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我が国の政府貸出が企業の借入コストに与えた影響

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我が国の政府貸出が企業の借入コストに与えた影響
我が国の政府貸出が企業の借入コストに与えた影響
-DSGE ベイズ推計による検証-∗
高野 哲彰†
平成 25 年 1 月
概 要
本稿では、1990 年代における企業の資金繰り支援としての政府貸出が企業の借り入れコストを
どの程度減少させたかを、金融市場の不完全性を考慮した DSGE モデルによって検証した。MCMC
法によるベイズ推計の結果、政府貸出残高が増加した 90 年代後半には政府貸出は企業の借り入れ
コストを金利スプレッドでみて年率 0.2% 低下させていたことがわかった。ただし、これまで指摘
されてきたように、政府貸出は民間貸出をクラウディングアウトしていた可能性があることがあ
らためてわかった。反実仮想シミュレーションによってクラウディングアウトの程度を検証した結
果、90 年代後半には平均で 25% 程民間貸出がクラウディングアウトされていたと推計された。
JEL classification: C13, E44, E62
キーワード: 政府貸出, フィナンシャルアクセラレーター, DSGE ベイズ推計
∗ 本稿の作成にあたり、指導教官を引き受けてくださった大垣昌夫教授(慶應義塾大学)
、3
年間にわたり DSGE モデル
の基礎から推計手法まで丁寧に指導してくださった廣瀬康生准教授(慶應義塾大学)、修士論文審査の主査を引き受けてくだ
さった白井義昌教授(慶應義塾大学)、筆者が学部生だった頃から勉強会など公私にわたって様々なことを指導してくださっ
た江口允崇助教(慶應義塾大学)、平賀一希助教(慶應義塾大学)、寺本和弘君 (慶應義塾大学)、マクロ演習の受講者の方々、
そして何より筆者の 6 年間にわたる大学生活を温かく見守り、辛抱強く支援してくれた両親、姉、弟に感謝したい。なお、本
稿における誤りは全て筆者の責任である。
† 慶應義塾大学経済学研究科修士課程
[email protected]
1
はじめに
1
1990 年代初頭のバブル経済の崩壊による、バランスシートの悪化、不良債権問題などで、貸出金利のスプレッ
ド (外部資金調達プレミアム) は拡大し (図 1)、企業の借り入れコストは増大した。同時に、民間金融機関の貸出
は低迷したため、政府は政府貸出残高1 を拡大し企業の資金繰り支援を行った (図 2)。図からも見てとれるように、
90 年代初頭において総貸出残高に占める政府貸出残高の割合は 15% 弱であったのに対し、90 年代末期には 20%
を上回るまでに上昇した。一方で、総務省 (2003)、家森・西垣 (2004)、参議院 (2006) などで指摘されているよう
に、こうした政府貸出残高の上昇が民業圧迫をもたらしているなどの批判を受けた。そのため、2000 年代に入る
と融資業務の縮小、業務範囲、規模、組織の見直しが行われ政府貸出残高は減少している (図 3)。しかし、2008
年のリーマンショック以降、再び景気対策としての政府貸出策が注目され、貸出残高の減少に歯止めがかかってい
る。我が国の今後の景気刺激策を議論する上でも、90 年代に行われた政府貸出策が与えた政策効果、問題点を改
めて検証することは今後の政策運営に対して重要な示唆を与えると考えられる。
本稿では、金融市場の不完全性を考慮した動学的確率的一般均衡モデル (以下 DSGE モデル) を用いて、政府貸
出策の政策効果を分析する2 。Hirose and Kurozumi(2010)、Kaihatsu and Kurozumi(2011) 等が、我が国の金融
市場の不完全性が景気循環に与える重要性について指摘しており、とりわけ Kaihatsu and Kurozumi(2011) では、
Bernanke et al.(1999、以下 BGG) によって提案されたフィナンシャルアクセラレーターモデル (以下 FA モデル)
を用いて分析している。BGG による FA モデルでは、貸出金利のスプレッドは企業家の自己資本比率3 によって変
動し、企業家の自己資本比率が下がる (借り入れ依存度が高まる) と貸出金利のスプレッドが増加する。本稿では
このメカニズムを拡張し、政府による企業家への貸出策が貸出金利のスプレッドに与える影響を分析する。この
モデルにおいて政府貸出策が貸出金利のスプレッドに影響を与えるメカニズムは次のとおりである。まず、企業
家が民間金融機関から借り入れを行う前に、政府から低利の融資を受けることで、民間金融機関からの借り入れ
依存度が低下し、均衡において貸出金利のスプレッドは減少する。さらに、政府貸出では民間金融機関に比べ低
利で融資を受けられるため、企業は生産後の返済額が抑えられ、純資産を積み増すことが可能となる。このため、
自己資本比率は一層改善し、貸出金利のスプレッドに減少圧力が加わる。
政府による企業の資金繰り支援策については、信用保証協会による信用保証が挙げられる。Uesugi et al.(2010)
や松浦・竹澤 (2001) では、特にクレジットクランチ4 が起こっていたとされる 90 年代末に行われた特別信用保証5 の
効果を分析している。Uesugi et al.(2010) では、特別信用保証を利用した企業は、そうでない企業に比べて長期
1 政府貸出の定義は日銀の資金循環統計における政府系金融機関による貸出を用いる。資金循環統計において政府系金融機関は、公的金融
機関のうち、財政融資資金を除いた機関である。具体的には、次の機関が含まれている。日本政策投資銀行、日本政策金融公庫、住宅金融支
援機構、地方公共団体金融機構、沖縄振興開発金融公庫。
2 経済企画庁
(1998)、井堀・中里・川出 (2002)、川出・伊藤・中里 (2004)、渡辺・伊藤・藪 (2010)、江口 (2012) に代表されるよう、90
年代の財政政策の研究は政府支出が主な分析対象となっており、90 年代以降、財政政策の景気刺激効果が低下したことを指摘している。
3 モデル上では純資産/資本価値
4 90
(≡ Nt /qt Kt ) を意味する。
年代末期の金融危機については Yoshikawa and Motohashi(1999) などを参照されたい。
5 通常の信用保証制度が貸倒事故による代位返済率を
2% 程度に設定しているのに対し、特別信用保証制度では 10% の事故率を許容して
おり、極めて緩やかな保証制度といえる。
2
借入金の比率が増加し、信用リスクの低い企業で収益率が改善するなど特別信用保証の効果を認めている。一方
で、企業の借入金利が低下しなかったとし、公的部門によるリスクテイクの効果が十分に伝わっていない可能性
があると指摘している。政府貸出の効果についての研究は、安田 (2004)、根本・深沼・渡部 (2005)、宮川・川上
(2006) 等が挙げられるが、研究の対象は主に、企業の創業時における資金面での政策的助成についてに留まって
いる。また、信用保証、政府貸出ともに上記の研究はマイクロデータに基づいたものであり、明示的な構造モデ
ルによって政府貸出残高といったマクロデータを用いた分析は筆者の知る限り存在していない。政府貸出策がマ
クロ経済の枠組みで十分に検証されてこなかった理由として、通常の DSGE モデルでは、企業に対する減税や所
得移転などの財政処置が家計に帰着してしまうといった問題点が考えられる。このため、政府による企業の支援
策をマクロモデルの枠組みで分析することは困難であった。しかし、Bernanke and Gertler(1989)、Kiyotaki and
Moore(1997)、BGG 等に代表されるように、金融市場の不完全性を考慮したモデルでは家計と企業家を異質な主
体として考えることができ、各々に対する政策効果の違いが説明できるようになった。これらのモデルでは、家
計に対する減税や政府支出といった政策が分析の中心6 であり、企業や金融機関に対する貸出策は分析の対象外で
あった。しかし、リーマンショック以降、Gertler and Kiyotaki(2010)、Gertler and Karadi(2011) に代表される
ように、政府による金融機関の援助策 (Credit Policy) が理論的に分析されており、金融市場が不完全であれば、
政府による援助策が効果を持つといった結論を得ている。
本稿ではモデルの構築と実証上の発見において 3 点の貢献がある。第一に、先述のとおり従来の DSGE モデル
では政府から企業への貸出策について分析することが困難であった。そこで、本稿では BGG で用いられてきた
金融契約に政府貸出のチャネルを加えることによって、明示的な形で政府から企業への援助策を分析することを
可能とした。第二に、実証分析を通じて、政府貸出策が貸出金利のスプレッドにある程度の減少圧力を与えてい
たことを発見した。特に、バブル崩壊後の政府貸出残高の増加は、90 年代後半には、年率で約 0.2%、貸出金利の
スプレッドの低下に貢献していたことが分かった。第三には、従来から議論されてきた、政府貸出が民間貸出残
高をクラウディングアウトしているという指摘に対して、改めて定量的に政府貸出によるクラウディングアウト
の量を分析したことである。総務省 (2006) など従来の研究では、アンケート調査によって低利の政府貸出が民間
金融機関の貸し出しをクラウディングアウトしているといった主張に留まっていたが、本稿でははじめてクラウ
ディングアウトの定量的な分析を試みた。90 年代後半では平均で 25% 程の民間貸出残高が政府貸出によってクラ
ウディングアウトされていたと推計された。
本稿の構成は以下の通りである。まず、第 2 節で分析に用いる DSGE モデルを説明する。第 3 節では、推計で
用いるデータと推計戦略を提示する。第 4 節では、実証分析から得られた結果を報告する。第 5 節では結論を述
べる。
6 Fernandez-Villaverde(2010)
では、不完全な金融市場のもとでの政府支出や減税といった財政政策の効果の違いをシミュレーションに
よって定量的に分析している。
3
モデル
2
本稿のモデル7 は、Christiano et al.(2005)、Smets and Wouters(2003, 2007)、そして Levin et al.(2006) など
で示された消費の習慣形成、Calvo(1983) 型名目価格、名目賃金の硬直性といった様々な市場の摩擦要因を含む
DSGE モデルに、BGG によって提案されたフィナンシャルアクセラレーターメカニズムを導入する。
経済は h ∈ [0, 1] で連続的な家計、企業家、民間金融機関、f ∈ [0, 1] で連続的な中間財企業、代表的な最終財企
業、代表的な資本財企業、政府、そして中央銀行によって構成されている。それぞれの行動は以降で示される。
2.1
家計
経済には、h ∈ [0, 1] でインデックスされた無数の家計が存在するものとする。家計 h は消費財 Ct (h)、国債
Bg,t (h) を購入し、預金 Dt (h) を民間金融機関へ預ける。また、各家計において差別化された労働サービス lt (h)
を独占的競争下で企業家に提供する。各家計の選好は次の効用関数によって示される。
E0
∞
∑
[
β t exp(ztb )
t=0
]
(Ct (h) − θCt−1 (h))1−σ
A1−σ exp(ztl )lt (h)1+χ
− t
,
1−σ
1+χ
ここで、β ∈ (0, 1) は主観的割引率、σ > 0 は異時点間代替の弾力性の逆数、θ ∈ (0, 1) は消費者の習慣形成の程度、
χ > 0 は労働供給の弾力性の逆数を表す。また、ztb と ztl はそれぞれ主観的割引率と労働供給に関する構造ショッ
クである。家計の予算制約式は次のように与えられる。
Ct (h) +
Dt (h) Bg,t (h)
Bg,t−1 (h)
g
n Dt−1 (h)
+
= Wt (h)lt (h) + rt−1
+ rt−1
+ Divt (h) − Tt (h),
Pt
Pt
Pt
Pt
ここで、Pt は物価水準 (最終財価格)、Wt (h) は実質賃金、rtn は預金への名目粗利子率、rtg は国債の名目粗利子
率、Divt (h) は企業からの配当、Tt (h) は政府による一括税である。
完備保険市場の存在を仮定することによって各家計間での消費と国債、預金の保有量は同じとみなすことがで
き、それによって消費、国債、預金の最適な選択の一階の条件は次の様に求められる。
b
Λt = exp(ztb )(Ct − θCt−1 )−σ − βθEt exp(zt+1
)(Ct+1 − θCt )−σ
(1)
1 = βEt
Λt+1 rtg
Λt πt+1
(2)
1 = βEt
Λt+1 rtn
Λt πt+1
(3)
ここで Λt は消費の限界効用、πt = Pt /Pt−1 はインフレ率である。
次に労働供給であるが、独占的競争下で企業家は家計 h の労働サービスを lt = [
∫1
0
w
(lt (h))θt
/(θtw −1)
w
dh]θt
/(θtw −1)
のように集計する。ここで θtw > 1 は各労働サービスの代替の弾力性である。この集計式を所与として企業家は雇
7 本稿で用いられているモデルの導出、定常状態の計算、対数線形近似は廣瀬
(2012) によって詳細に説明されている。モデルのセットアッ
プの大部分は廣瀬 (2012) を参考にした、また金融契約の部分は Kaihatsu and Kurozumi(2010) を参考にした。
4
用に関する費用最小化問題を解き次の労働需要関数 lt (h) = lt (Wt (h)/Wt )−θt を得る。この労働需要関数を前述し
w
た労働サービスの集計式に代入すると次のような賃金の集計式を得る
[∫
1
Wt =
1−θtw
(Wt (h))
] 1−θ1 w
t
dh
(4)
0
各家計は、前述した企業家の労働需要関数を所与として賃金 Wt (h) の決定を行うが、ここでは Erceg et al.(2000)
に従い Calvo(1983) 型の賃金の硬直性を導入する。これは各期において 1 − ξw ∈ (0, 1) の割合の家計のみが賃金
を最適化することができることを意味する。さらに、Smets and Wouters(2007) 等にみられるように、残りの ξw
の割合の家計は、均斉成長率の定常値 γ と、一期前のインフレ率 πt−1 および定常状態のインフレ率 π の加重平均
に従って名目賃金を決定すると仮定する。これをもとに、t 期における家計の賃金の最適化条件は次式を最大化す
ることである。

Et

∏j
∞
∑
t (h)
Λt+j lt+j|t (h) PtPWt+j
j=0
1−σ
b
l
exp(zt+j
)At+j
exp(zt+j
)(lt+j|t (h))1+χ
−
1+χ

(βξw )j 
[
s.t. lt+j|t (h) = lt+j
γw
1−γw
)
k=1 (γπt+k−1 π


w
]−θt+j
j
Pt Wt (h) ∏
γw
1−γw
(γπt+k−1 π
)
.
Pt+j Wt+j
k=1
Wto
一階の条件を最適化された賃金
によって表わすと、次の通りである。

w
t+j
{(
}]− 1+λ
[ j o∏


λw
γ Wt
Λt+j
j
πt+k−1 )γw π
t+j
j


(βξw ) λw lt+j Wt+j k=1

π
πt+k

t+j
 



∏j [( πt+k−1 )γw π ]

j
o

∞
γ
W

t
∑
k=1
π
πt+k




Et
b
l
1−σ
exp(z
)
exp(z
)(A
)


t+j
t+j
t+j

 ×  −(1 + λw
)

j=0 
t+j
Λt+j



)χ 
  (
1+λw

t+j

{ j o
[(
]}− λw



πt+k−1 )γw π
t+j
  × lt+j γ Wt ∏j

k=1

Wt+j
π
πt+k

























= 0,
(5)
w
ここで λw
t ≡ 1/(θt − 1) > 0 は賃金のマークアップ率を表わしている。また (4) は次の様に書き換えることがで
きる。

1 = (1 − ξw ) 
2.2
(
Wto
)− λ1w
Wt
t
+
∞
∑
{
(ξw )j
j=1
γ
j
o
Wt−1
Wt
j [(
∏
πt+k−1 )γw
k=1
π
π
πt+k
]}− λ1w
t

.
(6)
企業家と金融機関
企業家は完全競争の下、次のような生産関数に従って生産を行う。
Yte = (At lt )1−α (ut Kt−1 )α − ΦAt
(7)
ここで、At は生産技術、lt は家計によって提供された労働サービス、ut は資本稼働率、Kt は資本ストックであ
る。また、パラメータ α ∈ (0, 1) は生産投入に占める資本の比率、Φ は生産にかかる固定費用を表している。ここ
で、At は次の確率過程に従うと仮定する。
log At = log γ + log At−1 + zta
(8)
5
ここで γ > 1 は定常状態におけるグロスの技術進歩率、zta は技術進歩率への外生ショックを表す。
資本ストック Kt−1 は資本財企業から前期末に実質価格 qt−1 にて購入する。企業家が購入する資本財は企業家
の純資産 Nt−1 だけでなく実質借り入れ8
St−1 = qt−1 Kt−1 − Nt−1
(9)
を元手に支払われる。
Gertler and Kiyotaki (2009)、Gertler and Karadi (2012) に倣い、借り入れには民間金融機関からの借り入れ
n
と、政府からの借り入れが存在するとする。民間金融機関は、家計から実質粗預金金利 Et−1 (rt−1
/πt ) で資金を得
g
て、企業家に実質粗貸出金利 Et−1 rte で貸出を行う一方で、政府は実質国債金利 Et−1 (rt−1
/πt ) によって貸出を行
う。総貸出 St は、次のようになる。
St = Stp + Stg = qt Kt − Nt
(10)
ここで、Stp は民間金融機関による民間貸出であり、Stg は政府による政府貸出9 である。
生産の後、企業家は生産物を中間財企業に価格 mct で販売する。資本は δ(ut ) の割合で減耗するので、企業
p
、政府に
家は残った資本 (1 − δ(ut ))Kt−1 を資本財企業に実質価格 qt で再販売し民間金融機関に (Et−1 rte )St−1
g
g
(Et−1 rt−1
/πt )St−1
を返済する。また、企業家は来期まで生存する確率10 ηt = η exp(z̃tnw )/(1 − η + η exp(z̃tnw )) ∈
(0, 1) に直面していると仮定する。ここで、z̃tnw はこの確率に対するショックである。これより、企業家の純資産
は次式に従って推移する。
[
Nt = ηt
rte qt−1 Kt−1
−
p
(Et−1 rte )St−1
]
g
Rt−1
g
−
S
+ (1 − ηt )xAt
πt t−1
(11)
ここで 1 − ηt は新規に参入してくる企業家の割合で、x は市場から退出した企業から受け取る移転を表わす。こ
こで、政府貸出の金利は民間貸出の金利よりも低いので、政府貸出と民間貸出の金利差の分企業家の純資産が増
えることになる。
BGG のように、企業家はリスク中立的と仮定し、これによって企業家の民間金融機関に対する資金需要は期待
限界費用と資本の期待限界収益が均衡する所で決まる。
[
e
Et rt+1
= Et
k
ut+1 rt+1
+ qt+1 (1 − δ(ut+1 ))
qt
]
(12)
ここで rtk は資本の限界生産物である。また、実質貸出金利は実質利子率に外部資金調達プレミアムを加えた値と
8 Fernandez-Villaverde(2010)
では、インフレーションが債務に与える影響を分析するため名目借り入れを仮定しているが、本稿では議
論の簡易化のため実質借り入れを仮定する。
9 この政府貸出は政府によって外生的に貸出残高が決められると想定するため、構造ショックとみなす。そのため、トレンド除去後の政府
貸出ショックは他の構造ショックと同様に AR(1) の確率過程に従う。
10 この仮定によって企業家が生産に用いる資本を純資産のみで賄うことができないことが保証される。つまり、毎期毎期、企業家は金融機
関から借り入れを行うことになる。
6
なる11 。
[
e
Et rt+1
= Et
rtn
F
πt+1
(
Nt + Stg
qt Kt
)
]
exp(ztef p )
(13)
ここで外部資金調達プレミアム関数 F (·) は企業家のレバレッジの割合 (Nt + Stg )/(qt Kt ) に依存し、F ′ < 0、
F (1) = 1 を満たす12 。よって、民間金融機関の貸出金利は預金金利及び国債金利よりも高くなる。また、ztef p は
外部資金調達に関する構造ショック13 である。これは資金供給サイドのショックであり、外部資金調達コストを直
接変化させる。
労働投入に関する費用最小化の一階の条件は次式の通りになる。
Wt lt
1−α
= k
,
α
rt ut Kt−1
(14)
rtk = qt δ ′ (ut ).
(15)
そして、実質限界費用は次式の通りとなる。
(
mct =
Wt
(1 − α)At
)1−α (
rtk
α
)α
.
(16)
中間財企業
2.3
各中間財企業 f ∈ [0, 1] はそれぞれ企業家の生産物を価格 mct で購入する。独占的競争下で中間財企業 f は最終
p
財企業の需要関数 Yt (f ) = Yt (Pt (f )/Pt )−θt を所与として最適価格を設定する。ここで Yt は最終財企業の生産物
であり、Pt (f ) は中間財企業 f によって生産された微分された財の価格である。また、θtp > 1 は中間財間におけ
る代替の弾力性である。各中間財企業は Calvo(1983) 型の価格の硬直性に直面して価格を設定していると仮定す
る。すなわち、各期において 1 − ξp ∈ (0, 1) の割合の中間財企業のみが価格を最適化できるとする。さらに、賃金
と同様に Smets and Wouters(2007) 等にみられるように、残りの ξp の割合の企業は、一期前のインフレ率 πt−1
と定常状態のインフレ率 π の加重平均に従って価格を設定すると仮定する。このとき、中間財企業の利潤最大化
問題は次のようになる。
Et
∞
∑
j=0
ξpj
]
)[
(
j
Pt (f ) ∏ γp
1−γp
j Λt+j
(πt+k−1 π
) − mct+j Yt+j|t (f )
β
Λt
Pt+j
k=1
[
s.t. Yt+j|t (f ) = Yt+j
j
Pt (f ) ∏ γp
(πt+k−1 π 1−γp )
Pt+j
p
]−θt+j
k=1
11 (13)
の導出は補論にまとめてある。
12 このため、政府貸出は均衡において直接外部資金調達プレミアムを引き下げる役割と、純資産を積み増すという二つの経路によって外部
資金調達プレミアムを引き下げる。
13 このショックは
Gilchrist et al.(2009) によって「信用供給ショック」と呼ばれており、金融仲介機能の効率性や現在の経済の状態や金融
政策の姿勢に関する利用可能な情報を超えた部分で生じる外部資金調達プレミアムを掴むショックである。
7
ここで β j Λt+j /Λt は t 期と t + 1 期の間の確率的割引因子を表わす。一階の条件を最適化された価格 Pto によって
表わすと次の通りである。

Et
∞
∑
j=0


 {
Λ
(βξp )j Λt λt+j
Yt+j
p
t+j
po
t
pt
∏j
{
Pto
Pt
∏j
k=1
[(
πt+k−1 )γp
π
π
πt+k
k=1
]
p
[(
πt+k−1 )γp
π
π
πt+k
− (1 +
]}− 1+λp t+j
λ
t+j
λpt+j )mct+j
}


 = 0,

(17)
ここで λpt ≡ 1/(θtp − 1) > 0 は中間財価格のマークアップ率を表わす。
2.4
最終財企業
最終財企業は完全競争の下、中間財 Yt (f ) から生産技術 Yt =
∫1
を利潤 Pt Yt −
0
(∫
1
0
Yt (f )
(θtp −1)/θtp
df
)θtp /(θtp −1)
を用いて最終財 Yt
Pt (f )Yt (f )df が最大になるように生産する。利潤最大化の一階の条件より最終財企業の中間財
p
需要は Yt (f ) = Yt (Pt (f )/Pt )−θt となる。これによって物価水準は次の様に表わされる。
(∫
1
Pt (f )
Pt =
1−θtp
1
) 1−θ
p
df
t
0
賃金と同様に中間財は Calvo 型の価格の硬直性に直面しているため、上記の方程式は次の様に表わせる。


{
( o )− 1p ∑
]}− λ1pt
j [(
∞
o
)γ p
∏
λt
p
P
π
π
t−j
t−k

1 = (1 − ξp )  t
+
(ξp )j
Pt
pt−j
π
πt−k+1
j=1
(18)
k=1
企業家の生産関数の集計は次式のようになる。
Yte dpt = (At lt )1−α (ut Kt−1 )α − ΦAt ,
ここで dpt =
2.5
∫1
0
(19)
p
(Pt (f )/Pt )−θt df は中間財価格のばらつきを表わす。
資本財企業
資本財企業は資本 (1 − δ(ut ))Kt−1 を企業家から買い戻し、投資財を生産する。資本の遷移式は次の通りである。
(
(
))
It exp(zti )
Kt = (1 − δ(ut ))Kt−1 + 1 − S
It .
It−1 γ
(20)
ここでは、Greenwood et al.(1988) に従い、Sugo and Ueda(2008) と同様、資本減耗率 δ は資本稼働率に依存
して変化すると仮定する。資本稼働率が高くなるにつれて資本減耗率が高くなるという仮定を置いており、関
数 δ(·) は δ ′ > 0, δ ′′ > 0, δ(u) = δ ∈ (0, 1), µ = δ ′ (u)/δ ′′ (u) > 0 という性質を持つ。また、この投資は
S(It /It−1 ) = [It /It−1 − 1]2 /(2ζ) によって表わされる投資の調整コストに従う。ここで、ζ > 0 は投資の調整コス
トに関するパラメータであり、zti は投資の調整コストに対する構造ショックである。資本財企業は投資財の生産
後、資本 Kt を企業家に販売する。
資本財企業は利潤最大化のために投資財の生産量 It を選択する。
Et
∞
∑
j=0
βj
Λt+j
[qt {Kt − (1 − δ(ut ))Kt−1 } − It+j ] .
Λt
8
最適投資量は一階の条件より次のように示される。
[
(
)
(
)
]
(
)(
)2
i
i
It+1 exp(zt+1
)
exp(zt+1
)
It exp(zti )
Λt+1
It+1
It exp(zti ) It exp(zti )
1 = qt 1 − S
− S′
+βEt
qt+1 S ′
.
It−1 γ
It−1 γ
It−1 γ
Λt
It γ
It
γ
(21)
2.6
政府
政府は国債 Bg,t を発行し、徴税 Tt 、政府支出 Gt 、政府貸出 Stg を行う14 。政府の予算制約は次のようになる、
g
r
Bg,t
Bg,t−1
g
g
= Gt + Stg + rt−1
− η t−1 St−1
− Tt
Pt
Pt
πt
(22)
また、税制ルールは、一期前の税、国債、生産量に従うと仮定する。
log
Tt
Tt−1
= ϕτ log
+ (1 − ϕτ )ϕb (log Bg,t−1 − log Yt−1 ) + ztt
At
At
(23)
ここで、ϕτ は徴税のスムージングの度合いを示すパラメータ、ϕb は国債と生産量のかい離から徴税量を調整する
パラメータ、ztt は徴税ショックである。
市場の均衡条件は次の様に表わされる。
Yt = Ct + It + Gt
2.7
(24)
中央銀行
中央銀行は名目利子率を調整することによって金融政策を行う。利子率の調整はテイラー型 Taylor(1993) の金
融政策ルールに従うものとする。




3

∑
Y
π
1
t
t−j 
n
+ ϕy log
log
+ ztr
log rtn = ϕr log rt−1
+ (1 − ϕr ) log rn + ϕπ 

4 j=0
π
Y 

(25)
ここで、ϕr ∈ [0, 1) は金利スムージングの度合いを示すパラメータ、rn は名目粗利子率の定常値 Y は生産量の定
常値、ϕπ , ϕy ≥ 0 はそれぞれインフレ率と GDP ギャップに対する利子率の反応を表わす。ztr は金融政策ショック
である。
3
データとパラメータの設定
この節では推計で用いられるデータ、カリブレートするパラメータと定常状態の値の設定、そして推計するパラ
メータの事前分布の設定について報告する。
14 政府支出、政府貸出は構造ショックであり、ショックのプロセスは補論を参照されたい。
9
3.1
データ
本稿のモデル推計には 11 の時系列データを用いる。使用するデータは、実質 GDP 成長率、実質消費成長率、
実質設備投資成長率、実質民間金融機関貸出残高成長率、実質政府系金融機関貸出残高成長率、実質賃金上昇率、
労働時間、名目短期金利、名目短期貸出金利である。実質 GDP、実質消費、実質設備投資に関するデータは、内
閣府「国民経済計算」からそれぞれの名目値の各系列を総務省「消費者物価指数」の消費者物価指数 (除く生鮮食
品) で割ることによって実質化している。実質民間金融機関貸出残高、実質政府系金融機関貸出残高に関するデー
タは、日本銀行「資金循環統計」からそれぞれの名目値の各系列を同様に消費者物価指数 (除く生鮮食品) で割る
ことによって実質化している。さらに、実質化されたこれらの系列を総務省「労働力調査」の 15 歳以上人口で除
することによって、一人当たりの数字に変換している。実質賃金は、厚生労働省「毎月勤労統計」から毎月の定
期給与÷ (総労働時間÷出勤日数 ) によって時間当たり賃金データを作成したうえで、消費者物価指数 (除く生鮮
食品) で除し、実質化している。労働時間は、賃金と同様に「毎月勤労統計」から総労働時間÷出勤日数を使用し
ている。物価上昇率については、消費者物価指数 (除く生鮮食品) を用いている。名目短期金利については、無担
保コールレートのオーバーナイト物を使用している。名目短期貸出金利については、日本銀行「預金・貸出関連
統計」から貸出約定平均金利のストックを使用している。
データは四半期ベースで、季節調整済み系列を用いており、各系列の作成過程で季節調整が行われていないも
のについては、手元で季節調整をかけたものを利用している。
推計期間は、1990 年第 1 四半期から 1998 年第 4 四半期までとしている。本稿では 90 年代の政府貸出の効果を
検証するため、本来ならば 99 年第 1 四半期から第 4 四半期の期間を含めるべきであるが、99 年第 1 四半期から
名目短期金利がほぼゼロとなり、モデルが想定しているテイラー型の金融政策ルールに従って名目金利が設定さ
れていなかったと考えられることから、この期間を外して推計した。データとモデル変数をつなぐ観測方程式は
次のようにかける、






 100△ log Yt   γ   + ŷt − ŷt−1 

   


   

 100△ log Ct   γ   zta + ĉt − ĉt−1 

   


   


    a

 100△ log It   γ   zt + ît − ît−1 

   


   

 100△ log G   γ   z a + ĝ − ĝ


t
t
t−1 
   t

   


   

 100△ log S p   γ   z a + ŝp − ŝp 
t 
t
t−1 

   t

   


   

 100△ log Stg  =  γ  +  zta + ŝgt − ŝgt−1  ,

   


   


    a

100△ log Wt   γ  zt + ŵt − ŵt−1 

   


   

 100 log l   l  

ˆ
lt

t 

  

   


   

 100△ log Pt   π  

π̂t

   


   


  n 

n
n
 100 log rt  r  

r̂
t

   


   

re
100 log rte
r̂te
zta
10
ここで、γ = 100 log γ 、l = 100 log l、π = 100 log π 、rn = 100 log rn 、re = 100 log re である。
3.2
事前分布の設定
Smets and Wouters(2003, 2007) や Levin et al.(2005) 等と同様に、識別問題を避けるためにいくつかの構造パ
ラメータは事前にカリブレートする必要がある。定常状態における政府支出と国債の産出量に対する比率 g/y, bg /y
15
はサンプル平均を用いる。定常状態における、資本減耗率、資本分配率、賃金のマークアップ率は Sugo and
Ueda(2008) で設定されているものを用いる (i.e. δ = 0.06, α = 0.37, λw = 0.2)。
事前分布は表 1 に記載されている。非金融部門の構造パラメータ (i.e. σ, θ, χ, µ, 1/ζ, ϕ/y, γw , ξw , γp , ξp ) は Sugo
and Ueda(2008) と同様のものを、Sugo and Ueda(2008) では用いられていない価格マークアップ率の定常値 (i.e.
λp ) は Justiano(2010) で用いられているものを用いる。税制ルールに関するパラメータ (i.e. ϕτ , ϕb ) は、Iwata(2011)
を参考にした。また、金融政策ルールに関するパラメータ (i.e. ϕr , ϕπ , ϕy ) は Iiboshi et al.(2006) で用いられてい
るものを使用する。金融部門に関するパラメータ (i.e. µe , n/k, η) であるが、µe については本稿のモデルセット
アップに基づく先行研究が存在しないため、Kaihatsu and Kurozumi(2010) で用いられている、比較的モデル構
造の似たパラメータの事前分布を用いる。残りの n/k, η については Hirose(2008) で用いられているものを使用す
る。最後に、金利、インフレ率の定常状態値 (i.e. re , rn , π) については、貸出金利 re = 100 log re はガンマ分布、
サンプル平均、0.05 の標準偏差を用いる。分布と標準偏差は Hirose(2008) を参考にした。また、同様に rn , π に
ついても、ガンマ分布、サンプル平均、0.05 の標準偏差を用いる。
推計結果
4
本稿では、近年の DSGE ベイズ推計の研究と同様、カルマンフィルターによって対数線形近似された均衡条件
システムの尤度関数を評価し、メトロポリスヘイスティングアルゴリズムによってパラメータの事後分布を生成
する。MCMC 法の実行に当たっては、300,000 回のサンプリングを行い、最初の 150,000 回をバーンインとして
捨て、残りの 150,000 回のサンプリングデータを事後分布からのサンプルとして採用する。
4.1
パラメータの推計結果
それぞれのパラメータの平均と 90% 信用区間は表 1 に記載されている。本稿で推計されたパラメータのうち、
σ = 0.999, θ = 0.544, χ = 2.193, ϕ = 0.075, γw = 0.518, ξw = 0.545, γp = 0.421, ξp = 0.438, λp = 0.159, γ =
0.353, η = 0.985, n/k = 0.562, ϕr = 0.756, ϕπ = 1.660, ϕy = 0.132 は先行研究と比して妥当な値となった。特に、
15 b /y
g
は推計には用いないが、定常状態の計算において推計と同様のサンプル区間のデータを用いてサンプル平均を求めた。データは政府
債務残高を財務省主計局調査課「財政統計」より得た。
11
我々のモデルは Kaihatsu and Kurozumi(2010) を拡張し、政府貸出のメカニズムを加えたものであるため、これ
らの構造パラメータは Kaihatsu and Kurozumi と似た結果が得られている。
一方で、本稿では FA モデルを用いているものの、Kaihatsu and Kurozumi で考慮されていた投資特殊技術を
考慮していないため、投資の調整コストに関するパラメータ 1/ζ 、資本稼働率に関するパラメータ µ の値は Sugo
and Ueda(2008) で推計されたものと似た結果が得られた (1/ζ = 4.128, µ = 3.048)。また、外部資金調達プレミア
ムの定常状態における弾力性 µe は 0.015 とゼロと明らかに違う結果が得られたことより、Hirose(2008)、Kaihatsu
and Kurozumi(2010) と同様に我が国ではフィナンシャルアクセラレータメカニズムが働いていることが示唆され
る。一方で、本稿で定義されている µe は資本純資産比率に政府貸出も加わっているため、先行研究に比べて小さ
い値となった。税制ルールに関するパラメータ ϕτ , ϕb はそれぞれ 0.502、0.300 と妥当な値が得られた。最後に、定
常状態におけるインフレ率、貸出金利、コールレートの値はそれぞれ π = 0.156, re = 1.037, rn = 0.786 であった。
4.2
歴史分解
ここでは、貸出金利のスプレッドを歴史分解することで得られた結果を報告する。図 4 は貸出金利のスプレッ
ドの歴史分解を示している。図における sg は政府貸出ショック、nw は純資産ショック、efp は外部資金調達プレミ
アムショック、others はその他のショックによるスプレッドへの寄与の大きさを表している。また、実線は貸出金
利のスプレッドである。貸出金利のスプレッドは、貸出金利からコールレートを除いた値であり、この図では定
常状態からの乖離を表しており、定常状態における貸出金利のスプレッドは 0.26% である。90 年代初頭は、貸出
金利とコールレートが逆転し、貸出金利のスプレッドはマイナスを推移しているが、バブル崩壊とともに貸出金
利のスプレッドは上昇しはじめる。このとき、外部資金調達プレミアムショック (ztef p ) が貸出金利のスプレッド
の上昇圧力となっている。92 年以降、政府貸出残高が増大するに従って、政府貸出ショック (sgt ) が貸出金利のス
プレッドの低下圧力となり、特に 90 年代後半には四半期で約 0.05%、年率に直すと約 0.2% 貸出金利のスプレッ
ドを低下させていたことがわかる。Uesugi et al.(2010) では、90 年代末期の大規模な特別信用保証は長期借入金
の比率が増加したり、企業の収益率が改善するなどの効果が認められているが、企業の借入金利は下がらなかっ
た16 としているのに対し、年率約 0.2% のスプレッド低下は企業の借り入れコスト削減に対して大きな効果を持っ
ていたと考えられる。
4.3
反実仮想シミュレーション
ここでは、仮に政府によって政府貸出策が実施されていなかった場合、民間貸出残高はどのように推移していた
かを反実仮想シミュレーションによって検証する。図 5 はこの反実仮想シミュレーションによって得られた民間
貸出残高の系列である。この系列を求めるにあたって、政府貸出の民間貸出残高への寄与度を歴史分解によって
16 特別信用保証を利用した企業では、長期金利への借り換えを行ったためむしろ借入金利は上昇していたとしている。
12
求め、民間貸出残高の変化率から除くことによって反実仮想値とした。さらに、原系列と反実仮想系列を比較す
る際に 1990 年を 100 とする指数系列に変換した。なお、モデル上では民間貸出残高、政府貸出残高はともにトレ
ンドを除去した変数として扱っているため、図中の系列もトレンドによる伸びは考慮されていない。この図から
見てわかるとおり、政府貸出は特に貸出残高を増やしたバブル崩壊以降から民間貸出残高をクラウディングアウ
トしている。特に、90 年代後半では 25% もの民間貸出残高が政府貸出によってクラウディングアウト17 されてい
たと考えられる。これは、90 年代後半から 2000 年代にかけて議論された、政府貸出策の民業圧迫問題と整合的な
結果が得られている。
5
結論
本稿では金融市場の不完全性を考慮した DSGE モデルを 90 年代のデータを用いてベイズ推計することによっ
て、以下の二つのことがわかった。一つは、政府貸出のデータを用いて推計を行っても、先行研究と同様に我が
国では金融市場の不完全性が認められた。その結果、90 年代を通じて貸出残高が増大した政府貸出は貸出金利の
スプレッドに対して明確な低下圧力を有していた。二つは、推計の後に反実仮想シミュレーションによって、仮
に政府貸出策が行われなかったならば民間金融機関による貸出残高がどのように推移していたかを推計した結果、
従来批判されてきたように政府貸出残高の増加によって民業圧迫が生じ、民間貸出がクラウディングアウトされ
ていた可能性があるということである。
このように、政府貸出策による貸出金利のスプレッド低下効果と民間貸出のクラウディングアウトはトレード
オフの関係にあり、今日の政策を考える上では、データのサンプル区間を足元まで拡大して我が国の金融市場の
不完全性の度合いを推計する必要がある。これについては今後の課題としたい。
また、本稿では従来 DSGE モデルにとりいれられてこなかった政府貸出という政策をモデル化することで、政
府貸出の政策効果を検証した。しかし、政府貸出が行われた企業に、民間金融機関が審査費用をかけずに貸出を
行うといったように、政府貸出は民間では補いきれない情報調査能力 (カウベル効果) があることが指摘されてい
る。本稿で用いられたモデルでは政府貸出と民間貸出は代替の関係にあるが、このような政府貸出と民間貸出の
補完性については将来の課題としたい。
17 筆者が知る限り、政府貸出による民間貸出残高のクラウディングアウト量を定量的に推計したのは本稿がはじめての試みであるため、従
来の議論との量的な比較は困難である。
13
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16
表 1: パラメーターの事前、事後分布
Parameter
Prior distribution
Distribution
S.D
Posterior
Mean
Mean
90% interval
σ
θ
Gamma
Beta
1
0.7
0.375
0.15
0.999
0.544
[ 0.476 , 1.523 ]
[ 0.305 , 0.802 ]
χ
1/ζ
Gamma
Gamma
2
4
0.75
1.5
2.193
4.128
[ 0.932 , 3.372 ]
[ 1.640 , 6.386 ]
µ
ϕ
γw
Gamma
Gamma
Beta
1
0.075
0.5
1
0.0125
0.25
3.048
0.075
0.518
[ 1.110 , 4.960 ]
[ 0.055 , 0.095 ]
[ 0.122 , 0.917 ]
ξw
γp
ξp
Beta
Beta
Beta
0.375
0.5
0.375
0.1
0.25
0.1
0.545
0.421
0.438
[ 0.391 , 0.701 ]
[ 0.042 , 0.783 ]
[ 0.271 , 0.604 ]
λp
γ
Gamma
Gamma
0.15
0.37
0.05
0.1
0.159
0.353
[ 0.075 , 0.242 ]
[ 0.198 , 0.498 ]
π
rn
re
Gamma
Gamma
Gamma
0.15
0.76
1.046
0.05
0.05
0.05
0.156
0.786
1.037
[ 0.075 , 0.234 ]
[ 0.705 , 0.867 ]
[ 0.958 , 1.115 ]
η
µe
Beta
Gamma
0.973
0.038
0.02
0.019
0.985
0.015
[ 0.968 , 0.998 ]
[ 0.005 , 0.026 ]
n/k
ϕτ
ϕb
Beta
Beta
Gamma
0.5
0.5
0.3
0.07
0.1
0.05
0.562
0.502
0.300
[ 0.462 , 0.648 ]
[ 0.332 , 0.659 ]
[ 0.217 , 0.382 ]
ϕr
ϕπ
Beta
Gamma
0.8
1.7
0.1
0.1
0.756
1.660
[ 0.673 , 0.835 ]
[ 1.491 , 1.826 ]
ϕy
ρg
ρa
Gamma
Beta
Beta
0.125
0.5
0.5
0.05
0.2
0.2
0.132
0.958
0.858
[ 0.057 , 0.204 ]
[ 0.917 , 0.999 ]
[ 0.771 , 0.944 ]
ρb
ρef p
Beta
Beta
0.5
0.5
0.2
0.2
0.493
0.925
[ 0.125 , 0.867 ]
[ 0.881 , 0.972 ]
ρw
ρp
ρi
Beta
Beta
Beta
0.5
0.5
0.5
0.2
0.2
0.2
0.433
0.443
0.333
[ 0.141 , 0.710 ]
[ 0.117 , 0.782 ]
[ 0.118 , 0.545 ]
ρr
ρsg
Beta
Beta
0.5
0.5
0.2
0.2
0.605
0.987
[ 0.440 , 0.775 ]
[ 0.975 , 0.999 ]
ρnw
ρτ
σg
Beta
Beta
Inv. Gamma
0.5
0.5
0.5
0.2
0.2
Inf
0.568
0.500
1.946
[ 0.352 , 0.801 ]
[ 0.171 , 0.833 ]
[ 1.565 , 2.313 ]
σa
σb
Inv. Gamma
Inv. Gamma
0.5
0.5
Inf
Inf
0.275
3.058
[ 0.158 , 0.393 ]
[ 1.317 , 4.884 ]
σw
σt
σp
Inv. Gamma
Inv. Gamma
Inv. Gamma
0.5
0.5
0.5
Inf
Inf
Inf
0.241
0.430
0.766
[ 0.168 , 0.308 ]
[ 0.120 , 0.785 ]
[ 0.399 , 1.124 ]
σi
σr
Inv. Gamma
Inv. Gamma
0.5
0.5
Inf
Inf
4.352
0.105
[ 3.102 , 5.642 ]
[ 0.082 , 0.127 ]
σsg
σef p
σnw
Inv. Gamma
Inv. Gamma
Inv. Gamma
0.5
0.5
0.5
Inf
Inf
Inf
1.461
0.088
4.787
[ 1.168 , 1.746 ]
[ 0.070 , 0.105 ]
[ 3.341 , 6.196 ]
Log likelihood
17
-329.811
図 1: 金利
%
2.5
2
コールレート
1.5
貸出金利
1
0.5
0
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
図 2: 総貸出残高の推移
政府貸出
民間貸出
比率
兆円
1000
%
25
900
20
800
700
15
600
500
400
10
300
200
5
100
0
0
90
91
92
93
94
95
18
96
97
98
99
図 3: 政府貸出残高の推移
兆円
200
180
160
140
120
100
80
60
90年代
40
2000年以降
20
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12
図 4: 貸出金利のスプレッドの歴史分解
0.5
%
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
-0.2
others
sg
nw
efp
spread
-0.3
-0.4
-0.5
90
91
92
93
94
19
95
96
97
98
図 5: 民間貸出残高の反実仮想実験
1990=100
民間貸出残高
120
反実仮想
100
80
60
40
20
0
90
91
92
93
94
20
95
96
97
98
補論
トレンドの除去
本稿で用いられているモデルは、全ての実体経済変数が技術進歩率の定常値 log γ に収斂するように工夫されて
いる。従来の DSGE ベイズ推計では、データが持つトレンドを、HP フィルターや線形トレンドを考慮すること
によって除去してきたが、こうしたモデルは均斉成長制約を満たしており、生産技術の進歩を経済成長の源泉とし
て明示的に取り扱うことによって、アド・ホックなフィルタリングに頼ることなく、理論に整合的な形でトレンド
の変化を含む長期要因と短期要因を一括して分析することが可能となる。よって、以下では非定常な変数を技術
水準 At で割り込む (ラグランジュ乗数には掛け合わせる) ことによって、定常な変数として再定義する。
yt =
gt =
Yt
At ,
Gt
At , tt
ct =
=
Ct
At ,
wt =
Wt
At ,
it =
It
At ,
kt =
Kt
At ,
nt =
Nt
At ,
λt = Λt Aσt , st =
St
At ,
spt =
Stp
At ,
sgt =
Stg
At ,
bg,t =
Bg,t
At ,
Tt
At .
定常状態
ここでは、モデルの定常状態を求める。トレンドを除去した変数から、全てのショックをゼロとして全変数が時
間を通じて一定となる静学モデルを解く。なお、資本稼働率 ut の定常値は u = 1 とする。
まず、消費のオイラー方程式 (2) より
γσ
rn
=
π
β
(26)
同様に、消費のオイラー方程式 (2)、(3) より
rn = rg
(27)
投資関数 (21) より、定常状態におけるトービンの q は
q=1
(28)
トービンの q と、資金需要関数 (12) より
rk = re − 1 + δ
(29)
中間材生産企業の価格設定に関する 1 階の条件 (17) の定常状態は
po = (1 + λp )mc
(30)
価格の集約式 (18) より po = 1、これを上の式に代入すると
mc =
1
1 + λp
(31)
21
また、中間財企業のばらつきについても (19) と po = 1 より dp = 1 を得る。また、定常状態における限界費用は
(16) から
(
mc =
1
1−α
)1−α (
rk
α
)α
(32)
これを変形して
(
w = (1 − α)mc
1
1−α
×
rk
α
α
)− 1−α
(33)
最終財企業の費用最小化の 1 階の条件 (14) から
γαw
k
=
l
(1 − α)rk
(34)
(33) に (29)、(31) を代入すると
(
w = (1 − α)
1
1 + λp
1
) 1−α
( γσ
×
β
−1+δ
α
)− 1+α
(35)
α
これを (34) に代入すると k/l の定常値が求まる。また、dp = 1 を用いると、生産関数 (19) から定常状態における
生産量は
y = l1−α
( )α
k
−Φ
γ
(36)
ϕ = Φ/y と定義すると
k
= (1 + ϕ)γ α
y
( )α−1
l
k
(37)
となり、これより k/y が求まる。また、資本の繊維式 (20) より定常状態における投資と資本ストックの関係は
(
)
1−δ
i= 1−
k
γ
(38)
これより、
i
=
y
(
)
1−δ
k
1−
×
γ
y
(39)
財市場の資源制約式 (24) より
y =c+i+g
(40)
これより
c
i
g
=1− −
y
y y
(41)
企業家の純資産が生産量に占める割合は
n k
n
= ×
y
k
y
(42)
22
また、企業家の金融仲介機関からの借り入れ量 (9) より
s=k−n
(43)
この両辺を y で除して
s
k n
= −
y
y
y
(44)
最後に、政府の予算制約式 (22) より定常状態における税収の対 GDP 比
t
=
y
(
)
(
)
g
rg sg
rg
bg
−1
+ + 1−η
γ
y
y
γ
y
(45)
が得られる。
対数線形近似
先ほど求めた定常状態の周りで対数線形近似を行う。ハットのついた変数は定常状態からの乖離を表しており、
x̂t = log(xt /x) と定義する。
消費の限界効用:
(
)(
)
{
} (
)
θ
βθ
θ
θ
1−
1 − σ λ̂t = −σ ĉt − (ĉt−1 − zta ) + 1 −
ztb
γ
γ
γ
γ
[ {
} (
)
]
βθ
θ
θ
a
b
+ σ σ Et ĉt+1 + Et zt+1
− ĉt − 1 −
Et zt+1
,
γ
γ
γ
オイラー方程式:
a
λ̂t = Et λ̂t+1 − σEt zt+1
+ r̂tg − Et π̂t+1 ,
金利平価条件:
r̂tg = r̂tn ,
賃金関数18 :
a
ŵt − ŵt−1 + π̂t − γw π̂t−1 + zta = βγ 1−σ (Et ŵt+1 − ŵt + Et π̂t+1 − γw π̂t + Et zt+1
)
+
1 − ξw (1 − βξw γ 1−σ )λw ˆ
(χlt − λ̂t − ŵt + ztb ) + ztw
ξw
λw + χ(1 + λw )
企業家への総貸出の内訳:
ŝt =
sp p sg g
ŝ + ŝt ,
s t
s
18 このモデルでは、賃金マークアップショック
λ̂t と労働の不効用に関するショック ztl は識別できない。したがって、本稿では両者を混合
したショック ztw を用いる。
23
企業家の借入条件:
ŝt =
(
)
1
1
(q̂t + k̂t ) + 1 −
n̂t ,
1 − n/k
1 − n/k
資本ストックの供給関数:
(
e
Et r̂t+1
=
1−δ
1− e
r
)
k
Et rt+1
+
1−δ
Et q̂t+1 − q̂t ,
re
資本ストックの需要関数:
(
e
Et r̂t+1
= r̂tn − Et π̂t+1 − µe
sg
n
n̂
+
ŝg − q̂t − k̂t
t
n + sg
n + sg t
)
+ ztef p ,
純資産の遷移式:
n γ
k
k−n
n
sg
rg sg g
n̂t = r̂te −
Et−1 r̂te + (n̂t−1 − zta ) + (Et−1 r̂te + ŝgt−1 − zta ) − e (r̂t−1
− π̂t + ŝgt−1 − zta ) + ztnw ,
e
y ηr
y
y
y
y
r y
限界費用:
m̂ct = (1 − α)ŵt + αr̂tk ,
費用最小化条件:
k̂t−1 + ût + r̂tk − zta = ˆlt + ŵt ,
資本稼働率関数:
ût = µ(r̂tk − q̂t ),
生産関数:
ŷt = (1 + ϕ){(1 − α)ˆlt + α(ût + k̂t−1 − zta )},
ニューケインジアン・フィリップス・カーブ:
π̂t − γp π̂t−1 = βγ 1−σ (Et π̂t+1 − γp π̂t ) +
(1 − ξp )(1 − βξp γ 1−σ )
m̂ct + ztp ,
ξp
資本ストック遷移式:
(
)
1−δ
re − 1 + δ
1−δ
a
k̂t =
(k̂t−1 − zt ) −
ût + 1 −
ît ,
γ
γ
γ
投資関数:
q̂t =
1
βγ 1−σ
a
i
(ît − ît−1 + zta + zti ) −
(Et ît+1 − ît + Et zt+1
+ Et zt+1
),
ζ
ζ
最終財の資源制約:
ŷt =
c
i
g
ĉt + ît + ĝt ,
y
y
y
24
政府の予算制約:
)
) t
bg
g
sg
rg sg ( g
r g bg ( g
b̂g,t = ĝt + ŝgt +
r̂t−1 − π̂t + b̂g,t−1 − zta − η
r̂
− π̂t + ŝgt−1 − zta − t̂t ,
y
y
y
γ y
γ y t−1
y
税制ルール:
t̂t =
ϕτ
(t̂t−1 − zta ) + (1 − ϕτ )ϕb (b̂g,t−1 − ŷt−1 ) + ztt ,
γ
金融政策ルール:

 

3


∑
1
n
r̂tn = ϕr r̂t−1
π̂t−j  + ϕy ŷt + ztr ,
+ (1 − ϕr ) ϕπ 


4
j=0
ショックのプロセス:
x
ztx = ρx zt−1
+ εxt
εxt ∼ i.i.d. N (0, σx2 )
ŝgt = ρsg ŝgt−1 + εsg
t
2
εxt ∼ i.i.d. N (0, σsg
),
ĝt = ρg ĝt−1 + εgt
εxt ∼ i.i.d. N (0, σg2 ).
x ∈ {a, b, ef p, i, nw, p, r, t, w},
金融契約
ここでは、本稿で用いられたモデルのうち (13) 式で用いられている金融契約について述べる。本稿で用いられ
ている最適金融契約は BGG によるフィナンシャルアクセラレーターモデルに基づいて、さらに政府貸出を考慮し
たものである。この金融契約におけるエージェントは企業家と金融仲介機関であり、両者の間に情報の非対称性が
存在するもとでの最適な金融契約に関する部分均衡モデルを考える。ここでは、この契約を一期限りのものと想
定する、つまりある期間の最初に契約の交渉を行い、同じ期間のうちに決済を行うことで本稿で用いられている
一般均衡モデルから切り出して考えることができる。
金融契約の詳細な設定について述べる。この契約には二つのエージェントが存在し、一つ目が企業家であり、
N > 0 の純資産を保有している。二つ目が金融仲介機関であり、これは家計によって共同経営されていると想定す
る。企業家は資本 K 単位から ωre K 単位の収益を作り出すことができ、ω は各企業間に独立に起こるミクロショッ
ク (イディオシンクラティックショック) であり、独立同分布の確率変数に従うとする。ただし、企業家と金融仲介
機関の間には情報の非対称性があり、この ω は各企業家にしか観測できないと仮定する。このため、金融仲介機
関は各企業家が実現した利益を審査費用 µb ωre K を費やして、事後的に確認する。もし監視が行われなかったな
らば、モラルハザードが起こり、企業家は自分の収益を銀行に正しく申告しない可能性がある。
以上がエージェントの設定であり、ここでは情報の非対称性がある場合における最適な金融契約について述べ
る。情報の非対称性がある場合の貸し手と借り手の最適な契約形態は risky debt であるため、企業家は貸し手に
対して実質借入金利 re を支払わなければならない。企業家はある期に金融仲介機関と金融契約を行う際、まず契
25
約前に政府から政府貸出 S g を受けることができる。政府貸出は政府による企業支援策なので、この貸出量は政府
が外生的に決める。よって、企業家は政府から借り入れたのちに、足りない分を金融仲介機関から借り入れるこ
とになる。つまり、企業家の借り入れ量は K − N − S g となる。企業家が K − N − S g を借り入れた場合、その
期の終わりに金融仲介機関に資本 re (K − N − S g ) 単位を返済する必要がある。返済できない場合、債務不履行と
みなされ、収益は全て金融仲介機関に没収される。つまり、ω を閾値として ω の実現値が閾値以下であった企業
家には金融仲介機関は審査を行い全てを回収する一方で、それ以上の実現値であった企業家については審査を行
わずに ωre K の返済を受ける。資本の期待収益のうち、金融仲介機関の取り分の割合 Γ(ω) は
∫
∫
ω̄
∞
ωf (ω)dω + ω̄
Γ(ω̄) =
0
f (ω)dω
(46)
ω̄
審査費用に要する費用の割合 µb G(ω̄) は
∫
ω̄
µG(ω̄) = µ
ωf (ω)dω
(47)
0
これに対して、すべての企業家の期待収益は
E[(1 − Γ(ω̄))re qK]
(48)
制約条件は
[Γ(ω̄) − µG(ω̄)]re qK = r(qK − N − S g )
(49)
となる。これは、多くの金融仲介機関による完全競争が仮定されているため金融仲介機関の利潤はゼロになる事
を意味している。また r を金融仲介機関が家計から預金を集める際の実質預金金利とする。ここで、金融仲介機
関の貸出量 qK − N − S g を qK − N ′ と定義しなおし (N ′ ≡ N + S g ) この制約条件のもと企業家が期待収益を最
大化するように行動すると仮定すると、一階の条件より
re
N′
= −Ψ
r
qK
さらに BGG
19
(50)
より、上記の関係式を本稿で用いられているモデルのノーテーションに戻すと次のように書きなお
すことができる
[
e
Et rt+1
= Et
rtn
F
πt+1
(
Nt′
qt Kt
)]
(51)
ここで、N ′ を N + S g に戻すと
[
e
Et rt+1
= Et
rtn
F
πt+1
(
Nt + S g
qt Kt
)]
(52)
となり、(13) が導かれる。
19 厳密な証明は
BGG の Appendix A. を参照されたい。
26
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