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香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面~~熊の変化

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香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面~~熊の変化
304:306(気象要素の経年変化;地表面状態)
〔論文〕
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
山地一代*・米谷俊彦**・森
征 洋***
要 旨
香川県高松市,多度津町における気温および相対湿度の経年変化と周辺地域の地表面状態の変化について調べた.
年平均気温は長期的に上昇傾向を示し,年平均相対湿度は急激な低下が起る時期が現れた.気温・相対湿度の経年
変化を季節別にみると,特に春の変化率が最大となった.1960年代に,両観測点の周辺では比較的湿潤な地表面(水
田・畑地・海など)が著しく減少し,逆に乾燥化され易い地表面(市街地・住宅地など)が急激に増加した.相対
湿度の急激な低下の時期は,地表面状態の急激な変化の時期と一致しており,両者は密接に関係していることが示
唆された.一方,年平均気温は,同時期における周辺の土地利用の急激な変化に対応するような変化は認められな
かった.
1.はじめに
気温に都市化の影響が現れるならば,それは日平均気
近年,人間の活動が地球環境に与える影響について
温にも影響が現れることになる.
問題とされている.特に,地球温暖化問題に関して,
一方,日本の都市の相対湿度は1950年代と1960年代
気温の長期的な変化が注目されており,全球の平均気
に急激な乾燥化を示しており,東京・大阪など大都市
温は増加傾向にあることが各種の解析結果から明らか
ほど相対湿度の低下は大きく,他の多くの都市でも同
にされている.日本においても気象庁等によって日本
様の低下傾向が認められることが報告されている(小
国内の地上気温の経年変化が調べられており,年平均
元ほか,1994;藤原,1989;中辻,1992など).これま
気温は0.9度/100年の長期変化傾向があることが示さ
で,気象要素の経年変化に及ぽす都市化の影響は,人
れている(気象庁,1993,1996).このような地上気温
口の変化などと関連づけて統計的に調べられている
の経年変化を調べるに当たっての問題点は,観測地点
(野口,1994).しかし,都市化の影響は,観測地点周
の移転や観測・統計方法の変化などの影響があるばか
辺の土地利用状況の変化と関連づけて調べることがよ
りではなく,気温の経年変化には都市化の影響が含ま
り直接的であるように思われる.
れていることである(山元,1990).日本の気象官署に
本研究では,香川県高松市(以下高松)と多度津町
おける日最高気温・日最低気温に与える都市化の影響
(以下多度津)の気象資料を用いて,日平均気温・日最
に関して,日最高気温には都市化の影響はみられない
高気温・日最低気温・日平均相対湿度の経年変化につ
が,日最低気温には顕著な都市化の影響が認められる
いて調べた.これらの地点の気象要素の経年変化につ
ことが報告されている(野口,1994).従って,日最低
いては,奥田・西本(1995)によっても調べられてい
る.今回は月毎に長期的変化傾向の解析を行い,さら
*岡山大学資源生物科学研究所(現:四国工業技術研
究所).
料岡山大学資源生物科学研究所.
***香川大学教育学部.
一1998年3月27日受領一
一1998年11月13日受理一
◎1999 日本気象学会
1999年3月
に詳しく調べるとともに,気象要素の経年変化と観測
地点周辺の土地利用状況の変化との関係についても調
べた.今回調査を行った2地点のうち多度津は,日本
国内の気候変動の実態調査において,気象庁が資料を
用いた全国15地点のうちの1つに入っている.
31
198
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
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20
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最高気温
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ハ
9
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’
平均気温
遡
唄
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ノ
10
∼
20
2.解析資料・方法
本研究では,高松地方気象台と多度津測候所の資料
均気温・日最高気温・日最低気温・日平均相対湿度の
!’一
2000
1950
年
第1図 高松地方気象台と多度津測候所の位置.
台と多度津測候所の位置を示す.用いた資料は,日平
’
最低気温
1900
を用いた.第1図に,今回解析を行った高松地方気象
1
ノ
ヤノノ
b
最高気温
ハ
) 15
遡
唄
9
平均気温
月平均値(以下では日平均相対湿度については単に相
対湿度とする.)である.資料の期間は,高松が1921年
∼1995年(75年間),多度津が1893年∼1995年(103年
間)である.なお,高松地方気象台での観測開始は1941
年であり,それ以前の観測データは高松市内の別の地
点で香川県によって観測されていたデータを用いた.
観測地点が違っているために,1921年∼1941年と1942
年∼1995年に分けて解析を行った.さらに相対湿度に
10
最低気温
1900 1950 2000
年’
第2図 日最高気温・日平均気温・日最低気温の
経年変化.(a)高松の気温の経年変化(破
線は現在の気象台に移る前のデータ)を
示す,(b)多度津の気温の経年変化を示
す.
ついては,近隣の気象官署(岡山・松山・高知・室戸
岬)の資料を用いて比較を行った.
各気象要素は年毎のばらつきが相当に大きいので,
経年変化の解析には3年問の移動平均を用いた.また,
14
長期的変化傾向は線形回帰式の傾きから求めた.高松
と多度津の対比のために,高松地方気象台での観測開
始後の同じ期間である1942年から1995年までの54年問
についても長期的変化傾向の比較を行った.
都市化の指標として地表面状態の変化を解析するた
めに,これまでに国土地理院から発行された5万分の
1および2万5千分の1の地形図を利用した.これら
〈
」
1
∂
ヘ ノ
12
ハ
ρ
)
遡
唄
10
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多度津
,∼ 、》》’
高松、!
》
の過去の地形図から高松地方気象台および多度津測候
所を中心とする地域の土地利用状況を読み取り,間接
的な都市化の指標として,地表面状態の変化を調べた.
8 1900 1950 2000
3.解析結果
3.1気象要素の経年変化
高松と多度津の日平均気温・日最高気温・日最低気
年
第3図 高松・多度津の日最低気温の経年変化.
温の年平均値の経年変化を第2図a,bに示す.高松で
32
“天気”46.3.
199
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
80
(b)
(a)
(c)
80
ノ、ら
3、ひ
8 ”、
∼ 、
ヨ ロ
高松 Z l
8
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多度津
遡
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松山
室戸岬
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1900 1950 2000 1950 1980 1950 1980
年 年 年
第4図 高松・多度津および近隣の測候所の相対湿度の経年変化.(a)高松・多度津の相対湿度の経年変化を示
す,(b)高松・多度津と似た変化傾向の松山・高知の相対湿度の経年変化を示す,(c)高松・多度津と
違う変化傾向の岡山・室戸岬の相対湿度の経年変化を示す.
の気象観測所は市内中心部にあったが,1941年から現
(1995)によっても指摘されている.日最低気温は,高
在の場所での高松地方気象台による観測が開始され
松における上昇が特に著しい.そのため,日最低気温
た.第2図aには,現在の場所で気象観測が開始され
る以前のデータも破線で図に示した.高松の場合,観
は1980年代以前には多度津の方が高松よりも1。C程高
温であったが,最低気温の経年変化を比較した第3図
測地点が市街地から水田地域に移転したことにより,
が示すように,最近では高松と多度津の日最低気温の
日平均気温・日最低気温に2℃程度の減少が認められ
差が次第に小さくなってきている.
る.また,日最高気温もわずかながら減少が認められ
高松・多度津の相対湿度はともに1960年代から1980
る(第2図a).市街地と水田地域で地表面状態の違い
年代の約20年間に,約10%の減少を示した(第4図a).
により気温差が生ずることは,杉本・近藤(1994)の
観測例からも明らかである.高松の観測地点が移転し
両地点の相対湿度が急激な低下を示した期間につい
て,近隣の気象官署(岡山・松山・高知・室戸岬)の
た前後の時期に,多度津の日平均気温・日最低気温に
経年変化を第4図b,cに示す.県庁所在地である松
は,顕著な不連続的な変化は認められない(第2図b).
山・高知については,同期間に高松や多度津と同様な
高松における変化は,観測地点が市街地から郊外に移
相対湿度の低下が認められた(第4図b).一方,当時
転したことによる周辺環境の変化に伴うものであると
の観測地点が比較的郊外に位置していた岡山では,他
考えられる.他の気象官署についても観測地点の移転
の観測点ほど急激な相対湿度の低下はほとんど認めら
に伴う不連続な変化はしばしば報告されている(例え
れない.また,周辺の環境変化が少なかった室戸岬に
ば,福岡,1996).このことは逆に,周辺地域の都市化
おいては,相対湿度の低下は全く認められない(第4
によっても気温が変化することを意味していると考え
図c).これらの結果は,相対湿度の低下と周囲の環境
られる.
の変化の間には密接な関係があることを示唆してい
第2図a,bによると,移転後(1942年以後)の高松
および多度津では,日最高気温・日平均気温・日最低
る.
気温の経年変化に長期的な上昇傾向が認められる.こ
3.2気象要素の月別上昇率
高松と多度津の月別の気温(日平均・日最高・日最
のような平均気温の上昇傾向については,奥田・西本
低)の経年変化からそれぞれの気温の100年あたりの月
1999年3月
33
200
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
6
Eコ高松(1942−1995)■多度津(1893−1995)
■多度津(1942−1995)
a
計
8
20
廿
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斑
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ρ
酬舳L.
駄2
■
e
唄
口高松
■多度津
8
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1 2 3 4 5 6
夜
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0
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2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 平均
月
b
計
1
第6図 高松・多度津(1960∼1980)の相対湿度
について20年問の月別減少率.
く 4
9
研
駄2
→
e
90
唄
厭o
(◎ 1893年∼1965年
珂
貯
一2
一.一一 一
((⊃ 1966年∼1995年
上
6
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8
C
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8
9
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駄2
→
e
唄
凹舳.
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● O
月
123456789101112平均
」___ _一 」
1
L
_⊥
__」_
月
23456789101112平均
第5図 高松(1942−1995)・多度津(1942−1955,
1893−1995)の日最高気温・日平均気温・
日最低気温の100年あたりの月別上昇率.
(a)日最高気温の100年あたりの上昇率
を示す,(b)日平均気温の100年間の上昇
率を示す,(c)日最低気温の100年あたり
の上昇率を示す.
)
遡
唄
夜
罪
●
●
80 ●
● ●● ●
●●9 ■■1●D O●●●
●● ●●●■■9●●0●D● ●
● ●9 0■■00■■1●0 ● ● ●
●■● 00●● ●● O O
●● ●●O O●■D● ●O (D
70
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O O O O O
GD OOO O O O O
∞OO O O ⑨
O O O
⑨ O O
O O O
O
60
500
1000 1500
年降水量(mm)
第7図 高松・多度津における降水量と相対湿度
の年平均値の関係.
別上昇率を求めた(第5図a,b,c).高松・多度津と
率のピークが,日平均気温の上昇率のピークと似た季
もに,日平均気温の上昇率は冬から春にかけて大きく
節に生じたので,気温の上昇と相対湿度の減少の間に
なり,10月にも若干大きくなる傾向があった(第5図
何らかの関係があると考えられる.
b).日最低気温も同様に,冬から春にかけて上昇率が
3.3 相対湿度の経年変化と他の気象要素の関係
大きく,4・5月に第1のピークが見られ,7月に最
相対湿度の経年変化に及ぼす年降水量の影響をみる
低になっている.その後,再び上昇率が大きくなり,
10月に第2のピークが見られる(第5図」c).日最高気
が始まる前の73年問(1893年∼1965年)と後の30年間
温の上昇率は日平均気温や日最低気温の上昇率に比べ
(1966年∼1995年)に分けて,年降水量に対する相対湿
て小さい.また,日最高気温の上昇率は1年を通して
度の年平均値をプロットした(第7図).相対湿度の低
ために,高松および多度津において,相対湿度の低下
月毎の変化が小さい(第5図a).このことより,日平
下の始まる前と後では,両期間ともに,年降水量が増
均気温の上昇傾向は,日最高気温の上昇よりも日最低
加すると相対湿度に増加する傾向が見られる.しかし
気温の上昇の影響を大きく受けていると考えられる.
ながら,相対湿度の低下が始まる前と後の年降水量は
1960年から1980年において,多度津の月別の相対湿
ともに500mm∼1600mmの問でばらついており,こ
の時期の降水量の顕著な減少は認められない.した
度の経年変化から,20年間あたりに換算して月別減少
率を求めた(第6図).高松・多度津ともに,冬から春
がって,1960年以降の相対湿度の急激な低下は年降水
にかけて減少率が大きくなっている.相対湿度の減少
量の変化によるものとは考えられないように思われ
34
“天気”46.3.
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
201
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琳!
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㍉里♪”亥
●
■ 鴨、
“ 噛 ■ ,
■蝿 ・ “ 尊
(d)
(c)
口池
圏耕地(主に水田)
−住宅地・市街地
第8図 高松地方気象台周辺の土地利用の変化。○は高松地方気象台の位置を示す,
(a)高松地方気象台を中心とする4km2の地形図(1962年)(国土地理院発行
の2万5千分の1地形図「高松南部」(昭和3年測図)を使用),(b)高松地
方気象台を中心とする4km2の地表面積状態を示す(1962年),(c)高松地方
気象台を中心とする4km2の地形図(1989年),(国土地理院発行の2万5千分
の1地形図「高松南部」(昭和44年改測,平成元年修正)を使用),(d)高松
地方気象台を中心とする4km2の地表面積状態を示す(1989年).
る.
相対湿度の経年変化は,他の気象要素によっても大き
また,相対湿度の低下の原因として,気温の上昇に
く左右されると考えられるが,気象要素以外にも相対
よる影響も考えられる.しかし,相対湿度の急激な減
湿度の低下をもたらす幾つかの要因があるように思わ
少は1960年から1980年に生じており,気温上昇の生じ
れる.
た期間と必ずしも一致していない.さらに,尾崎(1998)
3.4 気象要素の変化と地表面状態
は,月毎や時刻毎の絶対湿度を算出して相対湿度の低
(1)地表面状態の解析
下が始まる前後の比較を行い,1960年から1980年にっ
地表面状態の変化を調べる直接的な資料はないの
で,地形図から読み取った土地利用の変化から地表面
いての絶対湿度の低下を確認している.このことから,
1999年3月
35
202
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
(a)
(b)
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./(d)
(c)
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、
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一 韓
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轟・」.’・
.史
醐
口海
囲耕地(主に水田)
囲裸地(埋め立て地)
■■■住宅地・市街地
第9図 多度津測候所周辺の土地利用の変化.○は多度津測候所の位置を示す.(a)
多度津測候所を中心とする4km2の地形図(1910年)(国土地理院発行の5万
分の1地形図「仁尾」(明治39年測図,明治43年修正)および「丸亀」(明治
39年測図)を使用),(b)多度津測候所を中心とする4km2の地表面状態を示
す(1910年),(c)多度津測候所を中心とする4km2の地形図(1989年)(国土
地理院発行の2万5千分の1地形図「讃岐粟島」(昭和53年改測,平成元年修
正)および「丸亀」(昭和44年改測,平成元年修正)を使用),(d)多度津測
候所を中心とする4km2の地表面状態を示す(1989年).
状態の経年変化を調べることにした.この解析におい
1928年から1989年の間の7枚の地形図を利用した.多
ては,気象観測地点を中心とする,辺の長さが東西・
度津測候所周辺の土地利用の解析については,1910年
から1989年の間の6枚の地形図を利用した.
南北それぞれ2kmの正方形の領域(面積4km2)を
100m四方のメッシュで区切り,各区画ごとに土地利
高松地方気象台周辺の土地利用の変化の例として,
用の状態を海・池,耕地,裸地(埋め立て地)および
1962年の地形図(第8図a)と地形図から読み取った地
市街地・住宅地の区分で読みとった.
表面状態(第8図b),1989年の地形図(第8図c)と
高松地方気象台周辺の土地利用の解析については,
地形図から読み取った地表面状態(第8図d)を示し
36
“天気”46.3.
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
100
203
(2)気象要素の変化と地表面状態の変化の関係
a
水田や海水面などの比較的湿潤な地表面は,高松・
耕地(主に水田)・池
多度津ともに1960年代から著しく減少し,代わって住
ハ
ぷ
)
50
旺
宅地や市街地などの比較的乾燥化され易い地表面が増
加した.両地点ともに,相対湿度も1960年代以降急激
に低下していて,地表面状態の変化の時期と一致して
罹
碧
いる.一方,気温の上昇傾向は近年の15年間に比較的
引
顕著に現れているが,地表面状態の変化との関係は明
住宅地・市街地
0 1900
100
らかにはならなかった.
1950
年
2000
b
4.まとめ
高松および多度津における気温および相対湿度の経
年変化と観測地点周辺の土地利用の関係について調べ
海・銚地(主に水田)
ハ
*
)
50
旺
た.長期的に見ると,両地点とも日最高気温・日最低
気温・日平均気温は上昇傾向を示し,相対湿度は低下
傾向を示した.気温・相対湿度ともに季節によって経
碇
碧
年変化率は異なり,特に日最低気温・日平均気温は,
春季の上昇率が最大となった.各種の気温は,最近15
・H
住宅地・裸地(埋め立て地)
0
1900 1950 2000
年間の上昇傾向が著しい.日平均気温の近年の上昇傾
向と1960年代に生じた観測地点周辺の土地利用の急激
年
な変化との間には,時期的な対応関係は見られなかっ
第10図 観測所周辺の地表面状態の経年変化』
た.このことは,.高松・多度津における年平均気温の
(a)高松地方気象台周辺,(b)多度津側
長期的な上昇傾向には,周辺の土地利用の変化ばかり
候所周辺.
ではなく,大きなスケールの気温の上昇傾向も反映さ
れていることを意味していると考えられる.
た.高松地方気象台は1962年には水田で取り囲まれて
両観測地点の相対湿度は,1960年から1980年にかけ
いたが,1989年には周辺は一部を残して住宅地となっ
て急激な低下を示している.これは他の都市の気象官
ている.多度津測候所周辺の土地利用の変化の例とし
署における特徴と類似している.特に,冬から春にか
て,1910年の地形図(第9図a)と地形図から読み取っ
けて最低気温の大幅な上昇と相対湿度の大幅な低下が
た地表面状態(第9図b),1989年の地形図(第9図c)
認められた.これらの経年変化の傾向は,他の都市に
と地形図から読み取った地表面状態(第9図d)を示し
おける特徴と類似しており,高松・多度津においても
た.多度津測候所は,1910年には海岸近くに立地して
都市化の影響が現れていることを示唆している.
いたが,、1989年には埋め立てに伴い300mほど海岸か
観測地点の周辺地域の地表面状態は,高松・多度津
ら離れている.また,周辺の住宅地も拡大している.
ともに,1960年代以降に比較的湿潤な地表面が減少し,
両観測地点ともに周辺の土地利用は大きく変化してい
代わって比較的乾燥化され易い地表面状態が増加し
た.地表面状態の変化と気温の上昇傾向との間に相関
る.
観測所周辺の地表面状態の経年変化を第10図に示
す.高松においては,1962年以降に住宅地・市街地の
湿度の急激な低下時期と観測地点周辺の地表面状態の
占める割合が増加し,逆に水田が著しく減少している
変化時期との間には,密接な関係があることが明らか
(第10図a).多度津において,1960年以降に沿岸部の埋
になった.
は見られなかった.一方,高松および多度津での相対
め立てや水田の減少に伴って,住宅地や埋め立て地の
占める割合が増加した(第10図b).両地点とも,住宅
謝 辞
地や市街地などの割合が,1970年頃まで50%以下で
研究を行うにあたり,資料を提供してくださった高
あったが,1989年には約70%になった.
松地方気象台および多度津測候所に感謝の意を表しま
1999年3月
37
204
香川県の都市域における気象要素の経年変化と地表面状態の変化
野口泰生,1994:日最高・最低気温の永年変化に与える
す.
都市化の影響,天気,41,123−135.
参 考 文 献
藤部文昭,1997:都市気象官署における気温極値の経年
変化,天気,44,101−111.
藤原 清,1989:神戸における湿度について,研究時報,
41(別冊),130−131.
福岡義隆,1996:近郊農業に対する情報から都市気候分
を除く必要性一都市化と気象台移転,中国・四国の農
業気象,9,14−17.
気象庁,1993:地球温暖化監視レポート1992,気象庁.
気象庁,1996:地球温暖化監視レポート1995,気象庁.
中辻 剛,1992:大分市の気候変動,研究時報,44(別
奥田雅彦,西本 章,1995:高松気象年表の整理と解析,
平成7年度大阪管区府県気象研究会誌,374−375.
小元敬男,膿谷 憲,嚴 香姫,1994:わが国の都市の
近年の湿度変化,水文・水資源学会誌,7,106−113.
尾崎美紀,1998:高松における相対湿度の低下の原因に
ついて,香川大学教育学部卒業研究.
杉本荘一,近藤純正,1994:仙台市におけるヒートアイ
ランドと各種地表面温度の日変化の観測,天気,41,
541−544.
山元龍三郎,1990:地球温暖化の実態に関する研究の動
向,天気,37,289−305.
冊),180−181.
Long−tem Variations ofUrban Meteorological Elements and its Relation to
Land SUrfゑCe in KagaWa
Kazuyo Yamaji*,Toshihiko Maitani**and Yukihiro Mori***
*(Co〃θ3ρon4ing・α厩ho〆)Rεsθακh lns∫i∫碗εノb7β如だso㍑κθ畠0んのノαノnαUnivαsi砂
(P7θsθn1姫伽伽:S読oんμNα∫’onαIRεsθκhlns伽∫a伽yαsh4ルん伽α醜,Kα9僻α,
761−03951」αpαn)
**Rεsθακh lns∫i∫厩θノb7βめrεso㍑κθ&0んαアαη2αUnivαsiリノ
***Fα6祝1砂ヴE伽ω加n,Kα9のりαUnivαsi砂
(Received27March1998;Accepted13November1998)
38
“天気”46.3.
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