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ビジョンシステムの開発
「機械と工具」誌 平成 24 年 4 月号掲載 機械工場の IT 実践 [4]ビジョンシステム:非量産小寸法部品の 無人連続 MC 加工 1 開発のねらい これまで 3 回の連載で紹介させていただいたように、中形(寸法 150mm 以上 1m 以下)部品の MC 加工には、2 次元 CAM、スケジューリ ング、ならびに工具管理システムの導入に成功してしかるべき効果 が認められたが、小物部品(寸法 20mm 以上 150mm 未満)の MC 加 工現場への適用には踏み切れないでいた。 その主な理由は小物部品は、一工程の加工時間が短いことに加え て製作すべき部品点数が膨大な数にのぼり、CAM システムといえど もすべての NC プログラムの作成には対応できそうもないと考えら れたからであった。しかし実際には、組み立て現場で図 1 に見るよ うに多様な小寸法部品が必要とされており、多くの機械メーカでは、 それらは内製せず外注によって調達している種類の部品である。 図 1 非量産小寸法部品の数例 1 一方、量産工場であれば専用工作機械を用意して、素材の取り付 け取り外しから完全に無人化した設備によって連続無人加工が行わ れている。 受注生産を基調とする非量産機械メーカにおいては、小寸法部品 の連続無人加工は未踏の領域であるといっても過言ではない。 しかしながら非量産小寸法部品といえども企業の生き残りのため には、連続無人加工を実現して、飛躍的な生産性向上を図るしか将 来への路はないものと考えられる。 将来への展望という意味をこ めてビジョンシステムと名づけた新加工システムの開発に踏み切っ たのは 6 年前のことであった。 2. 基幹技術 飛躍的な生産性向上を達成するキーポイントは、夜間の連続無人 加工と、昼間の作業にあっては段取り時間の短縮である。 非量産であるから多様な形状の工作物があり、その一つずつにつ いて加工精度の要求されている箇所を考慮して、どの姿勢で保持具 カートリッジに取り付けるかを見極め、貫通穴の加工がある場合に 工作物の奥にスペーサを入れる処置、精確な位置決め、十分強固な 把持締め付けなど、作業者の技能に依存する要因が重要である. このため、ビジョンシステムは基本原理として、工作物の取り付 け取り外しは作業者が行うこととする。システムの最も重要なねら いどころは、この取り付け取り外し作業を出来るだけ短時間で精確 に行えるよう、作業者を支援するコンピュータシステムを開発する ことにある。 そのためにはまず、どのような保持具を用いるかが一つの重要な ポイントである。 2 2.1 工作物の保持技術 〔くさび効果による締め付け〕最小寸法 20mm までの小寸法部品で、 素材が鋼である場合、万力タイプの取り付け具では把持力が不足し、 切削加工中に工作物が滑ってしまうことがしばしば起こる。このた め楔(くさび)の効果を利用して強力に締め付ける保持具を使うこ とが必要である。 〔3 面加工の原則〕 なるべく少ない工程で、部品を完成させるた めに、加工機械には横型マシニングセンタ(MC)を使い、テーブルの 回転(B 軸)割り出しによって、把持した工作物の正面と左右両面 合わせて三面の加工を一つの工程で行うことを基本とする。直方体 の工作物の場合、周囲六面の全てを、三面加工の工程を 2 回繰り返 せば加工することが出来る。 基本的には、第一工程は三面の面加工のみ(成型加工と呼ぶ)を行 う。これは、もし形状加工まで行うと、第一工程で加工した三面が 第二工程では取り付け面として使用され、残りの三面の表面が未加 工であるため、精確な位置に工作物を取り付けることが困難となる ためである。残りの三面を加工する第二工程においては面加工の後、 穴形状、ミリング形状、あるいは曲線の形状加工を行う。第一工程 で面加工した三面で形状加工を必要とする場合には、第二工程で加 工した三面を取り付け面として、第 3 工程により形状加工を行う。 いずれの工程であっても、90 度以外の角度に B 軸を割り出して面加 工することにより、任意角度の面の加工を行うことができる。 〔カートリッジタイプの工作物保持具〕一工程で三面加工を行うた めには、工作物を把持する部分の幅は、工作物の幅よりは小さくな くてはならない。20mm-150mm の寸法範囲に対応するには、取り付け 幅の異なる多寸法の工作物保持具を用意することが必要である。取 り付け幅は 100,80,65,52,40,34,28,24,20,16 の合計 10 種類とした。 全ての工作物保持具を、加工パレットに取り付けるあるいは取り 脱す動作は、全て自動マテハンで行うことができるように互換性の あるカートリッジタイプの取り付け方式とする。図 2 に示すよ 3 図2 カートリッジタイプの工作物保持具 長さ 350mm うな保持具を設計し、各種取り付け幅のものをそれぞれ多数製作し た。 工作物を取り付けて準備された多数の保持具カートリッジは、図 3 に見るように一旦ストッカー(小型立体倉庫)に収納され、加工の 順番が来ると図 4 に見るような自動マテハン装置により取り出され て加工パレットに搭載され、図 5 に見るように横型 MC の加工領域 に入り加工が行われる。 4 図3 保持具カートリッジを収納するストッカー 5 図4 保持具カートリッジをストッカーから加工機械(横型 MC) に移送する自動マテハン装置 6 図5 2.2 横型 MC の加工領域で加工中の 保持具カートリッジと工作物 コンピュータによる作業者支援 ビジョンシステムにより、高い労働生産性を達成するための鍵は、 工作物の取り付け取り外しを行う作業者が、できるだけ短時間でそ の作業を行うことが出来るよう、コンピュータシステムを用いて支 援することにある。 このために開発したシステムは、図 6 に示すように、次の 4 台の コンピュータからなっている。 A. B. C. D. CAM スケジューリングコンピュータ アップリケーションサーバコンピュータ 段取りコンピュータ NC プログラムサーバコンピュータ 7 MC CAM/スケジューリング コンピュウタ CAM/Scheduling Computer NC制御 PMC CAM 作業者 NC プログラム D サーバ PC 加工パレット アプリケーショ ンサーバコン ピュータ メモリー読み 出し/書き込み カートリッジローダ アンローダ PLC A 段取りコンピュータ B C メモリー 読み出し 段取り 作業者 スタッカ クレーン 立体倉庫 段取り台 メモリー 読み 出し/ 書き込 み 図 6 コンピュータシステムの概要 A の CAM スケジューリングコンピュータには、当連載の一回目(一 月号)に紹介した 2 次元 CAM ソフトウェアが搭載されており、作業 者はそれを用いて、加工すべき部品の CAM 処理を行い、NC プログラ ムを最終的に作成する直前の段階までの準備を行っておく。また二 月号掲載のスケジューリングソフトウェアシステム(SSS)も搭載さ れているので、CAM 処理を行った作業をスケジューリングシステム にデータ入力し全ての加工作業の日程計画スケジュールを作成して おく。 B のアプリケーションサーバコンピュータは、他の 3 台のコンピ ュータならびに、マテハン装置の動作制御を行う PLC(プログラマ ブルロジックコントローラ、本邦ではよくシーケンサーと呼ばれ る)の相互間の、情報通信をつかさどるパソコンである。 8 図7 作業者へのデータ表示と作業指示画面 C 段取りコンピュータは図 7 に示すように 4 台のモニター画面で 必要なデータを表示し、作業者の意思決定に従って、自動マテハン 装置の動作制御を行う。 左上のモニターには、加工すべき部品のスケジュール表が示され ており、作業者はその中から次にどの工作物の取り付けを行うかを 決定するために、いずれかの部品を仮りに選ぶ。 右上のモニター には仮りに選んだ部品の CAM 図面が表示され、左下のモニターには 指示文が右下の画面にはその部品の取り付け指示情報がデータ表示 されている。 作業者が次に段取りを行う部品を選び終えて段取り開始の意思決 定を行うと、ソフトウェアは必要な保持具カートリッジの番号を自 動マテハン装置に転送し、自動マテハン装置はそのカートリッジを ストッカーから取り出して作業者の手元に運び出して来る。 9 作業者が工作物の取り付け作業を終えると、再び自動マテハン装 置がそのカートリッジをストッカーに収納する。 当システムの扱うような非量産小寸法部品では、一般的に取り付 け段取りに加工時間とほぼ同じ時間を要するとされているが、ビジ ョンシステムでは段取りに要する時間を極小にするようコンピュー タシステムが支援を行うので、取り付け段取りに要する時間は、NC プログラムの最終作成と確認の時間を入れても約 3 分、加工済みの 工作物の取り外しを入れても約 5 分で終了する。 このようなコンピュータシステムの開発によって、段取りを担当 する作業者は、一日 8 時間の所定時間の間に、マシニングセンター を一日 24 時間連続稼動させることが出来るだけの多数の工作物の 加工準備を行い、夜間の無人連続加工運転に備えることができるよ うになった。 C 段取りコンピュータ上で最終的に作成し作業者が確認した NC プ ログラムは、 図 6 の上方に示す D の NC プログラムサーバコンピ ュータ内に保存される。このコンピュータだけは、夜間無人運転中 も作動を続け、これから MC の加工テーブルに入ろうとする加工パ レット上のカートリッジから RFID 装置によって読み出されたカー トリッジ番号に対応する NC プログラムを、MC の動作を制御する NC 制御 PMC 装置に転送することによって、次々と多数の工作物の無人 加工を行う。 2.3 RFID 個体識別 前月紹介の工具管理でも使用した電波による個体識別を、ビジョ ンシステムにおいては、工作物を取り付ける保持具であるカートリ ッジに応用する。全てのカートリッジに夫々、図 8 に示すように IC チップを取り付け、システム内のいくつかの箇所でデータの書き込 みあるいは読み出しを行う。 10 図8 保持具カートリッジの端面につけた、IC チップと、それに 非接触で対向する書き込み読み取りヘッド カートリッジに特有な、次のデータのみはカートリッジが製作さ れたときに書き込みを行っておく。 1) 2) カートリッジ番号 カートリッジの工作物原点データ 段取り作業者が、段取りを行う作業を終了し、次に NC プログラ ムの最終作成が終了した時に、以下のデータ 3)-9)一式が段取りコ ンピュータによって自動的に作成され、カートリッジ上のメモリー 装置に自動的に記入される。 3) 工作物原点(WPO)シフトデータ(工作物とカートリッジの間に、 スペーサを挟む場合、X,Y,Z 方向に挟むスペーサそれぞれの厚 さ) 11 4) 工程番号=製品番号(5 桁)、アイテム番号(3 桁)、部品番号(3 桁)、工程順番号(2 桁) 工程順番号 01 は素材、工程番号 02 は第 2 工程終了 5) 材料コード M 磁性材料 R 非磁性材料 6) NC プログラムが作成された時に指定されたカートリッジの形 式番号(保持具番号と同じ) 次の 2 項目は工作物を保持具カートリッジに取り付ける方向のデー タである。 7) 角度ゼロの面の名称 一つ)。 (上、下、右、左、前、後面のいずれか 8) 取り付け原面(下向きに取り付ける面)の名称 左、前、後面のいずれか一つ)。 (上、下、右、 9) 検証結果番号 デフォルト設定は”1” “1” 加工可 NC プログラムが MC にアップロードされる直前に NC プログラ ムサーバパソコンによる検証結果が加工不可の場合には、デ フォルト値の“1”加工可を“2”段取り違いのため加工不可あるい は“3”機上の工具破損のため加工不可に自動的に書き換えが行 われる。 “2” “3” 段取り違いのため加工不可 機上の工具破損のため加工不可 IC チップに記入されたデータは以下の各所で読み出しを行う。 12 i. 段取りステーションにおける段取り作業時 段取りパソコンの NC プログラム最終作成のページが開かれると、 段取りパソコンが自動的にそのカートリッジに関わる情報を読み出 し、画面に表示させる。 ii. NC プログラムアップロード直前 NC プログラムサーバパソコンが段取り検証のために読み出す。 iii. カートリッジローダアンローダによるアンロード時 カートリッジ収納先アドレスを設定するためと、検証結果番号によ る後処理方法を判定するためにカートリッジ番号と検証結果番号を 読み出す。 iv. 段取りステーションにおける取り外し作業時 段取りコンピュータで、工作物取り外し操作ページが開かれている 時に、 “メモリー読み出し”ボタンがクリックされると、段取り コンピュータは自動的に、段取りステーションにあるカートリッジ からメモリーデータを読み出す。 また書き込んだデータは、次のように IC チップから削除される。 すなわち、上記 iv.の読み取り動作が終了したら、段取りコンピュ ータは 1)カートリッジ番号と 2)カートリッジの工作物原点データ を除くほかの全てのデーターをメモリーから自動的に削除する。 3. 3.1 実施面で必要な技術的事項 工作物段取りで対応すべき事項 システムの構想段階で、製造部長を含む実務担当者の意見持ち寄 りが数回行われ、実施面で必要な技術上の対応事項として次の 3 点 が挙げられた。各項目に対処するためのソフトウェアを開発し、段 13 取り作業者が NC プログラムの最終作成を行うときに、調整を行う ようにしている。 (イ) 素材寸法の不同 工作物素材は、主として棒材を切断して準備するため、 素材寸法の不同が大きい。実際に保持具に取り付けよう とする素材の寸法が予定より大きい場合には、面の荒削 りの回数を増やす、予定より小さい場合には減らすよう に最終調節することが必要である。 この目的のために、先の図 7 の右下のコンピュータ画面には図 9 に示すような NC プログラム最終作成画面が表示され、段取り作業 者は、取り付ける素材の実測した寸法を(イ)の素材寸法欄にキー 入力するようになっている。 図 9 NC プログラム最終作成画面 14 (ロ) 工作物基準点(WPO)のユーザーシフト 貫通穴がある場合には、工作物を取り付けた奥にスペー サ(敷き板)を挟んで、工具の逃げを確保するなど、 個々の状況によって作業者は、工作物を予定された位置 からずらして取り付ける場合がある。このため、工作物 基準点の移動量を反映した NC プログラムを作成する必 要がある。 この目的のために、段取り作業者は、工作物基準点を X,Y および Z 方向にシフトした距離を図 9 の(ロ)欄にキー入力する。 (ハ) 工作物原点点(WPO)のカートリッジごとの不同 保持具カートリッジに工作物を取り付ける場合の基準点 (WPO、 Work Piece Origin)は、図 10 に示すように定 義されているが、ビジョンシステムで使用する多数の保 持具カートリッジについては個体ごとにわずかな不同が ある。 15 図 10 工作物原点(WPO)の定義 この目的のために、保持具カートリッジを新しく作成した場合、 そのカートリッジを MC 機上に搭載した状態で、工作物原点位置 (WPO)の実際の値を正確に測定しておく。図に示すように、機械 のテーブル回転軸上に定義されている保持具原点(FXO)は、NC 制 御装置の G55 座標原点に記憶させている基準位置であるが、その FXO から保持具カートリッジの工作物原点までの 3 方向の距離の実 際のデータ(WPO シフトデータ)を、個々の保持具カートリッジに 取り付けてある RFID メモリーに記入しておく。ある保持具カート リッジを使用して段取りを行う時点で、そのカートリッジの持つ WPO シフトデータがメモリーから呼び出され、図 9 の(ハ)欄に表 示され、その値を用いて NC プログラムを生成することにより加工 後の精度が保証できるようにしている。 3.2 NC プログラム最終作成 一つの保持具カートリッジの工作物取り付け段取りが終了した時 点で、作業者は「NC プログラム最終作成」のページを開き、前節に 16 紹介した(イ)、(ロ)のデータをキー入力した後、NC プログラム再作 成のボタンをクリックすれば、(イ)、(ロ)、(ハ)三項を考慮した NC プログラムが自動的に作成され画面に表示される。 以上のようなソフトウェアを用いることによって実施面で必要と された機能を作業者が簡単に行えるようにして、工作物の段取りに 対応した正しい NC プログラムをきわめて短時間で準備することが、 当ビジョンシステムの最も重要な目標である 4. 試用段階で追加開発を必要とされた事項 ビジョンシステムが一応完成し、テスト使用を続ける段階で、当 初は予想されなかった次の三つの事項が問題となり、夫々追加開発 が行われた。 4.1 段取りの自動検査 前節のロ)項に上げたように、個々の状況によって作業者は、工 作物を予定された位置からずらして取り付ける場合がある。例えば X方向の X2 WPO シフト量 X=(X1-X2)/2 Z方向の WPO シフト量 X1 X方向の X2 X1 X方向の X2 WPO WPO A シフト量 保持具原点 FXO, G55 シフト量 X=X1-X2 X=X1-X2 Z方向の WPO シフト量 A 保持具原点 FXO, G55 Z方向に用いた 敷き板 Y方向の Y方向の WPOシフト量 WPOシフト量 Y方向に用 Z方向に用いた いた敷き板 敷き板 Y方向の WPOシフト量 WPO 工作物原点 工作物原点 WPO Y方向に用 いた敷き板 工作物原点 WPO 工作物原点 WPO 図 11 段取りに伴う XYZ 方向 WPO シフトの説明図 17 貫通穴がある場合には、図 11 右図に示すように、工作物を取り付 けた奥に敷板を挟んで、工具の逃げを確保する。この場合には工作 物基準点(WPO)の Z 方向シフトが必要である。また同左図のように、 X あるいは Y 方向にシフトが必要となることもある。このため、工 作物基準点(WPO)のシフト量を、NC プログラム最終作成のページで、 作業者が手動でキー入力することになっている。しかしテスト運用 の結果、作業者がデータをキー入力することを忘れたり、間違った 値を入力したために、その値に基づいて最終作成された NC プログ ラムが、現実の工作物の位置と食い違っていて事故となる事例が何 件か発生した。 このため、NC プログラムの最終作成を行う前に、現実に段取りさ れた工作物の位置と、作業者が入力したデータが食い違いのないこ とを自動的に検査するシステムを追加開発することとなった。 自動検査システムは、図 12 に示すように、段取り台上のカート リッジの画像を上部から取り込むトップカメラと、側方から取り込 むサイドカメラからなり、二つの画像は段取りパソコンへ送られる。 パソコンは図 13 に示すように、作業者が入力したデータから予想 される許容範囲内にある工作物の縁の位置を 2 台のカメラによって 検出し、WPO シフトデータの実測値を計算する。 段取りコンピュータは、図 14 に示すように、ユーザが先にキー 入力したデータ(ロ)とカメラによって測定された WPO シフトデータ (ニ)との食い違いが 1.5mm 以下であれば、段取りが正しいものと 判定して、NC プログラム最終作成の手順に進むことを許可する。 18 トップ カメラ 600mm サイドカメラ 920mm 図 12 自動段取り検査システムのカメラ設置状況 19 サイドカメラ画像 トップカメラ画像 (ロ) 作業者入力のWPOデータ (ニ) カメラ測定結果 図 13 段取りパソコンは、データから予想される許 容範囲内に工作物の縁がある場合に、WPO シフトデータ(XYZ)の測定 値を計算し、結果を判定する。 図 14 自動段取り検査を用いた NC プログラム再作成の手順 20 5.4 熱変形の補償 長時間の稼働中に、機械に生じる熱変形の量が変化し、XYZ 軸方 向の位置の補正が必要となることがある。 特に Z 方向(主軸の軸 方向)の変位は、B 軸を 180 度回転させて加工する二つの面の間隔距 離に直接影響するため、それを補正することが加工精度維持のため に必要となる。これを可能とするために、先の図 14 中の(ホ)の欄 にユーザが補正量の値をキー入力しておけば、その値も考慮して NC プログラムの再作成が行われる。 5.5 工具管理 マシニングセンターの自動工具交換(ATC)の工具マガジンは 60 本分あるので、当初は 60 本の工具を搭載しておけば、全ての加工 が行えるものと想定していた。 しかし実加工を開始すると、タッ プなどの工具は多くの異なる寸法のものがあり、当初予定していた ものだけでは不十分で、機械に搭載していない工具を使用する必要 がしばしば生じることが明らかとなった。 機械に搭載していない工具を必要とする NC プログラムが読み込 まれたときの処置は、作業者にとって極度の注意力集中を要するた め、そのような場合に容易に工具管理が行えるようソフトウェアを、 すでに開発されていた工具寿命管理に付け加えることとした。 4.2.1 工具寿命管理(Tool Life Management,TLM)の機能概要 工具寿命管理は、次の場合に機上にある工具の入れ替えを指示する。 1. これから加工しようとする NC プログラムに、機上に無い工 具が使用工具として記入されている場合。 2. 機上にある工具のうちで、破損しているものがある場合。 3. 機上にある工具で、次の加工時間中に予想工具寿命時間に 達するものがある場合。 これらの指示が出された場合に、工具の交換作業を行うのには、前 回(3 月号)に紹介した工具管理ソフトウェアをそのまま当ビジョン システムにおいても使用する。 21 4.2.2 A. 工具管理作業の概要 工具寿命管理(TLM)ソフトを開く 図 15 工具寿命管理の立ち上げ画面 「加工順番待ちカートリッジデータ」が表の左側に表示されるの で、作業者はどのカートリッジまでを次の加工時間帯で加工しよう とするのか、そのカートリッジの番号を選んで、右クリックでその 指定をしてから右下の OK ボタンをクリックする。 B 機上に無い工具が NC プログラムに書かれていて、その工具 のデータがまだ登録されていない場合 図 16 データ未登録の工具が NC プログラムにある場合 22 図 16 画面下側の指示にしたがって工具管理ソフトウェアの「NC プログラムページ」を開き、NC プログラム番号を探して開く。 その NC プログラムで使われる工具の一覧表が図 17 のように表示 される。 登録されていない工具は白地になっているので、その工具を選ん で新規工具登録のボタンをクリックする。新規工具セット登録 RFID 操作の画面が図 18 のように起動するので、それをスクリーン に出して、RFID アンテナにより工具セット付属の IC チップにその 工具のデータを記入する。また現在地を「仮置き場所」にして IC チップに記入して、工具新規登録の作業を終了する。 図 17 工具管理ソフトウェアの NC プログラムページ 23 図 18 図 19 C 新規工具セット登録 RFID 操作の画面 機上にある工具を取り外し、別な工具と交換する場合 機上にある工具を取り外し、別な工具と交換する指示 画面右下の OK ボタンをクリックすると、替わりに搭載する工具 の T-番号が、取り外す工具の T-番号と同じ番号に書き変わる。 24 図 20 工具交換の指示 指示に従って工具管理システムの機械ページを開き、まず、左側 に指示されている工具を機械から取り外す操作と続いて、右側に指 示されている工具を機械に搭載する操作を行う。工具取替えの操作 が終了したら画面右下の OK ボタンをクリックすると、関連するデ ータベース上でデータの書き換えが自動的に行われると同時に、NC プログラム上でも、使用工具の T-番号が変更されたことに伴うテキ ストの書き換えが自動的に完了する。 D 破損工具あるいは寿命時間に達する工具がある場合 図 21 破損工具あるいは寿命時間に達する工具がある場合 25 図 21 画面の下側に指示表が出されるので、工具管理の機械ペー ジを開いて、RFID 操作により、工具が正しいことを確認しながら交 換を行う。 5. あとがき 非量産小寸法工作物の連続無人加工の実現を目標として、ビジョ ンシステムと呼ぶ上記のシステムが開発され、今日まで実用運転が 続けられてきている。 このシステムの特徴は、非量産であるため多様な寸法形状と精度 要求の工作物があるので、工作物の取り付け作業は高度な技能を持 つ作業者が行わねばならないとしている基本概念にある。 それに伴って IT 技術(つまりコンピュータソフトウェア)を、 高度の技能を持つ作業者が最短の時間で工作物段取りを行えること に焦点を絞って開発している。そのためのツールとして、当連載の 一回目(一月号)から前回(三月号)までに紹介した 2 次元 CAM,スケジ ューリング、ならびに工具管理のソフトウェアを総動員しており、 またそれらのツールを有機的に接続する新たなソフトウェアによっ て作業者支援を行う。 現状のシステムはまだ立体倉庫のカートリッジ収納能力が 20 個 と限られてはいるものの、これまでの実用運転の実績から、作業者 が夜間も断続的に段取り作業を行えば、図 22 に見るように 36%の稼 働率が上げられることが判った。この図は NC 運転で無人加工を行 った時間数を 1 ヶ月に亘って累積して示しており、1 ヶ月間の NC 加 工時間が 260 時間、つまりひと月 720 時間の 36%をマークしている。 立体倉庫を増設して、収納数を 60 個に増やせば、週日の昼勤 8 時間のみの段取り作業で、夜間無人運転を含めて 60%の稼働率が達 成されるみとうしであり、これは平日のみの操業で達成しうる理論 限界に近い。 26 24時間稼働率 100% 24時間稼働率 60% 260時間36% 図 22 ビジョンシステムで達成できる機械稼働率 生産数がピークとなる時には、土日祝日も出勤して段取りを昼間 だけ行うことにより 90%の稼働率も可能である。 このように高い稼働率を達成できる IT 技術を手にしたからには、 使用する MC も性能の高い機械を使用し、その一方で稼動させる機 械台数を大幅に減らして、労働生産性の飛躍的に高い機械工場に移 行していくことも現実性を持って、将来の視野に捉えることができ るようになって来た。 加工部品の繰り返し性が乏しい非量産であるが故に、多数の機械 加工設備を抱えながら、設備稼働率の低いままにこれまで放置され てきた一品物加工の機械工場であっても、当連載で紹介した 2 次元 CAM,スケジュール管理、工具管理、さらにこの最終回で紹介した小 寸法部品の連続無人加工システムなど、最新の IT 技術を実践する ことにより、近い将来にはリーンでスリムな姿に変身して、大幅な 生産性向上を達成する事が期待される。 以上 27