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非量産小寸法部品の無人連続 MC 加工 ビジョン
講演要旨 平成 23 年 5 月 27 日 生産加工研究会 非量産小寸法部品の無人連続 MC 加工 ビジョンシステムの開発 西島株式会社 技術部 柴田 雅章 1. はじめに 中形(寸法 150mm 以上 1m 以下)部品の MC 加工には、2 次元 CAM システムとスケジ ューリングシステムの導入に成功してしかるべき効果が認められたが、小物部 品(寸法 20mm 以上 150mm 未満)の MC 加工現場への適用には踏み切れないで いた。 図 1 非量産小寸法部品の数例 1 その主な理由は小物部品の場合、一工程の加工時間が短いことに加えて製作す べき部品点数が膨大な数にのぼり、CAM システムといえども全ての NC プログラ ムの作成には対応できそうもないと考えられていたからであった。しかし実際 は、組み立て現場では図 1 に見るように多様な小寸法部品が必要とされており、 多くの機械メーカでは、それらは内製せず外注によって調達している種類の部 品である。 一方、量産工場であれば専用工作機械を用意して、素材の取り付け取り外しか ら完全に無人化した設備によって連続無人加工が行われている。 受注生産を基調とする非量産機械メーカにおいては、小寸法部品の連続無人加 工は未踏の領域であるといっても過言ではない。 しかしながら非量産小寸法部品といえども企業の生き残りのためには、連続無 人加工を実現して、飛躍的な生産性向上を図るしか将来への路はないものと考 えられる。 将来への展望という意味をこめてビジョンシステムと名づけた新 加工システムの開発に踏み切ったのはぼ 5 年前のことであった。 2. 基幹技術 飛躍的な生産性向上を達成するキーポイントは、夜間の連続無人加 工と、昼間の作業にあっては段取り時間の短縮である。 非量産であるから多様な形状の工作物があり、その一つずつについ て加工精度の要求されている箇所を考慮して、姿勢で保持具カート リッジに取り付けるかを見極め、貫通穴の加工がある場合に工作物 の奥にスペーサを入れる処置、精確な位置決め、十分強固な把持締 め付けなど、作業者の技能に依存する要因が重要である. このため、ビジョンシステムは基本原理として、工作物の取り付け 取り外しは作業者が行うこととする。システムの最も重要なねらい どころは、この取り付け取り外し作業を出来るだけ短時間で精確に 行えるよう、作業者を支援するコンピュータシステムを開発するこ とにある。 そのためにはまず、どのような保持具を用いるかが一つの重要な要 因である。 2 2.1 工作物の保持技術 〔くさび効果による締め付け〕最小寸法 20mm までの小寸法部品で、 素材が鋼である場合、万力タイプの取り付け具では把持力が不足し、 切削加工中に工作物が滑ってしまうことがしばしば起こる。このた め楔(くさび)の効果を利用して強力に締め付ける保持具を使うこ とが必要である。 〔3 面加工の原則〕 なるべく少ない工程で、部品を完成させるた めに、加工機械には横型マシニングセンタ(MC)を使い、テーブルの 回転(B 軸)割り出しによって、把持した工作物の正面と左右両面 合わせて三面の加工を一つの工程で行うことを基本とする。直方体 の工作物の場合、周囲六面の全てを、三面加工の工程を 2 回繰り返 せば加工することが出来る。基本的には、第一工程は三面の面加工 のみ(成型加工と呼ぶ)を行う。これは、もし形状加工まで行うと、 第一工程で加工した三面が第二工程では取り付け面として使用され、 残りの三面の表面が未加工であるため、精確な位置に工作物を取り 付けることが困難となるためである。残りの三面を加工する第二工 程においては面加工の後、穴形状、ミリング形状、あるいは曲線の 形状加工を行う。第一工程で面加工した三面で形状加工を必要とす る場合には、第二工程で加工した三面を取り付け面として、第 3 工 程により形状加工を行う。 いずれの工程であっても、90 度以外の 角度に B 軸を割り出して面加工することにより、任意角度の面の加 工を行うことができる。 〔カートリッジタイプの工作物保持具〕一工程で三面加工を行うた めには、工作物を把持する部分の幅は、工作物の幅よりは小さくな くてはならない。20mm-150mm の寸法範囲に対応するには、取り付け 幅の異なる多寸法の工作物保持 具を用意することが必要である。取り付け幅は 100,80,65,52,40,34,28,24,20,16 の合計 10 種類とした。 全ての工作物保持具を、加工パレットに取り付けるあるいは取り外 ずす動作は、全て自動マテハンで行うことができるように互換性の あるカートリッジタイプの取り付け方式とする。図 2 に示すような 保持具を設計し、各種取り付け幅のものをそれぞれ多数製作した。 3 図 2 カートリッジタイプの工作物保持具 長さ 350mm 工作物を取り付けて準備された多数の保持具カートリッジは、図 3 に見るように一旦ストッカー(小型立体倉庫)に収納され、加工の順 番が来ると図 4 に見るような自動マテハン装置により取り出されて 加工パレットに搭載され、図 5 に見るように横型 MC の加工領域に入 り加工が行われる。 4 図 3 保持具カートリッジを収納するストッカー 5 図 4 保持具カートリッジをストッカーから加工機械(横型 MC) に移送する自動マテハン装置 6 図 5 横型 MC の加工領域で加工中の 保持具カートリッジと工作物 2.2 コンピュータによる作業者支援 ビジョンシステムにより、高い労働生産性を達成するための鍵は、 工作物の取り付け取り外しを行う作業者が、できるだけ短時間でそ の作業を行うことが出来るよう、コンピュータシステムを用いて支 援することにある。 このために開発したシステムは、図 6 に示すように、次の 4 台のコ ンピュータからなっている。 A. B. C. D. CAM スケジューリングコンピュータ アップリケーションサーバコンピュータ 段取りコンピュータ NC プログラムサーバコンピュータ 7 MC CAM/スケジューリング コンピュウタ CAM/Scheduling Computer NC制御 PMC CAM 作業者 NC プログラム サーバ PC 加工パレット アプリケーショ ンサーバコン ピュータ メモリー読み 出し/書き込み カートリッジローダ アンローダ PLC 段取りコンピュータ メモリー 読み出し 段取り 作業者 スタッカ クレーン 立体倉庫 段取り台 メモリー 読み 出し/ 書き込 み 図 6 コンピュータシステムの概要 このうち、B のアプリケーションサーバコンピュータは、他の 3 台 のコンピュータならびに、マテハン装置の動作制御を行う PLC(プ ログラマブルロジックコントローラ、本邦ではよくシーケンサーと 呼ばれる)の相互間の、情報通信をつかさどるパソコンである。 〔C 段取りコンピュータによる作業者の支援〕段取りコンピュー タは図 7 に示すように 4 台のモニター画面で必要なデータを表示し、 作業者の意思決定に従って、自動マテハン装置の動作制御を行う。 左上のモニターには、加工すべき部品のスケジュール表が示されて おり、作業者はその中から次にどの工作物の取り付けを行うかを決 定するために、いずれかの部品を仮りに選ぶ。 右上のモニターに は仮りに選んだ部品の CAM 図面が表示され、左下のモニターには指 示文が右下の画面にはその部品の取り付け指示情報がデータ表示さ れている。 8 図 7 作業者へのデータ表示と作業指示画面 作業者が次に段取りを行う部品を選び終えて段取り開始の意思決定 を行うと、ソフトウェアは必要な保持具カートリッジの番号を自動 マテハン装置に転送し、自動マテハン装置はそのカートリッジをス トッカーから取り出して作業者の手元に運び出して来る。 作業者が工作物の取り付け作業を終えると、再び自動マテハン装置 がそのカートリッジをストッカーに収納する。 当システムの扱うような非量産小寸法部品では、一般的に取り付け 段取りに加工時間とほぼ同じ時間を要するとされているが、ビジョ ンシステムでは段取りに要する時間を極小にするようコンピュータ システムが支援を行うので、取り付け段取りに要する時間は、NC プ ログラムの最終作成と確認の時間を入れても約 3 分、加工済みの工 作物の取り外しを入れても約 5 分で終了している。 9 このようなコンピュータシステムの開発によって、段取りを担当す る作業者は、一日 8 時間の所定時間の間に、マシニングセンターを 一日 24 時間連続稼動させることが出来るだけの多数の工作物の加 工準備を行い、夜間の無人連続加工運転に備えることができるよう になった。 〔C NC プログラムサーバコンピュータ〕段取りコンピュータ上で 最終的に作成し作業者が確認した NC プログラムは、 図 6 の上方に 示した NC プログラムサーバコンピュータ内に保存される。 この コンピュータだけは、夜間無人運転中も動作を続け、これから MC の加工テーブルに入ろうとする加工パレット上のカートリッジから RFID 装置によって読み出されたカートリッジ番号に対応する NC プ ログラムを、MC の動作を制御する NC 制御 PMC 装置に転送すること によって、次々と多数の工作物の無人加工を行う。 2.3 RFID 個体識別 図 8 保持具カートリッジの端面につけた、IC チップと、それに 非接触で対向する書き込み読み取りヘッド 10 電波による個体識別(RFID と呼ばれている)を、ビジョンシステムに おいては、工作物を取り付ける保持具であるカートリッジに応用す る。全てのカートリッジに夫々、図 8 に示すように IC チップを取り 付け、要所要所でデータの書き込みあるいは読み出しを行う。 カートリッジに特有な、次のデータのみはカートリッジが製作され たときに書き込みを行っておく。 1) カートリッジ番号 2) カートリッジの工作物原点データ 段取り作業者が、段取りを行う作業を終了し、次に NC プログラム の最終作成が終了した時に、以下の 3)-9)のデータ一式が段取りコ ンピュータによって自動的に作成され、カートリッジ上のメモリー 装置に自動的に記入される。 3) 工作物原点(WPO)シフトデータ(工作物とカートリッジの間に、 スペーサを挟む場合、X,Y,Z 方向に挟むスペーサそれぞれの厚 さ) 4) 工程番号=製品番号(5 桁)、アイテム番号(3 桁)、部品番号(3 桁)、工程順番号(2 桁) 工程順番号 01 は素材、工程番号 02 は第 2 工程終了 5) 材料コード M 磁性材料 R 非磁性材料 6) NC プログラムが作成された時に指定されたカートリッジの形 式番号(保持具番号と同じ) 工作物を保持具カートリッジに取り付ける方向のデータ。 7) 角度ゼロの面の名称 (上、下、右、左、前、後面のいずれか 一つ)。 11 8) 取り付け原面(下向きに取り付ける面)の名称 (上、下、右、 左、前、後面のいずれか一つ)。 9) 検証結果番号 デフォルト設定は”1” “1”加工可 NC プログラムが MC にアップロードされる直前に NC プログラ ムサーバパソコンによる検証結果が加工不可の場合には、デ フォルト値の“1”加工可を“2”段取り違いのため加工不可 あるいは“3”機上の工具破損のため加工不可に自動的に書き 換えが行われる。 “2”段取り違いのため加工不可 “3”機上の工具破損のため加工不可 IC チップに記入されたデータは以下の各所で読み出しを行う。 i. 段取りステーションにおける段取り作業時 段取りパソコンの NC プログラム最終作成のページが開かれると、 段取りパソコンが自動的にそのカートリッジに関わる情報を読み出 し、画面に表示させる。 ii. NC プログラムアップロード直前 NC プログラムサーバパソコンが段取り検証のために読み出す。 iii. カートリッジローダアンローダによるアンロード時 カートリッジ収納先アドレスを設定するためと、検証結果番号によ る後処理方法を判定するためにカートリッジ番号と検証結果番号を 読み出す。 iv. 段取りステーションにおける取り外し作業時 12 段取りコンピュータで、工作物取り外し操作ページが開かれている 時に、 “メモリー読み出し”ボタンがクリックされると、段取り コンピュータは自動的に、段取りステーションにあるカートリッジ からメモリーデータを読み出す。 また書き込んだデータは、次のように IC チップから削除される。 すなわち、上記 iv.の読み取り動作が終了したら、段取りコンピュ ータは 1)カートリッジ番号と 2)カートリッジの工作物原点データ を除くほかの全てのデーターをメモリーから自動的に削除する。 3 実施面で必要な技術的事項 3.1 工作物段取りで対応すべき事項 システムの構想段階で、製造部長を含む実務担当者の意見持ち寄り が数回行われ、実施面で必要な技術上の対応事項として次の 3 点が 挙げられた。各項目に対処するためのソフトウェアを開発し、段取 り作業者が NC プログラムの最終作成を行うときに、必要な調整を 行うようにしている。 (1) 素材寸法の不同 工作物素材は、主として棒材を切断して準備するため、 素材寸法の不同が大きい。実際に保持具に取り付けよう とする素材の寸法が予定より大きい場合には、面の荒削 りの回数を増やす、予定より小さい場合には減らすよう に最終調節することが必要である。 この目的のために、先の図 7 の右下のコンピュータ画面には図 9 に 示すような NC プログラム最終作成画面が表示され、段取り作業者 は、取り付ける素材の実測した寸法を(イ)の素材寸法欄にキー入 力するようになっている。 13 図 9 NC プログラム最終作成画面 (2) 工作物基準点(WPO)のユーザーシフト 貫通穴がある場合には、工作物を取り付けた奥にスペー サ(敷き板)を挟んで、工具の逃げを確保するなど、個々 の状況によって作業者は、工作物を予定された位置から ずらして取り付ける場合がある。このため、工作物基準 点の移動量を反映した NC プログラムを作成する必要が ある。 この目的のために、段取り作業者は、工作物基準点を X,Y および Z 方向にシフトした距離を図 9 の(ロ)欄にキー入力す る。 (3) 工作物原点点(WPO)のカートリッジごとの不同 14 保持具カートリッジに工作物を取り付ける場合の基準点 (WPO、 Work Piece Origin)は、図 10 に示すように定 義されているが、ビジョンシステムで使用する多数の保 持具カートリッジについては個体ごとにわずかな不同が ある。 図 10 工作物原点(WPO)の定義 この目的のために、保持具カートリッジを新しく作成した場合、そ のカートリッジを MC 機上に搭載した状態で、工作物原点位置 (WPO)の実際の値を正確に測定しておく。図に示すように、機械 のテーブル回転軸上に定義されている保持具原点(FXO)は、NC 制 御装置の G55 座標原点に記憶させている基準位置であるが、その FXO から保持具カートリッジの工作物原点までの 3 方向の距離の実 際のデータ(WPO シフトデータ)を、個々の保持具カートリッジに 取り付けてある RFID メモリーに記入しておく。ある保持具カート リッジを使用した段取りが終了した時点でにそのカートリッジの持 つ WPO シフトデータがメモリーから呼び出され、図 9 の(ハ)欄に 15 表示され、その値を用いて NC プログラムを生成することにより加 工後の精度が保証できるようにしている。 3.2 NC プログラム最終作成 一つの保持具カートリッジの工作物取り付け段取りが終了した時点 で、作業者は「NC プログラム最終作成」のページを開き、前節に紹 介した(イ)、(ロ)のデータをキー入力した後、NC プログラム再作成 のボタンをクリックすれば、(イ)、(ロ)、(ハ)三項を考慮した NC プログラムが自動的に作成され画面に表示される。 以上のようなソフトウェアを用いて実施面で必要とされた諸機能を 作業者が簡単に行えるようにすることによって、工作物の段取りに 対応した正しい NC プログラムをきわめて短時間で準備することが、 当ビジョンシステムの最も重要な目標である 4 試用段階で追加開発を必要とされた事項 ビジョンシステムが一応完成し、テスト使用を続ける段階で、当初 は予想されなかった次の三つの事項が問題となり、夫々追加開発が 行われた。 4.1 段取りの自動検査 前節のロ)項に上げたように、個々の状況によって作業者は、工作 物を予定された位置からずらして取り付ける場合がある。例えば貫 通穴がある場合には、図 11 上図に示すように、工作物を取り付け た奥に敷板を挟んで、工具の逃げを確保する場合には工作物基準点 (WPO)の Z 方向シフトが必要である。 また同下図のように、X ある いは Y 方向にシフトが必要となることもある。このため、工作物基 準点(WPO)のシフト量を、NC プログラム最終作成のページで、作業 者が手動でキー入力することになっている。 しかしテスト運用の 結果、作業者がデータをキー入力することを忘れたり、間違った値 を入力したために、その値を元にして最終作成された NC プログラ ムが、現実の工作物の位置と食い違っていて事故となる事例が何件 か発生した。 16 A Z方向の WPO シフト量 保持具原点 FXO, G55 Z方向に用いた 敷き板 工作物原点 WPO X方向の X2 WPO シフト量 X=X1-X2 X1 Y方向の WPOシフト量 Y方向に用 いた敷き板 工作物原点 WPO 図 11 段取りに伴う XYZ 方向 WPO シフトの説明図 17 このため、NC プログラムの最終作成を行う前に、現実に段取りされ た工作物の位置と、作業者が入力したデータが食い違いのないこと を自動的に検査するシステムを追加開発することとなった。 トップ カメラ 600mm サイドカメラ 920mm 図 12 自動段取り検査システムのカメラ設置状況 18 自動検査システムは、図 12 に示すように、段取り台上のカートリ ッジの画像を上部から取り込むトップカメラと、側方から取り込む サイドカメラからなり、二つの画像はカメラ制御パソコンへ送られ る。 カメラの捉えた画像から、制御パソコンは工作物の縁が、図 13 に示すように、データから予想される許容範囲内にある工作物の 縁の位置から WPO シフトデータを求め、段取りコンピュータに転送 する。 図 13カメラ制御パソコンは、データから予想される許 容範囲内に工作物の縁がある場合に、WPO シフトデータ (XYZ)の測定値を計算し、結果を段取りコンピュータに転送 する。 段取りコンピュータは、図 14 に示すように、転送された WPO シフト データ(ニ)と、ユーザが先にキー入力したデータ(ロ)との食い違 いが 1.5mm 以下であれば、段取りが正しいものと判定して、NC プロ グラム最終作成の手順に進むことを許可する。 19 図 14自動段取り検査を用いた NC プログラム再作成の手順 20 4.2 熱変形の補償 長時間の稼働中に、機械に生じる熱変形の量が変化し、XYZ 軸方向 の位置の補正が必要となることがある。 特に Z 方向(主軸の軸方 向)の変位は、B 軸を 180 度回転させて加工する二つの面の間隔距離 に直接影響するため、それを補正することが加工精度維持のために 必要となる。これを可能とするために、先の図 14 中の(ホ)の欄に ユーザが補正量の値をキー入力しておけば、その値も考慮して NC プログラムの再作成が行われる。 4.3 工具管理 マシニングセンターの自動工具交換(ATC)の工具マガジンは 60 本 分あるので、当初は 60 本の工具を搭載しておけば、全ての加工が 行えるものと想定していた。 しかし実加工を開始すると、タップ などの工具は多くの異なる寸法のものがあり、当初予定していたも のだけでは不十分で、機械に搭載していない工具を使用する必要が しばしば生じることが明らかとなった。 機械に搭載していない工具を必要とする NC プログラムが読み込ま れたときの処置は、作業者にとって極度の注意力集中を要するため、 そのような場合に容易に工具管理が行えるようソフトウェアを、す でに開発されていた工具寿命管理に付け加えることとした。 4.3.1 工具寿命管理(Tool Life Management, TLM)の機能概要 工具寿命管理は、次の場合に機上にある切削工具の入れ替えの指示 を行う。 1. これから加工しようとする NC プログラムに、機上に無い工 具が使用工具として記入されている場合。 2. 機上にある工具のうちで、破損しているものがある場合。 3. 機上にある工具で、次の加工時間中に予想工具寿命時間に 達するものがある場合。 21 これらの指示が出された場合に、工具の交換作業を行うのは、第 4 章に紹介した工具管理ソフトウェアをそのまま当ビジョンシステム においても使用する。 4.3.2 工具管理作業の概要 A. 工具寿命管理(TLM)ソフトを開く 図 15 工具寿命管理の立ち上げ画面 シーケンサ内に保持されている「加工順番待ちカートリッジデータ」 が表の左側に表示される。どのカートリッジまでを次の加工時間帯 で加工しようとするのか、そのカートリッジの番号を選んで、右ク リックでその指定をしてから右下の OK ボタンをクリックする。 B 機上に無い工具が NC プログラムに書かれていて、その工具 のデータがまだ登録されていない場合 22 図 16 データ未登録の工具が NC プログラムにある場合 図 16 画面下側の指示にしたがって工具管理ソフトウェアの「NC プ ログラムページ」を開き、NC プログラム番号を探して開く。 その NC プログラムで使われる工具の一覧表が図 17 のように表示さ れる。登録されていない工具は白地になっているので、その工具を 選んで新規工具登録のボタンをクリックする。 図 17 工具管理ソフトウェアの NC プログラムページ 23 図 18 新規工具セット登録 RFID 操作の画面 新規工具セット登録 RFID 操作の画面が自動的に起動するので、そ れをスクリーンに出して、RFID アンテナにより工具セット付属の IC チップにその工具のデータを記入する。また現在地を「仮置き場 所」にして IC チップに記入して、工具新規登録の作業を終了する。 C 機上にある工具を取り外し、別な工具と交換する指示 図 19 機上にある工具を取り外し、別な工具と交換する場合 24 画面右下の OK ボタンをクリックすると、替わりに搭載する工具の T-番号が、取り外す工具の T-番号と同じ番号に書き変わる。 図 20 工具交換の指示 指示に従って工具管理システムの機械ページを開き、まず、左側に 指示されている工具を機械から取り外す操作と続いて、右側に指示 されている工具を機械に搭載する操作を行う。工具取替えの操作が 終了したら画面右下の OK ボタンをクリックすると、関連するデー タベース上でデータの書き換えが自動的に行われると同時に、NC プ ログラム上でも、使用工具の T-番号が変更されたことに伴うテキス トの書き換えが自動的に完了する。 D 破損工具あるいは寿命時間に達する工具がある場合 25 図 21 破損工具あるいは寿命時間に達する工具がある場合 図 21 画面の下側に指示表が出されるので、工具管理の機械ページ を開いて、RFID 操作により、工具が正しいことを確認しながら交換 を行う。 5. 結び 非量産小寸法工作物の連続無人加工の実現を目標として、ビジョン システムと呼ぶ上記のシステムが開発され、今日まで実用運転が続 けられてきている。 このシステムの特徴は、非量産であるため多様な寸法形状と精度要 求の工作物があるので、工作物の取り付け作業は高度な技能を持つ 作業者が行わねばならないとしている基本概念にある。 それに伴って IT 技術(つまりコンピュータソフトウェア)を、高 度の技能を持つ作業者が最短の時間で工作物段取りを行えることに 焦点を絞って開発している。 26 現状のシステムはまだ立体倉庫のカートリッジ収納能力が 20 個と 限られてはいるものの、60 個まで増設することにより 60%の稼働率 が達成できるみとうしである。 以上 27