Comments
Description
Transcript
自殺遺伝子による癌の 遺伝子治療
'И ttυ ω 14θ ム5 И′ Ab.I1999 自殺遺 伝 子 に よ る癌 の 遺 伝子 治療 三 澤 健 之* 1990年 ,米 国 NIHに お い て ADA欠 損症 患者 として臨床使用 され て い る ganciclovir(GCV) に対す る初 の遺伝子治療 が成功 して以来 ,す でに はこの ままではほ とん ど薬物活性 のない,い わゆ 全世界 で数千人 の患者 が遺伝子治療 を受 けて い る。 る prOdrugで ある.HS 先天性代謝異常症 に対 してはじめ られた遺 伝子治 に一 リン酸化す る。 この一 リン酸化合物 は細胞内 のグアニル酸キナーゼ によ りニ リン酸化 され,さ 療 は,そ の後 さまざまな疾患 に適応 が拡大 され 現在 では認可 されてい る臨床 プ ロ トコール の半数 , tkは この GCVを 特異的 らに細胞 のキナーゼ により三 リン酸化 され る。 こ 以上 が 癌 治療 に関す る もの とな った.な か で も Mooltenl)ら によ り報告 された単純 ヘ ルペ スチ ミ の三 リン酸化 された GCV(GCV― triphosphate) が標 的細胞 の DNAに 取 り込 まれ て chain ter¨ clovir(GCV)投 与 による,い わゆる自殺遺伝子療 minatorと して働 くた めに,DNAの 伸長 が妨 げ られて細胞 は死 に至 る (図 1).こ のほか,抗 菌薬 法 はすでに脳腫瘍 や卵巣腫瘍 の治療 に臨床応用 さ として開発 された 5-FCと シ トシンデア ミナーゼ れてお り,一 部 で有効例 が報告 されてい る.こ の 方法 は遺伝子導入 した薬剤代謝酵素 の反応特異性 遺伝子 (CD)の 組 み合 わせな ども転移性肝癌 の治 療法 として臨床試験 が行 われて い る.こ れ は CD を利用 して,無 害 の薬剤 (prOdrug)を 抗腫瘍活性 が 5 FCを 脱 ア ミノ化 して抗腫瘍薬 として よ く知 ジンキ ナ ー ゼ遺 伝 子 (HS― tk)の 導入 と ganci¨ をもつ物質 に転換す るとい う原理 に基づ いて い る られてい る 5フ ルオ ロ ウラ シル (5-FU)に 変換す 自殺遺伝子療法 には この直接的殺細胞効果 に加 え る ことに よる . . て,後 述す るワクチ ン効果 や bystander効 果 な ど 興味あ る現象 が報告 されてお り,新 しい癌治療法 HS― tkを 用 いた 自殺遺伝子療法 として期待 されて い る 自殺遺伝子療法 の歴史 は未 だ浅 く, これ まで本 . 法 を消化器悪性腫瘍 の治療 に応用 した研究報告 は 自殺遺伝子 きわ めて少ない。消化器癌 は早期 の場合 には手術 現在 もっ とも多 く使用 されてい るのは単純 ヘ ル 成績 が良好 であるが,進 行癌 の多 くは発見時 にす でに リンパ節 や他臓器転移 を有 してお り,手 術療 ペ ス ウイルス由来 のチ ミジンキナーゼ遺伝子 で あ るの.標 的細胞,た とえば癌細胞 にこの遺伝子 が導 入 され る と,細 胞 内で はあ らたに単純 ヘ ルペ スチ 法,化 学療法,放射線療法 のいずれ によって もそ の予後 はきわめて悪 いため,新 しい治療法 の開発 ミジンキナーゼ (HS― tk)が 産生 され るようにな が望 まれてい る。 る.一 方,グ ア ノシンの類似物質 で抗 ウイルス薬 * 東京慈恵会医科大学外科学講座第 1 そ こで,わ れわれ は予後不良 な消化器進行癌 と くに腹腔内播種病変 に対 して 自殺遺伝子療法 を応 用す べ く研究 を行 って きた.ラ ッ トを用 いた大腸 7′ Tタフυ ω lttλ 5 Ab.I1999 HS-tk suicidal gene Retroviralvect GCV treatment 43 ヽ Ce‖ death 図 1 自殺遺伝 子療法 のメカニ ズム レ トロ ウイルスベ クター によって腫瘍細胞 のゲ ノム 内 に組 み込 ま れた HS tk遺 伝子 はチ ミジンキナーゼ (TK)を 産 生す る。TKは 薬剤活性 を もたな い GCV(prodrug)を リン酸化 し,細 胞毒性 を 有す る活 性型 に変換 す るため腫瘍 細胞 は死滅 す る。 A:HS tk/GCV 図 2 B:Wild― type/GCV ラ ッ トの大 腸癌腹腔 内播種 モ デル における 自殺 遺伝子療法 の効果 HS― tkを 導入 された癌細胞 は GCVの 投与 によってほ とん ど消失す る (A)。 一 方 ,wild typeの 癌細胞 は GCVに 反 応 す る ことな く増殖す る (B). 癌腹膜播種 モ デル にお いて,HS― tkを 導入 した腫 有す る消化器進行癌 の遺伝子治療 を考 えるうえで 瘍 は GCVの 投与 ではほ とん ど消失 し,遺 伝子導 きわめて重要な発見 である.な ぜな ら,将 来臨床 入 を行 ってい ない (wild type)腫 瘍 と上ヒ較す る と 的 に消化器癌 の腹腔内播種性病変 を自殺遺伝子療 腫瘍抑制効果 は 99%と 著明 で あった 法 を用 いて治療 しえた場 合 で も,遺 伝子 の導入 が (図 2)の .さ らに,こ の 自殺遺伝子治療 に成功 した動物 が長期 にわた り抗腫瘍免疫能 を獲得 す る (ワ クチ ン効果 ) 可能性 が示 唆 された。.こ の ことはすで に転移 を なされず,遺伝子治療 の直接作用 か ら逃れた微小 転移巣 (た とえば肝臓 内)か らの再発 が生命予後 を脅 かす可能性 が あるためで ある.も し,原 発巣 7'T夕しυ lゐ 15ハb.I1999 “ に全身的な抗腫瘍 免疫能 を賦活 す るな らば,同 時 は治療効 果 は不十分 で あ り,腫 瘍浸潤 リ ンパ 球 (TIL)の 機能 を増強 させた り,あ るい は腫瘍 ワク に他臓器内微小転移巣 も抑制 し,画 期的 な治療法 チ ンを強化 させ るような遺 伝子 を組 み合 わせた遺 とな りうる。われわれ も,ラ ッ トを用 いた実験 で 伝子治療 も必要 となろう および播種病変 に対 す る自殺遺伝子治療 が二 次的 . 腹腔内播種病巣 の治療 に成功 した動物 が肝 内転移 病巣 に対 して抗腫 瘍免疫能 を獲得す ることを示 し 5-つ た 。このほか,自 殺遺伝子療法 で は前述 の直接 文 献 1) Ⅳloolten FL.Tumor chelnosensitivity conferred by inserted herpes thymidine kinase genes.Paradigm 的殺細胞機序 に伴 つて,HS― tkを 導入 して い ない 隣接細胞 も同時 に死滅 す ることが知 られて い る . これは bystander効 果 とよばれ, リン酸化 された GCVが 隣接 す る癌細胞 に細胞 間橋 gap junction を介 して伝達 され ることによる と説明 されてい る . 固形癌治療 を考 えると,標 的 となる病変 で すべ て の腫瘍細胞 に遺伝子導入 がなされな くとも,予 想 以上の治療効果が得 られ る可能性 を示 してお り , for a prospective cancer control strategy, Cancer Res, 46: 5276-5281, 1986. 2)St Clair IⅦ H,Lambe CU,Furman PA.Inhibition by ganciclovir of cell growth and DNA synthesis of cells biochernically transformed with herpes‐ virus genetic information.Antimicro Agents Chmo‐ ther, 31: 844-849, 1987. 3)三 澤健 之 ,山 崎 洋 次 ,Anderson WF,Parekh D.消 化 器 腹 腔 内播 種 病 巣 に対 す る レ トロ ウ ィル ス ベ ク タ ー を用 い た 自殺 遺 伝 子 療 法 の 試 み。日外 会誌 ,97(7): 580, 1996. 4)Barba D,Hardin」 .Sadelain M,et al.Development 重要な現象 と考 えられ る。 しか し,わ れわれの実 of anti― tumor ilnmunity following thylnidine 験 で は bystander効 果 の程 度 は腫瘍細 胞 の種 類 tumors.Proc Natl Acad Sci USA, 91: 4348-4352, によって差 があることもわか っている。 kinase― mediated killing of experirnental brain 1994. 5) ⅣIisawa T, Chiang ⅣlH, Pandit L, GordOn EⅣ l, Anderson WF,Parekh D.Development of systenlic 今後 の展望 遺伝子治療 の施 行 にあた って は,ア デノウイル スや ン トロ ウイルス な どのベ クター による副作用 はほ とん ど問題 とはな らず,そ の安全性 はほぼ確 立 された といって よい.そ の一方で標的細胞 へ の 導入効果 は依然 として不十分 である.こ の問題 を 解決す るために,あ らたなベ クター を開発す る方 向 に研究 が進 んで い る.ま た,複 雑 な癌 化 のメカ ニズムを考 えた場合 ,単 独 の遺伝子 の導入 だ けで irnmunological responses against hepatic metas‐ tases during gene therapy of peritoneal car― cinomatosis with retroviral HS― tk and ganci― clovir.J GastrOintest Surg, 1(6): 527-533, 1997. 6)三 澤健 之 ,山 崎 洋 次 ,Anderson WF,Parekh D。 消 化 器 癌 に対 す る 自殺 遺 伝 子 療 法 に よ って誘 導 され る 肝 内抗 腫 瘍 免疫 能 に関 す る研 究 .外 科 治療 ,77(5): 624-625, 1997. 7)三 澤健 之 ,山 崎 洋 次 ,W French Andetrson,Dilip Parekh.自 殺 遺 伝 子 とそ の ワ ク チ ン効 果 に 関 す る研 究 .日 外 会 誌 ,98(10):895,1997.