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進行性大腸がんの治療

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進行性大腸がんの治療
症例解析 2010.9.9
8章 Case study level 2
進行性大腸がんの治療
Treatment of advanced colorectal cancer
臨床薬物情報学研究室
5年 増田理央
患者背景
【患者】 Mrs KT
52歳 女性
病院の清掃員
173 cm 53 kg (体表面積 1.63 m²)
【シナリオ】
・進行性の結腸がんで入院
3週間前に結腸鏡検査、生検、全身のCTスキャンを実施。
Stage Ⅳの転移性結腸がんと診断。
化学療法を施行中(FOLFOX療法)。
【既往歴】 なし
【併用薬】 なし
部位別がん死亡率
男性
女性
大腸
肝及び肝内胆管
前立腺
乳房
胃
気管、気管支及び肺
子宮
引用:厚生労働省 平成21年人口動態統計
大腸がんの原因と予防
《原因》
①遺伝的要因(約5%)
②環境因子
・動物性タンパク質摂取量の増加
・脂肪摂取量の増加
・食物繊維摂取量の低下
食生活の
欧米化
《予防》
一次予防:食物繊維の摂取、ビタミンA、C、Eの摂取
二次予防:定期検診による早期発見、早期治療
大腸がんの分類
肝転移など
遠隔転移
リンパ節転移
深達度
M癌
SM癌
MP癌
なし
なし
SI,AI癌
あり
リンパ節転移の個数と場所で分類
Stage 0
Stage Ⅰ
SS,A癌
SE癌
あり
Stage Ⅱ
Stage Ⅲa
Stage Ⅲb
Stage Ⅳ
転移リンパ節
3個以下
・転移リンパ節
4個以上 or
・主リンパまたは
側方リンパ管に
転移あり
肝、肺、腹膜
など遠隔臓器
に転移あり
大腸がんの治療方針
Stage 0
内視鏡的治療
手術療法
Stage Ⅰ
Stage Ⅱ
Stage Ⅲ
補助化学療法
Stage Ⅳ
化学療法
放射線療法
Stage Ⅳ 大腸がんの治療方針
可能
遠隔転移巣切除
原発巣切除
可能
不可能
不可能
原発巣による
症状
可能
ない
原発巣根治切除
+転移巣切除
原発巣、転移巣とも
切除以外の対応
ある
原発巣切除
+転移巣は切除
以外の対応
大腸がんに用いられる主なレジメン
① 5-FU/LV(静注)療法
《RPMI法》
5-FU 600 mg/m² 急速静注
0 hr
1 hr
週1回点滴を6週間
+2週間 休薬
2 hr
I-LV 250 mg/m²
《sLV5FU2法》
2週間に1回点滴
5-FU 400 mg/m² 急速静注
0 hr
I-LV 200 mg/m²
2 hr
48 hr
5-FU 2,400 mg/m² 静注
大腸がんに用いられる主なレジメン
② UFT/LV療法
朝
1日3回内服
昼
UFT 100 mg
体表面積に応じて
3∼6cap/日
LV 25 mg
体表面積に関わらず
3T/日
夕
4週間内服
+1週間休薬
③ カペシタビン療法
1日2回内服
朝
カペシ タビン
体表面積に応じて
10∼16T/日
夕
2週間内服
+1週間休薬
大腸がんに用いられる主なレジメン
④ FOLFOX療法 《オキサリプラチン(L-OHP)併用》
2 hr
0 hr
24 hr
L-OHP 85 mg/m²
I-LV 100 mg/m²
26 hr
48 hr
L-OHP 85 mg/m²
5-FU 600 mg/m²
I-LV 100 mg/m²
5-FU 600 mg/m²
5-FU 400 mg/m²
5-FU 400 mg/m²
急速静注
急速静注
⑤ FOLFIRI療法 《イリノテカン(CPT-11)併用》
0 hr
2週間に1回点滴
2週間に1回点滴
1.5 hr 2 hr
48 hr
CPT-11 180 mg/m²
I-LV 100 mg/m²
5-FU 2,400 mg/m²
5-FU 400 mg/m²
急速静注
患者背景
【患者】 Mrs KT
52歳 女性
病院の清掃員
173 cm 53 kg (体表面積 1.63 m²)
【シナリオ】
・進行性の結腸がんで入院
3週間前に結腸鏡検査、生検、全身のCTスキャンを実施。
Stage Ⅳの転移性結腸がんと診断。
化学療法を施行中(FOLFOX療法)。
【既往歴】 なし
【併用薬】 なし
患者背景 ∼検査値∼
血液
腎
肝
機能
機能
ヘモグロビン
白血球
好中球
血小板
8.8 g/dL (12.0-14.7 g/dL)
7.2×10⁹ /L (3.9-10.1×10⁹ /L)
4.6×10⁹ /L (1.9-6.8×10⁹ /L)
346×10⁹ /L (150-400×10⁹ /L)
Na⁺
K⁺
尿素
クレアチニン値
139 mmol/L (137-145 mmol/L)
2.6 mmol/L (3.6-5.0 mmol/L)
10.7 mmol/L (2.5-6.1 mmol/L)
126 µmol/L (62-106 µmol/L)
ビリルビン値
ALT
ALP
GGT
17 µmol/L (3-22 µmol/L)
30 units/L (0-52 units/L)
101 IU/L (38-126 IU/L)
42 units/L (12-43 units/L)
患者背景 ∼治療薬∼
FOLFOX療法
・オキサリプラチン 85 mg/m² を2時間かけて静注 Day1のみ
・ホリニン酸 (ロイコボリン) 200 mg/m² を2時間かけて静注 Day1,2
・5-FU
400 mg/m² を急速静注 Day1,2
・5-FU
600 mg/m² を22時間かけて静注 Day1,2
以上を14日ごとに最大6サイクル繰り返す。
低K血症と脱水症状の治療(最初の24時間)
・0.9% NaCl 1000 mL + KCl 40 mmol を12時間かけて静注
・0.9% NaCl 500 mL + KCl 20 mmol を12時間かけて静注
Problem List
#1 進行性結腸がん
#2 低K血症 ・ 脱水症状
#1 進行性結腸がん
S: 進行性結腸がん (主訴は記載なし)
O: 3週間前に結腸鏡検査、生体組織検査、CTを実施。
stageⅣの転移性結腸がんと診断。
現在入院中で、化学療法(FOLFOX)を施行中。
ヘモグロビン値 8.8 g/dL
A: 進行・再発大腸がんに対する緩和療法では、生存期間が
6∼8ヶ月と不良。
そのため、転移巣に対する治療も重要である。
遠隔転移巣が切除可能な場合は、外科的切除が最も効果的。
貧血が起きており、原因は病巣部から出血もしくは抗がん剤
による副作用と考えられる。
#1 進行性結腸がん Plan
【治療方針】
術前化学療法により病巣を縮小し、可能ならば外科的切除を
行う。遠隔転移巣も同様。
【薬物療法】
FOLFOX療法で経過確認。
症状に応じ、必要であれば鎮痛剤の投与や輸血を考慮する。
FOLFOX療法には、末梢神経毒性や消化器症状の副作用
が見られるため、副作用の管理も行う。
【精神的サポート】
突然、進行性の転移がんが見つかったことによる
患者さんの精神的ストレスの軽減に努める。
#2 低K血症 ・ 脱水症状
S: 低K血症 ・ 脱水症状
O: Na⁺ 139 mmol/L (137-145 mmol/L)
K⁺
2.6 mmol/L (3.6-5.0 mmol/L)
尿素
10.7 mmol/L (2.5-6.1 mmol/L)
クレアチニン値 126 µmol/L (62-106 µmol/L)
0.9% NaCl 1000 mL + KCl 40 mmol を12時間かけて静注
0.9% NaCl 500 mL + KCl 20 mmol を12時間かけて静注
A: 低K血症、脱水症状が起きている。
下痢、嘔吐が原因と考えられる。(症状 or 抗がん剤副作用)
P: NaCl、KClの点滴により、経過観察。
吐気や下痢がひどいようであれば、制吐剤、整腸剤を投与。
Q1. What are the typical signs and symptoms of bowel
cancer that should alert a healthcare professional to
refer to a specialist?
健康管理職の人が注意するべき
大腸がんの典型的な兆候、症状
・ 腹痛、腹部不快感
・ 排便困難、下痢、便秘
・ 血便
・ 腫瘤触知
・ 貧血症状 (病変部からの慢性的な出血による)
・ 食欲不振、体重減少
Q2. Comment on Mrs KT’s laboratory results
– what do they indicate?
Mrs KTの検査値について
・ ヘモグロビン 8.8 g/dL (12.0-14.7 g/dL)
⇒貧血 (病変部からの出血)
・ K⁺
2.6 mmol/L (3.6-5.0 mmol/L)
⇒低K血症 (下痢、嘔吐)
・ 尿素
10.7 mmol/L (2.5-6.1 mmol/L)
クレアチニン値 126 µmol/L (62-106 µmol/L)
⇒脱水症状 (下痢、嘔吐)
Q3a. What doses of chemotherapy drugs should Mrs KT
receive, assuming normal haematological,
renal and hepatic function?
血液学的機能、腎機能、肝機能が正常な場合の
Mrs KTへの化学療法の適切な投与量
Mrs KTの体表面積:1.63 m²
・ オキサリプラチン 139 mg i.v. (2時間) Day 1 (85 mg/m²)
・ ホリニン酸(ロイコボリン) 326 mg i.v. (2時間) Day 1,2 (200 mg/m²)
・ 5-FU
652 mg i.v. (急速) Day 1,2 (400 mg/m²)
・ 5-FU
978 mg i.v. (22時間)Day 1.2 (600 mg/m²)
2週ごとに最大6サイクル
Q3b. What are the typical side-effects
of the FOLFOX regimen?
FOLFOX療法の典型的な副作用
*末梢神経毒性 (発現頻度 約8割)
手・足・口・のどの周りのしびれや痛み
のどがしめつけられるような感覚
*消化器症状 (発現頻度 約9割)
吐気・食欲不振
Q3c. How can these side-effects be managed?
副作用の管理
しびれや痛みなどの末梢神経障害
・冷たいものを避ける
・手袋、スリッパの着用
口内炎
・歯磨き、うがいで清潔に保つ
・うがい、リップクリームで
乾燥を防ぐ
吐気などの消化器症状
・腹部の保温
・安静
・症状の強いときは点滴
皮膚症状
・保湿クリーム
・直射日光を避ける
※副作用かなと思ったらすぐに医療スタッフに連絡してもらう。
Q4. What patient parameters can be followed to monitor
for treatment effectiveness and toxicity?
治療の有効性と毒性の判断
有効性の指標
毒性の指標
・ がんの諸症状の改善
(腹痛、血便など)
・ 骨髄抑制
《1週間に1度、血液検査》
・ 腫瘍の縮小
《6∼8 週ごとにCT検査》
・ 末梢神経障害
(オキサリプラチンの副作用)
・ 腫瘍マーカー CEA の減少
《治療1サイクルごとに検査》
・ その他の副作用
(吐気、下痢など)
CEA:癌胎児性抗原
・ 肝・腎機能の低下
Q5. What is th overall goal of treatment for Mrs KT?
Outline the role of clinical pharmacist in this.
治療の最終目標と薬剤師の役割
【治療の最終目標】 延命治療、緩和ケア
【薬剤師の役割】
・ 化学療法の用法・用量の確認、医師への提案
・ がんの諸症状(疼痛など)のコントロール
・ 抗がん剤の副作用のコントロール
・ 副作用の対応策の提案
・ 患者さんの不安の軽減
参考文献
1). 新しい診断と治療のABC 35/消化器5 大腸腺腫・大腸癌
藤盛考博 編
最新医学社 (2006)
2). インフォームドコンセントのための図説シリーズ
大腸がん 改訂3版
小平進 編
医薬ジャーナル社 (2008)
3). インフォームドコンセントのための図説シリーズ
抗悪性腫瘍薬 大腸がん
杉原健一 編
医薬ジャーナル社 (2009)
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