Comments
Description
Transcript
糸通しによるマインドフルネス・エクササイズが時間切迫
糸通しによるマインドフルネス・エクササイズが時間切迫場面 における運動パフォーマンスに及ぼす効果 ○壷内悠伊 1・武藤崇 2・佐々木淳 1 (1 大阪大学大学院人間科学研究科・2 同志社大学心理学部) キーワード:マインドフルネス・運動パフォーマンンス・時間切迫 Effect of the “threading-a-needle” mindfulness exercise on sport performance under time pressure Yui TSUBOUCHI1, Takashi MUTO2 and Jun SASAKI1 1 ( Graduate School of Human Sciences, Osaka University, 2Department of Psychology, Doshisha University) Key Words: mindfulness, sport performance, time pressure 目 的 スポーツ場面では, 限られた時間内で高いパフォーマンス を遂行することが求められる。近年, パフォーマンスを高め るアプローチとして, Mindful Sport Performance Enhancement(Kaufman, Glass, & Arnkoff, 2009)などが注 目されているが, 競技に必要なスキルとの類似性との検討は 行われていない。よって, より競技に特化したアプローチが 必要となる。本研究では, 制限時間を設けて糸通しを行い, 焦 りの感情などが生じたとしても, それを受け入れ, 針の穴に 糸を通すという課題に注意を向けることを目指すエクササイ ズである「糸通しエクササイズ」を, マインドフルネスを高 めるエクササイズとして開発した。 本研究の目的は, 糸通しエクササイズにより, マインドフ ルネスの程度がどのように変化し, 時間切迫場面における運 動パフォーマンスがどのように変化するのかを検討すること であった。 を比較した(図 1 参照)。時期の主効果が有意傾向(F(1, 55) = 3.63, p<.10)であり, 群×時期の交互作用が有意であった (F(2, 55) = 4.13, p<.05)。交互作用において下位検定を行っ たところ, “エクササイズ”群において時期の単純主効果が 有意であり(F(1, 55) = 10.80, p<.01), プレ期よりもポスト 期において, テストブロックの得点が上昇した。統制群と“エ クササイズ+心理教育”群では, 時期の単純主効果は有意で はなかった。一方, プレ期とポスト期における群の単純主効 果は有意ではなかった。また, 効果量(Glass’sΔ)を算出し, Cohen(1988)の基準に照らし合わせたところ, “エクササイズ” 群において, 大程度の効果量が得られた(Δ = 0.82)。 26 テ ス ト ブ ロ ッ ク の 得 点 ( 点 ) 25 24 23 統制群 22 “エクササイズ”群 21 “エクササイズ+心理教育”群 20 19 方 法 実験参加者 私立大学の男子大学生 58 名 測定尺度 日本語版 Five Facet Mindfulness Questionnaire(Sugiura, Sato, Ito, & Murakami, 2012: 以下, FFMQ)を用い, マインドフルネスの状態を測定した。 課題 ダーツ課題として, 1 ブロックを 10 投とし, 14 ブロッ ク, 計 140 投を行った。第 14 ブロック終了後, 制限時間を設 定し, テストブロックとして 10 投行った。テストブロックに おけるダーツの得点を時間切迫場面における得点とした。 糸通しエクササイズ 糸通し作業の先行研究(嶋田・石原, 2012)を参考に, 糸通しエクササイズを作成した。エクササイ ズの内容は, 黒画用紙の背景の前で, 1 日 1 回針に糸を連続し て 3 回通すというものであった。 手続き 実験参加者を, “エクササイズ”群, “エクササイズ +心理教育”群, 統制群に無作為に割り当てた。プレ期とし て, 実験室にて, FFMQ への回答を求め, ダーツ課題を行っ た。その後, “エクササイズ”群には, エクササイズの教示を 行い, “エクササイズ+心理教育”群には, エクササイズの教 示に加え, マインドフルネスの概念を教示した。ポスト期と して, 2 週間の間隔をあけて, 実験室にて, FFMQ への回答を 求め, ダーツ課題を行った。プレ期からポスト期の間に, “エ クササイズ”群と“エクササイズ+心理教育”群には, ホー ムワークとして糸通しエクササイズを実践することを求めた。 結 果 プレ期とポスト期における各群のテストブロックの得点 18 図1 プレ期 ポスト期 時期 プレ期とポスト期における各群のテストブロックでのダーツ得点 プレ期とポスト期における, 各群の FFMQ の得点では, total の項目において群の主効果が有意であった(F(2, 55) = 3.27, p<.05)が, 交互作用および時期の主効果は有意ではな かった。また, 下位尺度のすべての項目において交互作用は 有意ではなかった。 考 察 “エクササイズ”群では, 時間切迫場面におけるダーツ得 点が改善され, その効果も十分に大きいものであることが示 された。一方, “エクササイズ+心理教育”群は, 時間切迫 場面におけるダーツ得点が改善されなかった。以上のことか ら, 時間切迫場面におけるパフォーマンスの向上に対し, 心 理教育よりも, エクササイズが一定の効果を持ったといえる。 “エクササイズ”群と“エクササイズ+心理教育”群のマ インドフルネスの得点がプレ期とポスト期で変化がなかった。 これは, 糸通しエクササイズによる介入が不十分だったこと が考えられる。 引用文献 Kaufman, K.A., Glass, C.R., & Arnkoff, D.B.(2009). Evaluation of Mindful Sport Performance Enhancement(MSPE): A new approach to promote flow in atheletes. Journal of Clinical Sport Psychology, 4, 334-356.