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第323号(2011年07月28日発行)
北里大学医学部ニューズ CONTENTS 第2回医学部ニューズ写真コンテスト「生命の強さ」 出崎雄也 ■平成23年度北里大学医学部同窓会定期総会報告… …………2 ■科学研究費助成を受けて………………………………………3,4,5 ■海外選択実習報告会……………………………………………6,7,8 カルガリー大学 マーブルク大学 ■北里就任挨拶……………………………………………………9 ■私は何故この科を選んだか……………………………………10 ■エッセー…………………………………………………………11 ■医学部防災対策委員会より……………………………………12 2011.7 No.323 平成23年度 北里大学医学部同窓会定期総会報告 医学部同窓会長 平成23年6月11日(土)新宿京王プラザホテル本館4階 「花」にて午後5時30分より定期総会が開かれました。今 大 内 孝 文 平成23年度事業計画(表1) 1.定期総会、理事会、常任理事会の開催 回の総会は3月11日の東日本大震災のため被災地会員の出 2.全国支部長会の開催 席が危ぶまれましたが、多数の出席に感謝を申し上げます。 3.医学部同窓会報の発行 会則第4章第27条に従い総会成立を宣言し、議長阿部信一 4.会員への文献複写サービス業務 会員、議事録署名人・坂本尚登・三枝信会員を選出し総会 5.第10回市民公開講座の開催 議事が進行されました。 6.メールマガジン(MMKMA)の配信 1)平成22年度事業報告・会計報告 7.支 部活動、女医部会、卒後同期会の援助、特別会員、 2)平成23年度事業計画・予算の説明、質疑後了承されま した(表1)。 賛助会員の勧誘 8.全国私立医科大学、東部会、神奈川医意会の開催と参加 3)教授・准教授昇任者の報告(表2) 9.黒川正治学術奨励賞の選考・運営 4)物故会員の報告後、出席会員一同にて黙とうを捧げま 10.医学部同窓会教育支援(国試対策・CBT支援) した(表3)。 11.困窮学生救済基金の運営 5)各支部活動の報告。宮城、福島、茨城の被災県支部よ 12.会員、医学部関係者主催の学会への援助 り会員消息、医療機関の被害状況等詳細に報告されま 13.医学図書館へ学生用図書の寄贈 した。一刻も早く放射能汚染の収束宣言がされること 14.退任教授、教授・准教授昇任者へ記念品の贈呈 を一同願っています。 15.大学病院研修医オリエンテーションで説明 6)医学部同窓会ネット掲示板「MMKMA」の実績。登 16.医学部新入生歓迎会の開催 録会員を増し、今回のような震災等の連絡に運用活動 17.医学部ガイダンス・オリエンテーションで説明 を広げたいと思います。 18.準会員の海外実習に係る援助 7)準会員課外活動奨励賞授与 19.準会員課外活動奨励賞の選考・授与 サッカー部、準硬式野球部、剣道部の3部に副賞が贈 20.新5年生へ「Sophia kai Ergon」白衣授与式の開催 呈されました。 8)新病院建設の進捗状況の説明 教授・准教授昇任者(表2) 総会終了後、記念撮影、懇親会が行なわれました。その 坂本尚登(5期生)医学部教育研究開発センター教授 中で理事長・学長柴忠義先生より3月11日に大船渡が被災 今井 寛(9期生)三重大学医学部附属病院救命救急センター教授 したため、直ちに十和田から帰京し、大学本部より緊急指 三枝 信(12期生)医学部病理学教授 示後、 海洋生命科学部の学生、 教職員を東京へ連れてきた(残 西巻 博(10期生)聖マリアンナ医科大学心臓血管外科学教授 念ながら1名の女子学生は消息不明)話や医学部長和泉徹 田辺 聡(特別会員)医学部消化器内科学准教授 先生は優秀な学生を入学させる「医学部学業奨励型奨学金 石川 章(11期生)医学部膠原病・感染内科学診療准教授 (仮称)制度」の導入を説明されました。教授・准教授昇任 内野正隆(14期生)医学部整形外科学診療准教授 者への記念品贈呈、キャタピラージャパン助成金受賞者和 金井昭文(19期生)医学部麻酔科学診療准教授 田耕治先生、南野勉先生、黒川正治学術奨励賞受賞者奥脇 阿部信一(11期生)東北大学医学部眼科学臨床准教授 裕介先生各々からお礼のあいさつ、名誉会員の先生方の将 野渡正彦(11期生)医学部神奈川県寄付講座特任診療准教授 来に向かっ て躍進する 物故会員(表3) 北里大学医 武藤 健(名誉会員) 柏木 登(名誉会員) 黒川信悟(5 学部への期 期生) 安海義曜(1期生) 唄 孝一(名誉会員) 北見 待話等、た 善一郎(5期生) 塚本行男(名誉会員) くさんの楽 しい話を有 医学部同窓会定期総会 (右から柴忠義理事長・学長、和泉徹医学部長) 難うござい ました。 − 2 − 科学研究費助成を受けて 電気的再生により構造的組織再生を 庭 野 慎 一 誘導するという夢 (診療教授・循環器内科学) この度、 「Kv1. 3 移入線維芽細胞による不全心筋の活動 移入が達成できず、その遂行を断念せざるを得ませんでし 電位再生と逆リモデリング誘導の研究」という研究テーマ た。代わりに、薬理学的に活動電位を短縮する方法を用い で日本学術振興会の科学研究費助成金を3年間獲得するこ て心不全の進行を抑制できることを示すことが出来ました とが出来ました。これは、我々の研究チームに様々な形で が、その効果は不十分でした。今回の研究では、心筋細胞 ご助力ご助言くださる各科先生方の厚いご支援の賜である 自体ではなく、心筋組織内で心筋を保持する機能を持つ心 と同時に、昼夜を分かたず頑張ってくれる大学院生・研究 筋線維芽細胞に着目し、これを分離・培養し、必要なイオ 員諸君の研究成果が結実したものと理解しております。こ ンチャネルを移入した上で心筋組織に移植することを構想 の場を借りまして、厚く御礼申し上げるとともに、今後と しています。心筋線維芽細胞は、特定の条件下では容易に も変わらぬご支援を賜りますようお願いしたい所存です。 心筋細胞とギャップ結合を形成し、活動電位を共有するこ 今回の研究テーマは、前回の科学研究費助成として評 と(electrotonic effect)によって、移植した局所の不応期 価していただいた研究で宿題となっていた方法論の限界 や活動電位持続時間などの電気生理学的特性を修飾します。 を、新しいアプローチで打破しようとするもので、我々に この心筋線維芽細胞に、特定の形質を持たせて移入すれば、 とっては言わばリベンジマッチです。もともと、不整脈と 目的に応じて任意の範囲に任意の電気的修飾を加えること は、様々な基礎疾患によって変性した心筋組織が電気的に が出来るようになります。これが効果的に行われれば、病 も機械的にもその特性を変化させた結果として生ずる、言 的な部位の電気的特性のみを再生する「抗不整脈治療」が わば成れの果ての現象として捉えることが出来ます。成れ 実現するかも知れませんし、活動電位が延長した不全心筋 の果てを治療するよりも、その過程を治療する、いわゆる 全体に移植すれば、心筋の収縮不全など機械的異常を修飾 上流(アップストリーム)治療が学会で注目される風潮の できるかも知れません。この様な「電気的再生」は、我々 中、我々はさらに「電気的特性変化を修飾することで、心 不整脈専門家が伝家の宝刀として行っている「アブレー 臓組織の変性自体をもとに戻せないだろうか」と考えてき ション治療」の先を行く概念です。アブレーションは、変 ました。 「成れの果て」を処理する専門家が、その治療に 性した心筋を焼いて取り除いてしまうだけですが、それが よって根本病態をも治してやろうとする、無謀かも知れな 広範囲に及べばその悪影響は無視できなくなります。変性 い野望です。数年来、我々はラットの心不全モデルでイオ した部分を再生してこそ、未来の地平を開く治療になると ンチャネルの発現が変化し、活動電位が延長することで 考えています。 細胞内Ca 過負荷が悪化して、さらに心不全を増悪する現 「夢」は広がる一方ですが、この研究を通して「夢物語」 象を捉えてきました。前回の助成研究では、実際に発現が が少しでも「現実の物語」に近づくように頑張りたいと考 低下したチャネルを心筋組織に打ち込むことで活動電位を えています。関係諸先生には、今後とも変わらぬご支援を 再生し、この心不全悪化を抑制することを目的としました 賜りますようお願いしたい所存です。なにとぞよろしくお が、Gene gunを使った方法論では十分なイオンチャネル 願い申し上げます。 2+ − 3 − 科学研究費助成を受けて 次世代シークエンサーによる 古代DNA分析に向けて 太 田 博 樹 (准教授・解剖学) このたび研究課題『次世代シークエンサーによる縄文お 精製するのは容易ではありません。大学院生だった私は、 よび弥生時代人骨のゲノム解析』が、科学研究費補助金助 分析を始めて約半年間は古人骨からDNAを全く得ること 成(挑戦的萌芽研究)を受けることとなりました。昨年4 ができませんでした。しかし実験条件の工夫とあらゆる試 月本学に赴任し採択された最初の科研費であり、喜びも一 行錯誤の末、最終的には標本中50%くらいの確率でミトコ 入です。関係各位に感謝をお伝えしますとともに、ここに ンドリアDNA断片のPCR増幅に成功するようになりまし 皆様にご報告いたします。 た。そして日本人としては初めて古代DNA分析で博士号 私が所属します解剖学・埴原単位の中心的研究テーマは を修得しました。 “人類学”です。もともと人類学は18世紀に人体解剖学か しかし、その後14年間、私は古代DNA分析から遠ざかっ ら発展した理科系の学問ですが、文化系の文化人類学と混 ておりました。先述のように、こうした分析は成功率が低 同されがちで、その区別のため“自然人類学”とか“形質 く「割の合わない仕事」であったからです。それより効 人類学”と呼ぶこともあります。一般に人類学では生物と 率よくデータを生産できる現存のヒトのゲノム解析によ してのヒト(= ホモ・サピエンス)を理解する目的で、 様々 り、代謝関連遺伝子の多様性や疾患原因変異の進化の研究 な形質の多様性が研究対象となります。当教室では過去 に打ち込んできました。ところが近年登場した次世代シー から現代にいたる世界中の人骨の膨大なバリエーション・ クエンサーという全く新しい技術は私の気持ちを再び古代 データからヒトの起源や日本人の形成史について形態学的 DNA分析に引き戻しました。次世代シークエンサーを使 研究を進めて来ましたが、私はDNAのバリエーションを えばPCR増幅による一部のDNA断片でなく、全ゲノム配 基礎に研究に取り組んできています。 列を分析することが可能です。いわゆる「パーソナルゲノ 今回採択されました研究課題は縄文人や弥生人の全ゲノ ム」という考え方が近年欧米を中心に広がっていますが、 ム解析の足がかりを築こうというものです。こうした古い これは一人一人の全ゲノムを解析することにより医学・創 人骨や生物の遺物に残されたDNAを分析する“古代DNA 薬の根本的変革を目指すもので、次世代シークエンサーは 分析”は、1984年にエジプトのミイラからDNAが抽出さ これを進める技術的中心です。この技術を応用することに れNature誌に掲載されたのがパイオニアですが、ポリメ より、縄文人や弥生人の全ゲノム解析を成し遂げることが レース連鎖反応法(PCR)が実用化した1990年代から急速 できるかもしれません。成功すれば、自分たちの直接の祖 に国内外で発展してきました。かく言う私も十数年前、大 先の「パーソナルゲノム」として世界初となります。 学院で与えられた研究テーマが「弥生時代人骨のDNA分 こうした着想のもと本研究課題の申請を行い、採択して 析」でしたが、当時はまだ古人骨からのDNA抽出法も精 いただいた次第です。本課題には、当教室の埴原恒彦教授 製法も確立していませんでした。そもそも古人骨は長い年 の他、琉球大学医学部人体解剖学講座・石田肇教授、琉球 月の間、地中に埋まっており保存状態が良好とは言えませ 大学超域研究機構・木村亮介准教授、統計数理学研究所・ ん。当然、骨の中の残存DNAも化学修飾やダメージを受け、 間野修平准教授が分担者として名を連ねて下さっています。 分子量も極端に減少しています。そうした悪条件の下、外 計画の成功へ向けて皆様の応援、どうぞ宜しくお願い致し 来DNA汚染(コンタミネーション)無しにDNAを抽出・ ます。 − 4 − 科学研究費助成を受けて 独創的思考に基づいた研究 堀 江 良 一 (准教授・血液内科学) このたび「LMP-1によるCD30誘導の解析にもとづくホ 先日ある発表会の懇親の席で 「あなたは論文を読む人?」 ジキンリンパ腫発症の分子機構の解明」という研究テーマ と尋ねられて躊躇無く「いいえ読みません」と返事をする で科学研究費補助金(基盤研究C)の助成を受けることと と、その先生はたいそうおもしろがって「あなたみたいな なりました。当科の東原正明教授をはじめとして御支援い 人がいて安心しました、同じ質問をすると皆、読みますと ただいている皆様にこの場をお借りして御礼申し上げます。 答えるので僕だけ例外かと悩んでいたのです」と話され、 基盤研究Cは今回もあわせると5回連続で獲得することが 妙に盛り上がった経験をしました。もちろん私も自分の仮 出来、ひとつのことにこだわってコツコツと積み上げる 説に関するものや論文を書く過程で必要な論文は読みます 研究の大切さを感じております。私どもはtumor necrosis し、毎月のように論文のレフェリーの依頼がくるので読ま factor receptor(TNFR)ファミリーに属するCD30の過 ない訳ではありません。むしろ別の意味でたくさん読む人 剰発現が、転写因子NF-κBとAP-1の恒常的活性化を介し なのかも知れません。教科書的な知識の取得が必須である てHodgkinリンパ腫(HL)の増殖やHL におけるCD30自 ことは言うまでもありません。 身の過剰発現に関わっている事を明らかにしてきました。 ただ人の論文を追いかけて読んでいると生き字引的には Epstein-Barr virus(EBV)はHLの40-60%に感染を認め、 なるかもしれませんが、独創的思考の妨げになるどころか、 EBV によりコードされ感染により誘導されるLMP(latent 無意識のうちに人の仕事のまね、二番煎じ的思考をするよ membrane protein)-1はTNFRフ ァ ミ リ ー 分 子 と 類 似 の うになっていくように思うのです。 「あの論文読んだ?お 構造とシグナル伝達機構を有し、感染細胞のトランスフ もしろそうだからうちでもやってみよう」というやつです。 オーメーションにかかわると考えられております。しかし また研究と検査の違いにも気をつけることも大切に思いま EBVがどのような分子機構によってHLに特徴的な分子機 す。 「とりあえずあのデータを集めてみよう」というやつ 構を誘導し、発症に関わるのかについては明らかではあり です。きまってデータが出てから「さてどうしょう」とい ません。 うことになります。研究が独自の仮説の検証のプロセスで 本研究は私どものこれまでの研究成果をさらに発展さ あることを考えれば、研究の在るべき “正しい” 姿は自明 せ、EBV感染B細胞が lymphoblastoid cell line(LCL)へ なことですが、 「二番煎じ」や「検査」に陥らないように とトランスフォーメーションする過程で誘導されるLMP-1 することは私自身、常に肝に銘じていることです。 とCD30、CD40、NF-κB、AP-1(JunB)の分子クロストー 若い世代の獲得率が低下しているとも聞きます。科学研 クを、 「各分子の活性化とそれによる脱制御の連鎖」とし 究費補助金を含め競争的資金の獲得が大学に在籍する者に て解析する事によりHL発症の分子機構の解明を目指すも とって責務のひとつであることを、その理由を含めて周知 のです。 していくことが大切であると思います。獲得した競争的資 今回何よりも大切であると感じたのが独創的思考に基づ 金が私どものアカデミーの環境を支えていることを具体的 いて研究を続けることです。その領域で今何が分からない に理解すれば、競争的資金への応募も果たすべき義務であ のか、自分は何を明らかにしたいのかを認識したあと、他 ることを認識できると思います。医学が臨床、教育、研究 の研究者の論理は横に置いてじっくりと自分で仮説をたて という3つの分野に支えられていることを考える時 “正し る。そしてそれを検証していくことであります。この積み い” 研究を経験し、そのマインドをもつことが臨床、教育 重ねは研究に個性を与え、その蓄積は決して他の研究者が にもさらに貢献できる礎、そして糧となると考えます。 容易に入り込めない独創的論理性を与えてくれるのです。 − 5 − 海外選択実習報告会 国際交流委員会 委員長 佐 藤 敏 彦 (教授・臨床研究センター企画開発部門) 平成23年度の海外選択実習報告会が7月1日に開催され 部長の特別な計らいにより、例外として5名を前後半に分 ました。今年度は東日本大震災の影響もあり、一昨年度の けて受け入れていただきました。今年度も循環器内科、心 新型インフルエンザ騒動の時と同様、派遣が危ぶまれまし 臓血管外科を中心に個人の希望により他の臨床各科を回り、 たが7名の参加者がそれぞれの実習を予定通り無事終了し 当地の学生とともに様々な実習をやらせてもらい非常に実 て帰国し、報告会に元気な姿をみせてくれました。 践的な臨床実習になったようです。マーブルク大学は海外 報告会は、和泉徹医学部長の挨拶に引き続き、カルガ からの留学生が多いこともあり、ドイツの学生ばかりでな リー大学(カナダ)において実習した野城聡志君と三井悠 くさまざまな国の学生との交流ができることが大きな魅力 君より発表がありました。カルガリー大学は睡眠に関する になっていますが、今年度は被災した国からの留学生とし 研究が中心のプログラムで、臨床はスリープクリニックに て多くの注目を集め、交流がいつにも増して進んだようで おいて夜間にデータを収集するという位置づけでした。カ した。今回の経験を元に将来、国際的な医療人として活躍 ルガリー大学では毎年、大学においてESL(English as a できるようになってくれればと感じました。 Second Language)のクラスを受講することが求められて 当日は、守屋利佳副委員長の司会進行のもと、5年生を いますが、今年は例年にも増して充実したプログラムで印 中心に約30名の聴衆が集まった他、河原克雅医学科長、岡 象に残ったようです。その分、研究や臨床に割いた時間は 本牧人教育委員長にも参加していただきました。両先生か 減ってしまいましたが、英語の中にどっぷり浸かることに らのコメントの他、学生からの多くの質問があり、海外実 より、より深いレベルで研究のやり方を学ぶことができた 習に対する興味の大きさをあらためて実感しました。本学 のではないかと思います。 のように恵まれた条件で海外実習を受けられる大学は全国 続いて、西成田亮君、前田佑一郎君、塩入瑛梨子君、永 でも稀であり、このような機会をできるだけ多くの学生に 江世佳君、乃木田礼佳君の5名が参加したマーブルク大学 経験して欲しいと思います。着実な準備により国家試験に (ドイツ)での実習についての発表がありました。今年度 臆することなく、多くの学生より応募があることを期待し はマーブルク大学の人気が高く、先方の先生方と和泉医学 ています。 − 6 − 海外選択実習報告(カルガリー大学) カルガリーでの実習を通して 第6学年 野 城 聡 志 三 井 悠 私達は4月13日から6月15日までの9週間を、カナダ 時無呼吸のある方など、毎日多くの患者さん達が訪れま のカルガリー大学で実習させて頂きました。主な実習と す。今回、私達はC-PAP導入の為のsplit night study(睡 してDr. Eastonの下で研究を行い、その他にSleep Clinic 眠の前半で睡眠時無呼吸があるかを判定し、必要があれば とTuberculosis Servicesの 見 学、 更 にESL(English as C-PAPを導入して、後半はその効果を確認する)を二晩 a second language)の授業にも参加させて頂きました。 に渡り見学しました。目の前で頻繁に変動する睡眠の状態、 ESLは直接医学とは関係ありませんでしたが、様々な国の 時に呼吸が止まり、低下し続ける酸素飽和度…そこに適切 人達と出会い、異なった文化に触れることで、今までとは な圧力でC-PAPを実施すると、いびきや体動が収まり、深 違ったものの見方・考え方を学ぶことが出来ました。ESL い睡眠に入っていきます。大変興味深い経験であり、多く の中で私達が学んでいる医学について説明する場面もあり、 の患者さんが治療を必要としていること、そして適切な医 英語で分かりやすく物事を伝える良い経験になりました。 療介入を行うことの重要性を実感することができました。 まず、私達が参加した研究についてお話します。私達 また、カルガリー市内のTuberculosis Services(結核専 が過ごした研究室は、カルガリー大学の近くに位置する 門治療施設)において、Dr. Cowiの下で外来見学をさせて Foothills Hospital の中にあります。研究内容は、睡眠時無 頂きました。日本でも結核の新規患者の多くを発展途上国 呼吸症候群と患者さんが服用している薬の関連性について からの移民が占めているとされていますが、カナダではそ です。私達は、後ほどお話するSleep Clinicにて得られた のような結核に罹患している移民が日本に比べて大変多く、 膨大な数の患者さんの情報を集計するお手伝いをさせて頂 更に閉鎖的な生活を送るnative peopleの患者とも相まっ きました。私達は研究の一部に携わっただけではあります て、その制御は国家的な問題とされています。私達が見学 が、日頃教科書や論文で目にする「エビデンス」の背景に、 した多くの患者さん達も移民の方々で、英語を十分に話せ 多くの人が関わり、某大な時間が費やされている事を知り ず、通訳を介して会話することも珍しくありませんでした。 ました。またDr. Eastonは、現在の研究結果が今後、睡眠 日本で経験することの無かった肺外結核も多く見ることが 時無呼吸のある患者さんに対して行われている投薬の仕方 出来、貴重な経験を通して結核に対する理解が深まりまし を変えるだろうと話されました。ひとつの研究結果が、多 た。その国が抱える医療問題に医師はどう関わっていくべ くの患者さんを救う可能性を秘めているという点で、改め きか、何を考え診療していくべきかを考えさせられる見学 て、医療の更なる発展の為には研究が必要不可欠であるこ となりました。 とを実感しました。 今回のカルガリーでの実習において得た多くの経験は、 次に、今回の留学での臨床見学についてお話しします。 今後私達が医療を実践していく糧となり、より広い視野を 私たちはLethbridgeという街にあるSleep Clinicで、睡眠 もって将来を見据えさせてくれる、掛け替えのないものと に障害のある患者さん達の検査・治療を見学しました。こ なりました。 の施設には様々な基礎疾患を有する方や、特に重症の睡眠 − 7 − 海外選択実習報告(マーブルク大学) 第6学年 永 江 世 佳 私たち5人はクリニカルクラークシップの期間に、ドイ エコー、マンモグラフィ-、マンモトーム見学、ドイツ学 ツのマーブルク大学病院にて実習を行いましたので、報告 生の病棟業務や採血を体験することができました。今回の させていただきます。前半組は循環器内科を6週間、後半 実習を通して学んだことは、自主性の重要性でした。1日 組は循環器内科で4週間実習した後に、小児科、婦人科、 1日、自分が何を学びたいのか、どんな手技を行いたいの 呼吸器内科でそれぞれ2週間ずつ実習を行いました。 かを明確にし、積極的に実習に参加することで得られるも 循環器内科では主に病棟の回診とカテーテル検査に参加 のが大きく広がることを実感しました。 させていただきました。毎朝の回診は、月・水・金は7時 小児科での実習では日々の回診、 病棟業務、 診察のサポー 45分から1時間程度のICU回診、火・木は8時から2時間 ト以外に今まで見学したことのなかった小児の内視鏡、腎 程度の病棟回診というスケジュールで行われ、それぞれ弁 移植、腎生検などに参加させていただきました。小児科の 置換後、大動脈弁狭窄症、AVブロック、肥大型・拡張型 学生や先生方は皆さん優しく教育熱心で、見学中には患者 心筋症、たこつぼ心筋症などの患者さんが入院されていま さんへの説明や手技のやり方、注意点などを英語で説明し した。回診ではそれらの患者さんの心音をMaisch教授の てくださり、多くのことを学ぶことができました。 あとに続いて実際に聞かせていただくことができました。 呼吸器内科では6年生と共に病棟見学と気管支鏡見学を 5年次の臨床実習ではあまり聴診の機会がありませんでし させていただきました。ドイツの6年生は、採血や血管確 たが、マーブルク大学病院では多くの症例の心音を経験さ 保、初診患者さんの問診など、日本の研修医と同様の業務 せていただき、将来に直結する感覚を養うことができまし を行い、自分で全て考えて行動していることに驚きました。 た。カテーテルラボでは、毎日カテーテル治療、検査が行 その実習に臨む姿勢は、私たちも見習わなければならない われています。検査としては患者さんの心内圧、心拍出量 ものだと思いました。また、私も一緒に採血の実習を行い の計測、冠動脈狭窄・閉塞を検索、電気生理学的検査にて ました。気管支鏡見学では、超音波気管支内視鏡検査を見 不整脈の診断、心膜生検、治療としては患者さんの冠動脈 ることができ、大きな収穫でした。その他に消化管内視鏡 ステント留置が大半を占めていました。特に印象的だった 検査も見ることができ、大変有意義な実習となりました。 のは、開胸せずに人工弁をカテーテル手技で置換するとい この度はこのような貴重な経験をさせていただき、本当 う、いわば経カテーテル的大動脈弁置換術とでも言うべき にありがとうございました。北里大学の先生方やマーブル 治療法です。これは、日本ではまだ実施数の少ない治療法 ク大学の先生方、事務の方々など多くの方のお力で今回の でまさに最先端技術でした。私たちの病院実習はこの血管 実習を行うことができました。この経験を糧として、将来 造影実習が中心で、とても有意義な時間を過ごせました。 に活かしていくことができるよう、一層励んで参りたいと 婦人科では、診察見学、腹腔鏡下子宮摘出術への参加、 思います。 縫合、また、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌に対する手術見学、 − 8 − 北里就任挨拶 北 村 律 (講師・心臓血管外科学) 本年4月、心臓血管外科学講師を拝命致しました北村律 野としては、ひとつには右小開胸アプローチの低侵襲僧帽 です。39歳、やぎ座、A型です。 弁手術があります。これは日本でも最近行われている手術 学生時代はジャズ研究会に所属し、割と真面目に研鑽を ですが、神奈川県内ではあまり行われておらず、オースト 積んでおりました。テナーサックスを吹いておりましたが、 ラリアでの経験を生かし、北里大での導入に貢献できれば この15年ほどは楽器に触れる機会もなく、老後の楽しみと と思っています。もうひとつには、左心補助人工心臓手術 してとってあります。 があります。北里大の循環器内科は日本でも有数のハイレ 1996年に東大を卒業し、外科系の研修ローテーションに ベルな心不全治療を行っておりますが、内科的治療が限界 入りました。胸部外科の3か月間では、若かりし頃の宮地 である症例には、若年者は心移植へのブリッジとして人工 教授や、3年先輩の柴田先生の下で、まだ昭和の香りの残 心臓手術が必要になることが少なくありません。本年よ る古い設備の中、1か月に3回ほどしか帰宅できない充実 り国産の埋め込み型左心補助人工心臓が保険償還される した研修を受け、絶対心臓外科には入らないと思っており ことになり、将来的には心移植の適応のない高齢患者の ました。 destination therapy になる可能性も十分あります。北里 1998年から東京都教職員互助会三楽病院の外科医員とし 大も埋め込み型左心補助人工心臓手術の認定施設となるべ て、一般外科のトレーニングを受けるうちに、ネバネバし く、まずは第一歩を踏み出す必要があると思います。これ たものを縫う感触があまり好きでないことに気づき、また、 についても循環器内科と密に連携しながら、導入に貢献で リンパ節郭清の概念もすんなりとは受け入れられず、そし きればと思っております。 て何より癌治療の虚無的な面が重く感じられ、消去法で心 心臓外科治療は、手術手技の技術もさることながら、他 臓外科に入ることに決めた次第です。 科以上にチームワークが求められることが多く、常日頃か 2000年に東大胸部外科に入局後、千葉の旭中央病院でト ら、内科医、麻酔科医、看護師、ME、薬剤師、理学療法士、 レーニングを受け、2001年に東大に戻って大学院に入り、 ソーシャルワーカー、秘書、同僚外科医等に対する「報恩 2004年からは三井記念病院のチーフレジデントとして、毎 の精神」を忘れることなく、コミュニケーションを取りな 週月水金当直の日々を過ごしました。2005年に学位を取得 がら、最終的には患者さんの治療成績を上げることにつな 後、さらなる手術のトレーニングを受けるべく海外の施設 げていきたいと考えております。また、1970年代初頭より にラブレターを書きまくりました。 続く北里大心臓血管外科の歴史ある実績を、叡智にあふれ 2006年1月より縁あってオーストラリアのロイヤルアデ る新しい技術の実践の礎とすべく、外科医としてできる範 レード病院に勤務し、2年間はレジストラ(フェロー)と 囲で臨床研究を続けていきたいとも考えています。日頃か して多くの執刀機会に恵まれ、さらに2年間シニアフェ ら宮地教授に 「最後は根性や」 と言われ続けていますが、 「不 ローとして指導的助手や重症例の執刀を責任ある立場でさ 撓・不屈の精神」をもって頑張っていきたいと思っており せて頂く機会を得ました。オーストラリアでは約400例の ます。 執刀と、約100例の指導的助手を経験できました。 現在、多くの大学病院の心臓外科では疲弊感と閉塞感が 2010年初めに帰国しましたが、その道中フロリダでの学 蔓延していますが、北里では若手医師、学生のエネルギー 会で、宮地教授に盃を頂戴し、ひとまず3月から1年間東 が満ち溢れ、その先には明るい未来が見えます。うっすら 大に勤めた後に、今回北里大に赴任させて頂きました。東 ですが。まだまだ若輩者ですが、和泉学部長、宮地教授を 大では冠動脈手術、弁膜症手術はもちろん、複合手術、左 はじめ、諸先輩方のご指導を賜りながら、 「持続性を伴っ 心補助人工心臓、心移植などにも関わる機会を頂きました。 た高いレベルの心臓外科」の構築に僅かでも貢献できたら 本学の建学の精神の最初に「開拓の精神」が挙げられて と思っております。どうか皆様よろしくお願い申し上げま いますが、僕が開拓に関わることができる可能性のある分 す。 − 9 − ◆私は何故この科を選んだか 講師就任挨拶と若き医学生達への メッセージ 鈴 木 祥 生 (講師・脳神経外科学) この度、講師に就任いたしました脳神経外科学の鈴木祥 されていましたが、実際の医療現場は思い描いたのとかな 生です。診療は脳血管内治療を専門に担当しております。 り違っていたことを痛感しました(ここだけの話ですが) 。 また、脳血管センターにて急性期脳卒中の診療も担当して しかし、学生の時からの純粋な気持ちは衰えず、かれこれ おります。この場をお借りして、今までご指導・ご鞭撻を 20年程続いているのは性に合っているからなのでしょうか。 頂いた先生方に御礼申し上げます。今後ともどうぞ宜しく 奇しくも、現在親戚の脳神経外科医と同じ脳血管内治療の お願いいたします。 専門医となった自分がいます。 さて、私が脳神経外科を志そうと考えたのは実は大学に 以前、私の師匠(何の師匠かは秘密ですが)に「あなた 入学する前からでした。たぶん、脳神経外科の何を理解し は『運命の地図』と『天命の地図』を持っている。その違 ていたのかはなはだ怪しい状態でしたが、自分の中では満 いを理解しどのように行動するかを決めなさい」と言われ 足感を得られる充実した目標でした。「どういう医者にな たことがあります。私と脳神経外科との出会いは『天命』 りたいの?」と聞かれると「脳神経外科医になりたいです」 とは思いませんが、ある意味『運命』的出会いだったのか と答える。すごいねと言われちょっとした優越感を感じま もしれません。しかし、誰もが『運命』的な出会いをする した。先輩からは生意気だと思われたかもしれません(大 訳ではありません。人生は考えに考え抜いて選択を繰り返 学の先輩には脳神経外科医が多く、しめしめと思った人も していくものです。また、 「人生は大きな木のようなもので、 いたかもしれません)。なぜ、脳神経外科かというと、つ 最初は太い幹を登っていてもその後のいろいろな選択で脇 まらないほどありふれた話でありますが、親戚の脳神経外 の枝に入ってしまう。枝に入ってしまうともう本幹には戻 科医の影響を受けたからです。度々脳科学の奥深さを聞か れない。そして自分より上の枝を見上げうらやむこともあ され、また、アメリカ留学時に勉強した当時最先端技術だっ るかもしれない。しかし、自分のいる枝も先に向かって伸 た脳血管内治療のすばらしさを叩き込まれました。自分の びるときれいな花を咲かせる。選択を悔やむより先できれ なかでは憧れの存在であり、子供の頃から、医者=脳神経 いな花を咲かせればいい。」とも言われたことがありまし 外科医との関係が脳の中に形成されました。つまり、医学 た。これは人生の気休めではなく心得だと思います。人生 全般に興味が湧くまえに、脳神経外科というマイナーな部 は一度しかないものですから。 『運命』的な出会いがなく 分に夢を膨らませてしまっていたことになります。普通な ても、進路を選択した後に花を咲かせられるかどうかはど ら、大学に入学し医学全般を学ぶうちに心変わりすること れだけ自分に没頭できるかだと思います。目先の付属物に も多いかもしれません。特に、臨床実習の時は心臓血管外 惑わされず、長く興味を持てることが大切だと考えます。 科の先生に可愛がられ、かなり勧誘されました。人との出 『花』とは決して世界的な仕事を成し遂げることではあり 会いも重要ですが、自分のなかでは幼いころの憧れと理想 ません。ちょっとしたことでも、自分で頑張ったなと思え に勝るものはありませんでした。若い頃の脳は洗脳されや ることなのです。一つ一つの積み重ねが満開の花を咲かせ すいということでしょうか?それは少し怖い気もしますが。 るのでしょう。こころの声を聞き、自分に素直になればお 実際、一度も進路希望は変えず、豊富な臨床経験が可能で のずと答えが出て来ると思っています。どんな選択をして あるとの売り文句に医局員を募集していた北里大学の脳神 も、自分を信じることです。そして、こころにゆとりを持 経外科の医局(当時は矢田教授)に入局しました。入局当時、 ち、楽しくやれるのが一番だと思います。皆さんの前途が 6年間大学で医学を勉強し、幼いころの偏った知識は修正 実り多いものになりますように。 2011.7 No.323 − 10 − ○●○エッセー○●○ 学士入学を経て 青 栁 和 也 (診療講師 形成外科・美容外科学) 入局後12年を経て、今春から診療講師に就任致しました。 るのが見えた。どうやらそれは、未だにか細い息をしてい 入局した当時のことは今でも記憶に鮮明で、10年以上も るようだった。 の時間が経過したとは俄かに信じ難い。殆ど眠れない日々 転身の決断を下したことについて、他人から御褒めの言 が連続したレジデント時代が徐々に遠くなって行くのを感 葉を頂くことがある。勿論、社交辞令である。それでも褒 じ始めた矢先に、診療講師への推薦を頂いた。 め言葉に変わりはない。そういう時、私はどうにも居心地 形成外科・美容外科学教室に所属する身として、最重要 が悪い気分になってしまう。私は高尚高邁な医学への精神 の仕事が手術であることは論を待たない。手術がしたい一 に支えられて再出発を決めたわけではない。自分の為に、 心で入局した当時を思うと、現在は担当する手術が増えて 自分で尻拭いをしようと思い立っただけだった。そもそも 正に望むところとなったと言える。 の原因は完全に自分の内部にあった。結果として何人もの ところが・・・ 近しい人々に迷惑を掛けたし、恐らく某かの代償も支払う どうしても手術に対する恐怖感が抜けないでいる。いや、 ことになった。いずれにせよ、極めて個人的な明け暮れに むしろ急速に大きくなっている。怖いのだ。 終始したに過ぎないような気がするのだ。だからこそ、私 私が北里大学医学部に入学したのは1994年の春であった。 を受け入れてくれた「北里」には感謝している。 この時、私は北里大学医学部では初めての学士入学者とし 医学の道に入ってからは、改めて様々なものを獲得する て2年次に編入した。春先の冴えた空気の中、やや周囲の 喜びを味わった。多くの信頼できる仲間を得たし、彼らも 人間よりも年嵩であることを意識しつつ、合格発表の掲示 私を受け入れてくれた。現在の職を得たのは、幾重にも連 板に自分の番号を見つけた時の感激は忘れられない思い出 なった幸運のお陰だと感じる。 である。 12年が過ぎて今に至ったわけだが、最近よく考え込むこ 医学の道への志望自体は随分長く抱き続けていた。しか とがある。現状をどのように捉えたら良いのだろうか。果 し、そんな私の志望は子供っぽい夢以上のものには成長し たして自分はマトモな医者になりつつあるのか、無理をし なかった。生来の幼稚さが原因である。私が「志望」を確 て転身をしただけの価値があっただろうか、と。答えは未 固としたものに「成長」させねばならなかった時期、世は だ暗中模索といったところだが、日々診療は続くし、自分 バブル最盛期にあった。好むと好まざるとに関わらず、砂 を否定しながら生きることも出来ない。進むには何か拠り 上の楼閣と判っていて尚、高く高く登らねば損をするかの 所が必要だ。 ような強迫観念が世の中を支配していた。私の脆弱な精神 私にとってそれは、冒頭に書いた恐怖感であろうかと思 が、一見魅惑的なこの風潮に逆らえる筈も無く、なし崩し う。思い出してみると、医者になる前にも想像としての恐 的に医学への「志望」は置き去りにされていった。 怖感があり、初めての手術の時にも大きな恐怖感を抱いて 昭和が終わり、某大手メーカーに就職すると同時にバブ いた。そして今も増大する恐怖感に悩まされている。そし ルは弾けた。まさに夢から醒めたようであった。そんな中 て、恐怖感があるから何度も考える。調べて、また考える。 で始まった新社会人生活は、私の知らなかった様々な鬼達 負けないようにしなくてはと自らを励ます。恐怖感が薄れ に追い掛けられる毎日で、しばらくは何かを考える余裕な た時の方が、むしろ危険だ。そう自分に言い聞かせながら ど無かった。 手術に臨む日々である。 夢中のまま3年が過ぎた。石の上にも3年とは良く言っ 今後は更に精進し、社会に利益を還元して行きたい。ま たもので、そのくらい経つと自分の居る世界の全体像が見 たこの場を借り、改めて関係者の皆様に御礼を申し上げる えるようになって来る。私は、まずゆっくりと自分の周囲 と共に、更なる御指導をお願いしたい。まだまだ諸先輩方 を見回した。朧ではあるが、その世界で目指すべき方向は に助けられることばかりだが、これからは助ける側として 判明したように感じた。それからふと足下を見ると、成長 も努力していきたいと考えている。後輩の皆さま、どうか し損なった私の「志望」が、思ったより近くに転がってい よろしく。 − 11 − 3.11の震災以来、世の中が変わってしまったという声があちこちから聞こえる。節電のため、電車に 乗れば車内灯が消され、駅ではエレベーターが止まっている。屋内ではどこも空調温度が高く設定さ れ、皆ひたいに汗を浮かべている。大学キャンパス内でも廊下の電灯が消され、夜になると本当に暗い。 なんとなくアクティビティーが下がってしまったような印象を与えるが、そんな雰囲気に負けない活力 を持ちたい。子供の頃、台風で停電になると妙にハイな気分になったのを覚えているが、暗い廊下に はあれと似た高揚感がある。意外と人間は逆境の時こそ知的に研ぎすまされ思わぬ創造力を発揮する 生き物なのだと信じつつ暑い夏を乗り切りたい。 (H・O) 医学部防災対策委員会より ●Ver.3● 3月11日に『東日本大震災』が発生して、はや4か月が とを含めて、もう一度初心に戻り防災対策について考えて 経ちました。発生当日は大地震に弱い都市構造を目の当た みてはいかがでしょうか。 (K・E) りにしました。一斉通話等による通信の混乱、及び交通機 関が乱れたことによる不都合を、多くの人が実感したと思 います。 今年度は10月17日(月)14:40~16:00〔雨天時は24日(月) に順延〕に防災訓練を行います。今回は初めての試みとし て、相模原キャンパス各学部合同(看護学部は除く)で訓 練を行うこととなりました。また、新大学病院建設に伴い、 第1避難場所がA1号館前広場(医療衛生学部と合同の避 難場所です)に変更されました。昨年までと防災訓練の勝 手が違ってきますが、落ち着いた行動を心掛けましょう。 災害は発生して初めて、日頃からの心構えや訓練の大切 さがわかるものです。今後発生が予想される東海地震のこ 昨年度の医学部防災訓練 編 集 後 記 例年になく早く入った梅雨もあけないうちから、猛暑日が続 いております。今年はキャンパス・病院ともにきびしい節電が 求められ、特に学生の皆さんは暑い中勉強に励まざるを得ない 状況となっています。学生・職員の汗だくの努力のたまものか、 7月6日(最高気温34.2℃)の電力使用率は、相模原キャンパ ス全体で82.4%、医学部では80.2%と、いずれも削減目標15%を みごとにクリアしていました。ただ、医学部内でもかなり室温 差があるようです。学生の皆さんがいる教室や3階エリアなど は、若い熱気でかなり暑く感じます。試験前であり、国家試験 勉強も本格的になるこの時期ですが、体調にはくれぐれも注意 をお願いします。私見で恐縮ですが、夏は大好きで、お盆で世 間が休みのときに がんばると後々よ い結果に結びつく と感じてきました。 夏の過ごし方は個 人によって違うと 思いますが、特に 高 学 年 の 皆 さ ん、 この時期おいしい ビールはほどほど に控えて、悔いの ないようにがんばってください。 病院玄関前の池の鯉が、新病院建設とキャンパスの再開発工 事のため東病院敷地内に移転したようです。この暑さの中元気 でいるか、少し心配です。先日どこから来たのか、カルガモの 親子が医学部前の池で遊んでいる光景を目にしました。何人か の方々が見物していて、心和む空間となっていました。変化す る構内をみるにつけ、一抹の寂しさも覚えつつ、これから建設 されていく病院を想像してとても楽しみに感じています。東日 本大震災の後、さまざまに考え方が変わったと思いますが、身 近な日常は粛々と過ぎていきます。これが本当に幸せなこと なのだと気がついたことも、大きな変化のひとつでしょうか。 (H・N) 医学部ニューズ〔第323号〕 http://www.med.kitasato-u.ac.jp/ ●発行責任者 和 泉 徹 ●編集責任者 宮 下 俊 之 〒252-0374 相模原市南区北里1-15-1 北里大学医学部内 医学部ニューズ編集委員会 TEL.042-778-8704 (直通) FAX.042-778-9262 E-mail [email protected] ●発 行 日 平成23年7月31日発行