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鉄筋腐食の生じた RC 部材の残存性能評価手法の構築

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鉄筋腐食の生じた RC 部材の残存性能評価手法の構築
助成番号
2015-04
鉄筋腐食の生じた RC 部材の残存性能評価手法の構築
香川大学工学部
准教授 岡崎慎一郎
教授
松島 学
1.はじめに
本研究は,塩害により鉄筋腐食が生じた鉄筋コンクリート部材(以下 RC 部材)の残存性能を評価する
手法を提案するものである.
瀬戸内海沿岸にある RC 構造物は,今もなお塩害による鉄筋腐食を呈するものが多い.これは,桟橋
RC 上部工などの港湾施設や,コンクリート橋梁においては海水の飛沫や除塩不足の海砂使用が原因で
ある.鉄筋コンクリート内部の鋼材が腐食すると,構造物の性能が低下するため,補修や架け替えの要否
の決定には,鉄筋腐食の程度と部材の残存性能を判断材料として参考にするのが望ましい.腐食量と部
材の耐力がその判断材料とされる場合が多い.地震や疲労荷重による作用を考慮する場合には,部材
の変形量や疲労抵抗性についても評価しなくてはらないが,研究成果に乏しい現状である.
本研究では,鉄筋腐食が生じた RC 部材の耐力のみならず,変形性能を評価し,特に塩害劣化を受け,
鉄筋腐食が進行する場合の RC 部材の耐震性能や疲労性能を評価できるスキームを構築し,従来の維
持管理手法の高度化に資する技術を開発することを目的とする.
なお,本研究は,一般社団法人四国クリエイト協会の「2015 年度建設事業に関する技術支援制
度」による助成を受けて実施したものである.
2.実験的検討
塩害により鉄筋腐食が生じた RC の残存性能評価の実験的検討を行う.RC 部材の鉄筋腐食の方
法として,塩害環境下における屋外曝露,塩水浸漬等による屋内試験,電食による鉄筋の強制的
な腐食が多く行われている.本研究では,塩化物イオンが外部より供給されて鉄筋が腐食する場
合と,電食による腐食の両者に焦点を当てて実験を行った.
塩 化 物 イ オ ン が 外 部 よ り 供 給 さ れ て 鉄 筋 腐 食 さ せ た 腐 食 促 進 試 験 体 は , 200mm×150mm
×2400mm の RC はりで,主鉄筋を 2 本および 3 本を有するものを対象に,実環境での塩害を 60℃
の塩水浸漬と乾燥のサイクルの繰返しという促進環境下に供した.試験体には非連続的に塩化物
や酸素が供給され,鉄筋付近の塩化物イオン濃度が限界濃度以上になった時点で腐食が開始し,
腐食生成物によりかぶりコンクリートに損傷が発生する状況を再現した.その後,載荷試験によ
り荷重変位関係を取得した後に,はりを解体し鉄筋の腐食率を求めた.
電食により鉄筋腐食させる場合は 120mm×80mm×550mm の RC はりを対象とし,主鉄筋に部分
電食を施し,腐食量および腐食箇所を制御している.電食の後,載荷試験により荷重変位関係を
取得し,はりを解体し鉄筋の腐食率を求めた.前述のはりとの相違としては,寸法,主鉄筋の本
数に加え,端部処理の相違がある.電食試験体は,試験体端部に定着部に支圧板を設けている.
図 2-1 に腐食促進試験体の荷重変位関係の一例を示す.最大耐力は理論値とほとんど相違ない
が,変形性能が大きく低下した.図 2-2 に電食試験体の荷重変位関係を示す.鉄筋腐食量の増加
に伴い,耐荷性能と変形性能が低下した.特に鉄筋腐食量が 20%を超過すると終局状態が圧縮コ
ンクリートの圧壊から鉄筋破断に移行したために,最大耐力および最大変位量が大きく低下した.
80
最大耐力
70
40
終局耐力
理論値(腐食無)
0%
理論値
30
60
荷重P(kN)
荷重P (kN)
3%
50
40
実験値
30
20%
20
23%
10
20
曲げひび割れ発生
41%
49%
10
57%
0
0
0
10
20
30
変位δ (mm)
40
0
50
図 2-1 腐食促進試験体の荷重変位関係
2
4
8
6
変位δ(mm)
10
図 2-2 電食試験体の荷重変位関係(添字は鉄筋腐食率)
1
荷重
B
QE
D
A
QY
E
KδY
K
O
C
δY
δE
F
δP
図 2-3 等価耐力の算定法
変位
等価耐力の低下率
0.8
電食試験体
0.6
腐食促進試験体
0.4
0.2
0
0
10
20
30
40
50
60
断面減少率(%)
図 2-4 電食試験体の等価耐力の低下率
一般に,RC 部材の耐力と水平変位は図 2-3 の曲線 OADE が示すバイリニアモデルにより表現
される.部材が降伏せずに,降伏時と同じエネルギーを吸収して弾性変形のみ行われた場合を仮
定すると,図の三角形 OBC となる.ここで,弾性変形のみが行われたと仮定した場合の最大耐力
を,等価耐力 Pe と定義する.等価耐力と耐力・靭性率の関係は,各々の直線と横軸により囲まれ
た面積が等しいことから,以下のように算出される.
Pe = Py 2 µ − 1
(1)
Pe:等価耐力,Py:構造耐力,μ:靭性率であり,以下の式で表される.
µ=
δu
δy
(2)
等価耐力 Pe により,構造耐力と靭性の 2 種のパラメータを単一の変数により統一的に評価する
ことができるところに,この概念の特徴がある.図 2-4 に電食試験体の等価耐力の低下率を示す.
耐力と変位の 2 種のパラメータが 1 種に統一的に評価できており,腐食を受けた RC 試験体の耐
震性に関する統一的な評価に大きく資することができると考えられる.
10.0
塩化物イオン濃度 (kg/m3)
6.0
軸方向鉄筋 内-側
7.0
軸方向鉄筋 外-側
せん断補強筋
8.0
54年
5.0
39年
4.0
54年
3.0
2.0
10年
1.0
20年
鉄筋断面減少率Δ(%)
20.0
39年
9.0
軸方向鉄筋-外側
10.0
ひび割れ発生
5.0
0.0
0
20
40
軸方向鉄筋-内側
腐食発生
30年
0.0
60
80
100
120
140
160
コンクリート表面からの距離 (mm)
180
0
200
図 3-1 塩化物イオン分布の推移(A 橋脚)
20 23
10
54
39
47 50
3840
30
供用年数T(年)
60
70
図 3-2 鉄筋断面減少率の推移(A 橋脚)
1.2
1.2
A橋脚
A橋脚
1.0
等価耐力の低下率Pe/Pe0
1.0
耐力の低下率Py/Py0
せん断補強筋
15.0
B橋脚
0.8
0.6
B橋脚
0.8
0.6
0.4
0.2
0.4
0
10
20
30
40
供用年数 (年)
50
60
70
0.0
0
図 3-3 最大耐力の推移
3.
10
20
30
40
供用年数T(年)
50
52
60
64
70
図 3-4 等価耐力の推移
等価耐力による塩害を受ける RC の劣化モデルの構築
本章では,等価耐力により塩害を受ける RC の,性能低下の時刻歴変化を評価するモデルの構築を目
的とする.特に,耐力と靭性の低下のほか,等価耐力の低下の評価を主眼に置いた検討を行う.
鉄筋腐食による耐荷性能低下の観点では,構造物の倒壊のリスクは高くはないと考えられる一方で,
鉄筋腐食による部材の変形性能の低下は,耐力低下と比較して影響が大きいことを報告されている.さら
に,部材の破壊モードが,部材中のせん断補強筋の腐食により曲げ破壊からせん断破壊に変化したり,
主鉄筋の腐食により,コンクリートが圧壊せずに引張鉄筋の破断に移行したりする場合が懸念される.鉄
筋腐食による変形性能の大きな低下と破壊モードの変化は,鉄筋コンクリート部材の耐震性能を大きく損
なう可能性があり,設計時において,鉄筋腐食が耐力および変形性能に伴う影響を検討する必要がある
と考えられ,本研究では,塩害を受ける鉄筋コンクリート部材を対象に,鉄筋腐食進行の時刻歴が構造耐
力および変形性能に与える影響のモデル化とケーススタディを行った.
2 章の実験結果と,既往の研究結果を基にコンクリートおよび腐食した鉄筋の構成則を立脚し,塩害に
よる腐食モデルを構築したうえで,これらのモデルを連成させた.
軸方向鉄筋のかぶりが 94mm の A 橋脚と 44mm である B 橋脚を対象にしたケーススタディの結
果を図 3-1,図 3-2,図 3-3,図 3-4 に示す.図 3-1 に示す塩化物イオン量の分布は表層から深部
にかけて移動する様子が再現できており,塩化物イオン量に依存する鉄筋腐食の進行も図 3-2 の
ように再現できている.また,最大耐力の経年減少は図 3-3 のように緩慢である一方で,部材の
変形量も勘案できる等価耐力は図 3-4 のように特に破壊モードの変遷により大きく低下する傾向
を再現できた.
飛沫帯
干満帯
図 4-1 乾湿因子と腐食速度の関係
図 4-2 腐食ひび割れ幅と腐食減量の関係
4. ひび割れ幅による鉄筋腐食量評価手法の構築
海洋沿岸部に位置する鉄筋コンクリート構造物は塩害による鉄筋腐食の影響を受ける.これらの維持
管理を実施する上で,残存性能の評価は重要である.構造物の構造性能および耐久性能は鉄筋の腐食
の有無と腐食減少量に強く依存している.劣化診断に必要な点検は,目視によるのが標準であるため,コ
ンクリート表面に呈した腐食ひび割れの開口幅でひび割れ部直下の鉄筋の腐食量の推定が可能であれ
ば,高度な維持管理に資するものと考えられる.本研究では,RC 構造物表面に生じた腐食ひび割れの
開口幅より,鉄筋腐食量を推定するための手法を構築した.
種々の曝露環境に置いた RC 試験体を対象に鉄筋腐食量とひび割れの開口幅の関係を整理した結
果,コンクリート中の塩化物イオン含有量を支配する塩水浸漬期間により,各種曝露期間および鉄筋腐
食量を正規化することにより,湿潤もしくは乾燥状態の異なる曝露環境での曝露期間による腐食量の推
定が可能であることを確認した.
図 4-1 に,乾湿因子と等価腐食速度の関係を示す.なお乾湿因子は,乾湿繰り返し環境での湿潤期
間に対する乾燥期間の比と定義し,等価腐食速度は塩化物イオン含有量に相当する塩水浸漬期間で鉄
筋腐食量を除したものと定義した.乾湿因子の増加に伴い等価腐食速度が減少する傾向にあり,これら
の指標による整理が可能であることに加え,実環境の塩水供給量の増加による腐食速度の低下傾向の
再現に至った.この結果により概ね乾湿因子が 0.5 を境界として実環境の飛沫帯と干満帯に区分できるこ
とを提案した.図 4-2 に腐食ひび割れ幅と腐食減量の関係を示す.乾湿因子により各種曝露環境ごとの
鉄筋腐食量によるひび割れ開口幅の推定式が提案できた.今後,本スキームを基盤として,さらに種々
のデータを基に乾湿因子による飛沫帯と干満帯の区分の妥当性の検証と,腐食ひび割れ幅による腐食
減量推定精度の向上を行う予定である.
5. おわりに
本研究では,塩害により鉄筋腐食を呈した RC 部材を対象に,鉄筋腐食が耐荷性能と変形性能
の低下に与える影響の実験的検討および数値モデルの構築を行った.また,維持管理の高度化を
目的に,鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れの開口幅による鉄筋腐食量の推定手法の構築を
行った.本研究成果は,コンクリート構造物の維持管理手法の高度化に資するものと考えられる.
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