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成果概要 (PDF 616KB) - 公益社団法人 北海道豆類価格安定基金協会
平成 26 年度豆類調査研究助成事業成果概要 1.調査研究課題名 北海道産雑豆を原料としたペースト及び粉末素材の普及促進に関わる研究と需要調査 2.調査研究組織名・研究者名 公益財団法人とかち財団 事業部研究開発課 佐々木香子 3.調査研究の目的 これまでの雑豆普及に関わる需要調査結果から、雑豆の利用を促進させるためには新たな 分野への参入が必要と考えられる。雑豆の喫食率は高年齢層で高いことが判明しているが、 その一方で雑豆の皮が硬いことや粒が大きいことなどから、嚥下力が低下した年齢層では、 粒の形状での摂取が困難な場合もある。本研究では、小豆を粉末化及びペースト化した素材 について、養護施設や介護施設を対象とした需要調査を行うとともに、高齢者食への利用の 可能性を検討し、雑豆の高齢者食分野への利用促進を図ることを目的とした。 4. 調査研究の方法 (1)雑豆素材の高齢者向け加工品への利用における調査 (公社)北海道栄養士会帯広支部の総会で管理栄養士・栄養士を対象に雑豆に関する調査 を行った。その他、帯広市内や都心で開催されるイベント等に出展し、サンプルを配布する とともに聞き取り調査を行った。 (2)配合検討の技術指導に関わる小豆素材の加工特性・成分の解析 小豆素材の粒度、膨潤度、成分分析及び微生物検査を行い、市販のさらし餡との比較をす るとともに、加工食品に配合した場合の作業性や物性などの評価を行った。 (3)小豆素材の実用化可能性検討 十勝管内介護老人保健施設や配食サービス企業等の栄養士及び食品加工企業などにサンプ ルを配布し、小豆素材を使用したレシピを考案して頂いた。 5.調査研究の結果及び考察 (1)雑豆素材の高齢者向け加工品への利用における調査 栄養士対象の調査では、食事全体の栄養バランスだけでなく素材の品質にも考慮して献 立・調理を行う傾向があり、施設によっては価格や手軽さよりも栄養・品質の確保を最優先 にしているところもあった。施設等における利用状況では、高齢者は和菓子を好むことから おやつとして雑豆加工品を提供しており、使った形態としては「乾燥豆」が最も多く(図1)、 施設従事者が手間を掛けて調理していることが伺える。また、利用したい雑豆の形態につい ては、粉末やペーストは利用したいが使い方が判らないといった意見があり、レシピ提案の 必要性があると考えられた。 図1 【雑豆の使用頻度と使用形態】に関する回答 (2)配合検討の技術指導に関わる小豆素材の加工特性・成分の解析 1)小豆素材の粒度、膨潤度の比較 今回使用した小豆素材は、餡粒子を酵素処理で崩壊させてざらつきを軽減している。粒度 分布測定では平均粒子径が90μm前後であり、比較的粒度が小さく、さらし餡よりもざらつき を感じにくい素材と言える。また、冷水又は温水に対する膨潤度を測定したところ、小豆パ ウダーは冷水で2倍、温水で約3.5倍に膨張することが判った。吸水率が高い素材は他の素材 の水分を極端に吸う可能性があることから、配合中の水分調整が必要と考えられる。 2)小豆素材の成分比較 小豆素材の成分を乾燥豆、さらし餡と比較した(表1)。その結果、これらの素材は水さ らし等の処理工程が無いことから、乾豆の成分を残したまま、調整されていることが判った。 この結果から、小豆素材を食品に配合することで、食物繊維やたんぱく質、カリウムなどの 成分を補強できると考えられる。 表1 小豆素材と乾豆、さらし餡の成分比較 (wet weight) タンパ ク質 脂質 炭水化物 灰分 ナトリ ウム 炭水化物 エネル ギー※ (kcal) 水分 小豆パウダー 335 5.2 28.3 1.4 62.4 2.7 1 806 42.4 18.9 1.1 20.0 小豆乾豆 339 15.5 20.3 2.2 58.7 3.3 1 1500 40.9 16.6 1.2 17.8 小豆さらし餡 155 62.0 9.8 0.6 27.1 0.5 3 60 20.3 6.5 0.3 6.8 (g/100g) カリウム (mg/100g) 食物繊維(g/100g) 糖質 (g/100g) 不溶性 水溶性 総量 ※エネルギーは糖質と食物繊維を分けて計算 ※乾豆及びこし餡栄養成分値は五訂食品分析表から抜粋 3)小豆素材入り食パンの試作 小豆素材配合食パンの試作を行った(表2)。対小麦粉10%で配合した場合では生地の立ち 上がりが良く、内相がもちもちとしたタイプの食パンとなり、全粒粉パンと同程度の固さだ った。また、20%配合ではプンパニッケルのような形態となり、風味が強く噛みごたえのある パンとなった。これは小豆パウダーが原材料の水分を吸収したためと考えられる。そこで水 分の配合を増量し、練時間・発酵時間を長めにした結果、20%の配合でも比容積が大きくなっ た。これらの結果から、食パン等の場合、小豆素材の配合や発酵条件を検討すれば、作りた い食感のパンを調整できる可能性がある。 表2 小豆素材入り食パンの試作 Didsku 4)提供レシピの試作試験 協力施設から提案されたレシピに基づく試作試験を行い、配合等を検討した(表3)。 マフィンでは、薄力粉に対して0~15%配合したが、充填時の作業性が悪くなったため、副 素材である卵を増量したところ、作業性及び焼き上げ時の生地の固さが改善された。また、 配合を増やすに従って固くなる傾向があったが、修正レシピでは小豆素材を入れないものと 同等の固さとなった。その他のレシピについても試作し、いずれも食物繊維が増加する反面、 固くなり易いことから、パウダーを使用する場合は加水量を考慮した配合にする必要がある。 表3 小豆素材入りマフィンの試作(レシピ修正)とテクスチャー比較 Force (g) 添加なし 253 さらし餡10% 1258 小豆パウダー 10% 1278 15% 1626 10%(卵増量) 288 (n=5) (3)小豆素材の実用化可能性検討 十勝管内の介護施設や配食サービス企業等に計54品の小豆素材のレシピを考案して頂き、 一部を抜粋して示した(図2)。小豆素材及びカボチャで2色に仕上げたコロッケなど小豆 の色を生かしたレシピや、吸水力のある小豆パウダーの性質を利用したカレールウ・ピザソ ース等のレシピが提案された。また、肉味噌やミートソース等のひき肉を煮込む料理に加え ることで固形分が増加し、煮込み時間が短縮できる効果や、マヨネーズなどでは酸味が低減 される効果が見られ、洋菓子には和風のテイストが付加できる効果があった。これらの結果 から、小豆素材は、食物繊維の強化、和風の風味付与、色調付与といった効果の他、煮込み 時間の短縮、水分や濃度の調整、結着補強などの効果が得られることが判った。 料理名 小豆の コロッケ 料理写真 解説 ・いもに小豆ペーストを混合 ・半分は南瓜を混合 ・色合いが良い 料理名 料理写真 解説 揚げピザ ・チーズに小豆パウダーを添加 ・チーズの溶け出しを防止 ・チーズの酸味がまろやかに 感じる いちご 大福 ・餅部分に小豆パウダーを使用 ・小豆餅と白餡で色味が映える ・白い豆パウダーがあれば良い 小豆 ドレッシング ・小豆パウダーを使用 ・少量でピンク系の色調が出る ・マヨネーズの酸味がまろやか に感じる 肉味噌 ・小豆ペーストを使用 ・煮込み時間が短くて済む (ペーストで固形分増量) ・色々アレンジ可能な一品 小豆入り たらの すり身揚げ ・小豆パウダーをつなぎに使用 ・パウダー分の水分増量 フレンチ トーストピザ ( 小豆のピザ ソース) ・ ピザソースに小豆パウダー使用 ・パンへの水分移行を防止 (ペーストが水分を吸うため) 小豆 メレンゲ ・小豆パウダーを約30%配合 ・口溶けが良い カレーライス ・ルウに小豆パウダーを使用 ・カレーがまろやかに仕上がる 小豆 ショート ブレッド ・小豆パウダー使用 ・和風ショートブレッド ・小豆の風味がほんのり残る 図2 提案メニューと小豆素材の効果(抜粋) (4)まとめ 本調査研究は、雑豆のペースト及び粉末素材の高齢者向け食品への利用調査を推進 することにより、雑豆素材の新規分野への用途拡大を達成しようとするものである。 試作を依頼した施設からは、乾豆調理の手間と時間が削減でき、地場産素材で栄養バ ランスがいいことを考慮すると、多少コスト高でも魅力のある素材として評価が高か った。雑豆素材は用途に合わせて使用できる 新規素材であり、雑豆の高付加価値化に繋 がり、経済波及効果は大きい。今後も雑豆素材の用途を示すことができれば、 雑豆の新 たな需要が確保され、生産性の向上に役立つ。