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対人感受性にロールプレイ体験が及ぼす影響 ―対人感受性の建設的

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対人感受性にロールプレイ体験が及ぼす影響 ―対人感受性の建設的
対人感受性にロールプレイ体験が及ぼす影響
―対人感受性の建設的側面に着目して―
心理教育実践専修 修教 08-007
榎 直美
Ⅰ 問題と目的
対人感受性とは,対人関係において他者がおこなう行動や言動によって意味を読み取り,
心が動かされて敏感に反応する性質である(三好,1998)。そして,人の内面の豊かさに通
じ,共感や創造力あふれる魅力的なパーソナリティにつながる。その反面,過敏さや傷つ
きやすさなどの心の脆弱性にもつながる危険性をはらむ“両刃の剣”である(讃岐,1990)
。
三好(1998)は,対人感受性の適応モデルを提唱し,対人感受性は、相手の行動意図や気
持ち,感情を読み取る認知的側面の「解読性」と,読み取った刺激により影響を受け反応
する「被影響性」の二側面をもつとした。また,解読性は社会的スキルという適応指標,
被影響性は精神不健康という不適応指標との関連を示している。
本研究では,このような対人感受性の,より建設的な利用について検討したい。なお,
建設的指標,非建設的指標としては,
「共感的配慮」,
「個人的苦痛」
,
「対人的傷つきやすさ」
を取り上げる。被影響性については,追体験的に他者の感情を理解することで,真摯に他
者を思いやる力として機能するなど,不適応につながるだけではなく,建設的なはたらき
もし得ると考えられる。建設的にはたらくか非建設的にはたらくかを決定づけるものとし
て,自己愛について取り上げる。自己愛には,安全装置として機能があり(小此木,1992)
,
被影響性の非建設的な作用から自己を守ると考えられる。自己愛の高さは敏感さ(上地・
宮下,2004),また,敏感で傷つきやすい感受性(北林,2008)に関係している。
対人感受性の建設的側面を促す方法としては,ロールプレイの有効性が臨床的知見から
指摘されている(島谷,1990)。
以上のことから,本研究では,対人感受性が自己愛とどのように関連して建設的・非建
設的影響を及ぼすのかについて,研究 1 で検討した。また,研究 2 では,対人感受性の建
設的側面を促進するためにロールプレイ体験が有効であるのかについて検討した。
Ⅱ 研究 1
【方法】
調査協力者 大学生 225 名(男性 76 名,女性 149 名);平均年齢 19.71(SD=1.37)歳。
手続き 集団に対して質問紙を一斉に実施した。
質問紙の構成
①感受性尺度(三好,1988):「解読性」「被影響性」計 30 項目,5 件法。
②対人反応性指標(Davis,1983)より:
「共感的配慮」
「個人的苦痛」各 7 項目,5 件法。
③自己愛人格目録短縮版(小塩,1999)
:
「優越感・有能感」
「注目・賞賛欲求」
「自己主張
性」計 30 項目,5 件法。
④対人的傷つきやすさ尺度(鈴木・小塩,2002)
:10 項目,6 件法。
−1−
【仮説】
1-1.対人感受性は,建設的・非建設的指標の双方と関連する。
1-2.解読性は建設的指標,被影響性は建設的指標・非建設的指標の双方と関連する。
1-3.被影響性が高くても,自己愛傾向が低いと,建設的指標が高い。
【結果】
相関分析(表 1)の結果,対人感受性は共感的配慮と中程度,個人的苦痛と対人的傷つ
きやすさとは弱い相関があった。解読性は共感的配慮とのみ弱い相関があった。被影響性
は共感的配慮,個人的苦痛,対人的傷つきやすさのいずれとも中程度の相関があった。
分散分析の結果,自己愛傾向の程度にかかわらず,被影響性の高い者は共感的配慮が高
く{F(1,221)=31.696,p<.01}
,個人的苦痛も高かった{F(1,221)=43.618,p<.01}。被
影響性の高い者は対人的傷つきやすさも高く,中でも自己愛の低い者の方が傷つきやすい
{傷高 F(1,221)=7.720,p<.01/傷低 F(1,221)=28.868,p<.01}
。また,対人感受性が低
くても,優越感・有能感が高いと共感的配慮が高く,個人的苦痛が低い。自己主張性が高
いと,個人的苦痛や対人的傷つきやすさが低い。
表 1 対人感受性と対人態度の相関係数
共感的
個人的
対人的
配慮
苦痛
傷つき
対人感受性
.499**
.296**
.251**
解読性
.385**
.095
.078
被影響性
.501**
.510**
.436**
:r>.400(中程度の相関)
**:p<.01
【考察】
仮説 1-3 は支持されなかったが,1-1,1-2 は支持され,対人感受性,被影響性が建設的,
非建設的の両側面をもつ“両刃の剣”
(讃岐,1990)であることが示された。解読性は非建
設的なはたらきよりも建設的なはたらきが強い。被影響性が建設的指標と正の相関があっ
たことは,三好(1998)とは異なる傾向である。被影響性は,社会的スキルという個人の
能力を高める機能はもたないが,共感的配慮という他者を思いやる機能を促進すると考え
られる。
自己愛が低いと,被影響性と相まって対人的傷つきやすさをいっそう強めることから,
自己愛をある程度高めることは傷つきやすさを低減させ,対人感受性の建設的側面を促す
可能性がある。中でも,優越感・有能感や自己主張性が高いと,建設的指標を高め,非建
設的指標を低下させることが示された。優越感・有能感や自己主張性は,自尊感情と中程
度の正の相関がある(小塩,1997)ことからも,心理的安定には,ある程度の優越感・有
能感や自己主張性が必要であると考えられる。
以上,研究 1 の結果より,
「解読性」,
「優越感・有能感」,
「自己主張性」を高めることが,
対人感受性の建設的側面を促進することが示唆された。
−2−
Ⅲ 研究 2
【方法】
調査協力者 ロールプレイ群:14 名{男性 6 名,女性 8 名;平均年齢 20.71(SD=1.48)歳}
。
非ロールプレイ群:14 名{男性 4 名,女性 10 名;平均年齢 21.00(SD=1.77)歳}。
手続き
ロールプレイ群:第 1,第 2 セッションでは,2 名 1 組とし,10 分×2 回のロールプレイ
を,週に 1 セッションずつ実施した。
第 2 セッションから 2 週間後の第 3 セッションでは,
般化効果を測定し,半構造化面接をおこなった。1 セッション内の手続きは,ウォーミン
グアップ→ロールプレイ→休憩→役割交替してロールプレイ→クールダウンとした。
非ロールプレイ群:ロールプレイ群がロールプレイを体験する箇所に,対話の脚本作り
のディスカッションをおこなった。その他はロールプレイ群と同様の手続きである。
質問紙の構成 研究 1 と同様のものを使用した。
【仮説】
2-1.ロールプレイを体験した者は,体験しない者よりも解読性が高まる。
2-2.ロールプレイを体験した者は,体験しない者よりも自己主張性が高まる。
【結果】
調査開始前のベースライン(#1 前)得点を各測定点から引いたものをデータとして用い,
ロールプレイ要因(ロールプレイ群・非ロールプレイ群)と測定点(#1 後・#2 前・#2 後・
#3)に関する 2 要因分散分析をおこなった。
「解読性」においてロールプレイ要因の主効果
がみられた。ロールプレイを体験した者の解読性が有意に低下した{F(1,26)=5.005,p<.05}
。
また,測定点の主効果もみられた。#1 後と#2 後の得点は有意に異なり,第 1 セッションを
終えて低下した解読性が,第 2 セッションを終える頃には回復してきた{F(3,78)=3.318,
p<.05}。交互作用はみられなかったが,各群の得点の変化を図 1 に示す。
半構造化面接で得られた回答を分類し,標準得点による検定法をおこなった。非ロール
プレイ群と比較してロールプレイ群では,セッションを終えて困難さ等ネガティヴな気持
ちを抱いたと分類される回答の該当者数が,第 1 セッションから第 2 セッションにかけて
有意に減少した(z=-2.64,p<.01)。一方,良かった等ポジティヴな気持ちを抱いたと分類
される回答の該当者数は,有意に増加した(z=2.56,p<.05)
。
20
RP群
非RP群
解 15
読
性 10
ー
ベ
5
ス 0
ラ
イ -5
ン
と -10
の
差 -15
-20
-4.86
#1後
3.57
1.86
1.43
-3.86
#2前
-3.07
#2後
2.93
-3.07
#3
図 1 「解読性」における各群のベースラインとの得点差
−3−
【考察】
仮説 2-1,
2-2 ともに支持されなかった。
ロールプレイを体験した者の解読性は低下した。
ロールプレイでは多くの者が傾聴の難しさを感じ(安藤,2007)
,本研究においても話をき
くこと,気持ちを受け止めることの困難さが語られた。この体験初期の困難さが解読性の
低下につながったと考えられる。また,本来は役割を演じることで主張性が発揮される体
験を目指した。しかし,本研究では,優しく温かく耳をかたむけるようにと主張とは相反
する教示をしたため,自己主張性は変化しなかったと考えられる。
ロールプレイ体験によりいったん大きく低下した解読性は,その後回復する。半構造化
面接によると,第 1 セッションで困難さ等ネガティヴな気持ちが生じ,第 2 セッションで
はネガティヴな気持ちの減少と,ポジティヴな気持ちの増加がみられた。ロールプレイで
自分の真の姿を知ることは苦痛を伴い,最終的に快感が得られるとしても難行苦行の道行
である(川幡,2005)
。本研究では,他者の気持ちがわかるという自信とともに解読性がロ
ールプレイを体験することでいったん解体され,その後ロールプレイ体験を重ねることで
解読性や自信が回復し,徐々に新たな他者理解の態度が形成されたと考えられる。
Ⅳ 総合考察
対人感受性の建設的側面を促進するには,自己愛が建設的に機能することが示された。
中でも,優越感・有能感という自信や自己主張性という主体的な態度が,自己愛の自己を
保護する機能としてはたらいている。これらの側面は,対人感受性の傷つきやすさを保護
し,他者にかかわろうとする主体的な態度として建設的に表現されると考えられる。
ロールプレイ体験は,反省等ネガティヴな感情を伴い解読性をいったん解体することが
示された。ただし,回数を重ねることによって,ネガティヴな感情の減少とポジティヴな
感情の増加を伴い,解読性が向上し得る。これは,他者の気持ちを考える態度が改まり,
解体されたものとは質的に異なる新たな他者理解の態度が形成されることを示唆している。
以上,本研究の結果は,セラピストにも応用して考えることができる。初学者のうちに
ロールプレイ体験をすることによって,解読性が解体され,クライエントの気持ちをわか
ったつもりになるのを防ぐことができると思われる。他者への接遇を改善しようとする真
摯な態度が強まるこのような体験は,セラピストの成長にとって重要なものであろう。
引用文献
安藤嘉奈子 2007 教育的目的を有するロールプレイ実習が人に与える心理的影響について―女子大学生を対象に―
共立女子大学家政学部紀要,53,79-85.
Davis,M.H. 1983 Measuring Individual Differences in Empathy:Evidence for a Multidimensional Approach,44,113-126.
上地雄一郎・宮下一博(編) 2004 もろい青少年の心―自己愛の障害―発達臨床心理学的考察 北大路書房
川幡政道 2005 ロール・プレイング―自己洞察・役割創造の技法 現代のエスプリ,459,151-163.
北林才知 2008 「グループが一つになる」ということ―実存から「共世界」へ 現代のエスプリ,495,100-112.
三好 力 1998 対人関係における感受性研究―適応モデルの提唱― 日本社会心理学会大会発表論文集,39,338-330.
小此木啓吾 1992 自己愛人間 筑摩書房
小塩真司 1997 自己愛傾向に関する基礎的研究―自尊感情,社会的望ましさとの関連― 名古屋大学教育学部紀要
(心理学),44,155-163.
小塩真司 1999 高校生における自己愛傾向と友人関係のあり方との関連 性格心理学研究,8,1-11.
讃岐真佐子 1990 感じやすさのプラスとマイナス―発達的観点からみた自尊心の育ち― 児童心理,44,1323-1329.
島谷まき子 1990 感受性を伸ばすロールプレイング 児童心理,44,1411-1415.
鈴木英一郎・小塩真司 2002 対人的傷つきやすさ尺度作成の試み―信頼性・妥当性の検討― 日本教育心理学会総会
発表論文集,44,278.
−4−
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