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エネルギア総研レビュー(vol.26) 中国地域の産業史に関する調査・研究
研究テーマ紹介 中国地域の産業史に関する調査・研究 エネルギア総合研究所 経済・産業調査担当 黒瀬 誠,児島 加奈 1 まえがき 中国地域の産業構造は,全国に比べ製造業のウエイ トが高く,卸売・小売業やサービス業のウエイトが低 いという特徴がある。特に,大規模製鉄所や石油化学 コンビナート,自動車工場などが立地する山陽3県は, 全国有数の工業地域を形成し,この傾向が顕著である。 こうした地域特有の産業構造が出来上がった背景に は,古くからある地場産業の形成のみならず,国家的 な産業政策や地域の産業振興策など様々な要素が絡ん でいると考えられる。 そこで当研究所では,現在の産業構造が形成された 経緯を把握するとともに,それを踏まえた今後の産業 発展の方向性を見通すことを目的に,中国地域各県に おける産業史に関する調査・研究を行っている。具体 的には,地域の貴重な歴史資料(郷土史,社史,古い 統計資料,写真資料等)を収集し,明治期以降を中心 に産業形成のきっかけや主要産業・企業の盛衰などを 歴史的観点から調査・分析している。 2 概要(広島県における産業発展の歴史) 以下では,最初に調査を実施した広島県の調査結果 について,2010年12月に刊行した報告書( 「広島県を 中心とした産業発展の歴史」 )で用いた時代区分(明 治時代∼大正時代,大正末期∼昭和初期,昭和時代, 昭和後期・平成時代)に従い,製造業を中心にその概 要を紹介する。 (1)明治時代~大正時代 明治時代以前の産業は,農林水産業中心であったが, 拠点の設置であり,広島市での機械工業の集積や,呉 市での造船,機械,鉄鋼の発達が促された。 1919年までに立地した主な工場 【広島市】 大和重工, 熊平製作所, 南条装備工業, 石﨑本店 【三 原市】 トスコ三原工場 【尾道市】 日立造船因島工場 【福山市】 カイハラ, タカヤ商事, 常石造船【府中市】北川鉄工所【大竹 市】中国塗料【東広島市】 サタケ 【廿日市市】 チチヤス (注)原則として2005年時点で存続している従業者数100人以 上の工場。社名は現在のもの(以下,同様) 。 (2)大正末期~昭和初期(第二次世界大戦前) 大規模工場の出現や重工業化などいわゆる産業の近 代化が進み,現在の産業構造の基礎が形成された時期 である。全国的に機械工業化が進展する中で,1920 年代から30年代にかけて広島市を中心に加工組立型 業種の工場が多数立地した。その中には,マツダ,新 川電機,コベルコ建機など現在も操業を続けている工 場が多く含まれる。 また,戦時体制の強化に伴う軍需拡大も産業の近代 化に大きな影響を与えた。例えば三菱重工業は,軍の 要請もあって広島市沿岸部に造船工場や機械工場を立 地した。東洋コルク工業(のち東洋工業,現:マツダ) も機械工業に進出し,日本製鋼所の下請けとして軍需 製品の生産を手掛けるようになった。日本パーカーラ イジング広島工場,三菱電機福山製作所,リョービな ども,軍需化に対応して立地した工場である。 日中戦争勃発後は,本格的な戦時経済統制が始まり, 県の産業全体の軍需化が一層進展したが,大規模空襲 や原爆投下により大きな打撃を受けた(図表) 。 1920~1945年に立地した主な工場 中国山地のたたら製鉄,沿岸部の製塩業,内陸部の養 蚕業といった地場産業の発達もみられた。これらの多 【広島市】 日本製鋼所広島製作所, マツダ, 新川電機, コベルコ くは家内工業で手工業であった。 明治時代に入ってからは,全国的に軽工業を中心に 工場による大量生産が発展していった。広島県におい ては,広島市および福山市周辺部の綿糸紡績業や養蚕・ カーライジング広島工場, 三菱重工業広島製作所 【呉市】 デ 製糸業などの繊維産業が,初期段階の工業化における リード役となった。 明治時代後半から大正時代にかけては,繊維産業中 心の産業構造から重工業への転換が徐々に進んだ。そ のきっかけとなったのが,広島市,呉市などへの軍事 Page 10 建機広島本社, ヒロテック, 西川ゴム工業, シンコー, 日本パー ィスコ広島事業所, 寿工業広製作所 【竹原市】 アヲハタ, 三井 金属鉱業竹原製煉所 【三原市】 帝人三原事業所, 三菱重工業 三原製作所 【尾道市】 日立造船向島工場, 内海造船 【福山市】 サンエス, ホーコス, 三菱電機福山製作所 【府中市】 ニチマン, リョービ 【大竹市】三菱レイヨン大竹事業所【廿日市市】 ウ ッドワン 【府中町】 マツダ本社工場【海田町】 ヨシワ工業 エネルギア総研レビュー No.26 中国地域の産業史に関する調査・研究 図表 広島県における戦前・戦後の工場数(工場, %) 計 食料品 繊維 化学 窯業 金属 機械機器 1940年 3,266 614 582 241 1946年 1,882 253 187 167 46/40年対比 57.6 41.2 32.1 69.3 ※42年 106 83 78.3 ※39年 275 623 198 429 72.0 68.9 (資料)通商産業大臣官房調査統計部「工業統計50年史」 (3)昭和時代(戦後復興~高度成長期) 戦後の産業復興は,軍事関連施設の民需転換や,財 閥解体を目的とした過度経済力集中排除法の適用によ る企業再編が行われる中で,残った工場施設の活用を 中心に進んでいった。 例えば東洋工業(現:マツダ)は,自動三輪車など の製造を開始し,周辺に自動車部品関連の企業・工場 が多数立地した。呉海軍工廠跡にも,日亜製鋼(現: 日新製鋼呉製鉄所) , 東洋パルプ(現:王子製紙呉工場) , 日立製作所(現:バブコック日立呉事業所)などが進 出した。朝鮮戦争による特需や広島県による生産県構 想の推進も,工場の増設や新設につながった。 1950年代半ばからは高度経済成長期に入り,重化 学工業化を中心に本格的な産業発展を遂げていく。中 でも,福山市における日本鋼管(現:JFEスチール) の大規模製鉄所の立地と,大竹市への石油化学コンビ ナートの形成は,重化学工業化に大きく寄与した。ま た,自動車産業や造船業などの生産も拡大している。 1946~1969年に立地した主な工場 【広島市】 カワダ, 双葉工業, 福留ハム, 三島食品, 広島アルミニ ウム工業, トーヨーエイテック, 広島精密工業, モルテン, あじ かん, マツダ宇品工場 【呉市】 中国化薬, アイ・エイチ・アイ マ リンユナイテッド呉工場, 日新製鋼呉製鉄所, 王子製紙呉工 場, 淀川製鋼所呉工場, ダイクレ, バブコック日立呉事業所, ミ ツトヨ広島事業所【三原市】幸陽船渠【尾道市】三和ドック, プレス工業尾道工場【福山市】 ウラベ, マナック, コーコス信 岡, 日本ホイスト, キングパーツ, JFEスチール西日本製鉄所 福山地区, エフピコ福山工場, 石井表記 【府中市】 ヤスハラケ ミカル, ヒロボー, 北川精機 【三次市】 ミヨシ電子広島事業所, サンエー 【大竹市】 日本大昭和板紙大竹工場, 三井化学岩国 大竹工場, ダイセル化学工業大竹工場 【廿日市市】 フマキラ ー広島工場, ジェイ・エム・エス大野工場【東広島市】 シャー プ広島工場, 広島伊丹電機 【安芸高田市】 湧永製薬広島事業 所【府中町】デルタ工業【海田町】キーレックス, ワイテッ ク, ユーシン広島生産本部, 東洋シート本社工場 【熊野町】 荻 野工業【大崎上島町】東邦亜鉛契島製錬所 エネルギア総研レビュー No.26 (4)昭和後期・平成時代(低成長時代) 重化学工業化を中心とした工業化はオイルショック によって終息し,それ以降,中心産業はエレクトロニ クスや情報通信産業へと移行していった。 広島県は全国に比べ電気機械の集積が遅れていたも のの,1980年代以降になって電気機械の工場立地が 進んだ。特にシャープ福山工場の立地,東広島市への 日本電気の進出(現:エルピーダメモリ広島工場)は 産業構造の転換に大きな役割を果たした。また,高速 道路など交通網の整備により,内陸部において電気機 械などの工場立地も進んだ。近年は,工場の立地件数 自体は低迷しているものの,2004年に立地したシャー プ三原工場のようにエレクトロニクス分野の先端工場 が立地するなど,広島県産業の多様化が進んでいる。 1970年以降に立地した主な工場 【広島市】マツダE&T【三原市】 シャープ三原工場, DNP プレシジョンデバイス 【尾道市】 アイメックス, 日東電工尾 道事業所【福山市】 キャステム, シャープ福山工場, ローツェ 【三次市】 ジェイ・エム・エス三次工場, マツダ三次事業所, 広 島オプト 【庄原市】 サンエーマイクロセミコンダクタ, NSウ エスト 【大竹市】 戸田工業大竹事業所 【東広島市】 神戸製鋼 所西条工場, スタンレー電気広島工場, ベバストジャパン, エ ルピーダメモリ広島工場【北広島町】オオアサ電子 (5)まとめ 広島県の製造業は,繊維産業を中心とした軽工業の 時代から重化学工業の発達を経て,現在はエレクトロ ニクスなど先端産業の集積が進んでいる。また,輸送 機械,一般機械のウエイトが高いという産業構造上の 特徴は,戦前からの産業集積によるものといえる。 機械工業分野での技術蓄積に加え,鉄鋼など素材産 業が集積していることは,県内産業における技術の高 度化,高機能素材や先端技術を用いた製品の高付加価 値化等を進める際の大きな力になると考えられる。 3 あとがき 今回は,広島県の調査結果について紹介したが,他 の4県についても同様の調査を実施している。調査結 果については, 「エネルギア地域経済レポート」で紹 介するほか(広島県,岡山県は掲載済みで,現在は山 口県を掲載中) ,それらをまとめた県別の報告書も随 時刊行する予定である(広島県のみ刊行済み) 。これ ら資料を,各種産業研究,学校教材としてご活用いた だければ幸いである。 Page 11