の産業観光のポテンシャル
①
全国屈指の多様な産業集積
広島県における産業集積の経緯をみると,明治期から戦前にかけて,軍需拠点となった
広島湾岸地域を中心に食品,衣服,造船,鉄鋼,機械などの多様な製造業の集積が進んだ。
戦後になると,県西部では自動車関連産業,県東部では大規模な高炉製鉄所やエレクトロ
ニクス関連工場の立地が進んだ。広島県の 2009 年の製造品出荷額等は 7 兆 9,178 億円で全
国 11 位,全国シェア 3.0%を占めている。業種別では,自動車や造船などの輸送用機械器
具製造業をはじめとして,鉄鋼業,生産用機械器具製造業,食料品製造業,情報通信機械
器具製造業,電子部品・デバイス・電子回路製造業などが集積している。
図表 2-36
順位
製造品出荷額等の全国上位都道府県(2009 年)
図表 2-37
金属製品製造業,
製造品出荷額等
都道府県名
2,807億円(4%)
広島県の製造品出荷額等の業種構成
(億円)
1
愛
知
県
344,313
2
静
岡
県
150,510
3
神奈川県
148,684
4
大
阪
府
148,062
5
兵
庫
県
134,230
6
千
葉
県
123,458
7
埼
玉
県
117,748
8
茨
城
県
97,794
9
三
重
県
93,746
10
東
京
都
80,236
11
広
島
県
79,178
化学工業,
3,242億円(4%)
その他,
1兆2,456億円
(16%)
はん用機械器具
製造業,
3,435億円( 4%)
広島県
製造品出荷額等
(2009 年)
7兆 9,178 億円
プラスチック 製品
製造業,
3,492億円( 4%)
電子部品・デバイ
ス・電子回路製
造業,
4,323億円( 5%)
情報通信機械器
具製造業,
4,877億円(6%)
資料:経済産業省「工業統計調査」
輸送用機械器具
製造業,
2兆1,139億円
(27%)
鉄鋼業,
1兆2,306億円
(16%)
食料品製造業,
5,373億円(7%)
生産用機械器具
製造業,
5,729億円
(7%)
資料:経済産業省「工業統計調査」
こうした主要産業を支える多様な関連産業や,全国・世界でもトップシェアを有する企
業やオンリーワンの技術を持つ企業(例えば,金庫,競技用ボール,ジャム類,精米機,
デニム,簡易食品トレー,ラジコンヘリコプター,金属サインなど)が県内各地に集積※
しており,地域の住民生活を支える重要な産業基盤として定着している。
また,県北部の中山間地域や沿岸部では農林水産業が古くから地域の生活と密接な関係
を保ちながら営まれており,近年では,
「道の駅」等と連携した農産物の直販や観光農園な
どが新たな観光資源として注目を集めている。
このように,広島県では,産業観光の基盤となる産業集積が形成され,現在でも新たな
産業の創造に向け,各地で産業振興が図られている。その産業集積を様々な角度から見直
し,活用していくことで,多様な観光ニーズを満たす産業観光が展開できる可能性が高い。
※ 広島県調べ:ナンバーワン企業 119 社,オンリーワン企業:194 社(重複 17 社を含む)
−47−
②
世界遺産等の高い知名度・集客力を有する観光地
広島県は,瀬戸内海と中国山地の豊かな自然に恵まれた環境にあり,冬はスキー・スノ
ーボード,夏は海水浴が楽しめるなど,四季それぞれに多様な観光,レジャーが可能であ
る。そして,世界遺産で知名度や集客力の高い厳島神社や原爆ドーム,世界的にも評価の
高い瀬戸内海の多島美などがあり,幅広い観光客を誘致できるだけのポテンシャルを有し
ている。
産業観光を先進的に取り組む地域をみると,従来型の観光を支える資源が乏しいとされ
ている地域が多く,産業観光でしか観光振興の活路を見いだせなかったという地域もあっ
た。こうした地域と比較すると,従来のような「見る」観光において十分な魅力を持つ観
光資源を有する広島県は,産業観光を従来型の
観光資源と組み合わせることにより,産業観光
目的で来訪した人にも,従来観光を目的として
来訪した人にも,広島県の持つ魅力を一緒に体
験してもらえるという相乗効果が期待できる。
また,平和公園や原爆ドームなどがあり,修
学旅行の目的地として選択されることの多い
広島市を中心に,産業観光を学習観光のメニュ
ー充実に活用していくことも期待できる。
③
瀬戸内海の多島美
地域食文化の蓄積
観光において「食」は非常に重要な要素である。
最近ではB−1グランプリをはじめとするB級グルメが観光のきっかけになったり,ミシ
ュランガイド東京・横浜・鎌倉や京都・大阪・神戸の掲載店をめぐるツアーが人気となる
など,「食」が観光のテーマとなることも多くなっている。
産業観光においても,地域特有の食文化に触れる,また,それに関連する製品の製造過
程を見学する,製造を体験するなどのコンテンツは人気が高く,集客力がある。
産業資源の見学,体験などのツアーを行っている地域で商品化されているコースをみる
と,その地域特有の食や地域の老舗店での食事をセットにし,産業観光の内容とともに顧
客満足度を高め,リピーターを確保している事例が見受けられる。
広島県では,お好み焼きやもみじ饅頭,かき,
瀬戸内の小魚,日本三大酒処の西条(東広島市)
の日本酒など,様々な味覚が楽しめる。
こうした地域の食文化の蓄積を産業観光の
中で一つのコンテンツとして活用したり,産業
観光ルートの中で地域を知ってもらい,楽しん
でもらう要素として付加することで,より満足
度の高い産業観光メニューの創出が可能にな
ると考えられる。
広島県の多様な食文化
−48−
(2)広島県の産業観光の展開における問題点
①
地元での認知度・注目度の低さ
広島県内においては,工場見学を中心に多くの企業が産業観光に取り組んでいる。また,
自治体・商工会議所等の公的団体においても半数以上で何らかの産業観光の取り組みが実
施されている。しかし,広島県への産業観光目的の来訪者は全観光客数の 2.7%に過ぎない
のが現状である。
公的団体などの支援も,産業観光に関する問い合わせに対応する程度で終わっており,
産業観光に特化したパンフレットやホームページ,産業観光ルート形成などより踏み込ん
だ情報発信や受入企業の支援には至っていない。
また,地域における産業観光の取り組みへの認知度も低く,観光資源として盛り上げて
いこうという気運が十分に醸成されているとはいえない。
②
観光ビジネスとしての魅力の乏しさ
広島県内で工場見学等を受入れている企業では,その約4分の3が無料で対応している。
これは,多くの企業が「企業・製品イメージの向上」,「地域の観光活性化への貢献」など
を受入の目的とし,自らが産業観光をビジネスチャンスとして認知することが少ないため
である。
広島県内では産業資源を目当てにした観光客の数が少ないため,地元の旅行代理店など
が産業観光をテーマとしたツアーやメニューを積極的に創出していこうという意欲もわき
にくい状況にある。さらに,一般の観光客に対し,新たな観光コンテンツとして産業観光
のメニューをオプションとして提供し,滞在時間の向上につなげるような動きも,受入体
制の問題もあり,十分にビジネス化されていないのが現状である。
このように現在の広島県では,産業観光の観光ビジネスとしての魅力が十分に理解され
ていないままとなっている。
③
公的団体や受入企業への過度の依存
全国的に注目を浴びている産業観光であるが,その推進に当たって自治体や商工会議所
等の資金面や人材面での支援,受入企業側の全面的な協力に多くを依存しているのが現状
である。
このため,広島県において産業観光を振興し,その成果を地域経済の活性化に結び付け
ていくには,ビジネスとしての魅力を高め,民間主導による継続的な取り組みを促すよう
な条件整備が求められる。また,推進体制の面ではより多くの主体が連携し,一部主体に
過度に依存しないネットワーク型の取り組みに転換していく必要がある。特に,企業の期
待が高いNPOやまちづくり組織,周辺の他企業・施設との連携により,地域が一体とな
って観光事業として発展させていくことが求められる。また,産業観光は観光ビジネスで
あることを再確認し,一般市民を含めた関係主体が「おもてなし」の心をもった対応をし
ていくことも必要である。
−49−
④
広域的な取り組みの遅れ
先進地の事例をみると,産業観光のメニューは日帰りツアーが中心であるため,よりビ
ジネスとしての魅力を高めていくためには既存の行政の枠を越えた広域的な滞在型ツアー
の提案が課題となっている。
広島県内では,呉市,熊野町および東広島市が「山陽アルチザン(職人)街道」と銘打
って,地元の産業資源を巡るツアーを企画して好評を得ているが,このような広域的な連
携による取り組みは一部にとどまっているのが現状である。
このため,県内を訪れる観光客を対象に,銀山街道(島根県石見∼広島県三次・上下∼
広島県尾道)や朝鮮通信使の寄港地(広島県下蒲刈∼広島県鞆の浦∼岡山県牛窓)など,
“歴
史と町並み”といったテーマ性のある周遊ルートを提案していくことで,広域的な産業観
光を地域に定着させていくことも必要である。
−50−
第3章
「産業観光」の振興による広島県経済の活性化方策
1.
「産業観光」振興のキーコンセプト
この 10 年の間に全国各地では,歴史的な産業遺跡,工場の生産現場などを新たな観光資
源として再認識し,それらをブランド化して地域経済の活性化につなげようとする「産業
観光」の気運が高まっている。
その背景としては,少子・高齢化や経済のグローバル化が進展するなかで,第1次産業
や伝統的な地場産業の多くが停滞し,これまでの企業誘致による産業振興の手法も壁に突
き当たっていることが挙げられる。また,国内の観光産業そのものが,多様化,個性化す
るニーズに応えられないため集客力や経済効果を低下させていることも影響している。
観光産業を振興するためには,そこに暮らす人々が抱く「己が町」への愛着や誇りなど
をいかに高めていくかが極めて重要である。この点で“地域の埋もれた宝”に光を当てる
産業観光は,地域の良さを再認識するための絶好の機会を提供することになる。産業観光
のメニューは,大都市の旅行会社(発地)が企画するものとは異なり,地場産業と大規模
製造業,生産現場と地元グルメなど,地域資源を活かした現地(着地)からの提案が中心
となる。観光の形態も従来の物見遊山型に加えて学習・体験型などの提案も容易である。
さらに,今後,広島県内では中国横断自動車道など高速交通網の整備が進展するため,
アジア等からのインバウンドへの対応を視野に入れた観光ビジネスの可能性も期待されて
いる。
このため,今後,広島県経済の活性化を担う新たな地域産業として,産業観光を以下の
ように位置付けた。
【キーコンセプト】
ものづくりに育まれた新たな地域産業の創出
―
産業観光
―
広島の「ものづくり力」の再発見が,新たなビジネスチャンスに!
以下では,今後,産業観光を有望なビジネスとして,継続的な振興を図っていくための
具体的な方策について三つの切り口から提案する。
−51−
2.広島県における「産業観光」の振興に向けた方策
(1)地域ぐるみで育む『産業観光』推進のための体制確立
広島県は,自動車,鉄鋼,造船業などの基幹製造業のほか,清酒,家具,筆,味噌,観
光農園等の地場産業,多種多様な産業資源に恵まれている。今回のアンケート調査でも,
県内の多くの自治体・商工関連団体が産業観光を「観光施策の柱や有望な分野」,受入側の
企業でも「地域の観光活性化への貢献」と位置付けている。現在は広島市,呉市,府中市,
東広島市など一部地域では産業観光の取り組みがみられるが,総じて観光ビジネスとして
の認知度が低く,広域的な取り組みも限定的である。また,自治体や商工関連団体での支
援事業は「旅行会社・観光客からの照会対応」や「受入企業や施設の発掘」が中心であり,
「予算不足」や「人手・人材不足」の解消などが課題となっている。
こうした中で,産業観光の振興の第一歩として県全体での気運醸成や企業側の理解と協
力を得るため,「地域ぐるみで『産業観光』を育む」ための推進体制の確立が必要である。
(具体策)
① 「広島県産業観光推進研究会(仮称)」の設置
・メンバー:県内の自治体・商工関連団体(支援母体),受入企業・施設,旅行代理店(事
業主体),NPOなど
・活動内容:県内の気運醸成,関係者の情報交換・情報共有
② 支援母体(自治体,商工関連団体等)の機能強化
・企業との交渉・調整や情報発信のための資金や人材の確保
・産業資源の関連性や周遊ルートなどに対応した広域的な取り組み
③ 県の観光施策としての推進体制強化
・
「産業観光」の重点観光施策としての位置付け,自治体,商工関連団体等への支援強化
《先進事例》
○
地域一体となった産業観光の気運醸成(中部地域)
・中部地域は産業観光の全国的な先進地であるが,その発端は域内の産業観光施設の協力体
制を強化するため,1996 年に名古屋商工会議所等が設置した「産業観光推進懇談会」。
・その後,産業観光サミットの開催(2001 年),愛知万博の開催(2005 年)などの地道なP
R活動によって産業観光が認知・定着。
○
産業観光の支援母体の取り組み(宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会)
・宇部地域の産業観光の支援母体は,2007 年1月に発足した「宇部市産業観光推進協議会」
であったが,5月には石炭やセメント産業で関連が強い周辺2市が参画して「宇部・美祢・
・産業資源の組み合わせ県内外への産業観光の取組等の情報発信(HP,パンフレット
山陽小野田産業観光推進協議会」を発足。
・事業運営は3市の負担金とツアー収入(年間約5百万円)で賄われている。山口県は推進
協議会の発足にあたって,PR活動,ツアーガイドの確保の資金援助や受入企業との調整
など積極的なサポートを実施。
−52−
(2)民間主導による『産業観光』ビジネスのための基盤構築
現在,全国各地で地域活性化の起爆剤として産業観光への期待が高まっているが,事業
性という面では浜松,川崎,宇部などの先進地でさえ,受入側の企業等の全面的な協力,
自治体や商工会議所等の補助金や人的支援によって支えられているのが現状である。この
ため,産業観光の取り組みを県経済の振興に結び付けていくには,民間主導による持続的
な事業展開へと成長させ,産業観光をビジネスとして展開できる基盤が不可欠である。
それらの構築には,民間事業者の活発な参入と創意工夫を喚起するため,
「ブランド化」,
「人材の確保・育成」および「事業収益の確保」の三つの要素が必要である。
(具体策)
① 県内産業観光のブランド化のための全国に向けた情報発信
・県内の産業観光資源やモデルコースを掲載したパンフレット,ホームページ等の整備
・全国産業観光推進協議会(事務局:日本観光協会)とタイアップした産業観光に関す
るシンポジウムやワークショップ等の開催
② 人材確保・育成のための「広島県産業観光人材育成制度(仮称)
」の創設
・県内の企業OB,農業経営者,郷土史家などから,産業観光に関心ある人材をデータ
ベース化し,訪問先や観光ルートに応じたガイド役を確保・育成
・地元の大学や専門学校等と連携した観光マネジメント人材の確保・育成
③ 事業収支の確保のための「産業観光資金プール制度(仮称)」の創設
・産業観光のツアー収入の一部をプールし,その資金を活用して共通のPR事業や受入
企業の経費軽減などに活用
《先進事例》
○
産業観光の積極的な情報発信による集客(浜松観光コンベンションビューロー)
《先進事例》
・浜松は繊維,楽器,自動車を中心とする世界的な企業の集積があるため,約 100 社の受入
施設を紹介した日本語のほか中国語,韓国語の産業観光ガイドブックやホームページを作
成。アジアを中心としたインバウンド(訪日外国人)の集客も視野。
・浜松での産業観光の本格的な着手は 2001 年からであるが,こうした情報発信が功を奏し,
現在では年間約 120 万人を集客。
○
「産業観光検定」を活用した人材育成(川崎産業観光振興協議会)
・川崎では,ホームページや旅行業者・学校関係者向けパンフレット,工場夜景のポスター・
カレンダーなど多様なプロモーションツールを活用して情報発信。マスコミによる取材も
多く,川崎市のイメージアップにも貢献。
・産業資源の組み合わせ県内外への産業観光の取組等の情報発信(HP,パンフレット
・2007 年に開始した「川崎産業観光検定」は,地域住民の産業観光に対する意識向上に寄
与。検定合格者を対象とした「川崎産業観光ガイド養成講座」,セミナー,懇親会などを
開催し,産業観光人材を育成。
−53−
(3)広島県の魅力を満載した『産業観光』メニューの創出
わが国の観光ビジネスでは,これまで大都市の旅行会社が大量の商品を企画する「発地
型」が主流であったが,近年では観光ニーズの多様化などを背景に各地域が商品を生み出
す「着地型」が注目されている。
“地域自らが埋もれた宝を掘り起こし,磨きをかけて世に
問う”という産業観光は着地型メニュー創出に大きな可能性を秘めている。
その一方で,現在のところ産業観光の多くは工場見学をメインとする日帰りコースが中
心である。今後,ビジネスとしてより魅力あるものにするためには,他の観光資源との組
み合わせによって,顧客の滞在時間をいかに長くするかが課題となっている。
広島県内には厳島神社,原爆ドームの二つの世界遺産をはじめ,竹原市,府中市の歴史
的町並み,お好み焼き・かき等のグルメなどの多くの観光資源を有しているため,これら
と融合した観光メニューの提案が重要である。
さらに,今後,アジア等からのインバウンドを県内に取り込むためにも,今後整備が進
む高速交通体系を活かした広域的メニューの創出が求められる。
(具体策)
① 地域産業の発祥や発展経緯などに根ざした「着地型観光メニュー」の提案
・ストーリー性あるメニュー(旧呉海軍工廠の技術基盤を受継ぐ造船,鉄鋼,自動車など)
② 文化財,町並み,グルメ,伝統技術など「他の資源と融合した観光メニュー」の提案
・滞在時間の長いメニュー(地域資源を組み合わせた,見る,食する,体験・学習の融合型)
③ 県内外の行政の枠を越えた「広域的な観光メニュー」の提案
・ 整備の進む高速交通網を活かしたメニュー(四国,山陰地域等と連携したメニュー開発)
《先進事例》
○
広域連携による着地型観光メニューの提案
(岡山県)
・倉敷市では,児島地区での「ジーンズバスの週末運行」,玉島・水島地区の「水島工場ナ
イトクルーズ」など個別にメニュー化が行われていたが,2010 年に倉敷市と地元商工会
議所等によって「産業観光ツアー連携委員会」が設立され,広域的な取り組みが進展。
・高梁川流域の9つの市町の広域観光の推進母体である「備中地域広域観光振興協議会」は,
着地型の産業観光のメニューや商品開発のため「(社)水辺のユニオン」を設立した。同団
体では 2010 年度に両備バス等と共同で「岡山・備中『鉄の径』ツアー」や「備中杜氏の
郷ツアー」など積極的な観光メニューの提案を実施。
(宇部・美祢・山陽小野田産業観光推進協議会)
・宇部周辺地域は,石炭,粘土,石灰石,大理石などの豊富な地域資源を活かし,企業の生
産活動や地域貢献をストーリー仕立てで紹介する 18 のコースを旅行会社と共同提案。
・一番人気は「第1章セメントの道」で石灰石の採掘現場や宇部興産専用道路が目玉で,移
動のバスには企業のOB等が「エスコーター」として同乗。
・ツアーの参加者は年間約 1,300 人。18 のコースの内で黒字は7コースにとどまっている
ため,地元宿泊施設への宿泊プランや,長門市の湯本温泉など周辺の温泉地と結んだ宿泊
型のメニュー提案が今後の課題。
−54−
おわりに
臨海部のコンビナートの工場群を巡る夜間ツアーが“光り輝く躍動感あふれる姿は見る
者に元気を与えるもの”として人気メニューになっていることからうかがえるように,全
国各地で「産業観光」は大きな注目を集めています。
“ものづくりの拠点”として多くの産業資源が集積している広島県は,二つの世界遺産
によって観光地としての高い知名度にも恵まれていることから,
「産業観光」は大きなポテ
ンシャルをもっていると考えます。
中部地域など先進地域でさえも,認知度不足や収益性の低さなどから自治体や商工会議
所等の公的団体が運営主体となるケースが多く見受けられますが,
「産業観光」がさらに魅
力あるビジネスとなり地域経済の活性化を担っていくには,民間主導による継続的な事業
展開ための条件整備が必要です。
このため,本委員会では,産業観光の専門家や実践者を講師とする勉強会の開催のほか,
浜松市,名古屋市,川崎市,宇部市,倉敷市など全国の先進地における取り組み,広島県
における産業観光のポテンシャルや現状の問題点・課題などについて調査・分析を行い,
三つの観点から広島県における今後の「産業観光」の振興方策を取りまとめました。
本報告書が,広島県において「産業観光」に取り組まれている関係者の皆さまのご参考
となり,ひいては県経済の活性化の一助になることを期待いたします。
−55−
地域経済委員会
(委員長)
渡
部 伸
夫
中国電力㈱
執行役員
(副委員長)
石
井 幸
治
広島ガスメイト㈱
代表取締役 社長執行役員
杉
木 孝
行
西日本旅客鉄道㈱広島支社 執行役員広島支社長
友
則 和
寿
㈱エディオンWEST 代表取締役社長
山
西 泰
明
㈱イズミ
横
田
洋
㈱電通西日本広島支社 常務取締役支社長
小
野
恵
㈱マネジメント・ブレインズ 代表取締役
(三原)
中
島 秀
晴
三和鉄構建設㈱ 代表取締役
(尾道)
渡
辺 泰
朗
㈱広島銀行福山営業本部 執行役員福山営業本部長
(福山)
代表取締役社長
(運営委員)
渥
美 宏
治
三菱UFJ信託銀行㈱広島支店
支店長
齋
宮 正
憲
(社)中国地方総合研究センター
常務理事
遠
藤
毅
㈱ポッカコーポレーション中四国支店 支店長
大
方 了
介
㈱大方工業所 代表取締役会長
大
本 誠
史
㈱三井住友銀行広島法人営業部
沖
田 俊
治
中電技術コンサルタント㈱ 取締役社長
上
総 英
司
広島ガス㈱
勝
矢
博
㈱カツヤ
鎌
倉 秀
章
中国経済連合会 専務理事
岸
房 康
行
広島県農業協同組合中央会 専務理事
近
藤 泰
正
㈱竹中工務店広島支店 支店長
佐
上 芳
春
佐上公認会計士事務所 所長
杉
本 淳
二
あいおいニッセイ同和損害保険㈱中国本部
妹
尾 幸太郎
広島県信用保証協会
寒
川 起
佳
㈱紀陽 代表取締役社長
曽
川 祐
治
広島信用金庫 常勤理事
田
尾
勝
㈱原色美術印刷社
髙
橋
徹
(財)ひろぎん経済研究所 理事長
竹
内 徳
將
キリン木材㈱ 代表取締役社長
德
田 邦
明
㈱フジ 取締役執行役員広島運営事業部長
徳
永
徹
㈱山口銀行広島本部
冨
山 次
朗
㈱冨山学園
広島法人営業部長
取締役常務執行役員
代表取締役社長
会長
代表取締役会長
取締役本部長
専務取締役
執行役員本部長
中
尾 建
三
㈱中尾鉄工所 代表取締役
中
間 信
一
中間公認会計士事務所 所長
中
村 一
孝
㈱KN情報経営研究所 取締役社長
中
村 登美男
戸田建設㈱広島支店
支店長
野
村 明
司
㈱新生銀行広島支店
支店長
林
正
史
㈱山崎本社
原
雅
弘
住友信託銀行㈱広島支店 支店長
藤
田 泰
三
三井住友海上火災保険㈱ 執行役員中国本部長
前
泰
弘
㈱広交本社
丸
山 孝
志
サッポロビール㈱中四国本部 本部長
光
本 和
臣
(公財)ひろしま産業振興機構 副理事長
望
月 成
二
ヱビス電工㈱ 代表取締役社長
森
浩
敏
中国企業㈱
山
本 忠
義
㈱ワイテック 代表取締役社長
米
谷 達
哉
日本銀行広島支店
宇都宮 嗣
記
㈱三和ストアー 代表取締役社長
( 呉 )
坪
島
薫
長岡鉄工建設㈱ 代表取締役
(備北)
蔵
田 和
雄
今谷印刷㈱
(広島中央)
※ 調査・分析
代表取締役会長
代表取締役社長
取締役社長
支店長
代表取締役社長
中国電力(株)エネルギア総合研究所,(社)中国地方総合研究センター
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