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深在性真菌症の診断と 治療のフローチャート

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深在性真菌症の診断と 治療のフローチャート
第 1章
深在性真菌症の診断と
治療のフローチャート
◉推奨度とエビデンスレベルの設定基準について
章内に色文字で記載されているアルファベットと数字の組み合わせは、
下記の基準に基づき設定された推奨度とエビデンスレベルを示した。
推奨度
A
強く推奨
エビデンスレベル
Ⅰ
少なくとも一つ以上の無作為化臨床比較試
験がある
無作為化臨床比較試験はないが、信頼性のあ
B
一般的な推奨
Ⅱ
る比較試験や、非対照多施設前向き臨床試験
がある
C
主治医の任意
Ⅲ
症例報告や専門家の意見
詳しくは、前付 v 頁を参照
◉第一選択薬、第二選択薬の記載について
第一選択薬には、文字通り初期治療に推奨される薬剤を記載した。第二
選択薬には、患者の基礎疾患などにより第一選択薬以外の推奨される治療
(alternative treatment)という意味と、あるいは第一選択薬が無効だった
場合のサルベージ治療(salvage treatment)、のいずれかの意味で推奨さ
れる薬剤を記載した。
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
A
血液疾患領域フローチャート
➡解説 62 ∼ 76 頁
カンジダ症(❶カンジダ血症、❷ 慢性播種性カンジダ症)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・遷延する好中球減少(好中球< 500/mm が
10 日以上)
・同種造血幹細胞移植
・90 日以内に細胞性免疫抑制薬(シクロスポリ
ン、プリンアナログなど)の投与歴
・3 週間以上のステロイド(プレドニゾロン換算
0.3 mg/kg/日以上)の投与歴
・中心静脈カテーテル留置(❶)
・FLCZ 100∼400 mg/日 1 日 1 回経口投与[AⅠ]
・ITCZ 内用液またはカプセル剤 200 mg/日 1 日 1 回経口投
与[AⅠ]
*2
・MCFG 50 mg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅠ]
*1 欧米では造血幹細胞移植例における予防投与が認められており、
400 mg /日を推奨
*2 わが国では、造血幹細胞移植例における予防投与の保険適用が認
められている
経験的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状:
・3∼4 日以上持続する広域抗菌薬不応性の発
熱、皮疹(❶)
・好中球回復期に出現する右季肋部痛(❷)
一般検査所見:
❷)
、Al-P ↑(❷)
CRP ↑(❶ 、
真菌症疑い例
真菌症
疑い例
確定診断法:
、肝穿刺液培養
真菌学的検査:血液培養(❶)
(❷)
病理組織学的診断:肝組織生検(❷)
(予防投与と異なる薬剤を選択)
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅡ]
・(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading
、
(ア
dose:400∼800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日間)
#
ゾール系薬予防例、好中球減少時で重症例を除く)[AⅠ]
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
◆
kg/回)1 日 2 回点滴静注 [AⅠ重症例に]
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅠ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose: §
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[AⅠ]
・AMPH-B 0.5∼0.7 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅡ]
・真菌感染症が疑われる発熱性好中球減少症(FN)への保険適用は、
L-AMB と ITCZ 注射薬のみが認められている
#F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
◆ 状態が安定していれば VRCZ では 1 週間の点滴静注治療後を目処に経
口薬への変更を考慮
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
C.どのような検査を実施するか
補助診断法:
眼底検査:眼内炎(❶)
画像診断:腹部 CT、MRI、エコーにおける肝脾
膿瘍(小型、末梢性、Bull ’
s eye
(❷)
sign)
血清診断:β-D-グルカン
遺伝子診断:カンジダ DNA
(造血幹細胞移植例およびハイリスク化学療法例)
*1
3
*
標的治療
臨床診断例
確定診断例
第一選択薬
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅠ]
・
(Fos)
FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
(アゾール系薬予防
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日間)
例、C. glabrata、C. krusei 分離例、好中球減少時で重症
#
例を除く)[AⅠ]
・AMPH-B 0.7∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注(C. lu[AⅠ]
sitaniae 分離例を除く)
第二選択薬
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅠ]
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
◆
kg/回) 1 日 2 回点滴静注 [BⅠ]
・ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
§
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[BⅢ]
*カンジダ血症例では臨床的に可能ならば中心静脈カテーテルを
抜去する[BⅡ]
*治療期間 ❶血液培養が陰性化し、症状・徴候消失後 2 週間[AⅢ]
❷病変の消失または固定化
*好中球減少下の酵母様真菌分離時でトリコスポロンの除外がで
きない際は菌種判明までは VRCZ を考慮[CⅢ]
#F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
◆ 状態が安定していれば VRCZ では 1 週間の点滴静注治療後を目処に経
口薬への変更を考慮
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
2
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
A 血液疾患領域
カンジダ症
カンジダ血症と慢性播種性カンジダ症(肝脾膿瘍)が
③ アスペルギルスの分離やアスペルギルス症の既往が
ないこと
代表的である。血液疾患では遷延する好中球減少の存在
や既往、強力な免疫抑制薬やステロイド、抗癌薬の投与
④ 呼吸器感染や副鼻腔炎の症状・徴候が認められない
こと
歴および中心静脈カテーテル、腸管内定着のカンジダな
⑤ CT 所見上、肺炎像が認められないこと
どがリスクファクターとなる。
[診断]
⑥ FLCZ などアゾール系薬の予防投与を受けていないこ
と
カンジダ血症の臨床症状は広域抗菌薬不応性の発熱の
従来の標準治療薬は AMPH-B であるが、FLCZ 低感
ほか、皮疹がみられることがある。検査成績では CRP
の上昇がある。血液培養で確定診断されることがほとん
受性を示す
どで、原因真菌は
臨床的に安定していれば、FLCZ による経験治療を考慮
、
が最も多く、ついで
、
、
や
の分離が稀な施設で
な
してよい。アスペルギルス症の合併を否定できない場合
どがある。血清診断では本菌に特異的ではないがβ-D-
には、抗アスペルギルス作用を有する抗真菌薬を選択す
グルカンが陽性となる。
る。
MCFG は
慢性播種性カンジダ症はほとんどが急性白血病患者に
や
にも有効であり、
発症し、好中球回復期に顕性化することが多い。臨床症
AMPH-B に比較して副作用が少ないため、わが国では
状では右季肋部痛があり、検査成績では Al-P の上昇が
使用される頻度が高く、安全性も考慮すると第一選択薬
ある。肝生検で菌要素が検出されるか、培養陽性であれ
と考えてよい。ただし、トリコスポロンによるブレイク
ば診断が確定するが、その陽性率は高くない。画像診断
スルー感染症には注意する必要がある。また ITCZ 注射
は多発小膿瘍を描出する CT が有用である。
薬、VRCZ でも同様の効果が期待できる。
L-AMB と ITCZ 注射薬はわが国で真菌感染が疑われ
[治療]
a. 予防投与
る FN に対する保険適用を取得している。
c. 標的治療
FLCZ 経口投与の有用性が骨髄移植領域で確立してい
る。通常の化学療法においても深在性真菌症のハイリス
最も多い
に対しては AMPH-B と FLCZ が
標準治療薬である。Nonは AMPH-B に低感受性で、
ク群では予防効果が期待できる。欧米では 400 mg/日が
では
は FLCZ に
推奨されるが、わが国では 100∼200 mg/日の投与が多
耐性である。
い。ITCZ の内用液も有用である。MCFG は造血幹細胞
高用量が必要である。MCFG は、non-
移植例における予防投与が認可されている。
ンジダ血症に臨床的有効性が高い。カテーテル感染で多
b. 経験的治療
い
発熱性好中球減少症( febrile neutropenia;FN )の段
もFLCZに対する感受性が劣り、
を含むカ
は MCFG に対する MIC はやや劣るが
臨床的に問題となることは少ない。中心静脈カテーテル
階で広域抗菌薬を投与し、4∼5 日後に解熱効果が得ら
留置例では状況が許せば抜去する。治療期間は血液培養
れなかった場合に抗真菌薬の経験的治療を開始すること
陰性となった後も 2 週間使用する。なお、MCFG の先行
が多い。
投与例やアゾール系薬による予防投与がなされていない
予防投与が行われている場合は、予防薬と系統の異な
例で血液から酵母様真菌が分離され、好中球減少下で臨
る抗真菌薬を経験的に使用する。抗菌薬不応性の FN に
床的に不安定な場合には、トリコスポロンの可能性も考
おいては、下記の条件などが満たされる場合、カンジダ
えられるため、同定されるまでは VRCZ を考慮する。慢
症に対する経験的治療を考慮する。
性播種性カンジダ症の場合も治療薬の選択はカンジダ血
① HEPA フィルターによる空調が整備され、周囲で工
症と同様である。治療期間は一般的に画像上の病変消失
事が行われていないこと
② 好中球減少後 2 週間以内の発症で早期に好中球回復
か固定化が基準となるが、疾患の活動性を判定するのは
困難な場合が少なくない。
が予測されること
3
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
A
血液疾患領域フローチャート
➡解説 62 ∼ 76 頁
侵襲性アスペルギルス症(❶ 肺、❷ 副鼻腔、❸中枢神経)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・遷延する好中球減少(好中球< 500/mm が 10 日
以上)
・同種造血幹細胞移植
・90 日以内に細胞性免疫抑制薬(シクロスポリン、
プリンアナログなど)の投与歴
・3 週間以上のステロイド(プレドニゾロン換算 0.3 mg/
kg/日以上)の投与歴
・移植片対宿主病(GVHD)合併
・施設や建設工事などの環境要因
・サイトメガロウイルス感染症(同種造血幹細胞移植例)
・ITCZ 内用液 またはカプセル剤 200 mg/日 1 日 1
回経口投与[AⅡ]
・MCFG 50 mg/日 1日 1 回点滴静注[AⅡ]
注:予防として最も有効な方法は HEPA フィルター装備の
無菌室ないし無菌ベッドの使用である
・ わが国では、MCFG のみ造血幹細胞移植患者における予防投
与の保険適用が認められている
† 保険適用外
経験的治療
真菌症疑い例
・ 胸部症状がある時や検査所見(肺画像所見またはガラク
トマンナン抗原)陽性時には、当初より VRCZ 投与を考
慮する[AⅡ]
・ 胸部症状や副鼻腔炎症状を伴いガラクトマンナン抗原
やβ -D-グルカンが陰性の時は、接合菌症が除外できる
までは AMPH-B 製剤を考慮する[BⅢ]
・ 中枢神経症状がある時は、髄液移行を考慮して VRCZ
を投与する[AⅡ]
真菌症
疑い例
C.どのような検査を実施するか
補助診断法:
画像診断:
・胸部 X 線で肺浸潤影(楔状影など)の出現
、
・胸部 CT における辺縁鮮明な結節像(± halo sign)
air-crescent sign、空洞を伴う浸潤影、楔状影(❶)
・頭部 CT における副鼻腔壁や頭蓋底部の破壊像(❷)
・髄膜炎、脳膿瘍、脳梗塞を示唆するMRI や CT 像(❸)
血清診断:
*1
・ガラクトマンナン抗原(ELISA)
*1 気管支肺胞洗浄液(BALF)
、胸水、
髄液でのガラクトマン
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについて
は 58 頁参照
◆ 状態が安定していれば VRCZ では 1 週間の点滴静注治療後を
目処に経口薬への変更を考慮
臨床診断例
標的治療
第一選択薬
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ
◆
6.0 mg/kg/回) 1 日 2 回点滴静注 [AⅠ]
第二選択薬
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1日 1 回点滴静注[AⅡ]
・ AMPH- B 1.0 ∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
[AⅡ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅡ]
・ ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注( loading
§
dose:200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)
[BⅡ]
ナン抗原陽性所見も診断上有用
・β-D- グルカン
遺伝子診断:
・アスペルギルス DNA
確定診断法:
*2
真菌学的検査:胸水、髄液、血液の培養
喀痰、BALF、副鼻腔吸引物の鏡検と培養の結果は画
像診断や臨床症状と併せて判断する。ハイリスク患
者では喀痰や BALF でのアスペルギルスの検出も重
要な所見となる
病理組織学的診断:肺、副鼻腔、脳などの生検
*2 血液培養の陽性率は非常に低い
4
(予防投与と異なる薬剤を選択)
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅠ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1日 1 回点滴静注[AⅡ]
・ ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注( loading
§
dose:200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)
[AⅠ]
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ
◆
6.0 mg/kg/回) 1 日 2 回点滴静注 [BⅠ]
・ AMPH- B 0.7∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
[AⅡ]
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状:
・3∼4 日以上持続する広域抗菌薬不応性の発熱
・咳嗽、胸痛、喀血、血痰、呼吸困難、胸膜摩擦音(❶)
・鼻汁、鼻閉、鼻出血、眼窩周囲・上顎骨の腫脹と
疼痛(❷)
・痙攣、片麻痺、頭痛、脳症、意識障害(❸)
一般検査所見:
CRP ↑(❶ 、❷ 、❸)
(造血幹細胞移植例およびハイリスク化学療法例)
†
3
確定診断例
注:重症例では VRCZ や AMPH-B 製剤と MCFG の併用を
考慮する[BⅢ]
状態が安定していれば VRCZ では 1 週間の点滴静注治療後を
目処に経口薬への変更を考慮
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについて
は 58 頁参照
◆
・loading dose については 59 頁参照
A 血液疾患領域
侵襲性アスペルギルス症
血液疾患領域における深在性真菌感染症では侵襲性
ことが大切である。特に工事現場が院内や周囲にある場
肺アスペルギルス症(invasive pulmonary aspergillosis;
合は注意を要する。FLCZ はアスペルギルスに対して無
IPA )が大半を占める。リスクファクターは遷延する好
効 のため 、 I T C Z 内 用 液 による予 防 が 有 用で ある。
中球減少、強力な免疫抑制薬や抗癌薬の投与などがあ
MCFG は FLCZ との比較試験で優れた成績を得て、適
る。特に造血幹細胞移植患者で移植片対宿主病( graft-
応を有するが、注射薬のため、移植後中期以降の外来治
versus-host disease;GVHD )に対してステロイド投与
療には不向きである。AMPH- B の経口シロップや吸入
時の発症頻度が高い。
による予防のエビデンスは乏しい。VRCZ は抗菌力から
[診断]
みて有望だが、予防に関するエビデンスは不足している。
IPA の臨床症状は広域抗菌薬投与に反応しない発熱、
b. 経験的治療
咳嗽、胸痛などで、肺炎、肺膿瘍、肺梗塞、胸膜炎、心
侵襲性アスペルギルス症では経験的治療が極めて重要
外膜炎などを起こす。画像診断では high resolution CT
である。従来は AMPH-B が使用されてきたが、近年各
が有用で、辺縁鮮明な結節像( halo sign を伴うことがあ
種新規抗真菌薬(L-AMB、VRCZ、カスポファンギン[わ
る)や air-crescent sign、楔状影、空洞病変は診断に役
が国未承認]
)について AMPH-B 製剤との経験的治療の
立つ。胸部 X 線が正常でも胸部 CT では異常陰影が描
無 作為化臨床比較試 験が 行われ、いずれも従来の
出される場合があり、上記症状・徴候を伴う場合は、積
AMPH-B と同等の有効性と副作用の軽減が期待できる。
極的に CT 撮影を考慮する。肺以外には副鼻腔、中枢神
MCFG については比較試験は行われていないが、エビ
経 など 全 身 に 播 種 性 病 変 が みら れ る 。 菌 種 別 で は
デンスのある同系統のカスポファンギンと同程度の有効
が最も多く、ついで
、
、
、
などがある。
性が期待され、わが国で汎用されている。なお胸部症状
や、検査所見(胸部 CT やガラクトマンナン抗原)陽性
確定診断には肺組織などの生検が必要で、血液疾患患
時には、当初より VRCZ の使用を考慮する。副鼻腔炎症
者では生前診断は困難な場合が多い。高リスク群では喀
状を伴う際には接合菌症も鑑別する必要があり、同症の
痰や気管支肺胞洗浄液( bronchoalveolar lavage fluid;
場合、VRCZ は無効で AMPH-B 製剤が必要となるので
BALF)
における菌検出も重大なリスクファクターとなる。
注意を要する。中枢神経症状を伴う場合や、画像診断で
血清診断ではガラクトマンナン抗原を検出する ELISA
アスペルギルスによる脳病変の可能性が疑われる場合に
は、カットオフ値を 0.5∼0.7 に下げることで早期診断が
は、中枢神経系への移行性の良い VRCZ を使用する。
可能となり評価が高い。ガラクトマンナンは BALF、胸
c. 標的治療
水、髄液での測定も有用である。ただし抗真菌薬使用中
侵襲性アスペルギルス症の標的治療では長い間
は感度が低下し、逆にタゾバクタム/ピペラシリン使用
AMPH - B がゴールドスタンダードであったが、近年
例や腸管粘膜バリア障害例などで偽陽性を示すことがあ
VRCZ が AMPH-B を凌駕する成績をおさめ、現在は第
る。β-D-グルカンも陽性となるが、カンジダなどとの鑑
一選択薬となっている。ITCZ 注射薬や L- AMB、カス
別はできない。遺伝子診断はリアルタイム PCR 法が検
ポファンギンも AMPH-B とほぼ同等の効果が期待でき
査センターレベルで可能である(保険適用外)
。
る。MCFG もカスポファンギンとほぼ同等の有効性と考
えてよい。重症例では VRCZ や AMPH-B 製剤と MCFG
[治療]
a. 予防投与
ハイリスク患者や本症が高頻度にみられる施設では、
予防投与を考慮する。アスペルギルスは経気道感染する
との併用を考慮する。治療期間について定まった見解は
ないが、画像所見をフォローしながら少なくとも 4 週間
以上の長期治療が必要となる。すべての症状や所見が消
失した後も 2 週間以上は継続治療を行う。
ため、HEPA フィルターなどを用い病室内を清浄に保つ
5
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
B-1 呼吸器内科領域フローチャート
➡解説 77 ∼ 81 頁
肺アスペルギローマ
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
呼吸器内科領域では一般に
行わない
・陳旧性肺結核 ・気管支拡張症
・肺線維症
・肺囊胞
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・胸部術後
B.どのような場合に発症を疑うか
経験的治療
呼吸器内科領域では一般に
行わない
臨床症状: 血痰、喀血
一般検査所見:CRP↑、WBC↑、ESR(血沈)↑
*菌球(fungus ball)
*
画像診断: 空洞、菌球(fungus ball)、胸膜肥厚
血清診断: アスペルギルス抗体陽性
標的治療
臨床診断例
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査: 喀痰(培養 1 回以上)
、気管支肺
胞洗浄液(BALF)中の菌の陽性
病理組織学的診断: BALF 鏡検で菌糸確認、経
気管支肺生検(TBLB)な
どの生検
*
菌球(fungus ball) かつアス
ペルギルス抗体陽性
確定診断例
第一選択
根治のためには肺切除
第二選択(抗真菌薬療法)
・VRCZ 200 mg/回(loading dose:初日
¶
のみ 300 mg/回)1日2 回経口投与 [CⅢ]
†
・ITCZ 内用液 またはカプセル剤 200 mg/
回 1 日 1 回経口投与[CⅢ]
¶ 体重による用量調整を行う(58 頁参照)
† 保険適用外
慢性壊死性肺アスペルギルス症(CNPA)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
呼吸器内科領域では一般に行わない
・肺アスペルギローマ
・陳旧性肺結核
・アスペルギルス症の病歴あり ・気管支拡張症
・肺線維症
・肺囊胞
・胸部術後
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
経験的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
呼吸器内科領域では一般に行わない
1.臨床症状:喀痰、血痰、喀血、発熱、呼吸困難、咳嗽
2.画像診断:新たな浸潤影、空洞の拡大、空洞壁の肥厚、
胸膜肥厚の進行、鏡面形成
3.血清または真菌学的検査:
血清診断:ガラクトマンナン抗原陽性、アスペルギルス
抗体陽性
、あるいは、菌
真菌学的検査:喀痰培養陽性(1回以上)
糸の確認
4.抗菌薬不応性: 3 日間以上、広域抗菌薬を投与しても
画像や炎症反応が十分改善しない
↑のいずれか
5.炎症反応亢進: CRP↑、WBC↑、ESR(血沈)
標的治療
臨床診断例
1∼4 をすべて満た
す場合
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査: 気管支肺胞洗浄液(BALF)
病理組織学的診断: 経気管支肺生検(TBLB)、経皮肺生検、切除標本
確定診断例
第一選択薬
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴
静注 2 週間以上[BⅢ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴
静注[BⅡ]
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回
点滴静注[BⅢ]
第二選択薬
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注
(loading dose:200 mg/回 1 日 2 回点
§
滴静注を 2 日間)[BⅢ]
・AMPH-B 1.0∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回
点滴静注[BⅢ]
・症例によっては維持療法を行う
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替
えについては 58 頁参照
6
・loading dose については 59 頁参照
B-1 呼吸器内科領域
肺アスペルギローマ
[診断]
慢性壊死性肺アスペルギルス症
(CNPA)
[診断]
肺あるいは気管支に器質的な病変が存在することが前
慢性壊死性肺アスペルギルス症( chronic necrotizing
提となる。肺結核後遺症の空洞性病変が最も多いが、間
pulmonary aspergillosis;CNPA )は、診断基準のうち画
質性肺炎患者の honeycomb lung や胸部手術後の死腔な
像所見の増悪は、症例により様々であり 1∼12 カ月の期
どにも注意する。そのような基礎疾患を有する患者にお
間で判断する。血清診断では、アスペルギローマ合併例
いて、胸部 X 線で空洞壁の肥厚や菌球形成を疑えば、
では抗体陽性となるが、罹病期間が短い症例も多く抗体
アスペルギローマの疑診である。胸部 X 線写真や CT で、
陰性例が一般的である。ガラクトマンナン抗原陽性で臨
胸膜の肥厚が所見のみの場合でも経過観察中に肥厚が増
床診断される症例が多い。一般細菌による感染症を否定
悪する場合にはアスペルギローマを疑う根拠となる。慢
するために、広域抗菌薬を投与しても治癒しないことを
性 疾 患 でアスペ ルギ ル ス抗 体 が 産 生され るため 、
確認することが重要である。一般抗菌薬を投与して効果
Ochterlony 法により血漿中の抗体を検出すれば画像所見
がある場合でも、効果不十分であれば真菌症の関与が疑
と併せて臨床診断例とする。喀痰や気管支肺胞洗浄液
われる。
( bronchoalveolar lavage fluid;BALF )などからアスペ
ルギルスが分離されれば確定診断である。
[治療]
症状が軽快するまでに 1∼4 週間程度を有する場合が多
[治療]
い。重症例では長期にわたる抗真菌薬投与が必要なため、
臨床診断あるいは確定診断例では、治療法について考
注射薬で治療導入し途中で経口薬へスイッチするなどの
慮する。根治のためには手術療法が必須であり、肺切除
工夫が必要な場合もある。症状が改善し、画像所見も安
が第一選択の治療法となる。しかし、患者が手術を希望
定化すれば治療を終了して、注意深い経過観察を行う。
しない場合や、基礎疾患や高齢による低肺機能のため手
基礎疾患がある限り再発の可能性がある。
術適応がない場合は、抗真菌薬療法の適応となる。有効
性の確立している抗真菌薬はないが、経口薬である
VRCZ や ITCZ が外来で使用可能である。MCFG や
AMPH-B、L-AMB、ITCZ、VRCZ の点滴静注もアスペ
ルギルス自体に対する効果はあるが、アスペルギローマ
に対する効果の詳細は検討されていない。
7
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
B-1 呼吸器内科領域フローチャート
➡解説 77 ∼ 81 頁
侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)
A.どのような患者がハイリスクか
・好中球減少
・ステロイド大量長期投与
・既存の肺病変
・低栄養
予防投与
血液疾患以外では一般に行わない
・免疫抑制療法
・一般抗菌薬の長期投与
・ADL 低下など
・糖尿病
経験的治療
真菌症疑い例
臨床症状+画像所見
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 急性の発熱、胸痛、咳嗽、血痰、呼
吸困難、胸膜摩擦音
一般検査所見:CRP↑、WBC↑、ESR(血沈)↑
、
画像診断: 急性に出現した結節影(時に多発)
空洞を伴う浸潤影、胸膜直下の楔状
影、halo sign、air-crescent sign
血清診断: β -D-グルカン↑、ガラクトマンナ 臨床診断例
ン抗原(ELISA)陽性(血漿あるいは
臨床症状あるい
、胸水)
気管支肺胞洗浄液[BALF]
は画像所見+血
清診断陽性
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査: BALF
病理組織学的診断: 経気管支肺生検(TBLB)
、
経皮肺生検、切除標本
確定診断例
第一選択薬
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
¶
kg/回)1 日 2 回点滴静注あるいは経口投与 [BⅠ]
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅡ]
・ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
§
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[BⅡ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅡ]
第二選択薬
・AMPH-B 1.0∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[CⅠ]
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行う(58 頁参照)
§ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
標的治療
第一選択薬
・VRCZ 4.0mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
¶
kg/回)1 日 2 回点滴静注あるいは経口投与 [AⅠ]
第二選択薬
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅡ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
§
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[BⅡ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅡ]
重症例では、MCFG は他薬剤との併用で使用[BⅢ]
・AMPH-B 1.0∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[CⅠ]
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行う(58 頁参照)
§ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
肺クリプトコックス症(非 HIV 患者)
A.どのような患者がハイリスクか
・健常者にも発症
・膠原病
・ステロイド投与
・腎疾患
・悪性腫瘍
・糖尿病
予防投与
呼吸器内科領域では一般に行わない
真菌症疑い例
呼吸器内科領域では一般に行わない
標的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 無症状のことが多い
(特有の症状なし)
画像診断: 結節影(胸膜側に孤立または多発)
、
浸潤影、空洞
一般検査所見:特有の所見なし
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査: 喀痰、
気管支肺胞洗浄液(BALF)
、
経皮肺生検
病理組織学的診断: 上記検体の鏡検、経気管支
、
経皮肺生検
肺生検(TBLB)
血清診断:クリプトコックス抗原陽性
8
経験的治療
確定診断例
臨床診断例
(抗原陽性)
第一選択薬
・(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1 日 1 回点滴静注あるいは
経口投与(loading dose:400∼800 mg/日 1 日 1 回点滴
#
静注あるいは経口投与を 2 日間)[AⅢ]
・ ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注あるいは経口投与
§
(loading dose:200 mg/回 1日 2 回点滴静注を 2 日間)[BⅢ]
重症例や第一選択薬の無効例
#
または ITCZ 点滴静注
・
(Fos)FLCZ 点滴静注 あるいは経口投与、
§
あるいは経口投与 と、5-FC 100 mg/kg/日 経口投与を併用
[BⅢ]
・VRCZ 200 mg/回(loading dose:初日のみ 300 mg/回)
¶
1 日 2 回経口投与 [BⅢ]
‡
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注 [BⅢ]
#F-FLCZ は静注可、FLCZ は経口投与と点滴静注
§ ITCZ 内用液は保険適用外、注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替
えについては 58 頁参照
¶体重による用量調整を行う(58 頁参照)
‡ L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注でも可
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
B-1 呼吸器内科領域
侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)
[診断]
好中球減少がない場合でも、侵襲性肺アスペルギルス
肺クリプトコックス症
(非 HIV 患者)
[診断]
基礎疾患の有無に関わらず発症することに注意する。
症( invasive pulmonary aspergillosis;IPA )が起こる場
炎症反応は軽度である場合が多く、非 HIV 患者では高熱
合がある。肝・心不全や低栄養など全身状態に問題があ
の頻度も低い。肺の陰影は、胸膜直下の consolidation の
り、何らかの免疫抑制状態にある患者で、一般抗菌薬が
場合から融合傾向のある結節影まで様々である。肺の陰
無効な肺異常陰影では IPA を鑑別する。
影の長径が 2 cm 以上であればほとんどの症例でグルクロ
ノキシロマンナン抗原が陽性となり、血清診断が有用で
[治療]
a. 経験的治療
侵襲性アスペルギルス症の厳密な意味での疑診例を対
ある。肺クリプトコックス症と診断した場合、脳脊髄液
( cerebrospinal fluid;CSF )を検査して中枢神経系病変
の有無を確認する。
象とした臨床研究はない。侵襲性アスペルギルス症の臨
床診断例および確定例を対象とした研究では、VRCZ 投
[治療]
与群が AMPH-B 投与群に勝る結果が示された。したが
アゾール系抗真菌薬を投与する。基礎疾患のない患者
って、経験的治療であってもアスペルギルス症を強く疑
では 3 カ月の投与を目安とするが、何らかの基礎疾患が
う場合は、VRCZ が第一選択薬と考えられる。一方、原
あれば 6 カ月を目安にする。FLCZ や ITCZ による治療
因真菌が不明な発熱性好中球減少症( febrile
に抵抗性の場合は、5-FC を併用する。または、VRCZ や
neutropenia;FN )の患者を対象とした臨床研究の結果
AMPH-B 製剤で治療を行う。
からは、L-AMB やカスポファンギン(わが国未承認)
、
ITCZ 注射薬の有効性が示されている。そこで、経験的
治療は原因真菌が不明であるという観点から、抗真菌ス
ペクトルが広い L-AMB と、糸状菌に対する有効性が認
められる ITCZ、安全性が高いカスポファンギンの同系
統薬である MCFG を第一選択薬に加えた。AMPH-B も
同等の有効性が期待できるが、副作用の点から第二選択
薬とした。
b. 標的治療
臨床診断例および確定診断例に対する標的治療は、エ
ビデンスに基づけば VRCZ が第一選択薬となる。ただし、
根拠となる臨床試験は、副作用などの理由で他薬剤への
変更が認められており、厳密には VRCZ による初期治療
群と AMPH- B 初期治療群の比較である。その意味で、
第二選択薬としては、VRCZ 以外でアスペルギルス症に
対する有効性が期待される薬剤を使用する。MCFG は
それ以外の薬剤との併用効果が期待されているが、エビ
デンスは未だ乏しい。
9
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)フローチャート
➡解説 82 ∼ 86 頁
*侵襲性肺アスペルギルス症と肺クリプトコックス症に関しては、B-1 呼吸器内科領域フローチャートを参照(8 頁)
口腔咽頭カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・HIV 感染
・抗菌薬投与
・
(吸入)ステロイド投与 ・経口摂取不可能
・担癌状態
B.どのような場合に発症を疑うか
内科領域では一般に行わない
臨床診断例
臨床症状: 舌痛、口腔内出血、口腔粘膜の白苔、
口腔粘膜の潰瘍
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査: 口腔擦過、舌擦過
病理組織学的診断: 上記検体の鏡検で菌糸(仮
性菌糸)
確定診断例
標的治療
第一選択薬
・FLCZ 100 ∼ 400 mg/日 1 日 1 回経口投与[AⅠ]
・ITCZ 内用液またはカプセル剤 200 mg/日 1 日 1 回経口投与
[AⅠ]
第二選択薬
¶
・VRCZ 200 mg/回 1 日 2 回経口投与 [BⅠ]
・MCFG 100 mg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅠ]
・AMPH-B シロップ 100 mg/mL 1 回 1∼5 mL 1 日 2∼4 回
[BⅢ]
・MCZ ゲル 100 mg/回 1 日 2∼4 回[BⅢ]
¶ 体重による用量調整を行う(58 頁参照)
食道カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
・HIV 感染
・ステロイド投与
予防投与
・抗菌薬投与
・担癌状態
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 嚥下痛、嚥下困難、胸やけ
画像診断: 食道造影で敷石状陰影、内視鏡検査
で白苔、潰瘍、出血
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査:白苔
病理組織学的診断:食道粘膜の生検
内科領域では一般に行わない
標的治療
臨床診断例
確定診断例
第一選択薬
・(Fos)FLCZ 100∼400 mg/日 1 日 1 回点滴静注あるいは
経口投与(loading dose:200∼800 mg/日 1 日 1 回点滴
♯
静注あるいは経口投与を 2 日間)[AⅠ]
・ITCZ 内用液またはカプセル剤 200 mg/日 1 日 1 回経口投
与[AⅠ]
第二選択薬
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
¶
kg/回) 1 日 2 回 点滴静注あるいは経口投与 [BⅠ]
・MCFG 100 mg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅠ]
・AMPH-B シロップ 100 mg/mL 1 回 1∼5 mL 1 日 2∼4 回
[BⅡ]
♯ F-FLCZ は静注可、FLCZ は経口投与と点滴静注
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行う(58 頁参照)
10
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)
口腔咽頭カンジダ症
食道カンジダ症
[診断]
[診断]
HIV 感染や担癌状態、ステロイド投与などがリスクフ
口腔咽頭カンジダ症と同様に、HIV 感染をはじめとす
ァクターである。リスクを有する患者で、口腔内に白苔
る免疫不全状態がリスクファクターである。嚥下痛や嚥
がある場合には臨床診断としてよい。したがって、本症
下困難、胸やけなどの症状を有する症例で、上部消化管
では、真菌学的根拠がなくとも臨床診断例となるため、
内視鏡により白苔を認めれば臨床診断する。本症では、
経験的治療は標的治療と同じ内容となる。確定のために
真菌学的根拠がなくとも臨床診断例となるため、経験
は病変部位を擦過して培養するが、菌種によって薬剤感
的治療は標的治療と同じ内容となる。確定診断のため
受性が異なるため、難治性の場合には培養が必須であ
には培養あるいは病理組織学的検査が必要である。
る。
[治療]
[治療]
抗真菌薬の選択は口腔咽頭カンジダ症に準ずる。
臨床診断に基づく抗真菌薬は、
の頻
度が最も高いことから、FLCZ が選択される。治療抵抗
性の場合には、標的治療では、原因真菌に応じて治療薬
を選択する。
であれば FLCZ や ITCZ の増
量が有効な場合がある。アゾール系薬の前治療があり抵
抗性の場合は、MCFG を選択薬とする。
11
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)フローチャート
➡解説 82 ∼ 86 頁
*侵襲性肺アスペルギルス症と肺クリプトコックス症に関しては、B-1 呼吸器内科領域フローチャートを参照(8 頁)
カンジダ血症・播種性カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
内科領域では一般に行わない
・悪性腫瘍
・血管内留置カテーテル
・他の領域におけるハイリスク
経験的治療
・(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading
♯
dose:800 mg/日 1日 1 回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
・MCFG 100 mg/日 1 日 1 回点滴静注[CⅢ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
§
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 発熱(抗菌薬不応性)
、視力低下、霧視
画像診断: 腹部 CT・エコーで多発性の低吸収域
一般検査所見:CRP ↑、WBC ↑、Al-P ↑
血清診断: β -D- グルカン陽性、カンジダ抗原
陽性
臨床診断例
眼内炎+
血清診断
陽性のあ
る時
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査:血液培養、経皮的肝膿瘍吸引液
病理組織学的診断:肝生検
血清診断:β-D- グルカン、カンジダ抗原陽性
遺伝子診断:血中の真菌 DNA
確定診断例
♯ F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
標的治療
第一選択薬
・(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading
♯
dose:800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日間)[AⅠ]
あるいは、初期 5 日間 AMPH-B 0.7 mg/kg/日 1 日 1
回点滴静注と併用可[AⅠ]
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅠ]
第二選択薬
・ VRCZ 4.0 mg /kg /回( loading dose:初日のみ
6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴静注[BⅠ]
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅠ]
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅠ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:
§
200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[BⅢ]
♯ F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
クリプトコックス脳髄膜炎
予防投与
A.どのような患者がハイリスクか
・健常者にも発症
・HIV 感染
・膠原病
・ステロイド投与
・腎疾患
・悪性腫瘍
・糖尿病
内科領域では一般に行わない
真菌症疑い例
経験的治療
内科領域では一般に行わない
標的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 性格変化、頭痛、嘔気・嘔吐、項部
硬直、発熱
画像診断: 頭部 CT や MRI で髄膜肥厚、脳内腫
瘤影
一般検査所見:髄液細胞数↑、糖↓、髄液の墨汁法
血清診断:髄液クリプトコックス抗原陽性
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査:脳脊髄液(CSF)
病理組織学的診断:上記検体の鏡検(墨汁法)
12
臨床診断例
確定診断例
第一選択薬
‡
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1日 1 回点滴静注
+ 5-FC 25 mg/kg/回 1日 4 回 6∼10 週[AⅠ]
あるいは
‡
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1日 1 回点滴静注
+ 5-FC 25 mg/kg/回 1日 4 回 2 週間
(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1日 1 回(loadその後、
ing dose:400∼800 mg/回 1 日 1 回 2 日間)点滴静
♯
注あるいは経口投与 10 週以上[AⅠ]
第二選択薬
‡
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注 2 週間 、
その後、VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0
¶
1日 2 回点滴静注あるいは経口投与 10週以
mg/kg/回)
上[BⅢ]
‡ L-AMB 2.5∼6.0 mg/kg/日 1日 1 回点滴静注でも可
♯ F-FLCZ は静注可、FLCZ は経口投与と点滴静注
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行う(58 頁参照)
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)
カンジダ血症・播種性カンジダ症
クリプトコックス脳髄膜炎
[診断]
[診断]
悪性腫瘍、侵襲性の高い手術後、広範囲な熱傷患者で
クリプトコックス脳髄膜炎は、HIV 感染症を代表とす
カテーテルが留置されている患者はハイリスクグループ
る細胞性免疫不全患者に発症しやすいが、健常者にもみ
である。臨床症状としては、広域の抗菌薬に反応しない
られる点に注意が必要である。肺クリプトコックス症の
発熱を認め、白血球増多、好中球増多、CRP 陽性など
患者で、脳脊髄液( cerebrospinal fluid;CSF )のグルク
の炎症反応を伴う。
ロノキシロマンナン抗原を検査して脳髄膜炎の合併を調
臨床診断のために特徴的な所見として眼内炎の合併、
べる。CSF のグルクロノキシロマンナン抗原が陽性であ
あるいは、肝臓・脾臓の多発性膿瘍を示唆する所見があ
れば臨床診断例とする。免疫不全がない患者の初期症状
る。眼内炎の症状は視力低下、霧視などである。肝脾膿
は、特に軽微で緩やかであり、患者の性格変化を家族が
瘍の所見としては胆道系酵素の上昇などがある。眼内炎
気付いている程度の場合もある。
あるいは肝脾膿瘍の所見を有し、かつ、β-D-グルカン
が陽性であれば播種性カンジダ症の臨床診断とする。
[治療]
臨床診断あるいは確定診断された症例に対して標的治
療を行う。初期治療には 2 週間以上の AMPH- B 使用が
[治療]
非好中球減少症患者を対象とした経験的治療のエビデ
推奨される。AMPH-B は副作用のため長期にわたる治療
ンスが乏しいため、好中球減少患者における成績をもと
が困難な場合が多く、F-FLCZ あるいは FLCZ にスイッ
に( A 血液疾患領域解説 62 頁を参照)
、患者の重篤度
チして治療を継続する。エビデンスは少ないが FLCZ 難
や安全性などを勘案して任意に行われる。カテーテルが
治例では VRCZ の有効性が期待できる。CSF の圧亢進が
留置されていれば可能な限り抜去する。抗真菌薬療法の
みられる場合、初圧が 20 cmH2O 程度となるまで繰り返
原則は、臨床診断例と確定診断例に対する標的治療であ
しドレナージがすすめられる。治療は症状と髄液所見を
る。
指標に行い、グルクロノキシロマンナン抗原のみ陽性が
一般内科領域におけるカンジダ血症・播種性カンジダ
継続する場合でも治療を終了し、注意深い経過観察への
症の治療では有効性と同時に安全性を重視するため、
移行が可能である。しかし、細胞性免疫不全のある患者
FLCZ あるいは MCFG が第一選択薬となる。VRCZ や
では治療が長期にわたる場合が多く、基礎疾患が軽快し
L-AMB、ITCZ 注射薬もほぼ同等の安全性ならびに有効
ない限り再発もみられる。
性が期待できる。原因真菌が
は
あるい
と同定された症例ではキャンディン系薬や
ポリエン系薬が選択される。
13
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)フローチャート
➡解説 82 ∼ 86 頁
接合菌症
A.どのような患者がハイリスクか
・糖尿病性ケトアシドーシス
・臓器移植患者
・不潔な包帯、外傷
・好中球減少
・血液悪性疾患
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状および画像診断:
鼻脳型: 黒色の鼻汁、発熱、頭痛、顔面痛、
眼周囲蜂巣炎、意識レベルの低下
肺型:発熱、呼吸困難、血痰、浸潤影、空洞
皮膚型:有痛性紅斑、壊死性潰瘍
消化管型: 腹痛、嘔吐を伴う腹部膨満、発熱、
血便、腹腔内膿瘍
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査:鏡検と培養
病理組織学的診断:病巣部の生検
14
予防投与
内科領域では一般に行わない
経験的治療
臨床診断例
確定診断例
切除やデブリドマンとともに
・AMPH-B 1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[AⅢ]
・L-AMB 5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注[BⅢ]
標的治療
経験的治療と同じ
B-2 内科領域(血液疾患・呼吸器内科領域を除く)
接合菌症
[診断]
糖尿病患者では鼻脳型が多く、好中球減少患者では肺
型や播種型が多い。免疫異常の明らかでない皮膚型の例
もあるが、播種型としてみられる場合もある。消化管型
は通常急速に悪化し死亡する。
VRCZ 投与時のブレイクスルー真菌症としても注意が
必要である。
[治療]
病巣部は切除やデブリドマンとともに抗真菌薬療法を
行う。AMPH-B あるいは L-AMB を極量投与する。
確定診断例は極めて稀であり、治療指針の十分なエビ
デンスはない。従来は、AMPH-B のみが有効な治療法
とされていたが、ポサコナゾール(わが国未承認)の有
効例も報告されている。
15
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
C
外科領域フローチャート
➡解説 87 ∼ 90 頁
カンジダ症(カンジダ血症、腹腔内感染など)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
外科領域では一般に行わない[CⅡ]
・高 APACHE Ⅱスコア
・ICU 在室> 7 日
・腎不全
・人工呼吸器> 48 時間
・重症急性膵炎
・透析患者
・糖尿病
・上部消化管穿孔
・中心静脈カテーテル留置 ・高カロリー輸液
・免疫抑制薬
(投与終了から 30 日以内)
・ステロイド> 3 週間
・その他の重篤な疾患の合併
*1
真菌症疑い例
B.どのような場合に発症を疑うか
ハイリスク患者で
抗菌薬(≧ 3 種類、>連続 7 日)投与後も
*1
発熱や炎症所見が持続する場合
β-D-グルカン陽性[AⅢ]
または
カンジダ colonization 複数箇
所[AⅢ]
臨床診断例
C.どのような検査を実施するか
血清診断:β-D-グルカン
真菌学的検査:
血液培養: 末梢静脈血を 1 日 2 回 2 日間
培養
他の部位の監視培養≧ 3 カ所(喀痰、
ドレー
ン、創、尿、便等)
・CT 等を施行し他の原因を除外、膿瘍形
成例では穿刺吸引し培養検出
・視覚異常例では眼底検査
*1 中心静脈カテーテル留置例では抜去[AⅡ]
*2 眼底検査で真菌性眼内炎のチェック[AⅢ]
*3 抗真菌薬治療が無効で、血清β-D-グルカン値
が高値を持続する場合、標的治療の第二選択
薬を使用
・真菌性眼内炎
・中心静脈カテーテル培養
陽性で抜去後も 72 時間発
熱継続
・新生児におけるカンジダ尿
*2
確定診断例
血液培養陽性
または
膿瘍穿刺液からカンジダ属
を証明
経験的治療*3
・
(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1 日 1
回点滴静注(loading dose:400∼
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日
♯
間)[AⅢ]
・MCFG 100mg/日 1 日 1 回点滴静注
[AⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
標的治療
■カンジダ属
・(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点
滴静注(loading dose:800 mg/日 ♯
1 日 1 回点滴静注を 2 日間)[AⅠ]
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点
滴静注[AⅠ]
■C. glabrata、C. krusei
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点
滴静注[BⅡ]
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点
滴静注[BⅡ]
■難治(第二選択薬)
血圧低下
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点
滴静注[BⅠ]
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴
静注[CⅠ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注
(loading dose:200 mg/回 1 日 2
§
回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り
替えについては 58 頁参照
16
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
C 外科領域
カンジダ症
[診断]
① 真菌性眼内炎の眼底鏡による診断など、確定診断で
[治療]
カンジダ血症において中心静脈カテーテルが留置され
はないが臨床的にカンジダ症の可能性が極めて高い
ている場合は、できるだけ早期に抜去する[ AⅡ]
。
場合を臨床診断例と呼ぶ。なお、外科および救急・
a. 標的治療
集中治療、産婦人科各領域の臨床診断例に関しては
カンジダ属による深在性真菌症に対する初回選択薬は
真菌学的根拠は必ずしも問わない。
② 複数のリスクファクターを有し、他の発熱の原因がな
( Fos )
FLCZ[ AⅠ]
、MCFG[ AⅠ]とする。
に対しては F-FLCZ[ AⅠ]
、アゾー
い抗菌薬不応性発熱患者において、カンジダ coloni-
ル系薬使用の既往がある場合や
zation(複数箇所が望ましい)の証明[ AⅢ]
、または
が 分 離された場 合では M C F G が 第一選 択 薬となる
血清β-D-グルカン陽性[AⅢ]を経験的治療(empiric
therapy )開始基準とする。
③ 上記②に示した基準に満たない抗菌薬不応性発熱患
[ BⅡ]
。
や
に対しては( Fos )
FLCZ を選択
する[ BⅢ]
。
難治例は、VRCZ[ BⅠ]、L - AMB[ CⅠ]、( Fos )
者においては、カンジダ監視培養( 3 カ所以上)
、血
FLCZ と AMPH-B の短期間併用[ CⅠ]で、非好中球減
清β- D-グルカン値の測定を週 1 回実施し再評価を行
少患者におけるカンジダ血症に対する有効性が証明され
う。
ている。VRCZ や L-AMB は、副作用の頻度が FLCZ や
④ 消化管穿孔性腹膜炎例では、術中腹水からカンジダ
属が検出されても確定診断とはならない。
⑤ 消化管穿孔例での真菌感染ハイリスクは、胃癌穿孔、
MCFG と比較し高率となるため第二選択薬とする。しか
し、血圧低下など病態が不安定な症例では第一選択薬と
して使用してもよい。
入院患者の穿孔、治療開始遅延、再開腹例、腹腔内
b. 経験的治療
膿瘍形成、易感染患者である。
非好中球減少患者の経験的治療では、( Fos )
FLCZ
⑥ 消化管穿孔性腹膜炎(二次性腹膜炎)において術後抗
[ AⅢ]と MCFG[ AⅢ]の両者を第一選択薬として推奨
菌薬不応性の発熱が続く場合、真菌による三次性腹
する。
膜炎を疑い各種検査を実施する[ AⅢ]
。腹腔内膿瘍
c. 予防投与
からのカンジダ属検出例は確定診断とする。
外科領域でもハイリスク患者への抗真菌薬予防投与に
⑦ 重症急性膵炎における膵壊死部感染ではカンジダ感
染も比較的高率である。
よるカンジダ感染の減少が報告されているが、現状では
一般には推奨しない[ CⅡ]
。
⑧ 血液培養陽性例では、視力低下、霧視がない場合も
眼底検査を施行し、真菌性眼内炎を否定する必要が
・ 治療効果の判定
ある[ AⅢ]
。
5 日間以上抗真菌薬を投与して判定。炎症所見のほか、
β-D-グルカンの推移が参考となる場合もある。
・ 治療終了時期
標的治療では最終の血液培養陽性の証明から最低 2 週
間投与。経験的治療ではデータ、症状が改善するまでと
する。
17
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
D
救急・集中治療領域フローチャート
➡解説 91 ∼ 94 頁
カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
救急・集中治療領域では一般に行わな
い[CⅡ]
・重症熱傷(Burn index 10 以上)
・多発外傷(ISS 16 以上)
・人工呼吸器療法や気管切開術の施行
・血管内・その他カテーテル(IVH カテーテル、
SWG カテーテル、動脈ライン、尿道カテーテ
ル、術後ドレーンチューブなど)の長期留置
・先行する広域抗菌薬の投与
・APACHE Ⅱスコア≧ 15
・血液透析
・部分体外補助循環装置(PCPS)使用
・手術後
*1
真菌症疑い例
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状: 発熱や炎症反応(2 日以上の広
域抗菌薬不応性)
画像診断: 胸部 X 線、胸部・腹部 CT、腹
部エコー
一般検査所見:CRP ↑、WBC ↑
β-D-グルカン陽性[AⅢ]
または
カンジダ定着複数箇所[AⅢ]
臨床診断例
.どのような検査を実施するか
C*
中心静脈カテーテル留置例では抜去(AⅡ)
血清診断:
β-D-グルカン
*
* 眼底検査で真菌性眼内炎のチェック
(AⅢ)
**
* 抗真菌薬治療が無効で、血清
BDG
真菌学的検査:静脈血培養(
1日
2 回値が高値
2日
を持続する場合標的治療の第二選択薬を使用
、気管支肺胞洗浄液(BALF)
、髄液、
間)
膿、腹水、監視培養(尿、便、喀痰、鼻
口腔咽頭、皮膚、創など)
病理組織学的診断:無菌的検体での鏡検、
すべての組織診
眼底検査による真菌性眼内
(開胸肺生検、
炎の確認、肝生検など)
遺伝子診断:血清中の真菌 DNA
*1 中心静脈カテーテル留置例では抜去[AⅡ]
*2 眼底検査で真菌性眼内炎の検査[AⅢ]
*3 抗真菌薬治療が無効で、血清β-D-グルカン値
が高値を持続する場合、標的治療の第二選択
薬を使用
・真菌性眼内炎
・中心静脈カテーテル培養
陽性で抜去後も 72 時間発
熱継続
・新生児におけるカンジダ尿
*2
確定診断例
血液培養陽性
または
膿瘍穿刺液、生検組織からカ
ンジダ属を証明
経験的治療*3
・
(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1 日 1
回点滴静注(loading dose:400∼
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日
♯
間)[AⅢ]
・MCFG 100mg/日 1 日 1 回点滴静注
[AⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
標的治療
■カンジダ属
・(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点
滴静注(loading dose:800 mg/日 ♯
1 日 1 回点滴静注を 2 日間)[AⅠ]
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点
滴静注[AⅠ]
■C. glabrata、C. krusei
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点
滴静注[BⅡ]
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点
滴静注[BⅡ]
■難治(第二選択薬)
血圧低下
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点
滴静注[BⅠ]
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴
静注[CⅠ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注
(loading dose:200 mg/回 1 日 2
§
回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り
替えについては 58 頁参照
18
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
D 救急・集中治療領域
カンジダ症を中心に
[診断]
や
救急・集中治療領域で問題となる深在性真菌症の 8 割
以上がカンジダ症である。なお、外科および救急・集中
治療、産婦人科各領域の臨床診断例に関しては真菌学的
が検出された場合、あるいは
重症例では、MCFG 100 ∼ 150 mg /日、VRCZ 投与へ
の変更が必要である[ BⅡ]
。
アゾ ール 系 薬 投 与 で 効 果 が 認 められない 場 合は、
MCFG あるいは L-AMB 2.5 mg / kg /日を選択する。難
根拠は必ずしも問わない。
具体的には、C 外科領域フローチャートのミニ解説を
治例、血圧低下例など、VRCZ 6.0 mg / kg /回 初日 1
日 2 回、2 日目より 4.0 mg / kg /回 1 日 2 回、L-AMB
参照( 17 頁)
。
を選択する。VRCZ では特有の副作用として高頻度に一
[治療]
過性の視覚障害が発現すること、日本人においては poor
a. 経験的治療( empiric therapy )
metabolizer の頻度が高いことが知られている。また、
( Fos )FLCZ 400∼800 mg/日 2 日間が第一選択薬と
ITCZ と VRCZ の静注用製剤では溶解性を高めるために
なり、維持用量で最低 2 週間の投与を行う[ AⅢ]
。経口
添加しているβ-シクロデキストリンが腎機能に影響する
投与が可能であれば FLCZ、または ITCZ を選択する。
ことが報告されている。
7 日間の経験的治療で効果が得られない場合には、真
菌感染以外の原因を再度検索するが、
、
などのアゾール低感受性菌による感染の可能
性も疑い、第二選択薬として MCFG への変更も選択肢
となる[ AⅢ]
。MCFG はアゾール系薬と交差耐性は認
真菌血症の場合には、培養陰性化から最低 14 日間の
治療が必要である。β-D-グルカンは治療終了の指標と
しては適切でない。
c. 予防投与
救急・集中治療領域での抗真菌薬の予防投与について
められていないが、クリプトコックス症には無効である。
一定の見解はなく、重症熱傷や重症膵炎などの一部の病
経験的治療は重要であるが、早期の投与により副作
態では有用との報告があるが、一般には行わない。もし、
用、医療経済、耐性獲得が問題となる。医療経済性、予
予防的抗真菌薬投与を考慮するならば、これまでの報告
後からの検討では( Fos )FLCZ が効果的である。キャン
ではカンジダ血症のリスクファクターのある患者で、colo-
ディン系薬(カスポファンギン[わが国未承認]
)の有効
nization 指数(培養陽性数/提出検体部位数、遺伝子的に
率は最も高い結果であったが、医療経済性におけるメリ
も同一種)が 0.5 以上の場合に、カンジダ血症あるいは重
ットは乏しいことが報告されている。
症カンジダ症の発症率が極めて高いとされている(解説
治療開始後は経時的にβ-D-グルカン測定などの血清
93 頁 図 1 参照)
。また、集中治療室( ICU )で人工呼吸
診断や監視培養( 2 回/週)を行う。
器管理を行い、選択的消化管内殺菌( selective digestive
b. 標的治療( targeted therapy )
tract decontamination;SDD )を施行している患者で、
カンジダ属では第一選択薬として、F-FLCZ 800 mg/
抗真菌薬(FLCZ 100 mg/日)の予防投与群と非投与群を
日 2 日間を静脈投与する[ AⅠ]
。維持用量を 7∼10 日
比較検討した結果、1 週間後の colonization 指数に明ら
程度投与し、症状や炎症所見が改善後、14 日を目処に
かな有意差を認め、非投与群では 90 %の症例でカンジ
中止とする。
ダ血症が発症したと報告されている。
19
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
E
臓器移植領域フローチャート
➡解説 95 ∼ 102 頁
カンジダ症(カンジダ血症・播種性カンジダ症)
A.どのような患者がハイリスクか▶1
移 植 前: 緊急・再移植、全身状態不良(ICU 滞在、
、ステロイドまたは抗菌薬
低栄養、腎障害)
※
▶2
長期投与 、気道・消化管・尿路培養陽性 、
※▶3
、腎移植後膵移植、補助
真菌症治療歴
※
※▶ 4
心臓後心移植 、劇症肝炎肝移植
移植手術:長時間手術(≧ 12 時間)
、大量輸血、ドナー
※
真菌症疑い 、腸管ドレナージの膵移植、感
※
染性肺疾患の片肺移植
移 植 後: グラフト機能不全、長期 ICU 滞在、長期気
腎障害/血液透析、
インス
管内挿管、
再手術、
※
リン治療、高用量ステロイド 、白血球・血小
板減少、長期/多剤(≧ 3 剤)の抗菌薬投与、
▶2
気道・消化管・尿路培養陽性 、高度・慢
性拒絶、CMV 感染症、膵移植における膵炎
予防投与
# F-FLCZ は静注可、FLCZ は経口投与と点滴静注
経験的治療
真菌症疑い例
臨床症状: 発熱(3 日間以上の広域抗菌薬不応、非定型
▶5
熱型あり )
▶6
画像診断: 胸部 X 線、胸部 CT 、腹部 CT/MRI、腹部
超音波/内視鏡、眼底検査
一般検査所見:CRP ↑、WBC ↑(どちらも必発でない)
▶7
血清診断:β-D-グルカン 、カンジダ抗原
▶9
遺伝子診断:血中 DNA
真菌学的検査: 血液培養、気管支肺胞洗浄液(BALF)
、
膿、髄液、腹水、監視培養(尿、便、
▶10
喀痰、咽頭、創など )
病理組織学的診断:無菌的検体での鏡検、すべての組織診
・
(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日(小児 7.0∼8.0 mg/
kg/日)1 日 1 回点滴静注(loading dose:400∼
#▶16
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日間)
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注
・AMPH-B 0.2∼0.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・L-AMB 1.0∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
標的治療
臨床診断例
▶8
*
[危険因子消失まで ]
* 経験的治療・標的治療においては、臨床症状軽快後、危険因
子の消失まで予防投与に準じた投与継続を行う
# F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
B.どのような場合に発症を疑うか
C.どのような検査を実施するか
[4 週あるいは危険因子消失まで]
・
(Fos)FLCZ 100∼200 mg/日(小児 5.0 mg/kg/
#
※
日)1 日 1 回点滴静注 あるいは経口投与
・ITCZ 内用液またはカプセル剤 100∼200 mg/日 1
日 1 回経口投与
・MCFG 50 mg/日 1 日 1 回点滴静注
※
・AMPH-B 0.2∼0.3 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
※
・L-AMB 1.0∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
確定診断例
*
[危険因子消失まで ]
第一選択薬
(小児 10.0∼12.0 mg/
・
(Fos)
FLCZ 200∼400 mg/日
kg/日)1 日 1 回点滴静注(loading dose:400∼
#▶16
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2 日間)
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注
第二選択薬
(loading dose:
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(維持用量)
初日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴静注
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・ITCZ 200 mg /日 1 日 1 回点滴静注( loading
§
dose:200 mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)
* 経験的治療・標的治療においては、臨床症状軽快後、危険因
子の消失まで予防投与に準じた投与継続を行う
#F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参照
臓器移植領域における深在性真菌症には無作為化臨床
▶6
単純 X 線写真上の死角、質的診断のために必須。
比較試験がほとんどなく、多くは一部の報告や専門家の
▶7
偽陽性因子を除外し、また病期による偽陰性にも留意。
意見に基づく[ C ]が、チャート内※については[ B ]
(一
▶8
測定法によって異なるが、感度・特異度をともに満
般的推奨)といってよい。
たす検査はない。
[診断(ハイリスクを含む)
]
▶9
・カンジダ症(カンジダ血症・播種性カンジダ症)
▶1
PCR の方法( primer、増幅条件など)にも留意が必
要な場合がある。
発症の危険因子は、複数存在した場合に予防的投与
▶10
の対象となるが、※については単独で予防投与の対
いわゆる不潔部位なら複数箇所をもってハイリスク
とする。
象となりうる。
・侵襲性アスペルギルス症
▶2
複数部位の場合は※。
▶11
同一施設内での発生状況に留意。
▶3
特に最近の標的治療あるいは不完全治療。
▶12
測定法による感度・特異度の優劣に留意。
▶4
特に移植前にステロイド投与が行われた場合。
▶13
不潔部位であっても単独部位でハイリスクとみなす。
▶5
発熱は必発ではなく、微熱/無熱の場合もあり。
20
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
E 臓器移植領域
侵襲性アスペルギルス症
予防投与
※▶17
A.どのような患者がハイリスクか▶1
カンジダ血症の危険因子に加え、改築・換気・給
▶11
※
水などの環境因子 、肺移植では副鼻腔炎 、
気管支縫合不全、囊胞性肺線維症における気
※
道培養陽性
B.どのような場合に発症を疑うか
▶5
臨床症状: 発熱 、胸痛、咳嗽、血痰、頭痛、
顔部痛
▶6
画像診断: 胸部 X 線、胸部 ・頭部 CT/MRI
一般検査所見:CRP ↑、WBC ↑(どちらも必
発でない)
†保険適用外
経験的治療
真菌症疑い例
▶21
臨床診断例
確定診断例
▶
・その他の真菌症
▶15
*
[危険因子消失まで ]
第一選択薬
(loading dose:初日のみ
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(維持用量)
6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴静注
第二選択薬
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注
・AMPH-B 1.0∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
± 5-FC 100 mg/kg/日 4 回に分けて経口投与
・L-AMB 5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・ITCZ 200 mg/日(維持用量)1 日 1 回点滴静注あるいは経口投
▶20
§
与 (loading dose:200 mg/回 1日 2 回点滴静注を 2 日間)
* 経験的治療・標的治療においては、臨床症状軽快後、危険因子の消失ま
で予防投与に準じた投与継続を行う
§ ITCZ 内用液は保険適用外、注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替え
については 58 頁参照
▶ 22
1.肺クリプトコックス症 14
▶
2.ニューモシスチス肺炎(PCP)15
▶14
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(維持用量)
(loading dose:初日のみ
¶▶19
6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴静注あるいは経口投与
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注
・AMPH-B 0.5∼1.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・ITCZ 200 mg/日(維持用量)1 日 1 回点滴静注あるいは経口投
▶20
§
与 (loading dose:200 mg/回 1日2 回点滴静注を 2 日間)
標的治療
▶7
血清診断: β -D-グルカン 、アスペルギル
▶12
ス抗原
▶9
遺伝子診断:血中 DNA
真菌学的検査: 気管支肺胞洗浄液(BALF)
、
喀痰、膿、髄液、血液、他の
▶13
監視培養
病理組織学的診断: 無菌的検体での鏡検、
すべての組織診
*
[危険因子消失まで ]
* 経験的治療・標的治療においては、臨床症状軽快後、危険因子の消失ま
で予防投与に準じた投与継続を行う
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行う(58 頁参照)
§ ITCZ 内用液は保険適用外、注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替え
については 58 頁参照
C.どのような検査を実施するか
その他の真菌症
[4 週あるいは危険因子消失まで]
局所性・AMPH-B 10∼15 mg/回を 1 日 1∼3 回吸入
†
▶18
全身性・ITCZ 内用液 またはカプセル剤 200 mg/日 1日1回経口投与
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回点滴静注
・AMPH-B 0.2∼0.3 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注
と
▶16
感受性である。
肺以外では中枢神経・皮膚・リンパ節・泌尿生殖器・
骨関節に発生。慢性期グラフト機能不全例に多い。
・侵襲性アスペルギルス症
β-D-グルカンは上昇しない。
▶17
AMPH-B 吸入は肺移植ハイリスク患者で気管支吻合
部の治癒まで行う。
ST 合剤の予防投与で発生は激減した。肝移植症例
では ST 合剤による肝障害頻度が高い。
は( Fos )FLCZ に低
▶18
気道からアスペルギルス属が分離されれば、さらに
ITCZ の内服期間を 4∼6 カ月に推奨する意見あり
[C]
。
[治療(予防を含む)
]
▶19
VRCZ は経口投与でも bioavailability は静注と同等であ
る。また用量依存的に肝酵素が上昇する場合があり、肝
◇予防・治療を通じて、可能であればステロイドを中心
移植などでは拒絶など他の要因の除外が必要となる。
とする免疫抑制薬を減量する。
◇菌交代現象是正のために広域抗菌薬中止を考慮する。
▶20
ITCZ 内服は初期治療には用いない。
◇アゾール系薬と免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬)
▶21
併用療法については解説参照。
との相互作用に注意する(血中濃度の上昇)
。
◇各薬剤の臓器毒性や排泄経路を考慮して選択する。
・その他の真菌症
▶22
肺クリプトコックス症は、B-1 呼吸器内科領域( 8 頁/
・カンジダ症(カンジダ血症・播種性カンジダ症)
77 頁)を参照。ニューモシスチス肺炎は、解説および
◇検出菌種を同定し、スペクトルを参考に抗真菌薬を選
J HIV 領域(32 頁/121 頁)を参照。
択する(解説参照)
。
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
21
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
F
産婦人科領域フローチャート
➡解説 103 ∼ 108 頁
カンジダ症(カンジダ血症、腹腔内感染、骨盤内感染、子宮内感染、絨毛膜羊膜炎など)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・担癌患者(腟癌・子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌・腹膜癌・絨毛癌など)
・人工呼吸器> 48 時間
・ICU 在室> 7 日
・腎不全
・高 APACHE Ⅱスコア
・糖尿病
・血液透析患者
・高カロリー輸液
・中心静脈カテーテル留置
・免疫抑制薬(投与終了から 30 日以内)
・ステロイド> 3 週間
・カンジダ症(腟・外陰炎)発症例(特に担癌患者、稀に妊婦では上行性感染
や産道感染をきたすことがあるので注意)
・その他の重篤な疾患の合併
*1
B.どのような場合に発症を疑うか
ハイリスク患者で
抗菌薬(≧ 3 種類、>連続 7 日)投与後も発
*1
熱や炎症所見が持続する場合
真菌症疑い例
β-D-グルカン陽性[AⅢ]
または
カンジダ colonization 複数箇
所[AⅢ]
臨床診断例
C.どのような検査を実施するか
血清診断: β-D-グルカン
真菌学的検査
血液培養:末梢静脈血を 1 日 2 回 2 日間培養
他の部位の監視培養≧ 3 カ所(喀痰、ドレー
ン、創、尿、腟分泌物、便等)
・CT 等を施行し他の原因を除外、膿瘍形成例
では穿刺ドレナージ
・視覚異常例では眼底検査
・真菌性眼内炎
・中心静脈カテーテル培養
陽性で抜去後も 72 時間発
熱継続
*2
確定診断例
血液培養陽性
または
膿瘍穿刺液からカンジダ属
を証明
*1 中心静脈カテーテル留置例では抜去[AⅡ]
*2 眼底検査で真菌性眼内炎のチェック[AⅢ]
*3 リスクファクターの一つである表在性真菌症(カンジダ腟・外陰炎)の治療;臨床症状がある場
合のみ、上行性感染予防の目的で行う
*4 抗真菌薬治療が無効で、血清β -D- グルカン値が高値を持続する場合、標的治療の第二選択薬
を使用
*5 (Fos)FLCZ と VRCZ の静注薬から経口薬への切り替えについては 105 頁参照
*6 妊婦および授乳婦に抗真菌薬を投与する場合:抗真菌薬の投与は、安全性が確立されておらず、
治療上の有益性が危険を上回ると判断された場合にのみ投与すべきであるが、母体のみならず
胎児への影響も考慮し、インフォームドコンセントを得て使用する
22
産婦人科領域ではすべての患者を対
*3
象に行われるものはない
経験的治療*4、5
・(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1
日 1 回点滴静注(loading dose:
400∼800 mg/日 1 日 1 回点滴静
♯
注を 2 日間)[AⅢ]
・MCFG 100mg/日 1 日 1 回点滴静
注[AⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
標的治療*5、6
■カンジダ属
・(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回
点滴静注(loading dose:
800 mg/日 1 日 1 回点滴静注を 2
♯
日間)[AⅠ]
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回
点滴静注[AⅠ]
■C. glabrata、C. krusei
・MCFG 100∼150 mg/日 1 日 1 回
点滴静注[BⅡ]
・ VRCZ 4.0 mg /kg /回( loading
dose:初日のみ 6.0 mg/kg/回)1
日 2 回点滴静注[BⅡ]
■難治(第二選択薬)
血圧低下
・ VRCZ 4.0 mg /kg /回( loading
dose:初日のみ 6.0 mg/kg/回)1
日 2 回点滴静注[BⅠ]
・L-AMB 2.5 mg/kg/日 1 日 1 回点
滴静注[CⅠ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注
(loading dose:200 mg/回 1 日 2
§
回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切
り替えについては 58 頁参照
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
F 産婦人科領域
カンジダ症
[診断]
が FLCZ や MCFG と比較し高率となるため第二選択薬
① 真菌性眼内炎の眼底鏡による診断など、確定診断で
とする。しかし血圧低下など病態が不安定な症例では第
はないが臨床的にカンジダ症の可能性が極めて高い
一選択薬として使用してもよい。
場合を臨床診断例と呼ぶ。なお、外科および救急・
b. 経験的治療
集中治療、産婦人科各領域の臨床診断例に関しては
非好中球減少患者の経験的治療では、FLCZ[ AⅢ]と
真菌学的根拠は必ずしも問わない。
MCFG[ AⅢ]の両者を第一選択薬として推奨する。
② 複数のリスクファクターを有し、他の発熱の原因がな
c. 予防投与
い抗菌薬不応性発熱患者において、カンジダ coloni-
外科領域でもハイリスク患者への抗真菌薬予防投与に
zation(複数箇所が望ましい)の証明[ AⅢ]または血
よるカンジダ感染の減少が報告されているが、現状では
清β-D-グルカン陽性[ AⅢ]を経験的治療開始基準と
一般には推奨しない[ CⅡ]
。
する。
・リスクファクターの一つである表在性真菌症(カンジ
③ 上記②に示した基準に満たない抗菌薬不応性発熱患
ダ腟・外陰炎)の治療
者においては、カンジダ監視培養( 3 カ所以上)
、血
臨床症状がある場合のみ、上行性感染予防の目的で行
清β-D-グルカン値の測定を週 1 回実施し再評価を行
う[ CⅢ]
。抗真菌腟錠や抗真菌薬塗布などによる局所療
う。
法、抗真菌経口薬による全身治療法があるが、妊婦の場
④ 担癌患者で術中腹水からカンジダ属が検出されただ
合は、FLCZ や ITCZ の内服は禁忌であるため、妊娠中
は局所療法が基本である。局所療法としては、腟内を塩
けでは確定診断とはならない。
⑤ 術後抗菌薬不応性の発熱が続く場合、真菌による 3
化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキ
次性腹膜炎を疑い各種検査を実施する[ AⅢ]
。腹腔
シジン、ポビドンヨード、生理食塩水などで洗浄すると
内膿瘍からのカンジダ属検出例は確定診断とする。
同時に、抗真菌薬の局所療法としてクロトリマゾール、
⑥ 血液培養陽性例では、視力低下、霧視がない場合も
イソコナゾール、オキシコナゾールなどの抗真菌薬の腟
眼底検査を施行し、真菌性眼内炎を否定する必要が
錠を使用し、腟からの上行性感染経路を遮断する。
ある[ AⅢ]
。
・治療効果の判定
[治療]
5 日間以上抗真菌薬を投与して判定。炎症所見のほか、
カンジダ血症において中心静脈カテーテルが留置され
β-D-グルカンの推移が参考となる場合もある。
ている場合は、できるだけ早期に抜去する[ AⅡ]
。
・ 治療終了時期
a. 標的治療
標的治療では最終の血液培養陽性の証明から最低 2 週
カンジダ属による深在性真菌症に対する初回選択薬は
間投与。経験的治療ではデータ、症状が改善するまでと
FLCZ[AⅠ]
、MCFG[AⅠ]とする。
する。
に対しては第一選択薬として
F-FLCZ[ AⅠ]
、アゾール系薬使用の既往がある場合や
や
が分離された場合では MCFG
が第一選択薬となる[ BⅡ]
。
に対しては
F-FLCZ を選択する[ BⅢ]
。
L - AMB[ CⅠ]、FLCZ と AMPH -B の短期間併用
[ CⅠ]
、VRCZ[ BⅠ]は、非好中球減少患者におけるカ
ンジダ血症に対する有効性が証明されているが、副作用
・妊婦および授乳婦に抗真菌薬を投与する場合
抗真菌薬の投与は、安全性が確立されておらず、治療上の
有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ投与すべき
であるが、母体のみならず胎児への影響も考慮し、インフォー
ムドコンセントを得て使用する。特に、器官形成期にあたる妊
娠週以前の抗真菌薬の使用には投与の必要性の判断、インフ
ォームドコンセントには細心の注意を払う。妊娠中・授乳中は、
原則として単剤で治療を行い、新薬の使用は可能な限り避け
る。
23
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
G
小児科領域フローチャート
➡解説 109 ∼ 111 頁
カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
・新生児・乳児
・染色体異常
・免疫不全症
(特に慢性肉芽腫症)
・悪性腫瘍・白血病
予防投与
・長期にわたる抗菌薬使用
・ステロイド・免疫抑制薬の使用
・移植片対宿主症(GVHD)
・人工呼吸器・中心静脈カ
テーテルの装着
・FLCZ 3.0 ∼ 6.0 mg / kg /日 1日 1 回経口または静注
投与[BⅢ]
*
・ITCZ カプセル剤 4.0∼6.0 mg/kg/日(最大 200 mg/
日)1日 1 回経口投与[BⅡ]
*現在のところ、ITCZ のカプセル剤が推奨されているが、内用
液も今後有用となる可能性がある
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床所見: 抗菌薬不応性の発熱、咳嗽・痰、呼吸困難、多
呼吸、頭痛、不機嫌、哺乳力・食欲の低下、意
識レベル低下、低酸素血症、腹痛・頻回の下痢
一般検査所見: CRP ↑、WBC ↑、肺・肝機能異常、髄液細
胞数の増加
すりガラス状陰影の増加
画像診断: 胸部 X 線での楔形影、
経験的治療
真菌症疑い例
C.どのような検査を実施するか
血清診断: β-D-グルカン、カンジダ抗原
画像診断: 胸部 CT でびまん性陰影、consolidation
真菌学的検査: 無菌部位からの真菌培養(血液、髄液、胸
水、尿など)
病理組織学的診断:生検(肺・肝臓など)
・FLCZ 10.0 ∼12.0 mg/ kg /日(最大 400 mg/日)静注
投与[BⅢ]
*
・ITCZ 200 mg/日まで 1 日 1 回経口投与 [BⅢ]
・AMPH-B 0.25 mg/ kg /日 1日1 回点滴静注から開始
し、以後漸増し1.0 mg/kg/日まで増量可[BⅡ]
・MCFG 3.0 ∼ 6.0 mg/ kg /日(最大 300 mg/日)点
滴静注[BⅢ]
*現在のところ、ITCZ のカプセル剤が推奨されているが、内用
液も今後有用となる可能性がある
臨床診断例
確定診断例
標的治療
FLCZ 静注投与、AMPH-B 点滴静注、または MCFG
点滴静注:
経験的治療に準ずる
アスペルギルス症
A.どのような患者がハイリスクか
・新生児・乳児
・染色体異常
・免疫不全症
(特に慢性肉芽腫症)
・悪性腫瘍・白血病
予防投与
・長期にわたる抗菌薬使用
・ステロイド・免疫抑制薬の使用
・移植片対宿主症(GVHD)
・人工呼吸器・中心静脈カ
テーテルの装着
・ITCZ 4.0∼6.0 mg/kg/日
(最大 200 mg/日)1日 1 回
*
経口投与 [BⅡ]
*現在のところ、ITCZ のカプセル剤が推奨されているが、内用
液も今後有用となる可能性がある
経験的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床所見: 抗菌薬不応性の発熱、咳嗽・痰、呼吸困難、多
呼吸、頭痛、不機嫌、哺乳力・食欲の低下、意
識レベル低下、低酸素血症、腹痛・頻回の下痢
一般検査所見: CRP ↑、WBC ↑、肺・肝機能異常、髄液細
胞数の増加
画像診断: 胸部 X 線での楔形影、すりガラス状陰影の増加
真菌症疑い例
*現在のところ、ITCZ のカプセル剤が推奨されているが、内用
液も今後有用となる可能性がある
C.どのような検査を実施するか
血清診断: β-D-グルカン、ガラクトマンナン抗原 ELISA
画像診断:胸部 CT での halo sign、air-crescent sign
真菌学的検査: 無菌部位からの真菌培養(血液、髄液、胸
水、尿など)
病理組織学的診断:生検(肺・肝臓など)
24
・ITCZ 4.0∼6.0 mg/kg/日(最大 200 mg/日)
1 日 1
*
回経口投与 [BⅢ]
・AMPH-B 0.25 mg/ kg /日 1 日 1 回点滴静注から開
始し、以後できるだけ早期に漸増し 1.0 mg/kg/日
まで増量可[BⅡ]
1 日
・MCFG 3.0∼6.0 mg/kg/日(最大 300 mg/日)
1 回点滴静注[BⅢ]
臨床診断例
確定診断例
標的治療
・AMPH-B 点滴静注[BⅢ]
、重症例には MCFG 点滴
静注との併用[BⅢ]
・その他状況によって 5-FC を組み合わせる
・わが国における小児の保険適用は、MCFG と L-AMB のみである(2006 年 12 月現在) ・loading dose については 59 頁参照
G 小児科領域
小児科領域でよくみられる深在性真菌症として、アス
から、総合的に判断する。
ペルギルス症とカンジダ症があげられる。この二者は診
・カンジダ症
断面(リスクファクター、臨床症状、検査所見)では大
a.予防投与
きな差異がみられないが、治療に関しては使用薬剤など
内容が異なる。
[診断]
・リスクファクター
*
予防には FLCZ、または ITCZ(カプセル剤 )の経口
投与が行われる。また、推奨度は高くないが、AMPH-B
経口投与を行うこともある。
b.経験的治療
小児では新生児・乳児期における免疫能の未熟性、染
上記の予防投与を行っている患児が原因不明の発熱を
色体異常や免疫不全症を呈する小児の易感染性などが真
伴った際、治療が後手に回らないために、原因真菌の証
菌感染症の発症に関与している。近年、骨髄移植や抗癌
明が十分になされなくても血清診断および画像診断の結
薬をはじめとした白血病などに対する治療、放射線治療、
果で治療を行うことも少なくない。FLCZ 増量投与、
ステロイドや免疫抑制薬による治療などにより原病の予後
AMPH-B 点滴静注および MCFG 点滴静注が行われる。
が改善する一方、真菌感染症の患者は増加してきている。
c.標的治療
・臨床所見
血液培養、喀痰培養(気管痰培養)にて明らかに真菌
小児では呼吸困難、多呼吸、不機嫌、哺乳力・食欲の
が証明された際は深在性真菌症と診断し、治療を開始す
低下、意識レベル低下、低酸素血症、腹痛・頻回の下痢
る。経験的治療に準じて、FLCZ 増量投与、AMPH- B
などの徴候が診断の参考になることがある。血液や髄液
点滴静注または MCFG 点滴静注が行われる。
など無菌的な検体から真菌が分離された場合診断意義は
・アスペルギルス症
大きく、基礎疾患や異物の存在があり反復して真菌が分
a.予防投与
離される場合や抗菌薬に不応性の臨床症状がある場合に
*
予防には ITCZ 経口投与(カプセル剤 )が行われる。また、
は、深在性真菌感染症を疑う。診断は困難であることが
推奨度は高くないが、AMPH-B 経口投与および AMPH-B
多く、問診を含めた十分な経過観察を要する。
吸入療法を行うこともある。また原発性免疫不全症の一つで
・検査所見
ある慢性肉芽腫症では、アスペルギルス感染症が致命的に
真菌学的または病理組織学的診断:血液または喀痰培養
なることから予防的抗真菌薬投与の対象となっている。
にて塗抹標本の鏡検で真菌が同定されるが、菌量とともに
b.経験的治療
カンジダでは仮性菌糸、アスペルギルス症では菌糸性菌要
*
ITCZ 経口投与(カプセル剤 )
、AMPH-B 点滴静注お
素などの増殖型の真菌要素の診断的価値が高い。
よび MCFG 点滴静注が行われる。
画像診断:胸・腹部単純 X 線検査、腹部超音波検査、
c.標的治療
CT 検査(カンジダ症ではびまん性陰影、consolidation、
血液培養、喀痰培養にて明らかに真菌が証明された際
アスペルギルス症では halo sign、air-crescent sign )
、
は深在性真菌症と診断し、治療を開始する。経験的治療
MRI 検査などの画像所見で補助的に深在性真菌症が疑
に準じて、AMPH - B 点滴静注、あるいは重症例には
われる場合も少なくない。
MCFG 点滴静注との併用が行われる。
血清診断:補助診断法としてラテックス凝集法ないし
カンジテックやファンギテック G テスト(β-D-グルカン)
があるが、感度や特異度に差異があるためいくつかの検
*小児では現在のところ、ITCZ のカプセル剤で良好な使用成績が
認められているが、内用液も今後有用となる可能性がある。
査法を組み合わせて診断する。
[治療]
新生児・乳児期では肝・腎機能をはじめとする諸臓器
の未熟性がみられるため、抗真菌薬の投与は代謝・排泄
をつかさどる臓器に影響を与えうる。したがって小児科
領域での抗真菌薬の投与は、その有効性を考え、副作用
のモニタリングを確実に行う必要がある。治療薬の投与
期間については、臨床症状および検査所見( CRP、好中
球数など)
、β-D-グルカン値および画像所見の改善状態
・生後 2 週間以内の新生児では 72 時間毎、生後 2 ∼ 4 週間では
48 時間毎に投与。Ccr < 50 なら半量投与が好ましい。
・治療薬の投与期間については、臨床症状および検査所見
、β-D-グルカン値および画像所見の
(CRP、好中球数など)
改善状態から、総合的に判断する。
・推奨度は高くないが、予防的治療としてカンジダ症に AMPH
-B 経口投与(シロップを乳児 1∼2 mL/回、幼児 2∼3 mL/回、
、アスペルギル
学童 4∼6 mL/回を 1 日 2∼4 回食後に投与)
ス症に AMPH-B 経口投与および AMPH-B 吸入療法(50 mg
を蒸留水 10∼20 mL で溶解し、1 回 2∼4 mL を 1 日 2∼5 回吸
入)を行うこともある。
25
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
H
眼科領域フローチャート
➡解説 112 ∼ 117 頁
カンジダ眼内炎
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
※
・手術後
(特に腹部手術後) ・心肺大血管手術後
※
・臓器移植や悪性血液疾患 ・悪性腫瘍などの免疫機能低下例
※
・中心静脈カテーテル
・多発外傷
・ステロイド投与
・広範囲熱傷
・好中球減少
・糖尿病
・易感染宿主や免疫抑制状態
眼科領域では一般に行わない
真菌症
疑い例
B.どのような場合に発症を疑うか▶1
臨床診断例
C.どのような検査を実施するか
血清診断: β-D- グルカン(血中および硝子体液中)、
カンジダ抗原
遺伝子診断:血清中の真菌 DNA
真菌学的診断:血液培養、監視培養
遺伝子診断:硝子体中の真菌 DNA
真菌学的検査:前房・硝子体培養
病理組織学的診断: 硝子体を含む無菌的検体での鏡検、
組織診
担当科の治療方針に準じる
眼底を週 1 回経過観察し、治療方針を確定
標的治療
※
臨床症状: 抗菌薬不応性発熱 、飛蚊症、視力低下、
充血、眼痛
一般検査所見:CRP ↑、WBC ↑
①なし
眼科所見:
(網脈絡膜炎、
②疑い(所見はあるが、確定不可)
眼内炎)
③典型的所見あり
経験的治療
確定診断例
①抗真菌薬の全身投与
(Fos)FLCZ 400 mg/日 1 日 1 回点滴静注(重症
・
例では loading dose:800 mg/日 1 日 1 回点滴
#▶2
静注を 2 日間)
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回経口投与あるいは点滴
静注(loading dose:200 mg/回 1 日 2 回点滴
§
静注を 2 日間)
▶3
・MCFG 300 mg/日 1 日 1 回点滴静注
・VRCZ 150 ∼ 200 mg/回(loading dose:初日
¶
1 日 2 回経口投与 または、4.0
のみ 300 mg/回)
mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
kg/回)1 日 2 回点滴静注
・AMPH-B 0.5 ∼1.0 mg/ kg /日(維持用量)1 日 1
回点滴静注
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日(維持用量)1 日 1 回
点滴静注
・MCZ 400 mg/回 1 日 3∼4 回点滴静注
②硝子体手術
▶4
③硝子体内抗真菌薬注入
#F-FLCZ は静注可、FLCZ は点滴静注のみ
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについて
は 58 頁参照
¶ 体重による用量調整を行う(58 頁参照)
26
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
H 眼科領域
カンジダ眼内炎
カンジダ眼内炎については無作為化臨床比較試験はな
◇アゾール系抗真菌薬は最大投与量で治療を開始し、眼
く、多くは一部の報告や専門家の意見に基づく[ C ]が、
底所見や全身所見、データをみながら漸減する[ B ]
。
チャート内※については[ B ]
(一般的推奨度)といって
重症例では、下記のような抗真菌薬の併用療法も行わ
よい。
れることがある。
MCFG+FLCZ、 MCFG+ITCZ、FLCZ+5-FC、
[診断(ハイリスクを含む)
]
▶1
AMPH-B+FLCZ、AMPH-B+ITCZ、AMPH-B+
MCFG、AMPH-B+5-FC、VRCZ+カスポファンギ
解説にあるような典型的なカンジダ眼内炎の所見が
みられる場合、抗菌薬不応性発熱、白血球増多、
ン(わが国未承認)
CRP 上昇、β-D-グルカン上昇、カンジダ抗原陽性、
▶2
原因真菌が不明の場合の第一選択薬。
中心静脈カテーテルからの真菌の検出などは[ B ]と
▶3
眼内移行が悪いためか単独投与では眼底所見が速や
いってよい。
かに改善しないことがある。併用療法では有効とす
る報告が多い[ C ]
。速やかに改善しないことがある
[治療]
◇選択薬は各担当科における第一選択薬、第二選択薬に
準じる。
ため、最大用量が用いられる。
▶4
抗真菌薬の硝子体内注入による硝子体内予想濃度を
解説表 2( 116 頁)に示す。硝子体手術時に硝子体に
◇治療は網膜病変が完全に瘢痕化するまで続ける。硝子
注入して手術を終了するが、その他全身状態が悪く
体中に病巣が進展し、網膜硝子体界面病変を形成して
硝子体手術ができない症例や、硝子体手術後の再発
いる場合は硝子体への進展と網膜接線方向への進展が
などに対し行う。今後 MCFG と L-AMB の硝子体内
完全に退縮するまで継続する。全身状態の改善で治療
投与が期待される[ C ]
。
を中止してはいけない[ B ]
。
◇各薬剤の排泄経路や副作用以外に眼内移行、感受性を
考慮して選択する。全身投与した時の抗真菌薬の眼内
移行と真菌の感受性を解説の表 1( 115 頁)に示す。投
与量は最大量でないため、最大量の投与時は当然数値
は高くなる。
・真菌血症が一度でも検出された場合には眼科検査は必須で、
一度目の眼底検査で異常がみられない場合でも週 1 回、2 週
後まで眼底検査を行い、発症のないことを確かめる。退院前
の検査も推奨される。
・硝子体手術時の抗真菌薬眼内潅流液濃度
FLCZ
20μg/mL
MCZ
10μg/mL
AMPH-B 10μg/mL
27
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
I
耳鼻咽喉科領域フローチャート
➡解説 118 ∼ 120 頁
侵襲性副鼻腔アスペルギルス症
A.どのような患者がハイリスクか▶ 1
予防投与
耳鼻咽喉科領域では一般に行わない
・免疫抑制療法
・ステロイド投与
▶2
・臓器移植後
・血液悪性疾患
▶3
・非侵襲型副鼻腔真菌症罹患症例
B.どのような場合に発症を疑うか▶ 4
経験的治療
耳鼻咽喉科領域では一般に行わない
臨床症状: 血膿性鼻漏、頰部痛、頭痛、
視力障害
C.どのような検査を実施するか
▶5
鼻、副鼻腔内視鏡
▶6
画像診断 :副鼻腔 CT、MRI
血清診断:β-D-グルカン、ガラクトマンナン抗
原(ELISA)
▶7
真菌学的検査:鼻漏培養
▶8
病理組織学的診断:鼻、副鼻腔組織生検
標的治療
臨床診断例▶ 9
確定診断例▶ 10
原則として外科的切除(デブリドマン)を第一選択とし、併
▶11
せて抗真菌薬の全身投与を行う
‡
▶12
・AMPH-B 1.0∼1.5 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注 [BⅢ]
単独投与で効果不十分の場合、下記の併用[CⅢ]
▶13、
14
+ ITCZ 200∼400 mg/日 1 日 1 回カプセル剤投与
または
+ 5-FC 100 mg/kg/日 1 日 1 回経口投与
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初日のみ 6.0 mg/
▶15
kg/回)1 日 2 回点滴静注[CⅢ]
▶16
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静注[CⅢ]
・ITCZ 200 mg/日 1 日 1 回点滴静注(loading dose:200
§
▶17
mg/回 1 日 2 回点滴静注を 2 日間)[CⅢ]
‡ L-AMB 2.5∼5.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注でも可
§ ITCZ 注射薬の保険適用とカプセル剤への切り替えについては 58 頁参
照
28
・loading dose については 59 頁参照
I 耳鼻咽喉科領域
侵襲性副鼻腔アスペルギルス症
耳鼻咽喉科領域における真菌症は、外耳道真菌症に
代表されるように表在性真菌症がその多くを占める。深
の報告がある。
▶9
在性真菌症として注意を要するのは侵襲性副鼻腔アスペ
ルギルス症であるが、非常に稀な疾患であり、本疾患に
臨床診断例:画像所見および血清学的検査(β-D-グ
ルカン、ガラクトマンナン抗原[ ELISA ]
)
。
▶10
確定診断例:確定診断は、病理組織学的所見による。
対する無作為化臨床比較試験は皆無に等しい。したがっ
て多くは一部の報告や専門家の意見に基づく[ C ]
。
[診断]
▶1
[治療]
▶11
第一選択であり、必要に応じて眼窩内容摘出、頭蓋
多くの報告は immunocompromised host における発
内操作も含めた徹底的な郭清が考慮される。
症であるが、近年健常者での発症報告も散見される。
▶2
基礎疾患としては血液悪性疾患の報告が最多。
▶3
基礎疾患の治療前に副鼻腔真菌症の除外( CT )が推
確立した治療法はないが、全身状態が許せば手術が
▶12
抗真菌薬として選択順序を決めるほどの試験はない。
長い使用経験により薬剤の効果と副作用が明らかな
点からは AMPH-B を選択する。
奨されている。
▶4
悪性腫瘍に似た症状を呈する。
▶13
保険適用は 200 mg/日まで。
▶5
鼻腔内の粘膜色調の変化、肉芽腫性病変、乾酪様物
▶14
薬剤中止の時期、指標として確立されたものはない。
質。
▶15
VRCZ の有効例も報告されており、組織移行性に優
▶6
れる点から効果が期待できると考えられ、今後の検
副鼻腔 CT:石灰化を伴う骨破壊性の副鼻腔陰影(多
証が必要である。
くは片側性)
。
副鼻腔 MRI:内部に T1 強調画像で等∼低信号、T2
▶16
強調画像で著明な低信号領域を含む腫瘤性病変。
▶7
副鼻腔における真菌検出率は、健常者と副鼻腔炎患
者で差がないとの報告がある。
▶8
MCFG は安全性が高いことから、腎不全例などで使
用する。
▶17
ITCZ も有効性が期待されるが、今後の検証が必要
である。
中鼻甲介は安全で検出頻度の高い生検部位であると
29
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
J
HIV 領域フローチャート
➡解説 121 ∼ 124 頁
口腔咽頭カンジダ症・食道カンジダ症
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・CD4 リンパ球数の減少(< 200/μL)
HIV 領域では一般に行われない
経験的治療
第一選択薬
・FLCZ 100 mg/日 1 日 1 回経口投与 症状消失
まで[AⅠ]
・ITCZ 内用液またはカプセル剤 200 mg/日 1 日
1 回経口投与[AⅠ]
第二選択薬
¶
・VRCZ 200 mg/回 1 日 2 回経口投与 [BⅠ]
・MCFG 100∼150 mg/日 1日1回点滴静注[BⅠ]
B.どのような場合に発症を疑うか
臨床症状:口腔内の白苔、発赤、嚥下時痛
確定診断例
C.どのような検査を実施するか
真菌学的検査:
培養:口腔白苔
検査検体からの
真菌培養
¶ 体重による用量調整を行う(58 頁参照)
標的治療
経験的治療と同じ
クリプトコックス脳髄膜炎
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
HIV 領域では一般に行われない
・CD4 リンパ球数の減少(< 200/μL)
B.どのような場合に発症を疑うか
経験的治療
臨床症状: 発熱、頭痛、髄膜刺激症状、痙攣、
意識障害
HIV 領域では一般に行われない
標的治療
C.どのような検査を実施するか
血清診断:血清や髄液のクリプトコックス抗原
真菌学的検査:
髄液鏡検:墨汁法
培養:髄液
確定診断例
導入・地固め
第一選択薬
‡
・AMPH-B 0.7mg/kg/日 1日1回点滴静注
+ 5-FC 経口投与 25 mg/kg/回 1 日 4 回を 2
週間で導入
その後(Fos)FLCZ 400 mg/日 1日 1回点滴
静注(loading dose:800 mg/日 1 日 1 回点
♯
滴静注を 2 日間) 8 週間地固め[AⅠ]
第二選択薬
‡
・AMPH-B 0.7 mg/kg/日 1日1回点滴静注
+ 5-FC 経口投与 25 mg/kg/回 1 日 4 回を 6
∼10 週間[BⅠ]
維持療法
・
(Fos)FLCZ 200∼400 mg/日 1日 1 回点滴
♯
静注あるいは経口投与で維持 [AⅠ]
†
・ITCZ 内用液 あるいはカプセル剤 200 mg/
日 1日 1 回経口投与で維持[BⅠ]
‡ L-AMB 4.0 mg/kg/日 1 日 1 回点滴静注、ただし症状に
より 6.0 mg/kg/日まで増量可
♯F-FLCZ は静注可、FLCZ は経口投与と点滴静注
†保険適用外(58 頁参照)
30
・
(Fos)FLCZ は、F-FLCZ と FLCZ 両薬剤を意味する ・loading dose については 59 頁参照
J HIV 領域
口腔咽頭カンジダ症・
食道カンジダ症
クリプトコックス脳髄膜炎
[診断]
[診断]
粘膜カンジダ症は HIV 感染患者の最も罹患率の高い
CD4 リンパ球数が減少している HIV 陽性患者が、頭
日和見感染症であり、CD4 リンパ球数が 200/μL 未満で
痛や発熱、意識障害、髄膜刺激症状などの中枢神経系感
は、しばしば最初に発症する。HIV 陽性患者では、口腔
染症が疑われる症候を呈した場合には、クリプトコック
内の白苔をみれば口腔咽頭カンジダ症の臨床診断として
ス脳髄膜炎の鑑別が必要である。本症は致死的な感染症
治療を開始する。口腔咽頭カンジダ症を伴う患者が嚥下
であるが、初期は明らかな脳髄膜炎の症状はなく、発熱、
困難や胸部不快感を訴える場合、食道カンジダ症として
頭痛のみのことが多い点に注意する。また、ほとんどの
経験的治療を行う。
症例では肺病変は認めない。したがって、積極的に髄液
検査を行うべきである。細胞数などの一般的な髄液所見
[治療]
が正常な場合もしばしばあり、クリプトコックス抗原(グ
口腔咽頭カンジダ症は、白苔をみれば臨床的に診断し
ルクロノキシロマンナン)の検出が極めて有用である。
FLCZ 100 mg∼/日もしくは、ITCZ 内用液 200 mg/日
逆にクリプトコックス抗原が陰性であれば本疾患をほぼ
で治療する。食道カンジダ症は、内視鏡で病変がみられ
否定できるため、疑う症例には髄液のグルクロノキシロ
れば臨床診断例となるが、通常は内視鏡検査をせずに経
マンナン抗原を最初に検査すべきである。
験的治療を行う。本症は一旦改善しても、CD4 リンパ球
数が回復するまでしばしば再発性である点が HIV 陽性
[治療]
患者の特徴である。アゾール系抗真菌薬投与を繰り返す
初期治療として AMPH-B あるいは L-AMB を含む導
うちに、アゾール耐性化やアゾール系薬に感受性の低い
入療法を行い、引き続き( Fos )FLCZ による地固め療法
や
が原因真菌となり難治性
となる。アゾール系抗真菌薬に抵抗性になれば、粘膜カ
を行うのが一般的である。その後も、生涯にわたって
( Fos )FLCZ や ITCZ による維持療法が必要である。
ンジダ症であっても AMPH- B や MCFG の点滴静注が
必要な場合もある。HAART 療法により、免疫能の改善
を図ることが最も重要である。
31
第 1 章 深在性真菌症の診断と治療のフローチャート
J
HIV 領域フローチャート
➡解説 121 ∼ 124 頁
アスペルギルス症
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
・CD4 リンパ球数の減少(< 50/μL)
・白血球減少症の既往
HIV 領域では一般に行われない
経験的治療
B.どのような場合に発症を疑うか
真菌症疑い例
臨床症状:不明熱
画像診断:胸部 X 線、CT、MRI など
臨床診断例
確定診断例
C.どのような検査を実施するか
血清診断: β -D-グルカン、ガラクトマンナン抗
原(ELISA)
真菌学的検査:喀痰、気管支肺胞洗浄液(BALF)
の鏡検と培養
病理組織学的診断:肺生検
検査検体からの真菌
培養
もしくは
病理組織学的検査で
確認、
ガラクトマンナン抗
原 ELISA 陽性
第一選択薬
・VRCZ 4.0 mg/kg/回(loading dose:初
日のみ 6.0 mg/kg/回)1 日 2 回点滴静注あ
¶
るいは経口投与 症状消失まで [AⅠ]
第二選択薬
・L-AMB 2.5∼5.0 mg/日 1 日 1 回点滴静
注[BⅡ]
・MCFG 150∼300 mg/日 1 日 1 回点滴静
注[BⅡ]
¶ VRCZ 経口投与の場合、体重による用量調整を行
う(58 頁参照)
標的治療
経験的治療と同じ
ニューモシスチス肺炎(PCP)
A.どのような患者がハイリスクか
予防投与
ST 合剤 1 錠/日 1日 1 回経口投与[AⅠ]
・CD4 リンパ球数の減少(< 200/μL)
B.どのような場合に発症を疑うか
経験的治療
HIV 領域では一般に行われない
臨床症状: 発熱、乾性咳嗽、呼吸困難、低酸素
血症
画像診断:胸部 X 線、CT など
C.どのような検査を実施するか
血清診断:β-D- グルカン
、喀痰
遺伝子診断: 気管支肺胞洗浄液(BALF)
のニューモシスチス DNA
真菌学的検査:BALF、喀痰の鏡検
病理組織学的診断:肺生検
臨床診断例
確定診断例
喀痰、BALF の染色で
ニューモシスチス
もしくは DNA 検出
標的治療
第一選択薬
*
・ST 合剤 4 錠/回 1日 3 回経口投与 3 週間
[AⅠ]
第二選択薬
・ペンタミジン 3.0∼4.0 mg/kg/日 1 日 1
回点滴静注 3 週間[BⅠ]
* ST 合剤アレルギーの場合には、右頁のプロトコー
ルに従い脱感作を行う
32
・loading dose については 59 頁参照
J HIV 領域
アスペルギルス症
[診断]
アスペルギルス症は好中球機能低下が起こる状態で発
ニューモシスチス肺炎(PCP)
[診断]
ニューモシスチス肺炎(
pneu-
症するため、HIV 患者では稀であり、極めて末期に合併
monia;PCP )は HIV 患者において非常に罹患率の高い
しうる重篤な疾患である。発症者は、通常種々の原因
疾患であり、AIDS 患者の 40 %は PCP で発症する。治
( HIV 感染自体あるいは薬剤による骨髄抑制)による好
療の遅れは致死的となるため、その発症頻度とも併せ、
中球減少を伴っていることが多い。しかし CD4 リンパ
最も重要な真菌感染症といってよい。CD4 リンパ球数が
球数が 50/μL 以下で発症することが普通であり、HIV
200/μL 以下になると発症の可能性があるが、通常は
感染自体も独立したリスクファクターであると考えられ
100/μL 以下で発症する。胸部 X 線ではすりガラス陰影
ている。肺炎や脳膿瘍として発症することが多い。血清
を呈し、低酸素血症を呈する。非 HIV 患者の PCP と比
や気管支肺胞洗浄液( bronchoalveolar lavage fluid;
較すると菌量が多く、β-D-グルカンも高値を示しやす
BALF )のガラクトマンナン抗原 ELISA 陽性や、喀痰や
いが、陰影の程度に比し低酸素血症は軽度である。PCP
鼻腔培養からアスペルギルスが検出されれば臨床診断例
が疑われる場合、気管支肺胞洗浄( bronchoalveolar
として治療の適応と考えてよい。
lavage;BAL )
を施行し菌体を証明し、治療を開始する。
[治療]
治療には VRCZ を用いるが、無効な場合や副作用、
[治療]
PCP の治療は薬剤の副作用が高頻度にみられる。治
薬剤相互作用(併用禁忌の AIDS 治療薬など)がある場
療は ST 合剤(トリメトプリムとして 15∼20 mg/kg を目
合、L- AMB や MCFG などを使用する。使用法につい
安に 3 回に分けて投与)が第一選択薬であるが、発疹や
ては、A 血液疾患領域( 4 頁/ 62 頁)や B-1 呼吸器内
発熱などの副作用発現が高率であり、約 50 %の例にお
科領域( 6 頁/ 77 頁)を参照。
いて治療終了まで継続できない。しかし、ST 合剤に対
し過敏反応を呈した場合でも脱感作により 8 割以上が経
口投与可能となるため、一度は試みるべきである。第二
選択薬であるペンタミジンも副作用発現率が高く( 50
%)
、しかも低血圧や低血糖など重篤なものが多い。
ST 合剤脱感作プロトコール
Day
ST 合剤投与量(g)
朝
夕
0.01
1
0.005
2
0.02
0.04
3
0.1
0.2
4
0.4
0.8
5
1.0
(1.0)
発赤等が認められた場合には、その投与量を増やさずに軽快す
るまで継続、軽快後増量
33
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